(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-21
(54)【発明の名称】非オピオイド組成物及び疼痛管理のための治療法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20221114BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221114BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20221114BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P29/00
C07K16/28 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022512748
(86)(22)【出願日】2020-08-21
(85)【翻訳文提出日】2022-04-21
(86)【国際出願番号】 US2020047360
(87)【国際公開番号】W WO2021041194
(87)【国際公開日】2021-03-04
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503128320
【氏名又は名称】ユーエヌエム レインフォレスト イノベーションズ
【氏名又は名称原語表記】UNM Rainforest Innovations
【住所又は居所原語表記】Lobo Rainforest Building, 101 Broadway Blvd. NE, Suite 1100, Albuquerque, NM 87102 USA
(71)【出願人】
【識別番号】322011896
【氏名又は名称】ハイ, カリン ウェストルンド
【氏名又は名称原語表記】HIGH, Karin Westlund
【住所又は居所原語表記】101 Broadway Blvd. NE, Suite 1100, Albuquerque, New Mexico 87102 United States of America
(71)【出願人】
【識別番号】322011900
【氏名又は名称】ダーヴァスラ, ラヴィ ヴェンカタ
【氏名又は名称原語表記】DURVASULA, Ravi Venkata
【住所又は居所原語表記】101 Broadway Blvd. NE, Suite 1100, Albuquerque, New Mexico 87102 United States of America
(71)【出願人】
【識別番号】322011911
【氏名又は名称】クナムネニ, アディナラヤナ
【氏名又は名称原語表記】KUNAMNENI, Adinarayana
【住所又は居所原語表記】101 Broadway Blvd. NE, Suite 1100, Albuquerque, New Mexico 87102 United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】ハイ, カリン ウェストルンド
(72)【発明者】
【氏名】ダーヴァスラ, ラヴィ ヴェンカタ
(72)【発明者】
【氏名】クナムネニ, アディナラヤナ
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA70
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
(57)【要約】
非オピオイド組成物及び疼痛管理のための治療法。疼痛を治療するための組成物は、疼痛に関与する受容体に特異的に結合する抗体又は抗体フラグメントを含む。いくつかの実施形態において、受容体は、例えばP2X4のようなP2Xファミリー受容体である。いくつかの実施形態において、抗体は検出可能なマーカーを含む。これらの実施形態のいくつかにおいて、検出可能なマーカーは、蛍光標識を含む。この組成物は、被験体における急性又は慢性の疼痛を治療するために使用され得る。一般に、本方法は、疼痛に関与する受容体に特異的に結合する抗体又は抗体フラグメントを含む組成物を被検体に投与することを含む。
非オピオイド疼痛緩和組成物は、神経障害性疼痛モデル及び化学毒性神経損傷モデルにおいて、疼痛に関連する機械的行動、寒冷行動、不安様行動、及びうつ病様行動を回復させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
P2Xファミリー受容体に特異的に結合する抗体又は抗体フラグメント、及び、
薬学的に許容可能なキャリア、を含む組成物。
【請求項2】
P2Xファミリー受容体がP2X4である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記抗体が、配列識別番号1の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記CDRが、配列識別番号1のアミノ酸28-35、アミノ酸56-58、アミノ酸102-112、アミノ酸177-183、アミノ酸201-203、又はアミノ酸242-247を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記抗体が、配列識別番号2の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記CDRが、配列識別番号2のアミノ酸28-34、アミノ酸55-60、アミノ酸104-112、アミノ酸171-177、アミノ酸195-197、又はアミノ酸236-241を含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記抗体が検出可能なマーカーを含む、請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記検出可能なマーカーが蛍光標識を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
被験体の疼痛を軽減するのに有効な請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載の組成物の一定量を被験体に投与する工程を含む、被験体における急性又は慢性の疼痛を治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の資金提供:本発明は、米国国立衛生研究所から授与されたDE028096及び国防省から授与されたCP190116の下で政府の支援を受けて作成された。米国政府は、本発明においてある種の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
関連出願の相互参照:本出願は、2019年8月23日付けで出願された米国仮特許出願第62/890,879号の利益を主張しており、ここには参照により全体に援用される。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、ある態様において、疼痛に関与する受容体に特異的に結合する抗体又は抗体フラグメント、及び薬学的に許容可能なキャリアを含む組成物を記載する。
