(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-10
(54)【発明の名称】PBP結合二環式ペプチドリガンド
(51)【国際特許分類】
C07K 7/00 20060101AFI20221102BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20221102BHJP
A61K 38/12 20060101ALI20221102BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20221102BHJP
【FI】
C07K7/00
A61P31/04
A61K38/12
A61K47/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513188
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(85)【翻訳文提出日】2022-04-19
(86)【国際出願番号】 GB2020052058
(87)【国際公開番号】W WO2021038232
(87)【国際公開日】2021-03-04
(32)【優先日】2019-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519226757
【氏名又は名称】バイスクルテクス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】カテリーヌ ヴァン リーツチョーテン
(72)【発明者】
【氏名】ポール ベスウィック
(72)【発明者】
【氏名】マイク ドーソン
(72)【発明者】
【氏名】マシュー バームフォース
(72)【発明者】
【氏名】マイケル スカイナー
(72)【発明者】
【氏名】リューホン チェン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076CC32
4C076CC41
4C076DD33
4C076DD51
4C076EE59
4C076FF70
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA17
4C084BA18
4C084BA24
4C084CA59
4C084NA14
4C084ZB35
4H045AA10
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA32
4H045EA29
(57)【要約】
本発明は、2以上のペプチドループがスキャフォールドへの取付点間で互いに相対するように、分子スキャフォールドへ共有結合しているポリペプチドに関する。特に、本発明は、ペニシリン結合タンパク質(PBP)の高親和性バインダーであるペプチドを記述する。本発明は又、該ペプチドリガンドを含む医薬組成物、及び細菌感染によって媒介される疾患若しくは障害の抑制又は治療における該ペプチドリガンドの使用のための該医薬組成物、又は感染のリスクに曝されている対象へ予防を提供するための該医薬組成物も含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのループ配列によって隔てられた少なくとも3つのシステイン残基を含むポリペプチド、及び、分子スキャフォールドであって、少なくとも2つのポリペプチドループが該分子スキャフォールド上に形成されるように該ポリペプチドのシステイン残基と共有結合を形成する前記分子スキャフォールド、を含む、1以上のペニシリン結合タンパク質(PBP)へ結合可能なペプチドリガンド。
【請求項2】
前記ループ配列は2、3、4、5、6、7、8又は9つのアミノ酸を含む、請求項1に記載のペプチドリガンド。
【請求項3】
前記PBPは、1以上の病原菌種内に存在するPBPである、請求項1又は2に記載のペプチドリガンド。
【請求項4】
前記1以上の病原菌種は、アシネトバクター・バウマニ、炭疽菌、百日咳菌、ライム病菌、ウシ流産菌、イヌ流産菌、ヤギ流産菌、ブタ流産菌、カンピロバクター・ジェジュニ菌、クラミジア肺炎、クラミジア・トリコマチス、オウム病クラミジア、ボツリヌス菌、クロストリジウム・ディフィシル、ウェルシュ菌、破傷風菌、ジフテリア菌、エキノコックス、エンテロコッカス・フェカーリス、エンテロコッカス・フェシウム、大腸菌(毒素原性大腸菌、腸管病原性大腸菌、腸管出血性大腸菌若しくは腸管凝集性大腸菌等)、野兎病菌、インフルエンザ菌、ヘリコバクターピロリ菌、肺炎桿菌、レジオネラ・ニューモフィラ、レプトスピラ・インテロガンス、リステリア・モノサイトゲネス、らい菌、結核菌、マイコバクテリウム・ウルセランス、マイコプラズマ肺炎、淋菌、髄膜炎菌、肺炎球菌、緑膿菌、ロッキー山紅斑熱、サルモネラ・ボンゴリ、サルモネラ・エンテリカ、サルモネラ・サブテラニアン等のサルモネラ菌、チフス菌若しくはネズミチフス菌、赤痢菌(ソンネイ赤痢菌若しくは志賀赤痢菌等)、黄色ブドウ球菌(MRSA等)、表皮ブドウ球菌、腐性ブドウ球菌、アガラクチア菌、肺炎レンサ球菌、化膿性レンサ球菌、梅毒トレポネーマ、コレラ菌又はペスト菌のいずれかから選択される、請求項3に記載のペプチドリガンド。
【請求項5】
前記PBPは肺炎レンサ球菌内、例えば、1a、1b、2a、2x及び2b型、特に1a型肺炎レンサ球菌内に存在するPBPである、請求項4に記載のペプチドリガンド。
【請求項6】
前記PBPは大腸菌内、例えば、1a、1b、1c、2、3、4、5、6、7/8、DacD、AmpC及びAmpH型、特に1b型及び3型大腸菌内に存在するPBPである、請求項4に記載のペプチドリガンド。
【請求項7】
前記PBPは肺炎レンサ球菌PBP1aであり、前記ペプチドリガンドは:
【化1】
(式中、C
i、C
ii、及びC
iiiはそれぞれ、第一、第二、及び第三のシステイン残基を表す)から選択されるアミノ酸配列又はその医薬として許容し得る塩、例えば:
A-(配列番号:1)-A (BCY9377);
A-(配列番号:2)-A (BCY9378);
A-(配列番号:3)-A (BCY9381);
A-(配列番号:4)-A (BCY9382);
A-(配列番号:5)-A (BCY9383);
A-(配列番号:6)-A (BCY9384);
A-(配列番号:7)-A (BCY9385);
A-(配列番号:8)-A (BCY9386);
A-(配列番号:9)-A (BCY9387);
A-(配列番号:10)-A (BCY9388);
A-(配列番号:11)-A (BCY9389);
A-(配列番号:12)-A (BCY9391);
A-(配列番号:21)-A (BCY10028);
A-(配列番号:22)-A (BCY10027);
A-(配列番号:23)-A (BCY10026);
A-(配列番号:24)-A (BCY10025);
A-(配列番号:25)-A (BCY10024);
A-(配列番号:26)-A (BCY10022);及び
A-(配列番号:27)-A (BCY10020)、
又はその医薬として許容し得る塩、を含む、請求項5に記載のペプチドリガンド。
【請求項8】
前記PBPは大腸菌PBP1bであり、前記ペプチドリガンドは:
【化2】
(式中、C
i、C
ii、及びC
iiiはそれぞれ、第一、第二、及び第三のシステイン残基を表す)から選択されるアミノ酸配列又はその医薬として許容し得る塩、例えば:
A-(配列番号:13)-A (BCY9226);
A-(配列番号:14)-A (BCY9227);
A-(配列番号:15)-A (BCY9229);
A-(配列番号:16)-A (BCY9233);
A-(配列番号:17)-A (BCY9237);
A-(配列番号:18)-A (BCY9238);
A-(配列番号:28)-A (BCY14613);
A-(配列番号:29)-A (BCY13797);
A-(配列番号:30)-A (BCY14618);
A-(配列番号:31)-A (BCY14621);
A-(配列番号:32)-A (BCY14619);
A-(配列番号:33)-A (BCY14627);
A-(配列番号:34)-A (BCY14629);
A-(配列番号:35)-A (BCY14631);
A-(配列番号:36)-A (BCY14641);及び
A-(配列番号:37)-A (BCY14381)、
又はその医薬として許容し得る塩、を含む、請求項6に記載のペプチドリガンド。
【請求項9】
前記PBPは大腸菌PBP3であり、前記ペプチドリガンドは:
【化3】
(式中、C
i、C
ii、及びC
iiiはそれぞれ、第一、第二、及び第三のシステイン残基を表すか、若しくは不存在である)から選択されるアミノ酸配列又はその医薬として許容し得る塩、例えば:
A-(配列番号:19)-A (ここで、BCY12130と称する);及び
A-(配列番号:20)-A (ここで、BCY12132と称する)、
を含む、請求項6に記載のペプチドリガンド。
【請求項10】
前記分子スキャフォールドは1,1',1"-(1,3,5-トリアジナン-1,3,5-トリイル)トリプロパ-2-エン-1-オン(TATA)である、請求項1~9のいずれか1項に記載のペプチドリガンド。
【請求項11】
前記医薬として許容し得る塩が、遊離酸、又はナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びアンモニウム塩から選択される、請求項1~10のいずれか1項に記載のペプチドリガンド。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のペプチドリガンドを、1以上の医薬として許容し得る賦形剤と組み合せて含む、医薬組成物。
【請求項13】
1以上の治療剤を更に含む、請求項12記載の医薬組成物。
【請求項14】
細菌感染によって媒介される疾患若しくは障害の抑制又は治療において使用するための、又は感染のリスクに曝されている対象へ予防を提供するための、請求項1~11のいずれか1項に記載のペプチドリガンド、又は請求項12若しくは13に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、2以上のペプチドループがスキャフォールドへの取付点間で互いに相対するように、分子スキャフォールドへ共有結合しているポリペプチドに関する。特に、本発明は、ペニシリン結合タンパク質(PBP)の高親和性バインダーであるペプチドを記述する。本発明は又、該ペプチドリガンドを含む医薬組成物、及び細菌感染によって媒介される疾患若しくは障害の抑制又は治療における該ペプチドリガンドの使用、又は感染のリスクに曝されている対象へ予防を提供するための該医薬組成物も含む。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
