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特表2022-547823圧電アクチュエータの駆動信号のフィードフォワード判定
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-16
(54)【発明の名称】圧電アクチュエータの駆動信号のフィードフォワード判定
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/08 20210101AFI20221109BHJP
   H02N 2/04 20060101ALI20221109BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20221109BHJP
   G02B 7/04 20210101ALI20221109BHJP
   G03B 30/00 20210101ALI20221109BHJP
   H04N 5/232 20060101ALI20221109BHJP
   H04N 5/225 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
G02B7/08 C
H02N2/04
H01L41/09
G02B7/04 E
G02B7/08 B
G03B30/00
H04N5/232
H04N5/225 700
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513470
(86)(22)【出願日】2020-09-08
(85)【翻訳文提出日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 EP2020075039
(87)【国際公開番号】W WO2021048103
(87)【国際公開日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】19196408.9
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511009547
【氏名又は名称】ポライト アーエスアー
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリクセン、ラース
(72)【発明者】
【氏名】タラロン、ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】ダロッド、アントワーヌ、ロベルト、マリー
【テーマコード(参考)】
2H044
5C122
5H681
【Fターム(参考)】
2H044BE04
2H044BE07
2H044DB04
2H044DC10
5C122EA01
5C122FD00
5C122GE05
5C122GE11
5C122GE23
5C122HA82
5C122HA88
5C122HB06
5C122HB10
5H681AA04
5H681BC01
5H681DD23
5H681FF30
(57)【要約】
本発明は、圧電アクチュエータシステムの所望の光学応答、例えば光パワーを達成するために、圧電アクチュエータシステムの設定点電圧を決定する方法に関するものである。この方法は、印加電圧と光学応答の関係を記述した数学モデルOP(V,T,n)に基づいている。モデルの較正と使用には、遷移時間のカウント値を決定することが必要である。使用中、例えば所与の間隔で、温度と遷移時間カウント値の実測値に基づいて、モデルを更新する。更新されたモデルに基づいて、所望の光学応答を得るために必要な設定点電圧を決定し、その設定点電圧を圧電アクチュエータに印加する。
【選択図】図2A


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電アクチュエータシステムの所望の光学応答を達成するために圧電アクチュエータシステム(100)の設定点電圧(Vx)を決定する方法であって、前記圧電アクチュエータシステムは、光学応答(OP)が調整可能な光学部材(130,120)と圧電アクチュエータ(101)とを含み、前記方法は、
-変数としての前記圧電アクチュエータに印加される電圧(V)、温度(T)、遷移時間カウント値(n)と、前記光学応答(OP)との関係を記述する数学モデルOP(V,T,n)を提供することであって、前記数学モデルは曲線適合多項式(L)を含み、前記遷移時間カウント値(n)は、第1の状態(X1)から第2の状態(X2)へ変化させるための前記圧電アクチュエータの少なくとも1つの遷移時間値(x)に関するものであり、
-数学モデルを較正することであって、
-前記圧電アクチュエータの前記第1および第2の状態(X1,X2)の間の前記少なくとも1つの遷移時間値(x)を決定することに基づいて、較正遷移時間カウント値(nCAL)を決定することと、
-前記圧電アクチュエータの較正温度(TCAL)を取得することと、
-1つ以上の較正電圧(V1,V2)と、圧電アクチュエータに印加された前記1つ以上の較正電圧(V1,V2)に関連付けられた1つ以上の光学応答(OP1,OP2)とに基づいて、前記数学モデルOP(V,T,n)の1つ以上の較正パラメータ(aCAL,bCAL)を決定することと、によって数学モデルを較正することと、
-圧電アクチュエータの一定期間または使用後に、
-前記圧電アクチュエータの温度(T)を取得することと、
-圧電電気アクチュエータの前記第1および第2の状態の間の少なくとも1つの実際の遷移時間値(x)を決定することに基づいて、前記遷移時間カウント値(n)を決定することと、
-更新された数学モデルOP(V,T,n)に基づいて設定点電圧(Vx)を決定し、前記設定点電圧(Vx)を前記圧電アクチュエータに印加すること、
によって、数学モデルOP(V,T,n)を更新することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記関係が、電圧(V)の下降および/または上昇値に対する前記光学応答を記述する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記関係が、電圧(V)の下降または上昇値に対する前記光学応答のみを記述する、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記遷移時間カウント値(n)および前記較正遷移時間カウント値(nCAL)を決定することが、
前記圧電電気アクチュエータの前記第1および第2の状態(X1,X2)の間の第1の遷移時間値(x1)を決定することと、
第3および第4の状態(X3,X4)の間の第2の遷移時間値(x2)を決定することと、を含み、
前記遷移時間カウント値(n)および前記較正遷移時間カウント値(nCAL)は、前記第1および第2の遷移時間値(x1,x2)の比率に基づいて決定される、
請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記第1および第2の状態(X1,X2)が、前記圧電アクチュエータに第1および第2の電圧(V1,V2)を印加することに基づいて得られる第1および第2の定常状態電圧(V1,V2)を含む、
