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特表2022-548062亢進したDNA産生を有する修飾型細菌レトロエレメント
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-16
(54)【発明の名称】亢進したDNA産生を有する修飾型細菌レトロエレメント
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/87 20060101AFI20221109BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221109BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221109BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221109BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221109BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221109BHJP
   C12P 19/34 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C12N15/87 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P19/34 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022516205
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(85)【翻訳文提出日】2022-04-25
(86)【国際出願番号】 US2020050323
(87)【国際公開番号】W WO2021050822
(87)【国際公開日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】62/899,625
(32)【優先日】2019-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517352418
【氏名又は名称】ザ ジェイ. デビッド グラッドストーン インスティテューツ、 ア テスタメンタリー トラスト エスタブリッシュド アンダー ザ ウィル オブ ジェイ. デビッド グラッドストーン
(71)【出願人】
【識別番号】507044516
【氏名又は名称】プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】シップマン、セス
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AF27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA20
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA23
4B065CA60
(57)【要約】
マルチコピー一本鎖DNA(msDNA)の産生を亢進させるように修飾された改変レトロンが提供される。加えて、かかる改変レトロンをコードするベクターシステム並びにCRISPR/Cas媒介ゲノム編集、リコンビニアリング、細胞バーコーディング及び分子レコーディングなどの様々な適用において改変レトロン及びそれをコードするベクターシステムを使用する方法も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変レトロンであって、
a)msr前配列;
b)マルチコピー一本鎖RNA(msRNA)をコードするmsr遺伝子;
c)マルチコピー一本鎖DNA(msDNA)をコードするmsd遺伝子;
d)前記msr前配列との配列相補性を有する自己相補性領域を含むmsd後配列であって、前記自己相補性領域は、野生型相補性領域よりも1~50ヌクレオチド長い長さを有し、それにより、前記改変レトロンは、前記msDNAの亢進した産生が可能である、msd後配列;及び
e)逆転写酵素をコードするret遺伝子
を含む改変レトロン。
【請求項2】
目的の異種配列を更に含む、請求項1に記載の改変レトロン。
【請求項3】
前記異種配列は、前記msr遺伝子又は前記msd遺伝子に挿入される、請求項2に記載の改変レトロン。
【請求項4】
前記msd遺伝子によってコードされる前記一本鎖DNA(msDNA)は、msdステムループを含み、前記ループは、目的の異種配列を含む、請求項1に記載の改変レトロン。
【請求項5】
前記異種配列は、相同組換え修復(HDR)又はリコンビニアリングによって標的遺伝子座に組み込まれる意図される編集を含むヌクレオチド配列に隣接している、5’標的配列にハイブリダイズする5’相同性アームと、3’標的配列にハイブリダイズする3’相同性アームとを含むドナーポリヌクレオチドをコードする、請求項2に記載の改変レトロン。
【請求項6】
前記異種配列は、CRISPRプロトスペーサDNA配列を含む、請求項2に記載の改変レトロン。
【請求項7】
前記CRISPRプロトスペーサDNA配列は、修飾されたAAGプロトスペーサ隣接モチーフ(PAM)を含む、請求項6に記載の改変レトロン。
【請求項8】
バーコード配列を更に含む、請求項1に記載の改変レトロン。
【請求項9】
前記バーコード配列は、前記msDNAのヘアピンループに位置する、請求項8に記載の改変レトロン。
【請求項10】
前記msdステムは、少なくとも14ヌクレオチド(塩基対)長である、請求項4に記載の改変レトロン。
【請求項11】
前記msdステムは、1つ以上のミスマッチヌクレオチドを含み得る、請求項4に記載の改変レトロン。
【請求項12】
前記msdステムは、5又は6つ未満の連続するミスマッチヌクレオチドを有する、請求項4に記載の改変レトロン。
【請求項13】
前記msdステムは、msdステム基端に隣接する配列にいかなるミスマッチ又は挿入も有しない、請求項4に記載の改変レトロン。
【請求項14】
野生型msd配列に対する任意のmsdステムミスマッチ又は配列変化は、前記msdステムの中央内にある、請求項4に記載の改変レトロン。
【請求項15】
前記msr遺伝子及び前記msd遺伝子は、トランス構成又はシス構成で提供される、請求項1に記載の改変レトロン。
【請求項16】
前記ret遺伝子は、前記msr遺伝子及び前記msd遺伝子に対してトランス構成で提供される、請求項1に記載の改変レトロン。
【請求項17】
前記msr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子は、修飾された細菌性レトロンmsr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子である、請求項1に記載の改変レトロン。
【請求項18】
前記msr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子は、独立に、修飾された粘液細菌レトロン、修飾された大腸菌(Escherichia coli)レトロン、修飾されたサルモネラ菌(Salmonella enterica)レトロン又は修飾されたコレラ菌(Vibrio cholerae)レトロンである、請求項1に記載の改変レトロン。
【請求項19】
前記修飾された大腸菌(Escherichia coli)レトロンは、修飾されたEC83又は修飾されたEC86である、請求項18に記載の改変レトロン。
【請求項20】
請求項1に記載の改変レトロンを含む1つ以上のベクターを含むベクターシステム。
【請求項21】
前記msr遺伝子及び前記msd遺伝子は、同じベクター又は異なるベクターによって提供される、請求項20に記載のベクターシステム。
【請求項22】
前記msr遺伝子、前記msd遺伝子及び前記ret遺伝子は、同じベクターによって提供される、請求項20に記載のベクターシステム。
【請求項23】
前記同じベクターは、前記msr遺伝子及び前記msd遺伝子に作動可能に連結されたプロモータを含む、請求項22に記載のベクターシステム。
【請求項24】
前記プロモータは、前記ret遺伝子に更に作動可能に連結される、請求項23に記載のベクターシステム。
【請求項25】
前記ret遺伝子に作動可能に連結された第2のプロモータを更に含む、請求項23に記載のベクターシステム。
【請求項26】
前記msr遺伝子、前記msd遺伝子及び前記ret遺伝子は、異なるベクターによって提供される、請求項20に記載のベクターシステム。
【請求項27】
前記1つ以上のベクターは、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターである、請求項20に記載のベクターシステム。
【請求項28】
前記非ウイルスベクターは、プラスミドである、請求項27に記載のベクターシステム。
【請求項29】
前記改変レトロンは、相同組換え修復(HDR)又はリコンビニアリングによって標的遺伝子座に組み込まれる意図される編集を含むヌクレオチド配列に隣接している、5’標的配列にハイブリダイズする5’相同性アームと、3’標的配列にハイブリダイズする3’相同性アームとを含むドナーポリヌクレオチドを含む、請求項20に記載のベクターシステム。
【請求項30】
RNA誘導型ヌクレアーゼをコードするベクターを更に含む、請求項29に記載のベクターシステム。
【請求項31】
前記RNA誘導型ヌクレアーゼは、Casヌクレアーゼ又は改変されたRNA誘導型FokIヌクレアーゼである、請求項30に記載のベクターシステム。
【請求項32】
前記Casヌクレアーゼは、Cas9又はCpf1である、請求項31に記載のベクターシステム。
【請求項33】
前記改変レトロンは、CRISPRプロトスペーサDNA配列を含む、請求項20に記載のベクターシステム。
【請求項34】
Cas1及び/又はCas2タンパク質をコードするベクターを更に含む、請求項33に記載のベクターシステム。
【請求項35】
CRISPRアレイ配列を含むベクターを更に含む、請求項34に記載のベクターシステム。
【請求項36】
バクテリオファージ相同組換えタンパク質をコードするベクターを更に含む、請求項20に記載のベクターシステム。
【請求項37】
前記バクテリオファージ相同組換えタンパク質をコードする前記ベクターは、exo、bet及びgam遺伝子を含む複製欠損λプロファージである、請求項36に記載のベクターシステム。
【請求項38】
請求項1に記載の改変レトロン又は請求項20に記載のベクターシステムを含む単離宿主細胞。
【請求項39】
前記宿主細胞は、原核、古細菌又は真核宿主細胞である、請求項38に記載の宿主細胞。
【請求項40】
前記真核宿主細胞は、哺乳類宿主細胞である、請求項39に記載の宿主細胞。
【請求項41】
前記哺乳類宿主細胞は、ヒト宿主細胞である、請求項40に記載の宿主細胞。
【請求項42】
前記宿主細胞は、人工細胞又は遺伝子修飾細胞である、請求項38に記載の宿主細胞。
【請求項43】
請求項1に記載の改変レトロン、請求項20に記載のベクターシステム又は請求項38に記載の宿主細胞を含むキット。
【請求項44】
前記改変レトロンで細胞を遺伝子修飾するための説明書を更に含む、請求項43に記載のキット。
【請求項45】
細胞を遺伝子修飾する方法であって、
a)細胞に、請求項5に記載の改変レトロンをトランスフェクトすること;
b)前記細胞にRNA誘導型ヌクレアーゼ及びガイドRNAを導入することであって、前記RNA誘導型ヌクレアーゼは、前記ガイドRNAと複合体を形成し、前記ガイドRNAは、前記複合体を前記ゲノム標的遺伝子座に導き、前記RNA誘導型ヌクレアーゼは、前記ゲノム標的遺伝子座においてゲノムDNAに二本鎖切断を作り出し、及び前記改変レトロンによって生成される前記ドナーポリヌクレオチドは、その5’相同性アーム及び3’相同性アームによって認識される前記ゲノム標的遺伝子座に相同組換え修復(HDR)によって組み込まれて、遺伝子修飾細胞を産生する、導入すること
を含む方法。
【請求項46】
前記RNA誘導型ヌクレアーゼは、Casヌクレアーゼ又は改変されたRNA誘導型FokIヌクレアーゼである、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
Casヌクレアーゼは、Cas9又はCpf1である、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記RNA誘導型ヌクレアーゼは、前記細胞のゲノムに組み込まれたベクター又は組換えポリヌクレオチドによって提供される、請求項45に記載の方法。
【請求項49】
前記改変レトロンは、ベクターによって提供される、請求項45に記載の方法。
【請求項50】
前記ドナーポリヌクレオチドは、遺伝子置換、遺伝子ノックアウト、欠失、挿入、逆位又は点突然変異を作り出すために使用される、請求項45に記載の方法。
【請求項51】
細胞をリコンビニアリングによって遺伝子修飾する方法であって、前記方法は、
a)前記細胞に、請求項5に記載の改変レトロンをトランスフェクトすること;及び
b)前記細胞にバクテリオファージ組換えタンパク質を導入することであって、前記バクテリオファージ組換えタンパク質は、標的遺伝子座における相同組換えを媒介し、それにより、前記改変レトロンによって生成される前記ドナーポリヌクレオチドは、その5’相同性アーム及び3’相同性アームによって認識される前記標的遺伝子座に組み込まれて、遺伝子修飾細胞を産生する、導入すること
を含む方法。
【請求項52】
前記ドナーポリヌクレオチドは、前記細菌細胞のプラスミド、細菌人工染色体(BAC)又は細菌染色体をリコンビニアリングによって修飾するために使用される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記ドナーポリヌクレオチドは、遺伝子置換、遺伝子ノックアウト、欠失、挿入、逆位又は点突然変異を作り出すことができる、請求項51に記載の方法。
【請求項54】
前記細胞にバクテリオファージ組換えタンパク質を前記導入することは、細菌ゲノムへの複製欠損λプロファージの挿入を含む、請求項51に記載の方法。
【請求項55】
前記バクテリオファージは、exo、bet及びgam遺伝子を含む、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
細胞をバーコーディングする方法であって、細胞に、請求項8に記載の改変レトロンをトランスフェクトすることを含む方法。
【請求項57】
インビボ分子レコーディングシステムを作製する方法であって、
a)CRISPR適応システムのCaslタンパク質又はCas2タンパク質を宿主細胞に導入すること;
b)リーダ配列及び少なくとも1つのリピート配列を含むCRISPRアレイ核酸配列を前記宿主細胞に導入することであって、前記CRISPRアレイ核酸配列は、前記宿主細胞内のゲノムDNA又はベクターに組み込まれる、導入すること;及び
c)請求項10又は11に記載の複数の改変レトロンを前記宿主細胞に導入することであって、各レトロンは、プロセシングされ、且つ前記CRISPRアレイ核酸配列に挿入され得る異なるプロトスペーサDNA配列を含む、導入すること
を含む方法。
【請求項58】
前記Caslタンパク質又は前記Cas2タンパク質は、ベクターによって提供される、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記改変レトロンは、ベクターによって提供される、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
前記複数の改変レトロンは、少なくとも3つの異なるプロトスペーサDNA配列を含む、請求項57に記載の方法。
【請求項61】
インビボ分子レコーディングシステムを含む改変細胞であって、
a)CRISPR適応システムのCaslタンパク質又はCas2タンパク質;
b)宿主細胞へのリーダ配列及び少なくとも1つのリピート配列を含むCRISPRアレイ核酸配列であって、前記改変細胞内のゲノムDNA又はベクターに組み込まれるCRISPRアレイ核酸配列;及び
c)請求項6に複数の記載の改変レトロンであって、各レトロンは、プロセシングされ、且つ前記CRISPRアレイ核酸配列に挿入され得る異なるプロトスペーサDNA配列を含む、複数の改変レトロン
を含む改変細胞。
【請求項62】
前記Caslタンパク質又は前記Cas2タンパク質は、ベクターによって提供される、請求項61に記載の改変細胞。
【請求項63】
前記改変レトロンは、ベクターによって提供される、請求項61に記載の改変細胞。
【請求項64】
前記複数の改変レトロンは、少なくとも3つの異なるプロトスペーサDNA配列を含む、請求項61に記載の改変細胞。
【請求項65】
請求項61に記載の改変細胞と、インビボ分子レコーディングのための説明書とを含むキット。
【請求項66】
組換えmsDNAを作製する方法であって、
a)宿主細胞に、請求項1に記載の改変レトロン又は請求項20に記載のベクターシステムをトランスフェクトすること;及び
b)前記宿主細胞を好適な条件下で培養することであって、前記msDNAは、産生される、培養すること
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亢進したDNA産生を有する修飾型細菌レトロエレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
レトロンは、逆転写を受けるエレメントであり、ほぼ全ての粘液細菌(非特許文献1)に見られると共に、大腸菌(E.coli)(非特許文献2)、コレラ菌(V.cholerae)(非特許文献3)及び他の細菌にも僅かに見られる。レトロンオペロンは、RNAプライマー(マルチコピー一本鎖RNA、msr)、逆転写されるRNA配列(マルチコピー一本鎖DNA、msd)及び逆転写酵素をこの順番にコードする。レトロン転写物は、それ自体が折り返されるように畳まれたものであり、一部が逆転写されることによって約80塩基の一本鎖DNA(ssDNA:single stranded DNA)を生成する。レトロン由来のDNAは、一本鎖であるが、これは、二本鎖DNAのヘアピンを含む。複数のレトロンssDNAが互いに相補体となって、大型の二本鎖エレメントも形成し得る。レトロン変異体は、DNA長さ及び塩基含有量が異なるが、大まかにはこの全体的なフォーマットを共有している。
【0003】
レトロンによって生成されるssDNAは、2つのコンテクストでゲノム改変に用いられている。細菌のコンテクストでは、λ Redβリコンビナーゼによるリコンビニアリングに用いられ(非特許文献4);及び真核生物のコンテクストでは、Cas9編集の相同組換え修復(HDR:homology-directed repair)鋳型として(非特許文献5)酵母で用いられている。これらの適用は、極めて有望であるものの、予想を超える効率の悪さ及びコンテクスト上の制約に直面しており、これらは、内因性形態のレトロンにおける諸要因から生じると見られている。それらの要因には、(1)リン酸ジエステル結合がssDNAの5’末端をmsr RNAの2’ヒドロキシルに連結する分枝状の構造、(2)レトロン逆転写に必要であり得るが、修復鋳型の一部ではないインバリアントな隣接領域、(3)限られた全長、及び(4)Pol III転写のターミネータとして機能する天然ポリTストレッチがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ドゥンダール(Dhundale)ら著、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(Journal of Bacteriology)、第164巻、p.914~917、1985年
【非特許文献2】ランプソン(Lampson)ら著、サイエンス(Science)、第243巻、p.1033~1038、1989年
【非特許文献3】イノウエ(Inouye)ら著、マイクロバイオロジー・アンド・イムノロジー(Microbiology and Immunology)、第55巻、p.510~513
【非特許文献4】ファルザドファルド(Farzadfard)ら著、サイエンス(Science)、第346巻、p.1256272、2014年
【非特許文献5】シャロン(Sharon)ら著、セル(Cell)、第175巻、p.544~557、e516、2018年
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
マルチコピー一本鎖DNA(msDNA:multicopy single-stranded DNA)の産生を亢進させる(enhance)ように修飾された改変レトロンが提供され、これは、効率及び低コピー数に関連する既存の問題の多くを解決するものである。本明細書には、かかる改変レトロンをコードするベクターシステム並びにCRISPR/Cas媒介ゲノム編集、リコンビニアリング、細胞バーコーディング及び分子レコーディングなどの様々な適用において改変レトロン及びベクターシステムを使用する方法も記載される。
【0006】
一態様において、改変レトロンが提供され、この改変レトロンは、a)msr前配列(pre-msr sequence);b)マルチコピー一本鎖RNA(msRNA:multicopy single-stranded RNA)をコードするmsr遺伝子;c)マルチコピー一本鎖DNA(msDNA)をコードするmsd遺伝子;d)msr前配列との配列相補性を有する自己相補性領域を含むmsd後配列(post-msd sequence)であって、自己相補性領域は、野生型相補性領域よりも少なくとも1~50ヌクレオチド長い長さを有し、それにより、改変レトロンは、msDNAの亢進した産生が可能である、msd後配列;及びe)逆転写酵素をコードするret遺伝子を含む。
【0007】
自己相補性領域は、ncRNAの3’末端と5’末端との間の水素結合によって形成される。特定の実施形態において、相補性領域は、野生型相補性領域よりも少なくとも1、少なくとも2、少なくとも4、少なくとも6、少なくとも8、少なくとも10、少なくとも12、少なくとも14、少なくとも16、少なくとも18、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40又は少なくとも50ヌクレオチド長い長さを有する。例えば、自己相補性領域は、野生型相補性領域よりも1~50ヌクレオチドの範囲で長い長さ、例えばこの範囲内にある任意の長さを含めて、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49又は50ヌクレオチド長い長さなどを有し得る。特定の実施形態において、自己相補性領域は、野生型相補性領域よりも1~16ヌクレオチドの範囲で長い長さを有する。
【0008】
特定の実施形態において、msr遺伝子及びmsd遺伝子は、トランス構成又はシス構成で提供される。一部の実施形態において、ret遺伝子は、msr遺伝子及び/又はmsd遺伝子に対してトランス構成で提供される。
【0009】
特定の実施形態において、msr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子は、限定なしに、粘液細菌レトロン(例えば、Mx65、Mx162)、大腸菌(Escherichia coli)レトロン(例えば、E67、Ec73、EC83、EC86、EC107)、サルモネラ菌(Salmonella enterica)レトロン(例えば、msDNA-St85)及びコレラ菌(Vibrio cholerae)レトロン(例えば、Vc81、Vc95、Vc137)を含めた細菌性レトロンに由来する。
【0010】
特定の実施形態において、改変レトロンは、目的の異種配列を更に含む。異種配列は、例えば、msr遺伝子又はmsd遺伝子に挿入され得る。例えば、異種配列は、msdステムループのループに挿入することができる。一部の実施形態において、異種配列は、ポリペプチド又はペプチドをコードする。他の実施形態において、異種配列は、相同組換え修復(HDR)又はリコンビニアリングによってゲノム標的遺伝子座に組み込まれる意図される編集を含むヌクレオチド配列に隣接している、5’ゲノム標的配列にハイブリダイズする5’相同性アームと、3’ゲノム標的配列にハイブリダイズする3’相同性アームとを含むドナーポリヌクレオチドをコードする。更に他の実施形態において、異種配列は、CRISPRプロトスペーサDNA配列を含む。一実施形態において、CRISPRプロトスペーサDNA配列は、修飾された「AAG」プロトスペーサ隣接モチーフ(PAM:protospacer adjacent motif)を含む。
【0011】
特定の実施形態において、改変レトロンは、バーコード配列を更に含む。バーコード配列は、例えば、msDNAのヘアピンループに位置し得る。
別の態様において、ベクターシステムが提供され、このベクターシステムは、本明細書に記載される改変レトロンを含む1つ以上のベクターを含む。特定の実施形態において、msr遺伝子及びmsd遺伝子は、同じベクター又は異なるベクターによって提供される。一部の実施形態において、msr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子は、同じベクターによって提供され、このベクターは、msr遺伝子及びmsd遺伝子に作動可能に連結されたプロモータを含む。一部の実施形態において、プロモータは、ret遺伝子に更に作動可能に連結される。他の実施形態において、ベクターは、ret遺伝子に作動可能に連結された第2のプロモータを更に含む。特定の実施形態において、msr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子は、異なるベクターによって提供される。
【0012】
特定の実施形態において、ベクターシステムのベクターの1つ以上は、ウイルスベクター又は非ウイルスベクター(例えば、プラスミド)である。
特定の実施形態において、ベクターシステムは、ドナーポリヌクレオチド配列に隣接している、5’ゲノム標的配列にハイブリダイズする5’相同性アームと、3’ゲノム標的配列にハイブリダイズする3’相同性アームとを含むドナーポリヌクレオチドをコードする異種配列を含む改変レトロンを含む。ドナーポリヌクレオチド配列は、例えば、相同組換え修復(HDR)又はリコンビニアリングにより、ゲノム標的遺伝子座を置換又は編集することができる。
【0013】
特定の実施形態において、ベクターシステムは、RNA誘導型ヌクレアーゼをコードするベクターを更に含む。例示的RNA誘導型ヌクレアーゼとしては、限定なしに、Casヌクレアーゼ(例えば、Cas9、Cpf1)及び改変されたRNA誘導型FokIヌクレアーゼが挙げられる。
【0014】
特定の実施形態において、ベクターシステムは、リコンビニアリングのためのバクテリオファージ組換えタンパク質をコードするベクターを更に含む。一部の実施形態において、ベクターは、バクテリオファージ組換えタンパク質をコードする複製欠損プロファージである。
【0015】
特定の実施形態において、ベクターシステムは、CRISPRプロトスペーサDNA配列をコードする異種配列を含む改変レトロンを含む。一部の実施形態において、ベクターシステムは、Cas1又はCas2タンパク質をコードするベクターを更に含む。一部の実施形態において、ベクターシステムは、CRISPRアレイ配列を含むベクターを更に含む。
【0016】
別の態様において、単離宿主細胞が提供され、この宿主細胞は、本明細書に記載される改変レトロン又はベクターシステムを含む。
特定の実施形態において、宿主細胞は、原核、古細菌又は真核宿主細胞である。例えば、宿主細胞は、細菌、原生生物、真菌、動物又は植物宿主細胞であり得る。一部の実施形態において、宿主細胞は、哺乳類宿主細胞である。宿主細胞は、ヒト又は非ヒト哺乳類宿主細胞であり得る。他の実施形態において、宿主細胞は、人工細胞又は遺伝子修飾細胞である。
