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特表2022-546892タバコ製品からの煙に由来する多環芳香族炭化水素、カルボニルおよびその他の化合物を保持するための濾過材料およびフィルタ
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  • 特表-タバコ製品からの煙に由来する多環芳香族炭化水素、カルボニルおよびその他の化合物を保持するための濾過材料およびフィルタ 図1
  • 特表-タバコ製品からの煙に由来する多環芳香族炭化水素、カルボニルおよびその他の化合物を保持するための濾過材料およびフィルタ 図2
  • 特表-タバコ製品からの煙に由来する多環芳香族炭化水素、カルボニルおよびその他の化合物を保持するための濾過材料およびフィルタ 図3
  • 特表-タバコ製品からの煙に由来する多環芳香族炭化水素、カルボニルおよびその他の化合物を保持するための濾過材料およびフィルタ 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-10
(54)【発明の名称】タバコ製品からの煙に由来する多環芳香族炭化水素、カルボニルおよびその他の化合物を保持するための濾過材料およびフィルタ
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/182 20170101AFI20221102BHJP
   C01B 32/354 20170101ALI20221102BHJP
   A24D 3/14 20060101ALI20221102BHJP
   C01B 32/184 20170101ALI20221102BHJP
   C01B 32/21 20170101ALI20221102BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
C01B32/182
C01B32/354
A24D3/14
C01B32/184
C01B32/21
B01J20/20 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560437
(86)(22)【出願日】2020-03-03
(85)【翻訳文提出日】2021-10-28
(86)【国際出願番号】 IB2020051801
(87)【国際公開番号】W WO2021048637
(87)【国際公開日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】38364
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】UY
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510274614
【氏名又は名称】コンパニア インダストリアル デ タバコス モンテ―パス エセ.ア.
【氏名又は名称原語表記】COMPANIA INDUSTRIAL DE TABACOS MONTE-PAZ S.A.
【住所又は居所原語表記】San Ramon 716, Montevideo, Uruguay
(71)【出願人】
【識別番号】521442442
【氏名又は名称】ウニベルシダッド デ ラ レパブリカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベンス カンデラ,トマス
(72)【発明者】
【氏名】バンチェロ イサスメンディ,マゲラ マリア
(72)【発明者】
【氏名】アンピエレス バスケス,エレウテリオ フランシスコ
(72)【発明者】
【氏名】ルフェナー,クリスチナ
(72)【発明者】
【氏名】ビラヌエバ,フアン パブロ
(72)【発明者】
【氏名】パルド,ヘレナ
(72)【発明者】
【氏名】ファッチオ,リカルド
(72)【発明者】
【氏名】モンブル,アルバロ
【テーマコード(参考)】
4B045
4G066
4G146
【Fターム(参考)】
4B045BA05
4B045BA08
4B045BB01
4B045BC02
4B045BC12
4G066AA05B
4G066BA05
4G066BA09
4G066BA20
4G066BA26
4G066CA51
4G066DA01
4G066FA37
4G146AA01
4G146AA02
4G146AA06
4G146AA11
