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特表2022-547793燃料電池スタックの1つまたは複数の金属コンポーネントをコーティングする方法、燃料電池スタックのコンポーネント、および燃料電池スタックの1つまたは複数のコンポーネントをコーティングする装置
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  • 特表-燃料電池スタックの1つまたは複数の金属コンポーネントをコーティングする方法、燃料電池スタックのコンポーネント、および燃料電池スタックの1つまたは複数のコンポーネントをコーティングする装置 図1
  • 特表-燃料電池スタックの1つまたは複数の金属コンポーネントをコーティングする方法、燃料電池スタックのコンポーネント、および燃料電池スタックの1つまたは複数のコンポーネントをコーティングする装置 図2
  • 特表-燃料電池スタックの1つまたは複数の金属コンポーネントをコーティングする方法、燃料電池スタックのコンポーネント、および燃料電池スタックの1つまたは複数のコンポーネントをコーティングする装置 図3
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  • 特表-燃料電池スタックの1つまたは複数の金属コンポーネントをコーティングする方法、燃料電池スタックのコンポーネント、および燃料電池スタックの1つまたは複数のコンポーネントをコーティングする装置 図6
  • 特表-燃料電池スタックの1つまたは複数の金属コンポーネントをコーティングする方法、燃料電池スタックのコンポーネント、および燃料電池スタックの1つまたは複数のコンポーネントをコーティングする装置 図7
  • 特表-燃料電池スタックの1つまたは複数の金属コンポーネントをコーティングする方法、燃料電池スタックのコンポーネント、および燃料電池スタックの1つまたは複数のコンポーネントをコーティングする装置 図8
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  • 特表-燃料電池スタックの1つまたは複数の金属コンポーネントをコーティングする方法、燃料電池スタックのコンポーネント、および燃料電池スタックの1つまたは複数のコンポーネントをコーティングする装置 図10
  • 特表-燃料電池スタックの1つまたは複数の金属コンポーネントをコーティングする方法、燃料電池スタックのコンポーネント、および燃料電池スタックの1つまたは複数のコンポーネントをコーティングする装置 図11
  • 特表-燃料電池スタックの1つまたは複数の金属コンポーネントをコーティングする方法、燃料電池スタックのコンポーネント、および燃料電池スタックの1つまたは複数のコンポーネントをコーティングする装置 図12
  • 特表-燃料電池スタックの1つまたは複数の金属コンポーネントをコーティングする方法、燃料電池スタックのコンポーネント、および燃料電池スタックの1つまたは複数のコンポーネントをコーティングする装置 図13
  • 特表-燃料電池スタックの1つまたは複数の金属コンポーネントをコーティングする方法、燃料電池スタックのコンポーネント、および燃料電池スタックの1つまたは複数のコンポーネントをコーティングする装置 図14
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-16
(54)【発明の名称】燃料電池スタックの1つまたは複数の金属コンポーネントをコーティングする方法、燃料電池スタックのコンポーネント、および燃料電池スタックの1つまたは複数のコンポーネントをコーティングする装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20221109BHJP
   H01M 8/0228 20160101ALI20221109BHJP
   H01M 8/0213 20160101ALI20221109BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALI20221109BHJP
   H01M 8/0276 20160101ALI20221109BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C23C14/06 F
H01M8/0228
H01M8/0213
H01M8/0206
H01M8/0276
H01M4/88 K
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022508955
(86)(22)【出願日】2020-08-10
(85)【翻訳文提出日】2022-02-14
(86)【国際出願番号】 EP2020072423
(87)【国際公開番号】W WO2021028399
(87)【国際公開日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】19191663.4
(32)【優先日】2019-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19201781.2
(32)【優先日】2019-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507065913
【氏名又は名称】アイエッチアイ ハウザー テクノ コーティング ベー.フェー.
【氏名又は名称原語表記】IHI Hauzer Techno Coating B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】ルード ヤコブス
(72)【発明者】
【氏名】ケンジ フチガミ
(72)【発明者】
【氏名】ロエル ボッシュ
(72)【発明者】
【氏名】デイブ ドアワルド
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ イミッチ
【テーマコード(参考)】
4K029
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029AA24
4K029BA02
4K029BA07
4K029BA11
4K029BA17
4K029BA34
4K029BA58
4K029BB02
4K029BB10
4K029CA01
4K029CA03
4K029CA05
4K029CA13
4K029DB02
4K029DC02
4K029DC39
4K029DD06
4K029EA09
4K029JA02
4K029KA01
4K029KA09
5H018BB01
5H018BB07
5H018BB16
5H018EE01
5H018EE02
5H018EE05
5H018HH00
5H018HH02
5H018HH03
5H018HH05
5H018HH06
5H126AA12
5H126AA13
5H126DD05
5H126DD14
5H126GG01
5H126GG02
5H126GG05
5H126HH01
5H126HH04
5H126HH10
5H126JJ00
5H126JJ02
5H126JJ03
5H126JJ05
5H126JJ06
5H126JJ10
(57)【要約】
本発明は、バイポーラプレート、電極、ガスケットなどの、燃料電池スタックの1つまたは複数の金属コンポーネントをコーティングする方法に関し、当該方法は、未コーティングの金属コンポーネントを提供するステップと、前記未コーティングの金属コンポーネントをエッチングするステップと、前記エッチングされた未コーティングの金属コンポーネント上に接着層を任意選択で堆積するステップと、前記接着層上に、または前記エッチングされた未コーティングの金属コンポーネント上に炭素コーティングを堆積するステップとを含み、前記接着層と前記炭素コーティングはそれぞれ、物理蒸着工程、アークイオンめっき工程、スパッタリング工程、およびHiPIMS工程のうちの1つを用いて堆積される。本発明はさらに、燃料電池スタックのコンポーネントと、燃料電池スタックの1つまたは複数のコンポーネントをコーティングする装置とに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイポーラプレート、ハーフプレート(10’)、電極、ガスケットなどの、燃料電池スタックの1つまたは複数のコンポーネント(10)をコーティングする方法であって、
‐未コーティングの金属コンポーネント(12)を提供するステップと、
‐前記未コーティングの金属コンポーネント(12)をエッチングするステップと、
‐物理蒸着工程、アーク物理蒸着工程、アークイオンめっき工程、スパッタリング工程、およびHiPIMS工程のうちの1つを用いて、前記エッチングされた未コーティングの金属コンポーネント(12)上に接着層(14)を任意選択で堆積するステップと、
‐前記接着層(14)を設けた場合は該接着層(14)上に、または前記エッチングされた未コーティングの金属コンポーネント(12)上に直接、炭素コーティング(16)を堆積するステップとを含み、
前記炭素コーティング(16)は、-0Vから-200Vのバイアス電圧で5nmから500nmの範囲内で選ばれた層厚で堆積され、
前記炭素コーティング(16)は、アーク物理蒸着工程、アークイオンめっき工程、およびHiPIMS工程のうちの1つによって堆積された、少なくとも実質的に水素フリーのDLC層(16)を含む、方法。
【請求項2】
前記エッチングステップは、0Vと-1200Vの間のバイアス電圧で1分と60分の間に及ぶ時間にわたって行われるプラズマエッチング工程または金属イオンエッチング工程の一方である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エッチングステップは、バイアス電圧が0Vから-350Vの範囲内で選ばれたアルゴンプラズマエッチングおよびバイアス電圧が-800Vから-1200Vの範囲内で選ばれた金属イオンエッチング工程のうちの一方である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
