(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-14
(54)【発明の名称】細胞受容体の妨害を通じてASFV感染症を阻止する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20221107BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221107BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20221107BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20221107BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221107BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20221107BHJP
A61K 39/12 20060101ALI20221107BHJP
A61K 39/187 20060101ALI20221107BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20221107BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20221107BHJP
C07K 14/185 20060101ALN20221107BHJP
C12N 15/40 20060101ALN20221107BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P35/00
A61P31/12
A61P31/04
A61K48/00
A61P31/14
A61K39/12
A61K39/187
A61K38/02
C12N15/09 100
C12N15/09 110
C07K14/185
C12N15/40
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022515630
(86)(22)【出願日】2020-09-16
(85)【翻訳文提出日】2022-04-26
(86)【国際出願番号】 US2020050939
(87)【国際公開番号】W WO2021055383
(87)【国際公開日】2021-03-25
(32)【優先日】2019-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522091519
【氏名又は名称】チェン,ダル
(71)【出願人】
【識別番号】521483087
【氏名又は名称】マルコム,トーマス
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ダル
(72)【発明者】
【氏名】マルコム,トーマス
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA13
4C084AA17
4C084BA03
4C084BA44
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZB351
4C084ZB352
4C085AA03
4C085BA51
4C085BA61
4H045AA11
4H045BA10
4H045CA01
4H045DA50
4H045EA31
4H045FA74
(57)【要約】
ウイルス侵入タンパク質と細胞受容体との相互作用を阻害し、動物における細菌又はウイルス感染症又はがんを予防及び治療することによって、動物における細菌又はウイルス感染症又はがんを予防及び治療する方法。ウイルスの溶原相の外膜上のタンパク質を標的化するウイルス抗原を投与することと、ウイルスの溶解相のカプシド上のタンパク質を標的化するウイルス抗原を投与することと;ウイルス感染症を治療することとによって、溶原性と溶解性の双方であるウイルスによる個体のウイルス感染症を治療する方法。溶原性と溶解性の双方であるウイルスによる、個体のウイルス感染症を治療する組成物。溶原性と溶解性の双方であるウイルスによる、個体のウイルス感染症を治療するための抗体を発見する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物におけるウイルス侵入タンパク質と細胞受容体との相互作用を阻害するステップと、
前記動物における細菌又はウイルス感染症又はがんを予防及び治療するステップと
を含む、動物における細菌又はウイルス感染症又はがんを予防及び治療する方法。
【請求項2】
前記阻害するステップが、小分子(非)競合的阻害の実施、又は競合的阻害の実施、及び遺伝子編集法による細胞受容体の改変の実施からなる群から選択されるステップとしてさらに定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ウイルス感染症が、アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記細菌感染症が、バチルス・アンシラシス(Bacillus anthracis)、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)、パスツレラ・ヘモリチカ(Pasteurella haemolytica)、シュードモナス・シュードマレイ(Pseudomonas pseudomallei)、アクロモバクター・アニトラチウム(Achromobacter anitratium)、マイコプラズマ・ハイオニューモニアエ(Mycoplasma hyopneumoniae)、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)A型及びD型、ブタインフルエンザ菌(Haemophilus suis)、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)、ビブリオ・コリ(Vibrio coli)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、豚コレラ菌(Salmonella cholerae-suis)、サルモネラ・アナツム(Salmonella anatum)、大腸菌(Escherichia coli)、スフェロフォルス・ネクロホルス(Sphaerophorus necrophorus)、ブルセラ・スイス(Brucella suis)、ブルセラ・アボルタス(Brucella abortus)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、ストレプトコッカス・アガラクチアエ(Streptococcus agalactiae)、ストレプトコッカス・ユベリス(Streptococcus uberis)、クレブシエラ・ニューモニアエ(Klebsiella pneumoniae)、コリネバクテリウム・ピオゲネス(Corynebacterium pyogenes)、アクチノバシラス・リグニエレシイ(Actinobacillus lignieresi)、レプトスピラ・ポモナ(Leptospira pomona)、レプトスピラ・ヒオス(Leptospira hyos)、レプトスピラ・グリッポチホサ(Leptospira grippothyphosa)、秋疫レプトスピラ(Leptospira autumnalis)、ストレプトコッカス・ズーエピデミクス属(Streptococcus zooepidemicus)、ストレプトコッカス・エクイシミリス(Streptococcus equisimilis)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)、アクチノミセス・ボビス(Actinomyces bovis)、クロストリジウム・セプチカム(Clostridium septicum)、アクチノバシラス・リグニエレシイ(Actinobacillus lignieresi)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、コリネバクテリウム・ピオゲネス(Corynebacterium pyogenes)、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)、マイコプラズマ・ハイオリニス(Mycoplasma hyorhinis)、及び豚丹毒菌(Erysipelothrix insidiosa)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記阻害するステップの前に、受容体をスクリーニングを実施するステップと、ウイルス付着及び侵入タンパク質と相互作用する細胞受容体を同定するステップとをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
遺伝子編集法により競合的阻害及び細胞受容体改変を実施することが、侵入タンパク質の機能不全又は破壊によりウイルス結合を防止するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記遺伝子編集法が、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ、ヒトWRN、C2c2、C2c1、C2c3、CRISPRCas9、CRISPR/Cpf1、CRISPR/TevCas9、CasX、CasY、及び古細菌Cas9からなる群から選択されるヌクレアーゼを使用する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ウイルスの溶原相の外膜上のタンパク質を標的化するウイルス抗原を投与するステップと;
前記ウイルスの溶解相のカプシド上のタンパク質を標的化するウイルス抗原を投与するステップと;
ウイルス感染症を治療するステップと
を含む、溶原性と溶解性の双方である前記ウイルスによる、個体の前記ウイルス感染症を治療する方法。
【請求項9】
前記ウイルス感染症がASFVである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記個体がブタである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ウイルスの溶原相の外膜上のタンパク質を標的化するウイルス抗原を投与するステップが、pE402Rを標的化することとしてさらに定義される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記ウイルスの溶解相のカプシド上のタンパク質を標的化するウイルス抗原を投与するステップが、pE102R、p72、p49、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるタンパク質を標的化することとしてさらに定義される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記投与するステップのそれぞれが、タンパク質全体、ペプチド、ペプチドセグメント、及び標的タンパク質由来のペプチドの混合物からなる群から選択される組成物を投与することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記投与するステップが、単回注射又は別個の注射で実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記治療するステップが、前記個体におけるB細胞応答を誘導し、免疫刺激応答を生じさせるステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
