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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-21
(54)【発明の名称】焦点深度拡張を有する眼内レンズ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20221114BHJP
【FI】
A61F2/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022507876
(86)(22)【出願日】2020-09-10
(85)【翻訳文提出日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 EP2020075273
(87)【国際公開番号】W WO2021048248
(87)【国際公開日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】P201930791
(32)【優先日】2019-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(31)【優先権主張番号】BE2019/5669
(32)【優先日】2019-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512003777
【氏名又は名称】フィシオル
(71)【出願人】
【識別番号】508157886
【氏名又は名称】コンセジョ スペリオール デ インベスティガショネス シエンティフィカス
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルコス セレスティーノ,スサナ
(72)【発明者】
【氏名】ドロンソロ ディアス,カルロス
(72)【発明者】
【氏名】レドゾヴィック,スアド
(72)【発明者】
【氏名】パニョーレ,クリストフ
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA25
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC03
4C097SA02
(57)【要約】
本発明は、非球面の前方光学面および後方光学面(2,3)を備える、焦点深度拡張を有する眼内レンズ(1)に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼内レンズ(1)であって、
前方光学面と、
後方光学面と、
を備え、
前記前方光学面および前記後方光学面が両方とも、光軸(Z)に対して半径方向外向きに延在する眼内レンズ(1)において、
前記眼内レンズ(1)は、
前記前方光学面および前記後方光学面のうちの第1の面(2)が、以下の式によって定義され、

式中、
●zst(r)は、前記第1の面(2)の頂点(21)から、前記光軸(Z)から半径rにある前記第1の面の任意の点までの変位ベクトルの、前記光軸(Z)に沿って測定された成分であり、
●Rstは、前記頂点(21)において求められる前記第1の面(2)の曲率半径であり、
●κst(Rst)は、前記頂点(21)において求められ、以下の関係によって前記第1の面(2)の前記曲率半径Rstの関数で定義される前記第1の面(2)の円錐定数であり、

式中、erfは、ガウス誤差関数を表し、a、b、c、A、B、C、Dは、
a∈[0.050;0.075]、b∈[-1;0]、c∈[-20;0]、A∈[-41;-39]、B∈[0.07;0.13]、C∈[-2.6;-2.0]かつD∈[0.75;1.25]となるような、実数定数であり、

は、前記第1の面(2)の次数2iの非球面係数であり、
前記前方光学面および前記後方光学面のうちの、前記第1の面(2)と異なる第2の面(3)が、以下の式によって定義され、

式中、
●znd(r)は、前記第2の面(3)の頂点(31)から、前記光軸(Z)から半径rにある前記第2の面(3)の任意の点までの、前記光軸(Z)に沿って測定された変位ベクトルの成分であり、
●Rnd<0は、前記頂点(31)において求められる前記第2の面(3)の曲率半径であり、
●κnd(Rnd)は、前記頂点(31)において求められ、以下の関係によって前記第2の面(3)の前記曲率半径Rndの関数で定義される前記第2の面(3)の円錐定数であり、

式中、f、g、hは、
f∈[0.08;0.12]、g∈[1.0;1.6]かつh∈[0;9]となるような、実数定数であり、

は、前記第2の面(3)の次数2iの非球面係数であり、
前記前方光学面および後方光学面は、前記眼内レンズ(1)が焦点深度拡張を提供するようなものである、
ことを特徴とする眼内レンズ(1)。
【請求項2】
a∈[0.060;0.075]および/またはb∈[-0.5;-0.2]および/またはc∈[-12;-10]および/または
A∈[-40.1;-39.9]および/またはB∈[0.080;0.095]および/またはC∈[-2.35;-2.05]および/またはD∈[0.9;1.1]および/または
f∈[0.085;0.105]および/またはg∈[1.05;1.40]および/またはh∈[3;6]である、
ことを特徴とする、請求項1に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項3】

であり、
各j∈{1,2,3}について、p≧10である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項4】
10D~35Dに含まれる屈折力を有する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項5】
14Dより厳密に小さい屈折力を有し、かつRst<0であるか、または、
14D以上の屈折力を有し、かつRst>0である、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項6】
前記第1の面(2)および/または第2の面(3)の10以下の次数の非球面係数が非ゼロである、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項7】
前記第1の面(2)および/または第2の面(3)の非球面係数が、絶対値で、0.1によって境界付けされる、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項8】

および/または

である、
ことを特徴とする請求項6または7に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項9】
前記第1の面(2)および/または第2の面(3)の厳密に10より大きい次数の前記非球面係数が実質的にゼロに等しい、
ことを特徴とする請求項6から8のいずれか1項に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項10】
前記第1の面(2)が前記前方光学面であり、前記第2の面(3)が前記後方光学面であり、前記光軸(Z)が前記前面から前記後面に向けられている、
ことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項11】
前記眼内レンズ(1)が15Dの屈折力を有しており、
であることを特徴とする請求項10に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項12】
前記眼内レンズ(1)が20Dの屈折力を有しており、
であることを特徴とする請求項10に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項13】
前記眼内レンズ(1)が25Dの屈折力を有しており、
であることを特徴とする請求項10に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項14】
前記眼内レンズ(1)が14D以上の屈折力を有しており、
前記光軸(Z)に垂直な平面を基準のゼロ高さ平面とし、前記光軸(Z)を高さ評価のための基準軸とする、前記第1の面(2)上の半径座標上で評価される高さマップが、
●前記第1の面(2)の頂点(21)において極小値を示し、
●前記第1の面(2)の頂点(21)から前記第1の面(2)の縁部まで増加しており、
前記光軸(Z)に垂直な平面を基準のゼロ高さ平面とし、前記光軸(Z)を高さ評価のための基準軸とする、前記第2の面(3)上の半径座標上で評価される高さマップが、
●前記第2の面(3)の頂点(31)において極大値を示し、
●前記第2の面(3)の縁部から正の距離にある周辺極小値(32)を示し、
●前記極大値と前記周辺極小値(32)との間に位置する変曲点(33)を示し、
●前記第2の面(3)の頂点(31)から前記周辺極小値(32)まで減少しており、
●前記周辺極小値(32)からこの第2の面(3)の縁部まで増加している、
ことを特徴とする請求項10から13のいずれか1項に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項15】
前記眼内レンズ(1)が、厳密に12Dより大きく、厳密に14D未満である屈折力を有しており、
前記光軸(Z)に垂直な平面を基準のゼロ高さ平面とし、前記光軸(Z)を高さ評価のための基準軸とする、前記第1の面(2)上の半径座標上で評価される高さマップが、
●前記第1の面(2)の頂点(21)において極大値を示し、
●前記第1の面(2)の縁部から正の距離にある周辺極小値を示し、
●前記極大値と前記周辺極小値との間に位置する変曲点を示し、
●前記第1の面(2)の頂点(21)から前記周辺極小値まで減少しており、
●前記周辺極小値から前記第1の面(2)の縁部まで増加しており、
前記光軸(Z)に垂直な平面を基準のゼロ高さ平面とし、前記光軸(Z)を高さ評価のための基準軸とする、前記第2の面(3)上の半径座標上で評価される高さマップが、
●前記第2の面(3)の頂点(31)において極大値を示し、
●前記第2の面(3)の縁部から正の距離にある周辺極小値(32)を示し、
●前記極大値と前記周辺極小値(32)との間に位置する変曲点(33)を示し、
●前記第2の面(3)の頂点(31)から前記周辺極小値(32)まで減少しており、
●前記周辺極小値(32)からこの第2の面(3)の縁部まで増加している、
ことを特徴とする請求項10に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項16】
前記眼内レンズ(1)が、12D以下である屈折力を有しており、
前記光軸(Z)に垂直な平面を基準のゼロ高さ平面とし、前記光軸(Z)を高さ評価のための基準軸とする、前記第1の面(2)上の半径座標上で評価される高さマップが、
●前記第1の面(2)の頂点(21)において極大値を示し、
●前記第1の面(2)の頂点(21)から前記第1の面(2)の縁部まで減少しており、
前記光軸(Z)に垂直な平面を基準のゼロ高さ平面とし、前記光軸(Z)を高さ評価のための基準軸とする、前記第2の面(3)上の半径座標上で評価される高さマップが、
●前記第2の面(3)の頂点(31)において極大値を示し、
●前記第2の面(3)の頂点(31)から前記第2の面(3)の縁部まで減少している、
ことを特徴とする請求項10に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項17】
前記前方光学面および前記後方光学面が、1.40~1.65の屈折率を有する疎水性の生体適合性原材料から切り出される、
ことを特徴とする請求項1から16のいずれか1項に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項18】
前記前方光学面および前記後方光学面が、前記光軸(Z)に沿って測定された、0.30mm~0.70mmを含む所定の中心厚さの内部本体(41)によって分離されている、
ことを特徴とする請求項1から17のいずれか1項に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項19】
前記前方光学面と前記後方光学面の両方が、前記光軸(Z)に対して垂直に測定される、4.70~5.00mmを含む直径(d)を有する、
ことを特徴とする請求項1から18のいずれか1項に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項20】
前記眼内レンズ(1)の前方外向きの角膜モデルを用いた前記前方光学面および前記後方光学面の組み合わされた光屈折が、より低い屈折力の広がった中央領域(92)によって囲まれた前記光軸(Z)に沿った中心大域的最大値(91)を含む屈折力の連続的で正則なマップ(9)を提供する、
ことを特徴とする請求項1から19のいずれか1項に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項21】
前記中心領域(92)が、前記前方光学面および前記後方光学面3の直径(d)の約半分に広がり、屈折力の変曲点または極小値のいずれかである前記マップ(9)の点の第1のリング(93、93´)によって囲まれている、
ことを特徴とする請求項20に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項22】
前記マップ(9)が、屈折力の極大値である点の第2のリング(94)をさらに備え、前記第2のリング(94)が前記第1のリング(93)を取り囲んでいる、
ことを特徴とする請求項21に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項23】
前記眼内レンズ(1)が、
中心光学部(4)であって、
●前面が前記前方光学面であり、
●後面が前記後方光学面である、
中心光学部と、
前記中心光学部(4)に接続されており、無水晶体眼の水晶体嚢内に前記眼内レンズ(1)を安定化させるように構成された複数の可撓性ハプティック(5)と、
を備えることを特徴とする請求項1から22のいずれか1項に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項24】
可撓性ハプティック(5)の頂点(51)と前記中心光学部(4)の主光学面(M)との間の、前記光軸(Z)に沿って測定される距離(HC)が、前記眼内レンズ(1)が無水晶体眼の水晶体嚢に移植されたときに前記主光学面(M)が前記光軸(Z)に平行に安定するように、増大する屈折力に対して連続的に増加し、0.45mmで境界付けされる、連続正則関数による前記眼内レンズ(1)の屈折力の画像に対応することを特徴とする、請求項23に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項25】
4つの閉じた可撓性ハプティック(5)であって、それら各々が前記中心光学部(4)に基づいてループを形成する4つの閉じた可撓性ハプティック(5)を備える、
ことを特徴とする請求項23または24に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項26】
前記光軸(Z)を中心とする180°の回転の下で形状不変である、
ことを特徴とする請求項1から25のいずれか1項に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項27】
請求項1から26のいずれか1項に記載の眼内レンズ(1)の製造方法であって、
(a)非球面光学面プロファイルパターンを有するレンズをモデル化するステップと、
(b)モデル化された前記レンズを伝搬する光の屈折効率分布を計算するステップと、
(c)計算された前記屈折効率分布に従って非球面光学面プロファイルパラメータを、所望の屈折効率を達成するように選択するステップと、
(d)生体適合性原材料から、選択された前記パラメータを用いてモデル化された前記レンズを形成するステップと、
を含む製造方法。
【請求項28】
ステップ(c)において選択される前記非球面光学面プロファイルパラメータが、前記眼内レンズ(1)の屈折力に連続的かつ正則に依存する、
ことを特徴とする請求項27に記載の製造方法。
【請求項29】
これらの非球面光学面の中の第1の面(2)の、その頂点(21)において求められる円錐定数κstが、ステップ(c)において、この頂点(21)において求められる前記第1の面(2)の曲率半径Rstの関数で、以下の関係によって選択され、

