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特表2022-547898圧電スティックスリップモータおよびその制御方法
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  • 特表-圧電スティックスリップモータおよびその制御方法 図1
  • 特表-圧電スティックスリップモータおよびその制御方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-16
(54)【発明の名称】圧電スティックスリップモータおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02N 2/06 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
H02N2/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022514746
(86)(22)【出願日】2020-08-25
(85)【翻訳文提出日】2022-05-02
(86)【国際出願番号】 EP2020073749
(87)【国際公開番号】W WO2021043636
(87)【国際公開日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】19195819.8
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505257752
【氏名又は名称】フィジック インストゥルメント(ピーアイ)ゲーエムベーハー アンド ツェーオー.カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クルピ,ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】クナイプ,ジェローム
【テーマコード(参考)】
5H681
【Fターム(参考)】
5H681AA18
5H681BB02
5H681BB07
5H681DD23
5H681FF23
5H681FF30
5H681FF38
(57)【要約】
本発明は、圧電スティックスリップモータおよびその制御方法に関する。ノイズの発生を抑えた状態で圧電スティックスリップモータの速度変化を可能にするために、本発明は、請求項1に記載の、以下のステップを含む圧電スティックスリップモータの制御方法を提供する。ステップA:モータに一定の周波数を有する周期的な鋸歯波形の駆動電圧信号を印加するステップであって、駆動電圧(V)は、モータを一定の速度で動作させるために、ピーク電圧(Vp)まで増加しピーク電圧から減少する。ステップB:後続の各鋸歯波形駆動電圧信号サイクル(C)で、駆動電圧信号の周波数を一定に保ちながら、駆動電圧(V)をピーク電圧(Vp)まで増加させる勾配(dV/dt)を、徐々に増加または減少させることにより、モータの速度を変更する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電スティックスリップモータを制御する方法であって、前記方法は、
a.ステップA:前記モータに一定の周波数を有する周期的な鋸歯波形の駆動電圧信号を印加するステップであって、前記駆動電圧(V)は前記モータを一定の速度で動作させるためにピーク電圧(Vp)まで増加し前記ピーク電圧から減少する、ステップAを含み、前記方法は、
b.ステップB:後続の各鋸歯波形駆動電圧信号サイクル(C)で、前記駆動電圧信号の前記周波数を一定に保ちながら、前記駆動電圧(V)を前記ピーク電圧(Vp)まで増加させる勾配(dV/dt)を、徐々に増加または減少させることにより、前記モータの速度を変更するステップBを含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記ステップAにおける各鋸歯波形駆動電圧信号サイクル(C)は、
a.前記駆動電圧(V)がベース電圧(Vb)から前記ピーク電圧(Vb)まで増加するスティック(移動)段階を表す第1段階(1)と、
b.前記駆動電圧(V)が前記ピーク電圧(Vp)で維持される、前記第1段階(1)の後の一時停止を表す第2段階(2)と、
c.前記駆動電圧(V)が前記ピーク電圧(Vp)から前記ベース電圧(Vb)まで減少するスリップ段階を表し、好ましくは2μ秒以下の時間継続する、第3段階(3)と、
