(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-18
(54)【発明の名称】注射システムおよびその使用方法
(51)【国際特許分類】
A61M 5/46 20060101AFI20221111BHJP
A61F 9/007 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
A61M5/46
A61F9/007 130D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022518353
(86)(22)【出願日】2020-09-20
(85)【翻訳文提出日】2022-05-13
(86)【国際出願番号】 US2020051702
(87)【国際公開番号】W WO2021055906
(87)【国際公開日】2021-03-25
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522110290
【氏名又は名称】メイラジーティーエックス セラピューティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】チトニス, ギリッシュ
(72)【発明者】
【氏名】カープ, ジェフ
(72)【発明者】
【氏名】アーン, エドワード
(72)【発明者】
【氏名】ラウリヒト, ブライアン
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066AA10
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD08
4C066EE14
4C066FF05
4C066HH12
4C066LL15
(57)【要約】
シリンジ筒;シリンジ筒内に移動可能に配置された第1のシーリングエレメントおよび第2のシーリングエレメント;それらの間の注射チャンバー;注射チャンバーから生物学的空間に注射剤を送達するための第1のシーリングエレメントから伸びる穿刺エレメントを備える注射システムであって、そのシリンジ筒、第1のシーリングエレメントまたは第2のシーリングエレメントのうちの1つまたは複数は、第2のシーリングエレメントが第1のシーリングエレメントと接触することを可能にしながら、予め選択された位置を越えた第1のシーリングエレメントの近位移動を防止するように構成されており、そのシステムは、第2のシーリングエレメントに対して遠位方向に力がかかったとき、第1の反力に応じて穿刺エレメントが前進し、第2の反力に応じて穿刺エレメントが静止したままとどまり、注射剤が穿刺エレメントを通って運ばれるように構成されている、注射システム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近位端と遠位端との間に内腔を規定するシリンジ筒;
前記内腔内に移動可能に配置された第1のシーリングエレメント;
前記第1のシーリングエレメントに対して近位の前記内腔内に移動可能に配置された第2のシーリングエレメントであって、ここで、前記第1のシーリングエレメントと前記第2のシーリングエレメントとが、前記内腔とのシールを形成し、それらの間に注射チャンバーを規定する、第2のシーリングエレメント;
前記第1のシーリングエレメントの遠位端から伸びる穿刺エレメントであって、前記穿刺エレメントは、前記注射チャンバーから患者の組織内の空間に注射剤を送達するように前記注射チャンバーと流体連通している、穿刺エレメント
を備える、注射システムであって、
ここで、前記シリンジ筒、前記第1のシーリングエレメントおよび前記第2のシーリングエレメントのうちの1つまたは複数は、前記第2のシーリングエレメントが前記第1のシーリングエレメントと接触することを可能にしながら、予め選択された位置を越えた前記第1のシーリングエレメントの近位移動を防止するように構成されており、
前記システムは、前記第2のシーリングエレメントに対して遠位方向に力がかかったとき、
第1の反力に応じて、前記第1のシーリングエレメントが遠位方向に移動して、前記穿刺エレメントを通って前記注射剤を運ぶことなく前記穿刺エレメントを遠位方向に前進させ、
第2の反力に応じて、前記第1のシーリングエレメントが、静止したままとどまり、前記注射剤が、前記穿刺エレメントを通って前記注射チャンバーから運ばれる
ように構成されている、注射システム。
【請求項2】
前記第1の反力が、前記穿刺エレメントが前記組織を通って前進するときに前記穿刺エレメントに対して発揮される背圧に起因し;
前記第2の反力が、前記穿刺エレメントが前記組織内の前記空間に通じたときに前記穿刺エレメントに対して発揮される背圧に起因する、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第2のシーリングエレメントにかけられた前記力が、前記第1のシーリングエレメントを前進させるのには十分であるが、前記第1の反力に応じて前記穿刺エレメントを通って前記注射剤を運ぶには不十分であり;
前記第2のシーリングエレメントにかけられた前記力が、前記第1のシーリングエレメントを前進させるのには不十分であるが、前記第2の反力に応じて前記穿刺エレメントを通って前記注射剤を運ぶには十分である、
請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1のシーリングエレメントと前記第2のシーリングエレメントとの間の前記シリンジ筒内に単方向ストップが配置されており、前記単方向ストップは、前記第2のシーリングエレメントが前記機械式ストップを通過して前記第1のシーリングエレメントと接触することを可能にしながら、前記単方向ストップを越えた前記第1のシーリングエレメントの近位移動を防止するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記単方向ストップが、縮径を有する前記シリンジ筒の区画を構成し、前記第1のシーリングエレメントが、前記縮径よりも十分に大きい直径を有し、前記第1のシーリングエレメントは前記区画を通過できないが、前記第2のシーリングエレメントは、前記区画を通過して前記第1のシーリングエレメントと接触するように構成されている、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記単方向ストップが、前記第1のシーリングエレメントの近位移動を防止するのに十分な摩擦係数を有する前記シリンジ筒の内面の一部を構成する、請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
前記単方向ストップが、機械式ストップを含む、請求項4に記載のシステム。
【請求項8】
前記単方向ストップが、前記第1のシーリングエレメントと前記第2のシーリングエレメントとの間に配置された折り畳み可能なストップを構成し、前記折り畳み可能なストップは、前記折り畳み可能なストップを越えた前記第1のシーリングエレメントの近位移動を防止するように構成されており、前記折り畳み可能なストップに対して遠位方向に力がかかったとき、折り畳まれて、前記第2のシーリングエレメントが前記折り畳み可能なストップを通過して前記第1のシーリングエレメントと接触することが可能になるように構成されている、請求項4に記載のシステム。
【請求項9】
前記第1のシーリングエレメントに対する近位方向の摩擦力または摺動力が、前記第1のシーリングエレメントに対する遠位方向の摩擦力または摺動力より大きく、前記組織への前記穿刺エレメントの挿入力より大きくなるように、前記第1のシーリングエレメントが成形されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記第1のシーリングエレメントが、弛緩状態において、前記シリンジ筒の前記内腔のサイズより1.01~2倍大きいサイズを有する、請求項1~9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
前記第1のシーリングエレメントが、弛緩状態において、前記シリンジ筒の前記内腔のサイズより1.01~1.10倍大きいサイズを有する、請求項1~9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項12】
前記シリンジ筒の内面が、前記シリンジ筒の内面と前記第1のシーリングエレメントとの間の摩擦を増大させるように改変されている、請求項1~9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項13】
前記第1のシーリングエレメントの遠位に配置されているロックであって前記第1のシーリングエレメントを所定の位置に選択的にロックするように構成されているロックをさらに備える、請求項1~9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
前記ロックが、前記第1のシーリングエレメントに対して遠位の前記シリンジ筒の前記内腔内に規定された密封コンパートメント、前記コンパートメントの内側の非圧縮性物質、および前記コンパートメントから前記非圧縮性物質を放出するバルブを備え、前記バルブが閉じているとき、前記第1のシーリングエレメントの遠位移動が防止され、前記バルブが開いているとき、前記第1のシーリングエレメントの遠位移動が許可される、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記第1のシーリングエレメントと前記第2のシーリングエレメントとの間にタッチトリガー機構をさらに備え、前記タッチトリガー機構は、前記第1のシーリングエレメントが前記第2のシーリングエレメントに接触したとき展開して、前記第1のシーリングエレメントの遠位移動を防止するように構成されている、請求項1~9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項16】
前記シリンジ筒の表面上に配置されていて、前記注射チャンバーと流体連通している、充填ポートをさらに備える、請求項1~9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項17】
前記充填ポートが、
前記シリンジ筒の外面上に配置されていて、バイアルを受け入れるように構成されている、受け部;
前記受け部と前記注射チャンバーとを接続する流路;
前記流路を封止するように構成されている自己封止式部材;および
前記受け部内に配置された穿刺エレメントであって、前記穿刺エレメントは、前記自己封止式部材を貫通して、前記受け部内に受け入れられた前記注射剤を含むバイアルを前記注射チャンバーと流体により接続するように構成されている、穿刺エレメント
を備える、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記バイアルが、前記受け部内に受け入れられると、前記穿刺エレメントが、前記注射チャンバーに向かって移動して、前記自己封止式部材を貫通し、前記バイアルと前記注射チャンバーとが流体により接続するように、前記穿刺エレメントが前記受け部に対して移動可能であり、
前記薬剤容器が、前記受け部から除去されると、前記穿刺エレメントが、前記注射チャンバーから離れることにより、前記自己封止式部材が前記流路を封止することを可能にするように、前記穿刺エレメントが前記受け部に対して移動可能である、
請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記穿刺エレメントの遠位部近傍に支持エレメントが配置されており、前記支持エレメントは、前記穿刺エレメントおよび前記シリンジ筒と連係して移動可能である、請求項1~9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項20】
前記注射チャンバーが、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを備え、前記第2のシーリングエレメントのチャンバーシーリング部分が、前記第1のチャンバーを前記第2のチャンバーから流体的に隔離し、前記チャンバーシーリング部分が移動すると、前記第1のチャンバーと第2のチャンバーとが流体により接続する、請求項1~9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項21】
前記注射チャンバーが、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを備え、前記第1のチャンバーと前記第2のチャンバーは、前記第2のシーリングエレメントが初期位置にあるとき、互いに流体的に隔離されており、前記第2のシーリングエレメントが移動すると、前記第1のチャンバーと第2のチャンバーとが流体により接続する、請求項1~9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項22】
前記第2のシーリングエレメントが、前記第1のシーリングエレメントと嵌合するように、かつ前記第1のシーリングエレメントおよび前記穿刺エレメントを前記シリンジ筒内に引き抜くように構成されている、請求項1~9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項23】
眼疾患を処置するための方法であって、前記方法は、
患者の強膜に注射システムの穿刺エレメントをプレ挿入する工程であって、前記注射システムは、
近位端と遠位端との間に内腔を規定するシリンジ筒;
前記内腔内に移動可能に配置された第1のシーリングエレメント;
前記第1のシーリングエレメントに対して近位の前記内腔内に移動可能に配置された第2のシーリングエレメントであって、ここで、前記第1のシーリングエレメントと前記第2のシーリングエレメントとが、前記内腔とのシールを形成し、それらの間に注射チャンバーを規定する、第2のシーリングエレメント;
前記第1のシーリングエレメントの遠位端から伸びる前記穿刺エレメントであって、前記穿刺エレメントは、前記注射チャンバーから患者の組織内の空間に注射剤を送達するように前記注射チャンバーと流体連通している、穿刺エレメント
を備え;
ここで、前記シリンジ筒、前記第1のシーリングエレメントおよび前記第2のシーリングエレメントのうちの1つまたは複数は、前記第2のシーリングエレメントが前記第1のシーリングエレメントと接触することを可能にしながら、予め選択された位置を越えた前記第1のシーリングエレメントの近位移動を防止するように構成されている、工程;
前記第2のシーリングエレメントに力をかけることによって前記強膜を通って前記穿刺エレメントを前進させる工程であって、前記力は、前記穿刺エレメントを通って前記注射剤を運ぶことなく、前記第1のシーリングエレメントを遠位方向に移動させて前記穿刺エレメントを前記遠位方向に前進させるのに十分である、工程;および
前記穿刺エレメントが強膜を通過し、脈絡膜上腔(SCS)に通じたとき、前記第1のシーリングエレメントがさらに遠位移動することなく、前記注射剤が前記注射チャンバーから前記穿刺エレメントを通ってSCSに運ばれるように前記第2の摺動エレメントへの前記力を維持する工程
を含む、方法。
【請求項24】
前記第1の反力が、前記穿刺エレメントが前記組織を通って前進するときに前記穿刺エレメントに対して発揮される背圧に起因し;
前記第2の反力が、前記穿刺エレメントが前記組織内の空間に通じたときに前記穿刺エレメントに対して発揮される背圧に起因する、
請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記第2のシーリングエレメントにかけられた前記力が、前記第1のシーリングエレメントを前進させるのには十分であるが、前記第1の反力に応じて前記穿刺エレメントを通って前記注射剤を運ぶには不十分であり;
前記第2のシーリングエレメントにかけられた前記力が、前記第1のシーリングエレメントを前進させるのには不十分であるが、前記第2の反力に応じて前記穿刺エレメントを通って前記注射剤を運ぶには十分である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記注射システムが、前記第1のシーリングエレメントと前記第2のシーリングエレメントとの間の前記シリンジ筒内に配置された単方向ストップを備え、前記単方向ストップは、前記第2のシーリングエレメントが前記機械式ストップを通過して前記第1のシーリングエレメントと接触することを可能にしながら、前記単方向ストップを越えた前記第1のシーリングエレメントの近位移動を防止するように構成されている、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記単方向ストップが、縮径を有する前記シリンジ筒の区画を構成し、前記第1のシーリングエレメントが、前記縮径よりも十分に大きい直径を有し、前記第1のシーリングエレメントは前記区画を通過できないが、前記第2のシーリングエレメントは、前記区画を通過して前記第1のシーリングエレメントと接触するように構成されている、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記単方向ストップが、前記第1のシーリングエレメントの近位移動を防止するのに十分な摩擦係数を有する前記シリンジ筒の内面の一部を構成する、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記単方向ストップが、機械式ストップを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記単方向ストップが、前記第1のシーリングエレメントと前記第2のシーリングエレメントとの間に配置された折り畳み可能なストップを構成し、前記折り畳み可能なストップは、前記折り畳み可能なストップを越えた前記第1のシーリングエレメントの近位移動を防止するように構成されており、前記折り畳み可能なストップに対して遠位方向に力がかかったとき、折り畳まれて、前記第2のシーリングエレメントが前記折り畳み可能なストップを通過して前記第1のシーリングエレメントと接触することが可能になるように構成されている、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記第1のシーリングエレメントに対する近位方向の摩擦力または摺動力が、前記第1のシーリングエレメントに対する遠位方向の摩擦力または摺動力より大きく、前記組織への前記穿刺エレメントの挿入力より大きくなるように、前記第1のシーリングエレメントが成形されている、請求項23に記載の方法。
【請求項32】
前記第1のシーリングエレメントが、弛緩状態において、前記シリンジ筒の前記内腔のサイズより1.01~2倍大きいサイズを有する、請求項23~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記第1のシーリングエレメントが、弛緩状態において、前記シリンジ筒の前記内腔のサイズより1.01~1.10倍大きいサイズを有する、請求項23~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記シリンジ筒の内面が、前記シリンジ筒の内面と前記第1のシーリングエレメントとの間の摩擦を増大させるように改変されている、請求項23~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記注射システムが、前記第1のシーリングエレメントの遠位に配置されているロックであって前記第1のシーリングエレメントを所定の位置に選択的にロックするように構成されているロックをさらに備える、請求項23~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記ロックが、前記第1のシーリングエレメントに対して遠位の前記シリンジ筒の前記内腔内に規定された密封コンパートメント、前記コンパートメントの内側の非圧縮性物質、および前記コンパートメントから前記非圧縮性物質を放出するバルブを備え、前記バルブが閉じているとき、前記第1のシーリングエレメントの遠位移動が防止され、前記バルブが開いているとき、前記第1のシーリングエレメントの遠位移動が許可される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記注射システムが、前記第1のシーリングエレメントと前記第2のシーリングエレメントとの間にタッチトリガー機構をさらに備え、前記タッチトリガー機構は、前記第1のシーリングエレメントが前記第2のシーリングエレメントに接触したとき展開して、前記第1のシーリングエレメントの遠位移動を防止するように構成されている、請求項23~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記注射システムが、前記シリンジ筒の表面上に配置されている充填ポートであって前記注射チャンバーと流体連通している充填ポートをさらに備える、請求項23~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記充填ポートが、
前記シリンジ筒の外面上に配置されていて、バイアルを受け入れるように構成されている、受け部;
前記受け部と前記注射チャンバーとを接続する流路;
