(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-10
(54)【発明の名称】グラフェン系弾性熱拡散フィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20221102BHJP
C01B 32/19 20170101ALI20221102BHJP
C01B 32/198 20170101ALI20221102BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20221102BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20221102BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
C08J5/18 CEQ
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
C01B32/19
C01B32/198
C01B32/194
C08L21/00
C08K3/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022540612
(86)(22)【出願日】2020-09-02
(85)【翻訳文提出日】2022-04-18
(86)【国際出願番号】 US2020048974
(87)【国際公開番号】W WO2021046069
(87)【国際公開日】2021-03-11
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522082160
【氏名又は名称】グローバル グラフェン グループ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Global Graphene Group,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】リン,イ-ジン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【テーマコード(参考)】
4F071
4G146
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA10
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4G146CB32
4J002AC011
4J002AC031
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4J002GQ00
(57)【要約】
弾性熱拡散フィルム(及びそれを製造する製造方法)を提供する。本弾性熱拡散フィルムは、(a)バインダー材料又はマトリックス材料としてのエラストマー又はゴム;及び(b)前記バインダー材料によって結合されるか、又は前記マトリックス材料中に分散する複数のグラフェンシートを含み、複数のグラフェンシートが、実質的に互いが平行になるように配列し、及びエラストマー又はゴムの量が、熱拡散フィルムの総重量基準で0.001重量%~20重量%であり;複数のグラフェンシートは、原始グラフェン、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ドープグラフェン、化学的官能基化グラフェン、又はそれらの組み合わせから選択される、単層又は数層のグラフェンシートを含み、さらに弾性熱拡散フィルムは、2%~100%の完全回復性の引張弾性歪みと、200W/mK~1,750W/mKの面内熱伝導率とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)バインダー材料又はマトリックス材料としてのエラストマー又はゴム;及び
B)前記バインダー材料により結合するか、又は前記マトリックス材料中に分散する複数のグラフェンシートを含み、前記複数のグラフェンシートが、実質的に互いに平行になるように配列し、及び前記エラストマー又はゴムの量が、熱拡散フィルムの総重量基準で0.001重量%~20重量%である、弾性熱拡散フィルムであって、
前記複数のグラフェンシートが、非炭素元素が実質的に0%である原始グラフェン材料、又は0.001重量%~25重量%の非炭素元素を有する非原始グラフェン材料から選択されるグラフェンシートを含み、前記非原始グラフェンは、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ドープグラフェン、化学的官能基化グラフェン、又はそれらの組み合わせから選択され、及び前記弾性熱拡散フィルムが、2%~100%の完全回復性の引張弾性歪みと、200W/mK~1,750W/mKの面内熱伝導率を有する、弾性熱拡散フィルム。
【請求項2】
前記エラストマー又はゴムが、天然ポリイソプレン、合成ポリイソプレン、ポリブタジエン、クロロプレンゴム、ポリクロロプレン、ブチルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、メタロセン系ポリ(エチレン-コ-オクテン)エラストマー、ポリ(エチレン-コ-ブテン)エラストマー、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンエラストマー、エピクロロヒドリンゴム、ポリアクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素シリコーンゴム、パーフルオロ-エラストマー、ポリエーテルブロックアミド、クロロスルホン化ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル、熱可塑性エラストマー、タンパク質レジリン、タンパク質エラスチン、エチレンオキシド-エピクロロヒドリンコポリマー、ポリウレタン、ウレタン-ウレアコポリマー、それらのスルホン化物、又はそれらの組み合わせから選択される材料を含む、請求項1に記載の弾性熱拡散フィルム。
【請求項3】
前記熱拡散フィルムは、5nm~500μmの厚みを有する、請求項1に記載の弾性熱拡散フィルム。
【請求項4】
前記グラフェンシートが80重量%~99.9重量%の量である、請求項1に記載の弾性熱拡散フィルム。
【請求項5】
前記弾性熱拡散フィルムは、厚みt、表面及び裏面を有し、前記エラストマー又はゴムは、前記表面から前記フィルムの1/3tの深さまでのゾーンに存在し、及び/又は前記裏面から前記フィルムの1/3tの深さまでのゾーンに存在し、そしてエラストマーのない芯体が存在する、請求項1記載の弾性熱拡散フィルム。
【請求項6】
前記弾性熱拡散フィルムは、厚みtと、エラストマーなしの、1/10t~4/5tの大きさの芯体を有する、請求項1に記載の弾性熱拡散フィルム。
【請求項7】
引張強度が300MPa以上、引張弾性率が75GPa以上、熱伝導率が500W/mK以上、及び/又は電気伝導率が5,000S/cm以上であって、すべて薄膜面方向に沿って測定されたものを有する、請求項1に記載の弾性熱拡散フィルム。
【請求項8】
引張強度が400MPa以上、引張弾性率が150GPa以上、熱伝導率が800W/mK以上、及び/又は電気伝導率が8000S/cm以上であって、すべて薄膜面方向に沿って測定されたものを有する、請求項1に記載の弾性熱拡散フィルム。
【請求項9】
引張強度が500MPa以上、引張弾性率が250GPa以上、熱伝導率が1,200W/mK以上、及び/又は電気伝導率が12,000S/cm以上であって、すべて薄膜面方向に沿って測定されたものを有する、請求項1に記載の弾性熱拡散フィルム。
【請求項10】
引張強度が600MPa以上、引張弾性率が350GPa以上、熱伝導率が1,500W/mK以上、及び/又は電気伝導率が20,000S/cm以上であって、すべて薄膜方向に沿って測定されたものを有する、請求項1に記載の弾性熱拡散フィルム。
【請求項11】
前記グラフェンシートが、その上に結合した官能基を含み、前記グラフェンシートが-55mV~-0.1mVの負のゼータ電位を示す、請求項1記載の弾性熱拡散フィルム。
【請求項12】
前記グラフェンシートが、アルキル又はアリールシラン、アルキル又はアラルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシド、カルボニル基、アミン基、スルホン酸基(--SO
3H)、アルデヒド基、キノイド、フッ化炭素、又はこれらの組み合わせから選択される化学官能基を含む、請求項1に記載の弾性熱拡散フィルム。
【請求項13】
前記グラフェンシートが、アミドアミン、ポリアミド、脂肪族アミン、変性脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミン、無水物、ケチミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ポリエチレンポリアミン、ポリアミンエポキシアダクト、フェノール硬化剤、非臭素化硬化剤、非アミン硬化剤及びこれらの組み合わせからなる群から選択される化学官能基を有する化学的官能基化グラフェンシートを含む、請求項1に記載の弾性熱拡散フィルム。
【請求項14】
前記グラフェンシートが、OY、NHY、O=C--OY、P=C--NR’Y、O=C--SY、O=C--Y、--CR’1--OY、N’Y又はC’Yから選ばれる化学官能基を含み、及びYは、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、酵素、抗体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、抗原又は酵素基質の官能基、酵素阻害剤又は酵素基質に近い遷移状態の官能基であり、又はR’--OH、R’--NR’
2、R’SH、R’CHO、R’CN、R’X、R’N
+(R’)
3X
-、R’SiR’
3、R’Si(-OR’-)
yR’
3-y、R’Si(-O--SiR’
2-)OR’、R’--R”、R’--N--CO、(C
2H
4O-)
WH、(-C
3H
6O-)
WH、(-C
2H
4O)
W-R’、(C
3H
6O)
W-R’、R’から選択され、そしてwは1より大きく200未満の整数である、請求項1に記載の弾性熱拡散フィルム。
【請求項15】
請求項1に記載の弾性熱拡散フィルムを熱管理要素として含む電子機器。
【請求項16】
請求項1に記載の弾性熱拡散フィルムを、耐荷重及び熱管理要素として含む構造部材。
【請求項17】
(a)実質的に互いに平行な複数の配向/配列したグラフェンシートの凝集体又はクラスターの層を形成する手順と、(b)前記グラフェンシートと前記ゴム又はエラストマーとを結合させて、前記ゴム又はエラストマー鎖が、グラフェンシート間のギャップ又は欠陥に埋まるように、及び/又はグラフェンシートに化学的に結合するように、又は前記グラフェンシートが、前記エラストマー又はゴムを含むマトリックス中に分散するようにして、複数の配向/配列したグラフェンシートのエラストマー/ゴム含侵凝集体/クラスターを形成する手順と、を含む弾性熱拡散フィルムを製造するプロセスであって、前記エラストマー又はゴムの量は、前記熱拡散フィルムの総重量基準で0.001重量%~20重量%であり、前記弾性熱拡散フィルムは、完全回復性の引張弾性歪みが2%~100%であり、面内熱伝導率が200W/mK~1,750W/mKである、プロセス。
【請求項18】
前記複数のグラフェンシートが、非炭素元素が実質的に0%である原始グラフェン材料、又は、0.001%~25重量%の非炭素元素を有する非原始グラフェンシート材料から選択される単層又は数層のグラフェンシートを含み、前記非原始グラフェンは、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ドープグラフェン、化学的官能基化グラフェン、又はそれらの組み合わせから選択される、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
前記エラストマー又はゴムが、天然ポリイソプレン、合成ポリイソプレン、ポリブタジエン、クロロプレンゴム、ポリクロロプレン、ブチルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリルゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレンジエンゴム、メタロセン系ポリ(エチレン-コ-オクテン)エラストマー、ポリ(エチレン-コ-ブテン)エラストマー、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンエラストマー、エピクロロヒドリンゴム、ポリアクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素シリコーンゴム、パーフルオロエラストマー、ポリエーテルブロックアミド、クロロスルホン化ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル、熱可塑性エラストマー、タンパク質レジリン、タンパク質エラスチン、エチレンオキシド-エピクロロヒドリンコポリマー、ポリウレタン、ウレタン-ウレアコポリマー、それらのスルホン化物、それらの前駆体、あるいはそれらの組み合わせから選ばれる物質を含む、請求項17に記載のプロセス。
【請求項20】