【0004】
いくつかの実施形態において、抗体又は抗体フラグメントは、P2Xファミリー受容体に特異的に結合する。これらの実施形態のいくつかにおいて、P2Xファミリー受容体はP2X4である。
【0005】
いくつかの実施形態において、抗体は、配列識別番号1の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む。これらの実施形態のいくつかにおいて、CDRは、配列識別番号1のアミノ酸28-35、アミノ酸56-58、アミノ酸102-112、アミノ酸177-183、アミノ酸201-203、又はアミノ酸242-247を含む。
【0006】
いくつかの実施形態において、抗体は、配列識別番号2の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む。これらの実施形態のいくつかは、配列識別番号2のアミノ酸28-34、アミノ酸55-60、アミノ酸104-112、アミノ酸171-177、アミノ酸195-197、又はアミノ酸236-241を含む。
【0007】
いくつかの実施形態において、抗体は、検出可能なマーカーをさらに含むことができる。これらの実施形態のいくつかにおいて、検出可能なマーカーは、蛍光標識を含む。
【0008】
別の態様において、本開示は、被験体における急性又は慢性の疼痛を治療する方法を記載する。一般に、本方法は、被験体における疼痛を軽減するのに有効な量で、上記に概説した組成物の任意の実施形態を被験体に投与することを含む。
【0009】
上記の概説は、開示された各実施形態又は本発明の全ての実施態様を記述することを意図しているわけではない。以下の記述は、実施形態をより具体的に例示しようとするものである。本出願全体のいくつかの箇所において、実施例のリストを通して説明が提供されており、これらの実施例は様々な組み合わせで使用することができる。いずれの場合も、列挙されたリストは、代表的なグループとしてのみ機能し、排他的なリストとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】P2X4 scFv抗体の特性評価。(A)は、第1、第2、及び第3周期におけるP2X4免疫化脾臓からのV
H/K cDNAのRT-PCRによる回収での解析である。(B)は、リボソームディスプレイによって作成された3つの固有の精製抗P2X4 scFvのウェスタンブロットである。
【
図2】P2X4 scFv抗体の特性評価。(A)は、3つのP2X4 scFv; scFv12、scFv95、及びscFv103の結合親和性である。(B)は、P2X4受容体(P2X4R)に対する3つのP2X4 scFvの結合特異性/交差反応性である(右側のバー)。P2X4 scFvがP2X4に結合し、CCKBRにCCKB scFvが結合した陽性結合対照である(4本の左側のバー)である。P2X4 scFvがCCKBに結合せず、P2X4にCCKBR scFvが結合しない陰性対照である(4本の中央のバー)。(C)は、7週間前に2種類のP2X4 scFvのいずれかで免疫化した、神経障害性疼痛モデル(FRICT-ION)過敏症(n=2、10週間)マウスの髄質脳組織のウェスタンブロットである。P2X4 Hisタグのバンドは、過敏症、うつ病様行動、及び不安様行動を回復させるscFvの単回腹腔内投与によってもたらされる脳透過性の指標として機能する。scFvのサイズが完全なIgGに比べて小さいため、多くの分子を排除する血液脳関門や血液神経関門の通過が容易である。*未投与マウスと比較してp<0.05 ANOVAである。
【
図3】抗P2X4 scFv12及びscFv95の単回腹腔内投与は、慢性三叉神経障害性疼痛過敏症(FRICT-IONモデル)(4mg/kg)(n=6R)を回復させる。収縮閾値の低下は、疼痛様行動の増加を示し、神経障害性疼痛過敏症の回復は、収縮閾値が完全に未投与のベースラインに戻ることで示される。scFvは、慢性FRICT-ION三叉神経損傷モデルの外科的誘導の3週間後に、過敏性が最大になったときに与えられた。いずれかのscFvリードを単回投与すると、ベースラインレベルに戻り、少なくとも10週間その値が維持される。*p<0.05,***p<0.001、n=6。
【
図4】週1回の行動試験、外科的モデルの導入及び処理の時点を示す実験のタイムライン。scFv抗体による治療は単回腹腔内投与による。*実験終了を示す。
【
図5】神経損傷により誘発された過敏症を持つ又は持たない動物から単離した三叉神経細胞上のP2X4の局在。未投与マウス由来の三叉神経末梢神経細胞(TG)はP2X4受容体(P2X4R)の発現が低い。DAPI染色は、単離された細胞培養中に存在するすべての細胞を示す。三叉神経損傷(FRICT-ION)の誘導後、P2X4R発現は7週間の継続的な疼痛様過敏症後に有意に増加する。p<0.005、n=3。
【
図6】P2X4 scFv 12の投与は、P2X4を可視化するためにTGを免疫化する前に、市販のP2X4抗体が三叉末梢神経細胞(TG)上のP2X4へ結合するのを用量依存的に阻害する。P2X4Rを可視化するためにTGを免疫染色する前の、P2X4R scFvによる三叉末梢神経細胞(TG)上のP2X4受容体の用量依存性吸着阻害。この染色の阻害は、神経損傷(FRICT-ION)誘発性の過敏症の動物から神経を単離した場合の活性化された神経上へのP2X4受容体の結合と存在の特異性を示している。***陽性対照動物と比較して有意差を示す;p<0.001、n=3。
【
図7】P2X4 scFv抗体生成の概要図。scFvは、膜結合領域で選択されたP2X4免疫化ペプチドフラグメントに対して免疫化されたマウスから、無細胞リボソームディスプレイを用いて生成され、続いて、真核生物のリボソームディスプレイ選択、ヒト化、及び親和性進化が起こる。目的のP2X4R scFvをエンコードするDNA配列は、標的(部位特異的)突然変異誘発により多様化される。得られたライブラリーは、リボソームディスプレイフォーマットに変換され、mRNAへの転写、翻訳、及び選択が行われる。
【
図8】P2X4 scFv抗体は不安行動を軽減する。不安行動は明暗場所嗜好性試験を用いて三叉神経障害性疼痛モデル(TIC)マウスにおいて示される。不安行動は、PBS n=3、*p<0.05,***p<0.001、ANOVAと比較して、テストしたscFv 12及びscFv 95により有意に低下した。
【
図9】P2X4 scFv抗体(scFv12、scFv95)はうつ病行動を軽減する。うつ病行動は、未投与マウスの背部に10%スクロースを噴霧した後にグルーミングを生じさせるスクローススプラッシュテストを用いて、三叉神経障害性疼痛モデル(TIC)マウスで示される。グルーミング行動は、中性緩衝液溶媒(PBS)を投与したTICモデルマウスでは有意に低下したが、scFv12とscFv95のどちらかを投与したTICマウスにおいては未処置対照と同様であった。n=3、*p<0.05 ANOVA。
【
