(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-18
(54)【発明の名称】生体分子検出デバイス
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20221111BHJP
【FI】
G01N33/543 595
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022515849
(86)(22)【出願日】2020-09-16
(85)【翻訳文提出日】2022-03-10
(86)【国際出願番号】 EP2020075914
(87)【国際公開番号】W WO2021053042
(87)【国際公開日】2021-03-25
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(71)【出願人】
【識別番号】501075970
【氏名又は名称】エト・チューリッヒ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(72)【発明者】
【氏名】ブリッケンストーファー,イブ・ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】ファッティンガー,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】フルティガー,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ライヒムート,アンドレアス・ミハエル
(72)【発明者】
【氏名】ベレシュ,ヤーノシュ
(57)【要約】
本明細書に開示されるのは、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分を分析するための生体分子検出デバイス(1)であって、エバネセント照明器の第1の表面上で規定の波長を有するコヒーレント光(L)からエバネセント場を生成するように構成されている光結合ユニットを含むエバネセント照明器を含む、生体分子検出デバイスである。エバネセント照明器の第1の表面は、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分(8)の、膜貫通タンパク質(81)、好ましくは側方拡散性の膜貫通タンパク質の結合性構造体(82)に対する膜認識エレメントが配置されている複数の所定の線のコヒーレント配置を含有する鋳型ナノパターン(5)を含む。膜認識エレメント(53)は、膜認識エレメント(53)に結合した細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分(8)によってエバネセント場の光が散乱されるような、エバネセント照明器の鋳型ナノパターン(5)に基づいて細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分(8)内で膜貫通ナノパターンを形成させるために膜貫通タンパク質(81)の結合性構造体(82)に結合するように構成されている。所定の線は、膜認識エレメント(53)に結合した細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分(8)によって散乱される光が、コヒーレント光(L)の規定の波長の整数倍である光路長の差異を有する規定の検出部位(7)で建設的に干渉するように配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分を分析するための生体分子検出デバイス(1)であって、生体分子検出デバイスが、エバネセント照明器の第1の表面上で規定の波長を有するコヒーレント光(L)からエバネセント場を生成するように構成されている光結合ユニットを含むエバネセント照明器を含み、前記エバネセント照明器の前記第1の表面が、前記細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分(8)の膜貫通タンパク質(81)、好ましくは側方拡散性の膜貫通タンパク質の結合性構造体(82)に対する膜認識エレメントが配置されている複数の所定の線のコヒーレント配置を含有する、鋳型ナノパターン(5)を含み、前記膜認識エレメント(53)が、前記膜認識エレメント(53)に結合した前記細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分(8)によってエバネセント場の光が散乱されるような、前記エバネセント照明器の前記鋳型ナノパターン(5)に基づいて前記細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分(8)内で膜貫通ナノパターンを形成させるために前記膜貫通タンパク質(81)の前記結合性構造体(82)に結合するように構成されており、前記所定の線が、前記膜認識エレメント(53)に結合した前記細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分(8)によって散乱される光が前記コヒーレント光(L)の規定の波長の整数倍である光路長の差異を有する規定の検出部位(7)で建設的に干渉するように配置されている、生体分子検出デバイス(1)。
【請求項2】
前記エバネセント照明器が、平面導波路(3)が表面上に配置されている担体(2)と、前記コヒーレント光が、前記鋳型ナノパターン(5)を含む前記平面導波路(3)の前記第1の表面に沿って伝搬する前記コヒーレント光(L)のエバネセント場を有する前記平面導波路(3)を通って伝搬するように、規定の波長のコヒーレント光(L)を前記導波路(3)中で結合させるための前記光結合ユニットとしての光結合器(4)とを含む、請求項1に記載の生体分子検出デバイス(1)。
【請求項3】
前記エバネセント照明器が、光結合ユニット、特にプリズムによって前記エバネセント照明器の前記第1の表面上に前記所定の波長および所定の角度でコヒーレント光(L)のビームを提供するように構成されている全反射システムである、請求項1に記載の生体分子検出デバイス(1)。
【請求項4】
前記膜認識エレメント(53)が、前記膜貫通タンパク質(81)の少なくとも前記結合性構造体(82)に特異的な抗体であるか、または前記膜認識エレメント(53)が、前記膜貫通タンパク質(81)の前記結合性構造体(82)との共有結合を確立するための求電子部分を含有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の生体分子検出デバイス(1)。
【請求項5】
前記複数の所定の線が、前記膜認識エレメントに結合した前記細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分によって散乱された前記エバネセント場の光が前記規定の検出部位で干渉するように構成されている湾曲部を有する曲線を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の生体分子検出デバイス。
【請求項6】
前記エバネセント照明器の前記第1の表面が、細胞接着物質を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の生体分子検出デバイス。
【請求項7】
少なくとも1つの細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分が、前記膜貫通タンパク質の前記結合性構造体を介して、前記膜認識エレメントに結合している、請求項1から6のいずれか一項に記載の生体分子検出デバイス。
【請求項8】
前記所定の線が、膜認識エレメントを含まない領域によって互いに隔てられ、前記膜認識エレメントを含まない領域が、前記膜貫通タンパク質の前記結合性構造体への構造認識エレメントの結合によって誘導される、光変調を反転させるように構成されており、それにより、前記膜貫通タンパク質の前記結合性構造体への前記構造認識エレメントの結合から得られるシグナルが、前記生体分子検出デバイスの異なる操作ウィンドウに提供され、前記異なる操作ウィンドウが、0に近い強度にある、請求項1から7のいずれか一項に記載の生体分子検出デバイス。
【請求項9】
細胞、小胞または細胞成分と関連する分子相互作用を検出するための、請求項1から6のいずれか一項に記載の生体分子検出デバイスの使用。
【請求項10】
- 請求項1から8のいずれか一項に記載の生体分子検出デバイスが用意され、
- 膜と、細胞外または小胞外結合性構造体を有する少なくとも1つの膜貫通タンパク質とを含む細胞または小胞が、前記膜認識エレメントに適用され、
- 必要に応じて、少なくとも1つの膜貫通タンパク質が、前記膜に沿って側方に拡散され、
- 膜貫通ナノパターンが、前記細胞または前記小胞の前記膜中で形成され、前記膜貫通パターンが、前記エバネセント照明器の前記第1の表面の前記鋳型ナノパターンに少なくとも部分的に一致するように、前記細胞または前記小胞の少なくとも1つの膜貫通タンパク質が、前記エバネセント照明器の前記第1の表面の前記鋳型ナノパターンに従って整列され、
- コヒーレント光のビームが規定の波長を有し、コヒーレント光の入射ビームの回折部分が、前記コヒーレント光の前記規定の波長の整数倍である光路長の差異を有する前記複数の所定の線に対して前記規定の検出部位で建設的に干渉して、前記規定の検出部位で細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の前記膜貫通タンパク質が結合した前記膜認識エレメントを代表するシグナルを提供する様式で、結合した前記膜貫通タンパク質を含む前記膜認識エレメントに入射する、前記複数の所定の線に対して規定のビーム生成位置でコヒーレント光のビームを生成し、
- 細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の膜貫通が結合した前記膜認識エレメントを代表する前記シグナルを測定する、
請求項7に記載の使用。
【請求項11】
細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の前記膜貫通が結合した前記膜認識エレメントを代表する前記測定シグナルと、前記膜認識エレメントのみを代表する未結合のシグナルとを比較するステップをさらに含む、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
細胞が、前記膜認識エレメントに適用され、コヒーレント光の前記ビームを生成する前および好ましくは、前記膜貫通タンパク質を整列させ、前記膜貫通ナノパターンを形成させた後に、前記細胞膜の一部のみが前記生体分子検出デバイス上に残存するように前記細胞が改変される、請求項9または10に記載の使用。
