(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-10
(54)【発明の名称】被覆された多孔質構造体を備えた骨インプラント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/38 20060101AFI20221102BHJP
【FI】
A61F2/38
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022515081
(86)(22)【出願日】2020-09-03
(85)【翻訳文提出日】2022-04-14
(86)【国際出願番号】 EP2020074535
(87)【国際公開番号】W WO2021043867
(87)【国際公開日】2021-03-11
(32)【優先日】2019-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522087291
【氏名又は名称】ワルデマール リンク ゲーエムベーハー ウント コー.カーゲー
【氏名又は名称原語表記】WALDEMAR LINK GMBH & CO. KG
【住所又は居所原語表記】Barkhausenweg 10, 22339 Hamburg (DE)
(74)【代理人】
【識別番号】100180781
【氏名又は名称】安達 友和
(74)【代理人】
【識別番号】100182903
【氏名又は名称】福田 武慶
(72)【発明者】
【氏名】リンク,ヘルムート ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ケーニヒ,ニコラス
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA07
4C097BB01
4C097CC03
4C097CC06
4C097DD07
4C097DD08
4C097DD09
4C097FF05
4C097MM03
4C097SC07
(57)【要約】
規則的に配置された複数の単位胞(4)から形成されたオープンセル型多孔質格子構造体(3)を外側領域中に有する本体(2)を備えた骨インプラントであって、この単位胞(4)は、組み立てられた構造体として設計されていて、かつそれぞれ1つの内部空間(40)と、この内部空間(40)を取り囲む複数の相互に結合されたバー(41、42、43、44)とから構築されている。この多孔質格子構造体(3)には、リン酸カルシウムを含む骨成長促進用被覆部(5)が設けられていて、このリン酸カルシウム被覆部(5)は、水酸燐灰石の割合を最大1重量%有し、多孔質格子構造体(3)の深部に達する多孔質の内部被覆部を形成する。このようにして、本発明は被覆部の特殊な変形を作り、これによって、インプラントの表面に比較的容易に塗布でき、よく接着する被覆部という従来優勢であった一般的な考えから脱却することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
規則的に配置された複数の単位胞(4)から形成されたオープンセル型多孔質格子構造体(3)を外側領域中に有する本体(2)を備えた骨インプラントであって、
前記単位胞(4)は、組み立てられた構造体として設計されていて、かつそれぞれ1つの内部空間(40)と、前記内部空間(40)を取り囲む複数の相互に結合されたバー(41、42、43、44)とから構築されていて、
前記多孔質格子構造体(3)には、リン酸カルシウムを含む骨成長促進用被覆部(5)が設けられている骨インプラントにおいて、
前記リン酸カルシウム被覆部(5)は、水酸燐灰石割合を最大1重量%有し、前記多孔質格子構造体(3)の深部に達する多孔質の内部被覆部を形成する
ことを特徴とする、骨インプラント。
【請求項2】
前記リン酸カルシウム被覆部(5)は結晶相を有し、前記結晶相は、ブルシャイトおよびモネタイトを含み、前記結晶相が少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%であり、前記ブルシャイトの割合が65重量%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の骨インプラント。
【請求項3】
前記リン酸カルシウム被覆部(5)のカルシウム/リン酸塩比が、1.0~1.2、好ましくは1.05~1.15の範囲であることを特徴とする、請求項1または2に記載の骨インプラント。
【請求項4】