前記流路を封止するように構成されている自己封止式部材;および
前記受け部内に配置された穿刺エレメントであって、前記穿刺エレメントは、前記自己封止式部材を貫通して、前記受け部内に受け入れられたバイアルを前記注射チャンバーと流体により接続するように構成されている、穿刺エレメント
を備える、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記バイアルが、前記受け部内に受け入れられると、前記穿刺エレメントが、前記注射チャンバーに向かって移動して、前記自己封止式部材を貫通し、前記バイアルと前記注射チャンバーとが流体により接続するように、前記穿刺エレメントが前記受け部に対して移動可能であり、
前記薬剤容器が、前記受け部から除去されると、前記穿刺エレメントが、前記注射チャンバーから離れることにより、前記自己封止式部材が前記流路を封止することを可能にするように、前記穿刺エレメントが前記受け部に対して移動可能である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記穿刺エレメントの遠位部近傍に支持エレメントが配置されており、前記支持エレメントは、前記穿刺エレメントおよび前記シリンジ筒と連係して移動可能である、請求項23~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記注射チャンバーが、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを備え、前記第2のシーリングエレメントのチャンバーシーリング部分が、前記第1のチャンバーを前記第2のチャンバーから流体的に隔離し、前記チャンバーシーリング部分が移動すると、前記第1のチャンバーと第2のチャンバーとが流体により接続する、請求項23~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記注射チャンバーが、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを備え、前記第1のチャンバーと前記第2のチャンバーは、前記第2のシーリングエレメントが初期位置にあるとき、互いに流体的に隔離されており、前記第2のシーリングエレメントが移動すると、前記第1のチャンバーと第2のチャンバーとが流体により接続する、請求項23~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記眼疾患が、加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、緑内障、網膜静脈閉塞(RVO)、ブドウ膜炎、眼内炎、シュタルガルト病、レーバー先天黒内障(LCA)、網膜色素変性症またはコロイデレミアである、請求項23~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記注射流体が、目的の遺伝子および前記目的の遺伝子を促すために選択されたプロモーターを含むウイルス送達ベクターを含む1つまたは複数の注射剤製剤を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記目的の遺伝子が、抗VEGFR2遺伝子である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記送達ベクターが、AAVベクターである、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記プロモーターが、前記抗VEGFR2遺伝子用のCAGプロモーターである、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記注射流体が、AMDを処置するための、ベバシズマブ、ラニビズマブ、アフリベルセプト、ラムシルマブ、ディスインテグリン、抗プロスタグランジン、トリプトファニルtRNAシンテターゼ由来ポリペプチド、イノシン一リン酸デヒドロゲナーゼ(IMPDH)阻害剤および抗PDGFからなる群より選択される抗VEGFR2化合物;ならびにブドウ膜炎、脈絡網膜炎または他の炎症性眼疾患を処置するためのコルチコステロイド;様々な眼での使用のためのボツリヌス毒素;チロシンキナーゼ阻害剤を含む1つまたは複数の注射剤製剤を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項50】
注射剤を組織に注射するためのキットであって、前記キットは、
近位端と遠位端との間に内腔を規定するシリンジ筒;
前記内腔内に移動可能に配置された第1のシーリングエレメント;
前記第1のシーリングエレメントに対して近位の前記内腔内に移動可能に配置された第2のシーリングエレメントであって、ここで、前記第1のシーリングエレメントと前記第2のシーリングエレメントとが、前記内腔とのシールを形成し、それらの間に注射チャンバーを規定する、第2のシーリングエレメント;
前記第1のシーリングエレメントの遠位端から伸びる穿刺エレメントであって、前記穿刺エレメントは、前記注射チャンバーから患者の組織内の空間に注射剤を送達するように前記注射チャンバーと流体連通している、穿刺エレメント
を備える注射システムであって、
ここで、前記シリンジ筒、前記第1のシーリングエレメントおよび前記第2のシーリングエレメントのうちの1つまたは複数は、前記第2のシーリングエレメントが前記第1のシーリングエレメントと接触することを可能にしながら、予め選択された位置を越えた前記第1のシーリングエレメントの近位移動を防止するように構成されており、
前記システムは、前記第2のシーリングエレメントに対して遠位方向に力がかかったとき、
第1の反力に応じて、前記第1のシーリングエレメントが遠位方向に移動して、前記穿刺エレメントを通って前記注射剤を運ぶことなく前記穿刺エレメントを遠位方向に前進させ、
第2の反力に応じて、前記第1のシーリングエレメントが、静止したままとどまり、前記注射剤が、前記穿刺エレメントを通って前記注射チャンバーから運ばれる
ように構成されている、注射システム;および
1つまたは複数の注射剤製剤を含む所定容積の前記注射流体
を含む、キット。
【請求項51】
前記第1の反力が、前記穿刺エレメントが前記組織を通って前進するときに前記穿刺エレメントに対して発揮される背圧に起因し;
前記第2の反力が、前記穿刺エレメントが前記組織内の空間に通じたときに前記穿刺エレメントに対して発揮される背圧に起因する、
請求項50に記載のキット。
【請求項52】
前記第2のシーリングエレメントにかけられた前記力が、前記第1のシーリングエレメントを前進させるのには十分であるが、前記第1の反力に応じて前記穿刺エレメントを通って前記注射剤を運ぶには不十分であり;
前記第2のシーリングエレメントにかけられた前記力が、前記第1のシーリングエレメントを前進させるのには不十分であるが、前記第2の反力に応じて前記穿刺エレメントを通って前記注射剤を運ぶには十分である、
請求項50に記載のキット。
【請求項53】
前記注射システムが、前記第1のシーリングエレメントと前記第2のシーリングエレメントとの間の前記シリンジ筒内に配置された単方向ストップをさらに備え、前記単方向ストップは、前記第2のシーリングエレメントが前記機械式ストップを通過して前記第1のシーリングエレメントと接触することを可能にしながら、前記単方向ストップを越えた前記第1のシーリングエレメントの近位移動を防止するように構成されている、請求項50に記載のキット。
【請求項54】
前記単方向ストップが、縮径を有する前記シリンジ筒の区画を構成し、前記第1のシーリングエレメントが、前記縮径よりも十分に大きい直径を有し、前記第1のシーリングエレメントは前記区画を通過できないが、前記第2のシーリングエレメントは、前記区画を通過して前記第1のシーリングエレメントと接触するように構成されている、請求項53に記載のキット。
【請求項55】
前記単方向ストップが、前記第1のシーリングエレメントの近位移動を防止するのに十分な摩擦係数を有する前記シリンジ筒の内面の一部を構成する、請求項53に記載のキット。
【請求項56】
前記単方向ストップが、機械式ストップを含む、請求項53に記載のキット。
【請求項57】
前記単方向ストップが、前記第1のシーリングエレメントと前記第2のシーリングエレメントとの間に配置された折り畳み可能なストップを構成し、前記折り畳み可能なストップは、前記折り畳み可能なストップを越えた前記第1のシーリングエレメントの近位移動を防止するように構成されており、前記折り畳み可能なストップに対して遠位方向に力がかかったとき、折り畳まれて、前記第2のシーリングエレメントが前記折り畳み可能なストップを通過して前記第1のシーリングエレメントと接触することが可能になるように構成されている、請求項53に記載のキット。
【請求項58】
前記第1のシーリングエレメントに対する近位方向の摩擦力または摺動力が、前記第1のシーリングエレメントに対する遠位方向の摩擦力または摺動力より大きく、前記組織への前記穿刺エレメントの挿入力より大きくなるように、前記第1のシーリングエレメントが成形されている、請求項50に記載のキット。
【請求項59】
前記第1のシーリングエレメントが、弛緩状態において、前記シリンジ筒の前記内腔のサイズより1.01~2倍大きいサイズを有する、請求項50~58のいずれか1項に記載のキット。
【請求項60】
前記第1のシーリングエレメントが、弛緩状態において、前記シリンジ筒の前記内腔のサイズより1.01~1.10倍大きいサイズを有する、請求項50~58のいずれか1項に記載のキット。
【請求項61】
前記シリンジ筒の内面が、前記シリンジ筒の内面と前記第1のシーリングエレメントとの間の摩擦を増大させるように改変されている、請求項50~58のいずれか1項に記載のキット。
【請求項62】
前記注射システムが、前記第1のシーリングエレメントの遠位に配置されているロックであって前記第1のシーリングエレメントを所定の位置に選択的にロックするように構成されているロックをさらに備える、請求項50~58のいずれか1項に記載のキット。
【請求項63】
前記ロックが、前記第1のシーリングエレメントに対して遠位の前記シリンジ筒の前記内腔内に規定された密封コンパートメント、前記コンパートメントの内側の非圧縮性物質、および前記コンパートメントから前記非圧縮性物質を放出するバルブを備え、前記バルブが閉じているとき、前記第1のシーリングエレメントの遠位移動が防止され、前記バルブが開いているとき、前記第1のシーリングエレメントの遠位移動が許可される、請求項62に記載のキット。
【請求項64】
前記注射システムが、前記第1のシーリングエレメントと前記第2のシーリングエレメントとの間にタッチトリガー機構をさらに備え、前記タッチトリガー機構は、前記第1のシーリングエレメントが前記第2のシーリングエレメントに接触したとき展開して、前記第1のシーリングエレメントの遠位移動を防止するように構成されている、請求項50~58のいずれか1項に記載のキット。
【請求項65】
前記注射システムが、前記シリンジ筒の表面上に配置されている充填ポートであって前記注射チャンバーと流体連通している充填ポートをさらに備える、請求項50~58のいずれか1項に記載のキット。
【請求項66】
前記充填ポートが、
前記シリンジ筒の外面上に配置されていて、バイアルを受け入れるように構成されている、受け部;
前記受け部と前記注射チャンバーとを接続する流路;
前記流路を封止するように構成されている自己封止式部材;および
前記受け部内に配置された穿刺エレメントであって、前記穿刺エレメントは、前記自己封止式部材を貫通して、前記受け部内に受け入れられたバイアルを前記注射チャンバーと流体により接続するように構成されている、穿刺エレメント
を備える、請求項65に記載のキット。
【請求項67】
前記バイアルが、前記受け部内に受け入れられると、前記穿刺エレメントが、前記注射チャンバーに向かって移動して、前記自己封止式部材を貫通し、前記バイアルと前記注射チャンバーとが流体により接続するように、前記穿刺エレメントが前記受け部に対して移動可能であり、
前記薬剤容器が、前記受け部から除去されると、前記穿刺エレメントが、注射チャンバーから離れることにより、前記自己封止式部材が前記流路を封止することを可能にするように、前記穿刺エレメントが前記受け部に対して移動可能である、請求項66に記載のキット。
【請求項68】
前記穿刺エレメントの遠位部近傍に支持エレメントが配置されており、前記支持エレメントは、前記穿刺エレメントおよび前記シリンジ筒と連係して移動可能である、請求項50~58のいずれか1項に記載のキット。
【請求項69】
前記注射チャンバーが、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを備え、前記第2のシーリングエレメントのチャンバーシーリング部分は、前記第1のチャンバーを前記第2のチャンバーから流体的に隔離し、前記チャンバーシーリング部分が移動すると、前記第1のチャンバーと第2のチャンバーとが流体により接続する、請求項50~58のいずれか1項に記載のキット。
【請求項70】
前記注射チャンバーが、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを備え、前記第1のチャンバーと前記第2のチャンバーは、前記第2のシーリングエレメントが初期位置にあるとき、互いに流体的に隔離されており、前記第2のシーリングエレメントが移動すると、前記第1のチャンバーと第2のチャンバーとが流体により接続する、請求項50~58のいずれか1項に記載のキット。
【請求項71】
前記注射剤が、眼疾患を処置するために選択される、請求項50~58のいずれか1項に記載のキット。
【請求項72】
前記眼疾患が、加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、緑内障、網膜静脈閉塞(RVO)、ブドウ膜炎、眼内炎、シュタルガルト病、レーバー先天黒内障(LCA)、網膜色素変性症またはコロイデレミアである、請求項71に記載のキット。
【請求項73】
前記注射流体が、目的の遺伝子および前記目的の遺伝子を促すために選択されたプロモーターを含むウイルス送達ベクターを含む1つまたは複数の注射剤製剤を含む、請求項72に記載のキット。
【請求項74】
前記目的の遺伝子が、抗VEGFR2遺伝子である、請求項73に記載のキット。
【請求項75】
前記送達ベクターが、AAVベクターである、請求項74に記載のキット。
【請求項76】
前記プロモーターが、前記抗VEGFR2遺伝子用のCAGプロモーターである、請求項75に記載のキット。
【請求項77】
前記注射流体が、AMDを処置するための、ベバシズマブ、ラニビズマブ、アフリベルセプト、ラムシルマブ、ディスインテグリン、抗プロスタグランジン、トリプトファニルtRNAシンテターゼ由来ポリペプチド、イノシン一リン酸デヒドロゲナーゼ(IMPDH)阻害剤および抗PDGFからなる群より選択される抗VEGFR2化合物;ならびにブドウ膜炎、脈絡網膜炎または他の炎症性眼疾患を処置するためのコルチコステロイド;様々な眼での使用のためのボツリヌス毒素;チロシンキナーゼ阻害剤を含む1つまたは複数の注射剤製剤を含む、請求項72に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2020年7月16日出願の米国仮特許出願第63/052,518号および2019年9月20日出願の米国仮特許出願第62/903,406号に基づく利益および優先権を主張する。これらの出願の内容は、その全体が参照により本明細書中に援用される。
【0002】
分野
本開示は、空洞または空隙への注射、特に、ヒト身体の組織を通って空洞または空隙(例えば、眼組織内の脈絡膜上腔)への注射を可能にするシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
後眼部疾患は、数百万人が罹患している永続的な視力障害の主な原因であり、処置せずに放置すれば失明につながる可能性がある。後眼部疾患には、加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、コロイデレミア(choroidermeia)(CHM)、網膜静脈閉塞(RVO)、ブドウ膜炎および眼内炎などの複数の疾患が含まれる。多くの症例において疾患進行を予防するために医薬品が利用可能である場合があるが、血液眼関門に起因して、全身送達では後眼部において治療濃度を達成できない。
【0004】
局部経路、経強膜経路および硝子体内経路による局所送達は、有効であり得るが、硝子体を経た拡散後に網膜の罹患部位において治療濃度を維持するためには、送達部位においてより高濃度が必要である。持続的に送達するための眼内レンズに関する報告もあるが、眼内レンズは、硝子体内注射よりもかなり高侵襲性であり得る。網膜の罹患部位における濃度を高めるために、網膜下注射も行われてきた。しかしながら、網膜下注射には、手術の場で行わなければならない、要求の厳しい、常に一様ではない技術が必要であり、適用範囲がまばらな斑状となり、網膜剥離のリスクも生じる。さらに、追加の網膜下注射は、脆い罹患網膜をさらに損傷する可能性があるので、網膜下注射による反復投与は、不可能であり得るかまたは望ましくない場合がある。イオン導入および磁場など、網膜への薬物分子の移動を加速させるさらなるストラテジーが報告されているが、それらは、薬物送達の問題全体に新たなレベルの複雑さを追加する。
【0005】
近年、眼球後方への有望な薬物送達経路として、脈絡膜上腔(SCS)が検討されている。脈絡膜上腔は、強膜と脈絡膜の間の潜在空間である。この空間に送達された薬物は、眼球の周りを進んで後眼部にまで行くことができる。この薬物送達経路は、硝子体内注射よりも後眼部の処置に有効であると示された。しかしながら、硝子体内注射の簡便さのほうが、脈絡膜上送達に従来必要とされる外科手技を上回る。歴史的には、脈絡膜上送達は、メスを用いて小さな切開を行った後、穿刺器やカニューレを用いた送達によって行われてきた。より最近では、一定の深さまでしか穿通できない既定の長さの短い微小穿刺エレメントを使用して、脈絡膜上腔を狙うようになった。強膜の厚さは、患者集団内で大きく異なるので、中空の微小穿刺エレメントで注射する際は、事前に眼の幾何学的形状をマッピングするかまたは試行錯誤することが必要である。穿刺エレメントが長すぎると、薄い脈絡膜上腔を容易に貫通して、硝子体に薬物を注射してしまう可能性があり、短すぎると、強膜に送達してしまう。強膜は、脈絡膜より10倍堅く、網膜より200倍堅いことから、硝子体に注射せずに強膜を貫通することはさらに難易度が高くなる。場合によっては、少量(およそ100マイクロリットル)の治療薬を脈絡膜上腔に注射する必要があり、後眼部の広い範囲を適用範囲とするためには、強膜を背にした脈絡膜に圧力をかけている眼内圧の正の抵抗を押し返すのに十分な力で治療薬を注射する必要がある。
【0006】
したがって、ばらつきなく正確かつ安全に脈絡膜上腔を狙い、後眼部を広くカバーする、脈絡膜上薬物送達のための改善されたシステムおよび方法が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
要旨
いくつかの態様において、本開示は、近位端と遠位端との間に内腔を規定するシリンジ筒;その内腔内に移動可能に配置された第1のシーリングエレメント;第1のシーリングエレメントに対して近位の内腔内に移動可能に配置された第2のシーリングエレメントであって、ここで、第1のシーリングエレメントと第2のシーリングエレメントとが、内腔とのシールを形成し、それらの間に注射チャンバーを規定する、第2のシーリングエレメント;第1のシーリングエレメントの遠位端から伸びる穿刺エレメントであって、その穿刺エレメントは、注射チャンバーから患者の組織内の空間に注射剤を送達するように注射チャンバーと流体連通している、穿刺エレメントを備える、注射システムを提供し、ここで、そのシリンジ筒、第1のシーリングエレメントおよび第2のシーリングエレメントのうちの1つまたは複数は、第2のシーリングエレメントが第1のシーリングエレメントと接触することを可能にしながら、予め選択された位置を越えた第1のシーリングエレメントの近位移動を防止するように構成されており、そのシステムは、第2のシーリングエレメントに対して遠位方向に力がかかったとき、第1の反力に応じて、第1のシーリングエレメントが遠位方向に移動して、穿刺エレメントを通って注射剤を運ぶことなく穿刺エレメントを遠位方向に前進させ、第2の反力に応じて、第1のシーリングエレメントが、静止したままとどまり、注射剤が、穿刺エレメントを通って注射チャンバーから運ばれるように構成されている。いくつかの実施形態において、第1の反力は、穿刺エレメントが組織を通って前進するときに穿刺エレメントに対して発揮される背圧に起因し;第2の反力は、穿刺エレメントが組織内の空間に通じたときに穿刺エレメントに対して発揮される背圧に起因する。いくつかの実施形態において、第2のシーリングエレメントにかけられた力は、第1のシーリングエレメントを前進させるのには十分であるが、第1の反力に応じて穿刺エレメントを通って注射剤を運ぶには不十分であり;第2のシーリングエレメントにかけられた力は、第1のシーリングエレメントを前進させるのには不十分であるが、第2の反力に応じて穿刺エレメントを通って注射剤を運ぶには十分である。
