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特表2022-547140ポリ[α-シアノアクリレ-ト]の加水分解生成物、その製造方法および使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-10
(54)【発明の名称】ポリ[α-シアノアクリレ-ト]の加水分解生成物、その製造方法および使用
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/12 20060101AFI20221102BHJP
   A61K 31/785 20060101ALI20221102BHJP
   A61K 47/58 20170101ALI20221102BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
C08F8/12
A61K31/785
A61K47/58
A61P9/14
A61P7/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022515062
(86)(22)【出願日】2020-08-21
(85)【翻訳文提出日】2022-04-28
(86)【国際出願番号】 CN2020110386
(87)【国際公開番号】W WO2021043004
(87)【国際公開日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】201910836242.7
(32)【優先日】2019-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201910836249.9
(32)【優先日】2019-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】522087039
【氏名又は名称】大連合元医療器械有限公司
【氏名又は名称原語表記】Dalian Heyuan Medical Equipments Co., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】王 俊平
(72)【発明者】
【氏名】郭 寅
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4J100
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC41
4C076EE59
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086AA04
4C086FA03
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA24
4C086MA38
4C086NA14
4C086ZA54
4J100AM05P
4J100CA01
4J100CA31
4J100EA07
4J100EA09
4J100EA11
4J100FA01
4J100FA19
4J100HA08
4J100HD13
4J100HE14
4J100HE41
4J100JA50
(57)【要約】
【課題】ポリ[α-シアノアクリレ-ト]の加水分解生成物、その製造方法および使用を提供し、医薬化学分野に属する。
【解決手段】下記化学式(1)で表されるポリ[α-シアノアクリレ-ト]の加水分解生成物。ポリ[2-シアノアクリル酸]を水に分散して負電荷を持つ微小球を形成することで、無担持塞栓微小球を得る。無担持塞栓微小球は、粒子径がマイクロオーダーの範囲で調整されることができ、且つ特定形態を有する血管を通る変形能を持ち、血管を確実に塞栓して脱落による異所性塞栓を防ぐことができる。ポリ[2-カルボキシアクリル酸]は、新規なナノ薬物担体を製造するために使用でき、担持する薬物の病変組織への治療効果を高め、担持する薬物の正常組織への毒性・副作用を軽減することができる。
【化1】
(1)
「Rは、-CNまたは-COOHである。」
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式で表されることを特徴とするポリ[α-シアノアクリレ-ト]の加水分解生成物。
【化1】
「Rは、-CNまたは-COOHである。」
【請求項2】
α-シアノアクリレ-トの重合体を先に製造し、次に重合体を加水分解することで、ポリ[α-シアノアクリレ-ト]の加水分解生成物を得ることを特徴とする請求項1に記載のポリ[α-シアノアクリレ-ト]の加水分解生成物の製造方法。
【請求項3】
下記化学式で表されるポリ[2-シアノアクリル酸]であることを特徴とする請求項1に記載のポリ[α-シアノアクリレ-ト]の加水分解生成物。
【化2】
【請求項4】
前記ポリ[2-シアノアクリル酸]の製造方法は、α-シアノアクリレ-トの重合体を先に製造し、次にアルカリ性条件下で重合体中のエステル結合を選択的に加水分解し、さらに精製することで、ポリ[2-シアノアクリル酸]を得るものであることを特徴とする請求項3に記載のポリ[α-シアノアクリレ-ト]の加水分解生成物。
【請求項5】
ポリ[2-シアノアクリル酸]を無担持塞栓微小球に製造することを特徴とする請求項1に記載のポリ[α-シアノアクリレ-ト]の加水分解生成物の使用。
【請求項6】
前記無担持塞栓微小球の製造方法は、ポリ[2-シアノアクリル酸]を水に分散して負電荷を持つ微小球を形成することで、無担持塞栓微小球を得るものであることを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記無担持塞栓微小球は、粒子径が1μm以上であり、且つ変形可能なであることを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項8】
無担持塞栓微小球は、血管径の異なる血管塞栓標的に適応するために粒子径がマイクロオーダーの範囲で調整されることができ、また必要に応じて塞栓途中における血管の狭い箇所を通る変形能を持ち、血管を確実に塞栓して脱落による異所性塞栓を防ぐことができるものであることを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項9】
前記無担持塞栓微小球を薬物担持塞栓微小球に製造することを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項10】
