(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-10
(54)【発明の名称】TFEBの活性化により網膜色素上皮細胞のリソソーム機能を回復する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20221102BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20221102BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221102BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20221102BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20221102BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221102BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20221102BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20221102BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K14/47 ZNA
C12N15/63 Z
A61P27/02
A61K31/7088
A61K48/00
A61K38/17
A61K35/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022515135
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(85)【翻訳文提出日】2022-04-27
(86)【国際出願番号】 US2020021540
(87)【国際公開番号】W WO2021050102
(87)【国際公開日】2021-03-18
(32)【優先日】2019-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500091313
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オヴ ピッツバーグ オヴ ザ コモンウェルス システム オヴ ハイアー エデュケーション
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】シンハ、デバシシュ
(72)【発明者】
【氏名】バーン、レア キャロライン トマス
(72)【発明者】
【氏名】ステピチェワ、ナデズダ アナトレナ
(72)【発明者】
【氏名】ゴーシュ、サヤン
(72)【発明者】
【氏名】ホース、ステイシー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084CA18
4C084DC50
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZA33
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZA33
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZA33
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
網膜色素上皮(RPE)細胞のリソソーム機能の回復をさせる方法、及び被験体における加齢黄斑変性症(AMD)、スターガルト病の網膜黄斑変性症、神経変性疾患、又は糖尿病性網膜症の予防及び/又は治療をする方法が提供される。該方法は、それを必要とする被験体に、(i)構成的に活性のある形態の転写因子EB(TFEB)を含むポリペプチドをコードする核酸、又は(ii)該ポリペプチドを投与することを含む。関連するポリペプチド、核酸、ベクター、及びそれらの組成物も提供される。
【選択図】
図7-2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
網膜色素上皮(RPE)細胞のリソソーム機能の回復をさせる方法であって、それを必要とする被験体に、(i)構成的に活性のある形態の転写因子EB(TFEB)を含むポリペプチドをコードする核酸又は(ii)該ポリペプチドを投与することを含む、方法。
【請求項2】
被験体が加齢黄斑変性症(AMD)であるか、又はAMDを発症するリスクがある、請求項1の方法。
【請求項3】
AMDが萎縮型AMDであり、場合により萎縮型AMDが地図状萎縮を含む、請求項2の方法。
【請求項4】
AMDが滲出型AMDである、請求項2の方法。
【請求項5】
被験体がスターガルト病の網膜黄斑変性症であるか、又はスターガルト病の網膜黄斑変性症を発症するリスクがある、請求項1の方法。
【請求項6】
被験体が神経変性疾患であるか、又は神経変性疾患を発症するリスクがある、請求項1の方法。
【請求項7】
神経変性疾患がアルツハイマー病又はパーキンソン病である、請求項6の方法。
【請求項8】
被験体が糖尿病性網膜症(DR)であるか、又はDRを発症するリスクがある、請求項1の方法。
【請求項9】
被験体における加齢黄斑変性症(AMD)、スターガルト病の網膜黄斑変性症、神経変性疾患、又は糖尿病性網膜症の予防及び/又は治療をする方法であって、該被験体に、(i)構成的に活性のある形態の転写因子EB(TFEB)を含むポリペプチドをコードする核酸又は(ii)該ポリペプチドを投与することを含む、方法。
【請求項10】
AMDが萎縮型AMDであり、場合により萎縮型AMDが地図状萎縮を含む、請求項9の方法。
【請求項11】
AMDが滲出型AMDである、請求項9の方法。
【請求項12】
神経変性疾患がアルツハイマー病又はパーキンソン病である、請求項9の方法。
【請求項13】
核酸がhVMD2プロモーターを更に含む、請求項1の方法。
【請求項14】
核酸がベクター中に含まれる、請求項1の方法。
【請求項15】
ベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項14の方法。
【請求項16】
AAVベクターがAAV2である、請求項15の方法。
【請求項17】
ポリペプチドが、配列番号1の138位、142位、211位、455位、462位、463位、466位、467位、及び469位のうちの1以上において、独立して、セリンが別のアミノ酸で置換されている以外は、配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項1の方法。
【請求項18】
配列番号1の138位において、セリンがアラニンで置換されている、請求項17の方法。
【請求項19】
配列番号1の142位において、セリンがアラニンで置換されている、請求項17の方法。
【請求項20】
配列番号1の211位において、セリンがアラニンで置換されている、請求項17の方法。
【請求項21】
配列番号1の455位において、セリンがアラニンで置換されている、請求項17の方法。
【請求項22】
配列番号1の462位において、セリンがアスパラギン酸で置換されている、請求項17の方法。
【請求項23】
配列番号1の463位において、セリンがアスパラギン酸で置換されている、請求項17の方法。
【請求項24】
配列番号1の466位において、セリンがアスパラギン酸で置換されている、請求項17の方法。
【請求項25】
配列番号1の467位において、セリンがアラニンで置換されている、請求項17の方法。
【請求項26】
配列番号1の469位において、セリンがアスパラギン酸で置換されている、請求項17の方法。
【請求項27】
被験体がヒトである、請求項1の方法。
【請求項28】
核酸、ポリペプチド、又は該核酸を含むベクターが、網膜下注射、硝子体内注射、又は局所投与によって投与される、請求項1の方法。
【請求項29】
配列番号1の138位、142位、及び211位のうちの各1において、セリンがそれぞれアラニンで置換されている以外は、配列番号1のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド。
【請求項30】
配列番号1の455位において、セリンがアラニンで置換されており、場合により、配列番号1の211位において、セリンがアラニンで置換されている以外は、配列番号1のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド。
【請求項31】
配列番号1の462位、463位、466位、及び469位のうちの各1において、セリンがそれぞれアスパラギン酸で置換されており、且つ配列番号1の467位において、セリンがアラニンで置換されている以外は、配列番号1のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド。
【請求項32】
請求項29のポリペプチドをコードする核酸。
【請求項33】
請求項32の核酸を含むベクター。
【請求項34】
(a)医薬的に許容される担体及び(b)請求項29のポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸、又は該核酸を含むベクターを含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、2019年9月9日に出願された米国仮特許出願番号第62/897,800号(参照により組込まれる)の利益を主張する。
【0002】
配列表
本明細書と同時に提出されるヌクレオチド/アミノ酸の配列表は、参照により、その全体が本明細書に組込まれる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
加齢黄斑変性症(AMD)は、世界の高齢者の失明の主な原因である。世界中でAMDを患っている人の数は、2020年には1億9600万人であり、2040年には2億8800万人に増えると推定されている。1500万人超のアメリカ人がAMDに罹患しており、治療費は3500億ドルを超えている。最新のデータによると、2020年までに米国において更に300万人超の人々がこの疾患と診断されることが示唆される。
【0004】
患者の大多数は、萎縮型(ドライ型)AMDに罹患している。しかし、病気の絶え間ない進行のために、10年以内に進行疾患が発症する。ドライ型AMDの負担は、「団塊の世代」が年をとるにつれて増大している。罹患者集団のこの増大にもかかわらず、ドライ型AMDのための決定的治療又は予防は、(中等度のAMDのためのAREDS II製剤を除いて)現在可能になってはいない。この病気の患者の約80~90%が、ドライ型のAMDに罹患する。その原因は不明で、通常は滲出型よりも進行が緩徐である。
【0005】
