(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-16
(54)【発明の名称】シーケンシングのためのRNA試料を調製する方法およびそのキット
(51)【国際特許分類】
C12N 15/10 20060101AFI20221109BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20221109BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20221109BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20221109BHJP
C40B 40/08 20060101ALI20221109BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20221109BHJP
C12Q 1/6855 20180101ALI20221109BHJP
【FI】
C12N15/10 100Z
C12Q1/6844 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
C40B40/08
C12N15/11 Z
C12Q1/6855 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022515626
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(85)【翻訳文提出日】2022-04-28
(86)【国際出願番号】 IB2020058259
(87)【国際公開番号】W WO2021048720
(87)【国際公開日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】102019000015914
(32)【優先日】2019-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522091221
【氏名又は名称】イマジナ バイオテクノロジー ソシエタ レスポンサビリタ リミタータ
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】デル ピアーノ アレッシア
(72)【発明者】
【氏名】フィッリート クラウディア
(72)【発明者】
【氏名】クラメール マッシミリアーノ
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR20
4B063QS25
4B063QS36
(57)【要約】
生物学的試料内に含まれる少なくとも1つのRNA分子をシーケンシングのために調製する方法であって、以下のステップ:
(i)リン酸基または2’,3’-環状リン酸基を3’末端に有する少なくとも1つのRNA分子を含む生物学的試料を取得するステップ;
(ii)少なくとも1つのRNA分子の5’末端をリン酸化し、それにより、該少なくとも1つのRNA分子の5’末端にリン酸基を導入して、両末端がリン酸化された少なくとも1つのRNA分子を取得するステップ;
(iii)少なくとも1つのリン酸化RNA分子の3’末端を、両末端に-OH基を有しているランダムRNAリンカーの5’末端にライゲーションして、少なくとも1つの第1のライゲーション産物を取得するステップ;
(iv)少なくとも1つの第1のライゲーション産物を自己ライゲーションして、線状RNA分子と混合されている少なくとも1つの環状RNA分子を形成するステップ;
(v)線状RNA分子を消化するステップ;
(vi)少なくとも1つの環状RNA分子を逆転写ローリング・サーキュラー増幅に供して、少なくとも1コピー、好ましくは2~500コピーの少なくとも1つのRNA分子を有する少なくとも1つの一本鎖cDNA分子を取得するステップ;
を含み、
ここで上記少なくとも1つの一本鎖cDNA分子は、シーケンシングに適切である。
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的試料内に含まれる少なくとも1つのRNA分子をシーケンシングのために調製する方法であって、
以下のステップ:
(i)リン酸基または2’,3’-環状リン酸基を3’末端に有する少なくとも1つのRNA分子を含む生物学的試料を取得するステップ;
(ii)前記少なくとも1つのRNA分子の5’末端をリン酸化し、それにより前記少なくとも1つのRNA分子の5’末端にリン酸基を導入して、両末端がリン酸化された少なくとも1つのRNA分子を取得するステップ;
(iii)前記少なくとも1つのリン酸化RNA分子の3’末端を、両末端に-OH基を有しているランダムRNAリンカーの5’末端にライゲーションして、少なくとも1つの第1のライゲーション産物を取得するステップ;
(iv)前記少なくとも1つの第1のライゲーション産物を自己ライゲーションして、線状RNA分子と混合されている少なくとも1つの環状RNA分子を形成するステップ;
(v)前記線状RNA分子を消化するステップ;
(vi)前記少なくとも1つの環状RNA分子を逆転写ローリング・サーキュラー増幅に供して、少なくとも1コピー、好ましくは2~500コピーの前記少なくとも1つのRNA分子を有する少なくとも1つの一本鎖cDNA分子を取得するステップ;
を含み、
ここで前記少なくとも1つの一本鎖cDNA分子は、シーケンシング、好ましくは単一分子のシーケンシングに適切である、
方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記方法は、前記少なくとも1つの一本鎖cDNA分子の相補cDNA鎖を生成して、少なくとも1つの二本鎖cDNA分子を取得する、さらなるステップ(vi)を含む、
方法。
【請求項3】
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法であって、
リン酸化ステップ(ii)は、T4 PNK 3’minus、T4 PNKおよびT4 PNKの組み換えバージョン(例えばOptikinase(商標))から選択されるリン酸化酵素を用いて行なわれる、
方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法であって、
ライゲーションステップ(iii)は、RtcB、Archease、Arabidopsis Thaliana tRNAリガーゼ、および真核生物tRNAリガーゼから選択される第1のリガーゼ酵素を用いて行なわれる、
方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法であって、
自己ライゲーションステップ(iv)は、T4 Rnl1、T4 Rnl2、T4 Rnl2tr、T4 Rnl2 K227Q、Mth Rnlおよび分子内ライゲーションを触媒するATP非依存性リガーゼ(例えばcircligase(商標)、circligaseII(商標))から選択される第2のリガーゼ酵素を用いて行なわれる、
方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法であって、
消化ステップ(iv)は、3’-5’エキソリボヌクレアーゼまたは5’-3’エキソリボヌクレアーゼを用いて行なわれる、