式中、erfは、ガウス誤差関数を表し、a,b,c,A,B,C,Dは実数定数であり、前記非球面光学面の中の第2の面(3)の、その頂点(31)において求められる円錐定数κndが、ステップ(c)において、この頂点(31)において求められる前記第2の面(3)の曲率半径Rndの関数で、以下の関係によって選択され、

式中、f、g、hは実数定数である、
ことを特徴とする請求項27または28に記載の製造方法。
【請求項30】
前記眼内レンズ(1)が請求項24に記載のものであり、前記製造方法が、前記眼内レンズ(1)が無水晶体眼の水晶体嚢に移植されたときに前記光軸(Z)に平行な主光学面(M)の所望の長手方向安定性を達成するように、増大する屈折力に対して連続的に増加し、0.45mmで境界付けされる、連続正則関数による前記眼内レンズ(1)の屈折力の像としての前記眼内レンズ(1)の屈折力の関数で、可撓性ハプティック(5)の頂点(51)と前記中心光学部(4)の主前記光学面(M)との間の、前記光軸(Z)に沿って測定される距離(HC)を選択するステップを含む、
ことを特徴とする請求項27から29のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼内レンズ(IOL)に関する。より具体的には、焦点深度拡張(EDOF)を有する眼内レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
眼の天然水晶体中のタンパク質の加齢に伴う変化は、白内障形成をもたらし得る。白内障手術においては、天然水晶体が概してIOLに置き換えられる。
【0003】
単焦点IOLの移植は、概して、通常は遠距離に調整された適切なIOL屈折力を選択することによって、良好な品質の視覚を提供する。
【0004】
それにもかかわらず、IOLを移植された眼は、残留調節力を失う。結果として、単焦点IOLを移植された患者は、通常、より細かい視覚能力を必要とする活動中に近距離および中距離のために眼鏡を着用する必要がある。これは、読書およびコンピュータ作業などの広範囲の活動を指し、患者の日常生活に大きな影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
近年、ますます多くの患者が、白内障手術後に近視用の眼鏡を着用することを避けたいと望んでいる。したがって、多焦点IOLが、上述の単焦点IOLの弱点を補償しようとするために、より広く使用されるようになってきている。
【0006】
しかしながら、多焦点IOLは、典型的には、2つまたは3つの限定された数の焦点を有するが、焦点距離外について与える視覚品質が不十分である。これは、例えば、それぞれ近距離および遠距離のための2つの焦点を有するように設計された遠近両用IOLの場合に中距離視を困難にし、したがって、患者が眼鏡を着用する必要性をもたらす可能性がある。回折性多焦点IOLの特定の事例におけるもう1つの欠点は、高い回折次数において、ある割合の入射光が失われること(約18%)に関連し、これは視覚にとって有用な距離範囲外の焦点を生成する。多焦点IOLはさらに、散乱光、ハローおよびグレアなどの他の不都合な副作用を呈する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記の副作用を最小限に抑えながら、遠距離および中距離においてより良質の視覚を呈する眼内レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のために、本発明は、眼内レンズであって、
(単一の)前方光学面と、
(単一の)後方光学面と、
を備え、上記光学面は両方とも、光軸の周りに、かつ光軸に対して実質的に半径方向外向きに延在し、
上記眼内レンズは、
前方光学面および後方光学面のうちの第1の面が、以下の式によって定義され、

式中、
●zst(r)は、第1の面の頂点から、光軸から(半径変数と見なされる)半径rにある第1の面の任意の点までの、光軸に沿って測定された変位ベクトルの成分であり、

は、(第1の面の)頂点において求められる第1の面の曲率半径であり、
●κst(Rst)は、(第1の面の)頂点において求められ、以下の関係によって第1の面の上記曲率半径Rstの関数で定義される第1の面の円錐定数であり、

式中、erfは、ガウス誤差関数を表し、a、b、c、A、B、C、Dは、
a∈[0.050;0.075]、b∈[-1;0]、c∈[-20;0]、A∈[-41;-39]、B∈[0.07;0.13]、C∈[-2.6;-2.0]、D∈[0.75;1.25]となるような、実数定数であり、
●(各i≧2に対して)
は、第1の面の次数2iの非球面係数であり、
前方光学面および後方光学面のうちの第2の面が、以下の式によって定義され、

式中、
●znd(r)は、第2の面の頂点から、光軸から(半径変数と見なされる)半径rにある第2の面の任意の点までの、光軸に沿って測定された変位ベクトルの成分であり、
●Rnd<0は、(第2の面の)頂点において求められる第2の面の曲率半径であり、
●κnd(Rnd)は、(第2の面の)頂点において求められ、以下の関係によって第2の面の上記曲率半径Rndの関数で定義される第2の面の円錐定数であり、

