(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-14
(54)【発明の名称】肺がんリスクについて検査するためのキットおよび方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6886 20180101AFI20221107BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20221107BHJP
C12Q 1/6827 20180101ALI20221107BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6827 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022515482
(86)(22)【出願日】2020-09-08
(85)【翻訳文提出日】2022-04-25
(86)【国際出願番号】 US2020049629
(87)【国際公開番号】W WO2021046502
(87)【国際公開日】2021-03-11
(32)【優先日】2019-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502409721
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・トレド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】ウィリー,ジェームズ・シー
(72)【発明者】
【氏名】クレイグ,ダニエル・ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ブロムクイスト,トーマス・エム
(72)【発明者】
【氏名】クロウフォード,エリン・エル
(72)【発明者】
【氏名】ヨー,ジ-ヨン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA17
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS28
4B063QX02
(57)【要約】
肺がんを発症するリスクを診断するためのキットおよび方法、ならびにこれらの使用が記載される。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺がんドライバー遺伝子のセットにおける複数の低バリアントアレル頻度(VAF)突然変異を測定するための試薬、および
そのための指示
を含む肺がんリスク検査キット。
【請求項2】
a)各標的遺伝子のためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プライマー、
b)各標的遺伝子のための合成内部標準、および
c)PCR産物を次世代シーケンシングのためのライブラリーとして調製するための試薬
を含む、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
肺がんドライバー遺伝子のセットが、TP53、PIK3CA、BRAF、KRAS、NRAS、NOTCHI、EGFR、およびERBB2の1つ以上を含む、請求項1に記載のキット。
【請求項4】
肺がんドライバー遺伝子のセットが、CDKN1A、E2F1、ERCC1、ERCC4、ERCC5、GPX1、GSTP1、KEAP1、RB1、TP63、およびXRCC1の1つ以上を含む、請求項1に記載のキット。
【請求項5】
複数のVAF突然変異体の測定に必要な試薬および指示を提供する、請求項1に記載のキット。
【請求項6】
複数の患者標本における検査を行うために必要な試薬および指示を提供する、請求項1に記載のキット。
【請求項7】
a)対象から生体サンプルを得るステップ、
b)生体サンプル中の、肺がんドライバー遺伝子のセットにおける複数の低バリアントアレル頻度(VAF)突然変異を測定して、物理的データを得て、生体サンプルにおけるVAF突然変異のレベルがコントロールにおけるレベルよりも高いかどうかを決定するステップ、
c)ステップb)で得られたレベルを、コントロールにおけるレベルと比較するステップ、
d)不正確性の原因、偽陽性、および偽陰性についてコントロールすることによって、真の突然変異とアーチファクトとの間を区別するステップ、ならびに
e)生体サンプルにおけるレベルがコントロールにおけるレベルと有意に異なることを物理的データが示す場合には、対象が肺がんを発症するリスクを有すると同定するステップ
を含む、対象が肺がんを発症するリスクを有するかどうかを診断する方法。
【請求項8】
肺がんドライバー遺伝子のセットが、TP53、PIK3CA、BRAF、KRAS、NRAS、NOTCHI、EGFR、およびERBB2の1つ以上を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
肺がんドライバー遺伝子のセットが、CDKN1A、E2F1、ERCC1、ERCC4、ERCC5、GPX1、GSTP1、KEAP1、RB1、TP63、およびXRCC1の1つ以上を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
低VAF突然変異の測定が、
数が分かっている合成内部標準分子と比較した標本解析物の測定に基づいて、各標本における各解析物の測定の検出限界/定量限界を計算するステップ
を含む、請求項7、8、または9に記載の方法。
【請求項11】
方法が、
1)様々な融解温度を有するプライマーによる特異的標的へのアニーリングを可能にするため、マルチプレックス勾配PCRを行うステップ、
2)シングルプレックスPCRと、その後の、定量、およびシーケンサーへの等しいロードを可能にする等モルでの混合を行うステップ
を行うことを含み、PCR標的が、肺がんおよび肺の前がん病変の発生率の高さに基づいて選択される、請求項7、8、または9に記載の方法。
【請求項12】
診断または評価が、
肺がんの診断、
肺がんのステージの診断、
肺がんのタイプまたは分類の診断、
肺がんの再発の診断または検出、
肺がんの退縮の診断または検出、
肺がんの予後、および
外科的または非外科的療法に対する肺がんの応答の評価
の1つ以上を含む、請求項7、8、または9に記載の方法。
【請求項13】
肺がんが非小細胞肺がんである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
対象が充実性腫瘍の切除のための外科手術および/または化学療法および/または放射線療法を受けている、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
対象に、継続中の短期的評価を行うステップをさらに含む、請求項7、8、または9に記載の方法。
【請求項16】
対象に抗がん剤での治療を行うステップをさらに含む、請求項7、8、または9に記載の方法。
【請求項17】
VAFが<0.01%である、請求項7、8、または9に記載の方法。
【請求項18】
VAFが約5×10
-4(0.05%)である、請求項7、8、または9に記載の方法。
【請求項19】
内部標準を含めると、0.05%という低さのバリアント頻度の突然変異が確実に測定され、内部標準を含めない場合には5%である、請求項7、8、または9に記載の方法。
【請求項20】
内部標準を含めると、固有分子インデックス(UMI)を使用することなく、0.01%という低さのVAFを有する低バリアント頻度突然変異が確実に測定される、請求項7、8、または9に記載の方法。
【請求項21】
生体サンプルが、気道上皮細胞に由来するRNAまたはDNAを含む、請求項7、8、または9に記載の方法。
【請求項22】
生体サンプルが、呼気凝縮液および鼻ブラッシングによって得られた気道上皮細胞を含む、非侵襲的に得られた標本を含む、請求項7、8、または9に記載の方法。
【請求項23】
肺がんと診断された対象に対する実行可能な治療法の推奨を決定する方法であって、
a)対象から生体サンプルを得るステップ、
b)EGFR、ALK、ROS1、KRAS、BRAF、ERBB2、ERRBB4、MET、RET、FGFR1、FGFR2、FGFR3、DDR2、NRAS、PTEN、MAP2K1、TP53、STK1、CTNNB1、SMAD4、FBXW7、NOTCH1、KIT/PGDFRA、PIK3CA、AKT1、およびHRAS遺伝子にハイブリダイズし、これらを増幅するプローブのセットを使用して、正の値を有する少なくとも1つの特徴を検出することによって、正の値の閾値基準を満たす少なくとも1つの特徴を検出するステップ、ならびに
c)正の値が検出された少なくとも1つの正の特徴に基づいて、対象に対する実行可能な処置の推奨を決定するステップ
を含む、方法。
【請求項24】
医療管理の前に、肺がんを発症するリスクが、請求項1に記載のキットを使用することによって見積もられる、肺がんを発症するリスクを有する患者を処置する方法であって、
肺がんを発症するリスクが低い患者には通常の長期的評価が行われ、その後、医療処置が投与される、ならびに/または
肺がんを発症するリスクが高い患者もしくは肺がんに罹患している患者には、肺がんのスクリーニング、および/もしくは肺がんを予防するための医療処置、医療および/もしくは放射線照射、および/もしくは病変を除去するための外科手術が行われる、
方法。
【請求項25】
地域研究所でのキット形式または方法形式での肺がんリスク検査についてのFDAおよび他の規制当局による承認を促進するための、ここに記載のキットおよび方法の使用。
【請求項26】
地域研究所でのキット形式または方法形式での、がんの標的療法を導くがん細胞における突然変異を測定するための検査についてのFDAおよび他の規制当局による承認を促進するための、ここに記載のキットおよび方法の使用。
【請求項27】
地域研究所でのキット形式または方法形式での、がんの標的療法を導くがん細胞におけるVAFが非常に低い(0.01%という低さ)突然変異を固有分子インデックス(UMI)を用いずに測定するための検査についてのFDAおよび他の規制当局による承認を促進するための、ここに記載のキットおよび方法の使用。
【請求項28】
呼気凝縮液、気管支ブラッシング標本、および/または鼻ブラッシング標本などの非侵襲的に得られた標本における肺がんリスクの測定を可能にするための、ここに記載のキットおよび方法の使用。
【請求項29】
気道上皮細胞における、VAFが非常に低い突然変異の測定を可能にするための、ここに記載のキットおよび方法の使用。
【請求項30】
がんの標的療法を導く、がん細胞における突然変異を測定するための、ここに記載のキットおよび方法の使用。
【請求項31】
正常気道細胞における遺伝子セット内の突然変異を測定してがんのリスクを決定するための、ここに記載のキットおよび方法の使用。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001]本願は、その開示全体が参照によって本明細書に明確に組み込まれる、2019年9月8日に出願された米国仮特許出願番号第62/897,343号の利益を主張する、2020年9月8日に出願された国際出願PCT/US2020/xxxxxxの、35 USC §371の下で出願された国内段階出願である。
【0002】
連邦政府資金による研究の記載
[0002]本発明は、米国国立衛生研究所によって付与された認可番号CA086368、および米国国立がん研究所によって付与されたEarly Detection Research Network Sub-Award 0000921356の下で、政府支援を伴ってなされた。政府は、本発明においてある一定の権利を有する。
【技術分野】
【0003】
発明の分野
[0003]本発明は、肺がんリスクを検査するためのキットおよび方法に関する。
【背景技術】
【0004】
[0004]肺がんは、男性および女性におけるがん関連死の主因であり、喫煙は、最も重要な回避可能なリスク因子である。広く禁煙の取り組みがされているが、過去のおよび継続している煙草の使用に起因して、また進行した疾患の効果的な治療法がないことに起因して、肺がんは、今後数十年にわたり、最も致死的ながんであり続けるであろう。
【0005】