方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法であって、
逆転写ローリング・サーキュラー増幅ステップ(vi)は、改変されたMMLV-RT(Moloney Murine白血病ウイルス逆転写酵素)およびAMV-RT(Avian myeoloblastosisウイルス逆転写酵素)から選択される逆転写酵素を用いて行なわれる、
方法。
【請求項8】
請求項2~6のいずれか一項に記載の方法であって、
相補cDNA鎖の生成ステップ(vi)は、5’-3’エキソヌクレアーゼ活性を有するTaqポリメラーゼおよびGubler-Hoffman方法(例えば、Platinum II TaqホットスタートDNAポリメラーゼ(商標)、PrimeScript(商標))から選択されるDNAポリメラーゼ酵素を用いて行なわれる、
方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法であって、
前記ランダムRNAリンカーが、50~500ヌクレオチドの間に含まれる長さを有する、
方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法であって、
前記ランダムRNAリンカーが、-3~-150kcal/molの間に含まれる最小自由エネルギーを有する、
方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法であって、
リン酸基または2’,3’-環状リン酸基を3’末端に有する前記少なくとも1つのRNA分子は、エンドリボヌクレアーゼ、エキソリボヌクレアーゼ、リボザイム、または、mRNA、tRNA、snRNA、snoRNA、Y RNA、lncRNA、piRNA、siRNA、ウイルスRNAもしくはrRNAを切断することが可能な毒素を用いて前記生物学的試料を処理することによって生産される、
方法。
【請求項12】
ランダムRNAリンカー、および第1のリガーゼ酵素、エキソリボヌクレアーゼを含み、第2のリガーゼ酵素を含んでもよいキットであって、
(i)前記ランダムRNAリンカーは-OH基を両末端に有しており;
(ii)前記リガーゼ酵素は、リン酸基または2’,3’-環状リン酸基を3’末端に有しておりリン酸基を5’末端に有しているRNA分子の3’末端を、前記ランダムRNAリンカーの5’末端にライゲーションするのに適切であり;
(iii)前記エキソリボヌクレアーゼは、線状RNA分子を酵素的に消化するのに適切であり;および
(iv)前記第2のリガーゼ酵素は、前記RNA分子への前記ランダムRNAリンカーのライゲーションによって得られたライゲーション産物を環状化するのに適切である、
キット。
【請求項13】
請求項12に記載のキットであって、
前記第1のリガーゼ酵素は、RtcB、Archease、Arabidopsis Thaliana tRNAリガーゼ、および真核生物tRNAリガーゼから選択される、
キット。
【請求項14】
請求項12または13に記載のキットであって、
前記第2のリガーゼ酵素は、T4 Rnl1、T4 Rnl2、T4 Rnl2tr、T4 Rnl2 K227Q、Mth Rnlおよび分子内ライゲーションを触媒するATP非依存性リガーゼ(例えばcircligase(商標)、circligaseII(商標))から選択される、
キット。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか一項に記載のキットであって、
前記ランダムRNAリンカーは、50~500ヌクレオチドの間に含まれる長さを有する、
キット。
【請求項16】
請求項12~15のいずれか一項に記載のキットであって、
前記ランダムRNAリンカーは、-3~-150kcal/molの間に含まれる最小自由エネルギーを有する、
キット。
【請求項17】
請求項12~16のいずれか一項に記載のキットであって、
(i)リン酸化酵素、および/または(ii)エンドリボヌクレアーゼ、リボザイム、または、mRNA、tRNA、snRNA、snoRNA、Y RNA、lncRNA、piRNA、siRNA、ウイルスRNAもしくはrRNAを切断することが可能な毒素をさらに含む、
キット。
【請求項18】
請求項12~17のいずれか一項に記載のキットであって、
前記ランダムRNAリンカーは、配列番号3に記載のヌクレオチド配列を有する、
キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、シーケンシングのためのRNA試料を調製する新規の方法およびかかる方法を実施するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
RNA-タンパク質相互作用は、mRNA転写、pre-mRNAスプライシングおよびRNAシグナリング機能から、翻訳およびタンパク質局在化までの、細胞生物学の極めて重要な態様を制御する根本的な役割を果たしている1。そのような生物学的プロセスを理解する重要性を考慮して、RNAおよびタンパク質の化学標識化2からRNAフットプリントの全ゲノムハイスループットのシーケンシング3-6まで、これらの相互作用を研究し特徴付けるための方法を開発すべく、様々な努力がなされてきた。しかしながら、シーケンシング手法は一般に、試料調製中の様々な制約、例えば、広範囲の操作ステップ、PCR増幅および3’末端にリン酸基または2’,3’-環状リン酸基(3’-P/cP)を有するRNA配列を選択的に捕捉する不可能性の影響を受け、したがって、結果の正確性の低下をもたらす7。このことは、望ましくないRNA標的とのライブラリー交差反応性、高いバックグラウンドノイズおよび低いライブラリー質をもたらし、3’-P/cP末端化RNA産物の重要な生物学的情報を妨げる。3’-P/cPは酵素的切断によって生産され、3’-P/cP RNAは、多くの病状(例えば、癌および筋萎縮性側索硬化症8,9)、生物学的プロセス(例えば、タンパク質アンフォールディング応答(unfolding protein response)10、ストレス顆粒の産生8、RNA代謝11、rRNAおよびtRNA生合成12ならびにmRNAスプライシング13)、および生物学的機能(例えば、神経生存14および炎症性応答15)における重要な役割を有している。3’末端のリン酸シグネチャは重要な機能性マーカーであるが、大部分のシーケンシングパイプラインは、ライブラリー調製中、この化学的特徴を保存しない。ほんの少数の方法が3’-Pまたは3’-cPの検出に利用可能であるが、それらは3’-Pの間接的な検出を可能にするだけであり16、または、もっぱら3’-cPに選択的である16,17。さらに、これらのプロトコルは、労力と時間がかかり、PCR増幅ステップを伴い、したがって、不均一な配列カバレッジまたはシーケンシングエラーを生じさせ得る(例えば内側反復領域)。
【0003】