4G146AA19
4G146AB07
4G146AC27A
4G146AC27B
4G146AD32
4G146BA02
4G146BB06
4G146BB11
4G146BB12
4G146CB14
(57)【要約】
本発明は、ハイブリッドグラフェン材料、並びに、タバコ製品または工業プロセスからの煙に由来する多環芳香族炭化水素、カルボニルおよび他の化合物を全体的または部分的に保持することができるフィルタに関する。フィルタは、吸着剤物質としての活性炭およびグラフェン材料を有し、両者は同じマトリックスによって担持されフィルタの同じ区画内にある。そして、この区画は任意選択的に、酢酸セルロースまたは同様のポリマーの繊維を含む従来のフィルタの別の区画に接続している。本発明はまた、ハイブリッドグラフェン材料を生成する方法に関する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ、マイクロおよび/またはマクロ細孔をカバーする細孔径分布の範囲をカバーする多孔質三次元マイクロアーキテクチャを有すると共に、
微粒子化グラファイト、活性炭、並びに、以下の材料:酸化グラフェン、グラフェン、および数層グラフェンシートのうちの一種類以上からなり、グラフェン材料と活性炭との間の結合が、表面力、特にファンデルワールス力によるものである、ハイブリッドグラフェン材料(複合材)であって、
この複合材は、制御された多孔度および圧力降下のポリマー物質担体であって、活性炭負荷についての焼結効果が重量で70%を超える、Ticona GMBH社のGUR2122もしくはGUR4120/4150製品、または同様の特性の他の製品のタイプであるポリマー物質担体に関連付けられており、
炭素材料(例えば、グラフェンまたは酸化グラフェン)の含有量の重量比は、全組成物の重量の1~30%の間で変動し、活性炭の含有量は30~70%の間で変動し、担体多孔質物質の含有量は5~60%の間で変動し、900m/g超の比表面積を示す、
ことを特徴とするハイブリッドグラフェン材料(複合材)。
【請求項2】
タバコ製品の煙中の多環芳香族炭化水素、カルボニルおよび他の化合物を全体的または部分的に保持することができるフィルタであって、
一つの構造単位を形成する同じマトリックスによって双方が担持されているところの、請求項1に特定されるような、活性炭と関連付けられたグラフェン材料(複合材)を同じ区画内に含んでおり、ここで、該区画は、酢酸セルロース繊維または同様のポリマーからなる別の従来のフィルタ区画に取り付けられていても取り付けられていなくてもよく、
前記複合材料は、University of Kentucky International Reference Cigarette 1R6Fと比較して、ガスストリームの以下の多環芳香族炭化水素の含有量を以下に特定する量で低減することができる、即ち、ナフタレン(94%)、アセナフチレン(74%)、アセナフテン(73%)、フルオレン(68%)、アントラセン(63%)、フェナントレン(54%)、フルオランテン(52%)、クリセン(52%)、ピレン(49%)、ベンゾ(a)アントラセン(45%)、ベンゾ(b)ピレン(53%)、
前記複合材料はまた、前記の多環芳香族炭化水素と同時的に、同じくUniversity of Kentuckyのシガレットと比較して、以下のカルボニル化合物を以下の比率で低減することができる、即ち、ホルムアルデヒド(72%)、アセトアルデヒド(82%)、アセトン(87%)、アクロレイン(89%)、プロピオンアルデヒド(82%)、クロトンアルデヒド(88%)、メチルエチルケトン(85%)、ブタナール(85%)、
であることを特徴とするフィルタ。
【請求項3】
請求項1に記載の材料を調製する方法であって、以下に列挙する段階の全て又は幾つかを含むこと、即ち、
a) 界面活性剤および/または安定剤、例えばポリソルベート、ポリビニルピロリドン、N-メチルピロリドン、ドデシル硫酸ナトリウムが好ましくは添加されている水性分散液に、超音波を適用することによる市販グラファイトの微粒子化段階、
b) 二つのやり方:即ち、修正Hummer法、または好ましくは、
高出力ロータステータタイプの機器を使用した、上記のような媒体中の界面活性剤および/もしくは安定剤の存在によって支援される液相での剥離、
によって行われ得るところの、主にグラフェン、数層グラフェンシート、および/または剥離グラフェンといったナノカーボン材料の合成段階、