現在、AVASTIN(商標)(ベバシズマブ(bevacizumab))、LUCNETIS(商標)(ラニビズマブ(ranibizumab)注射)、及びEYLEA(商標)(アフリベルセプト(aflibercept))等の、滲出型AMDに罹患している患者に利用可能な抗VEGF療法がある。しかし、治療法(毎月注射が必要)は非常に高価であり、長期的には機能せず、すべての患者を救うわけではない。
【0006】
萎縮型AMDの患者数が多いため、視力が失われる前の段階で初期の疾患を標的とする新規の治療が望まれている。
【発明の概要】
【0007】
発明の要旨
本発明は、網膜色素上皮(RPE)細胞のリソソーム機能の回復をさせる方法であって、それを必要とする被験体に、(i)構成的に活性のある形態の転写因子EB(TFEB)を含むポリペプチドをコードする核酸又は(ii)該ポリペプチドを投与することを含む、方法を提供する。該核酸は、ベクター(例、AAVベクター)中に含まれ得る。
【0008】
被験体(例、ヒト)は、加齢黄斑変性症(AMD)であり得るか、又はAMDを発症するリスクがあり得、AMDは、滲出型AMD又は地図状萎縮を含み得る萎縮型(ドライ型)AMDであり得る。被験体は、スターガルト病の網膜黄斑変性症であり得るか、又はスターガルト病の網膜黄斑変性症を発症するリスクがあり得る。被験体は、アルツハイマー病又はパーキンソン病等の神経変性疾患であり得るか、又は神経変性疾患を発症するリスクがあり得る。代替的又は追加的に、被験体は糖尿病性網膜症(DR)であり得るか、又はDRを発症するリスクがあり得る。
【0009】
従って、本発明は、被験体におけるAMD、スターガルト病の網膜黄斑変性症、神経変性疾患、又は糖尿病性網膜症の予防及び/又は治療をする方法であって、該被験体に、(i)構成的に活性のある形態の転写因子EB(TFEB)を含むポリペプチドをコードする核酸又は(ii)該ポリペプチドを投与することを含む、方法を提供する。該核酸は、ベクター(例、AAVベクター)中に含まれ得る。
【0010】
ポリペプチドは、配列番号1の138位、142位、211位、455位、462位、463位、466位、467位、及び469位のうちの1以上において、独立して、セリンが別のアミノ酸で置換されている以外は、配列番号1のアミノ酸配列を含み得る。特に、
(i)配列番号1の138位において、セリンがアラニンで置換され得、及び/又は
(ii)配列番号1の142位において、セリンがアラニンで置換され得、及び/又は
(iii)配列番号1の211位において、セリンがアラニンで置換され得、及び/又は
(iv)配列番号1の455位において、セリンがアラニンで置換され得、及び/又は
(v)配列番号1の462位において、セリンがアスパラギン酸で置換され得、及び/又は
(vi)配列番号1の463位において、セリンがアスパラギン酸で置換され得、及び/又は
(vii)配列番号1の466位において、セリンがアスパラギン酸で置換され、及び/又は
(viii)配列番号1の467位において、セリンがアラニンで置換され、及び/又は
(ix)配列番号1の469位において、セリンがアスパラギン酸で置換される。
【0011】
一実施形態においては、ポリペプチドは、配列番号1の138位、142位、及び211位のうちの各1において、セリンがそれぞれアラニンで置換されている以外は、配列番号1のアミノ酸配列を含み得る。
【0012】
別の実施形態において、ポリペプチドは、配列番号1の455位において、セリンがアラニンで置換されており、場合により、配列番号1の211位において、セリンがアラニンで置換されている以外は、配列番号1のアミノ酸配列を含み得る。
【0013】
更なる実施形態においては、ポリペプチドは、配列番号1の462位、463位、466位、及び469位のうちの各1において、セリンがそれぞれアスパラギン酸で置換されており、且つ配列番号1の467位において、セリンがアラニンで置換されている以外は、配列番号1のアミノ酸配列を含み得る。
【0014】
本発明は、(a)医薬的に許容される担体及び(b)該ポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸、又は該核酸を含むベクターも提供する。
【0015】
本発明は更に、(i)構成的に活性のある形態のTFEBを含むポリペプチドをコードする核酸、又は(ii)該ポリペプチドを含む、AMD(例、萎縮型AMD若しくは滲出型AMD)、スターガルト病の網膜黄斑変性症、神経変性疾患(例、アルツハイマー病若しくはパーキンソン病)、又は糖尿病性網膜症の予防及び/又は治療をするための医薬組成物に関する。
【0016】
本発明は、AMD(例、萎縮型AMD若しくは滲出型AMD)、スターガルト病の網膜黄斑変性症、神経変性疾患(例、アルツハイマー病若しくはパーキンソン病)、又は糖尿病性網膜症の予防及び/又は治療をするための医薬組成物の製造のための、(i)構成的に活性のある形態のTFEBを含むポリペプチドをコードする核酸、又は(ii)該ポリペプチドの使用に関する。
【0017】
本発明は、AMD(例、萎縮型AMD若しくは滲出型AMD)、スターガルト病の網膜黄斑変性症、神経変性疾患(例、アルツハイマー病若しくはパーキンソン病)、又は糖尿病性網膜症の予防及び/又は治療をするための、(i)構成的に活性のある形態のTFEBを含むポリペプチドをコードする核酸、又は(ii)該ポリペプチドの使用に関する。
【0018】
本発明は、AMD(例、萎縮型AMD若しくは滲出型AMD)スターガルト病の網膜黄斑変性症、神経変性疾患(例、アルツハイマー病若しくはパーキンソン病)、又は糖尿病性網膜症の予防及び/又は治療における使用のための(i)構成的に活性のある形態のTFEBを含むポリペプチドをコードする核酸、又は(ii)該ポリペプチドにも関する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図面のいくつかの観点の簡単な説明
【
図1-1】
図1A~1Cは、78歳の男性コントロール(
図1A)及び84歳の萎縮型AMDの男性(
図1B)のRPE/脈絡膜におけるTFEB免疫標識を示す。コントロール眼においては、強いTFEB免疫反応性は、RPE核(矢印)において顕著であるが、グラフ(
図1C)に示す通り、(
図1B)におけるAMD眼のRPE核(アスタリスク)には存在しない。注:(B)においてはRPEは多層。バー=20μm;*P<0.05。
【
図1-2】
図1A~1Cは、78歳の男性コントロール(
図1A)及び84歳の萎縮型AMDの男性(
図1B)のRPE/脈絡膜におけるTFEB免疫標識を示す。コントロール眼においては、強いTFEB免疫反応性は、RPE核(矢印)において顕著であるが、グラフ(
図1C)に示す通り、(
図1B)におけるAMD眼のRPE核(アスタリスク)には存在しない。注:(B)においてはRPEは多層。バー=20μm;*P<0.05。
【
図1-3】
図1A~1Cは、78歳の男性コントロール(
図1A)及び84歳の萎縮型AMDの男性(
図1B)のRPE/脈絡膜におけるTFEB免疫標識を示す。コントロール眼においては、強いTFEB免疫反応性は、RPE核(矢印)において顕著であるが、グラフ(
図1C)に示す通り、(
図1B)におけるAMD眼のRPE核(アスタリスク)には存在しない。注:(B)においてはRPEは多層。バー=20μm;*P<0.05。
【
図2】
図2A~2Bは、エンドサイトーシス経路におけるタンパク質の発現が、Cryba1条件付きノックアウト(cKO)マウスからのRPE細胞(Valapala et al.,Nat.Commun.,4:1629(2013)に記載の通り、RPE細胞から特異的にCryba1が欠失)において低下することを示す。
図2Aは、初期エンドソームマーカーのRab5が、ウエスタンブロット(WB)で示される通り、5月齢のCryba1 cKO RPE細胞において、年齢が一致するフロックス化コントロール(Valapala et al.,Sci.Rep.,5:8755(2015)に記載の通りのCryba1
fl/fl)RPE細胞と比較して低下することを示す。内部コントロールとしてアクチンを用いた。グラフは、平均±SDを示す。
*P<0.05(両側t検定)、n=5。
図2Bは、初期エンドソームと後期エンドソームの融合及び初期エンドソームレベルでの選別に必要なタンパク質のEEA1並びに、小胞輸送及びエンドソームシグナル伝達を調節するAPPL1が、WBで示される通り、5月齢のCryba1 cKO RPE細胞において、Cryba1
fl/flRPE細胞と比較して低下することを示す。内部コントロールとしてアクチンを用いた。
【
図3-1】
図3A~3Cは、Cryba1 cKOマウスがRPE細胞の不均一性を示すことを実証する。
図3Aは、1月齢及び9月齢のcKOマウスの網膜切片におけるEBP50の免疫染色を示し、これはRPE細胞におけるEBP50及び微絨毛の長さの、コントロールと比較した低下を示す。バー=20mm。
【
図3-2】
図3A~3Cは、Cryba1 cKOマウスがRPE細胞の不均一性を示すことを実証する。
図3Bは、3月齢のマウスのRPE抽出物により、cKO RPE細胞における頂端側タンパク質(ERM及びEBP50)の発現が減少することを示す。グラフは、平均±S.Dを示す。
*P<0.05、
**P<0.01(両側t検定)、n=5。
【
図3-3】
図3A~3Cは、Cryba1 cKOマウスがRPE細胞の不均一性を示すことを実証する。
図3Cは、ファロイジン(F-アクチン)及びEBP50(微絨毛)抗体を用いて視覚化した、RPEの不均一性を示す、4月齢のCryba1 cKOマウスのRPEフラットマウントである。F-アクチン及びEBP50の両方の染色は、cKO RPEにおける頂端側(矢印)での細胞喪失の領域を示す。マウスが老化するにつれ、細胞喪失のポケットは重度になる(示さず)。直交画像(マージ/直交)は、RPE微絨毛の脱落(矢印)を示す。バー=20mm。
【
図4】
図4は、Cryba1 cKOマウス由来のRPE細胞における、変化したクラスリン媒介エンドサイトーシスを示す。フロックス化コントロール及びcKO RPE細胞の頂端側からのクラスリン媒介エンドサイトーシスの生細胞イメージングを、全反射蛍光(TIRF)顕微鏡法により行った。RPE-脈絡膜-強膜複合体をガラス底皿中において培養し、rAVCMV-LifeAct-TagGFP2及びAd-CMV-FAP-mCltaに感染させて、それぞれアクチン及びクラスリンを可視化した。フラットマウントのTIRF画像及び/又はビデオを、Plan Apo TIRF 1.49 NA100倍油浸対物レンズ及びPrime95bカメラ(Photometrics)により、倒立NikonTiで撮影した。12秒に亘り、クラスリン小胞は頂端原形質膜に進入できない(矢印)が、フロックス化コントロールでは挿入が生じる。
【
図5-1】
図5は、実施例に記載されているWT-TFEB及び構成的に活性のあるTFEB-S210Aの調製についての模式図である。
【
図5-2】
