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特表2022-547397紙基材上でタンパク質装飾ナノ粒子を貯蔵及び放出する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-14
(54)【発明の名称】紙基材上でタンパク質装飾ナノ粒子を貯蔵及び放出する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20221107BHJP
   G01N 33/553 20060101ALI20221107BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
G01N33/543 525U
G01N33/543 525W
G01N33/553
G01N33/53 U
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022507629
(86)(22)【出願日】2020-09-08
(85)【翻訳文提出日】2022-02-04
(86)【国際出願番号】 EP2020075013
(87)【国際公開番号】W WO2021048087
(87)【国際公開日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】P201930784
(32)【優先日】2019-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】522048524
【氏名又は名称】ウニベルシタ デ レス イリェス バレアレス
(71)【出願人】
【識別番号】522047941
【氏名又は名称】フンダシオ インスティトゥート ディンベスティガシオ サニタリア イリェス バレアレス
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デ ラ リカ ケサーダ ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】アルバ パティーニョ フランシー アレハンドラ
(72)【発明者】
【氏名】アドロバー ハウメ クリスティーナ
(57)【要約】
本発明は、不可逆的結合なしに紙基材上でタンパク質装飾ナノ粒子を貯蔵する方法、特にポリマーで変性された紙基材内にタンパク質装飾ナノ粒子を貯蔵する方法に関する。本発明はまた、上記方法によって得られた生物学的相互作用を確立することができるタンパク質装飾ナノ粒子を含むリザーバー、及び紙で作られたバイオセンサーにおけるその使用に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材上にタンパク質装飾ナノ粒子を含むリザーバーを得る方法であって、
i.紙基材を紙基材全体にわたって親水性の負に帯電したポリマーで処理する工程と、
ii.工程(i)で得られたPSS変性された紙基材上にタンパク質装飾ナノ粒子を適用する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記ポリマーは、ポリスチレンスルホネート(PSS)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タンパク質は、生物学的相互作用を確立することができるタンパク質である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記タンパク質は、アビジン又は抗体である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質は、抗体である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ナノ粒子は、ペグ化されたナノ粒子である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ペグ化されたナノ粒子は、ペグ化された金製ナノ粒子である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
工程(i)の処理は、紙基材片上に前記ポリマーをスポットすることによって実施される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程(i)の前記紙基材片は、正方形の形に切断されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
添加されるポリマーの体積は、前記ナノ粒子が占める体積よりも大きいポリマー変性紙の体積を与えるのに十分な大きさである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
添加されるポリマーの体積は50μLであり、かつペグ化されたナノ粒子の体積は1μLである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程(i)の後に前記紙を乾燥させる工程(iii)を更に含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記乾燥工程(iii)は、15℃~50℃の温度で実施される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程(ii)の後に前記紙を乾燥させる工程(iv)を更に含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記紙を乾燥させる工程(iv)は、15℃~25℃の温度で実施される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記リザーバーから前記ナノ粒子を放出させる工程(v)を更に含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記放出工程(v)は、受容基材に転写する工程である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記放出工程(v)は、湿った受容紙基材、又はポリプロピレン受容基材に転写する工程である、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記転写工程(v)は、加圧によって実施される、請求項16~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記転写工程(v)は、指、プレス、又はクランプによる加圧によって実施される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記転写工程(v)は、PSSの含有量及びナノ粒子の濃度の微調整によって調節される、請求項16~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記ナノ粒子に結合された前記タンパク質は、工程(v)における前記受容基材に結合された標的との生物学的相互作用を確立する、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記タンパク質は、アビジン又は抗体である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記標的は、ビオチン又は抗原である、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