技術的観点から、多くのRNAフットプリント技術は、RNA-タンパク質相互作用(大きなRNA-タンパク質複合体18またはRNAの小分子の相互作用19)を特徴付けるためにエンドリボヌクレアーゼを用いる。3’-P末端を選択的に捕捉することが可能である利用可能なライブラリー調製プロトコルがないことにより非常に影響を受ける実験的設定は、リボソームプロファイリング(Ribo-seq)、25~35nt長のリボソームで保護されたフラグメント(RPF)のディープシーケンシングに基づくRNAフットプリント法、すなわち、保護されていない一本鎖RNAのヌクレアーゼ消化後に生産されるmRNAフラグメントである。特定の瞬間に捕捉された転写産物に沿ったリボソームの位置情報を提供するので、この技術は、タンパク質合成の生物学を研究するための有力な手法を代表する20。リボソームプロファイリングのための現在のプロトコルは、多くの連続的ステップを伴い、Illuminaシーケンシングプラットフォームに基づく。特に、RPFの分離後、2つの代替ライブラリー調製のワークフロー:(i)RPFの3’末端におけるアダプターライゲーション、cDNA合成、環状化およびPCR増幅の連続ステップと、合計4回のゲル抽出ステップに基づくワークフロー21;(ii)市販製品が利用可能であり、RNA3’ポリアデニル化、テンプレートスイッチとPCR増幅によるcDNA合成の連続ステップ22を伴い、ゲル抽出ステップを必要とする、低インプット材料に関するライゲーション非依存性ワークフローが現在までに利用可能である。利用可能なプロトコルの主な欠点は、(i)PCR増幅のバイアス、および(ii)3’-P/cP末端(効果的な消化のシグネチャを提供する)の保存の欠如と、その後の、シーケンシングデータセットにおける、3’-P/cPを有するRNA種(実際のRPFを表わす)の再現不足(under representation)によって示される。実際に、両方のワークフローは、アダプターライゲーション3またはポリアデニル化の前に脱リン酸化ステップを必要とする。この操作ステップは、ライゲーション反応における特定化レベルを低下させ、3’末端に-OH基が付与された任意の短いRNA分子の捕捉をもたらす。
【0004】
さらに、最近の研究は、生物学的流体(臍帯血漿、気管支肺胞洗浄液、成人血漿、耳下腺唾液、卵胞流体、血清、羊水、精漿、尿、胆汁、顎下/舌下唾液、脳脊髄液)における、小RNA集団、例えば、tRNA由来RNA、piwi-interacting RNA、Y RNAにおける相対的な量および種類の重要な違いを明らかにした。重要なことに、それらのうちのいくつかは、3’Pまたは2’,3’-cPを有することが知られており、癌、神経障害および免疫学的障害と関連付けられている23。この臨床シナリオにおいて、これらのRNA種は、バイオマーカーとしての潜在的役割と、患者階層化における予想的および/または予後的重要性を有し得る24,25。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、公知の方法の欠点がない、シーケンシングのためのRNA試料を調製する新規の方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の目的は、シーケンシングのためのRNA試料を調製する新規の方法およびかかる方法を実施するためのキットを提供することである。
【0007】
本発明によれば、上記目的は、本開示の不可欠な部分を形成するものとして理解される次のクレームにおいて明確に再現される(recalled)主題により達成される。
【0008】
本発明は、生物学的試料内に含まれる少なくとも1つのRNA分子をシーケンシングのために調製する方法に関するものであり、以下のステップ:
(i)リン酸基または2’,3’-環状リン酸基を3’末端に有する少なくとも1つのRNA分子を含む生物学的試料を取得するステップ;
(ii)少なくとも1つのRNA分子の5’末端をリン酸化し、それにより、該少なくとも1つのRNA分子の5’末端にリン酸基を導入して、両末端がリン酸化された少なくとも1つのRNA分子を取得するステップ;
(iii)少なくとも1つのリン酸化RNA分子の3’末端を、両末端に-OH基を有しているランダムRNAリンカーの5’末端にライゲーションして、少なくとも1つの第1のライゲーション産物を取得するステップ;
(iv)少なくとも1つの第1のライゲーション産物を自己ライゲーションして、線状RNA分子と混合されている少なくとも1つの環状RNA分子を形成するステップ;
(v)線状RNA分子を消化するステップ;および
(vi)少なくとも1つの環状RNA分子を逆転写ローリング・サーキュラー増幅に供して、少なくとも1コピー、好ましくは2~500コピーの少なくとも1つのRNA分子を有する少なくとも1つの一本鎖cDNA分子を取得するステップ;
を含み、
ここで上記少なくとも1つの一本鎖cDNA分子は、シーケンシング、好ましくは単一分子のシーケンシングに適切である。
【0009】
本方法はPCRが不要であり、任意の3’-P/cP末端化RNAフットプリントに適用することができる。本出願の方法の目的(CircAID-p-seqと呼ぶ)は、ナノポアシーケンシングのために最適化された低インプット生物学的試料のための迅速なcDNAシーケンシングプロトコルである。本方法は、時間のかかるプロトコルおよびPCRバイアスなどの伝統的にRNAフットプリントを悩ませてきた制約のいくつかを克服し、Oxford Nanoporeプラットフォームによる3’-P/cPを有するRNAフラグメントのディープシーケンシングのための有力なパイプラインを提供し、したがって、生物学的に関連のあるRNA種のリアルタイムの単一分子検出を可能にする。
【0010】
さらなる一実施態様では、本発明は、生物学的試料内に含まれる少なくとも1つのRNA分子をシーケンシングのために調製する方法(本明細書中に開示される)を実施するためのキットに関するものであり、ここでキットは、ランダムRNAリンカー、および第1のリガーゼ酵素、エキソリボヌクレアーゼを含み、第2のリガーゼ酵素を含んでもよく、ここで:
(i)ランダムRNAリンカーは、-OH基を両末端に有しており;
(ii)リガーゼ酵素は、リン酸基または2’,3’-環状リン酸基を3’末端に有しておりリン酸基を5’末端に有しているRNA分子の3’末端を、ヒドロキシル基を3’末端に有するランダムRNAリンカーの5’末端にライゲーションするのに適切であり;
(iii)エキソリボヌクレアーゼは、線状RNA分子を酵素的に消化するのに適切であり;および
(iv)第2のリガーゼ酵素は、RNA分子へのランダムRNAリンカーのライゲーションによって得られたライゲーション産物を環状化するのに適切である。
【0011】
本発明は、純粋に説明および非限定的な例示のために、付随する図面に関して、詳細にここに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】A)ポリアデニル化処理を伴う、または伴わない、RNAseI消化によって生じたフラグメントのTBE-尿素PAGE分析。B)CircAID-p-seqワークフローの略図。C)全てのCircAID-p-seqステップのTBE-尿素PAGE分析。
【
図2】circGFP-リンカーRライブラリーのダイレクトcDNAシーケンシング。A)シーケンシングリードの長さ分布;B)代表的なコンセンサス配列。単一の塩基呼出し(base-called)リードを、その個々のリピートに分割し、それから、互いに対してアライメントして、コンセンサス配列を生成した。
【