請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記第1の定常状態電圧(V1)は前記第2の定常状態電圧(V2)よりも高く、前記遷移時間値(x)は、前記第1の定常状態電圧(V1)から前記第2の定常状態電圧(V2)への遷移に基づいて取得される、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記曲線適合多項式(L)が、前記電圧(V)の所定の非線形関数である、
請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記数学モデルが、第1項a(T)xL(V)と第2項b(T,C)の和からなり、a(T)は少なくとも温度パラメータ(T)、第1の較正パラメータ(aCAL)および実温度(Ta)に依存する多項式、L(V)は電圧(V)に依存する少なくとも3次の多項式、b(T,C)は温度パラメータ(T)、電圧(V)、第2の較正パラメータ(bCAL)、実際の温度(Ta)および実際の静電容量パラメータ(Ca)に依存する多項式である、
請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記数学モデルは、光学レンズ系(151)におけるレンズなどの温度依存性コンポーネントによる光学応答変動を温度(T)の関数として記述する項OPtherm(T)をさらに含み、
前記光学レンズ系は、前記圧電アクチュエータシステム(100)と光学的に接続されている、
請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記圧電アクチュエータに前記電圧を印加することが、前記圧電アクチュエータを最大または最小変形に駆動するために、最初に最大または最小電圧(Vmax,Vmin)を前記圧電アクチュエータに印加し、その後、前記設定点電圧(Vx)を前記圧電アクチュエータに印加することを含む、
請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記設定点電圧(Vx)が、実際の光学応答(OP)の測定に依存しない開ループ構成で決定される、
請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
圧電アクチュエータ(101)と、前記圧電アクチュエータ(101)に電力を供給する圧電ドライバ(110)と、請求項1の方法に従って前記圧電ドライバが前記圧電アクチュエータに印加する設定点電圧(Vx)を決定する処理部(111)と、調整可能な光学応答を有する光学部材(130、120)と、
を備える圧電アクチュエータシステム(100)。
【請求項13】
前記光学部材(130、120)が、
-第1の透明カバー部材(121)と、
-第2のカバー部材(122)と、
-前記第1および第2の透明カバー部材の間に挟まれた、透明で変形可能な非流動体(123)と、を含み、
前記圧電アクチュエータの1つ以上の圧電素子は、前記第1または前記第2のカバー部材の曲率、変位および/または方位の変化を制御可能にするように配置されている、
請求項12に記載の圧電アクチュエータシステム(100)。
【請求項14】
請求項12~13のいずれかに記載の圧電アクチュエータシステム(100)が光学レンズ(130)を含み、
カメラモジュールがさらに、光学レンズ(120)を透過する光を受け取るように配置されたイメージセンサ(152)を含むカメラモジュールに関するものである、
圧電アクチュエータシステムを含むカメラモジュール(150)。
【請求項15】
請求項12~13のいずれかに記載の圧電アクチュエータシステム(100)を含む電子機器(159)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエータシステム、特にコンパクトカメラやスマートフォンなどの光学結像システムに用いられる圧電アクチュエータシステムおよびそのようなシステムの駆動信号の判定に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電アクチュエータは、光学システムの焦点調節に使用される光学結像システムのような高精度を必要とする光学システムで利用することができるいくつかの利点を備えている。
【0003】
圧電アクチュエータの問題点として、ヒステリシスと圧電クリープがよく知られている。圧電クリープとは、一定の入力電圧の中で結晶性ドメインが時間とともにゆっくりと再調整されることを表現したものである。圧電アクチュエータの動作電圧を変化させると、電圧変化が完了した後も残留分極が変化し続け、ゆっくりとしたクリープとして現れる。アクチュエータの所望の応答値と実際の応答値との比較に基づいて出力を繰り返し調整するフィードバック設定では、ヒステリシスとクリープの影響を補償することにより、起こりうる偏差を排除することができる。しかし、フィードバック設定を実現するためには、フィードバックシステムは、アクチュエータの応答を正確かつ望ましい高帯域幅で測定する必要がある。これにより、複雑さや製造コストが増加し、消費電力やシステムの応答時間が増加する可能性がある。
【0004】
したがって、これらの問題の1つ以上に対処する圧電アクチュエータシステムが必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、圧電アクチュエータ、特に光学結像システムなどの光学アセンブリに使用される光学アセンブリの制御を改善することにある。それにより、圧電アクチュエータ、特に、アクチュエータ応答のリアルタイム測定なしで制御が実現されるフィードフォワード構成において、圧電アクチュエータの応答の精度を向上させることも目的である。
【0006】
本発明の第1の態様では、圧電アクチュエータシステムの所望の光学応答、例えば光パワーを達成するために圧電アクチュエータシステムの設定点電圧を決定する方法が提供され、圧電アクチュエータシステムは、光学応答が調整可能な光学レンズなどの光学部材と圧電アクチュエータとを含み、この方法は、
-変数としての圧電アクチュエータに印加される電圧、温度、遷移時間カウント値と、光学応答との間の関係を記述する数学モデルOP(V,T,n)を提供することであって、数学モデルは曲線適合多項式を含み、遷移時間カウント値は、第1の状態から第2の状態へ変化させるための圧電アクチュエータの少なくとも1つの遷移時間値に関する、提供することと、
-数学モデルを較正することであって、
-圧電アクチュエータの第1および第2の状態の間の少なくとも1つの遷移時間値を決定することに基づいて、較正遷移時間カウント値を決定することと、
-圧電アクチュエータの較正温度を取得することと、
-1つ以上の較正電圧と、圧電アクチュエータに印加された1つ以上の較正電圧に関連付けられた1つ以上の光学応答とに基づいて、数学モデルの1つ以上の較正パラメータOP(V,T,n)を決定することと、によって較正することと、
-圧電アクチュエータの一定期間または使用後に、
-圧電アクチュエータの温度を取得することと、
-圧電アクチュエータの第1および第2の状態の間の少なくとも1つの実際の遷移時間値を決定することに基づいて、遷移時間カウント値を決定することと、
-更新された数学モデルOP(V,T,n)に基づいて設定点電圧を決定し、設定点電圧を圧電アクチュエータに印加すること、によって、数学モデルOP(V,T,n)を更新することと、を含む、方法。
【0007】
圧電アクチュエータは電気的な静電容量を持っており、圧電応答は容量に依存する。したがって、静電容量に関係する遷移時間カウント値を決定することで、モデルの精度を向上させることができる。
