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特表2022-547135増強されたプロテインL捕捉動的結合容量を有する二重特異性抗原結合ポリペプチドの精製方法
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  • 特表-増強されたプロテインL捕捉動的結合容量を有する二重特異性抗原結合ポリペプチドの精製方法 図1A
  • 特表-増強されたプロテインL捕捉動的結合容量を有する二重特異性抗原結合ポリペプチドの精製方法 図1B
  • 特表-増強されたプロテインL捕捉動的結合容量を有する二重特異性抗原結合ポリペプチドの精製方法 図1C
  • 特表-増強されたプロテインL捕捉動的結合容量を有する二重特異性抗原結合ポリペプチドの精製方法 図1D
  • 特表-増強されたプロテインL捕捉動的結合容量を有する二重特異性抗原結合ポリペプチドの精製方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-10
(54)【発明の名称】増強されたプロテインL捕捉動的結合容量を有する二重特異性抗原結合ポリペプチドの精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/22 20060101AFI20221102BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20221102BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20221102BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20221102BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 37/00 20060101ALI20221102BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20221102BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20221102BHJP
【FI】
C07K1/22
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
C07K16/30
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61P35/00
A61P37/00
C12N15/13
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022515026
(86)(22)【出願日】2020-09-10
(85)【翻訳文提出日】2022-05-02
(86)【国際出願番号】 US2020050063
(87)【国際公開番号】W WO2021050640
(87)【国際公開日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】62/898,495
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャルマ,アシシュ
(72)【発明者】
【氏名】タンガラジ,バラクマール
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA16
4C085BB11
4C085DD32
4C085DD33
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA40
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA28
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、二重特異性抗原結合ポリペプチドの生産のためのダウンストリーム精製方法プロセスを提供する。この方法は、少なくとも(i)ポリマーマトリックス部分及びリガンド部分を含む分離樹脂を提供する工程(ここで、マトリックス部分はポリメタクリレートを含み、約30~60μmの粒径を有し、リガンド部分は組換えプロテインLを含み、リガンド部分のプロテインLはマトリックス部分の粒子に共有結合している)、(ii)二重特異性抗原結合ポリペプチドを含むプロセス流体を分離樹脂と接触させる工程、(iii)分離樹脂のリガンド部分によって二重特異性抗原結合ポリペプチドを捕捉する工程(ここで、二重特異性抗原結合ポリペプチドは分離樹脂のリガンド部分に可逆的に結合し、プロセス流体の残りは分離樹脂のリガンド部分に結合しない)、(iv)結合した二重特異性抗原結合ポリペプチドを、記リガンド部分から二重特異性抗原結合ポリペプチドを溶出させない洗浄バッファで、洗浄する工程、並びに(v)低pHの溶出バッファでリガンド部分から二重特異性抗原結合ポリペプチドを溶出する工程を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞表面抗原に結合する第1のドメインと、ヒト及びマカク(Macaca)CD3ε鎖の細胞外エピトープに結合する第2のドメインとを含む二重特異性抗原結合ポリペプチドを精製する方法であって、
(a)ポリマーマトリックス部分及びリガンド部分を含む分離樹脂を提供する工程(ここで、前記マトリックス部分がポリマー、好ましくはポリメタクリレートを含み、少なくとも10μm、好ましくは少なくとも20μm、より好ましくは約30~60μmの粒径を有し、前記リガンド部分が組換えプロテインLを含み、前記リガンド部分のプロテインLが前記マトリックス部分の粒子に共有結合している)、
(b)前記二重特異性抗原結合ポリペプチドを含むプロセス流体を前記分離樹脂と接触させる工程、
(c)前記分離樹脂の前記リガンド部分によって前記二重特異性抗原結合ポリペプチドを捕捉する工程(ここで、前記二重特異性抗原結合ポリペプチドは前記分離樹脂の前記リガンド部分に可逆的に結合し、前記プロセス流体の残りは前記分離樹脂の前記リガンド部分に結合しない)、
(d)前記結合した二重特異性抗原結合ポリペプチドを、前記リガンド部分から前記二重特異性抗原結合ポリペプチドを溶出させない洗浄バッファで、洗浄する工程、並びに
(e)酸性pHの溶出バッファで前記リガンド部分から前記二重特異性抗原結合ポリペプチドを溶出する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記マトリックス部分が、約45μmの粒径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組換えプロテインLが、複数のカップリング部位を有するアルカリ安定性四量体リガンドを有する修飾B4ドメインを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組換プロテインLが、二重特異性抗原結合ポリペプチドの抗原結合部位の外側のκ軽鎖に可逆的に結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記プロセス流体を前記分離樹脂に少なくとも1回通して(精製サイクル)、前記二重特異性抗原結合ポリペプチドの前記プロテインLとの接触を可能にする(滞留時間)(ここで、溶出前の二重特異性抗原結合ポリペプチド滞留時間は、少なくとも約2分、好ましくは約2.5~4分である)、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記洗浄バッファが、好ましくは0.01~1倍の濃度範囲のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、好ましくは0~30mMの範囲の3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、好ましくは50~150mMの範囲のNaCl、好ましくは15~35mMの範囲のトリス、好ましくは0.25~1Mの範囲のアルギニン、及び好ましくは40~60mMの範囲の酢酸塩からなる群からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含み、pHが5~8の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記溶出バッファが、好ましくは15~35mMの範囲のトリス、好ましくは0.25~1Mの範囲のアルギニン、好ましくは50~150mMの範囲のグリシン、及び好ましくは50~150mMの範囲の酢酸塩からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含み、約3~7.5の範囲のpH、好ましくは3.3~4.2のpHを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
動的負荷容量は、少なくとも10mg/ml樹脂、好ましくは少なくとも15mg/ml樹脂、より好ましくは少なくとも18mg/ml樹脂である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
溶出結合能力は、少なくとも7.5mg/ml樹脂、好ましくは少なくとも9mg/ml樹脂、より好ましくは16mg/ml樹脂である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記抗原結合ポリペプチドが、一本鎖抗原結合ポリペプチドである、請求項1に記載の二重特異性抗原結合ポリペプチド。
【請求項11】
それぞれヒンジ、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む2つのポリペプチド単量体を含む第3のドメインであって、前記2つのポリペプチド単量体が、ペプチドリンカーを介して互いに融合されている第3のドメインをさらに含む、請求項1に記載の二重特異性抗原結合ポリペプチド。
【請求項12】
前記第3のドメインが、アミノからカルボキシルの順に、
ヒンジ-CH2-CH3-リンカー-ヒンジ-CH2-CH3
を含む、請求項11に記載の二重特異性抗原結合ポリペプチド。
【請求項13】
前記第3のドメインにおける前記ポリペプチド単量体のそれぞれが、配列番号203~210からなる群から選択される配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する、請求項11に記載の二重特異性抗原結合ポリペプチド。
【請求項14】
前記ポリペプチド単量体のそれぞれが、配列番号203~210から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項11に記載の二重特異性抗原結合ポリペプチド。
【請求項15】
前記CH2ドメインが、ドメイン内システインジスルフィド架橋を含む、請求項12に記載の二重特異性抗原結合ポリペプチド。
【請求項16】
(i)前記第1のドメインが2つの抗体可変ドメインを含み、前記第2のドメインが2つの抗体可変ドメインを含むか;
(ii)前記第1のドメインが1つの抗体可変ドメインを含み、前記第2のドメインが2つの抗体可変ドメインを含むか;
(iii)前記第1のドメインが2つの抗体可変ドメインを含み、前記第2のドメインが1つの抗体可変ドメインを含むか;又は
(iv)前記第1のドメインが1つの抗体可変ドメインを含み、前記第2のドメインが1つの抗体可変ドメインを含む、請求項1に記載の二重特異性抗原結合ポリペプチド。
【請求項17】
前記第1及び第2のドメインが、ペプチドリンカーを介して前記第3のドメインに融合されている、請求項1に記載の二重特異性抗原結合ポリペプチド。
【請求項18】
前記ポリペプチドが、アミノからカルボキシルの順に、
(a)第1のドメイン;
(b)好ましくは配列番号187~189からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカー;
(c)第2のドメイン
を含む、請求項1に記載の二重特異性抗原結合ポリペプチド。
【請求項19】
前記ポリペプチドが、アミノからカルボキシルの順に、
(d)配列番号187、188、189、195、196、197及び198からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカー;
(e)第3のドメインの第1のポリペプチド単量体;
(f)配列番号191、192、193及び194からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカー;並びに
(g)前記第3のドメインの前記第2のポリペプチド単量体
をさらに含む、請求項17に記載の二重特異性抗原結合ポリペプチド。
【請求項20】
前記ポリペプチドの前記第1のドメインが、CD33、CD19、BCMA、PSMA、EGFRvIII、MUC17、FLT3、CD70、DLL3、CDH3又はEpCAM、好ましくはCD33のエピトープに結合する、請求項1に記載の二重特異性抗原結合ポリペプチド。
【請求項21】
前記第1の結合ドメインが、
(a)配列番号1に示されるとおりのCDR-H1、配列番号2に示されるとおりのCDR-H2、配列番号3に示されるとおりのCDR-H3、配列番号4に示されるとおりのCDR-L1、配列番号5に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号6に示されるとおりのCDR-L3、
(b)配列番号29に示されるとおりのCDR-H1、配列番号30に示されるとおりのCDR-H2、配列番号31に示されるとおりのCDR-H3、配列番号34に示されるとおりのCDR-L1、配列番号35に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号36に示されるとおりのCDR-L3、
(c)配列番号42に示されるとおりのCDR-H1、配列番号43に示されるとおりのCDR-H2、配列番号44に示されるとおりのCDR-H3、配列番号45に示されるとおりのCDR-L1、配列番号46に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号47に示されるとおりのCDR-L3、
(d)配列番号53に示されるとおりのCDR-H1、配列番号54に示されるとおりのCDR-H2、配列番号55に示されるとおりのCDR-H3、配列番号56に示されるとおりのCDR-L1、配列番号57に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号58に示されるとおりのCDR-L3、
(e)配列番号65に示されるとおりのCDR-H1、配列番号66に示されるとおりのCDR-H2、配列番号67に示されるとおりのCDR-H3、配列番号68に示されるとおりのCDR-L1、配列番号69に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号70に示されるとおりのCDR-L3、
(f)配列番号83に示されるとおりのCDR-H1、配列番号84に示されるとおりのCDR-H2、配列番号85に示されるとおりのCDR-H3、配列番号86に示されるとおりのCDR-L1、配列番号87に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号88に示されるとおりのCDR-L3、
(g)配列番号94に示されるとおりのCDR-H1、配列番号95に示されるとおりのCDR-H2、配列番号96に示されるとおりのCDR-H3、配列番号97に示されるとおりのCDR-L1、配列番号98に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号99に示されるとおりのCDR-L3、
(h)配列番号105に示されるとおりのCDR-H1、配列番号106に示されるとおりのCDR-H2、配列番号107に示されるとおりのCDR-H3、配列番号109に示されるとおりのCDR-L1、配列番号110に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号111に示されるとおりのCDR-L3、
(i)配列番号115に示されるとおりのCDR-H1、配列番号116に示されるとおりのCDR-H2、配列番号117に示されるとおりのCDR-H3、配列番号118に示されるとおりのCDR-L1、配列番号119に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号120に示されるとおりのCDR-L3、
(j)配列番号126に示されるとおりのCDR-H1、配列番号127に示されるとおりのCDR-H2、配列番号128に示されるとおりのCDR-H3、配列番号129に示されるとおりのCDR-L1、配列番号130に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号131に示されるとおりのCDR-L3、
(k)配列番号137に示されるとおりのCDR-H1、配列番号138に示されるとおりのCDR-H2、配列番号139に示されるとおりのCDR-H3、配列番号140に示されるとおりのCDR-L1、配列番号141に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号142に示されるとおりのCDR-L3、
(l)配列番号152に示されるとおりのCDR-H1、配列番号153に示されるとおりのCDR-H2、配列番号154に示されるとおりのCDR-H3、配列番号155に示されるとおりのCDR-L1、配列番号156に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号157に示されるとおりのCDR-L3、並びに
(m)配列番号167に示されるとおりのCDR-H1、配列番号168に示されるとおりのCDR-H2、配列番号169に示されるとおりのCDR-H3、配列番号170に示されるとおりのCDR-L1、配列番号171に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号172に示されるとおりのCDR-L3、
から選択されるCDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3を含むVH領域を含む、請求項1に記載の二重特異性抗原結合ポリペプチド。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか一項に記載の二重特異性結合構築物を含む医薬組成物。
【請求項23】
増殖性疾患、腫瘍性疾患、癌又は免疫障害から選択される疾患の予防、治療又は改善における使用のための、請求項1~21のいずれか一項に記載の抗原結合ポリペプチド。
【請求項24】
二重特異性抗原結合ポリペプチドの製造プロセスの収率を改善するための方法であって、ダウンストリームプロセスにおいて、請求項1に記載の方法が適用される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーの方法、特に、二重特異性抗原ポリペプチドのダウンストリーム精製のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造における進歩にもかかわらず、新規のタンパク質に基づく医薬品は、タンパク質の凝集などの製品品質への影響を回避するために、新たな最適化された製造プロセスを必要とする。これは、アップストリームの製造、ダウンストリームの製造、保管及び適用に影響を及ぼす。
【0003】
このような新規のタンパク質に基づく医薬品は、例えば、二重特異性抗原結合ポリペプチド、例えば(モノクローナル)抗体を含む。抗体などの二重特異性ポリペプチドは、2つの異なる型の抗原に同時に結合できる人工タンパク質である。それらは、いくつかの構造形式において知られており、現在では癌免疫療法及び薬物送達への応用が模索されている(Fan,Gaowei;Wang,Zujian;Hao,Mingju;Li,Jinming(2015).“Bispecific antibodies and their applications”.Journal of Hematology & Oncology.8:130)。
【0004】
一般に、二重特異性抗体は、IgG様、すなわち、全長二重特異性抗体であってもよいし、非IgG様二重特異性抗体(これは、例えば、全長抗体ではない)であってもよい。全長二重特異性抗体は、通常、2つのFab部位が異なる抗原に結合することを除いて、2つのFabアーム及び1つのFc領域の通常のモノクローナル抗体(mAb)構造を保持する。非全長二重特異性抗体は、Fc領域を完全に欠く。これらとしては、Fab領域のみからなる化学的に連結されたFab、並びに様々な型の二価及び三価の一本鎖可変フラグメント(scFv)が挙げられる。2つの抗体の可変ドメインを模倣する融合タンパク質もある。これらの新しい形式の中で最も開発が進んでいると思われるのは、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE(登録商標))である(Yang,Fa;Wen,Weihong;Qin,Weijun(2016).“Bispecific Antibodies as a Development Platform for New Concepts and Treatment Strategies”.International Journal of Molecular Sciences.18(1):48)。
【0005】
BiTE(登録商標)分子などの二重特異性抗原結合ポリペプチドは、2つの柔軟に連結された抗体に由来する結合ドメインから構成される組換えタンパク質コンストラクトである。BiTE(登録商標)分子の1つの結合ドメインは、標的細胞上の選択された腫瘍関連表面抗原に特異的であり、第2の結合ドメインは、T細胞上のT細胞受容体複合体のサブユニットであるCD3に特異的である。それらの特別な設計により、BiTE(登録商標)分子は、T細胞を標的細胞と一時的に結び付け、同時に標的細胞に対するT細胞の固有の細胞溶解能を強力に活性化するのに独特に適している。AMG 103及びAMG 110としてクリニックに展開された第一世代のBiTE(登録商標)分子の重要なさらなる開発(国際公開第99/54440号パンフレット及び国際公開第2005/040220号パンフレットを参照)は、CD3ε鎖のN末端のコンテクスト非依存的エピトープに結合する二重特異性分子を提供した(国際公開第2008/119567号パンフレット)。この選出されたエピトープに結合するBiTE(登録商標)分子は、ヒト及びコモンマーモセット(Callithrix jacchus)、ワタボウシタマリン(Saguinus oedipus)又はリスザル(Saimiri sciureus)CD3ε鎖に対する種間特異性を示さないだけでなく、二重特異性T細胞エンゲージ分子において以前に記載されたCD3結合体のエピトープの代わりにこの特異的エピトープを認識するため、前世代のT細胞エンゲージ抗体で観察されたのと同程度にT細胞を非特異的に活性化しない。このT細胞活性化の低下は、患者におけるより少ない又は減少したT細胞再分布と関係し、これは、副作用のリスクであると判断された。
【0006】
現在、二重特異性抗原結合ポリペプチドは、通常、抗体断片精製のためにアフィニティ樹脂を使用するダウンストリームクロマトグラフィ精製で処理されている。二重特異性抗体が、プロテインAへの結合に必要なFc領域を欠くコンストラクトである場合、いくつかのBiTE(登録商標)分子はそうであるが、それらの親和性精製のために代替のリガンドが必要である。細菌種の表面から単離されたプロテインLは、二重特異性抗原結合ポリペプチドが有する軽鎖を介して免疫グロブリンに結合することが見出されている。このようなアフィニティ樹脂は、通常、剛性の高流動アガロースマトリックス中に免疫グロブリン結合組換えタンパク質Lリガンドを含み、このリガンドは、抗体のカッパ軽鎖の可変領域に対して強い親和性を有する。このような樹脂は、フラグメント抗体結合(Fab)、dAb、及び一本鎖フラグメント可変(scFv)などの広範囲の抗体フラグメントの捕捉に適していると考えられ、高い結合能力、低いリガンド漏出、及び広範囲の抗体フラグメントに対する選択性を有することを意図し、それによって、好ましくは、プロセス時間及び樹脂の量を減少させる。しかしながら、scFv形式を有する二重特異性抗原結合ポリペプチドなどの新規な複合体分子は、それらの潜在的な利点を十分に利用するために、特定の且つ調整されたダウンストリーム精製溶液を必要とする。有利な治療特性を有する新規な二重特異性抗原結合性ポリペプチドは、利用可能な精製方法が、例えば、乏しいモノマー含量、長い精製時間、それ故、全体的に低い生産性をもたらす場合、実用的な利益を有さないであろう。
【0007】
したがって、ダウンストリームプロセスで廃棄する必要のある製品が少なくなるような品質の商品を商業規模で十分な量提供するために、製品量及び製品品質を共に向上させる、特に二重特異性抗体を生産するための改善されたダウンストリーム精製方法が求められている。大規模な細胞培養プロセスの費用及び重度のアンメットメディカルニーズを持つ患者に供給されるであろう生物学的製品の大量且つ低コスト化の要求が高まっていることを考慮すると、組換えタンパク質の生産及び回収を徐々にでも改善できる新たなプロセス方法が有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第99/54440号
【特許文献2】国際公開第2005/040220号
【特許文献3】国際公開第2008/119567号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Fan,Gaowei;Wang,Zujian;Hao,Mingju;Li,Jinming(2015).“Bispecific antibodies and their applications”.Journal of Hematology & Oncology.8:130
【非特許文献2】Yang,Fa;Wen,Weihong;Qin,Weijun(2016).“Bispecific Antibodies as a Development Platform for New Concepts and Treatment Strategies”.International Journal of Molecular Sciences.18(1):48
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
驚くべきことに、二重特異性抗体の製品量及び製品品質の両方の改善を保証した、適合したダウンストリーム精製方法が提供され得る。抗体断片のダウンストリーム精製のためのいくつかの材料(異なるプロテインL樹脂を含む)が知られていても、scFv二重特異性抗原結合ポリペプチドの生産に最も適しているものは、これまでのところ決定されていない。
【0011】
したがって、一態様では、本発明に関連して、細胞表面抗原に結合する第1のドメインと、ヒト及びマカク(Macaca)CD3ε鎖の細胞外エピトープに結合する第2のドメインとを含む二重特異性抗原結合ポリペプチドを精製する方法であって、以下の工程を含む方法が想定される:
(a)ポリマーマトリックス部分及びリガンド部分を含む分離樹脂を提供する工程(ここで、マトリックス部分はポリマー、好ましくはポリメタクリレートを含み、少なくとも10μm、好ましくは少なくとも20μm、より好ましくは約30~60μmの粒径を有し、リガンド部分は組換えプロテインLを含み、リガンド部分のプロテインLはマトリックス部分の粒子に共有結合している)、
(b)二重特異性抗原結合ポリペプチドを含むプロセス流体を分離樹脂と接触させる工程、
(c)分離樹脂のリガンド部分によって二重特異性抗原結合ポリペプチドを捕捉する工程(ここで、二重特異性抗原結合ポリペプチドは分離樹脂のリガンド部分に可逆的に結合し、プロセス流体の残りは分離樹脂のリガンド部分に結合しない)、
(d)結合した二重特異性抗原結合ポリペプチドを、リガンド部分から二重特異性抗原結合ポリペプチドを溶出させない洗浄バッファで、洗浄する工程、並びに
(e)酸性pHの溶出バッファでリガンド部分から二重特異性抗原結合ポリペプチドを溶出する工程。
【0012】
本発明の前記態様によれば、マトリックス部分は、約45μmの粒径を有する。
【0013】
本発明の前記態様によれば、組換えプロテインLは、複数のカップリング部位を有するアルカリ安定性四量体リガンドを有する修飾B4ドメインを含む。
【0014】
前記組換えプロテインLは、二重特異性抗原結合ポリペプチドの抗原結合部位の外側のκ軽鎖に可逆的に結合する、請求項1に記載の方法。
【0015】
本発明の前記態様によれば、プロセス流体を分離樹脂に少なくとも1回通して(精製サイクル)、二重特異性抗原結合ポリペプチドのプロテインLとの接触を可能にする(滞留時間)(ここで、溶出前の二重特異性抗原結合ポリペプチド滞留時間は、少なくとも約2分、好ましくは約2.5~4分である)。
【0016】
本発明の前記態様によれば、洗浄バッファは、好ましくは0.01~1倍の濃度範囲のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、好ましくは0~30mMの範囲の3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、好ましくは50~150mMの範囲のNaCl、好ましくは15~35mMの範囲のトリス、好ましくは0.25~1Mの範囲のアルギニン、及び好ましくは40~60mMの範囲の酢酸塩からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含み、pHは5~8の範囲である。
【0017】
本発明の前記態様によれば、溶出バッファは、好ましくは15~35mMの範囲のトリス、好ましくは0.25~1Mの範囲のアルギニン、好ましくは50~150mMの範囲のグリシン、及び好ましくは50~150mMの範囲の酢酸塩からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含み、約3~7.5の範囲のpH、好ましくは3.3~4.2のpHを有する。
【0018】
本発明の前記態様によれば、動的負荷容量は、少なくとも10mg/ml樹脂、好ましくは少なくとも15mg/ml樹脂、より好ましくは少なくとも18mg/ml樹脂である。
【0019】
本発明の前記態様によれば、溶出結合能力は、少なくとも7.5mg/ml樹脂、好ましくは少なくとも9mg/ml樹脂、より好ましくは16mg/ml樹脂である。
【0020】
本発明の前記態様によれば、二重特異性抗原結合ポリペプチドは、それぞれヒンジ、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む2つのポリペプチド単量体を含む第3のドメインであって、前記2つのポリペプチド単量体は、ペプチドリンカーを介して互いに融合されている第3のドメインをさらに含む。
【0021】
本発明の前記態様によれば、抗原結合ポリペプチドは、一本鎖抗原結合ポリペプチドである。
【0022】
本発明の前記態様によれば、前記第3のドメインは、アミノからカルボキシルの順に、
ヒンジ-CH2-CH3-リンカー-ヒンジ-CH2-CH3
を含む。
【0023】
本発明の前記態様によれば、第3のドメインにおける前記ポリペプチド単量体のそれぞれは、配列番号203~210からなる群から選択される配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する。
【0024】
本発明の前記態様によれば、前記ポリペプチド単量体のそれぞれは、配列番号203~210から選択されるアミノ酸配列を有する。
【0025】
本発明の前記態様によれば、CH2ドメインは、ドメイン内システインジスルフィド架橋を含む。
【0026】
本発明の前記態様によれば、
(i)第1のドメインは2つの抗体可変ドメインを含み、第2のドメインは2つの抗体可変ドメインを含むか;
(ii)第1のドメインは1つの抗体可変ドメインを含み、第2のドメインは2つの抗体可変ドメインを含むか;
(iii)第1のドメインは2つの抗体可変ドメインを含み、第2のドメインは1つの抗体可変ドメインを含むか;又は
