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特表2022-547839強度及び低温衝撃靭性に優れた鋼材及びその製造方法
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  • 特表-強度及び低温衝撃靭性に優れた鋼材及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-16
(54)【発明の名称】強度及び低温衝撃靭性に優れた鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20221109BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20221109BHJP
   C22C 38/30 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C21D8/02 B
C22C38/30
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022513935
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(85)【翻訳文提出日】2022-04-05
(86)【国際出願番号】 KR2020011538
(87)【国際公開番号】W WO2021045452
(87)【国際公開日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】10-2019-0109539
(32)【優先日】2019-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ジェ‐ヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ホン‐ジュ
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA06
4K032AA07
4K032AA10
4K032AA12
4K032AA16
4K032AA21
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032BA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CC04
4K032CF01
4K032CF03
(57)【要約】
【課題】高強度及び高硬度に加えて、優れた低温衝撃靭性を有する鋼材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】重量%で、炭素(C):0.8~1.2%、マンガン(Mn):0.1~0.6%、シリコン(Si):0.05~0.5%、リン(P):0.02%以下、硫黄(S):0.01%以下、クロム(Cr):1.2~1.6%、コバルト(Co):1.0~2.0%、残部Fe及びその他の不可避不純物からなることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.8~1.2%、マンガン(Mn):0.1~0.6%、シリコン(Si):0.05~0.5%、リン(P):0.02%以下、硫黄(S):0.01%以下、クロム(Cr):1.2~1.6%、コバルト(Co):1.0~2.0%、残部Fe及びその他の不可避不純物からなることを特徴とする強度及び低温衝撃靭性に優れた鋼材。
【請求項2】
前記鋼材は、重量%で、アルミニウム(Al):0.005~0.5%、チタン(Ti):0.005~0.02%、及び窒素(N):0.01%以下からなる群より選択された1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の強度及び低温衝撃靭性に優れた鋼材。
【請求項3】
前記鋼材は、微細組織として、面積分率20~30%の低温ベイナイト相及び残部マルテンサイト相を含むことを特徴とする請求項1に記載の強度及び低温衝撃靭性に優れた鋼材。
【請求項4】
前記鋼材は、2000MPa以上の引張強度及び0℃で40J以上の衝撃靭性を有することを特徴とする請求項1に記載の強度及び低温衝撃靭性に優れた鋼材。
【請求項5】
前記鋼材は、ロックウェルC硬度が66HRc以上であることを特徴とする請求項1に記載の強度及び低温衝撃靭性に優れた鋼材。
【請求項6】
