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特表2022-547935塩化ビニル樹脂懸濁重合用バッチ式撹拌器およびそれを用いたバッチ式懸濁重合反応器
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  • 特表-塩化ビニル樹脂懸濁重合用バッチ式撹拌器およびそれを用いたバッチ式懸濁重合反応器 図1
  • 特表-塩化ビニル樹脂懸濁重合用バッチ式撹拌器およびそれを用いたバッチ式懸濁重合反応器 図2
  • 特表-塩化ビニル樹脂懸濁重合用バッチ式撹拌器およびそれを用いたバッチ式懸濁重合反応器 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-16
(54)【発明の名称】塩化ビニル樹脂懸濁重合用バッチ式撹拌器およびそれを用いたバッチ式懸濁重合反応器
(51)【国際特許分類】
   B01F 27/192 20220101AFI20221109BHJP
   C08F 14/00 20060101ALI20221109BHJP
   C08F 2/01 20060101ALI20221109BHJP
   B01F 27/112 20220101ALI20221109BHJP
   B01F 27/113 20220101ALI20221109BHJP
【FI】
B01F27/192
C08F14/00 510
C08F2/01
B01F27/112
B01F27/113
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022515491
(86)(22)【出願日】2020-09-10
(85)【翻訳文提出日】2022-03-29
(86)【国際出願番号】 KR2020012209
(87)【国際公開番号】W WO2021049883
(87)【国際公開日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】10-2019-0112289
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0115185
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520161344
【氏名又は名称】ハンファ ソリューションズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】イ ヒェ ウォン
(72)【発明者】
【氏名】イ シン ボム
(72)【発明者】
【氏名】パク スン ウン
(72)【発明者】
【氏名】アン ウヨル
(72)【発明者】
【氏名】ジン ソン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ハン キ ド
【テーマコード(参考)】
4G078
4J011
【Fターム(参考)】
4G078AA02
4G078AA06
4G078AA30
4G078AB06
4G078AB11
4G078BA05
4G078CA03
4G078CA17
4G078DA01
4G078EA03
4J011AA03
4J011DA03
4J011DB19
4J011DB23
4J011EC08
(57)【要約】
本発明は、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合用撹拌器およびそれを用いたバッチ式懸濁重合反応器に関する。より具体的には、発熱反応チャンバ内部の温度を制御しつつ塩化ビニル系重合反応を行うバッチ式発熱反応器に関する。
より具体的に、反応器の除熱を担うジャケット(jacket)、バッフル(baffle)、還流コンデンサ(reflux condenser)装置中、還流コンデンサ(reflux condenser)の構造を設計することで、生産性を向上することができ、重合効率を向上させようとする発明に関する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合反応器であって、前記重合反応器は、2段以上のインペラを有するパドルタイプ撹拌器を有し、前記撹拌器は、最上段インペラのブレードの角度(pitched angle)が撹拌器の軸に対して5~20°で形成され、最上段インペラを除いた下段インペラのブレードの角度は撹拌器の軸に対して0°で垂直方向に形成され、前記撹拌器の最上段インペラは反応器内の液相界面の下部に配置され、その位置は最上段インペラのブレード上部と反応器内の液相界面との距離(t)が反応器の直径(D)に対してt/Dが0.22~0.3である関係を満たすことができる、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合反応器。