【0017】
別の態様において、本明細書に記載される改変レトロン又はかかる改変レトロンを含むベクターシステム若しくは宿主細胞を含むキットが提供される。一部の実施形態において、キットは、改変レトロンの使用方法に関する説明書を更に含む。
【0018】
別の態様において、細胞を遺伝子修飾する方法が提供される。ある場合には、本方法は、細胞に改変レトロンをトランスフェクトすることを含む。例えば、本方法は、a)相同組換え修復(HDR)によってゲノム標的遺伝子座に組み込まれる意図される編集を含むヌクレオチド配列に隣接している、5’ゲノム標的配列にハイブリダイズする5’相同性アームと、3’ゲノム標的配列にハイブリダイズする3’相同性アームとを含むドナーポリヌクレオチドをコードする異種配列を含む改変レトロンを細胞にトランスフェクトすること;及びb)細胞にRNA誘導型ヌクレアーゼ及びガイドRNAを導入することであって、RNA誘導型ヌクレアーゼは、ガイドRNAと複合体を形成し、前記ガイドRNAは、複合体をゲノム標的遺伝子座に導き、RNA誘導型ヌクレアーゼは、ゲノム標的遺伝子座においてゲノムDNAに二本鎖切断を作り出し、及び改変レトロンによって生成されるドナーポリヌクレオチドは、その5’相同性アーム及び3’相同性アームによって認識されるゲノム標的遺伝子座に相同組換え修復(HDR)によって組み込まれる、導入することを含み得る。ドナーポリヌクレオチドをコードする改変レトロンによるHDRを用いて、例えば遺伝子置換、遺伝子ノックアウト、欠失、挿入、逆位又は点突然変異を作り出すことができる。ある場合には、ドナーポリヌクレオチドをコードする改変レトロンによるHDRを用いて、例えば遺伝子、遺伝子ノックアウト、欠失、挿入、逆位又は点突然変異を修復することができる。従って、かかる方法は、遺伝子修飾細胞を作り出すことができる。一部の実施形態において、本方法は、遺伝子修飾細胞の表現型タイピングを行うこと又は遺伝子修飾細胞のゲノムをシーケンシングすることを更に含む。
【0019】
別の態様において、細胞をリコンビニアリングによって遺伝子修飾する方法が提供され、この方法は、a)リコンビニアリングによってゲノム標的遺伝子座に組み込まれる意図される編集を含むヌクレオチド配列に隣接している、5’ゲノム標的配列にハイブリダイズする5’相同性アームと、3’ゲノム標的配列にハイブリダイズする3’相同性アームとを含むドナーポリヌクレオチドをコードする異種配列を含む改変レトロンを細胞にトランスフェクトすること;及びb)細胞にバクテリオファージ組換えタンパク質を導入することであって、バクテリオファージ組換えタンパク質は、標的遺伝子座における相同組換えを媒介し、それにより、改変レトロンによって生成されるドナーポリヌクレオチドは、その5’相同性アーム及び3’相同性アームによって認識される標的遺伝子座に組み込まれて、遺伝子修飾細胞を産生する、導入することを含む。ドナーポリヌクレオチドをコードする改変レトロンによるリコンビニアリングを用いて、例えば遺伝子置換、遺伝子ノックアウト、欠失、挿入、逆位又は点突然変異を作り出すことができる。特定の実施形態において、ドナーポリヌクレオチドを使用して、細菌細胞のプラスミド、細菌人工染色体(BAC:bacterial artificial chromosome)又は細菌染色体がリコンビニアリングによって修飾される。一部の実施形態において、本方法は、遺伝子修飾細胞の表現型タイピングを行うこと又は遺伝子修飾細胞のゲノムをシーケンシングすることを更に含む。
【0020】
特定の実施形態において、バクテリオファージ組換えタンパク質は、細菌ゲノムへの複製欠損λプロファージの挿入によって細菌細胞に導入される。一実施形態において、バクテリオファージは、exo、bet及びgam遺伝子を含む。
【0021】
別の態様において、細胞をバーコーディングする方法が提供され、この方法は、本明細書に記載されるとおりのバーコードを含む改変レトロンを細胞にトランスフェクトすることを含む。
【0022】
別の態様において、インビボ分子レコーディングシステムを作製する方法が提供され、この方法は、a)CRISPR適応システムのCaslタンパク質又はCas2タンパク質を宿主細胞に導入すること;b)リーダ配列及び少なくとも1つのリピート配列を含むCRISPRアレイ核酸配列を宿主細胞に導入することであって、CRISPRアレイ核酸配列は、宿主細胞内のゲノムDNA又はベクターに組み込まれる、導入すること;及びc)CRISPRプロトスペーサDNA配列を含む複数の改変レトロンを宿主細胞に導入することであって、各レトロンは、プロセシングされ、且つCRISPRアレイ核酸配列に挿入され得る異なるプロトスペーサDNA配列を含む、導入することを含む。特定の実施形態において、Caslタンパク質又はCas2タンパク質は、ベクターによって提供される。特定の実施形態において、改変レトロンは、ベクターによって提供される。特定の実施形態において、複数の改変レトロンは、少なくとも3つの異なるプロトスペーサDNA配列を含む。
【0023】
別の態様において、インビボ分子レコーディングシステムを含む改変細胞が提供され、この改変細胞は、a)CRISPR適応システムのCaslタンパク質又はCas2タンパク質;b)宿主細胞へのリーダ配列及び少なくとも1つのリピート配列を含むCRISPRアレイ核酸配列であって、改変細胞内のゲノムDNA又はベクターに組み込まれるCRISPRアレイ核酸配列;及びc)複数の改変レトロンであって、それぞれCRISPRプロトスペーサDNA配列を含み、各レトロンは、プロセシングされ、且つCRISPRアレイ核酸配列に挿入され得る異なるプロトスペーサDNA配列を含む、改変レトロンを含む。特定の実施形態において、Caslタンパク質又はCas2タンパク質は、ベクターによって提供される。特定の実施形態において、改変レトロンは、ベクターによって提供される。特定の実施形態において、複数の改変レトロンは、少なくとも3つの異なるプロトスペーサDNA配列を含む。
【0024】
別の態様において、本明細書に記載されるとおりのインビボ分子レコーディングシステムを含む改変細胞を含むキットが提供される。一部の実施形態において、キットは、インビボ分子レコーディングのための説明書を更に含む。
【0025】
別の態様において、組換えmsDNAを作製する方法が提供され、この方法は、a)本明細書に記載される改変レトロン又はベクターシステムを宿主細胞にトランスフェクトすること;及びb)宿主細胞を好適な条件下で培養することであって、msDNAは、産生される、培養することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1A】レトロンオペロンの概略図及びレトロンの潜在的用途を示す。図1Aは、msr、msd及び逆転写酵素をコードするレトロンオペロンの概略図を示し、逆転写酵素は、マルチコピー一本鎖DNAをコードするmsd遺伝子の一部分のDNAコピーを合成することができる。
図1B】レトロンオペロンの概略図及びレトロンの潜在的用途を示す。図1Bは、リコンビニアリングがレトロンの潜在的用途であることを図示し、Betaは、ssDNAを保護することができ、及びssDNAが相補ssDNA標的、例えば細胞内のDNA標的にアニーリングすることを促進し得る。
図1C】レトロンオペロンの概略図及びレトロンの潜在的用途を示す。図1Cは、CRISPR/Cas9遺伝子編集がレトロンの潜在的用途であることを図示し、レトロンは、変異体又は突然変異体標的部位を修復し得るssDNA鋳型を提供することができる。
図1D】レトロンオペロンの概略図及びレトロンの潜在的用途を示す。図1Dは、分子レコーディングがレトロンの潜在的用途であることを図示する(例えば、国際公開第2018191525 A1号パンフレット(これは、全体として参照により本明細書に具体的に援用される)に提供されるとおり)。
図2A】レトロン要因(retron elements)及びそのアセンブリを示す。図2Aは、レトロン要因を示す:(1)msr及び逆転写されるmsdの5’末端が2’-5’連結でプライミンググアノシンに共有結合的に結合しており、この分枝状の構造がゲノム改変における使用の妨げとなり、(2)レトロン逆転写に必要であり得るインバリアントな隣接領域、そのため、これは、容易に修復鋳型の一部となり得ず、(3)現在のところ全長が限られていると考えられているステム。ゲノム改変上の別の問題は、Pol III転写のターミネータとして機能する天然レトロンポリTストレッチである。
図2B】レトロン要因及びそのアセンブリを示す。図2Bは、レトロンオペロンの非タンパク質コード(msr-msd)部分が、顕著な二次構造を有する転写物を産生すること、及び逆転写酵素(RT:reverse transcriptase)がこの転写物中の特定の開始部位を認識し、次に転写物をRT-DNA(msd)に部分的に逆転写することを図示する。
図3A図3Aは、野生型ec86(レトロン-Eco1 ncRNAとも称される)の塩基構造を示し、逆転写後、一番上のmsd DNA(配列番号1、GTCAGAAAAAACGGGTTTCCTGGTTGGCTCGGAGAGCATCAGGCGATGCTCTCCGTTCCAACAAGGAAAACAGACAGTAACTCAGA)及びmsr RNAが下の方の配列である(配列番号2 - AUGCGCACCCUUAGCGAGAGGUUUAUCAUUAAGGUCAACCUCUGGAUGUUGUUUCGGCAUCCUGCAUUGAAUCUGAGUUACU)。
図3B図3Bは、qPCR分析によって検出したときの、ec86の発現後に産生されたssDNAの定量を図示する。
図3C図3Cは、野生型及び変異体msdのPAGE分析を示す。
図3D図3Dは、2つの変異体msd、ec86野生型から変化させたレトロン-Eco1 v32 ncRNA(GTCAGAAAAAACGGGTTGTCGCCAGTCTGACTGGCGACAAACAGCTTGTAACTCAGA、配列番号3)及びv32 ncRNAから変化させたレトロン-Eco1 v35 ncRNA(GTCAGAAAAAACGGGTGGAGAGGTTGCTGCAACCTCTCCATTTTCTTGTAACTCAGA、配列番号4)の塩基構造を示す。
図4A】伸長型msd ssDNAを産生するための発現システムを図示する。図4Aは、msr/msdをレトロン逆転写酵素(RT)と分ける発現コンストラクトを示し、これにより、より長い(修飾された)逆転写msd ssDNAの産生が可能となる。
図4B】伸長型msd ssDNAを産生するための発現システムを図示する。図4Bは、逆転写酵素コード領域と離れている(それに対してトランスの)発現カセットにおけるmsr及びmsdの構成を示す。
図4C】伸長型msd ssDNAを産生するための発現システムを図示する。図4Cは、逆転写酵素コード領域と離れている(それに対してトランスの)msr/msd発現カセットにおけるmsd ssDNAの幾つかの伸長を図示し、異種配列を取り入れるため、msd領域を大きく拡張し得ることを示している。
図4D】伸長型msd ssDNAを産生するための発現システムを図示する。図4Dは、図4A図4Cに示されるとおり産生された伸長型msd ssDNAを含め、msd ssDNAのPAGE分析を示す。
図5】修飾することができるレトロンパラメータを示す。
図6A図6Aは、カスタマイズしたシーケンシングプレップパイプラインを概略的に図示する。ssDNAをRNアーゼの存在下でRNAラリアット枝切り1(DBR1:debranching RNA lariat 1)によって処理し、次に鋳型非依存的ポリメラーゼ(TdT:template independent polymerase)を使用して一続きの単一種のポリヌクレオチドを付加し、アダプターを含有する逆アンカー型プライマーを使用して相補鎖を生成し、第2のアダプターをライゲートし、次にこのアダプターを連結した二本鎖DNAにインデックスを付加してマルチプレックスシーケンシングに供する(配列番号29)。
図6B図6Bは、TdTによって付加されるヌクレオチドの数が制御可能であることを示す。
図6C図6Cは、注文した(ordered)msd ssDNA ec86 v32配列を示し(GTCAGAAAAAACGGGTTGTCGCCAGTCTGACTGGCGACAAACAGCTTGTAACTCAGA、配列番号5)、シーケンシングによる確認を図示している。
図6D図6Dは、予想されるmsd ssDNA ec86 v 32配列を示し(GTCAGAAAAAACGGGTT GTCGCCAGTCTGACTGGCGACAAACAGCTTGTAACTCAGA、配列番号6)、シーケンシングの結果を図示している(GTCAGAAAAAACGGGTTGTCGCCAGTCTGACTGGCGACAAACAGCTTGTAACTCAG、配列番号7)。
図6E図6Eは、文献の野生型msd ssDNA ec86配列を示し(GTCAGAAAAAACGGGTTTCCTGGTTGGCTCGGAGAGCATCAGGCGATGCTCTCTCCGTTCCAACAAGGAAAACAGACAGTAACTCAGA、配列番号8)、シーケンシングの結果を図示している(GTCAGAAAAAACGGGTTTCCTGGTTGGCTCGGAGAGCATCAGGCGATGCTCTCTCCGTTCCAACAAGGAAAACAGACAGTAACTCAG、配列番号9)。
図6F図6Fは、文献の野生型msd ssDNA ec83配列を示し(TTGAAGCCGCGGAACAAACTTTTTGATCCGCAACCTACTGGATTGCGGCTCAAAAAGTTTGTTCCGCAACTGTAAATGTAATC、配列番号10)、シーケンシングの結果を図示している(AGCCGCGGAACAAACTTTTTGATCCGCAACCTACTGGATTGCGGCTCAAAAAGTTTGTTCCGCAACTGTAAATGTAATC、配列番号11)。
図7A】msd DNAの修飾を図示する。図7Aは、msd DNAで終わることになるバーコードへのレトロンRNAの変化の連結を概略的に図示する。
図7B】msd DNAの修飾を図示する。図7Bは、長いmsd後領域のない野生型レトロンと比較して長いmsd後相補性領域を有するレトロンからのssDNA産生の増加を示す。
図7C-1】msd DNAの修飾を図示する。図7C-1及び図7C-2は、レトロン非コードRNA(ncRNA:non-coding RNA)の5’末端及び3’末端における領域の伸長及び短縮を図示する。図7C-1は、使用した基本的なレトロン構造を概略的に図示し、ncRNA中の伸長した相補性領域は、黒色の実線で示される一方、残りのncRNAは、破線である。
図7C-2】msd DNAの修飾を図示する。図7C-1及び図7C-2は、レトロン非コードRNA(ncRNA:non-coding RNA)の5’末端及び3’末端における領域の伸長及び短縮を図示する。図7C-2は、ncRNA相補性領域の伸長によって野生型配列と比べたRT-DNAの存在量が増加し(ここで、野生型の存在量は、100%である)、しかし、ncRNA相補性領域の短縮によってRT-DNAの存在量が減少することをグラフで図示する。示されるデータは、変異体毎にプールした実験からのものである(n=3、レプリケートを示す)。
図8A】ncRNAの逆転写されるステムが短くなることによってssDNAの量が減少し得るが、ステムの伸長がssDNA産生に負の影響を及ぼさないことをグラフで図示する。図8Aは、修飾されるncRNA構造の一部分を概略的に図示し、ステム領域を黒色の実線で示す一方、残りのncRNAを破線で示す。
図8B】ncRNAの逆転写されるステムが短くなることによってssDNAの量が減少し得るが、ステムの伸長がssDNA産生に負の影響を及ぼさないことをグラフで図示する。図8Bは、ncRNA領域を約15~30ヌクレオチド伸長させると、伸長されていない野生型ncRNA配列に観察されるのとほぼ同じレベルのRT-DNAの存在量が維持され、しかしながら、ncRNA領域の長さが約14ヌクレオチド未満まで減少すると、伸長されていない野生型ncRNA配列と比較して、逆転写によって生成されるssDNAの量が減少することをグラフで図示する。
図9A】ncRNAの逆転写されたステム領域の破綻(breaking)及び修理(fixing)の効果を図示する。図9Aは、ncRNAの概略図であり、ncRNAの逆転写されたステム領域を黒色の実線で示す。
図9B】ncRNAの逆転写されたステム領域の破綻(breaking)及び修理(fixing)の効果を図示する。図9Bは、野生型配列と比べたncRNA構造変異体の逆転写されたDNAの存在量をグラフで図示する。データは、変異体毎にプールした実験からのものである。破綻したステム、修理されたステム及び許容できる破綻したステムのncRNA構造変異体についての配列は、実施例に提供する。
図10A】ncRNAの逆転写領域における挿入及び欠失が、ncRNAから逆転写されるDNAの存在量に及ぼす効果を図示する。図10Aは、ncRNAを概略的に図示し、ncRNAの逆転写領域を黒色の破線及び実線で示す。破線は、msdステムに隣接する領域を特定する。
図10B】ncRNAの逆転写領域における挿入及び欠失が、ncRNAから逆転写されるDNAの存在量に及ぼす効果を図示する。図10Bは、各々がmsdステムループに沿った個別の位置に3塩基の欠失を有する一連のncRNA変異体について、その逆転写によって産生されたRT-DNA存在量を野生型配列と比べてグラフで図示する。欠失の位置は、x軸に沿ってプロットする。
図10C】ncRNAの逆転写領域における挿入及び欠失が、ncRNAから逆転写されるDNAの存在量に及ぼす効果を図示する。図10Cは、各々がmsdステムループに沿った個別の位置に3塩基の挿入を有する一連のncRNA変異体について、その逆転写によって産生されるRT-DNA存在量を野生型配列と比べてグラフで図示する。挿入の位置は、x軸に沿ってプロットする。
図10D】ncRNAの逆転写領域における挿入及び欠失が、ncRNAから逆転写されるDNAの存在量に及ぼす効果を図示する。図10Dは、各々がmsdステムループに沿った個別の位置に一塩基変化を有する一連のncRNA変異体について、その逆転写によって産生されるRT-DNA存在量を野生型配列と比べてグラフで図示する。挿入の位置は、x軸に沿ってプロットする。
図10E】ncRNAの逆転写領域における挿入及び欠失が、ncRNAから逆転写されるDNAの存在量に及ぼす効果を図示する。図10Eは、構造変化及び図10B図10Dについて観察される結果に鑑みたmsdループ位置の修飾適合性スコアをグラフで図示する。修飾適合性スコアは、これらの変化の平均的な影響に基づいており、データは、変異体毎にプールした実験からのものであった。折り畳まれたncRNAについて、ステム、ループ及び隣接領域の概略図は、図10B図10Cに示される。
図11A】修飾されたレトロンの使用により、CRISPRに基づくゲノム変化が改善されることを図示する。図11Aは、ゲノムCRISPRアレイを修飾するためのCRISPRインテグラーゼCas1及びCas2によるレトロンRT-DNAの組込みを図示する概略図である。
図11B】修飾されたレトロンの使用により、CRISPRに基づくゲノム変化が改善されることを図示する。図11Bは、ncRNAの5’末端及び3’末端で自己相補性領域を伸長することにより、レトロン由来のスペーサDNAが亢進し得ることをグラフで図示する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
定義
本明細書において、量、長さなどの測定可能な値を指すときに使用されるとおりの用語「約」は、指定される値から±20%又は±10%、より好ましくは±5%、更により好ましくは±1%及び更により好ましくは±0.1%の変動を包含することが意図される。
【0028】
「組換え体(Recombinant)」は、本明細書で核酸分子について記載するために使用されるとき、ゲノム、cDNA、細菌、半合成又は合成起源のポリヌクレオチドが、その起源又は操作のため、自然中でそれが結び付いている(is associated)ポリヌクレオチドの全て又は一部分に結び付いていないことを意味する。
【0029】
用語「組換え体」は、タンパク質又はポリペプチドに関連して使用されるとき、組換えポリヌクレオチドの発現によって産生されるポリペプチドを意味する。一般に、以下に詳述するとおり、目的の遺伝子をクローニングし、次に形質転換された生物において発現させる。宿主生物は、発現条件下で外来性遺伝子を発現してタンパク質を産生する。
【0030】
本明細書で使用されるとき、「細胞」は、組織、臓器及び生検からの細胞並びに組換え細胞、インビトロで培養した細胞株からの細胞及び細胞断片、細胞成分又は核酸を含む細胞小器官を含め、細菌、古細菌、真菌、原生生物、植物及び動物を含めた、原核生物、真核生物又は古細菌生物から単離された任意の種類の細胞を指す。この用語は、核酸を封入するナノ粒子、リポソーム、ポリマーソーム又はマイクロカプセルなど、人工細胞も包含する。本明細書に記載される方法は、例えば、単一細胞又は細胞集団を含む試料に対して実施することができる。この用語には、遺伝子修飾細胞も含まれる。
【0031】
用語「形質転換」は、挿入に用いられる方法に関わらず、宿主細胞への外因性ポリヌクレオチド(例えば、改変レトロン)の挿入を指す。例えば、直接的な取込み、形質導入又はF接合が挙げられる。外因性ポリヌクレオチドは、非組込み型ベクター、例えばプラスミドとして維持され得るか、又は代わりに宿主ゲノムに組み込まれ得る。
【0032】
「組換え宿主細胞」、「宿主細胞」、「細胞」、「細胞株」、「細胞培養物」及び単細胞実体として培養される微生物又は高等真核細胞株を指示する他のかかる用語は、組換えベクター又は他の移入されるDNAのレシピエントとして使用され得るか又はそのように使用された細胞を指し、トランスフェクトされた元の細胞の元の子孫が含まれる。
【0033】
「コード配列」又は選択のポリペプチドを「コードする」配列は、適切な調節配列(即ち「制御エレメント」)の制御下にあるとき、インビボで転写(DNAの場合)及び翻訳されて(mRNAの場合)ポリペプチドになる核酸分子である。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドン及び3’(カルボキシ)末端の翻訳終結コドンによって決まり得る。コード配列には、限定はされないが、ウイルス、原核生物又は真核生物mRNAからのcDNA、ウイルス又は原核生物DNAからのゲノムDNA配列、更に合成DNA配列が含まれ得る。コード配列の3’側に転写終結配列が位置し得る。
【0034】
典型的な「制御エレメント」としては、限定はされないが、転写プロモータ、転写エンハンサーエレメント、転写終結シグナル、ポリアデニル化配列(翻訳終結コドンの3’側に位置する)、翻訳の開始を最適化するための配列(コード配列の5’側に位置する)及び翻訳終結配列が挙げられる。
【0035】
「作動可能に連結されている(Operably linked)」は、そのように記載される成分がその通常の機能を果たすように構成されているエレメントの配列を指す。従って、コード配列に作動可能に連結されている所与のプロモータは、適切な酵素が存在するとき、そのコード配列の発現を生じさせる能力を有する。プロモータがその発現を導くように機能する限り、プロモータがコード配列と連続している必要はない。従って、例えば、プロモータ配列とコード配列との間には、依然として翻訳されていないが、転写されている介在配列が存在し得、それでもなお、プロモータ配列は、コード配列に「作動可能に連結されている」と見なすことができる。
【0036】
「~によってコードされる」は、ポリペプチド又はRNA配列をコードする核酸配列を指す。例えば、ポリペプチド配列又はその一部分は、その核酸配列によってコードされるポリペプチドからの少なくとも3~5アミノ酸、より好ましくは少なくとも8~10アミノ酸及び更により好ましくは少なくとも15~20アミノ酸のアミノ酸配列を含有する。RNA配列又はその一部分は、少なくとも3~5ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも8~10ヌクレオチド及び更により好ましくは少なくとも15~20ヌクレオチドのヌクレオチド配列を含有する。
【0037】
用語「単離されている」、「精製されている」又は「生物学的に純粋な」は、程度の差はあるにしろ、その天然状態で見られるときに通常それに付随する成分を含まない材料を指す。「単離する」は、元の供給源又は周囲環境からのある程度の分離を意味する。「精製する」は、単離よりも高い程度の分離を意味する。「精製されている」又は「生物学的に純粋な」タンパク質は、任意の不純物がタンパク質の生物学的特性に実質的に影響を及ぼさないか、又は他の有害な帰結を引き起こさないように十分に他の材料を欠いている。即ち、本発明の核酸又はペプチドは、それが組換えDNA技法によって産生されるとき、細胞材料、ウイルス材料若しくは培養培地を実質的に含まないか、又は化学的に合成されるとき、化学的前駆体若しくは他の化学物質を実質的に含まない場合に精製されている。純度及び均一性は、典型的には、分析化学技法、例えばポリアクリルアミドゲル電気泳動又は高速液体クロマトグラフィーを用いて決定される。用語「精製されている」は、核酸又はタンパク質が電気泳動ゲルに本質的に1つのバンドを生じさせることを意味し得る。修飾、例えばリン酸化又はグリコシル化に供され得るタンパク質について、修飾が異なれば、異なる単離タンパク質が生じ得ると共に、これらは、別々に精製することができる。
【0038】
「実質的に精製されている」は、概して、物質が存在する試料の大多数の割合をその物質が占めるような物質(化合物、ポリヌクレオチド、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド組成物)の単離を指す。典型的には、試料中において、実質的に精製されている成分は、試料の50%、好ましくは80%~85%、より好ましくは90~95%を占める。目的のポリヌクレオチド及びポリペプチドの精製技法は、当技術分野において周知であり、例えばイオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー及び密度に基づく沈降が挙げられる。
【0039】
「発現」は、細胞による遺伝子産物の検出可能な産生を指す。遺伝子産物は、転写産物(即ちRNA)であり得る(これは、「遺伝子発現」と称され得る)か、又は遺伝子産物は、転写産物の翻訳産物(即ちタンパク質)であり得、文脈による。「精製されているポリヌクレオチド」は、そのポリヌクレオチドが天然で結び付いているタンパク質及び/又は核酸を本質的に含まない、例えばその約50%未満、好ましくは約70%未満及びより好ましくは約少なくとも90%未満を含有する目的のポリヌクレオチド又はその断片を指す。目的のポリヌクレオチドの精製技法は、当技術分野で利用可能であり、例えばポリヌクレオチドを含有する細胞のカオトロピック剤による破壊並びにイオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー及び密度に基づく沈降による1つ又は複数のポリヌクレオチド及びタンパク質の分離が挙げられる。
【0040】
用語「トランスフェクション」は、細胞による外来DNAの取込みを指して用いられる。細胞は、外因性DNAが細胞膜の内側に導入されているとき、「トランスフェクト」されている。当技術分野では、幾つものトランスフェクション技法が概して公知である。例えば、グラハム(Graham)ら著、1973年、ヴィロロジー(Virology)、第52巻、p.456、サムブルック(Sambrook)ら著、2001年、「分子クローニング、実験マニュアル(Molecular Cloning,a laboratory manual)」、第3版、コールド・スプリング・ハーバ研究所(Cold Spring Harbor Laboratories)、ニューヨーク州(New York)、デイビス(Davis)ら著、1995年、「分子生物学の基本的方法(Basic Methods in Molecular Biology)」、第2版、マグローヒル(McGraw-Hill)及びチュー(Chu)ら著、1981年、ジーン(Gene)、第13巻、p.197を参照されたい。かかる技法を用いて、好適な宿主細胞に1つ以上の外因性DNA部分を導入することができる。この用語は、遺伝子材料の安定な取込み及び一過性の取込みの両方を指し、ペプチドに連結された又は抗体に連結されたDNAの取込みを含む。
