(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-16
(54)【発明の名称】培養液中における改善された残存率を有する遺伝子操作されたT細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20221109BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221109BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20221109BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20221109BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20221109BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20221109BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20221109BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221109BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20221109BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20221109BHJP
【FI】
C12N5/0783 ZNA
C12N5/10
C12N15/09 110
C12N15/62 Z
C12N15/12
C12N15/13
A61K35/17 Z
A61P35/00
A61P37/04
C12N15/113 130Z
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022514539
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(85)【翻訳文提出日】2022-04-28
(86)【国際出願番号】 IB2020058280
(87)【国際公開番号】W WO2021044378
(87)【国際公開日】2021-03-11
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518370079
【氏名又は名称】クリスパー セラピューティクス アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100203828
【氏名又は名称】喜多村 久美
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン アレクサンダー テレット
(72)【発明者】
【氏名】デメトリオス カライツィディス
(72)【発明者】
【氏名】ハンスペーター ウォルドナー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC12
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB65
4C087NA05
4C087NA06
4C087NA14
4C087ZB26
(57)【要約】
操作されていないT細胞対応物と比較して、以下の特徴:(a)培養液中における向上した拡大能力、(b)向上した増殖能力、(c)低減したアポトーシス、及び(d)向上した活性化頻度の1つ以上を有する遺伝子操作されたT細胞を含むT細胞バンク。こうした遺伝子操作されたT細胞は、(i)細胞の自己再生に関与する変異遺伝子、(ii)アポトーシスに関与する破壊された遺伝子、(iii)T細胞の疲弊の制御に関与する破壊された遺伝子、又は(iv)(i)~(iii)のいずれか1つの組み合わせを含み得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子操作されたT細胞の集団であって、
(i)細胞の自己再生に関与する破壊された遺伝子、
(ii)アポトーシスに関与する破壊された遺伝子、
(iii)T細胞の疲弊の制御に関与する破壊された遺伝子、又は
(iv)(i)~(iii)のいずれか1つの組み合わせ
を含み、操作されていないT対応物と比較して、以下の特徴:(a)培養液中における向上した拡大能力、(b)向上した増殖能力、(c)低減したアポトーシスレベル、及び(d)向上した活性化頻度の1つ以上を有する、遺伝子操作されたT細胞の集団。
【請求項2】
前記T細胞は、(i)~(iii)の組み合わせを含む、請求項1に記載の遺伝子操作されたT細胞の集団。
【請求項3】
(i)は、TET2を含み、任意選択的に、前記遺伝子操作されたT細胞は、(ii)、(iii)又は両方を含まない、請求項1又は2に記載の遺伝子操作されたT細胞の集団。
【請求項4】
前記破壊されたTET2は、エクソン1、エクソン3、エクソン4、エクソン5及びエクソン6又はこれらの組み合わせからなる群から選択されるエクソン中で遺伝子編集され、任意選択的に、前記変異したTET2は、エクソン3、エクソン4、エクソン5又はエクソン6中で遺伝子編集される、請求項1~3のいずれか一項に記載の遺伝子操作されたT細胞の集団。
【請求項5】
前記破壊されたTET2遺伝子は、CRISPR/Cas媒介遺伝子編集によって遺伝子編集される、請求項1~4のいずれか一項に記載の遺伝子操作されたT細胞の集団。
【請求項6】
前記破壊されたTET2遺伝子は、配列番号14、18、22、26、112、116又は120のヌクレオチド配列を含むガイドRNA(gRNA)を用いるCRISPR/Cas媒介遺伝子編集によって遺伝子編集される、請求項5に記載の遺伝子操作されたT細胞の集団。
【請求項7】
(ii)は、FASを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の遺伝子操作されたT細胞の集団。
【請求項8】
(iii)は、CD70を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の遺伝子操作されたT細胞の集団。
【請求項9】
前記破壊されたFAS及び/又はCD70遺伝子は、CRISPR/Cas媒介遺伝子編集によって遺伝子編集される、請求項7又は8に記載の遺伝子操作されたT細胞の集団。
【請求項10】
前記破壊されたFAS遺伝子は、配列番号69、73、77、81又は85のヌクレオチド配列を含むガイドRNA(gRNA)を用いるCRISPR/Cas媒介遺伝子編集によって遺伝子編集され、及び/又は前記破壊されたCD70遺伝子は、配列番号34、38、42、46、50、54又は58のヌクレオチド配列を含むgRNAを用いるCRISPR/Cas媒介遺伝子編集によって遺伝子編集される、請求項9に記載の遺伝子操作されたT細胞の集団。
【請求項11】
前記T細胞は、破壊されたβ-2-ミクログロブリン(β2M)遺伝子を更に含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の遺伝子操作されたT細胞の集団。
【請求項12】
前記T細胞は、破壊されたT細胞受容体α鎖定常領域(TRAC)遺伝子を更に含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の遺伝子操作されたT細胞の集団。
【請求項13】
前記T細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように更に操作される、請求項1~12のいずれか一項に記載の遺伝子操作されたT細胞の集団。
【請求項14】
前記CARは、腫瘍抗原を標的化する、請求項13に記載の遺伝子操作されたT細胞の集団。
【請求項15】
前記腫瘍抗原は、CD19、B細胞成熟抗原(BCMA)又はCD70である、請求項14に記載の遺伝子操作されたT細胞の集団。
【請求項16】
前記T細胞は、前記CARをコードする核酸を含み、前記核酸は、前記T細胞のゲノムに挿入される、請求項13~15のいずれか一項に記載の遺伝子操作されたT細胞の集団。
【請求項17】
前記破壊されたTRAC遺伝子は、前記キメラ抗原受容体をコードする前記ヌクレオチド酸の挿入を有する、請求項16に記載の遺伝子操作されたT細胞の集団。
【請求項18】
前記T細胞は、1つ以上のヒトドナーの初代T細胞から誘導される、請求項1~17のいずれか一項に記載の遺伝子操作されたT細胞の集団。
【請求項19】
前記T細胞は、サイトカイン依存性の成長を示す、請求項1~18のいずれか一項に記載の遺伝子操作されたT細胞の集団。
【請求項20】
請求項1~10のいずれか一項に記載の遺伝子操作されたT細胞の集団を調製するための方法であって、
(a)T細胞又はその前駆細胞である複数の細胞を提供することと、
(b)前記(i)~(iii)の遺伝子の1つ以上を遺伝子編集することと、
(c)前記遺伝子操作されたT細胞の集団を生成することと
を含む方法。
【請求項21】
工程(b)は、前記複数の細胞に、RNA誘導型ヌクレアーゼ及び前記(i)~(iii)の遺伝子の1つ以上を標的化する1つ以上のgRNAを送達することによって実施される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
(i)は、TET2を含み、任意選択的に、TET2を標的化する前記gRNAは、エクソン1、エクソン3、エクソン4、エクソン5及びエクソン6からなる群から選択される前記TET2遺伝子のエクソンに特異的である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
TET2を標的化する前記ガイドRNA(gRNA)は、配列番号14、18、22、26、112、116又は120のヌクレオチド配列を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
(ii)は、FASを含む、請求項20~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
(iii)は、CD70を含む、請求項20~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
FASを標的化する前記gRNAは、配列番号69、73、77、81又は85のヌクレオチド配列を含み、及び/又はCD70を標的化する前記gRNAは、配列番号34、38、42、46、50、54又は58のヌクレオチド配列を含む、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
工程(a)の前記細胞は、1つ以上のヒトドナーの初代T細胞である、請求項20~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
工程(b)において、(i)~(iii)の組み合わせを標的化するgRNAは、前記細胞に送達される、請求項20~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
工程(b)において、前記RNA誘導型ヌクレアーゼは、Cas9ヌクレアーゼである、請求項20~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記Cas9ヌクレアーゼは、S.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9ヌクレアーゼである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記RNA誘導型ヌクレアーゼ及び前記1つ以上のgRNAは、リボ核タンパク質粒子(RNP)中で複合体を形成する、請求項20~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
工程(b)は、単一のエレクトロポレーションイベントによって実施される、請求項20~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
工程(b)は、2つの逐次的なエレクトロポレーションイベントによって実施される、請求項20~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
キメラ抗原受容体(CAR)を発現する遺伝子操作されたT細胞を調製するための方法であって、
(a)請求項1~10のいずれか一項に記載の遺伝子操作されたT細胞を含む細胞バンクから複数のT細胞を提供することと、
(b)前記複数の前記T細胞に、CARをコードする核酸を送達することと、
(c)前記CARを発現する遺伝子操作されたT細胞を生成することと
を含む方法。
【請求項35】
前記細胞バンク中の前記遺伝子操作されたT細胞は、破壊されたβ2M遺伝子を更に含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
β2M遺伝子を遺伝子編集することを更に含む、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記遺伝子編集工程は、前記複数の前記T細胞に、β2M遺伝子を標的化するgRNAを送達することを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記細胞バンク中の前記遺伝子操作されたT細胞は、破壊されたTRAC遺伝子を更に含む、請求項34~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
TRAC遺伝子を遺伝子編集することを更に含む、請求項34~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記細胞バンク中の前記遺伝子操作されたT細胞は、1つ以上のヒトドナーの初代T細胞から誘導される、請求項34~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
RNA誘導型ヌクレアーゼは、前記T細胞に送達される、請求項34~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記RNA誘導型ヌクレアーゼは、Cas9ヌクレアーゼである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記Cas9ヌクレアーゼは、S.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9ヌクレアーゼである、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記RNA誘導型ヌクレアーゼ及び前記gRNAは、リボ核タンパク質粒子(RNP)中で複合体を形成する、請求項41~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
請求項20~44のいずれか一項に記載の方法によって調製される、遺伝子操作されたT細胞集団。
【請求項46】
対象中の望ましくない細胞を消失させるための方法であって、前記望ましくない細胞を標的化するキメラ抗原受容体を発現するT細胞を、それを必要とする対象に投与することを含み、前記T細胞は、請求項1~19又は45のいずれか一項に記載される、方法。
【請求項47】
前記望ましくない細胞は、癌細胞である、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
TET2遺伝子を標的化するガイドRNA(gRNA)であって、前記TET2遺伝子のエクソン3又はエクソン5に特異的なヌクレオチド配列を含むガイドRNA(gRNA)。
【請求項49】
エクソン5に特異的なヌクレオチド配列を含む、請求項48に記載のgRNA。
【請求項50】
前記ヌクレオチド配列は、前記TET2遺伝子のエクソン5中のGGGATGTCCTATTGCTAAGT(配列番号125)又はAGGGATGTCCTATTGCTAAG(配列番号126)の部位を標的化する、請求項49に記載のgRNA。
【請求項51】
前記ヌクレオチド配列は、配列番号18又は22を含む、請求項50に記載のgRNA。
【請求項52】
前記TET2遺伝子のエクソン3を標的化するヌクレオチド配列を含む、請求項48に記載のgRNA。
【請求項53】
前記ヌクレオチド配列は、前記TET2遺伝子のエクソン3中のGATTCCGCTTGGTGAAAACG(配列番号129)、CAGGACTCACACGACTATTC(配列番号131)又はTTCCGCTTGGTGAAAACGAG(配列番号133)を標的化する、請求項52に記載のgRNA。
【請求項54】
配列番号112、116又は120のヌクレオチド配列を含む、請求項53に記載のgRNA。
【請求項55】
前記TET2遺伝子のエクソン4を標的化するヌクレオチド配列を含む、請求項48に記載のgRNA。
【請求項56】
前記ヌクレオチド配列は、前記TET2遺伝子のエクソン4中のCATTAGGACCTGCTCCTAGA(配列番号124)を標的化する、請求項55に記載のgRNA。
【請求項57】
配列番号14のヌクレオチド配列を含む、請求項56に記載のgRNA。
【請求項58】
前記TET2遺伝子のエクソン6を標的化するヌクレオチド配列を含む、請求項48に記載のgRNA。
【請求項59】
前記ヌクレオチド配列は、前記TET2遺伝子のエクソン6中のACGGCACGCTCACCAATCGC(配列番号127)を標的化する、請求項58に記載のgRNA。
【請求項60】
配列番号26のヌクレオチド配列を含む、請求項59に記載のgRNA。
【請求項61】
足場配列を更に含む、請求項48~60のいずれか一項に記載のgRNA。
【請求項62】
1つ以上の修飾されたヌクレオチドを含む、請求項48~61のいずれか一項に記載のgRNA。
【請求項63】
前記gRNAの5’及び/又は3’末端に1つ以上の2’-O-メチルホスホロチオエート残基を含む、請求項62に記載のgRNA。
【請求項64】
配列番号12、13、16、17、20、21、24、25、114、115、118、119、122又は123のヌクレオチド配列を含む、請求項61~63のいずれか一項に記載のgRNA。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年9月6日出願の米国仮特許出願第62/897,016号明細書、2019年10月30日出願の米国仮特許出願第62/927,764号明細書及び2020年6月4日出願の米国仮特許出願第63/034,646号明細書に対する優先権の利益を主張する。先行出願の各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法は、遺伝子修飾されたT細胞を使用して、癌細胞をより特異的且つ効率的に標的化して死滅させる。T細胞が血液から回収された後、この細胞は、その表面上にCARを含むように操作される。CARは、CRISPR/Cas9遺伝子編集技術を使用してT細胞に導入され得る。これらの同種異系CAR T細胞が患者に注射されると、受容体は、T細胞が癌細胞を死滅させることを可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
培養液中における改善された残存率を有するT細胞がCAR-T療法に望まれている。こうしたT細胞は、インビトロ及びインビボの両方でより長期間生存し、それによってCAR-T細胞の製造及び臨床応用における利益を付与する。しかしながら、培養液中のT細胞の残存率を改善することは、依然として困難である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、少なくとも部分的に、細胞培養中のT細胞の残存率を改善するために、特定の遺伝子(例えば、TET2などの細胞の自己再生、FASなどのアポトーシス、CD70などのT細胞の疲弊若しくは複製老化又はこれらの組み合わせに関与する遺伝子)の遺伝子編集を有するT細胞を含むT細胞バンクの開発に基づく。本明細書に開示される遺伝子編集されたT細胞は、培養液中における向上した細胞拡大及び増殖能力、低減したアポトーシス(例えば、FASリガンドによって誘発される)、向上した活性化頻度(例えば、向上した細胞傷害性)並びに動物モデルにおける向上したCAR-T有効性(例えば、より長期の残存性を介して)を示した。例えば、破壊されたTET2遺伝子を有するCAR-T細胞は、インビトロでの成長の優位性及びCAR-T濃縮効果の両方を示し、CAR-T細胞が、液性腫瘍及び固形腫瘍の両方を有する動物モデル中でより長期間残存することを可能にする。更に、破壊されたTET2遺伝子を有する遺伝子編集T細胞は、安全性を示唆するサイトカイン依存性の成長を示した。こうしたT細胞バンク(例えば、破壊されたTET2遺伝子を有する)は、治療用T細胞、例えばCAR-T細胞を作製するために用いることができる。
【0005】
従って、本開示の1つの態様は、(i)細胞の自己再生に関与する変異遺伝子、(ii)アポトーシスに関与する破壊された遺伝子、(iii)T細胞の疲弊の制御若しくは複製老化に関与する破壊された遺伝子、又は(iv)(i)~(iii)のいずれか1つの組み合わせを含む、遺伝子操作されたT細胞の集団(T細胞バンク)を提供する。遺伝子操作されたT細胞の集団は、操作されていないT対応物と比較して、以下の優れた特徴:(a)培養液中における向上した拡大能力、(b)向上した増殖能力、(c)低減したアポトーシスレベル、及び(d)向上した活性化頻度の1つ以上を有する。本明細書に開示されるT細胞バンクは、1つ以上のドナー、例えば1つ以上のヒトドナーの初代T細胞から誘導され得る。
【0006】
いくつかの実施形態では、細胞の自己再生に関与する遺伝子は、TET2遺伝子を含み得る。変異TET2遺伝子は、官能性TET2タンパク質を発現しない破壊されたTET2遺伝子であり得る。代わりに、変異TET2遺伝子は、TET2の切断型(例えば、170kDa前後の分子量を有する切断型)を発現する調節されたTET2遺伝子であり得る。変異TET2遺伝子のいずれも、例えば、TET2遺伝子中の所望の部位(コード領域又は非コード領域のいずれか)を標的化するガイドRNA(gRNA)を用いたCRISPR/Cas媒介遺伝子編集によって遺伝子編集され得る。いくつかの例では、変異TET2遺伝子は、エクソン1、エクソン3、エクソン4、エクソン5及びエクソン6の1つ以上で1つ以上の遺伝子編集イベントを有し得る。具体的な例では、変異TET2遺伝子は、配列番号14、18、22、26、112、116又は120を含むgRNAを用いて遺伝子編集される。
【0007】
いくつかの実施形態では、アポトーシスに関与する遺伝子は、FASを含み得、及び/又はT細胞の疲弊に関与する遺伝子は、CD70を含み得る。こうした遺伝子は、例えば、CRISPR/Cas媒介遺伝子編集を介して破壊され得る。FASを標的化する例示的なgRNAは、配列番号69、73、77、81又は85を含み得る。CD70を標的化する例示的なgRNAは、配列番号34、38、42、46、50、54又は58を含み得る。
【0008】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される遺伝子操作されたT細胞の集団は、細胞の自己再生に関与する少なくとも1つの変異遺伝子(例えば、TET2)、アポトーシスに関与する少なくとも1つの遺伝子(例えば、FAS)及び/又はT細胞の疲弊に関与する少なくとも1つの遺伝子(例えば、CD70)の組み合わせを含み得る。
【0009】
本明細書に開示される遺伝子操作されたT細胞の集団のいずれも、破壊されたβ-2-ミクログロブリン(β2M)遺伝子、破壊されたT細胞受容体α鎖定常領域(TRAC)遺伝子又はこれらの組み合わせを更に含み得る。いくつかの実施形態では、T細胞は、例えば、CARをコードする核酸を含むキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように更に操作され得る。いくつかの例では、核酸がT細胞のゲノムに挿入される。特定の例では、遺伝子操作されたT細胞は、キメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド酸が挿入され得る、破壊されたTRAC遺伝子を有し得る。いくつかの実施形態では、CARは、腫瘍抗原を標的化し得る。例としては、CD19、B細胞成熟抗原(BCMA)又はCD70が挙げられる。
【0010】
別の態様では、本開示は、本明細書に開示されるT細胞バンクを調製するための方法を提供する。こうした方法は、(a)T細胞又はその前駆細胞である複数の細胞を提供することと、(b)細胞の自己再生に関与する少なくとも1つの遺伝子(例えば、TET2)、アポトーシスに関与する少なくとも1つの遺伝子(例えば、FAS)及び/又はT細胞の疲弊の制御に関与する少なくとも1つの遺伝子(例えば、CD70)を遺伝子編集することと、(c)遺伝子操作されたT細胞の集団を生成することとを含み得る。
【0011】
いくつかの実施形態では、工程(a)のT細胞は、1つ以上の好適なドナー、例えば1つ以上のヒトドナーから誘導され得る。いくつかの実施形態では、T細胞は、サイトカイン依存性の成長を示す。
【0012】
いくつかの実施形態では、工程(b)は、(a)の細胞に、1つ以上のRNA誘導型ヌクレアーゼ及び本明細書に開示される1つ以上の標的遺伝子に特異的な1つ以上のgRNAを送達することによって実施され得る。いくつかの例では、RNA誘導型ヌクレアーゼは、Cas9ヌクレアーゼ、例えばS.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9ヌクレアーゼであり得る。いくつかの例では、RNA誘導型ヌクレアーゼ及び1つ以上のgRNAは、リボ核タンパク質粒子(RNP)中で複合体を形成することができる。工程(b)は、単一のエレクトロポレーションイベントによって実施され得る。代わりに、工程(b)は、2つの逐次的なエレクトロポレーションイベントによって実施され得る。
【0013】
いくつかの実施形態では、標的遺伝子は、TET2を含む。例示的なTET2を標的化するgRNAは、TET2遺伝子のエクソン1、エクソン3、エクソン4、エクソン5及び/又はエクソン6に特異的であり得る。こうしたgRNAは、配列番号14、18、22又は26のヌクレオチド配列を含み得る。代わりに又は加えて、標的遺伝子は、FAS及び/又はCD70を含み得る。FASを標的化する例示的なgRNAは、配列番号69、73、77、81又は85のヌクレオチド配列を含み得る。CD70を標的化する例示的なgRNAは、配列番号34、38、42、46、50、54又は58のヌクレオチド配列を含み得る。
【0014】
