(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-15
(54)【発明の名称】平版印刷版原版および使用方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/004 20060101AFI20221108BHJP
B41N 1/08 20060101ALI20221108BHJP
B41C 1/055 20060101ALI20221108BHJP
G03F 7/00 20060101ALI20221108BHJP
G03F 7/027 20060101ALI20221108BHJP
G03F 7/032 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
G03F7/004 501
B41N1/08
B41C1/055 501
G03F7/00 503
G03F7/004 505
G03F7/004 507
G03F7/027 502
G03F7/032
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022516359
(86)(22)【出願日】2020-09-09
(85)【翻訳文提出日】2022-03-14
(86)【国際出願番号】 US2020049793
(87)【国際公開番号】W WO2021055187
(87)【国際公開日】2021-03-25
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590000846
【氏名又は名称】イーストマン コダック カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・フィーマン
(72)【発明者】
【氏名】サイジャ・ワーナー
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・ディー・シンプソン
【テーマコード(参考)】
2H084
2H114
2H196
2H225
【Fターム(参考)】
2H084AA30
2H084AA32
2H084BB02
2H084CC05
2H114AA04
2H114AA16
2H114AA23
2H114BA02
2H114BA10
2H114DA04
2H114DA52
2H114DA60
2H114GA03
2H114GA04
2H114GA09
2H114GA23
2H196AA06
2H196BA05
2H196BA06
2H196CA03
2H196CA05
2H196EA04
2H196GA01
2H196GA60
2H225AC11
2H225AC34
2H225AC57
2H225AC63
2H225AD20
2H225AD28
2H225AM04P
2H225AM12P
2H225AM13P
2H225AM66P
2H225AM86P
2H225AM94P
2H225AN11P
2H225AN21P
2H225AN22P
2H225AN23P
2H225AN24P
2H225AN25P
2H225AN38P
2H225AN44P
2H225AN49P
2H225AN51P
2H225AN66P
2H225AN72P
2H225AN73P
2H225AN82P
2H225AN89P
2H225AN92P
2H225AP01P
2H225BA02P
2H225BA09P
2H225BA12P
2H225BA13P
2H225BA18P
2H225BA33P
2H225CA04
2H225CB01
2H225CC01
2H225CC13
2H225CD09
(57)【要約】
IR感受性平版印刷版原版は、IR感受性組成物を使用して高コントラストで安定な印刷出力画像を提供する。この組成物は、フリーラジカル重合性成分と、IR吸収剤と、開始剤組成物と、1種以上の発色性化合物、例えば特定のロイコ染料と、以下の構造(P):
(式中、Xは、-O-、-S-、-NH-、または-CH
2-であり、Yは、>N-または>CH-であり、R
1は、水素またはアルキルであり、R
2およびR
3は、独立して、ハロ、チオアルキル、チオフェニル、アルコキシ、フェノキシ、アルキル、フェニル、チオアセチル、またはアセチルであり、mおよびnは、独立して、0または1~4の整数である)で表される1種以上の化合物とを含む。印刷出力画像は、ΔE8超の露光領域と未露光領域との間のカラーコントラストを示す。少なくとも1時間の白色光への露光により、露光領域と未露光領域との間に少なくともΔE5が維持される。これらの原版は、IR露光されると、機上で現像され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム含有基板と、前記アルミニウム含有基板上に配置された赤外線感受性画像記録層とを含む平版印刷版原版であって、
前記赤外線感受性画像記録層は、
a)1種以上のフリーラジカル重合性成分;
b)1種以上の赤外線吸収剤;
c)開始剤組成物;
d)1種以上の発色性化合物;
e)それぞれが以下の構造(P):
【化1】
(式中、Xは、基-O-、-S-、-NH-、または-CH
2-であり、Yは、基>N-または>CH-であり、R
1は、水素、または置換もしくは非置換アルキルであり、R
2およびR
3は、独立して、ハロ、チオアルキル、チオフェニル、アルコキシ、フェノキシ、アルキル、フェニル、チオアセチル、またはアセチル基であり、mおよびnは、独立して、0または1~4の整数である)で表される1種以上の化合物;ならびに
f)場合により、先に定義したa)、b)、c)、d)、およびe)成分とは異なる非フリーラジカル重合性ポリマー材料を含み、
前記赤外線感受性画像記録層は、赤外線に露光されて露光領域および未露光領域を提供すると、ΔE8超の前記露光領域と前記未露光領域との間のカラーコントラストを示し、露光された前記画像記録層を白色光下で少なくとも1時間保存した後、前記露光領域と前記未露光領域との間に少なくともΔE5が維持される、平版印刷版原版。
【請求項2】
前記d)1種以上の発色性化合物のうち少なくとも1種が、以下の構造(C’):
【化2】
(式中、AおよびA’は、以下の構造(AA’):
【化3】
で表される、同じまたは異なる基であり、
R
4は、非置換アルキル基であり、R
5は、非置換アルキル基であり、R
6は、ハロゲンまたはアルキルスルホニル基である)で表される化合物ではない、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項3】
前記d)1種以上の発色性化合物のうち少なくとも1種が、以下の構造(X)および(Y):
【化4】
のうち1つで表される化合物ではない、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項4】
前記d)1種以上の発色性化合物のうち少なくとも1種がラクトン部分構造を含む、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項5】
前記d)1種以上の発色性化合物および前記e)構造(P)で表される1種以上の化合物が、少なくとも1.1:1~50:1のd)とe)とのモル比で前記赤外線感受性画像記録層中に存在する、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項6】
前記d)1種以上の発色性化合物が、少なくとも2重量%~10重量%以下の乾燥被覆量で前記赤外線感受性画像記録層中に存在する、請求項5に記載の平版印刷版原版。
【請求項7】
前記f)ポリマー材料が粒子形態で存在する、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項8】
前記赤外線感受性画像記録層が最外層である、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項9】
機上現像可能である、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項10】
前記a)1種以上のフリーラジカル重合性成分が、少なくとも2種のフリーラジカル重合性成分を含む、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項11】
前記c)開始剤組成物がジアリールヨードニウム塩を含む、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項12】
前記アルミニウム含有基板が、リン酸陽極酸化によって得られる酸化アルミニウム層を含み、前記酸化アルミニウム層上に親水性ポリマーコーティングが配置されている、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項13】
Xが-S-または-NH-であり、Yが>N-である、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項14】
mおよびnが独立して、0、1、または2であり、R
2およびR
3が独立して、クロロ、炭素数1もしくは2のチオアルキル、またはアセチル基である、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項15】
前記d)1種以上の発色性化合物が、以下の構造(C1)および(C2):
【化5】
(式中、R
11~R
19は、独立して、水素、非置換もしくは置換アルキル基、または非置換もしくは置換アリール基である)の一方または両方で表される、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項16】
前記e)構造(P)で表される1種以上の化合物が、以下の化合物1~4のうちの1種以上である、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【表1】
【請求項17】
前記c)開始剤組成物が、テトラアリールボレートを含む、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項18】
