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▶ エレメント シックス (ユーケイ) リミテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-16
(54)【発明の名称】焼結多結晶立方晶窒化ホウ素材料
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/5831 20060101AFI20221109BHJP
   C22C 29/16 20060101ALI20221109BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20221109BHJP
   C22C 1/05 20060101ALI20221109BHJP
   B22F 9/02 20060101ALI20221109BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20221109BHJP
   B22F 3/15 20060101ALI20221109BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20221109BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20221109BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C04B35/5831
C22C29/16 A
B22F1/00 N
B22F1/00 R
C22C1/05 M
B22F9/02 A
B22F9/04 C
B22F3/15 M
B24D3/00 320B
B23B27/14 B
B23B27/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022516085
(86)(22)【出願日】2020-09-10
(85)【翻訳文提出日】2022-03-11
(86)【国際出願番号】 EP2020075303
(87)【国際公開番号】W WO2021048265
(87)【国際公開日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】1913252.1
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517007574
【氏名又は名称】エレメント シックス (ユーケイ) リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】キャン アントワネット
(72)【発明者】
【氏名】チャン シャオシュエ
(72)【発明者】
【氏名】ブシュリャ ウォロディミル
(72)【発明者】
【氏名】スリプチェンコ カテリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ストラティチュク デニス
(72)【発明者】
【氏名】オシポフ アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ペトルーシャ イーゴリ
(72)【発明者】
【氏名】トゥルケヴィチ ウラジーミル
【テーマコード(参考)】
3C046
3C063
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
3C046FF35
3C046FF38
3C046FF40
3C046FF42
3C046FF43
3C046FF51
3C046FF57
3C046HH06
3C063AA02
3C063BB02
3C063BC02
3C063BD01
4K017AA04
4K017AA06
4K017BA10
4K017BB01
4K017BB09
4K017DA06
4K017EA03
4K018AB04
4K018AD14
4K018BA03
4K018BA08
4K018BA20
4K018CA23
4K018EA11
4K018KA14
(57)【要約】
本開示は、窒化ジルコニウム及び/又は窒化バナジウム析出物又は粒を含む金属マトリックス中にcBN粒子を含む多結晶立方晶窒化ホウ素材料に関する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)材料であって、