複数の配向/配列したグラフェンシートの凝集体又はクラスターの層を形成する前記手順が、前記複数のグラフェンシートのエアアシスト噴霧又は液体アシスト噴霧から選択される手順を含む、請求項17に記載のプロセス。
【請求項21】
複数の配向/配列したグラフェンシートの凝集体又はクラスターの層を形成する前記手順が、複数のグラフェンシートを含むグラフェン分散液を形成し、続いてコーティング、キャスト、噴霧、印刷、強制集合化及び配向化手順、又はそれらの組み合わせから選択される手順を含む、請求項17に記載のプロセス。
【請求項22】
前記コーティングが、蒸着、化学コーティング、電気化学コーティング又はメッキ、スプレーコーティング、塗装、ブラッシング、ロール・ツー・ロール・コーティング、物理コーティング、又はこれらの組み合わせから選択される、請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
前記ロール・ツー・ロール・コーティングが、エアナイフコーティング、アニロックスコーティング、フレキソコーティング、ギャップコーティング又はナイフオーバーロールコーティング、グラビアコーティング、ホットメルトコーティング、浸漬コーティング、キスコーティング、計量ロッド又はマイヤーバーコーティング、ローラーコーティング、シルクスクリーンコーティング又は回転スクリーンコーティング、スロットダイコーティング、押出しコーティング、インクジェット印刷、又はこれらの組み合わせから選ばれる、請求項22に記載のプロセス。
【請求項24】
手順(b)が、エラストマー又はゴムを、バインダー材料として又はマトリックス材料として前記凝集体又はクラスターに含浸させて含浸凝集体又はクラスターを製造し、前記複数のグラフェンシートが、前記バインダー材料によって結合されるか又は前記マトリックス材料に分散されることを含む、請求項17に記載のプロセス。
【請求項25】
前記含浸凝集体又はクラスターを圧縮して前記熱拡散フィルムを製造する工程をさらに含み、前記複数のグラフェンシートは実質的に互いに平行になるように配列する、請求項24に記載のプロセス。
【請求項26】
前記手順(a)は、コーティング、キャスティング、エアアシストクラスター化、液体アシストクラスター化、噴霧、印刷、又はそれらの組み合わせから選択される手順を含む、請求項17に記載のプロセス。
【請求項27】
前記手順(a)が、(i)前記複数のグラフェンシートを液体媒体中に分散させて懸濁液を形成すること、(ii)前記懸濁液を基板の表面にディスペンス及び堆積させてグラフェンシートの湿潤凝集体又はクラスターを形成すること、及び(iii)前記液体媒体を前記湿潤凝集体又はクラスターから一部又は全部除去して、前記複数のグラフェンシートの凝集体又はクラスターを形成することを含む、請求項17に記載のプロセス。
【請求項28】
前記凝集体又はクラスターを圧縮又は強固化して、複数のグラフェンシートを配列させる手順、及び/又は前記凝集体又はクラスターの空隙率を低減させる手順を更に含む、請求項27に記載のプロセス。
【請求項29】
前記手順(a)は、前記複数のグラフェンシートを、分散液媒体を用いて又は用いずに、固体基板表面に吹き付けて、前記複数のグラフェンシートの前記集合体又はクラスターを形成することを含む、請求項17に記載のプロセス。
【請求項30】
前記凝集体又はクラスターを圧縮又は強固化して、複数のグラフェンシートを配列させ、及び/又は前記凝集体又はクラスター内の空隙率を減少させる手順を更に含む、請求項29に記載のプロセス。
【請求項31】
手順(a)の後に、複数のグラフェンシートの凝集体又はクラスターの前記層を、50℃~3,200℃から選択される温度又は複数の異なる温度で熱処理する手順をさらに含む、請求項17に記載のプロセス。
【請求項32】
熱処理後に、前記複数のグラフェンシートの凝集体又はクラスターを圧縮又は強固化する手順をさらに含む、請求項31に記載のプロセス。
【請求項33】
前記手順(a)が、(i)複数のグラフェンシートを液体媒体中に離散・分散させてグラフェン分散液を形成し、(ii)前記グラフェン分散液に強制集合化及び配向化処理を施し、前記グラフェンシートを強制的に、実質的に互いに平行である、配列したグラフェンシートの凝集体又はクラスターの層を形成させることを含み;及び手順(b)は、ゴム又はエラストマー又はその前駆体を、前記凝集体又はクラスターに含浸させ、前記配列したゴム/エラストマー含浸グラフェンシートの層を、前記弾性熱拡散フィルムに合体強固化することを含み、前記グラフェンシートは、前記ゴム/エラストマー材料によって接着されるか又は前記ゴム/エラストマー材料に分散され、実質的に互いに平行になるよう配列される、請求項17に記載のプロセス。
【請求項34】
前記強制集合化及び配向化手順において、初期体積V
1を有する前記グラフェン分散液を金型キャビティセル内に導入し、前記金型キャビティセル内でピストンを使って前記グラフェン分散液の体積をより小さな値V
2まで減らし、過剰な液体媒体を前記キャビティセルから流出させて、前記グラフェンシートを所望する方向に沿って配列させることを含む、請求項33に記載のプロセス。
【請求項35】
前記強制集合化及び配向化手順において、初期体積V
1を有する前記グラフェン分散液を金型キャビティセル内に導入し、前記金型キャビティの多孔質壁を通して吸引圧力を加えて前記グラフェン分散液の体積をより小さい値V
2まで減らし、過剰な液体媒体を多孔質壁に通して前記キャビティセルから流出させ、前記グラフェンシートを所望の方向に沿って配列させることを含む、請求項33に記載のプロセス。
【請求項36】
前記弾性熱拡散フィルムを熱管理要素としてデバイスに実装することをさらに含む、請求項17に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年9月3日に出願された米国特許出願第16/559,000号明細書、及び2019年9月3日に出願された米国特許出願第16/559,004号明細書の優先権を主張し、それぞれの内容は、全ての目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本開示は、概して熱フィルム又は熱拡散材の分野に関し、より詳細には、グラフェン系の高弾性熱拡散フィルム及びそれを製造するプロセスに関するものである。
【背景技術】
【0003】
今日のマイクロエレクトロニクス、フォトニック、及び太陽光発電システムにとって、高度な熱管理材料がますます重要になっている。斬新なチップ設計や強力な発光ダイオード(LED)システムが導入されると、より多くの電力が消費され、より多くの熱が発生するようになる。このため、今日の高性能システムにおいては、熱管理は極めて重要な課題となっている。アクティブ電子走査型レーダーアレイ、ウェブサーバー、パーソナル家電の大型バッテリーパック、ワイドスクリーンディスプレイ、固体照明装置など、さまざまなシステムにおいて、より効率的に熱を放出できる高熱伝導性材料が必要とされている。さらに、多くのマイクロエレクトロニクス機器(スマートフォン、薄型テレビ、タブレット端末、ノートパソコンなど)は、ますます小型・薄型・軽量・高密度化するように設計・製造されている。そのため、放熱する上での難易度はさらに高まっている。実際、デバイス及びシステムを提供する産業界にとって、熱管理の課題は、現在、それらの性能を継続的に向上させていく上での業界能力を超え得る大きな障害として広く認識されている。
【0004】
ヒートシンクは、コンピューターデバイスであるCPUやバッテリーのような熱源の表面から、熱を周囲の空気のようなより低温の環境へ放散・促進するコンポーネントである。一般に、熱源から発生した熱は、熱拡散材を介してヒートシンクや周囲の空気に伝達する必要がある。ヒートシンクとは、熱源と空気との間の熱伝達効率を高めるためのもので、主に空気と直接接触するヒートシンクの表面積を大きくすることで熱伝達効率を高めることができる。この設計により、熱の放散速度が速くなり、デバイスの動作温度を下げることができる。マイクロエレクトロニクスデバイスでは、熱源からヒートシンクや周囲の空気へ熱を素早く移動させるのに、高熱伝導性を有する熱拡散材は不可欠とされている。
【0005】
グラフェンシートは、ナノグラフェンプレートレット(NGP)とも呼ばれ、非炭素元素が実質的に0%である原始グラフェン材料、又は非炭素元素が0.001%~25重量%の非原始グラフェン材料から選択された単層又は数層のグラフェンシートを意味する。ここで、非原始グラフェンは、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ドープグラフェン、化学的官能基化グラフェン、又はそれらの組み合わせから選択される。数層グラフェンシートは、2~10個のグラフェン面(一個の炭素原子厚みを持つ六角形の面)を含む。
【0006】
グラフェン系フィルムの熱拡散を応用することは、我々の研究グループによって、早くも2007年に初めて開発された。Bor Z.Jangら、“ナノスケールグラフェンプレートレットフィルム及び物品”、米国特許出願第11/784,606号明細書(04/09/2007);現在、米国特許第9,233,850明細書(01/12/2016)。折りたたみ可能な携帯端末(例えば、折りたたみ可能又は曲げられるスマートフォン)は、ますます人気が高まっている。折り畳み式スマートフォンは、携帯電話の耐用年数期間内で10,000回以上折り畳まれたり展開されたりすることがある。このようなデバイス内の熱拡散材などの個々の部品にも、折り畳み性が要求される。しかしながら、グラフェン系の熱伝導フィルム(又は任意のタイプの熱伝導フィルム)で、熱伝導性及び構造的完全性などの所望する特性を著しく低下させることなく、繰り返しの曲げ変形に耐えられるものは知られていない。
【0007】
本開示は、上記概説した先行技術の熱拡散フィルムの限界を克服するためになされたものである。
【発明の概要】
【0008】
特定の実施形態において、本開示では、以下を含む弾性熱拡散フィルムが提供される。(A)バインダー材料又はマトリックス材料としてのエラストマー又はゴム;及び(B)バインダー材料により結合するか、又はマトリックス材料中に分散する複数のグラフェンシートを含み、複数のグラフェンシートが実質的に互いに平行になるように配列し、及びエラストマー又はゴムの量が熱拡散フィルムの総重量基準で0.001重量%~20重量%である、弾性熱拡散フィルムであって、複数のグラフェンシートは、非炭素元素が実質的に0%である原始グラフェン材料又は0.001重量%~25重量%の非炭素元素を有する非原始グラフェン材料から選択される、単層又は数層のグラフェンシートを含み、非原始グラフェンは、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ドープグラフェン、化学的官能基化グラフェン又はこれらの組み合わせ(好ましくは、化学的官能基化グラフェンは酸化グラフェンではない)から選択され;及び弾性熱拡散フィルムは、2%~100%の完全回復性の引張弾性歪みと、200W/mK~1,750W/mKの面内熱伝導率(好ましくは、典型的には500W/mKより大きい)とを有する。熱拡散フィルムは、典型的には、10nm~500μmの厚みを有する。
【0009】
エラストマー又はゴムは、高い弾性率-完全回復性の高い引張弾性変形値(2%~1000%)を有する必要がある。材料科学及び工学の技術分野では、定義上、「弾性変形」とは、機械的負荷の解放時に完全に回復可能な変形であり、回復過程は実質的に瞬時である(有意な時間遅延がない)ことはよく知られている。加硫天然ゴムなどのエラストマーは、2%~1000%(元の長さの10倍)、より典型的には10%~800%、さらに典型的には50%~500%、最も典型的には100%~300%の引張弾性変形を示すことができる。両手を使って輪ゴムを5cmから例えば40cmに伸ばした後、片方の手から輪ゴムを離すと、輪ゴムは直ちに実質的に元の長さにピタリと戻る。このような変形(この例では800%)は完全回復性であり、実質的に塑性変形がない(永久変形がない)。このような高弾性挙動を示す材料は、エラストマーやゴム以外にはない。
【0010】
例えば、金属は典型的には高い引張延性を有するが(すなわち、破断せずに大きく伸ばすことができる;例えば10%~200%)、変形の大部分は塑性変形(回復不可能)であり、わずかな変形量が弾性変形(すなわち、回復可能変形は典型的には1%未満、より典型的には0.2%未満)である。同様に、非エラストマーポリマー又はプラスチック(熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂)は、大きく伸びることができるかもしれないが、変形のほとんどは塑性変形であり、応力/歪みの解放時に回復できない永久変形となる。例えば、ポリエチレン(PE)は、引張荷重で最大200%まで伸びることができるが、そのような変形の大部分(98%以上)は、一般に塑性変形と呼ばれる回復不能な永久変形である。
【0011】
