(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-16
(54)【発明の名称】ハンズフリー音声通信装置
(51)【国際特許分類】
H04M 1/60 20060101AFI20221109BHJP
H04R 3/02 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
H04M1/60 C
H04R3/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022515797
(86)(22)【出願日】2020-09-09
(85)【翻訳文提出日】2022-05-09
(86)【国際出願番号】 US2020050023
(87)【国際公開番号】W WO2021050613
(87)【国際公開日】2021-03-18
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520074734
【氏名又は名称】パイカー、アクスティック、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング
【氏名又は名称原語表記】PEIKER ACUSTIC GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100208188
【氏名又は名称】榎並 薫
(72)【発明者】
【氏名】ブランドン、フック
(72)【発明者】
【氏名】ヨーナス、ヘルム
【テーマコード(参考)】
5D220
5K127
【Fターム(参考)】
5D220CC06
5K127AA03
5K127BA10
5K127BB16
5K127BB34
5K127MA02
(57)【要約】
ハンズフリー音声通信装置用のシステムは、第1信号を出力するように構成された第1マイクロホンを含み得る。前記システムは、第2信号を出力するように構成された第2マイクロホンをさらに含む。前記システムは、ラウドスピーカー信号を出力するように構成されたラウドスピーカーと、信号処理ユニットと、をさらに含む。前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンは、前記ラウドスピーカーに対して等距離に配置される。前記信号処理ユニットは、前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンの前記第1信号および前記第2信号の平均を使用して前記通信装置を較正し、前記ラウドスピーカー信号のエコーを最小化するように構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1信号を出力するように構成された第1マイクロホンと、
第2信号を出力するように構成された第2マイクロホンと、
ラウドスピーカー信号を出力するように構成されたラウドスピーカーと、
信号処理ユニットと、
を備えるハンズフリー音声通信装置用のシステムであって、
前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンは、前記ラウドスピーカーに対して等距離に配置され、
前記信号処理ユニットは、前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンの前記第1信号および前記第2信号の平均を使用して前記通信装置を較正し、前記ラウドスピーカー信号のエコーを最小化するように構成される、
システム。
【請求項2】
前記信号処理ユニットは、前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンの両方に対する適応フィルタ係数を有する適応フィルタを備える、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記信号処理ユニットは、前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンの両方の前記適応フィルタの前記適応フィルタ係数を更新することにより、前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンの前記第1信号および前記第2信号の平均の挙動に適応するようにさらに構成される、
請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記信号処理ユニットは、因果的遅延の1つのサンプルを、前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンの前記第1信号および前記第2信号の平均に加算するようにさらに構成される、
請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記信号処理ユニットは、閾値相関係数を有するダブルトークおよび風検出器をさらに備え、
前記ダブルトークおよび風検出器は、前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンの前記第1信号と前記第2信号とが相関しているかどうかを判定するように構成される、
請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記信号処理ユニットは、ポストフィルタをさらに備え、
閾値相関係数を使用することに加えて、および/またはこれに代えて、前記ポストフィルタの出力が、前記第1信号および前記第2信号と比較されて、前記第1信号および前記第2信号が無相関成分を含むことを判定するように使用される、
請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンの両方の前記適応フィルタの前記適応フィルタ係数は、前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンの前記第1信号と前記第2信号とが無相関である場合、更新されない、
請求項3に記載のシステム。
【請求項8】
前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンは、全方向性である、
請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
ハンズフリー音声通信装置用の方法であって、
前記通信装置のラウドスピーカーに対して等距離に配置された第1マイクロホンの第1信号および第2マイクロホンの第2信号を得るステップと、