さらに前記接着層(14)を含み、接着層(14)を堆積する前記ステップは、-0Vから-350Vの範囲内で選ばれたバイアス電圧で25nmから500nmの範囲内の厚みを有する層を堆積することを含む、先行請求項のうちの少なくとも1項に記載の方法。
【請求項5】
前記接着層(14)は、-0Vから-350Vの範囲内で選ばれたバイアス電圧でアークPVD工程を用いて堆積される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
さらに前記接着層(14)を含み、該接着層(14)は、Ti、Cr、Ta、Nb、Zr、TiN、CrN、NbN、ZrNおよびそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む、先行請求項のうちの少なくとも1項に記載の方法。
【請求項7】
前記接着層(14)は、TiおよびCrの一方を含む、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
さらに前記接着層(14)を含み、
前記接着層(14)は、該接着層(14)を含む1つまたは複数の材料の層と、1つまたは複数の勾配層(18;18、20)とを含み、
前記勾配層は、前記接着層(14)の前記1つまたは複数の材料と金属とが混合された第1の勾配層(18)を含み、該第1の勾配層は、前記接着層(14)の前記1つまたは複数の1つまたは複数の材料を含む前記層まで、金属の量が該第1の勾配層(18)の高さにわたって減少し、前記接着層(14)の前記1つまたは複数の材料の量が該第1の勾配層(18)の前記高さにわたって増加する、先行請求項のうちの少なくとも1項に記載の方法。
【請求項9】
さらに前記接着層(14)を含み、
前記接着層(14)は、該接着層(14)を含む1つまたは複数の材料の層と、1つまたは複数の勾配層(20;18、20)とを含み、
前記勾配層は、前記炭素コーティング(16)の炭素と混合された前記接着層(14)の前記1つまたは複数の材料を含む第2の勾配層(20)を含み、該第2の勾配層は、前記炭素コーティング(16)まで、前記接着層(14)の前記1つまたは複数の材料の量が該第2の勾配層(20)の高さにわたって減少し、炭素の量が該第2の勾配層(20)の前記高さにわたって増加する、先行請求項のうちの少なくとも1項に記載の、任意選択で請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層(16)は、内部にドーパントが存在する最上層(22)を含むか、または該少なくとも実質的に水素フリーのDLC層(16)の全体にドーパントを含む、先行請求項のうちの少なくとも1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ドーパントが、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、窒素、ケイ素およびそれらの組み合わせからなる要素群から選ばれる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ドーパントの割合が、100at%の該ドーパントを含む前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層(16)または前記最上層を基準にして、0.2at%から10at%、特に0.5at%から6at%である、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記方法は、真空チャンバ(60)内で行われ、該真空チャンバ(60)の温度が、前記コンポーネントを前記炭素コーティング(16)でコーティングする前記ステップ中に120°Cから400°C、特に120°Cから250°Cの範囲内の温度に調節される、先行請求項のうちの少なくとも1項に記載の方法。
【請求項14】
先行請求項のうちの少なくとも1項に記載の方法を用いて任意選択で得ることができる、バイポーラプレート(10’)、ハーフプレート、電極およびガスケットなどの、燃料電池スタックのコンポーネントであって、
該燃料電池コンポーネント(10)は、
金属コンポーネント(12)と、
前記金属コンポーネント(12)上に任意選択で形成される接着層(14)と、
前記接着層(14)が設けられている場合は該接着層(14)上に、または前記金属コンポーネント(12)上に形成された炭素コーティング(16)とを含み、
該炭素コーティング(16)は、少なくとも実質的に水素フリーのDLC層であって、20GPaから70GPaの範囲内で選ばれた硬さと、100at%の該少なくとも実質的に水素フリーのDLC層を基準にしてアルゴンが1at%未満のアルゴン含有量とを有する少なくとも実質的に水素フリーのDLC層(16)を含む、コンポーネント。
【請求項15】
前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層(16)は、30GPaから50GPaの範囲内で選ばれた硬さを有する、請求項14に記載のコンポーネント。
【請求項16】
前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層(16)は、1つまたは複数のta‐C層および/または1つまたは複数のa‐C層を含む、請求項14または請求項15に記載のコンポーネント。
【請求項17】
前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層(16)のspに対するspの含有量の割合は、70%から20%のspに対して30%から80%のspの範囲内にあり、特に前記sp含有量は、前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層(16)の30%を超えるspであり、特に40%を上回る、請求項14から16のうちの1項に記載のコンポーネント。
【請求項18】
前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層(16)は、100at%の該少なくとも実質的に水素フリーのDLC層(16)を基準にして、含有する水素が1at%未満であるDLC層である、請求項14から17のうちの1項に記載のコンポーネント。
【請求項19】
前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層(16)は、内部にドーパントが存在する最上層(22)を含むか、または該少なくとも実質的に水素フリーのDLC層(16)の全体にドーパントを含む、請求項14から18のうちの1項に記載のコンポーネント。
【請求項20】
前記ドーパントは、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、窒素、ケイ素およびそれらの組み合わせからなる要素群から選ばれる、請求項19に記載のコンポーネント。
【請求項21】
前記ドーパントの割合は、100at%の該ドーパントを含む前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層(16)または前記最上層(22)を基準にして、0.2at%から10at%、特に0.5at%から6at%である、請求項19または請求項20に記載のコンポーネント。
【請求項22】
さらに前記接着層(14)を含み、該接着層(14)は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、窒素、ケイ素、およびそれらの組み合わせからなる要素群から選ばれた少なくともひとつの材料を含み、好ましくはチタンを含む、請求項14から21のうちの1項に記載のコンポーネント。
【請求項23】
さらに前記接着層(14)を含み、該接着層(14)は、25nmから500nm、好ましくは75nmから300nmの層厚を有する、請求項14から22のうちの1項に記載のコンポーネント。
【請求項24】
さらに前記接着層(14)を含み、該接着層(14)は、前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層(16)の真下かつ/または前記金属コンポーネント(12)の真上に形成された1つまたは複数の勾配層(18、20)を含む、請求項14から23のうちの1項に記載のコンポーネント。
【請求項25】
前記1つまたは複数の勾配層(18、20)は、該1つまたは複数の勾配層(18、20)の何れかの側に形成された前記層(12、14、16)の構成要素の少なくともいくつかの材料の混合物を含む、請求項24に記載のコンポーネント。
【請求項26】
前記1つまたは複数の勾配層(18、20)の層厚は、2nmから200nmの範囲内で選ばれる、請求項24または請求項25に記載のコンポーネント。
【請求項27】
前記勾配層(20)は前記接着層(14)の真上に形成され、
該勾配層(20)の真下に配置された前記層(12)の材料は、前記接着層(14)の材料であり、
該勾配層(20)の上の前記層(14)は、前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層(16)であり、
かつ/または、
前記勾配層(18)は、前記金属コンポーネント(12)の真上に形成され、
前記勾配層(18)の真下に配置された前記層(12)の材料は、前記金属コンポーネント(12)の材料であり、
前記勾配層(18)の真上に配置された前記層(14)の材料は、前記接着層(14)の材料である、
請求項24から26のうちの1項に記載のコンポーネント。
【請求項28】
前記炭素コーティング(16)は、エリプソメトリ測定において2eVのエネルギーに関して2.25から2.4の範囲内の屈折率nを有する、請求項14から27のうちの1項に記載のコンポーネント。