【0008】
さらに、圧電アクチュエータの応答と静電容量の関係は、圧電材料の時間依存分極、すなわち圧電アクチュエータのクリープ効果に大きく依存することはない。よって、圧電アクチュエータの静電容量に関する情報をモデルに含めることで、実際のクリープレベルが考慮されるため、所与の入力電圧に対する光学応答の決定の精度を向上させることができる。
【0009】
さらに、温度をモデルに含めることで、温度変化を補償したアクチュエータまたは光学応答の決定が可能になる。
【0010】
有利なことに、所望の光学応答を達成するために圧電アクチュエータへの設定点電圧を決定することによって、圧電アクチュエータに印加される電圧の閉ループ制御の必要性を排除し、それによって光学応答のリアルタイム測定の必要性を排除することができる。
【0011】
圧電アクチュエータは、光学応答を制御するために光学部材の制御に関連して使用されるのに対し、圧電アクチュエータは、他のアクチュエータ応答を制御するために圧電アクチュエータによって制御可能な他のデバイスに関連して使用してもよい。
【0012】
設定点電圧または圧電アクチュエータに印加される電圧は、圧電素子の電極上の電界、すなわち圧電材料の内部電圧に関連する。印加された電圧は、増幅器のアナログまたはデジタル電圧基準、増幅器の出力電圧、圧電アクチュエータの端子電圧など、圧電アクチュエータの電力供給に用いられる電気回路内の電圧であってもよい。したがって、この方法は、設定点電圧の決定に基づいて圧電アクチュエータ上の電界を決定する方法とも見なすことができる。
【0013】
一実施形態によれば、この関係は、電圧の下降および/または上昇値に対する光学応答を記述する。有利なことに、圧電応答がヒステリシスを示すので、このモデルは、有利なことに、電圧の下降および上昇値の両方についての応答を含むことができるが、このモデルは、下降または上昇曲線のいずれかに基づく場合もある。
【0014】
一実施形態によれば、この関係は、電圧の下降または上昇値に対する光学応答を単独で記述する。有利なことに、下降または上昇曲線の一方のみを含めることで、モデルをよりシンプルにすることができる。片方の曲線のみを含めることで、設定点電圧を印加する前に最大または最小の電圧を最初に印加することにより、ヒステリシス効果に対処することができる。
【0015】
一実施形態によれば、遷移時間カウント値および較正遷移時間カウント値を決定することは、圧電電気アクチュエータの、第1および第2状態の間の第1の遷移時間値を決定することと、第3および第4の状態の間の第2の遷移時間値を決定することと、を含み、遷移時間カウント値および較正遷移時間カウント値は、第1および第2の遷移時間値の比率に基づいて決定される。有利なことに、第1および第2の遷移時間値の比率に基づいて遷移カウント値を決定することにより、遷移時間カウント値の温度依存性を低減させることができる。本明細書において、遷移時間値とは、時間で計測された時間値、カウント数、または、時間に関する他の量であってもよい。
【0016】
一実施形態によれば、第1および第2の状態が、圧電アクチュエータに第1および第2の電圧を印加することに基づいて得られる第1および第2の定常状態電圧を含む。
【0017】
一実施形態によれば、第1の定常状態電圧が、第2の定常状態電圧よりも高く、遷移時間値は、第1の定常状態電圧から第2の定常状態電圧への遷移に基づいて取得される。有利なことに、高い定常状態電圧から低い定常状態電圧にすることで、実際の温度への依存度がより低い遷移時間値が得られ、それによって、より正確な遷移時間カウント値が得られる可能性がある。しかし、その逆の動作も確認されており、低い定常状態電圧から高い定常状態電圧へ移行することが有利な場合もある。
【0018】
一実施形態によれば、曲線適合多項式は、少なくとも電圧の所定の非線形関数である。
【0019】
一実施形態によれば、数学モデルは、第1項a(T)xL(V)と第2項b(T,C)の和からなり、a(T)は少なくとも温度パラメータ、第1の較正パラメータおよび実温度に依存する多項式、L(V)は少なくとも電圧に依存する少なくとも3次の多項式、b(T,C)は温度パラメータ、電圧、第2の較正パラメータ、実際の温度および実際の静電容量パラメータに依存する多項式である。
【0020】
数学モデルを決定することは、数学モデル、OP(V,T,n)、少なくとも第1および第2の較正電圧、並びに圧電アクチュエータに印加される少なくとも第1および第2の較正電圧に基づいて決定される少なくとも第1および第2の光学応答に基づいて第1および第2の較正パラメータを決定することを含んでよい。すなわち、第1および第2の光学応答は、第1および第2の較正電圧を印加することによる応答であってもよく、反対に、第1および第2の較正電圧は、所望のまたは所定の第1および第2の光学応答をもたらす電圧であってもよい。代替案として、単一の較正電圧と単一の光学応答の単一の組が較正に利用されてもよいし、ツリー以上の較正電圧と対応するツリー以上の光学応答が利用されてもよい。
【0021】
一実施形態によれば、数学モデルは、光学レンズ系におけるレンズなどの温度依存性コンポーネントによる光学応答変動を温度の関数として記述する項、OPtherm(T)をさらに含み、光学レンズ系は、圧電アクチュエータシステムと光学的に接続されている。
【0022】
有利なことに、熱の項OPtherm(T)を含むことにより、光学部材の光学応答が他のコンポーネントの光学応答の変動を補償するように、すなわち電圧設定点を決定することにより、他のコンポーネントの光学応答変動を光学アクチュエータシステムで補償することができる。
【0023】
項OPtherm(T)で記述される光学応答変動は、圧電アクチュエータシステムの光学部材の光学応答の変動であってもよい。簡単な例では、項OPtherm(T)は、温度の線形関数、例えば数学モデルOP(V,T,n)で使用される温度であってもよい。したがって、所与の温度に対して、熱関数OPtherm(T)は、電圧設定点の決定を通じて、圧電アクチュエータシステムによって補償されるべき光学応答変動を与える。
【0024】
一実施形態によれば、圧電アクチュエータに電圧を印加することは、圧電アクチュエータを最大または最小の変形で駆動するために、最初に圧電アクチュエータに最大または最小電圧を印加し、その後、圧電アクチュエータに設定点電圧を印加することを含む。有利なことに、初期の最大または最小電圧を印加することにより、下降または上昇ヒステリシス曲線の一方のみが必要となるため、より単純な数学モデルOP(V,T,n)を使用することができる。
【0025】
一実施形態によれば、設定点電圧は、実際の光学応答の測定に依存しない開ループ構成で決定される。
【0026】
本発明の第2の態様は、圧電アクチュエータと、圧電アクチュエータに電力を供給する圧電ドライバと、第1の態様の方法に従って圧電ドライバが圧電アクチュエータに印加する設定点電圧を決定する処理部と、調整可能な光学応答を有する光学部材とを備える圧電アクチュエータシステムに関するものである。
【0027】
圧電ドライバと処理部は、別個のコンポーネントであってもよいし、単一のコンポーネントにまとめられていてもよい。圧電ドライバは、一般的に圧電アクチュエータに電力を供給するように設計された増幅回路を含んでいる。処理部は、例えばデジタルプロセッサによって実行されるコンピュータプログラムを介して数学モデルを実装してもよく、数学モデルの例えばパラメータを格納するためのメモリや、遷移時間値を測定するための例えばタイマ回路などの他の回路を含んでもよい。
