(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-16
(54)【発明の名称】再充電可能なLI電池用の正極物質を製造する方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20221109BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20221109BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221109BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20221109BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221109BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20221109BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M4/1391
H01M10/052
H01M10/058
C01G53/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022515874
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(85)【翻訳文提出日】2022-03-29
(86)【国際出願番号】 US2020050485
(87)【国際公開番号】W WO2021050935
(87)【国際公開日】2021-03-18
(32)【優先日】2019-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510192916
【氏名又は名称】テスラ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゾウ,フェン
(72)【発明者】
【氏名】リュー,ヤン
【テーマコード(参考)】
4G048
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC06
4G048AE05
5H029AJ14
5H029AK03
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ12
5H029CJ14
5H029CJ22
5H029CJ28
5H029DJ16
5H029HJ10
5H029HJ14
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA02
5H050DA19
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA05
5H050GA10
5H050GA12
5H050GA14
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA10
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、再充電リチウム電池に使用するための高容量正極物質の製造方法を提供する。リチウム混合金属酸化物正極物質を製造するための従来の方法は、典型的には、排出前に処理しなければならない大量の排出物を生じる。本方法は、リチウム化後に高品質の正極物質を調製するために使用することができる高品質の前駆体を作製するために、湿式化学反応の原料として、混合金属を使用する。重要な特徴として、前駆体調製方法では、湿式化学反応に使用される水溶液の大部分がリアクタへと再利用されるため、方法全体では、正極前駆体物質の製造中に排出物がほとんど又は全く生じない。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質の製造方法であって、
7を超えるpHを有する水溶液を提供する工程と、
第1の金属を前記水溶液に添加して反応溶液を形成する工程であって、ここで、該第1の金属が、ニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウム、マグネシウム、及びそれらの組合せからなる群から選択される、反応溶液を形成する工程と、
酸化剤及び第2の金属を該反応溶液に添加する工程を含む生成物溶液を形成する工程であって、ここで、該第2の金属が、ニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、イットリウム、チタン、バナジウム、モリブデン、及びそれらの組合せからなる群からの少なくとも2つの元素から選択され、該生成物溶液が、正極活物質前駆体を含み、並びに該正極活物質前駆体生成物が、前記第1の金属及び前記第2の金属を含み、ここで、該第1の金属及び該第2の金属が、同じではない、生成物溶液を形成する工程と、
前記生成物溶液の少なくとも一部から前記正極活物質前駆体を単離し、それによって濾過液を形成する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