[0005]肺がん死を低減させるための第1の戦略は、タバコ製品への曝露の低減を介する、ならびに、それが早期ステージおよび治癒可能である場合には、肺がんを診断するための毎年の低線量CT(LDCT)スキャンによるハイリスク対象のスクリーニングによる予防である。毎年のLDCTスクリーニングは、肺がん死亡率を有意に低減させる。しかし、個体群統計学的基準に従うと、スクリーニングが現在推奨されている人の間で、肺がんリスクに大きな個体間の変動がある。全体として、スクリーニング基準を現在満たしている人の間で肺がんの発生率は低く(すなわち<10%)、これは、陽性適中率および特異性が低いことと関連している。
【0006】
[0006]しかし、1つの課題は、がんが多くの固有の集団サブクローンを有していることである。感受性クローンを死滅させると、生存のために、耐性をもたらす突然変異が選択される。
【0007】
[0007]現在の戦略は、耐性が発現した場合に再びサンプリングすること、および新たな優勢クローンを同定することである。しかし、耐性サブクローンおよび潜在的ドライバーの同定は、アッセイの詳細さのレベルに依存する。また、従来のNGS法は、複数の不正確性の原因に起因して、シグナルのアーチファクトを生じさせ、これは、<2.5%のバリアントアレル頻度(VAF)を有する突然変異の同定を困難にしている。
【0008】
[0008]加えて、臨床的NGSにおける不正確性の原因の一部の非限定的な例には、PCR増幅を伴うライブラリー調製(アンプリコンおよびハイブリッドキャプチャー)に起因する、およびシーケンシングに起因する技術的エラーが含まれ、ライブラリー調製は、ポリメラーゼの非忠実性に対応する割合でエラーを導入し(約10-4)、シーケンシングでは、各次世代シーケンシング(NGS)プラットフォームは、DNA鎖を正確にシーケンシングするその能力を制限している、それに付随するヌクレオチド置換エラー率を有している。
【0009】
[0009]臨床的NGSにおける他の不正確性の原因には、確率論的なサンプリングエラーを生じさせる、サンプル量の変動が含まれる。診断用サンプルは限定的であり得、それは、例えば微細針吸引(FNA)では細胞学的分析に必要な量を超えるわずかな材料が得られ、および/またはコア生検では、組織学的分析に必要な量をわずかに超える量が得られるためである。加えて、循環腫瘍DNA(ctDNA)は非常に変動性が高く、かつ疾患の進行に依存し、そのため、測定可能なゲノムコピーは、血漿サンプルにおいて限定的であることが多い。
【0010】
[0010]臨床的NGSにおける他の不正確性の原因には、DNAが処理の際に損傷を受け得、より高い割合の、真の生物学的変動の典型ではない技術的エラーを生じさせる、サンプルクオリティーエラーが含まれる。例えば、DNA損傷の原因は、細胞組織の保存のためのホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)法を含む処理の際、ならびに、DNA抽出およびシーケンシングプロトコルの際に生じる。多くのエビデンスが、FFPE損傷が系統的かつ時間依存的であることを示している。
【0011】
[0011]したがって、標準化および品質コントロールの両方が、低頻度バリアントコールに実験室間での整合性をもたらすために必要である。
[0012]例えば、最近の研究において、バリアントアレル頻度(VAF)が>1.0%の突然変異を測定し得るターゲットNGSが、対象群から得た肺がん組織および隣接した適合正常組織におけるドライバー遺伝子体細胞突然変異を見積もるために使用された。肺がんのドライバーであることが分かっている多くの突然変異が、各がんに非常に近接する非がん肺組織において同定された。したがって、VAFが>1%の突然変異の測定は、広く認められる肺がんの容易な診断および/または遺伝的特徴付けのためのバイオマーカーの開発をサポートし得る。しかし、クローンの出現率は、がん部位からの距離に比例して減少し、がんに罹患していない肺の正常気道または鼻上皮では非常にわずかな突然変異体があるのみである。したがって、このアプローチは、将来的に付随する肺がんリスクについての非侵襲的な検査の開発をサポートするものではなかった。(Kadara H、Sivakumar S、Jakubek Y、San Lucas FA、Lang W、McDowell Tら、Mutations in Normal Airway Epithelium Elucidate Spatiotemporal Resolution of Lung Cancer、Am J Respir Crit Care Med.、2019)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
[0013]したがって、肺がんリスクに非常に関連する検査特徴の組み合わせのNGS測定、ならびにまた、NGSに伴う量的および質的な技術的エラーのより良好なコントロールを可能にする方法およびキットが必要である。これらの要求を満たすことで、肺がんリスクに従った、個体のより正確な層別化が可能となり、これによって、LCDTスクリーニングに関連するコストおよび害が低減する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[0014]第1の態様において、肺がんドライバー遺伝子のセットにおける複数の低VAF(VAF<1%として定義される)突然変異体を測定するための試薬、およびそのための指示を含む肺がんリスク検査キットが、本明細書において記載される。
【0014】
[0015]ある特定の実施形態において、キットは、次世代シーケンシングによって正常気道上皮細胞における複数の遺伝子の発現および/または体細胞突然変異を測定するための試薬を含み、当該キットは、各標的遺伝子のためのPCRプライマー、各標的遺伝子のための合成内部標準、およびPCR産物を次世代シーケンシングのためのライブラリーとして調製するための試薬を含む。
【0015】
[0016]ある特定の実施形態において、キットは、次世代シーケンシングによって正常気道上皮細胞における複数の遺伝子の発現および/または体細胞突然変異を測定するための試薬を含み、当該キットは、各標的遺伝子のためのDNAキャプチャープローブ、各標的遺伝子のための合成内部標準、およびbait-キャプチャー産物を次世代シーケンシングのためのライブラリーとして調製するための試薬を含む。
【0016】
[0017]ある特定の実施形態において、VAFは<0.01%である。
[0018]ある特定の実施形態において、VAFは、約5×10-4(0.05%)である。
【0017】
[0019]ある特定の実施形態において、内部標準を含めると、0.05%という低さのバリアント頻度の突然変異が確実に測定され、内部標準を含めない場合には5%である。
[0020]ある特定の実施形態において、内部標準を含めると、0.05%という低さのバリアント頻度の突然変異が確実に測定される。
【0018】
[0021]ある特定の実施形態において、本キットまたは本方法は、無条件で、0.05%という低さのVAFの測定を可能にする(すなわち、含めない場合には5%)。
[0022]ある特定の実施形態において、合成内部標準が含まれる。
【0019】
[0023]ある特定の実施形態において、肺がんリスクに関連するドライバー遺伝子は、TP53、PIK3CA、BRAF、KRAS、NRAS、NOTCHI、EGFR、およびERBB2の1つまたは複数を含む。
【0020】
[0024]ある特定の実施形態において、肺がんドライバーリスクに関連する遺伝子は、CDKN1A、E2F1、ERCC1、ERCC4、ERCC5、GPX1、GSTP1、KEAP1、RB1、TP63、およびXRCC1の1つまたは複数を含む。
【0021】
[0025]ある特定の実施形態において、解析物は、気道上皮細胞のRNAまたはDNAにおいて測定される。
[0026]ある特定の実施形態において、解析物は、呼気凝縮液および/または鼻ブラッシングによって得られた気道上皮細胞を含む、非侵襲的に得られた標本において測定される。
【0022】
[0027]ある特定の実施形態において、各キットまたは方法は、1つまたは複数の肺がんリスク検査に含まれる複数の解析物の測定に必要な試薬および指示を提供する。
[0028]ある特定の実施形態において、各キットまたは方法は、複数の患者標本の各検査に含まれる各解析物を測定するために使用される。
【0023】
[0029]別の態様において、対象が肺がんを発症するリスクを有するかどうかを診断する方法が、本明細書において記載される。一実施形態において、本方法は、以下を含む:
[0030]対象から生体サンプルを得るステップ、
[0031]生体サンプルにおける肺がんドライバー遺伝子セットのレベルを、本明細書における請求項のいずれか一つに記載のキットのいずれか一つを使用して測定して、物理的データを得て、生体サンプルにおけるレベルがコントロールにおけるレベルよりも高いかどうかを決定するステップ、
[0032]生体サンプルにおけるレベルを、コントロールにおけるレベルと比較するステップ、
[0033]不正確性の原因、偽陽性、および偽陰性についてコントロールすることによって、真の突然変異とアーチファクトとの間を区別するステップ、ならびに
[0034]生体サンプルにおけるレベルがコントロールにおけるレベルと有意に異なることを物理的データが示す場合には、対象が肺がんを発症するリスクを有すると同定するステップ。
【0024】
[0035]別の態様において、以下を含む、肺がんと診断された対象に対する実行可能な処置の推奨を決定する方法が、本明細書において記載される:
[0036]対象から生体サンプルを得、EGFR、ALK、ROS1、KRAS、BRAF、ERBB2、ERRBB4、MET、RET、FGFR1、FGFR2、FGFR3、DDR2、NRAS、PTEN、MAP2K1、TP53、STK1、CTNNB1、SMAD4、FBXW7、NOTCH1、KIT/PGDFRA、PIK3CA、AKT1、およびHRAS遺伝子にハイブリダイズし、これらを増幅するプローブのセットを使用して、正の値の閾値基準を満たす少なくとも1つの特徴を検出することによって、正の値の閾値基準を満たす少なくとも1つの特徴を検出するステップ、ならびに
[0037]陽性値が検出された少なくとも1つの特徴に基づいて、対象に対する実行可能な処置の推奨を決定するステップ。
【0025】
[0038]別の態様において、肺がんを発症するリスクを有する患者を処置する方法が本明細書において記載され、当該方法において、医療管理(例えば、肺がんのスクリーニングおよび/または予防的処置)の前に、肺がんを発症するリスクが、本明細書における請求項に記載されるキットのいずれか一つを使用することによって見積もられ、そして
[0039]肺がんを発症するリスクが低い患者には通常の長期的評価が行われ、その後、医療処置が投与される、および
[0040]肺がんを発症するリスクが高い患者または肺がんに罹患している患者には、予防的医療管理または病変を除去するための外科手術が行われ、その後、医療処置が投与される。
【0026】
[0041]ある特定の実施形態において、低VAF突然変異体の測定は、以下を含む:
[0042]数が分かっている合成内部標準分子と比較した標本解析物の測定に基づく、各標本における各解析物の測定の検出限界/定量限界の計算。
【0027】
[0043]ある特定の実施形態において、本方法は、以下のステップを行うことを含む:
[0044]ステップ1)様々な融解温度を有するプライマーによる特異的標的へのアニーリングを可能にするための、マルチプレックス勾配PCR、
[0045]ステップ2)シングルプレックスPCRと、その後の、定量、およびシーケンサーへの等しいロードを可能にする等モルでの混合、ならびに、
[0046]ステップ3)肺がんおよび肺の前がん病変の発生率の高さに基づいて選択されたPCR標的。
【0028】
[0047]ある特定の実施形態において、診断または評価は、肺がんの診断、肺がんのステージの診断、肺がんのタイプもしくは分類の診断、肺がんの再発の診断もしくは検出、肺がんの退縮の診断もしくは検出、肺がんの予後、または外科的もしくは非外科的療法に対する肺がんの応答の評価の1つまたは複数を含む。
【0029】
[0048]ある特定の実施形態において、肺がんは、非小細胞肺がんである。
[0049]ある特定の実施形態において、検査対象は、充実性腫瘍の切除のための外科手術および/または化学療法および/または放射線療法を受けている。
【0030】
[0050]ある特定の実施形態において、本方法は、患者に、継続中の短期的評価を行うステップをさらに含む。
[0051]ある特定の実施形態において、本方法は、患者に抗がん剤での治療を行うステップをさらに含む。
【0031】
[0052]別の態様において、地域研究所でのキット形式または方法形式での肺がんリスク検査についてのFDAおよび他の規制当局による承認を促進するためのキットおよび方法の使用が、本明細書において記載される。