図5は、実施例に記載されているWT-TFEB及び構成的に活性のあるTFEB-S210Aの調製についての模式図である。
【
図5-3】
図5は、実施例に記載されているWT-TFEB及び構成的に活性のあるTFEB-S210Aの調製についての模式図である。
【
図5-4】
図5は、実施例に記載されているWT-TFEB及び構成的に活性のあるTFEB-S210Aの調製についての模式図である。
【
図5-5】
図5は、実施例に記載されているWT-TFEB及び構成的に活性のあるTFEB-S210Aの調製についての模式図である。
【
図6】
図6A~6Cは、AAV2-TFEBベクターがRPE細胞におけるトランスフェクションに好適であることを実証する。非感染マウス由来(A)及びAAV2-TFEB-GFPの網膜下注射後(B)のRPE/脈絡膜により、一回の網膜下感染後、85~90%超のRPE細胞の効率的な感染が示される。神経感覚網膜や脈絡膜においては、GFP発現細胞は認められなかった(示さず)。(C)ピーク発現は7日後に観察される。この場合も、感染後2週間、神経感覚網膜又は脈絡膜においては、GFP発現細胞は認められなかった(示さず)。
【
図7-1】
図7A~7Cは、TFEB機能を活性化することにより、Cryba1 KOマウスのRPE細胞におけるリソソーム機能及びオートファジーの変化が軽減されることを実証するグラフである。
図7Aは、構成的に活性のあるマウスTFEB(TFEB
S210A)を発現させるAAVベクターのCryba1 KOマウスのRPE細胞への投与により、TFEB
S210Aの、RPE細胞の核への移行がもたらされることを詳述する。
【
図7-2】
図7A~7Cは、TFEB機能を活性化することにより、Cryba1 KOマウスのRPE細胞におけるリソソーム機能及びオートファジーの変化が軽減されることを実証するグラフである。
図7Bは、TFEB
S210Aを発現させるAAVベクターに感染させたCryba1 KOマウス(4)のRPE細胞におけるCTSB、LAMP2、ATP6VOA1、及びCTSDの、野生型マウス(1)、ベクター無しのCryba1 KOマウス(2)、及び野生型TFEBを発現させるAAVベクターを投与したCryba1 KOマウス(3)と比較した相対的発現を示すグラフである。空のAAVは効果がなかった。平均値±S.D.、n=3。P値は、一元配置AVOVA及びテューキーの事後検定によって評価し、少なくとも3の独立した実験の代表例を表す。
*P<0.05及び
**P<0.01。
【
図7-3】
図7A~7Cは、TFEB機能を活性化することにより、Cryba1 KOマウスのRPE細胞におけるリソソーム機能及びオートファジーの変化が軽減されることを実証するグラフである。
図7Cは、TFEB
S210Aを発現させるAAVベクターに感染させたCryba1 KOマウスのRPE細胞におけるp62/SQSTM1の、野生型TFEBを発現させるAAVベクターに感染させたCryba1 KOマウスのRPE細胞における発現と比較した相対的発現を実例で示す。空のAAVは効果がなかった。平均値±S.D.、n=3。P値は、一元配置AVOVA及びテューキーの事後検定によって評価し、少なくとも3の独立した実験の代表例を表す。
*P<0.05及び
**P<0.01。
【
図8-1】
図8A~8Cは、老化したCryba1 cKOマウスのRPE細胞における鉄の蓄積及びインフラマソームの活性化を実証する。
図8Aは、RPE細胞におけるリソソームの異常に起因する鉄過剰負荷がインフラマソームの活性化及び細胞死を引き起こし得ることを示す。
【
図8-2】
図8A~8Cは、老化したCryba1 cKOマウスのRPE細胞における鉄の蓄積及びインフラマソームの活性化を実証する。
図8Bは、4月齢(3、4)又は10月齢(7、8)のCryba1 cKOマウスのRPE細胞における酸化還元感受性第1鉄イオンレベルの、4月齢(1、2)又は10月齢(5、6)の摂食及び飢餓状件下のCryba1
fl/flマウス(コントロール)と比較した増大を示す。
【
図8-3】
図8A~8Cは、老化したCryba1 cKOマウスのRPE細胞における鉄の蓄積及びインフラマソームの活性化を実証する。
図8Cは、高齢のCryba1 cKOマウスのRPE細胞におけるインフラマソームマーカーNLRP3及び切断されたカスパーゼ-1のレベルの、年齢を一致させたコントロールと比較した上昇を示す。
【
図9-1】
図9A~9Cは、TFEB活性化が、Cryba1 KO RPE細胞におけるインビトロでの鉄の蓄積及びインフラマソームの活性化を軽減することを実証する。
図9Aは、鉄キレート剤のリポカリン-2(LCN-2)及び鉄ソースのクエン酸鉄アンモニウム(FAC)の存在下での、構成的に活性のあるマウスTFEB(TFEB
S210A)を発現するAAVベクターのCryba1 KO RPE細胞への投与を示す。
図9B~9Cは、TFEB
S210Aを発現するAAVベクターに感染させたCryba1 KO RPE細胞が、鉄の蓄積及びインフラマソームの活性化(NLRP3及びIL-βの発現の増大)を、野生型TFEBを発現させるAAVベクターに感染させたCryba1 KO RPE細胞と比較して食い止め得ることを示す。
*P<0.05及び
**P<0.01。
【
図9-2】
図9A~9Cは、TFEB活性化が、Cryba1 KO RPE細胞におけるインビトロでの鉄の蓄積及びインフラマソームの活性化を軽減することを実証する。
図9B~9Cは、TFEB
S210Aを発現するAAVベクターに感染させたCryba1 KO RPE細胞が、鉄の蓄積及びインフラマソームの活性化(NLRP3及びIL-βの発現の増大)を、野生型TFEBを発現させるAAVベクターに感染させたCryba1 KO RPE細胞と比較して食い止め得ることを示す。
*P<0.05及び
**P<0.01。
【
図10-1】
図10A~10Bは、TFEB機能の活性化が、Cryba1 cKOマウスのRPE細胞におけるリソソーム機能及びオートファジーの変化を軽減することを実証する。9月齢のCryba1 cKOマウスに、WT TFEBを発現させるAAVベクター(WT TFEBベクター)又は構成的に活性のあるマウスTFEB(TFEB
S210A)を発現させるAAVベクター(変異体TFEBベクター)を網膜下注射した。
図10Aは、Cryba1 cKOマウスのRPE細胞への変異体ベクターの投与により、qPCRによるCLEAR(協調的なリソソームの発現及び調節)ネットワーク遺伝子の活性化がもたらされることを示す。2ヶ月後に動物を屠殺し、RPE-脈絡膜複合体を採取した。
*P<0.05、
**P<0.01(n=4)。
【
図10-2】
図10A~10Bは、TFEB機能の活性化が、Cryba1 cKOマウスのRPE細胞におけるリソソーム機能及びオートファジーの変化を軽減することを実証する。9月齢のCryba1 cKOマウスに、WT TFEBを発現させるAAVベクター(WT TFEBベクター)又は構成的に活性のあるマウスTFEB(TFEB
S210A)を発現させるAAVベクター(変異体TFEBベクター)を網膜下注射した。
図10Bは、Cryba1 cKOマウスへの変異体ベクターの投与により、RPE細胞における細胞内p62/SQSTM1レベルの低下を伴う、オートファゴソームクリアランスの改善がもたらされることを示す。2ヶ月後に動物を屠殺し、RPE-脈絡膜複合体を採取した。
*P<0.05、
**P<0.01(n=4)。
【
図11】
図11A~11Bは、Cryba1 cKOマウス由来のRPE細胞におけるCLEARネットワーク遺伝子の減少(
図11B)を伴う、絶食及び摂食のCryba1 KOマウス由来のRPE細胞におけるTFEBの支配的な細胞質ゾルへの隔離(
図11A)を、Cryba1
fl/flコントロールと比較して実証する。
【
図12】
図12A~12Bは、Cryba1 cKOマウスのRPE細胞におけるリソソームpHを、Cryba1
fl/flコントロールと比較して実例で示す。
図12Aは、Cryba1 cKOマウスのRPE細胞におけるリソソームpHの、コントロールと比較した有意な増大を示すグラフである。
図12Bは、インビトロでのcKO RPE細胞における(pCDNA-Cryba1の投与による)Cryba1の過剰発現が、pH異常をレスキューすることを実証するグラフである。
【
図13】
図13A~13Bは、Cryba1 cKOマウスのRPE細胞におけるカテプシンD酵素活性を、Cryba1
fl/flコントロールと比較して実例で示す。
図13Aは、Cryba1 cKOマウスのRPE細胞におけるカテプシンD酵素活性の、Cryba1
fl/flコントロールと比較した有意な低下を示すグラフである。
図13Bは、cKO RPE細胞におけるインビトロでの(pCDNA-Cryba1の投与による)Cryba1の過剰発現が、カテプシンD酵素活性をレスキューすることを実証するグラフである。
【
図14】
図14A~14Cは、Cryba1ノックアウトマウスにおける異常を実証する。
図14Aは、リソソーム内腔画分(画分1)におけるβA3/A1-クリスタリンの局在を示しており、リソソーム膜画分(画分2)における発現は僅少である。
図14Bは、(βA3/A1-クリスタリンをコードする)Cryba1の条件付き(RPEからの特異的欠失)ノックアウトマウス(conditional(deleted specifically from RPE)and knockout mice)(Cryba1 cKO)を実証する。
図14Cは、2~3週齢から9ヶ月までのCryba1 cKOマウスにおけるRPE異常及びAMD様表現型の発生の模式図を示す。
【
図15-1】
図15A~15Bは、Cryba1 cKO RPE細胞におけるオートファゴソーム及びオートファゴソームの形成を示す。
図15Aは、WT又はcKOマウスから分離し、pH感受性レポーター(mCherry-GFP-LC3)でトランスフェクションしたRPE細胞の生細胞イメージングを示し、これは、Cryba1 cKO RPE細胞におけるオートファゴリソソーム形成の、コントロールと比較した減少(Cryba1の過剰発現によりレスキューされた)を示す。
【
図15-2】
図15A~15Bは、Cryba1 cKO RPE細胞におけるオートファゴソーム及びオートファゴソームの形成を示す。
図17Bは、種々の条件下におけるオートファゴソーム及びオートファゴリソソームの点の数の定量化を示す。
【
図16-1】
図16A~16Bは、WT及びCryba1 KO RPE細胞におけるカテプシンDレベルを実証する。免疫蛍光(
図16A)及びウエスタンブロット(
図16B)は、Cryba1 KOマウス由来のRPE細胞におけるカテプシンDレベルの、年齢を一致させたコントロールと比較した減少を示す。
【
図16-2】
図16A~16Bは、WT及びCryba1 KO RPE細胞におけるカテプシンDレベルを実証する。免疫蛍光(
図16A)及びウエスタンブロット(