前記リン酸カルシウム被覆部(5)の平均的な厚さは、前記単位胞(4)の内部空間が相互に結合されたままであるように寸法が定められていて、好ましくは10μm~25μmの間、より好ましくは15μm+/-5μmであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の骨インプラント。
【請求項5】
前記リン酸カルシウム被覆部(5)がテンパリングされていないことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の骨インプラント。
【請求項6】
前記リン酸カルシウム被覆部(5)が、前記単位胞(4)の前記組み立てられた構造体、特にそれらのバー(41、42、43、44)上に全面に塗布され、好ましくは全方向での孔の内部被覆部が形成されていることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の骨インプラント。
【請求項7】
前記単位胞(4)が層状に配置され、複数の層が上下に重なって配置されていて、好ましくはオープンセル型の小柱状の構造として、および/または前記単位胞(4)がウルツ鉱型構造で設計されていることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の骨インプラント。
【請求項8】
前記オープンセル型多孔質格子構造体(3)が、好ましくは電子ビーム溶融(Elektron Beam Melting、EBM)または選択的レーザ溶融(Selective Laser Melting、SLM)を用いて、3D印刷として設計されていることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の骨インプラント。
【請求項9】
前記本体(2)が、前記オープンセル型多孔質格子構造体と同じ材料からなることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の骨インプラント。
【請求項10】
前記本体(2)は、多孔度が前記オープンセル型多孔質格子構造体(3)の多孔度よりも低い支持領域を有し、前記支持領域が好ましくは非中空で設計されていて、および/または、前記支持領域と前記オープンセル型多孔質格子構造体とが一体的に設計されていることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の骨インプラント。
【請求項11】
前記単位胞(4)の前記内部空間(40)がマクロ孔を形成し、前記マクロ孔の幅が、前記被覆部(5)の厚さの少なくとも10倍、好ましくは30倍~200倍であり、および/または前記マクロ孔の幅が0.4mm~2mm、好ましくは0.7mm~1.5mmの範囲であり、かつ前記被覆部(5)の厚さが10μm~20μmであることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の骨インプラント。
【請求項12】
規則的に配置された複数の単位胞から形成されたオープンセル型多孔質格子構造体を外側領域中に有する本体を備えた被覆された骨インプラントの製造方法であって、以下の工程を含み、すなわち、
前記規則的に配置された単位胞を、それぞれ1つの内部空間と、前記内部空間を取り囲む複数の相互に結合されたバーとからなる組み立てられた構造体として、かつ複数の前記内部空間が相互に結合されているように構築する工程と、
リン酸カルシウムを含む骨成長促進用被覆部で前記多孔質格子構造体を被覆する工程と
を含む方法において、
前記被覆部が水酸燐灰石の割合を最大1重量%有し、多孔質内部被覆部として、前記多孔質格子構造体の深部にまで塗布されることを特徴とする、方法。
【請求項13】
前記被覆部は結晶相を有し、前記結晶相は、ブルシャイトおよびモネタイトを含み、前記結晶相が、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%であり、前記ブルシャイトの割合が65重量%以上であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記被覆部を、好ましくは電気化学的方法を用いて、沈殿物として前記多孔質格子構造体上の全面に塗布することを特徴とする、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記電気化学的方法のために、最初のピーク電流の後に低い作動電流に戻る電流曲線による電流を使用することを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸カルシウムを含む骨成長促進用被覆部が設けられたオープンセル型多孔質格子構造体を外側領域中に有する本体を備えた骨インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
