IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ボルト スレッズ インコーポレイテッドの特許一覧

特表2022-548481高剪断可溶化を介してスパイダーシルクタンパク質を単離するための方法
<>
  • 特表-高剪断可溶化を介してスパイダーシルクタンパク質を単離するための方法 図1A
  • 特表-高剪断可溶化を介してスパイダーシルクタンパク質を単離するための方法 図1B
  • 特表-高剪断可溶化を介してスパイダーシルクタンパク質を単離するための方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-21
(54)【発明の名称】高剪断可溶化を介してスパイダーシルクタンパク質を単離するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/435 20060101AFI20221114BHJP
   D01F 4/02 20060101ALI20221114BHJP
   C12P 21/02 20060101ALN20221114BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20221114BHJP
【FI】
C07K14/435 ZNA
D01F4/02
C12P21/02 C
C12N1/21
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022507848
(86)(22)【出願日】2020-09-16
(85)【翻訳文提出日】2022-03-03
(86)【国際出願番号】 US2020051024
(87)【国際公開番号】W WO2021055440
(87)【国際公開日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】62/901,053
(32)【優先日】2019-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】516079198
【氏名又は名称】ボルト スレッズ インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】5858 Horton Street, Suite 400 Emeryville CA 94608 USA
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ウィートリー ロバート ウィリアム
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
4L035
【Fターム(参考)】
4B064AG00
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE02
4B064DA20
4B065AA26X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA60
4H045AA10
4H045AA20
4H045CA50
4H045EA65
4H045FA74
4H045GA01
4H045GA15
4L035BB03
4L035FF05
4L035GG01
(57)【要約】
本開示は、溶媒及び高剪断マイクロ流動化法を適用して、合成ブロックコポリマータンパク質を単離及び精製する方法に関する。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えスパイダーシルクタンパク質を宿主細胞から単離する方法であって、以下の工程を含む、方法:
a.組換えスパイダーシルクタンパク質を含む不溶性物質を提供する工程;
b.前記不溶性物質を、溶媒を含む水溶液に加える工程;
c.前記不溶性物質を含む前記水溶液に対して剪断力を印加する工程であって、それにより、前記組換えスパイダーシルクタンパク質を前記水溶液に可溶化させる、工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記剪断力が、マイクロ流動化を介して印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マイクロ流動化により、約6×10-1~10×10-1の剪断速度が生じる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記マイクロ流動化により、少なくとも約6×10-1の剪断速度が生じる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記マイクロ流動化により、少なくとも約10×10-1の剪断速度が生じる、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記マイクロ流動化が、20,000psi~30,000psiで実施される、請求項2~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記マイクロ流動化が、30,000psiで実施される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記マイクロ流動化が、23,000psiで実施される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
マイクロフルイダイザーM-110PまたはLM10マイクロフルイダイザー、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記マイクロフルイダイザーが、G10Zインタラクションチャンバーを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記マイクロフルイダイザーが、F12Yインタラクションチャンバーを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記剪断力が、少なくとも2回印加される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記剪断力が、少なくとも3回印加される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記剪断力が、前記少なくとも2回の印加の際に同じである、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記剪断力が、前記少なくとも2回の印加の際に異なる、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記不溶性物質が、宿主細胞を含む細胞培養物に由来し、
前記宿主細胞が、前記組換えスパイダーシルクタンパク質を発現する、
先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞培養物に由来する前記不溶性物質を回収する工程をさらに含み、
前記不溶性物質が、前記組換えスパイダーシルクタンパク質を含む、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記溶媒が、カオトロピック剤である、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記カオトロピック剤が、尿素、チオシアン酸グアニジン(GdnSCN)、または塩化グアニジン(GdnHCL)である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記不溶性物質が、溶媒体積に対して約5%、10%、15%、20%、25%、または30%不溶性物質で前記水溶液に加えられる、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記カオトロピック剤が、0.1~10Mの濃度で前記水溶液に存在する、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
前記水溶液が、約10M尿素、約4M~8M GdnHCl、または約3M~6M GdnSCNを含む、請求項19または20に記載の方法。
【請求項23】
前記水溶液が、10M尿素を含む水溶液、8M GdnHClを含む水溶液、または6M GdnSCNを含む水溶液でのカオトロピック活性よりも弱いカオトロピック活性を含む、請求項19または20に記載の方法。
【請求項24】
寒天-ゲル化アッセイを使用して、カオトロピック活性が定量される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記水溶液が、85%体積の3M GdnSCNに対して、約15%不溶性部分物質を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記水溶液が、85%体積の4M GdnHClに対して、約15%不溶性部分物質を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記水溶液が、85%体積の10M尿素に対して、約15%不溶性部分物質を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項28】
前記不溶性物質が、20℃~30℃でインキュベーションされる、請求項1~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記不溶性物質が、室温でインキュベーションされる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記不溶性物質が、30℃以下でインキュベーションされる、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記不溶性部分が、前記溶媒を含む前記水溶液において、60~120分間インキュベーションされる、請求項1~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記不溶性物質が、細胞ペレットを含む、請求項1~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記細胞ペレットに由来する前記不溶性物質を回収する工程が、前記宿主細胞を溶解することを含む、請求項1~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記溶解することが、熱処理、化学的処理、剪断破壊、物理的均質化、超音波処理、または化学的均質化を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記細胞培養物の前記不溶性物質を回収する工程が、第1の細胞ペレットを得るために、溶解した前記細胞を遠心分離することをさらに含む、請求項33~34に記載の方法。
【請求項36】
前記不溶性物質を回収する工程が、以下:
a.前記細胞ペレットを、10:1の尿素体積:ペレット質量比で、4M尿素を含む溶液とインキュベーションすること;及び
b.第2の細胞ペレットを得るために、4M尿素を含む前記溶液を遠心分離すること、次いで、溶媒を含む前記水溶液において前記第2の細胞ペレットをインキュベーションすること、
をさらに含む、請求項1~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記水溶液から前記組換えスパイダーシルクタンパク質を単離する工程をさらに含み、それにより、単離した組換えスパイダーシルクタンパク質を産生する、請求項1~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記組換えスパイダーシルクタンパク質が、高結晶質のシルクタンパク質、ベータシート含有量が大きいシルクタンパク質、または低溶解性のシルクタンパク質である、請求項1~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記組換えスパイダーシルクタンパク質が、配列番号23に記載のウロボルス・ディヴェルサス(Uloborus diversus) MiSPタンパク質を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記組換えスパイダーシルクタンパク質が、非カオトロピック溶媒において、90%、80%、70%、60%、または50%未満の溶解度閾値を有する、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記細胞培養物が、真菌細胞、細菌細胞、または酵母細胞を含む、請求項1~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記細菌細胞が、大腸菌(Escherichia coli)細胞である、請求項1~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
単離した組換えスパイダーシルクタンパク質の量が、ELISAを使用して測定される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
単離した組換えスパイダーシルクタンパク質の量が、サイズ排除クロマトグラフィーを使用して測定される、請求項1~43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
単離した前記組換えスパイダーシルクタンパク質が、完全長の組換えスパイダーシルクタンパク質である、請求項1~44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
単離した前記組換えスパイダーシルクタンパク質が、完全長の組換えスパイダーシルクタンパク質の少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
完全長の組換えスパイダーシルクタンパク質の量が、ELISAを使用して測定される、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
完全長の組換えスパイダーシルクタンパク質の量が、サイズ排除クロマトグラフィーを使用して測定される、請求項45に記載の方法。
【請求項49】
単離した前記組換えスパイダーシルクタンパク質の純度が、5~10%、10~15%、15~20%、20~25%、25~30%、30~35%、35~40%、45~50%、50~55%、55~60%、60~65%、65~70%、70~75%、75~80%、80~85%、85~90%、09~95%、または95~100%である、請求項1~48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
組換えスパイダーシルクタンパク質を宿主細胞から単離する方法であって、以下の工程を含む、方法:
a.組換えスパイダーシルクタンパク質を含む不溶性物質を提供する工程;
b.前記不溶性物質を、溶媒を含む水溶液に加える工程であって、前記水溶液が、最終10M尿素濃度で15%(w/v)の不溶性部分を含む、工程;
c.マイクロ流動化を介して、前記不溶性物質を含む前記水溶液に対して剪断力を印加する工程であって、それにより、前記組換えスパイダーシルクタンパク質を前記水溶液に可溶化させる、工程;及び
d.前記水溶液から前記組換えスパイダーシルクタンパク質を単離する工程であって、それにより、単離した組換えスパイダーシルクタンパク質を産生する、工程
を含む、前記方法。
【請求項51】
組換えスパイダーシルクタンパク質を宿主細胞から単離する方法であって、以下の工程を含む、方法:
a.組換えスパイダーシルクタンパク質を含む不溶性物質を提供する工程;
b.前記不溶性物質を、水溶液に加える工程であって、前記水溶液が、最終10M尿素濃度で約15%(w/v)の不溶性部分を含む、工程;
c.マイクロ流動化を介して剪断力を印加する工程であって、前記剪断力が、前記水溶液に対して約10×10-1であり、それにより、前記組換えスパイダーシルクタンパク質を前記水溶液に可溶化させる、工程;及び
d.前記水溶液から前記組換えスパイダーシルクタンパク質を単離する工程であって、それにより、単離した組換えスパイダーシルクタンパク質を産生する、工程
を含む、前記方法。
【請求項52】
請求項1~51のいずれか1項に記載の方法で製造した組換えスパイダーシルクタンパク質を含む、組成物。
【請求項53】
前記組換えスパイダーシルクが、完全長の組換えスパイダーシルクの少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%を含む、請求項52に記載の組成物。
【請求項54】
請求項1~53のいずれか1項に記載の方法で製造した組換えスパイダーシルクタンパク質を含む、シルク繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年9月16日に出願した米国仮出願第62/901,053号の利益を主張しており、この出願の全内容を、参照により、本明細書で援用する。
【0002】
配列表