更に別の態様では、本開示は、本明細書に開示されるT細胞バンクのいずれかに由来する遺伝子操作されたT細胞を用いて、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する遺伝子操作されたT細胞を調製するための方法を提供する。こうした方法は、(a)細胞の自己再生に関与する少なくとも1つの遺伝子(例えば、TET2)、アポトーシスに関与する少なくとも1つの遺伝子(例えば、FAS)及び/又はT細胞の疲弊の制御に関与する少なくとも1つの遺伝子(例えば、CD70)を有する遺伝子操作されたT細胞を含み得る、T細胞バンクからの複数のT細胞を提供することと、(b)複数のT細胞に、CARをコードする核酸を送達することと、(c)CARを発現する遺伝子操作されたT細胞を生成することとを含み得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、T細胞バンクからの複数のT細胞は、破壊されたβ2M遺伝子を更に含む。他の実施形態では、方法は、β2M遺伝子を遺伝子編集して、例えば複数のT細胞に、β2M遺伝子を標的化するgRNAを送達することを更に含み得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、T細胞バンクからの複数のT細胞は、破壊されたTRAC遺伝子を更に含む。他の実施形態では、方法は、TRAC遺伝子を遺伝子編集して、例えば複数のT細胞に、TRAC遺伝子を標的化するgRNAを送達することを更に含み得る。
【0017】
本明細書に開示される方法のいずれにおいても、RNA誘導型ヌクレアーゼは、T細胞バンクから複数のT細胞に送達され得る。いくつかの例では、RNA誘導型ヌクレアーゼは、Cas9ヌクレアーゼ、例えばS.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9ヌクレアーゼであり得る。いくつかの例では、RNA誘導型ヌクレアーゼ及びgRNAは、リボ核タンパク質粒子(RNP)中で複合体を形成することができる。
【0018】
本明細書に開示される調製方法のいずれかによって調製される遺伝子編集されたT細胞も本開示の範囲に含まれる。
【0019】
本明細書に開示されるCAR-T細胞のいずれも、CAR-T療法の標準用量よりも低い用量で治療目的(例えば、CAR-T細胞上のCARポリペプチドによって標的化された疾患細胞を消失させること)に使用することができ、CAR-T療法の標準用量とは、同じCARポリペプチドを発現し、且つ本明細書に開示されるようなT細胞残存率を向上させるための遺伝子編集を含まない(例えば、TET2、FAS及び/又はCD70に対する遺伝子編集のない)CAR-T細胞の用量を指す。
【0020】
TET2遺伝子を標的化するガイドRNA(gRNA)も本開示の範囲に含まれる。いくつかの実施形態では、gRNAは、TET2遺伝子のエクソン5のエクソンに特異的なヌクレオチド配列を含む。いくつかの例では、gRNAによって編集されたTET2遺伝子は、TET2の切断型を発現し得る。こうしたgRNAは、TET2遺伝子のエクソン5中のGGGATGTCCTATTGCTAAGT(配列番号125)の部位を標的化し得る。一例では、gRNAは、配列番号18のヌクレオチド配列を含み得る。代わりに、gRNAは、TET2遺伝子のエクソン5中のAGGGATGTCCTATTGCTAAG(配列番号126)の部位を標的化し得る。一例では、gRNAは、配列番号22のヌクレオチド配列を含み得る。
【0021】
他の実施形態では、gRNAは、TET2遺伝子のエクソン3を標的化するヌクレオチド配列を含み得る。例えば、gRNAは、TET2遺伝子のエクソン3中のGATTCCGCTTGGTGAAAACG(配列番号129)を標的化するヌクレオチド配列を含み得る。代わりに、gRNAは、TET2遺伝子のエクソン3中のCAGGACTCACACGACTATTC(配列番号131)を標的化するヌクレオチド配列を含み得る。別の例では、gRNAは、TET2遺伝子のエクソン3中のTTCCGCTTGGTGAAAACGAG(配列番号133)を標的化するヌクレオチド配列を含み得る。例示的なgRNAは、配列番号112、116又は120のヌクレオチド配列を含み得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、gRNAは、TET2遺伝子のエクソン4を標的化するヌクレオチド配列を含み得る。例えば、gRNAは、TET2遺伝子のエクソン4中のCATTAGGACCTGCTCCTAGA(配列番号124)を標的化するヌクレオチド配列を含み得る。一例では、gRNAは、配列番号14のヌクレオチド配列を含み得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、gRNAは、TET2遺伝子のエクソン6を標的化するヌクレオチド配列を含み得る。例えば、gRNAは、TET2遺伝子のエクソン6中のACGGCACGCTCACCAATCGC(配列番号127)を標的化するヌクレオチド配列を含み得る。一例では、gRNAは、配列番号26のヌクレオチド配列を含み得る。
【0024】
本明細書に開示されるgRNAのいずれも足場配列を更に含み得る。いくつかの場合、gRNAは、1つ以上の修飾されたヌクレオチド、例えばgRNAの5’及び/又は3’末端に1つ以上の2’-O-メチルホスホロチオエート残基を含み得る。TET2を標的化する例示的なgRNAは、表3に示され(未修飾配列及び修飾配列を含む)、その全てが本開示の範囲に含まれ、またT細胞などの宿主細胞中でTET2遺伝子を遺伝子編集するための本明細書に開示される方法のいずれかに用いることができる。
【0025】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細を以下の説明に記載する。本発明の他の特徴又は利点は、以下の図面及びいくつかの実施形態の詳細な説明並びに添付の特許請求の範囲からも明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1A-1B】初代ヒトT細胞中において、TET2遺伝子ノックアウト(KO)又はタンパク質切断のいずれかをもたらす変異が増殖及び拡大を増加させたことを示す図面を含む。
図1A:ウェスタンブロットアッセイによって判定した、TET2遺伝子のエクソン5を標的化するgRNAによって編集された初代ヒトT細胞中のTET2タンパク質の存在を示す絵図。TET2エクソン5_T1及びTET2エクソン5_T2を含むgRNAの1つでトランスフェクトした細胞中において、タンパク質は、検出されなかった。TET2エクソン5_T1gRNAは、TET2タンパク質の切断型を生成した。
図1B:ウェスタンブロットアッセイによって判定した、TET2遺伝子のエクソン4又はエクソン6を標的化するgRNAによって編集された初代ヒトT細胞中のTET2タンパク質の存在を示す絵図。TET2エクソン4_BG4及びTET2エクソン6_BG5でトランスフェクトした細胞中において、完全長のタンパク質は、検出されなかった。TET2エクソン6_BG5処置は、切断型TET2タンパク質種も生成する。
【
図1C-1D】
図1C:TET2の調節が培養液中のT細胞の増殖及び拡大を著しく向上させることを示すグラフ。TET2エクソン5_T1及びTET2エクソン5_T2によるTET2の欠失は、モック群と比較してT細胞の増殖を増加させた。切断型TET2を含むT細胞(TET2エクソン5_T1)は、他の全ての群と比較してより大量の増殖を有した。
図1D:TET2の調節が培養液中のT細胞の増殖を著しく向上させることを示すグラフ。TET2エクソン4_BG4(BG4)又はTET2エクソン6_BG5(BG5)のいずれかによるTET2の欠失は、Cas9:sgRNA RNPを投与されていない細胞と比較してT細胞の増殖及び拡大を増加させた。
【
図2A-2B】は、インビトロの抗BCMA CAR T細胞中において、FASノックアウト(KO)が、サイトカインによって駆動される増殖を増加させ、アポトーシスを救助したことを示す図を含む。
図2A:初代ヒトT細胞中の高効率のFAS遺伝子編集を示すグラフ。FMO-FAS群は、FASシグナルの陰性対照である蛍光マイナス1群を表す。
図2B:FASのノックアウトが、インビトロでIL-2/IL-7によって駆動される抗BCMA CAR T細胞の増殖を改善させたことを示すグラフ。
【
図2C】
図2C:FASのノックアウトが、抗FAS抗体によって誘発されるアポトーシスから抗BCMA CAR+T細胞を救助したことを示すグラフ。
【
図3A】三重ノックアウト(FAS/TET2/CD70ノックアウト)T細胞中で増加した殺細胞及び細胞増殖を示す図を含む。
図3A:FAS/TET2/CD70の三重ノックアウトが抗CD19 CAR T細胞殺細胞機能(48時間)を増加させたことを示すグラフ。
【
図3B】
図3B:培養液中で4週間後に三重ノックアウトT細胞中で細胞増殖が継続したことを示すグラフ。
【
図4】急性リンパ芽球性白血病を患うマウス中のCAR-T細胞の拡大を示すグラフを含む。マウスを、破壊されたTRAC及びB2M遺伝子を有する抗CD19 CAR-T細胞で、且つ適応があれば任意選択的に破壊されたTET2、CD70及び/又はFASと組み合わせて処置した。
【
図5A-5B】急性リンパ芽球性白血病を患うマウスにおける、CAR-T細胞により増加した生残期間及び腫瘍阻害を示すグラフを含む。
図5A:CAR T細胞にTET2 KOを添加すると生残期間が増加することを示すプロット。
図5B:TET2 KOの添加が、CAR T細胞で処置したマウス中の腫瘍負荷を更に低減することを示すグラフ。
【
図6A-6B】腫瘍再チャレンジにさらされたときのTET2 KO含有CAR T細胞の保護効果を示すグラフを含む。
図6A:腫瘍再チャレンジを受けた抗CD19 CAR T細胞中のTET2 KOの保護効果を示すグラフ。
図6B:抗BCMA CAR T細胞中のTET2 KOの保護効果を示すグラフ。
【
図6C-6D】
図6C:腫瘍再チャレンジを受けた抗BCMA CAR T細胞中のTET2 KOの保護効果を示すグラフ。
図6D:抗CD70 CAR T細胞中のTET2 KOの保護効果を示すグラフ。
【
図6E】
図6E:腫瘍再チャレンジを受けた抗CD70 CAR T細胞中のTET2 KOの保護効果を示すグラフ。
【
図7】TRAC-/B2M-/TET2-CAR T細胞のサイトカイン非依存性成長を示すグラフを含む。
【
図8A-8B】抗BCMA CAR-T細胞中のTET KOによって付与された、TET WT抗BCMA CAR-T細胞と比較して有利な特徴を示すグラフを含む。
図8A:3ラウンドのMM.1S標的細胞刺激後の抗BCMA CAR-T細胞+/- TET2 KOの拡大成長曲線を示す図。
図8B:3ラウンドのMM.1S標的細胞刺激後の抗BCMA CAR-T細胞+/- TET2 KOの生存度曲線を示す図。
【
図8C-8D】
図8C:3ラウンドのMM.1S標的細胞刺激後の抗BCMA CAR-T細胞+/- TET2 KOのFACS表面発現曲線を示す図。
図8D:抗BCMA CAR-T細胞+/-TET2 KOのMM1S刺激後のサイトカイン分泌(IFNγ)応答を示すチャート。
【
図9A-9B】破壊されたTET2、FAS及びCD70遺伝子を有する同種ヒト抗CD19 CAR-T細胞の残存率を示す図を含む。
図9A:サイトカイン依存性である継続した細胞増殖を示すチャート。
図9B:脾臓単離から1ヶ月後の同種ヒト抗CD19 CAR-T細胞の殺細胞活性を示すチャート。
【
図9C-9E】
図9C:同種ヒト抗CD19 CAR-T細胞によるインターフェロンガンマ分泌を示すグラフ。
図9D:同種ヒト抗CD19 CAR-T細胞によるインターロイキン2(IL-2)分泌を示すグラフ。
図9E:Nalm6/NOGマウスモデルにおける同種ヒト抗CD19 CAR-T細胞の生残期間を示すチャート。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本開示は、CAR-T療法において長年にわたる切実なニーズである、改善された残存率を有するT細胞を含むT細胞バンクを確立することを目的とする。こうしたT細胞バンクは、出発物質として真正のT細胞、例えば非形質転換T細胞、最終分化T細胞、安定なゲノムを有するT細胞並びに/又は増殖及び拡大についてサイトカイン及び成長因子に依存するT細胞を用いることができる。代わりに、こうしたT細胞バンクは、インビトロ培養中で造血幹細胞(例えば、iPSC)などの前駆細胞から生成されたT細胞を用いることができる。本明細書に開示されるT細胞バンクは、CAR-T細胞の製造及び臨床応用の両方における1つ以上の利益を付与することができる。
【0028】
従来の同種CAR T細胞が生成され、ここで、細胞が患者の免疫系の構成要素を回避することができ、従ってGvHDを生じさせないように、ほとんどの場合に単一ドナーのロイコパック(leukopak)が編集される。これらのCAR T細胞を拡大させるプロセスは、数十~数百のバイアル入り製剤をもたらすことができる。患者は、単一用量又は複数用量を投与され得る。製造プロセス中、これらのCAR T細胞は、例えば、アポトーシス、疲弊、複製老化及び細胞の適合性が低下する他のプロセスなどの様々な機構が原因で潜在力を喪失する。
【0029】
本明細書に開示される編集されたT細胞バンクは、それによって単一のロイコパックが数十~数百の細胞の「バイアル」の細胞バンクを生成することができ、そのそれぞれが、同種異系CAR T細胞の複数のバイアル入り製剤を生成するために用いることができる、プロセスを提供し得る。バンクされた細胞及びそれらから生成されたCAR T細胞の両方は、標準の(非細胞バンク)プロセスによって生成された(本明細書に開示される1つ以上の遺伝子編集イベントなしで)CAR T細胞よりも高い潜在力を保持していると予測される。
【0030】
本明細書で提供されるT細胞バンクの他の非限定的な有利な特徴としては、以下のものが挙げられる:
(a)CAR-T産物などの製剤の改善された質及び一貫性。
(b)ヒト患者中のT細胞バンク細胞から生成されたCAR-T細胞のより優れた効力及びより長寿命の効力。
(c)低減された必要投薬量。本明細書に開示されるT細胞は、向上した増殖及び拡大能力を有するため、これらは、インビボでより長寿命であり得る。このため、標準のCAR-T療法と比較して低い用量で、本明細書に開示される遺伝子編集(例えば、TET2における破壊)を有さない従来のCAR-T細胞と実質的に同様の治療効果を達成することができる。
(d)増加した安全性。本明細書に開示される遺伝子操作されたT細胞の成長は、サイトカインに依存することが発見され、これは、形質転換がないことを示唆する。更に、より低い用量で十分となり得るため、本明細書に開示されるCAR-T細胞の使用は、CART-T療法に一般的に伴う副作用、例えばサイトカイン放出症候群(CRS)、マクロファージ活性化症候群(MAS)、腫瘍溶解症候群(TLS)及び/又は神経毒性作用を低減することが期待される。
(e)本明細書に開示されるCAR-T細胞の向上した増殖及び拡大、向上した細胞傷害性並びに長期のインビボ残存率から生じる増加した有効性。更に、T細胞バンクは、患者における滴定可能な投与の利益を提供して、上述した安全性及び有効性を最適化する。
(f)インビトロ及びインビボの両方でのT細胞バンク中のT細胞の疲弊及び/又は複製老化の低減並びに長期間の残存率に起因する治療効果の延長。
(g)単一のロイコパックなどの好適な天然源から生成され得る同種異系CAR T細胞産物などのバイアル入り製剤の数の増加。
【0031】
従って、本明細書では、培養液中における改善された残存率を有するT細胞を含むT細胞バンク、こうしたT細胞バンクを生成する方法及びCAR-T細胞などの治療用T細胞を生成するためにこうしたT細胞バンクを使用する方法が提供される。本明細書に開示されるT細胞バンクを作製するための構成要素及びプロセス(例えば、遺伝子編集のためのCRISPR/Cas媒介アプローチ及びそこで使用される構成要素)も本開示の範囲内である。
【0032】
I.向上した残存率を有するT細胞バンク
本明細書に開示されるT細胞バンクは、培養液中における向上した残存率を有する遺伝子操作されたT細胞を含む。こうした遺伝子操作されたT細胞は、細胞の自己再生に関与する1つ以上の遺伝子、アポトーシスに関与する1つ以上の遺伝子及び/又はT細胞疲弊に関与する1つ以上の遺伝子の遺伝子編集を有し得る。本明細書に開示される研究によって示されるように、こうした遺伝子操作されたT細胞は、未編集のT対応物と比較して以下の優れた特徴の1つ以上を示す:培養液中における向上した拡大能力(例えば、未編集の対応物と比較して、培養液中で少なくとも4週間、例えば少なくとも6週間拡大可能であり、且つ/又は少なくとも10倍拡大可能、例えば少なくとも15倍拡大可能である)、向上した増殖能力、より優れたT細胞活性化及び低減したアポトーシスレベル。
【0033】
(i)T細胞バンク中の遺伝子操作されたT細胞
本明細書に開示されるT細胞バンク中の遺伝子操作されたT細胞は、T細胞の培養液中における残存率に関連する1つ以上の遺伝子における遺伝子編集を含む。本明細書で使用するとき、「T細胞残存率」とは、培養液中でT細胞が成長し、増殖し、自己再生し、拡大し、且つ健全な活性を維持することを継続する傾向を指す。いくつかの場合、T細胞残存率は、T細胞がインビトロで成長及び拡大することのできる寿命によって表すことができ、これは、本明細書に記載される従来法及び/又はアッセイによって測定可能である。他の場合、T細胞残存率は、細胞死(例えば、アポトーシス)の低減又は疲弊若しくは複製老化を特徴とする細胞状態の低減によって表され得る。更に他の場合、T細胞の残存率は、培養液中のT細胞活性の維持によって表され得る。
【0034】
遺伝子操作されたT細胞のT細胞残存率は、様々な経路を介して細胞の残存率の制御、例えば細胞の自己再生、アポトーシス及び/又は細胞疲弊の調節において機能する1つ以上の遺伝子を遺伝子編集することによって達成され得る。いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたT細胞は、細胞残存率を制御する複数の経路に関与する複数の遺伝子の遺伝子編集を含み得る。こうした遺伝子操作されたT細胞は、培養液中成長の期間が増加し得る。更に、こうした遺伝子操作されたT細胞から誘導されたCAR-T細胞は、向上したインビボ治療有効性も有し得る。
【0035】
遺伝子操作されたT細胞は、好適な供給源、例えば1つ以上の哺乳動物ドナーから得られた親T細胞(例えば、未編集の野生型T細胞)から誘導され得る。いくつかの例では、親T細胞は、1つ以上のヒトドナーから得られた初代T細胞(例えば、形質転換及び最終分化されていないT細胞)である。代わりに、親T細胞は、インビトロで培養され得る、1つ以上の好適なドナー又は造血幹細胞若しくは人工多能性幹細胞(iPSC)などの幹細胞から得られた前駆T細胞から分化され得る。
【0036】
いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたT細胞は、細胞の自己再生に関与する1つ以上の変異遺伝子、アポトーシスに関与する1つ以上の破壊された遺伝子及び/又は細胞疲弊に関与する1つ以上の破壊された遺伝子を含む。こうしたT細胞は、ヌクレオチド/核酸が、標的化された細胞のゲノム中などのDNA配列中に挿入、欠失及び/又は置換される一種の遺伝子操作である遺伝子編集(ゲノム編集を含む)を介して生成され得る。標的化された遺伝子編集により、標的化された細胞のゲノム中(例えば、標的化された遺伝子中又は標的化されたDNA配列中)の予め選択された部位での挿入、欠失及び/又は置換が可能になる。内因性の遺伝子の配列が例えばヌクレオチド/核酸の欠失、挿入又は置換によって編集されるとき、影響を受けた配列を含む内因性の遺伝子は、配列変異のためにノックアウト又はノックダウンされ得る。従って、標的化された編集を使用して、内因性の遺伝子発現を破壊し得る。「標的化された組込み」は、挿入部位における内因性配列の欠失の有無に関わらず、1つ以上の外因性配列の挿入を含むプロセスを指す。標的化された組込みは、外因性配列を含むドナー鋳型が存在する場合、標的化された遺伝子編集から生じ得る。
【0037】
本明細書で使用するとき、「変異遺伝子」は、標的遺伝子に導入される任意のタイプの遺伝子変異を包含する。いくつかの場合、「変異遺伝子」は、変異遺伝子産物(例えば、切断型遺伝子産物)の発現をもたらす遺伝子変異を含み得る。他の場合、「変異遺伝子」は、遺伝子産物の発現を実質的に又は完全に無効化する遺伝子変異を含有し得る破壊された遺伝子であり得る。
【0038】
本明細書で使用するとき、「破壊された遺伝子」は、内因性の遺伝子と比較して、内因性の遺伝子から機能性タンパク質の発現が減少又は阻害されるような挿入、欠失又は置換を含む遺伝子を指す。本明細書で使用する場合、「遺伝子を破壊すること」は、内因性の遺伝子中において、内因性の遺伝子から機能性タンパク質の発現が減少又は阻害されるような少なくとも1つのヌクレオチド/核酸を挿入するか、欠失させるか又は置換する方法を指す。遺伝子を破壊する方法は、当業者に知られており、本明細書に記載される。
【0039】
いくつかの実施形態では、破壊された遺伝子を含む細胞は、この遺伝子によってコードされる検出可能なレベル(例えば、コードされたタンパク質に結合する抗体を用いた免疫アッセイで又はフローサイトメトリによって)のタンパク質を(例えば、細胞表面において)発現しない。検出可能なレベルのタンパク質を発現しない細胞は、ノックアウト細胞と称され得る。
【0040】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるT細胞バンクの遺伝子操作されたT細胞は、変異TET2遺伝子、破壊されたFAS遺伝子、破壊されたCD70遺伝子又はこれらの組み合わせを含み得る。いくつかの場合、追加の遺伝子(例えば、β2M及び/又はTRAC)の遺伝子編集も含まれ得る。
【0041】
Tetメチルシトシンジオキシゲナーゼ2遺伝子(TET2)編集
自己再生は、細胞(例えば、T細胞)が分裂して、同じ細胞状態/同一性を維持するプロセスである。細胞の自己再生に関与する遺伝子とは、細胞の自己再生を正に制御するか又は負に制御するものを指す。本明細書に開示される遺伝子操作されたT細胞は、細胞の自己再生を正に制御して、その発現及び/又はコードされたタンパク質産物の生物活性を向上させる遺伝子の遺伝子編集を含み得る。代わりに又は加えて、遺伝子操作されたT細胞は、細胞の自己再生を負に制御して、その発現を破壊する遺伝子の遺伝子編集を含み得る。
【0042】
いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたT細胞は、細胞の自己再生に関与する変異遺伝子を含み得る。こうした遺伝子は、TET2(10-11転座-2)メチルシトシンジオキシゲナーゼであり得る。Tet2は、修飾ゲノム塩基であるメチルシトシンから5-ヒドロキシメチルシトシンへの且つシトシン脱メチル化をもたらす更なる中間体への変換を触媒するジオキシゲナーゼである。この酵素は、骨髄造血に関与しており、TET2の欠陥がいくつかの重篤な骨髄増殖症候群に関連していることが報告されている。TET2遺伝子の構造は、当技術分野で既知である。例えば、ヒトTET2遺伝子は、染色体4q24上に位置する。更なる情報は、GenBankの遺伝子ID:54790又はNCBI参照配列:NM_001127208.2に見ることができる。
【0043】
いくつかの例では、遺伝子操作されたT細胞は、T細胞中のTET2の発現が実質的に低減するか又は完全に消失するように、破壊されたTET2遺伝子を含み得る。破壊されたTET2遺伝子は、1つ以上の好適な標的部位(例えば、コード領域中又はプロモーター領域などの非コード制御領域中)において、TET2遺伝子の発現を破壊する1つ以上の遺伝子編集を含み得る。こうした標的部位は、遺伝子操作されたT細胞を作製するのに使用するための遺伝子編集アプローチに基づいて同定され得る。遺伝子編集のための例示的な標的部位としては、エクソン1、エクソン3、エクソン4、エクソン5、エクソン6又はこれらの組み合わせが挙げられ得る。いくつかの例では、1つ以上の遺伝子編集は、エクソン3、エクソン4、エクソン5又はエクソン6で起こり得る。こうした遺伝子編集は、好適なガイドRNA、例えば表3に列挙するものを用いたCRISPR/Cas技術によって誘導され得る。表3に列挙されるgRNAを用いて得られる編集されたTET2遺伝子は、下記の表15~21に提供される1つ以上の編集された配列を含み得る。
【0044】
他の例では、遺伝子操作されたT細胞は、TET2の機能獲得型変異体であり得る、TET2タンパク質の切断型を発現する変異TET2遺伝子を含み得る。こうした変異TET2遺伝子は、エクソン5中に遺伝子編集を有し得、SDS-PAGEなどの従来法によって判定され得る約170kDaの分子量を有する切断型TET2変異体を生成する。
【0045】
本明細書で使用するとき、用語「約」とは、当業者によって決定される特定の値の許容誤差範囲内を意味し、これは、その値が測定又は決定される方法、即ち測定系の限界に部分的に依存する。例えば、「約」は、当技術分野の慣習による許容標準偏差内にあることを意味し得る。代わりに、「約」は、所与の値の最大±20%、好ましくは最大±10%、より好ましくは最大±5%、更により好ましくは最大±1%の範囲を意味し得る。本出願及び特許請求の範囲に特定の値が記載されている場合、特に指示のない限り、用語「約」は、黙示的であり、これに関連して特定の値が許容誤差範囲内にあることを意味する。
【0046】
いくつかの例では、本明細書に開示されるT細胞バンクは、遺伝子操作されたT細胞を含み得、その少なくとも50%は、破壊されたTET2遺伝子を含む(例えば、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%又はそれを超える)。いくつかの例では、本明細書に開示されるT細胞バンクは、遺伝子操作されたT細胞を含み得、その少なくとも50%は、上記で開示したものなどのTET2の切断型を発現し得る変異TET2遺伝子を含む(例えば、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%又はそれを超える)。
【0047】
FAS遺伝子編集
アポトーシスとは、多細胞生物内で起こるプログラム細胞死のプロセスである。アポトーシスに関与する遺伝子とは、この生物学的プロセスを正に制御するか又は負に制御するものを指す。本明細書に開示される遺伝子操作されたT細胞は、細胞アポトーシスを正に制御して、その発現を破壊する遺伝子の遺伝子編集を含み得る。代わりに又は加えて、遺伝子操作されたT細胞は、細胞アポトーシスを負に制御して、その発現及び/又は遺伝子産物の生物活性を向上させる、遺伝子の遺伝子編集を含み得る。
【0048】
いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたT細胞は、細胞アポトーシス、例えばアポトーシスを正に制御する遺伝子の破壊に関与する編集された遺伝子を含み得る。こうした遺伝子は、FAS遺伝子、別名FAS受容体、CD95又はアポトーシス抗原1(APO-1)であり得る。FAS遺伝子は、FASリガンドによってトリガされるとアポトーシスをもたらす、細胞表面の死受容体をコードする。FASL-FAS誘導性アポトーシスは、細胞中の複数のアポトーシス経路の1つである(もう1つの主要な経路は、ミトコンドリア経路である)。FAS遺伝子の構造は、当技術分野で既知である。例えば、ヒトFAS遺伝子は、染色体10q24.1上に位置する。更なる情報は、GenBankの遺伝子ID:355に見ることができる。
【0049】
いくつかの例では、遺伝子操作されたT細胞は、T細胞中のFASの発現が実質的に低減するか又は完全に消失するように、破壊されたFAS遺伝子を含み得る。破壊されたFAS遺伝子は、1つ以上の好適な標的部位(例えば、コード領域中又はプロモーター領域などの非コード制御領域中)において、FAS遺伝子の発現を破壊する1つ以上の遺伝子編集を含み得る。こうした標的部位は、遺伝子操作されたT細胞を作製するのに使用するための遺伝子編集アプローチに基づいて同定され得る。遺伝子編集のための例示的な標的部位としては、エクソン2、エクソン3又はこれらの組み合わせが挙げられ得る。
【0050】
いくつかの例では、本明細書に開示されるT細胞バンクは、遺伝子操作されたT細胞を含み得、その少なくとも50%は、破壊されたFAS遺伝子を含む(例えば、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%又はそれを超える)。
【0051】
CD70遺伝子編集
T細胞疲弊は、T細胞機能の段階的且つ漸進的な喪失のプロセスであり、これは、長期の抗原刺激又は他の因子によって誘導され得る。T細胞疲弊に関与する遺伝子とは、この生物学的プロセスを正に制御するか又は負に制御するものを指す。本明細書に開示される遺伝子操作されたT細胞は、T細胞疲弊を正に制御して、その発現を破壊する遺伝子の遺伝子編集を含み得る。代わりに又は加えて、遺伝子操作されたT細胞は、T細胞疲弊を負に制御して、その発現及び/又は遺伝子産物の生物活性を向上させる遺伝子の遺伝子編集を含み得る。
【0052】
いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたT細胞は、T細胞疲弊、例えばT細胞疲弊を正に制御する遺伝子の破壊に関与する編集された遺伝子を含み得る。こうした遺伝子は、分化抗原群70(CD70)遺伝子であり得る。CD70は、腫瘍壊死因子スーパーファミリのメンバーであり、その発現は、活性化T及びBリンパ球並びに成熟樹状細胞に限定される。CD70は、そのリガンドであるCD27との相互作用を通して、腫瘍細胞及び制御性T細胞の生残に関与している。CD70及びその受容体であるCD27は、T細胞(活性化及びTreg細胞)及びB細胞を含む複数の細胞型における免疫機能において複数の役割を有する。
【0053】
抗原標的化部分を発現するように操作された免疫細胞においてCD70遺伝子を破壊することは、大型腫瘍に対する抗腫瘍効果を増強し、且つ耐久性のある抗癌記憶応答を誘導したことも見出された。特に、抗癌記憶応答は、再チャレンジ時に腫瘍増殖を防いだ。更に、CD70遺伝子を破壊することは、操作された免疫細胞と標的細胞との比較的低い比で抗原標的化部分を発現するように操作された免疫細胞の細胞傷害性の増強をもたらし、低用量の操作された免疫細胞の潜在的な有効性を示すことが実証された。例えば、本明細書で言及される目的及び主題に対するその関連する開示が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2019/215500号パンフレットを参照されたい。
【0054】
CD70遺伝子の構造は、当技術分野で既知である。例えば、ヒトCD70遺伝子は、染色体19p13.3上に位置する。この遺伝子は、エクソンをコードする4つのタンパク質を含有する。更なる情報は、GenBankの遺伝子ID:970に見ることができる。
【0055】
いくつかの例では、遺伝子操作されたT細胞は、T細胞中のCD70の発現が実質的に低減するか又は完全に消失するように、破壊されたCD70遺伝子を含み得る。破壊されたCD70遺伝子は、1つ以上の好適な標的部位(例えば、コード領域中又はプロモーター領域などの非コード制御領域中)において、CD70遺伝子の発現を破壊する1つ以上の遺伝子編集を含み得る。こうした標的部位は、遺伝子操作されたT細胞を作製するのに使用するための遺伝子編集アプローチに基づいて同定され得る。遺伝子編集のための例示的な標的部位としては、エクソン1、エクソン2、エクソン3、エクソン4又はこれらの組み合わせが挙げられ得る。本明細書で言及される目的及び主題に対するその関連する開示が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2019/215500号パンフレットも参照されたい。
【0056】
いくつかの例では、本明細書に開示されるT細胞バンクは、遺伝子操作されたT細胞を含み得、その少なくとも50%は、破壊されたCD70遺伝子を含む(例えば、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%又はそれを超える)。
【0057】
β2M遺伝子編集
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるT細胞バンク中の遺伝子操作されたT細胞は、破壊されたβ2M遺伝子を更に含み得る。β2Mは、MHC I複合体の共通の(不変の)構成要素である。遺伝子編集によりその発現が破壊されると、宿主対治療用同種異系T細胞反応が予防され、同種異系T細胞の残存率の増加がもたらされる。いくつかの実施形態では、内因性のβ2M遺伝子の発現は、宿主対移植片反応を予防するために消失される。
【0058】
いくつかの実施形態では、T細胞バンク中の遺伝子操作されたT細胞の少なくとも50%(例えば、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%又はそれを超える)は、検出可能なレベルのβ2M表面タンパク質を発現しない。
【0059】
いくつかの実施形態では、編集されたβ2M遺伝子は、以下の表1における配列から選択されるヌクレオチド配列を含み得る。編集されたβ2M遺伝子(例えば、表1にあるもの)などの編集された遺伝子中において、異なるヌクレオチド配列が単一のgRNAから生成され得ることは、当業者に既知である。本明細書で言及される主題及び目的に対するその関連する開示が参照により組み込まれる国際公開第2019097305号パンフレットも参照されたい。
【0060】
【0061】
本明細書に開示されるT細胞バンク中の遺伝子操作されたT細胞は、T細胞の機能を改善するための1つ以上の追加の遺伝子編集(例えば、遺伝子ノックイン又はノックアウト)を更に含み得る。例としては、標的細胞溶解を改善するためのノックイン又はノックアウト遺伝子、T細胞バンクの細胞から調製されたCAR-T細胞などの治療用T細胞の性能を向上させるためのノックイン又はノックアウト遺伝子が挙げられる。例としては、PD-1などの免疫チェックポイント遺伝子のノックアウトが挙げられる。
【0062】
TRAC遺伝子編集
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるT細胞バンク中の遺伝子操作されたT細胞は、破壊されたTRAC遺伝子を更に含み得る。この破壊は、TCRの機能喪失をもたらし、この操作されたT細胞を非同種異系反応性にし、且つ同種異系間移植に適したものにし、移植片対宿主疾患のリスクを最小化する。いくつかの実施形態では、内因性TRAC遺伝子の発現は、移植片対宿主反応を予防するために消失される。本明細書で言及される目的及び主題に対するその関連する開示が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2019097305号パンフレットも参照されたい。
【0063】
2つ以上の好適な標的部位/gRNAは、本明細書に開示される各標的遺伝子、例えば当技術分野で既知の又は本明細書に開示されるものに対して使用され得ることを理解されたい。更なる例は、例えば、本明細書で言及される目的及び主題に対するその関連する開示が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2019097305号パンフレットに見ることができる。
【0064】
例示的なT細胞バンク中の遺伝子操作されたT細胞
いくつかの実施形態では、破壊されたTET2遺伝子を含む遺伝子操作されたT細胞の集団を含む、本明細書に開示されるT細胞バンクである。こうした遺伝子操作されたT細胞は、破壊されたFAS遺伝子、破壊されたCD70遺伝子又はその両方を更に含み得る。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるT細胞バンクは、変異TET2遺伝子、破壊されたFAS遺伝子及び破壊されたCD70遺伝子から選択される遺伝子編集された遺伝子の少なくとも2つの組み合わせを含む遺伝子操作されたT細胞の集団を含み得る。こうした遺伝子操作されたT細胞は、任意選択的に、破壊されたβ2M遺伝子、破壊されたTRAC遺伝子又はその両方を更に含み得る。
【0065】
いくつかの例では、本明細書に開示される破壊されたTET2遺伝子を含む遺伝子操作されたT細胞の集団を含む本明細書に開示されるT細胞バンクである。いくつかの場合、T細胞バンク中の遺伝子操作されたT細胞の少なくとも50%(例えば、60%、70%、80%、90%又は95%)は、従来のアッセイで測定して検出可能なレベルの表面TET2を発現しない。
【0066】
いくつかの例では、破壊されたTET2遺伝子及び破壊されたFAS遺伝子を含む遺伝子操作されたT細胞の集団を含む本明細書に開示されるT細胞バンクである。いくつかの場合、T細胞バンク中の遺伝子操作されたT細胞の少なくとも50%(例えば、60%、70%、80%、90%又は95%)は、破壊されたTET2遺伝子及び破壊されたFAS遺伝子を含む。
【0067】
いくつかの例では、破壊されたTET2遺伝子及び破壊されたCD70遺伝子を含む遺伝子操作されたT細胞の集団を含む本明細書に開示されるT細胞バンクである。いくつかの場合、T細胞バンク中の遺伝子操作されたT細胞の少なくとも50%(例えば、60%、70%、80%、90%又は95%)は、変異した又は破壊されたTET2遺伝子及び破壊されたCD70遺伝子を含む。
【0068】
特定の例では、破壊されたTET2遺伝子、破壊されたFAS遺伝子及び破壊されたCD70遺伝子を含む遺伝子操作されたT細胞の集団を含む本明細書に開示されるT細胞バンクである。いくつかの場合、T細胞バンク中の遺伝子操作されたT細胞の少なくとも50%(例えば、60%、70%、80%、90%又は95%)は、変異した又は破壊されたTET2遺伝子、破壊されたFAS遺伝子及び破壊されたCD70遺伝子を含む。
【0069】
いくつかの例では、本明細書に開示される切断型TET2ポリペプチドのいずれかを発現する変異TET2遺伝子及び破壊されたFAS遺伝子を含む遺伝子操作されたT細胞の集団を含む本明細書に開示されるT細胞バンクである。いくつかの場合、T細胞バンク中の遺伝子操作されたT細胞の少なくとも50%(例えば、60%、70%、80%、90%又は95%)は、変異TET2遺伝子及び破壊されたFAS遺伝子を含む。
【0070】
いくつかの例では、本明細書に開示される切断型TET2ポリペプチドを発現する変異TET2遺伝子及び破壊されたCD70遺伝子を含む遺伝子操作されたT細胞の集団を含む本明細書に開示されるT細胞バンクである。いくつかの場合、T細胞バンク中の遺伝子操作されたT細胞の少なくとも50%(例えば、60%、70%、80%、90%又は95%)は、変異TET2遺伝子及び破壊されたCD70遺伝子を含む。
【0071】
特定の例では、破壊されたTET2遺伝子、破壊されたFAS遺伝子及び破壊されたCD70遺伝子を含む遺伝子操作されたT細胞の集団を含む本明細書に開示されるT細胞バンクである。いくつかの場合、T細胞バンク中の遺伝子操作されたT細胞の少なくとも50%(例えば、60%、70%、80%、90%又は95%)は、破壊されたTET2遺伝子、破壊されたFAS遺伝子及び破壊されたCD70遺伝子を含む。
【0072】
特定の例では、本明細書に開示される切断型TET2ポリペプチドのいずれかを発現する変異TET2遺伝子、破壊されたFAS遺伝子及び破壊されたCD70遺伝子を含む遺伝子操作されたT細胞の集団を含む本明細書に開示されるT細胞バンクである。いくつかの場合、T細胞バンク中の遺伝子操作されたT細胞の少なくとも50%(例えば、60%、70%、80%、90%又は95%)は、変異TET2遺伝子、破壊されたFAS遺伝子及び破壊されたCD70遺伝子を含む。
【0073】
いくつかの実施形態では、変異TET2遺伝子(例えば、破壊又は変異されて本明細書に開示されるTET2の切断型を発現する)、破壊されたFAS遺伝子及び破壊されたCD70の1つ以上を含み得るT細胞バンク中の遺伝子操作されたT細胞は、4週間超、例えば5週間超、6週間超、8週間超及び10週間超にわたり、培養液中で拡大可能であり得る。いくつかの例では、T細胞バンク中の遺伝子操作されたT細胞は、本明細書に開示される切断型TET2ポリペプチドを発現する変異TET2遺伝子を含み(任意選択的にFAS及び/又はCD70の破壊)、培養液中で6週間後(例えば、7週間後、8週間後、9週間後又は10週間後)に拡大可能である。こうした遺伝子操作されたT細胞は、培養液中で6週間後(例えば、7週間後、8週間後、9週間後又は10週間後)に活性化される能力を維持することができる。更に、こうした遺伝子操作されたT細胞は、操作されていない対応物よりも少なくとも10倍(例えば、少なくとも15倍)高くなり得る、増加した拡大能力を有する。操作されていない対応物とは、本明細書に開示される細胞の自己再生(例えば、TET2)、アポトーシス(例えば、FAS)及び/又はT細胞の疲弊(例えば、CD70)に関与する遺伝子を除いて同じ遺伝的背景を有する、即ち野生型に対する破壊/変異されているT細胞を指す。
【0074】
いくつかの実施形態では、破壊されたFAS遺伝子(任意選択的に例えば破壊されているか、若しくは本明細書に開示される切断型TET2ポリペプチドを発現する変異TET2遺伝子及び/又は破壊されたCD70遺伝子)を含み得るT細胞バンク中の遺伝子操作されたT細胞は、操作されていない対応物と比較して低減したアポトーシス傾向を有し得る。例えば、培養液中の遺伝子操作されたT細胞のFAS/FASリガンド誘導アポトーシスのレベルは、操作されていない対応物中のFAS/FASリガンド誘導アポトーシスの50%未満(例えば、40%未満、30%未満、20%未満又はより低い)であり得る。
【0075】
いくつかの実施形態では、破壊されたCD70遺伝子(任意選択的に例えば破壊されているか、若しくは本明細書に開示される切断型TET2ポリペプチドを発現する変異TET2遺伝子及び/又は破壊されたFAS遺伝子)を含む、T細胞バンク中の遺伝子操作されたT細胞を用いて生成されたCAR-T細胞は、操作されていない対応物と比較して、インビトロ及びインビボの両方で改善された効力(例えば、少なくとも50%高い、少なくとも1倍高い、少なくとも2倍高い、少なくとも5倍高い又は少なくとも10倍高い)を有し得る。
【0076】
いくつかの実施形態では、T細胞バンク中のT細胞は、下記でより詳細に説明されるキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように更に操作され得る。
【0077】
(ii)T細胞バンクを作製する方法
本明細書に開示されるT細胞バンクの遺伝子操作されたT細胞は、従来の遺伝子編集法又は本明細書で説明されるものを介して親T細胞又はその前駆細胞を遺伝子編集することによって調製され得る。
【0078】
(a)T細胞
いくつかの実施形態では、T細胞バンクを作製するのに使用するためのT細胞は、1つ以上の好適な哺乳動物、例えば1つ以上のヒトドナーから誘導され得る。T細胞は、多くの供給源から得ることができ、この供給源としては、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位由来の組織、腹水、胸水、脾臓組織及び腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、T細胞は、遠心沈降、例えばFICOLL(商標)分離などの当業者に既知の任意の数の技術を使用して、対象から回収される血液の単位から得ることができる。
【0079】
いくつかの例では、T細胞を免疫細胞(例えば、本明細書に記載されるもの)の混合物から単離して、単離されたT細胞集団を生成することができ、これは、本明細書に開示されるT細胞バンクの作製に使用することができる。例えば、末梢血単核細胞(PBMC)の単離後、細胞傷害性及びヘルパーTリンパ球の両方は、活性化、拡大及び/又は遺伝子修飾前又は後のいずれかでナイーブ、メモリー及びエフェクターT細胞亜集団に分別され得る。
【0080】
下記の細胞表面マーカー:TCRab、CD3、CD4、CD8、CD27、CD28、CD38、CD45RA、CD45RO、CD62L、CD127、CD122、CD95、CD197、CCR7、KLRG1、MCH-Iタンパク質及び/又はMCH-IIタンパク質の1つ以上を発現するT細胞の特定の亜集団が陽性又は陰性選択手法によって更に単離され得る。いくつかの実施形態では、TCRab、CD4及び/又はCD8からなる群から選択されるマーカーの1つ以上を発現するT細胞の特定の亜集団は、陽性又は陰性選択手法により更に単離される。いくつかの実施形態では、T細胞の亜集団は、遺伝子改変前及び/又は遺伝子改変後に陽性又は陰性選択により単離され得る。
【0081】
T細胞バンクの製造に用いるためのT細胞の単離された集団は、CD3+、CD4+、CD8+又はこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されないT細胞マーカーの1つ以上を発現し得る。いくつかの実施形態では、T細胞は、ドナー又は対象から単離され、遺伝子編集を受ける前に最初に活性化され、インビトロで増殖するように刺激される。
【0082】
いくつかの実施形態では、T細胞バンクの作製に使用するためのT細胞集団は、1つ以上のヒトドナーから単離した初代T細胞を含む。こうしたT細胞は、最終分化され、形質転換されず、成長についてサイトカイン及び/若しくは成長因子に依存し、且つ/又は安定したゲノムを有する。
【0083】
代わりに、T細胞バンクの作製に使用するためのT細胞は、インビトロ分化を介して幹細胞(例えば、HSC又はiPSC)から誘導され得る。
【0084】
T細胞バンクを作製するのに十分な量のT細胞を達成するために、好適な供給源由来のT細胞を刺激、活性化及び/又は拡大の1つ以上のラウンドに供し得る。T細胞は、一般に、例えば米国特許第6,352,694号明細書;同第6,534,055号明細書;同第6,905,680号明細書;同第6,692,964号明細書;同第5,858,358号明細書;同第6,887,466号明細書;同第6,905,681号明細書;同第7,144,575号明細書;同第7,067,318号明細書;同第7,172,869号明細書;同第7,232,566号明細書;同第7,175,843号明細書;同第5,883,223号明細書;同第6,905,874号明細書;同第6,797,514号明細書;及び同第6,867,041号明細書に説明される方法を使用して活性化及び拡大され得る。いくつかの実施形態では、T細胞は、T細胞へのゲノム編集組成物の導入前に約1日~約4日、約1日~約3日、約1日~約2日、約2日~約3日、約2日~約4日、約3日~約4日又は約1日、約2日、約3日若しくは約4日にわたり活性化及び拡大され得る。
【0085】
いくつかの実施形態では、T細胞は、T細胞への遺伝子編集組成物の導入前に約4時間、約6時間、約12時間、約18時間、約24時間、約36時間、約48時間、約60時間又は約72時間にわたり活性化及び拡大される。いくつかの実施形態では、T細胞は、ゲノム編集組成物がT細胞に導入されるのと同時に活性化される。いくつかの実施例では、T細胞集団は、本明細書に開示される遺伝子編集後に拡大及び/又は活性化され得る。本明細書に記載される遺伝子編集方法のいずれかによって生成されるT細胞集団又は単離されたT細胞も本開示の範囲内である。
【0086】
(b)遺伝子編集方法
遺伝子操作されたT細胞のいずれも、本明細書に開示される標的遺伝子の1つ以上を編集するための従来の遺伝子編集法又は本明細書に記載されるものを用いて調製することができる(標的化された編集)。標的化された編集は、ヌクレアーゼ非依存的アプローチ又はヌクレアーゼ依存的アプローチのいずれかを介して達成され得る。ヌクレアーゼ非依存的な標的化された編集アプローチにおいて、相同組み換えは、宿主細胞の酵素機構を介して内因性配列に導入される外因性ポリヌクレオチドに隣接する相同配列によって誘導される。この外因性ポリヌクレオチドは、この内因性配列中においてヌクレオチドの欠失、挿入又は置換を導入し得る。
【0087】
代わりに、ヌクレアーゼ依存的アプローチは、特異的レアカッティングヌクレアーゼ(例えば、エンドヌクレアーゼ)による二本鎖切断(DSB)の特異的導入を介して比較的高い頻度で標的化された編集を達成できる。こうしたヌクレアーゼ依存的な標的化された編集は、DNA修復機構、例えばDSBに応答して生じる非相同末端連結(NHEJ)も利用する。NHEJによるDNA修復は、少数の内因性ヌクレオチドのランダムな挿入又は欠失(インデル)を引き起こす場合が多い。NHEJに媒介される修復とは対照的に、修復は、相同組み換え修復(HDR)によっても生じ得る。相同性アームの対に隣接する外因性の遺伝子材料を含むドナー鋳型が存在する場合、この外因性の遺伝子材料を、この外因性の遺伝子材料の標的化された組込みをもたらすHDRによりゲノムに導入し得る。
【0088】
いくつかの実施形態では、遺伝子破壊は、2つのガイドRNAを使用するゲノム配列の欠失によって発生し得る。細胞においてゲノム欠失をもたらす(例えば、細胞において遺伝子をノックアウトする)ためにCRISPR-Cas遺伝子編集技術を使用する方法は、既知である(Bauer DE et al.Vis.Exp.2015;95;e52118)。
【0089】
特異的且つ標的化されたDSBを導入できる利用可能なエンドヌクレアーゼとしては、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)及びCRISPR/CasなどのRNA誘導型ヌクレアーゼ(例えば、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート関連タンパク質9又はCRISPR/Cas9)が挙げられるが、これらに限定されない。加えて、phiC31インテグラーゼ及びBxb1インテグラーゼを利用するDICE(二重インテグラーゼカセット交換)システムも、標的化された組込みのために使用され得る。いくつかの例示的なアプローチを下記で詳細に開示する。
【0090】
CRISPR-Cas9遺伝子編集システム
CRISPR-Cas9システムは、遺伝子編集のために使用されるRNA誘導型DNA標的化プラットフォームとして転用されている、原核生物に天然に存在する防御機構である。CRISPR-Cas9システムは、DNAヌクレアーゼであるCas9と、2つの非コードRNAであるcrisprRNA(crRNA)及びトランス活性化型RNA(tracrRNA)とに依拠するものであり、DNAを切断することを目的としている。CRISPRは、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピートの略称であり、例えば原核生物を感染又は攻撃したウイルスによって細胞に以前暴露された外来DNAと類似性を有するDNAのフラグメント(スペーサーDNA)を含有する細菌及び古細菌のゲノムに見られるDNA配列のファミリーである。例えば、同様のウイルスがその後の攻撃時に再導入すると、類似した外来DNAを検出及び破壊するために、これらのDNAのフラグメントが原核生物によって使用される。CRISPR遺伝子座の転写によってスペーサー配列を含むRNA分子の形成がもたらされるが、このRNA分子は、外来の外因性DNAを認識して切断することができるCas(CRISPR関連)タンパク質と結合し、標的となる。CRISPR/Casシステムの多数の種類及びクラスが記載されている(例えば、Koonin et al.,(2017)Curr Opin Microbiol 37:67-78を参照されたい)。
【0091】
crRNAは、典型的には、標的DNA内の20個のヌクレオチド(nt)の配列とのワトソン-クリック塩基対形成を介して、CRISPR-Cas9複合体の配列認識及び特異性を促進する。crRNA内の5’ 20ntの配列を変更することにより、CRISPR-Cas9複合体を特定の遺伝子座に標的化させることが可能になる。CRISPR-Cas9複合体は、標的配列がプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と呼ばれる特定の短いDNAモチーフ(配列NGGを有する)の後にある場合、crRNAの最初の20ntと一致する配列を含むDNA配列のみに結合する。
【0092】
TracrRNAは、crRNAの3’末端とハイブリダイズしてRNA二重鎖構造を形成し、このRNA二重鎖構造にCas9エンドヌクレアーゼが結合して、触媒活性のあるCRISPR-Cas9複合体が形成され、次いでこのCRISPR-Cas9複合体によって標的DNAを切断することができる。
【0093】
CRISPR-Cas9複合体が標的部位でDNAに結合すると、Cas9酵素内の2つの独立したヌクレアーゼドメインがそれぞれPAM部位の上流でDNA鎖の一方を切断し、DNAの両鎖が塩基対で終端する(平滑末端)二本鎖切断(DSB)を残す。
【0094】
CRISPR-Cas9複合体が特定の標的部位でDNAに結合し、部位特異的なDSBが形成された後、次の重要な工程は、DSBの修復である。細胞は、DSBを修復するために、2つの主要なDNA修復経路、非相同末端連結(NHEJ)及び相同組み換え修復(HDR)を使用する。
【0095】