【請求項29】
前記炭素コーティング(16)は、エリプソメトリ測定において4eVのエネルギーに関して1.6から1.8の範囲内の屈折率nを有する、請求項14から28のうちの1項に記載のコンポーネント。
【請求項30】
前記炭素コーティング(16)は、エリプソメトリ測定において4eVのエネルギーに関して0.95から1.1の吸収値kを有する、請求項14から29のうちの1項に記載のコンポーネント。
【請求項31】
前記炭素コーティング(16)は、1μmのスキャン面積に関して0.9nmから1.5nmの範囲内、特に1μmのスキャン面積に関して1nmから1.3nmの範囲内で選ばれた表面粗さ(Sa)(すなわち、算術平均高さ)を有する、請求項14から30のうちの1項に記載のコンポーネント。
【請求項32】
前記炭素コーティング(16)は、1μmのスキャン面積に関して2%から4%のSdrの範囲内、特に1μmのスキャン面積に関して2.5%から3.1%のSdrの範囲内で選ばれた表面積(Sdr)(すなわち、界面の展開面積比)を有する、請求項14から31のうちの1項に記載のコンポーネント。
【請求項33】
特に請求項14から32のうちの少なくとも1項に記載の、1つまたは複数のバイポーラプレート(10’)、1つまたは複数のハーフプレート、1つまたは複数の電極、1つまたは複数のガスケットなどの、燃料電池スタックの1つまたは複数のコンポーネント(10)をコーティングする装置(50)であって、該装置(50)は、請求項1から13のうちの1項に記載の方法を行うように構成され、該装置(50)は、インラインコーティングシステムであり、
‐次々に直列に配置された複数の真空チャンバ(60)と、
‐前記複数の真空チャンバのうちの少なくともいくつかに配置された1つまたは複数のカソード(68、68’)と、
‐コーティング対象面が前記1つまたは複数のカソードに対向するように、複数の未コーティングの前記金属コンポーネント(12)を受容するようにそれぞれ構成された1つまたは複数の固定具(56)とを含み、前記カソード(68、68’)は、物理蒸着工程、アーク物理蒸着工程、アークイオンめっき工程、スパッタリング工程、およびHiPIMS工程のうちの少なくとも1つのためのカソードであり、
前記1つまたは複数の固定具(56)は、前記それぞれの真空チャンバ(60)内で、および1つの真空チャンバ(60)から別の真空チャンバ(60)へと直線的に移動されるように配置され、各真空チャンバ(60)は、工程を行うように構成され、該工程は、加熱、排気、エッチング、1つまたは複数の接着層の堆積、コーティング、取り出しおよび/またはそれらの組み合わせを含む要素群から選ばれる、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイポーラプレート、電極、ガスケットなどの、燃料電池スタックの1つまたは複数の金属コンポーネントをコーティングする方法に関し、当該方法は、未コーティングの金属コンポーネントを提供するステップと、前記未コーティングの金属コンポーネントをエッチングするステップと、前記エッチングされた未コーティングの金属コンポーネントに接着層を任意選択で堆積させるステップと、前記接着層に炭素コーティングを堆積させるステップとを含み、前記接着層および前記炭素コーティングがそれぞれ、物理蒸着工程、アークイオンめっき工程、スパッタリング工程、およびHiPIMS工程のうちの1つを用いて堆積される。本発明はさらに、燃料電池スタックのコンポーネントと、燃料電池スタックの1つまたは複数のコンポーネントをコーティングする装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業では、燃料電池車の開発および製造に対する低コストで量産的な課題解決法が求められている。燃料電池スタックにおける主要コンポーネントの1つにバイポーラプレート(BPP)がある。低コストの鋼を比較的容易に機械的に成形して、良好な品質の流れ場を有するいわゆるハーフプレートにすることができる(二つの溶接されたハーフプレートがバイポーラプレートをなすことに留意されたい)。しかしながら、前記鋼上の導電性で保護作用のあるコーティングは、低いpH値および電圧レベルの下での過酷な動作環境により少なくとも5000時間の燃料電池寿命を提供する必要がある。
【0003】
金属基板をコーティングするさらなる先行技術の方法および装置は、独国特許出願公開第10 2017 202679号、米国特許出願公開第2014/227631号、独国特許出願公開第20 2014 113736号、欧州特許出願公開第2 628 817号、および独国特許出願公開第10 2005 003769号からそれぞれ知られている。
【発明の概要】
【0004】
この理由から、燃料電池がさらされることになる化学的環境に強く、動作条件で5000時間を超える寿命を有する燃料電池を大量生産するために短時間で行うことができる、燃料電池スタックのコンポーネントを製作する方法を提供することが、本発明の1つの目的である。
【0005】
この目的は、請求項1に記載の方法によって達成される。
【0006】
そのような方法は、バイポーラプレート、ハーフプレート、電極、ガスケットなどの、燃料電池スタックの1つまたは複数のコンポーネントをコーティングする方法であって、
‐未コーティングの金属コンポーネントを提供するステップと、
‐前記未コーティングの金属コンポーネントをエッチングするステップと、
‐物理蒸着工程、アーク物理蒸着工程、アークイオンめっき工程、スパッタリング工程、およびHiPIMS工程のうちの1つを用いて、前記エッチングされた未コーティングの金属コンポーネント上に接着層を任意選択で堆積するステップと、
‐前記接着層を設けた場合は該接着層上に、または前記エッチングされた未コーティングの金属コンポーネント上に直接、炭素コーティングを堆積するステップとを含み、
前記炭素コーティングは、-0Vから-200Vのバイアス電圧で5nmから500nmの範囲内で選ばれた層厚で堆積され、
前記炭素コーティングは、アーク物理蒸着工程、アークイオンめっき工程、およびHiPIMS工程のうちの1つによって堆積された、少なくとも実質的に水素フリーのDLC層を含む。
【0007】
上記で言及した先行技術は、アーク物理蒸着工程、アークイオンめっき工程、およびHiPIMS工程のうちの1つによって堆積させることができる、少なくとも実質的に水素フリーのDLC層を有する炭素コーティングを伴う方法、物品または装置を教示していない。
【0008】
このような工程を用いて、燃料電池スタックのコンポーネントを比較的短時間でコーティングすることができ、燃料電池の大量生産が可能になる。しかも、前記燃料電池は、前記接着層が設けられている場合は当該燃料電池が使用される化学的環境に対する耐性が高まる可能性がある。
【0009】
これに関して、前記コンポーネントは、一面または二面を任意選択でコーティングされるバイポーラプレート、一面または二面を同様に任意選択でコーティングされるハーフプレートとすることができることに留意されたい。概して言えば、前記金属コンポーネントは、ステンレス鋼が低コストであるので、材料としてステンレス鋼を含むコンポーネントになるだろう。その他の材料としては、Tiを含む金属コンポーネントとすることができ、この場合、接着層なしの単一の炭素コーティングで済み、前記コンポーネントの製造はより単純になるが、Tiのコストにより前記コンポーネントはより高価になる。アルミニウム製品は低コストかつ低重量であるので、使用し得る前記コンポーネントのさらなる材料としてはアルミニウムがある。
【0010】
前記接着層によって、基板における炭素層の接着性の向上をもたらすことができ、電解質の被毒および前記燃料電池の性能の低下につながりかねない、前記コンポーネントから燃料電池膜へのイオンの拡散を低減することができる。
【0011】
これに関して、前記接着層におけるTiの使用はCrの使用よりも概して好ましいことに留意されたい。なぜなら、Tiの過不動態化電位はCrのものよりもはるかに高く(2eV対1.2eV)、Ti接着層がCrよりもはるかに高い電圧で酸化するからである。Cr酸化は不安定であり、前記バイポーラプレート基板へのコーティング不安定性につながるおそれがある。Ti酸化物は対照的に非常に安定しており、炭素のない箇所(ピンホール)での表面不動態化につながる。
【0012】
これに関して、前記炭素コーティングを、DLC層、HフリーDLC層、a‐C層、およびta‐C層と呼ぶ場合があることに留意されたい。層の好ましい選択は、水素含有量がほとんどゼロである水素フリーDLC層である。
【0013】
これに関して、前記水素フリーDLC層の密度は、概して、2.1±0.1g/cmから2.3±0.1g/cmの範囲内で選ばれる。
【0014】
前記水素フリーDLC層の好ましいアルゴン含有量は、100at%の前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層に対するat%でアルゴンが1at%未満、好ましくはアルゴンが0.05at%と0.5at%の間である。
【0015】
これと比較して、スパッタリングされた炭素コーティングは、100at%の前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層を基準にして2.2at%のアルゴンというアルゴン含有量を有しており、したがって、アークPVDコーティングを形成することにより、前記水素フリーDLC層のアルゴン含有量の大幅な減少につながる。
【0016】
このような工程を用いることで、動作条件、すなわち、これらが電解質中に存在する間に燃料電池スタックで電圧が上昇する動作条件で5000時間を超える寿命を有する燃料電池スタックを形成することができる。
【0017】
しかも、このようなコーティング工程によって、比較的低コストのコンポーネントを作製することができる。
