(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-11
(54)【発明の名称】組換えヒトニューレグリン誘導体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20221104BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20221104BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20221104BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20221104BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20221104BHJP
C07K 14/435 20060101ALN20221104BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20221104BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20221104BHJP
C12N 15/19 20060101ALN20221104BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
A61P9/04
A61P9/10
A61K38/17
C07K16/00
C07K14/435
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/19
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022516691
(86)(22)【出願日】2020-09-14
(85)【翻訳文提出日】2022-05-11
(86)【国際出願番号】 CN2020114955
(87)【国際公開番号】W WO2021052277
(87)【国際公開日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】201910873003.9
(32)【優先日】2019-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202010955006.X
(32)【優先日】2020-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】504274712
【氏名又は名称】ゼンサン (シャンハイ) サイエンス アンド テクノロジー,シーオー.,エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ミングドング ズホウ
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084BA41
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZC021
4C084ZC022
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA01
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
哺乳動物における心血管疾患の進行を予防、治療、又は低下させるための医薬の調製における組換えヒトニューレグリン誘導体の使用を開示する。特に、本発明は心血管疾患の治療における新規組換えヒトNRG-FCタンパク質及びその使用に関する。タンパク質は半減期が延長しており、生物学的活性が増強されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NRGのEGF様ドメインのアミノ酸配列及びIgG Fc又はFc類似体のアミノ酸配列を含む、NRG融合ポリペプチド。
【請求項2】
前記NRGのEGF様ドメインのアミノ酸配列が、配列番号:1又はその類似体のアミノ酸配列で示される、請求項1記載のNRG融合ポリペプチド。
【請求項3】
前記IgG Fcが、IgG1若しくはIgG4サブタイプのFc又はその類似体のアミノ酸配列を有する、請求項1記載のNRG融合ポリペプチド。
【請求項4】
リンカーペプチド配列をさらに含み、前記NRGのEGF様ドメインが、該リンカーペプチドを介して前記IgG Fcに連結されている、請求項1~3のいずれか1項記載のNRG融合ポリペプチド。
【請求項5】
前記ポリペプチドのN-末端がIL-2シグナルペプチドのアミノ酸配列をさらに含み、かつ該IL-2シグナルペプチドのアミノ酸配列が組換えにより調製されたNRG融合ポリペプチドの細胞外への分泌の間に切断される、請求項1~3のいずれか1項記載のNRG融合ポリペプチド。
【請求項6】
配列番号:2又は配列番号:3のアミノ酸配列を含む、請求項1記載のNRG融合ポリペプチド。
【請求項7】
哺乳動物における心血管疾患を予防、治療、又は緩和するための医薬の製造における、NRG融合ポリペプチドの使用。
【請求項8】
前記NRG融合ポリペプチドが、NRGのEGF様ドメインのアミノ酸配列及びIgG Fc又はFc類似体のアミノ酸配列を含む、請求項7記載の使用。
【請求項9】
NRG融合ポリペプチド及び医薬として許容し得る担体、賦形剤、又は希釈剤を含む医薬製剤であって、該NRG融合ポリペプチドが、NRGのEGF様ドメインのアミノ酸配列及びIgG Fc又はFc類似体のアミノ酸配列を含む、前記医薬製剤。
【請求項10】
心血管疾患を治療する方法であって、それを必要とする個体において有効用量のNRG融合ポリペプチドを投与することを含み、該NRG融合ポリペプチドが、NRGのEGF様ドメインのアミノ酸配列及びIgG Fc又はFc類似体のアミノ酸配列を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、哺乳動物において心血管疾患を予防、治療、又は緩和するための薬物の製造のための組換えヒトニューレグリン誘導体の使用に関する。特に、本発明は、心血管疾患を治療するための新規組換えヒトNRG-Fcタンパク質及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
ニューレグリン(NRG;ヘレグリン、HRG)は、グリア成長因子(GGF)又は新規分化因子(NDF)としても知られる、約44KDの分子量を有する糖タンパク質であり、ErbBファミリーの受容体型チロシンキナーゼのリガンドとして細胞間でシグナルを伝達する。NRGファミリーは4つのメンバーからなり、NRG1、NRG2、NRG3、及びNRG4を含む(Fallsらの文献、Exp Cell Res. 284:14-30, 2003)。NRG1は神経系、心臓、及び乳房において重要な役割を果たす。また、NRG1シグナル伝達が他のいくつかの臓器系の発生及び機能、並びに統合失調症及び乳癌を含むヒト疾患の発生において役割を果たすことが、証明されている。NRG1には多くのアイソマーがある。突然変異体マウス(ノックアウトマウス)の研究から、N-末端領域又は上皮増殖因子(EGF)様ドメインにおいて異なるアイソマーが、インビボにおいて異なる機能を有することが、示されている。本発明は、NRG1βに基づくものである。
【0003】
NRG1βは膜貫通タンパク質である(Holmesらの文献、Science 256, 1205-1210, 1992)。膜の外側の部分はN末端であり、Ig様ドメイン及びEGF様ドメインを含む。一方、膜の内側の部分はC末端である。細胞外マトリックス(ECM)中のメタロプロテイナーゼ(MMP)の作用の下、NRGの膜の外側の部分は酵素によって切り離されて遊離状態となり、それによりその末梢細胞表面のErbB受容体との結合が促進される。その結果、関連する細胞シグナル伝達が活性化する。
【0004】
また、ErbB受容体ファミリーはErbB1、ErbB2、ErbB3、及びErbB4を含む4つのカテゴリーに分けられ、その全てが分子量180~185KDの膜貫通タンパク質である。それらのうち、ErbB2を除いた他の全ては、膜の外側のN-末端にリガンド結合ドメインを含んでおり;それらのうち、ErbB3を除いた他の全ては、膜の内側のC-末端にタンパク質チロシンキナーゼを含んでいる。ErbB1はEGF受容体であるのに対し、ErbB3及びErbB4は両方とも、NRG受容体である。NRG受容体のうち、ErbB2及びErbB4のみが心臓で高発現していた(Yardenらの文献、Nat Rev. Mol Cell Biol, 2:127-137, 2001)。
【0005】
NRGがErbB3若しくはErbB4の膜の外側の部分と結合すると、ErbB3若しくはErbB4は他のErbB受容体とのヘテロ二量体(通常はErbB2を含む)を形成するか、又はErbB4は単独でホモ二量体を形成する。その結果、受容体の膜の内側の部分がリン酸化される(Yardenらの文献、Nat Rev. Mol Cell Biol, 2:127-137, 2001)。リン酸化された膜の内側の部分は、細胞内の多様なシグナル伝達タンパク質とさらに結合することができ、それにより下流のERK又はAKTシグナル伝達経路を活性化させ、細胞増殖、細胞アポトーシス、細胞遊走、細胞分化、又は細胞接着の刺激又は阻害を含む一連の細胞反応を引き起こす。