本出願は、EFS-ウェブを介して提出をした配列表を含んでおり、そして、その全内容を本明細書で援用する。2020年9月16日に作成した当該ASCIIコピーには、BTT-033WO_SL.txtの名称を付しており、そして、50,960バイトの大きさである。
【背景技術】
【0003】
背景
クモのシルクポリペプチドは、大きな(>150kDa、>1000アミノ酸)ポリペプチドであり、3つのドメイン:N末端非反復ドメイン(NTD)、反復ドメイン(REP)、及びC末端非反復ドメイン(CTD)に分けることができる。NTD及びCTDは、比較的小さく(それぞれ、約150、約100アミノ酸)、十分に研究が行われており、そして、ポリペプチドに対して、水安定性、pH感受性を付与し、また、凝集時には分子を整列させるものと考えられている。また、NTDは、強力な予測分泌タグを有しており、このものは、異種発現の間に除去されることが多い。天然ポリペプチドの約90%が反復領域であり、また、シルク繊維にそれぞれ強度と可撓性を付与する結晶領域とアモルファス領域へと折り畳まれている。
【0004】
シルクポリペプチドは、ミツバチ、ガ、クモ、ダニ、その他の節足動物など、様々な供給源に由来する。一部の生物は、独特の配列、構造要素、及び機械的特性を備えた複数のシルク繊維を作り出す。例えば、ナガコガネグモは、6つの独特なタイプの腺を有しており、そこから、様々なシルクポリペプチド配列を生成して、環境またはライフサイクルの節目に適合するように調整した繊維を重合する。これらの繊維は、それらが由来する腺に鑑みて名称が付いており、また、ポリペプチドは、腺の略語(例えば、「Ma」)、及びspidroin(spider fibroinの省略形)に関する「Sp」で標識している。ナガコガネグモでは、これらのタイプとして、Major Ampullate(MaSp,別名、ドラグライン)、Minor Ampullate(MiSp)、Flagelliform(Flag)、Aciniform(AcSp)、Tubuliform(TuSp)、及びPyriform(PySp)がある。繊維の種類、ドメイン、及び生物の異なる属及び種の間での変化を鑑みれば、これらポリペプチド配列の組み合わせは、組換え繊維の商業的生産に利用可能な膨大な数の潜在的特質をもたらす。今日まで、組換えシルクを使用した研究の大部分は、Major Ampullate Spidroin(MaSp)に焦点をあてたものであった。
【0005】
現在のところ、組換えシルク繊維は市販されておらず、また、いくつかの例外を除いて、大腸菌(Escherichia coli)やその他のグラム陰性原核生物を別とすれば、微生物が産生することはない。これまでに生産されてきた組換えシルクは、主に、重合した短いシルク配列モチーフまたはネイティブ反復ドメインの断片のいずれかから構成されており、NTD及び/またはCTを併用することもある。
【0006】
しかしながら、一部の事例では、組換えスパイダーシルクポリペプチドは、製造及び精製の間に望ましくない不溶性の凝集体を形成する。凝集を起こして、β-シート構造を形成する能力が故に、シルク配列に基づいたタンパク質の可溶化は困難である。これらのタンパク質の可溶化には、モル濃度の大きなカオトロープ溶液など、生物学的分子に不向きな化学的条件を必要とすることが多い。精製の間にペプチドを再可溶化する方法は、タンパク質の分解を招くことがよくあり、その結果、収率が低く、そして、靱性が貧弱であり、また、手触りが良くない繊維の生成が避けられない。したがって、これらのポリペプチドを精製して溶解性を高め、そして、シルクタンパク質の回収率を高める改善した方法が待望されている。
【発明の概要】
【0007】
本明細書では、様々なカオトロープ溶液を含む化学的溶媒和が不十分である条件において、大きな物理的エネルギー、例えば、高エネルギー流体処理装置によって生じる、剪断、衝撃、及びキャビテーションなど、を与えてシルクタンパク質を可溶化する方法を提供する。
【0008】
要約
ある態様では、本明細書では、組換えスパイダーシルクタンパク質を宿主細胞から単離する方法を提供しており、当該方法は、以下の工程を含む:組換えスパイダーシルクタンパク質を含む不溶性物質を提供する工程;当該不溶性物質を、溶媒を含む水溶液に加える工程;当該不溶性物質を含む当該水溶液に対して剪断力を印加する工程であって、それにより、当該組換えスパイダーシルクタンパク質を当該水溶液に可溶化させる、工程。
【0009】
一部の実施形態では、当該剪断力が、マイクロ流動化を介して印加される。
【0010】
一部の実施形態では、当該マイクロ流動化により、約6×10-1~10×10-1の剪断速度が生じる。一部の実施形態では、当該マイクロ流動化により、少なくとも約6×10-1の剪断速度が生じる。一部の実施形態では、当該マイクロ流動化により、少なくとも約10×10-1の剪断速度が生じる。
【0011】
一部の実施形態では、当該マイクロ流動化が、20,000psi~30,000psiで実施される。一部の実施形態では、当該マイクロ流動化が、30,000psiで実施される。一部の実施形態では、当該マイクロ流動化が、23,000psiで実施される。
【0012】
一部の実施形態では、マイクロフルイダイザーM-110PまたはLM10マイクロフルイダイザー。
【0013】
一部の実施形態では、当該マイクロフルイダイザーは、G10Zインタラクションチャンバーを含む。一部の実施形態では、当該マイクロフルイダイザーは、F12Yインタラクションチャンバーを含む。
【0014】
一部の実施形態では、当該剪断力が、少なくとも2回印加される。一部の実施形態では、当該剪断力が、3回印加される。一部の実施形態では、当該剪断力が、当該少なくとも2回の印加の際に同じである。一部の実施形態では、当該剪断力が、当該少なくとも2回の印加の際に異なる。
【0015】
一部の実施形態では、不溶性物質は、宿主細胞を含む細胞培養物に由来し、当該宿主細胞は、組換えスパイダーシルクタンパク質を発現する。
【0016】
一部の実施形態では、当該方法は、当該細胞培養物に由来する不溶性物質を回収する工程をさらに含み、当該不溶性物質は、組換えスパイダーシルクタンパク質を含む。
【0017】
一部の実施形態では、当該溶媒は、カオトロピック剤である。一部の実施形態では、当該カオトロピック剤は、尿素、チオシアン酸グアニジン(GdnSCN)、または塩化グアニジン(GdnHCL)である。
【0018】
一部の実施形態では、当該不溶性物質が、溶媒体積に対して約5%、10%、15%、20%、25%、または30%不溶性物質で当該水溶液に加えられる。
【0019】
一部の実施形態では、当該カオトロピック剤は、0.1~10Mの濃度で水溶液に存在する。一部の実施形態では、当該水溶液は、約10M尿素、約4M~8M GdnHCl、または約3M~6M GdnSCNを含む。一部の実施形態では、当該水溶液は、10M尿素を含む水溶液、8M GdnHClを含む水溶液、または6M GdnSCNを含む水溶液でのカオトロピック活性よりも弱いカオトロピック活性を含む。
【0020】
一部の実施形態では、寒天-ゲル化アッセイを使用して、カオトロピック活性が定量される。
【0021】
一部の実施形態では、当該水溶液は、85%体積の3M GdnSCNに対して、約15%不溶性部分物質を含む。一部の実施形態では、当該水溶液は、85%体積の4M GdnHClに対して、約15%不溶性部分物質を含む。一部の実施形態では、当該水溶液は、85%体積の10M尿素に対して、約15%不溶性部分物質を含む。
【0022】
一部の実施形態では、当該不溶性物質が、20°~30℃でインキュベーションされる。一部の実施形態では、当該不溶性物質が、室温でインキュベーションされる。一部の実施形態では、当該不溶性物質が、30℃以下でインキュベーションされる。一部の実施形態では、不溶性部分が、溶媒を含む当該水溶液において、60~120分間インキュベーションされる。
【0023】
一部の実施形態では、当該不溶性物質は、細胞ペレットを含む。
【0024】
一部の実施形態では、当該細胞ペレットに由来する当該不溶性物質を回収する工程は、宿主細胞を溶解することを含む。
【0025】
一部の実施形態では、当該溶解することは、熱処理、化学的処理、剪断破壊、物理的均質化、超音波処理、または化学的均質化を含む。
【0026】
一部の実施形態では、当該細胞培養物の不溶性物質を回収する工程は、第1の細胞ペレットを得るために、溶解した当該細胞を遠心分離することをさらに含む。
【0027】
一部の実施形態では、当該不溶性物質を回収する工程が、以下:当該細胞ペレットを、10:1の尿素体積:ペレット質量比で、4M尿素を含む溶液とインキュベーションすること;及び、第2の細胞ペレットを得るために、4M尿素を含む当該溶液を遠心分離すること、次いで、溶媒を含む当該水溶液において当該第2の細胞ペレットをインキュベーションすること、をさらに含む。
【0028】
一部の実施形態では、当該方法は、当該水溶液から組換えスパイダーシルクタンパク質を単離する工程をさらに含み、それにより、単離した組換えスパイダーシルクタンパク質を産生する。
【0029】
一部の実施形態では、当該組換えスパイダーシルクタンパク質は、高結晶質のシルクタンパク質、ベータシート含有量が大きいシルクタンパク質、または低溶解性のシルクタンパク質である。
【0030】
一部の実施形態では、当該組換えスパイダーシルクタンパク質は、配列番号23に記載のウロボルス・ディヴェルサス(Uloborus diversus) MiSPタンパク質を含む。
【0031】
一部の実施形態では、当該組換えスパイダーシルクタンパク質が、非カオトロピック溶媒において、90%、80%、70%、60%、または50%未満の溶解度閾値を有する。
【0032】
一部の実施形態では、当該細胞培養物は、真菌細胞、細菌細胞、または酵母細胞を含む。一部の実施形態では、当該細菌細胞は、Escherichia coli細胞である。
【0033】
一部の実施形態では、単離した当該組換えスパイダーシルクタンパク質の量が、ELISAを使用して測定される。一部の実施形態では、単離した当該組換えスパイダーシルクタンパク質の量が、サイズ排除クロマトグラフィーを使用して測定される。
【0034】
一部の実施形態では、単離した当該組換えスパイダーシルクタンパク質は、完全長の組換えスパイダーシルクタンパク質である。
【0035】
一部の実施形態では、単離した当該組換えスパイダーシルクタンパク質は、完全長の組換えスパイダーシルクタンパク質の少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%を含む。
【0036】
一部の実施形態では、完全長の組換えスパイダーシルクタンパク質の量が、ELISAを使用して測定される。一部の実施形態では、完全長の組換えスパイダーシルクタンパク質の量が、サイズ排除クロマトグラフィーを使用して測定される。
【0037】
一部の実施形態では、単離した組換えスパイダーシルクタンパク質の純度は、5~10%、10~15%、15~20%、20~25%、25~30%、30~35%、35~40%、45~50%、50~55%、55~60%、60~65%、65~70%、70~75%、75~80%、80~85%、85~90%、09~95%、または95~100%である。
【0038】
別の態様では、本明細書では、組換えスパイダーシルクタンパク質を宿主細胞から単離する方法を提供しており、当該方法は、以下の工程を含む:組換えスパイダーシルクタンパク質を含む不溶性物質を提供する工程;当該不溶性物質を、溶媒を含む水溶液に加える工程であって、当該水溶液は、最終10M尿素濃度で15%(w/v)の不溶性部分を含む、工程;マイクロ流動化を介して、当該不溶性物質を含む当該水溶液に対して剪断力を印加する工程であって、それにより、当該組換えスパイダーシルクタンパク質を当該水溶液に可溶化させる、工程;及び、当該水溶液から当該組換えスパイダーシルクタンパク質を単離する工程であって、それにより、単離した組換えスパイダーシルクタンパク質を産生する、工程。
【0039】
別の態様では、本明細書では、組換えスパイダーシルクタンパク質を宿主細胞から単離する方法を提供しており、当該方法は、以下の工程を含む:組換えスパイダーシルクタンパク質を含む不溶性物質を提供する工程;当該不溶性物質を、水溶液に加える工程であって、当該水溶液は、最終10M尿素濃度で約15%(w/v)の不溶性部分を含む、工程;マイクロ流動化を介して、剪断力を印加する工程であって、当該剪断力は、当該水溶液に対して約10×10-1であり、それにより、組換えスパイダーシルクタンパク質を当該水溶液に可溶化させる、工程;及び、当該水溶液から当該組換えスパイダーシルクタンパク質を単離する工程であって、それにより、単離した組換えスパイダーシルクタンパク質を産生する、工程。
【0040】
別の態様では、本明細書では、本明細書に記載した方法で産生した組換えスパイダーシルクタンパク質を含む組成物を提供する。
【0041】
一部の実施形態では、当該組成物は、組換えスパイダーシルクタンパク質粉末を含む。一部の実施形態では、当該組換えスパイダーシルクは、完全長の組換えスパイダーシルクの少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%を含む。少なくとも95%、または100%を含む。
【0042】
別の態様では、本明細書では、本明細書で開示した方法で産生した組換えスパイダーシルクタンパク質を含むシルク繊維を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図面のいくつかの図の簡単な説明
以下の説明及び添付した図面を参照すると、本明細書で説明する本願方法及び組成物のこれらの、及びその他の特徴、態様、及び利点ついての理解が深まる。
【0044】
図1A】Aは、様々なタイプのインタラクションチャンバーでの圧力に応じて算出した剪断速度を示す。
図1B】Bは、様々なタイプの単一スロットインタラクションチャンバーでの圧力に応じて算出した流量を示す。
図2】10M尿素での抽出と、マイクロ流動化処理を行った後のウロボルス・ディブルス(Uloborus dibruss)シルクタンパク質Misp(配列番号23)のSECプロットを示す。矢印は、MiSpタンパク質のピークを指している。
【発明を実施するための形態】
【0045】
詳細な説明
定義
特許請求の範囲及び明細書で使用する用語は、特記しない限り、以下に記載したように定義する。
【0046】
本明細書で定義しない限り、本明細書に記載した方法及び組成物に関連して使用する科学用語及び技術用語は、当業者が一般的に理解する意味を有するものとする。さらに、文脈において明確な指示がない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。一般的に、本明細書に記載した生化学、酵素学、分子及び細胞生物学、微生物学、遺伝学、ならびにポリペプチド及び核酸化学及びハイブリダイゼーションに関連して使用する命名法及び技術は、当該技術分野において周知であり、一般的に使用しているものである。
【0047】
本発明の方法及び技術は、特記しない限り、一般的には、当該技術分野において周知の従来の方法に従って、かつ本明細書の全体にわたって引用及び議論する様々な一般的な参考文献、及びより具体的な参考文献に記載されているようにして実施する。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2d ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989);Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates(1992,and Supplements to 2002);Harlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1990);Taylor and Drickamer,Introduction to Glycobiology,Oxford Univ.Press(2003);Worthington Enzyme Manual,Worthington Biochemical Corp.,Freehold,N.J.;Handbook of Biochemistry:Section A Proteins,Vol I,CRC Press(1976);Handbook of Biochemistry:Section A Proteins,Vol II,CRC Press(1976);Essentials of Glycobiology,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1999)を参照されたい。
【0048】
本明細書に記載したすべての刊行物、特許、及びその他の参考文献は、参照により、それらの全内容を本明細書で援用する。
【0049】
以下の用語は、特記しない限り、以下の意味を持つと理解するものとする。
【0050】
用語「インビトロ」は、生物から離れて、例えば、組織培養で成長する生細胞で発生するプロセスのことを指す。