前記薬物担持塞栓微小球の製造方法は、無担持塞栓微小球と、正電荷を持つ薬物とを結合させることで、薬物担持塞栓微小球を得るものであることを特徴とする請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記薬物担持塞栓微小球は、電荷逆転の原理により自発的に薬物を担持・放出するものであることを特徴とする請求項9に記載の使用。
【請求項12】
前記薬物担持塞栓微小球は、血管透過性が高くpH値が低い病変組織において、直接病変組織局所へ薬物を放出するものであることを特徴とする請求項9に記載の使用。
【請求項13】
下記化学式で表されるポリ[2-カルボキシアクリル酸]であることを特徴とする請求項1に記載のポリ[α-シアノアクリレ-ト]の加水分解生成物。
【化3】
【請求項14】
前記ポリ[2-カルボキシアクリル酸]の製造方法は、α-シアノアクリレ-トの重合体を先に製造し、次にアルカリ性条件下で重合体のエステル結合及びシアノ基を加水分解し、さらに透析によって不純物を除去することで、ポリ[2-カルボキシアクリル酸]を得るものであることを特徴とする請求項13に記載のポリ[α-シアノアクリレ-ト]の加水分解生成物。
【請求項15】
ポリ[2-カルボキシアクリル酸]をナノ薬物担体に製造することを特徴とする請求項13に記載のポリ[α-シアノアクリレ-ト]の加水分解生成物の使用。
【請求項16】
前記ナノ薬物担体の製造方法は、活性化ポリエチレングリコールによってポリ[2-カルボキシアクリル酸]のカルボキシ基を修飾することで、ナノ薬物担体を得るものであることを特徴とする請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記ナノ薬物担体の製造方法は、ポリ[2-カルボキシアクリル酸]をリポソームに封入することで、ナノ薬物担体を得るものであることを特徴とする請求項15に記載の使用。
【請求項18】
前記ナノ薬物担体は、電荷逆転の原理により自発的に薬物を担持・放出するものであることを特徴とする請求項15に記載の使用。
【請求項19】
前記ナノ薬物担体は、血液を通じて薬物を標的送達し、血管透過性が高くpH値が低い病変組織に蓄積し、且つ直接病変組織へ薬物を放出するものであることを特徴とする請求項15に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬化学の分野に属し、詳しくはポリ[α-シアノアクリレ-ト]の加水分解生成物、その製造方法および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
血管内塞栓は避けるべきであると一般に考えられるが、一部の血管について、選択的に塞栓させることで良好な治療效果を得ることができる。近年、医療技術の発達に伴い、カテーテル挿入により関連する動脈へ血管塞栓剤(Vascular Occlusive Agent)を注入し、一部の疾患、特に腫瘍や胃底静脈瘤様腫脹などの手術や薬物でコントロールすることが困難である一部の疾患を治療することができるようになっている。このような技術は、医学的には選択的血管塞栓術と呼ばれる。経カテーテル動脈塞栓術は、1970年代に、前立腺穿刺生検、経尿道前立腺切除術後の前立腺出血および前立腺に起因する難治性血尿の治療に最初に使用された。血管塞栓術では、塞栓剤を使用する必要があり、血栓などの天然な塞栓物質のほか、バルーン、小さな金属ボール、スプリングチューブなどを用いる機械的塞栓を行うこともできる。現在使用されている塞栓剤は、固体と液体の2種類に分類され、一部の天然塞栓剤も固体類塞栓剤に分類される。
【0003】
ナノ薬物担体には多くの種類があり、その中でもリポソームが特に注目されている。リポソームは、主にコレステロールとリン脂質から構成され、細胞に似た構造を持ち、薬物を担持するために使用されることができる。リポソームには、主に2つの問題がある。1つ目は、どうやって薬物を担持することである。2つ目は、どうやってリポソームが細網内皮系に貪食・破壊されるのを防ぐことおよびどうやって病変組織へ薬物を放出することである。リポソームは、毒性が低く、免疫原性がなく、発熱原性がなく、通常の代謝によって排除されることができるため、比較的理想的な薬物担体である。現在のナノリポソーム薬物は、主にアンモニウムイオン勾配により自発的に薬物を担持して製造される。例えば、ドキシル(Doxil)は、液体状のアドリアマイシンナノリポソームである。しかし、このようなアドリアマイシンナノリポソームは、製造プロセスが煩雑であり、安定性が悪く、且つ腫瘍組織部位へ自発的に薬物を放出することが困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来技術における問題を解決するために、ポリ[α-シアノアクリレ-ト]の加水分解生成物、その製造方法および使用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の技術手段は、下記の通りである。
下記化学式で表されるポリ[α-シアノアクリレ-ト]の加水分解生成物。
【0006】
【化1】
「Rは、-CNまたは-COOHである。」
また、本発明は、前記ポリ[α-シアノアクリレ-ト]の加水分解生成物の製造方法を保護請求する。かかる製造方法は、α-シアノアクリレ-トの重合体を先に製造し、次に重合体を加水分解することで、ポリ[α-シアノアクリレ-ト]の加水分解生成物を得るものである。
下記化学式で表され、Rが-CNであるポリ[2-シアノアクリル酸]。
【0007】
【化2】
ポリ[2-シアノアクリル酸]の製造方法は、α-シアノアクリレ-トの重合体を先に製造し、次にアルカリ性条件下で重合体中のエステル結合を選択的に加水分解し、さらに精製することで、ポリ[2-シアノアクリル酸]を得るものである。
【0008】
本発明は、前記ポリ[α-シアノアクリレ-ト]の加水分解生成物の使用を保護請求する。かかる使用は、ポリ[2-シアノアクリル酸]を無担持塞栓微小球に製造することである。
さらに、前記無担持塞栓微小球の製造方法は、ポリ[2-シアノアクリル酸]を水に分散して負電荷を持つ微小球を形成することで、無担持塞栓微小球を得るものである。
さらに、前記無担持塞栓微小球は、粒子径が1μm以上であり、且つ変形可能なものである。
さらに、無担持塞栓微小球は、血管径の異なる血管塞栓標的に適応するために粒子径がマイクロオーダーの範囲で調整されることができ、また必要に応じて塞栓途中における血管の狭い箇所を通る変形能を持ち、血管を確実に塞栓して脱落による異所性塞栓を防ぐことができるものである。
【0009】
本発明では、ポリ[2-シアノアクリル酸]から製造された無担持塞栓微小球を、薬物担持塞栓微小球に製造する。
