(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-21
(54)【発明の名称】クロスフロー水電解
(51)【国際特許分類】
C25B 15/02 20210101AFI20221114BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20221114BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20221114BHJP
C25B 11/046 20210101ALI20221114BHJP
【FI】
C25B15/02
C25B9/00 A
C25B1/04
C25B11/046
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022514587
(86)(22)【出願日】2020-08-19
(85)【翻訳文提出日】2022-04-19
(86)【国際出願番号】 EP2020073215
(87)【国際公開番号】W WO2021043578
(87)【国際公開日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】102019123858.7
(32)【優先日】2019-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517357918
【氏名又は名称】ティッセンクルップ・ウーデ・クロリンエンジニアズ ゲー エム ベー ハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】クールマン,イェンス・ヴィルヘルム
(72)【発明者】
【氏名】ハーマン,ディルク
(72)【発明者】
【氏名】コルベ,ヨルグ
(72)【発明者】
【氏名】ルーク,ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】ポルシン,グレゴール・ダミアン
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA17
4K011AA18
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021BB01
4K021BB03
4K021BB04
4K021BB05
4K021DB12
4K021DB19
(57)【要約】
本発明は、電解プロセス全体を通して電解質濃度を一定に保つために、アノード半電池とカソード半電池との間の回路内で電解質がポンプ圧送される、水のアルカリ電解のための方法に関する。この手順により、先行技術からの既知の欠点、例えばドナン電位の形成およびフロー電流の形成を実質的に排除することができ、それによって方法のエネルギー収率および有効性が改善される。本発明はまた、前記方法を実行することができる電解装置に関する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質を用いて、電解セルと、カソードガスセパレータと、アノードガスセパレータと、前記電解質用の第1の液体リザーバと、前記第1の液体リザーバから分離した前記電解質用の第2の液体リザーバとを少なくとも備える電解槽において水をアルカリ電解するための方法であって、
前記電解セルが、アノードを有するアノード半電池と、カソードを有するカソード半電池と、前記アノード半電池と前記カソード半電池との間に配置されたセパレータとを備え、
前記電解質で満たされた前記電解槽に、電解を実施するように電流が印加され、
前記第1の液体リザーバから電解質が前記アノード半電池に供給され、前記アノード半電池から流出するアノード液が前記アノードガスセパレータに供給され、そこでガスが前記アノード液から分離され、
前記第2の液体リザーバから電解質が前記カソード半電池に供給され、前記カソード半電池から流出するカソード液が前記カソードガスセパレータに供給され、そこで前記カソード液からガスが分離され、
前記アノードガスセパレータからのガスが取り除かれたアノード液が前記第2の液体リザーバに戻され、前記カソードガスセパレータからのガスが取り除かれたカソード液が前記第1の液体リザーバに戻されること
を特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記電解質が水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液が、8重量%~45重量%、好ましくは10重量%~40重量%の範囲内の濃度で使用されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記電解槽においてセル容積に対する電解質流量が、1~6L
電解質/h・L
半電池容積、好ましくは2~4L