図16B)は、Cryba1 KOマウス由来のRPE細胞におけるカテプシンDレベルの、年齢を一致させたコントロールと比較した減少を示す。
【
図16-3】
図16A~16Bは、WT及びCryba1 KO RPE細胞におけるカテプシンDレベルを実証する。免疫蛍光(
図16A)及びウエスタンブロット(
図16B)は、Cryba1 KOマウス由来のRPE細胞におけるカテプシンDレベルの、年齢を一致させたコントロールと比較した減少を示す。
【
図17-1】
図17A~17Bは、Cryba1 KOマウスが加齢黄斑変性症様の表現型を示すことを実証する。
図17Aは、RPE65(RPE細胞の既知のマーカー)の発現の顕著な減少とともに、RPE細胞の敷石様構造(矢印)の喪失を示す、RPEフラットマウントの免疫蛍光画像である。
【
図17-2】
図17A~17Bは、Cryba1 KOマウスが加齢黄斑変性症様の表現型を示すことを実証する。
図17Bは、加齢に伴うCryba1 KOマウスのRPE細胞における大きな液胞(矢印)及び基底膜沈着物(アスタリスクと挿入図)の蓄積を示す電子顕微鏡像である。
【
図18-1】
図18A~Cは、Cryba1 cKOマウスのRPEが(オート)ファゴソームを保持することを示す。大型オートファゴソーム(
図18A~B中の矢印)の蓄積を示す電子顕微鏡画像。これらは光受容体の外側のセグメントを積載し、分解されていない(
図18C中の矢印)。
【
図18-2】
図18A~Cは、Cryba1 cKOマウスのRPEが(オート)ファゴソームを保持することを示す。大型オートファゴソーム(
図18A~B中の矢印)の蓄積を示す電子顕微鏡画像。これらは光受容体の外側のセグメントを積載し、分解されていない(
図18C中の矢印)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
本発明者らは、活性型のTFEBがRPE細胞における機能を活性化し、AMD様表現型をレスキューし得ることを発見した。この概念はAMDを超えて重要であり、リソソーム機能障害及び細胞の不均一性が重要な病態生理学的特徴である老化、及び加齢に伴う神経変性疾患に対する独特の洞察を提供する。
【0021】
本発明は、網膜色素上皮(RPE)細胞のリソソーム機能の回復をさせる方法であって、それを必要とする被験体に、(i)構成的に活性のある形態のTFEBを含むポリペプチドをコードする核酸又は(ii)該ポリペプチドを投与することを含む、方法を提供する。本発明は、関連するポリペプチド、核酸、ベクター、及び組成物も提供する。
【0022】
被験体は、ヒト又は他の動物(例、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ネコ、イヌ、ウサギ、ブタ、ウシ、ウマ、又は霊長類等の哺乳動物)を指し、該被験体は、病気の予防又は治療を必要としている動物(例、ヒト)を指し得る。
【0023】
一実施形態においては、被験体は、加齢黄斑変性症(AMD)であるか、又はAMDを発症するリスクがある。AMDは、滲出型AMD又は萎縮型(ドライ型)AMDであり得る。被験体はAMDに続発する地図状萎縮であり得る。従って、本発明は、被験体におけるAMDの治療及び/又は予防をする方法も提供する。
【0024】
一実施形態においては、被験体は、スターガルト病の網膜黄斑変性症であるか、又はスターガルト病の網膜黄斑変性症を発症するリスクがある。従って、本発明は、スターガルト病の網膜黄斑変性症の治療及び/又は予防をする方法も提供する。
【0025】
別の実施形態においては、被験体は、アルツハイマー病又はパーキンソン病等の神経変性疾患であるか、又は神経変性疾患を発症するリスクがある。従って、本発明は、被験体におけるアルツハイマー病又はパーキンソン病等の神経変性疾患の治療及び/又は予防をする方法も提供する。
【0026】
更なる実施形態においては、被験体は、糖尿病性網膜症(DR)であるか、又はDRを発症するリスクがある。被験体はまた、糖尿病性黄斑浮腫(DME)でもあり得、又はDMEを発症するリスクもあり得る。従って、本発明は、被験体におけるDR又はDMEの治療及び/又は予防をする方法も提供する。
【0027】
従って、本発明は、被験体におけるAMD、スターガルト病の網膜黄斑変性症、神経変性疾患、又は糖尿病性網膜症の治療及び/又は予防をする方法であって、該被験体に、(i)構成的に活性のある形態のTFEBを含むポリペプチドをコードする核酸又は(ii)該ポリペプチドを投与することを含む、方法を提供する。
【0028】
ポリペプチドは、配列番号1の138位、142位、211位、455位、462位、463位、466位、467位、及び469位のうちの1以上(例、2、3、4、5、6、7、8、又は9)において、独立して、セリンが別のアミノ酸(即ち、セリン以外の、天然又は非天然に生じるアミノ酸)で置換されている以外は、配列番号1のアミノ酸配列を含み得るか、本質的にそれからなり得るか、又はそれからなり得る。例えば:
(i)配列番号1の138位において、セリンがアラニンで置換され得、及び/又は
(ii)配列番号1の142位において、セリンがアラニンで置換され得、及び/又は
(iii)配列番号1の211位において、セリンがアラニンで置換され得、及び/又は
(iv)配列番号1の455位において、セリンがアラニンで置換され得、及び/又は
(v)配列番号1の462位において、セリンがアスパラギン酸で置換され得、及び/又は
(vi)配列番号1の463位において、セリンがアスパラギン酸で置換され得、及び/又は
(vii)配列番号1の466位において、セリンがアスパラギン酸で置換され、及び/又は
(viii)配列番号1の467位において、セリンがアラニンで置換され、及び/又は
(ix)配列番号1の469位において、セリンがアスパラギン酸で置換される。
【0029】
一実施形態においては、ポリペプチドは、配列番号1の138位、142位、及び211位のうちの各1において、セリンがそれぞれアラニンで置換されている以外は、配列番号1のアミノ酸配列を含むか、本質的にそれからなるか、又はそれからなる。
【0030】
別の実施形態においては、ポリペプチドは、配列番号1の455位において、セリンがアラニンで置換されており、場合により、配列番号1の211位において、セリンがアラニンで置換されている以外は、配列番号1のアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなる。従って、本発明は、(i)配列番号1の455位において、セリンがアラニンで置換されている以外は、配列番号1のアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び(ii)配列番号1の211位及び455位の各々において、セリンがそれぞれアラニンで置換されている以外は、配列番号1のアミノ酸配列を含む、ポリペプチドの両方を提供する。
【0031】
更なる実施形態においては、ポリペプチドは、配列番号1の462位、463位、466位、及び469位のうちの各1において、セリンがそれぞれアスパラギン酸で置換されており、且つ配列番号1の467位において、セリンがアラニンで置換されている以外は、配列番号1のアミノ酸配列を含むか、本質的にそれからなるか、又はそれからなる。
【0032】
ポリペプチドは、多くの従来技術のいずれかによって調製され得る。これに関して、ポリペプチド配列は、合成、組換え、単離、及び/又は精製され得る。
【0033】
ポリペプチドは、組換え体ソースから単離又は精製され得る。例えば、所望のポリペプチドをコードするDNA断片が、周知の分子遺伝学的手法を用いて、適切なベクターにサブクローニングされ得る。該断片は転写され得、その後ポリペプチドはインビトロで翻訳され得る。市販のキットも用いられ得る。必要に応じて、ポリメラーゼ連鎖反応が、核酸の操作において用いられ得る。
【0034】
ポリペプチドはまた、当該技術分野における公知の方法に従って、自動ペプチド合成機を用いて合成され得る。或いは、ポリペプチドは、当業者に周知の標準的なペプチド合成技術を用いて合成され得る。特に、ポリペプチドは、固相合成の手順を用いて合成され得る。所望であれば、これは、自動ペプチド合成機を用いて行われ得る。t-ブチルオキシカルボニル(t-BOC)又は9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)アミノ酸保護基の除去及びポリペプチドの樹脂からの分離は、例えば、低温での酸処理によって達成され得る。次いで、非ペプチド性有機化合物を除去するため、タンパク質含有混合物が、例えばジエチルエーテルで抽出され得、合成されたポリペプチドが、(例、約25%w/v酢酸で)樹脂粉末から抽出され得る。ポリペプチドの合成後、任意の不完全なタンパク質、ポリペプチド、ペプチド又は遊離アミノ酸を除去するために、必要に応じて、(例、HPLCを用いて)更なる精製が行われ得る。合成されたポリペプチドに対して、その同一性を確認するために、アミノ酸分析及び/又はHPLC分析が行われ得る。本発明による他の用途のためには、当業者に公知のような、化学的コンジュゲーション(chemical conjugation)によって、又は遺伝学的手段によってのいずれかで、ポリペプチドを、より大きな融合タンパク質の一部として製造することが好ましい場合がある。これに関して、本発明は、融合タンパク質の単離、精製、解析又は安定性を助長する等のために、ポリペプチド及び任意の所望の特性又は機能を有する1以上の他のタンパク質(複数可)を含む融合タンパク質も提供する。
【0035】
本発明は、ポリペプチドをコードする核酸も提供する。本明細書において用いられる場合、「核酸」としては、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」及び「核酸分子」が挙げられ、一般的に、DNA又はRNAのポリマーを意味し、一本鎖又は二本鎖であり得、天然のソースから合成又は取得(例、単離及び/又は精製)でき、天然、非天然又は改変したヌクレオチドを含み得、天然のヌクレオチド間結合、非修飾オリゴヌクレオチドのヌクレオチド間で見られるホスホジエステルの代わりに、ホスホロアミダイト結合又はホスホロチオエート結合のような、非天然又は改変したヌクレオチド間結合を含み得る。一般的に、好ましくは、前記核酸は、任意の挿入、欠失、逆位及び/又は置換を含まない。しかし、本明細書において検討されるように、前記核酸にとって、1以上の挿入、欠失、逆位及び/又は置換を含むことが、いくつかの例においては好適である場合がある。
【0036】
一実施形態においては、核酸は組換え体である。本明細書において用いられる場合、用語「組換え体」は、(i)生細胞において複製し得る核酸分子に、天然の又は合成した核酸断片を連結することにより(by joining)、生細胞外で構築される分子、又は(ii)上記(i)に記載のものの複製の結果得られる分子を指す。本明細書の目的のために、前記複製は、インビトロでの複製又はインビボにおける複製であり得る。
【0037】