【請求項2】
前記重合反応器は、還流コンデンサをさらに備える、請求項1に記載の塩化ビニル製造用のバッチ式懸濁重合反応器。
【請求項3】
前記撹拌器の前記最上段インペラのブレードの角度が15~20°である、請求項1に記載の塩化ビニル製造用のバッチ式懸濁重合反応器。
【請求項4】
前記重合反応器は、最上段インペラのブレードの角度が0°である際に比べて、還流コンデンサの相対除熱量比が2倍以上の効率を有する、請求項1に記載の塩化ビニル製造用のバッチ式懸濁重合反応器。
【請求項5】
前記撹拌器の前記最上段インペラのブレードの角度が5~15°である、請求項1に記載の塩化ビニル製造用のバッチ式懸濁重合反応器。
【請求項6】
塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合反応器であって、前記重合反応器は、2段以上のインペラを有するパドルタイプ撹拌器を有し、前記撹拌器は、最上段インペラのブレードの角度(pitched angle)が撹拌器の軸に対して5~20°で形成され、最上段インペラを除いた下段インペラのブレードの角度は撹拌器の軸に対して0°で垂直方向に形成され、前記撹拌器の最上段インペラは反応器内の液相界面の下部に配置され、その位置は最上段インペラのブレード上部と反応器内の液相界面との距離(t)が反応器の直径(D)に対してt/Dが0.22~0.3である関係を満たすように単量体を投入して反応する、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合方法。
【請求項7】
前記重合反応器は、還流コンデンサにおいて除熱して反応器に循環するようにする、請求項6に記載の塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合方法。
【請求項8】
前記撹拌器の前記最上段インペラのブレードの角度が15~20°である、請求項6に記載の塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合方法。
【請求項9】
前記撹拌器の前記最上段インペラのブレードの角度が5~15°である、請求項6に記載の塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合方法。
【請求項10】
ジャケット、バッフル、還流コンデンサを備えた塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合に用いる撹拌器であって、前記撹拌器は、2段以上のインペラを有するパドルタイプ撹拌器であり、前記撹拌器は、最上段インペラのブレードの角度(pitched angle)が撹拌器の軸に対して5~20°でチルトし、最上段インペラを除いた下段インペラのブレードの角度が撹拌器の軸に対して0°である、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合用撹拌器。
【請求項11】
前記撹拌器の前記最上段インペラのブレードの角度が15~20°である、請求項10に記載の塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合用撹拌器。
【請求項12】
前記撹拌器の前記最上段インペラのブレードの角度が5~15°である、請求項10に記載の塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合用撹拌器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合用撹拌器およびそれを用いたバッチ式懸濁重合反応器に関する。
具体的には、反応器内部の発熱温度を制御しつつ塩化ビニル系重合反応を行うバッチ式反応器に関する。
【0002】
より具体的に、反応器の除熱を担うジャケット(jacket)、バッフル(baffle)、還流コンデンサ(reflux condenser)装置中、還流コンデンサ(reflux condenser)の構造を設計することで、生産性を向上させることができ、重合効率を向上させようとする発明に関する。
【背景技術】
【0003】
塩化ビニル系重合体は懸濁重合によるバッチ反応により製造されるが、塩化ビニル系重合体の生産性を向上させるために、重合反応器を大型化するかまたは重合温度を高めて重合時間を短くする方法を主に採択している。