【0041】
「ベクター」は、核酸配列を標的細胞に移入させる能力を有する(例えば、ウイルスベクター、非ウイルスベクター、粒子状担体及びリポソーム)。典型的には、「ベクターコンストラクト」、「発現ベクター」及び「遺伝子移入ベクター」は、目的の核酸の発現を導く能力を有する任意の核酸コンストラクトであって、核酸配列を標的細胞に移入させることのできるものを意味する。従って、この用語には、クローニング及び発現媒体並びにウイルスベクターが含まれる。
【0042】
「哺乳類細胞」は、本明細書に記載されるとおりの改変レトロン又は改変レトロンを含むベクターシステムのトランスフェクションに好適な哺乳類対象に由来する任意の細胞を指す。細胞は、異種細胞、自家細胞又は同種異系細胞であり得る。細胞は、哺乳類対象から直接入手された初代細胞であり得る。細胞は、哺乳類対象から入手された細胞を培養及び拡大したものに由来する細胞でもあり得る。不死化細胞もこの定義内に含まれる。一部の実施形態において、細胞は、組換えタンパク質及び/又は核酸を発現するように遺伝子改変されている。
【0043】
用語「対象」には、限定なしに、節足動物、軟体動物、環形動物及び刺胞動物などの無脊椎動物;並びにカエル、サンショウウオ及びアシナシイモリを含めた両生類;トカゲ、ヘビ、カメ、クロコダイル及びアリゲータを含めた爬虫類;魚類;ヒト並びにチンパンジー及び他の類人猿及びサル種を含めた非ヒト霊長類などの非ヒト哺乳類を含めた哺乳類;マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、モルモット及びチンチラなどの実験動物;イヌ及びネコなどの家庭動物;ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウマ及び雌ウシなどの農場動物;及びニワトリ、シチメンチョウ及び他のキジ類の鶏、アヒル、ガチョウなどを含めた、家禽、野鳥及び狩猟鳥などの鳥類などの脊椎動物を含め、脊椎動物及び無脊椎動物の両方を含めた動物が含まれる。ある場合には、本開示の方法は、限定はされないが、マウス、ラット及びハムスターを含めたげっ歯類;霊長類及びトランスジェニック動物を含め、実験動物、獣医学的適用及び疾患用動物モデルの開発に用途が見出される。
【0044】
「遺伝子移入」又は「遺伝子送達」は、目的のDNA又はRNAを宿主細胞に確実に挿入するための方法又はシステムを指す。かかる方法は、組み込まれていないトランスフェクトされたDNAの一過性発現、移入されたレプリコン(例えば、エピソーム)の染色体外複製及び発現又は宿主細胞のゲノムDNAへの移入された遺伝子材料の組込みをもたらし得る。遺伝子送達発現ベクターとしては、限定はされないが、細菌プラスミドベクター、ウイルスベクター、非ウイルスベクター、アルファウイルス、ポックスウイルス及びワクシニアウイルスに由来するベクターが挙げられる。
【0045】
用語「~に由来する」は、本明細書では、分子の元の供給源を特定するために用いられるが、例えば化学合成又は組換え手段によるものであり得る、その分子が作られる方法を限定する意図はない。
【0046】
指定される配列「に由来する」ポリヌクレオチドとは、指定されるヌクレオチド配列の一領域に対応する、即ちそれと同一の又は相補的なおよそ少なくとも約6ヌクレオチド、好ましくは少なくとも約8ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも約10~12ヌクレオチド及び更により好ましくは少なくとも約15~20ヌクレオチドの連続した配列を含むポリヌクレオチド配列を指す。由来したポリヌクレオチドは、必ずしも物理的に目的のヌクレオチド配列に由来するとは限らず、限定はされないが、化学合成、複製、逆転写又は転写を含め、ポリヌクレオチドの由来である元のその1つ又は複数の領域中の塩基配列によって提供される情報に基づく任意の方法によって生成され得る。そのため、これは、元のポリヌクレオチドのセンス又はアンチセンスのいずれの向きにも相当し得る。
【0047】
「バーコード」は、そのバーコードが結び付けられている核酸又は細胞を同定するために使用される1つ以上のヌクレオチド配列を指す。バーコードは、3~1000ヌクレオチド長以上、好ましくは10~250ヌクレオチド長及びより好ましくは10~30ヌクレオチド長、例えばこれらの範囲内にある任意の長さを含めて、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900又は1000ヌクレオチド長などであり得る。バーコードは、例えば、核酸の起源である単一細胞、細胞のサブ集団、コロニー又は試料を同定するために使用され得る。バーコードは、核酸の起源である細胞、コロニー又は試料の位置、例えば細胞アレイ内におけるコロニーの位置、マルチウェルプレート内におけるウェルの位置又はラック内におけるチューブ、フラスコ若しくは他の容器の位置などを同定するためにも使用され得る(即ち位置的バーコード)。例えば、バーコードは、核酸の起源である遺伝子修飾細胞を同定するために使用され得る。一部の実施形態において、バーコードは、特定の種類のゲノム編集又は特定の種類のドナー核酸を同定するために使用される。
【0048】
用語「ハイブリダイズする」及び「ハイブリダイゼーション」は、ワトソン・クリック塩基対合で複合体を形成するのに十分に相補的なヌクレオチド配列間での複合体の形成を指す。
【0049】
用語「相同領域」は、別の核酸領域と相同性がある核酸の領域を指す。従って、核酸分子に「相同領域」が存在するかどうかは、同じ又は異なる分子の別の核酸領域に照らして決まる。更に、核酸は、多くの場合、二本鎖であるため、用語「相同領域」とは、本明細書で使用されるとき、核酸分子が互いにハイブリダイズする能力を指す。例えば、一本鎖核酸分子は、互いとのハイブリダイズ能を有する2つの相同領域を有し得る。従って、用語「相同領域」には、相補配列を有する核酸セグメントが含まれる。相同領域の長さは、様々であり得るが、典型的には4~500ヌクレオチド(例えば、約4~約40、約40~約80、約80~約120、約120~約160、約160~約200、約200~約240、約240~約280、約280~約320、約320~約360、約360~約400、約400~約440等)となり得る。
【0050】
本明細書で使用されるとき、用語「相補的」又は「相補性」は、互いと塩基対を形成することが可能なポリヌクレオチドを指す。塩基対は、典型的には、ポリヌクレオチド鎖間で逆平行の向きにあるヌクレオチド単位間の水素結合によって形成される。相補的なポリヌクレオチド鎖は、ワトソン・クリック方式(例えば、AがTに、AがUに、CがGに)又は二重鎖の形成を可能にする任意の他の方式で塩基対合することができる。当業者が認識するとおり、DNAと対照的にRNAを使用するとき、チミン(T)でなく、むしろウラシル(U)が、アデノシンに相補的であると見なされる塩基である。しかしながら、本発明に関連してウラシルが表示されているとき、特に指定されない限り、チミンで代替可能であることが含意される。「相補性」は、2つのRNA鎖間、2つのDNA鎖間又はRNA鎖とDNA鎖との間に存在し得る。概して、2つ以上のポリヌクレオチドは、相補性が完全でないか又は100%に満たなくても「相補的」であり、二重鎖を形成可能であり得ることが理解される。2つの配列は、各ポリヌクレオチド配列の相補性領域を含む少なくとも連続した一部分が、かかる領域内にいかなるミスマッチ又は中断もなく他方のポリヌクレオチドと完全に塩基対合する場合、「完全に相補的」又は「100%相補的」である。2つ以上の配列は、いずれか一方又は両方のポリヌクレオチドが追加的な非相補配列を含んでいたとしても、各ポリヌクレオチド内の連続した相補性領域が他方と完全にハイブリダイズ可能である限り、「完全に相補的」又は「100%相補的」と見なされる。「完全でない」相補性とは、かかる相補性領域内にある連続したヌクレオチドのうち、互いに塩基対合可能であるのが全てではない状況を指す。2つのポリヌクレオチド配列間の相補性パーセンテージの決定は、当技術分野の通常の技術程度の事項である。
【0051】
用語「Cas9」は、本明細書で使用されるとき、任意の種由来のII型のクラスター化して規則的に散在する短い回文配列リピート(CRISPR:clustered regularly interspaced short palindromic repeat)システムCas9エンドヌクレアーゼを包含し、Cas9エンドヌクレアーゼ活性(即ちDNAの部位特異的切断を触媒して二本鎖切断を生じさせる)を保持しているその生物学的に活性な断片、変異体、類似体及び誘導体も含む。Cas9エンドヌクレアーゼは、その結合したガイドRNA(gRNA:guide RNA)に相補的な配列を含む部位のDNAに結合し、それを切断する。Cas9ターゲティングの目的上、gRNAは、標的配列(例えば、メジャー又はマイナーアレル)に「相補的」である、二重鎖を形成する(即ちgRNAが標的配列とハイブリダイズする)のに十分な塩基対合能のある配列を含み得る。加えて、gRNAは、PAM配列に相補的な配列を含み得、ここで、gRNAは、標的DNAのPAM配列ともハイブリダイズする。
【0052】
用語「ドナーポリヌクレオチド」は、標的遺伝子座のゲノムにHDR又はリコンビニアリングによって組み込まれる意図される編集の配列を提供するポリヌクレオチドを指す。
「標的部位」又は「標的配列」は、ガイドRNA(gRNA)又はドナーポリヌクレオチドの相同性アームによって認識される(即ちハイブリダイゼーションに十分に相補的な)核酸配列である。標的部位は、アレル(例えば、メジャー又はマイナーアレル)に特異的であり得る。例えば、標的部位は、1つ以上のヌクレオチドの挿入、1つ以上のヌクレオチドの置換、1つ以上のヌクレオチドの欠失又はこれらの組み合わせによるなど、修飾されることが意図されるゲノム部位であり得る。
【0053】
「相同性アーム(homology arm)」とは、ドナーポリヌクレオチドの中で、細胞内の編集されるゲノム配列へのドナーポリヌクレオチドのターゲティングに関与する一部分が意味される。ドナーポリヌクレオチドは、典型的には、ゲノムDNAに対する意図される編集を含むヌクレオチド配列に隣接している、5’ゲノム標的配列にハイブリダイズする5’相同性アームと、3’ゲノム標的配列にハイブリダイズする3’相同性アームとを含む。相同性アームは、本明細書では5’及び3’(即ち上流及び下流)相同性アームと称され、これは、ドナーポリヌクレオチド内の意図される編集を含むヌクレオチド配列に対する相同性アームの相対的な位置に関する。5’及び3’相同性アームは、修飾されるゲノムDNAの標的遺伝子座内にある、本明細書でそれぞれ「5’標的配列」及び「3’標的配列」と称される領域にハイブリダイズする。例えば、意図される編集を含むヌクレオチド配列は、5’及び3’相同性アームによって認識される(即ちハイブリダイゼーションに十分に相補的な)ゲノム標的遺伝子座において、HDR又はリコンビニアリングによってゲノムDNAに組み込まれ得る。
【0054】
一般に、「CRISPR適応システム(CRISPR adaptation system)」は、まとめて、Cas遺伝子をコードする配列及びリーダ配列と少なくとも1つのリピート配列とを含むCRISPRアレイ核酸配列を含む、CRISPR関連(「Cas」)遺伝子の発現又はその活性を導くことに関わる転写物及び他のエレメントを指す。一部の実施形態において、CRISPR適応システムの1つ以上のエレメントは、I型、II型又はIII型CRISPRシステムに由来する。Casl及びCas2は、3つ全ての型のCRISPR-Casシステムに見出され、これらは、スペーサ獲得に関わる。大腸菌(E.coli)のI-Eシステムでは、CaslとCas2とは、Cas2二量体によって2つのCasl二量体が架橋される複合体を形成する。この複合体では、Cas2が非酵素的足場の役割を果たし、侵入してくるDNAの二本鎖断片を結合する一方、CaslがそのDNAの一本鎖隣接部を結合し、CRISPRアレイへのその組込みを触媒する。
【0055】
一部の実施形態において、CRISPRシステムの1つ以上のエレメントは、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)など、内因性CRISPRシステムを含む特定の生物に由来する。一般に、CRISPRシステムは、標的配列(内因性CRISPRシステムに関連してプロトスペーサとも称される)の部位におけるCRISPR複合体の形成を促進するエレメントによって特徴付けられる。
【0056】
一部の実施形態において、ベクターは、Casタンパク質などのCRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に連結された調節エレメントを含む。Casタンパク質の非限定的な例としては、Casl、CaslB、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(Csnl及びCsxl2としても知られる)、CaslO、Csyl、Csy2、Csy3、Csel、Cse2、Cscl、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmrl、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csbl、Csb2、Csb3、Csxl7、Csxl4、CsxlO、Csxl6、CsaX、Csx3、Csxl、Csxl5、Csfl、Csf2、Csf3、Csf4、その相同体又はその修飾されたバージョンが挙げられる。
【0057】
特定の実施形態において、本開示は、プロトスペーサ隣接モチーフ(PAM)と呼ばれる短い(3~5bp)DNA配列に隣接するプロトスペーサを提供する。PAMは、I型及びII型システムにとって獲得において重要である。I型及びII型システムでは、プロトスペーサがPAM配列に隣接する位置で切り出され、スペーサの他端がルーラー機構を用いて切断されるため、CRISPRアレイにおけるスペーササイズの規則性が維持されている。PAM配列の保存は、CRISPR-Casシステム間で異なり、Casl及びリーダ配列に進化的に連結されていることもある。
【0058】
一部の実施形態において、本開示は、細胞内で改変レトロンシステムの使用によるなどして細胞内で産生される定義付けられた合成DNAを、限定はされないが、優先的にはリーダ配列に隣接して存在するCRISPRアレイに決まった向きで組み込むことを提供する。大腸菌(E.coli)由来のI-E型システムでは、リーダ配列に隣接する1番目のダイレクトリピートがコピーされ、新規に獲得されたスペーサが1番目のダイレクトリピートと2番目のダイレクトリピートとの間に挿入されることが実証された。
【0059】
一実施形態において、プロトスペーサは、定義付けられた合成DNAである。一部の実施形態において、定義付けられた合成DNAは、少なくとも3、5、10、20、30、40、又は50ヌクレオチド、又は3~50、又は10~100、又は20~90、又は30~80、又は40~70、又は50~60ヌクレオチド長である。一実施形態において、オリゴヌクレオチド配列又は定義付けられた合成DNAは、修飾された「AAG」プロトスペーサ隣接モチーフ(PAM)を含む。
【0060】
一部の実施形態において、CRISPRシステムの1つ以上のエレメントの発現をドライブするため、CRISPRシステムの1つ以上のエレメントに調節エレメントが作動可能に連結されている。一般に、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat:クラスター化して規則的に散在する短い回文配列リピート)、別名SPIDR(SPacer Interspersed Direct Repeat:スペーサが散在するダイレクトリピート)は、特定の細菌種に特異的であることが通例であるDNA遺伝子座のファミリーを成す。CRISPR遺伝子座は、大腸菌(E.coli)に認められた特徴的なクラスの散在する短い配列リピート(SSR:short sequence repeat)(イシノ(Ishino)ら著、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J.BacterioL)、第169巻、p.5429~5433、1987年;及びナカタ(Nakata)ら著、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J.BacterioL)、第171巻、p.3553~3556、1989年)及び関連する遺伝子を含む。同様の散在するSSRは、ハロフェラックス・メディテラネイ(Haloferax mediterranei)、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)、アナベナ属(Anabaena)及び結核菌(Mycobacterium tuberculosis)で同定されている(グローネン(Groenen)ら著、モレキュラー・マイクロバイオロジー(Mol.Microbiol.)、第10巻、p.1057~1065、1993年;ホー(Hoe)ら著、エマージング・インフェクシャス・ディジーズ(Emerg.Infect.Dis.)、第5巻、p.254~263、1999年;マスポール(Masepohl)ら著、バイオキミカ・エ・バイオフィジカ・アクタ(Biochim.Biophys.Acta)、第1307巻、p.26~30、1996年;及びモヒカ(Mojica)ら著、モレキュラー・マイクロバイオロジー(Mol.Microbiol)、第17巻、p.85~93、1995年を参照されたい)。CRISPR遺伝子座は、典型的には、他のSSRとリピートの構造が異なり、これは、短い規則的に散在するリピート(SRSR:short regularly spaced repeat)と呼ばれている(ジャンセン(Janssen)ら著、OMICSジャーナル・オブ・インテグレイティブ・バイオロジー(OMICS J.Integ.Biol.)、第6巻、p.23~33、2002年;及びモヒカ(Mojica)ら著、モレキュラー・マイクロバイオロジー(Mol.Microbiol.)、第36巻、p.244~246、2000年)。一般に、リピートは、実質的に一定の長さのユニークな介在配列によって規則的な間隔が空いたクラスター化して存在する短いエレメントである(モヒカ(Mojica)ら著、2000年、前掲)。リピート配列は、株間で高度に保存されているが、散在するリピートの数及びスペーサ領域の配列は、典型的には、株毎に異なる(ヴァン・エムデン(van Embden)ら著、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J.Bacteriol.)、第182巻、p.2393~2401、2000年)。CRISPR遺伝子座は、40種を超える原核生物で同定されており(例えば、ジャンセン(Jansen)ら著、モレキュラー・マイクロバイオロジー(Mol.Microbiol.)、第43巻、p.1565~1575、2002年;及びモヒカ(Mojica)ら著、2005年を参照されたい)、限定はされないが、アエロピルム属(Aeropyrum)、ピロバキュラム属(Pyrobaculum)、スルホロブス属(Sulfolobus)、アーケオグロブス属(Archaeoglobus)、ハロアーキュラ属(Halocarcula)、メタノバクテリウム属(Methanobacteriumn)、メタノコッカス属(Methanococcus)、メタノサルシナ属(Methanosarcina)、メタノピュルス属(Methanopyrus)、パイロコッカス属(Pyrococcus)、ピクロフィルス属(Picrophilus)、サーモプラズマ属(Thernioplasnia)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)、ストレプトミセス属(Streptomyces)、アクイフェックス属(Aquifrx)、ポルフィロモナス属(Porphvromonas)、クロロビウム属(Chlorobium)、サーマス属(Thermus)、バチルス属(Bacillus)、リステリア属(Listeria)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、クロストリジウム属(Clostridium)、サーモアナエロバクター属(Thermoanaerobacter)、マイコプラズマ属(Mycoplasma)、フゾバクテリウム属(Fusobacterium)、アゾアルカス属(Azarcus)、クロモバクテリウム属(Chromobacterium)、ナイセリア属(Neisseria)、ニトロソモナス属(Nitrosomonas)、デスルホビブリオ属(Desulfovibrio)、ジオバクター属(Geobacter)、ミクロコッカス属(Myrococcus)、カンピロバクター属(Campylobacter)、ウォリネラ属(Wolinella)、アシネトバクター属(Acinetobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、大腸菌属(Escherichia)、レジオネラ属(Legionella)、メチロコッカス属(Methylococcus)、パスツレラ属(Pasteurella)、フォトバクテリウム属(Photobacterium)、サルモネラ属(Salmonella)、キサントモナス属(Xanthomonas)、エルシニア属(Yersinia)、トレポネーマ属(Treponema)及びサーモトガ属(Thermotoga)が挙げられる。
【0061】
一部の実施形態において、CRISPR酵素をコードする酵素コード配列は、真核細胞など、特定の細胞における発現のためにコドン最適化される。真核細胞は、限定はされないが、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ又は非ヒト霊長類を含めた、哺乳類などの特定の生物のもの又はそれに由来するものであり得る。一般に、コドン最適化とは、目的の宿主細胞における発現を亢進させるため、天然アミノ酸配列を維持しつつ、天然配列の少なくとも1つのコドン(例えば、約1又は約1より多い、2、3、4、5、10、15、20、25、50又はそれを超えるコドン)をその宿主細胞の遺伝子でより使用頻度の高い又は最も使用頻度の高いコドンに置き換えることにより核酸配列を修飾する処理を指す。様々な種が特定のアミノ酸のある種のコドンに特定の偏りを呈する。コドンバイアス(生物間のコドン使用の違い)は、多くの場合、メッセンジャーRNA(mRNA:messenger RNA)の翻訳効率と相関があり、従って、それは、とりわけ翻訳されるコドンの特性及び特定の転移RNA(tRNA:transfer RNA)分子が利用可能であるかどうかに依存すると考えられている。細胞において選択したtRNAが優勢であることは、概して、ペプチド合成において最も使用頻度の高いコドンを反映するものである。従って、コドン最適化に基づいて、所与の生物で最適な遺伝子発現となるように遺伝子を調整することができる。コドン使用表は、例えば、「コドン使用データベース(Codon Usage Database)」で容易に利用可能であり、こうした表を幾つもの方法で応用することができる。ナカムラ,Y.(Nakamura,Y.)ら著、「国際DNA配列データベースから一覧表にしたコドン使用:2000年の状況(Codon usage tabulated from the international DNA sequence databases:status for the year 2000)」、ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucl.Acids Res.)、第28巻、p.292、2000年を参照されたい。特定の配列を特定の宿主細胞での発現のためにコドン最適化するコンピュータアルゴリズムも利用可能であり、ジーン・フォージ(Gene Forge)(アプタジェン(Aptagen);ペンシルベニア州ジャコバス(Jacobus,Pa.))なども利用可能である。一部の実施形態において、CRISPR酵素をコードする配列中の1つ以上のコドン(例えば、1、2、3、4、5、10、15、20、25、50若しくはそれを超える又は全てのコドン)は、特定のアミノ酸についての最も使用頻度の高いコドンに対応する。
【0062】
改変レトロンコンストラクト又は改変レトロンコンストラクトを含むベクターなど、核酸を細胞に「投与すること」は、形質導入、トランスフェクション、電気穿孔、転位置、融合、貪食、銃又はバリスティック法等、即ち細胞膜を越えて核酸を輸送することのできる任意の手段を含む。
【0063】
本開示を更に説明する前に、開示される主題は、当然のことながら、異なり得るため、説明される詳細な実施形態に限定されないことが理解されるべきである。本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることになるため、本明細書で使用される用語法は、詳細な実施形態を説明するためのものに過ぎず、限定する意図がないことも理解されるべきである。
【0064】
値の範囲が提供される場合、文脈上特に明確に指示されない限り、下限の単位の10分の1に至るまでの、その範囲の上限と下限との間にある各中間値及びその記載される範囲にある任意の他の記載される値又は中間値は、開示される主題の範囲内に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、独立に、そのより小さい範囲に含まれ得、それらも、記載される範囲における任意の具体的に除外される限界値を条件として、開示される主題の範囲内に包含される。記載される範囲が限界値の一方又は両方を含む場合、それらの含まれる限界値の一方又は両方を除外する範囲も、開示される主題に含まれる。
【0065】
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての科学技術用語は、開示される主題が属する技術分野の当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。開示される主題の実施又は試験では、本明細書に記載されるものと同様の又は均等な任意の方法及び材料も使用し得るが、ここに好ましい方法及び材料を記載する。本明細書において言及される全ての刊行物は、それらの刊行物を引用するのに関連する方法及び/又は材料を開示及び説明するため、参照により本明細書に援用される。
【0066】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるとき、単数形「ある(a)」、「ある(an)」及び「その」には、文脈上特に明確に指示されない限り複数の指示対象が含まれることに留意しなければならない。従って、例えば「細胞」と言うとき、それには、複数のかかる細胞が含まれ、「その核酸」と言うとき、それには、1つ以上の核酸及び当業者に公知のその均等物への言及が含まれるなどである。更に、特許請求の範囲は、いかなる任意選択の要素も除外するように記述され得ることが留意される。そのため、この記載事項が、「否定的な」限定の使用を含む、本明細書に記載される任意の特徴又は要素の列挙に関連した「もっぱら」、「のみ」などのような除外の文言の使用に際して先行的限定の根拠となることが意図される。
