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特表2022-548051水素プラズマと分極化による薄膜の結晶品質を向上させるための処理
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-16
(54)【発明の名称】水素プラズマと分極化による薄膜の結晶品質を向上させるための処理
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/58 20060101AFI20221109BHJP
   C23C 16/56 20060101ALI20221109BHJP
   C30B 33/04 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C23C14/58 Z
C23C16/56
C30B33/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022516129
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(85)【翻訳文提出日】2022-03-29
(86)【国際出願番号】 FR2020051573
(87)【国際公開番号】W WO2021048507
(87)【国際公開日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】1910128
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・デルシュヴァルリー
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-シャルル・アルノー
(72)【発明者】
【氏名】サミュエル・サーダ
(72)【発明者】
【氏名】ロマン・バシュレ
【テーマコード(参考)】
4G077
4K029
4K030
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB10
4G077BA01
4G077BA03
4G077FE02
4G077FE05
4G077FH09
4K029AA04
4K029AA06
4K029AA24
4K029BA02
4K029BB08
4K029EA00
4K029EA08
4K029FA05
4K029GA02
4K030DA03
4K030DA08
(57)【要約】
本発明は、導電性または半導電性材料から作製された薄膜を処理し、その結晶品質を改善するための方法に関する。それは、
-その面の1つに前記材料の薄膜を含む基板の供給;と
-所定の温度と所定の時間で、基板と薄膜によって形成されたアセンブリのバイアスプラズマ処理であって、薄膜の深さ全体にわたって結晶の再構成を得るために、バイアスプラズマ処理が、薄膜の電気的バイアス、および、このようにバイアスされた薄膜の、水素プラズマへの曝露を含み、バイアスプラズマ処理が、薄膜および基板の融点未満の温度で実施されるバイアスプラズマ処理を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料または半導電性材料から作られた薄膜の結晶品質を改善するための処理方法であって、
-面の1つに前記材料の薄膜を含む基板を供給するステップと、
-所定の温度と所定の時間で、前記基板と前記薄膜によって形成されたアセンブリをバイアスプラズマ処理するステップであって、前記薄膜の深さ全体にわたって結晶の再構成を得るために、前記バイアスプラズマ処理が、前記薄膜の電気的バイアス、および、このようにバイアスされた前記薄膜の、水素プラズマへの曝露を含み、前記バイアスプラズマ処理が、前記薄膜および前記基板の融点未満の温度で実施される、ステップと、を含み、
前記水素プラズマが、水素のみ、および任意でヘリウムを含むガスから得られ、前記ガスが、前記薄膜の前記導電性材料または前記半導電性材料の前駆体を欠いており、前記バイアスされた膜の前記水素プラズマへの曝露時間が、少なくとも10分である、処理方法。
【請求項2】