電解質/h・L
半電池容積の範囲内で確立されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記電解が、50~95℃、好ましくは65~92℃、より好ましくは70~90℃の範囲内の温度で行われることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記電解が、最大30バール、好ましくは最大5バールの範囲内の圧力で行われることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記電解が、最大25kA/m
2、好ましくは最大15kA/m
2の範囲内の電流密度で行われることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
水を水素および酸素に電解分割するための装置であって、アノードを有するアノード半電池と、カソードを有するカソード半電池と、前記アノード半電池と前記カソード半電池との間に配置されたセパレータとを備え、
前記アノード半電池および前記カソード半電池はそれぞれ、アノード半電池およびカソード半電池から分離された液体リザーバと流体連通し、前記アノード半電池および前記カソード半電池はそれぞれ、前記アノード半電池および前記カソード半電池から分離されたガスセパレータと流体連通し、
前記アノード半電池の前記ガスセパレータが前記カソード半電池の前記液体リザーバと流体連通し、前記アノード半電池の前記液体リザーバと流体連通しないこと、および前記カソード半電池の前記ガスセパレータが前記アノード半電池の前記第1の液体リザーバと流体連通し、前記カソード半電池の前記第1の液体リザーバと流体連通しないことを特徴とする、装置。
【請求項9】
前記セパレータが、半透性隔膜または過フッ素化スルホン膜を有することを特徴とする、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記アノードが、ニッケル含有材料、好ましくはニッケルからなることを特徴とする、請求項8または9に記載の装置。
【請求項11】
前記カソードが、ニッケル含有材料、好ましくはニッケルからなることを特徴とする、請求項8~10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記アノードおよび/または前記カソードが、ワイヤメッシュ電極として、またはエキスパンドメタルもしくはパンチド・シート・メタルの形態で存在することを特徴とする、請求項8~11のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
説明
本発明は、電解プロセス全体を通して電解質濃度を一定に保つように、アノード半電池とカソード半電池との間の回路内で電解質がポンプ圧送される、水のアルカリ電解のためのプロセスに関する。ドナン電位の形成およびフロー電流の形成などの不利益は、このプロセスレジームによって大幅に抑制することができる。本発明はさらに、特定のプロセスを実行することができる電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水電解の原理は約200年間知られており、水から水素および酸素ガスを生成するために使用されている。技術的観点から、酸性水電解は今日ではわずかな役割しか果たさないが、アルカリ電解プロセスは大規模な商業的用途を見出している。アルカリ電解では、約25~30%のアルカリ溶液、例えば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム溶液の形態が電解質として使用され、セルに印加される電流に曝露される。ここで、結果として生じる生成ガス(酸素および水素)が混合するのを防止するために、分離したカソード回路およびアノード回路を使用することが一般的である。電気は、カソードでの水素およびアノードでの酸素の発生をもたらす。
【0003】
水素は、例えば天然ガス、石油または石炭を使用してより安価に生成することができたので、水電解は以前は水素の生成にあまり重要ではなかったが、水電解は今日重要性が増しつつある。これは、一方では、石油およびガスなどの再生不可能な原材料がますます不足しているためであるが、その重要性の増大は、風力または太陽光から生成され、したがって継続的に利用できない電力の利用可能性の高まりによっても説明することができる。電解反応を、例えば燃料電池と組み合わせて利用して発電の恒常性を維持することができる。なぜなら、余剰電気エネルギーが利用可能であればいつでも、水を水素と酸素とに分離することができ、エネルギー需要が高い場合にこれを燃料電池の援助でエネルギーに再び変換できるからである。さらに、一酸化炭素または二酸化炭素の添加によって水素がメタンに変換され、好ましくは熱を発生させるために、これを次いで天然ガスグリッドに供給することができる。最後に、生成された水素を低比率で天然ガスと混合し、燃焼させて、例えば熱を発生させることもできる。