信号処理ユニットにより、前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンの前記第1信号および前記第2信号の平均を特定するステップと、
前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンの前記第1信号および前記第2信号の前記平均を使用して前記通信装置を較正し、前記ラウドスピーカーのラウドスピーカー信号のエコーを最小化するステップと、
を備える方法。
【請求項10】
前記信号処理ユニットを、前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンの前記第1信号および前記第2信号の前記平均の挙動に適応させるステップをさらに備える、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記信号処理ユニットは、、閾値相関係数を有するダブルトークおよび風検出器をさらに備える、
請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記ダブルトークおよび風検出器を使用して、前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンの前記第1信号と前記第2信号とが相関しているかどうかを判定するステップをさらに備える、
請求項11に記載の方法、
【請求項13】
前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンの両方の前記適応フィルタの前記適応フィルタ係数を、前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンの前記第1信号と前記第2信号とが相関している場合のみ、更新するステップをさらに備える、
請求項9に記載の方法。
【請求項14】
因果的遅延の1つのサンプルを、前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンの前記第1信号および前記第2信号の平均に加算するるステップをさらに備える、
請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンの両方の前記適応フィルタの前記適応フィルタ係数は、前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンの前記第1信号と前記第2信号とが無相関である場合、更新されない、
請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年9月10日に出願された欧州特許出願番号19196574に基づいて優先権を主張するものであり、この全内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
本発明は、概して、ハンズフリー音声通信装置に関する。
【0003】
既知の車両のハンズフリー電話機は、単一チャネル音声信号処理とともに分散ラウドスピーカーとマイクロホンの機構を使用する。緊急通報義務化の導入やこのようなシステムに対する一般的な要求から、マイクロホンとラウドスピーカーとの間隔が狭く、比較的高い音響性能手段を有するマイクロホンアレイを使用する良好なハンズフリー通話性能に対するニーズが生じている。最高度のマイクロホン製造プロセスであっても、アレイで使用される任意のセットのマイクロホン間には、大きさや位相応答の点で一定の偏差が生じ、致命的となり得る。
【0004】
また、マイクロホンとラウドスピーカーとが近接していること、および話し手に対する距離により、既知の従来のエコー除去アルゴリズムや単指向性マイクロホンでは抑制が困難な異常に高いエコーが生じる。
【発明の簡単な要旨】
【0005】
本要旨は、以下の詳細な説明においてさらに説明される概念の一部を紹介するために提供される。本要旨は、請求された主題の重要なまたは必須の特徴を特定することを意図しておらず、請求された主題の範囲を限定する助けとして利用されることも意図していない。
【0006】
概して、一態様において、実施形態は、第1信号を出力するように構成された第1マイクロホンを含み得るハンズフリー音声通信装置用のシステムに関する。前記システムは、第2信号を出力するように構成された第2マイクロホンをさらに含む。前記システムは、ラウドスピーカー信号を出力するように構成されたラウドスピーカーと、信号処理ユニットと、をさらに含む。前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンは、前記ラウドスピーカーに対して等距離に配置される。前記信号処理ユニットは、前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンの前記第1信号および前記第2信号の平均を使用して前記通信装置を較正し、前記ラウドスピーカー信号のエコーを最小化するように構成される。
【0007】
概して、一態様において、実施形態は、ハンズフリー音声通信装置用の方法に関する。前記方法は、前記通信装置のラウドスピーカーに対して等距離に配置された第1マイクロホンの第1信号および第2マイクロホンの第2信号を得るステップを含む。前記方法は、信号処理ユニットにより、前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンの前記第1信号および前記第2信号の平均を特定するステップをさらに含む。前記方法は、前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンの前記第1信号および前記第2信号の前記平均を使用して前記通信装置を較正し、前記ラウドスピーカーのラウドスピーカー信号のエコーを最小化するステップをさらに含む。
【0008】
本発明の他の態様および利点は、以下の説明および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、単数または複数の実施形態によるハンズフリー音声通信装置を有する車両の斜視図を示す。
【
図2A】
図2Aは、単数または複数の実施形態によるハンズフリー音声通信装置の斜視図を示す。
【
図2B】
図2Bは、単数または複数の実施形態による
図2Aのハンズフリー音声通信装置の上面図を示す。
【
図3】
図3は、単数または複数の実施形態によるハンズフリー音声通信装置の信号処理ユニットの機構を示す。
【
図4】
図4は、単数または複数の実施形態によるフローチャートを示す。
【
図5】