30~90体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)粒子、
内部に前記cBN粒子が分散したマトリックス材料であって、前記マトリックス材料の含量が、前記PCBN材料の10体積%~70体積%である、マトリックス材料、を含み、
前記マトリックス材料が、チタン化合物及びアルミニウム化合物のいずれか、又はこれらの混合物を含み、
前記マトリックス材料が、ジルコニウム及び/又はバナジウム、及び任意選択で、タングステン及び/又はチタンを含む析出物及び/又は粒を更に含み、
前記析出物及び/又は粒が、実質的に球状、血小板様又は針状のいずれかである形状を有し、
前記析出物及び/又は粒が、1μm以下の平均最大長さ寸法を有する、PCBN材料。
【請求項2】
前記析出物及び/又は粒が、窒化物、炭化物、炭窒化物及び/又は二ホウ化物を含む、請求項1に記載のPCBN材料。
【請求項3】
ジルコニウム含有析出物及び/又は粒、及び/又はバナジウム含有析出物及び/又は粒が、前記PCBN材料の10体積%~25体積%で含まれる、請求項1又は2に記載のPCBN材料。
【請求項4】
ジルコニウム含有析出物及び/又は粒、及び/又はバナジウム含有析出物及び/又は粒が、前記PCBN材料の10体積%、又は17.5体積%、又は25体積%で含まれる、請求項1、2又は3に記載のPCBN材料。
【請求項5】
ジルコニウム含有析出物及び/又は粒、及び/又はバナジウム含有析出物及び/又は粒が、0.50μm以下の平均最大長さ寸法を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のPCBN材料。
【請求項6】
ジルコニウム含有析出物及び/又は粒、及び/又はバナジウム含有析出物及び/又は粒が、0.20μm以下の平均最大長さ寸法を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のPCBN材料。
【請求項7】
前記マトリックス材料が、炭窒化チタン、炭化チタン、窒化チタン、二ホウ化チタン、窒化アルミニウム及び酸化アルミニウムのいずれかを含む、請求項1~6のいずれ1項に記載のPCBN材料。
【請求項8】
10体積%~25体積%の炭化チタン(TiC)又は窒化チタン(TiN)を含む、請求項7に記載のPCBN材料。
【請求項9】
5体積%のアルミニウム(Al)、又はその化合物を更に含む、請求項1~8のいずれ1項に記載のPCBN材料。
【請求項10】
60体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)を含む、請求項1~9のいずれ1項に記載のPCBN材料。
【請求項11】
前記cBN粒子が、0.5μm~15μmの平均サイズを有する、請求項1~10のいずれ1項に記載のPCBN材料。
【請求項12】
前記PCBN材料が、26GPa~34GPaのビッカース微小硬度を有する、請求項1~11のいずれ1項に記載のPCBN材料。
【請求項13】
多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)材料の製造方法であって、
下記の前駆粉末を一緒に粉砕するステップ:
立方晶窒化ホウ素(cBN)、
バナジウム含有粉末及び/又はジルコニウム含有粉末、及び
アルミニウム及びチタンのいずれかを含む粉末;
前記粉砕した前駆粉末を圧縮して、圧粉体を形成するステップ;
1800℃~2300℃の温度と7.0GPa~8.5GPaの圧力で前記圧粉体を焼結し、焼結PCBN材料を形成するステップ、を含み、
前記PCBN材料が、ジルコニウム及び/又はバナジウム、及び任意選択でタングステン及び/又はチタン含有析出物及び/又は粒を含むマトリックス材料中に分散した立方晶窒化ホウ素(cBN)の粒子を含み、前記析出物及び/又は粒が1μm以下の平均最大長さ寸法を有する、方法。
【請求項14】
前記温度が、1800℃~1900℃である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記前駆粉末を一緒に粉砕するステップが、下記の2つのサブステップを含む、請求項13又は14に記載のPCBN材料の製造方法:
前記バナジウム含有粉末及び/又は前記ジルコニウム含有粉末を一定期間にわたり粉砕するステップ、
前記立方晶窒化ホウ素の粉末及びアルミニウム及び/又はチタン含有粉末を添加するステップ、
全ての前記前駆粉末をさらなる一定の期間にわたり一緒に粉砕するステップ。
【請求項16】