(iv)第1のドメインは1つの抗体可変ドメインを含み、第2のドメインは1つの抗体可変ドメインを含む。
【0027】
本発明の前記態様によれば、第1及び第2のドメインは、ペプチドリンカーを介して第3のドメインに融合されている。
【0028】
本発明の前記態様によれば、抗原結合ポリペプチドは、アミノからカルボキシルの順に、
(a)第1のドメイン;
(b)好ましくは配列番号187~189からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカー;
(c)第2のドメイン
を含む。
【0029】
本発明の前記態様によれば、抗原結合ポリペプチドは、アミノからカルボキシルの順に、
(d)配列番号187、188、189、195、196、197及び198からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカー;
(e)第3のドメインの第1のポリペプチド単量体;
(f)配列番号191、192、193及び194からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカー;並びに
(g)第3のドメインの第2のポリペプチド単量体
をさらに含む。
【0030】
本発明の前記態様によれば、抗原結合ポリペプチドの第1のドメインは、CD33、CD19、BCMA、PSMA、EGFRvIII、MUC17、FLT3、CD70、DLL3、CDH3又はEpCAM、好ましくはCD33のエピトープに結合する。
【0031】
本発明の前記態様によれば、第1の結合ドメインは、以下から選択されるCDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3を含むVH領域を含む:
(a)配列番号1に示されるとおりのCDR-H1、配列番号2に示されるとおりのCDR-H2、配列番号3に示されるとおりのCDR-H3、配列番号4に示されるとおりのCDR-L1、配列番号5に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号6に示されるとおりのCDR-L3、
(b)配列番号29に示されるとおりのCDR-H1、配列番号30に示されるとおりのCDR-H2、配列番号31に示されるとおりのCDR-H3、配列番号34に示されるとおりのCDR-L1、配列番号35に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号36に示されるとおりのCDR-L3、
(c)配列番号42に示されるとおりのCDR-H1、配列番号43に示されるとおりのCDR-H2、配列番号44に示されるとおりのCDR-H3、配列番号45に示されるとおりのCDR-L1、配列番号46に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号47に示されるとおりのCDR-L3、
(d)配列番号53に示されるとおりのCDR-H1、配列番号54に示されるとおりのCDR-H2、配列番号55に示されるとおりのCDR-H3、配列番号56に示されるとおりのCDR-L1、配列番号57に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号58に示されるとおりのCDR-L3、
(e)配列番号65に示されるとおりのCDR-H1、配列番号66に示されるとおりのCDR-H2、配列番号67に示されるとおりのCDR-H3、配列番号68に示されるとおりのCDR-L1、配列番号69に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号70に示されるとおりのCDR-L3、
(f)配列番号83に示されるとおりのCDR-H1、配列番号84に示されるとおりのCDR-H2、配列番号85に示されるとおりのCDR-H3、配列番号86に示されるとおりのCDR-L1、配列番号87に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号88に示されるとおりのCDR-L3、
(g)配列番号94に示されるとおりのCDR-H1、配列番号95に示されるとおりのCDR-H2、配列番号96に示されるとおりのCDR-H3、配列番号97に示されるとおりのCDR-L1、配列番号98に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号99に示されるとおりのCDR-L3、
(h)配列番号105に示されるとおりのCDR-H1、配列番号106に示されるとおりのCDR-H2、配列番号107に示されるとおりのCDR-H3、配列番号109に示されるとおりのCDR-L1、配列番号110に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号111に示されるとおりのCDR-L3、
(i)配列番号115に示されるとおりのCDR-H1、配列番号116に示されるとおりのCDR-H2、配列番号117に示されるとおりのCDR-H3、配列番号118に示されるとおりのCDR-L1、配列番号119に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号120に示されるとおりのCDR-L3、
(j)配列番号126に示されるとおりのCDR-H1、配列番号127に示されるとおりのCDR-H2、配列番号128に示されるとおりのCDR-H3、配列番号129に示されるとおりのCDR-L1、配列番号130に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号131に示されるとおりのCDR-L3、
(k)配列番号137に示されるとおりのCDR-H1、配列番号138に示されるとおりのCDR-H2、配列番号139に示されるとおりのCDR-H3、配列番号140に示されるとおりのCDR-L1、配列番号141に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号142に示されるとおりのCDR-L3、
(l)配列番号152に示されるとおりのCDR-H1、配列番号153に示されるとおりのCDR-H2、配列番号154に示されるとおりのCDR-H3、配列番号155に示されるとおりのCDR-L1、配列番号156に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号157に示されるとおりのCDR-L3、並びに
(m)配列番号167に示されるとおりのCDR-H1、配列番号168に示されるとおりのCDR-H2、配列番号169に示されるとおりのCDR-H3、配列番号170に示されるとおりのCDR-L1、配列番号171に示されるとおりのCDR-L2及び配列番号172に示されるとおりのCDR-L3。
【0032】
本発明の前記態様によれば、抗原結合ポリペプチドは、アミノからカルボキシルの順に、
(a)上記のとおりの第1のドメイン、
(b)配列番号187~189からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカー、
(c)国際公開第2008/119567号パンフレットに記載の配列番号23、25、41、43、59、61、77、79、95、97、113、115、131、133、149、151、167、169、185又は187からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する第2のドメイン
を含む。
【0033】
本発明の前記態様によれば、抗原結合ポリペプチドは、アミノからカルボキシルの順に、
(d)配列番号187、188、189、195、196、197及び198からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカー;
(e)配列番号203~210からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する第3のドメインの第1のポリペプチド単量体、
(f)配列番号191、192、193、194及び195からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカー、並びに
(g)配列番号203~210からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する第3のドメインの第2のポリペプチド単量体
をさらに含む。
【0034】
本発明の前記態様によれば、前記二重特異性抗原結合ポリペプチドは、表11に記載の「二重特異性(HLE)分子」からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する。
【0035】
本発明の前記態様によれば、医薬組成物は、本明細書に記載の二重特異性抗原結合ポリペプチドを含む。
【0036】
本発明の前記態様によれば、二重特異性抗体は、増殖性疾患、腫瘍性疾患、癌又は免疫障害から選択される疾患の予防、治療又は改善に使用するためのものである。
【0037】
本発明の第2の態様によれば、二重特異性抗原結合ポリペプチドの製造プロセスの収率を改善するための方法であって、ダウンストリームプロセスにおいて、第1の態様による方法が適用される方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1A図1は、捕捉クロマトグラフィカラム中の次の4つの異なるプロテインL樹脂下での二重特異性抗原結合ポリペプチド溶出特性を有する4つのクロマトグラムを示す:(A)TOYOPEARL(登録商標)AF-rプロテインL-650F樹脂、(B)GE Kappaselect プロテインL樹脂、(C)GE Lambdaselect プロテインL樹脂、及び(D)Kappa XLプロテインL樹脂。(A)では、洗浄後に有意な溶出ピークが得られ、一方(B)、(C)及び(D)では洗浄後に有意な溶出ピークは観察されなかったが、ロードブレークスルーが好ましくない早期に起こった。
図1B図1は、捕捉クロマトグラフィカラム中の次の4つの異なるプロテインL樹脂下での二重特異性抗原結合ポリペプチド溶出特性を有する4つのクロマトグラムを示す:(A)TOYOPEARL(登録商標)AF-rプロテインL-650F樹脂、(B)GE Kappaselect プロテインL樹脂、(C)GE Lambdaselect プロテインL樹脂、及び(D)Kappa XLプロテインL樹脂。(A)では、洗浄後に有意な溶出ピークが得られ、一方(B)、(C)及び(D)では洗浄後に有意な溶出ピークは観察されなかったが、ロードブレークスルーが好ましくない早期に起こった。
図1C図1は、捕捉クロマトグラフィカラム中の次の4つの異なるプロテインL樹脂下での二重特異性抗原結合ポリペプチド溶出特性を有する4つのクロマトグラムを示す:(A)TOYOPEARL(登録商標)AF-rプロテインL-650F樹脂、(B)GE Kappaselect プロテインL樹脂、(C)GE Lambdaselect プロテインL樹脂、及び(D)Kappa XLプロテインL樹脂。(A)では、洗浄後に有意な溶出ピークが得られ、一方(B)、(C)及び(D)では洗浄後に有意な溶出ピークは観察されなかったが、ロードブレークスルーが好ましくない早期に起こった。
図1D図1は、捕捉クロマトグラフィカラム中の次の4つの異なるプロテインL樹脂下での二重特異性抗原結合ポリペプチド溶出特性を有する4つのクロマトグラムを示す:(A)TOYOPEARL(登録商標)AF-rプロテインL-650F樹脂、(B)GE Kappaselect プロテインL樹脂、(C)GE Lambdaselect プロテインL樹脂、及び(D)Kappa XLプロテインL樹脂。(A)では、洗浄後に有意な溶出ピークが得られ、一方(B)、(C)及び(D)では洗浄後に有意な溶出ピークは観察されなかったが、ロードブレークスルーが好ましくない早期に起こった。
図2図2は、CD33×CD3二重特異性抗原結合ポリペプチドに関する、ロード段階と溶出段階における、従来のCapto L樹脂[灰色のバー]とTOYOPEARL(登録商標)AF-rプロテインL-650F[黒色のバー]の結合能力の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
治療用タンパク質、特にscFv二重特異性抗原結合ポリペプチドを製造するためのダウンストリーム精製方法が本明細書において提供される。本発明は、ダウンストリームプロセスを、二重特異性抗体の製造の特定の要求に合わせることが想定される。前記ダウンストリーム精製方法は、当該技術分野で知られているプロテインL充填カラムを使用する標準的な精製と比較して、生産性の向上及びスペースに関する要件の縮小に寄与するだけではない。さらに、ダウンストリームプロセスのクロマトグラフィー捕捉工程としての本方法は、二重特異性抗体に特に適合されており、より高い製品品質、すなわち、Capto(登録商標)LなどのプロテインL充填カラムの使用に関して、より高い単量体含量の点から、凝集のより少ない二重特異性抗体をもたらすことが想定される。
【0040】
本発明によるダウンストリーム精製での特定のクロマトグラフィー捕捉工程を使用すること、すなわち、好ましくは約30~60μmの粒径を有する好ましくはポリメタクリレートからなる塩基マトリックスに共有結合した組換えプロテインLリガンドを使用することは、好ましくは動的結合容量の有意な増強をもたらし、より高いロード及び収集細胞培養液プール容量の減少をもたらすことが見出された。これは、全体として、設備適合を低下させる。
【0041】
例えば、TOYOPEARL(登録商標)AF-rプロテインL-650F樹脂による12.7g/L充填樹脂などの、典型的には10g/L充填樹脂を超える高い溶出結合容量が達成されるために、溶出結合容量に関して標準アフィニティ樹脂Capto(登録商標)Lの少なくとも2倍、好ましくは少なくとも3倍、又はさらに4倍の改善が見られ、全体の収率は、現在のプロセスによるのと同様の範囲であった。最新技術の観点から驚くべきことは、(溶出)結合容量のこのような改善でいくつかの他の利点が達成可能であることであった。例えば、TOYOPEARL AF-rプロテインL-650FなどのCapto Lと比較して4倍改善された(溶出)結合容量を有する樹脂を使用するダウンストリームプロセスでのクロマトグラフィー捕捉工程の使用は、驚くべきことに、プロセス流体の所与の体積で必要とされる精製サイクル数の6倍の減少、すなわち、本明細書中に記載されるようなCD33×CD3二重特異性抗原結合ポリペプチドに関して、例えば、約12精製サイクルから2精製サイクルまでの、収集細胞培養液の所与の容量の減少をもたらす。当業者が理解するように、必要とされる精製サイクルのこのような有意な減少は、精製する二重特異性抗原結合ポリペプチドを含むプロセス流体の所与の量を処理する時間、空間及びエネルギーの量を減少させる。
【0042】
本発明に関連して、効率の増加は、1精製サイクルにおける二重特異性抗原結合ポリペプチドの樹脂上の滞留時間の有意な減少に対応する。また、有効性の増大は、所与の滞留での最大結合容量でロードするのに必要な時間の短縮に関連する。例えば、従来のCapto Lを用いた場合の5分と比較して3分の滞留時間では、最大結合容量でロードするのに要する時間は約7時間から約4時間に短縮される。
【0043】
本発明に関連して、1精製サイクルは、標的タンパク質が分離カラム中の樹脂にロードされ、洗浄のための時間及びタンパク質の溶出に要する時間を考慮した、樹脂上に滞留するタイムスパンに対応する。通常、ロードには数時間を要するが、好ましくは7時間以下、より好ましくは5時間以下であり、一方、滞留時間は、好ましくは2分程度と短く、又は3、4若しくは5分続き得る。より長いタンパク質の滞留時間、したがって精製サイクルは、本発明との関連では、まれであり、好ましくない。例えば、本明細書に記載されるようなBCMAxCD3二重特異性抗原結合ポリペプチドが18g/Lを目標とするより高いロード因子を達成するために要するロード時間は通常最大で7時間である。通常、ロードはサイクルの最大の時間因子である。したがって、サイクル時間は、それぞれの樹脂の動的結合容量の通常80~90%である最大結合容量でロードするのに要する時間に依存する。
【0044】
本発明に関連して、滞留時間は、カラム床の高さを線流速で割ったものとして計算される。例えば、滞留時間が3分である場合、タンパク質がカラム内に留まる時間は短いので、ロード時間は速いであろう。或いは、6分間の滞留時間の場合、同じ床高さで線流速[cm/h]は半分になるので、ロード時間は長くなる。したがって、より長い滞留時間は、本発明との関連では、好ましくない。しかしながら、目標ロード率が非常に高く、最大結合容量も高い場合、本発明との関連では、より長いロード時間が企図される。本発明は、より多くの二重特異性抗原結合ポリペプチドを、短い処理時間又は短い滞留時間でロードすることを目的とする。
【0045】
本発明との関連では、1精製サイクルは、通常、平衡化、ロード、平衡化と同じ洗浄1、及び任意選択による洗浄2を含む少なくとも1つの洗浄工程、溶出、剥離、洗浄、任意選択によるサイクル間の、しかし通常はバッチの最後のサイクルの後のみの再生、及び貯蔵を含む。
【0046】
本発明との関連では、プロテインA及びGは重鎖のFc領域に結合すると理解され、一方、プロテインLは抗原結合部位の外側のκ-軽鎖に結合する。構造研究から、プロテインAではドメインE、D、A、B及びC、プロテインGではドメインC1、D1及びC2、プロテインLではドメインB1、B2、B3及びB4と、明確なモチーフが結合を担っていることがわかる。
【0047】
本発明との関連では、TOYOPEARL AF-rプロテインL-650Fなどの、そのB4ドメインが改変されているプロテインLが好ましい。
通常、TOYOPEARL AF-rプロテインL-650Fは、ポリマー、好ましくはポリメタクリレートを含むマトリックスを含み、好ましくは約30~60μmの粒径を有し、このマトリックスに、B4ドメインが改変されているリガンドタンパク質Lが共有結合する。
【0048】
本発明との関連では、目標ロード(g/L充填樹脂)は動的結合容量の少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%と理解され、これは、樹脂に対し実際に実行された場合、通常サイクルごとに、初期のロードブレークスルーは観察されない。これは、本発明との関連においては、好ましい。初期のロードブレークスルーは、本明細書では、樹脂が樹脂に結合されるべき分子、例えば抗原結合ポリペプチドについての所定の設定ロード率をもはや保持することができず、分子が樹脂に結合せずに、樹脂を通過する液体、例えばフロースルーロード試料中に存在する場合に観察される現象と理解される。通常、ロードブレークスルーは、フロースループール中の二重特異性抗原結合ポリペプチドなどのロード分子の濃度が供給溶液濃度と同じになったときに起こる。
【0049】
本発明との関連では、溶出結合容量(g/L充填樹脂)は、樹脂のリガンドに対する親和性が精製対象の分子と比較して通常より高いバッファを使用した結果として、溶出された溶出プール中に通常回収される、精製対象の分子(例えば、二重特異性抗原結合ポリペプチド)の最大量と理解される。溶出結合容量はまた、通常、樹脂、一般的にはアフィニティ樹脂の回収収率パーセンテージによって表され、充填樹脂の体積当たりの、濾過され回収された全抗体(質量)のパーセンテージとして計算される。理論的には、溶出結合容量は、ロード結合容量に等しいべきであるが、一般的には使用される溶出バッファの強度に依存し、樹脂にロードされた全てのタンパク質が溶出されるわけではないので、溶出結合容量はロード結合容量よりも小さい。
【0050】
本発明との関連では、カラムID(cm)は、カラム内径として理解される。直径が大きいほど、所与の時間枠内でより多くのプロセス流体を通すことができる。
【0051】
本発明との関連では、「細胞培養」又は「培養」は、多細胞生物又は組織の外部での細胞の成長及び増殖を意味する。哺乳動物細胞に好適な培養条件は、当該技術分野において知られている。例えば、Animal cell culture:A Practical Approach,D.Rickwood,ed.,Oxford University Press,New York(1992)を参照されたい。哺乳動物細胞は、懸濁液中で又は固体基質に付着しながら培養され得る。
【0052】
用語「哺乳動物細胞」は、任意の哺乳動物(例えば、ヒト、ハムスター、マウス、ミドリザル、ラット、ブタ、雌ウシ、又はウサギ)からの又はそれに由来する任意の細胞を意味する。例えば、哺乳動物細胞は、不死化細胞であってもよい。いくつかの実施形態では、哺乳動物細胞は、分化細胞である。いくつかの実施形態では、哺乳動物細胞は、未分化細胞である。哺乳動物細胞の非限定的な例は、本明細書に記載される。本発明との関連で好ましい哺乳動物細胞の型は、GS-KO細胞である。哺乳動物細胞のさらなる例は、当該技術分野において知られる。
【0053】
本明細書で使用する場合、用語「細胞培養培地(cell culturing medium)」(「培養培地」、「細胞培養培地(cell culture media)」、「組織培養培地」とも呼ばれる)は、増殖している細胞、例えば、動物又は哺乳動物細胞のために使用される任意の栄養液を指し、一般に、以下からの少なくとも1つ以上の成分を提供する:エネルギー源(通常、グルコースなどの炭水化物の形態);全ての必須アミノ酸、及び一般に20種の基本アミノ酸とシステインのうちの1つ以上;典型的には低濃度で必要とされるビタミン及び/又は他の有機化合物;脂質又は遊離脂肪酸;並びに通常マイクロモル濃度範囲において典型的には非常に低濃度で必要とされる微量元素、例えば無機化合物又は天然に存在する元素。
【0054】
細胞培養培地としては、以下に限定されないが、細胞のバッチ、拡張バッチ、フェドバッチ及び/又は灌流若しくは連続培養などの任意の細胞培養プロセスにおいて通常利用され、且つ/又はそれとの使用に関して知られるものが挙げられる。
【0055】
「灌流」細胞培養培地又はフィード培地は、灌流又は連続培養法によって維持され、且つこのプロセスの間に細胞培養を助けるのに十分に完全である細胞培養において通常使用される細胞培養培地を指す。灌流細胞培養培地配合物は、使用済み培地を除去するために使用される方法に対応するために、基本の細胞培養培地配合物よりも富んでいてもよいし、より濃縮されていてもよい。灌流細胞培養培地は、増殖期及び生産期の両方で使用され得る。
【0056】
用語「0.5×量」は、約50%の量を意味する。用語「0.6×量」は、約60%の量を意味する。同様に、0.7×、0.8×、0.9×、及び1.0×は、それぞれ約70%、80%、90%、又は100%の量を意味する。
【0057】
用語「培養」又は「細胞培養」は、制御された一連の物理的条件下での哺乳類細胞の維持又は増殖を意味する。
【0058】
用語「哺乳動物細胞の培養物」は、制御された一連の物理的条件下で維持又は増殖される複数の哺乳動物細胞を含有する液体培養培地を意味する。
【0059】
用語「液体培養培地」は、細胞(例えば、哺乳動物細胞)をインビトロで成長又は増殖させるのに十分な栄養素を含有する液体を意味する。例えば、液体培養培地は、アミノ酸(例えば、20種類のアミノ酸)、プリン(例えば、ヒポキサンチン)、ピリミジン(例えば、チミジン)、コリン、イノシトール、チアミン、葉酸、ビオチン、カルシウム、ナイアシンアミド、ピリドキシン、リボフラビン、チミジン、シアノコバラミン、ピルビン酸、リポ酸、マグネシウム、グルコース、ナトリウム、カリウム、鉄、銅、亜鉛、及び重炭酸ナトリウムのうちの1つ以上を含有し得る。いくつかの実施形態では、液体培養培地は、哺乳動物由来の血清を含有し得る。いくつかの実施形態では、液体培養培地は、哺乳動物由来の血清又は別の抽出物を含有しない(規定の液体培養培地)。いくつかの実施形態では、液体培養培地は、微量金属、哺乳動物成長ホルモン、及び/又は哺乳動物増殖因子を含有し得る。液体培養培地の別の例は、最小培地(例えば、無機塩、炭素源、及び水のみを含有する培地)である。液体培養培地の非限定的な例は、本明細書に記載される。液体培養培地のさらなる例は、当該技術分野において知られており、市販されている。液体培養培地は、任意の密度の哺乳動物細胞を含有し得る。例えば、本明細書で使用する場合、バイオリアクターから除去される液体培養培地の体積は、哺乳動物細胞を実質的に含まないものであり得る。
【0060】
用語「連続的なプロセス」は、系の少なくとも一部を介して液体を連続的に供給するプロセスを意味する。例えば、本明細書に記載される例示的な連続的な生物学的製造系のいずれかにおいて、組換え治療用タンパク質を含有する液体培養培地は、系の稼働中に系に連続的に供給され、治療用タンパク質原体が系から供給される。
【0061】
用語「クリッピング」は、通常はタンパク質分解による、発現されたタンパク質の部分的な切断を意味する。
【0062】
用語「分解」は一般に、ペプチド又はタンパク質などの、より大きい実体の少なくとも2つのより小さい実体への崩壊を意味し、そのうちの1つの実体は、他の実体よりも著しく大きい場合がある。
【0063】
用語「脱アミド」は、典型的にはアスパラギン又はグルタミンなどのアミノ酸の側鎖のアミド官能基が、除去されるか又は別の官能基に変換される任意の化学反応を意味する。通常、アスパラギンは、アスパラギン酸又はイソアスパラギン酸に変換される。
【0064】
用語「凝集」は一般に、例えば、ファンデルワールス力又は化学結合を介する分子間の直接的な相互引力を指す。特に、凝集は、蓄積し、塊になっているタンパク質として理解される。凝集体は、非晶質凝集体、オリゴマー、及びアミロイド線維を含んでもよく、典型的には、高分子量(HMW)種、すなわち、典型的には、本明細書では低分子量(LMW)種又は単量体とも呼ばれる非凝集分子である純粋な製品分子よりも高分子量を有する分子として参照される。
【0065】
酸性種は、本明細書では、通常、等電点電気泳動(IEF)ゲル電気泳動、キャピラリー等電点電気泳動(cIEF)ゲル電気泳動、カチオン交換クロマトグラフィー(CEX)及びアニオン交換クロマトグラフィー(AEX)などの電荷に基づく分離技術によって抗体を分析する際に一般に観察されるバリアントに含まれると理解される。これらのバリアントは、主要な種と比較して酸性種又は塩基性種と呼ばれる。抗体をIEFに基づく方法を用いて分析した場合、酸性種は通常、低い見かけのpIを有するバリアントであり、塩基性種は、高い見かけのpIを有するバリアントである。
【0066】
用語「滞留時間」は通常、特定の製品分子がバイオリアクター中に存在する時間、すなわち、そのバイオテクノロジーによる生成からそのバイオリアクターの内腔からの分離までに及ぶ時間を指す。
【0067】
「製品品質」は通常、クリッピング、分解、脱アミド及び/又は凝集の有無によって評価される。例えば、HMW種のパーセンタイル含量が40%未満、好ましくは35%未満、又はさらに30%未満、25%未満若しくは20%未満の製品(分子)が、好ましい製品品質と考えられ得る。また、好ましい製品品質は、残留性の宿主細胞タンパク質(HCP)の実質的な欠如、並びにクリッピング、分解及び脱アミドの実質的な欠如、又はフェドバッチプロセスなどの本発明のプロセスとは異なるプロセスによって製造された製品と比較して、HCP濃度、クリッピング、分解及び/若しくは脱アミドの著しい減少と関連する。本発明との関連で製品品質を評価するための当該技術分野において知られる方法は、電荷バリアント分析のためのカチオン交換高速クロマトグラフィー(CEX-HPLC)、化学修飾に関するトリプシンペプチドマッピング、宿主細胞タンパク質(HCP)ELISA、還元キャピラリー電気泳動-ドデシル硫酸ナトリウム(RCE-SDS)、及びサイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE-HPLC)を含む。
【0068】
用語「製品」は、「分泌されたタンパク質」又は「分泌された組換えタンパク質」を指し、哺乳動物細胞内で翻訳される際に少なくとも1つの分泌シグナル配列を元々含有し、且つ少なくとも部分的に哺乳動物細胞内での分泌シグナル配列の酵素的切断を介して、少なくとも部分的に細胞外空間(例えば、液体培養培地)に分泌されるタンパク質(例えば、組換えタンパク質)を意味する。当業者は、「分泌された」タンパク質が、分泌されたタンパク質とみなされるために、細胞から完全に解離する必要はないことを理解するであろう。
【0069】
用語「ポリペプチド」は、本明細書では少なくとも1つの連続的な、分岐していないアミノ酸鎖を含む有機ポリマーと理解される。本発明との関連では、2つ以上のアミノ酸を含むポリペプチドも同様に想定される。ポリペプチドのアミノ酸鎖は、通常少なくとも50個のアミノ酸、好ましくは少なくとも100、200、300、400又は500個のアミノ酸を含む。本発明との関連では、ポリマーのアミノ酸鎖がアミノ酸で構成されていない実体に連結していることもまた想定される。
【0070】
本発明による用語「抗原結合ポリペプチド」は、好ましくはその標的又は抗原に免疫特異的に結合するポリペプチドである。それは、典型的には抗体の重鎖可変領域(VH)及び/又は軽鎖可変領域(VL)を含むか、又はそれに由来するドメインを含む。本発明によるポリペプチドは、免疫特異的標的結合を可能にする抗体の最小限の構造要件を含む。この最小限の要件は、例えば、少なくとも3つの軽鎖CDR(すなわち、VL領域のCDR1、CDR2及びCDR3)及び/又は3つの重鎖CDR(すなわち、VH領域のCDR1、CDR2及びCDR3)、好ましくは6つ全てのCDRの存在により定義され得る。したがって、T細胞エンゲージポリペプチドは、一方又は両方の結合ドメインにおける3つ又は6つのCDRの存在によって特徴付けられ得、当業者は、それらのCDRが結合ドメイン内のどの箇所に(どのような順序で)位置するかを知っている。
【0071】
「二重特異性抗原結合ポリペプチド製品」という用語は、全長、例えばIgGに基づく抗体及びそのフラグメントなどの二重特異性抗体を包含し、本明細書では通常これらを二重特異性抗原結合ポリペプチドと呼ぶ。
【0072】
或いは、本発明との関連では、「抗体コンストラクト」のような抗原結合ポリペプチドは、その構造及び/又は機能が、抗体、例えば全長若しくは完全免疫グロブリン分子(通常、2つのトランケートされていない重鎖及び2つの軽鎖で構成される)の構造及び/若しくは機能に基づき、且つ/又は抗体若しくはそのフラグメントの可変重鎖(VH)及び/若しくは可変軽鎖(VL)ドメインから抽出される分子を指す。したがって、抗原結合ポリペプチドは、その特異的な標的又は抗原に結合することができる。さらに、本明細書では、本発明による結合パートナーに結合するドメインは、本発明による抗原結合ポリペプチドの結合ドメインと理解される。通常、本発明による結合ドメインは、標的結合を可能にする抗体の最小限の構造要件を含む。この最小限の要件は、例えば、少なくとも3つの軽鎖CDR(すなわち、VL領域のCDR1、CDR2及びCDR3)及び/又は3つの重鎖CDR(すなわち、VH領域のCDR1、CDR2及びCDR3)、好ましくは6つ全てのCDRの存在により定義され得る。抗体の最小限の構造要件を定義する代替の手法は、特異的標的の構造内の抗体のエピトープ、又はエピトープ領域を含む標的タンパク質のタンパク質ドメイン(エピトープクラスター)の定義であるか、又は定義された抗体のエピトープと競合する特異的抗体を参照することによる。本発明によるコンストラクトが基づく抗体としては、例えば、モノクローナル抗体、組換え抗体、キメラ抗体、脱免疫抗体、ヒト化抗体及びヒト抗体が挙げられる。
【0073】