【0032】
[0053]別の態様において、地域研究所でのキット形式または方法形式での、がんの標的療法を導くがん細胞における突然変異を測定するための検査についてのFDAおよび他の規制当局による承認を促進するためのキットおよび方法の使用が、本明細書において記載される。
【0033】
[0054]別の態様において、地域研究所でのキット形式または方法形式での、がんの標的療法を導くがん細胞におけるVAFが非常に低い(0.01%という低さ)突然変異を固有分子インデックス(unique molecular indices)(UMI)を用いずに測定するための検査についてのFDAおよび他の規制当局による承認を促進するためのキットおよび方法の使用が、本明細書において記載される。
【0034】
[0055]別の態様において、呼気凝縮液、気管支ブラッシング標本、および/または鼻ブラッシング標本などの非侵襲的に得られた標本における肺がんリスクの測定を可能にするためのキットおよび方法の使用が、本明細書において記載される。
【0035】
[0056]別の態様において、気道上皮細胞における、VAFが非常に低い突然変異の測定を可能にするためのキットおよび方法の使用が、本明細書において記載される。
[0057]別の態様において、がんの標的療法を導く、がん細胞における突然変異を測定するためのキットおよび方法の使用が、本明細書において記載される。
【0036】
[0058]別の態様において、正常気道細胞におけるこれらの遺伝子内の突然変異を測定してがんのリスクを決定するためのキットおよび方法の使用が、本明細書において記載される。
【0037】
[0059]本発明の他のシステム、方法、特徴、および利点は、以下の図面および詳細な説明を調べることで、当業者に自明であるか、または自明となる。全てのこれらのさらなるシステム、方法、特徴、および利点は、本明細書に含まれ、本発明の範囲内であり、そして、添付の特許請求の範囲によって保護されるものである。
【0038】
[0060]特許書類または出願書類は、カラーで作成された1つもしくは複数の図面および/または1つもしくは複数の写真を有し得る。カラーの図面および/または写真を伴うこの特許公報または特許出願公開公報のコピーは、請求および手数料の支払をすれば、特許庁によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1A】[0061]患者の標本において同定された突然変異を示す図である。ISシーケンシングエラーに対するサンプル突然変異シグナル。19回のIS反復における対応するヌクレオチド特異的エラーバリアントのVAF(黒い丸)と比較した、サンプルの突然変異のバリアントアレル頻度(VAF)(赤い三角)。VAF=部位特異的バリアントアレルのリード数/全アレルのリード数。
【
図1B】[0062]VAF%が上昇すると、CA対象とNC対象との間の差がいかに弱まるかを示す図であり、これは、VAFが極度に低いバリアントを検出する重要性を強調している。クローンがそのVAFを有意なサイズまで上昇させると、免疫系はそれを排除する可能性が高い。したがって、低VAFクローンを同定することができるようになると、肺がんのリスクが高い人とリスクが低い人との間の区別が可能となる。
【
図2A】[0063]TP53突然変異の平均出現率のコホート間比較を示す図である。
図2A-それぞれの別個のTP53エキソン5、6、または7における各コホート内の対象での平均突然変異出現率(突然変異/標的塩基/対象)。
図2B-組み合わされた3つのTP53エキソン標的についての、コホート特異的および置換特異的な平均突然変異出現率。
図2C-TP53ホットスポット部位での突然変異の数。挿入図:突然変異のタイプに従った突然変異の数。突然変異は、VAF(バリアントアレルのリード数/全アレルのリード数)が>0.05%であり、分割表の解析に基づいてISバックグラウンドVAFを有意に上回るものと定義された。CA-SMK対象におけるTP53突然変異は、「ホットスポット」肺がんドライバー突然変異部位で有意に多かった。(p=0.002)。
【
図3】[0064]対象特異的な突然変異出現率のコホート間比較を示す図である。(
図3A)TP53エキソンのみにおける、または(
図3B)TP53エキソン、PIK3CA、およびBRAFにおける、対象特異的な突然変異出現率のコホート間比較。
【
図4A】[0065]EGFR突然変異の平均出現率のコホート間比較を示す図である。
図4A-各EGFRエキソン(18、19、20、または21)における各コホート内の対象での平均突然変異出現率(突然変異/標的塩基/対象)。
図4B-組み合わされた4つのEGFRエキソン標的についての、コホート特異的および置換特異的な平均突然変異出現率。
図4C-EGFRホットスポット部位での突然変異の数。挿入図:突然変異のタイプに従った突然変異の数。突然変異は、VAF(バリアントアレルのリード数/全アレルのリード数)が>5×10
-4(0.05%)であり、分割表の解析に基づいてISバックグラウンドVAFを有意に上回るものと定義された。
【
図5-1】[0066]Qiagen CLCゲノミクスワークベンチの設定を示す図である。
【
図6】[0067]NGSのための内部標準(IS)スパイク・イン分子の設計方法を示す略図である。
【
図7-1】[0068]異なるタイプの配列バリエーションについての、ネイティブ鋳型群および内部標準群での観察された配列バリエーションの頻度を示す図である。
【
図8】[0069]個々の反復のエラーおよび平均エラーを示す、4回の反復についての内部標準エラーを示す図である。
【
図9A】[0070]IS頻度(%)を示す、エキソンEGFR_18(赤)、EGFR_20(青)、およびEGFR_21(緑)についてのハイブリッドキャプチャーパネルを示す図である。
【
図9B】[0071]エキソンEGFR_18(赤)、EGFR_20(青)、およびEGFR_21(緑)についての、反復測定値を示すNT頻度(%)、ブランク限界(limit of blank)(LOB)、およびバリアントアレル頻度を示す図である。内部標準がない場合、ブランク限界(LOB)の計算は、全ヌクレオチド位置での全バリアントタイプにわたる平均エラー頻度に基づく。これは、検出限界(LOD)を効果的に上昇させ、VAFが<5%のバリアントの統計的決定を防ぐ。
【
図9C】[0072]内部標準は、検出限界(LOD)の部位特異的な決定を提供する、各ヌクレオチド位置での各バリアントタイプのブランク限界(LOB)の計算を可能にする。これによって、LOBが十分に低い場所での、VAFが<1%のバリアントの同定が可能となる。
【
図9D】[0073]エキソンEGFR_18(赤)、EGFR_20(青)、およびEGFR_21(緑)についての、予想されたNT、報告されたNT、および報告されたISの比較を示す図である。
【
図10】[0074]断片化されたFDAサンプルへの内部標準の適用を示す図である。
【
図11】[0075]TP53のトランス活性化ドメイン、TP53のDNA結合ドメイン、およびTP53の四量体化ドメインでのバリアントアレル頻度を示す、19回の内部標準反復にわたるTP53(エキソン6)でのトランジションシーケンシングエラーを示す図である。
【
図12】[0076]サンプル7におけるTP53(エキソン6)のトランジションバリアントを示す図である。
【
図13】[0077]ISと比較した19の患者標本における突然変異を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
[0078]本開示の全体を通して、様々な刊行物、特許、および公開された特許明細書が、特定的な引用によって参照される。これら刊行物、特許、および公開された特許明細書の開示はこれによって、本発明が関連する技術水準をより完全に説明するために、参照によって本開示に組み込まれる。
【0041】
定義および略記
[0079]AEC - 気道上皮細胞
[0080]CA-SMK - がん対象、喫煙者
[0081]COSMIC - がんにおける体細胞突然変異の一覧(Catalog of Somatic Mutations in Cancer)
[0082]FASMIC - がんにおける体細胞突然変異の機能的アノテーション(Functional Annotation of Somatic Mutations in Cancer)
[0083]FDA - 食品医薬品局
[0084]HUGO - ヒト遺伝子解析機構
[0085]IS - 内部標準、合成DNA
[0086]ISM - 内部標準混合物
[0087]LCRT - 肺がんリスク検査
[0088]LDCT - 低線量コンピュータ断層撮影
[0089]NC-NON - 非がん対象、非喫煙者
[0090]NC-SMK - 非がん対象、喫煙者
[0091]NC-TOT - 非がん対象、非喫煙者+喫煙者(全ての非がん対象)
[0092]NGS - 次世代シーケンシング
[0093]NT - ネイティブ鋳型、標的化された標本DNA領域に由来する
[0094]PCR - ポリメラーゼ連鎖反応
[0095]SNP - 一塩基多型
[0096]VAF - バリアントアレル頻度
[0097]TCGA - がんゲノムアトラス
【0042】
[0098]「遺伝子」は、1つまたは複数の発現分子、例えばRNAまたはポリペプチドを共にコードする、ゲノム内の1つまたは複数のヌクレオチド配列である。遺伝子は、RNAに転写されるコード配列を含み得、当該RNAは次いでポリペプチド配列に翻訳され得、また、遺伝子は、付随する、構造配列または遺伝子の複製もしくは発現において機能する調節配列を含み得る。
【0043】
[0099]マーカー、プローブ、またはプライマーの「セット」は、共通の目的(例えば、個体のがんを発症するリスクの見積もり)に使用される、マーカー、プローブ、プライマーのコレクションもしくは群、またはこれらに由来するデータを指す。多くは、マーカー、プローブ、もしくはプライマーに対応する、またはこれらの使用に由来するデータは、電子メディアに保存される。セットの構成員の各々は特定の目的に関して有用性を有するが、セットから、および一部のマーカーを含むが全てのマーカーは含まないサブセットから選択された個々のマーカーもまた、特定の目的の達成において効果的である。
【0044】
[00100]本明細書において使用される「標本」は、解析のために回収された材料、例えば、調査、診断、または他の目的のために任意の生物学的実体から例えば採取された、培養物のスワブ、つまみ取った組織、生検抽出物、一瓶の体液、例えば、唾液、血液、および/または尿などを指し得る。
【0045】
[00101]標本はまた、生検、例えば、内視鏡生検(ブラシおよび/または鉗子を使用する)、針吸引生検(微細針吸引生検を含む)で典型的に回収された量、ならびに、選別された細胞集団(例えば、流動選別された細胞集団)および/またはマイクロダイセクションされた材料(例えば、レーザーキャプチャーマイクロダイセクションされた組織)で提供される量も指し得る。例えば、疑わしいがん性病変の生検は、一般に、微細針吸引(FNA)生検によって行われ、骨髄もまた生検によって得られ、また、脳の組織、発生中の胚、および動物モデルは、レーザーキャプチャーマイクロダイセクションされたサンプルによって得られ得る。
【0046】
[00102]本明細書において使用される「生物学的実体」は、あらゆる種を含む、核酸を有し得るあらゆる実体、例えば、ウイルス、細胞、組織、インビトロ培養物、植物、動物、臨床試験に参加している対象、および/または、疾患もしくは状態について診断もしくは処置されている対象を指し得る。
【0047】
[00103]本明細書において使用される「サンプル」は、所与のアッセイ、反応、ラン、試験、および/または実験に使用される標本材料を指し得る。例えば、サンプルは、標本の全てまたは一部を含む、回収された標本材料のアリコートを含み得る。本明細書において使用される場合、アッセイ、反応、ラン、試験、および/または実験という用語は、区別せずに使用され得る。
【0048】
[00104]一部の実施形態において、回収された標本は、約10万個未満の細胞、約1万個未満の細胞、約5000個未満の細胞、約1000個未満の細胞、約500個未満の細胞、約100個未満の細胞、約50個未満の細胞、または約10個未満の細胞を含み得る。
【0049】