【0008】
いくつかの実施形態では、第1のシーリングエレメントと第2のシーリングエレメントとの間のシリンジ筒内に単方向ストップが配置されており、その単方向ストップは、第2のシーリングエレメントがその機械式ストップを通過して第1のシーリングエレメントと接触することを可能にしながら、単方向ストップを越えた第1のシーリングエレメントの近位移動を防止するように構成されている。単方向ストップは、縮径を有するシリンジ筒の区画を構成し得、ここで、第1のシーリングエレメントは、その縮径よりも十分に大きい直径を有し、第1のシーリングエレメントは、その区画を通過できないが、第2のシーリングエレメントは、その区画を通過して第1のシーリングエレメントと接触するように構成されている。いくつかの実施形態において、単方向ストップは、第1のシーリングエレメントの近位移動を防止するのに十分な摩擦係数を有するシリンジ筒の内面の一部を構成する。いくつかの実施形態において、単方向ストップは、機械式ストップを含む。いくつかの実施形態において、単方向ストップは、第1のシーリングエレメントと第2のシーリングエレメントとの間に配置された折り畳み可能なストップを構成し、その折り畳み可能なストップは、折り畳み可能なストップを越えた第1のシーリングエレメントの近位移動を防止するように構成されており、折り畳み可能なストップに対して遠位方向に力がかかったとき、折り畳まれて、第2のシーリングエレメントが折り畳み可能なストップを通過して第1のシーリングエレメントと接触することが可能になるように構成されている。いくつかの実施形態において、第1のシーリングエレメントは、第1のシーリングエレメントに対する近位方向の摩擦力または摺動力が第1のシーリングエレメントに対する遠位方向の摩擦力または摺動力より大きく、組織への穿刺エレメントの挿入力より大きくなるように、成形されている。
【0009】
いくつかの実施形態において、第1のシーリングエレメントは、弛緩状態において、シリンジ筒の内腔のサイズより1.01~2倍大きいサイズを有する。いくつかの実施形態において、第1のシーリングエレメントは、弛緩状態において、シリンジ筒の内腔のサイズより1.01~1.10倍大きいサイズを有する。いくつかの実施形態において、第1のシーリングエレメントは、弛緩状態において、シリンジ筒の内腔のサイズより1.01~1.4倍大きいサイズを有する。シリンジ筒の内面は、シリンジ筒の内面と第1のシーリングエレメントとの間の摩擦を増大させるように改変され得る。いくつかの実施形態では、第1のシーリングエレメントの遠位にロックが配置されており、そのロックは、第1のシーリングエレメントを所定の位置に選択的にロックするように構成されている。そのロックは、第1のシーリングエレメントに対して遠位のシリンジ筒の内腔内に規定された密封コンパートメント、そのコンパートメントの内側の非圧縮性物質、およびそのコンパートメントから非圧縮性物質を放出するバルブを備え得、バルブが閉じているとき、第1のシーリングエレメントの遠位移動が防止され、バルブが開いているとき、第1のシーリングエレメントの遠位移動が許可される。
【0010】
いくつかの実施形態では、第1のシーリングエレメントと第2のシーリングエレメントとの間にタッチトリガー機構が配置されており、そのタッチトリガー機構は、第1のシーリングエレメントが第2のシーリングエレメントに接触したとき展開して、第1のシーリングエレメントの遠位移動を防止するように構成されている。いくつかの実施形態では、シリンジ筒の表面上に充填ポートが配置されており、その充填ポートは、注射チャンバーと流体連通している。いくつかの実施形態において、そのような充填ポートは、シリンジ筒の外面上に配置されていて、バイアルを受け入れるように構成されている、受け部;その受け部と注射チャンバーとを接続する流路;その流路を封止するように構成されている自己封止式部材;および受け部内に配置された穿刺エレメントであって、その穿刺エレメントは、自己封止式部材を貫通して、受け部内に受け入れられたバイアルを注射チャンバーと流体により接続するように構成されている、穿刺エレメントを備え得る。いくつかの実施形態において、穿刺エレメントは、バイアルが受け部内に受け入れられると、穿刺エレメントが注射チャンバーに向かって移動して、自己封止式部材を貫通し、バイアルと注射チャンバーとが流体により接続するように受け部に対して移動可能であり、薬剤容器が受け部から除去されると、穿刺エレメントが注射チャンバーから離れることにより、自己封止式部材が流路を封止することを可能にするように受け部に対して移動可能である。
【0011】
いくつかの実施形態では、穿刺エレメントの遠位部近傍に支持エレメントが配置されており、その支持エレメントは、穿刺エレメントおよびシリンジ筒と連係して移動可能である。注射チャンバーは、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを備え得、第2のシーリングエレメントのチャンバーシーリング部分は、第1のチャンバーを第2のチャンバーから流体的に隔離し、チャンバーシーリング部分が移動すると、第1のチャンバーと第2のチャンバーとが流体により接続する。いくつかの実施形態において、注射チャンバーは、第1のチャンバーおよび第2のチャンバーを備え、第1のチャンバーと第2のチャンバーは、第2のシーリングエレメントが初期位置にあるとき、互いに流体的に隔離されており、第2のシーリングエレメントが移動すると、第1のチャンバーと第2のチャンバーとが流体により接続する。いくつかの実施形態において、第2のシーリングエレメントは、第1のシーリングエレメントと嵌合するように、かつ第1のシーリングエレメントおよび穿刺エレメントをシリンジ筒内に引き抜くように構成されている。
【0012】
いくつかの態様において、本開示は、眼疾患を処置するための方法を提供し、その方法は、患者の強膜に注射システムの穿刺エレメントをプレ挿入する工程であって、その注射システムは、近位端と遠位端との間に内腔を規定するシリンジ筒;その内腔内に移動可能に配置された第1のシーリングエレメント;第1のシーリングエレメントに対して近位の内腔内に移動可能に配置された第2のシーリングエレメントであって、ここで、第1のシーリングエレメントと第2のシーリングエレメントとが、その内腔とのシールを形成し、それらの間に注射チャンバーを規定する、第2のシーリングエレメント;第1のシーリングエレメントの遠位端から伸びる穿刺エレメントであって、その穿刺エレメントは、注射チャンバーから患者の組織内の空間に注射剤を送達するように注射チャンバーと流体連通している、穿刺エレメントを備え、ここで、そのシリンジ筒、第1のシーリングエレメントおよび第2のシーリングエレメントのうちの1つまたは複数は、第2のシーリングエレメントが第1のシーリングエレメントと接触することを可能にしながら、予め選択された位置を越えた第1のシーリングエレメントの近位移動を防止するように構成されている、工程;第2のシーリングエレメントに力をかけることによって強膜を通って穿刺エレメントを前進させる工程であって、その力は、第1のシーリングエレメントを遠位方向に移動させて、穿刺エレメントを通って注射剤を運ぶことなく穿刺エレメントを遠位方向に前進させるのに十分である、工程;および穿刺エレメントが強膜を通過し、脈絡膜上腔(SCS)に通じたとき、第1のシーリングエレメントがさらに遠位移動することなく、注射剤が注射チャンバーから穿刺エレメントを通ってSCSに運ばれるように第2の摺動エレメントへの前記力を維持する工程を含む。いくつかの実施形態において、眼疾患は、加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、緑内障、網膜静脈閉塞(RVO)、ブドウ膜炎、眼内炎、シュタルガルト病、レーバー先天黒内障(LCA)、網膜色素変性症またはコロイデレミアである。いくつかの実施形態において、注射流体は、目的の遺伝子およびその目的の遺伝子を促すために選択されたプロモーターを含むウイルス送達ベクターを含む1つまたは複数の注射剤製剤を含む。目的の遺伝子は、抗VEGFR2遺伝子であり得、送達ベクターは、AAVベクターであり得、抗VEGFR2遺伝子用のプロモーターは、CAGプロモーターであり得る。いくつかの実施形態において、注射流体は、AMDを処置するための、ベバシズマブ、ラニビズマブ、アフリベルセプト、ラムシルマブ、ディスインテグリン、抗プロスタグランジン、トリプトファニルtRNAシンテターゼ由来ポリペプチド、イノシン一リン酸デヒドロゲナーゼ(IMPDH)阻害剤および抗PDGFからなる群より選択される抗VEGFR2化合物;ならびにブドウ膜炎、脈絡網膜炎または他の炎症性眼疾患を処置するためのコルチコステロイド;様々な眼での使用のためのボツリヌス毒素;チロシンキナーゼ阻害剤を含む1つまたは複数の注射剤製剤を含む。
【0013】
いくつかの態様において、本開示は、注射剤を組織に注射するためのキットを提供し、そのキットは、近位端と遠位端との間に内腔を規定するシリンジ筒;その内腔内に移動可能に配置された第1のシーリングエレメント;第1のシーリングエレメントに対して近位の内腔内に移動可能に配置された第2のシーリングエレメントであって、ここで、第1のシーリングエレメントと第2のシーリングエレメントとが、その内腔とのシールを形成し、それらの間に注射チャンバーを規定する、第2のシーリングエレメント;第1のシーリングエレメントの遠位端から伸びる穿刺エレメントであって、その穿刺エレメントは、注射チャンバーから患者の組織内の空間に注射剤を送達するように注射チャンバーと流体連通している、穿刺エレメントを備える注射システムであって、ここで、そのシリンジ筒、第1のシーリングエレメントおよび第2のシーリングエレメントのうちの1つまたは複数は、第2のシーリングエレメントが第1のシーリングエレメントと接触することを可能にしながら、予め選択された位置を越えた第1のシーリングエレメントの近位移動を防止するように構成されており、そのシステムは、第2のシーリングエレメントに対して遠位方向に力がかかったとき、第1の反力に応じて、第1のシーリングエレメントが遠位方向に移動して、穿刺エレメントを通って注射剤を運ぶことなく穿刺エレメントを遠位方向に前進させ、第2の反力に応じて、第1のシーリングエレメントが、静止したままとどまり、注射剤が、穿刺エレメントを通って注射チャンバーから運ばれるように構成されている、注射システム;および1つまたは複数の注射剤製剤を含む所定容積の注射流体を含む。いくつかの実施形態において、眼疾患は、加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、緑内障、網膜静脈閉塞(RVO)、ブドウ膜炎、眼内炎、シュタルガルト病、レーバー先天黒内障(LCA)、網膜色素変性症またはコロイデレミアである。いくつかの実施形態において、注射流体は、目的の遺伝子およびその目的の遺伝子を促すために選択されたプロモーターを含むウイルス送達ベクターを含む1つまたは複数の注射剤製剤を含む。目的の遺伝子は、抗VEGFR2遺伝子であり得、送達ベクターは、AAVベクターであり得、抗VEGFR2遺伝子用のプロモーターは、CAGプロモーターであり得る。いくつかの実施形態において、注射流体は、AMDを処置するための、ベバシズマブ、ラニビズマブ、アフリベルセプト、ラムシルマブ、ディスインテグリン、抗プロスタグランジン、トリプトファニルtRNAシンテターゼ由来ポリペプチド、イノシン一リン酸デヒドロゲナーゼ(IMPDH)阻害剤および抗PDGFからなる群より選択される抗VEGFR2化合物;ならびにブドウ膜炎、脈絡網膜炎または他の炎症性眼疾患を処置するためのコルチコステロイド;様々な眼での使用のためのボツリヌス毒素;チロシンキナーゼ阻害剤を含む1つまたは複数の注射剤製剤を含む。
【0014】
本開示は、注目する複数の図面を例示的な実施形態の非限定的な例として参照して、以下の詳細な説明においてさらに説明される。それらの図面のいくつかの図にわたって、同様の参照数字が類似の部分を表す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1Aは、本開示の注射システムの実施形態を示している。
【0016】
【
図1B】
図1Bは、本開示の注射システムと接続して使用するのに適した穿刺エレメントの様々な実施形態を図示している。
【0017】
【
図2】
図2は、本開示の注射システムの実施形態の例示的な使用方法を図示している。
【0018】
【
図3】
図3は、一方向ストップを有する本開示の注射システムの実施形態を示している。
【0019】
【
図4】
図4は、一方向ストップを有する本開示の注射システムの実施形態の例示的な使用方法を図示している。
【0020】
【
図5】
図5A~5Bは、シリンジ筒の直径が小さくなった箇所のある本開示の注射システムの実施形態を示している。
【0021】
【
図6】
図6A~6Bは、シーリングエレメントが非対称的な摩擦力を有するように成形されている、本開示(present)の注射システムの実施形態を示している。
【0022】
【
図7A-C】
図7A~7Cは、折り畳み可能な一方向ストップを有する本開示の注射システムの実施形態を示している。
【0023】
【
図7D-E】
図7D~7Eは、本開示の注射システムでの使用に適した折り畳み式一方向ストップの様々な実施形態を示している。
【0024】
【
図8】
図8A~8Dは、折り畳み可能な一方向ストップを有する注射システムを製造する例示的なプロセスを図示している。
【0025】
【
図9】
図9A~9Bは、針支持体を有する本開示の注射システムの遠位端の様々な実施形態を示している。
【0026】
【
図10】
図10A~10Bは、針支持体を有する本開示の注射システムの遠位端の様々な実施形態を示している。
【0027】
【
図11】
図11A~11Cは、本開示の注射システムでの使用に適した安全キャップの様々な実施形態を示している。
【0028】
【
図12】
図12A~12Eは、多成分注射剤で予め満たされた本開示の注射システムの実施形態を示している。
【0029】
【
図13】
図13は、本開示の注射システムにおける穿刺エレメントの内径に応じた注射流体の粘度のグラフを示している。
【0030】
【
図14】
図14は、オーバーサイズのシーリングエレメントを有する本開示の注射システムの実施形態を示している。
【0031】
【
図15】
図15A~15Eは、シーリングエレメント用のロックを有する本開示の注射システムの実施形態を示している。
【0032】
【
図16】
図16は、遠位端にアクセスポートを有する本開示の注射システムの実施形態を示している。
【0033】
【
図17】
図17A~17Bは、シーリングエレメント間にタッチトリガー機構を有する本開示の注射システムの実施形態を示している。
【0034】
【
図18】
図18は、急速充填ポートを有する本開示の注射システムの実施形態を示している。
【0035】
【
図19】
図19A~19Dは、急速充填ポートを通じて本開示の注射システムに充填する例示的なプロセスを図示している。
【0036】
【
図20】
図20A~20Cは、本開示の注射システムに後ろから充填する例示的なプロセスを示している。
【0037】
【
図21】
図21A~21Bは、近位端のポートを通じて本開示の注射システムに充填する例示的なプロセスを示している。
【0038】
【
図22】
図22A~22Cは、自己封止式ポリマーで封止されたポートを通じて本開示の注射システムに充填する例示的なプロセスを示している。
【0039】
【
図23】
図23A~23Dは、遠位端にポートを有する本開示の注射システムの実施形態を示している。
【0040】
【
図24】
図24A~24Eは、安全に廃棄できるように構成された本開示の注射システムの実施形態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0041】
上記で特定した図面は、本開示の実施形態を示しているが、考察において言及されるように、他の実施形態も企図される。本開示は、代表として例証的な実施形態を提示するものであり、限定として提示するのではない。本開示の実施形態の原理の範囲および趣旨に入る数多くの他の改変および実施形態が、当業者によって考案され得る。
【0042】
詳細な説明
したがって、既存の生物学的空間または潜在的な生物学的空間(例えば、脈絡膜上腔)をばらつきなく正確かつ安全に狙い、隣接する構造または器官を広くカバーする、そのような空間に作用物質を注射するための改善されたシステムおよび方法が必要とされている。例えば、本開示の注射システムは、後眼部を広くカバーする脈絡膜上腔への薬物送達のために使用され得る。本開示の注射システムは、穿刺エレメントが標的空間の界面で自動的に止まるように構成されているので、その針が空洞に貫入する深さが限定される。したがって、本開示の注射システムは、標的空間への穿刺エレメントの貫入の深さを自己調整するように構成され得る。本開示の注射システムは、送達サイクルの種々の段階において本システムが直面する抵抗に基づいて生物学的空間および注射部位への貫入の深さを自己制御しながら、組織(例えば、強膜)に貫入し、注射剤を生物学的空間(例えば、脈絡膜上腔)に送達するために使用できる。いくつかの実施形態において、本開示の注射システムの精密化および小型化により、穿刺エレメントが脈絡膜上腔などの薄い潜在的な空洞を正確に狙い、そこで停止することが可能になり、正確な容積の注射剤を広い適用範囲で正確に送達することが可能になる。いくつかの実施形態において、容積は、ミリリットルより下であり得る。いくつかの実施形態において、本開示の注射システムは、マイクロリットルの精度で治療薬を標的空間に送達するように構成されている。
【0043】
本開示の注射システムおよびそれらの使用方法の以下の説明は、単に例示的な実施形態を提供するだけであって、本開示の範囲、適用可能性または配置を限定すると意図されていない。むしろ、以下の例示的な実施形態の説明は、1つまたは複数の例示的な実施形態を実行するための可能な説明を当業者に提供する。本開示の実施形態の趣旨および範囲から逸脱することなく、エレメントの機能および配置に様々な変更が行われ得ることが理解されるだろう。
【0044】
以下、本明細書の一部を成し、本開示の具体例の態様および実施形態を例証として示す添付の図面を参照して、主題をより完全に説明していく。しかしながら、主題は、種々の異なる形態で具体化され得るので、カバーされるまたは特許請求される主題は、本明細書中に示されるいずれの実施形態例にも限定されないと解釈されると意図され;実施形態例は単に例証として提供される。ゆえに、以下の詳細な説明は、限定の意味で解釈されることを意図したものではない。
【0045】
図1を参照すると、本開示の注射システムは、近位端104および遠位端106を有し、近位端104と遠位端106との間に内腔108を規定する、シリンジ筒102を備え得る。この注射システムは、第1のシーリングエレメント110および第2のシーリングエレメント112をさらに備え、それらの両方が、シリンジ筒102の内腔108内に摺動自在に配置されている。
図1に示されているように、最初の状態において、第1のシーリングエレメント110および第2のシーリングエレメント112は、互いに間隔をあけて配置され、シリンジ筒内のシーリングエレメント間の空間が、その中に好適な容積の注射剤を保持するための注射チャンバー114を規定する。本明細書中で使用される用語「注射剤」とは、組織内の空間または潜在空間に注射され得る単一の物質または物質の組合せを含む組成物のことを指す。その注射剤は、流体、液体、気体、懸濁液、溶液、エマルジョンまたは別の流動可能な組成物として提供され得る。いくつかの実施形態において、注射剤は、1つまたは複数の治療的な物質または製剤を含み得、それらとしては、小分子化合物、抗体、核酸分子、ポリペプチド、ならびに前述のものを患者に送達するのを助ける化合物、例えば、核酸送達用のウイルスまたはベクターが挙げられるがこれらに限定されない。いくつかの実施形態において、10ul~50mlの容積を有する標準的なシリンジ筒が使用され得る。いくつかの実施形態において、注射チャンバーは、約0.025ml~20mlの容積を有し得るが、それより大きいまたは小さいシリンジ筒も使用できる。いくつかの実施形態において、注射チャンバーは、注射剤の吐出の前に、およそ.025ml、.05ml、0.1ml、0.5ml、1ml、3ml、5mlまたは10mlの容積を有し得る。
【0046】
シーリングエレメント110および112は、シリンジ筒102内にしっかり適合し得、シリンジ筒102の壁とともにシールを形成して、注射剤が注射チャンバー114から漏れないようにする。いくつかの実施形態において、第2のシーリングエレメントは、シリンジ筒を基準として移動するように、摺動し得るかまたはねじ込まれ得る。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書中に開示されるデバイスは、操作者によるフィードバック(例えば、触覚、触感)を必要としない。いくつかの実施形態において、それらのシーリングエレメントは、シリンジ筒の内腔に沿ってシーリングエレメントが摺動すると、シリンジ筒の壁と摩擦によって相互作用する。いくつかの実施形態において、シーリング剤のサイズおよび形状を変えることにより、シーリングエレメントとシリンジ筒との間の摩擦力を変化させることができる。いくつかの実施形態において、シーリングエレメントは、天然高分子または合成ポリマー、例えば、天然または合成のゴムまたはエラストマー材料から作製され得る。
