(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-15
(54)【発明の名称】免疫療法マーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20221108BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20221108BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20221108BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221108BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221108BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20221108BHJP
C07K 14/435 20060101ALN20221108BHJP
【FI】
G01N33/574 A
G01N33/53 N
C12Q1/02 ZNA
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61P35/00
C07K16/28
C07K14/435
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022516697
(86)(22)【出願日】2020-09-14
(85)【翻訳文提出日】2022-03-29
(86)【国際出願番号】 EP2020075666
(87)【国際公開番号】W WO2021052915
(87)【国際公開日】2021-03-25
(32)【優先日】2019-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510054027
【氏名又は名称】ヴィート エヌブイ
(71)【出願人】
【識別番号】307020198
【氏名又は名称】ユニバーシタット アントウェルペン
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】ベルグマンス,エリン
(72)【発明者】
【氏名】ギート,バッヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】エヴェリーン,スミッツ
(72)【発明者】
【氏名】パトリック,パウエル
【テーマコード(参考)】
4B063
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ79
4B063QR48
4B063QR72
4B063QR77
4B063QX01
4B063QX04
4C085AA14
4C085BB01
4C085CC23
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA18
4H045CA40
4H045EA50
(57)【要約】
本発明は、抗癌治療としての免疫療法に対する被験体の反応の指標となるマーカーの同定及び使用に関する。マーカーは、癌の治療において、PD-1又はPD-L1アンタゴニストでの免疫療法に対する被験体の反応を予測する際に特に有用である。PD-1及びPD-L1アンタゴニストは、典型的には、黒色腫、非小細胞肺癌(NSCLC)、及び扁平上皮癌を含む、いくつかのタイプの癌の治療における免疫療法として用いられる。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌が、被験体における癌治療において、PD-1又はPD-L1アンタゴニストでの免疫療法に反応するかどうかを決定するin vitroでの方法であって、前記被験体から採取された癌試料の1つ以上の細胞において、好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び好中球ディフェンシン3より選択される抗微生物ペプチドの1つ以上を検出することを含み、前記癌試料の1つ以上の細胞内での前記抗微生物ペプチドの1つ以上の存在は、前記癌がPD-1又はPD-L1アンタゴニストでの免疫療法に反応する可能性がより高いことを示す、方法。
【請求項2】
前記方法が、前記被験体から採取された癌試料の1つ以上の細胞において、抗微生物ペプチドである好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び好中球ディフェンシン3を検出することを含み、前記癌試料の1つ以上の細胞内での前記抗微生物ペプチドの1つ以上の存在は、前記癌が免疫療法に反応する可能性がより高いことを示す、請求項1に記載のin vitroでの方法。
【請求項3】
前記方法が、前記被験体から採取された癌試料の1つ以上の細胞において、抗微生物ペプチドである好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び好中球ディフェンシン3を検出することを含み、前記癌試料の1つ以上の細胞内での前記抗微生物ペプチドの存在は、前記癌が免疫療法に反応する可能性がより高いことを示す、請求項2に記載のin vitroでの方法。
【請求項4】
前記癌が、脂肪肉腫、神経膠腫、骨肉腫、黒色腫、乏突起神経膠腫、星状細胞腫、神経芽細胞腫、膵臓神経内分泌腫瘍、前立腺癌、扁平上皮癌、非小細胞肺癌又は乳癌、特に非小細胞肺癌(NSCLC)、及び扁平上皮癌からなる群より選択される、請求項1、2、又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記PD-1及び/又はPD-L1アンタゴニストが、ペムブロリズマブ、ニボルマブ及び/又はアテゾリズマブ等より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記抗微生物ペプチドを、MALDI質量分析イメージング(MSI)又は免疫組織化学検査によって検出する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記被験体から採取される癌試料が、新鮮凍結及びホルマリン固定パラフィン包埋組織生検切片を含む、組織生検切片である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
癌を有する被験体を治療する方法において使用されるPD-1/PD-L1アンタゴニストであって、該方法が、(i)前記被験体由来の癌試料が、好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び好中球ディフェンシン3より選択される抗微生物ペプチドの1つ以上を含むかどうかを決定することと、(ii)前記抗微生物ペプチドの1つ以上が、前記癌試料内に存在する場合、前記被験体に、有効量のPD-1アンタゴニストを投与することとを含む、PD-1/PD-L1アンタゴニスト。
【請求項9】
前記PD-1/PD-L1アンタゴニストが、ペムブロリズマブ、ニボルマブ及び/又はアテゾリズマブ等より選択される、請求項8に記載の方法において使用されるPD-1/PD-L1アンタゴニスト。
【請求項10】
前記癌が、脂肪肉腫、神経膠腫、骨肉腫、黒色腫、乏突起神経膠腫、星状細胞腫、神経芽細胞腫、膵臓神経内分泌腫瘍、前立腺癌、扁平上皮癌、非小細胞肺癌又は乳癌、特に非小細胞肺癌(NSCLC)、及び扁平上皮癌からなる群より選択される、請求項8に記載の方法において使用されるPD-1/PD-L1アンタゴニスト。
【請求項11】
免疫療法により、特にPD-1又はPD-L1アンタゴニストでの免疫療法において、抗癌効果が癌において生じる可能性があるかどうかを決定する際のバイオマーカーとしての、好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び好中球ディフェンシン3より選択される抗微生物ペプチドの使用。
【請求項12】
免疫療法によって、抗癌効果が癌において生じる可能性があるかどうかを決定するキットであって、癌組織生検切片の1つ以上の細胞において、好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び好中球ディフェンシン3より選択される抗微生物ペプチドの1つ以上の存在を検出するための手段を含む、キット。
【請求項13】
バイオマーカー(複数の場合もある)を検出するための手段が、1つ以上のパッケージングされたプローブ、作用物質、バイオマーカー特異的抗体及び/又はビーズ、特に、好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び好中球ディフェンシン3より選択されるバイオマーカーを検出するための1つ以上の抗体又は抗体断片を含む、請求項12に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌治療としての免疫療法に対する被験体の反応の指標となるマーカーの同定及び使用に関する。該マーカーは、癌治療におけるPD-1又はPD-L1アンタゴニストでの免疫療法に対する被験体の反応を予測する際に特に有用である。PD-1及びPD-L1アンタゴニストは、典型的には、黒色腫、非小細胞肺癌(NSCLC)、及び扁平上皮癌を含む、いくつかのタイプの癌の治療における免疫療法として用いられる。
【背景技術】
【0002】
全肺癌症例の85%を占める進行性非小細胞肺癌(NSCLC)は、一般的に、予後不良と関連付けられ、女性及び男性両方に関して、世界中の癌関連死の主因の1つである(非特許文献1)。これらのNSCLC患者のうちのわずかしか化学療法及び/又は標的化療法によく反応しないため、免疫療法は、肺癌治療分野において、有効な代替法であり得る(非特許文献2)。
【0003】
