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特表2022-547083グアニジンを含むATP調節性カリウムチャネル開口薬及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-10
(54)【発明の名称】グアニジンを含むATP調節性カリウムチャネル開口薬及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07D 213/82 20060101AFI20221102BHJP
   A61K 31/44 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
C07D213/82
A61K31/44
A61P9/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022514688
(86)(22)【出願日】2020-09-02
(85)【翻訳文提出日】2022-05-02
(86)【国際出願番号】 IL2020050953
(87)【国際公開番号】W WO2021044413
(87)【国際公開日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】62/895,195
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522084290
【氏名又は名称】ザルツマン グループ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャグタップ,プラカシュ
(72)【発明者】
【氏名】ザルツマン,アンドリュー ルーリー
【テーマコード(参考)】
4C055
4C086
【Fターム(参考)】
4C055AA01
4C055BA02
4C055BA03
4C055BA53
4C055BA58
4C055BB08
4C055BB17
4C055CA02
4C055CA03
4C055CA53
4C055CA58
4C055CB08
4C055CB17
4C055DA01
4C055DA53
4C055DA58
4C055DB08
4C055DB17
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC17
4C086MA55
4C086MA60
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA42
(57)【要約】
本発明は、ATP調節性カリウム(KATP)チャネル開口薬を含む化合物、及びそれらを含む医薬組成物に関する。これらの化合物及び組成物は、肺動脈性肺高血圧症及び肺静脈性肺高血圧症の予防、治療又は管理に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Iの化合物であって、
【化1】

式中、YはN、CH又はN(→O)である、式Iの化合物
又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、若しくは薬学的に許容される塩であって、
Aは、式IIの末端NH基によりピリジン、フェニル、又はピリジンオキシド環の任意の炭素原子と結合する式IIの部分であり、
【化2】

は、各々独立してハロゲン、-COR,-COOR,-CON(R,-OCOOR,又は-OCON(Rから選択される1個、2個、3個、4個、又は5個の置換基であり、
は、H、-OH、-O-(C~C)アルキル、-CO-(C~C)アルキル、-COO-(C~C)アルキル、-CN、-CONH、又は-NHから選択され、
は、(C~C10)アリール、又は6~10員環ヘテロアリールで任意選択的に置換された、(C~C12)アルキル、(C~C10)シクロアルキル、3~7員環ヘテロシクリル、(C~C10)アリール、又は5~10員環ヘテロアリールであり、
は各々独立して、-OR、-OSO 、-OPO 2-、-OCF、-CF、-OCOR、-COR、-COOR、-OCOOR、-OCON(R、-(C~C)アルキレン-COOR、-CN、-NO、-ONO、-SR、-N(R、-CON(R、-SO、-S(=O)R、又はグルクロン酸のヒドロキシル基又はカルボキシル基を介して結合したグルクロン酸から選択された1つ又は複数の基で任意選択的に置換された、H、(C~C10)シクロアルキル、3~12員環ヘテロシクリル、(C~C14)アリ-ル、又は(C~C)アルキルから選択され、そして
は各々独立して、H、(C~C)アルキル、(C~C)アルケニル、又は(C~C)アルキニルから選択される、
化合物又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、若しくは薬学的に許容される塩。
【請求項2】
(i)YはNであり、そしてAは、前記ピリジン環の2位、3位、又は4位と結合し、(ii)YはCHであり、Aは、前記フェニル環の任意の位置と結合し、又は(iii)YはN(→O)であり、Aは、1-オキシピリジン環の2位、3位又は4位と結合する、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
は各々独立してハロゲン、-COR、-COOR、-CON(R、-OCOOR、又は-OCON(Rから選択された1個、2個又は3個の置換基であり、Rは各々独立してH、又は各々独立して-OR、-OSO 、-OPO 2-、-COOR、-OCON(R、-NO、-ONO、-N(R、-CON(R、又はグルクロン酸のヒドロキシル基又はカルボキシル基を介して結合したグルクロン酸から選択される1つ又は複数の基で任意選択的に置換された、(C~C)アルキルである、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
は-CON(Rであり、Rの1つはHであり、Rの他の1つは-CHOH、-(CH-OH、-(CH-OH、又は-(CH-OHである、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
は、-CNである、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項6】
は、(C~C10)アリール若しくは6~10員環ヘテロアリール又は(C~C10)シクロアルキルで任意選択的に置換された(C~C12)アルキルである、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項7】
は、-C(CHCHCH(2-メチルブチル-2-イル)などの分岐した(C~C)アルキルである、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
は、各々独立してH、又は(C~C)アルキルである、請求項1又は2の記載の化合物。
【請求項9】
YはNであり、Aは、前記ピリジン環の2位、3位又は4位と結合し、Rは各々独立してハロゲン、-COR、-COOR、-CON(R、-OCOOR、又は
-OCON(Rから選択される1、2又は3個の置換基であり、Rは、各々独立してH、又は-OR、-OSO 、-OPO 2-、-COOR、-OCON(R、-NO、-ONO、-N(R、-CON(R、又はグルクロン酸のヒドロキシル基又はカルボキシル基を介して結合されたグルクロン酸から各々独立して選択される1つ又は複数の基で任意選択的に置換された(C~C)アルキルであり、Rは-CNであり、Rは(C~C10)アリール若しくは6~10員環ヘテロアリール又は(C~C10)シクロアルキルで任意選択的に置換された(C~C12)アルキルであり、そしてRは各々独立してH、又は(C~C)アルキルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
は-CON(Rであり、Rの1つはHであり、Rの他の1つは-CHOH、-(CH-OH、-(CH-OH、又は-(CH-OHであり、Rは分岐した(C~C)アルキルである、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
は2-メチルブチル-2-イルである、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
(i)Aは、前記ピリジン環の2位に結合し、そしてRは基Aとオルト、メタ、又はパラ位で結合し、(ii)Aは、前記ピリジン環の3位に結合し、そしてRは基Aとオルト、メタ、又はパラ位で結合し、又は(iii)Aは、前記ピリジン環の4位に結合し、そしてRは基Aとオルト又はメタ位で結合する、請求項10又は11に記載の化合物。
【請求項13】
の1つはHであり、Rの他の1つは-CHCHOHであり、Rは2-メチルブチル-2-イルであり、そして
(i)Aは前記ピリジン環の2位に結合し、そしてRは前記ピリジン環の3位、4位、5位、又は6位に結合し、本明細書中でそれぞれ化合物101、102、103、及び104と称され、
(ii)Aは前記ピリジン環の3位に結合し、そしてRは前記ピリジン環の2位、4位、5位、又は6位に結合し、本明細書中でそれぞれ化合物105、106、107、及び108と称され、又は
(iii)Aは前記ピリジン環の4位に結合し、そしてRは前記ピリジン環の2位又は3位に結合し、本明細書中でそれぞれ化合物109及び110と称される、
請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
Aは前記ピリジン環の3位に結合し、そしてRは前記ピリジン環の5位に結合する、請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
YはCHであり、Aは前記フェニル環の任意に位置に結合し、Rは各々独立してハロゲン、-COR、-COOR、-CON(R、-OCOOR、又は-OCON(Rから選択される1個、2個又は3個の置換基であり、Rは各々独立してH、又は各々独立して-OR、-OSO 、-OPO 2-、-COOR、-OCON(R、-NO、-ONO、-N(R、-CON(R、又はグルクロン酸のヒドロキシル基又はカルボキシル基を介して結合したグルクロン酸から選択される1つ又は複数の基で任意選択的に置換された(C~C)アルキルであり、Rは-CNであり、Rは(C~C10)アリール若しくは6~10員環ヘテロアリール又は(C~C10)シクロアルキルで任意選択的に置換された(C~C12)アルキルであり、そしてRは各々独立してH、又は(C~C)アルキルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項16】
は-CON(Rであり、Rの1つはHであり、Rの他の1つは-CH
OH、-(CH-OH、-(CH-OH、又は-(CH-OHであり、そしてRは分岐した(C~C)アルキルである、請求項15に記載の化合物。
【請求項17】
は2-メチルブチル-2-イルである、請求項16に記載の化合物。
【請求項18】
は基Aとオルト、メタ、又はパラ位で結合し、本明細書中でそれぞれ111、112、及び113と称される、請求項16又は17に記載の化合物。
【請求項19】