【0018】
炭素コーティングの使用により、バイポーラプレートの例えば活性面の電気的特性が確保される一方、前記燃料電池スタックの前記コンポーネント上に機械的に安定しかつ耐久性のあるコーティングももたらされる。これに関して、前記炭素コーティングの目的は、腐食の低減と、平らな試験プレートに関して0.1mΩ・cmから2mΩ・cmの範囲内の導電率とをもたらすことであることに留意されたい。バイポーラプレートに関して、それぞれ流路を有するハーフプレートは、導電率が、0.1mΩ・cmから2mΩ・cmの範囲内にある。
【0019】
炭素を堆積させる一般的な方法は、スパッタリングまたはアンバランスドマグネトロン(UBM)スパッタリングによる。これは、スパッタリングが、良好な均一性と、可制御性と、工業的生産(例えば、ガラスコーティング機、ディスプレイガラスコーティング用PVDライン、およびロールツーロールコーティング機)に大抵必要とされるターゲットの長寿命とをもたらすことから、インラインコーティングにとって公知の方法である。
【0020】
さらに、UBMによって、ターゲット材料からのドロップレットが全くないクリーンで滑らかなコーティングが提供される。一方、アークPVDまたはアークイオンめっきは非常に高速の堆積技術であるが、この場合に使用されるアークPVDはラインプロセスというよりはポイントプロセスであるため、堅牢な工業プロセスへの導入はより困難である。
【0021】
信頼性が高く、制御可能かつ均一な工業プロセスを実現するためには、機械が複雑になり設計の手間がかかる。しかしながら、前記最終的な課題解決法は、はるかに高い生産性をもたらし、したがって、従来のUBM技術を導入した場合と比較してユーザの所有コストを削減する。
【0022】
また、アークPVD工程またはアークイオンめっき工程では、UBMよりも多くのドロップレットが発生する。しかしながら、比較的薄いコーティングを施す必要があるこの用途に関しては、ドロップレットの数が大幅に減少する。さらに、アークPVD炭素コーティングで得られた試験結果からは、炭素表面上のドロップレットの存在からの何らの欠点も悪影響も明らかになっていない。
【0023】
前記エッチングステップは、-0Vと-350Vの間のバイアス電圧で1分と60分の間に及ぶ時間にわたって実施されるプラズマエッチング工程とすることができる。
【0024】
あるいは、前記エッチングステップは、0Vと-1200Vの間のバイアス電圧で1分と60分の間に及ぶ時間にわたって行われる金属イオンエッチング工程を含んでもよい。前記エッチング工程は、バイアス電圧が0Vから-350Vの範囲から選択されたアルゴンプラズマエッチング工程とすることができる。あるいは、前記エッチング工程は、バイアス電圧が-800Vから-1200Vの範囲から選択された金属イオンエッチング工程とすることができる。
【0025】
前記エッチング工程は、前記基板上に存在する酸化物層を除去するために使用される。当該酸化物層は、前記コーティングの導電性の低下および接着性の低下につながるため、燃料電池スタックの前記1つまたは複数の金属コンポーネントの導電性を高め、燃料電池スタックの前記1つまたは複数の金属コンポーネントに対する前記コーティングの接着性も高めるためには、その除去が望ましい。
【0026】
接着層を堆積する前記ステップは、-0Vから-350Vの範囲から選択されたバイアス電圧で、25nmから500nm、好ましくは75nmから300nmの範囲内の厚みを有する層を堆積させることを含んでもよい。
【0027】
このような接着層により、前記基板における前記炭素層の接着性のさらなる向上をもたらすことができ、前記コーティングされたコンポーネントの個々の層間でのイオンの拡散に影響を与えることができ、前記コーティングされたコンポーネントのさらなる防食性をもたらすことができる。
【0028】
前記接着層は、Ti、Cr、Ta、Nb、Zr、TiN、CrN、NbN、ZrN、TaNおよびそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つの層を含むことができ、特に、前記接着層はTiを含む。このような材料は、特に有益なタイプの接着層をもたらすことが分かっている。
【0029】
前記接着層は、当該接着層を含む1つまたは複数の材料の層と、
前記接着層の前記1つまたは複数の材料と混合された金属の第1の勾配層であって、前記接着層の前記1つまたは複数の1つまたは複数の材料を含む前記層まで、金属の量が当該第1の勾配層の高さにわたって減少し、前記接着層の前記1つまたは複数の材料の量が当該第1の勾配層の前記高さにわたって増加する、第1の勾配層、および/または
前記炭素コーティングの炭素と混合された前記接着層の前記1つまたは複数の材料を含む第2の勾配層であって、前記炭素コーティングまで、前記接着層の前記1つまたは複数の材料の量が当該第2の勾配層の高さにわたって減少し、炭素の量が当該第2の勾配層の前記高さにわたって増加する、第2の勾配層を含む1つまたは複数の勾配層とを含むことができる。
【0030】
前記炭素コーティングは、-20Vから-200Vのバイアス電圧で5nmから500nmの範囲内で選択された層厚で堆積させることができる。このような炭素コーティングは機械的に安定しており、前記燃料電池スタック中に存在する化学的環境にも強いことが分かっている。
【0031】
前記炭素コーティングは、アークPVD工程、アークイオンめっき工程、およびHiPIMS工程のうちの1つによって堆積された、少なくとも実質的に水素フリーのDLC層を含んでもよい。このような工程により、前記接着層上で特に好都合かつ高品質の炭素コーティングの堆積が可能になる。特にアークPVDの使用時は、燃料電池内に存在する動作環境において機械的、化学的かつ電気的に安定した、前記金属コンポーネント上で特に安定しているコーティングが生成されている。
【0032】
前記少なくとも実質的に水素DLC層は、任意選択で、内部にドーパントが存在する最上層を含むことができ、または当該少なくとも実質的に水素フリーのDLC層の全体にドーパントを含むことができ、
前記ドーパントは、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、窒素、ケイ素およびそれらの組み合わせからなる要素群から選ぶことができ、かつ/または
前記ドーパントの割合が、100at%の前記ドーパントを含む前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層または前記最上層を基準にして、0.2at%から10at%、特に0.5at%から6at%とすることができる。DLC層中または当該DLC層の上にドーパントを使用することにより、前記コーティングされたコンポーネント中または前記DLC層中の内部応力に影響を与えることができ、前記異なる層間の接着性の向上につながり、したがってこのようなコンポーネントの寿命の向上につながる。
【0033】
前記方法は、真空チャンバ内で行うことができ、当該真空チャンバの温度は、前記コンポーネントを前記炭素コーティングでコーティングする前記ステップ中は、120°Cから400°C、特に160°Cから250°Cの範囲内の温度に調節することができる。このようにして、特に硬くかつ耐久性のある層構造を形成することができる。
【0034】
前記真空チャンバ内の圧力は、前記バイポーラプレートまたはハーフプレートを少なくとも実質的に水素フリーのDLC層でコーティングする前記ステップ中に、10-2mbarから10-4mbarの圧力に調節することができる。このような圧力は、前記所望の構造を効率的に形成するのに適している。
【0035】
任意選択で前述の請求項の少なくとも1つによる方法を使用して形成された、バイポーラプレート、ハーフプレート、電極およびガスケットなどの燃料電池スタックのコンポーネントに係る本発明のさらなる態様において、前記燃料電池コンポーネントは、金属コンポーネントと、
前記金属コンポーネント上に任意選択で形成される接着層と、
前記接着層が設けられている場合は該接着層上に、または前記金属コンポーネント上に形成された炭素コーティングとを含み、
該炭素コーティングは、少なくとも実質的に水素フリーのDLC層であって、20GPaから70GPaの範囲内で選ばれた硬さと、100at%の該少なくとも実質的に水素フリーのDLC層を基準にしてアルゴンが1at%未満のアルゴン含有量とを有する少なくとも実質的に水素フリーのDLC層を含む。
【0036】
このようなコンポーネントは、5000時間超の動作条件で燃料電池で確実に使用することができる。しかも、本願に記載の方法を用いてコンポーネントを形成することによって達成することができる上記で論じた利点は、本願で論じる前記コンポーネントにも当てはまる。
【0037】
前記燃料電池スタックの前記コンポーネントはさらに、前記金属コンポーネントと前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層との間に配置された接着層を含み、当該接着層は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、窒素、ケイ素、炭素、およびそれらの組み合わせからなる要素群から選ばれた少なくともひとつの材料を任意選択で含み、好ましくはチタンを含み、特に、当該接着層は、25nmから500nm、好ましくは75nmから300nmの層厚を有する。前記金属コンポーネントと前記DLC層の間に接着層を設けることにより、基板における炭素層の接着性の向上をもたらすことができ、前記コンポーネントから燃料電池膜へのイオンの拡散を低減することができる。当該拡散は、電解質の被毒および前記燃料電池の性能低下につながるおそれがある。しかも、前記接着層により、前記コーティングされたコンポーネントのさらなる防食性をもたらすことができ、したがって前記燃料電池スタックの前記コンポーネントの耐久性を向上させることができる。
【0038】
