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▶ アステラス インスティテュート フォー リジェネラティブ メディシンの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-16
(54)【発明の名称】血管疾患の処置方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/44 20150101AFI20221109BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20221109BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20221109BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20221109BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20221109BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20221109BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20221109BHJP
【FI】
A61K35/44
A61K35/545
A61L27/38 300
A61P9/12
A61P11/00
C12N5/071
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022513622
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(85)【翻訳文提出日】2022-04-15
(86)【国際出願番号】 US2020048080
(87)【国際公開番号】W WO2021041592
(87)【国際公開日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】62/892,712
(32)【優先日】2019-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522074523
【氏名又は名称】アステラス インスティテュート フォー リジェネラティブ メディシン
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 渚
(72)【発明者】
【氏名】ミロツォウ マリア
(72)【発明者】
【氏名】プラセイン ヌタン
(72)【発明者】
【氏名】シン アムリタ
(72)【発明者】
【氏名】ランザ ロバート
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BC03
4B065CA44
4C081AB13
4C081AB14
4C081BA12
4C081CD34
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB64
4C087CA04
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA42
4C087ZA59
(57)【要約】
本発明は、インビトロで多能性幹細胞から得られた造血内皮細胞(HE)を用いて血管疾患を処置するための方法を提供する。本発明はまた、HEの組成物およびHEを生産する方法も提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞のインビトロ分化によって得られた造血内皮細胞(HE)を含む組成物を対象に投与する工程を含む、血管疾患を罹患している対象または血管疾患を罹患している疑いがある対象における血管疾患を処置する方法。
【請求項2】
血管疾患が、冠動脈疾患(例えば動脈硬化、アテローム性動脈硬化、ならびに動脈、細動脈および毛細血管の他の疾患もしくは傷害、または関連する病訴)、心筋梗塞(例えば急性心筋梗塞)、器質化心筋梗塞(organizing myocardial infarct)、虚血性心疾患、不整脈、左室拡張、塞栓、心不全、うっ血性心不全、心内膜下線維症、左室または右室肥大、心筋炎、慢性冠虚血、拡張型心筋症、再狭窄、不整脈、アンギナ、高血圧(例えば肺高血圧、糸球体高血圧、門脈圧亢進症)、心筋肥大、重症虚血肢を含む末梢動脈疾患、脳血管疾患、腎動脈狭窄、大動脈瘤、肺性心、心律動異常、炎症性心疾患、先天性心疾患、リウマチ性心疾患、糖尿病性血管疾患、肺内皮傷害疾患(endothelial lung injury disease)(例えば急性肺傷害(ALI)および急性呼吸窮迫症候群(ARDS))からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
血管疾患が肺高血圧である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
血管疾患が肺動脈高血圧である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
対象において平均肺(動脈)血圧が低減される、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
多能性幹細胞のインビトロ分化によって得られたHEを含む組成物を対象に投与する工程を含む、血管疾患を罹患している対象または血管疾患を罹患している疑いがある対象において肺動脈の血流を増加させる方法。
【請求項7】
対象が肺高血圧を有する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
対象が肺動脈高血圧を有する、請求項6記載の方法。
【請求項9】
多能性幹細胞のインビトロ分化によって得られたHEを含む組成物を対象に投与する工程を含む、血管疾患を罹患している対象または血管疾患を罹患している疑いがある対象において血圧を低減する方法。
【請求項10】
対象が肺高血圧を有する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
対象が肺動脈高血圧を有する、請求項9記載の方法。
【請求項12】
血圧が拡張期圧である、請求項9記載の方法。
【請求項13】
血圧が収縮期圧である、請求項9記載の方法。
【請求項14】
血圧が平均肺(動脈)血圧である、請求項9記載の方法。
【請求項15】
対象において血圧が少なくとも20%低減される、請求項9~14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
HEが、miRNA-126、miRNA-24、miRNA-196-b、miRNA-214、miRNA-199a-3p、miRNA-335、hsa-miR-11399、hsa-miR-196b-3p、hsa-miR-5690およびhsa-miR-7151-3pからなる群より選択される少なくとも1つのマイクロRNA(miRNA)について陽性である、請求項1~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
HEが、(i)miRNA-214、miRNA-199a-3pおよびmiRNA-335、ならびに/または(ii)hsa-miR-11399、hsa-miR-196b-3p、hsa-miR-5690およびhsa-miR-7151-3pについて陽性である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
HEが、(i)miRNA-126、miRNA-24、miRNA-196-b、miRNA-214、miRNA-199a-3pおよびmiRNA-335、ならびに/または(ii)hsa-miR-11399、hsa-miR-196b-3p、hsa-miR-5690およびhsa-miR-7151-3pについて陽性である、請求項16記載の方法。
【請求項19】
HEがmiRNA-214について陽性である、請求項16記載の方法。
【請求項20】
HEが、miRNA-367、miRNA-302a、miRNA-302b、miRNA-302c、miRNA-223およびmiRNA-142-3pからなる群より選択される少なくとも1つのmiRNAについて陰性である、請求項1~19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
HEが、miRNA-223およびmiRNA-142-3pについて陰性である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
HEが、miRNA-367、miRNA-302a、miRNA-302b、miRNA-302c、miRNA-223およびmiRNA-142-3pについて陰性である、請求項20記載の方法。
【請求項23】
HEが、CD31/PECAM1、CD309/KDR、CD144、CD34、CXCR4、CD146、Tie2、CD140b、CD90、CD271およびCD105からなる群より選択される少なくとも1つの細胞表面マーカーを発現する、請求項1~22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
HEが、CD146、CXCR4、CD309/KDR、CD90およびCD271を発現する、請求項23記載の方法。
【請求項25】
HEがCD146を発現する、請求項23記載の方法。
【請求項26】
HEがCD144(VECAD)を発現する、請求項23記載の方法。
【請求項27】
HEが、CD31、CD309/KDR(FLK-1)、PLVAP、GJA4、ESAM、EGFL7、KDR/VEGFR2およびESAMからなる群より選択される少なくとも1つの細胞マーカーを発現する、請求項26記載の方法。
【請求項28】
HEが、SOX9、PDGFRAおよびEGFRAからなる群より選択される少なくとも1つの細胞マーカーをさらに発現する、請求項26または27記載の方法。
【請求項29】
HEが、KDR/VEGFR2、NOTCH4、コラーゲンIおよびコラーゲンIVからなる群より選択される少なくとも1つの細胞マーカーをさらに発現する、請求項26~28のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
HEが、CD31/PECAM1、CD309/KDR、CD144、CD34およびCD105を発現する、請求項23記載の方法。
【請求項31】
HEが、CD34、CXCR7、CD43およびCD45からなる群より選択される少なくとも1つの細胞表面マーカーの限定的な検出を示すか、または検出を示さない、請求項1~29のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
HEが、CXCR7、CD43およびCD45の限定的な検出を示すか、または検出を示さない、請求項1~31のいずれか一項記載の方法。
【請求項33】
HEが、CD43およびCD45の限定的な検出を示すか、または検出を示さない、請求項1~31のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
HEが、CD43(-)、CD45(-)およびCD146(+)である、請求項1~33のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
多能性幹細胞が胚性幹細胞である、請求項1~34のいずれか一項記載の方法。
【請求項36】
多能性幹細胞が人工多能性幹細胞である、請求項1~34のいずれか一項記載の方法。
【請求項37】
HEが、接着条件下、分化培地中、メチルセルロースの非存在下で、多能性幹細胞を培養することによって得られたものである、請求項1~36のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
HEが、胚様体形成を伴わない多能性幹細胞のインビトロ分化によって得られたものである、請求項1~37のいずれか一項記載の方法。
【請求項39】
対象がヒトである、請求項1~38のいずれか一項記載の方法。
【請求項40】
多能性幹細胞がヒト多能性幹細胞である、請求項1~39のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
HEがヒトHEである、請求項1~40のいずれか一項記載の方法。
【請求項42】
多能性幹細胞のインビトロ分化によって得られたHEを含む組成物であって、HEがCD43(-)、CD45(-)およびCD146(+)である、前記組成物。
【請求項43】
多能性幹細胞のインビトロ分化によって得られたHEを含む組成物であって、HEが、miRNA-126、mi-RNA-24、miRNA-196-b、miRNA-214、miRNA-199a-3p、miRNA-335、hsa-miR-11399、hsa-miR-196b-3p、hsa-miR-5690およびhsa-miR-7151-3pからなる群より選択される少なくとも1つのマイクロRNA(miRNA)について陽性である、前記組成物。
【請求項44】
HEが、(i)miRNA-214、miRNA-199a-3pおよびmiRNA-335、ならびに/または(ii)hsa-miR-11399、hsa-miR-196b-3p、hsa-miR-5690およびhsa-miR-7151-3pについて陽性である、請求項43記載の組成物。
【請求項45】
HEが、(i)miRNA-126、mi-RNA-24、miRNA-196-b、miRNA-214、miRNA-199a-3pおよびmiRNA-335、ならびに/または(ii)hsa-miR-11399、hsa-miR-196b-3p、hsa-miR-5690およびhsa-miR-7151-3pについて陽性である、請求項43記載の組成物。
【請求項46】
HEがmiRNA-214について陽性である、請求項43記載の組成物。
【請求項47】
HEが、miRNA-367、miRNA-302a、miRNA-302b、miRNA-302c、miRNA-223およびmiRNA-142-3pからなる群より選択される少なくとも1つのmiRNAについて陰性である、請求項42~46のいずれか一項記載の組成物。
【請求項48】
HEが、miRNA-223およびmiRNA-142-3pについて陰性である、請求項47記載の組成物。
【請求項49】
HEが、miRNA-367、miRNA-302a、miRNA-302b、miRNA-302c、miRNA-223およびmiRNA-142-3pについて陰性である、請求項47記載の組成物。
【請求項50】
HEが、CD43(-)、CD45(-)およびCD146(+)である、請求項43~49のいずれか一項記載の組成物。
【請求項51】
多能性幹細胞のインビトロ分化によって得られたHEを含む組成物であって、HEがCD144(VECAD)を発現する、前記組成物。
【請求項52】
HEが、CD31、CD309/KDR(FLK-1)、PLVAP、GJA4、ESAM、EGFL7、KDR/VEGFR2およびESAMからなる群より選択される少なくとも1つの細胞マーカーをさらに発現する、請求項51記載の組成物。
【請求項53】
HEが、SOX9、PDGFRAおよびEGFRAからなる群より選択される少なくとも1つの細胞マーカーをさらに発現する、請求項51または52記載の組成物。
【請求項54】
HEが、KDR/VEGFR2、NOTCH4、コラーゲンIおよびコラーゲンIVからなる群より選択される少なくとも1つの細胞マーカーをさらに発現する、請求項51~53のいずれか一項記載の組成物。
【請求項55】
CD144(VECAD)陰性HE細胞を実質的に欠く、請求項51~54のいずれか一項記載の組成物。
【請求項56】
多能性幹細胞のインビトロ分化によって得られたHEと薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物であって、HEがCD43(-)、CD45(-)およびCD146(+)である、前記薬学的組成物。
【請求項57】
多能性幹細胞のインビトロ分化によって得られたHEと薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物であって、HEが、miRNA-126、mi-RNA-24、miRNA-196-b、miRNA-214、miRNA-199a-3p、miRNA-335、hsa-miR-11399、hsa-miR-196b-3p、hsa-miR-5690およびhsa-miR-7151-3pからなる群より選択される少なくとも1つのマイクロRNA(miRNA)について陽性である、前記薬学的組成物。
【請求項58】
HEが、(i)miRNA-214、miRNA-199a-3pおよびmiRNA-335、ならびに/または(ii)hsa-miR-11399、hsa-miR-196b-3p、hsa-miR-5690およびhsa-miR-7151-3pについて陽性である、請求項57記載の薬学的組成物。
【請求項59】
HEが、(i)miRNA-126、mi-RNA-24、miRNA-196-b、miRNA-214、miRNA-199a-3pおよびmiRNA-335、ならびに/または(ii)hsa-miR-11399、hsa-miR-196b-3p、hsa-miR-5690およびhsa-miR-7151-3pについて陽性である、請求項57記載の薬学的組成物。
【請求項60】
HEがmiRNA-214について陽性である、請求項57記載の薬学的組成物。
【請求項61】
HEが、miRNA-367、miRNA-302a、miRNA-302b、miRNA-302c、miRNA-223およびmiRNA-142-3pからなる群より選択される少なくとも1つのmiRNAについて陰性である、請求項57~60のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項62】
HEが、miRNA-223およびmiRNA-142-3pについて陰性である、請求項61記載の薬学的組成物。
【請求項63】
HEが、miRNA-367、miRNA-302a、miRNA-302b、miRNA-302c、miRNA-223およびmiRNA-142-3pについて陰性である、請求項61記載の薬学的組成物。
【請求項64】
HEが、CD43(-)、CD45(-)およびCD146(+)である、請求項57~63のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項65】
多能性幹細胞のインビトロ分化によって得られたHEと薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物であって、HEが、CD144(VECAD)、CD31およびCD309/KDR(FLK-1)を発現する、前記薬学的組成物。
【請求項66】