【0028】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の圧電アクチュエータシステムに関するものであり、光学部材は、
-第1の透明カバー部材と、
-第2のカバー部材と、
-第1および第2の透明カバー部材の間に挟まれた、透明で変形可能な非流動体であって、圧電アクチュエータの1つ以上の圧電素子は、第1または第2のカバー部材の曲率、変位および/または方向の変化を制御可能にするように配置されている、非流動体と、を含む。
【0029】
第2のカバー部材は、透明であっても、反射性であっても、部分的に反射性であってもよい。したがって、光は光学部材を透過させてもよいし、光学部材で反射させてもよいし、部分的に透過させ、部分的に反射させてもよい。制御可能な曲率の変化を利用して、光パワーの変化を生じさせてもよい。変位の変化を利用して、光学部材を透過または反射した光ビームの変位を生じさせてもよい。第2のカバー部材に対する第1の透明カバー部材の角度の変化など、方位の変化を利用して、光学部材を透過または反射した光ビームの伝搬方向の変化を生じさせてもよい。
【0030】
本発明の第4の態様は、第2の態様による圧電アクチュエータシステムを含むカメラモジュールであって、圧電アクチュエータシステムが光学レンズを含み、カメラモジュールがさらに、光学レンズを透過する光を受け取るように配置されたイメージセンサを含むカメラモジュールに関するものである。
【0031】
本発明の第5の態様は、第2の態様に係る圧電アクチュエータシステムを含む電子機器に関する。
【0032】
一般に、本発明の様々な態様および実施形態は、本発明の範囲内で可能な任意の方法で組み合わせ、結合させてもよい。本発明のこれらおよび他の態様、特徴および/または利点は、以下に説明する実施形態を参照することにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
本発明の実施形態を、例としてのみ、図面を参照しながら説明する。
図1A】圧電アクチュエータシステムを示す。
図1B】圧電アクチュエータシステムの上面図を示す。
図1C】圧電アクチュエータシステムの上面図を示す。
図1D】圧電アクチュエータシステムを含むカメラモジュールを示す。
図2A】光パワーOPと圧電アクチュエータに印加される電圧Vとの関係を示す曲線OP(V)を示す。
図2B】圧電クリープ効果を示す。
図3A】光パワーと圧電アクチュエータシステムの静電容量との関係を示す。
図3B】第1および第2の遷移時間値の決定に関する例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1Aは、圧電アクチュエータ101と光学レンズ120とを含む圧電アクチュエータシステム100を示す。光学レンズの光パワーは、光学レンズ上の圧電アクチュエータが発生させる力またはトルクによって調整することができる。圧電アクチュエータシステム100は、圧電アクチュエータ100に電力を供給する圧電ドライバ110と、光学レンズ120の所望の光パワーなどの所望のアクチュエータ応答を達成するために圧電ドライバ110によって圧電アクチュエータに印加すべき設定点電圧Vxを決定する処理部111とをさらに備える。等価的に、設定点電圧Vxは、ドライバ110の出力、ドライバへの入力、または圧電アクチュエータ101に印加される電圧に対する他の電圧またはアナログもしくはデジタル基準であってもよい。ここで、光パワーと焦点距離は等価な尺度であると理解される。
【0035】
圧電アクチュエータ101は、第1および/または第2の透明カバー部材121、122の表面上に取り付けられた図1Bに示すようなリング状の圧電素子や、図1Cに示すような複数の圧電素子などの1つ以上の圧電素子を含んでいてもよい。このほかにも、圧電アクチュエータの構成は可能である。例えば、圧電アクチュエータは、第1および第2の透明カバー部材121、122の間に配置され、カバー部材121、122の内向き面と接続されてもよい。
【0036】
光学レンズは、第1の透明カバー部材121と、第2の透明カバー部材122と、第1および第2の透明カバー部材間に挟まれた透明で変形可能な非流動体123とから構成されている。
【0037】
圧電アクチュエータ101は、第1または第2のカバー部材の曲率の制御可能な変化を発生させるように配置されている。圧電アクチュエータが第1および/または第2の透明カバー部材に発生させる力またはトルクによって、透明カバー部材を凹形状または凸形状に曲げ、それによって入射光125に光パワーを与えることができる。
【0038】
一般に、圧電アクチュエータシステム100は、レンズ120などの光学部材130や、光パワーなどの光学応答を与える他の光学的コンポーネントを備えて構成されてもよい。例えば、光学部材130は、第1および第2の透明カバー部材121、122を備えた図1Aのように構成されてもよいが、圧電電気アクチュエータ101は、透明カバー部材121の一方の方位を他方の122に対して変位および/または変更するように配置されてもよい。例えば、上記で説明したように、圧電電気アクチュエータ101をカバー部材121、122の間に配置し、2つのカバー部材間の角度を変えることで、例えば、光学部材130を透過するビームの方向を変えることができるようにしてもよい。別の実施例では、透明カバー部材121、122の1つをミラーに置き換えて、反射ビームの偏向を調整可能にしたものである。したがって、光学応答の例としては、光パワー、光軸方向の変化などが挙げられ、それらの組み合わせも含む。
【0039】
本明細書のいくつかの例では、圧電アクチュエータシステム100が構成するものとしてレンズ120を挙げているが、圧電アクチュエータシステム100は一般に光学部材130を含む。
【0040】
図1Bは、透明カバー部材121の曲げを発生させるために配置されたリング状の圧電アクチュエータ101を含む圧電アクチュエータシステム100の上面図である。
【0041】
図1Cは、2つ以上の個別に制御可能な圧電アクチュエータ101を含む圧電アクチュエータシステム100の上面図である。
【0042】
図1Dは、圧電アクチュエータシステム100と、アクチュエータシステムの光学レンズを透過する光を受光するように配置されたイメージセンサ152とを含むカメラモジュール150を示す図である。光学レンズ系151の固定光学レンズなどの追加の光学コンポーネントが、可変レンズ120と光学的に一緒に配置されてもよい。光学レンズ系151の目的は、追加の光パワーの提供、光学的誤差の補正、その他の光学的適応であってもよい。このように、光学レンズ系151は、圧電アクチュエータシステム100と光学的に接続されている。カメラモジュール150は、スマートフォンなどの電子機器159に用いられてもよい。
【0043】
透明で変形可能な非流動体123は、第1および第2の透明カバー部材121、122の内向き面に接している。図1A図1Cに示すように、レンズ120が、圧電アクチュエータ101に囲まれたレンズ領域を構成する部分121を構成し、レンズ領域を光が遮られることなく通過できるように、圧電アクチュエータ101が配置されている。非流動体123は、少なくともレンズ領域を覆うように配置されているが、非流動体123の延長線を超えて第1および第2の透明カバー部材121、122の外周に向かって延在してもよい。