c) このように合成されたナノカーボン材料を、例えば50℃~90℃の範囲の温度で、懸濁液が一時的に安定するまで該懸濁液中で撹拌により混合しながら、35~70メッシュの範囲の粒度分布の活性炭の微粒子上に担持する段階、
d) 50℃~70℃の範囲の温度で、一時的に安定化された前記懸濁液の真空蒸発により乾燥した炭素材料を得て、次いでこれが高分子量ポリエチレンと混合される段階、
e) 前記混合物を180℃~200℃に20~40分間温める段階、
の全て又は幾つかを含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾過システムおよび材料の分野、より具体的には、多孔質ポリマー構造に担持されたマイクロおよびナノカーボン材料に主に基づくハイブリッドフィルタ調製プロセスの分野に属する。
【0002】
特に、これに限定されるわけではないが、タバコ製品の主要な煙ストリーム中に存在するもの等の多環芳香族炭化水素に対する特別な選択性と、カルボニルおよび他の煙化合物に対する高い選択性とを同時に示すガスフィルタの分野に属する。
【背景技術】
【0003】
シガレットの煙は、喫煙者の身体に入る主要ストリーム、喫煙者によって吐き出される煙とシガレットの副ストリームからの煙との混合物である副ストリームつまり「二次喫煙」、及び、「三次喫煙」すなわちタバコ製品が消された後も持続する環境汚染に分けられる。シガレットの煙中の粒子および蒸気画分は、図1に示されるグラフに従って分布する数千の化学物質を含む。これらの中には、その毒性のために特に望ましくない化学物質の群またはファミリーがある。望ましくない健康化合物またはファミリーは、しばしばホフマン(Hoffman)化合物またはファミリーと呼ばれ、それらはその化学構造および官能性によってグループ化される。
【0004】
これらの物質を排除またはそのレベルを低減するための無差別濾過はまた、毒性ではないがシガレットの味および香りに寄与する物質も排除し、したがってその感覚刺激特性、ひいてはその商業的価値に影響を及ぼす。
【0005】
このため、タバコ製品の商業的および健康上の要件を調和させるために、その健康プロファイルを改善するが感覚特性を尊重した、煙から望ましくない生成物を低減または排除するための選択的抽出を可能にする技術が特に重要になっている。
【0006】
選択フィルタへの関心および市場でのそれらの存在は新しいものではなく、典型的な例は、数十年にわたって知られている「Dalmatian」フィルタである酢酸セルロース繊維上の活性炭粒子である。
【0007】
石炭がカルボニルに対する選択性を示すこと、及び、高多孔質ポリマー担体上の石炭に耐えるために、それは、高濃度の炭素材料を有するフィルタを得ることを可能にし、したがってより良好な結果を達成することが長い間実証されてきた。
【0008】
グラフェン系多孔質ナノ材料は、グラフェン材料の特性と、これらの材料により大きな比表面積を提供する細孔構造とを組み合わせているため、近年、グラフェン系多孔質ナノ材料の開発および研究に対する関心が高まっている。これによってグラフェン系多孔質ナノ材料は、様々な種類の分子、特に有機分子の保持能力に関連する、潜在的な商業用途および興味深い物理化学的特性のために、様々な種類の濾過システムの製造のための優れた候補となる。したがって、この能力は、非常に効率的な濾過システムの開発における多くの潜在的な用途を切り開く。
【0009】
活性炭/バインダーポリマー系(非常に高い分子量のポリエチレン)は、Celanese Acetate(CelFx Technology)によって既に開発されており、その新規性は、高多孔質担体に封入された高濃度の活性炭に起因する。Celaneseとの取引契約後、共同所有者は、様々なバージョンでFloydシガレットブランドにおけるこの開発を活用してきた。特許文献1は、グラフェン、ナノチューブ、フラーレン等の新しい形態の炭素を含む、無数の可能な材料および化学物質の担体としてのこの多孔質物質の用途を調査する可能性を示唆しているが、実際にはこれまでのところ、これはいずれの市場製品にも適用されていない。この文献は、同じフィルタの別個の区画に、長手方向軸の周りに巻かれた多孔質物質を有し、任意選択で活性炭およびグラフェンを有する、高分子量の活性粒子および可塑剤を有する多孔質物質フィルタを記載している。したがって、この文献に記載のフィルタは、本発明の対象のフィルタには対応しない。
【0010】