平版印刷版を提供する方法であって、
A)請求項1に記載の平版印刷版原版を赤外線に画像様露光して、前記赤外線感受性画像記録層中に露光領域および未露光領域を提供する工程、ならびに
B)前記赤外線感受性画像記録層中の前記未露光領域を前記アルミニウム含有基板から除去する工程
を含む、方法。
【請求項19】
平版印刷インキ、湿し水、または平版印刷インキと湿し水との組み合わせを使用して、前記赤外線感受性画像記録層中の前記未露光領域を前記アルミニウム含有基板から機上で除去する工程を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
平版印刷版を提供する方法であって、
A)請求項5に記載の平版印刷版原版を露光用赤外線に画像様露光して、前記赤外線感受性画像記録層中に露光領域および未露光領域を提供する工程、ならびに
B)前記赤外線感受性画像記録層中の前記未露光領域を前記アルミニウム含有基板から機上で除去する工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線感受性画像記録層において赤外線を使用して画像形成されて、画像形成された平版印刷版を提供することができるネガ型平版印刷版原版に関する。このような原版は独自の組成物を含み、これらの組成物は、露光された赤外線感受性画像記録層における露光領域と未露光領域との間のΔEが8超である、安定な印刷出力画像を提供する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷では、画像領域として知られる平版インキ受容領域が、平面基板、例えばアルミニウム含有基板の親水性表面上に生成される。印刷版表面を水で湿らせて平版印刷インキを塗布すると、親水性領域は水を保持して平版印刷インキをはじき、平版インキ受容画像領域は平版印刷インキを受容して水をはじく。平版印刷インキは、多分に印刷機のブランケットローラーを使用して材料の表面に転写され、それにより画像が再生される。
【0003】
平版印刷版を製造するのに有用なネガ型平版印刷版原版は、典型的には、基板の親水性表面上に配置されたネガ型放射感受性画像記録層を含む。このような画像記録層は、適切なポリマーバインダー材料に分散し得る放射感受性成分を含む。原版が適切な放射に画像様露光され、画像記録層中に露光領域および未露光領域が形成された後、未露光領域は適切な手段によって除去され、その下にある基板の親水性表面が露出する。画像記録層中の除去されない露光領域は、平版インキ受容性であり、現像プロセスによって露出する親水性の基板表面は、水および水溶液、例えば湿し水を受容し、平版印刷インキをはじく。
【0004】
近年、平版印刷業界では、平版印刷インキもしくは湿し水、またはその両方を使用して機上現像(「DOP」)を実施して画像記録層の未露光領域を除去することによる、平版印刷版の製造の簡素化に対する要望が高まっている。したがって、機上現像可能な平版印刷版原版の使用は、従来の加工を施された平版印刷版原版よりも優れた多くの利点のために、印刷業界においてますます採用されており、これらの利点としては、環境への影響が少ないことや、加工化学物質、加工機の床面積、および維持管理コストを節約できることが挙げられる。レーザー画像形成後、機上現像可能な原版は、画像形成された原版の未露光領域を除去する工程なしに、平版印刷機に直接搬送することができる。
【0005】
画像形成された平版印刷版原版は、印刷機に進む前の可読性のために、画像記録層の露光領域と未露光領域とで異なる色を有することが非常に望ましい。露光領域と未露光領域との色差は、典型的には「印刷出力」または「印刷出力画像」と呼ばれる。印刷出力が濃いと、オペレータが画像形成された平版印刷版原版を視覚的に識別し、それらの原版を印刷機ユニットに適切に取り付けることが容易になる。
【0006】
画像形成直後および周囲光下でのエージング後の両方において、機上現像可能な印刷版原版の印刷出力を改善するために、業界において多くの手法がとられてきた。湿式現像剤を使用する従来開発された原版(湿式加工)は、眼および自動カメラシステムでの可読性を目的として露光領域と未露光領域との間の高いコントラストを確保するために、顔料を組み込んで設計されてきた。しかしながら、機上現像可能な原版の場合、印刷出力は、通常は酸感受性ロイコ染料に基づく異なる概念を使用して生成すべきである。この酸感受性ロイコ染料は、照射によって切り替えられて露光領域と未露光領域との間に色差を形成し得る。この概念によって生成されるコントラストは、湿式加工された原版で得られるコントラストよりもはるかに低く、自動カメラシステムによって安定的に検出することができる印刷出力画像を得るために改善が必要である。
【0007】
しかしながら、より感受性の高い発色性組成物を使用すると、白色光に対する平版印刷版原版の感受性が必然的に増加する。この白色光感受性の増加は、平版印刷版原版が画像形成後に白色光に露光された場合、非画像領域における色形成の増加を引き起こす。この望ましくない結果は、明らかにコントラストを低下させ、印刷出力画像の可読性を低下させる。
【0008】
画像記録層に「安定剤」化合物を導入することにより、白色光に対するその感受性を低下させることができる。これは、該安定剤化合物が白色光に対するコーティングの感受性を低下させ、したがって背景色形成を低減することができるからである。しかしながら、このような安定剤化合物は、背景(未露光領域)と露光領域とを区別することができず、したがって露光領域における感受性および色形成も低減させてしまう。したがって、このような原版においてもコントラストは低いままである。
【0009】
米国特許出願公開第2009/0047599号明細書(Horneら)は、スピロラクトンまたはスピロラクタム着色剤前駆体を使用して印刷出力画像を提供することを記載している。当該技術分野では、このような印刷出力組成物をさまざまな特性のために改善する必要が存在してきた。
【0010】
米国特許出願公開第2020/0096865号明細書(Igarashiら)は、酸発生剤、テトラアリールボレート、酸感受性染料前駆体、および電子求引性置換基を有する芳香族ジオールの存在に起因して改善された印刷出力を示すネガ型平版印刷版原版を記載している。
【0011】
米国特許第7,955,682号明細書(Gore)は、基板上にマーキング可能なコーティングを有する光記録媒体を記載しており、このマーキング可能なコーティングは、ロイコ染料と、熱または光に応答してロイコ染料を発色させて可読パターンを形成する現像剤前駆体とを含む。第4~8欄は、このような物品において有用であると言われているロイコ染料の長い列挙を与えている。このような化合物が、白色光下で安定な改善された印刷出力画像を提供するために平版印刷版原版において有用であるという示唆はない。
【0012】
欧州特許第2,018,365 A1号明細書(Nguyenら)は、保存中における露光前の保持を目的として、熱反応性ヨードニウム塩、ロイコ染料、および安定剤を含み得る平版印刷版原版を記載している。
【0013】
欧州特許第3,418,332 A1号明細書(Inasakiら)は、エージング後に良好な色安定性を有するとされる、平版印刷版の画像形成層に使用される発色組成物を記載している。この発色組成物は、[0015]および[0303]以降の部分に示す式(1)の化合物を含む。しかしながら、この刊行物は、照射によって濃く安定した印刷出力を形成することができる特定の赤外線染料を使用することによって生じる問題に対する解決策を対象としている。この刊行物は、これらの特定のIR染料の使用、ならびにいくつかの既知のロイコ染料、例えばGN-169(以下に示す発色性化合物8)およびRed-40が、印刷出力画像を十分に提供しないことを実証している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0047599号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2020/0096865号明細書
【特許文献3】米国特許第7,955,682号明細書
【特許文献4】欧州特許第2,018,365号明細書
【特許文献5】欧州特許第3,418,332 号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特定の赤外線染料の使用に限定されることなく印刷出力画像を提供するために使用することができ、それらの印刷出力画像が、画像形成された平版印刷版の周囲光での保存時にコントラストが低下しにくい着色(印刷出力)組成物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、アルミニウム含有基板と、アルミニウム含有基板上に配置された赤外線感受性画像記録層とを含む平版印刷版原版であって、
赤外線感受性画像記録層は、
a)1種以上のフリーラジカル重合性成分;
b)1種以上の赤外線吸収剤;
c)開始剤組成物;
d)1種以上の発色性化合物;
e)それぞれが以下の構造(P):
【化1】
(式中、Xは、基-O-、-S-、-NH-、または-CH
2-であり、Yは、基>N-または>CH-であり、R
1は、水素、または置換もしくは非置換アルキルであり、R
2およびR
3は、独立して、ハロ、チオアルキル、チオフェニル、アルコキシ、フェノキシ、アルキル、フェニル、チオアセチル、またはアセチル基であり、mおよびnは、独立して、0または1~4の整数である)で表される1種以上の化合物;ならびに
f)場合により、先に定義したa)、b)、c)、d)、およびe)成分とは異なる非フリーラジカル重合性ポリマー材料を含み、
赤外線感受性画像記録層は、赤外線に露光されて露光領域および未露光領域を提供すると、ΔE8超の露光領域と未露光領域との間のカラーコントラストを示し、露光された画像記録層を白色光下で少なくとも1時間保存した後、露光領域と未露光領域との間に少なくともΔE5が維持される、平版印刷版原版を提供する。
【0017】
さらに、本発明は、平版印刷版を提供する方法であって、