【0067】
明確にするため、個別の実施形態に関連して記載される開示される主題の特定の特徴は、単一の実施形態として組み合わせても提供され得ることが理解される。逆に、簡潔にするため、単一の実施形態に関連して記載される開示される主題の様々な特徴は、個別に又は任意の好適な部分的組み合わせでも提供され得る。本開示に関する実施形態の全ての組み合わせは、開示される主題に具体的に包含され、あたかもあらゆる組み合わせが個々に且つ明示的に開示されたかのように本明細書に開示される。加えて、様々な実施形態及びその要素のあらゆる部分的組み合わせも本開示に具体的に包含され、あたかもあらゆるかかる部分的組み合わせが個々に且つ明示的に本明細書に開示されたかのように本明細書に開示される。
【0068】
本明細書で考察される刊行物は、本願の出願日より前のそれらの開示についてのみ提供される。本明細書のいかなる事項も、開示される主題にかかる刊行物に先行する権利がないことを認めるものとして解釈されてはならない。更に、提供される刊行日は、実際の刊行日と異なり得るため、実際の刊行日を別途確認する必要があり得る。
【0069】
マルチコピー一本鎖DNA(msDNA)の産生を亢進させるように修飾された改変レトロンが提供される。加えて、かかる改変レトロンをコードするベクターシステム並びにCRISPR/Cas媒介ゲノム編集、リコンビニアリング、細胞バーコーディング及び分子レコーディングなどの様々な適用において改変レトロン及びそれをコードするベクターシステムを使用する方法も提供される。
【0070】
改変レトロン
本開示は、細胞におけるmsDNAの産生を亢進させるように修飾されている改変レトロンを提供する。改変レトロンは、msr前配列、マルチコピー一本鎖RNA(msRNA)をコードするmsr遺伝子;マルチコピー一本鎖DNA(msDNA)をコードするmsd遺伝子;msd後配列及び逆転写酵素をコードするret遺伝子を含む。このレトロンによってコードされる逆転写酵素によるDNA合成の結果、msr遺伝子によってコードされる一本鎖RNAに連結したmsd遺伝子によってコードされる一本鎖DNAで構成されるDNA/RNAキメラ産物が提供され得る。レトロンmsr RNAは、ステムループ構造の末端において、保存されたグアノシン残基を含有する。msr RNAの鎖は、この保存されたグアノシン残基の2’位における2’-5’リン酸ジエステル結合によってmsd一本鎖DNAの5’末端につなぎ合わされる。
【0071】
改変レトロンでは、msd後配列は、例えば、その自己相補性領域(これは、msr前配列との配列相補性を有する)の範囲内で修飾され、ここで、自己相補性領域の長さは、天然レトロンの対応する領域に対して長くなっている。かかる修飾により、改変レトロンがmsDNA産生の亢進をもたらすことになる。特定の実施形態において、相補性領域は、野生型自己相補性領域よりも少なくとも1、少なくとも2、少なくとも4、少なくとも6、少なくとも8、少なくとも10、少なくとも12、少なくとも14、少なくとも16、少なくとも18、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40又は少なくとも50ヌクレオチド長い長さを有する。例えば、自己相補性領域は、天然又は野生型相補性領域よりも1~50ヌクレオチドの範囲で長い長さ、例えばこの範囲内にある任意の長さを含めて、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49又は50ヌクレオチド長い長さなどを有し得る。特定の実施形態において、自己相補性領域は、野生型相補性領域よりも1~16ヌクレオチドの範囲で長い長さを有する。改変レトロンによって生成される一本鎖DNAは、様々な適用に使用することができる。
【0072】
より多量のssDNAが作り出されるように、例えば、以下に示すncRNA配列番号12の配列(天然自己相補性3’及び5’末端(1~12位及び158~169位にある)を太字で強調表示した)を1位及び169位で伸長させることができる。
【0073】
【化1】
【0074】
例えば、下記の改変された「ncRNA伸長型」(配列番号13)について以下に示すとおりである(ここで、自己相補性領域を伸長する追加のヌクレオチドは、下線付きの斜体で示されている)。
【0075】
【化2】
【0076】
場合により、追加のヌクレオチドは、自己相補性領域内の任意の位置、例えば配列番号12の配列の1~12位及び158~169位内のいずれにも付加することができる。
特定の実施形態において、改変レトロンに使用されるmsr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子の配列は、細菌性レトロンオペロンに由来し得る。代表的なレトロン、例えば、限定なしに、ミキソコッカス・ザンサス(Myxococcus xanthus)レトロン(例えば、Mx65、Mx162)及びスチグマテラ・オーランチアカ(Stigmatella aurantiaca)レトロン(例えば、Sa163)などの粘液細菌レトロン;大腸菌(Escherichia coli)レトロン(例えば、Ec48、E67、Ec73、Ec78、EC83、EC86、EC107及びEc107);サルモネラ菌(Salmonella enterica);コレラ菌(Vibrio cholerae)レトロン(例えば、Vc81、Vc95、Vc137);腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)(例えば、Vc96);及びナンノキスチス・エクセデンス(Nannocystis exedens)レトロン(例えば、Ne144)を含めたグラム陰性菌のものなどが利用可能である。レトロンmsr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子核酸配列並びにレトロン逆転写酵素タンパク質配列は、任意の供給源に由来し得る。代表的なレトロン配列は、msr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子核酸配列及び逆転写酵素タンパク質配列を含め、国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI:National Center for Biotechnology Information)のデータベースに掲載されている。例えば、NCBIエントリ:アクセッション番号EF428983、M55249、EU250030、X60206、X62583、AB299445、AB436696、AB436695、M86352、M30609、M24392、AF427793、AQ3354及びAB079134を参照されたく;これらの配列は、全て(本願の出願日までに登録されているとおり)全体として参照により本明細書に援用される。これらのレトロン配列又はある配列を含むその変異体のいずれも変異体ヌクレオチド、付加されたヌクレオチド又はより少数のヌクレオチドを含み得る。例えば、レトロンは、それと少なくとも約80~100%の配列同一性、例えばこの範囲内にある任意のパーセント同一性を含めて、例えば本明細書に記載されるレトロン配列のいずれか(アクセッション番号によって定義されるものを含む)と81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98又は99%の配列同一性などを有し得、本明細書に記載されるとおりの改変レトロン又は改変レトロンを含むベクターシステムの構築に使用することができる。
【0077】
一部の実施形態において、組換えレトロンコンストラクトは、msr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子間の間隔が非天然である非天然立体配置(non-native configuration)を有する。msr遺伝子及びmsd遺伝子は、内因性のシス構成で提供されるのでなく、むしろトランス構成で離れていることができる。加えて、ret遺伝子は、msr遺伝子又はmsd遺伝子のいずれに対してもトランス構成で提供され得る。一部の実施形態において、ret遺伝子がトランス構成で提供されると逆転写酵素の潜在終結シグナル(cryptic stop signal)がなくなり、そのため、改変レトロンコンストラクトからの一層長い一本鎖DNAの生成が可能となる。
【0078】
一部の実施形態において、レトロンコンストラクトは、天然レトロンに対して目的の異種配列を含むように修飾される。これに関連して、レトロンは、種々の適用で用いるために異種配列で改変され得る。例えば、レトロンコンストラクトに異種配列を付加することにより、以下で更に考察するとおりの、目的のタンパク質又は調節性RNAをコードする核酸、例えば相同組換え修復(HDR)又は組換えによって媒介される遺伝子改変(リコンビニアリング)による遺伝子編集での使用に好適なドナーポリヌクレオチド又は分子レコーディングに用いられるCRISPRプロトスペーサDNA配列を細胞に提供することができる。かかる異種配列は、例えば、異種配列がレトロン逆転写酵素によってmsDNA産物の一部として転写されるようにmsr遺伝子又はmsd遺伝子に挿入され得る。
【0079】
ある場合には、目的の異種配列は、msdステムループのループに挿入することができる。
例えば、改変レトロンは、マルチプレックス化を容易にするユニークなバーコードを含み得る。バーコードは、そのバーコードが結び付けられている核酸又は細胞の同定に用いられる1つ以上のヌクレオチド配列を含み得る。かかるバーコードは、例えば、msdコードDNAのループ領域内に挿入され得る。バーコードは、3~1000ヌクレオチド長以上、好ましくは10~250ヌクレオチド長及びより好ましくは10~30ヌクレオチド長、例えばこれらの範囲内にある任意の長さを含めて、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900又は1000ヌクレオチド長などであり得る。一部の実施形態において、バーコードは、レトロンの起源である細胞、コロニー又は試料の位置、例えば細胞アレイ内におけるコロニーの位置、マルチウェルプレート内におけるウェルの位置、ラック内におけるチューブの位置又は研究室内における試料の場所などを同定するためにも使用される(即ち位置的バーコード)。詳細には、バーコードは、レトロンを含有する遺伝子修飾細胞の位置を同定するために使用され得る。バーコードを使用すると、特定のレトロンをその起源であるコロニーに遡ることがなおも可能でありながら、異なる細胞からのレトロンをシーケンシングのための単一の反応混合物中にプールすることが可能となる。
【0080】
加えて、レトロンコンストラクトにアダプター配列を付加すると、ハイスループット増幅又はシーケンシングが容易となり得る。例えば、アダプター配列の対をレトロンコンストラクトの5’末端及び3’末端に付加すると、複数のレトロンコンストラクトを同じ組のプライマーによって同時に増幅又はシーケンシングすることが可能となり得る。レトロンコンストラクトの増幅は、例えば、細胞のトランスフェクション前又はベクターへのライゲーション前に実施され得る。レトロンコンストラクトの増幅には、限定はされないが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR:polymerase chain reaction)、等温増幅(isothermal amplification)、核酸配列ベースの増幅(NASBA:nucleic acid sequence-based amplification)、転写媒介性増幅(TMA:transcription mediated amplification)、ストランド置換増幅(SDA:strand displacement amplification)及びリガーゼ連鎖反応(LCR:ligase chain reaction)を含めた任意の方法を用いることができる。一実施形態では、レトロンコンストラクトは、共通の5’及び3’プライミング部位を含むため、レトロン配列をユニバーサルプライマーの組で並行して増幅することが可能である。別の実施形態では、選択的プライマーの組を使用して、プールされた混合物から一部のレトロン配列が選択的に増幅される。
【0081】
細胞への改変レトロンの送達は、概して、ベクターを用いて又はベクターなしで達成されることになる。改変レトロン(又はそれを含むベクター)は、細菌、古細菌、真菌、原生生物、植物(例えば、単子葉及び双子葉植物)を含めた原核生物、真核生物又は古細菌生物;及び動物(例えば、脊椎動物及び無脊椎動物)からの任意の細胞を含めた任意の種類の細胞に導入することができる。改変レトロンをトランスフェクトし得る動物の例としては、限定なしに、魚類、鳥類、哺乳類(例えば、ヒト及び非ヒト霊長類、農場動物、ペット及び実験動物)、爬虫類及び両生類などの脊椎動物が挙げられる。改変レトロンをトランスフェクトし得る植物の例としては、限定なしに、コムギ、オートムギ及びコメなどの穀類、ダイズ及びエンドウマメなどのマメ科植物、トウモロコシ、アルファルファなどの草及び綿を含めた作物が挙げられる。改変レトロンは、目的の単一細胞又は細胞集団に導入され得る。組織、臓器及び生検からの細胞並びに組換え細胞、遺伝子修飾細胞、インビトロ培養された細胞株からの細胞及び人工細胞(例えば、核酸を封入するナノ粒子、リポソーム、ポリマーソーム又はマイクロカプセル)は全て、改変レトロンをトランスフェクトし得る。主題の方法は、細胞断片、細胞成分又は細胞小器官(例えば、動物及び植物細胞のミトコンドリア、植物細胞及び藻類のプラスチド(例えば、葉緑体))にも適用可能である。細胞は、改変レトロンコンストラクトのトランスフェクション後に培養又は拡大され(expanded)得る。
【0082】
核酸を宿主細胞に導入する方法は、当技術分野において周知である。一般的に用いられる方法としては、典型的には、二価カチオン(例えば、CaCl)を用いた、化学的に誘発される形質転換、デキストラン媒介性トランスフェクション、ポリブレン媒介性トランスフェクション、リポフェクタミン及びLT-1媒介性トランスフェクション、電気穿孔、プロトプラスト融合、リポソームへの核酸の封入及び核内への改変レトロンを含む核酸の直接的なマイクロインジェクションが挙げられる。例えば、サムブルック(Sambrook)ら著、2001年、「分子クローニング、実験マニュアル(Molecular Cloning,a laboratory manual)」、第3版、コールド・スプリング・ハーバ研究所(Cold Spring Harbor Laboratories)、ニューヨーク州(New York)、デイビス(Davis)ら著、1995年、「分子生物学の基本的方法(Basic Methods in Molecular Biology)」、第2版、マグローヒル(McGraw-Hill)及びチュー(Chu)ら著、1981年、ジーン(Gene)、第13巻、p.197(全体として参照により本明細書に援用される)を参照されたい。
【0083】
改変レトロンを含むベクターシステム
特定の実施形態において、レトロンmsr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子は、細胞内でベクターからインビボで発現させる。「ベクター」は、細胞の内部への目的の核酸の送達に使用することのできる組成物である。レトロンmsr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子は、宿主対象においてmsDNAを産生させるため、単一のベクター又は複数の別個のベクターで細胞内に導入することができる。ベクターは、典型的には、レトロン配列に作動可能に連結された制御エレメントを含み、これにより対象種におけるインビボでのmsDNAの産生が可能となる。例えば、レトロンmsr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子は、レトロン逆転写酵素及びmsDNA産物の発現を可能にするため、プロモータに作動可能に連結され得る。一部の実施形態において、所望の目的産物をコードする異種配列(例えば、ポリペプチド又は調節性RNAをコードするポリヌクレオチド、遺伝子編集のためのドナーポリヌクレオチド又は分子レコーディングのためのプロトスペーサDNA)は、msr遺伝子又はmsd遺伝子に挿入され得る。msDNAの産生には、改変レトロン配列を含むベクターのトランスフェクト能を有する任意の真核、古細菌又は原核細胞を使用することができる。他のレトロンがコードされた産物と共にmsDNAを産生するコンストラクトの能力は、実験的に決定することができる。
【0084】
一部の実施形態において、改変レトロンは、1つ以上のベクターを含むベクターシステムによって産生される。ベクターシステムでは、msr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子が同じベクターによって提供され得(即ち全てのかかるレトロンエレメントがシス構成である)、ベクターは、msr遺伝子及びmsd遺伝子に作動可能に連結されたプロモータを含む。一部の実施形態において、このプロモータは、ret遺伝子に更に作動可能に連結される。他の実施形態において、ベクターは、ret遺伝子に作動可能に連結された第2のプロモータを更に含む。代わりに、ret遺伝子は、msr遺伝子及びmsd遺伝子を含まない第2のベクターによって提供され得る(即ちmsr-msd及びretがトランス構成である)。更に他の実施形態において、msr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子は、各々が異なるベクターによって提供される(即ち全てのレトロンエレメントがトランス構成である)。限定はされないが、線状ポリヌクレオチド、イオン化合物又は両親媒性化合物に関連するポリヌクレオチド、プラスミド及びウイルスを含めて、多くのベクターが利用可能である。従って、用語「ベクター」には、自己複製プラスミド又はウイルスが含まれる。ウイルスベクターの例としては、限定はされないが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどが挙げられる。発現コンストラクトは、生細胞内で複製することができるか、又はそれは、合成的に作成することができる。本願の目的上、用語「発現コンストラクト(expression construct)」、「発現ベクター」及び「ベクター」は、一般化した例示的な意味で本発明の適用を実証するために同義的に使用され、本発明を限定することを意図されない。
【0085】
特定の実施形態において、改変レトロン配列を含む核酸は、プロモータの転写制御下にある。「プロモータ」は、遺伝子の特異的転写の開始に必要である、細胞の合成機構又は導入された合成機構によって認識されるDNA配列を指す。用語のプロモータは、ここで、RNAポリメラーゼI、II又はIIIの開始部位の周りにクラスター化する一群の転写制御モジュールを指して使用されることになる。哺乳類細胞発現に典型的なプロモータとしては、とりわけ、SV40初期プロモータ、CMV前初期プロモータなどのCMVプロモータ(米国特許第5,168,062号明細書及び同第5,385,839号明細書(全体として参照により本明細書に援用される)を参照されたい)、マウス乳癌ウイルスLTRプロモータ、アデノウイルス主要後期プロモータ(Ad MLP)及び単純ヘルペスウイルスプロモータが挙げられる。マウスメタロチオネイン遺伝子に由来するプロモータなど、他の非ウイルスプロモータも哺乳類発現への用途が見出されることになる。これらのプロモータ及び他のプロモータは、市販のプラスミドから、当技術分野において周知の技法を用いて入手することができる。例えば、サムブルック(Sambrook)ら著、前掲を参照されたい。プロモータに関連してエンハンサーエレメントを使用すると、コンストラクトの発現レベルが増加し得る。例としては、ダイケマ(Dijkema)ら著、欧州分子生物学機構ジャーナル(EMBO J.)、1985年、第4巻、p.761に記載されるとおりのSV40初期遺伝子エンハンサー、ゴーマン(Gorman)ら著、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、1982b年、第79巻、p.6777に記載されるとおりのラウス肉腫ウイルスの長末端反復配列(LTR)に由来するエンハンサー/プロモータ及びCMVイントロンA配列に含まれるエレメントなど、ボシャート(Boshart)ら著、セル(Cell)、1985年、第41巻、p.521に記載されるとおりのヒトCMVに由来するエレメントが挙げられる。
【0086】
一実施形態において、msr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子を含む改変レトロンを発現させるための発現ベクターは、msr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子をコードするポリヌクレオチドに「作動可能に連結されている」プロモータを含む。語句「作動可能に連結されている」又は「転写制御下にある」は、本明細書で使用されるとき、プロモータがポリヌクレオチドに対して、RNAポリメラーゼによる転写の開始並びにmsr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子の発現を制御するのに正しい位置及び向きにあることを意味する。
【0087】
典型的には、発現コンストラクトには、転写ターミネータ/ポリアデニル化シグナルも存在することになる。かかる配列の例としては、限定はされないが、サムブルック(Sambrook)ら著、前掲に記載されるとおりのSV40に由来するもの並びにウシ成長ホルモンターミネータ配列が挙げられる(例えば、米国特許第5,122,458号明細書を参照されたい)。加えて、コード配列に隣接して、その発現を亢進させるために5’-UTR配列が置かれ得る。かかる配列には、配列内リボソーム進入部位(IRES:internal ribosome entry site)を含むUTRが含まれ得る。
【0088】
IRESを含めると、ベクターからの1つ以上のオープンリーディングフレームの翻訳が可能となる。IRESエレメントは、真核生物リボソーム翻訳開始複合体を引き付けて翻訳開始を促進する。例えば、カウフマン(Kaufman)ら著、ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nuc.Acids Res.)、1991年、第19巻、p.4485~4490;グルトゥ(Gurtu)ら著、バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem.Biophys.Res.Comm.)、1996年、第229巻、p.295~298;リース(Rees)ら著、バイオテクニクス(BioTechniques)、1996年、第20巻、p.102~110;コバヤシ(Kobayashi)ら著、バイオテクニクス(BioTechniques)、1996年、第21巻、p.399~402;及びモッサー(Mosser)ら著、バイオテクニクス(BioTechniques)(1997年、第22巻、p.150~161を参照されたい。多数のIRES配列が公知であり、脳心筋炎ウイルス(EMCV)UTRなどのピコルナウイルスのリーダ配列からのもの(ジャン(Jang)ら著、ジャーナル・オブ・ヴィロロジー(J.Virol.)、1989年、第63巻、p.1651~1660)、ポリオリーダ配列、A型肝炎ウイルスリーダ、C型肝炎ウイルスIRES、ヒトライノウイルス2型IRES(ドブリコバ(Dobrikova)ら著、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.)、2003年、第100巻、第25号、p.15125~15130)、口蹄疫ウイルスからのIRESエレメント(ラメッシュ(Ramesh)ら著、ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucl.Acid Res.)、1996年、第24巻、p.2697~2700)、ジアルジアウイルスIRES(ガルラパティ(Garlapati)ら著、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.)、2004年、第279巻、第5号、p.3389~3397)など、幅広い種類のウイルスに由来する配列が挙げられる。種々の非ウイルス性IRES配列も、限定はされないが、酵母のIRES配列並びにヒトアンジオテンシンII 1型受容体IRES(マーティン(Martin)ら著、モレキュラー・アンド・セルラー・エンドクリノロジー(Mol.Cell Endocrinol.)、2003年、第212巻、p.51~61)、線維芽細胞成長因子IRES(FGF-1 IRES及びFGF-2 IRES、マーティノ(Martineau)ら著、2004年、モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー(Mol.Cell.Biol.)、第24巻、第17号、p.7622~7635)、血管内皮成長因子IRES(バラニック(Baranick)ら著、2008年、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.)、第105巻、第12号、p.4733~4738、スタイン(Stein)ら著、1998年、モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー(Mol.Cell.Biol.)、第18巻、第6号、p.3112~3119、バート(Bert)ら著、2006年、RNA、第12巻、第6号、p.1074~1083)及びインスリン様成長因子2 IRES(ペダーセン(Pedersen)ら著、2002年、バイオケミカル・ジャーナル(Biochem.J.)、第363巻、第1部、p.37~44)を含め、本明細書での用途が見出され得る。これらのエレメントは、例えば、クロンテック(Clontech)(カリフォルニア州マウンテンビュー(Mountain View,CA))、インビトロジェン(Invivogen)(カリフォルニア州サンディエゴ(San Diego,CA))、アドジェン(Addgene)(マサチューセッツ州ケンブリッジ(Cambridge,MA))及びジェンコピア(GeneCopoeia)(メリーランド州ロックビル(Rockville,MD))によって販売されているプラスミド中に容易に商業的に入手可能である。IRESite:実験的に検証されたIRES構造のデータベース(iresite.org)も参照されたい。ベクターにIRES配列を含めることにより、発現カセットからレトロン逆転写酵素と組み合わせて、例えばリコンビニアリングのための複数のバクテリオファージ組換えタンパク質又はHDRのためのRNA誘導型ヌクレアーゼ(例えば、Cas9)を発現させることができる。
【0089】
代わりに、ウイルスT2Aペプチドをコードするポリヌクレオチドを使用すると、単一のベクターから複数のタンパク質産物(例えば、Cas9、バクテリオファージ組換えタンパク質、レトロン逆転写酵素)を産生することが可能となる。多シストロン性コンストラクトのコード配列間に1つ以上の2Aリンカーペプチドを挿入することができる。自己切断性である2Aペプチドは、多シストロン性コンストラクトからの共発現するタンパク質の等モルレベルでの産生を可能にする。様々なウイルスからの2Aペプチドを使用することができ、限定はされないが、口蹄疫ウイルス、ウマ鼻炎Aウイルス、トセア・アシグナ(Thosea asigna)ウイルス及びブタテッショウウイルス-1に由来する2Aペプチドが挙げられる。例えば、キム(Kim)ら著、2011年、プロス・ワン(PLoS One)、第6巻、第4号、p.e18556、トリチャス(Trichas)ら著、2008年、BMCバイオロジー(BMC Biol.)、第6巻、p.40、プロボスト(Provost)ら著、2007年、ジェネシス(Genesis)、第45巻、第10号、p.625~629、ファーラ(Furler)ら著、2001年、ジーン・セラピー(Gene Ther.)、第8巻、第11号、p.864~873(全体として参照により本明細書に援用される)を参照されたい。