図3】A)GFPトランスフェクトHEK293T細胞の代表的な写真。B)BLASTnによって検出されたGFPフラグメントの長さ分布。C)参照GFP配列に対するシーケンシングリードのBLASTnアライメント。
【
図4】2つの異なるリードから得られた、2リピート(上)および3リピート(下)によって生産された代表的なコンセンサス配列。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の説明では、非常に多くの具体的な詳細が、実施態様の徹底的な理解を提供するために与えられる。実施態様は、具体的な詳細の1つまたは複数を用いずに、または他の方法、構成要素、材料などを用いて、実施することができる。他の例では、良く知られた構造、材料、または操作は、実施態様の態様を不明瞭にするのを避けるために、詳細に示されず、または説明されない。
【0014】
この明細書全体で「1つの実施態様」または「一実施態様」との言及は、実施態様との関連で記載される特定の特性、構造、または特徴が、少なくとも1つの実施態様に含まれることを意味する。したがって、「1つの実施態様では」または「一実施態様では」という語句が本明細書全体にわたり様々な場所において現れることは、必ずしもすべてが同じ実施態様を言及しているわけではない。さらに、特定の特性、構造、または特徴は、任意の適切な様式で1つまたは複数の実施態様において組み合わせられ得る。
【0015】
本明細書中に提供される見出しは便宜上のためのみであり、本実施態様の範囲または意味と解釈しない。
【0016】
本発明は、生物学的試料内に含まれる少なくとも1つのRNA分子をシーケンシングのために調製するための新規の方法に関するものであり、以下のステップ:
(i)リン酸基または2’,3’-環状リン酸基を3’末端に有する少なくとも1つのRNA分子を含む生物学的試料を取得するステップ;
(ii)少なくとも1つのRNA分子の5’末端をリン酸化し、それにより、該少なくとも1つのRNA分子の5’末端にリン酸基を導入して、両末端がリン酸化された少なくとも1つのRNA分子を取得するステップ;
(iii)少なくとも1つのリン酸化RNA分子の3’末端を、両末端に-OH基を有しているランダムRNAリンカーの5’末端にライゲーションして、少なくとも1つの第1のライゲーション産物を取得するステップ;
(iv)少なくとも1つの第1のライゲーション産物を自己ライゲーションして、線状RNA分子と混合されている少なくとも1つの環状RNA分子を形成するステップ;
(v)線状RNA分子を消化するステップ;および
(vi)少なくとも1つの環状RNA分子を逆転写ローリング・サーキュラー増幅に供して、少なくとも1コピー、好ましくは2~500コピーの少なくとも1つのRNA分子を有する少なくとも1つの一本鎖cDNA分子を取得するステップ;
を含み、
ここで少なくとも1つの一本鎖cDNA分子は、シーケンシング、好ましくは単一分子のシーケンシングに適切である。より好ましくは、シーケンシングは、Oxford Nanopore Sequencingプラットフォーム(ナノポアシーケンシング)によって行なわれる。
【0017】
一実施態様では、生物学的試料は、真核生物(植物、動物、菌類および原生生物のような単細胞生物)、ウイルスまたは原核細胞溶解物、組織(血液および生検、インビトロおよびエクスビボの細胞を含む)、生物学的流体(臍帯血漿、気管支肺胞洗浄液、成人血漿、耳下腺唾液、卵胞流体、血清、羊水、精漿、尿、胆汁、顎下/舌下唾液、脳脊髄液)、3D細胞培養物から選択することができる。
【0018】
一実施態様では、リン酸基または2’,3’-環状リン酸基を3’末端に有する少なくとも1つのRNA分子は、エンドリボヌクレアーゼ、エキソリボヌクレアーゼ、リボザイム、または、mRNA、tRNA、snRNA、snoRNA、Y RNA、lncRNA、piRNA、siRNA、ウイルスRNA(正センスRNAウイルス、負センスRNAウイルス、逆転写ウイルス由来、およびウイルスによって生産される他のRNA種)もしくはrRNAを切断することが可能な毒素を用いて生物学的試料を処理することによって生産される。
【0019】
一実施態様では、リン酸基または2’,3’-環状リン酸基を3’末端に有する少なくとも1つのRNA分子は、エンドリボヌクレアーゼ、エキソリボヌクレアーゼ、リボザイム、または、生物学的試料中に存在するmRNA、tRNA、snRNA、snoRNA、Y RNA、lncRNA、piRNA、siRNA、ウイルスRNA(正センスRNAウイルス、負センスRNAウイルス、逆転写ウイルス由来、およびウイルスによって生産される他のRNA種)もしくはrRNAを切断することが可能な毒素の作用の結果として、生物学的試料中に生理的または病理学的に存在する。
【0020】
一実施態様では、エンドリボヌクレアーゼは、好ましくは、RNaseA;RNaseT1;RNaseT2;RNaseI;S7小球菌ヌクレアーゼ;ブドウ球菌ヌクレアーゼ;RNAseL;アンギオジェニン;コリシンE5;tRNA-スプライシングエンドヌクレアーゼ(SE2、SEN34);フェレドキシン様Cas6およびフェレドキシン様CasE;IRE1;ポリ(U)特異的エンドリボヌクレアーゼ(PP11);Las1;RtcA;IB型トポイソメラーゼ;Cue2エンドヌクレアーゼ26およびCasタンパク質の中から選択される。
【0021】
一実施態様では、エキソリボヌクレアーゼは、好ましくはUSB1によって代表される。
【0022】
一実施態様では、リボザイムは、好ましくは、シュモクザメリボザイム、ヘアピンリボザイム、肝炎δリボザイム、Varkudサテライト(VS)リボザイムから選択される。
【0023】
一実施態様では、毒素は、好ましくは、コリシンDおよびコリシンE5、α-サルシン、ジモシン、PaT、MazF、ChpBK、prrCから選択される。
【0024】
一実施態様では、シーケンスされる少なくとも1つのRNA分子は一本鎖である。
【0025】
一実施態様では、少なくとも1つのRNA分子は、10pM~100μM、好ましくは1nM~10μMの間に含まれる濃度内で生物学的試料中に含まれる。
【0026】
一実施態様では、本方法は、少なくとも1つの一本鎖cDNA分子の相補cDNA鎖を生成して、少なくとも1つの二本鎖cDNA分子を取得する、さらなるステップ(vi)を含む。
【0027】
一実施態様では、リン酸化ステップ(ii)は、T4 PNK 3’minus、T4 PNKおよびT4 PNKの組み換えバージョン(例えばOptikinase(商標))から選択されるリン酸化酵素を用いて行なわれる。
【0028】
一実施態様では、ライゲーションステップ(iii)は、RtcB、Archease、Arabidopsis Thaliana tRNAリガーゼ、および真核生物tRNAリガーゼから選択される第1のリガーゼ酵素を用いて行なわれる。
【0029】
一実施態様では、自己ライゲーションステップ(iv)は、T4 Rnl1、T4 Rnl2、T4 Rnl2tr、T4 Rnl2 K227Q、Mth Rnl、および分子内ライゲーションを触媒するATP非依存性リガーゼ(例えばcircligase(商標)、circligaseII(商標))から選択される第2のリガーゼ酵素を用いて行なわれる。
【0030】