さらに、前記薬物担持塞栓微小球の製造方法は、無担持塞栓微小球と、正電荷を持つ薬物とを結合させることで、薬物担持塞栓微小球を得るものである。
さらに、薬物担持塞栓微小球は、電荷逆転の原理により自発的に薬物を担持(pH≧7.4)・放出(pH≦6.5)するものである。
さらに、薬物担持塞栓微小球は、血管透過性が高くpH値が低い病変組織において、直接病変組織局所へ薬物を放出することができ、薬物の全身的な流動が殆どないため、薬物の病変組織局所への治療効果が高まり、薬物の全身的な毒性・副作用が軽減される。
【0010】
より好ましい製造方法および使用は、下記の通りである。
1.ポリ[2-シアノアクリル酸]の製造
(1)方法1
pH値2.0~4.0の生理食塩水、5%以上のグルコース溶液または5%以上のデキストラン溶液に、非イオン性界面活性剤、例えば、ポリエチレングリコール型非イオン性界面活性剤、ツイン(Tween)類界面活性剤、スパン(Span)類界面活性剤またはポロキサマー(Poloxamer)等を用いて、α-シアノアクリレ-トまたはその植物油溶液のエマルジョンを調製する。次に、pH値を7.4以上に調整し、重合反応を加速してα-シアノアクリレ-トの重合体を形成する。さらに、アルカリ性条件下で、シアノ基を残すように、重合体のエステル結合を選択的に加水分解する。このアルカリ性条件下で、植物油はケン化される。そして、透析によって不純物を除去すれば、ポリ[2-シアノアクリル酸]を得る。
【0011】
非イオン性界面活性剤の含有量が多いほど、α-シアノアクリレ-トの使用量が少ないほど、エマルジョンの粒子径が小さくなる。ポリ[2-シアノアクリル酸]の重合度は、α-シアノアクリレ-トエマルジョンの粒子径により制御することができる。エマルジョンの粒子径が小さいほど、重合度が低くなる。
異なる分子量範囲のポリ[2-シアノアクリル酸]は、透析法またはゲル浸透クロマトグラフィーによって分離・製造することができる。
【0012】
(2)方法2
α-シアノアクリレ-トを、無水エタノール、アセトンまたはアセトニトリルに溶かす。硬質プラスチック分散器での高速分散の条件下で、α-シアノアクリレ-トの無水エタノール、アセトニトリルまたはアセトン溶液を酸性水に徐々に滴下し、一晩磁気撹拌する。高速遠心分離によってα-シアノアクリレ-ト重合物沈殿を収集する。さらに、アルカリ性条件下で、シアノ基を残すように、重合体のエステル結合を選択的に加水分解する。そして、透析によって不純物を除去すれば、ポリ[2-シアノアクリル酸]を得る。
ポリ[2-シアノアクリル酸]の重合度は、α-シアノアクリレ-トの濃度により制御することができる。濃度が低いほど、重合度が低くなる。
異なる分子量範囲のポリ[2-シアノアクリル酸]は、透析法またはゲル浸透クロマトグラフィーによって分離・製造することができる。
【0013】
2.ポリ[2-シアノアクリル酸]無担持塞栓微小球の製造
ポリ[α-シアノアクリレ-ト]の重合時間またはα-シアノアクリレ-トの濃度を制御することで、その重合度を制御し、そして無担持塞栓微小球の粒子径を制御することができる。
ポリ[2-シアノアクリル酸]はカルボキシ基に富むものである。無担持塞栓微小球は、アルカリ性条件下でカルボキシ基が負電荷を持ち、負電荷間に斥力が発生する。そのため、無担持塞栓微小球は、弾性および変形能を有する。
【0014】
(1)方法1
ポリ[2-シアノアクリル酸]は、ある程度の界面活性を持ち、且つ無水エタノールに溶けやすいものである。そのエタノール溶液を水に分散することで、カルボキシ基に富んだ無担持塞栓微小球を得ることができる。
(2)方法2
ポリ[2-シアノアクリル酸]は、ある程度の界面活性を持ち、且つ無水エタノールに溶けやすいものである。そのエタノール溶液を水に分散し、さらに活性化ポリエチレングリコールによってポリ[2-シアノアクリル酸]のカルボキシ基の一部を修飾することで、カルボキシが修飾された無担持塞栓微小球を得ることができる。
【0015】
重合体のカルボキシ基に結合しているポリエチレングリコールは、細網内皮系が無担持塞栓微小球の骨格材料であるポリ[2-シアノアクリル酸]を急速に貪食・破壊するのを効果的に防ぐことができる。修飾されていないカルボキシ基は、正電荷を持つ薬物を自発的に担持するために用いられる。
最適なカルボキシ基の修飾比率は、薬物の担持量や薬物の種類に関係する。薬物の分子量が比較的大きく、親水性が比較的低い場合、カルボキシ基の修飾比率を高くする。薬物の分子量が比較的小さく、親水性が比較的高い場合、カルボキシ基の修飾比率を低くする。また、カルボキシ基の修飾比率は、個体差にも関係し、無担持塞栓微小球が細網内皮系に急速に破壊されない程度に設定する必要がある。従って、具体的なカルボキシ基の修飾比率および活性化ポリエチレングリコールの分子量は、臨床上の要求に応じて具体的に決定する必要がある。
【0016】
3.ポリ[2-シアノアクリル酸]無担持塞栓微小球の使用
ポリ[2-シアノアクリル酸]無担持塞栓微小球の粒子径は、臨床上の要求に応じて調整することができる。また、ポリ[2-シアノアクリル酸]無担持塞栓微小球は、弾性および変形能を持ち、粒子径が8μm以上である場合、塞栓治療の際に特定の血管の狭い箇所を通ることができ、且つ血管壁に確実に付着し脱落しにくく、異所性塞栓が発生しない。
【0017】
4.ポリ[2-シアノアクリル酸]薬物担持塞栓微小球の製造
ポリ[2-シアノアクリル酸]無担持塞栓微小球と、正電荷を持つ様々な薬物とを結合させることで、様々な薬物担持塞栓微小球を得ることができる。
【0018】
5.ポリ[2-シアノアクリル酸]薬物担持塞栓微小球の使用
薬物担持塞栓微小球は、臨床上の要求に応じて、正電荷を持つ薬物を1種または複数種担持して特定の局所塞栓治療に使用することができる。薬物担持塞栓微小球は、血管透過性が高くpH値が低い病変組織において、直接病変組織局所へ薬物を放出することができ、薬物の全身的な流動が殆どないため、薬物の病変組織局所への治療効果が高まり、薬物の全身的な毒性・副作用が軽減される。
下記化学式で表され、Rが-COOHであるポリ[2-カルボキシアクリル酸]。
【0019】
【化3】
ポリ[2-カルボキシアクリル酸]の製造方法は、α-シアノアクリレ-トの重合体を先に製造し、次にアルカリ性条件下で重合体のエステル結合及びシアノ基を加水分解し、さらに透析によって不純物を除去することで、ポリ[2-カルボキシアクリル酸]を得るものである。
【0020】
本発明は、前記ポリ[α-シアノアクリレ-ト]の加水分解生成物の使用を保護請求する。かかる使用は、ポリ[2-カルボキシアクリル酸]をナノ薬物担体に製造することである。