d.前記駆動電圧(V)が前記ベース電圧(Vb)で維持される、前記第3段階(3)の後の一時停止を表す段階であって、好ましくは3μ秒と10μ秒との間の時間継続する、第4段階(4)とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップBは、好ましくは前記モータ(1)が動作を開始または停止するしきい値電圧レベル(Vt)を前記ピーク電圧(Vp)が通過するまで、後続の各駆動電圧信号サイクルにおいて、前記ピーク電圧(Vp)を徐々に増加または減少させることを含むことを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップAおよび/または前記ステップBにおける各駆動電圧信号サイクル(C)内で、前記駆動電圧(V)を前記ベース電圧(Vb)と前記ピーク電圧(Vp)との間で増加させる前記勾配(dV/dt)および/または減少させる前記勾配(dV/dt)を、一定に保つことを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記モータの速度を減速させるために、前記ステップBは、前記ステップAと比較して、前記鋸歯波形の駆動電圧信号を修正する、以下のサブステップのうちの少なくとも1つを含み、前記サブステップは、
a.サブステップB1:後続の各鋸歯波形駆動電圧信号サイクル(C)で、前記ピーク電圧(Vp)を一定に保ちながら、前記駆動電圧(V)を前記ピーク電圧(Vp)まで増加させる勾配(dV/dt)を徐々に減少させることにより、前記第1段階(1)を延長する一方で、前記第2段階(2)を、前記第1段階(1)の延長を補償するために同一量だけ短縮する、サブステップB1と、
b.サブステップB2:後続の各鋸歯波形駆動電圧信号サイクル(C)で、前記ピーク電圧(Vp)を徐々に減少させるとともに、前記駆動電圧(V)を前記ピーク電圧(Vp)まで増加させる勾配(dV/dt)を徐々に減少させることにより、前記第1段階(1)を延長する一方で、前記第1段階(1)の延長を補償するために、前記第2段階(2)をなくし、場合によっては前記第3段階(3)を短縮する、サブステップとであることを特徴とする、請求項2~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップAおよび/または前記ステップBにおいて、後続の各駆動電圧信号サイクル(C)の、前記駆動電圧(V)を前記ピーク電圧(Vp)から前記ベース電圧(Vb)に減少させる勾配(dV/dt)を一定に保つことを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップAおよび/または前記ステップBにおいて、後続の各駆動電圧信号サイクルの、前記第4段階(4)の期間を一定に保つことを特徴とする、請求項2~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
20kHz以上の一定周波数を有する前記周期的な鋸歯波形の駆動電圧信号を前記モータに印加することを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップAおよび/または前記ステップBにおいて、後続の各駆動電圧信号サイクルの、前記ベース電圧(Vb)を一定に保つことを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
閉ループおよび/またはサーボループで前記モータを動作させることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ピーク電圧(Vp)をサーボクロックレートでリアルタイムで調整することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
圧電スティックスリップモータであって、前記圧電スティックスリップモータは、被駆動素子と、摩擦素子を有するステータと、コントローラと、少なくとも1つの圧電アクチュエータとを備え、前記圧電アクチュエータは、前記コントローラから駆動電圧信号が印加されると変形して動きを前記摩擦素子に与えることにより、前記被駆動素子をスティックスリップ接触によって駆動するように構成され、前記コントローラは、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法を実行するように構成されている、圧電スティックスリップモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電スティックスリップモータおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電スティックスリップモータは、たとえばUS2015/0076965、WO2018/134637A1、またはEP3120449B1から周知である。