NHEJは、非分裂細胞を含む大部分の細胞型において高度に活性であるように見える頑健な修復機構である。NHEJは、誤りがちであり、多くの場合、DSBの部位において1~数百のヌクレオチド間で除去又は付加をもたらす可能性があるが、そのような修飾は、典型的には、<20ntである。得られた挿入及び欠失(インデル)は、遺伝子のコード領域又は非コード領域を破壊する可能性がある。代わりに、HDRは、内因的又は外因的に提供される長い一続きの相同性ドナーDNAを使用して、高い忠実度でDSBを修復する。HDRは、分裂細胞においてのみ活性であり、大部分の細胞型において相対的に低い頻度で生じる。本開示の多くの実施形態では、修復オペラントとしてNHEJを利用する。
【0096】
CRISPRに使用するためのエンドヌクレアーゼ
いくつかの実施形態では、Cas9(CRISPR関連タンパク質9)エンドヌクレアーゼは、本明細書に開示されるような遺伝子操作されたT細胞を製作するためのCRISPR法において使用される。Cas9酵素は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)に由来するものであり得るが、他のCas9相同体も使用することができる。本明細書で提供されるように、野生型Cas9を使用し得るか、又はCas9の修飾されたバージョン(例えば、Cas9の進化させたバージョン又はCas9オルソログ若しくは変異体)を使用し得ることが理解されるであろう。いくつかの実施形態では、Cas9は、(クラスII CRISPR/Casシステムの)Cpf1などの別のRNA誘導型エンドヌクレアーゼと置換され得る。
【0097】
いくつかの実施形態では、CRISPR/Casシステムは、I型、II型又はIII型のシステムに由来する構成要素を含む。CRISPR/Cas遺伝子座に関する最新の分類スキームは、I~V又はVI型を有するクラス1及びクラス2CRISPR/Casシステムを定義する(Makarova et al.,(2015)Nat Rev Microbiol,13(11):722-36;Shmakov et al.,(2015)Mol Cell,60:385-397)。クラス2CRISPR/Casシステムは、単一のタンパク質エフェクターを有する。II型、V型及びVI型のCasタンパク質は、「クラス2Casヌクレアーゼ」と本明細書で呼ばれる単一タンパク質のRNA誘導型エンドヌクレアーゼである。クラス2Casヌクレアーゼとしては、例えば、Cas9、Cpf1、C2c1、C2c2及びC2c3タンパク質が挙げられる。Cpf1ヌクレアーゼ(Zetsche et al.,(2015)Cell 163:1-13)は、Cas9に相同であり、RuvC様ヌクレアーゼドメインを含有する。
【0098】
いくつかの実施形態では、Casヌクレアーゼは、II型CRISPR/Casシステムに由来する(例えば、CRISPR/Cas9システムに由来するCas9タンパク質)。いくつかの実施形態では、Casヌクレアーゼは、クラス2 CRISPR/Casシステムに由来する(Cas9タンパク質又はCpf1タンパク質などの単一タンパク質Casヌクレアーゼ)。タンパク質のCas9及びCpf1ファミリーは、DNAエンドヌクレアーゼ活性を有する酵素であり、それらは、本明細書に更に記載されるとおり、適切なガイドRNAを設計することによって所望の核酸標的を切断するように誘導され得る。
【0099】
いくつかの実施形態では、Casヌクレアーゼは、2つ以上のヌクレアーゼドメインを含み得る。例えば、Cas9ヌクレアーゼは、少なくとも1つのRuvC様ヌクレアーゼドメイン(例えば、Cpf1)及び少なくとも1つのHNH様ヌクレアーゼドメイン(例えば、Cas9)を含み得る。いくつかの実施形態では、Cas9ヌクレアーゼは、標的配列においてDSBを導入する。いくつかの実施形態では、Cas9ヌクレアーゼは、1つのみの機能性ヌクレアーゼドメインを含有するように修飾される。例えば、Cas9ヌクレアーゼは、ヌクレアーゼドメインの1つが、変異されるか又は完全に若しくは部分的に欠失されて、その核酸切断活性が低減するように修飾される。いくつかの実施形態では、Cas9ヌクレアーゼは、機能性RuvC様ヌクレアーゼドメインを含有しないように修飾される。他の実施形態では、Cas9ヌクレアーゼは、機能性HNH様ヌクレアーゼドメインを含有しないように修飾される。ヌクレアーゼドメインの1つのみが機能的であるいくつかの実施形態において、Cas9ヌクレアーゼは、一本鎖切断(「ニック」)を標的配列に導入できるニッカーゼである。いくつかの実施形態では、Cas9ヌクレアーゼのヌクレアーゼドメイン内の保存されたアミノ酸は、ヌクレアーゼ活性を低減又は改変するために置換される。いくつかの実施形態では、Casヌクレアーゼニッカーゼは、RuvC様ヌクレアーゼドメイン中においてアミノ酸置換を含む。RuvC様ヌクレアーゼドメイン中における例示的なアミノ酸置換は、D10Aを含む(S.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9ヌクレアーゼに基づく)。いくつかの実施形態では、ニッカーゼは、HNH様ヌクレアーゼドメイン中においてアミノ酸置換を含む。HNH様ヌクレアーゼドメイン中における例示的なアミノ酸置換は、E762A、H840A、N863A、H983A及びD986Aを含む(S.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9ヌクレアーゼに基づく)。
【0100】
いくつかの実施形態では、Casヌクレアーゼは、I型CRISPR/Casシステムに由来する。いくつかの実施形態では、Casヌクレアーゼは、I型CRISPR/Casシステムのカスケード複合体の構成要素である。例えば、Casヌクレアーゼは、Cas3ヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、Casヌクレアーゼは、III型CRISPR/Casシステムに由来する。いくつかの実施形態では、Casヌクレアーゼは、IV型CRISPR/Casシステムに由来する。いくつかの実施形態では、Casヌクレアーゼは、V型CRISPR/Casシステムに由来する。いくつかの実施形態では、Casヌクレアーゼは、VI型CRISPR/Casシステムに由来する。
【0101】
ガイドRNA(gRNA)
CRISPR技術は、特定の標的配列において遺伝子を編集するために、エンドヌクレアーゼを標的遺伝子内の特定の標的配列に誘導することができるゲノム標的化核酸の使用を伴う。このゲノム標的化核酸は、RNAであり得る。ゲノム標的化RNAは、本明細書では「ガイドRNA」又は「gRNA」と呼ばれる。ガイドRNAは、編集のための標的遺伝子内の標的核酸配列とCRISPR反復配列とにハイブリダイズする少なくとも1つのスペーサー配列を含む。
【0102】
II型システムでは、gRNAは、tracrRNA配列と呼ばれる第2のRNAも含む。II型のgRNAでは、CRISPR反復配列及びtracrRNA配列が互いにハイブリダイズして二重鎖を形成する。V型のgRNAでは、crRNAが二重鎖を形成する。両方のシステムにおいて、二重鎖は、部位特異的ポリペプチドに結合し、その結果、ガイドRNAと部位特異的ポリペプチドとが複合体を形成する。いくつかの実施形態では、ゲノム標的化核酸は、この部位特異的ポリペプチドとの会合による複合体に標的特異性をもたらす。そのため、ゲノム標的化核酸は、部位特異的ポリペプチドの活性を誘導する。
【0103】
当業者に理解されているように、各ガイドRNAは、そのゲノム標的配列に相補的なスペーサー配列を含むように設計されている。Jinek et al.,Science,337,816-821(2012)及びDeltcheva et al.,Nature,471,602-607(2011)を参照されたい。
【0104】
いくつかの実施形態では、ゲノム標的化核酸(例えば、gRNA)は、二重分子ガイドRNAである。いくつかの実施形態では、ゲノム標的化核酸(例えば、gRNA)は、単一分子ガイドRNAである。
【0105】
二重分子ガイドRNAは、2つの鎖のRNA分子を含む。第1の鎖は、5’から3’の方向において、任意選択のスペーサー延長配列、スペーサー配列及び最小CRISPR反復配列を含む。第2の鎖は、最小tracrRNA配列(最小CRISPR反復配列に相補的)、3’tracrRNA配列及び任意選択のtracrRNA延長配列を含む。
【0106】
II型システムにおける単一分子ガイドRNA(「sgRNA」と呼ばれる)は、5’から3’方向において、任意選択のスペーサー延長配列、スペーサー配列、最小CRISPR反復配列、単一分子ガイドリンカー、最小tracrRNA配列、3’tracrRNA配列及び任意選択のtracrRNA延長配列を含む。任意選択のtracrRNA延長は、ガイドRNAに追加の機能性(例えば、安定性)を付与する要素を含み得る。単一分子ガイドリンカーは、最小CRISPR反復と最小tracrRNA配列とを連結して、ヘアピン構造を形成する。任意選択のtracrRNA延長は、1つ以上のヘアピンを含む。V型システムにおける単一分子ガイドRNAは、5’から3’方向において、最小CRISPR反復配列及びスペーサー配列を含む。
【0107】
gRNA中のスペーサー配列は、目的の標的遺伝子の標的配列(例えば、ゲノム標的配列などのDNA標的配列)を定義する配列(例えば、20個のヌクレオチド配列)である。いくつかの実施形態では、スペーサー配列は、15~30個のヌクレオチドの範囲内である。例えば、スペーサー配列は、15、16、17、18、19、29、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30個のヌクレオチドを含有し得る。いくつかの実施形態では、スペーサー配列は、20個のヌクレオチドを含有する。
【0108】
「標的配列」は、PAM配列に隣接している標的遺伝子中にあり、RNA誘導型ヌクレアーゼ(例えば、Cas9)によって修飾される配列である。「標的配列」は、PAM鎖及び相補的な非PAM鎖を含有する二本鎖分子である「標的核酸」内のいわゆるPAM鎖上にある。当業者は、gRNAスペーサー配列が、目的の標的核酸の非PAM鎖に位置する相補的配列にハイブリダイズすることを認識している。そのため、gRNAスペーサー配列は、標的配列のRNA均等物である。例えば、標的配列が5’-AGAGCAACAGTGCTGTGGCC-3’(配列番号7)である場合、gRNAスペーサー配列は、5’-AGAGCAACAGUGCUGUGGCC-3’(配列番号8)である。gRNAのスペーサーは、ハイブリダイゼーション(即ち塩基対形成)を介して配列特異的な様式で目的の標的核酸と相互作用する。そのため、スペーサーのヌクレオチド配列は、目的の標的核酸の標的配列に応じて変化する。
【0109】
本明細書のCRISPR/Casシステムでは、スペーサー配列は、このシステムで使用されるCas9酵素によって認識可能なPAMの5’に位置する標的核酸の領域にハイブリダイズするように設計されている。スペーサーは、標的配列と完全に一致し得るか、又はミスマッチを有し得る。各Cas9酵素は、標的DNAにおいて認識する特定のPAM配列を有する。例えば、S.ピオゲネス(S.pyogenes)は、標的核酸において、配列5’-NRG-3’(ここで、Rは、A又はGのいずれかを含み、Nは、任意のヌクレオチドであり、Nは、スペーサー配列により標的化される標的核酸配列の3’の直近にある)を含むPAMを認識する。
【0110】
いくつかの実施形態では、標的核酸配列は、20個の長さのヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、標的核酸は、20個未満の長さのヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態では、標的核酸は、20個超の長さのヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態では、標的核酸は、少なくとも5、10、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30個又はそれを超える長さのヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態では、標的核酸は、最大で5、10、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30個又はそれを超える長さのヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態では、標的核酸配列は、PAMの最初のヌクレオチドの5’の直近に20個の塩基を有する。例えば、
【化1】
を含む配列では、標的核酸は、Nに対応する配列であり得、ここで、Nは、任意のヌクレオチドであり得、下線が引かれたNRG配列は、S.ピオゲネス(S.pyogenes)のPAMである。
【0111】
本明細書に開示されるガイドRNAは、crRNA内のスペーサー配列によって目的の任意の配列を標的化することができる。いくつかの実施形態では、ガイドRNAのスペーサー配列と標的遺伝子内の標的配列との間の相補性の程度は、約60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%又は100%であり得る。いくつかの実施形態では、ガイドRNAのスペーサー配列及び標的遺伝子内の標的配列は、100%相補的である。他の実施形態では、ガイドRNAのスペーサー配列と標的遺伝子内の標的配列は、最大で10個のミスマッチ、例えば最大で9個、最大で8個、最大で7個、最大で6個、最大で5個、最大で4個、最大で3個、最大で2個又は最大で1個のミスマッチを含み得る。
【0112】
本明細書で提供されるとおりに使用され得るgRNAの非限定例は、本明細書で言及される目的及び主題に対してその関連する開示が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2019097305号パンフレットに示される。本明細書で提供されるgRNA配列のいずれに対しても、明示的に修飾を示さないものは、未修飾配列及び任意の好適な修飾を有する配列の両方を包含することが意図される。
【0113】
本明細書に開示されるgRNAのいずれかにおけるスペーサー配列の長さは、CRISPR/Cas9システム及び更に本明細書に開示される標的遺伝子のいずれかを編集するために使用される構成要素に依存し得る。例えば、異なる細菌種に由来する異なるCas9タンパク質は、様々な最適なスペーサー配列長を有する。従って、スペーサー配列は、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50又は50個超の長さのヌクレオチドを有し得る。いくつかの実施形態では、スペーサー配列は、18~24個の長さのヌクレオチドを有し得る。いくつかの実施形態では、標的化配列は、19~21個の長さのヌクレオチドを有し得る。いくつかの実施形態では、スペーサー配列は、20個の長さのヌクレオチドを含み得る。
【0114】
いくつかの実施形態では、gRNAは、sgRNAであり得、sgRNA配列の5’末端に20個のヌクレオチドのスペーサー配列を含み得る。いくつかの実施形態では、sgRNAは、sgRNA配列の5’末端に20個未満のヌクレオチドのスペーサー配列を含み得る。いくつかの実施形態では、sgRNAは、sgRNA配列の5’末端に20超のヌクレオチドのスペーサー配列を含み得る。いくつかの実施形態では、sgRNAは、sgRNA配列の5’末端に17~30個のヌクレオチドを有する可変長のスペーサー配列を含む。例を以下の表2に提供する。これらの例示的な配列では、「n」のフラグメントは、5’末端におけるスペーサー配列を指す。
【0115】
【0116】
いくつかの実施形態では、sgRNAは、sgRNA配列の3’末端にウラシルを含まない。他の実施形態では、sgRNAは、sgRNA配列の3’末端に1つ以上のウラシルを含み得る。例えば、sgRNAは、sgRNA配列の3’末端に1~8個のウラシル残基、例えばsgRNA配列の3’末端に1、2、3、4、5、6、7又は8個のウラシル残基を含むことができる。
【0117】
sgRNAのいずれかを含む、本明細書に開示されるgRNAのいずれも未修飾であり得る。代わりに、1つ以上の修飾されたヌクレオチド及び/又は修飾された主鎖を含み得る。例えば、sgRNAなどの修飾gRNAは、5’末端、3’末端のいずれか又は両方に位置し得る1つ以上の2’-O-メチルホスホロチオエートヌクレオチドを含むことができる。
【0118】
ある実施形態では、2つ以上のガイドRNAをCRISPR/Casヌクレアーゼシステムと共に使用することができる。各ガイドRNAは、CRISPR/Casシステムが2つ以上の標的核酸を切断するように、異なる標的化配列を含有し得る。いくつかの実施形態では、1つ以上のガイドRNAは、Cas9 RNP複合体内での活性又は安定性などの同じ又は異なる特性を有し得る。2つ以上のガイドRNAが使用される場合、各ガイドRNAは、同じ又は異なるベクター上にコードされ得る。2つ以上のガイドRNAの発現を駆動するために使用されるプロモーターは、同じであるか又は異なる。
【0119】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるgRNAは、TET2遺伝子を標的化し、例えばTET2遺伝子のエクソン1、エクソン2、エクソン3、エクソン4、エクソン5又はエクソン6内の部位を標的化する。こうしたgRNAは、TET2遺伝子のエクソン3又はエクソン5中の標的配列又はそのフラグメントに(完全に又は部分的に)相補的なスペーサー配列を含み得る。TET2の例示的な標的配列及び例示的なgRNA配列を以下の表3に示す。
【0120】
【0121】
【0122】
いくつかの実施形態では、TET2のエクソン3中の部位(例えば上記の表3に列挙されるもの)を標的化するgRNAは、TET2遺伝子を編集するために用いることができる。例えば、GATTCCGCTTGGTGAAAACG(配列番号129)の部位を標的化するgRNA、例えば配列番号112(未修飾)又は配列番号113(修飾)のスペーサーを含むgRNAが用いられ得る。こうしたgRNAは、配列番号114(未修飾)又は配列番号115(修飾)のヌクレオチド配列を含み得る(例えば、それからなり得る)。配列番号129の部位を標的化するgRNAによって編集されたT細胞は、以下の表15に列挙される修飾の少なくとも1つを有する修飾TET2遺伝子を含み得る。
【0123】
別の特定の例では、CAGGACTCACACGACTATTC(配列番号131)の部位を標的化するgRNA、例えば配列番号116(未修飾)又は配列番号117(修飾)のスペーサーを含むgRNAが用いられ得る。こうしたgRNAは、配列番号118(未修飾)又は配列番号119(修飾)のヌクレオチド配列を含み得る(例えば、それからなり得る)。配列番号131の部位を標的化するgRNAによって編集されたT細胞は、以下の表16に列挙される修飾の少なくとも1つを有する修飾TET2遺伝子を含み得る。
【0124】
別の特定の例では、TTCCGCTTGGTGAAAACGAG(配列番号133)の部位を標的化するgRNA、例えば配列番号120(未修飾)又は配列番号121(修飾)のスペーサーを含むgRNAが用いられ得る。こうしたgRNAは、配列番号122(未修飾)又は配列番号123(修飾)のヌクレオチド配列を含み得る(例えば、それからなり得る)。配列番号133の部位を標的化するgRNAによって編集されたT細胞は、以下の表17に列挙される修飾の少なくとも1つを有する修飾TET2遺伝子を含み得る。
【0125】
他の実施形態では、TET2遺伝子に特異的なgRNAは、エクソン5内の部位を標的化し得る。例えば、エクソン5中のGGGATGTCCTATTGCTAAGT(配列番号125)の部位を標的化するgRNA、例えば配列番号18(未修飾)又は配列番号19(修飾)のスペーサーを含むgRNAが用いられ得る。こうしたgRNAは、配列番号16(未修飾)又は配列番号17(修飾)のヌクレオチド配列を含み得る(例えば、それからなり得る)。配列番号125の部位を標的化するgRNAによって編集されたT細胞は、以下の表19に列挙される修飾の少なくとも1つを有する修飾TET2遺伝子を含み得る。いくつかの場合、こうしたgRNAを用いるTET2遺伝子の遺伝子編集は、約170kDaの分子量を有し得るTET2タンパク質の切断型の発現をもたらし得る。
【0126】
他の例では、エクソン5中のAGGGATGTCCTATTGCTAAG(配列番号126)の部位を標的化するgRNA、例えば配列番号22(未修飾)又は配列番号23(修飾)のスペーサーを含むgRNAが用いられ得る。こうしたgRNAは、配列番号20(未修飾)又は配列番号21(修飾)のヌクレオチド配列を含み得る(例えば、それからなり得る)。配列番号126の部位を標的化するgRNAによって編集されたT細胞は、以下の表20に列挙される修飾の少なくとも1つを有する修飾TET2遺伝子を含み得る。
【0127】
他の実施形態では、TET2遺伝子に特異的なgRNAは、エクソン4内の部位を標的化し得る。例えば、エクソン4中のCATTAGGACCTGCTCCTAGA(配列番号124)の部位を標的化するgRNA、例えば配列番号14(未修飾)又は配列番号15(修飾)のスペーサーを含むgRNAが用いられ得る。こうしたgRNAは、配列番号12(未修飾)又は配列番号13(修飾)のヌクレオチド配列を含み得る(例えば、それからなり得る)。配列番号124の部位を標的化するgRNAによって編集されたT細胞は、以下の表21に列挙される修飾の少なくとも1つを有する修飾TET2遺伝子を含み得る。
【0128】
他の実施形態では、TET2遺伝子に特異的なgRNAは、エクソン6内の部位を標的化し得る。例えば、エクソン6中のACGGCACGCTCACCAATCGC(配列番号127)の部位を標的化するgRNA、例えば配列番号26(未修飾)又は配列番号27(修飾)のスペーサーを含むgRNAが用いられ得る。こうしたgRNAは、配列番号24(未修飾)又は配列番号25(修飾)のヌクレオチド配列を含み得る(例えば、それからなり得る)。配列番号127の部位を標的化するgRNAによって編集されたT細胞は、以下の表18に列挙される修飾の少なくとも1つを有する修飾TET2遺伝子を含み得る。
【0129】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるgRNAは、CD70遺伝子を標的化し、例えばCD70遺伝子のエクソン1又はエクソン3内の部位を標的化する。こうしたgRNAは、CD70遺伝子のエクソン1又はエクソン3中の標的配列又はそのフラグメントに(完全に又は部分的に)相補的なスペーサー配列を含み得る。CD70遺伝子中の例示的な標的配列及びCD70遺伝子に特異的な例示的なgRNAを以下の表4に示す。
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるgRNAは、FAS遺伝子を標的化し、例えばFAS遺伝子のエクソン1、エクソン2又はエクソン3内の部位を標的化する。こうしたgRNAは、FAS遺伝子のエクソン1、エクソン2又はエクソン3中の標的配列又はそのフラグメントに(完全に又は部分的に)相補的なスペーサー配列を含み得る。FAS遺伝子中の例示的な標的配列及びFAS遺伝子に特異的な例示的なgRNAを以下の表5に示す。
【0134】
【0135】
【0136】
他の実施形態では、FAS遺伝子に特異的なgRNAは、エクソン2内の部位を標的化し得る。例えば、FAS遺伝子のエクソン2中の配列番号142の部位を標的化するgRNA、例えば配列番号73(未修飾)又は配列番号74(修飾)のスペーサーを含むgRNAが用いられ得る。こうしたgRNAは、配列番号71(未修飾)又は配列番号72(修飾)のヌクレオチド配列(例えば、FAS-エクソン2-T2gRNA)を含み得る(例えば、それからなり得る)。配列番号142の部位を標的化するgRNAによって編集されたT細胞は、以下の表26に列挙される修飾の少なくとも1つを有する修飾FAS遺伝子を含み得る。
【0137】
他の実施形態では、FAS遺伝子に特異的なgRNAは、エクソン3内の部位を標的化し得る。例えば、FAS遺伝子のエクソン3中の配列番号144の部位を標的化するgRNA、例えば配列番号81(未修飾)又は配列番号82(修飾)のスペーサーを含むgRNAが用いられ得る。こうしたgRNAは、配列番号79(未修飾)又は配列番号80(修飾)のヌクレオチド配列(例えば、FAS-エクソン3-T1gRNA)を含み得る(例えば、それからなり得る)。配列番号144の部位を標的化するgRNAによって編集されたT細胞は、以下の表27に列挙される修飾の少なくとも1つを有する修飾FAS遺伝子を含み得る。
【0138】
他の実施形態では、FAS遺伝子に特異的なgRNAは、エクソン3内の部位を標的化し得る。例えば、FAS遺伝子のエクソン3中の配列番号145の部位を標的化するgRNA、例えば配列番号85(未修飾)又は配列番号86(修飾)のスペーサーを含むgRNAが用いられ得る。こうしたgRNAは、配列番号83(未修飾)又は配列番号84(修飾)のヌクレオチド配列(例えば、FAS-エクソン3-T2gRNA)を含み得る(例えば、それからなり得る)。配列番号145の部位を標的化するgRNAによって編集されたT細胞は、以下の表28に列挙される修飾の少なくとも1つを有する修飾FAS遺伝子を含み得る。
【0139】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるgRNAは、β2M遺伝子を標的化し、例えばβ2M遺伝子内の好適な部位を標的化する。本明細書で言及される目的及び主題に対するその関連する開示が参照により本明細書に組み込まれる2018年5月11日出願の国際出願PCT/米国特許出願公開第2018/032334号明細書も参照されたい。他のgRNA配列は、15番染色体上に位置するβ2M遺伝子配列を使用して設計することができる(GRCh38の座標:15番染色体:44,711,477~44,718,877;Ensembl:ENSG00000166710)。いくつかの実施形態では、β2Mゲノム領域を標的化するgRNA及びRNA誘導型ヌクレアーゼは、β2Mゲノム領域に切断を生じさせてβ2M遺伝子にインデルをもたらし、mRNA又はタンパク質の発現を阻害する。
【0140】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるgRNAは、TRAC遺伝子を標的化する。本明細書で言及される目的及び主題に対するその関連する開示が参照により本明細書に組み込まれる2018年5月11日出願の国際出願PCT/米国特許出願公開第2018/032334号明細書も参照されたい。他のgRNA配列は、14番染色体上に位置するTRAC遺伝子配列を使用して設計され得る(GRCh38:14番染色体:22,547,506~22,552,154;アンサンブル;ENSG00000277734)。いくつかの実施形態では、TRACゲノム領域を標的化するgRNA及びRNA誘導型ヌクレアーゼは、mRNA又はタンパク質の発現を破壊するTRAC遺伝子におけるインデルをもたらすTRACゲノム領域における切断をもたらす。
