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特表2022-546945モータ駆動信号をコギング補償する方法及び媒体
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  • 特表-モータ駆動信号をコギング補償する方法及び媒体 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-10
(54)【発明の名称】モータ駆動信号をコギング補償する方法及び媒体
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/10 20060101AFI20221102BHJP
【FI】
H02P6/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022511399
(86)(22)【出願日】2019-08-20
(85)【翻訳文提出日】2022-04-13
(86)【国際出願番号】 EP2019072279
(87)【国際公開番号】W WO2021032290
(87)【国際公開日】2021-02-25
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519298581
【氏名又は名称】ハロディ ロボティクス アー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュルーズベリー、ブランドン トーマス
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560AA07
5H560AA08
5H560BB12
5H560DA07
5H560DB20
5H560DC12
5H560JJ16
5H560RR01
5H560TT11
5H560XA04
5H560XA05
(57)【要約】
本発明の目的は、ダイレクトドライブ環境における電動のモータの駆動方法において、コギングトルクの影響を平滑化することである。この目的は、較正ステップとして、a)モータを制御して第1の方向に第1の速度で回転させるステップであって、モータを第1の方向に回転させながら、複数のモータ位置について第1の電流値を測定し、第1の電流値が、複数のモータ位置の各々においてモータを第1の速度で回転させるために必要な電流を示す、ステップと、b)モータを制御して第2の方向に第2の速度で回転させるステップであって、モータを第2の方向に回転させながら、ステップa)で決定されたのと同じ複数のモータ位置について第2の電流値を測定し、第2の電流値が、複数のモータ位置の各々においてモータを第2の速度で回転させるために必要な電流を示す、ステップと、c)複数のモータ位置の各モータ位置について、第1及び前記第2の電流測定値の平均値を計算して、複数のモータ位置についての平均化された電流測定値を生成するステップと、d)複数のモータ位置と対応する平均化された電流測定値との間のマップを記憶するステップと、を含む方法により解決される。この方法は、モータ駆動ステップとして、e)所望の駆動電流を受け取るステップと、f)現時点におけるモータ位置を示す信号を受信するステップと、g)マップを使用して現時点におけるモータ位置のデルタ電流を決定するステップと、h)デルタ電流を所望の駆動電流に加えて補償された駆動電流を生成するステップと、i)補償された駆動電流を使用してモータを駆動するステップと、をさらに含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイレクトドライブ環境における電動のモータの駆動信号をコギング補償する方法であって、
較正ステップとして、
a)前記モータを制御して第1の方向に第1の速度で回転させるステップであって、前記モータを前記第1の方向に回転させながら、複数のモータ位置について第1の電流値を測定し、前記第1の電流値が、前記複数のモータ位置の各々において前記モータを前記第1の速度で回転させるために必要な電流を示す、ステップと、
b)前記モータを制御して第2の方向に第2の速度で回転させるステップであって、前記モータを前記第2の方向に回転させながら、ステップa)で決定されたのと同じ複数のモータ位置について第2の電流値を測定し、前記第2の電流値が、前記複数のモータ位置の各々において前記モータを前記第2の速度で回転させるために必要な電流を示す、ステップと、
c)前記複数のモータ位置の各モータ位置について、前記第1及び前記第2の電流測定値の平均値を計算して、前記複数のモータ位置についての平均化された電流測定値を生成するステップと、
d)前記複数のモータ位置と対応する平均化された電流測定値との間のマップを記憶するステップと、を含み、
モータ駆動ステップとして、
e)所望の駆動電流を受け取るステップと、
f)現時点におけるモータ位置を示す信号を受信するステップと、
g)前記マップを使用して前記現時点における前記モータ位置のデルタ電流を決定するステップと、