[00105]一部の実施形態において、核酸の見積もり、評価、および/または測定は、遺伝子の発現レベルを例えば決定するために、標本および/またはサンプルにおける核酸量の測定を提供することを指し得る。一部の実施形態において、量の測定の提供は、目的の核酸の存在または不存在を検出することを指す。一部の実施形態において、量の測定の提供は、例えば、核酸の量を定量すること、例えば、存在する核酸の濃度または量の程度の測定を提供することを指し得る。一部の実施形態において、核酸量の測定の提供は、核酸量を計数すること、例えば、サンプル中に存在する核酸分子の数を示すことを指す。「目的の核酸」は、「標的」核酸および/または「目的の遺伝子」と呼ばれ得、例えば、評価対象の遺伝子は、標的遺伝子と呼ばれ得る。核酸分子の数はまた、サンプルおよび/または標本中で見られる核酸コピーの数とも呼ばれ得る。
【0050】
[00106]本明細書において使用される場合、「核酸」は、あらゆる長さのポリマー形態のヌクレオチドおよび/またはヌクレオチド様分子を指し得る。ある特定の実施形態において、核酸は、例えばヌクレオチド単位の塩基相補的組み込みによる、相補的核酸の合成のための鋳型として役立ち得る。例えば、核酸は、天然のDNA、例えばゲノムDNA;RNA、例えばmRNAを含み得、かつ/または、限定はしないが任意の様式で生成されたcDNAおよび組換え分子を含む、合成分子を含み得る。例えば、核酸は、化学合成、逆転写、DNA複製、またはこれらの生成方法の組み合わせから生成され得る。サブユニット間の結合は、ホスフェート、ホスホネート、ホスホロアミデート、ホスホロチオエート、もしくはそれに類するものによって、または、限定はしないが、ペプチド核酸(PNA)において利用されるペプチドタイプの結合などの、非リン酸基によって、提供され得る。結合基は、キラルまたはアキラルであり得る。ポリヌクレオチドは、例えばDNA分子、RNA分子、またはハイブリッドDNA/RNA分子であり得る、一本鎖分子、二本鎖分子、および三重らせん分子を包含する、あらゆる三次元構造を有し得る。
【0051】
[00107]ヌクレオチド様分子は、ヌクレオチドとほぼ類似の作用をし得る、例えば、DNAもしくはRNAで生じる塩基の1つもしくは複数との塩基相補性を示す、および/または塩基相補的組み込みをし得る、構造部分を指し得る。用語「ポリヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド分子」、「核酸分子」、「ポリヌクレオチド配列」、および「核酸配列」は、本明細書において「核酸」と区別せずに使用され得る。一部の具体的な実施形態において、測定対象の核酸は、特異的遺伝子に対応する配列を含み得る。
【0052】
[00108]一部の実施形態において、回収された標本は、測定対象のRNA、例えば、組織培養物において発現しているmRNAを含む。一部の実施形態において、回収された標本は、測定対象のDNA、例えば、転写産物から逆転写されたcDNAを含む。一部の実施形態において、測定対象の核酸は、他の核酸分子の異種混合物中で提供される。
【0053】
[00109]本明細書において使用される用語「ネイティブ鋳型」は、増幅のための鋳型として機能し得る、標本から直接または間接得られる核酸を指し得る。例えば、ネイティブ鋳型は、その発現が測定対象である遺伝子に対応するcDNA分子を指し得、この場合、cDNAが増幅および定量される。
【0054】
[00110]用語「プライマー」は一般に、条件がプライマー伸長産物の合成に適切である場合に相補鎖に沿った合成の開始点として作用し得る、核酸を指す。
全体的な説明
[00111]サンプル中の核酸量を見積もるためのキットおよび方法が、本明細書において記載される。一部の実施形態において、本方法は、例えば、核酸が標本において少量で発現している場合、少量の核酸が無傷のままである場合、および/または少量の標本が提供される場合の、少量の核酸の測定を可能にする。
【0055】
NGSのための内部標準(IS)スパイク・イン分子の設計
[00112]まず
図6を参照すると、NGSのための内部標準(IS)スパイク・イン分子の設計方法の略図が示されている。
【0056】
[00113]ISは、既知の1つまたは複数のヌクレオチドの変化を除いて標的解析物と相同な、合成DNA分子である。
[00114]IS設計の目的:標的解析物DNAのネイティブ鋳型(NT)と同一であるが区別可能な形態で挙動すること
[00115]ISは以下を使用する:1)ライブラリープレップにおける各標的解析物NTの測定可能なゲノムコピーを定量する、および、2)定量し、ヌクレオチド部位特異的な技術的エラーを特徴付けする
[00116]ISの実装:1)サンプルDNAを数が分かっているIS分子と1:1のゲノムコピー比で混合し、その後、NGSライブラリーを調製する、2)IS+NT混合物を共増幅する、3)シーケンシングライブラリーを調製する、および4)サンプルをシーケンシングする。
【0057】
[00117]内部標準「スパイク・イン分子」は、1つまたは複数のヌクレオチド変化を使用してISリードをサンプルリードから分離する、カスタムperlスクリプトである。ネイティブ鋳型(NT)におけるエラープロファイルは、内部標準(IS)においてほとんど同一である。
【0058】
[00118]したがって、ISコントロールは、異なるタイプの配列バリエーションについての、ネイティブ鋳型群および内部標準群での観察された配列バリエーションの頻度を示す
図7に示すように、ライブラリー特異的なエラープロファイルについてコントロールする。
【0059】
[00119]さらに、
図8に示すように、ヌクレオチド特異的な技術的エラーは再現可能である。
図8は、個々の反復のエラーおよび平均エラーを示す、4回の反復についての内部標準エラーを示す。各NT塩基位置でのヌクレオチド特異的な技術的エラーは、対応するIS位置に適合する。また、DNAのランドスケープは、領域間でのおよびヌクレオチド間でのシーケンシングエラーに影響を及ぼすことが多く、つまり、ISおよびNTは同様の挙動をする。
【0060】
[00120]各反応へのISのスパイクは、したがって、ライブラリープレップ内の変動(例えば、干渉物質、パネル内およびパネル間のハイブリダイゼーション効率、ライゲーション効率、増幅)についてコントロールする。
【0061】
[00121]内部標準はまた不正確性の原因についてもコントロールし、各ヌクレオチドでの信頼区間:ヌクレオチド特異的エラーの頻度、プラットフォーム特異的エラー、およびポリメラーゼ特異的エラーを狭くすることを可能にする。
【0062】
[00122]
図9A~
図9Dは、内部標準が部位特異的なLOD(対数オッズ)を可能にすることを示している。
図9Aは、IS頻度(%)を示す、エキソンEGFR_18(赤)、EGFR_20(青)、およびEGFR_21(緑)についてのハイブリッドキャプチャーパネルを示している。
図9B~
図9Cは、エキソンEGFR_18(赤)、EGFR_20(青)、およびEGFR_21(緑)についての、反復測定値を示すNT頻度(%)、LOB、およびバリアントアレル頻度を示している。
図9Dは、エキソンEGFR_18(赤)、EGFR_20(青)、およびEGFR_21(緑)についての、予想されたNT、報告されたNT、および報告されたISの比較を示す。したがって、
図9A~
図9Dは、外部プロセス性能推定に基づく従来の方法が<5%のVAF測定をサポートしないことを示す。また、代替的な補正方法は複雑であり、10倍から20倍多くのシーケンシングリードを必要とする。
【0063】
[00123]
図10は、断片化されたFDAサンプルへの内部標準(IS)の適用を示す。既知の突然変異が、内部標準(IS)によって決定された部位特異的LOBに基づいてLODで同定されている。
【0064】
[00124]マルチプレックス勾配PCRは、様々な融解温度を有するプライマーによる特異的標的へのアニーリングを可能にする。シングルプレックスPCRと、その後の定量等モルでの混合は、シーケンサーへの等しいロードを可能にする。PCR標的は、肺がんおよび肺の前がん病変における発生率の高さに基づいて選択される。
【0065】
[00125]合成DNA内部標準(IS)を様々な肺がんドライバー遺伝子の各々について調製し、各AECゲノム(gDNA)標本と混合し、その後、競合マルチプレックスPCRアンプリコンNGSライブラリーを調製した。カスタムPerlスクリプトを作製して、ISリードおよび各標的のそれぞれの標本gDNAリードを、並行したバリアント頻度解析のための別個のファイルに分けた。このアプローチは、VAFが5×10-4(0.05%)と低い突然変異の信頼性の高い検出を可能にした。この方法を次いで、レトロスペクティブなケースコントロール研究に適用した。具体的には、AEC標本を11の肺がんケースおよび8の非がんコントロールを含む19の対象の正常な気道から気管支鏡ブラシ生検によって回収し、肺がんリスクとAECドライバー遺伝子突然変異との関係を試験した。
【0066】
[00126]
図11は、TP53のトランス活性化ドメイン、TP53のDNA結合ドメイン、およびTP53の四量体化ドメインでのバリアントアレル頻度(VAF)を示す、19回の内部標準(S)反復にわたるTP53(エキソン6)でのトランジションシーケンシングエラーの例である。
【0067】
[00127]
図12は、TP53のトランス活性化ドメイン、TP53のDNA結合ドメイン、およびTP53の四量体化ドメインでのバリアントアレル頻度(VAF)を示す、TP53(エキソン6)でのサンプルにおけるトランジションバリアントの例である。
【0068】
[00128]
図13は、ISと比較した19の患者標本における突然変異を示す。19の患者標本において、129の有意なバリアントが同定された。これらバリアントのVAFは、0.05%から0.46%の範囲である。99のバリアントが11のがん標本において見られた。30のバリアントが8の非がん標本においてみられた。また、がんを有する喫煙者のバリアントは、がんを有さない喫煙者と比較して有意に増大した。
【0069】
[00129]肺がんリスク検査において解析物を測定するための試薬および指示を含むキットまたは方法が、本明細書において記載される。
[00130]このキットまたは方法は、肺がんリスクについての検査に含めるために、これまでに記載されていない解析物を測定するための試薬を組み込む。
【0070】
[00131]具体的には、肺がんリスク検査(LCRT)キットまたは方法は、TP53、PIK3CA、BRAF、KRAS、NRAS、NOTCHI、EGFR、およびERBB2を含む、肺がんドライバー遺伝子における複数の低バリアントアレル頻度(VAF)(すなわち、VAF<0.01 11-.0%1)突然変異体を測定するための試薬を含む。
【0071】
[00132]他の試薬が、CDKN1A、E2F1、ERCC1、ERCC4、ERCC5、GPX1、GSTP1、KEAP1、RB1、TP53、TP63、およびXRCC1などの遺伝子のために含まれ得る。
【0072】
[00133]これら解析物は、気道上皮細胞のRNAまたはDNAにおいて測定され得、また、呼気凝縮液および鼻ブラッシングによって得られた気道上皮細胞を含む、非侵襲的に得られた標本において測定され得る。
【0073】
[00134]また、数が分かっている合成内部標準分子と比較した標本解析物の測定に基づく、各標本における各解析物の測定の検出限界/定量限界の計算を伴う、低VAF突然変異体を測定するための方法が、本明細書において記載される。
【0074】
[00135]ある特定の実施形態において、これらのキットおよび方法は、地域研究所でのキット形式または方法形式での肺がんリスク検査についてのFDAおよび他の規制当局による承認を促進するために有用である。
【0075】
[00136]ある特定の実施形態において、これらのキットおよび方法は、呼気凝縮液、鼻ブラッシング標本、喀痰、口腔上皮、血液、およびそれに類するものなどの非侵襲的に得られた標本における肺がんリスクの測定を可能にするために有用である。
【0076】
[00137]ある特定の実施形態において、これらのキットおよび方法は、気道上皮細胞における、VAFが非常に低い突然変異の測定を可能にするために有用である。
【実施例】
【0077】
[00138]本明細書において記載される方法および実施形態は、以下の実施例においてさらに規定され、これら実施例において、別段の記載がない限り、全ての部およびパーセンテージは重量当たりであり、温度は摂氏である。本発明のある特定の実施形態が、本明細書の実施例において規定される。これらの実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すが、説明のためだけに提供されていることが理解されるべきである。本明細書における議論およびこれらの実施例から、当業者は、本発明の必須の特徴を確認し得、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、様々な使用および条件に本発明を適合させるための本発明の様々な変更および修正を行うことができる。
