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特表2022-546854ポリアミド-イミドポリマー及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-09
(54)【発明の名称】ポリアミド-イミドポリマー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/14 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
C08G73/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022515506
(86)(22)【出願日】2020-09-08
(85)【翻訳文提出日】2022-05-02
(86)【国際出願番号】 EP2020074993
(87)【国際公開番号】W WO2021048075
(87)【国際公開日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】62/897,476
(32)【優先日】2019-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】フロレス, ジョエル
(72)【発明者】
【氏名】ジェオル, ステファン
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PB08
4J043PB14
4J043PB15
4J043QB24
4J043QB26
4J043QB33
4J043RA05
4J043RA34
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA46
4J043TA11
4J043TA21
4J043TA31
4J043UA041
4J043UA042
4J043XA03
4J043XA12
4J043XB13
4J043XB27
4J043YA01
4J043ZA21
4J043ZA23
4J043ZA32
4J043ZA33
4J043ZA34
4J043ZA51
4J043ZB03
4J043ZB47
4J043ZB51
(57)【要約】
本発明は、式(I)及び(II):
【化1】
(式中:
Zは、5~50個の炭素原子、好ましくは6~18個の炭素原子を有する置換若しくは非置換の、単環式若しくは多環式基からなる群から選択される脂環式部分であり;Rは、5~50個の炭素原子、好ましくは6~20個の炭素原子を有する置換若しくは非置換の、単環式若しくは多環式基からなる群から選択される二価の脂環式部分であり;m及びnは、互いに独立して、0~10の整数である)のいずれかに従った繰り返し単位を含むポリアミド-イミド(PAI)ポリマーに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)及び(II):
【化1】
(式中:
- Zは、5~50個の炭素原子、好ましくは6~18個の炭素原子を有する置換若しくは非置換の、単環式若しくは多環式基からなる群から選択される脂環式部分であり;
- Rは、5~50個の炭素原子、好ましくは6~20個の炭素原子を有する置換若しくは非置換の、単環式若しくは多環式基からなる群から選択され二価の脂環式部分であり;
- m及びnは、互いに独立して、0~10、好ましくは1~5、より好ましくは1~3の整数である)
のいずれかに従った繰り返し単位を含むポリアミド-イミド(PAI)ポリマー。
【請求項2】
Zは、1~4つの脂肪族環を含み、前記脂肪族環は、縮合しているか或いは直接又は以下の架橋:-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-(CF-、(qが1~5の整数である)のどちらかによって一緒に架橋しており、好ましくは、Zは、式(III-A)~(III-D):
【化2】
を有する部分からなる群から選択され、
Xは、-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-(CF-(qが1~5の整数である)からなる群から選択される、請求項1に記載のPAIポリマー。
【請求項3】
Rは、1~4つの脂肪族環を含み、前記脂肪族環は、縮合しているか或いは直接又は以下の架橋:-O-、-S-、-SO-、-CH-、-C(CF-、-(CF-、(gが1~5の整数である)のどちらかによって一緒に架橋しており、好ましくは、Rは、式(IV-A)~(IV-C):
【化3】
を有する部分からなる群から選択され、
Aは、-O-、-S-、-SO-、-CH-、-C(CF-、-(CF-、(qが1~5の整数である)からなる群から選択される、請求項1~2のいずれか一項に記載のPAIポリマー。
【請求項4】
前記PAIポリマー中の繰り返し単位の総モル数を基準として、少なくとも5モル%、好ましくは少なくとも20モル%、より好ましくは少なくとも40モル%、更にいっそう好ましくは少なくとも60モル%の式(I)の繰り返し単位、及び/又は最大でも10モル%、好ましくは最大でも5モル%、より好ましくは最大でも1モル%の、式(II)の繰り返し単位を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のPAIポリマー。
【請求項5】
式(V)及び(VI):
【化4】
(式中、Rは、好ましくは2~18個の炭素原子、好ましくは4~12個の炭素原子、より好ましくは6~10個の炭素原子を含む、二価の脂肪族炭化水素基であり、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖若しくは分岐炭化水素鎖を含む)
のいずれかに従った繰り返し単位を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のPAIポリマー。
【請求項6】
式(I)の前記繰り返し単位は、式(Ia):
【化5】
を有し、
式(II)の前記繰り返し単位は、式(IIa):
【化6】
を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のPAIポリマー。
【請求項7】
