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特表2022-548417金属ワークピースの表面を走査する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-18
(54)【発明の名称】金属ワークピースの表面を走査する方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 37/08 20060101AFI20221111BHJP
   B23K 9/127 20060101ALN20221111BHJP
【FI】
B23K37/08 Z
B23K9/127 501B
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022528709
(86)(22)【出願日】2020-11-17
(85)【翻訳文提出日】2022-06-30
(86)【国際出願番号】 EP2020082327
(87)【国際公開番号】W WO2021099287
(87)【国際公開日】2021-05-27
(31)【優先権主張番号】19209712.9
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504380611
【氏名又は名称】フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】FRONIUS INTERNATIONAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー,マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルトヘア,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ビンダー,マヌエル
(57)【要約】
金属製ワークピース(W)の表面(O)を走査する方法であって、走査プロセス(AP)中に、消耗品の溶接ワイヤ(2)を有する溶接トーチ(1)を、ワークピース(W)の表面(O)上およびそれに向かって、溶接ワイヤ(2)のワークピース(W)への接触が検出されるまで移動させ、その後、溶接ワイヤ(2)を再びワークピース(W)から遠ざけ、ここで、走査プロセス(AP)の前に、溶接ワイヤ(2)の端部でスラグを除去するスラグ除去プロセス(SE)を行い、ここで、溶接電流(I)が最低に下げられ、溶接ワイヤ(2)とワークピース(W)との間の短絡(KS)が検出されるまで、溶接ワイヤ(2)を、ワークピース(W)の方向に所定の経路長で急速に反復前進/後退させ、再びワークピース(W)から小さい距離だけ遠ざけて、ここでスラグ除去プロセスを終了し、短絡(KS)が検出されない場合に、スラグ除去プロセス(SE)が繰り返され、次々に複数の短絡(KS)が検出された場合に、スラグ除去プロセス(SE)を終了させる方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のワークピース(W)の表面(O)を走査する方法であって、走査プロセス(AP)中に、消耗品の溶接ワイヤ(2)を有する溶接トーチ(1)をワークピース(W)の表面(O)上で移動させ、溶接電流源(4)によって溶接ワイヤ(2)のワークピース(W)への接触が検出されるまで、溶接ワイヤ(2)を前進速度(vSV)で所定の時点(t)においてワークピース(W)の表面(O)に向かって移動させ、その後、溶接ワイヤ(2)は後退速度(vSR)で再びワークピース(W)から離れるように移動させる方法であって、
走査プロセス(AP)の前に、溶接ワイヤ(2)の端部のスラグを除去するスラグ除去プロセス(SE)が行われ、スラグ除去プロセス(SE)の開始時に、溶接電流(I)を最小にし、溶接ワイヤ(2)をワークピース(W)の方向に所定の経路長で急速反復前進/後退運動させ、再びワークピース(W)から小さい距離だけ遠ざけ、溶接ワイヤ(2)とワークピース(W)の短絡(KS)が検出されるまで、溶接ワイヤ(2)のワークピース(W)への搬送を優先させて、そしてスラグ除去プロセス(SE)を終了し、溶接ワイヤ(2)とワークピース(W)との間で短絡(KS)が検出されない場合には、スラグ除去プロセス(SE)が繰り返され、溶接ワイヤ(2)とワークピース(W)との間で複数の短絡(KS)が次々に検出された場合には、スラグ除去プロセス(SE)を終了させることを特徴とする方法。
【請求項2】
