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特表2022-546866燃料添加剤による燃焼機関における摩擦の低減
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  • 特表-燃料添加剤による燃焼機関における摩擦の低減 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-09
(54)【発明の名称】燃料添加剤による燃焼機関における摩擦の低減
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/30 20060101AFI20221101BHJP
   C10L 1/224 20060101ALI20221101BHJP
   C10L 10/08 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C10L1/30 Z
C10L1/224
C10L10/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022515730
(86)(22)【出願日】2020-08-31
(85)【翻訳文提出日】2022-03-09
(86)【国際出願番号】 IB2020058090
(87)【国際公開番号】W WO2021048677
(87)【国際公開日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】62/898,398
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598037547
【氏名又は名称】シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー
(71)【出願人】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャーペック、リチャード ユージーン
(72)【発明者】
【氏名】マリア、アミール ガマル
(72)【発明者】
【氏名】グナワン、テレサ リャン
【テーマコード(参考)】
4H013
【Fターム(参考)】
4H013CJ01
4H013CJ15
(57)【要約】
提供されるのは燃料効率を改善するための燃料組成物である。燃料組成物には、ガソリンまたはディーゼルの範囲で沸騰する50重量%を超える炭化水素燃料と、少量の亜鉛キレート剤と、少量の摩擦調整剤とが含まれる。摩擦調整剤は少なくとも1つの極性基を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料組成物であって、
ガソリンまたはディーゼルの範囲で沸騰する50重量%を超える炭化水素燃料と;
少量の亜鉛キレート剤と;
少量の摩擦調整剤とを含み、前記摩擦調整剤が少なくとも1つの極性基を含む、前記燃料組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つの極性基が、アルコール部分、アミド部分、アミン部分、またはエステル部分である、請求項1に記載の燃料組成物。
【請求項3】
前記金属キレート剤が25~5000ppmで存在する、請求項1に記載の燃料組成物。
【請求項4】
前記摩擦調整剤が0.015~2.0重量%で存在する、請求項1に記載の燃料組成物。
【請求項5】
前記亜鉛キレート剤が、ジカルボニル部分、エステル部分、アミド部分、アミン部分、アミノメチル部分、メチルピリジル部分、キノリル部分、ピラジル部分、窒素複素環部分、ピロール部分、ピロリジン部分、イミダゾール部分、イミダゾリン部分、トリアゾール部分、またはカルボキシレート部分を含有する、請求項1に記載の燃料組成物。
【請求項6】
前記亜鉛キレート剤が、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、アセト酢酸エステル、アセト酢酸アミド、ヒドロキサム酸、ヒドラジド、スクアリン酸、カルバモイルホスホネート、オキサゾリン、N-ヒドロキシ尿素、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジニルメチル)-1,2-エタンジアミン、エチレンジアミン四酢酸、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アラニン、グリシン、システイン、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、シトルリン、ホモセリン、ノルロイシン、ホモプロリン、プロリン、または2-エチルヘキサン酸の1,1,3,3-テトラメチルグアニジン塩、またはジエタノールイソステアラミドである、請求項1に記載の燃料組成物。