混合した金属水酸化物を前記水溶液に添加する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水溶液が、約7.5~約13のpHを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記水溶液が、硫酸、硝酸、酢酸、又はそれらの組合せからなる群から選択される酸を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記水溶液が、水酸化リチウム、酸化リチウム、水酸化ナトリウム、酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酸化カリウム、及びアンモニアからなる群から選択されるアルカリ性物質を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記水溶液が、導電塩を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記導電塩が、硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩、塩素酸塩、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記導電塩が、ナトリウム、リチウム、カリウム、アンモニウム、及びそれらの組合せからなる群から選択されるカチオンを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記水溶液が、追加のアニオンを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記追加のアニオンが、ホウ酸塩、臭化物、ヨウ化物、塩化物、硫酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記水溶液が、カチオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記カチオンが、ナトリウム、カリウム、リチウム、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記水溶液が、錯化剤を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記錯化剤が、アンモニア及びアンモニウムを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記生成物溶液を形成する工程が、前記反応溶液を撹拌することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記生成物溶液が、実質的に定常状態条件下において連続的に形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記生成物溶液を形成する工程が、正極活物質前駆体粒子を前記反応溶液に添加することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記濾過液を前記生成物溶液と再結合させる工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記濾過液の液体の少なくとも90%が、前記生成物溶液と再結合される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記濾過液が、前記生成物溶液と直接再結合される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記酸化剤が、酸素、硝酸、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記濾過液から前記第1の金属及び第2の金属を含む未反応金属を単離する工程と、該未反応金属を酸で処理する工程と、を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記酸が、硝酸、アンモニア、アンモニウム、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記未反応金属を追加で処理する工程を更に含み、ここで、該追加処理が、粉砕、洗浄、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記正極活物質前駆体が、各粒子内において実質的に均一な金属元素分布を有する前駆体粒子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記正極活物質前駆体が、各粒子内において実質的に不均一な金属元素分布を有する前駆体粒子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
各粒子内の前記実質的に不均一な金属元素分布が、勾配分布、層状分布、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記単離された正極活物質前駆体及びリチウム含有化合物を含む最終混合物を形成する工程と、
該最終混合物を焼成し、それによって正極活物質を含む焼成された最終混合物を形成する工程と、を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記最終混合物が、ドーパントを更に含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記リチウム含有化合物が、水酸化リチウム、炭酸リチウム、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記焼成が、約600℃~約1100℃の温度で行われる、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記正極活物質を処理する工程を更に含み、ここで、処理が、洗浄、コーティング、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