溶接ワイヤ(2)とワークピース(W)との間の短絡(KS)を次々と5回検出した時点で、スラグ除去プロセス(SE)を終了することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
走査プロセス(AP)前の所定の時間内(ΔtKS)に、溶接ワイヤ(2)とワークピース(W)との間の短絡(KS)が検出されない場合に、スラグ除去プロセス(SE)が開始されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
走査プロセス(AP)前に、溶接ワイヤ(2)をワークピース(W)の方向に所定のワイヤ送給速度(vdc)で移動させたときに、ワイヤ送給速度(v)が所定の閾値(vds)以下に低下した場合にスラグ除去プロセス(SE)が開始されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ワイヤ送給速度(v)が所定の閾値(vds)を下回ったか否かを測定する前に、所定の時間(Δt)だけ待機することを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
溶接ワイヤ(2)にかかる力(F)が所定の最大値(Fmax)を超えた場合に、スラグ除去プロセス(SE)が開始されることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
溶接ワイヤ(2)にかかる力の経時変化(dF/dt)が所定の閾値((dF/dt)max)を超えた場合に、スラグ除去プロセス(SE)が開始されることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
走査プロセス(AP)中にワイヤ送給速度(v)が所定の閾値以下に低下した場合に、スラグ除去プロセス(SE)が開始されることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
走査プロセス(AP)中に溶接ワイヤ(2)にかかる力(F)が所定の最大値(Fmax)を超えた場合に、スラグ除去プロセス(SE)が開始されることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
走査プロセス(AP)中に溶接ワイヤ(2)にかかる力の変化(dF/dt)が所定の閾値((dF/dt)max)を超えた場合に、スラグ除去プロセス(SE)が開始されることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ワークピース(W)の表面(O)に対する溶接トーチ(1)のアタック角(β)が決定され、アタック角(β)の所定の閾値を下回ると、スラグ除去プロセス(SE)を休止することを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
スラグ除去プロセス(SE)を数回繰り返した後、特に15回繰り返した後に、溶接ワイヤ(2)とワークピース(W)との間に安定した短絡(KS)が検出されない場合に、エラーメッセージが出力されることを特徴とする請求項1~11のいずれかに1項に記載の方法。
【請求項13】
エラーメッセージを出力した後に、溶接ワイヤ(2)の端部を切断装置(7)において切断することを特徴とする請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ワークピースの表面を走査する方法に関し、走査プロセスの間、消耗品の溶接ワイヤを有する溶接トーチをワークピースの表面上で移動させ、溶接ワイヤのワークピースへの接触が溶接電流源によって検出されるまで、溶接ワイヤを前進速度で所定の時間毎にワークピースの表面に向かって移動させ、その後、溶接ワイヤを後退速度で再びワークピースから遠ざける方法である。
【背景技術】
【0002】
溶接プロセス前に、加工されるワークピースの表面を走査するために、溶接装置の溶接ワイヤを使うことができる。この場合、溶接ワイヤをセンサとして使用し、溶接ワイヤがワークピースと接触して短絡するまで、所定の時間ごとにワークピースの方向に移動させる。その後、再び溶接ワイヤをワークピースから遠ざける。ワークピースと接触している間の溶接ワイヤの位置、ひいてはワークピースの表面の位置は、供給装置内のロータリエンコーダによって検出される、溶接ワイヤの動きを介して推測できる。
【0003】
例えば、WO2019/002141A1には、溶接トーチの溶接ワイヤの助けを借りて、金属ワークピースの表面を走査するための方法および装置が開示されている。金属ワークピースとの溶接ワイヤの各短絡に応答する走査プロセスの間、位置値がそれによって決定され、それぞれ保存または出力され、マニピュレータによってエッジまたは特定の位置を検出するために使用できる。