核酸(例、DNA、RNA、及びcDNA等)は、組換え産生及び商業的合成を含むが、これに限定されない任意の好適な状況(matter)で産生され得る。これに関して、核酸配列は、合成の、組換えの、単離された及び/又は精製されたものであり得る。
【0038】
前記核酸は、当該技術分野において公知である手順を用いて、化学合成及び/又は酵素的なライゲーション反応に基づいて構築し得る。例えば、Greenら編、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,4th Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York(2012)を参照。例えば、核酸は、天然で生じたヌクレオチド、又は前記分子の生物学的安定性を増大するように、若しくはハイブリダイゼーションの際に形成された二重鎖の物理的安定性を増大するように設計された、様々な修飾されたヌクレオチド(例、ホスホロチオエート誘導体及びアクリジン置換ヌクレオチド)を用いて、化学的に合成し得る。前記核酸の生成に用い得る修飾されたヌクレオチドの例としては、5-フルオロウラシル(5-fluorouracil)、5-ブロモウラシル(5-bromouracil)、5-クロロウラシル(5-chlorouracil)、5-ヨードウラシウル(5-iodouracil)、ヒポキサンチン(hypoxanthine)、キサンチン(xanthine)、4-アセチルシトシン(4-acetylcytosine)、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウラシル(5-(carboxyhydroxymethyl)uracil)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン(5-carboxymethylaminomethyl-2-thiouridine)、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル(5-carboxymethylaminomethyluracil)、ジヒドロウラシル(dihydrouracil)、β-D-ガラクトシルキューオシン(beta-D-galactosylqueosine)、イノシン(inosine)、N6-イソペンテニルアデニン(N6-isopentenyladenine)、1-メチルグアニン(1-methylguanine)、1-メチルイノシン(1-methylinosine)、2,2-ジメチルグアニン(2,2-dimethylguanine)、2-メチルアデニン(2-methyladenine)、2-メチルグアニン(2-methylguanine)、3-メチルシトシン(3-methylcytosine)、5-メチルシトシン(5-methylcytosine)、N6-置換アデニン(N6-substituted adenine)、7-メチルグアニン(7-methylguanine)、5-メチルアミノメチルウラシル(5-methylaminomethyluracil)、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル(5-methoxyaminomethyl-2-thiouracil)、β-D-マンノシルキューオシン(beta-D-mannosylqueosine)、5’-メトキシカルボキシメチルウラシル(5’-methoxycarboxymethyluracil)、5-メトキシウラシル(5-methoxyuracil)、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン(2-methylthio-N6-isopentenyladenine)、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)(uracil-5-oxyacetic acid (v))、ワイブトキソシン(wybutoxosine)、シュードウラシル(pseudouracil)、キューオシン(queosine)、2-チオシトシン(2-thiocytosine)、5-メチル-2-チオウラシル(5-methyl-2-thiouracil)、2-チオウラシル(2-thiouracil)、4-チオウラシル(4-thiouracil)、5-メチルウラシル(5-methyluracil)、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル(uracil-5-oxyacetic acid methylester)、3-(3-アミノ-3-N-2-カルボキシプロピル)ウラシル(3-(3-amino-3-N-2-carboxypropyl)uracil)及び2,6-ジアミノプリン(2,6-diaminopurine)が挙げられるが、これらに限定されない。代替的に、本発明の前記核酸の1以上は、Macromolecular Resources(Fort Collins,CO)及びSynthegen(Houston,TX)のような企業から購入し得る。
【0039】
ポリペプチドをコードする核酸は、細胞への核酸の送達、及び/又は細胞内における核酸の発現を可能にする核酸及び要素を含むコンストラクトの一部として提供され得る。例えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は、発現制御配列に作動可能に連結され得る。コード配列に作動可能に連結された発現制御配列は、コード配列の発現が発現制御配列と適合性のある条件下で達成されるようにライゲーションされる。発現制御配列としては、適切なプロモーター、エンハンサー(例、CMVエンハンサー)、転写ターミネーター、タンパク質をコードする遺伝子の前の開始コドン(即ち、ATG)、イントロンについてのスプライシングシグナル、mRNAの適切な翻訳を可能にするその遺伝子の正しいリーディングフレームの維持及び終止コドンが挙げられるが、これらに限定されない。好適なプロモーターとしては、hVMD2プロモーター、SV40初期プロモーター、RSVプロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター、ヒトCMV即時初期Iプロモーター、ポックスウイルスプロモーター、30Kプロモーター、I3プロモーター、sE/Lプロモーター、7.5Kプロモーター、40Kプロモーター、及びC1プロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
ポリペプチドをコードする核酸は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写ベースの増幅システム(TAS)、自立配列複製システム(3SR)およびQβレプリカーゼ増幅システム(QB)等のインビトロ法によりクローニングまたは増幅され得る。例えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、分子のDNA配列に基づくプライマーを用いて、cDNAのポリメラーゼ連鎖反応により単離され得る。多種多様なクローニング及びインビトロ増幅方法論が当業者に周知である。
【0041】
本発明は、核酸を含むベクターを提供する。核酸は、任意の好適なベクターに挿入され得る。ベクターの選択及びそれらを構築するための方法は、当該技術分野で一般的に知られており、一般的な技術参考文献に記載されている。
【0042】
好適なベクターとしては、増殖及び増幅のため若しくは発現のため又はその両方のために設計されたものが挙げられる。好適なベクターの例としては、例えば、プラスミド、プラスミド-リポソーム複合体、CELidベクター(例、Li et al.,PLoS One、8(8):e69879.doi:10.1371/journal.pone.0069879(2013)を参照)及びウイルスベクター、例、パルボウイルスベースのベクター(即ち、AAVベクター)、レトロウイルスベクター、単純ヘルペスウイルス(HSV)ベースのベクター、アデノウイルスベースのベクター、及びポックスウイルスベクターが挙げられる。これらの発現コンストラクトはいずれも、標準的な組換えDNA技術を用いて調製され得る。
【0043】
本発明の一態様においては、ベクターは、AAVベクター等のウイルスベクターである。前記AAVベクターは、眼の細胞(例、RPE細胞)に投与するのに好適な、任意のAAV血清型又はその変異体にパッケージする(packaging into)のに好適な場合がある。好適なAAV血清型の例としては、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、それらの変異体、及びAAV.7m8等の改変されたか又は新たに合成されたAAVウイルスが挙げられるが、それらに限定されない。
【0044】
AAVベクターは、本明細書に記載のAAV血清型のいずれかのキャプシドタンパク質又はその断片中にパッケージングされ得る。好ましくは、ベクターは、AAV2キャプシド中にパッケージングされる。
【0045】
好適な組換え体AAVは、本明細書において定義されるように、AAV血清型キャプシドタンパク質又はその断片をコードする核酸配列、機能的rep遺伝子、本明細書に記載の任意の本発明のベクター、及びAAVキャプシドタンパク質に本発明のベクターをパッケージングすることを可能にするのに十分なヘルパー機能、を含有するパッケージング細胞を培養することによって生成しても良い。AAVキャプシドに本発明のAAVベクターをパッケージするためにパッケージング細胞が必要とする要素を、宿主細胞にイントランス(in trans)で提供しても良い。代替的には、必要とする要素(例、本発明のベクター、rep配列、キャプシド配列及び/又はヘルパー機能)の任意の1以上は、当業者に公知である方法を用いて、必要とされる要素の1以上を含有するように改変されている、安定なパッケージング細胞によって提供される場合がある。
【0046】
本発明の一実施形態においては、AAVベクターは自己相補的である。自己相補的ベクターは、好都合なことに、第2鎖DNA合成の律速段階を克服し得、より早期の開始及びより強力な遺伝子発現を付与し得る。
【0047】