エネルギー貯蔵デバイスの形成方法であって、
正極を形成する工程であって、正極形成が、請求項28に記載の前記正極活物質を集電体上に堆積させることを含む、正極を形成する工程と、
前記正極、負極、及びセパレータをハウジング内に挿入する工程であって、該セパレータが、該負極と該正極との間に配置される、挿入する工程と、を含む、方法。
【請求項34】
リチウムイオン二次電池用の正極活物質として使用するための、リチウム混合金属酸化物生成物であって、混合金属酸化物生成物が、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法に従って製造された、混合金属酸化物生成物。
【請求項35】
リチウム金属酸化物を正極物質として含む二次リチウム電池であって、ここで、該正極物質が、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法に従って製造された混合金属酸化物生成物である、二次リチウム電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2019年9月12日に出願された米国仮出願第62/899,677号に対する優先権の利益を主張し、その全体は全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、再充電可能なリチウム(Li)電池用の正極物質を製造するための方法、及びその方法によって製造された正極物質に関する。特に、提供される方法は、現在の工業的方法と比較した場合、そのような正極物質の比較的排出物の無い製造に関する。
【背景技術】
【0003】
(先行技術の記載)
再充電可能なLiイオン電池は、エネルギー貯蔵要素としていくつかの異なる種類のデバイスに使用されてきた。これらのデバイスとしては、携帯電話、ポータブルコンピュータ、無線電動工具、及びハイブリッド車及び純電気自動車などが挙げられる。近年、特に電気自動車の急速な市場成長に伴い、高出力Liイオン電池への需要が飛躍的に増大している。リチウムイオン電池の主要な要素には、負極、正極、及び電解液が含まれる。充放電サイクル中、リチウムイオンは、電解液を介して負極活物質と正極活物質との間を行き来する。その比容量が限られており、製造コスト及び原料コストが高いため、正極活物質は通常、Liイオン電池において最も高価な要素である。したがって、正極活物質の選択は、Liイオン電池の性能を向上させ、コストを下げるための重要な工程である。
【0004】
現在、大部分がニッケル、コバルト、マンガン、及び/又はアルミニウムを他の必要なドーパントと共に含有するリチウム混合金属酸化物は、高性能な正極活物質の製造に使用される主成分である。そのような物質の需要及び製造は著しく増加し続けている。
【0005】
リチウム混合金属酸化物などのこれらの高性能正極物質を製造するための現在の工業的方法は、2つの主要な工程を含む。第1の工程は前駆体製造工程であり、第2の工程はリチウム化工程である。前駆体工程は、水溶液を形成するため水中に溶解される混合金属硫酸塩の使用から始まる。しかしながら、これらの方法は、望ましくない排出物を放出する可能性がある。
【発明の概要】
【0006】
上記に示された利点、並びにそれに固有である他の目的及び目標は、本明細書で以下に示されるように、本発明の方法によって少なくとも部分的又は完全に提供される。
【0007】
本発明の一実施形態は、リチウムイオン電池などの電池用の正極物質を製造するための方法であり、この方法は、リチウム混合金属酸化物を作製するための現在知られている方法からの毒性又は危険な排出物の量を減少させる。したがって、排出物の発生がほとんど又は全くない好適な方法を提供することが望ましいであろう。一実施形態では、本方法は、反応由来の本質的に液体部分全体が、有意な処理なしに反応システムへと完全に再利用されるか、又は再利用され得る、システムを提供する。その上、方法は、最終的な高温処理/焼成方法中に水を蒸発させる必要性、及び/又は有機物若しくは硝酸塩を分解する必要性をほとんど又は全く必要としない場合がある。
【0008】
一実施形態は、正極活物質の製造方法である。この方法は、以下:
7を超えるpHを有する水溶液を提供することと;
第1の金属を水溶液に添加して反応溶液を形成することであって、ここで、第1の金属が、ニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウム、マグネシウム、及びそれらの組合せからなる群から選択される、反応溶液を形成することと;
酸化剤及び第2の金属を反応溶液に添加する工程を含む生成物溶液を形成することであって、ここで、第2の金属が、ニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、イットリウム、チタン、バナジウム、モリブデン、及びそれらの組合せからなる群からの少なくとも2つの元素から選択され、生成物溶液が、正極活物質前駆体を含み、並びに正極活物質前駆体生成物が、第1の金属及び第2の金属を含み、ここで、第1の金属及び第2の金属が、同じではない、生成物溶液を形成することと;