【0004】
今後、風力または太陽光からの間欠電力の発電が大幅に増加することが予想されるため、余剰エネルギーの貯蔵効率を高める努力がなされている。水からの水素の生成に現在もなお関連している問題は、市場で入手可能な電解装置のエネルギー収率/効率が不十分であることである。例えば、水の電解におけるエネルギー効率は、現在一般に約70%であるが、ほぼ80%の効率を有するいくつかの電解装置が既に利用可能である。
【0005】
それにもかかわらず、特に蓄電池などの代替的な蓄電技術と比較した場合、それらの効率には依然として改善の余地がある。しかしながら、水は十分な量で入手可能であり、水素を貯蔵するのに十分な容量もあるため、蓄電池と比較すると、水電解は、貯蔵できるエネルギーの量が実質的に無制限であるという大きな利点を有する。
【0006】
記載された状況の背景に対して、既知の電解プロセスよりも改善された効率を有する電解プロセスが必要とされている。
【0007】
従来知られて使用されている水電解プロセスでは、互いに分離されたアノードおよびカソード電解質回路が今日よく使用され、すなわち、カソード回路とアノード回路との間で電解質の交換はない(「分離サークル」プロセスとも呼ばれる)。しかしながら、この種のプロセスレジームは、電解プロセスの過程で、アノード側とカソード側との間でアルカリ電解質の濃度の差が蓄積するという欠点を有する。これは、ドナン電位の形成に起因するセル電圧の上昇をもたらし、装置の効率に悪影響を及ぼす。そのようなプロセスレジームの例は、例えば、カチオン交換膜によって分離されたカソード側およびアノード側を有する電解セルを開示する国際公開第2015/007716A1号に記載されている。本出願は、可能な限り最高の純度の酸素および水素を提供することを目的としており、これは、カソード電解液とアノード電解液との混合を回避するためにここで細心の注意を払わなければならないことを意味する。
【0008】
別の手法では、電解質は、個々の場合において、カソード半電池およびアノード半電池を別々のサイクルで通過する。次いで、アノード半電池およびカソード半電池から排出された電解質留分は、共通のタンクに流れ、混合された後、電解質はカソード半電池およびアノード半電池にリサイクルされる(「分割サークル」プロセスとも呼ばれる)。しかしながら、この代替プロセスもまた、次にドナン電位をもたらし、したがって装置の効率を低下させる、2つの半電池間の電解質濃度差の欠点に関連している。
【0009】
さらに、分割サークルプロセスは、高い電流密度では、共通タンクにわたって交差電流が発生する可能性があるという問題を有する。これもまた、プロセスの効率に悪影響を及ぼす。これらの種々の欠点の原因は、電気化学反応自体だけでなく、分割サークルプロセスにおけるアノード側とカソード側との間の電解接続でもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2015/007716A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来技術の欠点を可能な限り回避することを追及しながら、同時に水電解において可能な最高の効率を確保するという課題に関係する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するために、本発明は、一実施形態では、電解セルと、カソードガスセパレータと、アノードガスセパレータと、電解質用の第1の液体リザーバと、第1の液体リザーバから分離した電解質用の第2の液体リザーバとを少なくとも備える電解槽において、電解質を用いて水をアルカリ電解するためのプロセスであって、電解セルは、アノードを有するアノード半電池と、カソードを有するカソード半電池と、アノード半電池とカソード半電池との間に配置されたセパレータとを備え、電解質で満たされた電解槽に、電解を実施するように電流が印加され、第1の液体リザーバから電解質がアノード半電池に供給され、アノード半電池から流出したアノード液がアノードガスセパレータに供給され、そこでガスがアノード液から分離され、第2の液体リザーバから電解質がカソード半電池に供給され、カソード半電池から流出するカソード液がカソードガスセパレータに供給され、そこでカソード液からガスが分離され、アノードガスセパレータからのガスが取り除かれたアノード液が第2の液体リザーバに戻され、カソードガスセパレータからのガスが取り除かれたカソード液が第1の液体リザーバに戻されることを特徴とするプロセスを提案する。
【0013】
