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特表2022-548261導入遺伝子発現の制御のための核酸配列
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-17
(54)【発明の名称】導入遺伝子発現の制御のための核酸配列
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20221110BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20221110BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20221110BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221110BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20221110BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221110BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221110BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221110BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221110BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221110BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20221110BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20221110BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/86 Z
C12N15/85 Z
C12N15/63 Z
C12N15/12
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K48/00
A61K38/17
A61P21/04
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022516355
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(85)【翻訳文提出日】2022-05-13
(86)【国際出願番号】 EP2020075574
(87)【国際公開番号】W WO2021048424
(87)【国際公開日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】19306099.3
(32)【優先日】2019-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】520296842
【氏名又は名称】アソシエーション・アンスティトゥート・ドゥ・マイオロジー
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ドゥニ・フュルラン
(72)【発明者】
【氏名】リュドヴィク・アランデル
(72)【発明者】
【氏名】マグダレーナ・マトロカ
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル・ネイ
(72)【発明者】
【氏名】アラン・シュロー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA91Y
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA44
4C084NA05
4C084ZA941
4C084ZA942
4C084ZB211
4C084ZB212
(57)【要約】
本発明は遺伝子治療の分野に関する。特に、本発明は、関心対象となる導入遺伝子の発現を制御することができる核酸配列を含む核酸分子、前記核酸分子を含むベクター又は細胞、及びその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 第1の核酸配列であって、それの一次転写産物がエクソンを含み、前記一次転写産物が、選択的スプライシングを制御するタンパク質によるスプライシングを受ける、第1の核酸配列;及び
- 関心対象となる産物をコードする関心対象となる導入遺伝子を含む第2の核酸配列
を含むキメラ核酸分子であって、
前記選択的スプライシングを制御するタンパク質が、前記キメラ核酸分子の成熟転写産物における前記エクソンの包含を増強し、及び
前記エクソンが、前記成熟転写産物へ包含された時、関心対象となる機能性産物の発現を阻害するように設計される、
キメラ核酸分子。
【請求項2】
第1の核酸配列が、
- 第2の核酸配列の上流に;又は
- 第2の核酸配列内に、特に2つのエクソンの間に;又は
- 第2の核酸配列の3'UTR領域に、特に終結コドンとポリA配列との間に
位置する、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
関心対象となる導入遺伝子が、選択的スプライシングを制御するタンパク質又はそのバリアントをコードする、請求項1又は2に記載の核酸分子。
【請求項4】
選択的スプライシングを制御するタンパク質が、MBNLタンパク質、特にMBNL1、MBNL2、若しくはMBNL3タンパク質、好ましくはMBNL1タンパク質、又はそのバリアントである、請求項1~3のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項5】
関心対象となる導入遺伝子が、YGCY結合性質を有し、且つ野生型MBNLタンパク質と比較して低下したスプライシング活性を有する改変型MBNLタンパク質をコードする、請求項1~4のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項6】
前記改変型MBNLタンパク質がCUGリピートに結合する、請求項5に記載の核酸分子。
【請求項7】
前記改変型MBNLタンパク質が、野生型MBNLタンパク質のC末端ドメインを欠損している、請求項5又は6に記載の核酸分子。
【請求項8】
前記改変型MBNLタンパク質が、MBNL1タンパク質に由来し、且つ前記MBNL1 mRNAのコードエクソン5~10に対応するアミノ酸を欠損し、前記改変型MBNLポリペプチドが、特に配列番号5に示された配列を有し、又はその機能性YGCY結合性バリアントである、請求項5~7のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項9】
前記改変型MBNLタンパク質が、野生型MBNLタンパク質と比較して、少なくとも50%、低下したスプライシング活性を有する、請求項5~8のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項10】
キメラ核酸分子の成熟転写産物におけるエクソンの包含が、前記成熟転写産物における中途終止コドンの発生をもたらす、請求項1~9のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項11】
前記エクソンが終止コドンを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項12】
第1の配列のエクソンが2つのイントロンに隣接されている、請求項1~11のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項13】
前記エクソンが、ATP2A1遺伝子のエクソン22、RYR1遺伝子のエクソン70、CAPZB遺伝子のエクソン8、INSR遺伝子のエクソン11、CAM2B遺伝子のエクソン13、ITGB遺伝子のエクソン17、BIN1遺伝子のエクソン11、TAU遺伝子のエクソン2若しくは3、又はDMD遺伝子のエクソン78、特にATP2A1遺伝子のエクソン22である、請求項1~12のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項14】
エクソン22がATP2A1遺伝子のイントロン21及びイントロン22に隣接されている、請求項13に記載の核酸分子。
【請求項15】
制御配列と作動可能に連結された、請求項1~14のいずれか一項に記載の核酸分子を含む発現カセット。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか一項に記載の核酸分子又は請求項15に記載の発現カセットを含むベクター。
【請求項17】
前記ベクターがプラスミド又はウイルスベクターである、請求項16に記載のベクター。
【請求項18】
請求項1~14のいずれか一項に記載の核酸分子、請求項15に記載の発現カセット、又は請求項16若しくは17に記載のベクターで形質転換された単離された細胞。
【請求項19】
医薬としての使用のための、請求項1~14のいずれか一項に記載の核酸分子、請求項15に記載の発現カセット、請求項16若しくは17に記載のベクター、又は請求項18に記載の単離された細胞。
【請求項20】
選択的スプライシングを制御するタンパク質の機能不全に結びつけられる疾患又は障害の処置における使用のための、請求項1~14のいずれか一項に記載の核酸分子、請求項15に記載の発現カセット、請求項16若しくは17に記載のベクター、又は請求項18に記載の単離された細胞。
【請求項21】
MBNLの隔離に結びつけられる疾患又は障害の処置、特に筋強直性ジストロフィーの処置、特にDM1又はDM2の処置における使用のための、請求項1~14のいずれか一項に記載の核酸分子、請求項15に記載の発現カセット、請求項16若しくは17に記載のベクター、又は請求項18に記載の単離された細胞。
【請求項22】
選択的スプライシングを制御するタンパク質の内因性レベルに依存して、関心対象となる導入遺伝子の発現を調節するための方法における使用のための、請求項1~14のいずれか一項に記載の核酸分子、請求項15に記載の発現カセット、請求項16若しくは17に記載のベクター、又は請求項18に記載の単離された細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子治療の分野に関する。特に、本発明は、関心対象となる導入遺伝子の発現を制御することができる核酸配列を含む核酸分子、前記核酸分子を含むベクター又は細胞、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療は、治療用導入遺伝子の細胞又は宿主生物体への移入に基づいたストラテジーである。最初、遺伝性疾患の関連において考えられた、それの概念は、癌、感染性疾患、又は心血管疾患等の多数の他の病態の処置に急速に拡大された。遺伝子治療により処置される病態の例には、筋強直性ジストロフィー等の選択的スプライシングを制御するタンパク質の機能の変化に結びつけられる疾患が挙げられる。筋強直性ジストロフィー(DM)は、MBNLタンパク質の機能喪失が原因であり、それが、ミススプライシング事象を生じ、DMの症状をもたらす。成人において最もよく見られる神経筋障害の一つである、筋強直性ジストロフィー1型(DM1)は、筋強直性ジストロフィータンパク質キナーゼ(dystrophia myotonica protein kinase)(DMPK)遺伝子の3'非翻訳領域(UTR)に位置する不安定なCTG伸長により引き起こされる遺伝性常染色体顕性疾患である(Brookら、1992)。伸長CTGリピートは、「核内フォーカス(nuclear foci)」における凝集物として蓄積するCUGリピートへ転写される。選択的スプライシングの制御に関与するMBNLタンパク質は、伸長CUGリピートと高親和性で結合し、DM1筋肉細胞においてCUGexp-RNAの核内フォーカスと共存する(Millerら、2000;Fardaeiら、2001)。これらの核内フォーカスにおけるMBNLの隔離は、それの機能喪失、及びその結果として、MBNLによりターゲットされるいくつかのプレmRNAの選択的スプライシング誤制御をもたらす。
【0003】
DM1の関連において、伸長リピート、DMPK転写産物、又はDMPK遺伝子のいずれかをターゲットすることを目標とする治療用導入遺伝子を発現するための、及び/又はMBNLタンパク質の機能活性を回復させるための遺伝子治療ベクターが提案された。例えば、DM1マウスの骨格筋における機能的且つ完全長のMBNL1(アイソフォーム41)の過剰発現が、スプライシング欠陥を補正し、DM1疾患の顕著な特徴である筋強直を消失させることが示された(Kanadiaら、2006)。MBNL1をフォーカスから遊離させるためにCUGexp-RNAに干渉するアンチセンスオリゴヌクレオチドアプローチも又、DM1マウスモデルにおいてスプライシング誤制御及び筋強直を逆戻りさせるために提案されている。更に、WO2015/158365において、CUGexpフォーカス内の内因性MBNLタンパク質とそこで、競合し、それを立ち退かせ、及びそれに置き換わって、それらの隔離のマイナスの結果を回避するために、スプライシング活性が低下した又は更にそれがないMBNLタンパク質の非機能性バリアントを発現させることが提案された。