【0044】
透明で変形可能な非流動レンズ体123は、好ましくは、弾性材料から作られる。レンズ本体が非流体であるため、レンズ本体を保持するための液密な筐体が不要であり、漏洩の心配がない。好ましい実施形態では、レンズ本体123は軟質ポリマーから作られ、これは、シリコーン、ポリマーゲル、架橋または部分的に架橋されたポリマーのポリマーネットワーク、および混和性オイルまたはオイルの組み合わせなど、多くの異なる材料を含むことができる。非流動レンズ本体の弾性率を300Paより大きくすることで、通常動作時の重力による変形を回避することができる。非流動レンズ本体の屈折率は、1.3より大きくてもよい。非流動体123は、非流動体123の境界での反射を低減するために、透明カバー部材121、122の屈折率と等しい、実質的に等しい、または近い屈折率を有していてもよい。
【0045】
透明カバー部材121、122は、一般にスラブ状であり、曲面または平面、あるいはそれらの組み合わせであってもよい。透明カバー部材121、122は、アクリル、ポリオレフィン、ポリエステル、シリコーン、ポリウレタン、ガラスなど、多数の異なる材料から作られてもよい。アクチュエータによって変形されるように配置される第1および第2のカバー部材121、122の少なくとも一方は、圧電アクチュエータ101の作動によって屈曲可能にするのに適した剛性および厚さを有する。一般に、第1および/または第2のカバー部材121、122の材料は、必要な剛性を得るために、ヤング率が5MPa以上100GPa以下の範囲にある材料で形成されてもよい。例えば、ホウケイ酸ガラスのヤング率は63GPa、溶融石英ガラスは72GPaである。
【0046】
図2Aは、光パワーOPと圧電アクチュエータ101に印加される電圧Vとの関係を示す曲線OP(V)である。図2は、圧電アクチュエータのヒステリシス効果で、光パワーOPが圧電アクチュエータ101に印加する開始および停止電圧Vに依存し、電圧範囲が大きくなるとヒステリシス量が大きくなることを示したものである。ある最大電圧Vmaxから下降する電圧の光パワーOPの値が、全電圧範囲VminからVmaxの同じ下降OP(V)曲線に従うことが確認された。この観察は、本発明の実施形態によるヒステリシス補償に利用することができる。上昇曲線も同様で、同じように上昇するOP(V)曲線は、ある最低電圧Vminから全電圧範囲のVminからVmaxをたどることになる。
【0047】
したがって、最初は、圧電アクチュエータを最大または最小の変形または光パワーOPで駆動するために、最大または最小の電圧Vmax、Vminを圧電アクチュエータに印加することができる。最大または最小の変形量または光パワーに達した後、所望の設定点電圧Vxが圧電アクチュエータシステム100の圧電アクチュエータ101に印加される。後述するように、設定点電圧Vxは、圧電アクチュエータが所望の光パワーOPxを実現するように決定される電圧である。
【0048】
したがって、最初に設定点電圧Vxの上または下に位置する最大または最小電圧を印加することにより、最大または最小電圧から設定点電圧Vxへの移行は下降または上昇曲線に従う、すなわち、所与の電圧Vに対する光パワーOPはOP(V)のヒステリシス曲線に従う、または実質的に従うことになる。
【0049】
ヒステリシス曲線OP(V)、またはOP(V)の下降曲線部または上昇曲線部の少なくとも一方は、以下に説明するように、任意の所与の圧電アクチュエータシステム101についていつでも算出することができる。
【0050】
また、光パワー対電圧の関係OP(V)は、圧電アクチュエータ101の温度Tに依存する。温度依存性は、矢印201と、実線OP(V)曲線に有効な温度よりも高い温度で有効な曲線202で示される。したがって、ある光パワーOPを得るために必要な電圧は、温度Tが高くなるにつれて低下する。同じ作動電圧Vの場合、温度Tの上昇に伴い光パワーOPは増加する。
【0051】
したがって、圧電アクチュエータシステム100の熱ドリフトは、同じ電圧Vに対して、温度が上昇するほど光パワーが増加することを意味し得る。この光パワー対温度の関係は、光学レンズ系151などのカメラモジュール150に使用され得るプラスチックレンズのものとは通常反対方向である。したがって、圧電アクチュエータ101の熱ドリフトは、光学レンズ系151の熱ドリフトによって部分的に補償されてもよく、またその逆も同様である。
【0052】
光パワーに関する圧電アクチュエータシステム100の熱ドリフトを低減するため、または圧電アクチュエータシステム100の所望の熱ドリフトを達成または近づけるために、光学レンズモジュール151は、モジュール151の熱ドリフトが光パワー対温度の関係に関して圧電アクチュエータシステム100の熱ドリフトの補償または一部を補償するように設計されてもよい。
【0053】
したがって、圧電アクチュエータシステム100を含まないカメラモジュール150系の熱挙動、すなわち固定光学レンズモジュール151などのカメラモジュールの温度依存性コンポーネントの熱挙動は、カメラモジュール150全体の最適性能を得るために、または所与の動作温度範囲にわたって圧電アクチュエータシステム100の熱依存性を補償するために、例えば材料の選択、寸法および機械設計によって設計することができる。
【0054】
以下にさらに詳しく説明するように、この非熱設計は、光学レンズ系151などの温度依存性コンポーネントの光パワーOPの温度依存性を温度Tの関数として記述する数学項OPtherm(T)によって光パワーOPと電圧Vとの関係を記述する数学モデルによって対処してもよい。
【0055】
図2Bは、一定電界中での圧電材料の時間依存分極に起因する圧電クリープ効果を示す。初期曲線OP(V)(図2AのOP(V)と同様に)およびクリープ効果曲線211によって示されるように、圧電クリープは、圧電アクチュエータシステム100のOP(V)曲線の隆起を引き起こす、すなわち、ある光パワーに達するために必要な電圧が減少する。曲線の下部と上部、例えば最小電圧と最大電圧Vmin、Vmax付近はクリープ効果の影響をあまり受けない。クリープの速度は時間とともに対数的に減少するので、クリープの大部分は、例えばバイアシングの最初の1時間以内に発生し、バイアシングは圧電アクチュエータ101に電圧Vを印加することと同等である。圧電アクチュエータ101は、電圧履歴をある程度は保持する。残留分極は、電界を印加しないと、時間の経過とともに徐々に減少する。しかし、実用上は、圧電アクチュエータシステム100を常用すれば、クリープレベルは維持される。ある程度のクリープを経験した圧電アクチュエータシステム100は、未使用の圧電アクチュエータシステム100よりも、さらなるクリープの可能性を低くすることができよう。
【0056】
圧電アクチュエータ101に電圧V、または異なる電圧Vを印加してしばらくすると、圧電アクチュエータは、ヒステリシスが小さく、直線性が改善された曲線211に従って動作するようになる。
【0057】
このように、光パワーOPの正確かつ予測可能な設定を実現するための圧電アクチュエータ101の使用は、温度、クリープおよびヒステリシスの依存性のために複雑である。一方、光パワーOPと圧電アクチュエータ101の静電容量との関係は、所与の圧電アクチュエータ101について一定、または実質的に一定であり、電圧バイアス履歴、すなわちクリープ効果に依存しないことが判明している。