【0090】
特定の実施形態において、発現コンストラクトは、細菌宿主の形質転換に好適なプラスミドを含む。多くの細菌発現ベクターが当業者に公知であり、適切なベクターの選択は、好みの問題である。細菌発現ベクターとしては、限定はされないが、pACYC177、pASK75、pBAD、pBADM、pBAT、pCal、pET、pETM、pGAT、pGEX、pHAT、pKK223、pMal、pProEx、pQE及びpZA31が挙げられる。細菌プラスミドは、抗生物質選択マーカ(例えば、アンピシリン、カナマイシン、エリスロマイシン、カルベニシリン、ストレプトマイシン又はテトラサイクリン耐性)、lacZ遺伝子(β-ガラクトシダーゼはx-gal基質から青色色素を発する)、蛍光マーカ(例えば、GFP、mCherry)又は形質転換された細菌を選択するための他のマーカを含有し得る。例えば、サムブルック(Sambrook)ら著、前掲を参照されたい。
【0091】
他の実施形態において、発現コンストラクトは、酵母細胞の形質転換に好適なプラスミドを含む。酵母発現プラスミドは、典型的には、酵母特異的複製起点(ORI:origin of replication)及び栄養選択マーカ(例えば、HIS3、URA3、LYS2、LEU2、TRP1、MET15、ura4+、leu1+、ade6+)、抗生物質選択マーカ(例えば、カナマイシン耐性)、蛍光マーカ(例えば、mCherry)又は形質転換された酵母細胞を選択するための他のマーカを含有し得る。酵母プラスミドは、細菌宿主(例えば、大腸菌(E.coli))と酵母細胞との間のシャトル輸送を可能にする成分を更に含有し得る。ORIを欠いた、相同組換えによって宿主染色体に組み込まれる酵母組込みプラスミド(YIp:yeast integrating plasmid);自己複製配列(ARS:autonomously replicating sequence)を含有し、独立して複製することができる酵母複製プラスミド(YRp:yeast replicating plasmid);ARSの一部とセントロメア配列(CEN:centromere sequence)の一部とを含有する低コピーベクターである酵母セントロメアプラスミド(YCp:yeast centromere plasmid);及び1細胞当たり50コピー以上の安定した増殖を可能にする2ミクロン環(天然酵母プラスミド)からの断片を含む高コピー数プラスミドである酵母エピソームプラスミド(YEp:yeast episomal plasmid)を含め、多くの異なる種類の酵母プラスミドが利用可能である。
【0092】
他の実施形態において、発現コンストラクトは、ウイルスコンストラクト又はウイルスゲノムに由来する改変コンストラクトを含む。哺乳類細胞への遺伝子移入のために、幾つものウイルスベースのシステムが開発されている。それらとしては、アデノウイルス、レトロウイルス(γ-レトロウイルス及びレンチウイルス)、ポックスウイルス、アデノ随伴ウイルス、バキュロウイルス及び単純ヘルペスウイルスが挙げられる(例えば、ウォーノック(Warnock)ら著、2011年、メソッズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Methods Mol.Biol.)、第737巻、p.1~25;ワルサー(Walther)ら著、2000年、ドラッグズ(Drugs)、第60巻、第2号、p.249~271;及びランドストローム(Lundstrom)著、2003年、トレンズ・イン・バイオテクノロジー(Trends Biotechnol.)、第21巻、第3号、p.117~122(全体として参照により本明細書に援用される)を参照されたい)。特定のウイルスは、その受容体介在性エンドサイトーシスによって細胞に侵入する能力、宿主細胞ゲノムに組み込まれ、ウイルス遺伝子を安定且つ効率的に発現する能力により、外来性遺伝子を哺乳類細胞に移入させるための魅力的な候補となっている。
【0093】
例えば、レトロウイルスは、遺伝子送達システムに好都合なプラットフォームを提供する。当技術分野において公知の技法を用いて選択の配列をベクターに挿入し、レトロウイルス粒子にパッケージングすることができる。次に、この組換えウイルスを単離し、対象の細胞にインビボ又はエキソビボのいずれでも送達することができる。幾つものレトロウイルスシステムが記載されている(米国特許第5,219,740号明細書;ミラー(Miller)及びロズマン(Rosman)著、1989年、バイオテクニクス(BioTechniques)、第7巻、p.980~990;ミラー,A.D.(Miller,A.D.)著、1990年、ヒューマン・ジーン・セラピー(Human Gene Therapy)、第1巻、p.5~14;スカルパ(Scarpa)ら著、1991年、ヴィロロジー(Virology)、第180巻、p.849~852;バーンズ(Burns)ら著、1993年、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、第90巻、p.8033~8037;ボリス・ローリ(Boris-Lawrie)及びテミン(Temin)著、1993年、カレント・オピニオン・イン・ジェネティクス・アンド・デベロップメント(Cur.Opin.Genet.Develop.)、第3巻、p.102~109;及びフェリー(Ferry)ら著、2011年、カレント・ファーマシューティカル・デザイン(Curr.Pharm.Des.)、第17巻、第24号、p.2516~2527)。レンチウイルスは、分裂細胞及び非分裂細胞の両方に感染可能であるため、ポリヌクレオチドを哺乳類細胞に送達するのに特に有用なクラスのレトロウイルスである(例えば、ロイス(Lois)ら著、2002年、サイエンス(Science)、第295巻、p.868~872;デュランド(Durand)ら著、2011年、ウイルスィーズ(Viruses)、第3巻、第2号、p.132~159(本明細書において参照により援用される)を参照されたい)。
【0094】
幾つものアデノウイルスベクターも記載されている。宿主ゲノムに組み込まれるレトロウイルスと異なり、アデノウイルスは、染色体外に残り続けるため、挿入突然変異誘発に関連するリスクが最小限となる(ハジ-アフマッド(Haj-Ahmad)及びグラハム(Graham)、ジャーナル・オブ・ヴィロロジー(J.Virol.)、1986年、第57巻、p.267~274;ベット(Bett)ら著、ジャーナル・オブ・ヴィロロジー(J.Virol.)、1993年、第67巻、p.5911~5921;ミッテレーダ(Mittereder)ら著、ヒューマン・ジーン・セラピー(Human Gene Therapy)、1994年、第5巻、p.717~729;セス(Seth)ら著、ジャーナル・オブ・ヴィロロジー(J.Virol.)、1994年、第68巻、p.933~940;バー(Barr)ら著、ジーン・セラピー(Gene Therapy)、1994年、第1巻、p.51~58;ベルクネル,K.L.(Berkner,K.L.)著、バイオテクニクス(BioTechniques)、1988年、第6巻、p.616~629;及びリッチ(Rich)ら著、ヒューマン・ジーン・セラピー(Human Gene Therapy)、1993年、第4巻、p.461~476)。加えて、遺伝子送達のために、様々なアデノ随伴ウイルス(AAV:adeno-associated virus)ベクターシステムが開発されている。AAVベクターは、当技術分野において周知の技法を用いて容易に構築することができる。例えば、米国特許第5,173,414号明細書及び同第5,139,941号明細書;国際公開第92/01070号パンフレット(1992年1月23日公開)及び同第93/03769号パンフレット(1993年3月4日公開);レブコフスキー(Lebkowski)ら著、モレキュラー・アンド:セルラー・バイオロジー(Molec.Cell.Biol.)、1988年、第8巻、p.3988~3996;ビンセント(Vincent)ら著、ワクシーンズ90(Vaccines 90)、1990年、コールド・スプリング・ハーバ研究所出版局(Cold Spring Harbor Laboratory Press);カータ,B.J.(Carter,B.J.)著、カレント・オピニオン・イン・バイオテクノロジー(Current Opinion in Biotechnology)、1992年、第3巻、p.533~539;ムジツカ,N.(Muzyczka,N.)著、カレント・トピックス・イン・マイクロバイオロジー・アンド・イムノロジー(Current Topics in Microbiol.and Immunol.)、1992年、第158巻、p.97~129;コチン,R.M.(Kotin,R.M.)著、ヒューマン・ジーン・セラピー(Human Gene Therapy)、1994年、第5巻、p.793~801;シェリング(Shelling)及びスミス(Smith)著、ジーン・セラピー(Gene Therapy)、1994年、第1巻、p.165~169;及びチョウ(Zhou)ら著、ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディシン(J.Exp.Med.)、1994年、第179巻、p.1867~1875を参照されたい。
【0095】
改変レトロンをコードする核酸の送達に有用な別のベクターシステムは、スモール・ジュニア,P.A.(Small,Jr.,P.A.)ら(米国特許第5,676,950号明細書、1997年10月14日発行、本明細書において参照により援用される)によって記載される経腸的に投与される組換えポックスウイルスワクチンである。
【0096】
目的の核酸分子の送達に用途が見出されるであろう別のウイルスベクターとしては、ワクシニアウイルス及びトリポックスウイルスを含めた、ポックスウイルスファミリーに由来するものが挙げられる。例として、目的の核酸分子(例えば、改変レトロン)を発現するワクシニアウイルス組換え体は、以下のとおり構築することができる。初めに、特定の核酸配列をコードするDNAを、それがワクシニアプロモータ及びチミジンキナーゼ(TK)をコードする配列などのフランキングワクシニアDNA配列に隣接するように適切なベクターに挿入する。次に、このベクターを使用して細胞をトランスフェクトし、同時に細胞をワクシニアに感染させる。相同組換えは、ワクシニアプロモータ+目的の配列をコードする遺伝子をウイルスゲノムに挿入する役割を果たす。得られたTK組換え体は、5-ブロモデオキシウリジンの存在下で細胞を培養し、それに耐性のあるウイルスプラークをピッキングすることによって選択できる。
【0097】
代わりに、鶏痘及びカナリア痘ウイルスなどのアビポックスウイルスも目的の核酸分子の送達に使用することができる。アビポックス属のメンバーは、感受性のある鳥類種においてのみ増殖的に複製することができ、従って哺乳類細胞では感染性を有しないため、アビポックスベクターの使用は、ヒト及び他の哺乳類種において特に望ましい。組換えアビポックスウイルスの作製方法は、当技術分野において公知であり、上記にワクシニアウイルスの作製に関して記載されるとおり、遺伝子組換えを用いる。例えば、国際公開第91/12882号パンフレット;国際公開第89/03429号パンフレット;及び国際公開第92/03545号パンフレットを参照されたい。
【0098】
マイケル(Michael)ら著、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.)、1993年、第268巻、p.6866~6869及びワグナー(Wagner)ら著、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、1992年、第89巻、p.6099~6103に記載されるアデノウイルスキメラベクターなど、分子コンジュゲートベクターも遺伝子送達に使用することができる。
【0099】
限定はされないが、シンドビスウイルス(SIN)、セムリキ森林ウイルス(SFV)及びベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEE)に由来するベクターなど、アルファウイルス属のメンバーも本発明のポリヌクレオチドを送達するためのウイルスベクターとしての用途が見出されるであろう。本方法の実施に有用なシンドビスウイルス由来のベクターの説明については、ドゥベンスキー(Dubensky)ら著、1996年、ジャーナル・オブ・ヴィロロジー(J.Virol.)、第70巻、p.508~519;及び国際公開第95/07995号パンフレット、同第96/17072号パンフレット;並びにドゥベンスキー・ジュニア,T.W.(Dubensky,Jr.,T.W.)ら著、米国特許第5,843,723号明細書、1998年12月1日発行及びドゥベンスキー・ジュニア,T.W.(Dubensky,Jr.,T.W.)著、米国特許第5,789,245号明細書、1998年8月4日発行(両方とも本明細書において参照により援用される)を参照されたい。特に好ましいのは、シンドビスウイルス及びベネズエラウマ脳炎ウイルスに由来する配列を含むキメラアルファウイルスベクターである。例えば、ペリー(Perri)ら著、2003年、ジャーナル・オブ・ヴィロロジー(J.Virol.)、第77巻、p.10394~10403並びに国際公開第02/099035号パンフレット、同第02/080982号パンフレット、同第01/81609号パンフレット及び同第00/61772号パンフレット(全体として参照により本明細書に援用される)を参照されたい。
【0100】
好都合には、ワクシニアベースの感染/トランスフェクションシステムを使用して、宿主細胞における目的の核酸(例えば、改変レトロン)の誘導性の一過性発現をもたらすことができる。このシステムでは、初めにバクテリオファージT7 RNAポリメラーゼをコードするワクシニアウイルス組換え体にインビトロで細胞を感染させる。このポリメラーゼは、T7プロモータを担持する鋳型のみを転写する点で精巧な特異性を呈する。感染後、T7プロモータによってドライブされる目的の核酸を細胞にトランスフェクトする。細胞質においてワクシニアウイルス組換え体から発現したポリメラーゼがトランスフェクトDNAをRNAに転写する。この方法は、細胞質における高度な一過性の多量のRNA産生をもたらす。例えば、エルロイ・スタイン(Elroy-Stein)及びモス(Moss)著、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、1990年、第87巻、p.6743~6747;フュアースト(Fuerst)ら著、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、1986年、第83巻、p.8122~8126を参照されたい。
【0101】
ワクシニア若しくはアビポックスウイルス組換え体を感染させる代替的な手法又は他のウイルスベクターを用いて核酸を送達する代替的な手法として、宿主細胞への導入後に高度な発現につながるであろう増幅システムを使用することができる。具体的には、T7 RNAポリメラーゼのコード領域の前にあるT7 RNAポリメラーゼプロモータを改変することができる。この鋳型に由来するRNAが翻訳されると、T7 RNAポリメラーゼが生じることになり、次にそれがより多くの鋳型を転写することになる。付随して、発現がT7プロモータの制御下にあるcDNAがあることになる。従って、増幅鋳型RNAの翻訳によって生じたT7 RNAポリメラーゼの一部が所望の遺伝子の転写につながることになる。一部のT7 RNAポリメラーゼは、増幅の開始に必要であるため、T7 RNAポリメラーゼは、転写反応をプライミングする1つ又は複数の鋳型と共に細胞に導入することができる。ポリメラーゼは、タンパク質として又はRNAポリメラーゼをコードするプラスミド上に導入することができる。T7システム及び細胞の形質転換へのその使用の更なる考察については、例えば、国際公開第94/26911号パンフレット;スチュディアー(Studier)及びモファット(Moffatt)著、ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.)、1986年、第189巻、p.113~130;デング(Deng)及びウォルフ(Wolff)著、ジーン(Gene)、1994年、第143巻、p.245~249;ガオ(Gao)ら著、バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem.Biophys.Res.Commun.)、1994年、第200巻、p.1201~1206;ガオ(Gao)及びファン(Huang)著、ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nuc.Acids Res.)、1993年、第21巻、p.2867~2872;チェン(Chen)ら著、ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nuc.Acids Res.)、1994年、第22巻、p.2114~2120;及び米国特許第5,135,855号明細書を参照されたい。
【0102】
バキュロウイルスシステムなどの昆虫細胞発現システムも使用することができ、当業者に公知であり、例えば「バキュロウイルス及び昆虫細胞発現プロトコル(Baculovirus and Insect Cell Expression Protocols)」(メソッズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Methods in Molecular Biology)、D.W.ムーハンマ(D.W.Murhammer)編、ヒューマナ・プレス(Humana Press)、第2版、2007年)及びL.キング(L.King)著、「バキュロウイルス発現システム:実験室ガイド(The Baculovirus Expression System:A laboratory guide)」(シュプリンガー(Springer)、1992年)に記載されている。バキュロウイルス/昆虫細胞発現システムのための材料及び方法は、とりわけ、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific)(マサチューセッツ州ウォルサム(Waltham,MA))及びクロンテック(Clontech)(カリフォルニア州マウンテンビュー(Mountain View,CA))からキット形態で市販されている。
【0103】
植物発現システムも植物細胞の形質転換に使用することができる。概して、かかるシステムは、ウイルスベースのベクターを使用して植物細胞に異種遺伝子をトランスフェクトする。かかるシステムの説明については、例えば、ポルタ(Porta)ら著、モレキュラー・バイオテクノロジー(Mol.Biotech.)、1996年、第5巻、p.209~221;及びハックランド(Hackland)ら著、アーカイブズ・オブ・ヴィロロジー(Arch.Virol.)、1994年、第139巻、p.1~22を参照されたい。
【0104】
改変レトロンコンストラクトの発現を生じさせるために、発現コンストラクトを細胞内に送達しなければならない。この送達は、細胞株を形質転換する際の実験室手順において見られるように、インビトロで達成され得るか、又はある種の疾患状態の治療において見られるように、インビボ又はエキソビボで達成され得る。1つの送達機構は、ウイルス感染によるものであり、ここで、発現コンストラクトは、感染性ウイルス粒子に封入される。
【0105】
発現コンストラクトを培養細胞に移入させるための幾つかの非ウイルス方法も企図される。それらとしては、リン酸カルシウム沈殿、DEAE-デキストラン、電気穿孔、ダイレクトマイクロインジェクション、DNA負荷リポソーム、リポフェクタミン-DNA複合体、細胞超音波処理、高速マイクロプロジェクタイルを用いる遺伝子銃及び受容体介在性トランスフェクションの使用が挙げられる(例えば、グラハム(Graham)及びファン・デル・エブ(Van Der Eb)著、1973年、ヴィロロジー(Virology)、第52巻、p.456~467;チェン(Chen)及びオカヤマ(Okayama)著、1987年、モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー(Mol.Cell Biol.)、第7巻、p.2745~2752;リップ(Rippe)ら著、1990年、モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー(Mol.Cell Biol.)、第10巻、p.689~695;ゴパール(Gopal)著、1985年、モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー(Mol.Cell Biol.)、第5巻、p.1188~1190;ターカスパ(Tur-Kaspa)ら著、1986年、モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー(Mol.Cell.Biol.)、第6巻、p.716~718;ポッター(Potter)ら著、1984年、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、第81巻、p.7161~7165);ハーランド(Harland)及びワイントラウブ(Weintraub)著、1985年、ジャーナル・オブ・セル・バイオロジー(J.Cell Biol.)、第101巻、p.1094~1099);ニコラウ(Nicolau)及びセネ(Sene)著、1982年、バイオキミカ・エ・バイオフィジカ・アクタ(Biochim.Biophys.Acta)、第721巻、p.185~190;フレーリ(Fraley)ら著、1979年、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、第76巻、p.3348~3352;フェヒヘイマー(Fechheimer)ら著、1987年、米国科学アカデミー紀要(Proc Natl.Acad.Sci.USA)、第84巻、p.8463~8467;ヤン(Yang)ら著、1990年、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、第87巻、p.9568~9572;ウー(Wu)及びウー(Wu)著、1987年、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.)、第262巻、p.4429~4432;ウー(Wu)及びウー(Wu)著、1988年、バイオケミストリー(Biochemistry)、第27巻、p.887~892(本明細書において参照により援用される)を参照されたい)。これらの技法の一部は、インビボ又はエキソビボ用途に問題なく適合させることができる。
【0106】
発現コンストラクトが細胞内に送達されると、改変レトロン配列を含む核酸が種々の部位に置かれ、発現し得る。特定の実施形態において、改変レトロン配列を含む核酸は、細胞のゲノムに安定に組み込まれ得る。この組込みは、相同組換え(遺伝子置換)でコグネイトな(cognate)位置及び向きであり得るか、又はこれは、ランダムな非特異的な位置に組み込まれ得る(遺伝子の増大)。更に別の実施形態において、核酸は、DNAの別個のエピソームセグメントとして細胞に安定に維持され得る。かかる核酸セグメント又は「エピソーム」は、宿主細胞周期と独立して又はそれと同期して維持及び複製を可能にするのに十分な配列をコードする。発現コンストラクトがどのように細胞に送達されるか及び細胞のいずれの箇所に核酸が残るかは、利用される発現コンストラクトの種類に依存する。
【0107】
更に別の実施形態において、発現コンストラクトは、単純に、改変レトロンを含むネイキッドの組換えDNA又はプラスミドからなり得る。コンストラクトの移入は、細胞膜を物理的又は化学的に透過処理する上述の方法のいずれかによって実施され得る。これは、特にインビトロでの移入に適用可能であるが、これは、インビボ使用にも同様に適用され得る。ドゥベンスキー(Dubensky)ら(米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、1984年、第81巻、p.7529~7533)は、活動性のウイルス複製及び急性感染症を示す成体及び新生児マウスの肝臓及び脾臓にポリオーマウイルスDNAをリン酸カルシウム沈殿物の形態で注入することに成功した。ベンベニスティー(Benvenisty)及びネシフ(Neshif)(米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、1986年、第83巻、p.9551~9555)も、リン酸カルシウム沈殿させたプラスミドの直接的な腹腔内注射により、トランスフェクトした遺伝子の発現が得られることを実証した。目的の改変レトロンをコードするDNAも同様の方法においてインビボで移入し、レトロン産物を発現させ得ることが想定される。
【0108】
なおも別の実施形態では、ネイキッドDNA発現コンストラクトをパーティクルボンバードメントによって細胞に移入し得る。この方法は、DNAをコートしたマイクロプロジェクタイルを高速に加速させることにより、それを細胞膜に貫通させて、細胞を殺傷することなく細胞に侵入させる能力に依存する(クライン(Klein)ら著、1987年、ネイチャー(Nature)、第327巻、p.70~73)。小粒子を加速させるための幾つかの装置が開発されている。1つのかかる装置は、高電圧放電によって電流を生じさせ、それが次に原動力をもたらすことに依存する(ヤン(Yang)ら著、1990年、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、第87巻、p.9568~9572)。マイクロプロジェクタイルは、タングステン又は金ビーズなど、生物学的に不活性な物質からなり得る。
【0109】
更なる実施形態では、リポソームを使用して発現コンストラクトを送達し得る。リポソームは、リン脂質二分子膜及び内部の水性媒体を特徴とする小胞構造である。多重膜リポソームは、水性媒体によって分離された複数の脂質層を有する。これは、過剰量の水溶液にリン脂質を懸濁すると、自然発生的に形成される。脂質成分は、自己再構成を起こした後に閉じた構造を形成し、脂質二重層間に水及び溶解した溶質を封入する(ゴーシュ(Ghosh)及びバッチャワット(Bachhawat)著、1991年、「特異的受容体及びリガンドを使用した肝疾患、標的診断及び治療(Liver Diseases,Targeted Diagnosis and Therapy Using Specific Receptors and Ligands)」、ウー(Wu)ら編、マルセル・デッカー(Marcel Dekker)、ニューヨーク州、p.87~104)。リポフェクタミン-DNA複合体の使用も企図される。
【0110】