図5は、単数または複数の実施形態によるコンピュータシステムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の具体的な実施形態について、添付図面を参照しつつ以下に詳細に説明する。種々の図面における同様の要素には、統一性の面から同様の参照符号を付す。同様の要素は、簡潔性を期して全ての図には符号を付けない場合がある。
【0011】
本発明の実施形態についての以下の詳細な説明において、本発明をより深く理解するために多数の具体的な詳細事項が記載される。しかしながら、当業者には、本発明はこれらの具体的な詳細事項がなくても実施され得ることが明らかであろう。他の例では、説明が不必要に複雑になることを避けるよう、周知の特徴は詳細に説明されていない。
【0012】
本願では、序数(例えば、第1、第2、第3等)は、ある要素(すなわち本願における任意の名詞)に対する形容詞として使用され得る。「前」、「後」、「単一」や他のこのような用語を使用することにより明示的に開示される場合を除き、序数の使用は、要素の特定の順序を暗示したり作り出すものではなく、また任意の要素を単一の要素のみに限定するものでもない。むしろ、序数の使用は、要素同士を区別するためのものである。一例として、第1要素は第2要素と区別される。第1要素は、複数の要素を包含し得るとともに、要素の順序において第2要素に後続(または先行)し得る。
【0013】
図1~
図5の以下の説明では、本発明の種々の実施形態においてある図に関して説明した任意の構成要素は、他の図に関して説明した単数または複数の同様の名称を有する構成要素と等価である場合がある。簡潔を期して、これらの構成要素の説明は、各図に関して繰り返さない。したがって、各図の構成要素の各および全ての実施形態は、参照により組み込まれ、単数または複数の同様の名称の構成要素を有する全ての他の図に選択的に存在するものと仮定される。また、本発明の種々の実施形態にしたがって、ある図の構成要素についてあらゆる説明は、任意の他の図の対応する同様の名称の構成要素について説明される実施形態に加えて、これに関連して、またはこれに代えて実施され得る任意の実施形態として解釈されるべきである。
【0014】
単数形の「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、複数の指示対象を含むことを理解されたい。したがって、例えば、「水平ビーム」という言及は、このような単数または複数のビームに対する言及を含む。
【0015】
「およそ」、「実質的に」等の用語は、言及された特性、パラメータ、または値が正確に達成される必要はなく、例えば公差、測定誤差、測定精度制限、および当業者に知られている他の要因を含む逸脱または変動が、その特性が提供しようと意図した効果を妨げない範囲で発生し得ることを意味している。
【0016】
また、フローチャートに示す単数または複数のステップは、省略され得る、繰り返され得る、および/または示された順序とは異なる順序で実施され得ることを理解されたい。したがって、本発明の範囲は、フローチャートに示されるステップの特定の配列に限定されると考えるべきではない。
【0017】
マルチ従属請求項は導入されていないが、当業者には、単数または複数の実施形態の従属請求項の主題が、他の従属請求項と組み合わせられ得ることが明らかであろう。
【0018】
概して、単数または複数の実施形態は、車両に配置されるように設計されたハンズフリー音声通信装置を対象としている。換言すれば、ハンズフリー音声通信装置は、マイクロホン、ラウドスピーカーおよびマルチチャネル信号処理ユニットが一体化されたモジュールを有する車両用ハンズフリー音声通信装置であり、規格や自動車メーカーが要求するいくつかの特性、例えば、コンパクト性、経済性、車室への設置の容易性、衝撃対策を満たし、ハンズフリー使用アプリケーションに安定かつ分かりやすい通信を提供するという規格を果たすことを遂行する。したがって、目的は、特に車両用の緊急通報システムのための改良されたハンズフリー音声通信装置を提供することである。
【0019】
別の目的は、風および/または無相関信号の検出を組み込むことにより、ハンズフリー音声通信装置のエコー抑制およびダブルトーク性能を向上させることである。特に、信号処理ユニットは、マイクロホンの入力信号を使用して通信装置を較正し、ラウドスピーカーからのラウドスピーカー信号のエコーを最小化して、ラウドスピーカーの方向における比較的高い広帯域の抑制を保証する。別の目的は、ハンズフリー音声通信装置の開口形状の公差、およびマイクロホンの配置のミスマッチ、およびマイクロホンの経時的な特性変化を最適化し、低減することである。
【0020】
本発明の実施形態は、あらゆるサイズの商用車、産業用車両、娯楽用車両を含むあらゆる車両において、情報(例えば、音声、テキスト、ビデオ、マルチメディア、センサ、または監視データ)の通信または交換のためのあらゆるタイプのハンズフリーおよび音声制御システムに対して使用することができる。
【0021】
図1は、単数または複数の実施形態によるハンズフリー音声通信装置を有する車両を斜視図で示す。
【0022】
図1に例示する単数または複数の実施形態において、内部(102)を有する車両(100)は、車両(100)の天井コンソールにハンズフリー音声通信装置(104)を含んでいる。ハンズフリー音声通信装置(104)は、2つのマイクロホン(106、108)およびラウドスピーカー(110)を含み得る。単数または複数の実施形態において、ハンズフリー音声通信装置(104)の良好なハンズフリー通話性能には、小型ボックス(例えば、およそ75mm×45mm×40mm(縦×幅×奥行き)の寸法)においてマイクロホン(106、108)とラウドスピーカー(110)の配置間隔が狭いことが必要である。この小型の筐体内に、遠端の話し手の信号(例えば、ラウドスピーカー信号)を発するラウドスピーカー(110)、ならびに近端の話し手の信号(例えば、任意の信号)を捕捉するマイクロホン(106、108)が一体化されている。
【0023】
単数または複数の実施形態において、固定均一線形差動アレイが、所望の信号を保持しつつエコー信号を可能な限り除去することにより、ハンズフリー音声通信装置(104)の低い近端/遠端比(NFR)の問題を克服するために使用される。特に、マイクロホン(106)および(108)は、周囲環境から任意の信号を拾うために使用される。これらの信号は、周囲雑音または他の干渉信号に対する所望の信号の信号対雑音比(SNR)が増加するように、マイクロホンビーム形成を使用して結合される。例えば、マイクロホンが任意の信号を表す場合、この任意信号は、関連する信号(単数または複数の話し手からのスピーチ)の組み合わせである任意の種類の音声信号であって、カプセル間のミスマッチの較正を提供する能力を有する信号(ダブルトークシナリオ中ではないラウドスピーカー信号)と音響的に混合し、かつ、音響ノイズや非音響ノイズのような全く関連しない信号と混合した音声信号である。非音響ノイズの例は、一般に、マイクロホンに当たる風やマイクロホンのうちの一方に触れる人等の非音響刺激に対する応答であり得る。音響ノイズの例には、冷暖房空調設備(HVAC)からのファンの音、路面と相互作用するタイヤの音、およびエンジンが発する音が含まれる。