重量%で、炭素(C):0.8~1.2%、マンガン(Mn):0.1~0.6%、シリコン(Si):0.05~0.5%、リン(P):0.02%以下、硫黄(S):0.01%以下、クロム(Cr):1.2~1.6%、コバルト(Co):1.0~2.0%、残部Fe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを1050~1250℃の温度範囲で加熱する段階と、
前記加熱された鋼スラブを900℃以上で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱間圧延された熱延鋼板を常温まで冷却する段階と、
前記冷却された熱延鋼板を850~950℃の温度範囲に再加熱する段階と、
前記再加熱された熱延鋼板を200~300℃の温度範囲に水冷する段階と、
前記水冷された熱延鋼板を350~450℃の温度範囲でセルフ-テンパリング(self-tempering)熱処理した後、空冷する段階と、を含むことを特徴とする強度及び低温衝撃靭性に優れた鋼材の製造方法。
【請求項7】
前記常温までの冷却は、空冷で行われるものであることを特徴とする請求項6に記載の強度及び低温衝撃靭性に優れた鋼材の製造方法。
【請求項8】
前記水冷は、20~100℃/sの冷却速度で行われるものであることを特徴とする請求項6に記載の強度及び低温衝撃靭性に優れた鋼材の製造方法。
【請求項9】
前記セルフ-テンパリング(self-tempering)熱処理は、前記水冷された熱延鋼板が復熱することで行われるものであることを特徴とする請求項6に記載の強度及び低温衝撃靭性に優れた鋼材の製造方法。
【請求項10】
前記鋼スラブは、重量%で、アルミニウム(Al):0.005~0.5%、チタン(Ti):0.005~0.02%、及び窒素(N):0.01%以下からなる群より選択された1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の強度及び低温衝撃靭性に優れた鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業機械、重装備、工具、建築物などの素材として使用される鋼材に関し、より詳しくは、強度及び低温衝撃靭性に優れた鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超大型産業機械及び重装備の必要性が増大するにつれて、これらの素材として使用される鋼材に対する要求も増加しつつある。
鋼材の燃費及び効率性を高める目的で、従来の鋼材と比べて厚さが同等又はそれ以下でありながらも、強度及び硬度が格段に高い高機能鋼材に対する要求が特に増加している。
さらに、様々な環境での使用のために高機能鋼材に要求される特性の一つとして、低温衝撃靭性がある。
しかしながら、鋼材の機械的特性のうち、強度と低温衝撃靭性は反比例の関係にあるため、鋼材の高強度に加えて、低温衝撃靭性を確保するための技術開発が求められている。
【0003】
一方、低温衝撃靭性を向上させるためには、微細組織の粒度を微細化し、結晶粒界が衝撃によるクラック伝播経路を迂回させることが重要である。通常の産業機械、建築などに使用される厚板材の場合には、通常、熱加工制御(Thermo Mechanical Control Process、TMCP)方法によって、粒度の微細化を図る方法が用いられているが、この方法は主に再結晶停止温度(RST)以下で仕上げ圧延を行ってオーステナイト結晶粒の内部に変形バンドを形成させ、該変形バンドの内部にフェライトを核生成させて粒度を微細化する方法である。
しかし、極厚物鋼材の場合、中心部は、厚さによる低い冷却速度と、圧延時に適用される圧下量が非常に小さいことから、上記の方法による粒度微細化の効果は低く、中心部の衝撃靭性が低下するという問題がある。さらに、圧延後に実施可能なノーマライジング熱処理は、冷却中に粗大なフェライトを形成させ、強度の低下を招き低温衝撃靭性の確保を困難にするという問題がある。
【0004】
衝撃靭性を向上させることができる別の方法として、圧延後にクエンチング(quenching)熱処理を行ってフェライト粒界の代わりにマルテンサイト又は低温ベイナイト組織内のパケット(packet)やラス(lath)の界面を介して有効結晶粒を増大させることでクラック伝播経路を迂回させることができる。このとき、ベイナイト又はマルテンサイトの相変態時に生じる急激な体積変化が原因で、内部応力がクラックの開始又は伝播を却って加速させる虞があるため、通常は後続のテンパリング(tempering)熱処理によって応力を緩和させ、安定的に衝撃靭性を確保する。
