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特表2022-548221シクロスポリンおよびメントール含有ナノエマルジョン点眼組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-17
(54)【発明の名称】シクロスポリンおよびメントール含有ナノエマルジョン点眼組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/13 20060101AFI20221110BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20221110BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20221110BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20221110BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20221110BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20221110BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20221110BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20221110BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
A61K38/13
A61P27/04
A61K9/107
A61K47/14
A61K47/34
A61K47/10
A61K47/38
A61K47/32
A61K47/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022515794
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(85)【翻訳文提出日】2022-03-09
(86)【国際出願番号】 KR2020011977
(87)【国際公開番号】W WO2021049825
(87)【国際公開日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】10-2019-0111776
(32)【優先日】2019-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519165216
【氏名又は名称】テジュン ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】TAEJOON PHARMACEUTICAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】8, Daesagwan-ro 31-gil, Yongsan-gu, Seoul 04401, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジョンヨブ
(72)【発明者】
【氏名】シン,ユンジェ
(72)【発明者】
【氏名】ソ,ヒョンウォン
(72)【発明者】
【氏名】キム,デフン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD08F
4C076DD09F
4C076DD37
4C076DD46F
4C076EE06Q
4C076EE09Q
4C076EE16Q
4C076EE23F
4C076EE30Q
4C076EE32Q
4C076EE36Q
4C076EE37Q
4C076EE38Q
4C076FF16
4C076FF36
4C076FF63
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084DA11
4C084MA05
4C084MA22
4C084MA58
4C084NA10
4C084ZA331
(57)【要約】
本発明は、シクロスポリン、ヒマシ油、親水性および疎水性乳化剤、メントールおよび水性溶剤を混合することで、優れた安定性を有するだけでなく、異物感および視野混濁などの眼刺激感を改善したナノエマルジョン点眼組成物およびその製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロスポリン;ヒマシ油;ポリオキシエチレンヒマシ油;ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群から選択された1種以上の疎水性乳化剤;メントール;および水性溶剤を含む、ナノエマルジョン点眼組成物。
【請求項2】
0.03w/v%~0.5w/v%で含まれるシクロスポリン;
0.2w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の8倍未満で含まれるヒマシ油;
1w/v%~5w/v%で含まれるポリオキシエチレンヒマシ油を含む親水性乳化剤;
0.1w/v%~5w/v%で含まれるポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群から選択された1種以上の疎水性乳化剤;
0.001w/v%以上0.1w/v%未満で含まれるメントール;および
水性溶剤を含む、ナノエマルジョン点眼組成物。
【請求項3】
前記シクロスポリンは、0.07w/v%~0.2w/v%で含まれる、請求項2に記載のナノエマルジョン点眼組成物。
【請求項4】
前記ヒマシ油は、0.25w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の5倍未満で含まれる、請求項3に記載のナノエマルジョン点眼組成物。
【請求項5】
前記ポリオキシエチレンヒマシ油は、1.5w/v%~5w/v%で含まれる、請求項3に記載のナノエマルジョン点眼組成物。
【請求項6】
前記ポリオキシエチレンヒマシ油は、1.5w/v%~5w/v%で含まれる、請求項4に記載のナノエマルジョン点眼組成物。
【請求項7】
平均粒子サイズは、1nm~100nmである、請求項1~6のいずれか1項に記載のナノエマルジョン点眼組成物。
【請求項8】
カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、カルボマー(Carbomer)、ジェランガム(Gellan Gum)、キサンタンガム(Xanthan Gum)、ヒアルロン酸(HA)、ヒアルロン酸ナトリウム(Sodium Hyaluronate)、アルギン酸ナトリウム(Sodium Alginate)およびデキストラン(Dextran)から選択された1種以上の安定化剤をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のナノエマルジョン点眼組成物。
【請求項9】
前記安定化剤は、0.001~10.0w/v%で含まれる、請求項8に記載のナノエマルジョン点眼組成物。
【請求項10】
0.03w/v%~0.5w/v%で含まれるシクロスポリン;
0.2w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の8倍未満で含まれるヒマシ油;