【請求項13】
前記膜貫通タンパク質の前記結合性構造体が、前記生体分子検出デバイスの前記エバネセント照明器の前記規定の線に沿って配置されている抗体に特異的である、請求項9から12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記生体分子相互作用の目的のタンパク質が、高質量部分を含む、請求項9から13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
さらに、特に同時に、蛍光および/または生物発光シグナルが記録される、請求項9から14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分内で膜貫通ナノパターンを生成するための方法であって、
- 請求項1から8のいずれか一項に記載の生体分子検出デバイスを用意するステップ、
- 膜と、細胞外または小胞外結合性構造体を有する少なくとも1つの膜貫通タンパク質とを含む前記細胞または前記小胞を、前記膜認識エレメントに適用するステップ、
- 必要に応じて、少なくとも1つの膜貫通タンパク質を前記膜に沿って側方に拡散させるステップ、
- 前記少なくとも1つの膜貫通タンパク質の前記細胞外結合構造を、前記膜認識エレメントのいずれかに結合させるステップおよび膜貫通パターンが前記エバネセント照明器の前記第1の表面の前記鋳型ナノパターンに少なくとも部分的に一致する、膜貫通ナノパターンが前記細胞または前記小胞の前記膜中で形成されるように、前記エバネセント照明器の前記第1の表面の前記鋳型ナノパターンに従って前記少なくとも1つの膜貫通タンパク質を整列させるステップ
を含む、方法。
【請求項17】
前記膜貫通タンパク質の前記結合性構造体が、前記生体分子検出デバイスの前記エバネセント照明器の前記規定の線に沿って配置されている抗体に特異的である、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子相互作用、特に、細胞内または小胞内相互作用を検出するための生体分子検出デバイスおよびその使用に関する。本発明はさらに、細胞、小胞、人工または細胞成分内で膜貫通ナノパターンを生成するための方法を含む。
【背景技術】
【0002】
検出デバイスは、例えば、多様な用途におけるバイオセンサーとして使用される。1つの特定の用途は、結合親和性またはプロセスの検出またはモニタリングである。例えば、そのようなバイオセンサーを援用して、結合部位への標的試料の結合を検出する様々なアッセイを実施することができる。典型的には、多数のそのようなアッセイは、バイオセンサーの表面上に2次元マイクロアレイに配置されているスポットにおけるバイオセンサー上で実施される。マイクロアレイの使用は、高効率スクリーニングにおける異なる標的試料の結合親和性またはプロセスの同時的検出のための手段を提供する。特定の結合部位に結合する標的試料の親和性、特定の捕捉分子に結合する標的分子の親和性を検出するために、多数の捕捉分子が、個々のスポットにおけるバイオセンサーの外表面上に固定される(例えば、インクジェットスポッティングまたはフォトリソグラフィーによる)。それぞれのスポットは、所定の型の捕捉分子のための個々の測定ゾーンを形成する。特定の型の捕捉分子への標的分子の結合を検出し、それを使用して、特定の捕捉分子に関する標的分子の結合親和性に関する情報を提供する。
【0003】
標的試料の結合親和性を検出するための公知の技術は、蛍光標識を利用する。蛍光標識は、励起時に蛍光を放出することができる。放出された蛍光は、特定のスポットにおける本発明の蛍光標識を同定する特徴的な放出スペクトルを有する。同定された蛍光標識は、標識された標的分子がこのスポットに存在する特定の型の結合部位に結合したことを示す。
【0004】
標識された標的分子を検出するためのセンサーは、論文「Zeptosens’ protein microarrays:A novel high performance microarray platform for low abundance protein analysis」、Proteomics 2002、2,S.383-393、Wiley-VCH Verlag GmbH、69451 Weinheim、Germanyに記載されている。本論文に記載のセンサーは、基質上に配置された平面導波路を含む。平面導波路は、その上に複数の結合部位を結合することができる外表面を有する。さらに、平面導波路は、コヒーレント光のビームが平面導波路に沿って伝搬するような様式で、コヒーレント光のビームを平面導波路中で結合させるための、複数の非結合線を有する。コヒーレント光は、全反射下で平面導波路を通って伝搬し、コヒーレント光のエバネセント場は、平面導波路の外表面に沿って伝搬する。平面導波路の外表面での屈折率の低い方の媒体へのエバネセント場の浸透の深さは、平面導波路を通って伝搬するコヒーレント光の波長のおよそ何分の1といった大きさ程度である。エバネセント場は、平面導波路の表面上に配置された結合部位に結合した標識された標的試料の蛍光標識を励起する。平面導波路の外表面での光学的により薄い媒体へのエバネセント場の浸透の深さが非常に小さいため、平面導波路の外表面上に固定された結合部位に結合した標識された試料のみが励起される。次いで、これらの標識によって放出された蛍光は、CCDカメラを援用して検出される。
【0005】
蛍光標識を使用して結合親和性を検出することは原理的に可能であるが、この技術は、検出されるシグナルが結合パートナー自体よりもむしろ蛍光標識によって産生されるという欠点がある。さらに、標的試料の標識化には、追加の調製ステップが必要である。さらに、標識された標的試料は、比較的高価である。別の欠点は、標的試料の捕捉分子への結合を阻害し得る、標的試料での蛍光標識の立体障害によって引き起こされる結果の歪曲である。さらなる欠点は、標識の退色またはクエンチング効果に起因する結果の歪曲である。さらに、蛍光標識化は、目的の化合物の化学的、生物学的、薬理学的および物理的特性に有意に影響し得る。かくして、蛍光標識化にのみ依拠する測定は、そのような標識の存在によって歪曲され得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
生体試料を分析するための重要な要件は、目的の化合物または構造部分の結合部位への特異的結合と、非特異的結合との識別である。表面プラズモン共鳴(SPR)またはMach Zehnderなどの、この問題に対処するための公知の戦略は、基準測定に強く依拠し、静的条件下での測定にとってのみ好適である。かくして、そのような技術は、典型的には、生きている細胞内での生体分子相互作用の検出などの、高度に複雑な環境の測定にとっては好適ではない。SPRは、センサー表面の近くでの受容体-リガンド結合時の屈折率変化を測定する。しかしながら、この技術は、それが表面の近くでのエバネセント場の全体積において屈折率変化の影響を受けやすいという欠点を有する。すなわち、そのようなセンサーは、感知体積において屈折率を単に積分し、その異なる空間周波数成分を識別することができない。したがって、センサー表面への非特異的結合ならびに温度勾配および異なる緩衝剤組成は、依然として大きな問題を引き起こす。
【0007】
Gタンパク質共役受容体(GPCR)は、疼痛、喘息、炎症、肥満およびがんなどの多くの疾患の発症および進行におけるその関与のため、薬物候補のための特定の優れた標的として発展してきたので、生きている細胞中でのこれらの受容体の詳細な分析は、非常に望ましい。GPCR活性を決定するための全細胞アッセイは、異なる細胞内セカンドメッセンジャー(cAMP、Ca2+)の検出、蛍光タグ付タンパク質の再局在化(受容体へのアレスチン動員もしくは受容体内在化)またはGPCR活性化シグナル伝達カスケードの制御下でのリポーター遺伝子の発現に伝統的に依拠する。しかしながら、上で指摘した通り、蛍光標識化には、タンパク質の過剰発現または蛍光標識の導入などのかなりの生体分子改変が必要であり、これらのことは細胞生理または薬物の薬理を変更し得るため、いつでも可能ではなく、望ましいわけでもない。さらに、GPCRは、典型的には、1より多いエフェクターをモジュレートし、これらのアッセイにおける交差感受性をもたらし得る。
【0008】
共鳴導波路格子バイオセンサーのような、無標識細胞アッセイは、いかなる分子標識も必要としない。一般的には、そのような屈折計センサーは、感知体積を規定する伝搬エバネセント波によってセンサーチップ上で屈折率をモニタリングする。この感知体積内の細胞内容物の再分布は、屈折率の全体的な変化をもたらし、ダイナミックマス再分布(DMR)の高く評価される全体写真を生じさせる。引き換えに、DMRは、本質的に交差感受性であり、これは、異なるGPCR媒介性シグナル伝達経路をセンサーによって時空的にデコンボリューションすることができないことを意味する。
【0009】
したがって、本発明の全体的な目的は、生体分子検出デバイスに関する技術水準を改善すること、それによって、好ましくは、先行技術の欠点を完全に、または部分的に回避することである。
【0010】
好ましい実施形態では、生体分子検出デバイスは、好ましくは、交差感受性を排除しながら、細胞または小胞内での特異的生体分子相互作用を検出するために提供される。
【0011】
さらに好ましい実施形態では、生体分子検出デバイスは、好ましくは、交差感受性を排除しながら、膜貫通タンパク質活性を特異的にモニタリングするために提供される。
【0012】
全体的な目的は、一般に、独立請求項の主題によって達成される。さらなる利点および例示的な実施形態は、以下の説明および図面から得られる。
【0013】