さらに、前記ナノ薬物担体の製造方法は、活性化ポリエチレングリコールによってポリ[2-カルボキシアクリル酸]のカルボキシ基の一部を修飾し、修飾されていないカルボキシ基を、正電荷を持つ薬物を担持するために使用することで、pH値勾配により、正電荷を持つ薬物を自発的に担持(pH≧7.4)・放出(pH≦6.5)する機能を有する新規なナノ薬物担体を得るものである。
【0021】
さらに、前記ナノ薬物担体の製造方法は、ポリ[2-カルボキシアクリル酸]をリポソームに封入することで、pH値勾配により、正電荷を持つ薬物を自発的に担持(pH≧7.4)・放出(pH≦6.5)する機能を有する新規なナノリポソームである新規なナノ薬物担体を得るものである。
さらに、ナノ薬物担体は、電荷逆転の原理により自発的に薬物を担持・放出するものである。
さらに、ナノ薬物担体は、血液を通じて薬物を標的送達し、血管透過性が高くpH値が低い病変組織に蓄積し、直接病変組織へ薬物を放出し、薬物が正常組織に殆ど入らないため、担持する薬物の病変組織への治療効果が高まり、正常組織への毒性・副作用が軽減される。
【0022】
より好ましい製造方法および使用は下記の通りである。
1.ポリ[2-カルボキシアクリル酸]の製造
(3)方法1
pH値2.0~4.0の生理食塩水、5%以上のグルコース溶液または5%以上のデキストラン溶液に、非イオン性界面活性剤、例えば、ポリエチレングリコール型非イオン性界面活性剤、ツイン類界面活性剤、スパン類界面活性剤またはポロキサマー等を用いて、α-シアノアクリレ-トまたはその植物油溶液のエマルジョンを調製する。次に、pH値を7.4以上に調整し、重合反応を加速してα-シアノアクリレ-トの重合体を形成する。さらに、アルカリ性条件下で、重合体のエステル結合およびシアノ基を加水分解する。このアルカリ性条件下で、植物油はケン化される。そして、透析によって不純物を除去すれば、ポリ[2-カルボキシアクリル酸]を得る。
【0023】
非イオン性界面活性剤の含有量が多いほど、α-シアノアクリレ-トの使用量が少ないほど、マイクロエマルジョンの体積が小さくなる。ポリ[2-カルボキシアクリル酸]の重合度は、α-シアノアクリレ-トマイクロエマルジョンの大きさにより制御することができる。マイクロエマルジョンが小さいほど、重合度が低くなる。
異なる分子量範囲のポリ[2-カルボキシアクリル酸]は、透析法またはゲル浸透クロマトグラフィーによって分離・製造することができる。
【0024】
(4)方法2
α-シアノアクリレ-トを、無水エタノール、アセトンまたはアセトニトリルに溶かす。硬質プラスチック分散器での高速分散の条件下で、α-シアノアクリレ-トの無水エタノール、アセトニトリルまたはアセトン溶液を酸性水に徐々に滴下し、一晩磁気撹拌する。高速遠心分離によってα-シアノアクリレ-ト重合物沈殿を収集する。さらに、アルカリ性条件下で、重合体のエステル結合およびシアノ基を加水分解する。そして、透析によって不純物を除去すれば、ポリ[2-カルボキシアクリル酸]を得る。
ポリ[2-カルボキシアクリル酸]の重合度は、α-シアノアクリレ-トの濃度により制御することができる。濃度が低いほど、重合度が低くなる。
異なる分子量範囲のポリ[2-カルボキシアクリル酸]は、透析法またはゲル浸透クロマトグラフィーによって分離・製造することができる。
【0025】
2.ポリ[2-カルボキシアクリル酸]ナノ薬物担体の製造
(1)方法1
活性化ポリエチレングリコールによってポリ[2-カルボキシアクリル酸]のカルボキシ基の一部を修飾することで、ポリ[2-カルボキシアクリル酸]ナノ薬物担体を得ることができる。
重合体のカルボキシ基に結合しているポリエチレングリコールは、細網内皮系がナノ薬物担体の骨格材料であるポリ[2-カルボキシアクリル酸]を急速に貪食・破壊するのを効果的に防ぐことができる。修飾されていないカルボキシ基は、正電荷を持つ薬物を自発的に担持するために用いられる。
最適なカルボキシ基の修飾比率は、薬物の担持量や薬物の種類に関係する。薬物の分子量が比較的大きく、親水性が比較的低い場合、カルボキシ基の修飾比率を高くする。薬物の分子量が比較的小さく、親水性が比較的高い場合、カルボキシ基の修飾比率を低くする。また、カルボキシ基の修飾比率は、個体差にも関係し、ナノ薬物担体が細網内皮系に急速に破壊されない程度に設定する必要がある。従って、具体的なカルボキシ基の修飾比率および活性化ポリエチレングリコールの分子量は、臨床上の要求に応じて具体的に決定する必要がある。
【0026】
(2)方法2
リン脂質、コレステロール、PEG2000-DSPE、ポリ[2-カルボキシアクリル酸]を無水エタノールに溶かし、薄膜法によりポリ[2-カルボキシアクリル酸]を内部に封入したリポソームを製造し、ゲル浸透クロマトグラフィーによってリポソームの外側におけるポリ[2-カルボキシアクリル酸]を除去することで、ポリ[2-カルボキシアクリル酸]を封入したナノリポソームを得ることができる。さらに、ナノリポソームの外水相のpH値を7.4に調整することで、リポソームの内外側のpH値勾配が5.0以上に達し、正電荷を持つ薬物を自発的に担持する機能を有するナノリポソームであるナノ薬物担体を得ることができる。
【0027】
ヘンダーソン・ハッセルバッハ(Henderson-Hasselbalch)理論によると、1つのpH値単位の変化は、分子型薬物とイオン型薬物の濃度に10倍の差が生じる。リポソームの内外側のpH値勾配が3.0である場合、理論的に、分子型薬物とイオン型薬物の濃度に1000倍の差が生じる。分子型薬物はリポソームの二分子膜に結合しやすいため、薬物分子の膜貫通・内部移動過程が促進される。
ポリ[2-カルボキシアクリル酸]は、正電荷を持つ薬物と結合して沈殿を形成する。これは、さらに正電荷を持つ薬物がナノリポソームに入るのを促進し、ナノリポソームの薬物担持能を高めることができる。
【0028】
3.ポリ[2-カルボキシアクリル酸]ナノ薬物担体の使用
ポリ[2-カルボキシアクリル酸]を用いて製造したナノ薬物担体は、電荷逆転の原理により、アルカリ性条件下で、例えばpH=7.4で、カルボキシ基を介して正電荷を持つ薬物を自発的に担持し、逆に酸性条件下で、例えばpH=6.5で、担持した正電荷を持つ薬物を自発的に放出する。
正常組織は、血管透過性が低くpH値が比較的高い(7.4程度)。一方、病変組織は、血管透過性が高くpH値が比較的低い(6.5程度)。従って、ナノ薬物担体は、血液循環系に入った後、段々病変組織に蓄積し、且つ担持する薬物を放出するため、薬物の病変組織への治療効果を高める(前駆体薬を除く)とともに、薬物の正常組織への毒性・副作用を軽減できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の有益な效果は、下記の通りである。