ASTM D3418に従ってDSCによって測定されるように、
- 少なくとも100℃、好ましくは少なくとも120℃、より好ましくは少なくとも140℃、更にいっそう好ましくは少なくとも150℃、及び/又は
- 最高でも250℃、好ましくは最高でも240℃、より好ましくは最高でも230℃、更にいっそう好ましくは最高でも220℃
のガラス転移温度(Tg)を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のPAIポリマー。
【請求項8】
ヘキサフルオロ-2-プロパノール、o-クレゾール、硫酸98%、ジメチルホルムアミドに可溶性である、請求項1~7のいずれか一項に記載のPAIポリマー。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のPAIポリマーの調製方法であって、前記方法が、
a)式(IX)及び(X):
【化7】
(式中:
- Zは、5~50個の炭素原子、好ましくは6~18個の炭素原子を有する置換若しくは非置換の、単環式若しくは多環式基からなる群から選択される脂環式部分であり;
- Yは、ORであり、Rは、H又はアルキル、好ましくは、1~5個の炭素原子を有するアルキルであり、
- 少なくとも2つのY(C=O)は、式(X)におけるZの2個の隣接炭素原子に結合している)
のいずれかに従った少なくとも1種の脂環式酸成分と、
b)式(XI):
N-(CH-R-(CH-NH (XI)
(式中:
- Rは、5~50個の炭素原子、好ましくは6~20個の炭素原子を有する置換若しくは非置換の、単環式若しくは多環式基からなる群から選択される二価の脂環式部分であり;
- m及びnは、互いに独立して、0~10、好ましくは1~5、より好ましくは1~3の整数である)
に従った少なくとも1種の脂環式ジアミンと
を反応させる工程を含む方法。
【請求項10】
Zは、1~4つの脂肪族環を含み、前記脂肪族環は、縮合しているか或いは直接又は以下の架橋:-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-(CF-、(qが1~5の整数である)のどちらかによって一緒に架橋しており;
好ましくは、Zは、式(III-A)~(III-D):
【化8】
を有する部分からなる群から選択される三価の脂環式部分であり、
Xは、-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-(CF-、(qが1~5の整数である)であり、
好ましくは、前記少なくとも1種の脂環式酸成分は、式(IXa)及び/又は(Xa):
【化9】
に従う、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
Rは、1~4つの脂肪族環を含み、前記脂肪族環は、縮合しているか或いは直接又は以下の架橋:-O-、-S-、-SO-、-CH-、-C(CF-、-(CF-、(qが1~5の整数である)のどちらかによって一緒に架橋しており、
好ましくは、Rは、式(IV-A)~(IV-C):
【化10】
を有する部分からなる群から選択され、
Aは、-O-、-S-、-SO-、-CH-、-C(CF-、-(CF-、(qが1~5の整数である)からなる群から選択され、
好ましくは、前記少なくとも1種の脂環式ジアミンは、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)からなる群から選択される、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記反応混合物は、式(XII):HN-R-NH (XII)
(式中、Rは、好ましくは2~18個の炭素原子、好ましくは4~12個の炭素原子、より好ましくは6~10個の炭素原子を含む、二価の脂肪族炭化水素基であり、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖若しくは分岐炭化水素鎖を含む)
の少なくとも1種の脂肪族ジアミンを更に含み、
好ましくは、前記少なくとも1種の脂肪族ジアミンは、プトレッシン、カダベリン、ヘキサメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,9-ジアミノノナン、2-メチル-1,8-ジアミノオクタン、ドデカメチレンジアミンからなる群から選択される、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1種の脂環式酸成分と前記少なくとも1種の脂環式ジアミンとを溶融重合によって反応させる工程を含む、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法であって、前記方法が、少なくとも200℃の温度で溶融重合の間ずっと一様な液体の状態に前記反応混合物を維持する工程を更に含む方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、前記方法が、添加水の不在下で又は前記反応混合物の総重量を基準として、50重量%未満の量の添加水の存在下で実施される方法。
【請求項15】
請求項1~8のいずれか一項に記載のPAIポリマーを含むポリマー組成物。
【請求項16】
請求項1~8のいずれか一項に記載のPAIポリマー又は請求項15に記載のポリマー組成物を含む物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年9月9日出願の、米国仮特許出願第62/897,476号に対する優先権を主張するものであり、その全内容は、本明細書に参照により援用される。
【0002】
本発明は、ポリアミド-イミド(PAI)ポリマーに及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリアミド-イミド(PAI)は、傑出した熱的、化学的及び機械的特性を有する高性能ポリマーであり、それ故、耐高温性、耐腐食性、及び耐摩耗性と組み合わせて高い機械的強度、剛性及び低い摩擦が必要とされる、要求の厳しい用途向けに好適である。これらの理由で、それらは、航空宇宙及び自動車産業、絶縁体、コーティング、耐溶媒性膜及び電子デバイスにおいて広く使用されている。
【0004】
