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特表2022-547627SWI-SNF変異型腫瘍の処置のための組成物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-14
(54)【発明の名称】SWI-SNF変異型腫瘍の処置のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/704 20060101AFI20221107BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20221107BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20221107BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221107BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
A61K31/704
G01N33/68
G01N33/50 P
A61P35/00
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022516726
(86)(22)【出願日】2020-09-16
(85)【翻訳文提出日】2022-05-12
(86)【国際出願番号】 US2020051088
(87)【国際公開番号】W WO2021055489
(87)【国際公開日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】62/901,004
(32)【優先日】2019-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】301040958
【氏名又は名称】ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア
【氏名又は名称原語表記】THE CHILDREN’S HOSPITAL OF PHILADELPHIA
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】グロハル パトリック ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】シャッセ マギー エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】レヴィン エリッサ アン
【テーマコード(参考)】
2G045
4C086
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CB02
2G045DA13
2G045DA14
2G045DA36
2G045FB02
2G045FB03
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA10
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
(57)【要約】
本開示は、SWI/SNF(SWItch/Sucrose Non-Fermentable)経路に変異を有するがん、例えば、SMARCB1(BAF47、INI1、SNF5)に変異を有するラブドイドがんを処置するためのミトラマイシンアナログの使用であって、該ミトラマイシンアナログがEC-8042を含む、使用、に関する。さらに、対象を二次がん治療で処置することを含む、がんの処置方法を開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SWI-SNF経路に変異を示すがんを有する対象の処置方法であって、該対象にミトロマイシン(mithromycin)アナログを投与する段階を含む、方法。
【請求項2】
ミトロマイシンアナログが、EC-8042である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記対象を二次がん治療で処置する段階をさらに含む、請求項1~2のいずれか一項記載の方法。
【請求項4】
前記二次がん治療が、化学療法、放射線療法、免疫療法(例えば、チェックポイント阻害剤)、ホルモン療法、毒素療法、または手術である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記がんが、SMARCB1に変異を示す、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記がんが、ラブドイド腫瘍、例えば悪性ラブドイド腫瘍、非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍、または腎臓のラブドイド腫瘍である、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
処置の前に、前記対象がSMARCB1変異がんを有すると判定する段階をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記判定する段階が:
(a)前記対象から、タンパク質および/または核酸を含む試料を採取すること;ならびに
(b)該試料における、SMARCB1タンパク質またはSMARCB1をコードしている核酸の変異状態を測定すること
を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記測定することが、核酸ベースのアッセイを含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記測定することが、タンパク質ベースのアッセイを含む、請求項8記載の方法。
【請求項11】
前記生物学的試料が、体液試料である、請求項8~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
前記体液試料が、血液、血清 血漿、痰、唾液、尿、または乳頭吸引液である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記生物学的試料が、組織試料である、請求項8~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
前記組織試料が、がん組織試料である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記対象が、ヒト対象、例えば小児科のヒト対象である、請求項1~14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
前記対象が、非ヒト霊長類である、請求項1~14のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
前記対象が、以前に、がんと診断されたことがある、請求項1~16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
前記以前のがんが、ラブドイドがん、SWI/SNF変異がん、および/またはSMARCB1変異がんであった、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記がんが、再発性、原発性、転移性、または多剤耐性である、請求項1~18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
グルタメート代謝の前記阻害剤が、1回より多く、例えば毎日、隔日、毎週、毎月、および/または長期ベースで、投与される、請求項1~19のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の情報
本出願は、2019年9月16日に出願された米国特許仮出願第62/901,004号の優先権の恩典を主張するものであり、その全内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
1. 分野
本開示は概して、医学、腫瘍学および遺伝学の分野に関する。より詳しくは、本開示により、SWI-SNF変異型がん、例えばラブドイド腫瘍、および具体的にはSMARCB1変異を有するものの処置方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
2. 関連技術
SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体は、ヒトのがんのおよそ20%において変異している。SMARCB1(BAF47、INI1、SNF5)およびあまり一般的ではないがSMARCA4の両アレル性不活性化は、小児悪性腫瘍であるラブドイド腫瘍の診断となる(Versteege et al.,1998)。ラブドイド腫瘍は、中枢神経系(非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍、AT/RT)、腎臓(腎臓のラブドイド腫瘍、RTK)、または軟部組織(悪性ラブドイド腫瘍、MRT)において生じ得、全生存率は20~30%である(Brennan,Stiller,& Bourdeaut,2013;Ginn & Gajjar,2012)。
【0004】
SMARCB1欠失により、主にポリコーム抑制複合体(PRC)の拮抗作用の破綻によって腫瘍形成が促進される。SWI/SNFとPRC間の敵対はショウジョウバエ(Drosophila)において最初に示されたが、ラブドイド腫瘍との関連において充分に究明されている(Wilson et al.,2010)。ここで、SMARCB1喪失により、PRC2の触媒性サブユニットであるEZH2の上方調節がもたらされる。この上方調節により、ポリコーム標的遺伝子、例えば、細胞周期の進行に必要とされる遺伝子であるINK4Aの抑制がもたらされる(Kia,Gorski,Giannakopoulos,& Verrijzer,2008)。SMARCB1の不活性化はSWI/SNFの構造的完全性に影響するのではなく、クロマチンにおいてSWI/SNF複合体を不安定化させる(Nakayama et al.,2017)。このクロマチンとの相互作用の弱まりが、おそらく、SMARCB1喪失によってSWI/SNFがPRC1/2をクロマチンから離脱させることができなくなる理由である(Kadoch et al.,2017)。SWI/SNFと付随するPRC2活性の増大の拮抗的関係のため、EZH2小分子阻害薬は有望な臨床薬候補として提案されている(Knutson et al.,2013)。
【0005】
また、ポリコーム抑制複合体の拮抗作用の破綻と、SMARCB1の不活性化もラブドイド腫瘍において残存SWI/SNFを調節不全にする。SMARCB1喪失により、残存SWI/SNF複合体は、プロモーターおよび典型的なエンハンサーから離れてスーパーエンハンサーを占有するように再分配される(Wang et al.,2017)。スーパーエンハンサーにおけるSWI/SNFの占有によって発癌が促進され、分化がブロックされる。具体的には、残存SWI/SNFは、増殖を維持するためにCDK4などの細胞周期の進行の遺伝子を占有することが示されており、shRNAを用いたSWI/SNFサブユニットのノックダウンによって細胞増殖が低減される(Erkek et al.,2019;Wang et al.,2009)。ごく最近の取り組みにより、非古典的SWI/SNF複合体はラブドイド腫瘍における合成の致死性標的であることが明示されている(Michel et al.,2018;Wang et al.,2019)。全体として、エンハンサーとプロモーターにおけるSWI/SNF活性により、発癌遺伝子の発現プログラムの維持ならびにラブドイド腫瘍の進行を駆動するための系統特異性の維持がもたらされる。したがって、EZH2ブロックのための補完的アプローチとして、残存SWI/SNF活性の阻害はラブドイド腫瘍の処置のための魅力的な治療標的である。
【発明の概要】
【0006】
概要
したがって、本開示に従い、SWI-SNF経路に変異を示すがんを有する対象の処置方法であって、該対象にミトロマイシン(mithromycin)アナログを投与する段階を含む、方法、が提供される。ミトロマイシンアナログは、EC-8042であり得る。該方法は、前記対象を二次がん治療で処置する段階をさらに含む。二次がん治療は、化学療法、放射線療法、免疫療法(例えば、チェックポイント阻害剤)、ホルモン療法、毒素療法、または手術であり得る。がんは、SMARCB1に変異を示すものであり得る。がんは、ラブドイド腫瘍、例えば悪性ラブドイド腫瘍、非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍、または腎臓のラブドイド腫瘍であり得る。
【0007】
該方法は、処置の前に、前記対象がSMARCB1変異がんを有すると判定する段階をさらに含んでいてもよい。該判定する段階は、(a)前記対象から、タンパク質および/または核酸を含む試料を採取すること;ならびに(b)該試料における、SMARCB1タンパク質またはSMARCB1をコードしているSEQ ID NO:1の配列を含む核酸の変異状態を測定すること、を含み得る。該測定は、核酸ベースのアッセイまたはタンパク質ベースのアッセイを含み得る。生物学的試料は、体液試料、例えば血液、血清 血漿、痰、唾液、尿、または乳頭吸引液であり得る。生物学的試料は、組織試料、例えばがん組織試料であり得る。
【0008】
対象は、ヒト対象、例えば小児科のヒト対象、または非ヒト霊長類であり得る。対象は、以前に、がん、例えばラブドイドがん、SWI/SNF変異がん、および/またはSMARCB1変異がんと診断されたことがあり得る。がんは、再発性、原発性、転移性、または多剤耐性であり得る。グルタメート代謝の阻害剤は、1回より多く、例えば毎日、隔日、毎週、毎月、および/または長期ベースで、投与され得る。グルタメート代謝の阻害剤を、例えばポンプ、貼付剤を用いて、静脈内投与または皮内送達により、連続的に投与してもよい。
【0009】
本明細書に記載の任意の方法または組成物が本明細書に記載の任意の他の方法または組成物に対して実施され得ることが想定される。
【0010】
「1つの(a)」または「1つの(an)」という語の使用は、特許請求の範囲および/または本明細書において用語「を含む(comprising)」と関連して用いる場合、「1つ(one)」を意味し得るが、「1つまたは複数の」、「少なくとも1つの」、および「1つまたはそれより多くの」の意味とも一致する。「約」という語は、記載の数値のプラスまたはマイナス5%を意味する。
【0011】
本開示の他の目的、特長および利点は以下の詳細説明から明らかとなろう。しかしながら、詳細説明および具体的な実施例は、本開示の具体的な態様を示しているが、本開示の趣旨および範囲の範囲内の種々の変更および修正はこの詳細説明から当業者に明らかとなるため、一例として示しているにすぎないことを理解されたい。
【0012】
以下の図面は本明細書の一部を構成し、本開示の一部の特定の局面をさらに実証するために含めている。本開示は、この図面の1つまたは複数を、以下に提示する具体的な態様の詳細説明と併せて参照することによってよりよく理解され得るであろう。
【0013】
本特許または出願ファイルは、カラーで作製された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面(1つまたは複数)を含む本特許または特許出願公開公報の写しは、請求し、必要な費用を支払うと米国特許庁から提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1A~C:ミトラマイシン細胞感受性は、SWI/SNF変異型がんに都合がよい。(図1A)50種の肉腫細胞株における100種を超える薬剤の公開されたスクリーニングにより作成した、細胞株の関数としてのIC50のグラフ(Teicher et al.,2015. Mol Cancer Ther)。グラフ上で右にいくほど、これらの細胞株はミトラマイシンに対して、より感受性であることを示す、変異型または調節不全型のSWI/SNF(緑で示す)クラスターを有する細胞株。(図1B)表は、1Aでのスクリーニングによる上位25種の肉腫細胞株におけるSWI/SNF変異または調節異常状態を強調したものである。変異状態は、COSMICまたはAchilles依存性マップにおいて確認した。(図1C)ラブドイド腫瘍およびユーイング肉腫細胞株の用量応答曲線。ラブドイド腫瘍細胞株(黒)は、TC32ユーイング肉腫細胞(グレー)と同様のIC50値で、ミトラマイシン処理に感受性である。対照的に、RT細胞株は3つの化学療法剤に感受性でない。
図2-1】図2A~J:ミトラマイシン誘導性形態構造変化は、SWI/SNF離脱およびH3K27me3の誘導に依存性である。(図2A)BT12細胞における18時間の100 nM、50 nM、25 nMのミトラマイシンへの曝露後の、H3K27me3の用量依存的亢進を示すウエスタンブロット。(図2B)BT12細胞のミトラマイシンへの一過的曝露により、増殖の用量依存的抑制が誘導される。細胞を25 nM、50 nMまたは100 nMのMMAに18時間曝露し、薬物フリー培地と置き換え、生存能について生細胞イメージングを用いてモニタリングした。(図2C)ミトラマイシンの曝露により、対照細胞(溶媒)と比べてBT12細胞において形態構造変化およびアポトーシスが誘導される。画像は、緑である切断型カスパーゼ3/7試薬の存在下で、25 nM(左)または100 nM(右)のミトラマイシンで、18時間(上)または48時間(下)処理したBT12細胞のものであり、カスパーゼ活性化はアポトーシスを示す。(図2D)ミトラマイシンにより時間依存的様式のH3K27me3の増幅がもたらされ、これは、PARPの切断によって測定されるアポトーシスの誘導と相関している。ウエスタンブロットライセートは、100nMのミトラマイシンでの連続処理後1時間目、2時間目、4時間目、8時間目、12時間目、16時間目、18時間目に収集。(図2E)MYT1およびCCND1での、IgGまたはSMARCC1のクロマチン免疫沈降qPCR(ChIP-qPCR)。H3K27me3占有率は時間依存的様式で増大する。(図2F~H)ミトラマイシンは、BT12(図2F)およびG401(図2G)細胞において、SWI/SNFサブユニットであるSMARCC1およびSMARCE1をクロマチンから時間依存的様式で離脱させるが、U20S(図2H)細胞ではそうではない。100 nMのミトラマイシンへの1、8または18時間の曝露、ならびにSWI/SNFサブユニット(SMARCC1もしくはSMARCE1)またはH3(クロマチン対照)およびGAPDH(可溶性対照)へのプローブ結合後の全細胞ライセート(全)、クロマチン結合(クロマチン)ならびに核および細胞質の可溶性(可溶性)画分を示す生化学的分画のウエスタンブロット解析。(図2I)既知のSWI/SNF標的遺伝子MYT1およびCCND1対IgG抗体対照IgGにおけるChIP-qPCRによる測定時の、ゲノム内の規定の遺伝子座におけるSWI/SNFの喪失の占有の確認。(図2J)SWI/SNFサブユニット発現の抑制によってBT12細胞はミトラマイシンに感受性にされるが、EZH2の抑制はミトラマイシン活性に拮抗し、提案された機構と整合する。データは、SWI/SNFサブユニットのsiRNAサイレンシングの存在下での(SMARCA4(siSMARCA4)またはSMARCC1(siSMARCC1))、未処理細胞(培地)、非標的指向siRNA(siNeg)、またはH3K27me3を担うPRC2サブユニットEZH2(siEZH2)と比べた、48時間の曝露後のBT12細胞におけるミトラマイシンの用量応答曲線である。
図2-2】図2-1の説明を参照。
図3図3A~H:ミトラマイシンはSWI/SNFをSP1プロモーターから離脱させる。(図3A)SP1 mRNA発現は、100nMのミトラマイシン処理後、GAPDH(2ddCT)と比べた、qPCR変化倍率による測定時、時間依存的様式で低減される。****,p値<0.0001。(図3B)SP1タンパク質発現は、100 nMのミトラマイシン処理後、ウエスタンブロットによる測定時、時間依存的様式で低減される。細胞は、100 nMのミトラマイシンで、1時間、4時間、8時間、12時間、18時間処理した。(図3C)SWI/SNFサブユニットはSP1発現を駆動する。SMARCC1およびSMARCA4のsiRNAノックダウンにより、GAPDH(2ddCT)と比べた、qPCR変化倍率による測定時、SP1のmRNA発現が低減される。****,p値<0.0001。細胞は、siSP1で30時間、またはsiSMARCA4/siSMARCC1で48時間、処理した。(図3D~F)8時間または18時間の100 nMのミトラマイシン処理後の、SP1プロモーター内におけるSMARCC1(図3D)、H3K27ac(図3E)、およびH3K27me3(図3F)占有のChIP-qPCR解析。ミトラマイシン処理後、SMARCC1およびH3K27acは、SP1プロモーター内における占有が低下するが、H3K27me3は、増幅する。****,p値<0.0001;***,p値<0.001;**,p値<0.01。(図3G)ラブドイド腫瘍細胞であるBT12(丸)およびG401(三角)における、トルフェナム酸処理の用量応答曲線。ラブドイド腫瘍細胞は、SP1分解に感受性でない。(図3H)3Gグレード活性SP1タンパク質に使用された、トルフェナム酸の濃度が確認される、ウエスタンブロット解析。
図4-1】図4A~H:ミトラマイシンにより、クロマチンコンパートメントおよびプロモーターのエピジェネティックなリプログラミングが誘導される。(図4A)ミトラマイシン処理後に変化している結合変動(左)または接近可能(右)領域の数を表すダンベルプロット。(図4B)8時間のミトラマイシン処理後の、H3K27ac ChIP-seq結合変動領域(左)およびATAC-seq接近可能性変動領域を示すヒートマップ。ピークを、10e-5のq値閾値を用いてフィルタリングした。TSSを中心に2kbウィンドウとする。(図4C)ミトラマイシン処理後のATAC-seq クロマチンコンパートメント/染色体を表すダンベルプロット(下)。(図4D)悪性ラブドイド腫瘍のために構築し、6つの機能性クロマチン超状態と統合させた18の状態のchromHMMモデルの略図。クロマチン状態は、状態が一次サンプルの少なくとも50%において存在する場合、コールされた。ATAC-seqおよびH3K27ac ChIP-seqピークを6つの超状態に対してクエリを行ない、機能性を割り付けた。(図4E)処置時間(8時間~18時間)において2倍増大した(左)、または2倍減少した(右)各クロマチン超状態のパーセンテージを表すドーナツプロット。(図4F~G)MMA処置の8時間目(F)および18時間目(G)における遺伝子発現傾向を示すボルケーノプロット。点線は2 logFCおよび10e-5のq値閾値を表す。(図4H図4F~GでlogFCおよびq値閾値をクリアした、RNA-seq遺伝子リストに由来する上方調節された上位のモチーフおよび下方調節された上位のモチーフの、モチーフ解析。
図4-2】図4-1の説明を参照。
