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特表2022-547794ペプチド:MHC結合ポリペプチドの特性決定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-16
(54)【発明の名称】ペプチド:MHC結合ポリペプチドの特性決定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20221109BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20221109BHJP
   C07K 14/74 20060101ALN20221109BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20221109BHJP
   C07K 14/725 20060101ALN20221109BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20221109BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20221109BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20221109BHJP
   C07K 17/12 20060101ALN20221109BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
C12Q1/04
C07K14/74
C07K16/00
C07K14/725
C07K19/00
C07K16/46
C12N15/13
C07K17/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022508957
(86)(22)【出願日】2020-08-12
(85)【翻訳文提出日】2022-02-10
(86)【国際出願番号】 EP2020072674
(87)【国際公開番号】W WO2021028503
(87)【国際公開日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】102019121834.9
(32)【優先日】2019-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】62/886,225
(32)【優先日】2019-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】506258073
【氏名又は名称】イマティクス バイオテクノロジーズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100174252
【弁理士】
【氏名又は名称】赤津 豪
(72)【発明者】
【氏名】シュスター,ハイコ
(72)【発明者】
【氏名】フット,マイケ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァインシェンク,トニ
(72)【発明者】
【氏名】バンク,ゼバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】スホール,オリバー
(72)【発明者】
【氏名】バッケルト,リーナス
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】フリッチェ,イェンス
(72)【発明者】
【氏名】ウンバードルベン,フェリックス
(72)【発明者】
【氏名】シマック,ギーゼラ
(72)【発明者】
【氏名】シュヴォーア(サロピアタ)、フロリアン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB01
2G045DA36
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ79
4B063QR48
4B063QR56
4B063QS32
4B063QS33
4H045AA30
4H045BA41
4H045BA61
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA50
(57)【要約】
本発明は、例えば、質量分析、認識したペプチド空間の分析による、即ち、MHCによる提示の文脈において結合可能な、及び、結合不可能なペプチドを同定するための、ペプチド:MHC結合ポリペプチドの特性決定方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの規定のペプチド結合ドメインを含むポリペプチド分子(「pMHC結合ポリペプチド」)の、ペプチド:MHC複合体のペプチド(「標的ペプチド」)への結合の特性決定方法であって、
a)分析される少なくとも1つのペプチド:MHC複合体を含むサンプルを提供するステップと、
b)前記サンプルを前記ポリペプチド分子(「pMHC結合ポリペプチド」)と接触させ、前記ポリペプチド分子の少なくとも1つのペプチド結合ドメインを、前記少なくとも1つのペプチド:MHC複合体に結合させるステップと、
c)前記少なくとも1つのペプチド結合ドメインに結合した前記少なくとも1つのペプチド:MHC複合体を単離するステップと、
d)ステップc)で単離した、前記少なくとも1つのペプチド:MHC複合体の前記ペプチドを同定することにより、前記ポリペプチド分子の、前記少なくとも1つのペプチド:MHC複合体の前記ペプチドへの結合を同定するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記ポリペプチド分子が任意に、マトリックス物質に結合する、及び/又は、前記ポリペプチド分子が、マトリックス物質に結合している、若しくは付着している、少なくとも1つの結合部位を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリペプチド分子のペプチド:MHC複合体のペプチドへの結合の特性決定方法が、前記ポリペプチド分子の、ペプチド:MHC複合体の前記ペプチドへの前記結合を同定するステップを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記サンプルが、細胞溶解物などの、少なくとも1つのペプチド:MHC複合体を含む天然若しくは人工のサンプル、又は精製若しくは濃縮されたペプチド:MHC複合体を含むサンプルから選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのペプチド結合ドメインを含む前記ポリペプチド分子が、二重特異的、三重特異的、四重特異的、又は多重特異的分子から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つのペプチド結合ドメインを含む前記ポリペプチド分子が、抗体、同時多重相互作用T細胞エンゲージ(SMITE)との二重特異的性、二重特異的T細胞誘起(BiTE)、scFv、ダイアボディ、二重親和性再標的化抗体(DART)、タンデム抗体(TandAb)、可溶性TCR、scTCR、例えばSブリッジを含む変異TCR、切頭TCR、及び、二重特異的なT細胞受容体(TCR)-抗体融合分子から選択される分子である、又はこれらの分子に由来する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリペプチド分子が、免疫細胞の活性化を誘発することが知られている細胞表面分子に結合するドメイン並びに、免疫応答関連分子、好ましくは、CD3、若しくは、CD3γ、CD3δ、及びCD3ε鎖、CD4、CD7、CD8、CD10、CD11b、CD11c、CD14、CD16、CD18、CD22、CD25、CD28、CD32a、CD32b、CD33、CD41、CD41b、CD42a、CD42b、CD44、CD45RA、CD49、CD55、CD56、CD61、CD64、CD68、CD94、CD90、CD117、CD123、CD125、CD134、CD137、CD152、CD163、CD193、CD203C、CD235a、CD278、CD279、CD287、Nkp46、NKG2D、GITR、FcεRI、TCRa/β、TCRγ/δ、及び/又はHLA-DRなどの、その鎖のうちの1つに結合する、第2の結合ドメインから選択される、少なくとも1つの第2の結合ドメインを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つのペプチド結合ドメインを含む前記ポリペプチド分子が、T細胞受容体(TCR)に由来するペプチド結合ドメインを含む二重特異的分子である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのペプチド結合ドメインを含む前記ポリペプチド分子が、可溶性分子である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記結合部位が前記少なくとも1つの結合ドメイン中、前記少なくとも1つの第2ドメイン中に存在するか、又は個別の連結基であり、前記分子の前記結合と本質的に干渉しない、請求項2~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップd)における前記同定するステップが、質量分析及びペプチド配列決定から選択される方法を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ポリペプチド分子の、ペプチド:MHC複合体のペプチドへの前記結合を特性決定方法が、前記ペプチド:MHC結合ドメインに対する上位結合モチーフを同定するステップを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ポリペプチド分子の、ペプチド:MHC複合体のペプチドへの前記結合を特性決定方法が、
a)前記ペプチド:MHC結合ドメインに対するポリペプチド分子の、位置ベース、及び/若しくは上位結合モチーフを同定するステップ、並びに/又は、
b)提示した適用により同定される前記ペプチドを用いて、ペプチド:MHC結合ドメインに対する前記ポリペプチド分子の、オフターゲットペプチドを同定するステップ
を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ポリペプチド分子の、ペプチド:MHC複合体のペプチドへの前記結合を特性決定方法が、他のペプチド:MHC結合ドメインに対する前記ペプチドの交差反応性を探索、及び/又は同定するステップを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
癌性、及び/又は非癌性の細胞又は組織における、1つ以上のペプチドモチーフの提示を同定するステップを更に含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記方法が、ステップa)において、前記サンプルに、少なくとも、
・既知の配列を有する1のペプチド、並びに/又は
・規定の、及び/若しくは事前に選択された1のペプチド:MHC複合体であって、前記ペプチドが、既知の配列を有する、複合体
を、好ましくは所定の量で添加するステップ(「スパイキング」)を更に含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ペプチドの前記配列が、少なくとも1の規定のペプチド結合ドメインを含むポリペプチド分子(「pMHC結合ポリペプチド」)が結合する、ペプチド:MHC複合体の前記ペプチド(「標的ペプチド」)の配列に対して変化又は変異される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1の規定のペプチド結合ドメインを含む前記ポリペプチド分子(「pMHC結合ポリペプチド」)が結合する、ペプチド:MHC複合体の前記ペプチド(「標的ペプチド」)の一連の変異体が作製され、ステップa)で前記サンプルに添加され、各変異体が、その長さ全体にわたって、又は、その長さの少なくとも細分画にわたって、ある位置のアミノ酸残基が代替のアミノ酸で置換された、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
各変異体が、その長さ全体にわたって、又は、その長さの少なくとも細分画にわたって、ある位置のアミノ酸残基がアラニン又はグリシンで置換された、請求項16~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1つの規定のペプチド結合ドメインを含む前記ポリペプチド分子(pMHC結合ポリペプチド」)に対する、ペプチド:MHC複合体の前記ペプチド(「標的ペプチド」)のアンカリング位置が、変化/変異しない、請求項16~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記マトリックス物質がSepharose(登録商標)又はアガロースから選択される、請求項2~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記方法が、前記ステップb)及び/又はc)における前記サンプルを、例えば、広範な特異的TCR及び/又は抗体などの、1又はそれ以上の他の結合ドメイン分子と接触させるステップを更に含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
少なくとも1つの広範な特異的結合ドメイン分子が、前記結合ドメイン分子に結合したペプチドに関係なく、1つ以上のMHC分子のみに対して結合特異性を有する、MHC汎特異的結合分子である、請求項22に記載の方法。(i)前記サンプルの第1の画分がpMHC結合ポリペプチドと接触し、
(ii)前記サンプルの第2の画分が、別のpMHC結合ポリペプチド又はMHC汎特異的結合分子と接触し、
更に、前記pMHC結合ポリペプチド、及び、前記別のpMHC結合ポリペプチド又はMHC汎特異的結合分子に結合したペプチド:MHC複合体を単離した後で、2つの画分で実現した単離効率を比較する、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
前記ステップb)又はc)において、多量の過剰のpMHC結合ポリペプチド、及び所望により、MHC汎特異的結合分子がアプライされる、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記サンプル中の前記異なるペプチドに対する、前記第1及び第2の画分で使用した前記結合因子(結合ポリペプチド又は結合分子)の前記結合の親和性を、前記単離効率の比較に基づいて測定する、請求項23~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記方法における少なくとも1つの分子が、検出可能なマーカー又はラベルを含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記同定及び/又はオフターゲット結合の演算分析を更に含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記ペプチド:MHC結合ドメインの交差反応性を、少なくとも1つの細胞傷害性実験により更に探索する、請求項14~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
例えば、a)マトリックス物質、及び、b)少なくとも1つのペプチド:MHC複合体に結合する前記少なくとも1つのペプチド結合ドメインを含むポリペプチド分子などの、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法を実施するための物質を含むキット。