【0006】
NRGは心臓の発生に特に重要である(WO0037095、CN1276381、WO03099300、WO9426298、US6444642、WO9918976、WO0064400、Zhaoらの文献、J. Biol. Chem. 273, 10261-10269, 1998)。胚発生の初期段階では、NRGの発現は主に心内膜に限定され、その後パラクリン経路を介して末梢心筋細胞に対し放出され、細胞膜表面のPTK受容体ErbB4の膜の外側の部分に結合する。さらに、ErbB4はErbB2とヘテロ二量体を形成する。ErbB4/ErbB2複合体の形成及び活性化は、初期段階での海綿様心臓(sponge-like heart)における小柱形成に必須である。3つのタンパク質遺伝子、すなわちNRG、ErbB4、及びErbB2のいずれかが欠失すると、胚小柱の除去をもたらし、発生初期段階での子宮内の胚性致死を引き起こす。WO0037095では、所与の濃度のNRGが、ERKシグナル伝達経路を継続的に活性化し、心筋細胞の増殖及び分化を促進し、心筋細胞接着部におけるサルコメア及び細胞骨格の再構築を誘導し、心筋細胞の構造を改善し、かつ心筋細胞の収縮を増強することができることが示されている。また、WO0037095及びWO003099300では、NRGを使用して様々な心血管疾患を検出し、診断し、かつ治療することができることが指摘されている。
【0007】
本発明に関するいくつかの先行技術文献には、以下のことが列記されている: 1.心筋の機能及び操作: WO0037095; 2.成長因子であるニューレグリン及びその類似体の新規応用性: CN1276381; 3.心血管疾患を治療するためのニューレグリンベースの方法及び組成物: WO03099300; 4.Zhao YY, Sawyer DR, Baliga RR, Opel DJ, Han X, Marchionni MA、及びKelly RAの文献、「ニューレグリンは、心筋細胞の生存及び成長を促進する(Neuregulins Promote Survival and Growth of Cardiac Myocytes)」J. Biol. Chem.273, 10261-10269 (1998); 5.筋疾患及び疾患の治療方法: WO9426298; 6.ニューレグリンを使用した、筋管の形成若しくは生存、又は筋細胞の有糸分裂誘発、分化、若しくは生存を増加させる方法: US6444642.7.ニューレグリンの使用を含む治療法: WO9918976; 8.うっ血性心不全の治療方法: WO0064400; 9.Holmes WE, Sliwkowski MX, Akita RW, Henzel WJ, Lee J, Park JW, Yansura D, Abadi N, Raab H, Lewis GDらの文献、「特異的活性化因子であるヘレグリンp185erbB2の同定(Identification of heregulin, a specific activator p185erbB2)」Science 256, 1205-1210 (1992); 10.Falls DLの文献、「ニューレグリン:機能、形態、及びシグナル伝達戦略(Neuregulins: functions, forms and signaling strategies)」Experimental Cell Research, 284, 14-30 (2003).11.Yarden Y、Sliwkowski Xの文献、「ErbBシグナル伝達ネットワークの解明(Untangling the ErbB signaling Network)」Nature Reviews: Molecular Cell Biology, 2127-137 (2001)。
【0008】
有望な新規治療法は、心血管疾患を有する患者におけるニューレグリンの適用を伴う(以下、「NRG」と呼ぶ)。既存の研究から、NRG1のEGF様ドメインには約50~64アミノ酸が存在し、それらがこれらの受容体と結合しこれらを活性化することが十分に可能であることが示されている。過去の研究から、NRG-1βがErbB3及びErbB4と高い親和性で直接結合することができることが示されている。オーファン受容体ErbB2はErbB3又はErbB4とのヘテロ二量体を形成することができ、その親和性は、ErbB3又はErbB4のホモ二量体の親和性よりも高い。神経発生の研究結果から、交感神経系の形成には完全なNRG-1β、ErbB2、及びErbB3のシグナル伝達系が必要であることが示されている。NRG-1β、ErbB2、又はErbB4のターゲティングによる破壊の後、胚は心臓発生の欠陥により死に至る。また、最近の研究では、心血管系の発生及び成体における正常な心臓機能の維持におけるNRG-1β、ErbB2、及びErbB4の重要な役割が注目されている。研究から、NRG-1βが成体心筋細胞におけるサルコメアの組織構造を強化し得ることが示されている。組換えNRG-1β EGF様ドメインの短期間の適用により、心不全の3種の異なる動物モデルにおいて心筋機能の悪化が顕著に改善され、又は防止され得る。より重要なことに、NRG-1βは心不全を有する動物の生存期間を顕著に延長可能である。しかしながら、心血管疾患を予防、治療、又は軽減するために使用可能である、より効果的な神経調節ポリペプチドタンパク質を見いだすためには、NRGをなおさらに最適化又は改善することが必要となる。
【発明の概要】
【0009】
(発明の概要)
本発明は、哺乳動物において心血管疾患を予防、治療、又は緩和するための薬物の製造のための組換えヒトニューレグリン誘導体の使用に関する。特に、本発明は、心血管疾患を治療するための新規組換えヒトNRG-Fcタンパク質及びその使用に関する。いくつかの実施態様において、哺乳動物はヒトである。いくつかの実施態様において、個体はヒトである。
【0010】
第1の態様において、予防発明はいくつかのNRG融合ポリペプチドを提供する。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはNRGのEGF様ドメインを含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはNRG1β2アイソマーのEGF様ドメインを含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドは配列番号:1のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドは、その配列番号:1類似体のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはIg Fcのアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはそのIg Fc類似体のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはIgG Fcのアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはそのIgG Fc類似体のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはIgG1 Fcのアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはIgG4 Fcのアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはそのIgG1 Fc類似体のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはそのIgG4 Fc類似体のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはIL-2シグナルペプチドのアミノ酸配列を含み、かつIL-2シグナルペプチドのアミノ酸配列は、組換え製造における細胞外分泌中に切断される。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはNRGのEGF様ドメイン及びIgG Fcのアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはリンカーペプチドのアミノ酸配列を含み、かつNRGのEGF様ドメインはペプチドリンカーを介してIgG Fcと融合される。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドは配列番号:2のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドは配列番号:3のアミノ酸配列を含む。
【0011】
いくつかのNRG融合ポリペプチドは、以下のアミノ酸配列:
【化1】
すなわち、ヒトNRG-1アミノ酸配列177-237を含む。
【0012】
いくつかのNRG融合ポリペプチドは、以下のアミノ酸配列を含む:
【化2】
。
【0013】
いくつかのNRG融合ポリペプチドは、以下のアミノ酸配列を含む:
【化3】
。
【0014】
NRG融合ポリペプチドは、当該技術分野で公知の任意の関連技術に従って調製することができる。NRG融合ポリペプチドを調製するための一般的な技術を本明細書において提供する。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドは組換え可能である。
【0015】
第2の態様において、本発明はNRG融合ポリペプチドに関連する核酸、ベクター、及び宿主細胞を提供する。核酸又はその相補的配列は、NRG融合ポリペプチド又はその断片をコードする。核酸は、NRG融合ポリペプチドの増殖及び発現に好適なベクターに挿入可能な、二本鎖又は一本鎖DNA又はRNAとし得る。改変されたベクターを、好適な宿主細胞、例えば組換えNRG融合ポリペプチドを発現することができる宿主細胞に導入する。
【0016】
第3の態様において、本発明はNRG融合ポリペプチドの治療的及び非治療的な応用性を提供する。特に、本発明は、NRG融合ポリペプチドを心臓疾患及び障害の予防、治療、又は軽減に適用するための方法を提供する。従って、本発明は、NRG融合ポリペプチド及びそれについての治療方法を含む医薬製剤を提供する。
【0017】
第4の態様において、本発明は哺乳動物において心不全を治療するための方法を提供する。いくつかの実施態様において、方法は哺乳動物にNRG融合ポリペプチドを注入する工程を含む。
【0018】
第5の態様において、本発明は細胞中でErbB受容体のリン酸化を誘導するための方法を提供する。いくつかの実施態様において、方法はNRG融合ポリペプチドを細胞に曝露する工程を含む。
【0019】
第6の態様において、本発明は、心臓細胞におけるAKTシグナル伝達経路の活性化を誘導し、かつ維持する方法を提供する。いくつかの実施態様において、方法はNRG融合ポリペプチドを心臓細胞に曝露する工程を含む。
【0020】
第7の態様において、本発明は心臓細胞中でERKシグナル伝達経路の活性化を誘導し、かつ維持するための方法を提供する。いくつかの実施態様において、方法はNRG融合ポリペプチドを心臓細胞に曝露する工程を含む。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(発明の詳細な説明)
(A.説明)
別途定義されない限り、本明細書中で使用するすべての科学用語及び技術用語は、当業者によって理解されているものと同じ意味を有する。本明細書で言及するすべての特許文献、特許出願文献、公開特許文献、及びその他の刊行物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。本節にカバーされるいずれかの定義が、上記特許文献、特許出願文献、公開特許文献、又は他の刊行物のいずれかにおいて説明されている意味と異なる意味を有する場合、本節の与える説明が、優先されるものとする。
【0022】
別途明記されない限り、本明細書で使用する「1つの(a)/1つの(an)」は「少なくとも1つ」又は「1又は複数」を意味する。
【0023】
本明細書で使用する「EGF様ドメイン」とは、ErbB2、ErbB3、ErbB4、又はそのヘテロ二量体若しくはホモ二量体と結合してこれらを活性化することができ、かつ以下の文献:WO 00/64400; Holmesらの文献、Science, 256: 1205-1210 (1992); 米国特許第5,530,109号及び第5,716,930号; Hijaziらの文献、Int. J. Oncol., 13: 1061-1067 (1998); Changらの文献、Nature, 387: 509-512 (1997); Carrawayらの文献、Nature, 387: 512-516 (1997); Higashiyamaらの文献、J. Biochem., 122: 675-680 (1997); 及びWO 97/09425に記載のEGF受容体結合ドメインとの構造的類似性を有する、ニューレグリン遺伝子によってコードされるポリペプチドセグメントを指す。上記の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。いくつかの実施態様において、EGF様ドメインはErbB2/ErbB4又はErbB2/ErbB3ヘテロ二量体に結合してこれらを活性化する。いくつかの実施態様において、EGF様ドメインは、NRG-1の受容体結合ドメイン中のアミノ酸を含む。いくつかの実施態様において、EGF様ドメインは、NRG-1のアミノ酸177-226、177-237又は177-240を指す。いくつかの実施態様において、EGF様ドメインは、NRG-2の受容体結合ドメイン中のアミノ酸を含む。いくつかの実施態様において、EGF様ドメインは、NRG-3の受容体結合ドメイン中のアミノ酸を含む。いくつかの実施態様において、EGF様ドメインは、NRG-4の受容体結合ドメイン中のアミノ酸を含む。
【0024】
本明細書で使用するFcアミノ酸配列は、ヒトIgG-1重鎖から選択することができる。Ellison, J. W.らの文献、Nucleic Acids Research, 10:4071-4079 (1982)又は当該技術分野で公知の任意のFc配列(例えば、これらに限定はされないが、IgG-2、IgG-3、及びIgG-4、又は他の免疫グロブリンを含む他のIgG種)を参照されたい。抗体のFc断片は単量体ポリペプチドセグメントからなり、この単量体ポリペプチドセグメントはジスルフィド結合又は非共有結合を介して1つに連結されて、二量体又は多量体とすることができることは周知されている。天然のFc分子の単量体サブユニット間で形成されるジスルフィド結合には、関与する抗体のタイプ(例えば、IgG、IgA、IgE)又はサブタイプ(例えば、IgG-1、IgG-2、IgG-3、IgA-1、IgA-2)に応じて、1~4つの分子内ジスルフィド結合がある。本明細書で使用する「Fc」という用語は、Fc分子の単量体、二量体及び多量体を表し得る。好適なシステイン残基が存在する場合、ジスルフィド結合の形成を妨げ、それにより二量体形成を妨げる特定の条件が存在しない限り、Fc単量体は自発的に二量体を形成することに留意されたい。システインは通常、Fc二量体中でジスルフィド結合を形成し得るが、たとえシステインが除去され、又は別の残基で置換されたとしても、単量体鎖は通常非共有結合性相互作用により二量体化し得る。本明細書で使用する「Fc」という用語は以下の形態:天然単量体、天然二量体(ジスルフィド結合性連結)、改変二量体(ジスルフィド結合及び/又は非共有結合性連結)、及び改変単量体(すなわち、誘導体)のいずれかを表すために使用される。
【0025】
本明細書で使用するFc類似体は、バリアント、類似体、又は誘導体を含むが、Fc類似体は、例えば残基又は配列に複数の置換を施すことによって構築することができる。
【0026】
Fc類似体には、挿入類似体、欠失類似体、及び置換類似体などがある。
【0027】
バリアント(又は類似体)ポリペプチドは挿入変異を含み、ここで1以上のアミノ酸残基がFcアミノ酸配列に付加される。挿入部位は、タンパク質のいずれかの末端若しくは両方の末端、又はFcアミノ酸配列の内部ドメインとし得る。タンパク質のいずれかの末端又は両方の末端への残基の付加から得られる挿入バリアントには、例えば、融合タンパク質及びアミノ酸マーカーを含むタンパク質があり得る。
【0028】
Fc欠失バリアント(又は類似体)においては、Fcポリペプチド中の1以上のアミノ酸残基が除去されている。Fcポリペプチドの一方の末端又は両方の末端で欠失が起こる場合があり、かつ1以上の残基がFcアミノ酸配列から除去され得る。したがって、欠失バリアントは、Fcポリペプチド配列の全てのセグメントを含む。
【0029】
Fc置換バリアント(又は類似体)においては、Fcポリペプチドの1以上のアミノ酸残基が除去されて、他の残基で置換されている。一方で、自己遺伝的な置換は保存的であるが、本発明は非保存的置換をも含む。
【0030】
例えば、Fc配列中の一部の又は全てのジスルフィド結合性架橋を妨げるために、システイン残基を除去し、又は他のアミノ酸で置換してもよい。これらのシステイン残基は個別に除去してもよく、又はこれらのシステイン残基の1以上を他のアミノ酸、例えばアラニン又はセリンで置換してもよい。別の実施態様で示されているように、アミノ置換を導入することによる改変は、(1)Fc受容体結合部位を除去し;(2)補体(C1q)結合部位を除去し;かつ/又は(3)抗体依存的細胞媒介細胞傷害性(ADCC)部位を除去することであってもよい。これらの部位は、当該技術分野で周知されており、任意のFc範囲内の周知の置換を使用することができる。例えば、Molecular Immunology, Vol. 29, Issue 5, 633-639 (1992)、すなわちIgG1上のADCC部位を参照されたい。
【0031】
また同様に、1以上のチロシン残基をフェニルアラニン残基に置換することができる。さらに、他のアミノ酸の挿入、欠失、及び/又は置換によるバリアントも想定され、本発明の範囲内に含まれる。通常は保存的アミノ酸置換が好ましい。さらに、模倣ペプチド又はD-アミノ酸などのアミノ酸の形態の変化を起こすことができる。