図5-1】図5A~J:ミトラマイシンによるSWI/SNF阻害によりラブドイド腫瘍細胞において分岐的な表現型が駆動される。(図5A)ミトラマイシン処理8時間目と18時間目の両方で、RNA-seq、ATAC-seq、およびH3K27ac ChIP-seqデータセットにおいて少なくとも1-logFC上方調節された遺伝子の、遺伝子オントロジー(GO)解析。ベン図は、遺伝子セットのオーバーラップを示す。上方調節された上位10個の経路のうち6個は、細胞死およびアポトーシスに関係する。(図5B図5Cに示すマルチオミクス解析において上方調節された3つの遺伝子のIGV図。BCL10およびBTG2はアポトーシスにおいて極めて重要な役割を果たすが、CDKN1Aは細胞周期進行遺伝子である。黒いバーはTSSの2kb内のhg19由来のプロモーターを示す。(図5C)アポトーシスホールマーク遺伝子セットFGSEA解析は、8時間のミトラマイシン処理後のエンリッチメントを示す(p値 4.0e-3)。(図5D)BT12細胞における100 nMのミトラマイシン曝露の時間推移。表示された時間、100 nMのMMAで細胞を処理した後、薬物フリー培地と置き換えた。8時間(赤)のミトラマイシン曝露後、細胞は、溶媒対照と比べて不可逆的な増殖抑制を有する。(図5E)100 nMのミトラマイシンで処理したBT12細胞の、表示された時間における生細胞の画像。100 nMのミトラマイシンにより、図2A~Jに示したように細胞死がもたらされる。(図5F)BT12細胞における20 nMのMMA曝露の時間推移。表示された時間、20 nMのMMAで細胞を処理した後、薬物フリー培地と置き換えた。48時間(赤)のミトラマイシン曝露後、溶媒対照と比べて、細胞はもはや増殖しない。(図5G)20 nMのミトラマイシンで処理したBT12細胞の、表示された時間における生細胞の画像。20 nMのミトラマイシン処理により、脂質蓄積および分化中の脂肪細胞の外観がもたらされる。(図5H)幹細胞分化GO遺伝子セットのFGSEA解析は、8時間のミトラマイシン処理後のエンリッチメントを示す(p値 3.9e-3)。(図5I~J)8時間(図5I)および18時間(図5J)のミトラマイシン処理後の、(Wang et al.,2017)に記載のような原発性AT/RT腫瘍において上方調節された遺伝子オントロジータームのFGSEA解析。ミトラマイシンは、原発性AT/RT腫瘍において上方調節されると報告されているすべての経路を下方調節する。
図5-2】図5-1の説明を参照。
図6図6A~E:連続輸注のミトラマイシンは、筋肉内ラブドイド腫瘍異種移植片モデルにおける活性を示す。(図6A)腓腹筋にG401ラブドイド腫瘍異種移植片を有するマウスは、1 mg/kgのボーラス注射(3回注射/週で、2週間)で処置した場合、腫瘍退縮を示さない。処置持続期間をグレーの影付きの四角で示す。(図6B)腓腹筋にG401ラブドイド腫瘍異種移植片を有するマウスは、ビヒクルと比べて、ミトラマイシンの連続輸注(72時間にわたって2.4 mg/kg)により、腫瘍退縮を示す。処置持続期間をグレーの影付きの四角で示す。腫瘍は、処置終了後、およそ12日間で再発した。(図6C図6Aおよび図6Bの平均スパゲッティプロットであり、エラーバーは標準誤差を表す。ミトラマイシンの連続輸注(紫)により、ボーラス注射(ティール)と比べて、腫瘍退縮期間が長くなった。処置持続期間を色矢印で示し、黒の点線は処置終了時点。(図6D~E)ビヒクル、ミトラマイシンのボーラス注射(ボーラス)(図6D)、またはミトラマイシンの連続輸注(連続的)(図6E)での処置後3日目の、G401異種移植片腫瘍の免疫組織化学解析。(左から右に)G401異種移植片のH&E、アポトーシスのマーカーとしての切断型カスパーゼ3、およびH3K27me3の、10倍拡大図。ボーラス注射では、CC3またはH3K27me3は増大しないが、連続輸注では、CC3およびH3K27me3の陽性染色が有意に増大する。IHC解析は、両方のミトラマイシンスケジュールで腫瘍の応答と正に相関している。
図7図7A~E:第2世代のミトラマイシンアナログであるEC-8042は、インビボで耐久性の腫瘍退縮をもたらす。(図7A~B)腓腹筋にG401ラブドイド腫瘍異種移植片を有するマウスは、EC-8042の連続輸注により、ビヒクルと比べて腫瘍退縮を示す。(図7A)マウスを30 mg/kgのEC-8042で、72時間にわたって処置した。(図7B)マウスを50 mg/kgのEC-8042で、144時間にわたって処置した。処置持続期間を、黒矢印およびグレーの影付きの四角で示す。腫瘍は、処置終了後、およそ40日間で再発した。(図7C)G401ラブドイド腫瘍異種移植片の生物発光イメージングは、図7Aおよび7Bでのカリパスでの測定と相関している。処置群1つあたり2つのモデルをイメージングし(左)、棒グラフにおいて定量した(右)。エラーバーは平均と標準偏差を表す。(図7D)処置開始時、処置終了時、および処置終了後14日目の、3つのすべての処置群(ビヒクル、3日間のポンプ、7日間のポンプ)の腫瘍の測定値。3日間の処置群および7日間の処置群はどちらも、ビヒクルと比べて長い腫瘍増殖抑制を示す。(図7E)3日間のポンプ処置コホートおよび7日間のポンプ処置コホートの両方で生存の延長を示す、カプラン・マイヤー生存曲線。EC-8042により生存期間中央値が、ビヒクルでの28日間から、3日間のポンプコホートおよび7日間のポンプコホートで、それぞれ68日間および70日間にまで高くなる。3つのモデルは、3日間のポンプコホートにおいて完全に治癒した。
図8-1】図8A~E:EC-8042により、インビボで間葉系分化およびエピジェネティックなリプログラミングが誘導される。(図8A~D)ビヒクルまたはEC-8042の3日間のポンプでの処置の3日後(左:4日目)および7日後(右:8日目)の、G401異種移植片腫瘍の免疫組織化学解析。H3K27me3(図8A)、H3K27ac(図8B)、ヒトミトコンドリア(図8C)、および切断型カスパーゼ3(図8D)の、10倍拡大図。H3K27me3およびCC3は、4日目までに陽性染色が有意に増大する。H3K27acおよびヒトミトコンドリアの染色は、4日目までにビヒクルと比べて減少する。H3K27me3およびCC3の陽性染色は、ヒトミトコンドリア染色が残存腫瘍なしを示す場合のように、8日目までに消える。(図8E)ビヒクル、3日間のEC-8042ポンプ、または7日間のEC-8042ポンプでの処置後1日目、3日目、および7日目の、G401異種移植片腫瘍のH&E染色の免疫組織化学解析。EC-8042処置異種移植片腫瘍はビヒクルと比べて間葉系分化のエビデンスを示す。処置後7日目の異種移植片腫瘍のマイクロCT解析は、ビヒクルと比べて石灰沈着の促進を示す。
図8-2】図8-1の説明を参照。
図9】SWI/SNPが増殖および脱分化において果たす役割、ならびに、それに対するミトラマイシンの効果の略図。
図10図10A~D:SWI-SNF離脱およびH3K27me3蓄積は、ラブドイド腫瘍細胞におけるSMARCB1欠失に依存性である。(図10A~B)G401細胞における100 nM、50 nM、25 nMのミトラマイシンへの18時間の曝露後、ローディング対照と比べて、H3K27me3では濃度依存性の増大がある(図10A)が、SMARCB1を補完したG401細胞ではそうでないこと(図10B)を示す、ウエスタンブロット。(図10C~D)ミトラマイシンは、G401において、SWI/SNFサブユニットであるBRD9およびSMARCE1を、クロマチンから時間依存的様式で離脱させる(図10C)が、SMARCB1を補完したG401細胞(図10D)細胞ではそうではない。100 nMのミトラマイシンへの1時間、8時間、または18時間の曝露、ならびに、SWI/SNFサブユニット(BRD9もしくはSMARCE1)またはH3(クロマチン対照)およびGAPDH(可溶性対照)へのプローブ結合後に収集した、全細胞ライセート(全)、細胞質の可溶性(CS)、核可溶性(NS)、およびクロマチン結合(Chr)画分を示す、ウエストナー(Westner)ブロット解析。
図S1-1】図S1A~C(図1A~3Hに関係する。):(図S1A)ミトラマイシンを用いた小児細胞株の生存能スクリーニング。グラフ上で右にいくほど、これらの細胞株はミトラマイシンにより感受性であることを示す、変異型または調節不全型のSWI/SNF クラスターを有する細胞株。Osgood et al.(2016)によるデータ解析。(図S1B)対照遺伝子座GAPDHにおけるIgG、SMARCC1(左)、H3K27ac(中央)、またはH3K27me3(右)のクロマチン免疫沈降。(図S1C)SP1(黒)のノックダウンは、Incucyte Zoomでの生細胞イメージングによる測定時、siNeg(グレー、実線)陰性対照と比べて、BT12ラブドイド腫瘍細胞の増殖に影響を及ぼさない。siDeath(グレー、点線)は、ノックダウン効率の陽性対照である。
図S1-2】図S1-1の説明を参照。
図S2図S2A~C(図4A~Hに関係する。):(図S2A)ラムダスパイクイン対照を用いた正規化前のATAC-seqライブラリーの主成分分析。最初の2つの主成分のみを示しており、スクリープロットは、9つすべての成分および説明された分散を示す。(図S2B)RUVgに対してk=1を使用してラムダスパイクイン対照を用いた正規化後のATAC-seqライブラリーの主成分分析。(図S2C)RUVgに対してk=4を使用してラムダスパイクイン対照を用いた正規化後のATAC-seqライブラリーの主成分分析。注目すべきことに、処置レベルクラスターは、最初の4因子内でスパイクインを対照「遺伝子」として使用すると失われ、ライブラリー複雑性は、データにおいてドミナント要因の変動(dominant sources of variation)として指定されない場合、説明され得るか、または交絡し得ることが示唆される。
図S3-1】図S3A~H(図4A~Hに関係する。):(図S3A)溶媒と、8時間(上)および18時間(下)のミトラマイシン処理とで、H3K27acが増大している領域(赤)およびH3K27acが減少している領域(青)の、図4Cにおいてプロットしたヒートマップに対応するプロフィール図。(図S3B)溶媒と、8時間(上)および18時間(下)のミトラマイシン処理とで、接近可能性が増大している領域(赤)および接近可能性が減少している領域(青)の、図4Cにおいてプロットしたヒートマップに対応するプロフィール図。(図S3C~E)ミトラマイシン処理後の三連のすべての実験のH3K27ac ChIP-seqピークを示すヒートマップおよびプロフィール図。TSSを中心に2kbウィンドウとする。(図S3F~H)ミトラマイシン処理後の三連のすべての実験のATAC-seqピークを示すヒートマップおよびプロフィール図。TSSを中心に2kbウィンドウとする。
図S3-2】図S3-1の説明を参照。
図S3-3】図S3-1の説明を参照。
図S4図S4A~D(図4A~5Jに関係する。):(図S4A~B)8時間のミトラマイシン処置後、下方調節された遺伝子(図S4A)、および18時間のミトラマイシン処置後、上方調節された遺伝子(図S4B)の、RNA-seqリアクトーム(reactome)経路解析。(図S4C)8時間のミトラマイシン処理および18時間のミトラマイシン処理の両方において、溶媒と比べて少なくとも1log FCの減少を有するオーバーラップ遺伝子セットのベン図。25個の遺伝子がRNA-seq、ATAC-seq、およびH3K27ac ChIP-seqで、両方の時点で下方調節されていた。(図S4D)G401ラブドイド腫瘍細胞における100 nMのミトラマイシン曝露の時間推移。表示された時間、100 nMのMMAで細胞を処理した後、薬物フリー培地と置き換えた。8時間(赤)のミトラマイシン曝露後、細胞は、溶媒対照と比べて不可逆的な増殖抑制を有する。
図S5図S5A~C(図7A~Eに関係する。):(図S5A)EC-8042で処理された、ラブドイド腫瘍細胞であるBT12(丸)およびG401(三角)の、用量応答曲線。どちらのラブドイド腫瘍細胞株も、EC-8042に感受性である。(図S5B)ミトラマイシンおよびEC-8042で処理したBT12ラブドイド腫瘍細胞の、Incucyte zoomでの生細胞の画像。EC-8042(200 nM)は、ミトラマイシン(100 nM)と比べて、脂質蓄積および平らな細胞表現型をもたらす。(図S5C)EC-8042で処置したマウスは、3日間のポンプ(中央)および7日間のポンプ(右)での処置中、ビヒクル(左)と比べて、可逆的な体重減少を有する。しかしながら、体重は、処置が終了したら、戻る。
図S6A図S6A~B(図8A~Eに関係する。):(図S6A)ビヒクル、またはEC-8042の7日間のポンプでの処置の、3日後(左:4日目)および7日後(右:8日目)の、G401異種移植片腫瘍の免疫組織化学解析。H3K27me3、H3K27ac、ヒトミトコンドリア、切断型カスパーゼ3、およびKi67の10倍拡大図は、図8A~Eのビヒクルおよび3日間のEC-8042ポンプと相関している。(図S6B)ビヒクルまたはEC-8042の3日間のポンプでの処置の、3日後(左:4日目)および7日後(右:8日目)の、G401異種移植片腫瘍の免疫組織化学解析。Ki67の10倍拡大図は、図8A~Eに示すIHCと相関している
図S6B図S6Aの説明を参照。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実例の態様の説明
本研究において、本発明者らは、小分子ミトラマイシンおよびその第2世代アナログEC-8042が、残存SWI/SNF活性を阻害することを示す。本発明者らは以前に、ミトラマイシンが、ユーイング肉腫の重要な治療用薬剤であることを確認した(Grohar et al.,2011)。この研究の一部として、本発明者らは、ラブドイド腫瘍が、この薬物に対して極めて感受性であることを見出した(Osgood et al.,2016)。両腫瘍とSWI/SNFとの関係およびこの複合体に対するラブドイド腫瘍の依存性のため、本発明者らはミトラマイシンが、SWI/SNF活性を破綻させるという仮説をたてた(Boulay et al.,2017)。実際、ミトラマイシンはSWI/SNFをクロマチンから離脱させ、エピジェネティックなリプログラミング、クロマチンコンパートメントリモデリング、および発癌表現型の反転を誘導する。このリプログラミングによってアポトーシスがもたらされると同時に、ラブドイド腫瘍異種移植片の良性間葉組織への分化をもたらす分化プログラムが再確立される。総合すると、このような結果により、ミトラマイシンベースの治療薬はラブドイド腫瘍の臨床薬候補であることが明示される。
【0016】
本開示のこれらおよび他の局面を以下にさらに詳細に説明する。
【0017】
I. SWI/SNF
分子生物学において、SWI/SNF(SWItch/Sucrose Non-Fermentable)は、真核生物にみられるヌクレオソームリモデリング複合体である。より簡単に言えば、これは、DNAがパッケージングされている様式をリモデリングする、会合している一群のタンパク質である。これは、SWI遺伝子およびSNF遺伝子の産物であるいくつかのタンパク質(SWI1、SWI2/SNF2、SWI3、SWI5、SWI6)ならびに他のポリペプチドで構成されている。これは、DNA刺激型ATPase活性を有し、再構成されたヌクレオソームにおいてATP依存的様式でヒストン-DNA間相互作用を不安定化させ得るが、この構造変化の正確な性質は不明である。
【0018】
SWI/SNFのヒトアナログはBAF(SWI/SNF-A)およびPBAF(SWI/SNF-B)である。さらにBAFは「BRG1-またはHBRM関連因子」を表し、PBAFは「ポリブロモ関連BAF」を表す。
【0019】
(酵母の)SWI/SNF複合体は、DNAに沿ってヌクレオソームの位置を改変することができることがわかっている。SWI/SNFによるヌクレオソームリモデリングについて2つの機構が提案されている。第1のモデルは、ヌクレオソームDNA中でねじれが欠われて一方向に広がることにより、8量体表面上において、ヌクレオソームのDNA進入部位を起点として、DNAのコルクスクリュー様の伸長がもたらされるという主張である。他方は、「バルジ」または「ループ-リキャプチャー」機構として知られており、ヌクレオソーム縁部でDNAが解離し、ヌクレオソーム内部でDNAが再会合し、8量体表面上においてDNAバルジが形成されるものである。次いで、DNAループはヒストン8量体の表面全体に波のような様式で伸長し得、ヒストン-DNA間の接点の総数は変化することなくDNAの再配置がもたらされ得る。最近の研究で、このねじれが広がる機構に対する有力な証拠が示されており、ループ-リキャプチャーモデルがさらに有力となっている。
【0020】
哺乳動物SWI/SNF(mSWI/SNF)複合体は、多くのヒト悪性腫瘍において腫瘍抑制因子として機能する。初期の研究で、SWI/SNFサブユニットが、がん細胞株で、高頻度で欠落していることが確認された。これは最初に1998年に、稀な小児悪性腫瘍であるラブドイド腫瘍において腫瘍抑制因子として確認された。DNAシーケンシングのコストが下がるにつれて、多くの腫瘍が2010年頃に初めてシーケンシングされた。このような研究のいくつかで、SWI/SNFは、いくつかの多様な悪性腫瘍において、腫瘍抑制因子であることが明らかになった。いくつかの研究では、哺乳動物の該複合体のサブユニット、例えばSMARCB1、PBRM1、SMARCB1、SMARCA4およびARID2が、ヒトのがんにおいて、高頻度で変異していることが明らかになった。多くのシーケンシング試験のメタ解析により、SWI/SNFは、ヒト悪性腫瘍のおよそ20%で変異していることが示された。
【0021】
SWI/SNFとRSC(SWI/SNF-B)の電子顕微鏡検査試験により1.1~1.3 MDaの大きなローブ構造が示される。SWI/SNF複合体全体の原子分解構造は、このタンパク質複合体が非常に動的であり、多くのサブユニットで構成されているため、これまでに得られていない。しかしながら、酵母および哺乳動物由来のドメインおよびいくつかの個々のサブユニットが報告されている。特に、ヌクレオソームとの複合体のATPase Snf2のクライオEMによる構造は、ヌクレオソームDNAが結合部位において局所的に変形していることを示す。哺乳動物のATPase SMARCA4モデルは、酵母Snf2との高度の配列相同性に基づいて同様の特長を示す。また、2つのサブユニットであるBAF155(SMARCC1)とBAF47(SMARCB1)と間の境界面も解像し、SWI/SNF複合体組織化経路の機構の重要な見識が得られた。
【0022】
II. SMARCB1
SMARCB1(SWI/SNF-related matrix-associated actin-dependent regulator of chromatin subfamily B member 1)は、ヒトのSMARCB1遺伝子にコードされているタンパク質である。この遺伝子にコードされているタンパク質は、抑制性クロマチン構造を弛緩させて、転写機構がより有効にその標的に到達することを可能にする複合体の一部である。また、コードされている核タンパク質はHIV-1インテグラーゼに結合してそのDNA結合活性を高め得る。この遺伝子は腫瘍抑制因子であることがわかっており、その変異は悪性ラブドイド腫瘍と関連している。この遺伝子には、異なるアイソフォームをコードしている2つの転写物バリアントが見出されている。
【0023】
SMARCB1は、SMARCB1、BAZ1B、BRCA1、CREB結合タンパク質、サイクリン依存性キナーゼ8、Myc、P53、POLR2A、PPP1CA、PPP1CB、PPP1CC、PPP1R15A、SMARCA2、SMARCA4、SMARCC1、SMARCE1、SS18、およびXPO1と相互作用することが示されている。これはラブドイド腫瘍の発生と関連している(下記参照)。
【0024】
ヒトSMARCB1の例示的なタンパク質アクセッション番号はNP_001007469である。ヒトSMARCB1の例示的なmRNAアクセッション番号はNM_001007468である。
【0025】
III. EC-8042
EC-8042(デミカロシル(demycarosyl)-3D-β-D-ジチオキソシル(ditioxosyl)-ミトラマイシンSK(DIG-MSK)は、変異型/欠損性/欠陥性のSMARCB1を有するがん細胞の処置に対して提案されているミトラマイシンアナログである。EC-8042の構造を以下に示す:
これは、トリプルネガティブ乳がんおよびユーイング肉腫に対して活性であることが示されている。これは、Entrechem社により臨床前開発中である。
【0026】
IV. がんの処置
A. がん
がんは、他の身体部分に浸潤または拡散する可能性を有する異常な細胞増殖を伴う一群の疾患を包含している。これは、他の身体部分に拡散しない良性腫瘍と対照的である。起こり得る徴候および症状としては、しこり、異常出血、長引く咳、原因不明の体重減少、および便通の変化が挙げられる。このような症状はがんを示し得るが、他の原因の場合もあり得る。100を超える型のがんが、ヒトを冒す。
【0027】
がんは、その起源部位から局所拡散のリンパ性拡散によって所属リンパ節に、または血液による血行性拡散によって遠隔部位に拡散し得、転移として知られている。がんが血行性経路によって拡散する場合、これは通常、全身に拡散する。転移性がんの症状は腫瘍の場所に依存し、リンパ節の腫脹(これは皮下に感知し得るか、または場合によっては皮下にみることができ、典型的には固い)、腹部に感知し得る肝臓肥大または膵臓肥大、罹患した骨の痛みまたは骨折、および神経症状が挙げられ得る。
【0028】
がんには多くの処置選択肢がある。一次処置選択肢としては、手術、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、標的療法および緩和ケアが挙げられる。どの処置を使用するかは、がんの型、場所および悪性度ならびに患者の健康状態および個人の意思に依存する。処置の目的は治癒的であっても、そうでなくてもよい。
【0029】
本開示の治療方法は一般に、治療上有効な量の本明細書に記載の組成物を、それを必要とする対象、例えば哺乳動物、特にヒトに投与することを含む。かかる処置は、がんに苦しんでいるか、またはその症状を有する対象、特にヒトに好適に施される。
【0030】
がんは、癌、肉腫、リンパ腫、白血病、黒色腫、中皮腫、多発性骨髄腫、または精上皮腫であり得る。一部の態様では、がんは、膀胱、血液、骨、脳、乳房、中枢神経系、子宮頸部、結腸、子宮内膜、食道、胆嚢、胃腸管、性器、尿生殖路、頭部、腎臓、喉頭、肝臓、肺、筋肉組織、首、口腔粘膜もしくは鼻粘膜、卵巣、膵臓、前立腺、皮膚、脾臓、小腸、大腸、胃、精巣、または甲状腺のものである。より具体的には、腫瘍は、SWI-SNF経路に変異を有するものである。特定の一態様では、がんは、ラブドイドがん、例えば悪性ラブドイド腫瘍、非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍、または腎臓のラブドイド腫瘍であり得る。
【0031】
悪性ラブドイド腫瘍(MRT)は、当初はウィルムス腫瘍の異型として報告された、非常に急速進行性形態の腫瘍であり、主として腎臓腫瘍であり、主に小児に起こる。MRTは最初、腎臓のウィルムス腫瘍の異型として1978年に報告された。MRTは、稀で高度に悪性の小児期の新生物である。後に、腎臓以外のラブドイド腫瘍が多くの組織、例えば肝臓、軟部組織および中枢神経系において報告された。原発性頭蓋内MRTは1978年では別個のものとして認識されたため、いくつかの症例が報告されている。ラブドイドという用語は、光顕微鏡下における横紋筋肉腫との類似性ために使用された。MRTの正確な病因は不明である。
【0032】
小脳は、原発性大脳内MRT(すなわち、非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍)の最も一般的な場所である。起源細胞は不明であるが、細胞遺伝学的研究により、一般的にみられる22番染色体の異常を有する場所に関係なく、ラブドイド腫瘍に共通する遺伝学的根拠が示唆されている。