本発明による抗原結合ポリペプチドの結合ドメインは、例えば、上記で言及した群のCDRを含んでもよい。好ましくは、それらのCDRは、抗体軽鎖可変領域(VL)及び抗体重鎖可変領域(VH)のフレームワーク内に含まれるが、それが両方を含む必要はない。Fdフラグメントは、例えば、2つのVH領域を有し、多くの場合、インタクトな抗原結合ドメインの一部の抗原結合機能を保持している。抗体フラグメント、抗体バリアント又は結合ドメインの形式についてのさらなる例としては、(1)VL、VH、CL及びCH1ドメインを有する一価のフラグメントであるFabフラグメント;(2)ヒンジ領域でのジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを有する二価のフラグメントであるF(ab’)フラグメント;(3)2つのVH及びCH1ドメインを有するFdフラグメント;(4)抗体の1つのアームのVL及びVHドメインを有するFvフラグメント、(5)VHドメインを有するdAbフラグメント(Ward et al.,(1989)Nature 341:544-546);(6)単離された相補性決定領域(CDR)、並びに(7)一本鎖Fv(scFv)が挙げられ、後者が好ましい(例えば、scFVライブラリー由来のもの)。本発明による抗原結合ポリペプチドの実施形態の例は、例えば、国際公開第00/006605号パンフレット、国際公開第2005/040220号パンフレット、国際公開第2008/119567号パンフレット、国際公開第2010/037838号パンフレット、国際公開第2013/026837号パンフレット、国際公開第2013/026833号パンフレット、米国特許出願公開第2014/0308285号明細書、米国特許出願公開第2014/0302037号明細書、国際公開第2014/144722号パンフレット、国際公開第2014/151910号パンフレット及び国際公開第2015/048272号パンフレットに記載されている。
【0074】
「結合ドメイン」又は「~に結合するドメイン」の定義には、VH、VHH、VL、(s)dAb、Fv、Fd、Fab、Fab’、F(ab’)2又は「rIgG」(「半抗体」)などの全長抗体のフラグメントも含まれる。本発明による抗原結合ポリペプチドは、抗体バリアントとも呼ばれる、抗体の改変されたフラグメント、例えばscFv、di-scFv又はbi(s)-scFv、scFv-Fc、scFv-ジッパー、scFab、Fab、Fab、ダイアボディ、単鎖ダイアボディ、タンデムダイアボディ(Tandab’s)、タンデムdi-scFv、タンデムtri-scFv、「マルチボディ」、例えばトリアボディ又はテトラボディ、及び単一ドメイン抗体、例えばナノボディ、又は他のV領域若しくはドメインに非依存的に抗原若しくはエピトープに特異的に結合するVHH、VH若しくはVLであり得る1つのみの可変ドメインを含む単一可変ドメイン抗体も含み得る。
【0075】
本明細書で使用する場合、用語「一本鎖Fv」、「一本鎖抗体」又は「scFv」は、重鎖及び軽鎖の両方の由来の可変領域を含むが、定常領域を欠く単一ポリペプチド鎖抗体フラグメントを指す。通常、一本鎖抗体は、VH及びVLドメイン間において、抗原への結合を可能にする所望の構造を形成できるようにするポリペプチドリンカーをさらに含む。一本鎖抗体は、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.Springer-Verlag,New York,pp.269-315(1994)においてPluckthunによって詳細に論じられている。一本鎖抗体を作製する様々な方法が知られており、例えば、米国特許第4,694,778号明細書及び同第5,260,203号明細書;国際公開第88/01649号パンフレット;Bird(1988)Science 242:423-442;Huston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883;Ward et al.(1989)Nature 334:54454;Skerra et al.(1988)Science 242:1038-1041に記載される方法が含まれる。特定の実施形態では、一本鎖抗体はまた、二重特異性、多重特異性、ヒト及び/若しくはヒト化並びに/又は合成性であり得る。
【0076】
さらに、用語「抗原結合ポリペプチド」の定義には、一価、二価及び多価(polyvalent)/多価(multivalent)コンストラクト、したがって2つのみの抗原性構造に特異的に結合する二重特異性コンストラクト、並びに異なる結合ドメインを通じて3つ以上の抗原性構造、例えば3つ、4つ又はそれ以上に特異的に結合する多重特異性(polyspecific)/多重特異性(multispecific)コンストラクトが含まれる。さらに、用語「抗原結合ポリペプチド」の定義には、1つのみのポリペプチド鎖からなる分子、及び鎖が同一(ホモ二量体、ホモ三量体若しくはホモオリゴマー)であるか、又は異なる(ヘテロ二量体、ヘテロ三量体若しくはヘテロオリゴマー)であり得る2つ以上のポリペプチド鎖からなる分子を含む。上で特定された抗体及びバリアント又はその誘導体に関する例は、とりわけ、Harlow and Lane,Antibodies a laboratory manual,CSHL Press(1988)及びUsing Antibodies:a laboratory manual,CSHL Press(1999)、Kontermann and Duebel,Antibody Engineering,Springer,2nd ed.2010及びLittle,Recombinant Antibodies for Immunotherapy,Cambridge University Press 2009において記載されている。
【0077】
本明細書で使用する場合、用語「二重特異性」は、「少なくとも二重特異性」である抗原結合ポリペプチドを指し、すなわち、それは、少なくとも第1の結合ドメイン及び第2の結合ドメインを含み、ここで、第1の結合ドメインは、1つの抗原又は標的(例えば、標的細胞の表面抗原)に結合し、第2の結合ドメインは、別の抗原又は標的(例えば、CD3)に結合する。したがって、本発明による抗原結合ポリペプチドは、少なくとも2つの異なる抗原又は標的に対する特異性を備える。例えば、第1のドメインは、好ましくは、本明細書に記載される種の1つ以上のCD3εの細胞外エピトープに結合しない。用語「標的細胞の表面抗原」は、細胞によって発現され、且つ本明細書に記載される抗原結合ポリペプチドがアクセスできるようにその細胞表面に存在する抗原性構造を指す。それは、タンパク質、好ましくはタンパク質の細胞外部分、又は糖質構造、好ましくは糖タンパク質などのタンパク質の糖質構造であり得る。それは、腫瘍抗原であることが好ましい。本発明の用語「二重特異性抗原結合ポリペプチド」には、多重特異性抗原結合ポリペプチド、例えば3つの結合ドメインを含む三重特異性抗原結合ポリペプチド、又は4つ以上(例えば、4つ、5つ…)の特異性を有するコンストラクトも包含される。
【0078】
本発明によるT細胞エンゲージ抗原結合ポリペプチドは、好ましくは二重特異性であり、これは、本明細書においては、典型的には少なくとも1つの標的抗原に結合する1つのドメイン、及びCD3に結合する別のドメインを含むと理解される。したがって、それは天然には存在せず、その機能は天然産物とは著しく異なる。したがって、本発明によるポリペプチドは、異なる特異性を有する少なくとも2つの個別の結合ドメインを含む人工「ハイブリッド」ポリペプチドであり、したがって二重特異性である。二重特異性抗原結合ポリペプチドは、ハイブリドーマの融合又はFab’フラグメントの連結を含む様々な方法によって生成することができる。例えば、Songsivilai & Lachmann,Clin.Exp.Immunol.79:315-321(1990)を参照されたい。
【0079】
本発明の抗原結合ポリペプチドの少なくとも2つの結合ドメイン及び可変ドメイン(VH/VL)は、ペプチドリンカー(スペーサーペプチド)を含んでも含まなくてもよい。用語「ペプチドリンカー」は、本発明によれば、本発明の抗原結合ポリペプチドの1つの(可変及び/又は結合)ドメイン及び別の(可変及び/又は結合)ドメインのアミノ酸配列を相互に連結するアミノ酸配列を含む。ペプチドリンカーはまた、第3のドメインを本発明の抗原結合ポリペプチドの他のドメインに融合するためにも使用され得る。そのようなペプチドリンカーの必須の技術的特徴は、それがいかなる重合活性も含まないことである。好適なペプチドリンカーには、米国特許第4,751,180号明細書及び同第4,935,233号明細書又は国際公開第88/09344号パンフレットに記載されるものがある。ペプチドリンカーはまた、他のドメイン又はモジュール又は領域(半減期延長ドメインなど)を本発明の抗原結合ポリペプチドに結合するためにも使用され得る。
【0080】
本発明の抗原結合ポリペプチドは、好ましくは「インビトロで作製された抗原結合ポリペプチド」である。この用語は、可変領域の全て又は一部(例えば、少なくとも1つのCDR)が非免疫細胞の選択、例えばインビトロファージディスプレイ、タンパク質チップ、又は抗原結合能に関して候補配列を試験することができる任意の他の方法において作製される、上記定義による抗原結合ポリペプチドを指す。したがって、この用語は、好ましくは、動物の免疫細胞におけるゲノム再編成によってのみ作製される配列を除外する。「組換え抗体」は、組換えDNA技術又は遺伝子工学の使用により作製された抗体である。
【0081】
用語「モノクローナル抗体」(mAb)又は本明細書で使用される抗原結合ポリペプチドが由来するモノクローナル抗体は、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体を指す。すなわち集団を構成する個々の抗体は、少量存在する可能性がある、考えられる天然に存在する変異及び/又は翻訳後修飾(例えば、異性化、アミド化)を除いて同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、異なる決定基(又はエピトープ)に対して誘導された異なる抗体を通常含む従来の(ポリクローナル)抗体製剤とは対照的に、抗原上の単一の抗原部位又は決定基に対して誘導される。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培養によって合成されるため、他の免疫グロブリンが混入しない点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体集団から得られるという抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるべきではない。
【0082】
モノクローナル抗体の調製には、継続的な細胞株培養により産生される抗体をもたらす任意の技術を用いることができる。例えば、使用されるモノクローナル抗体は、Koehler et al.,Nature,256:495(1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ方法によって作られてもよいし、又は組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号明細書を参照)によって作られてもよい。ヒトモノクローナル抗体を産生するさらなる技術の例としては、トリオーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor,Immunology Today 4(1983),72)、及びEBV-ハイブリドーマ技術(Cole et al.,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.(1985),77-96)が挙げられる。
【0083】
次に、ハイブリドーマを、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)及び表面プラズモン共鳴(BIACORE(商標))分析などの標準的な方法を使用してスクリーニングして、特定の抗原に特異的に結合する抗体を産生する1つ以上のハイブリドーマを同定することができる。例えば、組換え抗原、天然に存在する形態、その任意のバリアント又はフラグメント、並びにその抗原性ペプチドなど、任意の形態の関連抗原が免疫原として使用され得る。BIAcoreシステムで採用されている表面プラズモン共鳴を使用して、標的細胞の表面抗原のエピトープにファージ抗体が結合する効率を高めることができる(Schier,Human Antibodies Hybridomas 7(1996),97-105;Malmborg,J.Immunol.Methods 183(1995),7-13)。
【0084】
モノクローナル抗体を作製する別の例示的な方法としては、タンパク質発現ライブラリー、例えばファージディスプレイ又はリボソームディスプレイライブラリーのスクリーニングが挙げられる。ファージディスプレイについては、例えば、Ladnerらの米国特許第5,223,409号明細書;Smith(1985)Science 228:1315-1317、Clackson et al.,Nature,352:624-628(1991)及びMarks et al.,J.Mol.Biol.,222:581-597(1991)で説明されている。
【0085】
ディスプレイライブラリーの使用に加えて、関連抗原を使用して、非ヒト動物、例えば、齧歯類(マウス、ハムスター、ウサギ又はラットなど)を免疫化することができる。一実施形態では、非ヒト動物は、ヒト免疫グロブリン遺伝子の少なくとも一部を含む。例えば、マウス抗体産生が欠損したマウス系統を、ヒトIg(免疫グロブリン)遺伝子座の大きいフラグメントを用いて改変することが可能である。ハイブリドーマ技術を用いて、所望の特異性を有する遺伝子由来の抗原特異的モノクローナル抗体を作製し、選択し得る。例えば、XENOMOUSE(商標)、Green et al.(1994)Nature Genetics 7:13-21、米国特許出願公開第2003/0070185号明細書、国際公開第96/34096号パンフレット及び国際公開第96/33735号パンフレットを参照されたい。
【0086】
モノクローナル抗体はまた、非ヒト動物から得た後、当該技術分野で知られる組換えDNA技術を用いて、例えばヒト化、脱免疫、キメラ化などの改変を行うこともできる。改変抗原結合ポリペプチドの例としては、非ヒト抗体のヒト化バリアント、「親和性成熟」抗体(例えば、Hawkins et al.J.Mol.Biol.254,889-896(1992)及びLowman et al.,Biochemistry 30,10832-10837(1991)を参照)及びエフェクター機能が改変された抗体変異体(例えば、米国特許第5,648,260号明細書、前掲のKontermann and Duebel(2010)及び前掲のLittle(2009)を参照)が挙げられる。
【0087】
免疫学において、親和性成熟とは、免疫反応の過程で抗原に対する親和性の増大した抗体をB細胞が産生するプロセスである。同一抗原への反復暴露により、宿主は、親和性が連続的に増大する抗体を産生することになる。天然のプロトタイプと同様に、インビトロ親和性成熟は、変異及び選択の原理に基づいている。インビトロ親和性成熟を問題なく使用して、抗体、抗原結合ポリペプチド及び抗体フラグメントを最適化している。CDR内部のランダム変異は、放射線、化学的変異原又はエラープローンPCRを用いて導入される。加えて、遺伝的多様性は、チェイン・シャッフリング法によって増大させることができる。ファージディスプレイのようなディスプレイ方法を用いた2又は3ラウンドの変異及び選択により、通常、低ナノモル範囲の親和性を有する抗体フラグメントが得られる。
【0088】
抗原結合ポリペプチドのアミノ酸置換変種の好ましいタイプは、親抗体(例えば、ヒト化抗体又はヒト抗体)の超可変領域の1つ以上の残基の置換を伴うものである。一般に、さらなる開発のために選択されて得られるバリアントは、それらが生成された親抗体と比べて向上した生物学的特性を有することになる。そのような置換バリアントを生成するための簡便な方法には、ファージディスプレイを用いる親和性成熟が含まれる。簡潔に説明すると、いくつかの超可変領域部位(例えば、6~7部位)は、それぞれの部位で可能な全てのアミノ酸置換が生じるように変異される。そのようにして生成された抗体バリアントは、各粒子内にパッケージされたM13の遺伝子III産物との融合体として、繊維状ファージ粒子から一価形態で提示される。次に、ファージディスプレイされたバリアントを、本明細書に開示されるとおりにそれらの生物活性(例えば、結合親和性)についてスクリーニングする。改変のための超可変領域部位候補を同定するために、アラニンスキャニング変異導入法を実施して、抗原結合に有意に寄与する超可変領域残基を同定し得る。代わりに又は加えて、結合ドメインと例えばヒト標的細胞の表面抗原との接触点を同定するために、抗原-抗体複合体の結晶構造を分析することが有益な場合がある。そのような接触残基及び隣接残基は、本明細書で詳述される技術による置換の候補である。そのようなバリアントを生成してから、バリアントのパネルに対して、本明細書に記載されるとおりのスクリーニングを行い、1つ以上の関連するアッセイにおいて優れた特性を有する抗体をさらなる開発のために選択し得る。
【0089】
本発明のモノクローナル抗体及び抗原結合ポリペプチドは、特に、重鎖及び/若しくは軽鎖の一部が特定の種に由来するか、又は特定の抗体のクラス若しくはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一若しくは相同である一方、鎖の残部は、所望の生物活性を示す限り、別の種に由来するか、又は別の抗体のクラス若しくはサブクラスに属する抗体、並びにそのような抗体のフラグメント中の対応する配列と同一若しくは相同である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)を含む(米国特許第4,816,567号明細書;Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851-6855(1984))。本明細書における目的のキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、旧世界ザル、類人猿など)に由来する可変ドメイン抗原結合配列及びヒト定常領域配列を含む「霊長類化」抗体が含まれる。キメラ抗体を作製するための様々な方法が記載されている。例えば、Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci U.S.A.81:6851,1985;Takeda et al.,Nature 314:452,1985、Cabilly et al.,米国特許第4,816,567号明細書;Boss et al.,米国特許第4,816,397号明細書;Tanaguchi et al.,欧州特許第0171496号明細書;欧州特許第0173494号明細書;及び英国特許第2177096号明細書を参照されたい。
【0090】
抗体、抗原結合ポリペプチド、抗体フラグメント又は抗体バリアントはまた、国際公開第98/52976号パンフレット又は国際公開第00/34317号パンフレットの実施例に開示される方法によるヒトT細胞エピトープの特異的欠失(「脱免疫化」と呼ばれる方法)によっても改変され得る。簡潔に説明すると、MHCクラスIIに結合するペプチドについて、抗体の重鎖及び軽鎖可変ドメインを分析することができる。これらのペプチドは、潜在的なT細胞エピトープ(国際公開第98/52976号パンフレット及び国際公開第00/34317号パンフレットに定義される)に相当する。潜在的なT細胞エピトープの検出には、国際公開第98/52976号パンフレット及び国際公開第00/34317号パンフレットに記載されるように、「ペプチドスレッディング法」と呼ばれるコンピューターモデリング手法を適用することができ、加えて、ヒトMHCクラスII結合ペプチドのデータベースにおいて、VH及びVL配列に存在するモチーフを検索することができる。これらのモチーフは、18個の主要MHCクラスII DRアロタイプのいずれかに結合するため、潜在的なT細胞エピトープとなる。検出された潜在的なT細胞エピトープは、可変ドメイン内の少数のアミノ酸残基を置換することにより、又は好ましくは単一のアミノ酸置換により除去することができる。通常、保存的置換がなされる。全てではないが、多くの場合、ヒト生殖細胞系列の抗体配列内の位置に共通するアミノ酸が使用され得る。ヒト生殖細胞系列配列については、例えば、Tomlinson,et al.(1992)J.Mol.Biol.227:776-798;Cook,G.P.et al.(1995)Immunol.Today Vol.16(5):237-242;及びTomlinson et al.(1995)EMBO J.14:14:4628-4638に開示されている。V BASE総覧は、ヒト免疫グロブリン可変領域配列の包括的な総覧を提供する(Tomlinson,LA.et al.MRC Centre for Protein Engineering,Cambridge,UKにより編集)。これらの配列をヒト配列の供給源として、例えばフレームワーク領域及びCDRに使用することができる。例えば、米国特許第6,300,064号明細書に記載されるコンセンサスヒトフレームワーク領域を使用することもできる。
【0091】
「ヒト化」抗体、抗原結合ポリペプチド、バリアント又はそのフラグメント(Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2又は抗体の他の抗原結合部分配列)は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小限の配列を含有する、大部分がヒト配列である抗体又は免疫グロブリンである。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域(CDRともいう)由来の残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有するマウス、ラット、ハムスター又はウサギなどの非ヒト(例えば、齧歯類)種(ドナー抗体)の超可変領域由来の残基により置換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。場合により、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基が、対応する非ヒト残基により置換される。さらに、本明細書で使用する場合、「ヒト化抗体」は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見られない残基も含む場合がある。これらの改変は、抗体の性能をさらに洗練させ、最適化するためになされる。ヒト化抗体はまた、免疫グロブリン定常領域(Fc)、通常、ヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部分を含む場合がある。さらなる詳細については、Jones et al.,Nature,321:522-525(1986);Reichmann et al.,Nature,332:323-329(1988);及びPresta,Curr.Op.Struct.Biol.,2:593-596(1992)を参照されたい。
【0092】
ヒト化抗体又はそのフラグメントは、抗原結合に直接関与しないFv可変ドメインの配列をヒトFv可変ドメイン由来の等価な配列で置換することによって生成することができる。ヒト化抗体又はそのフラグメントを生成するための例示的な方法は、Morrison(1985)Science 229:1202-1207;Oi et al.(1986)BioTechniques 4:214;並びに米国特許第5,585,089号明細書;米国特許第5,693,761号明細書;米国特許第5,693,762号明細書;米国特許第5,859,205号明細書;及び米国特許第6,407,213号明細書により提供される。それらの方法は、重鎖又は軽鎖の少なくとも1つに由来する免疫グロブリンFv可変ドメインの全て又は一部分をコードする核酸配列を単離、操作及び発現することを含む。そのような核酸は、上記のとおりの所定の標的に対する抗体を産生するハイブリドーマ及び他の供給源から得ることができる。次に、ヒト化抗体分子をコードする組換えDNAを適切な発現ベクターにクローニングすることができる。
【0093】
ヒト化抗体は、ヒト重鎖及び軽鎖遺伝子を発現するが、内在性のマウス免疫グロブリン重鎖及び軽鎖遺伝子は発現することができないマウスなどのトランスジェニック動物を用いて作製され得る。Winterは、本明細書に記載されるヒト化抗体の調製に使用され得る例示的なCDRグラフト法を記載している(米国特許第5,225,539号明細書)。特定のヒト抗体のCDRの全てが非ヒトCDRの少なくとも一部分で置換され得るか、又はCDRの一部のみが非ヒトCDRで置換され得る。所定の抗原に対するヒト化抗体の結合に必要とされる数のCDRを置換することのみが必要である。
【0094】
ヒト化抗体は、保存的置換、コンセンサス配列置換、生殖細胞系列置換及び/又は復帰変異の導入によって最適化することができる。このような改変免疫グロブリン分子は、当該技術分野で知られる複数の技術のいずれかによって作製することができる(例えば、Teng et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,80:7308-7312,1983;Kozbor et al.,Immunology Today,4:7279,1983;Olsson et al.,Meth.Enzymol.,92:3-16,1982及び欧州特許第239400号明細書)。
【0095】
用語「ヒト抗体」、「ヒト抗原結合ポリペプチド」及び「ヒト結合ドメイン」には、例えば、Kabat et al.(1991)(前掲)によって記載されているものを含む、当該技術分野で知られるヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に実質的に対応する、可変領域及び定常領域又はドメインなどの抗体領域を有する抗体、抗原結合ポリペプチド及び結合ドメインが含まれる。本発明のヒト抗体、抗原結合ポリペプチド又は結合ドメインは、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダム変異誘発若しくは部位特異的変異誘発により又はインビボでの体細胞変異により導入される変異)を、例えばCDR、特にCDR3に含み得る。ヒト抗体、抗原結合ポリペプチド又は結合ドメインは、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基で置換された少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又はそれを超える位置を有し得る。しかしながら、本明細書で使用する場合、ヒト抗体、抗原結合ポリペプチド及び結合ドメインの定義は、Xenomouseなどの技術又はシステムを使用して得ることができる、非人為的且つ/又は遺伝的に改変された抗体のヒト配列のみを含む「完全ヒト抗体」も意図している。好ましくは、「完全ヒト抗体」は、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基を含まない。
【0096】
いくつかの実施形態では、本発明の抗原結合ポリペプチドは、「単離された」又は「実質的に純粋な」抗原結合ポリペプチドである。「単離された」又は「実質的に純粋な」は、本明細書に開示される抗原結合ポリペプチドの記載に使用される場合、その産生環境の成分から同定、分離及び/又は回収された抗原結合ポリペプチドを意味する。好ましくは、抗原結合ポリペプチドは、その産生環境からの他の全ての成分との関連がないか又は実質的にない。組換えトランスフェクト細胞から生じる成分などのその産生環境の混入成分は、通常、ポリペプチドについての診断又は治療用途を妨げる材料であり、これには、酵素、ホルモン及び他のタンパク質性又は非タンパク質性溶質が含まれ得る。抗原結合ポリペプチドは、例えば、所与の試料中の全タンパク質の少なくとも約5重量%又は少なくとも約50重量%を構成し得る。単離されたタンパク質は、環境に応じて総タンパク質含量の5重量%~99.9重量%を構成し得ると理解される。ポリペプチドが高い濃度レベルで作製されるように、誘導性プロモーター又は高発現プロモーターの使用によって著しく高い濃度でポリペプチドが作製され得る。この定義には、当該技術分野で知られる多様な生物体及び/又は宿主細胞での抗原結合ポリペプチドの産生が含まれる。好ましい実施形態では、抗原結合ポリペプチドは、(1)スピニングカップシークエネーターを使用して、N末端若しくは内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで、又は(2)クーマシーブルー若しくは好ましくは銀染色を用いた非還元若しくは還元条件下でのSDS-PAGEによる均一性まで精製される。ただし、通常、単離された抗原結合ポリペプチドは、少なくとも1つの精製工程によって調製される。
【0097】
用語「結合ドメイン」は、本発明との関係では、標的分子(抗原)上の所与の標的エピトープ又は所与の標的部位、例えばそれぞれCD33及びCD3と(特異的に)結合する/それらと相互作用する/それらを認識するドメインと見なす。第1の結合ドメイン(例えばCD33を認識する)の構造及び機能、好ましくは第2の結合ドメイン(例えばCD3を認識する)の構造及び/又は機能も、抗体の、例えば全長又は完全免疫グロブリン分子の構造及び/又は機能に基づき、且つ/又は抗体又はそのフラグメントの可変重鎖(VH)及び/又は可変軽鎖(VL)ドメインから抽出される。好ましくは、第1の結合ドメインは、3つの軽鎖CDR(すなわちVL領域のCDR1、CDR2及びCDR3)及び/又は3つの重鎖CDR(すなわちVH領域のCDR1、CDR2及びCDR3)の存在によって特徴付けられる。第2の結合ドメインは、好ましくは、標的結合を可能にする抗体の最小限の構造要件も含む。より好ましくは、第2の結合ドメインは、少なくとも3つの軽鎖CDR(すなわちVL領域のCDR1、CDR2及びCDR3)並びに/又は3つの重鎖CDR(すなわちVH領域のCDR1、CDR2及びCDR3)を含む。第1及び/又は第2の結合ドメインは、既存の(モノクローナル)抗体由来のCDR配列の足場へのグラフトではなく、ファージディスプレイ法又はライブラリースクリーニング法により作製されるか又は得られることが想定される。
【0098】
本発明によれば、結合ドメインは、1つ以上のポリペプチドの形態である。このようなポリペプチドは、タンパク質性部分及び非タンパク質性部分(例えば、化学的リンカー又はグルタルアルデヒドなどの化学的架橋剤)を含み得る。タンパク質(そのフラグメント、好ましくは生物学的に活性なフラグメント、及び通常30個未満のアミノ酸を有するペプチドを含む)は、(アミノ酸の鎖をもたらす)共有ペプチド結合を介して相互に結合された2つ以上のアミノ酸を含む。
【0099】
本明細書で使用する場合、用語「ポリペプチド」は、通常、30個を超えるアミノ酸からなる分子群を表す。ポリペプチドは、二量体、三量体及びより高次のオリゴマーなどの多量体、すなわち2つ以上のポリペプチド分子からなる多量体をさらに形成し得る。このような二量体、三量体などを形成するポリペプチド分子は、同一であっても同一でなくてもよい。このような多量体の対応する高次構造は、したがって、ホモ又はヘテロ二量体、ホモ又はヘテロ三量体などと称される。ヘテロ多量体の例は、その天然形態において、2つの同一のポリペプチド軽鎖及び2つの同一のポリペプチド重鎖からなる抗体分子である。用語「ペプチド」、「ポリペプチド」及び「タンパク質」はまた、例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化などのような翻訳後修飾による修飾がなされた天然修飾ペプチド/ポリペプチド/タンパク質を指す。本明細書で言及される場合、「ペプチド」、「ポリペプチド」又は「タンパク質」は、ペグ化などの化学修飾されたものでもあり得る。このような修飾は、当該技術分野でよく知られており、本明細書で以下に記載される。
【0100】
好ましくは、標的細胞の表面抗原に結合する結合ドメイン及び/又はCD3εに結合する結合ドメインは、ヒト結合ドメインである。少なくとも1つのヒト結合ドメインを含む抗体及び抗原結合ポリペプチドは、齧歯類(例えばマウス、ラット、ハムスター又はウサギ)などの非ヒト可変及び/又は定常領域を有する抗体又は抗原結合ポリペプチドに関連する問題のいくつかを回避する。このような齧歯類由来タンパク質が存在すると、抗体又は抗原結合ポリペプチドの迅速なクリアランスをもたらすか、又は患者による抗体又は抗原結合ポリペプチドに対する免疫反応を発生させる可能性がある。齧歯類由来の抗体又は抗原結合ポリペプチドの使用を避けるために、齧歯類が完全ヒト抗体を産生するようにヒト抗体機能を齧歯類に導入することにより、ヒト又は完全ヒト抗体/抗原結合ポリペプチドを生成することができる。