腺癌は、最も一般的なNSCLCタイプであり、他のものと比較して増殖がより遅いタイプであり、肺の外に広がる前に発見される確率がより高い。腺癌は、粘液分泌に関与する初期上皮細胞から生じる(非特許文献3)。第二のタイプである扁平上皮癌は、気管支内にある扁平細胞から生じる(非特許文献3)。巨細胞(未分化)癌と診断されるNSCLC患者は最少であり、これはより迅速に増殖して広がる傾向があり、遠位臓器に達するリスクがより高い(非特許文献3)。これらのサブタイプは、肺の異なるタイプの細胞から出発し得るが、(免疫療法)治療に対するアプローチ及び予後は類似していることが多い(非特許文献4)。
【0004】
免疫療法の最も有望なアプローチは、抗腫瘍免疫反応を回復するため、免疫チェックポイントを療法的にブロッキングすることである(非特許文献5)。免疫チェックポイントは、制御細胞表面分子であり、無効な免疫反応を終了させ、自己寛容を維持する(非特許文献6)。多くの腫瘍細胞が、T細胞活性化を調節するこうした細胞表面分子の発現によって免疫耐性を示し、この方式で、腫瘍細胞を認識して破壊するT細胞免疫活性化を防止することが確立されてきている(非特許文献5、6)。全体の生存の改善を示す第一の免疫療法剤はイピリムマブであり、これは抗原提示細胞(APC)と細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)の相互作用を阻害し、或る患者では抗腫瘍反応を生じる、モノクローナル抗体である(非特許文献6)。イピリムマブによって、免疫関連有害事象、実質的な病的状態及び死に至るほどの重度の毒性が引き起こされるため(非特許文献6)、イピリムマブを用いた療法は、NSCLC治療にはほとんど使われないが、更に列挙される療法との組み合わせアプローチで見られる(非特許文献5)。最も刺激的な免疫療法の1つで、かつ本研究に関する本発明者らの焦点の1つには、PD-1/PD-L1相互作用を阻害することによる、免疫T細胞媒介性抗腫瘍活性の再活性化が含まれる(非特許文献7)。プログラム細胞死-1(PD-1)は、そのリガンドPD-L1と相互作用して、T細胞活性化を下方制御する、T細胞表面分子である(非特許文献8)。しかし、NSCLC腫瘍細胞もまた、PD-L1の発現により、制御性T細胞受容体PD-1に結合してT細胞疲弊を引き起こすことを通じて、免疫破壊を回避する場合がある(非特許文献7、9)。これらのT細胞反応は、PD-1/PD-L1相互作用の療法的遮断によって回復可能であり、どちらも免疫チェックポイントPD-1のアンタゴニストである免疫療法治療ペムブロリズマブ(非特許文献10)及びニボルマブ(非特許文献11)は、宿主免疫を回復することによって、許容され得る副作用及び抗腫瘍活性に関して、改善された臨床転帰を示してきている(非特許文献2、7、12)。免疫チェックポイントリガンドPD-L1のアンタゴニストであるアテゾリズマブ(非特許文献13)免疫療法治療もまた、肺癌治療分野において有望な結果を示した(非特許文献14)。これらの免疫療法の固有の反応パターンに関してはなお多くが不確かであり、NSCLC患者の大部分が、いかなる利益も得ることなく、さらに重度の副作用を示す免疫療法治療に選択されている(非特許文献12、15)。これは、臨床使用における予測バイオマーカーが現在、PD-L1タンパク質発現のみに限られているためである(非特許文献7、16)。異なる研究によって、PD-L1高発現が癌免疫療法成功に非常に重要であることが示唆されている(非特許文献2、17、18)が、PD-L1発現が低いか又は全くない患者もまた利益を得る可能性があり(非特許文献19、20)、さらに、明らかなPD-L1発現を示す全ての患者が、免疫療法治療に対して陽性の臨床反応を示すわけではない(非特許文献21)。したがって、特にPD-1/PD-L1相互作用の療法的遮断に焦点を当てて、免疫療法に対する臨床的利益と関連する腫瘍微小環境内の他の因子を評価する、高い必要性がある(非特許文献21~23)。本研究の目的は、NSCLC患者において長期持続反応を得て、かつ臨床的に反応しないNSCLC患者の免疫療法治療を回避するための、免疫療法治療に関する反応の更なるバイオマーカーを確立することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
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【非特許文献47】Bauer,J.A. ; Chakravarthy, A.B. ; Rosenbluth, J.M. ; Mi, D. ; Seeley, E.H. ;Granja-Ingram, N.D.M. ; Olivares, M.G. ; Kelley, M.C. ; Mayer, I.A. ; Meszoely,I.M. ; Means-Powell, J.A. ; Johnson, K.N. ; Tsai, C.J. ; Ayers, G.D. ; Sanders,M.E. ; Schneider, R.J. ; Formenti, S.C. ; Caprioli, R.M. & Pietenpol, J.A.Identification of markers of taxane sensitivity using proteomic and genomicanalyses of breast tumors from patients receiving neoadjuvant paclitaxel andradiation. Clin. Cancer Res. 2010, 16, 681-690.
【非特許文献48】Ye,Z. ; Dong, H. ; Li, Y. ; Ma, T. ; Huang, H. ; Leong, H.-S. ; Eckel-Passow, J. ;Kocher, J.-P.A. ; Liang, H. ; Wang, L. & Professor, A. Prevalent HomozygousDeletions of Type I Interferon and Defensin Genes in Human Cancers Associatewith Immunotherapy Resistance. Clin. Cancer Res. 2018, .
【非特許文献49】Metz,B. ; Kersten, G.F.A. ; Baart, G.J.E. ; De Jong, A. ; Meiring, H. ; Ten Hove, J.; Van Steenbergen, M.J. ; Hennink, W.E. ; Crommelin, D.J.A. & Jiskoot, W.Identification of formaldehyde-induced modifications in proteins: Reactionswith insulin. Bioconjug. Chem. 2006, 17, 815-822.
【非特許文献50】Rahimi,F. ; Shepherd, C.E. ; Halliday, G.M. ; Geczy, C.L. & Raftery, M.J.Antigen-epitope retrieval to facilitate proteomic analysis of formalin-fixedarchival brain tissue. Anal. Chem. 2006, 78, 7216-7221.
【非特許文献51】Foell,M.C. ; Fahrner, M. ; Oria, V.O. ; Kuehs, M. ; Biniossek, M.L. ; Werner, M. ;Bronsert, P. & Schilling, O. Reproducible proteomics sample preparation forsingle FFPE tissue slices using acid-labile surfactant and direct trypsinization.Clin. Proteomics 2018, 15, 1
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、以前、MALDI質量分析イメージング(MSI)が、小分子免疫関連因子に関して、肺腫瘍微小環境をよりよく理解するための強力なツールとして認識されていることを立証した(非特許文献24)。MALDI質量分析イメージングは多重化分析であり、理論的には、標的特異的試薬の必要性を伴わずに、単一組織切片から直接、イオン化可能な全ての存在する分子(すなわち、ペプチド、グリカン、核酸、脂質、代謝産物等のような、非常に多様な生体分子)のスクリーニングを提供する(非特許文献25~27)。MALDI MSIでは、組織上の各スポットの質量スペクトルが生成され、これは、組織のそのスポットに存在する全ての生体分子を示すものであり、全ての個々の記録された質量スペクトルを1つの結果としての全体平均質量スペクトルに統合する。測定は予め定義された順で行われ、これによって、本発明者らは、全組織切片に渡って、各生体分子の分布及び相対存在量の両方を分析することが可能になる(非特許文献28)。MALDI MSIは、組織形態を破壊することなく空間的に解像された質量分析データを生じ、これはつまり、同じ組織片を、MALDI MSI分析後に続いて、H&E染色可能であり、分子及び組織情報の両方を合わせることが可能であることを意味する(非特許文献29)。MALDI MSIのこれらの利点に加えて、組織自体から直接、関心対象のMSI標的を同定することはなお困難であり、しばしば不可能である。したがって、本発明者らはこの技術をより高次の質量解像度の質量分析に基づくアプローチと結びつけることで、検出される領域内で検出される分子の正しい生物学的解釈に必要であるように、肺組織全体で空間での分布を維持しながら、関心対象の小分子ペプチド/タンパク質を、信頼性を持って同定することを実現可能にした(非特許文献24)。
【0007】
