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特表2022-548058クリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-16
(54)【発明の名称】クリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20221109BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20221109BHJP
   C21D 8/00 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/54
C21D8/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022516186
(86)(22)【出願日】2020-08-25
(85)【翻訳文提出日】2022-03-11
(86)【国際出願番号】 KR2020011296
(87)【国際公開番号】W WO2021054631
(87)【国際公開日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】10-2019-0114344
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン, ヒュン-ジェ
(72)【発明者】
【氏名】キム, ソン-ジュン
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA12
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA20
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA37
4K032BA01
4K032CC00
4K032CF03
(57)【要約】
【課題】本発明は、(Fe、Cr)23炭化物などの粗大な析出物の形成を完全に抑制し、クリープ強度だけでなく、優れた高温延性により亀裂敏感度を減少させて、材料の適用範囲を広げられるクリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、重量%で、C:0.04~0.15%、Si:0.5%以下(0%は除く)、Mn:0.1~0.6%、S:0.01%以下(0%は除く)、P:0.03%以下(0%は除く)、Cr:1.9~2.6%、Mo:0.05~1.5%、W:1.4~2.0%、V:0.4~1.0%、Ni:0.4%以下(0%は除く)、Nb:0.10%以下(0%は除く)、Ti:0.10%以下(0%は除く)、N:0.015%以下(0%は除く)、Al:0.06%以下(0%は除く)、B:0.007%以下(0%は除く)を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、関係式1を満たし、関係式2によって定義されるLMP値が作用応力200MPaで20,000以上であり、作用応力125MPaで21,000以上であり、そして、高温破断時の断面収縮率が20%以上であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.04~0.15%、Si:0.5%以下(0%は除く)、Mn:0.1~0.6%、S:0.01%以下(0%は除く)、P:0.03%以下(0%は除く)、Cr:1.9~2.6%、Mo:0.05~1.5%、W:1.4~2.0%、V:0.4~1.0%、Ni:0.4%以下(0%は除く)、Nb:0.10%以下(0%は除く)、Ti:0.10%以下(0%は除く)、N:0.015%以下(0%は除く)、Al:0.06%以下(0%は除く)、B:0.007%以下(0%は除く)を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、下記関係式1を満たし、下記関係式2によって定義されるLMP値が作用応力200MPaで20,000以上であり、作用応力125MPaで21,000以上であり、そして高温破断時の断面収縮率が20%以上であることを特徴とするクリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板。
[関係式1]
0.3≦(V-10SUM)≦1
但し、SUMは、特定の不純物元素の総含有量として、具体的には、Cu+Co+La+Y+Ce+Zr+Ta+Hf+Re+Pt+Ir+Pd+Sbの合計含有量を意味する。
[関係式2]
LMP=T×(20+log(tr))
但し、TはKelvin単位の絶対温度、trは時間単位の破断時間を意味する。
【請求項2】
前記鋼板は、下記関係式3を満たす化学組成を有しながら、同時に作用応力250MPaで前記関係式2によって定義されるLMP値が20,000以上であり、高温破断時の断面収縮率が40%以上であることを特徴とする請求項1に記載のクリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板。
[関係式3]
35≦|(V-10SUM)×(Mo-10SUM)×(Ni-10SUM)×10|≦600
但し、SUMは、特定の不純物元素の総含有量として、具体的には、Cu+Co+La+Y+Ce+Zr+Ta+Hf+Re+Pt+Ir+Pd+Sbの合計含有量を意味する。
【請求項3】