ウイルスの溶原相の外膜上のタンパク質を標的化するウイルス抗原と、前記ウイルスの溶解相のカプシド上のタンパク質を標的化するウイルス抗原とを含む、溶原性と溶解性の双方である前記ウイルスによる、個体におけるウイルス感染症を治療するための組成物。
【請求項17】
前記ウイルス感染症がASFVである、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記個体がブタである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記ウイルスの溶原相の外膜上の前記タンパク質が、pE402Rとしてさらに定義される、請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
前記ウイルスの溶解相のカプシド上の前記タンパク質が、pE102R、p72、p49、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるタンパク質としてさらに定義される、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物が、タンパク質全体、ペプチド、ペプチドセグメント、及び前記標的タンパク質由来のペプチドの混合物からなる群から選択されるウイルス抗原を含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項22】
前記組成物が、薬学的に許容可能な賦形剤と共に、単回注射に製剤化される、請求項16に記載の組成物。
【請求項23】
前記組成物が、薬学的に許容可能な賦形剤と共に製剤化され、溶原相の外膜上のタンパク質を標的化する前記ウイルス抗原が第1の注射中に含まれ、溶解相のカプシド上のタンパク質を標的化する前記ウイルス抗原が第2の注射中に含まれる、請求項16に記載の組成物。
【請求項24】
ウイルスの溶原相の外膜上の標的タンパク質のタンパク質全体又はペプチドと、前記ウイルスの溶解相のカプシド上の標的タンパク質とを抗原として使用して、抗体発見プラットフォームで抗体を発見するステップと;
発見された抗体の親和性、結合力、特異性、選択性、安定性、精度、及び堅牢性を試験するステップと;
ウイルス感染症の治療的処置として最適な候補抗体を選択するステップと
を含む、溶原性と溶解性の双方である前記ウイルスによる、個体の前記ウイルス感染症を治療するための抗体を見いだす方法。
【請求項25】
前記ウイルスの溶原相の外膜上の前記標的タンパク質がpE402Rであり、前記ウイルスの溶解相のカプシド上の前記標的タンパク質が、pE102R、p72、p49、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項24に記載の方法によって見いだされる抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
1.技術分野
本発明は、ウイルス及び細菌感染症を予防する方法、がんの予防、及び/又は動物(非ヒト)における治療に関する。より具体的には、本発明は、ブタ及びその他の動物における感染症及びがんを治療し予防する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2.背景技術
アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)は、主に家畜豚、イノシシ、イボイノシシ、及びカワイノシシに感染する大型二本鎖DNAウイルスである。それはまた、ヒメダニに存在し、それによって感染ベクターとなる。ASFVは主に単球とマクロファージに感染するが、急性感染症ではその他の多くの細胞タイプが感染し得るので、GMO動物におけるウイルス/細胞受容体を再定義することは、急性感染と追加治療の必要性を防ぐのに役立つであろう。ASFVは、これらの動物において高熱、出血性病変、チアノーゼ、食欲不振、及び死亡を引き起こす。このウイルスに対するワクチン又は治療法はなく、現在その蔓延を防ぐ唯一の方法は、動物を淘汰することである。出願人らに対する米国仮特許出願第62/871,949号は、ASFVを保有するヒメダニなどのウイルスキャリアを排除又は中和するための遺伝子ドライブを開示している。遺伝子ドライブでは対立遺伝子が改変されるので、(50%だけでなく)全ての子孫で、それは常に優性対立遺伝子として示される。しかし、ウイルスそれ自体を治療する方法が、依然として必要とされる。
【0003】
現在までに、ASFVの細胞受容体は同定されていないが、ウイルスが、単球又はマクロファージ細胞におけるダイナミン依存性及びクラスリン媒介性の微飲作用プロセスを介して侵入するという証拠がある(Jia, et al. Roles of African swine fever virus structural proteins in viral infection, J Vet Res 61, 135-143, 2017)。ASFVのウイルス抗原に対する強力な抗体応答を生み出す試みは、不十分な結果に終わっている。
【0004】
遺伝子編集は、ヌクレアーゼの使用によって、生物のゲノムにDNA又はRNAを挿入、削除、又は置換できるようにする。現在使用されている数種類のヌクレアーゼとしては、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、転写アクチベーター様エフェクターベースのヌクレアーゼ(TALEN)、及び規則的な間隔をもってクラスター化された短鎖反復回文配列(CRISPR)-Casヌクレアーゼなどがある。これらのヌクレアーゼは、DNAを編集するために、DNAの部位特異的二本鎖(又は一本鎖)切断を作り出し得る。受容体のゲノムを標的化することは、ウイルスゲノムの正確な切断を必要とし、対象に有害であり得るオフターゲット効果を与えないことが必要である。
【0005】
遺伝子編集は、これまでもウイルスを標的化するために使用されている。Quakeに対する米国特許出願公開第20160060655号は、誘導ヌクレアーゼシステムを使用して、ウイルス感染症を選択的に治療するための方法を開示している。発明の方法を使用して、宿主の遺伝物質の完全性を妨害することなく、宿主生物からウイルス又はその他の外来遺伝物質が除去されてもよい。ヌクレアーゼを使用して、CRISPR Cas9、ジンクフィンガー、又はTALENなどのウイルス核酸を標的化し、それによってウイルスの複製又は転写が妨害され、又は宿主ゲノムからウイルス遺伝物質が切除されてもよい。
【0006】
Zhangらに対する米国特許出願公開第2014/0357530号は、細胞内の遺伝子機能に焦点を当て、ベクターシステム及び規則的な間隔をもってクラスター化された短鎖反復回文配列(CRISPR)-Casシステムとその構成要素に関するその他の側面を使用するゲノム機能解析で使用される組成物、方法用途、及びスクリーニングを開示する。Zhangらは、最大で200塩基対、好ましくは最大で100塩基対、又はより好ましくは最大で50塩基対である5’オーバーハングを作り出す、DNAの短い部分の修飾を開示する。
【0007】
Doudnaらに対する米国特許第10,266,850号は、標的配列を含み、修飾ポリペプチドと共に、標的DNAの及び/又は標的DNAに関連するポリペプチドの部位特異的修飾を提供する、DNA標的化RNAを開示する。標的細胞における標的核酸の転写を調節する方法もまた開示されており、一般に、標的核酸と、酵素的に不活性なCas9ポリペプチド及びDNA標的化RNAとを接触させることを伴う。
【0008】
遺伝子編集はまた、点変異を作成するためにも使用されている。Rees, et al. (Nat Rev Genet. 2018 Dec;19(12):770-788)は、CRISPRシステムの構成要素をその他の酵素と共に使用して、二本鎖DNAを切断することなく、細胞のDNA又はRNAに点変異を直接インストールする新しいゲノム編集アプローチである、塩基編集を教示する。DNA塩基エディターは、核酸塩基デアミナーゼ酵素に融合した触媒的に無効化されたヌクレアーゼと、場合によってはDNAグリコシラーゼ阻害剤とを含む。RNA塩基エディターは、RNAを標的化する構成要素を使用して、類似の改変を達成する。塩基エディターは、1つの塩基又は塩基対を別のものに直接変換し、望まれない編集副産物を過剰に生成することなく、非分裂細胞内に点変異を効率的にインストールできるようにする。
【0009】
Cas/デアミナーゼ融合タンパク質は、点変異を生じるためにも使用されている。Zheng, et al. (Communications Biology volume 1, Article number: 32 (2018)は、ニッカーゼCas9-シチジンデアミナーゼ融合タンパク質を使用して、原核細胞内でシトシンからチミンへの変換を誘導し、大腸菌(Escherichia coli)及びブルセラ・メリテンシス(Brucella melitensis)における高い変異誘発頻度を実現した。Liuらに対する米国特許出願公開第20160304846号もまた、細胞又は対象のゲノム内の単一部位を編集するための、Cas9と核酸編集酵素又は例えば、デアミナーゼドメインなどの酵素ドメインとの融合タンパク質を開示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
動物の受容体を改変することによって、細菌及びウイルス感染症(ASFVなど)並びにがんを治療及び予防する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の概要
本発明は、ウイルス侵入タンパク質と細胞受容体との相互作用を阻害することと、動物における細菌又はウイルス感染症又はがんを予防及び治療することとによって、動物(及び好ましくはブタのASFV)における細菌又はウイルス感染症又はがんを予防及び治療する方法を提供する。これは、1)小分子(非)競合的又は競合的阻害又は2)ウイルス侵入タンパク質が天然/野生型受容体をもはや認識しなくなるように、遺伝子編集法によって細胞受容体を改変することのどちらかを通じて達成され得る。
【0012】
本発明は、ウイルスの溶原相の外膜上のタンパク質を標的化する抗体を産生するB細胞応答を刺激するウイルス抗原を投与することと、ウイルスの溶解相のカプシド上のタンパク質を標的化するウイルス抗原を投与することと、ウイルス感染症を治療することとによって、溶原性と溶解性の双方であるウイルスによる、個体におけるウイルス感染症を治療する方法を提供する。
【0013】
本発明はまた、ウイルスの溶原相の外膜上のタンパク質を標的化する抗体を産生するB細胞応答を刺激するウイルス抗原と、ウイルスの溶解相のカプシド上のタンパク質を標的化するウイルス抗原とを含む、溶原性と溶解性の双方であるウイルスによる、個体におけるウイルス感染症を治療するための組成物を提供する。
【0014】
本発明は、ウイルスの溶原相の外膜上の標的タンパク質のタンパク質全体又はペプチドと、ウイルスの溶解相のカプシド上の標的タンパク質とを抗原として使用して、抗体発見プラットフォームで抗体を発見することと、発見された抗体の親和性、結合力、特異性、選択性、安定性、精度、及び堅牢性を試験することと;ウイルス感染症の治療的処置として最適な候補抗体を選択することとによって、原性と溶解性の双方であるウイルスによる、個体におけるウイルス感染症を治療するための抗体を見いだす方法を提供する。
【0015】
図面の説明
添付図面との関連で考慮されるとき、以下の詳細な説明を参照することによってより良く理解されるように、本発明のその他の利点は容易に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】溶原性及び溶解性のASFVビリオンの描写である。
【
図2】外膜がある溶原性ビリオンを標的化できないが、外膜を含有せず露出したカプシドを有する溶解複製由来のビリオンは容易に標的化する、α-カプシド抗体の描写である。
【
図3A】溶原性ASFVにおける標的タンパク質の描写である。
【