(1)カルボキシ基に富んだポリ[2-シアノアクリル酸]である新規な材料の製造方法を提供する。
(2)ポリ[2-シアノアクリル酸]を用いて、新規な無担持塞栓微小球を製造することができる。
(3)新規な無担持塞栓微小球は、粒子径が調整可能であり、且つ変形して狭い箇所を通る能力を持つ。
(4)新規な無担持塞栓微小球を用いて、新規な薬物担持塞栓微小球を製造することができる。
(5)新規な薬物担持塞栓微小球は、担持する薬物の病変組織局所への治療効果を高めることができる。
(6)新規な薬物担持塞栓微小球は、担持する薬物の全身的な毒性・副作用を軽減することができる。
(7)外国のDC-bead従来技術(図1に示す)では、N-アクリロイル-アミノアセトアルデヒド-ジメチルアセタール、酢酸ブチルを使用する必要があるため、揮発性が高く、残留量が多く、生産環境に不利であり、安全性が低い。本発明では、α-シアノアクリレ-ト、植物油、グルコース、生理食塩水、非イオン性界面活性剤、活性化ポリエチレングリコール、無水エタノール、純粋等を使用するだけなので、毒性物質の残留がなく、汚染がなく、プロセスが簡単であり、生産コストが低く、安全性が高い。
(8)外国のDC-beadは、単位体積あたりの抗がん剤の担持分子数が比較的少ない。本発明で製造した薬物担持塞栓微小球は、化学構造から、分子構造における炭素原子の約50%がそれぞれ1つのカルボキシ基負電荷を持つと推定する。一方、DC-beadは、分子中の炭素原子の約20%がそれぞれ1つのカルボキシ基負電荷を持つ。本発明で製造した薬物担持塞栓微小球は、単位質量あたりの負電荷総量がDC-beadよりも顕著に多く、薬物担持能が顕著に向上する。
(9)外国のDC-beadは、酸性が比較的強いスルホン酸基を持ち、腫瘍組織の近傍で薬物を選択的に放出する能力が弱い。本発明で製造した薬物担持塞栓微小球は、持っているカルボキシ基の酸性が比較的弱く、異なるpH値の条件下で薬物を放出する速度が異なり、pH値が低い腫瘍組織の近傍で薬物を放出する速度が顕著に速くなり、腫瘍近傍で薬物を選択的に放出する特性が比較的強い。
(10)カルボキシ基に富んだポリ[2-カルボキシアクリル酸]である新規な材料の製造方法を提供する。
(11)ポリ[2-カルボキシアクリル酸]を用いて、新規なナノ薬物担体を製造することができる。
(12)新規なナノ薬物担体は、担持する薬物の病変組織への治療効果を高めることができる。
(13)新規なナノ薬物担体は、担持する薬物の正常組織への毒性・副作用を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】従来のDC-Beadを製造するプロセス図である。
図2】無担持塞栓微小球(50倍)である。
図3】薬物担持塞栓微小球の製造および作用原理図である。
図4】アドリアマイシンを担持した塞栓微小球(50倍)である。
図5】アドリアマイシンを担持した塞栓微小球の粉砕後の内部形態である。
図6】ポリ[2-カルボキシアクリル酸]ナノ化アドリアマイシンの電子顕微鏡写真である。
図7】ポリ[2-カルボキシアクリル酸]ナノ化アドリアマイシンリポソームの電子顕微鏡写真である。
図8】ポリ[2-カルボキシアクリル酸]の構造概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を具体的な実施例によってさらに説明する。特に説明しない限り、本発明で使用する原料および装置は、いずれも通常使用される原料および装置である。
【実施例
【0032】
実施例1 ポリ[2-シアノアクリル酸]の製造
(1)処方:α-シアノアクリル酸n-ブチル
生理食塩水、ごま油、ツイン-80、スパン-20、無水エタノール
α-シアノアクリル酸nーブチルをパイロジェン無しの精制ごま油に溶かして、30%のα-シアノアクリル酸nーブチル油溶液10mLを形成し、0.25%のツイン-80およびスパン-20のpH値4.0の生理食塩水溶液に分散させた。次に、pH値を7.8に調整し、α-シアノアクリル酸n-ブチルの重合反応を開始させ、12時間後、沈殿物を遠心分離した。無水エタノールで沈殿物を洗浄して遠心分離する操作を5回繰り返して、沈殿物を50mlの無水エタノールに分散させ、水酸化ナトリウムを加え、シアノ基を残すように、エステル結合を選択的に加水分解した。減圧蒸発により無水エタノールを除去し、さらに100mLの蒸留水と混合し、8000rpmで20分間遠心分離し、上清を捨てた。振とうしながら水洗して遠心分離する操作を5回繰り返して、ポリ[2-シアノアクリル酸]を得た。
【0033】
(2)処方:α-シアノアクリル酸オクチル
50%グルコース溶液、ポロキサマー、無水エタノール
α-シアノアクリル酸オクチルを0.25%ポロキサマーのpH値4.0の50%グルコース溶液に溶かして、α-シアノアクリル酸オクチルエマルジョンを形成した。pH値を7.4に調整し、攪拌しながら、室温で12時間重合させた。遠心分離し、沈殿物を50mlの無水エタノールに分散させ、水酸化ナトリウムを加えて、シアノ基を残すように、エステル結合を選択的に加水分解した。減圧蒸発により無水エタノールを除去した後、100mLの蒸留水と混合し、8000rpmで20分間遠心分離し、上清を捨てた。振とうしながら水洗して遠心分離する操作を5回繰り返して、ポリ[2-シアノアクリル酸]を得た。
【0034】
(3)処方:α-シアノアクリル酸イソブチル
10%デキストラン溶液、ポリエチレングリコール400モノオレイン酸エステル、無水エタノール
α-シアノアクリル酸イソブチルを0.25%ポリエチレングリコール400モノオレイン酸エステルのpH値4.0の10%デキストラン溶液に溶かして、α-シアノアクリル酸イソブチルエマルジョンを形成した。pH値を7.4に調整し、攪拌しながら、室温で12時間重合させた。遠心分離し、沈殿物を50mlの無水エタノールに分散させ、水酸化ナトリウムを加えて、シアノ基を残すように、エステル結合を選択的に加水分解した。減圧蒸発により無水エタノールを除去した後、100mLの蒸留水と混合し、8000rpmで20分間遠心分離し、上清を捨てた。振とうしながら水洗して遠心分離する操作を5回繰り返して、ポリ[2-シアノアクリル酸]を得た。
【0035】
(4)処方:α-シアノアクリル酸nーブチル
無水エタノール