【0033】
脳内の非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍ならびに腎ラブドイド腫瘍の両方を有する小児の症例が報告されている。Weeksおよびその共同研究者は、111例の腎ラブドイド症例を報告し、そのうち13.5%が中枢神経系の悪性腫瘍も有していた。生殖細胞系列のINI変異が小児にとってこの腫瘍に対する素因となっているのかもしれないという仮説をたてた。文献に、hSNF5/INI1遺伝子に関連するラブドイド好発症候群と称する新しい診断を指摘する言及がいくつかみられている。
【0034】
非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍が腎ラブドイド腫瘍(すなわち、単なる腎外MRT)と同じかどうかに着目したデータベースが相当数存在する。CNS非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍およびMRTはどちらも22番染色体のINI1遺伝子の欠失を有するという最近の認識により、腎臓および脳のラブドイド腫瘍は同一または近縁のものであることが示されているが、CNSのバリアントは、Taxon 9およびMRTの他の場所に変異を有する傾向にある。どちらの場所でのラブドイド腫瘍も、同様の組織学的、臨床的および個体群統計的特長を有するため、この観察結果は驚くべきことではない。さらに、MRTを有する患者の10~15%が、同時期性または異時性の脳腫瘍を有し、その脳腫瘍の多くは第2の原発性悪性ラブドイド腫瘍である。この類似性は、主に成人に起こる複合型ラブドイド腫瘍にはない。
【0035】
悪性ラブドイド腫瘍の組織学的診断は、特徴的なラブドイド細胞-偏心的に局在する核と豊富な好酸性細胞質を有する大きな細胞の確認に依存する。しかしながら、その組織学は不均一であり得、MRTの診断は多くの場合、困難であり得る。誤判別が起こることがあり得る。
【0036】
MRTにおいて、染色体22q上のINI1遺伝子(SMARCB1)は、古典的な腫瘍抑制因子遺伝子として機能する。INI1の不活性化は、欠失、変異、または獲得UPDによって起こり得る。
【0037】
最近の研究において、一塩基多型アレイ核型分析により、51例中49例のラブドイド腫瘍で、22qの欠失またはLOHが確認された。これらのうち、14例は、SNPアレイ核型分析によって検出可能だが、FISH、細胞遺伝学、またはアレイCGHでは検出可能でない、コピーニュートラルLOH(または獲得UPD)であった。MLPAにより、1つの試料で、SNPアレイの解像限界未満である一エキソンホモ接合型欠失(single exon homozygous deletion)が検出された。SNPアレイ核型分析は、例えば、同腕染色体17qを有する髄芽細胞腫を、22q11.2の喪失を有する原発性ラブドイド腫瘍と区別するために使用され得る。指示される場合は、次いで、MLPAおよびダイレクトシーケンシングを用いたINI1の分子解析が使用され得る。腫瘍関連変化が見出されたら、INI1の遺伝した、またはデノボの生殖細胞系列の変異または欠失を除外するために患者と両親の生殖細胞系列DNAの解析が行なわれ得、その結果、適切な再発リスクアセスメントが行なわれ得る。
【0038】
場所に関係なく、ラブドイド腫瘍はすべて、非常に急速進行性であり、予後不良であり、2歳未満の小児に起こる傾向にある。
【0039】
B. セラノスティックス法
一態様において、本開示により、処置対象のがんのSMARCB1の状態をアセスメントするための方法を提供する。該方法は、がん患者のがんが、変異型のSMARCB1遺伝子またはSMARCB1タンパク質を有するかどうかを、本明細書に記載のような治療用組成物を投与する前に調べる工程を含む。この分析は、対象がグルタメート代謝阻害剤に反応するかどうかの予測において有用であり、反応する場合は、グルタメート阻害剤が投与され、反応しない場合は、別の治療が使用される。以下の例示的な手法を用いてSMARCB1の状態が検査され得る。
【0040】
1. 核酸ベースの検出方法
核酸ベースの検出方法を使用し、変異型SMARCB1を有するがんが、確認され得る。以下は、かかる方法の記述であり、SMARCB1の変異のアセスメントに適応可能である。一部の特定の態様において、本開示は、変異型SMARCB1を検出することによりがんを特性評価して処置する方法に関する。本開示の方法は広範な種、例えばヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル、ヒヒ、またはチンパンジー)、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、アレチネズミ、ハムスター、ラット、およびマウスに適用され得る。
【0041】
i. ハイブリダイゼーション
DNAまたはmRNAを調べる方法はすべて基本的に、基礎レベルで、核酸ハイブリダイゼーションに依存する。ハイブリダイゼーションは、核酸が、相補的なDNA鎖および/またはRNA鎖と、選択的に二本鎖分子を形成する能力、と定義される。想定される適用に応じて、標的配列に対してさまざまな選択性度合いのプローブまたはプライマーを得るために、さまざまなハイブリダイゼーション条件が使用され得るであろう。
【0042】
典型的には、13~100個のヌクレオチド、好ましくは17~100個のヌクレオチド長から、1~2キロベースまで、またはそれより長い長さのプローブまたはプライマーにより、安定かつ選択的な二本鎖分子の形成が可能である。連続して20塩基より長い長さの鎖において相補的な配列を有する分子が一般的に好ましく、得られるハイブリッド分子の安定性および選択性が高まる。一般的に、20~30個のヌクレオチドの、所望される場合はさらに長い1つまたは複数の相補的配列を有するハイブリダイゼーション用核酸分子を設計することが好まれる。かかる断片は、例えば、断片を化学的手段によって直接合成することによって、または選択された配列を組換え産生用組換えベクター内に導入することによって、容易に調製され得る。
【0043】
高い選択性が必要とされる適用では、典型的には、ハイブリッドを形成するのに比較的高いストリンジェンシー条件を使用することが所望される。例えば、約50℃~約70℃の温度で約0.02 M~約0.10 MのNaClなどによってもたらされる、比較的低い塩および/または高い温度の条件。かかる高ストリンジェンシー条件では、プローブまたはプライマーと、鋳型または標的鎖間のミスマッチは、もしあった場合、ほとんど許容されず、特定の遺伝子の単離または特定のmRNA転写物の検出に特に好適であろう。条件は、ホルムアミドの添加量を増大させることによって、よりストリンジェントになり得ることが、一般的に認識されている。
【0044】
一部の特定の適用では、例えば低ストリンジェンシー条件が使用され得る。このような条件下では、ハイブリダイゼーションは、ハイブリダイズする鎖の配列が完全に相補的でなく、1つまたは複数の位置がミスマッチであっても起こり得る。条件は、塩濃度を上げること、および/または温度を下げることによって、低ストリンジェントになり得る。例えば、中ストリンジェンシー条件は、約37℃~約55℃の温度で約0.1~0.25 MのNaClによってもたらすことができるであろうし、一方、低ストリンジェンシー条件は、約20℃~約55℃の範囲の温度で約0.15 M~約0.9 Mの塩によってもたらすことができるであろう。ハイブリダイゼーション条件は、所望される結果に応じて容易に操作することができる。
【0045】
他の態様では、ハイブリダイゼーションは、例えば、50 mMのTris-HCl(pH 8.3)、75 mMのKCl、3 mMのMgCl2、1.0 mMのジチオトレイトール、およそ20℃~約37℃の温度の条件下でなされ得る。使用される他のハイブリダイゼーション条件としては、およそ10 mMのTris-HCl(pH 8.3)、50 mMのKCl、1.5 mMのMgCl2、およそ40℃~約72℃の範囲の温度が挙げられ得るであろう。
【0046】
一部の特定の態様では、規定の配列の本発明の核酸を、適切な手段、例えば標識と組み合わせてハイブリダイゼーションを調べるために使用することが好都合である。検出することができる多種多様な適切なインジケーター手段、例えば蛍光性、放射性、酵素性または他のリガンド、例えばアビジン/ビオチンが、当技術分野において公知である。好ましい態様では、放射性試薬または他の環境に望ましくない試薬の代わりに、蛍光標識または酵素タグ、例えばウレアーゼ、アルカリホスファターゼ、またはペルオキシダーゼを使用することが所望される場合があり得る。酵素タグの場合、視認可能または分光学的に検出可能な検出手段をもたらして相補的核酸含有試料との特異的ハイブリダイゼーションを確認するために使用され得る比色インジケーター基質が公知である。
【0047】
一般に、本明細書に記載のプローブまたはプライマーは、PCR(商標)の場合のような溶液中でのハイブリダイゼーションにおける試薬として、対応する遺伝子の発現の検出のため、ならびに固相を使用する態様において有用であることが想定される。固相を伴う態様では、試験DNA(またはRNA)を、選択されたマトリックスまたは表面上に吸着させるか、あるいはまた固定させる。この固定した一本鎖核酸を次いで、選択されたプローブとの所望の条件下でのハイブリダイゼーションに供する。選択される条件は、具体的な状況に依存する(例えば、G+C含有量、標的核酸の型、核酸の供給源、ハイブリダイゼーションプローブのサイズなどに依存する)。関心対象の具体的な適用でのハイブリダイゼーション条件の最適化は当業者に周知である。ハイブリダイズした分子を洗浄して非特異的結合プローブ分子を除去した後、ハイブリダイゼーションを、結合している標識の量を測定することによって検出および/または定量する。代表的な固相ハイブリダイゼーション法は、米国特許第5,843,663号、同第5,900,481号および同第5,919,626号に開示されている。本発明の実施に使用され得る他のハイブリダイゼーション法は、米国特許第5,849,481号、同第5,849,486号および同第5,851,772号に開示されている。本明細書のこのセクションに特定したこれらおよび他の参考文献の関連個所は参照により本明細書に組み入れられる。
【0048】
ii. 核酸の増幅
多くのmRNAは比較的低い存在度で存在するため、核酸の増幅により発現のアセスメント能が大きく向上する。一般的概念は、核酸は、関心対象の領域にフランキングするプライマーのペアを用いて増幅させることができるというものである。用語「プライマー」は、本明細書で用いる場合、生成中の核酸の合成を鋳型依存的プロセスでプライミングすることができる任意の核酸を包含していることを意図する。典型的には、プライマーは10~20および/または30塩基対の長さのオリゴヌクレオチドであるが、より長い配列が使用されることもあり得る。プライマーは二本鎖形態および/または一本鎖形態で供給され得るが、一本鎖形態が好ましい。
【0049】
選択された遺伝子に対応する核酸に選択的にハイブリダイズするように設計されたプライマーペアを、鋳型核酸と、選択的ハイブリダイゼーションを可能にする条件下で接触させる。所望される適用にもよるが、プライマーに完全に相補的である配列とのハイブリダイゼーションのみを可能にする高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件が選択され得る。他の態様では、ハイブリダイゼーションは、プライマー配列と1つまたは複数のミスマッチを含む核酸の増幅を可能にするために低ストリンジェンシー下で行なわれ得る。ハイブリダイズしたら、鋳型-プライマー複合体を、鋳型依存的核酸合成を助長する1種または複数種の酵素と接触させる。「サイクル」とも称する複数回の増幅が、充分な量の増幅産物が生成するまで実施される。
【0050】
増幅産物は検出または定量され得る。一部の特定の適用では、検出は視覚的手段によって行なわれ得る。あるいはまた、検出は、化学発光、組み込まれた放射性標識の放射能のシンチグラフィまたは蛍光標識による、あるいはさらには、電気信号および/または熱インパルス信号を用いるシステムによる産物の間接的確認を伴うものであってもよい。
【0051】
いくつかの鋳型依存的プロセスが、所与の鋳型試料中に存在するオリゴヌクレオチド配列を増幅させるために利用可能である。最もよく知られた増幅方法の1つはポリメラーゼ連鎖反応(PCR(商標)と称する)であり、これは米国特許第4,683,195号、同第4,683,202号および同第4,800,159号ならびにInnis et al.,1988に詳細に記載されており、これらは各々、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0052】
逆転写酵素PCR(商標)増幅手順は、増幅されたmRNAの量を定量するために行なわれ得る。RNAをcDNAに逆転写する方法は周知である(Sambrook et al.,1989参照)。逆転写の択一的な方法では耐熱性DNAポリメラーゼが利用される。このような方法はWO 90/07641に記載されている。ポリメラーゼ連鎖反応方法論は当技術分野において周知である。代表的なRT-PCR法は米国特許第5,882,864号に記載されている。
【0053】
標準的なPCRでは通常、1つのプライマーペアを用いて特定の配列を増幅させるのに対して、マルチプレックス-PCR(MPCR)では、複数のプライマーペアを用いて多くの配列を同時に増幅させる。単一のチューブ内に多くのPCRプライマーが存在すると、多くの問題、例えば、ミスプライミングPCR産物および「プライマーダイマー」形成の増大、長鎖DNA断片の増幅の差などが引き起こされ得る。通常、MPCRバッファーにはTaq Polymerase添加剤が含められており、これは、MPCRの際のアンプリコン同士の競合および長鎖DNA断片の増幅の差を低減させる。MPCR産物を、検証のために遺伝子特異的プローブとさらにハイブリダイズさせてもよい。理論的には、必要なだけ多くのプライマーを使用できるのがよい。しかしながら、MPCRの際に引き起こされる副反応(プライマーダイマー、ミスプライミングPCR産物など)のため、MPCR反応において使用できるプライマーの数には制限がある(20未満)。また、欧州特許出願第0 364 255号およびMueller and Wold(1989)も参照のこと。
【0054】
増幅のための別の方法は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる欧州特許出願第320 308号に開示されたリガーゼ連鎖反応(「LCR」)である。米国特許第4,883,750号には、プローブペアを標的配列に結合させるための、LCRと同様の方法が記載されている。また、米国特許第5,912,148号に開示された、PCR(商標)およびオリゴヌクレオチドリガーゼアッセイ(OLA)に基づいた方法も使用され得る。
【0055】
本発明の実施に使用され得る、標的核酸配列の増幅の択一的な方法は米国特許第5,843,650号、同第5,846,709号、同第5,846,783号、同第5,849,546号、同第5,849,497号、同第5,849,547号、同第5,858,652号、同第5,866,366号、同第5,916,776号、同第5,922,574号、同第5,928,905号、同第5,928,906号、同第5,932,451号、同第5,935,825号、同第5,939,291号および同第5,942,391号、英国特許出願第2 202 328号、ならびにPCT国際出願第PCT/US89/01025号に開示されており、これらは各々、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0056】
また、PCT国際出願第PCT/US87/00880号に記載のQbeta Replicaseも、本発明における増幅方法として使用され得る。この方法では、標的の一領域に相補的な領域を有する複製配列のRNAが試料に、RNAポリメラーゼの存在下で添加される。ポリメラーゼは該複製配列をコピーし、次いで該配列が検出され得る。
【0057】
また、制限エンドヌクレアーゼとリガーゼを使用し、ヌクレオチド5'-[アルファ-チオ]-三リン酸を制限部位の一方の鎖に含む標的分子の増幅を行なう等温増幅法も、本発明における核酸の増幅に有用であり得る(Walker et al.,1992)。米国特許第5,916,779号に開示された鎖置換増幅(SDA)は核酸の等温増幅を行なう別の方法であり、これは複数回の鎖置換と合成、すなわちニックトランスレーションを伴う。
【0058】
他の核酸増幅手順としては、転写ベース増幅系(TAS)、例えば核酸配列ベース増幅(NASBA)および3SR(Kwoh et al.,1989;Gingeras et al.,国際公開公報第88/10315号、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)が挙げられる。欧州特許出願第329 822号には、サイクル式で一本鎖RNA(「ssRNA」)、ssDNA、および二本鎖DNA(dsDNA)を合成することを伴う核酸増幅プロセスが開示されており、これは本発明に従って使用され得る。
【0059】
国際公開公報第89/06700号(参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)には、プロモーター領域/プライマー配列の標的一本鎖DNA(「ssDNA」)へのハイブリダイゼーション、続いて多くのRNA配列コピーの転写に基づく核酸配列の増幅スキームが開示されている。このスキームはサイクル式ではない、すなわち、生じたRNA転写物から新たな鋳型は生成されない。他の増幅方法としては、「race」および「ワンサイドPCR」が挙げられる(Frohman,1990;Ohara et al.,1989)。
【0060】
iii. 核酸の検出
任意の増幅後、増幅産物を鋳型および/または過剰のプライマーから分離することが望ましい場合があり得る。一態様では、増幅産物が、アガロース、アガロース-アクリルアミド、またはポリアクリルアミドゲル電気泳動により、標準的な方法を用いて分離される(Sambrook et al.,1989)。分離された増幅産物は、さらなる操作のためにゲルから切り出されて溶出され得る。低融点アガロースゲルを使用し、分離したバンドは、ゲルを加熱することによって取り出された後、核酸抽出が行なわれ得る。
【0061】
また、核酸の分離は、当技術分野において公知のクロマトグラフィーによる手法によって行なわれてもよい。本発明の実施に使用され得るクロマトグラフィーには多くの種類があり、吸着、分配、イオン交換、ハイドロキシアパタイト、分子篩、逆相、カラム、ペーパー、薄層、およびガスクロマトグラフィー、ならびにHPLCが挙げられる。
【0062】
一部の特定の態様では、増幅産物が可視化される。典型的な可視化方法は、エチジウムブロマイドでのゲルの染色およびUV光下でのバンドの可視化を伴う。あるいはまた、増幅産物が放射性標識ヌクレオチドまたは蛍光定量的に標識されたヌクレオチドで一体的に標識されている場合、分離された増幅産物はX線フィルムに曝露され得るか、または適切な励起スペクトル下で可視化され得る。
【0063】
一態様では、増幅産物の分離後、標識核酸プローブを、増幅されたマーカー配列と接触させる。プローブは、好ましくは発色団にコンジュゲートされているが、放射性標識されていてもよい。別の態様では、プローブが結合パートナー、例えば抗体もしくはビオチン、または検出可能な部分を担持している別の結合パートナーにコンジュゲートされている。
【0064】
特定の態様では、検出は、サザンブロッティングおよび標識プローブとのハイブリダイゼーションによるものである。サザンブロッティングにかかわる手法は当業者に周知である(Sambrook et al.,2001参照)。前述のものの一例は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,279,721号に記載されており、これには、自動電気泳動および核酸移入のための装置および方法が開示されている。この装置は、ゲルの外部操作を伴わない電気泳動およびブロッティングを可能にし、本発明による方法を行なうことに理想的に適している。
【0065】
本発明の実施に使用され得る他の核酸検出方法は、米国特許第5,840,873号、同第5,843,640号、同第5,843,651号、同第5,846,708号、同第5,846,717号、同第5,846,726号、同第5,846,729号、同第5,849,487号、同第5,853,990号、同第5,853,992号、同第5,853,993号、同第5,856,092号、同第5,861,244号、同第5,863,732号、同第5,863,753号、同第5,866,331号、同第5,905,024号、同第5,910,407号、同第5,912,124号、同第5,912,145号、同第5,919,630号、同第5,925,517号、同第5,928,862号、同第5,928,869号、同第5,929,227号、同第5,932,413号および同第5,935,791号に開示されており、これらは各々、参照により本明細書に組み入れられる。
【0066】
iv. 核酸アレイ
マイクロアレイは、実質的に平面的な基材、例えばバイオチップの表面上に空間的に分布された複数の高分子分子を備えており、該表面に安定的に結合している。ポリヌクレオチドのマイクロアレイが開発されており、さまざまな適用、例えばスクリーニングおよびDNAシーケンシングにおける用途が見出されている。特に、マイクロアレイの用途が見出されている分野の1つは遺伝子発現解析である。
【0067】
マイクロアレイを伴う遺伝子発現解析では、「プローブ」オリゴヌクレオチドのアレイを、関心対象の核酸試料、すなわち標的、例えば特定の組織型由来のポリA mRNAと接触させる。接触はハイブリダイゼーション条件下で行なわれ、次いで未結合核酸が除去される。得られた核酸ハイブリダイズパターンは、試験された試料の遺伝子プロファイルに関する情報をもたらす。マイクロアレイでの遺伝子発現解析の方法論により、定性的情報と定量的情報の両方を得ることができる。
【0068】
使用され得るさまざまな異なるアレイが当技術分野において公知である。標的核酸と配列特異的ハイブリダイゼーションを行なうことができるアレイのプローブ分子は、ポリヌクレオチドまたはそのハイブリダイズアナログもしくは模倣物、例えば、以下:ホスホジエステル結合が代替結合で置き換えられている核酸、例えばホスホロチオエート、メチルイミノ、メチルホスホネート、ホスホロアミデート、グアニジンなど;リボースサブユニットが置換されている核酸、例えばヘキソースホスホジエステル;ペプチド核酸;など、であり得る。プローブの長さは一般的に10~1000 ntの範囲であり、この場合、一部の態様では、プローブがオリゴヌクレオチドであり、通常、15~150 ntの範囲であり、より通常には15~100 ntの長さであり、他の態様では、プローブがより長鎖であり、通常、長さは150~1000 ntの範囲であり、この場合、ポリヌクレオチドプローブは一本鎖であっても二本鎖であってもよく、通常、一本鎖であり得、cDNAから増幅されたPCR断片であってもよい。
【0069】