前記焼結ステップの前に、前記圧粉体をいくつかの部分に分割するステップを更に含む、請求項13、14又は15に記載のPCBN材料の製造方法。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか1項に記載のPCBN材料を含む、工具。
【請求項18】
切削、旋削、粉砕、磨砕、穿孔、又は他の研磨用途のための工具である、請求項17に記載の工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結多結晶立方晶窒化ホウ素材料、及びこのような材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶ダイヤモンド(PCD)及び多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)などの多結晶超硬材料は、岩石、金属、セラミック、複合材及び木材含有材料などの硬質材又は研磨材を切削、旋削、穿孔又は粉砕するための多種多様な工具として使用され得る。
研磨材成形体は、切削、旋削、粉砕、磨砕、穿孔及び他の研磨作業に広く使用される。それらは通常、第2相マトリックス中に分散された超硬研磨材粒子を含む。マトリックスは、金属又はセラミック又はサーメットであり得る。超硬研磨材粒子は、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素(cBN)、炭化ケイ素又は窒化ケイ素などであり得る。これらの粒子は、高圧及び高温成形体製造工程中に相互に結合して多結晶塊を形成し、又は第2相材料(複数可)のマトリックスを介して結合し、焼結多結晶体を形成し得る。このような物質は通常、多結晶ダイヤモンド又は多結晶立方晶窒化ホウ素として知られ、この場合、それらは、それぞれ、ダイヤモンド又はcBNを超硬研磨材として含む。
米国特許第4,334,928号は、20~80体積%の立方晶窒化ホウ素と、周期表IVa又はVa遷移金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、ホウ化物及び珪化物、これらの混合物及びそれらの固溶体化合物からなる群より選択される少なくとも1種のマトリックス複合材のマトリックスである残部から基本的になる、工具として使用するための焼結体を教示している。マトリックスは、焼結体中で、連続マトリックス内に散在した、高圧窒化ホウ素との連続結合構造を形成する。この特許中で概要を述べた方法は、全て、ボールミル粉砕、乳鉢などの機械的粉砕/混合技術を用いて所望の材料を組み合わせることを必要とする。
焼結多結晶体は、基材上にそれらを成形することにより、「裏加工」され得る。超硬合金は、好適な基材を形成するために使用でき、例えば、タングステンカーバイド粒子/粒とコバルトを一緒に混合した後、加熱して固化することによる、コバルトマトリックス中の分散炭化物粒子から形成される。PCD又はPCBNなどの超硬材料層を有する切削要素を形成するために、ダイヤモンド粒子もしくは粒又はCBN粒は、ニオビウム筐体などの耐熱金属筐体中で超硬合金体に隣接して配置され、ダイヤモンド粒又はCBN粒間で粒間結合が起こるように高圧及び高温に晒され、多結晶超硬ダイヤモンド又は多結晶CBN層が形成される。
【0003】
いくつかの事例では、基材は、超硬材料層に結合させる前に完全に硬化され、一方、他の事例では、基材は生(完全に硬化されていない材料)であり得る。後者の場合、基材はHTHP焼結工程中に完全に硬化され得る。基材は、粉末形態であってもよく、また、超硬材料層を焼結するために使用される焼結工程中に固化してもよい。
図1は、焼結PCBN材料を製造する例示的方法を示す。次のナンバリングは、図1のものに対応する:
S1.マトリックス前駆粉末が予混合される。マトリックス前駆粉末の例には、チタン及びアルミニウムの炭化物及び/又は窒化物が挙げられる。マトリックス前駆粉末の典型的な平均粒径は、1μm~10μmである。
S2.マトリックス前駆粉末は1000℃超で少なくとも1時間熱処理され、マトリックス前駆物質粒子間の予備反応が開始され、「ケーキ」が形成される。
S3.ケーキは粉砕及び篩別され、所望の粒子サイズ画分が得られる。
S4.0.5μm~15μmの平均粒径の立方晶窒化ホウ素(cBN)粒子が篩別マトリックス前駆粉末に添加される。
S5.得られた混合粉末は、マトリックス前駆粉末が所望のサイズ(通常、50nm~700nm)になるまでボールミル粉砕により粉砕され、前駆粉末とcBN粒子が均質混合される。この工程は、数時間を要する場合があり、また、タングステンカーバイトボールなどの粉砕媒体を必要とする。