インプラント、特に骨内または骨上に埋め込まれうる体内プロテーゼおよび増強部では、インプラントと骨との間の生理的に好都合で安定した結合が特に重要である。さらに、患者が再び迅速に動作できるようになるために、できるだけ速く結合が作られることが望まれる。この目的のため、インプラントに骨成長促進用の被覆部を設けることが知られている。これにより、骨細胞の成長が促進され、したがって、骨内または骨上でのインプラントの内殖が加速される。この際、被覆を平滑な表面上に行うか、または構造化された表面上に行うかは基本的に重要ではない。どちらの場合でも、その目的は達成される。
【0003】
被覆部については様々な材料が知られている。これらに共通しているのは、生理活性があり、特に骨の成長を促進する特性を有する点である。材料によって、例えばプラズマ溶射、スパッタリングまたは浸漬浴など、さまざまな方法で塗布することができる。1990年代からすでに知られている、骨の成長を促進するのに好都合な特性を有する材料に、リン酸カルシウム(CaP)がある。インプラント分野において特に薄くて可溶性の被覆部の臨床応用のためには、このリン酸カルシウムが定着している。
【0004】
最近では、付加的方法(例えば、3D印刷技術)により製造されたインプラントが知られるようになっているが、これにより、規則的なマクロ多孔質の構造体を生成しうる。これは当業者の間では小柱構造体とも呼ばれている。これは、もともと好都合な内殖挙動をすでに有する。この構造体は、公知のリン酸カルシウムでの被覆部では限定的にしか利することがない。カルシウムとリン酸塩との比率が1.1であるリン酸カルシウムを被覆部として使用し、ブルシャイトの割合が少なくとも70%、水酸燐灰石の割合が30%までである特殊な形態が公知である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、冒頭で挙げた様式の骨インプラントであって内殖挙動が改善された骨プラントを作るという点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による解決策は、独立請求項の特徴中にある。有利なさらなる構成は、従属請求項の対象物である。
【0007】
規則的に配置された複数の単位胞から形成されたオープンセル型多孔質格子構造体を外側領域中に有する本体を備えた骨インプラントであって、これらの単位胞は、組み立てられた構造体として設計されていて、かつそれぞれ1つの内部空間と、この内部空間を取り囲む複数の相互に結合されたバーとから構築されていて、この多孔質格子構造体には、リン酸カルシウムを含む骨成長促進用被覆部が設けられている骨インプラントにおいて、本発明によれば、リン酸カルシウム被覆部は、水酸燐灰石割合を最大1重量%、好ましくは1重量%より少なく有し、多孔質格子構造体の深部に達する多孔質の内部被覆部を形成するように設けられている。
【0008】
以下に、まず使用されているいくつかの概念を説明する。
【0009】
「オープンセル型」多孔質格子構造体とは、孔が別々に存在しているのではなく、個々の孔が相互に結合されていることを意味すると理解される。その結果、全体としてオープンセルの構造となり、個々のセル中に孔が形成されている。
【0010】
「組み立てられた構造体」とは、この構造体が付加製造されていることであると理解される。ここでは、付加製造の様々な方法が考慮される。特に、例えば電子ビーム溶融や選択的レーザ溶融などの3D印刷方法が適している。
【0011】
多孔質格子構造体の深部にまで達するとは、ここでは、孔の内部被覆部が、表面にある孔内に達するだけでなく、材料のより深い(すなわち表面から離れた)ところにある孔、特に材料内で表面からいくつかの(孔の)層だけ離れたところにある孔にも達することであると理解される。
【0012】
「ウルツ鉱構造」とは、ウルツ鉱結晶形状を模範として形成された構造であると理解される(ダイヤモンド構造が、ダイヤモンド結晶形状を模範とする構造であると理解されることと同様である)。
【0013】
本発明の核心となる考えは、それ自身は公知であるリン酸カルシウム被覆部を修正・改良して、実質的には水酸燐灰石を含まない(最大1重量%、または好ましくは1重量%未満)ようにするという点である。従来技術から公知のリン酸カルシウム被覆部は、典型的には水酸燐灰石の割合がたっぷり20重量%以上あり、これは、冒頭で述べた特別な形態と同様である。本発明では、被覆部用のリン酸カルシウム中に実質的には水酸燐灰石をもはや含有しないことによって、本発明が認識しているように、より高い可溶性を達成することができる。本発明では、この利点を利用して、第2段階で、単位胞によって作られた空洞を通って、その深部にも被覆部を設け、これにより高い可溶性をより大規模に利用できるようになる。
