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特表2022-547208ニコチニルアルコールエーテル誘導体のマレイン酸塩、その結晶形、及びその使用
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  • 特表-ニコチニルアルコールエーテル誘導体のマレイン酸塩、その結晶形、及びその使用 図1
  • 特表-ニコチニルアルコールエーテル誘導体のマレイン酸塩、その結晶形、及びその使用 図2
  • 特表-ニコチニルアルコールエーテル誘導体のマレイン酸塩、その結晶形、及びその使用 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-10
(54)【発明の名称】ニコチニルアルコールエーテル誘導体のマレイン酸塩、その結晶形、及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07D 213/30 20060101AFI20221102BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 5/14 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20221102BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221102BHJP
   A61K 31/4406 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
C07D213/30 CSP
A61P21/00
A61P17/00
A61P9/00
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P25/00
A61P1/16
A61P13/12
A61P7/06
A61P1/04
A61P21/04
A61P3/10
A61P5/14
A61P31/12
A61P31/04
A61P37/06
A61P31/00
A61P35/00
A61P29/00
A61K31/4406
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022515664
(86)(22)【出願日】2020-09-09
(85)【翻訳文提出日】2022-04-26
(86)【国際出願番号】 CN2020114137
(87)【国際公開番号】W WO2021047528
(87)【国際公開日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】201910864721.X
(32)【優先日】2019-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518416551
【氏名又は名称】中国医学科学院薬物研究所
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF MATERIA MEDICA, CHINESE ACADEMY OF MEDICAL SCIENCES
【住所又は居所原語表記】ZHANG XUBIN, NO.A2, NAN WEI ROAD, XICHENG DISTRICT, BEIJING 100050, PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100166729
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 幸子
(71)【出願人】
【識別番号】519178593
【氏名又は名称】天津紅日薬業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】TIANJIN CHASE SUN PHARMACEUTICAL CO., LTD
【住所又は居所原語表記】NO. 20, QUANFA ROAD, TIANJIN WUQING DEVELOPMENT AREA, TIANJIN, 301700 PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA
(72)【発明者】
【氏名】フェン ジーチアン
(72)【発明者】
【氏名】チェン シャオグアン
(72)【発明者】
【氏名】マー チェン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ライ ファンファン
(72)【発明者】
【氏名】ワン ユーチェン
(72)【発明者】
【氏名】ジー ミン
(72)【発明者】
【氏名】グオ カイジン
【テーマコード(参考)】
4C055
4C086
【Fターム(参考)】
4C055AA01
4C055BA01
4C055CA02
4C055CA16
4C055CB10
4C055DA01
4C055FA41
4C055GA01
4C055GA03
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086AA04
4C086BC17
4C086GA14
4C086GA15
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA03
4C086NA05
4C086NA11
4C086ZA01
4C086ZA36
4C086ZA55
4C086ZA68
4C086ZA75
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZA94
4C086ZA96
4C086ZB07
4C086ZB08
4C086ZB11
4C086ZB15
4C086ZB26
4C086ZB31
4C086ZB33
4C086ZB35
4C086ZC06
4C086ZC35
(57)【要約】