MSI実験では、分子同一性が予めわかっている必要がないため、抗微生物ペプチド(AMP)プロファイルに関する非常に重要な洞察が、肺癌組織から直接提供され得る。「宿主防御ペプチド」とも称されるAMPは天然存在分子であり、宿主自然免疫反応の主要な態様を構成する(非特許文献30、31)。AMPは、防御の最前線として産生され、細菌、酵母等を直接殺し、本研究に関してより興味深いことには癌細胞も殺し(非特許文献30)、適応免疫を活性化することも可能である(非特許文献32)。いくつかのAMPは恒常的に産生される一方、AMPの大部分は、感染、炎症又は傷害中に誘導される(非特許文献30、32)。特定のAMPプロファイルに基づく予後診断、予測性バイオマーカーの同定、さらに多様な療法の有効性の決定に関して、多様な分子AMPシグネチャーをヒト疾患と関連させ得ることが以前から観察されてきており(非特許文献31)、これは、NSCLC患者における免疫療法反応を予測するために非常に重要である。したがって、本発明者らは、この新規開発MALDI MSI法を、免疫療法治療としてペムブロリズマブ、ニボルマブ又はアテゾリズマブを投与されたNSCLC患者の治療前生検に適用した。この方式で、本発明者らは、陽性免疫療法反応と関連する3つの抗微生物ペプチド、すなわち好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び好中球ディフェンシン3を同定した。さらに、これらのプロテオミクス上の知見は、免疫療法反応の予測のための治療前バイオマーカーとして、臨床設定で使用可能な、免疫組織化学分析で検証された(非特許文献33、34)。ディフェンシン1~3は、免疫療法反応におけるマーカーとして以前に同定されているが(例えばGabriel Etienne et al., Disease Markers, Vol.30, 1 Jan 2011; p.221-227、欧州特許出願公開第2484762号又は欧州特許出願公開第2589665号を参照されたい)、PD1アンタゴニスト又はPD-L1アンタゴニストでの治療における、免疫療法反応マーカーとしては同定されていない。
【0008】
したがって、本発明の目的は、免疫療法に関する、特にPD-1/PD-L1アンタゴニストに関する、かつ関連する患者の治療法に関するコンパニオン診断を提供する方法及び組成物を提供することである。特に、本発明は、癌が、免疫療法によって、成功裡に治療され得るかどうかを、特にPD-1/PD-L1アンタゴニストでの治療に関して評価するためのバイオマーカーとして、好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び好中球ディフェンシン3より選択される抗微生物ペプチドの1つ以上を使用することに関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ヒト扁平上皮癌の新鮮凍結肺癌組織における、関心対象の2つのペプチド、m/z 3369.5及びm/z3440.6の分布を示すMALDI質量分析イメージング(MSI)(上部左図)と、その隣のH&E染色参照組織(上部右図)。下図は、MALDI MSI後に得られた全組織切片の全体の平均質量スペクトルを示し、対応する分布が上図に示されている関心対象の2つのペプチド、m/z 3369.5及びm/z3440.6でズームアウトしている。この図は、ペプチドが、非腫瘍領域で高発現し、非腫瘍及び腫瘍領域の間の相互作用境界で非常に高発現し、最後にさらに腫瘍領域中では発現が非常に低いか又はなくなることを示す。これらの領域は、MALDI MSIで先に分析した同じ組織切片に対して行う、H&E染色(上部右図)で確認される。
【
図2】新鮮凍結ヒト腺癌肺癌組織における関心対象の3つのペプチド、m/z 3369.5、m/z3440.6及びm/z 3484.6の分布を示す、MALDI質量分析イメージング(MSI)(上部左図)と、MALDI MSI後に得られた、その隣のH&E染色参照組織(上部右組織)。下図は、MALDI MSI後に得られた全組織切片の全体の平均質量スペクトルを示し、対応する分布が上図に示されている関心対象の3つのペプチド、m/z 3369.5、m/z3440.6及びm/z 3484.6でズームアウトしている。この図は、ペプチドが、非腫瘍領域及び腫瘍領域内の壊死領域で発現されていることを示す。これらの領域は、MALDI MSI実験後に同じ組織切片に対して行う、対応するH&E染色(上部右図)で確認される。
【
図3】好中球ディフェンシン1の質量スペクトル及び注釈付き配列。A. 3つの異なる電荷状態の損なわれていない(intact:インタクトな)好中球ディフェンシン1の完全MSスペクトル。m/z 688.91の5番目の荷電イオン(
図1、
図2及び補足資料中のMSIで得られるような質量3439.55 Da)を、ETDでの3つのシステインの架橋の還元のために選択し、CIDでの断片化のために、還元された損なわれていないペプチドを直ちに選択する。B. b型イオン、c型イオン、y型イオン及びz型イオンでの生じた断片化スペクトル。C.断片化法として、CIDとETDの両方で得られた全てのマッチするデコンボリューション断片を含む、好中球ディフェンシン1の注釈付き配列(表1もまた参照されたい。質量精度を300 ppmにセットした)。
【
図4】FFPE肺組織における平均MALDI MSI質量スペクトル中、好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び好中球ディフェンシン3が観察された。図の右側は、MALDI MSI実験後の、個々の各好中球ディフェンシンの分布を示す。
【
図5】FFPE肺癌組織に対するMALDI質量分析イメージングで得られる、免疫療法治療(ペムブロリズマブ、ニボルマブ又はアテゾリズマブ)を投与されたNSCLC患者の治療前生検の平均質量スペクトル。左:免疫療法に対する陽性反応を伴うNSCLC患者由来のFFPE組織の平均質量スペクトル。右:免疫療法治療を受けたが、この療法に臨床反応しないNSCLC患者由来のFFPE組織の平均質量スペクトル。
【
図6】MALDI MSIによって先に分析された、及び先にMALDI MSI分析されていない、FFPE組織切片に対するディフェンシン1/3抗体染色の比較。この抗体は、3つの異なるディフェンシンを区別することが不可能であることから、3つ全てを染色する。左:MALDI MSI後に得られたFFPE肺組織中の3つの好中球ディフェンシンの分布。質量スペクトルは、3つの好中球ディフェンシンを示す一方、好中球ディフェンシン1が好中球ディフェンシン2(m/z3369.5)及び好中球ディフェンシン3(m/z 3484.6)と同じ分布を示すため、MSI画像は、好中球ディフェンシン1(m/z3440.6)の分布のみを示す。MALDI MSIで得られた好中球ディフェンシンの存在を検証するため、MSI結果中にボックスで示す領域を、ディフェンシン1/3抗体で免疫組織化学染色した(上部右図)後の同じ組織領域と比較した。材料及び方法に記載するように、マトリックスをエタノールで除去し、抗体染色した後、MSI分析後のこのIHC結果を得た。先のMALDIMSI分析を伴わない、連続FFPE組織切片に対する同じIHC染色プロトコル(下図右)を比較すると、染色強度には変化はなく、MSI結果中の視覚化されたペプチドは、好中球ディフェンシン1、2及び3と同定されると結論付けることが可能である。
【
図7】好中球ディフェンシン1に対応する合成ペプチドの質量スペクトル及び注釈付き配列。A. 3つの異なる電荷状態の損なわれていない好中球ディフェンシン1の完全MSスペクトル。m/z689.31の5番目の荷電イオン(質量3441.6 Da)を、ETDでの3つの内部システインの架橋の還元のために選択する(活性化時間200 ms)。B. 生じた損なわれていないペプチドm/z 1722.77は、各システイン架橋に関して1つずつ、3つの電荷を失った。この還元ペプチドを、直ちに、CIDでの断片化のために選択する(活性化エネルギー45で70 ms)。C. b型イオン、c型イオン、y型イオン及びz型イオンでの生じた断片化スペクトル。D.断片化法として、CIDとETDの両方で得られた全てのマッチするデコンボリューション断片を含む、好中球ディフェンシン1の注釈付き配列(表A2もまた参照されたい)。
【
図8】ディフェンシン1/3抗体染色の免疫組織化学(IHC)結果の例。左はディフェンシン1/3 IHC陰性症例の例であり、右はディフェンシン1/3 IHC陽性症例の例である。倍率40倍。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で上記に言及するように、本発明は、癌が免疫療法に、特にPD-1/PD-L1アンタゴニストでの治療に反応する可能性がより高いかどうかを決定するために使用可能なバイオマーカーとして、好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び好中球ディフェンシン3より選択される抗微生物ペプチドの検証に基づく。
【0011】
好中球ディフェンシン1
好中球ディフェンシン1はまた、ディフェンシンα、DEFA1、HNP-1又はHP-1とも称される。本発明は、バイオマーカーとしての好中球ディフェンシン1を開示する。
【0012】
本発明は、免疫療法に、特にPD-1/PD-L1アンタゴニストでの治療に反応する可能性がより高い細胞に関するバイオマーカーとしての好中球ディフェンシン1を開示する。
【0013】
或る特定の限定されない実施形態において、好中球ディフェンシン1タンパク質に特異的な免疫検出試薬、限定ではないが、例えば、Thermo Fisherによって販売される抗体であるヤギIgG抗ディフェンシン1/3ポリクローナル、カタログ番号PA5-19228、Abcamによって販売される抗体であるヤギポリクローナルαディフェンシン1+2+3抗体、カタログ番号ab99504、又はその断片を用いて、好中球ディフェンシン1を検出することも可能である。