基材の表面上のプローブ分子は、解析対象の選択された遺伝子に対応しており、アレイ上の既知の場所に配置され、陽性ハイブリダイゼーション事象が、標的核酸試料が由来する生理学的供給源の特定の遺伝子の発現と相関し得るようになっている。プローブ分子が安定的に結合される基材は、さまざまな材質、例えばプラスチック、セラミック、金属、ゲル、膜、ガラスなどで製作され得る。アレイは、任意の簡便な方法論に従って、例えばプローブを事前に形成し、次いで、これを支持体の表面と安定的に結合させるか、またはプローブを直接、支持体上で増殖させて作製され得る。いくつかの異なるアレイ構成およびその作製方法が当業者に公知であり、米国特許第5,445,934号、同第5,532,128号、同第5,556,752号、同第5,242,974号、同第5,384,261号、同第5,405,783号、同第5,412,087号、同第5,424,186号、同第5,429,807号、同第5,436,327号、同第5,472,672号、同第5,527,681号、同第5,529,756号、同第5,545,531号、同第5,554,501号、同第5,561,071号、同第5,571,639号、同第5,593,839号、同第5,599,695号、同第5,624,711号、同第5,658,734号、同第5,700,637号および同第6,004,755号に開示されている。
【0070】
ハイブリダイゼーション後、非ハイブリダイズ標識核酸が検出工程の際にシグナルを発することができる場合、未ハイブリダイズ標識核酸が支持体表面から除去され、基材表面上に核酸ハイブリダイズパターンが生成する洗浄工程が使用される。さまざまな洗浄用溶液およびその使用のためのプロトコルが当業者に公知であり、使用され得る。
【0071】
標的核酸の標識が直接検出可能でないならば、結合された標的を含む状態になっているアレイは、使用されているシグナル生成系の他方の構成員(1つまたは複数)と接触される。例えば、標的の標識がビオチンであるならば、アレイをストレプトアビジン-蛍光剤コンジュゲートと、この特異的結合構成員ペア間の結合が起こるのに充分な条件下で接触させる。接触後、次いで、シグナル生成系の未結合構成員があれば、例えば洗浄することによって除去される。使用される具体的な洗浄条件は必然的に、使用されるシグナル生成系の具体的な性質に依存し、使用される具体的なシグナル生成系を熟知している当業者には既知である。
【0072】
標識核酸の得られたハイブリダイゼーションパターン(1つまたは複数)は、さまざまな様式で可視化または検出され得、具体的な検出様式は、該核酸の具体的な標識に基づいて選出され、この場合、代表的な検出手段としては、シンチレーション計数、オートラジオグラフィー、蛍光測定、熱量測定、放光測定などが挙げられる。
【0073】
検出または可視化の前に、パターンにおいて偽陽性シグナルを生じるミスマッチハイブリダイゼーション事象の可能性を低減させることが所望される場合、ハイブリダイズ標的/プローブ複合体のアレイをエンドヌクレアーゼで、該エンドヌクレアーゼによって一本鎖DNAは分解されるが二本鎖DNAは分解されないような充分な条件下で、処理してもよい。さまざまな異なるエンドヌクレアーゼが公知であり、使用され得、この場合、かかるヌクレアーゼとしては、緑豆ヌクレアーゼ、S1ヌクレアーゼなどが挙げられる。かかる処理が、標的核酸が直接検出可能な標識で標識されていないアッセイにおいて、例えばビオチン化標的核酸を伴うアッセイにおいて使用される場合、エンドヌクレアーゼ処理は一般的に、アレイをシグナル生成系、例えば蛍光性ストレプトアビジンコンジュゲートの他方の構成員(1つまたは複数)と接触させる前に行なわれる。エンドヌクレアーゼ処理により、上記のように、プローブの3'末端に実質的に完全なハイブリダイゼーションを有する末端標識標的/プローブ複合体のみがハイブリダイゼーションパターンにおいて検出されることが確実になる。
【0074】
上記のようなハイブリダイゼーションならびに任意の洗浄工程(1回もしくは複数回)および/または後続の処理後、得られたハイブリダイゼーションパターンが検出される。ハイブリダイゼーションパターンの検出または可視化において、標識の強度またはシグナルの値は検出されるだけでなく定量もされ、これにより、ハイブリダイゼーションの各スポットでのシグナルが測定され、既知数の末端標識標的核酸が発したシグナルに対応する単位値と比較され、ハイブリダイゼーションパターンにおいてアレイ上の特定のスポットにハイブリダイズしている各末端標識標的のコピー数のカウントまたは絶対値を得ることを意図する。
【0075】
2. タンパク質ベースの検出方法
i. 免疫検出
なおさらなる態様には、変異型SMARCB1を確認および/または定量するための免疫検出方法がある。このような方法は、一部の特定の態様では、がん、例えば上記に記述したものの処置に適用され得る。
【0076】
一部の免疫検出方法としては、一例を挙げると、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、イムノラジオメトリックアッセイ、蛍光免疫アッセイ、化学発光アッセイ、生物発光アッセイ、およびウエスタンブロットが挙げられる。特に、TSP1抗体の検出および定量のための競合アッセイもまた示される。種々の有用な免疫検出方法の諸工程は、例えばDoolittle and Ben-Zeev(1999)、Gulbis and Galand(1993)、De Jager et al.(1993)およびNakamura et al.(1987)などの科学文献に記載されている。一般に、免疫結合法は、試料を採取すること、および該試料を第1の抗体と本明細書に記述している態様に従って、場合によっては免疫複合体の形成を可能にするのに有効な条件下で接触させることを含む。
【0077】
選び出された生物学的試料を、抗体と、免疫複合体(一次免疫複合体)の形成を可能にするのに有効な条件下で、該形成を可能にするのに充分な時間接触させることは、一般的には、単純に抗体組成物を試料に添加し、この混合物を、該抗体が、存在するSMARCB1と免疫複合体を形成する、すなわち存在するSMARCB1に結合するのに充分に長い時間、インキュベートする、ということである。この時間の後、試料-抗体組成物、例えば組織切片、ELISAプレート、ドットブロット、またはウエスタンブロットは一般的に洗浄されて、非特異的結合抗体種があれば除去され、一次免疫複合体内の特異的に結合している抗体のみが検出されることが可能になる。
【0078】
一般に、免疫複合体の形成の検出は当技術分野において周知であり、数多くのアプローチの適用によって行なわれ得る。このような方法は一般的に、標識またはマーカー、例えば任意の放射性タグ、蛍光性タグ、生物学的タグ、および酵素タグの検出に基づいている。かかる標識の使用に関する特許としては、米国特許第3,817,837号、同第3,850,752号、同第3,939,350号、同第3,996,345号、同第4,277,437号、同第4,275,149号および同第4,366,241号が挙げられる。もちろん、二次結合リガンド、例えば第2の抗体および/またはビオチン/アビジンリガンド結合構成の使用によってさらなる利点が見出され得、これは当技術分野において公知である。
【0079】
検出に使用される抗体は、それ自体が、検出可能な標識に連結されていてもよく、そのときは、この標識は簡単に検出され、それにより、組成物中の一次免疫複合体の量を測定することが可能であろう。あるいはまた、一次免疫複合体内で結合状態になっている第1の抗体は、該抗体に結合親和性を有する第2の結合リガンドによって検出され得る。このような場合、第2の結合リガンドは検出可能な標識に連結され得る。第2の結合リガンドは多くの場合、それ自体も抗体であり、したがって「二次」抗体と称され得る。一次免疫複合体を、標識された二次結合リガンドまたは二次抗体と、二次免疫複合体の形成を可能にするのに有効な条件下で、該形成を可能にするのに充分な時間、接触させる。次いでこの二次免疫複合体は、一般的に洗浄されて、非特異的に結合している標識された二次抗体またはリガンドがあれば除去され、次いで二次免疫複合体内の残存標識が検出される。
【0080】
さらなる方法としては、2段階アプローチによる一次免疫複合体の検出が挙げられる。第2の結合リガンド、例えば前記抗体に結合親和性を有する抗体が、上記のような二次免疫複合体を形成するために使用される。洗浄後、二次免疫複合体を、第2の抗体に結合親和性を有する第3の結合リガンドまたは抗体と、この場合も、免疫複合体(三次免疫複合体)の形成を可能にするのに有効な条件下で、該形成を可能にするのに充分な時間、接触させる。第3のリガンドまたは抗体は検出可能な標識に連結され、かくして形成された三次免疫複合体の検出が可能になる。この系では、所望されるならばシグナルの増幅がもたらされ得る。
【0081】
免疫検出の一例の方法では2つの異なる抗体が使用される。第1のビオチン化抗体が標的抗原を検出するために使用され、次いで、第2の抗体が、複合体形成しているビオチンに結合しているビオチンを検出するために使用される。該方法では、試験対象の試料をまず、第1段階の抗体を含む溶液中でインキュベートする。標的抗原が存在するならば、一部の該抗体が該抗原に結合してビオチン化抗体/抗原複合体を形成する。次いでこの抗体/抗原複合体を、ストレプトアビジン(またはアビジン)、ビオチン化DNAおよび/または相補的なビオチン化DNAの一連の溶液中でのインキュベーションによって増幅させ、各工程では、さらなるビオチン部位が該抗体/抗原複合体に付加される。増幅工程は適当な増幅レベルになるまで反復され、その時点で試料は、ビオチンに対する第2段階の抗体を含む溶液中でインキュベートされる。この第2段階の抗体は、例えば、抗体/抗原複合体の存在を組織酵素学検査によって発色性基質を用いて検出するために使用され得る酵素で標識される。適当な増幅では、肉眼検査で視認可能なコンジュゲートが生じ得る。
【0082】
別の公知の免疫検出方法は、イムノPCR(Polymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応))方法論を利用する。このPCR法は、ビオチン化DNAとのインキュベーションまではCantor法と同様であるが、複数回のストレプトアビジンとビオチン化DNAのインキュベーションを使用する代わりに、DNA/ビオチン/ストレプトアビジン/抗体複合体を、抗体を放出させる低pHバッファーまたは高塩バッファーで洗い流す。次いで、得られた洗浄液は、適切な対照とともに適当なプライマーを用いたPCR反応を行なうために使用される。少なくとも理論的には、単一の抗原分子を検出するのにPCRの膨大な増幅能および特異性が利用され得る。
【0083】
ii. ELISA
イムノアッセイは、最も単純な意味では結合アッセイである。一部の特定の好ましいイムノアッセイは当技術分野において公知の種々の型の酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)およびラジオイムノアッセイ(RIA)である。また、組織切片を用いた免疫組織化学的検出も特に有用である。しかしながら、検出はかかる手法に限定されず、ウエスタンブロッティング、ドットブロッティング、FACS解析などもまた使用され得ることは容易に認識されよう。
【0084】
例示的なELISAの1つでは、本開示の抗体が、タンパク質親和性を示す選択された表面上、例えばポリスチレンマイクロタイタープレートのウェルに固定化される。次いで、TSP1が含まれていることが疑われる試験組成物がこのウェルに添加される。結合および非特異的結合免疫複合体を除去するための洗浄後、結合している抗原が検出され得る。検出は、検出可能な標識に連結された別の抗SMARCB1抗体の添加によって行なわれ得る。この型のELISAは単純な「サンドイッチELISA」である。また、検出は、第2の抗SMARCB1抗体の添加の後、該第2の抗体に結合親和性を有する第3の抗体を添加することによっても行なわれ得、第3の抗体は検出可能な標識に連結されている。
【0085】
別の例示的なELISAでは、SMARCB1が含まれていることが疑われる試料がウェル表面上に固定化され、次いで抗SMARCB1抗体と接触させられる。結合および非特異的結合免疫複合体を除去するための洗浄後、結合している抗SMARCB1抗体が検出される。最初の抗SMARCB1抗体が検出可能な標識に連結されている場合、免疫複合体は直接検出され得る。この場合も、免疫複合体は、第1の抗SMARCB1抗体に結合親和性を有する第2の抗体を用いて検出され得、第2の抗体は検出可能な標識に連結されている。
【0086】
使用される形式に関係なく、ELISAは、共通するある特定の特長、例えばコーティング、インキュベーション、および結合、非特異的に結合している種を除去するための洗浄ならびに結合している免疫複合体の検出を有する。これらを以下に説明する。
【0087】
抗原または抗体のいずれかでのプレートのコーティングでは、一般的に、プレートのウェルが該抗原または抗体の溶液とともに、一晩または指定された時間のいずれかでインキュベートされる。次いでプレートのウェルは洗浄されて、不完全に吸着している物質が除去される。ウェルにまだ利用可能なままの表面があれば、次いで、試験抗血清に対して抗原的に中性の非特異的タンパク質で「コーティングされる」。このようなものとしては、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、または粉乳の溶液が挙げられる。このコーティングによって固定化表面上の非特異的吸着部位のブロックが可能になり、したがって、該表面上における抗血清の非特異的結合によって引き起こされるバックグラウンドが低減される。
【0088】
ELISAでは、おそらく直接手順ではなく二次または三次検出手段を使用する方が慣用的である。したがって、ウェルへのタンパク質または抗体の結合、バックグラウンドを低減させるための非反応性物質でのコーティングおよび未結合物質を除去するための洗浄の後、固定化表面を試験対象の生物学的試料と、免疫複合体(抗原/抗体)の形成を可能にするのに有効な条件下で接触させる。次いで、免疫複合体の検出には、標識された二次結合リガンドまたは抗体、および二次結合リガンドまたは抗体とともに標識された三次抗体または第3の結合リガンドが必要とされる。
【0089】
「免疫複合体(抗原/抗体)の形成を可能にするのに有効な条件下」は、条件が、好ましくは、抗原および/または抗体を、BSA、ウシガンマグロブリン(BGG)、またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)/Tweenなどの溶液で希釈することを含むことを意味する。このような薬剤の添加によっても非特異的バックグラウンドの低減が補助される傾向にある。
【0090】
また、「適当な」条件は、インキュベーションが、有効な結合を可能にするのに充分な温度または有効な結合を可能にするのに充分な時間であることを意味する。インキュベーション工程は典型的には、好ましくは25℃~27℃程度の温度で約1~約2時間から約4時間くらいであるか、または約4℃くらいで一晩であり得る。
【0091】
ELISAのすべてのインキュベーション工程後、接触させた表面は、複合体形成していない物質が除去されるように洗浄される。好ましい洗浄手順は、PBS/Tweenまたはホウ酸バッファーなどの溶液での洗浄を含む。試験試料と最初から結合されている物質間の特異的免疫複合体の形成および後続の洗浄後、微量であっても免疫複合体の存在が測定され得る。
【0092】
検出手段をもたらすため、第2または第3の抗体には、検出を可能にするための標識が結合されている。好ましくは、これは、適切な発色性基質とともにインキュベートすると発色する酵素である。したがって、例えば、第1および第2の免疫複合体をウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、またはハイドロゲンペルオキシダーゼとコンジュゲートした抗体と、さらなる免疫複合体の形成の発生に都合がよい時間、さらなる免疫複合体の形成の発生に都合がよい条件下で接触させるか、またはインキュベートすること(例えば、PBS含有溶液、例えばPBS-Tween中、室温で2時間のインキュベーション)が所望される。
【0093】
標識抗体とのインキュベーションおよび未結合物質を除去するための後続の洗浄後、標識の量が、例えば、発色性基質、例えば尿素、またはブロモクレゾールパープル、または2,2'-アジノ-ジ-(3-エチル-ベンゾチアゾリン-6-スルホン酸(ABTS)、または酵素標識としてペルオキシダーゼの場合はH2O2とのインキュベーションによって定量される。次いで定量が、発色の度合いを例えば可視スペクトル分光光度計を用いて測定することにより行なわれる。
【0094】
iii. ウエスタンブロット
ウエスタンブロット(あるいはまた、タンパク質イムノブロット)は、組織ホモジネートまたは抽出物の所与の試料中の特定のタンパク質を検出するために使用される解析手法である。これはゲル電気泳動を使用し、天然状態のタンパク質または変性タンパク質をポリペプチドの長さ(変性条件)によって、またはタンパク質の3D構造(天然状態の条件/非変性条件)によって分離する。次いでタンパク質を膜(典型的には、ニトロセルロースまたはPVDF)に転写し、この場合、該タンパク質は、標的タンパク質に特異的な抗体を用いてプローブ結合させる(検出する)。
【0095】
試料は全組織または細胞培養物から採取され得る。ほとんどの場合、充実性組織をまず、ブレンダー(大容量の試料の場合)を用いて、ホモジナイザー(小容量)を用いて、または超音波処理によって、機械的に破砕する。また、細胞を、上記の機械的方法のうちの1つによって破砕してもよい。しかしながら、細菌試料、ウイルス試料、または環境試料がタンパク質の供給源の場合もあり得、したがって、ウエスタンブロッティングは細胞での試験のみに限定されないことに注意されたい。多種多様なデタージェント、塩、およびバッファーが、細胞の溶解を促すため、およびタンパク質を可溶化するために使用され得る。プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤が多くの場合、試料自体がもつ酵素による該試料の消化を抑制するために添加される。組織の調製は多くの場合、タンパク質の変性を回避するために、低温で行なわれる。
【0096】
試料のタンパク質は、ゲル電気泳動を用いて分離される。タンパク質の分離は、等電点(pI)、分子量、電荷、またはこれらの要素の組合せによるものであり得る。分離の性質は試料の処理およびゲルの性質に依存する。これはタンパク質を調べるのに非常に有用な様式である。また、タンパク質を単一の試料から2次元に展開させる2次元(2D)ゲルを使用することも可能である。タンパク質は、1次元では等電点(中性の正味電荷を有するpH)に従って、2次元ではその分子量に従って分離される。
【0097】
タンパク質を抗体の検出に利用可能にするため、これをゲル内からニトロセルロースまたはポリビニリデンジフロライド(PVDF)製の膜上に移動させる。膜をゲルの上面に置き、その上面に積層体の濾紙を置く。この積層体全体をバッファー溶液中に入れると、該溶液は毛管作用によって濾紙を上方に移動し、それとともにタンパク質も移動する。タンパク質を移すための別の方法はエレクトロブロッティングと称されるものであり、電流を用いてタンパク質をゲルからPVDFまたはニトロセルロース膜内に引き寄せる。タンパク質は、ゲル内で有していた組織化構造を維持したまま、ゲル内から膜上に移動する。このブロッティングプロセスの結果、タンパク質は、検出用の薄い表面層上に露出する(下記参照)。どちらもいろいろな膜が、非特異的タンパク質結合特性(すなわち、あらゆるタンパク質に等しく良好に結合する)のために選出される。タンパク質結合は、膜とタンパク質間の疎水性相互作用ならびに電荷相互作用に基づいている。ニトロセルロース膜はPVDFより安価であるが、はるかに脆く、反復するプローブ結合には充分に耐えられない。ゲルから膜へのタンパク質の転写の一様性および全体的な有効性は、膜をクマシーブリリアントブルーまたはポンソーS色素で染色することによって確認され得る。転写されたら、タンパク質は、標識一次抗体または非標識一次抗体の使用の後、該一次抗体のFc領域に結合する標識プロテインAまたは二次標識抗体を用いた間接的な検出で検出される。
【0098】
iv. 免疫組織化学
また、抗体は、免疫組織化学(IHC)による試験用に調製された、新鮮凍結および/またはホルマリン固定パラフィン包埋のどちらの組織ブロックとも使用され得る。このような粒状検体からの組織ブロックの調製方法は、種々の予後因子のこれまでのIHC試験において成功裡に使用されており、当業者に周知である(Brown et al.,1990;Abbondanzo et al.,1990;Allred et al.,1990)。
【0099】
簡単に説明すると、50ngの凍結された「粉砕された」組織を室温で、小さいプラスチックカプセル内のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で再水和させること;この粒子を遠心分離によってペレット化すること;これを粘性の包埋媒体(OCT)中に再懸濁させること;カプセルを上下逆さまにひっくり返すこと、および/または遠心分離によって再度ペレット化すること;-70℃のイソペンタン中でスナップ凍結させること;プラスチックカプセルをカットすること、および/または組織の凍結円柱体を取り出すこと;この組織円柱体をクリオスタットミクロトームのチャック上に固定すること;および/またはカプセルから25~50の連続切片を切り出すことにより、凍結切片が調製され得る。あるいはまた、凍結組織試料全体を連続切片の切り出しに使用してもよい。
【0100】
プラスチック製微量遠心機用チューブ内での50 mgの試料の再水和;ペレット化;4時間の固定のための10%ホルマリン中への再懸濁;洗浄/ペレット化;2.5%の加温寒天中への再懸濁;ペレット化;寒天の硬化のための氷中での冷却;チューブからの組織/寒天ブロックの取り出し;ブロックのパラフィン中への浸漬および/または包埋;および/または50の連続永久切片の切り出しを伴う同様の方法によって、永久切片が調製され得る。この場合も、全組織試料で置き換えられ得る。
【0101】
v. 免疫検出キット
なおさらなる態様には、上記の免疫検出方法での使用のための免疫検出キットがある。したがって、免疫検出キットは適当な容器手段内に、TSP1抗原に結合する第1の抗体および任意で免疫検出試薬を備えている。
【0102】
一部の特定の態様では、TSP1抗体が、固相支持体、例えばカラムのマトリックスおよび/またはマイクロタイタープレートのウェルに、予め結合され得る。キットの免疫検出試薬は、さまざまな形態のいずれか1つ、例えば所与の抗体と関連しているか、または所与の抗体に連結されている検出可能な標識であり得る。また、二次結合リガンドと関連しているか、または二次結合リガンドに結合されている検出可能な標識も想定される。例示的な二次リガンドは、第1の抗体に結合親和性を有する二次抗体である。
【0103】
本発明のキットにおける使用のためのさらなる適当な免疫検出試薬としては、第1の抗体に結合親和性を有する二次抗体とともに、この第2の抗体に結合親和性を有する第3の抗体を含む2成分試薬が挙げられ、第3の抗体は検出可能な標識に連結されている。上記のように、いくつかの例示的な標識が当技術分野において公知であり、かかる標識はすべて、本明細書に記述している態様との関連において使用され得る。
【0104】
キットは、標識型または非標識のいずれかの、適当にアリコートに分けられたTSP1抗原組成物をさらに備えていてもよく、これは検出アッセイのための標準曲線を作成するために使用され得る。キットには、完全にコンジュゲートされた形態、中間体の形態、またはキットのユーザーによってコンジュゲートされる別々の部分としてのいずれかで、抗体-標識コンジュゲートが含められ得る。キットの構成要素は水性媒体中または凍結乾燥形態のいずれかでパッケージングされ得る。