【請求項7】
前記摩擦調整剤がモノオレイン酸グリセロール、ジエタノールアミド、ジエタノールアミンまたはジイソプロパノールアミンである、請求項1に記載の燃料組成物。
【請求項8】
さらに、含酸素化合物、アンチノック剤、界面活性剤、分散剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、解乳化剤、流動点降下剤、流動性向上剤、またはセタン価向上剤を含む、請求項1に記載の燃料組成物。
【請求項9】
(1)65℃~205℃の範囲で沸騰する90~30重量%の有機溶媒と、(2)亜鉛キレート剤と少なくとも1つの極性基を有する摩擦調整剤とを含む10~70重量%の燃料効率向上剤とを含む燃料濃縮物組成物。
【請求項10】
前記少なくとも1つの極性基がアルコール部分、アミド部分、アミン部分、またはエステル部分である、請求項9に記載の燃料濃縮物組成物。
【請求項11】
前記亜鉛キレート剤が、ジカルボニル部分、エステル部分、アミド部分、アミン部分、アミノメチル部分、メチルピリジル部分、キノリル部分、ピラジル部分、窒素複素環部分、ピロール部分、ピロリジン部分、イミダゾール部分、イミダゾリン部分、トリアゾール部分、またはカルボキシレート部分を含有する、請求項9に記載の燃料濃縮物組成物。
【請求項12】
さらに、含酸素化合物、アンチノック剤、界面活性剤、分散剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、解乳化剤、流動点降下剤、流動性向上剤、またはセタン価向上剤を含む、請求項9に記載の燃料濃縮物組成物。
【請求項13】
火花点火燃焼機関にて燃料効率を改善する方法であって、
亜鉛キレート剤と少なくとも1つの極性基を有する摩擦調整剤とを含む燃料組成物を前記機関に供給することを含む、前記方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの極性基がアルコール部分、アミド部分、アミン部分、またはエステル部分である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記亜鉛キレート剤が、ジカルボニル部分、エステル部分、アミド部分、アミン部分、アミノメチル部分、メチルピリジル部分、キノリル部分、ピラジル部分、窒素複素環部分、ピロール部分、ピロリジン部分、イミダゾール部分、イミダゾリン部分、トリアゾール部分、またはカルボキシレート部分を含有する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記亜鉛キレート剤が、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、アセト酢酸エステル、アセト酢酸アミド、ヒドロキサム酸、ヒドラジド、スクアリン酸、カルバモイルホスホネート、オキサゾリン、N-ヒドロキシ尿素、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジニルメチル)-1,2-エタンジアミン、エチレンジアミン四酢酸、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アラニン、グリシン、システイン、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、シトルリン、ホモセリン、ノルロイシン、ホモプロリン、プロリン、または2-エチルヘキサン酸の1,1,3,3-テトラメチルグアニジン塩、またはジエタノールイソステアラミドである、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記摩擦調整剤が0.015から2.0重量%で存在する、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記亜鉛キレート剤が前記燃料組成物の25~5000ppmで存在する、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記燃料組成物がさらに、含酸素化合物、アンチノック剤、界面活性剤、分散剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、解乳化剤、流動点降下剤、流動性向上剤、またはセタン価向上剤を含む、請求項13に記載の燃料組成物。