PAIは、アミド及びイミド官能性の両方を主鎖に含有するポリマーである。これ故に、PAIポリマーは、ポリアミドとポリイミドとのハイブリッド特性を示す傾向がある。イミド基の増加した剛性は、より良好な加水分解安定性、化学的及び熱的安定性をポリマーに、並びにとりわけ秀でた機械的特性を芳香族モノマーベースのポリマーに付与する。ほとんどの市販のPAIポリマーは、確かに芳香族であり通常はトリメリット酸、トリメリット酸無水物又はトリメリット酸ハロゲン化物、及び芳香族ジアミンに基づいている。
【0005】
PAI調製プロセス中に、イミドは、2つの隣接するカルボン酸基(又はそれらの誘導体、例えば酸ハロゲン化物、酸無水物、エステルなど)と、第一級アミン含有分子との間の反応から形成される。アミド酸が最初に形成され、それは、水の分子の更なる除去時にイミド環へと閉じる。
【0006】
イミド化反応は、一般に、芳香族モノマーをベースとするPAIポリマーについてとりわけ、高温を必要とする。しかしながら、高温の使用は、架橋副反応につながり、それは、加工性が制限されたPAIポリマーを又は熱硬化性樹脂のような構造さえをもたらす。前記PAIポリマーは化学的に安定しているが、それらの溶融加工中の流動性は低く、従来の加工方法における熱難易度(すなわち、溶融加工の能力が低い)及び溶解度が低いために、特定の用途ではそれらの使用は制限されている。
【0007】
とりわけポリマーをグラフトすること、それらを他のタイプのポリマーとブレンドすること並びに添加剤及び無機繊維と複合材料を形成することによって、前記PAIポリマーの良好な熱的及び機械的性能を同時に維持しながら、これらの特性を改善するために幾つかの試みが行われてきた。
【0008】
前記PAIポリマーの溶解性及び加工性を改善するための他の試みは、それらのポリマー鎖中への柔軟性結合及び脂環式単位の組み入れを含んだ。例えば、Journal of Polymer Science,Part A:Polymer Chemistry 2018,56,1782-1786は、CTA及びビス-(トリフルオロメチル)ベンジジンをベースとするポリアミド-イミドを開示している。前記ポリアミド-イミドは、幾つかの溶媒への改善された溶解性を示すが、それは、前記ポリマーが溶融加工されることを困難にする300℃よりも上のガラス転移温度(Tg)を有する。
【0009】
米国特許出願公開第2011/160407号明細書は、カルボキシル基を有する少なくとも1種の芳香族有機化合物と、少なくとも1種のジアミン化合物と任意選択的に少なくとも1種の二酸化合物とを反応させることによって得られるPAIポリマーを開示している。ジアミン化合物は、芳香族、アリール脂肪族、脂肪族及び脂環式であってもよい。この公文書は、より正確には、ジアミン化合物としてのヘキサメチレンジアミン(HMD)と、芳香族有機化合物としてのトリメリット酸、ピロメリット酸又はトリメリット酸無水物とをベースとするPAIポリマーを記載している。しかしながら、芳香族であるので、前記PAIのイミド結合は、ポリマーに色(黄色~橙色~赤色)を与える。
【0010】
上にリストアップされた公文書のどれも、脂環式酸成分、例えば脂環式トリカルボン酸を、及び脂環式ジアミンをベースとするPAIポリマーを記載していない。
【発明の概要】
【0011】
第1態様において、本発明は、式(I)及び(II):
【化1】
(式中:
- Zは、5~50個の炭素原子、好ましくは6~18個の炭素原子を有する置換若しくは非置換の、単環式若しくは多環式基からなる群から選択される脂環式部分であり;
- Rは、5~50個の炭素原子、好ましくは6~20個の炭素原子を有する置換若しくは非置換の、単環式若しくは多環式基からなる群から選択される二価の脂環式部分であり;
- m及びnは、互いに独立して、0~10、好ましくは1~5、より好ましくは1~3の整数である)
のいずれかに従った繰り返し単位を含むポリアミド-イミド(PAI)ポリマーに関する。
【0012】
第2態様において、本発明は、上で特定されたようなPAIポリマーの調製方法であって、本方法が、
a)式(IX)及び(X):
【化2】
(式中:
- Zは、5~50個の炭素原子、好ましくは6~18個の炭素原子を有する置換若しくは非置換の、単環式若しくは多環式基からなる群から選択される脂環式部分であり;
- Yは、ORであり、Rは、H又はアルキル、好ましくは、1~5個の炭素原子を有するアルキルであり、
- 少なくとも2つのY(C=O)は、式(X)におけるZの2個の隣接炭素原子に結合している)
のいずれかに従った少なくとも1種の脂環式酸成分と、
b)式(XI):
N-(CH-R-(CH-NH (XI)
(式中:
- Rは、5~50個の炭素原子、好ましくは6~20個の炭素原子を有する置換若しくは非置換の、単環式若しくは多環式基からなる群から選択される二価の脂環式部分であり;
- m及びnは、互いに独立して、0~10、好ましくは1~5、より好ましくは1~3の整数である)
に従った少なくとも1種の脂環式ジアミンと
を反応させる工程を含む方法に関する。
【0013】
第3態様において、本発明は、上で特定されたようなPAIポリマーを含むポリマー組成物に関する。
【0014】
第4態様において、本発明は、前記PAIポリマー又は前記ポリマー組成物を含む物品に関する。
【0015】
本出願人は、意外にも、本発明によるPAIポリマーが、低い制御された分岐などの、興味深いセットの特性を示すことを見出した。本発明によるPAIポリマーは、良好な熱的及び機械的特性、例えば高いガラス転移温度(Tg)などを維持しながら、高められた溶解性、溶融加工性及び成形性を示す。特に、本発明によるPAIポリマーは、押出及び射出成形などの従来のポリマー加工技術を用いて容易に加工することができる。更に、本発明によるPAIポリマーは、フィルム及び他の物品へ容易に変換することができる。
【0016】
本出願人は、また、興味深いことに、本発明によるPAIポリマー又はポリマー組成物を含む物品が、透明且つ無色であり、低い黄色度指数を示すことを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、特に明記しない限り、以下の用語は、以下のように意味するものとする。
【0018】