【0101】
YACにおいてメガベースサイズのヒト遺伝子座をクローニング及び再構築する能力及びそれらをマウス生殖細胞系列に導入する能力は、非常に大きいか又は粗くマッピングされた遺伝子座の機能的要素の解明並びにヒト疾患の有用なモデルの生成にとって強力な手法を提供する。さらに、マウス遺伝子座をそれらのヒト等価物で置換するそのような技術を使用すれば、発生期のヒト遺伝子産物の発現及び調節、それらと他の系との伝達、並びに疾患の誘発及び進行へのそれらの関与について独特の見解を得ることができるであろう。
【0102】
このような戦略の重要な実用化は、マウス液性免疫系の「ヒト化」である。内在性免疫グロブリン(Ig)遺伝子が不活化されたマウスへのヒトIg遺伝子座の導入により、抗体のプログラムされた発現及び構築並びにB細胞の発生におけるそれらの役割の基礎となる機構を研究する機会が得られる。さらに、このような戦略であれば、ヒト疾患における抗体療法の可能性を実現する上で重要なマイルストーンとなる完全ヒトモノクローナル抗体(mAb)の作製にとって理想的な供給源を得ることができるであろう。完全ヒト抗体又は抗原結合ポリペプチドは、マウスmAb又はマウス由来mAbに固有の免疫原性及びアレルギー反応を最小化し、それによって投与される抗体/抗原結合ポリペプチドの有効性及び安全性を増大させることが期待される。完全ヒト抗体又は抗原結合ポリペプチドの使用により、化合物の反復投与を必要とする慢性及び再発性のヒト疾患、例えば炎症、自己免疫及び癌の治療に大幅な利点が得られるものと期待され得る。
【0103】
この目標に向けた手法の1つが、マウス抗体の産生に欠損があるマウス系統をヒトIg遺伝子座の大きいフラグメントを用いて操作することであり、これは、このようなマウスが、マウス抗体を生じずに広範なレパートリーのヒト抗体を産生するであろうとの予測に立つものであった。大きいヒトIgフラグメントは、可変遺伝子の広範な多様性並びに抗体の産生及び発現の適切な調節を保持すると考えられる。抗体の多様化及び選択並びにヒトタンパク質に対する免疫寛容の欠如のためにマウス機構を利用することにより、これらのマウス系統において再現されるヒト抗体レパートリーは、ヒト抗原を含む目的の任意の抗原に対して高親和性の抗体を産生するはずである。ハイブリドーマ技術を使用すれば、所望の特異性を有する抗原特異的ヒトmAbを容易に作製及び選択することができるであろう。この一般的な戦略は、最初のXenoMouseマウス系統の生成と関連して実証された(Green et al.Nature Genetics 7:13-21(1994)を参照)。このXenoMouse系統は、可変領域及び定常領域のコア配列を含有したヒト重鎖遺伝子座及びカッパ軽鎖遺伝子座のそれぞれ245kb及び190kbサイズの生殖細胞系列配置フラグメントを含有する酵母人工染色体(YAC)を用いて操作された。このヒトIgを含有するYACは、抗体の再編成及び発現の両方に関してマウス系への適合性があることが証明されており、不活化されたマウスIg遺伝子を置換することが可能であった。これは、それらがB細胞の発生を誘導して、完全ヒト抗体の成体様ヒトレパートリーを産生し、抗原特異的ヒトmAbを産生する能力によって実証された。これらの結果はまた、多数のV遺伝子、追加の調節エレメント及びヒトIg定常領域を含有するヒトIg遺伝子座の大部分の導入が、感染及び免疫化に対するヒト液性応答を特徴とする実質的に完全なレパートリーを再現し得ることを示唆した。最近、Greenらの研究を発展させ、ヒト重鎖遺伝子座及びカッパ軽鎖遺伝子座のそれぞれのメガベースサイズの生殖細胞系列配置YACフラグメントの導入により、ヒト抗体レパートリーのおよそ80%超が導入された。Mendez et al.Nature Genetics 15:146-156(1997)及び米国特許出願第08/759,620号明細書を参照されたい。
【0104】
XenoMouseマウスの作製は、さらに、米国特許出願第07/466,008号明細書、同第07/610,515号明細書、同第07/919,297号明細書、同第07/922,649号明細書、同第08/031,801号明細書、同第08/112,848号明細書、同第08/234,145号明細書、同第08/376,279号明細書、同第08/430,938号明細書、同第08/464,584号明細書、同第08/464,582号明細書、同第08/463,191号明細書、同第08/462,837号明細書、同第08/486,853号明細書、同第08/486,857号明細書、同第08/486,859号明細書、同第08/462,513号明細書、同第08/724,752号明細書及び同第08/759,620号明細書;並びに米国特許第6,162,963号明細書;同第6,150,584号明細書;同第6,114,598号明細書;同第6,075,181号明細書及び同第5,939,598号明細書、並びに日本特許第3068180B2号公報、同第3068506B2号公報及び同第3068507B2号公報で論じられ詳述されている。また、Mendez et al.Nature Genetics 15:146-156(1997)及びGreen and Jakobovits J.Exp.Med.188:483-495(1998)、欧州特許第0463151B1号明細書、国際公開第94/02602号パンフレット、国際公開第96/34096号パンフレット、国際公開第98/24893号パンフレット、国際公開第00/76310号パンフレット及び国際公開第03/47336号パンフレットも参照されたい。
【0105】
別の手法では、GenPharm International,Inc.を含む他社が「ミニ遺伝子座」の手法を利用している。このミニ遺伝子座の手法においては、外因性Ig遺伝子座が、このIg遺伝子座由来のフラグメント(個々の遺伝子)を含めることにより模倣される。したがって、1つ以上のVH遺伝子、1つ以上のDH遺伝子、1つ以上のJH遺伝子、ミュー定常領域及び第2の定常領域(好ましくは、ガンマ定常領域)が、動物に挿入されるコンストラクトを形成する。この手法は、Suraniらに対する米国特許第5,545,807号明細書、並びにそれぞれLonberg及びKayに対する米国特許第5,545,806号明細書;同第5,625,825号明細書;同第5,625,126号明細書;同第5,633,425号明細書;同第5,661,016号明細書;同第5,770,429号明細書;同第5,789,650号明細書;同第5,814,318号明細書;同第5,877,397号明細書;同第5,874,299号明細書;及び同第6,255,458号明細書、Krimpenfort及びBernsに対する米国特許第5,591,669号明細書及び同第6,023.010号明細書、Bernsらに対する米国特許第5,612,205号明細書;同第5,721,367号明細書;及び同第5,789,215号明細書、並びにChoi及びDunnに対する米国特許第5,643,763号明細書、並びにGenPharm Internationalの米国特許出願第07/574,748号明細書、同第07/575,962号明細書、同第07/810,279号明細書、同第07/853,408号明細書、同第07/904,068号明細書、同第07/990,860号明細書、同第08/053,131号明細書、同第08/096,762号明細書、同第08/155,301号明細書、同第08/161,739号明細書、同第08/165,699号明細書、同第08/209,741号明細書に記載されている。欧州特許第0546073B1号明細書、国際公開第92/03918号パンフレット、国際公開第92/22645号パンフレット、国際公開第92/22647号パンフレット、国際公開第92/22670号パンフレット、国際公開第93/12227号パンフレット、国際公開第94/00569号パンフレット、国際公開第94/25585号パンフレット、国際公開第96/14436号パンフレット、国際公開第97/13852号パンフレット及び国際公開第98/24884号パンフレット、並びに米国特許第5,981,175号明細書も参照されたい。さらに、Taylor et al.(1992)、Chen et al.(1993)、Tuaillon et al.(1993)、Choi et al.(1993)、Lonberg et al.(1994)、Taylor et al.(1994)及びTuaillon et al.(1995)、Fishwild et al.(1996)を参照されたい。
【0106】
Kirinもまた、マイクロセル融合によって大きい染色体片又は染色体全体が導入された、マウスからのヒト抗体の産生を実証した。欧州特許出願第773288号明細書及び同第843961号明細書を参照されたい。Xenerex Biosciencesは、ヒト抗体の潜在的生成技術を開発中である。この技術では、SCIDマウスがヒトリンパ細胞、例えばB細胞及び/又はT細胞で再構成される。次に、マウスは、抗原で免疫化され、その抗原に対して免疫応答を生じ得る。米国特許第5,476,996号明細書;同第5,698,767号明細書;及び同第5,958,765号明細書を参照されたい。
【0107】
ヒト抗マウス抗体(HAMA)反応は、産業界がキメラ又は別の方法でヒト化された抗体を作製する要因となった。しかしながら、ある種のヒト抗キメラ抗体(HACA)反応は、特に慢性又は複数回用量での抗体の利用において観察されることになると予想される。したがって、HAMA若しくはHACA反応の懸念及び/又は影響をなくすために、標的細胞の表面抗原に対するヒト結合ドメイン及びCD3εに対するヒト結合ドメインを含む抗原結合ポリペプチドを提供することが望ましいと考えられる。
【0108】
用語「(特異的に)結合する」、「(特異的に)認識する」、「(特異的に)誘導される」及び「(特異的に)反応する」は、本発明によれば、結合ドメインが標的分子(抗原)、本明細書ではそれぞれ標的細胞の表面抗原及びCD3ε上の所与のエピトープ又は所与の標的部位と相互作用するか又は特異的に相互作用することを意味する。
【0109】
用語「エピトープ」は、抗体若しくは免疫グロブリン、又は抗体若しくは免疫グロブリンの誘導体、フラグメント若しくはバリアントなどの結合ドメインが特異的に結合する抗原上の部位を指す。「エピトープ」は、抗原性であり、したがって、エピトープという用語は、本明細書において「抗原性構造」又は「抗原決定基」と称する場合もある。したがって、結合ドメインは、「抗原相互作用部位」である。前記結合/相互作用はまた、「特異的認識」を定義すると理解される。
【0110】
「エピトープ」は、連続したアミノ酸又はタンパク質の三次元フォールディングによって並列する非連続アミノ酸の両方によって形成され得る。「線状エピトープ」は、アミノ酸一次配列が認識されるエピトープを含むエピトープである。線状エピトープは、通常、特有の配列内に少なくとも3つ又は少なくとも4つ、より一般的に少なくとも5つ又は少なくとも6つ又は少なくとも7つ、例えば約8~約10のアミノ酸を含む。
【0111】
「立体構造エピトープ」は、線状エピトープとは対照的に、エピトープを含むアミノ酸の一次配列が、認識されるエピトープを定義する唯一の要素ではないエピトープ(例えば、アミノ酸の一次配列が必ずしも結合ドメインによって認識されないエピトープ)である。一般に、立体構造エピトープは、線状エピトープと比較してより多くのアミノ酸を含む。立体構造エピトープの認識に関して、結合ドメインは、抗原、好ましくはペプチド若しくはタンパク質又はそれらのフラグメントの三次元構造を認識する(本発明との関連では、結合ドメインの1つに対する抗原性構造が標的細胞の表面抗原タンパク質内に含まれる)。例えば、タンパク質分子が折り畳まれて三次元構造が形成する場合、立体構造エピトープを形成する特定のアミノ酸及び/又はポリペプチド骨格が並列した状態になり、それによって抗体がそのエピトープを認識できるようになる。エピトープの立体構造の決定方法としては、X線結晶学、二次元核磁気共鳴(2D-NMR)分光法、並びに部位特異的スピン標識及び電子常磁性共鳴(EPR)分光法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0112】
エピトープマッピングの方法を以下に記載する。ヒト標的細胞の表面抗原タンパク質の領域(一続きの隣接するアミノ酸)が、非ヒト及び非霊長類の標的細胞の表面抗原(例えば、マウス標的細胞の表面抗原であるが、他にニワトリ、ラット、ハムスター、ウサギなどのものも考えられる)の対応する領域で交換/置換される場合、使用されている非ヒト、非霊長類の標的細胞の表面抗原に対して結合ドメインが交差反応性でない限り、結合ドメインの結合性の低減が起こると予想される。前述の低減は、ヒト標的細胞の表面抗原タンパク質の対応する領域への結合を100%とした場合、ヒト標的細胞の表面抗原タンパク質内の対応する領域への結合と比較して好ましくは少なくとも10%、20%、30%、40%又は50%;より好ましくは少なくとも60%、70%又は80%及び最も好ましくは90%、95%又はさらに100%である。上記のヒト標的細胞の表面抗原/非ヒト標的細胞の表面抗原のキメラは、CHO細胞において発現されることが想定される。また、ヒト標的細胞の表面抗原/非ヒト標的細胞の表面抗原のキメラは、EpCAMなどの異なる膜結合タンパク質の膜貫通ドメイン及び/又は細胞質ドメインと融合されることも想定される。
【0113】
エピトープマッピングの代替的又は追加の方法では、結合ドメインによって認識される特定の領域を決定するために、ヒト標的細胞の表面抗原細胞外ドメインのいくつかのトランケート型が作製され得る。これらのトランケート型では、細胞外の異なる標的細胞の表面抗原ドメイン/サブドメイン又は領域は、N末端から開始して段階的に欠失される。トランケート型の標的細胞の表面抗原は、CHO細胞で発現され得ることが想定される。また、トランケート型の標的細胞の表面抗原は、EpCAMなどの異なる膜結合タンパク質の膜貫通ドメイン及び/又は細胞質ドメインと融合される場合があることも想定される。また、トランケート型の標的細胞の表面抗原は、それらのN末端にシグナルペプチドドメイン、例えばマウスIgG重鎖シグナルペプチドに由来するシグナルペプチドを包含する場合があることも想定される。さらに、トランケート型の標的細胞の表面抗原は、細胞表面上でのそれらの正確な発現を確認できる(シグナルペプチドに続く)N末端におけるv5ドメインを包含する場合があることも想定される。結合ドメインによって認識される標的細胞の表面抗原領域をもはや包含しないトランケート型の標的細胞の表面抗原では、結合の低減又は喪失が起こると予想される。結合の低減は、ヒト標的細胞の表面抗原タンパク質全体(又はその細胞外領域若しくはドメイン)への結合を100とした場合、好ましくは少なくとも10%、20%、30%、40%又は50%、より好ましくは少なくとも60%、70%、80%及び最も好ましくは90%、95%又はさらに100%である。
【0114】
抗原結合ポリペプチド又は結合ドメインによる認識に対する標的細胞の表面抗原の特定の残基の寄与を決定するためのさらなる方法は、分析される各残基を例えば部位特異的変異誘発によってアラニンで置換するアラニンスキャニング(例えば、Morrison KL & Weiss GA.Cur Opin Chem Biol.2001 Jun;5(3):302-7を参照)である。アラニンの、他のアミノ酸の多くが有する二次構造基準を模倣するにも関わらず、嵩高くなく、化学的に不活性なメチル官能基に起因して、アラニンが使用される。変異される残基のサイズを保存することが望ましい場合には、時としてバリン又はロイシンなどの嵩高いアミノ酸を使用してもよい。アラニンスキャニングは、長期にわたり使用されてきた成熟した技術である。
【0115】
結合ドメインと、エピトープ又はエピトープを含む領域との間の相互作用は、結合ドメインが特定のタンパク質又は抗原(本明細書では、それぞれ標的細胞の表面抗原及びCD3)上のエピトープ/エピトープを含む領域に対して測定可能な親和性を示し、且つ一般に標的細胞の表面抗原又はCD3以外のタンパク質又は抗原に対して著しい反応性を示さないことを意味する。「測定可能な親和性」は、約10-6M(KD)又はそれより強い親和性を有する結合を含む。好ましくは、結合親和性が約10-12~10-8M、10-12~10-9M、10-12~10-10M、10-11~10-8M、好ましくは約10-11~10-9Mである場合、結合を特異的と見なす。結合ドメインが標的と特異的に反応又は結合するかどうかは、とりわけ、標的タンパク質又は抗原に対する前記結合ドメインの反応を標的細胞の表面抗原又はCD3以外のタンパク質又は抗原に対する前記結合ドメインの反応と比較することにより、容易に試験することができる。好ましくは、本発明の結合ドメインは、標的細胞の表面抗原又はCD3以外のタンパク質又は抗原に本質的に又は実質的に結合しない(すなわち、第1の結合ドメインは、標的細胞の表面抗原以外のタンパク質に結合することができず、第2の結合ドメインは、CD3以外のタンパク質に結合することができない)。他のHLE形式と比較して優れた親和性特性を有することは、本発明による抗原結合ポリペプチドの想定される特徴である。このような優れた親和性は、結果として、インビボでの半減期の延長を示唆する。本発明による抗原結合ポリペプチドのより長い半減期は、投与期間及び投与頻度を減少させる場合があり、これは、通常、患者のコンプライアンスの改善に寄与する。これは、特に重要なことであり、なぜなら、本発明の抗原結合ポリペプチドは、非常に衰弱した又はさらに多疾患である癌患者に特に有益であるためである。
【0116】
用語「本質的/実質的に結合しない」又は「結合することができない」は、本発明の結合ドメインが標的細胞の表面抗原又はCD3以外のタンパク質又は抗原に結合しない、すなわち標的細胞の表面抗原又はCD3のそれぞれに対する結合を100%とした場合、標的細胞の表面抗原又はCD3以外のタンパク質又は抗原に対し30%を超えて、好ましくは20%を超えて、より好ましくは10%を超えて、特に好ましくは9%、8%、7%、6%又は5%を超えて反応性を示すことがないことを意味する。
【0117】
特異的結合は、結合ドメイン及び抗原のアミノ酸配列内の特異的モチーフによってもたらされると考えられる。したがって、結合は、それらの一次、二次及び/又は三次構造の結果として、並びに前記構造の二次的修飾の結果として生じる。抗原相互作用部位とその特異抗原との特異的相互作用により、抗原に対する前記部位の単純な結合が生じ得る。さらに、抗原相互作用部位とその特異抗原との特異的相互作用により、例えば抗原の立体構造変化の誘導、抗原のオリゴマー化などによって、代替的に又は追加的にシグナルの開始がもたらされ得る。
【0118】
用語「可変」は、配列内で可変性を示し、特定の抗体の特異性及び結合親和性の決定に関与する、抗体又は免疫グロブリンドメインの部分(すなわち「可変ドメイン」)を指す。可変重鎖(VH)と可変軽鎖(VL)との対がともに単一の抗原結合部位を形成する。
【0119】
可変性は、抗体の可変ドメイン全体に均一に分布しているのではなく、重鎖及び軽鎖可変領域の各々のサブドメインに集中している。これらのサブドメインは、「超可変領域」又は「相補性決定領域」(CDR)と呼ばれる。可変ドメインのより保存的な(すなわち非超可変)部分は、「フレームワーク」領域(FRM又はFR)と呼ばれ、抗原結合表面を形成する三次元空間内における6つのCDRのための足場を提供する。天然に存在する重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、大部分がβシート配置をとる4つのFRM領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)をそれぞれ含み、これらは、ループ接続を形成し、場合によりβシート構造の一部を形成する3つの超可変領域によって接続される。各鎖の超可変領域は、FRMによって近接して共同で保持されており、他の鎖の超可変領域とともに抗原結合部位の形成に寄与する(前掲のKabat et al.を参照)。
【0120】
用語「CDR」及びその複数形である「CDRs」は、相補性決定領域を指し、そのうちの3つが軽鎖可変領域の結合特性を構成し(CDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3)、3つが重鎖可変領域の結合特性を構成する(CDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3)。CDRは、抗体と抗原との特異的相互作用を担う残基の大部分を含み、したがって抗体分子の機能的活性に寄与する。CDRは、抗原特異性の主要な決定基である。
【0121】
CDRの境界及び長さの厳密な定義は、各種の分類及び付番方式に従う。したがって、CDRは、本明細書に記載される付番方式を含む、Kabat、Chothia、接触又は任意の他の境界定義によって表わされ得る。境界が異なっていても、これらの方式の各々は、可変配列内のいわゆる「超可変領域」を構成する部分においてある程度の重複を有する。したがって、これらの方式によるCDRの定義は、長さ、及び隣接するフレームワーク領域に関する境界領域が相違する場合がある。例えば、Kabat(異種間の配列可変性に基づく手法)、Chothia(抗原-抗体複合体の結晶学的研究に基づく手法)及び/又はMacCallum(Kabat et al.,前掲;Chothia et al.,J.Mol.Biol,1987,196:901-917;及びMacCallum et al.,J.Mol.Biol,1996,262:732)を参照されたい。抗原結合部位を特徴付けるさらに別の基準は、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアによって使用されるAbM定義である。例えば、Protein Sequence and Structure Analysis of Antibody Variable Domains.In:Antibody Engineering Lab Manual(Ed.:Duebel,S.and Kontermann,R.,Springer-Verlag,Heidelberg)を参照されたい。2種の残基同定技術が、重複するが、同一の領域ではない領域を定義する限り、それらを組み合わせてハイブリッドCDRを定義し得る。しかしながら、いわゆるKabat方式に従う付番が好ましい。
【0122】
通常、CDRは、カノニカル構造として分類することができるループ構造を形成する。用語「カノニカル構造」は、抗原結合(CDR)ループがとる主鎖の立体構造を指す。比較構造研究から、6つの抗原結合ループのうちの5つは、利用可能な立体構造の限られたレパートリーのみを有することが見出された。各カノニカル構造をポリペプチド骨格のねじれ角により特徴付け得る。したがって、抗体間の対応するループは、ループの大部分に、高いアミノ酸配列可変性が見られるにもかかわらず、非常に類似した三次元構造を有し得る(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.,1987,196:901;Chothia et al.,Nature,1989,342:877;Martin and Thornton,J.Mol.Biol,1996,263:800)。さらに、採用されるループ構造と、その周囲のアミノ酸配列との間に関連性がある。特定のカノニカルクラスの立体構造は、ループの長さと、そのループ内の及び保存されたフレームワーク内(すなわち、ループ外)の重要な位置に存在するアミノ酸残基とにより決定される。したがって、特定のカノニカルクラスへの割り当ては、これらの重要なアミノ酸残基の存在に基づいて行われ得る。
【0123】
用語「カノニカル構造」には、例えば、Kabat(Kabat et al.、前掲)により分類されるように、抗体の線状配列に関する検討も含まれ得る。Kabatの付番スキーム(方式)は、抗体可変ドメインのアミノ酸残基を一貫した様式で付番するために広く採用されている基準であり、本明細書の他の箇所でも言及されるように本発明で適用される好ましいスキームである。さらなる構造の検討が抗体のカノニカル構造を決定するために使用される場合もある。例えば、Kabatの付番法では十分に反映されない相違をChothiaらの付番方式によって記載することができ、且つ/又は他の技術、例えば結晶学及び二次元若しくは三次元コンピューターモデリングによって明らかにすることができる。したがって、所与の抗体配列は、とりわけ、(例えば、種々のカノニカル構造をライブラリーに含めるという要求に基づいて)適切なシャーシ配列の同定が可能であるカノニカルクラスに分類され得る。抗体のアミノ酸配列のKabat付番法及びChothia et al.(前掲)に記載される構造の検討、並びに抗体構造のカノニカルな側面の解釈に対するそれらの意義については、文献に記載されている。様々なクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造及び三次元配置は、当該技術分野でよく知られている。抗体構造の概説については、Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,eds.Harlow et al.,1988を参照されたい。
【0124】
軽鎖のCDR3及び特に重鎖のCDR3は、軽鎖及び重鎖可変領域内での抗原結合において最も重要な決定気を構成し得る。いくつかの抗原結合ポリペプチドでは、重鎖CDR3が抗原と抗体との間の主要な接触領域を構成すると思われる。CDR3のみを変化させるインビトロ選択スキームを使用して、抗体の結合特性を変化させるか又はどの残基が抗原の結合に寄与するかを決定することができる。したがって、CDR3は、通常、抗体結合部位内での分子的多様性の最大の源である。例えば、H3は、2個のアミノ酸残基程度の短いもの、又は26個超のアミノ酸であり得る。
【0125】
古典的完全長抗体又は免疫グロブリンでは、各軽(L)鎖は、1つの共有結合性ジスルフィド結合によって重(H)鎖に連結される一方、2つのH鎖は、H鎖アイソタイプに応じた1つ以上のジスルフィド結合によって互いに連結される。VHに最も近接するCHドメインは、通常、CH1と称される。定常(「C」)ドメインは、抗原結合に直接関与しないが、抗体依存性、細胞介在性の細胞傷害性及び補体活性化などの種々のエフェクター機能を示す。抗体のFc領域は、重鎖定常ドメイン内に含まれ、例えば細胞表面に位置するFc受容体と相互作用することができる。
【0126】
構築及び体細胞変異後の抗体遺伝子の配列は、極めて多様であり、これらの多様化した遺伝子は、1010の異なる抗体分子をコードすると推定される(Immunoglobulin Genes,2nd ed.,eds.Jonio et al.,Academic Press,San Diego,CA,1995)。したがって、免疫系は、免疫グロブリンのレパートリーを提供する。用語「レパートリー」は、少なくとも1種の免疫グロブリンをコードする少なくとも1つの配列に全体又は一部が由来する少なくとも1つのヌクレオチド配列を指す。この配列は、重鎖のV、D、及びJセグメント並びに軽鎖のV及びJセグメントのインビボでの再編成によって生成され得る。代わりに、この配列は、再編成を生じさせる、例えばインビトロ刺激に応答して細胞から生成され得る。代わりに、この配列の一部又は全ては、DNAスプライシング、ヌクレオチド合成、変異誘発、及び他の方法により得られ得る(例えば、米国特許第5,565,332号明細書を参照)。レパートリーは、1つの配列のみを含み得るか、又は遺伝的に多様なコレクション内のものを含む複数の配列を含み得る。
【0127】
用語「Fc部分」又は「Fc単量体」は、本発明との関係では、免疫グロブリン分子のCH2ドメインの機能を有する少なくとも1つのドメイン及びCH3ドメインの機能を有する少なくとも1つのドメインを含むポリペプチドを意味する。「Fc単量体」という用語から明らかなとおり、それらのCHドメインを含むポリペプチドは、「ポリペプチド単量体」である。Fc単量体は、重鎖の第1の定常領域免疫グロブリンドメイン(CH1)を除くが、少なくとも1つのCH2ドメインの機能的部分及び1つのCH3ドメインの機能的部分を維持している(ここで、CH2ドメインはCH3ドメインのアミノ末端側にある)、少なくとも免疫グロブリンの定常領域のフラグメントを含むポリペプチドであり得る。本定義の好ましい態様において、Fc単量体は、Ig-Fcヒンジ領域の一部、CH2領域及びCH3領域を含むポリペプチド定常領域であり得る(ここで、ヒンジ領域はCH2ドメインのアミノ末端側にある)。本発明のヒンジ領域は、二量体化を促進することが想定される。このようなFcポリペプチド分子は、例えば、免疫グロブリン領域のパパイン消化(当然のことながら、2つのFcポリペプチドの二量体を生じる)によって得ることができるが、これに限定されない。本定義の別の態様において、Fc単量体は、CH2領域及びCH3領域の一部を含むポリペプチド領域であり得る。このようなFcポリペプチド分子は、例えば、免疫グロブリン分子のペプシン消化によって得ることができるが、これに限定されない。一実施形態では、Fc単量体のポリペプチド配列は、IgG Fc領域、IgG Fc領域、IgG Fc領域、IgG Fc領域、IgM Fc領域、IgA Fc領域、IgD Fc領域及びIgE Fc領域のFcポリペプチド配列と実質的に同様である。(例えば、Padlan,Molecular Immunology,31(3),169-217(1993)を参照)。免疫グロブリン間にいくつかの変種が存在するため、且つ単に明確性のために、Fc単量体は、IgA、IgD及びIgGの末尾の2つの重鎖定常領域免疫グロブリンドメイン、並びにIgE及びIgMの末尾の3つの重鎖定常領域免疫グロブリンドメインを指す。上記のとおり、Fc単量体はまた、これらのドメインのN末端側に柔軟性のあるヒンジを含み得る。IgA及びIgMの場合、Fc単量体は、J鎖を含み得る。IgGの場合、Fc部分は、免疫グロブリンドメインCH2及びCH3、並びに最初の2つのドメインとCH2との間にヒンジを含む。Fc部分の境界は異なる場合があるが、機能的ヒンジ、CH2及びCH3ドメインを含むヒトIgG重鎖Fc部分の例は、例えば、Kabatによる付番で、残基D231(ヒンジドメインの-下の表1のD234に対応)からCH3ドメインのカルボキシル側末端のP476、又はL476(IgGの場合)までをそれぞれ含むように定義され得る。ペプチドリンカーを介して互いに融合される2つのFc部分又はFc単量体は、本発明の抗原結合ポリペプチドの第3のドメインを定義し、これはまた、scFcドメインとして定義され得る。
【0128】
本発明の一実施形態において、本明細書に開示されるscFcドメイン、又は互いに融合したFc単量体は、抗原結合ポリペプチドの第3のドメインにのみ含まれることが想定される。
【0129】
本発明に即して、IgGヒンジ領域は、表1に記述されるKabat付番を用いた類似性によって同定され得る。上記に一致して、本発明のヒンジドメイン/領域は、Kabat付番によるD234~P243の一続きのIgG配列に相当するアミノ酸残基を含むことが想定される。同様に、本発明のヒンジドメイン/領域は、IgG1ヒンジ配列DKTHTCPPCP(配列番号182)(下の表1に示されるD234~P243ストレッチに対応する-前記配列の変種もまた、ヒンジ領域が依然として二量体化を促進するという条件で想定される)を含むか又はそれからなることが想定される。本発明の好ましい実施形態では、抗原結合ポリペプチドの第3のドメイン内のCH2ドメインのKabat位置314のグリコシル化部位は、N314X置換によって除去される(ここで、Xは、Q以外の任意のアミノ酸である)。前記置換は、好ましくは、N314G置換である。より好ましい実施形態では、前記CH2ドメインは、次の置換(位置は、Kabatに従う)V321C及びR309C(これらの置換は、Kabat位置309及び321でドメイン内システインジスルフィド架橋を導入する)をさらに含む。
【0130】