h)前記デルタ電流を前記所望の駆動電流に加えて、補償された駆動電流を生成するステップと、
i)前記補償された駆動電流を使用して前記モータを駆動するステップと、
をさらに含む方法。
【請求項2】
前記第1の速度は、前記第2の速度と同一であり、かつ実質的に一定であり、
ステップa)において、前記モータは、少なくとも1回転するように回転させられ、
ステップb)において、前記モータは、少なくとも1回転するように回転させられ、
前記モータは、前記モータの位置を導出するための少なくとも1つの位置センサを備えている、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ダイレクトドライブ環境は、滑らかな回転速度を維持しながら、1:8未満、1:4未満、1:2未満、又は好ましくは1:1のギア比で、ロボットジョイント及び/又はロボットホイールを駆動するために、前記電動のモータを使用することを含む、
請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップa)及び/又はステップb)において、十分に調整された位置/速度コントローラ、好ましくはPDコントローラを使用して、三角形の基準軌道に沿って実質的に一定の速度でモータを回転させる、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の方向及び前記第2の方向における前記モータの回転速度は、好ましくはモータの運動量及びコギング力に基づいており、及び/又は好ましくは0.5ラジアン/秒より低い、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記駆動電流は、前記モータのトルクに変換される、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、前記モータにおけるコギングトルクを補償するために使用される、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ステップa)及び/又はステップb)は、好ましくは前記モータの複数の全回転に対して、好ましくは各方向に7ラジアンに対して実行される、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ステップc)において平均化された電流測定値を生成することは、前記平均化された電流測定値をサブサンプリング及び/又はフィルタリングすることを含む、請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ステップc)において平均化された電流測定値を生成することは、平均化された電流測定値を、256~8192サンプルポイントまで、好ましくは512サンプルポイントまで、サブサンプリングすることを含む、請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ステップd)においてマップを記憶することは、好ましくはルックアップテーブルを学習及び/又は作成すること含み、
ステップg)において前記マップを使用して現時点における前記モータ位置のデルタ電流を決定することは、前記ルックアップテーブル内の少なくとも1つの値を参照することを含む、
請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ステップg)において前記マップを使用して現時点における前記モータ位置のデルタ電流を決定することは、前記ルックアップテーブル内の2つ以上の値の間の補間、好ましくはスプライン補間、多項式補間、又は線形補間を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップa)の第1の電流値及びステップb)の第2の電流値は、ステップc)において平均値を計算する前に、好ましくはゼロ位相フィルタを用いてフィルタリングされる、請求項1から請求項12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の電流値の数及び各回転に対する前記第1の電流値の数は、32768より大きく、好ましくは524288より大きい、請求項1から請求項13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記電動のモータは、同期モータ、好ましくはブラシレスモータである、請求項1から請求項14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