図3B】溶解性ASFVにおける標的タンパク質の描写である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
本発明は、ウイルス侵入タンパク質と細胞受容体との相互作用を阻害することによって、動物における細菌又はウイルス感染症又はがん(及び好ましくはブタにおけるASFV)を予防及び治療する方法を提供する。技術的には、これは、1)小分子(非)競合的又は競合的阻害又は2)ウイルス侵入タンパク質が天然/野生型受容体をもはや認識しなくなるように、遺伝子編集法によって細胞受容体を改変することのどちらかを通じて達成され得る。
【0018】
本明細書の用法では「動物」は、任意の哺乳類、好ましくはブタを指し、ヒトもまた含み得る。
【0019】
本明細書の用法では「ブタ(porcine)」又は「ブタ(swine)」は、家畜ブタ、イノシシ、イボイノシシ、又はカワイノシシであり得る。
【0020】
「ベクター」という用語は、クローニング及び発現ベクター、並びにウイルスベクター、及び組み込みベクターを含む。「発現ベクター」は、調節領域を含むベクターである。ベクターについては、以下でさらに詳しく説明される。
【0021】
本明細書の用法では「gRNA」は、ガイドRNAを指す。本明細書のCRISPR Cas9システム及びその他のCRISPRヌクレアーゼのgRNAは、受容体又は受容体をコード化する遺伝子を改変又は編集するために使用される。gRNAは、コード配列又は非コード配列に称賛的な(complimentary)配列であり得て、標的化される特定の受容体又は遺伝子に合わせて調整され得る。gRNAは、例えば、1つ又は複数のウイルス構造タンパク質をコード化する配列などの、タンパク質コード配列に称賛的な(complimentary)配列であり得る(例えば、ASFVでは、CP2475遺伝子はポリペプチド220をコード化し、これはタンパク質p150、p37、p14、及びp34に切断される)。gRNA配列は、センス配列又はアンチセンス配列であり得る。遺伝子編集組成物が本明細書で投与される場合、好ましくは、これは1つ又は複数のgRNAを含むものと理解されるべきである。
【0022】
本明細書の用法では「核酸」は、cDNA、ゲノムDNA、合成DNA、及び核酸類似体含有DNA(又はRNA)をはじめとするRNA及びDNAの双方を指し、そのいずれもが本発明のポリペプチドをコード化してもよく、それらの全てが本発明に包含される。ポリヌクレオチドは、本質的に任意の三次元構造を有し得る。核酸は二本鎖又は一本鎖であり得る(すなわち、センス鎖又はアンチセンス鎖)。ポリヌクレオチドの非限定的例としては、遺伝子、遺伝子断片、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)とその部分、移転RNA、リボソームRNA、siRNA、ミクロRNA、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)、干渉RNA(RNAi)、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離DNA、任意の配列の単離RNA、核酸プローブ、及びプライマー、並びに核酸類似体が挙げられる。本発明の文脈において、核酸は、天然に存在するCas9の断片又はその生物学的に活性な変異体、及び少なくとも2つのgRNAをコード化し得て、ここで、gRNAは、受容体又は受容体をコード化する遺伝子の配列に相補的である。
【0023】
「単離」核酸は、例えば、天然に存在するゲノムにおいて、そのDNA分子に隣接して通常見られる核酸配列の少なくとも1つが除去又は欠落しているという条件で、天然に存在するDNA分子又はその断片であり得る。したがって、単離核酸としては、限定されることなく、その他の配列から独立した、別の分子として存在するDNA分子(例えば、化学的に合成された核酸、又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)又は制限エンドヌクレアーゼ処理によって生成されたcDNA又はゲノムDNA断片)が挙げられる。単離核酸はまた、ベクター、自律的複製型プラスミド、ウイルスに、又は原核生物又は真核生物のゲノムDNAに組み込まれるDNA分子も指す。さらに、単離核酸は、ハイブリッド又は融合核酸の一部であるDNA分子などの操作された核酸を含み得る。例えば、cDNAライブラリ又はゲノムライブラリ、又はゲノムDNA制限消化物を含有するゲル切片内の多数の(例えば、数十、又は数百から数百万の)その他の核酸の中に存在する核酸は、単離核酸ではない。
【0024】
単離核酸分子は、標準技術によって生成され得る。例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を使用して、本明細書に記載のポリペプチドをコード化するヌクレオチド配列をはじめとする、本明細書に記載のヌクレオチド配列を含有する単離核酸が得られ得る。PCRを使用して、全ゲノムDNA又は全細胞RNAからの配列をはじめとする、DNA並びにRNAからの特定の配列が増幅され得る。例えば、PCR Primer: A Laboratory Manual, Dieffenbach and Dveksler, eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1995などで様々なPCR法が記載される。一般に、関心領域の末端又はそれ以降からの配列情報を用いて、増幅される鋳型の反対側の鎖と配列が同一であるか又は類似する、オリゴヌクレオチドプライマーが設計される。それによって部位特異的ヌクレオチド配列修飾が鋳型核酸に導入され得る、様々なPCRストラテジーもまた利用可能である。
【0025】
単離核酸は、単一核酸分子として(例えば、ホスホラミダイト技術を使用して3’から5’方向に自動化DNA合成を使用して)、又は一連のオリゴヌクレオチドとして、化学的に合成され得る。例えば、所望の配列を含有する1対又は複数対の長いオリゴヌクレオチド(例えば、50~100ヌクレオチドより多い)が合成され得て、各対は、オリゴヌクレオチド対がアニールされた際に二重鎖が形成されるような相補性の短いセグメント(例えば、約15ヌクレオチド)を含有する。DNAポリメラーゼを使用してオリゴヌクレオチドを伸長し、オリゴヌクレオチド対毎に1つの二本鎖核酸分子を得て、次にこれはベクターにライゲーションされ得る。本発明の単離核酸はまた、例えば、Cas9をコード化するDNAの天然に存在する部分の(例えば、上記式による)変異誘発によって得られ得る。
【0026】
本発明の方法において、多くの異なる細菌感染症、ウイルス、及びがんが、動物、特にブタにおいて治療又は予防され得る。最も好ましくは、ウイルスはASFVである。それらが引き起こす細菌感染症及び疾患/病状は、これらに限定されるものではないが、炭疽病(バチルス・アンシラシス(Bacillus anthracis))、心内膜炎(ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes))、丹毒(サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium))、出血性敗血症(パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)、パスツレラ・ヘモリチカ(Pasteurella haemolytica))、類鼻疽(シュードモナス・シュードマレイ(Pseudomonas pseudomallei))、敗血症(アクロモバクター・アニトラチウム(Achromobacter anitratium))、流行性肺炎(マイコプラズマ・ハイオニューモニアエ(Mycoplasma hyopneumoniae))、肺炎(パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)A型及びD型)、気管支敗血症菌(ブタインフルエンザ菌(Haemophilus suis))、ボツリヌス症(クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum))、赤痢(ビブリオ・コリ(Vibrio coli))、腸炎(サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、豚コレラ菌(Salmonella cholerae-suis)、サルモネラ・アナツム(Salmonella anatum))、浮腫疾患(大腸菌(Escherichia coli))、潰瘍(スフェロフォルス・ネクロホルス(Sphaerophorus necrophorus))、流産(ブルセラ・スイス(Brucella suis)、ブルセラ・アボルタス(Brucella abortus)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes))、乳腺炎(スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、ストレプトコッカス・アガラクチアエ(Streptococcus agalactiae)、ストレプトコッカス・ユベリス(Streptococcus uberis)、大腸菌(Escherichia coli)、クレブシエラ・ニューモニアエ(Klebsiella pneumoniae)、コリネバクテリウム・ピオゲネス(Corynebacterium pyogenes)、スフェロフォルス・ネクロホルス(Sphaerophorus necrophorus))、乳房膿瘍(アクチノバシラス・リグニエレシイ(Actinobacillus lignieresi))、膀胱炎(大腸菌(Escherichia coli)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus))、レプトスピラ症(レプトスピラ・ポモナ(Leptospira pomona)、レプトスピラ・ヒオス(Leptospira hyos)、レプトスピラ・グリッポチホサ(Leptospira grippothyphosa)、秋疫レプトスピラ(Leptospira autumnalis))、膿瘍(ストレプトコッカス・ズーエピデミクス属(Streptococcus zooepidemicus)、ストレプトコッカス・エクイシミリス(Streptococcus equisimilis)、スフェロフォルス・ネクロホルス(Sphaerophorus necrophorus))、咬痙(クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani))、顎放線菌症(アクチノミセス・ボビス(Actinomyces bovis))、悪性浮腫(クロストリジウム・セプチカム(Clostridium septicum))、木製舌(アクチノバシラス・リグニエレシイ(Actinobacillus lignieresi))、創傷(プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、コリネバクテリウム・ピオゲネス(Corynebacterium pyogenes)、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)、スフェロフォルス・ネクロホルス(Sphaerophorus necrophorus))、関節炎(マイコプラズマ・ハイオリニス(Mycoplasma hyorhinis))、又は新生児死亡(大腸菌(Escherichia coli)、豚丹毒菌(Erysipelothrix insidiosa)、ストレプトコッカス・ズーエピデミクス属(Streptococcus zooepidemicus)、ブルセラ・スイス(Brucella suis))であり得る。
【0027】