【0047】
いくつかの実施形態において、穿刺エレメント116は、第1のシーリングエレメントの遠位端から伸びており、その穿刺エレメントの内腔は、注射剤を注射チャンバーから標的注射空間に送達するように注射チャンバーと流体連通している。穿刺エレメントは、注射システムの貯蔵中、輸送中および取り扱い中に安全キャップ118によって保護され得る。操作の際には、下記で詳細に説明されるように、押し棒120を用いて遠位方向にまたは順方向の力で第2のシーリングエレメントに力がかけられ得る。この力により、第2のシーリングエレメントが前方に移動し、注射剤を加圧し、第1のシーリングエレメントに順方向の力がかかる。穿刺エレメントに対する近位方向の力(背圧または反力)に応じて、第1のシーリングエレメントは、遠位方向に移動して、穿刺エレメントを通って注射剤を運ぶことなく穿刺エレメントを遠位方向に前進させるか、または第1のシーリングエレメントは、静止したままとどまり、注射剤が穿刺エレメントを通って注射チャンバーから運ばれる。したがって、理解を簡単にするために、第1のシーリングエレメントを、浮動シーリングエレメントと称することがあり、第2のシーリングエレメントを押しシーリングエレメントと称することがある。
【0048】
用語「穿刺エレメント」とは、組織に貫入するためおよび組織内の空間または潜在空間に注射剤を送達するために使用され得るデバイスのことを指す。いくつかの実施形態において、穿刺エレメントは、組織に穿刺および貫入するために使用され得る、末端が鋭利な一般に細長いデバイスであり得る。その穿刺部材は、任意の数の好適な寸法および/または幾何学的形状を有し得る。例えば、穿刺エレメントは、円形または非円形の断面を有し得る。いくつかの実施形態において、穿刺エレメントは、組織内の標的空間または標的潜在空間に注射剤を送達するための1つまたは複数の管腔を有する場合があり、その1つまたは複数の各管腔は、その管腔の末端にまたは側面に沿って1つまたは複数の開口部を有する。
【0049】
図1Bは、本開示の注射システムと接続して使用され得る穿刺エレメントの様々な実施形態を図示している。いくつかの実施形態において、穿刺エレメントは、直径が小さい眼(例えば、30G、27G)に穿刺エレメントの一部を挿入した状態で保ちながらの粘稠性作用物質の送達を改善するために一様でない直径を有する。いくつかの実施形態において、穿刺エレメント先端のベベルの幾何学的形状は、刃先の傾斜、ベベルの数ならびにすくい角および挿入力を改変することによって、挿入力およびベベルを最小にするように設計されている。穿刺エレメントの先端の幾何学的形状としては、ベベルチップ、ランセットポイント、バックベベルチップおよびカーブチップが挙げられるが、これらに限定されない。挿入力がより小さい穿刺エレメントは、通常、誘導しやすく、たわみも小さい。
【0050】
いくつかの実施形態において、穿刺エレメントは、34G~25Gの標準的な針を備える。いくつかの実施形態において、穿刺エレメントは、標準的な30Gの針であり得る。いくつかの実施形態において、穿刺エレメントは、25ゲージおよびそれを超えるか、27ゲージおよびそれを超えるか、または30ゲージまたはそれを超える場合がある。いくつかの実施形態において、針は、切開力を下げるために第2ベベルを有する。しかしながら、様々な穿刺エレメントのサイズおよび形状を本開示の注射システムと接続して使用することができる。いくつかの実施形態において、特に高粘度の製剤の場合、管腔がより大きい穿刺エレメントを使用することができる。所望の結果および操作パラメータ、例えば、注射剤の粘度、穿刺エレメントを挿入する組織の密度、注射剤の所望の流速および類似のパラメータに応じて、他の様々なサイズ、形状および幾何学的形状を使用することもできることに注意するべきである。
【0051】
穿刺エレメントは、複数の手法を用いて、浮動シーリングエレメントに接続され得る。いくつかの実施形態において、穿刺エレメントは、浮動シーリングエレメントに挿入され、防水接着剤で固定される。いくつかの実施形態において、浮動シーリングエレメントは、穿刺エレメントの周囲に成形され得る。いくつかの実施形態において、外面上にネジ山を有する穿刺エレメントが、浮動シーリングエレメントにねじ込まれ得る。
【0052】
図2を参照すると、本開示の注射システムは、第1の領域211を通って穿刺エレメントを前進させ、第1の領域よりも小さい反力を注射に対してもたらす第2の領域212に注射剤を注射するために使用され得る。いくつかの実施形態において、第1の領域よりも第2の領域に注射剤を注射するほうが、必要な力が小さくて済む場合がある。いくつかの実施形態において、第1の領域の密度は、第2の領域の密度よりも高い場合があり、第1の領域よりも第2の領域に注射剤を注射するほうが容易であり得る。いくつかの実施形態において、第1の領域は、穿刺エレメントに対して第2の領域よりも高い背圧を発揮し、第2の領域と比べて第1の領域への注射剤の流入に対してより大きな反発または抵抗が存在する。
【0053】
図2を参照すると、工程201に、初期位置の注射システムの実施形態が図示されている。この注射システムは、注射チャンバー114内に注射剤を含み、穿刺エレメントが、シリンジ筒の遠位端106をわずかに越えて露出し、伸びている。工程202では、穿刺エレメントが、第1の領域(例えば、眼の強膜などの組織)にプレ挿入されている。このプレ挿入の際に、穿刺エレメントの先端が、組織(例えば、強膜)の第1の領域に挿入され、少なくとも穿刺エレメントの内腔が、接触によって埋め込まれるかまたは封鎖される。いくつかの実施形態において、この工程は、露出した長さの穿刺エレメントが強膜に貫入することによって、手作業で達成され得る。いくつかの実施形態において、穿刺エレメントを第1の領域にプレ挿入することができる必要があることにより、SCSを効果的に狙うために使用され得る穿刺エレメントの内腔の直径およびベベルのサイズの範囲に制限が設けられ得る。例えば、第1の領域の密度は、適切な穿刺エレメントを選択する際の因子であり得る。いくつかの実施形態において、穿刺エレメントは、穿刺エレメントの先端が後眼部に向いた状態で、強膜に対して接線方向に挿入され得る。いったん穿刺エレメントが第1の領域にプレ挿入されると、穿刺エレメントを通って注射剤が運ばれ得るように穿刺エレメントの内腔は封鎖される。
【0054】
いくつかの実施形態において、最小のヒト強膜厚を念頭において、強膜の表面に対して垂直に穿刺エレメントを挿入する場合、プレ挿入の深さをおよそ0.5ミリメートル以下(例えば、約0.05mm~0.5mm)に制限することによって、最適な結果を得ることができる。垂直以外の角度で穿刺エレメントをプレ挿入する場合、より長いベベルを有する穿刺エレメントを、強膜を貫通することなく十分に挿入することができる。いくつかの実施形態において、穿刺エレメントは、2mm未満、1mm未満または0.5mm未満のベベル長を有し得る。ベベル角度は、15度より大きいか、30度より大きいか、または45度より大きい場合がある。例えば、幾何学的相関関係に基づいて、およそ20°以下の角度で表面に挿入される標準的なベベル(角度:12度、長さ:1.45mm)を有する30ゲージの穿刺エレメントは、通常、表面から計測したとき、0.5ミリメートル未満の深さに到達する。同様に、より長いベベル長を有するより大きな穿刺エレメントも使用できる。より短いベベルは、所与の穿刺エレメントサイズに対してより広範な角度のプレ挿入を可能にする。大まかに言って、およそ0.5ミリメートルという強膜の厚さより小さい外径を有する穿刺エレメントが、SCSにアクセスするために容易に使用可能であり、穿刺エレメントの挿入角度は、ベベルチップの長さに基づいて決定される。
【0055】
工程203では、押しシーリングエレメントに対して遠位方向に力をかけることにより、押しシーリングエレメントを遠位方向に前進させる。いくつかの実施形態において、押しシーリングエレメントは、摺動運動または回転運動(例えば、らせん状)で前進する。押しシーリングエレメントの移動により、注射剤に対して力がかかり、それにより、注射剤が加圧され、浮動シーリングエレメントが遠位方向に加圧される。第1の領域では、浮動シーリングエレメントとシリンジ筒との間の摩擦力は、注射剤を第1の領域に注射するために必要な力より小さい。したがって、第1の領域では、押しシーリングエレメントにかけられた力は、浮動シーリングエレメントとの間の摩擦力に打ち勝つのに十分であるが、注射剤を第1の領域に注射するのには不十分である。したがって、工程203では、押しシーリングエレメントにかけられた力は、注射チャンバーから注射剤を運ぶことなく、浮動シーリングエレメントおよびゆえに穿刺エレメントを第1の領域の中により深く、遠位方向に前進させる。
【0056】
工程204では、穿刺エレメントが、第1の領域と第2の領域との界面に到達して、刺エレメントの内腔が、第2の領域に部分的にまたは完全に通じて、第2の領域を注射チャンバーと流体により接続する。第2の領域への注射剤の流れに反する力は、第1の領域のそれより小さい。したがって、第2の領域に注射剤を注射するために必要な力は、浮動シーリングエレメントとシリンジ筒との間の摩擦力より小さい。このように、穿刺エレメントの内腔が、第2の領域に到達すると、浮動シーリングエレメントは、自動的に止まるので、穿刺エレメントが空洞に貫入する深さが限定される。
【0057】
工程205では、第2の領域に注射剤を注射するために必要な力は、浮動シーリングエレメントに対する摩擦力より小さいので、浮動シーリングエレメントは、静止したままとどまりながら、押しシーリングエレメントに対する力によって、注射剤が第2の領域に注射される。穿刺エレメントは、第2の領域にさらに貫入せず、第1の領域と第2の領域との界面でその位置を本質的に保持する。いくつかの実施形態において、流体の流れのベクトルは、脈絡膜上腔と平行であり、それにより、流体の力が脈絡膜組織および網膜組織を半径方向に動かすために用いられるのではなく、後眼部を広くカバーする。
【0058】
非限定的な例として、押しシーリングエレメントが受ける背圧または反力は、押しシーリングエレメントの速度と穿刺エレメントのサイズとの関数である。いくつかの実施形態において、そのような力は、2~100Nの範囲内であり得る。いくつかの実施形態において、そのような力は、2~50Nであり得る。非限定的な例として、30Gの穿刺エレメントの1mlシリンジの場合、押しシーリングエレメントを0.5mm/sで押すとき、強膜に注射するために押しシーリングエレメントが受ける力は、約5~20Nである。SCSへの注射は、開放空気中での注射に近く、同じパラメータセットの場合、0~2Nの範囲である。
【0059】
いくつかの実施形態において、第1のシーリングエレメントにかかる力は、第1の領域では2Nより大きい場合があり(シリンジ筒ID/穿刺エレメントIDの比に応じて)、第2の領域では1N未満であり得る。したがって、注射流体を放出させずに穿刺エレメントを遠位に移動させるためにかけることができる最大の力は、第1の領域(例えば、強膜)において2Nより大きく、第2の領域(例えば、SCS)において1N未満である。第1の領域では、第2のシーリングエレメントにかかる力は、注射流体を第1の領域に注射するために必要な力より小さいことに注意するべきである。いくつかの実施形態において、注射剤が穿刺エレメントを出るとき、穿刺エレメントおよび第1のシーリングエレメントに対して力がかかり、その力は、流速が速くなるにつれて大きくなる。流速が閾値を超えて高くなると、穿刺エレメントが前方に押し出される。穿刺エレメントの移動を防止するために、第1のシーリングエレメントに対する摩擦を増大させることによって、最大閾値流速を上げることができる。下記に説明されるように、本開示は、第2の領域に到達したら第1のシーリングエレメントおよび穿刺エレメントの遠位移動を停止するための他の手段も提供する。許容され得る力および流速のさらなる非限定的な例は、Nat Biomed Eng.2019 Aug;3(8):621-631(その全体が参照により本明細書中に援用される)に開示されている。
【0060】
再度
図2を参照すると、いったん穿刺エレメントが、第1の領域と第2の領域との界面に到達したら、注射剤に対する反力が低下し、その結果、操作者が押しシーリングエレメントを押し続けたとき、注射チャンバー内の注射剤が第2の領域に送達されるが、穿刺エレメントは、第1の領域と第2の領域との界面でその位置を保持する。浮動シーリングエレメントは、シリンジの長さ全体(すなわちミリメートルの距離)を移動できるが、いったん穿刺エレメントがそれらの領域間の界面に到達すると、ミクロンレベルの精度で止まることができる。これにより、
図2に示されているように、解剖学的構造の「組織」区画ではなく、解剖学的構造の薄い「空洞」区画を主に、場合によってはその区画だけを狙って治療薬を送達することが可能になる。いくつかの実施形態において、本開示の注射システムは、穿刺エレメントの内腔が第2の領域に通じたとき、浮動シーリングエレメントおよび穿刺エレメントが、第2の領域に入ったら、250ミクロン、200ミクロン、150ミクロン、100ミクロン、50ミクロン、25ミクロンの長さ以内で止まることができるように構成されている。
【0061】
いくつかの実施形態において、穿刺エレメントは、順方向の力と逆方向の力とが釣り合っていることを示す準静的平衡を仮定できるように、一定速度で第1の領域を通って移動できる。針が第2の領域(空洞/空間)に入ったら、逆方向の力が直ちに減少する。したがって、停止距離は、穿刺エレメントの減速およびその元の移動速度と直接関係し得る。通常、移動速度は低速であり得る(穿刺エレメントの直径に応じて、0.1mm/s~10mm/s)。減速は、シーリングエレメントおよび穿刺エレメントにかかる順方向の力(駆動力または推進力)と、シールと筒との間の摩擦によってかかる逆方向の力との関数である。所与のデザインの場合に、摩擦が比較的一定のままであると仮定すると、減速は、穿刺エレメントの幾何学的形状および流体の粘度に関係する駆動力に依存する。注射の完了時には、押しシーリングエレメントは、浮動シーリングエレメントとじかに接触する。これにより、穿刺エレメントが前方に移動する可能性があり、これは安全性の懸念となる。本開示は、穿刺エレメントが上に記載されたように止まれば、押しシーリングエレメントが浮動シーリングエレメントと接触したときであっても、その位置を維持することを保証できる様々な安全性の特徴を提供する。
【0062】
いくつかの実施形態において、第1の領域は、患者の組織に対応することがあり、第2の領域は、組織内の空間もしくは潜在空間または組織に隣接する空間もしくは潜在空間に対応することがある。換言すれば、本開示の注射システム100は、穿刺エレメント116を、患者の組織(例えば、眼の強膜)を通って前進させ、その組織に隣接する空間または潜在空間(例えば、脈絡膜上腔または前房内の空間)に注射剤を注射するために使用され得る。用語「空間」には、組織内の実際の空間もしくは空洞または潜在空間が含まれる。潜在空間とは、通常の生理学的条件下ではつぶれている(例えば、複数の組織が互いに接触している)が、こじ開けられると(例えば、流体の注射に応答して)拡大する可能性がある空間のことを指す。例えば、脈絡膜上腔(SCS)は、後眼部の周縁を横断する、強膜と脈絡膜との間にある潜在空間である。いくつかの実施形態において、本開示の注射システムは、脈絡膜および網膜の疾患および障害を処置する薬物および遺伝子療法をはじめとした、SCSへの局在化から恩恵を受ける薬物および遺伝子療法を送達することができる。本明細書中に開示されるのは、注射システムがSCSを標的とし、目的の注射剤を後眼部の組織(例えば、網膜、網膜色素上皮、ブルッフ膜、脈絡膜)に送達する能力を高める様々な実施形態である。強膜を貫通することによってSCSをばらつきなく正確に狙う注射が成功すれば、様々なクラスの治療薬を脈絡膜に送達できる。SCSと網膜色素上皮との間にはブルッフ膜があり、これは、SCSを介して送達された注射剤が網膜に到達する際の拡散障壁として働く。Mooreら(2001)は、提供されたヒト眼から単離されたブルッフ膜の透過性が、エキソビボで年齢とともに低下することを報告した。若いドナーのブルッフ膜は、200kDa超のタンパク質に対して透過性を示したが、高齢のドナーは、低い透過性を示した。高齢のドナーのブルッフ膜は、引き続き100kDa超のタンパク質に対して透過性を示した。しかしながら、本開示は、注射システムをSCS空洞への薬物送達と関連して説明しているが、本開示のシステムおよび方法は、注射剤をヒト身体の他の空隙または空洞に送達するために、またはヒトの身体外での他の用途でも、使用され得ることに注意すべきである。例えば、本開示の注射システムは、囲心嚢、胸膜腔(2枚の胸膜(臓側-壁側)の間の潜在空間)、関節間の滑液腔、瘢痕組織とインプラントとの間の空間(例えば、被膜拘縮を処置するための、乳房インプラント周辺の瘢痕組織)、気道アクセス、血管アクセスおよび類似の生物学的空間または潜在空間への注射のために使用され得る。
【0063】
いくつかの実施形態において、穿刺エレメントを組織に最初に挿入する際、浮動シーリングエレメントの近位移動を防止することが望ましい場合がある。特に、注射システムのシリンジ筒、押しシーリングエレメントおよび浮動シーリングエレメントは、予め選択された位置を越えた浮動シーリングエレメントの後方(近位)移動を回避するように、個別にまたは組み合わせて、構成され得る。いくつかの実施形態において、本開示の注射システムは、正確な用量で投与される必要がある高価な注射剤を送達するために使用され得る。いくつかの実施形態において、そのような投与量は、標示された容積の10%以内であり得る。したがって、いくつかの実施形態において、注射システムは、注射剤のすべてまたは実質的にすべての容積が患者に投与されるのを保証する1つまたは複数の特徴を備え得る。いくつかの実施形態において、これらの2つの特徴が組み合わされる。いくつかの実施形態において、注射システムのシリンジ筒、押しシーリングエレメントおよび浮動シーリングエレメントは、押しシーリングエレメントが浮動シーリングエレメントと接触して、シーリングエレメント間のデッドボリュームを最小限に抑えるかまたは無くすのを可能にしながら、予め選択された位置を越えた浮動シーリングエレメントの後方(近位)移動を回避するように、個別にまたは組み合わせて、構成され得る。いくつかの実施形態において、そのようなデザインは、治療的ペイロードのすべてまたは実質的にすべてが患者に送達されるのを保証し得る。
【0064】
図3を参照すると、いくつかの実施形態において、本開示の注射システムは、例えば穿刺エレメントを組織にプレ挿入する際の、浮動シーリングエレメントの後方移動を防止するように構成されている一方向ストップ210を備え得る。いくつかの実施形態において、一方向ストップ210は、浮動シーリングエレメントが後方に動くことなく、かつ治療薬の注射容積の10%超を損失させることなく、穿刺エレメントのプレ挿入が達成されるように設置および構成されている。
【0065】
いくつかの実施形態において、一方向ストップは、押しシーリングエレメントがストップを越えて移動するのを防止できる。いくつかの実施形態において、一方向ストップは、押しシーリングエレメントが妨害されずに通過できるようにも構成され得る。このように、注射の終わりに、押しシーリングエレメントと浮動シーリングエレメントとの間の間隙を小さくすることまたは無くすことができ、それにより、治療用流体の全ペイロードを空洞に注射することおよびデッドボリュームを減少させるまたは無くすことが可能になる。いくつかの実施形態において、押しシーリングエレメントの遠位側は、浮動シーリングエレメントの近位側と実質的に接触することまたは触れることができ、シーリングエレメント間のデッドボリュームが僅少となる。いくつかの実施形態では、所望の点を越えて押しシーリングが近位移動するのを防止するために、別の一方向ストップが、押しシーリングエレメントの近位にも提供され得る。
【0066】
いくつかの実施形態において、一方向ストップ210は、浮動シーリングエレメントのすぐ近位(すなわち、すぐ後ろ)に提供され得る。このように、最初の配置の後、浮動シーリングエレメントは、一方向ストップを越えて近位に移動できなくされる。いくつかの実施形態において、最初の配置では、穿刺エレメントの先端は、穿刺エレメントを組織にプレ挿入するとき、内腔の封鎖を可能にするのに十分に露出しており、その露出は、ベベル角度に依存する。穿刺エレメントのサイズおよびベベル角度に応じて、この長さは変わり得る。いくつかの実施形態において、最初の配置では、穿刺エレメントの先端は、0.2mm~2mm露出している。いくつかの実施形態では、浮動シーリングエレメントが最初の配置の状態にあるとき、穿刺エレメントの約0.5mmが露出している。いくつかの実施形態において、穿刺エレメントの先端は、強膜の長さよりも長く露出している場合があるので、穿刺エレメントは、曲面に対して直角ではなく、斜めに強膜に挿入され得る。
【0067】
一方向ストップを有する注射システムの操作を