いくつかの実施形態において、エラストマー又はゴムは、天然ポリイソプレン(例えば、シス-1,4-ポリイソプレン天然ゴム(NR)及びトランス-1,4-ポリイソプレンガタパーチャ)、合成ポリイソプレン(イソプレンゴム IR)、ポリブタジエン(ブタジエンゴム BR)、クロロプレンゴム(CR)、ポリクロロプレン(例えばネオプレン、ベイプレン等)、ハロゲン化ブチルゴム(クロロブチルゴム(CIIR)及びブロモブチルゴム(BIIR)を含むブチルゴム(イソブチレンとイソプレンのコポリマー、IIR)、スチレン-ブタジエンゴム(スチレンとブタジエンのコポリマー、SBR)、ニトリルゴム(ブタジエンとアクリロニトリルのコポリマー、NBR)、EPM(エチレンプロピレンゴム、エチレンとプロピレンの共重合体)、EPDMゴム(エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンとプロピレンとジエン成分のターポリマー)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)、ポリアクリルゴム(ACM、ABR)、シリコーンゴム(SI、Q、VMQ)、フッ素シリコーンゴム(FVMQ)、フッ素エラストマー(FKM、及びFEPM:例えば、バイトン、テクノフロン、フルオレル、アフラス、ダイエルなど)、パーフロロエラストマー(FFKM:テクノフロンPFR、カルレッツ、ケムラッツ、パーラスト)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM、例えば、ハイパロン)、及びエチレン-酢酸ビニル(EVA)、熱可塑性エラストマー(TPE)、タンパク質レジリン、タンパク質エラスチン、エチレンオキシド-エピクロロヒドリンコポリマー、ポリウレタン、ウレタン-ウレアコポリマー及びそれらの組み合わせ、から選択される材料を含有する。
【0012】
配列したグラフェンシートを一緒に保持する、バインダー又はマトリックス材料として適切に選択されたエラストマー又はゴムを含んでなる得られた熱拡散フィルムは、驚くべきことに、引張弾性変形2%超、より典型的には5%超、さらに典型的には10%超、さらに典型的には20%超、場合により50%超(例えば、100%まで)延伸することが可能である。
【0013】
尚、このような高い弾性特性により、熱拡散フィルムを何万回と曲げたり折り返したりしても、熱伝導率を大きく低下させることがない。最初の折り曲げ前の熱伝導率は、典型的には500~1,750W/mkであり、10,000回の繰り返し折り曲げ後も、元の熱伝導率の80%以上(典型的には90%以上)を維持することができる。
【0014】
上述の実施形態において、エラストマー又はゴムの量は、好ましくは0.001重量%~20重量%、より好ましくは0.01%~10%、さらにより好ましくは0.1%~1%の量である。
【0015】
特定の好ましい実施形態では、グラフェンシートには、ほとんどが1~2の間の平均層数を有する単層グラフェン(90%~100%)として含まれている。特定の実施形態では、グラフェンシートは、単層グラフェン及び平均層数が5未満の少数層グラフェンシートを含む。少数層グラフェンとは、概して2~10層のグラフェン面を有するグラフェンシートとして定義される。
【0016】
いくつかの極めて有用な実施形態において、熱拡散フィルムの形態は、5nm~500μmの厚みを有する薄膜であり、グラフェンシートは、薄膜面に対して実質的に平行に配列する。いくつかの好ましい実施形態では、熱拡散材の形態は、10nm~100μmの厚みを有する薄膜であり、グラフェンシートは薄膜面に平行に配列している。
【0017】
典型的には、開示の熱拡散フィルムは、100MPa以上の引張強度、25GPa以上の引張弾性率、500W/mK以上の熱伝導率、及び/又は5,000S/cm以上の電気伝導率の、全て薄膜面方向に沿って測定された数値を有する。典型的かつ好ましくは、金属マトリックスナノ複合体は、300MPa以上の引張強度、50GPa以上の引張弾性率、800W/mK以上の熱伝導率、及び/又は8,000S/cm以上の電気伝導率の、すべて薄膜面方向に沿って測定された数値を有する。多くの場合、弾性熱拡散フィルムは、400MPa以上の引張強度、150GPa以上の引張弾性率、1,200W/mK以上の熱伝導率、及び/又は12,000S/cm以上の電気伝導率の、すべて薄膜面方向に沿って測定された数値を有する。開示の熱拡散フィルムのいくつかは、引張強度が500MPa以上、引張弾性率が250GPa以上、熱伝導率が1,500W/mK以上、及び/又は電気伝導率が20,000S/cm以上の、すべて薄膜面方向に沿って測定された数値を有する。
【0018】
いくつかの実施形態では、弾性熱拡散フィルムは、厚みt、表面及び裏面を有し、エラストマー/ゴムは、2つの主表面(表面及び裏面)から含浸される。エラストマー又はゴムは、表面からフィルムのゾーンに距離1/3tだけ浸透することができ、及び/又は裏面からのゾーンに少なくとも距離1/3tだけ浸透することができ、エラストマーのない芯体(すなわち、エラストマー又はゴムがフィルムの中心又は芯体領域に到達しない)が存在する。このエラストマーのない芯体のサイズは、典型的には1/10t~4/5tである。
【0019】
特定の実施形態において、グラフェンシートは、-55mV~-0.1mVの値を有する負のゼータ電位を示すような、グラフェンシートに結合した官能基を含有する。
【0020】
グラフェンシートは、アルキルもしくはアリールシラン、アルキルもしくはアラルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシド、カルボニル基、アミン基、スルホン酸基(--SO3H)、アルデヒド基、キノイド、フッ化炭素、又はこれらの組み合わせから選択される化学官能基を含んでもよい。
【0021】
特定の実施形態では、グラフェンシートは、アミドアミン、ポリアミド、脂肪族アミン、変性脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミン、無水物、ケチミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレン-テトラミン(TETA)、テトラエチレン-ペンタミン(TEPA)、ポリエチレンポリアミン、ポリアミンエポキシアダクト、フェノール硬化剤、非臭素化硬化剤、非アミン硬化剤及びこれらの組み合わせ、からなる群から選択される化学官能基を有する化学的官能基化グラフェンシートを含む。
【0022】
グラフェンシートは、OY、NHY、O=C--OY、P=C--NR’Y、O=C--SY、O=C--Y、--CR’1--OY、N’Y又はC’Yから選ばれる化学官能基を含んでもよく、及びYは、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、酵素、抗体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、抗原又は酵素基質、酵素阻害剤又は酵素基質に近い遷移状態のもの、の官能基であり、又はR’--OH、R’--NR’2、R’SH、R’CHO、R’CN、R’X、R’N+(R’)3X-、R’SiR’3、R’Si(-OR’-)yR’3-y、R’Si(-O--SiR’2)-)OR’、R’--R”、R’--N--CO、(C2H4O-)WH、(-C3H6O-)WH、(-C2H4O)W-R’、(C3H6O)W-R’、R’から選択され、そしてwは1より大きく200未満の整数である。
【0023】
また、本開示は、上述した熱拡散フィルムを構成要素として(例えば、熱管理要素として)含む電子機器を提供するものである。
【0024】
さらに、本開示は、開示の熱拡散フィルムを耐荷重要素及び熱管理要素として含む構造部材を提供する。
【0025】
また、本明細書では、弾性熱拡散フィルムを製造するプロセスも開示される。いくつかの実施形態において、本プロセスは、(a)実質的に互いに平行な複数の配向/配列したグラフェンシートの凝集体又はクラスターの層を形成する手順と、(b)グラフェンシートと前記ゴム又はエラストマーとを合わせて、ゴム又はエラストマー鎖が、グラフェンシート間のギャップ又は欠陥に埋まる、及び/又はグラフェンシートに化学的に結合するように、又はグラフェンシートが、エラストマー又はゴムを含むマトリックス中に分散するようにして、複数の配向/配列したグラフェンシートの、エラストマー/ゴム含侵凝集体/クラスターを形成する手順と、を含む弾性熱拡散フィルムを製造するプロセスであって、エラストマー又はゴムの量は、熱拡散フィルムの総重量基準で0.001重量%~20重量%であり、弾性熱拡散フィルムは、完全回復性の引張弾性歪みが2%~100%であり、面内熱伝導率が200W/mK~1,750W/mKである。
【0026】
複数のグラフェンシートは、好ましくは、原始グラフェン材料(非炭素元素が実質的に0%(0.001重量%未満)であるグラフェンと定義される)、又は、非原始グラフェンシート材料(0.001%~25重量%の非炭素元素を有するグラフェン材料と定義される)から選択される単層又は数層のグラフェンシートを含み、非原始グラフェンは、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ドープグラフェン、化学的官能基化グラフェン、又はそれらの組み合わせから選択される。
【0027】
特定の実施形態において、このプロセスは、以下を含む:
(A)複数のグラフェンシートの凝集体又はクラスターの層を提供すること;及び
(B)エラストマー又はゴムをバインダー材料として又はマトリックス材料として凝集体又はクラスターに含浸させ、含浸凝集体又はクラスターを生成することであって、複数のグラフェンシートがバインダー材料によって結合されているか又はマトリックス材料に分散されており、そしてエラストマー又はゴムの量は熱拡散フィルムの総重量基準で0.001重量%~20重量%であり、弾性熱拡散フィルムは、2%~100%の完全回復性の引張弾性歪みと、200W/mK~1,750W/mKの面内熱伝導率とを有する。
【0028】
このプロセスには、含浸凝集体又はクラスターを圧縮して熱拡散フィルムを製造する工程(C)がさらに含まれ、複数のグラフェンシートが実質的に互いに平行となるように配列する。
【0029】
特定の実施形態では、前記エラストマー又はゴムは、天然ポリイソプレン、合成ポリイソプレン、ポリブタジエン、クロロプレンゴム、ポリクロロプレン、ブチルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、メタロセン系ポリ(エチレン-コ-オクテン)エラストマー、ポリ(エチレン-コ-ブテン)エラストマー、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンエラストマー、エピクロロヒドリンゴム、ポリアクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素シリコーンゴム、パーフルオロ-エラストマー、ポリエーテルブロックアミド、クロロスルホン化ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル、熱可塑性エラストマー、タンパク質レジリン、タンパク質エラスチン、エチレンオキシド-エピクロロヒドリンコポリマー、ポリウレタン、ウレタン-ウレアコポリマー、スルホン化物、それらの前駆体、又はそれらの組み合わせから選択される材料を含む。
【0030】
開示のプロセスにおいて、いくつかの実施形態では、複数のグラフェンシートの凝集体又はクラスターの層が提供される工程(A)は、コーティング、キャスティング、エアアシストクラスター化、液体アシストクラスター化、噴霧、印刷、又はそれらの組み合わせから選択される手順を含む。コーティング手順は、蒸着、化学コーティング、電気化学コーティング又はメッキ、スプレーコーティング、塗装、ブラッシング、ロール・ツー・ロール・コーティング、物理コーティング、又はそれらの組み合わせから選択され得る。
【0031】
ロール・ツー・ロール・コーティングは、好ましくは、エアナイフコーティング、アニロックスコーティング、フレキソコーティング、ギャップコーティング又はナイフオーバーロールコーティング、グラビアコーティング、ホットメルトコーティング、浸漬コーティング、キスコーティング、計量ロッド又はマイヤーバーコーティング、ローラーコーティング、シルクスクリーンコーティング又は回転スクリーンコーティング、スロットダイコーティング、押出コーティング、インクジェットプリントまたはこれらの組み合わせから選択される。
【0032】
いくつかの実施形態では、工程(A)には、(i)複数のグラフェンシートを液体媒体中に分散させて懸濁液(本明細書では分散液又はスラリーともいう)を形成すること、(ii)懸濁液を基板の表面にディペンス及び堆積させてグラフェンシートの湿潤凝集体又はクラスターを形成すること、及び(iii)液体媒体を湿潤凝集体又はクラスターから一部又は全部除去して、複数のグラフェンシートの凝集体又はクラスターを形成することが含まれる。いくつかの実施形態では、このプロセスは、凝集体又はクラスターを圧縮又は強固化して、複数のグラフェンシートを配列させる手順、及び/又は凝集体又はクラスターの空隙率を低減させる手順を更に含む。尚、この圧縮手順は、開示のプロセスの工程(C)の圧縮手順に追加される。
【0033】