【0141】
β2M遺伝子又はTRAC遺伝子を標的化する例示的なスペーサー配列及びgRNAを以下の表6に示す。
【0142】
【0143】
例として、CRISPR/Cas/Cpf1システムで使用されるガイドRNA又は他のより小さいRNAは、下記で説明され、且つ当技術分野で説明されているように、化学的手段により容易に合成され得る。化学合成方法が拡大し続けている一方、ポリヌクレオチドの長さが100ヌクレオチドあたりを大幅に超えて増加するため、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、PAGEなどのゲルの使用を回避する)などの方法によるこうしたRNAの精製は、より困難になる傾向がある。比較的長いRNAを生成するために使用される1つの手法は、一緒に連結される2つ以上の分子を生成することである。Cas9エンドヌクレアーゼ又はCpf1エンドヌクレアーゼをコードするものなどのはるかに長いRNAは、より容易に酵素的に生成される。当技術分野で説明されているように、様々な種類のRNA修飾(例えば、安定性を増強し、自然免疫応答の可能性若しくは程度を減少させ、且つ/又は他の特質を増強する修飾)がRNAの化学合成及び/又は酵素的生成中又は後に導入され得る。
【0144】
いくつかの例では、本開示のgRNAはインビトロ転写(IVT)、合成及び/若しくは化学合成法又はこれらの組み合わせで生成され得る。酵素的(IVT)、固相、液相、複合型の合成法、小領域合成及びライゲーション法が利用される。一実施形態では、gRNAは、IVT酵素的合成法を使用して作製される。IVTによりポリヌクレオチドを作製する方法は、当技術分野で既知であり、国際公開第2013/151666号パンフレットに記載されている。従って、本開示は、ポリヌクレオチド、例えばDNAコンストラクトも含み、ベクターは、本明細書に記載されるgRNAをインビトロ転写するために使用される。
【0145】
当技術分野で説明されているように、様々な種類のRNA修飾(例えば、安定性を増強し、自然免疫応答の可能性若しくは程度を減少させ、且つ/又は他の特質を増強する修飾)がRNAの化学合成及び/又は酵素的生成中又は後に導入され得る。いくつかの実施形態では、非天然の修飾核酸塩基は、合成中又は合成後、本明細書に開示されるgRNAのいずれかに導入され得る。ある種の実施形態では、修飾は、ヌクレオシド間結合、プリン若しくはピリミジン塩基又は糖におけるものである。いくつかの実施形態では、修飾は、化学合成又はポリメラーゼ酵素を用いてgRNAの末端で導入される。修飾核酸及びこれらの合成の例は、国際公開第2013/052523号パンフレットに開示される。修飾ポリヌクレオチドの合成は、Verma and Eckstein,Annual Review of Biochemistry,vol.76,99-134(1998)にも記載されている。
【0146】
いくつかの実施形態では、酵素的又は化学的ライゲーション法を使用して、ポリヌクレオチド又はそれらの領域を、標的化又は送達薬剤、蛍光標識、液体、ナノ粒子などの様々な機能性部分とコンジュゲートすることができる。ポリヌクレオチド及び修飾ポリヌクレオチドのコンジュゲートは、Goodchild,Bioconjugate Chemistry,vol.1(3),165-187(1990)で概説されている。
【0147】
本開示のいくつかの実施形態では、本明細書に開示される標的遺伝子のいずれかを遺伝子編集するのに用いるためのCRISPR/Casヌクレアーゼシステムは、少なくとも1個のガイドRNAを含み得る。いくつかの例では、CRISPR/Casヌクレアーゼシステムは、複数のgRNA、例えば2、3又は4のgRNAを含有し得る。こうした複数のgRNAは、同じ標的遺伝子内の異なる部位を標的化することができる。代わりに、複数のgRNAは、異なる遺伝子を標的化し得る。いくつかの実施形態では、ガイドRNA及びCasタンパク質は、リボ核タンパク質(RNP)、例えばCRISPR/Cas複合体を形成し得る。ガイドRNAは、Casタンパク質を、本明細書に開示されるものなどの1つ以上の標的遺伝子上の標的配列に誘導し得、ここで、Casタンパク質が標的部位で標的遺伝子を切断する。いくつかの実施形態では、CRISPR/Cas複合体は、Cpf1/ガイドRNA複合体である。いくつかの実施形態では、CRISPR複合体は、II型CRISPR/Cas9複合体である。いくつかの実施形態では、Casタンパク質は、Cas9タンパク質である。いくつかの実施形態では、CRISPR/Cas9複合体は、Cas9/ガイドRNA複合体である。
【0148】
いくつかの実施形態では、1つ以上の特定のgRNAを含む特定のCRISPR/Casヌクレアーゼシステムのインデル頻度(編集頻度)は、標的遺伝子を編集するのに非常に効率的なgRNA分子を同定するために使用され得るTIDE分析を使用して決定され得る。いくつかの実施形態では、非常に効率的なgRNAは、80%より高い遺伝子編集頻度をもたらす。例えば、gRNAは、それが少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は100%の遺伝子編集頻度をもたらす場合、非常に効率的であると見なされる。
【0149】
T細胞へのガイドRNA及びヌクレアーゼの送達
下記で開示する1つ以上のgRNA、少なくとも1つのRNA誘導型ヌクレアーゼ及び任意選択的にドナー鋳型を含む、本明細書に開示されるCRISPR/Casヌクレアーゼシステムは、標的遺伝子の遺伝子編集のために従来法を介して標的細胞(例えばT細胞)に送達され得る。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるCRISPR/Casヌクレアーゼシステムの構成要素は、同時又は逐次的のいずれかで個別に標的細胞に送達され得る。他の実施形態では、CRISPR/Casヌクレアーゼシステムの構成要素は、例えば、複合体として共に標的内に送達され得る。いくつかの場合、gRNA及びRNA誘導型ヌクレアーゼは、共に予め複合体を形成して、標的細胞内に送達され得るリボ核タンパク質(RNP)を形成することができる。
【0150】
RNPは、少なくともそれらが、核酸が豊富な細胞環境中での乱雑な相互作用のリスクを最小化し、且つRNAを分解から保護するため、遺伝子編集に有用である。RNPを形成するための方法は、当技術分野で既知である。いくつかの実施形態では、RNA誘導型ヌクレアーゼ(例えば、Cas9ヌクレアーゼなどのCasヌクレアーゼ)及び目的の1つ以上の遺伝子を標的化する1つ以上のgRNAを含有するRNPが細胞(例えば、T細胞)に送達され得る。いくつかの実施形態では、RNPは、エレクトロポレーションによってT細胞に送達され得る。
【0151】
いくつかの実施形態では、RNA誘導型ヌクレアーゼは、細胞内でRNA誘導型ヌクレアーゼを発現するDNAベクター中で細胞に送達され得る。他の例では、RNA誘導型ヌクレアーゼは、RNA誘導型ヌクレアーゼをコードし、細胞内でヌクレアーゼを発現させるRNA中で細胞に送達され得る。代わりに又は加えて、遺伝子を標的化するgRNAは、RNAとして又は細胞中でgRNAを発現するDNAベクターとして細胞に送達され得る。
【0152】
RNA誘導型ヌクレアーゼ、gRNA及び/又はRNPの送達は、直接的な注射又は既知の方法、例えばエレクトロポレーション又は化学的トランスフェクションを使用する細胞トランスフェクションを介するものであり得る。他の細胞トランスフェクション法が使用され得る。
【0153】
他の遺伝子編集方法
本明細書に開示される遺伝子操作されたT細胞の作製には、本明細書に開示されるCRISPR法の他に、当技術分野で既知の追加の遺伝子編集法も使用することができる。いくつかの例としては、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、制限エンドヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼホーミングエンドヌクレアーゼなどを伴う遺伝子編集アプローチングが挙げられる。
【0154】
ZFNは、1つ以上のジンクフィンガーを介して配列特異的な様式でDNAに結合するポリペプチドドメインであるジンクフィンガーDNA結合ドメイン(ZFBD)に融合したヌクレアーゼを含む標的化ヌクレアーゼである。ジンクフィンガーは、構造が亜鉛イオンの配位を介して安定化されているジンクフィンガー結合ドメイン内の約30個のアミノ酸のドメインである。ジンクフィンガーの例として、C2H2ジンクフィンガー、C3Hジンクフィンガー及びC4ジンクフィンガーが挙げられるが、これらに限定されない。設計されたジンクフィンガードメインは、設計/組成が合理的な基準(例えば、既存のZFP設計及び結合データの情報を保管するデータベース中の情報を処理するための置換規則及びコンピュータ処理されたアルゴリズムの適用)から主にもたらされる、天然に存在しないドメインである。例えば、米国特許第6,140,081号明細書;同第6,453,242号明細書;及び同第6,534,261号明細書を参照されたく;国際公開第98/53058号パンフレット;同第98/53059号パンフレット;同第98/53060号パンフレット;同第02/016536号パンフレット;及び同第03/016496号パンフレットも参照されたい。選択されたジンクフィンガードメインは、ファージディスプレイ、相互作用トラップ又はハイブリッド選択などの実験的なプロセスから主にもたらされる、天然に存在しないドメインである。ZFNは、米国特許第7,888,121号明細書及び同第7,972,854号明細書でより詳細に説明される。ZFNの最も認知されている例は、FokIヌクレアーゼとジンクフィンガーDNA結合ドメインとの融合物である。
【0155】
TALENは、TALエフェクターDNA結合ドメインに融合したヌクレアーゼを含む標的化ヌクレアーゼである。「転写活性化因子様エフェクターDNA結合ドメイン」、「TALエフェクターDNA結合ドメイン」又は「TALE DNA結合ドメイン」は、DNAへのTALエフェクタータンパク質の結合に関与するTALエフェクタータンパク質のポリペプチドドメインである。TALエフェクタータンパク質は、キサントモナス(Xanthomonas)属の植物病原体により、感染中に分泌される。これらのタンパク質は、植物細胞の核に入り、これらのDNA結合ドメインを介してエフェクター特異的なDNA配列に結合し、且つこれらの転写活性化ドメインを介してこれらの配列で遺伝子転写を活性化する。TALエフェクターDNA結合ドメインの特異性は、反復可変二残基(RVD)と呼ばれる選択反復位置で多型を含む、エフェクターにより可変の数の不完全な34個のアミノ酸の反復に依存する。TALENは、米国特許出願第2011/0145940号明細書でより詳細に説明されている。当技術分野におけるTALENの最も認知された例は、TALエフェクターDNA結合ドメインに対するFokIヌクレアーゼの融合ポリペプチドである。
【0156】
本明細書に提供される使用に好適な標的化ヌクレアーゼの更なる例としては、個別での使用又は組み合わせでの使用に関わらず、Bxb1、phiC31、R4、PhiBT1及びWβ/SPBc/TP901-1が挙げられるが、これらに限定されない。
【0157】
本明細書に開示されるヌクレアーゼのいずれも、プラスミドベクター、DNA小環、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ポックスウイルスベクター;ヘルペスウイルスベクター及びアデノ随伴ウイルスベクター並びにこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されないベクター系を使用して送達され得る。
【0158】
従来のウイルス及び非ウイルス系遺伝子導入方法を使用して、細胞(例えば、T細胞)においてヌクレアーゼをコードする核酸及びドナー鋳型を導入し得る。非ウイルスベクター送達系として、DNAプラスミド、DNA小環、裸の核酸及びリポソーム又はポロキサマーなどの送達媒体と複合体を形成した核酸が挙げられる。ウイルスベクター送達系として、細胞に送達された後にエピソーム又は組込みゲノムのいずれかを有するDNAウイルス及びRNAウイルスが挙げられる。
【0159】
核酸の非ウイルス系送達の方法として、エレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、遺伝子銃、ビロソーム、リポソーム、イムノリポソーム、ポリカチオン又は脂質:核酸コンジュゲート、裸のDNA、裸のRNA、キャップ付きRNA、人工ビリオン及び薬剤で増強されたDNAの取込みが挙げられる。例えば、Sonitron2000システム(Rich-Mar)を使用するソノポレーションも核酸の送達に使用され得る。いくつかの具体例を下記で提供する。
【0160】
II.治療用T細胞を生成するためのT細胞バンクの使用
本明細書に開示されるT細胞バンクからの遺伝子操作されたT細胞は、CAR-T細胞などの治療用T細胞を生成するために使用することができる。いくつかの実施形態では、CARなどの治療剤をコードする核酸をT細胞バンクからの細胞内に導入して、治療用T細胞を生成することができる。他の実施形態では、T細胞バンク中のT細胞は、CARなどの治療剤を発現するように操作されている。こうしたT細胞は、T細胞バンクから得て、任意選択的にインビトロで拡大して、処置が必要な対象において使用するための治療用T細胞を生成することができる。T細胞バンクから生成された治療用T細胞は、インビボでより長く生き、且つより効力が強い。このため、低用量のこうした治療用T細胞は、結果として生じる副作用がより少ない治療で必要となる。更に、T細胞を用いた従来のアプローチ(例えば、野生型TET2遺伝子、野生型FAS遺伝子及び/又は野生型CD70遺伝子)と比較して、より多くのCAR-T細胞が、単一のロイコパックなどの好適な天然源から単離されたT細胞から生成され得る。
【0161】
キメラ抗原受容体(CAR)
キメラ抗原受容体(CAR)とは、望ましくない細胞、例えば癌細胞などの疾患細胞で発現した抗原を認識して結合するように操作されている人工の免疫細胞受容体を意味する。CARポリペプチドを発現するT細胞は、CAR T細胞と呼ばれる。CARは、MHCに制限されない様式において、選択された標的に対するT細胞の特異性及び反応性を再誘導する能力を有する。MHCに制限されない抗原認識は、抗原プロセシングに非依存的な抗原を認識する能力をCAR T細胞に与え、それにより腫瘍エスケープの主要な機構をバイパスする。更に、CARは、T細胞上で発現する場合、有利には、内因性のT細胞受容体(TCR)のアルファ鎖及びベータ鎖と二量体化しない。
【0162】
様々な世代のCARが存在し、その各々が異なる構成要素を含む。第一世代のCARは、ヒンジ及び膜貫通ドメインを介して抗体に由来するscFvをT細胞受容体のCD3ゼータ(ζ又はz)細胞内シグナル伝達ドメインに連結する。第二世代のCARは、共刺激シグナルを供給するための追加の共刺激ドメイン、例えばCD28、4-1BB(41BB)又はICOSを組み込んでいる。第三世代のCARは、TCRのCD3ζ鎖と融合した2つの共刺激ドメイン(例えば、CD27、CD28、4-1BB、ICOS又はOX40の組み合わせ)を含有する。(Maude et al.,Blood.2015;125(26):4017-4023;Kakarla and Gottschalk,Cancer J.2014;20(2):151-155)。様々な世代のCAR構築物は、いずれも本開示の範囲内である。
【0163】
一般に、CARは、標的抗原(例えば、抗体の単鎖フラグメント(scFv)又は他の抗体フラグメント)を認識する細胞外ドメインを含む融合ポリペプチドであり、細胞内ドメインは、T細胞受容体(TCR)複合体(例えば、CD3ζ)のシグナル伝達ドメインを含み、これは、ほとんどの場合に共刺激ドメインである。(Enblad et al.,Human Gene Therapy.2015;26(8):498-505)。CAR構築物は、細胞外ドメインと細胞内ドメインとの間にヒンジ及び膜貫通ドメインを更に含み得、且つ表面に発現するためにN末端にシグナルペプチドを含み得る。シグナルペプチドの例としては、MLLLVTSLLLCELPHPAFLLIP(配列番号102)及びMALPVTALLLPLALLLHAARP(配列番号103)が挙げられる。他のシグナルペプチドを使用し得る。
【0164】
(i)抗原結合細胞外ドメイン
抗原結合細胞外ドメインとは、CARが細胞表面に発現すると、細胞外液にさらされるCARポリペプチドの領域のことである。場合により、細胞表面発現を促進するために、シグナルペプチドがN末端に位置し得る。いくつかの実施形態では、抗原結合ドメインは、単鎖可変フラグメント(scFvであり、抗体重鎖可変領域(VH)と抗体軽鎖可変領域(VL)とを(いずれかの方向に)含み得る)であり得る。場合により、VHフラグメント及びVLフラグメントは、ペプチドリンカーを介して連結され得る。リンカーは、いくつかの実施形態では、可動性のために一続きのグリシン及びセリン並びに可溶性を付与するために一続きのグルタミン酸塩及びリシンを含んだ親水性残基を含む。scFvフラグメントは、親抗体の抗原結合特異性を保持しており、そこからscFvフラグメントが誘導される。いくつかの実施形態では、scFvは、ヒト化VHドメイン及び/又はVLドメインを含み得る。他の実施形態では、scFvのVHドメイン及び/又はVLドメインは、完全ヒト型である。
【0165】
抗原結合細胞外ドメインは、目的の標的抗原、例えば腫瘍抗原などの病的抗原に特異的であり得る。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原は、通常、全く発現されない場合があるか、又は低レベルでのみ発現される場合がある非腫瘍細胞よりも腫瘍細胞中において高レベルで発現されるタンパク質などの免疫原性分子を指す「腫瘍関連抗原」である。いくつかの実施形態では、腫瘍を内部に持つ宿主の免疫系によって認識される腫瘍関連構造は、腫瘍関連抗原と称される。いくつかの実施形態では、腫瘍関連抗原は、ほとんどの種類の腫瘍によって広範に発現される場合、普遍的な腫瘍抗原である。いくつかの実施形態では、腫瘍関連抗原は、分化抗原、変異性抗原、過剰発現細胞抗原又はウイルス抗原である。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原は、腫瘍細胞に固有のタンパク質などの免疫原性分子を指す「腫瘍特異抗原」又は「TSA」である。腫瘍特異抗原は、腫瘍細胞中、例えば特定の種類の癌細胞中のみで発現される。
【0166】
例示的な腫瘍抗原としては、CD19、CD33、BCMA及びCD70が挙げられるが、これらに限定されない。こうした腫瘍抗原に特異的な任意の既知の抗体、例えば市場売買が認可されたもの及び臨床実験中のものは、本明細書に開示されるCAR構築物の作製に使用され得る。
【0167】
(ii)膜貫通ドメイン
本明細書に開示されるCARポリペプチドは、膜にまたがる疎水性αヘリックスであり得る膜貫通ドメインを含有し得る。本明細書で使用する場合、「膜貫通ドメイン」とは、好ましくは、真核細胞膜である細胞膜内で熱力学的に安定な任意のタンパク質構造体を指す。膜貫通ドメインは、それ自体を含有するCARの安定性をもたらし得る。
【0168】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供されるCARの膜貫通ドメインは、CD8膜貫通ドメインであり得る。他の実施形態では、膜貫通ドメインは、CD28膜貫通ドメインであり得る。更に他の実施形態では、膜貫通ドメインは、CD8及びCD28膜貫通ドメインのキメラである。本明細書に提供される他の膜貫通ドメインを使用し得る。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは、FVPVFLPAKPTTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGG AVHTRGLDFACDIYIWA PLAGTCGVLLLSLVITLYCNHRNR(配列番号104)又はIYIWAPLAGTCGVLLLSLVITLY(配列番号105)の配列を含有するCD8a膜貫通ドメインである。他の膜貫通ドメインを使用し得る。
【0169】
(iii)ヒンジドメイン
いくつかの実施形態では、ヒンジドメインは、CARの細胞外ドメイン(抗原結合ドメインを含む)と膜貫通ドメインとの間に位置し得るか、又はCARの細胞質ドメインと膜貫通ドメインとの間に位置し得る。ヒンジドメインは、ポリペプチド鎖において膜貫通ドメインを細胞外ドメイン及び/又は細胞質ドメインに連結するように機能する任意のオリゴペプチド又はポリペプチドであり得る。ヒンジドメインは、CAR若しくはそのドメインに可動性をもたらすか、又はCAR若しくはそのドメインの立体障害を防ぐように機能し得る。
【0170】
いくつかの実施形態では、ヒンジドメインは、最大で300個のアミノ酸(例えば、10~100個のアミノ酸又は5~20個のアミノ酸)を含み得る。いくつかの実施形態では、CARの他の領域に1つ以上のヒンジドメインが含まれ得る。いくつかの実施形態では、ヒンジドメインは、CD8ヒンジドメインであり得る。他のヒンジドメインを使用し得る。
【0171】
(iv)細胞内シグナル伝達ドメイン
CAR構築物のいずれも、受容体の機能的末端である1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメイン(例えば、CD3ζ及び任意選択的に1つ以上の共刺激ドメイン)を含む。抗原認識後、受容体がクラスター化し、シグナルが細胞に伝達される。
【0172】
CD3ζは、T細胞受容体複合体の細胞質シグナル伝達ドメインである。CD3ζは、T細胞が同種抗原と会合した後にT細胞に活性化シグナルを伝達する3つの免疫受容活性化チロシンモチーフ(ITAM)を含む。多くの場合、CD3ζは、初代T細胞の活性化シグナルを提供するが、十分に適格な活性化シグナルではなく、共刺激シグナル伝達を必要とする。
【0173】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるCARポリペプチドは、1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインを更に含み得る。例えば、CD3ζによって媒介される一次シグナル伝達と共にCD28及び/又は4-1BBの共刺激ドメインを使用して、十分な増殖/生残シグナルを伝達し得る。いくつかの例では、本明細書に開示されるCARは、CD28共刺激分子を含む。他の例では、本明細書に開示されるCARは、4-1BB共刺激分子を含む。いくつかの実施形態では、CARは、CD3ζシグナル伝達ドメイン及びCD28共刺激ドメインを含む。他の実施形態では、CARは、CD3ζシグナル伝達ドメイン及び4-1BB共刺激ドメインを含む。更に他の実施形態では、CARは、CD3ζシグナル伝達ドメイン、CD28共刺激ドメイン及び4-1BB共刺激ドメインを含む。
【0174】
表7は、本明細書で使用され得る4-1BB、CD28及びCD3-ゼータに由来するシグナル伝達ドメインの例を提供する。
【0175】
【0176】
CAR構築物の非限定的な例は、その関連する開示が参照により本明細書で言及される目的及び主題に関して本明細書に組み込まれる国際公開第2019097305号パンフレット及び同第2019215500号パンフレット並びに同第2020/095107号パンフレットに提供されている。いくつかの例を下記で提供する。
【0177】
【0178】
【0179】
【0180】
例示的な抗CD33CAR構築物は、その関連する開示が参照により本明細書で言及される主題及び目的に関して組み込まれる国際公開第2020095107号パンフレットに見出され得る。
【0181】
T細胞へのCAR構築物の送達
いくつかの実施形態では、CARをコードする核酸は、当業者に既知の方法により、本明細書に開示されるT細胞バンクからの遺伝子操作されたT細胞のいずれかに導入され得る。例えば、CARのコード配列は、CAR発現のために遺伝子操作されたT細胞内に導入され得るベクター中にクローニングされ得る。当技術分野で既知の様々な異なる方法を使用して、本明細書に開示される核酸又は発現ベクターのいずれかを免疫エフェクター細胞に導入することができる。核酸を細胞に導入するための方法の非限定的な例としては、リポフェクション、トランスフェクション(例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、高度に分岐した有機化合物を使用するトランスフェクション、カチオン性ポリマーを使用するトランスフェクション、デンドリマー系トランスフェクション、光学的トランスフェクション、粒子系トランスフェクション(例えば、ナノ粒子トランスフェクション)又はリポソーム(例えば、カチオン性リポソーム)を使用するトランスフェクション)、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、セルスクイージング、ソノポレーション、プロトプラスト融合、インペールフェクション、水力学的送達、遺伝子銃、マグネトフェクション、ウイルストランスフェクション及びヌクレオフェクションが挙げられる。
【0182】
特定の例では、CARをコードする核酸は、アデノ随伴ウイルス(AAV)を使用して細胞に送達され得る。AAVは、宿主ゲノムに部位特異的に組込み、従ってCARなどの導入遺伝子を送達し得る小型のウイルスである。逆方向末端反復(ITR)は、AAVゲノム及び/又は目的の導入遺伝子に隣接して存在し、複製開始点として機能する。また、AAVゲノム中には、転写されるとAAVゲノムをカプセル化して標的細胞に送達するためのカプシドを形成するrepタンパク質及びcapタンパク質も存在する。これらのカプシド上の表面受容体によってAAVの血清型が付与され、カプシドがどの標的臓器に最初に結合するか、従っていずれの細胞にAAVが最も効率的に感染するかが決定される。現在知られているヒトAAVの血清型は、12種類である。いくつかの実施形態では、CARをコードする核酸を送達するのに使用するためのAAVは、AAV血清型6(AAV6)である。
【0183】
アデノ随伴ウイルスは、いくつかの理由のために遺伝子療法に最も頻繁に使用されるウイルスの1つである。第一に、AAVは、ヒトを含む哺乳動物に投与する際、免疫応答を誘発しない。第二に、AAVは、特に適切なAAV血清型の選択を考慮に入れると、標的細胞に効率的に送達される。最後に、AAVは、ゲノムが組み込むことなしに宿主細胞中で残存し得ることから、分裂細胞及び非分裂細胞の両方に感染する能力を有する。この特質により、AAVは、遺伝子療法の理想的な候補となる。