一実施態様では、消化ステップ(v)は、5’-3’エキソリボヌクレアーゼまたは3’-5’エキソリボヌクレアーゼを用いて、好ましくはRNAseRを用いて行なわれる。
【0031】
一実施態様では、逆転写ローリング・サーキュラー増幅ステップ(vi)は、改変されたM MLV-RT(Moloney Murine白血病ウイルス逆転写酵素)およびAMV-RT(Avian myeoloblastosisウイルス逆転写酵素)(好ましくはMaxima H minus(商標)Superscript(商標)I-II-III-IV、Sunscript(商標)から選択される)を用いて行なわれる。
【0032】
一実施態様では、相補cDNA鎖の生成ステップ(vi)は、5’-3’エキソヌクレアーゼ活性を有するTaqポリメラーゼおよびGubler-Hoffman方法(例えばPlatinum II TaqホットスタートDNAポリメラーゼ(商標)、AB Taq(商標)PrimeScript(商標)、NEBNext(登録商標)Ultra(商標)II Non-Directional RNA Second Strand Synthesis)から選択されるDNAポリメラーゼ酵素を用いて行なわれる。
【0033】
さらなる一実施態様では、本発明は、生物学的試料中に含まれる少なくとも1つのRNA分子をシーケンシングのために調製する方法(本明細書中に開示される)を実施するためのキットに関するものであり、該キットは、ランダムRNAリンカー、および第1のリガーゼ酵素、エキソリボヌクレアーゼを含み、第2のリガーゼ酵素を含んでもよく、
(i)ランダムRNAリンカーは、-OH基を両末端に有しており;
(ii)リガーゼ酵素は、リン酸基または2’,3’-環状リン酸基を3’末端に有しておりリン酸基を5’末端に有しているRNA分子の3’末端を、ランダムRNAリンカーの5’末端にライゲーションするのに適切であり;
(iii)エキソリボヌクレアーゼは、線状RNA分子を酵素的に消化するのに適切であり;および
iv)第2のリガーゼ酵素は、RNA分子へのランダムRNAリンカーのライゲーションによって得られるライゲーション産物を環状化するのに適切である(すなわち、リン酸を5’末端に有するライゲーション産物の5’末端を、-OH基を3’末端に有するライゲーション産物の3’末端にライゲーションする)。
【0034】
一実施態様では、第1のリガーゼ酵素は、RtcB、Archease、Arabidopsis Thaliana tRNAリガーゼ、および真核生物tRNAリガーゼから選択される。
【0035】
一実施態様では、第2のリガーゼ酵素は、T4 Rnl1 T4 Rnl1、T4 Rnl2、T4 Rnl2tr、T4 Rnl2 K227Q、Mth Rnl、および分子内ライゲーションを触媒するATP非依存性リガーゼ(例えばcircligase(商標)、circligaseII(商標))から選択される。
【0036】
一実施態様では、エキソリボヌクレアーゼはRNaseRである。
【0037】
一実施態様では、キットは、(a)リン酸化酵素、および/または(b)エンドリボヌクレアーゼ、リボザイム、または、mRNA、tRNA、snRNA、snoRNA、Y RNA、lncRNA、piRNA、siRNA、ウイルスRNA(正センスRNAウイルス、負センスRNAウイルス、逆転写ウイルス由来、およびウイルスによって生産される他のRNA種)もしくはrRNAを切断することが可能な毒素をさらに含む。好ましくは、キットは、エンドリボヌクレアーゼをさらに含み、ここでエンドリボヌクレアーゼはRNAseIである。
【0038】
1つまたは複数の実施態様では、ランダムRNAリンカーは、50~500ヌクレオチドの間に含まれる長さを有する。
【0039】
1つまたは複数の実施態様では、ランダムRNAリンカーは、-3~-150kcal/molの間に含まれる最小自由エネルギーを有する。好ましくは、各ランダムRNAリンカーは、好ましくは、-6kcal/mol~-24kcal/molの間に含まれる最小自由エネルギーを有し、目立った二次構造がないように設計される。いくつかの二次構造は配列の内側部分において許容されるが、5’/3’末端では許容されない。最小自由エネルギーは、当業者が利用可能なソフトウェアを用いて計算することができる。
【0040】
1つまたは複数の実施態様では、ランダムRNAリンカーは、配列番号3に記載のヌクレオチド配列を有する。
【0041】
ランダムRNAリンカーは、当該分野の専門家の共通の一般知識に従って、化学合成することができ、またはインビトロで転写および精製することができる。
【0042】
ランダムリンカーの5’-OH基は、化学的または酵素的に生産することができる。酵素的に生産される場合は、5’-OHは、(i)シス(インビトロで転写される配列によってコードされる)またはトランス(インビトロで転写される配列に対して作用する)で作用するリボザイム、ii)5’-OH基を放出する酵素、例えば子牛の腸ホスファターゼ、または(iii)コリシンDおよびコリシンE5、α-サルシン、ジモシン、Pichia acaciaeキラー毒素(PaT)、MazF、ChpBK、prrCから選択される毒素の触媒活性によって得ることができる。
【0043】
ランダムRNAリンカーは、以下の改変の少なくとも1つによって改変された少なくとも1個、好ましくは1~109個のヌクレオチドを含むことができる:LNA、PNA、2-アミノプリン、2,6-ジアミノプリン(2-アミノ-dA)、6mA、5-ブロモdU、逆位(Inverted)dT、5-メチルdC、8-アザ-7-デアザグアノシン、5-ヒドロキシブチニル-2’-デオキシウリジン、5-ニトロインドール、2’-O-メチルA、2’-O-メチルG、2’-O-メチルC、2’-O-メチルU、2’フッ素A、2’フッ素C、2’フッ素G、2’フッ素U、2-メトキシエトキシA、2-メトキシエトキシMeC、2-メトキシエトキシG、2-メトキシエトキシT、5-ブロモdU、2-アミノプリン、逆位dT、2,6-ジアミノプリン、デオキシウリジン、逆位ジデオキシ-T、5-メチルdC、ジデオキシ-C、デオキシイノシン(deoxylnosine)、以下を含むユニバーサル塩基:5-ニトロインドール、モルホリノ、2’-0-メチルRA塩基、イソdC、イソ-dG、リボヌクレオチド、トレオースヌクレオチド類似体、タンパク質ヌクレオチド類似体、グリコイック(glycoic)ヌクレオチド類似体、ロックド(locked)ヌクレオチド類似体、鎖終結(chain terminating)ヌクレオチド類似体、ジヒドロウリジン、チオウリジン、プソイドウリジン、キューオシン、およびワイオシンリン酸化リボヌクレオチド、改変された糖、非天然の結合、脱塩基部位、ジデオキシ基、5-メチル基、または以下から選択されるスペーサー:炭素スペーサー(RNA5’-0-(CH2)3-PO4-3’RNA)、光切断可能スペーサー、RNA5’O-トリエチレングリコール-PO4-3’RNA、18原子ヘキサエチレングリコールおよび1’,2’-ジデオキシリボース。好ましくは、ランダムRNAリンカーは、5’末端から最初の25塩基内および3’末端から最後の25塩基内に、1~25個の改変ヌクレオチドを含む。
【0044】