特定の実施形態において、リポソームは、センダイウイルス(HVJ)と複合体化され得る。これにより、細胞膜との融合が容易になり、リポソームに封入されたDNAの細胞への侵入が促進されることが示されている(カネダ(Kaneda)ら著、1989年、サイエンス(Science)、第243巻、p.375~378)。他の実施形態において、リポソームは、核内非ヒストン染色体タンパク質(HMG-I)と複合体化されるか又はそれと併せて利用され得る(カトウ(Kato)ら著、1991年、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.)、第266巻、第6号、p.3361~3364)。更に別の実施形態において、リポソームは、HVJ及びHMG-Iの両方と複合体化されるか又はそれと併せて利用され得る。かかる発現コンストラクトがインビトロ及びインビボでの核酸の移入及び発現に利用され、成功している点において、従ってそれを本発明に適用可能である。DNAコンストラクトに細菌プロモータが利用される場合、リポソーム内に適切な細菌ポリメラーゼを含めることも望ましいであろう。
【0111】
細胞への核酸の送達に利用することのできる他の発現コンストラクトは、受容体介在性送達媒体(vehicles)である。これは、ほぼ全ての真核細胞における受容体介在性エンドサイトーシスによる高分子の選択的取込みを利用する。様々な受容体の細胞型特異的分布のため、送達は、高度に特異的であり得る(ウー(Wu)及びウー(Wu)著、1993年、アドバンスド・ドラッグ・デリバリー・レビューズ(Adv.Drug Delivery Rev.)、第12巻、p.159~167)。
【0112】
受容体介在性遺伝子ターゲティング媒体は、概して、2つの成分、即ち細胞受容体特異的リガンド及びDNA結合体からなる。受容体介在性遺伝子移入には、幾つかのリガンドが使用されている。最も十分に特徴付けられているリガンドは、アシアロオロソムコイド(ASOR)及びトランスフェリンである(例えば、ウー(Wu)及びウー(Wu)著、1987年、前掲;ワグナー(Wagner)ら著、1990年、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、第87巻、第9号、p.3410~3414を参照されたい)。ASORと同じ受容体を認識する合成ネオ糖タンパク質が遺伝子送達媒体として使用されており(フェルコル(Ferkol)ら著、1993年、FASEBジャーナル(FASEB J.)、第7巻、p.1081~1091;ペラレス(Perales)ら著、1994年、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、第91巻、第9号、p.4086~4090)、上皮成長因子(EGF:epidermal growth factor)も、遺伝子を扁平上皮癌細胞に送達するために使用されている(マイヤーズ(Myers)著、欧州特許第0273085号明細書)。
【0113】
他の実施形態において、送達媒体は、リガンド及びリポソームを含み得る。例えば、ニコラウ(Nicolau)ら(メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods Enzymol.)、1987年、第149巻、p.157~176)は、ガラクトース末端アシアロガングリオシドであるラクトシルセラミドをリポソームに取り込んだものを利用して、ヘパトサイトによるインスリン遺伝子の取込みの増加を観察した。従って、特定の遺伝子をコードする核酸も、幾つもの受容体-リガンドシステムによってリポソームあり又はなしで細胞に特異的に送達し得ることが実現可能である。細胞上の表面抗原に対する抗体も同様にターゲティング部分として使用することができる。
【0114】
詳細な例において、改変レトロンを含む組換えポリヌクレオチドをカチオン性脂質と組み合わせて投与し得る。カチオン性脂質の例としては、限定はされないが、リポフェクチン、DOTMA、DOPE及びDOTAPが挙げられる。国際公開第00/71096号パンフレット(これは、参照により具体的に援用される)は、遺伝子療法に有効に使用し得るDOTAP:コレステロール又はコレステロール誘導体製剤など、種々の製剤について記載している。他の開示も、ナノ粒子及び投与方法を含め、種々の脂質又はリポソーム製剤について考察しており;それらとしては、限定はされないが、米国特許出願公開第20030203865号明細書、同第20020150626号明細書、同第20030032615号明細書及び同第20040048787号明細書(これらは、製剤及び他の関連する核酸の投与及び送達の態様を開示する範囲で参照により具体的に援用される)が挙げられる。粒子の形成に用いられる方法は、米国特許第5,844,107号明細書、同第5,877,302号明細書、同第6,008,336号明細書、同第6,077,835号明細書、同第5,972,901号明細書、同第6,200,801号明細書及び同第5,972,900号明細書(これらは、その態様について参照により援用される)にも開示されている。
【0115】
特定の実施形態では、エキソビボ条件下で遺伝子移入を実施することがより容易であり得る。エキソビボ遺伝子療法とは、対象から細胞を単離し、インビトロで細胞に核酸を送達し、次に修飾された細胞を対象に戻すことを指す。これには、対象からの細胞を含む生体試料の採取が関わり得る。例えば、当技術分野において周知の方法によれば、血液は、静脈穿刺によって入手することができ、固形組織試料は、外科的技法によって入手することができる。
【0116】
常にそうであるとは限らないが、通常、細胞を受け取る対象(即ちレシピエント)は、細胞を回収又は入手する対象でもあり、これは、供与される細胞が自家性であるという利点をもたらす。しかしながら、細胞は、別の対象(即ちドナー)、ドナーからの細胞の培養物又は樹立された細胞培養株から入手することもできる。細胞は、治療される対象と同じ又は異なる種から入手され得るが、好ましくは対象と同じ種、より好ましくは同じ免疫学的プロファイルの細胞である。かかる細胞は、例えば、近親血縁者又は適合ドナーからの細胞を含む生体試料から入手することができ、次に核酸(例えば、改変レトロンを含む)がトランスフェクトされて、ゲノム修飾を必要としている対象に例えば疾患又は病態の治療のために投与され得る。
【0117】
キット
本明細書に記載されるとおりの改変レトロンコンストラクトを含むキットも提供される。一部の実施形態において、キットは、改変レトロンコンストラクト又はかかるレトロンコンストラクトを含むベクターシステムを提供する。一部の実施形態において、キットに含まれる改変レトロンコンストラクトは、目的のタンパク質又は調節性RNAをコードする核酸、細胞性バーコード、例えば相同組換え修復(HDR)又は組換えによって媒介される遺伝子改変(リコンビニアリング)による遺伝子編集における使用に好適なドナーポリヌクレオチド又は分子レコーディングに用いられるCRISPRプロトスペーサDNA配列を細胞に提供する能力のある異種配列を含む。キットには、トランスフェクション剤、宿主細胞、細胞の培養に好適な培地、緩衝液などの他の薬剤も含まれ得る。
【0118】
キットに関連して、薬剤は、任意の好都合な包装(例えば、スティックパック、用量パック等)に液体又は固体形態で提供され得る。キットの薬剤は、同じ又は別個の容器に存在し得る。薬剤は、同じ容器にも存在し得る。上記の構成要素に加えて、主題のキットは、(特定の実施形態では)主題の方法の実施に関する説明書を更に含み得る。これらの説明書は、主題のキットに種々の形態で存在し得、その1つ以上がキットに存在し得る。それらの説明書が存在し得る1つの形態は、キットの包装、添付文書などにある、好適な媒体又は基材に印刷された情報としての形態、例えば情報が印刷されている1枚又は複数枚の紙である。これらの説明書の更に別の形態は、コンピュータ可読媒体、例えばディスケット、コンパクトディスク(CD:compact disk)、フラッシュドライブなどであり、それに情報が記録されている。存在し得るこれらの説明書の更に別の形態は、離れた場所から情報にアクセスするためにインターネット経由で用いられ得るウェブサイトアドレスである。
【0119】
有用性
レトロンは、種々の適用での使用のために異種配列で改変することができる。例えば、レトロンコンストラクトに異種配列を付加することにより、以下で更に考察するとおりの、目的のタンパク質又は調節性RNAをコードする異種核酸、細胞性バーコード、例えば相同組換え修復(HDR)又は組換えによって媒介される遺伝子改変(リコンビニアリング)による遺伝子編集における使用に好適なドナーポリヌクレオチド又は分子レコーディングに用いられるCRISPRプロトスペーサDNA配列を細胞に提供することができる。かかる異種配列は、例えば、異種配列がレトロン逆転写酵素によってmsDNA産物の一部として転写されるようにmsr遺伝子又はmsd遺伝子に挿入され得る。
【0120】
タンパク質又はRNAの産生
例えば、改変レトロンによって生成される一本鎖DNAを使用して、細胞において所望の目的産物を産生させることができる。一部の実施形態では、レトロンは、細胞において生成されるレトロンmsDNAからのポリペプチドの産生が可能となるように、目的のポリペプチドをコードする異種配列で改変される。目的のポリペプチドは、いかなる種類のタンパク質/ペプチドでもあり得、限定なしに、酵素、細胞外マトリックスタンパク質、受容体、トランスポータ、イオンチャネル又は他の膜タンパク質、ホルモン、神経ペプチド、抗体若しくは細胞骨格タンパク質;又はその断片若しくは目的の生物学的に活性なドメインが挙げられる。一部の実施形態において、タンパク質は、疾患の治療に用いられる治療用タンパク質又は治療用抗体である。
【0121】
他の実施形態において、レトロンは、細胞におけるレトロンからのRNAの産生が可能となるように、目的のRNAをコードする異種配列で改変される。目的のRNAは、いかなる種類のRNAでもあり得、限定なしに、RNA干渉(RNAi:RNA interference)核酸又は調節性RNA、例えば、限定はされないが、マイクロRNA(miRNA:microRNA)、低分子干渉RNA(siRNA:small interfering RNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA:short hairpin RNA)、低分子核RNA(snRNA:small nuclear RNA)、長鎖非コードRNA(lncRNA:long non-coding RNA)、アンチセンス核酸などが挙げられる。
【0122】
遺伝子編集
一部の実施形態において、レトロンは、CRISPR/Casゲノム編集システムで使用するのに好適なドナーポリヌクレオチドをコードする異種配列で改変される。ドナーポリヌクレオチドは、細胞内の編集される標的遺伝子座へのドナーポリヌクレオチドのターゲティングに関与する相同性アームの対が隣接する意図されるゲノム編集を含む配列を含む。ドナーポリヌクレオチドは、典型的には、5’ゲノム標的配列にハイブリダイズする5’相同性アームと、3’ゲノム標的配列にハイブリダイズする3’相同性アームとを含む。相同性アームは、本明細書では5’及び3’(即ち上流及び下流)相同性アームと称され、これは、ドナーポリヌクレオチド内の意図される編集を含むヌクレオチド配列に対する相同性アームの相対的な位置に関する。5’及び3’相同性アームは、修飾されるゲノムDNAの標的遺伝子座内にある、本明細書でそれぞれ「5’標的配列」及び「3’標的配列」と称される領域にハイブリダイズする。
【0123】
相同性アームは、ドナーポリヌクレオチドと標的遺伝子座のゲノムDNAとの間の相同組換えを媒介するため標的配列にハイブリダイズするのに十分な相補性がなければならない。例えば、相同性アームは、対応するゲノム標的配列と少なくとも約80~100%の配列同一性、例えばこの範囲内にある任意のパーセント同一性を含めて、例えばそれと少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性などを有するヌクレオチド配列を含むことができ、ここで意図される編集を含むヌクレオチド配列は、5’及び3’相同性アームによって認識される(即ちハイブリダイゼーションに十分な相補性を有する)ゲノム標的遺伝子座においてHDRによってゲノムDNAに組み込まれ得る。
【0124】
特定の実施形態において、ゲノム標的配列中の対応する相同ヌクレオチド配列(即ち「5’標的配列」及び「3’標的配列」)は、切断のための特異的部位に隣接し、且つ/又は意図される編集の導入のための特異的部位に隣接する。特異的な切断部位と相同ヌクレオチド配列(例えば、各相同性アーム)との間の距離は、数百ヌクレオチドであり得る。一部の実施形態において、相同性アームと切断部位との間の距離は、200ヌクレオチド以下(例えば、0、10、20、30、50、75、100、125、150、175及び200ヌクレオチド)である。ほとんどの場合、距離が短いほど、高い遺伝子ターゲティング率が生じ得る。好ましい実施形態において、ドナーポリヌクレオチドは、特異的切断部位及び変化されるゲノム標的配列の一部分の両方を包含するゲノムの一部分に導入される配列変化を除いて、その全長にわたって標的ゲノム配列と実質的に同一である。
【0125】
相同性アームは、任意の長さ、例えば10ヌクレオチド以上、15ヌクレオチド以上、20ヌクレオチド以上、50ヌクレオチド以上、100ヌクレオチド以上、250ヌクレオチド以上、300ヌクレオチド以上、350ヌクレオチド以上、400ヌクレオチド以上、450ヌクレオチド以上、500ヌクレオチド以上、1000ヌクレオチド(1kb)以上、5000ヌクレオチド(5kb)以上、10000ヌクレオチド(10kb)以上等であり得る。一部の例では、5’及び3’相同性アームは、互いに実質的に等しい長さである。しかしながら、一部の例では、5’及び3’相同性アームは、必ずしも互いに等しい長さというわけではない。例えば、一方の相同性アームが他方の相同性アームよりも30%以下短いか、他方の相同性アームよりも20%以下短いか、他方の相同性アームよりも10%以下短いか、他方の相同性アームよりも5%以下短いか、他方の相同性アームよりも2%以下短いか、又は他方の相同性アームよりも僅か数ヌクレオチドだけ短くてもよい。他の場合、5’及び3’相同性アームは、互いに実質的に異なる長さであり、例えば一方が他方の相同性アームよりも40%以上短いか、50%以上短いか、時に60%以上短いか、70%以上短いか、80%以上短いか、90%以上短いか、又は95%以上短くてもよい。
【0126】
ドナーポリヌクレオチドは、ガイドRNAによって特定のゲノム配列(即ち修飾されるゲノム標的配列)に標的化されるRNA誘導型ヌクレアーゼと組み合わせて使用される。標的特異的ガイドRNAは、ゲノム標的配列に相補的なヌクレオチド配列を含み、従って標的部位におけるヌクレアーゼ-gRNA複合体のハイブリダイゼーションによる結合を媒介する。例えば、gRNAは、ヌクレアーゼ-gRNA複合体を突然変異部位に標的化するため、マイナーアレルの配列に相補的な配列を含んで設計することができる。突然変異は、挿入、欠失又は置換を含み得る。例えば、突然変異には、一塩基変化、遺伝子融合、転座、逆位、重複、フレームシフト、ミスセンス、ナンセンス又は目的の表現型若しくは疾患に関連する他の突然変異が含まれ得る。標的化されるマイナーアレルは、共通の遺伝的変異又はまれな遺伝的変異であり得る。特定の実施形態において、gRNAは、一塩基対を識別してマイナーアレルに選択的に結合するように設計され、例えばヌクレアーゼ-gRNA複合体が一塩基変異多型(SNP:single nucleotide polymorphism)に結合することを可能にする。詳細には、gRNAは、遺伝子から突然変異を取り除くためのゲノム編集を目的として、目的の疾患関連突然変異を標的化するように設計され得る。代わりに、gRNAは、細胞のゲノムDNAの遺伝子に挿入、欠失又は置換などの突然変異を導入するためのゲノム編集を目的として、メジャー又は野生型アレルの配列に相補的な配列を含んで、ヌクレアーゼ-gRNA複合体がそのアレルに標的化されるように設計することができる。かかる遺伝子修飾細胞は、例えば、表現型を変化させるため、新規特性を付与するため又は薬物スクリーニングのための疾患モデルを作製するために使用することができる。
【0127】
特定の実施形態において、ゲノム修飾に使用されるRNA誘導型ヌクレアーゼは、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)システムCasヌクレアーゼである。ゲノム編集では、CRISPRシステムI型、II型又はIII型Casヌクレアーゼを含め、HDR機構によるドナーポリヌクレオチドの組込みを可能にするDNAの部位特異的切断の触媒能を有する任意のRNA誘導型Casヌクレアーゼを使用することができる。Casタンパク質の例としては、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas5e(CasD)、Cas6、Cas6e、Cas6f、Cas7、Cas8a1、Cas8a2、Cas8b、Cas8c、Cas9(Csn1又はCsx12)、Cas10、Cas10d、CasF、CasG、CasH、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1(CasA)、Cse2(CasB)、Cse3(CasE)、Cse4(CasC)、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4及びCu1966並びにその相同体又は修飾されたバージョンが挙げられる。
【0128】
特定の実施形態では、II型CRISPRシステムCas9エンドヌクレアーゼが使用される。本明細書に記載されるとおりのゲノム修飾の実施には、任意の種のCas9ヌクレアーゼ又はCas9エンドヌクレアーゼ活性(即ちDNAの部位特異的切断を触媒して二本鎖切断を生じさせる)を保持しているその生物学的に活性な断片、変異体類似体若しくは誘導体を使用し得る。Cas9は、物理的に生物に由来しなくてもよく、合成的に又は組換えで作製され得る。幾つもの細菌種のCas9配列が当技術分野において周知であり、国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)データベースに掲載されている。例えば、以下のCas9についてのNCBIエントリを参照されたい:化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)(WP_002989955、WP_038434062、WP_011528583);カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)(WP_022552435、YP_002344900)、カンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)(WP_060786116);カンピロバクター・フィタス(Campylobacter fetus)(WP_059434633);コリネバクテリウム・ウルセランス(Corynebacterium ulcerans)(NC_015683、NC_017317);ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheria)(NC_016782、NC_016786);フェカリス菌(Enterococcus faecalis)(WP_033919308);スピロプラズマ・シルフィディコーラ(Spiroplasma syrphidicola)(NC_021284);プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)(NC_017861);スピロプラズマ・タイワネンス(Spiroplasma taiwanense)(NC_021846);ストレプトコッカス・イニアエ(Streptococcus iniae)(NC_021314);ベルリエラ・バルティカ(Belliella baltica)(NC_018010);サイクロフレクサス・トークイス(Psychroflexus torquis )I(NC_018721);ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)(YP_820832)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)(WP_061046374、WP_024786433);リステリア・イノキュア(Listeria innocua)(NP_472073);リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)(WP_061665472);レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)(WP_062726656);黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(WP_001573634);野兎病菌(Francisella tularensis)(WP_032729892、WP_014548420)、フェカリス菌(Enterococcus faecalis)(WP_033919308);ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)(WP_048482595、WP_032965177);及び髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)(WP_061704949、YP_002342100)。これらの配列は、全て(本願の出願日までに登録されているとおり)全体として参照により本明細書に援用される。本明細書に記載されるとおりのゲノム編集には、これらの配列のいずれも又はそれと少なくとも約70~100%の配列同一性、例えばこの範囲内にある任意のパーセント同一性を含めて、例えばそれと70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98又は99%の配列同一性などを有する配列を含むその変異体を使用することができる。Cas9の配列比較並びに遺伝的多様性及び系統発生解析の考察については、フォンファラ(Fonfara)ら著、2014年、ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Res.)、第42巻、第4号、p.2577~90;カピトノフ(Kapitonov)ら著、2015年、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J.Bacteriol.)、第198巻、第5号、p.797~807、シュマコフ(Shmakov)ら著、2015年、モレキュラー・セル(Mol.Cell.)、第60巻、第3号、p.385~397及びチリンスキー(Chylinski)ら著、2014年、ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Res.)、第42巻、第10号、p.6091~6105)も参照されたい。
【0129】
CRISPR-Casシステムは、細菌及び古細菌中に天然に存在し、そこでは、それは、外来DNAに対するRNA媒介性適応免疫において役割を果たしている。細菌II型CRISPRシステムは、ガイドRNA(gRNA)と複合体を形成するエンドヌクレアーゼ、Cas9を用いるものであり、gRNAが相補的なゲノム標的配列に特異的にハイブリダイズし、そこでCas9エンドヌクレアーゼが切断を触媒して二本鎖切断を生じさせる。Cas9のターゲティングは、典型的には、gRNA結合部位又はその近傍にあるDNA中の5’プロトスペーサ隣接モチーフ(PAM)の存在に更に依存する。
【0130】
ゲノム標的部位は、典型的には、gRNAに相補的なヌクレオチド配列を含むことになり、更にプロトスペーサ隣接モチーフ(PAM)を含み得る。特定の実施形態において、標的部位は、3塩基対のPAMに加えて20~30塩基対を含む。典型的には、PAMの1番目のヌクレオチドは、任意のヌクレオチドであり得る一方、他の2つのヌクレオチドは、選択された特異的なCas9タンパク質に依存することになる。例示的PAM配列は、当業者に公知であり、限定なしに、NNG、NGN、NAG及びNGG(式中、Nは、任意のヌクレオチドを表す)が挙げられる。特定の実施形態において、gRNAによって標的化されるアレルは、アレル内にPAMを作り出す突然変異を含み、ここで、PAMは、Cas9-gRNA複合体によるアレルへの結合を促進する。
【0131】
特定の実施形態において、gRNAは、5~50ヌクレオチド長、10~30ヌクレオチド長、15~25ヌクレオチド長、18~22ヌクレオチド長若しくは19~21ヌクレオチド長又は記載される範囲間にある任意の長さ、例えば10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34又は35ヌクレオチド長を含めた長さである。ガイドRNAは、単一のRNA分子にcrRNAとtracrRNA配列とを含むシングルガイドRNAであり得るか、又はガイドRNAは、crRNA及びtracrRNA配列が別個のRNA分子に存在する2つのRNA分子を含み得る。
【0132】
別の実施形態において、プレボテラ属(Prevotella)及びフランシセラ属(Francisella)由来のCRISPRヌクレアーゼ1(Cpf1)が使用される。Cpf1は、Cas9と類似性があり、同様に使用され得る別のクラスII CRISPR/CasシステムRNA誘導型ヌクレアーゼである。Cas9と異なり、Cpf1は、tracrRNAの必要がなく、そのガイドRNA中のcrRNAのみに依存し、これは、Cpf1ではターゲティングにCas9よりも短いガイドRNAを使用し得るという利点を提供する。Cpf1は、DNA又はRNAのいずれの切断能も有する。Cpf1によって認識されるPAM部位は、配列5’-YTN-3’(式中、「Y」は、ピリミジンであり、「N」は、任意の核酸塩基である)又は5’-TTN-3’を有し、Cas9によって認識されるGリッチPAM部位とは対照的である。Cpf1によってDNAが切断されると、4又は5ヌクレオチドオーバーハングを有する付着末端(sticky-ends)の二本鎖切断が生じる。Cpf1の考察については、例えば、レドフォード(Ledford)ら著、2015年、ネイチャー(Nature)、第526巻、第7571号、p.17~17、ツェッチェ(Zetsche)ら著、2015年、セル(Cell)、第163巻、第3号、p.759~771、ムロヴェク(Murovec)ら著、2017年、ジャーナル・オブ・プラント・バイオテクノロジー(Plant Biotechnol.J.)、第15巻、第8号、p.917~926、チャン(Zhang)ら著、2017年、フロンティアズ・イン・プラント・サイエンス(Front.Plant Sci.)、第8巻、p.177、フェルナンデス(Fernandes)ら著、2016年、ポステピー・バイオケミイ(Postepy Biochem.)、第62巻、第3号、p.315~326(本明細書において参照により援用される)を参照されたい。
【0133】
C2c1は、使用し得る別のクラスII CRISPR/CasシステムRNA誘導型ヌクレアーゼである。C2c1は、Cas9と同様に、標的部位への誘導についてcrRNA及びtracrRNAの両方に依存する。C2c1の説明については、例えば、シュマコフ(Shmakov)ら著、2015年、モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー(Mol Cell.)、第60巻、第3号、p.385~397、チャン(Zhang)ら著、2017年、フロンティアズ・イン・プラント・サイエンス(Front Plant Sci.)、第8巻、p.177(本明細書において参照により援用される)を参照されたい。
【0134】