【0014】
或る特定の限定されない実施形態において、好中球ディフェンシン1タンパク質は、UniProtデータベース寄託番号P59665に示されるようなアミノ酸前駆体配列を有し、以下に配列番号1として開示される好中球ディフェンシン1、及び以下に配列番号2として開示される好中球ディフェンシン2を含む、いくつかの断片に切断される、ヒト好中球ディフェンシン1タンパク質であり得る。
ACYCRIPACIAGERRYGTCIYQGRLWAFCC(Cys1及びCys6の間、Cys2及びCys4の間、Cys3及びCys5の間にシステイン架橋)[配列番号1]
CYCRIPACIAGERRYGTCIYQGRLWAFCC(Cys1及びCys6の間、Cys2及びCys4の間、Cys3及びCys5の間にシステイン架橋)[配列番号2]
【0015】
好中球ディフェンシン2
好中球ディフェンシン2はまた、DEFA2、HNP-2又はHP-2とも称される。本発明は、バイオマーカーとしての好中球ディフェンシン2を開示する。
【0016】
本発明は、免疫療法に、特にPD-1/PD-L1アンタゴニストでの治療に反応する可能性がより高い細胞に関するバイオマーカーとしての好中球ディフェンシン2を開示する。
【0017】
或る特定の限定されない実施形態において、好中球ディフェンシン2タンパク質に特異的な免疫検出試薬、限定ではないが、例えば、Thermo Fisherによって販売される抗体、ヤギIgG抗ディフェンシン1/3ポリクローナル、カタログ番号PA5-19228、Abcamによって販売される抗体、ヤギポリクローナルαディフェンシン1+2+3抗体、カタログ番号ab99504、又はその断片を用いて、好中球ディフェンシン2を検出することも可能である。
【0018】
バイオマーカーとしての好中球ディフェンシン3
好中球ディフェンシン3はまた、ディフェンシンα3、DEFA3、HNP-3又はHP-3とも称される。本発明は、バイオマーカーとしての好中球ディフェンシン3を開示する。
【0019】
本発明は、免疫療法に、特にPD-1/PD-L1アンタゴニストでの治療に反応する可能性がより高い細胞に関するバイオマーカーとしての好中球ディフェンシン3を開示する。
【0020】
或る特定の限定されない実施形態において、好中球ディフェンシン3タンパク質に特異的な免疫検出試薬、限定ではないが、例えば、Thermo Fisherによって販売される抗体、ヤギIgG抗ディフェンシン1/3ポリクローナル、カタログ番号PA5-19228、Abcamによって販売される抗体、ヤギポリクローナルαディフェンシン1+2+3抗体、カタログ番号ab99504、又はその断片を用いて、好中球ディフェンシン3を検出することも可能である。
【0021】
或る特定の限定されない実施形態において、好中球ディフェンシン3タンパク質は、UniProtデータベース寄託番号P59666に示されるようなアミノ酸前駆体配列を有し、以下に配列番号3として開示される好中球ディフェンシン3、及び上記に配列番号2として開示される好中球ディフェンシン2を含む、いくつかの断片に切断される、ヒト好中球ディフェンシン3タンパク質であり得る。
DCYCRIPACIAGERRYGTCIYQGRLWAFCC(Cys1及びCys6の間、Cys2及びCys4の間、Cys3及びCys5の間にシステイン架橋)[配列番号3]
【0022】
検出法
本発明に記載のタンパク質バイオマーカーの局在を決定する方法には、限定されるわけではないが、免疫蛍光、免疫グロブリン媒介性アッセイ、質量分析イメージング(MSI)及び当該技術分野に知られる他の技術が含まれる。
【0023】
或る特定の限定されない実施形態において、好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び好中球ディフェンシン3より選択される抗微生物ペプチドを検出するために、MSI、特にMALDI-MSIを用いることも可能である。MALDI-MSIは、質量分析の検出能とともに分子組織学の位置情報を用いて、組織内の既知の位置に相関した質量スペクトルを生じる。MALDI質量分析イメージングは、組織切片から直接、脂質、ペプチド及びタンパク質を含む、広範囲の分析物の分布を明らかにすることが可能である。MALDIのための調製には、マトリックスと称される低分子量有機分子でコーティングされた組織切片が必要である。最も一般的に用いられるマトリックス化合物には、限定されるわけではないが、2,5-ジヒドロキシ安息香酸(DHB)、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(CHCA)、及びシナピン酸(SA)が含まれる。大部分のマトリックスは50%~60%の酸性化した有機溶媒溶液中に溶解され、該溶媒が、組織から、脂質、ペプチド及びタンパク質を、蒸発前に抽出して、マトリックスが結晶化することを可能にする。最終結果は、組織表面上での試料-マトリックス共結晶領域である。MALDIは、共結晶にレーザービームを導くことによって達成される。マトリックスは、入射レーザーエネルギーの大部分を吸収し、固形結晶から気体プルームへの爆発的遷移を引き起こし、その間、試料のイオン化が起こる。MALDIは、「ソフト」なイオン化プロセスであり、マトリックスがエネルギー吸収剤であり、タンパク質/ペプチド断片化を最小限にするため、生体分子分析に適している。MALDIイオン供給源は、典型的には、時間飛行(TOF)質量分析装置とカップリングされる。MALDIプロセス由来のイオンは、電場自由飛行領域であるTOFチューブ内で加速される。加速中に得られた動力学エネルギーは質量が増加するにつれて減少し、こうして、より重いイオンは、より緩慢に飛行するため、時間飛行が長くなる。これがTOF質量分析の基礎である。イオンが、取り付けられた検出装置にヒットしたら、レーザーイオン化から検出までの時間を用いて、m/zを得る(
図1を参照されたい)。最終結果は、強度(イオンカウント)に対するm/zのプロットであり、一般的にMSスペクトルと称される。MSIにおいて、こうしたMSスペクトルは、各スポットに1つのスペクトルで、試料全体に渡って、アレイで採取される。
【0024】
或る特定の限定されない実施態様において、好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び好中球ディフェンシン3より選択される抗微生物ペプチドを検出するため、免疫組織化学検査を用いることも可能である。例えば、第一の抗体、例えば上記抗微生物ペプチドに特異的な抗体を、試料、例えば細胞又は細胞薄層と接触させた後、洗浄して未結合抗体を除去し、次いで、第二の標識抗体と接触させることも可能である。標識は、蛍光マーカー、酵素、例えばペルオキシダーゼ、アビジン又は放射標識によるものであり得る。或る特定の実施形態において、直接検出のため、第一の抗体をフルオロフォア又は他の標識にコンジュゲート化してもよい。顕微鏡検査を用いて、標識を視覚的に分析してもよく、結果を記録してもよい。
【0025】
或る特定の実施形態において、同じ試料において、免疫組織化学検査を実行して、好中球ディフェンシンバイオマーカーの組み合わせを検出して、バイオマーカーが共局在しているかどうかを決定することも可能である。用語「共局在する」は、本明細書で用いた場合、互いに近接して存在する、好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び/又は好中球ディフェンシン3を指す。
【0026】
免疫組織化学検査で使用するために適した多様な自動化試料プロセシング、スキャン及び分析系が、当該技術分野で入手可能である。こうしたシステムには、自動染色(例えばBenchmarkシステム、Ventana Medical Systems, Inc.を参照されたい)及び顕微鏡スキャン、コンピュータ化画像分析、連続切片比較(試料の方向付け及びサイズの変動に関して管理するため)、デジタルリポート生成、並びに試料のアーカイブ化及びトラッキング(例えば、組織切片を置くスライド)が含まれ得る。細胞画像化システムが市販されており、これは慣用的な光学顕微鏡とデジタル画像プロセシングシステムを組み合わせて、免疫染色された試料を含めて、細胞及び組織に定量分析を行う。例えば、CAS-200システム(Becton, Dickinson& Co.)を参照されたい。
【0027】
本発明で使用される抗体には、検出しようとするバイオマーカーに十分に強くかつ特異的に結合する、天然又は合成、全長又はその断片、モノクローナル又はポリクローナルのいずれでもよい、任意の抗体が含まれる。抗体は、最大約10"6M、10"7M、10"8M、10"9M、10"10M、10"11M及び10"12MのKdを有し得る。句「特異的に結合する」は、例えば、結合が、同一の又は類似のエピトープ、抗原又は抗原決定基の第二の調製物で置換されるか又は競合されることが可能であるような方式で、抗体がエピトープ又は抗原又は抗原決定基に結合することを指す。
【0028】
使用可能な抗体及びその誘導体は、ポリクローナル又はモノクローナル抗体、キメラ、ヒト、ヒト化、霊長類化(primatized)(CDR移植)、ベニヤ化(veneered)又は一本鎖抗体、ファージ産生抗体(例えばファージディスプレイライブラリー由来)、並びに抗体の機能性結合断片を含む。例えばバイオマーカー又はその一部に結合可能な、限定されるわけではないが、Fv、Fab、Fab'及びF(ab')2断片を含む抗体断片を用いることも可能である。こうした断片は、酵素的切断によって、又は組換え技術によって産生可能である。例えば、限定ではなく、パパイン又はペプシン切断は、それぞれFab又はF(ab')2断片を生成可能である。必要な基質特異性を持つ他のプロテアーゼもまた、Fab又はF(ab')2断片を生成するために使用可能である。1つ以上の停止コドンが天然停止部位の上流に導入されている抗体遺伝子を用いて、多様な切除型で抗体を産生することも可能である。例えば、重鎖のCHドメイン及びヒンジ領域をコードするDNA配列を含むように、F(ab')2重鎖部分をコードするキメラ遺伝子を設計することも可能である。