請求項1~24のいずれか一項に記載の方法によって得られた紙基材上にタンパク質装飾ナノ粒子を含むリザーバー。
【請求項26】
紙で作られたバイオセンサーの作製のための、請求項25に記載のタンパク質装飾ナノ粒子リザーバーの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不可逆的結合なしに紙基材上でタンパク質装飾ナノ粒子を貯蔵する方法、特にポリマーで変性された紙基材内にタンパク質装飾ナノ粒子を貯蔵する方法に関する。本発明はまた、上記方法によって得られた生物学的相互作用を確立することができるタンパク質装飾ナノ粒子を含むリザーバー、及び紙で作られたバイオセンサーにおけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
濾紙は、軽量であり、低価格であり、かつ廃棄が容易であるため、使い捨てバイオセンサーの開発に最適な基材である(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。濾紙は、幅広い細孔サイズで市販されており、物理吸着法又は共有結合法に従って生体分子で簡単に変性され得る(非特許文献4、非特許文献5)。その多孔質マトリックスは、紙ベースの分析デバイスへと組み込まれるリザーバーを製造するために、酵素等の試薬及びそれらの基質を貯蔵するのにも使用され得る(非特許文献6)。このようなリザーバーは、液体の添加時にそれらの内容物を他の紙領域へと効率的に放出することを保証しながらも、構成試薬の物理化学的特性を長期にわたって保全しなければならない。プラズモニックナノ粒子は、測色法(非特許文献7)及び表面増強ラマン分光法(SERS)(非特許文献8)から蛍光定量法(非特許文献9)及び電気化学(非特許文献10)までの幅広いシグナル伝達機構を使用したバイオセンサーを製造するのに極めて有用な構成要素である。
【0003】
しかしながら、ナノ粒子は乾燥後に紙基材に不可逆的に吸着する傾向があることから、この材料で作られたリザーバーにおいてナノ粒子を貯蔵することは困難である(非特許文献11)。従来、この問題は、リザーバーを従来の紙ではなくガラス繊維から作ることによって克服されてきた(非特許文献12)。けれども、このアプローチは、折り紙ベースの分析デバイス等のバイオセンサー設計と必ずしも適合するわけではない。これらのバイオセンサーは、それらの製造を簡素化し、追加の接着剤を使用せずに部品間の接触を容易にすることを目的として、完全に紙で作られることを意図している(非特許文献13、非特許文献14)。
【0004】
PSSは、以前からナノ粒子の軟凝集を避けるために、通常はPSSとポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド等の正に帯電したポリマーとの交互層の形で使用されている(非特許文献15)。PSSはまた、ナノ粒子を成長させる支持体(非特許文献16)及びソフトリソグラフィーによりナノ粒子を受容基材に転写する支持体(非特許文献17)としても使用されている。PEDOTとブレンドされたPSSは、セルロースを変性して導電性にするために日常的に使用されている(非特許文献18)。
【0005】
未変性の紙基材において貯蔵されたナノ粒子の放出は完全には特徴付けられておらず(非特許文献19)、場合によっては、非常に非効率的であると報告されている(非特許文献11)。
【0006】
したがって、ナノ粒子を紙基材上に貯蔵し、要求に応じてナノ粒子を高効率で放出する方法を見出すことで、これらが紙で作られた2D分析デバイス及び3D分析デバイスに実装され得ることが望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Reboud et al. Paper-based microfluidics for DNA diagnostics of malaria in low resource underserved rural communities. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2019, 116, 4834-4842
【非特許文献2】Roig-Sanchez et al. Nanocellulose films with multiple functional nanoparticles in confined spatial distribution Nanoscale Horiz., 2019, 4, 634-641
【非特許文献3】Tenda et al., Paper-Based Antibody Detection Devices Using Bioluminescent BRET-Switching Sensor Proteins. Angew. Chemie-Int. Ed. 2018, 57, 15369-15373
【非特許文献4】Chu et al. Paper-based chemiluminescence immunodevice with temporal controls of reagent transport technique. Sensors Actuators, B Chem. 2017, 250, 324-332
【非特許文献5】Wang et al. Simple and covalent fabrication of a paper device and its application in sensitive chemiluminescence immunoassay. Analyst 2012 137, 3821
【非特許文献6】Calabria et al. Smartphone-based enzymatic biosensor for oral fluid L-lactate detection in one minute using confined multilayer paper reflectometry. Biosens. Bioelectron. 2017, 94, 124-130
【非特許文献7】Russell and de la Rica Paper transducers to detect plasmon variations in colorimetric nanoparticle biosensors. Sensors Actuators, B Chem. 2018, 270, 327-332
