IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-21
(54)【発明の名称】過酸化水素水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 15/023 20060101AFI20221114BHJP
   C07C 255/46 20060101ALI20221114BHJP
   C07C 253/14 20060101ALN20221114BHJP
   C07C 253/00 20060101ALN20221114BHJP
【FI】
C01B15/023 A
C07C255/46
C07C253/14
C07C253/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022515676
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(85)【翻訳文提出日】2022-05-02
(86)【国際出願番号】 EP2020075489
(87)【国際公開番号】W WO2021048368
(87)【国際公開日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】19196602.7
(32)【優先日】2019-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ローラン, カロル
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006QN00
4H006QN14
(57)【要約】
以下の工程:- アルキルアントラキノン及び/又はテトラヒドロアルキルアントラキノンと、無極性有機溶媒と極性有機溶媒との混合物とを含む作動溶液を水素化する工程と;- 水素化された作動溶液を酸化して過酸化水素を製造する工程と;- 過酸化水素を単離する工程とを含む、過酸化水素水溶液を製造するための方法であって、極性有機溶媒が5-メチル-2-イソプロピルシクロヘキサンカルボニトリル(C11F)である、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
- アルキルアントラキノン及び/又はテトラヒドロアルキルアントラキノンと、無極性有機溶媒と極性有機溶媒との混合物とを含む作動溶液を水素化する工程と;
- 水素化された作動溶液を酸化して過酸化水素を製造する工程と;
- 前記過酸化水素を単離する工程と
を含む、過酸化水素水溶液を製造するための方法であって、
前記極性有機溶媒が5-メチル-2-イソプロピルシクロヘキサンカルボニトリル(C11F)である、方法。
【請求項2】
100キロトン/年までの過酸化水素の製造能力を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
産業最終ユーザーの場所に設置される工場において実施される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記C11Fが、メントールとメシル又はトシルクロリドとの反応と、その後の、シアノ化とによって得られた、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記C11Fが、酸触媒作用、塩化チオニル(SOCl2)又は臭化チオニル(SOBr2)によるメントールと三臭化リン(PBr3)、三塩化リン(PCl3)、三ヨウ化リン(PI3)、ヨウ化カリウム(KI)との反応と、その後の、シアノ化とによって得られた、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記C11Fが、メントールとトリフルオロメチル基を有する無水物、酸又はアシルクロリドとのエステル化反応と、その後の、シアノ化とによって得られた、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
メントールとトリフルオロメチル基を有する無水物、酸又はアシルクロリドとのエステル化反応と、その後の、シアノ化とによる、5-メチル-2-イソプロピルシクロヘキサンカルボニトリルの製造方法。
【請求項8】