いくつかの実施形態では、工程(A)は、複数のグラフェンシートを、分散液媒体を用いて又は用いずに、固体基板表面に吹き付けて、複数のグラフェンシートの凝集体又はクラスターを形成することを含む。いくつかの好ましい実施形態では、このプロセスは、工程(A)の後に、複数のグラフェンシートの凝集体又はクラスターの層を、50℃~3,200℃から選択される温度又は複数の異なる温度で熱処理する手順をさらに含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、このプロセスは、凝集体又はクラスターを圧縮又は強固化して、複数のグラフェンシートを配列させ、及び/又は凝集体又はクラスター内の空隙率を減少させる手順を、工程(A)の後に更に含んでもよい。いくつかの実施形態では、このプロセスは、圧縮又は強固化の手順の後に、複数のグラフェンシートの凝集体又はクラスターの層を、50℃~3,200℃から選択される温度又は複数の異なる温度で熱処理する手順をさらに含む。
【0035】
いくつかの好ましい実施形態において、熱処理手順は、複数のグラフェンシートの凝集体又はクラスターの層を、50℃~3,200℃から選択される温度又は複数の異なる温度で熱処理すること(例えば、100℃で2時間、1,200℃で3時間、その後2,800℃で1時間加熱)を含んでいる。熱処理手順は、圧縮・強固化の手順の前又は後に行うが、エラストマー又はゴムを含浸させる前に行われる。
【0036】
特定の実施形態において、工程(A)は、(i)液体接着性樹脂中に分散された複数の離散したグラフェンシートからなるグラフェン分散液を調製する工程と、(ii)グラフェン分散液を固体基板表面と物理的に接触させ、グラフェンシートを基板表面の平面方向に沿って配列させる工程を含む。ここで、グラフェンシートは基板表面に接着し支持される。いくつかの実施形態では、工程(B)は、基板表面へのグラフェン分散液層の噴霧、塗装、コーティング、チャスティング、又は印刷から選択される手順と、グラフェンシートが実質的に互いに平行になり、基板表面に結合して支持されるように、グラフェンシートを基板表面の平面方向に沿って配列させること、とを含む。固体基板は、5μm~200μmの厚みを有するポリマーフィルムを含んでもよい。
【0037】
特定の実施形態では、工程(A)は、固体基板としての連続ポリマーフィルムを、ポリマーフィルム供給装置から、グラフェン分散液を含むグラフェン蒸着チャンバーに供給する手順を含む。工程(B)は、グラフェン蒸着チャンバーを操作して、基板フィルム上に支持されたエラストマー/ゴム含浸グラフェンクラスターを形成するために、グラフェンシート及びバインダー/マトリクスエラストマー/ゴム(又はその前駆体、例えば未硬化ゴム又は未硬化熱可塑性エラストマー)を、ポリマー基板フィルムの少なくとも主表面に体積させることを含む。いくつかの実施形態では、工程(C)は、エラストマー/ゴム含浸グラフェンクラスターを、基材ポリマーフィルム沿わせて一緒に、グラフェンシートが実質的に互いに平行かつ基材平面に沿って平行に配列するように作用させる強固化ゾーン(例えば、一対のローラーを含む)へ移動させることを含む。強固化ゾーンには、ゴムを硬化させるか、エラストマーを強固化する設備(例えば、ヒーター)が含まれていてもよい。このプロセスは、巻取りローラーを動かして、基材ポリマーフィルム上に支持された、ゴム/エラストマー含浸グラフェンクラスター/凝集体の層を回収する手順をさらに含んでもよい。これは、大量生産に適した、ロール・ツー・ロール又はリール・ツー・リールのプロセスである。
【0038】
工程(A)は、典型的には、グラファイトの化学酸化/インターカレーション、グラファイトの液相剥離、グラファイトの電気化学剥離、グラファイトの超臨界流体剥離、又はグラファイトの高せん断剥離等を介して、孤立したグラフェンシートを製造する工程から開始される。これらのプロセスにより、横方向の寸法が5nm~100μm、厚みが六角形の炭素原子1面(単層グラフェン、0.34nmと小さい)から六角形の炭素原子10面(2~10面、数層グラフェン)である孤立・離散グラフェンシートが形成される。
【0039】
特定の実施形態では、複数のグラフェンシートの凝集体又はクラスターの層が提供される工程(A)は、コーティング、キャスティング、エアアシストクラスター化、液体アシストクラスター化、噴霧、印刷、又はそれらの組み合わせから選択される手順を含む。コーティング手順は、好ましくは、蒸着、化学コーティング、電気化学コーティング又はメッキ、スプレーコーティング、塗装、ブラッシング、ロール・ツー・ロールコーティング、物理コーティング、又はそれらの組み合わせから選択される。物理的コーティング工程の例としては、スピンコーティング、ディップコーティング、溶液コーティングなどが挙げられる。
【0040】
開示のプロセスで使用できる一般的なロール・ツー・ロール・コーティングプロセスとしては、エアナイフコーティング、アニロックスコーティング、フレキソコーティング、ギャップコーティング(ナイフオーバーロールコーティング)、グラビアコーティング、ホットメルトコーティング、浸漬コーティング、キスコーティング、計量ロッド(マイヤーバー)コーティング、ローラーコーティング(例:フォワードローラーコーティング、リバースロールコーティング)、シルクスクリーンコーティング(回転スクリーンコーティング)、スロットダイコーティング、押出コーティング(カーテンコーティング、スライドコーティング・ビーズコーティング、スロットダイ・ビーズコーティング、テンション・ウェブスロットダイコーティング)、インクジェットプリント、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0041】
好ましくは、このプロセスには、グラフェンシートが所望する溶液中で好ましくは-55mV~-0.1mVの負のゼータ電位を示すように、グラフェンシート(原始グラフェン、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、窒素化グラフェンなど)を化学的に官能基化させる工程がさらに含まれる。このゼータ電位により、特定のゴム官能基がグラフェン表面に誘引促進される。
【0042】
工程(B)において、グラフェンシートの配列(エラストマー/ゴム樹脂の存在下又は非存在下)させることは、
図3A、
図3B、
図3C、及び
図3Dに概略的に示されているように強制集合化法によって可能となる。したがって、本開示では、弾性熱拡散フィルムを製造するプロセスも提供されるが、該プロセスでは、以下の工程が含まれる:(a)複数の離散したグラフェンシートを液体媒体中に分散させて、グラフェン分散液を形成すること;(b)グラフェン分散液に強制集合化及び配向化処理を施し、前記グラフェンシートを強制的に、実質的に互いに平行である配列した、グラフェンシートの凝集体又はクラスターの層を形成させること;及び(c)ゴム又はエラストマー(又はその前駆体)を、凝集体又はクラスターに含浸させ、配列したゴム/エラストマー含浸グラフェンシートの層を、所望する弾性熱拡散フィルムと合わせて強固化させることが含まれ、ここで、グラフェンシートは、前記ゴム/エラストマー材料によって接着されるか又は該材料に分散し、実質的に互いに平行になるよう配列し、又、熱拡散材の総重量基準で80重量%~99.999重量%の量である。好ましくはないが、グラフェン分散液は、強制集合化及び配向化処理を受ける前に、エラストマー/ゴム又はその前駆体(例えば、未硬化樹脂)を含んでもよい。
【0043】
開示のプロセスにおいて、強制集合化及び配向化処理には、初期体積V1を有するグラフェン分散液を金型キャビティセル内に導入し、金型キャビティセルの中でピストンを使ってグラフェン分散液の体積をより小さい値V2まで減らし、過剰な液体媒体をキャビティセルから流出させることにより、グラフェンシートを所望の方向に沿って配列させることを含み得る。
【0044】
特定の実施形態では、強制集合化及び配向化処理には、初期体積V1を有するグラフェン分散液を金型キャビティセル内に導入し、金型キャビティの多孔質壁を通して吸引圧力を加えてグラフェン分散液の体積をより小さな値V2まで減らし、液体媒体を多孔質壁に通してキャビティセルから流出させ、グラフェンシートを所望の方向に沿って配列させることが含まれる。
【0045】
強制集合化及び配向化手順には、支持コンベアの表面上にグラフェン分散液の第1の層を導入することと、コンベア上に支持されたグラフェン分散液の層を少なくとも一対の押圧ローラーを使ってグラフェン分散液層の厚みを減らし、配列したグラフェンシート層を形成するコンベア表面と平行な方向にグラフェンシートを配向させることとを含んでもよい。
【0046】
このプロセスでは、グラフェンシートの2層構造を形成するために、グラフェンシートの層の表面上に第2層のグラフェン分散液を導入する工程、及びこの二層構造に対して少なくとも一対の押圧ローラーを使って、第2層のグラフェン分散液の厚みを減らし、グラフェンシート層を形成するためのコンベア表面と平行にグラフェンシートを配置する工程とが更に包含されてもよい。
【0047】
本プロセスでは、グラフェンシートの層を圧縮又はロールプレスして、層の厚みを減らし、グラフェンシートの配向を改善させる工程をさらに含んでもよい。
【0048】
したがって、いくつかの具体的な実施形態において、本開示では、ポリマーフィルムの主表面上に結合した配列したグラフェンシートのゴム/エラストマー含浸凝集体/クラスターの層を含む熱拡散フィルムを得る代替手順も提供される。この手順は以下の通りである。
(a)ポリマーフィルム供給装置から連続ポリマーフィルムをグラフェン堆積室に供給することで、グラフェン堆積室は、ゴム/エラストマーの前駆体(例えば、未硬化モノマー及びゴム/エラストマー用硬化剤)として、複数のグラフェンシートが液体樹脂中(エラストマー又はゴムの前駆体)に離散・分散してなるグラフェン分散液を収容する;
(b)グラフェン堆積チャンバーを操作して、樹脂/グラフェン被覆ポリマーフィルムを形成するために、ポリマーフィルムの少なくとも主表面にグラフェンシート及び樹脂を堆積させること;
(c)グラフェン被覆フィルムを、樹脂/グラフェン被覆ポリマーフィルムを強固化(例えば、硬化及び圧縮する)領域に移動させて、ポリマーフィルム上に支持された熱拡散フィルムを得ること;及び
(d)巻取りローラーを駆動させて、熱拡散フィルムを回収することで、複数のグラフェンシートは、非炭素元素が実質的に0%である原始グラフェン材料、又は0.001重量%~25重量%の非炭素元素を有する非原始グラフェン材料から選択される単層又は数層のグラフェンシートを含み、非原始グラフェンは、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ドープグラフェン、化学的官能基化グラフェン、又はそれらの組み合わせから選択される。
【0049】
このプロセスは、弾性熱拡散フィルムを、このデバイスにおける熱管理要素としてデバイスに実装することをさらに含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】
図1は、化学的酸化/インターカレーション、水洗、及び高温剥離手順を伴う、酸化グラフェンシートを製造するのに最も一般的に使用されるプロセスを示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、本開示の特定の実施形態に係る、エラストマー/ゴム含浸凝集体/配向・配列したグラフェンシートのクラスターを含む弾性熱拡散材の製造プロセスの様々な経路の概略図である。
【
図3A】
図3Aは、底面に対して平行又は層厚方向に対して垂直に配列した高配向グラフェンシートの層を形成するための圧縮及び強固化操作(ピストン又はラムを備えた金型キャビティセルを使用)の一例を説明するための模式図である。
【
図3B】
図3Bは、側面(X-Y平面)に対して垂直又は層厚方向(Z方向)に対して平行に配列した高配向グラフェンシートの層を形成するための圧縮・強固化操作(ピストン又はラムを備えた金型キャビティセルを用いる)の他の例を説明するための模式図である。
【
図3C】
図3Cは、底面に平行又は層厚方向に垂直な高配向グラフェンシートの層を形成するための圧縮・強固化操作のさらに他の例(真空アシスト吸引装置を備えた金型キャビティセルを使用)を説明するための模式図である。
【
図3D】
図3Dは、支持基板面上に、高度に配列したグラフェンシートの層を製造するロール・ツー・ロール工程を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、エラストマーと均一に混合しエラストマー中に分散するグラフェンシートを含む熱拡散シートのシリーズと、グラフェン膜の2面から浸透したエラストマー樹脂を含む熱拡散シートのシリーズの2種類の熱拡散フィルムについての、エラストマーの重量%に対する各熱伝導率値を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、2シリーズの熱フィルム(一方はエラストマーなし、他方は表面含浸エラストマーを含む(0.01重量%))に対して、繰り返し変形数の関数としてプロットした熱伝導率を示す図である。
【
図5】