HEが、CD31、CD309/KDR(FLK-1)、PLVAP、GJA4、ESAM、EGFL7、KDR/VEGFR2およびESAMからなる群より選択される少なくとも1つの細胞マーカーをさらに発現する、請求項65記載の薬学的組成物。
【請求項67】
HEが、SOX9、PDGFRAおよびEGFRAからなる群より選択される少なくとも1つの細胞マーカーをさらに発現する、請求項65または66記載の薬学的組成物。
【請求項68】
HEが、KDR/VEGFR2、NOTCH4、コラーゲンIおよびコラーゲンIVからなる群より選択される少なくとも1つの細胞マーカーをさらに発現する、請求項65~67のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項69】
CD144(VECAD)陰性HE細胞を実質的に欠く、請求項65~68のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項70】
HEが、(i)CD144(VECAD)ならびに(ii)CD31および/またはCD309/KDR(FLK-1)を発現する、請求項26~41のいずれか一項記載の方法。
【請求項71】
HEが、表22および表23に記載される少なくとも1つの遺伝子を発現する、請求項26~41または請求項70のいずれか一項記載の方法。
【請求項72】
HEが、(i)CD144(VECAD)ならびに(ii)CD31および/またはCD309/KDR(FLK-1)を発現する、請求項51~54のいずれか一項記載の組成物。
【請求項73】
HEが、表22および表23に記載される少なくとも1つの遺伝子を発現する、請求項51~54または請求項72のいずれか一項記載の組成物。
【請求項74】
HEが、(i)CD144(VECAD)ならびに(ii)CD31および/またはCD309/KDR(FLK-1)を発現する、請求項65~69のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項75】
HEが、表22および表23に記載される少なくとも1つの遺伝子を発現する、請求項65~69または請求項74のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、35 U.S.C. §119(e)に基づき、2019年8月28日に出願された米国仮出願第62/892,712号の恩典を主張し、該米国仮出願は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、多能性幹細胞のインビトロ分化によって得られた造血内皮細胞を用いて血管疾患を処置する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
心血管疾患は、心臓または血管が関与する疾患の一種であり、これは世界的に死因の第1位である。米国だけでおよそ8400万人が心血管疾患を患っており、死亡例のうち3例にほとんど1例は心血管疾患に起因する。
【0004】
肺高血圧(PH)は主肺動脈における圧力の増加を特徴とする状態である。PHの致命的な一形態は肺動脈高血圧(PAH)であり、これは典型的には診断から平均2.8年以内の死亡につながる。PAHは血管収縮と肺血管のリモデリングとを特徴とする。利用可能な標準的治療は生活の質および患者の予後を改善しうるが、通例、病的リモデリングプロセスを直接的に防止することはなく、重篤な副作用を生じる場合もある。
【0005】
末梢動脈疾患(PAD)は、脳循環および冠循環の動脈以外の動脈の、異常な狭窄および閉塞である。重症虚血肢(CLI)は、下肢の動脈に重度の遮断をもたらすPADの重篤な一形態である。CLIは大肢喪失、心筋梗塞、卒中および死と関連する。今のところCLIに有効な処置はない。
【0006】
冠動脈疾患は最も一般的な形態の心血管疾患であり、心臓の動脈のアテローム性動脈硬化を原因とする心筋への血流および酸素の低減によって引き起こされる。冠動脈疾患を持つ患者は、閉塞した動脈を開通させるためにバルーン血管形成術またはステントを受ける場合が多い。一部の患者は多額の費用をかけてリスクの高い冠動脈バイパス手術を受ける。
【0007】
したがって、血管疾患を処置し防止するための、より良い方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、多能性幹細胞のインビトロ分化によって得られた造血内皮細胞(HE)を含む組成物を対象に投与する工程を含む、血管疾患の処置方法を提供する。
【0009】
ある態様において、血管疾患は、冠動脈疾患(例えば動脈硬化、アテローム性動脈硬化、ならびに動脈、細動脈および毛細血管の他の疾患もしくは傷害、または関連する病訴)、心筋梗塞(例えば急性心筋梗塞)、器質化心筋梗塞(organizing myocardial infarct)、虚血性心疾患、不整脈、左室拡張、塞栓、心不全、うっ血性心不全、心内膜下線維症、左室または右室肥大、心筋炎、慢性冠虚血、拡張型心筋症、再狭窄、不整脈、アンギナ、高血圧(例えば肺高血圧、糸球体高血圧、門脈圧亢進症)、心筋肥大、重症虚血肢を含む末梢動脈疾患、脳血管疾患、腎動脈狭窄、大動脈瘤、肺性心、心律動異常、炎症性心疾患、先天性心疾患、リウマチ性心疾患、糖尿病性血管疾患、および肺内皮傷害疾患(endothelial lung injury disease)(例えば急性肺傷害(ALI)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS))からなる群より選択される。具体的一態様において、血管疾患は肺高血圧である。別の一態様において、血管疾患は肺動脈高血圧である。
【0010】
本明細書に開示される方法のいずれかの一態様では、対象において平均肺(動脈)血圧が低減される。
【0011】
本発明は、多能性幹細胞のインビトロ分化によって得られたHEを含む組成物を対象に投与する工程を含む、肺動脈における血流を増加させる方法も提供する。ある態様において、対象は肺高血圧を有する。具体的一態様において、対象は肺動脈高血圧を有する。
【0012】
本発明は、多能性幹細胞のインビトロ分化によって得られたHEを含む組成物を対象に投与する工程を含む、対象における血圧を低減する方法を、さらに提供する。ある態様において、対象は肺高血圧を有する。具体的一態様において、対象は肺動脈高血圧を有する。別の一態様において、血圧は拡張期圧である。さらに別の態様において、血圧は収縮期圧である。さらなる一態様において、血圧は平均肺(動脈)血圧である。さらにまた、本発明の方法のいずれかにより、血圧は、対象において、少なくとも20%低減されうる。
【0013】
ある態様において、本明細書に開示される多能性幹細胞は胚性幹細胞である。別の一態様において、本明細書に開示される多能性幹細胞は人工多能性幹細胞である。
【0014】
さらに別の態様において、本明細書に開示されるHEは、接着条件下、分化培地中、メチルセルロースの非存在下で、多能性幹細胞を培養することによって得られたものである。別の一態様において、本明細書に開示されるHEは、胚様体形成を伴わない多能性幹細胞のインビトロ分化によって得られたものである。
【0015】
ここに提供される方法のいずれかにおいて、対象はヒトでありうる。加えて、本明細書に開示される多能性幹細胞はヒト多能性幹細胞でありうる。さらにまた、本明細書に開示されるHEはヒトHEでありうる。
【0016】
本明細書に開示されるHEは、miRNA-126、mi-RNA-24、miRNA-196-b、miRNA-214、miRNA-199a-3p、miRNA-335、hsa-miR-11399、hsa-miR-196b-3p、hsa-miR-5690およびhsa-miR-7151-3pからなる群より選択される少なくとも1つのマイクロRNA(miRNA)について陽性でありうる。ある態様において、HEは、(i)miRNA-214、miRNA-199a-3pおよびmiRNA-335、ならびに/または(ii)hsa-miR-11399、hsa-miR-196b-3p、hsa-miR-5690およびhsa-miR-7151-3pについて陽性である。別の一態様において、HEは、(i)miRNA-126、miRNA-24、miRNA-196-b、miRNA-214、miRNA-199a-3pおよびmiRNA-335、ならびに/または(ii)hsa-miR-11399、hsa-miR-196b-3p、hsa-miR-5690およびhsa-miR-7151-3pについて陽性である。ある態様において、HEはmiRNA-214について陽性である。
【0017】
これらの態様のいずれかにおいて、本明細書に開示されるHEは、miRNA-367、miRNA-302a、miRNA-302b、miRNA-302c、miRNA-223およびmiRNA-142-3pからなる群より選択される少なくとも1つのmiRNAについて陰性でありうる。ある態様において、HEは、miRNA-223およびmiRNA-142-3pについて陰性である。別の一態様において、HEは、miRNA-367、miRNA-302a、miRNA-302b、miRNA-302c、miRNA-223およびmiRNA-142-3pについて陰性である。
【0018】
ある態様において、HEは、miRNA-214、miRNA-199a-3pおよびmiRNA-335について陽性であり、miRNA-223およびmiRNA-142-3pについて陰性である。
【0019】
ある態様において、本明細書に開示されるHEはいずれも、CD31/PECAM1、CD309/KDR、CD144、CD34、CXCR4、CD146、Tie2、CD140b、CD90、CD271およびCD105からなる群より選択される少なくとも1つの細胞表面マーカーを発現する。ある態様において、本発明のHEはCD146、CXCR4、CD309/KDR、CD90およびCD271を発現する。別の一態様において、本発明のHEはCD146を発現する。ある態様において、本発明のHEはCD31/PECAM1、CD309/KDR、CD144、CD34およびCD105を発現する。
【0020】
ある態様において、HEは、CD34、CXCR7、CD43およびCD45からなる群より選択される少なくとも1つの細胞表面マーカーの限定的な検出を示すか、または検出を示さない。別の一態様において、HEは、CXCR7、CD43およびCD45の限定的な検出を示すか、または検出を示さない。別の一態様において、HEは、CD43およびCD45の限定的な検出を示すか、または検出を示さない。
【0021】
ある態様において、本発明のHEは、CD43(-)、CD45(-)および/またはCD146(+)である。別の一態様において、HEはCD31、カルポニン(CNN1)およびNG2を発現し、それゆえに、内皮細胞(CD31+)、平滑筋(カルポニン+)および/または周皮細胞(NG2+)に分化する潜在能力を有する。
【0022】
ある態様では、本発明のHEからCD144(VECAD)発現HEが単離される。ある態様において、単離されたCD144(VECAD)発現HE細胞は、CD31および/またはCD309/KDR(FLK-1)をさらに発現する。別の一態様において、単離されたCD144(VECAD)発現HE細胞は、表22および表23に記載される少なくとも1つの遺伝子をさらに発現する。別の一態様において、単離されたCD144(VECAD)発現HE細胞は、PLVAP、GJA4、ESAM、EGFL7、KDR/VEGFR2およびESAMからなる群より選択される少なくとも1つの細胞マーカーをさらに発現する。ある態様において、単離されたCD144(VECAD)発現HE細胞は、SOX9、PDGFRAおよびEGFRAからなる群より選択される少なくとも1つの細胞マーカーをさらに発現する。別の一態様において、単離されたCD144(VECAD)発現HE細胞は、KDR/VEGFR2、NOTCH4、コラーゲンIおよびコラーゲンIVからなる群より選択される少なくとも1つの細胞マーカーをさらに発現する。ある態様において、本発明のHEから単離されたCD144(VECAD)発現HEを含む組成物は、実質的にCD144(VECAD)陰性HEを欠く。
【0023】
したがって本発明は、本明細書に開示される多能性幹細胞のインビトロ分化によって得られたHEを含む組成物も提供する。本発明は、本明細書に開示される多能性幹細胞のインビトロ分化によって得られたHEと薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物を、さらに提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】HEを生産するための例示的方法の全体像である。
図2】血管芽細胞(HB)を生産するための例示的方法の全体像である。
図3】ES細胞(-1日目)からの分化プロセスの過程における細胞内でのPDGFRa、HAND1、FOXF1、APLNR、PECAM/CD31発現の棒グラフである。試験時点は、-1日目(ES細胞)、2日目(D2)、4日目(D4)および6日目(D6)であった。
図4A】分化プロセスの6日目に得られたJ1-HE細胞(赤色、左側のバー)およびGMP1-HE細胞(青色、右側のバー)におけるCD31、CD43、CD34、KDR、CXCR4、CD144、CD146およびCD105発現のグラフを表す。
図4B-1】分化プロセスの6日目に得られたJ1-HE細胞およびGMP1-HE細胞におけるCD31、VECAD、CD34、FLK1(KDR)、CD105、CD146、CD43、CXCR4、CD140b(PDGFRb)およびNG2のグラフを表す。赤色は染色、灰色は無染色対照である。
図4B-2】図4B-1の続きの図である。
図5-1】CD31陽性細胞(赤色)およびCD31陰性細胞(青色)をゲートしたJ1-HE集団およびGMP1-HE集団ならびにそれぞれのFLK1/CD309、CD144/VECAD、CD34、CD105およびCD43発現のグラフを表す。
図5-2】図5-1の続きの図である。
図6】CD31、NG2またはCNN1抗体で染色されたGMP-1由来HEの代表的画像を表す(下段)。比較にはHUVEC細胞を使用した(上段)。
図7】HUVEC細胞、J1 hESC、J1-HEまたはJ1-HBからのmiRNAのTSNEプロットである。
図8】sugen-低酸素誘導PAHラットの生存率に対するHB(VPC1)およびHE(VPC2)の効果を表す。
図9A】HUVEC、iPSC(GMP1)およびGMP1-HEの教師なしクラスタリングによる9つのクラスターを表す。
図9B】前記9つのクラスターのそれぞれにおけるHUVEC、iPSC(GMP1)およびGMP1-HE(「VPCフィーダー活性」(VPC-feeder Active))のパーセンテージを表す。
図9C】HUVEC、iPSC(GMP1)およびGMP1-HE(「VPCフィーダー活性」)の明瞭なクラスタリングを表す。
図10】VECAD/CDH5の発現によって同定された3つのクラスターを表す。
図11図11Aは、ビヒクル(対照培地)、シルデナフィル(陽性対照)、J1-HE(2.5×106細胞)およびGMP1-HE(2.5×106細胞)で処置されたMCTラットにおける、ならびに非MCT処置対照(Cont(Nx))における、右室収縮期圧(RVSP)を表す。図11Bは、ビヒクル(対照培地)、シルデナフィル(陽性対照)、J1-HE(2.5×106細胞)およびGMP1-HE(2.5×106細胞)で処置されたMCTラットにおける、ならびに非MCT処置対照(Cont(Nx))における、フルトン(Fulton)指数(RV/LV+S)を表す。図11Cは、ビヒクル(対照培地)、シルデナフィル(陽性対照)、J1-HE(2.5×106細胞)およびGMP1-HE(2.5×106細胞)で処置されたMCTラットにおける、ならびに非MCT処置対照(Cont(Nx))における、肺血管抵抗指数(PVR指数)を表す。図11Dは、ビヒクル(対照培地)、シルデナフィル(陽性対照)、J1-HE(2.5×106細胞)およびGMP1-HE(2.5×106細胞)で処置されたMCTラットにおける、ならびに非MCT処置対照(Cont(Nx))における、肥厚小血管の数を表す。
図12図12Aは、ビヒクル(陰性対照)、J1-HE(250万個の細胞)およびGMP1-HE(250万個の細胞)で処置されたSugen処置ラットにおける、ならびに非Sugen処置対照(Nx)における、平均肺動脈圧(mPAP)を表す。図12Bは、ビヒクル(陰性対照)、J1-HE(250万個の細胞)およびGMP1-HE(250万個の細胞)で処置されたSugen処置ラットにおける、ならびに非Sugen処置対照(Nx)における、右室収縮期圧(RVSP)を表す。図12Cは、ビヒクル(陰性対照)、J1-HE(250万個の細胞)およびGMP1-HE(250万個の細胞)で処置されたSugen処置ラットにおける、ならびに非Sugen処置対照(Nx)における、フルトン指数(RV/LV+S)を表す。図12Dは、ビヒクル(陰性対照)、J1-HE(250万個の細胞)およびGMP1-HE(250万個の細胞)で処置されたSugen処置ラットにおける、ならびに非Sugen処置対照(Nx)における、心拍出量を表す。
図13図13Aは、ビヒクル(陰性対照)、GMP1-HE(100万個の細胞)、GMP1-HE(250万個の細胞)、GMP1-HE(500万個の細胞)およびシルデナフィル(陽性対照)で処置されたSugen処置ラットにおける、ならびに非Sugen処置対照(Nx)における、平均肺動脈圧(mPAP)を表す。図13Bは、ビヒクル(陰性対照)、GMP1-HE(100万個の細胞)、GMP1-HE(250万個の細胞)、GMP1-HE(500万個の細胞)およびシルデナフィル(陽性対照)で処置されたSugen処置ラットにおける、ならびに非Sugen処置対照(Nx)における、右室収縮期圧(RVSP)を表す。図13Cは、ビヒクル(陰性対照)、GMP1-HE(100万個の細胞)、GMP1-HE(250万個の細胞)、GMP1-HE(500万個の細胞)およびシルデナフィル(陽性対照)で処置されたSugen処置ラットにおける、ならびに非Sugen処置対照(Nx)における、フルトン指数(RV/LV+S)を表す。図13Dは、ビヒクル(陰性対照)、GMP1-HE(100万個の細胞)、GMP1-HE(250万個の細胞)、GMP1-HE(500万個の細胞)およびシルデナフィル(陽性対照)で処置されたSugen処置ラットにおける、ならびに非Sugen処置対照(Nx)における、心拍出量を表す。
図14図14Aは、ビヒクル(陰性対照)、GMP1-HE(100万個の細胞)、GMP1-HE(250万個の細胞)およびGMP1-HE(500万個の細胞)で処置されたSugen処置ラットにおける、ならびに非Sugen処置対照(Nx)における、肺組織の組織像を表す。図14Bは、ビヒクル(陰性対照)、GMP1-HE(100万個の細胞)、GMP1-HE(250万個の細胞)、GMP1-HE(500万個の細胞)およびシルデナフィル(陽性対照)で処置されたSugen処置ラットにおける、ならびに非Sugen処置対照(Nx)における、肺血管壁厚を表す。図14Cは、ビヒクル(陰性対照)、GMP1-HE(100万個の細胞)、GMP1-HE(250万個の細胞)、GMP1-HE(500万個の細胞)およびシルデナフィル(陽性対照)で処置されたSugen処置ラットにおける、ならびに非Sugen処置対照(Nx)における、筋性、半筋性および非筋性肺血管のパーセンテージを表す。
