(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-14
(54)【発明の名称】新規の多形およびその使用
(51)【国際特許分類】
C07F 1/08 20060101AFI20221107BHJP
A61K 33/34 20060101ALI20221107BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20221107BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20221107BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20221107BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20221107BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20221107BHJP
A61P 9/08 20060101ALI20221107BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20221107BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20221107BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20221107BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20221107BHJP
A61P 21/02 20060101ALI20221107BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20221107BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20221107BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20221107BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20221107BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20221107BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20221107BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20221107BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20221107BHJP
A61P 27/12 20060101ALI20221107BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20221107BHJP
A61P 33/06 20060101ALI20221107BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221107BHJP
A61P 39/02 20060101ALI20221107BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
C07F1/08 D
A61K33/34
A61P1/04
A61P7/00
A61P7/04
A61P7/06
A61P9/00
A61P9/08
A61P9/10
A61P9/10 101
A61P9/10 103
A61P13/12
A61P17/02
A61P17/00
A61P21/02
A61P25/00
A61P25/08
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/18
A61P25/28
A61P27/02
A61P27/06
A61P27/12
A61P31/04
A61P33/06
A61P35/00
A61P39/02
A61P43/00 101
A61P43/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022540614
(86)(22)【出願日】2020-09-02
(85)【翻訳文提出日】2022-04-27
(86)【国際出願番号】 US2020049005
(87)【国際公開番号】W WO2021046092
(87)【国際公開日】2021-03-11
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522082171
【氏名又は名称】プロサイプラ セラピューティクス, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】カーパー, ダニエル ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】スタンリー, アシュリー ケリー
(72)【発明者】
【氏名】ゴス, クリストファー
【テーマコード(参考)】
4C086
4H048
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086GA15
4C086HA01
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
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4C086ZA36
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4C086ZA66
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZA94
4C086ZB26
4C086ZB38
4C086ZC37
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB21
4H048AB23
4H048AB25
4H048AB26
4H048BB11
4H048BB17
4H048VA30
4H048VA40
4H048VA56
4H048VB10
(57)【要約】