1w/v%~5w/v%で含まれるポリオキシエチレンヒマシ油を含む親水性乳化剤;
0.1w/v%~5w/v%で含まれるポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群から選択された1種以上の疎水性乳化剤;
0.001w/v%以上0.1w/v%未満で含まれるメントール;および
水性溶剤を撹拌混合して混合組成物を製造するステップを含む、ナノエマルジョン点眼
組成物の製造方法。
【請求項11】
前記シクロスポリンは、0.07w/v%~0.2w/v%で含まれる、請求項10に記載のナノエマルジョン点眼組成物の製造方法。
【請求項12】
前記ヒマシ油は、0.25w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の5倍未満で含まれる、請求項11に記載のナノエマルジョン点眼組成物の製造方法。
【請求項13】
前記ポリオキシエチレンヒマシ油は、1.5w/v%~5w/v%で含まれる、請求項11に記載のナノエマルジョン点眼組成物の製造方法。
【請求項14】
前記ポリオキシエチレンヒマシ油は、1.5w/v%~5w/v%で含まれる、請求項12に記載のナノエマルジョン点眼組成物の製造方法。
【請求項15】
ナノエマルジョン点眼組成物の平均粒子サイズは、1nm~100nmである、請求項10~14のいずれか1項に記載のナノエマルジョン点眼組成物の製造方法。
【請求項16】
前記混合組成物に安定化剤を混合するステップをさらに含む、請求項10~14のいずれか1項に記載のナノエマルジョン点眼組成物の製造方法。
【請求項17】
前記安定化剤は、0.001~10.0w/v%で含まれる、請求項16に記載のナノエマルジョン点眼組成物の製造方法。
【請求項18】
0.03w/v%~0.5w/v%のシクロスポリン;
0.2w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の8倍未満のヒマシ油;
1w/v%~5w/v%のポリオキシエチレンヒマシ油を含む親水性乳化剤;
0.1w/v%~5w/v%のポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群から選択された1種以上の疎水性乳化剤;
0.001w/v%以上0.1w/v%未満のメントール;および
水性溶剤を混合して製造される、ナノエマルジョン点眼組成物。
【請求項19】
前記シクロスポリンは、0.07w/v%~0.2w/v%である、請求項18に記載のナノエマルジョン点眼組成物。
【請求項20】
前記ヒマシ油は、0.25w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の5倍未満である、請求項19に記載のナノエマルジョン点眼組成物。
【請求項21】
前記ポリオキシエチレンヒマシ油は、1.5w/v%~5w/v%である、請求項19に記載のナノエマルジョン点眼組成物。
【請求項22】
前記ポリオキシエチレンヒマシ油は、1.5w/v%~5w/v%である、請求項20に記載のナノエマルジョン点眼組成物。
【請求項23】
前記ナノエマルジョン点眼組成物の平均粒子サイズは、1nm~100nmである、請求項18~22のいずれか1項に記載のナノエマルジョン点眼組成物。
【請求項24】
前記ナノエマルジョン点眼組成物は、安定化剤をさらに混合して製造される、請求項18~22のいずれか1項に記載のナノエマルジョン点眼組成物。
【請求項25】
前記安定化剤は、0.001~10.0w/v%で混合される、請求項24に記載のナ
ノエマルジョン点眼組成物。
【請求項26】
0.03w/v%~0.5w/v%で含まれるシクロスポリン;
0.2w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の8倍未満で含まれるヒマシ油;
1w/v%~5w/v%で含まれるポリオキシエチレンヒマシ油を含む親水性乳化剤;
0.1w/v%~5w/v%で含まれるポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群から選択された1種以上の疎水性乳化剤;
0.001w/v%以上0.1w/v%未満で含まれるメントール;および
水性溶剤を含むナノエマルジョン点眼組成物を対象体に投与するステップを含む、眼球乾燥症の予防または治療方法。
【請求項27】
眼球乾燥症の予防または治療用の薬剤を製造するための、
0.03w/v%~0.5w/v%で含まれるシクロスポリン;
0.2w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の8倍未満で含まれるヒマシ油;
1w/v%~5w/v%で含まれるポリオキシエチレンヒマシ油を含む親水性乳化剤;
0.1w/v%~5w/v%で含まれるポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群から選択された1種以上の疎水性乳化剤;
0.001w/v%以上0.1w/v%未満で含まれるメントール;および
水性溶剤を含む、ナノエマルジョン点眼組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロスポリン、ヒマシ油、親水性乳化剤、疎水性乳化剤およびメントールを含むナノエマルジョン点眼組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロスポリンは水にほぼ溶けない難溶性薬物であって、シクロスポリンを含む水溶性薬剤組成物を製造することは非常に難しい。現在まで、水溶性媒体および非水溶性媒体を用いて、シクロスポリンを含有する製薬組成物を製造するために多くの努力が行われた。例えば、シクロスポリンを有効成分とする眼球乾燥症治療用の点眼剤としてレスタシス(登録商標)(Restasis)が市販されているが、レスタシス(登録商標)は、有色の不透明なエマルジョン剤形の製品であって、視野混濁、異物感、灼熱感などを誘発するという短所がある。
【0003】
前記短所を改善したナノエマルジョン剤形の点眼剤が開発された(特許文献1)。特許文献1には、シクロスポリン、ヒマシ油、ポリオキシル35ヒマシ油、ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールを含み、安定したナノエマルジョンの製造のためにヒマシ油の含量がシクロスポリンの8倍以上であることを特徴とする、ナノエマルジョン組成物が開示されている。
【0004】
前記点眼剤は、シクロスポリンを0.05%の濃度で含む1日2回投与の点眼剤であり、投与回数を減らして服薬コンプライアンスを高めた高濃度のシクロスポリンを含む組成物を提供する必要がある。しかし、シクロスポリンは、投与時に眼刺激感を引き起こす成分であって、含量の増加に応じて刺激感もさらに大きくなるという問題がある。また、難溶性のシクロスポリンを安定したナノエマルジョンに製造するためには、シクロスポリンの含量の増加に応じてオイル成分の含量を増加させなければならないが、オイルなどの非水性溶剤を過量に含む場合、点眼時に眼刺激感を含む痛みおよび視野混濁を誘発し得るという問題がある。
【0005】