【0004】
溶接プロセス後、溶接ワイヤにはスラグやケイ酸塩が付着し(特に鋼合金の場合)、絶縁効果を有することがある。溶接ワイヤの自由端にあるこの絶縁層は、溶接ワイヤがワークピースに接触した場合に短絡が検出されないため、溶接ワイヤの助けを借りて走査プロセスをブロックすることができる。
【0005】
アークを安全に点火させるために、溶接プロセス前に、溶接ワイヤの端部にある可能性のあるスラグを除去することが知られている。この目的のために、溶接方法の前にスラグ除去プロセスを用いることができ、このプロセスでは、溶接電流を最小に下げ、溶接ワイヤを、短絡監視によって溶接ワイヤとワークピースとの間の短絡が検出されるまで、ワークピースの方向に所定の経路長で急速反復前進/後退移動で循環的に動かし、ワークピースからより小さい距離だけ離し、そこでスラグ除去プロセスを終了させる。このような方法は、EP 2 007 542 B1 に開示されている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、上述の走査方法を改良して、溶接ワイヤが金属ワークピースに接触する場合に、短絡の確実な検出が保証されるという効果をもたらすことである。このようにして、走査方法は、可能な限り迅速に、かつ中断することなく実施されることが可能であるべきである。公知の方法の欠点は、回避されるか、または少なくとも低減される。
【0007】
この目的は、上述の走査方法によって解決され、走査プロセス前に、溶接ワイヤの端部のスラグを除去するスラグ除去プロセスが行われ、スラグ除去プロセスの開始時に、溶接電流が最小に下げられ、溶接ワイヤは、ワークピースの方向に所定の経路長にわたって循環的に急速反復前進/後退運動し、再びワークピースから小さい距離で離れる。これにより溶接ワイヤのワークピースへの搬送を優先させて、溶接ワイヤとワークピースの短絡が検出された場合にスラグ除去プロセスを終了し、溶接ワイヤとワークピースの短絡が検出されない場合に、スラグ除去プロセスを繰り返し、溶接ワイヤとワークピースの短絡が複数回連続して検出された場合に、スラグ除去プロセスを終了する。この本発明によれば、走査プロセス前に、スラグ除去プロセスを実施することにより、溶接ワイヤの自由端に存在する可能性のあるスラグを確実に除去し、溶接ワイヤによってワークピースの表面を安全に走査することができるようになる。スラグ除去プロセス中に溶接ワイヤがワークピース表面に繰り返し衝突するため、溶接ワイヤ自由端のスラグが概ね除去され、その後の走査プロセスでの短絡検出が確実に行われる。溶接ワイヤとワークピースの短絡がないことが確認されると、スラグ除去プロセスが繰り返し行われる。溶接ワイヤからスラグを安全に除去し、その後、エラーなく操作プロセスを行うことができる。溶接ワイヤとワークピースの短絡を複数回、次々に検出した場合、スラグ除去プロセスを終了する。スラグ除去プロセス中に連続した短絡を数えることで、溶接ワイヤからスラグが完全に除去されていることをさらに確認できる。この所定の短絡回数を超えて初めて、スラグが安全に除去されたと判断し、スラグ除去プロセスを終了することができる。
【0008】
スラグ除去プロセスは、有利には、溶接ワイヤとワークピースとの間の短絡を5回連続して検出したときに終了する。短絡が5回を超えると、スラグが安全に除去されたと判断し、スラグ除去プロセスを終了させることができる。
【0009】
また、スキャン処理前の一定時間、溶接ワイヤとワークピースの短絡がないことを検出した場合に、スラグ除去プロセスを開始することができる。これは、完全な機能を保証するために、走査プロセス前にスラグ除去プロセスを開始するための条件である。
【0010】
スラグ除去プロセスは、さらに、走査プロセス前に、溶接ワイヤをワークピースの方向に所定のワイヤ送給速度で移動させたときに、ワイヤ送給速度が所定の閾値以下に低下した場合に開始することができる。この走査プロセス前の開始段階におけるワイヤ送給速度の所定の閾値以下への低下は、溶接ワイヤにスラグが存在することを示すものである。このようにワイヤ送給速度が所定の閾値を下回ると、スラグ除去プロセスが開始される。
【0011】
ワイヤ送給速度が所定の閾値を下回ったかどうかを測定する前に、所定の時間を待つことが好ましい。一定の時間待つことで、プロセスが緩和され、スラグ除去プロセスが意図せずに起動されないことが保証される。
【0012】