S6.得られた粉砕粉末は、真空下又は減圧下、60℃超で乾燥されて、溶媒が除去され、その後、系中に酸素をゆっくり導入してアルミニウムなどの金属表面を不動態化することにより、適切な状態にされる。
S7.乾燥粉末は篩別され、プレコンポジット構築物が作製される。
S8.プレコンポジット構築物は、700℃超で熱処理され、吸着された水又はガスが除去される。
S9.ガス放出プレコンポジット構築物は、焼結に好適なカプセル中に組み込まれる。
S10.カプセルは、少なくとも1250℃及び少なくとも4GPaの高圧高温(HPHT)工程で焼結されて焼結PCBN材料が形成される。
【0004】
タングステン(W)及びコバルト(Co)両方は、欧州の重要な原材料(CRM)として分類されている。CRMは、欧州経済にとって、経済的及び戦略的に重要であると見なされる原材料である。原則として、それらは、それらの供給に関連する高いリスクがあり、家庭用電化製品、環境技術、自動車、航空宇宙、防衛、健康及び鉄鋼などの欧州経済の主要部門にとって極めて重要であり、更に、それらは、(実現性のある)代用品が存在しない。タングステン及びコバルトの両方は、2つの重要なクラスの硬質材料、焼結炭化物/WC-Co、及びPCD/ダイヤモンド-Coの主要な成分である。
【発明の概要】
【0005】
極限条件下で良好に機能する工具作業のための実現可能な代替材料を開発することが本発明の1つの目的である。
本発明の一態様では、多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)材料が提供され、該材料は、30~90体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)粒子;cBN粒子が内部に分散した、PCBN材料の10体積%~70体積%の含量のマトリックス材料を含み;マトリックス材料はチタン化合物及びアルミニウム化合物、又はこれらの混合物のいずれかを含み;マトリックス材料は、ジルコニウム及び/又はバナジウムを含む析出物及び/又は粒、及び任意選択で、タングステン及び/又はチタンを更に含み;前記析出物及び/又は粒は、実質的に球状、血小板様又は針状のいずれかであり、前記析出物及び/又は粒は、1μm以下の平均最大長さ寸法を有する。
析出物及び/又は粒は、窒化物、炭化物、炭窒化物及び/又は二ホウ化物を含み得る。
任意選択で、ジルコニウム含有析出物及び/又は粒、及び/又はバナジウム含有析出物及び/又は粒は、PCBN材料の10体積%~25体積%を含む。
任意選択で、ジルコニウム含有析出物及び/又は粒、及び/又はバナジウム含有析出物及び/又は粒は、PCBN材料の10体積%、又は17.5体積%、又は25体積%を含む。
ジルコニウム含有析出物及び/又は粒、及び/又はバナジウム含有析出物及び/又は粒は、0.50μm以下の平均最大長さ寸法を有し得る。
あるいは、ジルコニウム含有析出物及び/又は粒、及び/又はバナジウム含有析出物及び/又は粒は、0.20μm以下の平均最大長さ寸法を有し得る。
マトリックス材料は、炭窒化チタン、炭化チタン、窒化チタン、二ホウ化チタン、窒化アルミニウム及び酸化アルミニウムのいずれかを含み得る。
PCBN材料は、10体積%~25体積%の炭化チタン、TiC又は窒化チタン、TiNを含み得る。
PCBN材料はまた、5体積%のアルミニウム、Al、又はその化合物を更に含む。
好ましくは、PCBN材料は、60体積%の立方晶窒化ホウ素(cBN)を含む。
1つの選択肢として、cBN粒子は、0.5μm~15μmの平均サイズを有する。
好ましくは、PCBN材料は、26GPa~34GPaのビッカース微小硬度を有する。
【0006】
本発明の第2の態様では、多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)、材料の製造方法が提供され、該方法は、
以下の前駆粉末を一緒に粉砕するステップ:
立方晶窒化ホウ素(cBN)、
バナジウム含有粉末及び/又はジルコニウム含有粉末、及び
アルミニウム及びチタンのいずれかを含む粉末、
粉砕した前駆粉末を圧縮して、圧粉体を形成するステップ、
1800℃~2300℃の温度と7.0GPa~8.5GPaの圧力で圧粉体を焼結し、焼結PCBN材料を形成するステップ、を含み、
焼結PCBN材料は、ジルコニウム含有析出物及び/又はバナジウム含有析出物、及び任意選択でタングステン含有析出物及び/又はチタン含有析出物を含むか、又はそれからなるマトリックス材料中に分散された立方晶窒化ホウ素(cBN)、粒子を含み、前記析出物は、1μm以下の平均最大長さ寸法を有する。