【0058】
ここで、これらの依存関係は、圧電アクチュエータ101の圧電素子に関連するものであることに留意されたい。圧電アクチュエータ101はレンズ120を駆動するので、圧電アクチュエータシステム100の光パワーOPも同様に、これらの依存関係の影響を受けることになる。
【0059】
図3Aは、光パワーOPと圧電アクチュエータシステム100の静電容量C、すなわち圧電アクチュエータ101の圧電素子(複数可)の静電容量の関係を示す図である。
【0060】
したがって、所与の電圧Vに対する圧電アクチュエータ101の静電容量Cを測定により求めることで、この関係から、測定時のクリープのレベルに関わらず、その電圧OP(V)における光パワーについて正しい情報を得ることができるようになる。
【0061】
一実施形態によれば、以下の数学モデルOP(V,T,n)は、図2Aに例示された下降または上昇曲線について、光パワーOPと電圧Vとの関係を記述している。
OP(V,T,n)=a(T)xL(V)+b(T,n)
【0062】
よって、この式は、下降または上昇電圧Vに対する光パワーOPを、積項a(T)×L(V)と項b(T,n)の和として求め、変数温度Tと遷移時間カウント値nに依存している。係数L(V)は曲線適合多項式である。
【0063】
この数学モデルは、以下のように項OPtherm(T)を含むように拡張することができる。
OP(V,T,n)=a(T)xL(V)+b(T,n)+OPtherm(T)
OPtherm(T)は、光学レンズ系151におけるレンズ等の温度依存性コンポーネントの温度Tの光パワーOPに対する依存性、すなわち、上述した温度依存性コンポーネントの熱ドリフトを記述している。OPtherm(T)は、熱ドリフトを測定し、温度Tの関数として熱ドリフトの数学的表現を決定することによって得ることができる。
【0064】
遷移時間カウント値nは、圧電アクチュエータが第1の状態X1から第2の状態X2に変化する際の圧電アクチュエータ101の遷移時間xに関するものである。
【0065】
第1および第2の状態X1、X2は、圧電アクチュエータに印加される第1および第2の電圧V1、V2、または第1および第2の電荷などの第1および第2の電力供給値P1、P2から生じる定常状態電圧V1、V2であってもよい。なお、本発明の実施形態では、電圧コントローラ電力信号に基づいて圧電アクチュエータ101を駆動することを基本としているが、電流または電荷制御電力信号に基づいて圧電アクチュエータ101を駆動することを排除するものではない。実際には、定常状態電圧と同様に、第1および第2の電圧V1、V2などの電圧信号は、デジタルまたはアナログ値で表すことができる。
【0066】
したがって、圧電アクチュエータ101の端子への電気的接続を介して、電圧V1、V2を測定することができる。第1および第2の状態X1、X2はまた、印加された第1および第2の電圧V1、V2から生じ、イメージセンサ152などの光学検出器を介して測定される定常状態の光パワーOP1、OP2(または他の光学応答)であり得る。
【0067】
遷移時間カウント値nは、例えば、アクチュエータ101が第1の状態X1などの既知の状態にあるときに第1の電圧値V1の印加開始に応答して開始し、第2の印加電圧値V2に応答して第2の状態X2に到達すると停止するタイマを使用することによって、様々な方法で測定することができる。第1および第2の電圧値V1、V2のいずれかは、ゼロ電圧などのゼロ値であってもよい。
【0068】
遷移時間カウント値nは、時間、発振器クロック信号のカウント、その他の遷移時間の表現でもよい。
【0069】
一実施形態によれば、遷移時間カウント値nは、第1および第2の電圧値V1、V2から生じる第1および第2の状態X1、X2間の第1の遷移時間値x1を決定し、第3および第4の電圧値V3、V4から生じる圧電電気アクチュエータの第3および第4の状態X3、X4間の第2の遷移時間値x2を決定することに基づいて、決定される。第1および第2の遷移時間値x1、x2に基づいて、第1および第2の遷移時間値の比n=x1/x2に基づいて、遷移時間カウント値を決定する。
【0070】
このように、遷移時間カウント値nは、1つ以上の遷移時間値x1、x2に基づいて決定されてもよい。有利なことに、遷移時間値x1、x2の比から決定されるカウント値nは、少なくともある程度は温度に依存しないことが判明した。単一の遷移時間値x1から決定されるカウント値nも実現可能であるが、モデルOP(V,T,n)の多少の適応が必要となる場合がある。
【0071】
図3Bは、第1および第2の遷移時間値x1、x2を決定するための例を示す図である。したがって、第1の遷移時間値x1の決定は、第2の電圧値V2が印加された瞬間、つまり、第1の電圧値V1に応答して第1の状態X1になった後、から第2の状態X2になる瞬間までの時間によってなされる。第2の遷移時間x2の決定についても同様である。図3Bでは、第2および第3の電圧値V2、V3が同じであり、その結果、第2および第3の状態X2、X3も同じである。状態X1~X4間の変化の方向は、例えば、第1の状態X1が第2の状態X2よりも高い値を有するように変更されてもよい。この場合も、電圧電力供給値V1~V4はいずれも、ゼロ電圧のようなゼロ値であってよい。明らかに、ある許容範囲を利用して、第2の状態X2に入るための許容範囲など、時間測定を開始および停止してもよい。
【0072】
遷移時間値xを決定するために発振器を使用する場合、発振器の周波数が温度依存性を持つ場合があることが確認されている。遷移時間の値、例えばミリ秒を正確に決定するためには、周波数が安定している必要がある。しかしながら、圧電アクチュエータ101の第1の高電圧V1からより低い第2の電圧V2への遷移の場合、決定されたカウント値nは、圧電アクチュエータ101の静電容量と、よって圧電アクチュエータシステム100の光パワーOPと、よく相関することが確認されている。したがって、遷移時間値x(または第1および/または第2の遷移時間値x1、x2)は、最初に到達した第1および/または第3の定常状態電圧V1、V3から第2および/または第4の下位の定常状態電圧V2、V4への移行に基づいて取得されてもよい。
【0073】
電圧Vと光パワーOPの関係は、圧電アクチュエータシステム100の種類によって異なる。そのため、モデルOP(V,T,n)の較正が必要である。較正手順は、較正遷移時間カウント値nCALを決定することを含む。較正遷移時間カウント値nCALの決定は、前述の遷移時間カウント値nの決定の手順に従う。
【0074】
較正手順は、圧電アクチュエータの較正温度TCALを取得することをさらに含む。圧電アクチュエータの他の温度と同様に較正温度も、圧電アクチュエータシステム100が構成する温度センサ、またはカメラモジュール150や電子機器159で構成される温度センサから取得することができる。
【0075】
較正は、圧電アクチュエータ101に印加される第1および第2の較正電圧V1、V2などの対応する1つ以上の較正電圧に基づいて、第1および第2の光パワーOP1、OP2などの1つ以上の光パワーを決定することをさらに含む。
【0076】