図15図15Aは、ビヒクル(陰性対照)、J1-HE(250万個の細胞)およびGMP1-HE(250万個の細胞)で処置されたSugen処置ラットにおける、ならびに非Sugen処置対照(Nx)における、組織像を表す。図15Bは、ビヒクル(陰性対照)、J1-HE(250万個の細胞)およびGMP1-HE(250万個の細胞)で処置されたSugen処置ラットにおける、ならびに非Sugen処置対照(Nx)における、肺血管壁厚を表す。図15Cは、ビヒクル(陰性対照)、J1-HE(250万個の細胞)およびGMP1-HE(250万個の細胞)で処置されたSugen処置ラットにおける、ならびに非Sugen処置対照(Nx)における、筋性、半筋性および非筋性肺血管のパーセンテージを表す。
図16図16Aは、非Sugen処置ラット(Nx対照)における正常肺のマイクロCTスキャン像を表す。図16Bは、ビヒクル(陰性対照)で処置されたSuHxラットにおける肺のマイクロCTスキャン像を表す。図16Cは、100万個のGMP-1 HE細胞で処置されたSuHxラットにおける肺のマイクロCTスキャン像を表す。図16Dは、500万個のGMP-1 HE細胞で処置されたSuHxラットにおける肺のマイクロCTスキャン像を表す。図16Eは、シルデナフィルで処置されたSuHxラットにおける肺のマイクロCTスキャン像を表す。
図17】無選別HE細胞(「無選別])ならびにVECAD発現について選別した後のVECAD陰性細胞(-フラクション)およびVECAD陽性細胞(+フラクション)における、CD31およびVECADの発現を表す。
図18-1】図18Aは、ビヒクル(陰性対照)、無選別GMP1-HEおよび選別されたVECAD+GMP1-HEで処置されたSugen処置ラットにおける、ならびに非Sugen処置対照(Nx)における、平均肺動脈圧(mPAP)を表す。図18Bは、ビヒクル(陰性対照)、無選別GMP1-HEおよび選別されたVECAD+GMP1-HEで処置されたSugen処置ラットにおける、ならびに非Sugen処置対照(Nx)における、右室収縮期圧(RVSP)を表す。図18Cは、ビヒクル(陰性対照)、無選別GMP1-HEおよび選別されたVECAD+GMP1-HEで処置されたSugen処置ラットにおける、ならびに非Sugen処置対照(Nx)における、フルトン指数(RV/LV+S)を表す。図18Dは、ビヒクル(陰性対照)、無選別GMP1-HEおよび選別されたVECAD+GMP1-HEで処置されたSugen処置ラットにおける、ならびに非Sugen処置対照(Nx)における、心拍出量を表す。
図18-2】図18Eは、ビヒクル(陰性対照)、無選別GMP1-HEおよび選別されたVECAD+GMP1-HEで処置されたSugen処置ラットにおける、ならびに非Sugen処置対照(Nx)における、肺組織の組織像を表す。図18Fは、ビヒクル(陰性対照)、無選別GMP1-HEおよび選別されたVECAD+GMP1-HEで処置されたSugen処置ラットにおける、ならびに非Sugen処置対照(Nx)における、肺血管壁厚を表す。図18Gは、ビヒクル(陰性対照)、無選別GMP1-HEおよび選別されたVECAD+GMP1-HEで処置されたSugen処置ラットにおける、ならびに非Sugen処置対照(Nx)における、筋性、半筋性および非筋性肺血管のパーセンテージを表す。
図19】J1-HE、GMP1-HEおよびHUVEC細胞中のCD31+/VECAD+集団のFLK1/KDR発現を表す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
本発明がより容易に理解されうるように、一定の用語をまず定義する。パラメータの値または値域が具陳された場合は常に、具陳された値の間にある値および範囲が同様に本発明の一部であることにも留意すべきである。
【0026】
以下の記述では、本発明の完全な理解が得られるように、説明のために具体的な数字、材料および構成を示す。しかし、これらの具体的詳細がなくても本発明を実施しうることは、当業者にとって明白であるだろう。場合により、周知の特色は、本発明が不明瞭にならないように、省略または簡略化されうる。さらにまた、明細書において「一態様」または「ある態様」などの語句に言及する場合、それは、その態様に関して記載された特定の特色、構造または特徴が、本発明の少なくとも1つの態様に含まれることを意味する。「一態様において」などの語句が本明細書中のさまざまな場所に使われていても、それは、必ずしもすべてが同じ態様を指しているわけではない。
【0027】
冠詞「1つの(a)」および「1つの(an)」は、本明細書では、1つのまたは1つより多い(すなわち少なくとも1つの)その冠詞の文法上の対象を指すために使用される。一例として「1つの要素(an element)」とは、1つの要素または1つより多い要素を指す。
【0028】
「含むこと」または「含む」という用語は、本明細書では、本開示にとって本質的な組成物、方法およびそれらの各構成要素に関連して使用されるが、本質的であるか否かを問わず、指定されていない要素の包含も許容される。
【0029】
本明細書にいう「多能性幹細胞」は、適当な条件下で未分化状態を保ち、正常な核型(例えば染色体)を呈し、かつ3つの胚葉(すなわち外胚葉、中胚葉および内胚葉)のすべてに分化する能力を有しつつ、長期間にわたってまたは事実上無限にインビトロで増殖する能力を有する細胞を、広く指す。多能性幹細胞は、典型的には、(a)免疫不全(SCID)マウスに移植した場合に奇形腫を誘導する能力を有し、(b)3つの胚葉すべての細胞タイプに分化する能力を有し(例えば外胚葉細胞タイプ、中胚葉細胞タイプおよび内胚葉細胞タイプに分化することができ)、(c)胚性幹細胞の1つまたは複数マーカー(例えばOct4、アルカリホスファターゼ、SSEA-3表面抗原、SSEA-4表面抗原、nanog、TRA-1-60、TRA-1-81、SOX2、REX1など)を発現する、幹細胞であると機能的に定義される。一定の態様において、多能性幹細胞は、OCT-4、アルカリホスファターゼ、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60およびTRA-1-81からなる群より選択される1つまたは複数のマーカーを発現する。例示的な多能性幹細胞は、例えば当技術分野において公知の方法を使って、生成させることができる。
【0030】
多能性幹細胞として、胚性幹細胞、人工多能性幹(iPS)細胞、胚由来細胞(EDC)、成体幹細胞、造血細胞、胎児幹細胞、間葉系幹細胞、産後幹細胞(postpartum stem cell)、または胚性生殖細胞が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。ある態様において、多能性幹細胞は哺乳動物の多能性幹細胞である。別の一態様において、多能性幹細胞は、ヒト多能性幹細胞、例えば限定するわけではないが、ヒト胚性幹(hES)細胞、ヒト人工多能性幹(iPS)細胞、ヒト成体幹細胞、ヒト造血幹細胞、ヒト胎児幹細胞、ヒト産後幹細胞、ヒト複能性幹細胞またはヒト胚性生殖細胞である。一態様において、多能性幹細胞はヒト胚性幹細胞である。別の一態様において、多能性幹細胞はヒト人工多能性幹細胞である。別の一態様において、多能性幹細胞は、ヒト多能性幹細胞レジストリ(Human Pluripotent Stem Cell Registry)hPSCregに列挙されている多能性幹細胞でありうる。多能性幹細胞には、寿命、潜在能力(potency)、ホーミングを増加させ、同種異系免疫応答を防止または低減し、またはそのような多能性細胞から分化する細胞に所望の因子を送達するために、遺伝子改変または他の改変を加えうる。
【0031】
多能性幹細胞は任意の種に由来しうる。例えばマウス、非ヒト霊長類の複数の種およびヒトから胚性幹細胞を得ることは成功しており、他にも数多くの種から胚性幹様細胞の生成がなされている。したがって当業者は、例えば限定するわけではないが、ヒト、非ヒト霊長類、齧歯類動物(マウス、ラット)、有蹄類動物(ウシ、ヒツジなど)、イヌ類(イエイヌおよび野生のイヌ)、ネコ類(イエネコおよび野生のネコ科動物、例えばライオン、トラ、チータ)、ウサギ、ハムスター、アレチネズミ、リス、モルモット、ヤギ、ゾウ、パンダ(ジャイアントパンダを含む)、ブタ、アライグマ、ウマ、シマウマ、海生哺乳動物(イルカ、クジラなど)などといった任意の種から、胚性幹細胞および胚由来幹細胞を生成させることができる。
【0032】
本明細書にいう「胚」または「胚性」は、母性宿主(maternal host)の子宮膜に着床していない発生中の細胞塊を、広く指す。「胚細胞」とは、胚から単離された細胞または胚に含有される細胞である。これには早ければ二細胞期に得られる割球および凝集した割球も含まれる。
【0033】
本明細書にいう「胚性幹細胞」(ES細胞)は、胚盤胞の内部細胞塊または桑実胚に由来し、細胞株として連続継代された細胞を、広く指す。ES細胞は、精子またはDNAによる卵細胞の受精、核移植、単為生殖から、またはHLA領域にホモ接合性を持つES細胞を生成させるための手段によって誘導されうる。ES細胞は、細胞を生産するための精子と卵細胞の融合、核移植、単為生殖、またはクロマチンのリプログラミングとそれに続くリプログラミングされたクロマチンの形質膜への組入れによって生産される、接合体、割球または胚盤胞段階の哺乳動物胚に、任意で胚の残りの部分を破壊することなく、由来する細胞も指しうる。胚性幹細胞は、それらの供給源ともそれらを生産するために使用される特定の方法とも無関係に、以下の特徴のうちの1つまたは複数に基づいて同定されうる:(i)3つの胚葉すべての細胞に分化できること、(ii)少なくともOct-4およびアルカリホスファターゼの発現、ならびに(iii)免疫無防備状態の動物に移植された場合に奇形腫を生産できること。
【0034】
本明細書にいう「胚由来細胞」(EDC)は、桑実胚由来細胞、内部細胞塊、胚盾もしくは胚盤葉上層のものを含む胚盤胞由来細胞、または原始内胚葉、外胚葉および中胚葉を含む初期胚の他の多能性幹細胞、ならびにそれらの派生物を広く指す。「EDC」には、割球や、凝集した単一割球またはさまざまな発生段階の胚からの細胞塊も含まれるが、細胞株として継代されたヒト胚性幹細胞は、これには含まれない。
【0035】
本明細書にいう「人工多能性幹細胞」または「iPS細胞」は、体細胞をリプログラミングすることによって得られた多能性幹細胞を、広く指す。iPS細胞は、体細胞において因子(「リプログラミング因子」)の組合せ、例えばOct4(Oct3/4と呼ばれる場合もある)、Sox2、Myc(例えばc-Mycまたは任意のMyc変異体)、Nanog、Lin28およびKlf4を発現させるか、その発現を誘導することによって生成させうる。ある態様において、リプログラミング因子はOct4、Sox2、c-MycおよびKlf4を含む。別の一態様において、リプログラミング因子はOct4、Sox2、NanogおよびLin28を含む。一定の態様では、体細胞がうまくリプログラミングされるように、少なくとも2つのリプログラミング因子を、体細胞中で発現させる。別の態様では、体細胞がうまくリプログラミングされるように、少なくとも3つのリプログラミング因子を体細胞中で発現させる。別の態様では、体細胞がうまくリプログラミングされるように、少なくとも4つのリプログラミング因子を体細胞中で発現させる。別の一態様では、体細胞がうまくリプログラミングされるように、少なくとも5つのリプログラミング因子を体細胞中で発現させる。さらに別の態様では、例えばOct4、Sox2、c-Myc、Nanog、Lin28およびKlf4など、少なくとも6つのリプログラミング因子を体細胞中で発現させる。別の態様では、さらなるリプログラミング因子が同定され、それを単独で使用するか、1種もしくは複数種の公知リプログラミング因子と併用することで、体細胞を多能性幹細胞へとリプログラミングする。
【0036】
iPS細胞は、胎児の、出生後の、新生児の、若年のまたは成人の体細胞を使って生成させうる。体細胞としては、線維芽細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、筋細胞、器官および組織の細胞、ならびにさまざまな血液細胞、例えば限定するわけではないが造血細胞(例えば造血幹細胞)を挙げることができるが、それらに限定されるわけではない。ある態様において、体細胞は線維芽細胞、例えば真皮線維芽細胞、滑膜線維芽細胞もしくは肺線維芽細胞、または非線維芽細胞性体細胞である。
【0037】
iPS細胞は細胞バンクから入手しうる。あるいは、IPS細胞は、当技術分野において公知の方法によって、新たに生成させうる。iPS細胞は、組織適合細胞を生成させる目的で、特定の患者または適合ドナーからの材料を使って、特別に生成させうる。ある態様において、iPS細胞は、実質的に免疫原性でない汎用ドナー細胞であってもよい。
【0038】
人工多能性幹細胞は、体細胞において1種または複数種のリプログラミング因子を発現させるか、その発現を誘導することによって生産されうる。リプログラミング因子は、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターなどのウイルスベクターを使った感染によって、体細胞中で発現されうる。CRISPR/Talen/ジンクフィンガーヌクレアーゼ(neuclease)(XFN)も使用しうる。また、リプログラミング因子は、エピソームプラスミドまたはRNAなどの非組込みベクターを使って、体細胞中で発現されうる。非組込みベクターを使ってリプログラミング因子を発現させる場合、因子は、そのベクターによる体細胞のエレクトロポレーション、トランスフェクションまたは形質転換を使って、細胞中で発現させうる。例えばマウス細胞の場合、体細胞をリプログラミングするには、組込み型ウイルスベクターを使って4つの因子(Oct3/4、Sox2、c-mycおよびKlf4)を発現させれば足りる。ヒト細胞の場合、体細胞をリプログラミングするには、組込み型ウイルスベクターを使って4つの因子(Oct3/4、Sox2、NANOGおよびLin28)を発現させれば足りる。
【0039】
リプログラミング因子の発現は、体細胞を、リプログラミング因子の発現を誘導する少なくとも1つの作用物質、例えば有機低分子作用物質と接触させることによって、誘導されうる。
【0040】
また体細胞は、リプログラミング因子を(例えばウイルスベクター、プラスミドなどを使って)発現させ、そのリプログラミング因子の発現を(例えば有機低分子を使って)誘導する、コンビナトリアルアプローチを使ってリプログラミングされうる。
【0041】
リプログラミング因子が細胞中で発現するか誘導されたら、それらの細胞を培養しうる。時間が経つにつれて、ESの特徴を持つ細胞が培養ディッシュ中に現われる。細胞は、例えばES細胞の形態に基づいて、または選択可能マーカーもしくは検出可能マーカーの発現に基づいて選ばれ、継代培養されうる。細胞は、ES細胞に似た細胞の培養物が生じるように培養されうる。
【0042】
iPS細胞の多能性を確認するために、細胞を1つまたは複数の多能性アッセイで検査しうる。例えば、細胞をES細胞マーカーの発現について検査し、細胞をSCIDマウスに移植された場合に奇形腫を生産する能力について評価し、細胞を3つの胚葉すべての細胞タイプに分化する能力について評価しうる。
【0043】
iPS細胞は任意の種に由来しうる。マウス細胞およびヒト細胞を使ってこれらのiPS細胞を生成させることは成功している。さらにまた、胚の組織、胎児の組織、新生児の組織および成体の組織を使ってiPS細胞を生成させることも、成功している。したがって、任意の種からのドナー細胞を使ってiPS細胞を容易に生成させうる。したがって、例えば限定するわけではないが、ヒト、非ヒト霊長類、齧歯類動物(マウス、ラット)、有蹄類動物(ウシ、ヒツジなど)、イヌ類(イエイヌおよび野生のイヌ)、ネコ類(イエネコおよび野生のネコ科動物、例えばライオン、トラ、チータ)、ウサギ、ハムスター、ヤギ、ゾウ、パンダ(ジャイアントパンダを含む)、ブタ、アライグマ、ウマ、シマウマ、海生哺乳動物(イルカ、クジラなど)などといった任意の種から、iPS細胞を生成させうる。
【0044】
ある細胞が所与のマーカーについて「陽性」または「+」と特徴づけられる場合、それは、そのマーカーが細胞の細胞表面上または細胞の集団内に存在する程度に応じて、当該マーカーの低(lo)、中(int)および/または高(hi)発現細胞であってよく、この場合、これらの用語はその細胞の色選別プロセスで使用される蛍光または他の色の強度に関係する。lo、intおよびhiの違いは、選別される特定細胞集団上の、使用されるマーカーとの関連で理解されることになる。ある細胞が所与のマーカーについて「陰性」または「-」と特徴づけられる場合、それは、ある細胞または細胞の集団が当該マーカーを発現しないかもしれないこと、またはそのマーカーがその細胞または細胞の集団によって相対的に極めて低レベルにしか発現されないかもしれないこと、そしてそれが検出可能に標識された場合に極めて低いシグナルを生成することを意味する。
【0045】
本発明のある態様において、あるマーカーの発現レベルが対照との比較で60%、70%、80%または90%を上回る場合、その細胞または細胞の集団は高(hi)レベルのマーカーを発現すると特徴づけられる。別の一態様において、あるマーカーの発現レベルが対照との比較で約20%、30%、40%、50%~約60%である場合、その細胞または細胞の集団は中(int)レベルのマーカーを発現すると特徴づけられる。さらに別の態様において、あるマーカーの発現レベルが対照との比較で約2%、5%、10%または15%~約20%である場合、その細胞または細胞の集団は低(lo)レベルのマーカーを発現すると特徴づけられる。さらなる一態様において、あるマーカーの発現レベルが対照との比較で約2%、1.5%、1%または0.5%未満である場合、その細胞または細胞の集団はそのマーカーについて陰性であると特徴づけられる。別の一態様において、あるマーカーの発現レベルが対照との比較でloであるか、約2%、1.5%、1%または0.5%未満である場合、その細胞または細胞の集団はそのマーカーについて陰性であると特徴づけられる。「対照」は、比較目的に有用な、当業者によく知られている任意の対照または標準であってよく、これには陰性対照または陽性対照が含まれうる。
【0046】
本明細書にいう「処置」または「処置する」は、疾患もしくは障害の発症または疾患もしくは障害の症状を、治療し、治癒させ、軽減し、緩和し、変化させ、矯正し、寛解させ、改善し、それらに影響を及ぼし、防止し、または遅延させることを指す。血管修復との関連では、「処置」または「処置する」という用語には、欠陥組織を修復し、置き換え、増強し、改善し、救出し、再配置させまたは再生させることが包含される。