コンピュータによって実行されると、コンピュータに、請求項1から請求項15までのいずれか1項に記載の方法のステップを実行させる命令を含む、コンピュータ可読媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1及び請求項16にそれぞれ記載された、ダイレクトドライブ環境においてロボットジョイント又はホイールを駆動する電動モータのモータ駆動信号をコギング補償する方法及びコンピュータ可読媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイレクトドライブ方式のモータでロボットを駆動する場合、コギングトルクとモータの低い回転速度との組み合わせにより、ぎくしゃくした不均一な動きを引き起こす場合がある。ダイレクトドライブモータ及び高トルク密度モータでは、十分なトルクを発生させるために強い磁力に依存する場合がある。強い磁力は無視できないコギングトルクを発生させ、特に低い回転速度において、モータ性能(電流とトルクの比率や直線性)を低下させる可能性がある。
【発明の概要】
【0003】
当技術分野で特定される欠点は、請求項1の方法及び請求項16のコンピュータ可読媒体によって解決される。
【0004】
特に、この欠点は、ダイレクトドライブ環境における電動モータの駆動信号をコギング補償する方法によって解決され、当該方法は、較正ステップとして、
a)モータを制御して第1の方向に第1の速度で回転させるステップであって、モータを第1の方向に回転させながら、複数のモータ位置について第1の電流値を測定し、第1の電流値が、複数のモータ位置の各々においてモータを第1の速度で回転させるために必要な電流を示す、ステップと、
b)モータを制御して第2の方向に第2の速度で回転させるステップであって、モータを第2の方向に回転させながら、ステップa)で決定されたのと同じ複数のモータ位置について第2の電流値を測定し、第2の電流値が、複数のモータ位置の各々においてモータを第2の速度で回転させるために必要な電流を示す、ステップと、
c)複数のモータ位置の各モータ位置について、第1及び前記第2の電流測定値の平均値を計算して、複数のモータ位置についての平均化された電流測定値を生成するステップと、
d)複数のモータ位置と対応する平均化された電流測定値との間のマップを記憶するステップと、を含み、
モータ駆動ステップとして、
e)所望の駆動電流を受け取るステップと、
f)現時点におけるモータ位置を示す信号を受信するステップと、
g)マップを使用して現時点におけるモータ位置のデルタ電流を決定するステップと、
h)デルタ電流を所望の駆動電流に加えて補償された駆動電流を生成するステップと、
i)補償された駆動電流を使用してモータを駆動するステップと、をさらに含む。
【0005】
モータがオープンループトルク制御方式で制御されている場合でも、ダイレクトドライブで、高トルクモータの回転速度がより滑らかになる等の利点がある。所望のモータトルクは、トルク定数(Kt)を使用して、所望のモータ電流に変換され得る。得られるトルクは、原則として駆動電流に対して線形である。開示された方法は、低回転速度における線形性を改善する。
【0006】
モータコントローラは所望の電流を追跡し、モータは絶対値エンコーダと一貫したコギングを有している。モータコントローラは、所望のモータ電流及び/又は所望のモータトルクに基づいて、モータ内の各コイルに電流を供給する。各コイルの電流は、モータの方向、所望の電流、極対の数、及び位相順序に依存し得る。
【0007】
この方法は、剛体位置/速度コントローラを使用してモータの回転速度を制御し、モータコントローラからのモータ電流を測定して、絶対エンコーダを使用してコギングトルクを打ち消すためのフィードフォワード電流モデルを構築することを含むことができる。
【0008】
各モータ位置での電流は、電流計を使用して測定することができる。
【0009】
一実施形態では、第1の速度は、第2の速度と同一であり、かつ実質的に一定であり、
ステップa)において、モータは、少なくとも1回転するように回転させられ、
ステップb)において、モータは、少なくとも1回転するように回転させられ、
モータは、モータの位置を導出するための少なくとも1つの位置センサを備えている。
【0010】
第1及び第2の速度が同じ速度(反対方向)であり、実質的に一定であることの利点は、計算を容易にすることを含む。
【0011】
一実施形態では、ダイレクトドライブ環境は、滑らかな回転速度を維持しながら、1:8未満、1:4未満、1:2未満、又は好ましくは1:1のギア比で、ロボットジョイント及び/又はロボットホイールを駆動するために、電動のモータを使用することを含む。
【0012】
一実施形態では、ステップa)及び/又はステップb)において、十分に調整された位置/速度コントローラ、好ましくはPDコントローラを使用して、三角形の基準軌道に沿って実質的に一定の速度でモータを回転させる。
【0013】
一実施形態では、第1の方向及び第2の方向におけるモータの回転速度は、モータの運動量及びコギング力に基づいていることが好ましく、及び/又は0.5ラジアン/秒より低いことが好ましい。
【0014】
一実施形態では、駆動電流は、モータのトルクに変換される。
【0015】
一実施形態では、この方法は、モータにおけるコギングトルクを補償するために使用される。
【0016】
一実施形態では、ステップa)及び/又はステップb)は、好ましくはモータの複数の全回転に対して、好ましくは各方向に-7ラジアン~7ラジアンに対して実行される。
【0017】