環状ペプチドは、高い親和性及び標的特異性でタンパク質標的に結合することができ、それゆえ、治療剤開発のための魅力的な分子種である。実際、幾つかの環状ペプチドは、例えば、抗菌性ペプチドのバンコマイシン、免疫抑制薬のシクロスポリン、又は抗癌薬のオクトレオチドのように、診療所で成功裡に使用されている(Driggersらの文献(2008), Nat Rev Drug Discov 7(7), 608-24)。優れた結合特性は、ペプチドと標的との間で形成される比較的大きな相互作用面だけでなく、環状構造の立体構造的可撓性の低下にも起因する。通常、大環状分子は、例えば、環状ペプチドCXCR4アンタゴニストCVX15(400Å2;Wuらの文献(2007), Science 330, 1066-71)、インテグリンαVb3に結合するArg-Gly-Aspモチーフを有する環状ペプチド(355Å2)(Xiongらの文献(2002), Science 296(5565), 151-5)、又はウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子へ結合する環状ペプチド阻害剤ウパイン(upain)-1(603Å2;Zhaoらの文献(2007), J Struct Biol 160(1), 1-10)のように、数百平方オングストロームの表面へ結合する。
【0003】
その環状立体配置のために、ペプチド大環状分子は、直鎖状ペプチドよりも可撓性が低く、標的に結合するときのエントロピー損失がより小さいため、より高い結合親和性を有する。可撓性の低下は又、標的特異的立体構造の固定をもたらし、直鎖状ペプチドと比較して結合特異性が増加する。この効果は、マトリックスメタロプロテイナーゼ8(MMP-8)の強力かつ選択的な阻害剤によって例証されており、その環が開環するとその選択性は他のMMPに関して失われる(Cherneyらの文献(1998), J Med Chem 41(11), 1749-51)。大環状化によって達成される有利な結合特性は、例えば、バンコマイシン、ナイシン、及びアクチノマイシン等の、複数ペプチド環を有する多環状ペプチドにおいて更により顕著である。
【0004】
様々な研究チームが既に、システイン残基を有するポリペプチドを合成分子構造に結合している(Kemp及びMcNamaraの文献(1985), J. Org. Chem;Timmermanらの文献(2005), ChemBioChem)。Meloen及び共同研究者らは、トリス(ブロモメチル)ベンゼン及び関連分子を、タンパク質表面の構造的模倣物のための合成スキャフォールド上で複数のペプチドループの迅速かつ定量的な環化のために使用した(Timmermanらの文献(2005), ChemBioChem)。候補薬物化合物の作製方法であって、システイン含有ポリペプチドを、例えばトリス(ブロモメチル)ベンゼン等の分子スキャフォールドへ結合させることにより、該化合物を作製する方法は、WO 2004/077062号及びWO 2006/078161号に開示されている。
【0005】
標的対象へのファージディスプレイ法に基づくコンビナトリアルアプローチが、二環式ペプチドの大型ライブラリーを作製並びにスクリーニングするために開発された(Heinisらの文献(2009), Nat Chem Biol 5(7), 502-7及びWO 2009/098450号)。簡潔に述べると、3つのシステイン残基及び、2つのランダムな6アミノ酸領域を含む直鎖状ペプチド(Cys-(Xaa)6-Cys-(Xaa)6-Cys)のコンビナトリアルライブラリをファージ上に提示させ、システイン側鎖を低分子スキャフォールドへ共有結合させることにより環化させた。
【発明の概要】
【0006】
(発明の概要)
本発明の第一の態様によれば、少なくとも2つのループ配列によって隔てられた少なくとも3つのシステイン残基を含むポリペプチド、及び、分子スキャフォールドであって、少なくとも2つのポリペプチドループが該分子スキャフォールド上に形成されるように該ポリペプチドのシステイン残基と共有結合を形成する前記分子スキャフォールド、を含む、1以上のペニシリン結合タンパク質(PBP)へ結合可能なペプチドリガンドが提供される。
【0007】
本発明の更なる態様によれば、本明細書で定義されるペプチドリガンドを1以上の医薬として許容し得る賦形剤と組み合せて含む、医薬組成物が提供される。
【0008】
本発明の更なる態様によれば、細菌感染によって媒介される疾患若しくは障害の抑制又は治療において使用するための、又は感染のリスクに曝されている対象へ予防を提供するための、本明細書で定義されるペプチドリガンドが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
(図面の簡単な説明)
【
図1】
図1:アシネトバクター・バウマニ(丸)、大腸菌(三角)、及び緑膿菌(四角)由来のPBP3へ結合しているBCY12130の蛍光偏光アッセイで得られた直接結合のデータ。
【
図2】
図2:(A) BCY12130のボシリン(Bocillin、BODIPY-ペニシリン)との競合を使用した、大腸菌PBP3の蛍光偏光アッセイで得られた競合結合データ。(B)(A)においてBCY12130(丸、Ki 0.24μM)及びカルベニシリン(四角、Ki 0.52μM)を使用した大腸菌PBP3の蛍光偏光アッセイで得られた競合結合データ。
【
図3】
図3:(A);提示濃度でのBCY12130の存在又は不存在下での大腸菌増殖の形態を示す顕微鏡画像。(B);ネズミチフス菌を用いた以外は(A)と同様。(C);エンテロバクター・クロアカを用いた以外は(B)と同様(全スケールバー=10μm)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(発明の詳細な説明)
一の実施態様では、前記ループ配列は2、3、4、5、6、7、8又は9つのアミノ酸を含む。
【0011】
更なる実施態様では、前記ループ配列は、その両方が4つのアミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つのシステイン残基を含む。そのようなループ配列の例は、本明細書に記載されたBCY12132中のものである。
【0012】
更なる実施態様では、前記ループ配列は、その一方が4つのアミノ酸からなり他方が5つのアミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた、3つのシステイン残基を含む。そのようなループ配列の例は、本明細書に記載されたBCY9377、BCY9378、BCY12130、BCY10020、BCY10022、BCY10024、BCY10025及びBCY10026中のものである。
【0013】
更なる実施態様では、前記ループ配列は、その一方が8つのアミノ酸からなり他方が2つのアミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つのシステイン残基を含む。そのようなループ配列の例は、本明細書に記載されたBCY9381、BCY9226及びBCY9229中のものである。
【0014】
更なる実施態様では、前記ループ配列は、その一方が8つのアミノ酸からなり他方が3つのアミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つのシステイン残基を含む。そのようなループ配列の例は、本明細書に記載されたBCY9382、BCY9383、BCY9389、BCY9391、BCY10027及びBCY10028中のものである。
【0015】
更なる実施態様では、前記ループ配列は、その一方が5つのアミノ酸からなり他方が7つのアミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つのシステイン残基を含む。そのようなループ配列の例は、本明細書に記載されたBCY9384及びBCY9385中のものである。
【0016】
更なる実施態様では、前記ループ配列は、その一方が5つのアミノ酸からなり他方も5つのアミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つのシステイン残基を含む。そのようなループ配列の例は、本明細書に記載されたBCY9386、BCY13797、BCY14381、BCY14613、BCY14618、BCY14619、BCY14621、BCY14627、BCY14629、BCY14631及びBCY14641中のものである。
【0017】
更なる実施態様では、前記ループ配列は、その一方が3つのアミノ酸からなり他方が7つのアミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つのシステイン残基を含む。そのようなループ配列の例は、本明細書に記載されたBCY9387中のものである。
【0018】
更なる実施態様では、前記ループ配列は、その一方が2つのアミノ酸からなり他方が7つのアミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つのシステイン残基を含む。そのようなループ配列の例は、本明細書に記載されたBCY9388中のものである。
【0019】
更なる実施態様では、前記ループ配列は、その一方が4つのアミノ酸からなり他方が8つのアミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つのシステイン残基を含む。そのようなループ配列の例は、本明細書に記載されたBCY9227及びBCY9233中のものである。
【0020】
更なる実施態様では、前記ループ配列は、その一方が3つのアミノ酸からなり他方が9つのアミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つのシステイン残基を含む。そのようなループ配列の例は、本明細書に記載されたBCY9237中のものである。
【0021】
更なる実施態様では、前記ループ配列は、その一方が6つのアミノ酸からなり他方も6つのアミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つのシステイン残基を含む。そのようなループ配列の例は、本明細書に記載されたBCY9238中のものである。
【0022】