【0014】
このようにして、本発明は被覆部の特殊な変形を作り、その結果、インプラントの表面に比較的容易に塗布できかつ良好に接着する被覆部という従来優勢であった考えから脱却する。本発明は、水酸燐灰石の含有量が極めて少ないか、またはこれがないことにより、通常インプラント被覆部に用いられるリン酸カルシウム材料自身が有する良好な接着性をあきらめている。一見、これは不合理に思えるかもしれないが、本発明は、接着強度の低下という見かけ上の欠点から、決定的な利点を実現できることを認識した。すなわち、それ自身は接着性の低いこのリン酸カルシウムは、オープンセル型構造体のより深くに入れることができ、これによってオープンセル型構造体の深部でも骨の成長を促進する特性を利用できる可能性が開かれる。その結果、驚くべきことに、インプラント中への骨細胞の内殖がより迅速になり、それも長期的に良好な作用も損なわれないという、著しく良い効果が得られる。この点は従来技術では前例がない。
【0015】
好ましくは、リン酸カルシウム被覆部は、ブルシャイトおよびモネタイトを含む結晶相を有するように作られている。この複合結晶相が、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%ある。本発明によれば水酸燐灰石の割合が極めて少ないので、ブルシャイト/モネタイトの複合結晶相の割合が非常に高くなりえ、99%以上となることさえあり得る。この際、好ましくは、ブルシャイトの割合が65重量%以上であるように設けられている。モネタイトの割合に下限はない。ブルシャイトは骨インプラントを受容する生体によってよりよく分解されるため、特にブルシャイトの含有量の最小値をこのようにすることで最適な可溶性を確保し、したがって骨内殖効果を確保することができる。
【0016】
合目的な場合、リン酸カルシウム被覆部の平均的な厚さは、単位胞の内部空間が相互に結合されたままであるように寸法が定められていて、好ましくは10μm~25μmの間、より好ましくは15μm+/-5μmである。したがって、被覆部があっても、オープンセル型構造体が維持されているため、骨芽細胞の単位胞内への侵入が促進される。これにより、骨統合挙動が改善される。
【0017】
さらに、リン酸カルシウム被覆部のカルシウム/リン酸塩の比が、1.0~1.2、好ましくは1.05~1.15の範囲である。(従来技術で通常である比率は約1.6であることと比較すると)リン酸塩の含有量がより多いため、可溶性がより高くなり、これによっても、特に構造体の深部への被覆と相まって、骨内殖挙動を促進する。さらに好ましくは、リン酸カルシウム被覆部は、ブルシャイト相を少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%(および、場合によっては100重量%まで)有する。この比率では、リン酸カルシウム中での高いブルシャイトの割合を実現でき、水酸燐灰石が最小限または全く含まれない場合に、上記の有利な効果を得ることができる。特に、リン酸カルシウムの被覆部が、単位胞の組み立てられた構造体上、特にそのバー上の全面に塗布されていることが達成され得る。特に、複雑な構造またはアンダーカット構造を有する孔の場合でも、リン酸カルシウム被覆部による孔の全方向(全周)の内張りを形成することができる。
【0018】
さらに合目的には、このリン酸カルシウム被覆部がテンパリングされずに設けられている。これにより、一方では、製造が簡単になり、他方では、テンパリングによって生じうるような、ブルシャイトの割合の望ましくない減少を回避できるという利点がある。
【0019】
有利な場合には、単位胞は、層状に配置されていて、この場合、複数の層が上下に重なって配置されていて、好ましくはオープンセル型の小柱構造体として配置されている。これにより、深部にまで届くオープンセル型構造体を作ることができ、これにより、骨統合によるより深い内殖が可能になる。この際、リン酸カルシウム被覆部が、より深い層内にも、好ましくはすべての層内にも塗布される場合に合目的である。ここで、より深い層とは、直接表面にあるのではなく、材料内のより深いところにある層であると理解される。これにより、インプラントと周囲の骨との結合をさらに改善させることができる。これにより、短期的な固定性と長期的な固定性とを促進することができる。
【0020】