【0047】
本明細書にいう「血管芽細胞」または「HB」は、多能性幹細胞のインビトロ分化によって得られた細胞であって、少なくとも造血細胞および内皮細胞に分化する能力を有する細胞を指す。ある態様において、血管芽細胞は、例えば米国特許第9,938,500号、米国特許第9,410,123号およびWO 2013/082543(これらの文献はすべて参照により、それらの全体が本明細書に組み入れられる)に記載の方法に従って、多能性幹細胞からインビトロで生成させうる。さらに、血管芽細胞は、下記実施例2に記載の方法に従って、多能性幹細胞からインビトロで生成させうる。具体的一態様では、まず、低接着条件下または非接着条件下で多能性幹細胞から胚様体を得てから、芽細胞を形成させるための三次元環境を作り出すためにメチルセルロースを含む培養系で、その胚様体を培養することによって、多能性幹細胞から血管芽細胞をインビトロで生成させる。ある態様では、血管芽細胞を正常酸素濃度条件下(例えば5%CO2および20%O2)で多能性幹細胞から生成させうる。血管芽細胞は、他の構造的および機能的性質、例えば限定するわけではないが、一定のDNA、RNA、マイクロRNAまたはタンパク質の発現または発現の欠如などに基づいて特徴づけることもできる。
【0048】
ある態様において、血管芽細胞は、CD31/PECAM1、CD144/VE-cadh、CD34、CD43およびCD45からなる群より選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つまたは少なくとも5つの細胞表面マーカーについて陽性である。ある態様において、HBはCD31、CD43およびCD45について陽性である。別の一態様において、HBはCD43およびCD45について陽性である。さらなる一態様において、HBは、CD309/KDR、CXCR4、CXCR7、CD146、Tie2、CD140b、CD90およびCD271からなる群より選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つまたは少なくとも8つの細胞表面マーカーを低レベルに発現するか、それらについて陰性である。別の一態様において、HBは、CD146を低レベルに発現するか、CD146について陰性である。別の一態様において、HBは、Tie2、CD140b、CD90およびCD271を低レベルに発現するか、それらについて陰性である。さらに別の態様において、HBは、CD146、Tie2、CD140b、CD90およびCD271を低レベルに発現するか、それらについて陰性である。ある態様において、HBはCD43およびCD45について陽性であり、CD146、Tie2、CD140b、CD90およびCD271を低レベルに発現するか、それらについて陰性である。
【0049】
別の一態様において、血管芽細胞は、miRNA-126、miRNA-24、miRNA-223およびmiRNA-142-3pからなる群より選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つまたは少なくとも4つのmiRNAについて陽性である。ある態様において、血管芽細胞は、miRNA-126、miRNA-24、miRNA-223およびmiRNA-142-3pについて陽性である。さらなる一態様において、血管芽細胞は、miRNA-367、miRNA-302a、miRNA-302b、miRNA-302c、miRNA-196-b、miRNA-214、miRNA-199a-3pおよびmi-RNA-335からなる群より選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つまたは少なくとも8つのmiRNAについて陰性である。ある態様において、血管芽細胞は、miRNA-367、miRNA-302a、miRNA-302b、miRNA-302c、miRNA-196-b、miRNA-214、miRNA-199a-3pおよびmi-RNA-335について陰性である。さらなる一態様において、血管芽細胞は、miRNA-126、miRNA-24、miRNA-223およびmiRNA-142-3pについて陽性であり、miRNA-367、miRNA-302a、miRNA-302b、miRNA-302c、miRNA-196-b、miRNA-214、miRNA-199a-3pおよびmi-RNA-335について陰性である。
【0050】
本明細書にいう「造血内皮細胞」または「HE」は、多能性幹細胞のインビトロ分化によって得られた細胞であって、内皮細胞、平滑筋細胞、周皮細胞、造血細胞および間葉細胞系譜に分化する能力を有する細胞を指す。HEは本明細書に規定する血管疾患の処置に役立ちうる。ある態様において、HEは、WO 2014/100779および米国特許第9,993,503号(これらはどちらも参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)に記載の方法に従って、多能性幹細胞からインビトロで生成させうる。別の一態様において、HEは、下記実施例1に記載し図1に示す方法に従って、多能性幹細胞からインビトロで生成させうる。
【0051】
具体的一態様において、HEは、胚様体形成を伴うことなく、またはメチルセルロースを含む培養系を使用することなく、多能性幹細胞からインビトロで生成させうる。ある態様において、多能性幹細胞はiPS細胞またはES細胞である。多能性幹細胞は、フィーダー細胞層上、好ましくはヒトフィーダー細胞層上で培養するか、フィーダーフリーで、例えばMatrigel(登録商標)などの細胞外マトリックス上で、培養することができる。多能性幹細胞は正常酸素濃度条件(例えば5%CO2および20%O2)下で培養されうる。HEへの分化のために、多能性幹細胞は、分化培地中、低酸素濃度条件下(例えば5%CO2および5%O2)および接着条件下で培養されうる。接着条件には、細胞を、Matrigel(登録商標)、フィブロネクチン、ゼラチンおよびコラーゲンIVなどの細胞外マトリックス上で培養することが含まれうる。分化培地は、基本培地、例えばStemline(登録商標)II造血幹細胞拡大培地(Hematopoietic Stem Cell Expansion Medium)(Sigma)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)または他の任意の公知基本培地などを含みうる。分化培地は、多能性幹細胞のHEへの分化を誘導するための因子、例えば骨形態形成タンパク質4(BMP4)、血管内皮増殖因子(VEGF)および線維芽細胞増殖因子(FGF)を、さらに含みうる。多能性幹細胞は、分化培地中で、約1~12日間、または約2~10日間、または約3~8日間、または約4、5、6、7もしくは8日間、または多能性幹細胞がHEに分化するまで、培養されうる。具体的一態様において、多能性幹細胞は、分化培地中で約6日以上、培養される。
【0052】
ある態様において、HEは、一定の構造的および機能的性質、例えば限定するわけではないが、一定のDNA、RNA、マイクロRNAまたはタンパク質の発現または発現の欠如などに基づいて特徴づけることもできる。ある態様において、本明細書に開示されるHEはいずれも、CD31/PECAM1、CD309/KDR、CD144、CD34、CXCR4、CD146、Tie2、CD140b、CD90、CD271およびCD105からなる群より選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、少なくとも10個または少なくとも11個の細胞表面マーカーを発現する。ある態様において、本発明のHEはCD146、CXCR4、CD309/KDR、CD90およびCD271を発現する。別の一態様において、本発明のHEはCD146を発現する。別の一態様において、HEは、CD31/PECAM1、CD309/KDR、CD144、CD34およびCD105を発現する。
【0053】
ある態様において、HEは、CD34、CXCR7、CD43およびCD45からなる群より選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つまたは少なくとも4つの細胞表面マーカーの限定的な検出を示すか、または検出を示さない。別の一態様において、HEは、CXCR7、CD43およびCD45の限定的な検出を示すか、または検出を示さない。別の一態様において、HEは、CD43およびCD45の限定的な検出を示すか、または検出を示さない。
【0054】
ある態様において、本発明のHEは、CD43(-)、CD45(-)および/またはCD146(+)である。別の一態様において、HEはCD31、カルポニン(CNN1)およびNG2を発現し、それゆえに、内皮細胞(CD31+)、平滑筋(カルポニン+)および/または周皮細胞(NG2+)に、さらに分化する潜在能力を有する。
【0055】
ある態様では、本発明のHEからCD144(VECAD)発現HEが単離される。ある態様において、単離されたCD144(VECAD)発現HE細胞は、CD31および/またはCD309/KDR(FLK-1)をさらに発現する。別の一態様において、単離されたCD144(VECAD)発現HE細胞は、表22または表23に記載される細胞マーカーから選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、少なくとも10個、少なくとも11個または少なくとも12個の細胞マーカーをさらに発現する。本発明のある態様において、単離されたCD144(VECAD)発現HE細胞は、PLVAP、GJA4、ESAM、EGFL7、KDR/VEGFR2およびESAMからなる群より選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つまたは少なくとも5つの細胞マーカーを発現する。ある態様において、単離されたCD144(VECAD)発現HE細胞は、SOX9、PDGFRAおよびEGFRAからなる群より選択される少なくとも1つ、少なくとも2つまたは少なくとも3つの細胞マーカーをさらに発現する。別の一態様において、単離されたCD144(VECAD)発現HE細胞は、KDR/VEGFR2、NOTCH4、コラーゲンIおよびコラーゲンIVからなる群より選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つまたは少なくとも4つの細胞マーカーをさらに発現する。ある態様において、本発明のHEから単離されたCD144(VECAD)発現HEを含む組成物は、実質的にCD144(VECAD)陰性HEを欠く。ある態様において、CD144(VECAD)発現HEを含む組成物は、少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%または20%のCD144(VECAD)発現HEを含む。ある態様において、CD144(VECAD)発現HEを含む組成物は、1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%または80%未満のCD144(VECAD)陰性HEを含む。
【0056】
別の一態様において、本発明のHEは、miRNA-126、mi-RNA-24、miRNA-196-b、miRNA-214、miRNA-199a-3p、miRNA-335(miRNA-335-5pおよび/またはmiRNA-335-3p)、hsa-miR-11399、hsa-miR-196b-3p、hsa-miR-5690およびhsa-miR-7151-3pからなる群より選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つまたは少なくとも10個のマイクロRNA(miRNA)について陽性である。ある態様において、HEは、miRNA-214、miRNA-199a-3pおよびmiRNA-335(miRNA-335-5pおよび/またはmiRNA-335-3p)について陽性である。別の一態様において、HEは、miRNA-126、mi-RNA-24、miRNA-196-b、miRNA-214、miRNA-199a-3pおよびmiRNA-335(miRNA-335-5pおよび/またはmiRNA-335-3p)について陽性である。ある態様において、HEはmiRNA-214について陽性である。別の一態様において、HEは、hsa-miR-11399、hsa-miR-196b-3p、hsa-miR-5690およびhsa-miR-7151-3pについて陽性である。hsa-miR-11399、hsa-miR-196b-3p、hsa-miR-5690およびhsa-miR-7151-3pは、J1ならびに米国仮出願第62/892,724号およびそのPCT出願(これらはどちらも参照により本明細書に組み入れられる)に記載のmeso 3D VPC2細胞と比較した場合に、HEの集団中でユニークに発現していると同定された。
【0057】
これらの態様のいずれかにおいて、本明細書に開示されるHEは、miRNA-367、miRNA-302a、miRNA-302b、miRNA-302c、miRNA-223およびmiRNA-142-3pからなる群より選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つまたは少なくとも6つのmiRNAについて陰性でありうる。ある態様において、HEは、miRNA-223およびmiRNA-142-3pについて陰性である。別の一態様において、HEは、miRNA-367、miRNA-302a、miRNA-302b、miRNA-302c、miRNA-223およびmiRNA-142-3pについて陰性である。
【0058】
ある態様において、HEは、miRNA-214、miRNA-199a-3pおよびmiRNA-335(miRNA-335-5pおよび/またはmiRNA-335-3p)について陽性であり、miRNA-223およびmiRNA-142-3pについて陰性である。
【0059】
ある態様において、HEは遺伝子改変される。HEは、この細胞がもたらす治療応答を促進すると考えられるまたはそのように意図された遺伝子産物を発現するように、遺伝子改変されうる。例えばHEは、および/または異種タンパク質、例えば血管内皮増殖因子(VEGF)およびそのアイソフォーム、線維芽細胞増殖因子(FGF、酸性および塩基性)、アンジオポエチン-1および他のアンジオポエチン、エリスロポエチン、ヘムオキシゲナーゼ、トランスフォーミング増殖因子α(TGF-α)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)またはTGF-βスーパーファミリーの他のメンバー、例えばBMP1、2、4、7およびそれらの受容体MBPR2またはMBPR1、肝増殖因子(細胞分散因子)、低酸素誘導因子(HIF)、内皮一酸化窒素シンターゼ、プロスタグランジンIシンターゼ、クルップル(Krupple)様因子(KLF-2、4など)、ならびに血管疾患に対する治療応答を促進するのに有用な他の任意の異種タンパク質を、その細胞から発現させるように、遺伝子改変されうる。
【0060】
本明細書にいう「血管疾患」は、心臓、肺および/または血管(動脈、静脈および毛細血管)の任意の異常な状態または傷害を指す。血管疾患には、心膜(すなわち心膜)、心臓弁(例えば不全弁、狭窄弁、リウマチ性心疾患、僧帽弁逸脱、大動脈弁逆流)、心筋(冠動脈疾患、心筋梗塞、心不全、虚血性心疾患、アンギナ)、血管(例えば動脈硬化、動脈瘤)または静脈(例えば静脈瘤、痔)の疾患、障害および/または傷害が含まれるが、それらに限定されるわけではない。本明細書にいう血管疾患には、冠動脈疾患(例えば動脈硬化、アテローム性動脈硬化、ならびに動脈、細動脈および毛細血管の他の疾患もしくは傷害、または関連する病訴)、心筋梗塞(例えば急性心筋梗塞)、器質化心筋梗塞、虚血性心疾患、不整脈、左室拡張、塞栓、心不全、うっ血性心不全、心内膜下線維症、左室または右室肥大、心筋炎、慢性冠虚血、拡張型心筋症、再狭窄、不整脈、アンギナ、高血圧(例えば肺高血圧、糸球体高血圧、門脈圧亢進症)、心筋肥大、重症虚血肢を含む末梢動脈疾患、脳血管疾患、腎動脈狭窄、大動脈瘤、肺性心、心律動異常、炎症性心疾患、先天性心疾患、リウマチ性心疾患、糖尿病性血管疾患、および肺内皮傷害疾患(例えば急性肺傷害(ALI)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS))も含まれるが、それらに限定されるわけではない。血管疾患は、先天性欠陥、遺伝的欠陥、環境の影響(例えば食餌の影響、生活様式、ストレスなど)および他の欠陥または影響に起因しうる。
【0061】
ある態様において、血管疾患は肺高血圧(PH)である。肺高血圧には、肺動脈高血圧(PAH)、左心疾患を伴う肺高血圧、肺疾患および/または慢性低酸素血症を伴う肺高血圧、慢性動脈閉塞、および機序不明なまたは多因子性機序を伴う肺高血圧、例えばサルコイドーシス、組織球増殖症X、リンパ管腫症および肺血管の圧迫が含まれる。Galie et al.European Heart Journal 2016;37(1):67-119を参照されたい。具体的一態様において、血管疾患はPAHである。
【0062】
例示的治療用途
本発明のHEは血管疾患の処置に有用である。したがって本発明は、本発明のHEを含む組成物を対象に投与することによって、対象における血管疾患を処置する方法を提供する。一態様において、血管疾患には、心膜(すなわち心膜)、心臓弁(すなわち不全弁、狭窄弁、リウマチ性心疾患、僧帽弁逸脱、大動脈弁逆流)、心筋(冠動脈疾患、心筋梗塞、心不全、虚血性心疾患、アンギナ)、血管(すなわち動脈硬化、動脈瘤)または静脈(すなわち静脈瘤、痔)の疾患、障害または傷害が含まれるが、それらに限定されるわけではない。別の態様において、血管疾患には、冠動脈疾患(すなわち動脈硬化、アテローム性動脈硬化、ならびに動脈、細動脈および毛細血管の他の疾患、または関連する病訴)、心筋梗塞(例えば急性心筋梗塞)、器質化心筋梗塞、虚血性心疾患、不整脈、左室拡張、塞栓、心不全、うっ血性心不全、心内膜下線維症、左室または右室肥大、心筋炎、慢性冠虚血、拡張型心筋症、再狭窄、不整脈、アンギナ、高血圧、心筋肥大、重症虚血肢を含む末梢動脈疾患、脳血管疾患、腎動脈狭窄、大動脈瘤、肺性心、心律動異常、炎症性心疾患、先天性心疾患、リウマチ性心疾患、糖尿病性血管疾患、および肺内皮傷害疾患(例えば急性肺傷害(ALI)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS))が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0063】
ある態様において、血管疾患は肺高血圧(PH)である。具体的一態様において、血管疾患はPAHである。
【0064】