本明細書におけるPBPの言及は、いずれかの細菌種中に存在する可能性のある「ペニシリン結合タンパク質」を含む。一の実施態様では、PBPは1又はそれ以上の病原菌種内に存在するPBPである。更なる実施態様では、この1以上の病原菌種は、アシネトバクター・バウマニ、炭疽菌、百日咳菌、ライム病菌、ウシ流産菌、イヌ流産菌、ヤギ流産菌、ブタ流産菌、カンピロバクター・ジェジュニ菌、クラミジア肺炎、クラミジア・トリコマチス、オウム病クラミジア、ボツリヌス菌、クロストリジウム・ディフィシル、ウェルシュ菌、破傷風菌(Clostrium tetani)、ジフテリア菌、エキノコックス、エンテロコッカス・フェカーリス、エンテロコッカス・フェシウム、大腸菌(毒素原性大腸菌、腸管病原性大腸菌、腸管出血性(Enterohemorragic)大腸菌若しくは腸管凝集性大腸菌等)、野兎病菌、インフルエンザ菌、ヘリコバクターピロリ菌、肺炎桿菌、レジオネラ・ニューモフィラ、レプトスピラ・インテロガンス、リステリア・モノサイトゲネス、らい菌、結核菌、マイコバクテリウム・ウルセランス、マイコプラズマ肺炎、淋菌、髄膜炎菌、肺炎球菌(Pneumococcus)、緑膿菌、ロッキー山紅斑熱、サルモネラ・ボンゴリ、サルモネラ・エンテリカ、サルモネラ・サブテラニアン(subterranean)等のサルモネラ菌、チフス菌若しくはネズミチフス菌、赤痢菌(ソンネイ赤痢菌若しくは志賀赤痢菌等)、黄色ブドウ球菌(MRSA等)、表皮ブドウ球菌、腐性ブドウ球菌、アガラクチア菌、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、化膿性レンサ球菌、梅毒トレポネーマ、コレラ菌又はペスト菌のいずれかから選択される。
【0023】
一の実施態様では、PBPは肺炎レンサ球菌内に存在するPBPである。更なる実施態様では、肺炎レンサ球菌内に存在するPBPは次の5つのPBP: 1a、1b、2a、2x及び2b型から選択される。より更なる実施態様では、肺炎レンサ球菌内に存在するPBPはPBP1aである。
【0024】
別の実施態様では、PBPは大腸菌内に存在するPBPである。更なる実施態様では、大腸菌内に存在するPBPは次の12個のPBP:1a、1b、1c、2、3、4、5、6、7/8、DacD、AmpC及びAmpH型から選択される。より更なる実施態様では、大腸菌内に存在するPBPはPBP1bである。別の実施態様では、大腸菌内に存在するPBPはPBP3である。
【0025】
更なる実施態様では、PBPは緑膿菌内に存在するPBPである。より更なる実施態様では、緑膿菌内に存在するPBPは次の7つのPBP:1a、1b、2、3、3a、4及び5型から選択される。更なる実施態様では、緑膿菌内に存在するPBPはPBP3である。
【0026】
更なる実施態様では、PBPはアシネトバクター・バウマニ内に存在するPBPである。より更なる実施態様では、アシネトバクター・バウマニ内に存在するPBPは次の9つのPBP:1a、1b、2、3、4、5、6、7及び8型から選択される。更なる実施態様では、アシネトバクター・バウマニ内に存在するPBPはPBP3である。
【0027】
一の実施態様では、PBPは、例えばFtsIのような、細胞分裂のために必要とされるものである。更なる実施態様では、FtsIは、大腸菌、アシネトバクター・バウマニ又は緑膿菌内に存在し、PBP3として知られている。従って、本発明の特定の実施態様では、PBP3はFtsIである。一の実施態様では、PBPは、PBP3及び/又はFtsl以外のものである。
【0028】
一の実施態様では、PBPは肺炎レンサ球菌PBP1aであり、ペプチドリガンドは:
【化1】
(式中、C
i、C
ii、及びC
iiiはそれぞれ、第一、第二、及び第三のシステイン残基を表す)から選択されるアミノ酸配列又はその医薬として許容し得る塩を含む。
【0029】
更なる実施態様では、PBPは肺炎レンサ球菌PBP1aであり、ペプチドリガンドは:
A-(配列番号:1)-A (BCY9377);
A-(配列番号:2)-A (BCY9378);
A-(配列番号:3)-A (BCY9381);
A-(配列番号:4)-A (BCY9382);
A-(配列番号:5)-A (BCY9383);
A-(配列番号:6)-A (BCY9384);
A-(配列番号:7)-A (BCY9385);
A-(配列番号:8)-A (BCY9386);
A-(配列番号:9)-A (BCY9387);
A-(配列番号:10)-A (BCY9388);
A-(配列番号:11)-A (BCY9389);
A-(配列番号:12)-A (BCY9391);
A-(配列番号:21)-A (BCY10028);
A-(配列番号:22)-A (BCY10027);
A-(配列番号:23)-A (BCY10026);
A-(配列番号:24)-A (BCY10025);
A-(配列番号:25)-A (BCY10024);
A-(配列番号:26)-A (BCY10022);及び
A-(配列番号:27)-A (BCY10020)
から選択されるアミノ酸配列又はその医薬として許容し得る塩を含む。
【0030】
一の実施態様では、PBPは大腸菌PBP1bであり、ペプチドリガンドは:
【化2】
(式中、C
i、C
ii、及びC
iiiはそれぞれ、第一、第二、及び第三のシステイン残基を表す)から選択されるアミノ酸配列又はその医薬として許容し得る塩を含む。
【0031】
更なる実施態様では、PBPは大腸菌PBP1bであり、ペプチドリガンドは:
A-(配列番号:13)-A (BCY9226);
A-(配列番号:14)-A (BCY9227);
A-(配列番号:15)-A (BCY9229);
A-(配列番号:16)-A (BCY9233);
A-(配列番号:17)-A (BCY9237);
A-(配列番号:18)-A (BCY9238);
A-(配列番号:28)-A (BCY14613);
A-(配列番号:29)-A (BCY13797);
A-(配列番号:30)-A (BCY14618);
A-(配列番号:31)-A (BCY14621);
A-(配列番号:32)-A (BCY14619);
A-(配列番号:33)-A (BCY14627);
A-(配列番号:34)-A (BCY14629);
A-(配列番号:35)-A (BCY14631);
A-(配列番号:36)-A (BCY14641);及び
A-(配列番号:37)-A (BCY14381)
から選択されるアミノ酸配列又はその医薬として許容し得る塩を含む。
【0032】
一の実施態様では、PBPは大腸菌PBP3であり、ペプチドリガンドは:
【化3】
(式中、C
i、C
ii、及びC
iiiは、第一、第二、及び第三のシステイン残基を表す)から選択されるアミノ酸配列又はその医薬として許容し得る塩を含む。
【0033】
更なる実施態様では、PBPは大腸菌PBP3であり、ペプチドリガンドは:
A-(配列番号:19)-A (本明細書中ではBCY12130と称する);及び
A-(配列番号:20)-A (本明細書中ではBCY12132と称する)、
から選択されるアミノ酸配列又はその医薬として許容し得る塩を含む。
【0034】
一の実施態様では、ペプチドリガンドは、BCY12130及びBCY12132以外のものである。
【0035】
別途定義されない限り、本明細書で使用される技術的及び科学的用語は全て、当該分野、例えば、ペプチド化学、細胞培養及びファージディスプレイ、核酸化学、並びに生化学分野の当業者によって一般に理解されているものと同じ意味を有する。標準的な技法が、分子生物学、遺伝学及び生化学の方法に使用される(引用により本明細書中に組み込まれる、Sambrookらの文献、「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」、第3版、2001, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY;Ausubelらの文献、「分子生物学のショートプロトコル(Short Protocols in Molecular Biology)」(1999) 第4版、John Wiley & Sons社を参照)。
【0036】
(命名法)
(付番)
本発明のペプチド内のアミノ酸残基位置に言及する場合、システイン残基(Ci、Cii、及びCiii)は不変であるので付番から省略する。それゆえ、本発明のペプチド内のアミノ酸残基の付番は、下記のように表す:
Ci-R1-F2-S3-S4-Cii-P5-P6-Y7-H8-V9-Ciii(配列番号:1)
。
【0037】
本記載の目的において、全ての二環式ペプチドは、1,1',1"-(1,3,5-トリアジナン-1,3,5-トリイル)トリプロパ-2-エン-1-オン(TATA)で環化され、三置換構造を生じていると考えられる。TATAによる環化は、Ci、Cii、及びCiii上で生じる。
【0038】
(分子フォーマット)
二環コア配列へのN末端-又はC末端の伸長は、配列の左側又は右側へ付加されて、ハイフンによって隔てられている。例えば、N末端βAla-Sar10-Alaテールは:
βAla-Sar10-A-(配列番号:X)
と表される。
【0039】
(逆向きペプチド配列)
Nairらの文献(2003) J Immunol 170(3), 1362-1373における開示を考慮すれば、本明細書に開示されるペプチド配列は、そのレトロ-インベルソ(retro-inverso)形態でも同様に有用性を示すことが想定される。例えば、配列が逆転すると(即ち、N末端がC末端になり、C末端がN末端になる)、その立体化学構造も同様に逆転する(即ち、D-アミノ酸がL-アミノ酸になり、L-アミノ酸がD-アミノ酸になる)。
【0040】
(ペプチドリガンド)
本明細書において言及されるペプチドリガンドは、分子スキャフォールドに共有結合されたペプチドを指す。典型的には、そのようなペプチドは、スキャフォールドと共有結合を形成することができる2以上の反応基(即ち、システイン残基)及び該反応基間で相対する配列とを含み、その配列は、ペプチドがスキャフォールドへ結合しているときループを形成するのでループ配列と呼ばれる。本発明では、このペプチドは、少なくとも3つのシステイン残基(本明細書において、Ci、Cii、及びCiiiと呼ばれる)を含み、そして少なくとも2つのループをスキャフォールド上に形成する。
【0041】
(ペプチドリガンドの利点)
本発明の特定の二環式ペプチドは、それを注射、吸入、経鼻、点眼、経口、又は局所投与のための好適な薬物様分子とみなすことができる幾つかの有利な特性を有する。そのような有利な特性としては、以下のものが挙げられる:
‐種交差反応性。ある種のリガンドは、異なる細菌種由来の複数のPBPに対する交差反応性を示すために、複数の細菌種によって引き起こされる感染を治療することができる。他のリガンドは、患者の有益な細菌叢に対する付随的損傷なしに感染を治療するために有利であり得る特定の細菌種のPBPに対して高度に特異的であり得る;