【0032】
シグナルペプチド: リーダーペプチドとしても知られ、タンパク質分子のN-末端に存在する通常は長さが15~30アミノ酸であるポリペプチドセグメントであり、細胞膜を介してタンパク質を分泌させることができる。タンパク質が分泌された後、シグナル配列は除去される。
【0033】
本明細書で使用するシグナルペプチド配列は、哺乳動物細胞及び昆虫細胞/バキュロウイルス発現系の発現に使用される分泌シグナルペプチド、例えばメリチン、IFN、IL-2のシグナルペプチドを含む。
【0034】
本明細書で使用するIL-2シグナルペプチドは、以下のアミノ酸配列:
【化4】
又はその類似体のアミノ酸配列を有する。融合ポリペプチドの分泌を誘導するシグナルペプチド配列を付加することにより、分泌効率が向上し、下流の精製プロセスを簡素化することができる。さらに、シグナルペプチド配列は融合ペプチドの安定性及び活性の維持において、有意義な役割を果たす。
【0035】
リンカーペプチド:リンカーペプチドは、融合タンパク質において融合タンパク質セグメントを連結する配列である。
【0036】
本明細書で使用するリンカーペプチドは、2つのタイプに分けられる: 1.柔軟なリンカー、例えば(GGGGS)n(n≦6); 2.剛性リンカー、例えば(EAAAK)n(n≦6)又は(XP)n(Xは、好ましくはアラニン、グルタミン酸、又はリジンなどである)。
【0037】
本明細書で使用するリンカーペプチドは、以下のアミノ酸配列:
【化5】
又はその類似体のアミノ酸配列を有する。
【0038】
本明細書で使用する特定の疾患の治療のための活性成分の「有効用量」は、疾患の症状を何らかの形で改善又は緩和するのに十分効果的な用量である。この用量は疾患を治癒させ得るが、通常は疾患の症状を改善するために使用される。
【0039】
本明細書で使用する「活性成分」は、ヒト又は他の動物の疾患を診断、治癒、軽減、治療、若しくは予防し、又は身体的若しくは精神的健康を増進させるために使用される任意の物質である。
【0040】
本明細書で使用する特定の障害の「改善」は、特定の活性試薬の使用による症状の永続的又は一時的な、持続性又は一過性の軽減を意味し、その軽減は試薬の使用に起因又は関連する。
【0041】
本明細書で使用する「治療」は、不快感、障害又は疾患症状を改善し、又は快方に変化させるあらゆる方法を指す。効果は予防的であり得る。例えば、疾患又はその症状は完全又は部分的に妨げられる。また、効果は治療的でもあり得る。例えば、疾患及び/又はその悪影響が部分的又は完全に治癒する。治療は、本明細書に記載の組成物の任意の医薬使用も含む。
【0042】
本明細書で使用する「ベクター(又はプラスミド)」は、細胞に異種DNAを導入して細胞内で発現又は複製させるために使用される分散性成分を指す。これらのベクターの選択及び使用は、当業者であれば熟知している。発現ベクターは、調節配列、例えばこれらのDNA断片の発現に影響を及ぼし得るプロモーター領域に連結されたDNAを発現させることができるベクターを含む。したがって、発現ベクターは、適切な宿主細胞に導入された際にクローニングされたDNAの発現を引き起こす組換えDNA又はRNA成分、例えばプラスミド、バクテリオファージ、組換えウイルス、又は他のベクターを指す。真核生物細胞及び/又は原核生物細胞中で複製されたベクター及び遊離状態にあり続ける、又は宿主細胞ゲノムに統合されたベクターを含む、適切な発現ベクターは、当業者に周知されている。
【0043】
本明細書で使用する「心筋細胞分化」は、以下に示すDNA合成の10%超の低下、他の因子によって刺激されたDNA合成の10%超の阻害、秩序立ったサルコメアの結合及び細胞間接着、MAPキナーゼの持続的な活性化、並びにp21 Cip1の発現の増強を特徴とする状態を指す。さらなる議論についてはWO00/37095を参照されたい。その内容の全体は参照により本明細書に組み込まれている。
【0044】
本明細書で使用する「駆出率」又は「EF」は、1回の心臓拍動で左室全体から拍出される血液の比率を指す。駆出率は、以下の式により定義することができる: (左室拡張末期容積(LVEDV)-左室収縮末期容積(LVESV))/LVEDV。
【0045】
本明細書で使用する「短縮率」又は「FS」は、収縮状態における左室径の拡張状態における左室径に対する比を指す。短縮率は、以下の式により定義することができる: (左室拡張径(LVDD)-左室収縮径(LVSD))/LVDD。
【0046】
本明細書で使用する心血管疾患は、心不全、心筋梗塞、冠動脈硬化性心疾患、不整脈、心筋炎、心臓弁膜症、感染性心内膜炎、心膜疾患、虚血性心疾患、先天性心疾患などを指す。これらの疾患は心筋傷害を誘発する傾向がある。
【0047】
本明細書で使用する「心筋傷害」は、病理学的心疾患によって引き起こされる心筋傷害を指す。心筋傷害は心臓機能不全を誘発する傾向があり、それによりヒトの健康に影響を及ぼす。心筋傷害の発生には、酸素フリーラジカルの生産、カルシウムイオン過負荷、損傷領域の好中球浸潤に起因する炎症性反応、心筋細胞のアポトーシス又は壊死、エネルギー供給障害に起因する組織代謝障害、心臓の電気信号伝達の異常、コレステロールの蓄積、動脈硬化プラークの形成、及びその他の何らかの病態生理学的変化が関与する。
【0048】
本明細書で使用する「心不全」又は「HF」は、心臓が代謝組織が要求する速度で血液を拍出することを不可能にする、心臓機能不全を指す。心不全は、例えばうっ血性心不全(CHF)、心筋梗塞、頻脈性不整脈、家族性心筋肥大、虚血性心疾患、先天性拡張型心筋症、心筋炎などの多くの病的状態を含む。心不全は、虚血性、先天性、リウマチ性、及び原発性の要因を含む多くの要因によって引き起こされ得る。慢性心肥大は明白な病的状態であり、CHF及び心停止の前段階となる。
【0049】
本明細書で使用する「心筋梗塞」は、冠動脈閉塞又は血流の遮断の帰結である重度かつ持続性の虚血によって誘発される一部の心筋のパッチ状の壊死を指す。
【0050】
本明細書で使用する「サルコメア又はサルコメア構造の秩序立った強化された配列」は、α-アクチニンの免疫蛍光染色によって表される収縮性タンパク質の整然とした配列を特徴とする心筋細胞の状態を指す。α-アクチニンの整然とした配列は、顕微鏡及びそれに接続された撮影装置により識別することができる。本明細書で使用する「サルコメア又はサルコメア構造の無秩序又は不規則性」は、「サルコメア又はサルコメア構造の秩序立った強化された配列」の対義語である。
【0051】
本明細書で使用する「細胞骨格構造の秩序立った又は強化された配列」は、ファロイジン染色によって表されるアクチンフィラメントの整然とした配列を特徴とする心筋細胞の状態を指す。細胞内のアクチンフィラメントの整然とした配列は、本発明の図面に示すように、顕微鏡及びそれに接続された撮影装置により識別することができる。本明細書で使用する「細胞骨格構造の無秩序又は不規則性」は、「細胞骨格構造の秩序立った強化された配列」の対義語である。
【0052】
本明細書で使用する「タンパク質」は、別途本明細書中に明記されていない限り、「ポリペプチド」又は「ペプチド」と同じ意味を有する。
【0053】
本明細書で使用する「活性単位」又は「1U」は、最大値の50%の反応を引き起こし得る標準製品の投薬量を指す。言い換えれば、ある活性剤の活性単位を決定するためには、EC50を測定しなくてはならない。例えば、製品のEC50が0.067μg/mlである場合、投薬量は1単位である。さらに、1μgの製品を使用する場合、14.93U(1/0.067)使用することを意味する。EC50は、以下の実施態様において発明者が使用する方法を含む、当該技術分野で公知の任意の方法を用いて測定することができる。活性単位の決定は、臨床使用のための遺伝子工学製品及び薬物の品質管理に重要であり、その結果異なる医薬品及び/又は異なる製品バッチを同じ基準で定量化することができる。
【0054】
いくつかの実施態様において、NRGの単位は、WO03/099300及びSadickらの文献、1996, Analytical Biochemistry, 235: 207-14.で詳細に説明されているように、キナーゼ受容体活性化酵素結合免疫吸着アッセイ(KIRA-ELISA)を介したNRGの活性の測定により決定される。それらの内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0055】
(B. NRG融合ポリペプチド)