前記鋼板は、焼戻しマルテンサイト/ベイナイトを含む微細組織を有することを特徴とする請求項1に記載のクリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板。
【請求項4】
前記鋼板の微細組織には(Fe、Cr)23を含む直径200nm以上の析出物が1個/μm以下の個数範囲で存在することを特徴とする請求項1に記載のクリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板。
【請求項5】
前記鋼板の微細組織には、直径20nm以下の析出物が20個/μm以上の個数範囲で存在することを特徴とする請求項1に記載のクリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板。
【請求項6】
前記直径20nm以下の析出物は(V、Mo、Nb、Ti)(C、N)であることを特徴とする請求項5に記載のクリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板。
【請求項7】
重量%で、C:0.04~0.15%、Si:0.5%以下(0%は除く)、Mn:0.1~0.6%、S:0.01%以下(0%は除く)、P:0.03%以下(0%は除く)、Cr:1.9~2.6%、Mo:0.05~1.5%、W:1.4~2.0%、V:0.4~1.0%、Ni:0.4%以下(0%は除く)、Nb:0.10%以下(0%は除く)、Ti:0.10%以下(0%は除く)、N:0.015%以下(0%は除く)、Al:0.06%以下(0%は除く)、B:0.007%以下(0%は除く)を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、下記関係式1を満たす組成を有する鋼スラブを仕上げ圧延温度がAr3以上になるように熱間圧延して熱延鋼板を製造した後、冷却する工程、
前記冷却された熱延鋼板を1000~1100℃の温度範囲で少なくとも30分間再加熱してオーステナイト化する工程、
前記オーステナイト化した熱延鋼板を常温まで0.1℃/s以上の冷却速度で焼きならしまたは焼入れする工程、及び
前記冷却された熱延鋼板を700~800℃の温度範囲で少なくとも30分間焼戻しする工程、を含み、下記関係式2によって定義されるLMP値が作用応力200MPaで20,000以上であり、作用応力125MPaで21,000以上であり、そして、高温破断時の断面収縮率が20%以上であることを特徴とするクリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板の製造方法。
[関係式1]
0.3≦(V-10SUM)≦1
但し、SUMは、特定の不純物元素の総含有量として、具体的には、Cu+Co+La+Y+Ce+Zr+Ta+Hf+Re+Pt+Ir+Pd+Sbの合計含有量を意味する。
[関係式2]
LMP=T×(20+log(tr))
但し、TはKelvin単位の絶対温度、trは時間単位の破断時間を意味する。
【請求項8】
前記鋼スラブは、下記関係式3を満たす化学組成を有し、前記製造されたクロム鋼板は作用応力250MPaで前記関係式2によって定義されるLMP値が20,000以上であり、高温破断時の断面収縮率が40%以上であることを特徴とする請求項7に記載のクリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板の製造方法。
[関係式3]
35≦|(V-10SUM)×(Mo-10SUM)×(Ni-10SUM)×10|≦600
但し、SUMは、特定の不純物元素の総含有量として、具体的には、Cu+Co+La+Y+Ce+Zr+Ta+Hf+Re+Pt+Ir+Pd+Sbの合計含有量を意味する。
【請求項9】
前記製造されたクロム鋼は、焼戻しマルテンサイト/ベイナイトを含む微細組織を有することを特徴とする請求項7に記載のクリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板及びその製造方法に係り、より詳しくは、鋼材の構成相であるマルテンサイト/ベイナイト微細組織の内部と結晶粒界に微細な炭窒化物のみを析出し、元素の合金により優れたクリープ強度を有するのみならず、優れた高温延性を有して亀裂敏感度を減少させることができるクロム鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力/原子力発電及び精油/精製産業において考慮すべき事項は、環境にやさしい設備の建設とエネルギー利用の高効率化である。まず、発電効率の増加のために、タービンに供給される蒸気の温度及び圧力の増加が求められており、これにより、さらに高い温度及び圧力を有する蒸気を生成することができるように、ボイラー素材の耐熱性を向上させることが重要である。また、精油/精製産業においても最近では環境規制の強化によって高効率化が求められており、高温特性に優れた鋼材を施設に適用することを検討している。
【0003】
高温に適用する鋼のうち、高価の合金元素を多量含有しているオーステナイトステンレス鋼は、低い熱伝導度及び高い熱膨張係数のような良好でない物理的性質を有しているため、大型部品の製造時に困難性があり、使用が限定的である。これに対し、クロム鋼は、優れたクリープ強度、溶接性、耐腐食性及び耐酸化性などの物理的性質が必要な個所により多く用いられている。原子力発電の場合、中性子照射によるスウェリング現象を防止するために、オーステナイト系ステンレス鋼の代わりに長期間の健全性を担保することができるクロム鋼への代替適用を介して安全性を確保している。