‐プロテアーゼ安定性。二環式ペプチドリガンドは、理想的には、血漿プロテアーゼ、上皮(「膜固定型」)プロテアーゼ、胃腸プロテアーゼ、肺上皮(lung surface)プロテアーゼ、細胞内プロテアーゼ等に対する安定性を示すはずである。プロテアーゼ安定性は、二環式リード候補が動物モデルで開発されるだけでなく確信してヒトに投与することもできるように、異なる種間で維持されるべきである;
‐望ましい溶解度プロファイル。これは、「荷電性及び親水性残基」対「疎水性残基」並びに分子内/分子間水素結合の割合の関数であり、製剤化及び吸収目的のために重要である;
‐循環系内での最適な血漿半減期。臨床的兆候及び治療レジメンに応じて、急性疾患管理設定での短期曝露用の二環式ペプチドを開発する要求があるであろうし、又、循環系内での保持性が増強された二環式ペプチドを開発してより慢性的疾患状態の管理に最適であるようにする要求もあり得る。望ましい血漿半減期を追求する他の要因は、最大治療有効性のための持続的曝露要求と、それとは反対に、薬剤の持続的曝露が随伴する毒性である;並びに、
‐選択性。本発明の特定のペプチドリガンドは、特別なPBPアイソフォームに対する選択性を示し、かつ本発明の別の特定のペプチドリガンドは、複数のPBPアイソフォームを阻害する可能性がある。
【0042】
(医薬として許容し得る塩)
塩形態は本発明の範囲内であり、ペプチドリガンドへの言及はそのリガンドの塩形態を含むことが理解されるであろう。
【0043】
本発明の塩は、従来の化学的方法、例えば、「医薬品塩:特性、選択、及び使用(Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use)」、P. Heinrich Stahl(編者)、Camille G. Wermuth(編者)、ISBN: 3-90639-026-8, Hardcover, 388頁、August 2002に記載されている方法によって、塩基性又は酸性成分を含む親化合物から合成することができる。通常、そのような塩は、これらの化合物の遊離酸又は遊離塩基形態を、適切な塩基又は酸と、水中若しくは有機溶媒中で、又はこれら2種の混合物中で反応させることにより調製できる。
【0044】
酸付加塩(モノ塩又はジ塩)は、無機及び有機両方の多種多様な酸で形成することができる。酸付加塩の例には、酢酸、2,2-ジクロロ酢酸、アジピン酸、アルギン酸、アスコルビン酸(例えば、L-アスコルビン酸)、L-アスパラギン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、4-アセトアミド安息香酸、ブタン酸、(+)カンファー酸、カンファースルホン酸、(+)-(1S)-カンファー-10-スルホン酸、カプリン酸、カプロン酸、カプリル酸、ケイ皮酸、クエン酸、シクラミン酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチジン酸、グルコヘプトン酸、D-グルコン酸、グルクロン酸(例えば、D-グルクロン酸等)、グルタミン酸(例えば、L-グルタミン酸等)、α-オキソグルタル酸、グリコール酸、馬尿酸、ハロゲン化水素酸(例えば、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸)、イセチオン酸、乳酸(例えば、(+)-L-乳酸、(±)-DL-乳酸)、ラクトビオン酸、マレイン酸、リンゴ酸、(-)-L-リンゴ酸、マロン酸、(±)-DL-マンデル酸、メタンスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ニコチン酸、硝酸、オレイン酸、オロト酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸、リン酸、プロピオン酸、ピルビン酸、L-ピログルタミン酸、サリチル酸、4-アミノサリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、硫酸、タンニン酸、(+)-L-酒石酸、チオシアン酸、p-トルエンスルホン酸、ウンデシレン酸、及び吉草酸、並びにアシル化アミノ酸及び陽イオン交換樹脂からなる群から選択される、酸で形成されるモノ塩又はジ塩が含まれる。
【0045】
塩の特別な一つの群は、酢酸、塩酸、ヨウ化水素酸、リン酸、硝酸、硫酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、マレイン酸、リンゴ酸、イセチオン酸、フマル酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、硫酸、メタンスルホン酸(メシル酸)、エタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、吉草酸、プロパン酸、ブタン酸、マロン酸、グルクロン酸、及びラクトビオン酸から形成される塩からなる。特別な塩の一つは塩酸塩である。別の特別な塩は、酢酸塩である。
【0046】
化合物がアニオン性であるか、又はアニオン性であり得る機能性基を有する(例えば、-COOHは-COO-でもよい)場合、塩を有機塩基又は無機塩基で形成させ、好適な陽イオンを生成させることができる。好適な無機カチオンの例には、Li+、Na+、及びK+等のアルカリ金属イオン、Ca2+及びMg2+等のアルカリ土類金属カチオン、並びにAl3+又はZn+等の他のカチオンが含まれるが、これらに限定されるものではない。適切な有機カチオンの例には、アンモニウムイオン(即ち、NH4
+)及び置換されたアンモニウムイオン(例えば、NH3R+、NH2R2
+、NHR3
+、NR4
+)が含まれるが、これらに限定されるものではない。幾つかの好適な置換されたアンモニウムイオンの例には、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン、ベンジルアミン、フェニルベンジルアミン、コリン、メグルミン、及びトロメタミン、並びにリシン及びアルギニン等のアミノ酸:に由来するものが含まれる。一般的な第四級アンモニウムイオンの例は、N(CH3)4
+である。
【0047】
本発明のペプチドがアミン基を含む場合、そのアミン基は、例えば当業者に周知の方法に従ったアルキル化剤との反応によって、第四級アンモニウム塩を形成してもよい。そのような第四級アンモニウム化合物は、本発明のペプチドの範囲内である。
【0048】
(修飾誘導体)
本明細書で定義されるペプチドリガンドの修飾誘導体は、本発明の範囲内であることが理解されるであろう。そのような好適な修飾誘導体の例には、N末端及び/又はC末端修飾;1以上のアミノ酸残基の、1以上の非天然型アミノ酸残基による置換(例えば、1以上の極性アミノ酸残基の、1以上の立体的に等価のアミノ酸若しくは等電子性アミノ酸による置換;1以上の非極性アミノ酸残基の、他の非天然型立体に等価のアミノ酸若しくは等電子性アミノ酸による置換);スペーサー基の付加;1以上の酸化感受性アミノ酸残基の、1以上の酸化抵抗性アミノ酸残基による置換;1以上のアミノ酸残基の、アラニンによる置換、1以上のL-アミノ酸残基の、1以上のD-アミノ酸残基による置換;二環式ペプチドリガンド内の1以上のアミド結合のN-アルキル化;1以上のペプチド結合の代替的結合による置換;ペプチド骨格長の改変;1以上のアミノ酸残基のα-炭素上の水素の、別の化学基による置換、システイン、リシン、グルタメート/アスパルテート及びチロシン等のアミノ酸の、これらアミノ酸を官能化するのに好適なアミン、チオール、カルボン酸及びフェノール反応性試薬による修飾、並びに、官能化に好適なオルソゴナル反応性を導入するアミノ酸、例えば、アルキン若しくはアジド含有成分による官能化をそれぞれ受けることが可能なアジド基若しくはアルキン基を有するアミノ酸の導入又は置換:から選択される1以上の修飾が含まれる。
【0049】
一の実施態様では、修飾誘導体は、N末端及び/又はC末端の修飾を含む。更なる実施態様では、修飾誘導体は、好適なアミノ反応化学を用いるN末端修飾、及び/又は好適なカルボキシ反応化学を用いるC末端修飾を含む。更なる実施態様では、前記N末端又はC末端修飾は、限定されるものではないが、細胞毒性剤、放射性キレート剤(radiochelator)、又は発色団を含む、エフェクター基の付加を含む。
【0050】
更なる実施態様では、修飾誘導体は、N末端修飾を含む。更なる実施態様では、N末端修飾は、N末端アセチル基を含む。この実施態様では、N末端システイン基(本明細書においてCiと呼ばれる基)は、ペプチド合成中に無水酢酸又は他の適切な試薬で封止され、N末端がアセチル化された分子となる。この実施態様は、アミノペプチダーゼの潜在的な認識点を除去するという利点を提供し、二環式ペプチドの分解の可能性を回避する。
【0051】
別の実施態様では、N末端修飾は、エフェクター基のコンジュゲーションを容易にし、かつ二環式ペプチドのその標的に対する効能の保持を促進する分子スペーサー基の付加を含む。
【0052】
更なる実施態様では、修飾誘導体は、C末端修飾を含む。更なる実施態様では、C末端修飾は、アミド基を含む。この実施態様では、C末端システイン基(本明細書において、Ciiiと呼ばれる基)は、ペプチド合成中にアミドとして合成され、C末端がアミド化された分子となる。この実施態様は、カルボキシペプチダーゼの潜在的な認識点を除去するという利点を提供し、二環式ペプチドのタンパク質分解の可能性を低下させる。
【0053】
一の実施態様では、修飾誘導体は、1以上のアミノ酸残基の、1以上の非天然型アミノ酸残基による置換を含む。この実施態様では、分解性プロテアーゼによって認識されることも目的とする効能に何らかの悪影響を与えることもない、立体的に等価の/等電子性側鎖を有する非天然型アミノ酸を選択することができる。
【0054】
或いは、近傍のペプチド結合のタンパク質分解性加水分解が立体構造的にかつ立体的に妨害されるような、拘束されたアミノ酸側鎖を有する非天然型アミノ酸を使用してもよい。これらは特に、プロリン類似体、嵩高い側鎖、Cα-二置換誘導体(例えば、アミノイソ酪酸、Aib)、及びシクロアミノ酸に関し、単純な誘導体はアミノ-シクロプロピルカルボン酸である。
【0055】
一の実施態様では、修飾誘導体は、スペーサー基の付加を含む。更なる実施態様では、修飾誘導体は、N末端システイン(Ci)及び/又はC末端システイン(Ciii)へのスペーサー基の付加を含む。
【0056】
一の実施態様では、修飾誘導体は、1以上の酸化感受性アミノ酸残基の、1以上の酸化抵抗性アミノ酸残基による置換を含む。
【0057】