【0105】
キットの容器手段としては一般的に、内部に抗体が入れられ得るか、または好ましくは適当にアリコートに分けられ得る、少なくとも1つのバイアル、テストチューブ、フラスコ、ビン、シリンジ、または他の容器手段が挙げられる。また、キットには、抗体、抗原および任意の他の試薬の容器を市販用に厳重な管理下で収容するための手段も含められる。かかる容器としては、内部に所望のバイアルが保持される射出成形またはブロー成形されたプラスチック容器が挙げられ得る。
【0106】
vi. 質量分析
質量および電荷の固有の特性を利用することにより、質量分析(MS)によって多種多様な複雑な化合物、例えばタンパク質が解明され、確信をもって同定され得る。従来の定量MSではエレクトロスプレーイオン化(ESI)の後、タンデムMS(MS/MS)が使用されている一方、新しい定量方法が、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)の後、飛行時間型(TOF)MSを用いて開発されている。特に、質量分析は、試料に対して、これに含まれているタンパク質標的を同定するために適用されている。
【0107】
ESIは、高度に極性の、ほとんどが不揮発性の生体分子、例えば脂質から気相イオンを生成させるために使用される簡便なイオン化手法である。試料は、液状物として低流速(1~10μL/分)で、強い電場が印加されているキャピラリーチューブからインジェクトされる。電場により、キャピラリーの末端でこの液状物に対してさらなる電荷が発生し、質量分析計の導入口に静電的に結合している高度に帯電した液滴の微細な霧が生じる。液滴が脱溶媒和チャンバ内を移動するにつれて、液滴の表面からの溶媒の蒸発によってその電荷密度がかなり増大する。この増大がレイリー安定性限界を超えた時、イオンが吐出され、MS解析の準備状態となる。
【0108】
ESIタンデム質量分析(ESI/MS/MS)では、プリカーサーイオンとプロダクトイオンの両方を同時に解析することができ、それにより単独のプリカーサー生成反応がモニタリングされ、所望のプリカーサーイオンが存在する場合のみシグナルが生成する(選択的反応モニタリング(SRM)により)。内部標準が被検物質の安定な同位体標識型である場合、これは安定同位体希釈法による定量として知られている。このアプローチは、医薬品および生物活性ペプチドを正確に測定するために使用されている。新しい方法は広く利用可能なMALDI-TOF機器で行なわれ、これは広い質量範囲を解明することができ、代謝産物、ペプチドおよびタンパク質を定量するために使用されている。大型分子、例えばペプチドは、ケミストリーが被検物質ペプチドと同様である限り非標識相同ペプチドを用いて定量され得る。タンパク質の定量はトリプティックペプチドを定量することにより行なわれている。複雑な混合物、例えば粗製抽出物を解析することはできるが、一部の場合では、試料をきれいにすることが必要とされる。
【0109】
二次イオン質量分析またはSIMSは、質量分析のための表面から放出されるイオン化粒子が使用される10億分のいくつかの検出感度の解析方法である。試料表面には、該表面から吐出される一次エネルギー粒子、例えば電子、イオン(例えば、O、Cs)、中性分子またはさらには光子、強制原子粒子および分子粒子が打ち込まれ、スパッタリングと称されるプロセスである。このようなスパッタ粒子の一部のものは電荷を担持しているため、質量分析計は、その質量および電荷を測定するために使用され得る。連続スパッタリングにより、物質が除去されると露出する元素の測定が可能になる。これによりさらには、元素のデプスプロフィールを構築することが可能になる。大部分の二次イオン化粒子は電子であるが、これは、この方法で質量分析計によって検出および解析される二次イオンである。
【0110】
レーザー脱離質量分析(LD-MS)はパルスレーザーの使用を伴い、パルスレーザーは試料部位からの試料物質の脱離を有効に誘導する-これは試料基板からの試料の気化脱離を意味する。この方法は通常、質量分析計と併せてのみ使用され、適合したレーザー放射波長が使用される場合にイオン化と同時に行なわれ得る。
【0111】
飛行時間型(TOF)測定と組み合わせる場合、LD-MSはLDLPMS(レーザー脱離レーザー光イオン化質量分析)と称される。LDLPMS解析法では試料の即時の気化がもたらされ、この形態の試料断片化によって湿式抽出ケミストリーを全く伴わない迅速な解析が可能になる。LDLPMS計測器により、保持時間は短く試料サイズは小さいが、存在している種のプロフィールが得られる。LDLPMSでは、インパクターストリップが真空チャンバに負荷される。パルスレーザーが試料部位のある特定のスポット上に照射され、存在している種が脱離してレーザー放射によってイオン化される。また、このイオン化によって分子がより小さい断片イオンに崩壊することが引き起こされる。生じた正イオンまたは負のイオンは次いでフライトチューブ内へと加速され、最後にマイクロチャンネルプレート検出器によって検出される。シグナル強度またはピークの高さが移動時間の関数として測定される。印加電圧および具体的なイオンの電荷によって運動エネルギーが決定され、断片の分離は、大きさの違いによって速度の違いが引き起こされることによるものである。したがって、各イオン質量は検出器までの異なる飛行時間を有する。
【0112】
解析では正のイオンまたは負のイオンのいずれかが形成され得る。正イオンは通常の直接光イオン化により作製されるが、負イオンの形成には高出力レーザーおよび電子を得るための二次過程が必要とされる。試料部位から離脱する分子のほとんどは中性分子であり、したがってその電子親和性に基づいて電子を誘引し得る。負イオンの形成プロセスは単に正のイオンの形成より効率的でない。また、試料の構成成分も負イオンスペクトルの予測に影響を及ぼす。
【0113】
LDLPMS法に伴う他の利点としては、機器をリニアモードで操作することにより共存する中性分子がフライトチューブに進入することを抑制できるため、スペクトルの平らな(quiet)ベースラインが得られるシステムを構築できる可能性が挙げられる。また、環境分析では、大気中の塩分および堆積物としての塩類はレーザー脱離およびイオン化に干渉しない。また、この計測器は非常に感度がよく、天然試料中において事前の抽出調製を全く伴わずに痕跡レベルを検出することが公知である。
【0114】
そのインセプションおよび商業的入手性のため、MALDI-TOF-MSの多用途性は、定性解析での広範な使用によって説得力をもって実証されている。例えば、MALDI-TOF-MSは、合成ポリマーの特性評価、ペプチドおよびタンパク質の解析、DNAオリゴヌクレオチドシーケンシングならびに組換えタンパク質の特性評価のために使用されている。最近、MALDI-TOF-MSの適用は、内在性のペプチドおよびタンパク質の構成成分を特性評価する目的の生体組織および単細胞生物体の直接解析を含むように拡大してきている。
【0115】
また、MALDI-TOF-MSが普及した定性用ツールとなった特性、つまり広範な質量範囲の分子を解析できる能力、高感度、最小限の試料調製および迅速な解析時間、により、これは潜在的に有用な定量用ツールにもなる。また、MALDI-TOF-MSでは、不揮発性および熱不安定性の分子を比較的容易に解析することが可能である。したがって、臨床場面における定量分析、毒物学的スクリーニングならびに環境分析でのMALDI-TOF-MSの潜在的可能性を追究することが賢明である。また、ペプチドおよびタンパク質の定量に対するMALDI-TOF-MSの適用は特に適切である。生体組織および体液中のインタクトなタンパク質を定量できることは、拡大しているプロテオミクス分野において特に難題であり、研究者らには、タンパク質の絶対量を正確に測定するための方法が緊急に必要とされている。MALDI-TOF-MSの定量適用の報告はあるが、MALDIイオン化プロセスに固有の多くの問題があり、これがその広範な使用の制限となっている。このような制限は主として、被検物質のシグナル強度の実測値における大きなばらつきに寄与すると考えられている試料/マトリックスの不均一性、検出器の飽和状態によるダイナミックレンジの限界、およびMALDI-TOF-MSをオンライン分離手法、例えば液体クロマトグラフィーに連結させることと関連している問題などの要素に起因する。総合すると、このような要素は、定量測定が行なわれ得る精度、精密性、および有用性を損なうと考えられる。
【0116】
このような問題のため、MALDI-TOF-MSの定量適用の実用例は限られている。これまでの試験のほとんどは、農産物または食品中の低質量の被検物質、特にアルカロイドまたは活性な成分の定量が中心であったが、他の試験では、生物学的に重要な被検物質、例えば神経ペプチド、タンパク質、抗生物質または生体組織もしくは体液中の種々の代謝産物の定量でのMALDI-TOF-MSの潜在的可能性が実証されている。初期の研究では、適切な内部標準が使用されるものとして、線形の検量線がMALDI-TOF-MSによって作成され得ることが示された。この標準では、試料間およびショット間の両方のばらつきを「補正する」ことができる。安定な同位体標識内部標準(アイソトポマー)によって最良の結果がもたらされる。
【0117】
主にディレイドエクストラクションによる最新の市販の機器において利用可能な分解能の顕著な改善により、定量作業を他の例に拡張する機会が今や可能である;低質量の被検物質だけでなく生物高分子も。特に重要なのは、生物学的試料における多成分の絶対定量(例えば、プロテオミクス適用)の見込みである。
【0118】
MALDI法において使用されるマトリックス材料の特性は極めて重要である。選択された一群の化合物のみがタンパク質およびポリペプチドの選択的脱離に有用である。ペプチドおよびタンパク質に利用可能なマトリックス材料すべての概説には、該化合物が解析に有用であるために共通に有していなければならないある特定の特徴があることが示されている。その重要性にもかかわらず、何がマトリックス材料をMALDIにとって「成功裡」にするかに関してほとんど知られていない。良好に機能するごく少ない材料がすべてのMALDI実行者に多用されており、新たな分子が潜在的マトリックス候補として絶えず評価されている。少数の例外はあるが、使用されているほとんどのマトリックス材料は固体有機酸である。液状マトリックスも検討されているが常套的には使用されていない。
【0119】
C. 併用療法
本開示の方法および組成物を用いてがんを処置することも有用であり得るが、少なくとも1つの他の治療をさらに採用してもよい。本発明の治療および他方の治療は、1つまたは複数の疾患パラメータの低減が得られるのに有効な合計量で提供されるであろう。この方法は、細胞/対象を両方の薬剤/治療薬と同時に、例えば、両方の薬剤を含む単一の組成物または薬理学的製剤を用いて、または細胞/対象を、一方の組成物は該化合物を含み、他方は他方の薬剤を含む2つの相違する組成物または製剤と同時に接触させることによって接触させることを伴い得る。
【0120】
あるいはまた、抗体を、数分間から数週間の範囲の間隔をあけて他方の処置の前または後に施してもよい。一般的に、治療薬が細胞/対象に対してまだ好都合な併用効果を奏することができるように、各送達同士の間が相当な時間にならないことが確保されよう。かかる場合では、細胞は両方のモダリティと互いに約12~24時間以内に、互いに約6~12時間以内に、またはわずか約12時間の遅延時間で接触されるであろうことが想定される。一部の状況では、処置期間を有意に長くすることが望ましい場合があり得る;しかしながら、この場合、それぞれの投与同士の間は、数(2、3、4、5、6または7)日間~数(1、2、3、4、5、6、7または8)週間が経過する。
【0121】
また、前記化合物または他方の治療薬のいずれかの、1回より多くの投与が所望されることも考えられる。本開示のグルタメート代謝阻害剤を「A」とし、他方の治療薬を「B」とする場合に、以下に例示するような種々の組合せが使用され得る。
A/B/A B/A/B B/B/A A/A/B B/A/A A/B/B B/B/B/A B/B/A/B
A/A/B/B A/B/A/B A/B/B/A B/B/A/A B/A/B/A B/A/A/B B/B/B/A
A/A/A/B B/A/A/A A/B/A/A A/A/B/A A/B/B/B B/A/B/B B/B/A/B
【0122】
がんに対する本開示による薬剤と併用される治療薬における使用に適した一部の薬剤または治療薬を以下に記述するが、他の組合せも想定される。以下は、本開示の化合物と組合せて使用され得るがんの治療の一般的な記述である。
【0123】
1. 化学療法
用語「化学療法」は、がんを処置するための薬物の使用を示す。「化学療法剤」は、がんの処置において投与される化合物または組成物を意味するために使用される。このような薬剤または薬物は、その細胞内での活性様式、例えば、細胞周期に影響を及ぼすかどうか、およびどの段階で細胞周期に影響を及ぼすかによってカテゴリー分類される。あるいはまた、薬剤は、DNAに直接架橋する能力、DNA内にインターカレートする能力、または核酸合成に影響を及ぼすことによって染色体異常および有糸分裂の異常を誘発する能力に基づいて特性評価され得る。ほとんどの化学療法剤は、以下のカテゴリー:アルキル化剤、代謝拮抗薬、抗腫瘍抗生物質、有糸分裂阻害剤、およびニトロソウレアに分類される。
【0124】
化学療法剤の例としては、アルキル化剤、例えばチオテパおよびシクロホスファミド;アルキルスルホネート、例えばブスルファン、インプロスルファンおよびピポスルファン;アジリジン、例えばベンゾドパ、カルボコン、メツレドパおよびウレドパ;エチレンイミンおよびメチラメラミン(methylamelamine)、例えばアルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチイレンチオホスホルアミド(triethiylenethiophosphoramide)およびトリメチローロメラミン(trimethylolomelamine);アセトゲニン(特に、ブラタシンおよびブラタシノン);カンプトテシン(例えば、合成アナログのトポテカン);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(例えば、そのアドゼレシン、カルゼレシンおよびビゼレシン合成アナログ);クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(例えば、合成アナログKW-2189およびCB1-(商標)1);エレウテロビン(eleutherobin);パンクラチスタチン;サルコジクチイン(sarcodictyin);スポンジスタチン;ナイトロジェンマスタード、例えばクロラムブシル、クロルナファジン、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベンビシン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード;ニトロソ尿素、例えばカルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、およびラニムヌスチン(ranimnustine);抗生物質、例えばエンジイン系抗生物質(例えば、カリケアミシン、特にカリケアミシンガンマlIおよびカリケアミシンオメガI1;ジネマイシン、例えばジネマイシンA アンシャラマイシン(uncialamycin)およびその誘導体;ビスホスホネート、例えばクロドロネート;エスペラミシン;ならびにネオカルチノスタチン発色団および関連色素タンパク質エンジイン系抗生物質発色団、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、オートラルニシン(authrarnycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシニス(chromomycinis)、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン(detorubicin)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(例えば、モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシンおよびデオキシドキソルビシン)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシン、例えばマイトマイシンC、ミコフェノール酸、ノガラルナイシン(nogalarnycin)、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、ケラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;代謝拮抗薬、例えばメトトレキサートおよび5-フルオロウラシル(5-FU);葉酸アナログ、例えばデノプテリン(denopterin)、メトトレキサート、プテロプテリン(pteropterin)、トリメトレキサート;プリンアナログ、例えばフルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジンアナログ、例えばアンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン;アンドロゲン、例えばカルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン; 抗副腎薬(anti-adrenal)、例えばアミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸リプレニッシャー(replenisher)、例えばフォリン酸;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸; エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン;エダトレキサート;デフォファミン;デメコルシン;ジアジクオン(diaziquone);エルホルミチン(elformithine);酢酸エリプチニウム(elliptinium acetate);エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダイニン(lonidainine);メイタンシノイド、例えばメイタンシンおよびアンサミトシン;ミトグアゾン;ミトザントロン;モピダンモール(mopidanmol);ニトラエリン(nitraerine);ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK多糖複合体);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2',2”-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特に、T-2トキシン、ベラクリン(verracurin)A、ロリジンAおよびアングイジン);ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、例えばパクリタキセルおよびドセタキセル;クロラムブシル;ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;白金配位錯体、例えばシスプラチン、オキサリプラチンおよびカルボプラチン;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトザントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;イリノテカン(例えば、CPT-11);トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイド、例えばレチノイン酸;カペシタビン;シスプラチン(CDDP)、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、カンプトテシン、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ブスルファン、ニトロソウレア、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン(plicomycin)、マイトマイシン、エトポシド(VP16)、タモキシフェン、ラロキシフェン、エストロゲン受容体結合剤、タキソール、パクリタキセル、ドセタキセル、ゲムシタビン、ナベルビン、ファルネシルタンパク質トランスフェラーゼ阻害剤、トランス白金(transplatinum)、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチンおよびメトトレキサートならびに上記のもののいずれかの薬学的に許容される塩、酸または誘導体が挙げられる。
【0125】
2. 放射線療法
放射線療法(radiotherapy)は、放射線療法(radiation therapy)とも称され、電離放射線での、がんおよび他の疾患の処置である。電離放射線は、処置対象の領域内の細胞をその遺伝物質を損傷させることによって傷害または破壊するエネルギーを蓄積させ、このような細胞が増殖し続けることを不可能にする。放射線はがん細胞と正常細胞の両方を損傷させるが、後者は自身を修復することができ、適正に機能する。
【0126】
本開示に従って使用される放射線療法としては、非限定的に、γ線、X線、および/または腫瘍細胞への放射性同位体の指向型送達の使用が挙げられ得る。他の形態のDNA損傷因子、例えばマイクロ波およびUV照射もまた想定される。このような因子はすべて、DNAに対して、DNAの前駆体に対して、DNAの複製および修復に対して、ならびに染色体の組織化および維持に対して広範な損傷を誘発する可能性が高い。X線の線量範囲は、毎日50~200レントゲンの線量を長期間(3~4週間)から、2000~6000レントゲンの単回線量まで、の範囲である。放射性同位体の線量範囲は広く異なり、同位体の半減期、放射される放射線の強度および型ならびに新生物細胞による取込みに依存する。
【0127】
放射線療法は、がんの部位に直接、放射線線量を送達する放射性標識抗体の使用を含み得る(放射線免疫療法)。抗体は、抗原(免疫系によって異物と認識される物質)の存在に応答して体内で作られる、高度に特異的なタンパク質である。一部の腫瘍細胞には、腫瘍特異的抗体の産生を誘発する特異的抗原が含まれている。このような抗体が大量に実験室内で作製され、放射性物質に結合され得る(放射性標識として知られるプロセス)。体内に注射されると、この抗体は積極的にがん細胞を探し出し、がん細胞は放射線の細胞死滅(細胞傷害)作用によって破壊される。このアプローチでは、健常細胞に対する放射線による損傷のリスクが最小限であり得る。
【0128】
原体照射法では、通常の放射線療法処置と同じ直線加速器である放射線療法用装置が使用されるが、金属ブロックがx線ビームの経路内に配置されており、ビーム形状が、がんの形状に適合するように改変される。これにより、より高い放射線線量が腫瘍にもたらされることが確実になる。健常な周辺細胞および近傍の構造部が受ける放射線線量は少なくなり、そのため副作用の可能性が低減される。マルチリーフコリメータと称される装置が開発されており、金属ブロックに代わる手段として使用され得る。マルチリーフコリメータは、直線加速器に固定されたいくつかの金属シートからなる。各層は、放射線療法のビームが金属ブロックの必要なしに処置領域の形取りが行なわれ得るように調整され得る。放射線療法用装置の精密な位置合わせは原体照射法の処置に非常に重要であり、特別なスキャン装置を用いて各処置の開始時に内部器官の位置が確認され得る。