【請求項30】
ペプチド:MHC複合体のペプチド(「標的ペプチド」)への前記結合が、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法により特性決定された、少なくとも1つの規定のペプチド結合ドメインを含むポリペプチド分子(「pMHC結合ポリペプチド」)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、質量分析、認識したペプチド空間の分析による、即ち、MHCによる提示に関して、結合可能な、及び、結合不可能なペプチドを同定するための、ペプチド:MHC結合ポリペプチドの特性決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫療法は、腫瘍学の分野における顕著な役割を得、異なる種類の腫瘍の治療において価値があることが証明された。免疫療法の範囲は、キメラ抗原受容体(CAR)から、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)及びT細胞受容体(TCR)形質導入エフェクター細胞にまで広がって異なっている。様々な研究が、TCR組換えT細胞を活用して、悪性腫瘍に対する患者の適応免疫応答を向上させることに成功しており、強力な抗腫瘍反応性を示している。癌に対する遺伝子組換えT細胞の有効性は、しかしながら、毒性の増加を犠牲にして大いに改善されている。
【0003】
形質導入したT細胞集団が予想外に、目的の抗原以外の抗原を攻撃する、又は、その特異性とは無関係に、目的の抗原自体を活性化するときに、オフターゲットの毒性が生じる。
【0004】
米国特許出願公開第2018/0125889号は、γδT細胞を組み換えると、阻害性CARを発現し得、これは、オフターゲット細胞、例えば、細胞表面標的が腫瘍に関連しているが、腫瘍特異的ではない非腫瘍細胞における活性化を最小化することを示している。国際公開第2018/053374号は、組換え標的細胞、又は組換え標的細胞の集団を、T細胞、TCR、又はTCR様分子と接触させることと、アッセイを行い、T細胞、TCR、又はTCR様分子が組換え標的細胞又は組換え標的細胞の集団に結合するか否かを測定することと、及び/又は、任意のそのような結合の強度を測定することと、を含む、T細胞、TCR、又はTCR様分子の毒性及び/又はオフターゲット効果を予想又は研究する、T細胞エピトープスクリーニング法について記載している。
【0005】
Bijen et al.(Bijen et al., 2018)は、HA-2抗原を発現しないヒト線維芽細胞及びケラチノサイトの7B5 T細胞クローンによる、オフターゲット認識を発見した。Bijen et al.は、オフターゲットペプチド、即ち、7B5 T細胞クローンにより認識される、CDH13由来のペプチドを同定するための、コンビナトリアルペプチドライブラリースキャンアプローチについて開示している。
【0006】
免疫療法において、オフターゲット毒性を低下させる必要性が依然として存在する。
【0007】
2クラスのMHC分子が存在する。MHC I又はIIは、大部分の有核細胞で観察され得る。MHC分子は、それぞれ、α重鎖及びβ-2-マイクログロブリン(MHCクラスI受容体)、又は、α及びβ鎖(MHCクラスII受容体)で構成される。これらの3次元構造は結合の溝を作り出し、これにより、特異的ペプチドとの非共有相互作用が可能となる。
【0008】
MHCクラスI受容体は、主に内因性タンパク質、欠陥リボソーム粒子(DRIP)及びより大型のペプチドのタンパク質切断によりもたらされたペプチドを提示する。MHCクラスII受容体は、主にプロフェッショナル抗原提示細胞(APC)において観察され、エンドサイトーシスの過程の間にAPCにより取り込まれ、その後処理される、外因性又は膜貫通タンパク質のペプチドを主に提示する。
【0009】
ペプチドとMHCクラスI分子との複合体は、適切なT細胞受容体(TCR)を有する、CD8陽性細胞傷害性Tリンパ球により認識される一方で、ペプチドとMHCクラスII分子との複合体は、適切なTCRを有するCD4陽性ヘルパーT細胞により認識される。この認識プロセスの間に、TCR、ペプチド、及びMHCが存在し、1:1:1の化学量論量で複合体を形成することがよく知られている。
【0010】
ペプチドが細胞免疫応答をトリガー(誘発)するためには、ペプチドがMHC分子に結合しなければならない。本プロセスは、MHC分子のアレル、及びペプチドアミノ酸配列の特異的多型に依存する。MHCクラスI結合ペプチドは通常、8~12アミノ酸長であり、通常、MHC分子の対応する結合溝と相互作用する配列中に、少なくとも2つの保存残基(「アンカー残基」、AR)を含有する。この方法により、各MHCアレルが、ペプチドが結合溝に特異的に結合する能力を制御する結合モチーフを有する。しかし、上述したように、MHCクラスI依存性免疫反応において、ペプチドは、腫瘍細胞により発現されるある種のMHCクラスI分子に結合可能である必要があるだけでなく、ペプチドは、特異的T細胞受容体(TCR)を有するT細胞によって認識される必要もある。腫瘍特異的な細胞傷害性Tリンパ球、により認識される抗原、即ち、そのエピトープは、発現され、同一種の未変化細胞と比較して、対応する腫瘍の細胞内で発現が促進される、全てのタンパク質クラス、例えば酵素、受容体、転写因子などに由来する分子(ペプチド)であることができる。
【0011】
現在開発中の多くの癌免疫療法は、ペプチド:MHC結合ポリペプチドを、可溶性ポリペプチド分子の形態で、又はそのようなポリペプチドを膜結合分子として発現する細胞、好ましくはT細胞の輸送により対象に投与することによってなされる。
【0012】
そのようなペプチド:MHC結合ポリペプチドに対する実際の標的ペプチド配列は通常確立/定義されている一方で、これらの分子が結合可能な、未知数の更なるペプチドが存在し得る。これらのいわゆる「オフターゲットペプチド」は、潜在的で深刻な副作用により、インビボ適用に対して著しい安全リスクを構成する。これらの副作用の理由は通常、癌組織以外の健常組織で、そのようなオフターゲットペプチドが提示されることであり、対応する致死的な結果が以前に報告されている(例えば、(Linette et al.,2013)を参照されたい)。
【0013】
ある種の非最適化T細胞受容体(van den Berg et al.,2015)、並びに、Mage-A4及びMage-A10(Adaptimmune社の製品・ADP-A2M4及びADP-A2M10)を形質導入したT細胞の投与の際に、更なる問題及び潜在的に致死性の深刻な有害事象の症例報告がある。
【0014】
結果的に、これらのオフターゲットペプチドの同定だけでなく加えて、これらの安全性についての正確な知識が、ペプチド:MHC結合ポリペプチドを伴う癌免疫療法の適切な開発において、最も適切である。
【0015】
このようなペプチドを同定するための現在の方法は、タンパク質配列データベースで、標的ペプチドと類似性を有するペプチドを検索することを含む。これらのアプローチは通常、適用される検索パラメーターに応じて、多数の、場合によっては1万個のペプチドをもたらし、これら全てが、対応するペプチド:MHC結合ポリペプチドにより結合される可能性に関して、下流アッセイで試験される必要がある。ペプチド:MHC結合ポリペプチドからの更なる特性、例えば変異スキャニングデータの組込みによる、これらの検索の修正は、下流アッセイで試験される必要があるペプチドの数を潜在的に低下させる可能性があるが、これらのペプチドが生理学的設定においてMHC分子によってもまた提示されるか否かについてのあらゆる情報を、依然として提示しないため、インビボでの適用に対して、依然として相当の安全性リスクを呈している。
【0016】
更に、これら全てのアプローチは、標的配列に対する類似性がどのように評価されるか、又は、どのアミノ酸が、変異スキャニングデータに基づいてペプチド配列の特定の位置で許容されるかについての、ある種の推定を必要とする。これらの推定を満たさないペプチドは、例えば、MHC分子、又はペプチド:MHC結合ポリペプチドへの結合様式が、標的ペプチド配列の結合様式とは異なるが故に、これらのアプローチにより同定することができない。これは特に、標的ペプチドとは異なる長さを有するペプチド(例えば、十量体標的ペプチド由来の、九量体のオフターゲットペプチド)に関係があり、標的配列とは関係のない、完全に異なるアミノ酸配列を示し得る(Ekeruche-Makinde et al.,2013)。
【発明の概要】
【0017】
上記の観点から、インビボでの状態にできる限り近づけるという目的を伴った、TCRの標的エピトープを同定する効率的な方法が、当該技術分野において求められている。これは更に、分析の元で、TCR(又はTCR様分子)と交差反応性である「オフターゲット」エピトープの同定を必要とし、これにより、非常に特異的であるというだけでなく、通常の健常な組織を標的にしない治療薬が開発可能となる。
【0018】
それ故、不正確な予測アルゴリズムの使用、及び、潜在的な、数百~数千個のオフターゲットペプチドの厄介な試験を回避することによるペプチド:MHC結合ポリペプチドにより結合又は認識される、関連するMHC結合ペプチドを同定するための、代替かつより直接的な方法を提供することが非常に望ましい。故に、本発明の目的は、包括的及び直接的な方法で、これらの分子により結合可能なオフターゲットペプチド(即ち、MHC提示リガンド)を同定するための、そのようなペプチド:MHC結合ポリペプチドの特性決定方法を提供することである。本発明の他の目的及び利点が、提供される以下の説明を検討する際に、当業者には速やかに明らかとなろう。
【0019】
本発明の第1の態様では、本発明の目的は、
a)分析される少なくとも1つのペプチド:MHC複合体を含むサンプルを提供するステップと、
b)上記サンプルを上記ポリペプチド分子(「pMHC結合ポリペプチド」)と接触させ、上記ポリペプチド分子の少なくとも1つのペプチド結合ドメインを、上記少なくとも1つのペプチド:MHC複合体に結合させるステップと、
c)上記少なくとも1つのペプチド結合ドメインに結合した上記少なくとも1つのペプチド:MHC複合体を単離するステップと、
d)ステップc)で単離した、上記少なくとも1つのペプチド:MHC複合体の上記ペプチドを同定することにより、上記ポリペプチド分子の、上記少なくとも1つのペプチド:MHC複合体の上記ペプチドへの結合を同定するステップと、
を含む、少なくとも1つの規定のペプチド結合ドメインを含むポリペプチド分子(「pMHC結合ポリペプチド」)の、ペプチド:MHC複合体のペプチド(「標的ペプチド」)への結合の特性決定方法により解決される。
【0020】
一実施形態では、上記ペプチド結合ドメインのアミノ酸配列は、T細胞受容体(TCR)、T細胞受容体様ポリペプチド、及び/若しくは、抗体、又はその単なる結合ドメインであるか、又はこれに由来する。
【0021】
本明細書で使用する場合、用語「少なくとも1つの規定のペプチド結合ドメインを含むポリペプチド分子」は、用語「pMHC結合ポリペプチド」と同じ意味で用いられる。
【0022】
このようなpMHC結合ポリペプチドは、例えば、本明細書の他の箇所で開示した抗体、若しくはその機能性断片若しくは誘導体、又は、本明細書の他の箇所で開示したT細胞受容体(本明細書では「TCR」とも呼ばれる)、好ましくは可溶性T細胞受容体、若しくはその機能性断片若しくは誘導体である。
【0023】
結合ポリペプチド内の「規定のペプチド結合ドメイン」という用語は、例えば、抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン、又は、TCRのα及びβサブユニットの可変ドメインを意味する。
【0024】
結合ポリペプチド内の「規定のペプチド結合ドメイン」という用語は、抗体又はTCRの少なくとも1つの可変ドメインの、少なくとも1つの相補性決定領域(本明細書では「CDR」とも呼ばれる)もまた意味する場合がある。本明細書で使用する場合、ペプチド:MHC複合体内での「ペプチド」という用語は、用語「標的ペプチド」と同じ意味で用いられる。
【0025】
用語「ペプチド:MHC複合体」は、「pMHC複合体」、又は更に「pMHC」と略すことができる。
【0026】
一実施形態に従うと、特許請求した方法において、ポリペプチド分子は任意に、マトリックス物質に結合し、かつ/又は、上記ポリペプチド分子は、マトリックス物質に結合している、又は付着している、少なくとも1つの結合部位を更に含む。
【0027】
本実施形態は、ポリペプチド分子が、例えば反応交差性のために特性決定される、方法それ自体にのみ関係しているということに言及しておくことが重要である。本明細書の他の箇所で論じるように、ポリペプチド分子はそれ自体が可溶性であることができる。
【0028】
一実施形態に従うと、ポリペプチド分子の、ペプチド:MHC複合体のペプチドへの結合を特性決定するステップは、ポリペプチド分子の、ペプチド:MHC複合体の上記ペプチドへの結合を同定するステップを含む。
【0029】
別の好ましい実施形態では、本開示は、例えば、
a)オフターゲットペプチド複合体を含むサンプル、例えば細胞溶解物を提供するステップであって、上記サンプルが、上記ペプチド結合ドメインのペプチド結合特性を規定する標的ペプチド:MHC複合体を必ずしも含有しない、ステップと、
b)上記サンプルを、任意にマトリックス物質に結合又は付着したポリペプチドと接触させるステップを含む、上記サンプルをアフィニティ精製するステップであって、上記ポリペプチドが、上記標的ペプチド:MHC複合体に結合する少なくとも1つのペプチド結合ドメインを含み、上記ポリペプチドが、上記標的ペプチド:MHC複合体の標的ペプチドに結合するT細胞受容体(TCR)及び/又は抗体である、アフィニティ精製するステップと、
c)上記少なくとも1つのペプチド結合ドメインに結合した、上記オフターゲットペプチド:MHC複合体を単離するステップと、
d)ステップc)で単離した、上記少なくとも1つのオフターゲットペプチド:MHC複合体の上記オフターゲットペプチドを同定するステップと、を含む、規定のT細胞受容体(TCR)及び/又は抗体ペプチド結合ドメインに結合可能な、オフターゲットペプチド:MHC複合体におけるオフターゲットペプチドの同定方法を提供する。
【0030】
本発明の文脈では、上記サンプルは、分析される少なくとも1つのペプチド:MHC複合体を含む、任意の好適な天然又は人工サンプル、例えば、細胞溶解物、又は、精製若しくは濃縮されたペプチド:MHC複合体を含むサンプルから選択することができる。ペプチド:MHC複合体の組成物/特性、加えて、分子の濃度/量は、既知であるか、又は未知であることができる。サンプルの一例は、ペプチド:MHC複合体のライブラリーであり、結合したペプチドの配列は定義されている、かつ/又は、その長さ及びアミノ酸配列が類似している。
【0031】
一実施形態では、上記少なくとも1つのペプチド結合ドメインを含むポリペプチド分子は、更なる結合特異性を含まない、即ち、当該ポリペプチド分子は、ペプチド又はペプチド:MHC複合体に対して単一特異的である。
【0032】
本発明に従った方法の異なる実施形態では、上記少なくとも1つのペプチド結合ドメインを含むポリペプチド分子は、二重特異的、三重特異的、四重特異的、又は多重特異的分子から選択される。
【0033】