一の実施態様では、修飾誘導体は、1以上の荷電性アミノ酸残基の、1以上の疎水性アミノ酸残基による置換を含む。別の実施態様では、修飾誘導体は、1以上の疎水性アミノ酸残基の、1以上の荷電性アミノ酸残基による置換を含む。「荷電性アミノ酸残基」対「疎水性アミノ酸残基」の正しいバランスは、二環式ペプチドリガンドの重要な特性である。例えば、疎水性アミノ酸残基は、血漿タンパク質結合の程度、従って、血漿中の利用可能な遊離画分の濃度に影響を及ぼし、一方、荷電性アミノ酸残基(特に、アルギニン)は、ペプチドと細胞表面のリン脂質膜との相互作用に影響を及ぼす可能性がある。この2つの組み合せは、ペプチド薬の半減期、分布容積、及び曝露に影響を及ぼすであろうし、臨床的終点に合わせて調整することができる。更に、「荷電性アミノ酸残基」対「疎水性アミノ酸残基」の正しい組み合せ及び数は、注射部位(ペプチド薬が皮下投与された場合)での刺激を軽減するであろう。
【0058】
一の実施態様では、修飾誘導体は、1以上のL-アミノ酸残基の1以上のD-アミノ酸残基による置換を含む。この実施態様は、立体障害により及びβ-ターン立体構造を安定化させるD-アミノ酸の傾向により、タンパク質分解の安定性を高めると考えられる(Tugyiらの文献(2005) PNAS, 102(2), 413-418)。
【0059】
一の実施態様では、修飾誘導体は、任意のアミノ酸残基の除去、及び、アラニンによる置換を含む。この実施態様は、タンパク質分解の潜在的な攻撃部位を除去するという利点を有する。
【0060】
上述の修飾のそれぞれは、ペプチドの効能又は安定性を計画的に向上させる役割を果たすことに留意すべきである。修飾に基づく更なる効能向上は、下記メカニズムによって達成することができるであろう:
‐より高い親和性が達成されるように、疎水性効果を利用して解離速度を低下させる疎水性成分を組み込むこと;
‐長距離イオン相互作用を利用して会合速度を増大させ、より高い親和性をもたらす荷電性基を組み込むこと(例えば、Schreiberらの文献、「タンパク質の急速な静電的支援会合(Rapid, electrostatically assisted association of proteins)」(1996)、Nature Struct. Biol. 3, 427-31を参照);並びに
‐更なる拘束的限定をペプチドに組み込むこと、例えば、エントロピー損失が標的結合時にちょうど最小になるように、アミノ酸側鎖を拘束すること、エントロピー損失が標的結合時に最小になるように骨格のねじれ角度を限定すること、及び、同じ理由のために分子内に更なる環化を導入することによる(総説については、Gentilucciらの文献、Curr. Pharmaceutical Design, (2010), 16, 3185-203、及びNestorらの文献、Curr. Medicinal Chem (2009), 16, 4399-418を参照)。
【0061】
(同位体バリエーション)
本発明は、全ての医薬として許容し得る、
本発明の(放射性)同位体標識されたペプチドリガンドであって、1以上の原子が、同じ原子番号を有するが、天然で通常見られる原子質量又は質量数とは異なる原子質量又は質量数を有する原子によって置き換えられているもの、及び本発明のペプチドリガンドであって、関連する(放射性)同位体を保持することができる金属キレート基(「エフェクター」と呼ばれる)が取り付けられているもの、及び本発明のペプチドリガンドであって、特定の機能性基が関連する(放射性)同位体又は同位体標識された機能性基で共有的に置換されているもの、を含む。
【0062】
本発明のペプチドリガンドに含めるのに好適な同位体の例は、水素同位体、例えば2H(D)及び3H(T)、炭素同位体、例えば11C、13C及び14C、塩素同位体、例えば36Cl、フッ素同位体、例えば18F、ヨウ素同位体、例えば123I、125I及び131I、窒素同位体、例えば13N及び15N、酸素同位体、例えば15O、17O及び18O、リン同位体、例えば32P、硫黄同位体、例えば35S、銅同位体、例えば64Cu、ガリウム同位体、例えば67Ga又は68Ga、イットリウム同位体、例えば90Y、並びにルテチウム同位体、例えば177Lu、並びにビスマス同位体、例えば213Biを含む。
【0063】
ある種の同位体標識された本発明のペプチドリガンド、例えば、放射性同位体が組み込まれているものは、薬物及び/又は基質の組織分布研究において有用である。本発明のペプチドリガンドは、標識された化合物と他の分子、ペプチド、タンパク質、酵素又は受容体との間の複合体の形成を検出又は同定するために使用できる点で、価値ある診断特性を更に有することができる。この検出又は同定方法は、例えば、放射性同位体、酵素、蛍光物質、発光物質(例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、イクオリン及びルシフェラーゼ)等の標識剤で標識されている化合物を使用することができる。放射性同位体である、トリチウム、即ち3H(T)、及び炭素14、即ち14Cは、その組み込みの容易さ及び検出手段が用意されていることを考慮すると、本目的のために特に有用である。
【0064】
重水素、即ち2H(D)等の重い同位体による置換は、より大きな代謝安定性、例えばインビボ半減期の延長又は必要投薬量の低下の結果として生じる特定の治療的利点をもたらす可能性があり、それゆえ状況によっては好ましい場合がある。
【0065】
11C、18F、15O及び13N等の陽電子放出同位体での置換を、標的占有率を調べるための陽電子放出トポグラフィー(PET)試験において利用できる。
【0066】
本発明のペプチドリガンドの同位体標識された化合物は、通常、当業者に公知の従来技術によるか、又は既に利用されていた非標識試薬の代わりに適切な同位体標識された試薬を使用する添付の実施例に記載されているものと類似のプロセスによって調製することができる。
【0067】
(分子スキャフォールド)
一の実施態様では、分子スキャフォールドは非芳香族分子スキャフォールドを含む。「非芳香族分子スキャフォールド」という用語への本明細書における言及は、芳香族(即ち、不飽和)炭素環式又は複素環式環系を含有しない、本明細書で定義される任意の分子スキャフォールドを指す。
【0068】
非芳香族分子スキャフォールドの好適な例は、Heinisらの文献(2014) Angewandte Chemie, International Edition 53(6) 1602-1606に記載されている。
【0069】
前記文書に挙げられているように、分子スキャフォールドは、有機低分子等の低分子でもよい。
【0070】
一の実施態様では、分子スキャフォールドは、高分子でもよい。一の実施態様では、分子スキャフォールドは、アミノ酸、ヌクレオチド、又は炭水化物から構成される高分子である。
【0071】
一の実施態様では、分子スキャフォールドは、ポリペプチドの機能性基と反応して、共有結合を形成することができる反応基を含む。
【0072】
分子スキャフォールドは、ペプチドとの結合を形成する化学基、例えば、アミン、チオール、アルコール、ケトン、アルデヒド、ニトリル、カルボン酸、エステル、アルケン、アルキン、アジド、無水物、スクシンイミド、マレイミド、ハロゲン化アルキル及びハロゲン化アシルを含み得る。
【0073】
αβ不飽和カルボニル含有化合物の例は、1,1',1"-(1,3,5-トリアジナン-1,3,5-トリイル)トリプロパ-2-エン-1-オン(TATA)である(Angewandte Chemie, International Edition(2014), 53(6), 1602-1606)。
【0074】
(合成)
本発明のペプチドは、標準技術によって合成的に製造し、その後インビトロで分子スキャフォールドと反応させることができる。これを実施する場合、標準的な化学的手法を使用することができる。これにより、更なる下流での実験又は検証のための可溶性材料の迅速な大規模調製が可能になる。そのような方法は、Timmermanらの文献(上記)に開示されているような従来の化学的手法を用いて達成できる。
【0075】
従って、本発明は又、本明細書に記載されているように選択されるポリペプチドの製造に関するものであり、その製造は、下記に説明されるような任意の更なる工程を含む。一の実施態様では、これらの工程は、化学合成によって製造された最終生成物ポリペプチドに対して実施される。
【0076】
ペプチドは又、伸長させて、例えば別のループ等を組み込み、その結果、複数の特異性を導入することもできる。
【0077】
ペプチドを伸長させるには、それを、単純に、標準的な固相又は液相化学を用いて、オルソゴナル的に保護されたリシン(及び類似体)を用いて、そのN末端若しくはC末端で又はループ内で、化学的に伸長してもよい。標準的な(バイオ)コンジュゲーション技法を用いて、活性化された又は活性化可能なN末端又はC末端を導入してもよい。或いは、付加を、断片縮合によるか、若しくは例えば(Dawsonらの文献、1994、「ネイティブケミカルライゲーションによるタンパク質の合成(Synthesis of Proteins by Native Chemical Ligation)」Science 266:776-779)に記載されているネイティブケミカルライゲーションによるか、又は、例えば(Changらの文献、Proc Natl Acad Sci U S A. 1994 Dec 20;91(26):12544-8若しくはHikariらの文献、Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters、第18巻、第22号、2008年11月15日、6000~6003頁)に記載されているサブチリガーゼを用いて、酵素により行ってもよい。
【0078】
或いは、ペプチドを、ジスルフィド結合を介する更なるコンジュゲーションによって伸長又は修飾してもよい。これは、第一及び第二のペプチドが細胞の還元環境内で互いに一度解離することを可能にする追加的な利点を有する。この場合、分子スキャフォールド(例えば、TATA)を第一のペプチドの化学合成中に添加して、3つのシステイン基と反応させ;次に、第一のペプチドのN末端若しくはC末端に更なるシステイン又はチオールを付加して、その結果、このシステイン又はチオールが第二のペプチドの遊離のシステイン又はチオールとのみ反応し、ジスルフィド結合した二環式ペプチド-ペプチドコンジュゲートを形成することができる。
【0079】
類似の技術を、2つの二環式二重特異性大環状分子の合成/カップリングに同様に適用して、四重特異性分子を作製することが可能である。
【0080】
更に又、他の機能性基又はエフェクター基の付加を、適切な化学手法である、N末端若しくはC末端での又は側鎖を介したカップリングを用いて、同様に達成してもよい。一の実施態様では、カップリングは、いずれかの実体の活性を遮断しないような様式で実行する。
【0081】
(医薬組成物)