【0129】
また、高解像度強度変調放射線療法でもマルチリーフコリメータが使用される。この処置の際、処置が施されている間、マルチリーフコリメータの層を移動させる。この方法では、処置ビームのさらにより精密な形取りを得やすく、放射線療法の線量を処置領域全体にわたって一定にすることが可能になる。
【0130】
原体照射法および強度変調放射線療法では、放射線療法処置の副作用が低減され得るという研究試験が示されているが、処置領域をこのように精密に形取りすることにより、処置領域のすぐ外側の微視的がん細胞が破壊されるのが止められるということが考えられ得る。これは、これらの特化された手法の放射線療法では、将来、がんが復活するリスクが高くなる場合があり得ることを意味する。
【0131】
また、科学者は、放射線療法の有効性を高めるための方法を探索している。2つの型の治験薬が、放射線を受けている細胞に対するその効果について試験されている。放射線増感剤は腫瘍細胞をより損傷されやすくし、放射線防護剤は正常組織を放射線の影響から保護する。熱を使用する温熱療法もまた、組織を放射線に対して感受性にすることにおけるその有効性について試験されている。
【0132】
3. 免疫療法
がんの処置との関連において、免疫療法は一般的に、がん細胞を標的化して破壊する免疫エフェクターである細胞および分子の使用に依存する。トラスツズマブ(ハーセプチン(商標))はかかる一例である。免疫エフェクターは、例えば、腫瘍細胞の表面上のいくつかのマーカーに特異的な抗体であり得る。該抗体単独が治療のエフェクターとしての機能を果たす場合もあり、他の細胞を動員して実際に細胞死滅の影響を及ぼす場合もあり得る。また、抗体を薬物または毒素(化学療法薬、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)にコンジュゲートさせてもよく、単に標的指向剤として使用してもよい。あるいはまた、エフェクターは、腫瘍細胞標的と直接または間接的のいずれかで相互作用する表面分子を担持しているリンパ球であり得る。種々のエフェクター細胞としては細胞傷害性T細胞およびNK細胞が挙げられる。治療モダリティの組合せ、すなわち、直接細胞傷害活性とErbB2の阻害または低減により、ErbB2過剰発現がんの処置において治療有益性がもたらされるであろう。
【0133】
免疫療法の一局面において、腫瘍細胞は、標的とされやすい、すなわち大多数の他の細胞には存在しないいくつかのマーカーを担持していなければならない。多くの腫瘍マーカーが存在しており、その任意のものが本開示との関連における標的化に適当であり得る。一般的な腫瘍マーカーとしては、癌胎児性抗原、前立腺特異抗原、泌尿器の腫瘍関連抗原、胎児性抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG-72、HMFG、シアリルルイス抗原、MucA、MucB、PLAP、エストロゲン受容体、ラミニン受容体、erb Bおよびp155が挙げられる。免疫療法の択一的な局面は、抗がん効果を免疫賦活効果と組み合わせることである。また、免疫賦活分子、例えば:サイトカイン、例えばIL-2、IL-4、IL-12、GM-CSF、γ-IFN、ケモカイン、例えばMIP-1、MCP-1、IL-8、および増殖因子、例えばFLT3リガンドも存在する。タンパク質として、または遺伝子送達の使用のいずれかでの免疫賦活分子を腫瘍抑制因子との組合せで併用することにより抗腫瘍効果が向上することが示されている(Ju et al.,2000)。さらに、任意のこのような化合物に対する抗体が、本明細書に記述している抗がん剤を標的指向させるために使用され得る。
【0134】
現在治験中であるか、または使用されている免疫療法の例は、免疫アジュバント療法、例えば、ウシ型結核菌(Mycobacterium bovis)、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、ジニトロクロロベンゼンおよび芳香族化合物(米国特許第5,801,005号および同第5,739,169号;Hui and Hashimoto,1998;Christodoulides et al.,1998)、サイトカイン療法、例えば、インターフェロンα、βおよびγ;IL-1、GM-CSFおよびTNF(Bukowski et al.,1998;Davidson et al.,1998;Hellstrand et al.,1998)遺伝子治療、例えば、TNF、IL-1、IL-2、p53(Qin et al.,1998;Austin-Ward and Villaseca,1998;米国特許第5,830,880号および同第5,846,945号)ならびにモノクローナル抗体、例えば、抗ガングリオシドGM2、抗HER-2、抗p185(Pietras et al.,1998;Hanibuchi et al.,1998;米国特許第5,824,311号)である。
【0135】
能動免疫療法では、抗原性のペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質、または自己もしくは同種異系の腫瘍細胞組成物または「ワクチン」が、一般的には、相違する細菌系アジュバントとともに投与される(Ravindranath and Morton,1991;Morton et al.,1992;Mitchell et al.,1990;Mitchell et al.,1993)。
【0136】
養子免疫療法では、患者の循環リンパ球または腫瘍浸潤リンパ球をインビトロで単離し、リンホカイン、例えばIL-2によって活性化するか、または腫瘍壊死のための遺伝子で形質導入し、投与する(Rosenberg et al.,1988;1989)。
【0137】
4. 手術
がんを有する人のおよそ60%は、なんらかの型の手術を受け、その型としては、予防的手術、診断またはステージ判定のための手術、治癒的手術および姑息手術が挙げられる。治癒的手術は、他の治療、例えば本開示の処置、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子治療、免疫療法、および/または択一的な治療と併せて使用され得るがんの処置である。
【0138】
治癒的手術としては、がん性組織の全部または一部を物理的に除去、摘出、および/または破壊する切除が挙げられる。腫瘍切除は、腫瘍の少なくとも一部の物理的除去を示す。腫瘍切除に加えて、手術による処置としては、レーザー手術、凍結手術、電気手術、および顕微鏡下手術(モーズ手術)が挙げられる。本開示は、表層がん、前がん、または付随する量の正常組織の除去と併せて使用され得ることがさらに想定される。
【0139】
がん性の細胞、組織、または腫瘍の一部または全部を摘出したら、体内に空洞が形成され得る。処置は、その領域へのさらなる抗がん治療の灌流、直接注射、または局所適用によって行なわれ得る。かかる処置は、例えば1日毎、2日毎、3日毎、4日毎、5日毎、6日毎もしくは7日毎、または1週間毎、2週間毎、3週間毎、4週間毎、および5週間毎、または1ヶ月毎、2ヶ月毎、3ヶ月毎、4ヶ月毎、5ヶ月毎、6ヶ月毎、7ヶ月毎、8ヶ月毎、9ヶ月毎、10ヶ月毎、11ヶ月毎、もしくは12ヶ月毎に反復され得る。このような処置は、投薬量も同じくさまざまであってよい。
【0140】
一部の特定の態様では、腫瘍の除去後、本開示の化合物での補助処置は、腫瘍の再発の低減において特に有効であると考えられる。さらに、本開示の化合物は術前補助の場面でも使用することができる。
【0141】
前述の治療はいずれも、単独でがんの処置に有用であることが証明され得るであろうことも指摘しておく。
【実施例
【0142】
V. 実施例
以下の実施例は、好ましい態様を実証するために含めている。当業者には、以下の実施例に開示した手法は、本発明者らが諸態様の実施において良好に機能することを見出した手法であり、したがって、その実施のための好ましい様式を構成しているとみなされ得ることが認識されよう。しかしながら、当業者には、本開示に鑑みて、開示されている具体的な態様において多くの変更が行なわれ得、それでもなお、本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく類似または同様の結果が得られることが認識されよう。
【0143】
実施例1 - 方法
細胞培養
BT12細胞株およびCHLA266細胞株はChildren's Oncology Groupから入手した。G401細胞株はATCCから入手した。TC32細胞はドクターLee Helman(Children's Hospital of Los Angeles)から入手した。U2OS細胞はドクターChand Khanna(Ethos Veterinary Health LLC)から入手した。細胞株はすべて、10%ウシ胎児血清(Gemini Bio-Products)、2 mMのL-グルタミン(Invitrogen)、100 U/mLのペニシリンおよび100μg/mLのストレプトマイシン(Invitrogen)を補給したRPMI-1640培地(Invitrogen)中で培養した。細胞株は、80%未満のコンフルエンシーで37℃および5%CO2にて維持し、6ヶ月毎にマイコプラズマ陰性であることを確認した。
【0144】
リアルタイム定量PCR(RT-qPCR)
250,000個のBT12、CHLA266、またはG401を、ミトラマイシンとともに6ウェルプレート内でインキュベートした。続いてRNAを、RNeasyキットを用いて収集し、定量した。RNAを、ハイキャパシティ逆転写酵素キット(Life Technologies)を用いて25℃で10分間、37℃で120分間および85℃で5分間、逆転写した。100 ngのcDNAを、2×SYBRグリーンを用いて、95℃で10分間、95℃で15秒間、55℃で15秒間および72℃で1分間を40サイクルでPCR増幅させた。二連で行なった3つの独立した実験での発現を、標準的なddCT法を用いてGAPDHおよび溶媒対照に相対して計算した。
【0145】
細胞増殖アッセイ
IC50を、非線形回帰(Graphpad Prism)を用いて、二連で行なった3つの独立した実験の平均として計算した。細胞の生存能を、標準曲線に対してプロットしたMTSアッセイ用CellTiter96(Promega)を用いて測定し、リアルタイム増殖アッセイを用いてIncucyte Zoomで、既報(Harlow et al.,2019)のとおりにして確認した。
【0146】
ウエスタンブロット
250万個のBT12細胞をミトラマイシンとともに10 cm2のプレート内でインキュベートし、PBS中で洗浄して収集した。全細胞ライセートを、4%ドデシル硫酸リチウム(LDS)溶解バッファーを用いて溶解させた。細胞成分分画を行ない、細胞質画分と核画分に分離した。分画ライセートを、RNAse(Thermo Fisher Scientific)とプロテアーゼ阻害剤(Sigma-Aldrich)を補給した細胞質溶解バッファー(25 mMのHEPES pH 8.0、50mM KClおよび05%NP-40)を用いて15分間、氷上で5分毎にボルテックスしながら溶解させた。核を1500×gで5分間ペレット化し、細胞質画分を単離した。核ペレットを、4%LDS溶解バッファーを用いて溶解させた。デタージェントの希釈後、タンパク質を、BCA比色アッセイ(Thermo-Scientific)を用いて定量した。30μgのタンパク質をNuPage上、1×NuPage MOPS SDSバッファー中、4~12%のBis-Trisで分離し、20%のメタノールを含む1×Tris-Glycine-SDSバッファー中のニトロセルロース膜に転写した。転写は20 Vで4℃にて一晩、実施した。膜を、TBS-T(1×TBS、0.1% Tween-20)中5%のミルクを用いてブロックし、Abcam(H3K27me3)、EMD Millipore(SP1)およびCell Signaling(SMARCC1、SMARCE1、H3)抗体を用いてプローブ結合させた。
【0147】
クロマチン分画
300万個のBT12、G401、またはU2OSを、100 nMのミトラマイシンまたはPBS対照とともに8時間または18時間インキュベートした。細胞をPBS中で洗浄して収集し、CSKバッファー(100 mMのNaCl、300 mMのスクロース、3 mMのMgCl2、0.1%Triton X-100、10 nMのPIPES(pH 7.0)、Roche Complete EDTAフリープロテアーゼ阻害剤)中で20分間、氷上でインキュベートした。すべての画分を収集した。可溶性画分を、4℃にて1,300×gで5分間の遠心分離によって収集した。不溶性の核ペレットをCSK中で洗浄し、1,3000×gで5分間、4℃にて遠心分離した。クロマチンペレットを、ヌクレアーゼ(Pierce Universal Nuclease)を補給したCSKバッファーを用いて再懸濁させ、氷上で20分間インキュベートし、次いでクロマチン画分を、4℃にて1,300×gで5分間の遠心分離によって収集した。総タンパク質をBradfordアッセイ(Bio-Rad Protein Assay Dye Reagent Concentrate)によって定量した。クロマチンタンパク質および可溶性タンパク質の定量は総タンパク質の定量から計算しした。10μgの各タンパク質試料は、上記のようにして分割した(参照:ウエスタンブロット)。
【0148】
RNAシーケンシング
RNAを各実験時点での3連の生物学的材料から上記のようにして抽出した。RNAを1×75bpシーケンシングに供した。ライブラリーはVan Andel Genomics Coreで、500 ngの全RNAからKAPA stranded mRNAseq Kit(v5.17)(Kapa Biosystems,Wilmington,MA USA)を用いて調製された。RNAを300~400 bpに剪断した。PCR増幅の前に、cDNA断片をBioo Scientific NEXTflexデュアルアダプター(Bioo Scientific,Austin,TX,USA)にライゲートした。完成したライブラリーの品質および量を、Agilent DNA High Sensitivityチップ(Agilent Technologies,Inc.)、QuantiFluor(登録商標)dsDNA System(Promega Corp.,Madison,WI,USA)およびKapa Illumina Library Quantification qPCRアッセイ(Kapa Biosystems)の組合せを用いてアセスメントした。個々にインデックスを付けたライブラリーをプールし、75 bpのシングルリードシーケンシングをIllumina NextSeq 500シーケンサーで、75 bp HOシーケンシングキット(v2)(Illumina Inc.,San Diego,CA,USA)を用いて行なった。ベースコールをIllumina NextSeq Control Software(NCS)v2.0によって行ない、NCSの出力をデマルチプレックスし、Illumina Bcl2fastq v1.9.0を用いてFastQ形式に変換した。
【0149】
リードをhg19(1~22番染色体、X染色体およびrCRS)に対して、STAR(v2.7.0f)(Dobin et al.,2013)を用いてアラインメントした。インデックスを、Gencode v19アノテーションが使用される--sjdbOverhang 75および--sjdbGTFfile以外のデフォルトパラメータを用いて調製した。デフォルトパラメータは、以下の修正:--readFilesCommand zcat --outReadsUnmapped None --quantMode GeneCounts --outSAMtype BAM SortedByCoordinateを伴ってアラインメントに使用した。アラインメント率は試料間で86~92%であった。遺伝子レベルの転写物の定量を、修正アラインメントパラメータに注記したようなSTARの内蔵定量アルゴリズムを用いて行なった。発現変動解析に考慮する遺伝子は、既知のタンパク質コード遺伝子およびGencode v19アノテーションに存在するlincRNAに限定した。ライブラリーを、低存在度転写物についてR(v3.6.1)edgeRパッケージ(Robinson,McCarthy,& Smyth,2010;Robinson & Oshlack,2010)を用いてフィルタリングした後、刈り込み平均M値(TMM)を用いて正規化した。簡単に説明すると、少なくとも3つの試料において1カウント・パー・ミリオン(CPM)より多く有していた場合、転写物を保持した。transcripts per million(TPM)の表を、まずread per-kilobase mapped(RPKM)をコンピュータ処理し、次いでTPMに変換することによって作成した。リンマ・ブーム(v3.40.6)を用いて発現変動解析を行ない、ミトラマイシン処理の差について試験した(Law,Chen,Shi,& Smyth,2014;Ritchie et al.,2015)。統計学的に有意な遺伝子を、q<0.05のカットオフを用いて決定し、下流の解析のためにさらに絞り込んだ。ヒートマップを、Rのpheatmap(v1.0.12)パッケージを用いて作成した。遺伝子セットエンリッチメント解析を、Rのfunctional gsea(v1.10.1)パッケージを用いて、1000順列/遺伝子セットで行なった(Sergushichev,2016)。Reactomeパスウェイ解析を、RのリアクトームPA(v1.28.0)パッケージによって解析される発現変動解析を用いて行なった(Yu & He,2016)。
【0150】
初代外植正常頭蓋骨芽細胞の未加工RNA-seqデータをSRA 試験 SRP038863からダウンロードした(Rojas-Pena et al.,2014)。データを、上記のようにしてアラインメントして前処理した。主成分分析を、log2(TPM+1)カウントおよびRのstats パッケージ(v3.6.1)のprcomp関数を用いて行なった。結果を、ggplot2(v3.2.1)パッケージおよびviridis(v0.5.1)パッケージを用いてプロットした。
【0151】
クロマチン免疫沈降(ChIP)
1200万個のBT12細胞を、100 nMのミトラマイシンとともに8時間または18時間、15 cm2のプレート内でインキュベートした。溶媒対照はPBSとともに18時間インキュベートした。BT12細胞をRPMI-1640培地で洗浄し、室温まで平衡化した。架橋を、16%のメタノールフリーホルムアルデヒドを用いて4分間行ない、0.2 Mのグリシンを用いて5分間クエンチした。細胞を、1×プロテアーゼ阻害剤(Sigma Aldrich)を含む冷PBS中で掻き取った。細胞を、20 mMのTri-HCl(pH 7.5)、85 mMのKClおよび0.5%のNP-40中に15分間、氷上で溶解させ、ダウンス型ホモジナイザーを用いて核を解放させた。クロマチンを、Covaris E220エボルーション(evolution)一点集中型超音波装置(Covaris)を用いて8分間剪断した。10μgの可溶化クロマチンを、1μgのマウスIgG(Abcam)と1μgのH3K27me3(Abcam);2μgのウサギIgG(Cell Signaling)と2μgのSMARCC1(Cell Signaling);1μgのウサギIgG(Cell Signaling)と1μgのH3K27ac(Active Motif)を用いて免疫沈降させるか、または抗体-クロマチン複合体を、Magna ChIPプロテインA+G磁気ビーズ(EMD Millipore)を用いて下方に引き寄せ、洗浄した。ChIP DNAを、100 mMのNaHCO3、1%SDSおよび1×プロテイナーゼKを用いて65℃で2時間溶出した後、95℃で10分間のインキュベーションを行なった。ChIP DNAを、QiaQuick精製キット(Qiagen)を用いて精製した。下方への引き寄せは、定量PCRを用いて確認した(下記参照)。精製されたChIP DNAを2×75bpシーケンシングに供した。
【0152】
定量PCR(ChIP-qPCR)を伴うクロマチン免疫沈降
ChIP DNAを、SYBRグリーンを用いて、各プライマーセットでそれぞれの試料のクロマチンを用いて作成した標準曲線に対して相対的に定量した。上記のqPCRは、以下のプライマーセット(GAPDH、MYT1、SOX2、CCND1、SP1)を用いて行なった。
【0153】
ハイスループットシーケンシング(ChIP-seq)を伴うクロマチン免疫沈降
InputサンプルおよびIPサンプルのライブラリーはVan Andel Genomics Coreで、10 ngのインプット材料および10ngのIP材料または全利用可能なIP材料のいずれかからKAPA Hyper Prep Kit(v6.17)(Kapa Biosystems,Wilmington,MA USA)を用いて調製された。PCR増幅の前に、末端修復Aテール付加DNA断片をBioo Scientific NEXTflex Adapters(Bioo Scientific,Austin,TX,USA)にライゲートした。完成したライブラリーの品質および量を、Agilent DNA High Sensitivityチップ(Agilent Technologies,Inc.)、QuantiFluor(登録商標)dsDNA System(Promega Corp.,Madison,WI,USA)およびKapa Illumina Library Quantification qPCRアッセイ(Kapa Biosystems)の組合せを用いてアセスメントした。50 bpのペアエンドシーケンシングをIllumina NovaSeqシーケンサーで、S2 100 bpシーケンシングキット(Illumina Inc.,San Diego,CA,USA)を用いて行なった。ベースコールをIllumina RTA v3.0ソフトウェアによって行ない、RTAの出力をデマルチプレックスし、Illumina Bcl2fastq2 v2.20.0を用いてFastQ形式に変換した。
【0154】
リードを、bwa memを用いてアラインメントし、重複をsamblasterを用いてマークし、フィルタリングし、samtoolsを用いてBAM形式に変換した(Faust & Hall,2014;Li et al.,2009)。アラインメントされたリードは、アラインメントされて最低限20のマッピングクオリティ(例えば、samtoolsで-F 4 -q 20フラグ)を有する場合、保持した。BAMをR(v3.6.1)に取り込み、csaw(v1.18.0)を用いて処理した。簡単に説明すると、50のbpステップサイズを有する150 bpのスライディングウィンドウを使用し、最大断片サイズが800 bpに設定されたリード数カウントを要約した(Lun & Smyth,2014,2016)。次に、バックグラウンドを、リードがビニングされ、要約されている5kbのスライディングウィンドウを用いて推定した。hg19内の既知のブラックリスト領域とオーバーラップする場合の領域は除外した(Amemiya,Kundaje,& Boyle,2019)。バックグラウンドを超えるlog2(3)変化倍率より大きいシグナルを有する領域を、結合変動解析のために保持した。下流の解析の前にバッチ効果が存在するため、データの第1主成分を回帰分析した。結合変動解析を、csawおよびedgeRを用いて行ない、疑似尤度(QL)を、事前QL分散分布をロバストに推定する負の2項一般化対数線形モデルにフィッティングした。差を、Anova様検定または個々の対比を用いて検定し、最初の結合変動領域(DBR)を得た。最大幅を5kbにしてウィンドウをマージし、考慮すべき隣接するウィンドウ間のトレランス100bpを合わせた。次に、csawのcombineTests機能の実行の際のクラスターの誤検出率を制御するためのp値をクラスター化部位においてSimes法を用いて合わせた。最後に、クラスター化DBRはq<0.05を有すると規定した。