【0051】
用語「インビボ」は、生体内で発生するプロセスのことを指す。
【0052】
本明細書で使用する用語「浄化する」は、宿主細胞バイオマス、例えば、全細胞、溶解細胞、膜、脂質、オルガネラ、核、非スパイダーシルクタンパク質、またはその他の望ましくない細胞部分または生成物、または細胞培養物でのその他の望ましくないあらゆる部分を除去する方法のことを指す。浄化とは、部分的に精製または分離したスパイダーシルク組成物から不純物を除去することも指し得る。不純物として、非スパイダーシルクタンパク質、分解したスパイダーシルクタンパク質、タンパク質の大きな凝集体、精製及び単離プロセスの間に使用した化学物質、またはその他の望ましくない材料があるが、これらに限定されない。
【0053】
本明細書で使用する用語「純度」は、試料、例えば、抽出した試料において単離したすべての成分の一部のことを指しており、例えば、単離した組換えスパイダーシルクタンパク質、脂質、タンパク質、膜、またはその他の分子の一部または分解物としての実質的に完全長の単離した組換えスパイダーシルクタンパク質の量のことを指す。一部の実施形態では、完全長の組換えスパイダーシルクタンパク質は、公知の全長タンパク質の少なくとも90~100%の長さである。一部の実施形態では、完全長の組換えスパイダーシルクタンパク質は、公知の全長タンパク質の少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の長さである。
【0054】
本明細書で使用する用語「収量」は、スパイダーシルクの開始量と比較した、回収したスパイダーシルク、例えば、スパイダーシルクタンパク質のフラグメント及び実質的に全長のスパイダーシルクなどの総量のことを指す。
【0055】
用語「剪断力」は、表面に対して平行または接線の方向、または物体または物質の平面断面に作用する力のことを指す。流体に関する用語「剪断速度」は、流体の1つの層が、隣接する層を通過する速度の変化割合のことを指す。例えば、剪断速度は、流体の2つの平行な平面が、異なる速度で移動するときに発生する。
【0056】
用語「可溶性シルクタンパク質」は、入念に遠心分離をした後に上清に残存しているタンパク質のことを指す。入念な遠心分離の例として、50mLコニカル遠心分離管において、室温で、20分間、15,000×gで遠心分離した後に認められる50mLのシルクタンパク質のアリコート試料がある。
【0057】
用語「ポリヌクレオチド」または「核酸分子」とは、少なくとも10塩基長を有するヌクレオチドの重合体形態を指す。かかる用語は、DNA分子(例えば、cDNAまたはゲノムDNAもしくは合成DNA)、及びRNA分子(例えば、mRNAまたは合成RNA)、ならびに非天然型ヌクレオチド類似体、非天然ヌクレオシド間結合、またはその両方を含有するDNAもしくはRNAの類似体を含む。核酸は、あらゆる形態学的立体配座とし得る。例えば、核酸は、一本鎖、二本鎖、三本鎖、四重鎖、部分的二本鎖、分岐鎖、ヘアピン状、環状、またはパドロック立体配座とし得る。
【0058】
特記しない限り、「配列番号」という一般的形式で本明細書に記載したあらゆる配列についての一例として、「配列番号1を含む核酸」とは、少なくとも一部に、(i)配列番号1に記載の配列を有する、または(ii)配列番号1に相補的な配列を有する核酸のことを指す。二者択一は文脈から決定する。例えば、核酸をプローブとして使用している場合は、プローブは所望の標的に相補的でなければならないという要件により二者択一が決まる。
【0059】
「単離した」RNA、DNA、または、混合ポリマーとは、それらが属する天然宿主細胞において、天然のポリヌクレオチドに自然と付随しているその他の細胞成分、例えば、自然と関連しているリボソーム、ポリメラーゼ、及び、ゲノム配列から実質的に分離したもののことである。
【0060】
用語「組換え型」とは、生体分子、例えば、遺伝子またはポリペプチドであって、(1)それらが属する自然環境から除かれているもの、(2)自然界ではその遺伝子が認められるポリヌクレオチドの全部または一部に会合していないもの、(3)自然界では連結していないポリヌクレオチドに機能的に連結しているもの、または(4)自然界では生じないものを指す。用語「組換え型」は、クローニングしたDNA分離物、化学合成ポリヌクレオチド類似体、または、異種系により生物学的に合成されたポリヌクレオチド類似体、ならびにかかる核酸がコードするポリペプチド及び/またはmRNAに関して使用することができる。
【0061】
本明細書で使用する生物ゲノムの内在性核酸配列(または、その配列がコードするポリペプチド産物)の発現を変化させるために、この内在性核酸配列に隣接して異種配列が置かれている場合、その内在性核酸配列は、本明細書では「組換え型」とみなす。この場合、異種配列は、その異種配列が、それ自体が内在性(同一宿主細胞、またはその子孫由来)または外因性(異なる宿主細胞、またはその子孫由来)であるか否かに関係なく、天然では内在性核酸配列に隣接していない配列である。例として、プロモーター配列は、宿主細胞のゲノムに存在する遺伝子の天然プロモーターを(例えば、相同組換えにより)置換して、この遺伝子の発現パターンを変化させる。この遺伝子は、天然ではそれに隣接している配列の少なくとも一部の配列から分離されているので、「組換え型」と考えられる。ある実施形態では、異種核酸分子は、生物に対して内因性ではない。さらなる実施形態において、異種核酸分子は、相同またはランダムな組み込みによって、宿主染色体に組み込まれたプラスミドまたは分子である。
【0062】
核酸もまた、それが、ゲノムでの対応する核酸に対して天然では生じない何らかの改変を含有する場合には「組換え型」とみなされる。例えば、内在性コード配列は、それが人為的に、例えば、人手の介入などによって導入された挿入、欠失、または点変異を有する場合には「組換え型」とみなされる。「組換え核酸」は、宿主細胞染色体内の非相同部位に組み込まれた核酸及びエピソームとして存在する核酸構築体も含む。
【0063】
核酸配列に関連する用語「パーセント配列同一性」は、最大限一致するよう整列させた場合に2つの配列の間で同じである残基のことを指す。配列同一性比較の長さは、少なくとも約9個のヌクレオチド、一般的には少なくとも約20個のヌクレオチド、より一般的には少なくとも約24個のヌクレオチド、一般的には、少なくとも約28個のヌクレオチド、より一般的には少なくとも約32個のヌクレオチド、好ましくは少なくとも約36個のヌクレオチド以上のヌクレオチドのストレッチにわたり得る。ヌクレオチド配列同一性を測定するために使用し得る当該技術分野で公知の数多くの異なるアルゴリズムが存在する。例えば、ポリヌクレオチド配列は、Wisconsin Package Version 10.0,Genetics Computer Group(GCG),Madison,WisでのプログラムであるFASTA、GapまたはBestfitを使用して比較し得る。FASTAは、クエリー配列と検索配列との間の最適な重複領域の整列及びパーセント配列同一性を提供する。Pearson,Methods Enzymol.183:63-98(1990)(参照により、その全内容を本明細書で援用する)。例えば、核酸配列間のパーセント配列同一性は、そのデフォルトパラメーター(6のワードサイズ、及びスコアリングマトリックスのためのNOPAMファクター)を備えたFASTAを使用して、または、参照により本明細書で援用するGCG Version 6.1で提供しているようなデフォルトパラメーターを備えたGapを使用して、決定し得る。あるいは、配列は、コンピュータプログラムBLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403-410(1990);Gish and States,Nature Genet.3:266-272(1993);Madden et al.,Meth.Enzymol.266:131-141(1996);Altschul et al.,Nucleic Acids Res.25:3389-3402(1997);Zhang and Madden,Genome Res.7:649-656(1997))、特に、blastpまたはtblastn(Altschul et al.,Nucleic Acids Res.25:3389-3402(1997))を使用して比較し得る。
【0064】
本明細書で使用する用語「実質的な相同性」または「実質的な類似性」は、核酸またはそのフラグメントを指す場合、適切なヌクレオチドの挿入または欠失を用いて別の核酸(または、その相補鎖)と最適に整列させた場合に、上記したようなFASTA、BLAST、またはGapなどの周知の配列同一性のアルゴリズムで測定するようなヌクレオチド配列同一性が、ヌクレオチド塩基の少なくとも少なくとも約76%、80%、85%、好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%または99%に存在することを示す。
【0065】
核酸(別名、ポリヌクレオチド)は、RNA、cDNA、ゲノムDNAのセンス鎖及びアンチセンス鎖の両方、ならびにそれらの合成型及び混合ポリマーを含むことができる。これらは、化学的もしくは生化学的に修飾することができる、または当業者であれば容易に認識するように、非天然のヌクレオチド塩基または誘導体化したヌクレオチド塩基を含み得る。このような修飾として、例えば、標識、メチル化、天然に存在するヌクレオチドの1つ以上の類似体との置換、電荷を有しない結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)、電荷を有する結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)、懸垂部分(例えば、ポリペプチド)、インターカレーター(例えば、アクリジン、ソラレンなど)、キレート化剤、アルキル化剤、及び修飾した結合(例えば、アルファアノマー核酸など)などのヌクレオチド間の修飾がある。水素結合及びその他の化学的相互作用を利用して指定した配列に結合する能力に関してポリヌクレオチドを模倣する合成分子も含む。このような分子は、当該技術分野において公知であり、例えば、分子の主鎖でのリン酸結合がペプチド結合に置換したものを含む。その他の修飾として、例えば、リボース環が、架橋部分または「ロック」核酸で認められる修飾など、その他の構造を含む類似体を含むことができる。
【0066】
用語「変異した」は、核酸配列に使用する場合、核酸配列内のヌクレオチドが、リファレンス核酸配列と比較して挿入、欠失、または変化していることを意味する。単一の変更が、1つの遺伝子座で行い得る(点変異)、または複数のヌクレオチドが、単一の遺伝子座で挿入、欠失、もしくは変化し得る。さらに、1つ以上の変更が、核酸配列内のあらゆる数の遺伝子座で行い得る。核酸配列は、当該技術分野で公知のあらゆる方法で変異し得るものであり、そのような方法として、「エラープローンPCR」(PCR産物の全長にわたって高い割合で点変異が得られるよう、DNAポリメラーゼのコピーの正確さが低い条件下でPCRを実施する方法;例えば、Leung et al.,Technique,1:11-15(1989)及びCaldwell and Joyce,PCR Methods Applic.2:28-33(1992)を参照されたい);及び「オリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発」(関心を寄せた対象のクローニングしたDNAセグメントで部位特異的な変異を発生させる方法;例えば、Reidhaar-Olson and Sauer,Science 241:53-57(1988)を参照されたい)などの突然変異誘発技術があるが、これらに限定されない。
【0067】
本明細書で使用する用語「ベクター」は、そこに連結した別の核酸を輸送することができる核酸分子を指すことを意図している。ベクターの1つのタイプは「プラスミド」であり、これは、一般的には、さらなるDNAセグメントを結合し得る環状二本鎖DNAループのことを指すが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増幅して得られる線状二本鎖分子、または制限酵素で環状プラスミドを処理して得られる線状二本鎖分子も含む。その他のベクターとして、コスミド、細菌人工染色体(BAC)、及び酵母人工染色体(YAC)がある。ベクターの別のタイプは、ウイルスベクターであり、さらなるDNAセグメントを、ウイルスゲノムに結合し得る(詳細は後述する)。ある種のベクターは、導入する宿主細胞内で自律複製することができる(例えば、宿主細胞において機能する複製起点を有するベクター)。その他のベクターは、宿主細胞へ導入すると、宿主細胞のゲノムへ組み込まれ、これにより、宿主ゲノムと共に複製する。さらに、ある種の好ましいベクターは、これらと機能的に連結されている遺伝子の発現を指示することができる。このようなベクターは、本明細書では「組換え発現ベクター」(または、単に「発現ベクター」)と称する。
【0068】
本明細書で使用する用語「発現系」は、宿主細胞での遺伝子の発現のためのビヒクルまたはベクター、ならびに宿主染色体への遺伝子の安定した組み込みを招くビヒクルまたはベクターを含む。
【0069】
「機能的に連結した(operatively linked)」または「機能的に連結した(operably linked)」発現制御配列は、その発現制御配列と関心を寄せた対象の遺伝子とを連続させることで、関心を寄せた対象の遺伝子を制御する連結、ならびに、関心を寄せた対象の遺伝子に対してトランスで機能する、またはある程度の距離を置いて作用する発現制御配列のことを指す。
【0070】
本明細書で使用する用語「発現制御配列」は、そこに機能的に連結しているコード配列の発現に影響を与える上で必要なポリヌクレオチド配列のことを指す。発現制御配列は、核酸配列の転写、転写後事象、及び翻訳を制御する配列である。発現制御配列には、適切な転写開始配列、終結配列、プロモーター配列、及びエンハンサー配列;スプライシングシグナル及びポリアデニル化シグナルのような効率的なRNAプロセシングのためのシグナル;細胞質mRNAを安定化する配列;翻訳効率を高める配列(例えば、リボソーム結合部位);ポリペプチド安定性を高める配列が含まれ;所望により、ポリペプチド分泌を増強する配列がある。このような制御配列の性質は、宿主生物によって異なり;原核生物において、このような制御配列は、一般的には、プロモーター、リボソーム結合部位、及び転写終結配列を含む。用語「制御配列」は、最低限、その存在が発現にとって不可欠である要素すべてを含むことを意図しており、その存在が有利である付加的な要素、例えば、リーダー配列、及び融合パートナー配列も含み得る。
【0071】
本明細書で使用する用語「プロモーター」は、遺伝子転写を開始するためにRNAポリメラーゼが結合するDNA領域のことを指しており、mRNA転写開始部位の5’方向に位置する。
【0072】
本明細書で使用する用語「組換え宿主細胞」(または、単に「宿主細胞」)は、組換えベクターが導入されている細胞を指すことを意図している。このような用語は、特定の対象細胞のみならず、そのような細胞の子孫をも指すことを意図している。後世の世代では、変異または環境的影響のいずれかによって、ある種の修飾が起こり得るので、そのような子孫は、実際は、親細胞と同一ではない場合があるが、それでも本明細書で使用する用語「宿主細胞」の範囲内にある。組換え宿主細胞は、培養で増殖して単離した細胞または細胞株とし得る、または生存している組織または生物に存在する細胞ともし得る。
【0073】
本明細書で使用する用語「ポリペプチド」は、天然に存在するタンパク質及び天然には存在しないタンパク質の両方、ならびにそれらのフラグメント、変異体、誘導体、及びアナログを含む。ポリペプチドは、モノマー、またはポリマーとし得る。さらに、ポリペプチドは、それぞれが1つ以上の別個の活性を有する数多くの異なるドメインを含み得る。
【0074】
本明細書で使用する用語「分子」は、小分子、ペプチド、ポリペプチド、糖、ヌクレオチド、核酸、ポリヌクレオチド、脂質などを含むが、これらに限定されないあらゆる化合物のことを意味しており、このような化合物は、天然または合成のものとすることができる。
【0075】
本明細書で使用する用語「ブロック」または「反復単位」は、おそらくは適度な変化を伴って、天然シルクポリペプチド配列で繰り返し認められる、当該天然シルクポリペプチドにおける約12個超のアミノ酸のサブ配列のことを指しており、当該シルクポリペプチド配列での基本的な反復単位として役立つ。ブロックは、非常に短い「モチーフ」を含み得るが、必ずしも含まない。「モチーフ」は、複数のブロックにおいて出現する約2~10個のアミノ酸配列のことを指す。例えば、モチーフは、アミノ酸配列GGA、GPG、またはAAAAA(配列番号38)からなり得る。複数のブロックの配列は、「ブロックコポリマー」である。
【0076】