本発明の第1の態様によれば、全体的な目的は、エバネセント照明器の第1の表面上で規定の波長を有するコヒーレント光からエバネセント場を生成するように構成されている光結合ユニットを含むエバネセント照明器を含む、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分、好ましくは生きている細胞を分析するための生体分子検出デバイスによって達成される。エバネセント照明器の第1の表面は、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の、膜貫通タンパク質、好ましくは側方拡散性の膜貫通タンパク質の結合性構造体に対する膜認識エレメントが配置されている複数の所定の線のコヒーレント配置を含有する鋳型ナノパターンを含む。膜認識エレメントは、膜認識エレメントに結合した細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分によってエバネセント場の光が散乱されるような、エバネセント照明器の鋳型ナノパターンに基づいて細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分内で膜貫通ナノパターンを形成させるために膜貫通タンパク質の結合性構造体に結合するように構成されている。所定の線は、膜認識エレメントに結合した細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分によって散乱される光が、コヒーレント光の規定の波長の整数倍である光路長の差異を有する規定の検出部位で建設的に干渉するように配置されている。当業者であれば理解できるように、光路長とは、特定の膜認識エレメントと、規定の検出部位との距離を指す。当業者であれば理解できるように、エバネセント照明器は、光源のコヒーレント光からエバネセント場を生成することができるエレメントである。
【0014】
典型的には、細胞は、生きている細胞であってよい。細胞成分は、例えば、細胞の一部のみ、特に、細胞膜または細胞内コンパートメントの一部のみであってもよい。
【0015】
複数の所定の線は、典型的には、溝、長い突出部、屈折率が周期的に変化する材料などの、複数の格子線を有する光回折格子の鋳型として働くように構成されている。好ましくは、これらの線は、化学的に規定されている。これらの線に沿って、結合性構造体、特に、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の細胞外結合性構造体に対する結合部位として働くことができる膜認識エレメントが配置されている。好ましくは、膜認識エレメントは、目的の膜貫通タンパク質の結合性構造体に特異的に結合するように構成されている。かくして、目的の膜貫通タンパク質のみが、膜認識エレメントに結合することができるが、他のタンパク質は膜認識エレメントに結合することができない。膜認識エレメントは、典型的には、所定の線に共有結合している。
【0016】
一部の典型的な実施形態では、所定の線は、認識エレメントを含まない領域によって互いに隔てられる。例えば、認識エレメントを含まない領域は、必要に応じて、エバネセント照明器の第1の表面に結合しているリンカー、特に、平面導波路を含有してもよく、リンカーは、膜貫通タンパク質の結合性構造体に結合することができない構造部分を有する末端部分を含む。
【0017】
鋳型ナノパターンは、細胞内で側方に拡散する膜貫通タンパク質に選択的に結合し、かくして、細胞自体において膜貫通ナノパターンを生成することによって、生体分子検出デバイスの鋳型ナノパターンを生きている細胞に移動させる。典型的には、複数の異なる所定の線の膜認識エレメントは、同じ細胞に結合する、すなわち、1より多い膜認識エレメントは、単一の細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分に結合するか、または結合するように構成されている。結果として、膜貫通タンパク質の相互作用を含む、任意の生体分子相互作用、さらには、細胞間または細胞内プロセスを選択的に検出することができる。膜認識エレメントと、膜貫通タンパク質の結合性構造体との結合時に、エバネセント光が散乱し、規定の検出部位で建設的に干渉する。散乱光の建設的干渉は、全ての結合した膜貫通タンパク質と関連し、膜貫通タンパク質の数に関して測定された強度の二次スケーリングをもたらす。重要なことに、分子認識エレメントに結合しないバックグラウンド分子の無作為な散乱は、等しい確率で建設的および破壊的の両方で干渉する。結果として、交差感受性は、効率的に抑制される。
【0018】
驚くべきことに、生きている細胞およびまた、小胞がナノメートル規模で非常に起伏がある表面を含む場合であっても、細胞散乱、特に、膜散乱に起因して、交差感受性が観察されることはほとんどない。生きている細胞の測定は、結合した膜認識エレメントで散乱した光を無効化するシグナルによって容易に妨げられ得るが、感度の有意な喪失は観察されなかった。細胞、小胞または細胞成分は、ナノパターンの所定の線の間の距離よりも有意に大きいため、これは驚くべきことである。かくして、一般には、本明細書に開示される実施形態では、複数の異なる所定の線の膜認識エレメントは、同じ細胞に結合する。典型的には、2つの直接隣接する所定の線の間の距離は、単一の細胞の2~100分の1、好ましくは、10~50分の1の大きさである。
【0019】
一部の実施形態では、エバネセント照明器は、担体の表面上に平面導波路が表面上に配置されている担体と、コヒーレント光が、鋳型ナノパターンを含む平面導波路の第1の表面に沿って伝搬するコヒーレント光のエバネセント場を有する平面導波路を通って伝搬するように、規定の波長のコヒーレント光を導波路中で結合させるための光結合ユニットとしての光結合器とを含むか、またはそれである。
【0020】
一部の実施形態では、エバネセント照明器は、光結合ユニット、特にプリズムまたは他の任意の好適な光エレメントによってエバネセント照明器の第1の表面上に所定の波長および所定の角度でコヒーレント光のビームを提供するように構成されている全反射システムである。
【0021】
典型的には、エバネセント照明器に動力を供給するコヒーレント光源および/または平面導波路に沿って伝搬するコヒーレント光は、所定の波長を有し、好ましくは、単色性である。通常、可視光線または近赤外線を使用することができる。コヒーレントエバネセント場は、異なる所定の線上に配置されている膜認識エレメントに結合した細胞、小胞または細胞成分によって形成される散乱中心によって散乱される。任意の位置での散乱強度を、それぞれ個々の散乱中心からの電場寄与を最初に付加すること、および得られる位相ベクトルを2乗することによって決定することができる。所定の検出位置で、異なる散乱中心によって散乱される光の光路長が光の波長の整数倍異なるように、所定の線が配置されるため、散乱強度の最大値は、膜貫通成分がナノパターンに配置されている場合、所定の検出位置に位置する。かくして、膜認識エレメントに結合した細胞、小胞または細胞成分によって散乱される光は、所定の検出位置で建設的に干渉する。建設的干渉の要件は、所定の線の位置から生じる任意の散乱光によって満たされる。所定の検出位置での強度パターンは、限定されるものではないが、回折限界的なエアリーディスクを優先的に形成する。本質的には、フーリエ光学によってアクセス可能な任意の形状が可能である。任意の形状のために、シグナルは整合フィルターを用いて最良に回復可能である。
【0022】
平面偏光中での、屈折率n
0を有する媒体中に埋め込まれた屈折率n
Rを有する単離された膜認識エレメント-膜貫通複合体の散乱は、
【数1】
であり、式中、
rは、目的の化合物から検出部位までの距離であり、
λは、真空波長であり、
I
Rは、膜貫通複合体上に入射する平面偏光場の強度であり、
V
Rは、膜貫通複合体の体積であり;
さらに、
【数2】
であり、式中、
M
Rは、膜貫通複合体のモル質量であり、
N
Aは、アボガドロ定数であり、
【数3】
は、水中でのタンパク質の屈折率増分である。
【0023】
かくして、散乱光の強度は、膜貫通タンパク質が関与する生体分子相互作用中に生じる分子質量増加へのアクセスを提供する。例えば、ある特定のメッセンジャー化合物が膜貫通タンパク質に結合する場合、生体分子検出デバイスは、質量増加の算出を可能にする。さらに、質量増加のため、受容体の二量体化でさえ、交差感受性なしに観察することができる。
【0024】
平面導波路を含むエバネセント照明器の場合、平面導波路は、典型的には、数百ナノメートル、すなわち、1mm未満、特に、300nm未満、好ましくは、100~200nmの範囲の厚さを有する。本明細書における実施形態のいずれかによるエバネセント照明器は通常、導波路を安定化するために、最大1cm、特に、最大0.8mmの厚さを有する。エバネセント場は指数的に減少し、典型的には、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の少なくとも膜に達する。例えば、エバネセント場は、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の最大80~100nmまで浸透してもよい。浸透の深さは、原理的には、平面導波路を含む実施形態では、導波路パラメーターまたは波長を調整すること、ならびに全反射の実施形態の場合では、全反射の波長および角度を調整することによって、適用に対して調整することができる。
【0025】
さらなる実施形態では、膜認識エレメントは、膜貫通タンパク質の少なくとも結合性構造体に特異的である抗体である。あるいは、膜認識エレメントは、膜貫通タンパク質の結合性構造体、特に、グアニンまたはシトシン誘導体との共有結合を確立するための求電子部分を含有する。あるいは、求核部分を用いてもよい。
【0026】
一部の実施形態では、複数の所定の線は、膜認識エレメントに結合した細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分によって散乱されたエバネセント場の光が規定の検出部位で干渉するように構成されている湾曲部を有する曲線を含む。
【0027】
好ましくは、鋳型ナノパターンの全体的な形状は、丸形、特に、円形であってもよい。平面導波路を含む実施形態では、それは好ましくは、導波モードのレンズ効果を回避するために正方形であってもよい。
【0028】
好ましい実施形態では、曲線は、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分によって散乱される光を、所定の検出部位に集中させるために、光の伝搬方向に隣接する線の間の距離を減少させながら配置されている。あるいは、複数の所定の線は、回折光が別の導波モードに結合するように(Bragg条件)、光の伝搬方向に対して規定の角度で配置されている直線を含んでもよい。追加の物理的アウトカップラ-を、回折光を規定の検出部位に集中させるために用いてもよい。あるいは、複数の所定の線は、回折光が検出器のレンズまたはレンズ系によって集中される自由に伝搬するビームを形成するように、光の伝搬方向に対して規定の角度で配置されている直線またはほぼ直線を含んでもよい。さらなる実施形態では、所定の線の隣接する線の間の距離は、1.5μm未満、好ましくは、1μm未満であってもよい。
【0029】
ある特定の実施形態では、規定の線のコヒーレント配置は、最大1000μm、好ましくは、最大500μmの直径を有する円形の輪郭を含む。
【0030】
一部の実施形態では、認識エレメントの数は、1mm2あたり1010個まで、好ましくは、1mm2あたり107~1010個である。