1つの実施形態では、本出願は、中枢神経系(CNS)の疾患の処置のための選択的神経活性剤である化合物を開示する。1つの態様では、神経活性剤は、多形SPを含む組成物である。本発明は、CuII-ジアセチル-ビス(N4-メチル-チオセミカルバゾン)(ジアセチル-ビス(N4-メチル-チオセミカルバゾナト)-CuII、CuII(atsm)、銅ATSM、およびCuATSMとも呼ばれ、後者の用語を本明細書中で使用する)の、特に金属を送達させると予防、緩和、または改善することができる症状の処置のための医薬品としての使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu
II-ジアセチル-ビス(N
4-メチル-チオセミカルバゾン)(CuATSM)およびグルコン酸の安定な多形であって、前記組成物が、およそ7.5°、9°、11°、15.5°、27.5°、28.5°、および32°の2θ角からなる群から選択される少なくとも5つのXRPDスペクトルのピークを有する、安定な多形。
【請求項2】
前記多形が、およそ7.5°、9°、11°、15.5°、27.5°、28.5°、および32°の2θ角からなる群から選択される少なくとも6つのXRPDスペクトルのピークを有する、請求項1に記載の多形。
【請求項3】
前記多形が、およそ7.5°、9°、11°、15.5°、27.5°、28.5°、および32°の2θ角にXRPDスペクトルのピークを有する、請求項2に記載の多形。
【請求項4】
治療有効量の請求項1に記載の多形、および薬学的に許容され得る賦形剤または塩を含む、医薬組成物。
【請求項5】
哺乳動物における症状を処置または予防する方法であって、銅の送達が前記症状を予防するか、緩和するか、または改善し、前記哺乳動物に治療有効量の請求項4に記載の組成物を投与する工程を含む、方法。
【請求項6】
前記症状が、アドリアマイシン誘発性心筋症;エイズ認知症およびHIV-1誘発性神経毒性;アルツハイマー病;急性間欠性ポルフィリン症;アルツハイマー病(AD);筋萎縮性側索硬化症(ALS);アテローム性動脈硬化症;白内障;脳虚血;脳性麻痺;脳腫瘍;化学療法誘発性臓器損傷;シスプラチン誘発性腎毒性;冠状動脈バイパス手術;クロイツフェルト・ヤコブ病および「狂牛」病に関連するその新規の変異型;糖尿病性ニューロパシー;ダウン症候群;溺水;癲癇および外傷後癲癇;フリードライヒ運動失調;前頭側頭型認知症;緑内障;糸球体症;ヘモクロマトーシス;血液透析;溶血;溶血性尿毒症症候群(ワイル病);レヴィ小体認知症、メンケス病;出血性脳卒中;ハラーフォルデン・シュパッツ病(Hallerboden-Spatz disease);心臓発作および再灌流傷害;ハンチントン病;レヴィ小体病;間欠性跛行;虚血性脳卒中;炎症性腸疾患;黄斑変性;マラリア;メタノール誘発性毒性;髄膜炎(無菌性および結核性);運動ニューロン疾患;多発性硬化症;多系統萎縮症;心筋虚血;新形成;パーキンソン病;周産期仮死;ピック病;進行性核上性麻痺(PSP);放射線療法誘発性臓器損傷;血管形成術後の再狭窄;網膜症;老人性認知症;統合失調症;敗血症;SCN2A関連癲癇性脳症;敗血症性ショック;海綿状脳症;クモ膜下出血/脳血管痙攣;硬膜下血腫;外科手術による外傷(神経外科が含まれる);サラセミア;一過性脳虚血発作(TIA);シヌクレイノパチー;移植;血管性認知症;ウイルス性髄膜炎;ウイルス性脳炎;ニューロパシー、腸性先端皮膚炎;レヴィ小体型認知症;タウオパチー;軽度認知障害(MCI);運動ニューロン疾患(MND)、およびプリオン病からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記症状が、アルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、メンケス病、多発性硬化症、ニューロパシー、運動ニューロン疾患(MND)、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、腸性先端皮膚炎、レヴィ小体認知症、シヌクレイノパチー、タウオパチー、軽度認知障害(MCI)、進行性核上性麻痺(PSP)、およびプリオン病からなる群から選択される神経変性疾患である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
CuATSMおよびグルコン酸の安定な多形を調製するプロセスであって、
a.ATSMH
2およびグルコン酸銅(第1の比で)を溶媒(第2の比で)と混合してスラリーを形成する工程;
b.前記スラリーを加熱してCuATSMおよびグルコン酸を含む組成物を形成する工程;および
c.前記多形を単離する工程
を含む、プロセス。
【請求項9】
前記溶媒が、ヘプタン、酢酸イソプロピル、およびヘプタン/酢酸イソプロピル混合物からなる群から選択される、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記溶媒がヘプタンである、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
前記溶媒がヘプタン/酢酸イソプロピル混合物である、請求項9に記載のプロセス。
【請求項12】
a.ATSMH
2およびグルコン酸銅(第1の比で)を溶媒(第2の比で)と混合してスラリーを形成する工程;
b.前記スラリーを加熱して前記組成物を形成する工程;および
c.前記多形を単離する工程
を含む方法によって作製された、請求項1に記載の多形。
【請求項13】
前記溶媒が、ヘプタン、酢酸イソプロピル、およびヘプタン/酢酸イソプロピル混合物からなる群から選択される、請求項12に記載の多形。
【請求項14】
前記溶媒がヘプタンである、請求項13に記載の多形。
【請求項15】
前記溶媒がヘプタン/酢酸イソプロピル混合物である、請求項13に記載の多形。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
出願の背景
本発明は、CuII-ジアセチル-ビス(N4-メチル-チオセミカルバゾン)(ジアセチル-ビス(N4-メチル-チオセミカルバゾナト)-CuII、CuII(atsm)、銅ATSM、およびCuATSMとも呼ばれ、後者の用語を本明細書中で使用する)の、特に金属を送達させると予防、緩和、または改善することができる症状の処置のための医薬品としての使用に関する。金属のレベルの異常(典型的には、低金属レベル)に原因するか、関連する臨床症状はいくつか存在する。このタイプの症状には、がんならびに酸化的損傷を特徴とするかまたは関連する症状、より具体的には神経変性症状または疾患(アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病、低酸素症、およびプリオン病(PrD)など)が含まれる。
