(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-14
(54)【発明の名称】不眠症治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/506 20060101AFI20221107BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20221107BHJP
A61K 31/4196 20060101ALI20221107BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20221107BHJP
A61K 31/277 20060101ALI20221107BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20221107BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20221107BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
A61K31/506
A61P25/20
A61K31/4196
A61K31/7048
A61K31/277
A61K31/496
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022505314
(86)(22)【出願日】2020-08-19
(85)【翻訳文提出日】2022-01-25
(86)【国際出願番号】 US2020046894
(87)【国際公開番号】W WO2021050219
(87)【国際公開日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】PCT/US2019/051141
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行日 令和1年8月19日 刊行物(刊行物名、巻数、号数、該当ページ、発行所/発行元等)Clinical Pharmacology in Drug Development,8S(1),2019,p6-7,Poster Number:010 〔刊行物等〕 発行日 令和1年8月19日 刊行物(刊行物名、巻数、号数、該当ページ、発行所/発行元等) Clinical Pharmacology in Drug Development,8S(1),2019,p6,Poster Number:009
(71)【出願人】
【識別番号】506137147
【氏名又は名称】エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【氏名又は名称】木元 克輔
(74)【代理人】
【識別番号】100135242
【氏名又は名称】江守 英太
(72)【発明者】
【氏名】サバント ランドリー イシャニ
(72)【発明者】
【氏名】仲井 健也
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 之子
(72)【発明者】
【氏名】中谷 陽介
(72)【発明者】
【氏名】上野 孝哉
(72)【発明者】
【氏名】シャック エドガー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA52
4C084NA06
4C084ZA05
4C084ZC20
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC42
4C086BC60
4C086EA13
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA12
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA10
4C086MA52
4C086NA06
4C086ZA05
4C086ZC20
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206HA13
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA14
4C206MA72
4C206NA06
4C206ZA05
4C206ZC20
4C206ZC75
(57)【要約】
レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩を含有する不眠症治療用経口医薬組成物であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の通常用量が一日当たり5~10mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり2.5mgであり、及び/又は該医薬組成物がCYP3Aを弱く阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり5mgである、医薬組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩を含有する不眠症治療用経口医薬組成物であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の通常用量が一日当たり5~10mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり2.5mgである、医薬組成物。
【請求項2】
前記医薬組成物が、113~537ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記医薬組成物が、16.5~56.0ng/mLの平均Cmaxを達成する、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩を含有する不眠症治療用経口医薬組成物であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり2.5mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤とともに患者に投与される、医薬組成物。
【請求項5】
前記医薬組成物が、308~533ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記医薬組成物が、17.0~26.9ng/mLの平均Cmaxを達成する、請求項4又は5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩を含有する不眠症治療用経口医薬組成物であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の通常用量が一日当たり5~10mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを弱く阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり5mgである、医薬組成物。