【0003】
圧電スティックスリップドライブの場合、圧電アクチュエータ素子が、周期的な電圧、特に高周波の鋸歯状電圧で充電される。この電圧によって生じるアクチュエータ素子の高周波の膨張および収縮が、アクチュエータ素子上に配置された摩擦素子を介して摩擦体に伝達され、それにより、スティック段階において、摩擦体はアクチュエータ素子の偏向中に移動し、この段階では摩擦素子と摩擦体との間に静的摩擦が存在する。一方、スリップ段階において、摩擦素子と摩擦体との間にスライド摩擦が存在し、摩擦体は駆動されない、または摩擦素子の移動によってごくわずかに駆動される。
【0004】
スティック段階中、アクチュエータ素子の加速度または移動速度は、この場合、摩擦素子と摩擦体との間の摩擦接触において作用する力により、スライド摩擦が発生しないまたはごくわずかなスライド摩擦しか発生しないように、構成されるので、いずれにしても、結果的に摩擦体は摩擦素子によって駆動される。これに対し、スリップ段階では、アクチュエータ素子の加速度または移動速度が速いので、摩擦素子と摩擦体との間の摩擦接触における力は、もはや摩擦素子が摩擦体を駆動するのに十分ではなく、摩擦体の慣性により、摩擦素子と摩擦体との間に相対的な移動(すなわちスライド)が発生する。
【0005】
添付の図1は、先行技術に係る典型的な周期的スティックスリップ駆動信号の2つのサイクルを、ある時間にわたる電圧の図で示す。段階1は、移動またはスティック段階を表し、段階2は移動後の一時停止を表し、段階3はスリップ段階を表し、段階4はスリップ後の一時停止を表す。Vbはベース電圧、Vpはピーク電圧、dV/dtは、サイクルCの段階1において駆動電圧をベース電圧Vbからピーク電圧Vpまで増加させる勾配である。
【0006】
段階3(「スリップ段階」)は、できる限り短くする必要があり(典型的には<2μ秒)、段階2および段階4(「移動後の一時停止」および「スリップ後の一時停止」)は、典型的には3μ秒と10μ秒との間である。短すぎるまたは長すぎる一時停止時間は、モータの効率に悪影響を与え、結果的には速度がわずかに低下する。
【0007】
モータの有効速度は、主として信号の周波数およびピーク電圧によって決まる。段階2(「移動後の一時停止」」)、段階3(「スリップ段階」)および段階4(「スリップ後の一時停止」)は比較的一定であるため、信号の周波数は、主として移動段階の長さによって決まる。
【0008】
典型的なスティックスリップコントローラにおいて、ピーク電圧Vpは一定に保たれ、モータ速度は信号の周波数によって制御される。そうすると、加速中、減速中、および低速の間、圧電モータはより低い可聴周波数で動作しなければならない。そのため、スティックスリップモータ、ひいてはモーションデバイスから可聴ノイズが発生する。閉ループ中、変動する追従誤差を補償するためにサーボループが常に周波数を変化させるので、このノイズは特にユーザを妨害する可能性がある。
【0009】
いくつかのコントローラは、高周波数、典型的には20kHzでのみ動作することによって、ノイズの発生を回避しようとする。しかしながら、この方法では加速、減速またはより低い速度が可能ではないので、大きな制限となる。しかしながら、閉ループで動作する場合、周波数をさらに変化させる必要があり、この周波数の変調がさらに妨害音を発生させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、ノイズの発生を抑えた状態で圧電スティックスリップモータの速度変化を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、請求項1の方法によって達成される。好ましい実施形態は従属請求項においてクレームされる。
【0012】
請求項1に記載の圧電スティックスリップモータを制御する方法は、以下のステップを含む。
【0013】
ステップA:モータに一定の周波数を有する周期的な鋸歯波形の駆動電圧信号を印加するステップであって、駆動電圧はモータを一定の速度で動作させるためにピーク電圧まで増加しピーク電圧から減少する。