前記エステル化反応が、TFAC(トリフルオロアセチルクロリド)、トリフルオロ酢酸、トリフリン酸無水物又はトリフルオロメチル酢酸無水物を使用する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
エステル化反応媒体が、ジクロロメタン、トルエン、アルカンのような、前記メントールのための溶媒を含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記エステル化反応がアシルクロリドを使用し、前記エステル化反応媒体がピリジン、トリエチルアミン、DIPEA(ヒューニッヒ塩基)、プロトンスポンジ、イミダゾールのような遊離した酸(HCl)を捕捉することができる化合物、HClと反応して相当する塩酸塩を生じることができるピリジン様窒素を含有する任意の芳香族分子、Na2CO3、又は重炭酸ナトリウムのような無機塩基を含む、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記エステル化反応がTFACを使用し、前記TFACが大気圧において反応混合物を通って通気されるか、又は前記エステル化反応が、10バールまでの圧力においてオートクレーブ内で行われるかどちらかである、請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記無水物、酸又はアシルクロリドが蒸留又は選択的抽出によって回収される、請求項7~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記シアノ化がKCN及び/又はNaCNの使用を必要とし、好ましくはDMF、DMSO又はスルホランのような極性溶媒中で行われる、請求項7~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
酸触媒作用、塩化チオニル(SOCl2)又は臭化チオニル(SOBr2)によるメントールと三臭化リン(PBr3)、三塩化リン(PCl3)、三ヨウ化リン(PI3)、ヨウ化カリウム(KI)との反応と、その後の、シアノ化とによる、5-メチル-2-イソプロピルシクロヘキサンカルボニトリルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の極性有機溶媒を使用する過酸化水素水溶液の製造方法、及び前記特定の極性有機溶媒を合成する新規な方法に関する。
【0002】
過酸化水素は、世界的に生産されている最も重要な無機化学薬品の一つである。その産業用途には、繊維、パルプ及び紙の漂白、有機合成(プロピレンオキシド)、無機化学薬品及び洗浄剤の製造、環境並びに他の用途が含まれる。
【0003】
過酸化水素の合成は、アントラキノンループプロセス又はAO(自動酸化)プロセスとも呼ばれる、リードル-プフライデラープロセス(Riedl-Pfleiderer process)を使用することによって主として達成される(最初は米国特許第2,158,525号明細書及び同第2,215,883号明細書に開示された)。
【0004】
この周知の循環プロセスは、典型的には少なくとも1種のアルキルアントラヒドロキノン及び/又は少なくとも1種のテトラヒドロアルキルアントラヒドロキノン(ほとんどの場合、2-アルキルアントラキノン)の対応するアルキルアントラキノン及び/又はテトラヒドロアルキルアントラキノンへの自動酸化を利用し、これは、過酸化水素の生成をもたらす。
【0005】
AOプロセスの第1の工程は、選択されたキノン(アルキルアントラキノン又はテトラヒドロアルキルアントラキノン)を対応するヒドロキノン(アルキルアントラヒドロキノン又はテトラヒドロアルキルアントラヒドロキノン)に水素ガス及び触媒を使用して有機溶媒中(一般的に溶媒の混合物)で還元することである。次いで、有機溶媒、ヒドロキノン及びキノン種の混合物(作動溶液、WS)は触媒から分離され、ヒドロキノンは酸素、空気又は酸素豊富化空気を使用して酸化され、このようにしてキノンを再生し、それと同時に過酸化水素を形成する。最適の有機溶媒は、典型的には2種の溶媒の混合物であり、一方はキノン誘導体の良溶媒(一般的に非極性溶媒、例えば、芳香族化合物の混合物)であり、他方はヒドロキノン誘導体の良溶媒(一般的に極性溶媒、例えば、長鎖アルコール又はエステル)である。次いで、過酸化水素は、典型的には水で抽出され、粗過酸化水素水溶液の形態で回収され、キノンは、水素発生器に戻され、ループを完了する。