本発明の方法の文脈における「二重特異的」という用語は、少なくとも2の価数、及び、2つの異なる抗原に対する結合特異性を有するポリペプチド分子を意味し、故に、2つの抗原結合部位を含む。本発明に従うと、これらの抗原結合部位のうちの1つは、規定のペプチド結合ドメインである。用語「価数」とは、ポリペプチド分子の結合部位の数を意味し、例えば、二価ポリペプチドとは、2つの結合部位を有するポリペプチドに関する。用語「価数」とは、結合部位の数を意味し、これらの結合部位は、同一の又は異なる標的に結合可能である、即ち、二価ポリペプチド分子は単一特異的、即ち1つの標的に結合可能であるか、又は二重特異的、即ち、2つの異なる標的に結合可能であることに留意すべきである。
【0034】
この場合、ペプチド:MHC結合ポリペプチドは、T細胞受容体(TCR)、T細胞受容体様ポリペプチド、及び/若しくは抗体、又は、これらの分子の断片であって、上記分子が、特定の/規定のペプチド:MHC複合体に結合可能である、又は、結合するのを媒介可能である、断片であるか、又はこれに由来する。
【0035】
少なくとも1つのペプチド結合ドメインは、分子であることができるか、抗体、同時多重相互作用T細胞エンゲージ(SMITE)との二重特異的性、二重特異的T細胞誘起(BiTE)、scFv、ダイアボディ、二重親和性再標的化抗体(DART)、タンデム抗体(TandAb)、可溶性TCR、scTCR、例えばSブリッジを含む変異TCR、切頭TCR、及び、二重特異的なT細胞受容体(TCR)-抗体融合分子から選択される分子に由来する。
【0036】
一例では、少なくとも1つのペプチド結合ドメインは抗体であることができるか、又は、抗体に由来する。
【0037】
本発明の文脈では、「規定された」ペプチド:MHC結合ポリペプチド、又は、ペプチド:MHC結合ポリペプチド「を規定する」とは、MHCの文脈で、選択された(「標的化された」)MHCペプチドに結合する、(結合ドメインを構成する、又は結合ドメインを含む)ポリペプチドを意味しなければならない。好ましい実施形態では、ペプチド:MHC結合ポリペプチドの、選択されたMHCペプチドへの上記結合は、他の(既知の)MHCペプチドと比較したときに、最も高い親和性及び/又は選択性を伴って生じる。
【0038】
本発明の文脈で使用する例は、PRAME-004ペプチドSLLQHLIGL(配列番号1)への親和性を示す、実施例1、3、4、及び5の規定のペプチド:MHC結合ポリペプチド、並びに、本明細書ではMAGEA4/8ペプチドとも呼ばれる、配列KVLEHVVRV(配列番号24)を有する、MAGEA4/A8由来のペプチドへの向上した親和性を示す、実施例2の規定のペプチド:MHC結合ポリペプチドである。
【0039】
規定のペプチド:MHC結合ポリペプチドへの結合は、MHCに関して標的化されたペプチドへの結合、又は、標的化されたペプチド及びMHCポリペプチドの両方への結合を含み得る。
【0040】
近年では、ペプチドリガンドに対するTCR及びTCR様分子の、いくつかのスクリーニング法が記載されているものの、現在まで、このような方法は限定的な成功しか成し遂げていない。例えば、Birnbaum et al.は、約2.1×10個の抗原ミニジーンのペプチド:MHC(「pMHC」)酵母ディスプレイライブラリーを開発した(Birnbaum et al.,2014)。Birnbaumのシステムを用い、可溶性TCRに結合した細胞を磁気ビーズで精製し、その後、ハイスループット配列決定に供した。4ラウンドの選択の後、5つの異なるマウスTCRと交差反応性である数百個のペプチドを同定した。しかし、TCRが結合することが知られている元のエピトープは、検出されなかった。
【0041】
本発明は、好ましくはペプチド:MHC結合ポリペプチドを用いて、ペプチド及びタンパク質(例えば、組換え作製したペプチド:MHC分子の組織又は細胞株、ライブラリーから作製したタンパク質溶解物)などの、有機分子の混合物から、特異的ペプチド:MHC分子を単離又は濃縮し、例えばその後の質量分析により、単離したペプチド:MHC分子を分析し、結合したペプチドの配列を同定する。
【0042】
本発明の方法は、現況技術の方法と比較して多数の利点を有し、これらは「オフターゲット予測アプローチ」として示すことができる。
【0043】
オフターゲット結合因子の実際の同定のために、予測アプローチにおいては、結合因子モチーフを用いてペプチドの広範な一覧を予想し、次いで手のかかるインビトロ試験に入る。本発明では、細胞溶解物などのサンプルからの直接同定が可能である。これには、インビトロアッセイでの、予想したペプチドの厄介な試験を必要としない。更に、本方法は非常に感度が高いため、弱く交差識別されたペプチドでさえも同定可能であることが発見された。
【0044】
予測アプローチでは、未知のオフターゲット認識源の同定は不可能である。対照的に、本発明を用いると、サンプル、例えば溶解物を作製して、ペプチド:MHC結合ポリペプチドによるアフィニティクロマトグラフィー実験において、上記溶解物を用いることにより、このことが可能となる。
【0045】
予測アプローチでは、結合因子モチーフの生成が位置スキャニングデータから推測されるが、本発明では、結合因子モチーフの生成は、同定したオフターゲットから推測され、必要な以前のインビトロ試験を用いることなく、ペプチドアミノ酸配列中での異なる位置において、複数の置換が存在すると更にみなされる。
【0046】
更に、提示された方法は、特異的HLAアロタイプ(例えば、HLA-A02:01)の分析に限定されず、異なるHLAアロタイプにより提示されるオフターゲットを同定するためにも使用可能である。これらのアロ反応性は、現在利用可能な標準的なアプローチでは評価するのが困難であり、予測方法では対応できない。
【0047】
最終的に、ペプチド配列の長さのバリアント及び修飾に関して、予測アッセイでは、長さバリアント又は天然に存在するペプチド修飾の予測は不可能であり、本アッセイは、あらゆる長さバリアント、並びに、自然に存在するペプチド修飾、例えばリン酸化及びグリコシル化などの、直接同定を可能にする。
【0048】
一実施形態では、生体サンプル又は生物工学的生産に由来するペプチド:MHC分子の混合物由来の上記ペプチド:MHC結合ポリペプチドにより認識される、ペプチド:MHC分子の濃縮又は単離、及び、例えば質量分析による、濃縮/単離ペプチド:MHC分子の同定、及び、その後の、同定した分子の、インビトロでの同一ペプチド:MHC結合ポリペプチドにより結合する能力の試験を含む本方法は、ペプチド:MHC結合ポリペプチドにより結合したペプチドを特異的かつ確実に同定する。
【0049】
ペプチド:MHC複合体に結合する上記少なくとも1つのペプチド結合ドメインを含む上記ポリペプチド分子が、二重特異的、三重特異的、四重特異的、又は多重特異的分子から選択される、本発明に従った方法が好ましい。
【0050】
上記少なくとも1つのペプチド結合ドメインを含む上記ポリペプチド分子が、T細胞受容体(TCR)に由来するペプチド結合ドメインを含む二重特異的分子である、本発明に従った方法が更に好ましい。
【0051】
別の態様では、標的ペプチド:MHC複合体に結合する上記少なくとも1つのペプチド結合ドメインを含有するポリペプチドは、T細胞受容体(TCR)に由来する結合ドメインを含む二重特異的分子であってよい。
【0052】
他の態様では、本明細書に記載する方法は、結合特性が異なる一連のポリペプチドを選択するステップを更に含むことができる。
【0053】
有利には、独立した特許請求の範囲で説明される、提示された方法は、上で説明した、標的ペプチドの個別の位置における、単一のアミノ酸の置換による、結合モチーフの決定、その後の機能アッセイにおける、これらのバリアントの認識試験、次いでの、ヒトプロテオームデータベースを用いる上記結合モチーフに基づく、潜在的なオフターゲットの予測、及びその後の、インビトロアッセイでのこれらの(潜在的に)多数のペプチドの試験を必ずしも必要としない。
【0054】
別の態様では、本明細書に記載する方法は、上、及び、本明細書における比較例で説明した、適切なHLAアロタイプにより生体サンプル上に提示される関連ペプチド上に焦点を当てることによる、予測ベースのアプローチと比較して、好ましくは、同定したオフターゲットペプチドの数を、少なくとも2倍、好ましくは少なくとも5倍、及び最も好ましくは少なくとも10倍、低下させる。
【0055】
別の態様では、少なくとも1つの結合ドメインは、検出可能なマーカー又はラベルを含有し得る。
【0056】
本発明の一実施形態に従うと、上記ペプチド:MHC結合ドメインの交差反応性を、少なくとも1つの細胞傷害性実験により更に探索する。これは、例えば、示した濃度のPRAME-004特異的ペプチド:MHC結合ポリペプチドの存在下で、ヒトCD8+T細胞(50,000cells/ウェル)で同時インキュベートした、対応するペプチドを負荷したT2細胞により行うことができる(図4、及び本明細書の他の箇所での対応する説明を参照されたい)。
【0057】
本発明は、a)物質、例えば、本明細書に記載するマトリックス物質、及び、b)標的ペプチド:MHC複合体に結合する少なくとも1つの結合ドメインを含有するポリペプチドを含む方法を行うための物質を含有するキットにもまた関係し得る。
【0058】
本発明は更に、少なくとも1つの規定のペプチド結合ドメインを含むポリペプチド分子(「pMHC結合ポリペプチド」)であって、当該ポリペプチド分子の、ペプチド:MHC複合体のペプチド(「標的ペプチド」)への結合が、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法により特性決定された、ポリペプチド分子に関する。
【0059】
このようなポリペプチド分子は、本明細書の他の箇所における方法の文脈で論じたように、抗体若しくはT細胞受容体、又は修飾フォーマットであることができる。
【0060】
このようなポリペプチド分子は、本明細書の他の箇所における方法の文脈で論じたように、単一特異的、二重特異的、又は多重特異的であることができる。
【0061】
このようなポリペプチド分子は、本明細書の他の箇所における方法の文脈で論じたように、可溶性であることができる。
【0062】
このようなポリペプチド分子は、ペプチド:MHC複合体のペプチド(「標的ペプチド」)、又は、ペプチド:MHC複合体に対して、KD<500nMの親和性を有することができる。
【0063】
本方法の文脈で論じたポリペプチド分子の、好ましい全ての実施形態はここでも同様に適用され、経済性のために、繰り返しはしない。
【0064】
本発明は更に、宿主細胞を提供するステップと、第2のポリペプチドをコードするコード配列を含む、標的特異的抗原を認識する構築物を提供するステップと、上記宿主細胞に、上記標的特異的抗原を認識する構築物を導入するステップと、上記標的特異的抗原を認識する構築物を宿主細胞により発現するステップと、を含む、標的特異的抗原を認識する構築物を発現する細胞集団の製造方法に関する。別の態様では、発現することは、抗原を認識する構築物を細胞表面上に提示することを含み得る。
【0065】
別の態様では、標的特異的抗原を認識する構築物は、上記コード配列に作動可能に結合したプロモーター配列を含有する発現構築物であってよい。更に別の態様では、標的特異的抗原を認識する構築物は、哺乳類由来、所望によりヒト由来のものであってよい。標的特異的抗原を認識する構築物は更に、修飾TCRであってよく、上記修飾は、ラベルを含む機能的ドメイン、又は、膜アンカードメインを含む代替ドメインを付加することを含む。
【0066】
別の態様では、標的特異的抗原を認識する構築物は、α/βTCR、γ/δTCR、又は一本鎖TCR(scTCR)であってよい。別の態様では、標的特異的抗原を認識する構築物は、レトロウイルス形質導入により、上記好適な宿主細胞に導入することができる。更に別の態様では、本明細書に記載の方法は、標的特異的抗原を認識する構築物を宿主細胞から単離して精製するステップと、及び所望により、標的特異的抗原を認識する構築物をT細胞中で再構築するステップと、を更に含んでよい。
【0067】
一態様では、本発明は、本発明の方法により作製される細胞集団、特に、T細胞集団に関する。
【0068】
本発明の方法により作製される標的特異的抗原を認識する構築物及び細胞、特にT細胞は、疾患に対する治療において改善された特性を示すことが予想され、上記治療は免疫療法を含む。本方法が、インビボでの状況に近い/より類似する状況に似ているという事実によって、遭遇するオフターゲットへの影響、及び副作用が少なくなる。これは、医学的及び臨床的用途に利点を有する。HLA-A02:01トランスジェニックマウスの免疫付与に由来する、修飾抗MAGE-A3 TCRを試験する臨床治験において、脳で発現した同一遺伝子ファミリーに由来するペプチドの認識により、9名の癌患者のうち2名で、致死的な標的神経系毒性が進行した(Morgan et al.,2013)。
【0069】
親和性が向上した抗MAGE-A3 TCRを骨髄腫及び黒色腫患者で試験した別の治験において、完全に異なるペプチドの認識により引き起こされた、オフターゲット毒性の患者2名が死亡し、深刻な心筋障害をもたらした(Linette et al.,2013;Raman et al.,2016)。これらの臨床症例は、最適な胸腺選択を受けなかったTCRの正確な特異性及び得られた効果を予想することが、どれだけ困難であるかを示す。特に、TCR組換えT細胞は非常に感度が高いために、TCRの正確な特異性を広範にわたり確認するための方法を開発することが重要である(Jahn et al.,2016;Stone and Kranz,2013)。
【0070】
別の態様では、本発明は、上述の細胞集団を含む組成物を患者に投与することを含む、癌を有する患者の治療方法であって、癌が、非小細胞肺癌(NSCLC)、小細胞肺癌(SCLC)、腎細胞癌、脳腫瘍、胃癌、結腸直腸癌、肝細胞癌(HCC)、膵臓癌、前立腺癌、白血病、乳癌、メルケル細胞癌、黒色腫、卵巣癌(OC)、泌尿器膀胱癌、子宮癌、胆嚢及び胆管癌、食道癌(OSCAR)急性骨髄性白血病、胆管細胞癌、慢性リンパ性白血病、グリア芽腫、頭頸部の扁平上皮細胞癌、非ホジキンリンパ腫、並びに子宮体癌から選択される、方法に関する。
【0071】
別の態様では、宿主細胞は患者から入手することができる。別の態様では、宿主細胞は健常なドナーから入手することができる。別の態様では、宿主細胞はCD8+T細胞であってよい。
【0072】
別の態様では、MHC分子はMHCクラスI分子であってよい。別の態様では、MHC分子はHLA-A02分子であってよい。
【0073】
上記ポリペプチド分子が、免疫細胞の活性化を誘発することが知られている細胞表面分子に結合するドメインから選択される、少なくとも1つの第2の結合ドメインを含むか、又は、免疫応答関連分子、好ましくは、CD3、若しくは、CD3γ、CD3δ、及びCD3ε鎖、CD4、CD7、CD8、CD10、CD11b、CD11c、CD14、CD16、CD18、CD22、CD25、CD28、CD32a、CD32b、CD33、CD41、CD41b、CD42a、CD42b、CD44、CD45RA、CD49、CD55、CD56、CD61、CD64、CD68、CD94、CD90、CD117、CD123、CD125、CD134、CD137、CD152、CD163、CD193、CD203c、CD235a、CD278、CD279、CD287、Nkp46、NKG2D、GITR、FcεRI、TCRα/β、TCRγ/δ、及びHLA-DRなどの、その鎖のうちの1つに結合する、第2の結合ドメインからなる群から選択される、本発明に従った方法が好ましい。
【0074】
一実施形態に従うと、上記少なくとも1つのペプチド結合ドメインを含むポリペプチド分子は、可溶性分子である。本明細書の他の箇所で論じる、このような可溶性ポリペプチド分子、例えば抗体、T細胞受容体、又はその誘導体は、好ましい治療様式である。
【0075】
一実施形態に従うと、ポリペプチド分子は、ペプチド:MHC複合体のペプチド(「標的ペプチド」)、又は、ペプチド:MHC複合体に対して、K<100nMの親和性を有する。