生成物溶液の少なくとも一部から正極活物質前駆体を単離し、それによって濾過液を形成することと、を含む。
【0009】
別の実施形態は、再充電リチウム電池に使用するための正極活物質としてリチウム混合金属酸化物を製造する、化学的方法を提供する。この方法は、2つの主要な工程、すなわち前駆体を製作するための湿式化学的方法と、最終正極物質を作製するための「リチウム化」と呼ばれる固体状態反応とを含む。
【0010】
本発明の一実施形態は、前駆体調製工程及びリチウム化工程という2つの主要な工程を用いて、リチウムイオン電池の製造に使用するための正極活物質としてリチウム混合金属酸化物を製造する方法を提供する。ここで、
【0011】
(A)前駆体調製工程では、それらの金属形態にある選択された金属を、水溶液中の固体金属粒子と混合金属水酸化物粒子との混合物を含有する撹拌反応システムへ、選択された1つの酸化剤又は複数の酸化剤、及び選択された金属硝酸塩、並びにニティック酸(nitic acid)と一緒に加え、これらはリアクタにも導入して、アルカリ条件下において金属粒子の酸化をもたらす。ここで、全体的な酸化反応は、以下の式によって表される。
xMe+yMe´(NO3)n+zHNO3+(0.25xm-2yn-2z)O2+(0.5xm+2yn+z)H2O→MexMe´y(OH)(xm+yn)+(yn+z)NH3
式中、Meは、ニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウム及びマグネシウムからなる群から選択される金属形態にある少なくとも1つの金属を表し;Me´は、ニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、イットリウム、チタン、バナジウム、及びモリブデンからなる群から選択されるそのイオン形態の少なくとも1つの金属を表し;MexMe´y(OH)(xm+yn)は、前駆体生成物を表し;x及びyは、それぞれ金属Me及びMe´のモル分率であり、mは、前駆体生成物中の混合金属Meのモル加重平均化学価であり、nは、反応物中でイオン形態にある混合金属Me´のモル加重平均化学価であり、zは、反応システムに導入されたHNO3のモル分率であり;xm≧8yn+8z、x+y=1、1≧x>0、y≧0、z≧0である。ここで、酸化反応から得られたスラリーがリアクタから取り出され、未反応の原料金属がスラリーから除去され、硝酸及び/又は硝酸とアンモニア/アンモニウムとの組合せを用いる再活性化処理の有無にかかわらず反応システムへと再利用され、その後、固液分離が行われ、ここでは回収された固体物質が前駆体生成物として使用され、液体物質がいかなる処理もされずに反応システムへと直接再利用される。並びに、
【0012】
(B)リチウム化工程では、回収された前駆体生成物を、リチウム含有化合物及び任意選択的に他のドーパントと混合して最終混合物を製造し、続いて最終混合物を焼成して、正極活物質を得る。
【0013】
一実施形態では、大部分が金属形態であり得る原料が、反応システムに導入される。反応システムは、典型的には、少なくとも1つの撹拌混合タンク及びリアクタを備え、このリアクタには、未反応の原料を除去及び再利用するために、磁気分離デバイスが設けられてもよい。反応中に原料を活性な状態に保つため、再活性化工程を、未反応の原料を再利用する前に設けてもよい。酸素及び/又は硝酸塩などの酸化剤を反応システムに導入して、金属の酸化をもたらす。反応後、固液分離操作を行う。液体部分は反応システムに再利用されてもよく、固体部分は前駆体物質として回収される。当該濾液と本質的に同じ又は類似の組成を有する人工溶液を調製し、好適な濾液が濾過システムから生成され、次いで反応システムに再利用されるまで、反応の開始に使用してもよい。
【0014】
リチウム化段階では、上記で製造された前駆体物質をリチウム含有化合物及び任意選択的に他のドーパントと混合し、次いで焼成処理を行い、続いて必要に応じて追加の表面処理を行うことによって、最終正極活物質が得られる。
【0015】
したがって、本発明の実施形態は、排出物の生成をほとんど又は全く有しない、リチウム混合金属酸化物を作製するためのシステム及び方法を提供する。すなわちこのシステムは、反応からの本質的に液体部分全体を、いかなる処理をすることもなく、反応システムへと完全に再利用することを可能にし得る。
【0016】
追加的な特徴では、本発明の方法はバッチ処理で行うことができるが、以下に記載されるように、本質的に連続的な処理で行うこともできる。
【0017】
別の実施形態では、本発明はまた、正極物質前駆体生成物を提供し、ここで、好適な正極物質前駆体が製造され、これらの前駆体は、本明細書に記載の様式で、一段階反応システムにおいて安定した連続方法で製造される。この実施形態はまた、本発明に関して本明細書に記載の方法によって製造された場合の最終正極活物質、及びそこから製造された正極を含む。
【0018】
第3の態様では、本発明はまた、電池を提供し、ここで、電池の正極は、本発明の実施形態に関して上述した化学的方法によって製造される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
ここで、以下の非限定的な例を使用し、添付の図面を参照することで、実施形態を実証する。
【0020】
【
図1】反応システムにおいてアニオンとして硝酸塩及び酢酸塩を用いる、実施例1から回収した試料のSEM画像である。