【請求項20】
前記エンジンが1000から3000rpmの間で作動する、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は燃料添加剤組成物に関する。さらに具体的には、本開示は内燃機関の燃料効率を改善するために燃料に添加することができる摩擦調整剤添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃料経済性を改善するためにかなりの努力が払われてきた。一般に、自動車エンジンの効率は、特に高摩擦と過度の摩耗が発生しやすい可動部品の界面での効果的な潤滑の存在によって大幅に向上する。
【0003】
したがって、燃料経済性を改善するための1つのアプローチは、エンジンの摩擦を減らしてエネルギー要件を減らす潤滑油と潤滑油添加剤を開発することだった。しかしながら、潤滑油の摩擦低減添加剤によって得られる燃料効率の改善は控えめであり、確認するのが困難であり得る。
【0004】
これらの取り組みのいくつかは摩擦調整剤に着目している。摩擦調整剤は、リミテッドスリップギアオイル、オートマチックトランスミッション液、スライドウェイ潤滑剤、及び多目的トラクター液に使用されている。特に、燃料経済性の向上を目指して、自動車のクランクケース潤滑油に摩擦調整剤を添加している。
【0005】
これらの摩擦調整剤は一般に、物理的に吸着された極性油溶性生成物の薄い単分子層または典型的な耐摩耗剤もしくは極圧剤と比べて十分に低い摩擦を示す反応層を形成することによって、耐摩耗添加剤及び極圧添加剤がまだ反応しない温度での境界層条件で作動する。しかしながら、さらに過酷な条件下及び混合潤滑方式では、これらの摩擦調整剤に耐摩耗剤または極圧剤が添加される。最も一般的なタイプの耐摩耗剤または極圧剤はジチオリン酸亜鉛(ZnDTPまたはZDDP)である。ZDDPは、摩擦面に厚い保護トライボフィルムを形成することで摩耗を制限する。
【0006】
ZDDPは何十年にもわたって自動車で広く使用されてきたが、最近のいくつかの研究は、リンを基にした耐摩耗性フィルムが薄膜、高圧、潤滑接点での摩擦を大幅に増加させ得ることを示している。これは次に、燃料効率に悪影響を有し得る。
【0007】
摩擦調整剤は、金属表面に吸着してまたはそれと反応して薄い低剪断強度の膜を形成することによって、境界摩擦を低減することができる既知の潤滑油添加剤である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
内燃室の状態はクランクケースの状態とは大幅に異なり、それよりもはるかに厳しいので、特定の添加剤または添加剤のクラスが内燃機関の潤滑油の性能に利益をもたらしたという事実は必ずしも、燃料における添加剤と同じ種類の化合物を使用することによって利益が得られることを意味しない。したがって、摩擦を低減し、及び/または燃費を改善することができる燃料添加剤を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書で提供されるのは、内燃機関の摩擦低減及び/または燃費の向上を提供するための添加剤として燃料に添加することができる組成物である。これらの燃料添加剤には、摩擦調整剤と金属キレート剤とが含まれており、これらは相乗的に相互作用して予想外のレベルの性能を提供する。
【0010】
本発明の一例には、ガソリンまたはディーゼルの範囲で沸騰する50重量%を超える炭化水素燃料と;少量の亜鉛キレート剤と;少量の摩擦調整剤とを含む燃料組成物が挙げられ、摩擦調整剤は少なくとも1つの極性基を含む。
【0011】
本発明の別の例には、(1)65℃~205℃の範囲で沸騰する90~30重量%の有機溶媒と、(2)亜鉛キレート剤と少なくとも1つの極性基を有する摩擦調整剤とを含む10~70重量%の燃料効率向上剤とを含む燃料濃縮物組成物が挙げられる。
【0012】
本発明のさらに別の例には、火花点火燃焼機関における燃料効率を改善する方法が挙げられ、この方法は、亜鉛キレート剤と少なくとも1つの極性基を有する摩擦調整剤とを含む燃料組成物を該機関に供給することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】種々のエンジン条件での燃料消費量に対するいくつかの燃料添加剤の効果を要約したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書に示されている開示の理解を容易にするために、多数の用語を以下に定義する。別段の定義がない限り、本明細書で使用される専門用語及び科学用語は一般に、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0015】