本明細書で使用する用語「反復ドメイン」は、シルクポリペプチドでの連続的な(公知のシルクスペーサーエレメントを除いた、実質的に非反復のドメインによって途切れていない)反復セグメントのセットから選択する配列のことを指す。天然シルク配列は、一般的には、1つの反復ドメインを含む。一部の実施形態では、1つのシルク分子につき、1つの反復ドメインが存在する。「マクロ反復」は、複数のブロックを含む天然に存在する反復アミノ酸配列である。ある実施形態では、マクロ反復は、反復ドメインにおいて少なくとも2回の反復がある。さらなる実施形態では、2回の反復は、完全ではない。本明細書で使用する「擬似反復」とは、複数のブロックを含むアミノ酸配列であり、それらのブロックは類似しているが、アミノ酸配列が同一ではない。
【0077】
本明細書で使用する用語「反復配列」または「R」は、反復アミノ酸配列のことを指す。ある実施形態では、反復配列は、マクロ反復、またはマクロ反復のフラグメントを含む。別の実施形態では、反復配列は、ブロックを含む。さらなる実施形態では、単一のブロックを、2つの反復配列に分割する。
【0078】
用語「約」は、示した値、及びその値の上下の範囲を示しており、そして、それらを含む。特定の実施形態では、用語「約」は、与えられた値±10%、±5%、または±1%を示す。特定の実施形態では、該当する場合には、用語「約」は、与えられた値(複数可)±その値(複数可)の1つの標準偏差を示す。
【0079】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用する単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈において明確な指示がない限り、単数形の用語は複数形を含む、ことに留意されたい。
【0080】
本明細書に記載した範囲は、記載した両端を含んでおり、範囲内のすべての値の省略表現であることを理解されたい。例えば、1~50の範囲には、あらゆる数、数の組み合わせ、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、及び50からなる群からのサブ範囲を含む、ものと理解すべきである。加えて、2~5%の範囲は、2%及び5%、そして、その間のあらゆる数または数の分数、例えば:2.25%、2.5%、2.75%、3%、3.25%、3.5%、3.75%、4%、4.25%、4.5%、及び4.75%を含む。
【0081】
組換えタンパク質を可溶化及び精製する方法
細胞培養で発現する組換えスパイダーシルクタンパク質は、細胞成分から精製しなくてはならない。一部の事例では、シルクタンパク質を、不溶性の細胞破片に封じ込める、または、不溶性のシルクタンパク質凝集体を形成する。不溶性のシルクタンパク質は精製が難しく、また、組換えシルクタンパク質の回収率も低い。加えて、一部の単離したスパイダーシルクタンパク質固形物も、不溶性とすることができる。例えば、MBI 18Bシルクパウダーは、溶解度が低く、そして、U.diversus MiSpなどの一部のモデルスパイダーシルクは、難溶性であることが公知である。このような事例では、不溶性物質、凝集体、またはシルク固形物に対して様々な方法を適用して、シルクタンパク質を放出させ、そして、精製に向けて可溶化させる、これにより、組換えシルクタンパク質の回収率を高めることができる。加えて、シルクが溶解する(すなわち、シルクタンパク質の溶解が熱力学的に有利である)条件でさえも、可溶化の速度は緩慢になり得る。この緩慢な速度は、可溶化反応に必要な大きな活性化エネルギー、または細胞破片粒子からのシルクの物質移動が律速であることに起因し得る。シルク凝集体が不溶性である、またはシルクが可溶性であるが、可溶化が緩慢である、という双方の事例において、均質化またはマイクロ流動化を介して、強い剪断力などの大きな物理的エネルギープロセスを与えることで、シルクタンパク質の可溶化を促し得る。強い剪断力は、溶液にエネルギーを与えて反応速度を上げる、それにより、大きな活性化エネルギーを克服する、または、細胞粒子とシルクタンパク質凝集体とを分解して質量輸送効果を抑制する。したがって、剪断力の形態で物理的エネルギーを印加すると、組換えスパイダーシルクタンパク質の溶解度、つまり、回収率を高めることができる。
【0082】
本明細書では、大きな物理的エネルギープロセス、例えば、剪断力、剪断速度、衝撃、及びキャビテーションなど、を与えて、組換えスパイダーシルクタンパク質を可溶化、単離、及び精製する方法を記載している。一部の実施形態では、大きな物理的エネルギープロセスは、均質化またはマイクロ流動化を介して与えられる。組換えタンパク質に対して大きな物理的エネルギープロセスを与えると、水溶液でのタンパク質の可溶化が増加し、それにより、組換えタンパク質の精製及び回収の改善を図ることができる。
【0083】
一部の実施形態では、不溶性物質は、細胞ペレットである。一部の実施形態では、不溶性物質は、細胞溶解物である。一部の実施形態では、不溶性物質は、単離したスパイダーシルクの固形物、大量の粉末、または押出物である。シルク固形物または組換えシルク固形物は、単離した組換えスパイダーシルク組成物、例えば、繊維、押出物、粉末、またはペレットなどである。押出物は、押し出した組換えスパイダーシルク組成物であり、このものは、紡糸口金を通して押し出したものである。
【0084】
物理的エネルギー及び剪断力
物理的エネルギーを、不溶性の組換えスパイダーシルクタンパク質に対して印加して、タンパク質の溶解度を高めることができる。物理的エネルギーとは、機械力、例えば、圧縮または収縮、圧力、流量、衝撃、キャビテーション、剪断力、剪断速度、剪断応力、伸縮、またはそれらのあらゆる組み合わせなど、または当該技術分野で公知のその他の適切な機械力を印加して、不溶性の組換えスパイダーシルクに及ぼす動的または機械的エネルギーのことである。この機械的エネルギーの印加により、溶液での組換えタンパク質の溶解度が高まる。一般的に、組換えタンパク質に対して制御した損傷を誘発する運動エネルギーまたは機械的エネルギーを与えるあらゆる方法を使用して、組換えタンパク質を可溶化し得る。不溶性の組換えタンパク質の溶解性は、例えば、機械的歪みまたは剪断力が誘発する圧力で高めることができ、組換えタンパク質または細胞溶解物が、変形、収縮、急速な引き伸ばし、急速な圧縮を受ける、または高い剪断速度のパルスに曝されることになる。
【0085】
一部の実施形態では、剪断力として、剪断速度、及びその他の物理的エネルギープロセス、例えば、高エネルギー流体プロセッサーによって生じる、衝撃、キャビテーション、及び乱流混合があるが、これらに限定されない。
【0086】
一部の実施形態では、印加される物理的エネルギーは、剪断速度、剪断力、キャビテーション、衝撃、圧力、超音波処理、エマルジョン、または当該技術分野で公知のその他のあらゆる適切な適用方法である。一部の態様では、物理的エネルギーを、均質化、マイクロ流動化マイクロエマルジョン、またはフレンチプレスを使用して印加する。一部の実施形態では、物理的エネルギーは、剪断力である。一部の実施形態では、剪断力により、剪断速度が生じる。一部の実施形態では、物理的エネルギーは、圧力である。一部の実施形態では、物理的エネルギーを、均質化またはマイクロ流動化を介して印加する。一部の実施形態では、超音波処理(sonication)は、超音波処理(ultra-sonication)である。
【0087】
物理エネルギーを与えることができる様々な機器、例えば、高エネルギー流体プロセッサー、マイクロフルイダイザー、フレンチプレス、高圧ホモジナイザー、ビーズミル、ロータリーブレンダー、及びローター/ステーターデバイスなどが利用できる。本明細書に記載した一部の実施形態では、組換えタンパク質は、マイクロフルイダイザーを使用して可溶化され得る。マイクロフルイダイザーとして、Microfluidics Corp(Westwood,MA)製のM110EH、M815、M700、LV1、LM10、LM20、M110Y、またはM110Pマイクロフルイダイザーなどの市販品がある。
【0088】
マイクロフルイダイザーは、交換可能な固定形状のインタラクションチャンバー(G10Z、H10Z、H30Z、H210Z、L30Z、F20Y、またはF12Yインタラクションチャンバーなど)で構成されており、ポンプで流れを起こす。Y字型インタラクションチャンバーでは、流入してきた流れを、2つ以上の流れに分割し、そして、高速で合流させることで、急激な速度勾配と圧力勾配、剪断、キャビテーション、及び加熱をもたらす。インタラクションチャンバー内の流体には、高速の流れと、均一な剪断力の印加とが作用し、その結果、流体に剪断速度が発生する。均質化の強度は、インタラクションチャンバーの形状を変更する、温度を変更する、圧力を変える、または機器を使用して同じ材料を複数回処理する、ことによって変更することができる。投入する材料の濃度、緩衝剤の組成、及び溶液、エマルジョン、または懸濁液の物理化学的特性との複雑な相互作用もある。いくつかのパラメーター、例えば、圧力、キャピラリー直径、温度、均質化パスの数、及び緩衝条件などが組換えタンパク質の可溶化に影響を与え得る。加えて、インタラクションチャンバーは、1つのチャネル(単一スロットのインタラクションチャンバー)、または3つ以上のチャネル(マルチスロットインタラクションチャンバー)を備えることができる。マルチスロットインタラクションチャンバーを使用して、インタラクションチャンバーを通過する体積流量を増やして、処理する試料の体積を増やすことができる。マイクロフルイダイザーチャンバー内の流体の流量は、50μmの小さなチャネルを使用すると、500m/秒に達することができる。圧力を変化させると、流体がインタラクションチャンバーを移動した際に、剪断速度が変化する。
【0089】
当該技術分野で公知のあらゆる適切なホモジナイザーまたはマイクロフルイダイザーを使用することができる。マイクロフルイダイザー及び高圧ホモジナイザーは、Microfluidics(Westwood MA)、Thomas Scientific(Swedesboro,NJ)、CAT Scientific(Paso Robles,CA)、及びThermo Fisher Scientificなどの様々な業者が市販している。一部の実施形態では、マイクロフルイダイザーは、Z字型インタラクションチャンバーを含む。一部の実施形態では、マイクロフルイダイザーは、Y字型インタラクションチャンバーを含む。一部の実施形態では、マイクロフルイダイザーは、M-110PまたはLM10マイクロフルイダイザーである。
【0090】
マイクロフルイダイザーインタラクションチャンバーと、試料処理に使う圧力との特定の組み合わせによって生じる剪断速度は、チャンバーの製造元が提供する情報を使用して決定することができる。1つのスロットを備えたMicrofluidizerブランドの様々なタイプのインタラクションチャンバーでの圧力に応じて算出した剪断速度の例を、図1Aに示している。1つのスロットを備えたMicrofluidizerブランドの様々なタイプのインタラクションチャンバーでの圧力に応じた流量を、図1Bに示している。図1A及び1Bは、Microfluidics(商標)で作成した2014 Microfluidics Processor User Guideを採用している。図1Aに示したように、2つの異なるチャンバー(例えば、30,000psiのF12YチャンバーとL30Zチャンバー)での同じ量の流体圧力は、それぞれ、10×10-1であり、これらのチャンバーで生じた剪断速度は、2×10-1と比較して、ほぼ1桁の差が認められた。したがって、異なるインタラクションチャンバーを通る流体に対する圧力を変えると、異なる量の剪断力及び剪断速度が生じる。また、選択したインタラクションチャンバーでの流体圧力を変更することで、剪断速度の数値を、変更及び最適化できる。
【0091】
流体または溶液に剪断力を印加すると、流体剪断速度が生じる。一部の実施形態では、剪断力を、マイクロフルイダイザーを使用して印加する。一部の実施形態では、マイクロフルイダイザーにより、剪断速度が生じる。一部の実施形態では、剪断速度を、1×10-1~1×10-1の間とし得る。この剪断速度を、約1×10-1、1.5×10-1、2×10-1、2.5×10-1、3×10-1、3.5×10-1、4×10-1、4.5×10-1、5×10-1、5.5×10-1、6×10-1、6.5×10-1、7×10-1、7.5×10-1、8×10-1、8.5×10-1、9×10-1、9.5×10-1、1×10-1、1.5×10-1、2×10-1、2.5×10-1、3×10-1、3.5×10-1、4×10-1、4.5×10-1、5×10-1、5.5×10-1、6×10-1、6.5×10-1、7×10-1、7.5×10-1、8×10-1、8.5×10-1、9×10-1、9.5×10-1、1×10-1、1.5×10-1、2×10-1、2.5×10-1、3×10-1、3.5×10-1、4×10-1、4.5×10-1、5×10-1、5.5×10-1、6×10-1、6.5×10-1、7×10-1、7.5×10-1、8×10-1、8.5×10-1、9×10-1、9.5×10-1、1×10-1、1.5×10-1、2×10-1、2.5×10-1、3×10-1、3.5×10-1、4×10-1、4.5×10-1、5×10-1、5.5×10-1、6×10-1、6.5×10-1、7×10-1、7.5×10-1、8×10-1、8.5×10-1、9×10-1、9.5×10-1、1×10-1、1.5×10-1、2×10-1、2.5×10-1、3×10-1、3.5×10-1、4×10-1、4.5×10-1、5×10-1、5.5×10-1、6×10-1、6.5×10-1、7×10-1、7.5×10-1、8×10-1、8.5×10-1、9×10-1、9.5×10-1、1×10-1、1.5×10-1、2×10-1、2.5×10-1、3×10-1、3.5×10-1、4×10-1、4.5×10-1、5×10-1、5.5×10-1、6×10-1、6.5×10-1、7×10-1、7.5×10-1、8×10-1、8.5×10-1、9×10-1、9.5×10-1、1×10-1とすることができる。一部の実施形態では、当該剪断速度は、約6.5×10-1である。一部の実施形態では、当該剪断速度は、約9.5×10-1である。
【0092】
圧力を、約500~50,000psiとすることができる。この圧力は、少なくとも約500psi、750psi、1,000psi、2,000psi、3,000psi、4,000psi、5,000psi、10,000psi、15,000psi、20,000psi、25,000psi、20,000psi、25,000psi、40,000psi、45,000psi、または50,000psiとすることができる。この圧力を、約500~50,000psi、500~1,000psi、1,000~5,000psi、5,000~10,000psi、7,500~12,000psi、10,000~15,000psi、15,000~20,000psi、15,000~22,000psi、18,000~25,000psi、18,000~22,000psi、20,000~25,000psi、25,000~30,000psi、27,500~30,000psi、27,500~32,000psi、30,000~32,000psi、30,000~35,000psi、35,000~40,000psi、40,000~45,000psi、または45,000~50,000psiの間とすることができる。一部の実施形態では、当該圧力は、約10,000psi、20,000psi、23,000psi、または30,000psiである。一部の実施形態では、当該圧力は、約23,000psiである。一部の実施形態では、当該圧力は、約30,000psiである。一実施形態では、当該圧力は、10,000~30,000psiの間である。
【0093】
スパイダーシルクタンパク質は、物理的エネルギーを使用して少なくとも1回処理され得る、すなわち、マイクロフルイダイザーまたはホモジナイザーからの圧力、剪断力、及び/または剪断速度が、スパイダーシルクタンパク質に対して、1回印加される。一部の実施形態では、圧力、剪断力、及び/または剪断速度が、1回印加される。スパイダーシルクタンパク質はまた、物理的エネルギーを使用して複数回処理され得る、すなわち、圧力、剪断力、及び/または剪断速度が、スパイダーシルクタンパク質に対して、2回、3回、4回、またはそれ以上の回数印加される。一部の実施形態では、圧力、剪断力、及び/または剪断速度が、3回印加される。一部の実施形態では、圧力、剪断力、及び/または剪断速度が、2回印加される。
【0094】
物理的エネルギー、すなわち、印加される圧力、剪断力、及び/または剪断速度を、反復して行うそれぞれのパスまたは実行段階で同じにすることができる。例えば、試料を、1回目のパス、2回目のパス、及び3回目のパスで、30,000psiで処理することができる。その他の実施形態では、圧力を、それぞれのパスまたは実行段階で変えることができる。例えば、試料を、最初のパスでは30,000psi、2番目のパスでは23,000psi、そして、3番目のパスでは10,000psiで処理することができる。別の例では、試料を、最初のパスでは6.5×10-1、2番目のパスでは9.5×10-1、そして、3番目のパスでは5.5×10-1の剪断速度で処理することができる。一部の実施形態では、圧力は、1平方インチあたりの絶対圧力(psia)である。一部の実施形態では、圧力は、平方インチあたりのゲージ圧(psig)である。