したがって、シクロスポリンの含量を高めながらも安定性を維持および改善し、眼刺激感を改善できる、新しい点眼剤の開発が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】大韓民国特許第1492447号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、安定性、バイオアベイラビリティ(生体利用率)および眼刺激感を改善したシクロスポリン含有ナノエマルジョン点眼組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、シクロスポリン、ヒマシ油、親水性乳化剤、疎水性乳化剤およびメントールを含むナノエマルジョン点眼組成物を提供する。本発明のナノエマルジョン点眼組成物は、優れた安定性(特に、保管安定性)および透明な性状を有し、点眼時の眼刺激感を含む痛みが低く、視野混濁を誘発しない。
【0009】
本発明は、シクロスポリン、ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群から選択された1種以上の疎水性乳化剤、メントールおよび水性溶剤を含む、安定したナノエマルジョン点眼組成物を提供する。
【0010】
本発明において、「シクロスポリン(Cyclosporine)」は、ナノエマルジョン点眼組成物の有効成分であり、好ましくは、シクロスポリンAまたはその誘導体であってもよい。
【0011】
シクロスポリンは、眼球の乾燥を改善するという目的を達成するために治療的に有効な量で含まれてもよく、本発明の目的を達成するために、本発明のナノエマルジョン点眼組成物において、シクロスポリンは0.01w/v%以上、具体的には0.03w/v%以上、より具体的には0.05w/v%以上、さらに具体的には0.07w/v%以上、さらに具体的には0.08w/v%以上で含まれてもよく、0.5w/v%以下、具体的には0.2w/v%以下、より具体的には0.1w/v%以下で含まれてもよい。例えば、本発明のナノエマルジョン点眼組成物において、シクロスポリンの含量は0.01w/v%~0.5w/v%、0.01w/v%~0.2w/v%、0.01w/v%~0.1w/v%、0.03w/v%~0.5w/v%、0.03w/v%~0.2w/v%、0.03w/v%~0.1w/v%、0.05w/v%~0.5w/v%、0.05w/v%~0.2w/v%、0.05w/v%~0.1w/v%、0.07w/v%~0.5w/v%、0.07w/v%~0.2w/v%、0.07w/v%~0.1w/v%、0.08w/v%~0.5w/v%、0.08w/v%~0.2w/v%または0.08w/v%~0.1w/v%であってもよい。本発明の一実施形態において、シクロスポリンの含量は、具体的には0.07w/v%~0.2w/v%、より具体的には0.07w/v%~0.1w/v%、さらに具体的には0.08w/v%~0.1w/v%であってもよい。本発明の他の実施形態によると、本発明のナノエマルジョン点眼組成物において、シクロスポリンは0.05w/v%、0.08w/v%、または0.1w/v%で含まれてもよい。
【0012】
本発明の組成物は、非水性溶剤としてヒマシ油を含む。ヒマシ油としては、例えば、ヒマシ油(Castor oil、伊藤製油社製)の製品名で市販されるものを用いてもよい。ヒマシ油は、眼球表面上の涙蒸発を減少させ、他のオイル類に比べて広がり能力に優れるため、涙腺のマイボーム腺(Meibomian gland)機能不全などの眼球乾燥の治療に役立つ。
【0013】
しかしながら、ヒマシ油は、眼刺激感を含む痛みおよび視野混濁を誘発することもある。したがって、本発明の組成物に含まれるヒマシ油は、シクロスポリンをよく溶解させるとともに、眼球異常反応を最小化できる最小濃度で用いられることが好ましい。また、これにより、オイル相を安定化させるために用いられる乳化剤の量も最小化することができるため、既存のシクロスポリンエマルジョンよりも安全な眼科用ナノエマルジョン組成物を提供することができる。本発明の一実施形態において、本発明のナノエマルジョン点眼組成物中のシクロスポリンおよびヒマシ油の含量比(w:w)は1:2.5以上、1:2.5超過、1:3以上であってもよく、1:8未満、特に1:5未満であってもよく、1:4.7以下であってもよい。一実施形態において、本発明のナノエマルジョン点眼組成物中のシクロスポリンおよびヒマシ油の含量比(w:w)は1:3以上1:5未満であってもよく、具体的には1:3以上1:4.7以下であってもよい。本発明者らは、難溶性のシクロスポリンを安定したナノエマルジョンに製造するために必要なヒマシ油の含量をシクロスポリンの含量の8倍未満、特に5倍未満に減らすことで、ヒマシ油による眼刺激感を含む痛みおよび視野混濁の誘発を最小化した。
【0014】
具体的に、本発明において、ヒマシ油の含量は、組成物に含まれるシクロスポリンの含量の2.5倍超過、3倍以上であってもよい。本発明において、ヒマシ油の含量は、組成物に含まれるシクロスポリンの含量の4.1倍であってもよい。本発明において、ヒマシ油の含量は、組成物の総含量に対して0.2w/v%以上、0.2w/v%超過であってもよく、具体的には0.25w/v%以上、より具体的には0.3w/v%以上であってもよい。また、本発明において、ヒマシ油の含量は、組成物に含まれるシクロスポリンの含量の5倍未満であってもよく、4.7倍以下であってもよい。また、本発明において、ヒマシ油の含量は、組成物の総含量に対して0.4w/v%未満、0.375w/v%以下であってもよい。本発明において、ヒマシ油の含量は0.325w/v%であってもよい。
【0015】
本発明の一実施形態において、ヒマシ油の含量は、組成物に含まれるシクロスポリンの含量の3倍以上5倍未満、3倍以上4.7倍以下、例えば4.1倍であってもよい。例えば、本発明のナノエマルジョン点眼組成物において、ヒマシ油の含量は0.2w/v%超過0.4w/v%未満、0.2w/v%超過0.375w/v%以下、0.25w/v%以上0.4w/v%未満、0.25w/v%以上0.375w/v%以下、0.3w/v%以上0.4w/v%未満、0.3w/v%以上0.375w/v%以下、0.325w/v%であってもよい。例えば、本発明において、ヒマシ油の含量は、0.2w/v%超過乃至組成物に含まれるシクロスポリンの含量の5倍未満、0.25w/v%以上乃至組成物に含まれるシクロスポリンの含量の5倍未満、0.3w/v%以上乃至組成物に含まれるシクロスポリンの含量の5倍未満、0.2w/v%超過乃至組成物に含まれるシクロスポリンの含量の4.7倍以下、0.25w/v%以上乃至組成物に含まれるシクロスポリンの含量の4.7倍以下、0.3w/v%以上乃至組成物に含まれるシクロスポリンの含量の4.7倍以下、組成物に含まれるシクロスポリンの含量の3倍以上乃至0.4w/v%未満、組成物に含まれるシクロスポリンの含量の3倍以上乃至0.375w/v%以下であってもよい。
【0016】
本発明のナノエマルジョン点眼組成物は、水性溶剤中のヒマシ油の乳化を助ける乳化剤を1種以上含む。乳化剤の選択は、ヒマシ油のRequired HLB値に応じて、各乳化剤が有するHLB値の割合を合わせて1種以上選択することができる。乳化剤は、HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値が少なくとも8、特に10以上の親水性乳化剤から1種以上、HLB値が8未満、特に6以下の疎水性乳化剤から1種以上を選択することができる。本発明の乳化剤は、親水性乳化剤、疎水性乳化剤またはこれらの混合物であってもよい。本発明の一実施形態においては、ナノエマルジョン組成物の平均粒子サイズ、粒子分布および安定性を改善するために、親水性乳化剤および疎水性乳化剤を組み合わせて用いることを特徴とする。
