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特表2022-548144低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材及びその製造方法
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  • 特表-低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-16
(54)【発明の名称】低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20221109BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20221109BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/58
C21D8/02 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517120
(86)(22)【出願日】2020-09-10
(85)【翻訳文提出日】2022-05-13
(86)【国際出願番号】 KR2020012206
(87)【国際公開番号】W WO2021054672
(87)【国際公開日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】10-2019-0114345
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソ, テ-イル
(72)【発明者】
【氏名】カン, サン-ドク
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA05
4K032AA11
4K032AA12
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA24
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032BA01
4K032CA02
4K032CB01
4K032CB02
4K032CC03
4K032CC04
4K032CD05
4K032CF03
(57)【要約】
【課題】極厚物鋼材として、高強度でありながらも、低温衝撃靭性に優れ、クラック発生に対する抵抗性に優れた鋼材及びこれを製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明の低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材は、重量%で、炭素(C):0.11~0.18%、シリコン(Si):0.1~0.5%、マンガン(Mn):0.3~1.8%、リン(P):0.01%以下、硫黄(S):0.01%以下、アルミニウム(Al):0.01~0.1%、ニオブ(Nb):0.01%以下(0%を含む)、クロム(Cr):0.2~1.5%、ニッケル(Ni):1.0~2.5%、銅(Cu):0.25%以下(0%を含む)、モリブデン(Mo):0.25~0.80%、バナジウム(V):0.01~0.1%、チタン(Ti):0.003%以下(0%を含む)、ホウ素(B):0.001~0.003%、窒素(N):0.002~0.01%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、
Ceq値が0.5超過~0.7未満であり、上記C、Mn、Cr、Mo、及びVの成分関係が関係式2を満たし、Ti、Nb、Cu、Ni、及びNの成分関係が関係式3を満たし、130mm以上350mm以下の厚さを有することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.11~0.18%、シリコン(Si):0.1~0.5%、マンガン(Mn):0.3~1.8%、リン(P):0.01%以下、硫黄(S):0.01%以下、アルミニウム(Al):0.01~0.1%、ニオブ(Nb):0.01%以下(0%を含む)、クロム(Cr):0.2~1.5%、ニッケル(Ni):1.0~2.5%、銅(Cu):0.25%以下(0%を含む)、モリブデン(Mo):0.25~0.80%、バナジウム(V):0.01~0.1%、チタン(Ti):0.003%以下(0%を含む)、ホウ素(B):0.001~0.003%、窒素(N):0.002~0.01%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、
下記関係式1で表されるCeq値が0.5超過~0.7未満であり、
前記C、Mn、Cr、Mo、及びVの成分関係が下記関係式2を満たし、前記Ti、Nb、Cu、Ni、及びNの成分関係が下記関係式3を満たし、130mm以上350mm以下の厚さを有することを特徴とする低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材。
[関係式1]
Ceq=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15
[関係式2]
1.5<C+Mn+Cr+Mo+V<2.5
[関係式3]
[(Ti+Nb)/3.5N+(Cu/Ni)]<1
(前記関係式1~3において、各元素は、重量含量を意味する。)
【請求項2】
前記鋼材は、微細組織として、面積分率50%以上のテンパードマルテンサイト、残部テンパードベイナイト相を含むことを特徴とする請求項1に記載の低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材。
【請求項3】
前記鋼材は、厚さ中心部においてMnS介在物の最大直径が100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材。