α-シアノアクリル酸nーブチルを無水エタノールに溶かして50%のエタノール溶液を形成し、1週間重合させた。次に、水酸化ナトリウムを加えて、シアノ基を残すように、エステル結合を選択的に加水分解した。減圧蒸発により無水エタノールを除去した後、100mLの蒸留水と混合し、8000rpmで20分間遠心分離し、上清を捨てた。振とうしながら水洗して遠心分離する操作を5回繰り返して、ポリ[2-シアノアクリル酸]を得た。
【0036】
(5)処方:α-シアノアクリル酸メチル
アセトン、無水エタノール
α-シアノアクリル酸メチルをアセトンに溶かして50%のアセトン溶液を形成し、2週間重合させた。次に、減圧下でアセトンを除去し、無水エタノールに分散させた。さらに、水酸化ナトリウムを加えて、シアノ基を残すように、エステル結合を選択的に加水分解した。減圧蒸発により無水エタノールを除去した後、100mLの蒸留水と混合し、8000rpmで20分間遠心分離し、上清を捨てた。振とうしながら水洗して遠心分離する操作を5回繰り返して、ポリ[2-シアノアクリル酸]を得た。
【0037】
(6)処方:α-シアノアクリル酸エチル
アセトニトリル、無水エタノール
α-シアノアクリル酸エチルをアセトニトリルに溶かして50%のアセトニトリル溶液を形成し、2週間重合させた。次に、減圧下でアセトニトリルを除去し、無水エタノールに分散させた。さらに、水酸化ナトリウムを加えて、シアノ基を残すように、エステル結合を選択的に加水分解した。減圧蒸発により無水エタノールを除去した後、100mLの蒸留水と混合し、8000rpmで20分間遠心分離し、上清を捨てた。振とうしながら水洗して遠心分離する操作を5回繰り返して、ポリ[2-シアノアクリル酸]を得た。
【0038】
実施例2 ポリ[2-シアノアクリル酸]無担持塞栓微小球の製造
(1)処方:ポリ[2-シアノアクリル酸]
無水エタノール、水
0.5gのポリ[2-シアノアクリル酸]を用いて、5mLの無水エタノール溶液を調製した。ロータリーエバポレーターに入れ、エタノールを揮発させてロータリーエバポレーターの壁に薄膜を形成し、50mLの蒸留水と混合して12時間水和し、8000rpmで20分間遠心分離し、上清を捨てた。振とうしながら水洗して遠心分離する操作を5回繰り返して、無担持塞栓微小球を得た。
【0039】
(2)処方:ポリ[2-シアノアクリル酸]
アミノポリエチレングリコール2000、水
アミノポリエチレングリコール2000でカルボキシ基を修飾した。活性化ポリエチレングリコールによる修飾で使用した触媒は、EDC・HCl(1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩)、NHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)であった。ポリエチレングリコールで修飾した後、8000rpmで20分間遠心分離し、上清を捨てた。振とうしながら水洗して遠心分離する操作を5回繰り返して、ポリエチレングリコールで修飾した無担持塞栓微小球を得た。
【0040】
実施例3 ポリ[2-シアノアクリル酸]薬物担持塞栓微小球の製造
(1)処方:無担持塞栓微小球
アドリアマイシン
無担持塞栓微小球1mLを、同じ体積の2mg/mLアドリアマイシンのpH値7.4の1/15M等張リン酸塩緩衝液と混合し、15分間振とうし、残りのアドリアマイシン溶液を捨てた後、pH値7.4の1/15M等張リン酸塩緩衝液で洗浄することで、腫瘍動脈血管塞栓用のアドリアマイシン担持塞栓微小球を得た。
【0041】
(2)処方:無担持塞栓微小球
ゲンタマイシン
無担持塞栓微小球1mLを、同じ体積の10mg/mLゲンタマイシンのpH値7.4の1/15M等張リン酸塩緩衝液と混合し、5分間振とうし、残りのゲンタマイシン溶液を捨てた後、pH値7.4の1/15M等張リン酸塩緩衝液で洗浄することで、炎症治療用のゲンタマイシン担持塞栓微小球を得た。
ポリ[2-シアノアクリル酸]塞栓微小球の有効性
【0042】
1.新規な無担持塞栓微小球
新規な無担持塞栓微小球の粒子径、表面形態特性は、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡を用いて観察・測定した(図2に示す)。異なる保存温度の条件下で、新規な無担持塞栓微小球の長期間保存における粒子径の変化を検出した。新規な無担持塞栓微小球は、外傷性骨盤および内臓出血、泌尿器系出血、消化管出血、重度の鼻および顎顔面出血、大量喀血、術後の内臓出血などの動脈性出血の塞栓治療に用いることができる。また、消化管静脈瘤様腫脹などの静脈性出血の塞栓治療にも用いることができる。
【0043】
2.新規な薬物担持塞栓微小球
新規な薬物担持塞栓微小球の薬物担持量、薬物を自発的に担持する速度および薬物放出速度は、紫外-可視分光光度計を用いて測定した。腫瘍組織ブロック包埋法を用いてウサギVX2肝癌モデルを確立し、肝動脈におけるアドリアマイシン担持塞栓微小球の有效性を評価した(図3に示す)。腫瘍ブロックを包埋・移植してから2週間後、開腹して肝動脈にカテーテルを挿入し、アドリアマイシン担持塞栓微小球を注入した(図4に示す)。実験ウサギの末梢静脈血中のアドリアマイシン濃度は、高速液体クロマトグラフィーにより測定した。腫瘍におけるアドリアマイシンの分布および腫瘍微小血管の密度は、免疫蛍光染色技術を用いて観察した。結果に示されるように、この新規な薬物担持塞栓微小球の大きさで、腫瘍動脈血管を効果的に塞栓でき、抗腫瘍効果が顕著であり、腫瘍血管の密度が顕著に低減した。動物実験によると、この新規な薬物担持塞栓微小球は、腎癌、副腎癌、骨盤における血管に富む各種の腫瘍、顎顔面悪性腫瘍、四肢、脊椎骨盤悪性腫瘍の治療にも用いることができる。新規な薬物担持塞栓微小球は、特定要求の血管塞栓治療に用いられるように正電荷を持つあらゆる薬物を担持でき、薬物の病変組織局所への治療効果を高め、薬物の全身的な毒性・副作用を軽減することができる(図5に示す)。
【0044】
実施例4 ポリ[2-カルボキシアクリル酸]の製造
(1)処方:α-シアノアクリル酸nーブチル 0.9mL
ツイン-80 3.0mL
生理食塩水(pH値2.0) 50mL