【0017】
本発明において、親水性乳化剤は、ポリオキシエチレンヒマシ油であってもよく、好ましくは、ポリオキシル35ヒマシ油であってもよく、これは、クレモフォール(登録商標)ELの製品名で市販されている。前記親水性乳化剤の含量は、組成物の総含量に対して1~5w/v%であってもよい。
【0018】
本発明において、親水性乳化剤の含量は1.4w/v%以上、1.4w/v%超過、1.5w/v%以上、1.5w/v%超過、1.6w/v%以上、1.8w/v%以上であってもよい。本発明において、親水性乳化剤の含量は5w/v%以下、4.5w/v%以下、4w/v%以下であってもよい。
【0019】
例えば、本発明において、親水性乳化剤の含量は1.4w/v%超過5w/v%以下、1.4w/v%超過4.5w/v%以下、1.4w/v%超過4w/v%以下、1.5w/v%以上5w/v%以下、1.5w/v%以上4.5w/v%以下、1.5w/v%以
上4w/v%以下、1.5w/v%超過5w/v%以下、1.5w/v%超過4.5w/v%以下、1.5w/v%超過4w/v%以下、1.6w/v%以上5w/v%以下、1.6w/v%以上4.5w/v%以下、1.6w/v%以上4w/v%以下、1.8w/v%以上5w/v%以下、1.8w/v%以上4.5w/v%以下、1.8w/v%以上4w/v%以下であってもよい。
【0020】
親水性乳化剤が本発明のナノエマルジョン組成物に上記のような含量で含まれる場合、平均粒子サイズが1nm~100nmの安定したナノエマルジョンをさらに容易に形成することができ、親水性乳化剤が5w/v%以下で含まれるため、優れた点眼感を示すことができる。
【0021】
一方、本発明の疎水性乳化剤は、イオン性または非イオン性であってもよいが、好ましくは、非イオン性である。疎水性乳化剤としてポリエチレングリコール、プロピレングリコール、またはこれらの混合物を用いてもよく、これらは、各々、Super refined PEG 300、Super refined PEG 400、Super refined PEG 600(Croda社)、プロピレングリコール(Merck社)の製品名で市販されている。前記疎水性乳化剤の含量は0.1~5w/v%であってもよい。
【0022】
具体的に、本発明のナノエマルジョン点眼組成物において、疎水性乳化剤の含量は0.2w/v%以上であってもよく、具体的には0.2w/v%超過であってもよく、より具体的には0.3w/v%以上であってもよく、さらに具体的には0.4w/v%以上、0.5w/v%以上、さらに具体的には0.7w/v%以上であってもよい。また、本発明において、疎水性乳化剤の含量は5w/v%以下、具体的には4.5w/v%以下、より具体的には4w/v%以下であってもよい。
【0023】
例えば、本発明において、疎水性乳化剤の含量は0.2w/v%~5w/v%、0.2w/v%~4.5w/v%、0.2w/v%~4w/v%、0.2w/v%超過5w/v%以下、0.2w/v%超過4.5w/v%以下、0.2w/v%超過4w/v%以下、0.3w/v%~5w/v%、0.3w/v%~4.5w/v%、0.3w/v%~4w/v%、0.4w/v%~5w/v%、0.4w/v%~4.5w/v%、0.4w/v%~4w/v%、0.5w/v%~5w/v%、0.5w/v%~4.5w/v%、0.5w/v%~4w/v%、0.7w/v%~5w/v%、0.7w/v%~4.5w/v%、0.7w/v%~4w/v%であってもよい。
【0024】
本発明のナノエマルジョン点眼組成物は、具体的には、1w/v%~5w/v%で含まれるポリオキシエチレンヒマシ油、および0.1w/v%~5w/v%で含まれるポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群から選択された1種以上の疎水性乳化剤を含む。
【0025】
より具体的には、本発明のナノエマルジョン点眼組成物において、ポリオキシエチレンヒマシ油の含量は1.4w/v%超過5w/v%以下、1.4w/v%超過4.5w/v%以下、1.4w/v%超過4w/v%以下、1.5w/v%以上5w/v%以下、1.5w/v%以上4.5w/v%以下、1.5w/v%以上4w/v%以下、1.5w/v%超過5w/v%以下、1.5w/v%超過4.5w/v%以下、1.5w/v%超過4w/v%以下、1.6w/v%以上5w/v%以下、1.6w/v%以上4.5w/v%以下、1.6w/v%以上4w/v%以下、1.8w/v%以上5w/v%以下、1.8w/v%以上4.5w/v%以下、1.8w/v%以上4w/v%以下であってもよく、前記疎水性乳化剤の含量は0.2w/v%~5w/v%、0.2w/v%~4.5w/v%、0.2w/v%~4w/v%、0.2w/v%超過5w/v%以下、0.2w/v%
超過4.5w/v%以下、0.2w/v%超過4w/v%以下、0.3w/v%~5w/v%、0.3w/v%~4.5w/v%、0.3w/v%~4w/v%、0.4w/v%~5w/v%、0.4w/v%~4.5w/v%、0.4w/v%~4w/v%、0.5w/v%~5w/v%、0.5w/v%~4.5w/v%、0.5w/v%~4w/v%、0.7w/v%~5w/v%、0.7w/v%~4.5w/v%、または0.7w/v%~4w/v%であってもよい。
【0026】
本発明者らは、ナノエマルジョン組成物にメントールを添加することで、ナノエマルジョン点眼組成物のシクロスポリン濃度を増加させながらも、ナノエマルジョン組成物の安定性を維持または改善し、ヒマシ油の含量をシクロスポリンの含量の8倍未満、例えば5倍未満に維持できることを見出した。一般的にヒマシ油の含量が増加すると、眼刺激感が増加する副作用が発生し得る。しかし、本発明に係るナノエマルジョン点眼組成物は、組成物中のヒマシ油の含量をシクロスポリンの含量の8倍未満、例えば5倍未満に制限したにもかかわらず、難溶性のシクロスポリンをよく溶解させながらも向上した保管安定性を示し、優れたバイオアベイラビリティを示し、眼刺激感と異物感および視野混濁に対する副作用が解消または緩和される。
【0027】
具体的に、本発明者は、ナノエマルジョン組成物にメントールを添加することで、過酷条件においても、シクロスポリンの含量の減少幅が顕著に少なく、粒子サイズが安定的に維持されることから、シクロスポリンナノエマルジョン組成物の保管安定性が改善されたことを確認した。特に、本発明者らは、ナノエマルジョン組成物にメントールが含まれない場合、安定性が低下することを確認して、メントールが安定性の維持に必須であることを確認し、ナノエマルジョン組成物に含まれたメントールの含量が過度に過量である場合、かえってシクロスポリンナノエマルジョン組成物の安定化効果が低下することを確認して、組成物中の最適なメントールの含量がシクロスポリンナノエマルジョン組成物の安定性の維持に必須であることを初めて確認した。また、メントールを0.1w/v%未満の含量、例えば0.01w/v%以下の含量で含む場合、優れた点眼感を示すことを確認した。
【0028】
本発明において、メントールの含量は0.001w/v%以上であってもよく、具体的には0.002w/v%以上であってもよい。本発明において、メントールの含量は0.1w/v%未満であってもよく、具体的には0.05w/v%以下、0.01w/v%以下であってもよく、より具体的には0.005w/v%以下であってもよい。