中国特許である特許文献2を優先権書類とするところの特許文献3は、2つの主な態様において本発明のものとは異なるグラフェンベースのフィルタを記載している。記載された材料はハイブリッド材料ではなく、それらが参照するグラフェン、グラフェンエアロゲルは純粋なグラフェンである。この態様は、従来のシガレットのコストのために、本発明を実行することを非常に困難にする。他の相違点は、この文献に記載されているフィルタの種類はセグメント化されているが、本発明のものは独自のキャビティフィルタであることである。
【0011】
特許文献4は、グラフェンがセルロース繊維に吸着するフィルタ能力を有する材料について言及している。この材料は、特許請求されているハイブリッド材料中に存在するグラフェンが活性炭の微粒子に吸着され、これらの粒子が高多孔質ポリマーマトリックスに組み込まれるという点で、本発明の材料とは異なる。これは、ハイブリッド材料を得るプロセスをより拡張可能に、および経済的に実現可能にする。
【0012】
他の中国特許文献である特許文献5、特許文献6、特許文献7、および特許文献8は、様々な空洞または部分のフィルタについて言及しており、そのうちの1つは、単独の、又は酢酸セルロース上に担持されたグラフェンまたは酸化グラフェンで作製されている。しかしながら、それらのいずれも、本発明に記載されるような、ハイブリッドグラフェン材料の使用、グラフェンを得る方法、あるいは、界面活性剤支援水性媒体中での剥離グラフェンの使用を記載していない。
【0013】
特許文献9は、グラフェンの合成方法、およびそれに基づく再使用可能なフィルタを記載しており、これは独立した品目であっても、シガレットに結合されていてもよい。特許文献9の発明の目的は、ハイブリッドグラフェン材料を使用せず、合成方法が本発明で使用される方法と異なり、提案されているフィルタの種類が本発明のものとは異なるため、本発明で特許請求されているものとは全く異なる。
【0014】
特許文献10は、水または空気であってもよい流体中の構成成分の数を低減および/または排除するための、フィルタ中の基板上に散乱されたカーボンナノチューブの使用について言及している。
【0015】
上記の文献では、同じ区画内のポリマーマトリックス上に担持された活性炭およびグラフェン材料に基づく多成分複合材料の使用は考慮されておらず、グラフェンを担持し、本発明のように実行可能なフィルタを製造することを可能にするマトリックスも実装されていない。
【0016】
要約すると、本明細書に開示されたいずれの文献も、意図された用途に従って(例えばタバコ煙用フィルタの製造のために)、適切な圧力降下を有するフィルタの製造を可能にするカーボンナノ材料を高多孔質ポリマーマトリックスに組み込む方法の技術的解決策を明らかにしていない。
【0017】
フィルタ製造および費用対効果の観点から主要な技術的利点であるところの、本発明で述べられているような、グラフェンまたはグラフェン材料および活性炭を同じ区画内で使用することについては全く考慮されていない、ことも特に関連性がある(と言える)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】WO2012/054111
【特許文献2】CN2017/071331
【特許文献3】US2019/0000136 A1
【特許文献4】CN105054291(A)
【特許文献5】CN204444223
【特許文献6】CN204444224
【特許文献7】CN108378416A
【特許文献8】CN107373750
【特許文献9】WO2017/187453
【特許文献10】WO2010/126686
【発明の概要】
【0019】
[本発明の概要説明]
概して、本発明は、不活性化および/または活性化されたマイクロおよびナノカーボン材料、例えばグラフェン、酸化グラフェン、数層グラフェンシート、カーボンナノチューブ、活性炭上に担持された純粋なグラファイト(黒鉛)から得られるグラファイトおよび炭素のナノ粒子、
で構成されると共に、多孔質ポリマーマトリックス上に含まれるハイブリッド材料(複合材)の開発に関連し、これらは、(特にガスに限定されないが)ガスのフィルタの製造における使用に特に適している。
【0020】
本発明はまた、特に濾過システムの製造での使用に適した、微粉化グラファイト/活性炭/活性化または不活性化ナノカーボン材料/高多孔質ポリマー:のようなハイブリッド材料を調製する方法の開発を含む。
【0021】