図5は、最終熱処理温度の関数としてプロットしたグラフェン系熱拡散フィルムの熱伝導率値である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本開示では、以下を含む弾性熱拡散フィルムが提供される。(A)バインダー材料又はマトリックス材料としてのエラストマー又はゴム;及び(B)バインダー材料によって結合するか、又はマトリックス材料中に分散する複数のグラフェンシートを含み、複数のグラフェンシートが、実質的に互いが平行になるように配列し、及びエラストマー又はゴムの量が、熱拡散フィルムの総重量基準で0.001重量%~20重量%である、弾性熱拡散フィルムであって、複数のグラフェンシートが、非炭素元素が実質的に0%である原始グラフェン材料、又は0.001重量%~25重量%の非炭素元素を有する非原始グラフェン材料から選択される単層又は数層のグラフェンシートを含み、非原始グラフェンは、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ドープグラフェン、化学的官能基化グラフェン、又はそれらの組み合わせから選択され(好ましくは、化学的官能基化グラフェンは酸化グラフェンではない)、及び弾性熱拡散フィルムが、2%~100%の完全回復性の引張弾性歪み(好ましくは5%超、より好ましくは10%超、さらに好ましくは20%超)と、200W/mK~1,750W/mKの面内熱伝導率(好ましくはかつ典型的には500W/mK超)を有する、前記弾性熱拡散フィルムである。熱拡散シートの通常の厚みは10nm~500μmである。
【0052】
エラストマー又はゴム材料は、高弾性(高い弾性変形値)であることが必要である。弾性変形とは、完全に回復可能な変形であり、その回復過程は基本的に瞬間的である(有意な時間遅れがない)。加硫天然ゴムなどのエラストマーは、2%~1000%(元の長さの10倍)、より典型的には10%~800%、さらに典型的には50%~500%、最も典型的には100%~500%までの弾性変形を示し得る。金属又はプラスチック材料は、典型的には高い延性を有するが(すなわち、破損せずに大きく伸ばすことができる)、変形の大部分は塑性変形(すなわち、回復不可能な永久変形)であり、少量(典型的には<1%、より典型的には<0.2%)のみが弾性変形であることに留意されたい。
【0053】
エラストマーは、単独で、あるいはエラストマーマトリックス複合体のマトリックス材料として、負極活物質粒子又は粒子をカプセル化するのに広く使用することができる。カプセル化とは、粒子を電池内の電解質と直接接触しないように、実質的に完全に包むことを意味する。エラストマー材料は、天然ポリイソプレン(例えば、シス-1,4-ポリイソプレン天然ゴム(NR)及びトランス-1,4-ポリイソプレンガタパーチャ)、合成ポリイソプレン(イソプレンゴム IR)、ポリブタジエン(ブタジエンゴム BR)、クロロプレンゴム(CR)、ポリクロロプレン(例えばネオプレン、ベイプレン等)、ハロゲン化ブチルゴム(クロロブチルゴム(CIIR)、ブロモブチルゴム(BIIR)を含むブチルゴム(イソブチレンとイソプレンのコポリマー、IIR)、スチレン-ブタジエンゴム(スチレンとブタジエンのコポリマー、SBR)、ニトリルゴム(ブタジエンとアクリロニトリルのコポリマー、NBR)、EPM(エチレンプロピレンゴム、エチレンとプロピレンの共重合体)、EPDMゴム(エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンとプロピレンとジエン成分のターポリマー)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)、ポリアクリルゴム(ACM、ABR)、シリコーンゴム(SI、Q、VMQ)、フッ素シリコーンゴム(FVMQ)、フッ素エラストマー(FKM、及びFEPM:例えば、バイトン、テクノフロン、フルオレル、アフラス、ダイエルなど)、パーフロロエラストマー(FFKM:テクノフロンPFR、カルレッツ、ケムラッツ、パーラスト)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM、例えば、ハイパロン)、及びエチレン-酢酸ビニル(EVA)、熱可塑性エラストマー(TPE)、タンパク質レジリン、タンパク質エラスチン、エチレンオキシド-エピクロロヒドリンコポリマー、ポリウレタン、ウレタン-ウレアコポリマー及びそれらの組み合わせ、から選択される。
【0054】
ウレタン-ウレアコポリマーフィルムは、通常、ソフトドメインとハードドメインの2種類のドメインから構成されている。ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール(PTMEG)単位からなる絡み合った直鎖状の骨格鎖がソフトドメインを構成し、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)単位とエチレンジアミン(EDA)単位の繰り返しがハードドメインを構成している。実は、熱可塑性エラストマーの多くは、ハードドメインとソフトドメインを構造中に持つか、ソフトマトリックス中にハードドメインが分散している。ハードドメインは、軽度に架橋された鎖や物理的に絡み合った鎖を保持するのに役立ち、鎖の変形可逆性を可能にすることができる。
【0055】
複数のグラフェンシートは、典型的には、非炭素元素が実質的に0%の原始グラフェン材料、又は0.001重量%~25重量%の非炭素元素を有する非原始グラフェン材料から選択された単層又は数層のグラフェンシートを含む。非原始グラフェンは、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ドープグラフェン、化学的官能基化グラフェン、又はそれらの組み合わせから選択され、化学的官能基化グラフェンは酸化グラフェンではなく、グラフェンシート間には、マトリックス材料により平均1nm~300nmの間隔がある。
【0056】
配列したグラフェンシートを一緒に保持するバインダー又はマトリックス材料として、適切に選択されたエラストマー又はゴムを含んでなる得られた熱拡散フィルムは、驚くべきことに、引張弾性変形2%超、より典型的には5%超、さらに典型的には10%超、なおより典型的には20%超、しばしば50%超(例えば、100%まで)伸張できる。
【0057】
このような高い弾性特性により、熱伝導率を大幅に低下させることなく、熱拡散フィルムを数万回前後、曲げたり折ったりすることができることに留意されたい。最初の折り曲げ前の熱伝導率は、典型的には500~1750W/mkであり、10000回繰り返し折り曲げた後も、元の熱伝導率の80%以上(典型的には90%以上)を維持することができる。
【0058】
好ましくは、上述の実施形態において、エラストマー又はゴムの量は、0.001重量%~20重量%、より好ましくは0.01%~10%、さらに好ましくは0.1%~1%の量である。
【0059】
いくつかの高度に有用な実施形態において、熱拡散フィルムの形態は、5nm~500μmの厚みを有する薄膜であり、グラフェンシートは、薄膜面に対して実質的に平行に配列する。いくつかの好ましい実施形態では、熱拡散材の形態は、10nm~100μmの厚みを有する薄膜であり、グラフェンシートは薄膜面に対して平行に配列する。
【0060】
典型的には、開示の熱拡散フィルムは、100MPa以上の引張強度、25GPa以上の引張弾性率、500W/mK以上の熱伝導率、及び/又は5,000S/cm以上の電気伝導率(全て薄膜面方向に沿って測定)を有する。典型的でかつ好ましくは、フィルムは、300MPa以上の引張強度、50GPa以上の引張弾性率、800W/mK以上の熱伝導率、及び/又は8,000S/cm以上の電気伝導率を有し、これらはすべて薄膜面方向に沿って測定されたものである。多くの場合、フィルムは、400MPa以上の引張強度、150GPa以上の引張弾性率、1,200W/mK以上の熱伝導率、及び/又は12,000S/cm以上の電気伝導率を有し、これらはすべて薄膜面方向に沿って測定されたものである。開示の熱拡散フィルムのいくつかは、引張強度が500MPa以上、引張弾性率が250GPa以上、熱伝導率が1,500W/mK以上、及び/又は電気伝導率が20,000S/cm以上の全てを発現し、これらはすべて薄膜面方向に沿って測定されたものである。
【0061】
典型的には、本発明のフィルムは、70~400HVのビッカース硬度値を示す。
【0062】
化学的に官能基化されたグラフェンシートは、所定の分散液中で負のゼータ電位を示すものが好ましく、典型的には-55mV~-0.1mVの範囲にある。これらの官能基化グラフェンシートは、典型的には、負のゼータ電位を付与する、これらのシートに結合する官能基を有する。ゼータ電位は、分散媒と、この分散媒(例えば、水、有機溶媒、電解質など)中に分散した分散粒子(例えば、グラフェンシート)に付着した液体の静止層、との間の電位差である。市販のいくつかの装置(例えば、Malvern Panalytical社のZetasizer Nano及び堀場サイエンティフィック社製のSZ-100)を使用して、異なる種類のグラフェンシートの、異なる分散媒体中でのゼータ電位を測定することができる。
【0063】
所定の種類のグラフェン(例えば、酸化グラフェン又は還元酸化グラフェンなど)は、正又は負のゼータ電位を示し、その値は、グラフェンシートに付着した化学官能基及び使用する分散媒によって変化し得ることに留意されたい。特に指定がない限り、示されるゼータ電位の値は、5.0~9.0(多くは7.0)のpHを有する水溶液に分散されたグラフェンシートの値である。
【0064】
いくつかの実施形態において、化学的官能基化グラフェンシートは、アルキルもしくはアリールシラン、アルキルもしくはアラルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミン基、スルホン酸基(--SO3H)、アルデヒド基、キノイド、フッ化炭素、又はこれらの組み合わせから選択される化学官能基を含んでいる。あるいは、官能基は、2-アジドエタノール、3-アジドプロパン-1-アミン、4-(2-アジドエトキシ)-4-オキソブタン酸、2-アジドエチル-2-ブロモ-2-メチルプロパン酸、クロロ炭酸、アジド炭酸、ジクロロカルベン、カルベン、アリン、ニトリル、(R-)オキシカルボニルナイトレン、
【0065】
【0066】
及びそれらの組み合わせ、からなる群から選ばれるアジド化合物の誘導体を含み、Rは上記の基のいずれか1つを指す。
【0067】
特定の実施形態において、官能基は、ヒドロキシル、過酸化物、エーテル、ケト、及びアルデヒドからなる群から選択される。特定の実施形態では、官能基化剤は、SO3H、COOH、NH2、OH、R’CHOH、CHO、CN、COCl、ハライド、COSH、SH、COOR’、SR’、SiR’3、Si(--OR’--)yR’3-y、Si(--O--SiR’2--)OR’、R”、Li、AlR’2、Hg--X、TlZ2及びMg-Xより成る群から選択された官能基を含み;yは3以下の整数であり、R’は水素、アルキル、アリール、シクロアルキル、又はアラルキル、シクロアリール、又はポリ(アルキルエーテル)、R”はフルオロアルキル、フルオロアリール、フルオロシクロアルキル、フルオロアラルキル又はシクロアリール、Xはハライド、Zはカルボン酸又はトリフルオロ酢酸、及びそれらの組み合わせである。
【0068】
官能基は、アミドアミン、ポリアミド、脂肪族アミン、変性脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミン、無水物、ケチミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ポリエチレンポリアミン、ポリアミンエポキシアダクト、フェノール硬化剤、非臭素化硬化剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されてもよい。
【0069】
いくつかの実施形態では、官能基は、OY、NHY、O=C--OY、P=C--NR’Y、O=C--SY、O=C--Y、--CR’1--OY、N’Y又はC’Yから選択されてよく、Yはタンパク質、ペプチド、アミノ酸、酵素、抗体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、抗原又は酵素基質の官能基、酵素阻害剤又は酵素基質に近い遷移状態であり、又はR’--OH、R’--NR’2、R’SH、R’CHO、R’CN、R’X、R’N+(R’)3X-、R’SiR’3、R’Si(--OR’--)yR’3-y、R’Si(--O--SiR’2--)OR’、R’--R”、R’--N--CO,(C2H4O--)wH、(--C3H6O--)wH,(--C2H4O)w--R’,(C3H6O)w--R’,R’から選択され、wは1より大きく200未満の整数である。
【0070】
グラフェンシート及びグラフェン分散液の調製について、以下に説明する。炭素は、ダイヤモンド、フラーレン(0次元ナノグラファイト材料)、カーボンナノチューブ又はカーボンナノファイバー(1次元ナノグラファイト材料)、グラフェン(2次元ナノグラファイト材料)、及びグラファイト(3次元グラファイト材料)という5つの固有の結晶構造を有することが知られている。カーボンナノチューブ(CNT)とは、単層又は多層に成長した管状構造を指す。カーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバー(CNF)は、数ナノメートル~数百ナノメートルのオーダーの直径を持つ。その縦長の中空構造により、材料にユニークな機械的、電気的、化学的特性が付与される。CNTやCNFは、一次元のナノカーボン又は一次元のナノグラファイト材料である。
【0071】