このようなクエンチング-テンパリング熱処理は、熱加工制御方法やノーマライジング熱処理に比べて比較的低い水準の衝撃靭性値が得られるが、鋼材の高強度を確保するためには、低温ベイナイト又はマルテンサイト組織が必須なため、高強度鋼材の衝撃靭性を確保するための普遍的な方法として用いられている。
【0005】
しかしながら、このような方法は、鋼材の硬化能を確保するために、多量の合金が添加されることが要求され、熱処理工程が2回(クエンチング-テンパリング)にわたって行われるため、工程コストが上昇するという短所がある。
特許文献1では、炭化物の個数を制御して域変態オーステナイトの核生成場所を提供し、結晶粒を微細化する方法について言及している。しかしながら、炭化物の中でもMC、MC、M、M23といった様々な形態が存在し、MC、MCのような炭化物は、域変態オーステナイト核生成場所を提供するのに有利であるものの、Mのような炭化物は、高温でも安定した形で維持されるため、オーステナイト核生成場所を提供するのに無理がある。したがって、特許文献1のように単に炭化物数の増加が粒度微細化に効果的であるとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2012-0063200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的とするところは、従来の産業機械などの分野で使用されていた鋼材に比べてさらに優れた物性、特に、高強度及び高硬度に加えて、優れた低温衝撃靭性を有する鋼材及びその製造方法を提供することにある。
本発明の課題は、上記の内容に限定されない。本発明の課題は、本明細書の内容全体から理解することができるものであり、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の付加的な課題を理解するのに何の困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の強度及び低温衝撃靭性に優れた鋼材は、重量%で、炭素(C):0.8~1.2%、マンガン(Mn):0.1~0.6%、シリコン(Si):0.05~0.5%、リン(P):0.02%以下、硫黄(S):0.01%以下、クロム(Cr):1.2~1.6%、コバルト(Co):1.0~2.0%、残部Fe及びその他の不可避不純物からなることを特徴とする。
【0009】
本発明の強度及び低温衝撃靭性に優れた鋼材の製造方法は、上記の合金成分を有する鋼スラブを1050~1250℃の温度範囲で加熱する段階と、前記加熱された鋼スラブを900℃以上で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、前記熱間圧延された熱延鋼板を常温まで冷却する段階と、前記冷却された熱延鋼板を850~950℃の温度範囲に再加熱する段階と、前記再加熱された熱延鋼板を200~300℃の温度範囲に水冷する段階と、前記水冷された熱延鋼板を350~450℃の温度範囲でセルフ-テンパリング(self-tempering)熱処理した後、空冷する段階と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、本発明の強度及び低温衝撃靭性に優れた鋼材の製造方法は強度及び硬度が高く、且つ低温衝撃靭性に優れた鋼材を提供することができる。
本発明の鋼材は、様々な環境において使用可能な超大型産業機械、重装備用、工具、建築物用などに好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るクエンチング後のセルフ-テンパリング熱処理工程の模式図を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
従来の産業機械などの分野で使用されていた鋼材は、大型産業機械、重装備用として適用するにはその物性(強度、硬度など)が十分でないという短所があった。さらに、これを解決するために鋼材の合金組成又は製造条件を変更すると、低温靭性が低下するという問題点があった。