【0006】
極性溶媒としてのジ-イソブチル-カルビノール(DIBC)の使用は、すなわち、本出願人の名前で欧州特許出願第529723号明細書、欧州特許出願第965562号明細書及び欧州特許出願第3052439号明細書に記載されている。無極性溶媒として商標Solvesso(登録商標)-150(CAS番号64742-94-5)のもとで販売されている芳香族化合物の商用混合物の使用もまた、前記特許出願に記載されている。芳香族化合物のこの混合物もまた、供給元に応じてCaromax、Shellsol、A150、Hydrosol、Indusol、Solvantar、Solvarex及びその他として公知である。それは有利には、極性溶媒としてsextate(メチルシクロヘキシルアセテート)と組合せて使用することができる(すなわち米国特許第3617219号明細書を参照のこと)。
【0007】
大抵のAOプロセスは、2-アミルアントラキノン(AQ)、2-ブチルアントラキノン(BQ)又は2-エチルアントラキノン(EQ)のどれかを使用する。特にEQの場合、作動溶液の生産性は、ETQの還元形態(ETQH)の溶解性が無いことによって制限される。すなわちこのプロセスにおいてEQは一般に及び比較的急速にETQ(相当するテトラヒドロアルキルアントラキノン)に変化させられるようにされる。事実上、ETQはETQHに水素化され、酸化後にH2O2をもたらす。製造されるEQHの量は、ETQHに関して下限ぎりぎりである。それは、プロセスの生産性が製造されるETQHの量に正比例することを意味する。EQの代わりにAQ又はBQを使用して実施するプロセスについて理論は同じである。
【0008】
水素化されたキノンの溶解性問題は先行技術から公知であり、それを解決するためにいくつかの試みがなされている。すなわち本出願人に対する同時係属中のPCT出願EP2019/056761号明細書には、極性溶媒として混合物中での非芳香族環状ニトリル型溶媒の使用、より具体的にはシクロヘキサンカルボニトリル、特に置換されたもの(ここでニトリル官能基は化学崩壊から保護される)の使用が開示されている。
【0009】
この種のいくつかの分子は公知であるが、それらの市場入手可能性は最近ごく限られており、いずれにしても非常に小さいので産業AOプロセスの必要性を満たすことができない。さらに、それらはしばしば、高価な及び/又は環境に優しくない原材料から出発して合成される。したがって、本発明の目的は、安価で且つ生物学的に供給される溶媒を使用する過酸化水素水溶液の製造方法を提供することである。
【0010】
したがって、本発明は、以下の工程:
- アルキルアントラキノン及び/又はテトラヒドロアルキルアントラキノンと、無極性有機溶媒と極性有機溶媒との混合物とを含む作動溶液を水素化する工程と;
- 水素化された作動溶液を酸化して過酸化水素を製造する工程と;
- 過酸化水素を単離する工程と
を含む、過酸化水素水溶液を製造するための方法に関し、
ここで、極性有機溶媒は5-メチル-2-イソプロピルシクロヘキサンカルボニトリル(C11F)である。
【0011】
好ましくはループで実施される連続プロセスである、本発明のプロセスにおいて、それ故に水素化、酸化及び精製工程によって好ましくはループで循環される作動溶液が使用される。
【0012】
用語「アルキルアントラキノン」は、少なくとも1個の炭素原子を含む直鎖又は分岐状の脂肪族型の少なくとも1個のアルキル側鎖で1、2又は3位において置換された9,10-アントラキノン類を意味するように意図される。通常、これらのアルキル鎖は、9個未満の炭素原子、そして好ましくは6個未満の炭素原子を含む。このようなアルキルアントラキノンの例は、2-エチルアントラキノン(EQ)のようなエチルアントラキノン、2-イソプロピルアントラキノン、2-sec-及び2-tert-ブチルアントラキノン(BQ)、1,3-、2,3-、1,4-及び2,7-ジメチルアントラキノン、2-iso-及び2-tert-アミルアントラキノンのようなアミルアントラキノン(AQ)及びこれらのキノンの混合物である。
【0013】
用語「テトラヒドロアルキルアントラキノン」は、上で明記した9,10-アルキルアントラキノンに相当する9,10-テトラヒドロキノンを意味するように意図される。したがって、EQ及びAQについては、それらはそれぞれETQ及びATQによって表され、それらの還元形態(テトラヒドロアルキルアントラヒドロキノン)はそれぞれETQH及びATQHである。