【0004】
耐熱クロム鋼の高温クリープ強度を長時間維持させるために固溶強化及び析出強化の方法が適用される。このため、固溶強化元素及びM(C、N)炭窒化物(M=金属元素、C=炭素、N=窒素)形成元素であるバナジウム、ニオブ、チタンが主に合金される。これと同時に炭素含有量を0.002重量%に極度に減らすことによって、熱力学的に不安定であり、容易に粗大化してクリープ特性を低下させる(Fe、Cr)23炭化物の形成を抑制し、微細な炭窒化物を析出させてクリープ特性を大きく向上させた耐熱鋼も提案されたが、上記のように炭素含有量を下げた耐熱鋼を商業的に大量生産することは、ほぼ不可能である。また、鋼種を生産する過程での連続鋳造中または溶接中に発生することがある表面クラックの形成を減縮することが重要であり、材料の高温延性増加時のクラック発生の頻度を効果的に減らすことができる。したがって、高温延性が十分に考慮されたクリープ強度に優れた鋼材の開発のための合金設計及びその製造法の確立は必須である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、合金設計及び熱処理を利用して、上述した従来技術とは異なり、炭素含有量を極度に下げなくても(Fe、Cr)23炭化物などの粗大な析出物の形成を完全に抑制し、微細な炭窒化物のみを形成させて優れたクリープ強度を有することができるようにするだけでなく、優れた高温延性により亀裂敏感度を減少させて、材料の適用範囲を広げられるクリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
しかし、本発明が解決しようとする課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていない更なる課題は、下記記載から当業者が明確に理解することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のクリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板は、
重量%で、C:0.04~0.15%、Si:0.5%以下(0%は除く)、Mn:0.1~0.6%、S:0.01%以下(0%は除く)、P:0.03%以下(0%は除く)、Cr:1.9~2.6%、Mo:0.05~1.5%、W:1.4~2.0%、V:0.4~1.0%、Ni:0.4%以下(0%は除く)、Nb:0.10%以下(0%は除く)、Ti:0.10%以下(0%は除く)、N:0.015%以下(0%は除く)、Al:0.06%以下(0%は除く)、B:0.007%以下(0%は除く)を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、下記関係式1を満たし、関係式2によって定義されるLMP値が作用応力200MPaで20,000以上であり、作用応力125MPaで21,000以上であり、そして高温破断時の断面収縮率が20%以上であることを特徴とする。
[関係式1]
0.3≦(V-10SUM)≦1
但し、SUMは、特定の不純物元素の総含有量として、具体的には、Cu+Co+La+Y+Ce+Zr+Ta+Hf+Re+Pt+Ir+Pd+Sbの合計含有量を意味する。
[関係式2]
LMP=T×(20+log(tr))
但し、TはKelvin単位の絶対温度、trは時間単位の破断時間を意味する。
【0008】
上記鋼板は、下記関係式3を満たす化学組成を有しながら、同時に作用応力250MPaで上記関係式2によって定義されるLMP値が20,000以上であり、高温破断時の断面収縮率が40%以上であることを特徴とする。
[関係式3]
35≦|(V-10SUM)×(Mo-10SUM)×(Ni-10SUM)×10|≦600
但し、SUMは、特定の不純物元素の総含有量として、具体的には、Cu+Co+La+Y+Ce+Zr+Ta+Hf+Re+Pt+Ir+Pd+Sbの合計含有量を意味する。
【0009】
上記鋼板は、焼戻しマルテンサイト/ベイナイトを含む微細組織を有することを特徴とする。
【0010】
上記鋼板の微細組織には(Fe、Cr)23を含む直径200nm以上の析出物が1個/μm以下の個数範囲で存在することを特徴とする。
【0011】
上記鋼板の微細組織には、直径20nm以下の析出物が20個/μm以上の個数範囲で存在することを特徴とする。
【0012】
上記直径20nm以下の析出物は(V、Mo、Nb、Ti)(C、N)であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のクリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板の製造方法は、
上述した組成の鋼スラブを仕上げ圧延温度がAr3以上になるように熱間圧延して熱延鋼板を製造した後、冷却する工程、
上記冷却された熱延鋼板を1000~1100℃の温度範囲で少なくとも30分間再加熱してオーステナイト化する工程、
上記オーステナイト化された熱延鋼板を常温まで0.1℃/s以上の冷却速度で焼きならしまたは焼入れする工程、及び
上記冷却された熱延鋼板を700~800℃の温度範囲で少なくとも30分間焼戻しする工程、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、LMP値が作用応力200MPaで20,000以上及び作用応力125MPaで21,000以上であるクリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板を焼入れ及び焼戻しを介して高温での優れたクリープ寿命を有し、9重量%の多量のクロムを含有するASTM A213 92 grade鋼よりも長いクリープ寿命を有し、高温破断時の断面収縮率が20%以上と優れたクロム鋼板を提供することができる。