【0076】
は解離定数、即ち、標的-結合因子複合体が可逆的に分離(解離)する性質を測定する、平衡定数である。Kを測定する一方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)である。
【0077】
好ましくは、ポリペプチド分子は、ペプチド:MHC複合体のペプチド(「標的ペプチド」)、又はペプチド:MHC複合体に対して、K<100nM;<50nM;<20nM;<10nM;<5nM;<2nM;<1nM;<500pM;<400pM;<300pM;<200pM;<100pM;<50pM;<20pM;<10pM;又は<1pMの親和性を有する。10nM~500pMの範囲が最も好ましい。
【0078】
本発明に従った方法の別の態様では、上記マトリックス物質に結合しているか又は付着している、上記付着部位は、少なくとも1つの結合ドメイン、少なくとも1つの第2ドメイン中に存在するか、又は、個別の連結基であり、上記分子の結合と本質的に干渉しない。
【0079】
ペプチド:MHC分子の単離が、上記ペプチド:MHC結合ポリペプチドの、固体マトリックスへのカップリングの後に、アフィニティクロマトグラフィー又は免疫沈降により実施される、本発明に従った方法が好ましい。
【0080】
上記マトリックス物質がSepharose(登録商標)又はアガロースから選択される、本発明に従った方法が好ましい。にもかかわらず、結合は、固体マトリックスを用いずに溶液中で(バッチとして)実施することもまた可能であり、複合体は、例えば抗体、沈殿、濾過などを用いて、好適に単離することができる。
【0081】
別の態様では、上記方法は、ステップb)及び/又はc)における上記サンプルを、例えば、広範な特異的TCR及び/又は抗体などの、1つ以上の他の結合ドメイン分子と接触させるステップを更に含むことができる。
【0082】
このような広範な特異的結合ドメイン分子は、それに結合したペプチドに関係なく、1つ以上のMHC分子のみに対して結合特異性を有する、結合ドメイン分子であるのが好ましい。このような結合分子は、本明細書では、MHC汎特異的と呼ばれる。
【0083】
本方法の一実施形態では、
(i)サンプルの第1の画分がpMHC結合ポリペプチドと接触し、
(ii)サンプルの第2の画分が、別のpMHC結合ポリペプチド又はMHC汎特異的結合分子と接触し、
更に、pMHC結合ポリペプチド、及び、他のpMHC結合ポリペプチド又はMHC汎特異的結合分子に結合したペプチド:MHC複合体を単離した後で、2つの画分で実現した単離効率を比較する。
【0084】
これは例えば、並行して行った対応する単離の質量分析データセットを、異なる結合分子と組み合わせることにより実現することができる。実施例2に示すように、同定した各ペプチドの定量データにより、異なるpMHC結合ポリペプチド又はpMHC結合ポリペプチドと、MHC汎特異的結合分子との間での、ペプチドの単離効率の比較が可能となる。
【0085】
これにより、ペプチド:MHC結合ポリペプチド、及び広範な特異的TCR又は抗体の、倍率変化/濃縮因子の計算により分析した生体サンプルにおける、各ペプチドの自然存在比及び任意の非特異的結合の補正が可能となる。
【0086】
本方法の一実施形態では、ステップb)又はc)において、多量の過剰のpMHC結合ポリペプチド、及び所望により、MHC汎特異的結合分子がアプライされる。このような方法において、各ペプチドの回収は、利用可能な結合部位の数により限定されない。
【0087】
本方法の更なる一実施形態では、サンプル中の異なるペプチドに対する、第1及び第2の画分で使用した結合因子(結合ポリペプチド又は結合分子)の結合親和性を、例えば、実施例3に示すように、単離効率の比較に基づいて測定する。
【0088】
本発明者らは、驚くべきことに、バイオ層干渉法により行われる比較実験により確認されるように、MHC汎特異的結合分子(例えば、抗体BB7.2及びpMHC結合ポリペプチド)間の、個別のペプチドの回収(=接触及び単離)率が、これらのペプチド(標的及びオフターゲット)に対する、pMHC結合ポリペプチドの結合親和性と相関することを示した(この場合、Octet測定;図12(後者はグレースケールの着色として表現)、及び図13を参照されたい)。
【0089】
故に、単離は、ペプチド:MHC複合体を、MHC分子に対する汎特異的抗体と接触させることを含み得るのが好ましい。別の態様では、抗体は、W6/32、B1.23.2、BB7.2、GAP-A3、Spv-L3、Tu39、L243、又はIVD-12から選択される少なくとも1つであることができる。ペプチド:MHC分子のMHC構成成分に向けられ、故に、ペプチドに結合したペプチド配列の性質に関係なく、ある種のMHCアロタイプに結合したペプチド全ての単離を可能にする、広範な特異的(又は多重特異的、又は単一特異的)ペプチド:MHC結合ポリペプチドと並行しての、上記ペプチド:MHC分子の単離を含む方法(図1)が、更に好ましい。述べたように、このような広範な特異的ペプチド:MHC結合ポリペプチドは、抗体、例えばHLA-A02汎特異的抗体BB7.2、又は、汎HLA-A,B,C特異的抗体W6/32であることができるが、これらに限定されない。更なる、マウスハイブリドーマ由来の抗体、及び関連する、ヒトMHC分子に対する汎特異性を、表1に列挙する。
【0090】
【表1】
【0091】
並行して行った、対応する単離の質量分析データセットを組み合わせることにより、同定した各ペプチドの定量データが得られ、実施例2に示すように、異なるペプチド:MHC結合ポリペプチド又はペプチド:MHC結合ポリペプチドと、広範な特異的TCR又は抗体との間での、ペプチドの単離効率の比較が可能となる。これにより、ペプチド:MHC結合ポリペプチド、及び広範な特異的TCR又は抗体の、倍率変化/濃縮因子の計算により分析した生体サンプルにおける、各ペプチドの自然存在比及び任意の非特異的結合の補正が可能となる。
【0092】
例えば、単離手順で利用する物質の表面に結合するペプチド:MHC分子の混合物から、非特異的な結合ペプチドを単離し枯渇させるための、更なるステップを含有する方法での、ペプチドの単離を含む方法が、更に好ましい。このようなステップは、固体マトリックス(例えば、Sepharose(登録商標)、アガロース)を含有するが、ペプチド:MHC結合ポリペプチドを含有せず、ペプチド:MHC分子の混合物が、対応するペプチド:MHC結合ポリペプチドを用いる単離ステップの前にアプライされる、別のアフィニティクロマトグラフィーカラムで構成されてよい(図1を参照されたい)。これらの、非特異的に結合したペプチドのその後の抽出(溶出)、及び、質量分析により同定により、それらの同定が可能となり、これらのペプチドを更なる分析から排除することができる。
【0093】
ステップd)における上記同定するステップが、質量分析及びペプチド配列決定から選択される方法を含む、本発明に従った方法が好ましい。
【0094】
本発明の方法の一実施形態に従うと、ポリペプチド分子の、ペプチド:MHC複合体のペプチドへの結合を特性決定するステップは、上記ペプチド:MHC結合ドメインに対する上位結合モチーフを同定するステップを含む。
【0095】
この実現方法の詳細は図7、及び対応する説明、並びに、実施例1に示される。
【0096】
本発明の方法の一実施形態に従うと、ポリペプチド分子の、ペプチド:MHC複合体のペプチドへの結合を特性決定するステップは、
a)上記ペプチド:MHC結合ドメインに対するポリペプチド分子の、位置ベース、及び/若しくは上位結合モチーフを同定するステップ、並びに/又は、
b)提示した適用により同定されるペプチドを用いて、ペプチド:MHC結合ドメインに対するポリペプチド分子の、オフターゲットペプチドを同定するステップを含む。
【0097】
この実現方法の詳細は図7、及び対応する説明、並びに、実施例1に示される。
【0098】
本発明の方法の一実施形態に従うと、ポリペプチド分子の、ペプチド:MHC複合体のペプチドへの結合を特性決定するステップは、別のペプチド:MHC結合ドメインに対する上記ペプチドの交差反応性を探索、及び/又は同定するステップを含む。
【0099】
本明細書で使用する場合、用語「上位結合モチーフ」とは、どのアミノ酸が、ペプチド:MHC結合ポリペプチドの結合を依然として維持しながら、ペプチド配列のどの位置で許容されるかを説明するために用いられる。
【0100】
本明細書で使用する場合、用語「位置ベースの結合モチーフ」とは、結合したペプチドのアミノ酸配列中のどの位置が、ペプチド:MHC結合ポリペプチドとの相互作用と関連があるかを説明するために用いられる。
【0101】
本明細書で使用する場合、用語「オフターゲットペプチド配列」とは、所与のペプチド:MHC結合ポリペプチドに結合可能ではあるが、その配列が、ペプチド:MHC結合ポリペプチドが元々設計された、又は選択されたペプチドの配列とはずれている、ペプチド配列に関する。したがって、このようなオフターゲットペプチド配列が、例えば、健常な非癌性組織で示される場合、ペプチド:MHC結合ポリペプチドが、健常な組織に対して細胞傷害性活性(「別の腫瘍/オフターゲット」毒性)を示すというリスクが存在する。
【0102】
この実現方法の詳細は、図7、及び図12~15、並びに対応する説明、並びに提示する実施例にて示される。同定したペプチド配列を使用して、ペプチド:MHC結合ポリペプチドの結合特性についての情報を推測する、本発明に従った方法が、更に好ましい。このような情報を使用して、例えば、ペプチド:MHC結合ポリペプチドの結合モチーフを生成することができる。これらの結合モチーフは一般に、結合したペプチドのアミノ酸配列中のどの位置が、ペプチド:MHC結合ポリペプチドとの相互作用と関連があるか(「位置ベースの結合モチーフ」)、及び更に、どのアミノ酸が、ペプチド:MHC結合ポリペプチドの結合を依然として維持しながら、ペプチド配列のどの位置で許容されるか(「上位結合モチーフ」)を説明するために使用される。同定したペプチドのアミノ酸配列、及び、選択した位置におけるペプチド配列の存在を分析することにより、これらの結合モチーフの生成が容易になる。後者を更に使用して、検索基準として結合モチーフ内に含有される情報を用いて、例えばタンパク質配列データベースから、安全性に関連するオフターゲットを予測することを実施することができる。
【0103】
単離ステップの後で、含有されるペプチド配列全てが、同定される配列一致において最大感度、及び、高い信頼にて包括的、定量的に同定されるという方法で、配列同定が質量分析により達成される、本発明に従った方法が好ましい。
【0104】
本発明の文脈では、以下に列挙する技術及び方法のうちの1つを適用するのが、好ましい場合がある:
a)任意数の、異なる質量分析機械及び質量分析断片化技術の、特定の使用又は組合せ(例えば、衝突誘起解離(CID)、表面誘起解離(SID)、電子捕獲解離(ECD)、高エネルギーCトラップ解離(HCD)、電子移動解離(ETD)、陰電子移動解離(NETD)、電子脱離解離(EDD)、赤外線多光子解離(IRMPD)、黒体赤外放射解離(BIRD)、電子移動/高エネルギー衝突解離(ETHCD)、紫外光解離(UVPD)、電子移動及び衝突誘起解離(ETCID))、又は、ペプチドタンデムMSシグナル(MS/MS)スペクトルの良好な配列カバレッジを可能にする、活性化エネルギー、
b)データ依存性(DDA)、加えて、データ独立性獲得モード(DIA)での質量分析実験。これは、予め規定されたペプチド配列の一覧を用いる、特定の獲得方法(標的化分析)、又は、理論上の全ての質量スペクトルの連続ウィンドウ獲得(SWATH)分析といった他の方法を更に含むことができる。
c)例えば、質量分析の前に、又はこれに直接連結した、HPLC(例えば、水中でのアセトニトリル勾配による、ナノUHPLCの実行)により、ペプチド混合物の事前分離。
d)よりロバストな統計評価を可能にするための、同一ペプチド混合物の複製測定。
e)これらの検索エンジン、加えて、新規の配列同定アルゴリズムのうちの1つを用いる、異なる検索エンジン(例えば、MASCOT、Sequest、Andromeda、Comet、XTandem、MS-GF+)、又はソフトウェアツールを用いる、MS/MSスペクトルの検索。
f)例えば、pDeep(Zhou et at., 2017)として、MS/MSスペクトル予測のために演算ツールを更に用いる検索。
g)異なるタンパク質配列データベース(例えば、UniProtKB、IPI)に対するMS/MSスペクトル、加えて、特定の目的のために生成したカスタム配列データベース(例えば、mRNA配列から翻訳したタンパク質配列)の検索。
h)問題のペプチドの合成バージョンを質量分析測定し、例えば、HPLCカラム上での、それらのMS/MSスペクトル、及びそれらの保持時間といった、ペプチド特有の特徴を比較することにより、それらの同一性を確認すること。
i)以前に同定したMS/MSスペクトルのデータベース(例えば、スペクトルライブラリー、又はスペクトルアーカイブ)を伴う、MS/MSスペクトルの検索。このデータベースは、新しく記録したMS/MSスペクトルを、既に同定したペプチド配列の対応するMS/MSスペクトルと比較することによる、ペプチド同定プロセスのために用いることができる。
j)同定プロセスを補助するための、既に同定したペプチドの、実験又は予測保持時間(RT)の情報を更に記憶する、i)で記載した任意のデータベース。
j)例えば、適切なアルゴリズム(例えばSuperHirn)(Mueller et al., 2007)を用いる、MSの特徴の抽出及び一体化による、MS、又はMS/MSレベルにおけるペプチドシグナル面積の定量的評価。
【0105】
癌性、及び/又は非癌性細胞又は組織における、上記1つ又は複数のペプチドの提示を同定するステップを更に含む、本発明に従った方法が好ましい。
【0106】
このような同定方法は、癌性、又は非癌性組織における、本明細書の他の箇所で開示したように同定される、結合モチーフの同定、加えて、オフターゲットペプチド配列の同定の両方を含む。
【0107】
この目的のために、癌性、及び非癌性組織のサンプル由来の細胞で示されるペプチド:MHC複合体を分析することができる。
【0108】
これを行う一方法は、例えば、免疫親和性捕捉による、ペプチド:MHC複合体(「イムノペプチド-ム」)全体を単離することである。次いで、示されたペプチドを、例えば酸変性により、MHCから解離することができる。次いで、ペプチドカーゴをHPLCにより抽出して画分に分離し、これらの画分中のペプチド配列を、LC-MS/MSにより同定する。このようにして、癌性細胞及び感染細胞、並びに、組織由来の細胞を含む、多種多様の細胞型から、数千ものペプチドを同定することができる。
【0109】
このように入手したペプチド配列を次いで、対応するペプチドが、癌性及び/又は非癌性細胞又は組織で発見されたか否かについての注釈と共に、データベースに入れる。次いで、このようなデータベースを、本明細書の他の箇所に記載されているように同定した結合モチーフ又は上位モチーフに対応するペプチドの提示により、スキャンすることができる。
【0110】
これを実現するための方法及び手順はとりわけ、国際公開第2005076009号、国際公開第2011128448号、及び国際公開第2016107740号に開示されており、これらの内容全体が参照により本明細書に組み込まれており、これら全てが、本出願人に割り当てられる。
【0111】
したがって、本発明の方法は、以下に挙げるが、これらに限定されない技術:
i)異なる正常又は癌性組織、加えて細胞株における、上記オフターゲットペプチドの源遺伝子の遺伝子発現プロファイルの分析、