本発明は、医薬の技術分野に関し、ニコチニルアルコールエーテル誘導体のマレイン酸塩、その結晶形及びその使用、すなわち、(S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリンイソプロピルエステルマレイン酸塩とその立体異性体と結晶形、その調製方法、医薬組成物とその用途を開示したものである。具体的には、本発明は、式Iによって表される(S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリンイソプロピルエステルマレイン酸塩、その結晶形、その立体異性体、それらの調製方法、上記化合物又はその結晶形を含む組成物、並びにPD-1/PD-L1シグナル伝達経路に関連する疾患、例えば癌、感染症及び自己免疫疾患を治療するための医薬の調製における上記化合物又はその結晶形の使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で示されるイソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩及びその立体異性体。
【化1】
【請求項2】
イソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩の結晶形A固体物質であって、粉末X線回折分析を用い、Cuターゲット放射線実験条件を採用した場合、回折ピークの位置、2θ値(°)又はd値(Å)、及び回折ピークの相対強度(%)が以下の特性を有するイソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩の結晶形A固体物質。
【表1】
【請求項3】
赤外スペクトルによって分析した場合、3059、2984、2841、2761、2519、2170、1988、1968、1807、1741、1716、1623、1602、1580、1505、1481、1460、1446、1425、1401、1389、1368、1309、1262、1242、1205、1171、1111、1095、1069、1040、1004、972、953、924、884、870、864、854、824、788、761、721、703、及び662cm-1±2cm-1の吸収ピークが、前記結晶形A固体物質によって提示される赤外スペクトルの特徴的なピーク位置であることを特徴とする請求項2に記載のイソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩の結晶形A固体物質。
【請求項4】
示差走査熱量測定によって分析した場合、10℃/分の昇温速度によるDSCスペクトルにおいて、175℃±3℃に吸熱ピークが存在することを特徴とする請求項2に記載のイソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩の結晶形A固体物質。
【請求項5】
イソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩の混晶固体物質であって、任意のゼロではない割合の請求項2に記載のイソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩の結晶形A固体物質を含むことを特徴とするイソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩の混晶固体物質。
【請求項6】
請求項1に記載のイソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩又は請求項2に記載の結晶形A固体物質の調製方法であって、
イソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートをマレイン酸と溶媒中で反応させて塩を形成する工程であって、好ましくは、前記溶媒がイソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン又はアセトンである工程と、
得られたイソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩を、アセトン及び水の混合溶媒中で結晶化する工程であって、アセトンと水の比が200:1~1:1の範囲にあり、好ましくは上記比は50:1~5:1の範囲にあり、より好ましくは上記比は25:1~10:1の範囲にある工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
有効成分としての請求項1に記載のイソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩及びその立体異性体又は請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の結晶形A固体物質又は請求項5に記載の混晶固体物質と、その薬学的に許容できる担体又は賦形剤とを含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項8】
PD-1/PD-L1シグナル経路に関連する疾患の予防及び/又は治療のための医薬の製造における、請求項1に記載のイソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩及びその立体異性体又は請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の結晶形A固体物質又は請求項5に記載の混晶固体物質の使用。
【請求項9】