【0095】
一部の態様では、物理的エネルギーは、超音波処理を使用して印加される音響エネルギーである。そのような例では、溶液への音波の印加により、溶液内にキャビテーションが発生し、溶液での気泡の核形成、成長、及び崩壊を招き、その結果、溶液での組換えタンパク質の機械的及び物理的変形をもたらし、ひいては、溶解度を高める。
【0096】
溶媒及び緩衝剤条件
組換えタンパク質、及び不溶性細胞部分、ペレット、または溶解物の溶液の緩衝剤条件を変えて、組換えタンパク質の均質化またはマイクロ流動化、及び可溶化を最適化することもできる。組換えシルクポリペプチドは、β-シート構造を凝集及び形成するので、製造及び精製の間に望ましくない不溶性凝集体を形成する。これらの生物学的分子を可溶化するには、モル濃度の大きなカオトロープ溶液などの過酷な化学的条件が必要である。さらに、精製の間にペプチドを再可溶化する上で必要な条件は、タンパク質の分解を招くことがよくあり、その結果、収率が低く、そして、繊維の靱性が貧弱であり、また、手触りを悪くする。しかしながら、低濃度のカオトロープと、マイクロ流動化または均質化などの高い物理的エネルギーの印加との組み合わせは、溶解度を高める、そして、組換えタンパク質の分解を抑制することができる。
【0097】
一部の実施形態では、溶媒を、不溶性細胞部分、ペレット、または溶解物に加えて、組換えスパイダーシルクタンパク質を可溶化することができる。当該技術分野で公知のあらゆる適切な溶媒、例えば、カオトロープ及び有機溶媒などを使用することができるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、当該溶媒は、カオトロープである。当該技術分野で公知のあらゆる適切なカオトロープ、例えば、塩化グアニジン(GdnHCl)、チオシアン酸グアニジン(GdnSCN)、イソチオシアン酸グアニジン、n-ブタノール、エタノール、過塩素酸リチウム、酢酸リチウム、塩化マグネシウム、フェノール、2-プロパノール、ドデシル硫酸ナトリウム、チオ尿素、及び尿素などを使用することができるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、当該溶媒は、塩化グアニジン(GdnHCl)である。一部の実施形態では、当該溶媒は、チオシアン酸グアニジン(GdnSCN)である。一部の実施形態では、当該溶媒は、尿素である。
【0098】
一部の実施形態では、当該溶媒を、水緩衝剤で製剤する。一部の実施形態では、当該溶媒を、50mM Tris、pH7.5の緩衝剤で製剤する。当該技術分野で公知のあらゆる適切な緩衝液、例えば、リン酸緩衝食塩水(PBS)、またはグッドバッファー、例えば、Tris、Tricine、MES、PIPES、ACES、MOPS、MOPSO、TES、HEPES、TAPS、Bicine、TES、ビス-トリスプロパン、ビス-トリスメタン、ADA、HEPBS、CHES、AMP、CAPS、CAPSO、グリシンアミド、グリシルグリシンなど、または、その他の適切な緩衝剤などを使用して溶媒を製剤することができるが、これらに限定されない。
【0099】
溶媒(例えば、アカオトロープ)は、不溶性の細胞部分、ペレット、または溶解物に直接に添加することができる、または水性緩衝剤の成分として加えることができる。水性緩衝剤での溶媒の濃度は、当業者が決定するようにして、変えることができる。一部の実施形態では、水性緩衝剤での溶媒の濃度は、0.01~10M、0.01~0.1M、0.1~0.5M、0.5~1M、1~2M、2~3M、3~4M、4~5M、5~6M、6~7M、7~8M、8~9M、9~10Mの間、または10M以上とすることができる。一部の実施形態では、水性緩衝材での溶媒の濃度、少なくとも約0.1M、0.15M、0.2M、0.25M、0.3M、0.35M、0.4M、0.45M、0.5M、0.55M、0.6M、0.65M、0.7M、0.75M、0.8M、0.85M、0.9M、0.95M、1M、1.5M、2M、2.5M、3M、3.5M、4M、4.5M、5M、5.5M、6M、6.5M、7M、7.5M、8M、8.5M、9M、9.5M、または10M以上とすることができる。
【0100】
一部の実施形態では、溶媒は、特定の質量対体積比で、不溶性細胞部分、ペレット、または溶解物に加える。このような実施形態では、不溶性部分、ペレット、または溶解物の総質量を決定し、そして、特定の濃度の溶媒またはカオトロープを含む特定の比体積の溶液を加える。例えば、細胞ペレットの重量を測定し、そして、細胞集団の最終体積が試料の総体積の15%になるように、カオトロピック剤を含む溶液に再懸濁させる(例えば、細胞ペレットは0.75mgであり、そして、0.01~10Mのカオトロープ溶液を含む4.25mlの緩衝剤溶液で再懸濁する)。別の例では、細胞ペレットの重量を測定し、そして、溶媒を含む等量の溶液に再懸濁して、溶媒の体積に対する細胞の集団の比を50%にする。
【0101】
一部の実施形態では、溶媒体積に対する細胞集団の比率を、1~100%、1~5%、5~10%、10~15%、15~20%、20~25%、25~30%、30~35%、35~40%、45~50%、50~55%、55~60%、60~65%、65~70%、70~75%、75~80%、80~85%、85~90%、90~95%、または95~100%の間の細胞集団とすることができる。一部の実施形態では、溶媒体積に対する細胞集団の比率を、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%の細胞集団とすることができる。
【0102】
一部の実施形態では、溶媒体積に対する細胞集団の比率を、1~100%、1~5%、5~10%、10~15%、15~20%、20~25%、25~30%、30~35%、35~40%、45~50%、50~55%、55~60%、60~65%、65~70%、70~75%、75~80%、80~85%、85~90%、90~95%、または95~100%の間の溶媒体積とすることができる。一部の実施形態では、溶媒体積に対する細胞集団の比率を、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%の溶媒体積とすることができる。
【0103】
一部の実施形態では、水性緩衝剤、及び不溶性細胞部分、ペレット、または溶解物を含む溶液での溶媒の最終濃度を、0.01~10M、0.01~0.1M、0.1~0.5M、0.5~1M、1~2M、2~3M、3~4M、4~5M、5~6M、6~7M、7~8M、8~9M、または9~10Mの間とすることができる。一部の実施形態では、水性緩衝剤、及び細胞溶解物、またはペレットを含む溶液での溶媒の最終濃度を、少なくとも約0.1M、0.15M、0.2M、0.25M、0.3M、0.35M、0.4M、0.45M、0.5M、0.55M、0.6M、0.65M、0.7M、0.75M、0.8M、0.85M、0.9M、0.95M、1M、1.5M、2M、2.5M、3M、3.5M、4M、4.5M、5M、5.5M、6M、6.5M、7M、7.5M、8M、8.5M、9M、9.5M、または10Mとすることができる。
【0104】
小胞の構造特性に影響を与えるさらなる緩衝調整剤、例えば、剪断保護剤、粘度調整剤、及び/または溶質なども使用し得る。均質化またはマイクロ流動化の効率を改善する賦形剤、例えば、膜軟化材、及び分子密集クラウディング剤なども添加し得る。緩衝剤に対するその他の改変は、特定のpH範囲、及び/または、塩、有機溶媒、小分子、界面活性剤、両性イオン、アミノ酸、ポリマーの濃度、及び/または上記した複数の濃度のあらゆる組み合わせを含み得る。
【0105】
一部の実施形態では、不溶性細胞部分、ペレット、または溶解物を、定められた時間をかけて、溶媒を含む水溶液と共にインキュベーションする。細胞ペレットまたは溶解物を溶液とインキュベーションする時間は、スパイダーシルクタンパク質の可溶化を高める、または、タンパク質の分解の可能性を抑えるように変更することができる。インキュベーション時間は、1分~3時間(180分)、1分~60分、3分~90分、60分~120分、90分~150分、または120分~180分の間とすることができる。インキュベーション時間は、少なくとも1分、5分、10分、15分、20分、30分、45分、60分、75分、90分、105分、120分、135分、150分、165分、180分、またはそれ以上とすることができる。一部の実施形態では、インキュベーション時間は、60分である。一部の実施形態では、インキュベーション時間は、75分である。一部の実施形態では、インキュベーション時間は、90分である。一部の実施形態では、インキュベーション時間は、105分である。一部の実施形態では、インキュベーション時間は、120分である。
【0106】
不溶性細胞部分、ペレット、または溶解物は、水溶液と共に、5~70℃でインキュベーションすることができる。一部の実施形態では、不溶性細胞部分、ペレット、または溶解物は、水溶液と共に、5~10℃、10~20℃、10~15℃、15~20℃、20~30℃、20~22℃、20~25℃、22~27℃、25~27℃、25~30℃、27~30℃、30~40℃、40~50℃、40~45℃、45~50℃、50~60℃、50~55℃、55~60℃、60~70℃、60~65℃、または65~70℃でインキュベーションする。一部の実施形態では、不溶性細胞部分、ペレット、または溶解物は、20~30℃で、水溶液と共にインキュベーションする。一部の実施形態では、不溶性細胞部分、ペレット、または溶解物は、25℃で、水溶液と共にインキュベーションする。一部の実施形態では、不溶性細胞部分、ペレット、または溶解物は、室温で、水溶液と共にインキュベーションする。一部の実施形態では、不溶性細胞部分、ペレット、または溶解物は、30℃以下で、水溶液と共にインキュベーションする。
【0107】
一部の実施形態では、組換えスパイダーシルクタンパク質は、宿主細胞の細胞質で発現する。タンパク質を単離するためには、宿主細胞を溶解して、組換えスパイダーシルクタンパク質を放出する必要がある。あらゆる適切な方法を使用して宿主細胞を溶解することができ、そのような方法として、熱処理、化学的処理、剪断破壊、物理的均質化、マイクロ流動化、超音波処理、または化学的均質化があるが、これらに限定されない。化学的処理として、原核細胞及び真核細胞の原形質膜を破壊することが公知である化学物質または酵素、例えば、Triton X-100、Nonidet P-40、CHAPS、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などの界面活性剤、または、その他の適切な界面活性剤を、細胞と共にインキュベーションすることを含む。
【0108】
細胞を溶解した後に、組換えスパイダーシルクタンパク質を含む不溶性部分は、細胞溶解物を遠心分離して回収することができ、その結果、組換えスパイダーシルクタンパク質を含む不溶性物質の細胞ペレットが得られる。不溶性組換えタンパク質をペレット化する遠心分離速度は、当業者であれば決定することができる。一部の実施形態では、遠心分離速度は、100~10,000×gである。一部の実施形態では、遠心分離速度は、100×g、200×g、300×g、400×g、500×g、600×g、700×g、800×g、900×g、1000×g、2000×g、3000×g、4000×g、5000×gである。6000×g、7000×g、8000×g、9000×g、または10,000×gである。
【0109】
一部の事例では、不溶性細胞部分またはペレットを再懸濁する、または、尿素溶液などのカオトロープで洗浄してから、改めて遠心分離をして第2の細胞ペレットを産生することができる。次に、この第2の細胞ペレットを、溶媒水溶液と共にインキュベーションする、そして、物理的な力を印加して組換えスパイダーシルクタンパク質を可溶化する。この洗浄液でのカオトロープのモル濃度は、0.1~10Mとすることができる。一部の実施形態では、当該カオトロープは、尿素である。一部の実施形態では、当該カオトロープは、4M尿素である。
【0110】
一部の実施形態では、非スパイダーシルクタンパク質の生物学的または化学的不純物を、細胞溶解物または細胞ペレットから除去することができる。細胞溶解物または細胞ペレットからの不純物の除去は、濾過、吸収(例えば、木炭または固体吸収)、透析、及びコアセルベーション、または様々な化学物質を使用して誘発する相分離で達成することができる。その他の実施形態では、相分離は、コスモトロープ、及び/または溶液からタンパク質を沈殿させるために使用する化合物を添加して化学的に誘導し得る。
【0111】
一部の実施形態では、濾過、精密濾過、透析濾過、及び/または限外濾過(例えば、脱イオン水に対するもの)を使用して不純物を除去する。精密濾過に適した膜として、0.1uM~1uMのものを含み得る。限外濾過に適した膜の例として、分子量カットオフが、50kDa~800kDa、100kDa~800kDa、200kDa~800kDa、300kDa~800kDa、400kDa~800kDa、500kDa~800kDa、600kDa~800kDa、700kDa~800kDa、100kDa~700kDa、200kDa~700kDa、300kDa~700kDa、400kDa~700kDa、500kDa~700kDa、600kDa~700kDa、または500kDa~600kDaの間である疎水性膜(例えば、PES、PS、酢酸セルロース)があるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、限外濾過は、組換えタンパク質スラリーを含む水の入った保持液と、不純物を含む透過液とに分ける。限外濾過に適した条件(例えば、膜、温度、体積置換)は、濾過生成物密度を最大化することを目的とした当該技術分野で公知の方法を使用して決定することができる。一部の実施形態では、限外濾過は、1g/mL~30g/mLの間の密度を有する保持液を提供する。一部の実施形態では、限外濾過は、濃縮した保持液をもたらす濃縮ステップと、それに続く、不純物を除去し、そして、水に懸濁したタンパク質スラリーをもたらす透析濾過ステップを含む。一部のそのような実施形態では、濃縮した保持液は、開始体積に対して2倍~12倍の体積減少の濃度係数を有する。一部の実施形態では、透析濾過は、3倍~10倍の間の一定の体積置換を提供する。
【0112】
除去する不純物の実施形態及びタイプに応じて、不純物を除去する方法を変え得る。単離した組換えタンパク質からの脂質不純物の除去は、当該技術分野で公知の方法で達成することができる。そのような方法の例として、脂質に特異的に結合する木炭またはその他の吸収媒体への吸収があるが、これらに限定されない。単離した組換えタンパク質からの多糖不純物の除去は、当該技術分野で公知の方法によって達成することができる。そのような方法の例として、多糖類を加水分解する酵素を使用した処理と、それに続く、限外濾過によって生成した小さな糖の除去があるが、これらに限定されない。そのような酵素の例として、グルカナーゼ、リチカーゼ、マンナーゼ、及びキチナーゼがあるが、これらに限定されない。
【0113】
定量
単離した組換えスパイダーシルクタンパク質を、測定または定量して、単離したタンパク質の回収率(収率)及び純度を評価することができる。あらゆる適切な方法を使用して、単離した完全長の組換えタンパク質、及び組換えタンパク質フラグメントの量を測定または定量し得る、そして、当該方法として、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、SDS-PAGE、ウエスタンブロット(イムノブロット)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、SEC-HPLC、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)、または高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)、または当該技術分野で公知であるその他の適切な方法、またはそれらの組み合わせがあるが、これらに限定されない。ある実施形態では、完全長の組換えスパイダーシルクタンパク質、及び組換えタンパク質フラグメントの量は、ウエスタンブロットを使用して測定する。別の実施形態では、完全長の組換えスパイダーシルクタンパク質、及び組換えタンパク質フラグメントの量は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を使用して測定する。別の実施形態では、完全長の組換えスパイダーシルクタンパク質、及び組換えタンパク質フラグメントの量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して測定する。