製造プロセス:ツイン-80を生理食塩水に溶かし、0.01Nの塩酸でpH値を2.0に調整し、硬質プラスチックローターでの高速分散条件下で、9分間かけてα-シアノアクリル酸nーブチルを徐々に滴下した。氷水中に硬質プラスチック組織分散器で45分間高速分散させ、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、0.01Nの水酸化ナトリウムでpH値を7.8に調整し、一晩静置した。8000rpmで20分間低温遠心分離し、50%エタノールで洗浄して8000rpmで20分間遠心分離する操作を3回繰り返し、沈殿物を収集し、95%エタノールを加え、0.1Nの水酸化ナトリウムで加水分解させ、淡黄色の溶液を得た。ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、0.1Nの塩酸でpH値を7.4に調整し、分画分子量10000の透析袋に入れ、純水に対して透析を行い、透析液を12時間ごとに交換し、凍結乾燥させ、ポリ[2-カルボキシアクリル酸]を得た。
【0045】
(2)処方:α-シアノアクリル酸オクチル 0.9mL
ポリエチレングリコール400モノオレイン酸エステル 6.0mL
50%グルコース(pH値2.0) 50mL
製造プロセス:ポリエチレングリコール400モノオレイン酸エステルを50%グルコースに加え、0.01Nの塩酸でpH値を2.0に調整し、硬質プラスチックローターでの高速分散条件下で、9分間かけてα-シアノアクリル酸オクチルを徐々に滴下した。氷水中に硬質プラスチック組織分散器で5分間分散させ、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、0.01Nの水酸化ナトリウムでpH値を7.8に調整し、分散させ、一晩続けた。8000rpmで40分間低温遠心分離し、純水で洗浄して8000rpmで20分間遠心分離する操作を3回繰り返し、沈殿物を収集し、95%エタノールを適量加え、0.1Nの水酸化ナトリウムで加水分解させ、淡黄色の溶液を得た。ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、0.1Nの塩酸でpH値を7.4に調整し、分画分子量10000の透析袋に入れ、純水に対して透析を行い、透析液を12時間ごとに交換し、凍結乾燥させ、ポリ[2-カルボキシアクリル酸]を得た。
【0046】
(3)処方:α-シアノアクリル酸nーブチル 0.9mL
精製大豆油 2.1mL
ツイン-80 6.0mL
スパン-20 1.2mL
20%グルコース(pH値2.0) 50mL
製造プロセス:ツイン-80およびスパン-20を20%グルコースに加え、0.01Nの塩酸でpH値を2.0に調整した。α-シアノアクリル酸nーブチルを大豆油に加えて流動性良好な溶液を調製し、硬質プラスチックローターでの高速分散条件下で、9分間かけてα-シアノアクリル酸nーブチルの大豆油溶液を徐々に滴下した。氷水中に硬質プラスチック組織分散器で5分間分散させ、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、0.01Nの水酸化ナトリウムでpH値を12に調整し、分散させ、一晩続けた。8000rpmで40分間低温遠心分離し、純水で洗浄して8000rpmで20分間遠心分離する操作を3回繰り返し、沈殿物を収集し、95%エタノールを適量加え、0.1Nの水酸化ナトリウムで加水分解させ、淡黄色の溶液を得た。ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、0.1Nの塩酸でpH値を7.4に調整し、分画分子量10000の透析袋に入れ、純水に対して透析を行い、透析液を12時間ごとに交換し、凍結乾燥させ、ポリ[2-カルボキシアクリル酸]を得た。
【0047】
(4)処方:α-シアノアクリル酸イソブチル 0.9mL
ポロキサマー 6.0mL
5%デキストラン(pH値2.0) 50mL
製造プロセス:ポロキサマーを5%デキストランに加え、0.01Nの塩酸でpH値を2.0に調整し、硬質プラスチックローターでの高速分散条件下で、9分間かけてα-シアノアクリル酸イソブチルを徐々に滴下した。氷水中に硬質プラスチック組織分散器で5分間分散させ、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、0.01Nの水酸化ナトリウムでpH値を7.8に調整し、分散させ、一晩続けた。8000rpmで40分間低温遠心分離し、純水で洗浄して8000rpmで20分間遠心分離する操作を3回繰り返し、沈殿物を収集し、95%エタノールを適量加え、0.1Nの水酸化ナトリウムで加水分解させ、淡黄色の溶液を得た。ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、0.1Nの塩酸でpH値を7.4に調整し、分画分子量10000の透析袋に入れ、純水に対して透析を行い、透析液を12時間ごとに交換し、凍結乾燥させ、ポリ[2-カルボキシアクリル酸]を得た。
【0048】
(5)処方:α-シアノアクリル酸nーブチル 0.9mL
無水エタノール 5.0mL
水(pH値2.0) 50mL
製造プロセス:α-シアノアクリル酸nーブチルを無水エタノールに加えて透明な溶液を得て、硬質プラスチックローターでの高速分散条件下で、9分間かけてα-シアノアクリル酸nーブチルの無水エタノール溶液を徐々に滴下した。氷水中に硬質プラスチック組織分散器で15分間分散させ、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、0.01Nの水酸化ナトリウムでpH値を7.8に調整し、分散させ、一晩続けた。8000rpmで15分間低温遠心分離し、純水で洗浄して8000rpmで15分間遠心分離する操作を3回繰り返し、沈殿物を収集し、95%エタノールを適量加え、0.1Nの水酸化ナトリウムで加水分解させ、淡黄色の溶液を得た。ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、0.1Nの塩酸でpH値を7.4に調整し、分画分子量10000の透析袋に入れ、純水に対して透析を行い、透析液を12時間ごとに交換し、凍結乾燥させ、ポリ[2-カルボキシアクリル酸]を得た。
【0049】
(6)処方:α-シアノアクリル酸メチル 0.9mL
アセトン 5.0mL
水(pH値2.0) 50mL
製造プロセス:α-シアノアクリル酸メチルをアセトンに加えて透明な溶液を得て、硬質プラスチックローターでの高速分散条件下で、9分間かけてα-シアノアクリル酸メチルのアセトン溶液を徐々に滴下した。氷水中に硬質プラスチック組織分散器で15分間分散させ、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、0.01Nの水酸化ナトリウムでpH値を7.8に調整し、分散させ、一晩続けた。8000rpmで15分間低温遠心分離し、純水で洗浄して8000rpmで15分間遠心分離する操作を3回繰り返し、沈殿物を収集し、95%エタノールを適量加え、0.1Nの水酸化ナトリウムで加水分解させ、淡黄色の溶液を得た。ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、0.1Nの塩酸でpH値を7.4に調整し、分画分子量10000の透析袋に入れ、純水に対して透析を行い、透析液を12時間ごとに交換し、凍結乾燥させ、ポリ[2-カルボキシアクリル酸]を得た。