【請求項8】
前記医薬組成物が、113~537ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記医薬組成物が、16.5~56.0ng/mLの平均Cmaxを達成する、請求項7又は8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩を含有する不眠症治療用経口医薬組成物であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり5mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを弱く阻害する薬剤とともに患者に投与される、医薬組成物。
【請求項11】
前記医薬組成物が、309~337ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記医薬組成物が、16.5~17.0ng/mLの平均Cmaxを達成する、請求項10又は11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩を含有する不眠症治療用経口医薬組成物であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の通常用量が一日当たり5~10mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり2.5mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを弱く阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり5mgである、医薬組成物。
【請求項14】
レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩を含有する不眠症治療用経口医薬組成物であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の通常用量が一日当たり5mgであり、症状により一日当たり10mgに増量してもよく、ただし、該医薬組成物がCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり2.5mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを弱く阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり5mgである、医薬組成物。
【請求項15】
前記CYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤が、フルコナゾール、エリスロマイシン、ベラパミル、イトラコナゾール又はクラリスロマイシンである、請求項1~6、13及び14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記CYP3Aを弱く阻害する薬剤が、シロスタゾールである、請求項7~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不眠症治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
脳視床下部に局在するニューロンで発現している2種の脳内神経ペプチド、オレキシン-A(OX-A、33個のアミノ酸からなるペプチド)及びオレキシン-B(OX-B、28個のアミノ酸からなるペプチド)は、主として脳内に存在するGタンパク質共役型受容体、即ちオレキシン受容体(特許文献1~4)の内在性リガンドとして発見された(特許文献5、非特許文献1)。オレキシン受容体には、2種のサブタイプ、1型サブタイプであるOX1受容体(OX1)及び2型サブタイプであるOX2受容体(OX2)が存在することが知られている。OX1はOX-BよりOX-Aに選択的に結合し、OX2はOX-Bと同様にOX-Aにも結合する。オレキシンは、ラットの食物消費を刺激することが見出されており、摂食行動を調節する中枢フィードバック機構における、これらペプチドのメディエーターとしての生理学的役割が示唆されている(非特許文献1)。一方、また、オレキシンが睡眠覚醒状態を調節することが観察され、従って、オレキシンは不眠症や他の睡眠障害と同様に、ナルコレプシーのための新たな治療法につながると考えられている(非特許文献2)。さらに、麻薬依存症及びニコチン依存症に関連している、神経可塑性における腹側被蓋領域でのオレキシンシグナルが、生体内で重要な役割を果たしていることが示唆されている(非特許文献3、非特許文献4)。また、ラットを用いた実験において、OX2を選択的に阻害するとエタノール依存症を軽減することが報告されている(非特許文献5)。さらに、ラットにおいて鬱病と不安症に関係のある副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)がオレキシン誘発性行動に関与しており、オレキシンはストレス反応において重要な役割を果たしている可能性があることが報告されている(非特許文献6)。
【0003】
一方、オレキシン受容体拮抗作用を有し、不眠症などの睡眠障害の治療剤としての利用可能性を有する化合物として、レンボレキサント(化合物名:(1R,2S)-2-(((2,4-ジメチルピリミジン-5-イル)オキシ)メチル)-2-(3-フルオロフェニル)-N-(5-フルオロピリジン-2-イル)シクロプロパンカルボキサミド)が知られている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第1996/34877号
【特許文献2】特開平10-327888号公報
【特許文献3】特開平10-327889号公報
【特許文献4】特開平11-178588号公報
【特許文献5】特開平10-229887号公報
【特許文献6】国際公開第2016/063995号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sakurai T.et al.,Cell,1998,92,573-585
【非特許文献2】Chemelli R.M.et al.,Cell,1999,98,437-451
【非特許文献3】S.L.Borgland et al.,Neuron,2006,49,589-601
【非特許文献4】C.J.Winrow et al.,Neuropharmacology,2010,58,185-194
【非特許文献5】J.R.Shoblock et al.,Psychopharmacology,2010,215:191-203
【非特許文献6】T.Ida et al.,Biochemical and Biophysical Research Communications,2000,270,318-323