【0014】
好ましくは、AQ又はEQが使用され、後者が好ましい。
【0015】
キノンを可溶化することも可能であるために、溶媒混合物の極性は高すぎないのが好ましい。したがって、有機溶媒混合物中に好ましくは少なくとも30重量%の無極性溶媒が存在し、より好ましくは少なくとも40重量%が存在している。一般的に、有機溶媒混合物中に80重量%以下のこの無極性溶媒が存在し、好ましくは60重量%以下のそれが存在している。
【0016】
無極性溶媒は好ましくは、芳香族溶媒又は芳香族溶媒の混合物である。芳香族溶媒は、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、tert-ブチルベンゼン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、ナフタレン、ポリアルキル化ベンゼンのメチルナフタレン混合物、及びそれらの混合物から選択される。Solvesso(登録商標)シリーズからのタイプ150の市販の芳香族炭化水素溶媒(又は他の供給元からの同等物)は、良い結果をもたらす。S-150(Solvesso(登録商標)-150;CAS番号64742-94-5)は、多くの工業用途における、特にプロセス流体としての使用のためにそれらを優れたものにする、高い溶解力及び制御された蒸発特性を与える高芳香族化合物の芳香族溶媒として公知である。Solvesso(登録商標)芳香族炭化水素は、例えば、165~181℃、182~207℃又は232~295℃の蒸留範囲を有する、様々な揮発性を有する3つの沸騰範囲で利用可能である。それらは、ナフタレン低減銘柄又は超低ナフタレン銘柄としても得ることができる。Solvesso(登録商標)150(S-150)は以下の通りに特徴付けられる:182~207℃の蒸留範囲;64℃のフラッシュ点;99重量%を超える芳香族含有量;15℃のアニリン点;15℃で0.900の密度;及び5.3の蒸発速度(nButAc=100)。
【0017】
上に説明されたように、水素化反応は、(例えば本出願人の名前で国際公開第2015/049327号パンフレットの1つの目的のような)触媒の存在下で及び例えば同じく本出願人の名前で国際公開第2010/139728号パンフレットに記載されているように行われる(両方の文献の内容は本出願において参照によって組み込まれる)。典型的に、水素化は、少なくとも45℃及び好ましくは120℃まで、より好ましくは95℃まで又はさらにたった80℃までの温度で行われる。また典型的には、水素化は、0.2~5バールの圧力において行われる。水素は典型的に、製造される過酸化水素1トン当たり650~750ノルマルm3の速度で容器に供給される。
【0018】
酸化工程は、AOプロセスについて公知の従来の方法で行われてもよい。アントラキノン環状プロセスとして公知の典型的な酸化反応器を酸化のために使用することができる。酸素含有ガス及び作動溶液を並流又は向流で通過させる、気泡反応器がしばしば使用される。気泡反応器は内部デバイスを含まないことができるか又は好ましくは充填物又はろ板の形態の内部デバイスを含むことができる。酸化は、30~70℃の範囲の温度、特に40~60℃で行われ得る。酸化は通常、過剰な酸素を用いて行われ、ヒドロキノン形態で作動溶液中に含有される好ましくは90%超、特に95%超のアルキルアントラヒドロキノンがキノン形態に変換されるようにする。
【0019】
酸化後、精製工程の間、形成される過酸化水素は、一般的に、例えば水を用いての抽出工程により、作動溶液から分離され、過酸化水素は、粗過酸化水素水溶液の形態で回収される。次に、抽出工程から出る作動溶液は、最終的に処理/再生された後に、過酸化水素の生産サイクルを再開するために、水素化工程に再利用される。
【0020】
好ましい実施形態において、その抽出後に、粗過酸化水素水溶液は、所望のレベルで不純物の含有量を低減するために、必要に応じて、数回、すなわち、連続的に少なくとも2回又はさらにはより多くの回数洗浄される。
【0021】
