(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-14
(54)【発明の名称】電動車両のための後部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20221107BHJP
B62D 21/15 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
B62D25/20 H
B62D21/15 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022514697
(86)(22)【出願日】2020-07-31
(85)【翻訳文提出日】2022-04-28
(86)【国際出願番号】 IB2020057274
(87)【国際公開番号】W WO2021044234
(87)【国際公開日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2019/057481
(32)【優先日】2019-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソティ,アレクサンドル
(72)【発明者】
【氏名】ジボー,エリー
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー,ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】ドルーアデーヌ,イブ
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA31
3D203BB14
3D203CA02
3D203CA12
3D203CA26
3D203CA29
3D203CA36
3D203CA58
3D203CA73
(57)【要約】
後部部分、前部部分および遷移領域を含む後部レールを有する電動車両のための後部構造であって、後部衝突の場合に後部部分および遷移領域の両方が、エネルギー吸収量を最大にするように変形することができる、後部構造。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの後部レール(3)を備える電動車両(2)のための後部構造(1)であって、各後部レール(3)は、少なくとも
後部バンパーアセンブリ(5)と同じ高さで実質的に長手方向に延在し、その後端部で前記後部バンパーアセンブリ(5)に取り付けられた後部部分(20)と、
後部部分(20)よりも低い高さで実質的に長手方向に延在し、車両横方向補強構造(11)に取り付けられた前部部分(24)と、
少なくとも上部屈曲部(21)および下部屈曲部(23)を具備し、後部部分(20)と前部部分(24)とを連結する遷移領域(22)と、
を備え、
遷移領域(22)の平均厚さと極限引張強度との積は、後部部分(20)の平均厚さと極限引張強度との積の1~1.5倍の間に含まれ、遷移領域(22)は、少なくとも0.6の破壊ひずみおよび少なくとも75°の臨界曲げ角度を有する材料から作製される、後部構造(1)。
【請求項2】
後部レール(3)が製造される材料は、部分的に少なくとも700MPaの極限引張強度を有する、請求項1に記載の後部構造(1)。
【請求項3】
後部部分(20)は、その断面を局所的に変化させる少なくとも1つの幾何学的変化部(25)を備える、請求項1または2に記載の後部構造(1)。
【請求項4】
後部レール(3)の少なくとも一部は、ホットスタンピング後に少なくとも1000MPaの引張強度を有する材料をホットスタンピングすることによって作製される、請求項1~3のいずれか一項に記載の後部構造(1)。
【請求項5】
プレス硬化鋼の組成は、重量%で、
0.20%≦C≦0.25%、1.1%≦Mn≦1.4%、0.15%≦Si≦0.35%、≦Cr≦0.30%、0.020%≦Ti≦0.060%、0.020%≦Al≦0.060%、S≦0.005%、P≦0.025%、0.002%≦B≦0.004%であり、残りは鉄および加工の結果生じる不可避不純物である、請求項4に記載の後部構造(1)。
【請求項6】
後部レール(3)の少なくとも一部は、少なくとも950MPaの引張強度を有する材料をコールドスタンピングすることによって作成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の後部構造(1)。