図10】寒冷過敏症(10℃)は、低温プレート装置でテストしたところ、化学療法薬オキサリプラチン誘発性化学毒性神経障害性疼痛を有するマウスに発症した。P2X4R scFvは寒冷に対する反応を正常化した。**=未投与と比較したp<0.01;n=4。
【
図11】オキサリプラチン(3mg/kg、腹腔内投与)を1-5日目に投与し、化学毒性神経障害性疼痛過敏症を生じさせた。3日目にP2X4R scFv95抗体を投与すると、足蹠のvon Freyフィラメント刺激に対する反応による収縮閾値の低下により示されるオキサリプラチン誘発性機械的過敏症のさらなる発現が停止される。
【
図12】P2X4R scFv95は、3週間前に、化学毒性シスプラチン(1mg/kg、腹腔内投与、day 1-7)で生じさせた、発症済みの過敏症からの回復率の増加を提供した。
【
図13】scFv12とP2X4Rとの相互作用。アミノ酸側鎖残基の補体は、scFv12 CDRとP2X4Rの界面を形成する。
【
図14】scFv12とP2X4Rとの相互作用。LIGPLOTソフトウェアを用いた、P2X4RとscFv12との相互作用の二次元図面(Wallaceら、1996年、Protein Eng 8:127-134)。二次元図面は、相互作用する各アミノ酸側鎖の個々の関係を示している。近接部は疎水性の/Van der Waals結合を示す。点線は静電結合を示す。アミノ酸残基は疎水度、電荷、極性に基づいて着色される。濃緑色:疎水性;シアン:極性電荷を持たない;青色:正電荷を持つ;赤色:負電荷をもつ;紫色:プリン;及びシエンナ:ピリミジン。
【
図15】scFv95とラットP2X4Rペプチドとの相互作用。アミノ酸側鎖残基の補体は、scFv95 CDRとP2X4Rの界面を形成する。
【
図16】scFv95とラットP2X4Rペプチドとの相互作用。LIGPLOTソフトウェアを用いた、P2X4RとscFv95との相互作用の二次元図面(Wallaceら、1996年、Protein Eng 8:127-134)。二次元図面は、相互作用する各アミノ酸側鎖の個々の関係を示している。近接部は疎水性の/Van der Waals結合を示す。点線は静電結合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
慢性疼痛に苦しむ多くの人々は、現在の治療法では効果的に治療されない。オピオイドは、例えば、鎮静作用、呼吸抑制、便秘、耐性、及びオピオイド依存などの重篤な副作用によって制限される。したがって、慢性疼痛に対する効果的かつ特異的な非オピオイド治療薬の副作用が少ないことが必要である。
【0012】
本開示では、慢性疼痛に対する非オピオイド治療薬について説明する。具体的には、本開示は、慢性疼痛を治療するための非オピオイド治療選択としてP2X4に対する抗体の生成及び使用を記載する。P2X4はプリン受容体であり、中枢ニューロン、末梢ニューロン、ミクログリアに発現する。P2X4活性化は、ミクログリアによって媒介される神経障害性疼痛を引き起こすのに十分である。
【0013】
本明細書において、抗体がscFvである例示的な実施形態の文脈で記述されるが、抗体は、全長抗体又は所定の用途に適した任意の抗体フラグメントであってもよい。したがって、抗体は、全長モノクローナル抗体;改変された二重特異性、三重特異性、及び四重特異性モノクローナル抗体など;又は生物学的分子(抗原又は受容体など)又はその一部に結合することができる任意の抗体フラグメントであってもよい。適当な抗体フラグメントは、限定されるわけではないが、Fab、Fab’F(ab’)2、pFc’、Fd’、シングルドメイン抗体(sdAb)、可変フラグメント(Fv)、単鎖可変領域フラグメント(scFv)、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、ダイアボディ又は二価ダイアボディ、線状抗体、一本鎖抗体分子、又は抗体フラグメントから形成される多重特異性抗体を含む。抗体は、任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA及びIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)、又はサブクラスのものであり得る。最後に、抗体をヒト化してもよい。
【0014】
scFv(単鎖可変領域フラグメント)などのより小さな改変抗体は、完全長免疫グロブリン(例えば、従来のモノクローナル抗体)の有用な代替となる特定の特性を有している:極度の特異性、脳透過性、高い親和性、優れた安定性及び溶解性、自己免疫原性の低下、そして、容易かつ安価で大量生産が可能である。小型抗体フォーマットに基づく治療は、P2X及び他の受容体に対する治療用途を提供するというこれまでの課題を克服する。scFvは、現在では慢性疼痛において相互作用的であると認識されている神経系及び免疫系の両方に対する短期診断又は長期生物学的治療を適用するために、in vivo半減期で容易に改変されることができる。これらの特性から、scFv抗体は、特にP2X4が正常状態では低量で存在し、神経損傷後に増加することから、P2X4の選択的標的化と慢性疼痛療法としてのさらなる開発に充分適している。上述のように、scFvは、ヒトへの投与のために容易にヒト化することができる。
【0015】
in vitroリボソームディスプレイを用いてscFvを生成した例示的な実施形態の文脈で記述されているが、抗体は、当該技術分野で公知の抗体を生成するための任意の適切な方法によって生成されてもよい。
しかし、リボソームディスプレイのプラットホームは、1013-15までの多様性を有するペプチドライブラリー、タンパク質ライブラリー、及び抗体ライブラリーを生成する強力なin vitro無細胞プラットホームであり、形質転換は必要ない。その結果、様々な標的に対する極めて高い親和性のバインダーをライブラリーから単離することができる。特に、リボソームディスプレイ抗体ライブラリーは、ピコモル親和性を有する抗体を生成することができ、これは抗体生成技術によってこれまでに達成された最高の親和性である。
さらに別の変異をPCRによって遺伝子中に導入することもできる。
【0016】
本明細書に記載されている抗体は、in vivoイメージング用途のために固有蛍光を組み込むように容易に改変することができる。あるいは、抗体は、治療用途で使用するために医薬組成物に配合され得る。本開示は、慢性神経障害性疼痛の動物モデルにおけるP2X4特異的scFv抗体療法のin vivo試験、及びin vitro電気生理学的パッチクランプ法による効果の特性評価について記載している。
【0017】
P2X4に対して生成されたscFv抗体は、慢性疼痛マウスモデルにおいて炎症性媒体を減少させながら、疼痛関連行動及び不安関連行動のベースライン及びニューロン発火を回復させる。scFv抗体は、既報のように、リボソームディスプレイを介して生成され、特性評価され、検証された(Kunamneniら、2018年、PLoS ONE 13(11):e0205743;Kunamneniら、2019年、Am.J.Trop.Med.Hyg.101(1):198-206)。
【0018】