この種のプロセスレジームでは、アノード半電池およびカソード半電池内のほぼ一定の電解質濃度が最初に観察され、これはプロセスレジームに必要な低電圧で明示される。次に、驚くべきことに、電解質がアノード半電池からカソード半電池に供給されているにもかかわらず、電解質に溶解したガス留分による生成ガスの混合は極小のみであり、この移動がppmレンジであることが観察された。
【0014】
上述のセパレータは、好ましくは隔膜、特に半透性隔膜である。言及され得る適切な隔膜材料の例は、酸化ジルコニウム/ポリスルホン酸膜である。本発明の文脈において適切な別の隔膜材料は、欧州特許出願公開第0126490A1号に記載されているものなどの酸化物-セラミック材料である。
【0015】
あるいは、セパレータは膜、但し、特にカチオン交換膜であってもよい。そのような膜は、スルホン化ポリマー、特に過フッ素化スルホン化ポリマーに基づくことができ、例えばDuPontからNafionの商品名で入手可能である。特に適切なカチオン交換膜は、燃料電池用途に一般的に使用されるような、非補強単層スルホン化膜である。
【0016】
本発明によるプロセスで使用される電解質は、好ましくはアルカリ水溶液であり、より好ましくは水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液である。これらのアルカリ溶液の濃度は、有利には8重量%~45重量%の範囲内、より好ましくは20重量%~40重量%の範囲内である。
【0017】
セル容積に対するアノード半電池およびカソード半電池を通る電解質流量に関して、本発明はいかなる有意な制限も受けず、流量はカソード半電池およびアノード半電池のサイズによっても誘導されることが当業者には明らかであろう。電解反応の過程でカソード半電池およびアノード半電池内の電解質の間に有意な濃度差が生じ得ないように、流量は十分に高くなければならないが、高流量はポンピング力に関係するエネルギーコストの上昇に関連し、非常に高い流量がプロセスの効率を低下させることを意味する。セル容積に対して特に適切な電解質流量は、本発明の文脈において、1~6L電解質/h・L半電池容積、特に2~4L電解質/h・L半電池容積の範囲であることが分かった。
【0018】
温度に関して、温度の上昇はイオン移動性の上昇をもたらし、これは、より高い温度が効率にプラスの効果を有することを意味する。しかしながら、電解セルの材料に対する電解質の攻撃性および電解質の蒸気圧が、特に強アルカリ性電解質の場合に増加し、これによって電解槽の構築に使用される材料に課される要求が大きくなる。電解プロセスの実行中の温度は、特に適切には50~95℃の範囲内、好ましくは65~92℃の範囲内、より好ましくは70~90℃の範囲内である。
【0019】
本発明による方法は、有利には、大気圧を超える圧力で電解を実施することによってさらに洗練され得る。例えば、電解は、1~30バール、特に5~20バールの範囲内の圧力で行うことができる。より高い圧力は、電解プロセス中に生成されたガスが電解質に溶解したままであるという利点を有するが、標準圧力では、それらは気泡として放出され得、電解質の抵抗を増加させる。しかしながら一方で、より高い圧力によって材料への全体的な要求も高まるので、コストの理由から、1バール以下、好ましくは500ミリバール以下、特に好ましくは250バール以下で大気圧を超える圧力でプロセスを実行することが道理にかなっている。
【0020】
本発明によるプロセスでは、最大25kA/m2、好ましくは最大15kA/m2の範囲内の電流密度で電解が行われる場合も有利である。3kA/m2未満の電流密度では、プロセスの効率が低下する。25kA/m2を超える電流密度は、一般に、経済的観点から好ましくないような高い要求を材料に課す。
【0021】
上記のプロセスでは、カソードガスセパレータおよびアノードガスセパレータからの電解質が導入される、電解質用の第1の液体リザーバと、第1の液体リザーバとは別個の電解質用の第2の液体リザーバとを有する電解槽が使用される。プロセスは、有利には、別個の液体リザーバの使用に備えるが、これらは、電解質がそれぞれのガスセパレータから液体リザーバを通過することなく、それぞれの他の半電池に導入される場合(すなわち、カソードガスセパレータからアノード半電池へ、およびその逆)には必要ではない。
【0022】
したがって本発明のさらなる態様は、電解セルと、カソードガスセパレータと、アノードガスセパレータとを少なくとも備える電解槽において、電解質を用いて水をアルカリ電解するためのプロセスであって、電解セルは、アノードを有するアノード半電池と、カソードを有するカソード半電池と、アノード半電池とカソード半電池との間に配置されたセパレータとを備え、電解質で満たされた電解槽に、電解を実施するように電流が印加され、カソードガスセパレータからの電解質がアノード半電池のみに供給され、アノード半電池から流出したアノード液がアノードガスセパレータに供給され、そこでガスがアノード液から分離され、アノードガスセパレータからの電解質がカソード半電池のみに供給され、カソード半電池から流出するカソード液がカソードガスセパレータに供給され、そこでカソード液からガスが分離されるプロセスに関する。