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、後述の実施例に記載されているとおり、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩を含有する医薬組成物とCYP3Aを阻害する薬剤を併用投与すると、レンボレキサントの血漿中濃度が上昇し、傾眠等の副作用が増強されるおそれがあるという新規な課題を見出した。本発明は、レンボレキサントをCYP3Aを阻害する薬剤と併用した場合であっても、有効かつ安全な不眠症治療用医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の[1]から[32]に関する。
[1]レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩を含有する不眠症治療用経口医薬組成物であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の通常用量が一日当たり5~10mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり2.5mgである、医薬組成物。
[2]前記医薬組成物が、約113~約537ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する、[1]に記載の医薬組成物。
[3]前記医薬組成物が、約16.5~約56.0ng/mLの平均Cmaxを達成する、[1]又は[2]に記載の医薬組成物。
[4]レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩を含有する不眠症治療用経口医薬組成物であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり2.5mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤とともに患者に投与される、医薬組成物。
[5]前記医薬組成物が、約308~約533ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する、[4]に記載の医薬組成物。
[6]前記医薬組成物が、約17.0~約26.9ng/mLの平均Cmaxを達成する、[4]又は[5]に記載の医薬組成物。
[7]レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩を含有する不眠症治療用経口医薬組成物であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の通常用量が一日当たり5~10mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを弱く阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり5mgである、医薬組成物。
[8]前記医薬組成物が、約113~約537ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する、[7]に記載の医薬組成物。
[9]前記医薬組成物が、約16.5~約56.0ng/mLの平均Cmaxを達成する、[7]又は[8]に記載の医薬組成物。
[10]レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩を含有する不眠症治療用経口医薬組成物であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり5mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを弱く阻害する薬剤とともに患者に投与される、医薬組成物。
[11]前記医薬組成物が、約309~約337ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する、[10]に記載の医薬組成物。
[12]前記医薬組成物が、約16.5~約17.0ng/mLの平均Cmaxを達成する、[10]又は[11]に記載の医薬組成物。
[13]レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩を含有する不眠症治療用経口医薬組成物であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の通常用量が一日当たり5~10mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり2.5mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを弱く阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり5mgである、医薬組成物。
[14]レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩を含有する不眠症治療用経口医薬組成物であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の通常用量が一日当たり5mgであり、症状により一日当たり10mgに増量してもよく、ただし、該医薬組成物がCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり2.5mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを弱く阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり5mgである、医薬組成物。
[15]前記CYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤が、フルコナゾール、エリスロマイシン、ベラパミル、イトラコナゾール又はクラリスロマイシンである、[1]~[6]、[13]及び[14]のいずれかに記載の医薬組成物。
[16]前記CYP3Aを弱く阻害する薬剤が、シロスタゾールである、[7]~[14]のいずれかに記載の医薬組成物。
[17]不眠症を治療する方法であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩を含有する医薬組成物を経口的に患者に投与することを含み、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の通常用量が一日当たり5~10mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり2.5mgである、方法。
[18]前記医薬組成物が、約113~約537ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する、[17]に記載の方法。