【0004】
しかしながら、これらの遺伝子治療アプローチを治療用導入遺伝子の発現を調節することにより向上させることは望ましくあり得る。実際、治療用導入遺伝子の過剰発現は、特に治療用導入遺伝子の発現が必要とされない健康な組織又は細胞において、望まれない効果を生じ得る。したがって、導入遺伝子発現の緊密な調節を提供することができる新しい系は、筋強直性ジストロフィーの治療等の遺伝子治療を向上させるために有利であろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2015/158365
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nellesら、Cell、2016
【非特許文献2】Batraら、Cell、2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、宿主細胞又は組織内での選択的スプライシングを制御するタンパク質の活性に依存して、細胞又は宿主生物体への関心対象となる導入遺伝子の発現を制御する系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の態様は、
- 第1の核酸配列であって、それの一次転写産物がエクソンを含み、前記一次転写産物が、選択的スプライシングを制御するタンパク質によるスプライシングを受ける、第1の核酸配列;及び
- 関心対象となる産物をコードする関心対象となる導入遺伝子を含む第2の核酸配列
を含むキメラ核酸分子であって、
前記選択的スプライシングを制御するタンパク質が、前記キメラ核酸分子の成熟転写産物における前記エクソンの包含を増強し、及び
前記エクソンが、前記成熟転写産物へ包含された時、関心対象となる機能性産物の発現を阻害するように設計される、
キメラ核酸分子に関する。
【0009】
特定の実施形態において、第1の核酸配列は、第2の核酸配列の上流に位置する。特定の実施形態において、キメラ核酸分子の成熟転写産物におけるエクソンの包含は、前記成熟転写産物における中途終止コドンの発生をもたらす。特定の実施形態において、第1の配列のエクソンは、終止コドンを含む。特定の実施形態において、第1の配列のエクソンは、2つのイントロンに隣接されている。特に、前記エクソンは、ATP2A1遺伝子のエクソン22、RYR1遺伝子のエクソン70、CAPZB遺伝子のエクソン8、INSR遺伝子のエクソン11、CAM2B遺伝子のエクソン13、ITGB遺伝子のエクソン17、BIN1遺伝子のエクソン11、TAU遺伝子のエクソン2若しくは3、又はDMD遺伝子のエクソン78、特に、ATP2A1遺伝子のエクソン22であり得る。特定の実施形態において、前記ATP2A1遺伝子のエクソン22は、ATP2A1遺伝子のイントロン21及びイントロン22に隣接されている。
【0010】
特定の実施形態において、上記で列挙されているような関心対象となる導入遺伝子は、選択的スプライシングを制御するタンパク質又はそのバリアントをコードする。特に、選択的スプライシングを制御するタンパク質は、MBNLタンパク質、特にMBNL1、MBNL2、若しくはMBNL3タンパク質、好ましくはMBNL1タンパク質、又はそのバリアントであり得る。特定の実施形態において、関心対象となる導入遺伝子は、YGCY結合性質を有し、且つ野生型MBNLタンパク質と比較して低下したスプライシング活性を有する改変型MBNLタンパク質をコードする。より特に、前記改変型MBNLタンパク質は、CUGリピートに結合し得る。特定の実施形態において、前記改変型MBNLタンパク質は、野生型MBNLタンパク質のC末端ドメインを欠損している。より特に、改変型MBNLタンパク質は、MBNL1タンパク質に由来し得、且つMBNL1 mRNAのエクソン5~10に対応するアミノ酸を欠損し得、前記改変型MBNLポリペプチドが、特に配列番号5に示された配列を有し、又はその機能性YGCY結合性バリアントである。更なる特定の実施形態において、改変型MBNLタンパク質は、野生型MBNLタンパク質と比較して、少なくとも50%、低下したスプライシング活性を有する。
【0011】
本明細書に開示された別の態様は、制御配列と作動可能に連結された本発明の核酸分子を含む発現カセットである。
【0012】
本発明は又、本発明の核酸分子又は発現カセットを含むベクターに関する。特定の実施形態において、前記ベクターはプラスミド又はウイルスベクターである。
【0013】
本発明の核酸分子、発現カセット、又はベクターで形質転換された単離された細胞も又、本明細書に記載されている。
【0014】
本明細書に開示された別の態様は、本発明の核酸分子、発現カセット、ベクター、又は単離された細胞の医薬としての使用である。特定の実施形態において、本発明の核酸分子、発現カセット、ベクター、又は単離された細胞は、関心対象となる導入遺伝子の発現から利益を得ることができる疾患又は障害の処置に用いられる。特定の実施形態において、その疾患又は障害は、MBNLの隔離に結びつけられる疾患又は障害、特に筋強直性ジストロフィー、特にDM1又はDM2等の、選択的スプライシングを制御するタンパク質の機能不全に結びつけられる。
【0015】
選択的スプライシングを制御するタンパク質の活性に依存して、関心対象となる機能性産物の発現を調節するための方法における、本発明の核酸分子、発現カセット、ベクター、又は単離された細胞の使用も又本明細書に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】スプライスセンサー-GFP制御を示す図である。A) GFP配列と融合したATP2A1スプライスセンサー配列の概略図。2つの終止コドンがエクソン22内に位置する。B) 誘導性Tet-onシステムを用いる、安定的にトランスフェクトされたHEK293T細胞における外因性MBNL1発現の概略図。テトラサイクリン類似体、ドキシサイクリン(dox)の付加が、Tet-リプレッサーと結合することにより、転写阻害を抑制解除して、MBNL1の発現を可能にする。dox処理された細胞のイムノブロット表示は、外因性MBNL1タンパク質発現を示している。C) doxで処理された、又は処理されていない、スプライスセンサー-GFPをトランスフェクトされたHEK293T細胞から抽出されたスプライスセンサー エクソン22 mRNAへ実施されたRT-PCR。スプライスセンサー エクソン22は、MBNL1のレベルが低い(-dox条件)時、排除されている。対照的に、スプライスセンサー エクソン22は、MBNL1のレベルが高い(+dox条件)時、包含されている。D) ウェスタンブロットは、GFPタンパク質発現が、スプライスセンサーATP2A1 エクソン22の選択的スプライシングの調節下であることを示した。実際、低レベルのMBNL1タンパク質は、スプライスセンサー エクソン22スキッピング及びGFPタンパク質発現をもたらすが、高レベルのMBNL1は、スプライスセンサー エクソン22包含及び終止コドンの存在による翻訳阻害を引き起こし、その結果として、GFP発現の欠如を生じる。
図2】スプライスセンサー-V5-MBNLΔ制御を示す図である。A) スプライスセンサー-MBNLΔキメラ構築物の概略図。V5タグを、スプライスセンサーATP2A1 エクソン22とMBNLΔ配列の間に挿入した。B) 低レベル(-DOX)及び高レベル(+DOX)のMBNL1発現を有するスプライスセンサー-V5-MBNLΔをトランスフェクトされたHEK293T細胞から抽出されたスプライスセンサー エクソン22に実施されたRT-PCR。スプライスセンサー エクソン22は、MBNL1のレベルが高い(+dox条件)時、包含されている。C) ウェスタンブロット分析は、低レベルのMBNL1タンパク質(-dox)を発現するスプライスセンサー-V5-MBNLΔをトランスフェクトされたHEK293T細胞におけるV5-MBNLΔタンパク質発現を示した。対照的に、高レベルのMBNL1(+dox)を発現するスプライスセンサー-V5-MBNLΔをトランスフェクトされたHEK293T細胞においてV5-MBNLΔタンパク質の発現は検出されなかった。
図3】スプライスセンサーは、野生型マウスにおいてMBNLΔ導入遺伝子発現を調節することを示す図である。A) 野生型(WT)マウスに、V5-MBNLΔ構築物又はスプライスセンサーATP2A1 エクソン22-V5-MBNLΔ構築物のいずれかを発現するAAV9ベクターを筋肉内に注射した。各条件について、2つの用量のAAV9ベクターを用い、5週間後、マウスを屠殺した。B) RT-PCRは、両方の条件において両方の構築物から、V5-MBNLΔ mRNAが発現したことを示した。C) ウェスタンブロット分析は、V5-MBNLΔタンパク質が、AAV9-V5-MBNLΔで処理された筋肉においてのみ検出されることを示した。どちらの条件においても、WTマウス由来のAAV9-スプライスセンサー-V5-MBNLΔで処理された筋肉において、発現は検出されなかった。
図4-1】スプライスセンサーは、DM1マウスにおいてMBNLΔ導入遺伝子発現を可能にすることを示す図である。A) DM1(HSA-LR)マウスに、V5-MBNLΔ構築物又はスプライスセンサーATP2A1 エクソン22-V5-MBNLΔ構築物のいずれかを発現するAAV9ベクターを筋肉内に注射した。5週間後、マウスを屠殺した。B) RT-PCRは、V5-MBNLΔ mRNAが両方の構築物から発現したことを示した。WTマウスと比較して、DM1マウスの骨格筋に見出されるスプライシング誤制御が、V5-MBNLΔ構築物又はスプライスセンサー-V5-MBNLΔ構築物のいずれによっても類似した程度で補正された。C) ウェスタンブロット分析は、AAV9-V5-MBNLΔ又はAAV9-スプライスセンサー-V5-MBNLΔのいずれを注射したDM1筋肉においても、V5-MBNLΔタンパク質が検出されることを示した。内因性MBNL1発現を、内部対照として用いた。
図4-2】図4-1の続きである。
図4-3】図4-2の続きである。
図5】スプライスセンサー-dCas9制御を示す図である。A) dCas9-eGFP配列と融合したATP2A1スプライスセンサー配列の概略図。B) 低レベル(-dox)か又は高レベル(+dox)のいずれかのMBNL1を発現する、スプライスセンサー-dCas9-eGFPをトランスフェクトされたHEK293T細胞から抽出されたATP2A1スプライスセンサー エクソン22 mRNAに実施されたRT-PCR。エクソン22内に2つの終止コドンを含有するスプライスセンサーは、MBNL1のレベルが高い(+dox)時のみ、包含される。C) ウェスタンブロット分析は、低レベルのMBNL1タンパク質を発現する(-dox)、スプライスセンサー-dCas9-eGFPをトランスフェクトされたHEK293T細胞におけるdCas9-eGFPタンパク質発現を示した。dCas9-eGFPタンパク質発現は、スプライスセンサー-dCas9-eGFPをトランスフェクトされたHEK293T細胞において、MBNL1のレベルが高い(+dox)時、65%低下した。
図6】埋め込み型スプライスセンサー-V5-MBNLΔ制御を示す図である。A) MBNLΔ配列へ埋め込まれたスプライスセンサーATP2A1配列の概略図。埋め込み型スプライスセンサーを、MBNLΔ エクソン2とエクソン3の間か又はMBNLΔ エクソン3とエクソン4の間かのいずれかに挿入した。B) 低レベル(-dox)か又は高レベル(+dox)のいずれかのMBNL1を発現する、埋め込み型スプライスセンサー-V5-MBNLΔをトランスフェクトされたHEK293T細胞から抽出された埋め込み型スプライスセンサー mRNAに実施されたRT-PCR。MBNL1のレベルが高い(+dox)時のみ、エクソン22内に2つの終止コドンを含有する埋め込み型スプライスセンサーが包含されている。C) ウェスタンブロット分析は、低レベルのMBNL1タンパク質を発現する(-dox)、埋め込み型スプライスセンサー-V5-MBNLΔをトランスフェクトされたHEK293T細胞におけるV5-MBNLΔタンパク質発現を示した。トランスフェクトされたHEK293T細胞において、埋め込み型スプライスセンサーがエクソン2とエクソン3の間に埋め込まれている場合、MBNL1のレベルが高い(+dox)時、V5-MBNLΔタンパク質発現は、60%、低下した。トランスフェクトされたHEK293T細胞において、埋め込み型スプライスセンサーがエクソン3とエクソン4の間に埋め込まれている場合、MBNL1のレベルが高い(+dox)時、V5-MBNLΔタンパク質発現は、70%、低下した。
