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特表2022-547049悪性中皮腫の治療におけるルルビネクテジン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-10
(54)【発明の名称】悪性中皮腫の治療におけるルルビネクテジン
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4995 20060101AFI20221102BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221102BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221102BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
A61K31/4995
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K39/395 T
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022514563
(86)(22)【出願日】2020-09-03
(85)【翻訳文提出日】2022-05-02
(86)【国際出願番号】 EP2020074689
(87)【国際公開番号】W WO2021043949
(87)【国際公開日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】19382749.0
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)OncoImmunology,2019,8(11),e1656502に公開された「Lurbinectedin synergizes with immune checkpoint blockade to generate anticancerimmunity」 (2)ウェブサイトに公開された「Phase II study results of lurbinectedin in progressive mesothelioma will be presented in an oral session at ESMO 2019」 (3)ESMO 2019 総会で公開された「1316-SAKK 17/16:Lurbinectedin as second or third line palliative chemotherapy in malignant pleural mesothelioma(MPM):A multi-center,single-arm Phase II trial.」 (4)Annals of Oncology,2019,Volume 30,Supplement 5,V748に公開された「SAKK 17/16:Lurbinectedin as second or third line palliative chemotherapy in malignant pleural mesothelioma(MPM):A multi-center,single-arm Phase II trial.」 (5)ウェブサイトに公開された「Lurbinectedin data in Progressive Malignant Pleural Mesothelioma presented at ESMO」 (6)Annals of Oncology,2020,31(4),495-500に公開された「Lurbinectedin as second- or third-line palliative therapy in malignant pleural mesothelioma:an international,multi-centre,single-arm,phase II trial(SAKK 17/16)」
(71)【出願人】
【識別番号】505404208
【氏名又は名称】ファルマ、マール、ソシエダード、アノニマ
【氏名又は名称原語表記】PHARMA MAR,S.A.
【住所又は居所原語表記】Poligono Industrial La Mina,Avda.de los Reyes,1,Colmenar Viejo,E-28770 Madrid,SPAIN
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イオアニス・メタクサス
(72)【発明者】
【氏名】ロジャー・フォン・モース
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C085AA14
4C085CC23
4C085DD62
4C085GG01
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB31
4C086GA13
4C086GA14
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
悪性中皮腫の治療におけるルルビネクテジンの使用が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルルビネクテジンが単独療法で投与される、悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項2】
悪性中皮腫が悪性胸膜中皮腫である、悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項3】
悪性中皮腫が悪性腹膜中皮腫である、悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項4】
ルルビネクテジン治療がルルビネクテジン及び白金製剤の組合せによる治療を除外する、悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項5】
ルルビネクテジン治療がルルビネクテジン及びシスプラチンの組合せを除外する、悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項6】
悪性中皮腫の治療に使用するための単独の化学療法剤としてのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項7】
悪性中皮腫が進行性である、請求項1から6のいずれか一項に記載の悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項8】
悪性中皮腫が第一選択療法、好ましくは標準的な第一選択療法から進行した、請求項7に記載の悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項9】
第一選択療法がプラチナ-ペメトレキセド化学療法である、請求項8に記載の悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項10】
プラチナ-ペメトレキセド化学療法が手術を伴うものである、請求項9に記載の悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項11】
第一選択療法に放射線治療も含まれる、請求項9又は請求項10に記載の悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項12】
第一選択療法が、免疫療法、好ましくは抗PD-1、抗PD-L1若しくは抗CTLA-4療法、又はその組合せである、請求項8に記載の悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項13】
第一選択療法が、プラチナ-ペメトレキセド化学療法及び免疫療法、好ましくは抗PD-1、抗PD-L1若しくは抗CTLA-4療法、又はその組合せである、請求項8に記載の悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項14】
ルルビネクテジンが単独の化学療法剤であり、ルルビネクテジンが免疫療法、好ましくは抗PD-1、抗PD-L1若しくは抗CTLA-4療法、又はその組合せに続いて投与される、悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項15】
第一選択療法が抗血管新生療法である、請求項8に記載の悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項16】
抗血管新生療法がVEGF阻害剤、例えばベバシズマブである、請求項15に記載の悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項17】
治療が第三選択療法であり;且つ 第一選択療法が請求項9から11のいずれか一項に記載のプラチナ-ペメトレキセド化学療法であり、第二選択療法が免疫療法である場合を含め、前の選択療法が請求項7から16の療法から選択されていてもよい、請求項1から16のいずれか一項に記載の悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項18】
ルルビネクテジンが、1~4週に1回、好ましくは3週に1回投与される、請求項1から17のいずれか一項に記載の悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項19】
ルルビネクテジンが、1~5mg/m2体表面積、2~3mg/m2体表面積、約3mg/m2体表面積、3~3.5mg/m2体表面積、又は3.2mg/m2体表面積の用量で投与される、請求項1から18のいずれか一項に記載の悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項20】
ルルビネクテジンが注入として、好ましくは24時間以下、1~12時間、1~6時間及び最も好ましくは1時間の注入時間で投与される、請求項1から19のいずれか一項に記載の悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項21】
患者が放射線治療で更に治療される、請求項1から20のいずれか一項に記載の悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項22】
放射線治療が、ルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルの投与の前又は後、好ましくはルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルの投与の少なくとも1時間、3時間、5時間、12時間、1日、1週間、1カ月、より好ましくは数カ月(例えば3カ月以下)前又は後に投与される、請求項18に記載の悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項23】