合目的には、オープンセル型多孔質格子構造体が、3D印刷として、好ましくは電子ビーム溶融(Elektron Beam Melting、EBM)または選択的レーザ溶融(Selective Laser Melting、SLM)を用いて設計されている。このようにして、部品、それも複雑で多数のアンダーカットおよび空洞を備えた構造を有する部品を、金属材料から、迅速かつ制御された方法で合理的に製造することができる。この際、単位胞の構造を正確に規定することができる。これにより、単位胞およびこれを構成する要素、特にこれのバーの配置を規定することができる。特に、これらの方法は、生体適合性材料、特に金属材料(純チタン、チタン合金、コバルトクロム、タンタル、ステンレス鋼およびジルコニウムからなる群から選択される材料)、好ましくはチタン等級2または4からインプラントを製造するのに適している。
【0021】
有利な場合、本体が、オープンセル型多孔質格子構造体と同じ材料からなる。これにより、本体にも同じ安価で生体適合性のある材料を使用することができる。さらにこれにより、オープンセル型多孔質構造体と実際の本体との間を、シームレスに、場合によっては無段階に移行させることができる。さらに、これにより、より合理的な製造が可能になる。とりわけ、本体が支持を行う領域(支持領域)を有する場合にも、この点が該当する。合目的な場合、この領域も同様にある程度の多孔度を有することができるが、この多孔度は、典型的にはオープンセル格子構造体とは異なり、好ましくは、多孔度はより低い。支持部が非空洞材料で作られる場合、特に合目的である。これにより、機械的強度がより高くなるだけでなく、これにより隔壁の意味合いでの遮蔽作用も達成することができ、例えば、内側領域と外側領域とを境界づけ、または骨セメントおよび/または体液などの物質の通過を防ぐことができる。
【0022】
特に合目的であるのは、支持部をオープンセル型多孔質構造体と一体的に設計できる場合である。これにより、特に、合理的な製造と無段階での移行とが可能になる。特に後者は、周辺組織からの刺激が少ないという利点を提供し、その結果、内殖挙動がさらに良好になる。
【0023】
好ましくは、単位胞はウルツ鉱構造で設計されている。これは、公知のダイヤモンド構造とは異なり、ダイヤモンド構造は空間の3次元すべてで同じ剛性を有するのに対し、ウルツ鉱構造は空間方向で異なる剛性を有する。これにより、ウルツ鉱構造を用いて解剖学的状況への剛性挙動の適合性がより良くなり、結果的にインプラントの生体適合性が向上する。
【0024】
有利な場合、単位胞はマクロ多孔質を有するように設計されている。これは特に、その内部空間がマクロ孔を形成することであると理解され、マクロ孔の幅は0.4mm~2mmの範囲であり、好ましくは0.7mm~1.5mmである。この際、多孔質構造体の深部は、少なくとも2層の単位胞が上下に重なり合うように選ぶ場合に合目的である。この種のマクロ多孔質のオープンセル型構造体は、結合された大きな自由空間により、骨がリンクされて内殖するのに特に好都合な条件を提供する。
【0025】
好ましくは、単位胞によって形成された孔を比較的大きく設計するのとは対照的に、被覆部は比較的薄く設計されている。被覆部の厚さが10μm~20μmのみである場合に合目的である。このように被覆部を薄くすることで、単位胞によって形成されたマクロ孔の内張りを達成することができ、それも、多孔度、特にオープンセル型構造(すなわち個々の自由空間の間の結合)が問題なく得られ続けるようになる。これは、骨の内殖挙動の点で、それも骨誘導にとっても骨伝導にとっても特に好都合である。一方では単位胞の自由空間の幅と、他方では被覆部の厚さとの間の比率は、自由空間の幅が被覆部の厚さの少なくとも10倍、好ましくは30~200倍となるように選択される場合に合目的である。
【0026】
本発明は、さらに、規則的に配置された複数の単位胞から形成されたオープンセル型多孔質格子構造体を外側領域中に有する本体を備えた相応に被覆された骨インプラントの製造方法にも関連し、これは以下の工程を含み、すなわち、規則的に配置された単位胞を、それぞれ1つの内部空間と、この内部空間を取り囲む複数の相互に結合されたバーとからなる組み立てられた構造体として、かつ(複数の)内部空間が相互に結合されているように構築する工程と、リン酸カルシウムを含む骨成長促進用被覆部で多孔質格子構造体を被覆する工程とを含み、本発明によれば、被覆時に、被覆部が水酸燐灰石の割合を最大1重量%有し、多孔質の内部被覆部として、この被覆部を多孔質格子構造体の深部にまで塗布する。合目的には、被覆部は結晶相を有し、この結晶相は、ブルシャイトおよびモネタイトを含み、この結晶相が、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%であり、ブルシャイトの割合が65重量%以上であるように被覆が実施される。より詳細な説明については、上の記載を参照されたい。