図7】3'-合成スプライスセンサー-V5-MBNLΔ制御を示す図である。A) V5-MBNLΔ配列の終止コドンとポリAとの間に挿入された3'-合成スプライスセンサーATP2A1配列の概略図。3'-合成スプライスセンサーATP2A1配列のエクソン22(42bp)は、12bpの追加のMCS配列を含有する。B) 低レベル(-dox)か又は高レベル(+dox)のいずれかのMBNL1を発現する、3'-合成スプライスセンサー-V5-MBNLΔをトランスフェクトされたHEK293T細胞から抽出された3'-合成スプライスセンサー エクソン22 mRNAに実施されたRT-PCR。MBNL1のレベルが高い(+dox)時のみ、合成エクソン22を含有する3'-合成スプライスセンサーが包含されている。C) ウェスタンブロット分析は、低レベルのMBNL1タンパク質を発現する(-dox)、3'-合成スプライスセンサー-V5-MBNLΔをトランスフェクトされたHEK293T細胞におけるV5-MBNLΔタンパク質発現を示した。3'-合成スプライスセンサー-V5-MBNLΔをトランスフェクトされたHEK293T細胞において、MBNL1のレベルが高い(+dox)時、V5-MBNLΔタンパク質発現は、50%、低下した。
図8】3'-マウススプライスセンサー-V5-MBNLΔ制御を示す図である。A) V5-MBNLΔ配列の終止コドンとポリAとの間に挿入された3'-スプライスセンサーATP2A1配列の概略図。スプライスセンサーは、マウスAtp2a1配列に由来する。B) 低レベル(-dox)か又は高レベル(+dox)のいずれかのMBNL1を発現する、3'-スプライスセンサー-V5-MBNLΔをトランスフェクトされたHEK293T細胞から抽出された3'-スプライスセンサーATP2A1 エクソン22 mRNAに実施されたRT-PCR。MBNL1のレベルが高い(+dox)時のみ、3'-スプライスセンサー エクソン22が包含されている。C) ウェスタンブロット分析は、低レベルのMBNL1タンパク質を発現する(-dox)、3'-スプライスセンサー-V5-MBNLΔをトランスフェクトされたHEK293T細胞におけるV5-MBNLΔタンパク質発現を示した。3'-スプライスセンサー-V5-MBNLΔをトランスフェクトされたHEK293T細胞において、MBNL1のレベルが高い(+dox)時、V5-MBNLΔタンパク質発現は、40%、低下した。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、宿主細胞又は組織内での選択的スプライシングを制御するタンパク質の活性に依存して、細胞又は宿主生物体への関心対象となる産物の発現を制御することができる系に関する。「選択的スプライシングを制御するタンパク質の活性」とは、宿主細胞又は組織内に存在するそのタンパク質の細胞活性又は機能性を意味する。「細胞活性」又は「細胞機能性」とは、選択的スプライシングを制御するタンパク質の、細胞においてその機能を発揮する能力を意味する。正常な活性は、生理学的な、非病理学的な状態での、選択的スプライシングを制御するタンパク質の活性に対応する。細胞又は組織内での選択的スプライシングを制御するタンパク質の活性は、例えば、前記タンパク質の破壊、前記タンパク質の隔離、前記タンパク質をコードする配列の変異、前記タンパク質の機能を阻害する別の分子との相互作用、又は前記タンパク質の細胞機能の1つ若しくは複数にマイナスに影響し得る任意の他の事象の結果として、低下し得る。例えば、MBNLタンパク質の正常な活性は、健康な対象の細胞におけるMBNLの細胞活性に対応する。MBNLタンパク質の低下した又は変化した又は欠陥のある活性は、筋強直性ジストロフィーを有する対象の細胞内のMBNLの細胞活性に対応し得る。
【0018】
選択的スプライシングを制御するタンパク質の細胞活性は、前記タンパク質の1つ又は複数の標的のスプライシングプロファイルを分析することにより決定され得る。例えば、そのタンパク質の1つ又は複数の標的におけるミススプライシング事象は、選択的スプライシングを制御するタンパク質の細胞活性が低下又は変化していることを示し得る。当業者は、例えば健康な対象の細胞由来の、正常にスプライスされた標的との比較によって、ミススプライシング事象を同定することができる。
【0019】
例えば、MBNLタンパク質の細胞活性は、ATP2A1、RYR1、CAPZB、INSR、MBNL1、MBNL2、CLCN1、CAM2B、ITGB、BIN1、TAU、又はDMD遺伝子からなる非限定的群から選択される1つ又は複数の標的のスプライシングプロファイルを分析することにより決定され得る。
【0020】
或いは、当業者は、選択的スプライシングを制御するタンパク質により制御されることが知られているDNA又はプレmRNA配列を細胞にトランスフェクトし、その後、対応する成熟転写産物のスプライシングプロファイルを分析することにより、選択的スプライシングを制御するタンパク質の活性を、インビトロで決定することができる。
【0021】
したがって、本発明は、選択的スプライシングを制御するタンパク質の機能の変化に結びつけられる疾患の関連において遺伝子治療を向上させる。そのような疾患の例は、筋強直性ジストロフィー(DM)であり、MBNLタンパク質の機能喪失が、結果として、ミススプライシング事象を生じ、DMの症状をもたらす。DM疾患の関連において、遺伝子治療ベクターは、MBNLタンパク質の機能活性を回復させることを目的とする治療用導入遺伝子を発現させるために用いられる。
【0022】
本発明は、MBNL等の選択的スプライシングを制御するタンパク質の活性のある特定のレベルに到達している時、導入遺伝子の発現を阻害することができる系を提供する。これは、特に選択的スプライシングを制御するタンパク質の機能が変化していない健康な又は非罹患の組織若しくは細胞内で導入遺伝子の発現を防止するために、特に興味深い。
【0023】
核酸分子
本発明の第1の態様は、
(i)第1の核酸配列であって、それの一次転写産物がエクソンを含み、前記一次転写産物が、選択的スプライシングを制御するタンパク質によるスプライシングを受ける、第1の核酸配列;及び
(ii)関心対象となる産物をコードする関心対象となる導入遺伝子を含む第2の核酸配列
を含むキメラ核酸分子であって、
前記選択的スプライシングを制御するタンパク質が、前記キメラ核酸分子の成熟転写産物における前記エクソンの包含を増強し、及び
前記エクソンが、前記成熟転写産物へ包含された時、関心対象となる機能性産物の発現を阻害するように設計される、
キメラ核酸分子に関する。
【0024】
キメラ核酸分子の第1の核酸配列は、本明細書で、「スプライスセンサー」と呼ばれる。上記で言及されているように、「スプライスセンサー」配列は、それの一次転写産物がエクソンを含む、核酸である。選択的スプライシングを制御するタンパク質によりトリガーされる、成熟転写産物における前記エクソンの包含は、関心対象となる導入遺伝子の発現の阻害をもたらす。
【0025】
したがって、本発明のスプライスセンサーは、前記選択的スプライシングを制御するタンパク質の活性の内因性レベルに依存して、関心対象となる導入遺伝子の発現を制御することができる:
- 前記選択的スプライシングを制御するタンパク質の細胞活性が正常である時、すなわち、前記タンパク質の活性が変化していない時:スプライスセンサーのエクソンが、キメラ分子の成熟転写産物に包含され、それにより関心対象となる導入遺伝子の発現を阻害する。
- 前記選択的スプライシングを制御するタンパク質の細胞活性が、欠陥があり又は低下している時:スプライスセンサーのエクソンが、キメラ分子の成熟転写産物に包含されず、それにより関心対象となる導入遺伝子の発現を可能にする。
【0026】
「キメラ」核酸分子とは、いかなる天然に存在する分子とも同一ではない核酸分子を意味する。第1の核酸配列及び第2の核酸配列は、2つの異なる遺伝子に由来し得、又は同じ遺伝子に由来し得る。
【0027】
選択的スプライシングを制御するタンパク質
「選択的スプライシングを制御するタンパク質」とは、選択的スプライシングを制御する任意のRNA結合タンパク質、すなわち、プレmRNAにおける配列特異的エレメントと結合して選択的エクソンの包含を増強する任意のタンパク質を意味する。
【0028】
特定の実施形態において、選択的スプライシングを制御するタンパク質は、その機能的欠陥が疾患と関連している任意のタンパク質である。
【0029】
特定の実施形態において、選択的スプライシングを制御するタンパク質は、Muscleblind-like (MBNL)タンパク質、トランス活性応答DNA結合タンパク質43(transactive response DNA-binding protein 43)(TDP-43)、肉腫において融合したタンパク質(protein fused-in-sarcoma)(FUS)、NOVAタンパク質、及びRNA結合モチーフ20(RBM20)からなる群から選択される。
【0030】
特定の実施形態において、選択的スプライシングを制御するタンパク質は、Muscleblind-like (MBNL)RNA結合タンパク質ファミリーに属する。特定の実施形態において、選択的スプライシングを制御するタンパク質は、MBNL1、MBNL2、又はMBNL3である。好ましい実施形態において、選択的スプライシングを制御するタンパク質はMBNL1である。
【0031】
スプライスセンサー
本明細書で用いられる場合、用語「スプライスセンサー」は、上記で定義されているように、キメラ核酸分子の第1の核酸配列を指す。スプライスセンサーの配列は、「イントロン-エクソン-イントロン」配列を含み、又はそれからなる任意の天然又は合成配列であり得、関心対象となる導入遺伝子の発現及び/又は活性を阻害することができる前記エクソンは、2つのイントロン領域に隣接されている。
【0032】
「イントロン」とは、一次転写産物から除去され、且つ対応する成熟メッセンジャーRNA分子中に存在しない、遺伝子又はそれの一次転写産物内の非コード配列を意味する。
【0033】
「エクソン」とは、イントロンがRNAスプライシングによって除去された後の、その遺伝子により産生された最終成熟RNAの一部をコードする遺伝子のコード配列を意味する。エクソンという用語は、遺伝子内のDNA配列と、RNA転写産物における対応する配列の両方を指す。RNAスプライシングにおいて、イントロンが除去され、成熟メッセンジャーRNAを生成する一部として、エクソンが、お互いに共有結合性に連結される。
【0034】
スプライスセンサーのエクソンは、それがキメラ分子の成熟転写産物に包含されている時、関心対象となる機能性産物の発現を阻害することができる任意のエクソンであり得る。
【0035】
「関心対象となる機能性産物の発現を阻害すること」、及びそれの減退とは、関心対象となる機能性産物の発現の阻止を意味し、又は関心対象となる非機能性産物の発現を意味する。
【0036】
本発明の関連において、「関心対象となる産物の発現の阻止」は、その産物の発現の全部の又は部分的な阻害を意味する。
【0037】
非機能性産物の発現は、いくつかの代替手段により行われ得る。例えば、関心対象となる非機能性タンパク質は、それの機能に必要とされるそれの性質の1つを担う1つ又は複数の部分がない、関心対象となるタンパク質の切り詰め型に対応し得る。関心対象となる非機能性タンパク質の別の例には、スプライスセンサーのエクソンによりコードされる不安定化部分の包含のために、不安定化された三次構造を有するタンパク質が挙げられる。
【0038】
特定の実施形態において、スプライスセンサーのエクソンは、それがキメラ分子の成熟転写産物に包含されている時、mRNA導入遺伝子のタンパク質翻訳を阻害することができる。特定の実施形態において、スプライスセンサーのエクソンは、1つ又は複数の「終止コドン」を含む。「終止コドン」又は「終結コドン」とは、タンパク質への翻訳の終結を合図するメッセンジャーRNA内のヌクレオチドトリプレットを意味する。この実施形態において、キメラ核酸分子の成熟転写産物におけるエクソンの包含は、前記成熟転写産物における中途終止コドンの発生をもたらす。好ましくは、スプライスセンサーのエクソンは、1つ、2つ、3つ、4つ、又は4つより多い終止コドン等の1つ又は複数の終止コドンを含む。
【0039】
別の特定の実施形態において、スプライスセンサーのエクソンは、キメラ核酸分子の成熟転写産物においてフレームシフトを引き起こし、それにより、関心対象となる非機能性産物の産生をもたらすことができる。特定の実施形態において、成熟転写産物におけるスプライスセンサーのエクソンの包含は、前記成熟転写産物内に中途終止コドンをもたらす。
【0040】
別の特定の実施形態において、スプライスセンサーのエクソンは、ポリAテールを含む。この実施形態において、キメラ核酸分子の成熟転写産物におけるエクソンの包含は、前記成熟転写産物における中途ポリAテールの発生をもたらし、それにより、切り詰め型成熟転写産物を生じる。
【0041】
成熟転写産物におけるスプライスセンサーのエクソンの包含は、任意の機構による翻訳過程を変化させ得る。例えば、スプライスセンサーのエクソンが、関心対象となる導入遺伝子の終止コドンの後に含まれている時、それは、エクソン結合複合体(EJC)依存性経路を通して、ナンセンス変異依存分解機構(NMD)又はNMD様機構を誘導し得る。
【0042】