患者が抗嘔吐薬、G-CSF及び/又はGM-CSFで更に治療される、請求項1から22のいずれか一項に記載の悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項24】
患者がG-CSFで更に治療される、請求項1から23のいずれか一項に記載の悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項25】
悪性中皮腫が類上皮中皮腫である、請求項1から24のいずれか一項に記載の悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項26】
悪性中皮腫が肉腫様中皮腫である、請求項1から24のいずれか一項に記載の悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項27】
悪性中皮腫が二相性中皮腫である、請求項1から24のいずれか一項に記載の悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項28】
薬学的に許容される塩が、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ナトリウム、カリウム、カルシウム及びアンモニウム塩、エチレンジアミン、エタノールアミン、N,N-ジアルキレンエタノールアミン、トリエタノールアミン及び塩基性アミノ酸塩から選択される、請求項1から27のいずれか一項に記載の悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項29】
悪性中皮腫を治療するための使用説明書と一緒にルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルを含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の治療、特にルルビネクテジンを用いることによる悪性中皮腫の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性中皮腫は、悪性(癌)細胞が胸膜(胸腔を覆い、肺を包む薄層の組織)又は腹膜(腹部を覆い、腹部のほとんどの臓器を包む薄層の組織)に見られる疾患である。悪性胸膜中皮腫(MPM)は、比較的稀であるが、侵襲性である。MPMは、60年代初期に初めて説明されたアスベスト曝露と密接な関係がある。潜伏期間が30~50年である可能性があり、且つ西側諸国ではアスベストが最近まで家庭用断熱材等の多くの用途で使用されてきたので、中皮腫の発生率の増加は、次の10年間でピークに達すると予想されている。MPMの症状には、息切れ、咳、胸痛、疲労、発熱及び体重減少が含まれる。一度発症すると、MPMは通常低い生存率をもたらす。しかしながら、生存期間は、診断時の腫瘍の程度(「腫瘍の病期」)、中皮腫のタイプ及び治療に対する患者の反応を含む要因によって決まる。中皮腫は通常治癒できないが、生存期間は、数カ月から数年に及び得る。この癌の治療は、癌が診断された後、癌がどこまで広がったかによって決まる。治療の目的は、「治癒(curative)」、すなわち、全ての疾患を取り除くこと、又は「軽減(palliative)」、すなわち、症状を緩和することであり得る。治療の目的は、癌の負担を減らすこと及び/又は疾患の進行を遅らせることであり得る。
【0003】
手術を伴う又は伴わない、及び可能性として追加的な放射線治療を併用するプラチナ-ペメトレキセド化学療法は、MPMの標準的な第一選択療法と見なされる。それでも、このような3つの手段を用いた治療でさえ、12カ月未満の無増悪生存期間(PFS)をもたらし、実際にMPMは多数の患者にとって不治の疾患となる。
【0004】
他方では、大部分の進行性の患者は、さらなる全身治療のために良好な健康状態に留まる。最も一般的に使用される薬剤は、ナベルビン又はゲムシタビンであるが、旧来及び現代の試験では両方の化合物に関して低度の活性が繰り返し示され、奏効率が10%未満、PFS中央値が2~3カ月以下及び全生存期間(OS)が9カ月未満であったので、この決定はほとんど証拠に基づいていない。
【0005】
新規な薬剤を用いた多くの臨床試験は、進行性MPMの転帰を改善するために実施されている。Buikhuisenら(Lung Cancer、2015、89、223~231頁)によって報告されたように、結果は再び期待外れ(構成的に奏効<10%、PFS<3カ月及びOSがせいぜい10カ月)であったので、それらの大多数は、意味のある「標準的な」第二選択治療を提供することができなかった。進行時にペメトレキセドを投与されたペメトレキセド未投与患者のみが興味深い転帰となったが、この分子が標準的な第一選択治療になった後、再チャレンジとしてのその役割は、より曖昧になり、遡及試験は現在、主に以前のペメトレキセドでPFSが明らかに長い場合にそれを使用することを示している。
【0006】
免疫療法の出現により、いくつかの試験で抗PD-1、抗PD-L1及び抗CTLA-4抗体の役割が調べられている。Scherpereelら(Lancet Oncol in press、2018)及びDisselhorstら(Lancet Respir Med in press、2018)によって開示されているように、初期の第I/II相試験のデータは有望であるが、他の免疫療法の研究及び遡及分析は、Metaxas(J. Thor. Oncol. 2018 Nov; 13(11): 1784~1791頁)及びMaio(Lancet Oncol、2017、18、1261~1273頁)によって報告されているように、その役割に異議を唱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第03/014127号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Buikhuisenら(Lung Cancer、2015、89、223~231頁)
【非特許文献2】Scherpereelら(Lancet Oncol in press、2018)
【非特許文献3】Disselhorstら(Lancet Respir Med in press、2018)
【非特許文献4】Metaxas(J. Thor. Oncol. 2018 Nov; 13(11): 1784~1791頁)
【非特許文献5】Maio(Lancet Oncol、2017、18、1261~1273頁)
【非特許文献6】100th AACR Annual Meeting、April 18-22、2009、Denver、CO、Abstract Nr. 2679及びAbstract Nr. 4525
【非特許文献7】Leal JFMらBr. J. Pharmacol. 2010、161、1099~1110頁
【非特許文献8】Belgiovine, CらBr. J. Cancer、2017;117(5):628~638頁
【非特許文献9】Elez, ME.らClin. Cancer Res. 2014、20(8)、2205~2214頁
【非特許文献10】50th ASCO Annual Meeting、May 30-June 3、2014、Chicago、IL、Abstract 5505
【非特許文献11】26th EORTC-NCI-AACR Symposium on Molecular Targets and Cancer Therapeutics; November 18-21、2014、Barcelona、Spain、published in Eur. J. Cancer 2014、50 (Suppl. 6)、13~14頁、Abs. No. 23
【非特許文献12】51th ASCO Annual Meeting、May 29-June 2、2015、Chicago、IL、Abstract No. TPS2604及びAbstract Nr. 7509、published in J. Clin. Oncol. 33、2015 (suppl)
【非特許文献13】54th ASCO Annual Meeting、June 1-5、2018、Chicago、IL、Abstract No. 11519、published in J. Clin. Oncol. 36、2018 (suppl)
【非特許文献14】Cruz, C.らJ. Clin. Oncol. 2018;in press 1-21
【非特許文献15】54th ASCO Annual Meeting、June 1-5、2018、Chicago、IL、Abstract No. 8570、published in J. Clin. Oncol. 36、2018 (suppl)
【非特許文献16】Metaxasら(Lung Cancer 2016、12、136~138頁)
【非特許文献17】「Medicinal Chemistry and Drug Discovery」6th ed.(Donald J. Abraham ed.、2001、Wiley)
【非特許文献18】「Design and Applications of Prodrugs」(H. Bundgaard ed.、1985、Harwood Academic Publishers)
【非特許文献19】Povedaら, J. Clin Oncol 2014, 32:52 (suppl; abstr 5505)
【非特許文献20】Byrneら, Ann Oncol, 2004, 15, 257-260
【非特許文献21】Simon R, Control Clinical Trials. 1989 Mar;10(1):1-10
【非特許文献22】Control Cli Trials, 1998, 19, 5, 440-50
【非特許文献23】Jungら, Stat Med. 2004 Mar 30; 23(6): 881-96
【非特許文献24】Fisherら, Annu Rev Public Health. 1999; 20:145-57
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
いずれの場合でも、これら全てのデータは、悪性中皮腫、特にMPM、より詳細には進行性MPMにおける新しい手法の現在対処されていない高い医学的な要求を強調している。したがって、この疾患に苦しんでいる患者を治療するための新規な療法及び薬剤の開発は、緊急に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
PM01183としても知られており、当初はトリプタミシジンと呼ばれていたルルビネクテジンは、合成抗腫瘍化合物であり、国際公開第03/014127号の主題である。ルルビネクテジンの化学構造は、以下のように表されている:
【0011】
【化1】
【0012】
ルルビネクテジンは、充実性及び非充実性腫瘍細胞系に対して非常に強力なin vitro活性を、並びに乳癌、腎癌及び卵巣癌等、マウスに異種移植されたいくつかのヒト腫瘍細胞系で著しいin vivo活性を示した。これは、多くの腫瘍が特に依存している発癌性転写プログラムの選択的な阻害剤である。癌細胞に対するその効果と共に、ルルビネクテジンは、腫瘍関連マクロファージにおける発癌性転写を阻害し、腫瘍の増殖に必須のサイトカインの産生を下方制御する。transcriptional addictionは、それらの疾患で認められた標的であり、それらの多くは他の実行可能な標的を欠いている。
【0013】
本発明の第1の態様では、悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルが提供されており、ここで、ルルビネクテジンは単独療法として投与される。
【0014】
驚くべきことに、単独療法としてのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルが、悪性中皮腫の治療において効果的であることを、この化合物に対する感受性を示すデータと共に、見出した。したがって、悪性中皮腫の新しい効果的な治療の必要性は、本発明によって満たされる。
【0015】
本発明のさらなる態様では、悪性中皮腫の治療のための医薬の製造におけるルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルの使用が提供されており、ここで、ルルビネクテジンは単独療法として投与される。
【0016】
本発明のさらなる態様では、それを必要とする患者の悪性中皮腫を治療する方法が提供されており、前記患者に有効量のルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルを単独療法として投与することを含む。
【0017】
本発明のさらなる態様では、悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルが提供されており、ここで、ルルビネクテジン治療は、ルルビネクテジンと白金製剤の組合せによる治療を除外する。
【0018】
本発明のさらなる態様では、悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルが提供されており、ここで、ルルビネクテジン治療は、ルルビネクテジンとシスプラチンの組合せによる治療を除外する。
【0019】
本発明のさらなる態様では、悪性中皮腫の治療に使用するための単独の化学療法剤としてのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルが提供されている。
【0020】
本発明のさらなる態様では、悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルが提供されており;ここで、ルルビネクテジンは、単独の化学療法剤であり;且つここで、ルルビネクテジンは、免疫療法;好ましくは抗PD-1、抗PD-L1又は抗CTLA-4療法、又はその組合せに続いて投与される。
【0021】
本発明のさらなる態様では、悪性中皮腫を治療するための使用説明書と一緒にルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルを含むキットが提供されている。
【0022】
以下の特徴は、本発明の全ての態様に当てはまる。
【0023】
悪性中皮腫は、悪性胸膜中皮腫であってもよい。悪性中皮腫は、悪性腹膜中皮腫であってもよい。悪性中皮腫は、心膜中皮腫であってもよい。悪性中皮腫は、悪性精巣中皮腫であってもよい。好ましくは、悪性中皮腫は、悪性胸膜中皮腫である。
【0024】
悪性中皮腫は、進行性であってもよい。好ましい実施形態では、悪性中皮腫は進行性である。
【0025】
悪性中皮腫は、第一選択療法、好ましくは標準的な第一選択療法から進行したものであってよい。標準的な療法は、プラチナ-ペメトレキセド化学療法であってよい。標準的な療法は、手術を含んでいてもよい。標準的な療法は、放射線治療も含んでいてもよい。
【0026】
悪性中皮腫は、免疫療法から進行したものであってよい。免疫療法は、1抗PD-1、抗PD-L1又は抗CTLA-4療法、又はその組合せであってもよい。
【0027】
本発明によるルルビネクテジンの使用は、第二選択療法としてであってもよい。本発明によるルルビネクテジンの使用は、第二選択療法が免疫療法であることを含む、第三選択療法としてであってもよい。
【0028】
本発明によるルルビネクテジンの使用は、第一選択療法としてであってもよい。
【0029】
本発明によるルルビネクテジンは、1~4週に1回、好ましくは3週に1回のサイクルで投与してもよい。
【0030】
本発明によるルルビネクテジンは、1~5mg/m2体表面積、2~3mg/m2体表面積、約3mg/m2体表面積、3~3.5mg/m2体表面積、又は3.2mg/m2体表面積の用量で投与してもよい。
【0031】
本発明によるルルビネクテジンは、注入として、好ましくは24時間以下、1~12時間、1~6時間及び最も好ましくは1時間の注入時間で投与されてもよい。
【0032】
患者は、放射線治療で更に治療されてもよい。
【0033】
放射線治療は、ルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルの投与の前又は後、好ましくはルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルの投与の少なくとも1時間、3時間、5時間、12時間、1日、1週間、1カ月、より好ましくは数カ月(例えば3カ月以下)前又は後に実施してもよい。
【0034】
患者は、抗嘔吐薬、G-CSF及び/又はGM-CSFで更に治療されてもよい。抗嘔吐薬、G-CSF及び/又はGM-CSFは、それぞれ独立に、ルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルの投与の前又は後に投与してもよい。
【0035】
悪性中皮腫は、類上皮中皮腫であってもよい。
【0036】
悪性中皮腫は、肉腫様中皮腫であってもよい。
【0037】
悪性中皮腫は、二相性中皮腫であってもよい。
【0038】
本発明によるルルビネクテジンは、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ナトリウム、カリウム、カルシウム及びアンモニウム塩、エチレンジアミン、エタノールアミン、N,N-ジアルキレンエタノールアミン、トリエタノールアミン及び塩基性アミノ酸塩から選択される薬学的に許容される塩の形態で投与してもよい。
【0039】
ルルビネクテジンは、二糖類も含む薬剤組成物に含まれていてもよい。薬剤組成物は、凍結乾燥された薬剤組成物であってもよい。
【0040】
したがって、本発明は驚くべきことに、悪性中皮腫、特に悪性胸膜中皮腫の新しく効果的な治療を確立した。本発明は特に、疾患の進行、特に標準的な治療後の疾患の進行、より詳細にはプラチナ-ペメトレキセド化学療法に基づく標準的な治療後の疾患の進行を経験した難治性の患者の新しく効果的な治療を確立した。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】全ての患者における無増悪生存期間(PFS)のカプラン-マイヤー曲線である。
図2】全ての患者における全生存期間(OS)のカプラン-マイヤー曲線である。
図3】類上皮及び非類上皮MPMの患者におけるPFSを比較したカプラン-マイヤー曲線である。
図4】類上皮及び非類上皮MPMの患者におけるOSを比較したカプラン-マイヤー曲線である。
図5】免疫学的に事前治療された患者と免疫学的に事前治療されていない患者におけるPFSを比較したカプラン-マイヤー曲線である。
図6】免疫学的に事前治療された患者と免疫学的に事前治療されていない患者におけるOSを比較したカプラン-マイヤー曲線である。
図7】前のプラチナ-ペメトレキセド化学療法で6カ月未満及び6カ月以上の無増悪間隔をもつ患者におけるPFSを比較したカプラン-マイヤー曲線である。
図8】前のプラチナ-ペメトレキセド化学療法で6カ月未満及び6カ月以上の無増悪間隔をもつ患者におけるOSを比較したカプラン-マイヤー曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本出願では、いくつかの一般用語及び句を使用しており、それらは以下のように解釈されるべきである。
【0043】
用語「治療すること(treating)」は、本明細書では、特に指示がない限り、そのような用語が適用される疾患若しくは状態、又はこのような障害若しくは状態の1種若しくは複数の症状の進行を逆転、弱化、緩和又は抑制することを意味する。用語「治療」は、本明細書では、特に指示がない限り、「治療すること」が直ぐ前で定義されているように、治療する行為を指す。
【0044】
「患者」には、ヒト、ヒト以外の哺乳動物(例えば、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、シカ等)及び非哺乳動物(例えば、トリ等)が含まれる。いくつかの実施形態では、患者はヒトである。
【0045】
ルルビネクテジンは、以下の構造を有する合成アルカロイドである:
【0046】
【化2】
【0047】
ルルビネクテジンは、既に臨床試験で試験され、異なる対象物で有望な結果が得られており、現在、再発性小細胞肺癌における第III相研究で評価されている。
【0048】
その作用機序及びin vivo有効性に関する情報は、100th AACR Annual Meeting、April 18-22、2009、Denver、CO、Abstract Nr. 2679及びAbstract Nr. 4525;Leal JFMらBr. J. Pharmacol. 2010、161、1099~1110頁;及びBelgiovine, CらBr. J. Cancer、2017;117(5):628~638頁に見られる。
【0049】
PM01183の臨床開発に関するさらなる情報は、以下に見られる:
- Elez, ME.らClin. Cancer Res. 2014、20(8)、2205~2214頁;
- 50th ASCO Annual Meeting、May 30-June 3、2014、Chicago、IL、Abstract 5505;
- 26th EORTC-NCI-AACR Symposium on Molecular Targets and Cancer Therapeutics; November 18-21、2014、Barcelona、Spain、published in Eur. J. Cancer 2014、50 (Suppl. 6)、13~14頁、Abs. No. 23.