【請求項7】
後部レール(3)の少なくとも一部は、材料をコールドスタンピングすることによって作製され、該材料は、重量%で0.13%<C<0.25%、2.0%<Mn<3.0%、1.2%<Si<2.5%、0.02%<Al<1.0%、1.22%<Si+Al<2.5%、Nb<0.05%、Cr<0.5%、Mo<0.5%、Ti<0.05%、残りはFeおよび不可避不純物、を含む化学組成を有し、8%~15%の残留オーステナイトを含む微細構造を有し、残りはフェライト、マルテンサイトおよびベイナイトであり、マルテンサイト分率およびベイナイト分率の合計は70%~92%の間に含まれる、請求項6に記載の後部構造(1)。
【請求項8】
後部レール(3)の少なくとも一部は、材料をコールドスタンピングすることによって作製され、該材料は、重量%で0.15%<C<0.25%、1.4%<Mn<2.6%、0.6%<Si<1.5%、0.02%<Al<1.0%、1.0%<Si+Al<2.4%、Nb<0.05%、Cr<0.5%、Mo<0.5%、残りはFeおよび不可避不純物、を含む化学組成を有し、10%~20%の残留オーステナイトを含む微細構造を有し、残りはフェライト、マルテンサイトおよびベイナイトである、請求項6に記載の後部構造(1)。
【請求項9】
後部レール(3)は、テーラード溶接ブランクをスタンピングすることによって形成される、請求項1~8のいずれか一項に記載の後部構造(1)。
【請求項10】
後部レール(3)は、テーラーロールドブランクをスタンピングすることによって形成される、請求項1から8のいずれか一項に記載の後部構造(1)。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の後部構造(1)を製造する方法であって、
ブランクを提供するステップと、
ブランクを後部レール(3)の形状にスタンピングするステップと、
後部レール(3)を後部バンパーアセンブリ(5)に取り付けるステップと、
後部レール(3)を横方向補強構造(11)に取り付けるステップと、
を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下で電動車両と呼ぶ、電動パワートレインを有する自動車のための後部構造に関する。本発明はさらに、そのような後部構造を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中の二酸化炭素レベルの増加および局所的な大気汚染レベルに関連する環境上の懸念および規制が、電動自動車の増加を促している。従来の内燃機関車両と比較して、電動車両はより小型のエンジンを有し、燃料タンクも排気システムもない。一方、電動車両は、内燃機関には存在しない大きなバッテリパックを有する。
【0003】
車両の後部構造は、後部衝突に耐えるように設計されている。車両の安全性を評価する際に使用される後部衝突試験の一例は、連邦自動車安全基準301(FMVSS301)であり、この基準では、車両は、1361kgの重量を有し、80km/hの速度で移動し、70%のオーバーラップで車両の後部に衝突する移動変形可能バリアによって衝撃を受ける。
【0004】
後部レールは、車両の後端部から後部フロアパネルの下まで長手方向に延在する車両の後部構造の一部である。それは、
後部バンパーアセンブリと同じ高さで実質的に長手方向に延在し、その後端部で後部バンパーアセンブリに取り付けられた後部部分と、
後部部分よりも低い高さで実質的に長手方向に延在し、車両横方向補強構造に取り付けられた前部部分と、
後部セクションと前部セクションとを連結する、少なくとも上部屈曲部および下部屈曲部を具備する遷移領域と、
を備える。
【0005】
後部レールの現在の概念は、一般に後部乗客座席の下に位置する燃料タンクを保護しながら、後部衝突の場合にエネルギーを吸収する必要性を考慮に入れている。実際、燃料タンクの完全性は、乗客の安全にとって不可欠である。破損した燃料タンクは、燃料漏れおよび火災の危険につながる可能性がある。
【0006】
後部レールの現在の設計は以下の通りである。
-後部部分は、例えば、制御された座屈によって、後部衝突中にエネルギーを吸収し、