ii)異なる正常又は癌性組織、加えて細胞株における、上記オフターゲットのペプチド提示プロファイルの分析、及び、
iii)異なる正常又は癌性組織、加えて細胞株における、上記オフターゲットの細胞当たりのペプチドコピー数の分析のいずれかを適用することによる更なる調査による、オフターゲット毒性を引き起こす、関係のある同定されたペプチドを評価することを更に含むことができる。
【0112】
本発明に従った方法の、別の重要な態様では、上記方法は、特に、本明細書で開示するペプチド:MHC結合ポリペプチドの更なる修飾のための準備における、上記同定、及び/又はオフターゲット結合の演算分析ステップを更に含む。対応するプログラムは、当業者に周知である。
【0113】
本発明によれば、オフターゲットペプチドが本方法により同定される場合、ペプチド:MHC結合ポリペプチドは次いで、これらのオフターゲットペプチドへの結合を低下させるために、好適に改変されることができる。このような改変は、ペプチド:MHC結合ポリペプチドの特異性を改善するために、特に、成熟のラウンドにおいて、ペプチド:MHC結合ポリペプチドのアミノ酸配列を修飾することを含む。新しく生成される分子の特異性はこれにより、図2の標的陰性細胞株T98Gの殺傷の低下により例示的に示されるように、大幅に改善されることができる。ペプチド:MHC結合ポリペプチドの対応する成熟方法は当業者に既知であり、具体的には、TCRの6つの相補性決定領域(CDR)といった、ペプチド:MHC結合ポリペプチド内での変化を含む。同様に、抗体のCDRは、適宜修飾することができる(例えば、(Smith et al,2014;Stewart-Jones et al, 2009);米国特許出願公開第2014-0065111A1号;国際公開第2017/174823A1号;国際公開第2016/199141号;及び国際公開第2012/013913号)を参照されたい)。
【0114】
次いで、ペプチド:MHC混合物が由来する上記生体サンプルが、上記方法の単離ステップにて個別に分析可能であるか、又は組み合わせることができる、複数の癌細胞株のうちの1つから選択される、本発明に従った方法が好ましい。図3は、XPRESIDENT(登録商標)に基づき、複数の細胞株の組み合わせが、正常な組織ペプチド空間のカバレッジをどのように増加させるかを示し、これは、サンプル生成のために複数の細胞株を選択することによる本方法を用いて直接対応可能である。当業者は更に、強力なMHC発現を伴う複数の細胞株と組み合わせるか、又は、例えば、対象の遺伝子のトランスフェクション若しくはウイルス性形質導入、若しくは、物質若しくは化学化合物(例えば、インターフェロンγ)による処理による方法により、このような細胞株を修飾し、このような細胞株内で、MHC分子により提示される異なるペプチドの数を増加させる、又は修正するような方法で、MHC発現を増加又は修正することを欲する場合がある。これらの遺伝子は、特異的MHCクラスI若しくはクラスII遺伝子(例えば、HLA-A02、HLA-DRB3)、MHCペプチド処理及び提示に関与する遺伝子(例えばTAP1/2、LMP7)、又は、細胞の遺伝子発現を誘発若しくは修正可能な転写因子(例えばAIRE)であることができるが、これらに限定されない。
【0115】
ペプチド:MHC混合物が由来する上記生体サンプルが、1つから複数個の一次的な正常組織サンプル、又は健常なドナーの血液、加えて、癌患者又は感染組織由来の腫瘍組織から選択される、本発明に従った方法が更に好ましい。これらの組織上でのペプチドの交差認識の場合に、高リスクの致死性の有害事象を有するこれらの組織又は特定の身体区画に由来する、正常組織又は単離細胞が、特に関連する。このような正常組織、又は正常組織から単離した細胞は、脳組織、心臓組織、血液、肺組織、脊髄、神経組織、又は肝臓組織であり得るが、これらに限定されない。
【0116】
生体サンプルは全て、本発明に従った方法に依然として好適であれば、新たなものであるか、又は処理されている(例えば凍結若しくは調製されている)ことができる。一態様では、生体サンプルは、組織、器官、細胞、タンパク質、又は、細胞、血液、若しくは生物学的流体の膜抽出物、例えば、対象から入手した血清、粘液、尿、腹水流体、若しくは脳流体を含むことができる。
【0117】
本発明の方法の一実施形態に従うと、上記方法は、ステップa)において、上記サンプルに、少なくとも、
・既知の配列を有する1のペプチド、並びに/又は
・ある規定の、及び/若しくは事前に選択された1のペプチド:MHC複合体であって、このペプチドが、既知の配列を有する、複合体
を、好ましくは所定の量で添加するステップ(「スパイキング」)を更に含む。
【0118】
一実施形態に従うと、上記ペプチドの配列は、少なくとも1つの規定のペプチド結合ドメインを含むポリペプチド分子(「pMHC結合ポリペプチド」)が結合する、ペプチド:MHC複合体のペプチド(「標的ペプチド」)の配列に対して変化又は変異される。
【0119】
一実施形態に従うと、少なくとも1つの規定のペプチド結合ドメインを含むポリペプチド分子(「pMHC結合ポリペプチド」)が結合する、ペプチド:MHC複合体のペプチド(「標的ペプチド」)の一連の変異体が作製され、ステップa)でサンプルに添加される。この中で、各変異体は、その長さ全体にわたって、又は、その長さの少なくとも細分画にわたって、代替のアミノ酸で置換されたある位置において、アミノ酸残基を有する。
【0120】
一実施形態に従うと、各変異体は、その長さ全体にわたって、又は、その長さの少なくとも細分画にわたって、例えば、実施例5で示すような、アラニン又はグリシンで置換されたある位置において、アミノ酸残基を有する。
【0121】
述べたように、このようにして入手した変異体ペプチドを、提示した方法のステップa)において、サンプル(例えば、pHLAライブラリー又は細胞溶解物)にスパイクすることができる。本アプローチにより、上位結合モチーフをよりよく特性決定することも、潜在的なオフターゲットを同定することをもが可能になる。
【0122】
一実施形態に従うと、スパイキングのために利用した合成ペプチドは、例えば、質量分析データ又はゲノムデータに基づく、天然に存在するペプチドに由来し、例えば、実施例4に示すように、標的ペプチドに対する化学的類似性といった規定された基準に基づき選択される。
【0123】
一実施形態では、本明細書で論じる方法を用いると、標的ペプチド配列を必ずしも、これらのペプチドの評価のためにサンプルに組み込む必要はない。更に、上記実施形態では、標的ペプチド配列又は他のペプチド配列を参照して、任意の比率を計算する必要はない。変異ペプチドの結合強度は、結合因子とBB7.2調製物におけるその回収によってのみ測定される。
【0124】
一実施形態に従うと、少なくとも1つの規定のペプチド結合ドメインを含むポリペプチド分子(pMHC結合ポリペプチド」)に対する、ペプチド:MHC複合体のペプチド(「標的ペプチド」)のアンカリング位置は、変化/変異しない。
【0125】
本文脈では、いわゆる「アンカー残基」(本明細書では「AR」と略される)は、ペプチドの、MHC中のペプチド結合溝への結合を媒介することに留意されたい。HLA-A02:01では、これらのアンカー残基の大部分は、P2のロイシン、及び、P9のロイシン又はバリンであり、結合ポリペプチドとペプチド:MHC複合体との間での結合反応において、微小な役割を果たすのみである。
【0126】
本発明に従った方法の更に好ましい態様では、ペプチド:MHC分子の混合物を、生物工学的生産により人工的に生成することができる。後者は、MHC分子の、原核細胞(例えばE.coli)系内での形質転換及び発現により達成可能であり得るが、これらに限定されない。このようなMHC分子を更に、例えば、このような分子の膜貫通部分を置換又は変更することにより修飾して、その可溶性を増加させることができる。このような分子のペプチド負荷及び再構築は、対象のペプチド、加えて、所望の分子の再構築を促進する、更なる化学物質(グルタチオン、アルギニンなど)の存在下において、MHC構成成分(例えば、タンパク質重鎖及びβ-2マイクログロブリン)の封入体のリフォールディングにより達成可能であるが、これらに限定されない。
【0127】
当業者は、異なるペプチドを負荷した、これらの人工的に作製したペプチド:MHC分子のいくつかを組み合わせて、提示した方法に従い、ペプチド:MHC結合ポリペプチドを用いて試験可能な、数十から数百、数千、数万、又は数十万の異なるペプチド:MHC分子のライブラリーを生成することを欲する場合がある。当業者は更に、人工的に生成したペプチド:MHCのこれらの混合物を、生物源由来のペプチド:MHC分子の別の混合物にスパイクすることを欲する場合がある。別の態様では、当業者は、これらの人工的に生成したペプチド:MHC分子を、13C、15N、又はHなどに限定されない、1つ、又は複数の重くて安定した同位体標識を含有するペプチドを用いて再構築することができる。これらのペプチド:MHC分子を次いで、例えば、生物学的サンプル由来のペプチド:MHC分子の別の混合物にスパイクして、重い標識を含有する対象となるペプチドの更なる情報を得、提示した方法を用いて、ペプチド単離効率についての定量的質量分析データを提供することができる。
【0128】
本発明に従った方法の更に好ましい態様では、本方法を、上記同定及び/又はオフターゲット結合の演算分析と組み合わせる。
【0129】
この更なる情報は、PMBEC、Blosum62、Pam250、NetMHC、NetMHCpan、SYFPEITHIなどのMHC分子に対する、ペプチド類似性及びペプチド結合のスコア計算により構成され得るが、これらに限定されない。
【0130】
2つのペプチドの「類似性」という用語は、所与の位置における2つのアミノ酸の関連性を考慮に入れる(例えば、下表1aを参照されたい)。類似のアミノ酸配列、例えば、標的ペプチド配列に類似するオフターゲットペプチド配列は、2つの配列間での類似性の統計分析を行うBLASTアルゴリズムを用いて、タンパク質データベースから読み込むことができる(例えば、(Karlin and Altschul,1993)を参照されたい)。このようなアラインメントのための好ましい設定は、ワード長さ・3、予想(E)・10、及び、BLOSUM62又はPMBECスコアリングマトリックスの使用であり(Kim et al.2009)、好ましくは、PMBECスコアリングマトリックスを、類似性の測定で使用する。これらのマトリックスは例えば、複数のアミノ酸間の進化上の、又は機能的な類似性に基づきアミノ酸の類似性を定量化し、これは、物理化学的パラメーターに従った類似性に十分相関する。所与の標的ペプチド配列におけるアミノ酸の各置換に対して、スコア(10進値)を、これらのマトリックスを使用することにより計算することができ、このスコアは、標的ペプチド配列中のアミノ酸の、オフターゲットペプチド配列中の置換アミノ酸との類似性を示す。複数の置換は、標的ペプチド配列中での個別の置換の効果(スコア)を合計することにより考慮することができる。定義上、オフターゲットペプチドのために提供可能な最大スコアは、非置換の標的ペプチド配列によりもたらされる一方で、オフターゲットペプチドを導く任意の置換は、スコアリングマトリックスによりペナルティを受け、最終的には、よりスコアの低いオフターゲットペプチドがもたらされる。しかし、この最大スコアは、標的ペプチドの長さ及びアミノ酸配列に依存する(即ち、異なる標的ペプチド配列が異なる最大スコアを有する)。典型的には、より長いアミノ酸配列は、より高いスコアをもたらす。しかし、標的ペプチドのスコアは、それを構成するアミノ酸に割り当てられるスコアに左右される。異なる標的ペプチド配列の最大スコアの差を考慮することなく、標的ペプチドに対する、オフターゲットペプチドの類似性を計算して比較することを可能にするために、対応する10進値が変換され、これは、標的ペプチドに対する、オフターゲットペプチドの類似性を、百分率スコアに計算した結果であり、標的ペプチド配列の最大スコアはそれ故、常に100%である。
【0131】
表1a:それぞれ、アミノ酸、並びに、保存的及び半保存的置換。新しいシステインが遊離チオールとして残ったままである場合、A、F、H、I、L、M、P、V、W、又はYからCへの変化は、半保存的である。更に、立体障害を受ける位置にあるグリシンは置換されるはずがないことを当業者は理解するであろう。
【0132】
【表1a】
【0133】
本発明はここで、以下の実施例を参照して説明されるが、これらに限定されない。本発明の目的のために、本明細書で引用される参考文献は全て、それら全体が参照により組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0134】
図1】本発明に従った実験アプローチの概略図である。ペプチド:MHC分子を含有するサンプルを、例えば、組織又は細胞株に由来する、ペプチド:MHCを発現する細胞の溶解物を生成することにより提供する。あるいは、サンプルは、人工的に作製したペプチド:MHC分子の混合物を添加することにより修飾することができるか、又は、当該混合物で構成されることができる。特定のペプチド:MHC分子は、例えば、ペプチド:MHC結合ポリペプチドが付着しているマトリックスに、当該特定のペプチド:MHC分子を接触させることにより、本サンプルから単離される。付着したポリペプチドを含有しないグリシンカラムを使用して、マトリックスと非特異的に相互作用する、非特異的な単離ペプチド:MHC分子から、サンプルを除外することができる。質量分析を使用して、サンプルから単離され、ペプチド:MHC結合ポリペプチドにより認識されたペプチド空間の配列を同定することで、MHC結合ペプチドを同定することができる。それにより、以前には未知だったオフターゲットリスクが、予測ツールを必要とせずに明らかとなることができる。本アプローチの変形においては、同一のペプチド:MHC分子を含有するサンプルを分割し、並行して、結合したペプチド種に関係なく、これらの分子に結合した、HLAの広範な特異的抗体又はTCRを用いる第2のアフィニティクロマトグラフィーに供することができる。図示した実施例では、HLA-A02汎特異的抗体BB7.2を用いて、本明細書ではHLA-A02イムノペプチド-ムと呼ばれる、ペプチド配列に関係なくHLA-A02により提示されるペプチド全てを単離する。両方の単離物中にある、十分な量の、対象となる(例えば、オフターゲット)ペプチドを使用して、用いる広範な特異的抗体又はTCR、この例ではBB7.2と比較して、上記ペプチドに対するペプチド:MHC結合ポリペプチドの結合親和性を評価することができる。
図2】PRAME-004ペプチド:MHC結合ポリペプチドの2つのバリアントを含む、標的陽性(U2OS)及び標的陰性(T98G)細胞株の殺傷を示す細胞傷害性実験(黒の長方形:元のバリアント、白の点:同定したオフターゲットペプチドを選択決定基として用いるPRAME-004に対して向けられる、ペプチド:MHC特異的結合因子の更なる成熟の結果、特異性が改善したバリアント)。標的の陰性細胞株T98Gの殺傷は、ペプチド:MHC結合ポリペプチドの特異性が改善したバリアントを用いる際に強力に低下する一方で、標的の陽性細胞株U2OSの殺傷は、わずかに影響を受けるのみである。
図3】サンプル生成のための複数の細胞株の組合せを使用して、HLA-A02を提示するイムノペプチド-ムの高いカバレッジを達成することができる。60個の細胞株に対するXPRESIDENT(登録商標)イムノペプチド-ムに基づくと、正常組織において以前に検出されている少なくとも10個のペプチド同定がペプチドが考慮される場合、これらの細胞株のうちの10個の組合せは既に、HLA-A02イムノペプチド-ムの60%超のカバレッジを可能にすることが示されている。