【0031】
さらなる実施形態では、エバネセント照明器の第1の表面は、細胞接着物質を含む。細胞接着物質は、例えば、RGD、YIGSR、IKVAVなどのインテグリン結合ペプチドを含む分子、または硫酸コンドロイチン、ヒアルロン酸などの、他の細胞結合分子を含んでもよい。あるいは、またはさらに、細胞接着物質は、ポリ-リシンなどの正荷電ポリマーおよび/またはフィブロネクチン、コラーゲン、ビトロネクチン、ラミニンなどの天然細胞接着物質または他の好適な細胞接着物質を含有してもよい。
【0032】
一部の実施形態では、少なくとも1つの細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分は、好ましくは、膜貫通タンパク質の細胞外または小胞外結合性構造体を介して、膜認識エレメントに結合している。
【0033】
ある特定の実施形態では、隣接する所定の線の間の距離は、エバネセント場の光の伝搬の方向に減少する。
【0034】
さらなる実施形態では、複数の所定の線は、x
j、y
j座標でのそれらの位置が以下の式によって幾何学的に定義されるような様式でエバネセント照明器の外表面上に配置されている。
【数4】
式中、
λは、伝搬する光の真空波長であり;
Nは、平面導波路中の導波モードの有効屈折率であり;Nは、平面導波路の厚さ、担体の屈折率、平面導波路の第1の表面上の媒体の屈折率および導波モードの偏光に依存し;全反射システムの場合、Nは、全反射の角度:
【数5】
によって表すことができ、
n
sは、担体の屈折率であり、
fは、所定の検出位置の焦点距離であり;
A
0は、波長λで割った、生成物の屈折率n
sおよび担体の所定の検出位置の焦点距離fに近くなるように選択される整数であり;
jは、対応する線の屈折率を示すランニング整数である。
【0035】
選択される整数A0は、負のx値を、負のj値を有する線の中心に割り当て、正のx値を、正のj値を有する線の中心に割り当てる。または、換言すれば、整数A0は、エバネセント照明器の外表面での線の位置のために使用されるx、y座標枠の起源を定義する;選択されるA0値は、x=0、y=0、z=-fに検出位置を置く。
【0036】
一部の実施形態では、平面導波路は、担体の屈折率nsよりも実質的に高く、また、平面導波路の第1の表面上の媒体の屈折率nmedよりも実質的に高い屈折率nwを有する。光エバネセント場の所定の波長は、一般に、40nm~200nmの範囲の浸透深さを有する。用語「実質的により高い」は、全反射の下で伝搬する平面導波路での光の結合を可能にする屈折率の差異を指定すると理解されるべきである。平面導波路に沿って伝搬する光は、平面導波路の外表面に沿って伝搬するエバネセント場を有する。エバネセント場は、屈折率nmed、パラメーターN(平面導波路の場合、これは有効屈折率である)、ならびに伝搬する光の波長に依存する浸透深さを有し、浸透深さは、エバネセント場の光が、外表面上の所定の線の上に、または近くに位置する膜認識エレメントに結合した細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分によってコヒーレントに散乱されるように適合させることができる。上記の浸透深さの近似値は、その正確な境界値を明示的に含むと理解されるべきである。
【0037】
平面導波路のさらなる実施形態では、光結合器と、鋳型ナノパターンとの間の距離は、例えば、5cm~1mmなどの、数センチメートルから1mmの範囲にあってもよい。
【0038】
ある特定の実施形態では、担体は、ガラス製または透明ポリマー製であってもよい。導波路の例示的な材料は、五酸化タンタルなどの遷移金属酸化物である。
【0039】
一部の実施形態では、光結合器は、規定の角度下でのコヒーレント光の平面導波路でのコヒーレント結合を可能にするために、光の伝搬方向に対して垂直である、複数の格子線、特に、真っ直ぐな格子線を含んでもよい。
【0040】
ある特定の実施形態では、生体分子検出デバイスは、1つより多い鋳型ナノパターンを含んでもよい。例えば、デバイスは、単一のナノパターンをそれぞれ含む、1より多い導波路を含んでもよいか、または1つもしくは複数の導波路は、必要に応じて、互いの上に重ね合わせることができる、1つもしくは複数の鋳型ナノパターンをそれぞれ含んでもよい。
【0041】
一部の実施形態では、所定の線は、膜認識エレメントを含まない領域によって互いに隔てられる。これらの領域は、膜貫通タンパク質の結合性構造体への構造認識エレメントの結合によって誘導される、光変調を反転させるように構成されており、それにより、膜貫通タンパク質の結合性構造体への構造認識エレメントの結合から得られるシグナルが、光変調を反転させるように構成されている、膜認識エレメントを含まない領域を有しない生体分子検出デバイスの膜貫通タンパク質の結合性構造体への構造認識エレメントの結合から得られるシグナルと比較した場合、生体分子検出デバイスの異なる操作ウィンドウ(operating window)に提供される。好ましくは、膜貫通タンパク質の結合性構造体への構造認識エレメントの結合から得られるシグナルは、0に近い、好ましくは、本質的に0である。かくして、膜貫通タンパク質の結合性構造体への構造認識エレメントの結合から得られるシグナルは、認識エレメントを含まない領域によって相殺される。シグナルノイズ比は、本質的に0の測定スポット強度で最適であるため、そのような生体分子検出デバイスは、受容体への薬物またはメッセンジャー分子の結合などの、細胞内または小胞内相互作用のより良好な検出を可能にする。
【0042】
ある特定の実施形態では、認識エレメントを含まない領域は、膜貫通タンパク質の結合性構造体への構造認識エレメントの結合によって誘導される、光変調を反転させるように構成されているバイアス質量(biasing mass)を含む。典型的には、バイアス質量は、生体分子検出デバイスの構造認識エレメントに結合するように構成されている、膜貫通タンパク質の質量と一致する。
【0043】
一部の実施形態では、バイアス質量は、非吸収性ナノ粒子またはタンパク質などのポリマー分子である。
【0044】
本発明のさらなる態様によれば、全体的な目的は、細胞、小胞または細胞成分と関連する分子相互作用を検出するための本明細書に記載のいずれかの実施形態に記載の生体分子デバイスの使用によって達成される。特に、その使用は、生体分子相互作用を検出するための方法であってもよい。
【0045】
一部の実施形態では、使用は、本明細書に記載の実施形態のいずれかによる生体分子検出デバイスを用意するステップ;膜と、細胞外または小胞外結合性構造体を有する少なくとも1つの膜貫通タンパク質とを含む細胞または小胞を、膜認識エレメントに適用するステップ;必要に応じて、少なくとも1つの膜貫通タンパク質を膜に沿って側方に拡散させるステップ;膜貫通パターンがエバネセント照明器の第1の表面の鋳型ナノパターンに少なくとも部分的に一致する、膜貫通ナノパターンが細胞または小胞の膜中で形成されるように、エバネセント照明器の第1の表面の鋳型ナノパターンに従って細胞または小胞の少なくとも1つの膜貫通タンパク質を整列させるステップ;コヒーレント光のビームが規定の波長を有し、コヒーレント光の入射ビームの回折部分が、コヒーレント光の規定の波長の整数倍である光路長の差異を有する複数の所定の線に対して規定の検出部位で建設的に干渉して、規定の検出部位で細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の膜貫通タンパク質が結合した膜認識エレメントを代表するシグナルを提供する様式で、結合した膜貫通タンパク質を含む膜認識エレメントに入射する、複数の所定の線に対して規定のビーム生成位置でコヒーレント光のビームを生成するステップ;細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の膜貫通が結合した膜認識エレメントを代表するシグナルを測定するステップを含む。
【0046】
そのような実施形態は、結果として、細胞膜または小胞膜内で側方に拡散することができる膜貫通タンパク質の特性を利用する。かくして、細胞外または小胞外結合構造が生体分子検出デバイスの膜認識エレメントに近づくとすぐに、結合が起こり、膜貫通タンパク質はこの位置に固定される。このプロセスは、複数の膜貫通タンパク質に関して繰り返され、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の膜内のナノパターン、すなわち、膜貫通タンパク質ナノパターン、または一般的には、生体分子検出デバイスの鋳型ナノパターンに少なくとも部分的に、または完全に一致する、膜貫通分子ナノパターンが得られる。
【0047】
さらなる実施形態では、使用は、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の膜貫通タンパク質が結合した膜認識エレメントを代表する測定シグナルと、膜認識エレメントのみを代表する未結合のシグナルとを比較するステップをさらに含む。このステップは、例えば、相互作用する化合物の質量を決定しようとする場合、定量的な結果をもたらし得るため、好ましいが、決定的というわけではない。
【0048】
一部の実施形態では、膜貫通タンパク質の結合性構造体への構造認識エレメントの結合から得られるシグナルが、生体分子検出デバイスの異なる操作ウィンドウであって、好ましくは、0に近い強度にある異なる操作ウィンドウに提供されるように、膜認識エレメントを含まない領域から得られるシグナルは、膜貫通タンパク質の結合性構造体への構造認識エレメントの結合によって誘導される光変調を反転させる。かくして、膜貫通タンパク質の結合性構造体への構造認識エレメントの結合から得られるシグナルは、認識エレメントを含まない領域によって相殺される。シグナルノイズ比は、本質的に0の測定スポット強度で最適であるため、そのような生体分子検出デバイスは、受容体への薬物またはメッセンジャー分子の結合などの、細胞内または小胞内相互作用のより良好な検出を可能にする。
【0049】
さらなる実施形態では、認識エレメントを含まない領域は、膜貫通タンパク質の結合性構造体への構造認識エレメントの結合によって誘導される、光変調を反転させるように構成されているバイアス質量を含む。典型的には、バイアス質量は、生体分子検出デバイスの構造認識エレメントに結合するように構成されている、膜貫通タンパク質の質量と一致する。一部の実施形態では、バイアス質量は、ナノ粒子またはタンパク質などのポリマー分子である。
【0050】
ある特定の実施形態では、細胞は、膜認識エレメントに適用され、コヒーレント光のビームを生成する前および好ましくは、膜貫通タンパク質を整列させ、膜貫通ナノパターンを形成させた後に、細胞膜の一部のみが生体分子検出デバイス上に残存するように細胞が改変される。