1つの選択肢として、温度は1800℃~1900℃である。
任意選択で、前駆粉末を一緒に粉砕するステップは、下記の2つのサブステップを含む:
バナジウム含有粉末及び/又はジルコニウム含有粉末を一定期間にわたり粉砕するステップ、
立方晶窒化ホウ素の粉末及びアルミニウム及び/又はチタン含有粉末を添加するステップ、
全ての前駆粉末をさらなる一定の期間にわたり一緒に粉砕するステップ。
方法は、焼結ステップの前に、圧粉体をいくつかの部分に分割することを更に含み得る。
【0007】
本発明の第3の態様では、工具は、本発明の第1の態様によるPCBN材料を含む。
好ましくは、工具は、切削、旋削、粉砕、磨砕、穿孔、又は他の研磨用途のための工具である。
非限定的実施形態が、例示の目的で、添付の図面を参照しながら以降で記載される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】既知の焼結PCBN材料の例示的製造方法のフローダイヤグラムである。
図2】本発明によるPCBN材料の例示的製造ステップを示すフローダイヤグラムである。
図3】1800℃で焼結したPCBN TiC基準材料の異なる倍率による走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図4】1800℃で焼結したPCBN ZrN 10体積%系の異なる倍率によるSEM写真である。
図5】1800℃で焼結したPCBN ZrN 17.5体積%の異なる倍率によるSEM写真である。
図6】1800℃で焼結したPCBN ZrN 25体積%の異なる倍率によるSEM写真である。
図7】1800℃で焼結したPCBN VN 25体積%の異なる倍率によるSEM写真である。
図8】微細構造の特徴の例、a)A1、b)A2、c)N1、d)N2、及びe)N3を示す。
図9】温度1750℃で焼結したcBN-TiC-VN-Al(60-25-10-5体積%)のSEM写真を示す。
図10】温度1850℃で焼結したcBN-TiC-VN-Al(60-25-10-5体積%)のSEM写真を示す。
図11】温度1750℃で焼結したcBN-TiC-VN-Al(60-17.5-17.5-5体積%)のSEM写真を示す。
図12】温度1850℃で焼結したcBN-TiC-VN-Al(60-17.5-17.5-5体積%)の高倍率SEM写真を示す。
図13】温度1750℃で焼結したcBN-TiC-ZrN-Al(60-25-10-5体積%)のSEM写真を示す。
図14】温度1850℃で焼結したcBN-TiC-ZrN-Al(60-25-10-5体積%)の高倍率SEM写真を示す。
図15】温度1750℃で焼結したcBN-TiC-ZrN-Al(60-17.5-17.5-5体積%)のSEM写真を示す。
図16】温度1850℃で焼結したcBN-TiC-ZrN-Al(60-17.5-17.5-5体積%)のSEM写真を示す。
図17】温度1750℃で焼結したcBN-TiN-ZrN-Al(60-25-10-5体積%)の高倍率SEM写真を示す。
図18】温度1750℃で焼結したcBN-TiN-ZrN-Al(60-25-10-5体積%)の低倍率SEM写真を示す。
図19】温度1750℃で焼結したcBN-TiN-ZrN-Al(60-17.5-17.5-5体積%)の低倍率SEM写真を示す。
図20】温度1850℃で焼結したcBN-TiN-ZrN-Al(60-17.5-17.5-5体積%)の高倍率SEM写真を示す。
図21】温度1750℃で焼結したcBN-TiN-VN-Al(60-17.5-17.5-5体積%)のSEM写真を示す。
図22】温度1850℃で焼結したcBN-TiN-VN-Al(60-17.5-17.5-5体積%)のSEM写真を示す。
図23】温度1750℃で焼結したcBN-ZrN-VN-Al(60-17.5-17.5-5体積%)のSEM写真を示す。
図24】温度1850℃で焼結したcBN-ZrN-VN-Al(60-17.5-17.5-5体積%)のSEM写真を示す。
図25】第1セットのPCBN種に対するCaldie硬化鋼加工の切削時間による工具摩耗(VBの寿命判定基準=0.3mm)の変化を示すグラフである。
図26】第2セットのPCBN種に対するCaldie硬化鋼加工の切削時間による工具摩耗(VBの寿命判定基準=0.3mm)の変化を示すグラフである。