【0155】
ハイスループットシーケンシング(ATAC-seq)を伴うトランスポザーゼ接近可能クロマチンのアッセイ
150万個のBT12細胞を、100 nMのミトラマイシンまたはPBS対照で8時間または18時間処理した。PBS対照は18時間処理した。細胞を冷PBS中で洗浄して収集した。25,000個の生存BT12細胞を、軽微な修正を加えたomni-ATACの実施に使用した(Corces et al.,2017)。転移の前に、0.1 ngのラムダファージ(Thermo Fisher Scientific)をBT12核ペレットに添加した。転移は37℃で60分間、1000 rpmの混合下で行なった。精製後、0.1 ngのphiX DNAを、ライブラリー増幅の前の転移DNAに添加した。ライブラリーを記載のようにして増幅させ、精製した。ライブラリーは、Zymo DNA Clean & Concentratorキットを用いて精製した。
【0156】
完成したライブラリーを、200~800 bpの断片が保持されるように、Kapa Pure Beads(Kapa Biosbaseystems,Wilmington,MA USA)を伴うダブルサイドSPRIセレクションを用いてサイズ選択した。ライトサイドセレクションは0.5:1 × ビーズ:試料体積を用いて、続いてレフトサイドサイズセレクションを1:1 × ビーズ:試料体積を用いて行なった。完成したライブラリーの品質および量を、Agilent DNA High Sensitivityチップ(Agilent Technologies,Inc.)、QuantiFluor(登録商標)dsDNA System(Promega Corp.,Madison,WI,USA)およびKapa Illumina Library Quantification qPCRアッセイ(Kapa Biosystems)の組合せを用いてアセスメントした。個々にインデックスを付けたライブラリーをプールし、75 bpのペアエンドシーケンシングをIllumina NextSeq 500シーケンサーで、150 bp HOシーケンシングキット(v2)(Illumina Inc.,San Diego,CA,USA)を用いて行なった。ベースコールをIllumina NextSeq Control Software(NCS)v2.0によって行ない、NCSの出力をデマルチプレックスし、Illumina Bcl2fastq2 v2.20.0を用いてFastQ形式に変換した。
【0157】
リードをhg19に対して、以下の、腸内細菌ファージラムダのゲノム(NC_001416.1)をさらなるコンティグとして添加したこと以外は、ChIP-seqについて上記と同じ様式でアラインメントした。BAMをR(v3.6.1)に取り込み、csaw(v1.18.0)を用いて処理した。簡単に説明すると、50のbpステップサイズを有する150 bpのスライディングウィンドウを使用し、最大断片サイズが500 bpに設定されたリード数カウントを要約した。次に、バックグラウンドを、リードがビニングされ、要約されている1kbのスライディングウィンドウを用いて推定した。hg19内の既知のブラックリスト領域とオーバーラップする場合の領域は除外した。バックグラウンドを超えるlog2(3)変化倍率より大きいシグナルを有する領域を接近可能性変動解析のために保持した。ライブラリーを、RUVSeq(v1.18.0)パッケージのRUVgを用いて正規化し、ラムダリードを対照「遺伝子」とした(Risso,Ngai,Speed,& Dudoit,2014)。k=1によるウェイトを、経時的なミトラマイシン媒介性変化について検定するための線形モデルにおけるさらなる共変量として使用した。kの増大効果を調べるPCAプロットを、EDASeq(v2.18.0)(Risso,Schwartz,Sherlock,& Dudoit,2011)を用いてプロットした。接近可能性変動領域(DAR)を、RUVウェイトを加えたこと以外はChIP-seqについて記載のものと同様のモデルをフィッティングすることによりコンピュータ処理した。統計学的有意性はq<0.05で判断した。ライブラリーの複雑性解析を、preseqR(v4.0.0)(Deng,Daley,& Smith,2015)を用いて行なった。クロマチンコンホメーションを、既報の方法を拡張することによって推測し、compartmap(v1.3)にて実施した。簡単に説明すると、フィルタリングしたリード数カウントをビン内に要約し、ペアワイズピアソン相関を群内の試料においてコンピュータ処理し、第1主成分は、固有値のサインを用いたクロマチンコンホメーション状態を示す。溶媒に相対する染色体全体のコンパートメント非類似度スコアを、1-ピアソン相関を計算することによってコンピュータ処理した。
【0158】
chromHMM解析
未加工ChIP-seqデータを19人のMRT患者についてのphs000470からダウンロードし、hg38一次アセンブリに対して、bwa memを用いてアラインメントし、重複をマークし、samblasterを用いて除去し、samtoolsを用いてBAM形式に変換した(Chun et al.,2016)。以下のクロマチンマークをchromHMM(v1.18)モデルを構築するためのインプットとして使用した:H3K4me1、H3K4me3、H3K9me3、H3K27Ac、H3K27me3、H3K36me3(Ernst & Kellis,2012,2017)。さらに、マッチしているインプットサンプルを、2値化工程の際のローカル閾値処理に使用した。BAMを、デフォルト値を用いて2値化し、Roadmap 18-状態コアモデル(model_18_core_K27ac.txt)を用いてセグメント化した。次いで、セグメント化されたbedファイルをhg19座標に、UCSC liftoverを用いてリフトオーバーした。ブラウザーファイルを、19人全員の患者についてのchromHMMのMakeBrowserFiles機能を用いて作成した。次いで、18-状態モデルを、すべての患者について6つの「超状態」に統合(collapse)した。次に、元々のクロマチン状態コールと統合クロマチン状態コールをRのRaggedExperiment(v1.8.0)オブジェクトに合わせた。次いで領域変動を、特定のクロマチン超状態とのオーバーラップについてクエリを行ない、このとき、コンセンサス状態を、chromHMMによる同じ推測状態を有する少なくとも50%の患者試料を有するとしてコールした。ドーナツプロットを、8時間~18時間のミトラマイシン処理による接近可能性(ATAC-seq)または結合(ChIP-seq)の、溶媒と比べて有意な(q<0.05)傾向の変化を用いて作成した。
【0159】
siRNAノックダウン
BT12細胞を、siRNA処理の前に、抗生物質なしのRPMI-1640培地(10%FBSおよび2 mMのグルタミンを補給)中で2回継代した。RNAiMax Lipofectamine(12ウェルディッシュのウェル1つあたり3.25μL)を、SMARCA4、SMARCC1、またはSP1を標的とするsiRNAに添加し、複合体を形成させた。150,000個の細胞を脂質siRNA複合体と合わせ、30時間(SP1)または48時間(SMARCA4およびSMARCC1)インキュベートした後、qRT-PCR解析のために収集した。生細胞イメージングでは、RNAiMaxリポフェクタミンを24ウェルディッシュのウェル1つあたり1.5μLに減らし、BT12細胞をウェル1つあたり35,000個の細胞に減らした。
【0160】
ルシフェラーゼ細胞
CMV-ルシフェラーゼプラスミド(Grohar et al.,2011)を、HF-Sal1(New England Biosciences)を用いて線状化し、Buffer R、プログラムO-017およびAmaxa Nucleofectorシステム(Lonza)を用いてG401細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトG401細胞を、G418(1 mg/mL)選択下で拡大培養した。トランスフェクト細胞は、インビボ実験の前に病原体フリーであることを確認した。
【0161】
異種移植片実験
5×106個のG401-luc細胞を、8~10週齢の雌ホモ接合型ヌードマウス(Crl;Nu-Foxn1Nu)の腓腹筋内に筋肉内注射した。腫瘍増殖をカリパスでの測定によってモニタリングし、腫瘍を14日間増殖させた後、処置を開始した(>100 mm3)。マウスを、腹腔内ボーラス注射、またはAlzetマイクロ浸透圧ポンプ(DURECT Corporation,型番1007D)を用いた連続輸注で処置した。ポンプは腹腔内に埋め込み、薬物送達の終了後の7日目に取り出した。ビヒクル処置マウス(n=10)を、マグネシウムとカルシウムを補給したPBSの8回の腹腔内注射、または7日間の連続輸注(168時間)で処置した。ミトラマイシン処理モデルを、1 mg/kgのミトラマイシンIP(合計8回の注射、n=12)、3日間(72時間、n=12)、または7日間(168時間、n=12)で、2.4 mg/kgのミトラマイシンの連続輸注で処置した。EC-8042処置モデルは、3日間(72時間、n=12)で30 mg/kgのEC-8042の輸注、または7日間の(168時間、n=12)で50 mg/kgの輸注で処置した。腫瘍体積を毎日測定し、式(D×d2)/6×3.12を用いて計算した(式中、Dは最大直径であり、dは最小直径である)。実験はすべて、ヴァンアンデル研究所(VAI)の動物実験委員会(IACUC)に従って、その承認下で行なった。研究者らは処置群について盲検的ではなかった。
【0162】
生物発光イメージング
マウスにホタルD-ルシフェリン(GoldBio、1.5 mg/マウス)を腹腔内注射で投与した。注射後、画像取得の間中、麻酔を投与した(1L/分のO2流で3%のイソフルラン)。生物発光画像を、注射の10分後にAMI-1000イメージングシステムを用いて撮影した。
【0163】
マイクロコンピューター断層撮影(マイクロCT)
腫瘍内の石灰化組織を、SkyScan 1172マイクロコンピューター断層撮影(μCT)システム(Bruker MicroCT,Kontich,Belgium)を用いて調べた。腫瘍を70%エタノール中で、60kVのX線電圧、167μAの電流および0.5mmのアルミニウムフィルターを用いてスキャンした。ピクセル解像度を2000×1200に設定し、画像ピクセルサイズを8μmにした。0.40度の回転工程および360°スキャンを使用した。2D断面画像をNRecon 1.7.4.6(Bruker MicroCT,Kontich,Belgium)を用いて再構成した。関心領域(VOI)を各腫瘍についてDataViewer 1.5.6.3(Bruker MicroCT,Kontich,Belgium)を用いて画定した。腫瘍周囲の関心領域(ROI)を画定し、3DファイルをCTAn 1.18.8.0(Bruker MicroCT,Kontich,Belgium)を用いて作成した。代表的な3D画像をCTvol 2.3.2.0(Bruker MicroCT,Kontich,Belgium)を用いて作成した。
【0164】
組織の染色および免疫組織化学
組織を10%EDTA(pH 8.0)中で7日間脱灰した後、パラフィン包埋した。パラフィン包埋組織を5マイクロメートル切片に切片化し、カラーマーク正電荷チャージスライド上にマウントした。ヘマトキシリン/エオシン染色をVentana Symphony機器で行なった。免疫組織化学検査のため、抗原賦活化をDako Autostainer Plus機器のPT Linkプラットフォームで行なった。ブロック後、組織をH3K27me3抗体(Abcam 1:250)またはCleaved Caspase-3(Cell Signaling Antibody 1:250)とともにインキュベートして洗浄し、次いで二次抗体(Envision+System HRP標識ポリマーAnti-Rabbit,Dako 1:100)とともにインキュベートして洗浄し、Dako Liquid DAB+ Substrate Chromogen Systemを用いて仕上げを行なった。
【0165】
プロジェクト統計値
qPCRデータを溶媒(mRNA発現データ)またはインプット(ChIPデータ)に対して、技術的に二連で行なった3つの独立した実験の変化倍率として正規化する。p値を一元配置ANOVAにより、多重比較のためのダネット検定を用いて決定した。
【0166】
実施例2 - 結果
ミトラマイシン感受性は、SWI/SNF変異またはSWI/SNF複合体の調節異常と関連している。
本発明者らの以前のスクリーニングデータでは、ラブドイド腫瘍(RT)細胞がミトラマイシンおよび第2世代アナログに対して極めて感受性であることが示唆された(図S1A)(Osgood et al.,2016)。この所見を確認し、SWI/SNFとの関係を追究するため、本発明者らは、肉腫細胞株パネルの独立して公開されたスクリーニングデータを解析し、ミトラマイシンに対するこれらの腫瘍の相対感受性を調べた(Teicher et al.,2015)。この場合も、本発明者らは、中でもRT細胞株が最も感受性の細胞株であることを見出した(図1A~B)。RT細胞は単一の変異のSMARCB1欠失を特徴とするため、本発明者らは、該薬物に超感受性であるその他の細胞株もSWI/SNFに変異を有するかどうかを調べることに着目した。実際、本発明者らは、上位25種の最も感受性の肉腫細胞株のうち19種が、SWI/SNFの変異または調節異常を有することを見出した。
【0167】
この感受性が腫瘍の分子的特長と関連していたことを確認し、非特異的化学療法に対する腫瘍の一般的超感受性を排除するため、本発明者らは、ミトラマイシンおよび化学療法に対するRTの細胞感受性をユーイング肉腫細胞と比較した。臨床において化学療法に抵抗性であるRTとは対照的に、ユーイング肉腫は化学療法に応答性であることが知られている。本発明者らは、化学療法に対するインビトロ感受性パターンが臨床経験を反映することを見出した。3つのラブドイド腫瘍細胞株(BT12 AT/RT、CHLA266 AT/RT、およびG401 RTK)は、3種の広く活性な化学療法剤:エトポシド、ドキソルビシン、およびSN38(イリノテカンの活性代謝産物)に対して、ユーイング肉腫細胞よりも70倍、4倍、および100倍、感受性が低かった(図1C)。対照的に、本発明者らは、3つの細胞株がすべて、ミトラマイシンに対してユーイング肉腫細胞と等しく感受性であることを確認した。これらのデータは、ラブドイド腫瘍におけるミトラマイシンの特筆すべき感受性と整合しており、ミトラマイシン感受性をSWI/SNFの調節異常と相関させる。
【0168】
ミトラマイシンはSWI/SNFをクロマチンから離脱させ、H3K27me3を時間依存的様式で増幅させる。
EZH2ブロックの公知の感受性、および、ユーイング肉腫細胞におけるEZH2に対するミトラマイシンの公知の効果のため、本発明者らは最初に、MMAはラブドイド腫瘍細胞においてEZH2を阻害する作用をしているのかもしれないと推論した。しかしながら、対照的に、ミトラマイシン処理により、18時間の処置によって全体的なH3K27me3の用量依存的亢進がもたらされた(図2A)。本発明者らは、H3K27me3増幅を、細胞増殖の抑制および切断型カスパーゼの誘導によって測定されるアポトーシスの誘導と相関させた(図2B~C)。アポトーシスとH3K27me3増幅との関連性をさらに実証するため、本発明者らは、BT12 RT細胞内での100 nMのミトラマイシンによる時間推移をみた(図2D)。100 nMのミトラマイシンでの処置により、8時間の曝露によるPARPの切断と相関する時間依存的様式のH3K27me3の増幅がもたらされた。本発明者らは、特定の遺伝子座における時間依存的H3K27me3増幅を、クロマチン免疫沈降を用いてさらに検証した。時間依存的様式で、H3K27me3占有率は、充分に確立されたPRC2標的であるMYT1および細胞周期進行遺伝子であるCCND1において増大する(図2E)。ここで、GAPDHは遺伝子座対照であり、H3K27me3占有率は薬物処置に影響されなかった(図S1B)。非悪性脳組織と比べて、AT/RT腫瘍が有する全体的なH3K27me3がずっと少ないことは注目すべきである(Erkek et al.,2019)。したがって、おそらく腫瘍がSMARCB1の喪失を代償したと思われる。したがって、SWI/SNFとPRC2間の不均衡の増幅が、ラブドイド腫瘍の生存および重要な治療脆弱性に対して好ましくないのであろうということになる。
【0169】
本発明者らは以前に、DNA副溝結合化合物での処置後のユーイング肉腫細胞におけるSWI/SNF離脱の結果としてのH3K9me3およびH3K27me3の増幅を示した(Harlow et al.,2019)。したがって、本発明者らは、ミトラマイシンがSWI/SNFをクロマチンから離脱させてRT細胞においても同様の細胞応答を駆動するのかもしれないという仮説をたてた。本発明者らは、ラブドイド腫瘍細胞を100 nMのミトラマイシンの3通りの曝露(1時間、8時間、および18時間)で処理し、次いで細胞をクロマチン結合画分または可溶性画分に生化学的に分画した。本発明者らの仮説と整合して、ミトラマイシンは8時間の100 nMの曝露によって、SWI/SNFをクロマチンから離脱させる(図2F)。興味深いことに、この効果は腎ラブドイド腫瘍細胞株のG401でも起こったが、野生型SWI/SNFを有する骨肉腫細胞株のU2OSではみられず、変異型SWI/SNFに対するこの効果のいくらかの選択性が示唆された(図2G~H)。ミトラマイシンとSWI/SNFの両方がDNAの副溝に結合し、したがって、ミトラマイシンはSWI/SNFをクロマチンから競合的に離脱させ得ることは注目すべきである(Quinn,Fyrberg,Ganster,Schmidt,& Peterson,1996;Sastry & Patel,1993)。本発明者らは、クロマチンからのSWI/SNFの喪失を、複数の遺伝子座において必須のSWI/SNFサブユニットであるSMARCC1についてChIP-qPCRを用いて確認した。時間依存的様式で、SMARCC1占有率は、MYT1およびCCND1においてGAPDHと比べて低下する(図2I図S1B)。
【0170】
最後に、本発明者らは、SWI/SNFおよびPRC2と、ミトラマイシン感受性との関係を、siRNA遺伝子ノックダウンを用いて確認した。2つのSWI/SNFサブユニットであるSMARCA4およびSMARCC1、ならびにEZH2を、siRNAを用いて48時間ノックダウンした後、ミトラマイシンで処理した。SWI/SNFノックダウンは、BT12ラブドイド腫瘍細胞をミトラマイシンに感受性にするが、EZH2喪失は、抵抗性を付与する(図2J)。このようなデータは、SWI/SNFおよびPRC2がラブドイド腫瘍におけるミトラマイシン感受性のための極めて重要な治療上の軸であるというさらなるエビデンスをもたらす。
【0171】
ミトラマイシンはSWI/SNFをSP1プロモーターから離脱させ、発現を低減させてミトラマイシン依存的SP1阻害の機構をもたらす。
ミトラマイシンは、ゲルシフトデータおよびクロマチン免疫沈降試験に基づいて、競合的SP1阻害剤として広く認識されている。このようなデータは、標的遺伝子におけるSP1結合の喪失を示す(Remsing et al.,2003;Snyder,Ray,Blume,& Miller,1991)。ラブドイド腫瘍におけるSP1の役割をさらに検討するため、本発明者らはミトラマイシン処理後のSP1の発現を定量した。定量PCRおよびウエスタンブロットを使用し、本発明者らは、他の細胞株での他の報告と整合して、SP1発現が、ラブドイド腫瘍細胞において時間依存的様式で低下することを見出した(図3A~B)。SP1発現の喪失のため、本発明者らは、ミトラマイシンはエピジェネティックな機構によってSP1発現をサイレンシングするように機能しているのかもしれないと推論した。SP1発現の喪失を、2つのSWI/SNFサブユニットであるSMARCC1およびSMARCA4の、siRNAノックダウンを用いて再現した(図3C)。本発明者らは、ミトラマイシン処理後のSWI/SNF離脱がSP1抑制機構かもしれないという仮説をたてた。本発明者らは、SP1プロモーターにおけるSMARCC1占有率についてChIP-qPCRを行なった。ここで、SMARCC1は、IgGおよびGAPDH対照と比べて時間依存的様式で減少する(図3D図S1B)。特筆すべきことに、H3K27acはSMARCC1占有率の喪失と並行して低下したが、H3K27me3はSP1プロモーター内に蓄積された(図3E~F)。このようなデータは、SP1活性に対するミトラマイシンの効果がSP1プロモーターにおいてSWI/SNFの離脱を介して生じることを示す。SP1が、RT細胞の治療脆弱性の理由であり、ミトラマイシンに対するこの腫瘍型の感受性を担っているのかどうかを調べるため、本発明者らは、BT12細胞およびG401細胞を、活性なSP1タンパク質を分解する非ステロイド系抗炎症薬であるトルフェナム酸で処理した。しかしながら、SP1発現の喪失にもかかわらず、ラブドイド腫瘍細胞はトルフェナム酸に感受性でなかった(図3G~H)。siRNAを用いたSP1ノックダウンにより、SP1喪失はBT12細胞の生存能に影響しないことが確認された(図S1C)。総合すると、このようなデータは、SP1喪失はラブドイド腫瘍におけるミトラマイシン感受性の主要なドライバーではないことを示す。
【0172】
ミトラマイシンはクロマチンコンパートメントおよびラブドイド腫瘍プロモーターのエピジェネティックなリプログラミングを誘導する。
どのようにして、ミトラマイシンによるSWI/SNFの離脱によって、この細胞の超感受性をもたらす遺伝子発現の変化が駆動されるのかを理解するため、本発明者らは、エンハンサー、プロモーター、およびクロマチン構造全体に対する処置の影響を、ゲノムワイドに調べた。本発明者らは、BT12ラブドイド腫瘍細胞の、溶媒、8時間および18時間の100 nMのミトラマイシン処理後、ATACシーケンシングおよびChIPシーケンシングを行なった。ミトラマイシン処理後のクロマチンリモデリングを定量するため、本発明者らは、ATACシーケンシング用の新規なスパイクイン対照を開発した。第1に、転移反応の際にラムダファージを添加し、Tn5タグメンテーションの効率を定量した。ここで、ラムダファージタグメンテーションはすべての処置において同等であり、ラムダファージリードをライブラリー複雑性の正規化物として使用した(図S2A~D)。第2に、ヌクレオチド分布が等しく、Tn5アダプターにライゲートされた3つのphiX DNA断片を設計した。phiX DNA断片を等モルで混合し、ライブラリー増幅の際に導入してPCR増幅時のヌクレオチドバイアスを正規化した。接近可能性を、活性なプロモーターおよびエンハンサーと相関させるため、本発明者らは、H3K27acを用いてChIP-シーケンシング行なった。ATAC-seqのラムダファージリードデプスをH3K27acシーケンシングライブラリーの正規化に使用した。