【0051】
一部の実施形態では、遺伝子改変された細胞または小胞、特に、生体分子検出デバイスの膜認識エレメントに結合するように構成されている、膜貫通タンパク質の少なくとも結合性構造体を含有するように改変される細胞または小胞が、膜認識エレメントに適用される。そのような細胞は、対応する膜認識エレメントによって特異的に認識され得る、特異的に設計された膜貫通タンパク質の使用を可能にする。
【0052】
さらなる実施形態では、所定の線上の膜認識エレメントに、例えば、膜貫通タンパク質を介して膜貫通に結合することが必要とされる結合部位に加えて、追加の細胞外結合部位または細胞内結合部位を含有するように、膜貫通タンパク質を遺伝子操作することができる。追加の結合部位は、例えば、HA(ヒトインフルエンザヘマグルチニン)、FLAGまたは6His親和性タグまたは既知の分子質量を有する分子の結合を可能にする任意の部分であってもよい。それを、細胞内で自発的に発現させるか、またはデバイスに付加することができる。これは、所定の線上の固定される膜貫通タンパク質の数を正確に定量することができるという利点を有する。蛍光イメージングを使用して、細胞の数を決定することができ、細胞あたりの固定される膜貫通タンパク質の平均数を提供することができる。
【0053】
さらなる実施形態では、膜貫通タンパク質の結合性構造体は、生体分子検出デバイスのエバネセント照明器の規定の線に沿って配置されている抗体に特異的である。
【0054】
一部の実施形態では、コヒーレント光の光ビームは、規定の結合時間後にのみ生成される。例えば、結合時間は、4h未満、特に、2h未満であってもよい。ある特定の実施形態では、規定の結合時間は、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分が膜認識エレメントに適用された後、0.5~4h、特に、1.5~3hであってもよい。この期間の後、大量の膜貫通タンパク質が膜認識エレメントに結合し、ナノパターンが膜内で確立されることが観察された。明らかに、ナノパターンの形成を観察しようとする場合、コヒーレント光の光ビームは、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の適用と同時に、またはその直後に生成され得る。
【0055】
一部の実施形態では、膜貫通タンパク質は、細胞内もしくは小胞内蛍光タンパク質または他の細胞内エレメントと相互作用するタンパク質を含む。かくして、生体分子検出デバイスを、最先端の蛍光分光法と組み合わせることができる。細胞内または小胞内タンパク質が、追加の細胞内エレメントと相互作用するように構成されている場合、追加の細胞エレメントの相互作用の質量増加は測定シグナルの強度の変化を必然的に伴うため、細胞内シグナル伝達経路全体を観察することができる。
【0056】
さらなる実施形態では、生体分子相互作用の目的のタンパク質は、高質量部分を含む。より高い分子質量は得られるシグナルの強度に対する有益な効果を有し、かくして、単一細胞の測定さえ可能にするため、そのような高質量部分の使用は有益である。当業者であれば理解できるように、高質量部分は、典型的には、残りの膜貫通タンパク質よりも有意に大きい分子量を有する。例えば、高質量部分は、150kDaの、またはそれより大きい分子量を有してもよい。
【0057】
一部の実施形態では、さらに、特に同時に、蛍光シグナルおよび/または生物発光および/または屈折シグナルが記録される。導波を含む実施形態の場合、特に、平面導波路では、エバネセント照明器の第1の表面上で総質量変化を構成する屈折シグナルを、所定の検出位置のシフトから決定することができる。
【数6】
ΔΓは、エバネセント照明器の表面上での総質量密度変化であり、
【数7】
は、タンパク質の屈折率増分であり、
fは、所定の検出位置の焦点距離であり、
t
effは、導波モードの有効厚さであり、
Nは、導波モードの有効屈折率であり、
n
cは、被覆媒体の屈折率であり、
n
fは、導波フィルムの屈折率であり、
Δxは、焦点平面中の所定の検出位置のシフトである。
【0058】
さらなる実施形態では、単一の細胞もしくは単一の小胞が、膜認識エレメントに適用されるか、または複数の細胞もしくは小胞が、膜認識エレメントに適用される。
【0059】
一部の実施形態では、適用される細胞の細胞密度は、0.001~0.02細胞/μm2、好ましくは、0.005~0.01細胞/μm2である。他の実施形態では、小胞密度は、最大200、好ましくは、最大100個の小胞/μm2の範囲にある。
【0060】
さらなる実施形態では、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の膜貫通タンパク質が結合した膜認識エレメントを代表する分子相互作用のシグナルは、膜貫通タンパク質と、細胞内成分との直接的または間接的分子相互作用と関連する。
【0061】
一部の実施形態では、規定の検出部位で、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の膜貫通タンパク質が結合した膜認識エレメントを代表する分子相互作用のシグナルを測定するステップは、複数回、特に、規則的な規定の時間間隔で実施される。
【0062】
さらなる実施形態では、測定の少なくとも一部において得られるシグナルは、膜貫通タンパク質と、以前の測定中に測定された分子相互作用とは異なる細胞間成分との直接的または間接的分子相互作用と関連する。
【0063】
本発明のさらなる態様によれば、全体的な目的は、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分内で膜貫通ナノパターンを生成するための方法であって、本明細書に記載の実施形態のいずれかによる生体分子検出デバイスを用意するステップ、膜と、細胞外または小胞外結合性構造体を有する少なくとも1つの膜貫通タンパク質とを含む細胞または小胞を、膜認識エレメントに適用するステップ、必要に応じて、少なくとも1つの膜貫通タンパク質を膜に沿って側方に拡散させるステップ、少なくとも1つの膜貫通タンパク質の細胞外結合構造を、膜認識エレメントのいずれかに結合させるステップ、および膜貫通パターンがエバネセント照明器の第1の表面の鋳型ナノパターンに少なくとも部分的または完全に一致する、膜貫通ナノパターンが細胞または小胞の膜中で形成されるように、エバネセント照明器の第1の表面の鋳型ナノパターンに従って少なくとも1つの膜貫通タンパク質を整列させるステップを含む方法によって達成される。
【0064】
一部の実施形態では、遺伝子改変された細胞または小胞、特に、生体分子検出デバイスの膜認識エレメントに結合するように構成されている、膜貫通タンパク質の少なくとも結合性構造体を含有するように改変される細胞または小胞が、膜認識エレメントに適用される。
【0065】
さらなる実施形態では、膜中で膜貫通ナノパターンの形成までの細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分を適用する時間は、0.5~4h、好ましくは、1.5~3hの範囲である。
【0066】
一部の実施形態では、膜貫通タンパク質の細胞外結合性構造体は、生体分子検出デバイスのエバネセント照明器の規定の線に沿って配置されている抗体に特異的である。好ましくは、抗体は、膜貫通タンパク質の親和性タグを認識するように構成されている。親和性タグは、例えば、HA(ヒトインフルエンザヘマグルチニン)、FLAGまたは6His親和性タグであってもよい。
【0067】
一部の実施形態では、膜貫通タンパク質は、細胞内もしくは小胞内蛍光タンパク質または他の細胞内エレメントと相互作用するように構成されているタンパク質を含む。好ましくは、タンパク質は、他の細胞内エレメントと特異的に相互作用するように構成されている。
【0068】
一部の実施形態では、単一の細胞もしくは単一の小胞が、膜認識エレメントに適用されるか、または複数の細胞もしくは小胞が、膜認識エレメントに適用される。
【0069】
さらなる実施形態では、適用される細胞の細胞密度は、0.001~0.02細胞/μm2、好ましくは、0.005~0.01細胞/μm2である。
【0070】
本発明は、以下の条項によってさらに説明される。
【0071】
条項1:細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分を分析するための生体分子検出デバイス(1)であって、生体分子検出デバイスが、エバネセント照明器の第1の表面上で規定の波長を有するコヒーレント光からエバネセント場を生成するように構成されている光結合ユニットを含むエバネセント照明器を含み、前記エバネセント照明器の前記第1の表面が、前記細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分(8)の膜貫通タンパク質(81)、好ましくは側方拡散性の膜貫通タンパク質の結合性構造体(82)に対する膜認識エレメントが配置されている複数の所定の線のコヒーレント配置を含有する、鋳型ナノパターン(5)を含み、前記膜認識エレメント(53)が、前記膜認識エレメント(53)に結合した前記細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分(8)によってエバネセント場の光が散乱されるような、前記エバネセント照明器(3)の前記鋳型ナノパターン(5)に基づいて前記細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分(8)内で膜貫通ナノパターンを形成させるために前記膜貫通タンパク質(81)の前記結合性構造体(82)に結合するように構成されており、前記所定の線が、前記膜認識エレメント(53)に結合した前記細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分(8)によって散乱される光が前記コヒーレント光(L)の規定の波長の整数倍である光路長の差異を有する規定の検出部位(7)で建設的に干渉するように配置されている、生体分子検出デバイス(1)。
【0072】
条項2:前記エバネセント照明器が、平面導波路(3)が表面上に配置されている担体(2)と、前記コヒーレント光が、前記鋳型ナノパターン(5)を含む前記平面導波路(3)の前記第1の表面に沿って伝搬する前記コヒーレント光(L)のエバネセント場を有する前記平面導波路(3)を通って伝搬するように、規定の波長のコヒーレント光(L)を前記導波路(3)中で結合させるための前記光結合ユニットとしての光結合器(4)とを含む、条項1に記載の生体分子検出デバイス(1)。