【0004】
しかしながら、重合反応器を大型化する場合には内部の濃度および温度の不均一が発生し、重合温度を高めて時間を短縮すると、反応熱により発生する熱を円滑に除去できないため不良が発生するなど、どの方法を採択しようが、熱を円滑に除去し難いという問題がある。上記の問題を解決するために、反応器に還流コンデンサ(reflux condenser)を用いて除熱することで生産性の向上を試みているが、これもまた反応器の大きさを大きくすることで還流コンデンサの大きさを増加させなければならず、反応温度を上げる場合にも前記装置の大型化をしなければならないため、限界を有せざるを得ず、しかも還流コンデンサの使用時にコンデンサや反応器内部のスケールの発生問題もまた深刻にならざるを得ない。
【0005】
上記のようなスケールの発生を防止するために、日本特許公開第1991-212409号(1991.09.18)公報などには、スケールの発生を抑制するために反応器の上部に消泡剤をスプレーする方法などでスケールを抑制しているが、異物の添加に該当し、製造される樹脂の物性に影響を及ぼすなどの問題があるため、これもまた同一の反応器で均一な物性を有し且つ生産性を増加させるには限界がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来のバッチ式懸濁重合による塩化ビニル系重合体の生産時、同一の反応器で生産量を増加させる場合、例えば、好ましくは生産量を30%以上増加させても、反応器の反応熱により増加する最大発熱量を、別の還流コンデンサ(reflux condenser、RC)の大きさをそのままにしつつ、除熱能力を増加させることができ、またスケールの発生を最小化する新しい形態の撹拌器を有する反応器を提供しようとするものである。
【0007】
具体的には、還流コンデンサの大きさを変更しなくても、単に一部の撹拌器の形態を変更させ、また撹拌器の位置を特定することで、生産性の向上、熱除去能力の向上、およびスケールが発生しないバッチ式反応器を提供しようとするものである。
【0008】
本発明は、従来の技術とは異なり、同一の反応器を用いて生産量を増加させる場合、還流コンデンサの除熱容量の劣勢を解決することで、除熱容量の劣勢により発生する反応器内部の濃度および温度の不均一性を解消することができる新しい撹拌器およびそれを含む反応システムを提供しようとする。
【0009】
また、反応器の液相の上部面に発生する泡、すなわち、フォーム(foam)を防止してスケールが発生しないようにし、また、このような発泡によるフィッシュアイ(fish eye)の発生を顕著に改善した新しい撹拌器およびそれを含む反応システムを提供しようとする。
【0010】
また、本発明は、同一の反応器で生産量を30%以上増加可能な新しい撹拌器を有する反応システムを提供し、そのような反応システムを可能にする撹拌器を提供しようとする。
【0011】
また、本発明は、同一の反応器で生産量を30%以上増加させる場合であっても、反応熱の制御が可能であり、均質な粒子を得ることができる撹拌器を採択した重合反応器を提供しようとする。
【0012】
また、本発明は、懸濁重合による塩化ビニル系重合体の製造方法において、同一の反応において単量体の濃度を高めて生産性を増加させる場合に、還流コンデンサの除熱量の急激な増加により、反応器内部の温度および濃度の不均一性が高くなって品質の不良、フィッシュアイの増加などの問題を解決する塩化ビニル樹脂重合用撹拌器の設計に関する。
【0013】
また、懸濁重合による塩化ビニル系重合体の製造方法において、同一の反応において単量体の濃度を高めて生産性を増加させる場合に、ガス相のVCM(塩化ビニル単量体)の線速度が増加し、フォーム(foam)が反応器の上部に発生して還流コンデンサの上部スケールが形成されるなどの問題を解決する塩化ビニル樹脂(PVC)重合撹拌器の設計に関する。
【0014】
すなわち、本発明は、同一の重合器で生産量、例えば30%以上の生産量を増大させることができる新しい反応器の撹拌器を有する懸濁重合器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、撹拌器の設計に応じた反応器の効率分析により、商業プラント規模で生産量の増大に応じた還流コンデンサ(RC)の熱除去効率を増加させることができる撹拌器およびそれを有する重合反応器を提供する。
【0016】