我々の研究グループは、2002年という早い時期に、グラフェン材料及び関連する製造プロセスの開発を先駆的に行っている。(1)B.Z.Jang and W.C.Huang,“ナノスケールのグラフェンプレート”、2002年10月21日に出願受理された、米国特許第7,071,258号明細書(07/04/2006)、(2)B.Z.Jang、“ナノスケールのグラフェンプレートの製造プロセス”、米国特許出願第10/858,814号明細書(06/03/2004)(米国特許出願公開第2005/0271574号明細書);及び(3)B.Z.Jang,A.Zhamu,and J.Guo,“ナノスケールのグラフェンプレート及びナノコンポジットの製造プロセス”、米国特許出願第11/509,424号明細書(08/25/2006)(米国特許出願公開第2008/0048152号明細書)に記載されている。
【0072】
単層グラフェンシートは、2次元の六角形格子を占める炭素原子からなる。多層グラフェンは、2つ以上のグラフェン面からなるプレートレットである。本明細書では、個々の単層グラフェンシート及び多層グラフェンプレートレットを総称して、ナノグラフェンプレートレット(NGP)又はグラフェン材料と呼んでいる。NGPには、純粋なグラフェン(実質的に99%の炭素原子)、わずかに酸化されたグラフェン(5重量%未満の酸素)、酸化グラフェン(5重量%以上の酸素)、わずかにフッ化されたグラフェン(5重量%未満のフッ素)、フッ化グラフェン(5重量%以上のフッ素)、他のハロゲン化グラフェン及び化学的官能基化グラフェンなどが含まれる。
【0073】
NGPは、様々な珍しい物理的、化学的、機械的特性を持つことが分かっている。例えば、グラフェンは、既存のすべての材料の中で最も高い固有強度と最も高い熱伝導性を示すことが判明している。グラフェンの実用的な電子機器への応用(例えば、トランジスタのバックボーンとしてSiを置き換えるなど)は、今後5~10年以内に達成することは想定されていないが、複合材料中のナノフィラーやエネルギーストレージデバイスの電極材料としての応用は間近に迫っているといえる。グラフェンを複合材料化し、グラフェンをエネルギー、その他の用途向けに開拓し成功を収めるには、加工可能なグラフェンシートを大量に入手できることが不可欠となる。
【0074】
非常に有用なアプローチ(
図1)には、天然グラファイト粉末をインターカレント及び酸化剤(例えば、それぞれ濃硫酸及び硝酸)で処理して、グラファイト層間化合物(GIC)又は、実際には、酸化グラファイト(GO)を得ることが含まれる。「William S.Hummers,Jr.ら、酸化グラファイトの作製,Journal of the American Chemical Society,1958,p.1339.」に記載される。インターカレーションや酸化を行う前のグラファイトは、グラフェン間平面間隔が約0.335nm(L
d=1/2d
002=0.335nm)である。インターカレーション処理及び酸化処理により、グラフェン間距離は通常0.6nm以上まで増加する。これは、この化学的経路でグラファイト材料が受ける最初の膨張段階である。次に、得られたGIC又はGOを、熱衝撃曝露又は溶液ベースの超音波アシストグラフェン層剥離法により、さらなる膨張(剥離と呼ばれることもある)処理に供する。
【0075】
熱衝撃曝露法では、GIC又はGOを高温(通常800~1,050℃)で短時間(通常15~60秒)曝露し、GIC又はGOを剥離又は膨張させて、剥離又はさらに膨張したグラファイトを形成するが、これは通常、互いに結合したままのグラファイト片からなる「グラファイトワーム」の形をしている。この熱衝撃処理により、分離したグラファイトフレークやグラフェンシートが生成されることもあるが、通常は大部分のグラファイトフレークが相互に結合したままである。典型的には、剥離後のグラファイト又はグラファイトワームを、次に、水中でエアミリング、機械的せん断、又は超音波処理を用いたフレーク分離処理に供す。したがって、アプローチ1では、基本的に、最初の膨張(酸化又はインターカレーション)、さらなる膨張(又は「剥離」)、及び分離という3つの異なる手順を伴う。
【0076】
溶液系での分離アプローチでは、膨張又は剥離したGO粉末を、水又はアルコール水溶液に分散させ、これを超音波処理にかける。これらのプロセスにおいて、超音波処理は、グラファイトのインターカレーション及び酸化後(すなわち、第1の膨張後)に行い、及び典型的には、得られたGIC又はGOの熱衝撃曝露後(第2の膨張後)に行うことに留意することが重要である。あるいは、水中に分散させたGO粉末を、平面間の空間内に在るイオン反発力がグラフェン間のファンデルワールス力に対して打ち勝つように、イオン交換又は長時間の精製操作に供し、グラフェン層の分離を行う。
【0077】
前述の実施例において、グラフェンシート又はNGPを調製する際に用いる出発材料は、天然グラファイト、人工グラファイト、酸化グラファイト、フッ化グラファイト、グラファイト繊維、炭素繊維、炭素ナノ繊維、炭素ナノチューブ、メソフェーズ炭素マイクロビーズ(MCMB)又は炭素質マイクロスフィア(CMS)、ソフトカーボン、ハードカーボン及びそれらの組み合わせからなる群より選択されてよいグラファイト材料である。
【0078】
酸化グラファイトは、層状グラファイト材料(例えば、天然フレーク状グラファイト又は合成グラファイトの粉末)を、酸化剤、典型的にはインターカレント(例えば、濃硫酸)と酸化剤(例えば、硝酸、過酸化水素、過塩素酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム)の混合物中に、十分長い時間(典型的には4時間~5日間)、所望の温度(典型的には0~70℃)で分散又は浸漬することにより、準備することができる。次に、得られた酸化グラファイト粒子を数回水で洗浄し、pH値を典型的には2~5に調整する。次いで、得られた、水に分散させた酸化グラファイト粒子の懸濁液を超音波処理し、水中に離散した酸化グラフェンシートの分散液を作製する。還元酸化グラフェン(RDO)シートを得る上で、少量の還元剤(例えば、Na4B)を添加してもよい。
【0079】
前駆体溶液又は懸濁液を製造するのに必要な時間を短縮するために、グラファイトをある程度短時間(例えば、30分~4時間)酸化することを選択して、グラファイト層間化合物(GIC)を得てもよい。次に、GIC粒子を熱衝撃、好ましくは600~1,100℃の温度範囲で、典型的には15~60秒間曝露して、剥離したグラファイト又はグラファイトワームを得、これを任意選択で(しかし好ましくは)、機械的せん断(例えば、機械的せん断機又は超音波装置を用いる)に供してグラファイトワームを構成するグラファイトフレークを乖離させる。その後、既に分離したグラフェンシート(機械的剪断後)又は乖離していないグラファイトワーム又は個々のグラファイトフレークのいずれかを水、酸、又は有機溶媒に再分散させ、超音波処理してグラフェン分散液が得られる。
【0080】
原始グラフェン材料は、好ましくは、以下の3つのプロセスのうちの1つによって製造される:(A)グラファイト材料を非酸化剤でインターカレーションした後、非酸化性環境下で熱的又は化学的剥離処理を行うこと、(B)グラファイト材料を超臨界流体環境に供してグラフェン層間浸透と剥離を行うこと、又は(C)粉末状のグラファイト材料を界面活性剤や分散剤を含む水性溶液に分散させて懸濁液を得、この懸濁液に直接超音波を照射してグラフェン分散液を得ること。
【0081】
手順(A)において、特に好ましい工程として、(i)アルカリ金属(例えば、カリウム、ナトリウム、リチウム、又はセシウム)、アルカリ土類金属、又はアルカリ金属の合金、混合物、又は共晶から選択される非酸化剤で、グラファイト材料をインターカレートすること、及び(ii)化学的剥離処理(例えば、エタノール溶液中にカリウムインターカレートグラファイトを浸すことによって)、が含まれる。
【0082】
手順(B)において、好ましい工程として、グラファイト材料を、二酸化炭素(例えば、温度T>31℃、圧力P>7.4MPa)及び水(例えば、T>374℃、P>22.1MPa)などの超臨界流体に、グラフェン層間浸透(仮インターカレーション)に十分な時間浸漬すること、が含まれる。この後、急激な減圧を行い、個々のグラフェン層を剥離させる。他の適切な超臨界流体としては、メタン、エタン、エチレン、過酸化水素、オゾン、水酸化(高濃度の溶存酸素を含む水)、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0083】
手順(C)において、好ましい工程として、(a)グラファイト材料の粒子を、界面活性剤又は分散剤を含む液体媒体中に分散させて懸濁液又はスラリーを得ること、及び(b)懸濁液又はスラリーを、充分なエネルギーレベルの超音波(一般に超音波処理と呼ばれるプロセス)に充分な時間曝して、液体媒体(たとえば、水、アルコール、又は有機溶媒)中に分散した、分離状のグラフェンシート(非酸化NGP)のグラフェン分散液を生成すること、が含まれる。
【0084】
NGPは、酸素含有量が25重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下で製造することができる。典型的には、酸素含有量は5重量%以上20重量%以下である。酸素含有量は、化学元素分析及び/又はX線光電子分光法(XPS)を用いて決定することができる。
【0085】
GIC、酸化グラファイト、及びその後製造される剥離性グラファイト、フレキシブルグラファイトシート、及びグラフェンプレートレットを製造する先行技術プロセスで使用された層状グラファイト材料は、ほとんどの場合、天然グラファイトであった。しかしながら、本開示では、天然グラファイトに限定されない。出発材料は、天然グラファイト、人造グラファイト(例えば、高配向性熱分解グラファイト、HOPG)、酸化グラファイト、フッ化グラファイト、グラファイト繊維、炭素繊維、炭素ナノ繊維、炭素ナノチューブ、メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)又は炭素質マイクロ球(CMS)、ソフトカーボン、ハードカーボン及びこれらの組み合わせからなる群から選択されてもよい。これらの材料はすべて、ファンデルワールス力を介して互いに積層又は結合したグラフェン面の層からなるグラファイト結晶を含んでいる。天然グラファイトでは、グラフェン面の配向が積層ごとに異なる、複数のグラフェン面が積層して互いにクラスター化されている。炭素繊維では、通常、グラフェン面は好ましい方向に沿って配向している。概して、ソフトカーボンは、液体状態の芳香族分子を炭化して得られる炭素質材料である。芳香環やグラフェン構造は、多かれ少なかれ互いに平行であるため、さらなるグラファイト化が可能である。ハードカーボンは、芳香族系の固体材料(フェノール樹脂やポリフルフリルアルコールなどの高分子)から得られる炭素質材料である。それらのグラフェン構造は比較的ランダムに配向しているため、2,500℃以上の高温でもそれ以上のグラファイト化は困難である。しかし、これらの炭素には、グラフェンシートが存在する。
【0086】
本明細書では、ハロゲン化グラフェン材料群の例として、フッ素化グラフェン又はフッ化グラフェンを用いる。フッ素化グラフェンの製造には2つの異なるアプローチがある:(1)プレ合成済みグラフェンのフッ素化:このアプローチは、機械的剥離又はCVD成長によって調製したグラフェンを、XeF2などのフッ素化剤、又はF系プラズマで処理することを伴う;(2)多層グラファイトフッ化物の剥離:このアプローチでは、フッ化グラファイトの機械的剥離と液相剥離の両方が容易に達成できる。このことは、「F.Karlickyら、ハロゲン化グラフェン:グラフェン誘導体の急速成長ファミリー ACS Nano,2013,7(8),pp 6434-6464」に記載されている。
【0087】
高温におけるF2とグラファイトの相互作用により、共有結合のグラファイトフッ化物(CF)n又は(C2F)nを、低温ではグラファイト層間化合物(GIC)CxF(2≦x≦24)が形成される。(CF)nの炭素原子はsp3混成であるため、フルオロカーボン層はトランス体結合性のシクロヘキサン椅子からなる波状構造をしている。(C2F)nでは炭素原子の半分だけがフッ素化され、隣接する炭素シートのすべてのペアが共有結合のC-C結合で結合されている。フッ素化反応の系統的な研究により、得られるF/C比は、フッ素化温度、フッ素化ガス中のフッ素分圧、グラファイト前駆体のグラファイト化度、粒子径、比表面積などの物理的特性に大きく依存することが明らかになった。フッ素(F2)の他に他のフッ素化剤も使用した多くの文献では、F2ガスによるフッ素化を採用しているが、場合によってはフッ化物の存在下で行うこともある。
【0088】
層状前駆体材料を個々の単一グラフェン層又は数層の状態まで剥離するためには、隣接する層間の引力に打ち勝ち、さらに層を安定化させる必要がある。これには、グラフェン表面を官能基によって共有結合的に修飾する方法か、特定の溶媒、界面活性剤、ポリマー、又はドナー・アクセプター型芳香族分子を用いて非共有結合的に修飾する方法のいずれかが考えられる。液相剥離のプロセスには、液体媒体中でフッ化グラファイトを超音波処理し、液体媒体中に分散したフッ化グラフェンシートを生成することが含まれる。得られた分散液は、ポリマー成分表面にグラフェンを堆積するのに直接使用することができる。
【0089】