本発明者らは、3’-Pシグネチャを有する短いRNA分子のナノポアシーケンシングのためのライブラリー調製方法を開発し、リボソーム-プロファイリング(Ribo-seq)の設定において確証された。特に、CircAID-p-seqは、低含量の短いRNA分子の検出を可能にする非常に高感度なRT-RCAに基づく方法であり、したがって、単一細胞の技術に潜在的に適用可能である。
【0045】
この方法は、標準的なプロトコル3に現在のところ必要とされる1週間よりも長くかかるRibo-seqライブラリー調製に必要な時間を非常に短縮させることができ、技術的ステップ(脱リン酸化、ゲル抽出、精製)を著しく減少させ、したがって、バイアスの導入の可能性を下げる。本方法は、3’-P/cP末端を放出する酵素的切断を用いる任意のRNAフットプリント研究を可能にする。さらに、癌および神経変性、自己免疫性および感染性障害、ならびに、3’-P/cP末端化RNA分子が関与すると報告されている複数の細胞機能に関する研究は、本方法によって特に有利である。特に、この方法は、特定の酵素、リボザイムまたは毒素のヌクレオチド鎖切断活性の特性化に適切であり27、RNA編集CRISPR-Cas28システムを含む。最後に、本明細書中に開示される方法は、資源が制限された状況でさえ、高価な実験装置を必要とすることなく迅速なシーケンシングのパイプラインを可能にする。
【実施例】
【0046】
結果
細胞RNAは、ヒドロキシル基(-OH)、リン酸基(-P)、または2’,3’-環状リン酸基(-cP)をその末端に有し得る。多くのエンドリボヌクレアーゼによるRNA切断はしばしば、3’-Pまたは3’-cP末端を放出し、それらはATP依存性リガーゼ(例えばT4 RNAリガーゼ)にとって適合性の基質ではない。RNA鎖を切断するためのエンドリボヌクレアーゼおよびその後のライゲーションイベントの使用を含む方法論的に関連のある状況は、RNAフットプリントのためのRibo-seqによって代表され、それは、以下のステップ:(i)細胞溶解、(ii)ssRNAのエンドヌクレアーゼ(例えばRNaseI)消化、(iii)25~35nt長フラグメント(真正(bona fide)RPF)の回収、(iv)ライブラリー調製、(v)ディープシーケンシング、および(vi)参照タンパク質をコードするトランスクリプトームに対する最終的なアライメントに基づく。
【0047】
RNaseI切断によって生じるフラグメントの全集団の中から実際のRPFの画分を明らかにするために、本発明者らは3’ポリアデニル化処理を利用した。結果は、培養細胞(MCF7)から得られた25~35nt長フラグメントの約50%がポリアデニル化反応において反応したことを示す(
図1A)。このことは、サイズ選択されたRPFに、3’-OH末端を有するRNA種(標準的なライゲーションプロセスによって捕捉され得て、より高いバックグラウンドノイズを生じる)が混入していることを示す。
【0048】
現在利用可能なRibo-seqライブラリー調製ストラテジーの制約を克服するために、本発明者らは、(i)3’-P/cPシグネチャの保存および(ii)PCR増幅ステップ非依存性を可能にする方法の開発を試みた。そのような目標を成し遂げるために、発明者らは、(i)5’-OHを3’-P/cP末端にライゲーションすることが可能な酵素(RtcBリガーゼ)29,30、および(ii)PCRを用いないナノポアシーケンシングに適切なリンカーを用いた。特に、本発明者らは、ダイレクトcDNAナノポアシーケンシングに注力した方法を設計した。この方法の実施可能性の概念の証拠を提供するために、本発明者らは最初に、5’末端および3’末端の両方に-P基を有する30nt長の合成RNAフラグメント(5’P-GFP-3’P)を、細胞由来および5’リン酸化RPFの代用として用いた。GFPフラグメントは、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有する。
【0049】
cirAID-p-Seq手法において(
図1B)、本発明者らは最初に、ランダムRNAリンカーの5’-OH末端を5’P-GFP-3’Pフラグメントの3’-P末端に、RtcBリガーゼを用いてライゲーションした。それから、ライゲーション産物をTBE-尿素PAGEによって分離し、サイズ選択し、その後の反応のためにゲル精製した(
図1C)。次に、本発明者らは、T4 RNAリガーゼIを用いて5’P-GFP-リンカーR-3’OH産物を環状化させた。環状RNA構造の存在を確認するために、RNaseR(環状RNAを保存する代わりに全ての線状RNAを消化するエキソリボヌクレアーゼ)を用いて環状化産物を処理した。RNAseR反応のTBE-尿素PAGE分離後(
図1C)、予期される分子量において環状化産物(circGFP-リンカーR)が検出され、したがって、構築物の安定性および正しい環状化が確認された。それから、circGFP-リンカーR産物をゲル精製して、逆転写ローリング・サーキュラー増幅(RT-RCA)
31,32に供して、多コピーの挿入フラグメントを有する長い多量体一本鎖cDNA分子(140~15000nt)を得た。シーケンシング前の最終チェックポイントとして、RT-RCA産物をTBE-尿素PAGEによって分離して、それにより、予期されるサイズ範囲内の多量体cDNA産物の存在を確認した(
図1C)。
【0050】
本方法は、3’-P/cP-付与(endowed)RNAフラグメントの富化を可能にする。なぜならば、このシグネチャは、プロトコル全体の効率に必須だからである。この手法は、下流のPCRを用いないダイレクトcDNAナノポアシーケンシングと適合し、バーコード化リンカーと組み合わせた場合、多重アッセイを可能にする。
【0051】
本開示のライブラリー調製方法の目的は、3’-P/cP末端化RNAフラグメントの選択的取り込みのための最初のPCRを用いないプロトコルを代表し、ナノポアシーケンシングに適切である。
【0052】
短い3’-P末端化RNAフラグメントのナノポアシーケンシング
上述のGFPに基づくライブラリーの両方を、R9.4フローセルおよび1DケミストリをダイレクトcDNAシーケンシングに用いることによって、Oxford Nanopore Technologies(ONT)のMinIONでシーケンシングした。
【0053】
本発明者らは、第2の(相補)cDNA鎖の合成を行ない、その後に末端修復およびdAテール化を行なって、ONTプロトコルをcDNAシーケンシングに適合させた。60ngのライブラリーインプットのシーケンシングから、本発明者らは、2時間で約150万の「合格(passed)」リードを得て(MinKNOWNベースコール)、平均ベースコール品質スコアは10.5であり、失敗したリードは5%未満であった。
【0054】
リードの長さ分布は約300ntに主要ピークを示し、リードの約10%は1KBから50KB超までのより一層広い分布にわたっていた(
図2A)。このことは、RT-RCA反応が2~3ラウンドの逆転写で最大効率を示すが、元のテンプレートの最大で500コピーまでを産生することができることを示す。参照GFP配列に対する「合格」リードのBLASTnアライメント後、リードの100%が少なくとも1つの30マーGFPフラグメントを有するようであった。サンプリングされた2.5KBのリード内で繰り返される17個のGFPフラグメントの代表的なアライメントは、コンセンサス配列を計算的に生成するためのリピートの重要性を強調しており、その精度(元の配列に対する同一性%)はリピート回数に比例し(