【0027】
好ましくは、被覆部を、好ましくは電気化学的方法を用いて、沈殿物として多孔質格子構造体上の全面に塗布する。これによって、全方向で孔の内部被覆を達成し、すなわち孔を、骨成長促進用被覆部で内張りを達成することができる。有利な場合、電気化学的方法のために、最初のピーク電流の後に低い作動電流に戻る電流曲線による電流を使用する。本発明は、このように電流が減少することにより、リン酸カルシウムのブルシャイト/モネタイトの複合結晶相の、単位胞の構造体要素上への沈殿反応の改善、それも特に構造体の深部における沈殿反応の改善につながることを認識している。さらに、これによって、均一な薄膜被覆部を確実に実現することができる。
【0028】
さらに、好ましくは、電気化学的処理の後、これに続くテンパリングがない。これによって、望ましくない結晶変化を回避することができ、その結果、リン酸カルシウムのブルシャイト相が引き続き所望の高い割合を維持し続ける。
【0029】
これ以外の、さらなる有利な設計およびより詳細な説明については、上記のインプラントについての説明を参照されたく、この説明は、方法についても相応に該当する。
【0030】
要約すると、本発明による被覆部は、試験で実証されたように、改善された骨の内殖を達成することができる。
【0031】
以下、本発明を有利な実施形態に基づいて添付図面を参照しながらより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明のインプラントのある実施形態の図である。
【
図2】
図1によるインプラントの多孔質構造体の単位胞の詳細図である。
【
図3】単位胞とこれを形成する要素との概略図である。
【
図4】aおよびbは、多孔質構造の直交する2方向の断面図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る増強部を示す図である。
【
図6】aおよびbは、
図5による増強部の概略側面図および概略正面図である。
【
図8】本発明による電気化学的被覆における電流の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明によるインプラントの第1実施例を
図1に示す。この図中、これは、膝関節用体内プロテーゼ(不図示)の脛骨コンポーネント用の円錐部1である。
【0034】
円錐部1は、脛骨近位端で欠損した骨材の代わりを形成し、これにより欠損した骨材がないために生じた空洞を埋める。これにより、膝関節用体内プロテーゼの脛骨コンポーネントを確実に配置可能にするための完全な土台が作られる。この目的のために、円錐部1は、オープンセル型多孔質格子構造体を用いて製造され、これには骨材料の付着または内殖を改善するために、本発明による被覆部が施される。ここでは、オープンセル型多孔質格子構造体3を本体2上に載せている。
【0035】
特に、このオープンセル型多孔質格子構造体3を円錐部1の外側に配置したおかげで、周囲の脛骨の骨材(図示せず)の良好な内殖挙動を達成でき、その結果、円錐部1を脛骨内に迅速かつ確実に固定することができる。
【0036】
多孔質構造体3は、規則的に配置された複数の単位胞4によって形成されている。ある単位胞4と、この単位胞4の周囲の単位胞への統合との詳細図を
図2に示す。単位胞4は内部空間40を有し、この内部空間40は、隣接する単位胞4’の内部空間40’と結合している。単位胞は、層平面49に沿って規則的に配置されている。有利な場合には、複数の層平面が上下に重なって配置されている。
【0037】
特に
図4a、
図4bの側面図からは、単位胞の規則的な配置が十分に明らかである。これらは、層平面49を規定する2本の直交軸(
図3の軸x、y参照)に沿った等角図である。双方の方向において、特に内部空間40の幾何学形状に対して異なる断面図が生じることが認識できる。これは、使用した結晶構造すなわち、ウルツ鉱構造の特殊な特性である。このようにして形成されたオープンセル型多孔質格子構造体は、空間の異なる方向で圧縮剛性が異なるように機能し、骨の解剖学的挙動への適応という点で有利である。さらに、ここで、隣り合う内部空間40が相互に結合していて、その結果、内部空間40を有する単位胞4によって形成されるマクロ孔は、相互にオープンセルとして結合している(いわゆる「内部結合(inter-connected)孔」を形成していることが認識できる。
【0038】
単位胞4の実際の構造を、