本発明は、複数の段を有する傾斜パドルタイプ(Pitched Paddle Type)の撹拌器であって、各段を構成するインペラのチルト角度を調節し、また、反応器内の流体の界面と最上段インペラの上部との距離と、反応器の直径との比を調節することで、生産量を増大し、それにより反応器の除熱量が増加しても反応器内部の温度および濃度の不均一度を解消し、製造される重合体の粒度を均一にし、また、反応器内部または還流コンデンサ上部のスケールを防止することができる新しい重合反応器に関する。
【0017】
上記の課題を解決するための本発明の一態様は、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合反応器であって、前記重合反応器は、2段以上のインペラを有するパドルタイプ撹拌器を有し、前記撹拌器は、最上段インペラのブレードの角度(pitched angle)が撹拌器の軸に対して5~20°で形成され、最上段インペラを除いた下段インペラのブレードの角度は撹拌器の軸に対して0°で垂直方向に形成され、前記撹拌器の最上段インペラは反応器内の液相界面の下部に配置され、その位置は最上段インペラのブレード上部と反応器内の液相界面との距離(t)が反応器の直径(D)に対してt/Dが0.22~0.3である関係を満たすことができる位置で重合可能である、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合反応器に関する。
【0018】
すなわち、撹拌器の軸に対して2段以上の傾斜パドルタイプインペラを有する撹拌器において、最上段インペラを除いた残りの段部のインペラを構成するブレード(通常、3個のブレードを有してもよい)の角度を0とする際、前記最上段インペラを構成するブレードの角度が5~20°の角度でチルトして形成させたものである。
この際、前記ブレードの角度は、図3に示されたように、撹拌器の垂直方向に対して傾くように形成された角度を意味する。
【0019】
本発明の一態様において、前記重合反応器は、還流コンデンサを備える。
一例として、上記で前記ブレードの角度が20°であるとは、撹拌器の軸に形成されるパドルタイプのブレードが垂直に対して20°傾斜して形成されているという意味である。
【0020】
本発明の一態様において、前記重合反応器は、最上段インペラを形成する、例えば3個のブレードが撹拌器の軸に対して5~20°でチルトして形成され、残りの段を形成するインペラのブレードは撹拌器の軸に対して垂直方向に形成される本発明の場合、前記ブレードが撹拌器の軸に対して垂直に形成されたものに比べて、還流コンデンサの相対除熱量比が2倍以上の効率を有してもよい。
【0021】
すなわち、図1のように、従来のポリ塩化ビニル樹脂のバッチ式懸濁重合の場合、パドルタイプ撹拌器の全てのブレードの角度が撹拌器の軸に対して垂直に同一の角度で形成されたのに対し、図2のように、本発明は、最上段インペラのブレードの角度が撹拌器の垂直方向に対して5~20°傾くように形成されるようにするとともに、前記最上段インペラの上部と反応器内の液相界面との距離(t)が反応器の直径(D)に対して特定の割合で形成されるようにすることで、還流コンデンサの相対除熱量比が2倍以上、具体的には2倍~10倍の効率を有するようにすることができ、生産量を30%以上増加させる場合にも反応器の上部にフォームが形成されるのを防止することができる。
本発明の一態様において、前記撹拌器の前記最上部ブレードの角度が5~20°であってもよく、また5~15°であってもよい。
【0022】
本発明の他の態様は、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合方法であって、2段以上のPitched Paddle Type Agitator(以下、傾斜パドルタイプ撹拌器またはパドルタイプ撹拌器と称する)を有し、前記撹拌器は、最上段インペラのブレードの角度(pitched angle)が5~20°でチルトして形成され、前記撹拌器の最上部ブレードと反応器内の液相界面との距離(t)が反応器の直径(D)に対してt/Dが0.22~0.3である重合反応器に反応単量体を投入して重合するステップを含む、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合器およびその重合方法である。
【0023】
本発明の一態様において、前記重合反応器は、還流コンデンサにおいて除熱して反応器に循環するようにしてもよい。
本発明の一態様において、前記撹拌器の前記最上段インペラのブレードの角度が15~20°であってもよい。
本発明の一態様において、前記撹拌器の前記最上段インペラのブレードの角度が5~15°であってもよい。
【0024】