図27】第1セットのPCBN種に対するインコネル718加工の切削時間による工具摩耗(VBの寿命判定基準=0.3mm)の変化を示すグラフである。
図28】第2セットのPCBN種に対するインコネル718加工の切削時間による工具摩耗(VBの寿命判定基準=0.3mm)の変化を示すグラフである。
図29】Ovako677の加工時の被加工物通過数の関数としてのRaを示すグラフである。
図30】Ovako677の加工時の被加工物通過数の関数としてのRaを示すグラフである。
図31】第1回~第9回の被加工物通過数による、試験グレードの全エッジの工具劣化を示す一連のSEM写真である。
図32】工具寿命の終わりでの異なるグレードの摩耗を示す一連のSEM写真である。
図33】試料V2のSTEM像である。
図34】さらなる試料V2のSTEM像である。
図35】またさらなる試料V2のSTEM像である。
図36】追加の試料V2のSTEM像である。
図37】試料Z1のSTEM像である。
図38】試料Z11のSTEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上記図のSEM写真に示した材料の組成は、透過電子顕微鏡(TEM)分析を用いて確認した。
図2は、例示的ステップを示すフローダイヤグラムである。次のナンバリングは、図2のものに対応する。
S1.ジルコニウム含有粉末及び/又はバナジウム含有粉末の前駆粉末、及びチタン及びアルミニウムの炭化物及び/又は窒化物を含む粉末は、一緒に粉砕され、均質混合物を形成し、所望の粒径が得られる。前駆粉末混合は、有機溶剤中でのボールミル粉砕技術及びロータリーエバポレーターによる乾燥を用いて実施された。
S2.粉砕粉末は、一緒に乾式加圧され、処理中の取り扱いに適切な強度を有する圧粉体が形成される。具体的には、乾燥後、粉末は柔らかい型中に充填され、冷間静水圧プレスを用いて加圧し、粉末を圧縮して圧粉体が形成される。
成形体はその後、高圧高温(HPHT)カプセル中に収容されるように異なる高さに切断される。
S3.乾式加圧された圧粉体はその後、高温真空熱処理及びHPHTカプセルに入れて少なくとも1800℃(例えば、1800℃、1900℃、2000℃、及び2200℃)の温度、及び約8GPaの圧力で少なくとも30秒の一定期間にわたり焼結される。
焼結温度は、S型熱電対を用いて1800℃まで較正された。
S4.焼結後、得られた焼結品は、室温まで冷却される。冷却速度は無制御である。冷却は、VN含有析出物及び/又はZrN含有析出物及び任意選択のW及び/又はTi含有析出物の所望の析出をもたらす。
【実施例
【0010】
表1は、この研究に含まれる全てのPCBN組成を、TiC基準試料(すなわち、結合剤中にZrN又はVNを使用しない試料)と一緒に、収載している。
【表1】
【0011】
焼結後の目視検査
図3、4、5、6及び7は、1800℃で焼結した異なるPCBN種のSEM写真を示す。それらは全て均質である。これらの画像では、色のコントラストは、原子量の差異に起因する。cBN成分は、最も軽く、これらの画像中で極めて暗い色/黒い色として浮かび上がる。セラミック成分(VN又はZrNなど)は、SEM画像中で、灰色相として見え、最も重い金属成分(ボールミル粉砕からのWC混入など)は、明るい/白色の粒子として浮かび上がる。結果は、粉末混合方法がcBN及びセラミック成分の均質な分布をもたらすことを明らかにした。
【0012】
焼結後の硬度検査
次のステップは、材料の特性に対する焼結条件の影響を理解することであった。これらの材料は、1Kgビッカースインデンテーション法を用いてインデンテーションにより試験し、硬度結果を計算し、表2にまとめた。インデンテーションは、Wolpert572圧子で作成し、インデンテーションをSEM中で測定し、精度を向上させた(インデンテーションは20ミクロンサイズのオーダーであったので)。
【表2】

全ての焼結片は、良好な硬度で、28GPaのオーダーの微小硬度を有し、このレベルのcBN含量としては良好であると考えられた。非常に低い硬度は、不十分な材料相の焼結/結合の現れと考えられるであろう。同様の理由で、より高い硬度値は、良好な焼結の現れと見なされた。従って、硬度は最適化された焼結条件の第1の指標として使用された。
【0013】
用途プレスクリーニング試験
次に、用途プレスクリーニング試験のための試料の選択を行った。
これらの試料を表3に示す。
【表3】

用途プレスクリーニング試験のために選択された試料の組成に関するさらなる情報は、下表4で提供される。
【表4】