A)本発明のいずれかの実施形態に記載の平版印刷版原版を赤外線に画像様露光して、赤外線感受性画像記録層中に露光領域および未露光領域を提供する工程、ならびに
B)赤外線感受性画像記録層中の未露光領域をアルミニウム含有基板から機上で除去する工程
を含む、方法を提供する。
【0018】
本発明は、特定のIR染料の使用に限定されない、印刷出力画像を提供する手法に関する。本発明は、赤外線照射中に発生する酸との反応によって無色の形態から着色した形態に切り替わることができるロイコ染料を利用する。多くのロイコ染料が知られており、それらのいくつかは照射によって適切な印刷出力画像を形成する。しかしながら、本発明は、放射感受性組成物中で生成された所与の量の酸に対して、周知の化合物よりも大きな色変化を示すロイコ染料を革新的にも同定したことの結果である。本発明で使用される組成物において、これらのロイコ染料は、特別なIR染料の存在なしに濃い初期印刷出力画像を形成することができることがわかった。一方、感受性が増加した本発明の赤外線感受性配合物は、d)発色性化合物およびe)以下に示す構造(P)で表される化合物を、b)赤外線吸収剤およびc)開始剤組成物と組み合わせて含み、得られた印刷出力画像の高いコントラストおよび安定性を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の考察は、本発明のさまざまな実施形態を対象としており、いくつかの実施形態は特定の使用に望ましい可能性があるが、開示された実施形態は、以下に特許請求されるように、本発明の範囲を限定すると解釈されたり、あるいは見なされたりするべきではない。さらに、当業者であれば、以下の開示が、いかなる特定の実施形態の考察において明示的に記載されているよりも広い用途を有することを理解するであろう。
【0020】
定義
赤外線感受性画像記録層のさまざまな成分、および本発明の実施に使用される他の材料を定義するために本明細書で使用される場合、別段の指示がない限り、単数形「a」、「an」、および「the」は、該成分を1つまたは複数含む(すなわち、複数の指示対象を含む)ことを意図する。
【0021】
本出願において明示的に定義されていない各用語は、当業者によって一般的に受け入れられる意味を有すると理解すべきである。ある用語の解釈がその文脈において該用語を無意味または本質的に無意味にする場合、その用語は標準的な辞書に記載の意味を有すると解釈すべきである。
【0022】
本明細書に明記するさまざまな範囲内の数値の使用は、別段の明示的な指示がない限り、記載された範囲内の最小値および最大値の両方の前に「約」という語が付されたものとして近似であると見なすべきである。このように、記載された範囲の上下のわずかな変動は、その範囲内の値と実質的に同じ結果を達成するのに有用であり得る。さらに、これらの範囲の開示は、最小値と最大値との間のすべての値、および範囲の終点を含む連続的な範囲であると意図されている。
【0023】
文脈上そうでないことが示されない限り、本明細書で使用される場合、「平版印刷版原版」、「原版」、および「赤外線(IR)感受性平版印刷版原版」という用語は、本発明の実施形態に等しく言及することを意図する。
【0024】
本明細書で使用される場合、「赤外線吸収剤」という用語は、電磁スペクトルの近赤外(近IR)および赤外(IR)領域の電磁放射を吸収する化合物または材料を指し、典型的には、近IRおよびIR領域に吸収極大を有する化合物または材料を指す。
【0025】
本明細書で使用される場合、「近赤外領域」および「赤外領域」という用語は、少なくとも750nm以上の波長を有する放射を指す。ほとんどの場合、これらの用語は、少なくとも750nm、より可能性が高いことには少なくとも750nm~1400nm以下の電磁スペクトルの領域を指すために使用される。
【0026】
本発明の目的のために、印刷出力画像は、一般に、露光された赤外線感受性画像記録層の露光領域と未露光領域との間のカラーコントラストがΔE8超、またはさらには10超であることによって実証される。このΔE値(すなわち、差)を得るために使用される露光領域および未露光領域のE値は、例えば、Techkon Spectro Densスペクトル濃度計を使用して、EN ISO 11664-4「測色-第4部:CIE 1976 L*a*b*色空間」に記載されているように、測定された色空間パラメータのユークリッド距離を計算することで測定することができる。本明細書に記載のCIELAB L*、a*、およびb*値は、上記の刊行物または後で知られるバージョンによる既知の定義を有し、標準光源D65および既知の手順を使用して計算することができる。これらの値を使用して、色を3つの色値、すなわち色の明度(または明るさ)のL*、色の緑-赤成分のa*、および色値の青-黄色成分のb*として表すことができる。
【0027】
ポリマーに関するあらゆる用語の定義を明確にするには、International Union of Pure and Applied Chemistry(国際純正応用化学連合「IUPAC」)が公表した「Glossary of Basic Terms in Polymer Science」、Pure Appl.Chem.68,2287-2311(1996)を参照されたい。しかしながら、本明細書に明示的に記載されたあらゆる定義は、支配的であると見なすべきである。
【0028】
本明細書で使用される場合、「ポリマー」という用語は、多くの小さな反応性モノマーを連結することによって形成された、比較的大きな分子量を有する化合物をいうために使用される。これらのポリマー鎖は、通常、ランダムな様式でコイル状構造を形成する。溶媒の選択により、ポリマーは、鎖長が長くなるにつれて不溶性になり、溶媒中に分散したポリマー粒子になり得る。これらの粒子分散液は、非常に安定であり、本発明における使用について記載される赤外線感受性画像形成可能層において有用であり得る。本発明において、別段の指示がない限り、「ポリマー」という用語は、非架橋材料を指す。したがって、架橋ポリマー粒子は、非架橋ポリマー粒子とは異なり、この差異は、非架橋ポリマー粒子が、溶媒和特性が良好な特定の有機溶媒に溶解し得るのに対して、架橋ポリマー粒子は、ポリマー鎖が強い共有結合によって連結されているため、有機溶媒に膨潤し得るが溶解しないという点におけるものである。
【0029】
「コポリマー」という用語は、ポリマー鎖に沿って配置された2つ以上の異なる反復単位、すなわち繰り返し単位から構成されるポリマーを指す。
【0030】
「骨格」という用語は、複数のペンダント基が結合することができるポリマー中の原子の鎖を指す。このような骨格の一例は、1つ以上のエチレン性不飽和重合性モノマーの重合から得られる「全炭素」骨格である。
【0031】
本明細書で使用される場合、「エチレン性不飽和重合性モノマー」という用語は、フリーラジカルまたは酸触媒重合反応および条件を使用して重合可能な1つ以上のエチレン性不飽和(-C=C-)結合を含む化合物を指す。この用語は、該条件下で重合可能ではない不飽和-C=C-結合のみを有する化合物を指すことを意図するものではない。
【0032】
別段の指示がない限り、「重量%」という用語は、組成物、配合物、または層の全固形分に基づく成分または材料の量を指す。別段の指示がない限り、パーセンテージは、乾燥層、または配合物もしくは組成物の全固形分のいずれについても同じであり得る。
【0033】
本明細書で使用される場合、「層」または「コーティング」という用語は、1つの配置された層もしくは塗布された層、またはいくつかの連続して配置された層もしくは塗布された層の組み合わせからなり得る。層が赤外線感受性であり、ネガ型であると考えられる場合、この層は、(「赤外線吸収剤」について上記したように)赤外線に感受性であるとともに、平版印刷版の形成においてネガ型である。
【0034】
使用
本発明に従って使用される赤外線感受性画像記録層組成物は、画像形成(または露光)された平版印刷版原版において印刷出力画像を提供するのに有用であり、平版印刷版原版はまた、プレス操作中に平版印刷用の平版印刷版を形成するのに有用である。平版印刷版は、本発明に従って機上または機外で製造され得る。平版印刷版原版は、以下に記載する構造および成分を用いて製造される。
【0035】
平版印刷版原版
本発明による原版は、以下に記載する赤外線感受性画像記録組成物を(以下に記載するような)適切な基板に適切に塗布して、ネガ型である赤外線感受性画像記録層を形成することによって形成され得る。一般に、赤外線感受性画像記録組成物(および得られる赤外線感受性画像記録層)は、a)1種以上のフリーラジカル重合性成分、b)1種以上の赤外線吸収剤、c)開始剤組成物、d)1種以上の発色性化合物、e)以下に定義する構造(P)で表される1種以上の化合物、ならびに場合により、f)本明細書で定義するa)、b)、c)、d)、およびe)成分のすべてとは異なる非フリーラジカル重合性ポリマー材料を含む。
【0036】
一般に、各原版には赤外線感受性画像記録層が1つだけ存在する。この層は、一般に原版の最外層であるが、いくつかの実施形態では、後述するように、赤外線感受性画像記録層上に(または該層に接触して該層上に直接)配置された、最外層の水溶性親水性保護層(トップコートまたは酸素バリア層としても知られる)が存在し得る。
【0037】
アルミニウム含有基板:
本発明による原版を製造するために使用されるアルミニウム含有基板は、一般に、親水性の画像形成側表面を有するか、または塗布された赤外線感受性画像記録層よりも親水性の表面を少なくとも有する。基板は、平版印刷版原版を製造するために従来使用されている原料アルミニウムまたは適切なアルミニウム合金からなり得るアルミニウム含有支持体を含む。
【0038】
