(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-15
(54)【発明の名称】頭部伝達関数適応のための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
H04S 7/00 20060101AFI20221108BHJP
G10K 11/178 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
H04S7/00 310
G10K11/178 100
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021570923
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(85)【翻訳文提出日】2021-11-29
(86)【国際出願番号】 CN2020113426
(87)【国際公開番号】W WO2021043248
(87)【国際公開日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】201910835986.7
(32)【優先日】2019-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592051453
【氏名又は名称】ハーマン インターナショナル インダストリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ハン, シャオナン
(72)【発明者】
【氏名】シー, シャオ-フー
(72)【発明者】
【氏名】ジェン, ジアンウェン
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ, ミン
【テーマコード(参考)】
5D061
5D162
【Fターム(参考)】
5D061FF02
5D162CA26
5D162CD07
5D162DA02
5D162EG03
(57)【要約】
本開示は、頭部伝達関数(HRTF)適応のための方法及びシステムを提供する。本方法は、システム識別を実行することを含み、システム識別は耳介識別及びシャドウイング識別を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
システム識別を実行することを含み、前記システム識別は、耳介識別とシャドウイング識別とを含む、頭部伝達関数(HRTF)適応のための方法。
【請求項2】
前記システム識別から得られた適応HRTFに基づいて、システム補償を実行することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記システム補償が、前記耳介識別及び前記シャドウイング識別の出力に基づいてHRTFレンダリングマトリックスを生成することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記耳介識別が、
耳の基準点(ERP)から耳の入口点(EEP)までの適応HRTFを取得することと、
前記適応HRTFに基づいて、カーブフィッティングを実行して前記HRTFの補償曲線を取得することと、
周波数領域(FD)のオーディオ信号に前記補償曲線を乗算することと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記補償曲線が前記HRTFの逆関数である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記耳介識別が、適応コントローラを備えるアクティブノイズキャンセラ(ANC)のフィードバックループによって実装されている、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記シャドウイング識別が、適応コントローラを備えるANCのフィードフォワードループによって実装されている、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記シャドウイング識別が、
基準マイクロフォンから受信したオーディオ信号とエラーマイクロフォンから受信したオーディオ信号を適応コントローラに入力し、適応HRTFを取得すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記耳介識別から得られた前記適応HRTF及び前記シャドウイング識別から得られた前記適応HRTFのハイブリッド出力によってシステム補償を実行することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
コンピュータ可読命令を記憶するように構成されているメモリと、
コンピュータ可読命令を実行するとシステム識別を実行するように構成されているプロセッサであって、前記システム識別は、耳介識別とシャドウイング識別とを含む、前記プロセッサと