【0024】
ラウドスピーカー(110)は、任意の音声信号である較正信号を使用してハンズフリー音声通信装置(104)を較正し、ラウドスピーカー(110)からの出力ラウドスピーカー信号のエコーを最小化するように使用される。したがって、「較正信号」とは、任意の信号の一部であり、ダブル―トークが検出されない瞬間のラウドスピーカー信号である。ダブルトークは、遠端スピーチ信号がラウドスピーカーを通して音で伝わっているのと同時に、近端話者(例えば、ドライバー)が話す場合に生じる。
【0025】
換言すれば、例えば適応ビーム形成技術を使用した空間フィルタリングを利用して、所望の信号に向かうビーム(高感度の方向)を形成し、かつ、例えば他の全ての方向からのノイズパワーを最小にする、または干渉信号の方向に固有の感度を最小にする、いわゆるヌルにする。固定ビーム形成器は、マイクロホンアレイの軸に対して一定の固定した方向から衝突する信号のSNRを向上させるように設計されている。適応ビーム形成器は、センサに到達した実際の信号の統計を使用して、単数または複数の所望の方向からの単位感度を維持しつつ全方向からのノイズパワーを最小化することにより、最適な線形フィルタをそれらの性能を最大化するために計算する。上述の例は適応ビーム形成技術について説明されているが、本発明は、2つのマイクロホンを使用したこのビーム形成技術に限定されない。例えば、任意の適切なタイプのビーム形成技術が、マイクロホンの個数、マイクロホンの距離、マイクロホンの配置(例えば、一様線形、対数線形、入れ子、円形、螺旋、およびランダム)、および最大化基準のような特定の使用例にしたがって選択されるある程度の自由度を有する空間フィルタリングのために利用され得る。ハンズフリー音声通信装置の一例の詳細については、
図2および
図3ならびに付随する説明を参照されたい。
【0026】
図2Aおよび
図2Bは、単数または複数の実施形態によるシステムを示す。
図2Aに示すように、ハンズフリー音声通信装置(200)の種々の構成要素は、例えばボックス(202)内に配置されている。ハンズフリー音声通信装置(200)(以下、「通信装置」と称する)は、ラウドスピーカー(204)と、第1マイクロホン(206)と、第2マイクロホン(208)と、信号処理ユニット(210)と、を備えている。ボックス(202)は、
図1の車両(100)内の中央天井位置に設置され得る。
【0027】
いくつかの実施形態において、マイクロホン(206)および(208)は、
図2Bに示すようにラウドスピーカー(204)から等距離に配置されて8の字の感度パターンを実現している。これにより、主軸(前後軸)は、関連する信号に向かう向きとなる(すなわち、第1マイクロホン(206)から第2マイクロホン(208)に引かれる線は、車両(100)に乗っている人同士の間に引かれる線と平行でなければならない)。特に、第1マイクロホン(206)および第2マイクロホン(208)は、対称に配置された差動マイクロホンアレイ(DMA)を形成するとともに、全方向性である。全方向性マイクロホンは、全ての入射角から同一感度で音を拾う。マイクロホン(206)とマイクロホン(208)との間の間隔は、適切に広い帯域幅を利用して空間的な折り返し雑音なく音を捕捉し得るように選択され、各マイクロホンとラウドスピーカーとの間の距離は等しい。例えば、第1マイクロホン(206)からラウドスピーカー(204)までの距離d(典型的に5cm程度)は、第2マイクロホン(208)からラウドスピーカー(204)までの距離と同一である。いくつかの実施形態において、上述の制約が満たされる限り、より多くのマイクロホンであって、各々が(周波数に応じて)感度について補正可能なマイクロホンを有することが完全に可能であり、非常に有益である。
【0028】
いくつかの実施形態において、ラウドスピーカー(204)は、電気音声信号を対応する音に変換する電気音響変換器である。ラウドスピーカー(204)は、最大寸法が、円形ラウドスピーカーの場合40mm程度の直径、または矩形ラウドスピーカーの場合およそ40mm×40mmであり、
図2Aに示す所望のボックス(202)の内部に嵌合し得る。ラウドスピーカー(204)の奥行は、ラウドスピーカー(204)の内部の磁石のサイズに主によるが、30mm程度である。また、適切な寸法を有するラウドスピーカー(204)は、少なくとも400Hz~3100Hzの好適には線形の周波数応答を有するべきである。例えば、ボックス(202)内で40.5mm×40.5mm×31mmの寸法を有するラウドスピーカー(204)は、この場合おおよそ4000Hzまでの関連する最低周波数で、1%未満の歪みを提供し得る。ラウドスピーカーの歪みは、エコーキャンセラの性能を低下させることが知られているが、ラウドスピーカー信号をマイクロホンの較正信号として使用する場合、歪みは全てのカプセルに等しく存在し得るため、マイクロホン感度を一致させるシステムの性能が低下するという懸念は生じない。
【0029】
単数または複数の実施形態において、第1マイクロホン(206)および第2マイクロホン(208)は、音を電気信号に変換する変換器である。第1マイクロホン(206)および第2マイクロホン(208)に適したマイクロホンタイプは、マイクロホンの任意のランダムな2つのサンプル間の大きさおよび位相応答の分散に基づく。例えば、微小電気機械システム(MEMS)マイクロホン(マイクロホンチップ又はシリコンマイクロホンとも称される)が、低い製造公差、高い音響過負荷点(125dB SPL)、および65dB(A)のSNRを有する低い自生ノイズを有するアレイ内の第1マイクロホン(206)および第2マイクロホン(208)に使用される。感圧ダイヤフラムが、MEMS加工技術によりシリコンウェハに直接エッチングされ、通常一体型プリアンプを伴っている。ほとんどのMEMSマイクロホンは、コンデンサマイクロホン設計のヴァリエーションである。デジタルMEMSマイクロホンは、同一のCMOSチップ上にアナログ-デジタルコンバータ(ADC)回路を内蔵しており、チップはデジタルマイクロホンとして最新のデジタル製品により容易に組み込まれ得る。例えば、各々が通信装置(200)の一体化モジュールに組み込まれるように使用される、1つのプリント基板(52mm×12mm)からなるDMAと、距離が5cmの2つのボトムポートMEMSマイクロホンと、1つのオペアンプ(図示せず)とが、ボックス(202)に配置される。上述の例は、MEMSマイクロホンについて説明されているが、本発明は、第1マイクロホン(206)および第2マイクロホン(208)に関してこの特定タイプのマイクロホンに限定されず、任意の適切なタイプのマイクロホン(例えば、コンデンサ、ダイナミック、リボン、カーボン、圧電、光ファイバ、レーザー)を使用することができる。