さらに、本発明は、本発明の対象となるハイブリッド材料から製造された、一般に揮発性化合物、特にカルボニルならびに芳香族および多環芳香族炭化水素に対する高い選択性および効率を有するフィルタの設計および開発に関連し、これは、限定されないが、タバコ製品の煙フィルタの製造に特に適している。しかしながら、この材料は、タバコ以外の産業によって製造される水およびガスフィルタに使用されてもよい。
【0022】
[発明の詳細な説明]
本発明は、活性炭および/または微粒子化グラファイトの微粒子上に支持された、(完全にまたは部分的に活性化された)、酸化グラフェン、および/またはグラフェン、および/または数層グラフェンシート、および/またはカーボンナノチューブをベースとし、したがってナノカーボン材料の微細構造担体として作用するハイブリッド(複合)材料の開発からなるものである。これらのハイブリッド微粒子は、高多孔質マイクロおよびナノスケールアーキテクチャ、ならびに900m/g超の非常に高い比表面積を示す巨視的ハイブリッド系を得るために、高多孔質ポリマー担体に均一に組み込まれる。
【0023】
一方で、本発明は、このハイブリッド材料を得る方法、ならびにシガレットにおけるタバコ煙を濾過するための、限定されないが一般に揮発性化合物に対する高い選択性および効率のフィルタの設計および開発を開示する。
【0024】
[本発明の対象素材]
いわゆるハイブリッド材料または複合材料は、異なる物理化学的特性を有する2種以上の材料からなり、これらは組み合わされると、個々の成分の特性以外の特性を有する別の材料をもたらす。
【0025】
「ナノカーボン材料」は、フラーレン、ナノチューブ、ナノファイバー、グラフェン、酸化グラフェン、数層グラフェンシート、剥離グラファイト等の炭素系ナノ材料であり、その独特の物理的、化学的、および機械的特性のために、この10年間で最も重要な材料ファミリーの1つとなっている。
【0026】
本発明で使用されるナノカーボン材料の中には、カーボンナノチューブがある。カーボンナノチューブは、開放端または閉鎖端を有するチューブを形成する、グラフェン面が巻かれた構造である。ナノチューブには、入手が最も容易な多層ナノチューブ(MWNT)、および単層ナノチューブ(SWNT)の2種類がある。MWNTは、基本的に、互いに同心に位置する複数の半径のSWNTによって構築される。それらの機械的特性に関して、全ての証拠は、ナノチューブが非常に柔軟であり、破壊、伸長および圧縮に耐性があることを示している。ナノチューブは比較的大きな熱安定性を有し(それらは空気中で750℃、真空中で約2800℃で劣化し始める)、ダイヤモンドの熱伝導率の2倍の熱伝導率を有すると推定される。ナノチューブは、1.33~1.44g/cmの範囲の比較的低い密度を有し、これは本発明にとって重要であり、それらの構造および物理的形態に起因して、大きな表面積(単層ナノチューブについては約1000m/g)を有する。
【0027】
「酸化グラフェン」が特許請求される材料に組み込まれてもよい。酸化グラフェンは、それ自体が目的のグラフェン材料であり、グラフェンの主要な前駆体の1つでもある。その原子構造は、ハイブリダイゼーションspを有する炭素六角形からなる炭素原子の単一層からなるが、グラフェンとは異なり、これらのうちある特定の割合が酸素原子にランダムに結合しており、ハイブリダイゼーションspを呈する。したがって、酸化グラフェンの表面は、ヒドロキシル、エポキシドおよびカルボニル基で両側が官能化されており、縁部はカルボキシル基で官能化されている。様々な種類の分子が、共有結合および非共有結合の両方によって酸化グラフェンに結合し得る。
【0028】
ハイブリッド材料に組み込まれる別のナノ材料は、グラフェンである。グラフェンの結晶構造は、sp結合によって互いに共有結合したハニカム型炭素原子の二次元アレイからなり、二次元結晶の実際の存在の最初の例となる。単層のグラフェンの厚さは、0.34nm~1.6nmの範囲である。グラフェンの場合、その反応性は、理想的にはその構造中に酸素化官能基が示されないはずであるため、主に非共有結合相互作用に起因する。上記にもかかわらず、実際には、このプロセスは、ある特定の割合の残留オキソ基をもたらし、その結果、それらはまた、小さい程度ではあるが有機分子との共有結合から確立され得る。
【0029】
本明細書に開示されるハイブリッド材料を得るプロセス中に、グラフェンと「数層グラフェンシート(few-layer graphene sheets)」との混合物が得られる。数層グラフェンシート(数層グラフェン)は、3~10枚のグラフェンシートを積層することにより得られる。