本発明の更なる態様によれば、本明細書で定義されるペプチドリガンドを1以上の医薬として許容し得る賦形剤と組み合せて含む、医薬組成物が提供される。
【0082】
通常、本ペプチドリガンドを、薬理学的に適切な賦形剤又は担体と一緒に精製された形態で使用してもよい。典型的には、これらの賦形剤又は担体は、生理食塩水及び/若しくは緩衝化媒体を含む、水溶液若しくはアルコール性/水溶液、エマルジョン又は懸濁液を含む。非経口ビヒクルには、塩化ナトリウム溶液、リンゲルブドウ糖液、ブドウ糖及び塩化ナトリウム液、並びに乳酸加リンゲル液が含まれる。生理学的に許容し得る好適なアジュバントは、ポリペプチド複合体を懸濁液中に保つために必要な場合、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチン及びアルギネート等の増粘剤から選択されてもよい。
【0083】
静脈内ビヒクルには、輸液(fluid)並びに栄養補液及び電解質補液、例えば、リンゲルブドウ糖液ベースのものが含まれる。防腐剤並びに他の添加物、例えば抗微生物薬、抗酸化剤、キレート剤及び不活性ガスも又、存在可能である(Mackの文献(1982)、「レミントンの医薬品化学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」、第16版)。
【0084】
本発明の化合物は、単独で又は別の薬剤(単数若しくは複数)と組み合わせて使用することができる。組み合わせて使用するための他の薬剤は、例えば、別の抗生物質、又は抗生物質「アジュバント」、例えばグラム陰性菌内への透過性向上剤、耐性決定因子の阻害剤、若しくは病毒性メカニズムの阻害剤等でもよい。
【0085】
本発明の化合物と組み合わせて使用するための好適な抗生物質には、下記のものが含まれるが、これらに限定されるものではない:
ペニシリン、セファロスポリン、カルバペネム又はモノバクタム等のβラクタム。好適なペニシリンには、オキサシリン、メチシリン、アンピシリン、クロキサシリン、カルベニシリン、ピペラシリン、トリカルシリン(tricarcillin)、フルクロキサシリン及びナフシリンが含まれ;好適なセファロスポリンには、セファゾリン、セファレキシン、セファロチン、セフタジジム、セフェピム、セフトビプロール、セフタロリン、セフトロザン及びセフィデロコルが含まれ;好適なカルバペネムには、メロペネム、ドリペネム、イミペネム、エルタペネム、ビアペネム及びテビペネムが含まれ;好適なモノバクタムには、アズトレオナムが含まれる;
クリンダマイシン及びリンコマイシン等のリンコサミド;
アジスロマイシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、テリスロマイシン及びソリスロマイシン等のマクロライド;
チゲサイクリン、オマダサイクリン、エラバサイクリン、ドキシサイクリン、及びミノサイクリン等のテトラサイクリン;
シプロフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン、及びデラフロキサシン等のキノロン;
リファンピシン、リファブチン、リファラジル、リファペンチン、及びリファキシミン等のリファマイシン;
ゲンタマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、アミカシン及びプラゾマイシン等のアミノグリコシド;
バンコマイシン、テイコプラニン、テラバンシン、ダルババンシン、及びオリタバンシン等のグリコペプチド;
レファムリン等のプレウロムチリン
リネゾリド又はテジゾリド等のオキサゾリジノン
ポリミキシンB又はコリスチン等のポリミキシン;
トリメトプリム、イクラプリム、スルファメトキサゾール;
メトロニダゾール;
フィダキソマイシン;
ムピロシン;
フシジン酸;
ダプトマイシン;
ムレパビジン(Murepavidin);
ホスホマイシン;並びに
ニトロフラントイン。
【0086】
好適な抗生物質「アジュバント」には、以下のものが含まれるが、これらに限定されるものではない:
外膜透過剤又は排出ポンプ阻害剤等の、細菌への取込みを改善することが知られている薬剤;外膜透過剤は、ポリミキシンBノナペプチド若しくは他のポリミキシン類似体、又はエデト酸ナトリウムを含むことができる;
β-ラクタマーゼ阻害剤等の耐性メカニズムの阻害剤;好適なβ-ラクタマーゼ阻害剤は、クラブラン酸、タゾバクタム、スルバクタム、アビバクタム、レレバクタム及びナクバクタムを含む;並びに
抗体を含む、毒素及び分泌系等の病毒性メカニズムの阻害剤。
【0087】
本発明の化合物は又、核酸ベース療法、抗体、バクテリオファージ又はファージリシン等の生物学的療法と組み合わせて使用することもできる。
【0088】
本発明の医薬組成物の投与経路は、当業者に一般的に公知のもののいずれでもよい。療法のために、本発明のペプチドリガンドは、標準技術に従って任意の患者へ投与することができる。投与経路には、経口(例えば、摂取による);口腔内頬側;舌下;経皮(例えば、パッチ、膏薬等によるものを含む);経粘膜(例えば、パッチ、膏薬等によるものを含む);鼻腔内(例えば、鼻腔スプレーによるもの);経眼(例えば、点眼薬によるもの);経肺(例えば口又は鼻経由の、例えばエアロゾルを介するものを用いる、例えば吸入又は吹送療法によるもの);経腸(例えば、坐剤又は浣腸剤によるもの);経膣(例えば、ペッサリーによるもの);非経口、例えば、皮下、皮内、筋肉内、静脈内、動脈内、心臓内、髄腔内、脊髄内、関節包内、被膜下、眼窩内、腹腔内、気管内、表皮下、関節内、くも膜下、及び胸骨内を含む、注射によるもの;例えば皮下若しくは筋肉内への、デポ又はリザーバのインプラントによるものが含まれるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、本発明の医薬組成物は、非経口投与されるであろう。投薬量及び投与頻度は、患者の年齢、性別及び状態、他の薬物の同時的な投与、禁忌、並びに臨床医によって考慮される他のパラメーターに依存する。
【0089】
本発明のペプチドリガンドは、貯蔵用に凍結乾燥し、使用前に適切な担体中で再構成することができる。この技術は、効果的であることが示されており、当分野で公知の凍結乾燥及び再構成技術を利用することができる。凍結乾燥及び再構成は様々な程度の活性損失を生じる可能性があり、レベルを上方に調整してその損失を補う必要があり得ることは、当業者に認識されるであろう。
【0090】
本ペプチドリガンド又はそのカクテルを含む組成物を、治療的処置のために投与することができる。特定の治療用途において、選択した細胞集団の少なくとも部分的な阻害、抑制、調節、死滅化、又は何らかの他の測定可能なパラメーターを達成するために適切な量を、「治療有効用量」として定義する。この投薬量を達成するために必要とされる量は、疾患の重症度及び患者自身の免疫系の全般的な状態に依存するが、概ね、体重1キログラム当たり選択したペプチドリガンド10μg~250mgの範囲であり、100μg~25mg/kg/用量の範囲の用量がより一般的に使用される。
【0091】
本発明のペプチドリガンドを含有する組成物は、微生物感染の治療のための、又は感染のリスクに曝されている、例えば、外科手術、化学療法、人工呼吸、若しくは他の状態下にある又は計画的介入を受けている対象への予防を提供するための、治療的な設定で使用することができる。更に、本明細書に記載されるペプチドリガンドは、体外で又はインビトロで、細胞の異成分集合体から標的細胞集団を選択的に、死滅、枯渇、若しくは効果的に除去するために使用することができる。哺乳動物由来の血液を、選択したペプチドリガンドと体外で組み合わせて、それにより、望ましくない細胞を死滅させるか、そうでなければその血液から除去して、標準技術に従い哺乳動物へ戻してもよい。
【0092】
(治療的使用)
本発明の二環式ペプチドは、PBPバインダーとして特に有用である。
【0093】
ペニシリン結合タンパク質(PBP)は、ペニシリンへの親和性及びペニシリンとの結合を特徴とするタンパク質群であり、多くの細菌種中に存在する。全てのβ-ラクタム抗生物質(グルタミンシンテターゼを阻害するタブトキシニン-β-ラクタムを除く)は、細菌細胞壁の合成に必須であるPBPへ結合する。PBPは、トランスペプチダーゼと呼ばれる酵素のサブグループメンバーである。具体的には、幾つかのPBPはDD-トランスペプチダーゼであり、二機能性PBPはトランスグリコイラーゼ(transglycoylase)活性を有する。PBPは全て、細菌細胞壁の主構成要素であるペプチドグリカンの合成最終段階に関与している。細菌の細胞壁合成は、細菌の成長、細胞分裂(従って、増殖)及び細胞構造の維持に必須である。PBPの阻害は、細胞壁構造の変調、例えば伸長、病変、選択的透過性の喪失等を生じさせ、最終的に細胞死及び溶解が起こる。PBPの総説は、Macheboeuf らの文献、(2006) FEMS Microbiology Reviews 30(5), 673-691により提供されている。
【0094】
以上より、理論により拘束されるものではないが、本発明のペプチドリガンドは、PBPに結合し、細胞壁の合成を阻害することにより、細菌増殖の阻害、細胞死及び溶解を引き起こすことができると考えられる。治療標的としてのPBPの総説は、Silverの文献、(2007)Nature Reviews Drug Discovery 6、41-55及びZervosenらの文献、(2012) Molecules 17(11)、12478-12505によって提供されている。本発明のペプチドリガンドは、このPBPの作用機序を妨害することができるいずれの部位でもPBPに結合し得ることが認識されるであろう。例えば、本ペプチドリガンドは、このPBPの活性部位へ結合して、トランスペプチダーゼ又はトランスグリコシラーゼを阻害し得る。或いは、このペプチドリガンドは、その作用機序を妨害するために、PBP上の別の場所に結合する可能性もある。
【0095】
本発明の方法で選択されたポリペプチドリガンドは、インビボでの治療用途、インビトロ及びインビボでの診断用途、インビトロでの分析及び薬剤用途、その他に利用することができる。ワクチン用途等の幾つかの用途において、所定の範囲の抗原に対する免疫反応を誘発する能力を利用して、ワクチンを特定の疾患及び病原体に対するものとして調整するために利用することができる。
【0096】
少なくとも90~95%の均質性を有する実質的に純粋なペプチドリガンドが哺乳動物への投与に好ましく、98~99%又はそれを超える均質性が、医薬用途に、特に哺乳動物がヒトである場合に最も好ましい。所望に応じて部分的に又は均質になるまで精製すれば、選択したポリペプチドを、診断的に若しくは治療的に(体外を含む)、又はアッセイ手順、免疫蛍光染色等の開発及び実施において使用してもよい(Lefkovite及びPernisの文献(1979及び1981)、Immunological Methods、第I巻及び第II巻、Academic Press, NY)。