YはN(→O)であり、Aは、前記ピリジンオキシド環に2位、3位又は4位で結合し、Rは各々独立してハロゲン、-COR、-COOR、-CON(R、-OCOOR、又は-OCON(Rから選択される1個、2個又は3個の置換基であり、Rは各々独立してH、又は各々独立して-OR、-OSO 、-OPO 2-、-COOR、-OCON(R、-NO、-ONO、-N(R、-CON(R、又はグルクロン酸のヒドロキシル基又はカルボキシル基を介して結合したグルクロン酸から選択される1つ又は複数の基で任意選択的に置換された(C~C)アルキルであり、Rは-CNであり、Rは(C~C10)アリール若しくは6~10員環ヘテロアリール又は(C~C10)シクロアルキルで任意選択的に置換された(C~C12)アルキルであり、そしてRは各々独立してH、又は(C~C)アルキルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項20】
は-CON(Rであり、Rの1つはHであり、Rの他の1つは-CHOH、-(CH-OH、-(CH-OH、又は-(CH-OHであり、そしてRは分岐した(C~C)アルキルである、請求項19に記載の化合物。
【請求項21】
は2-メチルブチル-2-イルである、請求項20に記載の化合物。
【請求項22】
(i)Aは、前記ピリジンオキシド環に2位で結合し、そしてRは基Aにオルト、メタ、又はパラ位で結合し、本明細書中でそれぞれ化合物114、115、116、及び117と称され、
(ii)Aは、前記ピリジンオキシド環に3位で結合し、そしてRは基Aにオルト、メタ、又はパラ位で結合し、本明細書中でそれぞれ化合物118、119、120、及び121と称され、又は
(iii)Aは、前記ピリジンオキシド環に4位で結合し、そしてRは基Aにオルト又はメタ位で結合し、本明細書中でそれぞれ化合物122及び123と称される、
請求項20又は21に記載の化合物。
【請求項23】
請求項1~22のいずれか一項に記載の化合物、又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、若しくは薬学的に許容される塩、及び薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項24】
静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、鼻腔内投与、直腸投与、肛門投与、腟内投与、気管内投与、腹腔内投与、又は皮下投与用並びに吸入用に処方された請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
肺高血圧症(肺動脈性肺高血圧症又は肺静脈性肺高血圧症)の予防、治療又は管理のための請求項23又は24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記肺高血圧症は、肺動脈性肺高血圧症、左心疾患関連の肺高血圧症、肺疾患及び/又は低酸素血症関連の肺高血圧症、慢性血栓性疾患及び/又は慢性塞栓性疾患による肺高血圧症、並びに他の原因の肺高血圧症から選択される、請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
左右心臓シャントの外科的矯正を受けている先天性心臓欠損症の対象の急性で重篤な、周術期の肺高血圧症を予防又は管理のための、請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項28】
肺高血圧症(肺動脈性肺高血圧症又は肺静脈性肺高血圧症)の予防、治療又は管理方法に使用するための、請求項1~22のいずれか一項に記載の化合物、又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、若しくは薬学的に許容される塩。
【請求項29】
肺高血圧症(肺動脈性肺高血圧症又は肺静脈性肺高血圧症)の予防、治療又は管理の医薬組成物を調製するための、請求項1~22のいずれか一項に記載の化合物、又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、若しくは薬学的に許容される塩。
【請求項30】
これを必要とする対象における肺高血圧症(肺動脈性肺高血圧症又は肺静脈性肺高血圧症)の予防、治療又は管理方法であって、前記方法は、前記対象に治療有効量の請求項1~22のいずれか一項に記載の化合物、又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、若しくは薬学的に許容される塩を投与することを含む、方法。
【請求項31】
前記肺高血圧症は、肺動脈性肺高血圧症、左心疾患関連の肺高血圧症、肺疾患及び/又は低酸素血症関連の肺高血圧症、慢性血栓性疾患及び/又は慢性塞栓性疾患による肺高血圧症、並びに他の原因の肺高血圧症から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
左右心臓シャントの外科的矯正を受けている先天性心臓欠損症の対象の急性で重篤な、周術期の肺高血圧症を予防又は管理のための、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ATP調節性カリウム(KATP)チャネル開口薬を含む化合物、及びそれらを含む医薬組成物に関する。これらの化合物及び組成物は、肺動脈性肺高血圧症又は肺静脈性肺高血圧症の予防、治療又は管理に有用である。
【0002】
略語:DCM,ジクロロメタン;DMF,ジメチルホルムアミド;PBS,リン酸緩衝生理食塩水;THF,テトラヒドロフラン
【背景技術】
【0003】
肺高血圧症(PH)は、右心ストレイン及び肺細動脈床の筋肉化である、右室肥大と関連する肺循環の血圧の異常上昇であり、右心不全及び死亡につながることが多い。左右心室シャント手術に続発する過剰循環、肺細動脈及び肺細静脈の過剰な血管収縮、並びに右心不全を含む、PHに関連する多様なシナリオが知られている。とりわけ、胎児肺循環から新生児肺循環への移行の失敗、心室中隔欠損、動静脈管欠損、過剰なエンドセリン-1、一酸化窒素欠損症、肺線維症、僧帽弁逆流又は左心うっ血性心不全に続発する左房圧の上昇、微小塞栓、異常ヘモグロビン症、慢性閉塞性肺疾患、閉塞型睡眠時無呼吸、低酸素症、高所、減圧症、敗血症、成人呼吸促迫症候群、誤嚥性肺炎、神経性アドレナリン緊急症を含む、PHの発症を説明する多数の病因学が進歩してきた。PHは、世界人口の約1%及び65歳以上の人口のうち10%もの人に発症すると推定される。
【0004】
PHの治療は古典的には、根底にある素因の軽減及び血管拡張薬の投与に頼っている。後者の中には、エンドセリン-1拮抗薬、一酸化窒素ドナー、カルシウムチャネル拮抗薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬、プロスタサイクリン、酸素補給、高圧酸素、及び肺バイパス術用の体外膜型人工肺による酸素化がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】McCrory and Lewis,Methodology and grading for pulmonary hypertension evidence review and guideline development,Chest,2004,126,11-13
【非特許文献2】Galie,N.;Torbicki,A.;Barst,R.;Dartevelle,P.;Haworth,S.;Higenbottam,T.;Olschewski,H.;Peacock,A.;Pietra,G.;Rubin,L.J.;Simonneau,G.;Priori,S.G.;Garcia,M.A.;Blanc,J.J.;Budaj,A.;Cowie,M.;Dean,V.;Deckers,J.;Burgos,E.F.;Lekakis,J.;Lindahl,B.;Mazzotta,G.;McGregor,K.;Morais,J.;Oto,A.;Smiseth,O.A.;Barbera,J.A.;Gibbs,S.;Hoeper,M.;Humbert,M.;Naeije,R.;Pepke-Zaba,J.,Guidelines on diagnosis and treatment of pulmonary arterial hypertension. The task force on diagnosis and treatment of pulmonary arterial hypertension of the European Society of Cardiology,Eur Heart J.,2004,25,2243-2278
【非特許文献3】McGoon,M.;Gutterman,D.;Steen,V.;Barst,R.;McCrory,D.C.;Fortin,T.A.;Loyd,J.E.,Chest,2004,126,14S-34S
【非特許文献4】Hoffman,J.I.;Rudolph,A.M.;Heymann,M.A.,Pulmonary vascular disease with congenital heart lesions: pathologic features and causes.Circulation 1981,64,873-7
【非特許文献5】Burrows,F.A.;Klinck,J.R.;Rabinovitch,M.;Bohn,D.J.,Pulmonary hypertension in children: perioperative management.Can Anaesth Soc J 1986,33,606-28
【非特許文献6】Wheller,J.;George,B.L.;Mulder,D.G.;Jarmakani,J.M.,Diagnosis and management of postoperative pulmonary hypertensive crisis.Circulation 1979,60,1640-4
【非特許文献7】Rabinovitch,M.;Haworth,S.G.;Castaneda,A.R.;Nadas,A.S.;Reid,L.M.,Lung biopsy in congenital heart disease: a morphometric approach to pulmonary vascular disease.Circulation 1978,58,1107-22
【非特許文献8】Gorenflo,M.;Gu,H.;Xu,Z.,Peri-operative pulmonary hypertension in paediatric patients: current strategies in children with congenital heart disease.Cardiology 2010,116,10-7
【非特許文献9】Brown,K.L.;Ridout,D.A.;Goldman,A.P.;Hoskote,A.;Penny,D.J.,Risk factors for long intensive care unit stay after cardiopulmonary bypass in children.Critical Care Medicine 2003,31,28-33
【非特許文献10】Schulze-Neick,I.;Li,J.;Penny,D.J.;Redington,A.N.,Pulmonary vascular resistance after cardiopulmonary bypass in infants: effect on postoperative recovery. The Journal of thoracic and cardiovascular surgery 2001,121,1033-9