- 51th ASCO Annual Meeting、May 29-June 2、2015、Chicago、IL、Abstract No. TPS2604及びAbstract Nr. 7509、published in J. Clin. Oncol. 33、2015 (suppl);
- 54th ASCO Annual Meeting、June 1-5、2018、Chicago、IL、Abstract No. 11519、published in J. Clin. Oncol. 36、2018 (suppl);
- Cruz, C.らJ. Clin. Oncol. 2018;in press 1-21;
- 54th ASCO Annual Meeting、June 1-5、2018、Chicago、IL、Abstract No. 8570、published in J. Clin. Oncol. 36、2018 (suppl);
【0050】
ルルビネクテジンは、いくつかの腫瘍タイプでシスプラチンと併せて第I相試験で評価された。Metaxasら(Lung Cancer 2016、12、136~138頁)は、前記第I相試験内の悪性中皮腫の2人の患者の予備的な毒性及び有効性データについて報告している。Metaxasは、「シスプラチンと新規化合物ルルビネクテジンの併用は、悪性中皮腫に投与するのに安全であると思われ、さらなる全身緩和治療として有望な有効性を示す。このため、中皮腫患者にこの組合せを使用した臨床試験を評価するべきである。」と結論付けた。Metaxasは、ルルビネクテジンが単独療法として効果的であり得るとの示唆はしていない。
【0051】
用語「ルルビネクテジン」は、ここでは、患者への投与時に本明細書に記載された化合物を(直接又は間接的に)提供することができる任意の薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物、水和物、プロドラッグ、又は任意の他の化合物を包含するものである。しかしながら、当然のことながら、薬学的に許容される塩の調製に有用である可能性があるので、薬学的に許容されない塩も本発明の範囲内に含まれる。塩の調製は、当技術分野で公知の方法によって実施することができる。
【0052】
例えば、本明細書で提供される化合物の薬学的に許容される塩は、従来の化学的方法によって、塩基性又は酸性部分を含有する親化合物から合成される。一般に、このような塩は、例えば、これらの化合物の遊離酸又は塩基と化学量論量の適切な塩基又は酸とを水又は有機溶媒又は両方の混合物中で反応させることによって調製される。一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、2-プロパノール又はアセトニトリルのような非水性媒体が好ましい。酸付加塩の例には、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の鉱酸付加塩、並びに例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩及びp-トルエンスルホン酸塩等の有機酸付加塩が含まれる。アルカリ付加塩の例には、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム及びアンモニウム塩等の無機塩、並びに例えば、エチレンジアミン、エタノールアミン、N,N-ジアルキレンエタノールアミン、トリエタノールアミン及び塩基性アミノ酸塩等の有機アルカリ塩が含まれる。
【0053】
ルルビネクテジンのプロドラッグである任意の化合物は、本発明の範囲及び精神の中にある。用語「プロドラッグ」は、その最も広い意味で使用され、in vivoでPM01183に変換されるそれらの誘導体を包含する。プロドラッグは、加水分解、酸化、又は生物学的条件下における他の方法で反応してPM01183を提供することができる。プロドラッグの例には、それだけには限定されないが、生加水分解性アミド、生加水分解性エステル、生加水分解性カルバメート、生加水分解性カーボネート、生加水分解性ウレイド、及び生加水分解性フォスフェート類似体等の生加水分解性部分を含むPM01183の誘導体及び代謝物が含まれる。プロドラッグは、通常、Burgerによって「Medicinal Chemistry and Drug Discovery」6th ed.(Donald J. Abraham ed.、2001、Wiley)及び「Design and Applications of Prodrugs」(H. Bundgaard ed.、1985、Harwood Academic Publishers)に記載されているような、よく知られた方法を用いて調製することができる。
【0054】
その上、本明細書に言及されている任意の薬物は、遊離化合物又は溶媒和物(例えば水和物)のいずれかとして結晶又は非晶質形態であってもよく、全ての形態が本発明の範囲内であるものとする。溶媒和の方法は一般に、当技術分野で公知である。
【0055】
更に、本発明によって使用するためのルルビネクテジンは、参照により本明細書に組み込まれている国際公開第03/014127号に開示されているもの等の合成プロセスに従って調製することができる。
【0056】
「悪性中皮腫」は、悪性(癌)細胞が胸膜(胸腔を覆い、肺を包む薄層の組織)又は腹膜(腹部を覆い、腹部のほとんどの臓器を包む薄層の組織)に見られる疾患である。悪性中皮腫は、心臓又は精巣にも形成されるが、これは稀である。したがって、4タイプの中皮腫は、胸膜(肺の内層)、腹膜(腹部の内層)、心膜(心臓の嚢)及び精巣である。
【0057】
中皮腫はまた、3つの癌細胞タイプ:類上皮、肉腫様及び二相性によって識別することもでき、したがって類上皮中皮腫(類上皮性細胞)、肉腫様中皮腫(肉腫様細胞)又は二相性中皮腫(類上皮性及び肉腫様細胞)と定義することができる。
【0058】
胸膜は、最も一般的な中皮腫である。症例の約70%~75%が胸膜で発生する。腹膜疾患は、中皮腫の症例の10%~20%を占める。胸膜と比較して腹膜について利用可能な研究は少ない;しかしながら、この腫瘍タイプの予後はより良い。心膜中皮腫は、非常に稀である。約200症例が医学文献で報告されている。精巣中皮腫は、精巣の内層に発生する。この形態の中皮腫が最も稀である。100未満の症例が医学文献で報告されている。
【0059】
中皮腫細胞の3つの種類は、上皮性、肉腫様及び二相性である。二相性は、最初の2つの細胞タイプを混合したものである。異なる中皮腫腫瘍は、治療に対する反応が異なる。上皮又は類上皮細胞は通常治療に最も良く反応し、肉腫様細胞は通常治療により耐性がある。
【0060】
類上皮中皮腫は、アスベスト関連中皮腫癌の全ての症例の約70%~75%を占める。類上皮細胞は通常、最も良い予後をもつ。侵襲性がより低い傾向があり、肉腫様及び二相性細胞疾患ほど急速に広がらない。胸膜疾患の約50%が類上皮である。腹膜腫瘍の約75%が、類上皮細胞で占められている。
【0061】
肉腫様は、最も一般的でない中皮腫細胞カテゴリーである。それは通常最も侵襲性であり、治療が難しい。それは全ての中皮腫診断の約10%~20%を占める。胸膜腫瘍の約20%は肉腫様であるが、腹膜中皮腫の1%だけが肉腫性である。
【0062】
二相性中皮腫は、上皮及び肉腫様細胞を含有する腫瘍を意味する。二相性中皮腫であるとの診断後の平均余命は、どの細胞が腫瘍中で優勢であるかによって決まる。類上皮細胞がより多いと、一般に予後がより良いことを意味する。腫瘍がほとんど肉腫性の場合、治療するのがより難しく、平均余命がより短い。約30%の胸膜及び25%の腹膜腫瘍が二相性細胞である。
【0063】
細胞タイプによる中皮腫腫瘍の罹患率
【0064】
【表1】
【0065】
医学文献で報告された限られた数の症例に基づいて、心膜中皮腫は、3つの中皮腫細胞タイプのほぼ等しい分布を示す。精巣中皮腫の症例の約3分の2は、類上皮性細胞である。精巣の症例の残りは、二相性である。純粋な肉腫様細胞疾患の1症例のみが精巣中皮腫で報告されている。
【0066】