そこで、本発明者らは、大型産業機械、重装備用として使用するのに好適な水準の物性(強度、硬度)を有しながら、低温衝撃靭性に優れた鋼材を開発するために鋭意研究した。その結果、合金組成と製造条件を最適化しながら、意図する物性の確保に有利な微細組織を形成することで、引張強度2000MPa以上の超高強度で且つ低温衝撃靭性に優れた鋼材を提供することができることを確認し、本発明を完成するに至った。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明の一側面による強度及び低温衝撃靭性に優れた鋼材は、重量%で、炭素(C):0.8~1.2%、マンガン(Mn):0.1~0.6%、シリコン(Si):0.05~0.5%、リン(P):0.02%以下、硫黄(S):0.01%以下、クロム(Cr):1.2~1.6%、コバルト(Co):1.0~2.0%、残部Fe及びその他の不可避不純物からなる。
以下では、本発明で提供する鋼板の合金組成を上記のように制限する理由について詳細に説明する。
一方、本発明において特に言及しない限り、各元素の含量は重量を基準とし、組織の割合は面積を基準とする。
【0014】
炭素(C):0.8~1.2%
炭素(C)は、鋼材の強度の確保に最も大きな影響を及ぼす元素であり、その含量は適正に制御される必要がある。
上記Cの含量が0.8%未満であると、鋼材の強度が過度に低くなり、本発明で目標とする産業機械などの素材として使用することが困難になる。一方、その含量が1.2%を超えると、強度が過度に増加し、低温靭性及び溶接性が低下するという問題がある。
よって、上記Cは0.8~1.2%の範囲で含むことがよく、より好ましくは、0.85~1.15%で含むことである。
【0015】
マンガン(Mn):0.1~0.6%
マンガン(Mn)は、鋼の硬化能を高めて鋼板の強度を確保するのに有利な元素である。本発明では、一定量以上のC及びCrを含有することで、鋼の硬化能を十分に確保できるようになるため、相対的にMnの含量を低減することができる。
上記Mnは、鋼材の厚さ中心部に偏析される傾向にあり、このように、Mnが偏析された部位は、衝撃靭性が低下し、脆性組織が形成されやすくなるという問題がある。これを考慮して、Mnを0.6%以下で含むことがよい。但し、その含量が過度に低いと、C、Crなどの成分だけでは、目標水準の強度と硬化能を確保することができなくなるため、これを考慮して、0.1%以上で含むことが好ましい。
よって、上記Mnは0.1~0.6%の範囲で含むことがよく、より好ましくは、0.2~0.5%である。
【0016】
シリコン(Si):0.05~0.5%
シリコン(Si)は、鋼の強度を高め、溶鋼の脱酸のために必須の元素である。但し、上記Siは、不安定なオーステナイトが分解されるとき、セメンタイトが形成されるのを抑制することで、島状マルテンサイト(MA)組織を促進させ、低温衝撃靭性を大きく阻害するという問題がある。
よって、Siによる効果を得るとともに、低温衝撃靭性が低下するという問題を考慮して、0.5%以下に制限する。一方、このようなSiの含量を過度に低減するには鋼の精錬過程において高コストがかかり、経済的な損失につながる虞があるため、これを考慮して、0.05%以上の範囲とすることがよい。
【0017】
リン(P):0.02%以下
リン(P)は、鋼の強度の向上及び耐食性の確保に有利な元素であるが、衝撃靭性を大きく阻害する元素であるため、なるべく低く制御することが好ましい。
本発明は、上記Pを最大0.02%で含有しても、意図する物性の確保に大きな支障がないため、上記Pの含量を0.02%以下に制限する。但し、不可避に添加される水準を考慮して、0%は除くこととする。
【0018】
硫黄(S):0.01%以下
硫黄(S)は、鋼中のMnと結合してMnSのような非金属介在物を形成し、鋼の衝撃靭性を大きく阻害する元素である。よって、上記Sも、なるべく低く制御することが好ましい。
本発明は、上記Sを最大0.01%で含有しても、意図する物性の確保に大きな支障がないため、上記Sの含量を0.01%以下に制限する。但し、不可避に添加される水準を考慮して、0%は除くこととする。
【0019】
クロム(Cr):1.2~1.6%
クロム(Cr)は、鋼の硬化能を高め、強度の向上に大きな効果を有する元素である。特に、本発明では、C及びCrの添加により鋼の硬化能を十分に向上させるために、上記Crを1.2%以上の範囲で含むことがよい。但し、その含量が1.6%を超えて過度に多いと、溶接性が大きく低下するという問題がある。
よって、上記Crは1.2~1.6%の範囲で含むことがよく、より好ましくは、1.3~1.55%である。
【0020】
コバルト(Co):1.0~2.0%