図4に示す。一方向ストップ210を有する本開示の注射システムは、
図2に関連して説明したのと本質的に同じく作動する。一方向ストップ210は、穿刺エレメントが初めて組織に挿入されたときに、浮動シーリングエレメント110が後方に押されないことを保証し得る。他方で、一方向ストップ210は、押しシーリングエレメント112が、一方向ストップを通過して、注射の終わりに浮動シーリングエレメントと接触できるように設計される。このように、注射剤のすべてまたは実質的にすべてを標的空間に送達することができる。
【0068】
図5Aおよび5Bを参照すると、いくつかの実施形態において、本開示の注射システム100は、1つまたは複数の位置においてシリンジ筒の直径が小さくなっている箇所310を含む。いくつかの実施形態において、その箇所310は、一方向ストップとして、浮動シーリングエレメント110に対して近位に提供され得る。いくつかの実施形態では、押しシーリングエレメントと浮動シーリングエレメントとの間の予め選択された位置において一方向ストップが作製されるように、シリンジ筒の内径が小さくされ得る。いくつかの実施形態において、直径を小さくすることにより、穿刺エレメントを組織(issue)にプレ挿入する際に浮動シーリングエレメントによる後方移動を防ぐように、背圧に対して十分な抵抗が提供される。それでもなお、小さくされた内径は十分に大きく、かつ/または押しシーリングエレメントは、押しシーリングエレメントが比較的容易にその領域を越えて移動して浮動シーリングエレメントにぶつかることができるように構成されているので、ユーザーは、治療用流体を完全に投薬することが可能になり、デッドボリュームと注射容積の両方のばらつきが小さくなる。例えば、シリンジ筒の直径が小さくなっている箇所によって押しシーリングエレメントが押しつぶされるのを可能にするために、押しシーリングエレメントは、浮動シーリングエレメントよりも柔らかい材料で作製され得る。いくつかの実施形態において、追加的にまたは代替的に、押しシーリングエレメントの近位に、シリンジ筒の直径が小さくなっている箇所が存在し得る。
【0069】
いくつかの実施形態において、シリンジ筒の直径は、例えば浮動シーリングエレメントに対して近位の所望の位置において、シリンジ筒にひだをつけるかまたはシリンジ筒を挟みつぶすことによって、小さくされ得る。いくつかの実施形態において、シリンジは、シリンジ筒の内腔の内側に機械式ストップを含むように成形され得、それにより、その位置において直径が小さくなる。いくつかの実施形態において、シリンジ筒の内径は、シリンジ筒の内面を改変することによって、例えば、シリンジ筒の内面上に1つまたは複数の突出物、隆起部またはフランジを含むことによって、小さくされ得る。いくつかの実施形態において、シリンジ筒は、その長さに沿って直径が可変であり得、浮動シーリングエレメントを収容するために遠位区画の直径がより大きく、浮動シーリングエレメントが後方に動きすぎるのを防止するために浮動シーリングエレメントに対して近位の直径がより小さい。
【0070】
図6Aおよび6Bを参照すると、本開示の注射システムにおけるいくつかの実施形態において、一方向ストップは、浮動シーリングエレメント110を、それが移動する際に浮動シーリングエレメント110に対して作用する非対称の摺動力をもたらす形状を有するように改変することによって提供され得る。例えば、そのような形状の改変に起因して、浮動シーリングエレメントは、遠位方向に移動するときよりも近位方向に移動するときのほうがかなり大きな摩擦を受け得る。このように、浮動シーリングエレメントは、初期位置から遠位方向に容易に移動し得るが、近位の位置に移動しないように妨げられ得る。他方で、押しシーリングエレメントは、何の障害または妨げもなく、浮動シーリングエレメントに向かって浮動シーリングエレメントまで自由に移動できる。いくつかの実施形態において、浮動シーリングエレメントの設計は、従来のシリンジプランジャーの二方向の移動に対して、一方向の移動だけが可能であるという点でユニークである。いくつかの実施形態において、
図6Aに示されているように、浮動シーリングエレメントは、押しシーリングエレメントの前方部に面している角度よりも急勾配の、浮動シーリングエレメントの後部に面している角度を有する一連の特殊化した隆起部を含む。例えば、浮動シーリングエレメントは、遠位方向に面している1つまたは複数の円錐台または返しを備え得る。そのようなデザインは、後方移動よりも浮動シーリングエレメントの前方移動を促し得る。いくつかの実施形態において、シリンジ筒の内部は、近位方向に向かって角度のついた返しを備える。いくつかの実施形態において、シリンジ筒の内部は、リブ、隆起部、環状、または近位方向に角度のついたもしくは平らな類似の形状を備え得る。いくつかの実施形態では、類似の改変が、押しシーリングエレメントに対して、および/または押し浮動エレメントに対して近位のシリンジ筒内に、行われ得る。
【0071】
いくつかの実施形態において、浮動シーリングエレメントとシリンジ筒の内面との間の摩擦力は、製剤の粘度に対処するために、材料の選択(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、熱可塑性エラストマー、フルオロエラストマー(fluroelastomer)(これらすべてがシリコン処理可能であり得るか、またはシリコン処理不可能であり得る))、角度と方向のあるリブの数、またはリブの厚さによって、調整(増大または低減)され得る。いくつかの実施形態において、浮動シーリングエレメントに対する摩擦力は、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluorethylene)表面を使用することによって低減され得る。
【0072】
図7A、7Bおよび7Cを参照すると、いくつかの実施形態において、一方向ストップには、シリンジ筒102内に配置された折り畳み可能な一方向ストップ410が含まれ得る。上に記載された一方向ストップと同様に、シリンジ筒の内側面に折り畳み可能なストップを配置することで、注射剤の投薬中に折り畳み可能なストップを折り畳むことによって、押しシーリングエレメントが折り畳み可能なストップを越えて前進するのを可能にしながら、プレ挿入の際に浮動シーリングエレメントの後方移動を許さない一方向ストップがもたらされる。いくつかの実施形態において、折り畳み可能な一方向ストップは、シリンジ筒用の挿入物として提供され得る。
図7Dおよび7Eを参照すると、そのような折り畳み可能なストップ410は、遠位方向に力がかかることによってのみ折り畳まれ得る1つまたは複数の折り畳み可能なゲート414を有する本体412を備え得る。いくつかの実施形態において、浮動シーリングエレメントは、折り畳み可能なストップに逆らって位置し得る。穿刺エレメントを挿入している間、浮動シーリングエレメントは、近位方向の後ろ向きに押される場合があるが、折り畳み可能なストップによって適所に保たれる。いくつかの実施形態では、浮動シーリングエレメントは、折り畳みストップに強固に接続されているため、挿入力によって浮動シーリングエレメントが後ろ向きに押されたときのコンプライアンスは最小限である。しかしながら、注射剤の投与の際、押しシーリングエレメントが折り畳み可能なストップに到達すると、押しシーリングエレメントは、ゲートに対して遠位方向に力をかけるので、ゲートは折り畳まれ、押しシーリングエレメントは浮動シーリングエレメントに向かって折り畳み可能なストップを通過することができる。いくつかの実施形態において、折り畳み可能なストップを備える挿入物が、シリンジ筒内に提供され(proved)得る。
【0073】
図8A~8Dは、折り畳み可能な一方向ストップを備えるシリンジを製造するための例示的なプロセスを提供している。例えば、
図8Aは、最適なシリンジの内側にぴったり(snuggly)合うサイズの中空管を示している。
図8Bに示されているように、戦略的な非周縁の切り取りが行われ、折り畳み可能なゲートが作製される。次いで、これらのフラップは、
図8Cに例証されているような所望の形状に形づくられる。次いで、この構造は、
図8Dに示されているようにシリンジ筒に挿入され得る。この構造は、必要であれば、シリンジ筒に接着接合され得、溶接され得、機械的に固定され得る。
【0074】
一方向ストップ、および/または浮動シーリングエレメントとシリンジ筒との間の摩擦力の変化に加えて、またはそれらに代えて、いくつかの実施形態では、プレ挿入工程中の浮動シーリングエレメントの近位移動を防止するために、穿刺エレメントを組織にプレ挿入する前にシリンジ筒の内容物(例えば、注射チャンバー内の注射剤)を加圧し得る。いくつかの実施形態において、ユーザーは、押しシーリングエレメントに圧力をかけることができるが、好ましくは、浮動シーリングエレメントを移動させるほど大きな圧力をかけられない。いくつかの実施形態において、押し棒は、適切な位置に瞬間的にロックされて(例えばリニアアクチュエータを用いて)、プレ挿入の工程の間、浮動シーリングエレメントを移動させないように、押しシーリングエレメントの位置を固定し得る。いくつかの実施形態では、シリンジ筒が加圧されたときに漏出させないために、穿刺エレメントに栓が提供され得る。そのような栓は、その栓が組織と接触するまで押しシーリングエレメントが押されるとき、穿刺エレメントの移動を可能にし得る。いくつかの実施形態において、栓は、組織へのプレ挿入に向けて穿刺エレメントが栓を貫通するのを可能にするように構成され得るが、栓は、組織と流体密シール(fluid-tight seal)を形成するのに十分な力で組織と接触する。いくつかの実施形態において、栓は、プレ挿入部位の周辺の組織とシールを作りつつ、穿刺エレメントが貫通できる材料から作製される。
【0075】
いくつかの実施形態において、本開示の注射システムは、シリンジ筒と押しシーリングエレメント、浮動シーリングエレメントまたはその両方との間の摩擦抵抗/摩擦力が、強膜に貫入するのに必要な挿入力より大きくなり得るように設計される。いくつかの実施形態において、摩擦抵抗は、シリンジ筒の内面を改変するかまたはシーリングエレメントのサイズもしくは形状を改変することによって、あるいは本願の他の箇所に記載されるように、例えば、
図14に示されている高粘度の注射剤に対する実施形態に関連して記載されるように摩擦がより大きい材料を使用して、高められ得る。このように、穿刺エレメントは、浮動シーリングエレメントが後方に移動することなく、組織(強膜)にプレ挿入され得る。いくつかの実施形態では、浮動シーリングエレメントが空洞で自動停止したとき、シリンジ先端で注射剤を絞り出すために押しシーリングエレメントを押しても穿刺エレメントがさらに前進しないように、浮動シーリングエレメントの摩擦抵抗は、特定の製剤粘度、シリンジ筒の内径および穿刺エレメントの内径の場合に空洞に注射するのに必要な力より高いことがある。換言すれば、特定の製剤粘度、シリンジ筒の内径および穿刺エレメントの内径の場合に空洞に注射するために押しシーリングエレメントにかけられる力より浮動シーリングエレメントの摩擦抵抗が高いこともある。このように、浮動シーリングエレメントは、空洞で自動停止でき、シリンジ先端で注射剤を絞り出すために押しシーリングエレメントを押しても、穿刺エレメントはさらに前進しない。
【0076】
そのような設計では、浮動シーリングエレメントが自動停止し、注射剤が空洞内において穿刺エレメントの先端にくると、ユーザーは、触覚フィードバックを受け得る。いくつかの実施形態において、触覚フィードバックは、押しシーリングエレメントにおいて抵抗がなくなる感覚に基づく。いくつかの実施形態において、触覚フィードバックは、治療用流体の送達がいつ開始するかを決定するために、浮動シーリングエレメントの停止という視覚フィードバックと組み合わせて使用され得る。いくつかの実施形態において、視覚フィードバックに関して、例えば、押しシーリングエレメントが移動し続けるが、浮動シーリングエレメントは移動せず、組織表面での目に見える漏出が観察されない場合、穿刺エレメントが所望の位置において注射剤を送達していることが、強力な指標である。
【0077】
いくつかの実施形態において、本開示の注射システムは、堅い強膜組織に貫入する長くて細いゲージ穿刺エレメントを用いて、約100~250マイクロリットルの容積を±10%の精度で送達するように小型化される。いくつかの実施形態において、精度は、±5%まで高められ得る。シリンジのサイズは、10ul~50mlであり得る。
【0078】
図9Aおよび9Bは、注射システムの遠位端106の実施形態を図示している。いくつかの実施形態において、穿刺エレメント支持体500は、穿刺エレメントを支持するためにシリンジ筒の遠位端に提供され得る。そのような摺動可能な支持体は、シリンジ筒に対して固定されていてもよいし、摺動可能であってもよい。いくつかの実施形態において、摺動可能な支持体500は、シリンジ筒の遠位端付近に配置され得る支持体フランジ510、512を備え得る。支持体フランジ510、512は、互いに間隔をあけて配置されることにより、穿刺エレメント116がそれらの支持体フランジの間を摺動できるようにする開口部514を提供する。同時に、支持体フランジ510、512は、強膜に貫入している間の穿刺エレメントの屈曲および浮動シーリングエレメントに対する力の変化によって引き起こされる穿刺エレメントの移動を小さくするために、先端付近の穿刺エレメントに対して支持を提供し得る。いくつかの実施形態において、フランジ510、512は、シリンジ筒と一体であり得る。
【0079】
いくつかの実施形態において、穿刺エレメント支持体は、強膜と接触する。いくつかの実施形態において、穿刺エレメント支持体は、強膜の表面に対して斜めに注射できるように面取りされ得る。いくつかの実施形態において、プレ挿入の角度は、垂直平面から45度またはそれを超える。いくつかの実施形態において、強膜に部分的に貫入するために、強膜と接触する穿刺エレメント支持体の表面には、縁に切り込みが入れられ得る。このように、穿刺エレメント支持体は、強膜をしっかりと捉えることにより、望まれない強膜の移動を回避することができる。摺動可能な穿刺エレメントの開口部は、使用される穿刺エレメントのサイズおよび形状に対応するようなサイズにされ得る。
【0080】
注射システムのいくつかの実施形態において、穿刺エレメントは、その穿刺エレメントが強膜を完全に貫通しないようにほんの短い距離(100um~5mm)だけ露出しているが、浮動シーリングエレメントが作動している間、SCS送達を行いつつさらに伸長し得る。いくつかの実施形態において、穿刺エレメント支持体は、穿刺エレメントより先に、穿刺エレメントとともに、および穿刺エレメントの少し後に、強膜の表面と接触し得る。
【0081】
図10Aおよび10Bを参照すると、穿刺エレメント支持体は、シリンジ筒の中に摺動自在に配置され得、穿刺エレメントの露出部の長さは、SCS送達を行う前に調整できる。いくつかの実施形態において、穿刺エレメント支持体の遠位面は、シリンジ筒の中心軸と直交しているかまたは斜めである場合がある。いくつかの実施形態において、穿刺エレメントのプレ露出部の長さは、プレ挿入の前に調整され得、浮動シーリングエレメントと無関係であり得る。例えば、
図10Bは、穿刺支持エレメントが、近位方向に移動することにより、
図10Aに示されているように穿刺支持エレメントがシリンジ筒内のより遠位に設置される場合よりも穿刺エレメントの露出部の長さが長くなり得ることを示している。しかしながら、穿刺エレメントが、患者の眼にプレ挿入されたときもなお、浮動シーリングエレメントの移動によって穿刺エレメントの貫入の長さを制御できる。押しシーリングエレメントを手で押す場合、操作者は、押しシーリングエレメントにかけるのに必要な力の違いを感じることがある。穿刺エレメントは、ユーザー/医師が操作を変更する必要なく(例えば、押しシーリングエレメントを押し続けて)、停止し、注射剤ペイロードの送達を直ちに開始する。
【0082】
図11A~11Cを参照すると、安全キャップ118の様々な実施形態が示されている。安全キャップは、使用前の穿刺エレメントを機械的な損傷から保護し得る。いくつかの実施形態において、安全キャップは、貯蔵中に注射剤が漏れないようにするまたは注射チャンバーから注射されないようにするために穿刺エレメントを封止することもできる。摩擦力、インターロックまたはネジ山を用いてシリンジに蓋を取り付けてもよい。
【0083】
図12A~12Eを参照すると、いくつかの実施形態において、注射剤は、複数の成分として提供され得、これらの成分は、注射チャンバー内に別々に保存され得、注射システムの使用直前に混合されて、標的に注射剤が送達され得る。いくつかの実施形態において、注射剤は、その希釈剤から隔てられた注射チャンバー内に別々に保存され得る。圧力がかけられると、希釈剤は、治療薬と混合されて溶液または懸濁液を生成し、次いでそれがSCSに注射され得る。いくつかの実施形態において、治療薬は、凍結乾燥された治療薬であり得る。
【0084】
いくつかの実施形態において、注射システムは、互いに隔離された複数のチャンバーを有し得る。いくつかの実施形態において、注射剤は、1つのチャンバーに保存された乾燥成分および別のチャンバーに保存された希釈剤を含み得る。使用時に、希釈剤が、そのチャンバーから乾燥成分が入ったチャンバーに押し込まれ、それにより、注射用製剤の2成分のインサイチュ再構成が達成され得る。
【0085】
図12Aに示されているように、いくつかの実施形態において、2つのチャンバー610、612は、最初は、浮動シーリングエレメントに取り付けられたゴム(または他の材料)のシール614によって隔てられている。チャンバー610は、シール614および浮動シーリングエレメント110によって規定され得、チャンバー612は、シール614および押しシーリングエレメント112のバックシール616によって規定され得る。いくつかの実施形態において、シールが一方向に移動したとき2つのチャンバーを接続する溝がシリンジ筒の内壁に存在し得る。いくつかの実施形態において、チャンバー610は、治療薬の凍結乾燥された活性物質を含み、チャンバー612は、その活性物質を再構成するために使用され得るキャリア注射剤を含む。バックシール616が、前方に移動できるが後方に移動できないように、一方向ストッパー618が、押しシーリングエレメントのバックシール616の近位に配置され得る。シール614が後方に移動すると、チャンバー612内の流体が加圧される。同時に、
図12Bに示されているように、シール614の移動によって2つのチャンバーが接続される。そしてチャンバー612からの加圧流体が、チャンバー610に入って、チャンバー610の内容物と混ざる。シール614を前後に移動させることにより、2成分の効率的な混合が可能になり得る。
図12Cに示されているように、シールが完全に後方に引っ張られると、そのシールが押しシーリングエレメントのバックシールと嵌合して、両方のシールが一緒に移動するようになる。いくつかの実施形態において、それらのシールには、対応するアンカーおよびアンカリングポートが提供され得る。そして、押しシーリングエレメントに力をかけることにより、注射システムを作動させることができる。
図12Dに示されているように、ここで注射システムの準備が完了でき、
図12Eに示されているように、使える状態になる。
【0086】
シール614とバックシール616とを嵌合する機構は、機械的、接着性または磁性であり得る。いくつかの実施形態において、それは、機械的アンカーとして示されている。いくつかの実施形態では、治療用の溶液または懸濁液が、注射用のシステムに予め充填された状態で保存される。いくつかの実施形態において、治療薬は、使用準備済みの溶液として、または再構成が必要な凍結乾燥粉末として、キットを構成する1つまたは複数のバイアルに保存される。これらの実施形態において、使用準備済みまたは再構成済みの治療薬が、送達に向けて本システムにロードされ、次いで、SCSに注射される。
【0087】
いくつかの実施形態において、上で述べたように、本開示の注射システムは、10センチポアズ(cP)を超える高粘度の注射剤を送達するために使用され得る。いくつかの実施形態において、高粘度の治療薬を送達できるかは、複数のパラメータ、例えば、穿刺エレメントの長さ、穿刺エレメントの内腔の直径および断面積、流体の密度、シリンジのサイズ、浮動シーリングエレメントとシリンジ筒との間の摩擦力および摺動力、ならびに最小流速に依存し得る。例えば、
図13を参照すると、標準的なプラスチックの1mlシリンジ/シーリングエレメントの組合せについて、100ul/分という最小流速を用いたときの、穿刺エレメントのゲージに応じた最大粘度をプロット1にプロットしている。いくつかの実施形態において、浮動シーリングエレメントとシリンジ筒との間の摩擦力を高めることによって、所与のサイズの穿刺エレメントの場合に注射できる最大粘度は、プロット2に示されているように上昇し得る。例えば、プロット1のデータを生成するために、浮動シーリングエレメントとシリンジ筒との間の摩擦力を2倍にした。いくつかの実施形態において、粘度改変剤を、治療用の溶液または懸濁液のキャリア流体に添加することができ、その結果、ユーザーへの押しシーリングエレメントに対する触覚フィードバックが高まることにより、注射中の制御が改善される。
【0088】