【0014】
ステップB:後続の各鋸歯波形駆動電圧信号サイクルで、駆動電圧信号の周波数を一定に保ちながら、駆動電圧をピーク電圧まで増加させる勾配を、徐々に増加または減少させることにより、モータの速度を変更するステップ。
【0015】
このモータ制御を用いると、圧電スティックスリップモータの速度変化を、大きなノイズ発生を伴うことなく実現でき、その理由は、駆動電圧信号の周波数が一定に保たれ駆動信号電圧をピーク電圧まで上昇させる勾配のみを変えることにある。
【0016】
ステップAにおける各鋸歯波形駆動電圧信号サイクルが、
-駆動電圧がベース電圧からピーク電圧まで増加するスティック(移動)段階を表す第1段階と、
-駆動電圧がピーク電圧で維持される、第1段階の後の一時停止を表す第2段階と、
-駆動電圧がピーク電圧からベース電圧まで減少するスリップ段階を表し、好ましくは2μ秒以下の時間継続する、第3段階と、
-駆動電圧がベース電圧で維持される、第3段階の後の一時停止を表す段階であって、好ましくは3μ秒と10μ秒との間の時間継続する、第4段階とを含む場合、好都合であることがわかるであろう。
【0017】
そのような駆動電圧信号サイクルは、圧電スティックスリップモータを動作させることに関係がある。
【0018】
好ましくはモータが動作を開始または停止するしきい値電圧レベルをピーク電圧が通過するまで、後続の各駆動電圧信号サイクルにおいて、ピーク電圧を徐々に増加または減少させることを、ステップBが含む場合、圧電スティックスリップモータの動作特性を改善することができる。後続の各鋸歯波形駆動電圧信号サイクルで、駆動電圧をピーク電圧まで増加させる勾配を徐々に減少させることにより、モータをスムーズに減速して停止させることができる。後続の各鋸歯波形駆動電圧信号サイクルで、駆動電圧をピーク電圧まで増加させる勾配を徐々に増加させることにより、モータをスムーズに始動させて加速することができる。
【0019】
クレームされている方法が、ステップAおよび/またはステップBにおける各駆動電圧信号サイクル内で、駆動電圧をベース電圧とピーク電圧との間で増加させる勾配および/または減少させる勾配を一定に保つことを含む場合も、圧電スティックスリップモータの動作性能を高めることができる。
【0020】
モータの速度を減速させるために、ステップBは、ステップAと比較して、鋸歯波形の駆動電圧信号を修正する、以下のサブステップのうちの少なくとも1つを含む。
【0021】
サブステップB1:後続の各鋸歯波形駆動電圧信号サイクルで、ピーク電圧を一定に保ちながら、駆動電圧をピーク電圧まで増加させる勾配を徐々に減少させることにより、第1段階を延長する一方で、第2段階を、第1段階の延長を補償するために同一量だけ短縮する。
【0022】
サブステップB2:後続の各鋸歯波形駆動電圧信号サイクルで、ピーク電圧を徐々に減少させるとともに、駆動電圧をピーク電圧まで増加させる勾配を徐々に減少させることにより、第1段階を延長する一方で、第1段階の延長を補償するために、第2段階をなくし、場合によっては第3段階を短縮する。
【0023】
ステップB1において、駆動電圧をピーク電圧まで増加させる勾配を減じることは、ピーク電圧を下げることなく段階1を延長することによって行われ、段階1の延長は、段階2を、同じ量だけ短縮することによって補償される。ステップB2において、段階1を、ステップAの段階1と段階2とを組み合わせたものよりも長くなるように、延長し、そうすると、段階2は完全に省略され段階3が段階1の直後に続くことになる。
【0024】
クレームされている方法が、ステップAおよび/またはステップBにおいて、後続の各駆動電圧信号サイクルの、駆動電圧をピーク電圧からベース電圧に減少させる勾配を一定に保つことを含む場合も、圧電スティックスリップモータの動作性能を高めることができる。
【0025】
クレームされている方法が、ステップAおよび/またはステップBにおいて、後続の各駆動電圧信号サイクルの、第4段階の期間を一定に保つことを含む場合、圧電スティックスリップモータの動作性能をさらに改善することができる。
【0026】
20kHz以上の一定周波数を有する周期的な鋸歯波形の駆動電圧信号がモータに印加される場合、圧電スティックスリップモータにノイズが発生することを回避できる。
【0027】
クレームされている方法が、ステップAおよび/またはステップBにおいて、後続の各駆動電圧信号サイクルの、ベース電圧を一定に保つことを含む場合、圧電スティックスリップモータの動作性能を一層改善することができる。