【0078】
[00139]VAF範囲が0.05~1.0%の突然変異の測定は、がんリスクに関連するAEC体細胞突然変異のより有益な解析を可能にする。肺がん対象の間では、喫煙および年齢について適合させた非がん対象と比較して、TP53突然変異はより多く出現しており(p<0.05)、タバコ煙および年齢のシグネチャーに富んでいた。
【0079】
方法
研究コホートの登録および特徴付け。
[00140]このレトロスペクティブなケースコントロール研究では、11人の肺がんを有する喫煙者(CA-SMK)、年齢および喫煙歴について適合させた5人のがんを有さない喫煙者(NC-SMK)、および3人のがんを有さない非喫煙者(NC-NON)を含む、19人の対象から回収されたAEC標本が使用された(表1)。
【0080】
[00141]対象は、2000年から2018年の間のUniversity of Toledo Medical Center(UTMC)での調査試験に登録された。この調査研究に含まれた各対象は、University of Toledo Institutional Review Boardによって承認されたプロトコルの下で、文書のインフォームドコンセントを提出した。肺がん診断、喫煙歴、および個体群統計情報を含む臨床的特徴を、診療記録から得た。肺がん歴は再調査され、解剖学的および臨床的病理の資格を有する独立した病理学者によって確認された。
【0081】
【0082】
標本の取得
[00143]AECは、診断手順が標準治療の指示に従って行われたときの、正常に見える気道上皮の気管支鏡ブラシ生検を介して得られた。肺がんと診断された患者では、AECのサンプリングは、がんを伴わない肺の主気管支から行われた。標本はすぐに冷たい生理食塩水中に置かれ、回収の1時間以内に処理された。
【0083】
DNAの抽出および定量
[00144]ゲノムDNA(gDNA)を、FlexiGene DNAキット(Qiagen、Hilden、Germany)を製造者のプロトコルに従って使用して、対象当たりおよそ50万のAECから抽出し、セクレトグロビン、ファミリー1A、メンバー1遺伝子における、良く特徴付けされたゲノム位置の競合ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅を使用して定量した。
【0084】
標的の選択
[00145]The Cancer Genome Atlas(TCGA)プロジェクトによって非小細胞肺がんにおいて最も共通して突然変異していると最近報告された7つの遺伝子領域における12の遺伝子座を、標的として選択した。エキソン番号および括弧書きで示されている略記を用いてヒト遺伝子解析機構(HUGO)に従って特定された標的領域は、B-Rafがん原遺伝子エキソン15(BRAF_15)、上皮成長因子受容体エキソン18~21(EGFR_18、EGFR_19、EGFR_20、EGFR_21)、erb-b2受容体チロシンキナーゼ2(ERBB2)、KRASがん原遺伝子エキソン2(KRAS_2)、ノッチ受容体1エキソン26(NOTCH1_26)、ホスファチジルイノシトール-4,5-ビスリン酸3-キナーゼ触媒性サブユニットアルファエキソン10(PIK3CA_10)、および腫瘍タンパク質p53エキソン5~7(TP53_5、TP53_6、TP53_7)を含んでいた。プライマーをこれらの標的の各々について作製した。
【0085】
[00146]NOTCH1_26を除く全ての標的のためのプライマーは、マルチプレックスライブラリーおよび下流ライブラリーの調製において効率的に機能した。したがって、データは、残りの11の標的いついて報告される。
【0086】
合成内部標準混合物の調製
[00147]上記のTCGA標的のための競合合成DNA内部標準(IS)分子を、標的解析物のネイティブ鋳型(NT)に対する50塩基ごとの既知のジヌクレオチド置換突然変異で設計した。これによって、この研究において使用されたPCRアンプリコンライブラリーまたは本明細書において報告されていない他の継続中の研究におけるランダム断片ハイブリッドキャプチャーライブラリーの、シーケンシング後のデータ処理の際の、NTリードおよびISリードの分離が可能となった。ISをプラスミドにクローニングし、Sangerシーケンシング確認法を使用して純粋なクローン単離物として選択して、最終配列を確認した。このさらなる精製ステップは、合成によって導入される可能性があるエラーを全く有さないクローンを選択するために行われた。内因性大腸菌(E.coli)ポリメラーゼの忠実性が高いことに起因して、クローニングされたISにおけるバリアントの頻度は10-7から10-8の間であると予想され得、これは、この研究の所望の検出限界よりもかなり低い。各クローニングされたプラスミドを線状化し、デジタルドロップレットPCRによって定量し、次いで、等しいゲノムコピーバランスで組み合わせた。等濃度(ゲノムコピー当たり)の各線状化された標的解析物のIS分子を含有する内部標準混合物(ISM)は、Accugenomics,Inc.(Wilmington、NC)によって調製された。
【0087】
[00148]技術的に誘導された塩基置換エラーは、組み合わせライブラリー調製ステップおよびシーケンシングステップの際に、gDNA試験サンプル内で、合成ISとそれぞれの標的配列とで同率で生じる。したがって、各ISは、塩基置換エラー率における標的特異的部位および領域の差についてコントロールする。
【0088】
マルチプレックス競合PCRアンプリコンライブラリー
[00149]サンプル中の各標的を増幅し、低頻度バリアントを検出する機会を最大にするために、マルチプレックス競合PCRアンプリコンライブラリーをAECのDNAサンプルの各々について調製した。PCRの際の技術的エラーを最小にするために条件を最適化し、これには、報告されるエラー頻度が10-6のQ5 HotStart High Fidelity DNAポリメラーゼ(New England Biolabs、Ipswich、MA)の使用、および各ラウンドでのPCRサイクルの最少化が含まれる。
【0089】
ラウンド1:競合マルチプレックスPCR
[00150]ユニバーサルテールを有する12の標的特異的プライマーが、Life Technologies(Carlsbad、CA)によって合成された。TEバッファー(10mMのTris-Cl、pH7.4、0.1mMのEDTA)を凍結乾燥プライマーに添加することによって、各標的のための個々のプライマー溶液を作製して、100μMのストックとした。それぞれ100μMのフォワードプライマーおよびリバースプライマーストック溶液5μLを混合し、TEバッファーを添加して最終容積を200μLにすることによって、2.5μMのマルチプレックスプライマー混合物を調製した。
【0090】
[00151]各対象について、ライブラリー調製および/またはシーケンシングの際に生じるヌクレオチド特異的な置換エラーについてコントロールするために、AEC DNAのアリコートを等しいゲノムコピーのISMと組み合わせた。混合物中の少なくとも5万ゲノム当量のサンプルおよびISの両方、6μLの5X Q5バッファー(New England Biolabs、Ipswich、MA)、10mMのdNTP(Promega、Madison、WI)0.6μL、2.5μMのマルチプレックスプライマー混合物3μL、2%w/vのウシ血清アルブミン(New England Biolabs、Ipswich、MA)1.5μL、Q5 HotStart High Fidelity DNAポリメラーゼ(New England Biolabs、Ipswich、MA、Ipswich、MA)0.3μL、ならびに最終反応容積30μLになるまでの分子グレードの水を含有する反応物を調製した。
【0091】
[00152]各競合マルチプレックス反応混合物を、7500 Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems、Foster City、CA)において、以下の修正された勾配PCR条件下で、全部で20サイクル増幅した:95℃/2分(Q5 HotStart DNAポリメラーゼの活性化);94℃/10秒(変性)、70℃/10秒、68℃/10秒、66℃/10秒、64℃/10秒、62℃/10秒(アニーリング)、および72℃/30秒(伸長)を20サイクル;全ての産物の完全な伸長を確実にするための、72℃/2分の最終伸長。PCR産物を、QIAquick PCR精製キット(Qiagen、Hilden、Germany)を製造者のプロトコルに従って使用してカラム精製した。
【0092】
ラウンド2:シングルプレックスPCR
[00153]マルチプレックス増幅の後、最終濃度500nMのそれぞれの個々の標的に対するプライマーを使用する、第2ラウンドの12の並行したシングルプレックスPCR反応を行って、マルチプレックスでの効率が低いプライマーの産物を確実にロバストに増幅させた。High fidelity Q5 Hot Startポリメラーゼおよび他のPCR試薬を上記のように使用した。
【0093】
[00154]シングルプレックス反応物を、7500 Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems、Foster City、CA)において、以下の条件を使用して、15サイクル増幅した:95℃/2分(Q5ポリメラーゼの活性化);94℃/10秒(変性)、65℃/20秒(アニーリング)、および72℃/30秒(伸長)を15サイクル;72℃/2分間の最終伸長を行って、全ての産物を確実に完全に伸長させた。各シングルプレックスPCR産物を、DNAチップとDNA 1000 Kit試薬とを製造者のプロトコルに従って使用して、Agilent 2100 Bioanalyzerで質および量についてチェックした(Agilent Technologies,Deutschland GmbH、Waldbronn、Germany)。サンプル特異的シングルプレックス反応物を次いで、(a)シーケンシングリード数の間の標的リードのバランスを確実に等しくするために等モル量で混合し、そして(b)QIAquick PCR精製キット(Qiagen、Hilden、Germany)を製造者のプロトコルに従って使用してカラム精製した。
【0094】
ラウンド3:サンプル特異的バーコードの付加
[00155]シーケンシングリードを偽インデックス/バーコードする可能性を低減させるために、各患者サンプルに由来する、カラム精製されたシングルプレックス反応混合物を、固有のセットのデュアルインデックスバーコードプライマーを使用して標識した。バーコード配列およびIlluminaプライミング部位を有する一対の融合プライマーを、以下を用いて設計した:1)最初のマルチプレックス反応およびシングルプレックス反応の際に付加されたユニバーサル配列テールに相補的なそれらの3’末端、2)5’からその10ヌクレオチドのインデックス/バーコード配列、および(3)5’からそのIlluminaリード1またはリード2プライミング部位。各反応におけるバーコードプライマーの最終濃度は、500nMであった。PCR条件は、サイクル数が10に減ったことを除いて、シングルプレックス反応について記載されたものと同一であった。
【0095】
[00156]PCR産物を、DNAチップとDNA 1000 Kit試薬とを製造者のプロトコルに従って使用して、Agilent 2100 Bioanalyzerで質および量についてチェックし、分子グレードの水で100倍希釈し、最終シーケンシングアダプターPCRに入れた。
【0096】
ラウンド4:シーケンシングアダプターの付加
[00157]ラウンド3で使用したものと同一のPCR条件を使用して、Illuminaリード1またはリード2プライミング部位に相補的なこれらの3’末端、ならびに5’Illuminaシーケンシングアダプターを用いて設計された第2の融合プライマーセットを使用して、個々の希釈されたバーコードサンプルをIlluminaプラットフォーム特異的アダプターで標識した。
【0097】
サンプルのプール