マウス慢性疼痛モデルにおいて、P2X4を阻害するscFv抗体を、リボソームディスプレイを用いて生成した。ラットP2X4(C-RDLAGKEQRTLTK(配列識別番号3)、モル質量1516g/mol、N末端ビオチンタグ付き、GenScript Biotech、Piscataway、NJ)の特注細胞外ペプチド配列(アミノ酸301-313)で免疫化した5匹のマウスの脾臓から全RNAを単離した。ペプチドはヒトのP2X4と同一の13のアミノ酸残基中11のアミノ酸残基を有する。13のアミノ酸残基のうち12のアミノ酸残基はマウスP2X4と同一である。免疫グロブリン重鎖及び軽鎖可変領域(V
H及びV
L)をコードするcDNAライブラリーを、リボソームディスプレイのために構築した。P2X4受容体ペプチドに対するリボソームディスプレイされたscFvライブラリーのパニングを3回行った。pGEM-Tベクターにクローン化されたPCR産物を用いて大腸菌コンピテントセルを形質転換し、後にV
H-V
L形質転換体の約100のクローンを無作為に選択して配列を決定した(
図7)。
【0019】
配列決定に続いて、抗P2X4 scFvをコードするコード領域をさらに発現ベクター、pET32aにクローン化した(
図1A)。ジカウイルス及びフィロウイルス糖タンパク質(Kunamneniら、2018年、PLoS ONE 13(11):e0205743;Kunamneniら、2019年、Am.J.Trop.Med.Hyg.101(1):198-206)、及びCCK-B受容体(Kunamneniら、2019年、FASEB Journal、 2019年4月、抄録番号Ib31)に対する抗体の生成について、既報のように、大腸菌細胞質(
図1B)からscFvを発現させ、精製した。間接ELISA分析により、3つのscFvについてP2X4ペプチド結合能力と特異性に差があり、陰性対照の抗ジカscFv7-2には反応がないことが判明した。パニング処理は、scFvの親和性の違いから明らかなように、高親和性のクローンを選択する上で効率的であった:scFv95及びscFv12はそれぞれ1番目と2番目に高い親和性を示し、scFv103はより低い親和性を示した(
図2A)。最も親和性の高い2種類の抗P2X4 scFv(scFv12及びscFv95)を、慢性三叉神経損傷モデルにおけるin vivo行動試験のために選択した。scFv12及びscFv95による治療は、神経障害性疼痛過敏症(
図3、
図11、
図12)、不安(
図8)、うつ病様行動(
図9)、及び寒冷感受性(
図10)を回復させた。
【0020】
ビオチン化P2X4ペプチドフラグメントで免疫したマウスの脾臓を用いたPCRにより、VH及びVL遺伝子を組み合わせたライブラリーを作成することができる。抗P2X4 scFvの選択は以下のように行うことができる:(1)ビオチン化P2X4ペプチド「標的」をストレプトアビジンコーティングしたポリスチレンマイクロタイタープレート上に固定化し、(2)scFvライブラリー上でin vitro転写/翻訳共役反応を行う。これらの鋳型は末端の終止コドンを除去しているので、タンパク質リボソーム複合体は失速し、したがってmRNAを保持することになる。(3)これらのあらかじめ形成された三者抗体リボソームmRNA (ARM)複合体を、「標的」がコーティングされたマイクロタイタープレート中でインキュベートする。標的に結合する抗体とのARM複合体のみが保持される。無関係なARM複合体は洗浄により除去される。(4)3回の選択後、保持された抗体ARM複合体をRT-PCRによって回収し、VH及びVLの変異体配列を決定する。(5)scFv抗体のタンパク質発現と解析。P2X4ペプチドに対して選択されたscFvをコードする推定遺伝子を、ROSETTA-GAMI B(DE3)コンピテントセル(Millipore Sigma、Burlington、MA)における細胞質発現のためにプラスミド(例えば、pET32)にサブクローン化する。発現後、既報のようにscFvを間接ELISA (一次スクリーニング)によりスクリーニングし、1mLのHisTrapHPカラムを用いて精製し(Kunamneniら、2018年、PLoS ONE 13(11):e0205743)、表面プラズモン共鳴(SPR)により親和性を測定し(二次スクリーニング)、既報のように、動力学定数(kon及びkoff)を測定する(Wassafら、2006年、Anal Biochem 351:241-253)。表面プラズモン共鳴によって提供されるカーブフィッテイングソフトウェアは、会合率及び解離率の推定値を生成し、そこから親和性を計算できる。P2X4陽性対照のscFvに高い反応性を示すscFvは、特異性の最終チェックとして、P2X1-3、P2X5、及びP2X7受容体タンパク質に対する交差反応性についてさらに分析される。二次スクリーニング後の初期免疫化P2X4ペプチドフラグメントに対するリードscFv抗体を、坐骨神経結紮、部分神経結紮、及び三叉神経損傷モデルにおける疼痛療法として、以下に記載するようにテストする。
【0021】
スクリーニングされたscFvは、例えば組織学的分析のための蛍光タグを含むように改変することができる。例えば、赤色RFP1蛍光タグはscFvの組織学的検査を可能にし、マウスにおけるin vivo IVIS可視化を潜在的に可能にし得る。蛍光標識された抗体及び蛍光標識された抗体フラグメントを生成する方法は、例えば米国特許第8,877,898号に記載されている。
【0022】
スクリーニングされた抗P2X4 scFv抗体を、ヒトの慢性神経障害性疼痛状態を模倣する疼痛モデルを用いたマウスにおいて、治療的価値について-例えば、生理学的及び感情的反応を回復するかについて-評価することができる。選択したscFvを用いて、誘発された坐骨神経疼痛又は三叉神経障害性疼痛をマウスに免疫化することができる。典型的なマウスモデルでは、第3週(急性)及び第6週(慢性)にマウスを免疫化し、疼痛及び不安関連行動の減少をテストする。マウスモデルでは、6週間経験する痛みは人の8年に相当し、慢性と考えられる。
【0023】
ミクログリアのP2X4応答の性的二型性は、以前の急性モデルで示されている-すなわち、雄のげっ歯類におけるP2X4活性化の遮断は、T細胞免疫応答を用いる雌よりもはるかに強固である。
【0024】
scFvの単回投与は、坐骨神経及び三叉神経損傷モデルの盲検試験において、2つの時点でテストすることができる。白色BALB/cマウスは、10週間の行動試験に協力的であるため選択されるが、C57bl6を使用することもできる。擬似手術では、坐骨神経又は眼窩下(ION)神経が露出するが、圧迫されない。P2X4 scFv抗体は、第3週に投与されるが、不安様行動及び抑うつ様行動をテストできる場合、別のコホートに第6週に投与される。用量反応は、雌雄両方のマウスで評価される。慢性試験には雌マウスの試験が含まれる。
【0025】