【背景技術】
【0002】
生物学的に利用可能な金属は、生物系の作用に大きな影響を及ぼす。金属が酵素系および生物系内のシグナル伝達機序で大きな役割を果たすことが公知である。例えば、Znは、アルツハイマー病のβ-アミロイド斑;筋萎縮性側索硬化症に関連する活性酸素種障害の媒介における(Cu、Zn)スーパーオキシドジムスターゼ酵素の影響;一酸化窒素(NO)の産生および感知のそれぞれにおけるヘム酵素であるNOシンターゼおよびグアニリルシクラーゼの関与、ならびに乳がんおよび卵巣がんの感受性遺伝子(例えば、BRCA1)中の「亜鉛フィンガー」モチーフの発見で重要な役割を果たす。さらに、異常なタンパク質がある特定の濃度の金属イオンの存在下でミスフォールディングする性質があることが実証されている。
【0003】
酸化ストレス(OS)を生じるいくつかの心血管症状が同定されている。OSに関連する他の症状には、がん、白内障、神経変性障害(アルツハイマー病など)、および心疾患が含まれる。OSが神経筋障害(筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ミトコンドリア疾患/代謝性疾患、フリードライヒ運動失調症、パーキンソン病、およびレヴィ小体認知症が含まれる)において卓越した役割を果たすという証拠もある。これらの疾患の共通の特徴には、OSの結果としてのミスフォールディングしたタンパク質の沈着および実質的な細胞傷害が含まれる。データは、OSが、アミロイド形成性神経学的障害(アルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、プリオン病(クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)が含まれる)、伝染性海綿状脳症(transmissible spongioform encephalopathies)(TSE)、白内障、ミトコンドリア障害、メンケス病、パーキンソン病(PD)、およびハンチントン病(HD)など)が含まれる広範な病状における身体的傷害の主因であることを示唆している。OSの影響はヒトの身体の任意の一部分に制限されず、OSの負の影響の例はほとんどすべての器官で認められる。例えば、ヒトの脳は、金属イオン濃度が高い器官であり、最近のエビデンスでは、金属ホメオスタシスの破壊が種々の加齢性神経変性疾患で重要な役割を果たすことを示唆している。
【0004】
OSに原因するかまたは関連する症状のための潜在的な治療薬としていくつかの治療剤が開発されている。しかしながら、ビタミンEおよびビタミンCなどの薬剤は、血液脳関門を通過しないため、中枢起源の神経変性疾患の処置のために有効に使用することができないので、無効であることが見出された。
【0005】
銅金属イオン欠損は、神経変性疾患(ALS、PD、およびレヴィ小体認知症など)に関連する症状として報告されている。銅欠損の結果の1つは、活性酸素種(ROS)の解毒を担う保護酵素への銅の負荷が不十分になり、したがって、正常な酵素機能を有効に発揮しないことである。例えば脳内でのかかる保護酵素への負荷が不十分になると、一般にOS(ADなどで認められる)が増加し、この増加はタンパク質酸化の増加(カルボニル化タンパク質増加など)に反映される。
【0006】
したがって、酸化的損傷に関与する疾患、特に中枢神経系の神経変性障害(PD、AD、およびALSなど)の処置に有効性の高い薬剤(CuATSMなど)が必要である。さらに、末梢組織、胃腸機能障害(便秘など)、および急性呼吸急迫症候群、ALS、アテローム硬化性心血管疾患、および多臓器機能障害に関与する症状の処置のための新規の薬剤が必要である。かかる新規の薬剤の商業的に実現可能な作製プロセスがさらに必要である。
【0007】
CuATSMは酸化的損傷に関与する疾患、特に中枢神経系の神経変性障害(PDおよびALSなど)に有効であることが示されているが、CuATSM自体は、水媒体に実質的に不溶である。したがって、水媒体への溶解性がより高く、および/またはさらに経口で利用可能な製剤で送達させることが可能な形態でCuATSMを提供する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
出願の概要
中枢神経系(CNS)の疾患の処置のための選択的神経活性剤である新規で有効な薬剤が依然として必要である。したがって、本発明の第1の目的は、CuATSM:グルコン酸の安定な多形を提供することである。本発明のさらなる目的は、安全で商業的に実現可能な安定な多形の調製プロセスを提供することである。
【0009】
したがって、CuII-ジアセチル-ビス(N4-メチル-チオセミカルバゾン)(CuATSM)およびグルコン酸の安定な多形であって、7.5°、9°、および11°の2θ角にピークを含む粉末X線回折(「XRPD」)スペクトルを有する、安定な多形を本明細書中に記載する。いくつかの実施形態では、XRPDスペクトルは、15.5°、27.5°、28.5°、および32°にさらなるピークを含む。多形は、典型的には、およそ7.5°、9°、11°、15.5°、27.5°、28.5°、および32°の2θ角からなる群から選択される少なくとも5つのXPRDスペクトルのピークを有する。あるいは、多形は、およそ7.5°、9°、11°、15.5°、27.5°、28.5°、および32°の2θ角からなる群から選択される少なくとも6つのXPRDスペクトルのピークを有する。多形は、およそ7.5°、9°、11°、15.5°、27.5°、28.5°、および32°の2θ角XPRDスペクトルのピークを有し得る。
【0010】
哺乳動物における症状を処置または予防する方法であって、銅の送達が前記症状を予防するか、緩和するか、または改善し、哺乳動物に、CuATSMおよびグルコン酸の安定な多形を含む治療有効量の組成物であって、前述の組成物が、2θ角7.5°、9°、および11°にピークを含むXRPDスペクトルを有する、組成物;および薬学的に許容され得る賦形剤を投与する工程を含む、方法を本明細書中にさらに記載する。組成物は、およそ7.5°、9°、11°、15.5°、27.5°、28.5°、および32°の2θ角からなる群から選択される少なくとも5つのXPRDスペクトルのピークを有する多形を含み得る。あるいは、組成物は、およそ7.5°、9°、11°、15.5°、27.5°、28.5°、および32°の2θ角からなる群から選択される少なくとも6つのXPRDスペクトルのピークを有する多形を含み得る。組成物は、およそ7.5°、9°、11°、15.5°、27.5°、28.5°、および32°の2θ角のXPRDスペクトルのピークを有する多形を含み得る。