【0015】
また、作用応力250MPaでLMP値が20,000以上であり、温度600℃でクリープ寿命が1000時間以上で、高温破断時の断面収縮率が40%以上と非常に優れたクロム鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実験に用いられた鋼種1~6と従来材に対するクリープ試験結果を比較して示した図面である。
図2】本発明の実験に用いられた鋼種3-1、4-1と比較例である鋼種1の伸び計(Extensometer)を用いて測定された時間の流れによる600℃/125MPaの条件でのクリープ変形率を示した図面である。
図3】本発明の実験に用いられた鋼種1と鋼種4-1鋼板に対する走査電子顕微鏡(scanning electron microscope、SEM)写真である。
図4】本発明の実験に用いられた鋼種1と4-1鋼板の透過電子顕微鏡(transmission electron microscope、TEM)写真である。
図5】本発明の実験に用いられた鋼種1の600℃/200MPaの条件で破断された試験片の写真及び鋼種2~6の600℃/275MPaの条件で破断された試験片の写真である。
図6】本発明の実験に用いられて最終的に破断された鋼種1~6の試験片の断面率をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
従来の耐熱クロム鋼は合金成分としてモリブデン及びM(C、N)炭窒化物(M=金属元素、C=炭素、N=窒素)形成元素であるバナジウム、ニオブ、チタンを主に利用したが、これらの耐熱クロム鋼は熱力学的に不安定であり、容易に粗大化してクリープ特性を低下させる(Fe、Cr)23炭化物の形成が避けられず、優れたクリープ特性を確保することが難しかった。
本発明者は、このような従来技術の問題点を解消するために、研究と実験を重ね、その結果、Crを1.9~2.6%含有した耐熱クロム合金においてバナジウム、モリブデン及びニッケルの添加量を最適化し、同時にオーステナイト化温度、冷却速度、及び焼戻し温度などの工程を最適化することで、優れたクリープ特性及び高温延性を有する耐熱クロム鋼が得られたことを確認し、本発明を提示する。
【0018】
本発明のクリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板は、重量%で、C:0.04~0.15%、Si:0.5%以下(0%は除く)、Mn:0.1~0.6%、S:0.01%以下(0%は除く)、P:0.03%以下(0%は除く)、Cr:1.9~2.6%、Mo:0.05~1.5%、W:1.4~2.0%、V:0.4~1.0%、Ni:0.4%以下(0%は除く)、Nb:0.10%以下(0%は除く)、Ti:0.10%以下(0%は除く)、N:0.015%以下(0%は除く)、Al:0.06%以下(0%は除く)、B:0.007%以下(0%は除く)を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、下記関係式1を満たし、関係式2によって定義されるLMP値が作用応力200MPaで20,000以上であり、作用応力125MPaで21,000以上であり、そして高温破断時の断面収縮率が20%以上であるクリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板に関するものである。
[関係式1]
0.3≦(V-10SUM)≦1
但し、SUMは、特定の不純物元素の総含有量として、具体的には、Cu+Co+La+Y+Ce+Zr+Ta+Hf+Re+Pt+Ir+Pd+Sbの合計含有量を意味する。
[関係式2]
LMP=T×(20+log(tr))
但し、TはKelvin単位の絶対温度、trは時間単位の破断時間を意味する。
【0019】
以下、クリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板の成分限定理由を説明する。
ここで「%」は、特に断りのない限り、「重量%」を示す。
・炭素(C):0.04~0.15%
炭素は、オーステナイト安定化元素として、その含有量に応じてAe3温度とマルテンサイトの形成開始温度を調節することができる元素であり、侵入型元素としてマルテンサイト相の格子構造に非対称的歪みを加え、強い強度を確保するのに非常に効果的な元素である。しかし、鋼中の炭素含有量が0.15%を超えると、炭化物が過度に形成され、溶接性が大きく低下するという欠点がある。したがって、本発明では、上記炭素含有量を0.04~0.15%の範囲に制限することが好ましい。
【0020】
・シリコン(Si):0.5%以下(0%を除く)
シリコンは、固溶強化だけでなく、鋳造時に脱酸剤として添加される。但し、本発明の一実施例によるクリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板は、微細な炭化物のような有益な炭化物の形成が必須であるのに対し、シリコンは炭化物の形成を抑制する役割を果たす。したがって、本発明では、シリコン含有量を0.5%以下に制御することが好ましい。
【0021】