【請求項4】
前記鋼材は、降伏強度690MPa以上、引張強度750MPa以上、-40℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギー値が平均50J以上であることを特徴とする請求項1に記載の低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材。
【請求項5】
前記鋼材は、5%歪み及び時効熱処理後に、-40℃での衝撃試験時の衝撃吸収エネルギー値が平均30J以上であることを特徴とする請求項1に記載の低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材。
【請求項6】
前記鋼材は、溶接後に形成された溶接熱影響部(HAZ)の-40℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギー値が平均30J以上であることを特徴とする請求項1に記載の低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材。
【請求項7】
重量%で、炭素(C):0.11~0.18%、シリコン(Si):0.1~0.5%、マンガン(Mn):0.3~1.8%、リン(P):0.01%以下、硫黄(S):0.01%以下、アルミニウム(Al):0.01~0.1%、ニオブ(Nb):0.01%以下(0%を含む)、クロム(Cr):0.2~1.5%、ニッケル(Ni):1.0~2.5%、銅(Cu):0.25%以下(0%を含む)、モリブデン(Mo):0.25~0.80%、バナジウム(V):0.01~0.1%、チタン(Ti):0.003%以下(0%を含む)、ホウ素(B):0.001~0.003%、窒素(N):0.002~0.01%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、下記関係式1で表されるCeq値が0.5超過~0.7未満であり、前記C、Mn、Cr、Mo、及びVの成分関係が下記関係式2を満たし、前記Ti、Nb、Cu、Ni、及びNの成分関係が下記関係式3を満たす鋼スラブを準備する段階と、
前記鋼スラブを1100~1200℃の温度範囲で加熱する段階と、
前記加熱された鋼スラブを1050℃以上の温度範囲で粗圧延する段階と、
前記粗圧延後にAr3以上の温度で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱延鋼板を常温まで空冷する段階と、
前記空冷された熱延鋼板をAc3以上の温度に再加熱(reheating)して(1.9t+30)分(ここで、tは、鋼の厚さ(mm)を意味する。)以上熱処理した後、常温まで水冷する段階と、
前記熱処理後に水冷された熱延鋼板を550~700℃の温度範囲で(2.3t+30)分(ここで、tは、鋼の厚さ(mm)を意味する。)以上テンパリング熱処理した後、常温まで空冷する段階と、
を含むことを特徴とする低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材の製造方法。
[関係式1]
Ceq=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15
[関係式2]
1.5<C+Mn+Cr+Mo+V<2.5
[関係式3]
[(Ti+Nb)/3.5N+(Cu/Ni)]<1
(前記関係式1~3において、各元素は、重量含量を意味する。)
【請求項8】
前記鋼スラブを加熱する前に、前記鋼スラブの厚さに対して10~50%の厚さに鍛造する段階をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材の製造方法。
【請求項9】
前記再加熱(reheating)は、830~930℃の温度範囲で行われるものであることを特徴とする請求項7に記載の低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材の製造方法。
【請求項10】
前記水冷は、0.5℃/s以上の冷却速度で行われるものであることを特徴とする請求項7に記載の低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材の製造方法。
【請求項11】
前記テンパリング熱処理後に空冷された熱延鋼板を溶接する段階をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材及びその製造方法に係り、より詳しくは、極厚物鋼材として、高強度でありながらも、低温衝撃靭性に優れ、さらに、クラック発生に対する抵抗性に優れ、圧力容器、海洋構造用などとして好適に使用できる低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、海洋構造物や圧力容器用などの構造物の大型化に伴い、高強度極厚物鋼材への需要が増加している。また、このような構造物の使用環境が極寒地に拡大するにつれて、優れた低温衝撃靭性が求められており、構造物の作製にあたって厳しい加工が適用される鋼材の場合には低温歪み時効衝撃靭性も同時に求められている。
【0003】
極厚物鋼材の製造に際して、相対的に厚さの薄いスラブを用いる場合は、厚さ方向の中心部まで十分な圧下力を加えることができない。また、冷却速度の差によって、中心部と表面部との微細組織の種類及び分率が異なり、物性の差が生じた結果、厚さ方向に均一な強度を確保することが困難になる。
【0004】
厚さが最大100mmである中/厚物鋼材の場合、一般的に300~400mm厚さのスラブを用いて製造してきたが、厚さが130mmを超える極厚物鋼材の場合には、圧下比(3:1)を制限することによって、400mm以上の厚さを有するスラブを用いることが要求される。