前記PD-1/PD-L1シグナル経路に関連する疾患が、癌、感染症及び自己免疫疾患から選択されることを特徴とする請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記癌が、皮膚癌、肺癌、泌尿器腫瘍、血液腫瘍、乳癌、神経膠腫、消化器系腫瘍、生殖器系腫瘍、リンパ腫、神経系腫瘍、脳腫瘍、頭頸部癌から選択され、前記感染症が、細菌感染症及びウイルス感染症から選択され、前記自己免疫疾患が、臓器特異的自己免疫疾患、及び全身性自己免疫疾患から選択され、前記臓器特異的自己免疫疾患が、慢性リンパ球性甲状腺炎、甲状腺機能亢進症、インスリン依存性糖尿病、重症筋無力症、潰瘍性大腸炎、慢性萎縮性胃炎による悪性貧血、肺出血性腎炎症候群、原発性胆汁性肝硬変、多発性硬化症、及び急性特発性多発神経炎を含み、前記全身性自己免疫疾患が、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、全身性血管炎、強皮症、天疱瘡、皮膚筋炎、混合性結合組織病、及び自己免疫性溶血性貧血を含むことを特徴とする請求項9に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の技術分野に属し、ニコチニルアルコールエーテル誘導体のマレイン酸塩、その結晶形及び使用、すなわち、イソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩、その調製方法、その結晶形、医薬組成物及び使用を開示する。具体的には、本発明は、式Iに示されるイソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩、その立体異性体、その調製方法、その結晶形、当該化合物又はその結晶形を含む組成物、及びPD-1/PD-L1シグナル経路に関連する疾患、例えば癌、感染症、自己免疫疾患等の治療又は予防のための医薬の製造における当該化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍免疫について深く研究することにより、腫瘍微小環境は、腫瘍細胞が免疫系に認識され、死滅させられることから防御することができるということが分かっている。腫瘍細胞の免疫逃避は、腫瘍の発生及び進展に非常に重要な役割を果たす。2013年、サイエンス誌は腫瘍免疫療法を10大ブレークスルーの第1位に挙げ、これにより、再び免疫療法が腫瘍治療分野の「焦点」となった。免疫細胞の活性化又は阻害(抑制)は、正及び負のシグナルによって制御されている。プログラム死1(programmed death 1、PD-1)/PD-1リガンド(PD-1 ligand、PD-L1)は負の免疫調節シグナルであり、これは、腫瘍特異的CD8+ T細胞の免疫活性を阻害し、免疫逃避を媒介する。
【0003】
腫瘍細胞が免疫系から逃避する能力は、その表面に産生されたPD-L1がT細胞のPD-1タンパク質と結合することで実現される。体内の腫瘍微小環境は、浸潤したT細胞にPD-1分子を高発現させ、腫瘍細胞はPD-1のリガンドであるPD-L1及びPD-L2を高発現することになるため、腫瘍微小環境においてPD-1経路が活性化し続け、T細胞の機能が阻害されて腫瘍を発見できず、腫瘍を攻撃して腫瘍細胞を死滅させるという命令を免疫系に出せなくなる。PD-1抗体は、PD-1又はPD-L1に対する抗体タンパク質であり、PD-1とPD-L1との結合を阻害して上記経路を遮断し、T細胞の機能を一部回復させ、これらの細胞が腫瘍細胞を殺し続けることを可能にすることができる。
【0004】
最近、一連の驚くべき研究成果により、PD1/PD-L1阻害抗体が様々な腫瘍に対して強い抗腫瘍活性を有することが確認され、魅力的なものとなっている。2014年9月4日、米国のMSD(メルク)のKeytruda(キイトルーダ)(登録商標)(ペムブロリズマブ)が、他の薬剤が効かない進行したか又は切除不能な黒色腫(メラノーマ)の患者の治療薬として、FDAから初めて承認されたPD-1モノクローナル抗体となった。現在、MSDは、様々な血液癌、肺癌、乳癌、膀胱癌、胃癌、頭頸部癌等30種類以上の癌におけるKeytrudaの可能性を検証している。2014年12月22日、巨大製薬会社であるブリストル・マイヤーズスクイブ(Bristol Myers Squibb)がその期待に応え、米国食品医薬品局(FDA)の加速承認取得に先陣を切った。同社の抗癌免疫療法薬ニボルマブが、他剤に反応しない切除不能又は転移性の黒色腫の患者の治療薬としてOpdvio(オプジーボ)の商品名で収載され、これは、米国ではMSDのKeytrudaに次いで2番目に収載されたPD-1阻害剤となった。2015年3月4日、FDAはニボルマブを、白金製剤を用いた化学療法中又は化学療法後に病勢進行した転移性扁平上皮非小細胞肺癌の治療薬として承認した。MSDが発表した固形腫瘍の治療薬としてのKeytruda(ペムブロリズマブ)の第Ib相KEYNOTE-028試験データによると、Keytrudaを用いた治療は、胸膜中皮腫(PM)患者25人に対して28%の全奏効率(ORR)を達成し、患者の48%が病状安定状態になり、病勢コントロール率は76%に達した。現在承認されている薬剤が効かなかった進行性ホジキンリンパ腫(HL)の患者は、MSDのKeytruda及びBMSのOpdvioを用いた治療の後に完全寛解を達成することができる。2015AACR年次総会では、ジョンズホプキンス・キンメル癌センター(Johns Hopkins Kimmel Cancer Center)の腫瘍学准教授であるLeisha A. Emens医学士、医学博士が、ロシュ(Roche)の抗PD-L1作用を有するモノクローナル抗体MPDL3280Aが進行したトリプルネガティブ乳癌で持続的な治療効果を示したと報告した。
【0005】
腫瘍免疫療法は、標的治療に続く癌治療の革命と考えられているが、mAb医薬品は、プロテアーゼで分解されやすく体内で不安定で経口摂取できない、免疫交差反応を起こしやすい、製品品質の管理が容易ではなく製造技術の要求が高い、大量調製及び精製が困難で製造コストが高い、注射や点滴でしか使用できず不便である、等の欠点を持っている。それゆえ、PD1/PD-L1相互作用低分子阻害剤は、腫瘍免疫療法のためのより良い選択である。
【0006】