用語「脂環式部分」は、少なくとも1つの脂肪族環を含有する及び芳香環を含有しない有機基を意味する。脂環式部分は、1つ以上の直鎖若しくは分岐アルキル若しくはアルコキシ基及び/若しくはハロゲン原子で置換されていることができ、並びに/又は環の中に、窒素、酸素及び硫黄のような、1つ以上のヘテロ原子を含むことができる。
【0019】
用語「アルキル」、並びに「アルコキシ」などの派生用語は、それらの範囲内に直鎖、分岐鎖及び環状部分を含む。アルキル基の例は、メチル、エチル、1-メチルエチル、プロピル、1,1-ジメチルエチル、及びシクロプロピルである。特に具体的に記述しない限り、各アルキル基は、非置換であっても、又はヒドロキシ、スルホ、C~Cアルコキシ、C~Cアルキルチオから選択されるが、それらに限定されない1つ以上の置換基で置換されていてもよい、ただし、置換基が立体的に相溶性であり、且つ、化学結合及び歪みエネルギーの規則が満たされていることを条件とする。
【0020】
用語「ハロゲン」又は「ハロ」には、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が含まれ、フッ素が好ましい。
【0021】
ポリアミド-イミド(PAI)ポリマー
本発明の目的は、式(I)及び(II):
【化3】
(式中:
Zは、5~50個の炭素原子、好ましくは6~18個の炭素原子を有する置換若しくは非置換の、単環式若しくは多環式基からなる群から選択される脂環式部分であり;
Rは、5~50個の炭素原子、好ましくは6~20個の炭素原子を有する置換若しくは非置換の、単環式若しくは多環式基からなる群から選択され二価の脂環式部分であり;
m及びnは、互いに独立して、0~10、好ましくは1~5、より好ましくは1~3の整数である)
のいずれかに従った繰り返し単位を含むPAIポリマーである。
【0022】
好ましくは、Zは、1~4つの脂肪族環を含む脂環式部分である。Zが1つ超の脂肪族環、すなわち、2つ以上の脂肪族環を含む場合に、前記脂肪族環は、縮合され得るか、或いは直接又は以下の架橋:-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-(CF-、(qが1~5の整数である)のどちらかによって一緒に架橋され得る。用語「直接に」は、脂肪族環が結合によって一緒に連結されていることを意味する。
【0023】
好ましくは、Zは、式(III-A)~(III-D):
【化4】
及び対応する置換された構造の部分からなる群から選択される三価の脂環式部分であり、Xは、-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-(CF)q-、(qが1~5の整数である)である。
【0024】
好ましくは、Rは、1~4つの脂肪族環を含む脂環式部分である。Rが1つ超の脂肪族環、すなわち、2つ以上の脂肪族環を含む場合に、前記脂肪族環は、縮合され得るか、或いは直接又は以下の架橋:-O-、-S-、-SO-、-CH-、-C(CF-、-(CF-、(qが1~5の整数である)のどちらかによって一緒に架橋され得る。用語「直接に」は、脂肪族環が結合によって一緒に連結されていることを意味する。
【0025】
好ましくは、Rは、式(IV-A)~(IV-C):
【化5】
及び対応する置換された構造の部分からなる群から選択される二価の脂環式部分であり、Aは、-O-、-S-、-SO-、-CH-、-C(CF-、-(CF-、(qが1~5の整数である)からなる群から選択される。
【0026】
本発明のPAIポリマーは、PAIポリマー中の繰り返し単位の総モル数を基準として、好ましくは少なくとも5モル%、より好ましくは少なくとも20モル%、更にいっそう好ましくは少なくとも40モル%、最も好ましくは少なくとも60モル%の式(I)の繰り返し単位を含む。
【0027】
本発明のPAIポリマーは、PAIポリマー中の繰り返し単位の総モル数を基準として、好ましくは最大でも10モル%、より好ましくは最大でも5モル%、更にいっそう好ましくは最大でも1モル%の、式(II)の繰り返し単位を含む。
【0028】
ある実施形態によれば、式(I)及び(II)の繰り返し単位に加えて、本発明のPAIポリマーは、式(V)及び(VI):
【化6】
(式中、Rは、好ましくは2~18個の炭素原子、より好ましくは4~12個の炭素原子、更にいっそう好ましくは6~10個の炭素原子を含む、二価の脂肪族炭化水素基である)のいずれかに従った繰り返し単位を更に含む。前記脂肪族炭化水素基は、直鎖及び分岐鎖、好ましくは直鎖の炭化水素鎖を含む。
【0029】
好ましくは、前記PAIポリマーは、PAIポリマー中の式(I)(II)、(V)及び(VI)に従った繰り返し単位の総モル数を基準として、最大でも50モル%、より好ましくは最大でも40モル%、更にいっそう好ましくは最大でも35モル%の、式(V)及び(VI)のいずれかに従った繰り返し単位を含む。
【0030】
ある実施形態によれば、式(I)及び(II)の繰り返し単位に加えて、本発明のPAIポリマーは、式(VII)及び(VIII):
【化7】
(式中、R、R、m及びnは、上に定義されたとおりであり、Rは、好ましくは4~18個の炭素原子を含む、二価の炭化水素基、特に二価の脂肪族、脂環式又は芳香族炭化水素基である)のいずれかに従ったポリアミド繰り返し単位を更に含む。脂肪族基の好ましい例は、4~16個の炭素原子、好ましくは4~12個の炭素原子、より好ましくは4~10個の炭素原子を有するアルキレン基である。脂環式基の好ましい例は、1,4-及び1,3-シクロヘキシレン基である。芳香族基の好ましい例は、置換されていても又は非置換であってもよい、ベンゼン及びナフタレンの基である。
【0031】
好ましくは、前記PAIポリマーは、PAIポリマー中の繰り返し単位の総モル数を基準として、最大でも20モル%、より好ましくは最大でも10モル%、更にいっそう好ましくは最大でも5モル%の、式(VII)及び(VIII)のいずれかに従った繰り返し単位を含む。
【0032】
本発明の好ましい実施形態によれば、PAIポリマーは、式(I)の繰り返し単位及び式(II)の繰り返し単位からなる、又はそれらから本質的になる。表現「から本質的になる」は、PAIポリマーが、式(I)の繰り返し単位及び式(II)の繰り返し単位、並びにPAIポリマー中の繰り返し単位の総モル数を基準として、10モル%未満、好ましくは5モル%未満、より好ましくは3モル未満、更にいっそう好ましくは1モル%未満の、式(I)及び(II)の繰り返し単位とは異なる他の繰り返し単位を含むことを意味する。