本発明は、好ましくは悪性胸膜中皮腫(MPM)の治療のためのルルビネクテジンの使用である。
【0067】
治療すべき悪性中皮腫は、類上皮であってもよい。治療すべき悪性中皮腫は、肉腫様であってもよい。治療すべき悪性中皮腫は、二相性であってもよい。本発明により、本発明に基づくルルビネクテジンを用いた治療は、肉腫様及び類上皮性悪性中皮腫の予後を同等にすることが判明した。肉腫様(二相性を含む)癌では予後がより悪いため、本発明は、肉腫様又は二相性悪性中皮腫の患者に特に恩恵がある。
【0068】
「進行性悪性中皮腫」は、第一選択療法後に疾患が進行した状況である。一実施形態では、本発明は、標準的な治療後に進行を経験する患者の治療を対象とする。
【0069】
「第一選択療法」は、患者に与えられた初期の治療を意味する。悪性中皮腫の標準的な第一選択療法は、通常手術を伴う又は伴わないプラチナ-ペメトレキセド化学療法、及び潜在的に追加的な放射線治療である。したがって、標準的な第一選択療法は、プラチナ-ペメトレキセド化学療法、プラチナ-ペメトレキセド化学療法及び手術、プラチナ-ペメトレキセド化学療法及び放射線治療又はプラチナ-ペメトレキセド化学療法及び手術に加えて放射線治療を含んでいてもよい。
【0070】
第一選択療法は、或いは、免疫療法又はプラチナ-ペメトレキセド化学療法及び免疫療法であってもよい。免疫療法は、抗PD-1、抗PD-L1若しくは抗CTLA-4療法、又はその組合せ、例えば抗体療法であってもよい。
【0071】
第一選択療法は、或いは、異なる療法、例えばベバシズマブ等のVEGF阻害剤を含む抗血管新生療法であってもよい。
【0072】
したがって、本発明による進行性療法は、手術を伴う又は伴わないプラチナ-ペメトレキセド化学療法、及び潜在的に追加的な放射線治療の後であってもよい。本発明による進行性療法は:プラチナ-ペメトレキセド化学療法及び免疫療法;免疫療法;他の療法の後、例えばベバシズマブ等のVEGF阻害剤を含む抗血管新生療法を用いた治療後であってもよい。
【0073】
進行性治療は、第二選択療法であってもよい。進行性治療は、第三又はさらなる選択治療であってもよく、例えば上記に概説されたいくつかの療法に従ってもよい。
【0074】
例えば、本発明による進行性療法が第三選択療法の場合、第二選択療法は免疫療法であってもよい。
【0075】
「単独療法」は、単独の化学療法剤として、併用しないでルルビネクテジンで患者が治療されることを意味する。例えば、患者は、ルルビネクテジン単独で治療され、白金製剤、例えばシスプラチンと併せたルルビネクテジンでは治療されない。ルルビネクテジン単独療法は、しかしながら、他の医薬、例えば、抗嘔吐薬等から患者を排除するものではない。実施形態では、ルルビネクテジン単独療法は、放射線治療を含んでいてもよい。
【0076】
抗嘔吐薬は、コルチコステロイド又はセロトニン(5-HT3)アンタゴニストであってもよい。実施形態では、他の医薬には、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)が含まれる。したがって、いくつかの実施形態では、ルルビネクテジン単独療法には、抗嘔吐薬、G-CSF又はGM-CSFの投与が含まれる。いくつかの実施形態では、ルルビネクテジン単独療法には、抗嘔吐薬及び/又はG-CSFの投与が含まれる。いくつかの実施形態では、ルルビネクテジン単独療法には、G-CSFの投与が含まれる。G-CSFの投与は、グレード3~4の好中球減少症の発生率を減少させることが示されている。
【0077】
前述のように、患者は、ルルビネクテジン及び他の治療薬で治療することができる。本発明の一実施形態では、悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルが提供されており、ここで、ルルビネクテジンを用いた治療は、ルルビネクテジンと白金製剤の併用治療を除外する。本発明の一実施形態では、悪性中皮腫の治療に使用するためのルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルが提供されており、ここで、ルルビネクテジンを用いた治療は、ルルビネクテジンとシスプラチンの併用治療を除外する。したがって、これらの実施形態は、前の選択療法(例えば、第一選択療法)で使用されている白金療法(例えば、シスプラチン療法)を除外しない。
【0078】
「放射線治療」は、本発明の他の実施形態では、前記治療が必要な患者が、放射線治療を、ルルビネクテジンを用いた治療(前、最中、後を含む)と共に受けることを意味する。本発明の実施形態では、患者は、ルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル及び放射線治療で治療される。一実施形態では、放射線治療が、ルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルの投与の前又は後、好ましくはルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルの投与の少なくとも1時間、3時間、5時間、12時間、1日、1週間、1カ月、より好ましくは数カ月(例えば3カ月以下)前又は後に実施される。
【0079】
ルルビネクテジンは、1~5mg/m2体表面積、2~3mg/m2体表面積、約3mg/m2体表面積、3~3.5mg/m2体表面積、又は3.2mg/m2体表面積の用量で患者に投与されてもよい。
【0080】
本発明の実施形態では、グレード2以上の毒性の場合、治療は、グレード0~1に解消するまで控える。グレード3~4の毒性では、用量は、2.6mg/m2 3週毎に1回(1回目の発生)又は2.0mg/m2(2回目の発生)に減少させてもよい。グレード3~4の毒性の3回目の再発生の場合、治療は、永続的に控えてもよい。
【0081】
白血球減少症グレード3~4及び/又は熱性好中球減少症に関して、二次顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)予防を始めてもよい。これは、1レベルの用量減少を伴う場合がある。
【0082】
ルルビネクテジン又はその薬学的に許容される塩若しくはエステル、及び薬学的に許容される担体を含む薬剤組成物は、選択された投与経路に基づいて製剤することができる。投与形態の例には、それだけには限らないが経口、局所、非経口、舌下、直腸、膣、目及び鼻腔内が含まれる。非経口投与には、皮下注射、静脈内、筋肉内、胸骨内注射又は注入法が含まれる。好ましくは、組成物は、非経口的に投与される。本発明の薬剤組成物は、動物、好ましくはヒトへの組成物の投与時に本発明による化合物が生物学的に利用可能であるように製剤することができる。組成物は、1つ又は複数の単位用量の形態をとることができ、その場合、例えば、錠剤は、単一単位用量であってよく、本発明による化合物の容器は、化合物を液体又はエアゾール形態で含有していてよく、単一又は複数の単位用量を保持していてもよい。
【0083】
薬学的に許容される担体又はビヒクルは、微粒子であり得るので、組成物は、例えば、錠剤又は粉末形態である。担体(複数可)は、液体であり得、組成物は、例えば、経口シロップ又は注射用液剤である。加えて、担体(複数可)は、例えば吸入投与に有用なエアゾール組成物を提供できるように、気体、又は液体であり得る。粉末も吸入投与形態に使用することができる。用語「担体」は、本発明による化合物が一緒に投与される希釈剤、アジュバント又は賦形剤を指す。このような薬剤用担体は、液体、例えば水及び落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油等の石油、動物、野菜又は合成起源のものを含めた油であり得る。担体は、生理食塩水、アラビアゴム、ゼラチン、デンプンペースト、タルク、ケラチン、コロイドシリカ、尿素、二糖類等であり得る。加えて、助剤、安定化剤、増粘剤、滑剤及び着色剤を使用してもよい。一実施形態では、動物に投与する場合、本発明による化合物及び組成物、並びに薬学的に許容される担体は、無菌である。水は、本発明による化合物が静脈内に投与される場合に好ましい担体である。生理食塩水溶液及び水性デキストロース及びグリセロール溶液もまた、液体担体、特に注射可能溶液として使用することができる。適当な薬剤用担体はまた、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、穀粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール等の賦形剤を含む。本発明の組成物は、必要に応じて、少量の湿潤剤若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤も含有し得る。