【0011】
CuATSMおよびグルコン酸の安定な多形を調製するプロセスであって、(a)ATSMH2およびグルコン酸銅(第1の比で)を溶媒(第2の比で)と混合してスラリーを形成する工程、(b)前述のスラリーを加熱して、多形SPを含む組成物を形成する工程、および(c)前述の多形を単離する工程を含む、プロセスも本明細書中に記載する。
【0012】
CuATSMおよびグルコン酸の安定な多形であって、(a)ATSMH2およびグルコン酸銅(第1の比で)を溶媒(第2の比で)と混合してスラリーを形成する工程、(b)前述のスラリーを加熱して前述の組成物を形成する工程、および(c)前述の多形を単離する工程を含むプロセスによって作製された、安定な多形を本明細書中にさらに記載する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施例1で作製した生成物についての粉末X線回折(「XRPD」)スペクトルである。生成物についてのスペクトルを
図1の上に示し、下のCuATSM、銅D-グルコナート、D-グルコン酸ラクトン、およびD-グルコン酸のXRPDスペクトルとそれぞれ比較している。
【0014】
【
図2】
図2は、実施例2で作製した生成物についてのXRPDスペクトルである。生成物についてのスペクトルを
図2の上に示し、下のCuATSM、銅D-グルコナート、およびD-グルコン酸ラクトンのXRPDスペクトルとそれぞれ比較している。
【0015】
【
図3】
図3は、実施例3で作製した生成物についてのXRPDスペクトルである。生成物についてのスペクトルを
図3の上に示し、下のCuATSM、銅D-グルコナート、およびD-グルコン酸ラクトンのXRPDスペクトルとそれぞれ比較している。
【0016】
【
図4】
図4は、実施例4で作製した生成物についてのXRPDスペクトルである。生成物についてのスペクトルを
図4の上に示し、下の銅D-グルコナートおよびグルコン酸ラクトンのXRPDスペクトルとそれぞれ比較している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
出願の詳細な説明
本出願は、CuATSMおよびグルコン酸を含む組成物の安定な多形を開示する。CuATSM(Cu
II-ジアセチル-ビス(N
4-メチル-チオセミカルバゾン)、ジアセチル-ビス(N
4-メチル-チオセミカルバゾナト)-Cu
II、Cu
II(atsm)、または銅ATSMとしても公知)は、以下の構造を有する:
【化1】
。CuATSMおよびグルコン酸の安定な多形は、本明細書中で多形SPとも呼ばれる。安定な多形は、本明細書中に開示の特有のXRPDスペクトルを有する。いくつかの実施形態では、安定な多形は、7.5°、9°、および11°の2θ角にピークを含むXRPDスペクトルを有する。いくつかの実施形態では、これらのピークに加えて、安定な多形は、15.5°、27.5°、28.5°、および32°の2θ角にピークをさらに含むXRPDスペクトルを有する。本明細書中に示した「2θ角」値は、本明細書中の
図1、3、および4の上部に示したピーク値の最良近似であることを意味する。
【0018】
本出願は、銅が枯渇している患者の生物学的部位、組織、または細胞に銅金属を送達させるための多形SPの使用を開示する。いくつかの重要な銅媒介生物学的過程(銅媒介酵素過程など)は、細胞外基質よりもむしろ細胞内で生じる。細胞外環境よりもむしろ細胞内で銅が確実に作用するように銅を多形SPの形態で送達させる。さらに、多形SPは、患者に投与したときに銅が細胞外環境に放出されないように、銅を細胞に送達させる。
【0019】
多形SP中のCuATSMの性質は、典型的には、CuATSMの固有の性質(細胞取り込み、生物学的利用能、血液脳関門を通過する能力、酸化還元電位、または治療有効性が含まれるが、これに限定されない)が維持されるように、多形の溶解のときに保持される。
【0020】
定義
本明細書中で具体的に他の意味を記載しない限り、使用される用語の定義は、有機合成および薬科学の分野において使用される標準的な定義である。例示的な実施形態、態様、および変形は、図解および図において例証され、本明細書中に開示の実施形態、態様、および変形ならびに図解および図は、例証であり、非限定的であると考えられることが意図される。
【0021】
用語「神経変性障害」は、ニューロンの完全性が脅かされている異常を指す。神経細胞が生存度の低下を示す場合、またはニューロンがシグナルをもはや伝達できない場合に、ニューロンの完全性は脅かされ得る。本出願の多形SPを含む組成物で処置することができる神経学的症状には、本明細書中に列挙した症状が含まれる。
【0022】
用語「神経学的症状」は、神経系の種々の細胞型が変性し、および/または神経変性障害または傷害または曝露の結果として損傷を受けている症状を指す。特に、本出願の多形SPを含む組成物は、外科的介入、感染、毒物への曝露、腫瘍、栄養不良、または代謝障害に起因して神経系の細胞が損傷した結果として生じた症状の処置のために使用され得る。さらに、多形SPを含む組成物は、神経変性障害(アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、癲癇など)、薬物乱用、または薬物嗜癖(アルコール、コカイン、ヘロイン、またはアンフェタミンなど)、脊髄障害、神経網膜のジストロフィーまたは変性(網膜症)、および末梢性ニューロパシー(糖尿病性ニューロパシーおよび/または毒素によって誘導された末梢性ニューロパシーなど)の後遺症(sequele)の処置のために使用され得る。
【0023】
本明細書中で使用される用語「患者」は、生物学的活性剤での処置または予防を必要とする疾患または症状を有する任意の動物を指す。患者は、哺乳動物(ヒトなど)であってよいか、または例えば動物モデル試験で使用される非ヒト霊長類または非霊長類であってよい。化合物がヒトの医学的処置での使用に好適である一方で、化合物は獣医学的処置にも適用可能である。
【0024】
句「薬学的に許容され得る」は、化合物、物質、または組成物が、製剤を含む他の成分および/または処置される患者に化学的および/または毒物学的に適合することを意味する。