【0033】
更により好ましい実施形態によれば、PAIポリマーは、式(I)の繰り返し単位からなる、又はそれから本質的になる。表現「から本質的になる」は、PAIポリマーが、式(I)の繰り返し単位、並びにPAIポリマー中の繰り返し単位の総モル数を基準として、10モル%未満、好ましくは5モル%未満、より好ましくは3モル未満、更にいっそう好ましくは1モル%未満の、式(I)の繰り返し単位とは異なる他の繰り返し単位を含むことを意味する。
【0034】
好ましい実施形態において、式(I)に従った繰り返し単位は、式(Ia):
【化8】
を有する。
【0035】
好ましい実施形態において、式(II)に従った繰り返し単位は、式(IIa):
【化9】
を有する。
【0036】
好ましくは、前記PAIポリマーは、ASTM D3418に従ってDSCによって測定されるように、少なくとも100℃の、より好ましくは少なくとも120℃の、更にいっそう好ましくは少なくとも140℃の、最も好ましくは少なくとも150℃のガラス転移温度(Tg)を有する。
【0037】
好ましくは、前記PAIポリマーは、ASTM D3418に従ってDSCによって測定されるように、最高でも250℃の、より好ましくは最高でも240℃の、更にいっそう好ましくは最高でも230℃の、最も好ましくは最高でも220℃のガラス転移温度を有する。
【0038】
好ましくは、前記PAIポリマーは、フッ素化溶媒、2HFIPゲルカラム及びUV-可視/屈折率検出器を用いるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定されるように、少なくとも5,000g/molの、より好ましくは少なくとも約10,000g/molの、更にいっそう好ましくは少なくとも15,000g/molの数平均分子量(Mn)を有する。
【0039】
好ましくは、前記PAIポリマーは、フッ素化溶媒、2HFIPゲルカラム及びUV-可視/屈折率検出器を用いるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定されるように、最大でも50,000g/molの、より好ましくは最大でも45,000g/molの、更にいっそう好ましくは最大でも40,000g/molの数平均分子量(Mn)を有する。
【0040】
有利には、前記PAIポリマーは、様々な溶媒に、とりわけヘキサフルオロ-2-プロパノール、o-クレゾール、硫酸98%及びジメチルホルムアミドに可溶性である。
【0041】
本発明によるPAIポリマーは、溶融後のその後の成形のために押出及び射出成形などの従来のポリマー加工技術を用いて加工することができる。
【0042】
更に、本発明によるPAIポリマーは、フィルム及び他の物品に容易に変換することができる。本発明のPAIポリマーは、様々な有機溶媒に可溶性であり、フィルムは、有利には、当業者に公知である標準的プロセスに従って、PAIポリマーを含有する溶液をキャストし、次いで溶媒を蒸発させることから製造することができる。特に、前記フィルムは、PAIポリマーを溶媒に溶解させて溶液を得、溶液を基材上にキャストし、最後に溶媒を蒸発させることによって製造することができる。
【0043】
前記PAIポリマーは、多数の用途に、特に糸、繊維若しくはフィラメント、又はフィルムの製造に、或いは射出成形、押出若しくは押出/ブロー成形による物品の成形に使用することができる。それは、特に、エンジニアリングプラスチック組成物に使用することができる。
【0044】
上記ポリアミド-イミドポリマーの調製方法
本発明の別の目的は、上で定義されたようなPAIポリマーの調製方法であって、前記方法が、
a)式(IX)及び(X):
【化10】
(式中:
Zは、5~50個の炭素原子、好ましくは6~18個の炭素原子を有する置換若しくは非置換の、単環式若しくは多環式基からなる群から選択される脂環式部分であり;
Yは、ORであり、Rは、H又はアルキル、好ましくは、1~5個の炭素原子を有するアルキルであり、
少なくとも2つのY(C=O)は、式(X)におけるZの2個の隣接炭素原子に結合している)
のいずれかに従った少なくとも1種の脂環式酸成分と、
b)式(XI):
N-(CH-R-(CH-NH (XI)
(式中:
Rは、5~50個の炭素原子、好ましくは6~20個の炭素原子を有する置換若しくは非置換の、単環式若しくは多環式基からなる群から選択される二価の脂環式部分であり;
m及びnは、互いに独立して、0~10、好ましくは1~5、より好ましくは1~3の整数である)
に従った少なくとも1種の脂環式ジアミンと
を反応させる工程を含む方法である。
【0045】
Z及びRの好ましい例は、式(I)及び(II)のPAIポリマーに関して上で定義されたとおりである。
【0046】
好ましい実施形態において、脂環式酸成分は、式(IXa)及び(Xa):
【化11】
のいずれかに従う。
【0047】
この実施形態によれば、本発明の方法は:
- 式(IXa)に従った脂環式酸成分と、少なくとも1種の脂環式ジアミンとを反応させる工程、
- 式(Xa)に従った脂環式酸成分と、少なくとも1種の脂環式ジアミンとを反応させる工程、又は
- 式(IXa)及び(Xa)に従った脂環式酸成分の混合物と、少なくとも1種の脂環式ジアミンとを反応させる工程
を含む。
【0048】
脂環式ジアミンは、好ましくは、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)からなる群から選択される。
【0049】
ある実施形態によれば、反応混合物は、式(XII):
N-R-NH (XII)
(式中、Rは、上で定義されたとおりである)
の少なくとも1種の脂肪族ジアミンを更に含む。
【0050】
前記脂肪族ジアミンは、好ましくは、プトレッシン、カダベリン、ヘキサメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,9-ジアミノノナン、2-メチル-1,8-ジアミノオクタン、ドデカメチレンジアミンからなる群から選択される。
【0051】