スラグ除去プロセスの開始のさらなる条件として、溶接ワイヤにかかる力の超過を所定の最大値で定義することができる。走査プロセス開始時に、溶接ワイヤをワークピースの方向に移動させ、溶接ワイヤにスラグが付着している場合に、ワークピースへの溶接ワイヤの衝突時間が長くなると、スラグの絶縁効果により、測定可能な力が増加する。この力の増加は、ワイヤ送給装置のモータの電流を介して比較的容易に検出することができ、スラグ除去プロセスを起動させるための条件として使用することができる。上述のいずれかの条件、特に走査開始時のワイヤ送給速度の低下と力測定との組み合わせにより、溶接ワイヤ上のスラグの存在をより確実に検出することができ、スラグ除去プロセスの誤った起動を回避することが可能となる。
【0013】
最後に、溶接ワイヤにかかる力が所定の最大値を超えた場合に、スラグ除去プロセスを開始することも可能である。力が所定の一定の増加を超えることは、また、走査プロセス前にスラグ除去プロセスを開始するための好条件を表す。
【0014】
スラグ除去プロセスは、走査プロセス中にワイヤ送給速度を所定の閾値以下に低下させた場合にも開始することができる。これも、スラグ除去処理を開始するための、さらなる条件となる。走査プロセス中のワイヤ送給速度の閾値は、走査プロセスの開始段階におけるワイヤ送給速度の上述の閾値とは、一般に異なる。
【0015】
本発明のさらなる特徴によれば、走査プロセス中に溶接ワイヤにかかる力が所定の最大値を超えると、スラグ除去プロセスが開始される。走査プロセスの開始時と同様に、溶接ワイヤにかかる力の最大値を超えること、または溶接ワイヤにかかる力の時間的な増加の最大値を超えることは、走査プロセス中に溶接ワイヤにスラグが存在することの指標とすることもでき、それぞれ、走査プロセス中にもスラグ除去プロセスを起動させることが正当化または必要化される。溶接ワイヤにかかる力は、ワイヤ送給装置のモータの電流を介して検出することができる。
【0016】
溶接トーチのワークピース表面に対するアタック角を求め、そのアタック角が所定の閾値を下回った場合にスラグ除去プロセスを停止させると、非効率なスラグ除去プロセスを行うことを防止できる。溶接トーチ、ひいては溶接ワイヤの向きがワークピースに対して平坦すぎると、溶接ワイヤのたわみや曲げによってスラグを除去できない、あるいは十分に除去できない。
【0017】
スラグ除去プロセスを数回、特に15回繰り返した後に、溶接ワイヤとワークピースが安定して短絡しないことを検出した場合に、エラーメッセージを出力することができる。このエラーメッセージにより、スラグ除去プロセスで溶接ワイヤからスラグを除去できなかったこと、および他の対策が必要であることを、溶接士に表示することができる。
【0018】
対策としては、例えば、エラーメッセージを出力した後に、溶接ワイヤの端部を切断装置で切断することができる。また、過去のスラグ除去プロセスがうまくいかなかった場合でも、この方法で再度、溶接ワイヤを操作プロセスに備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明は、以下の添付の図面に基づいてより詳細に説明される。
【0020】
図1】溶接プロセスおよび走査プロセスを行うための溶接装置の概略図である。
図2】溶接電圧、溶接電流、溶接ワイヤの送給速度の時間的経過と、スラグ除去プロセスにおける溶接ワイヤの移動ダイアグラムを模式的に示す。
図3】スラグ除去プロセスの例示的な実施形態の場合におけるワイヤ送給速度および電圧の時間的経過を模式的に示す。
図4】スラグ除去プロセスの代替トリガー条件の場合におけるワイヤ供給速度と電圧の時間的経過を模式的に示す。
図5】スラグ除去プロセスの更なるトリガー条件の場合のワイヤ送給速度、溶接ワイヤへの加圧力、および溶接ワイヤへの加圧力の経時変化の時間的経過を模式的に示す。
図6】スラグ除去プロセスに望まれるワークピースに対する溶接トーチの角度位置を示す。
図7】スラグ除去プロセスに不適当なワークピースに対する角度位置にある溶接トーチを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、溶接プロセスと走査プロセスAPを実施する溶接装置の概略図である。溶接ワイヤ2を有する溶接トーチ1は、対応するマニピュレータ3、例えば溶接ロボットに接続されている。溶接電流源4は、溶接トーチ1または溶接ワイヤ2にそれぞれ溶接電流Iおよび溶接電圧Uを供給する。溶接ワイヤ2は、ワイヤロール6から送給装置5を介して溶接トーチ1へ送給速度vで搬送される。走査プロセスAPの間、溶接ワイヤ2を有する溶接トーチ1は、マニピュレータ3の助けを借りて、ワークピースWの表面O上を所定の経路に沿って、所定の速度で移動する。