【非特許文献11】Harrison,A.M.;Cox,A.C.;Davis,S.;Piedmonte,M.;Drummond-Webb,J.J.;Mee,R.B.,Failed extubation after cardiac surgery in young children: Prevalence, pathogenesis, and risk factors. Pediatric critical care medicine : a journal of the Society of Critical Care Medicine and the World Federation of Pediatric Intensive and Critical Care Societies 2002,3,148-152
【非特許文献12】Bando,K.;Turrentine,M.W.;Ensing,G.J.;Sun,K.;Sharp,T.G.;Sekine,Y.;Girod,D.A.;Brown,J.W.,Surgical management of total anomalous pulmonary venous connection. Thirty-year trends. Circulation 1996,94,II12-6
【非特許文献13】Cobanoglu,A.;Menashe,V D.,Total anomalous pulmonary venous connection in neonates and young infants: repair in the current era. The Annals of thoracic surgery 1993,55,43-8;discussion 48-9
【非特許文献14】Yong,M.S.;d‘Udekem,Y.;Robertson,T.;Horton,S.;Dronavalli,M.;Brizard,C.;Weintraub,R.;Shann,F.;Cheung,M.;Konstantinov,I.E.,Outcomes of surgery for simple total anomalous pulmonary venous drainage in neonates.The Annals of thoracic surgery 2011,91,1921-7
【非特許文献15】Fraisse,A.;Butrous,G.;Taylor,M.B.;Oakes,M.;Dilleen,M.;Wessel,D.L.,Intravenous sildenafil for postoperative pulmonary hypertension in children with congenital heart disease. Intensive care medicine 2011,37,502-9
【非特許文献16】Lindberg,L.;Olsson,A.K.;Jogi,P.;Jonmarker,C.,How common is severe pulmonary hypertension after pediatric cardiac surgery? The Journal of thoracic and cardiovascular surgery 2002,123,1155-63
【非特許文献17】Loukanov,T.;Bucsenez,D.;Springer,W.;Sebening,C.;Rauch,H.;Roesch,E.;Karck,M.;Gorenflo,M.,Comparison of inhaled nitric oxide with aerosolized iloprost for treatment of pulmonary hypertension in children after cardiopulmonary bypass surgery. Clinical research in cardiology : official journal of the German Cardiac Society 2011,100,595-602
【非特許文献18】Choudhary,S.K.;Bhan,A.;Sharma,R.;Mathur,A.;Airan,B.;Saxena,A.;Kothari,S.S.;Juneja,R.;Venugopal,P.,Repair of total anomalous pulmonary venous connection in infancy: experience from a developing country. The Annals of thoracic surgery 1999,68,155-9
【非特許文献19】Checchia,P.A.;Bronicki,R.A.;Goldstein,B.,Review of Inhaled Nitric Oxide in the Pediatric Cardiac Surgery Setting. Pediatric cardiology 2012
【非特許文献20】Miller,O.I.;Tang,S.F.;Keech,A.;Pigott,N.B.;Beller,E.;Celermajer,D.S.,Inhaled nitric oxide and prevention of pulmonary hypertension after congenital heart surgery: a randomised double-blind study. Lancet 2000,356,1464-9
【非特許文献21】Russell,I.A.;Zwass,M.S.;Fineman,J.R.;Balea,M.;Rouine-Rapp,K.;Brook,M.;Hanley,F.L.;Silverman,N.H.;Cahalan,M.K.,The effects of inhaled nitric oxide on postoperative pulmonary hypertension in infants and children undergoing surgical repair of congenital heart disease. Anesth Analg 1998,87,46-51
【非特許文献22】Remington:The Science and Practice of Pharmacy,19th Ed.,1995
【非特許文献23】Hoffman,J.I.;Kaplan,S.,The incidence of congenital heart disease. Journal of the American College of Cardiology 2002,39,1890-900
【発明の概要】
【0006】
本発明によれば、2個のKATPチャネル開口薬P-1075及びニコランジルの組み合わせから誘導される、新規の水溶性血管拡張性小分子であって、ニコランジルのヒドロキシエチル-ニコチンアミドフラグメントがP-1075のシアノグアニジンフラグメントに結合した小分子が、有効な肺選択的血管拡張薬であることが今分かった。本明細書中でR-1703と称される、この化合物は、肺細動脈床の血管平滑筋(VSM)に存在するKATPチャネルのSUR2/Kir6.1サブユニットを標的とするよう意図される。このチャネルが活性化されると、VSMが過分極し、低酸素症、一酸化窒素欠損症、及びエンドセリン-1に対する血管収縮応答に対抗する血管拡張を引き起こし、それにより肺血管抵抗を低下させる。
【0007】
【化1】
【0008】
重度のPHの充分に確立しているゴールドスタンダードのげっ歯類モデルを用いて本明細書中に示すとおり、R-1703の急性の静脈内(IV)投与を行うと、末梢血圧又は心拍数に影響することなく、高い平均肺動脈圧(MPAP)が除去され、これらの投与レベルで肺血管循環に選択性があることが示される。現在の肺血管拡張薬と比較すると、R-1703は、効果が均一で、強力で、あまり高価でなく、そして投与しやすいよう意図される。
【0009】
1つの態様において、本発明はしたがって、一般式Iの化合物であって、
【0010】
【化2】
【0011】
式中、YはN、CH又はN(→O)である、式Iの化合物、
又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、若しくは薬学的に許容される塩であって、
Aは、式IIの末端NH基によりピリジン、フェニル、又はピリジンオキシド(1-オキシピリジン)環の任意の炭素原子と結合する式IIの部分であり、
【0012】
【化3】
【0013】
は、各々独立してハロゲン、-COR,-COOR,-CON(R,-OCOOR,又は-OCON(Rから選択される1個、2個、3個、4個、又は5個の置換基であり、
は、H、-OH、-O-(C-C)アルキル、-CO-(C~C)アルキル、-COO-(C~C)アルキル、-CN、-CONH、又は-NHから選択
され、
は、(C~C10)アリール、又は6~10員環ヘテロアリールで任意選択的に置換された、(C~C12)アルキル、(C~C10)シクロアルキル、3~7員環ヘテロシクリル、(C~C10)アリール、又は6~10員環ヘテロアリールであり、
は、各々独立して-OR、-OSO (又は-OSO(ONa)などのその塩)、-OPO 2-(又は-OPO(ONa)などのその塩)、-OCF、-CF、-OCOR、-COR、-COOR、-OCOOR、-OCON(R、-(C~C)アルキレン-COOR、-CN、-NO、-ONO、-SR、-N(R、-CON(R、-SO、-S(=O)R、又はグルクロン酸のカルボキシル基を介して又は複数のヒドロキシル基のうちの1つ(例えばC1位のヒドロキシル基)を介して結合したグルクロン酸から選択された1つ又は複数の基で任意選択的に置換された、H、(C~C10)シクロアルキル、3~12員環ヘテロシクリル、(C~C14)アリール、又は(C~C)アルキルから選択され、そして
は、各々独立してH、(C~C)アルキル、(C~C)アルケニル、又は(C~C)アルキニルから選択される、
式Iの化合物、又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、若しくは薬学的に許容される塩を提供する。
【0014】
別の態様において、本発明は、上で定義した式Iの化合物、又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体若しくは薬学的に許容される塩、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。本発明の化合物及び医薬組成物は、肺動脈性肺高血圧症及び肺静脈性肺高血圧症の予防、治療又は管理に有用である。
【0015】
さらに別の態様において、本発明は、肺動脈性肺高血圧症又は肺静脈性肺高血圧症の予防、治療又は管理に使用するための、上で定義した式Iの化合物、又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体若しくは薬学的に許容される塩に関する。
【0016】
さらに別の態様において、本発明は、肺動脈性肺高血圧症又は肺静脈性肺高血圧症の予防、治療又は管理の医薬組成物を調製するための、上で定義した式Iの化合物、又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、若しくは薬学的に許容される塩の使用に関する。