1回転を超えて移動させることで、軌道の方向を変わったときに、速度ループ及び電流ループが、対象領域内を移動する前に安定する時間を有することを保証する。対象領域は、電流を測定するモータの全回転位置(full rotation positions)である。
【0018】
また、必要な電流は、1回転を超えて測定されてもよい。この場合、各位置について測定された複数の電流レベルを各方向について平均化して、各方向の1回転分(2*pi rad)についての電流レベルを生成することができる。
【0019】
一実施形態では、ステップc)において平均化された電流測定値を生成することは、平均化された電流測定値をサブサンプリング及び/又はフィルタリングすることを含む。
【0020】
一実施形態では、ステップc)において平均化された電流測定値を生成することは、平均化された電流測定値を、256~8192サンプルポイントまで、好ましくは512サンプルポイントまで、サブサンプリングすることを含む。
【0021】
一実施形態では、ステップd)においてマップを記憶することは、好ましくはルックアップテーブルを学習及び/又は作成すること含み、ステップg)においてマップを使用して現時点におけるモータ位置のデルタ電流を決定することは、ルックアップテーブル内の少なくとも1つの値を参照することを含む。
【0022】
一実施形態では、ステップf)で電流のデルタ値を決定することは、ルックアップテーブル内の2つ以上の値の間の補間、好ましくはスプライン補間、多項式補間、又は線形補間を含む。
【0023】
一実施形態では、ステップa)の第1の電流値及びステップb)の第2の電流値は、ステップc)において平均値を計算する前に、好ましくはゼロ位相フィルタを用いてフィルタリングされることが好ましい。
【0024】
一実施形態では、第1の電流値の数及び各回転に対する第1の電流値の数は、32768より大きく、好ましくは524288より大きい。
【0025】
一実施形態では、電動のモータは、同期モータ、好ましくはブラシレスモータである。
【0026】
この欠点は、コンピュータによって実行されると、コンピュータに、本明細書に開示された方法のステップを実行させる命令を含むコンピュータ可読媒体によってさらに解決される。
【0027】
コンピュータ可読媒体の利点及び長所は、上述の方法の利点と等しいか、又は類似している。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1A】モータを駆動するための三角形の基準軌道とそれに対応する第1の方向及び第2の方向の実質的に一定の速度とを示す図である。
図1B】モータを駆動するための三角形の基準軌道とそれに対応する第1の方向及び第2の方向の実質的に一定の速度とを示す図である。
図2】モータの1回転に対する第1の方向及び第2の方向の電流測定値を示す図である。
図3】モータを回転させながら測定した電流のフィルタリングを示す図である。
図4】フィルタリングされ、3次補間された第1の方向及び第2の方向の電流測定値を示す図である。
図5】各モータ位置の平均値を含む電流測定データを示す図である。
図6】平均化された電流測定データのサブサンプリングを示す図である。
図7】サブサンプリングされた電流測定データ間の線形補間を示す図である。
図8A】ダイレクトドライブ環境において電動モータをスムーズに駆動するための方法ステップを示す図である。
図8B】ダイレクトドライブ環境において電動モータをスムーズに駆動するための方法ステップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下では、図面を参照して本発明の実施形態が説明される。
【0030】
電動モータにおけるコギングトルクとは、ロータの永久磁石とステータスロットとの相互作用により発生するモータ内部のトルクのことである。ロータの回転位置に応じて、磁石とステータスロットとの間の距離が変化し、磁力及び対応するトルクが変化する。したがって、コギングトルクは、ステータと比較したロータの回転位置によって変化することになる。
【0031】
ロータの回転位置に対するコギングトルクの大きさ依存性は、磁石の数や強さ、ステータスロットの数など、いくつかの要因に依存する。
【0032】
電動モータにおけるコギングトルクは知られているかもしれないが、人型ロボット工学の分野では、モータの回転速度が高く、ロボットを駆動するギア比が高いため、一般にコギングトルクは問題にならず、ロボットの動作に対するコギングトルクの影響は無視できる程度である。
【0033】
本開示は、人型ロボットのジョイント又はホイールを駆動するためのダイレクト(又は低ギア比を有する)ドライブ方式のモータに関するものである。このようなダイレクトドライブ設定では、コギングトルクはロボットの動きに影響を及ぼし、ホイールのジョイントのぎくしゃくした動き(jerky movements)をもたらす可能性がある。高トルク、ダイレクトドライブ、人型ロボットのモータの一例は、国際公開第2018/149499号に記載されている。
【0034】