本発明のまた他の態様は、ジャケット、バッフル、還流コンデンサを備えた塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合に用いる撹拌器であって、前記撹拌器は、2段以上のパドルタイプのインペラを有するパドルタイプ撹拌器であり、前記撹拌器は、最上段インペラのブレードの角度(pitched angle)が5~20°であり、前記最上段インペラを除いた残りの下段部のインペラのブレードの角度が0°(すなわち、軸に対して垂直方向)である、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合用撹拌器に関する。
【0025】
本発明の一態様において、前記撹拌器の前記最上段インペラのブレードの角度が15~20°であってもよい。
本発明の一態様において、前記撹拌器の前記最上段インペラのブレードの角度が5~15°であってもよい。
【0026】
また、本発明は、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合に用いる撹拌器であって、前記撹拌器は、2段以上のインペラを有するパドルタイプ撹拌器であり、前記撹拌器は、最上段インペラのブレードの角度(pitched angle)が撹拌器の軸に対して5~20°でチルトし、最上段インペラを除いた下段インペラのブレードの角度が撹拌器の軸に対して0°である、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合用撹拌器であってもよい。
【0027】
前記撹拌器の前記最上段インペラのブレードの角度が15~20°である、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合用撹拌器であってもよい。
前記撹拌器の前記最上段インペラのブレードの角度が5~15°である、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合用撹拌器であってもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、同一の反応器を用いて生産量を増加させる場合、還流コンデンサの除熱容量の劣勢を解決することで、除熱容量の劣勢により発生する反応器内部の濃度および温度の不均一性を解消し、また反応器の液相の上部面に発生するフォームを防止してスケールが発生しないようにしつつ、またこのような発泡によるフィッシュアイの発生を顕著に改善した新しい撹拌器およびそれを含むバッチ式懸濁重合反応器を提供することができる。
【0029】
また、本発明は、同一の反応器で生産性を30%以上増加させることができる新しい撹拌器を有する反応システムを提供し、そのような反応システムを可能にする撹拌器を提供することができ、これにより、反応熱の制御および均質な粒子を得ることができる特定の形態と反応器との規格が特定の値を有する撹拌器を採択した重合システムを提供することができる。
【0030】
本発明は、同一の重合器で生産量、例えば30%以上の生産量を増大させることができる新しい反応器の撹拌器を有するバッチ式懸濁重合反応器を提供する。
【0031】
したがって、本発明は、複数の段を有するパドルタイプ撹拌器であって、各段のチルト角度を変更し、また反応器内の流体の界面と前記パドルタイプ撹拌器の最上段インペラの上部が流体内に浸る距離(t)と、反応器の直径(D)との比を調節することで、本発明を完成した。
【0032】
したがって、前記本発明により同一の反応器および同一の還流コンデンサを用いるにもかかわらず、生産量を増大し、それに応じた反応器の除熱量を増加させて反応器内部の温度および濃度の不均一度を解消し、製造される重合体の粒度を均一にし、また反応器内部または還流コンデンサ上部のスケールを防止することができる新しいバッチ式懸濁重合反応器に関する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】従来の反応器の撹拌器を示す図である(t/D=0.35、全てのインペラのブレードの角度は何れも0°)。
図2】本発明の撹拌器の一態様を示す図である(t/D=0.22、最上段インペラのブレードの角度は撹拌器の軸方向に対して15°でチルトし、残りの下段部のインペラのブレードの角度は0°)。