前記バイアスプラズマ処理の温度が1200℃未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記薄膜の電気的バイアスが、前記薄膜に、前記基板に、または前記基板が基板キャリア上に配置されている場合は前記基板キャリアに、接地に対して-10V~-1000Vの負の電位を印加することによって得られる、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記バイアスされた膜を前記水素プラズマに曝露する時間が、10分~数時間である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記バイアスプラズマ処理のステップが、10~200mbarの間の値に維持された圧力で実施される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記薄膜がイリジウムまたはモリブデンから作られる、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記プラズマが、2.45GHzのマイクロ波によって生成され、前記プラズマに注入される電力が200~2000Wである、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記供給ステップにおいて、前記基板の前記面が単結晶であり、前記面に存在する前記薄膜が多結晶であり、前記多結晶膜がエピタキシャル膜になるまで前記バイアスプラズマ処理のステップが実施される、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の結晶の再構成に関する。本発明は、薄膜を使用する技術分野に適用され、これらの薄膜の特性は、防錆コーティングの製造等のために、例えば、マイクロエレクトロニクス、光学、工学等の、求められる用途にとって重要である。
【背景技術】
【0002】
多くの用途、特にマイクロエレクトロニクス、光学および工学の分野では、基板上に高結晶品質の薄膜を製造できる必要がある。本発明の文脈において、薄膜は、一般に10μm未満、一般に数十ナノメートルから数マイクロメートルの間の厚さの層を意味すると述べられている。
【0003】
高結晶品質の薄膜を必要とする用途の例として、ヘテロエピタキシャルダイヤモンド(すなわち、準単結晶ダイヤモンド)の合成膜について言及することができる。
【0004】
この合成は、イリジウム(100~200nm)の薄膜が堆積されたチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)(30~40nm)の薄層で覆われたシリコン基板上で実施される。ダイヤモンド膜の結晶品質は、基板(Ir/SrTiO3/Si)を構成する層の品質、より具体的にはイリジウムの層の品質に影響される。
【0005】
現在、イリジウムの薄膜は、約700℃に加熱された基板(SrTiO3/Si)上に真空蒸着法によって堆積される。
【0006】
イリジウムの薄膜の品質は、熱アニーリングによって改善できるが、シリコンの融点(1414℃)はイリジウムの融点(2410℃)よりもはるかに低いため、熱アニーリングは不可能である。
【0007】
シリコンの融点より低い温度でイリジウムの層の原子を再構成(すなわち、再結晶化)することができ、それによりイリジウムの層の結晶品質を改善することができることは有利なことである。
【0008】
しかしながら、一般に、現時点では、1000℃未満の温度で、2000℃を超える融点を有する材料を再結晶化できる方法はない。
【0009】
さらに、場合によっては、膜への過度に高いアニーリング温度は、膜が堆積される基板の劣化を引き起こす。薄膜が金属である場合、金属薄膜と基板との間に発生する相互拡散現象が観察され得、合金の形成を引き起こす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、先行技術の欠点を克服することである。これを行うために、薄膜の結晶品質を改善するための、導電性または半導電性の材料から作られた薄膜の処理方法を提案する。その方法は、
-面の1つに前記材料の薄膜を含む基板を供給するステップと、
-所定の温度と所定の時間で、基板と薄膜によって形成されたアセンブリをバイアスプラズマ処理するステップであって、薄膜の深さ全体にわたって結晶の再構成を得るために、バイアスプラズマ処理が、薄膜の電気的バイアス、および、このようにバイアスされた薄膜の、水素プラズマへの曝露を含み、バイアスプラズマ処理が、薄膜および前記基板の融点未満の温度で実施される、ステップと、を含み、