本発明のHEは、血管疾患の症状を処置するのにも有用でありうる。例えばHEは、心筋梗塞、慢性冠虚血、動脈硬化、うっ血性心不全、拡張型心筋症、再狭窄、冠動脈疾患、心不全、不整脈、アンギナ、アテローム性動脈硬化、高血圧、重症虚血肢、末梢血管疾患、肺高血圧、または心筋肥大の症状を処置するために使用されうる。血管疾患の1つまたは複数の症状の処置は、以下の症状のうちの1つまたは複数の低減などといった臨床的利益を与えうる:息切れ、体液貯留、頭痛、めまい発作、胸痛、左の肩痛または腕痛、および心室機能障害。
【0065】
本発明のHEは、損傷を低減しおよび/または最小限に抑え、損傷後の血管の修復および再生を促進するのに寄与する、一定の性質を呈しうる。これらには、なかんずく、新しい血管の形成を刺激する増殖因子を合成し分泌する能力、細胞の生存および増殖を刺激する増殖因子を合成し分泌する能力、増殖すると共に新しい血管の形成に直接関与する細胞に分化する能力、損傷した心筋を生着させ瘢痕形成(コラーゲンの沈着および架橋)を阻害する能力、および増殖すると共に血管系譜の細胞に分化する能力が含まれる。ある態様において、本発明のHEは血管修復能を有する。一態様において、HEは、正常条件下での傷害後前駆細胞補充に寄与する。別の一態様において、本発明のHEは、血管傷害の部位にホーミングし、再内皮化を容易にし、新生内膜形成を防止する能力を有する。したがって本発明のHEは、傷害または炎症または疾患によって損傷した血管組織を処置するために使用されうる。
【0066】
本発明のHEによる処置の効果は、限定するわけではないが、以下の臨床的尺度の一つによって実証されうる:心駆出率の増加、心不全率の減少、梗塞サイズの減少、関連罹患率(肺浮腫、腎不全、不整脈)の減少、運動耐容能または生活の質の他の尺度の改善、および死亡率の減少。細胞治療の効果は、措置後、数日~数週間にわたって、明白でありうる。しかし、有益な効果は、措置後、わずか数時間で観察される場合もあり、それは数年にわたって持続しうる。
【0067】
本明細書記載の方法に従って本発明のHEで処置される対象は、通常は、血管疾患を有するか、血管疾患を有すると疑われるか、または血管疾患のリスクがあると診断されているだろう。血管疾患は、典型的には、医師により、標準的な方法体系を使って診断されおよび/またはモニタリングされる。「対象」および「患者」は、本明細書では相互可換的に使用され、哺乳動物、齧歯類動物および非哺乳動物を含む任意の脊椎動物、例えば非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類などを指す。具体的一態様において、対象は霊長類である。別の一態様において、対象はヒトである。
【0068】
ある態様において、本発明の方法は、血管疾患を効果的に処置するために、既存の血管治療と一緒に実施されうる。本発明の方法および組成物は非生物学的製剤および/または生物学的製剤による同時処置または逐次的処置を含む。非生物学的製剤および/または生物学的製剤の非限定的な例としては、鎮痛薬、例えば非ステロイド性抗炎症薬、オピエートアゴニストおよびサリチル酸薬;抗感染剤、例えば抗寄生虫感染薬、抗嫌気性菌薬、抗生物質、アミノグリコシド系抗生物質、抗真菌性抗生物質、セファロスポリン系抗生物質、マクロライド系抗生物質、種々のβ-ラクタム系抗生物質、ペニシリン系抗生物質、キノロン系抗生物質、スルホンアミド系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質、抗マイコバクテリア薬、抗結核性抗マイコバクテリア薬、抗原虫薬、抗マラリア性抗原虫薬、抗ウイルス剤、抗レトロウイルス剤、殺疥癬虫薬、抗炎症剤、コルチコステロイド抗炎症剤、止痒薬/局所麻酔薬、外用抗感染薬、抗真菌性外用抗感染薬、抗ウイルス性外用抗感染薬;電解性腎作用物質、例えば酸性化剤、アルカリ化剤、利尿薬、炭酸脱水酵素阻害性利尿薬、ループ利尿薬、浸透圧性利尿薬、カリウム保持性利尿薬、チアジド利尿薬、電解質補充薬(electrolyte replacement)および尿酸排泄剤;酵素、例えば膵酵素および血栓溶解酵素;胃腸薬、例えば下痢止め、胃腸抗炎症剤、胃腸抗炎症剤、制酸抗潰瘍剤、胃酸ポンプ阻害性抗潰瘍剤、胃粘膜抗潰瘍剤、H2ブロッカー抗潰瘍剤、胆石溶解剤、消化薬、催吐薬、緩下薬および便軟化薬、ならびに腸管運動促進剤;全身麻酔薬、例えば吸入麻酔薬、ハロゲン化吸入麻酔薬、静脈内麻酔薬、バルビツール酸系静脈内麻酔薬、ベンゾジアゼピン系静脈内麻酔薬およびオピエートアゴニスト静脈内麻酔薬;ホルモンおよびホルモン調節薬、例えば堕胎薬、副腎作用物質、コルチコステロイド副腎作用物質、アンドロゲン、抗アンドロゲン、免疫生物学的製剤、例えば免疫グロブリン、免疫抑制薬、トキソイドおよびワクチン;局所麻酔薬、例えばアミド系局所麻酔薬およびエステル系局所麻酔薬;筋骨格作用物質、例えば抗痛風抗炎症剤、コルチコステロイド抗炎症剤、金化合物系抗炎症剤、免疫抑制抗炎症剤、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、サリチル酸系抗炎症剤、ミネラル;ならびにビタミン、例えばビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンEおよびビタミンKが挙げられる。
【0069】
投与
本明細書に開示されるとおり、本発明のHEは、静脈注入または動脈注入(逆流注入を含む)による全身性投与を含むさまざまな経路によって、あるいは心臓組織もしくは末梢組織への直接注射によって投与されうる。全身性投与、特に末梢静脈アクセスによるものには、低侵襲性であり、心臓の自然の灌流と、損傷部位を標的とする血管内皮前駆体の能力とによるという利点がある。細胞は、単回ボーラスで注射するか、ゆっくりした注入によって注射するか、時間をずらして数時間ごとの一連の適用によって注射することができ、あるいは用意された細胞は、数日または数週間、適当に貯蔵される。バルーンを使って心筋血流を管理することにより、心臓を通る細胞の初回通過が強化されるように、カテーテル法を使って細胞を適用することもできる。末梢静脈アクセスの場合と同様に、細胞は、カテーテルを通して単回ボーラスで注射されるか、少量ずつ複数回注射されうる。細胞は、心外膜注射によって心筋に直接適用することもできる。これは、開心術(例えば冠動脈バイパス移植術)または心室補助装置の設置との関連において、直視下で使用されるだろう。針を装着したカテーテルを使用して、心内膜的に細胞を心筋に直接送達してもよく、これは侵襲性の低い直接的適用手段になるだろう。
【0070】
一態様において、送達経路には、標準的な末梢静脈内カテーテル、中心静脈カテーテルまたは肺動脈カテーテルによる静脈内送達が含まれる。別の態様において、細胞は、現在許容されている方法でアクセスされる冠内経路によって送達されうる。細胞の流れは、患者の血管系内に配置された遠位および近位バルーンの逐次的膨張/収縮によって管理され、それによって、細胞の生着または細胞治療の作用を促進する一時的に流れのないゾーン(temporary no-flow zone)を作り出しうる。別の一態様では、心内膜(心腔の内表面)法によって細胞を送達することもでき、これには、適合するカテーテルの使用と、意図した標的組織をイメージングまたは検出できることが必要になりうる。あるいは、心外膜(心臓の外表面)法によって細胞を送達しうる。この送達は、開心術時に直視下で達成されるか、専用の細胞送達機器を必要とする胸腔鏡アプローチによって達成されうる。さらにまた、以下の経路を単独で使用するか、上述のアプローチのうちの1つまたは複数と併用することで、細胞を送達することもできる:皮下、筋肉内、気管内、舌下、逆行性冠灌流、冠バイパス機器、体外式膜型人工肺(ECMO)装置および心膜開窓術。
【0071】
一態様において、細胞は血管内ボーラスまたは時限注入として患者に投与される。
【0072】
組成物
本発明はHEを含む組成物を提供する。一定の態様において、組成物は少なくとも1×103個のHEを含む。別の一態様において、組成物は少なくとも1×104個のHEを含む。別の態様において、組成物は、少なくとも1×105、少なくとも1×106、少なくとも1×107または少なくとも1×108個のHEを含む。組成物は、意図した治療効果を強化し、制御し、または他の形で指示することが当技術分野において知られている添加剤を、さらに含みうる。
【0073】
ある態様において、本発明の組成物は、固形支持体マトリックス、生体接着剤もしくは生体包帯、または生体スキャフォールドなどの生体適合性マトリックス、または3Dバイオプリンティングに使用されるバイオインクを、さらに含む。生体適合性マトリックスは、埋植された細胞をサポートしおよび/またはその運命を指示することによって、インビボ操作を容易にしうる。生体適合性マトリックスの非限定的な例としては、吸収性および/または非吸収性の固形マトリックス、例えば小腸粘膜下層(SIS)、例えばブタ由来(および他のSIS供給源);架橋または非架橋アルギナート、親水コロイド、フォーム、コラーゲンゲル、コラーゲンスポンジ、ポリグリコール酸(PGA)メッシュ、ポリグラクチン(PGL)メッシュ、フリース、フォームドレッシング、生体接着剤(例えばフィブリン糊およびフィブリンゲル)、死んだ脱表皮皮膚等価物(dead de-epidermized skin equivalent)、ヒドロゲル、アルブミン、多糖、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸-グリコール酸(PLGA)、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリホスファゼン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、エチレン酢酸ビニル、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0074】
本発明のHEは、HEと薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物に製剤化されうる。薬学的に許容される担体は当技術分野において周知であり、これには、食塩水、水性緩衝剤溶液、溶媒、分散媒、またはそれらの任意の組合せが含まれる。薬学的に許容される担体の非限定的な例としては、糖類、例えばラクトース、グルコースおよびスクロース;デンプン、例えばトウモロコシデンプンおよびバレイショデンプン;セルロースとその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース;トラガント粉末;麦芽;ゼラチン;タルク;賦形剤、例えばカカオ脂および坐剤用ワックス;油、例えばラッカセイ油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油およびダイズ油;グリコール、例えばプロピレングリコール;ポリオール、例えばグリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコール;エステル、例えばオレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル;寒天;緩衝剤、例えば水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;アルギン酸;パイロジェンフリー水;等張食塩水;リンゲル液;エチルアルコール;pH緩衝溶液;ポリエステル、ポリカーボネートおよび/またはポリ無水物;ならびに薬学的製剤において使用される他の非毒性適合物質が挙げられる。ある態様において、薬学的に許容される担体は、製造条件下および貯蔵条件下で安定である。ある態様において、本発明のHEは、参照により本明細書に組み入れられるWO 2017/031312に記載のGS2培地に製剤化される。
【0075】
本発明は、HEを含む凍結保存された組成物を、さらに提供する。凍結保存された組成物は冷凍保存剤(cryopreservant)をさらに含みうる。冷凍保存剤は当技術分野において公知であり、これにはジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロールなどが含まれるが、それらに限定されるわけではない。凍結保存された組成物は細胞培養培地などの等張液も含みうる。
【0076】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに例示するが、これらの実施例は決して限定を意図していない。本願および図面の全体を通して言及される参考文献、特許および特許出願公開はすべて、参照により本明細書に組み入れられる。
【実施例
【0077】
実施例1:造血内皮細胞(HE)の生成
造血内皮細胞をヒト胚性幹細胞(hESC)またはヒト人工多能性幹細胞(iPSC)から図1に示すように生成させた。hESC(例えばJ1 hESC)またはiPSC(例えばGMP-1 iPSC)を、6ウェルプレートにおいて、mTeSR1(Stemcell Technology)+1%ペニシリン/ストレプトマイシン中、ヒト真皮線維芽細胞フィーダー細胞上で、4日間培養し、培地を毎日交換した。分化に向けてhESCまたはiPSCをプレーティングするために(1日目)、mTeSR1培地を6ウェルプレートの各ウェルから除去した。各ウェルを2mLのDMEM/F12(Gibco)またはD-PBSで洗浄し、DMEM/F12またはD-PBSを吸引し、1mLの酵素フリーGibco(登録商標)細胞解離緩衝液(Cell Dissociation Buffer:CDB)を各ウェルに加えた。プレートを正常酸素濃度CO2インキュベータ(5%CO2/20%O2)内で、細胞が剥離した形態を示すまで、約5~8分間インキュベートした。次に、緩く付着している細胞を乱さないようにピペッティングによってCDBを注意深く除去した。各ウェルに2mLのmTeSR1を加えることによって細胞を収集し、細胞を収集チューブに集めた。ウェル中の残存細胞を、さらに2mLのmTeSR1で穏やかに洗浄し、収集チューブに移した。チューブを120×gで3分間遠心分離し、培養培地を除去した。Y-27632(Stemgent)を10μMの最終濃度で含有するmTeSR1培地に、細胞を、400,000細胞/10mLの最終密度で再懸濁した。この細胞懸濁液10mLをコラーゲンIVコート10cmプレートに移した。プレートを正常酸素圧のインキュベータに一晩入れておいた。
【0078】
翌日(0日目)、mTeSR1/Y-27632培地を各10cmプレートから静かに取り除き、10mLのBVF-M培地[Stemline(登録商標)II造血幹細胞拡大培地(Hematopoietic Stem Cell Expansion Medium)(Sigma);25ng/mL BMP4(Humanzyme);50ng/mL VEGF165(Humanzyme);50ng/mL FGF2(Humanzyme)]で置き換えた。プレートを低酸素濃度チャンバー(5%CO2/5%O2)において2日間インキュベートした。
【0079】
2日目に、培地を吸引し、新鮮な10~12mLのBVF-Mを各10cmプレートに加えた。
【0080】
4日目に、培地を再び吸引し、新鮮な10~15mLのBVF-Mを各10cmプレートに加えた。
【0081】
6日目に、移植および/またはさらなる試験用に、細胞を回収した。培地を各プレートから吸引し、10mLのD-PBS(Gibco)を加えてそのD-PBSを吸引することによって、プレートを洗浄した。5mLのStemPro Accutase(Gibco)を各10cmプレートに加え、正常酸素圧のCO2インキュベータ(5%CO2/20%O2)中で3~5分間インキュベートした。細胞を5mLピペットで5回ピペッティングし、次にP1000ピペットで約5回ピペッティングした。次に細胞を30μMセルストレーナーで濾して、収集チューブに移した。10cmプレートのそれぞれを10mLのEGM2培地(Lonza)またはStemline(登録商標)II造血幹細胞拡大培地(Sigma)で再びすすぎ、細胞を30μMセルストレーナーに通して、収集チューブに収集した。チューブを120~250gで5分間遠心分離した。次に、細胞をEGM2培地またはStemline(登録商標)II造血幹細胞拡大培地(Sigma)で再懸濁し、カウントした。カウント後に、細胞を遠沈し(250×g、5分間)、凍結培地(10%DMSO+熱非働化FBS)に3×106細胞/mLの濃度で再懸濁した。凍結ストックを作るために、細胞懸濁液を、クライオバイアル1本あたり2mLのFBS(Hyclone)およびDMSO(Sigma)に分注した(6×106細胞/2mL/バイアル)。
【0082】
実施例2:血管芽細胞(HB)の生成
血管芽細胞をヒト胚性幹細胞(例えばJ1 hESC)またはヒト人工多能性幹細胞(例えばGMP-1 iPSC)から図2に示すように生成させた。6ウェルプレート中、mTeSR1(Stemcell Technology)+1%ペニシリン/ストレプトマイシンにおいてヒト真皮線維芽細胞フィーダー細胞上で培養したhESCまたはiPSCを、インキュベータ中、4mg/mLコラゲナーゼIV(Gibco)を含有するDMEM/F12(Gibco)と共に37℃(5%CO2/20%O2)で約10分間、細胞がプレートから剥がれるまで各ウェルをインキュベートすることによって、ウェルから剥がした。コラゲナーゼIVを含有するDMEM/F12を各ウェルから除去し、DMEM/F12で洗浄し、2mLのmTeSR1を各ウェルに加え、必要ならセルスクレーパーを使って、細胞を得るから剥がした。細胞懸濁液をコニカルチューブに移し、各ウェルを2mLのmTeSR1で再び洗浄し、コニカルチューブに移した。チューブを300×gで2分間遠心分離し、上清を除去した。細胞ペレットをBV-M培地[Stemline(登録商標)II造血幹細胞拡大培地(Sigma)、25ng/mL BMP4(Humanzyme)、50ng/mL VEGF165(Humanzyme)]に再懸濁し、超低付着表面6ウェルプレート(Corning)に1ウェルあたり約750,000~1,200,000細胞の密度でプレーティングした。正常酸素圧のCO2インキュベータでプレートを48時間インキュベータに入れておくことで、胚様体を形成させた(0~2日目)。次に各ウェルの培地と細胞を収集し、120~300gで3分間遠心分離した。上清のうちの半分を取り除き、50ng/mLのbFGFを含有する2mLのBV-Mで置き換えた。したがって細胞懸濁液中のbFGFの最終濃度は約25mg/mLになった。4mLの細胞懸濁液を超低付着表面6ウェルプレートの各ウェルにプレーティングし、正常酸素圧のCO2インキュベータにさらに48時間(2~4日目)入れておくことで、引き続き胚様体を形成させた。
【0083】