【0073】
条項3:前記エバネセント照明器が、光結合ユニット、特にプリズムによって前記エバネセント照明器の前記第1の表面上に前記所定の波長および所定の角度でコヒーレント光(L)のビームを提供するように構成されている全反射システム(□)である、条項1に記載の生体分子検出デバイス(1)。
【0074】
条項4:前記膜認識エレメント(53)が、前記膜貫通タンパク質(81)の少なくとも前記結合性構造体(82)に特異的な抗体であるか、または前記膜認識エレメント(53)が、前記膜貫通タンパク質(81)の前記結合性構造体(82)、特に、グアニンもしくはシトシン誘導体との共有結合を確立するための求電子部分を含有する、前記条項のいずれかに記載の生体分子検出デバイス(1)。
【0075】
条項5:前記複数の所定の線が、前記膜認識エレメントに結合した前記細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分によって散乱された前記エバネセント場の光が前記規定の検出部位で干渉するように構成された湾曲部を有する曲線を含む、前記条項のいずれかに記載の生体分子検出デバイス。
【0076】
条項6:前記規定の線のコヒーレント配置が、円形の輪郭を含み、前記円形の輪郭が、最大1000μm、好ましくは、最大500μmの直径を有する、条項3に記載の生体分子検出デバイス。
【0077】
条項7:前記認識エレメントの数が、1mm2あたり最大1010個である、前記条項のいずれかに記載の生体分子検出デバイス。
【0078】
条項8:前記エバネセント照明器の前記第1の表面が、細胞接着物質を含む、前記条項のいずれかに記載の生体分子検出デバイス。
【0079】
条項9:少なくとも1つの細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分が、前記膜貫通タンパク質の前記結合性構造体を介して、前記膜認識エレメントに結合している、前記条項のいずれかに記載の生体分子検出デバイス。
【0080】
条項10:前記所定の線が、膜認識エレメントを含まない領域によって互いに隔てられ、前記膜認識エレメントを含まない領域が、前記膜貫通タンパク質の前記結合性構造体への構造認識エレメントの結合によって誘導される、光変調を反転させるように構成されており、前記膜貫通タンパク質の前記結合性構造体への前記構造認識エレメントの結合から得られるシグナルが、生体分子検出デバイスの異なる操作ウィンドウに提供され、前記異なる操作ウィンドウが、0に近い強度にある、前記条項のいずれかに記載の生体分子検出デバイス。
【0081】
条項11:前記認識エレメントを含まない領域が、前記光変調を反転させるように構成されているバイアス質量を含む、条項8に記載の生体分子検出デバイス。
【0082】
条項12:細胞、小胞または細胞成分と関連する分子相互作用を検出するための、条項1から9のいずれかに記載の生体分子検出デバイスの使用。
【0083】
条項13:
- 条項1から11のいずれかに記載の生体分子検出デバイスが用意される;
- 膜と、細胞外または小胞外結合性構造体を有する少なくとも1つの膜貫通タンパク質とを含む細胞または小胞が、前記膜認識エレメントに適用される;
- 必要に応じて、少なくとも1つの膜貫通タンパク質が、膜に沿って側方に拡散される;
- 膜貫通ナノパターンが、前記細胞または前記小胞の前記膜中で形成され、前記膜貫通パターンが、前記エバネセント照明器の前記第1の表面の前記鋳型ナノパターンに少なくとも部分的に一致するように、前記細胞または前記小胞の少なくとも1つの膜貫通タンパク質が、前記エバネセント照明器の前記第1の表面の前記鋳型ナノパターンに従って整列される;
- コヒーレント光のビームが規定の波長を有し、コヒーレント光の入射ビームの回折部分が、前記コヒーレント光の前記規定の波長の整数倍である光路長の差異を有する前記複数の所定の線に対して前記規定の検出部位で建設的に干渉して、前記規定の検出部位で細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の前記膜貫通タンパク質が結合した前記膜認識エレメントを代表するシグナルを提供する様式で、結合した前記膜貫通タンパク質を含む前記膜認識エレメントに入射する、前記複数の所定の線に対して規定のビーム生成位置でコヒーレント光のビームを生成する;
- 細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の前記膜貫通が結合した前記膜認識エレメントを代表する前記シグナルを測定する、
条項10に記載の使用。
【0084】
条項14:細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の前記膜貫通が結合した前記膜認識エレメントを代表する前記測定シグナルと、前記膜認識エレメントのみを代表する未結合のシグナルとを比較するステップをさらに含む、条項11に記載の使用。
【0085】
条項15:細胞が、前記膜認識エレメントに適用され、コヒーレント光の前記ビームを生成する前および好ましくは、前記膜貫通タンパク質を整列させ、前記膜貫通ナノパターンを形成させた後に、前記細胞膜の一部のみが前記生体分子検出デバイス上に残存するように細胞が改変される、条項10から12のいずれかに記載の使用。
【0086】
条項16:遺伝子改変された細胞または小胞、特に、前記生体分子検出デバイスの前記膜認識エレメントに結合するように構成されている、前記膜貫通タンパク質の少なくとも結合性構造体を含有するように改変される細胞または小胞が、前記膜認識エレメントに適用される、条項10から13のいずれかに記載の使用。
【0087】
条項17:前記膜貫通タンパク質の前記結合性構造体が、前記生体分子検出デバイスの前記エバネセント照明器の前記規定の線に沿って配置されている抗体に特異的である、条項10から14のいずれかに記載の使用。
【0088】
条項18:コヒーレント光の前記光ビームの生成が、規定の結合時間後にのみ実施される、条項10から15のいずれかに記載の使用。
【0089】
条項19:前記膜貫通タンパク質が、細胞内もしくは小胞内蛍光タンパク質または他の細胞内エレメントと相互作用するタンパク質を含む、条項10から16のいずれかに記載の使用。
【0090】
条項20:前記生体分子相互作用の目的のタンパク質が、高質量部分を含む、条項10から17のいずれかに記載の使用。
【0091】
条項21:さらに、特に、同時に、蛍光および/または生物発光シグナルが記録される、条項10から18のいずれかに記載の使用。
【0092】
条項22:単一の細胞もしくは単一の小胞が前記膜認識エレメントに適用されるか、または複数の細胞もしくは小胞が前記膜認識エレメントに適用される、条項10から19のいずれかに記載の使用。
【0093】
条項23:適用される前記細胞の細胞密度が、0.001~0.02細胞/μm2、好ましくは、0.005~0.01細胞/μm2である、条項10から20のいずれかに記載の使用。
【0094】
条項24:細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の前記膜貫通が結合した膜認識エレメントを代表する分子相互作用のシグナルが、前記膜貫通タンパク質と、細胞内成分との直接的または間接的分子相互作用と関連する、条項10から21のいずれかに記載の使用。
【0095】
条項25:前記規定の検出部位で、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分の前記膜貫通が結合した前記膜認識エレメントを代表する分子相互作用のシグナルを測定するステップが、複数回、特に、規則的な規定の時間間隔で実施される、条項10から22のいずれかに記載の使用。
【0096】
条項26:前記測定の少なくとも一部において得られるシグナルが、前記膜貫通タンパク質と、以前の測定中に測定された前記分子相互作用とは異なる細胞間成分との直接的または間接的分子相互作用と関連する、条項23に記載の使用。
【0097】
条項27:前記膜貫通タンパク質が、前記所定の線上の前記膜認識エレメントに前記膜貫通を結合させるのに必要とされる前記結合部位に加えて、追加の細胞外結合部位または細胞内結合部位を含有するように遺伝子操作される、条項10から24のいずれかに記載の使用。
【0098】
条項28:細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分内で膜貫通ナノパターンを生成するための方法であって、
- 条項1から11のいずれかに記載の生体分子検出デバイスを用意するステップ;
- 膜と、細胞外または小胞外結合性構造体を有する少なくとも1つの膜貫通タンパク質とを含む細胞または小胞を、前記膜認識エレメントに適用するステップ;
- 必要に応じて、少なくとも1つの膜貫通タンパク質を膜に沿って側方に拡散させるステップ;
- 少なくとも1つの膜貫通タンパク質の前記細胞外結合構造を、前記膜認識エレメントのいずれかに結合させるステップおよび前記膜貫通パターンが前記エバネセント照明器の前記第1の表面の前記鋳型ナノパターンに少なくとも部分的に一致する、膜貫通ナノパターンが前記細胞または前記小胞の前記膜中で形成されるように、前記エバネセント照明器の前記第1の表面の前記鋳型ナノパターンに従って少なくとも1つの膜貫通タンパク質を整列させるステップ
を含む、方法。
【0099】
条項29:遺伝子改変された細胞または小胞、特に、前記生体分子検出デバイスの前記膜認識エレメントに結合するように構成されている、前記膜貫通タンパク質の少なくとも結合性構造体を含有するように改変される細胞または小胞が、前記膜認識エレメントに適用される、条項26に記載の方法。
【0100】
条項30:前記膜中での前記膜貫通ナノパターンの形成までの前記細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分を適用する時間が、0.5~4h、好ましくは、1.5~3hの範囲である、条項26または27に記載の方法。
【0101】
条項31:前記膜貫通タンパク質の前記結合性構造体が、前記生体分子検出デバイスの前記エバネセント照明器の前記規定の線に沿って配置されている抗体に特異的である、条項26から28のいずれかに記載の方法。
【0102】
条項32:前記膜貫通タンパク質が、細胞内もしくは小胞内蛍光タンパク質または他の細胞内エレメントと相互作用するタンパク質を含む、条項26から29のいずれかに記載の方法。
【0103】
条項33:単一の細胞もしくは単一の小胞が前記膜認識エレメントに適用されるか、または複数の細胞もしくは小胞が前記膜認識エレメントに適用される、条項25から30のいずれかに記載の方法。
【0104】