光パワーOP1、OP2は、様々な方法で決定することができる。例えば、カメラモジュール150の前に置かれたスクリーンとカメラモジュールとの間のユーザが決定したまたは所定の距離から、第1の光パワーOP1が求められ、第1の電圧V1は、スクリーンの焦点を合わせた画像を提供する電圧である。第2の電圧V2および光パワーOPは、スクリーンまでの別の距離に基づいて同様に決定することができる。あるいは、第2の光パワーOP2は無限遠で合焦する光パワーであり、第2の電圧は無限遠、例えば10mのような相対的に大きな距離で合焦する電圧であってもよい。
【0077】
較正は、カメラモジュール150または電子機器159の製造時に実施されてもよい。あるいは、較正は、カメラモジュールまたは電子機器のユーザによって、例えば、インストールされた較正アルゴリズムに基づいて、実行または反復されてもよい。
【0078】
較正は、様々な物体までの推定距離を利用した統計的手法に基づいて行うことも可能である。
【0079】
電圧Vの非線形関数などの関数である曲線適合多項式Lの関数値は、1つ以上の較正電圧に対して決定される。例えば、第1および第2の関数値L(V1)およびL(V2)は、第1および第2の較正電圧V1、V2から決定してもよい。
【0080】
一例では、曲線適合多項式L(V)は、
L(V)=v6xV^6+v5xV^5+v4xV^4+v3xV^3+v2xV^2+v1xV+v0、
形式の6次曲線適合多項式で表され、
式中、v0~v6は、圧電アクチュエータシステム100または圧電アクチュエータ101の所与のタイプについて経験的に決定した係数である。L(V)は、圧電アクチュエータシステム100に使用されるレンズの温度とクリープと種類に依存しない、図2AのOP(V)曲線の特徴的な形状を与える。曲線適合多項式L(V)は他の次数の多項式で表現してもよく、一般的には少なくとも3次以上の多項式で表現する。
【0081】
較正は、数学モデルOP(V,T,n)、1つ以上の較正電圧V1、V2、および較正電圧V1、V2に関連する1つ以上の光パワーOP1、OP2を用いることによる1つ以上の較正パラメータaCAL、bCALの決定をさらに含む。このように、較正パラメータは、較正電圧と測定された光学応答を数学モデルへの既知の入力として、モデルに基づいて決定される。較正電圧V1、V2は、所望のまたは所定の光学的応答、例えば光パワーをもたらす電圧として決定されてもよい。あるいは、所定の電圧を印加したときの光学応答を決定してもよい。
【0082】
較正パラメータaCAL、bCALは、a(T)、b(T,n)が電圧Vに依存しないモデルOP(V,T,n)から、OP1、OP2と第1および第2の関数値L(V1)、L(V2)をそれぞれ代入して2式OP1(L(V1),T,n)、OP2(L(V2),T,n)として決定することができる。次の2つの式
aCAL=(OP1-OP2)/(L(V1)-L(V2))および
bCAL=OP1(V1)-aCALx(L(V1))
に基づいて、aCAL、bCALを次のように決定することができる。
【0083】
較正パラメータaCAL、bCALは、較正時の圧電アクチュエータシステム100の挙動、すなわち実際の温度およびクリープレベルに対応する。この情報をもとに、電圧の下降または上昇に対する較正曲線OP(V)を構築することができる。
【0084】
決定された較正パラメータaCAL、bCAL、nCALおよびTCALは、例えば、処理部111のメモリに格納される。
【0085】
モデルOP(V,T,n)は、所与の電圧V、所与の温度T、所与のクリープレベルに対する光パワーOPを決定するために使用することができる。そのためには、実際の条件、すなわち実際の温度Tと実際の遷移時間カウント値nに対して、モデル部分a(T)とb(T,n)を決定することが必要である。温度Tは、上述のように温度センサによって測定することができ、遷移時間カウント値nは、上述のように、例えば図3Bに関連して説明した方法を用いて決定することができる。
【0086】
モデル部分a(T)、b(T,n)は以下の多項式で表すことができる。
a(T)=a2x(T^2-TCAL^2)+a1x(T-TCAL)+aCAL
b(T,n)=b2x(T^2-TCAL^2)+b1x(T-TCAL)+bCAL+(n-nCAL)xΔb/Δn。
【0087】
a(T)とb(T,n)は、高次の多項式など他の表現も有効であることは明らかである。
【0088】
要素Δb/Δn、および係数a1、a2、b1、b2は経験的に決定された値である。
【0089】
数学モデルと実際の条件へのモデルの適応を繰り返すことにより、図2Aに示すように、所望の光パワーOPxを達成するための設定点電圧Vxを決定することができる。設定点電圧Vxは、モデルOP(V,T,n)を用いて、所望の光パワーOPxを与える、または少なくともそれに近い電圧Vを決定する反復アルゴリズムに基づいて決定されてもよい。
【0090】
較正手順時以外は実際の光パワーを測定することなく所望の光パワーOPxを実現できるため、実際の光パワーOPの測定に依存しないオープンループ構成で所望の光パワーOPxを決定することができる。
【0091】
上記の例では、モデルOP(V,T,n)はa(T)が温度Tに依存し、多項式L(V)が電圧Vに依存する形で説明したが、他の例では、係数a(T)がさらに遷移時間カウント値nに依存する、すなわち係数はa(T,n)という形式をとってもよいであろう。同様に、多項式はさらに遷移時間カウント値nおよび/または温度Tに依存してもよく、すなわち多項式はL(V,T,n)の形式を有してもよい。
【0092】
例えば、多項式は
L(V,T)=v6(T)xV^6+v5(T)xV^5+v4xV^4+v3xV^3+v2xV^2+v1xV+v0+vT*T^2
のような形式でもよく、
または、形式L(V,T,n)は、nに依存する項をさらに含む。
【0093】
別の例では、多項式L(V)は、異なる温度範囲に対する2つ以上の多項式L1(V)、L2(V)として定義される。異なる温度範囲に対して異なる多項式L(V)を定義すること、または多項式を温度Tおよび/または遷移時間カウント値nに依存するものとして定義することにより、所与の電圧Vに対する決定された光パワーOPの精度を向上させることができる。
【0094】
圧電アクチュエータシステム100は、レンズ120と連動することに限定されず、光学部材130と連動することが一般的であるので、光学モデルOP(V,T,n)は、他の光学応答、例えばビーム偏向に適用されることが理解される。したがって、他の光学応答についても等価なモデルOR(V,T,n)が定式化される可能性がある。便宜上、本明細書で使用する光学モデルOP(V,T,n)は、任意の光学応答に対して適用される。
【0095】
本発明を特定の実施形態に関連して説明してきたが、本発明は提示された実施例に何ら限定されるものではないと解釈されるべきである。本発明の範囲は、添付の請求項セットに照らして解釈されるものとする。特許請求の範囲の文脈において、「含んでいる」または「含む」という用語は、他の可能な要素またはステップを除外するものではない。また、“a”や“an”などの表記は、複数のものを除外して解釈されるべきではない。また、図で示された要素に関する特許請求の範囲の参照符号の使用は、本発明の範囲を限定するものと解釈してはならない。さらに、異なる請求項に記載されている個々の特徴は、有利に組み合わせられる可能性があり、異なる請求項にこれらの特徴が記載されていることは、特徴の組み合わせが可能でなく、有利でないことを排除するものではない。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3A