【非特許文献8】Catala et al. Online SERS Quantification of Staphylococcus aureus and the Application to Diagnostics in Human Fluids Adv. Mater. Technol. 2016, 1600163
【非特許文献9】Ellairaja et al. Novel Pyrimidine Tagged Silver Nanoparticle Based Fluorescent Immunoassay for the Detection of Pseudomonas aeruginosa. J. Agric. Food Chem. 2017, 65, 1802-1812
【非特許文献10】Liang et al. An origami paper device for complete elimination of interferents in enzymatic electrochemical biosensors. Electrochem. Commun. 2017 82, 43-46
【非特許文献11】Ruivo et al. Colorimetric detection of D-dimer in a paper-based immunodetection device. Anal. Biochem. 2017, 538, 5-12
【非特許文献12】Deraney et al., Multiplexed, Patterned-Paper Immunoassay for Detection of Malaria and Dengue Fever. Anal. Chem. 2016, 88, 6161-6165
【非特許文献13】Liu et al. Aptamer-based origami paper analytical device for electrochemical detection of adenosine. Angew. Chemie-Int. Ed. 2012, 51, 6925-6928
【非特許文献14】Liu and Crooks, Three-dimensional paper microfluidic devices assembled using the principles of origami. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 17564-17566
【非特許文献15】McLintock et al., Universal surface-enhanced Raman tags: Individual nanorods for measurements from the visible to the infrared (514-1064 nm). ACS Nano 2014, 8, 8600-8609
【非特許文献16】Cai et al., Coating sulfonated polystyrene microspheres with highly dense gold nanoparticle shell for SERS application. Colloid Polym. Sci. 2013, 291, 2023-2029
【非特許文献17】Basarir, Fabrication of gold patterns via multilayer transfer printing and electroless plating. ACS Appl. Mater. Interfaces 2012, 4, 1324-1329
【非特許文献18】Khan et al., Nano-gold assisted highly conducting and biocompatible bacterial cellulose-PEDOT: PSS films for biology-device interface applications. Int. J. Biol. Macromol. 2018, 107, 865-873
【非特許文献19】Chen et al. Three-dimensional origami paper-based device for portable immunoassay applications. Lab Chip 2019, 19, 598-607
【発明の概要】
【0008】
本発明の第1の態様は、紙基材上にタンパク質装飾ナノ粒子を含むリザーバーを得る方法であって、
i.紙基材を紙基材全体にわたって親水性の負に帯電したポリマーで処理する工程と、
ii.工程(i)で得られたPSS変性された紙基材上にタンパク質装飾ナノ粒子を適用する工程と、
を含む、方法に関する。
【0009】
別の実施の形態においては、本発明は、ポリマーがポリスチレンスルホネート(PSS)である、上記に規定される方法に関する。
【0010】
別の実施の形態においては、本発明は、タンパク質が生物学的相互作用を確立することができるタンパク質であり、好ましくはタンパク質がアビジン又は抗体である、上記に規定される方法に関する。
【0011】
別の実施の形態においては、本発明は、タンパク質が生物学的相互作用を確立することができるタンパク質であり、かつタンパク質がアビジンである、上記に規定される方法に関する。
【0012】
別の実施の形態においては、本発明は、タンパク質が生物学的相互作用を確立することができるタンパク質であり、かつタンパク質が抗体である、上記に規定される方法に関する。
【0013】
別の実施の形態においては、本発明は、ナノ粒子がペグ化されたナノ粒子である、上記に規定される方法に関する。
【0014】
別の実施の形態においては、本発明は、ペグ化されたナノ粒子がペグ化された金製ナノ粒子である、上記に規定される方法に関する。
【0015】
別の実施の形態においては、本発明は、工程(i)の処理が、紙基材片上にポリマー、好ましくはPSSをスポットすることによって実施される、上記に規定される方法に関する。
【0016】
別の実施の形態においては、本発明は、工程(i)の紙基材片が、正方形の形に切断されている、上記に規定される方法に関する。
【0017】
別の実施の形態においては、本発明は、添加されるポリマー、好ましくは添加されるPSSの体積が、ペグ化されたナノ粒子が占める体積よりも大きいポリマー変性紙の体積を与えるのに十分な大きさである、上記に規定される方法に関する。
【0018】
別の実施の形態においては、本発明は、添加されるポリマー、好ましくは添加されるPSSの体積が50μLであり、かつペグ化されたナノ粒子、好ましくはペグ化された金製ナノ粒子の体積が1μLである、上記に規定される方法に関する。
【0019】