図4】実施例1のPRAME-004特異的ペプチド:MHC結合ポリペプチドを用いる分析で同定したペプチド全ての、細胞傷害性分析。簡潔に述べると、対応するペプチド10nMを負荷したT2細胞を、示した濃度を有するPRAME-004特異的ペプチド:MHC結合ポリペプチドの存在下において、ヒトCD8+T細胞と同時にインキュベートした。48時間後に、LDH放出を測定することにより、細胞傷害性を定量化した。
図5】異なる正常組織、加えて腫瘍組織における、IFT17-003の源となるエクソンをコードするペプチドの発現プロファイルの分析。腫瘍(黒の点)サンプル、及び正常(灰色の点)サンプルを、元の器官に従ってグルーピングする。箱ひげ図は、下部四分位数の1.5四分位数間領域(IQR)内に依然として存在する最低データポイント、及び、上部四分位数の1.5IQR内に依然として存在する最高データポイントまで延ばした、中央FPKM値、25及び75パーセンタイル(箱)+ひげを表す。正常な器官を、アルファベット順に並べる。FPKM:マップされたリード100万に対するのキロベース当たりのフラグメント数。組織(左から右に向かって):正常なサンプル:脂肪(脂肪組織);副腎(副腎);胆管;膀胱;血液細胞;血管(血管);骨髄;脳;乳;食道(食道);目;胆嚢(胆嚢);頭頸;心臓;大腸(大腸);小腸(小腸);腎臓;肝臓;肺;リンパ節;末梢神経(末梢神経);卵巣;膵臓;副甲状腺(副甲状腺);腹膜(腹膜);下垂体(下垂体);胎盤;胸膜;前立腺;骨格筋(骨格筋);皮膚;脊髄;脾臓;胃;精巣;胸腺;甲状腺;気管;尿管;子宮。腫瘍サンプル:AML(急性骨髄性白血病);BRCA(乳癌);CCC(胆管細胞癌);CLL(慢性リンパ性白血病);CRC(結腸直腸癌);GBC(胆嚢癌);GBM(グリア芽腫);GC(胃癌);HCC(肝細胞癌);HNSCC(頭頸扁平上皮細胞癌);MEL(黒色腫);NHL(非ホジキン・ホジキンリンパ腫);NSCLCadeno(非小細胞肺癌腺癌);NSCLCother(NSCLCadeno又はNSCLCsquamには明確に割り当てられないNSCLCサンプル);NSCLCsquam(扁平細胞非小細胞肺癌);OC(卵巣癌);OSCAR(食道癌);PACA(膵癌);PRCA(前立腺癌);RCC(腎細胞癌);SCLC(小細胞肺癌);UBC(泌尿器膀胱癌);UEC(子宮体癌)。
図6】異なる正常組織、加えて腫瘍組織における、IFT17-003のペプチド提示の分析。上部:技術的複製測定からの、中央MSシグナル強度を、ペプチドが検出された単一のHLA-A02陽性正常(灰色の点、図の左部分)及び腫瘍サンプル(黒の点、図の右部分)に対する点としてプロットする。箱は、正規化したシグナル強度の、中央値、25及び75パーセンタイルを示す一方で、ひげは、下部四分位数の1.5四分位数間領域(IQR)内に依然として存在する最低データポイント、及び、上部四分位数の1.5IQR内に依然として存在する最高データポイントまで延びた。正常な器官を、アルファベット順に並べる。下部:各器官における、相対的なペプチド検出頻度を、スパインプロットとして示す。パネル下部の数は、ペプチドが各器官に対して分析されたサンプルの総数から検出されたサンプルの数を示す(正常組織に対してはN=592、腫瘍サンプルに対してはN=710)。ペプチドがサンプルで検出されているものの、技術的な理由により定量化不可能な場合、サンプルは、検出頻度のこの表示に含まれるが、図の上部には示されない。組織(左から右に向かって):正常なサンプル:脂肪(脂肪組織);副腎(副腎);胆管;膀胱;血液細胞;血管(血管);骨髄;脳;乳;食道(食道);目;胆嚢(胆嚢);頭頸;心臓;大腸(大腸);小腸(小腸);腎臓;肝臓;肺;リンパ節;中枢神経(中枢神経);末梢神経(末梢神経);卵巣;膵臓;副甲状腺(副甲状腺);腹膜(腹膜);下垂体(下垂体);胎盤;胸膜;前立腺;骨格筋(骨格筋);皮膚;脊髄;脾臓;胃;精巣;胸腺;甲状腺;気管;尿管;子宮。腫瘍サンプル:AML(急性骨髄性白血病);BRCA(乳癌);CCC(胆管細胞癌);CLL(慢性リンパ性白血病);CRC(結腸直腸癌);GBC(胆嚢癌);GBM(グリア芽腫);GC(胃癌);GEJC(胃食道接合部癌);HCC(肝細胞癌);HNSCC(頭頸扁平上皮細胞癌);MEL(黒色腫);NHL(非ホジキン・ホジキンリンパ腫);NSCLCadeno(非小細胞肺癌腺癌);NSCLCother(NSCLCadeno又はNSCLCsquamには明確に割り当てられないNSCLCサンプル);NSCLCsquam(扁平細胞非小細胞肺癌);OC(卵巣癌);OSCAR(食道癌);PACA(膵癌);PRCA(前立腺癌);RCC(腎細胞癌);SCLC(小細胞肺癌);UBC(泌尿器膀胱癌);UEC(子宮体癌)。
図7】記載の方法を用いて測定し、配列ロゴのフォーマットで表示した、PRAME-004に向けられるペプチド:MHC結合ポリペプチドの上位結合モチーフ。選択した位置における個別のアミノ酸のサイズは、同定したオフターゲット間での豊富さを反映する。本アプローチはそれ故、PRAME-004に向けられるペプチド:MHC結合ポリペプチドの結合モチーフの正確な情報を伝達する。 例えば、同定したオフターゲットの中で、ペプチド配列の位置5におけるヒスチジン(H)は、リジン(K)と比較してより頻出しており、これは、上記位置において、ヒスチジンが、PRAME-004結合ポリペプチドにより好まれていることを意味する。言い換えれば、位置5においてヒスチジン残基を有するペプチドは、位置5においてリジン残基を有するペプチドよりも高い親和性で、対応するPRAME-004結合ポリペプチドにより結合される。位置5において、ヒスチジン又はリジン以外の任意の他のアミノ酸は、更に一層、対応するペプチドの親和性を低下させる。 確認することができるように、対応するPRAME-004結合ポリペプチドにより受け入れられる結合モチーフは、位置1、3、及び4において極めて柔軟である一方で、位置5~8においては、表1bに示す以下の階層を伴って、選択したアミノ酸残基に対しての明確な好ましさを測定することができる。
【表1b】
本文脈では、いわゆる「アンカー残基」(本明細書では「AR」と略される)は、ペプチドの、MHC中のペプチド結合溝への結合を媒介することに留意されたい。HLA-A02:01では、これらのアンカー残基の大部分は、P2のロイシン、及び、P9のロイシン又はバリンであり、結合ポリペプチドとペプチド:MHC複合体との間での結合相互作用において、微小な役割を果たすのみである。
以下において、PRAME(腫瘍で優先的に発現する黒色腫抗原;UniProt:P78395)の完全長配列を示し、PRAME-004標的ペプチド(SLLQHLIGL、配列番号1)の配列を太い下線で示す:>腫瘍で優先的に発現する、sp|P78395|PRAMEヒト黒色腫抗原OS=ホモサピエンス OX=9606 GN=PRAME PE=1 SV=1
したがって、上記データに基づくと、以下の図1c及び1dに示すように、位置ベースの結合モチーフ及び上位結合モチーフを測定することが可能である。
【表1c】
本情報を用いて、次いで、好ましい残基を単にシャッフルすることにより、ペプチド:MHC結合ポリペプチドに対するポリペプチド分子のオフターゲットペプチドを同定することができ、その一方で、残基中のプレースホルダーは、好ましい残基を有しない。そのようにして、潜在的なオフターゲットペプチド配列の一覧が完成する。
次のステップとして、次いで、本明細書の他の箇所に記載するように、このような結合モチーフを含むペプチドに対して、ペプチド:MHC複合体に示されるペプチドがアーカイブされる、対応するデータベースにおいて検索をすることができる。
【表1d】
次いで、これらのペプチドを合成し、対応するPRAME-004結合ポリペプチドとの交差反応性を試験することができる。
図8】位置スキャンを用いて、アンカー残基を除く、ペプチド配列の位置1~9の各アミノ酸をアラニンで置換することによる、PRAME-004に対して向けられる、ペプチド:MHC結合ポリペプチドの位置ベースの結合モチーフの同定。ペプチド配列のアラニン置換バリアントに対する、標的ペプチドPRAME-004のKDの比率を、各ペプチドに対して提示する。KD比率の50%(破線)の閾値を適用し、結合因子により認識された位置を測定する。バイオ層干渉法により、KD値を測定した。 上位結合モチーフ、加えて、オフターゲットペプチド配列に、詳細情報を送達し、故に、上記ペプチド:MHC結合ポリペプチドに対する交差反応性を探索及び/又は同定することを可能にする、本発明に従った方法と比較して、各アミノ酸をアラニンで単に置換することでは、非常に限定された情報、即ち、所与のアミノ酸残基が、結合因子による認識に必要である位置の単なる同定がもたらされるのみである。
図9】位置ごとで、全てのタンパク質構成アミノ酸によるアミノ酸置換(システインを除く)を用いることによる、複合体の結合モチーフ測定。対応する位置スキャンバリアントに対する、標的ペプチドPRAME-004のKDの比率を表し、グレースケールでコードする(低い値から高い値で、白色~ダークグレーで着色して示す)。バイオ層干渉法により、KD値を測定した。
図10】異なる正常組織、加えて腫瘍組織における、MAGEA1の源となるエクソンをコードするペプチドの発現プロファイルの分析。詳細の図面の説明については、図5の説明文を参照されたい。
図11】異なる正常組織、加えて腫瘍組織における、MAGEA1のペプチド提示の分析。詳細の図面の説明については、図6の説明文を参照されたい。
図12】提示した方法により同定される、PRAME-004に向けられるペプチド:MHC結合ポリペプチドに対する潜在的なオフターゲットペプチド。HLA-A02特異的(「MHC汎特異的」)抗体BB7.2を用いるアフィニティクロマトグラフィーの後で得られたMSシグナル強度に対して、PRAME-004に向けられるペプチド:MHC結合ポリペプチドを用いるアフィニティクロマトグラフィーの後で得られる、MSシグナル強度を表す。例えば、表1に示すものなどの、他の汎HLA特異的結合因子も同様に使用することができる。BB7.2と結合因子との間の、個別のペプチドの回収比率は、これらのペプチド(標的及びオフターゲット)に対する、結合因子の結合親和性に相関する。 シグナル強度の比率は、左上部分に位置する、弱い結合ペプチド、及び、右下部分に位置する強力な結合ペプチドと対角線上(破線)の距離に対応する。矢印は、PRAME-004を示す。全結合因子に対するアフィニティクロマトグラフィーは、多量の過剰の全ての結合因子が使用されるように行う。各ペプチドの回収はそれ故、利用可能な結合部位の数によって限定されない。ペプチド:MHC結合ポリペプチド及びHLA-A02特異的抗体BB7.2に対する、ほぼ定量的な沈殿により、約1の最大値が引き起こされ、このことは、結合因子により強力に認識されるペプチドが、略対角線上に現れることを意味する。グレースケールは、本明細書の他の箇所に記載するHIS1Kバイオセンサーを用いるバイオ層干渉法により測定した、標的に対する結合親和性倍数の低下を表す。バイオ層干渉計の検出限界を下回る結合を伴うペプチドに関しては、結合親和性倍数の低下を、1000/0.1%に設定した。 両方のアプローチ((i)pMHC結合ポリペプチドとMHC汎特異的結合分子による並行した結合実験、及び、(ii)バイオ層干渉法)が、オフターゲットペプチドの親和性に関して類似の結果をもたらすことが確認可能である。MHC汎特異的抗体のMSシグナル強度は、非常に低いシグナル強度における質量分析測定の確率過程性が原因で、3つのペプチド(例えば、IFIT1-001)に対して定量不可能であり、それ故、図では「NA」として示した。故に、これらのオフターゲットに対しては、比率を計算することができなかった。しかし、アフィニティクロマトグラフィー後に独自に同定した、これらのペプチドもまた、バイオ層干渉法測定により確認した、非常に関連性のあるオフターゲットを示す。 次いで、閾値を結合親和性倍数の低下に基づいて設定し、交差反応性がもはや弱すぎるとは考えられず、故に無関係ないとは考えられないペプチドと、PRAME-004に向けられるペプチド:MHC結合ポリペプチドが交差反応性であるペプチドを区別することができる。一般に、同定したペプチドは、強力な結合ペプチド(結合親和性倍数の低下が≧0.1)、中程度の結合ペプチド(0.01≧結合親和性倍数の低下>0.1)、及び、中程度の結合ペプチド(0.001≧結合親和性倍数の低下>0.01)に分類することができる。
図13】提示した方法により測定した、シグナル面積[pMHC結合ポリペプチド/BB7.2]の比率を用いるバイオ層干渉法により測定した、標的に対する、結合親和性倍数の低下の相関。相関分析(スピアマンの順位相関)により、0.84のrho値が得られた。関数f(x) = a - exp(bx-c)を用いて、指数回帰を行った。95%確率予測バンドを、破線で示す。3つのペプチドを、ペプチド:MHC結合ポリペプチドに結合したマトリックス上で排他的に検出した。故に、シグナル強度の比率を検出することはできなかった。値を、最大検出値に設定した。検出限界を下回る結合を伴うペプチドに関しては、結合親和性倍数の低下を、指数回帰のために1000に設定した。
図14】関連するオフターゲットを同定するために使用した、合成ペプチド:MHCライブラリーの立証。HLA-A02特異的抗体BB7.2を用いるアフィニティクロマトグラフィーの後で得られたMSシグナル強度に対して、PRAME-004に向けられるペプチド:MHC結合ポリペプチドを用いるアフィニティクロマトグラフィーの後で得られる、MSシグナル強度を表す。シグナル強度の比率は、左上部分に位置する、弱い結合ペプチド、及び、右下部分に位置する強力な結合ペプチドと対角線上(破線)の距離に対応する。ペプチド:MHC結合ポリペプチド及びHLA-A02特異的抗体BB7.2に対する、ほぼ定量的な沈殿により、約1の最大値が引き起こされた。立証のために、以前に同定した5つのオフターゲット、標的、及び2つの非結合ペプチドを同位体標識し、HLA-A02:01アロタイプの、組換え作製しリフォールドしたMHCモノマー上にロードし、合成スパイクインとして使用した。
図15】標的ペプチドの個別のアミノ酸の位置変異に基づき、合成ペプチドライブラリーによる、提示した方法を用いる、PRAME-004に向けられるペプチド:MHC結合ポリペプチドの位置ベースの結合モチーフの測定。この場合、アンカー残基(AR)を除く全ての位置1~9を、アラニンで交換した。合成ペプチドをpMHC複合体に組み込み、細胞可溶化物マトリックスに添加した。各アミノ酸の交換位置に対して、他の箇所で説明するように測定した、結合親和性倍数の低下を表す。最大値を1に正規化した。エラーバーは、2つの技術的反復データの標準偏差を表す。得られた、位置ベースの結合モチーフは、バイオ層干渉法(図8)を用いる比較例で測定した、位置ベースのモチーフ内で全て一致している。提示した方法は、より高い感度を有するようであり、弱い結合変異体ペプチドもまた認識し、これは、位置8における比較的高い比率からも確認可能である。ダイナミックレンジは両方の方法の間で異なってはいるものの、個別の弱い結合ペプチドの順序は、最も強力な認識位置である位置5、続いて位置7、6、及び8に一致している。これは、位置5に対して群を抜いて最も高く、続いて位置7、6、及び8に対する選択性を示す、測定した上位結合モチーフ(図7)にもまた一致している。位置スキャンアプローチと共に、図7は、位置8、加えて、グリシン、及び、種々の許容されたアミノ酸に対する低下した選択性を示す。
【実施例
【0135】
実施例1:
HLA-A02の文脈で提示した本実施例で使用する、標的化MHCペプチドは、腫瘍(PRAME)で優先的に発現する黒色腫抗原に由来し、配列SLLQHLIGL((配列番号1)、本明細書ではPRAME-004とも呼ばれる)を示す。
【0136】