式中、f、g、hは、
f∈[0.08;0.12]、g∈[1.0;1.6]、h∈[0;9]となるような、実数定数であり、
●(各i≧2に対して)
は、第2の面の次数2iの非球面係数である、
ことを特徴とする眼内レンズを提供する。
前方光学面および後方光学面(または同等に、上記第1および第2の面)は、眼内レンズが焦点深度拡張を提供するようなものである。
【0009】
本発明による眼内レンズ(IOL)は、散乱光、ハローおよびグレアなどの副作用を最小限に抑えるとともに、遠距離において(例えば、標準的な単焦点IOLよりも)より良質な視力(視覚)を提供しながら、遠距離および中距離での(例えば、遠距離および近距離の2つの焦点を有する二焦点IOLよりも)より良質な視力を示す。
【0010】
実際、IOLは、同じ形の式によって記述される前面(いわゆる前方光学面)および後面(いわゆる後方光学面)を含むレンズ(または中心光学部)を含む。(以下に紹介される図4を考慮して、詳細な説明で概説されるように)そのような式が非球面を定義することは当業者にはよく知られている。したがって、前方光学面と後方光学面の両方が非球面であり、したがって、標準的な単焦点IOLと比較して、より負の球面収差を生成し、表面方程式のパラメータの寄与により、焦点深度の拡張を可能にする(すなわち、“視界”を増強するために単一の細長い焦点を提供する)完全非球面設計を有するレンズを提供する。これは、実験的測定からの結果を提示する、以下に紹介される図6A図6C図7図8図9A図9Cに照らして、詳細な説明においてさらにコメントされ、例示される。
【0011】
本発明によるIOLは、焦点深度(または視界)を増強するために(単焦点IOLのような)単一の焦点を伸長させるため、単焦点IOLと考えることができる。これは、複数の焦点間の正則屈折力マップを有する多焦点IOLとも、マルチゾーン屈折力IOLとも考えられない。これは、ほとんどの単焦点IOLが、白内障の患者が、距離が離れた(遠距離にある)物を見るのを助けるための視覚しか矯正せず、したがって、多くの重要な日常作業に必要とされる中距離視覚を改善しないため、注目に値する。これとは異なり、本発明の(細長い焦点を有する)単焦点IOLは、改善された良好な中距離視力、および、良好な遠距離視力を提供し、これは患者の日常生活における活動をより容易にすることを可能にするための大きな進歩である。
【0012】
本発明によるIOLは、有利には、ピーク(すなわち、最良の焦点)分解能への影響を最小限に抑え、中距離において鮮明な視覚を提供し、多焦点IOLに一般的な散乱光、ハローおよびグレアなどの副作用を最小限に抑えながら、焦点深度拡張(EDOF)を提供する。実際、屈折性多焦点IOLは、一般に、(異なる式によって記述される可能性がある表面形状を有する)様々なセクションに分割されるマルチゾーンレンズ(および前方光学面および後方光学面)を備え、これによって、これらのセクション間の形状および/または屈折力の急激な変化に起因するハローなどの回折問題が起こる可能性がある。これとは異なり、本発明のIOLは、単一の連続した正則な(または、換言すれば、少なくとも微分可能または滑らかである)前方光学面と、単一の連続した正則な後方面とを備え、各面は非球面であり、単一の滑らかな式によって記述され、そのようなハローを防止する。IOL光学面は、(一般に)単純なプロファイル比較または重ね合わせのいずれかによって、またはより深い分析が必要な場合には、IOL面(の断面曲線)上の点の測定値を取得し、そのような測定値をIOL光学面の式を決定するための式と比較することによって、そのような式を満たすことを確認できることが、当業者には明確に理解されよう。EDOFまたは詳細な説明に記載されている他のものなどのIOL光学性能の比較も適用することができる。
【0013】
本発明によるIOLは、優先的には屈折性であり、より優先的には純屈折性である。より具体的には、前面および後面によって光学的に提供される特性は、好ましくは屈折性である。それにもかかわらず、任意の回折特徴(構成要素、光学面の一部・・・など)を含むIOLは、本発明の範囲から除外されない。
【0014】
本発明の別の重要な態様は、特許請求されるEDOFが、
IOL屈折力、
開口(すなわち、光が通過する開口部、例えば、IOLが無水晶体眼内で通常使用されているときの眼の瞳孔径)、
角膜球面収差(例えば、角膜モデルの球面収差、またはIOLが無水晶体眼内で通常使用されているときの眼の角膜の球面収差)
に限定的にしか依存しない(または、換言すれば、相対的に無関係である)ことである。
これは、以下に紹介される図6A図6Bおよび図7に照らして、詳細な説明においてさらに述べられる。それにもかかわらず、EDOFの良好な制御、開口および角膜球面収差のIOL屈折力に対する依存性はまた、前方光学面および後方光学面について定義する非球面式から理解することができる。実際、光学面からの屈折力は、一般に、この面を構成する原材料に関係する屈折率、およびこの面の幾何学的形状に依存することは、当業者に知られている。面の幾何学的形状は、曲率半径によって(少なくとも小さい次数のrについて)および(任意選択的に)その頂点において求められるこの光学面の円錐定数によって決定される。本発明の文脈では、この屈折率と、大域的IOL屈折力に対する前方光学面および後方光学面の各々の寄与と、の両方が既知であると仮定することが合理的である。さらに、前方光学面および後方光学面の円錐定数の各々は、完全に新規な、特定の、非常に有利な滑らかな関係によって、この面の曲率半径の関数で定義される。結果として、各IOL屈折力について、少なくとも小さい次数において、前方光学面および後方光学面の各々は、その曲率半径によって特徴付けられる。これらのパラメータとIOL屈折力との間のすべての関係が正則であるため、IOL屈折力に対する前方光学面および後方光学面の幾何学的形状の変化は、所定の、正則なものであり、これにより、IOL屈折力、開口および角膜球面収差に対するEDOFの非常に有利な(少なくとも局所的に)制御された正則な変化が可能になる。
【0015】
IOL屈折力に対する前方光学面および後方光学面の式におけるパラメータのこれらの直接的または間接的に制御される正則な変動は、この技術的効果を達成するために非常に重要である。特に、本発明は、限定されたEDOF依存性のためのこの目標を考慮することによって式パラメータの大域的最適化を提案していることを強調しなければならない。それは、各IOL屈折力と独立して各パラメータのいかなる個別の最適化も使用せず、これはより単純なアプローチであるが、IOL屈折力に対する高いEDOF依存性ももたらす。
【0016】
さらに、有利には、本発明はまた、IOLに関係する変調伝達関数(MTF)(すなわち、大まかに言えば画像解像度関数である、レンズの性能を評価するために使用される光学ベンチ測定である。より具体的には、この関数は当業者に知られており、空間周波数の関数としてどれだけのコントラストがキャプチャーされるかを特定する)を考慮に入れる。一般に、最良焦点(すなわち、遠距離)でのMTFは、EDOFに反比例し、これは、IOL屈折力、光学ベンチを備えるモデル角膜の球面収差、および開口に対する、MTFとEDOFの両方の限定された依存性を得ることを非常に困難にする。しかし、本発明の場合、前方光学面および後方光学面を定義する式パラメータは、このような限定された依存性を得るように変化する。これは、以下に導入される図6Cおよび図8に照らして、詳細な説明において例示される。実数定数の区間は、以下に詳述する特定の好ましい値付近で選択される。これらの値が、(光学面の曲率半径が依存する)考慮される屈折力に対して、最適化されたEDOFまたは最適化されたMTFの提供の間の通常の良好な妥協点からなるという意味で、これらの値は、平均屈折率(例えば約1.52)の平均的な生体適合性原材料から作製された光学面についてEDOFとMTFの両方を最適化する。生体適合性原材料の選択および/またはIOL製造技術に起因し得るそのような値の変動を考慮に入れるために、そのような実際的な不確実性を含む上記の区間を考慮することは非常に重要である。
【0017】
本発明の別の利点は、EDOFと、IOL屈折力と、式パラメータとの間のこれらの関係により、現在の技術を使用することによる製造を考慮すると、異なる屈折力のIOLをより容易に設計できるようになることである、なぜなら、これは、上記式ならびに関係κst(Rst)およびκnd(Rnd)を使用して構成することができるからである。より一般的には、本発明によるIOLの前方光学面および後方光学面の円錐定数をこの面の曲率半径の関数で表すこれらの新規な関係は、IOL、特に円錐定数がこれらの関係の1つによってその曲率半径の関数で表される光学面を含む単焦点IOLの設計および/または製造における技術的観点を有利に開くことが指摘され得る。
【0018】
本明細書の枠組みにおいて、眼の“光軸”は、優先的には、角膜と、虹彩と、天然水晶体または特許請求される眼内レンズとを連続的に含む眼の前部から、特に網膜を含む眼の後部に向けられた、一方側から他方側へと眼を横切るベクトルからなる。眼内の移植位置にある本発明によるIOLについて、眼の光軸は、前面から後面に向けられ、優先的には、IOLに関して本質的に定義される光軸に対応する。特に、光軸という用語は、本明細書では、優先的には、眼および/またはIOLに対する基準軸として使用されている。
【0019】
本明細書の枠組みにおいて、眼の一部またはIOLの一部の、“前”側および/または“前”面は、優先的には、光軸によって定義されるベクトルに対して、当該眼の一部またはIOLの一部の上流に位置する側および/または面からなり、眼の一部またはIOLの一部の、“後”側および/または“後”面は、優先的には、光軸によって定義されるベクトルに対して、当該眼の一部またはIOLの一部の下流に位置する側および/または面からなる。一例として、眼において、虹彩は、天然水晶体または特許請求される眼内レンズに対して前方に位置する。したがって、虹彩の後面は、天然水晶体または特許請求される眼内レンズに最も近い虹彩の一部である。同様に、眼またはIOLの第1の部分が眼またはIOLの第2の部分よりも前方にある場合、この第1の部分はこの第2の部分に対して前方に位置することになり、眼またはIOLの第1の部分が眼またはIOLの第2の部分よりも後方にある場合、この第1の部分はこの第2の部分に対して後方に位置することになる。同様に、光学面は、光学面を、光軸によって規定されるベクトルと同じ方向かつ同じ向きに(すなわち、光線伝搬に従って)見ることによって凹状に見えるときに“前凹状”と表記され、凸状に見えるときに“前凸状”と表記され、光学面は、光学面を、光軸によって規定されるベクトルと同じ方向かつ反対の向きに見ることによって凹状に見えるときに“後凹状”と表記され、凸状に見えるときに“後凸状”と表記される。眼および/またはIOLの部分に対する光軸の前、後、またはさらには光軸の前述の概念は、当業者に知られている。
【0020】
本発明の枠組みにおいて、第1の面および第2の面は常に異なる。好ましくは、本明細書全体の枠組みにおいて、第1の面は前方光学面であり、第2の面は後方光学面である。それにもかかわらず、上記で詳述した主な有利な光学特性を維持しながら、本発明の枠組みにおいてIOL面を反転させることが可能である。読解を容易にするために、本明細書の枠組みにおいて、式パラメータの添え字stおよびndは、特に前方または後方光学面パラメータを参照する場合、添え字antおよびpostに置き換えられる。例えば、RantおよびRpostは、それぞれ前方光学面および後方光学面の曲率半径(それぞれの頂点において求められる)に対応する。添え字stおよびndはまた、第1の面および第2の面がそれぞれ前方光学面および後方光学面であると見なされる場合、本明細書の枠組みにおいて添え字antおよびpostによってそれぞれ置き換えられる。
【0021】
本発明の枠組みにおいて、当業者に通常知られているように、光学面(例えば、前方光学面または後方光学面)の“頂点”は、好ましくは、この光学面と光軸との交点として定義される。
【0022】
本発明の枠組みにおいて、この面の頂点で求められる非球面(例えば、前方光学面または後方光学面)の“曲率半径”は、上記頂点と、この頂点における面の曲率中心との間の距離である。この曲率半径の通常の符号は、優先的には、上記頂点から上記曲率中心への変位(ベクトル)の、光軸に沿って測定された成分の符号であると定義される。したがって、前方光学面は、その頂点において求められたその曲率半径が負である場合にのみ、その頂点において前凹状であり、その頂点において求められたその曲率半径が正である場合にのみ、その頂点において前凸状であり、後方光学面は、その頂点において求められたその曲率半径が正である場合にのみ、その頂点において後凹状であり、その頂点において求められたその曲率半径が負である場合にのみ、その頂点において後凸状である。特に、本発明によるIOLについて、Rnd<0である場合、IOLの第2の面は、その頂点およびその周囲において後凸状であり、前凹状である。
【0023】
当業者の専門用語によれば、本発明によるIOLは、Rant>0かつRpost<0である場合、すなわち、前方光学面が前凸状である場合かつ後方光学面が後凸状である場合に限り、“両凸状”と言われる。当業者の専門用語によれば、本発明によるIOLは、Rant<0かつRpost<0である場合、すなわち、前方光学面が前凹状である場合かつ後方光学面が後凸状である場合に限り、“凹凸状”と言われる。当業者のこれらの用語は、前方光学面が前方で見られ、後方光学面が後方で見られているときの、IOLの外観について報告している。
【0024】
本発明の枠組みにおいて、光軸と共通の点からこの共通の点を中心とする円の点に向けられた、光軸に垂直なベクトルに従って、IOLの一部が優先的に延在するときに、IOLの一部は、“半径方向外向きに”延在すると表記される。同様に、少なくとも、光軸に垂直な平面上の円であって、平面と光軸との交点を中心とする円の円弧に沿って、IOLの一部が優先的に延在するときに、IOLの一部は、“円周方向に”延在すると表記される。
【0025】
“遠位”という形容詞は、何らかの基準器官または体幹から最も遠い身体部分の一部を指し、“近位”という形容詞は、何らかの基準器官または体幹に最も近い身体部分の別の部分を指すことが当業者に知られている。本明細書の枠組みにおいて、これらの2つの定義は、基準光軸に対する距離に関して、眼の部分および/または本発明によるIOLの部分に優先的に適用される。
【0026】
本発明の枠組みにおいて、“中間距離”という用語は、好ましくは、コンピュータ作業中または自動車の速度計を見ているときなどの、(ほぼおよび/または概ねおよび/またはちょうど)腕の長さの距離を指す。より好ましくは、この用語は、0.2~1.6メートル、より好ましくは0.4~1.0メートルの距離を指す。
【0027】
本発明の枠組みにおいて、いくつかの通常の数学的表現が、以下を意味するものとして想起される。
●“<0”は“負”、すなわち厳密に0より小さいことを意味する。
●“>0”は“正”、すなわち厳密に0より大きいことを意味する。
●“≦0”は“正でない”、すなわち0以下を意味する。
●“≧0”は“負でない”、すなわち0以上を意味する。
●“∈”は“属する”を意味する;

は実数の集合を指す。

は、非ゼロの実数の集合を指す。
●γ<δであるような
について、“[γ,δ]”は、それらの値を含む、γとδとの間の数の閉区間を指す。
さらに、アインシュタインの縮約記法によって、以下も周知されている。