【0025】
用語「治療有効量」または「有効量」は、有利なまたは望ましい臨床結果を得るのに十分な量である。有効量を、1またはそれを超える投与回数で投与することができる。有効量は、典型的には、病状を軽減するか、改善するか、安定化するか、逆転するか、進行を遅延または遅滞させるのに十分である。
【0026】
一般に、用語「処置」および「予防」は、被験体、組織、または細胞が所望の薬理学的および/または生理学的効果を得られるように影響を及ぼすことを意味し、以下が含まれる:(a)症状の素因があり得るが、依然として症状を有すると診断されていない被験体が症状を生じるのを防止すること;(b)症状の抑制(すなわち、その発症の停止);または(c)症状の影響から解放するもしくは改善すること(すなわち、症状の影響を後退させること)。
【0027】
CuATSMの作製方法
CuATSMなどの金属錯体の調製方法ならびに種々の神経変性疾患および神経変性障害の処置方法は、WO2008/061306号として公開されたPCT/AU2007/001792号(その全体が本明細書中で参考として援用される)に開示されている。代表例を本明細書中に提供する。
【0028】
また、CuATSMは、下記の反応経路および合成スキームを用い、各々の個別の工程/反応については当該分野で利用可能な技術を用い、容易に入手可能な出発物質を用いて調製され得る。好適な保護基を、T.W.Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis,John Wiley & Sons,1981に見出すことができる。
【0029】
CuATSMなどの錯体の調製を、以下のスキームに示す:
【化2】
【0030】
酸性条件下でジオン(X)を2当量の好適に官能化されたチオセミカルバジド(XI)と縮合すると、ビス(チオセミカルバゾン)(XIII)が形成される。次いで、ビス(チオセミカルバゾン)を金属酢酸塩などの好適な金属塩と反応させて、所望の金属錯体(XIV)および酢酸を生成することができる。
【0031】
CuATSMおよびグルコン酸の新規の多形の作製方法
多形SPの作製方法を、ATSMH
2(遊離ATSMリガンドとも呼ばれる):
【化3】
((2E,2’E)-2,2’-(ブタン-2,3-ジイリデン)ビス(N-メチルヒドラジン-1-カルボチオアミド)としても公知)
およびグルコン酸銅:
【化4】
から出発する。しかしながら、共に混合する場合、得られた組成物は、CuATSMおよびグルコン酸の混合物である。水溶液中で、グルコン酸は、そのラクトン形態であるグルコノラクトンと平衡状態にある。グルコン酸は、(D)体および(L)体、ならびにその混合物(ラセミ混合物を含む)で存在する。いくつかの実施形態では、得られた多形SPの組成物は、CuATSMおよびD-グルコン酸の混合物である。
【0032】
多形SPの調製プロセスは、ATSMH2およびグルコン酸銅を溶媒中で混合してスラリーを形成する工程;スラリーをプログラムされた期間加熱して多形SPを形成する工程;および多形を単離する工程を含み得る。
【0033】
また、(ATSMH2およびグルコン酸銅の代わりに)CuATSMおよびD-グルコン酸から出発して多形SPを作製するために上記のプロセスが使用され得る。多形SPを、以下の実施例1に記載のようにボールミル法を使用して作製することもできる。
【0034】
第1の工程では、ATSMH2およびグルコン酸銅を溶媒中で共に混合してスラリーを形成する。ATSMH2およびグルコン酸銅を、2:1と1:2との間のモル比で添加する。いくつかの実施形態では、これらを1.05:1と1:1.05との間のモル比で添加する。さらなる他の実施形態では、これらを約1:1のモル比で添加する。
【0035】
溶媒は、C6~C10アルカンまたはシクロアルカン、C1~C6アルキルアセタート、およびその混合物からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、アルカンまたはシクロアルカンは、ヘキサン、ヘプタン、またはシクロヘプタンである。いくつかの実施形態では、アルキルアセタートは、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、または酢酸t-ブチルである。いくつかの実施形態では、溶媒は、ヘプタン、酢酸イソプロピル、またはヘプタン/酢酸イソプロピル混合物である。
【0036】
次いで、スラリーを40℃から80℃までゆっくり加熱する。いくつかの実施形態では、HPLC分析による反応の完了まで(ATSMH2が2%以下)、加熱プロセスを15~25日間にわたって20℃ずつ上昇させて行う。
【0037】
次いで、多形SPを単離する。いくつかの実施形態では、濾過または遠心分離によって単離が実施される。いくつかの実施形態では、真空濾過後にヘプタンで洗浄することによって単離が実施される。
【0038】
処置、改善、および/または予防する方法
多形SPを含む組成物は、銅金属送達剤、特に銅の細胞への送達のための薬剤として有効である。多形SPを含む組成物は、金属送達によって予防、緩和、または改善することができるいくつかの症状の処置または予防で使用され得る。このタイプの症状はいくつか存在する。このタイプの症状の例は、酸化ストレスに関連するまたは原因する症状である。多くの生物学的な抗酸化防御機序には銅触媒酵素が関与するため、銅送達は生物学的な抗酸化機序の活性を刺激するまたは再始動させ、それによって総合的な抗酸化効果を発揮することができることが公知である。1つの実施形態では、酸化ストレスに関連するまたは原因する症状は、心血管症状、がん、白内障、神経学的障害(アルツハイマー病など)、プリオン病(クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)が含まれる)、および心疾患、アミロイド形成性筋萎縮性側索硬化症(ALS)、プリオン伝染性海綿状脳症(prion transmissible spongioform encephalopathies)(TSE)、白内障、ミトコンドリア障害、メンケス病、パーキンソン病、ならびにハンチントン病からなる群から選択される。
【0039】
別の実施形態では、障害は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ミトコンドリア疾患/代謝性疾患、およびフリードライヒ運動失調症からなる群から選択される神経筋障害である。1つの実施形態では、症状は、神経学的症状または神経変性障害である。