【0005】
一方、高強度極厚物鋼材を製造すべく、鋼中にMn、Cr、Moのような硬化能向上元素を適宜添加することで、鋼の焼入性及び強度を向上させる方法が主に使用されている。この場合、鋼の調質処理などの冷却処理を行うことで、鋼材の内部にマルテンサイト又はベイナイトなどの低温組織が多量生成され、鋼の強度が向上する。
【0006】
ところで、このような硬化能元素が過度に多く添加されると、炭素当量(Ceq)が高くなり、溶接前の予熱温度が上昇したり、クラックが発生したりする問題があるため、炭素当量を超えないように合金成分の制御が必要となる。
【0007】
他の方法としては、TiとNbなどの析出物元素を添加することで、析出強化による強度の向上を図ることができる。しかしながら、これらの元素もまた、過度に多く添加されると、粗大なTiNbCなどの析出物が形成され、鋼の低温衝撃靭性が低下するという問題がある。
【0008】
特許文献1によると、厚物鋼材の高強度を実現するために、多様な成分が含有された鋼塊を用いて得た鍛造スラブを再加熱して均質化し、均質化されたスラブを熱間圧延-クエンチング及びテンパリング(quenching and tempering)熱処理することで高強度・高靭性の熱延鋼板を得ることができると開示されている。
【0009】
しかしながら、本技術では、高価な元素であるニッケル(Ni)を多量添加していることから顕著に経済性が劣り、ニオブ(Nb)とともに銅(Cu)を添加していることから厚物鋼材のクラック発生に対する敏感度が考慮されていないことが分かる。
【0010】
このことから、海洋構造物や圧力容器用などの大型構造物に好適であるように、高強度でありながらも、低温衝撃靭性に優れ、さらに、クラック発生に対する抵抗性にも優れた極厚物鋼材の開発が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】韓国登録特許 第10-1623661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が目的とするところは、極厚物鋼材として、高強度でありながらも、低温衝撃靭性に優れ、さらに、クラック発生に対する抵抗性に優れた鋼材、及びこれを製造する方法を提供することである。
【0013】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明の課題は、本明細書の内容全体から理解することができるものであり、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の付加的な課題を理解するのに何の困難もない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材は、重量%で、炭素(C):0.11~0.18%、シリコン(Si):0.1~0.5%、マンガン(Mn):0.3~1.8%、リン(P):0.01%以下、硫黄(S):0.01%以下、アルミニウム(Al):0.01~0.1%、ニオブ(Nb):0.01%以下(0%を含む)、クロム(Cr):0.2~1.5%、ニッケル(Ni):1.0~2.5%、銅(Cu):0.25%以下(0%を含む)、モリブデン(Mo):0.25~0.80%、バナジウム(V):0.01~0.1%、チタン(Ti):0.003%以下(0%を含む)、ホウ素(B):0.001~0.003%、窒素(N):0.002~0.01%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、
下記関係式1で表されるCeq値が0.5超過~0.7未満であり、上記C、Mn、Cr、Mo、及びVの成分関係が下記関係式2を満たし、上記Ti、Nb、Cu、Ni、及びNの成分関係が下記関係式3を満たし、130mm以上350mm以下の厚さを有することを特徴とする。
【0015】
[関係式1]
Ceq=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15
【0016】
[関係式2]
1.5<C+Mn+Cr+Mo+V<2.5
【0017】
[関係式3]
[(Ti+Nb)/3.5N+(Cu/Ni)]<1
(上記関係式1~3において、各元素は、重量含量を意味する。)
【0018】
本発明の低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材の製造法は、上述した合金成分及び関係式1~3を満たす鋼スラブを準備する段階と、上記鋼スラブを1100~1200℃の温度範囲で加熱する段階と、上記加熱された鋼スラブを1050℃以上の温度範囲で粗圧延する段階と、上記粗圧延後にAr3以上の温度で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、上記熱延鋼板を常温まで空冷する段階と、上記空冷された熱延鋼板をAc3以上の温度に再加熱して(1.9t+30)分(ここで、tは、鋼の厚さ(mm)を意味する。)以上熱処理した後、常温まで水冷する段階と、上記熱処理後に水冷された熱延鋼板を550~700℃の温度範囲で(2.3t+30)分(ここで、tは、鋼の厚さ(mm)を意味する。)以上テンパリング熱処理した後、常温まで空冷する段階と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、鋼材の全厚さに亘って均一な強度及び低温衝撃靭性を有する極厚物鋼材を提供することができる。
【0020】
また、上記本発明の鋼材は、溶接後に形成された溶接熱影響部の低温衝撃靭性にも優れているため、大型構造物などに好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る発明例及び比較例の温度ごとの衝撃靭性の測定結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者等は、海洋構造物や圧力容器用などの構造物の大型化に伴い、その素材に要求される物性を確保することができる方案の開発が必要であることを認識した。