【0030】
単数または複数の実施形態において、通信装置(200)用のボックス(202)は、通信装置(200)の様々な電気音響素子を収容するように設計されている。ボックス(202)の寸法は、およそ75mm×45mm×40mmであり、第1マイクロホン(206)、第2マイクロホン(208)、およびラウドスピーカー(204)は、DMAの性能に悪影響を及ぼさないように配置されている。例えば、ボックス(202)は、通信装置(200)のために、車両内部における表面振動、および一般的にラウドスピーカー(204)から第1マイクロホン(206)および第2マイクロホン(208)に伝わる構造物由来の音を最小化するように設計されている。いくつかの実施形態において、例えば52mm×12mmのDMAを形成する第1マイクロホン(206)および第2マイクロホン(208)は、発泡材料の一部に埋設される。また、ラウドスピーカー(204)は、ボックス(202)にネジを使用せずに設置される。特に、ラウドスピーカー(204)は、ボックス(202)の本体のカバーと底部との間にクランプされ、ラウドスピーカー(204)とボックス(202)の表面との間にさらなる発泡材料があり、ラウドスピーカー(204)からモジュールへの、および第1マイクロホン(206)および第2マイクロホン(208)のそれぞれへの、構造経路を通る過度の伝達がさらに防止される。
【0031】
図3は、単数または複数の実施形態による通信装置のデジタル信号処理ステージ用のシステムを示す。
図3に示すように、通信装置の信号処理ユニット(300)の機構、信号処理ユニット(300)は、増幅器(302)、第1マイクロホン(306)、および第2マイクロホン(308)を介して、それぞれ導電接続部(301)、(303)および(305)により、ラウドスピーカー(304)に接続されている。いくつかの実施形態において、信号処理ユニット(300)は、第1デジタル・アナログ変換器(DAC)-変圧器(310a)、第2デジタル・アナログ変換器(DAC)-変圧器(310b)、第1アナログ・デジタル変換器(ADC)-変圧器(312a)、第2アナログ・デジタル変換器(ADC)-変圧器(312b)、第3アナログ・デジタル変換器(ADC)-変圧器(312c)、第1適応有限インパルス応答(FIR)フィルタ(320a)、第2適応有限インパルス応答(FIR)フィルタ(320b)、およびポストフィルタ(326)を含み得る。信号処理ユニット(300)は、種々のプロセッサ、例えば、第1プロセッサ(314)、第2プロセッサ(316)、第3プロセッサ(318a)、第4プロセッサ(318b)、および第5プロセッサ(322)をさらに含み得る。
【0032】
例えば、第1プロセッサ(314)は、第1ADC-変圧器(312a)を介して第1マイクロホン(306)の出力から得られる第1信号(315a)、および第2ADC-変圧器(312b)を介して第2マイクロホン(308)の出力から得られる第2信号(315b)に、ダブルトーク-検出アルゴリズムを適用するように設計されたダブルトークおよび風検出装置である。また、第1プロセッサ(314)は、第1マイクロホン(306)の第1信号(315a)および第2マイクロホン(308)の第2信号(315b)をデジタル信号(317)と共に比較し、マイクロホン(306)、(308)でのダブルトークおよび風を検出する。第2プロセッサ(316)は、第1信号(315a)および第2信号(315b)の平均(315c)を特定するように設計されている。例えば、第3プロセッサ(318a)および第4プロセッサ(318b)は、第1信号(315a)および第2信号(315b)に、適応アルゴリズムをそれぞれ適用するように設計された数学ブロックである。第5プロセッサ(322)は、第1マイクロホン(306)の第1信号(315a)と第2マイクロホン(308)の第2信号(315b)の平均に、因果的遅延信号(321)として少なくとも1つのサンプルの遅延を加算することにより、因果関係を保証するように設計されている。製造公差や組立公差により、マイクロホンの配置がラウドスピーカーの音響中心から正確に等距離でない場合がある。因果的遅延を加算することにより、製造公差が大きくても適応アルゴリズムが正しく収束することが保証される。
【0033】
いくつかの実施形態において、特に大きな温度差が生じる車内での使用に関して、マイクロホン特性の変化を追跡する経時的な自動較正を実施することが非常に有益である。マイクロホンの自動較正において問題を引き起こす種々の要因が存在する。このような要因は、例えば、マイクロホンの公差(感度、振幅(magnitude)、位相応答)、マイクロホンに到達する構造由来音(structure-bone sound)の違い、ラウドスピーカーの指向性パターンの非対称性、構造の公差(構成要素の不正確な配置)、マイクロホンに衝突する室内反射の違いである。特にラウドスピーカー(304)がアクティブである場合、これらの問題が組み合わさって、第1マイクロホン(306)および第2マイクロホン(308)により2つの捕捉された信号が、完全に類似しないことが一般に生じる。これは、良好なビーム形成のために必要である。特に、マイクロホンの公差は、通信装置の最終製品において常に発生する。このため、適応信号処理ステップが、通信装置の自動較正を達成するのに有利である。
【0034】
いくつかの実施形態において、通常、ラウドスピーカーで再生される遠端信号は、マイクロホンへの直接経路ならびに多数の反射を伴う多くの間接経路を有している。マイクロホンに到達する信号は、エコー信号と呼ばれる。通信装置装置からエコーの影響を除去するために、エコー信号の推定バージョンを実際のエコー信号から減算する。いくつかの実施形態において、全二重通信のハンズフリー音声通信装置を提供するために、エコー除去が、第3プロセッサ(318a)および第4プロセッサ(318b)の適応アルゴリズムにより適応させた適応FIRフィルタ(320a)、(320b)に組み込まれるとともに、第1プロセッサ(314)のダブルトークおよび風検出の出力(319)により制御される。例えば、最小化すべきコスト関数として二乗平均平方根(RMS)誤差に基づくNLMSアルゴリズムが、第1信号(315a)および第2信号(315b)にそれぞれ適用される。