選択された種は、4種の材料:(1)硬化(HRC62.1)工具鋼Caldie(Uddeholmによる);(2)時効(HRC44.7)超合金インコネル718(商標);(3)析出硬化(HRC42.7)マルテンサイト系ステンレス鋼17-4PH;(4)Ovako677(Ovatec677)、の加工により試験された。
(1)Caldie硬化鋼の加工による試験
選択PCBN種を用いて、Caldie硬化鋼の加工によりプレスクリーニング試験を次の切削条件下で実施した:表面切削速度Vc=120m/分、送り速度f=0.1mm/回転、切込み深さap=0.3mm、及びドライ加工条件。
結果を図25及び26に示す。
最初に図25を参照すると、5分の基準試料R1種は、最大BV=263μmを有したが、しかし、VB=421μmで微小破壊も生じた。試験結果は、この高硬度旋削用途に対しては、試料V2、TiC-VN系PCBN種の性能が基準材料よりも80~90%良好(1.9倍)であった。
図26を参照すると、結果は、TiC-ZrN系種Z11が、基準試料に比べて、ほぼ90%良好な性能を有するが、他のTiC-ZrN系種もR1及びR2より性能が優れていることを示す。
これは、Caldie高硬度旋削用途に対しては、V2及びZ11種が高圧TiC基準材料より最大90%(1.9倍)だけ性能が優れていることを意味する。
この工具形状(RNGN090300)のために、逃げ面摩耗(VB)が、主要な摩耗判定基準であり、クレーター形成は無視できるほど小さいが、より小さいノーズ半径を有する工具では、クレーター摩耗(KT)がより支配的になる可能性がある。
(2)インコネル718の加工による試験
選択PCBN種を用いて、インコネル718の加工によりプレスクリーニング試験を次の切削条件下で同様に実施した:Vc=250m/分、f=0.1mm/回転、切込み深さap=0.3mm、及び7000kPa(70バール)の高圧冷却剤。
図27に示す試験の結果は、TiC-ZrN系種Z1が両方の基準試料よりわずかに良好な性能(最大15%)を示したが、VN系種は、25%悪い性能を示したことを示す。
図28から解るように、TiC-ZrN系種Z2及びZ11は、両方の基準試料より良好な性能(最大20%)を示したが、Z8は、同等の性能であった。
(3)マルテンサイト系ステンレス鋼の加工による試験
マルテンサイト系ステンレス鋼用途では、いずれのPCBN種も基準材料より優れた性能を示さなかった。
(4)Ovako677硬化鋼の加工による試験
試験は、Monforts RNC700のシングルターン横型旋盤及び標準的並行シャンクバイトホルダー(CCLNL3225)で実施した。表面粗さの測定は、面測定ゲージMahr MarSurf M300で実施した。試験中の摩耗形態画像をAlicona全焦点光学式粗さ計により生成した。業界基準の50体積%cBNを含むPCBN材料、DSC500も標準性能評価基準として同様に試験した。
試験は、連続加工による外径旋削及び108mmの開始直径を用いて、Ovako677(Ovatec677)の予備成型及び硬化された選抜品に対し実施した。被加工物は、円錐形側面を有し、これは、被加工物通過毎に直径が減少する場合でも、一定時間の加工をもたらす。硬化は加熱後900℃で20分間実施した。冷却は大気中で実施した。150℃で90分の焼戻しは、硬化後20時間以内に実施した。
硬度は、試験部分中で60~61HRcの均一分布を有する。
【0014】
製造業者による材料Ovako677の化学的組成を表5に示す。残部は鉄である。簡単に言えば、それは、67CrSi4である。
【表5】
切削パラメーターは、170m/分、0.15mm/回転、0.15mm、ドライ加工であった。加工時間は被加工物通過1回当り32秒であった。表面仕上げ測定値は、第1、第3、第7及び第15回目の被加工物通過後に採取した。Aliconaによる画像は、第1回目及びその後2回目毎の被加工物通過後に生成した。最大15回の被加工物通過があった。工具寿命診断基準は、チッピング又は破壊であった。試験マトリックスは、表6で認めることができる。
【表6】
図29及び30の両方の表面特徴データは、図31の画像の摩耗分析と合わせて、工具寿命の観点から、Z11が最良の結果をもたらすことを示した。純粋に表面仕上げの観点からは、エッジ損傷が大きくなり試験が9回の被加工物通過で中止されるまで(加工時間288秒まで)、V2及びDSC500の両方が、Z11より良好な表面仕上げを示した。