【0017】
さらなる態様において、本発明は、これを必要とする対象における肺動脈性肺高血圧症又は肺静脈性肺高血圧症の予防、治療又は管理方法であって、この方法は、この対象に治療有効量の、上で定義した式Iの化合物、又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、若しくは薬学的に許容される塩を投与することを含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A図1A~1Bは、IV投与したR-1703が、MCT処置したPHのラットのMPAPを持続的に低下させることを示す。示すとおり、R-1703は、90μg/kgの投与量で正常圧を完全回復したことが証明され(p<5×10-6)、MPAPのMCT誘発性上昇を投与量依存的に低下させ(1A)、そしてMPAPに対するR-1703の効果は、投与後少なくとも24時間持続した(1B)。R-1703による治療は、心拍数にも末梢血圧にも効果を及ぼさず、これらの投与量レベルで肺血管循環に絶対的選択性があることが示された。
図1B図1A~1Bは、IV投与したR-1703が、MCT処置したPHのラットのMPAPを持続的に低下させることを示す。示すとおり、R-1703は、90μg/kgの投与量で正常圧を完全回復したことが証明され(p<5×10-6)、MPAPのMCT誘発性上昇を投与量依存的に低下させ(1A)、そしてMPAPに対するR-1703の効果は、投与後少なくとも24時間持続した(1B)。R-1703による治療は、心拍数にも末梢血圧にも効果を及ぼさず、これらの投与量レベルで肺血管循環に絶対的選択性があることが示された。
図2図2は、気管内エアロゾル化したR-1703が、肺動脈圧(PAP、急性効果)のMCT誘発性上昇を投与量依存的に低下させたことを示す。R-1703による治療は、心拍数にも末梢血圧にも効果を及ぼさず、したがってこれらの投与量レベルで肺血管循環の血管拡張作用に絶対的選択性があることが立証された(p<<0.001)。
図3図3は、気管内エアロゾル化したR-1703が、肺動脈圧(PAP、持続性効果)のMCT誘発性上昇を投与量依存的に低下させたことを示す。R-1703による治療は、心拍数にも末梢血圧にも効果を及ぼさず、したがってこれらの投与量レベルで肺血管循環の血管拡張作用に絶対的選択性があることが立証された(p<<0.001)。
図4図4は、R-1703の腹腔内送達は、正常圧を80%回復したことが証明され(p<0.001)、MPAPのMCT誘発性上昇を投与量依存的に低下させたことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1つの態様において、本発明は、上で定義した一般式Iの化合物、又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体若しくは薬学的に許容される塩を提供する。
【0020】
本明細書中で用いる場合、用語「ハロゲン」にはフルオロ、クロロ、ブロモ、及びヨードが含まれるが、好ましくはフルオロ又はクロロである。
【0021】
本明細書中で用いる場合、用語「アルキル」とは通常、1~12個の炭素原子を有する直鎖又は分岐した飽和ヒドロカルビルを意味し、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、2,2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、イソヘキシル、n-ヘプチル、1,1-ジメチルペンチル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、2-エチルブチル、1,1-ジメチルヘプチル、1,2-ジメチルヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、及び同種のものが挙げられる。好ましいものは、(C~C)アルキル基であり、より好ましくはメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、又はtert-ブチルである。用語「アルケニル」及び「アルキニル」とは通常、2~12個の炭素原子、例えば、2~8個の炭素原子及び少なくとも1個の二重結合又は三重結合をそれぞれ有する直鎖又は分岐したヒドロカルビルを意味し、エテニル、プロペニル、3-ブテン-1-イル、2-エテニルブチル、3-オクテン-1-イル、3-ノネニル、3-デセニル、及び同種のもの、並びにプロピニル、2-ブチン-1-イル、3-ペンチン-1-イル、3-ヘキシニル、3-オクチニル、4-デシニル、及び同種のものが挙げられる。C~Cアルケニル基及びC~Cアルキニル基が好ましく、より好ましくはC~Cアルケニル及びC~Cアルキニルである。アルキル、アルケニル及びアルキニルの各1つは、例えば、1つ又は複数のアルキル基、アリール基、又はヘテロアリール基により置換されてもよい。
【0022】
用語「アルキレン」とは、アルキルから水素原子を取り除いた後のものに由来する、1~12個の炭素原子を有する直鎖又は分岐した二価の炭化水素ラジカルを指し、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、2-メチルプロピレン、ペンチレン、2-メチルブチレン、ヘキシレン、2-メチルペンチレン、3-メチルペンチレン、2,3-ジメチルブチレン、ヘプチレン、オクチレン、及び同種のものが挙げられる。好ましいものは、(C~C)アルキレン、例えば、(C~C)アルキレンであり、より好ましくはメチレン、エチレン、又はプロピレンである。
【0023】
本明細書中で用いる場合、用語「シクロアルキル」とは、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、アダマンチル、ビシクロ[3.2.1]オクチル、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル、adamantly及び同種のものなどの3~10個の炭素原子を有する単環式、二環式、又は多環式飽和ヒドロカルビルを意味し、例えば1つ又は複数のアルキル基、アリール基、又はヘテロアリール基で置換してよい。
【0024】
本明細書中で用いる場合、用語「複素環」は、少なくとも2個の炭素原子及び硫黄、酸素、及び窒素から選択される少なくとも1個のヘテロ原子を含有する、例えば3~12個の原子の単環式、又は多環式非芳香族環を表し、これは飽和でも不飽和、すなわち少なくとも1個の不飽和結合を含んでもよい。複素環の非限定的な例としては、ピロリジン、ピペリジン、ピリジン、ジヒドロピリジン、テトラヒドロピリジン、ピラゾール、ピラゾリン、ピラゾリジン、ピペラジン、イミダゾリジン、イミダゾリン、テトラヒドロピリミジン、ジヒドロトリアジン、アゼパン、エチレンオキシド、フラン、テトラヒドロフラン、ピラン、ジヒドロピラン、テトラヒドロピラン、ジオキソール、ジオキソラン、モルホリン、オキサゾリジン、オキサゾール、オキサジアゾール、オキサゾリン、ジヒドロオキサジアゾール、チオモルホリン、チアゾリジン、チアゾール、チアジアゾール、及びチアゾリンが挙げられる。好ましいものは、5員環複素環又は6員環複素環である。この複素環は、環原子のいずれかで、例えば、1つ又は複数のアルキル基、アリール基、又はヘテロアリール基により置換されてもよい。本明細書中で用いる場合、用語「ヘテロシクリル)」とは、任意の環原子から水素原子を除去することにより本明細書中に定義された複素環から誘導される任意の1価の基を指す。
【0025】
用語「アリール」とは、限定されないが、フェニル、ナフチル、フェナントリル、及びビフェニルなどの、共有結合により縮合したか結合したかのいずれかの単環又は複数の環から成る6~14個、例えば、6~10個の炭素原子を有する芳香族炭素環基を表す。このアリール基はハロゲン、(C~C)アルキル、-O-(C~C)アルキル、-COO(C~C)アルキル、-CN、-NO、アリール、又はヘテロアリールから各々独立して選択される1つ又は複数の基によって任意選択的に、置換されてもよい。
【0026】
用語「ヘテロアリール」とは、N、O、又はSから選択される1個~3個、好ましくは1個~2個のヘテロ原子を含有する、単環式、又は多環式の、例えば、5~10員環の芳香族複素環から誘導される基を指す。単環式ヘテロアリールの例としては、限定するものではないが、ピロリル、フリル、チエニル、チアジニル(thiazinyl)、ピラゾリル、ピラジニル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、ピリジル、ピリミジニル、1,2,3-トリアジニル、1,3,4-トリアジニル、及び1,3,5-トリアジニルが挙げられる。多環式ヘテロアリール基は好ましくは、限定するものではないが、ベンゾフリル、イソベンゾフリル、ベンゾチエニル、インドリル、キノリニル、イソキノリニル、イミダゾ[1,2-a]ピリジル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾオキサゾリル、ピリド[1,2-a]ピリミジニル、及び1,3-ベンゾジオキシニル(1,3-benzodioxinyl)などの、2個の環から成る。このヘテロアリールは、各々独立してハロゲン、(C~C)アルキル、-O-(C~C)アルキル、-COO(C~C)アルキル、-CN、-NO、アリール、又はヘテロアリールから選択される1つ又は複数の基によって置換されてもよい。多環式ヘテロアリールを置換する際、この置換物は、炭素環及び/又は複素環のいずれか内であってよいことが理解されるべきである。
【0027】
特定の実施形態において、本明細書中に開示されるのは、式Iの化合物であって、YはNであり、Aは、ピリジン環の2位、3位、又は4位と結合する、すなわち基Yとオルト、メタ、又はパラ位である(表1、それぞれ式Ia、Ia及びIa)。他の実施形
態において、本発明は、式Iの化合物を提供し、YはCHであり、Aは、フェニル環の任意の位置と結合する(表1、式Ib)。さらなる実施形態において、本明細書中に開示されるのは、式Iの化合物であって、YはN(→O)であり、Aは、1-オキシピリジン環の2位、3位、又は4位と結合する、すなわち基Yとオルト、メタ、又はパラ位である(表1、それぞれ式Ic、Ic及びIc)。
【0028】
【表1】
【0029】
本発明によれば、Rは、上で定義した1個、2個、3個、4個、又は5個の置換基を表す。しかし、YがN又はN(→O)である場合、R基の最大数は、4のみに限定される。
【0030】
特定の実施形態において、本発明は、式Iの化合物、すなわち式Ia、Ia、Ia、Ib、Ic、Ic、又はIcの化合物を提供し、Rは、各々独立してハロゲン、-COR、-COOR、-CON(R、-OCOOR、又は-OCON(Rから選択される1個、2個又は3個、好ましくは1個の置換基であり、そしてRは、各々独立してH又は各々独立して-OR、-OSO (又は-OSO(ONa)などのその塩)、-OPO 2-(又は-OPO(ONa)などのその塩)、-COOR、-OCON(R、-NO、-ONO、-N(R、-CON(R、又はグルクロン酸のヒドロキシル基又はカルボキシル基を介して結合したグルクロン酸から選択される1つ又は複数の基で任意選択的に置換された、(C~C