[19]前記医薬組成物が、約16.5~約56.0ng/mLの平均Cmaxを達成する、[17]又は[18]に記載の方法。
[20]不眠症を治療する方法であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩を含有する医薬組成物を経口的に患者に投与することを含み、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり2.5mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤とともに患者に投与される、方法。
[21]前記医薬組成物が、約308~約533ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する、[20]に記載の方法。
[22]前記医薬組成物が、約17.0~約26.9ng/mLの平均Cmaxを達成する、[20]又は[21]に記載の方法。
[23]不眠症を治療する方法であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩を含有する医薬組成物を経口的に患者に投与することを含み、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の通常用量が一日当たり5~10mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを弱く阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり5mgである、方法。
[24]前記医薬組成物が、約113~約537ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する、[23]に記載の方法。
[25]前記医薬組成物が、約16.5~約56.0ng/mLの平均Cmaxを達成する、[23]又は[24]に記載の方法。
[26]不眠症を治療する方法であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩を含有する医薬組成物を経口的に患者に投与することを含み、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり5mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを弱く阻害する薬剤とともに患者に投与される、方法。
[27]前記医薬組成物が、約309~約337ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する、[26]に記載の方法。
[28]前記医薬組成物が、約16.5~約17.0ng/mLの平均Cmaxを達成する、[26]又は[27]に記載の方法。
[29]不眠症を治療する方法であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩を含有する医薬組成物を経口的に患者に投与することを含み、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の通常用量が一日当たり5~10mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり2.5mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを弱く阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり5mgである、方法。
[30]不眠症を治療する方法であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩を含有する医薬組成物を経口的に患者に投与することを含み、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の通常用量が一日当たり5mgであり、症状により一日当たり10mgに増量してもよく、ただし、該医薬組成物がCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり2.5mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを弱く阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり5mgである、方法。
[31]前記CYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤が、フルコナゾール、エリスロマイシン、ベラパミル、イトラコナゾール又はクラリスロマイシンである、[17]~[22]、[29]及び[30]のいずれかに記載の方法。
[32]前記CYP3Aを弱く阻害する薬剤が、シロスタゾールである、[23]~[30]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、レンボレキサントをCYP3Aを阻害する薬剤と併用した場合であっても、有効かつ安全な不眠症治療用医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(a)は、試験例3において、健康成人にレンボレキサント1、2.5、5、10、25、50、100及び200mgを単回投与したときの、0~240時間までの平均血漿中レンボレキサントの濃度推移を示す。(b)は、試験例3において、健康成人にレンボレキサント1、2.5、5、10、25、50、100及び200mgを単回投与したときの、0~24時間までの平均血漿中レンボレキサントの濃度推移を示すグラフである。なお、グラフ中の各ポイントは平均値+標準偏差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の内容について詳細に説明する。
【0011】
本明細書において「レンボレキサント」とは、(1R,2S)-2-(((2,4-ジメチルピリミジン-5-イル)オキシ)メチル)-2-(3-フルオロフェニル)-N-(5-フルオロピリジン-2-イル)シクロプロパンカルボキサミドを意味する。その構造式を以下に示す。
【化1】
【0012】
本明細書において「薬剤学的に許容される塩」とは、レンボレキサントと塩を形成されるものであれば特に限定されず、具体的には例えば、無機酸塩、有機酸又は酸性アミノ酸塩等の酸付加塩が挙げられる。
【0013】
無機酸との塩の一態様としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などとの塩が挙げられる。有機酸との塩の一態様としては、例えば酢酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ステアリン酸、安息香酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などとの塩が挙げられる。本明細書において、レンボレキサントの薬剤学的に許容される塩の用量はその遊離形に基づいて計算することができる。