別の実施の形態においては、本発明は、工程(i)の後に紙を乾燥させる工程(iii)を更に含み、好ましくは、乾燥工程(iii)が、15℃~50℃の温度で実施される、上記に規定される方法に関する。
【0020】
別の実施の形態においては、本発明は、工程(ii)の後に紙を乾燥させる工程(iv)を更に含み、好ましくは、乾燥工程(iv)が、15℃~25℃の温度で実施される、上記に規定される方法に関する。
【0021】
別の実施の形態においては、本発明は、リザーバーからナノ粒子を放出させる工程(v)を更に含む、上記に規定される方法に関する。
【0022】
別の実施の形態においては、本発明は、放出工程(v)が、受容基材、好ましくは湿った受容紙基材、又はポリプロピレン受容基材への転写工程である、上記に規定される方法に関する。
【0023】
別の実施の形態においては、本発明は、転写工程(v)が、加圧によって、好ましくは指、プレス、又はクランプによる加圧によって、より好ましくはスポットの中心における少なくとも4分間の加圧によって実施される、上記に規定される方法に関する。
【0024】
ナノ粒子のリザーバーへの転写は、PSSのパーセンテージ及びナノ粒子の濃度を微調整することによって、縁部で優先的に又はリザーバー全体で均一に起こるように調節することができ、例えば、%PSSが1.9%から7.5%の間に含まれ、かつナノ粒子の濃度が72nMである場合には、縁部からの転写が優勢となり、%PSSが30%であり、かつナノ粒子の濃度が210nM以上である場合には、受容基材へのナノ粒子の均一な転写が得られる。
【0025】
したがって、別の実施の形態においては、本発明は、転写工程(v)が、PSSの含有量及びナノ粒子、好ましくはペグ化されたナノ粒子、又はペグ化された金製ナノ粒子の濃度を微調整することによって調節される、上記に規定される方法に関する。
【0026】
別の実施の形態においては、本発明は、転写工程(v)が、72nMのペグ化された金製ナノ粒子の濃度で、PSSの含有量を1.9%から7.5%の間に微調整することによって調節される、上記に規定される方法に関する。
【0027】
別の実施の形態においては、本発明は、転写工程(v)が、少なくとも210nMのペグ化された金製ナノ粒子の濃度で、PSSの含有量を30%に微調整することによって調節される、上記に規定される方法に関する。
【0028】
別の実施の形態においては、本発明は、工程(v)の受容紙基材が、ナノ粒子に結合された受容体タンパク質、好ましくはアビジンと特異的に相互作用する生物学的リガンド、好ましくはビオチンで修飾され、Tween-20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBST)で飽和されたウシ血清アルブミン(BSA)で変性されている、上記に規定される方法に関する。
【0029】
別の実施の形態においては、本発明は、ナノ粒子に結合されたタンパク質、好ましくはアビジン又は抗体が、工程(v)にける受容基材、好ましくは湿った紙基材、又はポリプロピレン基材に結合された標的、好ましくはビオチン又は抗原との生物学的相互作用を確立する、上記に規定される方法に関する。
【0030】
別の実施の形態においては、本発明は、工程(v)の実施後にリザーバーを取り除き、余分な試薬を除去する工程(vi)を更に含み、好ましくは、工程(vi)が、PBSTで3回~5回洗浄することによって実施される、上記に規定される方法に関する。
【0031】
本発明の第2の態様は、上記に規定される方法によって得られた紙基材上にタンパク質装飾ナノ粒子を含むリザーバーに関する。
【0032】
本発明の第3の態様は、紙で作られたバイオセンサーの作製における、上記に規定されるタンパク質装飾ナノ粒子リザーバーの使用に関する。
【0033】
本発明は、濾紙上にナノ粒子リザーバーを製造する新しいアプローチを紹介する。本発明は、セルロースマトリックスへのPEG化されたナノ粒子の不可逆的結合を避けるために、負に帯電したポリマーであるポリスチレンスルホネート(PSS)で紙基材を変性することからなる(図1A)。このように作製されたリザーバーは、ナノ粒子を高効率で放出することができる。
【0034】
本発明によれば、PSSは、セルロースマトリックスへのナノ粒子の不可逆的結合を避けるのに有用である。PSSにより、要求に応じてセルロースマトリックスからナノ粒子を放出することが可能となることに加えて、単に乾いたリザーバーを湿った受容紙基材に対して押し付けることによって、リザーバーから受容紙基材へとナノ粒子を転写することも可能となる(図1B)。これにより、提案されたリザーバーは、液体の取り扱いスキームが簡素化されたバイオセンサーの開発に有用となる。それというのも、その内容物を検出領域に転写するために、制御された容量の緩衝液をリザーバーに添加する必要がないからである。さらに、タンパク質(アビジン、抗体)で修飾されたナノ粒子は、受容紙片上に固定化されたそれらの標的(ビオチン、抗原)を用量依存的に特異的に認識するそれらの能力を維持することから、バイオセンサーの開発にそのアプローチが適していることが裏付けられる(図1C)。
【0035】
本明細書では、タンパク質装飾ナノ粒子を紙基材上に貯蔵する方法であって、要求に応じてこれらのナノ粒子を放出することもできる、方法が紹介されている。この方法は、事前にポリスチレンスルホネート(PSS)で変性された濾紙片上にナノ粒子をスポットすることからなる。単に指で加圧することによって、アビジンで修飾された金ナノ粒子を、乾いたリザーバーから湿った受容紙片に容易に転写することができる。さらに、ナノプローブは、基材に結合された分子と生体特異的なアビジン-ビオチン相互作用を確立することができることから、リザーバーは、ナノ粒子ベースのバイオセンサーの製造に適したものとなる。リザーバーにおける%PSS及びナノ粒子濃度を調節することで、「コーヒーリング」を形成することなく、紙の層間で均一な転写が可能となる。これらの特徴により、本発明の方法は、濾紙で作られた折り紙バイオセンサーを開発し、ナノプローブに基づくシグナル発生機構を組み込むのに理想的となる。
【0036】
本発明によって提案されるリザーバーは、製造が容易であり、貯蔵寿命が長く、むらのある発色シグナルの発生等の紙バイオセンサーに関連する一般的な落とし穴を回避する。これらの特徴により、上記リザーバーは、紙で作られたバイオセンサーの製造に理想的となる。
【0037】
まとめると、本発明は、PSSで事前に処理された濾紙において、PEG及びタンパク質で修飾されたナノ粒子を貯蔵する方法を記載している。PSSによるこの処理により、紙との不可逆的相互作用が回避されることで、水溶液の添加時にナノ粒子を完全に放出することが可能となる。また、ナノ粒子をリザーバーから受容基材へと、一方の紙シートを他方の受容基材に対して指で押し付けることによって転写することもできる。%PSSを微調整することで、リザーバー及び受容基材の両方において「コーヒーリング」の形成が回避される。これにより、ナノプローブと基材に結合した分子との間の生体分子相互作用に起因する均一に分布した発色シグナルが得られる。リザーバーにおけるPSSの存在は、アビジン-ビオチン相互作用又は抗体-抗原相互作用の発生を妨げず、ナノプローブを少なくとも1ヶ月間保全する。これらの特徴により、提案されたリザーバーは、生体分子装飾ナノプローブを組み込んだ紙のみのバイオセンサーの製造に理想的となる。