【0029】
合成及び改変抗体は、例えば、Cabilly et al.、米国特許第4,816,567号、Cabilly et al.、欧州特許第0125023号;Boss et al.、米国特許第4,816,397号;Boss et al.、欧州特許第0,120,694号;Neuberger, M. S. et al.、国際公開第86/01533号; Neuberger et al.、欧州特許第0,194,276号;Winter、米国特許第5,225,539号;Winter、欧州特許第0,239,400号;Queen et al.、欧州特許第0451216号;及びPadlan et al.、欧州特許出願公開第0519596号に記載される。霊長類化抗体に関しては、Newman et al., BioTechnology, 10: 1455-1460 (1992)を、一本鎖抗体に関しては、Ladner et al.、米国特許第4,946,778号及びBird et al., Science, 242: 423-426 (1988)もまた参照されたい。
【0030】
或る特定の実施形態において、抗体以外のポリペプチドに特異的に結合する作用物質、例えばペプチドを用いることも可能である。特異的に結合するペプチドは、当該技術分野に知られる任意の手段、例えばペプチドファージディスプレイライブラリーによって、同定可能である。一般的に、バイオマーカーの存在を検出し及び/又は定量化するような、バイオマーカーポリペプチドを検出可能な作用物質を用いることも可能である。
【0031】
使用法
或る特定の限定されない実施態様において、本発明は、免疫療法によって、特にPD-1/PD-L1アンタゴニストを用いた治療において、抗癌効果が癌において生じる可能性があるかどうかを決定する方法を提供する。或る特定の実施形態において、本発明の方法は、癌又は癌試料におけるバイオマーカーとして、好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び好中球ディフェンシン3より選択される抗微生物ペプチドを検出することを含み、ここで、免疫療法の前及び/又は後に、特にPD-1/PD-L1アンタゴニストでの治療後に、バイオマーカーが癌に局在している場合、バイオマーカーが存在していない癌と比較して、該免疫療法が癌に対して抗癌効果を有する可能性がより高い。
【0032】
或る特定の実施形態において、癌におけるバイオマーカーの局在を参照試料と比較することによって、バイオマーカーの局在パターンを認識することも可能である。例えば、限定ではなく、参照試料は反応性細胞であってもよい。「反応細胞」とも称される「反応性細胞」は、有効量のPD-1又はPD-L1アンタゴニストで処理した際に、PD-1又はPD-L1アンタゴニストでの処理を伴わないレベルと比較して、限定されるわけではないが、SA-β-gal、老化関連ヘテロクロマチンフォーカス(heterochromatin foci)、及び老化関連分泌プログラムの同化作用を含む、老化表現型の1つ以上のマーカーの発現を増加させ、及び/又は核中のATRXフォーカスの数を増加させ、及び/又はMDM2タンパク質の減少を示す、癌細胞である。
【0033】
或る特定の実施形態において、参照試料は非反応性細胞であり得る。「非反応細胞」とも称される「非反応性細胞」は、反応細胞ではない癌細胞である。或る特定の限定されない実施形態において、非反応細胞は、反応細胞において老化を誘導する際に有効な量のPD-1/PD-L1アンタゴニストで処理した際に、PD-1又はPD-L1アンタゴニストでの処理を伴わないレベルと比較して、SA-β-gal、老化関連ヘテロクロマチンフォーカス、及び老化関連分泌プログラムの同化作用からなる群より選択される老化表現型の少なくとも1つのマーカー、又は少なくとも2つのマーカー、又は少なくとも3つのマーカーの発現を増加させず、及び/又は核中のATRXフォーカスの数を増加させず、及び/又は安定した又は増加したレベルのMDM2タンパク質を示す、癌細胞である。
【0034】
被験体はヒト又は非ヒト被験体であってもよい。非ヒト被験体の限定されない例には、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ブタ、家禽、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、クジラ目等が含まれる。
【0035】
抗癌効果は、凝集癌細胞塊の減少、癌細胞増殖速度の減少、癌細胞増殖の減少、腫瘍塊の減少、腫瘍体積の減少、腫瘍細胞増殖の減少、腫瘍増殖速度の減少、腫瘍転移の減少、老化癌細胞の比率の増加、再発までの期間の増加、生存の増加及び/又は腫瘍進行を伴わない生存の増加の1つ以上を意味する。
【0036】
或る特定の限定されない実施形態において、試料には、限定されるわけではないが、培養中の細胞、細胞上清、細胞溶解物及び組織試料が含まれる。試料供給源は、固形組織(例えば新鮮、凍結、及び/又は保存された臓器、組織試料、生検又は吸引物由来)、又は循環腫瘍細胞を含む、個体由来の細胞であってもよい。或る特定の限定されない実施形態において、試料は腫瘍から得られる。
【0037】
或る特定の限定されない実施形態において、本発明は、免疫療法、特にPD-1又はPD-L1アンタゴニストでの治療によって、抗癌効果が癌において生じる可能性があるかどうかを決定する方法であって、免疫療法での治療前に癌の試料を得ることと、試料において、バイオマーカーとして、好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び好中球ディフェンシン3より選択される抗微生物ペプチドを検出することとを含み、癌試料の1つ以上の細胞に1つ以上のバイオマーカーが存在する場合、免疫療法、特にPD-1又はPD-L1アンタゴニストでの治療が、バイオマーカー(複数の場合もある)が局在しない癌と比較して、癌に対する抗癌効果を有する可能性が高い、方法を提供する。
【0038】
或る特定の限定されない実施形態において、本発明は、被験体において、免疫療法、特にPD-1/PD-L1アンタゴニストでの治療によって、抗癌効果を生じる方法であって、免疫療法での被験体の治療、特にPD-1/PD-L1アンタゴニストでの治療の前後に、癌試料を得ることと、試料由来の1つ以上の癌細胞において、好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び好中球ディフェンシン3より選択される1つ以上のバイオマーカーを検出することとを含み、バイオマーカー(複数の場合もある)が試料由来の1つ以上の癌細胞に局在している場合、免疫療法での被験体の治療を開始する、特に療法的有効量のPD-1又はPD-L1アンタゴニストでの被験体の治療を開始する、方法を提供する。或る特定の実施形態において、この方法は、1つ以上の癌細胞において、好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び好中球ディフェンシン3より選択される少なくとも1つのバイオマーカーを検出することを含み、上記バイオマーカーの1つが1つ以上の癌細胞に存在する場合、免疫療法での被験体の治療、特に療法的有効量のPD-1又はPD-L1アンタゴニストでの被験体の開始治療を開始する。或る特定の実施形態において、バイオマーカーの前述の組み合わせの存在を試験することも可能であり、バイオマーカータンパク質又はmRNAのレベルを参照反応細胞又は非反応細胞と比較することも可能であり(ここで、非反応細胞よりも反応細胞において、より高いレベルが見られる)、免疫療法、特にPD-1/PD-L1アンタゴニスト療法を実施するかどうかを決定する際に、この結果を考慮することも可能である。或る特定の限定されない実施形態において、好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び好中球ディフェンシン3より選択されるバイオマーカー(複数の場合もある)がいずれも、PD-1又はPD-L1アンタゴニストでの治療の前後に、1つ以上の癌細胞に局在しないならば、癌細胞が由来する被験体を、別の様式、例えば代替化学療法剤、生物学的抗癌剤、又は放射療法で治療するべきである。療法的有効量は、抗癌効果、生存延長及び/又は再発までの期間の延長の1つ以上を達成可能である量である。
【実施例】
【0039】
以下において、抗癌治療としての免疫療法に付随する診断マーカーとしてのAMPの特徴づけ及びその検証を導く、方法及び結果を記載する。
【0040】
材料及び方法
材料
アセトニトリル、メタノール及び水(LC-MS等級)をBiosolve(Valkenswaard、The Netherlands)より購入した。エタノール及び2,5-ジヒドロキシ安息香酸(DHB)をMerck(Overijse、Belgium)より購入した。ギ酸、トリフルオロ酢酸、ディフェンシン1/3ポリクローナルヤギ抗体及びIFNγヒト非コーティングELISAキットをThermo Fisher Scientific(Merelbeke、Belgium)より購入した。ヘキサン、キシレン及び過酸化水素を、ThermoFisher Acros Organics(Geel、Belgium)より購入した。ヘマトキシリン&エオジン染色キット、Quick-Dマウント媒体及びホルムアルデヒドをKlinipath(Olen、Belgium)より購入し、一方、ImmPRESS HRP抗ヤギ抗体ポリマー検出キット(正常ウマブロッキング血清及び二次抗ヤギ抗体;Vectorlabs)をLabconsult(Schaarbeek、Belgium)より得た。好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び好中球ディフェンシン3に対応する合成ペプチドを、Synpeptide Co., Ltd(Shanghai、China)より得た。