【0014】
レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩は、例えば、国際公開第2012/039371号、国際公開第2013/123240号に記載された方法により製造することができる。
【0015】
本明細書において「不眠症」とは、入眠障害、睡眠維持障害、早朝覚醒、熟眠障害などの症状によって特徴付けられる睡眠障害を意味する。また、本明細書における「不眠症」は、一過性不眠症、短期不眠症、長期(慢性)不眠症を含む。
【0016】
本実施形態に係るレンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩を含有する不眠症治療用経口医薬組成物(以下、「本実施形態に係る医薬組成物」とも言う。)は、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩と薬剤学的に許容される添加物とを混和することにより製造することができる。本実施形態に係る医薬組成物は、例えば、第十六改正日本薬局方の製剤総則に記載の方法など既知の方法に従って製造することができる。
【0017】
本実施形態に係る医薬組成物は、経口的に不眠症の患者に投与され、その通常用量は成人一日当たり5~10mgである。なお、本実施形態に係る医薬組成物の通常用量を成人一日当たり5mgとし、症状により一日当たり10mgに増量することもできる。
【0018】
本明細書において「Cmax」とは、最大血漿中濃度を意味する。Cmaxを算出することにより、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の有効性、特に入眠作用を評価することができる。
【0019】
本明細書において「AUC(0-inf)」とは、薬剤投与直後(0時間)から無限大までの血漿中濃度-時間曲線下面積を意味する。AUC(0-inf)を算出することにより、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の有効性及び安全性を評価することができる。
【0020】
本明細書において「約」とは、±5%の範囲内の数値を示す。
【0021】
CYP3Aは、薬物代謝酵素の1種であり、「シトクロムP450、ファミリー3、サブファミリーA」と同義である。
【0022】
本明細書において「CYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤」とは、米国食品医薬品局(FDA)のガイダンス「Drug Development and Drug Interactions:Table of Substrates,Inhibitors and Inducers(2017年11月14日))」のTable 3-2及び「FDA Guidance for Industry.Drug Interaction Studies-Study Design,Data Analysis,Implications for Dosing, and labeling Recommendations.Draft Guidance.February 2012」のTable 3に記載されているCYP3A阻害作用の分類に従い、CYP3Aの基質の代謝におけるAUCを2倍以上5倍未満増加させるか(CYP3Aを中程度阻害)又はAUCを5倍以上増加させる(CYP3Aを強力に阻害)薬剤を意味する。CYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤としては、例えば、フルコナゾール、エリスロマイシン、ベラパミル、イトラコナゾール、クラリスロマイシンが挙げられる。
【0023】
本明細書において「CYP3Aを弱く阻害する薬剤」とは、上記FDAのガイダンスに従い、CYP3Aの基質の代謝におけるAUCを1.25倍以上2倍未満増加させる薬剤を意味する。CYP3Aを弱く阻害する薬剤としては、例えば、シロスタゾールが挙げられる。
【0024】
本実施形態に係る医薬組成物は、CYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり2.5mgである。レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩をこの用量とすることにより、本実施形態に係る医薬組成物の有効性と安全性を両立させることが可能となる。
【0025】
本実施形態に係る医薬組成物において、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の通常用量が一日当たり5~10mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり2.5mgであり、当該医薬組成物は、ある態様では約113~約537ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する。
【0026】
本実施形態に係る医薬組成物において、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の通常用量が一日当たり5~10mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり2.5mgであり、当該医薬組成物は、ある態様では約16.5~約56.0ng/mLの平均Cmaxを達成する。
【0027】
本実施形態に係る医薬組成物がCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤とともに患者に投与される場合であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり2.5mgであるとき、当該医薬組成物は、ある態様では約308~約533ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成し、ある態様では約308~約445ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成し、ある態様では約374~約533ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する。平均AUC(0-inf)が上記範囲内にあると、CYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤と併用する場合における本実施形態に係る医薬組成物の有効性及び安全性が確保されうる。ここで、「平均AUC(0-inf)」とは、AUC(0-inf)の幾何平均を意味する。
【0028】