しかも、少なくとも実質的に水素フリーのDLC層は比較的高い硬さを有し、当該層が存在する表面に傷が付きにくくなる。水素フリーDLC層は、燃料電池内に存在するような化学的環境にあまり影響されず、このような層構造でコーティングされた製品の寿命が延びることも分かっている。
【0039】
さらに、少なくとも実質的に水素フリーのDLC層は、比較的良好なコーティング接着性および高い硬さを有し、したがって、この理由から、前記燃料電池スタックの前記コンポーネントの寿命の延長にもつながる。
【0040】
これに関して、少なくとも実質的に水素フリーのDLC層は、100at%の当該少なくとも実質的に水素フリーのDLC層を基準にして、含有する水素が1at%未満であるDLC層であることに留意されたい。
【0041】
前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層のspに対するspの含有量の割合は、20%から70%のspに対して80%から30%のspの範囲内にあり、特に前記sp含有量は、100%の前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層を基準にして30%を超えるspであり、特に40%を上回る。これに関して、sp/sp比の好ましい範囲は、アークPVDによって施された炭素コーティングに関しては36%から46%のspと64%から54%のspという36%から46%のsp/spの範囲内にある。前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層は、1つまたは複数のta‐C層および/または1つまたは複数のa‐C層を含んでもよい。これらは、前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層の有益な特徴である。
【0042】
これと比較して、スパッタリングされた炭素コーティングは、29%から39%のspと71%から61%のspの範囲内にあるsp/sp比の範囲を含む。
【0043】
これに関して、前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層は、上記に列挙した特徴を有する単一のDLC層によって形成される場合があり、または複数のDLC層であって、各々が、例えば互いの硬さに関して互いに比較したとき、上記特徴の互いの絶対値においてやや異なる複数のDLC層を含む場合があることに留意されたい。例えば硬さが異なるいくつかのDLC層を設けることは、前記層構造内の内部応力を低下させる観点から有益であり、これにより、前記接着層に対する前記DLC層の接着性の向上につながり、したがって、このようにコーティングされた前記コンポーネントの寿命の向上につながる。
【0044】
前記金属コンポーネントは、アルミニウム層、アルミニウム合金層、チタン層、チタン合金層、ステンレス鋼層およびそれらの組み合わせからなる要素群から選ばれた1つまたは複数の金属層を含むことができる。このような金属層は、例えば、燃料電池スタックのバイポーラプレートに特に適した層であり、当該バイポーラプレートの特に好ましい材料は鋼およびステンレス鋼を含むが、それは、これらであれば、必要な努力とコストに無理がなく所望の量で生産することができるからである。
【0045】
前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層は、30GPaから50GPaの範囲内で選ばれた硬さを有することができ、かつ/または、
前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層は、1つまたは複数のta‐C層および/または1つまたは複数のa‐C層を含むことができ、かつ/または、
前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層のspに対するspの含有量の割合が、70%から20%のspに対して30%から80%のspの範囲内にあることができ、特に前記sp含有量は、前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層の30%を超えるsp、特に40%を上回るものとすることができ、かつ/または、
かつ/または、
前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層は、100at%の当該少なくとも実質的に水素フリーのDLC層を基準にして、含有する水素が1at%未満であるDLC層とすることができる。
【0046】
前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層は、任意選択で、内部にドーパントが存在する最上層を含むことができ、または当該少なくとも実質的に水素フリーのDLC層の全体にドーパントを含むことができ、
前記ドーパントは、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、窒素、ケイ素およびそれらの組み合わせからなる要素群から選ばれることができ、かつ/または
前記ドーパントの割合が、100at%の前記ドーパントを含む前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層または前記最上層を基準にして、0.2at%から10at%、特に0.5at%から6at%とすることができる。
【0047】
前記接着層は、前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層の真下または前記金属コンポーネントの真上に形成された1つまたは複数の勾配層を含むことができ、特に、前記勾配層は、当該勾配層の両側に形成された前記層の少なくともいくつかの構成要素の材料の混合体を含み、特に、前記1つまたは複数の勾配層の層厚は、2nmから200nmの範囲内で選ばれる。
【0048】
前記勾配層は、前記接着層の真上に形成することができ、当該勾配層の真下に配置された前記層の材料は前記接着層の材料とすることができ、当該勾配層の上の前記層は、前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層とすることができ、かつ/または、前記勾配層は、前記金属コンポーネントの真上に形成され、当該勾配層の真下に配置された前記層の材料は前記金属コンポーネントの材料とすることができ、当該勾配層の真上に配置された前記層の材料は前記接着層の材料である。
【0049】
このような勾配層は、前記それぞれの層間、すなわち、前記金属コンポーネントと前記接着層の間および/または前記接着層と前記炭素コーティングの間の結合強度の向上につながる。このような結合強度の向上により、前記コンポーネントの耐久性が上がり、前記コンポーネントは、化学的攻撃にもあまり影響されなくなる。
【0050】
前記アークPVD工程を使用して施された前記炭素コーティングは、エリプソメトリ測定において2eVのエネルギーに関して2.25から2.4の範囲内の屈折率nを有することができ、かつ/またはエリプソメトリ測定において4eVのエネルギーに関して1.6から1.8の範囲内の屈折率nを有することができる。このような炭素コーティングは、スパッタリング技法を用いて施された炭素コーティングに対して増大した密度を有する。
【0051】
同様に、前記アークPVD工程を用いて施された前記炭素コーティングは、エリプソメトリ測定において4eVのエネルギーに関して0.95から1.1の吸収値kを有することができ、したがって、スパッタリングを用いて施された炭素コーティングと比べて導電率が向上した炭素コーティングを得ることができる。
【0052】
前記炭素コーティングは、1μmのスキャン面積に関して0.9nmから1.5nm、特に1μmのスキャン面積に関して1nmから1.3nmの範囲内で選ばれた表面粗さ(すなわち、算術平均高さ)を有することができる。前記炭素コーティングはさらに、1μmのスキャン面積に関して2%から4%のSdr、特に1μmのスキャン面積に関して2.5%から3.1%のSdrの範囲内で選ばれた表面積を有することができる。先に詳述したような特性を有する炭素コーティングは、スパッタリング技法を用いて施された同等のコーティングよりも高密度である。これらは、前記炭素コーティングが、スパッタリングされた炭素コーティングと比較して低減した表面粗さおよび表面積を有していることも示しており、アークPVDを用いて施された炭素コーティングに関しては、燃料電池スタックのより耐久性のあるコンポーネントにつながる、燃料電池の環境における化学的攻撃にあまり影響されない炭素コーティングが得られる。
【0053】
1つまたは複数のバイポーラプレート、1つまたは複数のハーフプレート、1つまたは複数の電極、1つまたは複数のガスケットなどの、燃料電池スタックの1つまたは複数のコンポーネントをコーティングする装置に係る、本発明のさらなる態様によると、該装置は、ここで説明された方法を実行するように構成され、該装置該装置は、インラインコーティングシステムであり、
‐次々に直列に配置された複数の真空チャンバと、
‐物理蒸着工程、アーク物理蒸着工程、アークイオンめっき工程、スパッタリング工程、およびHiPIMS工程のうちの少なくとも1つのためのカソードであって、前記複数の真空チャンバのうちの少なくともいくつかに配置された1つまたは複数のカソードと、
‐コーティング対象面が前記1つまたは複数のカソードに対向するように、複数の未コーティングの前記金属コンポーネントを受容するようにそれぞれ構成された1つまたは複数の固定具とを含み、
前記1つまたは複数の固定具は、前記それぞれの真空チャンバ内で、および1つの真空チャンバから別の真空チャンバへと直線的に移動されるように配置され、各真空チャンバは、工程を行うように構成され、該工程は、加熱、排気、エッチング、1つまたは複数の接着層の堆積、コーティング、取り出しおよび/またはそれらの組み合わせを含む要素群から選ばれる。