最初に、受容体スクリーニングが実施される。細胞受容体の同定には、p54(E183L遺伝子)侵入、p30(CP204L遺伝子)侵入、p12(O61R遺伝子)侵入、p10(A78R遺伝子)侵入、p11.5(A137R遺伝子)侵入、又はp72(B646L遺伝子)侵入などのウイルス付着及び侵入タンパク質/リガンドの1つ又は複数(又はそれらの任意の組み合わせ)と相互作用する発見プラットフォームが用いられる(酵母ツーハイブリッドベースの又は生化学的相互作用アッセイ)。
【0028】
この目的のために使用され得る、複数の酵母ツーハイブリッド、哺乳類ツーハイブリッド、及びファージディスプレイアプローチがある。Luo, et al. (Biotechniques. 1997 Feb;22(2):350-2)は、哺乳類ツーハイブリッドシステムを記載する。目的の1つのタンパク質は、Gal4 DNA結合ドメインへの融合として発現され、別のタンパク質は、単純ヘルペスウイルスのVP16タンパク質の活性化ドメインへの融合として発現される。これらの融合タンパク質を発現するベクターは、レポータークロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)ベクターで、哺乳類細胞株に同時形質移入される。レポータープラスミドは、5つのコンセンサスGal4結合部位の制御下にある、cat遺伝子を含有する。2つの融合タンパク質が相互作用すると、catレポーター遺伝子の発現が有意に増加するであろう。Fields, et al. (Nature. 1989 Jul 20;340(6230):245-6)は、タンパク質「X」に融合したGAL4 DNA結合ドメインと、タンパク質「Y」に融合したGAL4活性化領域とを含む、酵母ツーハイブリッドシステムについて記載する。XとYがタンパク質-タンパク質複合体を形成して、GAL4ドメインの近接性を再構成し得る場合、UASGによって制御される遺伝子の転写が起こる。Smith (Science. 1985 Jun 14;228(4705):1315-7)は、外来DNA断片を繊維状ファージ遺伝子IIIに挿入して中央に外来配列を含む融合タンパク質を作成し得る、ファージツーハイブリッドシステムについて記載する。融合タンパク質はビリオンに組み込まれ、それは感染性を保持したまま、外来アミノ酸を免疫学的にアクセス可能な形で提示する。これらの「融合ファージ」は、外来配列に対する抗体との親和性によって、通常のファージに比べて1000倍以上濃縮され得る。
【0029】
受容体スクリーニングは、一般的に以下のように実施され得る。ブタ(swine)/ブタ(porcine)遺伝子のライブラリが、酵母やファージで発現される(ファージははるかに多くのスクリーニングに使用され得る)。次に、発現されたタンパク質が、酵母細胞/ファージの外側を修飾する。HPLCカラムは、ASFVカプシド又はタンパク質又はその他の潜在的なリガンドから構成され得る。酵母細胞又はファージは、選択された固定化ASFV受容体リガンドと共にインキュベートされる。細胞又はファージは、洗浄され、収集され、繰り返して濃縮される。サンプルが収集され、各ハイブリッド/ファージシステムによって定義される、典型的な生化学的/遺伝的方法を使用して、受容体が同定される。
【0030】
受容体とウイルスリガンドとの相互作用は、競合的阻害又は非競合的阻害のどちらかであり得る。競合的阻害は、化学物質、小型ペプチド、又は抗体が、結合をめぐって競合することによってその他の物質の効果を阻害する場合に発生し、すなわち、それは受容体に結合する通常の基質に似ている。非競合的阻害は、阻害剤が受容体の活性を低下させ、それが既に基質に結合しているかどうかにかかわらず、受容体に等しく良好に結合する場合に起こる。
【0031】
小分子阻害治療は、受容体の発見に基づいて導出され得る。ウイルスリガンドと細胞受容体との間の相互作用がひとたび定義されると、小分子破壊スクリーニング(ツーハイブリッドシステムなどを介したタンパク質間相互作用/破壊)を利用して、相互作用を阻害し得る小分子候補が定義される。ツーハイブリッドシステムのバリエーション、例えば、抑制型トランスアクチベーター(RTA)スクリーニングが使用され得る。このスクリーニングでは、小分子ライブラリが、ブタ受容体ペプチドとウイルス受容体/リガンドペプチドとが相互作用でロックされた場合に、選択培地上のみで増殖する酵母に追加される。小分子ライブラリを追加することによって、相互作用を妨害するものを探す。ひとたび同定されれば、どの小分子が最も堅牢で、安全で、効果的であるかが判定され得る。Hirst, et al. (Proc Natl Acad Sci U S A. 2001 Jul 17;98(15):8726-31. Epub 2001 Jul 10.)は、抑制型トランスアクチベーター(RTA)システムは、酵母の一般的な抑制因子TUP1のN末端抑制ドメインを用いていると記載する。TUP1-GAL80融合タンパク質は、GAL4と共発現された場合、GAL4依存性レポーター遺伝子の転写を阻害することが示されている。Joshi, et al. (Biotechniques. 2007 May;42(5):635-44)は、小分子化合物ライブラリからのタンパク質相互作用の阻害剤のスクリーニングにおいて、このシステムを使用している。本発明のスクリーニング及び試験に使用されるライブラリは、海、熱帯雨林に由来するか、又は合成品であり得る。ペプチド及び抗体ライブラリもまた、使用され得る。さらなるスクリーニング及び試験を実施して、小分子の数を絞り込み、細胞培養及び動物モデルにおける安全性及び有効性が試験され得る。
【0032】
遺伝子改変細胞受容体は、侵入タンパク質の機能不全又はその他の破壊を通じた、ウイルス結合防止のために使用され得る。ひとたび細胞受容体が同定されると、具体的には、ウイルスタンパク質リガンドの認識に重要な受容体内のアミノ酸である、遺伝子編集ツール(以下でさらに詳しく説明されるCRISPR、ZFN、TALENなどであるが、これらに限定されるものではない)を使用して、ウイルス侵入を阻止する非破壊的(機能保持タンパク質)アミノ酸配列を備えた受容体コード化遺伝子が、(置換又は欠失によって)改変され得る。それ以外の場合、侵入タンパク質は、構造的又は機能的な膜タンパク質である。それらの改変は、遺伝子編集によって影響を受ける遺伝子レベルであり得るが、標的細胞を破壊したり殺滅したりしないように、それらの自然な機能が保持される必要があり得る。
【0033】
受容体にグリコシル化が必要な場合は、ブタマクロファージ細胞抽出物が酵母/ファージ発現ライブラリに添加され、酵母/ファージ上の表面発現ペプチドのグリコシル化が強制され得る。
【0034】
上記の方法の代替法として、ウイルスタンパク質が上記のようにカラム上で分離され、次にブタ(swine)/ブタ(porcine)単離マクロファージ/単球細胞がカラム上で泳動され、インキュベートされて、次に細胞が溶出により濃縮され得る(相互作用はそのまま維持される)。ひとたび単離マクロファージ/単球が、単離ウイルス受容体/リガンドと相互作用すると、ウイルスリガンドを認識する抗体が添加され得て、次にシナプスが顕微鏡で観察され得る。単細胞が単離され、次に細胞受容体が同定され得る。
【0035】
この遺伝子編集アプローチはブタの胎芽系統で実施され、ASFV感染に耐性がある遺伝子改変ブタ生物が作成され得る。
【0036】
本発明で使用される遺伝子エディターは、以下に列挙される遺伝子エディターのいずれかを含み得る。DNA又はRNAのエンドヌクレアーゼ切断をはじめとする、gRNAによって誘導される任意の作用方法が使用され得る。ヌクレアーゼは、内在性ブタ受容体配列を塩基対レベルで切断するか又は改変し、1つ又は複数のgRNAがある分裂胎芽細胞内で、HITI(非分裂胎芽細胞)又は従来のHDRのような方法を使用して、置き換えることで機能する。遺伝子編集を使用して、所望の受容体をもたらす点変異又は複数変異が作成され得る。Cas/デアミナーゼ融合タンパク質を使用して、点変異が作成され得る。
【0037】
遺伝子置換もまた実施され得て、これには、遺伝子の切除と、それに続く、ウイルスの侵入を阻止する変異体(なおも機能性の)受容体を発現する改変配列を有する新しい遺伝子による、遺伝子置換が必要である。遺伝子編集を使用して、野生型遺伝子が変異配列を含有する改変遺伝子で置換され得て、置換受容体の発現を可能にする。ひとたび遺伝子が切除されると、それは分裂細胞又は非分裂細胞のどちらかで、遺伝子置換アプローチ(相同性指向組換え)を使用して置換され得る。
【0038】
ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)は、特定のDNA位置で二本鎖切断を作り出す。ZFNは、6bpのDNA配列を認識するDNA結合ドメインと、ヌクレアーゼFok IのDNA切断ドメインとの2つの機能性ドメインを有する。
【0039】
TALEN(転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ)は、DNAに二本鎖切断を作り出す、DNA切断ドメインに融合したTALエフェクターDNA結合ドメインを含む。
【0040】
ヒトWRNは、ウェルナー症候群遺伝子によってコード化されるRecQヘリカーゼである。これは、複製、組換え、除去修復、及びDNA損傷応答などのゲノム維持に関与するとされる。これらの遺伝的プロセスとWRNの発現は、多くのがんタイプで同時進行で上方制御される。したがって、このヘリカーゼの標的破壊は、がん細胞の排除に有用であり得ることが提案されている。報告では、培養されたヒト細胞株において、RNase P RNAにWRN mRNAを効率的に切断するように方向づける際に、外部ガイド配列(EGS)アプローチを適用し、ひいてはこの特徴的な3’-5’DNAヘリカーゼ-ヌクレアーゼの翻訳と活性を無効化している。
【0041】
クラス2型VI-A CRISPR/Casエフェクター「C2c2」は、RNA誘導RNase機能を実証する。細菌レプトトリキア・シャィイ(Leptotrichia shahii)からのC2c2は、RNAファージに対する干渉を提供する。生体外生化学的分析は、C2c2が単一のcrRNAによって誘導され、相補的プロトスペーサーを保有するssRNA標的を切断するようにプログラム化され得ることを示す。細菌では、C2c2は、特定のmRNAをノックダウンするようにプログラム化され得る。切断は2つの保存されたHEPNドメインの触媒残基によって媒介され、この残基の変異は、触媒的に不活性なRNA結合タンパク質を生じる。C2c2のRNAに焦点を当てた作用は、細胞の同一性と機能のゲノム設計図であるDNAを標的化する、CRISPR-Cas9システムを補完する。RNAのみを標的化する能力は、ゲノム命令の実行に役立ち、高スループット様式でRNAを特異的に操作して遺伝子機能をより広く操作する能力を提供する。これらの結果は、新しいRNA標的化ツールとしてのC2c2の能力を示す。
【0042】
別のクラス2 V-B型CRISPR/Casエフェクター「C2c1」もまた、DNAを編集するために本発明で使用され得る。C2c1は、Cpf1に遠縁のRuvC様エンドヌクレアーゼドメインを含有する(以下で説明される)。C2c1は、標的DNAの双方の鎖を部位特異的に標的化し、切断し得る。Yang, et al. (PAM-Depenednt Target DNA Recognition and Cleavage by C2c1 CRISPR-Cas Endonuclease, Cell, 2016 Dec 15; 167(7):1814-1828))によれば、結晶構造から、アリシクロバチルス・アシドテッレストリス(Alicyclobacillus acidoterrestris)C2c1(AacC2c1)が、二成分複合体としてsgRNAに結合し、三成分複合体としてDNAを標的化し、それによって、単一のRuvC触媒ポケット内に独立して配置された標的及び非標的DNA鎖の双方を備えた、AacC2c1の触媒能力のある立体配座を捕捉することが確認される。Yangらは、C2c1媒介切断が標的DNAの7ヌクレオチドの千鳥破断をもたらすこと、crRNAが二成分複合体においてあらかじめ秩序化された5ヌクレオチドのA型のシード配列を採用し、挿入されたトリプトファンが放出され、三成分複合体の形成時に20bpガイドRNA:標的DNAヘテロ二本鎖のジッパーアップを促進すること、PAM相互作用裂が、三成分複合体の形成において「ロックされた」構造を採用することを確認した。