【0021】
【
図2】反応システムにおいてアニオンとして硝酸塩のみを用いる、実施例2から回収した試料のSEM画像である。
【0022】
【
図3】実施例3の結果に対する時間の関数としての酸化還元電位(Oxidation-Reduction Potential:ORP)のグラフである。このグラフは、金属粉末を濾液に導入した後の時間の関数としての酸化還元電位(ORP)を示し、曲線1は不活性金属粉末について、曲線2は曲線1と同じ金属粉末であるが硝酸アンモニウムを用いることによる再活性化処理について示す。
【0023】
しかしながら、実施例及び図面は例示のみを目的としており、必ずしも本発明の範囲を限定するものではないことが明確に理解されよう。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施形態は、エネルギー貯蔵デバイス用の正極物質の製造のための方法、特にリチウムイオン電池に関し、ここで、本方法は、典型的にはリチウム金属酸化物の製作に関連する排出物の問題を改善及び/又は解決する。したがって、記載された方法は排出物をほとんど又は全く生成せず、反応からの本質的に液体部分全体は、いかなる有意な処理もせずに反応システムへと完全に再利用されてもよい。このようなシステムは、最終的な高温処理/焼成方法中に水を蒸発させる必要性、及び/又は有機物若しくは硝酸塩を分解する必要性をほとんど又は全く必要としないため、更に有利である。
【0025】
金属酸化物又は金属水酸化物は、腐食方法、例えば、水溶液中又は含水状態における金属酸化から形成され得ることが周知である。この原理を第1の工程で使用して、純粋な金属から前駆体物質を製造してもよく、この場合、金属腐食/酸化反応及び共沈殿反応が、同じリアクタ内で同時に起こる。全体的な反応を以下の式に示す:
xMe+yMe´(NO3)n+zHNO3+(0.25xm-2yn-2z)O2+(0.5xm+2yn+z)H2O→MexMe´y(OH)(xm+yn)+(yn+z)NH3
式中、Meは、ニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウム、及びマグネシウムからなる群から選択される、好ましくは金属形態である少なくとも1つの金属を表し;Me´は、ニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、イットリウム、チタン、バナジウム、及びモリブデンからなる群から選択される、好ましくはそれらのイオン形態である少なくとも1つの金属を表し;MexMe´y(OH)(xm+yn)は、前駆体生成物を表し;x及びyは、それぞれ、金属Me及びMe´のモル分率であり、ここで、mは、前駆体生成物中の混合金属Meのモル加重平均化学価であり、nは、反応物でイオン形態にある混合金属Me´のモル加重平均化学価であり、zは、反応システムに導入されたHNO3のモル分率である。式中、xm≧8yn+8z、x+y=1、1≧x>0、y≧0、及びz≧0である。
【0026】
酸素は、使用される場合、典型的には反応中にいかなる有意な副生成物も生成しないので、酸化剤として使用され得る。酸素は、純粋な酸素源として、及び/又は他のガスに含有される酸素、例えば空気中の酸素としてのいずれかで提供することができる。
【0027】
いくつかの金属硝酸塩は、酸素と容易には反応しない元素と共に使用するために、又は均一な混合のための撹拌中若しくはそれらの金属形態の磁気分離中などの処理操作中に容易には取り扱われない元素のために、含まれてもよい。
【0028】
硝酸は、金属硝酸塩の共沈殿反応を遅くするために、追加の酸化剤として、及びバッフル目的で使用することができる。硝酸塩(Nitrate acid)又はそのアンモニアとの組合せもまた、再利用原料の再活性化に使用することができる。アンモニアは硝酸塩及び硝酸が使用される場合の唯一の副生成物である。しかしながら、製造されたアンモニアはガス形態であり、操作中に反応システムに留まることはない。したがって、前駆体を作製するための上記の湿式化学的方法では、固液分離が生じた後に液体へ追加の又は新たな化学物質が添加されない。したがって、液体は、反応全体にいかなる悪影響を及ぼすことなく、少なくとも最大75%、より好ましくは少なくとも最大90%、更により好ましくは最大100%、反応システムに直接再利用することができる。
【0029】
生成したアンモニアガスは、例えば肥料産業などの他の産業のための有用な化学物質又は化学前駆体質として回収することができる。
【0030】
一貫した特性を有する高品質の生成物を得るために、本明細書に記載した反応は、反応が定常状態条件に達する連続モードで操作されてもよい。これにより、得られる化学組成物のより良好な制御が提供される。1つのアプローチでは、反応システムの液体と同じ又は類似の組成を有する人工溶液が調製され、反応の開始に使用され、この人工溶液は、固液分離操作から生成された液体が人工溶液と類似するまで使用される。
【0031】
反応スラリーのpHは、7.5~13の範囲、又は代替的に8~12の範囲であってもよい。溶液のpHは、硫酸、硝酸、若しくは酢酸から選択される酸のいずれかを添加することによって、並びに/又は水酸化リチウム若しくは酸化リチウム、水酸化ナトリウム若しくは酸化ナトリウム、水酸化カリウム若しくは酸化カリウム、及びアンモニアから選択されるアルカリ性物質を添加することによって、調整することができる。pH調整は、硫酸若しくは硝酸などの酸を添加することによって、及び/又は水酸化リチウム若しくは水酸化ナトリウムなどのアルカリ性物質を反応混合物に添加することによって、行ってもよい。より低いpH値は共沈殿生成物の品質を低下させる可能性があり、一方でより高いpH値は腐食反応中に金属の不動態化を引き起こす可能性があることに留意されたい。