アルキル、好ましくは、(C~C)アルキルである。このような特定の実施形態は、Rが1~3個の式-CON(Rの基を表す、及び/又はRが各々独立してH又は、各々を上で定義した1つ又は複数の基で置換された(C~C)アルキル、好ましくは、(C~C)アルキルである、例えば、CON(R基のうち各々1つにおいて、Rの1つがHであり、Rの他の1つが-CHOR、-CHCHOR、-CHCHCHOR、又は-CHCHCHCHORであり、RがHである、ものである。
【0031】
特定の実施形態において、本発明は、式Iの化合物、すなわちRが-CNである、式Ia、Ia、Ia、Ib、Ic、Ic、又はIcの化合物を提供する。
【0032】
特定の実施形態において、本発明は、式Iの化合物、すなわちRが(C~C10)アリール若しくは6~10員環ヘテロアリール、又は(C~C10)シクロアルキルで任意選択的に置換された、(C~C12)アルキル、好ましくは(C~C)アルキルである、式Ia、Ia、Ia、Ib、Ic、Ic、又はIcの化合物を提供する。このような特定の実施形態において、Rは、限定されないが、2-メチルプロピル-1-イル、2-メチルプロピル-2-イル、2-メチルブチル-1-イル2-メチルブチル-2-イル、3-メチルブチル-2-イル、2-メチルペンチル-1-イル、2-メチルペンチル-2-イル、2-メチルペンチル-3-イル、2-メチルペンチル-4-イル、2-メチルペンチル-5-イル、3-メチルペンチル-1-イル、3-メチルペンチル-2-イル、3-メチルペンチル-3-イル、2,3-ジメチルブチル-1-イル、2,3-ジメチルブチル-2-イル、2-メチルヘキシル-1-イル、2-メチルヘキシル-2-イル、2-メチルヘキシル-3-イル、2-メチルヘキシル-4-イル、2-メチルヘキシル-5-イル、2-メチルヘキシル-6-イル、3-メチルヘキシル-1-イル、3-メチルヘキシル-2-イル、3-メチルヘキシル-3-イル、3-メチルヘキシル-4-イル、3-メチルヘキシル-5-イル、3-メチルヘキシル-6-イル、2,2-ジメチルペンチル-1-イル、2,2-ジメチルペンチル-3-イル、2,2-ジメチルペンチル-4-イル、2,2-ジメチルペンチル-5-イル、3,3-ジメチルペンチル-1-イル、3,3-ジメチルペンチル-2-イル、2,3-ジメチルペンチル-1-イル、2,3-ジメチルペンチル-2-イル、2,3-ジメチルペンチル-3-イル、2,3-ジメチルペンチル-4-イル、2,3-ジメチルペンチル-5-イル、2,4-ジメチルペンチル-1-イル、2,4-ジメチルペンチル-2-イル、2,4-ジメチルペンチル-3-イル、2,4-ジメチルペンチル-4-イル、2,4-ジメチルペンチル-5-イル、2-メチルヘプチル-1-イル、2-メチルヘプチル-2-イル、2-メチルヘプチル-3-イル、2-メチルヘプチル-4-イル、2-メチルヘプチル-5-イル、2-メチルヘプチル-6-イル、2-メチルヘプチル-7-イル、3-メチルヘプチル-1-イル、3-メチルヘプチル-2-イル、3-メチルヘプチル-3-イル、3-メチルヘプチル-4-イル、3-メチルヘプチル-5-イル、3-メチルヘプチル-6-イル、3-メチルヘプチル-7-イル、4-メチルヘプチル-1-イル、4-メチルヘプチル-2-イル、4-メチルヘプチル-3-イル、4-メチルヘプチル-4-イル、2,2-ジメチルヘキシル-1-イル、2,2-ジメチルヘキシル-3-イル、2,2-ジメチルヘキシル-4-イル、2,2-ジメチルヘキシル-5-イル、2,2-ジメチルヘキシル-6-イル、3,3-ジメチルヘキシル-1-イル、3,3-ジメチルヘキシル-2-イル、3,3-ジメチルヘキシル-4-イル、3,3-ジメチルヘキシル-5-イル、3,3-ジメチルヘキシル-6-イル、2,3-ジメチルヘキシル-1-イル、2,3-ジメチルヘキシル-2-イル、2,3-ジメチルヘキシル-2-イル、2,3-ジメチルヘキシル-4-イル、2,3-ジメチルヘキシル-5-イル、2,3-ジメチルヘキシル-6-イル、2,4-ジメチルヘキシル-1-イル、2,4-ジメチルヘキシル-2-イル、2,4-ジメチルヘキシル-3-イル、2,4-ジメチルヘキシル-4-イル、2,4-ジメチルヘキシル-5-イル、2,4-ジメチルヘキシル-6-イル、2,5-ジメチル
ヘキシル-1-イル、2,5-ジメチルヘキシル-2-イル、2,5-ジメチルヘキシル-3-イル、2,3,4-トリメチルペンチル-1-イル、2,3,4-トリメチルペンチル-2-イル、及び2,3,4-トリメチルペンチル-3-イルなどの分岐した(C~C)アルキルである。
【0033】
特定の実施形態において、本発明は、式Iの化合物、すなわちRが各々独立してH、又は(C~C)アルキルである、式Ia、Ia、Ia、Ib、Ic、Ic、又はIcの化合物を提供する。
【0034】
特定の実施形態において、本発明は、式Iの化合物、より具体的には、式Ia、Ia、又はIaの化合物であって、YはNであり、Aはピリジン環の2位、3位又は4位と結合し、Rは、各々独立してハロゲン、-COR、-COOR、-CON(R、-OCOOR、又は-OCON(Rから選択される1個、2個又は3個、好ましくは1個の置換基であり、Rは各々独立して、H、又は各々独立して-OR、-OSO (又はその塩)、-OPO 2-(又はその塩)、-COOR、-OCON(R、-NO、-ONO、-N(R、-CON(R、又はグルクロン酸のヒドロキシル基又はカルボキシル基を介して結合したグルクロン酸から選択される1つ又は複数の基で任意選択的に置換された(C~C)アルキル、好ましくは(C~C)アルキルであり、Rは-CNであり、Rは、(C~C10)アリール若しくは6~10員環ヘテロアリール、又は(C~C10)シクロアルキルで任意選択的に置換された、(C~C12)アルキル、好ましくは(C~C)アルキルであり、そしてRは各々独立してH、又は(C~C)アルキルである、化合物を提供する。このような特定の実施形態は、Rが1~3個の式-CON(Rの基を表し、及び/又はRは各々独立してH、又は各々を上で定義した1つ又は複数の基で置換された、(C~C)アルキル、好ましくは(C~C)アルキル、例えば、-CON(R基の各々1つにおいて、Rの1つはHであり、Rの他の1つは、-CHOR、-CHCHOR、-CHCHCHOR、又は-CHCHCHCHORであり、RはHである、ものである。
【0035】
上に定義した特定の実施形態において、本発明は、式Iの化合物であって、YはNであり、Aはピリジン環の2位、3位又は4位と結合し、Rは、単独の-CON(R基を表し、Rの1つはHであり、Rの他の1つは、-CHOH、-CHCHOH、-CHCHCHOH、又は-CHCHCHCHOHであり、Rは-CNであり、そしてRは、例えば、2-メチルブチル-2-イルなどの、上で定義した分岐した(C~C)アルキルである、化合物を提供する。このようなより特定の実施形態においては、(i)Aは、ピリジン環の2位、3位又は4位と結合し、Rは、ピリジン環の3位、4位、5位、又は6位と結合する、すなわち基Yとオルト、メタ、又はパラ位であり、(ii)Aはピリジン環の3位と結合し、Rは、ピリジン環の2位、4位、5位、又は6位と結合する、すなわち基Yとオルト、メタ、又はパラ位であり、又は(iii)Aは、ピリジン環の4位と結合し、Rは、ピリジン環の2位又は3位と結合する、すなわち基Yとオルト又はメタ位である。このような特定の具体的な実施形態において、本明細書中に開示されるのは、式Iの化合物であって、YはNであり、Rは、単独の-CON(R基を表し、Rの1つはHであり、Rの他の1つは、-CHCHOHであり、Rは-CNであり、Rは2-メチルブチル-2-イルであり、そして(i)Aは、ピリジン環の2位と結合し、そしてRはピリジン環の3位、4位、5位、又は6位と結合する(本明細書中で化合物101、102、103、及び104と称される)、(ii)Aは、ピリジン環の3位と結合し、Rはピリジン環の2位、4位、5位、又は6位と結合する(本明細書中でそれぞれ化合物105、106、107[本明細書中R-1703として参照される]、及び108と称される)、又は(iii)Aは、ピリジン環の4位と結合し、Rはピリジン環の2位又は3位と結合する(本明細書中で
それぞれ化合物109及び110と称される)、化合物、又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、又は薬学的に許容される塩を提供する。本明細書中に例示される好ましい実施形態においては、開示される化合物は、R-1703(表2)又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、若しくは薬学的に許容される塩である。
【0036】
特定の実施形態において、本発明は、式Iの化合物、より具体的には式Ibの化合物を提供し、YはCHであり、Aはフェニル環の任意の位置と結合し、Rは各々独立してハロゲン、-COR、-COOR、-CON(R、-OCOOR、又は-OCON(Rから選択される1個、2個、又は3個、好ましくは1個の置換基であり、Rは各々独立して、H、又は各々独立して-OR、-OSO (又はその塩)、-OPO 2-(又はその塩)、-COOR、-OCON(R、-NO、-ONO、-N(R、-CON(R、又はグルクロン酸のヒドロキシル基又はカルボキシル基を介して結合したグルクロン酸から選択される1つ又は複数の基で任意選択的に置換された(C~C)アルキル、好ましくは(C~C)アルキルであり、Rは-CNであり、Rは(C~C10)アリール若しくは6~10員環ヘテロアリール、又は(C~C10)シクロアルキルで任意選択的に置換された、(C~C12)アルキル、好ましくは(C~C)アルキルであり、そしてRは各々独立してH、又は(C~C)アルキルである。このような特定の実施形態は、Rが1~3個の式-CON(Rの基を表し、及び/又はRは各々独立してH、又は各々を上で定義した1つ又は複数の基で置換された、(C~C)アルキル、好ましくは(C~C)アルキル、例えば、-CON(R基の各々1つにおいて、Rの1つはHであり、Rの他の1つは、-CHOR、-CHCHOR、-CHCHCHOR、又は-CHCHCHCHORであり、RはHである、ものである。
【0037】
上に定義した特定の実施形態において、本発明は、式Iの化合物を提供し、YはCHであり、Aはフェニル環の任意の位置と結合し、Rは、単独の-CON(R基を表し、Rの1つはHであり、Rの他の1つは、-CHOH、-CHCHOH、-CHCHCHOH、又は-CHCHCHCHOHであり、Rは-CNであり、そしてRは、例えば、2-メチルブチル-2-イルなどの、上で定義した分岐した(C~C)アルキルである。このようなより特定の実施形態においては、Rは、基Yとオルト、メタ、又はパラ位で結合する。
【0038】
【表2】
【0039】
このような特定の具体的な実施形態において、本明細書中に開示されるのは、式Iの化
合物であって、YはCHであり、Rは、基Yとオルト、メタ、又はパラ位で結合する単独の-CON(R基を表し、Rの1つはHであり、Rの他の1つは、-CHCHOHであり、Rは-CNであり、そしてRは、2-メチルブチル-2-イルである、化合物(本明細書中でそれぞれ化合物111,112及び113と称される)(表3)又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、又は薬学的に許容される塩である。
【0040】
【表3】
【0041】