「ガソリン」または「ガソリン沸点範囲成分」は少なくとも主にC-C12の炭化水素を含有する組成物を指す。一実施形態では、ガソリンまたはガソリン沸点範囲成分はさらに、少なくとも主にC-C12の炭化水素を含有し、さらに約100°F(37.8℃)~約400°F(204℃)の沸点範囲を有する組成物を指すように定義される。代替の実施形態では、ガソリンまたはガソリン沸点範囲成分は、少なくとも主にC-C12の炭化水素を含有し、さらに約100°F(37.8℃)~約400°F(204℃)の沸点範囲を有する組成物を指すように定義され、さらにASTMのD4814を満たすように定義される。
【0016】
「ディーゼル」という用語は、少なくとも主C10-C25の炭化水素を含有する中間留分燃料を指す。一実施形態では、ディーゼルはさらに、少なくとも主にC10-C25の炭化水素を含有し、さらに約165.6℃(330°F)~約371.1℃(700°F)の沸点範囲を有する組成物を指すように定義される。代替の実施形態では、上記のように定義されたディーゼルは、少なくとも主にC10-C25の炭化水素を含有し、約165.6℃(330°F)~約371.1℃(700°F)の沸点範囲を有する組成物を指すように定義され、さらにASTMのD975を満たすように定義される。
【0017】
「油溶性」という用語は、所与の添加剤について、所望のレベルの活性または性能を提供するために必要な量が、潤滑粘度の油に溶解される、分散されるまたは懸濁されることによって組み込まれ得ることを意味する。通常、これは、添加剤の少なくとも0.001重量%が潤滑油組成物に組み込まれ得ることを意味する。「燃料可溶性」という用語は、燃料に溶解、分散、または懸濁された添加剤の類似の表現である。
【0018】
「少量」とは、記載された添加剤に関して、及び組成物の総重量に関して表される、添加剤の有効成分として数えられる組成物の50重量%未満を意味する。
【0019】
「エンジン」または「燃焼機関」は燃料の燃焼が燃焼室内で発生する熱機関である。「内燃機関」は、限られた空間(「燃焼室」)で燃料の燃焼が発生する熱機関である。「火花点火エンジン」は、通常は点火プラグからの火花によって燃焼が点火される熱機関である。これは、「圧縮点火エンジン」、通常、燃料の噴射と一緒になった圧縮によって発生する熱が外部の火花なしで燃焼を開始するのに十分であるディーゼルエンジンとは対照的である。
【0020】
「亜鉛キレート剤」とは、亜鉛(亜鉛2+)イオンをキレートすることができる物質を指す。
【0021】
本開示は、摩擦低減を強化するために、及び/または内燃機関の燃料効率を改善するために燃料に添加することができる添加剤組成物を記載している。添加剤組成物(「燃料効率向上剤」)は少なくとも2つの成分:摩擦調整剤と亜鉛キレート剤とを含む。本開示に従って配合される場合、これらの構成要素は、これまで知られていなかった相乗効果を利用して、エンジンの摩擦低減及び/または燃料効率において予想以上の改善を提供する。
【0022】
燃料に添加された添加剤は、エンジンのピストンリングゾーンの潤滑油に移行し、摩擦や摩耗を減らすので経済性を向上させてもよいと考えられている。しかしながら、潤滑油に添加された添加剤が燃料に移行する場合は必ずしもそうではなくてもよい。したがって、摩擦調整剤は内燃機関の燃焼室内での摩擦を低減することによって燃料経済性を提供することができる。
【0023】
亜鉛キレート剤
本燃料組成物に採用されるキレート剤には亜鉛をキレートすることができる有機分子が含まれる。一般に、これらのキレート剤はキレート環の形成によって亜鉛と内部錯体を形成することができる。亜鉛キレート剤はその配座数、すなわち、亜鉛に結合するキレート剤の原子数が異なってもよい。例えば、亜鉛キレート剤は二座であってもよい。
【0024】
理論によって制限されることなく、本発明の亜鉛キレート剤はエンジン環境においてZDDPによって引き起こされるまたは誘導される摩擦を制限することができると考えられている。本発明の摩擦調整剤も存在する場合、制限効果を相乗的に増強することができる。メカニズムは完全には理解されていないが、本発明の摩擦調整剤はリン酸亜鉛表面上に摩擦低減膜を形成することができ、及び/またはエンジン環境において亜鉛キレート剤を安定化させることができると考えられている。
【0025】