-前部部分および遷移領域は、燃料タンクを保護するための侵入防止要素として作用する。
【0007】
この後部レールの設計にはいくつかの制限がある。実際、後部構造のエネルギー吸収能力よりも高いエネルギーを有する後部衝撃の場合、遷移領域および後部部分は、残りの衝突エネルギーを運動エネルギーの形態で車両の本体および乗員に伝達する。このような場合、前方の障害物に対して車両が前方に押されたり押しつぶされたりして、乗員の安全性が影響され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的の1つは、後部レールのエネルギー吸収ポテンシャルを最適化する設計を提案することによって、燃料タンクがないことを考慮して、電動車両の場合の、これらの制限を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のために、本発明は電動車両のための後部構造に関し、遷移領域の平均厚さと極限引張強度との積が、後部部分の平均厚さと極限引張強度との積の1~1.5倍の間に含まれ、遷移領域が少なくとも0.6の破壊ひずみおよび少なくとも75°の臨界曲げ角度を有する材料から作製される。
【0010】
上述の発明を適用することにより、後部セクションの制御された座屈変形によってだけでなく、その上部屈曲部および下部屈曲部における遷移領域の二重曲げ変形によっても、後部衝突中にエネルギーを吸収することが可能である。
【0011】
単独で、または任意の可能な技術的組み合わせに従って考慮される、本発明による後部構造の他の任意選択の特徴によれば、
後部レールが製造される材料は、部分的に少なくとも700MPaの極限引張強度を有する。
【0012】
後部部分は、その断面を局所的に変化させる幾何学的変化部を備える。
【0013】
後部レールの少なくとも一部は、ホットスタンピング後に少なくとも1000MPaの引張強度を有する材料をホットスタンピングすることによって作製される。
【0014】
後部レールの少なくとも一部は、プレス硬化鋼をホットスタンピングすることにより作製され、プレス硬化鋼は、重量%で、
0.20%≦C≦0.25%、1.1%≦Mn≦1.4%、0.15%≦Si≦0.35%、≦Cr≦0.30%、0.020%≦Ti≦0.060%、0.020%≦Al≦0.060%、S≦0.005%、P≦0.025%、0.002%≦B≦0.004%であり、残りは鉄および加工の結果生じる不可避不純物である。
【0015】
後部レールの少なくとも一部は、少なくとも950MPaの引張強度を有する材料をコールドスタンピングすることによって作製される。
【0016】
後部レールの少なくとも一部は、材料をコールドスタンピングすることによって作製され、該材料は、重量%で0.13%<C<0.25%、2.0%<Mn<3.0%、1.2%<Si<2.5%、0.02%<Al<1.0%、1.22%<Si+Al<2.5%、Nb<0.05%、Cr<0.5%、Mo<0.5%、Ti<0.05%、残りはFeおよび不可避不純物、を含む化学組成を有し、8%~15%の残留オーステナイトを含む微細構造を有し、残りはフェライト、マルテンサイトおよびベイナイトであり、マルテンサイト分率およびベイナイト分率の合計は70%~92%の間に含まれる。
【0017】
後部レールの少なくとも一部は、材料をコールドスタンピングすることによって作製され、該材料は、重量%で0.15%<C<0.25%、1.4%<Mn<2.6%、0.6%<Si<1.5%、0.02%<Al<1.0%、1.0%<Si+Al<2.4%、Nb<0.05%、Cr<0.5%、Mo<0.5%、残りはFeおよび不可避不純物、を含む化学組成を有し、10%~20%の残留オーステナイトを含む微細構造を有し、残りはフェライト、マルテンサイトおよびベイナイトである。
【0018】
後部レールは、テーラード溶接ブランクをスタンピングすることによって形成される。
【0019】
後部レールは、テーラーロールドブランクをスタンピングすることによって形成される。
【0020】
本発明はさらに、前述の後部構造1を製造するための方法に関し、本方法は、
ブランクを提供するステップと、
ブランクを後部レール3の形状にスタンピングするステップと、
後部レール3を後部バンパーアセンブリ5に取り付けるステップと、
後部レール3を横方向補強構造11に取り付けるステップと、
を備える。