【0054】
このような装置を用いて、上記で論じた燃料電池スタックの前記コンポーネントは、耐久性のあるコーティングでコーティングすることができる。
【0055】
しかも、このようなコーティングは、部品当たり魅力的なコストで、前記インラインPDVコーティングシステムで大量生産することができる。
【0056】
さらに、前記インラインシステムでアークPVD工程が使用される場合、スパッタリングと比べてコーティング速度を上げることができ、それにより、自動車産業、建設産業、航空産業、据置用途、重量物輸送、船舶用途、フォークリフトトラックなどに関して設備の複雑さとコストを軽減することができる。
【0057】
本発明のさらなる利益および有利な実施形態は、従属請求項、本明細書および添付の図面から明らかになる。
【0058】
本発明のさらなる実施形態を、次の図面の説明において説明する。本発明は、実施形態を用いて、かつ次に示す図面を参照して、下記に詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】金属コンポーネントの概略断面図。
図2】さらなるコンポーネントの概略断面図。
図3】さらなるコンポーネントの概略断面図。
図4】さらなるコンポーネントの概略断面図。
図5】さらなるコンポーネントの概略断面図。
図6】さらなるコンポーネントの概略断面図。
図7】(a)は、バイポーラプレートとその活性面を撮影した写真、(b)は、バイポーラプレートとその裏面を撮影した写真。
図8】(a)は、1時間の腐食試験後のコーティング済み平板試験片及びカーボンコーティングの写真、(b)は、4時間の腐食試験後のコーティング済み平板試験片及びカーボンコーティングの写真。
図9】コーティングされたコンポーネントのEDXスペクトルであって、一方はアークPVDでコーティングされたコンポーネント、もう一方はアンバランスマグネトロンスパッタリングでコーティングされたコンポーネント。
図10】sp/sp比を示すスペクトルであって、(a)は、アンバランスドマグネトロンスパッタリングプロセスでコーティングされたコンポーネントに関し、(b)は、アークPVDプロセスでコーティングされたコンポーネントに関する。
図11】インラインコーティング装置の概略図。
図12】2つの異なる走査位置で撮影された、スパッタリングカーボンプロセスを用いてコーティングされたコンポーネント表面のAFM画像。
図13】2つの異なる走査位置で撮影された、アークPVDプロセスを用いてコーティングされたコンポーネント表面のAFM画像。
図14】アークPVDプロセスでコーティングされたサンプルとスパッタリングカーボンプロセスを用いてコーティングされたサンプルの屈折率n及び吸収係数k対エネルギー/波長を示すエリプソメトリ測定の結果。
【発明を実施するための形態】
【0060】
下記において、同一の参照番号は、同一または同等な機能を有する部分に関して使用する。コンポーネントの方向を考慮してなされた記述は、前記図面に示す位置に対してなされており、当然のことながら実際の適用位置で変わり得る。
【0061】
図1は、バイポーラプレート10’(図7(a)および図7(b)を参照)などの、燃料電池スタック(図示せず)のコンポーネント10の概略断面図を示す。当該コンポーネントは、上部に接着層14が堆積された金属コンポーネント12を含む。接着層14上には炭素コーティング16が存在している。
【0062】
コンポーネント10の生産に際し、未コーティングの金属コンポーネント12にはエッチングステップが行われ、当該エッチングステップは、例えばプラズマエッチング工程またはイオンエッチング工程とすることができる。一例として、プラズマエッチング工程は、典型的には、未コーティングの金属コンポーネント12に-0Vから-1200Vの間のバイアス電圧を印加しながら、1分から60分の間に及ぶ時間にわたって行われる。前記エッチング工程は、バイアス電圧が0Vから-350Vの範囲内で選択されたアルゴンプラズマエッチング工程とすることができる。あるいは、前記エッチング工程は、バイアス電圧が-800Vから-1200Vの範囲内で選択された金属イオンエッチング工程とすることができる。
【0063】
接着層14は、PVD工程、例えばアークPVD工程を用いて堆積され、その間、金属コンポーネント12に-0Vから-200Vの範囲内で選ばれたバイアス電圧が印加されながら、25nmから500nm厚の接着層14が堆積される。
【0064】
接着層14は、Ti、Cr、Ta、Nb、Zr、TiN、CrN、NbN、ZrNおよびそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含むことができ、特に接着層14はTiまたはCrを含むことができる。これに関して、前記接着層の好ましい材料はTiであることに留意されたい。
【0065】
炭素コーティング16は、接着層14上に5nmから500nmの範囲内で選ばれた層厚で堆積される。当該堆積工程中は、金属コンポーネント12に-20Vから-200Vのバイアス電圧が印加される。炭素コーティング16は、好ましくは1つまたは複数のDLC層16を含む。
【0066】
本願で論じるDLC層16は、アークPVD工程を用いて堆積された少なくとも実質的に水素フリーのDLC層16である。アークPVDではなくアンバランスドマグネトロンスパッタリングを用いて施されたPVDコーティングを示す、図8(c)で適用されたDLCコーティングは除く。
【0067】
本願で論じる少なくとも実質的に水素フリーのDLC層は、次の特徴のうちの少なくとも1つを有する。すなわち、
‐20GPaから70GPa、特に30GPaから50GPaの範囲内で選ばれた硬さ。このような硬さは、ビッカースダイヤモンドを用いる表面のナノインデンテーションを用いて測定される。これに関して、前記硬さ測定は、DIN EN ISO 14577‐1(標準ナノインデンテーション)に従って行われることに留意されたい。
‐少なくとも実質的に水素フリーのDLC層18のspに対するspの含有量の割合が、70%から20%のspに対して30%から80%のspの範囲内にあり、特に前記sp含有量は、少なくとも実質的に水素フリーのDLC層18の30%を超えるsp、特に40%を上回る。
‐前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層が、1つまたは複数のta‐C層および/または1つまたは複数のa‐C層を含む、および/または
‐前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層18が、100at%の水素フリーDLC層18を基準にして1at%未満のアルゴン含有量を含む。
【0068】
図2は、さらなるコンポーネント10の概略的な断面図を示す。金属コンポーネント12と接着層14の間に勾配層18が設けられている。勾配層18は、接着層14の前記1つまたは複数の材料と混合された金属コンポーネント12の金属を含む混合材料層であり、接着層14の前記1つまたは複数の1つまたは複数の材料を含む層まで、金属量が接着層14に向かって勾配層18の高さにわたって減少し、接着層14の前記1つまたは複数の材料の量が勾配層18の前記高さにわたって増加する。
【0069】
図3は、さらなるコンポーネント10の概略的な断面図を示す。図2と比べて、つまり接着層14と炭素コーティング16の間に、第2の勾配層20が設けられている。第2の勾配層20は、炭素コーティング16の炭素と混合された接着層14の1つまたは複数の材料を含み、炭素コーティング16まで、接着層14の前記1つまたは複数の材料の量が第2の勾配層20の高さにわたって減少し、炭素の量が第2の勾配層20の前記高さにわたって増加する。
【0070】
図4は、さらなるコンポーネント10の概略的な断面図を示す。このコンポーネント12は、接着層14と炭素コーティング16の間に配置された1つの勾配層のみを含む。
【0071】
図5は、さらなるコンポーネント10の概略的な断面図を示す。図1に示すコンポーネントとの違いは、最上層22が設けられていることであり、この最上層は、炭素コーティング16を被覆するコーティングとすることができ、またはこの最上層は、ドープDLC層16を含む混合層である。
【0072】
図6は、さらなるコンポーネント10の概略的な断面図を示す。図3に示すコンポーネントと類似のこのコンポーネント10は、第1および第2の勾配層18、20および最上層22を含む。
【0073】
これに関して、図2および図4に示すコンポーネント10もこのような最上層22を備えることができることに留意されたい。
【0074】
これに関して、少なくとも実質的に水素フリーのDLC層16は、内部にドーパントが存在する最上層22を有するのではなく、少なくとも実質的に水素フリーのDLC層16の全体にドーパントを含むことができ、接着層14と炭素コーティング16の間に配置された勾配層20が設けられている場合は、勾配層20もドーパントを含むことができることに留意されたい。
【0075】
前記ドーパントは、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、窒素、ケイ素およびそれらの組み合わせからなる要素群から選ぶことができる。好ましいドーパントはチタンおよびジルコニウムである。
【0076】
前記ドーパントの割合は、100at%の当該ドーパントを含む前記少なくとも実質的に水素フリーのDLC層及び前記最上層のそれぞれを基準にして、0.5at%から10at%、特に1at%から4at%である。
【0077】
図7(a)は、バイポーラプレート10’およびその活性面24の写真を示す。図7(b)は、バイポーラプレート10’およびその裏面26の写真を示す。当該バイポーラプレートは、活性面および裏面24、26上に延在するいくつかのチャネルを含む。典型的には、活性面24および前記裏面は、本願に記載の方法でコーティングされるが、本願に記載の方法で面24、26の一方のみをコーティングすることも可能である。前記バイポーラプレートは、実質的に正方形の板状の形をしている。これに関して、長方形のバイポーラプレートを使用することもできることに留意されたい。