【0043】
C2c3は、VC型の遺伝子エディターエフェクターであり、C2c1とは遠縁であり、RuvC様ヌクレアーゼドメインもまた含有する。C2c3はまた、以下で説明されるCasY.1~CasY.6グループにも類似している。
【0044】
本明細書の用法では「CRISPR Cas9」は、規則的な間隔をもってクラスター化された短鎖反復回文配列(CRISPR)関連エンドヌクレアーゼCas9を指す。細菌では、CRISPR/Cas遺伝子座は、可動遺伝因子(ウイルス、転移因子、及び接合性プラスミド)に対する、RNA誘導適応免疫系をコード化する。CRISPRシステムの3つのタイプ(I~III)が、同定されている。CRISPRクラスターは、先行する可動要素に相補的な配列であるスペーサーを含有する。CRISPRクラスターは転写され、成熟したCRISPR(規則的な間隔をもってクラスター化された短鎖反復回文配列)RNA(crRNA)にプロセスされる。CRISPR関連エンドヌクレアーゼCas9は、II型CRISPR/Casシステムに属し、標的DNAを切断する強力なエンドヌクレアーゼ活性を有する。Cas9は、約20塩基対(bp)のユニークな標的配列(スペーサーと称される)を含有する成熟crRNAと、リボヌクレアーゼIIIの助けを借りてプレcrRNAを処理するガイドとして機能するトランス活性化小型RNA(tracrRNA)とによって導かれる。crRNA:tracrRNA二重鎖は、crRNA上のスペーサーと標的DNA上の相補配列(プロトスペーサーと称される)の間の相補的塩基対形成を介して、Cas9を標的DNAに誘導する。Cas9は、トリヌクレオチド(NGG)プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識し、切断部位(PAMから3番目のヌクレオチド)を指定する。crRNAとtracrRNAは別々に発現されるか、又は合成ステムループ(AGAAAU)を介して人工融合小型ガイドRNA(sgRNA)に組み入れられて、天然のcrRNA/tracrRNA二重鎖を模倣し得る。このようなsgRNAは、shRNAと同様に、直接RNA形質移入のために、合成され又は生体外転写され、又はU6又はH1で促進されるRNA発現ベクターから発現され得るが、人工sgRNAの切断効率は、crRNAとtracrRNAを別々に発現させたシステムの切断効率よりも低い。
【0045】
CRISPR/Cpf1は、CRISPR/Cas9システムに類似したDNA編集技術であり、2015年にBroad Institute及びMITのFeng Zhangのグループによって特性決定された。Cpf1は、クラスII CRISPR/CasシステムのRNA誘導エンドヌクレアーゼである。この獲得免疫機構は、プレボテラ属(Prevotella)及びフランシセラ属(Francisella)の細菌に見られる。これは、ウイルスによる遺伝的損傷を防ぐ。Cpf1遺伝子は、CRISPR遺伝子座と関連しており、ガイドRNAを使用してウイルスDNAを見つけだして切断するエンドヌクレアーゼをコードする。Cpf1はCas9よりも小型でより単純なエンドヌクレアーゼであり、CRISPR/Cas9システムの制限のいくつかを克服する。CRISPR/Cpf1は、遺伝性疾患及び退行性病状の治療をはじめとする、複数の応用を有し得る。
【0046】
CRISPR/TevCas9システムもまた、使用され得る。場合によっては、ひとたびCRISPR/Cas9が1箇所でDNAを切断すると、生物の細胞内のDNA修復システムが、切断部位を修復することが示されている。TevCas9酵素は、細胞のDNA修復システムが切断を修復しにくいように、標的の2つの部位でDNAを切断するために開発された(Wolfs, et al., Biasing genome-editing events toward precise length deletions with an RNA-guided TevCas9 dual nuclease, PNAS, doi:10.1073)。TevCas9ヌクレアーゼは、I-TeviヌクレアーゼドメインとCas9との融合体である。
【0047】
Cas9ヌクレアーゼは、野性型ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)配列と同一のヌクレオチド配列を有し得る。いくつかの実施形態では、CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、例えば、サーモフィルスなどのその他のストレプトコッカス属(Streptococcus)種;シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、大腸菌(Escherichia coli)、又はその他の配列決定された細菌ゲノム、及び古細菌、又はその他の原核微生物などのその他の種からの配列であり得る。代案としては、野性型ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)Cas9配列が改変され得る。核酸配列は、哺乳類細胞における効率的な発現のためにコドン最適化され、すなわち、「ヒト化」され得る。ヒト化Cas9ヌクレアーゼ配列は、例えば、GenBank受入番号、KM099231.1 GI:669193757;KM099232.1 GI:669193761;又はKM099233.1 GI:669193765に列挙される発現ベクターのいずれかによってコード化される、Cas9ヌクレアーゼ配列であり得る。代案としては、Cas9ヌクレアーゼ配列は、例えば、Addgene(マサチューセッツ州ケンブリッジ)からのPX330又はPX260などの市販のベクター内に含有される配列であり得る。いくつかの実施形態では、Cas9エンドヌクレアーゼは、Genbank受入番号KM099231.1 GI:669193757;KM099232.1 GI:669193761;又はKM099233.1 GI:669193765又はPX330又はPX260(Addgene、マサチューセッツ州ケンブリッジ)のCas9アミノ酸配列のいずれかの変異型又は断片であるアミノ酸配列を有し得る。Cas9ヌクレオチド配列は、Cas9の生物学的に活性な変異型をコード化するように改変され得て、これらの変異型は、例えば、1つ又は複数の変異(例えば、付加、欠失、又は置換変異、又はこのような変異の組み合わせ)を含有するおかげで、野生型Cas9と異なるアミノ酸配列を有し得るか、又はそれを含み得る。置換変異の1つ又は複数は、置換(例えば、保存的アミノ酸置換)であり得る。例えば、Cas9ポリペプチドの生物学的に活性な変異型は、野性型Cas9ポリペプチドと、少なくとも又は約50%配列同一性(例えば、少なくとも又は約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%配列同一性)のアミノ酸配列を有し得る。保存的アミノ酸置換は、典型的に、以下のグループ内の置換を含む:グリシン及びアラニン;バリン、イソロイシン、及びロイシン;アスパラギン酸及びグルタミン酸;アスパラギン、グルタミン、セリン及びスレオニン;リジン、ヒスチジン及びアルギニン;及びフェニルアラニン及びチロシン。Cas9アミノ酸配列のアミノ酸残基は、非天然アミノ酸残基であり得る。天然アミノ酸残基としては、遺伝コードによって天然にコードされたもの、並びに非標準アミノ酸(例えば、L立体配置の代わりにD立体配置を有するアミノ酸)が挙げられる。本ペプチドはまた、標準残基の改変バージョンであるアミノ酸残基も含み得る(例えば、ピロリシンがリジンの代わりに使用され得て、セレノシステインがシステインの代わりに使用され得る)。非天然アミノ酸残基は、天然に見られないが、アミノ酸の基本式に適合し、ペプチドに組み込まれ得るものである。これらとしては、D-アロイソロイシン(2R,3S)-2-アミノ-3-メチルペンタン酸及びL-シクロペンチルグリシン(S)-2-アミノ-2-シクロペンチル酢酸が挙げられる。その他の例については、教科書又はワールドワイドウェブ(サイトは現在カリフォルニア工科大学によって維持されており、機能性タンパク質に成功裏に組み込まれている非天然アミノ酸の構造を表示している)が参照され得る。Cas-9はまた、以下の表1に示される任意のものであり得る。
【0048】
【0049】
RNA誘導エンドヌクレアーゼCas9は、用途の広いゲノム編集プラットフォームとして登場したが、一般に使用されているストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)からのCas9(SpCas9)のサイズが、汎用性の高いアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いた基礎研究及び治療応用に限界を与えているという報告もある。したがって、6つのより小さなCas9オルソログが使用されており、報告によると、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)からのCas9(SaCas9)は、SpCas9と同様の効率でゲノムを編集し得るが、1キロベース以上短くなっていることが示されている。SaCas9が1053bpであるのに対して、SpCas9は1358bpである。
【0050】
Cas9ヌクレアーゼ配列、又は本明細書に記載の遺伝子エディターエフェクター配列のいずれかは、変異配列であり得る。例えば、Cas9ヌクレアーゼは、鎖特異的切断に関与する保存されたHNH及びRuvCドメインで変異し得る。例えば、RuvC触媒領域のアスパラギン酸からアラニンへの変異(D10A)により、Cas9ニッカーゼ変異体(Cas9n)はDNAを切断するのではなく、一本鎖切断をもたらすニッキングができるようになり、引き続くHDRによる優先的な修復により、オフターゲット二本鎖切断からの望ましくないインデル変異の頻度を潜在的に低減し得る。一般に、遺伝子エディターエフェクター配列の変異は、オフターゲティングを最小化するか又は防止し得る。
【0051】
遺伝子エディターエフェクターは、CasX又はCasYであり得る。CasXの5’端は、TTC PAMを有する(Cpf1と類似)。TTC PAMは、GCに富むウイルスゲノムでは制限があり得るが、GCに乏しいウイルスゲノムではそれほどでもない。CasXのサイズ(986bp)はその他のV型タンパク質よりも小さく、送達プラスミドに4つのgRNAと1つのsiRNAを収める可能性を提供する。CasXは、デルタプロテオバクテリア綱(Deltaproteobacteria)又はプランクトミセス門(Planctomycetes)に由来し得る。
【0052】
遺伝子エディターエフェクターはまた、古細菌Cas9であり得る。古細菌のCas9のサイズは、950aaのARMAN1及び967aaのARMAN4である。古細菌Cas9は、ARMAN-1(カンジダツス・ミクラルカエウム・アシジフィルム(Candidatus Micrarchaeum acidiphilum)ARMAN-1)又はARMAN-4(カンジダツス・パルバルカエウム・アシジフィルム(Candidatus Parvarchaeum acidiphilum)ARMAN-4)に由来し得る。ARMAN1及びARMAN4の配列は、下に示される。
【0053】
本発明において、組成物のいずれかが発現ベクター内に含有される場合、CRISPRエンドヌクレアーゼは、gRNA配列と同じ核酸又はベクターによってコード化され得る。代案としては、又はこれに加えて、CRISPRエンドヌクレアーゼは、gRNA配列とは物理的に別の核酸中又は別のベクター中にコード化され得る。