図3B
【手続補正書】
【提出日】2022-05-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電アクチュエータシステムの所望の光学応答を達成するために圧電アクチュエータシステム(100)の設定点電圧(Vx)を決定する方法であって、前記圧電アクチュエータシステムは、光学応答(OP)が調整可能な光学部材(130,120)と圧電アクチュエータ(101)とを含み、前記方法は、
-変数としての前記圧電アクチュエータに印加される電圧(V)、温度(T)、遷移時間カウント値(n)と、前記光学応答(OP)との関係を記述する数学モデルOP(V,T,n)を提供することであって、前記数学モデルは曲線適合多項式(L)を含み、前記遷移時間カウント値(n)は、第1の状態(X1)から第2の状態(X2)へ変化させるための前記圧電アクチュエータの少なくとも1つの遷移時間値(x)に関するものであり、
-数学モデルを較正することであって、
-前記圧電アクチュエータの前記第1および第2の状態(X1,X2)の間の前記少なくとも1つの遷移時間値(x)を決定することに基づいて、較正遷移時間カウント値(nCAL)を決定することと、
-前記圧電アクチュエータの較正温度(TCAL)を取得することと、
-1つ以上の較正電圧(V1,V2)と、圧電アクチュエータに印加された前記1つ以上の較正電圧(V1,V2)に関連付けられた1つ以上の光学応答(OP1,OP2)とに基づいて、前記数学モデルOP(V,T,n)の1つ以上の較正パラメータ(aCAL,bCAL)を決定することと、によって数学モデルを較正することと、
-圧電アクチュエータの一定期間または使用後に、
-前記圧電アクチュエータの温度(T)を取得することと、
-圧電電気アクチュエータの前記第1および第2の状態の間の少なくとも1つの実際の遷移時間値(x)を決定することに基づいて、前記遷移時間カウント値(n)を決定することと、
-更新された数学モデルOP(V,T,n)に基づいて設定点電圧(Vx)を決定し、前記設定点電圧(Vx)を前記圧電アクチュエータに印加すること、
によって、数学モデルOP(V,T,n)を更新することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記関係が、電圧(V)の下降および/または上昇値に対する前記光学応答を記述する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記関係が、電圧(V)の下降または上昇値に対する前記光学応答のみを記述する、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記遷移時間カウント値(n)および前記較正遷移時間カウント値(nCAL)を決定することが、
前記圧電電気アクチュエータの前記第1および第2の状態(X1,X2)の間の第1の遷移時間値(x1)を決定することと、
第3および第4の状態(X3,X4)の間の第2の遷移時間値(x2)を決定することと、を含み、
前記遷移時間カウント値(n)および前記較正遷移時間カウント値(nCAL)は、前記第1および第2の遷移時間値(x1,x2)の比率に基づいて決定される、
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1および第2の状態(X1,X2)が、前記圧電アクチュエータに第1および第2の電圧(V1,V2)を印加することに基づいて得られる第1および第2の定常状態電圧(V1,V2)を含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の定常状態電圧(V1)は前記第2の定常状態電圧(V2)よりも高く、前記遷移時間値(x)は、前記第1の定常状態電圧(V1)から前記第2の定常状態電圧(V2)への遷移に基づいて取得される、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記曲線適合多項式(L)が、前記電圧(V)の所定の非線形関数である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記数学モデルが、第1項a(T)xL(V)と第2項b(T,C)の和からなり、a(T)は少なくとも温度パラメータ(T)、第1の較正パラメータ(aCAL)および実温度(Ta)に依存する多項式、L(V)は電圧(V)に依存する少なくとも3次の多項式、b(T,C)は温度パラメータ(T)、電圧(V)、第2の較正パラメータ(bCAL)、実際の温度(Ta)および実際の静電容量パラメータ(Ca)に依存する多項式である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記数学モデルは、光学レンズ系(151)におけるレンズなどの温度依存性コンポーネントによる光学応答変動を温度(T)の関数として記述する項OPtherm(T)をさらに含み、
前記光学レンズ系は、前記圧電アクチュエータシステム(100)と光学的に接続されている、
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記圧電アクチュエータに前記電圧を印加することが、前記圧電アクチュエータを最大または最小変形に駆動するために、最初に最大または最小電圧(Vmax,Vmin)を前記圧電アクチュエータに印加し、その後、前記設定点電圧(Vx)を前記圧電アクチュエータに印加することを含む、
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記設定点電圧(Vx)が、実際の光学応答(OP)の測定に依存しない開ループ構成で決定される、
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
圧電アクチュエータ(101)と、前記圧電アクチュエータ(101)に電力を供給する圧電ドライバ(110)と、請求項1の方法に従って前記圧電ドライバが前記圧電アクチュエータに印加する設定点電圧(Vx)を決定する処理部(111)と、調整可能な光学応答を有する光学部材(130、120)と、
を備える圧電アクチュエータシステム(100)。
【請求項13】
前記光学部材(130、120)が、
-第1の透明カバー部材(121)と、
-第2のカバー部材(122)と、
-前記第1の透明カバー部材(121)および前記第2のカバー部材(122)の間に挟まれた、透明で変形可能な非流動体(123)と、を含み、
前記圧電アクチュエータの1つ以上の圧電素子は、前記第1または前記第2のカバー部材の曲率、変位および/または方位の変化を制御可能にするように配置されている、
請求項12に記載の圧電アクチュエータシステム(100)。
【請求項14】
請求項12~13のいずれか一項に記載の圧電アクチュエータシステム(100)が光学レンズ(130)を含み、
カメラモジュールがさらに、光学レンズ(120)を透過する光を受け取るように配置されたイメージセンサ(152)を含むカメラモジュールに関するものである、
圧電アクチュエータシステムを含むカメラモジュール(150)。
【請求項15】
請求項12~13のいずれか一項に記載の圧電アクチュエータシステム(100)を含む電子機器(159)。
【国際調査報告】