アルミニウム含有基板は、物理的(機械的)粒状化、電気化学的粒状化、または化学的粒状化によるある種の粗面化を含む、当該技術分野で既知の技法を使用して処理され得、続いて1回以上の陽極酸化処理が行われる。各陽極酸化処理は、典型的には、リン酸または硫酸および従来の条件を使用して行われ、アルミニウム含有支持体上に所望の親水性酸化アルミニウム(すなわち、陽極酸化物)層を形成する。単一の酸化アルミニウム(陽極酸化物)層が存在してもよく、または細孔開口部の深さおよび形状がさまざまである複数の細孔を有する複数の酸化アルミニウム層が存在してもよい。したがって、該プロセスは、以下に記載するように提供され得る赤外線感受性画像記録層の下層に1つ以上の陽極酸化物層を提供する。このような細孔および細孔幅を制御するためのプロセスの考察は、例えば米国特許出願公開第2013/0052582号明細書(Hayashi)、第2014/0326151号明細書(Nambaら)、および第2018/0250925号明細書(Merkaら)、ならびに米国特許第4,566,952号明細書(Sprintschuikら)、第8,789,464号明細書(Tagawaら)、第8,783,179号明細書(Kurokawaら)、および第8,978,555号明細書(Kurokawaら)、ならびに欧州特許第2,353,882号明細書(Tagawaら)に記載されている。2回の連続的な陽極酸化処理を行って、改善された基板中に異なる酸化アルミニウム層を提供することに関する教示は、例えば米国特許出願公開第2018/0250925号明細書(Merkaら)に記載されている。
【0039】
アルミニウム支持体の硫酸陽極酸化は、一般に、少なくとも1g/m2~5g/m2以下、より典型的には少なくとも3g/m2~4g/m2以下の表面上の酸化アルミニウム(陽極)重量(被覆量)をもたらす。リン酸陽極酸化は、一般に、少なくとも0.5g/m2~5g/m2以下、より典型的には少なくとも1g/m2~3g/m2以下の表面上の酸化アルミニウム(陽極)重量をもたらす。
【0040】
陽極酸化されたアルミニウム含有支持体は、既知の陽極酸化後処理プロセス、例えば、ポリ(ビニルホスホン酸)(PVPA)、ビニルホスホン酸コポリマー、ポリ[(メタ)アクリル酸]もしくはそのアルカリ金属塩、または(メタ)アクリル酸コポリマーもしくはそのアルカリ金属塩、リン酸塩およびフッ化物塩の混合物、またはケイ酸ナトリウムの水溶液を使用した後処理を使用して、陽極酸化物の細孔を封止するか、またはその表面を親水化するか、またはその両方を行うようにさらに処理され得る。後処理プロセス材料はまた、処理された表面とその上にある赤外線露光領域との間の接着を強化するために不飽和二重結合を含み得る。このような不飽和二重結合は、低分子量材料中に与えられるか、またはポリマーの側鎖中に存在し得る。有用な後処理プロセスとしては、すすぎを伴って基板を浸漬すること、すすぎなしで基板を浸漬すること、およびさまざまなコーティング技法、例えば押出コーティングが挙げられる。
【0041】
陽極酸化されたアルミニウム含有基板を、アルカリ性または酸性の細孔拡大溶液で処理して、柱状細孔を含有する陽極酸化物層を提供し得る。いくつかの実施形態では、処理済みアルミニウム含有基板は、粒状化され、陽極酸化され、後処理されたアルミニウム含有支持体上に直接配置された親水性層を含み得、このような親水性層は、カルボン酸側鎖を有する非架橋親水性ポリマーを含み得る。
【0042】
アルミニウム含有基板の厚みはさまざまであり得るが、印刷による摩耗に耐えるのに十分であり、また、印刷版に沿わせるのに十分な薄さでなければならない。有用な実施形態は、少なくとも100μm~700μm以下の厚みを有する処理済みアルミニウム箔を含む。アルミニウム含有基板の裏面(非画像形成面)は、原版の取り扱いおよび「感触」を改善するために帯電防止剤、滑り層、または艶消し層でコーティングされ得る。
【0043】
アルミニウム含有基板は、赤外線感受性画像記録層配合物、および場合により保護層配合物で適切にコーティングされたシート材料の連続ロール(または連続ウェブ)として形成され、続いてサイズに合わせて細長く切るか、または切断して(またはその両方によって)、4つの直角の角を有する形状または形態(したがって、典型的には正方形または長方形の形状または形態)を有する個々の平版印刷版原版を与え得る。典型的には、切断された個々の原版は、平面またはほぼ平坦な長方形の形状を有する。
【0044】
赤外線感受性画像記録層:
本発明による赤外線感受性記録層組成物(および該組成物から製造される赤外線感受性画像記録層)は、「ネガ型」に設計され、この用語は平版印刷の技術分野で知られている。さらに、赤外線感受性画像記録層は、平版印刷版原版に機上現像性を与え、例えば、湿し水、平版印刷インキ、または両者の組み合わせを使用した加工を可能にし得る。
【0045】
本発明の実施において使用される赤外線感受性画像記録層は、a)1種以上のフリーラジカル重合性成分を含み、これらのそれぞれは、フリーラジカル開始を使用して重合し得る1つ以上のフリーラジカル重合性基を含む。いくつかの実施形態では、各分子中に同じまたは異なる数のフリーラジカル重合性基を有する、少なくとも2種のフリーラジカル重合性成分が存在する。したがって、有用なフリーラジカル重合性成分は、1つ以上の重合性エチレン性不飽和基(例えば、2つ以上の該基)を有する1つ以上のフリーラジカル重合性モノマーまたはオリゴマーを含有し得る。同様に、このようなフリーラジカル重合性基を有する架橋性ポリマーも使用され得る。オリゴマーまたはプレポリマー、例えばウレタンアクリレートおよびメタクリレート、エポキシドアクリレートおよびメタクリレート、ポリエステルアクリレートおよびメタクリレート、ポリエーテルアクリレートおよびメタクリレート、ならびに不飽和ポリエステル樹脂が使用され得る。いくつかの実施形態では、フリーラジカル重合性成分はカルボキシル基を含む。
【0046】
1種以上のフリーラジカル重合性成分は、十分に大きい分子量を有するか、または十分な重合性基を有して、赤外線感受性画像記録層中の他の成分のための「ポリマーバインダー」として機能する架橋性ポリマーマトリックスを与えることが可能である。このような実施形態では、別個の非フリーラジカル重合性ポリマー材料(以下に記載)は必要ではないが、依然として存在し得る。
【0047】
フリーラジカル重合性成分としては、複数(2つ以上)の重合性基を有する尿素ウレタン(メタ)アクリレートまたはウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。このような化合物の混合物を用いることができ、それぞれの化合物は、不飽和重合性基を2つ以上有し、化合物のうち一部は、3つまたは4つ以上の不飽和重合性基を有する。例えば、フリーラジカル重合性成分は、ヘキサメチレンジイソシアネートをベースとしたDESMODUR(登録商標)N100脂肪族ポリイソシアネート樹脂(Bayer Corp.、コネチカット州ミルフォード)をヒドロキシエチルアクリレートおよびペンタエリスリトールトリアクリレートと反応させることによって調製され得る。有用なフリーラジカル重合性化合物としては、Kowa Americanから入手可能なNK Ester A-DPH(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)、ならびにSartomer Company,Inc.から入手可能なSartomer 399(ジペンタエリスリトールペンタアクリレート)、Sartomer 355(ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート)、Sartomer 295(ペンタエリスリトールテトラアクリレート)、およびSartomer 415[エトキシ化(20)トリメチロールプロパントリアクリレート]が挙げられる。
【0048】
数多くの他のフリーラジカル重合性成分が当該技術分野で既知であり、Photoreactive Polymers:The Science and Technology of Resists、A Reiser、Wiley、ニューヨーク、1989、102~177頁、B.M.MonroeによるRadiation Curing:Science and Technology、S.P.Pappas編、Plenum、ニューヨーク、1992、399~440頁、ならびにImaging Processes and Material、J.M.Sturgeら(編)におけるA.B.CohenおよびP.Walkerによる「Polymer Imaging」、Van Nostrand Reinhold、ニューヨーク、1989、226~262頁を含むかなりの文献に記載されている。例えば、有用なフリーラジカル重合性成分は、欧州特許第1,182,033 A1号明細書(Fujimakiら)の段落[0170]以降、ならびに米国特許第6,309,792号明細書(Hauckら)、第6,569,603号明細書(Furukawa)、および第6,893,797号明細書(Munnellyら)にも記載されている。他の有用なフリーラジカル重合性成分としては、米国特許出願公開第2009/0142695号明細書(Baumannら)に記載されているものが挙げられ、これらのラジカル重合性成分は1H-テトラゾール基を含む。
【0049】
1種以上のa)フリーラジカル重合性成分は、一般に、すべて赤外線感受性画像記録層の総乾燥被覆量に基づいて、少なくとも10重量%または少なくとも20重量%、かつ50重量%以下または70重量%以下の量で存在する。
【0050】
さらに、赤外線感受性画像記録層は、所望の赤外線感受性を提供するため、または放射を熱に変換するため、またはその両方のためにb)1種以上の赤外線吸収剤を含む。有用な赤外線吸収剤は、顔料または赤外線吸収染料であり得る。適切な染料は、例えば米国特許第5,208,135号明細書(Patelら)、第6,153,356号明細書(Uranoら)、第6,309,792号明細書(Hauckら)、第6,569,603号明細書(Furukawa)、第6,797,449号明細書(Nakamuraら)、第7,018,775号明細書(Tao)、第7,368,215号明細書(Munnellyら)、第8,632,941号明細書(Balbinotら)、および米国特許出願公開第2007/056457号明細書(Iwaiら)に記載されているものである。いくつかの赤外線感受性の実施形態では、赤外線感受性画像形成可能層における少なくとも1種のb)赤外線吸収剤が、適切なカチオン性シアニン発色団と、テトラアリールボレートアニオン、例えばテトラフェニルボレートアニオンとを含むシアニン染料であることが望ましい。このような染料の例としては、米国特許出願公開第2011/003123号明細書(Simpsonら)に記載のものが挙げられる。