[00158]ラウンド4の後、固有にバーコードされたサンプルのそれぞれを、Agilent 2100 Bioanalyzerで上記のように定量した。サンプルを次いで、各ライブラリーが最終的に受け取るシーケンシングリードのパーセンテージを最適化するように、等モル比で混合した。ほとんどのケースにおいて、1:1が使用された。
【0098】
産物の精製およびシーケンシング
[00159]組み合わされたシーケンシングライブラリーを、2%w/vのアガロースゲル上でのゲル電気泳動を使用して精製した。得られた産物バンドを次いで切り出し、これを望ましくないヘテロ二量体から分離し、QIAquickゲル抽出キット(Qiagen、Hilden、Germany)を使用して抽出し、そして50μLの溶出バッファー中で溶出した。精製されたシーケンシングライブラリーを、Illumina NextSeq 550シーケンシングでの次世代シーケンシングのために、University of Michigan Genomicsコアファシリティーに送った。
【0099】
NGSデータの解析
[00160]University of Michigan Genomicsコアファシリティーによって作成されたFASTQデータファイルを、カスタムPerlスクリプトを使用して処理して、内部標準(IS)およびネイティブ鋳型(NT)のリードを別個のNTファイルおよびISファイルに分け、その後、
図5に示すように、クオリティトリミング、アラインメント、およびバリアントコーリングのために、Qiagen CLCゲノミクスワークベンチ12ソフトウェアスイートを使用した並行解析を行った。
【0100】
[00161]プライマー配列、内部標準ジヌクレオチド位置とこれらの5’および3’塩基、ならびに既知の一塩基多型(SNP)位置を、バリアント解析から排除した。
[00162]バリアントコーリング
[00163]バリアントが、各々それぞれの位置のそれぞれの突然変異タイプについて、ISで測定されたバックグラウンドエラーを有意に上回るNTシグナルに基づいてコールされた。有意性は、プールされたサンプル中の稀なバリアントを同定するために、各ヌクレオチド位置でのそれぞれの個々のバリアントタイプの分割表のカイ二乗解析を使用して決定された。ノイズを上回るシグナルについての試験のストリンジェンシーを最大にするために、標本中の野生型リードに対するバリアントリードの割合が、それぞれの標本と混合したISにおける同一の部位での野生型リードに対するバリアントリードの割合よりも有意に高く、また、他の18の標本の各々と混合したISにおいて見られる割合よりも高い場合に、バリアントがコールされた。したがって、標本中の各バリアントは、標本中での野生型リードに対するバリアントリードの割合が19のIS反復の各々よりも有意に高い場合にのみ、真陽性(p<0.05)であるとみなされた。偽検出(false discovery)についてのボンフェローニ補正を、見積もられたヌクレオチドの数(760bp)および各ヌクレオチド位置で考えられる置換突然変異の数に基づいて使用した。さらに、確率論的サンプリングからの潜在的な解析の変動を避けるために、ISノイズを上回る有意なシグナルを有し、かつVAFが>0.05%の突然変異のみがコールされた。
【0101】
バリアントアノテーションおよびホットスポット解析
[00164]dbSNP、COSMIC、およびFASMICを含む、公開されているデータベースを使用して、コールされたバリアントを病原性について特徴付けした。Memorial Sloan Kettering(MSK)Cancer Centerで開発されたcBioPortal for Cancer Genomicsを使用して、既知の発がん性ホットスポットの同定および対応する図の作製を評価した。
【0102】
統計解析
[00165]各ヌクレオチド位置でのそれぞれの個々のバリアントタイプの分割表のカイ二乗解析に基づくバリアントのコールを、R:A Language and Environment for Statistical Computing(www.R-project.org/)を使用して行った。バリアントが多くコールされたホットスポットの評価を、カイ二乗分布を使用するクラスカル・ウォリス検定を使用して行った。突然変異および標的のタイプに基づく突然変異出現率を、複数の比較のために、クラスカル・ウォリス検定とネメニー検定とを用いて評価した。
【0103】
結果
非がん気道上皮における低頻度突然変異の測定
[00166]19の対象の正常な気道から得たAEC標本における11のドライバー遺伝子標的領域のこの研究において、VAFの範囲が5×10
-4(0.05%)から4.6×10
-3(0.46%)の129のバリアントがコールされた。方法の節において記載されているように、確率論的サンプリングに起因する偽検出のリスクを最小化するために、VAFの最小閾値0.05%を使用した。129のコールされたバリアントでの、同一部位でのそれぞれのバリアントについてのサンプル突然変異シグナル(突然変異VAF)とバックグラウンドの技術的エラー(ノイズ)(IS VAF)との間の関係を、
図1Aに示す。
【0104】
[00167]各サンプル突然変異VAFでは、19のISについてIS VAFが示されている。これらは、突然変異を有していたサンプルと混合したISでのVAF、および他の18のサンプルと混合したISの各々についてのVAFを表している。これらの19の独立したIS反復の値は、実験内のIS VAF(エラー)測定値の周辺での変動を示す。IS VAF値における反復間の変動はIS VAFの減少と共に増大し、これは、確率論的サンプリングに対するポアソン分布の効果と一致している。
【0105】
[00168]さらに、これらの部位の一部では技術的エラーが非常に低いことに起因して、IS VAF値は存在しなかった(
図1A)。
[00169]ポアソン分布のこれらの効果は、観察されたサンプル突然変異の有意性の統計解析の課題である。サンプルのリファレンスおよびバリアントアレルならびにISのリファレンスおよびバリアント(エラー)アレルという全部で4つの成分について少なくとも10のシーケンシングリードが存在する場合、簡単なZスコア解析が適切である。0.05%という最小のサンプル突然変異VAFを使用すると、各々のコールされたサンプル突然変異について少なくとも10のバリアントアレルリードが確実となった。しかし、対応するISエラーが非常に低い場合は、ISバリアントアレルリード数は10を下回り、場合によってはゼロであった。
【0106】
[00170]各IS反復について少なくとも1つのバリアントアレルリードがあった場合、ポアソンの直接検定の使用が適している。この研究において、標的ホットスポット領域内のISエラーが非常に低く、そのため、一部の測定では、観察されたサンプルバリアントに対応するISバリアントリードがゼロであったため、ディープシーケンシングを利用した場合でも、この研究における各サンプル突然変異の有意性を決定するために分割表アプローチを使用することが有利であった。
【0107】
[00171]
図1Bは、VAF(%)検出の検出下限に依存する、AECにおいて検出可能なTP53突然変異を示す。
[00172]気道上皮細胞において測定された肺がんリスクについてのTP53突然変異検査が、その試みにもかかわらずこれまでに開発されなかった重要な理由は、一般的に使用される方法がVAF<1%の突然変異を容易に測定できないためである。
【0108】
標的領域におけるシーケンシングエラーの特徴
[00173]
図1Aに示すように、サンプルバリアントをコールする標的領域内部位での最大シーケンシングエラー(反復間でのIS VAFの中央値)は、0.06%であった。このエラー率は、Illuminaプラットフォームでの全エキソームシーケンシングで見られたものよりもはるかに低い。加えて、他者によって報告されているように、これは、コストを伴い計算が必要な固有分子インデックス(UMI)を利用する方法を必要とせずに低頻度バリアントの有意義なコーリングを可能にする重要な因子である。
【0109】
AECにおける低頻度突然変異の出現率
[00174]突然変異出現率を、各標的で見積もられたヌクレオチド位置当たりのコールされた突然変異として計算した。各標的で見積もられたヌクレオチドの数は、プライマーがスパンする領域と、NTリードからのISリードの分離を可能にするためのIS内の修飾に起因して解析からブロックされたジヌクレオチド部位の数とにある程度基づいて変化した。19の対象全ての間で、各対象における標的DNA領域(760bp)にわたる平均突然変異出現率(突然変異/bp/対象)は、8.9×10-3であった。(表2)。
【0110】
【0111】
[00175]このAECの突然変異出現率の値は、比較的高いバリアント頻度(VAF>1%)の突然変異体を検出するだけの方法(14)、またはより感度が高いが標的化されていない方法で報告されているものよりもはるかに高い。しかし、これは、非常に感度の高いPCRベースの方法を使用する他のAEC解析に一致している。
【0112】
TP53、PIK3CA、およびBRAFにおける低頻度置換突然変異と肺がんとの関連
[00176]TP53の3つの測定されたエキソンの間で、置換突然変異の出現率(突然変異/bp/対象)は、CA-SMK対象に由来するAECにおいて、喫煙および年齢について適合させたNC-SMK対象と比較して10.4倍高かった(p<0.05)(
図2A、表3)。
【0113】
【0114】
[00177]加えて、PIK3CAまたはBRAF突然変異は、7人のがん対象で見られ、非がん対象では見られなかった(表3)。
[00178]特に、TP53における突然変異の大部分(
図2C)、PIK3CAにおける突然変異の全て、およびBRAFにおける3つの突然変異のうちの1つは、発がんを進める生物学的変化を伴って、これまでに同定された「ホットスポット」で生じた。
【0115】
[00179]肺がんリスクの決定の向上に寄与し得るバイオマーカーを開発するという目的のために、本発明らは、これらの低頻度突然変異の出現率における対象特異的なコホート間の差を評価した。この小さなレトロスペクティブなケースコントロール研究で得られたデータに基づいて、0.02突然変異/bpのTP53エキソン突然変異出現率カットオフは、100%の特異性および55%の感度を有する(
図3A)。TP53エキソン突然変異がPIK3CAおよびBRAF突然変異と組み合わされた場合、類似の区別が観察された(
図3B)。
【0116】
[00180]CA-SMK対象におけるほぼ全てのTP53突然変異は、タバコシグネチャー突然変異または加齢性の突然変異(C>A、C>T、およびT>Cの置換)であり(
図2B、表4)、肺がん組織で報告されたTP53突然変異のスペクトルとほぼ同様である。C>A(p=0.002)、C>T(p=0.003)、およびT>C(p=0.001)を含む、各タイプのタバコシグネチャーまたは年齢シグネチャーTP53突然変異の出現率は、非がん対象よりもがん対象で有意に高かった(表4)。
【0117】
[00181]例えば、CからAの突然変異は、CA-SMK対象に由来するAECにおいて見られたTP53突然変異の29.8%(17/57)を占めていたが、全ての非がん対象(NC-TOT)で見られたCからAのTP53突然変異は1つのみであった(表4)。C>Tのトランジションは、この研究の肺がん対象におけるTP53突然変異の47%を占めていた。さらに、CA-SMK対象におけるTP53突然変異は、「ホットスポット」肺がんドライバー突然変異部位で有意に多かった(p=0.002)(
図2C)。
【0118】
【0119】
TP53突然変異と喫煙歴との関連の欠如
[00183]特に、非がん対象の間で、喫煙はより高いTP53突然変異出現率と関連していなかった(表3)。具体的には、NC-SMK対象の半数のみが、VAF>0.05%のTP53突然変異を有しており、各ケースで、1つのバリアントのみが観察された(表3)。PIK3CAおよびBRAF突然変異の数は小さいため、喫煙の関連について取り組むことはできなかった。
【0120】
肺がんと関連しない低頻度AEC突然変異の特徴
[00184]TP53とは対照的に、非TP53標的で、がんにおける突然変異出現率は、非がん対象と比較して有意に異ならなかった(表3)。測定された11の標的の間で、突然変異数はEGFR_20標的領域で最も高く、全部で43の突然変異が全対象で見られた(表3)。がんと非がんとの間でEGFR_20突然変異の出現率に差はなく(それぞれ3.9×10
-2と3.8×10
-2、p=0.72)(
図4A、表3)、喫煙と非喫煙との間で関連はなかった(それぞれ3.4×10
-2と4.5×10