簡単にするために、以下に用いられるような用語「ジアミノ成分」には、脂環式ジアミン及び脂肪族ジアミンが両方とも含まれる。
【0052】
好ましくは、前記ジアミノ成分は、本方法に関係しているジアミン成分の総モル数を基準として、少なくとも50モル%、より好ましくは少なくとも65モル%、更にいっそう好ましくは少なくとも80モル%の脂環式ジアミンを含む。更にいっそう好ましくは、ジアミン成分は、脂環式ジアミンからなる、又はそれから本質的になる。表現「から本質的になる」は、ジアミン成分が、脂環式ジアミン、並びに反応混合物中のジアミンの総モル数を基準として、10モル%未満、好ましくは5モル%未満、より好ましくは3モル未満、更にいっそう好ましくは1モル%未満の、脂肪族ジアミンを含むことを意味する。
【0053】
ある実施形態によれば、反応混合物は、少なくとも1種の二酸成分又はその誘導体を更に含む。
【0054】
表現「その誘導体」は、重縮合条件下で反応してアミド結合を生成しやすいいずれの誘導体をも意味することを意図する。アミド形成誘導体の例としては、アシル基、例えば置換された又は非置換の、脂肪族アシル及び芳香族アシル基が挙げられる。これらのアシル基の例は、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ベンゾイル、トルオイル及びキシロイルである。
【0055】
この追加の二酸成分は、脂肪族、脂環式又は芳香族であり得る。前記二酸成分は、少なくとも2つのカルボン酸部分-COOHを含み、任意選択的に1つ又は幾つかのヘテロ原子を含み、前記ヘテロ原子は、好ましくは、N、S、及びOの中から選択される。
【0056】
二酸成分は、好ましくは、次式(XII):
HOOC-R-COOH (XII)
(式中、Rは、好ましくは4~18個の炭素原子を含む、二価の炭化水素基、特に二価の脂肪族、脂環式又は芳香族炭化水素基である)を示す。脂肪族基の好ましい例は、4~16個の炭素原子、好ましくは4~12個の炭素原子、より好ましくは4~10個の炭素原子を有するアルキレン基である。脂環式基の好ましい例は、1,4-及び1,3-シクロヘキシレン基である。芳香族基の好ましい例は、置換されていても非置換であってもよい、ベンゼン及びナフタレンの基である。
【0057】
二酸成分は、好ましくは、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジ安息香酸、5-ヒドロキシイソフタル酸、5-スルホフタル酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0058】
連鎖制限剤又はエンドキャッピング剤を、分子量を制御するために反応混合物に添加することができる。連鎖制限剤又はエンドキャッピング剤は、アミン及び/又はカルボン酸とのたった一つの反応部位を有する分子である。エンドキャッピング剤の例は、ベンジルアミン及び1-ヘキサンアミンなどの、モノアミン、並びに酢酸、プロピオン酸、安息香酸、フタル酸又は無水物などの、モノカルボン酸である。
【0059】
好ましい実施形態によれば、前記方法は、前記少なくとも1種の脂環式酸成分、前記少なくとも1種の脂環式ジアミン、任意選択的に前記少なくとも1種の脂肪族ジアミン及び任意選択的に前記少なくとも1種の二酸成分を溶融重合によって反応させる工程を含み、更に、少なくとも200℃の温度で溶融重合の間ずっと反応混合物を一様な液体の状態に維持する工程を含む。
【0060】
用語「溶融重合」は、反応混合物が、少なくとも200℃の温度で重合の間ずっと一様な液体の状態に維持されることを意味する。
【0061】
本発明との関連の中で、用語「一様な液体の状態」は、反応混合物が、結果として生じたPAIポリマーのいかなる固化及び/又は沈澱もなしに流動状態のままであることを意味する。
【0062】
溶融重合中に、反応混合物は、調製中のPAIポリマーが融解状態にあるように上昇する温度に絶えず加熱される。反応混合物が加熱されるべきである最低温度は、一般に、調製中のPAIポリマーの融点又は軟化点に基づいて決定することができる。調製中のPAIポリマーの融点又は軟化点は、反応に関係している反応剤の量、とりわけ、例えば反応剤の一つが反応混合物に徐々に添加される場合には制限反応剤の量に基づいて重合時間にわたって変わり得る。この場合には、調製中のPAIポリマーの融点又は軟化点は、制限反応剤モノマーの完全な転化に基づいて決定することができる。制限反応剤は反応混合物に順次添加され得るので、幾つかの温度上昇/増分が、本発明のPAIポリマーを調製するために必要であり得る。次いで、重合プロセスの各ステップが、製造中のPAIポリマーの融点又は軟化点以上の温度で行われる。
【0063】
溶融重合のプロセスは、有利には、有機溶媒の不在下で行われる。言い換えれば、有利には、前記プロセスは有機溶媒を含まない、すなわち重合媒体が有機溶媒を含まないか、又は反応混合物の総重量を基準として、1重量%未満、0.5重量%未満又は更に0.2重量%未満である量の有機溶媒を含むことを意味する。しかしながら、前記プロセスは水を使用し得る。
【0064】
異なる実施形態によれば、溶融重合の前記プロセスは、添加水の不在下で、又は反応混合物の総重量を基準として、50重量%未満、好ましくは40重量%未満、より好ましくは30重量%未満、更にいっそう好ましくは15重量%未満、最も好ましくは5重量%の量の添加水の存在下で実施される。
【0065】
したがって、重合媒体は、上で特定された成分(すなわち、前記少なくとも1種の脂環式酸成分、前記少なくとも1種の脂環式ジアミン、任意選択的に前記少なくとも1種の脂肪族ジアミン及び任意選択的に前記少なくとも1種の二酸成分)を含む水溶液、又は前記成分を含む液体であることができる。好ましくは、これが媒体の撹拌及びこうしてその均一性を容易にするので、重合媒体は、水を溶媒として含む。
【0066】
様々な実施形態によれば、脂環式酸成分又はジアミン成分のどちらかが順次、徐々に又は連続的に反応混合物に添加される。
【0067】
好ましくは、反応混合物は、前記脂環式酸成分及び前記ジアミン成分を、0.8~1.2、好ましくは0.9~1.1、より好ましくは0.95~1.05、更にいっそう好ましくは0.97~1.03の範囲の当量比で含有する。
【0068】