更に別の実施形態において、改変されたRNA誘導型FokIヌクレアーゼが使用され得る。RNA誘導型FokIヌクレアーゼは、不活性型Cas9(dCas9)とFokIエンドヌクレアーゼとの融合体(FokI-dCas9)を含み、ここで、dCas9部分は、FokIにガイドRNA依存的ターゲティングを付与する。改変されたRNA誘導型FokIヌクレアーゼの説明については、例えば、ハブリチェク(Havlicek)ら著、2017年、モレキュラー・セラピー(Mol.Ther.)、第25巻、第2号、p.342~355、パン(Pan)ら著、2016年、サイエンティフィック・リポーツ(Sci Rep.)、第6巻、p.35794、ツァイ(Tsai)ら著、2014年、ネイチャー・バイオテクノロジー(Nat Biotechnol.)、第32巻、第6号、p.569~576(本明細書において参照により援用される)を参照されたい。
【0135】
RNA誘導型ヌクレアーゼは、タンパク質の形態で提供され得、任意選択で、ヌクレアーゼは、gRNAと複合体化されるか、又はRNA(例えば、メッセンジャーRNA)若しくはDNA(発現ベクター)など、RNA誘導型ヌクレアーゼをコードする核酸によって提供される。一部の実施形態において、RNA誘導型ヌクレアーゼ及びgRNAは、両方ともベクターによって提供される。両方を単一のベクターによって発現させ得るか、又は異なるベクター上で別個に発現させ得る。RNA誘導型ヌクレアーゼ及びgRNAをコードする1つ又は複数のベクターは、改変レトロンmsr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子配列を含むベクターシステムに含まれ得る。
【0136】
特定の細胞又は生物におけるRNA誘導型ヌクレアーゼ及び/又はレトロン逆転写酵素の産生を向上させるため、コドン使用が最適化され得る。例えば、RNA誘導型ヌクレアーゼ又は逆転写酵素をコードする核酸は、天然に存在するポリヌクレオチド配列と比較したとき、酵母細胞、細菌細胞、ヒト細胞、非ヒト細胞、哺乳類細胞、げっ歯類細胞、マウス細胞、ラット細胞又は任意の他の目的の宿主細胞における使用頻度がより高いコドンを代用するように修飾することができる。RNA誘導型ヌクレアーゼ又は逆転写酵素をコードする核酸が細胞に導入されると、タンパク質は、細胞において一過性に、条件的に又は構成的に発現することができる。
【0137】
リコンビニアリング
例えば、遺伝子置換、遺伝子ノックアウト、欠失、挿入、逆位又は点突然変異を作り出すための、細胞における染色体並びにエピソームレプリコンの修飾には、リコンビニアリング(組換えによって媒介される遺伝子改変)を用いることができる。リコンビニアリングは、例えば、遺伝子をクローニングする又はマーカ若しくはタグを挿入するためのプラスミド又は細菌人工染色体(BAC)の修飾にも用いることができる。本明細書に記載される改変レトロンをリコンビニアリング適用において使用すると、組換えのための線状一本鎖又は二本鎖DNAを提供することができる。相同組換えは、RacプロファージのRecE/RecT又はバクテリオファージλのRedαβδなど、バクテリオファージタンパク質によって媒介される。線状DNAは、細胞(例えば、プラスミド、BAC又は染色体)に存在する標的DNA分子との5’末端及び3’末端における相同性が、組換えが可能となるのに十分でなければならない。
【0138】
リコンビニアリングに使用される線状二本鎖又は一本鎖DNA分子(即ちドナーポリヌクレオチド)は、線状DNA分子を相同組換えの標的部位に標的化させる2つの相同性アームが隣接している、挿入される意図される編集を有する配列を含む。リコンビニアリングの相同性アームは、典型的には、長さが13~300ヌクレオチド又は20~200ヌクレオチドの範囲、例えばこの範囲内にある任意の長さを含めて、例えば13、14、15、16、17、18、19、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195又は200ヌクレオチド長などである。一部の実施形態において、相同性アームは、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40又は少なくとも50ヌクレオチド長又はそれを超える。40~50ヌクレオチド長の範囲の相同性アームが概して組換えに十分なターゲティング効率を呈する。しかしながら、150~200塩基又はそれを超える範囲のより長い相同性アームは、ターゲティング効率を更に改善し得る。一部の実施形態において、5’相同性アームと3’相同性アームとは、長さが異なる。例えば、線状DNAは、標的化する領域と相同性のある約50塩基を5’末端に有し、約20塩基を3’末端に有し得る。
【0139】
バクテリオファージ相同組換えタンパク質は、タンパク質として又は組換えタンパク質をコードする1つ以上のベクターによって細胞に提供することができる。一部の実施形態において、バクテリオファージ組換えタンパク質をコードする1つ以上のベクターは、改変レトロンmsr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子配列を含むベクターシステムに含まれる。
【0140】
加えて、リコンビニアリングには、限定なしに、組換えタンパク質exo、bet及びgamを有する欠損λプロファージを含有するDY380;DY380に由来するものであり、DY380に見られる組換え遺伝子に加えて、厳密に制御されるアラビノース誘導性flpe遺伝子(flpeは、2つの同一のfrt部位間での組換えを媒介する)も含有するEL250;同様にDY380に由来するものであり、DY380に見られる組換え遺伝子に加えて、厳密に制御されるアラビノース誘導性cre遺伝子(creは、2つの同一のloxP部位間での組換えを媒介する)も含有するEL350;DY380に由来するものであり、galKポジティブ/ネガティブ選択を用いたBACリコンビニアリングのために設計されるSW102;EL250に由来するものであり、galKポジティブ/ネガティブ選択にも使用することができるが、EL250と同様に、ara誘導性Flpe遺伝子を含有するSW105;及びEL350に由来するものであり、galKポジティブ/ネガティブ選択に使用することができるが、EL350と同様に、ara誘導性Cre遺伝子を含有するSW106を含め、プロファージ組換えシステムを含有する幾つもの細菌株が利用可能である。リコンビニアリングは、かかる株の細菌細胞に対して、リコンビニアリングに好適な線状DNAをコードする異種配列を含む改変レトロンをトランスフェクトすることにより行うことができる。リコンビニアリングシステム及びプロトコルの考察については、例えば、シャラン(Sharan)ら著、2009年、ネイチャー・プロトコルズ(Nat Protoc.)、第4巻、第2号、p.206~223、チャン(Zhang)ら著、1998年、ネイチャー・ジェネティクス(Nature Genetics)、第20巻、p.123~128、マイラーズ(Muyrers)ら著、1999年、ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Res.)、第27巻、p.1555~1557、ユー(Yu)ら著、2000年、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci U.S.A.)、第97巻、第11号、p.5978~5983(本明細書において参照により援用される)を参照されたい。
【0141】
分子レコーディング
一部の実施形態において、改変レトロンコンストラクト中の異種配列は、分子レコーディングを可能にする合成CRISPRプロトスペーサDNA配列を含む。内因性CRISPR Casl-Cas2システムは、通常、細菌及び古細菌が、侵入するウイルス核酸に対する配列特異的抵抗性を付与する短い配列(即ちプロトスペーサ)をゲノムベースのアレイ内に蓄えることにより、ウイルス感染に由来する外来性DNA配列を追跡するために利用される。これらのアレイは、スペーサ配列を維持するのみならず、配列が獲得される順番も記録して、獲得イベントの時間的な記録を作成する。
【0142】
このシステムを応用することにより、改変レトロンを使用して細胞に導入される「合成プロトスペーサ」の形態でゲノムCRISPRアレイに任意のDNA配列を記録することができる。プロトスペーサ配列を担持する改変レトロンを使用して、CRISPRシステムCasl-Cas2複合体を利用することにより、特異的ゲノム遺伝子座に合成CRISPRプロトスペーサ配列を組み込むことができる。分子レコーディングを用いると、安定した遺伝記憶追跡コードの産生により、ある種の生物学的イベントを追跡することができる。例えば、シップマン(Shipman)ら著、2016年、サイエンス(Science)、第353巻、第6298号、aaf1175及び国際公開第2018/191525号パンフレット(全体として参照により本明細書に援用される)を参照されたい。
【0143】
一部の実施形態において、CRISPR-Casシステムは、特異的な及び任意のDNA配列を細菌ゲノムに記録するために利用される。DNA配列は、細胞内で改変レトロンによって産生され得る。例えば、改変レトロンを使用して細胞内でプロトスペーサを産生することができ、これは、細胞内でCRISPRアレイに挿入される。細胞は、細胞において1つ以上の合成プロトスペーサを産生することができる1つ以上の改変レトロン(又はそれをコードするベクターシステム)を含むように修飾され得、ここで、合成プロトスペーサは、CRISPRアレイに付加される。何日にもわたって複数のモダリティで記録される定義された配列の記録が生成され得る。
【0144】
一部の実施形態において、改変レトロンは、msdプロトスペーサ核酸領域又はmsrプロトスペーサ核酸領域を含む。msrプロトスペーサ核酸領域の場合、初めにmsr RNAにプロトスペーサ配列が取り込まれ、それが逆転写されてプロトスペーサDNAになる。相補配列を有する2つの相補的なプロトスペーサDNA配列がハイブリダイズするか、又は一本鎖プロトスペーサDNAに二本鎖構造(ヘアピンなど)が形成されると(例えば、単一のmsDNAが適切なヘアピン構造を形成して二本鎖DNAプロトスペーサを提供することができる)、二本鎖プロトスペーサDNAが産生される。
【0145】
一部の実施形態では、インビボで第1の改変レトロンから産生される一本鎖DNAは、インビボで同じレトロン又は第2の改変レトロンから産生される相補的な一本鎖DNAとハイブリダイズし得るか、又はヘアピン構造を形成し得、それが次にプロトスペーサ配列として使用され、CRISPRアレイにスペーサ配列として挿入され得る。1つ又は複数の改変レトロンは、細胞内において、CRISPRアレイへの取込みに十分なレベルのプロトスペーサ配列を提供しなければならない。細胞内で生成されるプロトスペーサを使用すると、インビボ分子レコーディングシステムは、使用者に既知の情報を捕捉するのみのものから、使用者にとってそれまで未知であり得る生物学的又は環境的情報を捕捉するまで拡張される。例えば、改変レトロンコンストラクト中のmsDNAプロトスペーサ配列は、生物学的現象又は環境毒素に関するセンサー経路の下流にあるプロモータによってドライブされ得る。CRISPRアレイにおけるプロトスペーサ配列の捕捉及び保存がイベントを記録する。複数のmsDNAプロトスペーサが異なるプロモータによってドライブされる場合、それらのプロモータの活性(プロモータの上流にあり得る何らかのものと共に)並びにまたプロモータ活性の相対的順序(CRISPRアレイにおけるスペーサ配列の相対的位置に基づく)が記録される。記録が行われた後の任意の時点において、CRISPRアレイがシーケンシングされ、所与の生物学的又は環境的イベントが起こったかどうか、並びにCRISPRアレイにおけるmsDNA由来のスペーサの存在及び相対位置によって与えられる複数のイベントの順序が決定され得る。
【0146】
一部の実施形態において、合成プロトスペーサは、その5’末端にAAG PAM配列を更に含む。5’AAG PAMを含むプロトスペーサは、PAM配列を含まないものよりも高い効率でCRISPRアレイによって獲得される。
【0147】
一部の実施形態において、Cas1及びCas2は、改変レトロンによって産生される合成プロトスペーサ配列が細胞においてCRISPRアレイによって獲得されることが可能となるのに十分なレベルでCas1及びCas2を発現するベクターによって提供される。かかるベクターシステムを使用すると、内因性Casタンパク質を欠く細胞における分子レコーディングが可能となり得る。
【0148】
本開示の例示的な非限定的態様
上記に記載される本主題の実施形態を含めた態様は、単独で又は1つ以上の他の態様若しくは実施形態との組み合わせで有益であり得る。前述の説明を限定することなく、1~60の番号を付した本開示の特定の非限定的な態様を以下に提供する。本開示を読めば当業者に明らかであろうとおり、個々の番号付けされた態様の各々は、先行する又は後続の個々の番号付けされた態様のいずれかと共に使用され得るか又はそれと組み合わされ得る。これは、態様のかかる組み合わせの全てに裏付けを提供することが意図され、以下に明示的に提供される態様の組み合わせに限定されない。
【0149】
1.改変レトロンであって、
a)msr前配列;
b)マルチコピー一本鎖RNA(msRNA)をコードするmsr遺伝子;
c)マルチコピー一本鎖DNA(msDNA)をコードするmsd遺伝子;
d)msr前配列との配列相補性を有する自己相補性領域を含むmsd後配列であって、自己相補性領域は、野生型自己相補性領域よりも少なくとも1~50ヌクレオチド長い長さを有し、それにより、改変レトロンは、msDNAの亢進した産生が可能である、msd後配列;及び
e)逆転写酵素をコードするret遺伝子
を含む改変レトロン。
【0150】
2.自己相補性領域は、野生型自己相補性領域よりも少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25又は少なくとも30ヌクレオチド長い長さを有する、改変レトロン。
【0151】
3.msr遺伝子及びmsd遺伝子は、トランス構成又はシス構成で提供される、態様1又は2の改変レトロン。
4.ret遺伝子は、msr遺伝子及びmsd遺伝子に対してトランス構成で提供される、態様3の改変レトロン。
【0152】
5.msr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子は、粘液細菌レトロン、大腸菌(Escherichia coli)レトロン又はコレラ菌(Vibrio cholerae)レトロンに由来する、態様1~4のいずれかの改変レトロン。
【0153】
6.大腸菌(Escherichia coli)レトロンは、EC83又はEC86である、態様5に記載の改変レトロン。
7.目的の異種配列を更に含む、態様1~6のいずれかの改変レトロン。
【0154】
8.異種配列は、msr遺伝子又はmsd遺伝子に挿入される、態様7に記載の改変レトロン。
9.異種核酸セグメントは、相補性領域の基端(base)から9~20塩基に挿入される、態様1~7又は8の改変レトロン。
【0155】
10.異種配列は、msd、msd後又はmsDNAのヘアピンループ内にある、態様7、8又は9の改変レトロン。
11.異種核酸セグメントは、msd又はmsd後の20~60位に挿入される、態様1~8又は9のいずれかの改変レトロン。
【0156】
12.異種配列は、相同組換え修復(HDR)又はリコンビニアリングによって標的遺伝子座に組み込まれる意図される編集を含むヌクレオチド配列に隣接している、5’標的配列にハイブリダイズする5’相同性アームと、3’標的配列にハイブリダイズする3’相同性アームとを含むドナーポリヌクレオチドをコードする、態様7~10又は11のいずれかの改変レトロン。
【0157】
13.異種配列は、CRISPRプロトスペーサDNA配列を含む、態様7~11又は12のいずれかの改変レトロン。
14.CRISPRプロトスペーサDNA配列は、修飾されたAAGプロトスペーサ隣接モチーフ(PAM)を含む、態様13に記載の改変レトロン。
【0158】
15.バーコード配列を更に含む、態様1~14のいずれかの改変レトロン。
16.バーコード配列は、msDNAのヘアピンループに位置する、態様15に記載の改変レトロン。
【0159】
17.態様1~16のいずれかの改変レトロンを含む1つ以上のベクターを含むベクターシステム。
18.msr遺伝子及びmsd遺伝子は、同じベクター又は異なるベクターによって提供される、態様17のベクターシステム。
【0160】
19.msr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子は、同じベクターによって提供される、態様17又は18のベクターシステム。
20.ベクターは、msr遺伝子及びmsd遺伝子に作動可能に連結されたプロモータを含む、態様17、18又は19のベクターシステム。
【0161】
21.プロモータは、ret遺伝子に更に作動可能に連結される、態様20のベクターシステム。
22.ret遺伝子に作動可能に連結された第2のプロモータを更に含む、態様20又は21のベクターシステム。
【0162】
23.msr遺伝子、msd遺伝子及びret遺伝子は、異なるベクターによって提供される、態様17~21又は22のベクターシステム。
24.1つ以上のベクターは、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターである、態様17~22又は23のいずれかのベクターシステム。
【0163】
25.非ウイルスベクターは、プラスミドである、態様24のベクターシステム。
26.改変レトロンは、相同組換え修復(HDR)又はリコンビニアリングによって標的遺伝子座に組み込まれる意図される編集を含むヌクレオチド配列に隣接している、5’標的配列にハイブリダイズする5’相同性アームと、3’標的配列にハイブリダイズする3’相同性アームとを含むドナーポリヌクレオチドを含む、態様17~25のいずれかのベクターシステム。
【0164】
27.RNA誘導型ヌクレアーゼをコードするベクターを更に含む、態様26のベクターシステム。
28.RNA誘導型ヌクレアーゼは、Casヌクレアーゼ又は改変されたRNA誘導型FokIヌクレアーゼである、態様27のベクターシステム。
【0165】
29.Casヌクレアーゼは、Cas9又はCpf1である、態様28の方法。
30.改変レトロンは、CRISPRプロトスペーサDNA配列を含む、態様17~29のいずれかのベクターシステム。
【0166】
31.Cas1又はCas2タンパク質をコードするベクターを更に含む、態様30のベクターシステム。
32.CRISPRアレイ配列を含むベクターを更に含む、態様30又は31のベクターシステム。
【0167】
33.バクテリオファージ相同組換えタンパク質をコードするベクターを更に含む、態様29~31のいずれかのベクターシステム。
34.バクテリオファージ相同組換えタンパク質をコードするベクターは、exo、bet及びgam遺伝子を含む複製欠損λプロファージである、態様33のベクターシステム。
【0168】
35.態様1~16のいずれかの改変レトロン又は態様17~34のいずれかのベクターシステムを含む単離宿主細胞。
36.原核、古細菌又は真核宿主細胞である、態様35の宿主細胞。
【0169】
37.真核宿主細胞は、哺乳類宿主細胞である、態様36の宿主細胞。
38.哺乳類宿主細胞は、ヒト宿主細胞である、態様37の宿主細胞。
39.宿主細胞は、人工細胞又は遺伝子修飾細胞である、態様35の宿主細胞。
【0170】
40.態様1~16のいずれかの改変レトロン、態様17~34のいずれかのベクターシステム又は態様35~39のいずれかの宿主細胞を含むキット。
41.改変レトロンで細胞を遺伝子修飾するための説明書を更に含む、態様40のキット。
【0171】
42.細胞を遺伝子修飾する方法であって、
a)細胞に、態様1~15又は16(例えば、態様12)の改変レトロンをトランスフェクトすること;
b)細胞にRNA誘導型ヌクレアーゼ及びガイドRNAを導入すること又は発現させることであって、RNA誘導型ヌクレアーゼは、ガイドRNAと複合体を形成し、前記ガイドRNAは、複合体をゲノム標的遺伝子座に導き、RNA誘導型ヌクレアーゼは、ゲノム標的遺伝子座においてゲノムDNAに二本鎖切断を作り出し、及び改変レトロンによって生成されるドナーポリヌクレオチドは、その5’相同性アーム及び3’相同性アームによって認識されるゲノム標的遺伝子座に相同組換え修復(HDR)によって組み込まれて、遺伝子修飾細胞を産生する、導入すること
を含む方法。
【0172】
43.RNA誘導型ヌクレアーゼは、Casヌクレアーゼ又は改変されたRNA誘導型FokIヌクレアーゼである、態様42の方法。
44.Casヌクレアーゼは、Cas9又はCpf1である、態様43の方法。
【0173】
45.RNA誘導型ヌクレアーゼは、細胞のゲノムに組み込まれたベクター又は組換えポリヌクレオチドによって提供される、態様42~44の方法。
46.改変レトロンは、ベクターによって提供される、態様42~45の方法。
【0174】
47.ドナーポリヌクレオチドは、遺伝子置換、遺伝子ノックアウト、欠失、挿入、逆位又は点突然変異を作り出すために使用される、態様42~45又は46の方法。
48.細胞をリコンビニアリングによって遺伝子修飾する方法であって、前記方法は、
a)態様1~16(例えば、態様12)の改変レトロンを細胞にトランスフェクトすること;及び
b)細胞にバクテリオファージ組換えタンパク質を導入することであって、バクテリオファージ組換えタンパク質は、標的遺伝子座における相同組換えを媒介し、それにより、改変レトロンによって生成されるドナーポリヌクレオチドは、その5’相同性アーム及び3’相同性アームによって認識される標的遺伝子座に組み込まれて、遺伝子修飾細胞を産生する、導入すること
を含む方法。
【0175】
49.ドナーポリヌクレオチドは、細菌細胞のプラスミド、細菌人工染色体(BAC)又は細菌染色体をリコンビニアリングによって修飾するために使用される、態様48の方法。
【0176】
50.ドナーポリヌクレオチドは、遺伝子置換、遺伝子ノックアウト、欠失、挿入、逆位又は点突然変異を作り出すために使用される、態様48又は49の方法。
51.前記細胞にバクテリオファージ組換えタンパク質を導入することは、細菌ゲノムへの複製欠損λプロファージの挿入を含む、態様48~50のいずれかの方法。
【0177】
52.バクテリオファージは、exo、bet及びgam遺伝子を含む、態様51の方法。
53.細胞をバーコーディングする方法であって、細胞に、態様1~15又は16(例えば、態様15又は16)の改変レトロンをトランスフェクトすることを含む方法。
【0178】
54.インビボ分子レコーディングシステムを作製する方法であって、
a)CRISPR適応システムのCaslタンパク質又はCas2タンパク質を宿主細胞に導入すること;
b)リーダ配列及び少なくとも1つのリピート配列を含むCRISPRアレイ核酸配列を宿主細胞に導入することであって、CRISPRアレイ核酸配列は、宿主細胞内のゲノムDNA又はベクターに組み込まれる、導入すること;及び
c)態様1~16(例えば、態様13又は14)に係る複数の改変レトロンを宿主細胞に導入することであって、各レトロンは、プロセシングされ、且つCRISPRアレイ核酸配列に挿入され得る異なるプロトスペーサDNA配列を含む、導入すること
を含む方法。
【0179】
55.Caslタンパク質又はCas2タンパク質は、ベクターによって提供される、態様54の方法。
56.改変レトロンは、ベクターによって提供される、態様54又は55の方法。
【0180】
57.複数の改変レトロンは、少なくとも3つの異なるプロトスペーサDNA配列を含む、態様54~56のいずれかの方法。
58.インビボ分子レコーディングシステムを含む改変細胞であって、
a)CRISPR適応システムのCaslタンパク質又はCas2タンパク質;
b)宿主細胞へのリーダ配列及び少なくとも1つのリピート配列を含むCRISPRアレイ核酸配列であって、改変細胞内のゲノムDNA又はベクターに組み込まれるCRISPRアレイ核酸配列;及び
c)態様1~16(又は態様13又は14)に係る複数の改変レトロンであって、各レトロンは、プロセシングされ、且つCRISPRアレイ核酸配列に挿入され得る異なるプロトスペーサDNA配列を含む、複数の改変レトロン
を含む改変細胞。
【0181】
59.Caslタンパク質又はCas2タンパク質は、ベクターによって提供される、態様58の改変細胞。
60.改変レトロンは、ベクターによって提供される、態様58又は59の改変細胞。
【0182】
61.複数の改変レトロンは、少なくとも3つの異なるプロトスペーサDNA配列を含む、態様58~60のいずれかの改変細胞。
62.態様58~61のいずれかの改変細胞と、インビボ分子レコーディングのための説明書とを含むキット。
【0183】
60.組換えmsDNAを作製する方法であって、
a)宿主細胞に、態様1~16のいずれかの改変レトロン又は態様17~34のいずれかのベクターシステムをトランスフェクトすること;及び
b)宿主細胞を好適な条件下で培養することであって、msDNAは、産生される、培養すること
を含む方法。
【実施例
【0184】
以下の例は、開示される主題をどのように作製及び使用するかについて当業者に開示及び説明を与えるために提示されるものであり、本発明者らがその発明と考えるものの範囲を限定する意図はなく、以下の実験が、実施される全ての又は唯一の実験であることを表明する意図もない。使用する数値(例えば、量、温度等)に関して正確を期すように努力しているが、幾らかの実験誤差及び偏差が考慮されなければならない。特に指示がない限り、部数(parts)は、重量部数であり、分子量は、重量平均分子量であり、温度は、セルシウス度であり、及び圧力は、大気圧又はその近傍である。標準的な略称、例えばbp、塩基対;kb、キロベース;pl、ピコリットル;s又はsec、秒;min、分;h又はhr、時間;aa、アミノ酸;kb、キロベース;bp、塩基対;nt、ヌクレオチド;i.m.、筋肉内;i.p.、腹腔内;s.c.、皮下などが用いられ得る。
【0185】
実施例1:材料及び方法
本実施例では、本発明の開発に使用した材料、方法の一部を例示する。
細菌株、プラスミド及び培養条件
実験は、組み込まれたアラビノース誘導性T7ポリメラーゼ、内因性CRISPRアレイ、内因性レトロンを含有するが、内因性Cas1+2を含有しないBL21-AI大腸菌(E.coli)(サーモ・フィッシャー(Thermo Fisher))又は組み込まれたアラビノース誘導性T7ポリメラーゼを含有し、内因性レトロンを含有しない、MG1655の変異株であるbMS.346で行った。
【0186】
図3B図3C図4D図7B図7C-2、図8B図9B及び図10B図10Dに示すレトロンベースの実験では、プラスミドからエリスロマイシン誘導性プロモータ(mphR-ec86RT)で逆転写酵素を発現させた(ロジャーズ(Rogers)ら著、ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Res.)、2015年9月3日、第43巻、第15号、p.7648~60、doi:10.1093/nar/gkv616、電子版、2015年7月7日(本明細書によって全体として参照により援用される)を参照されたい)。msd及びmsrエレメントは、誘導性T7プロモータから一緒に(DUET-T7-msr/msd)又は別々に(DUET-T7-msr-T7-msd)発現させた。
【0187】
図11A図11Bに関連して説明されるレトロン生成プロトスペーサ実験について、各実験前に、いずれも誘導性(T7/lac)プロモータによって発現させた、Cas1+2及び修飾されたec86 msr/msdをコードするプラスミド(DUET-msr/msd-Cas1+2)を細胞に形質転換した。プラスミドを含有する細胞は、プレート上に4℃で最長3週間、コロニーで維持した。細胞は、LB培地において34℃で成長させて、IPTG、L-アラビノース及び/又はエリスロマイシンを使用して、指示される期間にわたって誘導した。
【0188】