【0078】
図8(a)は、一時間にわたって行った腐食試験後の炭素コーティング16を有する、コーティングされた平らな試験プレート10’の写真を示す。炭素コーティング16は黒色であり、アークPVDを用いて設けられた。
【0079】
前記腐食試験は、試験プレート10’に1.4Vの高電圧を印加して行ったが、前記コーティングは無傷のままだった。これに比べて、接着層14にスパッタリングされたコーティングまたは標準的なPVD工程を用いて堆積されたコーティングは、同じ一時間の腐食試験後に炭素コーティングが完全に劣化することを示している。
【0080】
図8(b)は、前記腐食試験が4時間にわたって行われた後のコーティングされた試験プレート10’およびその炭素コーティング16の写真を示す。当該コーティングは無傷のままである。アークPVDコーティングされた炭素コーティング16の安定性は、アルゴン含有量の減少(図9を参照)およびこのような層のsp/sp比(図10(a)と比較して図10(b)を参照)によるものと考えられる。前記改善した結果につながり得るさらなる一要因は、より高いコーティング密度である可能性がある。これらの違いは、標準的なPVD工程(UBM)と比べてこのアークPVD工程を用いて達成することができる。
【0081】
アークPVDによって施された炭素コーティングを示す図8(a)および図8(b)とは対照的に、図8(c)は、スパッタリングされたPVD層を用いて施された炭素コーティングの1時間にわたって行われた腐食試験後のコーティングされた平らな試験プレートおよび炭素コーティングの写真を示す。金属コンポーネント14は、コイン形の物品としてはっきりと見ることができ、したがって前記コーティングは完全に破壊されており、使用できない。前記試験プレートをさらに検査した際、前記炭素コーティングのみが完全に溶解されたこと、および前記接着コーティングはまだ残っていたことが分かった。前記炭素層の溶解は酸化作用によるものと推定される。
【0082】
図9は、コーティングされたコンポーネント12のEDXスペクトルを示す。スペクトル36は、アークPVD工程でコーティングを行った、コーティングされたコンポーネント10に関するEDXスペクトルを示す。スペクトル21は、アンバランスドマグネトロンスパッタリング工程を用いる標準的なPVD工程でコーティングを行った、コーティングされたコンポーネント10のEDXスペクトルを示す。
【0083】
前記EDXスペクトル間の主な違いは、標準的なPVD工程でコーティングされたコンポーネントとともに生じるスペクトル21中のアルゴンピーク28の存在である。一方、アークPVD工程を用いた前記コーティングはアルゴンピークを示していない(スペクトル36を参照)。標準的なPVD技法を用いて堆積された前記炭素コーティング中のこのアルゴン含有量が、当該炭素コーティングの品質の低下につながり、したがって、アークPVDを用いて施された炭素コーティング16に比べてその腐食安定性が劣ることにつながると考えられる。
【0084】
図10(a)および図10(b)は、sp/sp比を示す2Dスペクトルを示しており、(a)はアンバランスドマグネトロンスパッタリング工程を用いてコーティングが行われた、コーティングされたコンポーネントに関し、(b)はアークPVD工程を用いてコーティングが行われた、コーティングされたコンポーネントに関するものである。
【0085】
これに関して、アークPVDで施されたコーティングに関するsp/sp比の範囲は、35.6%から45.8%のspと64.4%から54.2%のspの範囲内にあるが、アンバランスドマグネトロンスパッタリングを用いてコーティングされた前記コーティングされたコンポーネントは、29%から39%のspと71%から61%のspのsp/sp比の範囲を有する。
【0086】
アークPVDを用いて設けられた水素フリーDLC層16中のsp結合数における約5%の上昇が、アンバランスドマグネトロンスパッタリングを用いて施された前記コーティングとは対照的に、アークPVDによって設けた前記炭素コーティングの品質が高まった理由の一部であると考えられる。
【0087】
さらに、接着層14の材料としてCrの代わりにTiを使用することで、電圧ピーク下でより良好な安定性がもたらされ、十分にイオンの拡散が妨げられることが分かった。Tiの過不動態化電位はCrのものよりもはるかに高いため、Tiのほうが好ましい。
【0088】
Ti上へのCの接着性の弱さという問題は、炭素に対してアークPVDを用いることによって解決される(Tiはそれでもスパッタリングしてもよいし、アークPVDを用いて施してもよいことに留意されたい)。
【0089】
しかも、Ti+C(アークPVD)コーティングは、高電圧性能においてもTi+Cよりも性能が優れている。これらの違いは、アークPVDの(スパッタと比べた場合の)いくつかのコーティング特性によって説明することができると思われる。
【0090】
これらは、約2.1±0.1g/cmから約2.3±0.1g/cm、好ましくは2.2±0.1g/cmの前記コーティングの密度である。
【0091】
100at%の前記水素フリーDLC層を基準にして、2.2at%のアルゴン(スパッタカーボン)と比べてたった0.1at%のアルゴン(アークPVD)という、標準的なスパッタリング技法で設けた炭素コーティングと比べて減少したアルゴン含有量。
【0092】
アークPVDを用いた炭素イオンの運動エネルギーの増大により、接着層14の前記Ti材料および/またはTiOx(存在する場合)への炭素の拡散、すなわち、2nmから200nmの範囲内の厚みを有する、接着層14と炭素コーティング16の間の第2の勾配層20の形成につながってもよい。同様に、第1の勾配層16の厚みも、2nmから200nmの範囲で選択することができる。このような第2の勾配層20は、炭素コーティング16と接着層14の間の接着性の向上につながる。
【0093】
しかも、前記sp/sp比は、アークPVDコーティングされたコンポーネントとPVDコーティングされたコンポーネントとの間で異なり、当該異なる比率により、より良好な耐酸化性がもたらされる。
【0094】
さらに、アークPVDは、標準的なPVDスパッタリング工程よりもはるかに高速の工程であり、したがって、自動車産業における設備の複雑性、設備投資コストの軽減、および所有コストの低減につながることに留意されたい。
【0095】
接着層14もアークPVD技術を用いて設けられる場合には、前記エッチングステップは、プラズマエッチングステップではなくイオンエッチングステップを含むべきである。しかも、このような設計は、コーティング装置を単純化することができるので製造がよりシンプルであり、コストおよび顧客の投資レベルの引き下げにつながる。
【0096】
図11は、複数の真空チャンバ60、100、102、104、108を含む、燃料電池スタックのコンポーネント10をコーティングする装置50の上面図を示す。真空チャンバ60の側壁66はそれぞれ、複数のアークカソードおよび/またはスパッタカソード68、68’を含む。複数のアークカソードおよび/またはスパッタカソード68、68’は、上記で論じた様々な層および層構造14、16、18、20を堆積するために使用される。
【0097】
一方の側壁66’は、未コーティングのコンポーネント10の最初の搬入および完成したコンポーネント10のその後の搬出のために真空チャンバ60にアクセスするのに使用されるドアを含む。
【0098】
装置50は、真空チャンバ60のトップサイド62とボトムサイド64の間にコンポーネント10を収容する真空チャンバ60の軸58と平行に当該チャンバ内に延在する複数の固定具56を含む(図6bを参照)。
【0099】
固定具56は各々、1つのコンポーネント10につき1つまたは複数の固定部材74を含む。1つまたは固定部材74は、コンポーネント10をそれぞれの裏面26で保持するように構成され、その活性面24が、堆積装置50の側壁66、66’に向かって外側を向くようにしてある。
【0100】
コンポーネント10をコーティングするために固定部材74とともに固定具56を使用するということは、これらを、本願に記載の様々なPVD工程を用いて装置50内でコーティングすることができることを意味する。
【0101】
コーティング工程が行われた後、固定具56はチャンバ60から取り出されて、前記燃料電池スタックのコンポーネント10の未コーティングのものの新しいバッチをコーティングするために、未コーティングのコンポーネント10の新しいバッチとともに新しい固定具56が真空チャンバ60に導入される、または前記燃料電池スタックのコンポーネント10の未コーティングのものの新しいバッチとともに先の固定具56が真空チャンバ60に再導入される。
【0102】
固定具56は、それぞれのチャンバ60内で直線的に移動される。図11の図面の例では、コンポーネント10は、矢印の方向に右から左へ、すなわち、真空チャンバ100から真空チャンバ102、真空チャンバ104、そして最後に真空チャンバ108へと移動される。
【0103】
コンポーネント10は、第1のチャンバ100にて堆積装置50に搬入される。第1のチャンバ100は次いで、当該チャンバを10-4mbarから10-5mbarの範囲内で選ばれた圧力まで排気するのと同時に脱ガス目的で未コーティングの金属コンポーネント12を加熱するために100°Cから300°Cの範囲内の温度まで加熱される。
【0104】
第1のチャンバ100の排気および未コーティングの金属コンポーネント12の脱ガス後、未コーティングの金属コンポーネント12は次いで、第2のチャンバ102に移動され、エッチング源76を用いてエッチングされる。
【0105】