【0021】
本発明の他の態様および利点は、例として与えられ、添付の図面を参照して行われる以下の説明を読むと明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図3】本発明による左側後部レールの個々の斜視図である。
【
図4A】上述のFMVSS301の標準化された衝突を使用した、本発明による車両の後部衝突試験シミュレーションを示す一連の図であり、衝突が発生する前の状況を示す。
【
図4B】上述のFMVSS301の標準化された衝突を使用した、本発明による車両の後部衝突試験シミュレーションを示す一連の図であり、衝突の60ms後の状況を示す。
【
図4C】上述のFMVSS301の標準化された衝突を使用した、本発明による車両の後部衝突試験シミュレーションを示す一連の図であり、衝突の100ms後の状況を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の説明では、「上部」、「下部」、「前部」、「後部」、「横方向」および「長手方向」という用語は、搭載車両の通常の方向に従って定義される。より具体的には、「上部」および「下部」という用語は、車両の仰角方向に従って定義され、「前部」、「後部」および「長手方向」という用語は、車両の前後方向に従って定義され、「横方向」という用語は、車両の幅に従って定義される。「実質的に平行」または「実質的に垂直」とは、平行または垂直方向から15°以下だけ逸脱することができる方向を意味する。
【0024】
より具体的には、「破壊ひずみ」および「臨界曲げ角度」という用語は、Metallurgical Research Technology Volume 114,Number 6,2017の「Methodology to assess fracture during crash simulation:fracture strain criteria and their calibration」においてPascal Dietschらによって定義された破壊ひずみ基準および臨界曲げ角度基準を指す。臨界曲げ角度は、標準化されたVDA-238-100規格に従って変形されたサンプルの背面で第1の亀裂が検出される角度を定義する。破壊ひずみは、臨界曲げ角度に達したときの変形点における材料内の関連する等価ひずみである。
【0025】
降伏強度、極限引張強度、ならびに均一伸びおよび全伸びは、2009年10月に発行されたISO規格ISO6892-1に従って測定される。
【0026】
部品または部品の一部の平均厚さは、前記部品を製造するために使用されるシートの対応する領域の厚さである。
【0027】
「制御された座屈」という用語は、圧縮荷重を受ける部品の変形モードを指し、部品の連続した局所座屈変形から生じる一連の連続波を形成することによって、部品は圧縮荷重の機械エネルギーを徐々に吸収する。結果として、圧縮荷重の方向に測定された部品の長さは、変形後に、前記方向における部品の初期長さよりも小さい。言い換えれば、部品が制御された座屈によって圧縮荷重に反応すると、圧縮荷重がボトルの頂部と底部との間に加えられるプラスチックボトルと同じ方法で、それ自体の上に折り畳まれる。
【0028】
図1および
図2を参照して、電動車両2の後部構造1について説明する。後部構造1は、少なくとも2つの後部レール3と、後部バンパーアセンブリ5と、を備える。後部バンパーアセンブリ5は、例えば、後部バンパービーム7と、2つの後部クラッシュボックス9と、を備える。後部レール3は、その後端部で後部バンパーアセンブリ5に、例えば溶接によって取り付けられている。後部レール3はさらに、それらの前端部において、車両の両側で、q車両横方向補強構造11に取り付けられている。
【0029】
特定の実施形態では、後部構造1は、略横方向に沿って2つの後部レール3の間に延在する侵入防止クロスメンバ13をさらに備える。
【0030】
特定の実施形態では、電動車両2は、侵入防止クロスメンバ13の背後で車両の後部に向かって配置された電気エンジン15を備える。
【0031】
電動車両2は、フロアパネル19の下に配置されたバッテリパック17をさらに備える。前記バッテリパック17は、電気エンジンまたは複数の電気エンジンによって車両に動力を供給するために使用される電気エネルギーを貯蔵するために使用される。