条項34:適用される前記細胞の細胞密度が、0.001~0.02細胞/μm2、好ましくは、0.005~0.01細胞/μm2である、条項26から31のいずれかに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【
図1】本発明の第1の実施形態による生体分子検出デバイスの略図である。
【
図2】本発明の別の実施形態による生体分子検出デバイスの断面図である。
【
図3】
図3aおよび3bは、細胞の膜および本発明の実施形態による生体分子検出デバイスの導波路の拡大図である。
【
図4】
図4a~4cは、細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分内でのナノパターンの生成中に本発明の実施形態による生体分子検出デバイスによって得られるシグナルを示すグラフである。
【
図5】
図5aおよび5bは、本発明による生体分子検出デバイスへのHEK293細胞の適用、さらに、β
2ARの刺激および阻害から得られるシグナルを示すグラフである。
【
図6】
図6aおよび6bは、本発明による生体分子検出デバイスへのHEK293細胞の適用、さらに、オフターゲット刺激剤(
図6a)ならびにオンターゲット刺激剤(
図6b)を含む陽性対照の適用から得られるシグナルを示すグラフである。
【
図7】
図7aおよび7bは、本発明の別の実施形態による生体分子検出デバイスの略図である。
【
図8】
図8aおよび8bは、本発明の別の実施形態による生体分子検出デバイスの略図である。
【発明を実施するための形態】
【0106】
図1は、本発明の実施形態による生体分子検出デバイス(1)を示す。生体分子検出デバイス(1)は、この実施形態では、平面導波路(3)が配置されている表面を有する担体(2)を含む、エバネセント照明器を含む。検出デバイスは、コヒーレント光が、平面導波路(3)の第1の表面に沿って伝搬するコヒーレント光のエバネセント場を有する平面導波路を通って伝搬するように、規定の波長のコヒーレント光(L)を平面導波路(3)中で結合させるための光結合器(4)をさらに含む。平面導波路の第1の表面は、担体(2)から見て外を向く表面、すなわち、
図1に見られる表面である。光結合器(4)の他に、導波路(3)の第1の表面は、膜認識エレメントが配置されている(
図1には示されていない)複数の所定の線を含有する、鋳型ナノパターン(5)を含む。一般に、光源(6)は、光結合器(4)に向かうコヒーレント光(L)の入射ビームを提供するために用いられる。光結合器(4)は、コヒーレント光(L)が鋳型ナノパターン(5)に向かって
図1に示される矢印の方向に伝搬する際に、コヒーレント光(L)を平面導波路(3)中で結合させる。膜認識エレメントが細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分に結合する場合、光が散乱され、膜認識エレメントに結合した細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分によって散乱された光が、規定の検出部位(7)で建設的に干渉するように配置されている規定の線に起因する。示される特定の実施形態では、所定の線は、膜認識エレメントに結合した細胞、小胞または細胞成分もしくは小胞成分によって散乱されたエバネセント場の光が規定の検出部位(7)で干渉するように構成されている湾曲部を有する曲線である。鋳型ナノパターン(5)のそれぞれの膜認識エレメントと、検出部位(7)との距離は、光路長と称される。
【0107】
図2は、平面導波路(3)を通る光(L)の伝搬方向に沿った鋳型ナノパターン(5)を通る
図1に示される生体分子検出デバイス(1)の断面図を示す。デバイス(1)は、表面上に導波路(3)が配置されている担体(2)を含有する。平面導波路(3)の第1の表面の頂部に生きている細胞(8)が配置されている。さらに、鋳型ナノパターン(5)は、突起部(51)および溝(52)を含む。突起部(ridge)(51)は、膜認識エレメントが配置されている領域である。溝(52)は、膜認識エレメントを含有しない領域である。かくして、細胞(8)の膜貫通タンパク質の結合性構造体は、対応する突起部でのみナノパターン(5)に結合することができる。細胞、ナノパターン、導波路および担体の幅は、その実際の幅または幅比の指標を提供するものではないことに留意すべきである。
【0108】
図3aは、細胞(8)が導波路の第1の表面に適用された直後の、
図2の生体分子検出デバイスの拡大された略図を示す。細胞は、細胞外結合性構造体(82)を有する膜貫通タンパク質(81)を含む。示される特定の実施形態では、膜貫通タンパク質は、Gタンパク質共役受容体(GPCR)である。導波路の鋳型ナノパターンは、膜認識エレメント(53)を含む突起部(51)を有する所定の線を含む。見られるように、膜貫通タンパク質の結合性構造体(82)は、まだ膜認識エレメント(53)と相互作用することができない。
【0109】
図3bの下側部分では、GPCRは膜内で側方に拡散し、それによって、細胞外結合性構造体の膜認識エレメントへの結合を可能にした。結果として、それぞれ結合したGPCRは、膜内の特定の位置に固定される。膜認識エレメントに結合した全てのGPCRの全体の配置は、導波路の鋳型ナノパターンに一致するナノパターンである。換言すれば、導波路の鋳型ナノパターンは、細胞中で変換されている。
図3bの上側部分は、膜(i)中で形成されるナノパターンの細胞外部分へのリガンド(86)の結合を示す。リガンドの結合は、質量増加を伴い、測定シグナルの増大をもたらす。リガンド(86)の結合は、細胞内相互作用をもたらす。Gタンパク質シグナル伝達は、リガンド結合によって影響され、Gαサブユニット(83)、Gβサブユニット(84)およびGγサブユニット(85)が放出される。この放出は、質量減少を引き起こし、観測シグナル(ii)の減少を誘発する。受容体脱感作には、細胞質タンパク質(87)の動員が必要であり、これは再度、質量増加を引き起こし、かくして、観測シグナルの増大を誘発する。交差感受性が存在しないため、特定の時点での複合体の質量に関する直接的な情報を得ることができる。
【0110】
図4aおよび4bは、本明細書に記載の生体分子検出デバイスを使用することによって得られる理想的な出力シグナルを例示する。
図4aでは、測定が開始し、膜貫通タンパク質の結合性構造体は導波路の膜認識エレメントにまだ結合していないため、一定の応答が得られる。結合が起こった場合、測定シグナルは、それが定常値に達するまで増大する(すなわち、全てのあり得る結合性構造体が膜認識エレメントに結合する時、
図4bを参照されたい)。
図4cは、自己反応性SNAPタグタンパク質が融合された、HEK293細胞中のβ
2AR(ベータ-2アドレナリン受容体)を、生体分子検出デバイスのナノパターンの分子認識エレメントに結合させることによって得られる実験的観測シグナルを示す。この特定の実施形態では、SNAPタグタンパク質は、導波路に結合するBG-NH
2誘導体に結合する。見られるように、約80~100min後、一定のシグナルが観察される。
【0111】
図5aは、ナノパターンのリアルタイム形成およびさらに、用いられたHEK293細胞の刺激および阻害から得られた応答を示す。
図5aを参照すると、0~150minでの測定シグナルの最初の増大は、細胞膜内でのナノパターンの形成に一致する。150minで、培養を、シグナルの減少をもたらすアッセイ緩衝剤に変化させた。
図5bは、
図5aにおける破線領域の拡大図を示す。約200minで、細胞を1μMイソプロテレノールで刺激したところ、測定シグナルの増大が得られた。約225minでのイソプロテレノールと10μMのICI 155.881との競合的阻害は、シグナルの減少および初期状態の部分的回復をもたらす。この測定は、観測シグナルが、観察される細胞内相互作用の結果であり、遊離SNAPタグが分子認識エレメントに結合した結果だけではないことを証明する。
【0112】
図6aは、オフターゲットアデノシン受容体を活性化するための5μM NECAによるHEK293細胞の刺激時に得られたシグナルを示す。初期測定シグナル強度のわずかな変動のため、初期質量に対する、受容体での質量増加が描写される。しかしながら、オフターゲット受容体からの寄与がない場合、この質量増加は、固定された受容体複合体の分子量と比較した分子量増加に一致する(全ての受容体が活性化されたと仮定する)。この結果は、NECAを用いたアデノシン受容体の活性化時に有意なシグナル変化が観察されないことを示す。対照的に、1μMイソプロテレノールを用いた対照実験は、
図4cに既に示されたシグナルの増大をもたらす。まとめると、これらの結果は、実際には、オフターゲット相互作用の交差感受性は観察されず、これらの相互作用は測定結果に影響しないことを示す。上で説明した通り、交差感受性が存在しない理由は、アデノシン受容体が分子認識エレメントに結合せず、したがって、散乱光が検出部位で受信されないということである。事実、無作為に分布する受容体は、非干渉性の方法で光を散乱し、かくして、この集中効果に関与しない。同様に、細胞体に対する形態学的変化は、その性質において非干渉性であり、したがって、いずれの測定シグナルにも寄与しない。これは、DMRや、特異的と、非特異的の両方の分子相互作用ならびに細胞に対する形態学的変化を記録する他の無標識アッセイとは著しく対照的である。結果として、細胞形態は、GPCRが活性化されるかどうかの疑問に答えることができるだけでなく、関与する分子の時間的出現および進行ならびに質量にも光を投じることができる。
【0113】
図7aおよび7bは、本発明の実施形態による生体分子検出デバイス(1’)を示す。デバイス(1’)は、エバネセント照明器(2’)の第1の表面上で光源(6’)の規定の波長を有するコヒーレント光からエバネセント場(9’)を生成するように構成されている光結合ユニット(4’)を有するエバネセント照明器(2’)を含む。エバネセント照明器(2’)の第1の表面は、細胞(8’)の膜貫通タンパク質(81)の結合性構造体に対する膜認識エレメントに沿った複数の所定の線のコヒーレント配置を含有する鋳型ナノパターン(5’)を含む。見られるように、膜認識エレメントと、側方に拡散し得る膜貫通タンパク質(81)との化学結合を確立することによって、エバネセント照明器(2’)のナノパターン(5’)は、膜貫通ナノパターンとして細胞に輸送される。
図7a中の実施形態では、光源(6’)および検出ユニット(7’)は、物理的に隔てられた構成要素であるが、
図7bに示される実施形態では、それらはエバネセント照明器(2’)の一体となっている部分である。
【0114】