【0030】
特に、グラフェン系を特徴付けるπ非局在化電子の巨大な体系は、両側に電子が豊富なシート構造を提供し、これが芳香族化合物に対する強い親和性をもたらし、したがってそれらを芳香族化合物の優れた吸着剤にする。
【0031】
本発明で明らかにされた材料は、これまでに報告されていない特性を有するハイブリッドグラフェン材料として定義される。また、この材料は、シガレットフィルタの製造に使用される場合、優れた性能を示した。
【0032】
[ハイブリッド材料収集プロセス]
上記のハイブリッド材料プロセス(図2)は、基本的に、この材料の水性分散液に超音波を印加することによるグラファイトまたは炭素材料の微粒子化の第1の段階からなる。市販のグラファイトの使用が、このプロセスに有用である。このプロセスでは、ポリソルベート、ポリビニルピロリドン、N-メチルピロリドン、ドデシル硫酸ナトリウム等の界面活性剤または安定剤が、適切な濃度で水溶液に組み込まれてもよく、または組み込まれなくてもよい。
【0033】
2つの実施形態を使用して、ナノカーボン材料を製造してもよいし、あるいは、
通常の方法の1つによって、例えば修正Hummer法によって、または、高性能ロータステータ型機器を使用した媒体中での上記のような界面活性剤および/もしくは安定剤の存在によって補助される液相剥離によって、酸化グラフェンを得てもよい。
【0034】
酸化グラフェンの典型的な合成では、2gのグラファイトを秤量し、これに100mlの濃HSOを室温で振盪プレート内で撹拌しながら添加する。氷浴温度が約5℃に低下するまで混合物を氷浴に入れ、磁気撹拌および氷浴によって約8gのKMnOを混合物に添加する。100mlの冷蒸留水を非常にゆっくりと添加する。これを1.5時間撹拌したままにする。混合物の泡立ちが止まるまで、Hを1滴ずつ添加する。混合物を一晩静置する。上清を廃棄する。遠心分離によって、または溶液をデカントすることによって洗浄を行う。pHが3に近い値またはそれを超える値に達するまで、ペレットを連続工程で5%HClで洗浄する。剥離酸化グラフェンを得るために、ポインタソニケータ(pointer sonicator)で超音波処理する。
【0035】
このようにして得られた酸化グラフェンは、そのまま、および/または還元された酸化グラフェンとして使用することができる。この還元を達成するために、化学的、熱的または水熱的還元等の様々な方法を使用することができる。水熱反応器を用いて酸化グラフェンを得た。剥離酸化グラフェン懸濁液を、全オートクレーブ容積の70~80%の範囲の充填率に達するまで入れ、100~130℃の範囲の温度に4~12時間加熱する。
【0036】
数層グラフェンの合成は、高エネルギーポインタソニケータを使用して、または高性能ステータロータ型機器によって、界面活性剤で補助された液相で行う。
【0037】
典型的な合成は、200~1000mlの範囲の体積に懸濁した10gのグラファイトの処理を含む。使用される界面活性剤は、1~20%の範囲の割合でこの溶液に溶解される。上記合成の前駆体として使用されるグラファイトの微粒子化は、水相超音波処理によっても達成され得る。
【0038】
上記の形態は、後でハイブリッド材料の製造に使用されるナノカーボン材料:
酸化グラフェン、グラフェン、数層グラフェンシート、剥離グラフェン、カーボンナノ粒子またはカーボンナノチューブ、を提供する。
【0039】
活性化プロセスは、炭素材料に細孔を形成するプロセスである。この活性化プロセスは、得られた材料のマイクロおよびナノ構造(欠陥、細孔、縁、層サイズ)を決定することができ、したがって、分子フィルタとしてのその性能に劇的な影響を及ぼす。
【0040】
硫酸および硝酸等の強酸の存在下での酸化処理、高温での水酸化ナトリウムもしくはカリウムによる炭素前駆体の固体処理、または好ましくは、高温での窒素もしくは二酸化炭素等のガスもしくはそれらの混合物による処理等、炭素材料の活性化に様々な方法を使用することができる。
【0041】
得られたグラフェン材料の活性化は、好ましくは気相中で行われ、そのために、これらの乾燥材料は、密閉オーブン内で、500~1100℃の温度範囲内で1~10時間の期間にわたり、例えば高温CO流に供される。
【0042】