ペルオキシダーゼ基質
クエン酸緩衝液
【0041】
患者及び免疫療法治療
方法を最適化するために本公報において用いる、新鮮凍結及びホルマリン固定パラフィン包埋両方のヒト生物学的材料は、Biobank@UZA(Antwerp、Belgium;ID:BE71030031000); National Cancer Planによって資金援助されたBelgianVirtual Tumorbankによって提供された(非特許文献35)。本発明者らは、アントワープ大学病院の病理科から、27の治療前NSCLC(腫瘍組織)ホルマリン固定パラフィン包埋生検を得た。これらの患者は、PD-1アンタゴニスト(ペムブロリズマブ(14人の患者、51.9%)又はニボルマブ(11人の患者、40.7%))又はPD-L1アンタゴニスト(2人の患者、アテゾリズマブ(7.4%))で治療され、11人(40.7%)が免疫療法に陽性反応を有する一方、16人(59.3%)は治療後に臨床的利益を得なかった。この研究は、アントワープ大学病院の倫理委員会によって認可された。各生検に関して、MSI分析のため、1つのITOコーティングスライドガラス上に2つの組織片を収集し、それぞれ、H&E染色及び免疫組織化学分析のため、2つの連続組織片を収集した。腺癌(14人の患者)、扁平上皮癌(5人の患者)及び巨細胞癌(2人の患者)という3つのタイプのNSCLC型を研究に含めた。6人の患者に関しては、NSCLC腫瘍の診断は得られていない。
3タイプのNSCLC
【0042】
新鮮凍結組織切片作製及び調製
新鮮凍結ヒト肺癌組織を収集し、LEICA CM1950UVクリオスタット上で組織切片作製を行って、14 μm厚の組織片を得た。最適カッティング温度(optimal cuttingtemperature)(OCT)コンパウンドを避けるため、組織を水滴でクリオスタットホルダーに取り付けた。組織切片を酸化インジウムスズ(ITO)コーティングスライドガラス(Bruker Daltonik GmBH、Bremen、Germany)上に融解マウント(thaw-mounted)し、使用まで-80℃で保存した。Carnoy洗浄法に従って組織切片を処理した:70% EtOH中、30秒間の第一のリンス工程、その後、100% EtOH中で30秒間、Carnoy液(EtOH:酢酸:水(90:9:1 v:v:v))中で90秒間、その後、100% EtOH中で30秒間の最終リンスパート。全てのリンス処置後、スライドガラスを傾けて、溶媒除去を最大限にした。最後のリンスパート後、30分間の真空乾燥工程を行った後、SunCollect圧縮空気噴霧器(SunChrom、Friedrichsdorf、Germany)を用いることによって、12層のDHBマトリックス(60/0.1(v/v)アセトニトリル/トリフルオロ酢酸中、40 mg/mL)のマトリックス沈着を行った。最後に、0.5 μlのペプチド較正標準(Bruker Daltonik GmBH、Bremen、Germany)を、外部較正のため、マトリックス層の最上部、組織切片の隣にスポットした。
【0043】
質量分析イメージング
SmartBeam 3Dレーザーを装備した単一TOFモードのrapifleX tissuetyper(Bruker Daltonik GmBH、Bremen、Germany)で、MALDIMSIデータを獲得した。質量スペクトルは、90%レーザー強度の1000の個々のレーザーショットの総計であった。質量スペクトルペプチドミクス(m/z範囲800 Da~5 kDa)画像は、3005 Vのリフレクター電圧、0.63 GS/sのサンプルレート、50 μmのレーザー解像度及び50 μm×50 μmのラスター幅のポジティブリフレクターモードで得られた。全てのスペクトルを、ベースライン減算のためTop Hatベースラインアルゴリズムで前処理し、イオン画像の生じた全体平均スペクトルを、外部較正標準を用いたflexAnalysis 4.0での再較正後、flexImaging 5.0(Bruker Daltonik GmBH、Bremen、Germany)でTIC正規化する。結果を、SCiLS lab 2016b(Bruker Daltonik GmBH、Bremen、Germany)及びRソフトウェア(Cardinal)で更にプロセシングする(非特許文献36)。
【0044】
ペプチド同定
MSI標的を同定するため、メタノール:水:ギ酸(90:9:1 v:v:v)からなるペプチド抽出溶媒中に、小さい肺組織ブロックを収集し、氷上で30分間振盪した。全抽出法中、試料を氷上で維持した。まず、ペプチド試料を棒状超音波処理装置で各15秒間、2回、超音波処理した(BransonSonifier SLPe細胞破壊装置)。4℃、14000rcfで15分間遠心分離した後、上清を収集し、真空遠心分離濃縮装置(Savant SPD1010 SpeedVac Concentrator、Thermo Scientific)を用いることによって、メタノールを蒸発させることができた。n-ヘキサンでの再抽出によって脂質を除去した。残りの水性画分から、ultra-0.5mL 10 K遠心分離フィルターデバイス(Merck)を用いてペプチドを濃縮し、製造者の手順に従ってPierce C18スピンカラム(Thermo Scientific)を用いた固相抽出によって、脱塩を行った。真空遠心分離濃縮装置を用いて、溶出試料を再び乾燥させ、LC-MS/MS分析まで、試料ペレットを-20℃で保存した。
【0045】
ペプチド(酵素消化を伴わない、損なわれていないもの)を含有する乾燥画分(複数の場合もある)を15 μL移動相A(HPLC等級水、ギ酸0.1%中、2%アセトニトリル)に溶解した後、Acclaim PepMap RSCL C18分析カラム(2 μm粒径;100Å細孔径;50 μm×15 cm、Thermo Scientific)に連結されたAcclaim PepMapトラップカラム(3 μm粒径;100Å細孔径;75 μm×20 mm、Thermo Scientific)を用いて、nanoAcquity UPLCシステム(Waters、Milford、MA)上で逆相C18(RP-C18)液体クロマトグラフィによって分離した。400 nL/分の流速で、移動相B(98%アセトニトリル及び2%水中、0.1%ギ酸)の線形勾配を5%移動相B、2分間で開始した後、50分間で5%から45%の移動相Bに急減に増加させ、その後、3分間で45%から90%移動相Bにし、更に2分間維持し、その後、更に2分間で90%から1%の移動相Bに減少させ、更に10分間維持した。
【0046】
ナノスプレーFlexイオン供給源(Thermo Fisher、Waltham、MA、USA)を装備したLTQ Velos Orbitrap質量分析装置にて、3つの関心対象の抗微生物ペプチドの同定を行った。この高解像度質量分析装置を、データ依存性獲得モード、1×105のオートゲインコントロール(AGC)ターゲットでセットアップし、最大注入を500 msにセットした。ETDスキャンの前駆イオンを、データ依存性獲得モードにて3の単離ウィンドウ幅で単離した。ETDでのこの単離イオンの還元のための活性化時間は200 msであり、CID中、45%の正規化衝突エネルギー(70msの活性化時間)で、CID MS3工程における更なるCID断片化のため、還元されたイオンを選択した(4の単離ウィンドウ)。選択されたイオンの断片化スペクトルをXcaliber(Thermo Fisher、Waltham、MA、USA)に示し、Prosight liteで実行する手動デノボ配列決定のため、断片の質量及び対応する強度をCSVファイルとしてエクスポートした(非特許文献37)。セッティングは、イオントラップモード用の300 ppm質量精度であった。Uniprotヒトデータベースで配列を得た。
【0047】
MSI分析用のFFPE組織切片作製及び調製
ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)ヒト肺癌組織を収集し、ミクロトーム上で組織切片作製を行って、5 μm厚の組織片を得た。パラフィンリボンをブラシで室温のdH2O槽に入れた後、47℃~50℃の水槽に入れた。次いで、浮かんだパラフィンリボン切片を酸化インジウムスズ(ITO)コーティングスライドガラス(Bruker Daltonik GmBH、Bremen、Germany)上にマウントし、少なくとも8時間、37℃の加温表面上で乾燥させた(非特許文献38)。組織切片は数ヶ月、室温で保存可能である。各患者試料に関して、2つの組織切片を1枚のITOコーティングスライドガラス上に収集した。
【0048】
MALDI MSIでFFPE組織切片中の3つの好中球ディフェンシンを視覚化するため、キシレン中に5分間浸すことによって、組織切片を脱パラフィン化した。この工程を新鮮なキシレン中で更に5分間反復する。段階的な一連のエタノール中に浸す(100%(vol/vol)エタノール中に各1分間2回、95%(vol/vol)エタノールに1回及び70%(vol/vol)エタノールに1回、各工程1分間)ことによって、組織切片の再水和を行った。最後のリンス工程は、Milli-Q精製水中、3分間の洗浄工程2回であった。スライドガラスを30分間風乾させた。
【0049】
マトリックス沈着には、中程度の噴霧器速度(900 mm/分)で、SunCollect圧縮空気噴霧器(SunChrom、Friedrichsdorf、Germany)を用いることによる、12層のDHBマトリックス(60/0.1(v/v)アセトニトリル/トリフルオロ酢酸中、40 mg/mL)が含まれた。最後に、0.5 μlのペプチド較正標準(Bruker Daltonik GmBH、Bremen、Germany)を、外部較正のため、マトリックス層の最上部、組織切片の隣にスポットした。