4日目に胚様体を15mLチューブに収集し、120~300×gで2分間遠心分離し、D-PBSで洗浄し、StemPro Accutase(Gibco)を使って単一細胞懸濁液に解離させた。FBS(Hyclone)を使ってAccutaseを不活化し、単一細胞をセルストレーナーに通し、遠心分離し、約1×106細胞/mLになるようにStemline II培地(Sigma)に再懸濁した。約3×106細胞を30mLのMethocult BGM培地[MethoCult(商標)SF H4536(EPOなし)(StemCell Technologies)、ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)、ExCyte細胞成長サプリメント(1:100)(Millipore)、50ng/mL Flt3リガンド(PeproTech)、50ngm/ml VEGF(Humanzyme)、50ng/mL TPO(PeproTech)、30ng/mL bFGF(Humanzyme)]中で混合し、超低付着表面10cmディッシュ(Corning)に再プレーティングし、正常酸素圧のCO2インキュベータ中で7日間(4~11日目)インキュベートすることで、血管芽細胞を形成させた。
【0084】
11日目に、移植および/またはさらなる試験用に、血管芽細胞を回収した。血管芽細胞はメチルセルロースをD-PBS(Gibco)で希釈することによって収集した。細胞混合物を300×gで15分間、2回遠心分離し、30mLのEGM2 BulletKit培地(Lonza)またはStemlineIIに再懸濁し、上述のように細胞をカウントし、凍結した。
【0085】
実施例3:細胞マーカー分析
実施例1に従って6日目に回収したHEおよび実施例2に従って11日目に回収した血管芽細胞(HB)を、内皮細胞マーカー、血液/造血マーカーおよび周皮細胞マーカーについて、FACS分析によって分析した。簡単に述べると、回収された細胞を50uLのFACS緩衝液(2%FBS/PBS)に100k/チューブの密度で再懸濁した。フローサイトメトリー抗体を表1に従って加え、4℃で20分間インキュベートした。次に、1mLのFACS緩衝液を各チューブに加え、250×gで5分間、遠心分離した。細胞を、チューブ1本あたり200uLの、ヨウ化プロピジウム(PI)を含まないFACS緩衝液に再懸濁した。試料をMACS Quant Analyzer 10(Miltenyi Biotec:130-096-343)で分析した。HUVECを陽性対照用を使用し、HDFまたは未分化hESCを陰性対照として使用した。加えて、HUVECを補償のための単一染色(SS)対照として使用した。
【0086】
(表1)MACS Quant Analyzer 10用の抗体染色表
【0087】
あるいは、FACs分析はソニーSA3800スペクトル型アナライザーで行った。簡単に述べると、回収した細胞を100uLのFACS緩衝液(2%FBS/PBS)に100~200k/チューブで再懸濁した。フローサイトメトリー抗体を表2に従って加え、4℃で20分間インキュベートした。次に、1mLのFACS緩衝液を各チューブに加え、300×gで5分間遠心分離した。細胞を、チューブ1本あたり100μLの、PIを含むまたはPIを含まないFACS緩衝液(FACS緩衝液で1:1000希釈)に再懸濁した。試料をソニーSA3800スペクトル型アナライザーで分析した。HUVEC細胞を陽性対照として使用し、未分化hESCを陰性対照として使用した。
【0088】
(表2)ソニーSA3800スペクトル型アナライザー用の抗体染色表
【0089】
結果
表3~4に示すように、HBは血液マーカーCD43およびCD45についても内皮細胞マーカーCD31、CD144およびCD34についても陽性だったが、Tie2、CD140b、CD90およびCD271の発現レベルは低いか検出不可能であった。
【0090】
対照的に、表3~4に示すように、HEは、CD146、CXCR4およびFlk1(CD309/KDR)ならびに周皮細胞/間葉マーカーCD90およびCD271について陽性だったが、血液/造血マーカーCD43およびCD45については陰性だった。
【0091】
(表3)MACS Quant Analyzer 10および/またはソニーSA3800スペクトル型アナライザーで分析された、J1およびGMP1株由来のHB上およびHE上の細胞表面マーカーの要約
【0092】
(表4)MACS Quant Analyzer 10で分析されたJ1由来のHBおよびHE細胞上の表面マーカーの要約
【0093】
分化プロセス中のさまざまな細胞における細胞マーカー発現の時間経過から、細胞は中胚葉系譜のマーカーをアップレギュレートし、PDGFRAおよびAPLNRの表面発現は2日目に最大に達することが示された。次に、これらのマーカーの発現は低下し、それは、6日目における、血管細胞のマーカーCD31の増加と相関した(図3)。光学顕微鏡で調べたところ、この分化方法では細胞の混合物が生成し、細胞は内皮形態または間葉形態を呈することが示唆された。
【0094】
6日目に生産されたHE細胞のさらなる特徴づけにより、大半の細胞はCD146+で、VECAD+(CD144+)またはCD140B+(PDGFRB+)を発現するが、造血マーカーCD43およびCD45は発現しないことが明らかになり、このプロトコールは明瞭な血管および血管周囲細胞を生産することが示された。6日目に生産されたHE細胞のさらなる特徴づけを、CD31、CD43、CD34、KDR(FLK1)、CXCR4、CD144、CD146、CD105、CD140b(PDGFRb)およびNG2について行った。それを図4Aおよび図4Bに示す。
【0095】
CD31発現によって同定された推定血管内皮フラクションは、FLK1/CD309[VEGFR2としても公知]、VECAD、CD34およびCD105について陽性だった(図5)。6日目のHE細胞を、血管内皮増殖をサポートする培地に移して、さらに5~7日間、正常酸素濃度条件にしたところ、CD31、CD34およびFLK1/CD309(VEGFR2)発現は維持されるか、または増加した。
【0096】
実施例4:HEは内皮、平滑筋および周皮細胞マーカーを発現する
免疫細胞化学(ICC)を用いるさらなる分析を、以下に述べるように行い、HUVECを対照として使用した。HEを少なくとも24時間はプレーティングしてから、Ca2+およびMg2+を含むD-PBS(Gibco)で2回洗浄した。次に細胞を室温において4%PFA(Electron Microscopy Science)で10分間固定した。固定後に、Ca2+およびMg2+を含むD-PBSで、細胞を5分間、3回洗浄した。次に、5%正常ヤギ血清(Cell Signaling Technology)を含有する1×Perm/Wash緩衝液(BD)で、細胞を1時間処理した。Perm/Wash/ブロッキング緩衝液の吸引後に、細胞を、一次抗体含有Perm/Wash/ブロッキング緩衝液(ヒトCD31、1:50、Invitrogen;ヒトNG2、1:50、PD Pharmagen;ヒトカルポニン、1:100、Millipore)で、一晩処理した。翌日、細胞をPerm/Wash緩衝液で5分間、3回洗浄した。次に細胞を、室温において、2次およびDAPI含有Perm/Wash/Blocking緩衝液(DAPI、1:1000、Invitrogen;ヤギ抗Ms-Cy3、ヤギ抗Rb-Alexaflour488)で1時間処理した。細胞を、Perm/Wash緩衝液で5分間、3回洗浄し、キーエンスBZ-X710(キーエンス)で撮像した。図6に示すように、HEは内皮マーカー(CD31)、平滑筋マーカー(カルポニン)および周皮細胞マーカー(NG2)を発現したので、内皮細胞、平滑筋細胞,および周皮細胞に分化する能力を有する。また、6日目のHE細胞を、周皮細胞増殖をサポートする培地に移したところ、CD140B発現がわずかに減少し、NG2、CD90、CD73、CD44およびCD274発現は維持されるか増加した(データ省略)。
【0097】
実施例5:単一細胞miRNAプロファイル
多能性または血管細胞アイデンティティに関連する96種のマイクロRNAの発現レベルを評価するために、単一細胞qRT-PCR分析を使ったさらなる分析を、J1由来のHBおよびHEに対して、以下に述べるように行った。TaqMan遺伝子発現アッセイ(Applied Biosystems)を96種のヒトmiRNA用に注文した。体積50μLの最終ストック用に、25μLの20×Taqmanアッセイを25μLの2×アッセイローディング試薬(Assay Loading Reagent)(Fluidigm)と混合することにより、10×アッセイを調製した。66,000~250,000細胞/mLの範囲の細胞(凍結細胞または新たに回収された細胞)のアリコートを調製した。細胞をLIVE/DEAD染色溶液(LIVE/DEAD生存率/細胞毒性キット)と共に室温で10分間インキュベートした。次に細胞を洗浄し、培地に懸濁し、40μmフィルタで濾過した。生存率および細胞濃度を得るためにセロメーターを使って細胞カウントを行った。細胞(60μL)を懸濁試薬(suspension reagent)(40μL)(Fluidigm)と3:2の比で混合することにより、細胞混合物を調製した。その細胞懸濁混合物6μLを、中細胞(10~17μm)用または大細胞(17~25μm)用のプライミング済(primed)C1シングルセルオートプレップIFCマイクロ流体チップ(Single-Cell Autoprep IFC microfluidic chip)にローディングし、次にそのチップを、「STA:Cell Load(1782x/1783x/1784x)」スクリプトを使って、Fluidigm C1機器で処理した。この工程により、96キャプチャーチャンバーのそれぞれに1つの細胞がキャプチャーされた。次に、そのチップをキーエンス顕微鏡に移し、各チャンバーをスキャンすることで、単一細胞キャプチャーの数、細胞の生/死状態およびキャプチャーされたダブレット/細胞凝集物をスコア化した。C1での細胞溶解、逆転写およびプレ増幅のために、回収試薬(Harvest reagent)、溶解最終ミックス(Lysis final mix)、RT最終ミックス(RT final mix)およびプレアンプミックス(Preamp mix)を、製造者のプロトコールに従って、C1チップの指定されたウェルに加えた。次に、IFCをC1に入れ、「STA:miRNA Preamp(1782x/1783x/1784x)スクリプトを使用した。cDNAの回収は翌朝に終わるようにプログラムした。cDNAを、C1チップの各チャンバーから、12.5μLのC1DNA希釈試薬が予めローディングされている新鮮96ウェルプレートに移した。テンプレートなし対照および陽性対照などのチューブ対照は、製造者の説明書に従って各実験用に調製した。96.96 Dynamic Array(商標)IFCおよびBioMark(商標)HDシステムを用いるqPCRによって、プレ増幅cDNA試料を分析した。JUNO機器におけるIFCプライミングの処理と、それに続くcDNA試料ミックスおよび10×アッセイのローディングは、製造者のプロトコールに従って行った。次に、IFCをBiomark(商標)HDシステムに入れ、プロトコール「GE96x96 miRNA Standard v1.pcl」を使ってPCRを行った。データ解析はFluidigmによって提供されたリアルタイムPCR分析ソフトウェアを使って行った。死細胞、重複(duplicate)などは解析から除去し、線形導関数ベースラインおよびユーザー検出器Ct閾ベースの方法(Linear Derivative Baseline and User Detector Ct Threshold based methods)を解析に使用した。データをヒートマップ図で表示し、CSVファイルとしてエクスポートした。次に、「R」ソフトウェアを使って「外れ値同定(Outlier Identification)」解析を行うことで「FSO」ファイルを得て、次に「自動解析(Automatic Analysis)」の説明に従った。
【0098】
(表5)miRNAマーカープロファイル
【0099】
結果
図7に示すように、J1-HE細胞は、未分化胚性幹細胞(J1)、ヒト血管細胞(HUVEC)およびJ1由来HB細胞と比較して、独特なmiRNA発現プロファイルを有した。miRNAマーカーの具体例を表5に示す。
【0100】
実施例6:内皮細胞へのインビトロ分化および血管形成
J1およびGMP-1に由来するHEおよびHBを、内皮細胞に分化するそれぞれの能力について、インビトロでさらに試験した。およそ300kのHE細胞および500~600kのHBを、18mLのEGM2またはVasculife VEGF培地キット(Lifeline Cell Tech)に再懸濁し、3mLの懸濁液をフィブロネクチンコート6ウェルプレート(Corning)の各ウェルに分注した。2日間の培養後に、培地を交換し、新鮮なEGM2またはVasculife VEGF培地を加えた。細胞が約60~70%コンフルエントに達した時に写真を撮影した。HB(5日目)およびHE(3日目)は、フィブロネクチンコートプレート中で内皮系譜に向かって分化し、どちらも特徴的な内皮敷石状の形態を示した(データ省略)。
【0101】
血管形成について試験するために、写真撮影後に細胞を回収した。簡単に述べると、各ウェルをD-PBSで洗浄し、1mLのStemPro Accutase(Gibco)を各ウェルに加え、37℃で3~5分間インキュベートした。培養物を数回ピペッティングすることによって単一細胞懸濁液を生成させた。プレートをEGM2培地またはVasculife VEGF培地で洗浄し、コニカルチューブに移し、250gで5分間遠心分離した。Nexcelom Cellometer K2を使って細胞カウントを行った。
【0102】
250μLの基底膜Matrigel(Corning)をNunc(商標)4ウェルプレート(Thermo Scientific)の各ウェルに加え、プレートをRTで30分間インキュベートした。回収したHBおよびHEを、1ウェルあたり250μLのEGM2培地またはVasculife VEGF培地中に約5.0×104細胞の密度で播種した。2~3時間のプレーティング後に、培地を、AcLDL(Molecular Probes)を含有する新鮮な250μLの培地(5μLのAcLDL+245μLの培地)で置き換えた。次にプレートを正常酸素濃度条件下で一晩インキュベートした。24時間のインキュベーション後に、AcLDL含有培地を除去し、プレートをD-PBSで3回洗浄し、新鮮な250μLのEGM2培地またはVasculife VEGF培地/ウェルを加えた。最後に、キーエンス顕微鏡を使って、各ウェルの顕微鏡写真を倍率4倍で撮影した。HBおよびHEはMatrigel上で血管様ネットワークを形成した(データ省略)。
【0103】
実施例7:肺動脈高血圧モデルにおけるインビボ試験
この試験の目的は、ラットにおいて、Sugen-低酸素(SuHx)誘導肺動脈高血圧(PAH)に対する造血内皮細胞の効果を評価することであった。この試験では、ヌードラットにおけるSuHx誘導肺高血圧(PAH)の処置に関する、造血内皮細胞の潜在的効力も評価した。ラットにおけるSuHx誘導肺高血圧は多くの記載があるモデルであり、肺高血圧を持つラットにおける肺動脈圧および右室リモデリングに対する降圧剤の効果を調べるのに役立つ。
【0104】

試験への組入れの時点で体重が200~250gの雄ヌード(RNU)ラット(Charles River Laboratories)。
【0105】
試験物品
VPC1=上記実施例2で調製したJ1-HB。
VPC2=上記実施例1で調製したJ1-HE。
【0106】
ビヒクル(陰性対照)
蒸留滅菌水
【0107】
Sugen溶液の調製
0日目の投与用にSugenの溶液を、DMSO中、10mg/mLで調製した。
【0108】
実験手順
動物を、それぞれの体重に基づいて、処置群間の分布が均等になるようにランダム化した。
【0109】
第2群~第8群の動物(表6参照)を21日にわたってsugen/低酸素/正常酸素プロトコールに付した。第1群の動物にはDMSO(sugenのビヒクル)を与え、同じプロトコールを使って低酸素/正常酸素に付した。動物を、それらの挙動および全身の健康状態のあらゆる変化について、毎日観察した。
【0110】
試験物品またはビヒクルによる処置は表6に記載するように予定どおり1日目または9日目に施行した。食物と水は自由に摂取させた。動物の挙動と全身の健康状態を毎日観察した。週ごとの体重を記録した。
【0111】
手術当日は、酸素中の2~2.5%イソフルランUSP(Abbot Laboratories、カナダ国モントリオール)の混合物でラットを麻酔した。血行動態パラメータおよび機能パラメータ(全身動脈血圧、右室血圧、肺動脈血圧、酸素飽和度および心拍数)を、5分が経過するか、肺動脈圧シグナルの喪失か、どちらかが最初に起こるまで、継続的に記録した。
【0112】
次に、ラットを失血させ、肺循環に0.9%NaClでフラッシュした。肺と心臓を胸腔から一緒に取り出した。肺(左葉)を10%NBFで膨張させた。組織病理学的分析のために左葉をスライド上に調製した。フルトン指数の一部として、右室および中隔を含む左室の湿重量を測定するために、心臓を摘出した。
【0113】
(表6)処置群の割り当ておよび処置情報
【0114】
データ解析
心拍数. 心拍数は、動物の左前足に装着したN-595パルスオキシメーター(Nonin、ミネソタ州プリマス)によって測定した。パルスオキシメーターから得られる心拍数の値は、Clampfit 10.2.0.14(Axon Instrument Inc.、米国カリフォルニア州フォスターシティ[現Molecular Devices Inc.])におけるカーソルの読み値を使って、拍毎分(bpm)として測定した。
【0115】
飽和度(SO2). 血中酸素飽和度(SO2)は、動物の左前足に装着したパルスオキシメーター(Nonin、ミネソタ州プリマス)シグナルから読み取った。飽和度の値は、Clampfit 10.2.0.14におけるカーソルの読み値を使って、パーセンテージ(%)として測定した。
【0116】
動脈血圧. 動脈血圧は、動脈内の液体充填カテーテル(AD Instruments、米国コロラド州コロラドスプリングス)によって、実験の間、継続的に記録した。拡張期圧および収縮期圧の値は、Clampfit 10.2.0.14におけるカーソルの読み値を使って、mmHgとして測定した。平均動脈血圧値は以下の式を使って算出した。
平均動脈圧=拡張期圧+(収縮期圧-拡張期圧)/3
【0117】
脈圧は収縮期読み値と拡張期読み値の間の相違として算出した。
【0118】
心室圧および肺血圧. 右室圧および肺血圧は、心室内の液体充填カテーテル(AD Instruments、米国コロラド州コロラドスプリングス)によって記録した。拡張期圧および収縮期圧の値は、Clampfit 10.2.0.14におけるカーソルの読み値を使って、mmHgとして測定した。平均心室圧および平均肺血圧の値は以下の式を使って算出した。
平均心室圧または平均肺血圧=拡張期圧+(脈圧/3)
【0119】
フルトン指数. 生理学的記録の終了時に各動物の肺と心臓を取り出した。中隔付きの左室から右室が分離されるように心臓を切離し、別々に重量を測定した。次に、次式を使ってフルトン指数を算出した。
【0120】