図32a~cでは、各グレードのエッジ1とエッジ2の間で、工具寿命の終わりに極めて類似した摩耗パターンを示した。Z11のエッジ1と2との間の最も大きい差異は、エッジ1が9回の被加工物通過、及びエッジ2が15回の被加工物通過がなされ、それにより、後者が最初のものより大きな同じタイプの摩耗を示していることであった。
【0015】
微細構造解析
微細構造のより詳細な検査は、結合剤微細構造中の特定の析出物の存在を明らかにし、これは、実質的に球状、血小板様又は針状であるとして特徴付けることができる。これらは表7にまとめている。
【表7】

表7に対する凡例は、図8を基準にして提供されている。図8aは、典型的なA1の特徴を示す;図8bは典型的A2の特徴を示す;図8cは典型的N1の特徴を示す;図8dは典型的N2の特徴を示す;及び図8eは典型的N3の特徴を示す。
追加の試験試料は、類似の高圧温度条件下、特に約1800℃及び8GPaで生成された。図33から36は、通常V2で認められる丸い固溶体析出物を示し、また、同様に、図38は、通常Z11で認められる丸い固溶体析出物を示す。図37は、Z1で認められる針状及び血小板様析出物を示す。
W/Ti析出物の証拠もいくつかの試料で認められた。WC粉砕媒体に起因する混入が結合剤化学に同程度に影響を与えると考えられる。結合剤は、粉砕工程に起因する不純物不含ではなかった。
実施例によるPCBN材料は、析出物の存在に起因する改善された破壊靭性と、固溶体形成に起因し、延長された工具寿命をもたらす、基準材料に比べて有意により良好な耐摩耗性との両方を特徴とする。
本明細書で記載のPCBN材料は、切削、粉砕、磨砕、穿孔、又は他の研磨材用途などの用途で用いるための工具の一部として使用し得る。
まとめると、本発明者らは、極端な工具の用途での使用に好適し、有効で魅力のあるCRMの代替品となるいくつかの材料を成功裏に特定した。特に、PCBN材料は、加工困難な合金、及び超合金の旋削に好適し、焼結炭化物による解決策を超える多くの利点を提供する。
【0016】
定義
本明細書で使用される場合、「PCBN」は、金属又はセラミックを含むマトリックス内に分散したcBNの粒を含む1種の超硬材料を意味する。PCBNは、超硬材料の1例である。
本明細書で使用される場合、「マトリックス材料」は、多結晶構造体中の気孔、割れ目又は隙間領域を完全に又は部分的に満たすマトリックス材料を意味すると理解される。
用語「マトリックス前駆粉末」は、高圧高温焼結工程に供せられる場合、マトリックス材料になる粉末を意味するように使用される。
多量の粒のマルチモード粒度分布は、粒が2つ以上のピークを有し、各ピークがそれぞれの「モード」に対応する、粒度分布を有する粒を意味すると理解される。マルチモード多結晶体は、2種以上の起源の複数の粒を提供し、各起源が実質的に異なる平均粒度を有する粒を含み、その起源由来の粒又は粒子を一緒に混合することにより、作製し得る。一実施形態では、PCBN材料は、マルチモード分布を有するcBN粒を含み得る。
【0017】
特許請求の範囲は、平均粒径を言及する。これは、円相当径(ECD)技術を用いて測定される。複数のルーズな、非結合で非凝集粒のECD分布は、レーザー回折により測定でき、この場合、粒は、入射光の経路中にランダムに配置され、粒による光りの回折にから生じた回折パターンが測定される。その回折パターンは、あたかもそれが複数の球状粒により生成されているかのように、数学的に解釈され、その直径分布が計算され、ECDに換算して報告される。粒度分布の解釈は、種々の用語と記号を用いて、種々の統計の特性に換算して表現され得る。このような用語の特定の例には、平均、中央値及びモードが挙げられる。粒度分布は、一連の各サイズチャネルに対応する一連の値Diと考えることができ、各Diは、それぞれのチャネルiに対応する幾何平均ECD値であり、iは、1から使用するチャネルの数nまでの範囲の整数である。
【0018】
本発明を実施形態を基準にして詳細に示し説明してきたが、当業者であれば、添付された特許請求の範囲に定められる本発明の範囲を逸脱することなく、形式及び細部の種々の変更を行い得ることを理解するであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8a
図8b
図8c
図8d
図8e
図9
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図28
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図37
図38
【国際調査報告】