添え字“i”は、ここでは2以上の整数である。
【0028】
本明細書の枠組みにおいて、erfによって表される“ガウス誤差関数”は、以下によって(特に)実数で定義されるシグモイド形状の周知の可逆整特殊関数を指す。
【0029】
本発明の枠組みにおいて、関数または面についての“正則”という用語は、優先的には、少なくとも微分可能な(または滑らかな)関数または面を指す。本発明の枠組みにおいて、“~の関数”、“~に依存する”などの用語は、そのような制限が明示的に記載されていない限り、指定されたパラメータへの限定された依存として限定的に解釈されるべきではない。
【0030】
本明細書の枠組みにおいて、要素を導入するための不定冠詞“a”、“an”または定冠詞“the”の使用は、これらの要素が複数存在することを排除するものではない。本明細書では、“第1の”、“第2の”、“第3の”などの用語は、要素を区別するためにのみ使用され、これらの要素の順序を暗示するものではない。
【0031】
本明細書の枠組みにおいて、動詞“備える”、“含む”、“伴う”または任意の他の変形、およびそれらの活用の使用は、言及されたもの以外の要素の存在を決して排除し得ない。
【0032】
本発明の好ましい実施形態によれば、IOLは、10D~35Dの間に含まれる屈折力を有する。任意選択的に、それは13.5および/または14Dとは異なる。
【0033】
本明細書の枠組みにおいて、IOLの“屈折力”は、好ましくは、直径3mmの光軸を中心とする(読み取り)窓内で矯正なしに測定された平均屈折力である。
【0034】
本発明の好ましい実施形態によれば、関係κst(Rst)およびκnd(Rnd)の定義に含まれる実数定数は、以下の制限された値の区間内にある:
a∈[0.060;0.075]および/またはb∈[-0.5;-0.2]および/またはc∈[-12;-10]および/またはA∈[-40.1;-39.9]および/またはB∈[0.080;0.095]および/またはC∈[-2.35;-2.05]および/またはD∈[0.9;1.1]および/またはf∈[0.085;0.105]および/またはg∈[1.05;1.40]および/またはh∈[3;6]。
これらの区間は、独立してまたは組み合わせて考慮され得る。例えば、これらの実数定数の第1の部分は、段落0008のより広い区間内で考えることができ、これらの実数定数の第2の部分は、これらの制限された区間内で考えることができる。任意選択的に、これらの制限された区間は組み合わせて考慮され、すべての用語“および/または”は好ましくは“および”である。代替的に、これらの実数定数は、以下のように、段落0008の区間よりも小さい値の区間にある:
a∈[0.055;0.070]および/またはb∈[-0.7;-0.2]および/またはc∈[-15;-5]および/またはA∈[-40.5;-39.5]および/またはB∈[0.08;0.10]および/またはC∈[-2.4;-2.2]および/またはD∈[0.85;1.15]および/またはf∈[0.09;0.11]および/またはg∈[1.20;1.45]および/またはh∈[3;7]。
これらの区間は、独立してまたは組み合わせて考慮され得る。例えば、これらの実数定数の第1の部分は、段落0008のより広い区間内で考えることができ、これらの実数定数の第2の部分は、上記の制限された区間内で考えることができ、これらの実数定数の第3の部分は、これらの他のより小さい区間内で考えることができる。任意選択的に、これらの他のより小さい区間は組み合わせて考慮され、すべての用語“および/または”は好ましくは“および”である。これらの実数定数は、以下のようにさらに小さい値の区間にある:
a∈[0.060;0.065]および/またはb∈[-0.5;-0.3]および/またはc∈[-12;-10]および/またはA∈[-40.1;-39.9]および/またはB∈[0.090;0.095]および/またはC∈[-2.35;-2.25]および/またはD∈[0.9;1.1]および/またはf∈[0.095;0.105]および/またはg∈[1.25;1.40]および/またはh∈[4;6]。
これらの区間は、独立してまたは組み合わせて考慮され得る。例えば、これらの実数定数の第1の部分は、段落0008のより広い区間内で考えることができ、これらの実数定数の第2の部分は、上記の制限された区間内で考えることができ、これらの実数定数の第3の部分は、これらの他のより小さい区間内で考えることができ、これらの実数定数の第4の部分は、これらのさらに小さい区間内で考えることができる。非常に任意選択的に、これらの区間は組み合わせて考慮され、すべての用語“および/または”は好ましくは“および”である。上に詳述したように、区間の選択は、例えば、所定のIOL屈折力のIOLのEDOFとMTFの両方を最適化するために曲率半径または円錐定数の選択にわずかな変動を誘発し得る、眼内レンズの生体適合性原材料および/または製造技術の選択に関する不確実性に対応する。
【0035】
これらの実数定数の各々の正確な値は、任意選択的に以下のように与えることができる。
a=0.0621および/またはb=-0.396および/またはc=-11.035および/またはA=-40および/またはB=0.092および/またはC=-2.29および/またはD=1および/またはf=0.0989および/またはg=1.277および/またはh=4.663。
これらの値の各々は、単独で、または1つ以上の他の値と組み合わせて考慮することができ、すべての用語“および/または”は、好ましくは“および”である。実数定数の値の上述の区間は、これらの特定の値付近である。これらの値は、前方光学面および後方光学面を定義する非球面式の曲率半径および円錐定数に対して選択された特定の実数値の補間曲線および/または近似曲線によって得ることができることを指摘しなければならない。特に、正確な値のそのような選択は、本発明によるIOLを提供するが、これらの正確な値付近の変動は、本発明の範囲内に完全にとどまる。これは、以下に紹介される図5A図5Cに照らして、詳細な説明においてさらに述べられる。これが、正確な値のこの選択によって定義される2つの関係κst(Rst)およびκnd(Rnd)のグラフの周りの不確実性のマージンとして“エンベロープ(包絡線)”を考慮することが理にかなっている理由である。本発明によれば、これらのエンベロープは上述の区間の形で考えられるが、他の種類のエンベロープを定義することができる。特に、本発明の独立した好ましい実施形態によれば、以下のようになる。

(関係を(★)として示した)式中、各j∈{1,2,3}について、pは数であり、p≧10であり、任意選択的にp=10であり、さらに任意選択的にp=20であり、さらに任意選択的にp=50である。これらの関係は、第1の面および第2の面の実数の円錐定数がそれぞれ、上述のすべての正確な値を考慮して、関係κst(Rst)およびκnd(Rnd)によって定義される円錐定数に“十分に近い”ことを表すことが当業者には理解されよう。“十分に近い”とは、関連する相対偏差が絶対値で1/pによって境界付けされることを理解されたい。偏差1/pはまた、正確な値の選択によって定義される2つの関係κst(Rst)およびκnd(Rnd)による上記補間および/または近似の評価を実現することができ、したがって、後者に従って変化し得る。非限定的な実例として、上記の正確な値について、p=10、p=15、p=20が考えられる。これらの偏差は、付加的に、上述の区間と組み合わされた別の種類のそのようなエンベロープを定義する。あるいは、これらのエンベロープは、段落0008の区間の代わりに、単独で考えることができ、ここで、本発明の同じ枠組みにおいて代替的な発明を定義するように、実数定数が含まれる。この場合、関係(★)は、以下によって一般化することができる:

式中、a、b、c、A、B、C、D、f、g、hは、本明細書、特に段落0034~0036および段落0070~0073に明示的に開示されている任意の値であってもよく、各j∈{1,2,3}について、pは10以上の数であり、任意選択的に、p=10であり、より任意選択的に、p=20であり、より任意選択的に、p=50である。
【0036】
他の正確な値は、前方および後方光学面の曲率半径および円錐定数の特定の選択に関してより忠実であると考えられ得る。一例として、屈折力が27.5D以下であるIOLについて、実数定数f、g、およびhは、より好ましくは、f=0.1032および/またはg=1.372および/またはh=5.1353によって正確に与えられる。これらの値はより好ましくは組み合わせて考慮され、用語“および/または”は好ましくは“および”である。これは、図5Cに照らして以下で具体的に説明される。別の例として、上述の値B=0.092および/またはC=-2.29は、代替的に、IOL屈折力の少なくとも主な選択に対して滑らかに、所望の最適化されたEDOFおよびMTFを達成するために、前方および後方光学面を定義する非球面式の曲率半径および円錐定数に対して選択された特定の値の別の近似曲線を提供する、B=0.081および/またはC=-2.095によって(または、任意選択で、値B=0.085および/またはC=-2.168によっても)置き換えることができる。特に、本発明の独立した対応する実施形態によれば、関係は以下のようになる。
IOL屈折力が厳密に27.5Dより大きい場合、

および/または、

および/または、

IOL屈折力が27.5D以下である場合、

ここで、各j∈{1,2,3,4}について、p´≧10、好ましくはp´>p´が満たされる。これらの最後の関係のすべてまたは一部は、関連する関係(★)のすべてまたは一部の組み合わせにおいて、および/またはそれに代えて考えることができる。
【0037】
本発明の第1の好ましい実施形態によれば、IOLは、厳密に14Dより小さい屈折力を有し、Rst<0である。特に、第1の面は、その頂点において前凹状であり、後凸状である。本発明の第2の好ましい実施形態によれば、IOLは、14D以上の屈折力を有し、Rst>0である。特に、第1の面は、その頂点において前凸状であり、後凹状である。換言すれば、これらの2つの好ましい実施形態を組み合わせると、好ましくは、IOL屈折力は、厳密に、Rst<0である場合かつその場合に限り、14Dよりも小さい。
【0038】
好ましくは、これらの好ましい実施形態のいずれかによれば、第1の面の曲率半径Rstは、屈折力に連続的かつ正則に依存する(屈折力の定義の上述の考慮される区間に依存する)。好ましくは、これらの好ましい実施形態とは独立して、第2の面の曲率半径Rndは、眼内レンズの屈折力に連続的かつ正則に依存する。各光学面の曲率半径の変化の連続性および正則性は、本発明の所望の技術的効果を実施するための自然な好ましい選択肢である。これはまた、関連する曲率半径の関数で正則に表されるため、各光学面の円錐定数の変動の正則性を意味する。
【0039】
本発明の枠組みにおいて、前方光学面の式および後方光学面の式のうちの少なくとも一方(優先的には両方の光学面の式)の非球面係数のうちの少なくとも1つは、非ゼロである。IOLレンズには、これらの非ゼロの非球面係数の寄与により焦点深度の拡張を可能にする非球面設計が与えられている。本発明の好ましい実施形態によれば、前方光学面および/または後方光学面の10以下の次数の非球面係数は非ゼロである。これらすべての非ゼロ非球面係数の寄与は、非常に高いEDOF性能を得ることを可能にする。これは、特に、光学中央径における曲率の転換点(すなわち、変曲点)のリングを含む前方および/または後方光学面のための完全な非球面形状をもたらした。好ましくは、非球面係数は、それらの次数に関して絶対値が減少しており、および/または0.1だけ絶対値が制限されている。
より好ましくは、それらは以下の関係に従う。

および/または、好ましくは、

これらの非球面係数は、それらの頂点の周りの一般的な形の非球面の側面のずれ(変動)に対応する。好ましくは、前方光学面および/または後方光学面の厳密に10より大きい次数の非球面係数は、無視でき、および/または、0で近似され、および/または、0に等しい。言い換えれば、それらは実質的に0に等しく、好ましくは0に等しい。
【0040】
好ましくは、前方光学面および/または後方光学面の非球面係数は、眼内レンズの屈折力に連続的かつ正則に依存する。特に、好ましくは、前方光学面および/または後方光学面を定義するすべてのパラメータ(曲率半径、円錐定数および非球面係数)は、IOL屈折力に正則に依存する。
【0041】
本発明の特定の実施形態として、ここで、所定の屈折力の選択のIOLの前方光学(非球)面および後方光学(非球)面の両方についての正確な式が提供される。
●本発明の第1の特定の実施形態によれば、IOL屈折力は15Dであり、