【0023】
特に、一定の厚さ以上を有する極厚物鋼材において、高強度とともに低温衝撃靭性に優れ、クラック発生に対する抵抗性を確保することができる方案について鋭意研究した。その結果、合金設計において、成分組成と一部の成分との関係を制御すると同時に、製造条件を最適化することで、目標物性を有する極厚物鋼材を提供することができることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0025】
本発明による低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材は、重量%で、炭素(C):0.11~0.18%、シリコン(Si):0.1~0.5%、マンガン(Mn):0.3~1.8%、リン(P):0.01%以下、硫黄(S):0.01%以下、アルミニウム(Al):0.01~0.1%、ニオブ(Nb):0.01%以下(0%を含む)、クロム(Cr):0.2~1.5%、ニッケル(Ni):1.0~2.5%、銅(Cu):0.25%以下(0%を含む)、モリブデン(Mo):0.25~0.80%、バナジウム(V):0.01~0.1%、チタン(Ti):0.003%以下(0%を含む)、ホウ素(B):0.001~0.003%、窒素(N):0.002~0.01%を含むことができる。
【0026】
以下では、本発明で提供する鋼板の合金組成を上記のように制限する理由について詳細に説明する。
【0027】
一方、本発明において特に言及しない限り、各元素の含量は重量を基準とし、組織の割合は面積を基準とする。
【0028】
炭素(C):0.11~0.18%
炭素(C)は、鋼の強度を向上させるのに効果的な元素である。このような効果を十分に得るためには、上記Cを0.11%以上含むことができる。但し、その含量が0.18%を超えると、母材及び溶接部の低温衝撃靭性を大きく阻害するという問題がある。
【0029】
よって、上記Cは、0.11~0.18%の範囲で含むことができ、より好ましくは、0.17%以下、0.15%以下含むことができる。
【0030】
シリコン(Si):0.1~0.5%
シリコン(Si)は、脱酸剤として使用されるだけでなく、鋼の強度及び靭性の向上に有利な元素である。上述した効果を十分に得るためには、上記Siを0.1%以上含むことができる。但し、その含量が0.5%を超えると、鋼の溶接性及び低温靭性が劣る恐れがある。
【0031】
よって、上記Siは、0.1~0.5%の範囲で含むことができる。
【0032】
マンガン(Mn):0.3~1.8%
マンガン(Mn)は、固溶強化効果によって鋼の強度を向上させるのに有利な元素である。その効果を十分に得るためには、上記Mnを0.3%以上含むことができる。但し、その含量が1.8%を超えると、鋼中の硫黄(S)と結合してMnSを形成することで、常温での伸び及び低温靭性を大きく阻害するという問題がある。
【0033】
よって、上記Mnは、0.3~1.8%の範囲で含むことができ、より好ましくは、0.4~1.7%の範囲で含むことができる。
【0034】
リン(P):0.01%以下
リン(P)は、鋼の強度の向上及び耐食性の確保に有利な元素であるが、鋼の衝撃靭性を大きく阻害する恐れがあるため、なるべく低含量に制限することが好ましい。
【0035】
本発明では、上記Pを最大0.01%含有しても、目標とする物性の確保に無理がないため、その含量を0.01%以下に制限することができる。但し、不可避に添加される水準を考慮して0%は除くことができる。
【0036】
硫黄(S):0.01%以下
硫黄(S)は、鋼中のMnと結合してMnSなどを形成することで、鋼の衝撃靭性を大きく阻害する元素である。よって、上記Sは、なるべく低含量に制限することが好ましい。
【0037】
本発明では、上記Sを最大0.01%含有しても、目標とする物性の確保に無理がないため、その含量を0.01%以下に制限することができる。但し、不可避に添加される水準を考慮して0%は除くことができる。
【0038】
アルミニウム(Al):0.01~0.1%
アルミニウム(Al)は、溶鋼を安価に脱酸することができる元素である。また、上記Alは、鋼中のNと結合してAlN析出物を形成することで、BNの形成を抑制するため、ホウ素(B)の効果を極大化するのに有利である。
【0039】
上述した効果を十分に得るためには、上記Alを0.01%以上含むことができるが、その含量が0.1%を超えて過度に多いと、連続鋳造時にノズル閉塞を誘発するため、好ましくない。
【0040】
よって、上記Alは、0.01~0.1%の範囲で含むことができる。
【0041】
ニオブ(Nb):0.01%以下(0%を含む)
ニオブ(Nb)は、NbC又はNb(C,N)の形態として析出して母材及び溶接部の強度を大きく向上させ、高温に再加熱時に固溶されたNbがオーステナイトの再結晶及びフェライト又はベイナイトの変態を抑制することで、組織微細化の効果を得ることができる。さらに、上記Nbは、圧延後の冷却時にオーステナイトの安定性を高めることから、冷却速度が低い場合でもマルテンサイト又はベイナイトのような硬質相の生成が促進し、母材の強度の確保に有用である。
【0042】
しかしながら、上記Nbは、高価な元素であり、チタン(Ti)とともに過度に多く添加されると、加熱中又は溶接後の熱処理(PWHT)後に粗大な(Ti,Nb)(C,N)を形成し、低温衝撃靭性を大きく阻害する要因となる。
【0043】
よって、上記Nbの添加は、最大0.01%含むことができる。但し、本発明では、上記Nbを添加しなくても、目標とする物性を確保するのに無理がない。
【0044】
クロム(Cr):0.2~1.5%