国際出願PCT/CN2017/085418号において、本発明者らは、イソプロピル (S)-N-[2-(ピリジニル-3-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-(フェニル)ベンジルオキシ)-5-クロロベンジル]セリネート塩酸塩、及び癌、感染症、自己免疫疾患等のPD-1/PD-L1シグナル経路に関連する疾患の予防又は治療のための医薬の製造におけるその使用を開示した。その後の研究において、本発明者らは、本化合物のマレイン酸塩が、その塩酸塩と比較して、安定性及び有効性がより強いことを見出した。本発明の実施例1の塩酸塩は、比較例として、国際特許出願PCT/CN2017/085418号の調製方法に完全準拠して調製したものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決する技術的課題は、PD-1/PD-L1の相互作用を阻害する構造式(I)のイソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩、及びその立体異性体、その調製方法、その医薬組成物、及びPD-1/PD-L1シグナル経路に関連する疾患の予防又は治療のための医薬の製造におけるその使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の技術的課題を解決するために、本発明は、以下の技術的解決手段を提供する。
【0009】
本発明の技術的解決手段の第1の態様は、式(I)で示されるイソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩[(S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリン酸イソプロピル・マレイン酸塩]、及びその立体異性体を提供することである。
【化1】
【0010】
本発明の技術的解決手段の第2の態様は、イソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩の結晶形A固体物質であって、粉末X線回折分析を用い、Cuターゲット放射線実験条件を採用した場合、回折ピークの位置、2θ値(°)又はd値(Å)、及び回折ピークの相対強度(%)が以下の特性を有するイソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩の結晶形A固体物質を提供する。
【表1】
【0011】
上記の結晶形A固体物質では、赤外スペクトルによって分析した場合、3059、2984、2841、2761、2519、2170、1988、1968、1807、1741、1716、1623、1602、1580、1505、1481、1460、1446、1425、1401、1389、1368、1309、1262、1242、1205、1171、1111、1095、1069、1040、1004、972、953、924、884、870、864、854、824、788、761、721、703、662cm-1±2cm-1の吸収ピークは、当該結晶形A固体物質によって提示される赤外スペクトルの特徴的なピーク位置である。
【0012】
上記の結晶形A固体物質では、示差走査熱量測定によって分析した場合、10℃/分の昇温速度によるDSCスペクトルにおいて、175℃±3℃に吸熱ピークが存在する。
【0013】
本発明の技術的解決手段の第2の態様は、イソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩の混晶固体物質であって、任意のゼロでない割合の上記イソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩の結晶形A固体物質を含む混晶固体物質も提供する。
【0014】
本発明の技術的解決手段の第3の態様は、第1の態様における化合物及び第2の態様における結晶形A固体物質の調製(製造)方法を提供する。
【化2】
式(I)の化合物の調製方法は、以下の通りである。
イソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートをマレイン酸と溶媒中で反応させて塩を形成する工程であって、最も好ましくは、上記溶媒がイソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン又はアセトンである工程、
得られたイソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩を、アセトン及び水の混合溶媒中で結晶化する工程であって、アセトンと水の比は200:1~1:1の範囲にあり、好ましくは上記比は50:1~5:1の範囲にあり、最も好ましくは上記比は25:1~10:1の範囲にある工程。式(I)の化合物並びにその溶媒和物及び塩の調製プロセス中に、異なる結晶化条件下で多結晶が出現してもよい。
【0015】
本発明の技術的解決手段の第4の態様は、医薬組成物であって、有効成分としての本発明の第1の態様におけるイソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩及びその立体異性体又は第2の態様における結晶形A固体物質と、薬学的に許容できる担体又は賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0016】
本発明はさらに、本発明の化合物を有効成分として含む医薬組成物に関する。当該医薬組成物は、当該分野で周知の方法によって調製することができる。本発明の化合物を1種以上の薬学的に許容できる固体若しくは液体の賦形剤及び/又はアジュバントと組み合わせることにより、ヒト又は動物での使用に適した任意の剤形を調製することができる。当該医薬組成物中の本発明の化合物の含有量は、通常、0.1~95重量%である。
【0017】