コバルト(Co)は、本発明で目標とする物性の確保に有利な微細組織を形成する元素であり、特に、下部ベイナイト(lower bainite)の生成に核心的な役割を果たす元素である。
また、本発明のように、一定量以上のC及びCrを添加する鋼の場合、冷却中に生成されるパーライト及び上部ベイナイト(upper bainite)の変態開始点を下げ、マルテンサイトの生成を容易にする効果がある。この場合、下部ベイナイトの変態開始点も下げるようになる。
このようなCoを一定量以上で含有すると、下部ベイナイトの変態開始が促進され、最終組織で一定分率の下部ベイナイトが生成されることができるため、マルテンサイト組織だけでは限界があった低温衝撃靭性を効果的に確保できる。
【0021】
さらに、上記Coは、最終微細組織中で固溶強化又は析出強化の効果が高いことから、強度の向上にも有利な元素である。
上記の効果を十分に得るためには、上記Coを1.0%以上で含むことが好ましいが、高価でもあり、過度に添加すると、経済性が悪化するため、これを考慮して、2.0%以下に制限する。
よって、上記Coは、1.0~2.0%の範囲で含むことがよく、より好ましくは、1.2~1.8%である。
【0022】
本発明の鋼材は、上記の合金成分以外に、鋼材の物性をより有利に確保するための観点から、次の成分をさらに含むことが好ましい。
アルミニウム(Al):0.005~0.5%、チタン(Ti):0.005~0.02%、及び窒素(N):0.01%以下からなる群より選択された1種以上。
【0023】
アルミニウム(Al)は、溶鋼を安価に脱酸するのに効果的な元素であり、よって、0.005%以上で含むことがよい。但し、その含量が0.5%を超えると、連続鋳造時にノズル閉塞を招く問題があり、固溶したAlが溶接部に島状マルテンサイト相を形成させるため、溶接部の靭性が低下する虞がある。
【0024】
チタン(Ti)は、鋼中の窒素(N)と結合して微細な窒化物を形成し、溶接溶融線の近くで発生し得る結晶粒の粗大化を緩和させることで、靭性の低下を抑制する効果を有する。このようなTiの含量が過度に低いと、Ti窒化物の数が足りず、結晶粒粗大化の抑制効果が不十分になるため、これを考慮して、0.005%以上で含むことが好ましい。但し、過度に多く添加されると、粗大なTi窒化物が生成され、結晶粒界の固着効果が低下するという問題があるため、これを考慮して、0.02%以下に制限する。
【0025】
窒素(N)は、鋼中のTiと結合して微細な窒化物を形成し、溶接溶融線の近くで発生し得る結晶粒の粗大化を緩和させることで、靭性の低下を抑制する。しかしながら、その含量が過度に多いと、靭性が大きく減少するため、これを考慮して、0.01%以下に制限する。Nの添加時、0%は除く。
【0026】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば、誰でも周知のものであるため、その全ての内容を特に本明細書では言及しない。
【0027】
上記の合金成分を有する本発明の鋼材は、微細組織として、低温ベイナイト相及びマルテンサイト相を含むことができる。
具体的には、上記低温ベイナイト相とは、下部ベイナイト相を意味し、面積分率を20~30%で含むことができ、残部組織として、マルテンサイト相を含むことが好ましい。
上記低温ベイナイト相の分率が20%未満であると、鋼の低温衝撃靭性を十分に確保しにくくなり、その分率が30%を超えると、相対的にマルテンサイト相の分率が低くなるため、目標水準の強度を確保できなくなる。
上記のとおり、本発明の鋼材は、マルテンサイト相以外に低温ベイナイト(下部ベイナイト)相を一定分率で含むことで、マルテンサイト相のみでは確保が困難であった低温衝撃靭性を向上させることができる。
よって、本発明の鋼材は、2000MPa以上の引張強度に加えて、0℃で40J以上の衝撃靭性を有する効果とともに、66HRc以上のロックウェルC硬度を確保することができる。
【0028】
以下、本発明の他の一側面である強度及び低温衝撃靭性に優れた鋼材を製造する方法について詳細に説明する。
本発明の鋼材は、本発明で提案する合金成分を満たす鋼スラブを[加熱-熱間圧延-冷却-再加熱(reheating)-水冷]の工程を経て製造することができ、特に、本発明は、上記の水冷後、セルフ-テンパリング(self-tempering)により最終的に意図する微細組織を確保することができる、
以下では、それぞれの工程条件について詳細に説明する。