【0173】
ミトラマイシン処理後のクロマチン接近可能性の変化の大きさおよびゲノムワイド分布における見識を得るため、本発明者らは、各染色体についてH3K27acおよび接近可能性の増大または低減を有する有意な領域(q値<0.05)の数を定量した(図4A)。全般的に、ゲノム全体におけるH3K27acおよび接近可能なクロマチンの分布は比較的一様であった。さらに、ミトラマイシン処理8時間目で増大または低減していた領域は、ミトラマイシン処理18時間目でもその方向の傾向が継続される。最後に、本発明者らは、該変化を転写開始部位および遠位でない遺伝子間領域におけるピークと相関させた(図4B図S3A~H)。
【0174】
どのようにしてこのような変化が転写の変化と相関するのかをよりよく理解するため、本発明者らは、どのようにしてこのような変化がA/Bクロマチンコンパートメントと相関するのかを追究した(図4C)。この場合、本発明者らは、コンパートメント再組織化構造のより限局的で動的なパターンを見出した。特定の染色体(chr 20、22、14)はA/Bコンパートメント組織化構造において相当な変化を示した。コンパートメントリモデリングは、図4Aにおける領域変化よりずっと動的である。ここで、ある染色体では、8時間~18時間のミトラマイシン処理で、溶媒処理とは類似しない傾向にあるが(例えば、chr1、3~9、13、17、18、20、22)、他の染色体では、18時間のミトラマイシン処理によって、溶媒処理と類似するように戻る傾向にある(例えば、chr 2、10~12、14~16、19、21、X)。特筆すべきことに、大きな領域差を有しなかった染色体(例えば、chr20およびchr22)(図4A)では、このような染色体は、ミトラマイシン処理によりコンパートメントリモデリングを示した(図4C)。このようなデータは、ミトラマイシン処理により、結合変動および接近可能な領域の数の変化ならびに領域の接近可能性の変化のないコンパートメントリモデリングの両方がもたらされることを示す。
【0175】
どのようにしてコンパートメントにおけるこのような変化がラブドイド腫瘍に特異的なクロマチン状態に影響を及ぼすのかを理解するため、本発明者らは、TARGETにおいてシーケンシングした原発性悪性ラブドイド腫瘍由来のchromHMMトラックを開発し、これを、ATACシーケンシングデータおよびChIPシーケンシングデータと相関させた(図4D)。本発明者らは当初、18-状態モデルを使用したが、これらの状態を機能解析のために6つの超状態に統合した。本発明者らは、結合変動H3K27ac ChIP-seqおよび接近可能性変動ATAC-seqをchromHMM超状態とオーバーレイし、どのようにしてミトラマイシンがゲノムをラブドイド腫瘍に特異的にリプログラミングするのかを解明した。この場合も、本発明者らは、最も多くのパーセンテージのDARがヘテロクロマチンおよび反復エレメントに存在するコンパートメントリモデリングのエビデンスを見出した(図5E)。SWI/SNFとエンハンサーとの確立された関係のため、本発明者らは、ミトラマイシンがエンハンサーのリワイヤリングをもたらすかもしれないという仮説をたてた。しかしながら、傾向を有した結合変動H3K27ac ChIP-seqピークのうち480個がエンハンサー状態とアラインメントされ、一方、2281個のピークがラブドイド腫瘍プロモーターとオーバーレイされた(そのうち184個は活性な、または二価のプロモーターである)。これらのピークは、プロモーターにマッピングされたH3K27ac ChIP-seqが増加する傾向を有したDBRの75%と相関したが、プロモーターの30%は減少した。傾向を有した接近可能性変動ATAC-seqピークは、エンハンサー(661)、プロモーター(172)および転写された(1912)領域間に分割された。それでもなお、このようなデータは、ミトラマイシンが、主としてエンハンサーではなくラブドイド腫瘍プロモーターおよび遺伝子内部をリモデリングすることを示す。
【0176】
プロモーターリプログラミングは、8時間目および18時間目に、ミトラマイシンのRNA-シーケンシングと相関していた(図4F~G)。2 logFCおよび10e-5 q値のカットオフを満たす遺伝子のボルケーノプロット解析は、8時間目における上方調節された遺伝子の数(210個の遺伝子)が18時間目(368個の遺伝子)と比べると増加していることを示す。同様に、この閾値は、8時間目における下方調節された遺伝子の数(615個の遺伝子)が18時間目(49個の遺伝子)と比べると大きく減少していることを示す。本発明者らは、このような遺伝子発現の変化を、機能経路エンリッチメントを用いて解析した(Yu & He,2016)。中でも、クロマチン修飾酵素およびクロマチン組織化構造は、ミトラマイシン処理8時間で下方調節されている上位経路であり、一方、ヒストンのPRC2メチル化は、18時間目に上方調節されている上位経路のうちの1つである(図S4A~B)。遺伝子発現データにおけるこれらの経路のエンリッチメントは、ミトラマイシンが、ラブドイド腫瘍におけるSWI/SNFおよびPRC2のダイナミクスを破綻させるというさらなるエビデンスをもたらす。最後に、本発明者らは、遺伝子発現の変化を転写因子コンセンサスモチーフと相関させた(図4H)。ETSは、上方調節されるモチーフの1位であり、SWI/SNFと関連していることが公知である(Boulay et al.,2017)。DNA副溝結合転写因子であるYY1は、下方調節されるモチーフの1位であり、これは、ミトラマイシンがクロマチンコンパートメントをリモデリングしてエンハンサー-プロモーターループおよび遺伝子発現をリプログラミングするという見解と整合する(Weintraub et al.,2017)。重要なことに、YY1は多能性を調節して複数の分化プログラムをブロックするが、ETS転写因子ファミリーは、分化を駆動するパイオニア的転写因子である。したがって、ミトラマイシン依存的エピジェネティックな転写リプログラミングによって分化がもたらされるのかもしれないということが考えられ得る。
【0177】
ミトラマイシンによるSWI/SNF阻害によりラブドイド腫瘍細胞において分岐的な表現型が駆動される。
処置で起こるこのようなクロマチン変化を規定の細胞表現型と関連づけるため、本発明者らは、マルチオミクス解析を行なってプロモーターの接近可能性および活性化における特定の変化と関連している遺伝子発現変化を特定するために、RNA-seq、ATAC-seq、およびH3K27ac ChIP-seqを調べた。遺伝子発現およびクロマチン接近可能性について、ミトラマイシン処理8時間目と18時間目の両方において少なくとも1のlogFCの増加および減少を有する遺伝子の解析により、上方調節されていた54個の共通遺伝子および下方調節されていた25個の共通遺伝子がもたらされ、これらは接近可能性およびH3K27acが適切な方向に変更されていた(図5A図S4C)。上方調節されていた54個の遺伝子において最も有意にエンリッチメントされたプロセスの遺伝子オントロジー解析では、細胞死とアポトーシスに関係していた(図5A)。対照的に、図4Gに示した18時間のミトラマイシン処理によって下方調節されたRNA-seq遺伝子の喪失とアラインメントされている下方調節されていた25個の遺伝子において、有意にエンリッチメントされたプロセスはなかった。上方調節されていた3つの遺伝子標的BCL10(アポトーシス促進性)、BTG2(アポトーシス促進性)、およびCDKN1A(細胞周期)はすべて、エンハンサーではなく遺伝子の転写開始部位に大きなピークを示し、ミトラマイシンのプロモーターリプログラミングのさらなるエビデンスがもたらされた(図5B図S4D)。重要なことに、RNA-seqの上方調節されていた遺伝子のGSEA解析は、8時間のミトラマイシン処理による細胞死およびアポトーシスを強調している(図5C)。この結果をインビトロで、生細胞イメージングおよび増殖解析を用いて確認した。本発明者らは、BT12細胞およびG401細胞における100 nMのミトラマイシン処理での時間推移をみた(図5D図S4E)。表示された時間の後、細胞培地を薬物フリー培地と置き換えた。100 nMのミトラマイシンの8時間の曝露後、BT12細胞およびG401細胞の増殖は抑制され、表現型は細胞死を示す(図5E図S4F)。興味深いことに、ミトラマイシンの濃度を下げても、細胞は、記載のIC50と整合して増殖停止のままであった(図5F)。しかしながら、このような低濃度では、細胞は、20 nMのミトラマイシンへの24時間の曝露により、間葉系分化、脂質蓄積の外観、さらには成熟脂肪細胞の存在のエビデンスを伴って非常に異なる表現型を示した(図5G)。これらの変化は、幹細胞分化遺伝子リストのGSEA解析により8時間のミトラマイシン処理によるこのシグネチャーのエンリッチメントが示されているため、本発明者らのRNAシーケンシングデータにおいても明白であった(図5H)。機能GSEAにより、原発性AT/RTにおいて異常に活性化されていることが以前に独立して確認された12個の経路のうち10個が、本発明者らのRNAシーケンシングデータにおいて分化遺伝子シグネチャーと関連しており、有意に下方調節されることが示された(図5I~J)。このようなデータは、ミトラマイシンによる増殖抑制の細胞表現型が、一過的高濃度曝露では曝露依存性であり、濃度および曝露時間によってアポトーシス表現型から変わるが、低濃度では連続曝露の使用により間葉系分化の表現型がもたらされることを示す。
【0178】
ミトラマイシンは筋肉内ラブドイド腫瘍異種移植片において活性を示す。
どの曝露(一過的高濃度または連続的)がこの腫瘍型においてより有効であるかを調べるため、本発明者らは、これらの曝露をインビボで、G401細胞を有するラブドイド腫瘍の筋肉内異種移植片マウスモデルにおいて直接比較した。本発明者らは、薬物のCNS浸透に対する制限を排除するため、および腫瘍MRTの肉腫異型をモデリングするため、筋肉内モデルを選んだ。また、腎被膜モデルは一貫性のない増殖を示した(データ示さず)。マウスに腫瘍を移植し、最低100 mm3まで確立させた。マウスを、一過的高用量曝露をモデリングするために1 mg/kgの腹腔内注射を週3回(隔日)で2週間、または低濃度連続曝露をモデリングするために浸透圧ポンプによるわずか2.4 mg/kgを3日間にわたる連続輸注としての投与のいずれかで処置した。ミトラマイシンのボーラス注射では、限定的な腫瘍増殖の抑制が示された(図6A)。対照的に、ミトラマイシンの連続輸注で処置したマウスでは、よりはっきりした腫瘍増殖の抑制、例えば処置開始時に500 mm3であった腫瘍の退縮がもたらされた(図6B)。このような効果は、連続輸注での処置が都合がよいモデルコホートにおける腫瘍増殖の抑制と解釈された(図5C)。また、増殖抑制は処置の中止後、ほぼ2週間持続した。再処置は、別の薬物溶出ポンプセットを埋め込むためのさらなる手術に対するIACUCの制限のため可能でなく、腫瘍はすべて再発した。また、毒性のため、本発明者らは用量をさらに上げることができなかった。しかしながら、重要なことに、連続輸注によりインビトロで記載の増殖抑制の機構が再現された。切断型カスパーゼ3(CC3)の染色によって測定されるアポトーシスと相関しているH3K27me3染色の顕著な増大がみられた(図6D~E)。この相関がインビトロで観察されたことは注目すべきである(図2C~D参照)。親化合物でみられた分化のエビデンスは限定的であった。
【0179】
低毒性のミトラマイシンアナログであるEC-8042はインビボで顕著な腫瘍退縮および間葉系分化をもたらす。
ミトラマイシンの活性を改善するため、および記載の効果の臨床的重要性を高めるための取り組みにおいて、本発明者らは次に、低毒性のミトラマイシンアナログEC-8042をこのモデルにおいて評価した。EC-8042は、複数の種においてミトラマイシンより10倍超低毒性であるがミトラマイシンの活性を保持している、第2世代のミトラマイシンアナログである(Osgood et al.,2016)。ラブドイド腫瘍は、ミトラマイシンよりわずかに高い濃度でEC-8042処置に感受性であり、記載の間葉系分化の表現型をインビトロで誘導する(図S5A~B)。これは、他のモデルでの、毒性を除くあらゆる局面におけるミトラマイシンとEC-8042間の類似性と整合する(Osgood et al.,2016)。ラブドイド腫瘍異種移植片を有するマウスを3日間または7日間のEC-8042の連続輸注で、それぞれ30 mg/kgまたは50 mg/kgの総用量で処置した。どちらのコホートもすべてのモデルで、多くが>400 mm3である大きな腫瘍を含むその充分に確立された腫瘍の、特筆すべき退縮が起こった(図7A~B)。サブセットのモデルの生物発光のイメージングでは、輸注の終了時に示された腫瘍はほぼ検出不可能であった(図7C)。この場合も、再処置は、第2のポンプ埋込み手術に対するに対するIACUCの制限のため可能でなかった。それでもなお、ほとんどのモデルで応答は耐久性であり、輸注の終了後ほぼ6週間持続した(図7D)。重要なことに、数匹のマウスはその疾患が治癒し、処置後140日間、腫瘍再発を全く示さなかった(図7E)。モデルには最小限の一過的な体重減少が起こり、これは薬物輸注の中止に伴うものと解明された(図S5C)。
【0180】
この組織により、またしても記載の機構がこのようなマウスにおいて得られることが示された。時間依存的様式で、全体的なH3K27me3は増幅したが、全体的なH3K27acは減少した(図8A~B、図S6A)。H3K27me3の強い染色は8日目には存在しなかったが、腫瘍は退縮しており、ヒト細胞のミトコンドリア染色で腫瘍細胞が全く確認されなかったことは注目すべきである(図8C図S6A)。H3K27me3の増殖は、増殖の抑制およびアポトーシスの誘導を示す切断型カスパーゼ3およびKi67の低減と正に相関した(図8D図S6A~B)。重要なことに、ミトラマイシン処理により、H3K27me3とCC3の正の相関も示された。
【0181】
最後に、インビトロ表現型と整合して、腫瘍は間葉系分化の特筆すべきエビデンスを示した。脂質生成系統に都合がよかったインビトロデータとは対照的に、腫瘍は、小柱様骨化の外観を伴う骨ならびに軟骨および脂肪細胞への分化のエビデンスを示した(図8E)。骨芽細胞および小柱構造内の包埋骨細胞の存在により、EC-8042が骨形成を誘導することがさらに裏付けられる(図S6C)。また、骨由来の遺伝子シグネチャーを有するミトラマイシン処理BT12細胞の主成分分析により、溶媒と比べて正常な頭蓋を有するミトラマイシン処理クラスターが示され、Wnt3がミトラマイシン処理後にリモデリングされる上位プロモーターの1つであったことことは注目すべきである(図S6D、データ示さず)。本発明者らは、腫瘍組織の石灰沈着を、マイクロコンピューター断層撮影(マイクロCT)を用いて確認した。ここで、EC-8042処置は、ビヒクルと比べてラブドイド腫瘍異種移植片の石灰沈着および鉱質沈着を促進させる(図8E)。間葉系分化の表現型の外観は、間葉または神経堤起源を示すラブドイド腫瘍細胞の原点の研究および患者における間葉系の特長を裏付ける臨床エビデンスによって裏付けられる(Rorke,Packer,& Biegel,1996)。分化表現型は完全には浸透しておらず、おそらく異種移植片の転写不均一性およびエピジェネティックな不均一性ならびに微小環境の影響のため混合系統で表される。それでもなお、この表現型により、EC-8042で処置されたラブドイド腫瘍異種移植片の生存の有意な伸びがもたらされる。
【0182】
SWI/SNF結合のミトラマイシン媒介性離脱およびH3K27me3の蓄積を、この具体的な細胞型の記載の細胞超感受性に関連づけるため、本発明者らは次に、このような効果に対するSMARCB1欠失の重要性を検討した。実際、このような効果は、ドキシサイクリン誘導性SMARCB1を用いた補完により、G401細胞においてミトラマイシン曝露でみられるようなH3K27me3の用量依存性蓄積が消失したため、SMARCB1の欠失に依存性であった(図10A~B)。G401細胞におけるクロマチン分画では、この場合も、ゲノムに対するSWI/SNF結合の喪失が示された(図10C)。さらに、H3K27me3蓄積が消失した同じ誘導性SMARCB1を補完したこのような細胞でもまた、ミトラマイシンは、競合してSWI/SNFをクロマチンから離すことができず、SMARCB1発現が回復し、その欠失がこの活性に必要であることと整合した。(図10D)。このようなデータは、ミトラマイシンがSMARCB1欠失およびSWI/SNF変異に依存性であるという記載の作用機序と整合する。
【0183】
実施例3 - 考察
本試験において、本発明者らにより、ミトラマイシンがSWI/SNFクロマチンリモデリング複合体の直接的阻害剤であることが確認される。本発明者らにより、クロマチンからのSWI/SNFの離脱、ならびにクロマチンコンパートメントリモデリング、H3K27acの場所と分布の変化およびアポトーシス表現型と分化表現型の両方を駆動するクロマチン接近可能性の変化変動を特徴とする特筆すべき細胞応答の誘導が示される。この遺伝子型および表現型は、モデリング実験において、および遺伝子発現の変化をクロマチン構造および接近可能性の改変と関連づけるマルチオミクス解析においてインビトロで明白に得られる。重要なことに、エピジェネティックなリプログラミングは転写開始部位付近の領域に都合がよく、範囲が長いエンハンサーにはそうでない。総合すると、このような効果により、この薬物に対するこの腫瘍の特筆すべき感受性が説明され、このような悪い意味で有名な化学療法抵抗性の患者、特に低毒性アナログEC-8042での化学療法抵抗性の患者のための新たな治療選択肢がもたらされる。
【0184】
ここに、本試験は、ヒストン翻訳後修飾の広範な変化およびクロマチンリモデリングを特徴とする細胞応答を誘導するSWI/SNF離脱の第2の例となる(Harlow et al.,2019)。どちらの場合も、化合物は当初は、SWI/SNFに依存することが他の研究で示されているEWS-FLI1転写因子の阻害剤であると確認された(Boulay et al.,2017)。おそらく両方の腫瘍型におけるSWI/SNFの異常分布の解放に対するこの特異的な応答が、このような化合物に対するこれらの腫瘍の高い感受性の説明となる。したがって、このような化合物は、本発明者らのインビトロスクリーニングデータによって示唆されるように異常なSWI/SNF活性を特徴とする腫瘍の20%において活性であろうと推論したくなる。
【0185】
重要なことに、新たな治療選択肢に加えて、本試験によりRTの生物学における重要な見識がもたらされる。SMARCB1の喪失により、クロマチンに低親和性で結合してゲノム全体に異常に分布するSWI/SNF複合体がもたらされることが示唆されている。この見解と整合して、本発明者らは、野生型と比べていくらかの選択性を伴って発癌性SWI/SNFを阻害できる小分子を確認している。本発明者らにより、SWI/SNFの離脱はRT細胞のみにおいて起こり、SWI/SNF野生型U2OS細胞では起こらないことが示される。また、特にEC-8042についての毒性プロフィールで、好都合な治療濃度域が実証されている。これにより、腫瘍細胞に対する効果が示唆されるが、野生型SWI/SNFを有することが公知の正常細胞に対する効果は示唆されない。
【0186】
興味深いことに、本試験において、本発明者らにより、ミトラマイシンおよびEC-8042の両方に対するこの腫瘍の特筆すべきスケジュール依存性が示される。本発明者らにより、どちらの化合物も、アポトーシスおよび分化の両方の治療エンドポイントを誘導できる連続輸注としての方が有効であることが実証されている。ミトラマイシンでは、このエンドポイントは、一過的高濃度曝露は臨床において共通してアポトーシスに都合がよく、一方、経時的な低濃度は分化に都合がよいという曝露依存性である。H3K27me3の誘導およびH3K27acの喪失が得られるのは、このような曝露の場合のみである。アポトーシス表現型を駆動する高濃度での一過的な曝露が、異種移植片では連続輸注より有効性が低いことは、重要な観察結果である。また、連続輸注によってのみ、耐久性の応答、さらには完全な治癒が誘導される。これは臨床観察結果と整合する。分化剤がいくつかの腫瘍において確認されている場合、このようなものは患者において極めて活性である傾向にあり、最もよい例は、APLの場合のヒ素およびATRA、粘液性脂肪肉腫の場合のトラベクテジン、ならびに神経芽細胞腫の場合のレチノイドである(Flynn et al.,1983;Forni et al.,2009;Sidell,Altman,Haussler,& Seeger,1983)。さらに、このような観察結果は活性のバイオマーカーを示す。FFPE腫瘍組織のH3K27me3の誘導およびH3K27acの喪失の染色はかなり特筆すべきであり、該薬物に応答した腫瘍においてのみ起こった。
【0187】
最後に、本試験によりミトラマイシンの機構における重要な見識がもたらされる。ミトラマイシンは当初、1950年代に抗がん剤であると確認された。これは臨床において、特に精巣がんおよびユーイング肉腫において、ある程度の活性を示したが、狭い毒性プロフィールのため支持されなくなった。これは、ユーイング肉腫の発癌性ドライバーであるETS転写因子およびEWS-FLI1に対する活性を示唆する最近の活性により、常にSP1阻害剤と称されている。本試験のデータにより、少なくともこのような細胞において、SP1に対する活性はSWI/SNFブロックの結果であり、主要な作用機序でないことが示唆される。これは、ユーイング肉腫およびこの分類の化合物に感受性の他の腫瘍のための、EC-8042などのより有効なアナログの同定を可能にするため重要である。また、SP1に依存性の腫瘍において、おそらくSP1の標的化を増幅する新規な併用療法を開発するためのアプローチにおける見識がもたらされる。
【0188】
総合すると、このようなデータにより、SWI/SNFの生物学、および悪い意味で有名な化学療法抵抗性ラブドイド腫瘍のための新規な治療選択肢であるSWI/SNFの治療標的化における重要な見識、ならびにSWI/SNFの調節異常を特徴とする広範ながんに影響を及ぼす潜在的可能性を有するミトラマイシンアナログにおける機構の見識がもたらされる。
【0189】
本明細書において開示し、請求項に記載した組成物および方法はすべて、必要以上に実験を行なうことなく本開示に鑑みて作製および実行することができる。本開示の組成物および方法は好ましい態様に関して説明しているが、該組成物および方法に対して、ならびに本明細書に記載の方法の諸工程または工程順において本開示の思想、趣旨および範囲から逸脱することなく変形が適用され得ることは当業者に明らかであろう。より具体的には、化学的かつ生理学的に関連しているある特定の薬剤が本明細書に記載の薬剤の代わりに使用され得るが、同じまたは同様の結果が得られるであろうことは明らかであろう。当業者に明らかなかかる同様の置き換えおよび修飾はすべて、添付の特許請求の範囲によって規定される本開示の趣旨、範囲および思想の範囲内であるとみなす。
【0190】
VI. 参考文献
以下の参考文献は、本明細書に示すものに対する補足となる例示的な手順の詳細または他の詳細が提供される程度に、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図9
図10
図S1-1】
図S1-2】
図S2
図S3-1】
図S3-2】
図S3-3】
図S4
図S5
図S6A
図S6B
【国際調査報告】