本発明の一実施形態においては、ベクターは組換え発現ベクターである。本明細書における目的のために、用語「組み換え発現ベクター」は、コンストラクトがmRNA、タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドをコードしているヌクレオチド配列を含み、宿主細胞内で該mRNA、タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを発現させるのに十分な条件下でベクターを該細胞と接触させるときに、該細胞に該mRNA、タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを発現させる、遺伝的に改変されたオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドのコンストラクトを意味する。本発明のベクターは、全体としては天然に存在しない。しかし、ベクターの一部は天然に存在し得る。本発明の組み換え発現ベクターは、DNA及びRNAが挙げられるがこれらに限定されない任意の種類のヌクレオチドを含み得、該DNA及びRNAは、一本鎖であっても二本鎖であってもよく、合成されても天然のソースから部分的に入手されてもよく、天然の、非天然の、又は改変されたヌクレオチドを含有していてもよい。組み換え発現ベクターは、天然に存在するヌクレオチド間結合、天然には存在しないヌクレオチド間結合、又は両方の種類の結合を含んでいてよい。好ましくは、天然には存在しないか又は改変されたヌクレオチド又はヌクレオチド間結合は、ベクターの転写も複製も妨げない。
【0048】
ベクターは、例えば、上記のGreen et al.に記載の標準的な組換えDNA技術を用いて調製され得る。環状又は線状である発現ベクターのコンストラクトは、原核生物又は真核生物の宿主細胞において機能する複製システムを含有するように調製され得る。複製システムは、例、ColEl、2μプラスミド、λ、SV40、ウシ乳頭腫ウイルス等から得られ得る。
【0049】
ポリペプチドをコードする核酸に加えて、ベクターは、宿主(例、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ネコ、イヌ、ウサギ、ブタ、ウシ、ウマ、又は霊長類(例、ヒト))等の哺乳動物)における送達及び発現のための1以上のポリペプチドをコードする1以上の核酸配列を含み得る。
【0050】
ベクターは、形質転換又はトランスフェクションされた宿主の選択を可能にする1以上のマーカー遺伝子を含み得る。マーカー遺伝子としては、殺生物剤耐性、例、抗生物質、重金属等に対する耐性、原栄養性を与えるための栄養要求性宿主における補完等が挙げられる。本発明の発現ベクターに好適なマーカー遺伝子としては、例えば、ネオマイシン/G418耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ヒスチジノール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、及びアンピシリン耐性遺伝子が挙げられる。
【0051】
ベクターは、ベクターでトランスフェクションされた、又はベクターを含むウイルスに感染させた細胞において、ベクター中に含まれる核酸の転写、翻訳、及び発現のうちの1以上を可能にする調節配列を更に含み得る。本明細書において用いられる場合、「作動可能に連結された」配列としては、構成的に活性のあるTFEBポリペプチドをコードするヌクレオチド配列と連続する調節配列及び、構成的に活性のあるTFEBポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を制御するためにトランスで又は離れて作用する調節配列の両方が挙げられる。
【0052】
前記調節配列は、適切な転写開始配列、終結配列、プロモーター配列及びエンハンサー配列、スプライシング及びポリアデニル化(ポリA)シグナル配列のようなRNAプロセシングシグナル、細胞質のmRNAを安定化する配列、翻訳効率を促進する配列(即ち、コザックコンセンサス配列)、タンパク質の安定性を促進する配列、及び所望により、コードされた産物の分泌を促進する配列、を含んでもよい。ポリAシグナル配列は、合成しても良く、又は、例えば、SV-40、ヒト及びウシを含む、多くの好適な種に由来しても良い。
【0053】
ベクターが宿主(例、ヒト)に投与するためのものである場合、ベクター(例、AAV)は、好ましくは、標的細胞中において低い複製効率を有する(例、1細胞あたり約1以下の子孫、又はより好ましくは、1細胞あたり0.1以下の子孫が産生される)。複製効率は、標的細胞の感染後のウイルス力価を決定することにより、経験的に容易に決定され得る。
【0054】
ポリペプチド、核酸、又はベクターは、ポリペプチド、核酸、又はベクター及び担体(例、医薬的又は生理学的に許容される担体)を含む組成物(例、医薬組成物)として製剤化され得る。更に、本発明のポリペプチド、核酸、ベクター、又は組成物は、本明細書に記載の方法において単独で、又は医薬製剤の一部として用いられ得る。
【0055】
組成物(例、医薬組成物)は、本発明の1超のポリペプチド、核酸、ベクター、又は組成物を含み得る。代替的に、又は追加的に、組成物は、1以上の他の医薬的に活性な薬剤又は薬物を含み得る。医薬組成物における使用に好適であり得る、かかる他の医薬的に活性な薬剤又は薬物の例としては、AMDに続発する地図状萎縮の患者用のランパリズマブ(lampalizumab)(抗補体因子D;Genentech);滲出型AMD用のブロリシズマブ(brolicizumab)(汎アイソフォーム抗(ant-)VEGF-A;Novartis);滲出型AMD及び糖尿病性網膜浮腫(DME)用のOPT-302(可溶性VEGF-C/D受容体;Ophthea);滲出型AMD用のPanOpticaの局所VEGF阻害剤;ペグプレラニブ(pegpleranib)(PDGFアイソフォームに結合するDNAアプタマー;Ophtotech/Novartis)(場合によりLUCENTIS(商標)(ラニビズマブ注射)と併用される);リヌクマブ(rinucumab)(抗PDGF受容体;Regeneron)(場合によりEYLEA(商標)(アフリベルセプト)と共製剤化される);DE-120(抗PDGF/VEGF二重特異性;Santen);ボロラニブ(vorolanib)(pDGF及びVEGFについてのキナーゼ活性を阻害する経口RTK阻害剤;Tyrogenex);ネバクマブ(nevacumab)(抗アンギオポエイチン2;Regeneron)(場合によりEYLEA(商標)(アフリベルセプト)と併用される);RG-7716(抗アンギオポエイチン2/VEGF二重特異性;Chugai);ARP-1536(抗VE PTP;Akebia/Aeripo);ICON-1(組織因子に結合するキメラタンパク質;Iconic Therapeutic);及びカロツキシマブ(carotuximab)(抗エンドギン;Tracon/Santen)が挙げられる。
【0056】
担体は、従来用いられているもののいずれかであり得、溶解性及び活性化合物(複数可)との反応性の欠如等の物理化学的考察並びに投与経路によってのみ制限される。本明細書に記載の医薬的に許容される担体、例えば、ビヒクル、補助剤、賦形剤、及び希釈剤は、当業者に周知であり、公衆に容易に入手可能である。医薬的に許容される担体は、活性剤(複数可)に対して化学的に不活性なものであり、使用条件下で有害な副作用又は毒性を有さないものであることが好ましい。
【0057】
担体の選択は、本発明の特定のポリペプチド、核酸、ベクター、又はそれらの組成物、及び用いられる他の活性剤又は薬物、並びにポリペプチド、核酸、ベクター、又はそれらの組成物を投与するために用いられる特定の方法により、ある程度決定される。
【0058】
ポリペプチド、核酸、ベクター、又はそれらの組成物は、任意の方法により被験体に投与され得る。例えば、ポリペプチド、ポリペプチドをコードする核酸、又は核酸を含むベクターは、細胞を、本明細書に記載の通りの、核酸の送達及び発現を可能にするコンストラクトの一部としての核酸又はベクターと接触させること等の、様々な技術のいずれかにより(例、被験体中の)細胞に導入され得る。細胞に核酸を導入し及び発現させるための特定のプロトコルは、当該技術分野で公知である。
【0059】
ポリペプチド、核酸、ベクター、又はそれらの組成物の任意の好適な用量が、被験体に投与され得る。適切な用量は、被験体の齢、体重、身長、性別、一般的な病状、以前の病歴、及び疾患の進行等の要因によって異なり、臨床医により決定され得る。量又は用量は、臨床的に合理的な時間枠にわたって、被験体において所望の生物学的応答、例、治療的又は予防的応答をもたらすのに十分でなければならない。
【0060】
例えば、ポリペプチドは、宿主(例、ヒト等の哺乳動物)のワクチン接種あたり、約0.05mg~約10mg(例、0.1mg、0.5mg、1mg、2mg、3mg、4mg、5mg、6mg、7mg、8mg、9mg、及びそれらの範囲)、好ましくは、ワクチン接種あたり約0.1mg~約5mgの用量で投与され得る。何回分かの用量(例、1、2、3、4、5、6、又はそれ以上)が(例、数週又は数ヶ月の期間にわたって)提供され得る。
【0061】
投与期間は、治療の進行に応じて適切に決定され得る。実施形態においては、投与期間は、1年未満、9ヶ月未満、8ヶ月未満、7ヶ月未満、6ヶ月未満、5ヶ月未満、4ヶ月未満、3ヶ月未満、2ヶ月未満を、又は1ヶ月を含み得る。他の実施形態においては、投与期間は、投与期間の長さの代わりに、1日あたり3回の投与、1日あたり2回の投与、又は1日あたり1回の投与を含み得る。
【0062】
ベクターがウイルスベクターである場合、好適な用量としては、約1×105~約1×1012(例、1×106、1×107、1×108、1×109、1×1010、1×1011及びそれらの範囲)プラーク形成単位(pfu)が挙げられ得るが、より低い又はより高い用量が宿主に投与され得る。
【0063】
ポリペプチド、核酸、ベクター、又はそれらの組成物は、局所、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、髄腔内、静脈内、網膜下注射、及び硝子体内注射を含むがこれらに限定されない様々な経路によって、被験体に投与され得る。一実施形態においては、ポリペプチド、核酸、ベクター、又は組成物は、網膜下若しくは硝子体内注射による眼への直接注射によって、又は局所適用(例、点眼薬として)によって直接投与(例、局所投与)され得る。複数回投与する場合は、被験体における1以上の部位に投与され得、個体の1、2、3、4以上の部位における投与のために該単回用量を等量に分けることにより、該単回用量が投与され得る。
【0064】
ポリペプチド、核酸、ベクター、又はそれらの組成物の投与は、「予防的」又は「治療的」であり得る。予防的に提供される場合、ポリペプチド、核酸、ベクター、又はそれらの組成物は、被験体の、AMD、神経変性疾患、DR、及び/又はDMEとの診断に先立って提供される。例えば、AMD、神経変性疾患、DR、及び/又はDMEを発症するリスクのある被験体は、予防的に処置される好ましい一群の患者である。ポリペプチド、核酸、ベクター、又はそれらの組成物の予防的投与は、AMD、神経変性疾患、DR、及び/又はDMEを予防し、改善し、又は遅延させる。治療的に提供される場合、ポリペプチド、核酸、ベクター、又はそれらの組成物は、AMD、神経変性疾患、DR、及び/又はDMEの診断時又は診断後に提供される。
【0065】