特定の実施形態において、本発明は、式Iの化合物、より具体的には式Ic、Ic、又はIcの化合物を提供し、YはN(→O)であり、Aはピリジンオキシド環の2位、3位又は4位と結合し、Rは各々独立してハロゲン、-COR、-COOR、-CON(R、-OCOOR、又は-OCON(Rから選択される1個、2個、又は3個、好ましくは1個の置換基であり、Rは各々独立してH、又は各々独立して-OR、-OSO (又はその塩)、-OPO 2-(又はその塩)、-COOR、-OCON(R、-NO、-ONO、-N(R、-CON(R、又はグルクロン酸のヒドロキシル基又はカルボキシル基を介して結合したグルクロン酸から選択される1つ又は複数の基で任意選択的に置換された、(C~C)アルキル、好ましくは(C~C)アルキルであり、Rは-CNであり、Rは、(C~C10)アリール若しくは6~10員環ヘテロアリール、又は(C~C10)シクロアルキルで任意選択的に置換された、(C~C12)アルキル、好ましくは(C~C)アルキルであり、Rは各々独立してH、又は(C~C)アルキルである。このような特定の実施形態は、Rが1~3個の式-CON(Rの基を表す、及び/又はRが各々独立してH、又は各々を上で定義した1つ又は複数の基で置換された、(C~C)アルキル、好ましくは(C~C)アルキルであり、例えば、-CON(R基のうち各々1つにおいて、Rの1つがHであり、Rの他の1つが-CHOR、-CHCHOR、-CHCHCHOR、又は-CHCHCHCHORであり、RがHである、ものである。
【0042】
上で定義した特定の実施形態において、本発明は、式Iの化合物を提供し、YはN(→O)であり、Aはピリジンオキシド環の2位、3位又は4位と結合し、Rは単独の-CON(R基を表し、Rの1つはHであり、Rの他の1つは、-CHOH、-CHCHOH、-CHCHCHOH、又は-CHCHCHCHOHであり、Rは-CNであり、Rは、例えば、2-メチルブチル-2-イルなどの、上で定義した分岐した(C~C)アルキルである。このようなより特定の実施形態においては、(i)Aはピリジンオキシド環の2位で結合し、そしてRはピリジンオキシド環の3、4、5、又は6位で結合する、すなわち基Yとオルト、メタ、又はパラ位で結合する、(ii)Aはピリジンオキシド環の3位で結合し、そしてRはピリジンオキシド環の2、4、5、又は6位で結合する、すなわち基Yとオルト、メタ、又はパラ位で結合する、又は(iii)Aはピリジンオキシド環の4位で結合し、そしてRはピリジンオキシド環の2位又は3位で結合する、すなわち基Yとオルト又はメタ位で結合する。このよ
うな特定の具体的な実施形態において、本明細書中に開示されるのは、式Iの化合物であって、YはN(→O)であり、Rは単独の-CON(R基を表し、Rの1つはHであり、Rの他の1つは、-CHCHOHであり、Rは-CNであり、Rは2-メチルブチル-2-イルであり、そして(i)Aはピリジンオキシド環の2位で結合し、そしてRはピリジン環の3位、4位、5位、又は6位で結合する(本明細書中でそれぞれ化合物114、115、116、及び117と称される)、(ii)Aはピリジン環の3位と結合し、そしてRはピリジンオキシド環の2位、4位、5位、又は6位と結合する(本明細書中でそれぞれ化合物118、119、120、及び121と称される)、又は(iii)Aは、ピリジンオキシド環の4位と結合し、そしてRはピリジンオキシド環の2位又は3位と結合する(本明細書中でそれぞれ化合物122及び123と称される)(表4)。
【0043】
本発明の化合物は、例えば、以下の実施例の節に記載されるような、当該技術分野において既知のいかなる適した技術又は方法により合成してもよい。
【0044】
式Iの化合物は、例えば、R基のうち1つ又は複数が置換された(C~C)アルキルである特定の場合、並びにグアニジノ部分の複数の-NH基のいずれか又は両方において、1つ又は複数の不斉中心を有してよく、したがってエナンチオマー、すなわち光学異性体(R、S、又はラセミ体、特定のエナンチオマーは90%、95%、99%又はそれ以上の光学純度を有してよい。)とジアステレオマーとの両方として存在してよい。本発明には、このような全てのエナンチオマー、異性体、及びこれらの混合物、並びにこれらの薬学的に許容される塩が含まれる。
【0045】
本発明の化合物の光学活性体を、例えば、再結晶技術、不斉合成、不斉溶媒を用いた抽出、又は不斉固定相を用いるクロマトグラフィー分離によるラセミ体の分割などの、当該技術分野において既知のいずれの方法を用いて調製することができる。光学活性物質を取得する方法の非限定的な例は、キラル膜を横断する輸送、すなわちラセミ体を薄膜障壁と接触させて配置し、濃度又は圧力の差によりこの膜障壁を横断する輸送に選択性が生じ、そしてラセミ体の一方のエナンチオマーのみを通過させる膜のラセミ体でない不斉な性質の結果として、分離が生じる。擬似移動床クロマトグラフィーを含む、不斉クロマトグラフィーをまた、用いることができる。非常に多様な不斉固定相が市販されている。
【0046】
【表4】
【0047】
本明細書で示されるとおり、R-1703は、90μg/kgの投与量で正常圧力に完全回復する一方、その効果を投与後少なくとも24時間維持すると証明され、平均肺動脈
圧のMCT誘導上昇を減少させる効果が高く、そして心拍数にも末梢血圧にも効果を及ぼさないことが分かり、これらの投与レベルで肺血管循環に選択性があることが示された。本明細書中に開示されるR-1703及びその誘導体(そのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、及び薬学的に許容される塩を含む)はしたがって、例えば、左右心臓シャントの外科的矯正を受けている先天性心臓欠損症(CHD)の小児の急性で重篤な、周術期のPHの予防又は管理などの、肺動脈性肺高血圧症及び肺静脈性肺高血圧症の治療、予防及び/又は管理に非常に有益であると予想される。
【0048】
別の態様において、本発明はしたがって、本明細書中において活性薬剤とも呼ばれる、式Iの化合物、すなわち上の実施形態のいずれか1つにおいて定義される式Ia、Ia、Ia、Ib、Ic、Ic、又はIcの化合物、又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、若しくは薬学的に許容される塩、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。特定の実施形態において、活性薬剤は、上の表2~4に具体的に示される化合物のいずれか1つ、すなわち化合物101~123、好ましくはR-1703、又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、若しくは薬学的に許容される塩である。
【0049】
本発明の化合物及び医薬組成物は、肺高血圧症、すなわち肺動脈性肺高血圧症(PAH)又は肺静脈性肺高血圧症(PVH)の予防、治療又は管理に有用である。
【0050】
本明細書中で用いる場合、用語「肺高血圧症」(PH)とは、肺血管抵抗、肺動脈圧、及び換気血流関係を妨害し、心室機能を損なう最終的な肺血管リモデリング効果の増加によって特徴づけられる重度の疾患を指す。Evian Nomenclature and Classification of PH (1998)及びthe Revised Nomenclature and Classification of PH
(2003)(非特許文献1)を含む、PHの分類システムがいくつか発行されている。
【0051】
PHは、原発性であっても二次性であってもよく、現在5個の群に分類されており、PAHは第1群として分類され、左心疾患関連のPHは第2群として分類され、肺疾患及び/又は低酸素血症関連のPHは第3群として分類され、慢性血栓性疾患及び/又は慢性塞栓性疾患によるPHは第4群として分類され、そして他の原因のPHは第5群として分類される(非特許文献2)。
【0052】
本明細書中で用いる場合、用語PAHとは、限定されないが、特発性PAH(IPAH)、家族性PAH(FPAH)、例えば強皮症などの、膠原病性血管疾患関連のPAH、体循環と肺循環との間の先天性シャント、門脈圧亢進症などの、心疾患関連のPAH、HIV感染関連のPAH、静脈又は毛細管疾患関連のPAH、甲状腺機能異常、糖原病、ゴーシェ病、異常ヘモグロビン症、又は骨髄増殖性障害関連のPAH、煙吸入用又は煙吸入用及び火傷の複合型疾患関連のPAH、誤嚥関連のPAH、人工呼吸器損傷関連のPAH、肺炎関連のPAH、成人呼吸促迫症候群関連のPAH、新生児の遷延性PH、早産児の新生児呼吸促迫症候群、新生児胎便吸引、新生児横隔膜ヘルニア、肺毛細血管腫症、及び肺静脈閉塞症を含む、全てのPHを指す。
【0053】
第2群のPHに関連してよい左心疾患の例としては、限定されないが、左心房又は左心室疾患、及び僧帽弁狭窄などの弁膜症が挙げられる。
【0054】
第3群のPHに関連してよい肺疾患の例としては、限定されないが、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺疾患(ILD)、睡眠呼吸障害、肺胞低換気疾患、高所への慢性暴露、及び発達性肺奇形が挙げられる。
【0055】
第4群のPHに関連してよい慢性血栓性疾患及び/又は慢性塞栓性疾患の例としては、限定されないが、遠位又は近位肺動脈の血栓塞栓性閉塞症、及び例えば腫瘍細胞又は寄生生物などの非血栓性肺塞栓症が挙げられる。
【0056】
第5群のPHに関連してよい障害又は疾患の例としては、限定されないが、腺症、線維化性縦隔炎、リンパ管腫症、肺ランゲルハンス細胞肉芽腫症(組織球増加症(histiocytosis))、サルコイドーシス、異常ヘモグロビン症、及び腫瘍による肺血管の圧迫が挙げられる。
【0057】
上に挙げた疾患、障害及び状態の多くは、PHのリスクの上昇と関連してよく、限定されないが、特定の実施例としては、アイゼンメンジャー症候群などの、先天性心疾患、左心疾患、例えば、肺静脈及び肺細静脈を狭窄又は閉塞する繊維症組織などの、肺静脈疾患、肺動脈疾患、肺胞低酸素症を引き起こす疾患、線維性肺疾患、ウィリアムズ症候群、静脈内薬物乱用障害の対象、ウェゲナー症候群、グッドパスチャー症候群、及びチャーグ・ストラウス症候群などの肺血管炎、肺気腫、慢性気管支炎、脊柱後側弯症、嚢胞性線維症、肥満過換気障害及び睡眠時無呼吸障害、肺線維症、サルコイドーシス、珪肺症(silocosis)、CREST(皮膚石灰沈着症、レイノー現象、食道運動障害、強指症、及び毛細血管拡張症)並びに他の結合織疾患が挙げられる。例えば、骨形成タンパク質受容体E(BMPR2)変異を持つ対象は、10~20%のFPAHを獲得する生涯リスクを有し、そして遺伝性出血性末梢血管拡張症の対象、特にALKlに変異を保有する対象はやはり、IPAHのリスクがあると同定された。PHのリスク因子及び診断基準は、非特許文献3に記載される。
【0058】
本発明の化合物及び医薬組成物を、限定されないが、軽度のPH、すなわち安静時にMPAPが30mmHgまで、より詳細には20~30mmHg上昇することに関連するPH、中等度のPH、すなわち安静時にMPAPが30~39mmHg上昇することに関連するPH、及び重度のPH、すなわち安静時にMPAPが例えば60mmHgまで、40mmHgまで上昇することに関連するPHを含む、任意の形式のPHの治療に用いることができる。
【0059】