【0114】
一部の実施形態では、単離した組換えスパイダーシルクタンパク質は、適切な方法で測定をしたところ、完全長の組換えスパイダーシルクタンパク質の少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.9%、または、少なくとも100%である。
【0115】
一部の実施形態では、単離した組換えスパイダーシルクタンパク質の純度は、5~10%、10~15%、15~20%、20~25%、25~30%、30~35%、35~40%、45~50%、50~55%、55~60%、60~65%、65~70%、70~75%、75~80%、80~85%、85~90%、90~95%、または95~100%である。一部の実施形態では、単離した組換えスパイダーシルクタンパク質の純度は、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%である。少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.9%、または少なくとも100%である。
【0116】
一部の実施形態では、単離した組換えスパイダーシルクタンパク質の純度は、出発不溶性材料と比較して高まっている。例えば、出発不溶性材料が、不溶性または難溶性の単離した組換えスパイダーシルクタンパク質またはシルク粉末である事例では、単離した組換えスパイダーシルクタンパク質の純度は、本明細書に記載した可溶化及び単離方法で高めることができる。一部の実施形態では、単離した組換えスパイダーシルクタンパク質の純度は、出発物質の純度と比較して、1~5%、5~10%、10~15%、15~20%、20~25%、25~30%、30~35%、35~40%、45~50%、50~55%、55~60%、60~65%、65~70%、70~75%、75~80%、80~85%、85~90%、90~95%、または95~100%高まっている。一部の実施形態では、単離した組換えスパイダーシルクタンパク質の純度は、出発物質の純度と比較して、少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも100%高まっている。一部の実施形態では、不溶性材料の純度は、0~99%、1~5%、5~10%、10~15%、15~20%、20~25%、25~30%、30~35%、35~40%、45~50%、50~55%、55~60%、60~65%、65~70%、70~75%、75~80%、80~85%、85~90%、90~95%、または95~99.9%である。一部の実施形態では、不溶性材料の純度は、少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、または少なくとも99.9%である。
【0117】
一部の実施形態では、単離した組換えスパイダーシルクタンパク質は、完全長の組換えスパイダーシルクタンパク質の少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%を含む。
【0118】
組換えスパイダーシルク組成物
参照により本明細書で援用する米国特許第9,963,554号“Methods and Compositions for Synthesizing Improved Silk Fibers,”は、合成ブロックコポリマーのための組成物、それらを製造するための組換え微生物、及びそれらタンパク質を含む合成繊維を開示している。2019年4月4日に発行され、そして、発明の名称が“Modified Strains for the Production of Recombinant Silk,”である、参照によりその全内容を本明細書で援用する米国特許公開第2019/0100740号は、酵母細胞が発現した組換えタンパク質の分解を抑制するために選択または遺伝子操作したピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞を開示しており、そして、有用な化合物の生産のための酵母細胞の培養方法に関する。当業者であれば、これらのタンパク質を含む合成ブロックコポリマー及び合成繊維を、Escherichia coliで製造することもできる。
【0119】
数種の天然スパイダーシルクが、これまでに同定されている。自然に出糸されたシルクのそれぞれの種の機械的性質は、それらシルクの分子組成と密接な関係があると考えられている。例えば、Garb,J.E.,et al.,Untangling spider silk evolution with spidroin terminal domains,BMC Evol.Biol.,10:243(2010);Bittencourt,D.,et al.,Protein families,natural history and biotechnological aspects of spider silk,Genet.Mol.Res.,11:3(2012);Rising,A.,et al.,Spider silk proteins:recent advances in recombinant production,structure-function relationships and biomedical applications,Cell.Mol.Life Sci.,68:2,pg.169-184(2011);及び、Humenik,M.,et al.,Spider silk:understanding the structure-function relationship of a natural fiber,Prog.Mol.Biol.Transl.Sci.,103,pg.131-85(2011)を参照されたい。例えば:
【0120】
房状(AcSp)シルクは、適度に高い強度と適度に高い伸縮性とを組み合わせた結果、靭性が高い傾向がある。AcSpシルクは、しばしばポリセリン及びGPXのモチーフが組み込まれている大きなブロック(「集合体の反復」)サイズを特徴とする。管状(TuSp、または、円筒状)シルクは、直径が大きく、中程度の強度及び高い伸縮性を有する傾向がある。TuSpシルクは、そのポリセリン及びポリスレオニンの含量、ならびに、短いポリアラニン配列を特徴とする。大瓶状(MaSp)シルクは、高い強度及び中程度の伸縮性を有する傾向がある。MaSpシルクは、2つのサブタイプであるMaSp1及びMaSp2のいずれかである。MaSp1シルクは、一般的に、MaSp2シルクより低伸縮性であり、ポリアラニン、GX、及び、GGXのモチーフを特徴とする。MaSp2シルクは、ポリアラニン、GGX、及び、GPXのモチーフを特徴とする。小瓶状(MiSp)シルクは、中程度の強度及び中程度の伸縮性を有する傾向がある。MiSpシルクは、GGX、GA、及び、ポリAのモチーフを特徴としており、しばしば約100のアミノ酸からなるスペーサーエレメントを含有している。鞭毛状(Flag)シルクは、非常に高い伸縮性及び中程度の強度を有する傾向がある。Flagシルクは、通常、GPG、GGX、及び、短いスペーサーのモチーフを特徴とする。
【0121】
それぞれのシルク種の性質は、種ごとに異なる場合があり、また、ライフスタイルが異なるクモ(例えば、動き回らずに巣を張る造網性のクモと、徘徊して捕食するクモ)または、進化的に古い方のクモは、上記した説明とは異なるシルクを産生し得る(クモの多様性、及び、分類についての記載に関しては、Hormiga,G.,and Griswold,C.E.,Systematics,phylogeny,and evolution of orb-weaving spiders,Annu.Rev.Entomol.59,pg.487-512(2014);及び、Blackedge,T.A.et al.,Reconstructing web evolution and spider diversification in the molecular era,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,106:13,pg.5229-5234(2009)を参照されたい)。しかしながら、天然シルクタンパク質の反復ドメインに対する配列類似性、及び/または、アミノ酸組成類似性を有する合成ブロックコポリマーポリペプチドを使用して、対応する天然シルク繊維の特性を再現している、一貫性のあるシルク様繊維を商業規模で製造することができる。
【0122】
一部の実施形態では、組換えスパイダーシルクは、高結晶質のシルクタンパク質、ベータシート含有量が大きいシルクタンパク質、または低溶解性のシルクタンパク質である。一部の実施形態では、組換えスパイダーシルクタンパク質は、非カオトロピック溶媒では、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、10%、または5%未満の溶解度閾値を有する。一部の実施形態では、この溶解度閾値は、遠心分離した後に非カオトロピック溶媒に溶解するタンパク質の量である。
【0123】
シルクヌクレオチド及びペプチド配列
一部の実施形態では、推定シルク配列の一覧は、例えば、「spidroin」、「fibroin」、「MaSp」などの関連用語を、GenBankで検索して収集することができ、それらの配列を、独立した配列決定で得たさらなる配列と一緒にプールすることができる。その後、これらの配列を、アミノ酸に翻訳して重複エントリーをフィルタリングし、そして、手作業で、それぞれのドメイン(NTD、REP、CTD)に分割する。一部の実施形態では、候補アミノ酸配列を、ピキア(コマガタエラ)・パストリス(Pichia(Komagataella)pastoris)での発現に最適化したDNA配列に逆翻訳する。DNA配列を、それぞれ発現ベクターにクローニングし、そして、それによって、Pichia(Komagataella)pastorisを形質転換する。一部の実施形態では、首尾良く発現及び分泌した各種のシルクドメインを、その後に、組み合わせ方式で組み立てて、繊維形成能のあるシルク分子を構築する。
【0124】
シルクポリペプチドは、特徴的に、反復ドメイン(REP)に、非反復領域(例えば、C末端ドメイン、及び、N末端ドメイン)が隣接して構成されている。この反復ドメインは、階層構造を示す。上記した反復ドメインは、一連のブロック(別名、繰り返し単位)を含む。上記したブロックは、シルクの反復ドメイン全体にわたり、ときに完全に、ときに不完全に繰り返す(準繰り返しドメインを構成する)。ブロックの長さ、及び、組成は、異なるシルクの種類間、また、異なる種の間で変化する。表1は、選択した種、及び、シルク種のブロック配列の一覧であり、さらなる例が、Rising,A.et al.,Spider silk proteins:recent advances in recombinant production,structure-function relationships and biomedical applications,Cell Mol.Life Sci.,68:2,pg 169-184(2011);及び、Gatesy,J.et al.,Extreme diversity,conservation,and convergence of spider silk fibroin sequences,Science,291:5513,pg.2603-2605(2001)に記載されている。一部の事例では、ブロックは、規則的なパターンで並んでおり、シルク配列の反復ドメインに複数回(通常、2~8回)出現する、より大きなマクロ反復を形成し得る。反復ドメインまたはマクロ反復の内側で繰り返されるブロックと、反復ドメイン内で繰り返されるマクロ反復とを、間隔エレメントで分離し得る。ブロック配列は、グリシンに富む領域と、それに続くポリA領域とを含み得る。短い(約1~10個の)アミノ酸のモチーフが、ブロック内に複数回出現し得る。一般的に認められたモチーフのサブセットを図1に示す。円順列とは関係なく、異なる天然シルクポリペプチドに由来するブロックを選択することができる(すなわち、同定したブロックが、その他の点においてシルクポリペプチドの間で類似する場合には、円順列が故に整列しないことがある)。したがって、例えば、SGAGG(配列番号39)という「ブロック」は、本明細書に記載した方法及び組成物の目的上、GSGAG(配列番号40)と同一であり、また、GGSGA(配列番号41)と同一であり;それらは、いずれも互いに円順列にすぎない。所与のシルク配列について選択した特定順列は、何よりも利便性によって決定することができる(通常は、Gで開始する)。NCBIデータベースから得たシルク配列は、ブロック及び非反復領域に分割することができる。
【0125】
(表1)ブロック配列の実例
【0126】
本発明の特定の実施形態によると、ブロック、及び/または、マクロ反復ドメイン由来の繊維形成ブロックコポリマーポリペプチドは、本明細書で援用する国際公開公報第WO/2015/042164号に記載されている。GenBankなどのタンパク質データベースから得た天然シルク配列、または、改めて行った配列決定により得た天然シルク配列は、ドメイン(N末端ドメイン、反復ドメイン、及び、C末端ドメイン)が壊されている。合成後に集合させて繊維を構築するために選択するN末端ドメイン及びC末端ドメインの配列として、天然アミノ酸配列情報、及び、本明細書に記載したその他の改変がある。反復ドメインを、反復配列に分解するが、この反復配列は、重要なアミノ酸情報を獲得する代表的ブロックを、通常は、シルクの種類によって、1~8個を含有する一方で、アミノ酸をコードするDNAの大きさを、容易に合成可能なフラグメントにまで小さくする。一部の実施形態では、適切に形成したブロックコポリマーポリペプチドは、少なくとも1つの反復配列を含む少なくとも1つの反復ドメインを含み、任意に、N末端ドメイン、及び/または、C末端ドメインを隣接させる。
【0127】
一部の実施形態では、反復ドメインは、少なくとも1つの反復配列を含む。一部の実施形態では、反復配列は、150~300個のアミノ酸残基である。一部の実施形態では、反復配列は、複数のブロックを含む。一部の実施形態では、反復配列は、複数のマクロ反復を含む。一部の実施形態では、ブロックまたはマクロ反復は、複数の反復配列全体に分割する。
【0128】
一部の実施形態では、反復配列は、DNAアセンブリの要件を満たすために、グリシンで始まり、かつ、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)、システイン(C)、ヒスチジン(H)、アスパラギン(N)、メチオニン(M)、または、アスパラギン酸(D)で終わることはできない。一部の実施形態では、いくつかの反復配列は、天然配列と比べて変化させることができる。一部の実施形態では、反復配列は、ポリペプチドのC末端に対するセリン付加などで変化させることができる(F、Y、W、C、H、N、M、または、Dでの終止を回避するため)。一部の実施形態では、反復配列は、不完全ブロックに別のブロック由来の相同配列を充当して改変することができる。一部の実施形態では、反復配列は、ブロックまたはマクロ反復の順序を再構成して改変することができる。
【0129】
一部の実施形態では、合成のために、非反復のN末端及びC末端のドメインを選択することができる。一部の実施形態では、N末端ドメインを、例えば、SignalPで同定したリーディングシグナル配列を除去して作り出すことができる(Peterson,T.N.,et.Al.,SignalP 4.0:discriminating signal peptides from transmembrane regions,Nat.Methods,8:10,pg.785-786(2011)。
【0130】
一部の実施形態では、N末端ドメイン配列、反復配列、または、C末端ドメイン配列は、アゲレノプシス・アペルタ(Agelenopsis aperta)、Aliatypus gulosus、アフォノペルマ・シーマニー(Aphonopelma seemanni)、アプトスチチュス種(Aptostichus sp.)AS217、Aptostichus sp.AS220、アラネウス・ディアデマツス(Araneus diadematus)、Araneus gemmoides、Araneus ventricosus、アルギオペ・アモエナ(Argiope amoena)、アルギオペ・アルゲンタタ(Argiope argentata)、ナガコガネグモ(Argiope bruennichi)、Argiope trifasciata、アチポイデス・リヴェルシ(Atypoides riversi)、アヴィキュラリア・ジュルエンシス(Avicularia juruensis)、ボスリオシルツム・カリフォルニカム(Bothriocyrtum californicum)、Deinopis Spinosa、ディグエチア・カニチエス(Diguetia canities)、Dolomedes tenebrosus、エウアグルス・キソセウス(Euagrus chisoseus)、Euprosthenops australis、ガステラキャンタ・マンモサ(Gasteracantha mammosa)、ヒポキルス・トレルリ(Hypochilus thorelli)、ククルカニア・ヒベルナリス(Kukulcania hibernalis)、Latrodectus hesperus、メガヘクスラ・フルヴァ(Megahexura fulva)、メテペイラ・グランディオサ(Metepeira grandiosa)、ネフィラ・アンチポディアナ(Nephila antipodiana)、Nephila clavata、Nephila clavipes、ネフィラ・マダガスカリエンシス(Nephila madagascariensis)、ネフィラ・ピリペス(Nephila pilipes)、Nephilengys cruentata、パラウィキシア・ビストリアタ(Parawixia bistriata)、ペウセチア・ヴィリダンス(Peucetia viridans)、Plectreurys tristis、ポエシロセリア・レガリス(Poecilotheria regalis)、Tetragnatha kauaiensis、または、Uloborus diversusに由来することができる。