・マンガン(Mn):0.1~0.6%
マンガンは、オーステナイト安定化元素であり、鋼の硬化能を大きく増加させてマルテンサイトのような硬質相が形成されるようにする。また、硫黄と反応してMnSを析出するが、これは硫黄偏析による高温割れを防止に有利である。一方、マンガン含有量が増加するほどオーステナイト安定度が過度に増加するという問題がある。したがって、本発明では、マンガン含有量を0.1~0.6%の範囲に制限することが好ましく、0.4%~0.6%の範囲に制限することがより好ましい。
【0022】
・硫黄(S):0.010%以下(0%は除く)
硫黄は、不純物元素であり、その含有量が0.010%を超えると鋼の延性及び溶接性が低下する。
したがって、硫黄含有量を0.010%以下に制限することが好ましい。
【0023】
・リン(P):0.03%以下(0%を除く)
リンは、固溶強化効果を有する元素であるが、硫黄と同様に不純物元素として、その含有量が0.03%を超えると鋼に脆性が発生し、溶接性が低下する。
したがって、リン含有量を0.03%以下に制限することが好ましい。
【0024】
・クロム(Cr):1.9~2.6%
クロムは、フェライト安定化元素であり、硬化能を増加させる元素であって、その量に応じてAe3温度及びデルタフェライトの形成領域の温度を調節する。また、クロムは、酸素と反応してCrの緻密且つ安定した保護皮膜を形成して、高温耐酸化性及び耐腐食性を増加させるが、デルタフェライトの形成温度領域を広げる。高いクロム含有量を有する鋼を鋳造する過程で、デルタフェライトが形成されるおそれがあり、熱処理後にも残留して鋼材の特性に悪影響を与える。したがって、本発明では、クロム含有量を1.9~2.6%の範囲に制限することが好ましく、2.1~2.5%の範囲に制限することがより好ましい。
【0025】
・モリブデン(Mo):0.05~1.5%
モリブデンは、硬化能を増加させるため、フェライト及びパーライト組織が形成されて基地強度が大きく減少するという問題を効果的に防止することができる。また、強力な固溶強化によって高温クリープ寿命を増加させ、モリブデンがM(C、N)炭窒化物を形成する金属元素として作用して炭窒化物を安定化させ、粗大化速度を大きく下げる。また、本発明において、モリブデンは、結晶粒界を強化させる元素として材料の高温延性の増加に大きく寄与できる点を確認した。モリブデンを少なくとも0.05%以上添加する必要があるが、モリブデンも高価の元素として過度に添加される場合、製造費用が大きく上昇するため、1.5%以下添加することが好ましく、0.2~1.4%の範囲に制限することがより好ましい。
【0026】
・タングステン(W):1.4~2.0%
タングステンは、固溶強化に影響を与えて高温クリープ寿命を増加させ、タングステンが炭窒化物を形成する金属元素として作用して炭窒化物を安定化させ、粗大化速度を大きく下げる。一方、タングステン含有量が増加すると、デルタフェライトの形成温度領域を広げるために鋼を鋳造する過程で、デルタフェライトが形成される。熱処理後にも削除されずに残留するデルタフェライトは、クリープ特性に悪影響を与える。したがって、タングステン含有量を1.4~2.0%の範囲に制限することが好ましく、1.5~1.8%の範囲に制限することがより好ましい。
【0027】
・バナジウム(V):0.4~1.0%
バナジウムは、硬化能を増加させて、M(C、N)炭窒化物を形成する元素の一つであるが、バナジウム含有量の増加に応じて(Fe、Cr)23炭化物形成の駆動力が小さくなり、結果的に、(Fe、Cr)23炭化物の形成を完全に抑制することができる。クロム含有量1.9~2.6%、タングステン含有量1.4~2.0%、モリブデン含有量0.05~1.5%の鋼で(Fe、Cr)23炭化物の形成を抑制するためには、0.4%以上のバナジウム合金が必要である。しかし、バナジウム含有量が1.0%を超える場合、材料の生産に困難性を伴うという問題がある。したがって、バナジウム含有量を0.40~1.0%の範囲に制限することが好ましく、0.5~0.9%の範囲に制限することがより好ましい。
【0028】
・ニッケル(Ni):0.4%以下(0%は除く)
ニッケルは、鋼の靭性を向上させる元素であり、低温靭性の劣化なしに鋼の強度を増加させるために添加される。また、ニッケル添加時の硬化能を増加させ、フェライト及びパーライト組織が形成されて基地強度が大きく減少するという問題を効果的に防止できる。また、結晶粒界を強化させる元素として材料の高温延性の増加に大きく寄与することができる。もし、その含有量が0.4%を超えて添加される場合には、ニッケル添加による価格上昇を誘発する。
したがって、ニッケル含有量を0.4%以下に制限することが好ましい。
【0029】
・ニオブ(Nb):0.10%以下(0%は除く)
ニオブは、M(C、N)炭窒化物を形成する元素の一つである。また、スラブ再加熱時に固溶して熱間圧延中にオーステナイト結晶粒の成長を抑制し、その後析出して鋼の強度を向上させる役割を果たす。但し、ニオブが0.10%を超えて過度に添加されると、溶接性が低下し、結晶粒が必要以上に微細化することがある。
したがって、ニオブ含有量を0.10%以下に制限することが好ましい。
【0030】
・チタン(Ti):0.10%以下(0%は除く)
チタンもTiNの形態でオーステナイト結晶粒の成長を抑制させるために効果的な元素である。しかし、チタンが0.10%を超えて添加されると、粗大なTi系析出物が形成され、材料の溶接に困難性を伴う。
したがって、チタン含有量を0.10%以下に制限することが好ましい。