グラフェンの窒素化は、酸化グラフェンなどのグラフェン材料を高温(200~400℃)のアンモニアに曝すことによって行うことができる。窒素化グラフェンは、水熱法;例えば、オートクレーブにGOとアンモニアを封入し、150~250℃に温度を上げることによって、低温で形成することもできる。窒素ドープグラフェンを合成する他の方法としては、グラフェンへの窒素プラズマ処理、アンモニア存在下でのグラファイト電極間のアーク放電、CVD条件下での酸化グラフェンのアンモノリシス、酸化グラフェンと尿素を異なる温度で水熱処理する方法がある。
【0090】
本出願の請求項を定義する目的で、NGP又はグラフェン材料には、単層及び多層(典型的には10層未満、数層グラフェン)の、原始グラフェン、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン(RGO)、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、化学的官能基化グラフェン、ドープグラフェン(例えば、BやNでドープされたもの)の、離散したシート/プレートレットが含まれる。原始グラフェンの酸素濃度は実質的に0%である。RGOは、通常、0.001重量%~5重量%の酸素含有量を有する。酸化グラフェン(RGOを含む)は、0.001重量%~50重量%の酸素を有することができる。原始グラフェン以外のすべてのグラフェン材料は、0.001重量%~50重量%の非炭素元素(O、H、N、B、F、Cl、Br、Iなど)を有している。本明細書では、これらの材料を非原始グラフェン材料と称する。本発明のグラフェンは、原始グラフェン又は非原始グラフェンを含むことができ、本発明方法により、これらに柔軟性を付与することができる。これらのグラフェンシートは、いずれも化学的に官能基化することができる。
【0091】
グラフェンシートは、グラファイト結晶の端面に相当するエッジ部をかなりの割合で有する。エッジ面の炭素原子は反応性が高く、炭素の原子価を満たすために何らかのヘテロ原子又は基を含ませる必要がある。さらに、化学的又は電気化学的手法によって製造されたグラフェンシートのエッジ又は表面には、多くの種類の官能基(例えば、水酸基やカルボキシル基)が自然に存在する。当技術分野でよく知られている方法を用いて、多くの化学官能基(例えば、-NH2など)をグラフェンのエッジ部及び/又は表面に容易に付与することができる。
【0092】
本開示の官能基化NGPは、スルホン化、脱酸素化グラフェンプレートレット表面への求電子付加、又は金属化によって直接調製することができる。グラフェンプレートレットは、官能基化剤と接触させる前に処理することができる。このような処理には、グラフェンプレートレットを溶媒に分散させることが含まれる場合がある。場合によっては、接触させる前に、プレートレットを濾過し、乾燥させることもできる。特に有用な種類の官能基の1つはカルボン酸部分であり、前述した酸インターカレーション経路から調製した場合、NGPの表面上に自然に存在するものである。もしカルボン酸官能基化が必要な場合、NGPを塩素酸塩、硝酸、又は過硫酸アンモニウムの酸化に供してよい。
【0093】
カルボン酸官能基化グラフェンシート又はプレートレットは、他のタイプの官能基化NGPを調製する上で出発点として機能するため、特に有用である。例えば、アルコール又はアミドは酸と容易に連結し、安定したエステル又はアミドを生成することができる。アルコール又はアミンが2官能性又は多官能性分子の一部である場合、O-又はNH-結合が起こることに起因して、他の官能性はペンダント基として残る。これらの反応は、カルボン酸をアルコール又はアミンとでエステル化又はアミノ化する、当技術分野で既知の方法のいずれかを用いて実施することができる。これらの方法の例は、G.W.Andersonら、J.Amer.Chem.Soc.96,1839(1965)に記載されており、その全体が参照により本明細書に援用される。アミノ基は、グラファイトプレートレットを硝酸及び硫酸で処理して硝化プレートレットを得、次いで硝化体を亜ジチオン酸ナトリウムなどの還元剤で化学的に還元してアミノ官能基化プレートレットを得ることによって、直接的にグラファイトプレートレットに導入することができる。
【0094】
また、本明細書では、
図2に模式的に示すように、弾性熱拡散フィルムを製造するプロセスも開示される。このプロセスは、一般に、(a)実質的に互いに平行である配向/配列したグラフェンシートの凝集体(又はクラスター)の層を形成する手順と、(b)グラフェンシートをゴム又はエラストマーと合わせる手順であって、ゴム/エラストマー鎖がグラフェンシートの間の隙間を埋めるか、及び/又はグラフェンシートに化学的に結合するか、又はグラフェンシートがゴム/エラストマーマトリクス中に分散される、といった手順を含む。手順(a)及び(b)は、同時に又は順次(例えば、手順(a)に続いて(b)、又は(b)が最初に続いて(a))に行うことができる。
図2に示されるように、ゴム又はエラストマー(又は、モノマー、オリゴマー、未硬化ゴム鎖等のその前駆体)を、グラフェンシートクラスター形成及び配列手順の異なる段階のいずれかの間にグラフェンシートに接触させることができる。
【0095】
いくつかの実施形態では、複数の配向/配列したグラフェンシートの凝集体又はクラスターの層を形成する手順には、複数のグラフェンシートのエアアシスト又は液体アシスト噴霧から選択される手順が含まれる(例えば、
図3Dに例示されるように)。
【0096】
いくつかの実施形態では、複数のグラフェンシートの凝集体又はクラスター層を提供する手順(a)には、コーティング、キャスティング、エアアシストクラスター化、液体アシストクラスター化、噴霧、印刷、又はそれらの組み合わせから選択される手順が含まれる。コーティング手順は、蒸着、化学コーティング、電気化学コーティング又はメッキ、スプレーコーティング、塗装、ブラッシング、ロール・ツー・ロールコーティング、物理的コーティング、又はそれらの組み合わせから選択されてもよい。
【0097】
特定の実施形態では、複数の配向/配列したグラフェンシートの凝集体又はクラスター層を形成する手順には、液体媒体中に分散した複数のグラフェンシートを含むグラフェン分散液を形成し、その後、そのような分散液を使用して、コーティング、キャスティング、噴霧、印刷、強制集合化及び配向化手順、又はそれらの組み合わせから選択する手順が含まれる。このような手順には、典型的な場合、液体媒体の除去が含まれる。
【0098】
好ましくは、コーティング手順は、エアナイフコーティング、アニロックスコーティング、フレキソコーティング、ギャップコーティング又はナイフオーバーロールコーティング、グラビアコーティング、ホットメルトコーティング、浸漬コーティング、キスコーティング、計量ロッド又はマイヤーバーコーティング、ローラーコーティング、シルクスクリーンコーティング又は回転スクリーンコーティング、スロットダイコーティング、コンマコーティング、押出コーティング、インクジェットプリント又はこれらの組み合わせから選ばれる、ロール・ツー・ロールコーティングプロセスを含んでいる。グラフェンシートの凝集体又はクラスターをロールプレスするのに、一対の逆回転ローラーを使用してもよく、グラフェンシートが互いに平行になるように整列/配向させるのに役立つ。コーティング工程は当技術分野でよく知られている。
【0099】
いくつかの好ましい実施形態では、本プロセスには、工程(a)の後に、複数のグラフェンシートの凝集体又はクラスター層を、50℃~3,200℃から選択される温度又は複数の異なる温度で熱処理する手順がさらに含まれる。例えば、配向性グラフェンシート(例えば、酸化グラフェンシート又はフッ化グラフェンシート)の凝集体の層を、まず300℃~1,500℃から選択される温度で1~3時間熱処理し、次に2,500℃~3,400℃から選択される温度で0.5~2時間熱処理することができる。
【0100】
ゴム/エラストマーの前駆体(例えば、液状のモノマー/硬化剤混合物、オリゴマー、又は溶剤に溶解した未硬化樹脂など)を、熱処理後にグラフェンシートの層の表面(複数)に吐出して堆積してもよく、何らかの方法でグラフェンクラスの層の孔に含浸又は浸透させてもよい。
【0101】
熱処理手順の後(ゴム/エラストマー含浸の前又は後)、得られたグラフェンシートの凝集体をさらに圧縮(例えば、ロールプレス)して、グラフェンシートが互いに平行になるように整列/配向させてもよい。
【0102】
特定の実施形態において、本工程は、以下を含む。(A)複数のグラフェンシートの凝集体又はクラスターの層を提供すること;及び(B)エラストマー又はゴムを、バインダー材料として又はマトリックス材料として、凝集体又はクラスターに含浸させて含浸凝集体又はクラスターを生成させること、を含み、複数のグラフェンシートは、バインダー材料によって結合されているか又はマトリックス材料に分散しており、エラストマー又はゴムの量は熱拡散フィルムの総重量基準で0.001重量%~20重量%であり、弾性熱拡散フィルムは、2%~100%の完全回復性の引張弾性歪みと、200W/mK~1,750W/mKの面内熱伝導率を有する。
【0103】
このプロセスは、含浸凝集体又はクラスターを圧縮して熱拡散フィルムを製造する工程(C)をさらに含み、複数のグラフェンシートを実質的に互いに平行になるように配列させてもよい。
【0104】
工程(a)において、グラフェンシートの配列化は、
図3A、
図3B、
図3C、及び
図3Dに模式的に示される強制集合化法により達成することができる。
【0105】
いくつかの所望する実施形態では、強制集合化手順には、初期体積V1を有するグラフェンシートの分散液(グラフェン分散液とも呼ばれる)を金型キャビティセル内に導入し、前記金型キャビティセル内でピストンを使って前記グラフェン分散液の体積をより小さな値V2まで減らし、残りの分散液の大部分をキャビティセル(例えば、金型キャビティセルの穴又はピストンの穴を通して)から流出させて、前記ピストンの移動方向に対して0°~90°の角度の方向に沿って複数のグラフェンシートを配列させることが含まれる。
【0106】
図3Aには、高度に圧縮され配向したグラフェンシート314の層を形成するための(ピストン又はラム308を備えた金型キャビティセル302を用いた)圧縮及び強固化操作の一例を説明するための模式図が提供される。チャンバー(金型キャビティセル302)内に収容されるのは、分散液(例えば、ゴム/エラストマー前駆体を任意選択で含む液体306中に、グラフェンシート304がランダムに分散されてなる懸濁液又はスラリーである)である。ピストン308を下方に駆動させると、金型壁上の微小なチャネル312又はピストンの微小なチャネル310を介して液体が強制的に流され、分散液の体積を減少させることができる。これらの微小流路は、金型キャビティのいずれか又はすべての壁に存在し得、流路のサイズを、液体は透過できるが固体グラフェンシートは透過できないように設計することができる(典型的には、長さ又は幅が0.05~100μm)。液体は、
図3Aの右図に316a及び316bとして示してある。この圧縮・強固化操作を行うことにより、グラフェンシート314は底面に対して平行に、あるいは層厚方向に対して垂直に配列させる。
【0107】
図3Bに示すのは、高配向グラフェンシート320の層を形成するための圧縮・強固化操作(ピストン又はラムを備えた金型キャビティセルを使用)の別の例を説明するための模式図である。ピストンは、Y方向に沿って下方に駆動される。グラフェンシートは、X-Z平面上及びX-Y平面に垂直な方向(Z方向又は厚み方向に沿って)に配列される。この配向したグラフェンシートの層は、基本的にX-Y平面で表される支持基板に貼り付けることができる。このようにして得られた電極では、グラフェンシートが基板に対して垂直に配向している。未硬化のゴム又はエラストマーは、圧縮及び強固化操作前又は後に組み込むことができる。
【0108】
図3Cは、高配向グラフェンシート326の層を形成するための圧縮及び強固化操作(真空アシスト吸引が行われる金型キャビティセルを使用)のさらに別の例を説明するための模式図である。このプロセスでは、孤立したグラフェンシート322及び任意選択でエラストマー/ゴム又はその前駆体を液体324中に分散させ、分散液を形成することから始まる。これに続いて、真空システムを介して負圧を発生させ、チャンネル330を介して液体332を吸引する。この圧縮及び強固化操作により、分散体積を減らし、金型キャビティセルの底部平面上にすべての孤立したグラフェンシートを配列させる。圧縮されたグラフェンシートは、底部平面と平行に、又は層厚方向と垂直に配列される。好ましくは、得られたグラフェンシート構造の層は、さらに圧縮されて、さらに高いタップ密度が達成される。未硬化のゴム又はエラストマーは、圧縮及び強固化操作の前又は後に組み込んでもよい。
【0109】
したがって、いくつかの所望する実施形態において、強制集合化手順には、初期体積V1を有するグラフェンシートの分散液を金型キャビティセル内に導入し、金型キャビティの多孔質壁を通して吸引圧力により分散液体積をより小さな値V2に減らし、液体を多孔質壁に通してキャビティセルから流出させ、複数のグラフェンシートを吸引圧力方向に対して約0°~90°の角度の方向に沿って配列させることが含まれる;ただし、この角度は吸引方向に対する底面の傾斜によって決まる。
【0110】