【0032】
図1および
図3を参照すると、各後部レール3は、少なくとも以下を備える。
【0033】
後部バンパーアセンブリ5と同じ高さで実質的に長手方向に延在し、その後端部で後部バンパーアセンブリ5に取り付けられた後部部分20。特定の実施形態では、後部部分20は、後部部分20の断面を局所的に変化させるように設計された幾何学的変化部25が設けられており、それによって後部部分20の圧縮荷重の場合に機械的トリガとして作用する。幾何学的変化部25は後部部分20の残りの部分とは異なる断面を有するので、幾何学的変化部が後部部分20の本体よりも小さい断面を有する場合には、それが後部部分20の本体の前で座屈によって変形するか、あるいは幾何学的変化部が後部部分20の本体よりも大きい断面を有する場合には、それが座屈変形を2つの幾何学的変化部の間で生じさせる。有利には、後部部分20の長さに沿って、いくつかのかかる幾何学的変化部25を配置することによって、衝突の場合に、変形の制御された座屈モードを促進し、後部部分20の制御された座屈の正確な挙動を制御することができる。拡張により、そのような幾何学的変化部は、材料が断面の一部に沿って除去された後部部分20内の領域からなることができることに留意されたい。断面内にこのような穴が存在すると、断面が局所的に低下するため、座屈が優先的に発生する領域として作用する。
【0034】
後部部分20よりも低い高さで実質的に長手方向に延在し、車両横方向補強構造11に取り付けられる前部部分24。
少なくとも上部屈曲部21と下部屈曲部23とを備える遷移領域22。前記上部屈曲部21は、後部部分20の前部を後部レール3の残りの部分に連結する屈曲領域であり、前記下部屈曲部23は、前部部分24の後部を後部レール3の残りの部分に連結する屈曲領域である。遷移領域22は、その後端部の上部屈曲部21と、その前端部の下部屈曲部23と、によって画定される。前記屈曲部21、23の存在は、後部レール3が、異なる高さで長手方向に延在する2つの異なる水平部分、後部部分20および前部部分24を備えることを可能にする。
【0035】
前部部分24は、例えばスポット溶接によって、横方向補強構造11に取り付けられる。例えば、後部部分24は、横方向補強構造11の両方の部分であるサイドシルまたはCピラーロアに取り付けられる。取り付けは、例えば、後部部分24の以下の平坦面、すなわちフランジ26、垂直壁28、または底壁30の一方にスポット溶接することによって行われることができる。
【0036】
遷移領域22が作られる材料は、少なくとも0.6の破壊ひずみおよび、少なくとも75°の臨界曲げ角度を有する。これにより、上部屈曲部21および下部屈曲部23が衝突中に屈曲して変形することが保証され、後述するように、破損することなく最大のエネルギー吸収を保証する。
【0037】
遷移領域22が作られる材料は、遷移領域22の平均厚さと極限引張強度との積が、後部部分20の平均厚さと極限引張強度との積の1~1.5倍に含まれるようなものである。材料の平均厚さと極限引張強度との積は、所与の荷重下で変形するこの材料の傾向の尺度である。この積が高いほど、材料は変形しにくい。本発明の設計は、後に詳述するように、後部部分20が完全に変形されると、遷移領域22が後部レール3におけるエネルギー吸収の役割を引き継ぐことを保証する。
【0038】
図4A、
図4B、および
図4Cに示すように、FMVSS301の標準化された衝突などの後部衝突の場合の一連の事象をより詳細に見ると、
図4Aは、可動変形可能バリアが当たる前の後部構造を示す。可動変形可能バリアによって加えられる衝撃力Fが図に示されている。これは長手方向を有し、車両の幅の70%に作用し、車両の左側はバリアによって完全に覆われ、車両の右側の30%はバリアの影響を受けない。
【0039】
図4Bに示すように、バリアは、最初に後部バンパービーム7に衝突し、後部バンパービーム7は、衝撃力Fをクラッシュボックス9に伝達し、クラッシュボックス9は、制御された座屈によって変形し、それ自体が衝撃力Fを後部レール3に伝達する。車両の左側に向かって70%のオーバーラップのため、左側の後部レール3は、右側の後部レール3よりも衝突シナリオに関与する。後部衝突の場合の後部レール3の重要な役割は、この段階で明らかである。衝撃によって発生した衝撃力Fは、最初に後部部分20に伝達され、これは制御された座屈によって変形し、それによって衝撃エネルギーの機械的変形部分によって吸収される。