図3】異なるチルト角度を有する最上段パドルタイプインペラの一態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、添付された図面を含む具体例または実施形態を通じて本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、下記の具体例または実施形態は、本発明を詳しく説明するための1つの参照にすぎず、本発明は、これに限定されず、種々の形態で実現されてもよい。
【0035】
また、他に定義しない限り、全ての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する当業者の一人によって一般的に理解される意味と同一の意味を有する。
本発明における説明で用いられる用語は、単に特定の具体例を効果的に記述するためのものであり、本発明を制限する意図ではない。
また、明細書および添付された特許請求の範囲で用いられる単数の形態は、文脈上、特に指示しない限り、複数の形態も含むことを意図する。
【0036】
また、ある部分がある構成要素を「含む」とする際、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0037】
上記の課題を解決するために多くの研究を行った結果、本発明者らは、2段以上のインペラを有する傾斜パドルタイプ撹拌器であって、最上段インペラを構成するブレードの角度(pitched angle)が5~20°でチルトして形成され、残りの下段のインペラのブレードは撹拌器の軸に対して垂直(0°)に形成され、前記最上段インペラのブレード上部と反応器内の液相界面との距離が反応器の直径の0.22~0.3として液相界面の内部に配置することで、前記問題を解決した。
【0038】
すなわち、本発明は、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合反応器であって、前記重合反応器は、2段以上のインペラを有するパドルタイプ撹拌器を有し、前記撹拌器は、最上段インペラを形成する通常3個のブレードが撹拌器の軸に対して角度(pitched angle)が5~20°でチルトして形成されるとともに、前記撹拌器の最上段インペラのブレード上部が反応器内の液相界面の下部に配置されるが、配置位置は最上段インペラのブレード上部と液相界面との距離(t)が反応器の直径(D)に対してt/Dが0.22~0.3である、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合反応器を提供する場合に、前記問題を解決することができる。
【0039】
本発明において、前記重合反応器は、還流コンデンサをさらに備える、塩化ビニル製造用のバッチ式懸濁重合反応器であってもよい。
本発明において、前記撹拌器の前記最上部インペラのブレードの角度が15~20°であり、t/Dが0.22~0.30である、塩化ビニル製造用のバッチ式懸濁重合反応器であってもよい。
【0040】
本発明の前記重合反応器は、最上部ブレードの角度が0°である際に比べて、還流コンデンサの相対除熱量比が2倍以上の効率を有する、塩化ビニル製造用のバッチ式懸濁重合反応器であってもよい。
前記重合反応器は、還流コンデンサにおいて除熱して反応器に循環するようにする、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合方法であってもよい。
【0041】
本発明において、前記撹拌器の前記最上段インペラを形成するブレードの角度が15~20°であり、残りの下段のインペラを形成するブレードの角度は撹拌軸と垂直な0°で撹拌器の軸に形成され、上記で定義したt/Dが0.22~0.30である条件を同時に満たす、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合反応器およびそれを用いた重合方法であってもよい。
【0042】
また、本発明者らは、前記規格の撹拌器を採択したバッチ式反応器を用いることで、30%以上の生産性の向上をもたらすことができ、反応器内部の温度偏差、濃度偏差を最小化して均一な懸濁粒子を有する重合体を製造することができた。
【0043】
また、前記撹拌器を変更して採択することで、従来の撹拌器に比べて還流コンデンサの除熱効果を向上させることができ、重合反応器内部の異常温度および異常濃度の分率を最小化した。
【0044】
また、本発明は、前記撹拌器を有し、反応物を入れるバッチ式反応器本体と、前記本体の上部に形成された還流コンデンサと、前記撹拌器を駆動する駆動モータと、を含む。
また、本発明のバッチ式反応器は、反応物の温度を制御するための構成として、反応器ジャケットおよびバッフルなどを含んでもよい。
【0045】