クロム(Cr)は、厚い鋼材の製造時に硬化能を大きく向上させてマルテンサイトを形成し、強度の確保に効果的な元素である。このような効果を十分に得るためには、上記Crを0.2%以上で添加することができる。但し、上記Crは、炭素当量を大幅に増加させて溶接特性に悪影響を与える原因となるため、その含量を1.5%以下に制限することができる。
【0045】
よって、上記Crは、0.2~1.5%の範囲で含むことができる。
【0046】
ニッケル(Ni):1.0~2.5%
ニッケル(Ni)は、母材の強度及び低温衝撃靭性を同時に向上させることができる元素であり、このような効果を十分に得るためには、上記Niを1.0%以上含むことができる。但し、上記Niは、高価な元素であり、その含量が2.5%を超えると、経済性が大きく低下するという問題がある。
【0047】
よって、上記Niは、1.0~2.5%の範囲で含むことができ、より好ましくは、2.3%以下含むことができる。
【0048】
銅(Cu):0.25%以下(0%を含む)
銅(Cu)は、母材の靭性低下を最小限に抑える一方、強度を向上させるのに有利な元素である。このようなCuの含量が過度に多いと、炭素当量を高めて溶接性を阻害するだけでなく、製品の表面品質を大きく劣化させるという問題がある。
【0049】
よって、上記Cuの添加は、最大0.25%含むことができる。但し、本発明では、上記Cuを添加しなくても、目標とする物性を確保するのに無理がない。
【0050】
モリブデン(Mo):0.25~0.80%
モリブデン(Mo)は、鋼の硬化能を大幅に向上させてフェライトの形成を抑制するとともに、ベイナイト又はマルテンサイトの形成を誘導する効果があり、さらに、強度を大きく向上させるのに有利である。このような効果を十分に得るためには、上記Moを0.25%以上で添加することができる。但し、上記Moは、高価な元素であり、過度に多く添加されると、溶接部の硬度を過度に増加させて靭性を阻害する恐れがあるため、これを考慮して、0.80%以下に制限することができる。
【0051】
よって、上記Moは、0.25~0.80%の範囲で含むことができる。
【0052】
バナジウム(V):0.01~0.1%
バナジウム(V)は、他の合金元素に比べて固溶される温度が低く、溶接時に溶接熱影響部に析出して強度の低下を防止するという効果を有する。本発明のような極厚物鋼材に対して溶接及び溶接後熱処理(PWHT)後の強度が十分に確保されない場合、上記Vを0.01%以上で添加することで、強度の向上効果を得ることができる。但し、その含量が0.1%を超えると、MA相のような硬質相の分率が高くなり、溶接部の低温衝撃靭性が低下するという問題がある。
【0053】
よって、上記Vは、0.01~0.1%の範囲で含むことができる。
【0054】
チタン(Ti):0.003%以下(0%を含む)
チタン(Ti)は、鋼中にAlN析出物の形成による表面クラックの発生を低減するために添加することができる。但し、その含量が0.003%を超えると、鋼スラブの再加熱又はテンパリング熱処理過程中に粗大な(Ti,Nb)(C,N)炭窒化物が形成されて低温衝撃靭性を阻害する要因となる。
【0055】
よって、上記Tiは、0.003%以下に制限することができ、本発明では、上記Tiを添加しなくても、目標とする物性を確保するのに無理がない。
【0056】
ホウ素(B):0.001~0.003%
ホウ素(B)は、微量の添加でも鋼の硬化能を向上させることができる元素である。また、上記Bは、マルテンサイト相の形成を誘導するため、鋼の強度確保に有利である。上述した効果を十分に得るためには、上記Bを0.001%以上含むことができる。但し、その含量が0.003%を超えると、却って鋼の低温衝撃靭性を大きく阻害するという問題がある。
【0057】
よって、上記Bは、0.001~0.003%の範囲で含むことができる。
【0058】
窒素(N):0.002~0.01%
窒素(N)は、Tiとともに添加すると、TiNを形成して溶接時の熱影響による結晶粒成長を抑制するのに有利な元素である。上記Tiの添加時に上述した効果を十分に得るためには、上記Nを0.002%以上含むことができる。但し、その含量が0.01%を超えると、粗大なTiNが形成されて低温衝撃靭性が阻害されるため、好ましくない。
【0059】
一方、上記Nは、上記Tiが添加されなくても、鋼中に含有されることができ、その含量が0.002~0.01%の範囲内であると、本発明で目標とする物性を確保するのに大きな無理がない。
【0060】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入されることがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば誰でも分かるものであるため、本明細書では、そのすべての内容について特に言及しない。
【0061】
上述した合金組成を有する本発明の鋼材は、下記関係式1で表されるCeq値が0.5超過~0.7未満を満たすことが好ましい。
【0062】
[関係式1]
Ceq=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15
【0063】
本発明は、目標とする強度を確保するために、強度の向上、硬化能の向上に有利な元素を一定量添加するにあたり、それらの含量を適宜制御することで高強度及び優れた低温衝撃靭性の確保を試みた。
【0064】
特に、本発明は、鋼中にC、Mn、Cr、Mo、V、Cu、Niなどを添加するが、これらの含量が過度に多くなると、炭素当量(Ceq)が増加して溶接前の予熱温度が上昇したり、クラックが誘発されるなどの問題がある。したがって、上述した元素の含量が上記関係式1を満たすように添加することが好ましい。
【0065】
さらに、上述した合金成分中のC、Mn、Cr、Mo、及びVの成分関係が下記関係式2を満たし、上記Ti、Nb、Cu、Ni、及びNの成分関係が下記関係式3を満たすことが好ましい。