を備える、頭部伝達関数(HRTF)適応のためのシステム。
【請求項11】
前記プロセッサが、前記システム識別から得られた適応HRTFに基づいて、システム補償を実行するようにさらに構成されている、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記プロセッサが、前記耳介識別及び前記シャドウイング識別の出力に基づいてHRTFレンダリングマトリックスを生成するようにさらに構成されている、請求項10または11に記載のシステム。
【請求項13】
前記プロセッサが、
耳の基準点(ERP)から耳の入口点(EEP)までの適応HRTFを取得することと、
前記適応HRTFに基づいて、カーブフィッティングを実行して前記HRTFの補償曲線を取得することと、
周波数領域(FD)のオーディオ信号に前記補償曲線を乗算することと
を含む前記耳介識別を実行するようにさらに構成されている、請求項10に記載のシステム。
【請求項14】
前記補償曲線が前記HRTFの逆関数である、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記プロセッサが、適応コントローラを備えるアクティブノイズキャンセラ(ANC)のフィードバックループによって前記耳介識別を実装するようにさらに構成されている、請求項10に記載のシステム。
【請求項16】
前記プロセッサが、適応コントローラを備えるANCのフィードフォワードループによって前記シャドウイング識別を実装するようにさらに構成されている、請求項10に記載のシステム。
【請求項17】
前記プロセッサが、
基準マイクロフォンから受信したオーディオ信号とエラーマイクロフォンから受信したオーディオ信号を適応コントローラに入力し、適応HRTFを取得すること
を含む前記シャドウイング識別を実行するようにさらに構成されている、請求項10に記載のシステム。
【請求項18】
前記プロセッサが、前記耳介識別から得られた前記適応HRTF及び前記シャドウイング識別から得られた前記適応HRTFのハイブリッド出力によってシステム補償を実行するようにさらに構成されている、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を実行するための命令を備える、コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、オーディオの分野、より具体的には、ハイブリッド適応アクティブノイズキャンセラ(ANC)ループを使用する頭部伝達関数(HRTF)適応のための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
過去数年間で、ANCイヤホンはますます人気が高まっている。その理由は、ANCイヤホンが、騒がしい環境で比較的静かな環境をユーザに提供し、不要な環境ノイズを減らし、したがってユーザにより多くの利便性と快適さをもたらすことができるためである。
【0003】
ユーザ体験に対する人々の要求が高まり続けるにつれて、空間オーディオ技術(3Dオーディオ技術とも呼ばれる)がより注目され、使用されるようになった。この技術により、イヤホンを使用して3Dオーディオ体験を作り出すことができる。この技術の用途には、拡張仮想現実の実現、音楽の鑑賞、タブレットやPCでの映画鑑賞などが含まれる。仮想サラウンドイヤホンは、3Dオーディオ技術の典型的な用途である。3Dオーディオイヤホンでサラウンドサウンドを出すと、実際のスピーカシステムを聴いているのと同じオーディオ体験が得られる。
【0004】
HRTFは、3Dオーディオを提示する高度な方法であるため、サウンドは3D空間の特定のポイントからのものであるように見え、バイノーラルオーディオを合成する。バイノーラルオーディオ再生中に忠実で没入感のある体験を実現するために、HRTFは、音源から聴取者の鼓膜までのサウンドの伝達を記述するためのフィルタとしてよく使用される。
【0005】
ANCイヤホンは、ノイズ源から耳の入口点(EEP)までのHRTFを使用し、振幅は一致しているが位相が逆の音波を導入して、騒音公害(街路騒音、航空機エンジン騒音、及びオフィスのおしゃべりなど)の深刻さを軽減する、もう1つの典型的な用途である。
【0006】
一言で言えば、HRTFは高度にパーソナル化されており、個人ごとに異なる。人は誰でも上半身の輪郭や耳の形が異なるため、音響フィルタリング効果も異なる。現在の慣行では、被験者のグループからの平均的なHRTFが、通常、オフライン及びイヤホンで使用される。平均HRTFを使用するこの方法には、2つの欠点がある。
1) 平均的なHRTFが実際のエンドユーザとほとんど一致不可能な状況になると、3Dオーディオに関連する前後及び上下の混乱(いわゆる混乱コーン)により、非常に貧弱な音像定位効果が現れる。