scFv12及びscFv95抗P2X4 scFv抗体の用量反応有効性試験は、坐骨神経痛モデル(CCI)(Mametら、2014年、Pain 155:322-333; Bennett、GJ、and Xie、YK、1988年、Pain 33:87-107)におけるテストのために、その高い親和性に基づいて選択された。イソフルラン(3%導入及び2%維持)で麻酔した動物の坐骨神経を曝露する。3本の結紮糸(4/0絹糸、1mm間隔)を、神経弓上循環を維持するように注意しつつ坐骨神経周囲に結紮する。擬似手術した対照マウスは、神経結紮を行わずに同じ外科的処置を受ける。未投与対照マウスは未処置のままであるが、行動試験を受ける。モデル導入の3週間後に、溶媒又は抗P2X4-受容体scFv(0.04mg/kg、0.4mg/kg、又は4.0mg/kg (n=4))の単回腹腔内投与を行う。収縮閾値の低下は、疼痛様行動の増加を示す。神経障害性疼痛過敏症の反転は、収縮閾値が未投与のベースラインに戻ることを示している。scFv95又はscFv12の0.4mg/kg単回投与は、数週間にわたって収縮閾値を効果的に、未投与のベースラインに戻す(
図3)。
【0026】
抗P2X4 scFvの至適投与量は、急性予備神経障害性(SNL)疼痛モデル(Decosterd、I.及びWoolf、CJ、2000年、Pain、87:149-158; Shieldsら、2003年、J Pain、4(8):465-470)を用いて決定できる。
【0027】
急性疼痛の治療に対する抗P2X4 scFvの有効性は、急性三叉神経障害性疼痛モデル(TIC)でテストすることができる(Maら、2012年、Neuroscience 300:493-507;Lyonsら、2018年、Clin J Pain 34(2):168-177)。このモデルでは、機械的過敏症(
図11、
図12)及び寒冷過敏症(
図10)が軽減される。
【0028】
慢性疼痛の治療に対する抗P2X4 scFvの有効性と至適用量は、慢性予備神経障害性疼痛モデルでテストすることができる。抗P2X4 scFvを第6週(n=4)に投与し、長期にわたる慢性神経障害性疼痛後の足蹠過敏症の軽減効果を判定する。この慢性疼痛モデルでは、認知依存性記憶、不安様行動及びうつ病様行動、認知能力、及び/又は運動協調性をテストすることができる。
【0029】
慢性疼痛に対する抗P2X4 scFvの有効性は、慢性三叉神経障害性疼痛モデル(第6週)でも検証できる。このモデルでは、抗P2X4 scFvは、認知依存性記憶、不安様及びうつ様行動、認知能力、及び/又は運動協調性を評価することにより、慢性三叉神経障害性疼痛の軽減における効力を検証することができる。
【0030】
過敏症は、SNL及びTICモデルにおいて無期限に持続する。したがって、これらのモデルは、慢性臨床疼痛の時間枠に相当する疼痛様反応の評価に適している。非疼痛性の機械的刺激(von Freyテスト)又は熱/寒冷刺激に対する反射性疼痛反応を、対照と比較して足又はウィスカーパッド上で週1回テストできる。対照と比較して減少したグラムフォースフィラメント又は熱/寒冷に対する反応は、過敏性の増加を示す。
【0031】
慢性モデルでは、8-10週目に認知依存性行動が定量化される。定量化された行動は、コンピュータ連動ビデオレコーディングによって監視される。明暗場所嗜好性試験において、この2つのチャンバー試験で収集された変数には、各チャンバーでの滞在時間、チャンバー間の移行回数、飼育事象の回数、明室への進入潜時、及び/又は暗室への最初の再進入(移行)潜時が含まれる。不安行動は、P2X4 scFv抗体を投与しなかった神経障害性疼痛モデルマウスで有意に大きかった(
図8)。ゼロ迷路試験では、恐怖/不安様行動は、開放部及び閉鎖部の数、全開放及び閉鎖領域の占有率、及び/又は探索的飼育事象の数によって決定される。高度な不安状態は、開放領域の忌避に直接関係する。
【0032】
うつ病様行動はスクローススプラッシュテストで検査され、グルーミング行動の減少が測定されることは、うつ病の症状である。グルーミングの頻度、持続時間、潜時は、尾の付け根に10%スクロース溶液(~250μl)を噴霧した後にスコア化される。スクローススプラッシュテスト後のグルーミング時間は、scFv12及びscFv95を投与した後に有意に増加した(
図9)。
【0033】
学習能力及び記憶能力は、新規物体認識試験(Madathilら、2013年、PLoS ONE 8(6):e67204)を用いて試験される。試験日に、動物を1時間順応させてから、ケージに同一のレゴのミニフィギュアを2つ、5分間置く。4時間後に動物をテストケージに戻し、1つの元のフィギュアを新規の物体に置き換える。その物体の探索に費やされた時間が記録される。
【0034】
オープンフィールド活動は、探索行動、移動、常同活動、及び規定領域で過ごす時間に対するscFvの効果を監視する。鎮静又は刺激特性を評価するために、運動協調性、バランス、筋力、歩行をロタロッドでテストする。
【0035】
P2X4 scFv療法が疼痛感受性をどのように調節するかを研究するために、後根神経節、三叉神経節、及びスライス標本を、SNL及びTIC神経損傷モデルで使用されるマウスから、それらの研究の完了後に採取する。規定培地の脊髄器官型培養物を用いて、Ca2+イメージング法及び電気生理学的手法により、侵害受容回路に対するP2X4特異化scFvの慢性作用を評価する。後根神経節の初代培養及び三叉神経節の初代培養の直接作用は、in vitroのscFvでP2X4活性を阻害することにより評価できる。最後に、GCaMPマウス(Jackson Laboratory、Bar harbor、ME)の後根神経節ニューロン及び三叉神経節ニューロンのin vitroの記録を評価する。いずれの場合も、scFvを投与したマウスの、溶媒を投与したマウスに対する反応を評価する。
【0036】
例えば、急性に単離された脊髄スライスからの表層髄質ニューロン及び脊髄後角ニューロンにおける活性化応答(すなわち、カプサイシン誘発パッチクランプ記録)の電気生理学的記録を評価することができる。P2X4は後角ミクログリアに発現し、活性化されると炎症性メディエーターを放出する。後角ニューロンの特定のニューロン発火パターンのサブタイプに対する作用を、推定上の興奮性ニューロン(主にニューロン応答に影響を及ぼす抑制性ニューロン)又は抑制性ニューロン(主に緊張性ニューロン)のいずれかとして特徴付けることができる。これは、後角におけるニューロンの興奮性の設定に対するP2X4の関与のよりよい理解を提供するであろう。これらのニューロンの固有発火特性及び後角におけるシナプス伝達も、既報のように、自発性興奮性シナプス後電流(sEPSC)の振幅及び周波数、及び/又は後根誘発性興奮性シナプス後電流(eEPSC)の特性を測定することによって研究することができる(Allesら、2017年、Neuropharmacology 113:576-590;Alles、SRA and Smith、PA、2019年、Neuroscience Letters 694:148-153)。
【0037】