【0066】
[関係式2]
1.5<C+Mn+Cr+Mo+V<2.5
【0067】
[関係式3]
[(Ti+Nb)/3.5N+(Cu/Ni)]<1
(上記関係式1~3において、各元素は、重量含量を意味する。)
【0068】
鋼の強度を確保するためにC、Mn、Cr、Mo、及びVを含有するとき、これらの含量が過度に多いと、鋼材の厚さ中心部にMnSのような非金属介在物が偏析するか、又は、粗大なMC(ここで、Mは、Cr、Mo、Vのうち1種以上である。)炭化物が析出して、中心部の衝撃靭性が大きく低下する恐れがある。
【0069】
さらに、鋼中にTiとNbが過度に多く添加されると、粗大な(Ti,Nb)(C,N)が形成されて低温衝撃靭性を大きく阻害し、これと同時に、CuとNiの含量比が大きくなると、表面クラックが誘発されるという問題がある。
【0070】
したがって、本発明では、合金成分中の特定元素の含量を関係式2及び関係式3によって制御することで、目標とする高強度の確保とともに、低温衝撃靭性を向上させることができ、クラック発生に対する抵抗性も向上させることができる。
【0071】
上述した合金成分とともに、関係式1~3を満たす本発明の鋼材は、130mm以上350mm以下の厚さを有する極厚物鋼材である。
【0072】
上記本発明の極厚物鋼材は、微細組織として、テンパードマルテンサイト(tempered martensite)相を主相として含むことができ、一部のテンパードベイナイト(tempered bainite)相を含むことができる。
【0073】
より具体的には、本発明の鋼材は、全厚さに亘って50%以上の面積分率でテンパードマルテンサイト相を含むことができる。例えば、上記鋼材の厚さ方向の1/2t地点、1/4t地点(ここで、tは、鋼材の厚さ(mm)を意味する。)においてテンパードマルテンサイト相を50%以上の面積分率で含み、このとき、100%の分率で含んでも構わない。
【0074】
上記テンパードマルテンサイト相の分率が50%未満であると、目標とする強度を確保することができず、衝撃靭性にも劣る恐れがある。
【0075】
本発明の鋼材は、厚さ方向の中心部(例えば、1/2t地点)から表層部(例えば、1/4t地点~表面)までのマルテンサイト相の分率が高くなる傾向にある。
【0076】
また、上記鋼材は、厚さの中心部、例えば、厚さ方向の1/2t(ここで、tは、鋼材の厚さ(mm)を意味する。)付近、好ましくは、厚さ方向の1/2t地点を基準に上/下約5mmでMnS介在物の最大直径が100μm以下に形成されることで、粗大介在物による衝撃靭性の低下を防止する効果がある。
【0077】
上述した微細組織を有する本発明の鋼材は、全厚さに亘って、例えば、上記鋼材の厚さ方向の1/2t地点及び1/4t地点(ここで、tは、鋼材の厚さ(mm)を意味する。)において降伏強度690MPa以上、引張強度750MPa以上、-40℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギー(CVN)値が平均50J以上であり、高強度及び優れた低温衝撃靭性を有することができる。
【0078】
また、本発明の鋼材は、5%歪み及び時効熱処理後に、-40℃での衝撃試験時の衝撃吸収エネルギー値が平均30J以上、より好ましくは、40J以上であり、歪み時効時に低温衝撃靭性が大きく低下しない効果がある。
【0079】
上記時効熱処理は、特に限定されないが、例えば、5%歪みを与えた後に、250℃で1時間の熱処理条件で行うことができる。
【0080】
一方、大型構造物などに使用するための鋼材は、構造物を作製するために溶接が行われ、そのため、優れた溶接性を有することが求められる。
【0081】
本発明の鋼材は、溶接後に形成された溶接熱影響部(HAZ)の低温衝撃靭性に優れた効果があり、具体的には、-40℃で圧延方向に衝撃試験を行うとき、平均30J以上、より好ましくは、40J以上のシャルピー衝撃吸収エネルギー値が確保されることが好ましい。
【0082】
以下、本発明の他の一側面である低温衝撃靭性に優れた高強度極厚物鋼材の製造方法について詳細に説明する。
【0083】
本発明に係る極厚物鋼材は、本発明で提案する合金成分及び成分関係式を全て満たす鋼スラブを[加熱-熱間圧延-冷却-再加熱-冷却-テンパリング]の工程を経て製造することができる。
【0084】
以下では、それぞれの工程条件について詳細に説明する。
【0085】
[鋼スラブ加熱]
本発明では、熱間圧延を行う前に鋼スラブを加熱して均質化処理する工程を行うことが好ましく、このとき、1100~1200℃の温度範囲で加熱工程を行うことができる。
【0086】
上記鋼スラブの加熱温度が1100℃未満であると、スラブ内に形成された析出物(炭・窒化物)が十分に再固溶されず、熱間圧延後の工程において析出物の形成が減少するようになる。一方、その温度が1200℃を超えると、オーステナイト結晶粒が粗大化し、鋼の物性を阻害する恐れがある。
【0087】
上記鋼スラブは、連続鋳造により得られた連続鋳造スラブであることができ、上記連続鋳造スラブをそのまま加熱するか、又は、上記連続鋳造スラブの加熱前に鍛造して鍛造スラブを得た後、上記加熱工程を行うことができる。
【0088】
具体的には、上記加熱前に、上記連続鋳造スラブをAc3以上の温度に加熱した後、上記連続鋳造スラブの初期厚さに対して10~50%の厚さに鍛造する段階をさらに含むことができる。
【0089】
本発明は、最終的に、130mm以上の厚さを有する厚鋼板を得ることを目的とし、熱間圧延時に制限された圧下比(3:1)内で目標とする厚さの鋼板を得るためには、400mm以上の厚さを有するスラブを適用する必要がある。
【0090】