【0040】
図4Cに示すように、後部部分20が完全に押しつぶされると、遷移領域22は衝撃力Fの圧力を受ける。前部部分24は横方向補強構造11に取り付けられているので、後部衝突中に前部部分24は移動しない。これにより、衝撃力Fに対する反力Rが生成される。したがって、遷移領域22は、衝撃力Fと反力Rとの複合効果を受け、反対方向に略長手方向に、かつ2つの異なる隆起で作用する。衝撃力Fは後部部分20の隆起に追従し、反力Rは前部部分24の隆起に追従する。FおよびRの複合効果の下で、遷移領域22は、応力集中が最も高い領域、すなわち上部屈曲部21および下部屈曲部23において変形する。FとRの複合効果は、上部屈曲部21および下部屈曲部23に曲げモーメントを生じさせ、これは、これらの領域に曲げ変形をもたらし、それによって衝突のエネルギーのかなりの量を吸収する。
【0041】
前部部分24は、横方向補強構造11の要素に取り付けられているため、衝突中に大きく変形しないことに留意されたい。これにより、各後部レール3の前部部分24の間に位置する空間が、後部衝突中に侵入されないことが保証される。したがって、この空間内に、例えば、バッテリパック17の後端部などの敏感な要素を有することが可能であり、これにより、後部フロアパネルの後端部まで延在することができる。バッテリパック17が大きいほど、より多くのエネルギーが貯蔵されることができ、したがって、電動車両を設計する際の重要なポイントである、車両の範囲がより長くなる。各後部レール3の前部部分24の間に侵入防止領域を保証することによって、本発明は、後部フロアパネルの後端部まで延在する長いバッテリパック17を設計することを可能にする。
【0042】
遷移領域22は、0.6の最小破壊ひずみおよび少なくとも75°の臨界曲げ角度を有するので、上部屈曲部21および下部屈曲部23は、FおよびRの複合効果下で破断せず、むしろ変形する。遷移領域22の最小破壊ひずみおよび臨界曲げ角度が低すぎる場合には、上部屈曲部および下部屈曲部に亀裂が急速に発生し、部品の致命的な故障が後に続く。これにより、衝突エネルギー吸収が大幅に低下し、乗客にとって重大な安全上の問題が発生し、バッテリパックが損傷する可能性がある。
【0043】
前述のように、遷移領域22の平均厚さと極限引張強度との積は、少なくとも後部部分20の平均厚さと極限引張強度との積以上である。これにより、後部レール3内の一連の変形を制御することができ、制御された座屈によって後部部分20が最初に変形し、その後に初めて遷移領域22の変形シーケンスを開始することが保証される。後部部分20が幾何学的変化部25をさらに含んでいる特定の実施形態では、後部部分20は圧縮荷重下で変形する傾向がさらに大きくなり、衝突中の一連の事象に堅牢性を加える。
【0044】
上記で詳述したように、衝突中に後部レール3の挙動が所定の一連の変形に追従することを確実にすることは、車両設計者にとって重要である。実際、設計者は、次に何が起こるかを予測し、それに応じて車両の乗客および重要な要素の最良の保護を保証するように計画することができる。
【0045】
前述のように、遷移領域22の平均厚さと極限引張強度との積は、後部部分20の平均厚さと極限引張強度との積の1.5倍以下である。実際、遷移領域22が、剛性が高すぎて衝突の衝撃下で変形しにくい場合には、遷移領域22は、著しく変形することなく、侵入防止領域として作用する。これは、後部レール3によって吸収されるエネルギーを大幅に減少させ、それによって衝突から伝達される運動エネルギーの量を増加させ、車両および周囲の車両の乗客も危険にさらす可能性がある。
【0046】
特定の実施形態では、後部レール3が作られる材料は、少なくとも700MPaの極限引張強度を有する。有利には、これは後部レール3に対する構造的安定性を保証し、また、衝突中に変形するときに、後部レール3が重要な量のエネルギーを吸収することを保証する。
【0047】
特定の実施形態では、後部レール3の少なくとも一部は、ホットスタンピング後に少なくとも1000MPaの引張強度を有する材料をホットスタンピングすることによって作製される。有利には、ホットスタンピング技術の使用は、成形後に高抵抗でスプリングバックの問題のない複雑な形状を製造することを可能にする。さらに、最終部分に1000MPaを超える機械的抵抗を有する高強度材料を使用することにより、衝突中の高いエネルギー吸収が保証される。