本実施形態に係る医薬組成物がCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤とともに患者に投与される場合であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり2.5mgであるとき、当該医薬組成物は、約17.0~約26.9ng/mLの平均Cmaxを達成し、ある態様では約17.0~約21.1ng/mLの平均Cmaxを達成し、ある態様では約18.1~約26.9ng/mLの平均Cmaxを達成する。平均Cmaxが上記範囲内にあると、CYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤と併用する場合における本実施形態に係る医薬組成物の有効性(特に、入眠作用)が確保されうる。ここで、「平均Cmax」とは、Cmaxの幾何平均を意味する。
【0029】
本実施形態に係る医薬組成物は、CYP3Aを弱く阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり5mgである。レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩をこの用量とすることにより、本実施形態に係る医薬組成物の有効性と安全性を両立させることが可能となる。
【0030】
本実施形態に係る医薬組成物において、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の通常用量が一日当たり5~10mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを弱く阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり5mgであり、当該医薬組成物は、ある態様では約113~約537ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する。
【0031】
本実施形態に係る医薬組成物において、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の通常用量が一日当たり5~10mgであり、該医薬組成物がCYP3Aを弱く阻害する薬剤とともに患者に投与される場合には、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり5mgであり、当該医薬組成物は、ある態様では約16.5~約56.0ng/mLの平均Cmaxを達成する。
【0032】
本実施形態に係る医薬組成物がCYP3Aを弱く阻害する薬剤とともに患者に投与される場合であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり5mgであるとき、当該医薬組成物は、ある態様では約309~約337ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)を達成する。平均AUC(0-inf)が上記範囲内にあると、CYP3Aを弱く阻害する薬剤と併用する場合における本実施形態に係る医薬組成物の有効性及び安全性が確保されうる。
【0033】
本実施形態に係る医薬組成物がCYP3Aを弱く阻害する薬剤とともに患者に投与される場合であって、レンボレキサント又はその薬剤学的に許容される塩の用量が一日当たり5mgであるとき、当該医薬組成物は、ある態様では約16.5~約17.0ng/mLの平均Cmaxを達成する。平均Cmaxが上記範囲内にあると、CYP3Aを弱く阻害する薬剤と併用する場合における本実施形態に係る医薬組成物の有効性(特に、入眠作用)が確保されうる。
【実施例】
【0034】
以下の試験例は本発明の種々の側面を説明するが、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0035】
[試験例1]健康成人におけるレンボレキサントの薬物動態に及ぼす、CYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤の影響
(1-1:レンボレキサントとフルコナゾール(CYP3Aを中程度阻害する薬剤)との併用投与)
14名の健康成人(男女、18~55歳)に、レンボレキサント10mgを単回投与し(レンボレキサントの単独投与)、当該レンボレキサントの単回投与を1日目として、11日目から26日目までフルコナゾール200mgを1日1回(11日目のみ一日2回)投与し、15日目にレンボレキサント10mgを単回投与した(レンボレキサントとフルコナゾールの併用投与)。レンボレキサントの単独投与時、及びレンボレキサントとフルコナゾールの併用投与時におけるレンボレキサントの血漿中濃度を高速液体クロマトグラフ/タンデム質量分析(以下、「LC-MS/MS」と称する)にて以下の条件で測定し、CmaxとAUC(0-inf)の幾何平均値を算出した。結果を表1に示す。
(使用装置)
HPLC(ポンプ:LC-10ADvp又はLC-20AD、オートサンプラーSIL-20ACHT、島津製作所)
質量分析装置(API5000又はAPI5500、AB Sciex)
(前処理)
ヒト血漿100μLに10μLの内標準物質溶液(重水素標識したレンボレキサント)を加え、10μLのアンモニア水で塩基性条件下にした後、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)で液液抽出した。攪拌(約10分間)及び遠心分離(約14000rpm、約10分間)を行った後、その上層を30℃かつ窒素気流下で蒸発乾固させ、200μLの0.1%ギ酸含有アセトニトリル/水混液(50/50、v/v)で再溶解し、LC-MS/MSのサンプルとした。
(測定条件)
移動相A:0.1%ギ酸水溶液
移動相B:アセトニトリル
分析カラム:Phenomenex Kinetx XB-C18(5μm、4.6×250mm)
測定時間:17.5分
グラジエント条件:移動相Bについて、0から2分は35%、2分から5分で38%までリニアに増加、5分から11.5分は38%で維持、11.5分から12.1分で55%までリニアに増加、12.1分から14.5分は55%で維持、14.6分で35%に減少、17.5分まで維持。
流速:0分から7分は1.2mL/min、7分から8分で0.7mL/minまで減速、8分から11.6分まで0.7mL/minで維持、11.6分から12分にかけて1.2mL/minまで加速、17.5分まで1.2mL/minで維持。
測定はエレクトロスプレーイオン化(ESI)法のポジティブ検出によりMRMモードで行った。レンボレキサントのMRMトランジション(前駆イオンとプロダクトイオンとの組み合わせ)はm/z 411>287(CE30)を用いた。内標準物質には重水素標識したレンボレキサントを用いm/z 414>290(CE18)を用いた。使用したAPI5500/5500Qtrapの各種パラメータを以下に示す。
Ion spray Voltage:5500v、Curtain Gas 40、CAD 8、Gas1 70、Gas2 70、DP100、Dwell time 250(パラメータはこの限りではない)
血漿中レンボレキサントの濃度は、レンボレキサントと内標準物質のピーク面積の比から作成した最小二乗法により逆回帰して作成した内標準検量線を用いて算出した。