【0051】
低分子量IR吸収染料に加えて、ポリマーに結合したIR染料発色団も同様に使用することができる。さらに、IR染料カチオンも同様に使用することができ、すなわち、カチオンは、側鎖にカルボキシ、スルホ、ホスホ、またはホスホノ基を含むポリマーとイオン的に相互作用する染料塩のIR吸収部分である。
【0052】
1種以上のb)赤外線吸収剤の総量は、赤外線感受性画像記録層の総乾燥被覆量に基づいて、少なくとも0.5重量%または少なくとも1重量%であり、かつ15重量%以下または30重量%以下である。
【0053】
さらに、本発明は、赤外線感受性画像記録層中に存在するc)開始剤組成物を利用する。このc)開始剤組成物は、1種以上の酸発生剤、例えば有機ハロゲン化合物、例えばトリハロアリル化合物;ハロメチルトリアジン;ビス(トリハロメチル)トリアジン;ならびにオニウム塩、例えばヨードニウム塩、スルホニウム塩、ジアゾニウム塩、ホスホニウム塩、およびアンモニウム塩を含み得、これらの多くは当該技術分野で既知である。例えば、オニウム塩以外の代表的な化合物は、例えば米国特許出願公開第2005/0170282号明細書(Innoら、米国特許第‘282号明細書)の[0087]に記載されており、該明細書は、このような化合物を記載する多数の引用刊行物を含む。
【0054】
有用なオニウム塩は、例えば、上記の米国特許第‘282号明細書の[0103]~[0109]に記載されている。例えば、有用なオニウム塩は、分子中の少なくとも1つのオニウムカチオンと、適切なアニオンとを含む。オニウム塩の例としては、トリフェニルスルホニウム、ジフェニルヨードニウム、ジフェニルジアゾニウム、これらの化合物のベンゼン環に1つ以上の置換基を導入した化合物およびそれらの誘導体が挙げられる。適切な置換基としては、アルキル、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アシル、アシルオキシ、クロロ、ブロモ、フルオロ、およびニトロ基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
オニウム塩中のアニオンの例としては、ハロゲンアニオン、ClO4
-、PF6
-、BF4
-、SbF6
-、CH3SO3
-、CF3SO3
-、C6H5SO3
-、CH3C6H4SO3
-、HOC6H4SO3
-、ClC6H4SO3
-、および例えば米国特許第7,524,614号明細書(Taoら)に記載されているホウ素アニオンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
有用なオニウム塩は、共有結合によって結合した少なくとも2つのオニウムイオンを分子中に有する多価オニウム塩であり得る。多価オニウム塩の中でも、分子中に少なくとも2つのオニウムイオンを有するものが有用であり、分子中にスルホニウムまたはヨードニウムカチオンを有するものが有用である。
【0057】
また、特開2002-082429号公報[または米国特許出願公開第2002-0051934号明細書](Ippeiら)の段落[0033]~[0038]に記載のオニウム塩や、米国特許第7,524,614号明細書(上記)に記載のホウ酸ヨードニウム錯体も本発明に用いられ得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、オニウム塩は、上記の酸発生カチオン、例えばジアリールヨードニウムカチオンと、テトラアリールボレートアニオン、例えばテトラフェニルボレートアニオンとを含み得る。
【0059】
いくつかの実施形態では、酸発生剤の組み合わせが、例えば米国特許出願公開第2017/0217149号明細書(Hayashiら)に化合物Aおよび化合物Bとして記載されている化合物の組み合わせとして、c)開始剤組成物において使用され得る。
【0060】
c)開始剤組成物は複数の成分を有し得るため、c)開始剤組成物のさまざまな成分の有用な量は、当業者には容易に明らかであろう。
【0061】
赤外線感受性画像記録層は、望ましくないラジカル反応を防止または適度にするために、場合により1種以上の適切な共開始剤、連鎖移動剤、酸化防止剤、または安定剤を含み得る。この目的のための適切な酸化防止剤および阻害剤は、例えば欧州特許第2,735,903 B1号明細書(Wernerら)の[0144]~[0149]、および米国特許第7,189,494号明細書(Munnellyら、国際公開第2006127313号明細書に対応する)の第7~9欄に記載されている。
【0062】
赤外線感受性画像記録層の本質的な特徴は、以下に記載するd)1種以上の発色性化合物(例えば、1種または2種以上の組み合わせ)、およびe)それぞれが以下に記載する構造(P)で表される1種以上の化合物(例えば、1種または該化合物の2種以上の組み合わせ)である。
【0063】
有用なd)発色性化合物は、中性形態で無色またはほぼ無色であり、プロトン化されると着色形態に切り替わる化合物である。例えば、欧州特許第3,418,332 A2号明細書(Inasakiら、米国特許出願公開第2018/0356730号明細書に対応する)の[0209]~[0222]、および欧州特許第2,018,365 B1号明細書(Nguyenら、米国特許第7,910,768号明細書に対応する)の[0044]~[0046]に記載されているものを含む多くのロイコ染料が、この目的のために既知である。現在の研究から、濃い初期印刷出力画像の特定の要件を満たすロイコ染料はわずかしか同定されていない。
【0064】
例えば、いくつかの実施形態では、d)1種以上の発色性化合物のうち少なくとも1種は、ラクトン部分構造を含む。
【0065】
より詳細には、有用なd)1種以上の発色性化合物は、以下の構造(C1)および構造(C2):
【化2】
の1つ以上で表され得、式中、R
11~R
19は、独立して、水素、非置換もしくは置換アルキル基、または非置換もしくは置換アリール基である。このような置換または非置換アルキル基の炭素数は、1~20であり得、場合により1つ以上の置換基は、ハロゲン、アルキル、アリール、アルコキシ、およびフェノキシ基を含み得るが、これらに限定されない。有用な置換または非置換アリール基は、炭素環式芳香環または複素環式芳香環であり得、これらの基は2つ以上の縮合環を有し得る。アリール環についての有用な置換基としては、アルキル基について上記したものを挙げることができるが、これらに限定されない。しかしながら、当業者であれば、構造(C1)および(C2)に関するこの教示を指針として使用して、他の有用なd)発色性化合物を設計することができるであろう。
【0066】
上記のように、これらのd)発色性化合物の2種以上の混合物が、所望であれば、いずれかの所望のモル比で存在し得る。
【0067】
ただし、赤外線感受性画像記録層に存在するd)発色性化合物のうち少なくとも1種は、以下の構造(C’):
【化3】
で表される化合物ではなく、式中、AおよびA’は、以下の構造(AA’):
【化4】
で表される同じまたは異なる基であり、
R
4は、例えば炭素数1~6の非置換アルキル基であり、R
5は、例えば炭素数1~6の非置換アルキル基であり、R
6は、ハロゲン、または例えば炭素数1~6のアルキルスルホニル基である。構造(C’)に該当する化合物は、例えば欧州特許第2,018,365 B1号明細書(Nguyenら)に記載されている。
【0068】
例えば、いくつかの実施形態では、d)1種以上の発色性化合物のうち少なくとも1種は、以下の構造(X)および(Y):
【化5】
のうち1つで表される化合物ではない。
【0069】
赤外線感受性画像記録層はまた、e)それぞれが以下の構造(P):
【化6】
で表される1種以上の化合物を含み、式中、
Xは、2価の基-O-、-S-、-NH-、または-CH
2-のうちの1つであり、望ましくは、Xは-S-または-NH-である。
【0070】
Yは、3価の基>N-または>CH-のうちの1つであり、望ましくは>N-である。
【0071】
R1は、水素、または置換もしくは非置換アルキル基であり、一般に非置換形態での炭素数は1~20である。アルキル基が置換されている場合、該置換基が、本明細書で定義する適切で安定な印刷出力画像をd)印刷出力組成物が提供する機能に悪影響を及ぼさない限り、アルキル基は、その原子価によって許容される1つ以上の置換基を有し得る。
【0072】
R2およびR3は、独立して、ハロ(フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード)、チオアルキル(すなわち、炭素数1~20の-S-アルキル)、チオフェニル(すなわち、-S-フェニル)、アルコキシ(すなわち、炭素数1~20の-O-アルキル)、フェノキシ(すなわち、-O-フェニル)、アルキル(炭素数1~20)、フェニル、チオアセチル[すなわち、-C(=S)CH3]、またはアセチル[すなわち、-C(=O)CH3]基である。化学的に可能な場合、該基は、本明細書で定義する適切で安定な印刷出力画像をd)印刷出力組成物が提供する機能に悪影響を及ぼさない限り、1つ以上の置換基で置換され得る。R2およびR3が、独立して、クロロ、チオアルキル(炭素数1もしくは2)、またはアセチル基であることが特に有用である。
【0073】
さらに、構造(P)において、mおよびnは、独立して、0または1~4の整数である。典型的には、mおよびnは、独立して、0、1、または2である。mおよびnのそれぞれは、0であり得る;mは0であり得、nは1もしくは2であり得る;またはmは1であり得、nは1もしくは2であり得る。
【0074】
上記のように、所望であれば、構造(P)で表されるe化合物の2種以上の混合物が使用され得る。
【0075】