【0028】
クレームされている方法が、閉ループおよび/またはサーボループでモータを動作させることを含む場合、圧電スティックスリップモータの速度制御および位置精度を改善することができる。
【0029】
クレームされている方法が、ピーク電圧をサーボクロックレートでリアルタイムで調整することを含む場合、圧電スティックスリップモータの動作特性に有利な影響を与えることができる。
【0030】
本明細書に開示されるもう1つの局面は、圧電スティックスリップモータに関し、この圧電スティックスリップモータは、被駆動素子と、摩擦素子を有するステータと、コントローラと、少なくとも1つの圧電アクチュエータとを備え、圧電アクチュエータは、コントローラから駆動電圧信号が印加されると変形して動きを摩擦素子に与えることにより、被駆動素子をスティックスリップ接触によって駆動するように構成され、コントローラは、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法を実行するように構成されている。
【0031】
さらに他の好ましい実施形態が、請求項、図面および明細書に開示される特徴の組み合わせから得られる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】2つの連続する駆動電圧信号サイクル全体にわたる、典型的なスティックスリップ鋸歯波形駆動電圧信号の形状を示す図である。
図2】ピーク電圧と速度との関係を示す図であり、この関係に従うと、速度はピーク電圧に正比例せず、決まったピーク電圧値よりも低いところでモータは動きを止めることになり、このピーク電圧と速度との関係は正確に定義できない。
図3】クレームされている発明に係るスティックスリップ鋸歯波形駆動電圧信号の形状を示す図であり、段階3(「スリップ段階」)および段階4(「スリップ後の一時停止」)は比較的一定のままであるのに対し、段階2(「移動後の一時停止」)は段階1(「移動段階」)によって吸収され、段階2(「移動後の一時停止」)が欠落すると、モータ効率が低下し所望の速度減少を促進する。
【発明を実施するための形態】
【0033】
好ましい実施形態の詳細な説明
本願に係る圧電スティックスリップモータは、被駆動素子と、摩擦素子を有するステータと、コントローラと、少なくとも1つの圧電アクチュエータとを備え、圧電アクチュエータは、コントローラから駆動電圧信号が印加されると変形して動きを摩擦素子に与えることにより、被駆動素子をスティックスリップ接触によって駆動するように構成されている。以下で説明するように、コントローラは、添付の請求項のいずれか1項に記載の方法を実行するように構成されている。
【0034】
クレームされている方法は、主として、圧電スティックスリップモータの速度変化を可能にする一方で、モータ駆動信号を一定の高周波数に保ち、信号のピーク電圧を変化させることにより、ノイズが発生しないようにする。
【0035】
この方法は以下のステップを含む。
ステップA:モータに一定の周波数を有する周期的な鋸歯波形の駆動電圧信号を印加するステップであって、駆動電圧Vは、モータを一定の速度で動作させるために、ピーク電圧Vpまで増加しピーク電圧から減少する。
【0036】
ステップB:後続の各鋸歯波形駆動電圧信号サイクルCで、駆動電圧信号の周波数を一定に保ちながら、駆動電圧Vをピーク電圧Vpまで増加させる勾配dV/dtを、徐々に増加または減少させることにより、モータの速度を変更する。
【0037】
モータは、好ましくは閉ループで制御され、サーボループは、ピーク電圧を、サーボクロックレートで、高精度かつリアルタイムで変更する。
【0038】
圧電スティックスリップモータの加速中、駆動電圧Vをピーク電圧Vpまで増加させる勾配dV/dtを徐々に増加させて、駆動電圧が、第2の駆動電圧信号サイクルCでは第1の駆動電圧信号サイクルCよりも大きく、第3の駆動電圧信号サイクルCでは第2の駆動電圧信号サイクルCよりも大きくなるようにする。
【0039】
圧電スティックスリップモータの減速中、駆動電圧Vをピーク電圧Vpまで増加させる勾配dV/dtを徐々に減少させて、駆動電圧が、第2の駆動電圧信号サイクルCでは第1の駆動電圧信号サイクルCよりも小さく、第3の駆動電圧信号サイクルCでは第2の駆動電圧信号サイクルCよりも小さくなるようにする。
【0040】
以下、圧電スティックスリップモータの減速について、図3との関連で説明する。