上述したように、本発明は、連続鋳造により得られた連続鋳造スラブを用いることができ、このとき、連続鋳造スラブの厚さが約600~700mmであると、スラブの加熱前に鍛造工程を行うことで厚さを減少させることができる。特に、上記鍛造工程を行う場合、スラブの内部空隙を最小限に抑えながら厚さを効果的に減少させることができ、後続工程(熱間圧延工程)において厚さ中心部まで十分な圧下力を加えることができる。
【0091】
[熱間圧延]
上記のように加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板に製造することができる。このとき、上記加熱された鋼スラブを1050℃以上の温度で粗圧延した後、Ar3以上の温度で仕上げ熱間圧延することができる。
【0092】
上記粗圧延の際、温度が1050℃未満であると、後続の仕上げ熱間圧延時の温度が低くなるという問題がある。また、上記仕上げ熱間圧延時の温度がAr3未満であると、圧延負荷が大きくなり、表面クラックなどの品質不良が発生する恐れがある。
【0093】
より好ましくは、上記仕上げ熱間圧延は、800~1050℃の温度範囲で行うことができる。
【0094】
本発明においてAr3は、次のように表されることができる。
【0095】
Ar3=910-310C-80Mn-20Cu-55Ni-80Mo+119V+124Ti-18Nb+179Al(ここで、各元素は、重量含量を意味する。)
【0096】
[冷却及び再加熱(reheating)]
上記のように製造された熱延鋼板を常温まで空冷した後、Ac3以上の温度に再加熱して一定時間維持することが好ましい。
【0097】
本発明では、上記再加熱工程によって微細なオーステナイト組織の生成を助長し、後続の冷却時に低温変態相を形成することができる。
【0098】
すなわち、上記熱延鋼板を再加熱することでオーステナイト組織を形成することができるが、上記再加熱温度がAc3未満であると、熱延鋼板組織がフェライト及びオーステナイトの2相組織となる恐れがある。
【0099】
よって、上記熱延鋼板の再加熱は、Ac3以上、好ましくは830~930℃の温度範囲で行い、100%のオーステナイト相が上記熱延鋼板の中心部まで十分に形成されるように、上記温度で(1.9t+30)分(ここで、tは、鋼の厚さ(mm)を意味する。)以上維持することが好ましい。
【0100】
本発明においてAc3は、次のように表されることができる。
【0101】
Ac3=937.2-436.5C+56Si-19.7Mn-26.6Ni+38.1Mo+124.8V+136.3Ti-19.1Nb+198.4Al(ここで、各元素は、重量含量を意味する。)
【0102】
[冷却及びテンパリング熱処理]
上記のように再加熱された熱延鋼板を常温に冷却した後、テンパード組織を形成するために、テンパリング熱処理工程を行うことができる。
【0103】
上記冷却は、低温組織相の形成を円滑にするために、水冷することができ、0.5℃/s以上の冷却速度で行うことができる。ここで、冷却速度は、熱延鋼板の厚さ方向の1/4t領域を基準にする。
【0104】
上記水冷中の冷却速度が0.5℃/s未満であると、冷却中にフェライト相のような軟質相が形成される恐れがある。上記水冷中の冷却速度が速いほど低温組織相の形成に有利になるため、その上限については特に限定しない。但し、冷却設備を考慮して、最大100℃/sの冷却速度で行うことができる。
【0105】
上記水冷された熱延鋼板は、その微細組織が低温組織相、好ましくは、マルテンサイト又はベイナイト相を含むことができる。このように低温組織相を含むことで、高い強度を有することができるが、割れやすい性質を有する。
【0106】
本発明では、上記低温組織相が形成された熱延鋼板を一定温度に加熱した後、維持することで、鋼の強度を僅かに低下させながらも、低温での衝撃靭性を確保することができる。
【0107】
具体的には、上記熱延鋼板を550~700℃の温度範囲で(2.3t+30)分(ここで、tは、鋼の厚さ(mm)を意味する。)以上のテンパリング熱処理を行うことで、テンパードマルテンサイト又はテンパードベイナイト相を形成することができる。
【0108】
上記テンパリング熱処理において、温度が550℃未満であると、テンパリング熱処理効果を十分に確保するために長時間の熱処理が求められ、経済性が落ちるという問題がある、一方、その温度が700℃を超えると、強度低下の効果が過度に大きくなるだけでなく、炭化物の粗大化により衝撃靭性も低下する恐れがある。さらに、上述した温度範囲でテンパリング熱処理において、その時間が(2.3t+30)分未満であると、テンパリング効果が十分ではない。
【0109】
上記テンパリング熱処理済みの熱延鋼板を常温に空冷し、これにより、微細組織が面積分率50%以上のテンパードマルテンサイト及び残部テンパードベイナイト相から構成された鋼材を得ることができる。
【0110】
本発明の鋼材は、その厚さが130mm以上350mm以下の極厚物鋼材であり、鋼材の厚さ方向に均一な組織を有することで、高強度及び優れた低温衝撃靭性を有し、クラック発生に対する抵抗性に優れた特性を有することができる。
【0111】
さらに、本発明の極厚物鋼材、すなわち、上記空冷された熱延鋼板に対して溶接する段階をさらに含むことができるが、このとき、サブマージアーク溶接(SAW)又はフラックスコアードアーク溶接(FCAW)方法によって溶接を行うことができる。一例として、上記サブマージアーク溶接は通常の条件で行うことができ、例えば、5.0KJ/cmの入熱量で行うことができる。また、上記フラックスコアードアーク溶接も、通常の条件で行うことができ、例えば、1.5KJ/cmの入熱量で行うことができる。
【0112】
本発明の極厚物鋼材は、上記溶接後においても低温衝撃靭性に優れた特性を有することができる。