【0038】
本発明全体を通して、「親水性の負に帯電したポリマー」という用語は、水と熱力学的に好ましい相互作用を確立し、脱プロトン化して負に帯電した部分を生じ得る基を含むポリマーを指す。例としては、とりわけ、ポリスチレンスルホネート(PSS)、ポリグルタミン酸、及び核酸が挙げられる。
【0039】
「生物学的相互作用を確立することができるタンパク質」とは、特定の生体分子相互作用によって別の分子と相互作用するタンパク質を指す。例としては、とりわけ、アビジン-ビオチン相互作用、ストレプトアビジン-ビオチン相互作用、抗体-抗原相互作用、アゴニスト-受容体相互作用、酵素-基質相互作用、及び酵素-阻害剤相互作用が挙げられる。
【0040】
「ペグ化されたナノ粒子」とは、ポリエチレングリコール(PEG)で修飾されたナノ粒子を指す。例としては、とりわけ、PEGで修飾された金属ナノ粒子又は金属酸化物ナノ粒子(とりわけ、金、銀、白金、酸化鉄、又は酸化亜鉛)、PEGで修飾された半導体ナノ粒子(例えば、とりわけ、量子ドット及びアップコンバージョンナノ粒子)、PEGシェルで修飾されたリポソーム及びタンパク質ナノ粒子、並びに外層上にPEGを含むポリマーナノ粒子が挙げられる。
【0041】
「受容基材」という用語は、ナノ粒子が転写され得るあらゆる固体材料を指す。この用語には、とりわけ、水溶液で加湿された紙片を指す「湿った受容紙基材」及び「ポリプロピレン受容基材」が含まれる。例としては、とりわけ、様々な細孔径を有する濾紙、バクテリアセルロース、ニトロセルロース、プロピレンフェイスマスク、綿又はポリエステル等のテキスタイル、皮膚、動物組織、金属、シリコンウェハ、エラストマー、及びヒドロゲルが挙げられる。
【0042】
別段の規定がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。本発明の実施において、本明細書に記載されるものと類似又は同等の方法及び材料を使用することができる。詳細な説明及び特許請求の範囲全体を通して、「含む(comprise)」という文言及びその変形形態は、他の技術的特徴、添加剤、構成要素、又は工程を除外することを意図するものではない。本発明の追加の目的、利点、及び特徴は、詳細な説明を検討することで当業者に明らかとなり、又は本発明の実施によって確かめられ得る。以下の実施例及び図面は、例示として提供されており、本発明を限定することを意図するものではない。
【0043】
別段の規定がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。本発明の実施において、本明細書に記載されるものと類似又は同等の方法及び材料を使用することができる。詳細な説明及び特許請求の範囲全体を通して、「含む(comprise)」という文言及びその変形形態は、他の技術的特徴、添加剤、構成要素、又は工程を除外することを意図するものではない。本発明の追加の目的、利点、及び特徴は、詳細な説明を検討することで当業者に明らかとなり、又は本発明の実施によって確かめられ得る。以下の実施例及び図面は、例示として提供されており、本発明を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】ナノ粒子リザーバー及びその内容物を受容紙基材に転写する手順の概略図である。(A)紙リザーバー(i)は、ポリスチレンスルホネート(PSS)と、タンパク質で装飾された金ナノ粒子とを含む。受容基材(ii)は、物理的に吸着されたリガンドを含む。(B)乾いたリザーバー(i)を湿った受容基材(ii)上に置き、例えば指で加圧すると、リザーバーから受容基材にナノ粒子が転写される。(C)余分な試薬を洗い流した後に、ナノ粒子は、生体特異的相互作用(v)によって受容基材(ii)に結合したままとなる。
図2】様々な%PSSを有するナノ粒子リザーバーの製造を示す図である。(A)1mLのPBSTで3回洗浄する前(上段)及びその後(下段)のリザーバーのスキャン画像。(B)リザーバーにまたがるピクセル強度(PI)プロファイル。(C)PBSTで3回洗浄する前(丸)及びその後(正方形)のリザーバーにおける発色シグナル(S)。エラーバーは標準偏差である(n=3)。近似曲線は単なるガイドである。
図3】30%のPSS及び様々な濃度のアビジン装飾ナノ粒子を有するリザーバーの製造を示す図である。(A)1mLのPBSTで3回洗浄する前(上段)及びその後(下段)のリザーバーのスキャン画像。(B)リザーバーにまたがるピクセル強度(PI)プロファイル。(C)PBSTで3回洗浄する前(丸)及びその後(正方形)のリザーバーにおける発色シグナル(S)。エラーバーは標準偏差である(n=3)。近似曲線は単なるガイドである。
図4】様々な%PSSを有するリザーバーからビオチン化タンパク質で変性された受容基材へのアビジン装飾ナノ粒子の転写を示す図である。(A)リザーバーを4分間加圧し、リザーバーを取り除き、1mLのPBSTで3回洗浄した後の受容基材のスキャン画像。(B)受容基材にまたがるピクセル強度(PI)プロファイル。(C)受容紙基材における側色シグナル(S)。エラーバーは標準偏差である(n=3)。近似曲線は単なるガイドである。
図5】30%のPSSを含むリザーバーからビオチン化タンパク質で変性された受容基材へのアビジン装飾ナノ粒子の時間依存的転写を示す図である。(A)リザーバーを様々な時間にわたり加圧した後の受容基材のスキャン画像。(B)受容基材にまたがるピクセル強度(PI)プロファイル。(C)受容紙基材における側色シグナル(S)。近似曲線は単なるガイドである。
図6】ビオチン化タンパク質で変性された様々な細孔径(それぞれ41番、6番、及び1番のワットマン紙について22μm、11μm、及び3μm)を有する受容紙基材への様々な濃度で貯蔵されたアビジン装飾ナノ粒子の転写を示す図である。(A)ビオチン化BSA(ビオチン)又は非修飾BSA(コントロール)で変性された受容基材のスキャン画像。(B)41番(三角形)、6番(丸)、及び1番(正方形)のワットマン紙で作られた受容基材における発色シグナル;非ビオチン化BSAを用いたコントロール実験は点線で示されている。(C)41番のワットマン紙で作られた受容基材にまたがるピクセル強度(PI)プロファイル。エラーバーは標準偏差である(n=3)。近似曲線は単なるガイドである。
図7】様々な時間にわたり貯蔵された乾いたナノ粒子リザーバーを使用してアッセイを実施した場合の、生体特異的なアビジン-ビオチン相互作用に起因する発色シグナル(ピクセル強度、PI)の変動を示す図である。1時間にわたり貯蔵されたリザーバーに対するシグナルのパーセンテージを計算した。エラーバーは標準偏差である(n=3)。