また、本発明は、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合に用いる撹拌器であって、前記撹拌器は、2段以上のインペラを有するパドルタイプ撹拌器であり、前記撹拌器は、最上段インペラのブレードの角度(pitched angle)が撹拌器の軸に対して5~20°でチルトし、最上段インペラを除いた下段インペラのブレードの角度が撹拌器の軸に対して0°である、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合用撹拌器であってもよい。
【0046】
前記撹拌器の前記最上段インペラのブレードの角度が15~20°である、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合用撹拌器であってもよい。
前記撹拌器の前記最上段インペラのブレードの角度が5~15°である、塩化ビニル樹脂製造用のバッチ式懸濁重合用撹拌器であってもよい。
【0047】
以下、本発明の図面を用いて本発明について具体的に説明する。
図1は、従来の反応器の撹拌器であって、多段インペラを有するパドルタイプ撹拌器であり、各段のインペラの全てのブレードの角度は、撹拌器の軸と同一に垂直に形成されている(撹拌器の軸に対してブレードが0°で形成されている)。
【0048】
具体的に、最上段インペラのブレード10と下段の残りのインペラのブレード20の角度が均一に軸方向に垂直に形成されていた。
また、最上部ブレード10と反応溶液の界面との距離(t)と、反応器の直径(D)との比、すなわち、t/Dが0.35程度であって、生産量を増加させる場合、均一な撹拌が行われることができず、よって、反応器の還流コンデンサの除熱効果が充分ではなく、また、重合溶液の温度偏差、濃度偏差が発生して均一な粒子の重合体を製造し難い。
【0049】
また、重合溶液の界面で泡が多量発生して泡が上部に伴うことになると、反応器の壁面および還流などにスケールが発生するなどの問題が発生した。
【0050】
図2は、本発明の一態様の撹拌器を示す図である。図2に示されたように、本発明の一態様に係るパドルタイプ撹拌器は、最上段インペラのブレード10の角度が下段の残りのブレード20の角度に比べて、垂直方向に対して5~20°傾いて形成される。
【0051】
より具体的に、図3で示されたインペラに形成されたブレードが5~20°で傾いて形成されてもよい(10°および20°のみを図示)。
このように、最上段インペラのブレードの角度を5~20°とし、最上段インペラの上部10と反応溶液の界面との距離(t)と、反応器の直径(D)との比、すなわち、t/Dを0.22~0.30に調節して最上段インペラを反溶溶液の内部に配置することで、P/V(power/volume)値が顕著に低下し、異常濃度体積比(%)および異常温度体積比(%)もまた顕著に減少する。また、還流コンデンサで除熱された単量体が反応器に入った際、温度や濃度の偏差が顕著に減少し、またP/Vが低下するにもかかわらず、異常濃度および異常温度体積比が従来の撹拌器(比較例)に比べて優れた効果を示していることを確認した。
【0052】
すなわち、本発明は、最上段インペラを形成するブレードの角度を撹拌器の軸に対して5~20°でチルトして形成するとともに、最上段インペラを反応溶液の内部に配置し、その配置位置は重合溶液の界面から最上段インペラのブレード上段部までの距離(t)が反応器の直径(D)に対してその比を0.22~0.30に調節して特定することで、還流(reflux)コンデンサによる除熱効率を向上させることができ、塩化ビニル系重合体の製造時の重合工程の生産性が向上し、またスケールの付着を防止することができ、得られた塩化ビニル系重合体のフィッシュアイが改善される。
【0053】
これは、従来は生産性の向上を好ましくは30%以上同一の反応器を用いて増加させることが不可能であったが、本発明においては、撹拌器の設計を変更することで、同一の還流コンデンサを用い、同一のサイズの重合反応器を用いるにもかかわらず、30%以上の生産性の向上が可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0054】
下記表1は、本発明に係る最上部ブレードの角度を5~20°に変更した場合のP/V ratioの変化、異常濃度を有する体積比(%)、異常温度を有する反応溶液の体積比(%)、および還流コンデンサの除熱効率を示したものである。
【0055】
下記表1は、撹拌器のブレードの角度に応じた単位体積当たりの動力比および濃度/温度不均一度、RC除熱量比を示したものであり、これらの測定方法は、次のように測定した。
【0056】