●本発明の第2の特定の実施形態によれば、IOL屈折力は20Dであり、

●本発明の第3の具体的な実施形態によれば、IOL屈折力は25Dであり、
である。
上記の各屈折力について、これらの明示的なデータは好ましくは組み合わせて考慮される。本明細書の枠組みにおいて、前方および後方光学面の幾何学的パラメータとして言及される任意の明示的なデータは、乾燥状態のIOLについて与えられる。これらの値は、IOLを構成する生体適合性原材料ならびに/または製造技術および条件などの要因が影響を及ぼし得ることを考慮して、絶対値で最大10%、より好ましくは5%の不確実性に関して理解され得る。一例として、これらの第1、第2、および第3の特定の実施形態の曲率半径は、他の式パラメータ値を変更することなく、それぞれ以下のような他の好ましい値に置き換えることができる:
【0042】
ここで、前方光学面および後方光学面の外観形状について説明する。好ましくは、IOL屈折力が14D以上である本発明の実施形態によれば、
光軸に垂直な平面を基準のゼロ高さ平面とし、光軸を高さ評価のための基準軸とする、前方光学面上の半径座標上で評価される高さマップは、
●前方光学面の頂点で極小値を示し、
●前方光学面の頂点からこの面の縁部まで増加しており、
光軸に垂直な平面を基準のゼロ高さ平面とし、光軸を高さ評価のための基準軸とする、後方光学面上の半径座標上で評価される高さマップは、
●後方光学面の頂点で極大値を示し、
●後方光学面の縁部から正の距離にある周辺極小値を示し、
●上記極大値と上記周辺極小値との間に位置する変曲点を示し、
●後方光学面の頂点から周辺極小値まで減少しており、
●周辺極小値からこの後方光学面の縁部まで増加している。
【0043】
好ましくは、IOL屈折力が厳密に12Dより大きく、厳密に14D未満である本発明の実施形態によれば、
光軸に垂直な平面を基準のゼロ高さ平面とし、光軸を高さ評価のための基準軸とする、前方光学面上の半径座標上で評価される高さマップは、
●前方光学面の頂点で極大値を示し、
●前方光学面の縁部から正の距離にある周辺極小値を示し、
●上記極大値と上記周辺極小値との間に位置する変曲点を示し、
●前方光学面の頂点から上記周辺極小値まで減少しており、
●上記周辺極小値からこの前方光学面の縁部まで増加しており、
光軸に垂直な平面を基準のゼロ高さ平面とし、光軸を高さ評価のための基準軸とする、後方光学面上の半径座標上で評価される高さマップは、
●後方光学面の頂点で極大値を示し、
●後方光学面の縁部から正の距離にある周辺極小値を示し、
●上記極大値と上記周辺極小値との間に位置する変曲点を示し、
●後方光学面の頂点から周辺極小値まで減少しており、
●周辺極小値からこの後方光学面の縁部まで増加している。
特に、この場合、前方光学面および後方光学面の両方の高さマップは、同様のプロファイルを有する。
【0044】
好ましくは、IOL屈折力が12D以下である本発明の実施形態によれば、
光軸に垂直な平面を基準のゼロ高さ平面とし、光軸を高さ評価のための基準軸とする、前方光学面上の半径座標上で評価される高さマップは、
●前方光学面の頂点で極大値を示し、
●前方光学面の頂点からこの面の縁部まで減少しており、
光軸に垂直な平面を基準のゼロ高さ平面とし、光軸を高さ評価のための基準軸とする、後方光学面上の半径座標上で評価される高さマップは、
●後方光学面の頂点で極大値を示し、
●後方光学面の頂点からこの面の縁部まで減少している。
特に、この場合、前方光学面および後方光学面の両方の高さマップは、同様のプロファイルを有する。
【0045】
前の3段落で説明した前方光学面および後方光学面のこれらの幾何学的特性は、特に、前方光学面および後方光学面の10以下の次数の非球面係数がゼロではない本発明の好ましい実施形態について、これらの面の(非球面)式によって支配されるこれらの面の非球面性に起因する。これらの幾何学的特性は、(高いMFTによって記述される)高い光学的品質をIOLに提供し、屈折力、開口および角膜球面収差にわずかにだけ依存するEDOFをもたらす。
【0046】
本発明の好ましい実施形態によれば、前方光学面および後方光学面は、1.40~1.65の屈折率の疎水性の生体適合性原材料から切り出される。好ましくは、この生体適合性原材料は、グリスニング(水泡状の輝点)である。液体で満たされた微小液胞(microvacuoles)とも呼ばれるグリスニングが、特定のIOL材料内に形成され、様々な形状、サイズ、および密度でIOL移植後に生じ得る。市場に出回っているいくつかのIOLは、移植後にグリスニングが発生し、これが視覚の質に影響を及ぼし得る。好ましくは、生体適合性原材料は、UV遮断剤(厳密に400nmより小さい範囲)および/または紫-青色範囲(400~500nm)内の光毒性の可能性のある光の透過率を低下させるために、黄色発色団を含有する。好ましくは、屈折率は1.52に等しい。
【0047】
本発明の好ましい実施形態によれば、前方光学面および後方光学面は、光軸に沿って測定され、0.30mm~0.70mmを含む所定の中心厚さの内部本体によって分離される。有利には、この中心厚さは、内部本体ならびに前方光学面および後方光学面からなるレンズの周辺部に可撓性ハプティック(触覚部)を取り付けることを可能にする。
【0048】
本発明の好ましい実施形態によれば、前方光学面と後方光学面の両方は、光軸に対して垂直に測定された、4.70~5.00mm、好ましくは4.80~4.95mm、より好ましくは4.85~4.91mmを含む直径を有する。この直径は、好ましくは、いわゆる透明レンズを指す。これは、IOLレンズ(または中心光学部)の製造中に約5mmの値を目標とする。それにもかかわらず、以下に記載されるように、IOLのハプティックとそのレンズとの間の接続部は、IOL製造後、より一般的には約4.85mmである透明レンズの潜在的減少を生じるように最適化されなければならない。特に、前方光学面および後方光学面の幾何学的形状は、“これらの光学面の縁部”と表記される、ハプティックとの接続部によって画定されるIOLレンズの縁部において止まる。
【0049】
本発明の一実施形態によれば、角膜モデル(IOLの前方外側)を用いた前方光学面および後方光学面の組み合わされた光屈折は、(例えば遠距離など、より遠い距離の視覚の)より低い屈折力の広がった中央領域によって囲まれた光軸に沿った、(例えば中間距離など、より近い距離の視覚に関係し得る)中心大域的極大値(屈折力)を含む屈折力の連続的で正則なマップを提供する。“より低い”という用語は、中央大域的極大値(ピーク力)に関して解釈されなければならない。“角膜モデル”は、例えば、“平均角膜モデル”、すなわち、5.15mmの開口で、IOL平面で、および平均的なヒトの眼の、0.28μm(±0.2μm)の角膜球面収差を提供する角膜モデルである。この平均角膜モデルは完全に標準的であり、当業者には非常によく知られている。これは、ISO2によって示される。好ましくは、中央領域は、前方光学面および後方光学面の直径の約半分に広がっているという意味で“広がっている”。好ましくは、この中央領域は、屈折力の変曲点または極小値のいずれかであるマップの点の第1のリングによって囲まれる。任意選択的に、マップは、屈折力の極大値である点の第2のリングをさらに含み、上記第2のリングは上記第1のリングを取り囲む。この正則なマップは、以下に導入される図10A図10Bに示されている。これは、当然、IOLによって提供されるEDOFをもたらす。屈折力のマップが正則であることを指摘することが有利である。特に、IOLは、散乱光、ハローまたはグレアなどの副作用を引き起こしやすいレンズに沿った屈折力の急激な変化なしに、様々な距離に対して同時に高い光学品質を患者に提供する。
【0050】
本発明の非常に好ましい実施形態によれば、本発明による眼内レンズは、
●前面が前方光学面であり、
●後面が後方光学面である、
中心光学部(またはレンズ)と、
中心光学部に接続されており、無水晶体眼の水晶体嚢内に眼内レンズを安定化させるように構成された複数の可撓性ハプティックと、
を備える。
“中心”という用語は、光軸の周りにあり、および/または光軸を中心とするレンズの延在を言う。“中心”という用語は、好ましくはIOLレンズの一部を言うのではなく、好ましくはIOLレンズの光学部分全体からなる。好ましくは、第1の面は前方光学面である。
【0051】
好ましくは、IOLは、4つの閉じた可撓性ハプティックを備え、4つの閉じた可撓性ハプティック各々が、中心光学部をベースにしたループを形成する。好ましくは、光軸に沿って測定されたハプティック厚さは、0.20~0.50mmに含まれ、より好ましくは0.34mmに等しい。好ましくは、ハプティックは、中心光学部と同じ疎水性の生体適合性原材料から作製される。好ましくは、ハプティックはフライス盤によって切り出される。好ましくは、複数の可撓性ハプティックは、4つの閉じた可撓性ハプティックからなり、4つの閉じた可撓性ハプティック各々が中心光学部に基づくループを形成する。これらの4つの閉じた可撓性ハプティックは、好ましくは、長方形の対角線に沿って中心光学部の周りに対称に配置され、4つの接触点を提供し、IOLが無水晶体眼内で通常使用されているときに、ハプティックと周囲の眼組織との間の接触角を最大にすることを可能にする。結果として、水晶体嚢の大きさの変動の制御された補償が、有利には、ハプティックの半径方向の変形によって可能である。
【0052】
好ましくは、可撓性ハプティック(前方)頂点と中心光学部の主(または中央)光学面との間の、光軸に沿って測定される距離は、眼内レンズの屈折力に連続的かつ正則に依存する。この距離を考慮に入れ、それをIOL屈折力の関数として計算することが有利かつ重要である。実際、上述したように、前方光学面および後方光学面の非球面形状は、IOL屈折力に応じて正則に変化する。これは、主光学面が一定ではなく、IOL屈折力の関数で位置が変化することを意味する。その場合、ハプティックと中心光学部との間の接続を、光軸に平行な位置に(オフセットを生成する)、かつ、主光学面と、中心光学部との接続におけるハプティックの近位部分との間の角度に、適合させることも非常に重要である。これは、眼鏡の脚部を身体に正確に適合させることと同じくらい重要である。有利には、本発明は、上述の距離を通してこれを考慮することを提案する。さらに、ハプティックの形状および距離は、好ましくは、IOLが無水晶体眼の水晶体嚢に移植されたときに、光軸に平行なIOL安定性を保証するためにも選択される。好ましくは、その距離は、0.45mmによって境界付けされ(0.45mmが限度となり)、屈折力が増大すると連続的に増加している。IOL屈折力の関数でのこの距離は、以下に紹介される図12A図12Bに照らして、詳細な説明においてさらに説明される。
【0053】
換言すれば、本発明の上記非常に好ましい実施形態の好ましい実施形態によれば、可撓性ハプティック(前方)頂点と中心光学部の主(または中央)光学面との間の、光軸に沿って測定される距離は、眼内レンズが無水晶体眼の水晶体嚢に移植されたときに、上記主光学面が光軸に平行に(長手方向に)安定するように、増大する屈折力に対して連続的に増加し、0.45mmで境界付けされる、連続正則関数による眼内レンズの屈折力の像に対応する。この距離および関連する利点は、完全に本発明の一部である。特に、本発明はまた、眼内レンズ(IOL)であって、
●非球面前方光学面と、
●非球面後方光学面と、
を備える中心光学部(またはレンズ)と、
中心光学部に接続された複数の可撓性ハプティックと、
を備え、
可撓性ハプティック頂点と中心光学部の主光学面との間の、光軸に沿って測定される距離は、IOLの屈折力に連続的かつ正則に依存する、眼内レンズ(IOL)も提供する。前述した段落0008のIOLの実施形態および/または利点のいずれかは、本発明によるこの他のIOLに拡張することができる。
【0054】
本発明の好ましい実施形態によれば、IOLは、光軸を中心とする180°の回転下で形状不変である。したがって、それにより、IOLの形状、特にハプティックの形態が、手術時の回転による位置調整に自然に追従するため、IOLを眼に挿入して操作することがより容易なる。
【0055】
本発明はまた、本発明による眼内レンズの製造方法であって、
(a)非球面光学面プロファイルパターンを有するレンズをモデル化するステップと、
(b)モデル化されたレンズを伝搬する光の屈折効率分布を計算するステップと、
(c)計算された屈折効率分布に従って非球面光学面プロファイルパラメータを、所望の屈折効率を達成するように選択するステップと、
(d)生体適合性原材料から、選択されたパラメータを用いて上記モデル化レンズを形成するステップと、
を含む製造方法も提供する。
【0056】
本発明による製造方法は、遠距離および中距離における改善された品質の視覚のための最適化されたパラメータを容易にIOLに提供する。好ましくは、ステップ(c)において選択される非球面光学面プロファイルパラメータは、眼内レンズの屈折力に連続的かつ正則に依存する。各面について、これらのパラメータは、好ましくは、面の頂点で求められる曲率半径および円錐定数、ならびに非球面係数を含む(より好ましくはこれらから成る)。本発明によるIOLの実施形態および利点は、必要な変更を加えて、本発明による方法に置き換えられる。特に、優先的には、ステップ(c)は、所望の屈折効率に関連する各所望のIOL屈折力の最適化された非球面プロファイルパラメータを含むパラメータのテーブルを考慮して実行され、これらのパラメータは、所定の関係κst(Rst)およびκnd(Rnd)を考慮して非常に容易に決定される。好ましくは、また具体的には、これらの非球面光学面のうちの(上記)第1の面の、その頂点において求められる円錐定数κstが、以下の関係によって、第1の面の頂点で求められる第1の面の曲率半径Rstの関数で、ステップ(c)において選択される。