【0184】
CARをコードする核酸は、宿主T細胞内の目的のゲノム部位に挿入するように設計され得る。いくつかの実施形態では、標的ゲノム部位は、セーフハーバー遺伝子座内にあり得る。
【0185】
いくつかの実施形態では、CARをコードする核酸は、(例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターなどのウイルスベクターによって運ぶことが可能なドナー鋳型を介して)遺伝子操作されたT細胞内のTRAC遺伝子を破壊してCARポリペプチドを発現させるために、TRAC遺伝子内の位置に挿入することができるように設計することができる。TRACの破壊は、内因性TCRの機能喪失をもたらす。例えば、本明細書に記載されるようなエンドヌクレアーゼ及び1つ以上のTRACゲノム領域を標的化する1つ以上のgRNAにより、TRAC遺伝子の破壊を生じさせ得る。本明細書に開示されるTRAC遺伝子及び標的領域に特異的なgRNAのいずれかをこの目的のために使用することができる。
【0186】
いくつかの例では、相同組み換え修復、即ちHDR(例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターなどのウイルスベクターの一部であり得るドナー鋳型を使用した)により、TRAC遺伝子内のゲノム欠失と、CARをコードするセグメントによる置換とを生じさせることができる。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるようなエンドヌクレアーゼ及び1つ以上のTRACゲノム領域を標的化する1つ以上のgRNAにより、且つCARをコードするセグメントをTRAC遺伝子に挿入することにより、TRAC遺伝子の破壊を生じさせることができる。
【0187】
本明細書に開示されるようなドナー鋳型は、CARのコード配列を含有し得る。いくつかの例では、CARコード配列は、当技術分野で既知の遺伝子編集法を使用して、目的の遺伝子位置、例えばTRAC遺伝子において効率的なHDRを行うことができるように、2つの相同性領域に隣接し得る。いくつかの例では、CRISPRベースの方法を使用することができる。この場合、標的遺伝子座に特異的なgRNAによって誘導されたCRISPR Cas9酵素により、DNAの両方の鎖を標的遺伝子座で切断することができる。続いて、HDRが発生して二本鎖切断(DSB)を修復し、CARをコードするドナーDNAを挿入する。これを正しく発生させるために、ドナー配列は、TRAC遺伝子などの標的遺伝子のDSB部位を取り囲む配列に相補的な隣接残基(以下では「相同性アーム」)を有するように設計されている。これらの相同性アームは、DSB修復のための鋳型として機能し、HDRを本質的に誤りのない機構とすることを可能にする。相同組み換え修復(HDR)の割合は、変異部位と切断部位との間の距離の関数であり、そのため、重複しているか又は近傍の標的部位を選択することが重要である。鋳型は、相同領域に隣接した余分な配列を含むことができるか、又はゲノム配列と異なる配列を含むことができ、これによって配列編集が可能になる。
【0188】
代わりに、ドナー鋳型は、DNAの標的化された位置と相同性のある領域がなくてもよく、標的部位で切断された後にNHEJ依存的末端連結により組み込まれ得る。
【0189】
ドナー鋳型は、一本鎖及び/又は二本鎖のDNA又はRNAであり得、直鎖状又は環状形態で細胞に導入することができる。直鎖状形態で導入される場合、ドナー配列の末端は、当業者に既知の方法により(例えば、エキソヌクレアーゼによる分解から)保護することができる。例えば、1つ以上のジデオキシヌクレオチド残基を直鎖状分子の3’末端に付加し、且つ/又は自己相補的オリゴヌクレオチドを一方若しくは両方の末端に連結する。例えば、Chang et al.,(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:4959-4963;Nehls et al.,(1996)Science 272:886-889を参照されたい。外因性ポリヌクレオチドを分解から保護するための追加の方法としては、末端アミノ基の付加並びに例えばホスホロチオエート、ホスホロアミデート及びO-メチルリボース又はデオキシリボース残基などの修飾されたヌクレオチド間結合の使用が挙げられるが、これらに限定されない。
【0190】
ドナー鋳型は、例えば、複製開始点、プロモーター及び抗生物質耐性コード遺伝子などの追加の配列を有するベクター分子の一部として細胞に導入され得る。更に、ドナー鋳型は、裸の核酸として、リポソーム若しくはポロキサマーなどの薬剤と複合体を形成した核酸として細胞に導入することができるか、又はウイルス(例えば、アデノウイルス、AAV、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス及びインテグラーゼ欠損レンチウイルス(IDLV))により送達することができる。
【0191】
いくつかの実施形態では、ドナー鋳型は、その発現が内因性プロモーターによって駆動することができるように、内因性プロンプターの近傍の部位(例えば、下流又は上流)に挿入することができる。他の実施形態では、ドナー鋳型は、CAR遺伝子の発現を制御するために、外因性プロモーター及び/又はエンハンサー、例えば構成的プロモーター、誘導性プロモーター又は組織特異的プロモーターを含み得る。いくつかの実施形態では、外因性プロモーターは、EF1αプロモーターである。他のプロモーターを使用し得る。
【0192】
更に、外因性配列は、転写又は翻訳制御配列、例えばプロモーター、エンハンサー、インスレーター、配列内リボソーム進入部位、2Aペプチドをコードする配列及び/又はポリアデニル化シグナルも含み得る。
【0193】
必要に応じて、T細胞の機能及び治療有効性を改善するために、本明細書に開示されるT細胞バンクから生成された治療用T細胞に追加の遺伝子編集(例えば、遺伝子ノックイン又はノックアウト)を導入し得る。例えば、宿主対移植片応答のリスクを低減又は予防するためにβ2Mノックアウトを実施し得る。他の例としては、標的細胞溶解を改善するためのノックイン又はノックアウト遺伝子、T細胞バンクの細胞から調製されたCAR-T細胞などの治療用T細胞の性能を向上させるためのノックイン又はノックアウト遺伝子が挙げられる。例としては、PD-1などの免疫チェックポイント遺伝子のノックアウトが挙げられる。
【0194】
III.治療的適応
T細胞バンクの遺伝子操作されたT細胞を用いて生成された治療用T細胞は、TET2遺伝子中の変異、FAS遺伝子の破壊、CD70遺伝子の破壊又はこれらの組み合わせによって可能となる、T細胞の健全性を維持することが期待される。例えば、T細胞の健全性を維持することで、製造中の拡大を延長し、それにより収率及び一貫性を向上させることができる。別の例では、T細胞の健全性を維持することで、疲弊した/不健全なT細胞を救助し、それにより患者における潜在的なより低い用量及びより頑健な応答を可能にすることができる。
【0195】
本明細書に開示されるT細胞バンクを用いて生成された治療用T細胞は、治療目的、例えば治療用T細胞によって発現したCAR構築物によって標的化される固形腫瘍の処置のため対象に投与され得る。
【0196】
投与する工程は、所望の効果がもたらされ得るように、腫瘍部位などの所望の部位での治療用T細胞の少なくとも部分的な局在をもたらす方法又は経路による、対象への治療用T細胞の配置(例えば、移植)を含み得る。治療用T細胞は、移植された細胞又はこの細胞の構成要素の少なくとも一部が生存したままである対象中の所望の位置への送達をもたらす任意の適切な経路により投与され得る。対象への投与後の細胞の生存期間は、数時間(例えば、24時間)という短い期間から数日、数年又は更に対象の寿命(即ち長期の生着)までであり得る。例えば、本明細書に記載されるいくつかの態様では、有効量の治療用T細胞を、腹腔内又は静脈内経路などの全身性の投与経路を介して投与することができる。
【0197】
いくつかの実施形態では、治療用T細胞は全身的に投与され、これは、標的部位、組織又は臓器に直接ではなく、対象の循環系に入り、それにより代謝及び他の同様のプロセスにかけられるような細胞の集団の投与を指す。好適な投与の様式としては、注射、注入、点滴又は経口摂取が挙げられる。注射としては、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、脳室内、関節内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節腔内、被膜下、くも膜下、脊髄内、脳脊髄内及び胸骨内注射及び注入が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、経路は、静脈内である。
【0198】
対象は、診断、処置又は治療が望まれている任意の対象であり得る。いくつかの実施形態では、この対象は、哺乳動物である。いくつかの実施形態では、この対象は、ヒトである。
【0199】
いくつかの場合、治療用T細胞は、対象に対して自己由来(「自己」)であり、即ち、この細胞は、同じ対象からのものである。代わりに、治療用T細胞は、対象に対して非自己由来(「非自己」、例えば同種異系、同系又は異種)であり得る。「同種異系」とは、治療用T細胞が、処置を受ける対象からではなく、対象と同じ種の別の個体(ドナー)から誘導されることを意味する。ドナーは、処置されている対象ではない個体である。ドナーは、患者ではない個体である。いくつかの実施形態では、ドナーは、処置される癌を有しないか又は有すると疑われていない個体である。いくつかの実施形態では、複数のドナー(例えば、2例以上のドナー)が使用される。
【0200】
いくつかの実施形態では、本明細書で説明されている方法に従って投与される操作されたT細胞集団は、1つ又は複数のドナーから得られた同種異系T細胞を含む。同種異系とは、1つ以上の遺伝子座における遺伝子がレシピエント(例えば、対象)と同一ではない同じ種の1つ以上の異なるドナーから得られた細胞、細胞集団又は細胞を含む生体試料を指す。例えば、対象に投与される操作されたT細胞集団は、1つ以上の血縁ではないドナー又は1つ以上の同一ではない同胞から誘導され得る。いくつかの実施形態では、遺伝的に同一のドナー(例えば、同一の双子)から得られたものなどの同系細胞集団が使用され得る。いくつかの実施形態では、細胞は、自己細胞であり、即ち、操作されたT細胞は、対象から得られるか又は単離されて同じ対象に投与され、即ち、ドナー及びレシピエントは、同一である。
【0201】
有効量とは、医学的状態(例えば、癌)の少なくとも1つ以上の徴候又は症状を予防又は軽減するのに必要である、操作されたT細胞の集団の量を指し、所望の効果をもたらすのに(例えば、医学的状態を有する対象を処置するのに)十分な量の組成物に関する。有効量としては、疾患の症状の発症を予防するか若しくは遅らせるか、疾患の症状の経過を変える(例えば、限定されないが、疾患の症状の進行を遅らせる)か、又は疾患の症状を逆転させるのに十分な量も挙げられる。任意の所与の場合に関して、適切な有効量は、通常の実験を使用して当業者により決定できることが理解される。
【0202】
本明細書に開示されるT細胞バンクから生成された治療用T細胞の向上した残存率及び有効性のために、本明細書で提供される治療用T細胞の用量は、従来のアプローチによって調製される(例えば、変異TET2遺伝子、破壊されたFAS遺伝子及び/又は破壊されたCD70遺伝子を含む、本明細書に開示される遺伝子編集イベントの1つ以上を有さないT細胞を使用した)CAR-T細胞の標準用量よりも低くなり得る。いくつかの例では、本明細書に開示される治療用T細胞の有効量は、CAR-T療法の標準用量よりも少なくとも2倍低い、少なくとも5倍低い、少なくとも10倍低い、少なくとも20倍低い、少なくとも50倍低い又は少なくとも100倍低いことができる。いくつかの例では、本明細書に開示される治療用T細胞の有効量は、106細胞未満、例えば105細胞、5×104細胞、104細胞、5×103細胞又は103細胞未満であり得る。本明細書で説明されるいくつかの例では、細胞は、それを必要とする対象への投与前に培養液中で拡大される。
【0203】
本明細書に開示される治療用T細胞を用いた処置の有効性は、熟練した臨床医によって決定され得る。処置は、任意の1つ又は全ての徴候又は症状の、一例では機能的標的のレベルが有利な様式で変えられる(例えば、少なくとも10%増加する)か、又は疾患(例えば、癌)の他の臨床的に認められている症状又はマーカーが改善されるか又は緩和される場合、「有効」と見なされる。有効性は、入院又は医学的介入の必要性により評価して、対象が悪化しないことによっても測定され得る(例えば、疾患の進行が止まるか又は少なくとも遅くなる)。これらの指標を測定する方法は、当業者に既知であり、且つ/又は本明細書で説明されている。処置は、対象における疾患の任意の処置を含み、且つ(1)疾患を阻害すること、例えば症状の進行を止めるか若しくは遅くすること、又は(2)疾患を軽減すること、例えば症状の退行をもたらすこと、及び(3)症状の発症の可能性を予防するか若しくは減少させることを含む。
【0204】
併用療法も本開示により包含される。例えば、本明細書に開示される治療用T細胞は、同じ適応症を処置するか、又は治療用T細胞の有効性を向上させ、且つ/若しくは治療用T細胞の副作用を低減するために、他の治療剤と併用され得る。
【0205】
キット
本開示は、T細胞バンク、治療用T細胞を生成するのに使用するため且つ治療的使用のためのキットも提供する。
【0206】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供されるキットは、TET2遺伝子、FAS遺伝子及びCD70遺伝子の1つ以上の遺伝子編集を実施するための構成要素並びに任意選択的に遺伝子編集が実施される免疫細胞の集団(例えば、ロイコパック)を含み得る。ロイコパック試料は、末梢血から回収される濃縮白血球搬出生成物であり得る。これは、典型的には、単球、リンパ球、血小板、血漿及び赤血球を含む様々な血球を含有する。標的遺伝子の1つ以上を遺伝子編集するための構成要素は、RNA誘導エンドヌクレアーゼなどの好適なエンドヌクレアーゼ及びエンドヌクレアーゼによる1つ以上の好適なゲノム部位の切断を誘導する1つ以上の核酸ガイドを含み得る。例えば、キットは、Cas9などのCas酵素並びにTET2遺伝子、FAS遺伝子及び/又はCD70遺伝子を標的化する1つ以上のgRNAを含み得る。これらの標的遺伝子に特異的なgRNAのいずれかがキットに含まれ得る。こうしたキットは、更なる遺伝子編集のための構成要素、例えばgRNA並びに任意選択的にβ2M及び/又はTRACなどの他の標的遺伝子を編集するための追加のエンドヌクレアーゼを更に含み得る。
【0207】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供されるキットは、本明細書に開示されるT細胞バンクの遺伝子操作されたT細胞の集団及び同様に本明細書に開示される治療用T細胞を生成するための1つ以上の構成要素を含み得る。こうした構成要素は、目的のCAR構築物のための遺伝子編集及び核酸コード化に好適なエンドヌクレアーゼを含み得る。CARをコードする核酸は、CARコード配列に隣接する相同性アームを含有し得る、本明細書に開示されるドナー鋳型の一部であり得る。いくつかの場合、ドナー鋳型は、AAVベクターなどのウイルスベクターによって運ばれ得る。キットは、CARコード配列をTRAC遺伝子に挿入するためのTRAC遺伝子に特異的なgRNAを更に含み得る。
【0208】
更に他の実施形態では、本明細書に開示されるキットは、意図される治療目的のための開示される治療用T細胞の集団を含み得る。
【0209】
本明細書に開示されるキットのいずれも、T細胞バンクの作製、治療用T細胞又は治療用T細胞の治療的適応に関する指示を更に含み得る。いくつかの例では、含まれる指示は、好適な供給源(例えば、本明細書に記載されるもの)の親T細胞からT細胞バンクを作製するための、標的遺伝子(例えば、TET2、FAS、CD70又はこれらの組み合わせ)の1つ以上を遺伝子操作するための遺伝子編集構成要素の使用の説明を含み得る。他の例では、含まれる指示は、治療用T細胞を作製するために、T細胞バンクのT細胞にCAR構築物をコードする核酸を導入する方法の説明を含み得る。
【0210】
代わりに、キットは、目的の活性、例えば治療用T細胞上で発現したCARによって標的化される疾患細胞の消失を達成するための本明細書に開示される治療用T細胞の投与に関する指示を更に含み得る。キットは、対象が処置を必要としているか否かを特定することに基づいて、処置に適した対象を選択することの説明を更に含み得る。本明細書に記載される治療用T細胞の使用に関する指示は、一般に、目的の処置に関する投薬量、投薬スケジュール及び投与経路に関する情報を含む。容器は、単位容量、バルクパッケージ(例えば、複数用量パッケージ)又は副単位用量であり得る。本開示のキット内で供給される指示は、典型的には、ラベル又は添付文書上の書面指示である。ラベル又は添付文書は、治療用T細胞が、対象における疾患又は障害を処置し、発病を遅らせ、且つ/又はそれを緩和するために用いられることを示す。
【0211】
本明細書で提供されるキットは、好適なパッケージング内にある。好適なパッケージングとしては、バイアル、瓶、ジャー、可撓性パッケージングなどが挙げられるが、これらに限定されない。治療用T細胞を投与するための注入装置などの特定の装置と組み合わせて使用するためのパッケージも検討される。キットは、滅菌アクセスポートを有し得る(例えば、容器は、皮下注射針によって穿刺可能なストッパーを有する静脈注射用溶液袋又はバイアルであり得る)。容器は、滅菌アクセスポートも有し得る。
【0212】
キットは、任意選択的に、緩衝材及び解説情報などの追加の構成要素を提供し得る。通常、キットは、容器と、容器上の又は容器に付随したラベル又は添付文書とを含む。いくつかの実施形態では、本開示は、上記で説明されたキットの内容物を含む製造物品を提供する。
【0213】
一般的技術
本開示の実施では、別段の指摘がない限り、当技術分野の範囲内にある分子生物学(組み換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学及び免疫学の従来技術が用いられる。こうした技術は、例えば下記の文献で十分に説明されている:Molecular Cloning:A Laboratory Manual,second edition(Sambrook,et al.,1989)Cold Spring Harbor Press;Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait,ed.1984);Methods in Molecular Biology,Humana Press;Cell Biology:A Laboratory Notebook(J.E.Cellis,ed.,1989)Academic Press;Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.1987);Introuction to Cell and Tissue Culture(J.P.Mather and P.E.Roberts,1998)Plenum Press;Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures(A.Doyle,J.B.Griffiths,and D.G.Newell,eds.1993-8)J.Wiley and Sons;Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.);Handbook of Experimental Immunology(D.M.Weir and C.C.Blackwell,eds.):Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M.Miller and M.P.Calos,eds.,1987);Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubel,et al.eds.1987);PCR:The Polymerase Chain Reaction,(Mullis,et al.,eds.1994);Current Protocols in Immunology(J.E.Coligan et al.,eds.,1991);Short Protocols in Molecular Biology(Wiley and Sons,1999);Immunobiology(C.A.Janeway and P.Travers,1997);Antibodies(P.Finch,1997);Antibodies:a practice approach(D.Catty.,ed.,IRL Press,1988-1989);Monoclonal antibodies:a practical approach(P.Shepherd and C.Dean,eds.,Oxford University Press,2000);Using antibodies:a laboratory manual(E.Harlow and D.Lane(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999);The Antibodies(M.Zanetti and J.D.Capra,eds.Harwood Academic Publishers,1995);DNA Cloning:A practical Approach,Volumes I and II(D.N.Glover ed.1985);Nucleic Acid Hybridization(B.D.Hames&S.J.Higgins eds.(1985≫;Transcription and Translation(B.D.Hames&S.J.Higgins,eds.(1984≫;Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.(1986≫;Immobilized Cells and Enzymes(lRL Press,(1986≫;及びB.Perbal,A practical Guide To Molecular Cloning(1984);F.M.Ausubel et al.(eds.)。
【0214】
当業者であれば、更なる詳述なしに、上記の説明に基づいて本発明を最大限に利用することができると考えられる。従って、以下の特定の実施形態は、単なる例示として解釈すべきであり、決して以下の本開示を限定するものではない。本明細書で引用する全ての刊行物は、本明細書で言及される目的のために又は主題に対して参考として組み入れられる。
【実施例】
【0215】
実施例1:初代ヒトT細胞に対するTET2ノックアウト(KO)又は変異の効果
(i)T細胞中のCas9:sgRNA RNPによるTET2の効率的ノックアウト又は変異
この実施例は、エクスビボでCRISPR/Cas9遺伝子編集を使用して初代ヒトPBMC細胞から誘導されたT細胞中のTET2遺伝子の効率的な編集を記載する。第4、第5及び第6つのタンパク質をコードするエクソンを含有するTET2遺伝子のゲノムセグメントは、gRNA設計ソフトウェアにおける入力として使用された。所望のgRNAは、コード配列における欠失を引き起こし、TET2のアミノ酸配列を破壊し、アウトオブフレーム/機能喪失対立遺伝子(「TET2ノックアウト」対立遺伝子又はTET2タンパク質の切断と呼ばれる)をもたらすものであった。TET2遺伝子を標的化するインシリコで同定されたgRNAスペーサー配列中の4つが合成され、gRNAは、表1に示されるように特異的に修飾された。表1におけるgRNAは2’-O-メチルホスホロチオエート修飾で修飾されたが、未修飾gRNA又は他の修飾を有するgRNAが使用され得る。その関連する開示が参照により本明細書で言及される目的及び主題に関して組み込まれる国際公開第2019097305号パンフレットも参照されたい。
【0216】
初代ヒトPBMC細胞から誘導された活性化T細胞が、Cas9ヌクレアーゼ及びTET2遺伝子(上記の表3の配列)を標的化する合成的に修飾されたsgRNAを含有するリボ核タンパク質粒子(RNP)又は対照(Cas9なし、gRNAなし)でトランスフェクト(エレクトロポレーション)された。トランスフェクションから6日後、細胞を免疫ブロットしてインデルの効率を評価した。
【0217】
図1A~1Bに示すように、Simple Western(protein simple,San Jose,CA)と称するキャピラリベースのサイズ分離イムノアッセイによって判定して、gRNAs TET2エクソン4_BG4、TET2エクソン5_T1、TET2エクソン5_T2又はTET2エクソン6_BG5で処置した細胞中にTET2タンパク質は検出されず、TET2エクソン5_T1 gRNA又はエクソン6_BG5 gRNAのいずれかで処置した細胞中にTET2タンパク質の切断型(野生型TET2よりも低い見かけ分子量を有する)が検出された。
【0218】
(ii)TET2 KO又は変異がT細胞の増殖及び拡大を増加させた
T細胞がサイトカイン含有培地(IL-2+IL-7)中で拡大する能力に対するTET2調節(破壊又は切断変異を含む)の効果を評価するために、破壊又は変異TET2遺伝子を含む細胞を上記のとおりに生成した。等しい数の細胞を1.5×10
6細胞/mlのサイトカイン含有培地(IL-2+IL-7)に播種し、2~3日ごとに細胞係数を記録し、新鮮なサイトカイン含有培地(IL-2+IL-7)中で細胞密度を1.5×10
6細胞/mlに調整した。TET2エクソン5_T1又はTET2エクソン5_T2で誘導されたTET2遺伝子中の破壊を含有するT細胞は、TET2遺伝子破壊を含まない対照細胞と比較してより高いレベルまで拡大した(
図1B)。トランスフェクションから6週間超後、TET2エクソン5_T1又はTET2エクソン5_T2 gRNAによるTET2編集細胞は増殖を続け、TET2エクソン5_T1 gRNAによるTET2の調節(TET2の切断型をもたらす)は、他の群と比較して培養液中でより高い細胞収率をもたらし、非トランスフェクト細胞(WT)と比較して250倍超の細胞収率の増加を生じさせた。
図1B。
【0219】