統計解析. 値を平均±SEM(平均の標準誤差)として表す。すべての実験条件に対して一要因ANOVAおよび反復独立スチューデントt検定をMicrosoft Excel 2007で行い、処置群を対照、健常動物またはSugen-低酸素動物(ビヒクル)と比較した。p≦0.05であれば相違は有意であるとみなした。
【0121】
結果において、*は常に、その値が正常酸素対照群(図1)とは有意に異なることを示し、**は、SuHx対照群(第2群)とは有意に異なることを示す。言い換えると、*は、動物が健常動物とは有意に異なることを示し、**は、動物が、何の治療的処置の恩恵も受けていない完全に罹患している動物とは有意に異なることを示す。
【0122】
結果
Sugen+低酸素(SuHx)誘導PAHラットモデルは、肺動脈高血圧を研究するために広く使用されているモデルである。Sugenは、この試験で使用される曝露レベル(20mg/kgの単回投与)で、まず肺血管系中の内皮細胞の約50%を損傷して肺内皮病変を引き起こすことが公知の、VEGF受容体アンタゴニストである。損傷した内皮細胞および血管細胞のリモデリングならびに血管収縮が起こり、肺細動脈を閉塞させるので、肺動脈を通る血流が制限され、肺動脈圧が上昇する。肺動脈を通る血流の減少と肺動脈圧の増加は右室後負荷を増加させ、それは、SuHx処置ラットに特有であってPAHに罹患している臨床患者にも観察される顕著な右室肥大の発生につながる。
【0123】
この試験では、すべてのSuHx+ビヒクルのみの動物が、予想どおり、重度のPAHを発症した。罹患動物はPAHモデルのすべての特徴を呈し、SuHx動物では健常動物と比較して、肺血圧(収縮期、拡張期および平均)が統計的に高かった(表7、表8および表9)。平均肺血圧は、値が41.2mmHg(表9)と、SuHx+ビヒクル動物では健常動物より3倍高く、中等度/重度ルミナリー(luminary)動脈高血圧の広域に相当した。
【0124】
(表7)sugen-低酸素誘導PAHラットの収縮期肺血圧に対するVPC1およびVPC2の効果
【0125】
(表8)sugen-低酸素誘導PAHラットの拡張期肺血圧に対するVPC1およびVPC2の効果
【0126】
(表9)sugen-低酸素誘導PAHラットの平均肺血圧に対するVPC1およびVPC2の効果
【0127】
肺血圧の増加は右室後負荷の上昇を引き起こし、それが、SuHxビヒクル群では正常酸素健常群(第1群)の2.7倍であるというフルトン指数(右室対左室比)によって直接示される、右室(RV)肥大につながった(表10)。PAHは、心筋厚が有意に増加する短期右室肥大と、それに続く右室の長期伸展(distension)および右室の線維化を特徴とする。21日間の試験期間内では、このラットモデルは、一般に、有意な右室伸展が観察されるほど長くはない。この試験では、フルトン指数の増加が、右室の有意な肥大を明確に示す。これらのデータは、右心肥大の発症に細胞注射による効果がなかったことも示している。
【0128】
(表10)sugen-低酸素誘導PAHラットのフルトン指数に対するVPC1およびVPC2の効果
【0129】
脈圧は、それが収縮期圧の25%より高ければ、正常であるとみなされる。正常群の場合、脈圧は収縮期圧の26%である(表11)。SuHx+ビヒクル動物では、脈圧が収縮期圧の22%に低下した。Sugen低酸素誘導PAHは、心筋変力作用に影響を及ぼすとは考えられていないが、PAHによる不十分なガス交換が、左室に対する二相性の低酸素効果を引き起こし、最終的には慢性的低酸素になって収縮力を失う。
【0130】
(表11)sugen-低酸素誘導PAHラットの脈圧に対するVPC1およびVPC2の効果
【0131】
酸素飽和度(SO2)は95~100%であれば正常とみなされる。SO2は対照群では98.6%だったが、ビヒクル群ではこれが88.4%に低下し(表12)、肺で発生した高血圧が、全身の酸素化に影響を及ぼすことが確認された。
【0132】
(表12)sugen-低酸素誘導PAHラットのSO2に対するVPC1およびVPC2の効果
【0133】
21日間の研究の間に、正常健常ラットの体重は68g増加し、SuHx-ビヒクル動物の体重は平均で21g増加した(表13)。体重増加が遅いと、器官重量の増加も比較的小さくなるはずだが、リモデリングおよび炎症/浮腫は器官重量増加の一因になるので、肺重量の測定は、炎症/浮腫ならびにリモデリングを推定するための基本的だが迅速な手段である。ビヒクル処置ラットの肺は正常ラットより1.8倍重かった(表14)。肺重量の著しい増加は、重要な肺浮腫、塞栓または線維化を示唆しており、それらはいずれもPAHの特徴でもある。SuHx誘導PAHは、肺血管系の初期血管収縮を特徴とし、肺の重量増加の一部の原因はこれにあると考えることができる(血管平滑筋肥大)。
【0134】
(表13)sugen-低酸素誘導PAHの体重増加に対するVPC1およびVPC2の効果
【0135】
(表14)sugen-低酸素誘導PAHの肺重量に対するVPC1およびVPC2の効果
【0136】
SuHx+ビヒクルの生存率は80%と測定され、10匹中2匹が手術日前に死亡した(図8)。これは、このモデルにおけるRNUラットのモデル内背景死亡率(internal historical mortality rate)と一致している。
【0137】
VPC1. VPC1を2つの異なる用量、250万個の細胞および500万個の細胞で試験した。各用量を1日目に1つの動物群に注射し(それぞれ第3群および第5群)、9日目に1つの群(それぞれ第6群および第8群)に注射した。試験した用量はいずれも、SuHx非処置群と比較して肺血圧(収縮期、拡張期および平均)の統計的に有意な変化を引き起こさなかった(表7、表8および表9)。結果として、どのVPC1用量も、フルトン指数の増加を有意に防止せず(表10)、VPC1はPAHと関連する右室(RV)肥大を防止しないであろうことが示唆された。
【0138】
脈圧、平均動脈圧および心拍数は、ビヒクル群と比較した場合に、VPC1処置によって変化しなかった(表11、表9および表15)。
【0139】
(表15)sugen-低酸素誘導PAHラットの心拍数に対するVPC1およびVPC2の効果
【0140】
陰性対照SuHx群におけるSO2の値は正常飽和範囲(95~100%)より低い88%だった(表12)。1日目に2.5M個および5M個の細胞VPC1で処置された群におけるSO2は、それぞれ93%および92%であり、陰性対照群より少し高かった(表12)。9日目に細胞数5M個の細胞VPC1で処置された群の場合、SO2は、正常健常動物とみなされる範囲内にある95%だった(表12)。
【0141】
相対肺重量はビヒクル群と比較してVPC1処置群でも変わりがなく(表14)、VPC1は肺の線維化および/または関連する浮腫を防止しないであろうことが示唆された。
【0142】
21日間の研究の間に、正常健常ラットの体重は68g増加し、SuHxのみ(ビヒクル群)の動物の体重は平均で21g増加した(表13)。VPC1処置を受けた動物がビヒクル群より多く体重が増加するということはなかった(表13)。
【0143】
ビヒクルで処置された群における生存率は80%であり、一方、1日目に2.5M個の細胞VPC1で処置された群および9日目に5M個の細胞VPC1で処置された群では100%だった(図8)。
【0144】
動物の生存率は、一般的な健康状態および生理学的パラメータと共に、1日目または9日目のどちらかに注射された250万個の細胞用量でのVPC1が、ラットにおけるSuHx誘導PAHに対して有意な効果を有しなかったことを示唆している。9日目に注射された500万個の細胞用量は、ヘモグロビンの酸素飽和度の増加および動物の生存率の増加によって示されるとおり、小さな利益を与えるようであった。
【0145】
動物がVPC1注射の結果として不耐性も有害作用も一切示さなかったことに注目すべきである。ケージサイド観察では、PAHに関連する症状を除けば、動物の不快感は明らかにならなかった。
【0146】
VPC2. VPC2を250万個の細胞用量で試験した。細胞は、1日目に1つの動物群(第4群)に、9日目に1つの動物群(第7群)に注射した。
【0147】
1日目にVPC2で処置された群では、収縮期、拡張期および平均肺血圧が、ビヒクル動物と比較して、統計的に(それぞれ22%、24%および23%)低かった(表7、表8および表9)。これは、1日目に注射した250万個の細胞VPC2が、組織のリモデリングを防止しならびに/またはsugen-低酸素およびその内皮細胞損傷が引き起こす肺動脈の血管収縮を防止することにより、肺動脈を通る血流を改善したことを示唆している。
【0148】
しかしフルトン指数は増加し(表10)、動物の血行動態に対するVPC2の効果が、PAHに関連する右室(RV)肥大を防止するには不十分であることを示唆した。さらにまた、脈圧、平均動脈圧および心拍数は、VPC2によって(1日目または9日目に)処置された群では、ビヒクルのみで処置された群と比較して、統計的に相違しなかった(表11、表9および表15)。
【0149】
陰性対照SuHx群におけるSO2の値は正常飽和範囲(95~100%)より低い88%だった。1日目に2.5M個のVPC2で処置された群におけるSO2は正常値範囲に戻った。これは統計的および臨床的に有意な利益である(表12)。
【0150】
VPC2で処置された群における相対肺重量は、ビヒクル群と比較して、統計的に有意でなかった(表14)。
【0151】
VPC2を与えられた動物の体重増加は、ビヒクルを与えられた動物の体重増加と異ならなかった(表13)。ビヒクルのみで処置された群の生存率は80%であり、一方、1日目または9日目に250万個の細胞VPC2で処置された群では100%であったことから(図8)、VPC2はPAHを罹患している動物をある程度保護することが示唆された。
【0152】
肺血圧の減少、飽和度の改善は、動物の生存率の向上と共に、VPC2がラットのSuHx誘導PAHにおいて多少の利益を提供することを示唆している。
【0153】
考察
この肺動脈高血圧試験ではRNUラットを使用した。このラットはこれらの実験条件において非常に重篤で迅速な形態のPAHを発症することが見いだされている。この試験で使用した最終実験条件は、21日にわたって20%未満の死亡率を維持しつつ、重篤な肺血行動態障害を引き起こすことがわかった。
【0154】
疾患進行の迅速性およびわずか3週間後の症状の重症度が問題になり、疾患の進行があまりに早いので、動物に対して治療的利益を生じさせることは、かなりの難題だった。強力な血管拡張薬によって疾患の開始とその早期進行は防止できたと考えられるが、この試験における試験物品の作用機序は、このような迅速試験には不利だった。
【0155】
にもかかわらず、1日目に250万個のVPC2細胞を注射すると収縮期、拡張期および平均肺血圧が低下した。後者は41.2mmHgから31.6mmHgになり、統計的に有利な利益であった。さらに重要なことに、動物の平均肺血圧は正常な身体活動が可能な範囲(25~35mmHg)に戻った。これは、酸素飽和度の増加と合わせて、1日目に投与された250万個のVPC2細胞が、肺の血行動態を有意に改善し、臨床PAH患者における慢性虚血および肺レモデリングにつながる持続的な低酸素を取り除きうることを示唆している。
【0156】
さらにまた、この試験の機能的エンドポイントを検討すると、VPC1とVPC2の相違が明らかになり、いずれの場合も、1日目に250万個の密度で注射されたVPC2細胞は、同じ日に行われる250万個のVPC1細胞の注射よりも優れた結果をもたらした。これは驚くべきことである。というのも、HBはマウス後肢預血モデルおよびマウス心筋梗塞モデルにおいて効果を有することが、以前に示されているからである。米国特許第9,938,500号参照。さらにまた、肺の血行動態および測定された他のすべての機能的パラメータを考慮した場合、1日目に250万個のVPC2細胞を注射すると、9日目に250万個のVPC2細胞を注射した場合よりも良好な結果が生じた。
【0157】
全体として、この試験により、RNUラットが関わる極めて攻撃的で迅速な誘導PAH症候群におけるVPC2(HE)細胞の効力が実証された。免疫不全患者におけるPAHのより高い重症度を関連づけるレポートはいくつかあるものの、この試験で誘導されたPAHのように迅速で重篤な進行は、クリニックでは知られていない。より多くの時間があり、それほど極端でない肺動脈高血圧であれば、VPC2細胞(HE)の単回IV注射に関連する機能的利益は、このデータセットが示唆するものより有利になると予想される。
【0158】
実施例8:組織病理学的分析
肺動脈高血圧(PAH)は顕著で持続的な肺動脈圧の上昇を特徴とする。動物モデルにおける肺疾患または酸素利用性が低減する他の原因による慢性肺胞性低酸素は、肺血管抵抗の持続的増加および肺高血圧につながる。PAHの病理生物学には複数の因子が関与し、ここでは、持続的血管収縮と肺血管壁のリモデリングが最も重要と思われる。血管収縮はさまざまな刺激に対する平滑筋細胞の可逆的反応であるが、血管壁のすべての層で起こるリモデリングを維持するのに必要であって、最終的に、管腔径のより永続的な制約につながる。
【0159】
この試験では、実施例7で試験した動物において、さまざまなパラメータを分析することで、試験した造血内皮細胞がPAHモデルにおける肺血管変化を特徴づける構造的病変の発生を妨げるかどうかを決定した。
【0160】
材料および方法
すべての実験群(表6に示すもの)のすべてのラットから回収された肺の左葉に10%ホルマリンを灌流させて固定してから、IRIC(カナダ国ケベック州モントリオールのThe Institute for Research in Immunology and Cancer)に送って、組織病理学的分析のためのスライドを作製した。
【0161】
左中葉の横断切片を切断し、パラフィンに包埋し、5μm厚にスライスし、マウントし、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した。
【0162】
各スライスをニコンEclipse T100顕微鏡で200倍の倍率で視覚化した。肺1つにつき最低10のオーバーラップしていない視野をランダムに選択した。ニコンDS-Fi1デジタルカメラを使用し、ニコンNIS Elements 4.30で、顕微鏡写真を撮影した。写真撮影者は、ラットに施された処置および関心対象の特徴に関して盲検化された。10の視野について、各領域のよく焦点が合っている顕微鏡写真を1つずつ撮影し、保存した。各視野に見いだされた血管は、最大のものから最小のものまで、血管サイズに閾または制限を設けずに、すべて分析した。
【0163】
肺胞、肺胞管および呼吸細気管支と関連する肺のガス交換領域内の細葉内血管を同定した。終末細気管支およびそれより大きな気道と関連する血管はすべて除外した。
【0164】
血管を管腔径に基づいて、横切された管腔の最長軸を測定することにより、小(10~50ミクロン)、中(50~100ミクロン)または大(>100ミクロン)という、3つのサイズ群に分割した。直径は「Infinity Analyze 5.0.3.」を使って管腔の最も広いポイントで測定し、血管の長軸に対して直角に測定した。管腔は内弾性板の内縁間にある。すなわち内弾性板は管腔の一部を形成するのではなく血管壁の一部であるとみなされた。
【0165】
各血管を非筋性、半筋性または筋性に類別した。
【0166】
完全に筋性. 染色ならびに内弾性板および外弾性板よって同定される平滑筋層によって完全に(外周の>90%が)囲まれている。筋性化血管では、外径は、非筋性血管において内径を測定するのと同じポイントで測定され、外弾性板の外縁から反対側の外縁に及んだ。
【0167】
部分的に筋性:三日月状の平滑筋によって不完全に(外周の10~90%が)囲まれ、外周の一部は2つの弾性板で囲まれている。部分的に筋性化された血管では、外径は、非筋性血管において内径を測定するのと同じポイントで測定され、外弾性板の外縁から、その点での最も外側の弾性板(それが内弾性板であるか外弾性板であるかは問わない)の反対側の外縁に及んだ。
【0168】
非筋性:血管の外周のすべて(<10%)が単一の弾性板であり、明瞭な平滑筋層がない。
【0169】
分析
値を平均±SEM(平均の標準誤差)として表す。すべての実験条件について以下の群を比較する反復独立スチューデントt検定を行った:
【0170】
疾患の誘導に成功していることを確認するために、SuHx群(陰性対照)動物を健常動物(正常酸素対照)と比較した。処置群と陰性対照動物(SuHx)。p≦0.05であれば相違は有意であるとみなした。
【0171】
いずれの場合も、*は、その値が対照(SuHxなし)群とは有意に異なることを示し、**は、その値が陰性対照(SuHx)群と有意に異なることを示す。
【0172】
結果
Sugenの効果
Sugenの注射は、肺小動脈の中膜肥厚および外膜肥厚、ならびに同心性新生内膜病変(concentric neointimal lesion)および複合叢様病変(complex plexiform-like lesion)を含む重篤な動脈症の組合せを引き起こした。2つのパターンの複合病変形成が観察された:1つは血管腔内に病変が形成されるもので、もう一つは血管の外側に突出するもの(動脈瘤様)である。PAHのSugen誘導の3つ目の構造的帰結は、疾患の進行において、はるかに遅く発生し、その本質は肺実質内の線維化の出現にあった。前臨床Sugen誘導PAHはそれ自体が線維化モデルであるわけではないが、後期の包埋染色組織を精査すると、確実に線維化とみなすことが可能になる。線維化の出現は、長期罹患患者に観察されるような、非可逆的PAHを示している。残念なことに、これらの患者は、PAHのための現行の一群の血管拡張薬治療には応答しない傾向がある。
【0173】
健常肺とPAH肺の間で観察されうる形態測定上の変化の重症度を決定するために、肺小動脈および細動脈の壁厚、血管の類別、これらの動脈を取り囲む増殖性細胞(前駆細胞)、および動脈の管腔の相対直径を選択した。肺における単核炎症細胞(肺胞マクロファージ)および白血球(リンパ球様細胞および好酸球のクラスター)の浸潤、肺における間質/肺胞浮腫および線維化、ならびに叢様病変も、肺の病態生理学的状態の指標として使用した。
【0174】
組織病理学的変化、例えば動脈中膜の肥厚、小動脈の外膜における「前駆」細胞の浸潤、および肺実質における肺胞マクロファージの浸潤、肺胞浮腫および線維化ならびに叢様病変形成の重症度を、0~3にスコア化した。ここで、0=なし、1=軽度、2=中等度、3=重度である。
【0175】
動脈サイズ、管腔径、細動脈の筋性化の有無を、表6に示すVPC1およびVPC2で処置されたSuHx誘導PAHラットならびに陰性対照動物の肺から編集した。
【0176】
陰性対照ラット