【0131】
一部の実施形態では、シルクポリペプチドヌクレオチドコード配列は、アルファ接合因子ヌクレオチドコード配列に機能的に連結することができる。一部の実施形態では、シルクポリペプチドヌクレオチドコード配列は、別の内在性または異種の分泌シグナルコード配列に機能的に連結することができる。一部の実施形態では、シルクポリペプチドヌクレオチドコード配列は、3X FLAGヌクレオチドコード配列に機能的に連結することができる。一部の実施形態では、シルクポリペプチドヌクレオチドコード配列は、6~8個のHis残基(配列番号42)ヌクレオチドコード配列などのその他のアフィニティータグに機能的に連結する。
【0132】
分泌シグナル
細胞が分泌するタンパク質の量は、タンパク質の間で大きく異なっており、また、新生の状態にあるタンパク質に機能的に連結している分泌シグナルに一部は依存している。いくつかの分泌シグナルが当該技術分野で公知であり、その一部は、分泌した組換えタンパク質の産生のためによく使われている。これらの内で、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のα-接合因子(αMF)の分泌シグナルが際だっており、このものは、N末端の19個のアミノ酸のシグナルペプチド(本明細書ではpre-αMF(sc)とも称する)と、それに続く、70個のアミノ酸のリーダーペプチド(本明細書ではpro-αMF(sc)とも称する)からなる。Saccharomyces cerevisiaeのαMFの分泌シグナルへのpro-αMF(sc)の取り込み(本明細書ではpre-αMF(sc)/pro-αMF(sc)とも称する)は、タンパク質の分泌収量を高める上で重要であることが証明されている。pre-αMF(sc)以外のシグナルペプチドに、pro-αMF(sc)またはその機能的変異体を加えて、組換えタンパク質の分泌を達成する手段に関して検討がされてきたが、様々な程度の有効性を示し、特定の組換え宿主細胞では特定の組換えタンパク質の分泌を高めるが、その他の組換えタンパク質に関しては効果が認められず、または、分泌量が減少していた。
【0133】
米国出願第15/724,196号に記載されている通り、複数の別個の分泌シグナルを使用すると、組換えタンパク質の分泌収量を改善することができる。唯一の分泌シグナル(例えば、pre-αMF(sc)/pro-αMF(sc))に機能的に連結した組換えタンパク質をコードする複数のポリヌクレオチド配列を含む組換え宿主細胞と比較して、少なくとも2つの別個の分泌シグナルに機能的に連結した組換えタンパク質をコードする同じ数のポリヌクレオチド配列を含む組換え宿主細胞は、組換えタンパク質の分泌収量を高めている。理論に拘束されることを望むものではないが、少なくとも2つの別個の分泌シグナルの使用は、組換え宿主細胞が別個の細胞分泌経路に関与して、組換えタンパク質の効率的な分泌を可能ならしめる、したがって、いずれか1つの分泌経路の過飽和を防ぐことを許容し得る。
【0134】
別個の分泌シグナルの少なくとも1つは、表2もしくは3から選択し得るシグナルペプチドを含む、または表2もしくは3から選択するシグナルペプチドに対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する機能的バリアントである。一部の実施形態では、機能的バリアントは、1つまたは2つの置換アミノ酸を含む表2または3から選択するシグナルペプチドである。一部のそのような実施形態では、機能的バリアントは、表2または3から選択するシグナルペプチドに対して少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する。一部の実施形態では、シグナルペプチドは、翻訳後にERへの新生組換えタンパク質の転座を媒介する(すなわち、タンパク質合成を転座に先駆けて行って、ERに転移する前に、新生組換えタンパク質が細胞質ゾルに存在するようにする)。その他の実施形態では、シグナルペプチドは、翻訳と同時にERへの新生組換えタンパク質の転座を媒介する(すなわち、タンパク質合成と、ERへの転座とが同時に起こる)。翻訳と同時にERへの転座を媒介するシグナルペプチドを使用する利点は、急速な折り畳みを起こしやすい組換えタンパク質が、ERへの転座、したがって、分泌を妨げる立体配座になることを妨げることにある。
【0135】
(表2)分泌シグナル
【0136】
(表3)組換え分泌シグナル
【0137】
発現ベクター
本明細書に記載した発現ベクターは、当該技術分野で公知の技術に鑑みて、本明細書の教示に従って作り出すことができる。配列、例えば、ベクター配列または導入遺伝子をコードする配列は、Integrated DNA Technologies,Coralville,IA、または DNA 2.0,Menlo Park,CAなどの企業から市販されている。本明細書に例示しているものは、キメラシルクポリペプチドの高レベルの発現を指示する発現ベクターである。
【0138】
本明細書に記載したポリヌクレオチドの別の標準的な供給源は、生物(例えば、細菌)、細胞、または選択した組織から単離したポリヌクレオチドである。選択した供給源に由来する核酸は、標準的な手順で単離することができ、この手順は、一般的には、フェノール、及びフェノール/クロロホルムの連続抽出と、それに続くエタノール沈殿を含む。沈殿した後に、ポリヌクレオチドを、核酸分子をフラグメントに切断する制限エンドヌクレアーゼで処理することができる。選択した大きさのフラグメントは、いくつかの技術、例えば、アガロース、またはポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはパルスフィールドゲル電気泳動などで分離して(Care et al.(1984)Nuc.Acid Res.12:5647-5664;Chu et al.(1986)Science 234:1582;Smith et al.(1987)Methods in Enzymology 151:461)、クローニングのための適切なサイズの出発物質を提供することができる。
【0139】
発現ベクターまたは構築物のヌクレオチド成分を取得する別の方法は、PCRである。PCRの一般的な手順は、MacPherson et al.,PCR:A PRACTICAL APPROACH,(IRL Press at Oxford University Press,(1991))で教示されている。利用するそれぞれの反応でのPCR条件は、経験的に決定し得る。数多くのパラメーターが、反応の成否に影響を与える。これらのパラメーターとして、アニーリング温度及びアニーリング時間、伸長時間、Mg2+及びATPの濃度、pH、ならびに、プライマー、テンプレート、及びデオキシリボヌクレオチドの相対濃度がある。例示的なプライマーを、以下の実施例に記載している。増幅した後に得られたフラグメントは、アガロースゲル電気泳動と、それに続くエチジウムブロマイド染色、及び紫外線照射による視覚化によって検出できる。
【0140】
ポリヌクレオチドを得るための別の方法は、酵素消化によるものである。例えば、ヌクレオチド配列は、適切な認識制限酵素で適切なベクターを消化して生成することができる。標準的な技術を使用して、4つのデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)の存在下で、大腸菌(E.coli) DNAポリメラーゼI(クレノウ)の大きなフラグメントで処理することで、制限切断フラグメントを平滑末端化し得る。
【0141】
ポリヌクレオチドは、当該技術分野で周知の方法を使用して、適切な主鎖、例えば、プラスミドに挿入する。例えば、インサート及びベクターDNAを、適切な条件下で、制限酵素と接触させて、それぞれの分子上に相補的末端または平滑末端を作成し、互いにペアリングし、そして、リガーゼと結合させることができる。あるいは、合成核酸リンカーを、ポリヌクレオチドの末端に結合することができる。これらの合成リンカーは、ベクターDNAの特定の制限部位に対応する核酸配列を含むことができる。その他の手段も公知であり、当該技術分野で利用可能である。構成要素のポリヌクレオチドに関しては、様々な供給源を利用することができる。
【0142】
一部の実施形態では、R、N、またはC配列を含む発現ベクターで、発現及び分泌のために宿主生物を形質転換する。一部の実施形態では、発現ベクターは、分泌シグナルを含む。一部の実施形態では、発現ベクターは、終止シグナルを含む。一部の実施形態では、発現ベクターは、宿主細胞ゲノムに組み込むようにデザインする、そして、次の:標的ゲノムに対して相同な領域、プロモーター、分泌シグナル、タグ(例えば、Flagタグ)、終止/ポリAシグナル、Pichiaの選択可能なマーカー、E.coliの選択可能なマーカー、E.coliの複製起点、及び関心を寄せたフラグメントを放出するための制限部位を含む。
【0143】
本発明のベクターは、スパイダーシルクタンパク質コード配列を、宿主細胞のゲノムの特定の位置に組み込むことを指示する標的配列をさらに含むことができる。そのような標的配列の例として、宿主細胞のゲノムに存在するヌクレオチド配列と同一であるヌクレオチド配列があるが、このものに限定されない。一部の実施形態では、標的配列は、宿主細胞のゲノムでの反復要素と同一である。一部の実施形態では、標的配列は、宿主細胞のゲノムでの転移因子と同一である。
【0144】
一部の実施形態では、本明細書に記載したベクターを含む組換え宿主細胞を、本明細書で提供する。一部の実施形態では、これらのベクターは、例えば、相同組換え、または標的取り込みを使用して、組換え宿主細胞のゲノム(例えば、染色体)内に安定して組み込まれる。ゲノム組み込みに適した部位の例として、Saccharomyces cerevisiaeゲノムのTy1遺伝子座、Pichia pastorisゲノムのrDNA及びHSP82遺伝子座、及び組換え宿主細胞のゲノム全体にコピーが散在している転移可能な要素があるが、これらに限定されない。その他の実施形態では、これらのベクターは、組換え宿主細胞のゲノム内に安定して組み込まれておらず、むしろ染色体外にある。
【0145】
宿主細胞形質転換体
スパイダーシルクポリペプチドを発現する核酸分子またはベクターで形質転換した宿主細胞、及びその子孫を提供する。これらの細胞は、ベクターに核酸配列も運搬することができ、このものは、ベクターを自由に複製し得るが、そうする必要はない。その他の実施形態では、核酸は、宿主細胞のゲノムに組み込まれている。
【0146】
一部の実施形態では、ブロックコポリマーポリペプチドの大規模生産を可能にする微生物または宿主細胞は、次の組み合わせを含む:1)大きな(>50kDa)ポリペプチドを生産する能力、2)大規模な汚染物質(ウイルス汚染や細菌汚染など)に対する耐性、及び、3)微生物の成長と処理に関する既存のノウハウが大規模(1~2000m)バイオリアクターであること、を含む。
【0147】
一部の実施形態では、宿主細胞は、組換えスパイダーシルクタンパク質を細胞内で発現する、そして、タンパク質は宿主細胞内に残存する。一部の実施形態では、宿主細胞は、組換えスパイダーシルクタンパク質を細胞内で発現する、そして、タンパク質を分泌する。
【0148】
様々な宿主生物を、ブロック共重合体ポリペプチド発現系を含むように遺伝子操作/形質転換することができる。組換えシルクポリペプチドの発現に好ましい生物として、植物、藻類、酵母、真菌、グラム陽性菌、及びグラム陰性菌がある。一部の実施形態では、宿主生物は、アークスラ・アデニニボランス(Arxula adeninivorans)、アスペルギルス・アクレアタス(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・フィクウム(Aspergillus ficuum)、アスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・チュービゲンシス(Aspergillus tubigensis)、バチルス・アルカロフィルス(Bacillus alkalophilus)、バチルス・アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・アンスラシス(Bacillus anthracis)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バチルス・ロータス(Bacillus lautus)、バチルス・レンタス(Bacillus lentus)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・メタノリクス(Bacillus methanolicus)、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)、カンジダ・ボイジニイ(Candida boidinii)、クリソスポリウム・ラクノウェンス(Chrysosporium lucknowense)、Escherichia coli、フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)、フザリウム・ベネナタム(Fusarium venenatum)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、クルイベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、ミセリオプソラ・サーモフィラ(Myceliopthora thermophila)、ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)、オガテア・ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、ペニシリウム・カマンベルティ(Penicillium camemberti)、ペニシリウム・ケネッセンス(Penicillium canescens)、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)、ペニシリウム・エメルソニイ(Penicillium emersonii)、ペニシリウム・フニクロサム(Penicillium funiculosum)、ペニシリウム・グリセオロセウム(Penicillium griseoroseum)、ペニシリウム・プルプロゲナム(Penicillium purpurogenum)、ペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roqueforti)、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、ピキア・アンガスタ(Pichia angusta)、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、Pichia(Komagataella)pastoris、ピキア・ポリモルファ(Pichia polymorpha)、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)、リゾムコール・ミーヘイ(Rhizomucor miehei)、リゾムコール・プシラス(Rhizomucor pusillus)、リゾプス・アリザス(Rhizopus arrhizus)、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)、Saccharomyces cerevisiae、シュワニオマイセス・オクシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)、トリコデルマ・ハルジアナム(Trichoderma harzianum)、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)、またはヤロウウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)である。