他のTET2コードエクソンの破壊がより大きいT細胞の拡大をもたらすか否かを評価するために、T細胞を、TET2エクソン4_BG4及びTET2エクソン6_BG5 gRNAで処置した後、TET2遺伝子中に破壊を含めて生成した。T細胞を編集した後、これらを、標準的T細胞培養条件下で4週間成長させた(5%ヒトAB血清(HP1022,Valley Biomedical)、50ng/mlのIL-2(rhIL-2;130-097-745,Miltenyi Biotech)及び10ng/mlのIL-7(rhIL-7;Cellgenix 001410-050)を添加したX-vivo培地(04-744,Lonza)。4週間後、3×10
6個の細胞をG-Rex(ガス透過性急速拡大(Gas Permeable Rapid Expansion),Wilson Wolf P/N80660M)6ウェルプレートに播種した。細胞の拡大を、10週間の間、週に1回生存細胞を計数することにより評価した。拡大を初期播種の3×10
6個の細胞の最新の細胞係数までの倍数変化として記録した(即ち最新細胞係数/3×10
6個の細胞)。細胞を、完全培地中で1mLあたり1×10
6細胞に維持した。
図1Dに示すように、TET2遺伝子のエクソン4又はエクソン6のいずれかを破壊することにより生成したTET2 KOは、10週間の計数期間(培養液中には合計で14週間)中、RNP処置されていない対照T細胞の15~19倍の拡大をもたらした。
【0220】
要約すると、TET2修飾T細胞は、非修飾T細胞よりもはるかに長い4週間超も培養液中で拡大可能であることが判明した。
【0221】
(iii)TET2 KO又は切断型変異は、延長された細胞培養中でアポトーシス細胞数を減少させる。
延長された細胞培養中でアポトーシスを生じるTET2欠損細胞の数を、エレクトロポレーション後36日目に評価した。要約すると、一定分量の細胞を洗浄し、アネキシンV結合緩衝液(BioLegend)中で7-AADと共にFITCコンジュゲートアネキシンVにより室温で15分間染色した。次に、細胞を洗浄し、フローサイトメトリによる分析のためにアネキシンV結合緩衝液中で再懸濁した。以下の表8に示すように、TET2エクソン5_T1又はTET2エクソン5_T2 gRNAで編集したT細胞は、アポトーシス細胞の減少と、未編集細胞と比較して7~8倍の健全細胞のパーセンテージの増加とを示した。
【0222】
【0223】
(iv)TET2 KO及び切断型変異は、延長された細胞培養中の活性化可能なT細胞の数を増加させた。
延長された細胞培養中で活性化されるTET2修飾T細胞の能力を評価するために、破壊されたTET2遺伝子を含む細胞を上記のとおり生成した。トランスフェクション後45日目に、0.5×106個のT細胞をBD Golgiplugで1時間処置し、続いてGolgiplugの存在下でPMA/イオノマイシンにより4時間活性化した。細胞を回収し、活性化マーカーについて表面染色し、IFNガンマ生成について細胞内染色した。TET2遺伝子中にそれぞれTET2エクソン3_T3及びTET2エクソン5_T1によって生じた破壊及び切断型変異を含有するT細胞は、TET2遺伝子の破壊又は他のgRNAでトランスフェクトされたT細胞を含まない対照細胞と比較して、より高い頻度の活性化且つIFN-γ-陽性細胞(CD25+、IFN-γ-+細胞)を示した。下記の表9を参照されたい。
【0224】
【0225】
実施例2:FASノックアウト(KO)は増殖を増加させ、アポトーシスを低減させた
(i)T細胞のCas9:sgRNA RNPによるFASのノックアウト
この実施例は、エクスビボでCRISPR/Cas9遺伝子編集アプローチを使用して初代ヒトT細胞におけるFAS遺伝子の効率的な編集を説明する。所望のgRNAは、コード配列における挿入又は欠失を引き起こして、FASのアミノ酸配列を破壊し、アウトオブフレーム/機能喪失対立遺伝子(「FASノックアウト」対立遺伝子と呼ばれる)をもたらすものであった。FAS遺伝子を標的化する5つ全てのインシリコ同定されたgRNAスペーサー配列が合成された。
【0226】
2つの健全なドナー由来の初代ヒトT細胞を、Cas9ヌクレアーゼ及びFAS遺伝子(上記の表5の配列)を標的化する合成的に修飾されたsgRNA(2’-O-メチルホスホロチオエート修飾で)を含有するリボ核タンパク質粒子(RNP)又は対照(Cas9なし、gRNAなし)でトランスフェクト(エレクトロポレーション)した。トランスフェクションから6日後、細胞表面のFAS発現レベルを評価するために、細胞をフローサイトメトリ(一次抗体:PE Dazzle 594抗ヒトFAS抗体、クローンDX2、Biolegend)によって処理した。
【0227】
図2Aに示すように、上記の表5に列挙するgRNAは全て、最高の編集効率を有するgRNA FAS Ex3_T2を用いて特定のレベルのFASノックアウトをもたらした。
【0228】
(ii)FAS KOは抗BCMA CAR T細胞のサイトカイン駆動増殖を増加させた
細胞増殖に対するFAS及び/又はCD70ノックアウトの効果を評価するため、抗BCMA CAR T細胞を用いた。以下の編集されたT BCMA-CAR T細胞の群が生成された。
TRAC-/B2M-/抗BCMA CAR+(対照;2KO、BCMA CAR+)
TRAC-/B2M-/FAS-/抗BCMA CAR+(3KO(FAS)、BCMA CAR+)
TRAC-/B2M-/CD70-/抗BCMA CAR+(3KO(CD70)、BCMA CAR+)
TRAC-/B2M-/FAS-/CD70-/抗BCMA CAR+(4KO、BCMA CAR+)
【0229】
CD3+B2M+細胞の磁性の枯渇により、編集された細胞をTRAC-/B2M-細胞に関して濃縮した。要約すると、細胞を、抗CD3ビオチン(Biolegend Cat#300404)抗β2Mビオチン(Biolegend Cat#316308)抗体で、それぞれ100μl体積中1×106細胞あたり0.5μgにて4℃で15分間標識し、洗浄し、ストレプトアビジン標識磁性マイクロビーズ(Miltenyi Biotech、130-048-101)と共に4℃で15分間インキュベートした。細胞を緩衝液中に再懸濁し、製造者の手順に従ってLSカラム(Miltenyi Biotech,130-042-401)に通した。
【0230】
IL-2/IL-7に駆動されるT細胞増殖に対するFAS又はCD70の効果を決定するために、編集されたT細胞(1×106細胞/ml)を増殖培地(5%ヒトAB血清(HP1022,Valley Biomedical)、50ng/mlのIL-2(rhIL-2;130-097-745,Miltenyi Biotech)及び10ng/mlのIL-7(rhIL-7;Cellgenix 001410-050)を添加したX-vivo培地(04-744,Lonza)中で最大4週間培養した。指定された日に、細胞を計数し、適切な培養皿中で1.5×106細胞/mlで新鮮な培地に再播種した。
【0231】
図2Bに示すように、FAS又はCD70のノックアウトは、対照(即ち内因性FAS及びCD70を含む抗BCMA CAR T細胞)と比較して、インビトロで抗BCMA CAR T細胞のIL-2/IL-7に駆動される増殖を改善した。FAS及びCD70の両方のノックアウトは、FAS又はCD70のみのノックアウトと比較して、抗BCMA CAR T細胞の増殖能力に対する相乗効果を示した。
図2B。
【0232】
(iii)FAS KOは、抗FAS抗体誘導性アポトーシスから抗BCMA CAR T細胞を救助した
抗FAS抗体に曝露した後の抗BCMA CAR+T細胞のアポトーシス細胞死に対するFAS KOの効果を評価した。要約すると、FAS-FASLシグナル伝達経路を活性化するために、抗BCMA CAR+T細胞を抗FAS抗体(1μg/ml,BioLegend,Cat No.305704)に48時間曝露した。処置の最後に、一定分量の細胞を洗浄し、アネキシンV結合緩衝液(BioLegend)中で7-AADと共に蛍光色素でコンジュゲートされたアネキシンVにより室温で15分間染色した。次に、細胞を洗浄し、フローサイトメトリによる分析のためにアネキシンV結合緩衝液中で再懸濁した。
【0233】
図2Cに示すように、3KO(TRAC-/B2M-/FAS-)及び4KO(TRAC-/B2M-/FAS-/CD70-)細胞の両方の中のアポトーシス細胞のパーセンテージの低下により実証されるように、FASの欠失(FAS KO)が、抗FAS抗体により誘導されたアポトーシスから抗BCMA CAR+T細胞を救助した。
【0234】
実施例3:CD70、TET2及びFASの三重ノックアウトが、抗CD19 CAR T細胞の細胞溶解活性を向上させた
編集された抗CD19 CAR T細胞を調製した後、CAR T細胞の機能活性を、フローサイトメトリベースの細胞傷害性アッセイを使用して検証した。抗CD19 CARの開示は、その関連する開示が参照により本明細書で言及される目的及び主題に関して組み込まれる国際公開第2019/097305号パンフレットを参照されたい。抗CD19 CAR T細胞(TRAC-/β2M-/CD19 CAR+及びTRAC-/β2M-/CD70-/TET2-/FAS-/CD19 CAR+)を、CD19発現癌細胞株(標的細胞):Raji(ATCC ccl-86)と共培養した。標的細胞は、5μM efluor670(eBiosciences)で標識され、洗浄され、TRAC-/β2M-/抗CD19 CAR+又はTRAC-/β2M-/CD70-/TET2-/FAS-/抗CD19 CAR+との様々な比(0.01、0.05、0.1、0.5、1:1 T細胞:標的細胞)での共培養物中でインキュベートされた。標的細胞は、96ウェル、U底プレート中において1ウェルあたり100,000細胞で播種された。共培養物を48時間インキュベートした。インキュベーション後、ウェルを洗浄し、培地を、5mg/mL DAPI(Molecular Probes)の1:500希釈物を含有する200μLの培地に置き換えた。次に、25μLのCountBrightビーズ(Life Technologies)を各ウェルに加え、フローサイトメトリによって細胞培養物の細胞生存率を分析した(即ち、生存細胞は、DAPI染色が陰性である)。
【0235】
次に、標的細胞(例えば、Nalm6又はRaji細胞)の細胞溶解パーセントを、以下の式を使用して決定した:
細胞溶解パーセント=(1-((試験試料における標的細胞の総数)÷(対照試料における標的細胞の総数))×100。
【0236】
この式において、試験試料とは、(1)TRAC-/β2M-/CD19 CAR+T細胞、又は(2)TRAC-/β2M-/CD70-/TET2-/FAS-/抗CD19 CAR+細胞と共培養された標的細胞(例えばRaji細胞)を指し、対照試料とは、CAR-T細胞と共培養されていない標的細胞のみを指す。
【0237】
CD70、TET2及びFAS遺伝子の破壊は、低いCAR-T対標的比率におけるRaji細胞株に対する抗CD19 CAR-T細胞の細胞溶解活性の向上をもたらした。
図3A。抗CD19 CAR-T細胞(例えばTC1細胞)の説明については国際公開第2019097305号パンフレットを参照されたい。このPCT国際公開特許の関連する開示は、参照により本明細書で言及される目的及び主題に関して本明細書に組み込まれる。Raji細胞株に対してCD70、TET2及びFASの喪失により付与される活性の増加は、困難な腫瘍環境において、特に、CAR-T対腫瘍比率が低い場合、CD70、TET2及びFASの喪失が、腫瘍細胞の根絶におけるCAR-T細胞に対する実質的な利益を有し得ることを示す。
【0238】
T細胞バンクの生成及び細胞バンク拡大後の連続編集
更に、TET2遺伝子が最初にノックアウトされ、続いて培養液中で4週間後に更に編集されるCRISPR/Cas9遺伝子編集技術の使用を、ヒトT細胞バンクの生成に関して研究する。具体的には、4週間目に、追加のもう1つ又は2つの遺伝子を欠損したT細胞を生成するように、CRISPR/Cas9遺伝子編集によってFAS細胞表面死受容体(FAS)遺伝子及び分化抗原群70(CD70)遺伝子を編集した。初期編集を活性化した初代ヒトT細胞中で実施し、これは対照T細胞(RNPなし)及びT細胞とTET2 Cas9/gRNA RNPとの複合体のエレクトロポレーションを含んだ。ヌクレオフェクション混合物は、Nucleofector(商標)溶液、5×106細胞、1μMのCas9及び5μMのgRNA(Hendel et al.,Nat Biotechnol.2015;33(9):985-989,PMID:26121415に記載される)を含有した。
【0239】
4週間後に実施した編集は、TET2ノックアウトT細胞及びRNPなしの対照T細胞の再エレクトロポレーションを含んだ。二重ノックアウトT細胞を生成するため、TET2ノックアウト細胞を、Cas9タンパク質及び以下のsgRNAs:FAS又はCD70の1つを含有するRNP複合体でエレクトロポレーションした。三重ノックアウトT細胞を生成するために、TET2ノックアウト細胞を、各RNP複合体がCasタンパク質及び以下のsgRNA:FAS及びCD70の1つを含有する2つの異なるRNP複合体でエレクトロポレーションした。TET2、FAS及びCD70遺伝子の遺伝子編集に使用するための例示的なgRNAを以下の表10に示す。
【0240】
【0241】
細胞バンクの更なる編集が細胞の拡大に影響を及ぼすか否かを評価するために、一重、二重、三重遺伝子編集されたT細胞(未編集のT細胞は対照として使用した)の間で細胞数を編集後の7週間にわたって数え上げた。1×106細胞が生成され、T細胞の各遺伝子型について播種された。エレクトロポレーション後、細胞の拡大を、7週間の間、週に1回生存細胞を計数することにより評価した。細胞を、完全培地中で1mLあたり1×106細胞に維持した。
【0242】
図3Bに示されるように、増殖(拡大)は、編集された細胞バンク条件下の第2のエレクトロポレーション後に継続した。細胞増殖は、生存細胞の数によって示されるとおり、一重TET2(細胞バンク)、二重(TET2-/CD70-)若しくは(TET2-/FAS-)又は三重(TET2-/CD70-/FAS)ノックアウトT細胞の間で観察された。これらのデータは、回復期間後のT細胞の増殖によって測定して、TET2-T細胞バンクに対する一重遺伝子編集はT細胞の健全性に影響を及ぼさないことを示唆する。
【0243】
実施例4:静脈内播種性Nalm-6ヒト急性リンパ芽球性白血病腫瘍異種移植片モデル(Intravenous Disseminated Nalm-6 Human Acute Lymphoblastic Leukemia Tumor Xenograft Model)における、同種異系CAR T細胞に対するTET2、FAS及びCD70 KOのインビボ効果
播種マウスモデルを用いて、B2M及びTRAC並びにTET2、FAS及び/又はCD70を含まない同種異系CAR T細胞のインビボ有効性を更に評価した。
【0244】
NOGマウス中でCD19+ B-ALL誘導Nalm-6ヒト急性リンパ芽球性白血病腫瘍細胞株を用いた静脈内播種性モデル(播種性モデル)を、本明細書に開示される追加の遺伝子編集(例えばTET2、FAS及び/又はCD70)を含む又は含まない抗CD19/TRAC-/B2M-CAR T細胞(抗CD19 CAR T細胞)の有効性を実証するために用いた。抗CD19 CAR T細胞は、実施例3に記載されるとおりに製造した。国際公開第2019/097305号パンフレットも参照されたい。
【0245】
Translations Drug Development,LLC(Scottsdale、AZ)で用いられる方法及び本明細書に記載される方法を使用した播種性モデルで抗CD19 CAR T細胞の有効性を評価した。要約すると、40匹の5~8週齢雌性CIEA NOG(NOD.Cg-PrkdcscidI12rgtm1Sug/JicTac)マウスを、試験が開始する5~7日前に病原体を含まない条件下に維持された、換気されたマイクロアイソレーターケージ内で個別に飼育した。試験開始時、マウスを表11に示す8つの処置群に分けた。マウスにNalm6-Fluc-GFP(Nalm6-Fluc-Neo/eGFP--Puro)細胞を静脈内播種して、播種性疾患をモデリングした。1日目に、全てのマウスに0.5×106Nalm6細胞/マウスの静脈注射を投与した。4日目に、表11に示すように、群2~8にCAR T細胞(4×106CAR+細胞/マウス)の静脈注射を投与した。
【0246】
【0247】
研究の過程において、マウスを毎日監視し、体重を週2回測定した。2、7、14、21、42及び50日目に、顎下腺採血(submandibular bleed)によって全てのマウスから血液試料(0.1ml/マウス)を回収して、研究の過程にわたるCAR T細胞の拡大を評価した。生物発光(BLI;合計ROI、光子/秒)を、研究の4日目から開始して週2回測定した。重要な評価項目は周囲罹患までの時間であり、T細胞の生着の効果も評価した。研究中、全ての群に対して動物死亡率のパーセンテージ及び死亡までの時間を記録した。マウスは、瀕死状態に達する前に安楽死させた。マウスは、以下の基準の1つ以上が満たされた場合、瀕死であると定義され、犠牲にされ得る:
・1週間を超える期間にわたり持続する20%以上の体重の減少;
・摂食、飲水、運動性並びに排尿及び/若しくは排便能力などの正常な生理学的機能を阻害する腫瘍;
・過剰な体重減少(>20%)をもたらす長期の過剰な下痢;又は
・持続的な喘鳴及び呼吸困難。
【0248】
動物は、臨床的観察によって定義して、下記のものなどの長期の又は過剰な疼痛又は困難が存在する場合も瀕死であると見なされた:衰弱、猫背の姿勢、麻痺/不全麻痺、腹部膨張、潰瘍形成、膿瘍、痙攣及び/又は出血。
【0249】
(i)インビボ生残率
単独で又はCD70及び/若しくはFASとの組み合わせでのいずれかで(群4、6及び8)追加のTET2ノックアウトを含むTRAC-/B2M-CAR T細胞を投与された群のマウスは、未処置(群1)及び野生型TET2対立遺伝子を含むTRAC-/B2M-同種異系抗CD19 CAR T細胞で処置したもの(群2)の両方のマウスと比較して生残期間の増加を示し、処置から153日後でもNalm6白血病のために死ぬことはなかった。CD70の喪失(群3;抗CD19 CAR/TRAC-/B2M-/CD70-)は、群2のマウスと比較して生残期間を増加させなかったが、TET2ノックアウトの添加は、群2のマウスと比較して群6(抗CD19 CAR/TRAC-/B2M-/TET2-/CD70-)及び群8(抗CD19 CAR/TRAC-/B2M-/FAS-/TET2-/CD70-)のマウスの生残期間を延長させた。下記の表12を参照されたい。
【0250】
【0251】
同種異系抗CD19 CAR+/TRAC-/B2M-T細胞で観察されたTET2 KOの効果が、sgRNA TET2 エクソン4 BG4に特異的であるかどうかを評価するために、別の健全なドナーから別個の細胞のロットを調製し、上記のNalm6/インビボモデル中で試験した。以下のsgRNA(TET2エクソン6_BG5、TET2エクソン4_BG4又はTET2エクソン3_T1)のいずれかを含むTET2遺伝子座の破壊を有する4×10
6CAR+細胞で処置したマウスは、全て、TRAC-/B2M-/CAR+T細胞を投与されたマウスよりも長く生残期間を延長し(
図5A;全てのTET2-群は、TRAC-/B2M-/CAR+T細胞(p=.0021)に対して統計的に有意な生残期間を示した;ログランク検定)、経時的なNalm6-ルシフェラーゼ活性の低減を示した(
図5B)。従って、TET2は、Nalm6播種性マウスモデルにおけるCAR T有効性を改善した。
【0252】
まとめると、TET2ノックアウトは際立った細胞拡大をもたらして、CD19+悪性腫瘍のインビボモデルにおけるCAR T細胞の機能の向上をもたらす。更に、TET2 KOは、CAR-T細胞が他の遺伝子中で細胞に対する追加の利益(例えば、抗アポトーシス/抗老化)を有し得る編集を担持することを可能にするが、それ自体でこの白血病モデルの生残期間を延長することはない。
【0253】
(ii)インビボでのCAR T細胞の拡大
上述した研究全体にわたって回収された血液試料から単離されたDNAのddPCRによってCARのコピー数を測定することにより、CAR T細胞の拡大を評価した。
【0254】
Qiagen Dneasy blood and tissue kit(Qiagen,Venlo,Netherlands)を用いてマウスの組織からDNAを単離した。Nanodrop(Thermo Fisher Scientific)又はDropSense96(trinean,Gentbrugge,Belgium)機のいずれかを用いて、RBC溶解した試料からの核酸の全質量を定量化した。ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)によってヒトTRAC遺伝子座に組み込まれたCAR構築物のレベルを定量化するために、プライマー及び6-カルボキシフルオレセイン(FAM)で標識したプローブのセット(下記の表12に示す)を設計した。ddPCRは、Bio-Rad Automated Droplet Generator、Bio-Rad T100 Thermal Cycler及びBio-Rad QX200 Droplet Reader機(Bio-rad Laboratories,Hercules,CA)を使用して実施した。QuantaSoft Version 1.7.4.0917(Bio-rad Laboratories)ソフトウェアを使用して、試料あたりの組み込まれたCARコピーの絶対数を計算した。最後に、検出されたCAR対立遺伝子の数を入力総DNA量で割って、入力試料の質量あたりのCARコピーの絶対数を計算した。ddPCRアッセイは、内因性TRAC配列及びCAR発現カセットプロモーター(EF-1α)にわたる866bpの単位複製配列を増幅することにより、ゲノムDNA(gDNA)の質量あたりの組み込まれたCAR導入遺伝子のコピー数を検出する。簡潔に言えば、アッセイの定性化により、試験された範囲(1μgのgDNAあたり2~300,000コピー)内で線形データ(R2>0.95)がもたらされ、のみならず、条件≧LLOQの正常範囲(%RE≦100%及び%CV≦20%)内の%相対誤差(%RE)及び変動係数(%CV)が生成された。LLOD及びLLOQは、利用可能なデータに基づいて計算し、LLODはgDNA0.2μgあたり5コピーに設定し、LLOQは0.2μgあたり40コピーに設定した。
【0255】
【0256】
これらの分析は、同種異系CAR T細胞(TRAC
-/B2M
-)にTET2 KOを添加することで、TET2 KOなしの同種異系CAR T細胞で処置した群(例えば群2、3、5及び7)と比較して、処置したマウス(例えば群4、6及び8)の血液中でT細胞がより高いレベルに拡大することが可能となったことを実証する(
図4)。この拡大は、研究の21日目に明らかとなり、100日目を超えた。FAS KOも、CAR T細胞に、50日目に明らかとなったより低度の拡大を与えたように見えた(例えば群5又は7対群2)(
図4)。
【0257】
要約すると、TET2が喪失した全ての群は、末梢血中でCAR-T細胞が拡大し、FASが喪失した群は、比較的後の時点でレベルの増加を示した。
【0258】
実施例5:TET2のノックアウトは、液性腫瘍及び固形腫瘍モデルにおける機能性CAR-T細胞の残存率を増加させる
TET2 KOがCAR-T効力を増加させる機序を評価するために、いくつかの再チャレンジモデルにおけるCAR T細胞の残存率に対するTET2破壊の効果を調べた。CD19+悪性腫瘍の再チャレンジモデルにおいて、NOGマウスは、最初にNalm6-ルシフェラーゼ細胞を投与され、上記のとおりのCAR-T細胞が投与された。マウスに、3つのgRNA:TET2エクソン6_BG5のTET2エクソン4_BG4、TET2エクソン3_T1の1つを用いてTET2の追加の破壊が誘導された群と共に全てTRAC-/B2M-である8×10
6CAR+CD19 CAR-T細胞を投与した。未処置のマウスは、白血病のために速やかに死んだが、全てのCAR-T細胞群は、30日間以内に初期Nalm6-ルシフェラーゼ白血病から回復した(
図6A)。研究の35日目に、全てのマウスがより攻撃性の強い癌細胞株を用いた癌細胞の第2の用量を投与された。マウスあたり0.5×10
6細胞のCD19+バーキットリンパ腫誘導Raji-ルシフェラーゼ細胞株をマウスに静脈注射(i.v.)した。未投薬マウス(Nalm-luc細胞を投与されていないマウス)はRajiリンパ腫のために死んだ。しかしながら、過去にTRAC-/B2M-/TET2-細胞を投与された後にNalm6腫瘍から回復したマウスは、TRAC-/B2M- CAR T細胞のみを投与されたマウスよりも良好に第2の腫瘍を抑制した(
図6A)。これらのデータは、TET2の破壊によって機能性CAR-T細胞の継続した残存が可能となる証拠を提供する。いくつかの異なるsgRNAで編集された細胞も同様の結果をもたらしたため、この効果は、破壊されたTET2ゲノム分節に依存しない。
【0259】
異なるCAR構築物(抗BCMA CAR)に関連して、TET2 KOが異なる液性腫瘍モデル(多発性骨髄腫)中のCAR-T細胞の残存率を増加させる能力を評価するために、CAR-T細胞を標的化するBCMAを健全なドナーから製造した。抗BCMA CAR T細胞は、上述したとおりに製造した。TRAC-/B2M-及びTRAC-/B2M-/TET2-であるCAR-T細胞の群を製造した(TET2エクソン4_BG4、TET2エクソン6_BG5又はTET2エクソン5_T1 sgRNAのいずれかを用いて)。最初に、NOGマウスの右脇腹に、1×10
7の多発性骨髄腫から誘導されたRPMI-8226細胞を皮下播種した。9日後、腫瘍が触知可能となったときに、1×10
6のCAR+細胞をi.v.注射した。未処置のマウスは速やかに腫瘍エンドポイント(2000mm
3)のために死んだが、TRAC-/B2M-及びTRAC-/B2M-/TET2-群の両方は、原発性RPMI-8226腫瘍から効率的に回復した(
図6B)。研究の32日目に、過去にCAR+T細胞で処置したマウスを、1×10
7の新鮮なRPMI-8226細胞をマウスの左脇腹に注射することによって腫瘍の再チャレンジに供した。未投薬マウスの新しい群は、1×10
7の新鮮なRPMI-8226細胞を左脇腹に注射した(未処置群)。TRAC-/B2M-BCMA-CAR-T細胞は、再チャレンジをある程度抑制できたが、TRAC-/B2M-/TET2-BCMA-CAR-T細胞は、これらの新しい腫瘍細胞を速やかに消失させた(
図6C)。まとめると、TET2の破壊により、CAR-T細胞が複数の液性腫瘍モデル中の攻撃的な再チャレンジモデル中でより長期間残存することが可能となる。これは、異なる癌抗原を標的化する複数のCAR T細胞をもたらす。
【0260】