【0029】
[鋼スラブ加熱]
本発明では、熱間圧延を行う前に、鋼スラブを加熱して鋳造中に形成されたTi又はMn化合物を固溶させることができ、このとき、1050~1250℃の温度範囲で加熱工程を行う。
上記鋼スラブの加熱温度が1050℃未満であると、化合物が十分に再固溶できず、粗大な化合物が残存するようになる。一方、その温度が1250℃を超えると、オーステナイト結晶粒の異常粒成長によって強度が低下するため、好ましくない。
【0030】
[熱間圧延]
上記加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板として製造することができ、このとき、通常の条件で粗圧延した後、一定の温度で仕上げ熱間圧延を行うことができる。
本発明の場合、熱間圧延して得られた熱延鋼板に対して再加熱(reheating)を行うため、上記仕上げ熱間圧延時における温度については特に限定しない。但し、その温度が過度に低いと、熱間圧延の負荷が増大し、 鋼帯の形状が悪くなる傾向があるため、これを考慮して、900℃以上で仕上げ熱間圧延を行うことがよい。
【0031】
[冷却及び再加熱(reheating)]
上記のとおり製造された熱延鋼板を常温まで空冷した後、クエンチング(quenching)熱処理のために、一定分率のオーステナイトが生成される温度まで再加熱を行う。
上記再加熱に際しては、その温度が高いほど粒度は大きくなり、硬化能が増大するため、再加熱温度が高いほど、強度の確保には有利になる。但し、その温度が過度に高くなると、オーステナイトの粒度が過度に粗大となり、低温衝撃靭性が低下するという問題がある。よって、本発明では、上記再加熱に際しては、850~950℃の温度範囲で行われることがよい。
上記の温度で熱延鋼板を再加熱した後には、鋼の内部まで熱が十分に伝わるように維持することがよく、上記熱延鋼板の厚さに応じて適宜選択することが好ましいため、このときの維持時間については特に限定しないが、オーステナイト相変態及び結晶粒成長が十分に進行するように、20分以上行うことが好ましい。
【0032】
[水冷及びセルフ-テンパリング(self-tempering)熱処理]
上記の再加熱により熱延鋼板の内部に十分に熱を伝えた後、水冷によって急冷してから、セルフ-テンパリング熱処理を行う。
上記水冷は、20~100℃/sの冷却速度で行われることがよく、後続工程であるセルフ-テンパリング熱処理のために、200~300℃の温度範囲で終了することができる。
上記水冷時の冷却速度が20℃/s未満であると、冷却中にベイナイト相が過度に形成される虞があり、100℃/sを超えると、鋼板の表面と中心部間の冷却偏差によってばらつきが発生する虞がある。
【0033】
上記冷却終了温度が200℃未満であると、熱延鋼板内の熱が不十分となり、後続のセルフ-テンパリング熱処理が十分に行われず、その温度が300℃を超えると、冷却中に生成するベイナイト相の面積分率が過度に高くなり、最終組織でマルテンサイト相が不十分となる虞がある。
上記の温度範囲に水冷された熱延鋼板では、復熱が発生して温度が高くなり、350~450℃の温度範囲でセルフ-テンパリング(self-tempering)熱処理が行われることになる(図1)。
【0034】
セルフ-テンパリング熱処理に際して、鋼材の表層部(一例として、表面から鋼材の厚さ(t,mm)方向に1/4t領域を称する。)は、水冷(クエンチング)中に生成された一定分率(面積%)のマルテンサイト組織がテンパリングを経るとき、内部の応力が緩和されながら小幅の強度低下と同時に、衝撃靭性の向上が図られる。また、残部オーステナイト組織では、下部ベイナイトへの変態が発生するが、このとき、ベイナイト変態発熱が発生するため、鋼板の外部で測定される復熱温度の一部がさらに上昇する。
一方、セルフ-テンパリング熱処理に際して、鋼材の中心部(上記表層部を除いた残りの領域をいう。)は、表層部に比べて高い温度で冷却が停止されるため、相対的に低いマルテンサイト分率を有する状態となる。このような中心部は、冷却を終了した直後には温度が上昇しないものの、一定時間が経過すると、下部ベイナイト変態が開始するようになり、変態発熱により既に生成されたマルテンサイト組織がテンパリングされて衝撃靭性が向上する。
【0035】