【0040】
さらに、多形SPを含む組成物を使用して、他の処置の効果を強化する(例えば、脳由来神経成長因子の神経保護効果を強化する)こともできる。多形SPを含む組成物を使用して、貧血、好中球減少症、銅欠乏性脊髄症、銅欠乏症候群、および高亜鉛血症を処置することもできる。さらに、処置方法は、中枢神経系の酸化的損傷を誘導する症状(脳虚血、脳卒中(虚血性および出血性)、クモ膜下出血/脳血管痙攣、脳腫瘍、AD、CJDおよび「狂牛」病に関連するその新規の変異型、HD、PD、フリードライヒ運動失調、白内障、レヴィ小体形成を伴う認知症、多系統萎縮症、ハラーフォルデン・シュパッツ病(Hallerboden-Spatz disease)、びまん性レヴィ小体病、筋萎縮性側索硬化症、運動ニューロン疾患、多発性硬化症、致死性家族性不眠症、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー病(Gertsmann Straussler Sheinker disease)、およびオランダ型アミロイド症(amyloidoisis)を伴う遺伝性脳出血などの急性および慢性の神経学的障害が含まれる)も対象とする。
【0041】
処置方法は、神経変性アミロイド症の処置も対象とする。神経変性アミロイド症は、神経損傷がアミロイドの沈着に起因する任意の症状であり得る。アミロイドは、種々のタンパク質またはポリペプチド前駆体(Aβ、シヌクレイン、ハンチントン、またはプリオンタンパク質が含まれるが、これに限定されない)から形成され得る。1つの実施形態では、症状は、散発性または家族性のAD、ALS、運動ニューロン疾患、白内障、PD、クロイツフェルト・ヤコブ病および「狂牛」病に関連するその新規の変異型、HD、レヴィ小体形成を伴う認知症、多系統萎縮症、ハラーフォルデン・シュパッツ病(Hallerboden-Spatz disease)、およびびまん性レヴィ小体病からなる群から選択される。
【0042】
別の実施形態では、神経変性アミロイド症は、ダウン症候群に関連するADもしくは認知症または家族性ADのいくつかの常染色体優性型のうちの1つなどのAβ関連症状である(St George-Hyslop,2000に概説)。最も好ましくは、Aβ関連症状はADである。別の実施形態では、処置前、患者は、AD評価スケール(ADAS)-cog試験によって評価された認知機能障害が中等度または重度であり得る(例えば、ADAS-cog値25またはそれを超える値)。被験体の認知低下の遅延または停止に加えて、本発明の多形SPを含む組成物および方法は、神経変性症状の処置または予防での使用に好適でもあり得るか、神経変性症状の症候の緩和に使用するのに好適であり得る。神経変性症状の素因リスクが高いと同定されている患者、または認知低下の前臨床所見(軽度認知障害または進行が最小限の認知障害など)を示す被験体に投与する場合、多形SPを含むこれらの組成物およびその使用方法は、認知低下の速度の遅延または減速効果に加えて、臨床症候の発症を予防または遅延することができる場合がある。
【0043】
また、本出願の多形SPを含む組成物は、がんの処置に有用であり得る。用語「がん」は、癌遺伝子を活性化させ、および/または腫瘍抑制遺伝子を不活化させ、および/または無制御の細胞増殖に関与する累積的な多遺伝子変異に関与する任意の一連の異なる疾患について記載している。これらの変異の原因および供給源は、ヒト体器官の様々ながんによって異なる。
【0044】
1つの実施形態では、本出願は、脳がん(脳腫瘍が含まれる)を処置する方法に関する。脳がんまたは脳腫瘍は、神経膠腫または非神経膠腫性の脳腫瘍であり得る。本明細書中で使用される場合、用語「がん」および「腫瘍」を、本明細書中で入れ替えて使用してよい。「がん」は、以下の状態のうちの任意の1つを含み得る:神経膠腫、腺腫、芽腫、癌腫、肉腫、さらに、髄芽腫、上衣腫、星状細胞腫、視神経神経膠腫、脳幹神経膠腫、乏突起膠腫、神経節膠腫、頭蓋咽頭腫、または松果体部の腫瘍のうちのいずれか1つが含まれる。「神経膠腫」という言及には、GMB、星状細胞腫、および退形成星状細胞腫、または関連する脳がんが含まれる。
【0045】
また、本出願の多形SPを含む組成物は、タウ関連障害を処置するために使用され得る。タウタンパク質は中枢神経系内に発現されるタンパク質であり、および細胞内微小管ネットワークの安定化によるニューロンの構築において重要な役割を果たすので、重要なタンパク質である。したがって、短縮、過剰リン酸化、または6つの天然に存在するタウイソ型の間のバランスの破壊のいずれかによるタウタンパク質の生理学的役割の任意の障害は、被験体に有害であり、神経原線維変化(NFT)、異栄養性神経突起、およびニューロピルスレッドが形成される。これらの構造物の主なタンパク質サブユニットは、微小管関連タウタンパク質である。AD患者の検死で見出されるNFT量は、知性の低下が含まれる臨床症候と相関する。したがって、タウタンパク質は、AD病理において重要な役割を果たす。
【0046】
タウリン酸化レベルを低下させる本出願の多形SPを含む組成物の活性によって金属を細胞に送達させ、それ故にその抗酸化活性を示すことができると考えられる。錯体が抗酸化剤として作用するとは、OSはタウを過剰リン酸化させて細胞機能障害を引き起こし得るので、錯体によるOSからの望ましい防御を意味し得る。結果として、これらの錯体は、生物学的に重要な金属を細胞に送達させる能力により、抗酸化剤として機能することが可能であり(特に酸化ストレスが金属の欠乏に原因する場合)、これは、金属錯体がタウオパチーを予防する(または処置する)能力を有し得ることを意味する。タウ障害またはより口語的にはタウオパチーと認識される障害または症状がいくつか存在する。このタイプの障害には、リチャードソン症候群、進行性核上性麻痺、嗜銀顆粒病、大脳皮質基底核変性、ピック病、第17染色体に連鎖しパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症(FTDP-17)、脳炎後パーキンソニズム(PEP)、拳闘家認知症、ダウン症候群、アルツハイマー病、家族性英国型認知症、家族性デンマーク型認知症、パーキンソン病、グアムのパーキンソン病複合(PDC)、筋緊張性ジストロフィー、ハラーフォルデン・シュパッツ病(Hallevorden-Spatz disease)、およびニーマン・ピック病C型が含まれる。
【0047】