図3Dは、配列したグラフェンシートとエラストマー又はゴムとを含む熱拡散材の厚い層を製造するロール・ツー・ロールプロセスを示す図である。このプロセスは、供給ローラー331から連続的な固体基材332(例えば、PETフィルム又はステンレス鋼シート)を供給することから開始する。ディスペンサー334を操作して、孤立したグラフェンシートと、任意選択のエラストマー/ゴム樹脂前駆体を含む分散液336を基板表面に吐出し、堆積した分散液の層338を形成し、これを2つの圧縮ローラー340a及び340bの隙間に送り込んで高配向グラフェンシートの層を形成させる。グラフェンシートは、支持基板面上で十分に配列している。所望であれば、次に第2のディスペンサー344を操作して、先に固めた分散液層の表面上に別の分散液層348をディスペンスする。次に、2層構造を移送して2つのロールプレスローラー350a及び350bの間隙を通過させて、より厚みのあるグラフェンシート層352を形成し、巻取りローラー354によって巻き取る。ゴム/エラストマーの前駆体を、プロセス中、随時グラフェンシート上に噴霧してもよい。
【0111】
したがって、いくつかの好ましい実施形態では、強制集合化手順には、グラフェンシート分散液の第1の層(ゴム/エラストマー樹脂を含む又は含まない)を支持コンベアの表面上に導入し、コンベア上に支持されたグラフェンシート懸濁液の層を、少なくとも一対のプレスローラー内を通過させて、グラフェンシート分散層の厚みを減らし、複数のグラフェンシートをコンベア表面と平行になる方向へ配向させて、グラフェンシートの層を形成することが含まれている。
【0112】
更にこのプロセスには、グラフェンシート分散液の第2層(ゴム/エラストマー樹脂を含む又は含まない)をグラフェンシート構造体の表面(ゴム/エラストマー樹脂を含む又は含まない)に導入し、2層構造を形成する工程と、2層構造体を少なくとも一対のプレスローラー内を通過させて、グラフェンシートの第2層の厚みを減らし、配向グラフェンシートの層を形成するために、コンベア表面と平行に複数のグラフェンシートを配向させる工程が更に含まれてもよい。同様の手順が以下に示すように繰り返されてもよい:コンベヤを第3の一対のプレスローラーに移動させ、2層構造上に追加の(第3)層のグラフェンシート分散液を堆積させ、得られた3層構造を第3の2つのローラーの間隙を通過させ、グラフェンシートがさらに配列したコンパクト構造を形成する。この場合も、エラストマー/ゴム樹脂又はその前駆体を、このプロセス中、任意の段階で添加することができる。
【0113】
図3A~
図3Dに関する上記段落の記載内容については、ゴム/エラストマーによって結合されるか又はゴム/エラストマー中に分散され、高配向かつ高密度のグラフェンシートを含む熱フィルム構造を製造するために使用できる、数多くの装置又はプロセス例のうちの4つに関するものであるにすぎない。
【0114】
以下の実施例は、本開示を実施する上での最良の態様に関する、特定のものについての詳細を説明するために使用し、本開示の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。フィルムの引張特性、熱伝導率、及び電気伝導率は、よく知られた標準的な手順に従って測定された。
【実施例】
【0115】
実施例1:MCMBの硫酸インターカレーションと剥離による酸化グラフェン
MCMB(メソカーボンマイクロビーズ)は、中国鋼鉄化学有限公司から供給された。この材料は、約2.24g/cm3の密度を有し、メジアン径は約16μmである。MCMB(10グラム)を酸溶液(硫酸、硝酸、過マンガン酸カリウムを4:1:0.05の割合で混合)に48時間インターカレートした。反応終了後、混合物を脱イオン水に注ぎ、濾過した。インターカレーションされたMCMBを5%HCl溶液で繰り返し洗浄し、硫酸イオンの大部分を除去した。その後、濾液のpHが中性になるまで脱イオン水で繰り返し洗浄した。このスラリーを乾燥させ、60℃の真空オーブンで24時間保管した。乾燥した粉末試料を石英管に入れ、所望の温度、800℃~1,100℃に予め設定された水平管状炉に30~90秒間挿入し、還元酸化グラフェン(RGO)シートを得た。このグラフェンシートの一定量を水と混合し、60Wの出力で10分間超音波処理を行い、グラフェン分散液を得た。
【0116】
少量をサンプリングして乾燥させ、TEMで調べたところ、NGPの多くは1層~10層であることがわかった。生成したグラフェン粉末(GO又はRGO)の酸素含有量は、剥離温度と時間に依存し、0.1%~約25%であった。
【0117】
ポリマーフィルム上にグラフェンを堆積させるスロットダイコーティング手順で使うために、いくつかのグラフェン分散液に様々なエラストマー前駆体樹脂(例えば、ウレタン/ウレアコポリマーベース)を別々に添加した。別個に、エラストマー樹脂を含まないグラフェン分散液を、10~100μmの厚みの薄膜として形成させた。乾燥時に、得られた還元酸化グラフェン(RGO)の薄膜の両側に(RGO膜の2つの主表面に)、エラストマー前駆体樹脂をスプレー堆積させ、その後、硬化させた。
【0118】
図4Aには、エラストマーと均一に混合・分散されたグラフェンシートを含むシリーズと、膜の2面からグラフェン膜にエラストマー樹脂を浸透させたシリーズの2種類の熱拡散フィルムの熱伝導率を、それらの広範な重量%範囲(0.001%~10%)に対してプロットしてある。このように、エラストマー比率が高くなると、エラストマーマトリックス中にグラフェンシートを分散させた複合体の熱伝導率が急激に低下することがわかる。しかし、エラストマー比率の増加に伴う熱伝導率の低下は、エラストマー樹脂をフィルムの2つの主表面から内側に含浸させた熱フィルムでは比較的小さく;含浸はフィルムが形成される後に行われる。この予想外の結果は意義深く、高熱伝導でありながら、エラストマー含浸による熱伝導率低下に対して高い耐性を維持できる点を考えると実用性がある(
図4B)。
【0119】
この戦略に沿えば、エラスマーのない芯体を有する熱拡散材がもたらされ、エラストマーは、2つの主表面から限られた距離だけ浸透し、設計上、中心部には到達しない。エラストマー樹脂をグラフェン膜に完全に浸透させる方法もある。例えば、最初に多孔質膜を形成し、その後、含浸と完全な圧縮を行えばよい。弾性熱拡散フィルムは、厚みtと、2つの主表面(表面及び裏面と称される)とを有する。調査した例では、典型的には、エラストマー又はゴムは、少なくとも距離1/3tだけ表面から離れたゾーンまで、及び/又は少なくとも距離1/3tだけ裏面から離れたゾーンまで、フィルムに深く入り込むことができる。
【0120】
図4Bに示すのは、2系列の熱フィルムの熱伝導率値を、繰り返し曲げ変形の回数の関数としてプロットしたものである:一方はエラストマー不使用、他方は表面含浸エラストマー(0.01重量%)含有である。エラストマーを含まないサンプルでは,180度ずつ100回の曲げ変形を行った後で,熱伝導率が1220W/mK~876W/mkに低下していることがわかる。このシートは110回の曲げ変形後に破断した。一方、熱拡散フィルムに組み込まれた少量のエラストマーによって、フィルムは10,000回の繰り返し曲げにも耐えて破断せず、依然として比較的高い熱伝導率を維持することができる。
【0121】
図4Cに示すように、曲げ試験は簡単に行うことができる。同一の熱フィルムを所望の枚数採取し、所望回数の繰り返し曲げ変形を行った後、曲げ部分を挟んでスリットして作成した試験片の熱伝導率を測定し、この試験片の熱伝導率を周知のレーザーフラッシュ法等で測定すればよい。
【0122】
実施例2:天然グラファイトの酸化・剥離処理
酸化グラファイトを、Hummers[米国特許第2,798,878号明細書、1957年7月9日]の方法に従って、硫酸、硝酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムを4:1:0.05の割合で30℃、48時間酸化することによって調製した。反応終了後、混合物を脱イオン水中に注ぎ、濾過した。その後、硫酸イオンと残留塩の大部分を除去するために5%塩酸溶液で洗浄し、濾液のpHが約4になるまで脱イオン水で繰り返し濯いだ。スラリーを乾燥させ、60℃の真空オーブンで24時間保存した。
【0123】
乾燥したインターカレーション(酸化)化合物を、予め650℃に設定した水平管状炉に挿入しておいた石英管に試料を入れることによって剥離し、高剥離グラファイトを得た。剥離したグラファイトを、45℃の平底フラスコ内で1%の界面活性剤とともに水に分散させ、得られた懸濁液を15分間超音波処理して、酸化グラフェン(GO)シートの分散液を得た。
【0124】
次に、この分散液をリバースロールコーティング法によりPETフィルムに塗布し、GO膜を得た。PET基材から剥離し、次に、GO膜をグラファイト型に入れ、最終熱処理温度を25℃~2,900℃の種々の温度にして熱処理した。熱処理後、ゴム溶液(例えば、THF中のポリイソプレン)をスプレーしてから、乾燥し溶媒を除去した。その後、ゴムを含浸させたフィルムを、ゴムが硬化した状態でロールプレスした。
【0125】
図5には、グラフェン/ゴムフィルムの熱伝導率の値を、フレキシブルグラファイトシートの熱伝導率の値とともに、最終熱処理温度の関数としてプロットしてある。このグラフでは、様々な熱拡散フィルムの熱伝導率に対する最終熱処理温度の重要性が示唆される。
【0126】
実施例3:原始グラフェンの調製
原始グラフェンシートは、直接、超音波処理又は液相剥離プロセスを用いて製造した。典型的な手順としては、約20μmの大きさに粉砕した5グラムのグラファイトフレークを1000mLの脱イオン水(0.1重量%の分散剤、デュポン社のZonyl(登録商標)FSOを含む)に分散させて懸濁液を得た。超音波エネルギーレベル85W(S450 Ultrasonicator、Branson製)を用いて、15分~2時間、グラフェンシートの剥離、分離、サイズ縮小を行った。得られたグラフェンシートは、一度も酸化されたことのない、酸素フリーの比較的欠陥の少ない原始グラフェンであった。実施例2に記載した手順に従って、原始グラフェンから熱フィルムを作製した。
図5に、原始グラフェン/ゴムフィルムの熱伝導率の値を最終熱処理温度の関数としてプロットした。
【0127】
実施例4:フッ化グラフェンの調製
GFを製造するために、いくつかのプロセスを使ってきたが、本明細書では、一例として1プロセスのみについて説明する。以下、典型的な手順を示す:インターカレート化合物С2FxClF3から、高剥離性のグラファイト(HEG)を調製した。HEGをさらに三フッ化塩素の蒸気によってフッ素化し、フッ素化高剥離性グラファイト(FHEG)を得た。予冷したテフロン製反応器に予冷した液体ClF3を20~30mL充填し、反応器を閉じて液体窒素温度まで冷却した。その後、ClF3ガスが反応器にアクセスできるような穴の開いた容器に、1g以下のHEGを入れた。7~10日後、C2Fに近い構造を有する灰ベージュ色の生成物が形成された。次にGFシートをハロゲン系溶媒に分散させ、懸濁液を形成した。この懸濁液をコンマコーティングによりPETフィルム基材表面に塗布し、乾燥後、基材から剥離し、500℃×3時間、2750℃×1時間の熱処理を行った。熱処理後、フィルムにゴム溶液(例えば、キシレンに溶解したエチレンオキシド-エピクロロヒドリン共重合体)をスプレーし、乾燥させて溶媒を除去した。その後、ゴムを含浸させたフィルムを、ゴムを硬化させた状態でロールプレスした。
【0128】
実施例5:窒素化グラフェンの調製
実施例2で合成した酸化グラフェン(GO)を異なる割合の尿素とともに微粉砕し、ペレット化した混合物をマイクロ波反応器(900W)で30秒間加熱した。この方法では、酸化グラフェンが還元されると同時に窒素でドープされる。グラフェン/尿素の質量比を1/0.5、1/1、1/2として得られた生成物(それぞれN-1、N-2、N-3と称す)の、元素分析により求めた窒素含有量は、それぞれ14.7、18.2、17.5重量%であった。これらの窒素化グラフェンシートは、水中に分散したままである。得られた分散液を、
図3Aに描かれているような圧縮/配向化手順に供して、熱膜を形成した。
【0129】
実施例6:官能基化グラフェン系の熱フィルム
官能基化グラフェンシート(数層グラフェン)5重量%と、ウレタンオリゴマー(ジイソシアネートとポリオールの混合物)0.01重量%を含むいくつかの官能基化グラフェン-エラストマー分散液から、熱膜を調製した。本研究で関与した化学官能基は、アジド化合物(2-アジドエタノール)、アルキルシラン、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミン基、スルホン酸基(--SO3H)、ジエチレントリアミン(DETA)等であった。これらの官能基化グラフェンシートは、台湾の台北市にある台湾グラフェン社から供給されたものである。この分散液をキャストし、液体媒体(アセトン)を除去した後、加熱プレスで圧縮し、150℃で45分間硬化させると、グラフェンシートがウレタン系のエラストマーによく接着した熱フィルムが得られた。この高配向グラフェン-エラストマー複合体により、1,255W/mKという高い熱伝導率が達成される。この一連のエラストマー保護グラフェンフィルムの完全回復性の引張変形(弾性変形)は、通常8%~45%であることが分かっている。一方、ポリマーマトリックス複合材料では、これまで500W/mKを超える熱伝導率を示すものはなかった。
【国際調査報告】