P2X4 scFvにより疼痛関連行動が減少すれば、血清サイトカイン及びP2X4も減少する可能性がある。scFv処理の有無でマウスにおける血清サイトカイン、P2X4タンパク質発現、及び/又はRNA発現変化を比較することができる。安楽死時に心臓から採取された血液は、既報のように分析することができる(Maら、2015年)。脊髄、後根神経節、及び/又は三叉神経節P2X4タンパク質は、例えばウェスタンブロットによって評価することができる。代替的に又は加えて、RNA発現に対する減少したサイトカインの効果を評価することができる。後根神経節及び三叉神経節由来のRNAは、マウスを抗P2X4 scFvで処理した後(例えば、処理後9週間)に単離することができ、そこで、マウスをモデルの誘導後(例えば、6週間後)に抗P2X4 scFvで処理し、転写の変化を評価する。
【0038】
図5は、P2X4三叉末梢神経細胞の局在が低濃度のP2X4を有することを示す。三叉神経損傷の誘導後、P2X4発現が有意に増加する。抗P2X4 scFv12は、市販のP2X4抗体のこれらの単離ニューロンへの結合を用量依存的に阻害する(
図6)。
【0039】
図13及び
図14は、ラットP2X4RとscFv12(配列識別番号1)及びscFv95(配列識別番号2)との潜在的結合を同定するコンピュータモデリングを提示する。scFv12-P2X4ドッキング複合体を単一の100nsの分子動力学(MD)シミュレーションにかけ、scFv12(配列識別番号1)アミノ酸残基のTyr36、Tyr53、Ser101、Tyr103、Asp104、Asp182、Tyr183、Tyr201、Gly242、His243、Ser244、Phe245、及びLeu247との充分に大きく安定したインターフェースを有するドッキング予測を生成し、そしてそれは、P2X4のArg301、Asp302、Lys306、Arg309、及びLys313と荷電相互作用を形成した。scFv12(配列識別番号1)のアミノ酸残基のTyr183、Asp57、およびAsp104は、P2X4の対応物と静電/芳香/疎水性相互作用を形成した。コンピュータモデリングにより、配列識別番号1のアミノ酸28-35、アミノ酸56-58、アミノ酸102-112、アミノ酸177-183、アミノ酸201-203、及びアミノ酸242-247においてscFv12のCDRが同定された。
【0040】
scFv95-P2X4ドッキング複合体を単一の100nsの分子動力学(MD)シミュレーションにかけ、scFv95(配列識別番号2)のアミノ酸残基Asp33、Tyr34、Thr61、Glu63、及びGlu104の充分に大きく安定したインターフェースを有するドッキング予測を生成し、そしてそれは、P2X4のArg301、Arg309、及びLys313と荷電相互作用した。scFv95(配列識別番号2)のアミノ酸残基のGlu63、Glu104、およびAsp106は、P2X4の対応物と静電/芳香/疎水性相互作用を形成した。コンピュータモデリングにより、配列識別番号2のアミノ酸28-34、アミノ酸55-60、アミノ酸104-112、アミノ酸171-177、アミノ酸195-197、アミノ酸236-241においてscFv95のCDRが同定された。
【0041】
このように、本開示は、非オピオイド疼痛管理に有用な組成物及び方法を記載する。一般に、この組成物は、急性及び/又は慢性疼痛に関与するP2Xファミリー受容体に特異的に結合する抗体(例えば、P2X4)を含む。抗体は医薬組成物中で調製され得る。
【0042】
医薬組成物は、薬学的に許容可能なキャリアと共に処方され得る。本明細書中で使用される「キャリア」は、任意の溶媒、分散媒体、溶媒、コーティング、希釈剤、抗菌剤、及び/又は抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤、緩衝剤、キャリア溶液、懸濁液、コロイドなどを含む。医薬活性物質のためのそのような媒体及び/又は薬剤の使用は、当技術分野では周知である。任意の従来的な媒体又は薬剤が活性成分と不適合な場合を除いて、治療用組成物におけるその使用が意図される。又、補足活性成分を組成物に配合することもできる。本明細書中で使用される「薬学的に許容可能である」とは、生物学的又はその他の点でも望ましい材料を意味する、すなわち、その材料は、任意の望ましくない生物学的効果を引き起こすことなく、又はそれが含まれる薬学的組成物の他の成分のいずれかと有害な様式で相互作用することなく、抗体とともに個々に投与され得る。
【0043】
したがって、治療用抗体は、医薬組成物に配合され得る。医薬組成物は、好ましい投与経路に適合した種々の形態で処方することができる。したがって、組成物は、例えば、経口、非経口(例えば、皮内、経皮、皮下、筋肉内、静脈内、腹腔内など)、又は外用(例えば、鼻腔内、肺内、乳房内、膣内、子宮内、皮内、経皮、直腸など)を含む既知の経路を介して投与することができる。薬学的組成物は、例えば、鼻粘膜又は呼吸粘膜への投与(例えば、スプレー又はエアロゾルによる)によって、粘膜表面に投与することができる。組成物は又、持続的放出又は遅延放出により投与することができる。
【0044】
このように、抗体は、溶液、懸濁液、乳濁液、スプレー、エアロゾル、又は任意の形態の混合物を含むが、これらに限定されない任意の適切な形態で提供され得る。組成物は、任意の薬学的に許容可能な賦形剤、キャリア、又は溶媒を有する製剤で投与され得る。例えば、製剤は、クリーム、軟膏、エーロゾル製剤、非エーロゾルスプレー、ゲル、ローションなどの従来の局所投与形態で投与され得る。製剤は、例えば、補助剤、皮膚浸透増強剤、着色剤、芳香剤、香味料、保湿剤、増粘剤などを含む1つ以上の添加剤をさらに含み得る。
【0045】
製剤は、単位量投与形態で便利に提供され得、薬学の分野で周知の方法によって調製され得る。薬学的に許容可能なキャリアを有する組成物を調製する方法としては、抗体を1つ以上の補助成分を構成するキャリアと結合させる工程が挙げられる。一般に、製剤は、活性化合物を液体キャリア、微粉砕された固体キャリア、又はその両方と一様に及び/又は密接に会合させ、次いで、必要であれば、生成物を所望の製剤に形づくることによって調製され得る。
【0046】
投与される抗体の量は、投与される特異的抗体又は抗体フラグメント、被験体の体重、身体状態、及び/又は年齢、及び/又は投与経路を含む、これらに限定されない様々な因子に応じて変化し得る。したがって、所定の単位量投与形態に含まれる抗体の絶対重量は、広く変動し得るものであり、被験体の種族、年齢、体重及び身体状態、及び/又は投与方法などの因子に依存する。したがって、可能なすべての用途に有効な量の抗体を構成する量を一般的に記載することは現実的ではない。しかしながら、当業者は、そのような因子を十分に考慮して、適切な量を容易に決定することができる。
【0047】
いくつかの実施形態において、本方法は、例えば、約100ng/kgから約50mg/kgの用量を被験体に提供するのに充分な抗体を投与することを含むことができるが、いくつかの実施形態において、本方法は、この範囲外の用量で抗体を投与することによって実施され得る。これらの実施形態のいくつかにおいて、本方法は、被験体に約10μg/kgから約5mg/kgの用量、例えば、約1mg/kgから約4mg/kgの用量を提供するのに充分な抗体を投与することを含む。
【0048】