【0023】
このプロセスの好ましい実施形態については、類推によってこのプロセスに適用される上記の記述が参照される。
【0024】
本発明のさらなる態様は、水を水素および酸素に電解分割するための装置に関し、装置は、アノードを有するアノード半電池と、カソードを有するカソード半電池と、アノード半電池とカソード半電池との間に配置されたセパレータとを備え、アノード半電池およびカソード半電池はそれぞれ、アノード半電池およびカソード半電池から分離された液体リザーバと流体連通し、アノード半電池およびカソード半電池はそれぞれ、アノード半電池およびカソード半電池から分離されたガスセパレータと流体連通する。この装置では、アノード半電池のガスセパレータは、カソード半電池の液体リザーバと流体連通し、アノード半電池の液体リザーバと流体連通しない一方で、カソード半電池のガスセパレータは、アノード半電池の第1の液体リザーバと流体連通し、カソード半電池の第1の液体リザーバと流体連通しない。後者は、装置を分割サークルプロセスを実行するための装置と識別する。ここではそれぞれのガスセパレータが、電解質がアノード半電池およびカソード半電池の両方に供給される共通の液体リザーバと流体連通しているからである。
【0025】
本発明によるこの装置の状況におけるセパレータとして適しているのは、特に、本発明による方法について上記で特定された材料である。
【0026】
本発明による装置では、電解質は、好適な送り込みおよび送り出し装置を用いて、セルのそれぞれの半電池に有利に導かれる。これは、例えばポンプを用いて行うことができる。
【0027】
本発明による装置は、特に電解セルの領域においては、有利には電解質によって腐食されない、またはごくわずかな程度でのみ腐食される材料で作製される。そのような材料の例はニッケルであるが、PPSでもあり、電解質中のアルカリ濃度に応じてニッケル合金化ステンレス鋼でもある。
【0028】
さらに、本発明による装置は、アノードがニッケル含有材料からなる場合に有利に設計される。好適なニッケル含有材料の例は、Ni/AlもしくはNi/Co/Fe合金、またはペロブスカイトもしくはスピネル型のものなどの金属酸化物でコーティングされたニッケルである。特に好適な金属酸化物は、この状況では、ランタンペロブスカイトおよびコバルトスピネルである。特に好適なアノード材料は、Co3O4でコーティングされたNi/Alである。ここでアノードは、電解質液と直接接触している電解の構成要素のみを指す。
【0029】
それに加えて、またはそれとは独立して、カソードがニッケル含有材料からなる場合が好ましい場合がある。カソードに適したニッケル含有材料は、Ni-Co-Zn、Ni-MoまたはNi/Al/Mo合金またはラネーニッケル(Ni/Al)である。さらに、カソードはまた、アルミニウムの一部または大部分が多孔質表面を形成するように抽出されたラネーニッケルから作製されてもよい。ほぼニッケルからなり(すなわち、少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%の程度まで)、Pt/C(白金担持炭素)のコーティングを有するカソードを使用することも可能である。
【0030】
アノードおよび/またはカソードがワイヤメッシュ電極として、またはエキスパンドメタルもしくはパンチド・シート・メタルの形態で存在する場合がさらに好ましく、少なくともアノードがそのような形態である場合が好ましい。この場合、アノードに触媒コーティングを提供することもできる。カチオン交換膜がセパレータとして使用される場合、アノードは、有利には膜と直接接触して配置される。
【0031】
アノードはまた、集電体を介してアノード半電池の壁と接触してもよく、この集電体は、多孔質金属構造体、例えばニッケルまたは鋼の発泡体またはワイヤメッシュからなり得る。同様に、カソードはまた、同様に多孔質金属構造体、例えばニッケルまたは鋼の発泡体またはワイヤメッシュからなり得る集電体を介してカソード半電池の壁と接触してもよい。
【0032】
本発明によるプロセスまたは本発明による装置に特に有利に含めることができる電解セルは、例えば国際公開第2015/007716A1号に記載されている。
【0033】