所定の時点で、溶接電流源4が溶接ワイヤ2のワークピースWの1つへの接触を検出するまで、溶接ワイヤ2をワークピースWの表面Oに対して前進速度vSVで移動させる。その後、溶接ワイヤ2を再び後退速度vSRでワークピースWから離す。ワークピースWの表面Oの位置は、溶接電流源4において各時点で決定され記憶される。溶接ワイヤ2の自由端から有るかも知れないスラグを除去するために、スラグ除去プロセスSEを実施することが可能である。ここでは、溶接電流Iを最小に下げ、溶接ワイヤ2をワークピースWの方向に所定の経路長で急速反復前進/後退移動させ、再びワークピースWから小さい距離だけ離れて、溶接ワイヤ2とワークピースWとの短絡を検出するまで、溶接ワイヤ2のワークピースWへの搬送が優勢になる。なお、スラグ除去プロセスSEを数回繰り返しても溶接ワイヤ2からスラグを除去できない場合は、溶接ワイヤ2の端部を手動または切断装置7で切断し、スラグから解放する必要があるかもしれない。溶接トーチ1の切断装置7への操作は、マニピュレータ3、特に溶接ロボットによって全自動で行うこともできる。
【0022】
図2は、スラグ除去プロセスSEにおける溶接電圧U、溶接電流I、溶接ワイヤ2の送給速度v、およびワークピースWに対する溶接ワイヤ2の移動の経過を模式的に示す。溶接ワイヤ2に付着したスラグにより走査プロセスAPが実施できない、あるいは正しく実施できないことを防止するために、必要に応じて予めスラグ除去プロセスSEを実施する。これにより、溶接ワイヤ2は、スラグ除去プロセスSEによってワークピースWに連続的に搬送されるのではなく、一定の頻度で、前進してワークピースWに至り、再び後退することで、ワークピースWから除去される。これにより、溶接ワイヤ2は、比較的速い速度vで一定距離だけ前進し、前進よりも小さい距離だけ再び戻って搬送されるので、溶接ワイヤ2のワークピースWへの搬送が優先される。溶接ワイヤ2の前進/後退運動が行われる周波数は、50Hz以上150Hz以下であることが好ましい。なお、スラグ除去プロセスSEのために、より低い周波数またはより高い周波数を使用することも可能であることは言うまでもない。これにより、一般に、周波数がスラグ除去プロセスSEのための時間を規定することも保証されるべきである。このため、特に高い周波数は、時間が短くなるため、重要である。溶接ワイヤ2は、ワークピースWと接触するまで、例えば75Hzの設定周波数で、急速な反復前進/後退運動で搬送される。溶接ワイヤ2の上にスラグが存在する場合、溶接ワイヤ2とワークピースWとの間の短絡KSは検出されないか、電流源4または短絡監視の制御装置によってそれぞれ検出することが可能である。さらに、溶接ワイヤ2は、設定された周波数に従って、再び反復的に後退および前進する。最後に、溶接ワイヤ2の先端からスラグが除去され、電流Iの増加または電圧Uの低下のそれぞれにより、電流源4は短絡KSを検出することができる。続いて、スラグ除去プロセスSEを終了させることができる。スラグ除去プロセスSE中の電流Iは、通常例えば最大で3Aに制限され、溶接ワイヤ2の焼損を防止する。
【0023】
図3は、スラグ除去プロセスSEの例示的な実施形態の場合の、ワイヤ送給速度vおよび電圧Uの時間的経過を模式的に示す。走査プロセスAPを実施する前に、溶接トーチ1はワークピースWの上方の開始位置に位置する。溶接ワイヤ2もワークピースWの表面Oの数mm上方に位置する。これから走査プロセスAPを開始する前に、溶接ワイヤ2が所定の送給速度vdcでワークピースWの方向に移動し始める。送給速度の規定値vdcに達するまで、ワイヤ送給速度の実際値の過渡応答が発生し、そのため、最新のワイヤ送給速度vが測定される前に、ある所定の時間Δt待つことが好ましい。このようにして、これらの設定プロセス中に、スラグ除去プロセスSEが意図せずに起動されることを防止できる。スラグ除去プロセスSEは、時間Δtが経過した後、最新のワイヤ送給速度vが所定の閾値vds以下に低下したときに起動される。この閾値vdsは、開始段階でのみ有効である。スラグ除去プロセスSEの起動後、溶接ワイヤ2は、高い加速度と力FでワークピースWに向かって移動し、そしてワークピースWから遠ざかる。溶接ワイヤ2は、最初はまだ空中にあるが、ワークピースWの表面Oに次第に近づく。その後、溶接ワイヤ2はワークピースWの表面Oに「打ち付けられ」、溶接ワイヤ2の端部に付着しているスラグがそれによって除去されるか、あるいは少なくともこれが試みられる。これによりスラグが溶接ワイヤ2から除去されたかどうかをできるだけ確実に検出するために、スラグ除去プロセスSEは、反復短絡KSとして所定の数n、例えば5が検出されたときのみ停止する。このスラグ除去プロセスSEの第1段階の後、走査段階APに切り替わる。短絡が全く発生しない場合(溶接ワイヤ2が実際に絶縁しているため)、スラグ除去プロセスSEは、オペレータまたはロボット制御によって終了がなされるまで作業を継続する。ただし、ここでは時間制限を設けることも考えられる。