代替的に、治療過程の開始直前に得られた実際の体重を用いて用量を計算してもよい。この方法で計算された用量に対して、体表面積(m2)は、デュボイス法を用いて治療コースの開始前に計算される:m2=(体重kg0.425×身長cm0.725)×0.007184。いくつかの実施形態において、前記方法は、例えば、約0.01mg/m2から約10mg/m2までの用量を提供するのに充分な抗体を投与することを含むことができる。
【0049】
いくつかの実施形態において、抗体は、例えば、単回から週複数回に至るまで投与まされ得るが、いくつかの実施形態において、抗体をこの範囲外の頻度で投与することによって実施されることができる。又、一定期間内に複数回投与する場合には、各回の投与量が同じであっても、異なっていてもよい。例えば、1日当たり1mgの用量は、1mgの単回投与、2回の0.5mg投与、又は0.75mgの最初の投与、続いて0.25mgの2回目の投与として投与されてもよい。又、一定期間内に複数回投与を行う場合には、投与間隔が同じであっても、異なっていてもよい。特定の実施形態において、抗体は、月約1回から週約5回まで投与され得る。
【0050】
したがって、本開示では、非オピオイド疼痛管理の組成物及び方法について説明する。P2X4 scFv抗体の単回投与による治療は、慢性疼痛への移行(第3週)及び/又は疼痛の慢性化(第6週)を回復させる際の機械的アロディニア(異痛症)を回復させることができる。慢性疼痛モデルで試験された認知依存性記憶、不安様行動及びうつ病様行動、運動協調性は、対照のベースラインと同様である。未投与のベースラインに戻ることは、P2X4-scFv抗体処理雄マウスにおける神経機能の回復を意味し得る。さらに、三叉神経節ニューロン、後根神経節ニューロンの記録、及び神経障害を有する未処置マウスからのスライス記録により、活性化特性が変化していることがわかった。単回接種投与の成功は、サイトカインのミクログリア放出の効果的な阻害を反映している可能性がある。P2X4 scFvが有効であるように、慢性群の雌においては、亢進されたT細胞P2X4が充分である可能性がある。
【0051】
前述の説明及び以下の特許請求の範囲において、「及び/又は(and/or)」という用語は、列挙された要素の1つ又は全て、又は列挙された要素の任意の2つ以上の組合せを意味する;「含む(comprises)」、「含む(comprising)」という用語及びそれらの変形用語は、オープンエンド-即ち、追加の要素又は工程が付随的であり、存在するか又は存在しない可能性がある;特に明記しない限り、「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その(the)」、及び「少なくとも1つ(at least one)」は、互換的に使用され、1つ以上を意味する;エンドポイントによる数値範囲の列挙は、その範囲内に包含されるすべての数字を含む(例えば、1-5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5等を含む)。
【0052】
前述の説明において、特定の実施形態は、明確にするために分離して記載されることがある。特に特定の実施形態の特徴が他の実施形態の特徴と適合しないことを明記しない限り、特定の実施形態は、1つ以上の実施形態に関連し本明細書に記載された適合する特徴の組合せを含むことができる。
【0053】
別個の工程を含む本明細書に開示されたいずれの方法についても、その工程は実行可能な任意の順序で実施され得る。又、必要に応じて、2つ以上の工程の任意の組合せを同時に実施してもよい。
【0054】
本発明は、以下の実施例によって例示される。特定の例、材料、量、及び手順は、本明細書に示される本発明の範囲及び意図に従って広く解釈されることが理解されるべきである。
【0055】
実施例
[実施例1]-リボソームディスプレイ
P2X4に結合するscFvは、既報のように、N末端をビオチン化した13アミノ酸のP2X4ペプチドRDLAGKEQRTLTK(配列識別番号3)を用いて、リボソームディスプレイを介して生成され、特性評価され、検証された(Kunamneniら、2018年、PLoS ONE 13(11):e0205743;Kunamneniら、2019年、Am.J.Trop.Med.Hyg.101(1):198-206)。
【0056】
[実施例2]-無細胞リボソーム表示
P2X4受容体ペプチドフラグメント(13aa、RDLAGKEQRTLTK(配列識別番号3)、N末端ビオチン化)で週5回免疫したマウスの脾臓から、PCRによりV
H及びV
L遺伝子の組み合わせライブラリーを生成する。抗P2X4 scFv抗体の選択を
図7に示す。P2X4ペプチド「標的」(ビオチン化)を用いてストレプトアビジンプレートをコートする。in vitro転写/翻訳共役反応は、scFv抗体ライブラリー上で行われる。これらの鋳型は末端の終止コドンを除去しているので、タンパク質リボソーム複合体は失速し、したがってmRNAを保持することになる。その結果、あらかじめ形成された三者抗体リボソームmRNA(ARM)複合体は、標的ペプチドでコートしたチューブ中でインキュベートされる。3回の選択後、保持された抗体ARM複合体はRT-PCR(~750bp)によって回収される。濃縮された抗体遺伝子がpGEM T-Easyベクターにサブクローン化され、X L1-Blue大腸菌に形質転換される。scFvライブラリーから約1000個の白色コロニーを選択し、無作為に選んだ30%のクローンの配列を決定し、固有の抗体クローンを同定し、V
H及びV
L配列を決定する。選択された抗P2X4 scFvをコードする推定遺伝子が、大腸菌における細胞質発現のためにpET32aプラスミドにサブクローン化される。約100個のコロニーを選択し、粗溶解物の光学濃度に基づくスクリーニング法を用いて、間接ELISAで抗P2X4特異的scFvの存在についてスクリーニングする(一次スクリーニング)。scFv候補の選択を、P2X4受容体ペプチドELISAキット(MyBioSource、Inc.、San Diego、CA)を用いて、同様の条件下で陽性対照に対するscFv吸光度値の比に基づいて行う。最後に、一次スクリーニング後のscFv候補を発現、精製し、その親和性を表面プラズモン共鳴(SPR)マイクロアレイ(二次スクリーニング)により決定し、速度定数(k
on及びk
off)を決定する。親和性の順位は、同じ条件下での正の制御に対するscFv K
Dの比率として定義される。
【0057】
[scFvのタンパク質発現、精製、認証]
P2X4受容体scFvは、原核生物発現ベクターpET32aからのC末端6×His融合の形成で発現される。1mLのHisTrap HP列(GE Healthcare)を用いて、構築したpET32aプラスミドをRosetta gamiB(DE3)コンピテント細胞にトランスフェクトして発現させ、精製する。標的P2X4受容体へのscFv抗体の結合は、ウェスタンブロット及びELISA分析により測定する。高い反応性を示すscFvクローンについては、CCK及びP2Xファミリータンパク質に対する交差反応性をさらに分析する。これは、他のP2Xファミリー受容体に対し、有意な交差反応性を有するP2X特異的scFvを選択するために行われる。
【0058】
[計算モデリング]