被験体がすでにAMD、神経変性疾患、DR、又はDMEと診断されている場合、ポリペプチド、核酸、ベクター、又はそれらの組成物は、ランパリズマブ(抗補体因子D);Genentech);ブロリシズマブ(汎アイソフォーム抗(ant-)VEGF-A;Novartis);OPT-302(可溶性VEGF-C/D受容体;Ophthea);PanOpticaの局所VEGF阻害剤;ペグプレラニブ(PDGFアイソフォームに結合するDNAアプタマー;Ophtotech/Novartis);LUCENTIS(商標)(ラニビズマブ注射);リヌクマブ(抗PDGF受容体;Regeneron);EYLEA(商標)(アフリベルセプト);DE-120(抗PDGF/VEGF二重特異性;Santen);ボロラニブ(pDGF及びVEGFについてのキナーゼ活性を阻害する経口RTK阻害剤;Tyrogenex);ネバクマブ(抗アンギオポエイチン2;Regeneron);RG-7716(抗アンギオポエイチン2/VEGF二重特異性;Chugai);ARP-1536(抗VE PTP;Akebia/Aeripo);ICON-1(組織因子に結合するキメラタンパク質;Iconic Therapeutic);及び/又はカロツキシマブ(抗エンドギン;Tracon/Santen)等の他の治療的処置と組み合わせて投与され得る。
【0066】
本明細書において用いられる場合、用語「治療」及び「予防」は、100%若しくは完全な治療又は予防であることを意味する必要はない。むしろ、当業者が潜在的な利益又は治療効果を有すると認識する治療又は予防の様々な程度がある。
【0067】
本発明の方法のための医薬組成物の、様々な好適な製剤が存在する。任意の好適な担体は、本発明の文脈内で使用することができ、そのような担体は、当該技術分野において周知である。担体の選択は、組成物が投与される特定の部位によって(例、眼細胞、RPE細胞、光受容器細胞、桿体及び錐体)、及び組成物を投与するために用いる特定の方法によって、ある程度決定される。前記医薬組成物は、任意で無菌であるか、又は1以上のアデノ随伴ウイルスベクターを例外的に含む無菌であり得る。
【0068】
医薬組成物に好適な製剤としては、水溶液及び非水溶液、等張な滅菌された溶液が挙げられ、それらは、抗酸化剤、緩衝剤及び静菌薬、並びに懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤及び防腐剤を含み得る水溶性及び非水溶性の滅菌された懸濁液を含有し得る。該製剤は、アンプル及びバイアルのような1回投与量又は多数回投与量で封入された容器において存在することができ、使用する直前に、例えば水といった滅菌された液状担体を添加することだけを要するフリーズドライ(凍結乾燥)条件において保管し得る。即時溶液及び懸濁剤は、滅菌された粉末、顆粒及び錠剤から調製され得る。好ましくは、該担体は、緩衝生理食塩水溶液である。より好ましくは、本発明の方法において使用するための前記医薬組成物は、投与する前の損傷からタンパク質、核酸、又はベクターを保護するために製剤化される。例えば、該医薬組成物は、ガラス器具、シリンジ又は針のような、タンパク質、核酸、又はベクターを調製するか、保管するか、又は投与するために使用される器具において、タンパク質、核酸、又はベクターの減耗を低減するよう、製剤化し得る。該医薬組成物は、タンパク質、核酸、又はベクターの光感受性及び/又は温度感受性を低減するよう、製剤化し得る。この目的のために、該医薬組成物は、好ましくは、例えば、上記したような医薬的に許容される液状担体を含み、ポリソルベート80、L-アルギニン、ポリビニルピロリドン、トレハロース及びそれらの組合せからなる群より選択される安定剤を含む。そのような組成物の使用によって、該タンパク質、核酸、又はベクターの保存可能期間が延び、投与が容易になり、本発明の方法の有効性が増大する場合がある。
【0069】
医薬組成物はまた、タンパク質、核酸、又はベクターの形質導入/トランスフェクション効率を促進するよう製剤化し得る。加えて、当業者であれば、該医薬組成物が、他の治療的又は生物学的活性がある剤を含み得ることを十分理解する。
【0070】
以下の実施形態が例示される:
【0071】
実施形態1 網膜色素上皮(RPE)細胞のリソソーム機能の回復をさせる方法であって、それを必要とする被験体に、(i)構成的に活性のある形態の転写因子EB(TFEB)を含むポリペプチドをコードする核酸又は(ii)該ポリペプチドを投与することを含む、方法。
【0072】
実施形態2 被験体が加齢黄斑変性症(AMD)であるか、又はAMDを発症するリスクがある、実施形態1の方法。
【0073】
実施形態3 AMDが萎縮型AMDであり、場合により萎縮型AMDが地図状萎縮を含む、実施形態2の方法。
【0074】
実施形態4 AMDが滲出型AMDである、実施形態2の方法。
【0075】
実施形態5 被験体がスターガルト病の網膜黄斑変性症であるか、又はスターガルト病の網膜黄斑変性症を発症するリスクがある、実施形態1の方法。
【0076】
実施形態6 被験体が神経変性疾患であるか、又は神経変性疾患を発症するリスクがある、実施形態1の方法。
【0077】
実施形態7 神経変性疾患がアルツハイマー病又はパーキンソン病である、実施形態6の方法。
【0078】
実施形態8 被験体が糖尿病性網膜症(DR)であるか、又はDRを発症するリスクがある、実施形態1の方法。
【0079】
実施形態9 被験体における加齢黄斑変性症(AMD)、スターガルト病の網膜黄斑変性症、神経変性疾患、又は糖尿病性網膜症の予防及び/又は治療をする方法であって、該被験体に、(i)構成的に活性のある形態の転写因子EB(TFEB)を含むポリペプチドをコードする核酸又は(ii)該ポリペプチドを投与することを含む、方法。
【0080】
実施形態10 AMDが萎縮型AMDであり、場合により萎縮型AMDが地図状萎縮を含む、実施形態9の方法。
【0081】
実施形態11 AMDが滲出型AMDである、実施形態9の方法。
【0082】
実施形態12 神経変性疾患がアルツハイマー病又はパーキンソン病である、実施形態9の方法。
【0083】
実施形態13 核酸がhVMD2プロモーターを更に含む、実施形態1~12のいずれか1項の方法。
【0084】
実施形態14 核酸がベクター中に含まれる、実施形態1~13のいずれか1項の方法。
【0085】
実施形態15 ベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、実施形態14の方法。
【0086】
実施形態16 AAVベクターがAAV2である、実施形態15の方法。
【0087】
実施形態17 ポリペプチドが、配列番号1の138位、142位、211位、455位、462位、463位、466位、467位、及び469位のうちの1以上において、独立して、セリンが別のアミノ酸で置換されている以外は、配列番号1のアミノ酸配列を含む、実施形態1~16のいずれか1項の方法。
【0088】
実施形態18 配列番号1の138位において、セリンがアラニンで置換されている、実施形態17の方法。
【0089】
実施形態19 配列番号1の142位において、セリンがアラニンで置換されている、実施形態17又は18の方法。
【0090】
実施形態20 配列番号1の211位において、セリンがアラニンで置換されている、実施形態17~19のいずれか1項の方法。
【0091】
実施形態21 配列番号1の455位において、セリンがアラニンで置換されている、実施形態17~20のいずれか1項の方法。
【0092】
実施形態22 配列番号1の462位において、セリンがアスパラギン酸で置換されている、実施形態17~21のいずれか1項の方法。
【0093】
実施形態23 配列番号1の463位において、セリンがアスパラギン酸で置換されている、実施形態17~22のいずれか1項の方法。
【0094】
実施形態24 配列番号1の466位において、セリンがアスパラギン酸で置換されている、実施形態17~23のいずれか1項の方法。
【0095】
実施形態25 配列番号1の467位において、セリンがアラニンで置換されている、実施形態17~24のいずれか1項の方法。
【0096】
実施形態26 配列番号1の469位において、セリンがアスパラギン酸で置換されている、実施形態17~25のいずれか1項の方法。
【0097】
実施形態27 被験体がヒトである、実施形態1~26のいずれか1項の方法。
【0098】
実施形態28 核酸、ポリペプチド、又は該核酸を含むベクターが、網膜下注射、硝子体内注射、又は局所投与によって投与される、実施形態1~27のいずれか1項の方法。
【0099】
実施形態29 配列番号1の138位、142位、及び211位のうちの各1において、セリンがそれぞれアラニンで置換されている以外は、配列番号1のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド。
【0100】
実施形態30 配列番号1の455位において、セリンがアラニンで置換されており、場合により、配列番号1の211位において、セリンがアラニンで置換されている以外は、配列番号1のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド。
【0101】
実施形態31 配列番号1の462位、463位、466位、及び469位のうちの各1において、セリンがそれぞれアスパラギン酸で置換されており、且つ配列番号1の467位において、セリンがアラニンで置換されている以外は、配列番号1のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド。
【0102】
実施形態32 実施形態29~31のいずれか1項のポリペプチドをコードする核酸。
【0103】
実施形態33 実施形態32の核酸を含むベクター。
【0104】
実施形態34 (a)医薬的に許容される担体及び(b)実施形態29~31のいずれか1項のポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸、又は該核酸を含むベクターを含む、医薬組成物。
【0105】
以下の実施例は、本発明を更に説明するが、無論、決してその範囲を限定すると解釈してはならない。
【実施例】
【0106】
実施例
本実施例は、構成的に活性のあるTFEBの投与が、RPE細胞におけるリソソーム機能及びオートファジーの変化を軽減し、それにより、AMD様表現型を阻害することを実証する。
【0107】
Cryba1ノックアウト及び条件付きノックアウトマウス(
図11~18を参照)
Cryba1(βA3/A1-クリスタリンをコードする)ノックアウトマウス(KO)及び条件付きノックアウト(cKO)は、AMD様の病状を有するマウスモデルである。βA3/A1-クリスタリンタンパク質はリソソーム内腔に局在する。Cryba1 KO又はcKOマウスにおいては、RPE細胞の異常は以下のように展開する:異常なERMリン酸化及びRho-GTPase発現(2~3週間);微絨毛の解体(1ヶ月);RPEの不均一性、微絨毛の喪失、誤輸送、及びEMT(3~4ヶ月);並びに重度の表現型(9ヶ月)(