別の特定の実施形態において、スプライスセンサーのエクソンは、マイクロRNAの相補的配列を含み得る。この実施形態により、導入遺伝子発現は、マイクロRNAの前記相補的配列との塩基対形成により阻害され、それにより、成熟転写産物の分解を誘導し、又は成熟転写産物が翻訳されるのを妨げ得る。
【0043】
本発明の関連において、スプライスセンサーの「イントロン-エクソン-イントロン」配列は、選択的スプライシングを制御するタンパク質によるスプライスセンサー配列に含有されるイントロンのスプライシングに必要とされる、2つのエクソン配列に隣接されている。前記エクソン配列は、それが、選択的スプライシングを制御するタンパク質によるスプライスセンサー配列のmRNAスプライシングに必要とされるスプライス供与体及びスプライス受容体を提供する限り、完全なエクソンに対応しても、又はエクソンの部分的配列に対応してもよい。
【0044】
第1の特定の実施形態において、「イントロン-エクソン-イントロン」配列を含むスプライスセンサーは、関心対象となる導入遺伝子をコードする配列の上流に導入される。「上流」とは、導入遺伝子をコードする配列の5'側にあることを意味する。特定の実施形態において、スプライスセンサーは、関心対象となる導入遺伝子をコードする配列の上流に導入されるが、開始コドンの後に導入される。この実施形態において、エクソン領域は、スプライスセンサーの5'末端に、及び任意で、スプライスセンサーの3'末端に、付加される。好ましくは、エクソン領域は、スプライスセンサーの5'末端及びスプライスセンサーの3'末端に付加される。
【0045】
特定の実施形態において、スプライスセンサーは、関心対象となる導入遺伝子をコードする配列の上流に導入され、前記関心対象となる導入遺伝子が、MBNLタンパク質又はそのバリアント、特にMBNL1、MBNL2、若しくはMBNL3、特にMBNL1、又はそのバリアントをコードする。
【0046】
第2の特定の実施形態において、「イントロン-エクソン-イントロン」配列を含むスプライスセンサーは、関心対象となる導入遺伝子をコードする配列内に導入される。特定の実施形態において、スプライスセンサーは、関心対象となる導入遺伝子の2つのエクソンの間に導入される。
【0047】
別の特定の実施形態において、スプライスセンサーは、関心対象となる導入遺伝子の3'UTR領域に導入される。3'UTR領域とは、翻訳終結コドンのすぐ後に続くmRNAのセクションを意味する。特定の実施形態において、スプライスセンサーは、関心対象となる導入遺伝子の終止コドンの後に、特に関心対象となる導入遺伝子の終止コドンとポリA配列との間に導入される。スプライスセンサーは、それが導入遺伝子の発現を阻害することができる限り、導入遺伝子をコードする配列内のどこにでも導入され得る。
【0048】
特定の実施形態において、スプライスセンサーは、関心対象となる導入遺伝子をコードする配列内に導入され、前記関心対象となる導入遺伝子が特にMBNLタンパク質又はそのバリアント、特にMBNL1、MBNL2、又はMBNL3、特にMBNL1をコードする。特定の実施形態において、スプライスセンサーは、MBNL1、MBNL2、若しくはMBNL3 cDNA又はそのバリアント、特にMBNL1 cDNA又はそのバリアントのエクソン1とエクソン2の間、エクソン2とエクソン3の間、又はエクソン3とエクソン4の間に導入される。
【0049】
特定の実施形態において、スプライスセンサーは、MBNL1、MBNL2、又はMBNL3、特にMBNL1等のMBNLタンパク質の内因性レベルに依存して、関心対象となる導入遺伝子のタンパク質発現を制御することができる。この実施形態において、MBNLタンパク質は、スプライスセンサーのエクソンの成熟転写産物への包含を担う。その結果として、MBNLタンパク質の存在下で、スプライスセンサーのエクソンは、mRNA転写産物に包含され、したがって、関心対象となる導入遺伝子のタンパク質発現を阻害する。反対に、MBNLタンパク質の非存在下又は機能喪失下において、スプライスセンサーのエクソンは、成熟mRNA転写産物に包含されず、したがって、関心対象となる導入遺伝子の発現を可能にする。この実施形態において、スプライスセンサーは、「イントロン-エクソン-イントロン」配列を含み又はそれからなり、成熟転写産物におけるエクソンの包含が、MBNLタンパク質、特にMBNL1によりトリガーされる。
【0050】
特定の実施形態において、スプライスセンサーは、選択的スプライシングを制御するタンパク質、特にMBNL1、MBNL2、又はMBNL3、特にMBNL1等のMBNLタンパク質により、結合され得る任意の天然又は合成配列である。特定の実施形態において、スプライスセンサーは、選択的スプライシングを制御するタンパク質の結合ドメインにより特異的に認識される少なくとも1つの結合部位を含む。特に、スプライスセンサーは、MBNL1、MBNL2、又はMBNL3、特にMBNL1等のMBNLタンパク質により特異的に認識される結合部位を含み得る。特定の実施形態において、結合部位は、選択的スプライシングを制御するタンパク質、特にMBNL1、MBNL2、又はMBNL3、特にMBNL1等のMBNLタンパク質により特異的に認識されることが知られた任意のコンセンサス配列を含む。特定の実施形態において、スプライスセンサーの結合部位は、ピリミジンに隣接されるGpCジヌクレオチド、すなわち、「YGCY」(Yはウリジン又はシトシンである)からなるコンセンサス配列を含む。
【0051】
特定の実施形態において、スプライスセンサーは、MBNL1、MBNL2、又はMBNL3、特にMBNL1等のMBNLタンパク質により結合される配列である。前記MBNLタンパク質により結合される配列は、MBNL、特にMBNL1、MBNL2、又はMBNL3、特にMBNL1の任意の標的遺伝子に由来し得る。
【0052】
特定の実施形態において、スプライスセンサーは、MBNLタンパク質により制御されるエクソンを含有する遺伝子に由来する配列である。特定の実施形態において、スプライスセンサーは、ATP2A1、RYR1、CAPZB、INSR、CAM2B、ITGB、BIN1、TAU、又はDMD遺伝子に由来する配列である。
【0053】
特定の実施形態において、スプライスセンサーは合成配列である。「合成配列」とは、1個若しくは複数のヌクレオチドの欠失、置換、付加により改変されている天然の配列か、又は天然の配列に基づかない完全に合成の配列かのいずれかを意味する。合成スプライスセンサーは、(i)MBNL等の選択的スプライシングを制御するタンパク質の結合及びスプライシング活性に必要とされるエレメント;並びに(ii)それがキメラ分子の成熟転写産物に包含されている時、関心対象となる機能性産物の発現を阻害することができるエクソンを含む、任意のイントロン-エクソン-イントロン配列であり得る。
【0054】
特定の実施形態において、スプライスセンサーは、それが、プラスミド又はウイルスベクター等のベクターにおいて、関心対象となる導入遺伝子と組み合わせて、適合することができるように、設計される。特に、スプライスセンサーは、関心対象となる導入遺伝子と組み合わせて、AAVベクターへ適合し得るように設計される。当業者は、関心対象となる導入遺伝子のサイズ及び関心対象となる導入遺伝子を発現するのに用いられるベクターのパッケージング能力に依存して、スプライスセンサーの配列及びサイズを適応させることができる。
【0055】
特定の実施形態において、スプライスセンサーは、ATP2A1遺伝子に由来する配列である。
【0056】
特定の実施形態において、スプライスセンサーのエクソンは、ATP2A1遺伝子のエクソン22、RYR1遺伝子のエクソン70、CAPZB遺伝子のエクソン8、INSR遺伝子のエクソン11、CAM2B遺伝子のエクソン13、ITGB遺伝子のエクソン17、BIN1遺伝子のエクソン11、TAU遺伝子のエクソン2若しくは3、又はDMD遺伝子のエクソン78である。
【0057】
特定の実施形態において、スプライスセンサーのエクソンは、筋小胞体/小胞体カルシウムATPアーゼ1をコードするATP2A1遺伝子のエクソン22である。実際、対応するプレmRNA転写産物におけるATP2A1遺伝子のエクソン22の包含は、MBNL1により制御される。加えて、ATP2A1遺伝子のエクソン22は2つの終止コドンを含有する。したがって、前記終止コドンは、エクソン22がキメラ分子の成熟転写産物に包含されている時、導入遺伝子のタンパク質翻訳を阻害することができる。
【0058】
特定の実施形態において、スプライスセンサーは、ATP2A1遺伝子のイントロン21及びイントロン22に隣接された、ATP2A1遺伝子のエクソン22を含む。特に、スプライスセンサーは、ATP2A1遺伝子の配列「イントロン21-エクソン22-イントロン22」を含み又はそれからなる。より特に、ATP2A1遺伝子の配列「イントロン21-エクソン22-イントロン22」は、エクソン領域、特にATP2A1遺伝子のエクソン21及びエクソン23に由来したエクソン領域に、更に隣接され得る。
【0059】
特定の実施形態において、スプライスセンサーは以下の配列を含み又はそれからなる:エクソン21の3'末端-イントロン21-エクソン22-イントロン22-エクソン23の5'末端。特定の実施形態において、「エクソン21の3'末端」は、イントロン21の5'末端を連結するエクソン21の部分的配列を含む。特定の実施形態において、「エクソン21の3'末端」は、エクソン21の3'末端から少なくとも10ヌクレオチド、20ヌクレオチド、30ヌクレオチド、40ヌクレオチド、50ヌクレオチド、特にエクソン21の3'末端から少なくとも30ヌクレオチド、特に約34ヌクレオチドを有する配列に対応する。「エクソン23の5'末端」は、イントロン22の3'末端を連結するエクソン23の部分的配列を含む。特定の実施形態において、「エクソン23の5'末端」は、エクソン23の5'末端から少なくとも10ヌクレオチド、20ヌクレオチド、30ヌクレオチド、40ヌクレオチド、50ヌクレオチド、特にエクソン23の5'末端から少なくとも少なくとも20ヌクレオチド、特に約22ヌクレオチドを含む。
【0060】
特定の実施形態において、スプライスセンサーは、配列番号9に示されているような配列を含み又はそれからなる。特定の実施形態において、スプライスセンサーは、配列番号9の配列と少なくとも50%、特に少なくとも60%、70%、80%、90%、より特に、少なくとも95%、又は更に少なくとも99%同一性を有する配列を含み又はそれからなる。
【0061】
特定の実施形態において、スプライスセンサーは、配列番号29に示されているような配列を含み又はそれからなる。特定の実施形態において、スプライスセンサーは、配列番号29の配列と少なくとも50%、特に少なくとも60%、70%、80%、90%、より特に、少なくとも95%、又は更に少なくとも99%同一性を有する配列を含み又はそれからなる。
【0062】
特定の実施形態において、スプライスセンサーは、配列番号30に示されているような配列を含み又はそれからなる。特定の実施形態において、スプライスセンサーは、配列番号30の配列と少なくとも50%、特に少なくとも60%、70%、80%、90%、より特に、少なくとも95%、又は更に少なくとも99%同一性を有する配列を含み又はそれからなる。
【0063】
特定の実施形態において、スプライスセンサーは、配列番号31に示されているような配列を含み又はそれからなる。特定の実施形態において、スプライスセンサーは、配列番号31の配列と少なくとも50%、特に少なくとも60%、70%、80%、90%、より特に、少なくとも95%、又は更に少なくとも99%同一性を有する配列を含み又はそれからなる。
【0064】
関心対象となる導入遺伝子
上で記載されているように、本発明のキメラ核酸分子は、関心対象となる導入遺伝子を含む核酸配列を含み、前記関心対象となる導入遺伝子の発現が、上記のようなスプライスセンサー配列によって制御される。
【0065】
特定の実施形態において、関心対象となる導入遺伝子はcDNA配列である。関心対象となる導入遺伝子は、選択的スプライシングを制御するタンパク質の機能における欠陥と結びつけられた疾患を処置することができる関心対象となる任意の治療用産物をコードし得る。
【0066】
特定の実施形態において、関心対象となる産物は、選択的スプライシングを制御するタンパク質の機能喪失を回復させ又は代償することができる。
【0067】
特定の実施形態において、関心対象となる導入遺伝子は、上記で定義されているような選択的スプライシングを制御するタンパク質又はそのバリアントをコードする。この実施形態において、選択的スプライシングを制御するタンパク質の発現は、選択的スプライシングを制御するタンパク質の内因性レベルに依存して、自己制御される。言い換えれば、選択的スプライシングを制御するタンパク質の発現は、選択的スプライシングを制御するタンパク質の正常な及び/又は機能的なレベルに到達している時、阻害される。
【0068】
特定の実施形態において、関心対象となる産物は、MBNL1、MBNL2、又はMBNL3、特にMBNL1タンパク質等のMBNLタンパク質の機能を回復させることができる。
【0069】