scFvとラットP2X4Rペプチド間の相互作用を決定するために用いられる高度な計算プロトコルには、いくつかの工程が含まれる。
I-TASSER分析(Zhang、2008年、BMC Bioinformatics 9:40;Royら、2010年、Nat Protocol 5:725-728;Yangら、2015年、Nat Methods 12:7-8;Yangら、2016年、Proteins 84:233-246)が、アミノ酸配列からタンパク質分子の三次元構造モデルの生成に用いられる。予測された構造モデルは、高分解能タンパク質構造精密化(Zhuら、2014年、Proteins 82(8):1646-1655;Schrodinger 2020-2、Schrodinger, Inc.、New York、NY) ModRefiner(Xu、D.及びZhang,Y、2011年、Biophys J 101(10):2525-2534)、及びフラグメント誘導分子動力学(FG-MD)シミュレーション(Zhangら、2011年、Structure 19:1784-1795)を用いて検証される。
【0059】
[分子ドッキング]
改良モデルは、高速フーリエ変換(FFT)に基づくプログラムPIPER (Kozakovら、2006年、Proteins 65(2):392-406)に従いドッキングする。ドッキングの結果は、LIGPLOT (Wallaceら、1996年、Protein Eng 8:127-134)を用いて検証する。インタラクティブマップは、水素結合、π-π相互作用、側鎖結合、主鎖の水素結合などの相互作用を識別する。リガンド-タンパク質インタラクティブマップは、P2X4R scFvとP2X4Rタンパク質の位置と相互作用するアミノ酸の予測にも用いられる。
【0060】
[分子動力学(MD)シミュレーション]
選択したドッキングモデルに対する分子動力学シミュレーションの研究は、OPLS3力場(Harderら、2016年、J Chem Theory Comput 12(1):281-296)と共にシュレーディンガーソフトウェアのデズモンドモジュール(Schrodinger 2020-2;Schrodinger, Inc.、New York、NY)を用いて実施される。タンパク質-リガンド複合体は、直方晶格子中の予め定義されたTIP3P水モデル(Jorgensenら、1983年、J Chem Phys 79:926)中のPOPC脂質二重層に埋め込まれる。格子の容量を最小限にし、Na+又はCl-イオンと0.15mMのNaClを加えて、生理的状態に近い状態を作ることにより、系全体の電荷を中和する。温度及び圧力は、Nose-Hoover保温装置(Hooverら、1985年、J Chem Phys 83:4069)及びMartyna-Tobias-Klein恒圧装置(Martynaら、1994年、Mol Phys 87:1117)を用いて、シミュレーションを通して300K及び1.01325barで一定に保たれる。このシミュレーションは、原子数、圧力、及びタイムスケールを考慮して、タンパク質及び膜の集合体のNPガンマT集合体を用いて100ns以上で実施される(Ikeguchi、2004年、J Comput Chem 25(4):529-41)。シミュレーションにおいては、長距離静電相互作用がParticle-Mesh-Ewald法を用いて計算され(Essmannら、1995年、J Chem Phys 103:8577-8593)、全集合体は剛体充填物として構築され(Ikeguchi、2004年、J Comput Chem 25(4):529-41)、シミュレーション中に1.2キロジュールのエネルギーで徐々に弛緩される。
【0061】
ここに引用される全ての特許、特許出願、出版物、及び電子的に利用可能な資料(例えば、GenBank及びRefSeq等におけるヌクレオチド配列の提出、SwissProt、PIR、PRF、PDB及びGenBank等におけるアミノ酸配列の提出、及びGenBank及びRefSeqにおける注釈付きコード領域からの翻訳を含む)の完全な開示は、参照により全体に援用される。本願の開示と、参照によりここに組み込まれた文書の開示との間に何らかの矛盾が存在する場合には、本願の開示が適用される。理解を明確にするためにのみ、前述の詳細な説明と実施例が示されている。それらから、不要な制限を受けることはないことを理解されたい。当業者にとって明白な変形は請求項により定義される本発明内に包含されるため、本発明は、図示及び説明された厳密な詳細に限定されない。
【0062】
特に明記しない限り、明細書及び請求項で使用される成分、分子量等の量を表す数は全て、「約(about)」という用語によって全ての例で修飾されていると理解されたい。したがって、特に明記しない限り、明細書及び請求項に記載されている数的パラメータは、本発明によって得られるであろう所望の特性に応じて変化し得る近似値である。少なくとも、均等論を特許請求の範囲に限定する試みとしてではなく、各数値パラメータは、少なくとも、報告された有意な数値に照らして、及び通常の端数処理方法を適用することによって解釈されるべきである。
【0063】
本発明の広範な発明範囲を記載する数値範囲及びパラメータは、近似であるにもかかわらず、具体的な実施例に示された数値は可能な限り正確に報告されている。しかし、すべての数値には、本質的に、それぞれの試験測定で認められた標準偏差から必然的に生じる範囲が含まれる。
【0064】
見出しは全て読者の便宜のためのものであり、明記しない限り、見出しに続く本文の意味を限定するために使用してはならない。
【0065】
配列表テキスト
配列識別番号1-scFv12
MADVKLQESG PGLVKPSQSL SLTCSVTGYS
ITSGYYWNWI RQFPGNKLEW MGYISYDGSN
NYNPSLKNRI SITRDTSKNQ FFLKLNSVTT EDTATYYCAR SDYDLYYYAM
DYWGQGTSVT
VSSAKTTPPS GGGGSGGGGS GGGGGSGGGG SDIVMTQSPA TLSVTPGDRV SLSCRASQSI
SDYLHWYQQK SHESPRLLIK YASQSISGIP SRFSGSGSGS DFTLSINSVE PEDVGVYYCQ
NGHSFPLTFG SGTKLEIKRA DAAALE
CDR:太字下線部
配列識別番号2-scFv95
MAEVKLVESG GGLVQPGGSL RLSCATSGFT
FTDYYMSWVR QPPGKALEWL GFIRNKANGY
TTEYSASVKG RFTISRDNSQ SILYLQMNTL RAEDSATYYC ARWEGDLLYA
MDYWGQGTSV
TVSSGGGGSG GGGSGGGGGS GGGGSDIQMT QTTSSLSASL GDRVTISCSA SQGISNYLNW
YQQKPDGTVK LLIYYTSSLH SGVPSRFSGS GSGTDYSLTI SNLEPEDIAT YYCQQYSKLP
WTFGGGTKLE IKRADAAALE
CDR:太字下線部
配列識別番号3
RDLAGKEQRT LTK
【配列表】
【国際調査報告】