本発明は、いくつかのNRG融合ポリペプチド断片を提供する。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはNRGのEGF様ドメインを含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはヒトNRG-β2アイソマーのEGF様ドメインを含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドは配列番号:1のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドは、その配列番号:1類似体のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはIgG Fcのアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはそのIgG Fc類似体のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはIgG Fcのアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはIgG Fc類似体のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはIgG1 Fcのアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはIgG4 Fcのアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはIgG1 Fc類似体のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはIgG4 Fc類似体のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはIL-2シグナルペプチドのアミノ酸配列を含み、かつIL-2シグナルペプチドのアミノ酸配列は、組換え製造における細胞外分泌中に切断される。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはNRGのEGFの機能性ドメイン及びIgG Fcのアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドはリンカーペプチドのアミノ酸配列を含み、かつNRGのEGFの機能性ドメインはペプチドリンカーを介してIgG Fcと融合される。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドは配列番号:2のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドは配列番号:3のアミノ酸配列を含む。
【0056】
より好ましい実施態様において、NRG融合ポリペプチドは、NRGのEGF様ドメインのアミノ酸配列及びIgG Fc又はそのIgG Fc類似体のアミノ酸配列を含む。より好ましい実施態様において、NRG融合ポリペプチドはIL-2シグナルペプチドのアミノ酸配列、NRGのEGF様ドメインのアミノ酸配列、及びIgG Fc又はそのIgG Fc類似体のアミノ酸配列を含み、かつNRGのEGF様ドメインはペプチドリンカーを介してIgG Fcに融合され、IL-2シグナルペプチドのアミノ酸配列は、組換え製造における細胞外分泌中に切断される。より好ましい実施態様において、NRG融合ポリペプチドはNRGの配列番号:1のアミノ酸配列、IgG1又はIgG4サブタイプのFcのアミノ酸配列を含み、かつNRGはペプチドリンカーを介してIgG Fcに融合される。より好ましい実施態様において、NRG融合ポリペプチドは配列番号:2のアミノ酸配列を含む。より好ましい実施態様において、NRG融合ポリペプチドは配列番号:3のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、本発明は、NRG融合ポリペプチドの有効用量を投与することにより心不全を治療する方法を提供する。
【0057】
NRG融合ポリペプチドは、医薬製剤の形態で投与することができる。
【0058】
NRG融合ポリペプチドの投与方法には、これらに限定はされないが、経口投与、静脈内注入、胃内投与、直腸投与、腹腔内(胸膜内)投与、及び脳室内注入があり、当業者によって決定される。
【0059】
より好ましい実施態様において、投与用組成物は医薬製剤である。医薬製剤は、予防的又は治療的用量を含む1以上の予防剤又は治療剤(例えば、NRG融合ポリペプチドを含む化合物及び他の予防剤又は治療剤)並びに医薬として許容し得る担体又は賦形剤とすることができる。一実施態様及び本明細書において、「医薬として許容し得る」とは、州の関連する省によって認可されているか、米国薬局方又は他の広く認知されている薬局方に記録されている医薬製剤が動物、特にヒトに使用できることを意味する。本明細書で使用する「担体」は、希釈剤、アジュバント(例えば、フロイント完全アジュバント及び不完全アジュバント)、賦形剤、又は治療剤の投与を補助する任意の他の担体を指す。薬物担体は、水及び油などの無菌液体とし得る。油には、石油、動物油、植物油、又は合成油、例えば落花生油、大豆油、鉱油、及びゴマ油がある。医薬製剤の静脈内注入に最適な担体は水である。生理食塩水、グルコース、及びグリセロールを使用して、注入用混合物を調製することができる。適切な医薬担体の一例は、E.W. Martinの文献、「レミントン薬科学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)」に記載されている。
【0060】
典型的な医薬製剤及び剤形は、1以上の賦形剤を含む。薬学分野の当業者に周知されている好適な賦形剤には、これらに限定はされないが、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセリル、マイカ、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、プロピレン、エチレングリコール、水及びアルコールがあり得る。ある賦形剤を医薬製剤又は剤形に組み込むことができるかどうかは、これらに限定はされないが、剤形を患者に投与する方法及び剤形中の特別な活性成分を含む、当該技術分野で周知されている多数の要因に応じて決まる。必要に応じ、薬剤又は単回剤形には、微量の湿潤剤、乳化剤又はpH緩衝剤を含めることができる。
【0061】
医薬製剤は、当該技術分野で周知されている賦形剤又は例えば米国薬局方(USP)SP(XXI)/NF(XVI)で公開されている賦形剤を含む。一般に、ラクトース不含薬剤は、活性成分、結合剤/充填剤、及び医薬として相溶性のある潤滑剤を許容量で含む。典型的なラクトース不含薬剤は、活性成分、微結晶性セルロース、アルファ化デンプン、及びステアリン酸マグネシウムを含む。
【0062】
本発明によって提供される医薬製剤及び剤形は、活性成分の分解速度を低下させることができる1以上の化合物を含む。本明細書中で「安定剤」と呼ぶ化合物は、これらに限定はされないが、アスコルビン酸などの抗酸化物質、pH緩衝剤、又は塩緩衝剤を含む。
【0063】
医薬製剤及び単回剤形は、溶液、懸濁液、エマルジョン、錠剤、カプセル、散剤、及び持続放出の形態で存在し得る。経口剤は、標準的な担体、例えば医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、又は炭酸マグネシウムなどを含む。医薬製剤及び剤形は、予防的又は治療的用量の精製された予防剤又は治療剤を含み、患者におけるより優れた機能を発揮させるため、一定量の担体とともに混合することができる。医薬形態は、投与の方法に好適であるべきである。最適化された実施態様において、医薬製剤又は単回剤形は無菌であり、好ましくは動物に、より好ましくは哺乳動物に、かつ最も好ましくはヒトに、適切な形態で投与されるべきである。
【0064】
NRG融合ポリペプチドを含む医薬製剤の形態は、その投与様式に好適であるべきである。投与様式には、これらに限定はされないが、注入(例えば、静脈内注入、筋肉内注入、皮下注入、又は皮内注入)、経口投与、舌下投与、吸入、鼻腔内投与、経皮投与、局所投与、経粘膜投与、腫瘍内投与、滑液内投与、及び直腸投与がある。特定の実施態様において、医薬製剤は、特定の従来の手順、例えば静脈内注入、筋肉内/皮下注入、経口投与、鼻腔内投与、又は局所投与用の医薬製剤を生産するために使用される従来の手順を参照することにより生産することができる。一実施態様において、医薬製剤の形態は従来の皮下注入投与様式に適合している。典型的に、静脈内注入によって投与される薬剤は、無菌等張溶液である。また、必要に応じて、薬剤には可溶化剤及び注入部位の疼痛を緩和するためのリグノカインなどの局所麻酔薬を含めることができる。
【0065】
剤形には、これらに限定はされないが、錠剤、カプレット、カプセル、例えば柔軟なゼラチンカプセル、カシェ、丸薬、薬用ドロップ、分散剤、坐剤、軟膏、バップ剤(湿布剤)、ペースト、散剤、包帯、エマルジョン、膏薬、溶液、パッチ、エアロゾル(例えば、鼻腔スプレー又は吸入器)、及びコロイドがある;液体剤形は、経口投与又は粘膜投与に好適である。液体剤形は、懸濁液(例えば、水又は非水懸濁液、水中油エマルジョン、又は油注水エマルジョン)、溶液及び万能薬を含む;液体剤形は、注入投与に好適である;無菌固体(例えば、結晶又は非晶質の物体)は、注入投与に好適な液体剤形へと再構成することができる。
【0066】