このようにして得られたグラフェン材料を、例えば35~70メッシュの粒度分布の活性炭と、撹拌しながら、例えば50~90℃の範囲の温度で、懸濁液を一時的に安定化し続けるのに十分長い期間混合する。この期間の後、系を例えば50~70℃の範囲の温度で真空蒸発に供し、乾燥炭素材料を得、次いでこれを高分子量ポリエチレンと組み合わせる。
【0043】
本発明はまた、高多孔質ポリマー担体上に担持された金属塩、特に銅、亜鉛および鉄を組み込んだ上記ハイブリッド材料から作製された複合材料の開発を含む。
【0044】
本発明はまた、上記のハイブリッド材料と、高多孔質ポリマー担体上に担持された銅、亜鉛および鉄等の金属ナノ粒子とから作製された複合材料の開発を含む。
【0045】
本発明はまた、上記のハイブリッド材料と、高多孔質ポリマー担体上に担持された銅、鉄または亜鉛等の金属で置換された微粒子ゼオライトとから作製された複合材料の開発を含む。
【0046】
[フィルタ設計および開発]
本発明の対象となる濾過システムに関して、吸着剤粒子に結合する化合物構造を形成し、煙の通過に対する抵抗がほとんどなく、非常に低い圧力降下のフィルタを得ることができるという利点を有してなる、非常に高い分子量のポリエチレンからなる多孔質物質にグラフェンおよび活性炭を同時に固定したフィルタ材料が開発された。
【0047】
我々(本発明者ら)が考慮している複雑さのシステムでは、主に非極性型の、且つ主に炭素原子のsp混成によって条件付けられる様々な種類の分子相互作用が確かに存在する。一般に、そのような相互作用は通常、分散力(ファンデルワールス、ロンドン、デバイ、キーソン等)の概念によってカバーされる。
【0048】
我々のケースでは、活性炭はランダムまたはアモルファス構造を有するグラファイトの無秩序な形態であるが、原子スケールでは芳香環の局所的な構造がランダム配向グラフェンナノ結晶の形態の下に存在すること(1)を考慮すると、グラフェンの芳香環と活性炭のグラフェンナノ結晶との間のσ-π軌道セットの相互作用(HunterおよびSanders(2,3))が特に重要である。これらの相互作用は図3に概説されており、相互作用系の相互配向に応じて異なる強度で現れる。σ-π結合の最大の安定化力を与えられて、π-π反発が克服される。
【0049】
この特許の対象の濾過システムでは、これらのナノカーボンの組み合わせが高分子量ポリエチレンと混合され、200℃の温度に20分間供され、吸着剤粒子を担持する高多孔質物質が得られる。これは典型的な焼結プロセスであり、熱可塑性材料は高温であるが溶融温度よりも低い温度に加熱され、これらの粒子間の接触点での原子拡散によってその粒子間に強い結合を形成する。
【0050】
この焼結プロセスは、シガレットフィルタの場合、取り付けられることが意図されているシガレットの設計に適した直径の円筒であってもよい金型上で実行され得る。この操作は、そのような目的のために特別に設計されたデバイス上で連続的に実行することもできる。
【0051】
図4では、非常に高い分子量のポリエチレン焼結多孔質物質のSEM(走査型電子顕微鏡)画像が観察され得る。図5では、本発明のフィルタ物体のSEM画像が示されており、炭素粒子間の担持構造を形成する焼結粒子(明瞭な色調)が観察される。
【0052】
本発明は、成分の粒度分布(ナノメートルおよびメートル)間のバランスの研究、および関与する吸着剤の吸着能力間の相互作用を互いに損なうことを回避するための最も適切な混合手順の調査を含んでいた。
【0053】
この研究は、そのような負の相互作用が存在せず、フィルタが多環芳香族炭化水素、カルボニルおよび揮発性化合物の保持のために効率的に動作することを示した。フィルタ成分の割合もまた、特に硬度、多孔度およびフィルタ容量に関して最適な物理的特性の多孔質物質を生成するように調整された。
【0054】
本発明のフィルタはまた、単一のフィルタセクタにおいて望ましくないシガレットの煙成分の2つの大きな群の濾過の成功を達成するという利点を有し、シガレット、パイプ、水ギセル(フーカー)、電子シガレット、タバコを加熱するが燃焼させない製品(HNB、「非燃焼加熱」)、および任意の他の煙または蒸気放出デバイス等の様々なタバコ製品に適用することができる。シガレットの設計への商業的適用の特定の場合では、従来のフィルタシガレットの伝統的構造に従う酢酸セルロース繊維からなる別のセクタがこのセクタに取り付けられる。この第2のセクタは、いくつかの非選択的な濾過効果を提供するが、我々のケースにおけるその主な目的は、シガレットの吸い口端にきれいな終端部を組み込むこと、および最終的には、設計者の意見では、シガレットノズルにマイクロレーザ穿孔による通気システムを含めること、手動圧縮によって芳香放出カプセルを導入すること、さらにはフィルタ材料と接触する煙の滞留時間の調整に介入することである。