本発明の抗原結合ポリペプチドの第3のドメインは、アミノからカルボキシルの順に、DKTHTCPPCP(配列番号182)(すなわち、ヒンジ)-CH2-CH3-リンカー-DKTHTCPPCP(配列番号182)(すなわち、ヒンジ)-CH2-CH3を含むか又はそれからなることもまた想定される。前述の抗原結合ポリペプチドのペプチドリンカーは、好ましい実施形態では、アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser、すなわち、GlySer(配列番号187)、又はそのポリマー、すなわち、(GlySer)xを特徴とし、ここで、xは、5以上の整数(例えば、5、6、7、8など、又はそれ以上)であり、6が好ましい((Gly4Ser))。前記コンストラクトは、前述の置換N314X、好ましくはN314G、並びに/又はさらなる置換V321C及びR309Cをさらに含み得る。本明細書の上記で定義される本発明の抗原結合ポリペプチドの好ましい実施形態では、第2のドメインは、ヒト及び/又はマカク(Macaca)CD3ε鎖の細胞外エピトープに結合することが想定される。
【0131】
【表1】
【0132】
本発明のさらなる実施形態では、ヒンジドメイン/領域は、IgG2サブタイプヒンジ配列ERKCCVECPPCP(配列番号183)、IgG3サブタイプヒンジ配列ELKTPLDTTHTCPRCP(配列番号184)若しくはELKTPLGDTTHTCPRCP(配列番号185)、及び/又はIgG4サブタイプヒンジ配列ESKYGPPCPSCP(配列番号186)を含むか又はそれからなる。IgG1サブタイプヒンジ配列は、次の配列EPKSCDKTHTCPPCP(表1及び配列番号183において示されるとおり)であってもよい。したがって、これらのコアヒンジ領域もまた、本発明との関連において想定される。
【0133】
IgG CH2及びIgG CH3ドメインの位置及び配列は、表2に記述されるKabat付番を用いた類似性によって同定され得る。
【0134】
【表2】
【0135】
本発明の一実施形態では、第1又は両方のFc単量体のCH3ドメイン内の太字で強調表示されたアミノ酸残基は、欠失される。
【0136】
第3のドメインのポリペプチド単量体(「Fc部分」又は「Fc単量体」)を互いに融合するペプチドリンカーは、好ましくは、少なくとも25アミノ酸残基(25、26、27、28、29、30など)を含む。より好ましくは、このペプチドリンカーは、少なくとも30アミノ酸残基(30、31、32、33、34、35など)を含む。リンカーが最大40のアミノ酸残基を含むことも好ましく、より好ましくは最大35アミノ酸残基、最も好ましくはちょうど30のアミノ酸残基である。そのようなペプチドリンカーの好ましい実施形態は、アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser、すなわちGlySer(配列番号187)又はそのポリマー、すなわち(GlySer)xを特徴し、ここで、xは、5以上の整数(例えば、6、7又は8)である。好ましくは、整数は、6又は7であり、より好ましくは、整数は、6である。
【0137】
第1のドメインを第2のドメインと融合するために、又は第1のドメイン若しくは第2のドメインを第3のドメインと融合するためにリンカーが使用される場合、このリンカーは、好ましくは、第1のドメイン及び第2のドメインの各々が互いに独立してそれらの異なる結合特異性を確実に保持できる十分な長さ及び配列のリンカーである。本発明の抗原結合ポリペプチド内の少なくとも2つの結合ドメイン(又は2つの可変ドメイン)を接続するペプチドリンカーの場合、それらのペプチドリンカーは、ほんの数個のアミノ酸残基を含むもの、例えば12以下のアミノ酸残基を含むものが好ましい。したがって、12、11、10、9、8、7、6又は5アミノ酸残基のペプチドリンカーが好ましい。想定される5未満のアミノ酸を有するペプチドリンカーは、4、3、2又は1アミノ酸を含み、Glyに富んだリンカーが好ましい。第1及び第2のドメインの融合のためのペプチドリンカーの好ましい実施形態は、配列番号1に示される。第2及び第3のドメインを融合するためのペプチドリンカーの好ましいリンカー実施形態は、(Gly)-リンカー、又はG-リンカーである。
【0138】
上記の「ペプチドリンカー」の1つに関連して特に好ましい「単一」のアミノ酸は、Glyである。したがって、前記のペプチドリンカーは、単一のアミノ酸Glyからなり得る。本発明の好ましい実施形態では、ペプチドリンカーは、アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser、すなわち、GlySer(配列番号187)、又はそのポリマー、すなわち(GlySer)xを特徴とし、ここで、xは、1以上の整数(例えば、2又は3)である。好ましいリンカーは、配列番号1~12に示される。二次構造を促進しないことを含む前記ペプチドリンカーの特徴は、当該技術分野で知られており、例えば、Dall’Acqua et al.(Biochem.(1998)37,9266-9273)、Cheadle et al.(Mol Immunol(1992)29,21-30)、及びRaag and Whitlow(FASEB(1995)9(1),73-80)に記載されている。さらにいかなる二次構造も促進しないペプチドリンカーが好ましい。前記ドメインの相互の連結は、例えば、実施例で記載されるように、遺伝子操作によって、提供することができる。融合され作動可能に連結された二重特異性一本鎖コンストラクトを調製し、それらを哺乳動物細胞又は細菌において発現させる方法は、当該技術分野においてはよく知られている(例えば、国際公開第99/54440号パンフレット又はSambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,2001)。
【0139】
抗原結合ポリペプチド又は本発明の好ましい実施形態においては、第1及び第2のドメインは、(scFv)、scFv-単一ドメインmAb、ダイアボディ及びそれらの形式のいずれかのオリゴマーからなる群から選択される形式の抗原結合ポリペプチドを形成する。
【0140】
特に好ましい実施形態によれば、そして付属の実施例に記述するとおり、本発明の抗原結合ポリペプチドの第1及び第2のドメインは、「二重特異性一本鎖抗原結合ポリペプチド」、より好ましくは二重特異性「一本鎖Fv」(scFv)である。Fvフラグメントの2つのドメインであるVL及びVHは、別々の遺伝子によってコードされるが、それらは、組換え法を用いて、VL及びVH領域が一価分子を形成するように対をなす単一のタンパク質鎖としてそれらが作製されることを可能にする、本明細書の上記のとおりの合成リンカーによって結合することができる;例えば、Huston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci USA 85:5879-5883を参照されたい。これらの抗体フラグメントは、当業者に知られた従来の技術を用いて得られ、且つそれらのフラグメントは、完全又は全長抗体と同じ方法で機能を評価される。したがって、一本鎖可変フラグメント(scFv)は、通常、約10~約25アミノ酸、好ましくは約15~20アミノ酸の短いリンカーペプチドによって接続される、免疫グロブリンの重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)の融合タンパク質である。リンカーは、通常、柔軟性のためにグリシンを、また溶解性のためにセリン又はスレオニンを多く含み、VHのN末端をVLのC末端に接続するか又はその逆であり得る。このタンパク質は、定常領域を除去し、リンカーを導入したにもかかわらず、元の免疫グロブリンの特異性を保持する。
【0141】
二重特異性一本鎖抗原結合ポリペプチドは、当該技術分野で知られており、国際公開第99/54440号パンフレット、Mack,J.(1997),158,3965-3970、Mack,PNAS,(1995),92,7021-7025,Kufer,Cancer Immunol.Immunother.,(1997),45,193-197,Loeffler,Blood,(2000),95,6,2098-2103,Bruehl,Immunol.,(2001),166,2420-2426,Kipriyanov,J.Mol.Biol.,(1999),293,41-56に記載されている。一本鎖抗体の作製のために記載された技術(とりわけ、米国特許第4,946,778号明細書、Kontermann and Duebel(2010)、前掲及びLittle(2009)、前掲を参照)は、選出された標的を特異的に認識する一本鎖抗原結合ポリペプチドを作製するために適合され得る。
【0142】
二価(bivalent)(二価(divalent)とも呼ばれる)又は二重特異性一本鎖可変フラグメント(形式(scFv)を有するbi-scFv又はdi-scFv)は、2つのscFv分子を(例えば、本明細書の上記に記載されるリンカーを用いて)連結することにより作り出すことができる。これらの2つのscFv分子が同じ結合特異性を有する場合、得られる(scFv)分子は二価と呼ぶことが好ましい(すなわち、それは、同じ標的エピトープに対して2の価数を有する)。これらの2つのscFv分子が異なる結合特異性を有する場合、得られる(scFv)分子は二重特異性と呼ぶことが好ましい。連結は、2つのVH領域及び2つのVL領域を有する単一のペプチド鎖を作製することによってなされ得、タンデムscFvが得られる(例えば、Kufer P.et al.,(2004)Trends in Biotechnology 22(5):238-244を参照)。別の可能性は、2つの可変領域を一緒に折り畳むには短すぎる(例えば、約5アミノ酸の)リンカーペプチドを用いてscFv分子を作製し、scFvを二量体化させることである。このタイプは、ダイアボディとして知られている(例えば、Hollinger,Philipp et al.,(July 1993)Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 90(14):6444-8を参照)。
【0143】
本発明に即して、第1のドメイン、第2のドメイン、又は第1及び第2のドメインは、単一ドメイン抗体、若しくは可変ドメイン、又は単一ドメイン抗体の少なくともCDRを含み得る。単一ドメイン抗体は、他のV領域又はドメインに非依存的に特異抗原に選択的に結合することができる1つのみの(単量体の)抗体可変ドメインを含む。最初の単一ドメイン抗体は、ラクダにおいて見出される重鎖抗体から作り出され、これらは、VHフラグメントと呼ばれる。軟骨魚類も、それからVNARフラグメントと呼ばれる単一ドメイン抗体を得ることのできる重鎖抗体(IgNAR)を有する。代替的な手法は、一般的な免疫グロブリン由来の、例えば、ヒト又は齧歯類由来の二量体可変ドメインを単量体に分割し、それによって単一ドメインAbとしてVH又はVLを得ることである。単一ドメイン抗体に関する大部分の研究は、現時点で重鎖可変ドメインに基づいているが、軽鎖由来のナノボディも標的エピトープに特異的に結合することが示されている。単一ドメイン抗体の例は、sdAb、ナノボディ、又は単一可変ドメイン抗体と呼ばれる。
【0144】
したがって、(単一ドメインmAb)は、V、V、VH及びVNARを含む群から個別に選択される(少なくとも)2つの単一ドメインモノクローナル抗体から構成されるモノクローナル抗原結合ポリペプチドである。リンカーは、ペプチドリンカーの形態であることが好ましい。同様に、「scFv-単一ドメインmAb」は、少なくとも1つの上記の単一ドメイン抗体及び1つの上記のscFv分子から構成されるモノクローナル抗原結合ポリペプチドである。この場合もやはり、リンカーは、ペプチドリンカーの形態であることが好ましい。
【0145】
抗原結合ポリペプチドが別の所与の抗原結合ポリペプチドと競合して結合するかどうかは、競合ELISA又は細胞を用いた競合アッセイなどの競合アッセイで測定することができる。アビジンを結合したマイクロ粒子(ビーズ)を使用することもできる。アビジンでコーティングしたELISAプレートと同様に、ビオチン化タンパク質と反応させる際、これらのビーズのそれぞれを基材として使用することができ、その上でアッセイを実施することができる。抗原をビーズにコーティングし、次に第1の抗体でプレコーティングする。第2の抗体を添加して、任意のさらなる結合を確認する。読み取りのために可能な手段としては、フローサイトメトリーが挙げられる。
【0146】
T細胞又はTリンパ球は、細胞性免疫において中心的な役割を果たすリンパ球(それ自体白血球の一種)の一種である。T細胞には、それぞれ異なる機能を有するいくつかのサブセットが存在する。T細胞は、その細胞表面にT細胞受容体(TCR)が存在する点で他のリンパ球、例えばB細胞及びNK細胞と区別することができる。TCRは、主要組織適合性複合体(MHC)分子に結合した抗原の認識に関与し、2つの異なるタンパク質鎖から構成される。95%のT細胞において、TCRは、アルファ(α)鎖及びベータ(β)鎖からなる。TCRが抗原ペプチド及びMHC(ペプチド/MHC複合体)と結合すると、Tリンパ球が、関連酵素、共受容体、特化したアダプター分子及び活性化又は放出された転写因子によって媒介される一連の生化学的事象を通じて活性化される。
【0147】
CD3受容体複合体は、タンパク質複合体であり、4つの鎖から構成される。哺乳動物において、この複合体は、CD3γ(ガンマ)鎖、CD3δ(デルタ)鎖及び2つのCD3ε(イプシロン)鎖を含有する。これらの鎖は、T細胞受容体(TCR)及びいわゆるζ(ゼータ)鎖と会合してT細胞受容体CD3複合体を形成し、Tリンパ球において活性化シグナルを生成する。CD3γ(ガンマ)、CD3δ(デルタ)及びCD3ε(イプシロン)鎖は、単一の細胞外免疫グロブリンドメインを含有する、関連性の高い免疫グロブリンスーパーファミリーの細胞表面タンパク質である。CD3分子の細胞内尾部は、TCRのシグナル伝達能に必須である免疫受容活性化チロシンモチーフ、すなわち略称ITAMとして知られる単一の保存的モチーフを含有する。CD3イプシロン分子は、ヒトの第11染色体に存在するCD3E遺伝子によってコードされるポリペプチドである。最も好ましいCD3イプシロンのエピトープは、ヒトCD3イプシロン細胞外ドメインのアミノ酸残基1~27の範囲に含まれる。本発明による抗原結合ポリペプチドは、典型的且つ有利には、特定の免疫療法において望ましくない非特異的T細胞活性化をそれほど示さないことが想定される。これは、換言すれば、副作用のリスクを低減することになる。
【0148】
多重特異性、少なくとも二重特異性の抗原結合ポリペプチドによるT細胞の動員を介するリダイレクトされた標的細胞の溶解は、細胞溶解性シナプスの形成、並びにパーフォリン及びグランザイムの送達を伴う。結合したT細胞は、連続的な標的細胞の溶解が可能であり、ペプチド抗原のプロセシング及び提示又はクローナルなT細胞分化を妨げる免疫回避機構による影響を受けない;例えば、国際公開第2007/042261号パンフレットを参照されたい。
【0149】
本発明の抗原結合ポリペプチドによって媒介される細胞傷害性は、様々な方法で測定することができる。エフェクター細胞は、例えば、刺激された濃縮(ヒト)CD8陽性T細胞又は未刺激の(ヒト)末梢血単核球(PBMC)であり得る。標的細胞がマカク起源である場合、又は第1のドメインによって結合されるマカク標的細胞の表面抗原を発現するか若しくはそれでトランスフェクトされる場合、エフェクター細胞もマカクT細胞株、例えば4119LnPxなどのマカク起源のものであるべきである。標的細胞は、標的細胞の表面抗原、例えばヒト又はマカク標的細胞の表面抗原(の少なくとも細胞外ドメイン)を発現するはずである。標的細胞は、標的細胞の表面抗原、例えばヒト又はマカク標的細胞の表面抗原で安定的に又は一過性にトランスフェクトされている細胞株(CHOなど)であり得る。代わりに、標的細胞は、天然の標的細胞の表面抗原陽性発現細胞株であり得る。通常、EC50値は、細胞表面に高レベルの標的細胞の表面抗原を発現する標的細胞株では低くなると予想される。エフェクター対標的細胞(E:T)比は、通常、約10:1であるが、これは、変動することもできる。標的細胞の表面抗原×CD3二重特異性抗原結合ポリペプチドの細胞傷害活性は、51Cr放出アッセイ(約18時間のインキュベーション時間)又はFACSを用いた細胞傷害性アッセイ(約48時間のインキュベーション時間)において測定することができる。アッセイのインキュベーション時間(細胞傷害性反応)の変更も可能である。細胞傷害性を測定する他の方法は、当業者によく知られており、MTT又はMTSアッセイ、生物発光アッセイを含むATP系アッセイ、スルホローダミンB(SRB)アッセイ、WSTアッセイ、クローン原性アッセイ及びECIS技術を含む。
【0150】
本発明の標的細胞の表面抗原×CD3二重特異性抗原結合ポリペプチドによって媒介される細胞傷害活性は、好ましくは、細胞を用いた細胞傷害性アッセイで測定される。細胞傷害活性はまた、51Cr放出アッセイでも測定され得る。細胞傷害活性は、EC50値によって表され、これは、半数効果濃度(ベースラインと最大値との中間の細胞傷害性反応を誘導する抗原結合ポリペプチドの濃度)に対応する。好ましくは、標的細胞の表面抗原×CD3二重特異性抗原結合ポリペプチドのEC50値は、≦5000pM又は≦4000pM、より好ましくは≦3000pM又は≦2000pM、さらにより好ましくは≦1000pM又は≦500pM、さらにより好ましくは≦400pM又は≦300pM、さらにより好ましくは≦200pM、さらにより好ましくは≦100pM、さらにより好ましくは≦50pM、さらにより好ましくは≦20pM又は≦10pM、最も好ましくは≦5pMである。
【0151】
様々なアッセイにおいて、上記の所与のEC50値を測定することができる。刺激された/濃縮CD8T細胞をエフェクター細胞として使用する場合、未刺激のPBMCと比較してEC50値が低くなると予想できることを当業者は認識している。さらに、標的細胞が多数の標的細胞の表面抗原を発現する場合、標的発現の少ないラットと比較してEC50値は低くなると予想することができる。例えば、刺激された/濃縮ヒトCD8T細胞をエフェクター細胞として使用する場合(及びCHO細胞などの標的細胞の表面抗原でトランスフェクトされた細胞又は標的細胞の表面抗原陽性ヒト細胞株を標的細胞として使用する場合)、標的細胞の表面抗原×CD3二重特異性抗原結合ポリペプチドのEC50値は、好ましくは≦1000pM、より好ましくは≦500pM、さらにより好ましくは≦250pM、さらにより好ましくは≦100pM、さらにより好ましくは≦50pM、さらにより好ましくは≦10pM、最も好ましくは≦5pMである。ヒトPBMCをエフェクター細胞として使用する場合、標的細胞の表面抗原×CD3二重特異性抗原結合ポリペプチドのEC50値は、好ましくは、≦5000pM又は≦4000pM(特に標的細胞が標的細胞の表面抗原陽性ヒト細胞株である場合)、より好ましくは≦2000pM(特に標的細胞がCHO細胞などの標的細胞の表面抗原でトランスフェクトされた細胞である場合)、より好ましくは≦1000pM又は≦500pM、さらにより好ましくは≦200pM、さらにより好ましくは≦150pM、さらにより好ましくは≦100pM、最も好ましくは≦50pMである。LnPx4119などのマカクT細胞株をエフェクター細胞として使用し、CHO細胞などのマカク標的細胞の表面抗原でトランスフェクトされた細胞株を標的細胞株として使用する場合、標的細胞の表面抗原×CD3二重特異性抗原結合ポリペプチドのEC50値は、好ましくは、≦2000pM又は≦1500pM、より好ましくは≦1000pM又は≦500pM、さらにより好ましくは≦300pM又は≦250pM、さらにより好ましくは≦100pM、最も好ましくは≦50pMである。
【0152】
好ましくは、本発明の標的細胞の表面抗原×CD3二重特異性抗原結合ポリペプチドは、CHO細胞などの標的細胞の表面抗原陰性細胞の溶解を誘導/媒介しないか、又は溶解を実質的に誘導/媒介しない。用語「溶解を誘導しない」、「溶解を実質的に誘導しない」、「溶解を媒介しない」又は「溶解を実質的に媒介しない」は、標的細胞の表面抗原陽性ヒト細胞株の溶解を100%とした場合、本発明の抗原結合ポリペプチドが標的細胞の表面抗原陰性細胞の溶解を30%を超えて、好ましくは20%を超えて、より好ましくは10%を超えて、特に好ましくは9%、8%、7%、6%又は5%を超えて誘導又は媒介することがないことを意味する。これは、通常、500nMまでの抗原結合ポリペプチドの濃度で当てはまる。当業者は、さらなる労力を伴わずに細胞溶解を測定する方法を知っている。さらに、本明細書では細胞溶解の測定方法の具体的な指示を教示する。
【0153】
個々の標的細胞の表面抗原×CD3二重特異性抗原結合ポリペプチドの単量体アイソフォームと二量体アイソフォームとの間の細胞傷害活性の差を「効力ギャップ」と称する。この効力ギャップは、例えば、その分子の単量体形態のEC50値と二量体形態のEC50値との比率として算出することができる。本発明の標的細胞の表面抗原×CD3二重特異性抗原結合ポリペプチドの効力ギャップは、好ましくは、≦5、より好ましくは≦4、さらにより好ましくは≦3、さらにより好ましくは≦2、最も好ましくは≦1である。
【0154】
本発明の抗原結合ポリペプチドの第1及び/又は第2の(又は任意のさらなる)結合ドメインは、好ましくは、霊長類の哺乳動物目のメンバーにおいて異種間特異的である。異種間特異的CD3結合ドメインは、例えば、国際公開第2008/119567号パンフレットに記載されている。一実施形態によれば、第1及び/又は第2の結合ドメインは、ヒト標的細胞の表面抗原及びヒトCD3への結合に加えて、新世界霊長類(コモンマーモセット(Callithrix jacchus)、ワタボウシタマリン(Saguinus Oedipus)又はリスザル(Saimiri sciureus)など)、旧世界霊長類(ヒヒ及びマカクなど)、テナガザル及び非ヒトのヒト亜科動物(homininae)を含む(ただし、これらに限定されない)霊長類の標的細胞の表面抗原/CD3にもそれぞれ結合することになる。
【0155】
本発明の抗原結合ポリペプチドの一実施形態では、第1のドメインは、ヒト標的細胞の表面抗原に結合し、且つカニクイザル(Macaca fascicularis)の標的細胞の表面抗原などのマカク標的細胞の表面抗原、より好ましくはマカク細胞の表面で発現されるマカク標的細胞の表面抗原にさらに結合する。マカク標的細胞の表面抗原に対する第1の結合ドメインの親和性は、好ましくは、≦15nM、より好ましくは≦10nM、さらにより好ましくは≦5nM、さらにより好ましくは≦1nM、さらにより好ましくは≦0.5nM、さらにより好ましくは≦0.1nM、最も好ましくは≦0.05nM又はさらに≦0.01nMである。
【0156】
好ましくは、本発明による抗原結合ポリペプチドの、(例えば、BiaCore又はスキャッチャード分析により決定される)マカク標的細胞の表面抗原対ヒト標的細胞の表面抗原[ma標的細胞の表面抗原:hu標的細胞の表面抗原]の結合親和性ギャップは、<100、好ましくは<20、より好ましくは<15、さらに好ましくは<10、さらにより好ましくは<8、より好ましくは<6、最も好ましくは<2である。本発明による抗原結合ポリペプチドの、マカク標的細胞の表面抗原対ヒト標的細胞の表面抗原の結合親和性ギャップの好ましい範囲は、0.1~20、より好ましくは0.2~10、さらにより好ましくは0.3~6、さらにより好ましくは0.5~3又は0.5~2.5、及び最も好ましくは0.5~2又は0.6~2である。
【0157】
本発明の抗原結合ポリペプチドの第2の(結合)ドメインは、ヒトCD3イプシロン及び/又はマカク(Macaca)CD3イプシロンに結合する。好ましい実施形態では、第2のドメインは、コモンマーモセット(Callithrix jacchus)、ワタボウシタマリン(Saguinus Oedipus)又はリスザル(Saimiri sciureus)のCD3イプシロンにさらに結合する。
コモンマーモセット(Callithrix jacchus)及びワタボウシタマリン(Saguinus Oedipus)は、マーモセット科(Callitrichidae)に属する新世界霊長類である一方、リスザル(Saimiri sciureus)は、オマキザル科(Cebidae)に属する新世界霊長類である。
【0158】
本発明の抗原結合ポリペプチドでは、ヒト及び/又はマカク(Macaca)CD3の細胞外エピトープに結合する第2の結合ドメインは、以下から選択されるCDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3を含むVL領域を含むことが好ましい:
(a)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号27に示されるとおりのCDR-L1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号28に示されるとおりのCDR-L2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号29に示されるとおりのCDR-L3;
(b)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号117に示されるとおりのCDR-L1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号118に示されるとおりのCDR-L2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号119に示されるとおりのCDR-L3;並びに
(c)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号153に示されるとおりのCDR-L1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号154に示されるとおりのCDR-L2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号155に示されるとおりのCDR-L3。
【0159】
本発明の抗原結合ポリペプチドのさらに好ましい実施形態において、ヒト及び/又はマカク(Macaca)CD3イプシロン鎖の細胞外エピトープに結合する第2のドメインは、以下から選択されるCDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3を含むVH領域を含む:
(a)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号12に示されるとおりのCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号13に示されるとおりのCDR-H2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号14に示されるとおりのCDR-H3;
(b)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号30に示されるとおりのCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号31に示されるとおりのCDR-H2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号32に示されるとおりのCDR-H3;
(c)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号48に示されるとおりのCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号49に示されるとおりのCDR-H2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号50に示されるとおりのCDR-H3;
(d)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号66に示されるとおりのCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号67に示されるとおりのCDR-H2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号68に示されるとおりのCDR-H3;
(e)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号84に示されるとおりのCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号85に示されるとおりのCDR-H2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号86に示されるとおりのCDR-H3;
(f)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号102に示されるとおりのCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号103に示されるとおりのCDR-H2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号104に示されるとおりのCDR-H3;
(g)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号120に示されるとおりのCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号121に示されるとおりのCDR-H2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号122に示されるとおりのCDR-H3;
(h)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号138に示されるとおりのCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号139に示されるとおりのCDR-H2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号140に示されるとおりのCDR-H3;
(i)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号156に示されるとおりのCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号157に示されるとおりのCDR-H2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号158に示されるとおりのCDR-H3;並びに
(j)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号174に示されるとおりのCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号175に示されるとおりのCDR-H2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号176に示されるとおりのCDR-H3。
【0160】
本発明の抗原結合ポリペプチドの好ましい実施形態では、第2の結合ドメイン内でVL CDRの上記3群をVH CDRの上記10群と組み合わせて、それぞれCDR-L1~3及びCDR-H1~3を含む(30)群を形成する。
【0161】
本発明の抗原結合ポリペプチドでは、CD3に結合する第2のドメインは、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号17、21、35、39、53、57、71、75、89、93、107、111、125、129、143、147、161、165、179若しくは183に示されるか又は配列番号200に示されるとおりのVL領域からなる群から選択されるVL領域を含むことが好ましい。
【0162】