【0097】
本発明の更なる態様によれば、細菌感染によって媒介される疾患若しくは障害の抑制又は治療において使用するための、又は感染のリスクに曝されている対象へ予防を提供するための、本明細書で定義されるペプチドリガンドが提供される。
【0098】
本発明の更なる態様によれば、細菌感染によって媒介される疾患若しくは障害の抑制方法又は治療方法、又は感染のリスクに曝されている対象へ予防を提供する方法であって、それを必要とする患者へ本明細書で定義されるペプチドリガンドを投与することを含む方法が提供される。
【0099】
本発明のペプチドリガンド又はそのペプチドリガンドを含む医薬組成物は、皮膚及び軟組織感染症、消化管感染症、尿路感染症、肺炎、敗血症、腹腔内感染症及び産科/婦人科感染症の治療に有用である。感染症は、肺炎レンサ球菌等のグラム陽性菌、又は大腸菌、緑膿菌及びアシネトバクター・バウマニ等のグラム陰性菌によって引き起こされるか、又は複数種の細菌によるものでもよい。
【0100】
一の実施態様では、細菌感染によって媒介される疾患又は障害は、下記から選択される:
‐百日咳(百日咳菌によって引き起こされ得る);
‐破傷風(破傷風菌によって引き起こされ得る);
‐ジフテリア(ジフテリア菌によって引き起こされ得る);
‐エキノコックス病(エキノコックスによって引き起こされ得る);
‐下痢、溶血性尿毒症症候群若しくは尿路感染症(大腸菌によって引き起こされ得る);
‐呼吸器感染症若しくは髄膜炎(インフルエンザ菌によって引き起こされ得る);
‐胃炎、消化性潰瘍疾患若しくは胃腫瘍(ヘリコバクターピロリ菌によって引き起こされ得る);
‐結核(結核菌によって引き起こされ得る);
‐髄膜炎、肺炎、菌血症若しくは中耳炎(肺炎球菌によって引き起こされ得る);
‐食中毒(サルモネラ菌によって引き起こされ得る);
‐細菌性赤痢若しくは胃腸炎(赤痢菌によって引き起こされ得る);及び
‐コレラ(コレラ菌によって引き起こされ得る)。
【0101】
「抑制」という用語への本明細書における言及は、誘導性事象の後であるが、疾患の臨床的出現の前の組成物の投与を指す。「治療」は、疾患症状が顕在化した後の防御的な組成物の投与を含む。
【0102】
疾患に対する防御又は疾患の治療におけるペプチドリガンドの有効性をスクリーニングするために使用することができる動物モデル系が利用可能である。
【0103】
本発明を、下記の実施例を参照して更に説明する。
【実施例】
【0104】
(実施例)
(材料及び方法)
(ペプチド合成)
ペプチド合成はFmoc化学に基づき、Peptide Instrumentsにより製造されたSymphonyペプチド合成装置及びMultiSynTech製のSyro II合成装置を用いた。適切な側鎖保護基を付けた標準的なFmoc-アミノ酸(Sigma, Merck)を利用し:適用可能な標準的なカップリング条件を各々の場合に使用し、その後、標準的な方法を用いて脱保護を行った。
【0105】
或いは、HPLCを用いてペプチドを精製し、次に単離し、これを1,3,5-トリアクリロイルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン(TATA、Sigma)で修飾した。このために、直鎖状ペプチドを50:50のMeCN:H2Oで約35mLとなるように希釈し、アセトニトリル中の約500μLの100mM TATAを添加し、5mLの1M NH4HCO3水溶液で反応を開始させた。反応を室温(RT)で約30分~60分間進行させておき、(MALDIにより判定して)反応が完了したら、凍結乾燥した。完了後、1mlの1M L-システイン塩酸塩一水和物(Sigma)水溶液を反応液へ室温で約60分間かけて添加して余分なTATAをクエンチした。
【0106】
凍結乾燥後、修飾されたペプチドを、上記のように精製したが、Luna C8はGemini C18カラム(Phenomenex)と交換し、酸は0.1%トリフルオロ酢酸へ変更した。正確なTATA修飾材料を含む純粋画分をプールし、凍結乾燥させ、-20℃で保持して貯蔵した。
【0107】
別途特記しない限り、全てのアミノ酸はL-立体配置のものを使用した。
【0108】
場合によっては、ペプチドを活性化ジスルフィドに変換した後、以下の方法を用いて、毒素の遊離チオール基とカップリングさせる;4-メチル(スクシンイミジル-4-(2-ピリジルチオ)ペンタノエート)(100mM)の無水DMSO溶液(1.25mol当量)をペプチド(20mM)の無水DMSO溶液(1mol当量)へ添加した。反応液をよく混合し、DIPEA(20mol当量)を添加した。反応が完了するまでLC/MSによりモニタリングした。
【0109】
(生物学的データ)
(蛍光偏光直接結合アッセイ)
蛍光偏光を、未修飾PBPタンパク質を有するフルオレセイン標識したペプチドを使用して実施し、FP 485520520光学モジュールを備えたBMG Labtech社製PHERAstar FSを使用して測定した。
【0110】
蛍光ペプチド(10 mM)のDMSO溶液を、結合バッファ(10mM HEPES、pH8、300 mM NaCl、2%グリセロール)で2.5 nMとなるように希釈した。次に、PBPタンパク質の2倍希釈系列を12ウェルにわたり結合バッファで、最大濃度21μMかつ最小濃度17 nMとして作製した。
【0111】
10μlの希釈蛍光ペプチド(2.5 nM)を、384-Well NBS(商標)低容量マイクロプレート(Fisher Scientific)の12ウェルへ添加した。次に、10μlのPBP希釈系列を蛍光ペプチドが存在するウェルへ加え、5μlの結合バッファを加えて総量を25μlとし、ペプチドトレーサーの最終濃度を1 nMとした。PBPタンパク質を欠く対照ウェルを、結合バッファ内のペプチド最終濃度1 nMかつ最終体積25μlとなるように作製した。蛍光偏光を、室温で1時間、5分ごとに測定した。ゲイン及び焦点高さは、タンパク質無し対照ウェルを使用して最適化した。ウェルは485nmで励起し、発光検出は520nmに設定した。
【0112】
データをGraphPadソフトウェアで解析し、解離定数の値を導き出した。実験は、少なくとも3回繰り返した。
本発明の特定のペプチドリガンド(Sar6-リシンリンカーでC末端に付加されているフルオレセインを有する)を上記結合アッセイで試験し、その結果を、表示されたPBPへの結合について表1に示す。
【0113】
(表1:選択された本発明のペプチドリガンドに関する直接結合データ)
【表1】
【0114】
対照阻害剤であるボシリンが大腸菌のPBP3へ、Kd 0.44μMで結合した。本アッセイでは、BCY12130を関連種(緑膿菌及びアシネトバクター・バウマニ)のPBPへの結合について更に分析した。緑膿菌又はアシネトバクター・バウマニのPBP3へのBCY12130の結合は観察されず、このことは、大腸菌のPBP3への選択性を示す(
図1参照)。従って、このデータは、本発明のペプチドリガンドが、PBPへ高い親和性で選択的に結合することを示す。本明細書で提示された直接結合値は、蛍光トレーサー分子へ結合するペプチドリガンドを有用なものとすることに注目すべきである。
【0115】
(蛍光偏光競合結合アッセイ)
(方法1)
BODIPY標識したペニシリントレーサー及び非標識ペプチドを使用して、非修飾PBPタンパク質への競合に関する蛍光偏光競合を実施した。偏光は、FP 485520520光学モジュールを備えたBMG Labtech社製PHERAstar FSを使用して測定した。
【0116】
BODIPY蛍光標識したペニシリン(5 mM)のDMSO溶液を、結合バッファ(10mM HEPES、pH8、300 mM NaCl、2%グリセロール)で6.25 nMとなるように希釈した。非修飾PBPを、2μMとなるように結合バッファで希釈した。非修飾ペプチドの2倍希釈系列を12ウェルにわたり結合バッファで、最終最大ウェル濃度60μMかつ最小濃度50 nMとして作製した。5μlの非修飾ペプチド希釈系列又はカルベニシリンを、384-Well NBS(商標)低容量マイクロプレート(Fisher Scientific)の12ウェルへ添加した。次に、10μlの希釈化BODIPY蛍光標識されたペニシリン(6.25 nM)を非修飾ペプチド希釈液が存在する12ウェルへ添加した。次に10μlの非修飾PBP(2μM)を、非修飾ペプチド及びBODIPY蛍光標識されたペニシリンが存在する12ウェルへ加えて総量を25μlとし、BODIPY蛍光標識されたペニシリンの最終濃度2.5 nM、非修飾PBPの最終濃度800 nMとした。
【0117】
非修飾ペプチドを欠く対照ウェルを、結合バッファ内のBODIPY蛍光標識されたペニシリンの最終濃度2.5 nMかつ非修飾PBPの最終濃度800 nMで、最終体積25μlとなるように作製した。非修飾ペプチド及び非修飾PBP無しの第二対照ウェルを、結合バッファ内でBODIPY蛍光標識されたペニシリンの最終濃度2.5 nMかつ最終体積25μlとなるように作製した。
【0118】
蛍光偏光を、室温で1時間、5分ごとに測定した。ゲイン及び焦点高さは、非修飾ペプチド及び非修飾PBPを欠く対照ウェルを使用して最適化した。ウェルは485nmで励起し、発光検出は520nmに設定した。
【0119】
データをGraphPadソフトウェアで解析し、阻害定数(inhibition constant)の値を導き出した。実験は、少なくとも3回繰り返した。
本発明の特定のペプチドリガンドを上記競合アッセイで試験し、その結果を表2に示す。
【0120】
(表2:選択された本発明のペプチドリガンドに関する競合結合データ)
【表2】
【0121】
このアッセイからの更なるデータを、BCY12130に関して
図2に示す。本明細書で提示されたデータから分かるように、BCY12130は大腸菌のPBP3への結合に関してボシリンを打ち負かした。BCY12130は、対照阻害剤であるカルベニシリン(0.52μM)よりもボシリン競合に関してより高いKi(0.24μM)を示す。従って、本発明のペプチドリガンドは、PBPのβラクタム結合へ選択的に結合して阻害する。
【0122】
(方法2)