コギングトルクの影響には、ロータ位置センサからのフィードバック信号と、ぎくしゃくした動きを調整する制御ループとを使用することで、対処できる可能性がある。そのような制御は、高いサンプルレートで動作させる必要があり、モータの電流動作を考慮した複雑な実装が必要となる場合がある。また、モータはモータに流れる電流によって制御され、高速で電流を交番させると、好ましくない交流の影響を招く虞がある。
【0035】
モータトルクが入力電流に対して線形(1次)であり、かつモータ位置に依存しない場合、モータの制御はさらに容易になる。
【0036】
本開示は、ダイレクトドライブ方式のモータで駆動される人型ロボットのジョイントやホイールのスムーズな動作を実現するための、コギング補償電流のフィードフォワードに関する。コギング補償のフィードフォワードは、既知のロータ位置に基づいて補償電流の量を読み取ることが可能なルックアップテーブルの形態とすることができる。
【0037】
フィードフォワードモデルは、まず、剛性速度コントローラ(stiff velocity controller)及び絶対値エンコーダによってモータを回転させることで生成することができる。モータは、同じ速度で両方向のモータの向きの全範囲を移動するように制御されている。次に、両方向の測定電流を平均化することができる。平均化された電流に基づいて、ルックアップテーブルが構築され、コギングトルクを補償するためのフィードフォワード電流項として使用され得る。
【0038】
位置及び/又は速度コントローラを使用して、モータを低速の一定速度で動作させることができる。これは、PDコントローラを使用して、検知された速度にできるだけノイズを与えないようにゲインが調整されると同時に、モータの静止摩擦及びコギングトルクが確実に克服されることで実現される。
【0039】
図1Aは、時間760秒から時間860秒までとして示される期間のロータ位置の基準軌道(reference trajectory)を示す。期間の第1の部分(時間760秒から時間805秒まで)の間、基準位置軌道は、第1の方向におけるロータの位置の所望の変化を示す時間依存性を有している。期間の第2の部分(時間810秒から時間855秒まで)の間、基準位置軌道は、第2の方向におけるロータの回転位置の所望の変化を示す時間依存性を有している。
【0040】
図1Bは、コントローラによって達成されるロータの対応速度を示す。図から分かるように、コントローラは基準軌道を追跡するために、常に電流を調整している。三角形の基準軌道は、好ましくは、入力として一定速度を用いて所望のモータ位置に対して使用される。好ましい軌道は、0.3 ラジアン/秒の所望の速度で-7ラジアンから7ラジアンまでに及ぶことができる。粘性減衰を低減するために、所望の速度を低く保つことができる。
【0041】
軌道が方向転換した後で、対象領域内を移動する前に、速度及び電流のループが安定するようにするために、7ラジアン(1回転より少し多い)の移動が重要になる場合がある。速度信号が滑らかである限り、制御ゲインは実用的でないほど高くなる可能性がある。
【0042】
図2は、フル回転の測定対象領域(0~2pi rad.)にわたる、モータの方向について第1の方向及び第2の方向の電流の測定結果を示す。コギングトルクは、ロータの永久磁石とステータスロットとの相互作用に関係する。図から分かるように、コギングトルクには位置依存性があり、周期性が見られる。両方向の電流測定の周期性は同位相であるが、第1の方向の平均電流(絶対値)に対してプラスに作用するコギングトルクは、第2の方向ではマイナスに作用し、その逆も同様である。コギングトルクの周期性は、磁極の数と、ステータ(ステータスロット)の歯数とに依存する場合がある。
【0043】
モータは、外部負荷が低い状態又は無い状態で動作することが好ましい。図2の信号の直流値は、第1の方向及び第2の方向に回転するモータにおける動摩擦を表すことができる。
【0044】
図3図7は、コギングトルク2サイクル(3.5~3.95ラジアン)分の電流測定値を拡大して示している。図3は、モータを回転させながら測定した電流のフィルタリングを示す。第1の方向及び第2の方向の電流測定値は、ゼロ位相フィルタを使用してフィルタリングすることができる。図4は、フィルタリングされ、3次補間された(cubic interpolated)第1の方向及び第2の方向の電流測定値を示す。
【0045】
第1の方向及び第2の方向における2つのフィルタリングされた電流信号は、コギングトルク、粘性減衰、及びクーロン摩擦、並びに他の現実の不完全性を表すことができる。粘性減衰、クーロン摩擦、軸受け摩擦、及び他の既知もしくは未知の不完全性が、モータ方向に関して対称であると仮定すると、2つの信号を平均化することで、コギングトルクを克服するために必要な電流を保持することができる。図5は、複数のモータ位置の平均化された測定値を含む電流測定データを示す。
【0046】