水素プラズマは、水素のみ、および任意でヘリウムを含むガスから得られ、そのガスは、その膜の導電性または半導電性の材料の前駆体を欠いており、バイアスされた膜の水素プラズマへの曝露時間は、少なくとも10分である。
【0011】
水素プラズマは、水素のみ、および任意でヘリウムを含むガスから得られるため、ガスには、フィルムの導電性または半導電性の材料の前駆体がなく、したがって、薄膜上で核形成のリスクがない。
【0012】
エピタキシャル薄膜の結晶品質は、そのモザイシティの低下および/またはその結晶配向のより良い選択性、および/または構造欠陥(転位、マクルなど)の低減によって改善することができる。多結晶薄膜の結晶品質は、粒子サイズを大きくすることによって、および/または構造的欠陥(転位、マクルなど)の存在を減らすことによって改善することができる。
【0013】
薄膜の結晶の再構成は、薄膜の表面から広がる薄膜の深さにわたって起こり得る。
【0014】
薄膜の再結晶化は、膜の厚さが大きくても小さくても発生し、界面を越えて突出することさえあり、下にある基板の一部も再結晶化を受ける。したがって、膜の厚さおよび処理の時間に応じて、膜の厚さの部分的な再結晶化または膜の完全な再結晶化を得ることが可能であり、再結晶化は、薄膜とその下にある支持体との界面まで及ぶことができる。
【0015】
この方法の、特定の好ましいが非限定的な側面は次の通りである:
-バイアスプラズマ処理の温度が1200℃未満である。
-薄膜の電気的バイアスは、膜に、基板に、または基板が基板キャリア上に配置されている場合は基板キャリアに、グランドに対して-10V~-1000Vの負の電位(通常、グランドに接続された反応器の側壁に対して)を印加することで得られる。
-バイアスされた膜が水素プラズマにさらされる時間は、10分から数時間の間である。
-バイアスプラズマ処理は、10~200mbarの値に維持された圧力で実施される。
-薄膜はイリジウムまたはモリブデンから作られている。
-プラズマは2.45GHzのマイクロ波によって生成され、プラズマに注入される電力は200~2000Wである。
-供給ステップでは、基板の面は単結晶であり、前記面に存在する薄膜は多結晶であり、多結晶膜がエピタキシャル膜になるまでバイアスプラズマ処理工程が実施される。
【0016】
その面の1つに薄膜を含む基板を供給するステップの間に、薄膜は一般に基板の主面に堆積される。薄膜の堆積に一般的に使用されるあらゆる堆積手法を使用することが可能であり、それは一般に、化学蒸着(CVD蒸着)または物理蒸着(PVD蒸着)などの蒸着法である。
【0017】
水素プラズマを形成するために、既知のあらゆる方法を使用することが可能である。プラズマは、マイクロ波、無線周波数、または熱フィラメントなどのエネルギー源を使用して生成してもよい。本発明による方法では、膜の堆積およびバイアスプラズマ処理(水素プラズマ+バイアス)は、好ましくは、同じ反応器内で実施される。以下の例示的な実施形態では、10~200mbarの間の圧力が加えられる、MPCVD(「マイクロ波プラズマ化学蒸着」の略)マイクロ波反応器を使用した。水素プラズマを形成するためのパラメータは、エピタキシャルダイヤモンド膜を形成するためのバイアス核生成法(バイアス強化核生成またはBENステップ)の前に、イリジウム表面を洗浄するために普段から使用されるものである。
【0018】
有利なことには、この方法は、供給ステップとバイアスプラズマ処理ステップとの間に、バイアスされていない膜を水素プラズマに曝露することをさらに含み、これにより、バイアスがかかる前に膜の温度を安定させることができる。バイアスされていない膜とバイアスされた膜は、好ましくは、同じ水素プラズマ、すなわち、プラズマに至る電力、ガスの流量および圧力の同じ条件を適用することによって得られるものにさらされる。
【0019】
本発明は、添付の図面を参照する、単に指示のために与えられ、決して限定的でない例示的な実施形態の説明を読むことでより理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1a】平面図において、第1の例示的な実施形態の多結晶イリジウム膜の形態のSEM観察結果を示し、図1aは、参照サンプル1を示している。
図1b】平面図において、第1の例示的な実施形態の多結晶イリジウム膜の形態のSEM観察結果を示し、図1bは、サンプル2(アニーリング後)を示している。
図1c】平面図において、第1の例示的な実施形態の多結晶イリジウム膜の形態のSEM観察結果を示し、図1cは、サンプル3(本発明による処理(バイアスと組み合わせた水素プラズマ)後)を示している。