固形腫瘍中のCAR-T細胞の残存率を増加させるためのTET2喪失の能力を評価するために、CD70標的化CAR T細胞(抗CD70 CAR T細胞)を健全なドナーから製造した。TRAC-/B2M-/CD70-及びTRAC-/B2M-/CD70-/TET2-(例えばTET2エクソン4)BG4 sgRNA)であるCAR-T細胞の群を製造した。最初に、NOGマウスの右脇腹に5×10
6の腎細胞癌(RCC)から誘導されたA498細胞を皮下播種した。腫瘍が500mm
3に達したときに、1×10
7のCAR-T細胞をi.v.注射した。未処置のマウスは速やかに腫瘍エンドポイント(2000mm
3)のために死んだが、TRAC-/B2M-/CD70-及びTRAC-/B2M-/CD70-/TET2-の両方は原発性A498腫瘍から効率的に回復した(
図6D)。研究の54日目に、5×10
6のRCCから誘導されたCaki-1細胞をマウスの左脇腹に注射することにより、マウスを腫瘍再チャレンジに供した。未投薬マウスの新しい群は、1×10
7の新鮮なRPMI-8226細胞を左脇腹に注射した(未処置群)。TRAC-/B2M-/CD70-/CD70-/CAR-T細胞はCaki-1腫瘍の低度の抑制を示したが、TRAC-/B2M-/CD70-/TET2-/CD70-/CAR-T細胞は、これらの腫瘍細胞を速やかに消失させた(
図6E)。まとめると、TET2の破壊により、CAR-T細胞が液性腫瘍及び固形腫瘍の両方の攻撃的な再チャレンジモデル中でより長期間残存することが可能となる。
【0261】
実施例6.TET2欠損CAR-T細胞の成長はサイトカインに依存する。
TET2を欠くCAR-T細胞の腫瘍形成能を評価するために、TRAC-/B2M-であり、TET2の野生型であるか又はTET2の破壊を有するかのいずれかである抗CD19 CAR T細胞を生成した(TET2の破壊は、TET2エクソン4_BG4、TET2エクソン6_BG5、TET2-エクソン5_T1のいずれかを用いて生成した)。続いて、細胞を、ゲノム編集細胞が培養液中の成長因子及び/又はサイトカイン非依存性成長を示す能力を評価するために用いた。2×10
6の細胞を、完全T細胞培地(5%ヒト血清+IL-2及びIL-7を含有する)又は血清を含有するがIL-2及びIL-7を含有しない培地のいずれかに置いた。続いて、トリパンブルー及びCountess自動細胞カウンタ(Thermo Fisher Scientific)を用いて細胞を毎週計数した。全ての細胞群が血清及びサイトカインを含有する培地中で成長することができたが、6週間にわたりこれらの群のいずれからも成長(outgrowth)は検出されなかった。
図7。これらのデータは、ヒト末梢血から誘導されたT細胞はその成長をサイトカインに依存し続けているため、TET2の破壊は、直接的なこれらの細胞の発癌性形質転換をもたらさないことを実証する。
【0262】
実施例7.TET-2ガイドRNAのオンターゲット及びオフターゲット編集
様々なTET2標的化gRNAのオンターゲット及びオフターゲット編集効率を、上記の実施例1で開示した方法に従って調べた。要約すると、初代ヒトPBMC細胞から誘導された活性化T細胞が、Cas9ヌクレアーゼ及びTET2遺伝子(上記の表3の配列)を標的化する合成的に修飾されたsgRNAを含有するリボ核タンパク質粒子(RNP)又は対照(Cas9なし、gRNAなし)でトランスフェクト(エレクトロポレーション)された。トランスフェクションから6日後、細胞を免疫ブロットして、タンパク質発現に対するオンターゲットTET2編集の効果を評価した。
【0263】
ゲノムのオン及びオフターゲット評価のために、2つの異なるドナーT細胞(1及び2と称される)から2つの編集細胞の細胞集団を生成するために同じエレクトロポレーション法を用いた。表3及び14に列挙される7つのガイドのそれぞれで細胞を遺伝子編集し、トランスフェクションから6日後に回収した。これらの試料を、次世代配列決定と組み合わせて、オン及びオフターゲット部位を濃縮するための相同性依存的な方法のハイブリッドキャプチャで分析した。要約すると、各gRNA標的部位との相同性を有するオン及びオフターゲット部位をコンピュータによって同定し、一本鎖RNAプローブを用いてバルクゲノムDNAからこれらの部位を濃縮し、これらの濃縮された部位を次世代配列決定で配列決定し、このデータをCRISPR/Cas9媒介遺伝子編集後の修復を示す挿入及び欠失に関して分析した。
【0264】
結果を下記の表14に示す。
【0265】
【0266】
T細胞におけるオンターゲットインデルプロファイルの分析
オフターゲット編集を定量化するために使用されるデータを、表14に列挙される全てのTET2ガイドに関して最も頻度の高いオンターゲットインデルを定量化し、要約するためにも使用した。このデータは、2つのドナー(ドナー1及びドナー2と称される)における次世代配列決定と組み合わせたTET2遺伝子座のハイブリッドキャプチャから生成した。
【0267】
遺伝子編集に続いて、TET2-T細胞を生成するためのCRISPR/Cas9遺伝子編集後のT細胞集団におけるTET2遺伝子座のハイブリッドキャプチャ分析は、TET2遺伝子座における特定のインデル頻度及び編集された遺伝子配列をもたらす(表15~21;ダッシュが欠失であり、及び太字が挿入である)。
【0268】
ハイブリッドキャプチャデータから個々の配列を定量化するために、切断部位の20bp上流及び下流のTET2オンターゲット部位にわたって整列する配列リードが、インデル配列定量化のために選択され、検討された。選択されたリードから、各推定上切断部位の10bp上流及び下流以内にある配列(PAMの約3bp上流(Jinek,et al.,Science 2012)は、オンターゲット非相同末端連結(NHEJ)編集の代表的な領域として定量化された。これらのオンターゲット遺伝子編集された配列のデータは、下の表に提示され、これらの配列の頻度は、各切断部位の20bp上流及び下流以内のオンターゲット部位にわたる全ての配列のパーセントを表す。各ガイドのインデルは、表15~21におけるオンターゲット参照配列に対して示される。参照配列は、いずれかの方向において10bpを伴い、PAMの3’の4bpで終わる切断部位の中央に置かれる。
【0269】
【0270】
【0271】
【0272】
【0273】
【0274】
【0275】
【0276】
実施例8.抗BCMA CAR-T細胞中のTET2ノックアウトは、成長の優位性及びCAR-Tの濃縮をもたらす
キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法は、遺伝子修飾されたT細胞を使用して、癌細胞をより特異的且つ効率的に標的化して死滅させる。T細胞が血液から回収された後、この細胞は、その表面上にCARを含むように操作される。CARは、CRISPR/Cas9遺伝子編集技術を使用してT細胞に導入され得る。これらの同種異系CAR T細胞が患者に注射されると、受容体が、T細胞が癌細胞を死滅させることを可能にする。
【0277】
この実施例は、例えば複数ラウンドの標的抗原刺激によるCAR-T細胞中の遺伝子編集を介するTET2ノックアウトから生じる有利な特徴を更に研究する。
【0278】
(I)TET2 KO(TET2-)又はTET2 WT(TET2+)抗BCMA CAR-T細胞の生成
活性化された初代ヒトT細胞を、Cas9:TET2 sgRNA1 RNP複合体でエレクトロポレーションし(EP1)、ポリクローナルTET2 KO集団を生成した。72時間後、これらの細胞又は野生型(WT)活性化初代T細胞を、Cas9:gRNA RNP複合体(RNPs)及びアデノ随伴アデノウイルスベクター(AAV)で再度エレクトロポレーションして(EP2)、TET2-/TRAC-/β2M-/抗BCMA CAR+(TET2-/抗BCMA CAR)又はTRAC-/β2M-/抗BCMA CAR+T細胞(TET2+/抗BCMA CAR)を生成した。2つの対照群を生成し、ここでAAV又はRNPのいずれかがEP2で除外された(それぞれTET2-/AAV-及びTET2-/RNP-)。活性化された同種異系ヒトT細胞に、抗BCMA CARをコードするヌクレオチド配列(配列番号149)の1つを含む組み換えAAV血清型6(AAV6)を、Cas9:sgRNA RNP(1μMのCas9、5μMのgRNA)と共に送達した。以下のsgRNAを使用した:TET2(配列番号13)、TRAC(配列番号93)及びβ2M(配列番号97)。
【0279】
エレクトロポレーション(EP1)から約1週間後、抗TET2ポリクローナル抗体(Diagenode#C15410255-100)を1:500希釈度で用いる自動ウェスタンブロット(Wes(商標)、Proteinsimple)により、細胞のTET2タンパク質ノックダウンを評価した。本アッセイから得られた結果は、TET2 KO(TET2-)抗BCMA CAR-T細胞中ではTET2の検出を確認せず、一方で対照細胞及びTET2 WT(TET2+)抗BCMA CAR-T細胞中ではTET2の発現を検出した。
【0280】
EP2後9日目に、細胞をフローサイトメトリのためにも処理して、編集された細胞集団の細胞表面におけるTRAC及びβ2Mノックアウトレベル及び抗BCMA CARの発現を評価した。細胞は、下記の表22に示される抗体のパネルで染色した。
【0281】
【0282】
結果を以下の表23に示す。全ての抗BCMA CAR-T細胞及びTRAC-/β2M-対照細胞(TET2-/AAV-)に関して、生存細胞の>85%がTCRの発現を欠いており、>74%がβ2Mの発現を欠いており、抗BCMA CAR-T細胞集団の>72%がTRAC-/B2M-の両方であった。生CAR-T細胞をその前方散乱(FSC)及び側方散乱(SSC)プロファイルにより且つ7-AAD染料でゲートをかけた。
【0283】
【0284】
(II).TET2 KO(TET2-)又はTET2 WT(TET2+)抗BCMA CAR-T細胞の抗原刺激
CAR発現の判定後の1週間の間、異なる細胞集団を拡大した。各CAR-T集団(TET2-/抗BCMA CAR-T、TET2+/抗BCMA CAR-T、TET2-/AAV-及びTET2-/RNP-)の100万個の細胞を、続いて、完全T細胞培地中の12ウェル組織培養プレート中で標的細胞株MM1Sと1:1のE:T比で三重に共培養し、37℃で48時間(刺激ラウンド1)又は72時間(刺激ラウンド2及び3)(共培養されたCAR-T細胞が全ての標的細胞を死滅させることを確実にするために過去に確立された十分な期間)インキュベートした。合計で3ラウンドの刺激を実施し、各刺激後にCAR-T細胞を回収し、洗浄し、トリパンブルーを用いて計数し(生存評価のために)、新鮮な標的細胞を100万細胞/ウェルで、1:1のE:Tで、三重に再播種した。更に、下記の表24に示す抗体パネルを用いたFACSにより、細胞の一部をCAR-T発現に関して評価した。3ラウンドの刺激後、CAR-T細胞を回収し、拡大して、成長及び生存%並びに表24に示す抗体パネルを用いた表面CAR発現の周期的なFACS評価を監視した。
【0285】
【0286】
これらの抗BCMA CAR-T集団の延長培養の結果は、T細胞中のTET2のノックアウトは、全体的な生存に有意な差をもたらすことなく(
図8B)、標的細胞株で刺激されたCAR-T細胞に増殖の有利性を与える(
図8A)ことを示す。更に、TET2+/抗BCMA CAR-T細胞又は刺激を受けていない細胞と比較してTET2 KO細胞中のBCMA CAR-T陽性細胞の優先的な濃縮が観察された(
図8C)。
【0287】
(III).TET2 KO抗BCMA CAR-T細胞(TET2-/抗BCMA CAR T)とTET2 WT抗BCMA CAR-T細胞(TET2+/抗BCMA CAR T)と間の機能的特徴の比較
標的細胞刺激の各ラウンド後、抗BCMA CAR T細胞の機能的活性(エフェクターサイトカイン分泌によって立証される)を、インターフェロンガンマ(IFNγ)のサイトカイン放出アッセイを用いて評価した。上記の共培養期間後、共培養された細胞から上清培地を回収し、ELISA(RD Systems)を使用して、製造業者の指示に従いIFNγのレベルを測定した。磁気ミクロスフェアであるHCYIFNG-MAG(Millipore、カタログ#HCYIFNG-MAG)を用いるMILLIPLEXキット(Millipore、カタログ#HCYTOMAG-60K)を用いて、共培養刺激アッセイからの試料中のIFNγ分泌を定量化した。アッセイは、製造業者の指示に従い実施した。
【0288】
要約すると、MILLIPLEX(登録商標)標準及び品質管理(QC)試料を再構成し、10,000pg/mL~3.2pg/mLの実用標準の連続希釈を調製した。MILLIPLEX(登録商標)標準、QC及び細胞上清を各プレートに添加し、アッセイ培地を用いて上清を希釈した。全ての試料を、HCYIFNG-MAGビーズで2時間インキュベートした。インキュベート後、自動磁気プレート洗浄機を用いてプレートを洗浄した。ヒトサイトカイン/ケモカイン検出抗体溶液を各ウェルに添加して1時間インキュベートし、続いてストレプトアビジン-フィコエリトリンで30分間インキュベートした。続いてプレートを洗浄し、試料を150μLのシース液に再懸濁させ、プレート振とう器上で5分間攪拌した。xPONENT(登録商標)ソフトウェアを備えたLuminex(登録商標)100/200(商標)機器を用いて試料を読み取り、データの取得及び分析を、MILLIPLEX(登録商標)Analystソフトウェアを用いて完了させた。未知の試料中で測定されたサイトカイン濃度を計算するために、中央蛍光強度(MFI)データが、5パラメーターのロジスティック曲線適合法を用いて自動的に分析される。
【0289】
結果は、これらの条件下で複数ラウンドの標的細胞株の刺激後、TET2 KOを含む又は含まない抗BCMA CAR-T細胞中のIFNγの分泌に有意差が存在しなかったことを示した(
図8D)。対照細胞のTCR-/β2M-(AAV陰性)及び非CAR編集(RNP陰性)は、MM1S細胞の存在下で有意な又は特定のIFNγ分泌反応を示さなかった。
【0290】
要約すると、上記の研究は、以下を示す:(a)TET2 KO抗BCMA CAR-T細胞(TET2-/抗BCMA CAR T)は、MM1S抗原刺激後、TET2 WT抗BCMA CAR T細胞(TET2+/抗BCMA CAR T)を上回る成長の優位性を示した;(b)TET2 KO抗BCMA CAR-T細胞は、抗原刺激後、TET2 WT抗BCMA CAR T細胞を上回る抗BCMA CAR陽性細胞の濃縮を示した;及び(c)TET2 KOは、複数の抗原刺激を受けたTET2 WT抗BCMA CAR T細胞と比較して、抗BCMA CAR-T機能活性(IFNγ分泌)を変化させなかった。これらの結果は、CAR-T細胞中でTET2ノックアウトを操作すること(本明細書では一例として抗BCMA CAR-T細胞を用いる)は、成長の優位性及びCAR-T濃縮効果の両方を付与することを実証した。これは、遺伝子編集によってインビトロでのCAR-T細胞の増殖をブーストすることは実現可能であり、機能を損なうことなしにより高いCAR-T収率が可能な細胞バンクを生成するために用いることができるという概念実証の証拠を提供する。
【0291】
実施例9.FASガイドRNAのオンターゲット及びオフターゲット編集
最高の遺伝子編集効率を示す3つのガイドであるFAS-ex2-T2、FAS-ex3_T1、FAS-ex3_T2に関して、様々なFAS標的化gRNAのオンターゲット及びオフターゲット編集効率を調べた(
図2Aを参照)。要約すると、初代ヒトPBMC細胞から誘導された活性化T細胞を、Cas9ヌクレアーゼ及びFAS遺伝子(上記の表5の配列)を標的化する合成的に修飾されたsgRNAを含有するリボ核タンパク質粒子(RNP)でトランスフェクト(エレクトロポレーション)するか、又は未処置対照(エレクトロポレーションなし、Cas9なし、gRNAなし)として調製した。
【0292】
ゲノムのオン及びオフターゲット評価の場合、2つの異なるドナーT細胞(1及び2と称される)から編集された細胞の2つの細胞集団を生成するために同じエレクトロポレーション法を用いた。表5に列挙される最上部のガイドの3つで細胞を遺伝子編集し、トランスフェクションから10日後に回収した。これらの試料を、次世代配列決定と組み合わせて、オン及びオフターゲット部位を濃縮するための相同性依存的な方法のハイブリッドキャプチャで分析した。要約すると、各gRNA標的部位との相同性を有するオン及びオフターゲット部位をコンピュータによって同定し、一本鎖RNAプローブを用いてバルクゲノムDNAからこれらの部位を濃縮し、これらの濃縮された部位を次世代配列決定で配列決定し、このデータをCRISPR編集後の修復を示す挿入及び欠失に関して分析した。
【0293】
結果を下記の表25に示す。
【0294】
【0295】
T細胞におけるオンターゲットインデルプロファイルの分析
オフターゲット編集を定量化するために使用されるデータを、表25に列挙される全てのFASガイドに関して最も頻度の高いオンターゲットインデルを定量化し、要約するためにも使用した。このデータは、2つのドナー(ドナー1及びドナー2と称される)における次世代配列決定と組み合わせたFAS遺伝子座のハイブリッドキャプチャから生成した。
【0296】
遺伝子編集に続いて、FAS-T細胞を生成するためのCRISPR/Cas9遺伝子編集後のT細胞集団におけるFAS遺伝子座のハイブリッドキャプチャ分析は、FAS遺伝子座における特定のインデル頻度及び編集された遺伝子配列をもたらす(表26~28;ダッシュが欠失であり、及び太字が挿入である)。
【0297】
ハイブリッドキャプチャデータから個々の配列を定量化するために、切断部位の20bp上流及び下流のFASオンターゲット部位にわたって整列する配列リードが、インデル配列定量化のために選択され、検討された。選択されたリードから、各推定上切断部位の10bp上流及び下流以内にある配列(PAMの約3bp上流(Jinek,et al.,Science 2012)は、オンターゲット非相同末端連結(NHEJ)編集の代表的な領域として定量化された。これらのオンターゲット遺伝子編集された配列のデータは、下の表に提示され、これらの配列の頻度は、各切断部位の20bp上流及び下流以内のオンターゲット部位にわたる全ての配列のパーセントを表す。各ガイドのインデルは、表22~24におけるオンターゲット参照配列に対して示される。参照配列は、いずれかの方向において10bpを伴い、PAMの3’の4bpで終わる切断部位の中央に置かれる。
【0298】
【0299】
【0300】
【0301】
実施例10.同種異系ヒトCD19 CAR-T細胞株の誘導
TRAC-/B2M-/FAS-/TET2-/CD70-CD19 CAR発現T細胞(健全なヒトドナーの末梢血T細胞から生成した)を投与された3体のマウスから、脾細胞を単離した。これらのマウスは、注入後>3ヶ月でNalm6白血病を抑制した。単離された脾細胞を、IL-2/IL-7及びヒト血清を含有するヒトT細胞培地中で培養し、細胞の成長を監視した。マウス脾臓単離物の1つに由来する細胞は、経時的な成長を示した(これらの細胞を単離細胞と称する)。これらの単離細胞は、2ヶ月間の培養後、>99%TRAC-/B2M-/CAR+であり、且つFAS、CD70、TET2において高頻度のインデルと共にCD4表現型を有した。より具体的には、FACS分析は、試験された細胞集団中で97.8%が生細胞であり、99.1%がTCR及びB2M陰性であり、99.1%がCAR陽性であり、99.8%がCD4陽性であることを示した。
【0302】
単離細胞は、ヒトサイトカインIL-2及びIL-7に対するその依存性を維持した(
図9A)。これらの細胞は、CD19+細胞を死滅させる能力も保持し(
図9B)、インビトロの細胞毒性及びサイトカイン放出機能を更に維持した(それぞれ
図9C及び9D)。単離細胞は、Nalm6白血病モデルに再度注入され、TRAC-/B2M-/抗CD19 CAR T細胞の新鮮なロットと同等の有効性を示した。(
図9E)。
【0303】
単離細胞を用いたこのインビボ試験の第2ラウンドに続いて、1体のマウスから細胞を再び単離し、サイトカイン含有培地中で数週間更に培養/拡大した。これらの再単離細胞は、初期のインビボ単離由来の細胞と同じ表現型を維持した。再単離細胞は、Nalm6白血病を制御するその能力を評価するための第2の実験に用いる。
【0304】
この実施例は、残存するT細胞株は、インビトロ及びインビボで機能性を維持し、細胞バンク及び/又は治療として機能する潜在力を有する正常な健全ドナー(例えばヒトドナー)から誘導された末梢血T細胞から生成され得ることを示唆する。
【0305】
他の実施形態
本明細書に開示される特徴は、全て任意の組み合わせで組み合わせが可能である。本明細書に開示される各特徴は、同じ、均等な又は同様の目的に役立つ代替的な特徴へと置き換えが可能である。即ち、明示的に別段の定めをした場合を除き、開示される各特徴は、一般的な一連の均等な又は同様の特徴の単なる一例である。
【0306】
上記の説明から、当業者は、本発明の本質的な特性を容易に把握することができ、その趣旨及び範囲から逸脱することなく、本発明を各種の用途及び条件に適合させるために本発明の種々の変更形態及び修正形態をなし得る。従って、他の実施形態も請求項の範囲に含まれるものとする。
【0307】
均等物
本明細書でいくつかの本発明の実施形態を説明及び図示してきたが、当業者であれば、本明細書で説明される機能を実施し、且つ/又は結果及び/若しくは1つ以上の利点を得るための様々な他の手段及び/又は構造を容易に想定し、こうした変形形態及び/又は修正形態のそれぞれは、本明細書で説明される本発明の実施形態の範囲内にあるものと見なされる。より一般的には、当業者であれば、本明細書で説明される全てのパラメーター、寸法、材料及び構成が例示的であることを意図し、実際のパラメーター、寸法、材料及び/又は構成が、本発明の教示が適用される特定の用途に依存することを容易に理解する。当業者は、本明細書に記載された特定の本発明の実施形態に対する多く均等物を、日常の実験のみを用いて認識するか又は確認することが可能である。従って、上述の実施形態は、単に例として提示されており、また添付の特許請求の範囲及びその均等物の範囲内において、本発明の実施形態は、具体的に説明及び特許請求される以外の別の方法で実践され得ることを理解されたい。本開示の本発明の実施形態は、本明細書で説明される各個別の特徴、システム、物品、材料、キット及び/又は方法を対象とする。加えて、2つ以上のこうした特徴、システム、物品、材料、キット及び/又は方法の任意の組み合わせは、こうした特徴、システム、物品、材料、キット及び/又は方法が相互に矛盾しない場合、本開示の本発明の範囲内に含まれる。
【0308】
本明細書中で定義され、用いられる全ての定義は、辞書の定義、参照により組み込まれる文献中の定義及び/又は定義される用語の普通の意味を超えて優先されるものと理解されたい。
【0309】
本明細書に開示されている全ての参考文献、特許及び特許出願は、それぞれ引用されている主題に関して参照により組み込まれており、場合により文献の全体を包含する場合がある。
【0310】
不定冠詞「1つの(a)」及び「1つの(an)」は、本明細書及び特許請求の範囲において使用される場合、反対に明確に示されない限り、「少なくとも1つ」を意味するものと理解されるべきである。
【0311】
本明細書及び特許請求の範囲で使用するとき、「及び/又は」という表現は、等位結合される要素、即ち一部の場合に接続的に提示され、他の場合に離接的に提示される要素の「いずれか又は両方」を意味するものとして理解されたい。「及び/又は」と共に列挙される複数の要素は、同じように、即ちそのように結合された要素の「1つ以上」と解釈されるべきである。「及び/又は」の節によって具体的に特定される要素以外に、具体的に特定された要素に関連するか又は関連しないに関わらず、他の要素が任意選択的に提示され得る。従って、非限定的な例として、「A及び/又はB」に対する参照は、「含む」などのオープンエンド用語と共に使用される場合、一実施形態ではAのみ(任意選択的にB以外の要素を含む)、別の実施形態ではBのみ(任意選択的にA以外の要素を含む)、更に別の実施形態ではA及びBの両方(任意選択的に他の要素を含む)などを指し得る。
【0312】
本明細書及び特許請求の範囲で使用するとき、「又は」は、上記で定義される「及び/又は」と同じ意味を有するものと理解されるべきである。例えば、リスト中の項目を分離する際、「又は」又は「及び/又は」は、包括的であり、即ち要素のリストの少なくとも1つを含むが、2つ以上の数及び任意選択的に追加的な列挙されていない項目も含むものと解釈されるべきである。「~の1つのみ」若しくは「~の厳密に1つ」又は特許請求の範囲で使用されるときの「~からなる」などの反対を明らかに示す用語のみが、多数の要素又は要素のリストの厳密に1つの要素の包含を指す。一般に、本明細書で使用する場合、「又は」という用語は、「いずれか」、「~の1つ」、「~の1つのみ」又は「~の正確に1つ」などの排他的な用語の前に置かれた場合、排他的代替物を示すに過ぎない(即ち「一方又は他方、ただし両方ではない」)ものと解釈するべきである。特許請求の範囲で使用する場合、「~から本質的になる」とは、特許法の分野で使用されるような通常の意味を有するものとする。
【0313】
本明細書で使用する場合、本明細書及び特許請求の範囲における、1つ以上の要素の列挙に関する「少なくとも1つ」という語句は、要素の列挙内の要素の任意の1つ以上から選択される少なくとも1つの要素であるが、要素の列挙内に具体的に列挙されたあらゆる要素の少なくとも1つを必ずしも含まず、且つ要素の列挙内の要素の任意の組み合わせを必ずしも除外しないことを意味するものと理解すべきである。この定義により、具体的に特定されるそれらの要素に関係するか否かに関わらず、「少なくとも1つ」という語句が意味する要素の列挙内に具体的に特定される要素以外の要素が任意選択的に存在し得ることも可能になる。従って、非限定的な例として、「A及びBの少なくとも1つ」(換言すると「A又はBの少なくとも1つ」、換言すると「A及び/又はBの少なくとも1つ」は、一実施形態では、任意選択により2つ以上のAを含み、Bが存在しない(及び任意選択によりB以外の要素を含む)少なくとも1つを指すことができ、別の実施形態では、任意選択により2つ以上のBを含み、Aが存在しない(及び任意選択によりA以外の要素を含む)少なくとも1つを指すことができ、更に別の実施形態では、任意選択により2つ以上のAを含む少なくとも1つ、且つ任意選択により2つ以上のBを含む少なくとも1つ(及び任意選択により他の要素を含む)を指すなどであり得る。
【0314】
同様に、反対に明確に示されない限り、2つ以上の工程又は行為を含む、本明細書で特許請求される任意の方法において、この方法の工程又は行為の順序は、必ずしもこの方法の工程又は行為が列挙される順序に限定されないことも理解されるべきである。
【配列表】
【国際調査報告】