図8】紙リザーバーにおいて貯蔵された抗体装飾ナノ粒子を用いたE.コリ(E. coli)(A)及びサイトメガロウイルス由来の糖タンパク質B(B)の検出(片対数目盛り)を示す図である。エラーバーは標準偏差である(n=3)。
図9】紙リザーバーにおいて貯蔵された抗体装飾ナノ粒子を用いたシュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)の検出(片対数目盛り)を示す図である。エラーバーは標準偏差である。発色シグナルSは、関心領域のピクセル強度からバックグラウンドのピクセル強度を差し引いた後に得られる整数である。
図10】紙リザーバーにおいて貯蔵された抗ウサギIgGで装飾されたナノ粒子を用いたポリプロピレンフェイスマスクにおけるウサギIgG(ドット)及びBSA(三角形)の検出を示す図である。エラーバーは標準偏差である。発色シグナルSは、関心領域のピクセル強度からバックグラウンドのピクセル強度を差し引いた後に得られる整数である。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0045】
ポリエチレングリコール及びアビジンを用いた金ナノ粒子の合成及び修飾:約40nmの直径を有するクエン酸キャップされた金ナノ粒子を、以前に記載されたTurkevich法で合成した(Russell et al., Augmented Reality for Real-Time Detection and Interpretation of Colorimetric Signals Generated by Paper-Based Biosensors. ACS Sensors 2017, 2, 848-853)。次いで、カルボン酸部を終端とする0.1mMのチオール化ポリエチレングリコール(PEG)分子(ポリ(エチレングリコール)2-メルカプトエチルエーテル酢酸、2100のMn、Sigma)を用いてナノ粒子を一晩修飾した。得られたPEG化されたナノ粒子を濃縮し、8000rpmでの6分間の遠心分離を介して水で5回洗浄した。ナノ粒子を、最終的に、pH5.5に調整された0.5Mの2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES、Sigma)中に懸濁した。次いで、1mgのN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC、Sigma)及び2mgのN-ヒドロキシスルホスクシンイミドナトリウム塩(スルホ-NHS、Sigma)を20分間にわたって加えることにより、ナノ粒子周りのカルボン酸部をスルホ-NHSエステルへと変換した。次いで、ナノ粒子を遠心分離によってペレット化し、上清を0.1Mのリン酸緩衝液(pH7.4)中に1mg・mL-1のアビジンを含有する溶液に置き換えた。1時間後に、未反応のスルホ-NHSエステルを、0.1Mのグリシン及び10mg・mL-1のウシ血清アルブミン(BSA)により30分間キャップした。次いで、ナノ粒子を、0.1%のTween-20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(PBST)で5回洗浄した。得られたアビジンで覆われたナノ粒子を、使用するまで4℃に保った。ビオチン化抗体をアビジンで覆われたナノ粒子とともに1時間インキュベートした後に、3回の遠心分離工程を介して余分な試薬を洗い流すことによって、抗体修飾ナノ粒子が得られた。
【0046】
デンシトメトリー:紙基材上の金ナノ粒子は、濃度依存的な発色シグナルを発生し、これは、デンシトメトリーにより以下のように評価することができる。最初に、紙基材をMFC-1910Wスキャナープリンター(Brother)でスキャンした。ピクセル強度(PI)プロファイルを、ImageJを用いて取得した。グレースケールにおいて、純粋な白では255ピクセルの強度が得られるのに対して、純粋な黒では0ピクセルの強度が得られる。発色シグナルSを以下のようにして取得した。最初に、ImageJのヒストグラム関数を用いて、関心領域内の円形領域においてグレースケールでのピクセル強度を測定した。発色シグナルSを、バックグラウンドシグナルを差し引いた後の整数値として採用した。バックグラウンドのピクセル強度を差し引くと、生データに比べてシグナルの反転がもたらされることに留意されたい。
【0047】
ナノ粒子リザーバーの製造:41番、1番、及び6番のワットマン濾紙(それぞれ20μm~25μm、11μm、及び3μmの細孔径)を使用した。紙を正方形に切断し、必要に応じて水で様々な%(容量/容量)に希釈された50μLのポリスチレンスルホネート(PSS、30%、Sigma)で変性した。乾燥後に、アビジンで修飾された1μLのPEG化された金ナノ粒子を添加し、室温で乾燥させた。リザーバーからのナノ粒子の放出を研究するために、ナノ粒子で変性された乾いた紙基材を、折り畳まれた濾紙片の上に置き、1mLのPBSTを3回加えた。紙を乾燥させ、ナノ粒子リザーバーの色の何らかの変化をデンシトメトリーで測定することによって、この工程後のナノ粒子の存在を評価した。
【0048】
ナノ粒子の転写及び生体認識:リザーバーから受容紙基材へのナノ粒子の転写を、以下の手順で研究した。受容紙基材を、2μLのビオチン化BSA(PBS中100μg・mL-1)又は図8に示される様々な濃度の抗原で変性した。ビオチン化BSAは、EZ-Link(商標)スルホ-NHS-ビオチン化キット(Thermo Scientific)を用いて得られた。非ビオチン化BSAを用いたコントロール実験を実施して、非特異的相互作用の発色シグナルへの寄与を評価した。乾燥後に、5mg・mL-1のBSAが補充された1mLのPBS(PBS-BSA)を添加した。次いで、リザーバーを湿った受容紙の上に置き、スポットの中心で4分間加圧することによって、ナノ粒子の転写を促した。引き続き、リザーバーを取り除き、受容基材をPBSTで3回洗浄して、非特異的相互作用を除去した。乾燥後に、発色シグナルを上記詳説のようにデンシトメトリーで評価した。
【0049】