特定の実施形態において、関心対象となる産物は、CUGexp-RNAの挙動又はMBNL活性へ直接的に又はそうではなく、作用することができる。
【0070】
特定の実施形態において、関心対象となる産物は、内因性MBNLの隔離の原因である病理学的CTG伸長又はCUG伸長を分解することにより、MBNLタンパク質の機能を回復させることができる。更に別の特定の実施形態において、関心対象となる産物は、病理学的CTG伸長を除去し/低下させ、又は病理学的CTG伸長若しくはこれらの伸長を含有するDMPK遺伝子の転写を阻害し、又は内因性MBNLの隔離の原因であるCUG伸長を分解し若しくはそれに干渉することにより、MBNLタンパク質の機能を回復させることができる。関心対象となる産物は又、前記病理学的CUG伸長をターゲットする、天然若しくは合成のRNA結合タンパク質等のタンパク質産物、CRISPR/CAS誘導体、shRNA、miRNA、sgRNA、U7-snRNA等のRNA産物であり得る。特定の実施形態において、関心対象となる産物は、Cas9エンドヌクレアーゼ等のエンドヌクレアーゼである。特定の実施形態において、CUGリピートを除去することができるRNAを標的とするCas9(RCas9)が用いられ得る。関心対象となる産物は、例えば、Nellesら(Nellesら、2016)により記載されているような、dCas9-eGFPであり得る。関心対象となる産物は、Batraら(Batraら、2017)により開発されたような、PIN-エンドヌクレアーゼと融合したdCas9であり得る。
【0071】
特定の実施形態において、関心対象となる導入遺伝子は、配列番号27のアミノ酸配列と少なくとも50%、特に少なくとも60%、70%、80%、90%、より特に、少なくとも95%又は更に少なくとも99%同一の配列を有するdCas9-eGFPペプチド又はそのバリアントをコードする。特定の実施形態において、関心対象となる導入遺伝子は、配列番号27のアミノ酸配列を含む又はそれからなるdCas9-eGFPタンパク質をコードする。
【0072】
特定の実施形態において、本発明の核酸分子は以下を含む:
- MBNL1、MBNL2、又はMBNL3、特にMBNL1等のMBNLタンパク質により結合される、第1の核酸配列、すなわち、本明細書に記載されているような「スプライスセンサー」;及び
- 配列番号27のdCas9-eGFPペプチドをコードする配列番号28の核酸配列等の、Cas9エンドヌクレアーゼをコードする第2の核酸配列。
【0073】
特定の実施形態において、本発明の核酸分子は、配列番号21に示されているような配列を含み又はそれからなる。
【0074】
特定の実施形態において、スプライスセンサーのエクソンが、キメラ分子の成熟転写産物に包含されていない時、前記成熟転写産物によりコードされるタンパク質は、配列番号22に示されているような配列からなる。
【0075】
筋強直性ジストロフィーの関連において、以前の遺伝子治療は、病理学的CUGリピート上へ隔離されている遊離且つ機能的に利用可能な内因性MBNLタンパク質の喪失を代償するだろうMBNLタンパク質の過剰発現を処置される細胞へ提供することを目的とした。したがって、特定の実施形態において、関心対象となる導入遺伝子は、MBNLタンパク質又はそのバリアント、特にMBNL1、MBNL2、又はMBNL3、特にMBNL1をコードする。
【0076】
特定の実施形態において、関心対象となる導入遺伝子は、MBNL1ペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも50%、特に少なくとも60%、70%、80%、90%、より特に、少なくとも95%若しくは更に少なくとも99%同一の配列を有するそのバリアントをコードする。特定の実施形態において、関心対象となる導入遺伝子は、配列番号1のアミノ酸配列を含み又はそれからなるMBNL1タンパク質をコードする。
【0077】
特定の実施形態において、関心対象となる導入遺伝子は、MBNL2ペプチド、又は配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも50%、特に少なくとも60%、70%、80%、90%、より特に、少なくとも95%若しくは更に少なくとも99%同一の配列を有するそのバリアントをコードする。特定の実施形態において、関心対象となる導入遺伝子は、配列番号2のアミノ酸配列を含み又はそれからなるMBNL2タンパク質をコードする。
【0078】
特定の実施形態において、関心対象となる導入遺伝子は、MBNL3ペプチド、又は配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも50%、特に少なくとも60%、70%、80%、90%、より特に、少なくとも95%若しくは更に少なくとも99%同一の配列を有するそのバリアントをコードする。特定の実施形態において、関心対象となる導入遺伝子は、配列番号3のアミノ酸配列を含み又はそれからなるMBNL3タンパク質をコードする。
【0079】
別の特定の実施形態において、関心対象となる導入遺伝子は、「改変型MBNLポリペプチド」をコードする。特許出願WO2015/158365は、内因性MBNLタンパク質とそこで競合し、それを立ち退かせ、それに置き換わって、それらの隔離のマイナスの結果を回避するための、改変型MBNLタンパク質、すなわち、スプライシング活性が低下した又は更にそれがない非機能性バリアントMBNLタンパク質の発現に基づいた遺伝子治療を記載する。特許出願WO2015/158365の開示の実験パートに提供されているように、このストラテジーで得られた結果は、極めて満足できるものであった。本発明は、内因性MBNLタンパク質のレベルに依存して、「改変型MBNLポリペプチド」の発現を制御することができる系を提供する点において、前記治療ストラテジーを向上させている。
【0080】
特定の実施形態において、改変型MBNLポリペプチドは、完全長MBNLタンパク質のスプライシング活性と比較した場合、低下したスプライシング活性を有するが、それのYGCY結合性質を維持する。特に、前記改変型MBNLポリペプチドは、病理学的CUGリピートを結合する能力があり得る。更に、本明細書で用いられる改変型MBNLポリペプチドは、これらの内因性MBNLタンパク質の機能を回復させるために、隔離された内因性MBNLをCUGexp-RNA凝集物から遊離させることにより、CUGexp-RNA毒性に対抗することができる。
【0081】
特定の実施形態において、改変型MBNLポリペプチドは、YGCY RNAモチーフに結合することができ、「Y」はピリミジン(ウリジン又はシトシン)を表す。特に、改変型MBNLポリペプチドは、病理学的DM1伸長CUGリピートの構成要素であるUGCUモチーフに結合することができ得る。特定の実施形態において、改変型MBNLポリペプチドには、MBNL1 mRNA(アクセッション番号NM_021038)のエクソン3に対応するアミノ酸を含み、又は含まない。更なる実施形態において、改変型MBNLポリペプチドは、MBNL1 mRNAのエクソン5~10に対応する配列番号4(配列番号4: TQSAVKSLKRPLEATFDLGIPQAVLPPLPKRPALEKTNGATAVFNTGIFQYQQALANMQLQQHTAFLPPGSILCMTPATSVVPMVHGATPATVSAATTSATSVPFAATTANQIPIISAEHLTSHKYVTQM)のアミノ酸を欠損する。
【0082】
本明細書で用いられる場合、用語「MBNL」は、muscleblind-like RNA結合タンパク質ファミリーの全てのパラログメンバーを意味し、特に、MBNL1、MBNL2、及びMBNL3を含む。特定の実施形態において、改変型MBNLポリペプチドは、ヒトMBNLタンパク質配列に由来する。ある実施形態において、改変型MBNLポリペプチドは、MBNL1遺伝子のエクソン3コード化配列を有するが、エクソン5~10によりコードされるアミノ酸配列を欠損するMBNL1タンパク質である。具体的な実施形態において、改変型MBNL1由来ポリペプチドは、「MBNLΔ」と呼ばれ、以下のアミノ酸配列を有する:
MAVSVTPIRDTKWLTLEVCREFQRGTCSRPDTECKFAHPSKSCQVENGRVIACFDSLKGRCSRENCKYLHPPPHLKTQLEINGRNNLIQQKNMAMLAQQMQLANAMMPGAPLQPVPMFSVAPSLATNASAAAFNPYLGPVSPSLVPAEILPTAPMLVTGNPGVPVPAAAAAAAQKLMRTDRLEVCREYQRGNCNRGENDCRFAHPADSTMIDTNDNTVTVCMDYIKGRCSREKCKYFHPPAHLQAKIKAAQYQVNQAAAAQAAATAAAM (配列番号5)
【0083】
ある実施形態において、改変型MBNLポリペプチドは、MBNL1遺伝子のエクソン3コード化配列とエクソン5~10によりコードされる配列の両方を欠損するMBNL1タンパク質である。具体的な実施形態において、非機能性MBNL1由来ポリペプチドは、MBNLΔCTと呼ばれ、以下のアミノ酸配列を有する:
MAVSVTPIRDTKWLTLEVCREFQRGTCSRPDTECKFAHPSKSCQVENGRVIACFDSLKGRCSRENCKYLHPPPHLKTQLEINGRNNLIQQKNMAMLAQQMQLANAMMPGAPLQPVVCREYQRGNCNRGENDCRFAHPADSTMIDTNDNTVTVCMDYIKGRCSREKCKYFHPPAHLQAKIKAAQYQVNQAAAAQAAATAAAM(配列番号6)
【0084】
別の実施形態において、改変型MBNLポリペプチドは、MBNL2タンパク質のエクソン2~5のアミノ酸配列によりコードされるMBNL2タンパク質である。具体的な実施形態において、改変型MBNL2由来ポリペプチドは、MBNL2-ΔCT3と呼ばれ、以下のアミノ酸配列を有する:
MALNVAPVRDTKWLTLEVCRQFQRGTCSRSDEECKFAHPPKSCQVENGRVIACFDSLKGRCSRENCKYLHPPTHLKTQLEINGRNNLIQQKTAAAMLAQQMQFMFPGTPLHPVPTFPVGPAIGTNTAISFAPYLAPVTPGVGLVPTEILPTTPVIVPGSPPVTVPGSTATQKLLRTDKLEVCREFQRGNCARGETDCRFAHPADSTMIDTSDNTVTVCMDYIKGRCMREKCKYFHPPAHLQAKIKAAQHQANQAAVAAQAAAAAATVM(配列番号7)
【0085】
別の実施形態において、改変型MBNLポリペプチドは、MBNL3タンパク質のエクソン1~4のアミノ酸配列によりコードされるMBNL3タンパク質である。具体的な実施形態において、改変型MBNL3由来ポリペプチドは、MBNL3-ΔCT3と呼ばれ、以下のアミノ酸配列を有する:
MTAVNVALIRDTKWLTLEVCREFQRGTCSRADADCKFAHPPRVCHVENGRVVACFDSLKGRCTRENCKYLHPPPHLKTQLEINGRNNLIQQKTAAAMFAQQMQLMLQNAQMSSLGSFPMTPSIPANPPMAFNPYIPHPGMGLVPAELVPNTPVLIPGNPPLAMPGAVGPKLMRSDKLEVCREFQRGNCTRGENDCRYAHPTDASMIEASDNTVTICMDYIKGRCSREKCKYFHPPAHLQARLKAAHHQMNHSAASAM (配列番号8)
【0086】
本明細書で用いられる場合、本発明の改変型MBNLポリペプチドの「バリアント」は、それが由来する野生型MBNLタンパク質(特に、MBNL1、2、又は3)、又は上記で示されているような配列番号5、配列番号6、配列番号7、若しくは配列番号8の改変型MBNLタンパク質と同じ又は類似した、YGCYモチーフ、特にCUGリピートとの結合性質を有するタンパク質であり、前記バリアントは、野生型MBNLタンパク質と比較して、低下したスプライシング活性を有する。言い換えれば、本発明で用いられる改変型MBNLポリペプチドは、野生型MBNLタンパク質と比較して、スプライシング活性が低い又は更にそれがない非機能性MBNLポリペプチドである。
【0087】
特定の実施形態において、本発明によるバリアントは、野生型MBNLタンパク質(例えば、MBNL11、2、又は3の)のエクソン1~4に対応するアミノ酸配列、又は配列番号5、6、7、若しくは8に示されたアミノ酸配列と少なくとも50%、特に少なくとも60%、70%、80%、90%、より特に、少なくとも95%又は更に少なくとも99%同一の配列を有し得る。特定の実施形態において、関心対象となる導入遺伝子は、配列番号5のアミノ酸配列との少なくとも50%、特に少なくとも60%、70%、80%、90%、より特に、少なくとも95%又は更に少なくとも99%同一性を有する配列をコードする。
【0088】