図15Cを参照)。
【0108】
Cryba1 cKOマウスは、RPE細胞におけるエンドサイトーシス経路におけるタンパク質(例、Rab5、EEA1、及びAAPL1)の発現が低下し、RPE細胞における頂端側タンパク質(例、ERM及びEBP50)の発現が低下し、及びRPE細胞におけるクラスリン媒介性エンドサイトーシスが変化する(
図2A~B、3A~C、及び4を参照)。Cryba1 cKOマウスは、RPE細胞における鉄の蓄積及びインフラマソームの活性化の増大を示す(
図8A~C)。更に、Cryba1 cKOマウスは、RPE細胞におけるCLEAR(協調的なリソソームの発現及び調節)ネットワーク遺伝子の発現が減少し、リソソームpHが増大し、カテプシンD酵素活性が減少し、敷石様構造が失われ、RPE65の発現が減少する(
図11A~B、12A~B、13A~B、14A~B、及び17Aを参照)。
【0109】
更に、TFEB活性化が、ヒトAMD患者及びCryba1 KOマウスのRPE細胞において異常である(
図1A~1C及び11A~11Bを参照)。
【0110】
野生型及び構成的に活性のあるTFEBを保有するAAVベクターの産生
Cryba1 cKOマウスのAMD様表現型が構成的活性化TFEBによりレスキューされ得るか否かを決定するために、野生型(WT)及び構成的に活性のあるTFEB-S210Aを保有するAAVベクターを
図5に示す通り改変した。
【0111】
最初に、WT TFEBを、pCR-ブラントベクター(Invitrogen,Carlsbad,CA)にクローニングした。簡単に説明すると、RNAをマウスの腎臓から抽出した後、逆転写してcDNAを生成した。WT TFEBを、より長いアノテーション用に設計されたマウスTFEB(CCDS 28856.1、TFEB_CDS_F:ATGGCGTCACGCATCGGG(配列番号2)及びTFEB_CDS_R:TCACAGAACATCACCCTCCT(配列番号3))のプライマーセット並びにHigh-FidelityPhusionポリメラーゼ(Thermo Scientific,Waltham,MA)を用いたPCRによって増幅した。PCR産物をゲル精製し、製造業者の指示に従ってpCR-Bluntベクターにライゲーションした(配列決定により確認)。
【0112】
ヒト及びマウスのTFEBタンパク質のアラインメントにより、マウスTFEB(CCDS50133.1)のより短いアノテーションに対応する、476残基のオーバーラップにおいて、93.5%の同一性が明らかになった。特に、マウスにおいては、44位における1のグルタミン残基の欠失があり、従って、TFEBの核局在の調節に重要なセリンの位置は、ヒトにおける211位と比較して、マウスにおいては210位にシフトしている。
【0113】
TFEB-S210A変異体を作製するために、。製造業者の指示に従って、QuikChange Lightning Site-Directed Mutagenesis Kit(Agilent,Santa Clara,CA)を用いて、pCR-Blunt中のWT TFEBに点T->G変異を導入することにより、TCCコドンをGCCに変異させた(配列決定により確認)。
【0114】
ギブソンアセンブリ用のプラスミドを調製するために、Age1(BshT1)及びSac1制限酵素を用いてeGFPを切除し、得られた線状化sc(自己相補的)-hVMD2をゲル精製した。より短い型のTFEB(CCDS50133.1)を、以下のプライマー:sc-hVMD2_TFEB_F:accagcctagtcgccagaccaccggGCCACCATGGCGTCACGCATCGGG(配列番号4)及びsc-hVMD2_TFEB_R:cacagtcgaggctgatcagcgagctTCACAGAACATCACCCTCCT(配列番号5)を用いて、pCR-Bluntベクター中のWT又は変異TFEBからPCR増幅した。両方のプライマーには、線状化sc-hVMD2トランスファープラスミド(小文字)とオーバーラップする配列が含まれ、フォワードプライマーには、翻訳効率を向上させるためにKOZAK配列GCCACCが含まれた。
【0115】
線状化sc-hVMD2プラスミド及び新たにPCR増幅したWT又はTFEB-S210Aを、Gibson assembly kit(New England Biolabs,Ipswich,MA)を用いてライゲーションした。ITRの完全性を、SmaI消化によって確認した。sc-hVMD2-TFEB及びsc-hVMD2-TFEB-S210Aコンストラクトを、AAV-HEK-293細胞(Agilent)におけるトリプルトランスフェクション法を使いて、AAV2及びAAV8-2YFベクターにパッケージングした。ウイルスをイオジキサノール勾配で精製し、緩衝液をDPBSに交換した。ウイルスをQPCRを用いて力価測定し、1.64x1012vg(ベクターゲノム)/ml(WT)及び1.72x1012vg/ml(変異体)の力価が示された。
【0116】
RPE細胞へのAAV-TFEBベクターのトランスフェクション
図6A~Cに示す通り、AAV2-TFEB-GFPの網膜下注射により、単回の網膜下感染後、RPE細胞の85~90%超の効率的な感染が実証された。従って、AAV-TFEBベクターはRPE細胞におけるトランスフェクションに好適である。
【0117】
構成的に活性のあるTFEBを発現させるAAVベクターによるCryba1 KOマウス由来のRPE細胞の感染は、リソソーム機能及びオートファジーにおける変化を軽減する
Cryba1 KOマウスを、Valapala et al.,Sci.Rep.,5:8755(2015)に記載の通りに調製した。Cryba1 KOマウス由来のRPE細胞を、構成的に活性のある形態のマウスTFEB(TFEBS210A)を発現するAAV2ベクターに感染させた。コントロールとして、Cryba1 KOマウス由来のRPE細胞に、野生型マウスTFEBを発現させるAAVベクター又は空のベクターを感染させた。
【0118】
図7A~C及び10A~Bにより実証される通り、構成的に活性のあるTFEBは、Cryba1 KO及びcKOマウスのRPE細胞の核に局在し、CLEARネットワーク遺伝子発現及びオートファゴソーム蓄積における変化を、それぞれ低下させた。
【0119】
構成的に活性のあるTFEBを発現させるAAVベクターによるCryba1 KOマウス由来のRPE細胞の感染で、鉄の蓄積及びインフラマソームの活性化が低下する
図8A~Cによって実証される通り、鉄及び酸化還元感受性鉄イオンの全レベルは、老化したCryba1 cKOマウスのRPE細胞において、コントロールと比較して増大した。更に、インフラマソームマーカーNLRP3及びIL-1βのレベルは、老化したCryba1(Cryb1) cKOマウスのRPE細胞において、齢を一致させたコントロールと比較して上昇した。RPE細胞におけるリソソーム異常に起因する鉄過剰負荷は、インフラマソームの活性化及び細胞死を引き起こし得る。
【0120】
構成的に活性のあるTFEBがこの表現型をレスキューできるか否かを確認するために、Cryba1 KOマウス由来のRPE細胞を、鉄キレート剤LCN-2及び鉄ソースのFACの存在下で、構成的に活性のある形態のマウスTFEB(TFEBS210A)を発現するAAVベクターに感染させた。コントロールとして、Cryba1 KOマウス由来のRPE細胞を、鉄キレート剤LCN-2及び鉄ソースのFACの存在下で、野生型マウスTFEBを発現させるAAVベクターに感染させた。
【0121】
鉄の蓄積及びインフラマソーム活性化(NKRP3及びIL-1β発現の増大)は、変異体TFEBベクター感染Cryba1 KO RPE細胞において、コントロールの(WT)TFEBベクター感染細胞と比較して食い止められた(
図9A~Cを参照)。
【0122】
従って、構成的に活性のあるTFEBの投与により、RPE細胞におけるリソソーム機能及びオートファジーにおける変化が軽減され、このことにより、AMD、糖尿病性網膜症、及び糖尿病性黄斑浮腫、及びアルツハイマー病又はパーキンソン病等の神経変性疾患等の障害の治療又は予防における、構成的に活性のあるTFEBの使用が支持される。
【0123】
刊行物、特許出願及び特許を含む、本明細書に引用した全ての参考文献は、それぞれの参考文献が参照によって組込まれることが個々に且つ具体的に示されているのと同程度及びその全体が本明細書に記載されているのと同程度まで、参照によって本明細書に組込まれる。
【0124】
本発明の説明に関して(特に、以下の特許請求の範囲に関して)、用語「a」及び「an」及び「the」及び「少なくとも1」並びに同様の指示対象の使用は、本明細書に特記しないか文脈と明らかに矛盾しない限り、単数形及び複数形の両方をカバーすると解釈すべきである。1以上の事項の列挙の後での用語「少なくとも1」の使用(例えば、「A及びBのうち少なくとも1」)は、本明細書に特記しないか又は文脈と明らかに矛盾しない限り、列挙した事項から選択された1の事項(A若しくはB)又は列挙した事項のうち2以上の任意の組合せ(A及びB)を意味すると解釈すべきである。用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」及び「含有する(containing)」は、特記しない限り、オープンエンドの用語(即ち、「~を含むがそれらに限定されない」を意味する)と解釈すべきである。本明細書の値の範囲の記述は、本明細書に特記しない限り、その範囲内に入る各個別の値に個々に言及する省略方法として働くことのみを意図しており、各個別の値は、それが本明細書に個々に記述されているかのように本明細書に組込まれる。本明細書に記載の全ての方法は、本明細書に特記しないか又は文脈と特に明らかに矛盾しない限り、任意の好適な順序で実施できる。本明細書に提供される任意の及び全ての例又は例示的語句(例、「等(such as)」)の使用は、本発明をよりよく説明することのみを意図しており、特段特許請求されない限り、本発明の範囲に限定を課すものではない。本明細書の全ての語句は、特許請求されていない任意の要素を本発明の実施に必須のものとして示していると解釈すべきではない。
【0125】
発明を実施するための、発明者が知る最良の形態を含む、本発明の好ましい実施形態が本明細書に記載される。これらの好ましい実施形態のバリエーションは、上述の説明を読めば当業者に明らかとなり得る。本発明者らは、当業者がかかるバリエーションを適宜用いることを予期しており、本発明者らは、本明細書に具体的に記載されたのとは異なる方法で本発明が実施されることを意図している。従って、本発明は、適用法によって許容される通り、本明細書に添付した特許請求の範囲に記載の主題の全ての改変及び均等物を含む。更に、その全ての可能なバリエーションでの上記要素の任意の組合せが、本明細書に特記しないか又は文脈と特に明らかに矛盾しない限り、本発明によって包含される。
【配列表】
【国際調査報告】