上記の装置についても、フローの方向においてアノード半電池およびカソード半電池の上流に接続された液体リザーバを有することは、絶対に必要というわけではない。カソードガスセパレータから流出する電解質がアノード半電池にのみ供給され、アノードガスセパレータから流出する電解質がカソード半電池にのみ供給されることが保証される限り、これらの液体リザーバは省略することができる。さらなる実施形態では、本発明はしたがって、水を水素および酸素に電解分割するための装置に関し、装置は、アノードを有するアノード半電池と、カソードを有するカソード半電池と、アノード半電池とカソード半電池との間に配置されたセパレータとを備え、アノード半電池およびカソード半電池はそれぞれ、アノード半電池およびカソード半電池から分離されたガスセパレータと流体連通する。この装置では、アノード半電池のガスセパレータは、カソード半電池と流体連通し、アノード半電池と流体連通しない一方で、カソード半電池のガスセパレータは、アノード半電池と流体連通し、カソード半電池と流体連通しない。
【0034】
上記のように、電解プロセスによって電解質から水が除去され、電解質の濃度の上昇を回避するために、電解プロセスに水を添加することによって電解プロセスの過程中に有利にこれを補正しなければならない。この目的のために、本発明による装置は、好ましくは、電解質回路に水を供給する導管を有する。水は、原則として、電解質回路内の任意の場所、例えばカソード半電池および/もしくはアノード半電池の液体リザーバの領域、カソード半電池および/もしくはアノード半電池のガスセパレータの領域、ならびに/またはカソード半電池および/もしくはアノード半電池の領域、または本発明による装置のこれらの構成要素を結合する導管において添加され得る。しかしながら、カソード半電池および/またはアノード半電池には、プロセスの効率を低下させ得る不均一な電解質濃度が形成されるリスクがあるため、水が添加されないことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】アノード半電池およびカソード半電池用の電解質フローが別々のサイクルとして送られる、先行技術のプロセスを説明する図である。電解セル1は、アノード半電池2およびカソード半電池3によって形成され、これらはセパレータ4によって互いに分離されている。アノード半電池およびカソード半電池の両方は、カソード半電池およびアノード半電池それぞれのフロー方向の下流に接続されたそれぞれのガスセパレータ5および6を有する。ガスセパレータでは、アノード半電池およびカソード半電池で生成されたガスは、液体から分離され、次いで、それぞれ別々の液体リザーバ7および8に流入し、そこから電解質がアノード半電池2およびカソード半電池3にフィードバックされる。
【
図2】先行技術で分割サークルプロセスとして知られているプロセスを説明する。これは、2つの別々の液体リザーバ7および8の代わりに共通の液体リザーバ9があり、そこにそれぞれのガスセパレータ5および6から排出される電解質フローが供給され、それらはそこから個々のケースにおいて別々にアノード半電池およびカソード半電池に導かれることを除いて、別々の電解質サイクルを有するプロセスと類似の方法で実行される。
【
図3】本発明によるプロセスを説明し、これはアノード半電池のガスセパレータ5から得られた電解質フローがカソード半電池の液体リザーバ8にのみ導入され、カソード半電池のガスセパレータ6からの電解質フローがアノード半電池の液体リザーバ7にのみ導入されるという点で、別々の電解質サイクルを有するプロセスとは異なる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
上記のような様々なセルを電解槽のモジュール要素として使用できることは、当業者には明らかであろう。例えば、電気的に直列に接続された2つ以上のセルの配列が存在し得る電解槽を得ることができる。
本発明は、いくつかの実施例を参照して以下により詳細に説明されるが、本出願の保護範囲を限定するものとして理解されるべきではない。
【0037】
[実施例]
[実施例1]
電解質液が別々のサイクルで電解セルのカソード半電池およびアノード半電池を通って供給される先行技術による電解装置を、対応する本発明によるプロセスレジームと比較した。このために、それぞれの電解装置に様々なNaOH濃度を有する電解質を充填した。使用された電解セルは、120cm2の表面積を有するセルであった。電解は、いずれの場合も80℃の温度で行った。
プロセスを6kA/m2の電流密度でしばらく(30分間)実行した後、アノード半電池およびカソード半電池の水酸化ナトリウム濃度および電圧をその都度決定した。結果を以下の表1に示す。
【0038】
【0039】
[実施例2]
さらなる実験では、本発明によるプロセスレジームを、アノード半電池およびカソード半電池のガスセパレータから排出される電解質が共通の液体リザーバに供給されるプロセスレジーム(分割サークルプロセス)と比較した。これらの測定も、80℃の温度および6kA/m
2の電流密度で行った。この実験では、電解質中のNaOH濃度の推移をその都度経時的に測定した。これらの調査の結果を
図4に示す。
【0040】
調査は、分割サークルプロセス(