【0050】
質量分析イメージング
SmartBeam 3Dレーザーを装備した単一TOFモードのrapifleX tissuetyper(Bruker Daltonik GmBH、Bremen、Germany)で、MALDIMSIデータを獲得した。質量スペクトルは、95%レーザー強度の1000の個々のレーザーショットの総計であった。質量スペクトル好中球ディフェンシン(m/z範囲2400 Da~5800 Da)画像は、3570 Vの線形電圧、0.63 GS/sのサンプルレート、100 μmのレーザー解像度及び100 μm×100 μmのラスター幅のポジティブ線形モードで得られた。全てのスペクトルを、ベースライン減算のためTop Hatベースラインアルゴリズムで前処理し、イオン画像の生じた全体平均スペクトルを、FlexImaging 5.0(Bruker Daltonik GmBH、Bremen、Germany)でTIC正規化し、SCiLS lab 2016b(Bruker Daltonik GmBH、Bremen、Germany)及びRソフトウェア(Cardinal)で更にプロセシングする(非特許文献36)。
【0051】
H&E染色
全ての組織生検に関して、1つの切片を、慣用的なプロトコルに従って、ヘマトキシリン及びエオジン(H&E)染色した(非特許文献39)。先にMSI分析した組織切片に関しては、70%(vol/vol)エタノールでマトリックスを除去した後、真空乾燥装置を用いて組織を乾燥させた。次いで、組織切片をAFA(アルコール、ホルマリン及び酢酸の組み合わせ)固定した後、5分間ヘマトキシリン染色し、エオジン染色を30秒間行った。段階的な一連のエタノール(70%(vol/vol)、2×95%(vol/vol)、100%(vol/vol))中、及び100%(vol/vol)キシレン中で更に30秒間、組織切片をリンスした。カバーガラスにQuick-Dマウント溶媒でマウントした。観察領域の確認のため、アントワープ大学病院(UZA)の病理医によって、この方式で組織切片を再評価した。
【0052】
好中球ディフェンシンの免疫組織化学検査
好中球ディフェンシンの免疫組織化学検査を、ディフェンシン1/3ポリクローナルヤギ抗体で行った。先にMALDI MSIによって分析されていない連続肺FFPE標本を、まず、60℃で2時間インキュベーションし、続いてキシレン中で脱パラフィン処理し、連続エタノール溶液及び水中で再水和した。MSI分析後の組織切片のマトリックス層を70%(vol/vol)エタノールによって除去した。96℃で20分間、クエン酸緩衝液(高pH?)中でインキュベーションすることによって、熱誘導性抗原賦活化(HIER)で、全ての組織切片の抗原アンマスキングを行った。3.5%過酸化水素で10分間処理することによって、内因性ペルオキシダーゼ活性を不活性化し、2.5%正常ウマブロッキング血清中、20分間で、非特異的結合をブロッキングした。最終1/100希釈の一次抗体のインキュベーションを、加湿チャンバー中、室温で1時間続けた後、HRPコンジュゲート化抗ヤギ二次抗体と30分間インキュベーションした。試料をペルオキシダーゼ基質で5分間染色し、ヘマトキシリンで対比染色し、脱水し、マウントした。陽性及び陰性対照の両方を含めた。
【0053】
結果
予測性バイオマーカー発見のためのMALDI質量分析イメージング
本発明者らは先に、内因性ペプチドミクスプロファイル(m/z範囲800 Da~5000 Da)に基づいて、MALDI質量分析イメージング(MSI)が、これらの分析物の非局在化を引き起こすことなく、NSCLC腫瘍微小環境を視覚化する強力なツールとして認識されてきていることを立証している(非特許文献24)。予め定義された順序で測定を行う利点により、個々のm/zピーク全ての分布を分析することが可能になり、したがって、組織試料中に存在する全ての生体分子の分布が分析可能になる。腫瘍対非腫瘍領域におけるペプチドの示差発現分析によって、2つの関心対象のペプチド、m/z 3369.5及びm/z 3440.6が明らかになった。これらは、ヒト扁平上皮癌の新鮮凍結肺組織生検例である
図1に示されるように、非腫瘍領域で高発現し、非腫瘍及び腫瘍領域の間の相互作用境界で非常に高発現し、最後に更に腫瘍領域中では非常に低い発現から発現がなくなる、特異的な分布を示す。
【0054】
新鮮凍結肺組織腺癌例において、扁平上皮癌で同定された2つのペプチドに加えて、類似の分布を持つ第三のペプチドm/z 3484.6が観察された(
図2を参照されたい)が、相互作用境界での発現は、
図1におけるほど高くはなかった。さらに、これらの3つのペプチドが高発現する3つのスポットが腫瘍領域中で観察され、これらの領域は壊死領域であり、
図2のH&E染色でズームアウトされている。
【0055】
関心対象のペプチドは、好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び好中球ディフェンシン3と同定される
関心対象のこれらの3つのペプチドの同定は、本発明者らが他のMALDI MSI標的の同定のために以前行っていたようなトップダウンのペプチドミクスでは不可能であった(非特許文献24)。これらのペプチドの前駆体を選択したが、対応する断片化スペクトルは獲得不能であり、これはおそらく、正しいフォールディング及びペプチド又はタンパク質安定のため、しばしば起こる翻訳後修飾(PTM)であるジスルフィド結合のためであった(非特許文献40)。
【0056】
MALDI MSIで観察される損なわれていない分子のm/z値の直接関連を複雑にする還元及びアルキル化工程を回避するため、本発明者らは、MS2スキャンにおいて、電子移動解離(ETD)を伴う高解像度質量分析装置内で、ジスルフィド架橋含有ペプチドを還元する方法を開発した(補足資料の更なる詳細を参照されたい)が、これはETDがジスルフィド結合切断を誘導可能であると立証されているためである(非特許文献40~42)。次いで、信頼し得る同定に向けて、衝突誘起解離(CID)での断片化のために、生じた、還元された損なわれていないペプチドを直ちに選択した(
図3b及び
図3cを参照されたい)。断片は、CID断片化によって得られるbイオン及びyイオン、並びにETD断片化によって得られるcイオン及びzイオンの混合物であり得る。観察された断片と理論的断片とのマッチングを、デコンボリューション断片化スペクトルに関して300 ppm質量精度で、Prosight lite(非特許文献37)で行い、これはイオントラップモードで得られる断片化データには十分である。この方式で、本発明者らは、
図3及び表1に示すように、m/z3440.6を好中球ディフェンシン1と同定した。これらの知見は、好中球ディフェンシン1に対応する合成ペプチドで確認された(データを
図7に示す)。関心対象の2つの他のペプチドは、同じ方式で、好中球ディフェンシン2及び3と同定された(DEFA2及びDEFA3の注釈付きデコンボリューション断片のリストを以下の表2及び表3に示す)。これらの3つのペプチドは、単一アミノ酸でのみ互いに異なる。
【0057】
表1.イオントラップモードに関して低い質量精度に適応させるため、300 ppm質量精度で、Prosight liteにて行った、好中球ディフェンシン1に整列された、注釈付きデコンボリューション断片(bイオン、cイオン、yイオン及びzイオンの混合物)のリスト
【表1】
【0058】
表2.イオントラップモードに関して低い質量精度に適応させるため、300 ppm質量精度で、Prosight liteにて行った、好中球ディフェンシン2に整列された、肺癌組織試料中の注釈付きデコンボリューション断片(bイオン、cイオン、yイオン及びzイオンの混合物)のリスト
【表2】
【0059】
表3.イオントラップモードに関して低い質量精度に適応させるため、300 ppm質量精度で、Prosight liteにて行った、好中球ディフェンシン3に整列された、肺癌組織試料中の注釈付きデコンボリューション断片(bイオン、cイオン、yイオン及びzイオンの混合物)のリスト
【表3】
【0060】
同定された好中球ディフェンシン1、2及び3は、ヒトαディフェンシン1、2及び3又はヒト好中球ペプチド(HNP)1、2及び3としても知られ、いわゆる抗微生物ペプチド(AMP)に属する(非特許文献43、44)。このペプチドファミリーのメンバーは、主に細菌に関して、細胞傷害性であることが知られ、微生物侵入に対する反応として、好中球顆粒から産生され放出されて、細菌細胞及び/又はウイルスと闘い、これらを除去する(非特許文献43)。本研究に関してより興味深いことに、好中球ディフェンシン1は、腫瘍内で発現された場合、腫瘍壊死と関連し(
図5も参照されたい)、このため、この内因性ペプチドは、癌における潜在的な予後バイオマーカーとなる(非特許文献43~46)。好中球ディフェンシン1の発現による腫瘍血管形成の阻害も報告されている(非特許文献44)。3つの同定された好中球ディフェンシンはまた、ディフェンシン過剰発現が、タキサンに基づくネオアジュバント療法に対する乳癌患者の反応と関連しているため、反応の潜在的な分子マーカーとしても示唆されている(非特許文献47)。この研究による最も重要な仮定は、ヒト癌におけるディフェンシン遺伝子のホモ接合性欠失であり、これはイピリムマブ(抗CTLA-4免疫療法)耐性に関連する(非特許文献48)。
【0061】
これらの興味深い仮定、及び本発明者らが観察した肺組織内の好中球ディフェンシンの非常に特異的な局在を考慮すると、NSCLC患者における抗PD-1/PD-L1免疫療法(ペムブロリズマブ、ニボルマブ及びアテゾリズマブ)反応との潜在的な関係を評価する更なる生理学的研究が必要である。
【0062】
免疫療法治療反応に関する治療前バイオマーカーとしての好中球ディフェンシン