予想どおり、対照(正常酸素)動物の肺組織は、主に非筋性細動脈(88.3%)から構成された(表16、表17および表18)。対照的に、陰性対照(SuHx)動物の肺組織は、主に、筋性細動脈(83.9%)から構成された(表16、表17および表18)。この観察結果は、スプレーグ・ドーリーラットにおける56日Sugen-低酸素モデルで観察された過形成と合致している。Sugen注射に続く17%酸素での11日間の低酸素は、血管平滑筋(VSM)の肥大および過形成につながる不断の肺VSM収縮を引き起こすのに十分であり、VSM細胞の増殖は、通常は非筋性である細動脈を部分的または完全に筋性化した細動脈へと変化させた。これにより、これらの血管では、壁厚が増加し、管腔の空間が減少する。加えて、正常酸素環境での続く10日間は、それでもなお、肺平滑筋リモデリングに起因する肺内での低酸素条件を維持する。この試験の低酸素期は迅速な内皮増殖を特徴とし、これはさまざまなグレードの叢状病変(plexiform lesion)を生じる。21日間の最後に、これらの病変は、小径の細動脈を根こそぎ消失させるのに十分であることが多かった。
【0177】
(表16)SuHx誘導PAHラットの非筋性血管のパーセンテージに対するVPC1およびVPC2の効果
【0178】
(表17)SuHx誘導PAHラットの筋性血管のパーセンテージに対するVPC1およびVPC2の効果
【0179】
(表18)SuHx誘導PAHラットの半筋性血管のパーセンテージに対するVPC1およびVPC2の効果
【0180】
対照(正常酸素)群では、血管の大半(≒88%)が「小」サイズ(直径50ミクロン未満)と特徴づけられ、主に非筋性だった(表16、表17および表18)。血管の12%近くが「中」サイズと記述され、残りの極めて少数の血管は「大」とみなされた。SuHxによるPAH誘導は血管の厚さを変化させ、サイズに基づく血管の分布のシフトにつながった(試験の終了時に、≒60%は小血管と特徴づけられ、38%は中血管と特徴づけられ、残りは大血管と特徴づけられた)。SuHxが誘導する変化は(表19、表20および表21に示すとおり)血管内の筋層の肥厚に明白であり、小サイズ肺血管および中サイズ肺血管では、その筋組織が、対照(正常酸素)動物と比較してそれぞれ16~42%および20~33%有意に増加した。大血管の壁厚は有意に変化しなかった。
【0181】
(表19)SuHx誘導PAHラットの小血管壁厚に対するVPC1およびVPC2の効果
【0182】
(表20)SuHx誘導PAHラットの中血管壁厚に対するVPC1およびVPC2の効果
【0183】
(表21)SuHx誘導PAHラットの大血管壁厚に対するVPC1およびVPC2の効果
【0184】
壁厚の増加は、動脈の管腔直径を減少させ、肺動脈圧を増加させ、右室はそれに逆らって駆出しなければならない(右室後負荷)。
【0185】
叢状病変は健常非誘導動物には観察されなかった。対照的に、Sugenによる誘導はなされたが、いかなる処置の恩恵も受けなかった動物は、中等度(グレード2)~重度の内皮過増殖と、一部血管腔の完全な消失(グレード3)に対応するグレード2およびグレード3の叢状病変を呈した。ヒトPAHに特有の叢状病変に加えて、動物は、線維化および間質/肺胞浮腫の徴候も呈した。
【0186】
VPC1
VPC1を2つの異なる用量、250万個の細胞および500万個の細胞で試験した。各用量は、1日目に1つの動物群に注射し、9日目に1つの動物群に注射した。
【0187】
PAH誘導がサイズに基づく血管の分布を変化させるのと同じように、VPC1による処置も、血管サイズに基づく血管の分布を変化させる。VPC1は、SuHxラットと比較して、「小」サイズの血管をわずかに増加させ、「中」サイズの血管を減少させた(データ省略)。
【0188】
1日目に2.5M個および5M個の細胞VPC1で処置されたラットの肺小血管の壁厚(大部分は平滑筋層の厚さで決まる)は、ビヒクル処置ラットと比べて、統計的に有意に低かった。中血管および大血管の壁厚は有意に変化しなかった(表19、表20および表21)。9日目におけるVPC1での処置は、血管壁厚に対して何ら効果がなかった。
【0189】
筋性血管のパーセンテージは、1日目に2.5M個および5M個の細胞VPC1で処置した動物では有意に低く、陰性対照SuHx処置動物における83.9%から、VPC1処置動物ではそれぞれ64%および69%になった(表16、表17および表18)。
【0190】
9日目に注射された同じ用量のVPC1は、肺組織における筋性血管のパーセンテージに対して統計的に有意な効果を有しなかった。
【0191】
さらにまた、1日目にVPC1で処置された群に観察された肺胞マクロファージ浸潤、浮腫/線維化および肺動脈病変は、ビヒクル動物よりも少なかった。1日目にVPC1で処置された群における叢状病変は、軽度/中等度と分類された(スコア1または2)。
【0192】
VPC2
VPC2を250万個の細胞用量で試験した。細胞を、1日目に1つの動物群に注射し、9日目に1つの動物群に注射した。
【0193】
PAH誘導がサイズに基づく血管の分布を変化させるのと同じように、1日目のVPC2による処置も、血管サイズに基づく血管の分布を変化させる。1日目に注射されたVPC2は、SuHxラットと比較して、「小」サイズ血管の数を増加させ、「中」サイズ血管を減少させた。1日目のVPC2による処置は、「小」サイズ血管と「中」サイズおよび「大」サイズ血管との比率を、完全に健常な正常酸素ラットに観察されるものに極めて近いものにした。
【0194】
1日目に2.5M個の細胞VPC2で処置されたラットの肺小血管の壁厚は、ビヒクル処置ラットと比較して、統計的に小さかった。9日目に投与されたVPC2は、血管壁厚に対して何ら効果がなかった。中血管および大血管の壁厚は有意に変化しなかった(表19、表20および表21)。9日目におけるVPC2での処置は、血管壁厚に対して何ら効果がなかった。
【0195】
筋性血管のパーセンテージは1日目にVPC2で処置された動物では有意に低く、ビヒクル処置動物における83.9%からVPC2処置動物では45%になった。その結果、非筋性血管のパーセンテージは7%から46%に増加した。9日目のVPC2は、筋性血管に対して有意な効果を有しなかった。表16、表17および表18を参照されたい。
【0196】
これらの結果により、SuHx誘導動物におけるPAHの症状の重症度がVPC2で処置された動物でははるかに低いことを示す機能的所見が裏付けられる。VPC2はSuHx誘導PAHラットモデルにおける肺血管のリモデリングを防止した。
【0197】
さらにまた、VPC2処置動物に観察された肺胞マクロファージ浸潤、浮腫/線維化および肺動脈病変は、陰性対照SuHx動物よりはるかに少なく、なし/軽度(スコア0~1)に分類されたことから、VPC2はPAHに関連する肺変化の発生を防止することが示唆された。
【0198】
この試験では、RNUラットの極めて攻撃的で迅速な誘導PAH症候群における機能的所見および構造的所見に対するVPC2(HE)の高い効力が実証された。
【0199】
実施例9:HEはVECAD+である独特な血管内皮フラクションを含有する
上記のフローサイトメトリーおよび転写産物分析は、かなりの血管内皮成分がHE分化プロトコールによって生成するらしいことを示した。PSC由来のEC様細胞と成熟EC細胞の間の類似性および相違をさらに明確にするために、HE、HUVECおよび未分化iPSC(GMP1)を比較する単一細胞RNAシーケンシングを行った。
【0200】
教師なしクラスタリングにより、試験した細胞タイプの中に9つのクラスターが明らかになった(図9A)。予想どおり、未分化iPSCは、HE細胞(「VPCフィーダー活性」)およびHUVECとは異なるクラスターを形成した(図9Bおよび図9C)。HEは、複数のクラスターに束ねられたが、全体としては、iPSCおよびHUVECとはおおむね区別できる集団にまとめられた。血管内皮細胞の特異的マーカーの発現を調べたところ、VECAD/CDH5の存在により、3つのクラスターが同定された(クラスター2、4および5)(図10)。クラスター2およびクラスター4は、主としてHUVECから構成され、一方、クラスター5はHE細胞から構成された(図9B)。クラスター5がVECAD+細胞から構成されると思われることから、クラスター5からのVECAD+HE細胞を他のクラスターからの細胞と比較する差次的遺伝子発現解析を行ったところ、クラスター5は、最も差次的に発現する遺伝子の機能が示すとおり、強い血管内皮シグネチャーを有することがわかった(表22)。クラスター5における上位50の有意にアップレギュレートされる遺伝子の多くが、血管での発現および活性が公知の遺伝子であり、これには、PLVAP、GJA4、ESAM、EGFL7、KDR/VEGFR2、ESAMおよびVECAD(CDH5)が含まれた(表22)。最も濃縮されるパスウェイは、EC遊走、内皮発生、発芽型血管新生および他のEC関連プロセスであることが、遺伝子オントロジー解析によって示された。同様に、遺伝子セット濃縮解析(gene set enrichment analysis)でも、TGFベータシグナリングおよび低酸素を含む内皮の発生および機能にとって重要なパスウェイが明らかになった。
【0201】
クラスタリング分析はHE細胞がHUVECとは大きく異なることも示した。クラスター5へのHUVECの寄与はごくわずかだがゼロではなく、クラスター2およびクラスター4は主としてHUVECで構成され、HE表現は少ない(<15%)(図9B)。クラスター5を主としてHUVECで構成されるクラスターと比較する差次的遺伝子発現解析では、クラスター5中のVECAD+HE細胞が未成熟ECまたは前駆ECであることが明らかになった(表23)。VECAD+HE細胞において発現量が高くなっている遺伝子には、SOX9、PDGFRAおよびEGFRAがあり、これらは最終分化ECの前身である複製血管由来前駆血管細胞(replicative vessel-borne progenitor vascular cell)のマーカーである。内皮コロニー形成細胞(endothelial colony-forming cell:ECFC)を成熟血管由来内皮細胞(EC)と比較する最近の研究(Kutikhin,A.G.et al.Cells 9:876(2020))では、KDR/VEGFR2、NOTCH4ならびにコラーゲンIサブユニットおよびIVサブユニットが、ECFC濃縮因子として同定され、これらの転写産物は、クラスター5のVECAD+HE細胞でも同様に、HUVECと比べてアップレギュレートされた。ただし、CD34などの他のECFC濃縮遺伝子はHE細胞では高くなかった。HE細胞とHUVECはVECAD/CDH5およびPECAM1/CD31を発現したが、HUVECレベルの方が高く、これも、HE細胞がより未成熟または前駆EC様細胞であることと合致した。VECAD+HE細胞とHUVECとで差次的に発現する遺伝子のセットを使った遺伝子オントロジー解析は、最も濃縮されるパスウェイがステロール生合成、プロテインキナーゼAシグナリング、消化管および心室発生であることを示した。iPSCと比較した場合、差次的発現遺伝子は、MTORC1、WNTおよびTGFベータシグナリングなど、内皮の発生およびホメオスタシスにとって重要なパスウェイと関連することが、遺伝子セット濃縮解析で明らかになった。総合すると、単一細胞RNAシーケンシングにより、真正ECの性質を有するが、未成熟または前駆表現型を示唆する弁別的特徴も有する、HUVECに似たHEのクラスターが明らかになった。
【0202】
(表22)他のクラスター中の細胞と比較してクラスター5において有意にアップレギュレートされる上位50の遺伝子
【0203】
(表23)HUVEC細胞と比較してクラスター5において有意にアップレギュレートされる上位100の遺伝子
【0204】
実施例10:HEは、肺動脈高血圧のラットモデルにおける血行動態パラメータおよび血管リモデリングを減弱する
モノクロタリン(MCT)による齧歯類の処置は血管抵抗および心機能障害を誘導し(Rabinovitch,M.Toxicol Pathol 19,458-469(1991))、Sugen/低酸素モデルは、上述の臨床マーカーと、ヒトにおける進行疾患の顕著な臨床特徴である叢状病変とを誘導する(Ciuclan,L.et al.Am J Respir Crit Care Med 184,1171-1182(2011))。
【0205】
MCTラットにおいて、J1-ESC由来のHEによる処置とGMP-1 iPSC由来のHEによる処置はどちらもPAHの症状を減弱した。簡単に述べると、rnu/rnuラットにMCT(50mg/kg、ip)を0日目に単回投与した。3日後に、ラットをビヒクル群、J1-HE群およびGMP-1 HE群に分割し、静脈内注射によって対照培地または細胞(2.5×106個)を投与した。陽性対照として、別の一群には、高用量のシルデナフィル(約15mg/kg/日)をそれぞれの飲料水に入れて与えた。28日目に、右心および左心カテーテル法によって血行動態分析を行った。予想どおり、ビヒクル処置ラットは、右室収縮期圧(RVSP)、フルトン指数および肺血管抵抗指数(PVR指数)の増加を示した(図11A~C)。J1-HEで処置されたラットでは、RVSPおよびPVR指数の値が低かった(図11Aおよび図11C)。GMP-1-HEで処置されたラットでは、RVSP、フルトン指数およびPVR指数の値が低かった(図11A~C)。組織学的分析により、J1-HE群およびGMP-1-HE群のラットでは、ビヒクル処置ラットと比較して肥厚した血管が少なく、それは定量的に裏付けられることがわかった(図11D)。
【0206】
次に、PSC由来HEを、再びPAHのSugen/低酸素モデルで試験した。これらの試験では、rnu/rnuラットを、21日間、sugen/低酸素/正常酸素条件に付した。0日目にラットにSugenの単回投与を行い、続いて、1日目に、ビヒクル、J1-HEまたはGMP-1-HEを、細胞数100万個の細胞、250万個の細胞または500万個の細胞で静脈内注射した。追加の対照として、別の一群にはシルデナフィル(50mg/kg)を経口胃管法によって1日2回与えた。注射1回あたり250万個のJ1-HEおよびGMP-1-HEで処置されたラットは、ビヒクル処置ラットと比較して、mPAP、RVSPおよびフルトン指数の低減、ならびに一回拍出量および心拍出量などの心機能の改善を示した(図12A~D)。さらにまた、GMP-1-HEは、肺血行動態、RVリモデリング、心機能において、その効力を用量依存的に改善した(図13A~D)。肺組織の組織学的分析により、Sugen/低酸素モデルにおける対照ラットとJ1-HE処置ラットまたはGMP-1-HE処置ラットとの相違が明らかになった(図14A~Cおよび図15A~C)。HE処置動物ではビヒクル処置動物と比較して観察される叢状病変が少なかった(図14Aおよび図15A)。HE処置動物における肺血管壁厚も、ビヒクル処置動物と比較して低減した(図14Bおよび図15B)。HE処置群の動物の場合、筋性および半筋性と類別された肺血管のパーセンテージは、ビヒクル処置群より低かった(図14Cおよび図15C)。最後に、HE処置肺は、免疫細胞浸潤が、ビヒクル処置動物と比較して少なかった(データ省略)。
【0207】
Sugen/低酸素モデルのHE処置ラット肺およびビヒクル処置ラット肺からの肺の全トランスクリプトーム解析は、HE処置が病的な血管リモデリングを減弱することを示唆する生理学的データを裏付けた。21日目にラット肺からRNAを収集し、差次的遺伝子発現解析を行った。細胞処置によって≧1.25倍ダウンレギュレートされる遺伝子のパスウェイ解析は、なかんずく平滑筋細胞発生、免疫細胞系浸潤および炎症と関連する遺伝子が、低減されることを示した。逆に、細胞処置によって≧1.25倍アップレギュレートされる遺伝子は、有利な代謝状態、すなわちその混乱がPAH疾患状態と関連する酸化的リン酸化を利する代謝状態と関連した。全体として、これらのデータは、PAHのモデルにおいてHEが、1回の注射につき250万~500万個の用量範囲で、血管抵抗、血管リモデリングおよび心肥大を低減することによってラットを保護することを示唆している。
【0208】
実施例11:HEは肺の微小血管系を修復する
内皮前駆細胞は、MCT処置肺において微小血管系を存続させると報告されている(Zhao et al.Cir.Res.96:442-450(2005))。そこで、Nx対照、ビヒクル、シルデナフィル、ならびに100万個および500万個のGMP1-HE細胞で処置されたSuHxモデルの肺について、マイクロCTスキャンを行った。マイクロCTスキャンにより、遠位細動脈床の一様な充填および正常肺における毛細血管灌流の均一なパターンが明らかになった(図16A)。対照的に、ビヒクルで処置されたSuHx肺は、遠位細動脈床の狭窄および毛細血管の閉塞を示した(図16B)。500万個のHE細胞による処置(図16D)は造影剤注射によって可視化される微小血管系を存続させたが、100万個のHE細胞による処置(図16C)はそうではなかった。500万個のHE細胞では、肺微小血管系の外観の著しい改善が、動脈連続性の保持および毛細血管灌流の強化と共に見られた(図16D)。シルデナフィルの処置は毛細血管灌流に中程度の改善を示した(図16E)。
【0209】
実施例12:HEは治療的に活性である独特な血管内皮フラクションを含有する
上述したHEの単一細胞プロファイリングおよびVECAD+HEフラクションとHUVECの類似性から、おそらくこの亜集団は、HEにPAHにおけるその治療効果を付与する活性成分であることが示唆された。これを検証するために、Sugen/低酸素モデルを用いる別の試験を、250万個の「バルク」または無選別HE細胞、およびVECAD+細胞の磁気選別によって「バルク」HE細胞から精製された250万個のVECAD+HE細胞を使って行った(図17)。VECAD+細胞について選別されたフラクションは、大部分がCD31も発現することを示した(図17)。VECAD+HEは、ビヒクル処置動物と比較して、臨床測定値:mPAP(図18A)、RVSP(図18B)、RVリモデリング(図18C)および心拍出量(図18D)を改善した。肺血管系もビヒクル処置動物と比較して維持され、叢状病変は少なく(図18E)、壁厚は低減し(図18F)、血管筋性化が低減した(図18G)。同様の結果は真正成熟内皮細胞HUVECの送達によっても得られた。
【0210】
J1-HEおよびGMP1-HE中のVECAD+/CD31+集団をFLK1/KDR発現について分析したところ、これらのHEは、CD31+/VECAD+/FLK1+である集団を含むことが示された(図19)。
【0211】
均等物
本明細書に記載する発明の具体的態様の数多くの均等物を、当業者は認識するか、せいぜい日常的な実験を使って確かめることができるであろう。そのような均等物は、下記の特許請求の範囲に包含されることが意図される。本願の全体を通して言及されるすべての参考文献、特許および特許出願公開の内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
図1
図2
図3
図4A
図4B-1】
図4B-2】
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18-1】
図18-2】
図19
【国際調査報告】