また、多形SPを含む組成物は、Aベータ関連障害の処置で使用され得る。いくつかのAベータ障害が公知であり、パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、ニューロパシー、ハンチントン病、プリオン病、運動ニューロン疾患、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、メンケス病、およびアミロイド症からなる群から選択される障害が含まれる。
【0048】
多形SPを含む組成物は、銅を細胞に送達させることができることも示されているので、前述の組成物は、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)に影響を及ぼす能力を有する。マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)は、亜鉛およびカルシウムに依存する分泌型または膜係留型エンドペプチダーゼのファミリーであり、いくつかの重要な生物学的機能を果たす。MMPは多数の生理学的過程に関与しているが、広範な疾患を担う病態生理学的機序にも関わっている。MMPの病理学的な発現および活性化は、がん、アテローム性動脈硬化症、脳卒中、関節炎、歯周疾患、多発性硬化症、および肝線維症に関連している。
【0049】
被験体の認知低下の遅延または停止に加えて、本発明の多形SPを含む組成物および方法は、胃腸(GI)疾患または障害(便秘など)の処置、予防、または緩和での使用に好適でもあり得る。神経変性症状およびGI疾患または障害の素因リスクが高いと同定されている患者、または認知低下および関連するGI疾患または障害の前臨床所見を示す被験体に投与する場合、これらの金属錯体およびその使用方法は、認知低下の速度の遅延または減速効果に加えて、GI疾患または障害の治療、予防、または緩和と共に臨床症候の発症を予防または遅延することができる場合がある。ある特定の作用機序を本明細書中に提案しているが、本発明者らは、本発明においていかなる提案または示唆される作用機序にも拘束されることを意図しない。
【0050】
1つの態様では、多形SPを含む組成物は、ヒトへの使用が認可されていない賦形剤および可溶化剤などを有する製剤を必要とせずに、経口的または非経口的な方法によって哺乳動物に投与され得る。
【0051】
多形SPを含む組成物の投与
当該分野で周知の承認された投与様式のうちのいずれかによって多形SPを含む組成物のヒトへの投与を実施することができる。例えば、組成物は、腸投与(経口または直腸など)または非経口投与(皮下、筋肉内、静脈内、および皮内の経路など)によって投与され得る。注射は、ボーラス注射または一定もしくは間欠的な注入であり得る。多形SPを含む組成物は、典型的には、薬学的に許容され得る担体または希釈剤を、治療有効用量を被験体に送達させるのに有効な量で含む。
【0052】
多形SPを含む組成物は、錯体を生物学的に利用可能にする任意の形態または様式で投与され得る。製剤を調製する当業者は、選択された錯体の特定の特徴、処置される症状、処置される症状の病期、および他の関連する環境に応じて、適切な投与の形態および様式を容易に選択することができる。Remingtons Pharmaceutical Sciences,19th edition,Mack Publishing Co.(1995)を参照のこと。1つの態様では、多形SPを含む組成物を、単独で投与するか、薬学的に許容され得る担体、希釈剤、または賦形剤と組み合わせた医薬組成物の形態で投与することができる。
【0053】
非経口注射のための多形SPを含む医薬組成物は、薬学的に許容され得る無菌の水溶液または非水溶液、分散物、懸濁物、または乳濁液、ならびに使用直前に無菌の注射液または注射用分散物に再構成するための無菌粉末を含む。好適な水性および非水性の担体、希釈剤、溶媒、またはビヒクルの例には、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、およびポリエチレングリコールなど)、およびその好適な混合物、植物油(オリーブ油など)、ならびに注射用有機エステル(オレイン酸エチルなど)が含まれる。Polymorph SPを含むこれらの組成物はまた、アジュバンド(防腐剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤など)を含むことができる。
【0054】
経口投与のための固体投薬形態には、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、および顆粒剤が含まれる。かかる固体投薬形態では、活性な錯体を、少なくとも1つの不活性の薬学的に許容され得る賦形剤または担体、例えば、クエン酸ナトリウムもしくはリン酸二カルシウム、ならびに/またはa)充填剤もしくは増量剤(デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、およびケイ酸など)、b)結合剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、およびアカシアなど)、c)湿潤薬(グリセロールなど)、d)崩壊剤(寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモデンプンまたはタピオカデンプン、アルギン酸、ある特定のシリケート、および炭酸ナトリウムなど)、e)溶解遅延剤(パラフィンなど)、f)吸収促進剤(第四級アンモニウム化合物など)、g)湿潤剤(例えば、セチルアルコールおよびグリセロールモノステアラートなど)、h)吸収剤(カオリンおよびベントナイトクレイなど)、およびi)滑沢剤(タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウムなど)、ならびにその混合物と混合する。カプセル剤、錠剤、および丸剤の場合、投薬形態は、緩衝剤も含み得る。
【実施例】
【0055】
実施例
粉末X線回折(XRPD)法
Rigaku Smart-Lab X線回折システムは、X線ビーム線源を用いた反射Bragg-Brentanoジオメトリーのために構成した。X線源は、Cu Long Fine Focus管であり、40kVおよび44mAで作動した。この線源により、高角度の細い線から低角度の広い方形に変化する試料の入射ビーム特性が得られる。最大ビームサイズが線に沿うものも線に対して垂直であるものも10mm未満となることを保証するためにX線源にビーム調整スリットを使用する。Bragg-Brentanoジオメトリーは、受動発散スリットおよび受光スリットによって制御される平行集中型であり、試料自体が光学素子に対する集中構成要素として作用する。Bragg-Brentanoジオメトリーの固有の解像度は、使用される回折計半径および受光スリットの幅によってある程度制御される。典型的には、Rigaku Smart-Labを、0.1° 2θまたはそれ未満のピーク幅が得られるように操作する。X線ビームの軸発散を、入射ビーム経路および回折ビーム経路の両方において5.0°のソーラースリットによって制御する。