特定の実施形態において、本発明の化合物は、左右心臓シャントの矯正を受けているCHDの小児の急性で重篤な、PHを予防及び/又は管理のために用いられる。肺血管疾患はおそらく、CHDの乳児及び小児にとって大きな心室中隔欠損(VSD)及び房室中隔欠損(AVSD)などの、肺血流量(PBF)及び肺血圧を増加させる最も重要な合併症である(非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7)。出生後に体循環と肺循環の間に連絡手段があると、PVRが減少するにつれて、PBFが上昇する。このようなPBF及び肺血圧の上昇への曝露は、肺血管床の進行性の構造的及び機能的異常につながる(非特許文献7)。手術治療を施さなければ、これらの異常は遠位肺細動脈及び毛細血管床の閉塞をもたらし、最終的には右心不全に続発する死亡をもたらす。外科的矯正を行うと、早期の血管病変は可逆的だが、進行した病変は不可逆的であり、進行性である。そのうえ、可逆性血管病変の小児でもPVRの慢性的上昇と急性上昇の両方に続発する、特に心肺バイパス術(CPB)への曝露に続発する、周術期及び術後期の著しい罹患率及び死亡率を被る(非特許文献4;非特許文献8)。例えば、PVRが慢性的に上昇すると、右心室の機能が低下し、心拍出量が減少するおそれがあり、このことは術後の入院期間の長期化、機械換気の延長、及び長期成績の不良と関連している(非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11)。PVRの急性上昇(すなわち肺高血圧緊急症)は、突然の心肺不全及び心停止につながるおそれがある(非特許文献8)。これらのイベントの発生頻度は、手術治療の早期化及び外科的手法の改良に向かう傾向とともに減少するようだが、かなりの問題が残っている。例えば、急性の肺高血圧緊急症は、総肺静脈還流異常
の修復後8%の早期死亡率(<30日)を占めるが、後に死亡するリスクが残っている(非特許文献12;非特許文献13;非特許文献14)。実際に、急性肺高血圧緊急症に由来する全死亡率の推定値は、2010年に20%の死亡率と報告され、過去10年間にわたり減少していない(非特許文献15;非特許文献16;非特許文献17)。さらに、米国外部の多くの地域における肺高血圧緊急症の影響は、インドにおいては術後の死亡の約60%に寄与し、相当残っている(非特許文献18)。研究から、術後期のiNOにより、重度の肺高血圧症イベントの発生頻度が減少し、予防的に用いると、右心室機能を改善することが分かった(非特許文献19;非特許文献20;非特許文献21)。しかし、iNOの使用は、矛盾した予測不可能な応答、過剰な費用、及び入手可能性の制限により制限される。したがってiNOは、予防のためよりも認識された肺高血圧症を治療するために用いられることが多い(非特許文献19)。したがって、肺高血圧緊急症予防用の、新規で、有効で、対費用効果の高い治療法が必要とされる。
【0060】
PHに関して本明細書中で用いる場合、用語「治療」とは、任意の形式のPHの症状が発症した後の、上の実施形態のいずれか1つにおいて定義される活性薬剤の投与を指す。PHに関して本明細書中で用いる場合、用語「予防」とは、特にPHのリスクがある患者に対する、症状が発症する前の、活性薬剤の投与を指し、そしてPHに関して本明細書中で用いる場合、用語「管理」とは、以前PHに苦しんでいた患者におけるPH再発の予防を指す。本明細書中で用いる場合、用語「治療有効量」とは、PHを治療、予防、又は管理するのに役立つ上に定義された活性薬剤の量を指す。
【0061】
本明細書中で用いる場合、用語「対象」とは、例えば、ヒト、ヒト以外の霊長類、ウマ、フェレット、イヌ、ネコ、雌ウシ、及びヤギなどの哺乳類を指すが、好ましくはヒト、すなわち個人を意味する。
【0062】
本発明の医薬組成物を、例えば薬学的に許容される形状及び/又は塩形状などの、多様な処方で、並びに多様な投与量で提供することができる。
【0063】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物は、上で定義された式Iの化合物の無毒の薬学的に許容される塩、又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、若しくはその薬学的に許容される塩を含む。適した薬学的に許容される塩としては、限定されないが、メシル酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、エシレート(the esylate salt)、p-トルエンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、酢酸塩、リン酸塩、硫酸塩、クエン酸塩、炭酸塩、及びコハク酸塩などの、酸付加塩が挙げられる。さらなる薬学的に許容される塩としては、アンモニウム(NH )又は式Rのアミンから誘導される有機カチオンの塩が挙げられ、複数のRの各々1つは独立して、H、C~C22、好ましくはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、2,2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、及び同種のものなどの、C~Cアルキル、フェニル、若しくはピリジル、イミダゾリル、ピリミジニル、及び同種のものなどのヘテロアリール、又は複数のRのうち2個は、これらが結合する窒素原子ともに、N、S及びOから選択されるヘテロ原子を任意選択的にさらに含む、ピロリジン(pyrrolydine)、ピペリジン及びモルホリンなどの、3~7員環を形成する。そのうえ、式Iの化合物が酸性部分を保有する場合、その適した薬学的に許容される塩は、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、及びカリウム塩などのアルカリ金属塩、並びに例えばカルシウム塩及びマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩などの金属塩を含んでよい。
【0064】
さらなる薬学的に許容される塩には、カチオン性脂質又はカチオン性脂質の混合物の塩が含まれる。カチオン性脂質は、送達薬剤として使用する前に、中性脂質と混合することが多い。中性脂質としては、限定されないが、レシチン、ホスファチジルエタノールアミ
ン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、パルミトイルオレオイルホスファチジルエタノールアミン及びジステアロイルホスファチジルエタノールアミンなどのジアシルホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン及びジステアロイルホスファチジルコリンなどのジアシルホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール及びジステアロイルホスファチジルグリセロールなどのジアシルホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ジオレオイルホスファチジルセリン又はジパルミトイルホスファチジルセリンなどのジアシルホスファチジルセリン、並びにジホスファチジルグリセロール、脂肪酸エステル、グリセロールエステル、スフィンゴ脂質、カルジオリピン、セレブロシド、セラミド、並びにこれらの混合物が挙げられる。中性脂質にはまた、コレステロール及び他の3βヒドロキシステロールも含まれる。
【0065】
カチオン性脂質化合物の例としては、限定されないが、Lipofectin(Life Technologies,Burlington,Ontario)(カチオン性脂質N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド及びジオレイルホスファチジルーエタノールアミンの1:1(w/w)配合物)、Lipofectamine(登録商標)(Life Technologies,Burlington,Ontario)(ポリカチオン性脂質2,3-ジオレイルオキシN-[2(スペルミン-カルボキシアミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミウムトリフルオロアセテート(propanamin-iumtrifluoroacetate)及びジオレイルホスファチジルーエタノールアミンの3:1(w/w)配合物),Lipofectamine(登録商標) Plus(Life Technologies,Burlington,Ontario)(Lipofectamine(登録商標)及びPlus試薬)、Lipofectamine(登録商標) 2000(Life Technologies,Burlington,Ontario)(カチオン性脂質),Effectene(登録商標)(Qiagen,Mississauga,Ontario)(非リポソーム脂質配合物),Metafectene(Biontex,Munich,Germany)(ポリカチオン性脂質),Eu-fectins(Promega Biosciences,San Luis Obispo,Calif.)(エタノール性カチオン性脂質番号1~12:C52106 4CFCOH,C88178 4CFCOH,C4084NOCFCOH,C50103 4CFCOH,C55116 6CFCOH,C49102 4CFCOH,C4489 2CFCOH,C10020612 8CFCOH,C16233022 13CFCOH,C4388 2CFCOH,C4388 2CFCOH,C4178NOP);Cytofectene(Bio-Rad,Hercules,Calif.)(カチオン性脂質と中性脂質との混合物),GenePORTER(Gene Therapy Systems,San Diego,Calif.)(中性脂質(Dope)とカチオン性脂質との配合物)及びFuGENE 6(Roche Molecular Biochemicals,Indianapolis,Ind.)(多成分脂質に基づく非リポソーム試薬)が挙げられる。
【0066】
本発明の薬学的に許容される塩を、例えば遊離塩基形の式Iの化合物を1つ又は複数の当量の適切な酸と、この塩が溶けない溶媒若しくは培地中、又は減圧下若しくは凍結乾燥により除去される水などの溶媒中で反応させること、又は適したイオン交換樹脂上で現存する塩のアニオン/カチオンを別のアニオン/カチオンと交換させることなどの、従来の方法により形成してよい。
【0067】
本発明による医薬組成物を、例えば非特許文献22に記載されるような、従来の手法により調製することができる。この組成物は例えば、活性薬剤を液体担体、微細化した固体担体、又は両者と均一にそして緊密に会合させ、必要な場合、この生成物を所望の製剤に形成することにより、調製することができる。この組成物は、液体、固体又は半固体形であってよく、さらに薬学的に許容される賦形剤、担体、希釈剤又は補助剤、並びに他の不活性な成分及び添加物を含んでよい。1つの実施形態において、本発明の医薬組成物は、ナノ粒子として調剤される。
【0068】
組成物を、任意の適した投与経路用に調剤することができるが、好ましくは、例えば静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、鼻腔内投与、直腸投与、肛門投与、腟内投与、気管内投与、腹腔内投与、又は皮下投与用などの非経口投与用、並びに吸入用に調剤する。投与量は、患者の状態に依存し、開業医により適切と思われるように決定される。
【0069】