図3に概略的に示す。この図示した実施形態では、単位胞4は基本要素45から形成されており、その各々がテトラポッドとして設計されている。他の基本要素もテトラポッドとして設けられうることが理解される。これらのテトラポッドのそれぞれは、バーとして設計された4本の脚41,42,43,44を有し、これらの脚は、それぞれ一端で相互に結合され、ノードを形成している。テトラポッドは、脚の長さが均一でも、異なっても、規則的に形成されていても、不規則的に形成されていてもよい。図示したのは、脚の長さが等しく、各脚が他の脚と同じ角度を形成する規則的な実施形態である。テトラポッドを平面的に積層配置している場合、3本の脚41,42,43はそれぞれ平面上に起立して配置されているのに対して、第4の脚44はこの平面に対して垂直の方向を向いている。したがって、この第4の脚は、これの上層の方にある層平面のテトラポッドとの結合点となる(
図3参照)。
【0039】
オープンセル型多孔質構造体の深さは、積層の数の選択によって制御することができる。これにより、例えば、3つまたは4つまたは5つの上下に重なる層を設けうるが(
図4a、
図4b参照)、典型的には少なくとも2つの上下に重なる層が設けられている。オープンセル型多孔質構造体に使用される材料は、好ましくは、チタン合金または純チタンである。
【0040】
第2実施形態を
図5、
図6に示す。
図5は、写真による図である。骨欠損を充填するにも、または必要に応じて隣接する骨要素、特に椎体を融合する目的のためにも、一例として使用可能である円筒形の増強部1’を図示している。これは、実質的にスリーブとして形成された本体2’を有し、この本体は、概して円筒形の幾何学形状を有する。本体2’は、その外被面上にオープンセル型多孔質格子構造体3’を備えている。特に
図6a、
図6bの概略図中で十分認識できるように、この格子構造体は、これらの相互に結合された内部空間40を備えた単位胞4から形成されており、これらの単位胞4も、基本要素45としてテトラポッドからなる。
【0041】
特に
図5の写真による図から十分分かるように、単位胞4によって形成されたオープンセル型多孔質格子構造体3’には、この図中ではやや粗く作用する被覆部5が設けられている。この被覆部5は、オープンセル型多孔質格子構造体3’の表面全体上にも、本体2’の両端領域上にも塗布され、さらに構造体3’の深部中でも単位胞4の内部空間40内に塗布されている。
【0042】
円筒状のスリーブ状の本体2’の長さおよび幅の例示的な寸法はそれぞれ、長さが12mm、幅としての直径が6mmである。ここで、オープンセル型多孔質構造体3’を形成する単位胞4の内部空間40は、幅が約700μmであり、オープンセル型多孔質構造体3’の深さは約2000μmにわたって伸張している。その結果、単位胞4から見ると、単位胞4の3層分弱の深さとなる。
【0043】
被覆部5は、ブルシャイトとモネタイトとの複合結晶相を95重量%の割合で有し、この際、ブルシャイトの割合が少なくとも65重量%である。さらに、この被覆部5は、単位胞4をその空洞部と共に完全に内張りし、それも最上層中だけでなく、その下にある層中においても完全に内張りする。
【0044】
その結果、本発明によれば、骨統合および骨伝導の枠組みで、骨材料の内殖が著しく改善される。同じ設計のオープンセル型多孔質構造体を有するが、本発明による被覆部5を有さない比較例のインプラントを用いた比較試験の結果を、
図7に示す。この図では、定量的な組織学的解析を示し、2つの異なる区域(ROI1およびROI2)について骨/インプラントの接触率を、Y軸に沿って、パーセンテージで示している。左の2対の縦棒は比較対象インプラント(「C1」)を表し、右の2対の縦棒は、本発明によるインプラント(「T」)の試験結果を表している。各対の左側の縦棒は短期的な内殖挙動(4週間後に測定)を、各対の右側の縦棒は長期的な内殖挙動(26週間後に測定)を示している。本発明によるインプラント(「T」)では、4週間後に既に優れた骨材料の内殖が達成されているのに対し、比較例では、そのたっぷり6倍の時間、すなわち26週間後にのみ初めて同様の値が達成されていることが明確に分かる。これは、本発明による被覆部の骨の成長を促進する特性を印象的に実証している。
【0045】
合目的には被覆部には電気化学的な方法が使用される。電気化学的な被覆における電流の推移を
図8に示す。
【0046】
最初に高いピーク電流を設定し、その後、より低い動作電流に下がることがわかる。この電流パターンでは、リン酸カルシウムの特に良好で、薄く均一な被覆に特に適した沈殿反応を達成され、これは、複合ブルシャイト/モネタイト相がたっぷり95%の高い割合を有して生じる。
【国際調査報告】