赤外線感受性画像記録層中のd)1種以上の発色性化合物の総量は、一般に、すべて赤外線感受性画像記録層の総乾燥被覆量に基づいて、少なくとも1重量%または少なくとも2重量%であり、かつ8重量%以下または10重量%以下(一般的な最大値)である。
【0076】
さらに、e)それぞれが構造(P)で表される1種以上の化合物は、最適な印刷出力画像およびその印刷出力画像の安定性に適切な作用をもたらす量で存在し得る。例えば、d)1種以上の発色性化合物と、e)構造(P)で表される1種以上の化合物とのモル比は、少なくとも1.1:1.0~50:1.0以下、またはより可能性が高いことには少なくとも1.1:1.0~30:1.0以下であり得る。
【0077】
いくつかの実施形態では、赤外線感受性画像記録層が、存在する場合にポリマー材料をフリーラジカル重合可能にする官能基を有しないf)非フリーラジカル重合性ポリマー材料(すなわち、ポリマーバインダー)をさらに含むことが、場合によるが望ましい。したがって、該f)非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、上記のa)1種以上のフリーラジカル重合性成分とは異なり、また、上記のb)、c)、d)、およびe)成分のすべてとは異なる材料である。
【0078】
該f)非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、ポリアルキレンオキシドセグメントを含む側鎖を有する繰り返し単位を含むポリマー、例えば米国特許第6,899,994号明細書(Huangら)に記載されているものを含めて、当該技術分野で既知のポリマーバインダー材料から選択され得る。他の有用なポリマーバインダーは、例えば国際公開第2015-156065号明細書(Kamiyaら)に記載されているように、ポリアルキレンオキシドセグメントを含む異なる側鎖を有する2種以上の繰り返し単位を含む。このようなポリマーバインダーのいくつかは、例えば米国特許第7,261,998号明細書(Hayashiら)に記載されているようなペンダントシアノ基を有する繰り返し単位をさらに含み得る。
【0079】
該f)ポリマーバインダーはまた、複数(少なくとも2つ)のウレタン部分を含む骨格と、ポリアルキレンオキシドセグメントを含むペンダント基とを有し得る。
【0080】
いくつかの有用なf)非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、粒子形態、すなわち、離散粒子(非凝集粒子)の形態で存在し得る。このような離散粒子は、少なくとも10nm~1500nm以下、または典型的には少なくとも80nm~600nm以下の平均粒径を有し得、一般に赤外線感受性画像記録層中に均一に分布する。これらの材料のいくつかは、粒子形態で存在し得、少なくとも50nm~400nm以下の平均粒径を有し得る。平均粒径は、電子走査顕微鏡画像における粒子の測定、および設定された数の測定値を平均することを含む、さまざまな既知の方法およびナノ粒子測定装置を使用して決定され得る。
【0081】
いくつかの実施形態では、f)非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、赤外線感受性画像記録層の平均乾燥厚み(t)未満の平均粒径を有する粒子の形態で存在し得る。マイクロメートル(μm)単位の平均乾燥厚み(t)は、以下の式:
t=w/r
によって計算され、式中、wは、赤外線感受性画像記録層のg/m2単位の乾燥コーティング被覆量であり、rは、1g/cm3である。
【0082】
存在する場合、1種以上のf)非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、赤外線感受性画像記録層の総乾燥被覆量に基づいて、少なくとも10重量%または少なくとも20重量%、かつ50重量%以下または70重量%以下の量で存在し得る。
【0083】
有用なf)非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、一般に、ゲル浸透クロマトグラフィー(ポリスチレン標準)によって決定される重量平均分子量(Mw)が、少なくとも2,000または少なくとも2万であり、かつ30万以下または50万以下である。
【0084】
有用なf)非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、さまざまな商業的供給源から得ることができ、または例えば上記の刊行物に記載されているように、既知の手順および出発材料を使用して調製することができる。
【0085】
赤外線感受性画像記録層は、場合により添加される追加の添加物として架橋ポリマー粒子を含み得、このような材料は、例えば米国特許第9,366,962号明細書(Hayakawaら)、第8,383,319号明細書(Huangら)、および第8,105,751号明細書(Endoら)に記載されているように、少なくとも2μmまたは少なくとも4μm、かつ20μm以下の平均粒径を有する。このような架橋ポリマー粒子は、赤外線感受性画像記録層のみに、親水性保護層(後述)が存在する場合は該層に、または赤外線感受性画像記録層と、親水性保護層が存在する場合は、これらの両方に存在し得る。
【0086】
赤外線感受性画像記録層はまた、場合により添加されるさまざまな他の添加物を従来の量で含み得、これらとしては、分散剤、保湿剤、殺生物剤、可塑剤、コーティング性もしくは他の特性のための界面活性剤、粘度上昇剤、pH調整剤、乾燥剤、消泡剤、現像助剤、レオロジー調整剤、もしくはそれらの組み合わせ、または平版印刷の技術分野において一般的に使用される任意の他の添加物が挙げられるが、これらに限定されない。赤外線感受性画像記録層はまた、米国特許第7,429,445号明細書(Munnellyら)に記載されているように、分子量が一般に250超であるリン酸(メタ)アクリレートを含み得る。
【0087】
赤外線感受性画像記録層の有用な乾燥被覆量を以下に記載する。
【0088】
親水性保護層:
本発明のいくつかの実施形態では、赤外線感受性画像記録層は、その表面に何も層が配置されない最外層であるが、本発明による原版は、親水性保護層(当該技術分野では親水性オーバーコート、酸素バリア層、またはトップコートとしても知られている)を単一の赤外線感受性画像記録層上に(これらの2つの層の間に中間層を配さずに)直接配置して設計することができる。
【0089】
この親水性保護層は、存在する場合、一般に原版の最外層であり、したがって、複数の原版が重ね合わせて積層される場合、1つの原版の親水性保護層は、間紙が存在しない状態で、そのすぐ上の原版の基板の裏面と接触し得る。
【0090】
このような親水性保護層は、親水性保護層の総乾燥重量に基づいて、少なくとも60重量%~100重量%以下の量の1種以上の膜形成水溶性ポリマーバインダーを含み得る。該膜形成水溶性(すなわち親水性)ポリマーバインダーは、少なくとも30%、または少なくとも75%、または少なくとも90%、かつ99.9%以下のけん化度を有する変性または未変性ポリ(ビニルアルコール)を含み得る。
【0091】
さらに、1種以上の酸変性ポリ(ビニルアルコール)が、親水性保護層中の膜形成水溶性(すなわち親水性)ポリマーバインダーとして使用され得る。例えば、少なくとも1種のポリ(ビニルアルコール)が、カルボン酸、スルホン酸、硫酸エステル、ホスホン酸、およびリン酸エステル基からなる群から選択される酸基で変性され得る。有用な変性ポリ(ビニルアルコール)材料の例としては、スルホン酸変性ポリ(ビニルアルコール)、カルボン酸変性ポリ(ビニルアルコール)、および第4級アンモニウム塩変性ポリ(ビニルアルコール)、グリコール変性ポリ(ビニルアルコール)、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0092】
場合により存在する親水性オーバーコートはまた、少なくとも2μmの平均粒径を有する、上記のような架橋ポリマー粒子を含み得る。
【0093】
存在する場合、親水性保護層は、親水性保護層形成として提供され、乾燥されて、少なくとも0.1g/m2~4g/m2以下の乾燥コーティング被覆量、典型的には少なくとも0.15g/m2~2.5g/m2以下の乾燥コーティング被覆量をもたらす。いくつかの実施形態では、乾燥コーティング被覆量は、0.1g/m2~1.5g/m2以下、または少なくとも0.1g/m2~0.9g/m2以下と小さく、その結果、親水性保護層は、機外現像または機上現像中に容易に除去できるように比較的薄くなる。
【0094】
親水性保護層は、例えば米国特許出願公開第2013/0323643号明細書(Balbinotら)に記載されているように、1種以上の膜形成水溶性(すなわち親水性)ポリマーバインダー中にほぼ均一に分散した有機ワックス粒子を場合により含み得る。
【0095】
平版印刷版原版の製造:
本発明による平版印刷版原版は、以下の様式で提供され得る。上記の成分a)、b)、c)、d)、およびe)、ならびに場合によりf)を含む赤外線感受性画像記録層配合物は、いずれかの適切な装置および手順、例えばスピンコーティング、ナイフコーティング、グラビアコーティング、ダイコーティング、スロットコーティング、バーコーティング、ワイヤロッドコーティング、ローラーコーティング、または押出ホッパーコーティングを使用して、上記のように通常は連続ウェブの形態で、適切なアルミニウム含有基板の親水性表面に塗布され得る。該配合物は、適切な基板上に噴霧することによっても塗布され得る。典型的には、赤外線感受性画像記録層配合物が適切な湿潤被覆量で塗布されると、該配合物は、当該技術分野で既知の適切な様式で乾燥されて以下に記載するように所望の乾燥被覆量をもたらし、それにより、赤外線感受性連続ウェブまたは赤外線感受性連続物品が提供される。
【0096】
上記のように、赤外線感受性画像記録層配合物が塗布される前に、アルミニウム含有基板(すなわち、連続ロールまたはウェブ)は上記のように電気化学的に粒状化され、陽極酸化されてアルミニウム含有支持体の外表面に適切な親水性陽極(酸化アルミニウム)層が提供され、陽極酸化された表面は通常、上記のように親水性ポリマー溶液で後処理され得る。これらの操作の条件および結果は、上記のように当該技術分野で周知である。