いくつかの実施形態では、亜鉛キレート剤は燃料可溶性であってもよい。他の実施形態では、亜鉛キレート剤は油溶性でなくてもよい。本発明の摩擦調整剤の非存在下では、油溶性の欠如は亜鉛キレート剤が潤滑油環境において亜鉛種とキレートするのを妨げてもよい。
【0026】
本発明の亜鉛キレート剤には、ジカルボニル化合物、二座窒素化合物、多座窒素化合物、アミノ酸、クエン酸エステル、カルボン酸塩、アミン塩、またはそれらの好適な塩が挙げられる。金属キレート剤は燃料組成物の約25~約5000ppmで存在する。
【0027】
ジカルボニル化合物は式1に示される構造を有することができ、式中、R及びRは独立して脂肪族、脂肪族分岐、環状脂肪族、芳香族、置換芳香族、または不飽和(例えば、オレフィン)の部分である。
【化1】
【0028】
ジカルボニルキレート剤の具体例はアセチルアセトンである。アセチルアセトンが二座配位子として機能する場合、それは「acac」と呼ばれることが多い。
【0029】
他のジカルボニル化合物には式2に示される構造を有するキレート剤が挙げられ、XはOまたはNであり、正しい原子価を有し、R、R、及びRは独立して脂肪族、脂肪族分岐、環状脂肪族、芳香族、置換芳香族、または不飽和である(例えば、オレフィン)の部分である。さらに、RとRもH(Xの原子価を満たすのに十分である)であってもよい。具体例には、アセト酢酸エチル、アセト酢酸エステル、アセト酢酸アミドが挙げられる。

【化2】
【0030】
いくつかの二座窒素化合物は一般に、亜鉛に直接配位することができる、または少なくとも近くの原子への亜鉛への配位を安定化することができる少なくとも1つの窒素原子を有するであろう。例えば、二座窒素化合物は以下の式3に示される構造を有することができ、式中、R及びRは独立して脂肪族、脂肪族分岐、環状脂肪族、芳香族、置換芳香族、不飽和(例えば、オレフィン)の部分、またはHである。窒素と酸素の双方が亜鉛に配位してキレート環を形成することができる。
【化3】
【0031】
他の二座窒素化合物もまた企図されてもよい。二座窒素化合物の具体例には、ヒドロキサム酸(式4)、ヒドラジド(式5)、スクアリン酸(式6)、カルバモイルホスホネート(式7)、オキサゾリン(式8)及びN-ヒドロキシ尿素(式9)が挙げられ、式中、Rは独立して脂肪族、脂肪族分岐、環状脂肪族、芳香族、置換芳香族、不飽和(例えば、オレフィン)の部分またはHである。

【化4】
【0032】
二座窒素キレート剤の他の具体例には、アミノメチル化合物、メチルピリジル化合物、キノリル化合物、ピラジル化合物、5員環N-複素環式化合物(例えば、ピロール/ピロリジン、イミダゾール/イミダゾリン、トリアゾール)及びジエタノールイソステアラミドが挙げられる。
【0033】
多座窒素化合物もまた、本発明と適合性があってもよい。これらの具体例には、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジニルメチル)-1,2-エタンジアミン(式10)及びエチレンジアミン四酢酸(式11)が挙げられる。

【化5】
【0034】
アミノ酸
アミノ酸には以下の一般式で表すことができるものが挙げられる。
【化6】

式中、Rは「脂肪族」または「芳香族」の側鎖である。アミノ酸側鎖は芳香族または脂肪族に大別することができる。芳香族側鎖は芳香環を含む。芳香族側鎖を持つアミノ酸の例には、例えば、ヒスチジン(式13)、フェニルアラニン(式14)、チロシン(式15)、トリプトファン(式16)などが挙げられる。非芳香族側鎖は広く「脂肪族」として分類され、例えば、アラニン(式17)、グリシン(式18)、システイン(式19)などが挙げられる。
【0035】
アミノ酸(複数可)は、天然の及び/または非天然のα-アミノ酸であることができる。天然アミノ酸は、遺伝子コードによってコードされているもの、と同様にそれに由来するアミノ酸である。これらには、例えば、ヒドロキシプロリン(式20)、γ-カルボキシグルタミン酸(式21)、及びシトルリン(式22)が挙げられる。本明細書では、「アミノ酸」という用語はまた、アミノ酸類似体及びアミノ酸模倣体も含む。類似体は、R基が天然アミノ酸に見られるものではないことを除いて、天然アミノ酸と同じ一般構造を有する化合物である。
【0036】
天然に存在するアミノ酸の類似体の代表的な例には、ホモセリン(式23)、ノルロイシン(式24)、ホモプロリン(式25)及びプロリン(式26)が挙げられる。アミノ酸模倣体は、α-アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、同じように機能する化合物である。アミノ酸はL-アミノ酸またはD-アミノ酸であってもよい。代表的な構造を以下に示す。

【化7】