本発明の化合物又はそれを含む医薬組成物は、単位剤形で投与することができ、投与経路は、経口、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、経鼻、口腔粘膜内、眼内、肺内及び気道、経皮膚、膣内、経直腸等、経腸又は非経口であることが可能である。
【0018】
投与剤形は、液体剤形、固体剤形又は半固体剤形とすることができる。液体剤形は、溶液(真正溶液及びコロイド溶液を含む)、乳剤(o/w型、w/o型及び二重エマルションを含む)、懸濁液、注射剤(水注、粉注及び点滴を含む)、点眼剤、点鼻剤、ローション、チンキ剤等であってもよく、固形剤形は、錠剤(普通錠、腸溶錠、トローチ剤、分散錠、チュアブル錠、発泡錠、口腔内崩壊錠を含む)、カプセル(ハードカプセル、ソフトカプセル、腸溶カプセルを含む)、顆粒、粉末、ペレット、滴丸剤(ドロップピル)、座剤、フィルム、パッチ、ガス(粉末)スプレー、スプレー剤等であってもよく、半固体剤形は軟膏、ジェル、ペースト等であることができる。
【0019】
本発明の化合物は、一般的な製剤の他、徐放性製剤、放出制御製剤、標的製剤、各種微粒子送達システム等に製剤化することが可能である。
【0020】
本発明の化合物を錠剤に製剤化するために、希釈剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、滑沢剤及び流動促進剤等の当該分野で公知の種々の賦形剤を広く使用することができる。希釈剤は、デンプン、デキストリン、スクロース、グルコース、ラクトース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、微結晶セルロース、硫酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム等であってもよく、湿潤剤は、水、エタノール、又はイソプロパノール等であってもよく、結合剤は、水飴、デキストリン、シロップ(糖蜜)、蜂蜜、ブドウ糖液、微結晶セルロース、アラビアゴム、ゼラチンシロップ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、アクリル樹脂、カルボマー、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等であってもよく、崩壊剤は、乾燥デンプン、微結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、架橋ポリビニルピロリドン、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及びクエン酸、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ドデシルスルホン酸ナトリウム等であることができ、滑沢剤及び流動促進剤は、タルク、シリカ、ステアリン酸塩、酒石酸、流動パラフィン、ポリエチレングリコール等であってもよい。
【0021】
また、錠剤はさらに、糖衣錠、フィルムコーティング錠、腸溶性コーティング錠等のコーティング錠(被覆錠剤)、又は二層錠及び多層錠に製剤化されてもよい。
【0022】
投与単位をカプセルに製剤化するために、有効成分としての本発明の化合物を希釈剤及び流動促進剤と混合し、その混合物をハードカプセル又はソフトカプセルに直接入れることができる。有効成分としての本発明の化合物を、希釈剤、結合剤及び崩壊剤とともに顆粒又はペレットに製剤化した後、ハードカプセル又はソフトカプセルに入れることもできる。本発明の化合物の錠剤を調製するための各種希釈剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤又は流動促進剤を用いて、本発明の化合物のカプセルを調製することもできる。
【0023】
本発明の化合物を注射剤に製剤化するために、溶媒として水、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール又はそれらの混合物が使用されてもよく、適量の当該分野で通常用いられる可溶化剤(溶解補助剤)、共溶媒、pH調整剤、及び浸透圧調整剤が添加されてもよい。可溶化剤又は共溶媒は、ポロキサマー、レシチン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン等であってもよく、pH調整剤は、リン酸塩、酢酸塩、塩酸、水酸化ナトリウム等であってもよく、浸透圧調整剤は、塩化ナトリウム、マンニトール、グルコース、リン酸塩、酢酸塩等であってもよい。また、凍結乾燥粉末注射剤を調製する場合には、マンニトール、グルコース等がプロッパントとして添加されてもよい。
【0024】
さらに、必要に応じて、着色料、保存料、香料、矯味矯臭剤又は他の添加物を医薬製剤に添加してもよい。
【0025】
投薬の目的を達成し、治療効果を高めるために、本発明の医薬又は医薬組成物は、公知の任意の投与方法によって投与することができる。
【0026】
本発明の化合物又は医薬組成物の投与量は、予防又は治療すべき疾患の性質及び重症度、患者又は動物の個々の状態、投与経路、並びに剤形等に応じて広い範囲に変化させることができる。一般に、本発明の化合物の好適な1日投与量は、0.001~150mg/kg体重の範囲にあり、好ましくは0.01~100mg/kg体重の範囲にある。上記投与量は、医師の臨床経験及び他の治療手段の使用を含む投与レジメンに応じて、1投与単位又は分割投与単位で投与されてもよい。
【0027】
本発明の化合物又は組成物は、単独で、又は他の治療剤若しくは症状改善剤と組み合わせて投与することができる。本発明の化合物が他の治療剤と相乗効果を発揮する場合、その投与量は実際の状況に応じて調節する必要がある。
【0028】
本発明の技術的解決手段の第5の態様は、PD-1/PD-L1シグナル経路に関連する疾患の予防及び/又は治療のための医薬の製造における、イソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩及びその立体異性体又は第2の態様における結晶形A固体物質の使用を提供する。