CD3に結合する第2のドメインは、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号15、19、33、37、51、55、69、73、87、91、105、109、123、127、141、145、159、163、177若しくは181に示されるか又は配列番号201に示されるとおりのVH領域からなる群から選択されるVH領域を含むこともまた好ましい。
【0163】
より好ましくは、本発明の抗原結合ポリペプチドは、以下からなる群から選択されるVL領域及びVH領域を含むCD3に結合する第2のドメインによって特徴付けられる。
(a)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号17又は21に示されるとおりのVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号15又は19に示されるとおりのVH領域;
(b)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号35又は39に示されるとおりのVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号33又は37に示されるとおりのVH領域;
(c)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号53又は57に示されるとおりのVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号51又は55に示されるとおりのVH領域;
(d)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号71又は75に示されるとおりのVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号69又は73に示されるとおりのVH領域;
(e)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号89又は93に示されるとおりのVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号87又は91に示されるとおりのVH領域;
(f)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号107又は111に示されるとおりのVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号105又は109に示されるとおりのVH領域;
(g)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号125又は129に示されるとおりのVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号123又は127に示されるとおりのVH領域;
(h)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号143又は147に示されるとおりのVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号141又は145に示されるとおりのVH領域;
(i)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号161又は165に示されるとおりのVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号159又は163に示されるとおりのVH領域;並びに
(j)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号179又は183に示されるとおりのVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号177又は181に示されるとおりのVH領域。
【0164】
配列番号200に示されるとおりのVL領域及び配列番号201に示されるとおりのVH領域を含むCD3に結合する第2のドメインもまた、本発明の抗原結合ポリペプチドとの関係で好ましい。
【0165】
本発明の抗原結合ポリペプチドの好ましい実施形態によれば、第1及び/又は第2のドメインは、以下の形式を有する:VH領域とVL領域との対は、一本鎖抗体(scFv)の形式である。VH及びVL領域は、VH-VL又はVL-VHの順に配置される。VH領域がリンカー配列のN末端に配置され、且つVL領域がリンカー配列のC末端に配置されることが好ましい。
【0166】
本発明の上述の抗原結合ポリペプチドの好ましい実施形態は、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号23、25、41、43、59、61、77、79、95、97、113、115、131、133、149、151、167、169、185若しくは187からなる群から選択されるか又は配列番号202に示されるアミノ酸配列を含むCD3に結合する第2のドメインによって特徴付けられる。
【0167】
抗原結合ポリペプチドの共有結合修飾も本発明の範囲内に含まれ、これは、必ずしもというわけではないが、概して翻訳後に行われる。例えば、抗原結合ポリペプチドのいくつかの種類の共有結合的修飾は、抗原結合ポリペプチドの特定のアミノ酸残基を、選択された側鎖又はN末端若しくはC末端残基と反応することができる有機誘導体化剤と反応させることによって分子内に導入される。
【0168】
システイニル残基は、最も一般的には、α-ハロアセテート(及び対応するアミン)、例えばクロロ酢酸又はクロロアセトアミドと反応して、カルボキシメチル又はカルボキシアミドメチル誘導体を生じる。システイニル残基はまた、ブロモトリフルオロアセトン、α-ブロモ-β-(5-イミダゾイル)プロピオン酸、リン酸クロロアセチル、N-アルキルマレイミド、3-ニトロ-2-ピリジルジスルフィド、メチル2-ピリジルジスルフィド、p-クロロメルクリ安息香酸、2-クロロメルクリ-4-ニトロフェノール又はクロロ-7-ニトロベンゾ-2-オキサ-1,3-ジアゾールとの反応によっても誘導体化される。
【0169】
ヒスチジル残基は、pH5.5~7.0でのジエチルピロカーボネートとの反応によって誘導体化され、これは、この薬剤が、ヒスチジル側鎖に対して比較的特異的であるためである。パラ-ブロモフェナシルブロミドもまた有用であり、この反応は、好ましくは、pH6.0の0.1Mカコジル酸ナトリウム中で行われる。リシニル及びアミノ末端残基は、コハク酸無水物又は他のカルボン酸無水物と反応する。これらの薬剤による誘導体化は、リシニル残基の電荷を反転させる効果を有する。アルファ-アミノ含有残基を誘導体化するための他の好適な試薬としては、ピコリンイミド酸メチルなどのイミドエステル;リン酸ピリドキサール;ピリドキサール;クロロボロヒドリド;トリニトロベンゼンスルホン酸;O-メチルイソ尿素;2,4-ペンタンジオン;及びグリオキシレートとのトランスアミナーゼ触媒反応が挙げられる。
【0170】
アルギニル残基は、1つ又は複数の従来型の試薬、とりわけフェニルグリオキサール、2,3-ブタンジオン、1,2-シクロヘキサンジオン及びニンヒドリンとの反応により修飾される。グアニジン官能基のpKaが高いため、アルギニン残基の誘導体化は、反応をアルカリ条件下で実施する必要がある。さらに、これらの試薬は、リシンの基及びアルギニンイプシロン-アミノ基と反応し得る。
【0171】
チロシル残基の特異的修飾は、特に芳香族ジアゾニウム化合物又はテトラニトロメタンとの反応によるチロシル残基へのスペクトル標識の導入を目的として行われる場合がある。最も一般的には、N-アセチルイミダゾール及びテトラニトロメタンを使用して、それぞれO-アセチルチロシル種及び3-ニトロ誘導体を形成する。125I又は131Iを用いてチロシル残基をヨウ素化して、ラジオイムノアッセイに使用される標識タンパク質を調製する、上記のクロラミンT法が好適である。
【0172】
カルボキシル側基(アスパルチル又はグルタミル)は、カルボジイミド(R’-N=C=N--R’)との反応によって選択的に修飾され、ここで、R及びR’は、任意選択により、異なるアルキル基、例えば1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリニル-4-エチル)カルボジイミド又は1-エチル-3-(4-アゾニア-4,4-ジメチルペンチル)カルボジイミドである。さらに、アスパルチル残基及びグルタミル残基は、アンモニウムイオンとの反応によってアスパラギニル残基及びグルタミニル残基に変換される。
【0173】
二官能性物質による誘導体化は、本発明の抗原結合ポリペプチドを、様々な方法に使用するための非水溶性の支持マトリックス又は支持表面に架橋するのに有用である。一般的に使用される架橋剤としては、例えば、1,1-ビス(ジアゾアセチル)-2-フェニルエタン、グルタルアルデヒド、例えば4-アジドサリチル酸とのエステルなどのN-ヒドロキシスクシンイミドエステル、3,3’-ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)などのジスクシンイミジルエステルを含むホモ二官能性イミドエステル、及びビス-N-マレイミド-1,8-オクタンなどの二官能性マレイミドが挙げられる。メチル-3-[(p-アジドフェニル)ジチオ]プロピオイミデートなどの誘導体化剤により、光の存在下で架橋を形成することができる光活性化され得る中間体が得られる。代わりに、臭化シアン活性化炭水化物などの反応性非水溶性マトリックス、並びに米国特許第3,969,287号明細書;同第3,691,016号明細書;同第4,195,128号明細書;同第4,247,642号明細書;同第4,229,537号明細書;及び同第4,330,440号明細書に記載されている反応性基材がタンパク質の固定化に使用される。
【0174】
本明細書では、抗原結合ポリペプチドの他の修飾も企図される。例えば、抗原結合ポリペプチドの別の種類の共有結合的修飾は、様々な非タンパク質性ポリマーへの抗原結合ポリペプチドの連結を含み、ポリマーとしては、米国特許第4,640,835号明細書;同第4,496,689号明細書;同第4,301,144号明細書;同第4,670,417号明細書;同第4,791,192号明細書又は同第4,179,337号明細書に記載される様式の様々なポリオール、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン又はポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのコポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。加えて、当該技術分野で知られているように、例えば、PEGなどのポリマーの付加を容易にするために抗原結合ポリペプチド内の様々な位置でアミノ酸置換がなされ得る。
【0175】
好適なタンパク質性蛍光標識としてはまた、Renilla、Ptilosarcus又はAequorea種のGFP(Chalfie et al.,1994,Science 263:802-805)、EGFP(Clontech Laboratories,Inc.,Genbankアクセッション番号U55762)を含む緑色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質(BFP、Quantum Biotechnologies,Inc.1801 de Maisonneuve Blvd.West,8th Floor,Montreal,Quebec,Canada H3H 1J9;Stauber,1998,Biotechniques 24:462-471;Heim et al.,1996,Curr.Biol.6:178-182)、強化型黄色蛍光タンパク質(EYFP、Clontech Laboratories,Inc.)、ルシフェラーゼ(Ichiki et al.,1993,J.Immunol.150:5408-5417)、βガラクトシダーゼ(Nolan et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:2603-2607)、及びRenilla(国際公開第92/15673号パンフレット、国際公開第95/07463号パンフレット、国際公開第98/14605号パンフレット、国際公開第98/26277号パンフレット、国際公開第99/49019号パンフレット、米国特許第5,292,658号明細書;同第5,418,155号明細書;同第5,683,888号明細書;同第5,741,668号明細書;同第5,777,079号明細書;同第5,804,387号明細書;同第5,874,304号明細書;同第5,876,995号明細書;同第5,925,558号明細書)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0176】
本発明の抗原結合ポリペプチドはまた、例えば、その分子の単離に役立つか又はその分子の薬物動態プロファイルの適合に関連する追加ドメインを含み得る。抗原結合ポリペプチドの単離に役立つドメインは、単離方法、例えば単離用カラムで捕捉できるペプチドモチーフ又は二次的に導入される部分から選択され得る。このような追加ドメインの非限定的な実施形態は、Mycタグ、HATタグ、HAタグ、TAPタグ、GSTタグ、キチン結合ドメイン(CBDタグ)、マルトース結合タンパク質(MBPタグ)、Flagタグ、Strepタグ及びそのバリアント(例えば、StrepIIタグ)、並びにHisタグとして知られるペプチドモチーフを含む。同定されたCDRによって特徴付けられる本明細書で開示される抗原結合ポリペプチドの全ては、分子のアミノ酸配列中の連続するHis残基、好ましくは5つ、より好ましくは6つのHis残基(ヘキサヒスチジン)のリピートとして一般に知られるHisタグドメインを含み得る。Hisタグは、例えば、抗原結合ポリペプチドのN末端にもC末端にも配置され得るが、C末端に配置されることが好ましい。最も好ましくは、ヘキサヒスチジンタグ(HHHHHH)(配列番号199)を、ペプチド結合を介して本発明による抗原結合ポリペプチドのC末端に結合する。加えて、持続放出用途及び薬物動態プロファイルの向上のために、PLGA-PEG-PLGAのコンジュゲート系をポリヒスチジンタグと組み合わせ得る。
【0177】
本明細書に記載される抗原結合ポリペプチドのアミノ酸配列改変も企図される。例えば、抗原結合ポリペプチドの結合親和性及び/又は他の生物学的特性の向上が望ましい場合がある。抗原結合ポリペプチドのアミノ酸配列バリアントは、抗原結合ポリペプチドの核酸に適切なヌクレオチド変化を導入することによって又はペプチド合成によって作製される。以下に記載されるアミノ酸配列改変の全ては、未改変の親分子の所望の生物活性(標的細胞の表面抗原及びCD3への結合)を引き続き保持する抗原結合ポリペプチドをもたらすはずである。
【0178】
用語「アミノ酸」又は「アミノ酸残基」は、一般的には、アラニン(Ala又はA);アルギニン(Arg又はR);アスパラギン(Asn又はN);アスパラギン酸(Asp又はD);システイン(Cys又はC);グルタミン(Gln又はQ);グルタミン酸(Glu又はE);グリシン(Gly又はG);ヒスチジン(His又はH);イソロイシン(Ile又はI):ロイシン(Leu又はL);リシン(Lys又はK);メチオニン(Met又はM);フェニルアラニン(Phe又はF);プロリン(Pro又はP);セリン(Ser又はS);スレオニン(Thr又はT);トリプトファン(Trp又はW);チロシン(Tyr又はY);及びバリン(Val又はV)からなる群から選択されるアミノ酸などの当該技術分野で認められる定義を有するアミノ酸を指すが、修飾、合成、又は希少アミノ酸が必要に応じて使用されてもよい。一般に、アミノ酸は、非極性側鎖(例えば、Ala、Cys、Ile、Leu、Met、Phe、Pro、Val);負電荷側鎖(例えば、Asp、Glu);正電荷側鎖(例えば、Arg、His、Lys);又は無電荷極性側鎖(例えば、Asn、Cys、Gln、Gly、His、Met、Phe、Ser、Thr、Trp及びTyr)の存在によって分類することができる。
【0179】
アミノ酸改変としては、例えば、抗原結合ポリペプチドのアミノ酸配列内の残基からの欠失、及び/又は残基への挿入、及び/又は残基の置換が挙げられる。最終ポリペプチドが所望の特徴を保持することを条件として、最終ポリペプチドに到達するように欠失、挿入及び置換の任意の組み合わせを行う。アミノ酸の変化は、グリコシル化部位の数又は位置の変化などの抗原結合ポリペプチドの翻訳後プロセスも変え得る。
【0180】
例えば、1、2、3、4、5又は6個のアミノ酸がCDRの各々において挿入、置換又は欠失され得る(当然のことながら、それらの長さに依存する)一方、FRの各々において1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20又は25個のアミノ酸が挿入、置換又は欠失され得る。好ましくは、抗原結合ポリペプチドへのアミノ酸配列の挿入は、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10残基から、100以上の残基を含有するポリペプチドまでの長さの範囲のアミノ末端融合及び/又はカルボキシル末端融合、並びに単一又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入を含む。対応する改変を本発明の抗原結合ポリペプチドの第3のドメイン内で実施し得る。本発明の抗原結合ポリペプチドの挿入バリアントは、抗原結合ポリペプチドのN末端若しくはC末端への酵素の融合又はポリペプチドへの融合を含む。
【0181】
置換変異誘発にとって最も重要な部位としては、重鎖及び/又は軽鎖のCDR、特に超可変領域が挙げられるが(これらに限定されるものではない)、重鎖及び/又は軽鎖におけるFRの改変も企図される。置換は、本明細書に記載される保存的置換であることが好ましい。好ましくは、CDR又はFRの長さに応じて、CDRでは1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個のアミノ酸が置換され得、一方、フレームワーク領域(FR)では1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、又は25個のアミノ酸が置換され得る。例えば、CDR配列が6個のアミノ酸を包含する場合、これらのアミノ酸の1、2又は3個が置換されることが想定される。同様に、CDR配列が15個のアミノ酸を包含する場合、これらのアミノ酸の1、2、3、4、5又は6個が置換されることが想定される。
【0182】
変異誘発について好ましい位置である抗原結合ポリペプチドの特定の残基又は領域の同定のための有用な方法は、Cunningham and Wells in Science,244:1081-1085(1989)によって記載されるように「アラニンスキャニング変異導入法」と呼ばれる。この方法では、抗原結合ポリペプチド内の残基又は標的残基群を同定し(例えば、arg、asp、his、lys及びgluなどの荷電残基)、アミノ酸とエピトープとの相互作用に影響を与える中性又は負電荷アミノ酸(最も好ましくは、アラニン又はポリアラニン)で置き換えられる。
【0183】
次に、さらなるバリアント又は他のバリアントを置換部位に、すなわち置換部位の代わりに導入することにより、置換に対して機能的感受性を示すそれらのアミノ酸位置を厳選する。このように、アミノ酸配列変種を導入する部位又は領域は、予め決定されるが、変異の性質自体を予め決定する必要はない。例えば、所与の部位での変異の性能を分析又は最適化するために、アラニンスキャニング又はランダム変異誘発が標的コドン又は標的領域で実施される場合があり、発現される抗原結合ポリペプチドのバリアントは、所望の活性の最適な組み合わせについてスクリーニングされる。既知の配列を有するDNA内の所定部位に置換変異を行う技術はよく知られており、例えばM13プライマー変異誘発及びPCR変異誘発がある。変異体のスクリーニングは、標的細胞の表面抗原又はCD3結合などの抗原結合活性のアッセイを使用して行われる。
【0184】
一般に、重鎖及び/又は軽鎖のCDRの1つ以上又は全てにおいてアミノ酸が置換される場合、それによって得られる「置換された」配列は、「元の」CDR配列と少なくとも60%又は65%、より好ましくは70%又は75%、さらにより好ましくは80%又は85%、特に好ましくは90%又は95%同一であることが好ましい。これは、それが「置換された」配列とどの程度同一であるかがCDRの長さに依存することを意味する。例えば、5個のアミノ酸を有するCDRは、少なくとも1個の置換されたアミノ酸を有するために、その置換された配列と80%同一であることが好ましい。したがって、抗原結合ポリペプチドのCDRは、それらの置換配列に対して異なる程度の同一性を有する場合があり、例えばCDRL1が80%を有する場合がある一方、CDRL3が90%を有する場合がある。
【0185】
好ましい置換(又は置き換え)は、保存的置換である。しかしながら、抗原結合ポリペプチドが、第1のドメインを介して標的細胞の表面抗原に結合し、第2のドメインを介してCD3又はCD3イプシロンに結合する能力を保持する限り、且つ/又はそのCDRが置換後の配列に対して同一性を有している(「元の」CDR配列に対して少なくとも60%又は65%、より好ましくは70%又は75%、さらにより好ましくは80%又は85%、特に好ましくは90%又は95%同一である)限り、(非保存的置換又は下の表3に列挙される「例示的な置換」の1つ以上を含む)任意の置換が想定される。
【0186】
保存的置換を表3の「好ましい置換」の見出しの下に示す。このような置換が生物活性を変化させる場合、表3において「例示的な置換」と称されるか、又はアミノ酸クラスに関連して以下でさらに記載されるとおりのより実質的な変更が導入され、所望の特徴について産物がスクリーニングされ得る。
【0187】
【表3】
【0188】
本発明の抗原結合ポリペプチドの生物学的特性における実質的な改変は、(a)例えばシート状若しくはらせん状の立体構造としての置換領域のポリペプチド骨格の構造、(b)標的部位での分子の電荷若しくは疎水性、又は(c)側鎖の嵩高さの維持に対する影響が著しく異なる置換を選択することによって達成される。天然に存在する残基は、共通の側鎖特性に基づいて以下の群に分類される:(1)疎水性:ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;(2)中性疎水性:cys、ser、thr、asn、gln;(3)酸性:asp、glu;(4)塩基性:his、lys、arg;(5)鎖の配向に影響する残基:gly、pro;及び(6)芳香族:trp、tyr、phe。
【0189】
非保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーを別のクラスと交換することを伴うことになる。抗原結合ポリペプチドの適切な立体構造の維持に関与しない任意のシステイン残基を一般的にはセリンで置換することで、分子の酸化安定性を向上させ、異常な架橋を回避し得る。逆に、抗原結合ポリペプチドにシステイン結合を付加することで、(特に抗原結合ポリペプチドがFvフラグメントなどの抗体フラグメントである場合)その安定性を向上させ得る。
【0190】
アミノ酸配列に関して、配列同一性及び/又は類似性は、当該技術分野で知られる標準的な技術、例えば、以下に限定されないが、Smith and Waterman,1981,Adv.Appl.Math.2:482の局所的配列同一性アルゴリズム、Needleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48:443の配列同一性アラインメントアルゴリズム、Pearson and Lipman,1988,Proc.Nat.Acad.Sci.U.S.A.85:2444の類似性検索法、これらのアルゴリズムのコンピューターによる実行(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Drive,Madison,Wis.のGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA)、Devereux et al.,1984,Nucl.Acid Res.12:387-395により記載されている、好ましくはデフォルト設定を用いたBest Fit配列プログラムを使用することにより、又は目視により決定される。好ましくは、同一性パーセントは、以下のパラメーターに基づいてFastDBによって計算される:ミスマッチペナルティが1;ギャップペナルティが1;ギャップサイズペナルティが0.33;及び結合ペナルティが30、“Current Methods in Sequence Comparison and Analysis”,Macromolecule Sequencing and Synthesis,Selected Methods and Applications,pp 127-149(1988),Alan R.Liss,Inc。
【0191】
有用なアルゴリズムの一例は、PILEUPである。PILEUPは、プログレッシブ法によるペアワイズアラインメントを使用して関連配列群から多重配列アラインメントを生成する。これにより、アラインメントの生成に使用されたクラスタリング関係を示すツリーをプロットすることもできる。PILEUPは、Feng&Doolittle,1987,J.Mol.Evol.35:351-360のプログレッシブアラインメント法の簡易版を使用する。この方法は、Higgins and Sharp,1989,CABIOS 5:151-153により記載されたものと同様である。有用なPILEUPパラメーターは、3.00のデフォルトのギャップ加重、0.10のデフォルトのギャップ長加重及び加重エンドギャップを含む。
【0192】
有用なアルゴリズムの別の例は、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215:403-410;Altschul et al.,1997,Nucleic Acids Res.25:3389-3402;及びKarin et al.,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:5873-5787に記載されるBLASTアルゴリズムである。特に有用なBLASTプログラムは、Altschul et al.,1996,Methods in Enzymology 266:460-480から入手したWU-BLAST-2プログラムである。WU-BLAST-2は、いくつかの検索パラメーターを使用しており、その大部分がデフォルト値に設定される。調整可能なパラメーターは、下記の値に設定されている:オーバーラップスパン=1、オーバーラップフラクション=0.125、ワード閾値(T)=II。HSP Sパラメーター及びHSP S2パラメーターは、ダイナミック値であり、特定の配列の組成及び目的の配列が検索される特定のデータベースの組成に依存して、プログラム自体により確立され、しかしながら、感度を増加させるために値が調整され得る。
【0193】
追加の有用なアルゴリズムは、Altschul et al.,1993,Nucl.Acids Res.25:3389-3402によって報告されているギャップ付きBLASTである。ギャップ付きBLASTはBLOSUM-62置換スコアを使用し、閾値Tパラメーターは、9に設定され、ギャップなし伸長をもたらす2ヒット(two-hit)法は、ギャップ長kのコストを10+kとし、Xuは、16に設定され、Xgは、データベース検索段階では40に、アルゴリズムの出力段階では67に設定される。ギャップ付きアラインメントは、約22ビットに対応するスコアにより開始される。
【0194】
一般に、個々のバリアントCDR又はVH/VL配列間のアミノ酸相同性、類似性又は同一性は、本明細書に示される配列に対して少なくとも60%であり、より典型的には相同性又は同一性が少なくとも65%又は70%、より好ましくは少なくとも75%又は80%、さらにより好ましくは少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%及びほぼ100%に増加することが好ましい。同様に、本明細書で特定される結合タンパク質の核酸配列に関する「核酸配列同一性パーセント(%)」は、抗原結合ポリペプチドのコード配列内のヌクレオチド残基と同一である候補配列内のヌクレオチド残基の割合と定義される。具体的な方法では、オーバーラップスパン及びオーバーラップフラクションがそれぞれ1及び0.125を有するデフォルトパラメータに設定されたWU-BLAST-2のBLASTNモジュールを利用する。
【0195】
一般に、個々のバリアントCDR又はVH/VL配列をコードするヌクレオチド配列と本明細書に示されるヌクレオチド配列との間の核酸配列相同性、類似性又は同一性は、少なくとも60%であり、より典型的には相同性又は同一性が少なくとも65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%及びほぼ100%に増加することが好ましい。したがって、「バリアントCDR」又は「バリアントVH/VL領域」は、本発明の親CDR/VH/VLに対して特定の相同性、類似性又は同一性を有するものであり、以下に限定されないが、親CDR又はVH/VLの特異性及び/又は活性の少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%を含む生物学的機能を共有している。
【0196】
一実施形態では、本発明による抗原結合ポリペプチドのヒト生殖細胞系列に対する同一性の割合は、≧70%又は≧75%、より好ましくは≧80%又は≧85%、さらにより好ましくは≧90%、最も好ましくは≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、又はさらに≧96%である。ヒト抗体生殖細胞系列遺伝子産物に対する同一性は、治療用タンパク質が治療中の患者の薬物に対する免疫反応を誘発するリスクを低減するための重要な特徴であると考えられる。Hwang & Foote(“Immunogenicity of engineered antibodies”;Methods 36(2005)3-10)は、薬物抗体コンストラクトの非ヒト部分の減少が治療中の患者における抗薬物抗体の誘発リスクの低減をもたらすことを実証している。膨大な数の臨床評価済み抗体薬物及び対応する免疫原性データを比較することにより、抗体のV領域のヒト化は、未改変の非ヒトV領域を保有する抗体(患者の平均23.59%)よりもタンパク質の免疫原性が少ない(患者の平均5.1%)という傾向を示している。したがって、V領域をベースにした抗体コンストラクトの形態でのタンパク質治療薬に関して、ヒト配列に対する同一性が高いことが望ましい。この生殖細胞系列同一性の決定のために、Vector NTIソフトウェアを用いて、VLのV領域をヒト生殖細胞系列Vセグメント及びJセグメントのアミノ酸配列(http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/)とアラインメントし、同一のアミノ酸残基数をVLの総アミノ酸残基数で割ることによりアミノ酸配列をパーセントで算出することができる。VHセグメント(http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/)についても同様の方法が可能であるが、例外として、VH CDR3は、多様性が高く、既存のヒト生殖細胞系列VH CDR3のアラインメントパートナーを欠くために除外され得る。続いて、組換え技術を使用して、ヒト抗体生殖細胞系列遺伝子に対する配列同一性を増大させることができる。
【0197】
さらなる実施形態では、本発明の二重特異性抗原結合ポリペプチドは、標準的な研究規模の条件下において、例えば標準的な二段階精製プロセスで高い単量体収量を示す。好ましくは、本発明による抗原結合ポリペプチドの単量体収量は、≧0.25mg/L上清、より好ましくは≧0.5mg/L、さらにより好ましくは≧1mg/L、最も好ましくは≧3mg/L上清である。
【0198】