式中、erfはガウス誤差関数を表し、a、b、c、A、B、C、Dは実数定数であり、これらの非球面光学面のうち(上記)第2の面の、その頂点において求められる円錐定数κndが、以下の関係によって、第2の面の頂点において求められる第2の面の曲率半径Rndの関数で、ステップ(c)において選択される。

式中、f、g、hは実数定数である。これらの関係および/または実数定数a、b、c、A、B、C、D、f、g、hに関する本発明によるIOLのすべての実施形態および利点は、必要な変更を加えて、本発明による製造方法のこの好ましい実施形態に適用される。段落0053に記載されているようなIOLのこの製造方法の別の独立した好ましい実施形態によれば、この方法は、眼内レンズが無水晶体眼の水晶体嚢に移植されたときに光軸に平行な主光学面の所望の長手方向安定性を達成するように、増大する屈折力に対して連続的に増加し、0.45mmで境界付けされる、連続正則関数による眼内レンズの屈折力の像としての眼内レンズの屈折力の関数で、可撓性ハプティックの頂点と中心光学部の主光学面との間の、光軸に沿って測定される距離を選択するステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0057】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明を読むと明らかになり、その理解のために添付の図面が参照される。
図1】本発明の好ましい実施形態によるIOLの前面の簡略化された平面図である。
図2】単焦点レンズによる焦点合わせと本発明によるIOLによる焦点合わせとの単純化された比較を示す図である。
図3A-D】本発明の好ましい実施形態によるIOLの前方光学面および後方光学面の断面図である。
図4】非球面の概略図である。
図5A】曲率半径が正である場合の曲率半径の関数で定義される、本発明の好ましい実施形態による第1の面の円錐定数のグラフを示す図である。
図5B】曲率半径が負である場合の曲率半径の関数で定義される、本発明の好ましい実施形態による第1の面の円錐定数のグラフを示す図である。
図5C】曲率半径の関数で定義される、本発明の好ましい実施形態による第2の面の円錐定数のグラフを示す図である。
図6A-C】本発明の好ましい実施形態によるIOLの、EDOF、球面収差、およびMTFの(光学ベンチ上での)実験と補間の両方のグラフを、それらの公称屈折力の関数で示す図である。
図7】3つの異なるモデル角膜球面収差についての、開口と併せた、本発明の好ましい実施形態による中屈折力のIOLのEDOFのグラフを示す図である。
図8】3つの異なるモデル角膜球面収差について、本発明の好ましい実施形態による中屈折力のIOLのMTFグラフを開口の関数で示す図である。
図9A-C】それぞれ、角膜モデル、本発明の好ましい実施形態によるIOL、およびこれら2つの組み合わせについて、(4次)球面収差のグラフを開口の関数で示す図である。
図10A-B】本発明の実施形態による、角膜モデルを用いた前方光学面および後方光学面の光屈折の組み合わせによって得られた屈折力のマップを示す図である。
図11A-C】本発明の好ましい実施形態によるIOLの簡略化された断面図である。
図12A】本発明の一実施形態によるIOLのハプティックと中心光学部との間の接続を示す図である。
図12B】本発明の好ましい実施形態による、IOL中心光学部の可撓性ハプティック頂点と主光学面との間の、光軸に沿って測定された距離のグラフをIOL屈折力の関数で示す図である。
図13】本発明の好ましい実施形態によるIOLと標準的な単焦点IOLの両方のスルーフォーカスMTFの光学ベンチにおける測定値のグラフを示す図である。
【0058】
図面の図は原寸に比例しない。一般に、同様の要素は、図面中で同様の符号を割り当てられている。本明細書の枠組みにおいて、同一または類似の要素は、同じ符号を有し得る。さらに、図内の符号の存在は、これらの符号が特許請求の範囲内に示されている場合を含め、限定であると考えることはできない。
【0059】
それにもかかわらず、グラフを示す図5A図5C図6A図6C図7図8および図9A図9Cは、これらの図がこれらのグラフから導出可能な各値または値の区間を開示するように、測定および/または補間(または近似)曲線のデータを忠実に再現したと見なされる。
【発明を実施するための形態】
【0060】
この部分は、本発明の特定の好ましい実施形態の詳細な説明を提示する。これらは図を参照して説明されているが、本発明はこれらの参照によって限定されない。特に、下記に説明する図面または図は概略的なものに過ぎず、決して限定するものではない。本発明の詳細な説明は、第1の面および第2の面がそれぞれ前方光学面および後方光学面である本発明の好ましい実施形態のみを参照する。したがって、読解を容易にするために、添え字stおよびndがそれぞれ添え字antおよびpostに置き換えられている。さらに、符号2(または3)は、詳細な説明および図面において、前方(または後方)光学面(これは、第1の(または第2の)面に対応する)を指定するために使用されている。
【0061】
以下の図に示されるように、本発明は、焦点深度拡張(EDOF)を有する屈折性眼内レンズ(IOL)1であって、光軸Zに対して半径方向外向きに延在し、この光軸Zの周りに回転対称に延在する単一の非球面前方光学面2および単一の非球面後方光学面3を備える、屈折性眼内レンズ(IOL)1を提供する。この光軸Zは、前方光学面2から後方光学面3に、言い換えれば、IOL1の全体的な前面からIOL1の全体的な後面に向けられる。符号21および31は、それぞれ光学面2および3の頂点を示す。
【0062】
光学面2および3の各々は、本発明の開示に記載されているように、以下の形式の単一の式によって定義される。