【0029】
上記PD-1/PD-L1シグナル経路に関連する疾患は、癌、感染症、及び自己免疫疾患からなる群から選択される。この癌は、皮膚癌、肺癌、泌尿器腫瘍、血液腫瘍、乳癌、神経膠腫、消化器系腫瘍、生殖器系腫瘍、リンパ腫、神経系腫瘍、脳腫瘍、頭頸部癌からなる群から選択される。上記感染症は、細菌感染症及びウイルス感染症からなる群から選択される。上記自己免疫疾患は、臓器特異的自己免疫疾患、全身性自己免疫疾患からなる群から選択され、この臓器特異的自己免疫疾患としては、慢性リンパ球性甲状腺炎、甲状腺機能亢進症、インスリン依存性糖尿病、重症筋無力症、潰瘍性大腸炎、慢性萎縮性胃炎による悪性貧血、肺出血性腎炎症候群、原発性胆汁性肝硬変、多発性硬化症、急性特発性多発神経炎が挙げられる。上記全身性自己免疫疾患としては、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、全身性血管炎、強皮症、天疱瘡、皮膚筋炎、混合性結合組織病、自己免疫性溶血性貧血が挙げられる。
【発明の効果】
【0030】
イソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネート塩酸塩と比較すると、本発明の化合物イソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩は結晶形が安定であり、光照射、高湿度、高温の環境に対する安定性が良好であり、マウスの皮下移植腫瘍モデル又はヒト免疫系で再構築したNSG腫瘍保有マウスモデルにおいて、各種腫瘍に対して高い腫瘍抑制率を有する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施例1の化合物の示差走査熱量測定/熱重量分析スペクトル。
図2】実施例2の化合物の示差走査熱量測定/熱重量分析スペクトル。
図3】実施例2の化合物の粉末X線回折パターン。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を具体的な実施例と組み合わせてさらに説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0033】
試験装置:核磁気共鳴分光法には、Bruker AVANCE III 500型高分解能超伝導核磁気共鳴分光計を使用する。質量分析には、QSTAR Elite LC/MS/MSシステムを使用する。元素分析には、FLASH1112微量元素分析装置及びMX-5百万分の一天秤装置を使用する。紫外分析には、島津製作所UV-2700紫外可視分光光度計を使用した。比旋光度の測定には、米国のPEの343型旋光計を使用する。粉末X線回折分析には、D8-Advance X線回折計を用いる。示差走査熱量測定/熱重量分析(DSC/TG)には、スイスのMettler(メトラー)のTGA/DSC3熱分析計を用いる。
【0034】
1. 塩の調製
実施例1:イソプロピル (S)-N-[2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-(フェニル)ベンジルオキシ)-5-クロロベンジル]セリネート塩酸塩(本実施例は比較例であり、本化合物は公知化合物であり、その調製方法は、国際出願PCT/CN2017/085418号の実施例6と全く同じである)。
【化3】
【0035】
100ml丸底フラスコに598mgの(S)-N-[2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-(フェニル)ベンジルオキシ)-5-クロロベンジル]セリン及び60mlの無水イソプロパノールを入れ、氷水浴中で撹拌しながら、6mlの塩化スルホキシド及び2滴のDMFを添加した。この混合物を室温で2時間撹拌し、反応が完了するまで加熱還流した。溶媒を減圧下で留去し、イソプロピル (S)-N-[2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-(フェニル)ベンジルオキシ)-5-クロロベンジル]セリネート塩酸塩を白色固体として得た。H NMR(400MHz,DMSO-d) δ 9.62(s,1H,-HCl),9.40(s,1H,-HCl),9.10(s,1H,-ArH),8.86(d,1H,-ArH),8.59(d,J=7.6Hz,1H,-ArH),8.01-7.91(m,1H,-ArH),7.73-7.64(m,2H,-ArH),7.57-7.46(m,3H,-ArH),7.46-7.37(m,4H,-ArH),7.16(s,1H,-ArH),5.47(s,2H,-CH-),5.36(s,2H,-CH-),4.92(m1H,-CH-),4.30-4.15(m,2H,-CH-),4.05(s,1H,-CH-),3.97(dd,J=12.0,3.0Hz,1H,-CH-),3.84(dd,J=12.0,3.8Hz,1H,-CH-),1.20(d,J=6.4Hz,3H,-CH),1.18(d,J=6.4Hz,3H,-CH)。MS(FAB):640(M)。
【0036】
実施例2:イソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩(IMMH-010)