図2)に従ってプロセスレジームを実行した場合、アノード半電池とカソード半電池との間のNaOH濃度の有意差を約30分後に既に検出できることを見出した(濃度は、両側のNaOHの初期濃度が31.3重量%の場合に、アノード側(
図4の1)で約30.5重量%であり、カソード側(
図4の2)で約32.7重量%であった)。対照的に、本発明によるプロセスレジームでは、NaOH濃度は、アノード側(
図4の3)では約31.3重量%から31.4重量%まで、カソード側(
図4の4)では31.4重量%から約31.5重量%まで、わずかに増加しただけであった。
【0041】
したがって、本発明によるプロセスレジームでは、電解質中の水酸化ナトリウム濃度は経時的にほぼ一定のレベルを確立することができ、これは別々のサイクルを有するプロセスレジーム、または電解質が共通のリザーバ内で断続的に混合されるプロセスレジームのいずれにおいても不可能であることが分かる。これにより電圧がかなり低下する。
【符号の説明】
【0042】
1 電解槽
2 アノード半電池
3 カソード半電池
4 セパレータ
5 アノード半電池のガスセパレータ
6 カソード半電池のガスセパレータ
7 アノード半電池の液体リザーバ
8 カソード半電池の液体リザーバ
9 アノード半電池およびカソード半電池用の共通液体リザーバ
【手続補正書】
【提出日】2022-04-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質を用いて、電解セルと、カソードガスセパレータと、アノードガスセパレータと、前記電解質用の第1の液体リザーバと、前記第1の液体リザーバから分離した前記電解質用の第2の液体リザーバとを少なくとも備える電解槽において水をアルカリ電解するための方法であって、
前記電解セルが、アノードを有するアノード半電池と、カソードを有するカソード半電池と、前記アノード半電池と前記カソード半電池との間に配置されたセパレータとを備え、
前記電解質で満たされた前記電解槽に、電解を実施するように電流が印加され、
前記第1の液体リザーバから電解質が前記アノード半電池に供給され、前記アノード半電池から流出するアノード液が前記アノードガスセパレータに供給され、そこでガスが前記アノード液から分離され、
前記第2の液体リザーバから電解質が前記カソード半電池に供給され、前記カソード半電池から流出するカソード液が前記カソードガスセパレータに供給され、そこで前記カソード液からガスが分離され、
前記アノードガスセパレータからのガスが取り除かれたアノード液が前記第2の液体リザーバに戻され、前記カソードガスセパレータからのガスが取り除かれたカソード液が前記第1の液体リザーバに戻されること
を特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記電解質が水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液が、8重量%~45重量%
の範囲内の濃度で使用されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液が、10重量%~40重量%の範囲内の濃度で使用されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記電解槽においてセル容積に対する電解質流量が、1~6L
電解質/h・L
半電池容積
の範囲内で確立されることを特徴とする、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記電解槽においてセル容積に対する電解質流量が、2~4L
電解質
/h・L
半電池容積
の範囲内で確立されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記電解が、50~95℃
の範囲内の温度で行われることを特徴とする、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記電解が、65~92℃の範囲内の温度で行われることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記電解が、70~90℃の範囲内の温度で行われることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記電解が、最大30バール
の範囲内の圧力で行われることを特徴とする、請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記電解が、最大5バールの範囲内の圧力で行われることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記電解が、最大25kA/m
2
の範囲内の電流密度で行われることを特徴とする、請求項1~