【0056】
試料を、試料表面を平坦に維持し、ホルダーの基準面と同じ高さにするように指で軽く押し付けて低バックグラウンドのシリコンホルダー中に配置した。各試料を、0.02° 2θの有効ステップサイズで6° 2θ/分の連続走査を使用して、2~40° 2θまで解析した。
【0057】
実施例1
ボールミルによる多形SPの原末の合成
PKブレンダーに、予め秤量したATSMH
2(1000.0g)および銅(II)D-グルコナート(1750.0g)の固体を入れた。固体を10分間ブレンドした。得られた混合粉末を、1インチのメディアボールを含む10リットルの磁器製ジャー(Shimpo)を備えたボールミルに移した。ボールミルを起動して混合を開始し、頻繁に点検しながら銅が暗褐色になるまで混合した。混合17.75日後に暗褐色になった。このプロセスによって2368.8gの生成物を得た(収率86%、多形SP)。この生成物のXRPDスペクトルを
図1の上部に示し、CuATSM、銅D-グルコナート、D-グルコン酸ラクトン、およびD-グルコン酸のXRPDスペクトルと比較している。多形SPのXRPDスペクトルは、およそ7.5、9、11、15.5、27.5、28.5、および32に特有のピークを示し、これらのピークは、CuATSM遊離塩基、銅D-グルコナート、D-グルコン酸ラクトン、およびD-グルコン酸のXRPDスペクトル中に出現しない。
【0058】
実施例2
IPAスラリーの合成
ATSMH
2(1当量)およびCu(II)グルコナート(1当量)を、イソプロピルアルコール(20v)に懸濁し、40℃で7日間撹拌し、60℃で8日間、次いで、反応が完了するまで80℃で2日間加温した。褐色スラリーを濾過によって単離し、ヘプタン(2×2体積)で洗浄し、真空オーブンで乾燥させて、CuATSMグルコナート(収率100%、多形SPではない)を褐色固体として得た。この生成物のXRPDスペクトルを
図2の上部に示し、CuATSM、銅D-グルコナート、およびD-グルコン酸ラクトンのXRPDスペクトルと比較している。XRPDによって示されるように、この方法ではおよそ7.5、9、11、15.5、27.5、28.5、および32に特有のピークを有するCuATSM:グルコン酸系多形は得られない。
【0059】
実施例3
多形SPのヘプタンスラリーの合成
ATSMH
2(1当量)およびCu(II)グルコナート(1当量)を、ヘプタン(20v)に懸濁し、40℃で7日間撹拌し、60℃で8日間、次いで、反応が完了するまで80℃で2日間加温した。褐色スラリーを濾過によって単離し、ヘプタン(2×2体積)で洗浄し、真空オーブンで乾燥させて、CuATSMグルコナート(収率100%、多形SP)を褐色固体として得た。この生成物のXRPDスペクトルを
図3の上部に示し、CuATSM、銅D-グルコナート、およびD-グルコン酸ラクトンのXRPDスペクトルと比較している。多形SPのXRPDスペクトルは、およそ7.5、9、11、15.5、27.5、28.5、および32に特有のピークを示し、これらのピークは、CuATSM遊離塩基、銅D-グルコナート、D-グルコン酸ラクトン、およびD-グルコン酸のXRPDスペクトル中に出現しない。
【0060】
実施例4
多形SPの酢酸イソプロピルスラリーの合成
ATSMH
2(1当量)およびCu(II)グルコナート(1当量)を、酢酸イソプロピル(20v)に懸濁し、反応が完了するまで室温で8日間撹拌した。褐色スラリーを真空中で濃縮し(10v)、濾過によって単離し、酢酸イソプロピル(2×2体積)で洗浄し、真空オーブンで乾燥させて、CuATSMグルコナート(収率94%、多形SP)を褐色固体として得た。この生成物のXRPDスペクトルを
図4の上部に示し、銅D-グルコナートおよびD-グルコン酸のXRPDスペクトルと比較している。多形SPのXRPDスペクトルは、およそ7.5、9、11、15.5、27.5、28.5、および32に特有のピークを示し、これらのピークは、CuATSM遊離塩基、銅D-グルコナート、D-グルコン酸ラクトン、およびD-グルコン酸のXRPDスペクトル中に出現しない。
【0061】
実施例5
多形SPのヘプタン/酢酸イソプロピルスラリーの合成
ATSMH2(1当量)およびCu(II)グルコナート(1当量)を、ヘプタン(15v)および酢酸イソプロピル(15v)に懸濁し、40℃で7日間撹拌し、60℃で7日間、次いで、反応が完了するまで80℃で4日間加温した。褐色スラリーを濾過によって単離し、ヘプタン(2×2体積)で洗浄し、真空オーブンで乾燥させて、CuATSMグルコナート(収率90%、多形SP)を褐色固体として得た。この生成物のXRPDスペクトルは、7.5°、9°、11°、15.5°、27.5°、28.5°、および32°の角度に特有の2θピークを含み、これらのピークは、CuATSM遊離塩基、銅D-グルコナート、D-グルコン酸ラクトン、およびD-グルコン酸のXRPDスペクトル中に出現しない。
【0062】
上記で考察したXRPDスペクトルは、実施例1、3、4、および5で作製した生成物が7.5°、9°、11°、15.5°、27.5°、28.5°、および32°の角度に2θピークを有する特有のスペクトルを有し、一方、実施例2で作製した生成物、前駆体物質であるCuATSMおよび銅D-グルコナート(ならびに、その意味ではD-グルコン酸およびD-グルコン酸ラクトン)のスペクトルはこれらのピークを含まないことを実証している。
【0063】
いくつかの例示的な実施形態、態様、および変形が本明細書中に提供されているが、当業者は、実施形態、態様、および変形のある特定の改変、並べ換え、追加、および組み合わせ、およびある特定の下位の組み合わせを認識する。以下の特許請求の範囲は、実施形態、態様、および変形のかかる改変、並べ換え、追加、および組み合わせ、およびある特定の下位の組み合わせをすべて含むと解釈され、特許請求の範囲の範囲内にあることが意図される。本出願の全体にわたって挙げられたすべての文書の全開示は、本明細書中に参考として援用される。
【国際調査報告】