【0031】
・窒素(N):0.015%以下(0%は除く)
窒素は、鋼中から工業的に完全に除去することが難しいため、製造工程で許容できる範囲である0.015%を上限とする。窒素は、オーステナイト安定化元素として知られており、単純なMC炭化物よりもM(C、N)炭窒化物の形成時に高温安定度が大きく上昇して鋼材のクリープ強度を効果的に増加させる役割を果たす。しかし、0.015%を超えると、ホウ素と結合してBNを形成して欠陥の発生危険を増加させる。
したがって、窒素含有量を0.015%以下に制限することが好ましい。
【0032】
・アルミニウム(Al):0.06%以下(0%は除く)
アルミニウムは、フェライト領域を拡大し、鋳造時に脱酸剤として添加される。クロム鋼の場合、他のフェライト安定化元素が多く合金されており、アルミニウム含有量が増加する場合、Ae3温度が過度に上昇することがある。また、現成分系において、その添加量が0.06%を超える場合、酸化物系介在物が多量形成されて素材の物性を阻害する。
したがって、アルミニウム含有量を0.06%以下に制限することが好ましい。
【0033】
・ホウ素(B):0.007%以下(0%は除く)
ホウ素は、フェライト安定化元素であり、極少量でも硬化能の増加に大きく寄与する。また、結晶粒界に容易に偏析されて結晶粒界を強化する効果を奏する。しかし、0.007%を超えて添加される場合、BNを形成する可能性があり、これは、材料の機械的特性に悪影響を与えることがある。
したがって、ホウ素含有量を0.007%以下に制限することが好ましい。
【0034】
これ以外に、残部がFe及び不可避不純物を含むと、不純物は、例えば、Cu、Co、La、Y、Ce、Zr、Ta、Hf、Re、Pt、Ir、Pd、Sbなどが含まれる。これらの不純物元素は、通常の製造過程では、原料や周囲環境から不可避に混入されることがあるため、これを排除することはできない。
【0035】
本発明の鋼板は、下記関係式1を満たす化学組成を有することが好ましい。
[関係式1]
0.3≦(V-10SUM)≦1
但し、SUMは、特定の不純物元素の総含有量として、具体的には、Cu+Co+La+Y+Ce+Zr+Ta+Hf+Re+Pt+Ir+Pd+Sbの合計含有量を意味する。
すなわち、本発明の鋼は、V:0.4~1.0%の条件を満たす必要があるだけでなく、バナジウムの有益な効果を阻害することがある不純物元素が本発明の鋼中に含まれないように制御する必要がある。具体的には、上記定義された「SUM」に数字10をかけて加重値を適用した後、バナジウムの鋼中の含有量(重量%)から10SUMを差し引いた値が0.4%以上1.0%以下であるとき、本発明で説明するバナジウムの効果が得られることを確認して、本技術構成を提示する。
【0036】
一方、本発明において、「SUM」をなす元素である銅(Cu)は、クロム鋼の表面散発クラックに悪影響を与える可能性が高い。そして、コバルト(Co)は、硬化能を低下させるため、鋼中に含まれると再加熱によってオーステナイト化した熱延鋼板を0.1℃/s以上の冷却速度で焼きならしまたは焼入れして常温まで冷却させる工程でベイナイト/マルテンサイト組織が得られないことがある。その他の残部不純物のうち価格が非常に高い希土類などが鋼種内に含まれると価格が大きく上昇することがあり、機械的物性を悪化させることがある。したがって、本発明の鋼種内に含まれないことが好ましい合金元素の重量%の合計をSUMとした。
【0037】
そして、本発明において、関係式1を満たす鋼板は、関係式2によって定義されるLMP(Larson-Miller Parameter)値が作用応力200MPaで20,000以上であり、作用応力125MPaで21,000以上であり、そして高温破断時の断面収縮率が20%以上である。
[関係式2]
LMP=T×(20+log(tr))
但し、TはKelvin単位の絶対温度、trは時間単位の破断時間を意味する。
【0038】
また、鋼板は、関係式3を満たす化学組成を有することが好ましい。
[関係式3]
35≦|(V-10SUM)×(Mo-10SUM)×(Ni-10SUM)×10|≦600
但し、SUMは、特定の不純物元素の総含有量として、具体的には、Cu+Co+La+Y+Ce+Zr+Ta+Hf+Re+Pt+Ir+Pd+Sbの合計含有量を意味する。
本発明において、関係式3を満たす鋼板は、関係式2によって定義されるLMP値が作用応力250MPaで20,000以上であり、高温破断時の断面収縮率が40%以上である。
【0039】
本発明で作用応力250MPaで関係式2によって定義されるLMP値が20,000以上であり、高温破断時の断面収縮率が40%以上であるクリープ強度及び高温延性に優れたクロム鋼板を提供するためには、鋼中のバナジウム、モリブデン、及びニッケルの含有量を適宜制御することが好ましい。したがって、これらの元素の添加による有益な効果を阻害することがある不純物元素が本発明の鋼に含まれないようにする必要があり、このような観点から上記関係式3が導き出されたものである。
【0040】
以下、クリープ強度及び高温延性に優れた本発明のクロム鋼板の微細組織及び析出物について詳細に説明する。
まず、本発明の鋼板は、その基地微細組織として焼戻しマルテンサイト/ベイナイト組織を含む。
本発明の鋼板の微細組織には(Fe、Cr)23を含む直径200nm以上の析出物が1個/μm以下の個数範囲で存在することが好ましい。もし、直径200nm以上の析出物個数が1個/μmを超える場合、粗大な炭化物によるクリープ特性の低下をもたらすことがある。