NSCLC患者におけるこれらの好中球ディフェンシン及び抗PD-1/PD-L1免疫療法反応の間の潜在的な関係を評価するため、免疫療法で治療するNSCLC患者の治療前生検に対して、AMPプロファイリングを行った。これまで、MALDI MSIデータは、この研究において、新鮮凍結肺組織生検に限定されており、これは、損なわれていない免疫関連因子の視覚化が関心対象であるためである。タンパク質の分子間及び分子内架橋の形成のため、損なわれていないペプチド及びタンパク質の分析は、ホルマリン固定によって、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)肺組織生検では困難となっている(非特許文献49)。しかし、FFPE組織標本では、組織学的及び形態学的完全性が保持されるため、これらのタイプの組織は病理学的分析に適している(非特許文献50)。さらに、FFPE組織ブロックは、品質低下なしに、室温で長期保存可能であり、これによって、患者の大きなコホートに由来する治療前生検のアーカイブが得られている(非特許文献51)。同定される好中球ディフェンシンは、比較的小さく、これらの損なわれていない3つのAMPのFFPE肺組織生検における視覚化は、最小限の試料調製工程後に可能であり(
図4を参照されたい)、パラフィンをキシレンによって除去し、組織再水和を段階的な一連のエタノールで行った(非特許文献38)。臨床試料調製工程は、FFPE組織の組織片作製に関与し、ここで、5 μm厚の組織片を、37℃で少なくとも8時間の加熱工程中、ITOスライドに付着させた。3つの好中球ディフェンシンで生じた平均質量スペクトルを
図5に示すとともに、各好中球ディフェンシンの分布を個々に示す。
【0063】
この注目すべき転帰によって、治療として免疫療法を受けたNSCLC患者の27のFFPE腫瘍生検(Biobank@UZA)の入手が可能となった。これらの2つの患者コホート内の全ての患者に関して、免疫療法の臨床転帰が評価された。各FFPE腫瘍生検の平均MALDI MSIプロファイルを
図5に示し、免疫療法治療に対する11人の反応性患者及び16人の非反応性患者由来のこれらの平均MALDI MSIスペクトルを、好中球ディフェンシン1、好中球ディフェンシン2及び好中球ディフェンシン3の存在又は非存在に関して比較した。この図は、反応者の生検におけるAMPの存在、及び非反応者の生検におけるその非存在を示す。
【0064】
免疫組織化学染色(IHC)でのバイオマーカーの検証
本発明者らは未だ、FFPE組織切片から直接、ペプチド及びタンパク質を同定する方法を発展させていなかったため、本発明者らは、免疫組織化学分析(IHC)で、得られたMALDI MSI結果を検証した。ディフェンシン1/3ポリクローナル抗体を用いて、好中球ディフェンシンの免疫組織化学検査を行ったが、3つの好中球ディフェンシンは単一アミノ酸でしか互いに異ならず、抗体はこのペプチド内の1つのみの小さい特異配列に対応するため、該抗体は3つの好中球ディフェンシンを区別できない。MALDI MSIでは、本発明者らは、アミノ酸組成の相違による質量の相違に基づいて、3つの異なる好中球ディフェンシンを区別可能である。
【0065】
免疫組織化学研究は、陽性対照におけるこれらの好中球ディフェンシン(の1つ)の存在を示す一方、好中球ディフェンシン陰性対照では、好中球ディフェンシンの染色は全く観察されなかった(
図8を参照されたい)。
【0066】
本発明者らは、
図5において、先にMALDI MSIで分析されたFFPE組織切片に対して、アルコール洗浄でマトリックスを除去した後にIHCが実行可能であることを示している。また、同じIHCプロトコルを、先にMSI分析されなかった連続FFPE組織切片に対しても行った。ここから、本発明者らは、先のMSI分析を伴う及び伴わない組織切片に対して行ったIHCを比較すると染色強度に変化がないと結論付けることが可能である。この注目すべき結果は、治療前組織標本はわずかであり得るため、組織材料の更なる消費を伴わずに、ペプチド/タンパク質情報をマッチさせる大きな潜在能力を有する(非特許文献34)。この研究のための別のより重要な利点は、MALDI MSI後に得られるペプチド結果の信頼され得る検証である。この方式で、
図6の上部部分に提示するように、高い好中球ディフェンシン発現を有する非常に特異的なMSI領域に、MALDI MSIで先に分析したFFPE組織上のディフェンシン1/3ポリクローナル抗体での染色後に得られたIHC領域を重層することも可能である。
【0067】
この方式で、本発明者らは、好中球ディフェンシンの存在又は非存在に関して各腫瘍生検を検証し(データ未提示)、病理医が、腫瘍細胞及び免疫細胞の両方に対し、好中球ディフェンシンの存在又は非存在に関して、各腫瘍治療前生検を検証した(表4)。
【0068】
表4. IHCで決定した個々の各NSCLC患者の好中球ディフェンシン陽性細胞の割合
【表4】
【0069】
本発明者らがこれらのデータに対してマン-ホイットニーU検定を行うと、実際、好中球ディフェンシン陽性腫瘍細胞のパーセント及び免疫療法に対する反応の間に有意な関連が示された(p=0.027)。この関連はまた、好中球ディフェンシンが免疫細胞上で発現されている際にも観察された(p=0.043)。
【0070】
本発明者らは、免疫療法反応者及び非反応者群において、好中球ディフェンシン発現パーセントに関して、受信者動作特性(ROC)曲線を構築した。反応者の検出に関する最適感度及び特異度を、1.75%のカットオフで得た。このカットオフ値に基づいて、好中球ディフェンシン発現は、腫瘍又は免疫細胞上で、少なくとも2%の発現がある場合、陽性と見なされた。この新規陽性パーセントで、χ2検定は、腫瘍細胞(p=0.01)及び免疫細胞(p=0.031)に基づいて、反応及び非反応NSCLC患者の間で更により有意な相違を明らかにした。
【0071】
PD-L1及びバイオマーカーとしての3つの好中球ディフェンシンを組み合わせて用いると、本研究に含まれた患者(総数25人のNSCLC患者)の16%のみが、誤って階層化された一方、PD-L1発現を単一の予期バイオマーカーとして用いると、64%が反応者と誤って階層化された。免疫療法を受けたNSCLC患者において、MSI及びIHCの両方を用いることによって療法反応を測定することは、したがって、より情報価値がある療法決定及び投与に大きく寄与し、より優れた臨床反応を生じ、かつ臨床的に反応しないであろう患者における不要なコスト及び毒性を回避する。
【0072】
臨床病理特性と好中球ディフェンシン発現の関連
それぞれ、腫瘍及び免疫細胞上の少なくとも2%の好中球ディフェンシン発現の前述の陽性パーセントを用いて、本発明者らは、他の臨床病理特性との関連を確認した。結果を表5に要約し、実際、現在の25の試料セットについて療法反応に対する強い関連が示されるのみであったが、この少数の試料であっても、好中球ディフェンシン発現を、NSCLC患者の組織学的タイプ及び病期と関連付け可能であると示される。
【0073】
本発明者らは、好中球ディフェンシンと臨床病理特性のこれらの更なる関連を確証するため、アントワープ大学病院の更なる組織生検試料を利用し、現在の試料セットを拡大する。さらに、アントワープ大学病院を通じて、本発明者らは、黒色腫、乳癌患者、膀胱癌(尿路上皮癌)及び頭頚部扁平上皮癌組織を含む生検試料を利用して、これによって、本発明者らは、本研究を、やはり抗PD-(L)1免疫療法で治療可能な、更なる癌タイプに拡張することが可能になり、好中球ディフェンシンは、少なくとも、療法反応に関する予測バイオマーカーとして作用すると期待される。
【0074】
表5. 臨床病理特性と好中球ディフェンシン発現の関連
【表5】
【0075】
図面訳
図1
Tumor 腫瘍
Relativeintensities 相対強度
Mass-to-Charge 質量電荷比
図2
Tumor 腫瘍
Necrosis 壊死
Relative intensities 相対強度
Mass-to-Charge 質量電荷比
図3
Full MS 完全MS
RelativeAbundance 相対存在量
MS3-Fragmentationwith CID of reduced intact peptide (with ETD) MS3-(ETDで)還元された損なわれていないペプチドのCIDでの断片化
図4
Neutrophildefensin 2 好中球ディフェンシン2
Neutrophildefensin 1 好中球ディフェンシン1
Neutrophildefensin 3 好中球ディフェンシン3
Relativeintensities 相対強度
Mass-to-Charge 質量電荷比
図5
Nonresponders 非反応者
Responders 反応者
RelativeIntensities 相対強度
Mass-to-Charge 質量電荷比
図6
IHC staining ofneutrophil defensins on FFPE tissues previously MALDI MSI analyzed 先にMALDI MSI分析されたFFPE組織に対する好中球ディフェンシンのIHC染色
IHC staining ofneutrophil defensins on FFPE tissues without prior MALDI MSI analysis 先にMALDI MSI分析されていないFFPE組織に対する好中球ディフェンシンのIHC染色
MSI result MSI結果
Relativeintensities 相対強度
Mass-to-Charge 質量電荷比
図7
Full MS 完全MS
MS2-Reductionof intact peptide with ETD MS2-ETDでの損なわれていないペプチドの還元
RelativeAbundance 相対存在量
MS3-Fragmentationwith CID of reduced intact peptide MS3-還元された損なわれていないペプチドのCIDでの断片化
【国際調査報告】