【0024】
なお、スラグ除去プロセスSEが終了した後に、ワイヤ送給速度vがある所定の閾値より再び低下した場合には、スラグ除去プロセスSEを再度起動させることができる(図示せず)。
【0025】
図4は、スラグ除去プロセスSEのトリガー条件を代えた場合の、ワイヤ送給速度vと電圧Uの、時間経過を模式的に示す。走査プロセスAPの使用前に、溶接ワイヤ2はそれによってワークピースWに移動し、再びワークピースWから離れ、その後、所定の時間ΔtKSの間に、溶接ワイヤ2とワークピースWとの間の短絡KSが検出されない場合、スラグ除去プロセスSEが開始される。図示の例では、この所定の時間ΔtKSの間に短絡KS(電圧の低下)が検出されず、これによりスラグ除去プロセスSEが開始される。
【0026】
図5は、さらなるスラグ除去プロセスSEのトリガー条件の場合の、ワイヤ送給速度v、溶接ワイヤ2への加圧力F、および溶接ワイヤ2への加圧力dF/dtの時間変化を模式的に示す。なお、最下段の図における力の時間的な導出の経過は、高度に簡略化されて図示されていることが指摘される。そして、溶接ワイヤ2にかかる力Fが所定の最大値Fmaxよりも大きくなった場合に、スラグ除去プロセスSEを起動することができる。代替的にまたは追加的に、スラグ除去プロセスSEは、力の一定の増加dF/dtが所定の閾値(dF/dt)maxを超えるときにも開始することができる。溶接ワイヤ2の最大加圧力Fmaxを超える、または溶接ワイヤの最大加圧力経時変化(dF/dt)maxを超えるこれらの条件は、走査プロセスAPの前ではなく、走査プロセスAP中に決定することも可能である。最大加圧力Fmaxおよび最大加圧力経時変化(dF/dt)maxのそれぞれの閾値は、経験に基づいて設定され、走査プロセスAP前の状態と走査プロセス中の状態とで異なることがあることは言うまでもない。
【0027】
図6は、スラグ除去プロセスSEに望まれるワークピースWの表面Oに対する角度βを約90°にした溶接トーチ1を示す。この角度βは、ここでは溶接ワイヤ2が実質的にワークピースWの表面Oに正面衝突するため、溶接ワイヤ2の先端からスラグが除去される可能性が非常に高く、スラグ除去プロセスSEに適した角度βである。
【0028】
スラグ除去プロセスSEに適さないワークピースWに対する角度位置の溶接トーチ1を、図7に概略的に示す。ここでは、ワークピースWの表面Oに対する溶接トーチ1の角度βが、例えば45°の所定の閾値βを下回る。この場合、スラグ除去プロセスSEにおいて、溶接ワイヤ2またはその端部がそれぞれ曲がり、または撓み、スラグの除去を確実に行うことができなくなる。このように、溶接トーチ1と溶接ワイヤ2との間の臨界角βを下回ると、スラグ除去を確実に行うことができないため、スラグ除去プロセスSEを自動的に停止させることもできる。
【0029】
溶接トーチ1の位置は、対応するセンサ、例えばジャイロセンサによって、また必要であれば、トーチ形状の検討のために溶接トーチ1に配置されたトーチ識別BIDの検出によって自動的に検出することもでき、ワークピースWの表面Oに対する溶接トーチ1または溶接ワイヤ2のそれぞれの角度βはそこから算出され得る。そして、溶接トーチ1のアタック角が非常にフラットな場合に、スラグ除去プロセスSEを自動的に検出し、溶接ワイヤ2の誤動作や変形を除外することができる。これによって、ユーザーまたは溶接士にそれぞれエラーメッセージを出力できることは言うまでもない。
【0030】
溶接トーチ1の特定の形状または摩擦の大きい特定の形状の場合、スラグ除去プロセスSEの確実なトリガーおよび機能のために、複数の制御パラメータを特に適合させることが頻繁に必要となるであろう。これは、溶接トーチ1に配置されたトーチ識別装置BIDによって自動的に実施されることも可能である。このようにして、スラグ除去プロセスSEの最適な制御パラメータは、溶接トーチ1のすべてのタイプに対して自動的に利用可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2021-07-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のワークピース(W)の表面(O)を走査する方法であって、走査プロセス(AP)中に、消耗品の溶接ワイヤ(2)を有する溶接トーチ(1)をワークピース(W)の表面(O)上で移動させ、溶接電流源(4)によって溶接ワイヤ(2)のワークピース(W)への接触が検出されるまで、溶接ワイヤ(2)を前進速度(vSV)で所定の時点(t)においてワークピース(W)の表面(O)に向かって移動させ、その後、溶接ワイヤ(2)は後退速度(vSR)で再びワークピース(W)から離れるように移動させる方法であって、