平均化された測定電流信号は、サブサンプリングされ、フィルタリングされ、学習され、又はルックアップテーブルに直接エクスポートされ得る。モータ内の磁石及びステータスロットの数に応じて、平均測定データの好ましいサブサンプルは、ルックアップテーブルのために512ポイントとすることができる。図6は、平均化された電流測定データのサブサンプリングを示す。次いで、モータの電流の向きに基づいて、ルックアップテーブルから補償電流を読み取ることができる。ルックアップテーブルから補償電流を読み取る場合に、ポイント間で線形補間を実行することで、効果的な結果を得ることができる。図7は、ルックアップテーブルから読み出すことができる、サブサンプリングされた電流測定データ間の線形補間を示す。ルックアップテーブルにより、モータのオープンループトルク制御が可能になる。
【0047】
温度がコギングトルクに影響を及ぼす可能性があるので、ルックアップテーブルは、複数のモータ、磁石、及び/又はステータの温度に対して生成されてもよく、これにより、異なるモータ、磁石、及び/又はステータの温度でのコギング補償の精度をさらに向上させることができる。
【0048】
モータがある回転速度以上で回転すると、コントローラがコギングトルクを正しく補償できない場合がある。解決策としては、モータの回転速度が増加することにつれて、コギング補償を減少させるか、又はオフにすることが考えられる。コギングトルクは、主に低い回転速度で問題となる可能性がある。
【0049】
図8A及び図8Bは、ダイレクトドライブ環境において電動モータをスムーズに駆動するための方法ステップを示す。この方法ステップは、
a)モータを制御して第1の方向に第1の速度で回転させるステップ802であって、モータを第1の方向に回転させながら、複数のモータ位置について第1の電流値を測定し、第1の電流値が、複数のモータ位置の各々においてモータを第1の速度で回転させるために必要な電流を示す、ステップ802と、
b)モータを制御して第2の方向に第2の速度で回転させるステップ804であって、モータを第2の方向に回転させながら、ステップa)で決定されたのと同じ複数のモータ位置について第2の電流値を測定し、第2の電流値が、複数のモータ位置の各々においてモータを第2の速度で回転させるために必要な電流を示す、ステップ804と、
c)複数のモータ位置の各モータ位置について、第1及び第2の電流測定値の平均値を計算するステップ806であって、複数のモータ位置についての平均化された電流測定値を生成する、ステップ806と、
d)複数のモータ位置と対応する平均化された電流測定値との間のマップを記憶するステップ808と、を含む。
【0050】
この方法ステップは、
e)所望の駆動電流を受け取るステップ810と、
f)現時点におけるモータ位置を示す信号を受信するステップ812と、
g)マップを使用して現時点におけるモータ位置のデルタ電流を決定するステップ814と、
h)デルタ電流を所望の駆動電流に加えて補償された駆動電流を生成するステップ816と、
i)補償された駆動電流を使用してモータを駆動するステップ818と、
をさらに含むことができる。
【0051】
以上の方法により、モータを駆動するための入力電流(所望のモータトルクに対応する)と、現時点でのモータの既知のロータ位置とを取得することを可能にし、各ポイントでのコギングトルクを瞬時に調整して、ロボットの手足及び/又はホイールの滑らかな動きを生成することを可能にする。トルクと入力電流との比率は、実質的にロータ位置に依存しない。
【0052】
各モータには若干の違いがあるために、本明細書で説明するコギング補償テーブルは、製造時に各モータについて生成され得る。また、コギング補償は、モータの経年劣化に対処するために、又は、モータの特定の性能低下もしくは故障(即ち、手足又はホイールのぎくしゃくした動き)に対応して、特定の間隔で実行されてもよい。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
【手続補正書】
【提出日】2022-07-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイレクトドライブ環境における電動のモータの駆動信号をコギング補償する方法であって、
較正ステップとして、
a)前記モータを制御して第1の方向に第1の速度で回転させるステップであって、前記モータを前記第1の方向に回転させながら、複数のモータ位置について第1の電流値を測定し、前記第1の電流値が、前記複数のモータ位置の各々において前記モータを前記第1の速度で回転させるために必要な電流を示す、ステップと、
b)前記モータを制御して第2の方向に第2の速度で回転させるステップであって、前記モータを前記第2の方向に回転させながら、ステップa)で決定されたのと同じ複数のモータ位置について第2の電流値を測定し、前記第2の電流値が、前記複数のモータ位置の各々において前記モータを前記第2の速度で回転させるために必要な電流を示す、ステップと、
c)前記複数のモータ位置の各モータ位置について、前記第1の電流値及び前記第2の電流値の平均値を計算して、前記複数のモータ位置についての平均化された電流測定値を生成するステップと、
d)前記複数のモータ位置と対応する平均化された電流測定値との間のマップを記憶するステップと、を含み、