-2、p=0.74)。ERBB2突然変異(N=17)はEGFR_20のスペクトルと類似のスペクトルを示し、年齢シグネチャーまたはタバコシグネチャー突然変異パターンはなく、コホート間の差もなかった。特に、TP53の間でC>Tトランジションの割合が大きい(29/61、48%)こととは対照的に、わずか1/43(2.3%)のEGFR_20突然変異および1つのERBB2突然変異がC>Tであった(
図3B)。さらに、EGFR_20突然変異の大部分は同義であり、病原性であるとは予測されなかった(
図3C)。
【0121】
考察
AECにおける低頻度突然変異の測定
[00185]この研究でのAECにおける低頻度突然変異を測定する能力は、標的領域における少ない技術的エラーの組み合わせ(
図1)、ならびに部位特異的およびバリアント特異的ベーシスで技術的エラーについてコントロールするための合成内部標準の使用によるものであった(
図1)。この研究における対象の間でのAECにおける低頻度TP53突然変異の出現率の範囲は、これまでに報告されていたものと類似していた。ドライバー突然変異部位におけるTP53突然変異、およびタバコ煙シグネチャーが多いことで、観察された突然変異が真陽性であることが確認される別の理由が提供される。
【0122】
肺がんリスクと関連するTP53突然変異フィールド効果の同定
[00186]喫煙および年齢について適合させたNC対象と比較して、CA対象のAECにおいて、TP53ホットスポットの病原性のタバコ煙シグネチャーおよび年齢シグネチャー低頻度突然変異の出現率が高いことは、損傷フィールドが肺がんリスクと強力に関連していることを表す(
図2A、
図2B、
図3A、表3、表4)。
【0123】
[00187]したがって、低頻度(すなわちVAF<1%)の結果は、AECにおけるTP53ホットスポット突然変異が肺がんリスクバイオマーカーであることを示す。さらに、BRAFおよびPIK3CAに低頻度の機能可能な突然変異を含めることは、このバイオマーカーの精度をさらに増強させ得る(
図3B)。
【0124】
[00188]肺がん傾向は、一部には、喫煙に関連するおよび加齢性のDNA複製エラーに伴うDNA損傷からの最適ではない保護に起因する。DNA損傷からの最適ではないAEC保護の遺伝的原因および後天的原因の両方について、エビデンスがある。例えば、重要なDNA修復の調節、抗酸化物質、およびAECにおける細胞サイクル制御遺伝子において大きな個体間の変動があり、この変動に基づく肺がんリスク検査(LCRT)は、肺がん対象を同定するための高い精度を有する。
【0125】
[00189]LCRTバイオマーカーにおける変数の1つは、TP53転写産物の量であり、AECにおけるTP53発現には100倍の変動がある。TP53は、DNA損傷に応答したDNA修復遺伝子の上方調節において重要な役割を有し、TP53タンパク質は、AECにおける重要なヌクレオチド除去修復(NER)遺伝子であるERCC5を直接調節する。
【0126】
[00190]ERCC5の5’調節領域におけるTP53認識部位であるrs2296147での生殖細胞系アレル変異は、AECにおけるERCC5のアレル特異的な発現における変動と関連する。TP53によるERCC5転写調節における遺伝性の個体間変動は大きく、その理由は、ERCC5が転写共役NERにおける律速酵素であり、タバコ煙に関連する突然変異が、転写される鎖上のグアニンの環外N2位置への煙草煙発がん物質代謝産物の結合によって生じるDNA付加体の非効率的なNERの結果生じるためである。
【0127】
[00191]したがって、遺伝性の生殖細胞系バリアントによって決定される、TP53による最適ではないERCC5調節は、がん対象の間で、転写されるTP53鎖における、タバコ煙によって誘導されるホットスポット突然変異のより高い出現率に関与する、重要な因子である。
【0128】
非病原性EGFR突然変異の解釈
[00192]EGFRの総突然変異、または煙草シグネチャーもしくは年齢シグネチャー突然変異について、がん対象と非がん対象との間または喫煙者と非喫煙者と間で出現率に差はなかった(
図4A、
図4B、表2、表3)。置換パターン(C>AとC>Gとの間で等しく分布している)は、最適ではない相同組換えDNA二本鎖切断修復に関連する先に記載されたシグネチャー3と最も一致している。加えて、本明細書において提示されるエビデンスは、観察されたEGFRエキソン20の突然変異が成長優位性を与えないという結論をサポートする。
【0129】
[00193]具体的には、観察された、TP53の煙に関連するおよび加齢性の非同義の病原性突然変異とは対照的に、わずか1/43のEGFR_20突然変異が同義であり、既知の病原性ホットスポットに存在している(
図4C)。
【0130】
[00194]したがって、このタイプの突然変異を有するクローン集団は、胎児~若年の期間の気道上皮を生成するための幹細胞増殖において、確率論的DNA複製エラーとして生じる可能性が高いと考えられる。
【0131】
[00195]5×10-5(0.005%)と低いVAFを検出し得る感度が非常に高いミスマッチPCRアッセイを使用して、TP53、KRAS、およびHPRT1遺伝子における突然変異を含む、非がん患者のAECにおける低VAF体細胞突然変異の出現率に対する煙草の影響について試験した。驚くべきことに、これらの非がん対象の間で、AECにおけるTP53またはKRAS突然変異の出現率に対する喫煙の影響はなかった。
【0132】
[00196]したがって、喫煙者および非喫煙者の両方の肺がんを有さない個体において、気道上皮におけるほとんどの低頻度突然変異は、胎児/新生児期の組織発生の際に生じる細胞複製に関連する確率論的突然変異事象の結果であると考えられる。
【0133】
標的化学的予防のためのバイオマーカー
[00197]現在、肺がんに関連するTP53突然変異のための標的療法は存在していない。しかし、肺がんに関連するPIK3CAまたはBRAFホットスポットでの突然変異は、11人の肺がん対象のうちの6人のAECで検出され、非がん対象では検出されなかった(表3)。この研究における各対象で、DNAをおよそ50万のAECから抽出し、PIK3CAまたはBRAF突然変異が陽性の6人の対象の各々で、突然変異VAFの平均は約10-3であった。したがって、両肺の気管支樹全体で5×108AECという以前の推定を使用して、クローンが類似の出現率で等しく分布していれば、対象当たり1000のコロニーにおいて全部で105の突然変異があると予想される。PIK3CAおよびBRAFのための比較的無毒の遺伝子標的療法は、FDAによって承認されているか、または一部のがんでは治験が進んでいる。例えば、アルペリシブは現在、肺および他の組織のがんにおけるPIK3CAドライバー突然変異の処置のための第III相治験中であり、また、ダブラフェニブおよびトラメチニブの組み合わせは、BRAF:V600E突然変異型の非小細胞肺がんの処置において明らかな有効性を有する。
【0134】
[00198]したがって、本明細書に記載される、AECにおけるPIK3CA/BRAFの出現率の検査は、AEC突然変異スペクトルががんを有する対象の肺がん処置の前および後に測定される場合に有用である。したがって、忍容性が良好な遺伝子標的療法は、AEC野の、肺がんの発生に関与する損傷突然変異量を低減させ得る。そのため、AECにおけるPIK3CA/BRAF突然変異の出現率が上昇した個体は、化学的予防の治験に考慮され得る。
【0135】
ヌクレオチド部位特異的およびバリアント特異的エラーの特徴付けのための内部標準の使用、ならびにがんドライバー突然変異の標的NGS解析におけるコントロール
[00199]
図1に示すように、この研究でスパンされる標的ドライバー遺伝子領域について、対応する真陽性サンプルバリアントについてISで測定された技術的エラーVAFの中央値は、0.014%であった。このエラー率は、標的NGSをIlluminaプラットフォームで利用してがんドライバー遺伝子のホットスポット領域を見積もった他の研究から報告されたものに類似している。
【0136】
[00200]本明細書において記載されるアプローチの重要な利点は、参照配列が確認された合成内部標準を各ライブラリーサンプル調製物に含めることで、各ライブラリーにおける各ヌクレオチド部位での各バリアントの技術的エラーの定性的および定量的特徴付けが可能となることである。このアプローチは、NGSを利用するものを含む全ての診断用途に望ましい、各測定における各々の検出されたバリアントについての、バックグラウンドエラーと比較した有意性の決定を可能にした。
【0137】
[00201]標的NGSの診断法のための本明細書において記載される合成ISの使用は、液体およびガスクロマトグラフィーならびに質量解析診断用途において現在標準となっているISの利用に類似している。
【0138】
[00202]したがって、エラーコントロールのための本明細書において提示される、コストが低くあまり複雑ではないアプローチの使用は、ドライバー遺伝子領域におけるVAF>0.05%の体細胞突然変異の解析に非常に適している。NGS解析に利用可能な臨床的標本のサイズの実際の限界を理由に、突然変異VAFの、標本によって決定される下限は、>0.05%であると考えることが妥当である。
【0139】
適用の非限定的な例
[00203]一部の実施形態において、生物学的状態を示す数値的指標を得るための方法は、第1の生物学的状態および第2の生物学的状態の各々に対応する2つのサンプルを提供するステップ、2つのサンプルの各々における2つの核酸の各々の量を測定および/または計数するステップ、当該量を、多くのサンプル間で直接比較可能な数値として提供するステップ、第1および第2の生物学的状態の各々に対応する数値を数学的に計算するステップ、ならびに2つの生物学的状態を区別する数学的計算を決定するステップを含む。本明細書において使用される第1および第2の生物学的状態は、区別対象の2つの表現型状態などの、比較対象の2つの生物学的状態に対応する。非限定的な例としては、例えば、非疾患(正常)組織と疾患組織、治療薬応答を示す培養物と治療薬応答をあまり示さない培養物、有害薬剤応答を示す対象と有害応答をあまり示さない対象、処置対象群と非処置対象群などが含まれる。
【0140】
[00204]本明細書において使用される「生物学的状態」は、表現型状態、例えば、臨床的に関連する表現型または目的の他の代謝状態を指し得る。生物学的状態としては、例えば、疾患表現型、疾患状態または非疾患状態への傾向、治療薬応答またはこのような応答への傾向、有害薬剤応答(例えば薬剤毒性)またはこのような応答への傾向、薬剤への耐性またはこのような耐性を示す傾向などが含まれ得る。好ましい実施形態において、得られた数値的指標は、例えば目的の表現型と相関させることによって、バイオマーカーとして機能し得る。一部の実施形態において、薬剤は、抗腫瘍薬であり得る。ある特定の実施形態において、本明細書において記載される方法の使用は、個別化医療を提供し得る。
【0141】
[00205]ある特定の実施形態において、生物学的状態は、遺伝子の正常な発現レベルに対応する。生物学的状態が正常レベルに対応していない場合、例えば、所望の範囲の外側にある場合には、異常な状態、例えば疾患状態が示され得る。
【0142】
[00206]特定の生物学的状態、例えば疾患状態または代謝状態を区別する数値的指標は、それに関連する所与の1つおよび/または複数の状態についてのバイオマーカーとして使用され得る。
【0143】
[00207]一部の実施形態において、測定対象の核酸の1つまたは複数は、生物学的状態の1つと、他のものよりも格段に関連している。例えば、一部の実施形態において、評価対象の核酸の1つまたは複数は、第1の生物学的状態と関連しており、第2の生物学的状態とは関連していない。
【0144】
[00208]核酸は、核酸が特定の生物学的状態と正にまたは負に関連している場合、当該生物学的状態と「関連している」と言われ得る。例えば、核酸は、第2の生物学的状態よりも第1の生物学的状態で大量に存在する場合、第1の生物学的状態と「正に関連している」と言われ得る。例として、非がん細胞よりもがん細胞で多く発現している遺伝子は、がんと正に関連していると言われ得る。その一方で、第2の生物学的状態よりも第1の生物学的状態において少量で存在している核酸は、第1の生物学的状態と負に関連していると言われ得る。
【0145】
[00209]測定および/または計数対象の核酸は、特定の表現型と関連する遺伝子に対応し得る。核酸の配列は、遺伝子の転写領域、発現領域、および/または調節領域(例えば、転写因子、例えば共調節のための転写因子の調節領域)に対応し得る。
【0146】