本発明の医薬組成物は、滅菌注射用水性又は油性懸濁剤の形状であってよく、適した分散剤、湿潤剤又は懸濁剤を用いる既知の技術により処方されてよい。滅菌注射用製剤はまた、無毒の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒中の滅菌注射用溶液又は懸濁液であってよい。利用することができる許容されるベヒクル及び溶媒としては、限定されないが、水、リンゲル液、ポリエチレングリコール(PEG)、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPCD)、Tween(登録商標)-80、及び等張塩化ナトリウム溶液が挙げられる。
【0070】
本発明による医薬組成物は、吸入用に処方される場合、定量噴霧式吸入器、液体噴霧器、ドライパウダー吸入器、噴霧器、熱的気化器、電気流体力学エアロゾライザー(electrohydrodynamic aerosolizers)及び同種のものなどの当該技術分野において既知の任意の適した装置を利用して投与してよい。
【0071】
さらに別の態様において、本発明は、例えば左右心臓シャントの外科的矯正を受けているCHDの対象(例えば小児)の急性で重篤な、周術期のPHの予防又は管理に使用する、肺動脈性肺高血圧症又は肺静脈性肺高血圧症の予防、治療又は管理に使用するための、例えば上の表2~4に具体的に示されるものから選択される化合物、好ましくはR-1703などの、上の実施形態のいずれか1つにおいて定義された式Iの化合物、又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、若しくは薬学的に許容される塩に関する。
【0072】
さらに別の態様において、本発明は、例えば左右心臓シャントの外科的矯正を受けているCHDの対象(例えば小児)の急性で重篤な、周術期のPHを予防又は管理のための、肺動脈性肺高血圧症又は肺静脈性肺高血圧症の予防、治療又は管理方法の医薬組成物を調製するための、例えば上の表2~4に具体的に示されるものから選択される化合物、好ましくはR-1703などの、上の実施形態のいずれか1つにおいて定義された式Iの化合物、又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、若しくは薬学的に許容される塩の使用に関する。
【0073】
さらなる態様において、本発明は、これを必要とする対象における肺動脈性肺高血圧症又は肺静脈性肺高血圧症の予防、治療又は管理方法であって、この方法は、この対象に治療有効量の、例えば上の表2~4に具体的に示されるものから選択される化合物、好ましくはR-1703などの、上の実施形態のいずれか1つにおいて定義された式Iの化合物、又はそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、又は薬学的に許容される塩を投与することを含む、方法に関する。特定の実施形態において、本明細書中に開示される方法は、左右心臓シャントの外科的矯正を受けているCHDの対象(例えば小児)の急性で重篤な、周術期のPHを予防又は管理のためである。
【0074】
本発明を、以下の非限定的な実施例によりこれから例示する。
【実施例
【0075】
実施例1.R-1703の合成
全体的にスキーム1に示したとおり、メチルエステル1を最初にアミノエタノールで処理してアミド2を生成した。ジクロロメタン中ジフェニルN-シアノ-カーボンイミデート及びトリエチルアミンで治療することにより、化合物2は中間体3をもたらし、このものをついで1,1-ジメチルプロピルアミンで処理してR-1703を生成した。
【0076】
ステップ1。5-アミノ-ニコチン酸(10g)をメタノール(80ml)に溶解した。この溶液を0℃に冷却し、塩化チオニル(6.5ml)を滴下した。生じた混合物を0℃で30分間、ついで室温で2時間攪拌した。反応混合物を3日間還流した。反応混合物を濃縮し、残渣をDCM中10%メタノールに再溶解した。この溶液を飽和炭酸水素ナトリウム溶液、ブライン、及び乾燥(NaSO)で洗浄した。溶媒を減圧下で除去し、残渣をDCMから再結晶して所望の生成物を得た(9.4g,85%)。
【0077】
ステップ2。5アミノニコチン酸メチル(3.8g)を2プロパノール(30ml)に懸濁した。エタノールアミン(5ml)を加えた。生じた混合物を90℃で3日間加熱した。反応混合物を濃縮し、残渣をDCM中20%MeOHから再結晶し、所望のアミドを得た(3.8g,84%)。
【0078】
ステップ3。5-アミノ-N-(2-ヒドロキシエチル)ニコチンアミド(1.2g)及びジフェニルシアノカーボンイミデート(2.0g)をDMF(10ml)に溶解した。混合物を80℃で5時間加熱し、減圧濃縮した。残渣をDCM中0~15%MeOHを用いるカラムクロマトグラフィーにより精製した。画分を収集し、濃縮して所望の生成物3を得た(892mg,43%)。
【0079】
ステップ4。化合物3(560mg)及びアミルアミン(0.2ml)をDMF(5ml)に溶解した。混合物を70℃で3日間加熱し、減圧濃縮した。残渣をDCM中0~15%MeOHを用いるカラムクロマトグラフィーにより精製した。不純な画分を収集し、精製して所望のR-1703(248mg,45%)を得た。HNMR(DMSO-d6):0.81(t,J=8Hz,3H),1.28(s,6H),1.65(m,2H),3.34(m,2H),3.51(m,2H),4.73(m,1H),7.03(s,1H),7.88(s,1H),8.25(s,1H),8.57(s,1H),8.62(s,1H),9.24(s,1H)。
【0080】
R-1703を調製するための別の手法をスキーム2に示す。この方法によれば、ジフェニルN-シアノ-カーボンイミデートで処理することにより5-アミノニコチン酸メチルエステル1を中間体5に変換することができる。シアノグアニジン基の導入がこの合成の決定的なステップである。中間体5を、1,1-ジメチルプロピルアミンで処理して中間体6を得ることができる。R-1703は、中間体6をアミノエタノールで処理することにより作製される。
【0081】
5-アミノニコチン酸メチルエステルから始まる、R-1703を調製するためのさらなる合成手法を、スキーム3~4に示す。スキーム3に示されるイソシアナート中間体7を、二硫化炭素及びトリエチルアミンを用いて化合物2から合成する。これを塩化メチレン中1,1-ジメチルプロピルアミンで処理してチオ尿素中間体8を得る。1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDAC又はEDCI)及びトリエチルアミンの存在下シアナミドと反応させることにより、このチオ尿素中間体8をR-
1703に変換することができる。
【0082】
R-1703をまた、スキーム4に示されるようにチオ尿素中間体8から合成することもできる。このチオ尿素8をTHF中硫酸銅及びシリカゲルで処理し、これによりカルボジイミド中間体9が得られる。中間体9の反応性カルボジイミド基は、シアナミドと急速に反応し、チオ尿素から2ステップでR-1703を生成することもできる。中間体8からR-1703への変換は、1ステップで行うこともできる。
【0083】
実施例2.MCT誘発性PHのげっ歯類治療モデルにおけるR-1703の急性及び持続性効果
PH用の確立したラットモデルでは、Crotalaria種の植物に由来する毒であり、肺動脈血管内皮細胞の障害及び続く肺動脈平滑筋の肥大化を引き起こす、モノクロタリン(MCT)を利用する。このモデルは、PAHのラットにおけるリアルタイムの右心室圧を監視することにより即時血管弛緩効果を評価する(後期介入計画)、並びに血管リモデリング悪化の予防有効性の評価(早期介入計画)のためのツールとして役立つ。後者のモデルにおいては、左心室及び右心室の重量比並びに右心室肥大の病理組織学的評価を用いて線維症の程度を評価する。
【0084】
R-1703は、MCT誘発性PHのげっ歯類モデルを急性的に治療するのに効果的である。スプラーグドーリーラット(群あたりn=3)を、60mg/kgのMCT又は等体積の生理食塩水(2mL/kg)を一回皮下(SC)投与して処置した。ラットが重度で安定したPHにかかったMCT後28日の期間後、ラットに麻酔をかけ、気管内挿管し、その後R-1703を尾静脈経由で一回静脈内(IV)投与した(PBS中15,30,60,及び90μg/kg)。ビヒクルコントロールは、等体積のPBSを受けた。
【0085】
MCTは、MPAPの大きな上昇を引き起こした(25~50mmHg)。R-1703は、90μg/kgの投与量で正常圧を完全(100%)回復したことが証明され(p<0.000005)、MPAPのMCT誘発性上昇を投与量依存的に低下させた(図1A)。R-1703による治療は、心拍数にも末梢血圧にも効果を及ぼさず、したがってこれらの投与量レベルで肺血管循環の血管拡張作用に絶対的選択性があることが立証された。MPAPに対するR-1703の効果は、投与後少なくとも24時間持続し、したがって活性持続期間の長期化が示された(図1B)。以下に示す実験を3回繰り返したが、再現性がある。
【0086】
気管内(IT)エアロゾル化したR-1703は、MCT誘発性PHのげっ歯類治療モデルにおいて効果的である。急性効果。MCTの投与(60mg/kgSC)及び重度で安定したPHの発生の28日後、機械的に人工呼吸し、麻酔をかけたスプラーグドーリーラットにPBS中500又は5000ng/mLのR-1703を含有するエアロゾル化した溶液(2.0mL)を用いてIT投与した。ビヒクルコントロールは、等体積のPBSを受けた。MCTは、MPAPの大きな上昇を引き起こした。IT R-1703は、MPAPのMCT誘発性上昇を投与量依存的に低下させた(p<0.001)。IT R-1703による治療は、心拍数にも末梢血圧にも効果を及ぼさず、したがってこれらの投与量レベルで肺血管循環の血管拡張作用に絶対的選択性があることが立証された(図2)。
【0087】
気管内エアロゾル化したR-1703は、MCT誘発性PHのげっ歯類治療モデルにおいて効果的である。持続性効果。MCTの投与(60mg/kgSC)及び重度で安定したPHの発生の28日後、機械的に人工呼吸し、麻酔をかけたスプラーグドーリーラットにPBS中kgあたり0.6,6.0,又は30μgのR-1703を送達するエアロゾル化した溶液(2.0mL)を用いてIT投与した。ビヒクルコントロールは、等体積の
PBSを受けた。MCTは、MPAPの大きな上昇を引き起こした。IT R-1703は、MPAPのMCT誘発性上昇を投与量依存的に低下させた(p<0.001)。IT
R-1703による治療は、心拍数にも末梢血圧にも効果を及ぼさず、したがってこれらの投与量レベルで肺血管循環の血管拡張作用に絶対的選択性があることが立証された(図3)。
【0088】
実施例3.R-1703による予防的治療は、MCT誘発性PHのげっ歯類治療モデルにおいて効果的である。
スプラーグドーリーラット(群あたりn=3)を、60mg/kgのMCT又は等体積の生理食塩水(2mL/kg)を一回SC投与して処置した。ラットをついで、腹腔内(IP)投与経路によりkgあたり50μgのR-1703で毎日処置した。ビヒクルコントロールで処置したラットが重度で安定したPHにかかったMCT後28日の期間後、ラットに麻酔をかけ、気管内挿管した。R-1703は、正常圧を80%回復したことが証明され(p<0.001)、MPAPのMCT誘発性上昇を投与量依存的に低下させることが分かった(図4)。
【0089】
付録
【0090】
【化4】
【0091】
【化5】
【0092】
【化6】
【0093】
【化7】
図1A
図1B
図2
図3
図4
【国際調査報告】