本発明の方法が二酸成分を用いる場合、二酸成分及びジアミン成分は、少なくとも一部分において、二酸とジアミン成分との塩の形態で導入することができる。
【0069】
PAIポリマーは、一般に、脱離生成物、特に水の形成でポリアミド-イミド鎖を形成するための脂環式酸成分、脂環式ジアミン、任意選択的に脂肪族ジアミン及び任意選択的に二酸成分の重縮合によって得られる。好ましくは、プロセス中に発生する水は、1ミリバール~30バールの圧力で、例えば凝縮器を使用する分別蒸留によって、蒸発させられる。
【0070】
反応混合物は、好ましくは、混合物が固体を固化させるのを防ぐために固相のいかなる形成をも防ぎながら、脱離生成物、特に水(当初重合媒体中に存在した及び/又は重縮合中に形成された)を蒸発させるために、少なくとも200℃、好ましくは215℃~300℃の温度で溶融重合の間ずっと一様な液体の状態に維持される。
【0071】
溶融重合のプロセスは、プロセスの少なくともいくつかの部分について、圧力下に実施され得る。これらの場合に、20バールの最大圧力、好ましくは10バールの最大圧力、より好ましくは3バールの最大圧力が用いられる。反応を完了に向かわせるために及び反応中に形成された水をより容易に除去するために、プロセスの終わりは、いずれにせよ好ましくは、低い圧力(真空又は大気圧)で行われる。
【0072】
溶融重合のプロセスは、上で特定された成分(すなわち、前記少なくとも1種の脂環式酸成分、前記少なくとも1種の脂環式ジアミン、任意選択的に前記少なくとも1種の脂肪族ジアミン及び任意選択的に前記少なくとも1種の二酸成分)に対して不活性な材料でできた装置において実施することができる。この場合に、装置は、前記成分間の十分な接触を提供するために、及び揮発性反応生成物、とりわけ水の除去が実行可能であるように選択される。好適な装置には、撹拌機付き反応器、押出機及びニーダーが含まれる。反応容器は、好ましくは、撹拌手段、例えば回転シャフトを装備される。
【0073】
好ましくは、プロセス中の反応容器への成分の導入の順番は、次のとおりである:水が最初に添加され、次いでジアミン成分が装入され、最後に脂環式酸成分及び二酸成分が添加される。
【0074】
好ましくは、窒素ガスなどの、不活性ガスが、容器中の雰囲気を置き換えるために反応容器中へ導入される。好ましくは、反応容器は、上で特定された成分を全て装入する前及び装入した後の両方に前記不活性ガスでパージされる。好ましくは、不活性ガスの流れがプロセスの間ずっと保たれる。
【0075】
ポリマー組成物
本発明の別の目的は、上で定義されたようなPAIポリマーを含むポリマー組成物である。
【0076】
好ましくは、PAIポリマーは、ポリマー組成物の総重量を基準として、少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも15重量%、更にいっそう好ましくは少なくとも20重量%、最も好ましくは少なくとも25重量%の量でポリマー組成物中に存在する。
【0077】
好ましくは、PAIポリマーは、ポリマー組成物の総重量を基準として、最大でも99重量%、より好ましくは最大でも95重量%、更にいっそう好ましくは最大でも80重量%、最も好ましくは最大でも60重量%の量でポリマー組成物中に存在する。
【0078】
本発明のある実施形態によれば、PAIポリマーは、ポリマー組成物の総重量を基準として、10~70重量%、好ましくは20~60重量%の範囲の量でポリマー組成物中に存在する。
【0079】
本発明のある実施形態によれば、前記ポリマー組成物は、補強剤、着色剤、染料、顔料、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、核形成剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、加工助剤、融剤、電磁吸収剤及びそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種の追加の添加剤を含む。
【0080】
補強充填剤又は繊維とも言われる、補強剤は、繊維状補強充填剤、粒子状補強充填剤及びそれらの混合物からなる群から選択され得る。繊維状補強充填剤は、本明細書では、平均長さが幅及び厚さの両方よりも著しく大きい、長さ、幅及び厚さを有する材料であると考えられる。一般に、繊維状補強充填剤は、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20又は少なくとも50の、長さと、最大の幅及び厚さとの間の平均比と定義される、アスペクト比を有する。
【0081】
繊維状補強充填剤には、ガラス繊維、炭素又はグラファイト繊維、及び炭化ケイ素、アルミナ、チタニア、ホウ素等から形成される繊維が含まれ、2種以上のそのような繊維を含む混合物が含まれ得る。ある実施形態によれば、前記繊維はフラット繊維である。非繊維状強化充填剤には、とりわけタルク、マイカ、二酸化チタン、チタン酸カリウム、シリカ、カオリン、チョーク、アルミナ、鉱物充填剤等が含まれる。
【0082】
この実施形態によれば、PAIポリマーは、有利には、前記少なくとも1種の追加の添加剤と混合される。好ましくは、PAIポリマーと前記少なくとも1種の追加の添加剤との混合は、ドライブレンディング及び/又は溶融配合によって実施される。より好ましくは、ポリアミド(PA)と前記少なくとも1種の追加の添加剤との混合は、とりわけ連続デバイス又は回分デバイスにおいて、溶融配合によって実施される。そのようなデバイスは、当業者に周知である。好適な連続デバイスの例は、スクリュー押出機である。好ましくは、溶融配合は、2軸押出機で実施される。
【0083】
物品
本発明は、また、前記PAIポリマー又は前記ポリマー組成物を含む物品に関する。
【0084】
本発明による物品は、好ましくは成形品である。好ましくは、前記物品は、当技術分野において周知の方法を用いて、例えば、射出成形、ブロー成形、回転成形、圧縮成形又は押出成形を含むが、それらに限定されない方法によってPAIポリマー又は前記PAIポリマーを含むポリマー組成物から成形される。
【0085】
参照により本明細書に援用されるいずれかの特許、特許出願、及び刊行物の開示が、それが用語を不明確にし得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0086】