図14を参照すると、本開示の注射システムは、浮動シーリングエレメントに対する摩擦力を高めるために、浮動シーリングエレメントの直径と比べてサイズの小さい内径を有するシリンジ筒を備える。一般に、摩擦力は、浮動シーリングエレメントとシリンジ筒の内面との両方の相対的なサイズ(例えば、直径および/または長さ)、ならびに浮動シーリングエレメントとシリンジ筒との両方の材料の特性(弾性率および屈曲率)の関数である。非限定的な例として、1mlシリンジの場合の摩擦力は、約1Nであると計測された。許容できる最大粘度と摩擦力とが、正比例する。ゆえに、許容できる粘度の限界を10倍高めるためには、摩擦力を10倍高める必要があるだろう。浮動シーリングエレメントおよびシリンジ筒の相対的なサイズの小さな変化でさえ、浮動シーリングエレメントに対する法線力を変化させることができ、それにより、高粘度の注射剤の投与が可能になり得る。いくつかの実施形態において、外力が浮動シーリングエレメントに対して作用しないとき、すなわち、弛緩状態であるとき、第1のシーリングエレメントは、シリンジ筒の内腔のサイズよりも1.01~2倍大きいサイズを有し得る。いくつかの実施形態において、第1のシーリングエレメントは、弛緩状態において、シリンジ筒の内腔のサイズより1.01~1.10倍大きいサイズを有する。いくつかの実施形態において、第1のシーリングエレメントは、弛緩状態において、シリンジ筒の内腔のサイズより1.01~1.4倍大きいサイズを有し得る。いくつかの実施形態において、浮動シーリングエレメントとシリンジ筒との間の摩擦力を高めるために、シリンジ筒の内腔の直径は小さくされ得る。
【0089】
いくつかの実施形態において、浮動シーリングエレメントに対するそのような摩擦力は、穿刺エレメントのプレ挿入の段階において浮動シーリングエレメントの近位移動を防止するのに十分であり得る。換言すれば、浮動シーリングエレメントに対する摩擦力の増大には、2つの利点があり得る:1)プレ挿入の間、浮動シーリングエレメントを所定の位置で維持する点、および2)ユーザーが高粘度の治療を送達できるようにする点。いくつかの実施形態において、浮動シーリングエレメントが、プレ挿入の間、所定の位置のままとどまるように、浮動シーリングエレメントとシリンジ筒との間の摩擦力または摺動力を、プレ挿入力より大きくなるように高めることができる。プレ挿入力は、穿刺エレメントの幾何学的形状に依存し得る。いくつかの実施形態において、自動停止機能はインタクトなまま、浮動シーリングエレメントに対して高い摩擦力または摺動力を可能にするために、注射剤に粘度改変剤が添加される。いくつかの実施形態において、シリンジ筒の表面の粗さを上げるまたは下げることにより、浮動シーリングエレメントとシリンジ筒との間の摩擦力を上げるまたは下げることで、注射剤の粘度を調整することが可能になり得る。
【0090】
いくつかの実施形態において、浮動シーリングエレメントのサイズとシリンジ筒のサイズとの関係は、シリンジ筒の内径を一定に保ちつつ浮動シーリングエレメントの直径を大きくするか、浮動シーリングエレメントの直径を一定に保ちつつシリンジ筒の内径を小さくするか、またはこれらの2つの選択肢の組合せによって調整できる。両方の場合において、いくつかの実施形態において、押しシーリングエレメントは、上で論じられたように、シリンジ筒を通過して、浮動シーリングエレメントと接触することにより、シーリングエレメント間のデッドボリュームを無くすように構成されている。いくつかの実施形態において、押しシーリングエレメントは、より柔らかい材料および/または押しシーリングエレメントとシリンジ筒との間の摩擦を低下させ得る材料から作製され得る。追加的にまたは代替的に、押しシーリングエレメントの硬い部分は、その弾性部分よりも浮動シーリングエレメントと比べてサイズを小さくすることができ、それにより、押しシーリングエレメントを浮動シーリングエレメントまで容易に前進させることができるようになる。いくつかの実施形態において、追加的にまたは代替的に、穿刺エレメントの直径または形状は、本開示の注射システムを用いて高粘度の注射剤の送達を可能にするように変更できる。
【0091】
いくつかの実施形態において、本開示の注射システムには、穿刺エレメントが患者の眼に達することができる深さを制限または制御するための1つまたは複数の安全性特徴が備え付けられる。いくつかの実施形態において、そのような特徴は、浮動シーリングエレメントが遠位方向に移動できる距離を限定できるので、穿刺エレメントは、SCSの外にまで達することはできない。いくつかの実施形態において、穿刺エレメントが移動して空洞の界面に到達するために必要な長さは、患者ごとに異なるので、そのような安全性特徴は、十分に融通のきくものまたは調整可能である必要があり、ゆえに、穿刺エレメントの最大挿入距離は、各手技に特有に設定され得る。
【0092】
図15Aを参照すると、いくつかの実施形態において、そのような安全性特徴は、浮動シーリングエレメント110を所定の位置に選択的にロックおよびロック解除するためのロックを含み得る。いくつかの実施形態において、ロック700は、浮動シーリングエレメントの遠位のシリンジ筒の遠位領域に密封コンパートメントを含む。コンパートメント700には、バルブ712(例えば、ボールバルブ、バタフライバルブ、ピンチバルブ、コントロールバルブ、ゲートバルブ、玉型バルブまたは穿刺エレメントバルブ)が装備され得るので、非圧縮性物質、例えば、滅菌された流体、液体(例えば、滅菌食塩水)または気体をコンパートメント710に出し入れできる。コンパートメント内の物質は、非圧縮性なので、バルブが閉じているときは、浮動シーリングエレメントは遠位方向に移動できない。バルブは、バイナリーバルブまたは調節可能なバルブであり得る。バルブを開くと、非圧縮性物質がコンパートメントから放出され、浮動シーリングエレメントが、遠位方向に移動できるようになる。浮動シーリングエレメントを再度ロックするためには、バルブを閉じる。
【0093】
遠位にある安全性ロックの操作が
図15B~15Eに図示されている。
図15Bに示されているように、注射システムの使用前に、浮動シーリングエレメントを所望の初期位置に配置し、密封コンパートメント710を非圧縮性物質で満たすことができ、バルブ712を閉じて、浮動シーリングエレメントをその初期位置にロックする。シリンジの充填および穿刺エレメントのプレ挿入の工程の間、バルブを閉じたまま維持し、該当する場合は、浮動シーリングエレメントを所定の位置に保持する。
図15Cに示されているように、穿刺エレメントが組織にプレ挿入されると、バルブ712を開いて、非圧縮性物質の一部を密封コンパートメントから放出することにより、浮動シーリングエレメントが遠位方向に移動できるようになり、穿刺エレメントがSCS界面に前進できる。いくつかの実施形態では、コンパートメントから放出された流体を回収するために、回収レザバーが提供され得る。
図15Dに示されているように、穿刺エレメントが、注射剤をSCS(例えば、強膜とSCSの界面)に注射するために望まれるように配置されたら、バルブを閉じて、浮動シーリングエレメントを所定の位置にロックする。これによっても、確実に穿刺エレメントが所望の位置のままとどまる。コンパートメント内に残っている流体は非圧縮性なので、浮動シーリングエレメントは、バルブが閉じているとき、遠位方向に移動できない。流体ロックは、穿刺エレメントがSCSに到達した後、バルブを閉じることによって、穿刺エレメントによる通り越しも防止できる。例えば、
図15Eに示されているように、流体ロックのデザインは、押しシーリングエレメントが、浮動シーリングエレメントと接触して浮動シーリングエレメントを前方に動かし得るときでさえ、またはユーザーが偶発的に押しシーリングエレメントを押し続けた場合でさえ、浮動シーリングエレメントを静止したまま維持し得る。
【0094】
いくつかの実施形態において、密封コンパートメントに使用される非圧縮性物質の粘度は、注射剤の粘度と均衡するように選択され得る。コンパートメント内の流体の粘度を高めることによって、その粘稠性流体を、バルブを通って排出するために必要な力の大きさが増大する。これは、浮動シーリングエレメントの近位移動に対してさらなる抵抗を発揮し、それにより、浮動シーリングエレメントの摺動力が増大する。
【0095】
図16を参照すると、いくつかの実施形態において、シリンジの遠位領域における開口部またはバルブ712は、浮動シーリングエレメントとシリンジの遠位端との間のシリンジの区画を滅菌するためにも使用され得る。特に、浮動シーリングエレメントの前方のシリンジ筒の一部分にアクセスポート(例えば、バルブまたは穴)を作ることにより、滅菌ガスまたは水蒸気がシリンジのその部分に容易に入ることが可能になる。いくつかの実施形態において、ロックを使用しない場合であっても、そのようなアクセスポートが提供され得る。
【0096】
図17Aおよび17Bを参照すると、いくつかの実施形態において、浮動シーリングエレメントをロックするための安全性特徴は、浮動シーリングエレメント110と押しシーリングエレメント112との間に配置されたタッチトリガーロック800を含む。上で論じられたロック700と同様に、タッチトリガーロック800は、注射剤が送達されたとき、特に、押しシーリングエレメントが浮動シーリングエレメントとじかに接触して、浮動シーリングエレメントを前方に押し出し得る送達サイクルの終わりに、浮動シーリングエレメントの移動を防止するように構成され得る。いくつかの実施形態において、タッチトリガーロックは、押しシーリングエレメントが浮動シーリングエレメントと接触して、片方または両方のシーリングエレメントとシリンジ筒との間の摩擦が増大するとき、シリンジ筒の内部に向かって外向きにはね返るばね仕掛けの装置である。このように、タッチトリガーロックは、浮動シーリングエレメント、押しシーリングエレメントまたはその両方のアンカーとして働くことにより、タッチトリガーロックが開放されると、それらのさらなる移動を防止することができる。いくつかの実施形態において、タッチトリガーロック800は、抵抗部材810およびその抵抗部材810を放出するトリガー812を備える。タッチトリガー機構は、浮動シーリングエレメント上もしくは押しシーリングエレメント上、またはその両方に配置され得る。操作の際、抵抗部材は、シーリングエレメントがシリンジ筒内を自由に移動できるようにするために、最初はタッチトリガー機構内に隠されている。シーリングエレメントが互いに接触すると、トリガー812が作動して、タッチトリガー機構から抵抗部材810が放出され、シリンジ筒とタッチトリガー機構を有するシーリングエレメントとの間の摩擦力が有意に増大し、それにより、そのシーリングエレメントが遠位方向に前進するのを妨げる。本質的には、抵抗部材は、シーリングエレメントを所定の位置にロックするブレーキとして作用する。いくつかの実施形態において、抵抗機構は、環状のばねを備え得る。初期配置において、そのばねは、タッチトリガー機構内に圧縮され得る。トリガーが作動すると、環状のばねが、タッチトリガー機構から解放される。ばねが伸びることにより、シリンジ筒と接触し、片方または両方のシーリングエレメントとシリンジ筒との間の摩擦が有意に増大して、片方または両方のシーリングエレメントが所定の位置にロックされる。
【0097】
いくつかの実施形態において、追加的にまたは代替的に、穿刺エレメントの前進を防止する別個の機械的構造(例えば、押しシーリングエレメントが所定の点を越えて移動するのを防止する別の機械式ストップ)が提供され得る。操作の際、いったん押しシーリングエレメントが前進を阻止されると、浮動シーリングエレメントを加圧できなくなり、ゆえに、さらに前進させることができなくなる。
【0098】
いくつかの実施形態において、本開示の注射システムは、上に記載されたように、製造中に予め注射剤で満たされ得る。いくつかの実施形態において、本開示の注射システムは、注射剤を患者に投与する直前に注射剤で満たされ得る。いくつかの実施形態において、注射剤は、貯蔵用のバイアルに入った状態で提供され得、注射剤を患者に投与する準備が整ったときのみ、ユーザーによってSCSシステムに移され得る。
【0099】
図18を参照すると、いくつかの実施形態において、本開示の注射システムには、バイアル902から注射チャンバーに注射剤をロードすることを可能にする急速充填ポート900が提供される。いくつかの実施形態において、急速充填ポート900は、バイアル902を受け入れてバイアルを注射チャンバーと流体により接続するように構成されている受け部904を備える。いくつかの実施形態において、浮動シーリングエレメント110の近位のシリンジ筒の壁を通る穴または通路が作られ(例えば、成形、機械加工などによって)、そのような穴または通路の上に受け部904が配置される。いくつかの実施形態において、浮動シーリングエレメントが初期位置に置かれ、押しシーリングエレメントが浮動シーリングエレメントと接触すると、急速充填ポートは、シーリングエレメントの間の部位においてシリンジ筒と流体により接続する。その通路に接続され、その中に部分的にまたは完全に配置されるのが、側面ポートフィルニードル906(好ましくは、注射穿刺エレメントより大きい、例えば、18ゲージの穿刺エレメント)である。そのようなフィルニードルは、治療薬を含むバイアル902のエラストマーキャップ903を貫通するように面取りされ得る。いくつかの実施形態において、急速充填ポートの充填穿刺エレメントは、先端ではなく充填穿刺エレメントの側面に開口部を有し得る。この側面のポートは、閉じた位置にあるとき流体の流れを阻止するケーシングまたは自己封止式穿刺膜908によって覆われ得る。ケーシング908は、その受け部内に配置され得、バイアルが受け部内に存在しないとき、フィルニードルのポートを閉じるようにばね910によって偏らされ得る。いくつかの実施形態では、注射システムに取り付けられたとき気密シールを提供するように安全キャップ118が構成され得る。
【0100】
操作の際、
図19Aに示されているように、急速充填ポート900の受け部904にバイアル902をはめ込み、摺動式充填穿刺エレメントケーシングを充填穿刺エレメントの側面ポートから離れさせる。次いで、急速充填ポートの充填穿刺エレメントが、バイアルのストッパーを通って貫入することにより、充填穿刺エレメントの側面ポートを通ってバイアルの内部容積がシリンジ筒と流体により接続する。
図19Bを参照すると、押しシーリングエレメント112を引き抜くと、注射剤がバイアル902から注射チャンバーに流れる。いくつかの実施形態では、押しシーリングエレメントが引き抜かれたとき、気泡もシリンジ筒内に引き込まれないように、注射システムの穿刺エレメントを流体的に封止するために、安全キャップがその穿刺エレメント上に提供される。
【0101】
図19Cを参照すると、注射システムに所望の量の注射剤をロードしたら、急速充填ポートの受け部からバイアルを取り除くことができ、それにより、摺動式充填穿刺エレメントケーシングが上がって充填穿刺エレメントの側面ポートを封止することが可能になり、これによっても、シリンジ筒が密封される。安全キャップを除去することにより、注射穿刺エレメントを通って流体が流れることが可能になり得る。
図19Dに示されているように、注射流体が注射穿刺エレメントの先端に来るまで、押しシーリングエレメントを押圧できることから、注射穿刺エレメントからの空気の除去が完了したことが示される。いくつかの実施形態では、空気を穿刺エレメントの外に除去するのを助けるために、注射システムを上に傾けることができる。すると、注射システムが使える状態になる。この急速充填ポートの設計により、無菌施設の外でも無菌性を維持しつつ、注射システムへの注射剤の充填を臨床現場で行うことが可能になり得る。
【0102】
いくつかの実施形態において、本開示の注射システムでは、注射剤を後ろから充填できる。これは、シリンジの製造初期に、または診療所で使用の直前に、行うことができる。
【0103】
いくつかの実施形態において、
図20Aに示されているように、押しシーリングエレメントを取り除くことができるので、
図20Bに示されているように、シリンジ筒の後部を通ってシリンジ筒に注射剤を添加することができる。次に、
図20Cに示されているように、押しシーリングエレメントを挿入して、浮動シーリングエレメントに向かって押すことにより、注射穿刺エレメント内の空気を除去し、使用に向けて注射システムの準備を完了することができる。
【0104】
いくつかの実施形態では、
図21Aに示されているように、充填ポート930が、押しシーリングエレメント112の遠位のシリンジ筒102の近位領域に提供され得る。この充填ポート930を通って注射剤114が注射システムに添加され得、次いで、押しシーリングエレメント112が、充填ポート930を越えて押され得、
図21Bに示されているように、押しシーリングエレメントが、注射流体を充填ポートから離れて封止する。特に、穿刺エレメント側を下に維持しつつ(穿刺エレメントの先端を封鎖する)、別の滅菌シリンジ/穿刺エレメントを用いて、充填ポートを通って注射剤を注射システムに添加することができる。いくつかの実施形態において、注射剤の全容積は、シーリングエレメント間の容積の約80%であり得る。次いで、押しシーリングエレメントが、浮動シーリングエレメントに向かって前進することにより、充填ポートから空気を除去することができる。押しシーリングエレメントが充填ポートを越えて、充填ポートを封鎖した後、シリンジを反転させて、穿刺エレメント側を上にすることができる。次に、押しシーリングエレメントをさらに遠位方向に前進させることにより、残っている空気をシリンジ筒および注射穿刺エレメントの外に放出する。
【0105】
いくつかの実施形態において、
図22A~22Cに示されているように、充填ポート930(
図21A~21Bに示されているような)は、自己封止式シール932(例えば、シリコーンゴムまたはポリテトラフルオロエチレンまたは類似のポリマー)を用いて封止され得る。このように、充填ポートは、標準的なシリンジの別個の大口径のローディングニードル934で塞がれ得るが、注射システムのシリンジ筒は、このプロセス全体にわたって封止されたままであり得る。ローディング穿刺エレメントが、充填ポートから取り除かれても、充填ポートは、使用中に押しシーリングエレメントがかけた圧力で漏出しないように十分に自己封止する。
【0106】
いくつかの実施形態において、
図23A~23Dに示されているように、シリンジ筒102の遠位部の、浮動シーリングエレメント110の遠位に充填ポート950が提供され得る。これにより、ユーザーが、押しツール952(例えば、外側に到達するのに十分長い、その穴に合う長くて細く堅い物体)を用いて浮動シーリングエレメントにアクセスして、浮動シーリングエレメントをシリンジ筒の遠位端から所望の位置に置くことが可能になり得る。例えば、急速充填ポート900を用いるとき、エラストマーバイアルストッパーを通って注射エレメントを押すことができるようにその注射エレメントを外向きに伸ばすことができ、次いで押しシーリングエレメントを引き抜くことによって注射剤をシリンジ内に引き込むことができる。次いで、押しシーリングエレメントをさらに近位方向に引き抜くことができ、その結果、浮動シーリングエレメントは、シリンジ筒内のプレ挿入位置に押し戻され得る。
【0107】
いくつかの実施形態において、注射チャンバーの容積は、20~200マイクロリットルである。触覚の改善のために、いくつかの実施形態において、治療用の流体または懸濁液を送達するための押しシーリングエレメントのひと押しの長さは、少なくとも1センチメートルの長さである。いくつかの実施形態では、注射の流速は、平均して0.2~20マイクロリットル/秒であることを目標にしている。いくつかの実施形態において、シリンジ筒は、シリンジ筒の内面への治療薬の吸着を最小限に抑えるために、シリコーンゴム、ガラス、ポリテトラフルオロエチレンまたはポリプロピレンで裏打ちされる。
【0108】
いくつかの実施形態において、
図24A~24Eを参照すると、本開示の注射システムは、安全に廃棄できるように構成されている。いくつかの実施形態において、
図24Aおよび24Bに示されているような注射サイクルの終わりに、押しシーリングエレメント112は、
図24Cに示されているように、浮動シーリングエレメント110と接触し得る。いくつかの実施形態において、注射システムは、
図24Dに示されているように、押しプランジャーが、直接または間接的に浮動シーリングエレメントと連結し得るように構成されている。シーリングエレメントが連結したら、押しシーリングエレメントを引き抜き、それにより、
図24Dに示されているように、浮動シーリングエレメントおよび穿刺エレメントもシリンジ筒内に引き抜かれ得る。いくつかの実施形態において、穿刺エレメントは、シリンジ筒内で湾曲できるように構成されているので、
図24Eに示されているように、もはやシリンジ筒の外側に伸びることができない。
【0109】