【0035】
上述の例ではNLMSアルゴリズムに関して説明したが、本発明は、第1信号(315a)および第2信号(315b)に対するこの特定タイプの適応アルゴリズムに限定されない。最小化すべきコスト関数、計算の複雑性、および収束速度の点で異なる任意の適切なタイプの適応アルゴリズムが利用され得る。
【0036】
いくつかの実施形態において、車両のテレマティクス制御ユニット(TCU)からの遠端信号(330)はラウドスピーカー(304)により発せられ、第1マイクロホン(306)および第2マイクロホン(308)までそれぞれ等距離進む。特に、第3ADC-変圧器(312c)の出力はデジタル信号(317)であり、ダブルトークおよび風検出のために第1プロセッサ(314)に供給される。デジタル信号(317)は、第1アナログ信号(301a)を得るために第1DAC-変圧器(310a)への入力として使用され、増幅器(302)を介して第2アナログ信号(301b)として増幅され、そしてラウドスピーカー(304)により発せられる。第1信号(315a)は、第1適応FIRフィルタ(320a)によりフィルタリングされて、フィルタリングされた第1信号(323)となる。同様に、第2信号(315b)は、第2適応FIRフィルタ(320b)によりフィルタリングされて、フィルタリングされた第2信号(325)となる。フィルタリングされた第1信号(323)およびフィルタリングされた第2信号(325)は、第1信号(315a)および第2信号(315b)の平均(315c)を使用して較正される。そして、フィルタリングされた第1信号(323)は、因果的遅延信号(321)から減算され、同様に、フィルタリングされた第2信号(325)は、因果的遅延信号(321)から減算されて誤差信号となる。誤差信号は、第3プロセッサ(318a)および第4プロセッサ(318b)にそれぞれ供給される。第3プロセッサ(318a)および第4プロセッサ(318b)は、フィルタリングされた第1信号(323)および第2信号(325)で測定された較正信号に対する応答が互いに等しくなるように、それぞれの誤差信号を最小化しようとする。このプロセスは、各マイクロホン(306)、(308)からの信号がラウドスピーカー(304)から到来する音に対して等しいことを保証するように、リアルタイム(サンプル毎、フレーム毎、および/または瞬間毎)で行われる実際の較正方法である。
【0037】
次いで、同時に、フィルタリングされた第1信号(323)をフィルタリングされた第2信号(325)から減算し(またはその逆の減算を行い)、実際の8の字のビームを生成する。ビームパターンを生じさせるこの減算は、以下に述べるポストフィルタの必要性と同様に、差動ビーム形成の技術分野の当業者には馴染み深いものであるはずである。フィルタリングされた第1信号(323)および第2信号(325)は、ラウドスピーカー(304)から到来する音に等しく応答するように既に較正されているので、このような信号の減算は、ゼロに等しい(または実際的に非常にゼロに近い)ものとなる。しかしながら、話し手(ドライバー/同乗者)から到来する信号に対する応答は、フィルタリングされた第1信号(323)およびフィルタリングされた第2信号(325)において等しくないことが保証されている。これにより、それらの差、ビーム形成された信号(324a)はゼロでないことが保証される。
【0038】
一方で、第1適応FIRフィルタ(320a)および第2適応FIRフィルタ(320b)は、第1マイクロホン(306)および第2マイクロホン(308)の第1信号(315a)および第2信号(315b)の平均の挙動に適応して、差分ブロックの各々の出力からの、因果的遅延信号(321)からフィルタリングされた第1信号(323)への、そして因果的遅延信号(321)からフィルタリングされた第2信号(325)への、およびしたがって残留エコー信号への、誤差信号を最小化するすることにより、適応フィルタ係数を連続的に更新し、時間の関数とともに学習している。しかしながら、第1適応FIRフィルタ(320a)および第2適応FIRフィルタ(320b)は、第1プロセッサ(314)のダブルトークおよび風検出器が第1信号(315a)および第2信号(315b)が相関していると判定した場合のみ適応する。適応フィルタ係数を更新するために相関信号を判定するさらなる詳細については、
図4および付随する説明を参照されたい。
【0039】
図3について続けると、単数または複数の実施形態において、ビーム形成された信号(324a)を、ビーム形成動作(フィルタリングされた第2信号(325)からのフィルタリングされた第1信号(323)の減算)から進行性低周波損失を回復するための積分回路であるポストフィルタ(326)に通す。差動ビーム形成の技術の当業者には、マイクロホンの線軸の両端から到来する音に対してフラットな周波数応答を生成する際のこのポストフィルタの必要性が理解されるであろう。結果として、しかしながら、必要なポストフィルタ(326)は、第1信号(315a)と第2信号(315b)との間において無相関の信号からの低周波を漸進的に増幅する。増幅は、1/f形状を呈する。最終のビーム形成されエコー低減された信号(324b)は、第1プロセッサ(314)のダブルトークおよび風検出器にフィードバックされる。第1プロセッサ(314)は、最終のビーム形成されエコー低減された信号(324b)を第1信号(315a)および/または第2信号(315b)のいずれかと比較して、第1信号(315a)および第2信号(315b)が互いに無相関であるかどうかをサンプル毎に判定し得る。ポストフィルタが無相関の信号に有意な増幅を加えるという事実により、このような検出が可能になるとともに、フレームをベースとしたシステムにおける相関検出の標準的な方法よりはるかに速く実施される。適応フィルタは、到着するサンプルであってプロセッサ(314)により無相関であると判定されたサンプルに対して更新することは許されていない。すなわち、例えば風やスクラッチ(こすれ)を理由とするカプセル(マイクロホンユニット)からの無相関の信号が存在する場合、適応フィルタの適応係数を更新しないことが重要である。最後に、ビーム形成されエコー低減された信号(324b)は、近端信号(328)として第2DAC-変圧器(310b)を介して車両のTCUに送信される。
【0040】
有利には、