図2a図1aに示されているサンプル1の断面図である。
図2b図1bに示されているサンプル2の断面図である。
図2c図1cに示されているサンプル3の断面図である。
図3a】サンプル1に実施されたXRD分析を示している。
図3b】サンプル2に実施されたXRD分析を示している。
図3c】サンプル3に実施されたXRD分析を示している。
図4a】平面図において、第2の実施形態に従って生成されたイリジウム膜のSEM観察結果を示し、この分析は、すべての処理の前に、イリジウム膜の同じ範囲で実施される。
図4b】平面図において、第2の実施形態で実施されたイリジウム膜のSEM観察結果を示し、この分析は、真空アニーリング後、イリジウム膜の同じ範囲で実施される。
図4c】平面図において、第2の実施形態に従って生成されたイリジウム膜のSEM観察結果を示し、この分析は、水素プラズマのみによる処理後、イリジウム膜の同じ範囲で実施される。
図4d】平面図において、第2の実施形態に従って生成されたイリジウム膜のSEM観察結果を示し、この分析は、バイアスと組み合わせた最初の水素プラズマ処理の後、イリジウム膜の同じ範囲で実施される。
図4e】平面図において、第2の実施形態に従って生成されたイリジウム膜のSEM観察結果を示し、この分析は、バイアスと組み合わせた2度目の水素プラズマ処理の後、イリジウム膜の同じ範囲で実施される。
図5a】平面図において、すべての処理の前の、第3の実施形態に従って実施された多結晶モリブデン膜(サンプル5)の形態のSEM観察結果を示している。
図5b】平面図において、本発明による処理(バイアスと組み合わせた水素プラズマ)後の、第3の実施形態に従って実施された多結晶モリブデン膜(サンプル5)の形態のSEM観察結果を示す。
図6a】平面図において、すべての処理の前の、第3の実施形態に従って実施された多結晶モリブデン膜(サンプル6)の形態のSEM観察結果を示している。
図6b】平面図において、アニーリング後の、第3の実施形態に従って実施された多結晶モリブデン膜(サンプル6)の形態のSEM観察結果を示している。
図7a図7aは、平面図において、本発明による処理の前の、第4の実施形態に従って実施された単結晶イリジウム膜の形態のSEM観察結果を示している。
図7b】平面図において、本発明による処理(バイアスと組み合わせた水素プラズマ)後の、第4の実施形態に従って実施された単結晶イリジウム膜の形態のSEM観察結果を示している。
図8a】本発明による処理の前の、第4の実施形態に従って実施された前記単結晶イリジウム膜のXRD分析を示す。
図8b】本発明によるバイアスプラズマ処理後の、第4の実施形態に従って実施された前記単結晶イリジウム膜のXRD分析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を説明するために、ここで、薄膜がイリジウムまたはモリブデンから作られる、いくつかの例示的な実施形態を詳細に説明する。しかしながら、本発明による方法が他種類の導電性または半導電性の材料に適用できることは明らかである。
【0022】
以下のすべての例示的な実施形態において、以下の方法で進めたともまた述べられている。
【0023】
7×7mmサイズの基板は、基板にバイアスをかけるために、バイアスシステムを備えたMPCVD(「マイクロ波プラズマ化学蒸気蒸着」の略)反応器に導入される。
【0024】
最初に、2×10-5mbar未満の圧力を達成し、気相中の化学的不純物(窒素と酸素)の存在を制限するために、反応器チャンバーが排気される。
【0025】
次に、基板はバイアスなしで水素プラズマにさらされる。このステップは任意であり、膜の表面温度を安定させることができる。この任意のステップの手順は、次の条件下で実施される。
-パワー600Wのマイクロ波プラズマ
-ガス流量250sccm
-水素圧力18mbar
-時間20分
【0026】
このステップの終わりに、そこから継続して、基板は、以下の条件に従ってバイアスをかけられた水素プラズマにさらされる。ただし、1時間の間、基板に-280Vのバイアス電圧を印加する。
【0027】
第1の例示的な実施形態によれば、約200nmの厚さの多結晶イリジウムの薄膜の堆積は、3つの基板で同じ形態を得るために、SrTiO3(40nm)/Si(001)の3つの基板で同時にPVD(「物理蒸着」の略)によって実施される。このようにして、サンプル1、2、および3が得られる。