【0084】
経口投与を意図する場合、組成物は、好ましくは固体又は液体形態であり、この場合、半固体、半液体、懸濁物及びゲルの形態は、固体又は液体のいずれかとして本明細書で考慮される形態内に含まれる。
【0085】
経口投与用の固体組成物として、組成物は、粉末、顆粒、圧縮錠剤、丸剤、カプセル、チューインガム、ウエハース等の形態に製剤され得る。このような固体組成物は、通常1種又は複数の不活性希釈剤を含有する。加えて、以下の1つ又は複数が存在し得る:カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、微結晶性セルロース、又はゼラチン等の結合剤;デンプン、ラクトース又はデキストリン等の賦形剤、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、コーンスターチ等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム等の滑剤;コロイド状二酸化ケイ素等の潤滑剤;スクロース又はサッカリン等の甘味剤;ペパーミント、サリチル酸メチル又はオレンジ香料等の矯味矯臭剤;及び着色剤。
【0086】
組成物がカプセル(例えばゼラチンカプセル)の形態の場合、それは、上記のタイプの材料に加えてポリエチレングリコール、シクロデキストリン又は脂肪油等の液体担体を含有し得る。
【0087】
組成物は、液体、例えばエリキシル剤、シロップ、溶液、乳濁液又は懸濁物の形態であり得る。液体は、経口投与又は注射による送達に有用であり得る。経口投与を意図する場合、組成物は、1種又は複数の甘味剤、防腐剤、色素/着色剤及び調味料を含み得る。注射による投与のための組成物では、1種又は複数の界面活性剤、防腐剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定剤及び等張剤も含まれ得る。
【0088】
好ましい投与経路は、それだけには限らないが、皮内、筋肉内、腹膜内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、脳内、心室内、くも膜下腔内、膣内又は経皮を含む、非経口投与である。好ましい投与様式は、医師の裁量に任せられ、医療状態の部位に部分的に依存するであろう。より好ましい実施形態では、本発明による化合物は、静脈内に投与される。24時間以下の注入時間が使用するのに好ましく、より好ましくは1~12時間であり、1~6時間が最も好ましい。病院に一晩滞在することなく治療を可能にする短い注入時間が特に望ましい。しかしながら、注入は、12~24時間又は必要に応じて更に長くてもよい。注入は、例えば、1~4週間の適当な間隔で、好ましくは3週に1回実施してもよい。
【0089】
本発明の液体組成物は、溶液、懸濁物又は他の類似形態のいずれであっても、以下の1種又は複数も含み得る:注射用水、生理食塩水、好ましくは生理学的生理食塩水、リンゲル液、等張性塩化ナトリウム、合成モノ若しくはジグリセリド等の不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、又は他の溶媒等の無菌の希釈剤;ベンジルアルコール又はメチルパラベン等の抗菌剤;並びに塩化ナトリウム若しくはデキストロース等の等張化剤。非経口組成物は、ガラス、プラスチック若しくは他の材料製のアンプル、使い捨てシリンジ又は多用量バイアルに封入され得る。生理学的生理食塩水は、好ましいアジュバントである。
【0090】
組成物は、適当な投与量が得られるような有効量のルルビネクテジンを含む。ルルビネクテジンの正確な投与量は、特定の製剤、投与様式、並びにその特定の部位及び宿主によって異なるであろう。年齢、体重、性別、食事、投与時間、排泄率、宿主の状態、薬物の組合せ、反応感受性及び疾患の重症度等の他の因子も考慮に入れるべきである。投与は、最大耐量内で連続的に又は継続的に実施することができる。
【0091】
用量は、用量制限毒性に関する既存のデータを考慮した投与スケジュールに従って選択することになり、それについては、例えば、本発明の背景で引用された上記の第I相研究を参照されたい。これらの文献はまた、その全文が参照により本明細書に取り込まれている。
【0092】
通常、量は、少なくとも約0.01%のルルビネクテジンであり、組成物の少なくとも80質量%を占める可能性がある。経口投与を意図する場合、この量は、組成物の約0.1%~約80質量%の間で変わり得る。好ましい経口組成物は、組成物の約4質量%~約50質量%のルルビネクテジンを含み得る。
【0093】
本発明の好ましい組成物は、非経口単位用量が約0.01%~約10質量%のルルビネクテジンを含有するように調製される。より好ましい非経口単位用量は、約0.5%~約5質量%のルルビネクテジンを含有する。
【0094】
静脈内投与の場合、組成物は、動物の体重の約0.01mg/kg~約250mg/kg、好ましくは動物の体重の約0.01mg/kg~約20mg/kg、より好ましくは動物の体重の約0.01mg/kg~約10mg/kg、約0.01mg/kg~約1mg/kg、約0.01mg/kg~約0.5mg/kg、約0.01mg/kg~約0.2mg/kg、約0.05mg/kg~約0.2mg/kg、約0.08mg/kg~約0.2mg/kg、約0.07mg/kg~約0.15mg/kg、約0.07mg/kg~約0.12mg/kg、約0.07mg/kg~約0.1mg/kg、約0.08mg/kg~約0.09mg/kgの用量に適している。
【0095】
ルルビネクテジンは、任意の都合の良い経路によって、例えば注入又はボーラス注射によって、上皮又は粘膜皮膚の内面を介した吸収によって投与することができる。
【0096】
特定の実施形態では、ルルビネクテジン、又は組成物を、治療を必要とする領域に局所的に投与することが望ましい可能性がある。一実施形態では、癌、腫瘍又は新生物組織若しくは新生物発生前組織の部位(又は以前の部位)への直接注射によって、投与することができる。
【0097】
肺投与も、例えば、吸入器若しくはネブライザー及びエアゾール化剤を含む製剤の使用によって、又はフルオロカーボン若しくは合成肺表面活性物質中での灌流を介して、行なうこともできる。ある実施形態では、ルルビネクテジンは、伝統的な結合剤及びトリグリセリド等の担体と一緒に、坐剤として製剤することができる。
【0098】
本発明の組成物は、溶剤、懸濁剤、乳濁剤、錠剤、丸剤、ペレット、カプセル、液体を含有するカプセル、散剤、徐放製剤、坐剤、乳濁液、エアゾール、スプレー、懸濁剤、又は使用に適した任意の他の形態といった形をとることができる。適当な薬剤用担体の他の例は、E. W. Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。
【0099】
薬剤組成物は、医薬分野でよく知られている方法論を使用して調製され得る。例えば、注射による投与を意図する組成物は、溶液を形成するように、ルルビネクテジンと水、又は他の生理学的に適した希釈剤、例えばリン酸緩衝生理食塩水とを混合することにより調製され得る。界面活性剤は、均質な溶液又は懸濁物の形成を促進するために添加され得る。
【0100】
本発明による好ましい組成物には下記が含まれる:
・ ルルビネクテジン及び二糖類を含む薬剤組成物。特に好ましい二糖類は、ラクトース、トレハロース、スクロース、マルトース、イソマルトース、セロビオース、イソサッカロース、イソトレハロース、ツラノース、メリビオース、ゲンチオビオース、及びその混合物から選択される。