図3の信号処理回路は、第1信号および第2信号(315a、315b)に対して風/無相関検出を追加する。FIR係数は、マイクロホンに無相関信号が存在する場合、更新されない。さらに、適応フィルタは、1つのマイクロホンカプセルだけでなく各マイクロホンカプセルに対して実装され、処理は一方の信号および他方の信号だけではなく、両方の信号の平均の挙動に適応する。最後に、2つの信号の平均に最低でも1つのサンプルの遅延を加算することにより、製造位置公差が構成される。これにより、各FIRが正しく適応する完璧な因果関係が保証される。
【0041】
図4は、単数または複数の実施形態によるフローチャート(400)を示す。具体的には、
図4は、車両の通信装置のための一般的な方法を示す。
図4における単数または複数のステップは、
図1、
図2A、
図2Bおよび
図3で説明した単数または複数の構成要素(例えば、信号処理ユニット(300))により実施され得る。
図4の種々のステップを順に呈示して説明するが、当業者には、ステップの一部または全部が異なる順序で実行され得ること、組み合わせられ得ること、または省略され得ること、およびステップの一部または全部が並行して実行され得ることが理解されるであろう。さらに、ステップは、能動的または受動的に実施され得る。本方法は、現場環境において複数の構成部品および/または複数のユーザをサポートするように繰り返され得る、または拡張され得る。したがって、本発明の範囲は、フローチャートに示される特定の構成に限定されると考えるべきではない。
【0042】
ステップ402において、単数または複数の実施形態にしたがって、第1信号および第2信号が得られる。例えば、第1信号は、
図3および付随する説明で上述した第1マイクロホンの出力(例えば第1信号(315a))から得られ、第2信号は第2マイクロホンの出力(例えば、第2信号(315b))から得られる。第1マイクロホンおよび第2マイクロホンは、通信装置内のラウドスピーカーに対して等距離に配置される。
【0043】
ステップ404において、信号処理ユニットは、第1マイクロホンおよび第2マイクロホンの第1信号および第2信号の平均を特定する。例えば、プロセッサ(例えば、第2プロセッサ(316))は、
図3および付随する説明で上述した第1マイクロホンの出力から得た第1信号と第2マイクロホンの出力から得た第2信号との平均(例えば、平均(315c))を特定する。
【0044】
ステップ406において、信号処理ユニットは、
図3および付随する説明で上述した第1マイクロホンおよび第2マイクロホンの両方の適応フィルタ(例えば、第1適応FIRフィルタ(320a)および第2適応FIRフィルタ(320b))の適応フィルタ係数を更新することにより、第1マイクロホンおよび第2マイクロホンの第1信号および第2信号の平均(例えば、平均(315c))の挙動に適応する。
【0045】
ステップ408において、信号処理ユニットは、閾値として相関係数を使用し、ダブルトークおよび風検出器(例えば、第1プロセッサ(314))を使用して第1マイクロホンおよび第2マイクロホンの第1信号と第2信号とが相関しているかどうかを判定する。例えば、風や吸音孔の詰まりが深刻である場合および/または長く続く場合、このような場合に際してダブルトーク検出システムはそのまま自動的に故障検出ユニットとして機能し得るとともに、マイクロホン信号を改善するための手段を開始し得る。相関係数は、適応ビーム形成器出力の短時間平均エネルギーを、第1マイクロホンおよび第2マイクロホン(例えば、第1マイクロホン(306)および第2マイクロホン(308))の両方の平均の短時間平均エネルギーと比較することにより計算される。換言すれば、閾値係数相関が第1マイクロホンおよび第2マイクロホンの第1信号と第2信号とが(例えば、風およびスクラッチを理由として)無相関であると判断した場合、第1マイクロホンおよび第2マイクロホンの両方の適応フィルタの適応フィルタ係数は更新されない。しかしながら、閾値係数相関が第1マイクロホンおよび第2マイクロホンの第1信号と第2信号とが相関していると判断した場合(相関係数の値が閾値よりも10~100倍大きい場合)、第1マイクロホンおよび第2マイクロホンの両方の適応フィルタの適応フィルタ係数は更新される。他の実施形態において、相関係数の代わりに、最終のビーム形成されエコー低減された信号(324b)であるビーム形成器/ポストフィルタの出力が、第1信号(315a)および第2信号(315b)に対する比較に使用されて、第1信号(315a)および第2信号(315b)の無相関信号の存在が最も迅速に検出される。
【0046】
いくつかの実施形態において、マイクロホンの単数または複数の音孔が詰まることがある。このような場合には、例えば、指/手により、塗布された薬剤により、塩水噴霧により吸音孔が一瞬覆われる、または、油のついた指で触れることで吸音孔に汚れ(ねばねばしたもの)が堆積することが含まれ得る。
【0047】
しかしながら、従来の方法では、適応フィルタは一方のマイクロホンを他方のマイクロホンに適応させるようにしか動作せず、詰まっていないマイクロホンを詰まった方に合わせるように適応させる場合、ゲイン/フィルタ係数が巨大化して「カオス」となり、システム全体の感度が下がり、近端話者にとって望ましくない周波数応答となり、ラウドネス定格に相応の変化が生じ得る。これは、マイクロホンが再び詰まっていない状態になったとき非常に高い信号をもたらす可能性がある。このような挙動は、フィルタ係数の絶対値を制限することにより防止され得る。より良い他の選択肢としては、相互相関に基づいて、詰まっていないマイクロホンを適応させるか否かを判断し、相関係数の値が小さくなるため、詰まったマイクロホンも自動的に適応させないことであろう。相互相関は、多くのセンサ(音声信号の場合)の各々からのサンプルの集まりに適用される数学的プロセスであり、2つの信号がどの程度互いに相関しているかを識別しようとするものである。単数または複数の実施形態において、ビーム形成器出力信号は、最終のビーム形成されたエコー低減された信号(324b)対(vs)第1信号(315a)または第2信号(315b)等の到来する信号と直接比較され、これにより、第1信号(315a)および第2信号(315b)が非音響刺激に対する応答、(別の面では、無相関成分として知られる)を含む場合、瞬時ピークが生じる。第1信号(315a)と第2信号(315b)とが互いに無相関である瞬間の安定した検出を管理するように、閾値および軌道規則(ballistics rule)がこの比較に適用され得る。
【0048】