【0041】
一方、本発明の鋼板の微細組織には、直径20nm以下の析出物が20個/μm以上の個数範囲で存在することが好ましい。直径20nm以下の析出物の個数が20個/μm未満の場合、微細な炭窒化物間の距離が非常に大きくなる。したがって、高温での轉位移動と亜結晶粒の移動を効果的に防ぐことができず、クリープ特性の向上効果が大きくないことがある。
直径20nm以下の析出物は(V、Mo、Nb、Ti)(C、N)を含む。
【0042】
次に、本発明のクリープ強度及び高温延性に優れた析出硬化型クロム鋼板の製造方法を説明する。
本発明のクリープ強度及び高温延性に優れた析出硬化型クロム-モリブデン鋼板の製造方法は、上述した組成の鋼スラブを仕上げ圧延温度がAr3以上になるように熱間圧延して熱延鋼板を製造した後、冷却する工程、冷却された熱延鋼板を1000~1100℃の温度範囲で少なくとも30分間再加熱してオーステナイト化する工程、オーステナイト化した熱延鋼板を常温まで0.1℃/s以上の冷却速度で焼きならしまたは焼入れする工程、及び冷却された熱延鋼板を700~800℃の温度範囲で少なくとも30分間焼戻しする工程を含む。
【0043】
まず、上述した組成成分を有する鋼スラブを仕上げ圧延温度がAr3以上になるように熱間圧延して熱延鋼板を得る。このようにオーステナイト単相域で熱間圧延を行う理由は、組織の均一性を増加させるためである。
そして、製造された熱延鋼板を常温に冷却する。
さらに、冷却された熱延鋼板を再加熱してオーステナイト化する。このとき、再加熱温度の範囲は1000~1100℃であり、再加熱時間は少なくとも30分間行われることが好ましい。
再加熱温度が1000℃未満である場合、熱間圧延後の冷却過程中に形成された不要な炭化物を完全に再溶解させ難い。一方、再加熱温度が1100℃を超えると、結晶粒が粗大化して特性が劣ることがある。
再加熱時間は、少なくとも30分間行うことが好ましい。再加熱時間が30分未満の場合は、熱間圧延後の冷却過程中に形成された不要な炭化物を完全に再溶解させ難い。
【0044】
再加熱によってオーステナイト化した熱延鋼板を常温まで0.1℃/s以上の冷却速度で焼きならしまたは焼入れして常温まで冷却させ、ベイナイト/マルテンサイト組織を得るようにする。このとき、基地組織の冷却時にフェライト及びパーライト組織が形成されて基地強度が大きく減少しないように注意する必要があり、本発明の鋼種は、硬化能が高いV、Mo及びNiなどの元素を含むことができるため、0.1℃/s以上の冷却速度で焼きならし及び焼入れされると、フェライト及びパーライト組織が形成されない。したがって、冷却速度の上限を50℃/sに制御することが好ましい。
焼きならしまたは焼入れされた熱延鋼板は焼戻し(tempering)する。このとき、焼戻し温度は700~800℃、焼戻し時間は少なくとも30分実施した後、空冷することが好ましい。
焼戻し温度が700℃未満である場合、低い温度により微細な炭窒化物の析出を時間内に誘導できないことがある。一方、焼戻し温度が800℃を超える場合、焼戻しは材料の軟化を起こしてクリープ寿命を大きく低下させることがある。焼戻し時間が30分未満である場合、形成させようとする析出物が形成されないことがある。
【実施例
【0045】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
(実施例)
表1の合金組成と12mmの厚さを有する熱延鋼板を用意した。そして、熱延鋼板を1000~1100℃の範囲内の様々な温度で少なくとも30分間再加熱し、焼きならしまたは焼入れ処理して常温まで冷却した。次に、冷却された鋼板を700~800℃の範囲内の様々な温度で少なくとも30分間焼戻しした後、常温まで空冷して鋼板を製造した。一方、表1における鋼種1は、一般的なASTM A213 23 grade鋼組成であり、残りの鋼種はすべて本発明の鋼組成成分を満たす鋼種である。具体的には、鋼種2~4は、関係式1を満たすが、関係式3は満たさない化学組成を有し、鋼種5~6は、関係式1及び関係式3を同時に満たす化学組成を有する場合を示す。
【0046】
上記のように製造された合金鋼について、熱間圧延方向にASTM E139標準を活用して、ゲージ長さ15mm、ゲージ直径6mmを有するクリープ試験片をそれぞれ製作し、米国ATS社2320クリープ試験装置を用いて、これらの試験片に対する高温クリープ寿命を評価し、その結果を図1に示した。
また、比較のために、日本材料研究所(NIMS)が提供したASTM A213 grade 23、91、92鋼材のクリープ結果も図1に併せて示した。また、伸び計(extensometer)を用いて鋼種1、3-1、4-1のクリープ変形率も測定し、その結果は、図2のとおりである。
【0047】
製造された合金鋼試験片について走査電子顕微鏡(scanning electron microscope、SEM)を活用して微細組織を観察し、その結果を図3に示した。透過電子顕微鏡(transmission electron microscope、TEM)及びエネルギー分光分析法を活用して析出物の分布を正確に観察し、その結果を図4に示した。