【0097】
製造方法は、典型的には、赤外線感受性画像記録層に必要なさまざまな成分を適切な有機溶媒またはそれらの混合物中で水[例えば、メチルエチルケトン(2-ブタノン)、メタノール、エタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-メトキシプロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、γ-ブチロラクトン、n-プロパノール、テトラヒドロフラン、および当該技術分野で容易に知られている他のもの、およびそれらの混合物]を伴って、または伴わずに混合すること、得られた赤外線感受性画像記録層配合物を連続基板ウェブに塗布すること、ならびに適切な乾燥条件下での蒸発によって1種以上の溶媒を除去することを含む。
【0098】
適切な乾燥後、アルミニウム含有基板上の赤外線感受性画像記録層の乾燥被覆量は、一般に少なくとも0.1g/m2または少なくとも0.4g/m2であり、かつ2g/m2以下または4g/m2以下であるが、所望であれば他の乾燥被覆量を使用することができる。
【0099】
上記のように、いくつかの実施形態では、既知のコーティングおよび乾燥条件、装置、ならびに手順を使用して、適切な水性親水性保護層配合物(上記)が乾燥した赤外線感受性画像記録層に塗布され得る。
【0100】
実際の製造条件では、これらのコーティング操作の結果は、単一の赤外線感受性画像記録層のみ、または単一の赤外線感受性画像記録層および最外層として配置された親水性保護層の両方を有する、赤外線感受性平版印刷版原版材料の連続的な放射感受性ウェブ(またはロール)である。
【0101】
画像形成(露光)条件
使用中、本発明の赤外線感受性平版印刷版原版は、赤外線感受性画像記録層中に存在する1種以上の赤外線吸収剤に応じて、適切な露光用赤外線源に露光され得る。いくつかの実施形態では、平版印刷版原版を、少なくとも750nm~1400nm以下、または少なくとも800nm~1250nm以下の範囲内のかなりの赤外線を放射する1種以上のレーザーで画像形成して、赤外線感受性画像記録層中に露光領域および未露光領域を作り出し得る。このような赤外線放射レーザーは、コンピュータ装置または他のデジタル情報源によって供給されるデジタル情報に応答して、このような画像形成に使用され得る。レーザー画像形成は、当該技術分野で既知の適切な様式でデジタル制御され得る。
【0102】
したがって、画像形成は、赤外線生成レーザー(またはこのようなレーザーのアレイ)からの画像形成赤外線または露光用赤外線を使用して実施され得る。画像形成はまた、所望であれば同時に複数の赤外(または近IR)波長の画像形成放射を使用して実施され得る。原版を露光するために使用される1種以上のレーザーは、ダイオードレーザーシステムの信頼性およびメンテナンスが少ないことに起因して、通常は1種以上のダイオードレーザーであるが、他のレーザー、例えばガスまたは固体レーザーも使用され得る。赤外線画像形成のための出力、強度、および露光時間の組み合わせは、当業者には容易に明らかであろう。
【0103】
赤外線画像形成装置は、赤外線感受性平版印刷版原版がドラムの内側または外側円筒面に取り付けられたフラットベッドレコーダまたはドラムレコーダとして構成され得る。有用な画像形成装置の一例は、約830nmの波長の放射を放出するレーザーダイオードを含む、型番KODAK(登録商標)Trendsetterプレートセッター(Eastman Kodak Company)およびNEC AMZISetter Xシリーズ(NEC Corporation、日本)として入手可能である。他の適切な画像形成装置としては、810nmの波長で動作するScreen PlateRite 4300シリーズもしくは8600シリーズプレートセッター(Screen USA(イリノイ州シカゴ)から入手可能)、またはPanasonic Corporation(日本)製のサーマルCTPプレートセッターが挙げられる。
【0104】
赤外線感受性画像記録層がオゾンの存在に感受性をもつ場合、レーザー画像形成の環境中のオゾンを低減するか除去するための手段を含むことが望ましい場合がある。これを実施するための有用な手段およびシステムは、例えば、本発明の譲受人に譲渡された米国特許第10,576,730号明細書(Igarashiら)に記載されている。
【0105】
赤外線画像形成源が使用される場合、画像形成の強度は、赤外線感受性画像記録層の感受性に応じて、少なくとも30mJ/cm2~500mJ/cm2以下、典型的には少なくとも50mJ/cm2~300mJ/cm2以下であり得る。
【0106】
加工(現像)および印刷
上記のような画像様露光の後、赤外線感受性画像記録層中に露光領域および未露光領域を有する露光された赤外線感受性平版印刷版原版は機外または機上で加工され、未露光領域(および該領域上に存在し得る親水性保護層)が除去され得る。この加工の後、平版印刷の間に、露出した親水性の基板表面はインキをはじくが、残っている露光領域は平版印刷インキを受け入れる。
【0107】
機外現像および印刷:
加工は、同じまたは異なる加工溶液(現像剤)を1回または複数回連続して塗布する際に(処理または現像工程において)、いずれかの適切な現像剤を使用して機外で実施され得る。このような1回以上の連続的な加工処理は、赤外線感受性画像記録層の未露光領域を除去して本発明の基板の最も外側にある親水性表面を露出させるのに十分であるが、同画像記録層中で硬化した露光領域のうちかなりの量を除去するのには不十分な長さの時間にわたって実施され得る。
【0108】
このような機外加工の前に、露光した原版に「予熱」プロセスを施して、赤外線感受性画像記録層の露光領域をさらに硬化させ得る。このような場合により行われる予熱は、一般に少なくとも60℃~180℃以下の温度で、いずれかの既知のプロセスおよび装置を使用して実施され得る。
【0109】
上記の場合により行われる予熱に続いて、または予熱の代わりに、露出した原版を洗浄して(すすいで)、親水性オーバーコートが存在する場合はそれを除去し得る。このような場合により行われる洗浄(またはすすぎ)は、いずれかの適切な水溶液(例えば、水または界面活性剤の水溶液)を使用して、適切な温度で、当業者には容易に明らかであろう適切な時間にわたって実施され得る。
【0110】
有用な現像剤は、通常の水または配合された水溶液であり得る。配合された現像剤は、界面活性剤、有機溶媒、アルカリ剤、および表面保護剤から選択される1種以上の成分を含み得る。例えば、有用な有機溶媒としては、フェノールとエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドとの反応生成物[例えば、エチレングリコールフェニルエーテル(フェノキシエタノール)]、ベンジルアルコール、エチレングリコールおよびプロピレングリコールと炭素数6以下の酸とのエステル、ならびにエチレングリコール、ジエチレングリコール、およびプロピレングリコールと炭素数6以下のアルキル基とのエーテル、例えば2-エチルエタノールおよび2-ブトキシエタノールが挙げられる。
【0111】
場合によっては、水性加工溶液を機外で使用して、未露光領域を除去することによって画像形成された原版を現像し、また、画像形成および現像(加工)された原版の印刷面全体にわたって保護層またはコーティングを提供することができる。この実施形態では、水溶液は、平版印刷版上の平版画像を汚染または損傷から(例えば、酸化、指紋、埃、または傷から)保護する(または「ガム引きする」)ことができるガムのように作用する。
【0112】
上記の機外加工および場合により行われる乾燥の後、得られた平版印刷版は、さらなる溶液または液体と接触することなく印刷機に取り付けられ得る。場合により、UVまたは可視放射への全面露光またはフラッド露光を伴って、または伴わずに、平版印刷版にさらに焼き付けを行う。
【0113】
印刷は、平版印刷インキおよび湿し水を適切な様式で平版印刷版の印刷面に塗布することによって行われ得る。湿し水は、露光工程および加工工程によって露出した本発明の基板の親水性表面によって取り込まれ、平版インキは、赤外線感受性画像記録層の残っている(露光)領域によって取り込まれる。次いで、平版インキを適切な受容材料(例えば、布、紙、金属、ガラス、またはプラスチック)に転写して、材料上に画像の所望の像を与える。所望であれば、中間「ブランケット」ローラーを使用して、平版印刷版から受容材料(例えば、用紙)に平版インキを転写することができる。
【0114】
機上現像および印刷:
あるいは、本発明のネガ型平版印刷版原版は、平版印刷インキ、湿し水、または平版印刷インキと湿し水との組み合わせを使用して機上現像可能である。このような実施形態では、本発明による画像形成(露光)された赤外線感受性平版印刷版原版を印刷機に取り付け、印刷操作を開始する。赤外線感受性画像記録層中の未露光領域は、最初の印刷された像が作られると、適切な湿し水、平版印刷インキ、または両者の組み合わせによって除去される。水性の湿し水の典型的な成分としては、pH緩衝剤、減感剤、界面活性剤および湿潤剤、保湿剤、低沸点溶媒、殺生物剤、消泡剤、および金属イオン封鎖剤が挙げられる。湿し水の代表例は、Varn Litho Etch 142W+Varn PAR(アルコール代替物)(イリノイ州アディソンのVarn Internationalから入手可能)である。
【0115】
枚葉印刷機による典型的な印刷機の始動時には、最初に湿しローラーが係合され、取り付けられた画像形成された原版に湿し水を供給して、露光された赤外線感受性画像記録層を少なくとも未露光領域において膨潤させる。数回回転した後、インキングローラーが係合されて、平版印刷版の印刷面全体を覆うように1種以上の平版印刷インキを供給する。典型的には、インキングローラーの係合の後5~20回転以内に印刷用紙が供給され、形成されたインキ-湿し水エマルジョンを使用して、平版印刷版から赤外線感受性画像記録層の未露光領域が除去され、ブランケット胴上に材料が存在する場合には該材料が除去される。
【0116】