【0054】
本明細書に記載されるような核酸を含有するベクターもまた、提供される。「ベクター」は、プラスミド、ファージ、又はコスミドなどのレプリコンであり、挿入されたセグメントの複製をもたらすようにその中に別のDNAセグメントが挿入されてもよい。一般に、ベクターは、適切な制御要素と結合している場合に複製できる。適切なベクター骨格としては、例えば、プラスミド、ウイルス、人工染色体、BAC、YAC、又はPACなどの当該技術分野で日常的に使用されているものが挙げられる。「ベクター」という用語は、クローニング及び発現ベクター、並びにウイルスベクター、及び組み込みベクターを含む。「発現ベクター」は、調節領域を含むベクターである。Novagen(ウィスコンシン州マディソン)、Clontech(カリフォルニア州パロアルト)、Stratagene(カリフォルニア州ラホーヤ)、Invitrogen/Life Technologies(カリフォルニア州カールズバッド)などの企業から、多数のベクター及び発現系が市販されている。
【0055】
本明細書で提供されるベクターはまた、例えば、複製起点、スキャフォールド付着領域(SAR)、及び/又はマーカーを含み得る。マーカー遺伝子は、選択可能な表現型を宿主細胞に付与し得る。例えば、マーカーは、抗生物質(例えば、カナマイシン、G418、ブレオマイシン、又はハイグロマイシン)に対する耐性などの殺生剤耐性を付与し得る。上記のように、発現ベクターは、発現されたポリペプチドの操作又は検出(例えば、精製又は局在化)を容易にするように設計されたタグ配列を含み得る。緑色蛍光タンパク質(GFP)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、ポリヒスチジン、c-myc、血球凝集素、又はFlag(商標)タグ(コネチカット州ニューヘブンのコダック)などのタグ配列は、典型的には、コード化されたポリペプチドとの融合体として発現される。このようなタグは、カルボキシル末端又はアミノ末端のどちらかをはじめとする、ポリペプチド内の任意の箇所に挿入され得る。
【0056】
追加的な発現ベクターはまた、例えば、染色体の、非染色体の、及び合成のDNA配列のセグメントを含み得る。適切なベクターとしては、SV40の誘導体及び既知の細菌プラスミド、例えば、大腸菌(E.coli)プラスミドであるcol E1、pCR1、pBR322、pMal-C2、pET、pGEX、pMB9などの誘導体、RP4などのプラスミド;ファージDNA、例えば、ファージ1の多数の誘導体、例えば、NM989、及びその他のファージDNA、例えば、M13及び繊維状一本鎖ファージDNA;2μプラスミド又はその誘導体などの酵母プラスミド、昆虫又は哺乳類細胞内で有用なベクターなどの真核細胞内で有用なベクター;ファージDNA又はその他の発現制御配列を使用するように改変されたプラスミドなどのプラスミドとファージDNAの組み合わせ由来のベクターが挙げられる。
【0057】
酵母発現系もまた使用され得る。例えば、2つだけ言及すると、非融合pYES2ベクター(XbaI、SphI、ShoI、NotI、GstXI、EcoRI、BstXI、BamH1、SacI、Kpn1、及びHindIIIクローニング部位;Invitrogen)、又は融合pYESHisA、B、C(XbaI、SphI、ShoI、NotI、BstXI、EcoRI、BamH1、SacI、KpnI、及びHindIIIクローニングサイト、ProBond樹脂で精製されてエンテロキナーゼで切断されたN末端ペプチド;Invitrogen)が、本発明に従って使用され得る。酵母ツーハイブリッド発現系もまた、本発明に従って調製され得る。
【0058】
ベクターは、調節領域もまた含み得る。「調節領域」という用語は、転写又は翻訳の開始と速度、及び転写又は翻訳産物の安定性及び/又は可動性に影響を与える、ヌクレオチド配列を指す。調節領域としては、限定されることなく、プロモーター配列、エンハンサー配列、応答要素、タンパク質認識部位、誘導性要素、タンパク質結合配列、5’及び3’非翻訳領域(UTR)、転写開始部位、終止配列、ポリアデニル化配列、核局在化シグナル、及びイントロンが挙げられる。
【0059】
本明細書の用法では、「作動可能に連結された」という用語は、そのような配列の転写又は翻訳に影響を与えるような、核酸中の制御領域と転写される配列との配置を指す。例えば、コード配列をプロモーターの制御下に置くために、ポリペプチドの翻訳読み枠の翻訳開始部位は、典型的には、プロモーターの1~約50ヌクレオチド下流の間に配置される。しかし、プロモーターは、翻訳開始部位の約5,000ヌクレオチド上流、又は転写開始部位の約2,000ヌクレオチド上流に配置され得る。プロモーターは、典型的に、少なくともコア(基本)プロモーターを含む。プロモーターはまた、エンハンサー配列、上流要素又は上流活性化領域(UAR)などの少なくとも1つの制御要素を含んでもよい。含まれるべきプロモーターの選択は、効率、選択性、誘導性、所望の発現レベル、及び細胞又は組織優先的発現をはじめとするが、これらに限定されるものではない、いくつかの要因に依存する。コード配列に対して、プロモーター及びその他の調節領域を適切に選択し配置することによって、コード配列の発現を調節することは、当業者にとって日常的事項である。
【0060】
ベクターとしては、例えば、ウイルスベクター(アデノウイルス(「Ad」)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、及び水疱性口内炎ウイルス(VSV)及びレトロウイルスなど)、リポソーム及びその他の脂質含有複合体、及びポリヌクレオチドの宿主細胞への送達を媒介できるその他の高分子複合体が挙げられる。ベクターはまた、遺伝子送達及び/又は遺伝子発現をさらに調節する、又はさもなければ標的細胞に有益な特性を提供する、その他の構成要素又は機能を含み得る。以下でより詳細に説明され図示されるように、このようなその他の構成成分としては、例えば、細胞への結合又は標的化に影響を与える構成要素(細胞タイプ又は組織特異的結合を媒介する構成成分をはじめとする);細胞によるベクター核酸の取り込みに影響を与える構成成分;取り込み後の細胞内のポリヌクレオチドの局在化に影響を与える構成成分(核局在化を媒介する薬剤など);及びポリヌクレオチドの発現に影響を与える構成成分が挙げられる。このような構成成分はまた、ベクターによって送達された核酸を取り込んで発現している細胞を検出又は選択するために使用され得る、検出可能な及び/又は選択可能マーカーなどのマーカーを含み得る。このような構成成分は、ベクターの自然な特徴として提供され得るか(結合と取り込みを媒介する構成成分又は機能を有する特定のウイルスベクターの使用など)、又はベクターを改変してこのような機能が提供され得る。その他のベクターとしては、Chen et al; BioTechniques, 34: 167-171 (2003)によって記載されているものが挙げられる。多種多様なこのようなベクターが当該技術分野で公知であり、一般に入手可能である。
【0061】
「組換えウイルスベクター」は、1つ又は複数の異種遺伝子産物又は配列を含むウイルスベクターを指す。多くのウイルスベクターはパッケージ化に関連するサイズの制約を示すことから、異種遺伝子産物又は配列は、典型的には、ウイルスゲノムの1つ又は複数の部分を置き換えることによって導入される。このようなウイルスは複製欠陥になってもよく、ウイルスの複製及びカプシド形成中に、削除された機能がトランスで提供される必要がある(例えば、複製及び/又はカプシド形成に必要な遺伝子産物を保有するヘルパーウイルス又はパッケージ化細胞株を使用することによって)。送達されるポリヌクレオチドがウイルス粒子の外側に担持されている、改変ウイルスベクターもまた記載されている(例えば、Curiel, D T, et al. PNAS 88: 8850-8854, 1991を参照されたい)。
【0062】
適切な核酸送達システムとしては、典型的には、アデノウイルス、アデノウイルス関連ウイルス(AAV)、ヘルパー依存性アデノウイルス、レトロウイルス、又は日本リポソームの血球凝集ウイルス(HVJ)複合体の少なくとも1つからの配列である、組換えウイルスベクターが挙げられる。このような場合、ウイルスベクターは、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターなど、ポリヌクレオチドと作動可能に連結する強力な真核生物プロモーターを含む。組換えウイルスベクターは、その中に1つ又は複数のポリヌクレオチド、好ましくは約1つのポリヌクレオチドを含み得る。いくつかの実施形態では、本発明の方法で使用されるウイルスベクターは、約108~約5x1010pfu(プラーク形成単位)を有する。ポリヌクレオチドが非ウイルスベクターと共に投与される実施形態では、例えば、約1ナノグラム~約100マイクログラムなど、約0.1ナノグラム~約4000マイクログラムの間の使用がしばしば有用であろう。
【0063】
追加的なベクターとしては、ウイルスベクター、融合タンパク質、及び化学コンジュゲートが挙げられる。レトロウイルスベクターとしては、モロニーマウス白血病ウイルス及びHIVベースのウイルスが挙げられる。1つのHIVベースのウイルスベクターは、少なくとも2つのベクターを含み、その中ではgag及びpol遺伝子がHIVゲノムに由来し、env遺伝子は別のウイルスに由来する。DNAウイルスベクターとしては、オルソポックス又はアビポックスベクターなどのpoxベクター、単純ヘルペ
スIウイルス(HSV)ベクターなどのヘルペスウイルスベクターが挙げられる[Geller, A.I. et al., J. Neurochem, 64: 487 (1995); Lim, F., et al., in DNA Cloning: Mammalian Systems, D. Glover, Ed. (Oxford Univ. Press, Oxford England) (1995); Geller, A.I. et al., Proc Natl. Acad. Sci.: U.S.A.:90 7603 (1993); Geller, A.I., et al., Proc Natl. Acad. Sci USA: 87:1149 (1990)], Adenovirus Vectors [LeGal LaSalle et al., Science, 259:988 (1993); Davidson, et al., Nat. Genet. 3: 219 (1993); Yang, et al., J. Virol. 69: 2004 (1995)]、及びAdeno-associated Virus Vectors [Kaplitt, M.G., et al., Nat. Genet. 8:148 (1994)]。
【0064】