様々な用途に応じて、NRG融合ポリペプチドを含む異なる薬剤間で形状及び剤形に相違がある。例えば、急性障害に使用される剤形は、同一疾患の長期治療に使用される剤形よりも多量のNRG融合ポリペプチドを含み得る。同様に、様々な癌の治療に有効な剤形の間にも、相違がある。同じく、注入剤形に含まれる活性成分の量は、同一疾患又は障害を治療するための経口剤形中に含まれる活性成分の量よりも少ない。当業者には明白であるように、上記製剤並びに本発明に含まれる他の特定の剤形は、互いに相違する。「レミントン薬科学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)」、第18版, Mack Press, Easton, Pennsylvania (1990)を参照されたい。
【0067】
NRG融合ポリペプチドは、これらに限定はされないが、経口投与、静脈内注入、胃内投与、十二指腸投与、腹腔内投与、及び脳室内注入を含む、当業者に認知された任意の方法によって投与することができる。
【0068】
(C.投薬量及び投与経路)
本発明により提供されるNRG融合ポリペプチドの投薬量は、疾患の性質及び重症度又は不快感、並びに活性成分の投与経路の変化によって変化する。また、投与頻度及び投薬量は具体的な治療内容(例えば、治療剤か、予防剤か)、機能障害、疾病、又は不快感の重症度、投与経路、年齢、体重、反応、及び患者の病歴に応じた、具体的な個人的要因が原因で患者一人一人につき、異なる。有効用量は、インビトロ又は動物モデル試験系から得られる用量反応曲線に従い選択することができる。
【0069】
NRG融合ポリペプチドの反復可能な投薬量は、体重1キログラム当たりに使用されるミリグラム量又はマイクログラム量のNRGを含む(例えば、体重1キログラム当たり約1マイクログラム~体重1キログラム当たり約500ミリグラム、体重1キログラム当たり約100マイクログラム~体重1キログラム当たり約5ミリグラム、又は体重1キログラム当たり1マイクログラム~体重1キログラム当たり約50マイクログラム)。例えば、体重1キログラム当たり0.001mg/kg~15mg/kgの活性ペプチドを使用する。また、好適な投薬量は、0.001mg/kg~15mg/kg、0.005mg/kg~10mg/kg、0.01mg/kg~5mg/kg、0.001mg/kg~4mg/kg、0.005mg/kg~3mg/kg、0.01mg/kg~2mg/kg、0.001mg/kg~1mg/kg、0.005mg/kg~0.5mg/kg、0.010mg/kg~0.2mg/kg、及び0.005mg/kg~0.050mg/kgを含む。
【0070】
また、NRG融合ポリペプチドの反復可能な投薬量は、体重1キログラム当たりに使用されるNRGの単位数(U)又は単位量を含む(例えば、体重1キログラム当たり約1U~体重1キログラム当たり約5,000U、体重1キログラム当たり約10U~体重1キログラム当たり1,000U、又は体重1キログラム当たり約100U~体重1キログラム当たり500U)。例えば、体重1キログラム当たり10U/kg~1,000U/kgの活性ペプチドを使用する。また、好適な投薬量は、1U/kg~10,000U/kg、1U/kg~5,000U/kg、10U/kg~5,000U/kg、10U/kg~1,000U/kg、50U/kg~2,000U/kg、50U/kg~1,000U/kg、50U/kg~500U/kg、100U/kg~1,000U/kg、100U/kg~500U/kg、及び100U/kg~200U/kgを含み得る。
【0071】
一般に、本明細書に記載の様々な疾患に対する、本発明によって提供される方法において推奨されるNRG融合ポリペプチドの1日あたりの投薬量は、約0.001mg~1,000mg(NRG含有量に基づく)の範囲である。特定の局面において、1日の総投薬量は0.001mg~15mg、0.005mg~10mg、0.01mg~5mg、0.001mg~4mg、0.005mg~3mg、0.01mg~2mg、0.001mg~1mg、0.005mg~0.5mg、又は0.010mg~0.2mgとし得る。事例治療について、患者の系統立った反応に応じてまず低用量、例えば1日あたり約0.1μg~1μg、又は1日当たり約20μg~1,000μgを必要に応じ単回投与又は複数回のいずれかで使用することができる。場合により、活性成分の投薬量を本明細書に記載されている範囲を超えるものとすることが必要となり、この投薬量は当業者には明白である。さらに、臨床医又は治療専門家は、個々の患者の反応に応じ、治療をどのように、及びいつ中断し、調整し、又は終了させるべきか、熟知しているはずであることに留意すべきである。いくつかの実施態様において、NRGの投薬量は約1U/日~10,000U/日である。いくつかの実施態様において、NRGの投薬量は約1U/日~5,000U/日である。いくつかの実施態様において、NRGの投薬量は約10U/日~2,000U/日である。いくつかの実施態様において、NRGの投薬量は約10U/日~1,000U/日である。いくつかの実施態様において、NRGの投薬量は約100U/日~200U/日である。
【0072】
また、NRG融合ポリペプチドは、投薬スケジュール又は「治療サイクル」に従って投与することができる。治療のための1日投薬量は、上記詳細に列記する。治療は2日間、5日間、7日間、10日間、2週間、3週間、4週間、5週間、又は6週間継続することができる。
【0073】
いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドは治療サイクルの間毎日使用する。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドは治療サイクルの間3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12日間にわたり継続して使用する。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドは治療サイクルの第1日に使用し、治療サイクルの残りの1以上の日には使用しない。いくつかの実施態様において、NRG融合ポリペプチドは治療サイクルの間3、5、7、又は10日間にわたり毎日使用し、治療サイクルの残りの日には使用しない。治療サイクルの間、NRG融合ポリペプチドは一定の時間間隔で使用する必要があり、時間間隔は1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、又は2週間~6週間とし得る。
【図面の簡単な説明】
【0074】
(図面の簡単な説明)
【
図2】
図2は、NRG-IgG1/IgG4-Fc融合タンパク質の概略図である。
【
図3】
図3は、IFN/IL2-eGFP 293Fにおける発現のSDS-PAGE/ウェスタンブロットの結果を示す。
【
図4】
図4は、IL2-NRG-IgG1-Fc 293Fにおける発現のSDS-PAGE/ウェスタンブロットの結果を示す。
【
図5】
図5は、精製NRG-IgG1-Fc融合ポリペプチド(還元状態)のSDS-PAGEの結果を示す。
【
図6】
図6は、医薬投与前後に心不全を有していた全てのラットの心エコーの結果を示す
【実施例】
【0075】
(実施態様)
(実施態様1 融合ポリペプチドの発現用のベクターの構築)
ヒトNRG(配列番号:1)、リンカー、及びヒト免疫グロブリン(IgG1又はIgG4)Fc断片を含む全長DNA配列をpcDNA3.1(+)ベクターにサブクローニングした。制限酵素Hind III部位、Kozak配列、及びメリチンシグナルペプチドを含む配列を5’末端に導入し、一方EcoRI部位を含む配列を3’末端に導入した。適切に配列決定した後、当該DNAをCaCl2により大腸菌(E.Coli)に導入して増幅させ、プラスミドを保存した。
【0076】
IL-2-eGFP及びIFN-eGFPを含むDNA配列をpcDNA3.1(+)ベクターにサブクローニングした。制限酵素Hind III部位及びKozak配列を含む配列を5’末端に導入し、一方EcoRI部位を含む配列を3’末端に導入した。適切に配列決定した後、当該DNAをCaCl2により大腸菌に導入して増幅させ、プラスミドを保存した。
【0077】
ヒトNRG(配列番号:1)、リンカー、及びヒト免疫グロブリン(IgG1又はIgG4)Fc断片を含む全長DNA配列をpcDNA3.1(+)ベクターにサブクローニングした。制限酵素Hind III部位、Kozak配列、及びIL-2シグナルペプチド又はIFNシグナルペプチド配列を含む配列を5’末端に導入し、一方EcoRI部位を含む配列を3’末端に導入した。適切に配列決定した後、当該DNAをCaCl2により大腸菌に導入して増幅させ、プラスミドを保存した。
【0078】
例えば、NRG、リンカーペプチド、及びヒト免疫グロブリン(IgG1又はIgG4)Fc断片を含む上記全長DNA配列は、配列番号:2及び配列番号:3の対応するアミノ酸配列を有する。
図1は、構築されたベクターを示している。
図2は、NRG-IgG1/IgG4-Fc融合タンパク質の概略図である。
【0079】
(実施態様2 タンパク質の発現及び検出)