蛍光偏光競合を、トレーサー(及びSar6-リシンリンカーでC末端に付加されているフルオレセインを有する)としてのBCY9378及び非標識ペプチドを使用して、非修飾PBPタンパク質への競合に関して実施した。偏光を、FP 485520520光学モジュールを備えたBMG Labtech社製PHERAstar FSを使用して測定した。BCY9378(5 mM DMSO溶液)を、結合バッファ(10mM HEPES、pH8、300 mM NaCl、2%グリセロール)で6.25 nMとなるように希釈した。非修飾PBPタンパク質を、結合バッファで2μMとなるように希釈した。非修飾ペプチドの2倍希釈系列を12ウェルにわたり結合バッファで、最終最大ウェル濃度60μMかつ最小濃度50 nMとして作製した。5μlの非修飾ペプチド希釈系列を、384-Well NBS(商標)低容量マイクロプレート(Fisher Scientific)の12ウェルへ添加した。次に、10μlの希釈化BCY9378(6.25 nM)を非修飾ペプチド希釈液が存在する12ウェルへ加えた。次に10μlの非修飾PBP(2μM)を、非修飾ペプチド及びBCY9378が存在する12ウェルへ加えて総量を25μlとし、BCY9378の最終濃度2.5 nM、非修飾PBPは800 nMとした。
【0123】
非修飾ペプチドを欠く対照ウェルを、結合バッファ内のBCY9378の最終濃度2.5 nMかつ非修飾PBPの最終濃度800 nMで、最終体積25μlとなるように作製した。非修飾ペプチド30及び非修飾PBPを欠く第二対照ウェルを、結合バッファ内のBCY9378の最終濃度2.5 nMかつ最終体積25μlとなるように作製した。
【0124】
蛍光偏光を、室温で1時間、5分ごとに測定した。ゲイン及び焦点高さは、非修飾ペプチド及び非修飾PBPを欠く対照ウェルを使用して最適化した。ウェルは485nmで励起し、発光検出は520nmに設定した。
【0125】
データをGraphPadソフトウェアで解析し、阻害定数の値を導き出した。実験は、少なくとも3回繰り返した。
本発明の特定のペプチドリガンドを上記競合アッセイで試験し、その結果を表3に示す。
【0126】
(表3: 選択された本発明のペプチドリガンドに関する競合結合データ)
【表3】
【0127】
(最小発育阻止濃度及び最小致死濃度アッセイ)
最小発育阻止濃度(MIC)アッセイを、外膜を透過性にする誘導可能細孔を備えるように遺伝子操作されているZgurskaya labから入手した大腸菌株を使用して実施した(Krishnamoorthyらの文献、(2016) doi: https://doi.org/10.1128/AAC.01882-16)。使用した株は、GKCW101;GKCW102;GKCW103;及びGKCW104である。
【0128】
細菌の一晩培養物は、初めに単一の細菌コロニーを、5 mLのカチオン調整ミューラー・ヒントンブロス(CA-MHB)内に移して50μg/mLのカナマイシンを追加することにより調製した。翌日、一晩培養物を、50μg/mLカナマイシンを含む25mL CA-MHBで1/100に希釈し、分光計により600nmで測定して光学密度が0.3に達するまで培養した。
【0129】
次に、フィルター滅菌したアラビノースを濃度0.1%w/vになるように添加し、続いて600nmでの光学密度が1に等しくなるまで培養した。
次に、培養培地を、CA-MHBで1×106 CFU mL-1まで希釈し、0.1%w/vアラビノース及び50μg/ mLカナマイシンを追加した。
【0130】
96ウェルマイクロタイタープレートにおいて、100μLのCA-MHBをカラム2~12のウェル内へ分注し、200μLをカラム1のウェルへ添加して2倍段階希釈液を調製した。
【0131】
次に、最大8μlのペプチドリガンドをカラム1のウェルに添加し、そのプレートを2倍に希釈した。陽性対照(有効な抗生物質)及びDMSO対照を、G列とH列にそれぞれ含めた。次に、プレートを気体透過性シールで密封し、37℃で18時間インキュベートした。次に、PheraStar FSxプレートリーダーを使用して、各ウェルの600nmでの光学密度を測定した。MIC値を、視覚的な細菌増殖及び増殖なしの間のカットオフ濃度として決定した。
【0132】
最小致死濃度(MBC)を、各ウェルから5μLのMIC培養液を大型LB寒天プレート(100 mL)上に分注し、37℃で一晩インキュベートすることによって決定した。MBCを、寒天上でコロニーが検出されなかった時点での抗生物質濃度として計算した。
【0133】
それとは別に、ペプチドリガンドのMICは、大腸菌(ATCC 25922)、ネズミチフス菌(ATCC 19585)及びエンテロバクター・クロアカ(NCTC 13405)を使用して実施した、10μlのMICアッセイを使用して評価した。試験化合物を必要な溶媒中に高濃度で溶解した。DMSOを使用して試験化合物を溶解させる場合、同じDMSO濃度を有するDMSO対照を各試験生物に含めた。各試験生物について、対照抗生物質(その試験生物の感受性が既知であるもの)を並行して試験した。これにより、試行間の結果の比較が可能になり、試験手順及び試験生物の妥当性を検証した。
【0134】
無菌操作を使用して、試験化合物の連続2倍希釈(10ポイント範囲)を、5μlのカチオン調整ミューラー・ヒントンブロス(CA-MHB)で、96ウェルプレートの逆さにした蓋上で行った。各試験生物の種菌は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)でマクファーランド標準濁度0.5に一致するように作製し、次に100倍に希釈した。各ウェル(陰性対照ウェルを除く)に5μlの種菌を接種した。各試験抗生物質について、CA-MHBのみからなる陰性対照(細菌無し)を、CA-MHBを有する陽性対照(抗生物質無し)、及び細菌のみと一緒に含めた。96ウェルプレートの底部を蓋として使用して、蒸発を減らすためにそのプレートを保湿ケース内でインキュベートした。保湿ケースを、PBSで濡らしたティッシュを内包して予熱されたプラスチック箱内に、試験プレートを密封することにより構築した。試験プレートを、MIC測定のためのCLSIガイドラインで指示する温度及び期間でインキュベートした。白色光を発光させてプレート底部を透過させ、液滴を照射して、濁度に基づきMICを評価した。
【0135】
本発明の特定のペプチドリガンドを、対照抗生物質であるカルベニシリンと共に、上記の発育阻止濃度及び致死濃度アッセイで試験した結果を、表4及び表5に示す。
【0136】
(表4: 選択された本発明のペプチドリガンドに関するMICデータ)
【表4】
(表4続き:)
【表5】
「n.t.」は、試験しなかったことを示し、「>」を伴う数値は、その表示された試験ペプチドリガンドの最大濃度で発育阻止が観察されなかったことを示す。
【0137】
(表5: 選択された本発明のペプチドリガンドに関するMBCデータ)
【表6】
「>」を伴う数値は、その表示された試験ペプチドリガンドの最大濃度で致死効果が観察されなかったことを示す。
【0138】
これらのデータは、大腸菌、並びにその密接な関連種であるネズミチフス菌及びエンテロバクター・クロアカの細菌増殖を阻害する、本発明のペプチドリガンドの能力を示す。ペプチドリガンドBCY12130は、排出ポンプを持たない大腸菌株GKCW103で致死効果を示さなかったが、静菌効果は観察された。
【0139】
(細胞毒性アッセイ)
ペプチドを細胞毒性アッセイで分析して、ヒト細胞株に対するペプチドの毒性を決定した。発光を細胞生存率の尺度として記録し、Ultra-Glo(商標)ルシフェラーゼによるルシフェリンからオキシルシフェリンへのATP依存性変換を利用して分析した。
【0140】
細胞株を、特定の細胞種(この場合はHepG2 #HB-8065及びHT-1080 #CCL-121)のATCCガイドラインに従って適切な培地で維持した。ペプチド添加の24時間前に、細胞を96ウェル不透明サイドプレート(VWR 734-1660)に、ウェルあたり100μl体積中10,000細胞密度で播種した。プレートを37℃、5%CO2下で一晩インキュベートした。翌日、ペプチドを適切な細胞株培地で希釈して、DMSO最終濃度が0.5%(最終ペプチド濃度が40~80μM)となる濃度とした。細胞が存在するウェルから培地を除去し、ペプチド含有培地と交換した。対照ウェルもインキュベートしたが、その対照ウェルは、細胞単独、細胞及び0.5% DMSO、又は、細胞及び公知のプロテインキナーゼ阻害剤であるスタウロスポリン(Sigma #S5921)11μM、のいずれかを含むものであった。試験プレートを37℃、5%CO2下で72時間インキュベートした。その後、100μlのCellTitre-Glo(登録商標)(Promega#G7570)を製造者の指示に従ってウェルに添加し、振盪しながら10分間インキュベートして細胞溶解を誘導した。発光を、LUM及び光学モジュールを備えたBMG Labtech社製PHERAstar FSを使用して測定した。
【0141】
データをGraphPadソフトウェアで解析し、細胞及び0.5% DMSOを含むウェルのパーセントとして生存細胞を決定した。表示した値は、2つの独立実験を示す。
【0142】
本発明の特定のペプチドリガンド(BCY12130及びBCY12132)を上記細胞傷害アッセイで試験したところ、ヒト細胞株の細胞傷害は、試験した最大濃度(それぞれ54μM及び56μMのペプチドリガンド)で観察されなかった。
【0143】
(形態アッセイ)
2μl体積の未修飾ペプチドリガンドの不存在又は存在下での細菌増殖体をガラススライド(Hendleyマルチスポット顕微鏡スライド)上に載置し、45℃で熱固定した。スライドを、クリスタルバイオレットを30秒間、グラムヨードを30秒間、更にアセトンを2秒間添加することによりグラム染色した。対比染色を、サフラニンで30秒間行った。各操作段階の前後には、スライドを水で充分に洗浄した。画像を、(Zeiss Axiocam ERc 5s)を使用して油浸で観察した(×100倍率)。
【0144】
各液滴を抗微生物薬を含まない増殖対照と比較し、細胞形態の差異を発見した。
本発明の特定のペプチドリガンドを上記形態アッセイにおいて試験し、その結果を
図3に示す。
【0145】
これらのデータは、大腸菌、並びにその密接な関連種であるネズミチフス菌及びエンテロバクター・クロアカが、BCY12130のサブMIC 濃度(13.75μg/ml及び27.5μg/ml)での存在下でインキュベートされると、繊維状増殖を生じたことを示し、これはこれらがPBP3阻害剤であることの表示である。
【0146】
まとめると、本明細書で示されたデータは、本発明のペプチドリガンドが大腸菌のPBP3へ結合し、βラクタム結合を阻害して、細胞分裂を標的とすることにより大腸菌及びその密接な関連株の細菌増殖を阻害することを示す。
【手続補正書】
【提出日】2022-05-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】