より一般的にVによって示される頂点を含む、より一般的にSによって示される任意の非球面(例えば、前方光学面2または後方光学面3)について、図4は、この形の式からそのような非球面がどのように定義されるかを示している。この図は、頂点Vにおいて、光軸Zを含む面Sの断面(したがって、曲線を画定する)の接触円を示している。特に、この円は、頂点Vの周りの面Sの断面を近似する。この円の曲率中心Cは、光軸Z上にある。この円は、頂点Vにおいて求められる面Sの断面のいわゆる曲率半径Rに対応する半径を有する。図4に示す実施形態では、この曲率半径Rの一般的な符号は、頂点Vから曲率中心Cへの変位(ベクトル)の、光軸Zに沿って測定される成分が正である場合に、正である。実際、この変位(ベクトル)は、光軸Zと同じ方向および向きに向けられている。頂点Vにおいて求められる面Sの断面の円錐定数κが、接触円からの、面Sの断面の大域的なずれ(例えば、双曲面、放物面または楕円面のプロファイル)を定義することは、当業者には知られている。非球面が、少なくとも頂点Vの近傍において局所的に、光軸Zの周りで回転対称であると仮定すると、曲率半径Rおよび円錐定数κが頂点Vにおいて求められるとき、曲率半径Rおよび円錐定数κのこれらの概念は、面Sに直接的に及ぶ。特に、曲率半径Rは、頂点Vにおいて求められる接触球の半径に対応する。各i≧2について、α2iは、面Sの次数2iの実数係数(いわゆる非球面係数)である。これらの係数は、曲率半径Rおよび円錐定数κから定義される面からの(側面)変動に実質的に対応する。これらのパラメータR、κ、α、α、α、...に応じて、式は、データz(r)を半径変数rの関数として表すことによって面Sを定義し、これらは両方とも図4に示されている。データz(r)は、頂点Vから、光軸Zから半径rにある面の任意の点までの、光軸Zに沿って測定される変位(ベクトル)の成分に対応する。同等に、データz(r)は、ベクトル
のZ成分に対応し、ここで、Pは、光軸Zから半径rにある面Sの任意の点である。面S上の極座標(r,z)を考慮すると、また同等に、データz(r)は、(頂点Vからカウントされる)半径座標がrである面Sの点の光軸Zに沿った座標に対応する。頂点Vは、一般に、点(r=0;z(r)=0)に対応する。図4に示す実施形態では、データz(r)は正である、なぜなら、この変位(ベクトル)が、光軸Zと同じ方向および向きだからである。この場合、面Sは前凸状(かつ後凹状)である。図4は、非球面についての上述の式の非常に一般的な図として説明された。これは、特許請求の範囲に記載の前方光学面2および後方光学面3の正確な形、それらの凹凸、それらの曲率半径RantおよびRpostの符号、またはそれらのデータz(r)の符号を限定するものではない。
【0063】
図1に示されるように、本発明によるIOL1は、その前面が前方光学面2上に構成され、その後面が後方光学面3上に構成される中心光学部4(またはレンズ)を備える。IOL1はまた、4つの閉鎖された可撓性ハプティック5(マウスの耳の形態)を備え、これらは各々が中心光学部4に基づいてループを形成し、かつ中心光学部4に接続される。本発明の開示で説明したように、これらのハプティック5は、具体的には、IOL1が移植された状態にあるときに、無水晶体眼の水晶体嚢にIOL1を安定させるために配置される。ハプティック5の円形延在部52は、中心光学部4を固定するために中心光学部4の周りに延在する。光軸Zに対して垂直に測定される中心光学部4の直径dは、4.70mm~5.00mmに含まれ、好ましくは4.85mmである。光軸Zに対して垂直に測定される、延在部52によって囲まれた中心光学部4の直径d´は、5.65~6.10mmに含まれる。好ましくは、直径d´は、IOL1の屈折力が厳密に25Dよりも小さい場合、5.90mm~6.10mmに含まれ、より好ましくは6.00mmである。好ましくは、直径d´は、IOL1の屈折力が25D以上である場合、5.65~5.85mmに含まれ、より好ましくは5.75mmである。光軸Zに対して垂直に測定されるIOL1の直径d´´(中心光学部4、延在部52、及びハプティック5を含む)は、10.55~11.20mmに含まれる。好ましくは、直径d´´は、IOL1の屈折力が厳密に25Dよりも小さい場合、10.80~11.20mmに含まれ、より好ましくは11.00mmである。好ましくは、直径d´´は、IOL1の屈折力が25D以上である場合、10.55~10.95mmに含まれ、より好ましくは10.75mmである。有利には、ハプティック5の設計は、IOL屈折力の関数で適合される。図1に示すように、ハプティック5の薄い厚さ(光軸Zに沿って測定して0.30~0.40mm)から推測されるハプティック5の可撓性および中心光学部4の周りのハプティック5の配置は、IOL1が移植された状態にあるときに、水晶体嚢の大きさの変動を補償するためにハプティック5が半径方向に変形することを可能にする。
【0064】
本発明によるIOL1の前方光学面2と後方光学面3の両方の有利な非球面形状は、EDOFを提供する。図2に示すように、IOL1は“拡張”焦点に光を集束させるが、標準的な単焦点IOL1´は単一焦点FPに光を集束させる。単焦点IOL1´は、焦点FPの周りの選択された遠距離の良質な視覚を提供するが、この焦点FPから近い距離および中間距離に対して、良質な視覚を提供しない。本発明によるIOL1は、有利には、広範囲の中間距離および遠距離に対して全体的により良好な品質の視覚を提供するEDOFを創出するために、より近い距離に向かってこの焦点FPを(非対称に)延長することを可能にする。
【0065】
このEDOFを得るために、本発明によるIOL1は、両方とも非球面である前方光学面2および後方光学面3を備える。図3A図3Dは、4つの異なる屈折力、すなわち、10D(図3A)、15D(図3B)、20D(図3C)および35D(図3D)についての前方光学面2および後方光学面3の断面プロファイル(光軸Zを含む)を示す。これらの各図について、軸81および82は、断面プロファイルが示されている平面内の前方光学面2および後方光学面3の点の位置を定義するためのデカルト座標系を定義する。軸81および82の各々は、mm単位で目盛りが付けられている。軸81は、光軸Zに沿った位置を測定することを可能にする。軸82は、光軸Zに垂直な位置を測定することを可能にする。軸81および82は、前面2の頂点21で交差する。光軸Zに対して垂直に測定される中心光学部4の直径dは、4.70mm~5.00mmに含まれるため、図3A図3Dに示される断面プロファイルは、IOL1のために最終的に実際に設計および切り出される前方光学面2および後方光学面3よりも拡張されているように見える。
【0066】
図3Aから推定される光学面2、3は、凹凸IOLプロファイルを画定する。前方光学面2は前凹状であり、一方で、後方光学面3は後凸状である。特に、それぞれの頂点21および31において求められる前方光学面2および後方光学面3の曲率半径RantとRpostは両方とも負であり、それぞれの頂点21および31において求められる前方光学面2および後方光学面3の円錐定数κantとκpostは両方とも正である。光軸Zに垂直な平面を基準のゼロ高さ平面とし、光軸Zを高さ評価のための基準軸とする、前方光学面2または後方光学面3のいずれかの半径座標上で評価される高さマップは、
●その頂点21または31において極大値を示し、
●その頂点21または31から、光学面2または3の縁部(最終的に切り出される光学面2または3の限界における縁部であり、その寸法は直径dと関連している)まで減少している。
【0067】
図3B図3Dから推定される光学面2、3は、両凸IOLプロファイルを画定する。前方光学面2は前凸状であり、一方で、後方光学面3は後凸状である。その頂点21において求められる前方光学面2の曲率半径Rantは正であり、その頂点31において求められる後方光学面3の曲率半径Rpostは負であり、その頂点21において求められる前方光学面2の円錐定数κantは負であり、その頂点31において求められる後方光学面3の円錐定数κpostは正である。光軸Zに垂直な平面を基準のゼロ高さ平面とし、光軸Zを高さ評価のための基準軸とする、前方光学面2の半径座標上で評価される高さマップは、
●その頂点21において極小値を示し、
●その頂点21から、前方光学面2の縁部(最終的に切り出される前方光学面2の限界における縁部であり、その寸法は直径dと関連している)まで増加している。
光軸Zに垂直な平面を基準のゼロ高さ平面とし、光軸Zを高さ評価のための基準軸とする、後方光学面3上の半径座標上で評価される高さマップは、
●その頂点31において極大値を示し、
●後方光学面3の縁部(最終的に切り出される後方光学面3の限界における縁部であり、その寸法は直径dと関連している)から正の距離にある周辺極小値32を示し、
●極大値と周辺極小値32との間に位置する変曲点33を示し、
●その頂点31から周辺極小値32まで減少しており、
●周辺極小値32から後方光学面3の縁部まで増加している。
高さマップが後方光学面3上の半径方向座標上で評価されると仮定すると、後方光学面3全体の点上の(半径方向座標上ではない)高さマップの読み値は、そのような周辺極小値32のリングと、光学直径のほぼ中央にある変曲点33のリングとを定義する。そのような変曲点33は、(図3B図3Dに示すように)後方光学面3が凹状から凸状に、または凸状から凹状に変化する曲率の転換点に対応する。より具体的には、後方光学面3は、頂点31の周りで後凸状であり、周辺極小値32のリングの周りで後凹状である。
【0068】
前方光学面2および後方光学面3は明らかに曲率変動を示すが、前方光学面2と後方光学面3の両方が、滑らかで、連続的かつ正則であることを指摘しなければならない。それらは、いかなる破断点または急激な帯状の限界も示さない。
【0069】
本発明によるIOL1は、前方光学面2および後方光学面3を構成する材料に関連する屈折率に応じた、ならびにこれらの面2および3の幾何学的形状に応じた屈折力を有する。面2および3の幾何学的形状は、曲率半径RantおよびRpostによって、ならびに円錐定数κantおよびκpostによって(少なくともそれらの頂点21および31の周りで)決定される。本発明の好ましい実施形態によれば、屈折力が14D以上である場合かつその場合に限りRant>0であり、すべてのIOL屈折力についてRpost<0である。曲率半径Rantは、区間]0D,13.5D]および[14D、40D[の各々の屈折力に連続的かつ正則に依存する。曲率半径Rpostは、連続的かつ正則に屈折力に依存する。本発明は、曲率半径RantおよびRpostの関数で円錐定数κantおよびκpostを表すための新規の滑らかで連続的かつ正則な関係を非常に有利に提供する。これらは、図5A図5Cのグラフによって示されている。これらの図の各々について、軸83および84は、デカルト座標系を画定しており、軸83および84はそれぞれ、mm単位で測定された曲率半径および円錐定数に対応する。図5Aは、屈折力が14D以上であるIOL1の前方光学面2の曲率半径Rantの関数で円錐定数κantを規定する関数κant(ant)のグラフを表す。図5Bは、屈折力が厳密に14D未満であるIOL1の前方光学面2の曲率半径Rantの関数で円錐定数κantを規定する関数κant(Rant)のグラフを表す。図5Cは、IOL1の後方光学面3の曲率半径Rpostの関数で円錐定数κpostを規定する関数κpost(Rpost)のグラフを表す。これらの図5A図5Cの各々は、曲率半径の関数で円錐定数の測定値に対応する点の集合(またはプロット)と、この点の集合の非常に良好な補間および/または近似関数のグラフの両方を表す。
【0070】
図5Aのグラフは、関数

を表し、これは、グラフから分かるように、プロット点にほぼ完全に対応する。この関数は、本発明の技術分野において完全に新規であり、非常に特定的である。これは、屈折力が14D以上であるIOL1の前方光学面2の曲率半径Rantの関数で任意の適切な円錐定数κantを規定するために使用することができる連続的で正則なシグモイドを定義する。
【0071】
図5Bのグラフは、関数

を表し、これは、グラフから分かるように、プロット点の完全な補間(1に等しい相関係数を有する)に対応する。この関数は、本発明の技術分野において完全に新規であり、非常に特定的である。これは、屈折力が厳密に14D未満であるIOL1の前方光学面2の曲率半径Rantの関数で任意の適切な円錐定数κantを規定するために使用することができる連続的で正則な多項式を定義する。
【0072】
図5Cのグラフは、関数

を表し、これは、グラフから分かるように、(例えば)10D~27.5Dの屈折力について表されたプロット点のほぼ完全な補間(0.99に等しい相関係数を有する)に対応する。この関数は、本発明の技術分野において完全に新規であり、非常に特定的である。これは、IOL1の後方光学面3の曲率半径Rpostの関数で任意の適切な円錐定数κpostを規定するために使用することができる連続的で正則な多項式を定義する。
【0073】
本発明は、上述の関数κant(Rant)およびκpost(Rpost)のパラメータの特定の値に限定されない。任意の同様のシグモイド関数または多項式関数を使用することができ、本発明の思想は、これらの種類の関係を使用して、前方光学面2および後方光学面3の各々の曲率半径の関数で円錐定数を表すことである。同様のシグモイド関数または多項式関数の例が、本発明の開示において、明示的に、またはこれらの関数の数値係数(本明細書に示されるA、B、C、D、a、b、c、f、gおよびh)が変化する適切な区間の形で提供される。これらの区間は、本開示を限定するものではない。さらに、2次以外の他の多項式関数を使用することもできる。例えば、図5Bに表される関数κant(Rant)は、以下に置き換えることができる。

これは、図5Bのプロット点の別の非常に良好な補間を提供する。それにもかかわらず、2次多項式の使用が、計算上の理由から好ましい。屈折力が厳密に14Dよりも小さいIOL1の前方光学面2について図5Bに表される関数κant(Rant)はまた、屈折力13.5Dを有するIOL1の前方光学面の円錐定数を減少させることによって、非常に単純な1次多項式の形式で考えることもでき、

これは、前述の式と比較して、IOL1の製造プロセスを容易にすることができる。このような式は、小さい屈折力(すなわち、13.5D以下)を有するIOL1の前方光学面の曲率半径および円錐定数の値の対を良好に補間し、計算上の理由から非常に使いやすい。
【0074】
図6Aは、軸86上で読み取られ、ディオプトリ(D)で測定されたIOL1のEDOFの実験的光学ベンチ測定に対応するエラーバーを備えた点の集合のグラフを、軸85上で読み取られ、ディオプトリ(D)で測定されたIOL屈折力の関数として示す。EDOFは、50Lp/mmにおけるMTFピークmaxから0.17のMTF値までのディオプトリの屈折力和として定義される。測定は、0μmの球面収差(ISO1)を提供する角膜モデルを用いて3mmの開口に対して行われる。このグラフは、以下の式を有する多項式曲線によって補間される。