赤外線に露光された平版印刷原版の機上現像性は、原版が赤外線感受性画像記録層中に(フリーラジカル重合性であるか否かにかかわらず)1種以上のポリマーバインダー材料を含む場合に特に有用であり、これらのポリマーバインダーの少なくとも1種は、少なくとも50nm~400nm以下の平均直径を有する粒子として存在する。
【0117】
本発明は、少なくとも以下の実施形態およびそれらの組み合わせを提供するが、当業者であれば本開示の教示から理解するであろうように、特徴の他の組み合わせも本発明の範囲内に含まれると考えられる。
【0118】
1.アルミニウム含有基板と、アルミニウム含有基板上に配置された赤外線感受性画像記録層とを含む平版印刷版原版であって、
赤外線感受性画像記録層は、
a)1種以上のフリーラジカル重合性成分;
b)1種以上の赤外線吸収剤;
c)開始剤組成物;
d)1種以上の発色性化合物;
e)それぞれが以下の構造(P):
【化7】
(式中、Xは、基-O-、-S-、-NH-、または-CH
2-であり、Yは、基>N-または>CH-であり、R
1は、水素、または置換もしくは非置換アルキルであり、R
2およびR
3は、独立して、ハロ、チオアルキル、チオフェニル、アルコキシ、フェノキシ、アルキル、フェニル、チオアセチル、またはアセチル基であり、mおよびnは、独立して、0または1~4の整数である)で表される1種以上の化合物;ならびに
f)場合により、先に定義したa)、b)、c)、d)、およびe)成分とは異なる非フリーラジカル重合性ポリマー材料を含み、
赤外線感受性画像記録層は、赤外線に露光されて露光領域および未露光領域を提供すると、ΔE8超の露光領域と未露光領域との間のカラーコントラストを示し、露光された画像記録層を白色光下で少なくとも1時間保存した後、露光領域と未露光領域との間に少なくともΔE5が維持される、平版印刷版原版。
【0119】
2.d)1種以上の発色性化合物のうち少なくとも1種が、以下の構造(C’):
【化8】
(式中、AおよびA’は、以下の構造(AA’):
【化9】
で表される同じまたは異なる基であり、
R
4は、非置換アルキル基であり、R
5は、非置換アルキル基であり、R
6は、ハロゲンまたはアルキルスルホニル基である)で表される化合物ではない、実施形態1に記載の平版印刷版原版。
【0120】
3.d)1種以上の発色性化合物のうち少なくとも1種が、以下の構造(X)および(Y):
【化10】
のうち1つで表される化合物ではないことを条件とする、実施形態1または2に記載の平版印刷版原版。
【0121】
4.d)1種以上の発色性化合物のうち少なくとも1種がラクトン部分構造を含む、実施形態1~3のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0122】
5.d)1種以上の発色性化合物およびe)構造(P)で表される1種以上の化合物が、少なくとも1.1:1~50:1のd)とe)とのモル比で赤外線感受性画像記録層中に存在する、実施形態1~4のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0123】
6.d)1種以上の発色性化合物が、少なくとも2重量%~10重量%以下の乾燥被覆量で赤外線感受性画像記録層中に存在する、実施形態5に記載の平版印刷版原版。
【0124】
7.f)ポリマー材料が粒子形態で存在する、実施形態1~6のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0125】
8.赤外線感受性画像記録層が最外層である、実施形態1~7のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0126】
9.機上現像可能である、実施形態1~8のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0127】
10.a)1種以上のフリーラジカル重合性成分が、少なくとも2種のフリーラジカル重合性成分を含む、実施形態1~9のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0128】
11.c)開始剤組成物がジアリールヨードニウム塩を含む、実施形態1~10のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0129】
12.アルミニウム含有基板が、リン酸陽極酸化によって得られる酸化アルミニウム層を含み、酸化アルミニウム層上に親水性ポリマーコーティングが配置されている、実施形態1~11のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0130】
13.Xが-S-または-NH-であり、Yが>N-である、実施形態1~12のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0131】
14.mおよびnが独立して、0、1、または2であり、R2およびR3が独立して、クロロ、炭素数1もしくは2のチオアルキル、またはアセチル基である、実施形態1~13のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0132】
15.d)1種以上の発色性化合物が、以下の構造(C1)および(C2):
【化11】
(式中、R
11~R
19は、独立して、水素、非置換もしくは置換アルキル基、または非置換もしくは置換アリール基である)の一方または両方で表される、実施形態1~14のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0133】
16.e)構造(P)で表される1種以上の化合物が、以下の化合物1~4のうちの1種以上である、実施形態1~15のいずれか1つに記載の平版印刷版原版:
【表1】
【0134】
17.c)開始剤組成物が、テトラアリールボレートを含む、実施形態1~16のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0135】
18.平版印刷版を提供する方法であって、
A)実施形態1~17のいずれか1つに記載の平版印刷版原版を赤外線に画像様露光して、赤外線感受性画像記録層中に露光領域および未露光領域を提供する工程、ならびに
B)赤外線感受性画像記録層中の未露光領域をアルミニウム含有基板から除去する工程
を含む、方法。
【0136】
19.平版印刷インキ、湿し水、または平版印刷インキと湿し水との組み合わせを使用して、赤外線感受性画像記録層中の未露光領域をアルミニウム含有基板から機上で除去する工程を含む、実施形態18に記載の方法。
【0137】
以下の実施例は、本発明の実施をさらに説明するために提供され、決して限定することを意図するものではない。別段の指示がない限り、実施例で使用される材料は、示したとおりさまざまな商業的供給源から得られたが、他の商業的供給源も利用可能であり得る。
【0138】
アルミニウム含有基板を、平版印刷版原版のために以下の様式で製造した。
アルミニウム合金板(支持体)の表面に塩酸を用いて電解粗面化処理を行い、平均粗さRaを0.5μmとした。得られた粒状化されたアルミニウム板に、リン酸水溶液を用いて陽極酸化処理を行い、乾燥厚み約500nmの酸化アルミニウム層を形成した後、ポリ(アクリル酸)溶液を後処理で塗布し、アルミニウム含有基板を得た。
【0139】
次いで、赤外線感受性画像記録層を、下記の表Iに示す成分を有する赤外線感受性記録層配合物をバーコーターを使用してコーティングすることによってアルミニウム含有基板に塗布して、50℃で60秒間の乾燥後に0.9g/m2の乾燥コーティング重量を得た。成分およびそれらの量を下記の表IIおよび表IIIに規定する。表IIIでは、「実施例」は、比較例(C-1~C-15)または本発明の実施例(I-1~I-4)のいずれかであるものとして特定される。
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
表IVに示す評価を以下のようにして得た。
【0145】
印刷出力:
各平版印刷版原版を、Trendsetter 800 III Quantum TH 1.7(Eastman Kodak Companyから入手可能)を使用して120mJ/cm2で画像様露光して、IR感受性記録層中に露光領域および未露光領域を提供した。画像様露光された各平版印刷版原版について、露光領域と未露光領域との色差を、Techkon Spectro Densスペクトル濃度計を使用してΔE値を決定し、測定されたL*a*b値のユークリッド距離を計算することによって測定し、以下の定性値を与えた。
+ ΔE>8
0 ΔE=5-8
- ΔE<5
【0146】
白色光安定性:
各平版印刷版原版を上記のように画像様露光し、次いで、平版印刷版原版の位置での測定値が1000ルクスとなるようにD50白色光源を取り付けた遮光箱に入れた。白色光を正確に1時間点灯した。白色光の電源をオフにした直後に、ΔE値を上記のように決定し、以下の定性値を与えた。
+ ΔE>5
0 ΔE=3-5
- ΔE<3
【0147】
さらに、すべての露光された平版印刷版原版について、機上現像性が許容可能であると判定された。機上現像性は、Trendsetter 800 III Quantum TH 1.7(Eastman Kodak Companyから入手可能)を使用して各平版印刷版原版を120mJ/cm2で画像様露光することによって評価した。次いで、画像様露光された各平版印刷版原版を、現像(加工)せずにMAN Roland Favorite 04プレス機に取り付けた。湿し水(Varn Supreme 6038)および平版印刷インキ(Gans Cyan)を供給し、平版印刷を行った。印刷中に機上現像が起こった。許容可能な機上現像性が、15枚のうち汚れのない背景で観察された。
【0148】
上記の表IVのデータは、化合物Pの添加が、白色光安定性を損なうことなくはるかに強力なロイコ染料を使用して、それにより機上現像可能な印刷版に対して向上した印刷出力コントラストを生じる可能性を与えることを実証している。
【国際調査報告】