【0050】
(7)処方:α-シアノアクリル酸エチル 0.9mL
アセトニトリル 5.0mL
水(pH値2.0) 50mL
製造プロセス:α-シアノアクリル酸エチルをアセトニトリルに加えて透明な溶液を得て、硬質プラスチックローターでの高速分散条件下で、9分間かけてα-シアノアクリル酸エチルのアセトニトリル溶液を徐々に滴下した。氷水中に硬質プラスチック組織分散器で15分間分散させ、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、0.01Nの水酸化ナトリウムでpH値を7.8に調整し、分散させ、一晩続けた。8000rpmで15分間低温遠心分離し、純水で洗浄して8000rpmで15分間遠心分離する操作を3回繰り返し、沈殿物を収集し、95%エタノールを適量加え、0.1Nの水酸化ナトリウムで加水分解させ、淡黄色の溶液を得た。ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、0.1Nの塩酸でpH値を7.4に調整し、分画分子量10000の透析袋に入れ、純水に対して透析を行い、透析液を12時間ごとに交換し、凍結乾燥させ、ポリ[2-カルボキシアクリル酸]を得た。
【0051】
実施例5 ポリ[2-カルボキシアクリル酸]ナノ薬物担体の製造
(1)処方:ポリ[2-カルボキシアクリル酸] 590mg
アミノポリエチレングリコール2000 2000mg
製造プロセス:磁気攪拌の条件下で、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩[1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide、EDC・HCL]、N-ヒドロキシスクシンイミド(N-Hydroxy succinimide、NHS)を触媒とし、ナノ薬物担体骨架溶液に2gのNH-PEGを加え、ナノ薬物担体骨架を修飾する反応を一晩させた。前記溶液を透析袋に入れ、蒸留水に対して透析を72時間行い、水を12時間ごとに交換することで、分子量が10000未満の不純物を除去し、表面がPEG2000で覆われるナノ薬物担体を得た。pH値を7.4に調整し、ナノ薬物担体を得た。
【0052】
(2)処方:ポリ[2-カルボキシアクリル酸] 590mg
ポリエチレングリコール-ヒドラジド 2000mg
製造プロセス:磁気攪拌の条件下で、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩[1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide、EDC・HCL]、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(N-Hydroxybenzotriazole、HOBT)を触媒とし、ナノ薬物担体骨架溶液に2gのNH-PEGを加え、ナノ薬物担体骨架を修飾する反応を一晩させた。前記溶液を透析袋に入れ、蒸留水に対して透析を72時間行い、水を12時間ごとに交換することで、分子量が10000未満の不純物を除去し、表面がPEG2000で覆われるナノ薬物担体を得た。pH値を7.4に調整し、ナノ薬物担体を得た。
【0053】
(3)処方:水素化レシチン 60mmol
コレステロール 40mmol
PEG2000-DSPE 10mmol
ポリ[2-カルボキシアクリル酸] 0.5%
製造プロセス:前記材料を50mLの無水エタノールに溶かし、ロータリーエバポレーターで無水エタノールを除去し、リポソーム膜を得た。50mLの水を加えて水和した後、200nmのメンブレンフィルターでろ過し、0.001Nの水酸化ナトリウムでpH値を7.4に調整し、ゲル浸透クロマトグラフィーによってリポソーム中に封入されなかったポリ[2-カルボキシアクリル酸]を除去し、ろ過して、正電荷を持つ薬物を自発的に担持できるナノリポソームであるナノ薬物担体を得た。
ポリ[2-カルボキシアクリル酸]ナノ薬物担体の有効性
【0054】
新規なナノ薬物担体は、走査型電子顕微鏡下では、球状な形態、均一な粒子径および均一な分布を有し、Zeta電位が-52.5mVに達した。アドリアマイシンを例にして、マウスS180肉腫動物モデル、C57BL6腫瘍肺転移動物モデルにより、このナノ化アドリアマイシンは、抗腫瘍作用を高めながら(P<0.01)、アドリアマイシンの心臓への毒性を顕著に軽減し、特にアドリアマイシンによる心不全の発生率を顕著に軽減することが実証された。ウサギ肝癌モデルを用いて薬物の有効性を評価したところ、ナノ化アドリアマイシンは、アドリアマイシンに比べて、抗癌作用が顕著に高まった(P<0.01)。新規なナノ薬物担体は、アドリアマイシンを担持した後、表面がポリエチレングリコールで覆われたナノ化アドリアマイシンとなり、体内に入った後、血液中で長期間循環することができ、血管透過性の極めて低い正常組織に入ることが困難であるが、血管透過性の高い腫瘍組織に受動的に蓄積するため、アドリアマイシンの抗腫瘍作用を高め、アドリアマイシンの毒性を軽減することができる。本製品をアドリアマイシン凍結乾燥品に加え、振とうすることで、ナノ化アドリアマイシン薬物を形成することができる。正電荷を持つそのほかの薬物を担持することもできる。新規なナノ薬物担体は、静脈内点滴によって血液に入った後、血管透過性の高い腫瘍組織、感染部位または炎症部位に蓄積するため、抗癌剤、抗菌剤または抗腫瘍剤の有効性を高め、これらの副作用を軽減することができる。体内分布の研究結果によると、新規なナノ脂質薬物担体は、アドリアマイシンの心臓等の正常な組織器官への分布を顕著に軽減し、腫瘍または感染性・炎症性病巣への分布を顕著に高める。結果は図6~8に示す。
【0055】
上記した実施例は、本発明についての例示や説明に過ぎず、意図的に本発明をこれらの実施例の範囲に限定するものではない。また、当業者であれば、本発明は前記実施例に限定されず、本発明の教示に基づいて様々な変更や修正が可能であり、これらの変更や修正がいずれも本発明の保護範囲に含まれると理解すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】