図3において実線で模式的に示されるように(図3ではステップAおよびBの周期的鋸歯波形駆動電圧信号が重畳されている)、ステップAにおける鋸歯波形駆動電圧信号は、
-駆動電圧Vがベース電圧Vbからピーク電圧Vbまで増加するスティック/移動段階を表す第1段階1と、
-駆動電圧Vがピーク電圧Vpで維持される、第1段階1の後の一時停止を表す第2段階2と、
-駆動電圧Vがピーク電圧Vpからベース電圧Vbまで減少するスリップ段階を表す第3段階3と、
-駆動電圧Vがベース電圧Vbで維持される、第3段階3の後の一時停止を表す第4段階4とを含む。
【0041】
周期的鋸歯波形駆動電圧信号は、典型的には20kHz以上の一定周波数でモータ1に印加される。この例において、第3段階3は2μ秒以下の時間、継続し、第4段階4は3μ秒と10μ秒との間の時間、継続する。
【0042】
モータ速度を減速させるために、ステップBは、特に、ステップAと比較して、鋸歯波形の駆動電圧信号を修正する、以下のサブステップを含む。
【0043】
サブステップB1:後続の各鋸歯波形駆動電圧信号サイクルCで、ピーク電圧Vpを一定に保ちながら、駆動電圧Vをピーク電圧Vpまで増加させる勾配dV/dtを徐々に減少させることにより、第1段階1を延長する一方で、第2段階2を、第1段階1の延長を補償するために、同一量だけ短縮する。図3の点線で示されるように、ステップBのサイクルの段階1における勾配dV/dtは、ステップAのサイクルの段階1における勾配dV/dtよりも小さい。ステップBの第1のサイクルのピーク電圧VpB1は、ステップAのピーク電圧VpAと同一である。
【0044】
サブステップB2:後続の各鋸歯波形駆動電圧信号サイクルCで、ピーク電圧Vpを徐々に減少させるとともに、駆動電圧Vをピーク電圧Vpまで増加させる勾配dV/dtを徐々に減少させることにより、第1段階1を延長する一方で、第1段階1の延長を補償するために、第2段階2をなくし、第3段階3を短縮する。図3に示されるように、ステップBの第2のサイクルの段階1の勾配dV/dtおよびピーク電圧VpB2はそれぞれステップBの第1のサイクルの段階1の勾配dV/dtおよびピーク電圧VpB1よりも小さい。加えて、段階1の勾配dV/dtならびにピーク電圧VpB3、VpB4、およびVpB5は、モータ1が動作を停止するしきい値電圧レベルVtをピーク電圧VpB5が通る(その下を通る)まで、後続の各鋸歯波形駆動電圧信号サイクルCにおいて、徐々に減少する。
【0045】
実際、ピーク電圧Vpと、駆動電圧Vをピーク電圧Vpまで増加させる勾配dV/dtとを、ある鋸歯波形駆動電圧信号サイクルCから別の鋸歯波形駆動電圧信号サイクルにかけて変化させる。しかしながら、ステップAおよびステップBにおける各駆動電圧信号サイクルC全体において、駆動電圧Vをベース電圧Vpからピーク電圧Vbまで増加させる勾配dV/dtおよび駆動電圧Vをピーク電圧Vpからベース電圧Vbまで減少させる勾配dV/dtは、一定である。加えて、ベース電圧Vbおよび第4段階4の期間は、ステップAおよびステップBの後続の各駆動電圧信号サイクルにおいて一定である。
【0046】
図2に示されるように、モータ速度はピーク電圧に正比例しない。決まったピーク電圧値よりも低いところでモータは動きを止めることになる。これら2つの関係は正確に定義できない。
【0047】
これは閉ループにおいて問題を呈さない。なぜなら、サーボループはピーク電圧Vpを必要な値に調整して所望の速度を発生するからである。段階1(「移動段階」)の傾斜または勾配dV/dtを、サーボクロックレートで、高速度に必要な理想的形状から、モータが動きを止める低い値まで、リアルタイムで調整する。
【0048】
ステップBにおいて、段階3(「スリップ段階」)および段階4(「スリップ後の一時停止」)が比較的一定に保たれる一方で、段階2(「移動後の一時停止」)は段階1(「移動段階」)に吸収される。段階2(「移動後の一時停止」)が欠落することで、モータ効率が低下し所望の速度減少を促進する。
【符号の説明】
【0049】
参照符号
1 (駆動電圧信号サイクルの)第1段階
2 (駆動電圧信号サイクルの)第2段階
3 (駆動電圧信号サイクルの)第3段階
4 (駆動電圧信号サイクルの)第4段階
C 駆動電圧信号サイクル
dV 電圧増分
dt 時間増分
t 時間
V 駆動電圧
Vb ベース電圧
Vp ピーク電圧
Vt しきい値電圧
図1
図2
図3
【国際調査報告】