PSSによる紙基材の変性は、セルロースマトリックスにおけるナノ粒子の貯蔵を容易にすると同時に、ナノ粒子を高効率で放出することを可能にする。これを研究するために、濾紙を正方形に切断し、その後に様々な希釈率の50μLのPSSを加えて、乾燥させた。22μmの細孔サイズを有する紙基材(41番のワットマン)は、全てのPSS濃度でほぼ平坦なままであったため、引き続きこれらをナノ粒子リザーバーの製造に使用した。これらは、PSS変性紙の中心に1μLの金ナノ粒子をピペッティングし、室温でそれを乾燥させることによって得られた。最も広く利用可能な金ナノ粒子懸濁液は、負に帯電したクエン酸分子でキャップされたものにするTurkevich法に従って合成される。高濃度のカチオン又はタンパク質を含む溶液中でのナノ粒子の凝集を避けるのに、チオール化ポリエチレングリコール分子の代わりに、しばしばクエン酸分子が使用される(de la Rica et al., Enzyme-responsive nanoparticles for drug release and diagnostics. Adv. Drug Deliv. Rev. 2012, 64, 967-978)。これにより、ナノ粒子の凝集を防ぐだけでなく、生体分子との更なる共有結合のためにカルボン酸部等の反応性基を導入することも可能となる。これを念頭に置いて、アミド結合形成を介してアビジンで修飾されたPEG化されたナノ粒子プローブを含むリザーバーの製造が研究されてきた。図2A(上段)は、様々な%PSS及び72nMのアビジンで修飾された金ナノ粒子を用いて作製されたナノ粒子リザーバーの写真を示している。これらの画像において、紙における%PSSが増加するにつれて、スポット径が減少する傾向がある。付随して、%PSSが増加するにつれて、色強度が増加している。これは、図2Bにおけるこれらの画像から取得されたピクセル強度プロファイルにおいても観察され得る。グレースケールにおいて、ピクセル強度は、色が白であるときに最も高く(255)、色が黒であるときに最も低い(0)。図2Bにおいて、%PSSが増加するにつれて、リザーバーにまたがるピクセル強度が減少している。スポット径も同じ傾向に従う。これは、%PSSが増加するにつれて、ナノ粒子がより小さな体積の紙マトリックス内により高い濃度で見られることを示している。したがって、これらのより小さく、より高濃度のナノ粒子リザーバーの形成は、セルロースマトリックス内でナノ粒子の拡散がより遅いことに関連している。PSSの濃度が増加するにつれて、溶液の粘度が増加することは十分に確かめられている(Boris and Colby, Rheology of sulfonated polystyrene solutions. Macromolecules 1998, 31, 5746-5755)。ストークス-アインシュタインの式によれば、拡散係数は粘度に反比例するため、PSSの濃度が高いと放射状の拡散が減少し、より高濃度でナノ粒子を含むより小さなスポットが得られる。PSSは紙基材に帯黄色を与えるが、そのピクセル強度への寄与では、リザーバー内で観察される色の変化を完全に説明することができないことに留意されたい。例えば、図2Bにおいて、ナノ粒子領域の外側のピクセル強度は、30%のPSSによる変性により254から234に減少するが、これはナノ粒子が見られるリザーバーの中心では更に減少する(PI≒62)。すなわち、観察された色の変化に対する主な原因は、PSSの添加ではなく、リザーバーにおけるナノ粒子のより高い濃度である。図2Bにおいて、ピクセル強度が中心よりもリザーバーの縁部で低いことも分かる。これは、乾燥手順の間の溶質の不均一な分布により、スポットの縁部でナノ粒子の濃度がより高くなること(いわゆる「コーヒーリング効果」)に起因する(Zhang et al. Converting color to length based on the coffee-ring effect for quantitative immunoassays using a ruler as readout. Lab Chip 2018, 18, 271-275)。最後に、バイオセンサーにリザーバーを組み込むのに重要な要件である、ナノ粒子がリザーバーから効率的に放出され得るかどうかを調べた。このために、1mLのPBSTをリザーバーに3回加えた。図2A(下段)においては、PSSが存在しないと色が変化しないことから、このポリマーがないと、ナノ粒子がセルロースマトリックスに不可逆的に結合されることを示している。しかしながら、%PSSが増加するにつれて、スポット内の色が次第に消えていくことから、リザーバーにおける%PSSが高いほど、ナノ粒子がより効率的にリザーバーから出て行くことを示している。これらの実験は、PSSがナノ粒子と紙マトリックスとの間の不可逆的相互作用の形成を防ぐことを裏付けている。図2Cにおいては、デンシトメトリーによるシグナルの定量化により、リザーバーの製造に使用される%PSSが15%以上である場合にリザーバーに色が残らないことが示されることから、この条件下ではアビジン修飾ナノ粒子が完全に放出されたことが示唆される。全体的に見て、図2に示される結果は、タンパク質で修飾されたPEG化されたナノ粒子を、PSSで事前に変性された乾いた紙片において貯蔵することが可能であること、及び単純に水溶液を添加することによってナノ粒子が要求に応じて放出され得ることを裏付けている。
【0050】
次に、ナノ粒子濃度が、アビジン修飾金ナノ粒子を含む紙ベースのリザーバーの製造に影響を与えることを実証した。このために、様々な濃度の1μLのナノ粒子を、30%のPSSで変性された紙基材上にピペッティングした(図3A)。プロファイル分析により、ナノ粒子が140nM以上の濃度で施された場合に、図2で観察されたリザーバーにおける「コーヒーリング」の形成が妨げられ得ることが明らかになる。それというのも、ピクセル強度がスポットの中心と縁部とで同じであるからである(図3B)。PSS変性セルロースマトリックスからの内容物の放出におけるナノ粒子濃度の影響を研究するために、リザーバーを上記のようにPBSTで洗浄し、残留する発色シグナルをデンシトメトリーで測定した。図3Aの下段及び図3Cにおいて、残留する発色シグナルは、分析された全ての濃度で非常に低い。アッセイされたナノ粒子の最高濃度では、わずかな色の増加しか検出することができない。これは、リザーバーが高濃度の金ナノ粒子を含む場合でも、30%のPSSが紙との不可逆的相互作用を防ぐのに効果的であることを示している。まとめると、図3における実験は、提案された方法でリザーバーを得るのに最良の製造パラメーターが、30%のPSS及び140nM~210nMの濃度を有する金ナノ粒子であることを示している。これらの条件下では、リザーバー内のナノ粒子は均一に分布し(すなわち、コーヒーリングは見られない)、リザーバーからのコロイドの完全な放出が見られる(紙リザーバーに色が残らない)。
【0051】