図2B)、リピート回数はRT-RCA反応の効率に依存する。
【0055】
概して、これらの結果は、ライブラリー調製方法が、(i)3’-Pシグネチャを有する内因性切断RNAに似ている短い合成RNA分子を組み込むことができること、および(ii)ONTシーケンシングプラットフォームに効果的に適用可能であることの証拠を提供する。
【0056】
circAID-p-seqは、RNaseI消化後にリボソームフットプリントの検出を可能にする
circAID-p-Seqは、高いシーケンシング深度(リボソームプロファイリング実験に必要である)を提供し、合成30マーGFPフラグメントによるONTプラットフォームに対するこの方法の適用性が示されたので、本発明者らは、GFPがトランスフェクトされたHEK293T細胞からのリボソームフットプリントが本方法によって特定可能であるかどうかを調べようとした。
【0057】
本発明者らは、GFP過剰発現プラスミドで一時的にトランスフェクトされたHEK293Tは、(i)十分に規定されたオープンリーディングフレームを有するオルトゴナル参照配列のおかげでRPFの迅速な同定を確実にし、(ii)GFP mRNA上に高いフットプリント密度で大量の組み換えタンパク質を生産し得るという利点を有すると推論した。GFPタンパク質は、トランスフェクションから24時間後に高レベルで発現されるようであった(
図3A)。細胞質細胞溶解物をRNaseIで処理して、リボソームによって保護されていない全てのRNA鎖を消化して3’-Pを有するRPFを産生し、それをIngoliaら
33に従って精製した。合計450ngの精製されたRNAをライブラリー調製のためのインプットとして使用し、生じたcDNAライブラリーをMinIONで6時間シーケンシングした。アウトプットは、品質スコアが約10の配列を生産し、失敗したリードは10%未満であった。MinKNOWNベースコールされたリードの、参照GFP mRNAに対するBLASTnアライメントは、繰り返しGFP mRNAフラグメントの検出を可能にした。GFPフラグメントの長さ分布は18~60ntの間の範囲であり、リードの蓄積は約25および31ntであり(
図3B)、標準的なRPF長さ分布
34から予想されるとおりであった。全てのGFPフラグメントはコード配列にマッピングされ、3’および5’UTRのカバレッジは無く(
図3C)、これらのGFPフラグメントは、真正(authentic)RPFであり、非リボソームのリボ核タンパク質複合体に由来するフットプリントではないことが示唆された
35。
【0058】
さらに、本発明者らは、生じたコンセンサス配列が、2リピートによって優れた精度(96.5%)を達成し、3リピートによって100%コンセンサス精度が得られることを観察した。この結果は、本発明者らのライブラリー調製のストラテジーが、少なくとも3リピートを含むリード内に含まれるRNAフラグメントの正しい同定を可能にすることを示す(表1;
図4)。
【0059】
【0060】
これらの結果は、CircAID-p-Seqが、ONTプラットフォームに適切なリボソームプロファイリングライブラリーを生産することをさらに確認し、このプロトコル(CircAID-p-Seq)が、転写産物に沿った実際のリボソームフットプリントの特異的な検出を可能にするという証拠を提供する。
【0061】
材料および方法
リボソームで保護されたフラグメントおよびリンカー
カスタムリンカー(配列番号3に記載のヌクレオチド配列を有する)を、IMMAGINA BioTechnology s.r.l(Trento)によって合成した。両末端に-OH基を有する109マーのオリゴヌクレオチドからなる。
【0062】
5’-Pおよび3’-Pを有する、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有する30マーのオリゴヌクレオチドからなるリボソームで保護されたフラグメント(RPF)を、Integrated DNA Technologies(Coralville)によって合成し、またはインビトロで生産した。
【0063】
インビトロで生産されるRPFは、GFP(pMAX_GFP(商標)、Lonzaカタログ番号V4XP-3024-配列番号2)をコードするプラスミドでトランスフェクトされたHEK293T(ヒト胚腎臓)細胞(SIGMA、カタログ番号12022001)から取得した。細胞を24時間後に蛍光顕微鏡(Olimpus DP70)によってGFP発現について監視した。トランスフェクトされた細胞を、CHX(10ug/mL、SIGMAカタログ番号01810)で5分間37℃にて処理して溶解させた。0.3 AU 260nmのCHX処理した細胞溶解物をW-バッファー(Immagina Biotechnologyカタログ番号#RL001-4)中の2.25UのRNAseI(Ambion、カタログ番号AM2295)で室温にて45分間処理することによってRPFを生産した(Clamerら、201836に記載のとおり)。
【0064】
10UのSuperase Inhibitor(Thermo Scientific、カタログ番号AM2696)を10分間、氷上で添加することによってRNAseI消化を止めた。消化後、溶解物を精製し(Ingoliaら、200933に記載のとおり)、1%SDS(Sigmaカタログ番号05030)および0.1mgプロテイナーゼK(Euroclone、カタログ番号EMR022001)を用いて37℃で75分間処理した。全RNAを、酸-フェノール:クロロホルム、ph4.5(Ambion、カタログ番号AM9722)によって抽出した。RNAをイソプロパノールで沈殿させ、風乾し、10mMのTris-HCl(pH8)中に再懸濁して、15%TBE-尿素ポリアクリルアミドゲル(Invitrogen、カタログ番号EC6885BOX)上で分析した。30マーRPFをサイズ選択し、ゲルから抽出した(Ribolaceプロトコル、Immagina Biotechnologyに従った)(Clamerら、2018)36。
【0065】
インビトロで生産されたRPFフラグメントを精製の際に、リンカーRによる捕捉の前にT4 PNK 3’minus(NEB、カタログ番号M0236S)を用いて5’リン酸化に供した。
【0066】
RPFフラグメント-リンカーライゲーション
5’および3’末端の両方がリン酸化されたRPFフラグメントを用いて、以下の反応条件:90pmolのRPF、30pmolのリンカーR、45pmol RtcBリガーゼ、バッファーRtcBリガーゼ1X、100μM GTP、1mM MnCl2(最終容量30μL)に従って、RtcBリガーゼ(NEB、カタログ番号M0458S)によってリンカーR、(Immagina Biotechnology、カタログ番号#RLP001-1)とライゲーションした。反応物を37℃で2時間インキュベートし、それから、混合物を15%アクリルアミド/8M尿素プレキャストゲル(Invitrogen、カタログ番号EC6885BOX)中にローディングして、反応の効率を制御するために、目的産物(140nt長)をゲル抽出により精製した。ゲル精製ステップは、ワークフロー全体の利用にとって本質的ではない。
【0067】
環状化およびRNaseR処理