図8aおよび8bは、本発明による生体分子検出デバイス(1’’)の代替的な実施形態を示す。生体分子検出デバイス(1)は、これらの特定の実施形態では、光結合ユニット(4’’)によってエバネセント照明器の第1の表面上に、光源(6’’)からの所定の波長および所定の角度でコヒーレント光のビームを提供するように構成されている全反射システムであるエバネセント照明器を含む。これらの実施形態では、光結合ユニットは、プリズムである。
図8aに示される実施形態では、エバネセント照明器は、屈折率整合油、DMSO、グリセロール、水混合物、ヒドロゲルなどの屈折率整合媒体(11’’)と、鋳型ナノパターン(5’’)を含有する担体スライド(12’’)とを含む。あるいは、
図8bに示されるように、エバネセント照明器は、屈折率整合媒体(11’’)および担体スライド(12’’)を含まなくてもよい。この場合、ナノパターン(5’’)は、光結合ユニット(4’’)、すなわち、プリズムの第1の表面上に直接提供される。
【0115】
材料および方法
L-グルタミンを含む細胞培養培地DMEM High Glucose(4.5g/l)(BioConcept、Switzerland)、Lipofectamine(登録商標)2000、Opti-MEM(登録商標)I(1x)Versene 1:5000(1X)、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、Zeozin(商標)を、Life Technologies Europe(Zug、Switzerland)から購入した。HEPESは、GERBU Biotechnik GmbH(Heidelberg、Germany)からのものであり、ウシ胎仔血清(FBS)はSigma-Aldrich Chemie GmbH(Buchs SG、Switzerland)から購入した。G418は、InvivoGen(San Diego、USA)からのものであり、組織培養フラスコはVWR International GmbH(Dietikon、Switzerland)からのものであり、Biofil(登録商標)組織培養プレート24ウェルは、Axon Lab AG(Baden-Dattwil、Switzerland)からのものであった。Corning Costarの滅菌黒色96ウェルプレート、透明底、TC処理、ポリ-D-リシンコーティングは、Vitaris AG(Baar、Switzerland)からのからのものであり、カスタムコーティングCulturPlate-96、乳白色96ウェルマイクロプレート、滅菌および組織培養処理およびViewPlate-96、透明底を有する白色96ウェルマイクロプレート、滅菌および組織培養処理はPerkin Elmer(Schwerzenbach、Switzerland)からのものであった。TPP6ウェル組織培養プレートは、Faust Laborbedarf AG(Schaffhausen、Switzerland)からのものであり、セレンテラジン400a、ディープブルーC(DBC)は、Cayman Chemical(Ann Arbor、Michigan、United States)から購入した。GRGDSPGSC-(DBCO)ペプチドは、LifeTein、LLC(Somerset、NJ、USA)によってカスタム合成した。BG-GLA-NHSは、BioConcept Ltd.(Alschwil、Switzerland)から取得した。アジド-PEG4-NHSは、Jena Bioscience(Jena、Germany)から取得した。生体適合性コーティングとして使用されるPAA-g-PEG-NH-PhSNPPOCコポリマーは、SuSoSによって提供された。イソプロテレノール塩酸塩およびホルモテロールヘミフマレートは、Tocris Bioscience(Bristol、UK)から購入した。ICl 118.551ヒドロクロリド、フルオレセイン-O’-酢酸および他の全ての化学物質は、Sigma-Aldrich Chemie GmbH(Buchs SG、Switzerland)から購入した。145nmのTa2O5層を有する薄膜光導波路は、Zeptosensから取得し、1μmの厚さのSiO2層で被覆されたインおよびアウト結合格子は、IMT Masken und Teilungen AG(Greifensee、Switzerland)によるものであった。
【0116】
発現構築物
ベータ-アレスチン2-mPlum:mPlumコード配列を、PCR(Phusionポリメラーゼ、Finnzymes)によって増幅し、ベータ-アレスチン2コード配列を含有するpcDNA3発現ベクターに導入した。
【0117】
ベータ-アレスチン2-GFP:ベータ-アレスチン2コード配列をPCR(Phusion 5ポリメラーゼ、Finnzymes)によって増幅し、pEGFP(Clonetech)発現ベクターに導入した。
【0118】
細胞株および細胞培養物
SNAP-ベータ2-アドレナリン受容体(SNAP-β2ARと称される)を安定に発現するHEK293細胞株を、Cisbio(Codolet、France)から購入した。全てのHEK293細胞を安定に過剰発現するHEK293を、10%v/vウシ胎仔血清および600μg/mlのG418を添加したDMEM中、37℃、5%CO2で培養した。
【0119】
センサーチップの調製
薄膜光導波路を、以前に報告されたものと同様のプロトコールで処理した(Nat.Nanotechnology 2017,DOI:10.1038/NNANO.2017.168)。手短に言うと、導波路を、0.1%水性Tween20で洗浄した後、MilliQ水、イソプロパノールおよびトルエン中で超音波支援洗浄を行った。次いで、チップを、温かいHellmanex III中に1min浸し、MilliQ水で完全にすすぎ、高酸化Piranha溶液(H2SO4/H2O2 7:3)で30min清浄した。MilliQ水で過剰に洗浄した後、チップを800rcfで2min、遠心脱水し、酸素プラズマによって活性化した。プラズマ処理後、チップをすぐにPAA-g-PEG-NH-PhSNPPOCグラフトコポリマーコーティング溶液(1mM HEPES pH7.4中の0.1mg/ml)中に60min浸した。層を完全に不動態化するために、チップをMilliQ水およびエタノールで洗浄し、2当量のN,N-ジイソプロピルエチルアミンを含有する無水アセトニトリル中のクロロギ酸メチルの25mM溶液中に5min浸した。コーティングされたチップを、エタノールおよびMilliQ水で洗浄し、窒素ジェットによって乾燥させた。調製されたセンサーチップを、さらなる使用まで4℃で暗室中で保存した。
【0120】
鋳型ナノパターンの調製
鋳型ナノパターンを、記載された標準的な反応性液浸リソグラフィー(RIL)プロセスに従って調製した(Nat.Nanotechnology 2017,DOI:10.1038/NNANO.2017.168)。簡単に述べると、コポリマーでコーティングされたセンサーチップを、カスタムホルダーに入れた。ナノパターンを生成するために使用された位相マスクを、アラインメントヘルプを使用して整列させ、チップと位相マスクとのギャップに、DMSO中の0.1%v/vのヒドロキシルアミンの溶液を充填した。フォトリソグラフィー曝露を、405nmで、カスタム構築された設定で2000mJ/cm2の用量で行った。照明後、チップを、イソプロパノールおよびMilliQ水で洗浄し、活性化された突起部を、SNAPタグタンパク質によって共有結合している1mMのアミン反応性SNAPタグ基質(BG-GLA-NHS)で官能化した。チップへの細胞接着を増加させるために、残存するPhSNPPOC基を、浸水曝露によって除去した。次いで、遊離結合部位をヘテロ二官能性交差リンカー、アジド-PEG4-NHSで官能化した。最後に、チップを、0.5mMのGRGDSPGSC-(DBCO)のアジド反応性水性溶液と共に一晩インキュベートし、イソプロパノールおよびMilliQ水で洗浄し、窒素のジェットを用いて乾燥した。
【0121】
細胞測定
SNAP-β2AR細胞を、T25培養フラスコ中で60~80%の集密度まで増殖させ、温かいリン酸緩衝塩水(PBS)で2回洗浄し、1xVerseneと共に5minインキュベートし、細胞培養培地中に再懸濁した。非機能的細胞破片からのベースラインシグナル寄与を減少させるために、細胞を50rpmで1min遠心分離し、2回連続で培養培地中に再懸濁した。500μlの細胞培養培地を含有するインキュベーションチャンバー中、細胞を播種して、導波路上で集密に到達させた。Countess自動細胞計数装置(Invitrogen)によって決定した場合に生存能力が90%を超えていた場合にのみ、細胞を播種した。膜貫通ナノパターンのリアルタイムでの確立を除いて、播種された細胞を、37℃で2h、CO2インキュベーター中で保持して、センサーチップへの細胞接着(およびβ2AR上のSNAPタグと、チップ上のSNAPタグ基質との共有的相互作用)を可能にした。次いで、細胞を含有するインキュベーションチャンバーを、DMSOについて調整された温かいHBSS緩衝剤(20mM HEPES、pH7.4を添加した)で2回洗浄し、35℃に保持した改変型F3000 ZeptoReader(Zeptosens)に移した。次いで、生体分子検出デバイスを、ZeptoReader内で5~10min、温度平衡化させた後、アッセイを実施した。全てのアッセイについて、シグナルを7min(ベースライン測定)モニタリングした後、緩衝剤を、β2ARリガンドを含有する緩衝剤と注意深く置換し、その後さらに21minモニタリングした。膜貫通ナノパターン実験のリアルタイムでの確立のために、測定を、20mM HEPES、pH7.4を添加した細胞培養培地中で実施した。ナノパターンが確立されたら、培養培地を、HBSS緩衝剤(20mM HEPES、pH7.4を添加した)と注意深く交換した。
【0122】
シグナル獲得のための典型的な機器パラメーターは以下の通りであった:初期シグナルの強度に応じて0.25~1sの積分時間を有する635nmのレーザーを使用して10s毎に1枚の画像およびZeptoReaderの照明路中で0.001のグレーフィルター値。
【0123】
データ分析
全てのアッセイについて、生シグナルの平方根を取った。次いで、ベースラインを直線に適合させ、これを使用してシグナルをトレンド除去した。次いで、データを、ベースラインと比較した分数変化として表した。
【0124】
BRETアレスチン動員アッセイのために、曲線下面積(AUC)対リガンド濃度を含む濃度応答曲線を、GraphPad Prism中の非線形回帰「log(阻害剤)対応答(3パラメーター)」を使用して適合させて、pIC50値を算出した。
【国際調査報告】