【0048】
例えば、上述のプレス硬化鋼は、重量%で、0.20%≦C≦0.25%、1.1%≦Mn≦1.4%、0.15%≦Si≦0.35%、≦Cr≦0.30%、0.020%≦Ti≦0.060%、0.020%≦Al≦0.060%、S≦0.005%、P≦0.025%、0.002%≦B≦0.004%であり、残りは鉄および加工の結果生じる不可避不純物である。
【0049】
特定の実施形態では、後部レール3の少なくとも一部は、少なくとも950MPaの引張強度を有する材料をコールドスタンピングすることによって作製される。有利には、最終部品に、950MPaを超える機械的抵抗を有する高強度材料を使用することにより、衝突中の高いエネルギー吸収が保証される。さらに、前の実施形態で述べたようにホットスタンピングではなくコールドスタンピングを使用することにより、製造コストを削減することができる。
【0050】
例えば、後部レール3は、材料をコールドスタンピングすることによって作製され、該材料は、重量%で0.13%<C<0.25%、2.0%<Mn<3.0%、1.2%<Si<2.5%、0.02%<Al<1.0%、1.22%<Si+Al<2.5%、Nb<0.05%、Cr<0.5%、Mo<0.5%、Ti<0.05%、残りはFeおよび不可避不純物、を含む化学組成を有し、8%~15%の残留オーステナイトを含む微細構造を有し、残りはフェライト、マルテンサイトおよびベイナイトであり、マルテンサイト分率およびベイナイト分率の合計は70%~92%の間に含まれる。。
【0051】
別の例では、後部レール3は、材料をコールドスタンピングすることによって作製され、該材料は、重量%で0.15%<C<0.25%、1.4%<Mn<2.6%、0.6%<Si<1.5%、0.02%<Al<1.0%、1.0%<Si+Al<2.4%、Nb<0.05%、Cr<0.5%、Mo<0.5%、残りはFeおよび不可避不純物、を含む化学組成を有し、10%~20%の残留オーステナイトを含む微細構造を有し、残りはフェライト、マルテンサイトおよびベイナイトである。
【0052】
特定の実施形態によれば、後部レール3は、テーラード溶接ブランクをスタンピングすることによって作製される。テーラード溶接ブランクは、コールドスタンピングのために異なる厚さおよび強度レベルの材料で作製されることができる。あるいは、ホットスタンピングのために異なる厚さおよび強度レベルの材料で作製されることができる。有利には、異なるグレードおよび厚さを使用することにより、設計者はより柔軟に部品の性能および重量を最適化することができる。さらに、それは、平均厚さによる極限引張強度が遷移領域22のそれよりも小さくなるような材料を、後部部分20に配置することによって後部レール3の変形順序をさらに制御することを可能にする。上記で説明したように、これは、後部衝突の場合に後部部分20を最初に変形させる。
【0053】
特定の実施形態によれば、後部レール3は、テーラーロールドブランクをスタンピングすることによって作製される。これは、前述のテーラード溶接ブランクの場合と同様の利点を提供する。例えば、後部部分20は、遷移領域22よりも低い平均厚さを有する材料で作製される。
【0054】
特定の実施形態では、後部レールは、0.8mm~2.0mmの間に含まれる平均厚さを有する材料で作製される。例えば、後部レール3は、前部部分24および遷移領域22に対応する、1.1mmの平均厚さおよびホットスタンピング後の1000MPaを超える極限引張強度を有する材料からなる第1の部分と、後部レール3の後部部分20に対応する、0.9mmの平均厚さおよびホットスタンピング後の1000MPaを超える極限引張強度を有する材料からなる第2の部分と、を有するテーラード溶接ブランクをホットスタンピングすることによって作製される。
【0055】
次に、上述した後部構造を製造するための方法が説明される。それは、
ブランクを提供するステップと、
ブランクを後部レール3の形状にスタンピングするステップと、
後部レール3を後部バンパーアセンブリ5に取り付けるステップと、
後部レール3を横方向補強構造11に取り付けるステップと、
を備える。
【国際調査報告】