【0029】
例えば、本発明において、メントールの含量は0.001w/v%以上0.1w/v%未満、0.001w/v%~0.05w/v%、0.001w/v%~0.01w/v%、0.001w/v%~0.005w/v%、0.002w/v%以上0.1w/v%未満、0.002w/v%~0.05w/v%、0.002w/v%~0.01w/v%、0.002w/v%~0.005w/v%、0.0025w/v%であってもよい。
【0030】
本発明は、上記で説明した含量のシクロスポリン、ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群から選択された1種以上の疎水性乳化剤、メントールおよび水性溶剤を混合して製造した、安定したナノエマルジョン点眼組成物を提供する。
【0031】
本発明の一実施形態において、本発明は、0.03~0.5w/v%で含まれるシクロスポリン;0.2w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の8倍未満で含まれるヒマシ油;1w/v%~5w/v%で含まれるポリオキシエチレンヒマシ油;0.1w/v%~5w/v%で含まれるポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群から選択された1種以上の疎水性乳化剤;0.001w/v%以上、0.1w/v%
未満で含まれるメントール;および水性溶剤を含むナノエマルジョン点眼組成物を提供する。
【0032】
本発明の他の一実施形態において、本発明は、0.07~0.2w/v%で含まれるシクロスポリン;0.25w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の5倍未満で含まれるヒマシ油;1.4w/v%超過~5w/v%で含まれるポリオキシエチレンヒマシ油;0.2w/v%~5w/v%で含まれるポリエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコール;0.001~0.05w/v%で含まれるメントール;および水性溶剤を含むナノエマルジョン点眼組成物を提供する。
【0033】
本発明のまた他の一実施形態において、本発明は、0.07~0.2w/v%のシクロスポリン;0.25w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の5倍未満のヒマシ油;1.5w/v%~5w/v%のポリオキシエチレンヒマシ油;0.3w/v%~5w/v%のポリエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコール;0.001w/v%以上0.1w/v%未満のメントール;および水性溶剤を含むナノエマルジョン点眼組成物を提供する。
【0034】
本発明のまた他の一実施形態において、本発明は、0.08~0.1w/v%で含まれるシクロスポリン;0.25w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の5倍未満で含まれるヒマシ油;1.5w/v%~5w/v%で含まれるポリオキシエチレンヒマシ油;0.3w/v%~5w/v%で含まれるポリエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコール;0.001~0.01w/v%で含まれるメントール;および水性溶剤を含むナノエマルジョン点眼組成物を提供する。
【0035】
本発明のまた他の一実施形態において、本発明は、0.08~0.1w/v%で含まれるシクロスポリン;0.25w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の4.7倍以下で含まれるヒマシ油;1.6w/v%~5w/v%で含まれるポリオキシエチレンヒマシ油;0.5w/v%~5w/v%で含まれるポリエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコール;0.001~0.005w/v%で含まれるメントール;および水性溶剤を含むナノエマルジョン点眼組成物を提供する。
【0036】
本発明のまた他の一実施形態において、本発明は、0.08~0.1w/v%で含まれるシクロスポリン;0.25w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の4.7倍以下で含まれるヒマシ油;1.6w/v%~5w/v%で含まれるポリオキシエチレンヒマシ油;0.7w/v%~5w/v%で含まれるポリエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコール;0.001~0.005w/v%で含まれるメントール;および水性溶剤を含むナノエマルジョン点眼組成物を提供する。
【0037】
本発明の一実施形態において、本発明は、シクロスポリン;ヒマシ油;ポリオキシエチレンヒマシ油;ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群から選択された1種以上の疎水性乳化剤;メントール;および水性溶剤を混合して製造されたナノエマルジョン点眼組成物を提供する。
【0038】
本発明の他の一実施形態において、本発明は、0.03~0.5w/v%のシクロスポリン;0.2w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の8倍未満のヒマシ油;1w/v%~5w/v%のポリオキシエチレンヒマシ油;0.1w/v%~5w/v%のポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群から選択された1種以上の疎水性乳化剤;0.001w/v%以上、0.1w/v%未満のメントール;および水性溶剤を混合して製造されたナノエマルジョン点眼組成物を提供する。
【0039】
本発明のまた他の一実施形態において、本発明は、0.07~0.2w/v%のシクロスポリン;0.25w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の5倍未満のヒマシ油;1.4w/v%超過~5w/v%のポリオキシエチレンヒマシ油;0.2w/v%~5w/v%のポリエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコール;0.001~0.05w/v%のメントール;および水性溶剤を混合して製造されたナノエマルジョン点眼組成物を提供する。
【0040】
本発明のまた他の一実施形態において、本発明は、0.07~0.2w/v%のシクロスポリン;0.25w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の5倍未満のヒマシ油;1.5w/v%~5w/v%のポリオキシエチレンヒマシ油;0.3w/v%~5w/v%のポリエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコール;0.001w/v%以上0.1w/v%未満のメントール;および水性溶剤を混合して製造されたナノエマルジョン点眼組成物を提供する。
【0041】