【0028】
多結晶膜では再結晶化がより顕著であり、再結晶化により、かなり劇的な効果をもって粒子のサイズが大きくなるため、ここでは多結晶薄膜を堆積することを選択したことに留意すべきである。しかしながら、結晶品質の改善につながる再結晶化は、薄膜がエピタキシャルまたは単結晶である場合でも起こる。
【0029】
サンプル1は参照例として機能する。
【0030】
サンプル2は、二次真空下、875℃の温度で1時間アニーリングされる。
【0031】
サンプル3は、上記の条件に従って、バイアスと組み合わせた水素プラズマ処理にかけられる。この処理中の温度は850℃であった。
【0032】
サンプル2と3の温度は、放射率を19%(イリジウムの放射率)に調整した高温計で測定した。
【0033】
走査型電子顕微鏡(SEM;加速電圧20kV)で行われた表面および断面の最初の観察は、これら3つのサンプルそれぞれのすべての処理の最後に実施された。
【0034】
図1aと図2aは、それぞれ、参照サンプル(サンプル1)の表面と断面のSEM観察結果である。図1bと図2bは、アニーリングを受けたサンプル(サンプル2)の表面および断面のSEM観察結果である。図1cと図2cは、本発明による処理(バイアスと組み合わせた水素プラズマ)(サンプル3)にかけられたサンプルの表面および断面のSEM観察結果である。
【0035】
これらの図1a~1cおよび2a~2cでは、薄膜は参照1で示され、基板は参照2で示されている。
【0036】
これらのSEM観察結果を比較することにより、二次真空下でアニーリングを行ったサンプル2では、約10ナノメートルの粒子サイズが、イリジウムの始まりの堆積で観察されたサイズに対応することがわかる(サンプル1)。それどころか、サンプル3(水素プラズマ+バイアス)では、イリジウム粒子の拡大が見られ、粒子のサイズは100ナノメートルに近い。
【0037】
サンプル3で発生した再結晶化を確認するために、これら3つのサンプルで補足のXRD(X線回折)測定を行った。これらの測定値を図3a~3cに示す(図3a:サンプル1、図3b:サンプル2、図3c:サンプル3)。
【0038】
3つのサンプルには、薄膜の配向(111)があり、配向(001)の痕跡がないことがわかる。
【0039】
Ir(111)の回折ピークの幅は、バイアスと組み合わせたプラズマが実施されたときの微細化を示す(サンプル3)。
Ir(111)ピークの半値全幅(FWHM)は次のとおりである。
0.7°はサンプル1
0.43°はサンプル2
0.22°はサンプル3
【0040】
これらの3つのサンプルでは、イリジウム薄膜の下にあるSTO(002)、つまりSrTiO3の回折ピークは変化しない。
【0041】
この証明を完了するために、プラズマだけでは(つまりバイアスなしで)イリジウム膜の結晶格子を再構成することはできないことも示した。
【0042】
したがって、第2の例示的な実施形態によれば、まず、電子ビーム蒸着によって、SrTiO3(40nm)/Si(001)基板上に160nmの単結晶イリジウムを堆積させた。次に、PVDによって97nmの厚さの多結晶イリジウムの膜を堆積し、サンプル4を取得した。この同じサンプル4に対して、次の4つの連続処理を実施した。
-真空下、860℃でのアニーリング1時間
-水素プラズマ処理(600W、250cc、18mbar、800℃)1時間
-水素プラズマ処理+バイアス(600W、250cc、18mbar、-250V、820℃)30分間
-水素プラズマ処理+バイアス(600W、250cc、18mbar、-280V、835℃)1時間
【0043】
最初の処理(図4a)の前および各処理(図4b~4e)の後に、範囲に戻ることにより、イリジウム膜の形態のSEM観察(電圧20kVの加速)が実施された。表面形態の変化を示すために、SEM画像の右上のフレームにバンドパスフィルターを適用した。これらのSEM画像は、バイアスと組み合わせた水素プラズマのステップの後にのみ変化が起こることを明らかにすることを可能にした(図4dおよび図4e)。
【0044】
バイアスと組み合わせた水素プラズマステップ(図4dおよび図4e)の後、<110>方向に縞模様(ストリエーション)が観察できることもわかる。これらはイリジウム(001)膜の配向の特徴であり、ここで説明した処理後の、多結晶イリジウム膜の単結晶イリジウム膜への変化を示している。したがって、多結晶イリジウムの薄膜は、下にある単結晶イリジウム層を有することで、ホモエピタキシーに単結晶イリジウムの薄膜に変化した。したがって、本発明の目的である方法は、ここで、堆積された薄膜と基板との間にエピタキシーの関係を作り出すことを可能にする。