[00210]一部の実施形態において、3つ以上の遺伝子の発現量が測定され、生物学的状態を示す数値的指標を提供するために使用される。例えば、一部のケースでは、複数の遺伝子の発現パターンが、所与の表現型状態、例えば、臨床的に関連する表現型を特徴付けするために使用される。一部の実施形態において、少なくとも約5の遺伝子、少なくとも約10の遺伝子、少なくとも約20の遺伝子、少なくとも約50の遺伝子、または少なくとも約70の遺伝子の発現量が測定され得、生物学的状態を示す数値的指標を提供するために使用される。本発明の一部の実施形態において、約90未満の遺伝子、約100未満の遺伝子、約120未満の遺伝子、約150未満の遺伝子、または約200未満の遺伝子の発現量が測定され得、生物学的状態を示す数値的指標を提供するために使用される。
【0147】
[00211]生物学的状態を示す数値的指標を提供するためにどの数学的計算を使用するかの決定は、例えば数学分野、統計分野、および/または計算分野などの分野において公知のあらゆる方法によって行われ得る。一部の実施形態において、数学的計算の決定は、ソフトウェアの使用を伴う。例えば、一部の実施形態において、機械学習ソフトウェアが使用され得る。
【0148】
[00212]数値の数学的計算は、数値を相互作用させるためのあらゆる方程式、操作、式、および/または規則、例えば、合計、差、積、商、log累乗、および/または他の数学的計算の使用を指し得る。一部の実施形態において、数値的指標は、分子を分母で割ることによって計算され、分子は1つの核酸の量に対応し、分母は別の核酸の量に対応する。ある特定の実施形態において、分子は所与の生物学的状態と正に関連する遺伝子に対応し、分母は当該生物学的状態と負に関連する遺伝子に対応する。一部の実施形態において、生物学的状態と正に関連する評価対象の2つ以上の遺伝子および生物学的状態と負に関連する評価対象の2つ以上の遺伝子が使用され得る。例えば、一部の実施形態において、分子の正に関連する遺伝子についての数値および分母の同数の負に関連する遺伝子についての数値を含む数値的指標が誘導され得る。このような平衡の取れた数値的指標において、参照核酸の数値は相殺されている。一部の実施形態において、平衡の取れた数値は、参照核酸を提供する遺伝子の発現における変動の影響を中和し得る。一部の実施形態において、数値的指標は、一連の1つまたは複数の数学関数によって計算される。
【0149】
[00213]一部の実施形態において、3つ以上の生物学的状態が比較され得、例えば区別され得る。例えば、一部の実施形態において、サンプルは、異なる疾患進行段階、例えば異なるがん段階に例えば対応する、様々な生物学的状態から提供され得る。異なるがん段階の細胞は、例えば、疾患の経過の様々な時点で所与の患者から得られる、非がん性細胞と、非転移性のがん性細胞と、転移性細胞とを含む。好ましい実施形態において、どの化学療法物質が例えば特定の患者における所与のタイプのがんに最もよく機能し得るかを予測するために、バイオマーカーが開発され得る。
【0150】
[00214]非がん性細胞は、非がん患者、例えば、血縁者にがん患者がいるまたはいない非がん患者に由来する、血腫および/または瘢痕組織の細胞ならびに形態学的に正常な実質を含み得る。非がん性細胞はまた、がん患者に由来する、例えば、同一組織および/もしくは同一器官内のがんの部位に近い部位に由来する;例えば同一器官系の異なる組織および/もしくは器官内のがんの部位からさらに離れた部位に由来する;または、例えば異なる器官および/もしくは異なる器官系における、さらに離れた部位に由来する、形態学的に正常な実質も含み得る。
【0151】
[00215]得られた数値的指標は、データベースとして提供され得る。数値的指標および/またはそのデータベースは、診断において、例えば臨床検査の開発および適用において使用され得る。
【0152】
診断用途
[00216]一部の実施形態において、生物学的状態を同定する方法が提供される。一部の実施形態において、本方法は、サンプル中の2つの核酸の各々の量を測定および/または計数するステップ、当該量を数値として提供するステップ、ならびに、当該数値を使用して、生物学的状態を示す数値的指標を提供するステップを含む。
【0153】
[00217]生物学的状態を示す数値的指標は、様々な実施形態に従って上記のように決定され得る。サンプルは、標本、例えば、処置対象の対象から回収された標本から得られ得る。対象は、例えば、病院、医療供給者のオフィス、クリニック、および/または他の医療および/またはヘルスリサーチ施設を含む、臨床環境にいる場合がある。サンプル中の目的の核酸の量はこうして、測定および/または計数され得る。
【0154】
[00218]ある特定の実施形態において、所定の数の遺伝子を評価する場合、この所定の数の遺伝子についての発現データは同時に得られ得る。ある特定の遺伝子の発現パターンをデータベースにおける発現パターンと比較することによって、この遺伝子発現パターンを有する腫瘍が応答する可能性が最も高い化学療法剤が決定され得る。
【0155】
[00219]一部の実施形態において、本方法は、突然変異した内因性遺伝子の存在下で外因性の正常遺伝子を定量するために使用され得る。欠失した領域をスパンするプライマーを使用して、トランスフェクトされた正常遺伝子および/または構成的に異常な遺伝子からの発現を選択的に増幅および定量することができる。
【0156】
[00220]一部の実施形態において、本明細書において記載される方法は、正常な発現レベルを決定して、例えば、正常遺伝子転写産物の発現レベルに対応する数値を提供するために使用され得る。このような実施形態は、評価対象の遺伝子の発現に少なくとも関する、正常な生物学的状態を示すために使用され得る。
【0157】
[00221]正常な発現レベルは、疾患、外傷、および/または他の細胞傷害に通常は関連しない条件下での、転写産物の発現レベルを指し得る。一部の実施形態において、正常な発現レベルは、数として、または好ましくは特定の遺伝子の正常な発現の範囲に対応する数値範囲、例えば、実験誤差の+/-1パーセント以内として、提供され得る。サンプル中の所与の核酸、例えば特定の遺伝子に対応する核酸について得られた数値の比較は、例えば、本明細書において提供されるデータベース内のデータと比較することによって、確立された正常な数値と比較され得る。数値はサンプル中の核酸の分子数を示し得、この比較は、遺伝子が正常なレベル内で発現しているか否かを示し得る。
【0158】
[00222]一部の実施形態において、本方法は、第1のサンプル中の核酸量を見積もるステップ、および前記量を、多くの他のサンプル間で直接比較可能な数値として提供するステップを含む、生物学的状態を同定するために使用され得る。一部の実施形態において、数値は、無制限の数の他のサンプルと潜在的に直接比較可能である。サンプルは、異なる時点で、例えば、異なる日に、同一の実験室における同一のもしくは異なる実験で、および/または異なる実験室における異なる実験で、評価され得る。
【0159】
治療用途
[00223]一部の実施形態は、薬剤の開発を改善する方法を提供する。例えば、標準内部標準混合物、数値のデータベース、および/または数値的指標のデータベースの使用が、薬剤の開発を改善するために使用され得る。
【0160】
[00224]一部の実施形態において、候補薬剤の効果を決定するために、遺伝子発現の調整が、これらの段階の1つまたは複数で測定および/または計数される。例えば、候補薬剤(例えば、所与の段階で同定される)が生物学的実体に投与され得る。生物学的実体は、上記のような、核酸を有し得るあらゆる実体であり得、また、薬剤開発の段階に基づいて適切に選択され得る。例えば、最初の同定段階では、生物学的実体はインビトロ培養物であり得る。臨床治験の段階では、生物学的実体はヒト患者であり得る。
【0161】
[00225]遺伝子発現に対する候補薬剤の影響は、こうして、例えば本発明の様々な実施形態を使用して評価され得る。例えば、核酸サンプルは生物学的実体から回収され得、目的の核酸の量が測定および/または計数され得る。例えば、量は、数値および/または数値的指標として提供され得る。量は次いで、薬剤開発の異なる段階の当該核酸の別の量と、ならびに/またはデータベース内の数値および/もしくは指標と比較され得る。この比較は、薬剤開発のプロセスを1つまたは複数の手段で改変するための情報を提供し得る。
【0162】
[00226]薬剤開発のステップの改変は、好ましくは薬剤開発のための時間および/または費用を低減させるために、薬剤開発のプロセスにおいて1つまたは複数の変更を行うことを指し得る。例えば、改変は、臨床治験の層別化を含み得る。臨床治験の層別化は、例えば、臨床治験内の患者集団を分けること、ならびに/または、特定の個体が臨床治験に参加し得るか否かおよび/もしくはその後の臨床治験相まで継続され得るか否かを決定することを指し得る。例えば、患者は、本発明の様々な実施形態を使用して決定されるそれらの遺伝子構造の1つまたは複数の特徴に基づいて分けられ得る。例えば、例えば候補薬剤に対する応答の欠如に対応することが分かっているインビトロ培養物から前臨床段階で得られた数値を、考慮する。臨床治験段階で、同一または類似の数値を示す対象は、治験への参加から外され得る。薬剤開発のプロセスは、したがって改変されており、時間およびコストが削減される。
【0163】
キット
[00227]本明細書において記載される内部増幅コントロール(IAC)/競合内部標準(IS)は、キットの形態に組み合わされ、提供され得る。一部の実施形態において、キットは、マルチプレックスPCRおよび次世代シーケンシング(NGS)を含むPCRを行うために必要なIACおよび試薬を提供する。IACは、濃度が分かっている単一の濃縮された形態で提供され得るか、またはいくつかの既知の作用濃度の少なくとも1つまで溶液中に連続希釈され得る。
【0164】
[00228]キットは、本明細書において記載される150の同定された内因性標的のIS、または本明細書において記載される28のERCC(外部RNAコントロールコンソーシアム)標的のIS、またはその両方を含み得る。
【0165】
[00229]これらISは、ISを最大数年間わたり安定なまま維持することを可能にする溶液中で提供され得る。
[00230]キットはまた、150の内因性標的のIS、28のERCC標的のIS、およびこれらの対応するネイティブな標的を増幅するように特異的に設計されたプライマーも提供し得る。
【0166】
[00231]キットはまた、限定はしないがdNTP、反応バッファー、Taqポリメラーゼ、およびRNAseを含有しない水を含む、1つまたは複数の必要なPCR試薬で満たされた、1つまたは複数の容器を提供し得る。場合によって、このような容器には、IACの製造、使用、または販売を管理する政府機関によって規定された形態の通知および関連する試薬が付随しており、この通知は、製造、使用、または販売の機関による、調査使用についての承認を反映している。
【0167】
[00232]キットは、キットに含まれるISを使用してマルチプレックスPCRおよびNGSを含むPCRを準備、実行、および解析するための適切な指示を含み得る。指示は、限定はしないが、印刷物、ビデオテープ、コンピュータ読み取り可能ディスク、または光学ディスクを含む、あらゆる適切なフォーマットのものであり得る。
【0168】
[00233]本明細書において言及される特許文献および非特許文献を含む全ての刊行物は、参照によって本明細書に明確に組み込まれる。本明細書において引用される文献のいずれかの引用は、これら文献のいずれかが関連先行技術であるということの承認を、意図するものではない。これらの文献の日付についての全ての言及または内容についての記載は、出願人が入手可能な情報に基づくものであり、これら文献の日付または内容の正確さについての承認を構成するものでは全くない。
【0169】
[00234]本発明を様々なおよび好ましい実施形態に関して記載してきたが、当業者なら、本発明の必須の範囲から逸脱することなく様々な変更が行われ得ることおよび均等物がその要素の代わりとなり得ることを理解するはずである。加えて、多くの修正が、本発明の必須の範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本発明の教示に適合させるために行われ得る。
【0170】
[00235]したがって、本発明は、本発明を実施するために検討される、本明細書において開示されている特定の実施形態に限定されないが、本発明は特許請求の範囲に含まれる全ての実施形態を含むものである。
【国際調査報告】