【0032】
反応温度は、20℃~100℃を含む、20℃から反応スラリーの沸点の範囲内であってもよい。
【0033】
反応システムの許容可能な導電性を維持することもまた、腐食反応を制御するために重要であり得る。したがって、反応スラリーはまた、導電性のための電解液を形成するために溶解した塩を含有してもよい。塩は、硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩、及び塩素酸塩などの塩と、ナトリウム、リチウム、カリウム、及びアンモニウムから選択されるカチオンとを含み得る。塩は、液体と固体との分離後に回収された再利用液体内で再利用可能であってもよい。
【0034】
良好な性能、例えば高容量を有する最終リチウム化物質を作製するために、前駆体物質は、各二次粒子中に小さい一次粒子を、すなわち高いBET(ブルナウアー・エメット・テラー、Brunauer-Emmett-Teller)表面積を有してもよい。硝酸塩が酸化剤として使用される場合、及び/又はドーピング元素が必要とされる場合、硝酸塩は一般に反応システムに存在すべきである。したがって、金属の溶解及び沈殿を含む化学反応は、反応システムにおいて、アニオンとして硝酸塩のみを用いて良好に進行するはずである。しかしながら、前駆体物質のBET表面積は、通常、反応システム中の硝酸塩のみでは極めて低い。BET表面積を増加させるために、少なくとも1つの追加の選択されたアニオン及び/又は添加剤を反応システムに適用することができ、これは前駆体粒子成長のパターンを変化させ得る。これらの追加のアニオンは、ホウ酸塩、臭化物、ヨウ化物、塩化物、硫酸塩、ギ酸塩、又は酢酸塩などから選択されてもよい。より多くのアニオン及び/又は添加剤が反応システムに導入され場合に最終生成物中の不純物レベルが増加する可能性があることを考慮して、例えば酢酸塩などの高温リチウム化法中に分解可能なi個の化学物質を選択してもよい。
【0035】
アンモニウムは、概して、カチオンとして反応システム中に存在しなければならない。しかしながら、pH及び導電性を調整するために、他のカチオンもまた、反応システムに適用することができる。より多くのカチオンが反応システムに導入される場合、最終生成物中の不純物レベルが増加する可能性があることを考慮して、リチウムイオンを最終生成物中の主要な要素であるカチオンとして選択してもよい。水溶液は、ナトリウム、カリウム、及びリチウムなどのアンモニウムの他に、少なくとも1つの追加のカチオンを含んでもよい。リチウムイオンは、最終生成物中の主な要素であるカチオンとして選択されてもよい。
【0036】
反応スラリーはまた、典型的には、水溶液中の金属イオンとキレート化することができるアンモニアとアンモニウムとの混合物などの溶解した錯化剤を含有してもよい。これらの錯化剤又はキレート剤の全体的な機能は、共沈殿生成物の特性を制御し、金属を腐食反応に対して活性にさせることである。
【0037】
正極物質を製造するための方法はまた、例えば磁気分離工程によってスラリーから回収された未反応の原料金属を、例えば、硝酸塩(Nitrate acid)又はアンモニアとのその組合せを用いることによる、粉砕及び/又は洗浄によって再活性化してもよい工程を含み得る。
【0038】
更に、本方法はまた、前駆体生成物と同じ又は類似の組成を有するが、前駆体生成物よりも小さい粒径を有する固体粒子が、反応の開始時及び/又は反応の最中に反応システムへと導入される工程を含み得る。
【0039】
本明細書に記載の方法の実施形態は、したがって、各粒子の内部に均一な元素分布を有する正極物質前駆体の組成的に同様な粒子を製造するために使用することができ、ここで、金属は、単段階反応システムでの安定した連続方法で添加される。しかしながら、本方法はまた、異なる時間又は異なる段階において異なる金属を添加することによって、多段階反応システムにおける正極物質前駆体の組成的勾配又は層状粒子など、各粒子内に不均一な元素分布を有する粒子を製造するために適用することができる。そのような多段階システムでは、各段階は、異なる機能のために様々な組成を有する物質の層を堆積させることができる。例えば、正極物質粒子のコア領域は、より高い容量のためにニッケルリッチであり得るが、一方で表面積は、リチウムイオン電池で見られる電解液との安定した界面のために、マンガン、コバルト、マグネシウム、タングステン、又はアルミニウムリッチであってもよい。
【0040】
したがって、方法の実施形態は、各粒子内に不均一な元素分布を有する前駆体を製造するために、金属が、常に同じ比で連続して添加されて各粒子内に均一な元素分布を有する前駆体を製造するか、又は金属が、経時的に異なる比で連続して添加される、システムを提供する。
【0041】
次いで、本発明で製造された最終正極活物質は、前駆体化合物をリチウム含有化合物と混合し、焼成反応を行うことによって最終的に得ることができ、これは、必要であれば任意選択的にその後表面処理を行うことができる。この方法は、通常、リチウム化と呼ばれ、このリチウム化方法は、典型的には、最終物質の化学組成に応じて600℃~1100℃の温度で固相反応として行われる。リチウム化反応工程では、酸化条件もまた方法の一部として必要とされ得る。空気、酸素、及び硝酸塩を酸化剤として使用してもよい。