いくつかの実施形態において、本開示の注射システムは、網膜または脈絡膜の遺伝性障害または(of)遺伝性疾患を処置するための、ウイルス遺伝子送達ベクターを送達するために使用され、それらのベクターとしては、アデノ随伴ウイルス(AAV)、そのバリアントまたは血清型(AAV血清型1~11、特にAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10およびAAV11を含むがこれらに限定されない)および組換え血清型(例えば、Rec2およびRec3)が挙げられるが、これらに限定されない。AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8およびAAV9はすべて、https://www.retinalphysician.com/issues/2020/special-edition-2020/vector-considerations-for-ocular-gene-therapy(その全体が参照により本明細書中に援用される)に記載されているように、網膜色素上皮および光受容体を含む網膜組織に対して向性を示し得る。例示的な疾患としては、滲出型加齢黄斑変性症、萎縮型加齢黄斑変性症(AMD)、緑内障、コロイデレミア、および他の遺伝性の視覚疾患および視覚障害が挙げられ得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、注射システムは、網膜細胞および/または脈絡膜細胞(例えば、光受容体、色素細胞、双極細胞、神経節細胞、水平細胞およびアマクリン細胞が挙げられるがこれらに限定されない)、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、非血管平滑筋細胞、メラノサイト、線維芽細胞、常在免疫担当細胞に、抗血管内皮成長因子(抗VEGF)、および転写されたとき、滲出型AMDを処置するための抗VEGFタンパク質を産生する抗血管内皮成長因子レセプター(抗VEGFR)遺伝子をトランスフェクトするためのAAVまたはそのバリアントを含むがこれらに限定されないウイルス送達ベクターを送達するために使用される。いくつかの実施形態において、遺伝子療法組成物は、目的の遺伝子に対するプロモーターも含み得る。
【0110】
いくつかの実施形態において、注射システムは、低分子干渉リボ核酸(siRNA)、短ヘアピンリボ核酸(shRNA)、マイクロリボ核酸(マイクロRNA)、閉鎖末端デオキシリボ核酸(ceDNA)、ポリマー-DNA結合体、またはクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)およびCRISPR関連タンパク質9(Cas9)システムならびにそのバリアント、ならびに転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)およびそのバリアント、ならびにジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)およびそのバリアント、ならびにトランスポゾンベースの遺伝子送達(例えば、Sleeping Beauty(SB)、piggyBac(PB)、Tol2またはそれらのバリアント)を含むがこれらに限定されない遺伝子療法を送達するために使用される。これらの遺伝子療法は、ウイルスベクター、非ウイルスベクターまたはナノ粒子にパッケージされ得る。
【0111】
いくつかの実施形態において、注射システムは、ウイルス遺伝子送達ベクター、非ウイルス遺伝子送達系または他の遺伝子療法を送達するために使用され、0.001%、0.01%、0.1%、1%、3%、5%、10%、25%、50%、75%または90%未満という網膜細胞および/または脈絡膜細胞のトランスフェクション効率を達成する。
【0112】
いくつかの実施形態において、注射システムは、VEGFまたはVEGFRを標的とする小分子または大分子治療(例えば、ziv-アフリベルセプト、パゾパニブ、ベバシズマブ、カボザンチニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、アクシチニブ(axitinib)、レゴラフェニブ、ポナチニブ、カボザンチニブ、バンデタニブ、ラムシルマブ、レンバチニブおよびベバシズマブが挙げられるがこれらに限定されない)を送達するために使用される。
【0113】
いくつかの実施形態において、注射システムは、遺伝性眼疾患または遺伝性眼障害に対して治療効果を付与する以下の遺伝子のうちの1つまたは複数の遺伝子を標的にするか、置き換えるか、阻害するか、または促進する遺伝子療法を送達するために使用され、それらの遺伝子としては、MTP、HGD、SLC16A2、POLG、ALMS1、FGFR2、PRPS1、APTX、ATM、DNMT1、TGFBI、ACTB、FGFR2、BEST1、CYP4V2、NOD2、FOXL2、ABCC9、ERCC6、CYP27A1、CHS1、SH3BP2、HDAC6、CHM、SLC9A6、NSDHL、OPN1MW、OPN1LW、OPN1SW、KERA、IGBP1、OPA3、UGT1A1、FGFR2、FGFR3、ATP6V0A2、CTNS、EFEMP1、SALL4、ADAMTSL4、FBN1、ADAMTSL4、NR2E3、TGFBI、GLA、IKBKAP、LCAT、GALK1、GALT、GBA、GLB1、PORCN、TGFBI、OAT、ENG、CBS、MBTPS2、IKBKG、CNNM4、ATRX、GALC、TGFBI、HADHA、OCRL1、PLP1、B3GALTL、PAH、ARX、LOXL1、TGFBI、PQBP1、RB1、IDUA、IDS、SGSH、NAGLU、HGSNAT、GNS、GALNS、GLB1、ARSB、GUSB、FGFR3、LMX1B、NHS、STAC3、NF1、NF2、NF1、MT-ATP6、NDP、RP1L1、GPR143、PABN1、HEXB、UBIAD1、AGK、RAIL HBB、TIMP3、ATP2B3、ABCA4、ELOVL4、PROM1、GNAQ、SUOX、NAA10、BCOR、SOX2、OTX2、BMP4、HCCS、STRA6、VAX1、RARB、HMGB3、MAB21L2、RBM10、HEXA、TGFBI、SHOX、TAT、PTEN、VHL、VCAN、NF1、ZC4H2、ATP7B、CNGA3、CNGB3、JAG1、NOTCH2、PAX6、ELP4、FOXE3、PITX3、PITX2、FOXC1、CHD7、SEMA3E、ERCC6、ERCC8、CYP1B1、MYOC、MYOC、CYP1B1、FGFR1、FGFR2、FGFR1、FGFR2、NDN、SNRPN、PHYH、PEX7、CREBBP、EP300、OPA1、OPTN、SAG、GRK1、TWIST1、FGFR2、GPC3、OFD1、TSC1、TSC2、PRPH2、BEST1、WFS1、CISD2、COL4A5、COL4A4、COL4A3、UBE3A、CDKLS、MECP2、PTCH1、PTCH2、SUFU、NSD1、H19、KCNQ1OT1、CDKN1C、OPN1LW、OPN1MW、EYA1、SIX1、SIX5、KIF21A、PHOX2A、ARIX、TUBB3、SMC1A、HDAC8、COL5A1、COL5A2、COL3A1、TNXB、OPTN、ASB10、WDR36、MTND1、MTND4、MTNDS、MTND6、PAX6、PITX2、CYP1B1、FOXCl、DMPK、ZNF9、CNBP、NPC1、NPC2、SMPD1、TYR、OCA2、TYRP1またはSLC45A2、MC1R、COL1A1、COL1A2、CRTAP、LEPRE1、NPHP1、NPHP4 SDCCAG8、WDR19、CEP290、IQCB1、HESX1、OTX2、SOX2、COL2A1、COL11A1、COL11A2、COL9A1、COL9A2、MYO7A、USH2A、EDN3、EDNRB、MITF、PAX3、SNAI2、SOX10、ADAMTS10、FBN1、LTBP2、XPA、XPC、ERCC2、ERCC3およびPOLHが挙げられるが、これらに限定されない。
【0114】
いくつかの実施形態において、本開示の送達系は、加齢黄斑変性症(AMD)または糖尿病性黄斑浮腫(DME)を処置する遺伝子療法を送達するために使用され得る。いくつかの実施形態において、本開示の送達系は、VEGFR-2を阻止する1つまたは複数の遺伝子を必要に応じてCAGプロモーターとともに含むAAVベクターを含む組成物の脈絡膜上(SCS)送達に使用される。いくつかの実施形態において、他の好適なプロモーターとしては、ヒトベストロフィン(hVMD2)、サイトメガロウイルス(CMV)、SV40、mGluR6、CB7、UbiC、RZ、RedO、RhoおよびBest1が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、かかるシステムは、25~34ゲージの穿刺エレメントとともに、ポリプロピレンまたはガラスのシリンジ、ならびに押しシーリングエレメントストッパー用および浮動シーリングエレメントストッパー用のフルオロポリマー、シリコンまたはゴムを備え得る。いくつかの実施形態において、約80~120(例えば、100)マイクロリットルのそのような遺伝子療法組成物が、5~60秒間にわたって送達され得る。いくつかの実施形態において、穿刺エレメントは、2mm未満、1mm未満または0.5mm未満のベベル長を有し得る。ベベル角度は、15度超、30度超または45度超であり得る。いくつかの実施形態において、穿刺エレメントは、25ゲージおよびそれを超えるか、27ゲージおよびそれを超えるか、または30ゲージまたはそれを超える場合がある。いくつかの実施形態において、針は、切開力を下げるために第2ベベルを有する。
【0115】
いくつかの実施形態において、送達系は、AMDを処置するための、ベバシズマブ、ラニビズマブ、アフリベルセプト、ラムシルマブ、ディスインテグリン、抗プロスタグランジン、トリプトファニルtRNAシンテターゼ由来ポリペプチド、イノシン一リン酸デヒドロゲナーゼ(IMPDH)阻害剤および抗PDGFを含むがこれらに限定されない抗VEGF薬;ならびにブドウ膜炎、脈絡網膜炎または他の炎症性眼疾患を処置するためのコルチコステロイド;様々な眼での使用のためのボツリヌス毒素;翼状片、ドライアイまたはAMDを処置するためのチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、バンデタニブ、アクシチニブ、パゾパニブ、スニチニブ、ソラフェニブ);網膜病理を処置するための、レボ-ベタキソロールまたは他のベータアドレノセプターアンタゴニストおよび5-HT1Aアゴニストなどの小分子または大分子の注射剤を送達するために使用される。
【0116】
いくつかの実施形態において、注射システムは、血管新生を減少させる小分子Wnt阻害剤を送達するために使用される。これらの小分子Wnt阻害剤には、インダゾール-3-カルボキサミド化合物またはそのアナログ(W02013040215A1)、y-ジケトンまたはその塩もしくはアナログ(W02014130869A1)、アザインダゾール化合物またはそのアナログ(例えば、3-(1h-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)-1h-ピラゾロ[3,4-c]ピリジン)(W02016040180A1)、N-(5-(3-(7-(3-フルオロフェニル)-3H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-2-イル)-1H-インダゾール-5-イル)ピリジン-3-イル)-3-メチルブタンアミド(その非晶質形および多形を含む)(W02017210407A1)、イソキノリン-3-イルカルボキサミドまたはその塩もしくはアナログ(その非晶質形および多形を含む)(W02017189823A2)、ジアザナフタレン-3-イルカルボキサミドまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(US20190127370A1)、6-(5員ヘテロアリール)イソキノリン-3-イル-(5員ヘテロアリール)カルボキサミドまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(W02019084496A1)、6-(6員ヘテロアリール&アリール)イソキノリン-3-イルカルボキサミドまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(US20190125740A1)、3-(3h-イミダゾ[4,5-b]ピリジン-2-イル)-1h-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン(US20190119303A1)、インダゾールコアを含むWnt阻害剤または塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(W02013151708A1)、1h-ピラゾロ[3,4-b]ピリジンまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(W02013166396A2)、2-(1h-インダゾール-3-イル)-3h-イミダゾ[4,5-b]ピリジンまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(US20190055238A1)、f3-ジケトン、y-ジケトンあるいはy-ヒドロキシケトンまたはそれらの塩もしくはアナログ(W02012024404A1)、3-(ベンゾイミダゾール-2-イル)-インダゾール阻害剤または塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(US10183929B2)、3-(1h-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-2-イル)-1h-ピラゾロ[3,4-b]ピリジンまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(US20180325910A1)、1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジンまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(CY-1119844-T1)、3-(1h-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-2-イル)-1h-ピラゾロ[3,4-c]ピリジンまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(US-2018250269-Al)、N-(5-(3-(7-(3-フルオロフェニル)-3H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-2-イル)-1H-インダゾール-5-イル)ピリジン-3-イル)-3-メチルブタンアミドまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(US20180133199A1)、インダゾール-3-カルボキサミドまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(US-2018185343-A1)、3-(3h-イミダゾ[4,5-b]ピリジン-2-イル)-1h-ピラゾロ[3,4-c]ピリジンまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(US-2018201624-Al)、2-(1h-インダゾール-3-イル)-1h-イミダゾ[4,5-c]ピリジンまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(US-2018215753-A1)、3-(3H-イミダゾ[4,5-C]ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-C]ピリジンまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(US-10052331-B2)、5-置換インダゾール-3-カルボキサミドまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(US-2018127377-A1)、3-(3H-イミダゾ[4,5-C]ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-B]ピリジンまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(US-10188634-B2)、3-(1H-イミダゾ[4,5-C]ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-B]ピリジンまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(US-10195185-B2)、3-(1h-ピロロ[2,3-b]ピリジン-2-イル)-1h-インダゾールまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(W0-2017024021-A1)、3-(1h-ピロロ[2,3-c]ピリジン-2-イル)-1h-ピラゾロ[3,4-c]ピリジンまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(W0-2017023975-A1)、3-(1h-インドール-2-イル)-1h-ピラゾロ[3,4-b]ピリジンまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(US-2018214428-A1)、3-(1h-ピロロ[3,2-c]ピリジン-2-イル)-1h-インダゾールまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(US-2018221350-A1)、3-(1h-インドール-2-イル)-1h-インダゾールまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(W0-2017023986-A1)、3-(1H-ピロロ[2,3-B]ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾロ[4,3-B]ピリジンまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(US-10206909-B2)、3-(1h-ピロロ[3,2-c]ピリジン-2-イル)-1h-ピラゾロ[4,3-b]ピリジンまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(WO-2017024003-Al)、3-(1h-ピロロ[3,2-c]ピリジン-2-イル)-1h-ピラゾロ[3,4-b]ピリジンまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(US-2018221341-A1)、3-(3h-イミダゾ[4,5-b]ピリジン-2-イル)-1h-ピラゾロ[4,3-b]ピリジンまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(W0-2017024015-A1)、3-(1h-ピロロ[2,3-c]ピリジン-2-イル)-1h-ピラゾロ[3,4-b]ピリジンまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(US-2018221352-Al)、3-(1H-ピロロ[3,2-C]ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-C]ピリジンまたは塩もしくはアナログ(非晶質形および多形を含む)(US-10206908-B2)が含まれ得る。本明細書中で引用される各参考文献は、それらの全体が参照により援用される。
【0117】
いくつかの実施形態において、注射システムは、マイクロカプセルに封入された作用物質、ナノカプセルに封入された作用物質、純粋なタンパク質ナノ粒子、および難水溶性または不水溶性の作用物質を含む注射剤の懸濁液を送達するために使用される。
【0118】
いくつかの実施形態において、注射剤またはカプセルに封入された注射剤は、滞留時間を延長するマトリックスとともに送達される。そのマトリックスは、熱逆応答性(reverse thermally responsive)ヒドロゲル、自己集合ヒドロゲル、生体接着性ポリマーネットワーク、ヒドロゲル、フィブロネクチン含有ヒドロゲル、酵素応答性ヒドロゲル、超音波感受性ヒドロゲル、pH感受性ヒドロゲル、炭水化物、2成分またはそれを超えるヒドロゲル、および多成分ダブルネットワークヒドロゲルからなり得る。
【0119】