本発明のまた他の一実施形態において、本発明は、0.08~0.1w/v%のシクロスポリン;0.25w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の5倍未満のヒマシ油;1.5w/v%~5w/v%のポリオキシエチレンヒマシ油;0.3w/v%~5w/v%のポリエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコール;0.001~0.01w/v%のメントール;および水性溶剤を混合して製造されたナノエマルジョン点眼組成物を提供する。
【0042】
本発明のまた他の一実施形態において、本発明は、0.08~0.1w/v%のシクロスポリン;0.25w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の4.7倍以下のヒマシ油;1.6w/v%~5w/v%のポリオキシエチレンヒマシ油;0.5w/v%~5w/v%のポリエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコール;0.001~0.005w/v%のメントール;および水性溶剤を混合して製造されたナノエマルジョン点眼組成物を提供する。
【0043】
本発明のまた他の一実施形態において、本発明は、0.08~0.1w/v%のシクロスポリン;0.25w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の4.7倍以下のヒマシ油;1.6w/v%~5w/v%のポリオキシエチレンヒマシ油;0.7w/v%~5w/v%のポリエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコール;0.001~0.005w/v%のメントール;および水性溶剤を混合して製造されたナノエマルジョン点眼組成物を提供する。
【0044】
また、本発明のナノエマルジョン点眼組成物は、安定化剤をさらに含んでもよい。安定化剤をさらに含む場合、本発明のナノエマルジョン点眼組成物の物理的、化学的安定性がさらに改善されることができる。安定化剤は、水性溶媒に水和して一定の結合構造を形成することで、ナノエマルジョンの油滴を格子化させる効果を有するため、ナノエマルジョンを物理的に安定化させる役割をすることができ、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)などを含むセルロース系化合物;ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)などを含むポリビニル系化合物;カルボマー(Carbomer)などを含むアクリル系化合物;ジェランガム(Gellan Gum)、キサンタンガム(Xanthan Gum)などを含むガム類化合物;ヒアルロン酸(HA)、ヒアルロン酸ナトリウム(Sodium Hyaluronate)、アルギン酸ナトリウム(Sodium Alginate)、デキストラン(Dextran)などを含む多糖類またはこれらの任意の組み合わせなどを含んでもよい。また、前記安定化剤は、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、ヒアルロン酸(HA)およびヒアルロン酸ナトリウム(Sodium Hyaluronate)からなる群から選択された1種以上であっ
てもよい。前記安定化剤の含量は0.001~10w/v%、0.01~5w/v%、好ましくは0.01~2w/v%の範囲であってもよい。
【0045】
また、本発明のナノエマルジョン点眼組成物は、pH調節剤、等張化剤、保存剤、緩衝剤などをさらに含んでもよい。前記pH調節剤としては、水酸化ナトリウム、塩酸などを用いてもよく、適切なpHを得るために、当業者に公知の方法により必要な量を添加して用いてもよい。前記等張化剤としては、グリセロール、マンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ホウ酸、ホウ砂のうち1種以上を用いてもよく、その含量は0.01~10w/v%の範囲であってもよく、0.1~3w/v%で用いられてもよい。
【0046】
本発明の保存剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セタルコニウム、ポリクオタニウム-1(例えば、Polyquad(登録商標))などを含む第4級アンモニウム化合物;PHMB、クロロヘキシジンなどを含むグアニジン系化合物;クロロブタノール;チメロサール、フェニル水銀アセテートおよびフェニル水銀ニトレートなどを含む水銀防腐剤;および安定化オキシクロロ錯体(例えば、Purite(登録商標))、パラオキシ安息香酸アルキル類(例えば、パラオキシ安息香酸メチル(PM))などを含む酸化防腐剤を含んでもよい。
【0047】
本発明の緩衝剤としては、点眼剤に用いられる緩衝剤を制限なく用いてもよく、例えば、酢酸および/またはその塩である緩衝剤、クエン酸および/またはその塩である緩衝剤、リン酸および/またはその塩である緩衝剤(例えば、リン酸水素ナトリウムおよび/またはその水和物、リン酸二水素ナトリウムおよび/またはその水和物)、ホウ酸および/またはその塩のようなホウ酸緩衝剤などを用いてもよいが、これに制限されるものではない。前記緩衝剤の使用量は、当業者により適宜選択されてもよく、0.001~10w/v%、具体的には0.01~5w/v%、より具体的には0.1~2w/v%で添加されてもよい。
【0048】
本発明の水性溶剤は、眼科用製剤の製造に適した成分をいい、例えば、滅菌精製水、生理食塩水、注射用水であってもよい。
【0049】
本発明の組成物は、平均粒子サイズが1nm以上~100nm以下のナノエマルジョン点眼組成物であってもよい。ナノエマルジョン点眼組成物の粒子サイズは、粒子サイズ測定装置であるゼータサイザー(例えば、Malvern Zetasizer、Zetasizer Nano ZS90など)を用いて測定してもよい。
【0050】
本発明のナノエマルジョン点眼組成物は、高濃度のシクロスポリンを含んで投与回数を減らした、例えば、1日に1回投与する組成物であってもよい。
【0051】
本発明は、シクロスポリン;ヒマシ油;ポリオキシエチレンヒマシ油を含む親水性乳化剤;ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群から選択された1種以上の疎水性乳化剤;メントール;および水性溶剤を撹拌混合して混合組成物を製造するステップを含む、ナノエマルジョン点眼組成物の製造方法を提供する。
【0052】
また、本発明は、0.03~0.5w/v%で含まれるシクロスポリン;0.2w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の8倍未満で含まれるヒマシ油;1w/v%~5w/v%で含まれるポリオキシエチレンヒマシ油を含む親水性乳化剤;0.1w/v%~5w/v%で含まれるポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群から選択された1種以上の疎水性乳化剤;0.001以上0.1w/v%未満で含まれるメントール;および水性溶剤を撹拌混合して混合組成物を製造するステップを含む、ナノ
エマルジョン点眼組成物の製造方法を提供する。
【0053】