これらの実験で使用したペプチド:MHC結合ポリペプチドは、可溶性となるために操作され、PRAME-004ペプチドに対する向上した親和性を示し、更に、CD3結合抗体部分を含む、修飾T細胞受容体分子により例示した。
【0137】
これらの実験で使用したペプチド:MHC結合ポリペプチド、その入手方法、及びその技術的特徴は、PCT/欧州特許出願公開第2020/050936号に開示されており、参照により本明細書に組み込まれている。
【0138】
ペプチド:MHC混合物の生物源として、細胞株T98Gに由来するグリア芽腫を非常に発現するヒトHLA-A02を使用した。この細胞株は、PRAME-004に対して向けられる、記載したペプチド:MHC結合ポリペプチドを用いる細胞傷害性実験で、以前に試験されており、正の殺傷を示した。
【0139】
5億個のT98G細胞を、緩衝液を含有するCHAPS洗剤中での細胞溶解に供し、ソニフィケーションにより補助して均質化した。
【0140】
BrCN活性化後の化学的カップリングを用いて、ペプチド:MHC結合ポリペプチドを個体Sepharose(登録商標)マトリックスに、所定の比率で結合した。並行して、同量のSepharose(登録商標)も、同じ方法を用いて、ただし、ペプチド:MHC結合ポリペプチドを添加することなく、カップリングのために活性化した。代わりに、0.1Mのアミノ酸グリシン溶液をSepharose(登録商標)に添加した。これは代わりに、化学的に活性化された基に結合した。次に、ペプチド:MHC分子の混合物を含有する、T98G溶解物を、200μLのグリシン結合Sepharose(登録商標)マトリックス、又は、ペプチド:MHC結合ポリペプチドと結合した、200μLのSepharose(登録商標)マトリックスを装填した、2つのアフィニティクロマトグラフィーカラムにアプライした。T98G由来の溶解物はそれ故に、まず、グリシン結合Sepharose(登録商標)(本明細書においては、グリシンカラムと呼ばれる)上で実施され、あらゆるペプチドを除去又は枯渇させる方法でアプライされ、これは、ペプチド:MHC結合ポリペプチドに結合するペプチドの単離前に、カラム又はSepharose(登録商標)マトリックスに非特異的に結合する(図1)。PBSと二回蒸留水とで親和性カラムを洗浄し、添加した後、結合したペプチド:MHC複合体を、トリフルオロ酢酸(TFA)を用いてカラムから溶出させた。
【0141】
本ステップの間、MHC結合ペプチドは、MHC部分からも放出され、10kDa未満の分子量カットオフにて、特定の装置を用いる限外濾過により、高分子量分子から分離することができる。
【0142】
次いで、単離したペプチド混合物を最終的に、nanoACQUITY UPLCシステム(Waters)、続いて、Orbitrap fusion(商標)Tribrid(商標)質量分析計(Thermo Scientific)を用いて、液体クロマトグラフィー連結質量分析(LC-MS)に供した。
【0143】
質量分析機器を、異なる断片化技術(本実施例では、CID及びHCD断片化)、加えて、2つの異なる分析器(本実施例では、lonTrap及びOrbitrap)における、MS/MSスペクトル読出しを利用する、データ依存性モード(DDA)で操作した。
【0144】
変形バージョンのInternationalプロテインインデックス(IPI v.378)、及び、SEQUESTの検索エンジンと繋げた、ユニバーサルプロテインリソース(Uniprot)配列データベースを用いて、ヒトプロテオームに対して、ペプチド断片スペクトルを検索した。グリシンカラムから溶出及び同定したペプチドは全て、これらが非特異的結合ペプチドを表すため、更なる分析から除外した。更に、同定のために、インハウスデータベース及びアルゴリズムに従い、既知の汚染物質を分析から取り除いた。
【0145】
合計で、20個のペプチドを単離及び処理後に同定し、これらを表2に示す。参照として、標的ペプチドであるPRAME-004も同様に示すが、これは、単離したペプチドの間では同定されず、同定されることが予想されなかった。
【0146】
標的ペプチドと比較して、関連性を確認し、結合強度を分析するために、全てのペプチドを、バイオ層干渉法に供した。バイオ層干渉法(この場合、メーカーにより推奨される設定を用いる、Octet RED384システム)により、測定を行った。簡潔に述べると、PBS、0.05%のTween-20、0.1%のBSAを緩衝液として使用し、30℃及び1000rpmにて、結合反応速度を測定した。ペプチド:MHC特異的結合因子の連続希釈を分析する前に、ペプチド:MHC複合体をバイオセンサー(HIS1 K)にロードした。PRAME-004と比較しての、平衡解離定数(KD)の比率を、表2の最後の縦列に示す。
【0147】
これらのペプチドを選択して、更に細胞傷害性実験で試験した。簡潔に述べると、対応するペプチド10nMを負荷したT2細胞(10,000cells/ウェル)を、示した濃度を有するPRAME-004特異的ペプチド:MHC結合ポリペプチドの存在下において、ヒトCD8+T細胞(50,000cells/ウェル)と同時にインキュベートした(図4)。48時間後に、CytoTox 96非放射性細胞傷害性アッセイキット(PROMEGA)を使用してLDH放出を測定することにより、細胞傷害性を定量化した。試験したペプチドの対応するEC50値もまた、表2に記載する。本分析から出てくる主たるオフターゲットはIFT17-003であり、これは、標的ペプチドPRAME-004と比較して、ペプチド:MHC結合ポリペプチドに対して同様のKD及びEC50値を示した。
【0148】
XPRESIDENT(登録商標)ペプチド提示及び遺伝子発現データを使用して、さほど関連しないオフターゲットから、関連するオフターゲットを区別することで、オフターゲットペプチドの潜在的な安全性リスクを評価することができ、これは、他の腫瘍組織の文脈でのみ提示/表現される。本実施例では、異なる正常組織における、ペプチドの遍在する発現(図5)及び提示(図6)によって、IFT17-003は、非常に関連のあるオフターゲットと考えられる。本実施例から提示されるデータを、更なる大規模なペプチド提示又は発現データと組み合わせることはそれ故、オフターゲットのリスク評価に対する、更なる価値のあるものである。
【0149】
ペプチド:MHC結合ポリペプチドの特異性と改善するために、更なる成熟ラウンドを、選択決定因子として、同定したペプチドを用いて実施した。新しく生成される分子の特異性はこれにより、図2の標的陰性細胞株T98Gの殺傷の低下により示されるように、大幅に改善されることができた。
【0150】
標的陽性又は標的陰性細胞(10,000cells/ウェル)のLDH放出を、ヒトPBMC(10,000cells/ウェル)との同時インキュベーションの後に定量化し、48時間、ペプチド:MHC結合ポリペプチドの濃度を示した。ペプチド単離に使用した、元のペプチド:MHC結合ポリペプチド分子を黒四角として示す一方で、特異性が改善したバリアントを、白丸で示す。対照のペプチド:MHC結合ポリペプチド分子(アスタリスク付きの正方形)、及び、二重特異的分子を含まない対照(アスタリスク付きの丸)は、標的細胞の殺傷を誘発しない。
【0151】
表2:同定したペプチド:MHC結合ポリペプチド特異的ペプチドの概観。標的PRAME-004を上部に示す。ペプチドをロードしたT2細胞を用いる、細胞傷害性実験のEC50値を明記し、加えて、HIS 1Kバイオセンサーを使用して、バイオ層干渉法により結合親和性を測定した。
【0152】
【表2】
【0153】
結合モチーフの同定
同定したペプチドを更に使用して、ペプチド:MHC結合ポリペプチドに対する結合モチーフを推定することができ、これは、ペプチド配列内のどのアミノ酸が、上記ポリペプチドの結合に関連しているかの情報をもたらす。
【0154】
更に、結合モチーフ上の更なる情報を、関連する位置の中のアミノ酸から推論することができる。同定した一連のペプチドに基づくと、アミノ酸配列の位置1~9の中のアミノ酸のサブセットのみが許容される(図7及び表3を参照されたい)。
【0155】
表3:提示した方法により同定した各位置に対する、許容されるアミノ酸の概観。
【0156】
【表3】
【0157】
アミノ酸が、変異により個別の位置で置き換えられ、その後インビトロアッセイで試験される、一般的なアミノ酸スキャンアプローチとは対称的に、結合強度全体に、場合によっては異なる反対の効果を伴う複数の置換もまた、解明することができる。例えば、天然アミノ酸配列の位置6における置換が、結合親和性全体の低下をもたらす場合、これは、位置8における類似の置換により救出可能であり、これにより、ペプチド:MHC分子に対する、ペプチド:MHC結合ポリペプチドの結合親和性の強力な増加をもたらすことができる。
【0158】
このように生成した結合モチーフを使用して、異なるタンパク質配列データベース(例えばUniProt、IPI)を検索し、結合モチーフにより課される制限を反映し、これに適合する、更なるオフターゲットペプチド(即ち、結合モチーフの関連する位置にて許容される、規定のアミノ酸のセット)を発見した。
【0159】
比較例1
以下の実験は、当該技術分野において現在利用可能な方法がなぜ、実施例1で同定した、最も関連のあるオフターゲットペプチドを同定せず、故になぜ、インビボ投与を意図するペプチド:MHC結合ポリペプチドの不必要な副作用もまた予測できないかを示す。
【0160】
位置スキャンを用いる、結合モチーフの同定:
各アミノ酸が後で、アミノ酸のアラニンで置き換えられた、ネイティブPRAME-004配列の多様体の、ペプチド:MHC結合ポリペプチドに結合する能力について、バイオ層干渉法を用いて試験した。
LLQHLIGL (配列番号38)
LQHLIGL (配列番号39)
SLQHLIGL (配列番号40)
SLLHLIGL (配列番号41)
SLLQLIGL (配列番号42)
SLLQHIGL (配列番号43)
SLLQHLGL (配列番号44)
SLLQHLIL (配列番号45)
SLLQHLIG (配列番号46)
【0161】
図8は、これらの実験結果を示す。5つのアラニン置換ペプチドが、野生型配列と比較して、結合親和性の50%以上の低下(又はそれぞれ、2倍以上のKDの増加)をもたらし、それ故、結合に不可欠であると考えた。これらの結果に基づくと、結合モチーフは、XXXXHLIGL(配列番号22)[式中、Xは任意のアミノ酸を表す。]をもたらすであろう。
【0162】
位置スキャンアプローチの意図する変形において、PRAME-004配列は各位置において、上述したものと類似の方法で、自然に存在するアミノ酸のいずれかにより置換された。PRAME-004の置換に用いられなかった唯一のタンパク質新生アミノ酸は、システインであった。これは、本アミノ酸が、複数の化学修飾を急速に受け、試験中に、ペプチドの認識に関する誤った解釈をもたらし得ることが知られているためである。故に、合計で918=162個のペプチドを調査した。
【0163】
各ペプチドを再び、バイオ層干渉法を用いて、結合親和性について試験をした(図9)。野生型配列と比較して、結合親和性の50%以上の低下(又は、それぞれ、KDの2倍以上の増加)をもたらしたペプチドは、ペプチド結合に許容されない、又は有害であるとみなされた。これにより、アミノ酸配列:
HXIX
[式中、Xは、ADEFGHIKLMNPQRSTVWYのいずれかから選択され、Xは、AFGILMQSTVYのいずれかから選択され、Xは、ADGIKLMNQSTVWのいずれかから選択され、Xは、AFGHIKLMNPQRSTVWYのいずれかから選択され、Xは、ILMのいずれかから選択され、Xは、GSTのいずれかから選択され、Xは、EFHIKLMPQTVYのいずれかから選択される。]の、位置1~9において許容又は認可されている、一連の異なるアミノ酸を有する複合結合モチーフがもたらされた。
【0164】
アラニンスキャン由来の結合モチーフに基づく類似性検索。
インハウスソフトウェアツールを使用して、同定したモチーフ配列(X-X-X-X-X-H-L-I-G-L)(配列番号22)[式中、Xは任意のアミノ酸により構成可能である。]を含有するヒトタンパク質に対する異なるタンパク質配列データベース(SNVを含IPI v. 3.78、Ensembl Version 77 GrCH38、NCBI非重複タンパク質データベース)を検索した。8つの固有のペプチドを同定した:標的そのものであるPRAME-004、及び、異なるヒトタンパク質:VEZT(Vezatin)、HTR2C(5-ヒドロキシトリプタミン受容体2C)、HEPHL1(Hephaestin様タンパク質1)、COL28A1(コラーゲンα-1(XXVIII)鎖)、SLC2A1(溶質キャリアファミリー2、グルコース促進輸送体メンバー1)、SLC44A3(コリントランスポーター様タンパク質3)、PIEZO2(ピエゾ型機械受容性イオンチャネル成分2)に由来する、7つのペプチド。
【0165】
これらのペプチドのアミノ酸配列を以下に示す。
【0166】
【表20】
【0167】
全て、HLA-A02型の個体に由来する、592個の正常組織サンプル、及び710個の腫瘍組織サンプルの、インハウスXPRESIDENT(登録商標)イムノペプチド-ムデータは、予測された7つの、オフターゲットペプチドのいずれもが、分析したサンプルのいずれかにおいて、HLA-A02の文脈で提示されることが同定されなかったことを示した。特に、VEZT及びSLC2A1由来のペプチドは、非A02陽性個体の組織サンプルにおいて、XPRESIDENT(登録商標)により以前に同定されており、このことは、これらが、異なるHLAアロタイプ(VEZT由来のペプチドの場合はHLA-B07、及び、SLC2A1由来のペプチドの場合はHLA-B27)により提示され、故に、HLA-A02制限ペプチド:MHC結合ポリペプチドの文脈において、オフターゲットリスクを生み出す可能性が低いことを示唆している。しかし、位置スキャン及び予測アプローチは、本出願に記載の優れた方法を用いて同定可能な、関連するオフターゲットペプチドのいずれも同定することができなかった。
【0168】
上位結合モチーフに基づく類似性検索。同一のインハウスソフトウェアツールを使用して、複雑な結合モチーフの基準を満たすヒトプロテオームに由来するペプチドもまた予測した。この置換ではシステインを除外したため、本アミノ酸が更に、以下のモチーフ:
ΧΧΧ10111213141516
[式中、Xは、ACDEFGHIKLMNPQRSTVWYのいずれかから選択され、Xは、ACFGILMQSTVYのいずれかから選択され、X10は、ACDGIKLMNQSTVWのいずれかから選択され、X11は、ACFGHIKLMNPQRSTVWYのいずれかから選択され、X12は、CHのいずれかから選択され、X13は、CILMのいずれかから選択され、X14は、CIのいずれかから選択され、X15は、CGSTのいずれかから選択され、X16は、CEFHIKLMPQTVYのいずれかから選択される。]をもたらすアミノ酸配列における各位置で許容された。
【0169】
検索により、結合モチーフの基準を満たす、888個の異なるペプチドの全リストが得られた。わずかに2つのペプチド(IFT17-003及びATP1A1-001)が、実施例1における、本出願で記載した優れた方法により同定した、関連するオフターゲットの一覧と重複した一方で、残りは、888個のペプチド全てが、下流インビトロ分析においてその後試験された場合であっても、予測ベースのアプローチでは同定されなかった。
【0170】
実施例2:
HLA-A02の文脈で提示された、本実施例で使用した、標的化MHCペプチドは、黒色腫関連抗原A4及びA8(MAGEA4/A8)に由来し、本明細書ではMAGEA4/8とも呼ばれる、配列KVLEHVVRV(配列番号24)を示す。