いくつかの実施形態において、注射剤は、浸透促進剤とともに後に注射システムを介して送達され、その浸透促進剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、コラゲナーゼ、エラスターゼ、プロテアーゼ、パパイン、ブロメライン、ペプチダーゼ、リパーゼ、アルコール、ポリオール、短鎖グリセリド、アミン、アミド、シクロデキストリン、脂肪酸、ピロリドン、シクロペンタデカラクトン、N-[8-(2-ヒドロキシルベンゾイル)アミノ]カプリル酸ナトリウム(SNAC)、8-(N-2-ヒドロキシ-5-クロロ-ベンゾイル)-アミノ-カプリル酸(5-CNAC)、カプリン酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、オメガ3脂肪酸、プロテアーゼ阻害剤、アルキルグリコシド、キトサン、ドデシル-2-N,N-ジメチルアミノプロピオネート(DDAIP)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アゾン、スルホキシド、界面活性剤、塩化ベンザルコニウム(benzylalkonium choride)、サポニン、胆汁酸塩、胆汁酸、細胞透過性ペプチド、ポリアルギニン、低分子量プロタミン、ポリセリン、カプリン酸、ゲルシレス(gelucires)、半フッ素化アルカン、テルペン、リン脂質、キレート剤、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、シトレート、クラウンエーテルおよびそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0120】
いくつかの実施形態において、1つまたは複数の治療製剤を有する注射剤は、脈絡膜血管を介した注射剤の流出を減少させる1つまたは複数の血管収縮剤の投与とともにまたはその投与の後に、注射システムを介して送達され、それらの血管収縮剤としては、25I-NBOMe、アンフェタミン、AMT、抗ヒスタミン剤、カフェイン、コカイン、ドーパミン、ドブタミン、DOM、LSA、LSD、メチルフェニデート、メフェドロン、ノルエピネフリン、オキシメタゾリン、フェニレフリン、プロピルヘキセドリン、プソイドエフェドリン、刺激物、セロトニン5-ヒドロキシトリプタミンアゴニスト、トリプタンおよび塩酸テトラヒドロゾリンが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、これらの作用物質は、本開示の注射システムを用いてSCS内に投与され得るか、または標準的なシリンジを用いる硝子体内注射を介して投与され得る。血管収縮剤は、1つまたは複数の治療製剤の投与の前、投与と同時、または投与の後に、送達され得る。
【0121】
いくつかの実施形態において、注射システムを介して送達される注射剤は、20%、40%、60%または80%を超えてSCSをカバーする。
【0122】
いくつかの実施形態において、脈絡膜血管を介した注射剤の流出を減少させる1つまたは複数の血管収縮剤を伴ってまたは伴わずに注射システムを介して送達される注射剤は、180、120、60、30または15分未満でSCSをカバーする。
【0123】
いくつかの実施形態において、注射システムを介して送達される注射剤は、SCS内において180、120、60、30、15、10または5分未満の保持時間を有する。
【0124】
いくつかの実施形態において、注射剤は、500、400、300、200または100マイクロリットル未満で注射システムを介して送達される。
【0125】
いくつかの実施形態において、注射剤は、80%、60%、40% 20%、10%、5%、2.5%または1%未満の濃度で注射システムを介して送達される。
【0126】
いくつかの実施形態において、注射システムを介して網膜下腔に送達される注射剤の投与量パーセントは、80%、60%、40% 20%、10%、5%、2.5%または1%未満である。
【0127】
いくつかの実施形態において、注射システムを介して送達される注射剤は、少なくとも、10年ごとに1回、5年ごとに1回、2年ごとに1回、1年ごとに1回、6ヶ月ごとに1回、3ヶ月ごとに1回、1ヶ月に1回または1週間に1回、投与される。
【0128】
いくつかの実施形態において、注射システムは、以下の疾患の1つまたは複数の眼の原因または影響を処置するために1つまたは複数の注射剤を送達するために使用され、それらの疾患としては、無βリポタンパク質血症(バッセン・コーンツヴァイク症候群)、アルカプトン尿症、アラン・ハーンドン・ダドリー症候群、アルパース症候群、アルストレーム症候群、アペール症候群、アーツ症候群(精神遅滞、X連鎖、症候性18)、運動失調-眼球運動失行症症候群、毛細血管拡張性運動失調症(ルイーバール症候群)、常染色体優性-小脳性運動失調-聴覚消失-ナルコレプシー(ADCADN)、アベリーノ角膜ジストロフィー(混合型顆粒状・格子状角膜ジストロフィー)、バライスター・ウィンター(Baraitser-Winter)症候群1、ベア・スティーブンソン症候群、Best黄斑ジストロフィー、ビエッティ結晶状角膜網膜ジストロフィー、ブラウ症候群、瞼裂縮小-眼瞼下垂-逆内眼角贅皮(BPES)、カントゥ症候群、脳・眼・顔・骨格症候群、脳腱黄色腫症、チェディアック・東症候群、ケルビム症、扁平椎(Platyspondyly)、特徴的短指、水頭症および小眼球症を伴う軟骨異形成、コロイデレミア、クリスチャンソン症候群、CK症候群、2型色覚異常、1型色覚異常、3型色覚異常、扁平角膜、精神遅滞・眼欠損症・小顎症を伴う脳梁欠損症、コステフ症候群、クリグラー・ナジャー、クルーゾン症候群、黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群(クルーゾン外骨格症候群)、皮膚弛緩症、デブレ(Debre)型、シスチン蓄積症、ドイン蜂巣状ジストロフィー(Malattia Leventinese)、デュアン・橈側列症候群、水晶体・瞳孔偏位、家族性水晶体偏位、水晶体偏位、単独、S錐体増強症候群、角膜上皮基底膜ジストロフィー(地図状斑点状指紋萎縮症)、ファブリー病(遺伝性異所性リピドーシス)、家族性自律神経障害、魚眼病、ガラクトキナーゼ欠損症、ガラクトース血症、ゴーシェ病、GM1-ガングリオシドーシスI型、GM1-ガングリオシドーシスII型、GM1-ガングリオシドーシスIII型、ゴルツ症候群、顆粒状角膜ジストロフィー(グレーノーI型)、脳回転状萎縮症、遺伝性出血性毛細血管拡張症(Hereditary Hemorrhagic Telangietasia)(オスラー・ランデュ・ウェーバー病)、ホモシスチン尿症、Bresheck症候群を伴うまたは伴わないIFAP症候群、色素失調症(ブロッホ・サルズバーガー症候群)、ジャリリ症候群、ジュベルグ・マルシディ(Juberg-Marsidi)症候群、クラッベ病、格子状角膜ジストロフィー、LCHAD(長鎖3-ヒドロキシアシル-Coaデヒドロゲナーゼ)欠損症、ロウ、ペリツェウス・メルツバッハ、ピータース・プラス症候群(クラウス・キブリン症候群)、フェニルケトン尿症、Proud症候群、偽落屑症候群、ライス・ビュックラース角膜ジストロフィー、レンペニング症候群(精神遅滞、X連鎖、レンペニング型)、網膜芽細胞腫、網膜分離症、若年性X連鎖、ラッセル・シルバー症候群、ムコ多糖症IH型(ハーラー症候群)、ムコ多糖症IH/S型(ハーラー・シャイエ症候群)、ムコ多糖症IS型(シャイエ症候群)、ムコ多糖症II型(ハンター症候群)、ムコ多糖症IIIA型(サンフィリポ症候群A)、ムコ多糖症IIIB型(サンフィリポ症候群B)、ムコ多糖症IIIC型(サンフィリポ症候群C)、ムコ多糖症IIID型(サンフィリポ症候群D)、ムコ多糖症IVA型(モルキオ症候群A)、ムコ多糖症IVB型(モルキオ症候群B)、ムコ多糖症VI型(マロトー・ラミー症候群)、ムコ多糖症VII型(スライ症候群)、ムエンケ症候群、爪膝蓋骨症候群、ナンス・ホラン症候群 ネイティブアメリカンミオパチー、神経線維腫症I型、神経線維腫症II型、神経線維腫症-ヌーナン症候群、ニューロパチー-運動失調-色素性網膜炎(NARP)、ノリエ病、潜在性黄斑ジストロフィー(Occult Macular Dystophy)、眼白子症、眼咽頭筋ジストロフィー、サンドホフ病(GM2-ガングリオシドーシス、II型)、シュナイダー角膜ジストロフィー(Schnyder Corneal Dysrophy)、センジャーズ症候群、スミス・マゲニス症候群、(染色体17p11.2欠失症候群)、鎌状赤血球貧血、ソースビー眼底変性症、脊髄小脳失調、X連鎖1、シュタルガルト病/黄色斑眼底、スタージ・ウェーバー症候群、スルホシステイン尿症(亜硫酸酸化酵素欠損症)、症候群性小眼球症1(レンツ小眼球症候群)、症候群性小眼球症2(眼・顔面・心臓・歯症候群)、症候群性小眼球症3(小眼球症および食道閉鎖症候群)、症候群性小眼球症5、症候群性小眼球症6、症候群性小眼球症7(Midas症候群)、症候群性小眼球症9(マシュー・ウッド症候群)、症候群性小眼球症11、症候群性小眼球症12、症候群性小眼球症13、症候群性小眼球症14、Tarp症候群、テイ・サックス病(GM2-ガングリオシドーシス、I型)、ティール・ベーンケ角膜ジストロフィー、ターナー症候群、高チロシン血症II型、Vacterl連合水頭症、フォンヒッペル・リンダウ症候群、ワーグナー症候群、ワトソン症候群、ウィーカー・ウォルフ症候群、ウィルソン病、色覚異常、アラジール症候群、無虹彩症、前眼部間葉異発生、アクセンフェルト・リーガー症候群、チャージ症候群、コケイン症候群、先天性緑内障、若年発症型開放隅角緑内障、ジャクソン・ワイス症候群、プファイファー症候群、プラダーウィリー症候群、レフサム病、ルビンシュタイン・テイビ症候群、正常眼圧緑内障、小口病、セートレ・ヒョツェン症候群、シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群、結節性硬化症、成人発症型卵黄様黄斑ジストロフィー、ウォルフラム症候群、アルポート症候群、アンジェルマン症候群、バルデー・ビードル症候群、基底細胞母斑症候群、ベックウィズ・ヴィーデマン症候群、青錐体全色覚異常、鰓耳腎症候群、シャルコー・マリー・トゥース病、錐体杆体ジストロフィー、先天性グリコシル化異常症、先天性(Congential)外眼筋線維症、先天性眼振、先天性停止性夜盲症、コルネリア・デ・ランゲ症候群、先天性角化異常症、エーラース・ダンロス症候群、フックス角膜内皮ジストロフィー、成人発症型開放隅角緑内障、ヘルマンスキー(Hermansy)・パドラック症候群、ジュベール症候群、カーンズ・セイヤー症候群、レーバー先天黒内障、レーバー遺伝性視神経萎縮症、リー症候群、ペーテルス異常 網膜色素変性症、筋ジストロフィー・ジストログリカノパチー、筋緊張性ジストロフィー、ニーマン・ピック病、ヌーナン症候群、神経セロイドリポフスチン症、眼皮膚白皮症、視神経萎縮、口腔・顔面・指趾症候群、骨形成不全症、セニオール・ローケン症候群、中隔視神経形成異常症(Septic-Optic Dysplasia)(ドモルシア症候群)、痙性対麻痺、スティックラー症候群、トリーチャー・コリンズ症候群、アッシャー症候群、ワールデンブルグ症候群、ヴァイユ・マルケザーニ症候群および色素性乾皮症が挙げられるが、これらに限定されない。
【0129】
いくつかの実施形態では、複数回の注射を長時間にわたって行うことにより、治療の継続が可能になり得る。治療薬の注射は、複数回の送達を可能にする別の作用物質を伴い得る。例えば、AAV送達は、AAVに対する免疫応答によって制限されるため、通常、AAVの使用は単回処置に限定される(この限定は、通常、硝子体内注射に関連する)一方、網膜下注射は、免疫特権を受けるが、損傷および罹患した網膜は、外傷なしには複数回の注射を許容しない。この応答を抑制する別の作用物質(例えば、ImmTOR)を、AAVの注射の前、注射とともに、または注射の後に注射して、その免疫応答を緩和し、複数の時点においてAAV治療を可能にすることができる。これにより、必要に応じて患者の応答に合わせて用量を漸増させることが可能になる。
【0130】
いくつかの実施形態において、投与経路は、SCSへの注射による経路である。いくつかの実施形態において、上記遺伝性疾患または遺伝性障害は、遺伝子シーケンシングによって診断され、そのシーケンシングとしては、例えば、サンガーシーケンシング、次世代シーケンシング、ハイスループットスクリーニング、エクソームシーケンシング、マクサム-ギルバートシーケンシング、鎖終結法、ショットガンシーケンシング、ブリッジポリメラーゼ連鎖反応、一分子リアルタイムシーケンシング、イオントレントシーケンシング、パイロシーケンシング、合成によるシーケンシング、コンビナトリアルプローブアンカー合成、ライゲーションによるシーケンシングおよびナノポアシーケンシングが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記眼疾患または眼障害は、眼の検査、検眼鏡、眼球干渉断層撮影、網膜走査、フルオレセイン染色、結膜染色、色覚検査法、視神経乳頭イメージング、神経線維層解析、角膜トポグラフィー、電気診断検査法、フルオレセイン血管造影法、眼の写真撮影、スペキュラーマイクロスコピー、視野検査法、眼の超音波およびそれらの組合せによって診断される。
【0131】
いくつかの実施形態では、ある患者が眼内圧亢進を呈し、初期の若年性原発性開放隅角緑内障と診断され、その後、検眼鏡による検査を受けた後、著しい視神経損傷が生じた。血液サンプルを採取し、遺伝子検査に送ったところ、その患者が、当該疾患の原因に関わる可能性がある、ミオシリン(MYOC)遺伝子のオルファクトメジンドメインに変異(変異Y437H)を有することが明らかになり、ミオシリン関連の原発性開放隅角緑内障の診断に至った。
【0132】
次いで、上記患者は、浸透促進剤としてベータシクロデキストリンおよびEDTAとともに自己集合ヒドロゲルの水溶液中に製剤化された、MYOC遺伝子のmRNAの最初の22塩基に相補的なマイクロRNAを、上記注射システムを用いて投与することによって処置される。この注射は、使用前に、希釈剤と別個のバイアル内に凍結乾燥粉末として保存される。注射の後、このヒドロゲルは、ミオシリン発現を抑制するマイクロRNAの持続送達を提供する送達の後、SCSにおいて自己集合して、線維柱帯におけるミオシリンの蓄積を減少させ、眼内圧を低下させることにより、その患者の視神経損傷が持続する確率を低下させる。
【0133】
別の具体的な実施形態では、男児が夜盲を呈し、検査すると、視野の縮小およびいくらかの網膜変性を有することが判明する。血液サンプルを採取し、遺伝子検査に送ったところ、その患者が、RABエスコートタンパク質1(REP1)をコードする、例えばhttps://www.uniprot.org/uniprot/P24386(その全体が参照により本明細書中に援用される)に記載されているような、CHM遺伝子配列の一部または全部を含むCHM遺伝子に変異を有することが明らかになる。これは、初期コロイデレミアの診断を裏付ける。
【0134】
次いで、上記患者は、上記注射システムを用いた投与によって処置され、この処置では、ヒトCHM遺伝子に接続された、杆体および錐体において発現されるロドプシンキナーゼ(RK)プロモーター遺伝子に由来する網膜特異的プロモーターを含む凍結乾燥AAV2ベクターが、注射の前に水性希釈剤で再構成されている。再構成の際、注射剤溶液は、1ミリリットルあたりおよそ1013個のAAVベクターを含む。このRKプロモーターおよびヒトCHM遺伝子は、注射されると、光受容体細胞に安定にトランスフェクトされ、それらの細胞において、修正された形態のREP1が発現され、当該患者のコロイデレミアを処置する。
【0135】
別の具体的な実施形態では、ある高齢患者が、中心視野欠損を呈する。通例の網膜検査を行うと、ドルーゼンが検出される。フルオレセイン血管造影法によって、脈絡膜血管系が漏出性であることが明らかになり、これは、光干渉断層撮影法(OCT)において、網膜下における流体貯留の存在が観察されることによって確かめられる。その患者は、初期の新生血管型加齢黄斑変性症(AMD)と診断される。
【0136】
次いで、上記患者は、上記注射システムを用いた投与によって処置され、この処置では、血管内皮成長因子(VEGF)、そのサブタイプのいずれか(VEGF-A、VEGF-A121、VEGF-A165、VEGF-A189、VEGF-A206 VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGFレセプター(VEGFR)、VEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3、NOTCH制御アンキリンリピートタンパク質(NRARP)および他の血管新生促進タンパク質をコードする遺伝子を含むがこれらに限定されない)のうちの1つまたは複数の、単独でのまたは組合せでの、mRNAの部分に相補的な21~24ヌクレオチドの低分子干渉RNA(siRNA)配列。このsiRNAは、リポソームキャリアの懸濁液として送達される。送達後、そのsiRNAは、血管新生促進タンパク質の発現をノックダウンすることにより、さらなる脈絡膜毛細血管の成長を予防し、毛細血管を後退させて、脈絡膜毛細血管、網膜および黄斑の浸潤を低減し、中心視野を改善させる。具体的な実施形態では、そのsiRNAは、VEGFR-2をノックダウンするように標的化され、https://www.uniprot.org/uniport/P35968(その全体が本明細書に援用される)に記載されているような遺伝子配列またはそのアイソフォームを有する。
【0137】
別の具体的な実施形態では、新生血管型AMDまたは糖尿病性網膜症と診断された患者が、上記注射システムを用いた投与によって処置され、この処置では、AAVベクターまたは他のトランスフェクションベクターが、転写されたときVEGFR-2に翻訳されるmRNAの少なくとも一部に相補的なRNA配列を生成する遺伝子を含む。この遺伝子療法をSCSに送達すると、脈絡毛細管板とも称される脈絡膜毛細血管が、VEGFR-2を発現する細胞のトランスフェクトを目標とする送達された治療薬と接触する。トランスフェクションが起きると、転写されたsiRNAベクターまたはshRNAベクターが、VEGFR-2の産生をノックダウンまたはノックアウトし、それにより、新生血管形成が低減されて、AMDまたは糖尿病性網膜症が処置される。
【0138】
いくつかの実施形態において、医師に脈絡膜上注射アセンブリまたはキットが提供され得、それらは、(1)1つまたは複数の治療薬製剤、すなわち活性な作用物質製剤を含む、例えば、有効量の、患者の眼の症状の処置に有用な作用物質を含む、所定容積の注射剤;(2)上に記載されたような注射システム、および(3)必要に応じて、その注射剤を注射システムの膜におよび膜を通って射出するのを容易にする注射器を含む。
【0139】
先に記載したように、作用物質製剤は、様々な粘度の溶液および懸濁液などの様々な形態を含み得る。製剤、注射システム、および注射を容易にする注射器(facilitating injector)を含むキット全体が、滅菌される。
【0140】
いくつかの実施形態において、脈絡膜上腔に注射される活性な作用物質製剤の総体積は、好ましくは、およそ0.01~0.5mLの範囲内である。いくつかの実施形態において、活性な作用物質は、凍結乾燥された形態および付随の希釈剤として提供され、注射時に懸濁液が作製され得る。いくつかの実施形態において、活性な作用物質は、予め混合されている場合がある。いくつかの実施形態において、注射システムは、予め混合された製剤で予め満たされている場合がある。いくつかの実施形態において、ユーザーは、治療製剤を患者に投与する直前に注射システムを満たすことができる。いくつかの実施形態において、注射システムは、壊れやすい仕切りを有する複数のチャンバーを備え得る。いくつかの実施形態において、穿刺エレメントは、0.01~3mmという初期貫入長を有し、穿刺エレメントは、注射を行っている間にさらに伸びる。いくつかの実施形態では、注射システムおよび注射を容易にするもの(injection facilitator)が、製剤が予め充填された状態で組立済みであり、さらなる組立なしに使える状態である。いくつかの実施形態において、キット全体が、無菌性を維持するために単一の小袋/トレイに包装されている。いくつかの実施形態において、構成要素は、別々にまたは組み合わせて包装されている。いくつかの実施形態において、キットは、オートクレーブ、エチレンオキシド、ガンマ放射線照射などを含むがこれらに限定されない滅菌方法のうちの1つによって、一緒にまたは別々に滅菌される。
【0141】
いくつかの実施形態において、構成要素は、第2のパッケージ内に存在する。いくつかの実施形態において、キットは、有効な医薬品の耐用期間を延長するために十分低い温度において一式として保存される。いくつかの実施形態において、製剤は、低温で別に保存され、残りのキットは、室温で保存される。
【0142】
前述の説明を考慮すれば、当業者には、本発明の数多くの改変および代替の実施形態が明らかになるだろう。したがって、この説明は、単なる例証的なものであると解釈されるべきであり、本発明を実施するための最良の形態を当業者に教示する目的である。上記構造の詳細は、本発明の趣旨から逸脱することなく、実質的に変更することができ、添付の請求項の範囲に入るすべての改変の排他的な使用が留保される。本明細書では、明確かつ簡潔な明細書の記載を可能にするように実施形態を説明してきたが、実施形態は、本発明から離れることなく様々に組み合わせ得るまたは分離され得ることが意図され、理解されるだろう。本発明は、添付の請求項および適用できる法律の規則によって要求される程度にのみ限定されることが意図される。
【0143】
以下の請求項は、本明細書中に記載される本発明の一般的なおよび具体的なすべての特徴、ならびに言語の問題としてそれらの間にあると言える本発明の範囲に関するすべての記述を網羅することも理解されるべきである。
【国際調査報告】