【0037】
その他の亜鉛キレート剤
亜鉛キレート剤は、さまざまな非極性基を持つカルボン酸エステルから作ることができる。亜鉛キレート剤には、クエン酸エステルを含む多官能性エステルを含めることもできる。クエン酸エステルは、Rがアルキル、アルケニル、シクロアルキル、芳香族、または置換芳香族の部分である式27に示される構造を有することができる。
【化8】
【0038】
カルボン酸塩の具体例には、2-エチルヘキサン酸の1,1,3,3-テトラメチルグアニジン塩(TMG/2-EH)が挙げられ、TMG/2-EHは式28に示されている。
【化9】
【0039】
摩擦調整剤
摩擦調整剤は機械部品の摩擦及び/または摩耗を減らすことができる添加剤である。本発明の摩擦調整剤は少なくとも1つの極性基を有する有機摩擦調整剤を含む。これらの摩擦調整剤は通常、摩擦調整剤も一般に長鎖及び/または芳香族の非極性基を有するという点で二官能性である。
【0040】
極性基はアルコール部分、アミド部分、アミン部分、エステル部分などであることができる。いくつかの実施形態では、摩擦調整剤は2を超える極性部分(例えば、ジオール、ジエステル、アルカノールアミドなど)を有することができる。
【0041】
摩擦調整剤は燃料可溶性及び/または油溶性であってもよい。本発明の摩擦調整剤は、潤滑油環境において亜鉛キレート剤を安定化するので、亜鉛キレート剤が亜鉛をキレートし、同様にリン酸亜鉛トライボフィルムに吸着して摩擦低減層を形成するのを可能にする。
【0042】
エステル部分を持つ具体的な摩擦調整剤には、カルボン酸のエステル、アジピン酸エステル、トリメチロールプロパントリエステル、ポリオールエステル(例えば、グリセロールエステル、ソルビタンエステルなど)、ポリエステル、及び高粘度指数(VI)を持つエステルが挙げられ、及び/または流体力学的摩擦を変化させることができる。いくつかの実施形態では、エステルはホウ酸を混ぜてもよい。
【0043】
他の適合性のある摩擦調整剤には、アルカノールアミド(極性基でキャップされた脂肪アミド及びポリオールアミンを含む)が挙げられる。具体的なアルカノールアミドにはジエタノールアミドが挙げられる。
【0044】
アミン摩擦調整剤には、ヒドロカルビルアミン、脂肪酸アミン(例えば、オレイルアミン)、及びエトキシル化アルキルアミンが挙げられる。具体的なアミン摩擦調整剤にはジエタノールアミン及びジイソプロパノールアミンが挙げられる。
【0045】
具体的な摩擦調整剤は、例えば、参照によって本明細書に組み込まれるUS7678747、US8703680、及びUS9371499にてさらに詳細に説明されている。
【0046】
特に、ポリオールエステルは、ポリオールと酸(例えば、分岐酸、直鎖飽和酸、多塩基酸)から合成することができる合成ベースストック油として使用されることが多い。ポリオールエステルの例には、グリセロールエステル、ソルビタンエステルなどが挙げられる。
【0047】
具体的なグリセロールエステルには、従来潤滑剤組成物に添加されていた摩擦調整剤であるモノオレイン酸グリセロール(またはモノオレイン酸グリセリル)が挙げられる。例えば、米国特許第5,114,603号及び同第4,683,069号は、モノオレイン酸グリセロールを含む潤滑油組成物を記載しており、その関連部分は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0048】
市販のモノオレイン酸グリセロールの例には、Priolube(商標)1408及びRadiasurf(商標)7149(すなわち、トリオレイン酸グリセロールを含む脂肪酸のエステル)が挙げられる。典型的な市販製品では、生成されるエステルの約50~60モルパーセントのみがモノエステルである。残りは主にジエステルで、少量のトリエステルがある。
【0049】
通常、本発明の燃料組成物は少なくとも0.015重量%、好ましくは0.15~2.0重量%の摩擦調整剤を含有する。
【0050】
本発明に有用なグリセロールエステルは、燃料可溶性であり、好ましくは、C12~C22の脂肪酸または天然産物に見られるようなそれらの混合物から調製される。脂肪酸は飽和であっても、または不飽和であってもよい。天然源からの酸に見いだされる特定の化合物には1つのケト基を含有するリカン酸が含まれてもよい。最も好ましいC16~C18の脂肪酸はRがアルキルまたはアルケニルである式R-COOHのものである。好ましい脂肪酸は、オレイン酸、ステアリン酸、イソステアリル、パルミチン酸、ミリスチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、ラウリン酸、リノレン酸、及びエレオステアリン酸であり、ならびに天然産物の獣脂、パーム油、オリーブ油、ピーナッツ油、コーン油、ニートフットオイルなどに由来する酸である。特に好ましい酸はオレイン酸である。