2) パーソナル化されていない平均HRTFを変更することは労力を節約する方法かもしれないが、それは常に望ましくないオーディオの歪みを伴う。
【0007】
既存のHRTF測定は、半円形の回転リングに取り付けられたスピーカのセットを使用して、励起信号(例えば、指数スイープ信号)を生成するというものである。半円形リングの中央にダミー頭部または個人の頭部を配置し、ダミー頭部または個人の頭部の左右の耳の鼓膜にマイクロフォンを配置する。しかしながら、このような測定は非常に難しく、時間がかかる。
【0008】
さらに、現在のANC設計では、固定HRTF/オフラインHRTFを使用するか、専用のハードウェアが必要であり、コストがはるかに高くなる。また、固定HRTFによるANC設計には、次の2つの欠点がある。1)オンサイトのキャリブレーション/測定に基づいて、現実世界の様々な環境ノイズに正確に適応できない。2)ユーザのパーソナル化を実現できない。例えば、イヤホン間の人間の違いにより、ANCの結果に一貫性がなくなり、例えば、イヤホンと着用者の頭の様々なフィッティング状態が原因で漏れが発生する。
【0009】
不正確でパーソナル化されていないHRTFの上記の欠点を克服するには、改良されたソリューションが必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、例えば、遠方場から近接場までの、及び適応ANCを介した耳の基準点(ERP)から耳の入口点(EEP)までの、適応HRTFを取得するためのソリューションを提供する。加えて、本開示の別の実施態様においては、適応HRTFは、ANCイヤホン用途及び3Dイヤホン用途などの用途における補償のために使用される。加えて、本開示は、異なる適応状態に適応するために、ハイブリッド(フィードバック+フィードフォワード)適応ANCを提供することができる。
【0011】
本開示の1つまたは複数の態様によれば、HRTF適応のための方法が提供される。この方法には、システム識別の実行が含まれる。システム識別には、耳介識別とシャドウイング識別が含まれる。本開示の1つまたは複数の態様に従って提供される方法は、さらに、システム識別から得られた適応HRTFに基づいて、システム補償を実行することを含む。本開示の1つまたは複数の態様に従って提供される方法は、さらに、耳介識別及びシャドウイング識別に基づいてHRTFレンダリングマトリックスを生成することを含む。
【0012】
本開示の1つまたは複数の態様によれば、HRTF適応のためのシステムが提供される。システムは、メモリ及びプロセッサを含む。メモリは、コンピュータ可読命令を記憶するように構成されている。プロセッサは、コンピュータ可読命令を実行するときにシステム識別を実行するように構成されている。システム識別には、耳介識別とシャドウイング識別が含まれる。
【0013】
本開示の別の実施形態は、上記の方法のステップを実行するように構成されたコンピュータ可読媒体を提供する。
【0014】
有利なことに、本開示で開示される方法及びシステムは、異なるユーザに応じてパーソナル化されたHRTFを提供することができ、その結果、ユーザは、イヤホンを使用するときにより良いサウンド体験を得ることができる。
【0015】
本開示は、添付の図面を参照して非限定的な実施態様の以下の説明を読むことによってよりよく理解することができる。図中の部分は必ずしも原寸に比例しておらず、本発明の原理を説明することに焦点が当てられている。さらに、図において、類似または同一の参照番号は、類似または同一の要素を指す。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】本開示の実施形態のANCフィードバックループの概略図を示す。
【
図3】本開示の一実施形態による方法によって測定された左耳伝達関数(TF)曲線グラフを示す。
【
図4】本開示の一実施形態による方法によって測定された右耳TF曲線グラフを示す。
【
図5】本開示の別の実施形態のANCフィードフォワードループの概略図を示す。
【
図6】周波数領域(FD)に実装された音響エコーキャンセルシステムH(Z)の概略図を示す。
【
図7】FDに実装された音響エコーキャンセルシステムH(Z)適応の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の実施形態の説明は、例示のみを目的として与えられており、限定的ではないことを理解されたい。図面に示されている機能ブロック、モジュール、またはユニットの例における分割は、これらの機能ブロックを表すものとして解釈されるべきではなく、これらのモジュールまたはユニットは、物理的に分離されたユニットとして実装される必要がある。示されている、または説明されている機能ブロック、モジュール、またはユニットは、個々のユニット、回路、チップ、機能、モジュール、または回路要素として実装できる。1つまたは複数の機能ブロックまたはユニットは、共通の回路、チップ、回路要素、またはユニットにも実装できる。