セルフ-テンパリング熱処理によって鋼材が復熱する最高温度(最高復熱温度)は、冷却終了温度及び変態した下部ベイナイト分率によって決定されるが、過度な復熱によりその温度が450℃を超えると、マルテンサイトのテンパリングが過度になり、目標とする強度を確保できなくなる。一方、復熱温度が350℃未満と低くなると、内部応力の緩和が不十分となり、衝撃靭性の向上が得られなくなる。
【0036】
上記の温度範囲でのセルフ-テンパリング熱処理時において、その時間は、特に限定されないが、通常、最高復熱温度から常温に至るまでの時間が30~300分であることから、この範囲内で行われることができる。
上述したセルフ-テンパリング熱処理を完了した後、常温まで空冷することで、最終鋼材を得ることができる。
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。但し、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものに過ぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではないということに留意する必要がある。本発明の権利範囲は特許請求の範囲に記載の事項と、それから合理的に類推される事項によって決まるものである。
【実施例
【0038】
下記表1に示した合金成分を有する鋼スラブを準備した後、これらを下記表2に示した条件で各工程を経て熱延鋼板を製造した。
各熱延鋼板に対して、幅方向に引張試片を採取した後、微細組織を観察し、常温(約25℃)引張強度と低温(0℃)衝撃靭性を測定した。このとき、微細組織は、光学顕微鏡を用いて×200倍率で観察した後、ASTM E562規格に準拠したポイントカウント(point count)法を適用して、各相(phase)の面積分率を測定した。低温衝撃靭性は、シャルピー衝撃試験機を用いて測定した。
また、上記引張試片の表面(表層部の表面)に対しては、ロックウェル硬度計を用いてロックウェルC硬度を測定した。
【0039】
それぞれの結果を下記表3に示した。
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
上記表1~3に示したとおり、本発明で提案する合金成分及び製造条件を全て満たす発明例1~3では、引張強度2000MPa以上の超高強度に加えて、66HRc以上の高硬度を有するとともに、0℃での衝撃靭性が40J以上となっており、優れた低温衝撃靭性を確保できることが分かった。
一方、比較例1では、合金組成が本発明を満たしているものの、工程条件のうち仕上げ熱間圧延温度が過度に低く、未再結晶域圧延によりオーステナイト結晶粒が圧延方向の垂直方向に過度に微細化され、以降の再加熱時に生成される逆変態オーステナイト粒度にも影響を及ぼしたため、鋼材の硬化能が低下し、十分な分率のマルテンサイト相が生成されなかった。その結果、鋼材の引張強度及び硬度が低下した。
【0043】
比較例2では、再加熱温度が過度に高く、オーステナイト粒度が粗大化して最終微細組織の有効結晶粒が増大するようになり、これによって、衝撃靭性が低下した。一方、比較例4は、再加熱温度が過度に低い場合であって、オーステナイト粒度が過度に減少して鋼材の硬化能が低下するようになり、これによって、十分な分率のマルテンサイト相が生成されず、その結果、引張強度及び硬度が低下した。
比較例3は、スラブ加熱時の温度が過度に低い場合であって、一部の合金元素が固溶できず、その結果、強度が低下する問題が発生した。
【0044】
比較例5は、再加熱後の冷却時における冷却終了温度が過度に低い場合であって、マルテンサイト分率が過度に高くなったことから、強度及び硬度の確保は可能である一方、低温靭性が劣っていた。
比較例6では、セルフ-テンパリング時において温度が過度に上昇することで、以前に生成されたマルテンサイト組織の緩みが過度に発生し、その結果、強度及び硬度が低下した。
【0045】
比較例7及び8は、Nbが添加されることによって相対的にC含有量が減少した鋼を用いた場合であって、本発明の工程条件に従っているにもかかわらず、強度及び硬度が大きく低下したことが確認できた。
比較例9及び10は、鋼中のCoが添加されていない場合であって、再加熱後の冷却時の冷却速度に応じてマルテンサイト組織が不十分又は過度に生成され、その結果、比較例9では強度及び硬度が低下し、比較例10では衝撃靭性が低下したことが確認できた。
比較例11及び12は、鋼中のMnとCrが過度に添加された場合であって、マルテンサイト組織が過度に生成され、目標とした強度及び硬度は得られたが、衝撃靭性が低下した結果となった。
図1
【国際調査報告】