このような安定した解決策を獲得するために、単数または複数の実施形態において、各マイクロホンの周波数応答を、2つのマイクロホンの平均の周波数応答と一致させる。これにより、システム全体の感度許容範囲が、例えば、+/-1dBから+/-0.71dBに減少するというさらなる利点も得られる。また、適応フィルタは、平均化から電気的なSNRが3dB増加するという利点を得る。これにより、特に静かな音響キャビンにおいて、誤差信号をゼロまで削減するより高い精度や確実性が得られる。最後に、マイクロホンの吸音孔のうちの1つが部分的に塞がれた場合、全体的な感度の損失は2分の1に減少する。したがって、風や一時的に詰まった吸音孔により、自動的に校正プロセスは有利に停止する。
【0049】
ステップ410において、マイクロホンとラウドスピーカーの配置公差を考慮するため、少なくとも1つのサンプル@48kHzの因果的遅延が、第1マイクロホンおよび第2マイクロホンの第1信号および第2信号の平均に加算される。特に、MEMSマイクロホンを通信装置の回路基板上に配置するには、位置精度公差が必要となる。また、マイクロホンに対するラウドスピーカーの音響中心が、ラウドスピーカーの装着オプションとボックスの装着オプションに対して完全にセンタリングされていない場合がある。これにより、ラウドスピーカーから各マイクロホンへの到達時間の差が生じ得る。いくつかの実施形態において、この問題を克服するために、各マイクロホン(例えば、第1マイクロホン(306)および第2マイクロホン(308))は、信号処理ユニットの各FIRフィルタ(例えば、第1適応FIR(320a)および第2適応FIR(320b))から意図的に1つのサンプルの遅延@48kHzを加算することによって、マイクロホンからラウドスピーカー(例えばラウドスピーカー(304))までの到達時間の差を全ての位置公差下で自己補償する能力を有する。
【0050】
ステップ412において、通信装置は、第1マイクロホンおよび第2マイクロホンの第1信号および第2信号の平均を使用して、ラウドスピーカーのラウドスピーカー信号のエコーを最小とするように較正する。特に、音響較正は、各マイクロホンを使用して2つのマイクロホンの平均を一致させることにより実施される。通信装置は、通信装置の通常の使用中に追加の較正を必要とせずに較正を実施するように適応される。具体的には、工場での較正を行う必要がない。
【0051】
いくつかの実施形態において、信号処理ユニットは、較正を開始するための外的トリガを必要とせずに、通常の実行時間中に通信装置を自動的に較正する。例えば、通信装置は、実行時間中にそれ自体を較正し、システムは継続的に向上する。これにより、通信装置の寿命中ずっと比較的高い性能が保証される。いくつかの実施形態において、通信装置用の較正された製品が使用されるが、使用中の継続的な適応は必要ない。
【0052】
図5は、本発明の単数または複数の実施形態によるコンピュータシステムを示す。本発明の実施形態は、コンピュータシステムで実施され得る。モバイル、デスクトップ、サーバ、埋め込み、または他のタイプのハードウェアの任意の組み合わせが利用され得る。例えば、
図5に示すように、コンピュータシステム(500)は、単数または複数のコンピュータプロセッサ(502)、関連するメモリ(504)(例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、キャッシュメモリ、フラッシュメモリ等)、単数または複数の記憶装置(506)(例えば、ハードディスク、コンパクトディスク(CD)ドライブまたはデジタル多用途ディスク(DVD)ドライブ等の光学ドライブ、フラッシュメモリースティック等)、および多くの他の要素および機能を含み得る。コンピュータプロセッサ(502)は、命令を処理するための集積回路であり得る。例えば、コンピュータプロセッサは、プロセッサの単数または複数のコア、またはマイクロコアであり得る。また、コンピュータシステム(500)は、タッチスクリーン、キーボード、マウス、マイクロホン、タッチパッド、電子ペン等の単数または複数の入力装置(510)、または他のタイプの入力装置を含み得る。さらに、コンピュータシステム(500)は、スクリーン(例えば、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ、タッチスクリーン、陰極線管(CRT)モニタ、プロジェクタ、または他のディスプレイ装置)等の単数または複数の出力装置、プリンタ、外付け記憶装置、または他のタイプの出力装置を含み得る。出力装置のうちの単数または複数は、入力装置と同じであっても異なっていてもよい。コンピュータシステム(500)は、ネットワーク(512)(例えば、ローカルエリアネットワーク(LAN)、インターネット等のワイドエリアネットワーク(WAN)、モバイルネットワーク、または任意の他の種類のネットワーク)に、ネットワークインターフェース接続(図示せず)を介して接続され得る。入力および出力装置は、コンピュータプロセッサ(502)、メモリ(504)、および記憶装置(506)に局所的または遠隔的に(例えば、ネットワーク(512)を介して)接続され得る。多くの異なるタイプのコンピュータシステムが存在し、上述の入力および出力装置は、他の形態を取り得る。
【0053】
本発明の実施形態を実行するためのコンピュータ可読プログラムコードの形態のソフトウェア命令は、CD、DVD、記憶装置、ディスケット、テープ、フラッシュメモリ、物理的メモリ、または他の任意のコンピュータ可読記憶媒体等の非一時的コンピュータ可読媒体に、全部または一部を、一時的または永久的に格納することができる。具体的には、ソフトウェア命令は、プロセッサにより実行されたときに本発明の実施形態を実施するように構成されたコンピュータ可読プログラムコードに対応し得る。
【0054】
さらに、上述のコンピュータシステム(500)の単数または複数の要素は、遠隔地に位置し得るとともに、ネットワーク(512)を介して他の要素に接続され得る。さらに、本発明の実施形態は、複数のノードを有する分散システムで実現され得る。ここで、本発明の各部は、分散システム内において異なるノードに配置され得る。本発明の一実施形態において、ノードは、別個のコンピュータ装置に対応する。あるいは、ノードは、関連する物理的メモリを有するコンピュータプロセッサに対応し得る。ノードは、あるいは、共有メモリおよび/またはリソースを有するコンピュータプロセッサまたはコンピュータプロセッサのマイクロコアに対応し得る。
【0055】
本発明を限られた数の実施形態について説明したが、この開示の利益を有する当業者は、本発明の範囲から逸脱しない他の実施形態が考案され得ることを理解するであろう。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきものである。
【国際調査報告】