【0018】
本明細書に説明されるプロセッサ、メモリ、またはシステムの任意の1つ以上は、様々なプログラミング言語及び/または技術を使用して作り出されたコンピュータプログラムからコンパイルまたは解釈され得るコンピュータ実行可能命令を含む。一般的に言えば、プロセッサ(マイクロプロセッサなど)は、例えば、メモリ、コンピュータ可読媒体などから命令を受信して実行する。プロセッサは、ソフトウェアプログラムの命令を実行することができる非一時的なコンピュータ可読記憶媒体を含む。コンピュータ可読媒体は、限定するものではないが、電子記憶デバイス、磁気記憶デバイス、光学記憶デバイス、電磁気記憶デバイス、半導体記憶デバイス、またはそれらの任意の適切な組み合わせであり得る。
【0019】
図1は、本開示の方法及びシステムの概略図を示す。
図1に示すように、本開示は、HRTF適応のための方法及びシステムを提供する。この方法は、システム識別及びシステム補償を含み得る。システム識別は、基準モデルとユーザの違いを判定することを目的としている。システム識別は、主に耳介の違いとシャドウイング機能に焦点を当てている。すなわち、システム識別には、耳介識別とシャドウイング識別が含まれ得る。システム補償は、数学的モデリング手法を使用して、基準モデルとユーザの間のシステムの違いを補償することを目的としている。例えば、HRTFレンダリングマトリックスは、耳介識別とシャドウイング識別の出力に基づいて生成される。
【0020】
システム識別のために、モデリングのための通信システムにおける音響エコーキャンセラ(AEC)を参照することができる。説明の便宜のために、
図6は、FDに実装された音響エコーキャンセルシステムH(Z)の概略図を示す。原理の説明は、
図6を参照して後で実行される。本開示の一実施形態では、正規化最小平均二乗(NLMS)アルゴリズムなどのエコーパス識別アルゴリズムを使用することにより、スピーカ(ホーン)spkから内部マイクロフォンへのTF(すなわち、ERPからEEPへの耳介識別)及び外部マイクロフォンから内部マイクロフォンまでのTF(つまり、遠方場からEEPへのシャドウイング識別)を取得できる。
【0021】
耳介識別(ERPからEEP)
本開示の一態様の耳介識別(ERPからEEP)は、
図2を参照して以下に説明される。
図2は、ANCフィードバックループの概略図を示している。理解の便宜のために、本開示における耳介識別のシステムモデルは、
図2のANCフィードバックループを例として取り上げることによって説明される。
図2に示すように、説明の便宜上、例えば、スピーカ(ホーン)spkの位置はERPとして定義され、エラーマイクロフォンの位置はEEPとして定義され、ERPからEEPまでのHRTFはH
0として定義される。コントローラは、AECシステムとして実装できる。より直感的な理解のために、
図6に示されるAECシステムを、説明のために例として取り上げる。例えば、コントローラは、NLMSベースの適応アルゴリズムを実装できる。
【0022】
空間忠実度に影響を与える耳介(ERPのスピーカ(spk))と外耳道(EEPのエラーマイクロフォン(mic))の間の個人差(HRTF)を説明するために、
図2のフィードバックループを使用して、HRTF補償曲線(つまり、H
0の逆関数)を個別に適用する必要がある。
【0023】
次に、耳介識別のプロセスについて詳細に説明する。
【0024】
最初に、ERPからEEPまでのHRTF(H
0)が取得される。このプロセスは、2つの方法で実装できる。1つの方法には、イヤホンspkからの任意の基準オーディオ信号をキャプチャすること、エラーマイクロフォンによって信号を記録すること、及び次に高速フーリエ変換(FFT)によって時間領域(TD)からFDに信号を変換することが含まれる。別の方法には、AEC適応ループを使用して適応HRTF(H
0)を取得することが含まれる。理解の便宜のために、
図6は、NLMSを使用した適応AECを示している。当業者は、本開示が、他の適応アルゴリズム(RLS及びVLMSなど)を使用するAEC適応ループも使用できることを理解することができる。
【0025】
次に、H
0のカーブフィッティングによってHRTF補償曲線
【数1】
が得られる。例えば、既知のフィルタが与えられている場合、カーブフィッティングは任意の振幅フィルタ設計としてモデル化できる。
【0026】
最後に、FDのオーディオ信号は、スピーカspkを介して再生される前に、HRTF補償曲線
【数2】
で乗算される。
【0027】
図3及び
図4は、それぞれ、本開示の一実施形態による方法において、イヤーレス測定、異なるユーザの測定、及び人工頭部測定によってそれぞれ得られた、左耳耳介識別及び右耳耳介識別の左耳及び右耳HRTFの概略図である。イヤーレス測定では、イヤホンのイヤーシールドの上部に吸音フォームを配置する。これは、