同様に、二量体抗原結合ポリペプチドアイソフォームの収量、及びしたがって抗原結合ポリペプチドの単量体の割合(すなわち単量体:(単量体+二量体))が決定され得る。単量体及び二量体抗原結合ポリペプチドの生産性、並びに算出される単量体の割合は、例えば、ローラーボトル中における標準化された研究規模の製造に由来する培養上清のSEC精製工程で取得することができる。一実施形態では、抗原結合ポリペプチドの単量体の割合は、≧80%、より好ましくは≧85%、さらにより好ましくは≧90%、最も好ましくは≧95%である。
【0199】
一実施形態では、抗原結合ポリペプチドは、好ましくは、≦5又は≦4、より好ましくは≦3.5又は≦3、さらにより好ましくは≦2.5又は≦2、最も好ましくは≦1.5又は≦1の血漿安定性(血漿非存在下でのEC50に対する血漿存在下でのEC50の比率)を有する。抗原結合ポリペプチドの血漿安定性は、抗原結合ポリペプチドをヒト血漿中、37℃で24時間インキュベートし、続いて51クロム放出細胞傷害性アッセイにおいてEC50を決定することにより試験することができる。細胞傷害性アッセイにおけるエフェクター細胞は、刺激された濃縮ヒトCD8陽性T細胞であり得る。標的細胞は、例えば、ヒト標的細胞の表面抗原でトランスフェクトされたCHO細胞であり得る。エフェクター細胞対標的細胞(E:T)比は、10:1を選択することができる。この目的で使用されるヒト血漿プールは、EDTAでコーティングされたシリンジによって集められた健常ドナーの血液に由来する。細胞成分を遠心分離により除去して、上部血漿相を回収し、その後、プールする。対照として、抗原結合ポリペプチドを細胞傷害性アッセイの直前にRPMI-1640培地で希釈する。血漿安定性は、EC50(対照)に対するEC50(血漿インキュベーション後)の比率として算出される。
【0200】
本発明の抗原結合ポリペプチドの単量体から二量体への変換率は、低いことがさらに好ましい。変換率は、異なる条件下で測定し、高速サイズ排除クロマトグラフィーによって分析することができる。例えば、抗原結合ポリペプチドの単量体アイソフォームのインキュベーションは、インキュベーター内で例えば100μg/ml又は250μg/mlの濃度及び37℃で7日間行われ得る。これらの条件下において、本発明の抗原結合ポリペプチドは、≦5%、より好ましくは≦4%、さらにより好ましくは≦3%、さらにより好ましくは≦2.5%、さらにより好ましくは≦2%、さらにより好ましくは≦1.5%、最も好ましくは≦1%又は≦0.5%又はさらに0%の二量体の割合を示すことが好ましい。
【0201】
本発明の二重特異性抗原結合ポリペプチドは、数回の凍結/解凍サイクル後、非常に低い二量体変換率を示すことも好ましい。例えば、抗原結合ポリペプチドの単量体を例えば汎用の製剤バッファ中、250μg/mlの濃度に調整し、3回の凍結/解凍サイクル(-80℃で30分間の凍結後、室温で30分間の解凍)にかけた後、高速SECを行い、二量体抗原結合ポリペプチドに変換された初期単量体抗原結合ポリペプチドの割合を決定する。好ましくは、二重特異抗原結合ポリペプチドの二量体の割合は、例えば、3回の凍結/解凍サイクル後に、≦5%、より好ましくは≦4%、さらにより好ましくは≦3%、さらにより好ましくは≦2.5%、さらにより好ましくは≦2%、さらにより好ましくは≦1.5%、最も好ましくは≦1%又はさらに≦0.5%である。
【0202】
本発明の二重特異性抗原結合ポリペプチドは、好ましくは、凝集温度が≧45℃又は≧50℃、より好ましくは≧52℃又は≧54℃、さらにより好ましくは≧56℃又は≧57℃、最も好ましくは≧58℃又は≧59℃の良好な熱安定性を示す。抗体の凝集温度の観点から熱安定性パラメーターを以下のように決定することができる:濃度250μg/mlの抗体溶液を単回使用のキュベットに移し、動的光散乱(DLS)装置内に置く。測定半径を常時取得しながら、0.5℃/分の加熱速度で40℃から70℃まで試料を加熱する。タンパク質の融解及び凝集を示す半径の増大を使用して、抗体の凝集温度を算出する。
【0203】
或いは、示差走査熱量測定(DSC)によって融解温度曲線を測定し、抗原結合ポリペプチドの固有の生物物理学的なタンパク質の安定性を決定することができる。これらの実験は、MicroCal LLC(Northampton、MA、U.S.A)VP-DSC装置を使用して行われる。抗原結合ポリペプチドを含有する試料のエネルギー取り込みを20℃から90℃まで記録して、製剤バッファのみを含有する試料と比較する。抗原結合ポリペプチドを例えばSECランニングバッファ中250μg/mlの最終濃度に調整する。それぞれの融解曲線を記録するために、試料の全体温度を段階的に上昇させる。それぞれの温度Tにおける試料及び製剤バッファ標準物質のエネルギー取り込みを記録する。試料から標準物質を差し引いたエネルギー取り込みCp(kcal/mole/℃)の差をそれぞれの温度に対してプロットする。融解温度は、エネルギー取り込みが最初に最大となる温度として定義される。
【0204】
本発明の標的細胞の表面抗原×CD3二重特異性抗原結合ポリペプチドはまた、≦0.2、好ましくは≦0.15、より好ましくは≦0.12、さらにより好ましくは≦0.1、最も好ましくは≦0.08の混濁度(精製された単量体抗原結合ポリペプチドを2.5mg/mlまで濃縮し、一晩インキュベートした後、OD340により測定される)を有すると想定される。
【0205】
さらなる実施形態では、本発明による抗原結合ポリペプチドは、生理的なpH又はそれよりわずかに低いpH、すなわち、約pH7.4~6.0で安定である。非生理的pH、例えば約pH6.0で抗原結合ポリペプチドが示す耐性が高いほど、ロードされたタンパク質の総量に対するイオン交換カラムから溶出される抗原結合ポリペプチドの回収率が高くなる。約pH6.0でのイオン(例えば、陽イオン)交換カラムからの抗原結合ポリペプチドの回収率は、好ましくは、≧30%、より好ましくは≧40%、より好ましくは≧50%、さらにより好ましくは≧60%、さらにより好ましくは≧70%、さらにより好ましくは≧80%、さらにより好ましくは≧90%、さらにより好ましくは≧95%、最も好ましくは≧99%である。
【0206】
本発明の二重特異性抗原結合ポリペプチドは、治療有効性又は抗腫瘍活性を示すことがさらに想定される。これは、例えば、以下の進行期のヒト腫瘍異種移植モデルの実施例に開示される試験において評価することができる。
【0207】
当業者は、この試験の特定のパラメーター、例えば注射する腫瘍細胞の数、注射部位、移植するヒトT細胞の数、投与する二重特異性抗体コンストラクトの量及び予定表を変更又は適合させながらも、有意義で再現性のある結果を得る方法を知っている。好ましくは、腫瘍増殖抑制T/C[%]は、≦70又は≦60、より好ましくは≦50又は≦40、さらにより好ましくは≦30又は≦20、最も好ましくは≦10又は≦5又はさらに≦2.5である。
【0208】
本発明の抗原結合ポリペプチドの好ましい実施形態では、抗原結合ポリペプチドは、一本鎖抗原結合ポリペプチドである。
【0209】
また、本発明の抗体コンストラクトの好ましい実施形態では、前記第3のドメインは、アミノからカルボキシルの順に、
ヒンジ-CH2-CH3-リンカー-ヒンジ-CH2-CH3
を含む。
【0210】
また、本発明の一実施形態では、第3のドメインの1つ又は好ましくは各々(両方)のポリペプチド単量体のCH2ドメインは、ドメイン内システインジスルフィド架橋を含む。当該技術分野で知られるとおり、用語「システインジスルフィド架橋」は、一般構造R-S-S-Rを有する官能基を指す。この連結はまたSS結合又はジスルフィド架橋とも呼ばれ、システイン残基の2つのチオール基のカップリングによって得られる。本発明の抗原結合ポリペプチドに関して、成熟抗原結合ポリペプチド内でシステインジスルフィド架橋を形成するシステインは、309及び321(Kabat付番)に対応するCH2ドメインのアミノ酸配列に導入されることが特に好ましい。
【0211】
本発明の一実施形態では、CH2ドメインのKabat位置314のグリコシル化部位が除去される。このグリコシル化部位の除去は、N314X置換によって達成されることが好ましく、ここで、Xは、Q以外の任意のアミノ酸である。前記置換は、好ましくは、N314G置換である。より好ましい実施形態では、前記CH2ドメインは、次の置換(位置は、Kabatに従う)V321C及びR309C(これらの置換は、Kabat位置309及び321でドメイン内システインジスルフィド架橋を導入する)をさらに含む。
【0212】
例えば、当該技術分野で知られる二重特異性ヘテロFc抗体コンストラクトと比較した本発明の抗原結合ポリペプチドの好ましい特徴は、とりわけ、CH2ドメインにおける上記の改変の導入に関連し得ると考えられる。したがって、本発明のポリペプチドに関して、本発明の抗原結合ポリペプチドの第3のドメイン内のCH2ドメインがKabat位置309及び321にドメイン内システインジスルフィド架橋を含み、且つ/又はKabat位置314のグリコシル化部位が上記のとおりN314X置換により、好ましくはN314G置換により除去されていることが好ましい。
【0213】
本発明のさらに好ましい実施形態では、本発明の抗原結合ポリペプチドの第3のドメイン内のCH2ドメインは、Kabat位置309及び321にドメイン内システインジスルフィド架橋を含み、且つKabat位置314のグリコシル化部位がN314G置換によって除去されている。
【0214】
一実施形態では、本発明は、抗原結合ポリペプチドであって、
(i)第1のドメインは2つの抗体可変ドメインを含み、第2のドメインは2つの抗体可変ドメインを含むか;
(ii)第1のドメインは1つの抗体可変ドメインを含み、第2のドメインは2つの抗体可変ドメインを含むか;
(iii)第1のドメインが、2つの抗体可変ドメインを含み、且つ第2のドメインが、1つの抗体可変ドメインを含むか;又は
(iv)第1のドメインは1つの抗体可変ドメインを含み、第2のドメインは1つの抗体可変ドメインを含む
抗原結合ポリペプチドを提供する。
【0215】
したがって、第1及び第2のドメインは各々、VH及びVLドメインなどの2つの抗体可変ドメインを含む結合ドメインであり得る。本明細書で上記される2つの抗体可変ドメインを含むこのような結合ドメインの例は、例えば、本明細書で上記されるFvフラグメント、scFvフラグメント又はFabフラグメントを含む。或いは、それらの結合ドメインの一方又は両方は、単一の可変ドメインのみを含み得る。本明細書で上記されるこのような単一ドメイン結合ドメインの例は、例えば、他のV領域又はドメインに非依存的に抗原又はエピトープに特異的に結合するVHH、VH又はVLであり得る1つの可変ドメインのみを含むナノボディ又は単一可変ドメイン抗体を含む。
【0216】
本発明の抗原結合ポリペプチドの好ましい実施形態では、第1及び第2のドメインは、ペプチドリンカーを介して第3のドメインに融合されている。好ましいペプチドリンカーは、本明細書で上に記載されており、アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser、すなわちGlySer(配列番号187)又はそのポリマー、すなわち(GlySer)xを特徴とし、ここで、xは、1以上の整数(例えば、2又は3)である。第3のドメインに対する第1及び第2のドメインの融合に特に好ましいリンカーは、配列番号1に示される。
【0217】
好ましい実施形態では、本発明の抗原結合ポリペプチドは、アミノからカルボキシルの順に、
(a)第1のドメイン;
(b)配列番号187~189からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカー;
(c)第2のドメイン;
(d)配列番号187、188、189、195、196、197及び198からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカー;
(e)第3のドメインの第1のポリペプチド単量体;
(f)配列番号191、192、193及び194からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカー;並びに
(g)第3のドメインの第2のポリペプチド単量体
を含むことを特徴とする。
【0218】
本発明の一態様では、第1のドメインによって結合される標的細胞の表面抗原は、腫瘍抗原、免疫障害に特異的な抗原又はウイルス抗原である。本明細書で使用する場合、用語「腫瘍抗原」は、腫瘍細胞上に提示されるそれらの抗原と理解され得る。これらの抗原は、細胞外部分で細胞表面に提示され得、多くの場合、分子の膜貫通部分及び細胞質部分を併せ持つ。これらの抗原は、場合により腫瘍細胞によってのみ提示され得、正常細胞によって決して提示され得ない。腫瘍抗原は、腫瘍細胞上に限って発現され得るか、又は正常細胞と比較して腫瘍特異的変異を示す可能性がある。この場合、それらは、腫瘍特異抗原と呼ばれる。より一般的な抗原は、腫瘍細胞及び正常細胞によって提示される抗原であり、それらは、腫瘍関連抗原と呼ばれる。これらの腫瘍関連抗原は、正常細胞と比較して過剰発現され得るか、又は正常組織と比較して、腫瘍組織のよりコンパクトさに欠ける構造ゆえに、腫瘍細胞において抗体結合のために接近可能である。本明細書で使用される腫瘍抗原の非限定的な例は、CDH19、MSLN、DLL3、FLT3、EGFRvIII、CD33、CD19、CD20、CD70、BCMA及びPSMAである。
【0219】
本発明との関連で免疫障害に特異的なさらなる標的細胞の表面抗原は、例えば、TL1A及びTNF-アルファを含む。前記標的は、好ましくは全長抗体である本発明の二重特異性抗原結合ポリペプチドによって対処されることが好ましい。非常に好ましい実施形態では、本発明の抗体は、ヘテロIgG抗体である。
【0220】
本発明の抗原結合ポリペプチドの好ましい実施形態では、腫瘍抗原は、CDH19、MSLN、DLL3、FLT3、EGFRvIII、CD33、CD19、CD20、CD70、BCMA及びPSMAからなる群から選択される。
【0221】
本発明の一態様では、抗原結合ポリペプチドは、アミノからカルボキシルの順に、
(a)配列番号7、8、17、27、28、37、38、39、40、41、48、49、50、51,52、59、60、61、62、63、64、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、89、90、91、92、93、100、101、102、103、104、113、114、121、122,123、124、125、131、132、133、134、135、136、143、144、145、146、147、148、149、150、151、158、159、160、161、162、163、164、165、166、173、174、175、176、177、178、179、180、181からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する第1のドメイン;
(b)配列番号187~189からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカー;
(c)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号23、25、41、43、59、61、77、79、95、97、113、115、131、133、149、151、167、169、185若しくは187、又は配列番号202からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する第2のドメイン;
(d)配列番号187、188、189、195、196、197及び198からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカー;
(e)国際公開第2017/134140号パンフレットの配列番号17~24からなる群から選択されるポリペプチド配列を有する第3のドメインの第1のポリペプチド単量体;
(f)配列番号191、192、193及び194からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカー;並びに
(g)国際公開第2017/134140号パンフレットの配列番号17~24からなる群から選択されるポリペプチド配列を有する第3のドメインの第2のポリペプチド単量体を含む。
【0222】
一態様では、本発明の二重特異性抗原結合ポリペプチドは、以下からなり、それぞれの標的細胞の表面抗原に誘導される群から選択されるアミノ酸配列を有することを特徴としている:
(a)配列番号27、28、37~41;CD33
(b)配列番号48~52の各々;EGFRvIII
(c)配列番号59~64の各々;MSLN
(d)配列番号71~82の各々;CDH19
(e)配列番号100~104の各々;DLL3
(f)配列番号7、8、17、113及び114;CD19
(g)配列番号89~93の各々;FLT3
(h)配列番号121~125の各々;CDH3
(i)配列番号132~136の各々;BCMA、並びに
(j)配列番号143~151、158~166及び173~181の各々;PSMA。
【0223】
本発明はさらに、本発明の抗原結合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド/核酸分子を提供する。ポリヌクレオチドは、鎖内で共有結合された13個以上のヌクレオチド単量体で構成される生体高分子である。DNA(cDNAなど)及びRNA(mRNAなど)は、異なる生物学的機能を有するポリヌクレオチドの例である。ヌクレオチドは、DNA又はRNAのような核酸分子の単量体又はサブユニットとして機能する有機分子である。核酸分子又はポリヌクレオチドは、二本鎖及び一本鎖、線状及び環状であり得る。それは、好ましくは宿主細胞内に含まれるベクター内に含まれることが好ましい。前記宿主細胞は、例えば、本発明のベクター又はポリヌクレオチドで形質転換又はトランスフェクとされた後、抗原結合ポリペプチドを発現することができる。それを目的として、ポリヌクレオチド又は核酸分子は、制御配列に作動可能に連結される。
【0224】
遺伝子コードは、遺伝子材料(核酸)内にコードされた情報をタンパク質に翻訳するルールのセットである。生細胞中での生物学的解読は、アミノ酸を運搬し、mRNA中の3つのヌクレオチドを一度に読み取るtRNA分子を使用して、mRNAによって指定された順にアミノ酸を結合するリボソームによって行われる。このコードは、コドンと呼ばれる三つ組のヌクレオチド配列が、タンパク質の合成時に次に付加されることになるアミノ酸をどのように指定するかを定義する。いくつかの例外があるが、核酸配列中の3ヌクレオチドのコドンは、1つのアミノ酸を指定する。大部分の遺伝子は、厳密に同じコードでコード化されているため、この特定のコードを基準遺伝子コード又は標準遺伝子コードと称することが多い。遺伝子コードが所与のコード領域のタンパク質配列を決定する一方、他のゲノム領域がこれらのタンパク質が産生される時期及び場所に影響を及ぼし得る。
【0225】
さらに、本発明は、本発明のポリヌクレオチド/核酸分子を含むベクターを提供する。ベクターは、(外来)遺伝子材料を細胞内に移すための媒体として使用される核酸分子である。用語「ベクター」は、プラスミド、ウイルス、コスミド及び人工染色体を包含するが、これらに限定されない。一般に、遺伝子操作されたベクターは、複製起点、マルチクローニング部位及び選択マーカーを含む。ベクター自体は、一般に、インサート(導入遺伝子)及びベクターの「骨格」の役割をするより大きい配列を含むヌクレオチド配列、一般にDNA配列である。現代のベクターは、導入遺伝子インサート及び骨格に加えて、以下の追加の特徴を包含し得る:プロモーター、遺伝子マーカー、抗生物質耐性、レポーター遺伝子、ターゲティング配列、タンパク質精製タグ。発現ベクター(発現コンストラクト)と呼ばれるベクターは、特に、標的細胞中での導入遺伝子の発現のためのものであり、制御配列を一般に有する。
【0226】
用語「制御配列」は、特定の宿主生物における作動可能に連結されたコード配列の発現に必要なDNA配列を指す。原核生物に好適な制御配列は、例えば、プロモーター、任意選択的にオペレーター配列及びリボソーム結合部位を含む。真核細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーを利用することが知られている。
【0227】
核酸は、それが別の核酸配列と機能的関係にある場合、「作動可能に連結」されている。例えば、プレ配列若しくは分泌リーダーのためのDNAは、それがポリペプチドの分泌に関与するタンパク質前駆体として発現する場合、ポリペプチドのためのDNAに作動可能に連結されており;プロモーター若しくはエンハンサーは、それが配列の転写に影響する場合、コード配列に作動可能に連結されており;又はリボソーム結合部位は、それが翻訳を促進するように配置されている場合、コード配列に作動可能に連結されている。一般に、「作動可能に連結」は、連結されているDNA配列が連続していること、及び分泌リーダーの場合には連続し且つ読み取り枠内にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは、連続している必要はない。連結は、好都合な制限部位でのライゲーションによってなされる。このような部位が存在しない場合、従来の慣例に従い、合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーを使用する。
【0228】
「トランスフェクション」は、標的細胞に核酸分子又はポリヌクレオチド(ベクターを含む)を意図的に導入するプロセスである。この用語は、真核細胞における非ウイルス性の方法に主に用いられる。形質導入は、核酸分子又はポリヌクレオチドのウイルス媒介移入を説明するために使用することが多い。動物細胞のトランスフェクションは、一般的には、細胞膜に一過性の細孔又は「穴」を開けて材料の取り込みを可能にすることを伴う。トランスフェクションは、リン酸カルシウムを用いて、エレクトロポレーションにより、細胞の圧迫により、又は陽イオン性脂質とリポソームを生成する物質とを混合し、細胞膜と融合させ、内部のカーゴを蓄積することにより行うことができる。
【0229】
用語「形質転換」は、細菌への、また植物細胞を含む非動物真核細胞への核酸分子又はポリヌクレオチド(ベクターを含む)の非ウイルス的移入を説明するために使用される。したがって、形質転換は、細胞膜を通じたその周辺からの直接的取り込み及びそれに続く外来性遺伝子材料(核酸分子)の組み込みから生じる、細菌又は非動物真核細胞の遺伝的改変である。形質転換は、人為的手段によって生じさせることができる。形質転換を生じさせるには、細胞又は細菌は、飢餓及び細胞密度などの環境条件に対する時限応答として形質転換が起こり得るコンピテントな状態でなければならない。
【0230】
さらに、本発明は、本発明のポリヌクレオチド/核酸分子又はベクターで形質転換又はトランスフェクトされた宿主細胞を提供する。本明細書で使用する場合、用語「宿主細胞」又は「レシピエント細胞」は、本発明の抗原結合ポリペプチドをコードするベクター、外来性核酸分子及びポリヌクレオチドのレシピエント;並びに/又はその抗原結合ポリペプチド自体のレシピエントであり得るか、又はそうであった任意の個々の細胞又は細胞培養物を含むことが意図される。細胞へのそれぞれの物質の導入は、形質転換、トランスフェクションなどによって実施される。用語「宿主細胞」はまた、単一細胞の子孫又は潜在的子孫を含むことも意図する。後継世代において、自然発生的、偶発的、若しくは意図的な変異に起因して、又は環境的影響に起因して、ある特定の改変が生じる場合があるため、そのような子孫は、実際には、(形態学的に、又はゲノム若しくは全DNAの組に関して)親細胞と完全に同一ではない場合もあるが、それもなお本明細書で使用される本用語の範囲内に含まれる。好適な宿主細胞には、原核細胞又は真核細胞が含まれ、また細菌、酵母細胞、真菌細胞、植物細胞及び動物細胞、例えば昆虫細胞及び哺乳動物細胞、例えばマウス、ラット、マカク又はヒトも含まれるがこれらに限定されない。
【0231】
本発明の抗原結合ポリペプチドは、細菌内で産生することができる。発現後、本発明の抗体コンストラクトを可溶性画分中の大腸菌(E.coli)細胞ペーストから単離し、例えばアフィニティクロマトグラフィー及び/又はサイズ排除によって精製することができる。最終精製は、例えば、CHO細胞において発現された抗体の精製方法と同様に行うことができる。
【0232】
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母などの真核微生物が本発明の抗原結合ポリペプチドに好適なクローニング又は発現宿主である。サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)又は一般的なパン酵母は、下等真核生物宿主微生物の中で最も一般的に使用される。しかしながら、多くの他の属、種、及び系統が一般に利用可能であり、且つ本発明において有用であり、例えば、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、K.ラクチス(K.lactis)、K.フラジリス(K.fragilis)(ATCC 12424)、K.ブルガリクス(K.bulgaricus)(ATCC 16045)、K.ウィッカラミイ(K.wickeramii)(ATCC 24178)、K.ワルチイ(K.waltii)(ATCC 56500)、K.ドロソフィラルム(K.drosophilarum)(ATCC 36906)、K.サーモトレランス(K.thermotolerans)、及びK.マルキサヌス(K.marxianus)などのクリベロマイセス属(Kluyveromyces)宿主;ヤロウイア属(yarrowia)(欧州特許第402226号明細書);ピキア・パストリス(Pichia pastoris)(欧州特許第183070号明細書);カンジダ属(Candida);トリコデルマ・レシア(Trichoderma reesia)(欧州特許第244234号明細書);ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa);シュワニオミセス・オクシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)などのシュワニオミセス属(Schwanniomyces);並びに糸状菌、例えばニューロスポラ属(Neurospora)、ペニシリウム属(Penicillium)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)、及びアスペルギルス属(Aspergillus)宿主、例えばA.ニデュランス(A.nidulans)及びA.ニガー(A.niger)が挙げられる。
【0233】
本発明のグリコシル化抗原結合ポリペプチドの発現のための好適な宿主細胞は、多細胞生物に由来する。無脊椎動物細胞の例には、植物細胞及び昆虫細胞が含まれる。多くのバキュロウイルスの株及びバリアント、並びに宿主由来の対応する許容される昆虫宿主細胞(例えば、ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)(イモムシ)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)(蚊)、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)(蚊)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)(ショウジョウバエ)及びカイコ(Bombyx mori))が同定されている。トランスフェクションのための様々なウイルス株(例えば、オートグラファ・カリフォルニア(Autographa californica)NPVのL-1バリアント及びカイコ(Bombyx mori)NPVのBm-5株)が公的に入手可能であり、そのようなウイルスを本発明に係る本明細書のウイルスとして使用し得、特にヨトウガ(Spodoptera frugiperda)細胞のトランスフェクションに使用し得る。
【0234】
綿、トウモロコシ、ジャガイモ、ダイズ、ペチュニア、トマト、シロイヌナズナ属(Arabidopsis)及びタバコの植物細胞培養物も宿主として使用され得る。植物細胞培養物におけるタンパク質の産生に有用なクローニング及び発現ベクターは、当業者に知られている。例えば、Hiatt et al.,Nature(1989)342:76-78,Owen et al.(1992)Bio/Technology 10:790-794,Artsaenko et al.(1995)The Plant J 8:745-750及びFecker et al.(1996)Plant Mol Biol 32:979-986を参照されたい。
【0235】
しかしながら、脊椎動物細胞に対する関心が最も高く、培養(組織培養)下での脊椎動物細胞の増殖が、通例の手順となっている。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胚性腎臓株(293細胞又は懸濁培養物中で増殖のためにサブクローニングした293細胞、Graham et al.,J.Gen Virol.36:59(1977));仔ハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaub et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216(1980));マウスセルトリ細胞(TM4、Mather,Biol.Reprod.23:243-251(1980));サル腎臓細胞(CVI ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL 1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2、1413 8065);マウス乳腺腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL5 1);TRI細胞(Mather et al.,Annals N.Y Acad.Sci.(1982)383:44-68);MRC 5細胞;FS4細胞;及びヒト肝細胞腫系統(Hep G2)である。
【0236】
さらなる実施形態では、本発明は、本発明の抗原結合ポリペプチドの作製のための方法であって、本発明の抗原結合ポリペプチドの発現を可能にする条件下で本発明の宿主細胞を培養すること、及び産生された抗原結合ポリペプチドを培養物から回収することを含む方法を提供する。
【0237】
本明細書で使用する場合、用語「培養」は、培地中の好適な条件下におけるインビトロでの細胞の維持、分化、成長、増殖及び/又は伝播を指す。用語「発現」には、本発明の抗原結合ポリペプチドの作製に関与するあらゆる工程、例えば、以下に限定されないが、転写、転写後修飾、翻訳、翻訳後修飾及び分泌が含まれる。
【0238】
組換え技術を使用する場合、抗原結合ポリペプチドは、細胞内の細胞膜周辺腔において産生されるか、又は培地中に直接分泌され得る。抗原結合タンパク質が細胞内で産生される場合、第1の工程として、粒状の破片である宿主細胞又は溶解した断片を、例えば、遠心分離又は限外濾過によって除去する。Carter et al.,Bio/Technology 10:163-167(1992)は、大腸菌(E.coli)の細胞膜周辺腔に分泌される抗体を単離するための手順を記載している。簡潔には、細胞ペーストを酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA及びフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)の存在下で約30分間かけて解凍する。細胞片は、遠心分離により除去することができる。抗体が培地に分泌される場合、一般にそのような発現系からの上清を、最初に市販のタンパク質濃縮フィルター、例えばAmicon又はMillipore Pellicon限外濾過ユニットを使用して濃縮する。タンパク質分解を阻害するために、前述の工程のいずれかにおいてPMSFなどのプロテアーゼ阻害剤が含まれ得、また外来性の汚染菌の増殖を防止するために抗生物質が含まれ得る。
【0239】