適切に配列決定されたプラスミドを一過的に293F細胞にトランスフェクションした。トランスフェクション前の準備は以下の通りである:対数増殖期の活動性95%超の293F細胞を、1%ペニシリン/ストレプトマイシン混合物を混合した直前に調製したSMM 293-TII培養培地に接種し、密度を1.2~1.5×106細胞/mlに調整し、24時間培養した。トランスフェクションの当日に、細胞生存率は90%超であるべきであり、細胞密度は2.0~2.5×106細胞/mLに調整すべきであり、かつ容量は20mLとすべきである。
【0080】
メリチン-NRG-IgG1/IgG4-Fc及びIFN-eGFP/IL-2-eGFPベクターのトランスフェクション: 30ugのプラスミドを取り、トランスフェクション試薬及びSinofection(登録商標)(100uL、Sino Biological)の方法により、トランスフェクションした。トランスフェクションから24時間後及びその後48時間ごとにフィードを補充した。37℃、8% CO2中120rpmとしてオービタルシェーカ上での培養を実施し、24時間ごとに試料を収集した。試料収集後、上清及び細胞溶解緩衝液中の標的タンパク質の発現を、SDS-PAGE及びウェスタンブロットにより検出した。標的タンパク質はメリチン-NRG-IgG1/IgG4-Fc発現系における細胞溶解緩衝液又は上清中に検出されず、このことからシグナルペプチドとしてメリチンを使用した場合、NRG-IgG1/IgG4-Fc融合ポリペプチドは293F細胞に発現しないことが示された。
【0081】
対照的に、シグナルペプチドとしてIFN/IL-2を用いた場合、eGFP融合ポリペプチドは293F細胞で高度に発現し、IL2シグナルペプチドはeGFPの細胞外分泌効率の観点からIFNよりも顕著に優れていた(
図3を参照されたい)。
【0082】
IL-2-NRG-IgG1/IgG4-Fcベクターのトランスフェクション: プラスミドDNA(30ug及び45ug)を150mM NaCl溶液と混合して0.5mlとし、続いて5~10分間静置した。分子量40KのPEI溶液を150mM NaCl溶液と混合して0.5mLとし、続いて5-10分間静置した。続いて、PEIをDNAと混合し、室温で20~30分間インキュベートしてDNA-PEI複合体を形成させた。培養フラスコを穏やかに振盪させながら、トランスフェクション溶液を細胞培養溶液に滴加した。続いて、培養物をシェーカに戻し、さらに培養した。トランスフェクションから24時間後及びその後48時間ごとにフィードを補充した。37℃、8% CO2中オービタルシェーカ上で培養を実施し、24時間ごとに試料を採取して細胞のトランスフェクション効率を検出した。異なるタンパク質の発現特性に応じて、トランスフェクション後6~10日間にわたり試料を収集することができる。上清を遠心分離によって収集し、-20℃で保存した。
【0083】
DNA/PEI質量比の異なる試料を異なる時点で採取し、SDS-PAGE及びウェスタンブロット分析により発現を検出して(結果については
図4を参照されたい)、トランスフェクション及び試料収集の最適条件を決定した。
【0084】
(実施態様3 融合タンパク質の精製)
等体積の結合緩衝液(0.02Mリン酸水素二ナトリウム、pH 7.0)を上清に加え、pH値を7.0に調整した。また、試料を透析システム又は脱塩カラムで前処理することができる。続いて、上清をまず1umフィルターヘッドに通してろ過し、続いて0.45umフィルターメンブレンに通してろ過し、最後にアフィニティーカラムに通して、ろ過した。OD280のピーク値での試料を収集し、SDS-PAGEによって試験した(結果については
図5を参照されたい)。
【0085】
(実施態様4 受容体のNRGポリペプチドとの結合)
MCF-7細胞を収集し、計数し、遠心分離し、かつDMEM(10%血清、9μg/mlインスリン)中に再懸濁し、細胞密度を5×104/mlとした。96ウェルプレートを広げた。各ウェルに100μLの懸濁液を入れ、37℃で一晩静置した。翌日、細胞をPBSで3回洗浄し、無血清DMEMで24時間培養した。
【0086】
ErbB2抗体H4をコーティング緩衝液(50mM Na2CO3-NaHCO3、pH9.6)で希釈して4μg/mlとし、各ウェルにつき50μlを96ウェルプレートに入れた。続いて、4℃で一晩静置して、抗体がプレートに結合し得るようにした。
【0087】
MCF-7細胞のDMEM培地を吸引除去した。続いて、NRG及びNRG-IgG1-Fcを順次DMEMで希釈し、続いて各ウェルにつき100μlをウェルに入れた。ここで、NRGは配列番号:1のアミノ酸配列を有する組換えNRGポリペプチドとし、かつNRG-IgG1-Fcは配列番号:2のアミノ酸配列を有する組換えNRG融合タンパク質とした。ブランク対照にはDMEMのみを加えた。37℃で20分間インキュベートした後、細胞をPBS緩衝液で洗浄した。続いて、100μl/ウェルの溶解緩衝液(50mM Hepes、pH8.0、150mM NaCl、2mMオルトバナジウム酸ナトリウム、0.01%チメロサール、1% Triton X-100、及び25mlのプロテアーゼインヒビターカクテル)を各ウェルに加え、4℃で30分間溶解させた。続いて、プレートを穏やかに振盪してプレートから細胞を脱離させ、それを15,000rpmで15分間遠心分離した。
【0088】
抗体でコーティングされたプレートを、洗浄液(10mM PBS、pH7.4、0.05% Tween 20)で5回洗浄した。各ウェルに5%スキムミルクを含む200μLの洗浄液を加え、37℃で2時間インキュベートした。続いてこれを洗浄液で3回洗浄した。
【0089】
各ウェルにつき溶解した細胞液90μlを、コーティングしたプレートに加え、37℃で1時間インキュベートした。続いてこれを洗浄液で5回洗浄した。適切な濃度のセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)100μlをこれに加え、37℃で1時間インキュベートした。5回の洗浄後、直前に調製したHRP基質溶液(50mMクエン酸、100mM Na2HPO4、pH 5.0、0.2mg/mlテトラメチルベンジジン(TMB、0.003% H2O2))を加え、37℃で10分間インキュベートした。最後に、各ウェルに50μLの1M H2SO4を加えて、HRP活性を無効化して反応を終結させた。各ウェルのOD値は、マイクロプレートリーダー上、450nmで測定した。EC50は、吸収が最大値の中点に達する際のNRG又は融合タンパク質の濃度とした。EC50値が低いほど、受容体とNRG又は融合タンパク質の親和性が高くなった。
【0090】
表1及び2は、NRG、NRG-IgG1-Fc、及びNRG-IgG4-FcのEC50値を示す。NRG-IgG1-Fc及びNRG-IgG4-FcのEC50値は、NRGのEC50値よりもわずかに高い。
表1 NRG及びNRG-IgG1-FcのEC50値
【表1】
表2 NRG及びNRG-IgG4-FcのEC50値
【表2】
【0091】
(実施態様5 ラットにおける静脈内又は皮下注射されたNRG-IgG1-Fc及びNRG-IgG4-Fc融合ペプチドの半減期を検出するために使用されるELISA法)
ラットに、250ug/kgのNRG-IgG1-Fcを尾静脈を介して、又は500ug/kgのNRG-IgG1-Fcを皮下に、又は250ug/kgのNRG-IgG4-Fcを尾静脈を介して、注射した。続いて、投与後の異なる時点で頸静脈から採血した。これを室温で少なくとも30分間静置する。これを血液凝固後に遠心分離して上清を収集した。NRG-IgG1-Fcを含むラット血清を後の使用のため、希釈緩衝液により1:1の比で希釈した。
【0092】
標準NRG-IgG1-Fc試料は、ラット血清を用いて、5,000ng/ml、2,500ng/ml、1,000ng/ml、200ng/ml、40ng/ml、8ng/ml、1.6ng/ml、0.32ng/ml、0.064ng/ml、及び0ng/mlの濃度範囲で調製し、続いて希釈緩衝液により1:1の比で希釈した。
【0093】
プレートのコーティング及びブロッキング:ヒトNRG1/HRG1-β1 EGFドメイン抗体をコーティング緩衝液で希釈し、96ウェルプレートの各反応ウェルに50uL加えた後、4℃で一晩コーティングした。プレートを洗浄しながら、翌日にコーティング緩衝液を廃棄し、これにブロッキング緩衝液を加えて室温でブロッキングした。プレートを1枚の吸収紙で乾燥させた後、各反応ウェルに50uLの対応する標準試料又は被験試料を加え、室温で2時間インキュベートした。プレートを洗浄した。続いて、抗ヒトIgG1 Fc(HRP)抗体をこれに加え、室温で1時間インキュベートした。プレートを洗浄した。その後、一時的に調製されたTMB基質溶液を各反応ウェルに加えた。37℃での20分間の遮光反応後、50uLの1M硫酸を加えて反応を終結させた。各反応ウェルの450nmでの吸光度を測定し、試料中のNRG及びタンパク質の含有量を標準曲線に従って計算した。データを、GraphPad Prism 5.0を使用して分析した。
【0094】
結果をそれぞれ表3、4及び5に示す:
表3: 静脈内注射されたNRG-IgG1-Fcの半減期結果
【表3】
表4: 皮下注射されたNRG-IgG1-Fcの半減期結果
【表4】
表5:静脈内注射されたNRG-IgG4-Fcの半減期結果
【表5】
【0095】