これらのエッチング後、前記未コーティングの金属コンポーネントは、接着層14でコーティングするために第3のチャンバ104に移動される。図示のように、第3のチャンバ104も、真空ポンプ106を用いて第1および第2のチャンバ100、102と同様に排気することができる真空チャンバ60である。本願で論じるPVD装置のアーク源および/またはスパッタ源および/またはHiPIMS源68、68’が側壁66に配置されている。
【0106】
接着層14の堆積後、接着層14の上に炭素コーティング16が設けられる。これに関して、この目的のためにさらなるコーティングチャンバも設けることができ、それらは、例えば、真空チャンバ104と108の間に配置することができることに留意されたい。
【0107】
前記コーティング工程後、コーティングされたコンポーネント10を含む固定具56は、チャンバ108から取り出すことができる。このために、最後のチャンバ108の真空チャンバ60は標準圧力にされる。個々のチャンバ100、102、104、108は、それぞれのチャンバ100、102、104、108内で所望の雰囲気および圧力を達成することができるように当該それぞれのチャンバをロックするロードロックシステム110によって互いに分離されている。
【0108】
図11に示す固定具56は台(図示せず)上に配置されており、当該台によって、真空チャンバ100、102、104、108から次のチャンバへと固定具56が移動される。固定具56は前記台に対して不動とすることができる、すなわち、固定具56は前記台に対して回転しない。あるいは、固定具56は、コンポーネント10をコーティングするために前記台に対して回転するように構成することができる。固定具56が回転する場合は、スパッタカソードおよび/またはアークカソード68、68’は、一方の壁66に存在するだけで済ませることができ、固定具56が回転しない場合は、両方の側壁66にスパッタカソードおよび/またはアークカソード68、68’を配置する必要がある。
【0109】
DLC層16を形成するのに使用されるカソード68、68’は、内部にドーパントが存在しないDLC層16を形成する純グラファイトターゲット68とすることができる。
【0110】
下記では、上記で論じたコンポーネント10をコーティングする方法について論じる。当該方法は、次のステップを含む、すなわち、
‐複数の未コーティングの金属コンポーネント12をフレーム上に載置し、当該フレームを真空チャンバ60、100に運び入れ、前記真空チャンバ60、100を所望の圧力まで排気するステップ。オプションで、前記未コーティングの金属コンポーネント12を所定の温度に加熱するステップと、
‐同一の真空チャンバ60、100内または第2のチャンバ102内で、前記未コーティングの金属コンポーネント12の少なくとも活性面24をエッチングするステップと、
‐前記活性面24を接着層14でコーティングするステップであって、接着層12を設けることは、前記エッチングが行われるのと同じ真空チャンバ102内で、またはその代わりに第3のチャンバ104内で行うことができるステップと、
‐アークPVD工程を用いて、接着層14を、少なくとも実質的に水素フリーのDLC層16でコーティングするステップ。当該アークPVD工程は、前記接着層による前記コーティングと同じ真空チャンバ60内で、またはその代わりにさらなるチャンバ104内で行うことができる。
【0111】
これに関して、前記金属コンポーネントの両面、すなわち、バイポーラプレート、および/またはハーフプレートの活性面および裏面24、26は、前記アークPVDコーティング工程中にコーティングすべきであることに留意されたい。
【0112】
さらに、コーティングされた金属コンポーネント10がハーフプレートの場合、これは活性面24および裏面26を有することに留意されたい。
【0113】
勾配層18、20が設けられる場合、これは、それ自体既知のやり方でそれぞれの勾配層18、20の成長を確保するために、それぞれの堆積ステップ中に動作電圧および動作電流を変化させることによって生成される。
【0114】
図12は、二つの異なるスキャン位置におけるスパッタカーボン工程を用いてコーティングした、炭素コーティングされたコンポーネントの表面のAFM画像を示す。図13も、二つの異なるスキャン位置における炭素コーティングされたコンポーネントの表面のAFM画像を示しており、この例では、当該炭素コーティングはアークPVD工程を用いて施されている。
【0115】
図12図13の両方に記録されているAFM画像は、先端が半径5nmのSiプローブ(Fastscan‐A)を装着したBruker FastScan AFMを用いて、スキャンタッピングモードで1ライン当たり1Hzのスキャン速度で記録したものである。当該AFMプローブを用いて、それぞれのサンプルの表面粗さ(Sa)すなわち表面の算術平均高さと、増大表面積(Sdr)すなわち界面の展開面積比とを、二つの異なる離れた箇所で測定した。このパラメータは、平面的な定義領域と比べたときの、テクスチャが寄与する定義領域の追加の表面積の割合として表される。
【0116】
両者の比較として、図12および図13は、スパッタリングを用いて施された炭素コーティングは、アークPVDを用いて施された炭素コーティング16とは対照的に、表面粗さが増大し、表面積が増大している。この表面積の増大が理由で、前記スパッタリングされた炭素コーティングは、それぞれのコンポーネントの表面積がより大きいため、アークPVDを用いて施されたより滑らかな炭素コーティング16よりも腐食に弱い可能性がある。
【0117】
これに関して、前記アークPVD炭素コーティングの表面粗さは、好ましくは、1μmのスキャン面積に関して0.9nmから1.5nmのSa(すなわち、算術平均高さ)、特に1μmのスキャン面積に関して1nmから1.3nmの範囲内で選択され、図13のAFM画像では、1μmのスキャン面積に関して1.1nmのSaであることに留意されたい。これとは対照的に、図12のスパッタリングされた炭素コーティングの表面粗さは、1μmのスキャン面積に関して2.9nmのSaである。
【0118】
これに関して、アークPVD炭素コーティング16の表面積Sdrは、好ましくは、1μmのスキャン面積に関して2%から4%のSdr、特に1μmのスキャン面積に関して2.5%から3.1%のSdrの範囲内で選ばれ、図13のAFM画像では、1μmのスキャン面積に関して2.7%のSdrであることに留意されたい。これとは対照的に、図12のスパッタリングされた炭素コーティングの表面積は、1μmのスキャン面積に関してそれぞれ10.6%のSdrと11.4%のSdrである。
【0119】
図14は、アークPVD工程でコーティングされたサンプルおよびスパッタカーボン工程を用いてコーティングされたサンプルに関するエネルギー/波長に対する屈折率nおよび吸収係数kを示すエリプソメトリ測定の結果を示す。当該エリプソメトリ測定は、Woollam社の分光エリプソメータM2000DIで行われた。波長間隔は192nmから1689nmになるように選択された。当該測定は、面法線に対して(5度刻みで)50度から80度の7つの入射角で行った。前記エリプソメトリ測定を行うために、実際の炭素コーティング16の層厚をまず決める必要がある。典型的な層厚は、このような炭素コーティング16に関しては5nmから500nmの範囲内である。一例として、透過型電子顕微鏡検査(TEM)を行って前記層厚を決定することができる。前記TEMで決定した層厚は次いで、前記エリプソメトリ測定に使用するソフトウェアモデルに入力される。
【0120】
前記測定を行って、炭素でコーティングされた前記サンプルのエネルギー/波長に対する屈折率nおよび吸収kを決定した。これに関して、アークPVD工程を用いて施された炭素コーティング16は、エリプソメトリ測定において2eVのエネルギーに関して2.25から2.4の範囲内の屈折率n、および/またはエリプソメトリ測定において4eVのエネルギーに関して1.6から1.8の範囲内の屈折率n、および/または前記エリプソメトリ測定において4eVのエネルギーに関して0.95から1.1の吸収値kを有することが分かった。
【0121】
図14に示すように、エリプソメトリ測定において、4eVでのアークコーティングされた炭素コーティング16に関する屈折率nは1.71であり、2eVのエネルギーに関しては2.33である。これと比較して、前記スパッタリングされた炭素コーティングは、1.58の4eVでの屈折率nを有し、2eVのエネルギーに関しては2.16の屈折率nを有する。
【0122】
これは、前記屈折率nの数値の増大により、アークPVD炭素コーティング16が、前記スパッタリングされた炭素コーティングよりも高い密度を有することを示している。
【0123】
前記エリプソメトリ測定に関して、アークPVDを用いて施された炭素コーティング16は、4eVのエネルギーに関して1.05の吸収値kを有するが、前記スパッタリングされた炭素コーティングは0.9の吸収値kを有する。前記アークPVDコーティングのより高いk値は、前記スパッタリングされた炭素コーティングと比べて導電性が向上していることも示している。
【符号の説明】
【0124】
10,10’ 燃料電池のコンポーネント、バイポーラプレート
12 金属コンポーネント
14 接着層
16 炭素コーティング
18 第1の勾配層
20 第2の勾配層
22 最上層
24 活性面
26 裏面
28 アルゴンピーク
50 堆積装置
56 固定具
60 真空チャンバ
62 60のトップサイド
64 60のボトムサイド
66、66’ 側壁、70を有する側壁
68、68’ アークおよび/またはスパッタカソード、アークおよび/またはスパッタカソード
70 ドア
72 モータ
74 固定部材
76 プラズマ源
100 チャンバ
102 チャンバ
104 チャンバ
106 真空ポンプ
108 チャンバ
110 ロードロックシステム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【国際調査報告】