【0149】
組換え宿主細胞として使用することができるさらなる株は、当該技術分野で公知である。用語「組換え宿主細胞」は、特定の対象細胞のみならず、そのような細胞の子孫をも指すことを意図している、ことを理解されたい。突然変異または環境の影響のいずれかに起因して、特定の改変が次の世代で起こり得るので、そのような子孫は、実際には、親細胞と同一になり得ないが、本明細書で使用する用語「組換え宿主細胞」の範囲内に含まれる。
【0150】
遺伝子操作した宿主細胞株
組換えタンパク質の生産に広く利用されているもう1つの細胞株は、細菌Escherichia coliである。しかしながら、E.coli株の培養の間に、組換え発現したタンパク質は、不溶性となるので、単離が不十分になり、そして、組換えタンパク質の収量が減少する。広く使用されている別の微生物として、メチロトローフ酵母Pichia pastorisがある。P.pastorisは、高い細胞密度にまで成長して、厳密に制御したメタノール誘導性トランス遺伝子発現を提供し、そして、規定の培地で異種タンパク質を効率的に分泌する。しかしながら、P.pastorisの菌株を培養している間に、組換え発現タンパク質は回収ができるようになる前に分解するので、組換え発現タンパク質のフラグメントを含むタンパク質の混合物が生じてしまい、完全長の組換えタンパク質の収量が減少する。
【0151】
一部の実施形態では、本明細書に記載したプロテアーゼ活性が低下した改変株は、シルク様ポリペプチド配列を組換え的に発現する。一部の実施形態では、シルク様ポリペプチド配列は、1)ブロックコポリマーポリペプチド組成物、すなわち、シルクポリペプチド配列に由来する反復ドメインを混合及び適合させて生成した当該組成物、及び/または、2)組換え発現を介して生成したブロックコポリマーポリペプチド、すなわち、工業的規模の拡張が可能な微生物に分泌させることで、有用な繊維を形成する上で十分に大きいサイズ(約40kDa)を有する当該ポリペプチドである。遺伝子操作した大きな(約40kDa~約100kDaの)ブロックコポリマーポリペプチドは、本明細書に記載した改変微生物で、スパイダーシルクポリペプチドの公開されたほぼ全体のアミノ酸配列に由来する配列を含むシルク反復ドメインフラグメントから発現させることができる。一部の実施形態では、シルクポリペプチド配列は、繊維の形成が可能な高度に発現及び分泌したポリペプチドを産生するように適合させ、そしてデザインする。一部の実施形態では、プロテアーゼ遺伝子のノックアウト、または宿主改変株でのプロテアーゼ活性の低下は、シルク様ポリペプチドの分解を抑制する。
【0152】
一部の実施形態では、Pichia pastorisでのプロテアーゼ活性を減弱させるために、これらの酵素をコードする遺伝子を不活性化または変異させて、活性を低下または解消する。このことは、遺伝子調節エレメントの修飾を介した当該遺伝子自体の変異、または、遺伝子自体への挿入を介して行うことができる。このことは、標準的な酵母遺伝学技術によって達成することができる。そのような技術の例として、二重相同組換えを介した遺伝子置換があり、この技術では、不活化する遺伝子に隣接する相同領域を、選択可能なマーカー遺伝子(抗生物質耐性遺伝子、または酵母株の栄養要求性を補完する遺伝子など)に隣接するベクターにクローニングする。
【0153】
あるいは、相同領域を、PCR増幅し、そして、オーバーラップPCRを介して選択可能なマーカー遺伝子に結合することができる。続いて、そのようなDNAフラグメントで、当該技術分野で公知の方法、例えば、エレクトロポレーションを使用してPichia pastorisを形質転換する。次に、選択的条件下で増殖する形質転換体を、標準的な技術、例えば、ゲノムDNAに関するPCR、またはサザンブロットで、遺伝子撹乱事象に関して分析をする。別の実験では、遺伝子の不活性化は、単一の相同組換えで達成することができ、その事例では、例えば、遺伝子のORFの5’末端を、選択可能なマーカー遺伝子も含むプロモーターを持たないベクターにクローニングしている。そのようなベクターを、制限酵素で消化して線形化すると、ベクターを切断して標的遺伝子相同フラグメントだけになり、そのようなベクターで、Pichia pastorisを形質転換する。標的遺伝子部位への取り込みは、ゲノムDNAに関するPCR、またはサザンブロットで確認する。このようにして、ベクターにクローニングした遺伝子フラグメントの複製がゲノム内で達成され、その結果、標的遺伝子座の2つのコピー:そのORFが不完全であるため、(あったとしても)短い不活性タンパク質しか発現しない第1のコピー、及び、転写を駆動するプロモーターを持たない第2のコピーが得られる。
【0154】
あるいは、トランスポゾン変異誘発を使用して、標的遺伝子を不活性化する。そのような変異体のライブラリーは、標的遺伝子での挿入イベントに関するPCRでスクリーニングすることができる。
【0155】
遺伝子操作した株/ノックアウト株の機能的表現型(すなわち、欠損)は、当該技術分野で公知の技術を使用して評価することができる。例えば、遺伝子操作した株でのプロテアーゼ活性の欠乏は、発色性プロテアーゼ基質の加水分解活性のアッセイ、選択したプロテアーゼの基質タンパク質のバンドシフトなど、当該技術分野で公知の様々な方法のいずれかを使用して確認することができる。
【0156】
本明細書に記載したプロテアーゼ活性の減弱は、ノックアウト変異以外のメカニズムを使用して達成することができる。例えば、所望のプロテアーゼは、核酸配列を変更する、活性の小さなプロモーターの制御下に遺伝子を置く、ダウンレギュレーション、干渉RNA、リボザイム、または関心を寄せた遺伝子を標的とするアンチセンス配列を発現することによって、または当該技術分野で公知のその他の技術を使用して、アミノ酸配列を変化させて減弱することができる。好ましい株では、PAS_chr4_0584(YPS1-1)及びPAS_chr3_1157(YPS1-2)でコードしたプロテアーゼのプロテアーゼ活性を、上記した方法のいずれかで減弱する。一部の態様では、YPS1-1及びYPS1-2遺伝子を不活性化しているメチロトローフ酵母株、特に、Pichia pastoris株が記載されている。一部の実施形態では、さらなるプロテアーゼをコードする遺伝子も、本明細書で提供する方法に従ってノックアウトして、菌株が発現する所望のタンパク質産物のプロテアーゼ活性をさらに低下させ得る。
【0157】
一部の実施形態では、本明細書に開示したP.pastoris株は、シルク様ポリペプチドを発現するように改変している。シルク様ポリペプチドの好ましい実施形態を製造する方法は、参照により本明細書で援用するWO2015/042164、特に、段落114~134に提供されている。そこに開示されているものは、Argiope bruennichi種などのMaSp2に由来する組換えスパイダーシルクタンパク質フラグメント配列に基づいた合成タンパク質性コポリマーである。2~20個の反復単位を含むシルク様ポリペプチドが記載されており、それぞれの反復単位の分子量は、約20kDaを超えている。このコポリマーでのそれぞれの反復単位には、いくつかの「準反復単位」に組織した約60を超えるアミノ酸残基がある。一部の実施形態では、本開示に記載したポリペプチドの反復単位は、MaSp2ドラグラインシルクタンパク質配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する。
【実施例
【0158】
以下は、本明細書に記載した本方法を実施するための特定の実施形態の実施例である。これらの実施例は、例示だけを目的として提供しており、いかなる方法でも本開示の範囲を限定することは意図していない。使用した数値(量、温度など)については正確性を確保するために注意を払ってはいるが、当然のことながら、ある程度の実験誤差と偏差は許容されるべきである。
【0159】
本明細書に記載した方法の実施は、指示がない限り、当業者の技術の範囲内で、タンパク質化学、生化学、組換えDNA技術、及び薬理学での従来の方法を使用する。そのような技術は、文献で十分なまでに説明がされている。例えば、T.E.Creighton,Proteins:Structures and Molecular Properties(W.H.Freeman and Company,1993);A.L.Lehninger,Biochemistry(Worth Publishers,Inc.,current addition);Sambrook,et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd Edition,1989);Methods In Enzymology(S.Colowick and N.Kaplan eds.,Academic Press,Inc.);Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition(Easton,Pennsylvania:Mack Publishing Company,1990);Carey and Sundberg Advanced Organic Chemistry 3rd Ed.(Plenum Press)Vols A and B(1992)を参照されたい。
【0160】
実施例1:マイクロ流動化は、組換えシルクタンパク質の溶解度を高める
大きな物理的エネルギーを使用して、様々な水性溶媒条件において、不溶性細胞材料の凝集からモデルシルクタンパク質を可溶化した。
【0161】
モデルシルクUD MiSp 64kDaは、N末端ヒスチジンヘキサマー(配列番号43)に連結したUloborus diversus小瓶状腺スピドロイン遺伝子配列(GenBank:DQ399332.1、配列番号23)に由来する組換え発現した64kDのタンパク質である。このタンパク質は、MiSpタンパク質をコードするT7発現ベクターで形質転換したEscherichia coli C41(DE3)(Lucigen)を使用して発現した。細胞を、最小培地で増殖させ、MiSp遺伝子発現を、イソプロピル β-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)で誘導し、そして、均質化して溶解した。不溶性の細胞溶解物を遠心分離してペレット化した。10対1(質量)比率で、4M尿素溶液を、不溶性物質と1時間混合し、そして、遠心分離をして不溶性画分を回収した。使用した均質化装置により、約0.7×10-1の剪断速度が生じた。しかしながら、このUD MiSp 64kDモデルのシルクは、難溶性であることが公知であり、ホモジナイザーにより生じる剪断速度は、UD MiSp 64kDaシルクを可溶化するには不十分であった。
【0162】
不溶性シルクタンパク質を含有する細胞バイオマス及びペレットを、水性緩衝剤(50mM Tris、pH7.5)で再懸濁を行い、そして、選択したカオトロープを含有する溶液において、15%w/vの比率(細胞ペレットの質量:溶液体積)で再懸濁した。カオトロープの最終濃度は、1g/lのペレット密度を想定して、10M尿素、4M GdnHCl、8M GdnHCl、3M GdnSCN、または6MGdnSCNとした。溶液を、室温で、少なくとも1時間撹拌して混合をして、材料の巨視的な集塊をほぐした。100mLのアリコートを、30,000psi(ゲージ圧、M-110P、Microfluidics Inc.)で作動するF12Yインタラクションチャンバーに3回通過させて処理した。処理ステップの間の試料の加熱を制限するために、水浴を使用した。コントロールについては、マイクロ流動化で処理する代わりに、100mLのアリコートの別のセットを、室温で、3時間撹拌した。
【0163】
シルクタンパク質の可溶化のアッセイは、50mLのアリコートを、15,000×gで、20分間、室温で、遠心分離して行った、そして、上清と細胞ペレットとを分離した。可溶性シルクタンパク質は、遠心分離した後の上清に残存しているシルクタンパク質とした。細胞ペレットに残存している不溶性シルクは、5M GdnSCNを含む50mLの水で、ペレットを抽出してアッセイした。2つの画分のシルクの濃度を、抗His6抗体(配列番号43として開示した「His6」)を使用するELISAで評価を行い、そして、結果を、表1に示す。
【0164】
(表1)水性緩衝剤及び選択したカオトロープ溶液において高エネルギーで処理した後のモデルシルクの溶解度の増大。2つの画分でのシルクの濃度は、ELISAで決定した。
【0165】
評価したすべての条件に関して、マイクロ流動化は、可溶性画分でのシルクの量を増やした。注目すべき事例は、10M尿素及び4M GdnHClの条件であり、そこでは、ごくわずかなシルク(4M GdnHClで6%、または、10M尿素では0%)がコントロールに溶解していたが、マイクロ流動化処理した後では、75%以上が溶解した。加えて、3Mと6Mの両方のGdnSCN緩衝剤は、マイクロ流動化した後では、100%可溶化したシルクタンパク質を実現したが、同じカオトロピック濃度でのコントロール処理では、シルクを完全に可溶化できなかった。したがって、マイクロ流動化を使用すると、シルクタンパク質を可溶化させる上で必要なカオトロープの濃度が低下していた。
【0166】
可溶性画分にシルクタンパク質が存在することは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)でも確認した。SEC HPLCを使用して、10M尿素及びマイクロ流動化(高エネルギーライン)で抽出したタンパク質試料の可溶性画分を、10M尿素だけのもの(コントロールライン)と比較した(図2)。モデルシルクタンパク質の溶出時間(MiSpピーク)を、精製したタンパク質標準で同定した(データ示さず)。このカラムは、変性移動相(5M GdnSCN)で分析しており、そして、溶出液は、屈折率検出器で検出を行った。マイクロ流動化剪断力を印加すると、尿素だけを使用する場合と比較して、シルクタンパク質の可溶化と回収率が顕著に改善する。可溶化したシルクタンパク質の純度を、一部の試料のSECピーク%屈折率曲線(RU)面積を計算して評価した。選択した試料の純度を、表2に示す。
【0167】
(表2)
【0168】
実施例2:剪断速度圧力の最適化
次に、インタラクションチャンバーの大きさと、マイクロ流動化の圧力を変えて、シルクの可溶化を評価した。
【0169】
シルクタンパク質を含む不溶性細胞バイオマスを、実施例1に記載されているようにして調製し、そして、尿素に懸濁して、最終濃度を10M尿素にした。2つの別個の剪断速度、すなわち、製造業者(Microfluidics Processor User Guide,Microfluidics,Inc)の取扱説明書に従って、インタラクションチャンバーのタイプと操作圧力で制御する剪断速度でもってして、試料を処理した。具体的には、6.5×10-1(G10Zインタラクションチャンバー、23,000psi,Microfluidics Inc.LM10)、または9.5×10-1(F12Yインタラクションチャンバー、30,000psi,Microfluidics Inc.M-110P)の予測剪断速度を目標とした。シルクタンパク質の可溶化は、実施例1に記載した遠心分離プロトコルでアッセイした。可溶性または不溶性画分でのシルクの濃度は、先に説明したようにしてSEC HPLCで評価した。シルクタンパク質は、シルク濃度を導くためのウシ血清アルブミンタンパク質標準を使用して、SEC屈折率ピークの面積で測定した。
【0170】
表3は、2度の処理を行った後のシルクの可溶化を示している。剪断速度を、9.5×10-1にまで高めると、6.5×10-1の低速で処理した試料と比較して、可溶化したシルクタンパク質の収率が40%増加した(30,000psiを使用して得た66%の収率と比較して、23,000psiでは47%の収率)。したがって、剪断速度を大きくすると、シルクタンパク質の可溶化と回収が改善できた。
【0171】
(表3)シルクタンパク質を10M尿素で可溶化した際の剪断速度の変化の影響。シルク濃度は、SEC HPLCピーク面積から推定した。収量は、出発物質でのシルクタンパク質の総量に対して正規化した、回収したシルクタンパク質の量である。出発物質でのシルクタンパク質の総量を、5M GdnSCNとのインキュベーションで抽出した。
【0172】
本発明は、特に、好ましい実施形態及び様々な代替実施形態に関して、明示を行い、また、説明をしてきたが、当業者であれば、本発明の技術思想または範囲から逸脱せずとも、その形態及び細部に様々な変更を加えることができる、ことを理解されたい。
【0173】
本明細書の本文で引用したすべての参考文献、発行特許、及び特許出願は、あらゆる目的のために、参照により、それらの全内容を本明細書で援用する。
図1A
図1B
図2
【配列表】
2022548481000001.app
【国際調査報告】