図3及び
図4から見ることができ、本開示のHRTF適応のための方法は、イヤーレス状態、異なるユーザ、及び人工頭部に基づいて、それぞれのHRTF(すなわち、図の異なる周波数応答曲線)を取得することができ、その結果、異なる試験対象のパーソナル化されたHRTF測定が実装可能である。
【0028】
シャドウイング識別(遠方場からEEPまで)
シャドウイング識別のシステムモデルは、ANCによって設計されたフィードフォワードループと同じであってよい。
図5は、ANCフィードフォワードループの概略図を示す。本開示のシャドウイング識別のシステムモデルは、
図5のANCフィードフォワードループを理解の便宜のための例として取り上げる。
【0029】
バイノーラルフィードフォワードANCの組み合わせを考えると、左右のERP/EEP間の異なるHRTFは、3Dオーディオに従って個別に適応的に補償される頭部のシャドウイング効果を表す。
【0030】
図5に示されるモノフィードフォワードANCを例として取り上げる。ノイズ源から基準マイクロフォン(ERP)までの遠方場HRTF及びERPからエラーマイクロフォン(EEP)までの近接場HRTFが
図5に示されている。基準マイクロフォンとエラーマイクロフォンは通常同じ特性を有している。
【0031】
図5は、モノフィードフォワードANCの様々な構成要素及び信号伝達パスを示す。イヤホン1の外側にある基準マイクロフォン2は、遠方場HRTFを測定するように構成されている。イヤホン1の内部にあるエラーマイクロフォン3は、近接場HRTFを測定するように構成されている。システムに入るノイズ4は、イヤホンのイヤーシールドによって信号5にフィルタリングされる。イヤホンスピーカによって再生される信号6は、好ましくは信号5の逆信号である。図のP(z)は、ノイズ源から基準マイクロフォン(ERP)までの遠方場HRTFを表す。N(z)は、パッシブアイソレーション機能を備えたイヤホンのイヤーシールドのローパス特性を表す。H
0は、イヤホンスピーカ(ほぼERP)からエラーマイクロフォン(EEP)までの近接場HRTFを表す。コントローラは、AECシステム、例えば、
図6のAECシステムとして実装され得る。同様に、当業者は、
図6がNLMSを使用する適応AECのみを示していることを理解することができる。本開示はまた、他の適応アルゴリズム(RLS及びVLMSなど)を使用するAEC適応ループを使用することができる。
【0032】
基準マイクロフォン2によってキャプチャされたノイズ源が基準信号X(Z)と見なされ、かつエラーマイクロフォン3によってキャプチャされた信号が入力信号Y(Z)と見なされると仮定すると、エコーキャンセル伝達関数H(z)は、N(z)(FDのローパスフィルタなど)及びH0に関連付けられることが最終的に推定される。
【0033】
本開示の一態様によれば、演繹的推定をANCフィードフォワードループに組み込んで、測定結果に基づいてより良好でより安定した性能を得ることができる。実際の動作では、ローパスフィルタ(例えば、カットオフ周波数は3kHz)とフィードバックループを介して得られたH0に、NLMS AECシステム内のFDの基準マイクロフォン信号X(Z)が乗算される。
【0034】
本開示のソリューションでは、耳介識別及びシャドウイング識別がシステム上で実行された後、得られた適応HRTFをANCイヤホンに適用して、ANCイヤホンの使用中に正確でパーソナル化されたHRTF測定及び適応を達成することができる。さらに、異なる適応状態に適応するために、ハイブリッド(フィードバック+フィードフォワード)適応ANCイヤホン設計が提供され得る。
【0035】
システム補償
例えば、3D仮想サラウンドイヤホンの場合、顧客のHRTFを最終的に再現するには、近接場TFと不完全な指向性シャドウイング機能を測定して360度モデルにマッピングするための逆マッピングが必要である。このプロセスは、統計分析の分野でスパース性の問題としてモデル化できる。例えば、基準ヘッドモデルは、多数の近接場と遠方場の測定値を収集し、ディープニューラルネットワーク(DNN)をトレーニングするために使用される。データは、空間の周囲に配置され、様々な程度と距離を有するインパルス応答の形式で収集される。
【0036】
次に、計算中に、測定されたシャドウイング関数と耳介応答を入力として使用して、360度のHRTFレンダリングマトリックスを生成し、システム補償効果を達成することができる。
【0037】