室温で、イソプロピル (S)-N-[2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-(フェニル)ベンジルオキシ)-5-クロロベンジル]セリネート(2.6g)及びイソプロパノール(9ml)を50ml反応フラスコに添加した。この混合物を40℃に加熱し、0.5時間撹拌し、マレイン酸(0.594g)-イソプロパノール(4ml)溶液を滴下しながら加えた。温度を35~45℃に制御し、固体を析出させた後、その混合物をその温度で0.5時間撹拌し、自然に室温まで冷却し、一晩撹拌した。翌日、この混合物を吸引濾過し、濾過ケーキを0.5mlのイソプロパノール及び0.5mlのアセトンで順次洗浄し、淡黄色固体を得たが、これがイソプロピル (S)-N-(2-(ピリジン-3-イル-メトキシ)-4-(2-ブロモ-3-フェニルベンジルオキシ)-5-クロロベンジル)セリネートマレイン酸塩の粗生成物である。室温で、この粗生成物及びアセトン(26ml)を50ml反応フラスコに加え、加熱して還流させ、1.4mlの精製水を滴下して加えた。完全に溶解させた後、混合物を熱濾過にかけた。濾過後、濾過ケーキを50mlの反応フラスコに移し、自然に室温まで冷却し、晶析のために一晩撹拌した。翌日、この混合物を5~15℃に冷却し、2時間撹拌した後、吸引濾過した。濾過ケーキを0.5mlのアセトンで洗浄し、45℃で恒量まで強制風乾し、純品(0.73g)を白色固体として得た。
【0037】
2. 実施例2の化合物の構造確認
1)元素分析:
(1)試験装置:微量元素分析装置FLASH1112及び百万分の一天秤MX-5。
(2)試験方法:炭素、水素及び窒素を並行して2回測定した。
(3)測定結果:
【表2】
【0038】
2)高分解能質量分析:
(1)試験装置:QSTAR Elite LC/MS/MSシステム
(2)試験条件:ESI源
(3)実測データ:
【表3】
【0039】
3)紫外線吸収スペクトル:
(1)試験装置:島津製作所UV-2700紫外可視分光光度計
(2)試験方法:試料を所定濃度の溶液に調製し、同じバッチの溶媒をブランク対照として使用し、1cm吸収セルを用いて190~400nmの範囲で吸収値を測定した。
溶媒:水-メタノール(1:1)、0.1mol/Lの塩酸-メタノール(1:1)、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム-メタノール(1:1)
試験溶液濃度:20μl/ml。
(3)実測データ
【表4】
【0040】
4)赤外吸収スペクトル:
(1)試験装置:英国のPE(Spectrum 400)赤外分光計
(2)試験条件:減衰全反射(ATR)赤外分光法、粉末直接注入法
【表5】
【0041】
5)核磁気共鳴水素スペクトル及び炭素スペクトル:
(1)試験装置:Bruker AVANCE III 500型高分解能超伝導核磁気共鳴分光計
(2)試験条件:溶媒はDMSO-d6であり、内部標準はTMSであった。
【表6】
【表7】
【0042】
6)比旋光度:
(1)試験装置:米国PE製343型旋光計。
(2)試験方法:本発明の生成物を正確に秤量し、DMSOに溶解し、1mlあたり約50mgを含む溶液となるように定量的に希釈し、比旋光度を測定した。
(3)試験温度:20℃
(4)結果
DMSOを溶媒とし、測定濃度を50mg/mlとした場合、実施例2の化合物の比旋光度は+5.5°であった。[α]20 589=+5.5°(C=5、DMSO)。
【0043】
3. 実施例2の化合物の結晶形分析
1)粉末X線回折分析:
(1)試験装置:D8-Advance X線回折計
(2)試験条件:動作電圧:40kV、動作電流:40mA、Cuターゲット。走査速度:0.02度/ステップ、データ取り込み時間:0.1秒/ステップ。
(3)試験結果(図3参照):
【表8(1)】
【表8(2)】
(4)分析:粉末X線回折分析は、実施例2の化合物が結晶性物質であることを示した。
2)示差走査熱量測定/熱重量分析(DSC/TG):
(1)試験装置:スイスのMettlerのTGA/DSC3熱分析計
(2)パラメータ設定:開始温度:35℃;終了温度:250℃;昇温速度:10℃/分。
(3)実測データ:DSC:ピーク温度:174.68℃(吸熱)。
TGA:170℃付近で重量減少が始まり、175℃で重量減少が明らかになった。
(4)分析:DSCは、174.68℃に吸熱ピークがあることを示し、この吸熱ピークは実施例2の化合物の融解から吸収された熱に起因するはずである。TGAは、160℃までは基本的に熱重量曲線に変化はなく、重量減少もないことを示し、これは、実施例2の化合物は結晶化溶媒を含まないことを示唆した。DSC吸熱ピークの頂点(約175℃)まで温度が上昇すると、重量減少が明らかになり、これは、試料の溶融分解に伴う重量減少であった。このDSC吸熱ピークは、実施例2の化合物の分解点であった。
【0044】
4. 実施例1の化合物と実施例2の化合物との安定性の比較
1)実施例1の化合物の安定性
(1)物理的及び化学的な特性
外観:オフホワイトの粉末
融点:119.36℃(DSC法)(図1参照)
純度:99.5%(HPLC規格化法)
logP=2.4
(2)影響因子試験
【表9】
【0045】
実施例1の化合物は、60℃の高温下に5日間置いても外観、融点及び不純物含有量に明らかな変化を示さず、これは、実施例1の化合物が高温条件下で安定であることを示唆する。RH92.5%の高湿度下に5日間置いた後、この化合物は深刻な吸湿を示し、外観は無色の高粘性液体になったが、関連物質には変化がなかった。この化合物は、照明条件下では、外観は透明なバルクとなり、その不純物含量は4.0%に増加し、これは、この化合物は照明条件下では不安定であることを示唆した。
【0046】
2)実施例2の化合物の安定性
(1)物理的及び化学的な特性
外観:白色固体
融点:174.68℃(DSC法)(図2参照)
純度:98.7%(HPLC規格化法)
logP=3.2
(2)影響因子試験
【表10】
【0047】
実施例2の化合物は、照明、高温及び高湿の条件下でも安定であった。
【0048】
5. マウスメラノーマB16F10に対する実施例1の化合物及び実施例2の化合物のインビボでの抗腫瘍効果の比較
実験の目的:
マウスメラノーマB16F10に対するPD-L1阻害剤としての実施例1の化合物及び実施例2の化合物のインビボ抗腫瘍効果を、マウスの皮下移植腫瘍モデルで評価した。
実験的解決手段:
動物群分け:実験動物を溶媒対照群、シクロホスファミド80mg/kg群(CTX)、実施例1の化合物5mg/kg群及び10mg/kg群、並びに実施例2の化合物5mg/kg群及び10mg/kg群にそれぞれ分けた。