RtcBライゲーション産物の環状化を、10UのT4 RNAリガーゼ1(NEB、カタログ番号M0204L)、1×バッファーT4 RNAリガーゼ、20%PEG8000、50μM ATPを含む合計容量20μLで、25℃にて2時間行なった。環状化反応をその後、全ての望ましくない産物(すなわち線状RNAまたは混入産物)を除去するために、20UのRNaseR(Lucigen、カタログ番号RNR07250)とともに37℃で1時間インキュベートした。環状RNA産物を15%アクリルアミド/8M尿素プレキャストゲル(Invitrogen、カタログ番号EC6885BOX)上にローディングし、反応の効率を制御するためにゲル抽出により精製した。ゲル精製ステップは、ワークフロー全体の利用にとって本質的ではない。
【0068】
逆転写-ローリング・サークル増幅(RT-RCA)および第2の鎖の合成
RT-RCAを、以下:50ngの環状RNA、200Uの逆転写酵素、1×バッファーRT、0.5mM dNTP、50pmol RT-RCA Revプライマー(配列番号5に示すヌクレオチド配列を有する)、10%グリセロールの条件下で、20μL中、リンカーの3’領域にアニーリングするプライマーとMaxima H Minus逆転写酵素(Thermo Fisher、カタログ番号EP0752)を用いて行なった。反応を42℃で4時間行ない、それから、70℃で10分間止めた。cDNA合成後、0.1N NaOHを70℃で10分間添加することによって環状RNAテンプレートを加水分解した。
【0069】
一本鎖cDNA分子から第2の鎖を産生するために、1サイクルのPCRを、Super AB Taqポリメラーゼ(AB Analiticaカタログ番号06-36-020)によって、リンカーの5’領域にアニーリングするRT-RCA Fwプライマー(配列番号4に示されるヌクレオチド配列を有する)を用いて行なった。反応は、RT反応由来の20ul、1×バッファー、0.2mM dNTP、2mM MgCl2、1.25U Taqポリメラーゼ、50pmol RT-RCA Fwプライマー(合計容量50ul)を含んでおり、以下のプログラム:95℃の最初の変性、95℃30秒、51℃30秒および70℃2分の1サイクルに供した。二本鎖cDNAを、AMPure XPビーズ(Agencourt、カタログ番号A63881)を製造元の説明に従って用いて精製した。
【0070】
ライブラリー調製およびナノポアシーケンシング
精製cDNAを、ナノポアシーケンシングのために調製した。手短には、NEBNext End修復/dAテール化モジュール(NEB、カタログ番号E7546S)を製造元の説明に従って用いて、cDNAを末端修復およびdAテール化反応に供し、20℃で5分、65℃で5分インキュベートした。反応混合物を、AMPure XPビーズ(Agencourt)を用いて精製した。ONTアダプターミックスをダイレクトcDNAシーケンシングキットのプロトコル(SQK-DCS109、ONT)に従って添加し、それから、R9.4フローセルにローディングし、MinIONシーケンサーを用いてシーケンシングした。
【0071】
データ分析
ダイレクトcDNAシーケンシングに関する生物情報学分析において、参照配列に対する全てのアライメントを、BLAST-nまたはCLC Genomics Workbench(QIAGEN)を用いて行なった。コンセンサス配列の生成のために、Mesquiteソフトウェアを用いて単一GFPリピートを並べて、WebLogoオンラインツールを最終的なコンセンサス配列の生成のために用いた。
【0072】
circAID-p-seq方法の概要説明
ステップ1.RPFリン酸化。
選択および精製の際に、3’Pまたは3’cPを有するRPFを、表2に示されるプロトコルに従ってT4 PNK 3’Minusによって5’リン酸化に供する。
【0073】
【0074】
反応物を37℃で1時間インキュベートし、それから、Zymoカラム精製キットを通して精製する。
【0075】
ステップ2.RtcBライゲーション。
5’および3’末端の両方がリン酸化された、ステップ1によるRPFを、RtcBリガーゼによって109ntリンカーRNA分子(リンカーR)にライゲーションする。RtcBリガーゼは、リンカーRの5’OH末端をRPFの3’P/3’cP末端に、表3に示されるプロトコルに従って結合させる。
【0076】
【0077】
37℃で2時間インキュベートする。
【0078】
反応物を15%Tris-ホウ酸-EDTA(TBE)-尿素アクリルアミドゲル上にローディングし、ライゲーション産物をサイズ選択し、ゲル抽出して、イソプロパノール中に沈殿させ、最後に8μLの水中に再懸濁する。精製産物(RPF-リンカーR)は約140nt長であり、5’Pおよび3’OH末端を有する。そのようなステップは本明細書中に開示される方法の実施にとって本質的でない。
【0079】
ステップ3.環状化5’P-RPF-リンカーR-3’OH産物
5’P-RPF-リンカーR-3’OH産物を、T4 RNAリガーゼ1による5’P末端および3’OH末端のライゲーションによって環状化に供する。反応条件を表4に示す。
【0080】
【0081】
インキュベーション:25℃で2時間。
【0082】
ステップ4.RNaseR
反応条件を表5に提供する。
【0083】
【0084】
37℃で1時間インキュベートする。
【0085】
反応物を15%Tris-ホウ酸-EDTA(TBE)-尿素アクリルアミドゲル上にローディングし、環状RNA分子をゲル抽出する(ゲル抽出は本明細書中に開示される方法の実施にとって本質的なステップでない)。イソプロパノール沈殿後、環状RNAを8μL中に再懸濁して定量化する(QuBit定量化)。
【0086】
ステップ5.逆転写-ローリング・サークル増幅(RT-RCA)。
多量体一本鎖cDNAの生成のために、試薬を表6に示される量で混合する。
【0087】
【0088】
環状RNAプライマーミックスを65℃で5分間加熱し、それから、少なくとも1分間氷上でインキュベートする。アニールしたRNAに試薬を表7に示した量で添加する。
【0089】
【0090】
42℃で4時間インキュベートし、それから0.1N NaOHを添加して、混合物を70℃で20分間加熱する。最後に、156μLのヌクレアーゼフリーの水、20μL酢酸ナトリウム(3M)、300μLイソプロパノールおよび2μLのGlycoblueを添加して反応物を沈殿させる。沈殿後、20μLのヌクレアーゼフリーの水中に再懸濁する。
【0091】
ステップ6.第2の鎖の合成。
一本鎖cDNA分子(ステップ5で生産される)から第2の鎖を産生するために、1サイクルのPCRを表8および表9に提供される反応条件下で行なう。
【0092】
【0093】
【0094】
45μLのAMPure XPビーズ(agencourt)を添加することによって反応物を精製する。最終産物を合計容量25μLのヌクレアーゼフリーの水中に溶出する。
【0095】
ステップ7.ONTライブラリー調製。
精製した二本鎖cDNA(ステップ6参照)を、ダイレクト-cDNAシーケンシングキット(SQK-DCS109)のプロトコルに従って、「End Prep Step」から始めて、ONTライブラリー調製に用いる。
【0096】
【配列表】
【国際調査報告】