改変型MBNLポリペプチドは、スプライシング活性がほとんどなく、又はそうでなければ、野生型MBNLタンパク質と比較して、低下した活性と言える。「活性がほとんどない」又は「低下した活性」とは、野生型MBNLタンパク質のスプライシング活性と比較して、少なくとも50%、特に少なくとも60%、70%、75%、80%、85%、90%、又は更に少なくとも95%、低下しているスプライシング活性を記載するように本明細書で意図される。そのような活性は、cTNTエクソン5、IRエクソン11、及びTauエクソン2の選択的スプライシングを分析するためのミニ遺伝子の使用等の当業者によく知られた方法により決定され得る(Tranら、2011)。
【0089】
特定の実施形態において、改変型MBNLタンパク質は、核局在化配列(NLS)又は核外移行シグナル(NES)等の局在化配列を含み得る。代表的なNLSは、配列番号10: PKKKRKVに表された配列を有する。代表的なNESは、配列番号11: LPPLERLTLDに表された配列を有する。本開示は、そのような局在化配列、特に、上記で具体的に言及されたもの等のNLS又はNESと組み合わせた、上記のような任意の改変型MBNLポリペプチドを含む。
【0090】
特定の実施形態において、関心対象となる導入遺伝子は、ペプチドタグと融合している、MBNLタンパク質若しくはそのバリアント、又は上記で定義されているような改変型MBNLタンパク質等の関心対象となる産物をコードする。特定の実施形態において、タグは、V5タグ、特に配列番号12に示されているような配列を有するV5タグである。
【0091】
特定の実施形態において、関心対象となる導入遺伝子は、配列番号17又は配列番号18、特に配列番号17に示されているような配列を含み又はそれからなる。特定の実施形態において、関心対象となる導入遺伝子は、配列番号17又は配列番号18、特に配列番号17の配列との少なくとも50%、特に少なくとも60%、70%、80%、90%、より特に、少なくとも95%又は更に少なくとも99%同一性を有する配列を含み又はそれからなる。
【0092】
特定の実施形態において、関心対象となる導入遺伝子は、配列番号5又は配列番号13、特に配列番号5に示されているような配列を含み又はそれからなるタンパク質をコードする。特定の実施形態において、関心対象となる導入遺伝子は、配列番号5又は配列番号13、特に配列番号5の配列との少なくとも50%、特に少なくとも60%、70%、80%、90%、より特に、少なくとも95%又は更に少なくとも99%同一性を有する配列を含み又はそれからなるタンパク質をコードする。
【0093】
特定の実施形態において、本発明の核酸分子は以下を含む:
- MBNL1、MBNL2、又はMBNL3、特にMBNL1等のMBNLタンパク質により結合される、第1の核酸配列、すなわち、「スプライスセンサー」;及び
- 上記で定義されているような改変型MBNLペプチド、特に上記で定義されているようなMBNLΔをコードする第2の核酸配列。
【0094】
特定の実施形態において、本発明の核酸分子は以下を含む:
- ATP2A1遺伝子のエクソン22、特にATP2A1遺伝子のイントロン21及びイントロン22に隣接されたATP2A1遺伝子のエクソン22を含む、第1の核酸配列、すなわち、「スプライスセンサー」;及び
- 上記で定義されているような改変型MBNLペプチド、特に上記で定義されているようなMBNLΔをコードする第2の核酸配列。
【0095】
特定の実施形態において、本発明の核酸分子は以下を含む:
- 上記で定義されているような配列「エクソン21の3'末端-イントロン21-エクソン22-イントロン22-エクソン23の5'末端」を含み又はそれからなる、第1の核酸配列、すなわち、「スプライスセンサー」;及び
- 上記で定義されているような改変型MBNLペプチド、特に上記で定義されているようなMBNLΔをコードする第2の核酸配列。
【0096】
特定の実施形態において、本発明の核酸分子は、上記で定義されているような改変型MBNLペプチド、特に上記で定義されているようなMBNLΔをコードする第2の核酸配列の上流に、第1の核酸配列、すなわち、「スプライスセンサー」を含む。
【0097】
特定の実施形態において、本発明の核酸分子は、配列番号14又は配列番号19に示されているような配列を含み又はそれからなる。
【0098】
特定の実施形態において、本発明の核酸分子は、配列番号14又は配列番号19の配列との少なくとも50%、特に少なくとも60%、70%、80%、90%、より特に、少なくとも95%又は更に少なくとも99%同一性を有する配列を含み又はそれからなる。
【0099】
特定の実施形態において、スプライスセンサーのエクソンがキメラ分子の成熟転写産物に包含されていない時、前記成熟転写産物によりコードされるタンパク質は、配列番号15又は配列番号20に示されているような配列からなる。
【0100】
別の特定の実施形態において、スプライスセンサーのエクソンがキメラ分子の成熟転写産物に包含されている時、前記転写産物によりコードされるタンパク質は、配列番号16に示されているような配列からなる。
【0101】
別の特定の実施形態において、本発明の核酸分子は、上記で定義されているような改変型MBNLペプチド、特に上記で定義されているようなMBNLΔをコードする第2の核酸配列の2つのエクソンの間に挿入された第1の核酸配列(すなわち、本明細書に記載されているような「スプライスセンサー」)を含む。
【0102】
特定の実施形態において、スプライスセンサーは、上記で定義されているような改変型MBNLペプチド、特に上記で定義されているようなMBNLΔをコードする核酸配列のエクソン2とエクソン3の間に挿入される。特定の実施形態において、本発明の核酸分子は、配列番号23に示されているような配列を含み又はそれからなる。特定の実施形態において、本発明の核酸分子は、配列番号23の配列との少なくとも50%、特に少なくとも60%、70%、80%、90%、より特に、少なくとも95%又は更に少なくとも99%同一性を有する配列を含み又はそれからなる。
【0103】
特定の実施形態において、スプライスセンサーは、上記で定義されているような改変型MBNLペプチド、特に上記で定義されているようなMBNLΔをコードする核酸配列のエクソン3とエクソン4の間に挿入される。特定の実施形態において、本発明の核酸分子は、配列番号24に示されているような配列を含み又はそれからなる。特定の実施形態において、本発明の核酸分子は、配列番号24の配列との少なくとも50%、特に少なくとも60%、70%、80%、90%、より特に、少なくとも95%又は更に少なくとも99%同一性を有する配列を含み又はそれからなる。
【0104】
別の特定の実施形態において、本発明の核酸分子は、上記で定義されているような改変型MBNLペプチド、特に上記で定義されているようなMBNLΔをコードする第2の核酸配列の終止コドンの後に挿入された第1の核酸配列(すなわち、本明細書に記載されているような「スプライスセンサー」)を含む。特定の実施形態において、「スプライスセンサー」は、上記で定義されているような改変型MBNLペプチド、特に上記で定義されているようなMBNLΔをコードする第2の核酸配列の終止コドンとポリAの間に挿入される。特定の実施形態において、本発明の核酸分子は、配列番号25又は配列番号26に示されているような配列を含み又はそれからなる。特定の実施形態において、本発明の核酸分子は、配列番号25又は配列番号26の配列との少なくとも50%、特に少なくとも60%、70%、80%、90%、より特に、少なくとも95%又は更に少なくとも99%同一性を有する配列を含み又はそれからなる。
【0105】
発現カセット
本発明の別の態様は、宿主細胞において、上記のような核酸分子の発現(例えば、転写及び翻訳)を可能にする制御配列(例えば、適切なプロモーター、エンハンサー、ターミネーター等)と作動可能に連結された、上記のような核酸分子を含み又はそれからなる発現カセットに関する。本発明の発現カセットは、DNA又はRNAであり得、好ましくは二本鎖DNAである。本発明の発現カセットは又、意図された宿主細胞若しくは宿主生物体の形質転換に適した形、意図された宿主細胞のゲノムDNAへの組込みに適した形、又は意図された宿主生物体における非依存的な複製、維持、及び/若しくは遺伝に適した形をとり得る。
例として、本発明の発現カセットは、例えば、プラスミド、コスミド、YAC、ウイルスコードベクター、又はトランスポゾン等のベクターの形をとり得る。特に、ベクターは、発現ベクター、すなわち、インビトロ及び/又はインビボでの(例えば、適切な宿主細胞、宿主生物体、及び/又は発現系における)発現を与えることができるベクターであり得る。好ましいが非限定的態様において、本発明の発現カセットは、ii)プロモーター及び任意で適切なターミネーター等の1つ又は複数の制御エレメントと作動可能に連結された;i)本発明のキメラ核酸分子、並びに任意で又、iii)3'-若しくは5'-UTR配列、リーダー配列、選択マーカー、発現マーカー/レポーター遺伝子、及び/又は核局在化シグナル(NLS)若しくは核外移行シグナル(NES)等の、関心対象となる導入遺伝子の形質転換若しくは組込み若しくは細胞内局在若しくは発現(の効率)を促進し若しくは増加させ得るエレメントを含む。
【0106】
ベクター
本発明の別の態様は、上記のような核酸分子又は上記のような発現カセットを含むベクターに関する。
【0107】
特に、前記ベクターは、プラスミド又はウイルスベクターであり得る。本発明を実施するのに用いられる適切なウイルスベクターには、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルスが挙げられる。特定の実施形態において、本発明は、本発明による核酸配列分子を含むレンチウイルスに関する。別の特定の実施形態において、本発明は、本発明による核酸配列分子を含む、AAVベクター、特に、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、又はAAV11ベクター、特にAAV9ベクターに関する。AVVベクターは、偽型ベクターであり得、すなわち、それのゲノム及びそれのカプシドが異なるAAV血清型に由来し得る。例えば、ゲノムはAAV2に由来し得、それのカプシドタンパク質は、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、又はAAV11血清型であり得る。
【0108】
細胞
本発明の別の態様は、上記のような核酸分子、発現カセット、又はベクターで形質転換された単離された細胞に関する。
【0109】
方法及び使用
本発明の別の態様は、医薬としての使用のための、上記のような核酸分子、発現カセット、ベクター、又は単離された細胞に関する。
【0110】
特定の実施形態において、本発明の核酸分子、発現カセット、ベクター、又は単離された細胞は、関心対象となる導入遺伝子の発現から利益を得ることができる疾患又は障害の処置に用いられる。特定の実施形態において、上記のような核酸分子、発現カセット、ベクター、又は単離された細胞は、選択的スプライシングを制御するタンパク質の機能における欠陥と結びつけられる疾患の処置において有用な治療剤である。
【0111】
特定の実施形態において、上記のような核酸分子、発現カセット、ベクター、又は単離された細胞は、筋萎縮性側索硬化症の処置において等の、トランス活性応答DNA結合タンパク質43(TDP-43)又は肉腫において融合したタンパク質(FUS)の機能における欠陥と結びつけられる疾患又は障害の処置において用いられる。
【0112】
特定の実施形態において、上記のような核酸分子、発現カセット、ベクター、又は単離された細胞は、傍腫瘍性神経障害の処置において等の、NOVAタンパク質の機能における欠陥と結びつけられる疾患又は障害の処置において用いられる。
【0113】
特定の実施形態において、上記のような核酸分子、発現カセット、ベクター、又は単離された細胞は、拡張型心筋症の処置において等の、RNA結合モチーフ20(RBM20)の機能における欠陥に結びつけられる疾患又は障害の処置において用いられる。
【0114】
特定の実施形態において、上記のような核酸分子、発現カセット、ベクター、又は単離された細胞は、MBNLタンパク質の隔離に、又はMBNL1、若しくは他のパラログメンバー(例えば、MBNL2及びMBNL3)等のMBNLメンバーの調節解除された機能に結びつけられる疾患又は障害の処置において有用な治療剤である。好ましい実施形態において、本発明の改変型ポリペプチドは、DM1及びDM2等の筋強直性ジストロフィー、又はMBNL機能の喪失(例えば、隔離、凝集、変異等)が、機能性MBNLポリペプチド若しくは上記で定義されているような改変型MBNLポリペプチドの異所性送達により救出され得る任意の疾患の処置のために用いられる。
【0115】
更なる態様において、本発明は、筋強直性ジストロフィーの処置のための方法における使用のための、上記のような核酸分子、発現カセット、ベクター、又は単離された細胞に関する。
【0116】
本明細書で用いられる場合、用語「処置」又は「治療」は、治癒的及び/又は予防的処置を含む。より特に、治癒的処置は、症状の軽減、寛解、並びに/又は除去、低下、及び/若しくは安定化(例えば、より進行期へ進行しないこと)、加えて、特定の障害の症状の進行の遅延のいずれかを指す。予防的処置は、発症を停止すること、発症を遅らせること、発生を低下させること、発生のリスクを低下させること、発生率を低下させること、重症度を低下させること、加えて、所定の障害についての症状の発症までの時間及び生存期間を増加させることのいずれかを指す。