モータ駆動ステップとして、
e)所望の駆動電流を受け取るステップと、
f)現時点におけるモータ位置を示す信号を受信するステップと、
g)前記マップを使用して前記現時点における前記モータ位置のデルタ電流を決定するステップと、
h)前記デルタ電流を前記所望の駆動電流に加えて、補償された駆動電流を生成するステップと、
i)前記補償された駆動電流を使用して前記モータを駆動するステップと、
をさらに含む方法。
【請求項2】
前記第1の速度は、前記第2の速度と同一であり、かつ実質的に一定であり、
ステップa)において、前記モータは、少なくとも1回転するように回転させられ、
ステップb)において、前記モータは、少なくとも1回転するように回転させられ、
前記モータは、前記モータの位置を導出するための少なくとも1つの位置センサを備えている、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ダイレクトドライブ環境は、滑らかな回転速度を維持しながら、1:8未満、1:4未満、1:2未満、又は好ましくは1:1のギア比で、ロボットジョイント及び/又はロボットホイールを駆動するために、前記電動のモータを使用することを含む、
請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップa)及び/又はステップb)において、十分に調整された位置/速度コントローラ、好ましくはPDコントローラを使用して、三角形の基準軌道に沿って実質的に一定の速度でモータを回転させる、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の方向及び前記第2の方向における前記モータの回転速度は、好ましくはモータの運動量及びコギング力に基づいており、及び/又は好ましくは0.5ラジアン/秒より低い、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記駆動電流は、前記モータのトルクに変換される、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、前記モータにおけるコギングトルクを補償するために使用される、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ステップa)及び/又はステップb)は、好ましくは前記モータの複数の全回転に対して、好ましくは各方向に7ラジアンに対して実行される、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ステップc)において平均化された電流測定値を生成することは、前記平均化された電流測定値をサブサンプリング及び/又はフィルタリングすることを含む、請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ステップc)において平均化された電流測定値を生成することは、平均化された電流測定値を、256~8192サンプルポイントまで、好ましくは512サンプルポイントまで、サブサンプリングすることを含む、請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ステップd)においてマップを記憶することは、好ましくはルックアップテーブルを学習及び/又は作成すること含み、
ステップg)において前記マップを使用して現時点における前記モータ位置のデルタ電流を決定することは、前記ルックアップテーブル内の少なくとも1つの値を参照することを含む、
請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ステップg)において前記マップを使用して現時点における前記モータ位置のデルタ電流を決定することは、前記ルックアップテーブル内の2つ以上の値の間の補間、好ましくはスプライン補間、多項式補間、又は線形補間を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップa)の第1の電流値及びステップb)の第2の電流値は、ステップc)において平均値を計算する前に、好ましくはゼロ位相フィルタを用いてフィルタリングされる、請求項1から請求項12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の電流値の数及び各回転に対する前記第1の電流値の数は、32768より大きく、好ましくは524288より大きい、請求項1から請求項13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記電動のモータは、同期モータ、好ましくはブラシレスモータである、請求項1から請求項14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
コンピュータによって実行されると、コンピュータに、請求項1から請求項15までのいずれか1項に記載の方法のステップを実行させる命令を含む、コンピュータ可読媒体。
【国際調査報告】