走査プロセス(AP)の前に、溶接ワイヤ(2)の端部のスラグを除去するスラグ除去プロセス(SE)が行われ、スラグ除去プロセス(SE)の開始時に、溶接電流(I)を最小にし、溶接ワイヤ(2)をワークピース(W)の方向に所定の経路長で急速反復前進/後退運動させ、再びワークピース(W)から小さい距離だけ遠ざけ、溶接ワイヤ(2)のワークピース(W)への搬送を優先させ、溶接ワイヤ(2)とワークピース(W)との間で短絡(KS)が検出されない場合には、スラグ除去プロセス(SE)が繰り返され、溶接ワイヤ(2)とワークピース(W)との間で複数の短絡(KS)が次々に検出された場合には、スラグ除去プロセス(SE)を終了させ
走査プロセス(AP)前に、溶接ワイヤ(2)をワークピース(W)の方向に所定のワイヤ送給速度(v dc )で移動させたときに、ワイヤ送給速度(v )が所定の閾値(v ds )以下に低下した場合にスラグ除去プロセス(SE)が開始されることを特徴とする方法。
【請求項2】
溶接ワイヤ(2)とワークピース(W)との間の短絡(KS)を次々と5回検出した時点で、スラグ除去プロセス(SE)を終了することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
走査プロセス(AP)前の所定の時間内(ΔtKS)に、溶接ワイヤ(2)とワークピース(W)との間の短絡(KS)が検出されない場合に、スラグ除去プロセス(SE)が開始されることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
ワイヤ送給速度(v)が所定の閾値(vds)を下回ったか否かを測定する前に、所定の時間(Δt)だけ待機することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
溶接ワイヤ(2)にかかる力(F)が所定の最大値(Fmax)を超えた場合に、スラグ除去プロセス(SE)が開始されることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
溶接ワイヤ(2)にかかる力の経時変化(dF/dt)が所定の閾値((dF/dt)max)を超えた場合に、スラグ除去プロセス(SE)が開始されることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
走査プロセス(AP)中にワイヤ送給速度(v)が所定の閾値以下に低下した場合に、スラグ除去プロセス(SE)が開始されることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
走査プロセス(AP)中に溶接ワイヤ(2)にかかる力(F)が所定の最大値(Fmax)を超えた場合に、スラグ除去プロセス(SE)が開始されることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
走査プロセス(AP)中に溶接ワイヤ(2)にかかる力の変化(dF/dt)が所定の閾値((dF/dt)max)を超えた場合に、スラグ除去プロセス(SE)が開始されることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ワークピース(W)の表面(O)に対する溶接トーチ(1)のアタック角(β)が決定され、アタック角(β)の所定の閾値を下回ると、スラグ除去プロセス(SE)を休止することを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
スラグ除去プロセス(SE)を数回繰り返した後、特に15回繰り返した後に、溶接ワイヤ(2)とワークピース(W)との間に安定した短絡(KS)が検出されない場合に、エラーメッセージが出力されることを特徴とする請求項1~10のいずれかに1項に記載の方法。
【請求項12】
エラーメッセージを出力した後に、溶接ワイヤ(2)の端部を切断装置(7)において切断することを特徴とする請求項11に記載の方法。
【国際調査報告】