【0036】
(1-2:レンボレキサントとイトラコナゾール(CYP3Aを強力に阻害する薬剤)との併用投与)
15名の健康成人(男女、21~55歳)に、レンボレキサント10mgを単回投与し(レンボレキサントの単独投与)、当該レンボレキサントの単回投与を1日目として、15日目から34日目までイトラコナゾール200mgを1日1回投与し、22日目にレンボレキサント10mgを単回投与した(レンボレキサントとイトラコナゾールの併用投与)。レンボレキサントの単独投与時、及びレンボレキサントとイトラコナゾールの併用投与時におけるレンボレキサントの血漿中濃度をLC-MS/MSにて試験例1の(1-1)と同様の条件で測定し、CmaxとAUC(0-inf)の幾何平均値を算出した。結果を表2に示す。
【0037】
【0038】
【0039】
表1より、レンボレキサントとフルコナゾールを併用投与すると、レンボレキサントを単独投与したときと比較して、レンボレキサントの平均Cmaxが62%、平均AUC(0-inf)が317%それぞれ増加した。また、表2より、レンボレキサントとイトラコナゾールを併用投与すると、レンボレキサントを単独投与したときと比較して、レンボレキサントの平均Cmaxが36%、平均AUC(0-inf)が270%それぞれ増加した。これより、レンボレキサントとCYP3Aを阻害する薬剤を併用投与すると、レンボレキサントの血漿中濃度が上昇し、傾眠等の副作用が増強されるおそれがあることが示唆された。
【0040】
(1-3)レンボレキサントとCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤の併用投与時における、レンボレキサントの薬物動態の予測
レンボレキサントのCmax及びAUC(0-inf)はレンボレキサントの用量に比例することから、上記(1-1)及び(1-2)にて得られた、レンボレキサント10mgとフルコナゾールとの併用投与時及びレンボレキサント10mgとイトラコナゾールとの併用投与時におけるレンボレキサントの平均Cmaxと平均AUC(0-inf)を基に、レンボレキサント2.5mgとフルコナゾールとの併用投与時及びレンボレキサント2.5mgとイトラコナゾールとの併用投与時におけるレンボレキサントの平均Cmaxと平均AUC(0-inf)の予測値(いずれも幾何平均値)を算出した。結果を、上記(1-1)及び(1-2)におけるレンボレキサント10mgの単独投与時の実測値と併せて表3及び表4に示す。
【0041】
【0042】
【0043】
レンボレキサント2.5mgとフルコナゾールを併用投与したときのレンボレキサントの平均Cmax及び平均AUC(0-inf)の予測値は、レンボレキサント10mgを単独投与したときのレンボレキサントの平均Cmax及び平均AUC(0-inf)と比較して、それぞれ59.4%及び1.1%低い値となることが確認された。また、レンボレキサント2.5mgとイトラコナゾールを併用投与したときのレンボレキサントの平均Cmax及び平均AUC(0-inf)の予測値は、レンボレキサント10mgを単独投与したときのレンボレキサントの平均Cmax及び平均AUC(0-inf)と比較して、平均Cmaxは65.2%低い値となり、平均AUC(0-inf)は3.2%高い値となることが確認された。なお、レンボレキサント2.5mgとイトラコナゾールを併用投与したときのレンボレキサントの平均AUC(0-inf)の予測値の95%信頼区間の上限値は、レンボレキサント10mgを単独投与したときのレンボレキサントの平均AUC(0-inf)の95%信頼区間の上限値を下回った。
【0044】
したがって、レンボレキサント2.5mgとCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤を併用したときのレンボレキサントの平均AUC(0-inf)の予測値は、レンボレキサント10mgを単独投与したときのレンボレキサントの平均AUC(0-inf)と近似していた。したがって、レンボレキサント2.5mgとCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤を併用したときの有効性及び安全性は、レンボレキサント10mgを単独投与したときと同等であると考えられる。
【0045】
また、レンボレキサント2.5mgとCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤を併用したときのレンボレキサントの平均Cmaxの予測値は、レンボレキサント10mgを単独投与したときのレンボレキサントの平均Cmaxよりも低い値であったが、レンボレキサント5mgを6名の健康成人(男女、32~53歳)に単独投与したときのレンボレキサントの平均Cmax(22.3ng/mL)と近似していた。したがって、レンボレキサント2.5mgとCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤を併用したときの有効性(特に、入眠作用)は、レンボレキサント5mgを単独投与したときと同等であると考えられる。
【0046】
以上より、CYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤と併用する際のレンボレキサントの用量は、一日当たり2.5mgとすることが推奨される。また、上記表3及び4より、レンボレキサント2.5mgとCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤を併用すると、レンボレキサントは約308~約533ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)(フルコナゾール併用時の95%信頼区間の下限値~イトラコナゾール併用時の95%信頼区間の上限値)、約308~約445ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)(フルコナゾール併用時の95%信頼区間の下限値~フルコナゾール併用時の95%信頼区間の上限値)又は約374~約533ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)(イトラコナゾール併用時の95%信頼区間の下限値~イトラコナゾール併用時の95%信頼区間の上限値)を達成することが確認された。さらに、上記表3及び4より、レンボレキサント2.5mgとCYP3Aを中程度又は強力に阻害する薬剤を併用すると、レンボレキサントは約17.0~約26.9ng/mLの平均Cmax(イトラコナゾール併用時の95%信頼区間の下限値~フルコナゾール併用時の95%信頼区間の上限値)、約17.0~約21.1ng/mLの平均Cmax(イトラコナゾール併用時の95%信頼区間の下限値~イトラコナゾール併用時の95%信頼区間の上限値)又は約18.1~約26.9ng/mLの平均Cmax(フルコナゾール併用時の95%信頼区間の下限値~フルコナゾール併用時の95%信頼区間の上限値)を達成することが確認された。