本発明は、これから以下の実施例に関連して説明されるが、その目的は、例示的であるにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0087】
実験の部
原材料
三菱ガス化学から入手可能な、シクロヘキサン-1,2,4-トリカルボン酸-1,2-無水物(CTA)。
【0088】
三菱ガス化学から入手可能な、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,3-BAC)。
【0089】
Ascend Performance Materialsから入手可能な、ヘキサメチレンジアミン(HMDA)。
【0090】
Sigma-Aldrichから入手可能な、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)(PACM)。
【0091】
Sigma-Aldrichから入手可能な、亜リン酸。
【0092】
方法
熱分析
熱的特性は、示差走査熱量測定法(DSC)を用いて測定した。DSC分析は、ASTMに従ってDSC Q200-5293 TA Instrumentで実施した。各DSC試験に対して3つの走査を用いた:20.00℃/分で300℃までの1回目の加熱サイクル;20.00℃/分で30.00℃までの1回目の冷却サイクル;20.00℃/分で300.00℃までの2回目の加熱サイクル。ガラス転移温度(Tg)は、2回目の加熱サイクル中の転移中間点から決定した。
【0093】
GPC
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によってMnを測定した。
【0094】
溶解性
PAIポリマーの5mg試料を5mlの溶媒へ添加した。結果として生じた混合物を室温で24~48時間撹拌し、試料のいかなる溶解又は軟化にも注目した。試料が完全に溶解した場合、それは可溶性と考えた。試料が48時間後に外観上いかなる変化も示さなかった場合、それは不溶性と考えた。ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)、o-クレゾール、硫酸98%及びジメチルホルムアミド(DMF)における溶解性を試験した。
【0095】
黄色度試験
0.1~0.2mmの厚さを有するフィルムをホットプレス(280℃、2000ポンド-f)で調製した。X-Rite Ci7800分光光度計を用いて黄色度指数を前記フィルムに関して測定した。
【0096】
機械的試験
以下に記載されるように合成されたPAI 1ポリマーを粉砕機で粉砕し、真空下に120℃で一晩乾燥させた。次いで、140℃の金型温度、290℃の溶融温度及び6バールの射出圧力を用いて、それを、ASTM D3641に準拠したタイプV引張試験片へ射出成形した。機械的試験は、Instron 5569機を用いて及び54.7%湿度での23.2℃でASTM D638に従って0.3インチのゲージ長で射出成形試験検体に関して行った。ノッチ付きIzod衝撃強度は、射出成形試験検体を使用してASTM D256によって測定した。
【0097】
合成方法
ポリアミド-イミド1(PAI 1)
CTA(53.9g)、1,3-BAC(39.1g)、亜リン酸(0.032g)及び脱イオン水(42g)を300mlの反応器へ装入した。次いで、反応器を5分間窒素でパージし、撹拌し、2時間以内280℃に加熱することによって重合反応を実施した。発生したスチームを、ターゲット温度に達した時に放出した。次いで、反応器を減圧にし、次いで、そうして得られた融解ポリマーをもう1時間この条件に保持した。冷却すると、ポリマーを反応器から取り出し、分析のために使用した。
【0098】
ポリアミド-イミド2(PAI 2)
CTA(55.6g)、1,3-BAC(25.9g)、HMDA(11.7g)、亜リン酸(0.032g)及び脱イオン水(42g)を300mlの反応器へ装入した。次いで、反応器を5分間窒素でパージし、撹拌し、2時間以内280℃に加熱することによって重合反応を実施した。発生したスチームを、ターゲット温度に達した時に放出した。次いで、反応器を減圧にし、次いで、そうして得られた融解ポリマーをもう1時間この条件に保持した。冷却すると、ポリマーを反応器から取り出し、分析のために使用した。
【0099】
ポリアミド-イミド3(PAI 3)
CTA(50.7g)、PACM(27.1g)、HMDA(15.0g)、亜リン酸(0.032g)及び脱イオン水(42g)を300mlの反応器へ装入した。次いで、反応器を5分間窒素でパージし、撹拌し、2時間以内280℃に加熱することによって重合反応を実施した。発生したスチームを、ターゲット温度に達した時に放出した。次いで、反応器を減圧にし、次いで、そうして得られた融解ポリマーをもう1時間この条件に保持した。冷却すると、ポリマーを反応器から取り出し、分析のために使用した。
【0100】
結果
表1は、本発明に従って調製されたPAI 1、PAI 2及びPAI 3ポリマーのガラス転移温度(Tg)、数平均分子量(Mn)、黄色度指数及び溶解性結果を示す。
【0101】
表2は、PAI 1の機械的特性を示す。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
上の表1において証明されるように、CTAと種々のジアミン(1,3-BAC、HMDA及びPACM)とをベースとする高分子量PAIポリマーが成功裏に調製された。前記PAIポリマーは、150~176℃の範囲のガラス転移温度(Tg)を示し;Tgは、ジアミン成分の性質及び量を変えることによって容易に調節することができた。
【0105】
前記PAIポリマーは、また、非常に低い黄色度指数を示す。
【0106】
更に、これらのPAIポリマーは、幾つかの有機溶媒に可溶性であることを明らかにされ、それは、それらが低い及び制御された分岐を有することを示す。
【0107】
表2において証明されるように、PAI 1は溶融加工され、部品が射出成形によって製造され、それは、PAI 1がまた溶融加工性及び成形性を示すことを示す。PAI 1は、また、高い引張係数及び強度と組み合わせて、優れた機械的特性を示す。
【国際調査報告】