【0055】
[参考文献(References)]
(1) Jeremy C. Palmer, Keith E. Gubbins, Microporous and Mesoporous Materials 154 (2012) 24-27
(2) C. A. Hunter, J. K. M. Sanders, J. Am. Chem. Soc. 1980, 112, 5525-3534
(3) Ch. R. Martinez, B. L. Iverson, Chem. Sci. 2012, 3, 2191
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】シガレットの煙の化学組成を説明する図(円グラフ)である。
図2】本発明の対象材料を得る様々な段階を説明するスキームを示す図である。
図3】グラフェンの芳香環と活性炭のグラフェンナノ結晶との間のσ-π軌道セットの相互作用のスキームを示す図である。
図4】非常に高い分子量のポリエチレンから合成された多孔質物質のSEM(走査型電子顕微鏡)画像を示す図であり、その多孔質構造が観察され得る。
図5】合成された粒子および明瞭な色調が観察され、炭素粒子間に担持構造を形成する、本発明のフィルタのSEM画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
[本特許(出願)により開示されるフィルタの効率の例]
【0058】
[ケース1]
以下のイラストの全体的な設計に応じて、シガレットAおよびBを分析した。
【0059】
【化1】
【0060】
これらのシガレットの多孔質物質の組成は、以下の通りである。
シガレットA:活性炭70%+グラフェン6%+GUR24%
シガレットB:活性炭70%+GUR30%(参照例)
【0061】
2つのシガレットの主な違いは、Aの多孔質物質中にグラフェンが存在することである。他の物理的および化学的特性は両方の製品で非常に類似しており、ノズルの通気は両方の場合で60%である。圧力降下は120~140mmHOの範囲に維持された。両方のタバコカラム内のタバコは同じである。
【0062】
Health Canada Intensiveレジメン(各シガレットを6連)下で、Cerulean SM450喫煙機で2つの群のシガレットを同時に喫煙し、13種の多環芳香族炭化水素を定量化する内部方法に従って抽出物を分析した。分析の結果は表Iにまとめられるが、これは、シガレットB(参照例)に関して、主シガレット流の煙中の幾種類かの多環芳香族炭化水素の有意な減少を示している。
【0063】
【表1】
【0064】
[ケース2]
シガレットC(その設計はケース1の設計に対応する)を、University of Kentuckyの参照シガレット1R6Fと比較して分析した。シガレット1R6Fは、研究作業のための国際標準シガレットであり、異なる実験室からのデータを比較するための基礎としての役目を果たす。シガレットCは、以下の組成を有してなる多孔質物質を含むセクタを有する。
シガレットC:活性炭71%+グラフェン11%+GUR18%
なお、シガレット1R6Fは、従来の酢酸セルロースフィルタを備えたシガレットである。
【0065】
Health Canada Intensive法(各シガレットを6連)を使用して、Cerulean SM450喫煙機で両方のシガレットの喫煙試験が同時に行われた。
分析の結果は表IIにまとめられ、この特許(出願)の下でのフィルタのいくつかの多環芳香族炭化水素の還元能力を比較することができる。
【0066】
【表2】
【0067】
[ケース3]
ケース2のシガレットCの煙において、カルボニルの低減を、参照シガレット1R6Fについて得られた結果と比較することによって評価した。ISO3308:2012法を使用して2本のシガレットを喫煙し、8種類のカルボニルを決定するためにCRM74:2018に従って抽出物を分析した(各シガレットを6連)。その結果は、表IIIにまとめられ、この特許(出願)によるフィルタのカルボニル還元能力を比較することができる。
【0068】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】