【0051】
グリセロールの脂肪酸モノエステルが好ましいが、モノエステルとジエステルの混合物が使用されてもよい。好ましくは、モノエステルとジエステルの任意の混合物は少なくとも40%のモノエステルを含有する。通常、グリセロールのモノエステルとジエステルのこれらの混合物は40~60重量パーセントのモノエステルを含有する。例えば、市販のモノオレイン酸グリセロールは45重量%~55重量%のモノエステルと55%~45%のジエステルの混合物を含有する。しかしながら、さらに高級のモノエステルは、従来の蒸留技術を使用してグリセロールモノエステル、ジエステル、トリエステルの混合物を蒸留し、留出物生成物のモノエステル部分を回収することによって達成することができる。これは、本質的にすべてモノエステルである製品をもたらすことができる。したがって、本発明の燃料組成物に使用されるエステルは、すべてモノエステル、または混合物の少なくとも75モルパーセント、好ましくは少なくとも90モルパーセントがモノエステルであるモノエステルとジエステルの混合物であってもよい。
【0052】
燃料組成物
本開示の化合物は、火花点火内燃機関におけるエンジンノッキングまたはプレイグニッション事象を防止するまたは低減するための炭化水素燃料中の添加剤として有用であってもよい。
【0053】
本開示の化合物は、65℃から205℃の範囲で沸騰する不活性で安定な親油性(すなわち、炭化水素燃料に可溶性)の有機溶媒を使用する濃縮物として配合されてもよい。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、または高沸点芳香族化合物もしくは芳香族シンナーのような脂肪族または芳香族の炭化水素溶媒が使用されてもよい。炭化水素溶媒と組み合わせた、エタノール、イソプロパノール、メチルイソブチルカルビノール、n-ブタノールなどのような2~8の炭素原子を含有する脂肪族アルコールもまた、本添加剤と共に使用するのに好適である。濃縮物では、添加剤の量は10~70重量%(例えば、20~40重量%)の範囲であってもよい。
【0054】
ガソリン燃料では、含酸素化合物(例えば、エタノール、メチルtert-ブチルエーテル)、他のアンチノック剤、及び界面活性剤/分散剤(例えば、ヒドロカルビルアミン、ヒドロカルビルポリ(オキシアルキレン)アミン、スクシンイミド、マンニッヒ反応生成物、ポリアルキルフェノキシアルカノール、またはポリアルキルフェノキシアミノアルカンの芳香族エステル)を含む他の周知の添加剤を採用することができる。さらに、摩擦調整剤、酸化防止剤、金属不活性化剤及び解乳化剤が存在してもよい。
【0055】
ディーゼル燃料では、流動点降下剤、流動性向上剤、セタン価向上剤のような他の周知の添加剤を採用することができる。
【0056】
燃料可溶性の不揮発性の担体流体または油もまた、本開示の化合物と共に使用されてもよい。担体流体は、化学的に不活性な炭化水素可溶性液体ビヒクルであり、オクタン要件の増加に圧倒的に寄与しない一方で、燃料添加剤組成物の非揮発性残留物(NVR)または無溶媒液体画分を実質的に増加させる。担体流体は、米国特許第3,756,793号;同第4,191,537号;及び同第5,004,478号及び欧州特許出願公開番号356,726及び382,159に記載されているもののような、水素化及び非水素化のポリアルファオレフィン、合成ポリオキシアルキレン由来の油を含む、鉱油、精製石油、合成ポリアルカン及びアルケンのような天然油または合成油であってもよい。
【0057】
担体流体は炭化水素燃料の35~5000重量ppm(例えば、燃料の50~3000ppm)の範囲の量で採用されてもよい。燃料濃縮物で採用される場合、担体流体は20~60重量%(例えば、30~50重量%)の範囲の量で存在してもよい。
【0058】
以下の非限定的な実施例は本発明の1以上の態様を説明するために提供されている。
【実施例
【0059】
実施例1
燃料消費量試験
添加剤を燃料に添加して燃料組成物の試料を作製した。試料は以下の表1に要約されている。表2は燃料消費量試験の種々の条件をまとめたものである。
【表1】

【表2】
【0060】
図1は種々のエンジン条件での燃料試料の燃料消費量試験の結果を示す。エンジン回転数は1100~3000rpmの範囲である一方で、圧力は2~14バールの範囲である。
図1
【国際調査報告】