また、本発明は、0.07~0.2w/v%で含まれるシクロスポリン;0.25w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の5倍未満で含まれるヒマシ油;1.4w/v%超過~5w/v%で含まれるポリオキシエチレンヒマシ油;0.2w/v%~5w/v%で含まれるポリエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコール;0.001~0.05w/v%で含まれるメントール;および水性溶剤を撹拌混合して混合組成物を製造するステップを含む、ナノエマルジョン点眼組成物の製造方法を提供する。
【0054】
また、本発明は、0.07~0.2w/v%のシクロスポリン;0.25w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の5倍未満のヒマシ油;1.5w/v%~5w/v%のポリオキシエチレンヒマシ油;0.3w/v%~5w/v%のポリエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコール;0.001w/v%以上0.1w/v%未満のメントール;および水性溶剤を撹拌混合して混合組成物を製造するステップを含む、ナノエマルジョン点眼組成物の製造方法を提供する。
【0055】
また、本発明は、0.08~0.1w/v%で含まれるシクロスポリン;0.25w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の4.7倍以下で含まれるヒマシ油;1.6w/v%~5w/v%で含まれるポリオキシエチレンヒマシ油;0.7w/v%~5w/v%で含まれるポリエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコール;0.001~0.005w/v%で含まれるメントール;および水性溶剤を撹拌混合して混合組成物を製造するステップを含む、ナノエマルジョン点眼組成物の製造方法を提供する。
【0056】
また、本発明は、0.03~0.5w/v%のシクロスポリン;0.2w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の8倍未満のヒマシ油;1w/v%~5w/v%の、ポリオキシエチレンヒマシ油を含む親水性乳化剤;0.1w/v%~5w/v%の、ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群から選択された1種以上の疎水性乳化剤;0.001以上0.1w/v%未満のメントール;および水性溶剤を撹拌混合して混合組成物を製造するステップを含む、ナノエマルジョン点眼組成物の製造方法を提供する。
【0057】
また、本発明は、0.07~0.2w/v%のシクロスポリン;0.25w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の5倍未満のヒマシ油;1.4w/v%超過~5w/v%のポリオキシエチレンヒマシ油;0.2w/v%~5w/v%のポリエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコール;0.001~0.05w/v%のメントール;および水性溶剤を撹拌混合して混合組成物を製造するステップを含む、ナノエマルジョン点眼組成物の製造方法を提供する。
【0058】
また、本発明は、0.08~0.1w/v%のシクロスポリン;0.25w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の4.7倍以下のヒマシ油;1.6w/v%~5w/v%のポリオキシエチレンヒマシ油;0.7w/v%~5w/v%のポリエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコール;0.001~0.005w/v%のメントール;および水性溶剤を撹拌混合して混合組成物を製造するステップを含む、ナノエマルジョン点眼組成物の製造方法を提供する。
【0059】
本発明のナノエマルジョン点眼組成物の製造方法により、平均粒子サイズが1nm~100nmのナノエマルジョン点眼組成物を製造することができる。
【0060】
前記組成物の製造において、安定化剤または等張化剤などの添加剤を水性溶剤にさらに溶解させ、製造された混合組成物とともに混合して十分に撹拌し、pHを調節するステッ
プをさらに含んでもよい。
【0061】
前記ナノエマルジョン点眼組成物の製造方法において、矛盾しない限り、シクロスポリン、ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、親水性乳化剤、疎水性乳化剤、メントール、水性溶剤、安定化剤または等張化剤などの添加剤は、上記の本発明のナノエマルジョン点眼組成物において説明したものと同様である。
【0062】
前記組成物の製造において、pHの調節は、上記の本発明のナノエマルジョン点眼組成物で用いられたものと同様のpH調節剤およびその含量で行われてもよい。
【0063】
本発明の製造方法によると、成分を適切に混合することで、平均粒子サイズが1nm~100nmのナノエマルジョンを形成することができ、粒子サイズが最大220nm以下のナノエマルジョン点眼組成物が製造されるので、既存の高圧式ホモジナイザーやマイクロフルイダイザーのような高速撹拌式または高速剪断式の機器を用いず、0.22μmのフィルタを用いた通常の除菌濾過方法を使用することができ、低い製造コストで220nm以下の粒子サイズを有するナノエマルジョン点眼組成物を製造することができる。
【0064】
本発明に係るナノエマルジョン点眼組成物は、前記成分を適切に混合して製造され、粒子の平均サイズが200nm以下、具体的には、平均粒子サイズが1nm以上100nm以下に製造され、粒子サイズ分布(粒度分布)が狭いため、除菌濾過方式により濾過が可能であり、安定性が増加するという長所がある。
【0065】
本明細書において、ナノエマルジョン点眼組成物について記載された説明は、矛盾しない限り、ナノエマルジョン点眼組成物の製造方法についても同様に適用されることができる。
【0066】
本発明の他の一実施形態においては、0.03w/v%~0.5w/v%で含まれるシクロスポリン;0.2w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の8倍未満で含まれるヒマシ油;1w/v%~5w/v%で含まれるポリオキシエチレンヒマシ油を含む親水性乳化剤;0.1w/v%~5w/v%で含まれるポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群から選択された1種以上の疎水性乳化剤;0.001w/v%以上0.1w/v%未満で含まれるメントール;および水性溶剤を含むナノエマルジョン点眼組成物を対象体に投与するステップを含む、眼球乾燥症の予防または治療方法を提供することができる。
【0067】
本発明の一実施形態は、眼球乾燥症の予防または治療用の薬剤を製造するための、0.03w/v%~0.5w/v%で含まれるシクロスポリン;0.2w/v%以上であり、前記シクロスポリンの含量の8倍未満で含まれるヒマシ油;1w/v%~5w/v%で含まれるポリオキシエチレンヒマシ油を含む親水性乳化剤;0.1w/v%~5w/v%で含まれるポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群から選択された1種以上の疎水性乳化剤;0.001w/v%以上0.1w/v%未満で含まれるメントール;および水性溶剤を含むナノエマルジョン点眼組成物の使用を提供することができる。