【0117】
したがって、必要としている対象において、筋強直性ジストロフィー等の、選択的スプライシングを制御するタンパク質の機能における欠陥に結びつけられる疾患を処置するための方法であって、本発明の核酸分子、発現カセット、ベクター、又は単離された細胞で前記対象に施すことを含む、方法が記載されている。
【0118】
本発明の関連の範囲内において、「対象」又は「患者」は、筋強直性ジストロフィーを患っている、年齢も性別も問わない、哺乳動物、特にヒトを意味する。その用語は、具体的には、非ヒト霊長類、ネコ、イヌ、ウマ、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、ラット、及びマウス等の家畜用及び一般的な実験用哺乳動物を含む。好ましくは、処置され得る患者は、子ども又は青年を含む人間である。
【0119】
本発明による使用及び方法について、核酸分子、発現カセット、ベクター、又は単離された細胞は、当技術分野において知られた方法により製剤化され得る。加えて、任意の投与経路が、構想され得る。例えば、核酸分子、発現カセット、ベクター、又は単離された細胞は、任意の通常の投与経路により投与され得、その投与経路には、経口、肺、腹腔内(ip)、静脈内(iv)、筋肉内(im)、皮下(sc)、経皮、頬側、鼻腔、舌下、眼、直腸、及び膣が挙げられるが、それらに限定されない。加えて、神経系への直接的な投与には、ポンプ装置有り又は無しでの頭蓋内又は椎間の針又はカテーテルを介する送達による脳内、脳室内、側脳室内、くも膜下腔内、大槽内、脊髄内、又は脊髄周囲の投与経路が挙げられ得るが、それらに限定されない。本明細書に記載された治療効果を与える任意の投与の用量又は頻度が、本発明における使用に適していることは、当業者に容易に明らかであろう。特定の実施形態において、対象は、本発明による改変型MBNLポリペプチドをコードするウイルスベクターを筋肉内経路により投与される。この実施形態の具体的な変形において、ベクターは、上記で定義されているようなAAVベクター、特にAAV9ベクターである。更なる具体的な態様において、対象は、そのベクターの単回注射を受ける。
【0120】
追加として、作用の持続期間を調節するために標準薬学的方法を用いることができる。これらは当技術分野においてよく知られており、徐放性調製物を含み、適切な高分子、例えば、ポリマー、ポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニル、ピロリドン、エチレンビニルアセテート、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又は硫酸プロタミンを含み得る。
【0121】
本発明の別の態様は、選択的スプライシングを制御するタンパク質の内因性レベルに依存して、関心対象となる導入遺伝子の発現を調節するための方法における使用のための、上記のような核酸分子、発現カセット、ベクター、又は単離された細胞に関する。
【0122】
下記の実施例は、本発明を、それの範囲を限定することなく、例証する。
【実施例
【0123】
材料及び方法
構築物
実施例1及び2に記載されたスプライスセンサーは、ヒトATP2A1遺伝子に由来し、部分的なエクソン21(イントロンの3'末端から34ヌクレオチド)、イントロン21、エクソン22、イントロン22、及び部分的なエクソン23(イントロンの5'末端から22ヌクレオチド)を含有する。このスプライスセンサーATP2A1エクソン22を、pcDNA3.1(+)発現ベクターへEGFPか又はV5-MBNLΔ配列のいずれかの前に挿入した。両方の構築物を、シーケンシングによって検証した。1から269までのアミノ酸を含有するMBNLΔは、MBNL1に由来しており、V5タンパク質でタグ付けし、pcDNA3.1(+)又はpSMD2ベクターへクローニングした。
【0124】
実施例3において、ヒトATP2A1遺伝子に由来した同じスプライスセンサーを、dCas9-eGFPをコードする配列の上流に挿入した。dCas9-eGFPプラスミドは、Addgen社(#74710)から入手した。
【0125】
実施例4において、ヒトATP2A1遺伝子のイントロン21(int21)-エクソン22(ex22)-イントロン22(int22)を含むスプライスセンサーは、V5-MBNLΔ配列のエクソン2とエクソン3の間、又はエクソン3とエクソン4の間に挿入される。エクソン22(ex22)内の2つの終止コドンをインフレームで維持するために、余分な塩基(T)をエクソン22(ex22)の内部に挿入した。
【0126】
実施例5において、マルチプルクローニング部位配列(12bp)をエクソン22(42bp)へ挿入した。スプライスセンサーは、部分的エクソン21(イントロンの3'末端から34ヌクレオチド)、イントロン21、エクソン22+MCS(54bp)、イントロン22、及び部分的エクソン23(イントロンの5'末端から23ヌクレオチド)を含む。実施例5において、このスプライスセンサーは、V5-MBNLΔの終止コドンの直後(終止コドンとポリA配列との間)に挿入される。
【0127】
実施例6において、スプライスセンサーは、マウスATP2A1遺伝子に由来し、部分的エクソン21(イントロンの3'末端から50ヌクレオチド)、イントロン21、エクソン22、イントロン22、及び完全なエクソン23(イントロンの5'末端から268ヌクレオチド)を含有する。実施例6において、このスプライスセンサーは、V5-MBNLΔの終止コドンの直後(終止コドンとポリA配列との間)に挿入される。
【0128】
細胞培養及びトランスフェクション
N末端タグを有するテトラサイクリン誘導性完全長MBNL1タンパク質を含有するHEK293 T-Rex FLP安定発現細胞株を用いた。細胞を、10%ウシ胎仔血清(Gibco社)を追加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)-GlutaMax(Invitrogen社)において単層として、37℃、5%CO2下で日常的に培養した。トランスフェクション前に、細胞を、24ウェル又は12ウェルプレートに密度1.6×105細胞/ウェルで播種した。24時間後、およそ80%のコンフルエンス時点でトランスフェクトした。プラスミド(20ng/ウェル)を、各ウェルへリポフェクタミンLTX試薬(Invitrogen社)を用いて製造会社のプロトコールに従ってトランスフェクトした。4時間後、培地を、5%ウシ胎仔血清を追加され且つ濃度1μg/mlでドキシサイクリン(Sigma-Aldrich社)を含有するDMEMに交換した。トランスフェクションから48時間後、細胞を収集した。
【0129】
インビボ遺伝子移入
全てのマウス手順を、Pitie-Salpetriere動物施設のCentre Experimentation Fonctionnelleにおける動物資源倫理委員会により承認されたプロトコールn°01204.02に従い、適切な生物学的封じ込め下で行った。成体対照WT(FVB)又はDM1(HSALR)トランスジェニックマウスに、食塩水又はAAV9ベクターを筋肉内に注射し、7週間後、屠殺した。AAV9-V5-MBNLΔ又はAAV9-スプライスセンサー-V5-MBNLΔは、Centre de Recherche en MyologieのAAVコア施設により作製された。
【0130】
RNA単離及びRT-PCR
全RNAを、TRI試薬(Sigma社)を用いて、細胞又は筋肉から単離し、全RNAの1ugを、合計20μlにおいてM-MLV第1鎖合成システム(Life technologies社)を用いて逆転写した。試料を、RQ1 DNアーゼ(Promega社)で処理し、1ulのcDNA調製物を、標準プロトコールによる半定量的PCR分析(ReddyMix、Thermo Scientific社)に用いた。PCR増幅は、60℃及び特異的プライマーにおいて30サイクルの間、実行された。
【0131】
ウェスタンブロッティング
HEK細胞ペレット又は筋肉組織を、Completeプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche社)を追加したRIPAバッファー(150mM NaCl、50mM Tris-HCl pH8、0.1mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1% NP-40、0.5% ドデシル硫酸ナトリウム(SDS))において溶解した。可溶化液を、4℃で超音波処理し、4℃において14000xgで10分間、遠心分離した。タンパク質濃度を、BCAタンパク質アッセイキット(Thermo scientific社)を用いて決定した。試料を、50mM DTTを追加したLaemmli還元サンプルバッファー中に希釈し、70℃へ5分間、加熱し、4~12% Bis-Trisポリアクリルアミドゲル(Thermo scientific社)上で分離させ、ウェット転写装置(1時間、100V、4℃)を用いてニトロセルロース膜(Porablot NCP、Macherey-Nagel社)へ転写した。膜を、PBSTバッファー(リン酸緩衝食塩水(PBS)、0.1% Tween-20)中5% スキムミルクにおいて1時間、ブロッキングし、MBNL1(MB1a 1:1000)、V5(1:1000、Invitrogen社)、GFP(1:1000、Clontech社)、又はGAPDH(1:1000、Santa Cruz社)に対する一次抗体とインキュベートした。抗ウサギ(1:20 000、Invitrogen社)及び抗マウス(1:2000、Invitrogen社)二次抗体に、西洋ワサビペルオキシダーゼをコンジュゲートし、ImmobilonウェスタンケミルミネセンスHRP基質システム(EMD Millipore社)を用いて検出した。或いは、Stain-Freeテクノロジー(Biorad社)を使用する総タンパク質標準化を用いた。
【0132】
結果
本発明は、宿主細胞又は組織内の選択的スプライシングを制御する特異的なタンパク質の活性に従って、関心対象となる導入遺伝子の発現を制御する「スプライスセンサー」を含む核酸分子に関する。
【0133】
例として、伸長CUGリピートを含有する変異体転写産物が、MBNLタンパク質を隔離し、それがMBNLスプライシング因子の機能喪失、及びその後、症状に関連したスプライシング誤制御をもたらすというDM1パラダイムをうまく利用した。この関連において、MBNL1活性のレベルに依存して、導入遺伝子の発現を制御するために、MBNL1スプライシング因子により制御されるスプライスセンサーを開発した。
【0134】
(実施例1)
スプライスセンサー-GFP制御
ATP2A1 エクソン22は、MBNL1によって制御され、2つの終止コドンを含有する。したがって、以下の配列により構成される以下のスプライスセンサーを設計した:ATP2A1遺伝子のエクソン21の3'部分-イントロン21-エクソン22-イントロン22-エクソン22の5'部分。このスプライスセンサー配列を、pcDNA3ベクター内でGFP配列と融合させた(図1A)。GFP導入遺伝子のタンパク質発現がMBNL1活性により制御されるかどうかを評価するために、スプライスセンサー-GFP構築物を、MBNL1誘導性HEK-293細胞へトランスフェクトした(図1B)。この細胞株は、許容条件(+ドキシサイクリン)下での高レベルのMBNL1か又は非許容条件(-ドキシサイクリン)下での低レベルかのいずれかを同じ細胞内で有するのを許容するテトラサイクリン誘導性MBNL1構築物を含有する。ドキシサイクリンの存在下又は非存在下でのMBNL1発現の調節は、病理学的状態(低レベルのMBNL1)及び生理学的状態(高レベルのMBNL1)を模倣することを可能にする実験モデルである。図1CにおけるRT-PCRにより示されているように、ATP2A1のエクソン22は、低レベルのMBNL1を発現する細胞において排除されている。対照的に、このエクソンは、MBNL1のレベルが高い時、導入遺伝子mRNA内に含まれ、スプライスセンサーATP2A1 エクソン22のスプライスセンサーの選択的スプライシング制御がMBNL1依存性であることを確認している。タンパク質レベルにおいて、GFPを、低レベルのMBNL1を有する細胞において検出したが、2つの終止コドンを含有するATP2A1 エクソン22の包含をもたらすMBNL1のレベルが高い同じ細胞において、GFP発現は検出されなかった(図1D)。
【0135】
(実施例2)
スプライスセンサー-V5-MBNLΔ制御
次に、(WO2015/158365に記載されているように)DM1においてRNAフォーカスから内因性MBNL1を遊離させるためにCUGexp-デコイとして働く改変型V5-MBNLΔ構築物へ同じスプライスセンサー配列を融合させた。この導入遺伝子を、MBNL1誘導性HEK-293細胞へトランスフェクトした(図2A)。ATP2A1 エクソン22を含むスプライスセンサーの選択的スプライシング制御が又、MBNL1依存性であることを確認した(図2B)。結果として、V5-MBNLΔタンパク質は、終止コドンを含有するATP2A1 エクソン22の包含のせいで、MBNL1低レベル条件下でのみ発現する(図2C)。