【0045】
さらに、4つの処理のそれぞれの後の微量天秤によるサンプル4の計量は、これらの処理の後に材料の損失がなかったことを示した。
【0046】
第3の例示的な実施形態によれば、同じ方法を採用して、2つのSi3N4(20nm)/Si基板上にPVDによって堆積された多結晶モリブデン(約120nm)の薄膜を生成し、2つのサンプル(サンプル5およびサンプル6)を得た。
【0047】
サンプル5は、本発明による方法(水素プラズマ+バイアス)(ガス100%H2、600W、250cc、18mbar、-280V)を1時間実施された。この方法中の温度は、以前と同じ放射率が19%(モリブデンではなくイリジウムの放射率)に固定されている高温計を使用して測定した。測定された温度(930℃)は、モリブデンの放射率(この温度範囲ではわからない)に対応していないため、「架空」(誤っているとも言える)である。しかしながら、プラズマを生成する実験条件は、イリジウムを用いた例示的な実施形態に適用されたものと同じであり、この方法中の温度は、イリジウムの温度と同等であると想定される。
【0048】
この架空の温度により、どのような場合でも、アニーリングと比較するには、930℃を超える架空の温度に加熱する必要があることがわかる。したがって、架空の温度942℃で1時間の二次真空下でのアニーリングが、サンプル6で実施された。
【0049】
モリブデン膜の表面の範囲に戻ることによるSEM観察(20kV)は、これら2つのサンプルのそれぞれで行われた。図5aおよび6aは、それぞれ、サンプル5およびサンプル6の、初めの多結晶モリブデン膜の形態を示している。図5bと6bは、それぞれ、バイアスと組み合わせた水素プラズマ処理後(サンプル5)とアニーリング後(サンプル6)のモリブデン膜の形態を示している。
【0050】
これらのさまざまな図を比較することで、モリブデンの再結晶化が明らかになる。また、粒子のサイズが、この方法の前は約10~20nm(図5aおよび6a)であり、処理後は数百ナノメートル(図5b)となるため、効果はかなり劇的である。
【0051】
第4の例示的な実施形態によれば、SrTiO3(40nm)/Si(001)基板上に電子ビーム蒸着によって堆積された厚さ約109nmのエピタキシャルイリジウム膜上に本発明による処理を実施した。
【0052】
この処理の前後のSEM観察(20kV)およびXRD測定は、膜の結晶品質の改善を示した(図7a(前)および7b(後)はSEM観察で、図8a(前)および8b(後)はXRD測定)。
【0053】
図8aおよび8bでは、上部のグラフは一般的なグラフであり、他のグラフはIr(111)(中央のグラフ)とIr(002)(下のグラフ)の一般的なグラフの特定の部分を拡大したものを表す。
【0054】
これらの分析にはIr(002)回折ピークを使用したが、以下では(001)配向について説明する。これらの2つの配向は、同じ平面ファミリーの一部を形成する。
【0055】
XRD測定値を分析することで、本発明による方法の適用前のIr(002)またはIr(001)では65.2%、Ir(111)では34.8%の割合で、配向(001)と(111)が共存することを示す。本発明による方法(バイアスと組み合わせたH2プラズマ処理)の適用後、配向(001)の割合は74.4%に増加し、配向(111)は25.6%に減少する。これらの測定値を分析することで、バイアスと組み合わせたH2プラズマ処理がイリジウムの結晶品質に影響を与えることが明確にわかる。
【0056】
結論として、上記の例示的な実施形態について行われたSEM観察およびXRD測定は、二次真空下で実施されるアニーリングと比較して、バイアスと組み合わせた水素プラズマの使用によるイリジウムおよびモリブデンの薄膜の再結晶化を明らかにすることを可能にする。したがって、本発明による方法が、イリジウムおよびモリブデンのナノ結晶膜の結晶格子の再構成を引き起こすことを示した。
【0057】