【発明の効果】
【0068】
本発明のナノエマルジョン組成物は、安定性(特に、保管安定性)が改善され、透明な性状を有し、点眼時にシクロスポリンの眼球滞留時間、残留量および組織透過性などのバイオアベイラビリティに優れ、眼刺激感、異物感および視野混濁などの副作用が改善されることで、眼球乾燥症の治療剤として効果的に利用することができる。また、本発明のナノエマルジョン組成物は、高濃度のシクロスポリンを含んで投与回数を減らした、例えば
1日に1回投与する、治療剤として効果的に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1】点眼組成物の眼刺激感の評価結果を示すグラフである。
図2】点眼組成物の効力の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0070】
以下、本発明の容易な理解のために好ましい実施例を提示する。但し、下記の実施例は本発明をさらに容易に理解するために提供されるものに過ぎず、実施例により本発明の内容が限定されるものではない。
【0071】
実験例1:ナノエマルジョン組成物の保管安定性の確認
下記表1の成分および含量で点眼組成物を製造した。
【0072】
【表1】
【0073】
具体的に、表1に記載された含量のヒマシ油、親水性乳化剤(ポリオキシル35ヒマシ油)および疎水性乳化剤(ポリエチレングリコール400およびプロピレングリコール)を混合して撹拌後にシクロスポリンAを添加し、撹拌器を用いて70℃の条件で完全に溶
解させた。その液を60℃程度の温度に下げた後、メントールを混合し溶解させてオイル相を調製した。それとともに、カルボキシルメチルセルロースナトリウムおよびキサンタンガムを、撹拌器を用いて70℃の条件で注射用水に完全に水和させた。水性溶液を常温に冷却させ、等張化剤および緩衝剤を入れて溶解させた後、水酸化ナトリウム溶液を用いてpHを調節し、高圧蒸気滅菌器を用いて滅菌して水性溶液を作った。水性溶液に0.2μmで濾過したオイル相を入れて均質に混合した。その混合液に注射用水を添加し、最終体積が100mLとなるようにして撹拌した。比較例1は、メントールを追加する過程を除いては、前記方法と同様に製造した。前記ナノエマルジョンは、自己乳化方法(SNEDDS:Self Nano-Emulsifying Drug Delivery system)を介して自発的に安定した単一相を形成した。その後、製造された組成物を過酷条件(70℃、55%RH)で4週間保管した後、シクロスポリンの含量を分析した。
【0074】
その結果、メントールを含有した本発明のナノエマルジョン組成物の実施例1~4においては、比較例1の組成物に比べて、調製直後のシクロスポリンの初期含量に対する4週間保管後の含量の減少幅が顕著に少ないことを確認した(表2)。前記結果は、メントールが含まれた本発明の組成物は、ナノエマルジョン点眼組成物の保管安定性に優れ、メントールを含まない比較組成物に比べて安定性が顕著に改善されたことを示す。
【0075】
【表2】
【0076】
実験例2:眼刺激性の評価
実験例1の方法により下記表3の成分および含量で点眼組成物を製造し、点眼感の評価を行った。8名の成人を対象とし、両眼に表3の点眼組成物を投与し、投与して約3O分後に感じる灼熱感を表4の基準に従って点数化して評価し、その結果を図1に示した。
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
その結果、ヒマシ油の含量が高い比較例2は、実施例1に比べて高い灼熱感を示しており、これは、統計的に非常に有意に示された(図1参照)。
【0080】
実験例3:ナノエマルジョン組成物の保管安定性の確認
実験例1の方法により、下記表5の成分および含量で点眼組成物を製造した。
【0081】
【表5】
【0082】
製造された組成物を高温条件(70℃、55%RH)で2週間保管した後、シクロスポリンの含量を測定した。また、製造された組成物を高温条件(70℃、55%RH)で4週間保管した後、ナノエマルジョンの粒子サイズを分析した。ナノエマルジョンの粒子サイズは、ナノエマルジョン200μLを注射用水2mlに分散させた後、粒子サイズ測定装置であるゼータサイザー(Malvern Instruments社製)で分析した。
【0083】
その結果、前記製造された組成物の粒子サイズおよびシクロスポリンの含量が安定的に維持されることを確認することができた(表6)。特に、全ての実施例において、2週保管後のシクロスポリンの含量が初期含量と対比して90%~110%の範囲内に属し、粒子サイズもまた100nm以下に維持されることを確認した。このことから、本発明の一実施形態に係る組成物の優れた保管安定性を確認した。
【0084】
【表6】
【0085】
実験例4:ナノエマルジョン組成物の保管安定性の確認
実験例1の方法により、下記表7の成分および含量で点眼組成物を製造した。
【0086】
【表7】
【0087】
製造された組成物を過酷条件(70℃、55%RH)で4週間保管した後、シクロスポリンの含量を分析した。
【0088】
その結果、前記製造された組成物のシクロスポリンの含量が安定的に維持されることを確認することができた(表8)。
【0089】
【表8】
【0090】
実験例5:ナノエマルジョン組成物のバイオアベイラビリティの確認
New Zealand White Rabbitに市販中のレスタシス(登録商標)点眼液と前記実施例2の点眼組成物を1回点眼し、角膜、房水における薬物動態試験を1日間行った。現在、レスタシス(登録商標)点眼液の用法は1日2回であり、それに合わせて予想されるレスタシス(登録商標)点眼液のAUCおよびCmaxを実施例2の点眼組成物の結果値と比較した。角膜および房水において、実施例2の点眼組成物のAUCは、レスタシス(登録商標)点眼液のAUC予想値と比較して各々1.29倍、1.56倍高く示され、Cmaxは、各々3.15倍、2.96倍高く示された。かかる結果から、本発明の実施例2の組成物は、1日に1回投与しても、レスタシス(登録商標)点眼液と比較した際、角膜および房水におけるバイオアベイラビリティが卓越した効果を示すことを確認した。
【0091】
【表9】
【0092】
実験例6:ナノエマルジョン組成物の効力確認
New Zealand White Rabbitに眼球乾燥症を誘発した後、前記実施例2の組成物およびレスタシス(登録商標)点眼液を投与した。未処置群(G1)、前記実施例2の組成物を1回投与した群(G2)、レスタシス(登録商標)点眼液を2回投与した群(G3)の角膜および結膜を染色し、治療効果を確認した。治療効果の評価は、角膜はフルオレセイン(Fluorescein)で、結膜はリサミングリーン(Lissamine green)で染色し、染色点数を評価した。その結果、G2群は、G1群と対比して有意に低い染色点数のレベルを示し、レスタシス(登録商標)点眼液を2回投与したG3群と類似した染色点数のレベルを示した(図2)。実施例2の組成物は、レスタシス(登録商標)点眼液と比較して、投与回数が少なく、用法に従って投与されたシクロスポリンの含量は低いが、眼球乾燥症の治療効果が同等なレベルを示す。このことから、実施例2の組成物は、レスタシス(登録商標)点眼液に比べて改善された効果を示すことを確認した。
図1
図2
【国際調査報告】