【0136】
インビボ適用についてスプライスセンサーの使用を広げるために、pSMD2バックボーンにおいてスプライスセンサー-V5-MBNLΔをクローニングし、AAV9ベクターを作製した。AAV9-V5-MBNLΔか又はAAV9-スプライスセンサー-V5-MBNLΔかのいずれかの2つの異なる用量での筋肉内注射を、正常なMBNL1活性を有する野生型(WT)マウスにおいて実施した(図3A)。RT-PCR分析は、V5-MBNLΔ mRNAが両方の構築物間で類似して発現することを示した(図3B)。しかしながら、タンパク質レベルにおいて、V5-MBNLΔは、AAV9-V5-MBNLΔを注射された筋肉においてのみ、検出された(図3C)。AAV9-スプライスセンサー-V5-MBNLΔを注射された筋肉においてV5-MBNLΔは検出されず、正常なMBNL1活性を示すWT関連において、ATP2A1 エクソン22が成熟転写産物内に包含され、導入遺伝子発現をブロックすることを示した。
【0137】
最後に、AAV9-スプライスセンサー-V5-MBNLΔを、DM1マウス(HSA-LR)において試験した。このマウスモデルは、MBNL1機能喪失及びスプライシング欠陥をもたらす、MBNL1スプライシング因子を隔離する伸長CUGリピートを含有する変異体RNAの発現を含む、DM1疾患の分子的な顕著な特徴を利用している。AAV9-V5-MBNLΔか又はAAV9-スプライスセンサー-V5-MBNLΔかのいずれかの筋肉内注射を、低下したMBNL1活性を有するDM1マウスにおいて実施した(図4A)。図4Bに示されているように、V5-MBNLΔ mRNAは、両方の条件において検出された。その結果は、AAV9-V5-MBNLΔ及びAAV9-スプライスセンサー-V5-MBNLΔが、注射されたマウスにおいてDM1ミススプライシング事象の補正をもたらすことを示している(図4B)。実際、V5-MBNLΔタンパク質が、AAVベクターのどちらを注射されたDM1マウスの筋肉においても検出され(図4C)、低下したMBNL1活性を有するDM1マウスにおいてATP2A1 エクソン22のスキッピングが起こり、V5-MBNLΔの発現を生じることを示している。
【0138】
結論として、「スプライスセンサー」は、内因性MBNL1の機能的レベルに依存して、導入遺伝子(すなわち、MBNLΔ)の発現を調節することを可能にする。したがって、MBNLΔタンパク質は、WTマウス筋肉において産生されず、一方、DM1マウス筋肉におけるそれの発現は、治療効果を得るのに十分であり、それの産生のレベルを制御し且つ制限する自己制御ループに曝される。
【0139】
(実施例3)
スプライスセンサー-dCas9制御
実施例1及び2に記載されたものと同じスプライスセンサー構築物(すなわち、ATP2A1スプライスセンサー配列)を、異なる導入遺伝子(すなわち、dCas9-eGFP配列)に融合させた(図5A)。ちなみに、Batraらは、PIN-エンドヌクレアーゼと融合したこのdCas9導入遺伝子(Nellesら、Cell、2016)の治療的使用を記載した(Batraら、Cell、2017)。
【0140】
スプライスセンサー及びdCas9-eGFP配列を含む、この実施例に用いられた核酸分子は配列番号21に示されている通りである。
【0141】
図5BにおけるRT-PCRにより示されているように、ATP2A1のエクソン22は、低レベルのMBNL1を発現する細胞において排除されている。対照的に、このエクソンは、MBNL1のレベルが高い時、導入遺伝子mRNA内に包含され、スプライスセンサーATP2A1 エクソン22の選択的スプライシング制御がMBNL1依存性であることを再び確認している。タンパク質レベルにおいて、ウェスタンブロット分析は、低レベルのMBNL1タンパク質を発現する(-dox)細胞におけるdCas9-eGFP発現を示した。しかしながら、dCas9-eGFPタンパク質発現は、MBNL1のレベルが高い(+dox)時、エクソン22の包含のせいで、65%、低下した。
【0142】
この実施例は、「スプライスセンサー」が、MBNLΔだけでなく、関心対象となるいかなる導入遺伝子の発現も調節することを可能にすることを実証している。
【0143】
(実施例4)
埋め込み型スプライスセンサー-V5-MBNLΔ制御
その後、スプライスセンサーの効果を、導入遺伝子配列の上流に導入する代わりに、導入遺伝子配列へ「埋め込まれた」スプライスセンサーを用いて、評価した。この実施例において、「イントロン21-エクソン22-イントロン23」ATP2A1配列を含むATP2A1スプライスセンサーを、関心対象となる導入遺伝子をコードする配列内に、すなわち、関心対象となる導入遺伝子の2つのエクソンの間に、導入した。特に、「埋め込み型スプライスセンサー」を、MBNLΔ エクソン2とエクソン3の間か又はMBNLΔ エクソン3とエクソン4の間かのいずれかに挿入した(図6A)。2つの終止コドンをインフレームで維持するために、余分な塩基(T)を、ATP2A1埋め込み型スプライスセンサー配列のエクソン22の内部に挿入した。
【0144】
MBNLΔ エクソン2とエクソン3の間に挿入されたスプライスセンサーを含む、この実施例に用いられた核酸分子は配列番号23に示されている通りである。MBNLΔ エクソン3とエクソン4の間に挿入されたスプライスセンサーを含む、この実施例に用いられた核酸分子は配列番号24に示されている通りである。
【0145】
図6BにおいてRT-PCRにより示されているように、2つの終止コドンを含有する埋め込み型スプライスセンサーのエクソン22は、MBNL1のレベルが高い時(+dox)のみ、包含されている。ウェスタンブロット分析は、低レベルのMBNL1タンパク質(-dox)を発現するHEK293Tトランスフェクト化細胞におけるV5-MBNLΔタンパク質発現を示した。しかしながら、MBNL1のレベルが高い(+dox)時、
- V5-MBNLΔタンパク質発現は、埋め込み型スプライスセンサーがエクソン2とエクソン3の間に埋め込まれている時、トランスフェクト化HEK293T細胞において、60%、低下した;
- V5-MBNLΔタンパク質発現は、埋め込み型スプライスセンサーがエクソン3とエクソン4の間に埋め込まれている時、トランスフェクト化HEK293T細胞において、70%、低下した。
【0146】
この実施例は、導入遺伝子の発現を調節することについての、導入遺伝子配列内に挿入されたスプライスセンサーの効力を実証している。
【0147】
(実施例5)
3'-合成スプライスセンサー-V5-MBNLΔ制御
12bpの追加のマルチプルクローニング部位(MCS)配列をエクソン22に含有する合成スプライスセンサー(エクソン21の3'部分-イントロン21-エクソン22+MCS配列-イントロン22-エクソン23の5'部分)をこの実施例に用いた。前記合成スプライスセンサーを、導入遺伝子配列の3'側に、より特に、V5-MBNLΔ配列の終止コドンとポリAとの間に、導入した(図7A)。
【0148】
V5-MBNLΔ配列の終止コドンとポリAとの間に挿入されたスプライスセンサーを含む、この実施例に用いられた核酸分子は、配列番号25に示されている通りである。前記配列は、図7Aに図式化されているように、コザック配列及び翻訳開始コドン(ATG)を更に含む。
【0149】
図7BにおいてRT-PCRにより示されているように、この合成スプライスセンサーのエクソン22は、MBNL1のレベルが高い(+dox)時のみ、包含され、エクソン22の包含/排除がMBNL1のレベルに依存することを再び、確認している。タンパク質レベルにおいて、ウェスタンブロット分析は、低レベルのMBNL1タンパク質を発現する(-dox)細胞における導入遺伝子発現を示した。しかしながら、導入遺伝子タンパク質発現は、MBNL1のレベルが高い(+dox)時、エクソン22の包含のせいで、50%、低下した。
【0150】
この実施例において、導入遺伝子タンパク質発現の阻害は、スプライスセンサーが導入遺伝子終止コドンの後に導入されたから、関心対象となる導入遺伝子の成熟転写産物における中途終止コドンの発生に起因しない。したがって、スプライスセンサーのエクソン22の包含は、別の機構を通して導入遺伝子タンパク質発現を阻害する。
【0151】
この実施例において、タンパク質発現の阻害は、おそらく、エクソン結合複合体(EJC)依存性経路を通して、ナンセンス変異依存分解機構(NMD)又はNMD様機構に起因する。特に、スプライスセンサーのエクソン22が包含されている時、それは、導入遺伝子の終止コドンの下流に位置するエクソン結合複合体(大きな複数タンパク質集合体)をトリガーする。しかしながら、EJCが終止コドンの下流に存在したならば、前記終止コドンは、リボソームによるmRNAの適切な放出を阻害するだろう、異常な中途終止コドン(PSC)として見なされ、その結果として、おそらくNMD又はNMD様機構によるmRNA転写産物の分解による、翻訳の低下を生じる。
【0152】
したがって、この実施例は、関心対象となる導入遺伝子の発現が、導入遺伝子の終止コドンの後に挿入され得る合成スプライスセンサーで調節され得ることを実証している。加えて、スプライスセンサーが、成熟転写産物内の中途終止コドンの包含による、又はNMD若しくはNMD様機構によるmRNA転写産物の分解による等の、様々な機構によってタンパク質発現を調節し得ることが結論づけられ得る。
【0153】
(実施例6)
3'-マウススプライスセンサー-V5-MBNLΔ制御
この実施例に用いられるスプライスセンサーは、マウスATP2A1配列に由来し、エクソン23全体を含む(エクソン21(ex21)部分-イントロン21(int21)-エクソン22(ex22)-イントロン22(int22)-エクソン23(ex23))。前記マウススプライスセンサーを、導入遺伝子配列の3'側に、より特に、V5-MBNLΔ配列の終止コドンとポリAとの間に導入した(図8A)。
【0154】
V5-MBNLΔ配列の終止コドンとポリAとの間に挿入されたマウススプライスセンサーを含む、この実施例に用いられた核酸分子は、配列番号26に示されている通りである。前記配列は、図8Aに図式化されているように、コザック配列及び翻訳開始コドン(ATG)を更に含む。
【0155】
図8BにおいてRT-PCRにより示されているように、このマウススプライスセンサーのエクソン22は、MBNL1のレベルが高い(+dox)時のみ、包含され、エクソン22の包含/排除がMBNL1のレベルに依存することを再び、確認している。タンパク質レベルにおいて、ウェスタンブロット分析は、低レベルのMBNL1タンパク質を発現する(-dox)細胞における導入遺伝子発現を示した。しかしながら、導入遺伝子タンパク質発現は、MBNL1のレベルが高い(+dox)時、エクソン22の包含のせいで、40%、低下した。
【0156】
この実施例は、特にマウス配列に由来する、異なるスプライスセンサーが、関心対象となる導入遺伝子の発現を調節するために用いられ得ることを実証している。
【0157】
結論
したがって、上記で例示されたスプライスセンサーは、DM1の遺伝子治療にとって特に興味深く、それが、治療用導入遺伝子の発現を、それを必要とした組織又は細胞においてのみ、すなわち、MBNL1活性が低下している組織又は細胞においてのみ、保証するからである。本実施例は、スプライスセンサーが、関心対象となるいかなる導入遺伝子(例えば、MBNLΔ又はCas9等の治療用エンドヌクレアーゼ)の発現をも調節するために用いられ得ることを実証している。加えて、スプライスセンサーの効力は、いくつかのスプライスセンサー配列(すなわち、天然のヒトATP2A1配列、人工配列、又はマウスATP2A1配列)を用いて実証された。もちろん、スプライスセンサーは、成熟転写産物における前記エクソンの包含がMBNL1によりトリガーされる、任意の他のイントロン-エクソン-イントロン配列を含み得る。加えて、上記の実施例は、スプライスセンサーのエクソンが、mRNA導入遺伝子のタンパク質翻訳を、様々な機構を通して阻害することができることを実証している。特に、成熟転写産物におけるエクソンの包含は、前記成熟転写産物における中途終止コドンの発生をもたらし得る。加えて、成熟転写産物におけるエクソンの包含は、NMD又はNMD様機構によりタンパク質翻訳を阻害し得る。実施例に示されているように、スプライスセンサーは、関心対象となる導入遺伝子配列の上流に、又は関心対象となる導入遺伝子内(2つのエクソン配列の間又は終止コドンとポリAとの間)に挿入され得る。
【0158】
MBNL1によりターゲットされるスプライスセンサーを用いるこれらの実施例は、概念の成功した証拠を提供する。もちろん、この系は、選択的スプライシングを制御する任意のタンパク質(MBNL1タンパク質以外)の活性に依存して、細胞又は宿主生物体への関心対象となる任意の導入遺伝子の発現を制御するために適応し得る。
【0159】
(参考文献)
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2022548261000001.app
【国際調査報告】