1)異常濃度体積比の測定方法
FLUENT、ANSYS社のソフトウェアを用いて測定した。
反応器内の流体の平均濃度の測定、反応器内の流体の濃度勾配を予測し、そのうち、先に測定した平均濃度に対して約2%以上の濃度勾配を示す当該体積比を測定し、反応器の全体体積で割って測定した。
【0057】
2)異常温度体積比の測定方法
FLUENT、ANSYS社のソフトウェアを用いて測定した。
反応器内の流体の平均温度の測定、反応器内の流体の温度勾配を区間別に予測(例えば、1℃以上の勾配、0.5℃以上の勾配、0.2℃以上の勾配)し、そのうち、先に測定した平均温度に対して約0.5℃以上の温度勾配を示す当該体積比を測定し、反応器の全体体積で割って測定した。
【0058】
3)RC(reflux condenser)除熱量の測定方法
反応器の全体発熱量から除熱を担う構成要素であるreflux condenserとcooling baffleが担う熱量比を計算して算出した。
【0059】
4)P/V ratioの測定方法
P=2πτn(τ:トルク、予測値[Nm]、n:rps、1/s)、Pの単位はNm/s=Watt
V=反応流体が占めるvolume(m
トルクは、各段のインペラにかかる値を測定し、その和を流体の全体体積で割って計算した。
【0060】
【表1】
【0061】
(異常濃度体積比:反応器内部の平均単量体濃度に対して2%以上の濃度差を有する単量体の体積比、
異常温度体積比:反応器の平均温度に対して0.5℃以上低いか高い温度の差を有する単量体の体積比)
【0062】
前記表1に示されたように、撹拌器の最上部ブレードの角度を5~20°に増加させる場合、P/V ratioの値が98から93に相対的に減少し、比較例1のようにブレードの角度が0°(垂直に立っている場合)の100に比べて、撹拌効率が6~7%上昇する優れた特性を示す、また、反応器の内部に還流コンデンサで凝縮された単量体が昇温した状態の反応器に入る際、一定の時点で異常濃度体積分率および異常温度体積比が比較例1および比較例2に比べて減少しており、本発明の撹拌器を用いる場合、反応器内部の異常濃度や異常温度の変化率に顕著な減少を示し、また撹拌力にも優れた特性を示す。また、除熱効果においては、比較例1に比べて本発明の除熱効果が2倍以上の効率を有しており、顕著な除熱効果を提供可能であることが分かる。
【0063】
本発明においては、P/V比および異常濃度体積比を考慮すると、15~20°の角度がより好ましく、別に記載していないが、界面でのフォームの発生を考慮すると、5~15°、さらに好ましくは5~10°の角度であることが良い。
また、図3においては、最上段ブレードの角度を5~20°変更したパドルタイプ撹拌器を例として示している。
【0064】
下記表2は、本発明の前記ブレードの角度が10°である際の界面と最上段インペラの上部ブレード位置との距離(t)と、反応器の直径(D)との比が0.22~0.3である際のP/V ratio、異常濃度体積比、および異常温度体積比を計算して記載したものである。
【0065】
下記表2は、t/Dに応じた単位体積当たりの動力比および濃度/温度不均一度、RC除熱量比を示したのである。
【0066】
【表2】
【0067】
前記表2に示されたように、本発明のt/Dの値を0.22~0.3に変更して重合する場合、P/V ratioにおいてもさらに優れた撹拌力を示し、異常濃度および異常温度の発生も比較例3に比べて顕著に減少することを示した。
【0068】
本発明で用いられる重合反応器としては、還流(reflux)コンデンサを付設した重合反応器であり、重合反応槽としては、内容積10m以上、特に100m以上の内容積を有するバッチ式反応器であってもよい。
【0069】
また、本発明においては、重合反応器がバッフルを備えたものであってもよく、また、加熱冷却用ジャケットを備えることも可能であり、加熱冷却用ジャケットとしては、例えば、外部ジャケット、内部ジャケットなどを用いてもよい。
【0070】
以上、特定の事項と限定された実施形態および図面により本発明を説明したが、これは本発明のより全般的な理解のために提供されたものにすぎず、本発明は上記の実施形態に限定されない。本発明が属する分野において通常の知識を有する者であれば、このような記載から多様な修正および変形が可能である。
【0071】
したがって、本発明の思想は、説明された実施形態に限定されて決まってはならず、添付の特許請求の範囲だけでなく、この特許請求の範囲と均等または等価的変形を有するものは、何れも本発明の思想の範囲に属するといえる。
図1
図2
図3
【国際調査報告】