ポックスウイルスベクターは、遺伝子を細胞質に導入する。アビポックスウイルスベクターは、核酸の短期間の発現のみをもたらす。アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、及び単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクターは、いくつかの発明の実施形態の適応であってもよい。アデノウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルスよりも短期的な発現(例えば、約1ヶ月未満)をもたらし、いくつかの実施形態では、はるかにより長い発現を示してもよい。選択される特定のベクターは、標的細胞及び治療される病状に依存するであろう。適切なプロモーターの選択は、容易に達成され得る。適切なプロモーターの一例は、763塩基対のサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターである。遺伝子発現に使用されてもよいその他の適切なプロモーターとしては、これらに限定されるものではないが、ラウス肉腫ウイルス(RSV)(Davis, et al., Hum Gene Ther 4:151 (1993))、SV40初期プロモーター領域、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター、メタロチオネイン(MMT)遺伝子の調節配列、β-ラクタマーゼプロモーターなどの原核生物発現ベクター、tacプロモーター、Gal4プロモーターなどの酵母又はその他の真菌由来のプロモーター要素、ADC(アルコールデヒドロゲナーゼ)プロモーター、PGK(ホスホグリセリン酸キナーゼ)プロモーター、アルカリホスファターゼプロモーター;及び組織特異性を示し、遺伝子組み換え動物で利用されている動物の転写制御領域:膵臓腺房細胞で活性であるエラスターゼI遺伝子制御領域、膵臓β細胞で活性であるインスリン遺伝子制御領域、リンパ系細胞で活性である免疫グロブリン遺伝子制御領域、精巣、乳房、リンパ系、及び肥満細胞で活性であるマウス乳腺腫瘍ウイルス制御領域、肝臓で活性であるアルブミン遺伝子制御領域、肝臓で活性であるαフェトプロテイン遺伝子制御領域、肝臓で活性であるα1-アンチトリプシン遺伝子制御領域、骨髄性細胞で活性であるβグロビン遺伝子制御領域、脳内の乏突起膠細胞で活性であるミエリン塩基性タンパク質遺伝子制御領域、骨格筋で活性であるミオシン軽鎖2遺伝子制御領域及び視床下部で活性である性腺刺激放出ホルモン遺伝子制御領域が挙げられる。特定のタンパク質は、それらの天然プロモーターを使用して発現させ得る。tat遺伝子及びtarエレメントなどの高レベルの発現をもたらすエンハンサー又はシステムなど、発現を増強し得るその他のエレメントもまた含め得る。次に、このカセットは、例えば、pUC19、pUC118、pBR322などのプラスミドベクター、又は例えば、大腸菌(E.coli)複製起点をはじめとするその他の既知のプラスミドベクターなどのベクターに挿入され得る。Sambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory press, (1989)を参照されたい。プラスミドベクターはまた、マーカーポリペプチドが、治療される生物の代謝に悪影響を及ぼさないという条件で、アンピシリン耐性のためのβ-ラクタマーゼ遺伝子などの選択可能マーカーも含んでもよい。カセットはまた、国際公開第95/22618号で開示されるシステムなどの合成送達システム中で核酸結合部分に結合し得る。
【0065】
必要に応じて、本発明のポリヌクレオチドは、カチオン性リポソーム及びアデノウイルスベクターなどのマイクロ送達ビヒクルと共に使用され得る。リポソームの調製、標的化、及び内容物の送達の手順のレビューについては、Mannino and Gould-Fogerite, BioTechniques, 6:682 (1988)を参照されたい。Felgner and Holm, Bethesda Res. Lab. Focus, 11(2):21 (1989)、及びMaurer, R.A., Bethesda Res. Lab. Focus, 11(2):25 (1989)もまた参照されたい。
【0066】
複製欠損組換えアデノウイルスベクターは、既知の技術に従って製造され得る。Quantin, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:2581-2584 (1992); Stratford-Perricadet, et al., J. Clin. Invest., 90:626-630 (1992); 及びRosenfeld, et al., Cell, 68:143-155 (1992)を参照されたい。
【0067】
別の送達方法は、発現された産物を細胞内で産生し得る一本鎖DNA産生ベクターを使用することである。例えば、その全体が参照により本明細書に援用される、Chen et al, BioTechniques, 34: 167-171 (2003)を参照されたい。代案としては、RNA及び/又はタンパク質の治療的送達もまた使用され得る。
【0068】
上記のように、本発明の組成物は、当業者に知られている様々な方法で調製され得る。それらの起源又はそれらの入手方法に関係なく、本発明の組成物は、それらの用途に応じて製剤化され得る。例えば、上記の核酸及びベクターは、組織培養中の細胞への適用のために、又は患者又は対象への投与のために、組成物に製剤化され得る。本発明の医薬組成物のいずれでも薬剤の調製に使用するために製剤化され得て、特定の用途は治療の文脈で以下に示される。医薬品として用いられる場合、任意の核酸及びベクターは、医薬組成物の形態で投与され得る。これらの組成物は、製薬技術分野で周知の方法で調製され得て、局所的又は全身的治療が望まれるかどうか、及び治療される領域に応じて、様々な経路で投与され得る。投与は、局所(眼、及び鼻腔内、膣、直腸送達をはじめとする粘膜を含む)、肺(例えば、ネブライザーによるものをはじめとする、粉末又はエアロゾルの吸入又は吹送による;気管内、鼻腔内、表皮、及び経皮)、眼球、経口又は非経口であってもよい。眼球送達方法としては、局所投与(点眼薬)、結膜下、眼周囲又は硝子体内注射、又は結膜嚢内に外科的に配置されたバルーンカテーテル又は眼科用インサートによる導入が挙げられ得る。非経口投与としては、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内又は筋肉内注射又は輸液;又は例えば、髄腔内又は脳室内などの頭蓋内投与が挙げられる。非経口投与は、単回ボーラス投与の形態であり得て、又は例えば、持続灌流ポンプによるものであってもよい。局所投与用の医薬組成物及び製剤としては、経皮パッチ、軟膏、ローション、クリーム、ジェル、液滴、坐薬、スプレー、液体、粉末などが挙げられてもよい。従来の薬学的担体、水性、粉末又は油性の基剤、増粘剤などが必要であるか又は望ましくあってもよい。
【0069】
本発明はまた、本明細書に記載の核酸及びベクターを、1つ又は複数の薬学的に許容可能な担体と組み合わせて活性成分として含有する、医薬組成物も含む。本発明者らは、「薬学的に許容可能」(又は「薬理学的に許容可能」)という用語を、適宜、動物又はヒトに投与されたときに有害、アレルギー性又はその他の有害な反応を生じない分子実体及び組成物を指すために使用する。「薬学的に許容可能な担体」という用語は、本明細書の用法では、薬学的に許容可能な物質の媒体として使用されてもよい、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤、等張剤、及び吸収遅延剤、緩衝液、賦形剤、結合剤、潤滑剤、ジェル、界面活性剤などを含む。本発明の組成物を製造する際、活性成分は、典型的には、賦形剤と混合され、賦形剤によって希釈され、又は例えば、カプセル剤、錠剤、サシェ剤、紙、又はその他の容器の形態である担体内に封入される。賦形剤が希釈剤として機能する場合、それは、活性成分のビヒクル、担体、又は媒体の役割を果たす、固体、半固体、又は液体材料(例えば、生理食塩水)であり得る。したがって、組成物は、錠剤、丸薬、粉末、ロゼンジ、サシェ剤、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁液、エマルション、溶液、シロップ、エアロゾル(固体として、又は液状媒体中)、ローション、クリーム、軟膏、ジェル、軟質及び硬質ゼラチンカプセル剤、坐薬、滅菌注射液、及び滅菌パッケージ粉末の形態であり得る。当該技術分野で公知のように、希釈剤のタイプは、意図される投与経路に応じて変動し得る。得られた組成物は、保存料などの追加的な薬剤を含み得る。いくつかの実施形態では、担体は、脂質ベース又はポリマーベースのコロイドであり得るか、又はそれを含み得る。いくつかの実施形態では、担体材料は、リポソーム、ハイドロゲル、微粒子、ナノ粒子、又はブロック共重合体ミセルとして配合されたコロイドであり得る。言及されたように、担体材料はカプセル剤を形成し得て、その材料はポリマーベースのコロイドであってもよい。
【0070】
本発明の核酸配列は、対象の適切な細胞に送達され得る。これは、例えば、マクロファージなどの食細胞による食作用を最適化するようにサイズ設定された、高分子生分解性微粒子又はマイクロカプセル送達ビヒクルの使用によって達成され得る。例えば、直径およそ1~10μmのPLGA(ポリラクト-コ-グリコリド)微粒子が使用され得る。ポリヌクレオチドはこれらの微粒子内にカプセル化され、それらはマクロファージに取り込まれ、細胞内で徐々に生分解され、それによってポリヌクレオチドが放出される。ひとたび放出されると、DNAは細胞内で発現される。第2のタイプの微粒子は、細胞によって直接取り込まれるのではなく、むしろ主に生分解によって微粒子から放出された場合にのみ細胞によって取り込まれる、核酸の徐放性リザバーとして機能することが意図される。したがって、これらのポリマー粒子は、食作用を排除するのに十分な大きさでなければならない(すなわち、5μmより大きく、好ましくは20μmより大きい)。核酸の取り込みを達成するための別の方法は、標準的な方法で調製されたリポソームを使用することである。核酸は、これらの送達ビヒクルに単独で組み込まれるか、又は例えば、組織特異的抗体、例えば、ウイルス感染の一般的な潜在感染リザバーである細胞タイプ、例えば、脳マクロファージ、小グリア細胞、星状細胞、及び胃腸管関連リンパ系細胞を標的化する抗体と共に組み込まれ得る。代案としては、静電力又は共有結合力によってポリ-L-リジンに結合したプラスミド又はその他のベクターから構成される、分子複合体が調製され得る。ポリ-L-リジンは、オンターゲット細胞の受容体に結合し得るリガンドに結合する。筋肉内、皮内、又は皮下部位への「裸のDNA」の送達(すなわち、送達ビヒクルなし)は、生体内発現を達成するための別の手段である。関連するポリヌクレオチド(例えば、発現ベクター)において、CRISPR関連エンドヌクレアーゼとガイドRNAとをコード化する配列を含む単離核酸配列をコード化する核酸配列は、プロモーターと、又はエンハンサーとプロモーターの組み合わせと、作動可能に連結される。プロモーター及びエンハンサーは、上に説明されている。
【0071】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、例えば、DNAと複合体形成してポリエチレングリコール修飾(PEG化)低分子量LPEIのシェルによって囲まれた、高分子量直鎖ポリエチレンイミン(LPEI)のコアで構成されるナノ粒子などのナノ粒子として配合され得る。
【0072】
核酸及びベクターはまた、デバイス(例えば、カテーテル)の表面に塗布されてもよく、又はポンプ、パッチ、又はその他の薬物送達デバイス内に含有されてもよい。本発明の核酸及びベクターは、薬学的に許容可能な賦形剤又は担体(例えば、生理食塩水)の存在下で、単独で、又は混合物中で投与され得る。賦形剤又は担体は、投与の様式及び経路に基づいて選択される。この分野で良く知られている参考教科書である、Remington’s Pharmaceutical Sciences (E. W. Martin)、及びUSP/NF (United States Pharmacopeia and the National Formulary)に、適切な薬学的担体、並びに医薬製剤で使用するための製薬必需品が記載されている。
【0073】
本発明の方法は、薬剤の調製の観点から表現され得る。したがって、本発明は、薬剤の調製における、本明細書に記載の薬剤及び組成物の使用を包含する。本明細書に記載の化合物は、治療用組成物及びレジメンにおいて、又は本明細書に記載されるような疾患又は病状の治療で使用するための薬剤の製造に有用である。
【0074】