【0042】
大部分の用途では、結晶水の有無にかかわらず、水酸化リチウム、及び炭酸リチウムをリチウム源として使用してもよい。
【0043】
リチウム化後、リチウム化工程中に形成された遊離凝集物(loose agglomerates)を破壊するために、サイズ縮小操作においてわずかな破砕/粉砕が必要とされ得る。次いで、物質の表面を安定化するために、余分な水酸化リチウム/炭酸リチウム及び他の不純物並びにコーティングを除去するための洗浄といった、任意の表面処理が、必要又は所望されることがある。
【0044】
このようにして、正極物質は焼成後に更なる処理を受けることができ、この更なる処理は、余分なリチウム及び他の不要な不純物を除去するための洗浄と、電池製造及び/又は電池用途における正極物質のより良好な性能のための当該正極物質のコーティングとを含む。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
上記の製造方法に従って、約2.2Lの水溶液の水溶液を調製し、撹拌加熱システムを備えた3リットルの反応容器に移した。水溶液は、約1.0M濃度の酢酸ナトリウム、0.2M濃度の硝酸ナトリウム、及び0.1M濃度の硝酸アンモニウムを含有していた。溶液を約800rpmの撹拌速度で撹拌しながら、溶液を約60℃の温度まで加熱した。28%アンモニア溶液及び水酸化ナトリウムを添加することによってpHを調整し、約10に制御した。約100グラムの金属ニッケルを反応容器に加えた。約30分後、約50グラムのボールミル粉砕した金属水酸化物粉末を、種として反応容器に添加した。D50が1μm未満のサイズである金属水酸化物粉末は、大部分がニッケル、並びに少量のコバルト及びマンガンを含有していた。
【0046】
濃度68%の硝酸を、ペリスタルティックポンプを用いて連続的に反応容器に導入し、Ni:Co:Mnが90:5:5である11グラムの金属粉末を、1時間毎に手動で反応容器に導入した。硝酸ポンプのポンピング速度は約2.8mL/時であった。ポンピング速度は、全ての金属を反応させるのに必要な理論値よりも約10%低かった。これは、反応中の撹拌装置により反応システム内に酸素が吸引され、この酸素もまた、別の酸化剤として反応に関与したためである。
【0047】
4時間毎に、反応容器から約200mLのスラリーを回収し、回収したスラリーを磁気分離した。分離した磁性部分を反応容器に戻した。非磁性固体部分を濾過し、その後水で洗浄した。全ての濾液を洗浄水と一緒に反応容器へと戻した。
【0048】
上記の操作を3日間連続して繰り返した。濾過工程の最終固体部分を、本発明の前駆体として、約120℃で約5時間以上乾燥させた。この固体試料は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)及びBET表面積試験のために送られた。
図1は、上記の反応から前駆体粒子上に回収された試料のSEM画像を示す。粒子は、微細な二次粒子を有する滑らかな球状である。BET表面積は約17m
2/gであった。
【0049】
(実施例2(比較))
比較のため、第2の実験を行った。これは反応条件が実施例1に記載されたものと同様であった。唯一の有意差は、水溶液が反応システム中のアニオンとして硝酸塩のみを含有したこと、すなわち約1.2M濃度の硝酸ナトリウム及び0.1M濃度の硝酸アンモニウムであった。
図2は、この実施例から回収された試料の前駆体粒子上のSEM画像を示す。粒子は非常に粗い二次粒子を有するスパイク状である。BET表面積はわずか3.3m
2/gであった。そのような種類の生成物は、通常、リチウム金属酸化物正極物質を作製するための前駆体としては適していないと考えられる。
【0050】
(実施例3(再活性化))
磁気分離後の約300gの未反応湿潤金属粉末を採取し、3日間空気に曝露した。約100gの曝露した金属粉末を、撹拌しながら3L容器に直接導入した。容器は、方法の固液分離工程から回収された約2.5Lの濾液を含有していた。酸化還元電位(ORP)は、導入される金属粉末とは異なる時間に測定した。通常、-300mVのレベル未満であるORPは金属が活性であることを示し、試験結果は
図3の曲線1として示される。ORPはおよそ-120mVで安定しており、これは、金属粉末が不活性であったことを示した。
【0051】
別の試験では、約100gの同じ曝露金属粉末を、アンモニアを添加することによってpHを約10.5に調整した、200mLの0.1M NH
4NO
3溶液へと導入した。数分間かき混ぜた後、金属粉末を、撹拌しながら3L容器に移した。再び、容器は、方法の固液分離工程から回収された約2.5Lの濾液を含有していた。ORPは、移される金属粉末とは異なる時間で測定した。試験結果を
図3の曲線2として示す。ORPは10分以内に-400mVまで急速に減少し、不活性金属粉末が活性化されたことを示した。
【0052】
したがって、本発明によれば、上記の目標、対象、及び利点を完全に満たす方法、生成物、及び電池が提供されたことは、明らかである。したがって、本発明の特定の実施形態を説明してきたが、その代替形態、修正形態、及び変形形態が当業者に示唆され得ること、並びに本明細書が、添付の特許請求の範囲内に含まれる全てのそのような代替形態、修正形態、及び変形形態を包含することが意図されることが、理解されよう。
【国際調査報告】