【0047】
[試験例2]生理学的薬物速度論(PBPK)モデルを用いたレンボレキサントの薬物動態に及ぼす、CYP3Aを弱く阻害する薬剤の影響
Simcyp(登録商標)シミュレーター(Jamei,2009)を用いて、レンボレキサントのPBPKモデルを構築し、レンボレキサントとフルオキセチン(CYP3Aを弱く阻害する薬剤)を併用投与したときの薬物相互作用を予測した。具体的には、薬物相互作用の予測に際して以下の条件を設定し、Simcyp(登録商標)にてレンボレキサント10mgを単独投与した時のAUC(0-inf)及びCmaxを予測し、次いで、レンボレキサントのAUC(0-inf)及びCmaxがレンボレキサントの用量に比例することを考慮して、レンボレキサント5mgを単独投与した時のAUC(0-inf)及びCmaxを算出した(表5)。さらに、上記算出した値をもとに、レンボレキサントの単独投与時に対する、レンボレキサントとフルオキセチンの併用投与時のレンボレキサントのAUC比及びCmax比(いずれも幾何平均値)を算出した。また、米国食品医薬品局(FDA)の薬物相互作用ガイダンスに基づいて、予測される薬物相互作用の影響を評価した。結果を表6に示す。
(レンボレキサントとフルオキセチンとの併用投与における設定条件)
投与対象:Sim-Healthy Volunteers100名(男女、20~50歳)
レンボレキサント:試験開始25日目に10mgを単回投与
フルオキセチン:試験開始1日目から39日目まで40mgを1日1回投与
【0048】
上記と同様の方法で、レンボレキサントとエリスロマイシン、ベラパミル又はフルボキサミン(いずれも、CYP3Aを中程度阻害する薬剤)を併用投与したときの薬物相互作用を予測した。結果を表6に示す。
(レンボレキサントとエリスロマイシン、ベラパミル又はフルボキサミンとの併用投与における設定条件)
投与対象:Sim-Healthy Volunteers100名(男女、20~50歳)
レンボレキサント:試験開始8日目に10mgを単回投与
エリスロマイシン:試験開始1日目から20日目まで500mgを6時間毎に投与
ベラパミル:試験開始1日目から20日目まで80mgを1日3回投与
フルボキサミン:試験開始1日目から20日目まで50mgを1日1回投与
【0049】
【0050】
【0051】
表6より、レンボレキサントに対して、フルオキセチンは弱い影響を与え、エリスロマイシン及びベラパミルは中程度の影響を与え、フルボキサミンは影響を与えないことが示唆され、併用薬のCYP3A阻害作用の分類と予測される相互作用の影響は類似していることが確認された。すなわち、レンボレキサントの薬物動態はフルオキセチンとの併用により弱い影響を受けることが推測された。
【0052】
以上より、CYP3Aを弱く阻害する薬剤と併用する際のレンボレキサントの用量は、一日当たり5mgとすることが推奨される。なお、レンボレキサント5mgを単独投与した時のAUC(0-inf)(上記表5)に、CYP3Aを弱く阻害する薬剤(フルオキセチン)についてのAUC比の90%信頼区間の下限値及び上限値(上記表6)をそれぞれ乗じることで、平均AUC(0-inf)が約309~約337ng*hr/mLと算出され、レンボレキサント5mgを単独投与した時のCmax(上記表5)に、CYP3Aを弱く阻害する薬剤(フルオキセチン)についてのCmax比の90%信頼区間の下限値及び上限値(上記表6)をそれぞれ乗じることで、平均Cmaxが約16.5~約17.0ng/mLと算出される。したがって、レンボレキサント5mgとCYP3Aを弱く阻害する薬剤を併用すると、レンボレキサントは約309~約337ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)及び約16.5~約17.0ng/mLの平均Cmaxを達成することが確認された。
【0053】
[試験例3]健康成人及び原発性不眠症を対象とした単回投与試験(外国001試験パートA)
健康成人64例を対象としてレンボレキサント1、2.5、5、10、25、50、100及び200mgを絶食下単回投与した際の薬物動態について、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、多段階単回投与試験により検討した。各群においてレンボレキサントを6例、プラセボを2例の被験者に投与した。
健康成人にレンボレキサント1、2.5、5、10、25、50、100及び200mgを単回投与したときの平均血漿中レンボレキサントの濃度推移を
図1に示した。また、レンボレキサント5mg及び10mgを単回投与したときの薬物動態パラメータを表7に示した。
血漿中レンボレキサント濃度は、投与後は二相性の消失を示した。レンボレキサント1、2.5、5及び10mg投与後のtmaxの中央値は1~1.55時間であり、25mg以上の投与量においては投与後のtmaxの中央値は2~3時間であった。レンボレキサントのCmaxの幾何平均値は、用量の増加に伴い上昇したが、10mg以上の用量に関しては、用量比よりもやや低い割合で上昇した。AUC(0-24h)の平均値は、検討した用量範囲で概ね用量比例性を示した。全ての投与群で、不眠症の治療に関連する薬理作用を反映すると考えられる投与後9時間までの暴露量は、平均して投与後24時間までの暴露量の約75%であり、AUC(0-inf)の約45%であった。また、レンボレキサント2.5~10mgを単回投与したときの投与後9時間の血漿中レンボレキサント濃度は、Cmaxの約10~13%であった。
血漿中レンボレキサント濃度と薬力学評価項目(数字符号置換検査(DSST)、精神運動覚醒検査(PVT)及びカロリンスカ眠気尺度(KSS))の関係を検討した結果、5mgの用量までは相関がほとんどみられなかったが、10mg以上の用量においては血漿中レンボレキサント濃度とDSST、PVT及びPVTに相関がみられた。
【0054】
【0055】
なお、レンボレキサント5mg又は10mgを単回投与したときのCmax(ng/mL)の95%信頼区間の下限値及び上限値は下記表8のとおりであった。
【0056】
【0057】
また、レンボレキサント5mg又は10mgを単回投与したときのAUC(0-inf)(ng*hr/mL)の95%信頼区間の下限値及び上限値は下記表9のとおりであった。
【0058】
【0059】
以上より、レンボレキサントの用量が5~10mgであるとき、レンボレキサントは、約113~約537ng*hr/mLの平均AUC(0-inf)(表9におけるレンボレキサント5mg単回投与時の95%信頼区間の下限値~表4におけるレンボレキサント10mg単回投与時の95%信頼区間の上限値)を達成することが確認された。また、レンボレキサントの用量が5~10mgであるとき、レンボレキサントは、約16.5~約56.0ng/mLの平均Cmax(レンボレキサント5mgとCYP3Aを弱く阻害する薬剤を併用したときの下限値~表8におけるレンボレキサント10mg単回投与時の95%信頼区間の上限値)を達成することが確認された。
【国際調査報告】