【0113】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。但し、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものに過ぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではないということに留意する必要がある。本発明の権利範囲は特許請求の範囲に記載の事項と、それから合理的に類推される事項によって決まるものである。
【実施例
【0114】
下記表1に示した合金組成を有する溶鋼を連続鋳造して連続鋳造スラブを製造した。このとき、上記連続鋳造スラブは700mmの厚さに製造した。上記連続鋳造スラブを後続の熱間圧延工程が可能となるようにAc3以上の温度に加熱した後、厚さ400mmに鍛造して鍛造スラブを製造した。
【0115】
上記鍛造スラブを1100℃に加熱した後、粗圧延を行い、850℃で仕上げ熱間圧延して厚さ210mmの熱延鋼板を得た。上記熱延鋼板を常温に空冷した後、910℃に再加熱(reheating)して維持した後、さらに常温に水冷した。その後、水冷された熱延鋼板を650℃に加熱及び維持してテンパリング熱処理を行った後、常温に空冷して最終鋼材を製造した。例外的に、鋼9については、テンパリング熱処理時に720℃に加熱及び維持した後、常温に空冷した。
【0116】
このとき、上記再加熱温度で513分間維持し、上記テンパリング熱処理温度では744分間維持した。また、上記水冷は、各鋼材の中心部(1/2t領域)を基準に、0.6℃/sの冷却速度で行った。
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
その後、それぞれの鋼材に対して微細組織を観察し、機械的物性を評価した。微細組織は、光学顕微鏡で観察した後、EBSD装備を用いてテンパードマルテンサイト(T-M)相、テンパードベイナイト(T-B)相を目視で区別し、各分率を測定した。このとき、上記微細組織は、各鋼材の厚さ方向の1/2t地点、1/4t地点でそれぞれ測定し、その結果を下記表3に示した。また、各鋼材の厚さ方向の1/2t地点を中心に上/下5mm区間で形成されたMnS介在物の大きさ(円相当直径)を観察し、その最大値を下記表3に示した。
【0120】
そして、各鋼材の厚さ方向の1/2t地点、1/4t地点で機械的物性を測定し、このとき、引張試片は、JIS1号規格の試験片を圧延方向に垂直な方向に各厚さ方向地点で採取して引張強度(TS)、降伏強度(YS)、及び伸び(El)を測定し、衝撃試片は、JIS4号規格の試験片を圧延方向に各厚さ方向地点で採取して-40℃で衝撃靭性(CVN)を測定し、その結果を下記表4に示した。上記衝撃試験は、各地点で3回測定し、平均値と個々の値をすべて示した。
【0121】
【表3】
【0122】
【表4】
【0123】
上記表3及び4に示したように、本発明で提案する合金組成、成分関係、及び製造条件によって製造された発明例1~4では、厚さ方向に意図する組織が形成されることによって、高強度及び優れた低温衝撃靭性を有することが確認できた。
【0124】
一方、本発明で提案する合金組成又は成分関係を満たしていない比較例1~4では、低温衝撃靭性が非常に劣っていることが確認できた。
【0125】
このうち、Crの含量が不十分な比較例1は、鋼の焼入性が大きく減少し、低温衝撃靭性が劣っていた。また、Tiが過度に含有された比較例2及び3は、鋼中に形成されたTiN又は(Ti,Nb)(C,N)析出物がクラック伝播を引き起こし、中心部に粗大なMnS介在物が形成されることによって、低温衝撃靭性が非常に劣っていた。
【0126】
比較例4は、本発明で提案する合金組成を満たすものの、関係式1が本発明から外れる場合であり、比較例1~3と類似した引張強度を示したが、中心部の衝撃靭性が劣っていることが確認できた。
【0127】
また、比較例5の場合、合金設計は本発明を満たしていたが、テンパリング熱処理時の温度が過度に高かった。このような比較例5は、再加熱及び冷却工程(クエンチング工程)後の鋼内部に集積された転位がテンパリング熱処理中に解けて、温度上昇に伴い軟化度が高くなり、内部に析出された炭化物も、温度上昇に伴い粗大化し、強度及び衝撃靭性が非常に劣っていた。
【0128】
一方、上記の各鋼材に対して歪み時効熱処理を行い、次いで、厚さ方向の1/4t地点で衝撃試片を採取して-40℃で衝撃靭性(CVN)を測定し、その結果を下記表5に示した。このとき、上記歪み時効熱処理は、5%の歪みを加えた後、250℃で1時間の時効熱処理を行って実施した。
【0129】
また、上記の各鋼材を1.5KJ/cmの入熱量でフラックスコアードアーク溶接を行った後、溶接熱影響部で衝撃試片を採取して-40℃で衝撃靭性(CVN)を測定し、その結果を下記表5に併せて示した。
【0130】
上記それぞれの衝撃試験は、各地点で3回測定し、平均値と個々の値をすべて示した。
【0131】
【表5】
【0132】
上記表5に示したように、本発明に係る発明例1~4は、歪み時効熱処理後に優れた低温衝撃靭性を有するだけでなく、溶接後においても、溶接熱影響部の衝撃靭性が低下していないことが分かった。
【0133】
一方、比較例1~3及び比較例5は、歪み時効熱処理後に母材の低温衝撃靭性が大きく低下し、溶接後においても、溶接熱影響部の衝撃靭性が大きく低下したことが確認できた。比較例4の場合、歪み時効熱処理前の母材の低温衝撃靭性は良好であったが、歪み時効熱処理後に低温衝撃靭性が低下し、特に、溶接後における溶接熱影響部の衝撃靭性が大きく低下したことが分かった。
【0134】
図1は、発明例1、比較例1及び4の鋼材に対して0℃、-20℃、-40℃、-60℃で衝撃試験を行った後の結果を示したものである。このとき、衝撃試片は、前述と同様の方法を用いて厚さ方向の1/4t地点で採取した。
【0135】
図1に示したように、発明例1では、-60℃の極低温でも150J以上の衝撃靭性が測定されたが、比較例1及び4では、低温であるほど衝撃靭性が大きく低下する傾向にあることが分かった。
図1
【国際調査報告】