本発明の目的である方法の利点の1つは、基板のバイアスと組み合わせた水素プラズマ処理が、薄層の融点(イリジウムとモリブデンの場合、それぞれ2410℃と2617℃)よりもはるかに低い温度(イリジウムおよびモリブデンの場合は1000℃未満)で実施されることである。したがって、イリジウムおよびモリブデン原子の再配列は、アニーリングの熱エネルギーの追加によって説明することはできないが、異なるメカニズム(H+イオンによるイオン衝撃、水素の拡散、水素とイリジウムおよびモリブデン原子との化学反応性など)によって説明できる。
【0058】
したがって、本発明による方法は、「標準的な」熱アニーリング中に使用される通常の温度よりもかなり低い、比較的低い処理温度(500℃から1000℃の間)での薄膜の結晶品質を改善することを可能にし、選択した基板の融点に応じて使用することができる。一部の材料、特に高融点金属(>2000℃)は高い融点を持ち、結晶格子の再構成に一般的に使用される熱アニーリング法は、これらの金属が、融点が高融点金属の融点とは大きく異なる基板上に薄膜の形で堆積される場合、想定されないということを実は知っている。
【0059】
この方法の利点は、結晶の再構成は、適用される実験条件に応じて、薄膜の表面から、および薄膜の限られた深さにわたって発生する可能性があるという事実にもある。したがって、薄膜が十分に厚い場合、下にある基板はこの再構成の影響を受けない。
【0060】
界面に近い元素の拡散を促進するため、または基板と膜の間のエピタキシーの関係を促進するために、界面に近い格子の再構成を得るためと同様に、十分に薄い層を有することを想像することも可能である。基板と膜の間のエピタキシーの関係を促進することにより、エピタキシャル膜を合成する、新しい方法がある(単結晶上に多結晶を堆積し、次に基板とのエピタキシャル膜を形成するための、多結晶膜を再構成する本発明による方法)。
図1a
図1b
図1c
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
図4c
図4d
図4e
図5a
図5b
図6a
図6b
図7a
図7b
図8a
図8b
【手続補正書】
【提出日】2022-05-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料または半導電性材料から作られた薄膜の結晶品質を改善するための処理方法であって、
-面の1つに前記導電性材料または前記半導電性材料の薄膜を含む基板を供給するステップと、
-所定の温度と所定の時間で、前記基板と前記薄膜によって形成されたアセンブリをバイアスプラズマ処理するステップであって、前記薄膜の深さ全体にわたって結晶の再構成を得るために、前記バイアスプラズマ処理が、前記薄膜の電気的バイアス、および、このようにバイアスされた前記薄膜の、水素プラズマへの曝露を含み、前記バイアスプラズマ処理が、前記薄膜および前記基板の融点未満の温度で実施される、ステップと、を含み、
前記水素プラズマが、水素のみ、および任意でヘリウムを含むガスから得られ、前記ガスが、前記薄膜の前記導電性材料または前記半導電性材料の前駆体を欠いており、前記バイアスされた膜の前記水素プラズマへの曝露時間が、10分~数時間である、処理方法。
【請求項2】
前記バイアスプラズマ処理の温度が1200℃未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記薄膜の電気的バイアスが、前記薄膜に、前記基板に、または前記基板が基板キャリア上に配置されている場合は前記基板キャリアに、接地に対して-10V~-1000Vの負の電位を印加することによって得られる、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記バイアスプラズマ処理のステップが、10~200mbarの間の値に維持された圧力で実施される、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記薄膜がイリジウムまたはモリブデンから作られる、請求項1からのいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記プラズマが、2.45GHzのマイクロ波によって生成され、前記プラズマに注入される電力が200~2000Wである、請求項1からのいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記供給ステップにおいて、前記基板の前記面が単結晶であり、前記面に存在する前記薄膜が多結晶であり、前記多結晶膜がエピタキシャル膜になるまで前記バイアスプラズマ処理のステップが実施される、請求項1からのいずれかに記載の方法。
【国際調査報告】