実験手順:継代培養したB16F10腫瘍株をホモジナイザで粉砕し、滅菌した普通食塩水で2回洗浄し、計数し、腫瘍細胞懸濁液の細胞濃度を普通食塩水で9×10/mlに調整した。この細胞懸濁液0.2mlをC57BL/6Jマウスの右脇の下に接種し、その日を0日目と記録した。接種の翌日、動物を無作為に群分けし、体重測定して投与した。溶媒対照群のマウスには、0.5%CMCを毎日経口投与した。シクロホスファミドは腹腔内投与した。試験対象となる化合物は1日1回経口投与した。処理の過程で、動物を体重測定し、殺処分した。腫瘍組織を剥離し、重量測定し、写真を撮った。最後に、抗腫瘍効果の強さを評価するために、腫瘍抑制率を計算した。
計算及び統計の方法:腫瘍増殖抑制率TGI(%):TGI=(1-T/C)×100 (T:処理群における腫瘍重量、C:陰性対照群における腫瘍重量)。
統計方法:データの統計解析にはGraphpad(グラフパッド)を使用し、一元配置ANOVA検定を使用した、 P<0.05、** P<0.01、*** P<0.001。
【0049】
実験結果
投与後、動物を実行し、腫瘍の重量を測定した。マウスメラノーマB16F10に対する実施例1の化合物及び実施例2の化合物の抗腫瘍効果を下記表に示した。
【0050】
【表11】
【0051】
【表12】
【0052】
6. マウス大腸癌MC38に対する実施例1の化合物及び実施例2の化合物のインビボでの抗腫瘍効果の比較
実験の目的:
マウス大腸癌MC38に対するPD-L1阻害剤としての実施例1の化合物及び実施例2の化合物のインビボ抗腫瘍効果を、マウスの皮下移植腫瘍モデルで評価した。
実験的解決手段:
動物群分け:実験動物を溶媒対照群、シクロホスファミド80mg/kg群(CTX)、実施例1の化合物5mg/kg群及び10mg/kg群、並びに実施例2の化合物5mg/kg群及び10mg/kg群にそれぞれ分けた。
実験手順:継代培養したMC38腫瘍株をホモジナイザで粉砕し、滅菌した普通食塩水で2回洗浄し、計数し、腫瘍細胞懸濁液の細胞濃度を普通食塩水で9×10/mlに調整し、この細胞懸濁液0.2mlをC57BL/6Jマウスの右脇の下に接種し、その日を0日目と記録した。接種の翌日、動物を無作為に群分けし、体重測定して投与した。溶媒対照群のマウスには、0.5%CMCを毎日経口投与した。シクロホスファミドは腹腔内投与した。試験対象となる化合物は1日1回経口投与した。処理の過程で、動物を体重測定し、殺処分した。腫瘍組織を剥離し、重量測定し、写真を撮った。最後に、抗腫瘍効果の強さを評価するために、腫瘍抑制率を計算した。
計算及び統計の方法:腫瘍増殖抑制率TGI(%):TGI=(1-T/C)×100 (T:処理群における腫瘍重量、C:陰性対照群における腫瘍重量)。
統計方法:データの統計解析にはGraphpadを使用し、一元配置ANOVA検定を使用した、 P<0.05、** P<0.01、*** P<0.001。
実験結果:
投与後、動物を実行し、腫瘍の重量を測定した。マウス大腸癌MC38に対する実施例1の化合物及び実施例2の化合物の抗腫瘍効果を下記表に示した。
【0053】
【表13】
【0054】
【表14】
【0055】
7. ヒト肺癌NCI-H460モデルに対する実施例1の化合物及び実施例2の化合物の抗腫瘍効果の比較
実験の目的:
PD-L1阻害剤としての実施例1の化合物及び実施例2の化合物のインビボ抗腫瘍効果を、ヒト免疫系で再構成したNSG腫瘍保有マウスにおけるヒト肺癌のNCI-H460モデルで評価した。
実験的解決手段:
動物群分け:実験動物を溶媒対照群、シクロホスファミド80mg/kg群(CTX)、実施例1の化合物5mg/kg群及び10mg/kg群、並びに実施例2の化合物5mg/kg群及び実施例2の化合物10mg/kg群にそれぞれ分けた。
実験の手順:新鮮なヒト白血球を分離してPBMCを得た後、尾静脈からNSGマウスに接種し、各マウスには1×10個ずつ接種した。3日目にNCI-H460腫瘍細胞をマウスの脇の下に接種し、各マウスに1×10個ずつ接種した。腫瘍が100~300mmに成長した後、マウスを群分けして投与した。溶媒対照群のマウスには、0.5%CMCを毎日経口投与した。シクロホスファミドは腹腔内投与した。試験対象となる化合物は1日1回経口投与した。処理の過程で、動物を体重測定し、殺処分した。腫瘍組織を剥離し、重量測定し、写真を撮った。最後に、抗腫瘍効果の強さを評価するために、腫瘍抑制率を計算した。
計算及び統計の方法:腫瘍増殖抑制率TGI(%):TGI=(1-T/C)×100 (T:処理群における腫瘍重量、C:陰性対照群における腫瘍重量)。
統計方法:データの統計解析にはGraphpadを使用し、一元配置ANOVA検定を使用した、 P<0.05、** P<0.01、*** P<0.001。
実験結果:
投与後、動物を実行し、腫瘍の重量を測定した。NCI-H460に対する実施例1の化合物及び実施例2の化合物の抗腫瘍効果を下記表に示した。
【表15】
【0056】
まとめると、実験結果は以下のことを示した。
マウスメラノーマ高転移性株B16F10の皮下移植腫瘍モデルにおいて、実施例2の化合物の1日経口投与量5mg/kg及び10mg/kgにおける腫瘍抑制率はそれぞれ40%及び55%であり、実施例1の化合物の同じ投与量での腫瘍抑制率はそれぞれ11%及び13%であった。
マウス大腸癌MC38の皮下移植腫瘍モデルにおいて、実施例2の化合物の1日経口投与量5mg/kg及び10mg/kgにおける腫瘍抑制率はそれぞれ75%及び57%であり、実施例1の化合物の同じ投与量での腫瘍抑制率はそれぞれ18%及び27%であった。
ヒト免疫系を再構築したNSG腫瘍保有マウス(NCI-H460)において、実施例2の化合物の1日経口投与量15mg/kgにおける腫瘍抑制率は、実施例1の化合物の腫瘍抑制率より優れていた(腫瘍抑制率:30.6%対24.7%)。
【0057】
【表16】
図1
図2
図3
【国際調査報告】