実験データは、静脈内注射されたNRGの10分という半減期、及び皮下注射されたNRGの1.5時間という半減期と比較して、融合ペプチドNRG-IgG1-Fc及びNRG-IgG4-Fcはラットに静脈内及び皮下注射されたNRG断片の半減期を顕著に延長させることができることを示していた。
【0096】
(実施態様6 心不全を有するラットの治療における、静脈内注射されたNRG-IgG1-Fc融合ポリペプチドの薬力学実験)
(6.1 実験目的)
左冠動脈結紮によって誘発される心不全のラットモデルにおいて、心不全のラットモデルに対する4つの投与方法の治療効果を比較するため、Medtronicインスリン注入ポンプを介してラットに1日1回NRG-IgG1-Fc融合タンパク質を静脈内注入し、組換えヒトNRG(rhNRG)を持続的な方法で静脈内注入した。
【0097】
(6.2 実験材料)
(6.2.1 実験動物)
(6.2.1.1 系統及び供給源:Shanghai Sippe-Bk Lab Animal社によって提供されるウィスターラット)
(6.2.1.2 性、体重、及び数:雄性、200-250g、150頭)
(6.2.2 試薬)
(6.2.2.1 賦形剤:Zensun (Shanghai) Sci & Tech社により開発、剤形:凍結乾燥粉末;仕様:2mg Alb/ボトル)
(6.2.2.2 組換えヒトNRG:Zensun (Shanghai) Sci & Tech社により開発、剤形:凍結乾燥粉末;仕様:250μg/ピース)
(6.2.2.3 組換えヒトNRG-IgG1-Fc融合タンパク質:Zensun (Shanghai) Sci & Tech社により開発、剤形:注入)
(6.2.2.4 イソフルラン:RWD Life Technology社)
【0098】
(6.3 実験設備)
(6.3.1 麻酔装置(イソフルランエバポレータ):MSS INTERNATIONAL社)
(6.3.2 超音波心臓検出器:Vivid E95;プローブ型:12S-D)
(6.3.3インスリンポンプ:Medtronic; モデル: MMT-712EWS, MMT-722NAS/L)
(6.3.4 PowerLabマルチチャネル生理レコーダ:ADInstruments (Shanghai)社;モデル:ML-845)
【0099】
(6.4 実験方法)
(6.4.1 冠動脈結紮により誘発される心不全のラットモデルの確立)
ラットにガス麻酔装置中4%のイソフルランで麻酔をし、続いてラットを仰臥位に固定し、胸部を剃毛した後75%アルコールで消毒した。左前胸部皮膚の切開後、胸筋を鈍的に切り裂き、第4及び第5肋骨を露出させた。止血鉗子を用いて第4及び第5肋骨の間の筋肉を鈍的に切り裂き、心臓が胸腔から押し出され、完全に露出されるように両手で圧迫した。肺の膨張及び心拍数を観察下に置いた。左心耳及び肺動脈円錐を完全に露出させ、それらの間に左前方下行性冠動脈を6-0号縫合糸により結紮した。続いて、胸部を強く圧迫して空気を排出させ、続いて胸筋及び皮膚を縫合した。手術後、ラットをケージに戻し、詳細な観察下に置いた。急性不整脈の場合、緊急に3~5分間の心臓マッサージを行った。手術後、2日間にわたり各ラットの筋肉に80,000Uのペニシリンナトリウムを筋肉内注射した。
【0100】
(6.4.2 群分け及び薬物投与)
(6.4.2.1 群分け)
群分けした結果を表6に示す。手術後2週及び4週に、ラットの心臓機能をB超音波Vivid E95により検出した。4週での心臓超音波検査後、EF値が28%~45%のラットを次の実験用に選択した。
表6 実験動物の群分け及び投与計画
【表6】
【0101】
ラットを心臓超音波検査の結果に応じて無作為に4群に分けた。
静脈内注射を施したラットを、賦形剤群、NRG-IgG1-Fc 30μg/kg 1日4回群、及びNRG-IgG1-Fc 6μg/kg 1日4回群に分けた。表1に従い、10日間にわたり毎日静脈内注射を実施した。投与容量は2ml/kg/回に設定した。一方、投与濃度はそれぞれ5μg/ml及び15μg/mlに設定した。
【0102】
NRG尾静脈群は、1日に8時間インスリンポンプにより処置し、10日間にわたりこれを行った;投与容量は5ml/kg、NRGの投薬量は6μg/kgとし、濃度は1.2μg/mlとした。
【0103】
擬似手術群には、冠動脈結紮及び投薬をせずに縫合のみ施した。
【0104】
(6.4.2.2 分配方法)
1)賦形剤: 2mg Alb/ボトル、各ボトルに1mlの標準生理食塩水を加えて、母液を調製した。0.24mlの母液を49.76mlの標準生理食塩水で希釈して、9.6μg/mlのAlb溶液とした。
2) NRG-IgG1-Fc: 0.4mg~0.8mg/mlのNRG-IgG1-Fc母液を、標準生理食塩水で希釈し、一定の作業濃度を有するNRG-IgG1-Fcとした。
3) NRG: 250μg NRG/ボトル、各ボトルに1mlの標準生理食塩水を加えて、母液を調製した。0.24mlの母液を49.76mlの標準生理食塩水で希釈して、1.2μg/mlのNRG溶液とした。
【0105】
(6.4.3 観察指標)
(6.4.3.1 心臓機能検査)
ガス麻酔装置中での4%イソフルランによる麻酔の後、ラットを左横臥位の外科用ステントに固定した。イソフルラン濃度を2%に維持しながら、ラット頭部をガス麻酔装置の呼吸マスクに固定した。胸部を剃毛し、75%アルコールにより消毒した後、ラットにカプラントを塗布し、続いてラット心臓超音波プローブを使用して左室エコー信号を検査した。「Bモード」では、心臓超音波プローブを胸骨の左側付近に配置し、プローブは2時から3時の方向に向けた。音響ビームにより、心臓の長軸に垂直な方向に心臓を横断させた。プローブが両乳頭筋に対して水平面上平行になるまでプローブを調整し、乳頭筋の水平面上左心室短軸視野を取得し、左心室の乳頭筋の動的画像を収集し、これを保存した。「Mモード」では、プローブを左心室の短軸部に保持し、Mモードのサンプリングラインを調整して、それが前壁の心拍の最も弱い点を通過できるようにした。焦点距離を調整し、M字型曲線(左心室内腔並びに左心室の前壁及び後壁がはっきりと表示されるべきである)を使用して左室拡張末期径(D)と左室収縮末期径(D)を測定した。左室の拡張末期容積(EDV)及び収縮末期容積(ESV)をTeichholtzの式:V=7/(2.4+D)*D3により計算した。また、駆出率(EF)は以下のように計算した:EF=(EDV-ESV)/EDV×100%。
【0106】
(6.4.3.2 心臓の血行動態検査)
生理レコーダを使用して、血行動態指標、例えば頸動脈圧、心室内圧、+dp/dt及び-dp/dtを記録した。主工程:ラットに注入容量を6ml/kgとして、20%ウレタンの腹腔内注射により麻酔した。右総頸動脈を分離し、その遠位端を結紮した。その近位端を動脈クランプで遮断し、両端の間を切除し、小さな開口部を設けた。続いて、開口部から総頸動脈中へとプローブに接続されたPE50カテーテルを挿入した。Powerlab生理レコーダに表示された波形を観察した。安定した後、頸動脈圧を記録し、続いてカテーテルをさらに左心室へと挿入し、10分間留置を行った。安定した後、LVSP、LVEDP、+dp/dt、及び-dp/dtなどの指標を記録した。LabChart7を解析に使用した。
【0107】
(6.4.4 データ処理)
全ての実験データは
【化6】
で表した。GraphPad 6を使用して、一元配置ANOVA分析を行った。P<0.05は、群間に有意差があることを示し、P<0.01は、群間に非常に大きな有意差があることを示した。
【0108】
(6.5 実験結果)
心臓超音波検査の結果を表7及び
図6に示す。この実験結果は、心不全ラットを無作為に群分けした後、投与前に群間の心臓超音波データに有意差はないことを示していた。投与後の群間には明らかな差があった。NRG-IgG1-Fc(1日30ug/kg)の10日間の注入により、ラット心臓のEF値及びFS値が有意に増加し(P<0.001)、LVESV (P<0.001)、LVEDV (P<0.05)、LVDs (P<0.001)、及びLVDd (P<0.05)の値が有意に低下した。このことは、NRG-IgG1-Fcが心不全を有するラットの心臓機能を顕著に改善することができることを示唆している。8時間×10日間の連続注入後、NRG群のEF、LVESV、FS、及びLVDs値が改善した。結果は、等モル量のNRG-IgG1-Fc(30ug/kg)は、NRG群と比較して、治療群のラットにおける心不全に対してより優れた治療効果をもたらすことを示していた。さらに、NRG-IgG1-FcはNRGよりも使用が容易であった。
表7 各群の治療前後のラットにおける心臓超音波検査結果
【表7】
【0109】
本発明の範囲は、実施態様に限定されない。当業者には明白であるように、本発明はその趣旨及び範囲から逸脱することなく多くの方法で改変し、かつ変更することができる。本明細書に記載されている実施態様は実施態様の形でのみ提供され、本発明はその全体が添付する特許請求の範囲及びその均等物のみに従属する。
【手続補正書】
【提出日】2022-07-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】