宿主細胞から調製された本発明の抗原結合ポリペプチドは、例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析及びアフィニティクロマトグラフィーを用いて回収又は精製することができる。回収される抗体に応じて、他のタンパク質精製技術、例えばイオン交換カラムによる分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカによるクロマトグラフィー、ヘパリンSEPHAROSETMによるクロマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換樹脂(例えば、ポリアスパラギン酸カラム)によるクロマトグラフィー、59yophili-フォーカシング(59yophili-focusing)、SDS-PAGE及び硫酸アンモニウム沈殿法も利用可能である。本発明の抗原結合ポリペプチドがCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX樹脂(J.T.Baker、Phillipsburg、NJ)が精製に有用である。
【0240】
アフィニティクロマトグラフィーは、好ましい精製技術である。親和性リガンドが結合するマトリックスは、ほとんどの場合アガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。機械的に安定なマトリックス、例えばコントロールドポアガラス又はポリ(スチレンジビニル)ベンゼンは、アガロースを用いて達成できるものよりも速い流速及び短い処理時間を可能にする。
【0241】
さらに、本発明は、本発明の抗原結合ポリペプチド又は本発明の方法に従って作製された抗原結合ポリペプチドを含む医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物において、抗原結合ポリペプチドの均質性は、≧80%であることが好ましく、より好ましくは≧81%、≧82%、≧83%、≧84%又は≧85%、さらに好ましくは≧86%、≧87%、≧88%、≧89%又は≧90%、なおさらに好ましくは≧91%、≧92%、≧93%、≧94%又は≧95%、最も好ましくは≧96%、≧97%、≧98%又は≧99%である。
【0242】
本明細書で使用する場合、用語「医薬組成物」は、患者、好ましくはヒト患者への投与に好適な組成物に関する。本発明の特に好ましい医薬組成物は、1つ又は複数の本発明の抗原結合ポリペプチドを、好ましくは治療有効量で含む。好ましくは、医薬組成物は、1つ以上の(薬学的に有効な)担体、安定剤、賦形剤、希釈剤、可溶化剤、界面活性剤、乳化剤、保存剤及び/又はアジュバントの好適な製剤をさらに含む。許容される組成物の成分は、採用される投与量及び濃度でレシピエントに対して非毒性であることが好ましい。本発明の医薬組成物には、液体、凍結及び凍結乾燥組成物が含まれるが、これらに限定されない。
【0243】
本発明の組成物は、薬学的に許容される担体を含み得る。一般に、本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される担体」は、薬学的投与、特に非経口投与に適合するあらゆる水性及び非水性溶液、滅菌溶液、溶媒、バッファ、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液、水、懸濁液、油/水エマルションなどのエマルション、様々な種類の湿潤剤、リポソーム、分散媒体及びコーティングを意味する。医薬組成物におけるこのような媒体及び薬剤の使用は、当該技術分野でよく知られており、そのような担体を含む組成物は、よく知られる従来法によって製剤化することができる。
【0244】
特定の実施形態は、本発明の抗原結合ポリペプチド及びさらに1つ以上の賦形剤、例えば本節及び本明細書の他の箇所に例示的に記載されているものを含む医薬組成物を提供する。賦形剤は、本発明においては、粘度の調整などの製剤の物理的、化学的又は生物学的特性の調整、及び/又は有効性を向上させ、且つ/若しくはこのような製剤を安定化するための本発明の方法、並びに例えば製造、輸送、保管、使用前の調製、投与及びこれらの後に生じるストレスに起因する劣化及び損傷に対する方法など、広範囲の目的を考慮して使用することができる。
【0245】
特定の実施形態では、医薬組成物は、例えば、組成物のpH、モル浸透圧濃度、粘度、透明度、色、等張性、臭気、無菌性、安定性、溶解若しくは放出速度、吸着又は浸透の変更、維持又は保護を目的とする製剤材料を含有し得る(REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES,18”Edition,(A.R.Genrmo,ed.),1990,Mack Publishing Companyを参照)。このような実施形態では、好適な製剤化材料として下記が挙げられ得るが、これらに限定されない:
・荷電アミノ酸、好ましくはリシン、酢酸リシン、アルギニン、グルタミン酸塩及び/又はヒスチジンを含むアミノ酸、例えば、グリシン、アラニン、グルタミン、アスパラギン、スレオニン、プロリン、2-フェニルアラニン;
・抗菌剤及び抗真菌剤などの抗菌薬;
・アスコルビン酸、メチオニン、又は亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;
・生理的なpH又はそれよりわずかに低いpHで組成物を維持するのに使用されるバッファ、バッファ系及び緩衝剤;バッファの例は、ホウ酸塩、炭酸水素塩、トリス-HCl、クエン酸塩、リン酸塩又は他の有機酸、コハク酸塩、リン酸塩、及びヒスチジンである;例えば、pHが約7.0~8.5のトリスバッファ;
・非水性溶媒、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、及びオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステル;
・生理食塩水及び緩衝媒体を含む、水、アルコール/水溶液、エマルション又は懸濁液を含む水性担体;
・ポリエステルなどの生分解性ポリマー;
・マンニトール又はグリシンなどの増量剤;
・エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤;
・等張剤及び吸収遅延剤;
・カフェイン、ポリビニルピロリドン、ベータ-シクロデキストリン又はヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリンなどの錯化剤;
・充填剤;
・単糖類;二糖類;及び他の糖質(グルコース、マンノース又はデキストリンなど);糖質は非還元糖、好ましくはトレハロース、スクロース、オクタスルファート、ソルビトール又はキシリトールであり得る;
・(低分子量)タンパク質、ポリペプチド又はタンパク質性担体、例えばヒト若しくはウシ血清アルブミン、ゼラチン、又は好ましくはヒト起源の免疫グロブリン;
・着色剤及び着香剤;
・硫黄含有還元剤、例えばグルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、[アルファ]-モノチオグリセロール及びチオ硫酸ナトリウム;
・希釈剤;
・乳化剤;
・ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;
・ナトリウムなどの塩形成対イオン;
・保存剤、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガスなど;例は、塩化ベンザルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸又は過酸化水素である;
・Zn-タンパク質錯体などの金属錯体;
・溶媒及び共溶媒(グリセリン、プロピレングリコール又はポリエチレングリコールなど);
・糖及び糖アルコール、例えばトレハロース、スクロース、オクタスルファート、マンニトール、ソルビトール又はキシリトール、スタキオース、マンノース、ソルボース、キシロース、リボース、ミオイニシトース(myoinisitose)、ガラクトース、ラクチトール、リビトール、ミオイニシトール(myoinisitol)、ガラクチトール、グリセロール、シクリトール(例えば、イノシトール)、ポリエチレングリコール;及び多価糖アルコール;
・懸濁化剤;
・界面活性剤又は湿潤剤、例えばプルロニック、PEG、ソルビタンエステル、ポリソルベート、例えばポリソルベート20、ポリソルベート、トリトン、トロメタミン、レシチン、コレステロール、チロキサポール;界面活性剤は、好ましくは、>1.2KDの分子量を有する洗剤及び/又は好ましくは>3KDの分子量を有するポリエーテルであり得;好ましい洗剤の非限定的な例は、Tween 20、Tween 40、Tween 60、Tween 80及びTween 85であり;好ましいポリエーテルの非限定的な例は、PEG 3000、PEG 3350、PEG 4000及びPEG 5000である;
・スクロース又はソルビトールなどの安定性増強剤;
・等張性増強剤、例えばアルカリ金属ハロゲン化物、好ましくは塩化ナトリウム又は塩化カリウム、マンニトール、ソルビトール;
・塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液又は固定油を含む非経口送達ビヒクル;
・体液及び栄養補充液、電解質補充液(リンゲルデキストロースをベースにしたものなど)を含む静脈内送達ビヒクル。
【0246】
医薬組成物の異なる成分(例えば、上記に列挙したもの)が異なる効果を有し得ることは、当業者に明らかであり、例えば、アミノ酸は、バッファ、安定化剤及び/又は抗酸化剤として作用することができ、マンニトールは、増量剤及び/又は等張性増強剤として作用することができ、塩化ナトリウムは、送達ビヒクル及び/又は等張性増強剤として作用することができるなどである。
【0247】
本発明の好ましい態様では、医薬組成物は、約-20℃で少なくとも4週間安定である。付属の実施例から明らかなように、本発明の抗原結合ポリペプチドの質と対応する最先端の抗体コンストラクトの質の対比は、異なる系を使用して試験され得る。それらの試験は、「ICH Harmonised Tripartite Guideline:Stability Testing of Biotechnological/Biological Products Q5C and Specifications:Test procedures and Acceptance Criteria for Biotech Biotechnological/Biological Products Q6B」に準拠するものであることが理解され、それにより、その産物の同一性、純度及び能力の変化の確実な検出をもたらす安定性指標プロファイルを提供するように選択される。純度という用語は、相対的な用語であることが十分に受け入れられている。グリコシル化、脱アミド又は他の異種性の影響に起因して、生物工学的/生物学的産物の絶対的な純度は、通常、2つ以上の方法によって評価されるべきであり、得られる純度の値は、方法依存的である。安定性試験の目的のために、純度の試験は、分解産物の決定方法に合わせるべきである。
【0248】
本発明の抗原結合ポリペプチドを含む医薬組成物の品質の評価のために、例えば溶液中の可溶性凝集物(サイズ排除によるHMWS)の含有量を分析することによって分析され得る。約-20℃での少なくとも4週間の安定性は、1.5%HMWS未満、好ましくは1%HMWS未満の含有量によって特徴付けられる。
【0249】
本明細書における好ましい製品品質の分析方法は、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE-HPLC)である。SE-HPLCは通常、サイズ排除カラム及びUHPLCシステム、例えば、Waters BEH200サイズ排除カラム(4.6×150mm、1.7μm)及びWaters UHPLCシステムを使用して実施される。タンパク質試料は、例えば、0.4mL/分の流量で、例えば、NaCl塩を含有するリン酸バッファ(移動相は、pH6.8の100mMのリン酸ナトリウム、250mMのNaClであった)を使用して、そのまま注入され且つ均一濃度で分離され、溶出物は、280nmのUV吸光度によってモニターされた。通常、約6μgの試料がロードされる。
【0250】
化学修飾に関するトリプシンペプチドマッピング
二重特異性抗原結合ポリペプチドのタンパク質試料は、例えば、Millipore Microcon 30Kデバイスを使用して、フィルターに基づく方法で消化される。タンパク質試料は、フィルター上に添加され、遠心分離されて試料マトリックスが除去され、続いて例えば、メチオニンを含有する6Mのグアニジン塩酸塩(GuHCl)(例えば、Thermo Fisher Scientific、Rockford、IL)バッファ中で変性させられ、例えば、500mMのジチオスレイトール(DTT)(例えば、Sigma-Aldrich、St.Louis、MO)により例えば37℃で30分間還元され、その後例えば、500mMのヨード酢酸(IAA)(例えば、Sigma-Aldrich、St.Louis、MO)との例えば、室温の暗所での20分間のインキュベーションによりアルキル化される。未反応のIAAは、DTTの添加によってクエンチされる。上記の全ての工程はフィルター上で行われた。その後、試料は、遠心分離によって消化バッファ(例えば、メチオニンを含有する50mMのトリス、pH7.8)へとバッファ交換されて、残留しているDTT及びIAAが除去される。トリプシン消化は、例えば、37℃で1時間、1:20(w/w)の酵素対タンパク質比を用いてフィルター上で実施される。消化混合物は、遠心分離によって回収され、続いて、例えば、pH4.7の酢酸バッファ中の8MのGuHClを添加することによってクエンチされる。
【0251】
液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)分析は、質量分析計、例えば、Thermo Scientific Q-Exactiveに直接的に結合された超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)システム、例えば、Thermo U-3000を使用して実施される。タンパク質消化物は、50℃に維持されたカラム温度によるAgilent Zorbax C18 RR HDカラム(2.1×150mm、1.8μm)を使用して逆相によって分離された。移動相Aは、水中の0.020%(v/v)ギ酸(FA)からなり、移動相Bは、アセトニトリル(I)中の0.018%(v/v)FAであった。およそ5μgの消化された二重特異性抗原結合ポリペプチドが、カラムに注入される。勾配(例えば、145分間かけての0.5%Bから36%Bへ)を使用して、例えば、0.2mL/分の流量でペプチドを分離する。溶出されたペプチドはMSによってモニターされる。
【0252】
ペプチドの同定及び修飾の分析のために、データ依存的タンデムMS(MS/MS)実験が通常利用される。フルスキャンは通常、例えば、陽イオンモードにおいて200~2000m/zで取得され、続いて、例えば、6回のデータ依存的MS/MSスキャンを行い、ペプチドの配列を同定する。定量化は、下の式を使用して、選択イオンモニタリングの質量分析データに基づく。
【数1】
式中、修飾%は、修飾ペプチドのレベルであり、A修飾は、修飾ペプチドの抽出されたイオンクロマトグラム面積であり、A無修飾は、無修飾ペプチドの抽出されたイオンクロマトグラム面積である。
【0253】
宿主細胞タンパク質(HCP)ELISA
マイクロタイタープレートは、ウサギ抗HCP免疫グロブリンG(IgG)(Amgen、内製の抗体)でコーティングされる。プレートが洗浄され、ブロッキングされた後、試験試料、対照及びHCP較正標準が、プレートに添加され、インキュベートされる。未結合のタンパク質がプレートから洗浄され、プールされたウサギ抗HCP IgG-ビオチン(Amgen、内製の抗体)がプレートに添加され、インキュベートされる。さらに洗浄した後、ストレプトアビジン(商標)西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート(HRP-コンジュゲート)(例えば、Amersham-GE、Buckinghamshire、UK)がプレートに添加され、インキュベートされる。プレートが最後に洗浄され、発色性基質テトラメチルベンジジン(TMB)(例えば、Kirkegaard and Perry Laboratories、Gaithersburg、MD)がプレートに添加される。発色は1Mのリン酸で停止され、光学密度が分光光度計で測定される。
【0254】
医薬組成物の形態の本発明の抗原結合ポリペプチドの安定性の評価の他の例は、付属の実施例4~12に提供される。それらの実施例において、本発明の抗原結合ポリペプチドの実施形態は、異なる医薬製剤において異なるストレス条件に関して試験され、その結果が、当該技術分野で知られる他の半減期延長(HLE)形式の二重特異性T細胞エンゲージ抗原結合ポリペプチドと比較される。一般に、本発明による特定のFC様式で提供される抗原結合ポリペプチドは、通常、異なるHLE形式で提供される抗原結合ポリペプチド及びいかなるHLE形式も有しない抗原結合ポリペプチド(例えば、「カノニカル」な抗原結合ポリペプチド)の両方と比較して、温度及び光ストレスなどの広範囲のストレス条件に対してより安定であることが想定される。前述の温度安定性は、低温(凍結温度を含む室温未満)及び高温(体温までの又は体温を超える温度を含む室温超)の両方に関連し得る。当業者が認めるとおり、診療において避けるのが困難なストレスに対するそのような安定性の向上により、診療において生じる分解産物がより少なくなるため、抗原結合ポリペプチドがより安全になる。結果として、前述の安定性の向上は、安全性の向上を意味する。
【0255】
一実施形態は、増殖性疾患、腫瘍性疾患、ウイルス性疾患又は免疫障害の予防、治療又は改善に使用するための本発明の抗原結合ポリペプチド又は本発明の方法に従って作製される抗原結合ポリペプチドを提供する。
【0256】
本明細書に記載される製剤は、それを必要とする患者において、本明細書に記載される病的な医学的状態を治療、改善及び/又は予防する医薬組成物として有用である。用語「治療」は、治療的治療及び予防的又は防止的手段の両方を指す。治療には、疾患、疾患の症状又は疾患の素因を治癒する、治す、軽減する、緩和する、変化させる、矯正する、改善する、好転させる又は影響を与えることを目的とした、疾患/障害、疾患/障害の症状又は疾患/障害の素因を有する患者の身体、単離された組織又は細胞に対する製剤の適用又は投与が含まれる。
【0257】
本明細書で使用する場合、用語「改善」は、本発明による抗原結合ポリペプチドを、それを必要とする対象に投与することによる、本明細書の以下に示す腫瘍若しくは癌又は転移性癌を有する患者の疾患状態の好転を指す。このような好転はまた、患者の腫瘍又は癌又は転移性癌の進行を遅らせるか又は止めることであると見なすこともできる。本明細書で使用する場合、用語「予防」は、本発明による抗原結合ポリペプチドを、それを必要とする対象に投与することによる、本明細書の以下に示す腫瘍若しくは癌又は転移性癌を有する患者の発症又は再発の回避を意味する。
【0258】
用語「疾患」は、本明細書に記載される抗原結合ポリペプチド又は医薬組成物を用いた治療から恩恵を受けることになる病態を指す。これには、哺乳動物を対象の疾患に罹患させやすくする病的状態を含む、慢性及び急性の障害又は疾患が含まれる。
【0259】
「新生物」は、組織の異常な増殖であり、必ずしもそうとは限らないが、通常、腫瘤を形成する。また、腫瘤を形成する場合、それは、一般に「腫瘍」と呼ばれる。新生物又は腫瘍は、良性、潜在性悪性(前癌性)又は悪性であり得る。悪性新生物は、一般に癌と呼ばれる。それらは、通常、周囲の組織に侵入してそれを破壊し、転移を形成し得、すなわち、それらは、身体の他の部分、組織又は臓器に広がる。したがって、用語「転移性癌」は、原発腫瘍のもの以外の他の組織又は臓器への転移を包含する。リンパ腫及び白血病は、リンパ系新生物である。本発明の目的において、それらはまた、用語「腫瘍」又は「癌」に包含される。
【0260】
本明細書で使用する場合、用語「免疫障害」は、この用語の一般的な定義に沿って自己免疫疾患、過敏症、免疫不全などの免疫障害を表す。
【0261】
一実施形態では、本発明は、増殖性疾患、腫瘍性疾患、ウイルス性疾患又は免疫障害を治療又は改善するための方法であって、本発明の抗原結合ポリペプチド又は本発明の方法に従って作製された抗原結合ポリペプチドを、それを必要とする対象に投与する工程を含む方法を提供する。
【0262】
用語「必要とする対象」又は「治療を必要とする」対象は、すでにその障害を有する対象及びその障害が予防されることになる対象を含む。必要とする対象又は「患者」は、予防的治療又は治療的治療を受けるヒト及び他の哺乳動物対象を含む。
【0263】
本発明の抗原結合ポリペプチドは、一般に、とりわけバイオアベイラビリティ及び持続性の範囲において、特定の投与経路及び投与方法、特定の投与量及び投与頻度、特定の疾患の特定の治療に合わせて設計されることになる。組成物の材料は、好ましくは、投与部位に許容される濃度で製剤化される。
【0264】
本明細書で使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈により別段の明確な指示がない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。したがって、例えば、「試薬」に対する言及は、1つ以上のそのような種々の試薬を含み、「方法」に対する言及は、本明細書に記載される方法のために改変され得るか又は本明細書に記載される方法と置換され得る、当業者に知られる均等な工程及び方法に対する言及を含む。
【0265】
特に指示されない限り、一連の要素に先行する用語「少なくとも」は、その一連の中にある全ての要素に言及していると理解されるべきである。当業者は、本明細書中に記載の本発明の特定の実施形態に対する多くの均等物を、単なる日常的な実験を使用して認識するか、又は確認可能であろう。そのような均等物は、本発明に包含されることが意図されている。
【0266】
用語「及び/又は」は、本明細書のいずれの箇所で使用されるにしても、「及び」、「又は」及び「前記用語により接続される要素の全て又は任意の他の組み合わせ」の意味を含む。
【0267】
本明細書で使用する場合、用語「約」又は「およそ」は、所与の値又は範囲の20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内を意味する。ただし、この用語は、具体的な数字も含み、例えば、約20は、20を含む。
【0268】
用語「~未満」又は「~超」は、具体的な数字を含む。例えば、20未満は、それ未満又はそれに等しいことを意味する。同様に、~超又は~より大きいは、それぞれ、それ超若しくはそれに等しい、又はそれより大きい若しくはそれに等しいことを意味する。
【0269】
本明細書及びそれに続く特許請求の範囲の全体を通して、文脈上他の意味が要求されない限り、「含む(comprise)」という語、並びに「含む(comprises)」及び「含んでいる(comprising)」などのバリエーションは、述べられる整数若しくは工程又は整数群若しくは工程群を含むことを意味するが、任意の他の整数若しくは工程又は整数群若しくは工程群を除外することを意味するものではないことは理解されるであろう。
【0270】
本明細書で使用する場合、用語「含む」は、用語「含有する」若しくは「包含する」又は本明細書で使用する場合にはときに用語「有する」とも置き換えることができる。本明細書で使用される場合、「~からなる」は、請求項の構成要素で指定されていないいかなる構成要素、工程又は成分も除外する。本明細書で使用される場合、「~から本質的になる」は、請求項の基本的な且つ新規の特徴に事実上影響を与えない材料又は工程を除外しない。
【0271】
本明細書における各例において、用語「含む」、「~から本質的になる」及び「~からなる」のいずれも、他の2つの用語のいずれかに置き換えられ得る。
【0272】
本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコル、材料、試薬及び物質などに限定されず、したがって変わり得ることは理解されるべきである。本明細書で使用する専門用語は、特定の実施形態を説明するためのものにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図しておらず、本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ定義される。
【0273】
本明細書の本文全体において引用されている全ての刊行物及び特許(全ての特許、特許出願、科学刊行物、製造業者の仕様書、説明書などを含む)は、上記であっても下記であっても、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書のいかなる内容も、本発明が先行発明によってこのような開示に先行する権利を有しないことを承認するものとして解釈すべきではない。参照により組み込まれる資料が本明細書と矛盾又は一致しない限り、いかなるこのような資料よりも本明細書が優先される。
【実施例
【0274】
本発明及びその利点のより適切な理解が以下の実施例から得られるであろうが、本実施例は単に例示目的で提供されるにすぎない。本実施例は、本発明の範囲を限定することを決して意図していない。
【0275】
実施例1:Capto(登録商標)Lと比較したTOYOPEARL(登録商標)AF-rプロテインL-650Fを使用するCD33×CD3二重特異性抗原結合ポリペプチドクロマトグラフィー捕捉の評価
a)カラムの詳細
2つのプレパックカラム[ロット番号65PLFC501A、部品番号0045162、シリアル番号00023及び00042]を使用した。カラムは、ID8mm、床高さ10cmであった。各カラムの容量は5mLであった。
b)樹脂の詳細
TOYOPEARL AF-rプロテインL-650F樹脂を予め充填した2つのカラムを使用した。
c)プレパックカラムを使用した。
d)供給条件
凍結した供給溶液を25℃の水浴中で、試験日又は試験前日[2~8℃で一晩保持]に解凍した。供給溶液が室温になったところで、濾過滅菌し、試験に使用した。
実施例1の結果:CD33×CD3二重特異性抗原結合ポリペプチド
それぞれに5mlのTOYOPEARL AF-rプロテインL-650F樹脂を予め充填した2つのカラムを連結して、パイロットスケールでの床高さを表す20cmの全床高さを達成した。表5に示す条件でロード材料を流すことによって、動的結合容量試験を行った。達成された溶出結合容量は12.7g/L充填樹脂であり、これは、現行のアフィニティ樹脂の4倍の改善である。全収率は、現行の方法と同様の範囲であった。いくつかの他の利点が結合容量の4倍の改善により可能である。結合容量が4倍改善された新しいTOYOPEARL AF-rプロテインL-650Fの使用により、収集細胞培養液の容量減少でサイクル数が6倍減少するであろう[5KLの供給溶液を仮定、表5]。これらは、製造スケールにおいて有意な利点である[表5]。
【0276】
【表4】
【0277】
【表5】
【0278】
実施例2:Capto(登録商標)Lと比較したTOYOPEARL(登録商標)AF-rプロテインL-650Fを使用するCD19×CD3二重特異性抗原結合ポリペプチドクロマトグラフィー捕捉の評価
a)カラムの詳細
上記と同様の詳細を有する1つのプレパックカラムのみを使用した。
b)樹脂の詳細
TOYOPEARL AF-rプロテインL-650F樹脂を予め充填した1つのカラムを使用した。
c)プレパックカラムを使用した。
d)供給条件
凍結した供給溶液を25℃の水浴中で、試験日又は試験前日[2~8℃で一晩保持]に解凍した。供給溶液が室温になったところで、濾過滅菌し、試験に使用した。
実施例2の結果:CD19×CD3二重特異性抗原結合ポリペプチド
5mlのTOYOPEARL AF-rプロテインL-650F樹脂が充填され、且つパイロットスケールでの床高さを表す10cmの床高さを有する1つのプレパックカラムを、結合容量測定のために使用した。表6に示す条件でロード材料を流すことによって、動的結合容量試験を行った。達成された溶出結合能力は現行のアフィニティ樹脂と同等であったが、現行のアフィニティ樹脂に対して2倍の改善を達成する可能性がある。いくつかの他の利点が結合容量の2倍の改善により可能である。結合容量が2倍改善された新しいTOYOPEARL AF-rプロテインL-650Fの使用により、収集細胞培養液の容量減少でサイクル数が2倍減少するであろう[1KLの供給溶液を仮定、表7]。これらは、製造スケールにおいて有意な利点である[表7]。表8は、スクリーニングランと現行のCapto L樹脂を用いて実施した大規模GMPランとの間の製品品質比較を示す。
【0279】
【表6】
【0280】
【表7】
【0281】
【表8】
【0282】
実施例3:Capto(登録商標)Lと比較したTOYOPEARL(登録商標)AF-rプロテインL-650Fを使用するBCMA×CD3二重特異性抗原結合ポリペプチドクロマトグラフィー捕捉の評価
a)カラムの詳細
床高さ5cmまで手作業で充填した、ID6mmの1つのOmnifitガラスボアカラムを使用した。
b)樹脂の詳細
TOYOPEARL AF-rプロテインL-650F樹脂[ロット番号65PLFC03C]の100mlボトルを使用して、Omnifit 6mmIDカラムに手作業で充填した。
c)カラム充填
実施例3では、所望量のTOYOPEARL AF-rプロテインL-650F樹脂をメスシリンダーにおいて懸濁させて、樹脂の出荷バッファ中のスラリーパーセンテージを計算した。次いで、特定の圧縮係数に基づき算出した樹脂量を、6mmIDのOmnifitガラスボアカラムに移した。次いで、5cmの最終目標床高さまで、樹脂を100mM塩化ナトリウム溶液中に流動充填した。
d)供給条件
凍結した供給溶液を25℃の水浴中で、試験日又は試験前日[2~8℃で一晩保持]に解凍した。供給溶液が室温になったところで、濾過滅菌し、試験に使用した。
実施例3の結果BCMA×CD3二重特異性抗原結合ポリペプチド
試験3では、6.6mmIDのOmnifitガラスボアカラムに手作業で充填して、表9に示す条件で結合容量の測定を行った。達成された溶出結合容量は現行のアフィニティ樹脂と同等であったが、パイロットスケールでのロード処理において約3時間の有意な時間の節約がある[表9]。
【0283】
【表9】
【0284】
【表10】
【0285】
【表11】
【0286】
【表12】
【0287】
【表13】
【0288】
【表14】
【0289】
【表15】
【0290】
【表16】
【0291】
【表17】
【0292】
【表18】
【0293】
【表19】
【0294】
【表20】
【0295】
【表21】
【0296】
【表22】
【0297】
【表23】
【0298】
【表24】
【0299】
【表25】
【0300】
【表26】
【0301】
【表27】
【0302】
【表28】
【0303】
【表29】
【0304】
【表30】
【0305】
【表31】
【0306】
【表32】
【0307】
【表33】
【0308】
【表34】
【0309】
【表35】
【0310】
【表36】
【0311】
【表37】
【0312】
【表38】
【0313】
【表39】
【0314】
【表40】
【0315】
【表41】
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
【配列表】
2022547135000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-05-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図1A
【補正方法】変更
【補正の内容】
図1A
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図1D
【補正方法】変更
【補正の内容】
図1D
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図2
【補正方法】変更
【補正の内容】
図2
【国際調査報告】