本明細書に記載の任意の組成物は、引き続く標的細胞への送達のために、宿主の身体の任意の部分に投与され得る。組成物は、限定されることなく、哺乳類の脳、脳脊髄液、関節、鼻粘膜、血液、肺、腸、筋肉組織、皮膚、又は腹腔に送達され得る。送達経路の観点からは、組成物は、静脈内、頭蓋内、腹腔内、筋肉内、皮下、直腸内、膣内、髄腔内、気管内、皮内又は経皮注射によって、経口又は経鼻投与によって、又は経時的な段階的灌流によって、投与され得る。さらなる例では組成物のエアロゾル調製物が、吸入によって宿主に投与され得る。
【0075】
必要な投与量は、投与経路、製剤の性質、動物の疾患の性質、動物のサイズ、体重、表面積、年齢、及び性別、投与されているその他の薬剤、及び担当臨床医の判断に依存するであろう。細胞標的の多様性と様々な投与経路の異なる効率との観点から、必要な投与量の幅広い変動が予想される。これらの投与量レベルの変動は、当該技術分野で良く理解されているように、最適化のための標準的な経験的ルーチンを使用して調整され得る。投与は、単回又は複数であり得る(例えば、2又は3、4、6、8、10、20、50、100、150、又はそれ以上の回数)。適切な送達ビヒクル(例えば、ポリマー微粒子又は移植可能なデバイス)内への化合物のカプセル化が、送達の効率を高めてもよい。投与は、ウイルス負荷を完全に排除するために与えられ得る。投与はまた、動物内のウイルス負荷を低減し、残りのウイルス負荷の免疫破壊を可能にするために与えられ得る。
【0076】
本明細書で提供される任意の組成物による治療持続期間は、最短で1日から最長で宿主の寿命(例えば、数年)までの任意の長さの期間であり得る。例えば、化合物は、(例えば、4週間から数か月又は数年にわたり)週1回;(例えば、3~12か月間又は数年にわたり)月1回;又は5年、10年、又はより長い期間にわたり年1回投与され得る。治療頻度は、変動してもよいことにもまた留意されたい。例えば、本化合物は、毎日、毎週、毎月、又は毎年1回(又は2回、3回など)投与され得る。
【0077】
本明細書で提供される任意の組成物の有効量は、治療を必要とする個体に投与され得る。本明細書で使用される「有効」という用語は、患者に重大な毒性を誘発しない一方で、所望の応答を誘発する任意の量を指す。このような量は、既知量の特定の組成物の投与後の患者の応答を評価することによって、判定され得る。さらに、毒性のレベルは、もしあれば、既知量の特定の組成物を投与する前後の個人の臨床症状を評価することによって、判定され得る。患者に投与される特定の組成物の有効量は、所望の結果並びに個人の応答及び毒性のレベルに従って調整され得ることに留意されたい。重大な毒性は特定の個人毎に変動し得て、限定されることなく、個人の病態、年齢、及び副作用に対する耐性をはじめとする、複数の要因に依存する。
【0078】
当業者に知られている任意の方法を使用して、特定の応答が誘導されるかどうかが判定され得る。特定の病態の程度を評価し得る臨床的方法を使用して、応答が誘発されるかどうかが判定され得る。応答を評価するために使用される特定の方法は、個人の障害の性質、個人の年齢と性別、投与されているその他の薬剤、及び担当臨床医の判断に依存するであろう。個人のウイルス負荷は、例えば、血液1ミリリットル当たりのウイルスRNAを測定する血液検査によって、モニターされ得る。このような検査の例としては、定量的分岐DNA(bDNA)、逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、及び定性的転写媒介増幅が挙げられる。
【0079】
本発明はまた、ASFVを治療する特定の方法も提供する。ASFVは、溶解性と溶原性の双方であると仮定される。ウイルスの初期段階では、それはおそらく溶原性複製サイクルに閉じ込められており、単球/マクロファージ細胞膜から出芽して、ウイルスタンパク質と宿主細胞タンパク質の双方を含有する外膜脂質二重層に囲まれた、ASFV粒子が生じる。ブタの体内でウイルスが蔓延すると、何かが溶原性サイクルを溶解性サイクルに移行させるという仮説がある(機序は未確定)。溶解性サイクルの間に感染細胞が破裂し、
図1に示されるようにASFV(外膜がなくカプシドのみ)が、感染したブタの体内へ送り込まれる。双方のタイプのASFVビリオンが、感染性であることが示されている。
【0080】
抗体及び抗原ベースのワクチンが功を奏していないのは、それらの開発ストラテジーが、溶原性と溶解性の双方のタイプの複製サイクルを考慮していないためと思われる。例えば、カプシドタンパク質を標的化する抗体(治療薬として直接注射される抗体、又はウイルスペプチドに対する免疫応答から生体内で刺激される抗体)は、カプシドが外膜によって保護されているため、ASFVビリオンを中和しない可能性がある(つまり、接近不能)。ウイルス複製サイクルが溶解性サイクルに移行すると、抗体は実際にそれぞれのカプシドエピトープと相互作用してもよいが、この段階では、効果的で持続的な中和応答を得るには、おそらく生体内ウイルス力価が高すぎる。これは、急速なウイルスの拡大(ウイルスに関連する24~72時間の100%の死亡率と相関する)と相まって、体がウイルスに圧倒される一因となる。抗原はほとんど常にカシドベースであるため、予防としての抗原刺激はこれまで功を奏していなかった。したがって、IgGを産生するB細胞応答は、外膜に囲まれた初期のASFVを認識しない(
図2に示される)。
【0081】
したがって、本発明は、ウイルスの溶原相の外膜上のタンパク質を標的化するウイルス抗原を投与することと、ウイルスの溶解相のカプシド上のタンパク質を標的化するウイルス抗原を投与することと、ウイルス感染症を治療することとによって、溶原性と溶解性の双方であるウイルスによる、個体におけるウイルス感染症を治療する方法を提供する。
【0082】
これらの課題を克服するためには、新たな二重のストラテジーが必要である。
1.ブタは、ASFVの外膜上に存在するウイルスタンパク質由来のウイルス抗原で刺激され、初期感染で発芽する(溶原性)ビリオンが中和される必要がある。
2.ブタはまた、感染後期に外膜を有しない(溶解性)ビリオンを中和するために、カプシド上に存在するウイルスタンパク質由来のウイルス抗原で治療される必要がある。
【0083】
最近、赤血球との細胞外ウイルスドッキングの原因となる、ウイルス外膜が同定された(循環血液を介してウイルスを急速に拡散させる可能性が高い機序)。このタンパク質はpE402Rと称され、ヒトCD2と相同的である。さらに、pE402Rは、リンパ球増殖を阻害することによって、免疫抑制活性に関与することも示されている。したがって、ワクチン又は治療目的でpE402Rタンパク質を標的化することによって、細胞外ウイルスは生体内への拡散を大幅に抑制され、並びにリンパ球抑制が防がれるであろう。(
図3Aに示される)。
【0084】
カプシドを構成するウイルス構造のその他の重要なタンパク質としては、pE102R、p72、及びp49が挙げられる。これらの3つのタンパク質は、(溶解性サイクルの結果として)外膜を欠く細胞外ビリオンを中和するために、ワクチン及び/又は治療アプローチの標的にされ得る(
図3Bに示される)。
【0085】
したがってブタは、タンパク質全体、(表面露出)ペプチド、又はpE402R及び/又はpE102R、p72、p49由来のペプチド混合物のいずれかで治療され得る。治療法は、ASFVに対する予防措置として、ブタにおけるB細胞応答(即時型及び記憶型)を生じさせる。pE402Rタンパク質のペプチドセグメント(タンパク質全体ではなく)を使用して、免疫刺激反応答を生じさせ得る。抗体のオフターゲティングを防ぐために、ペプチドは、ヒトCD2と相同的ないかなるアミノ酸配列も含まない。このストラテジーは、
図4に示される。
【0086】
本発明はまた、ウイルスの溶原相の外膜上のタンパク質を標的化するウイルス抗原と、ウイルスの溶解相のカプシド上のタンパク質を標的化するウイルス抗原とを含む、溶原性と溶解性の双方であるウイルスによる、個体におけるウイルス感染症を治療するための組成物を提供する。
【0087】
治療は、以下の少なくとも1つを使用する抗原刺激アプローチを含み得る:
1.2回に分けた、pE402Rのペプチドの1回の注射と、それに続くタンパク質全体pE102R、p72、又はp49の注射。
2.pE402R又はpE102R、p72、p49のそれぞれに由来するペプチドセグメントの2回に分けた注射。ペプチドは、外膜又はカプシドのどらかの外表面に露出したエピトープに由来し得る。
3.pE402R又はpE102R、p72、p49のそれぞれに由来するペプチドセグメントのプールの2回に分けた注射。ペプチドプールは、外膜又はカプシドのどちらかの外表面に露出したエピトープに由来するであろう。
4.それぞれpE402Rのペプチドを含有する1回の注射と、それに続くタンパク質全体pE102R、p72、又はp49の注射。
5.pE402R及びpE102R、p72及びp49のそれぞれに由来するペプチドセグメントを含有する1回の注射。ペプチドは、外膜又はカプシドのどらかの外表面に露出したエピトープに由来し得る。
6.pE402R又はpE102R、p72、p49のそれぞれに由来するペプチドセグメントのプールを含有する1回の注射。ペプチドプールは、外膜又はカプシドのどちらかの外表面に露出したエピトープに由来し得る。
【0088】
追加的な外膜及びカプシドタンパク質が同じ目的/結果に活用され得るので、これらのストラテジーのそれぞれは、pE402R、pE102R、p72、又はp49に限定されない。
【0089】
pE402R及び/又はpE102R、p72、p49タンパク質全体又はそれらのペプチドの任意の組み合わせが、任意の抗体型の発見プラットフォームを使用して抗体を発見するための抗原として使用され得る。これらのプラットフォームのいくつかとしては、数例を挙げれば、B細胞における遺伝子編集駆動型抗体過剰発現系、ファージライブラリ、酵母発現系、ナノウェルGFP標識システムがある。ひとたび抗体が発見されると、それらは、親和性、結合力、特異性、選択性、安定性、精度、堅牢性について試験され得て、(プラットフォームスクリーニングから得られた)最良の候補は、ブタが感染した後、ウイルスのpE402R及び/又はpE102R、p72、p49(又はその他の外膜及び/又はカプシドタンパク質)を中和するために、治療的処置として使用され得る。
【0090】
治療的処置は、以下の少なくとも1つを含み得る:pE402R及び/又はpE102R、p72、p49に対して産生された抗体(又はいくつかの中和抗体)をそれぞれ1つずつ、2回に分けた注射;又は、pE402R及び/又はpE102R、p72、p49に対して産生された抗体のプールを含有する1回の注射。このストラテジーは、ウイルスが種を飛び越える場合に、ヒトの治療にも使用され得る。
【0091】
したがって本発明は、ウイルスの溶原相の外膜上の標的タンパク質のタンパク質全体又はペプチドと、ウイルスの溶解相のカプシド上の標的タンパク質とを抗原として使用して、抗体発見プラットフォームで抗体を発見することと、発見された抗体の親和性、結合力、特異性、選択性、安定性、精度、及び堅牢性を試験することと;ウイルス感染症の治療的処置として最適な候補抗体を選択することとによって、原性と溶解性の双方であるウイルスによる、個体におけるウイルス感染症を治療するための抗体を見いだす方法を提供する。本発明はまた、この方法によって見いだされる抗体も提供する。
【0092】
本出願を全体を通じて、米国特許をはじめとする様々な刊行物は、著者と年によって参照され、特許は番号によって参照される。刊行物の完全な引用は、下に列挙される。これらの刊行物及び特許の開示はそれらの全体が、本発明が関係する最新技術をより完全に説明するために、本明細書に参照により援用される。
【0093】
本発明は例示的な様式で説明されており、使用されてきた用語は、限定ではなく説明の言葉の性質を意図していることが理解されるべきである。
【0094】
明らかに、本発明の多くの修正及び変形は、上記の教示に照らして可能である。したがって、添付の特許請求の範囲内で、本発明は、具体的に記載されている以外の方法で実施され得るものと理解されるべきである。
【国際調査報告】