式中、xはIOL屈折力である。図6Aから分かるように、本発明は、そのEDOFがIOL屈折力に非常に限定的に依存するIOL1を提供する。
【0075】
図6Bは、軸87上で読み取られ、マイクロメートル(μm)で測定される、IOL1の4次縦球面収差(LSA)の実験的光学ベンチ測定に対応するエラーバーを備えた点の集合のグラフを、軸85上で読み取られ、ディオプトリ(D)で測定されたIOL屈折力の関数として示す。SAは、50Lp/mmおよび4mmの開口で測定される。このグラフは、以下の式を有する多項式曲線によって補間される。

式中、xはIOL屈折力である。図6Bから分かるように、本発明は、そのSAがIOL屈折力に非常に限定的に依存するIOL1を提供する。屈折力の低下に伴い、SAのわずかな低下が見られる。実際、より低い屈折力のIOLは、実際にはより平坦であり、非球面にすることがより困難である。EDOF値およびSA値は同じ傾向を辿り、これらは強く相関している。
【0076】
図6Cは、軸88上で読み取られ、50cy/mmにおいて求められるIOL1のMTFの実験的光学ベンチ測定に対応するエラーバーを備えた点の集合のグラフを、軸85上で読み取られ、ディオプトリ(D)で測定されたIOL屈折力の関数として示す。MTFは、0.28μmの球面収差(ISO2)を提供する角膜モデルの存在下で、50Lp/mmおよび3mmの開口で測定される。このグラフは、以下の式を有する多項式曲線によって(非常に弱く)補間することができる。

式中、xはIOL屈折力である。図6Cから分かるように、本発明は、そのMTFがIOL屈折力に非常に限定的に依存するIOL1を提供する。
【0077】
図7は、軸86上で読み取られ、ディオプトリ(D)で測定されている、本発明によるIOL1のEDOFの平均実験光学ベンチ測定値の3つのグラフを、軸89上で読み取られ、ミリメートル(mm)単位で測定された開口(ここでは瞳孔径である)の関数として示す。EDOFは、50Lp/mmにおけるMTFピークmaxから0.17のMTF値までのディオプトリの屈折力和として定義される。平均は、屈折力10D、15D、20D、25D、30Dおよび35Dの各々の1つのIOL1での測定値について計算される。3つのグラフは、3つの異なる角膜球面収差を提供する3つの異なる角膜モデル、すなわち、
0.00μm角膜球面収差を提供する角膜モデル(符号71またはISO1に対応する)、
(5.15mmの開口およびIOL平面における)0.13μm(±0.2μm)の角膜球面収差を提供する角膜モデル(符号72に対応する)、
(5.15mmの開口およびIOL平面における)0.28μm(±0.2μm)の角膜球面収差を提供する角膜モデル(符号73またはISO2に対応する)
の使用に対応する。
これらのグラフは、IOL1のEDOFが開口および角膜球面収差に限定的に依存することを明確に示している。さらに、従来技術において知られている古典的な単焦点IOLの場合、瞳孔拡張後、ピンホール効果の拡大は、結果として生じるEDOFと同様に急速に減少する。この傾向は、瞳孔径の拡大にもかかわらずEDOFが比較的高いままであるため、本発明によるIOL1では根本的に異なり、これは上述の3つの角膜モデルのいずれかのものである。
【0078】
図8は、軸88上で読み取られる、本発明によるIOL1のMTFの平均実験光学ベンチ測定値の3つのグラフを、軸89上で読み取られ、ミリメートル(mm)単位で測定された開口(ここでは瞳孔径である)の関数として示す。MTFは、50Lp/mmにおいて測定される。平均は、屈折力10D、15D、20D、25D、30Dおよび35Dの各々の1つのIOL1での測定値について計算される。3つのグラフは、上述の3つの異なる角膜モデル(符号71、72、および73に対応する)の使用に対応する。これらのグラフは、IOL1のMTFが開口および角膜球面収差に限定的に依存することを示している。
【0079】
図13は、(遠距離)屈折力の中程度の範囲(約20D)における、軸88上で読み取られた2つのIOLのスルーフォーカスMTF曲線(曲線7Aおよび7Bにそれぞれ対応する)のグラフを、軸85上で読み取られ、ディオプトリ(D)で測定されたIOL屈折力の関数として示す。MTFは、50Lp/mmおよび3mmの開口において0.00μmの球面収差(ISO1)を提供する角膜モデルを備えた光学ベンチ上で測定される。これらの曲線7Aおよび7Bは、それぞれ、標準的な単焦点IOLおよびIOL1のMTF測定値に対応する。本発明によるIOL1の細長い焦点は、図13に見ることができる。本発明によるIOL1の場合における非対称MTFピークが、より高い屈折力(より近い距離)に向けて細長い焦点を伴うことが明確に示されているが、標準的な単焦点レンズのMTFピークは、最良焦点での屈折力に対して基本的に対称であり、この焦点は遠距離に割り当てられる。光学ベンチに証明されるこれらの差は、本発明によるIOL1の中間距離での優れたEDOFおよびより良好な臨床的視力を説明するであろう。
【0080】
図9A図9Cの各々は、軸90上で読み取られ、マイクロメートル(μm)単位で測定された4次球面収差(以下、SAによって示される)の実験的光学ベンチ測定値のグラフを、軸89上で読み取られ、ミリメートル(mm)で測定された開口(瞳孔径である)の関数として示す。これらの図の各々について、SAは50Lp/mmで、
単独で考慮される上記の3つの角膜モデルのうちの1つ(符号74に対応する)、
単独で考慮される本発明によるIOL1(符号75に対応する)、
上記IOL1と組み合わされた上記特定の角膜モデル(符号76に対応する)、
について測定される。
図9A図9B、および図9Cにおいて考慮される角膜モデルは、それぞれ、
(5.15mmの開口およびIOL平面における)0.28μm(±0.2μm)の角膜球面収差を提供する角膜モデル、
(5.15mmの開口およびIOL平面における)0.13μm(±0.2μm)の角膜球面収差を提供する角膜モデル、および、
0.00μmの角膜球面収差を提供する角膜モデル、
である。
従来の公知の単焦点IOLに対して、IOL1は、それが単独で提供するSAの量が異なる。IOL1のSAは負であり、開口と共に急速に減少する。SAは、従来の公知の単焦点IOLのSAと比較して、IOL1についてはるかに負である。結果として、IOL1のSAは上記角膜モデルのいずれかの(小さい)正のSAを過剰補償するため、任意の角膜モデルとIOL1との組み合わせから生じるSAは、基本的にIOL1のSAによって決定される。したがって、残りのSAは、有利には、角膜モデルの選択によって非常にわずかしか影響されない。
【0081】
本発明によるIOL1のEDOFの存在に従って、(IOL1に対して前方に光軸Z上に配置された)、(好ましくは、段落0049に定義されているような)平均角膜モデルを用いた前方光学面2および後方光学面3の組み合わされた光屈折は、(EDOFに対応する)より低い屈折力の広がった中央領域92によって囲まれている、光軸Zに沿った中心大域的最大値91を含む屈折力の連続的で正則なマップ9を提供する。このマップ9は、直径4mmの光軸Zを中心とする(読み取り)窓内で、35Dおよび20DのIOL屈折力について、それぞれ図10Aおよび図10Bに示されている。上記IOL屈折力は、直径3mmの光軸Zを中心とする(読み取り)窓内で補正なしに測定された平均屈折力(マップ9によって表される屈折力)として定義されることを想起されたい。中心領域92は、前方光学面2および後方光学面3の直径dの約半分に広がり、屈折力の変曲点(図10Aの場合)または極小値(図10Bの場合)のいずれかであるマップ9の点の第1のリング93、93´によって囲まれている。この第1のリング93、93´は、いずれの場合も屈折力の傾向の半径方向の変化に対応する。図10Bは、20D付近の屈折力についての屈折力のそのような一般的なマップ9をより忠実に示している。この場合、マップ9はまた、
広がった中央領域92を取り囲む屈折力の極小値の上記第1のリング93、および、
第1のリング93を取り囲む屈折力の極大値の第2のリング94、
も含む。
より一般的には、本発明のいくつかの実施形態によるIOL1は、漸進的に交互になって変化する極大および極小の屈折力のリング93および94などのリングの集合を含む。任意のIOL屈折力のマップ9は、非常に滑らかで、連続的であるとともに正則であることを指摘しなければならない。これは、固定(一定)の屈折力でゾーン分割されることはない。
【0082】
本発明の好ましい実施形態によるIOL1の断面図が、図11A(10Dに等しい屈折力の場合)、図11B(24Dに等しい屈折力の場合)および図11C(35Dに等しい屈折力の場合)にさらに示されている。これらのIOL1の断面は、光軸Zを含む平面に沿って作られている。上記の前方光学面2および後方光学面3の幾何学的形状および凹凸は、これらの図11A図11Cに見ることができる。これらの前方光学面2および後方光学面3は、生体適合性原材料から作られた中心光学部4の内部本体41によって分離されている。内部本体41は、所定の中心厚さEを有し、中心厚さEは、光軸Zに沿って測定され、中心厚さEは、可撓性ハプティック5を中心光学部4に接続するための0.2mm~0.3mmに含まれる(好ましくは約0.25mmの)IOL周囲厚さが提供されるように、IOL屈折力に正則に依存して、0.3mm~0.7mmに含まれる。
【0083】
図12Aに示すように、IOL1の中心光学部4は、好ましくは、0.00mm~0.45mmに含まれる、光軸(Z)に沿って測定される所定の距離(HC)だけ可撓性ハプティック(5)の頂点(51)から離れた主光学面(M)を有する。この距離(HC)は、そのグラフが図12Bに表されている関数を通じてIOL1の屈折力に連続的かつ正則に依存する。距離(HC)は、軸62上で読み取られ、ミリメートル(mm)単位で測定されており、軸61上で読み取られ、ディオプトリ(D)で測定される屈折力の関数として示されている。この関数は、増大する屈折力に対して連続的に増加しており、そのグラフはシグモイドプロファイルを表す。この距離(HC)は、有利には、IOL1が眼に移植されたときの光軸Zに対するIOL1主光学面の長手方向に安定した(IOL屈折力に対して不変の)位置を保証するために、前方光学面2および後方光学面3の幾何学的形状に照らして計算される。
【0084】
換言すれば、本発明は、非球面の前方光学面2および後方光学面3を備える、焦点深度拡張を有する眼内レンズ1に関する。これらの光学面2および3の特定の非球面形状は、本発明の枠組みにおいて説明されている。
【0085】
本発明は、純粋に例示であり、限定であると見なされるべきではない値を有する特定の実施形態に関連して説明された。当業者には、本発明が上記で例示および/または説明された例に限定されないことが留意されよう。本発明は、本明細書に記載された新規の技術的特徴の各々、およびそれらの組み合わせを含む。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図13
【国際調査報告】