セルロースにおけるナノ粒子を貯蔵及び放出するのに最良の条件を研究した後に、乾いたリザーバーにおけるコロイドを湿った受容紙へと、リザーバーを受容紙へと押し付けることによって転写する能力を試験した(図1B)。同時に、ナノ粒子周りのアビジンが、受容基材におけるビオチン化分子に依然として結合することができるかどうかを試験した。言い換えれば、PSSの存在が本発明のモデル生物学的相互作用を妨げるかどうかを研究した。この調査を実施するために、乾いたリザーバーを、ビオチン化BSAで変性され、PBSTで飽和された受容紙基材に対して押し付けた。これにより、湿った受容紙から乾いた紙リザーバーへと液体が移行した。生じたリザーバーの再水和により、ナノ粒子をリザーバーから受容基材へと転写することができた。リザーバーを剥ぎ取った後に、アビジン-ビオチン相互作用を介して受容紙基材に結合されたナノ粒子の存在を、PBSTで3回洗浄した後に評価した。図4Aは、リザーバーが同じ濃度のナノ粒子(72nM)及び様々な%PSSで作られた場合の受容基材の画像を示している。これらの画像では、%PSSが増加するにつれて、スポットにおける色がより均一に分布して濃くなる。実際、低い%PSSではナノ粒子のリングのみが生じ、高い%PSSではそれが次第に満たされて、着色されたスポットとなる。図4Bは、PSSの濃度が低い場合に、アビジン装飾ナノ粒子が受容側のスポットの周辺に蓄積する傾向があることも示している。%PSSが増加するにつれて、ナノ粒子のリングの直径が減少し、スポットの中心においてより多くのナノ粒子が観察される。図4Cにおいては、%PSSが増加するにつれて、関心領域内により多くのナノ粒子が転写されるため、発色シグナルは増加する。リングの形成をもたらし得るナノ粒子の転写には2つの機構が存在し得ることが提唱されている。1つ目の機構は、低い%PSSでは、ナノ粒子が放射状に拡散し、転写時に縁部に蓄積するのに対し、高い%PSSでは、ナノ粒子がより少ない程度で放射状に拡散し、受容紙に均一に転写されることを伴う。これにより、図4における観察結果と一致して、%PSSが増加するにつれて、スポットの中心においてより高い濃度のナノ粒子が生ずることとなる。2つ目の仮説においては、ナノ粒子はリザーバーの縁部から受容紙基材へと優先的に転写される。すなわち、最初にリングが生じた後に、そのリングがより多くのナノ粒子で満たされる。どちらの機構がリザーバーから受容紙へのナノ粒子の転写を司るかを識別するために、最高濃度のPSS(30%)を用いて作られたリザーバーを用いるが、紙の層間の接触時間を様々にして同じ実験を繰り返した。図5A及び図5Bにおいては、%PSSが高い場合でも、短い転写時間が適用されると、ナノ粒子はリングとして転写される。図5Cにおいては、時間が増えるにつれて、発色シグナルが増加している。ナノ粒子の過程の最初の段階ではリザーバーの中心においてナノ粒子が観察されないため、これらの結果により1つ目の機構は否定される。したがって、ナノ粒子及びPSSはリザーバーの縁部から優先的に転写されることが提唱された。上記で提唱された2つ目の仮説と一致して、これにより拡散バリアが生じ、その結果、その後に受容紙の中心領域においてポリマー及びナノ粒子の転写が起こる。以下に、ナノ粒子の濃度及び紙の種類が、バイオセンシング用途の特異的シグナル及び非特異的シグナルの発生に影響を与えることが示されている。
【0052】
図6は、リザーバーに30%のPSS及び様々な濃度のアビジングラフト金ナノ粒子を負荷した場合の発色シグナルの発生における受容紙の細孔サイズの影響を示している。非特異的相互作用を非ビオチン化(BSA)で評価した(図6Aにおける下段のレーン)。図6Bにおいて、3つの紙の種類がビオチン化基材において同様の発色シグナルを発生するのに対して、6番及び1番のワットマン紙が41番のワットマン紙と比べてより高い非特異的相互作用をもたらしたことが、デンシトメトリーから分かる。この原因は、6番及び1番の紙の種類のより小さな細孔径(それぞれ11μm及び3μm)に起因するより高い比表面積であり、それによりナノ粒子と受容基材との間で非特異的相互作用が優勢となる。図6Cにおいては、リザーバーにおけるナノ粒子の濃度が41番のワットマン紙において140nM以上である場合に、発色シグナル内のピクセル強度は均一に分布している(すなわち、リングが形成しない)。これらの結果は、図4において得られた結果に加えて、30%のPSS及び140nMのナノ粒子プローブを含む紙ベースのリザーバーが、バイオセンサーにおいて均一かつ非常に強いプラズモンシグナルを発生する最良の候補であることを示している。
【0053】
生体分子で修飾されたナノ粒子を転写することができることに加えて、生体分子ナノプローブを含むリザーバーは、それらを乾燥条件で長期間貯蔵することができる必要がある。これは、屋内(in-field)用途向きのバイオセンサーにリザーバーを組み込むのに特に重要である。それというのも、リザーバーを常に理想的な条件(すなわち、低温、乾燥条件)で貯蔵することが可能とは限らないからである。提案されたリザーバーの貯蔵寿命を試験するのに、30%のPSS及び140nMのアビジン修飾金ナノ粒子で変性された紙基材を最大1ヶ月間貯蔵した。リザーバーを室温で封筒内にて保管した。プローブを更に保全するために、防腐剤を添加せず、凍結乾燥又はシリカゲルと一緒の貯蔵等の追加的な措置を講じなかった。次いで、ビオチン化BSA及び非ビオチン化BSAを用いた実験を実施して、ナノ粒子が紙リザーバーにおいて様々な時間にわたり貯蔵した後に生体特異的相互作用を確立する能力を評価した。図7は、製造後1時間以内に使用されたリザーバーと比較した残留する発色シグナルの%を示している。この図においては、シグナルが当初の85%を決して下回ることがないことから、提案された方法が、厳密な温度又は湿度の貯蔵条件を課す必要なしに、長い貯蔵寿命を有するバイオセンサーの製造に有用であることを示している。
【0054】
最後に、抗体で修飾されたナノ粒子を含むリザーバーを使用して、様々な濃度で紙基材上に固定化された抗原を特異的に検出することができることを立証した。このために、受容紙基材を1滴のE.コリ又は糖タンパク質Bのいずれかで変性し、乾燥させた。ブロッキングしてPBSTを添加した後に、リザーバーを上に置き、受容基材に対して5分間押し付けた。リザーバーを剥ぎ取って洗浄した後に、ピクセル強度の増加を計算した。図8において、較正プロットは、抗原の濃度が増加するにつれて発色シグナルが増加することを示していることから、提案されたリザーバーを使用して抗体修飾ナノ粒子を貯蔵及び放出することができるとともに、抗体がリザーバーにおいて貯蔵された後にもそれらの生体認識機能を保持することが裏付けられる。シュードモナス・エルギノーサを検出する実験を更に同じ手順によるが、この病原体に対する抗体で修飾されたナノ粒子を使用して実施した。結果は図9に示されている。追加の実験を実施して、抗体装飾ナノ粒子が紙リザーバーから紙製でない基材へと転写され得ることも実証した。このために、モデル分析物(ウサギIgG)を臨床グレードのフェイスマスク上に噴霧した。次いで、内側のポリプロピレン層を取り除き、E.コリ、P.エルギノーサ、及び糖タンパク質Bの検出に使用したのと同じ方法によるが、抗ウサギIgGで修飾されたナノ粒子を含むリザーバーを使用して、ウサギIgGの存在を検出した。図10において、ウサギIgGが噴霧されたマスクでは、BSAの噴霧を行ったコントロール実験で得られたものよりも高い用量依存性シグナルが得られる。これらの実験は、抗体装飾ナノ粒子をポリプロピレンフェイスマスクに転写することができ、そこでは特定の抗体-抗原相互作用が確立され得ることを裏付けている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】