用語「洗浄」は、粗過酸化水素水溶液中の不純物の含有量を低減することを目的とする、(例えば英国特許第841323A号明細書、1956(Laporte)に開示されているような)化学工業において公知である、有機溶媒による過酸化水素水溶液の任意の処理を意味することが意図されている。この洗浄は、例えば、遠心抽出器又は例えば向流式で作動する液体/液体抽出カラム等の装置において有機溶媒によって、粗過酸化水素水溶液中の不純物を抽出することからなり得る。液体/液体抽出カラムが、好ましい。液体/液体抽出カラムの中で、不規則又は構造化充填物(例えばポールリングのような)又は有孔板を有するカラムが好ましい。前者がとりわけ好ましい。
【0022】
好ましい実施形態において、与えられた金属の含有量を低減するためにキレート化剤を洗浄溶媒に添加することができる。例えば、本出願人の名前で上記の欧州特許出願第3052439号明細書(その内容は本出願において参照によって組み込まれる)に説明されるように有機リンキレート化剤を有機溶媒に添加することができる。
【0023】
語句「粗過酸化水素水溶液」は、過酸化水素の合成工程から又は過酸化水素の抽出工程から或いは貯蔵ユニットから直接に得られる溶液を意味するように意図されている。粗過酸化水素水溶液は、本発明のプロセスに基づく洗浄操作の前に、1回又はそれ以上処理されて、不純物を分離除去することができる。それは、典型的には30~50重量%の範囲内のH2O2濃度を有する。
【0024】
本発明の溶媒はより高い溶解性を達成することを可能にし、したがってより高い分配係数を達成するために必要とされる極性溶媒はより少ない。このより高い分配係数によって抽出セクターのために必要とされるcapex(資本的支出)を低減することが可能である。
【0025】
本発明の溶媒は、100キロトン/年までの過酸化水素の製造能力(ktpa)を有するAOプロセスによる過酸化水素の製造のために特に適している。好ましくは前記プロセスは、50キロトン/年(ktpa)までの過酸化水素の製造能力で、より好ましくは35キロトン/年(ktpa)までの過酸化水素の製造能力で、特に20キロトン/年(ktpa)までの過酸化水素の製造能力で実施される小規模~中規模AOプロセスである。ktpa(キロトン/年)という大きさは、メートルトンに関する。
【0026】
このような小規模~中規模AOプロセスの特定の利点は、任意の、しかも離れた、産業最終ユーザーの場所に設置され得る工場において過酸化水素を製造することができ、したがって本発明の溶媒は特に適しているということである。すなわちそれらの分配係数がいっそう有利であるので、プロセスにおいていっそう少ないエマルションが観察され、より高純度のH2O2溶液(すなわちより少ないTOCを含有する)を、しかも先行技術からの溶媒が使用される場合と比較してより長い時間にわたって得ることができるようにされる。
【0027】
本発明の好ましい副実施形態において、作動溶液は、品質管理の結果に基づいて連続的に又は不連続にどちらかで再生され、再生は、エポキシ又はアントロン誘導体のような特定の分解物を有用なキノンに戻す変換を意味する。ここでまた、H2O2溶液の特質は、より長い時間の間すなわちTOCに関して基準内に維持され得るので、本発明の溶媒は有利である。
【0028】
上に説明されたように、本発明の主な特徴は、極性有機溶媒と無極性有機溶媒との混合物を用いることであり、ここで極性有機溶媒はC11Fである。
【0029】
この化合物(5-メチル-2-イソプロピルシクロヘキサンカルボニトリル又はC11F)は、すなわち、Debra K. Dillner(2009),Syntheses of C-1 Axial Derivatives of l-Menthol,Organic Preparations and Procedures International,41:2,147-152,DOI:10.1080/00304940902802008によってメントールから出発して合成された。
【0030】
この論文に記載された方法において、最初にメントールをジクロロメタン(DCM)中でメタンスルホニルクロリド(メシルクロリド)と反応させ、トリエチルアミンを添加して(生成されたHClを捕捉し)、次いで、このように得られたメシレートをアセトニトリル中で且つ18-クラウン-6(相間移動剤-Kイオンと錯体を形成し、有機相中のKCNの溶解性を改良し、且つ式[C2H4O]6の求核剤の強さを高める)の存在下でKCNと反応させて化合物C11Fを生成した。
【0031】