また、鋼種が高温で最終的にクリープ破断したとき、延性を有した破断を示したか否かに対する評価尺度をもって断面収縮率(reduction in area、RA)を活用した。初期ゲージ径R0(6mm)を有するクリープ試験片が高温でクリープ破断された面の直径がRである場合、断面収縮率は、[(RO-R)/RO]×100である。鋼種の微細組織、クリープ試験条件(温度及び応力)、破断時間及び断面収縮率を下記表2に示し、実際の破断材の断面収縮率を直観的に比較することができる試験片の撮影写真を図5に示した。表1のすべての鋼種の硫黄含有量は30ppm以下であり、ホウ素含有量は70ppm以下(0%を除く)であり、残部成分はFe及び不可避不純物である。
【0048】
【表1】
【0049】
*表1の熱処理Nは焼きならし(normalizing)、熱処理Qは焼入れ(Quenching)、熱処理Tは焼戻し(Tempering)、アルファベットの前に付いた数字は、熱処理を行った温度を意味する。そして、焼きならし/焼入れ及び焼戻し熱処理時間は、少なくとも30分以上とした。そして、A*は関係式1によって計算された値を、B*は関係式3によって計算された値を示す。
一方、関係式1~2の計算に利用される不純物元素の含有量である「SUM」は重量%で、鋼種1の場合、Cu(0.004%)、Co(0.003%)、その他の希土類元素の合計(0.003%)で、鋼種2の場合、Cu(0.002%)、Co(0.004%)、その他の希土類元素の合計(0.004%)で、鋼種3の場合、Cu(0.003%)、Co(0.02%)、その他希土類元素の合計(0.007%)で、鋼種4の場合、Cu(0.005%)、Co(0.01%)、その他の希土類元素の合計(0.01%)で、鋼種5の場合、Cu(0.015%)、Co(0.01%)、その他の希土類元素の合計(0.01%)で、そして鋼種6の場合、Cu(0.01%)、Co(0.015%)、その他の希土類元素の合計(0.01%)で組成されている。
【0050】
【表2】
【0051】
表1~2及び図1に示したように、本発明のクロム鋼板の場合、NIMSで提供した結果と比較したとき、クロム9重量%を含むASTM A213 Grade 91及び92の鋼材よりもさらに優れたクリープ寿命を有することが分かる。また、本発明の鋼組成成分を満たす鋼種2~6がそうでない鋼種1に比べてクリープ特性が非常に優れることが確認できる。特に、鋼種5~6は、鋼種2~4に対してクリープ寿命がさらに増大するが、具体的には、温度600℃及び作用応力250MPaの条件で優れたクリープ変形抑制能を示し、1000時間が経過しても高温及び作用応力に耐えることが分かる。
【0052】
図2は、鋼種1、3-1、4-1の温度600℃及び作用応力125MPaの条件で測定された時間の流れによるクリープ変形率である。比較例である鋼種1の場合、クリープ変形が速く行われ、最終的には6427時間にクリープ破断したが、発明例である鋼種3-1及び4-1は、鋼種1に対してクリープ変形抑制能を示し、数万時間が経過しても高温及び作用応力に耐えることが分かる。
【0053】
図3は、1000℃で30分間再加熱した後、焼きならし処理して常温まで冷却し、そして、700℃で30分間焼戻しした鋼種1と4-1鋼板の微細組織の観察結果を示した走査電子顕微鏡の写真であり、図4は、鋼種1と4-1鋼板の析出物分布を観察した透過電子顕微鏡の写真である。
発明例として鋼種4-1は、すべての粒内及び亜結晶粒界に沿って微細な炭窒化物の析出のみを示しているが、このような炭窒化物は、高温での轉位移動を効果的に妨げるのみならず、マルテンサイト/ベイナイトを有する鋼種内の亜結晶粒の移動も効果的に防いで安定性を確保することで、従来のクロム鋼に比べてクリープ特性が大きく改善されたことが表2から分かる。つまり、亜結晶粒を有する微細組織であるマルテンサイト及びベイナイトを含むすべての鋼種において、微細な炭窒化物のみを析出させることがクリープ寿命の増大に非常に効果的であることが分かる。
また、鋼種5~6は、微細な炭窒化物のみの効果だけでなく、追加的なモリブデンの固溶強化効果によりクリープ強度が増加すると予想される。
これに対して、鋼種1は粗大な(Fe、Cr)23炭化物の形成によりクリープ特性が鋼種2~6に対して良好でないことが確認できる。
【0054】
連続鋳造や溶接中に表面クラックの発生確率を把握することができる高温延性の場合(高温延性が増加すると表面クラックが発生する確率が減少)、表2及び図5~6のようにバナジウム、ニッケル、及びモリブデンの含有量の増加によって断面収縮率が増加して高温延性が増加する。バナジウムは、結晶粒界に粗大に形成される(Fe、Cr)23炭化物の形成を防いで本発明例の鋼種2-1から4-4まで関係式1を満たして断面収縮率が20%以上となった。発明例の鋼種5-1から6-4までは関係式1及び関係式3を同時に満たす化学組成を有し、これにより、断面収縮率は40%以上と他の鋼種に比べて非常に高い延性を示している。結果的には、本発明において、粗大炭化物の形成抑制、微細炭窒化物の導入及びニッケルとモリブデンなどの追加的な固溶元素を用い、提示した熱処理方法によって製造された鋼は、優れた高温クリープ強度及び高温延性を示すことが確認できる。
【0055】
本発明は、上記実現例及び実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形で製造することができ、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須特徴を変更せずに、他の具体的な形で実施することができると理解できる。したがって、以上に記述した実現例及び実施例は、すべての面で例示的であり、限定的ではないものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】