msdの電気泳動分析
修飾レトロンから産生されたmsdを視覚化するため、msr含有、msd含有及び逆転写酵素含有転写物を発現させるのに必要なあらゆる誘導物質を含むLBで細菌を4~16時間培養した。5~25mlの容積の培養物を4℃でペレット化し、次にプラスミド・プラス・ミディ・キット(Plasmid Plus Midi Kit)(キアゲン(Qiagen(登録商標)))又はミニ・キット(Mini Kit)を使用して調製した。次に、RNアーゼAとRNアーゼT1との組み合わせを用いてRNAを消化し、得られたmsdを、ssDNA/RNA精製及び濃縮キット(ssDNA/RNA Clean&Concentrator kit)(ザイモ・リサーチ(Zymo Research))を使用して精製した。Novex(登録商標)TBE-尿素ゲル(サーモ・フィッシャー(Thermo Fisher))に流し、サイバー・ゴールド(SYBR(登録商標) Gold)(サーモ・フィッシャー(Thermo Fisher))で後染色することにより、msdを視覚化した。
【0189】
変異体ライブラリ構築
アジレント(Agilent)又はツイスト(Twist)により、レトロンncRNA変異体ライブラリが1回の合成ラン当たり複数のライブラリでオリゴプールとして合成された。これらのオリゴプールから単一のライブラリを増幅し、NEB5a細胞をクローニング株として使用して、ゴールデンゲート手法を用いて発現ベクターにクローニングした。これらのクローニングしたライブラリをクローニング株から精製し、発現株(BL21-AI又はbMS.346)に移入した。ライブラリは、全てイルミナ(Illumina)シーケンシングによって定量化した。
【0190】
シーケンシング及び分析
ライブラリ実験におけるRT-DNA存在量を分析するため、レトロン変異体のライブラリを含有する細胞における発現後、逆転写されたDNAを上記に記載したとおり精製した。5~25mlの容積の培養物を4℃でペレット化し、次にプラスミド・プラス・ミディ・キット(Plasmid Plus Midi Kit)(キアゲン(Qiagen(登録商標)))又はミニ・キット(Mini Kit)を使用して調製した。次に、RNアーゼAとRNアーゼT1との組み合わせを用いてRNAを消化し、得られたmsdを、ssDNA/RNA精製及び濃縮キット(ssDNA/RNA Clean&Concentrator kit)(ザイモ・リサーチ(Zymo Research))を使用して精製した。修飾が逆転写エレメントの外側にある変異体ライブラリでは(例えば、図7C-2)、逆転写されたDNAのループにあるバーコード付加領域を発現後に増幅し、イルミナ(Illumina)シーケンシングのために調製した。修飾が逆転写エレメントの内側にある変異体ライブラリでは(例えば、図8B)、末端デオキシヌクレオチド転換酵素(TdT:Terminal deoxynucleotidyl transferase)を使用して、追加のヌクレオチドの長さをTdTインキュベーションの時間によって制御しながら(図6B)、精製した逆転写DNAのプールを3’末端で単一ヌクレオチドによって伸長させた。次に、アダプター配列、伸長に使用されるヌクレオチドに相補的な一続きのヌクレオチド及びアンカリング用ヌクレオチド(伸長に使用されるヌクレオチドに相補的でないあらゆる塩基のもの)で構成されるリバースプライマーを使用して、第2鎖を、クレノウ断片(3’→5’エキソ-)を用いて作り出し、これにより5’末端にAオーバーハングが残った。このオーバーハングを成すAをTAライゲーションに使用して、反対側の5’末端がアミノ修飾された二本鎖アダプターを取り付けた(図6A)。次に、両端にアダプターを付加したヌクレオチドのこのプールをインデックス化し、イルミナ(Illumina)シーケンシングのために調製した。全ての変異体ライブラリにおいて、可変領域を増幅し、その領域をイルミナ(Illumina)シーケンシングに供することにより、細胞に存在するプラスミドのプールを定量化した。次に、共発現した野生型レトロンで正規化した変異体プラスミドの比率と逆転写DNA中の変異体の比率を比較することにより、種々の逆転写DNAの相対的存在量を計算した。
【0191】
スペーサ獲得を分析するため、細菌を95℃に5分間加熱することにより溶解させ、次にリーダ-リピートジャンクションに隣接し、且つイルミナ(Illumina)適合性アダプターを更に含有するプライマーを使用したそのゲノムアレイのPCRに供した。隣接するリピート配列の存在に基づいてスペーサ配列をバイオインフォマティクス的に抽出し、既存のスペーサ配列と比較して、伸長されたアレイの割合並びに新規に獲得されたスペーサの位置及び配列を決定した。新規スペーサをゲノム及びプラスミド配列に対してブラスト(NCBI)し、意図されるプロトスペーサ配列と更に比較して、プロトスペーサの起源を決定した。この分析は、パイソン(Python)においてカスタムで記述されたスクリプトを用いて実施した。
【0192】
実施例2:細胞でのDNA産生亢進のための細菌レトロエレメント(レトロン)
生細胞のゲノムを書き換えるには、新規DNAが必要である。現在、研究者らは、このDNAを外因的に合成し、それを細胞に送達しており、それは、ゲノム改変の鋳型又は細胞若しくは細胞イベントに印を付けるバーコードとしての役割を果たす。しかしながら、特に複雑な組織内での相同組換え修復(HDR)及び組込みの過程における効率の悪さを解消するのに十分な存在量で外因性DNAを送達することは、依然として非常に難題である。更に、特定のDNA配列を有する細胞のサブ集団のターゲティングが可能となるように送達を細胞型又は細胞状態別にゲート制御する手段はない。
【0193】
設計したDNA配列を、自ら選択した細胞の内部においてオンデマンドで多量に作製することが - RNA及びタンパク質に関して行っているように - 可能であれば、HDRにおける効率の悪さを解消し、種々の細胞に種々の鋳型を送達する能力を解放することが可能となるであろう。これらの局所的に産生されるDNA鋳型を使用すれば、ゲノムを編集することからゲノムを書き込むことにシフトすることが可能となるであろう。DNAオンデマンドは、細菌ゲノムをコードし直すλ Redβ、ヒトゲノムに治療用修飾を書き込むCas9及び生細胞内での分子イベントのタイミングのログを取る分子デバイスを作り出すCRISPRインテグラーゼCas1+2を含め、数々のDNA修飾用タンパク質を刺激する(fuel)であろう。
【0194】
本明細書に記載されるとおり、逆転写酵素は、種々の配列を有する種々のDNAを含め、豊富な量のDNAを産生するための解決法である。逆転写酵素は、豊富なDNAを生成することができるのみならず、現在RNA及びタンパク質発現が制御されているのと同じ方法で時間的及び空間的にその活性を制御することができる。従って、逆転写酵素を広く送達することにより、標的化される一部の細胞集合において豊富な鋳型DNAを生成することができる。
【0195】
特に魅力的な逆転写酵素クラスは、細菌に由来するものであり、レトロンと呼ばれている(イノウエ(Inouye)及びイノウエ(Inouye)著、アニュアル・レビュー・オブ・マイクロバイオロジー(Annual review of microbiology)、第45巻、p.163~186、1991年)(例えば、図1Aを参照されたい)。レトロンは、コンパクトであり、モジュール式であり、真核細胞と直交性があり、他のタンパク質に接触可能なDNAを産生することが示されており、及び原核細胞(ファルザドファルド(Farzadfard)及びルー(Lu)著、サイエンス(Science)、第346巻、p.1256272、2014年)及び真核細胞(シャロン(Sharon)ら著、セル(Cell)、第175巻、p.544~557、2018年)の両方でゲノム編集のための鋳型DNAとしての役割を果たしている(図1B図1C)。しかし、レトロンの生物学に関してなおも未知の部分が多分にあり、この知識の欠落は、細胞内部での完全に設計されたDNA配列の生成に向けたレトロンの使用の妨げとなっている。
【0196】
ここで、本発明者らは、細胞内でCRISPR適合性の任意のDNA配列を多量に産生するようにレトロンを更に特徴付けて改変することにより、直接的にレトロンの限界に取り組む。大多数の改変は、ハイスループットを達成するために大腸菌(E.coli)で実施したが、本明細書に記載される修飾されたレトロン及びシステムを真核細胞(ヒトを含む)で使用して、ゲノム書込みに関連して改善をもたらすことができる。
【0197】
例えば、ある場合にはレトロン-Eco1を例示的レトロンとして使用した。図2Aに示されるとおり、この転写物は、逆転写酵素によって認識され、部分的にRT-DNAに逆転写される。以下に、逆転写されたレトロン-Eco1 DNA(RT-DNA)の配列を配列番号14として示す。
【0198】
【化3】
【0199】
実施例3:改変レトロン変異体のスクリーニング
本発明者らは、大腸菌(E.coli)でレトロン-Eco1(ec86又はレトロン-Eco1 ncRNAとも称される)を発現させた。以下に、この野生型レトロン-Eco1 ncRNAの配列を配列番号15として示す。
【0200】
【化4】
【0201】
定量的PCR(qPCR:Quantitative PCR)により、大腸菌(E.coli)における発現したレトロン-Eco1の発現により、1細胞当たり約800~1,000コピーのssDNAが生じたことが示された(図3B)。図3Cに図示されるとおり、このように産生されたssDNAは、変性ゲル上で視覚化、定量化及び精製することができる。
【0202】
本発明者らは、様々なレトロンエレメントをコードするコンストラクトも作成した。例えば、逆転写酵素をmsr/msd(プライマー-鋳型)と分離して、msr及びmsdを(典型的なシス構成でなく)トランスで逆転写酵素に供給できるようにした(図4A図4B)。このトランス構成により、逆転写酵素の潜在的な終結シグナルがなくなる。以下に、レトロン-Eco1 msrのみの領域の配列を配列番号16として示す。
【0203】
【化5】
【0204】
以下に、レトロン-Eco1 msdのみの領域の配列を配列番号17として示す。
【0205】
【化6】
【0206】
ロースループット実験を用いて、逆転写酵素が許容する変更をmsdエレメントに加えた。例えば、2つの変異体、レトロン-Eco1 v32 ncRNA及びレトロン-Eco1 v35 ncRNAが産生された。以下に、レトロン-Eco1 v32 ncRNAの配列を配列番号18として示す。
【0207】
【化7】
【0208】
以下に、レトロン-Eco1 v35 ncRNAの配列を配列番号19として示す。
【0209】
【化8】
【0210】
レトロン-Eco1 v32 ncRNA及びレトロン-Eco1 v35 ncRNAの鍵となる部分を図3Dに示す。
レトロン-Eco1 ncRNAに対して多くの修飾を行った。しかしながら、試みた修飾の全てが成功したわけではなかった。場合により、修飾したバージョンの大半は、細胞においてssDNAを産生しなかった。
【0211】
レトロンからのmsd産生の決定因子を更によく理解するため、本発明者らは、ライブラリベースの手法を取った。数万個のレトロン変異体を合成し、レトロンの各構造パラメータについて系統的に試験した(図5)。ゴールデンゲートベースのクローニング戦略(エングラー(Engler)ら著、プロス・ワン(PLOS One)(2008年11月5日)を使用してこれらの変異体をクローニングし、次に修飾されたレトロンの大型プールをマルチプレックス実験で逆転写酵素と共に発現させた。これらの細胞によって産生された全てのmsdを精製し、それらをシーケンシングし、発現株でその存在量をその元のレトロン/プラスミドと比較することにより、レトロンの特定のパラメータの影響を、それがssDNA産生に関連するものとして定量化した。ec86レトロンを使用したと共に、他のレトロンも、内部分枝構造を有するec83レトロンを含めて使用した。
【0212】
レトロン逆転写酵素は、典型的には、標準外の方法でプライミングすることにより、msr RNAを2’位でリン酸ジエステル結合によってmsd ssDNAの5’末端に連結する分枝状RNA-DNAハイブリッドを作り出す(イノウエ(Inouye)及びイノウエ(Inouye)著、アニュアル・レビュー・オブ・マイクロバイオロジー(Annual review of microbiology)、第45巻、p.163~186、1991年)。大腸菌(E.coli)は、この結合を切断する酵素を有しない。従って、大腸菌(E.coli)内にあるとき、ec86レトロンは、分枝状のままである。しかしながら、ec83は、レトロンに固有の未知の機構を通してプロセシングされ、2’-5’連結を取り除いてssDNAを遊離させることも報告されている(リム(Lim)著、モレキュラー・バイオロジー(Molecular microbiology)、第6巻、p.3531~3542、1992年)。かかる分離は、ゲノム改変における様々な適用に有益であり得る。
【0213】
実施例4:改変レトロン変異体のシーケンシング
精製したssDNAのプールには、設計上、未知の部分(例えば、異なる末端)が含まれるため、実験のリードアウトとしてのレトロン由来のssDNAのシーケンシングに多大な複雑さが持ち込まれる。従来のパイプラインを用いて、これらのssDNAをマルチプレックスシーケンシングのために調製することはできない。この難題に取り組むため、本発明者らは、ssDNAの精製、RNAアーゼによるssDNAの処理及びレトロン由来のssDNAの脱分枝が関わるカスタムのシーケンシングパイプラインを開発した。次に、精製及び脱分枝したレトロンssDNAに対して、鋳型非依存的ポリメラーゼ(TdT)を使用して一続きの単一種のポリヌクレオチドの尾部を付加した。次に、アダプターを含有する逆アンカー型プライマーを使用して、ssDNAの相補鎖を生成した(図6A図6B)。この二本鎖DNAに第2のアダプターをライゲートし、次にこのアダプターが連結した二本鎖DNAをインデックス化して、マルチプレックスシーケンシングに供した。
【0214】
合成したオリゴヌクレオチド、野生型及び修飾ec86並びに野生型ec83を使用して、このパイプラインを検証した。この方法は、合成オリゴヌクレオチドの正しい配列を確実に決定した。
【0215】
興味深いことに、このマルチプレックス化した単一分子方法を用いると、ec86レトロン由来のssDNAは、典型的には、旧式のバルク方法論(例えば、マクサム・ギルバートシーケンシング)を用いる文献の報告と比べて1つ前の塩基で終結する。ec83の切断及び予想される内因性エキソヌクレアーゼプロセシングも確認された(図6C図6F)。レトロン由来のssDNAがシーケンシングされるため、レトロンのmsd(鋳型)部分の修飾を直接読み取ることができる。
【0216】
本発明者らは、逆転写されないncRNAのパラメータを理解することも目標とする。これらのパラメータを読み出すため、非逆転写領域の変異体を、msdのループ領域に挿入したバーコードに連結した(図7A)。この手法により、変異体を直接シーケンシングしなくても、配列変異が例えばssDNA産生に及ぼす効果が明らかになった。
【0217】
実施例5:細胞におけるDNA産生を増加させる修飾
本実施例は、msr及びmsd転写物を分離すると、より長いRT-DNAの産生が可能となり得ることと、レトロンの自己相補的非コードRNA領域の長さを修飾すると、レトロンによって生成される逆転写DNAの存在量が増加し得ることとを示す。
【0218】
実施例3に記載されるとおり、レトロン-Eco1 msr及びmsdエレメントをコードするトランスコンストラクトの発現により、逆転写酵素の潜在的終結シグナルがなくなり、より長いssDNAの生成を生じさせることが可能となる(図4C図4D)。
【0219】
伸長型トランスレトロン-Eco1 msd配列の一例は、レトロン-Eco1 msd +50と称され、以下に配列番号20として示す。
【0220】
【化9】
【0221】
図7に示されるとおり、レトロン-Eco1 ncRNAの5’末端及び3’末端で自己相補性領域を伸長させると、レトロンによって細胞で産生されるRT-DNAの存在量の大幅な増加につながる。以下に、伸長型レトロン-Eco1 ncRNAの一例を配列番号21として示す。
【0222】
【化10】
【0223】
以下に、配列がやや異なる伸長型レトロン-Eco1 v35 ncRNAの例を示す(配列番号22)。
【0224】
【化11】
【0225】
図7B図7Cに図示されるとおり、レトロン-Eco1 ncRNAの5’末端及び3’末端で自己相補性領域を伸長させると、レトロンによって細胞で産生されるRT-DNAの存在量の大幅な増加につながる。例えば、msd配列自己相補性領域の長さを増加させることにより、ssDNAの相対量の10倍の増加を生じさせることができる。
【0226】
逆に、ncRNA自己相補性塩基が減少すると、RT-DNAの産生が大きく減少した。例えば、以下に、自己相補性配列が短いレトロン-Eco1 ncRNAの1つの配列を配列番号23として示す。
【0227】
【化12】
【0228】
図7Cに示されるとおり、これらの相補性塩基の数が減少すると、RT-DNAの産生が大きく減少した。
従って、msr前/msd後自己相補性領域を伸長させると、ssDNAのプールを増加させることができる。遺伝子修飾に逆転写ssDNAのより大きいプールを利用可能であり、細菌(リコンビニアリング)、酵母(CRISPEY)及び哺乳類細胞におけるゲノム編集効率が高まり得る。生細胞において多量のDNAを産生する目的上、伸長型自己相補性領域を有するこれらの変異体は、好ましい。
【0229】
実施例6:msdステム領域は、全てではないが、一部の修飾を許容する
レトロン-Eco1 ncRNA領域のmsdステム領域に対して、ステム二次構造(二本鎖結合)を破壊する修飾を加えた。本実施例は、レトロンによって産生される逆転写ssDNAの存在量に悪影響を及ぼすことなくmsdステムのいずれの箇所に修飾を加え得るかを示す。
【0230】
図8A図8B及び図9A図9Bにおいて、msdステムに沿った修飾位置を示す。
msdステム構造の長さを修飾すると、より短いRT-DNA配列を作り出すことができる。例えば、以下に、なおも野生型レベルのssDNAを提供する短さの短いステムのレトロン-Eco1 ncDNAについての1つの配列(レトロン-Eco1ステム短さOK、図8Bを参照されたい)を配列番号24として示す。
【0231】
【化13】
【0232】
しかしながら、msdステム長さが14塩基を下回って減少すると、産生されるRT-DNAの存在量が悪影響を受ける(図8B)。以下に、短か過ぎるステムの配列レトロン-Eco1 ncDNAの一例を配列番号25として示す(図8B、ステム短か過ぎる)。
【0233】
【化14】
【0234】
対照的に、レトロンのステム領域を破綻させ、次に修復すると、生成されるssDNAの量は、野生型と同じであるか又はやや多い。「破綻した」とは、ステムの塩基対合が例えば非相補ヌクレオチドの導入によって損なわれることを意味する。図9Bによって示されるとおり、連続した5塩基の変化によってncRNAステムの基端が破綻すると、RT-DNAの存在量が劇的に減少する。以下に、5つのミスマッチ塩基を有するかかるレトロン-Eco1 ncRNAの配列(破綻したステム、図9B)を配列番号26として示す。
【0235】
【化15】
【0236】
しかしながら、ステム二次構造が維持されるようなステムの他方の側の相補的な変化によってこれらの塩基が補償される場合、RT-DNA存在量は、維持される(例えば、修理された(fixed)ステム、図9Bを参照されたい)。以下に、図9Bに示される「修理されたステム」レトロン-Eco1 ncRNAの配列を配列番号27として示す。
【0237】
【化16】
【0238】
ステムの基端から9~20塩基の領域におけるステムに対する修飾は、それがステム構造を破綻させるものであっても許容される(図9B、許容できる破綻した(tolerable broken)ステムを参照されたい)。かかる許容できる破綻したステムは、ステムの中央に修飾(ミスマッチ)を有する。以下に、図9Bの許容できる破綻したステムを有するレトロン-Eco1 ncRNAの配列の一例を配列番号28として示す。
【0239】
【化17】
【0240】
従って、生細胞でDNAを産生する目的上、ステム構造の基端が維持されている限り、ncRNAの配列を修飾することができる。ステムの基端から約9~20塩基の、msdステムの中央に対する修飾は、許容され、ssDNAの逆転写に悪影響を与えない。
【0241】
実施例7:ncRNA msdステム領域中心は、修飾の許容性がより高い
逆転写されるレトロン-Eco1 ncRNA領域(msd)の領域内にある様々な位置に小さい修飾を加え、それらの修飾の影響を、種々のncRNA変異体から逆転写されたssDNAの量で測定した。
【0242】
ncRNAの逆転写領域全体にわたる小さい修飾に対する許容性は、図10に図示されるとおり一定しない。図10Bは、msd相補性(ステム)領域に沿った様々な位置から3塩基を欠失させる効果を示す。図示されるとおり、msdステムの中央からの3塩基の欠失は、有害な効果を及ぼさず、なおも高レベルのssDNA産生につながった(図10B)。しかしながら、3塩基の欠失を相補性(ステム)領域の基端の近く又はステムに隣接する領域に作ると、ssDNA産生レベルが低くなることが観察された(図10B)。msd領域の中央及び隣接部における3塩基の挿入(図10C)及び一塩基変化(図10D)についても、同様の効果が観察された。msdステム領域の中央は、数ヌクレオチドの(例えば、5ヌクレオチド未満の)挿入及び/又は欠失を許容し、ssDNA産生の大きい減少は、観察されなかったが、msdステムの基端における隣接配列に対するかかる修飾は、許容されなかった。msdステムの基端及び隣接領域の修飾は、ssDNAの逆転写の減少につながった。
【0243】
図10Eは、図10B図10Dのデータに基づいて計算したmsdステム領域内の位置に関する修飾適合性スコアをグラフで図示する。生細胞においてより高レベルのDNAを産生する目的上、ncRNAの配列は、修飾適合性スコアが高い領域で修飾しなければならず、修飾適合性スコアが低い領域の修飾は避けなければならない。
【0244】
実施例8:改変レトロンの適用
改変レトロンで細胞においてDNAをオンデマンドで作り出すことにより、生細胞でのゲノムの編集からゲノムの書込みへのシフトが可能となる。このシフトにより、それまで存在していた配列に制限されることなく、細胞を治療のために修飾することになる。現在、新規のDNA HDR鋳型は、必ずボーラスとして送達されるが、ボーラスは、時間と共に減退する。このボーラス送達の効率の悪さは、それがインサイチューで記述され(written)得ず、代わりにインビトロで記述されなければならない上、その後に選択及び拡大が続くことを意味する。この戦略に適合するのは、全ての実験とは限らず、僅かな治療法のみである。
【0245】
CRISPRベースの治療法の可能性を完全に実現するため、本発明者らは、厳密にそれが必要な時点及び場所でゲノムを書き換えるように設計されたDNA配列を提供する。この設計された配列は、図11Aに図示されるとおり提供され得る。修飾の効率は、ncRNAの5’末端及び3’末端における自己相補性領域を伸長させることによって増加し、レトロン逆転写酵素を動員して、それから所望のssDNAを多量に産生することができる。
【0246】
DNAがオンデマンドで産生されることにより、直接的に治療法を目指すのでない、むしろ疾患の生物学の理解を目指す新規のゲノム改変適用も可能となる。これは、分子レコーディングの分野であり、ここでは、細胞のゲノムに対する修飾を用いて、生物システム内でデータが書き込まれる。CRISPRインテグラーゼCas1+2を使用してCRISPRアレイに短いDNA配列を捕捉する、時間の経過に伴う順序のログを取ってイベントの記録が保存されるこの手法の説明については、例えば、シップマン(Shipman)ら著、2017年、ネイチャー(Nature)、第547巻、7663年、p.345~349及びシップマン(Shipman)ら著、2016年、サイエンス(Science)、第353巻、6298年、p.aaf1175(全体として参照により本明細書に援用される)を参照されたい。この手法は、細胞におけるデータ収集デバイスの最終工程として用いることができる。しかしながら、これには、転写などの生物学的イベントによってドライブされる、細胞においてDNAバーコードを生成する前工程が必要である。レトロン由来のDNAは、こうした種類の技術を可能にし、複雑な生物学的過程に関して、これまで達成されたことのない水準の詳細さで理解を得ることが可能となる。
【0247】
最終的に、レトロンの実用化により、ゲノム改変を目指す分子バイオテクノロジーのレパートリーが拡大する。レトロンは、生細胞においてオンデマンドで任意のDNA配列を作るようにモジュール式構成要素で設計することができ、遺伝子療法、細胞制御及び細胞改変に興味がある科学者らに広く展開することが予想される。
【0248】
参考文献
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7 リム,D.(Lim,D.)著、「臨床的大腸菌分離株における逆転写酵素による非分枝状マルチコピー一本鎖DNAの構造及び生合成(Structure and biosynthesis of unbranched multicopy single-stranded DNA by reverse transcriptase in a clinical Escherichia coli isolate)、第6巻、p.3531~3542、1992年。
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8 シップマン,S.L.(Shipman,S.L.)、ニバラ,J.(Nivala,J.)、マクリス,J.D.(Macklis,J.D.)及びチャーチ,G.(Church,G.)著、「生細菌集団のゲノムへのデジタルムービのCRISPR-Casコーディング(CRISPR-Cas encoding of a digital movie into the genomes of a population of living bacteria)」、ネイチャー(Nature)、doi:10.1038/nature23017、2017年。
【0256】
9 シップマン,S.L.(Shipman,S.L.)、ニバラ,J.(Nivala,J.)、マクリス,J.D.(Macklis,J.D.)及びチャーチ,G.M.(Church,G.M.)著、「指向性CRISPRスペーサ獲得による分子レコーディング(Molecular recordings by directed CRISPR spacer acquisition)」、サイエンス(Science)、doi:10.1126/science.aaf1175、2016年。
【0257】
本開示は、その具体的な実施形態に関連して記載されているが、本開示の真の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変更形態がなされ得ること及び均等物に置き換えられ得ることが当業者によって理解されるべきである。加えて、特定の状況、材料、組成物、方法、1つ又は複数の方法ステップを本開示の目的、趣旨及び範囲に適合させるための多くの変形形態がなされ得る。全てのかかる変形形態は、ここに添付される特許請求の範囲内にあることが意図される。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7A
図7B
図7C-1】
図7C-2】
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図11A
図11B
【配列表】
2022548062000001.app
【国際調査報告】