この論文はまた、DMSO中のメンチルトシレートとNaCNから出発する先行の方法を参照する。
【0032】
したがって、第1の実施形態において、本発明のプロセスにおいて使用されるC11Fは、メントールとメシル又はトシルクロリドとの反応と、その後の、得られたメシレート又はトシレートの、好ましくはKCN及び/又はNaCNによるシアノ化とによって得られた。
【0033】
この合成方法は、有機流出物を生成する、有機活性成分が使用されるという欠点を有する。
【0034】
したがって、第2の実施形態において、本発明のプロセスにおいて使用されるC11Fは、酸触媒作用、塩化チオニル(SOCl2)又は臭化チオニル(SOBr2)によるメントールと三臭化リン(PBr3)、三塩化リン(PCl3)、三ヨウ化リン(PI3)、ヨウ化カリウム(KI)との反応と、その後の、得られた臭化物、ヨウ化物又は塩化物の、好ましくはKCN及び/又はNaCNによるシアノ化とによって得られた。
【0035】
これらの方法は実際に機能するが、それらは、ずっと効率的な反応性基を含有する(したがってより短い反応時間を意味する)他の活性成分の使用によって改良され得る。したがって、第3の好ましい実施形態において、本発明のプロセスにおいて使用されるC11Fは、メントールとトリフルオロメチル基を有する無水物、酸又はアシルクロリドとの反応と、その後の、シアノ化とによって得られた。
【0036】
この合成経路は今までのところ決して報告されていないので、本発明はまた、メントールとトリフルオロメチル基を有する無水物、カルボン酸又はアシルクロリドとのエステル化反応と、その後の、好ましくはKCN及び/又はNaCNによるシアノ化とによる5-メチル-2-イソプロピルシクロヘキサンカルボニトリル又はC11Fの製造方法に関する。
【0037】
メントールによるエステル化反応のための好ましい活性成分は、TFAC(トリフルオロアセチルクロリド)、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホニル(トリフリン酸)無水物又はトリフルオロメチル酢酸無水物である。
【0038】
エステル化反応媒体は好ましくは、例えばジクロロメタン(DCM)のような、メントールのための溶媒、又はトルエンのような任意の他の不活性芳香族溶媒、又はアルカンのような脂肪族溶媒等を含む。TFAC又は他のアシル塩化物の場合、エステル化反応媒体は好ましくはまた、ピリジン、トリエチルアミン、DIPEA(ヒューニッヒ塩基)、プロトンスポンジ、イミダゾールのような遊離した酸(HCl)を捕捉することができる化合物、又はHClと反応して相当する塩酸塩(chlorhydrate salt)を生じることができるピリジン様窒素を含有する任意の芳香族化合物、Na2CO3、重炭酸ナトリウムなどのような無機塩基を含む。エステル化反応は好ましくは-20~50℃の温度、好ましくは周囲温度で行われる。それはまた、好ましくは大気圧において行われる。気体であるTFACの場合、前記TFACが大気圧において反応混合物を通って通気され得るか、又は10バールまでの圧力においてオートクレーブ内で反応を行なうことができるかどちらかである。
【0039】
エステル化反応において使用される無水物、酸又はアシルクロリドは好ましくは、好ましくは蒸留又は選択的抽出によって抽出される。
【0040】
シアノ化に関して、それは一般的に、KCN、NaCNなどのような化合物の使用を含む。KCN及び/又はNaCNは、主に経済的理由のために工業プロセスに好ましい。シアノ化は好ましくは、DMF、DMSO又はスルホランのような極性溶媒中で行われる。反応温度は好ましくは50~150℃、好ましくは100~140℃の間、最も好ましくは約120℃である。反応は一般的に、大気圧から10バールまでの圧力で、最も好ましくは大気圧で及び完全な変換が達せられるまで起こる。
【0041】
本発明はまた、酸触媒作用、塩化チオニル(SOCl2)又は臭化チオニル(SOBr2)によるメントールと三臭化リン(PBr3)、三塩化リン(PCl3)、三ヨウ化リン(PI3)、ヨウ化カリウム(KI)との反応と、その後の、得られた臭化物、ヨウ化物又は塩化物の、好ましくはKCN及び/又はNaCNによるシアノ化とによる5-メチル-2-イソプロピルシクロヘキサンカルボニトリル又はC11Fの製造方法に関する。この方法もまた、文献に決して報告されていない。
【国際調査報告】