・ ルルビネクテジン及び二糖類を含む凍結乾燥された薬剤組成物。特に好ましい二糖類は、ラクトース、トレハロース、スクロース、マルトース、イソマルトース、セロビオース、イソサッカロース、イソトレハロース、ツラノース、メリビオース、ゲンチオビオース、及びその混合物から選択される。
【0101】
本発明の実施形態におけるルルビネクテジンの二糖類に対する比は、二糖類の溶解度に応じて決定され、製剤を凍結乾燥する場合、同様に二糖類の凍結乾燥性によっても決定される。このルルビネクテジン:二糖類の比(w/w)は、いくつかの実施形態では約1:10、他の実施形態では約1:20、更に他の実施形態では約1:50になり得ると想定される。他の実施形態は、約1:5~約1:500の範囲にあるような比を有し、更に他の実施形態は、約1:10~約1:500の範囲にあるような比を有すると想定される。
【0102】
本発明によるルルビネクテジンを含む組成物は、凍結乾燥され得る。ルルビネクテジンを含む組成物は、通常所定量のそのような化合物を含有するバイアル中に存在する。
【0103】
以下の実施例は、本発明を更に例示する。本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0104】
より簡潔な説明を提供するため、本明細書で与えられたいくつかの定量的表現は、用語「約(about)」で限定されない。当然のことながら、用語「約」が明示的に使用されてもされなくても、本明細書における所与の各量は、実際の所与の値を指すことを意味し、また、このような所与の値についての実験的条件及び/又は測定条件による等価物及び近似を含む、当技術分野における通常の技術に基づき合理的に推論されるこのような所与の値への近似を指すことを意味する。
【実施例
【0105】
進行性悪性胸膜中皮腫(MPM)の治療におけるルルビネクテジンの有効性を評価するために、第II相単群多施設国際共同試験を行なった。
【0106】
方法
結果
主要エンドポイントは、登録後の最初の12週(±2週)の間に進行又は何らかの原因による死亡がないことと定義される、12週時点の無増悪生存期間(PFS12wks)であった。副次エンドポイントには、登録から放射線学的進行又は何らかの原因による死亡のいずれかが先に発生するまでの時間と定義される、無増悪生存期間(PFS);登録から何らかの原因による死亡までの時間と定義される、全生存期間(OS);試験治療中に完全寛解(CR)又は部分寛解(PR)を達成した患者の割合と定義される、客観的奏効率(ORR);CR、PR及び安定疾患(SD)(少なくとも12週間(SD≧12wks))との合計と定義される、病勢コントロール率(DCR);CR、PR又はSD≧12wksを有する患者の登録から進行又は何らかの原因による死亡のいずれかが先に発生するまでの時間と定義される、病勢コントロールの持続;及び有害事象(AE)が含まれていた。全てのAEを、NCI CTCAE v4.03に従って評価した。追跡できなかった患者は、生存が確認された最後の日に打ち切った。
【0107】
研究集団
この試験は、スイスの6施設及びイタリアの3施設で実施した。この臨床試験に参加した対象は、組織学的又は細胞学的に確認されたMPM、米国東海岸癌臨床試験グループ(ECOG)ステータスが0~1であり、1ラインのプラチナ-ペメトレキセド化学療法の間又は後に局所治療に適応できないまま進行した成人(年齢18歳以上)患者であった。さらなる選択基準には、十分な肝機能、腎機能及び骨髄機能を必要とした(好中球絶対数≧2×109/L、血小板数≧100×109/L;アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ及びアラニンアミノトランスフェラーゼ≦3.0×ULN;クレアチニンクリアランス≧30mL/分/1.73)。
【0108】
適格な患者は、更に免疫療法の前治療は1ラインまで受けることができたが、ペメトレキセド再チャレンジを含む複数のラインの化学療法は、許可されなかった。さらなる除外基準は、既知の脳転移又は軟髄膜疾患、登録前5年以内の他の血液又は原発性固形腫瘍の病歴(治癒的に治療された皮膚の基底細胞癌又は扁平上皮癌、適切に治療されたin situ悪性黒色腫、in situ子宮膣部癌又はグリーソンスコア6以下のpT1-2前立腺癌を除く)、抗癌手術又は放射線治療の併用(局所疼痛管理又は胸膜癒着を除く)及び以前の治療に由来するグレード2以上の有害事象を対象とした。
【0109】
手順
ルルビネクテジンを、3週毎に3.2mg/m2の用量で1時間の静脈内注入として末梢又は中心静脈を介して与えた。標準的な抗嘔吐薬による予防(コルチコステロイド又はセロトニン(5-HT3)アンタゴニスト)を、化学療法の前に施した。Povedaら(J. Clin Oncol 2014、32:52 (suppl; abstr 5505))によって報告されたように、卵巣癌試験で利用可能な第I及び第II相臨床データによって示唆された、ルルビネクテジンとアプレピタントで起こり得る顕著な相互作用のため、抗嘔吐薬による予防としてのアプレピタントの使用は、禁止された。ルルビネクテジンは、進行、許容できない毒性又は患者の同意の撤回まで継続された。グレード2以上の毒性が発生した場合、治療は、グレード0~1に解消するまで控えられ;グレード3~4の毒性では、更に3週毎に2.6mg/m2に(1回目の発生)、又は2.0mg/m2(2回目の発生)に用量減少した。グレード3~4の毒性の3回目の再発生の場合、治療は、永続的に中止した。特に白血球減少症グレード3~4及び/又は熱性好中球減少症では、強制的な二次G-CSF予防と共に1レベルの用量減少があった。
【0110】
患者は、臨床的に及び化学療法投与時に臨床検査で、更に6週毎のコントラスト増強CT-又はPET/CTスキャンで追跡された。Byrneら(Ann Oncol、2004、15、257~260頁)によって示されたように、悪性中皮腫のために修正された固形癌効果判定規準(RECIST)により、放射線スキャンは、局所的に評価された。何らかの理由で治療を中止した場合、有害事象は、最後の治療適用後30日間で報告された。明らかな進行なしにルルビネクテジンを停止した場合、追跡期間中8週毎に放射線スキャンを行ない、それ以外では、患者は、生存状態について12週毎に電話で追跡調査された。
【0111】
統計的分析
Simon R.(Control Clin Trials. 1989 Mar;10(1):1~10頁)によって示されたように、サイモンの2段階設計を使用した。本発明者らの帰無仮説p0をPFS12wks≦35%に設定し、PFS中央値≦2カ月に変換した。有意水準5%及び検出力80%で、10%(4人の患者)の評価不可能な患者を考慮に入れて合計サンプルサイズを計算して42人の患者となった。
【0112】
第一段階に基づく中間有効性分析が計画され、Herndon's approach(Control Clin Trials、1998、19、5、440~50頁)を適用して、第二段階の発生を継続した。有効性の結果に関係なく、7人以下の患者がPFS12wksを経験した場合、又は許容できない毒性の発生により、試験は早期に中止される。試験の終わりに、p0が拒絶された場合、治療は有望であると見なされ、PFS12wksの90%信頼区間(CI)の下限が35%よりも高かったことを意味する。
【0113】
患者の基準特徴及び治療期間を記述的にまとめた。Jungら(Stat Med. 2004 Mar 30; 23(6): 881~96頁)によって例示されているように、PFS12wksは、その対応する90%信頼区間(CI)と共に、一様最小分散不偏推定量を使用して推定した。時間-事象(time-to-event)エンドポイントを、その対応する95%CIと共にカプラン-マイヤー法を使用して計算した。分類別エンドポイントを、それらの対応する95%CIと共にクロッパー-ピアソン法を使用して記述的にまとめた。グループ間の生存曲線及び生存率は、それぞれ対数順位検定及びカプランマイヤー法を使用して特定の時点で比較した。Fisherら(Annu Rev Public Health. 1999; 20:145~57頁)によって論じられているように、その後の治療の生存への影響を、非比例ハザードモデルを使用して評価した。統計的有意性は、p値<0.05で設定した。全ての分析は、SAS(登録商標)9.4(SAS Institute Inc.社)及びR v3.5.1を使用して行なった。