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記電解が、最大15kA/m
2
の範囲内の電流密度で行われることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
水を水素および酸素に電解分割するための装置であって、アノードを有するアノード半電池と、カソードを有するカソード半電池と、前記アノード半電池と前記カソード半電池との間に配置されたセパレータとを備え、
前記アノード半電池および前記カソード半電池はそれぞれ、アノード半電池およびカソード半電池から分離された液体リザーバと流体連通し、前記アノード半電池および前記カソード半電池はそれぞれ、前記アノード半電池および前記カソード半電池から分離されたガスセパレータと流体連通し、
前記アノード半電池の前記ガスセパレータが前記カソード半電池の前記液体リザーバと流体連通し、前記アノード半電池の前記液体リザーバと流体連通しないこと、および前記カソード半電池の前記ガスセパレータが前記アノード半電池の前記第1の液体リザーバと流体連通し、前記カソード半電池の前記第1の液体リザーバと流体連通しないことを特徴とする、装置。
【請求項15】
前記セパレータが、半透性隔膜または過フッ素化スルホン膜を有することを特徴とする、請求項
14に記載の装置。
【請求項16】
前記アノードが、ニッケル含有材料
からなることを特徴とする、請求項
14または
15に記載の装置。
【請求項17】
前記アノードが、ニッケルからなることを特徴とする、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記カソードが、ニッケル含有材料
からなることを特徴とする、請求項
14~17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
前記カソードが、ニッケルからなることを特徴とする、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記アノードおよび/または前記カソードが、ワイヤメッシュ電極として、またはエキスパンドメタルもしくはパンチド・シート・メタルの形態で存在することを特徴とする、請求項
14~19のいずれか一項に記載の装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正書】
【提出日】2022-11-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】手続補正書
【補正対象項目名】手続補正5
【補正方法】追加
【補正の内容】
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0035
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0035】
【
図1】アノード半電池およびカソード半電池用の電解質フローが別々のサイクルとして送られる、先行技術のプロセスを説明する図である。電解セル1は、アノード半電池2およびカソード半電池3によって形成され、これらはセパレータ4によって互いに分離されている。アノード半電池およびカソード半電池の両方は、カソード半電池およびアノード半電池それぞれのフロー方向の下流に接続されたそれぞれのガスセパレータ5および6を有する。ガスセパレータでは、アノード半電池およびカソード半電池で生成されたガスは、液体から分離され、次いで、それぞれ別々の液体リザーバ7および8に流入し、そこから電解質がアノード半電池2およびカソード半電池3にフィードバックされる。
【
図2】先行技術で分割サークルプロセスとして知られているプロセスを説明する。これは、2つの別々の液体リザーバ7および8の代わりに共通の液体リザーバ9があり、そこにそれぞれのガスセパレータ5および6から排出される電解質フローが供給され、それらはそこから個々のケースにおいて別々にアノード半電池およびカソード半電池に導かれることを除いて、別々の電解質サイクルを有するプロセスと類似の方法で実行される。
【
図3】本発明によるプロセスを説明し、これはアノード半電池のガスセパレータ5から得られた電解質フローがカソード半電池の液体リザーバ8にのみ導入され、カソード半電池のガスセパレータ6からの電解質フローがアノード半電池の液体リザーバ7にのみ導入されるという点で、別々の電解質サイクルを有するプロセスとは異なる。
【
図4】本発明によるプロセスレジームを、アノード半電池およびカソード半電池のガスセパレータから排出される電解質が共通の液体リザーバに供給されるプロセスレジーム(分割サークルプロセス)と比較した。これらの測定は、80℃の温度および6kA/m
2の電流密度で行った。この実験では、電解質中のNaOH濃度の推移をその都度経時的に測定した。これらの調査の結果を
図4に示す。
【国際調査報告】