バイノーラル聴覚モデリングの研究では、HRTFは一般に、音源から頭部中心までの距離に従って、2つの自由音場の空間特性、つまり遠方場(例えば、距離が1.0mより大きい)と近接場(例えば、距離が1.0mより小さい)に分けることができる。自由場サウンドのソースを決定する方法は、主に3つの音響キュー、(a)両耳間時間差(ITD)、(b)両耳間強度差(ILD)、及び(c)音響フィルタリング、つまり人の耳、頭、体の形から導出されたスペクトルキュー、に依存する。近接場HRTFは、人体構造、特に耳介、外耳道、及び鼓膜で構成される外耳構造に依存する。
【0038】
図6及び
図7は、それぞれ、FDに実装された音響エコーキャンセルシステム及びエコーキャンセルシステムを実装したH(Z)の適応プロセスの概略図を示す。当業者は、
図6及び
図7が、本開示の技術を狭義に限定するのではなく、本開示の技術を理解するのを助けるのを意図していることを理解することができる。以下、
図6及び
図7を参照してさらに説明する。
【0039】
FDは、高い収束速度と中程度の計算の複雑さで高次の適応フィルタH(z)を実装できるため、AECの最初の選択肢になった。NLMS AECフィルタリング及び適応の2つの基本的なモジュールが、
図6及び
図7に示されている。
図6及び
図7は、スピーカ-周辺空間-マイクロフォン(LEM)システムの場合を示す。当業者は、
図6及び
図7が、特定の制限ではなく、実施例を通じて基本原理を説明することを意図していることを理解することができる。
【0040】
FDでは、通常、高速畳み込み/相関技術を使用してAECを実装する。TDのエラー信号e(i)と基準信号x(i)の間の相互相関は、FDのE(z)にX
*(z)を掛けたものに等しくなる(X
*(z)はX(z)の共役である)。
図7は、基準信号
【数3】
の逆パワースペクトル密度(PSD)が勾配の正規化として使用されることを示す。FDのステップサイズμ(z)は、H(z)の堅牢性を保証する。
【0041】
図6及び
図7に示されるようなAECバージョンは、LEMシステムの線形部分のみを制御でき、通常、追加の残留エコー抑制(RES)を使用して、エコーをさらに低減し、(線形)AECエラーe(i)の範囲内に維持する。しかしながら、RESは非線形信号処理段を特徴づけ、固有の欠点があることはよく知られている。楽音と呼ばれる音響アーティファクトが発生する可能性があるが、これは避ける必要がある。
【0042】
以下は、NLMS AECのいくつかの基本的な数学的原理の簡単な説明である。当業者は、以下の説明が、特定の制限ではなく、NLMS AECの基本原理を理解するのを助けるためだけのものであることを理解することができる。
【0043】
ウィーナー・ヒンチンとパーセバルの定理に基づいて、以下のとおりである。
Φxx(z)=X(z)・X*(z)
【0044】
エコーキャンセラH(z)の適応は、例えば、次のように実装される。
【数4】
【0045】
最適なステップサイズμopt(z)は、E(z)とX(z)の関係に基づいて導出され、これがシミュレーション、分析、そして実際に微調整される。実際には、μopt(z)を大きくするとすぐに収束するが、不安定になる可能性がある。μopt(z)を小さくするとゆっくりと収束するが、実際の用途に適合しない場合がある。
【0046】
本開示はさらに、メモリ及びプロセッサを含むシステムを提供する。メモリは、コンピュータ可読命令を記憶するように構成されている。プロセッサは、コンピュータ可読命令を実行するときにシステム識別を実行するように構成されている。システム識別には、耳介識別とシャドウイング識別が含まれる。
【0047】
実施態様の説明は、解説及び説明の目的のためになされたものである。実施態様の適切な修正及び変更は、上記の説明を考慮して実装するか、または実用的な方法で取得することができる。例えば、特に明記しない限り、説明した方法の1つまたは複数は、適切なデバイス及び/またはシステムの組み合わせによって実行され得る。本方法は、1つまたは複数の追加のハードウェア要素(記憶装置、メモリ、回路、ハードウェアネットワークインタフェースなど)と組み合わせて1つまたは複数の論理デバイス(例えば、プロセッサ)を使用して、記憶された命令実行する方法で、実行することができる。本方法及び関連する動作はまた、本出願に説明した順序以外の様々な順序で、並行して、及び/または同時に実行され得る。本システムは、本質的に例示的なものであって、追加要素を含むことができて、かつ/または要素を省略することができる。本開示の発明の主題は、開示される様々な方法及びシステム構成、ならびに他の特徴、機能、及び/または特性のすべての新規でかつ非自明の組み合わせを含む。
【0048】
本出願で使用する場合、単数形で列挙した、「1つの(one)/a」という語が先行する要素またはステップは、排除の記載がない限り、複数の当該要素またはステップを排除しないものとして理解されたい。さらにまた、本開示の「一実施態様」または「一実施例」の参照は、詳述された特徴も組み込む追加的な実施態様の存在を除外することと解釈されることを目的としていない。
【国際調査報告】