【0114】
結果
患者
合計42人の患者が参加した。Table 1(表2)は、患者の基準特性を前の治療の情報と一緒に示す。年齢の中央値は、68.0年(範囲52~84)であり、大多数(83.3%)は男性であった。類上皮組織が33人(78.6%)及び非類上皮が9人の患者(21.4%)(二相性4人(9.5%)、肉腫様5人(11.9%))で見られた。前の全身治療を考慮して、32/42人の患者(76.2%)がプラチナ-ペメトレキセドを単独で受けたが、残りの10/42人(23.8%)は、更に1ラインの免疫療法を受けていた。
【0115】
【表2】
【0116】
成績
サイモンの2段階設計によって最初の21人の患者を分析した後、11人の患者(52.4%)がPFS12wksに達したので、研究は完全登録のために継続した。試験の終了に向け、登録は促進され、それにより、他の患者への通知を停止する前に、最終的に合計42人が既に含まれていた。
【0117】
ルルビネクテジンは、中央値5サイクル(範囲、1~22)で98日間(範囲、22~525)投与した。
【0118】
主要エンドポイントのPFS12wksには、22/42人の患者(52.4%;90%CI:38.7%~63.5%、p=0.015)が到達した。1人の患者はCR、1人はPRを示し、20人の患者は、ORRが4.8%及びDCRが52.4%の安定疾患であった。カプラン-マイヤー法を12週で使用すると、PFS12wksは63.5%(90% CI:49.7%~74.4%)であった。追跡時間の中央値である14.9カ月後、PFS中央値は4.1カ月(95%CI:2.6~5.5)であったが、図1に示すとおり、3、6及び9カ月のPFS%は、それぞれ58.4%(95%CI:41.8%~71.7%)、30.5%(95%CI:17.1%~44.9%)及び12.7%(95%CI:4.7%~24.9%)であった。病勢コントロールの継続時間の中央値は6.6カ月(95%CI:5.2~7.4)であり、6/22人の患者(27.3%)の病勢コントロールは8カ月以上続いた。
【0119】
Table 2(表3)に示すとおり、ルルビネクテジンの進行後、24人の患者が後の全身治療を受けた。
【0120】
【表3】
【0121】
分析時、26人の患者が死亡していた(進行:23;ウイルス性肺臓炎:1;自殺:1;心不全:1)。図2に示すとおり、OS中央値は、11.1カ月(95%CI:8.8~14.7)であり、6及び12カ月のOSは、それぞれ73.8%(95%CI:57.7%~84.6%)及び44.9%(95%CI:28.1%~60.3%)であった。後の全身治療を受けた患者は、残りの人よりも統計的に有意に長く生存しなかった(p=0.74)。
【0122】
組織学が治療結果に与える影響を評価した後、類上皮組織学と非類上皮組織学の間でそれぞれPFS12wks(63.6%対62.5%、p=0.952)、PFS中央値(4.1対3.7カ月、p=0.916)及びOS中央値(12.4対10.0カ月、p=0.562)に有意差は観察されなかった(図3及び図4)。同様のことが、化学療法を単独で受けた患者と別の前の免疫療法を受けている患者にも当てはまった(それぞれPFS12wks:61.4%対70%(p=0.628)、PFS中央値:4.1対3.2カ月(p=0.508)及びOS中央値11.9対10.4カ月(p=0.099))(図5及び図6)。
【0123】
14人の患者は、以前のプラチナ-ペメトレキセド化学療法において、6カ月未満で、また28人が6カ月以上で進行した。図7に示すとおり、PFS12wks及びPFS中央値は、同様であった(それぞれ53.8%対67.9%、p=0.381;3.0対4.3カ月、p=0.349)。図8に示すとおり、OS中央値は、前のペメトレキセドで6カ月以上の無増悪間隔をもつグループで有意に長かった(13.3対8.8カ月、p=0.023)。
【0124】
毒性
Table 3(表4)に示すとおり、全ての患者(100%)が少なくとも1つの任意のグレードの有害事象(AE)を経験し、治療関連AE(任意グレード)が38/42人の患者(90.5%)で観察された。
【0125】
【表4】
【0126】
ルルビネクテジン関連AEグレード3~4の毒性が、20/42人の患者(47.6%)で見られた。治療関連の死亡はなかった。最も一般的なルルビネクテジン関連AEグレード3~4は、好中球減少症(23.8%)及び疲労(16.7%)であったが、熱性好中球減少症が記録されたのは症例の9.5%だけであった。Table 4(表5)に示すとおり、他の全てのグレード3~4、ルルビネクテジン関連毒性は、10%未満であった。
【0127】
【表5A】
【0128】
【表5B】
【0129】
【表5C】
【0130】
12/42人の患者(28.6%)は、それらの治療経過中に少なくとも1用量減少があり、2/42人の患者が2用量減少を経験した。毒性が原因で中止した治療はなかった。用量減少の理由は、11/12症例(91.7%)でAE、1症例(8.3%)で医師の決定であった。グレード3~4のAEsが原因で用量が減少した10/11人の患者では、用量減少及び/又はG-CSF適用後にグレード3~4 毒性の再発生はなかったが、11番目の患者では、更にグレード3~4の毒性が原因の2回目の用量減少があった。治療は、21/42人の患者(50%)で少なくとも1回遅延された。降順で、その原因は、AE(26.2%)、患者の決定(23.8%)、管理上の理由(14.3%)、医師の決定(7.1%)及び必要な腫瘍評価の遅延(4.8%)であった。
【0131】
この研究から、ルルビネクテジンの投与は安全であり、許容できる安全性プロフィールを示すルルビネクテジンで十分許容されると結論付けることができる。試験は、許容できる毒性をもつ悪性中皮腫においてルルビネクテジンの有望な臨床活性を示した。ルルビネクテジンは、組織学又は前の免疫療法に関係なく作用することが示されている。加えて、前のプラチナ-ペメトレキセド療法による「緩徐」進行性の患者と「急速」進行性の患者の両方が、ルルビネクテジンの恩恵を受けていることが示されている。
【0132】
上記データは、悪性中皮腫の治療において単独療法としてのルルビネクテジンが安全で有効であることを実証するものである。上記データは、ルルビネクテジン単独療法が、標準的な療法から進行した、そうでなければ予後が非常に悪い難しい患者グループにおいて、疾患進行を逆転、弱毒化、又は阻害したことを実証している。この驚くべき発見は、例えば悪性胸膜中皮腫と悪性腹膜中皮腫の両方を含む、悪性中皮腫自体の治療における単独療法としてのルルビネクテジンの有用性を裏付けている。特に、データから、進行性悪性中皮腫、悪性胸膜中皮腫、及び進行性悪性胸膜中皮腫の治療におけるルルビネクテジン単独療法の有効性が実証されている。データから、ルルビネクテジンは、白金製剤、例えばシスプラチンとの併用療法として投与されない場合に有効であることが実証されている。したがって、データは、例えば悪性胸膜中皮腫及び悪性腹膜中皮腫の両方を含む、悪性中皮腫自体の治療におけるシスプラチン等の白金製剤の不在下で投与されたルルビネクテジンの有用性を裏付けている。
【0133】
類上皮中皮腫は通常、混合又は肉腫様中皮腫よりも良好な結果を示すが、データは、類上皮及び非類上皮の悪性胸膜中皮腫の間の結果に差がなかったことを示す。これは、ルルビネクテジンが、悪性中皮腫のこれらのサブタイプの予後を等しくする可能性があることを示唆する。
【0134】
データはまた、G-CSFがグレード3~4の好中球減少症の発生率を減少させたことを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】