【0171】
ペプチド:MHC結合ポリペプチドは、可溶性となるように操作され、MAGEA4/A8由来のペプチドに対する向上した親和性を示し、更に、CD3結合抗体部分を含む、修飾T細胞受容体分子で構成される。ペプチド:MHC混合物の生物源として、ヒトHLA-A02の高発現、及び、MAGEA4/8陽性肺腺癌由来の細胞株NCI-H1755を用いた。本細胞株の、5億個の細胞を、CHAPS洗剤含有緩衝液中での細胞溶解に供し、ソニフィケーションにより補助して均質化した。ペプチド:MHC結合ポリペプチドとアフィニティクロマトグラフィーとのカップリングを、実施例1に記載のとおりに実施した。
【0172】
ペプチド:MHC分子の混合物を含有するNCI-H1755溶解物を、グリシン結合及びペプチド:MHC結合因子結合Sepharose(登録商標)に適用する前に、体積を半分ずつに分けた。体積の第2の半分を、異なるグリシン結合Sepharose(登録商標)マトリックス、続いて、HLA-A02特異的抗体BB7.2と結合したSepharose(登録商標)マトリックスの上で並行して実施した。後者は、本細胞株中で、HLA-A02により提示されるペプチドの完全なスペクトルを分離することを目的とする(図1もまた参照されたい)。
【0173】
ペプチドを全てのカラムから溶出し、実施例1に概略する質量分析に供した。グリシンカラムから溶出したペプチド、及び既知の汚染物質を再び、更なる分析から除外した。更に、SuperHirnアルゴリズム(Mueller et al.,2007)を用いて、全ての異なる実施にて、ペプチド前駆体シグナル全てを定量化した。±3分の固定保持時間ウィンドウ、及び±5ppmの質量精度を用いて、質量分析実験全てにおいて、特徴を抽出して定量化した。
【0174】
MAGEA4/8特異的ペプチド:MHC結合ポリペプチド由来の、個別のペプチド前駆体シグナルの、BB7.2調製物由来の同一の前駆体シグナルに対する、得られる面積の比率を計算した。これらの比率は、HLA-A02特異的抗体BB7.2と比較しての、MAGEA4/8ペプチド:MHC結合ポリペプチドの単離効率を反映している。標的に対する、加えて、HLA-A02分子に結合した、潜在的なオフターゲットペプチドに対する、MAGEA4/8特異的ペプチド:MHC結合ポリペプチドの高親和性によって、これらのペプチドに対する単離効率は、結合したペプチド種とは大いに無関係なHLA-A02に向かう、より少ないナノモル範囲における親和性を有するBB7.2と比較して、はるかに高い(Parham and Brodsky, 1981)。質量分析データの分析により、標的ペプチドMAGEA4/8を含む、同定した10個のペプチドが同定された(表4を参照されたい)。ペプチド:MHC結合ポリペプチド及びBB7.2の面積比率に従い、これらのペプチドをランク付けすることにより、BB7.2と比較して、これらのペプチドの単離効率の測定が可能となり、これは、実施例1に記載するバイオ層干渉法を用いる結合親和性と相関する。これにより、標的ペプチドと、オフターゲットペプチドとの間での、オフターゲット毒性及び潜在的な治療ウィンドウのリスクを、質量分析実験の定量データから直接導き出すことができる。
【0175】
表4で提示する例において、MAGEA1の面積比率は、標的ペプチドMAGEA4/8と比較して小さく(約10.6と比較して、約11)、これは、4.1の、非常に小さい結合親和性の低下に変換される。対照的に、ペプチドHEAT5RAに関しては、MAGEA4/8と比較して、約800倍小さい、面積比率の大幅な低下もまた、MAGEA4/8と比較して、大きく低下した結合親和性(238)において反映される。
【0176】
XPRESIDENT(登録商標)における、ペプチド提示及び遺伝子発現データのより深い分析は、MAGEA1が、癌組織で排他的に提示され(図10)、癌となった精巣のような発現パターンを示す(図11)ために、関連するオフターゲットリスクを提示しないことを示す。
【0177】
表4:同定したペプチド:MHC結合ポリペプチド特異的ペプチドの概観。質量分析による、HLA-A02特異的結合ペプチドBB7.2に対する、MAGEA4/8結合ポリペプチドから溶出したペプチドの比率を示す。上部の横列では、最も高い比率のシグナル面積を示す標的ペプチドMAGEA4/A8が提示される。PMBECスコアは、標的配列に対するペプチド類似性の測定値である。結合親和性は、HIS1 Kバイオセンサーを用いるバイオ層干渉法により測定した。
【0178】
【表4】
【0179】
実施例3:
本実施例で使用する標的化MHCペプチドは、実施例1に記載したもの(PRAME-004、配列番号1)と同一であった。ペプチド:MHC結合ポリペプチドは同様に、可溶性となるために操作され、PRAME-004ペプチドに対する向上した親和性を示し、更に、CD3結合抗体部分(ただし、オフターゲット認識における変化をもたらす、実施例1と比較して異なるバリアント)を含む、修飾T細胞受容体分子により例示した。
【0180】
ペプチド:MHC混合物の生物源として、10個の異なる細胞株のプールを利用した。HLA-A02:01ペプチドの量及び多様性を最大化するように、細胞株を選択した。細胞株当たり5億個の細胞を、CHAPS洗剤含有緩衝液中での細胞溶解に供し、均質化してプールした。個別の分析に対して、5億の桁の細胞数となるアリコートを使用した。
【0181】
ペプチド:MHC結合ポリペプチド、及びHLA-A02特異的抗体BB7.2のカップリング及びアフィニティクロマトグラフィーを、実施例2に記載したとおりに実施したが、溶解物と、マトリックス結合ペプチド:MHC結合ポリペプチドの溶解物の接触時間を増加させるために、インキュベーションを、16時間の反応管での振盪にて実施した。
【0182】
合計で79個のペプチドを、単離及び処理の後で同定した。標的ペプチドPRAME-004を含む、最も関連する10個のオフターゲットを表5に示す。79個のペプチドのうち、32個が、低い比率のシグナル強度[pMHC結合ポリペプチド/BB7.2](0.005未満)を示し、故に、ペプチド:MHC結合ポリペプチドに対しての結合が低い、又は全く結合しないことが予想された。これらのペプチドを、参照として更なる分析に含めた。HLA-A02特異的抗体BB7.2を用いる精製後でのMSシグナル強度と比較して、ペプチド:MHC結合ポリペプチドを用いる精製の後で入手したMSシグナル強度に従い、選択したペプチドを、図12に表示する。対角への距離は、シグナル強度の比率を示す。標的、及び強力なオフターゲットに対して、約1のシグナル強度[pMHC結合ポリペプチド/BB7.2]の比率をもたらす、ほぼ定量的なアフィニティクロマトグラフィーが予想される(破線)。最も強力な10個の、別の結合標的の名前をグラフに示す。全てが、予想した対角付近に存在する。非常に低い比率のシグナル強度[pMHC結合ポリペプチド/BB7.2]を有するペプチドは、参照としてのバイオ層干渉法を用いると、極めて大きな、又は定量不可能なほどの結合親和性倍数の低下を示した。
【0183】
表5 :HIS 1Kバイオセンサーを用いるバイオ層干渉法により測定した、結合親和性倍数の低下に基づく、最も関連する上位10個のオフターゲットの概観。質量分析による、FILA-A02特異的結合ペプチドBB7.2に対する、PRAME-004結合ポリペプチドから溶出したペプチドの比率を示す。アスタリスクで標識した値については、HLA-A02特異的結合ペプチドBB7.2から溶出したペプチドでの不十分さにより、比率を計算することができなかったため、最大値を測定し、推定した。
【0184】
【表5】
【0185】
標的ペプチドと比較して、関連性を確認し、結合強度を分析するために、全てのペプチドを、実施例1に記載するバイオ層干渉法に供した。PRAME-004と比較して、平衡解離定数(KD)の比率を計算すると、提示した方法により測定したシグナル強度[pMHC結合ポリペプチド/BB7.2]の比率と相関した。測定した結合親和性倍数の低下を、図12においてグレースケールで示す。提示した方法により測定したシグナル強度[pMHC結合ポリペプチド/BB7.2]の比率との、結合親和性倍数の低下の相関を、図13で示す。上述のように、ペプチド:MHC結合ポリペプチドに強力に結合するペプチドは、高い比率のシグナル強度[pMHC結合ポリペプチド/BB7.2]により同定することができる一方で、非結合ペプチドは、0.001を下回るシグナル強度[pMHC結合ポリペプチド/BB7.2]の比率を示した。本方法の最大感度を入手するために、ペプチド:MHC結合ポリペプチド、及びHLA-A02特異的抗体BB7.2を過剰にアプライし、両方の場合において、オフターゲットのほぼ定量的な抽出、及び、約1のシグナル面積[pMHC結合ポリペプチド/BB7.2]の最大比率を導く。この飽和効果を考慮に入れるために、指数回帰を行った(図13)。
【0186】
提示した方法を適用する単一実験のシグナル強度の比率を用いて、結合親和性を推定することができることを、データは示す。
【0187】
実施例4:
本実施例で使用する標的化MHCペプチドは、実施例1に記載したもの(PRAME-004、配列番号1)と同一であった。ペプチド:MHC結合ポリペプチドは同様に、可溶性となるために操作され、PRAME-004ペプチドに対する向上した親和性を示し、更に、CD3結合抗体部分(ただし、実施例1及び3と比較して異なるバリアント)を含む、修飾T細胞受容体分子により例示した。
【0188】
提示した方法が、合成ペプチドライブラリーから潜在的なオフターゲットを同定する能力を実証するために、同位体標識した8つのペプチド:MHC複合体の混合物を、腎細胞癌組織サンプル由来の生物学的マトリックスでスパイクした。実験のために、0.3gの組織を上述のとおりに溶解し、2pmolのペプチド:MHC複合体を添加した。溶解物を当量部に分け、ペプチド:MHC結合ポリペプチド、及びHLA-A02特異的抗体BB7.2を用いるアフィニティクロマトグラフィーに供した。同位体標識したペプチドは、標的、5つの既知の交差反応性ペプチド、及び、陰性対照としての2つの非結合ペプチドで構成された(表6)。
【0189】
PRAME結合ポリペプチドとHLA-A02特異的抗体BB7.2のシグナル面積を、図14に示す。予想通り、標的、及び既知のオフターゲットは、約1桁で、高比率のシグナル面積[pMHC結合ポリペプチド/BB7.2]を示し、故に、提示した方法により、非常に関連があるものとして分類される。同様に、両方の陰性対照ペプチドが、非常に低い比率のシグナル面積[pMHC結合ポリペプチド/BB7.2]を示し、故に、提示した方法に基づき、さほど関連しないものと考えられる。
【0190】
表6:スパイクした、同位体標識したペプチド:MHC複合体の概観。同位体標識したアミノ酸をアスタリスクで示す。質量分析による、HLA-A02特異的結合ペプチドBB7.2に対する、PRAME結合ポリペプチドから溶出したペプチドの比率を示す。上部の横列では、標的ペプチドのPRAME-004が提示され、続いて、5つの既知のオフターゲット、及び2つの非結合陰性対照ペプチドが提示される。PMBECスコアは、標的配列に対するペプチド類似性の測定値である。結合親和性は、HIS1 Kバイオセンサーを用いるバイオ層干渉法により測定した。
【0191】
【表6】
【0192】
実施例5:本実施例で使用する標的化MHCペプチドは、実施例4に記載したもの(PRAME-004、配列番号1)と同一であった。ペプチド:MHC結合ポリペプチドは同様に、可溶性となるために操作され、PRAME-004ペプチドに対する向上した親和性を示し、更に、CD3結合抗体部分を含む、修飾T細胞受容体分子により例示した。
【0193】
ペプチド:MHC結合ポリペプチドの結合モチーフにて情報を読み込む、提示した方法の更なるアプローチを示すために、標的ペプチドの合成ペプチドバリアントを、スパイクインライブラリーとして利用した。本アプローチにおいて、ペプチド:MHC結合ポリペプチドによる認識に関連する各アミノ酸位置を、個別にアラニンで交換(「スキャン」)した(配列番号38~46)。本実施例において、関連する位置は、ペプチド-MHC結合に重要な位置2~9におけるアンカーアミノ酸を含まない、全ての位置(1~9)であった。合成ペプチドを組み換えにより作製し、リフォールディングしたHLA-A02アロタイプのMHC分子にロードし、腎細胞癌組織サンプル由来の生物学的マトリックスでスパイクした。実験のために、上述のとおりに0.1gの組織を溶解し、140fmolのペプチド:MHC複合体を添加した。溶解物を当量部に分け、ペプチド:MHC結合ポリペプチド、及びHLA-A02特異的抗体BB7.2を用いるアフィニティクロマトグラフィーに供した。標的化した質量分析測定を用いて、ペプチドの定量化を行った。
【0194】
先に記載したように、PRAMEを標的化するpMHC結合ポリペプチドと、HLA-A02特異的抗体BB7.2のシグナル強度の比率を、結合親和性に対する推定値として計算した。入手したMSシグナル強度の比率を図15に示す。バイオ層干渉法測定を用いて、図8における比較実施例とのよりよい比較のために、比率を最大値に対して正規化した。位置ベースの結合モチーフ測定のための比較例を考慮すると(図8)、位置1、3、及び4は、pMHC複合体への結合に無関係である。提示した方法は、より高い感度を有し、弱い結合変異ペプチドもまた認識するようであり、これは、例えば、提示した方法の異なるダイナミックレンジを示す、位置8における比較的大きな比率から確認することができる。しかし、個別のペプチドの順序は、最も強力な認識位置である位置5、続いて位置7、6、及び8に一致する。データに従うと、位置8は、結合に関するとは考えられない一方で、MSシグナル強度の比率は著しく低下する。これは、位置8において、グリシン、及び様々な他の許容されたアミノ酸に対する低下した選択性を示す、測定した上位結合モチーフ(図7)にもまた一致している。図7との比較は、位置5が結合に、はるかに最も関連する位置であることもまたを示し、このことは、提示した位置ベースの結合モチーフによってもまた、非常に十分に反映されている。
【0195】
スパイクインライブラリーを拡張して、アラニン以外の他の置換アミノ酸もまた含めるようにすることで、単一実験における、結合モチーフについて得られる情報を増加させることができる。更に、自然に存在する数百~数千個のペプチドの合成ライブラリーを、合成ライブラリーとして適用することができる。提示した方法の示した態様の、主たる1つの利点は、それぞれの結合親和性を並行して測定可能であることである。
【0196】
略称
AR アンカー残基
APC 抗原提示細胞
BIRD 黒体赤外放射解離
BiTE 特異的T細胞エンゲージャー
CAR キメラ抗原受容体
CDR 相補性決定領域
CID 衝突誘起解離
DART 二重特異性再標的化抗体
DDA データ依存性獲得
DIA データ独立性獲得
DRIP 欠陥性リボソーム粒子
ECD 電子捕獲解離
EDD 電子脱離解離
ETCID 電子移動及び衝突誘起解離
ETD 電子移動解離
ETHCD 電子移動/高エネルギー衝突解離
HCD 高エネルギー衝突脱離
IRMPD 赤外線多光子解離
IQR 四分位数間領域
KD 解離定数
NETD 陰電子移動解離
LDH 乳酸脱水素酵素
PBMC 末梢血単核球
SID 表面誘起解離
SMITE 同時複数の相互作用T細胞関与
TandAb タンデム抗体
TCR T細胞受容体
TFA トリフルオロ酢酸
TIL 腫瘍浸潤リンパ球

参考文献
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図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
2022547794000001.app
【国際調査報告】